AZOORComplex齋藤理幸*石田晋*はじめに急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)は,1992年にGassが提唱した疾患概念である1).Gassは,患者の臨床像と帯状領域の視野欠損と脈絡膜変性の発生と進行から,主要な病態は網膜外層が関与していると考えAZOORと命名した.AZOORでもっとも特徴的なことは,眼底写真や蛍光眼底造影がほぼ正常な所見を示す網膜症ということであり2),網膜疾患以外の視神経疾患,腫瘍随伴性症候群,自己免疫性網膜症,中毒性変性,感染症などの他の疾患と鑑別することが重要である.わが国では2019年に「急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン」作成ワーキンググループによってAZOORの診断ガイドライン基準(表1)3)が策定された.AZOORの診断基準は五つの主要項目と四つの副次項目からなる.このうちAZOORの確定例は五つの主要項目を満たすものとされ,そのうち初めの二つは1)急性の発症様式と2)AZOORに特徴的な眼底に異常所見がみられないというものであり,最後の一つ5)は除外診断の基準となっている.AZOORの検査初見に関するものは,3)光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて視野欠損に一致して網膜外層の構造異常がみられる,または4)全視野網膜電図(electroretinogram:ERG)における振幅低下,あるいは他局所ERGにおいて視野欠損に一致した振幅低下がみられることである.この診断基準で注目すべきことは,従来AZOORの診断としては他局所ERGにおいて視野欠損に一致した領域で振幅低下がみられることが重要視されてきたが,最新の診断基準では必ずしも必須ではなくOCTまたは全視野ERGで代替できることになった.その理由として,他局所ERGは普及率が低く限られた施設でしか検査できないこと,OCTの画像解像度の向上によって網膜外層の構造異常がよく検出できるようになったこと,またそれに相まってAZOORという疾患の理解が進んできたことがあげられる.また,副次項目であるが眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)によって障害部位と健常部位の境界の同定が盛り込まれたことにも注目されたい.近年AZOORのFAFに関する報告は散見される4~7)ので本稿でも取りあげる.また,AZOORに類似し,鑑別が重要な疾患にGassが以前AZOORcomplexの一部として分類し,かつwhitedotsyndromeの代表的な疾患でもある多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitespotsyn-drome:MEWDS)がある.MEWDSは,その人口統計学的特徴,炎症性,網膜外層の主要病変に関してAZOORと類似性を有している.本稿では,MEWDSのマルチモーダルイメージングも取り上げ,その特徴を解説する.IAZOORAZOORは急性の光視症や帯状視野欠損で発症し,視覚症状発現時の眼底初見や蛍光眼底造影はほぼ正常であ*MichiyukiSaito&SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕齋藤理幸:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)739表1急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断基準以下の主要項目を満たすものをAZOOR確定例(de.nite)とする.ただし,3)と4)については,どちらか1つを満たせばよい.副次項目はすべて参考所見とする.1.主要項目1)急激に発症する視野欠損あるいは視力低下.片眼性が多いが,両眼性もありうる.2)眼底検査およびフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,視野欠損を説明できる明らかな異常が認められない.ただし,軽度の異常(網脈絡膜の色調異常や軽い乳頭発赤など)はありうる.3)OCTにて,視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常(ellipsoidzoneの欠損あるいは不鮮明化とinterdigitationzoneの消失)がみられる.ただしAZOORの軽症例や回復期では,interdigitationzoneのみ異常になることもある.4)全視野ERGにおいて振幅低下,あるいは多局所ERGにおいて視野欠損部位に一致した振幅低下がみられる.5)先天性/遺伝性網膜疾患,網膜血管性疾患やその他の網膜疾患,癌関連網膜症/自己免疫網膜症,ぶどう膜炎,外傷性網脈絡膜疾患,視神経疾患/中枢性疾患が除外できる.2.副次項目1)発症前に風邪様の症状を伴う.2)発症時あるいは経過中に光視症(光がチカチカ見える)を訴える.3)硝子体に軽度の炎症所(細胞浮遊)がみられる.4)青色光あるいは近赤外光による眼底自発蛍光にて,障害部位と健常部位の境界が分かる.(文献3より引用)図1発症初期の右眼AZOOR(36歳,女性)眼底写真(a)では紋理状眼底がみられる.OCT(b)では視野欠損に一致してinterdigitationzoneが不明瞭化している.FA(c),IA(d)では異常はみられない.多局所網膜電図(e)では,Humphrey視野検査(f)での閾値低下に一致して振幅の低下を認める.図2両眼慢性型急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)(43歳,男性)眼底写真(a,b)では網脈絡膜萎縮がみられる.OCT(c,d)ではinterdigitationzoneは消失,elipsoidzoneも不明瞭化しドルーゼン様物質もみられる.FAF(e,f)では健常部位(zone1)は通常の明るい蛍光,AZOOR領域(zone2)では過蛍光,網脈絡膜萎縮がみられる領域(zone3)では低蛍光所見がみられる.FA(h,g)でも同様のtrizonalpatternがみられる.IA(i,j)では,病変部が低蛍光でありFAFやFAのようなtrizonalpatternは明瞭には認められない.図3図2と同一症例の9年後の所見眼底写真(Ca,b)では網脈絡膜萎縮が施行しているが,右眼では中心窩周囲に正常網膜が残存しており右眼矯正視力はC1.0を維持している.OCT(Cc,d)では,網膜萎縮は外顆粒層にまで及び,網膜色素上障害によるアコースティックシャドーもみられる.FAF(Ce,f)では,網脈絡膜委縮およびCAZOOR病変の周辺側への拡大が認められる.間の経過とともに進行する.この初期段階では網膜色素上皮は臨床的にはまだ無傷と考えられるが,この過蛍光は網膜外層の破壊とそれに続く視細胞の消失に関連している可能性がある.慢性型のCAZOORではCFAF所見でも眼底所見と同様なCtrizonalpatternがみられる(図2e,f,図3e,f).近年,FAF所見で進行中のCAZOORの病変部と正常部の境界が検出できるという報告が多くみられ,これはCAZOOR線とよばれる9).AZOOR病変の外側では正常な自発蛍光が観察され(zone1),AZOOR病変内では斑点状の過自発蛍光が観察される(zone2).経過観察とともに網脈絡膜萎縮が出現してくる患者では,FAFにより脈絡膜萎縮の進展に対応した低自発蛍光が観察される(zone3).斑点状の高自発蛍光は通常亜急性病変でみられ,低自発蛍光は網膜色素上皮および脈絡膜の萎縮に対応するものである.C3.OCT近年のCOCTの解像度の向上によって,AZOORの診断にCOCTはきわめて有用な位置づけとなり,わが国における診断基準の主要項目の一つとなっている10).AZOORでは発症初期から,視野欠損の部位に一致してCellipsoidzone(EZ)の欠損あるいは不明瞭化がみられ(図1b),interdigitationzone(IZ)は消失することが多い.これらのCOCT所見はCAZOORの改善とともに回復することが多く,AZOORの回復期ではCIZのみの異常がみられることがある10).慢性化した患者ではCOCTでも同様のCtrizonalpatternに対応する変化が観察される.AZOOR病変の外側(zone1)は正常であり.AZOOR病変(zone2)では,網膜下ドルーゼン沈着に似た高輝度所見が網膜下腔にみられる(図2c,d).より進行した病変部(zone3)では,視細胞の消失だけでなく外顆粒層の菲薄化や網膜色素上皮の不整,それに加えて網膜色素上皮・脈絡膜の萎縮が認められることもある(図3c,d).一般的にCOCTで外顆粒層が菲薄化してしまった網膜部位の機能回復は困難であると考えられている11).C4.FAフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では,通常初期の発生時には視野の欠損部位に一致した異常所見はみられず正常であるが,視神経乳頭のわずかな過蛍光や周辺網膜血管のわずかな蛍光漏出や組織染がみられることがある.慢性化すると網膜色素上皮の変性によりCwindowdefectが生じる.さらに慢性化すると網膜色素上皮萎縮による過蛍光や網脈絡膜萎縮に対応した低蛍光がみられる(図2h,g).C5.IAインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)では,初期では局所的な低蛍光あるいは過蛍光領域がみられることはあるものの視野欠損の部位とは必ずしも一致しない12).慢性期のAZOOR病変(図2i,j)は,IAでもCFAFと同様のCtri-zonalpatternを示す.AZOOR病変の外側は正常域(zone1)であり,AZOOR線の内側(zone2)では亜急性期に最小限の後期脈絡膜外漏出がみられる.脈絡膜の萎縮部位(zone3)では対応する脈絡膜へのインドシアニングリーン分子の漏出がないため低蛍光が観察される.C6.ERGAZOORでは,全視野CERGでは異常がなく,多局所ERGで異常が検出されることが多いが,網膜に広範な機能異常があればその面積と重症度に比例して全視野ERGでも振幅が低下する.そこで,全視野CERGにおける振幅低下はCAZOORの診断基準としても含まれている.全視野CERGにおいては,病変が後極部に含まれることが多いためか錐体応答の低下が強いことが知られており,錐体応答やC30Hzフリッカ応答における振幅低下は診断に有用である13).多局所CERGは視野欠損の部位に一致する局所的な網膜機能の低下を証明できるため,とくに診断に有用である14).CIIMEWDSMEWDSは後極から中間周辺部に一過性にみられる多発性の淡い白点によって特徴づけられる脈絡膜の炎症性疾患と考えられている.その名が示すように白点の出現は一過性であり,患者が受診したときには白点が消失(47)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C743図4右眼MEWDS(47歳,女性)眼底写真(Ca)では淡い白点が上方網膜におもにみられる.FAF(Cb)では白点に一致した低蛍光とより広い範囲での過蛍光が認められる.OCT水平断(Cc)と垂直断(Cd)ではCFAFでの過蛍光の領域に一致してCelipsoidzone,interdigitationzoneが消失し,白点に一致して網膜外層に高輝度所見がみられる.図5右眼MEWDS(28歳,女性)眼底写真(Ca)では白点は明らかではなかったが,FA(Cb)では黄斑領域に淡い過蛍光を認め,IA(Cc)では低蛍光,FAF(Cd)は同領域で過蛍光を示し,MEWDSの診断に至った.–’C