あたらしい眼科38(6):671.675,2021c第25回日本糖尿病眼学会総会特別講演I(内科)合併症を考慮した糖尿病診療とはDiabetesCaretoPreventComplications島田朗*全世界でC6秒にC1人が糖尿病で命を落とすとされているのが現状であり,世界的にも糖尿病を制圧する必要性が叫ばれている.従来,糖尿病の合併症としては,網膜症,腎症,神経障害に代表される細小血管障害が主体であったが,近年では動脈硬化性疾患,さらに悪性腫瘍についても糖尿病の合併症として認識する必要性が出てきている(図1).網膜症については,食後血糖管理,血糖変動を減らす対応がとくに重要であるが,実地診療の現場では適切な指標がなかった.しかし,近年,過去数週間の血糖コントロール指標であるグリコアルブミンと過去数カ月の血糖コントロール指標であるCHbA1cとを組み合わせてその比率をとり,通常の比率(約C3)を超えるかどうかを評価することによって,食後血糖の状況,あるいは血糖変動の状況を評価できるのではないかと報告されている.実際,この指標と網膜症の進展の度合についてはよい相関があり,有用である可能性がある1).また,網膜症は先に述べたように細小血管障害であるが,細小血管障害である網膜症を有するとその半数くらいに大血管障害である冠動脈狭窄が存在することもわかってきた2).すなわち,網膜症の存在は,動脈硬化性疾患の存在を示唆する可能性がある.上記に述べた慢性合併症である血管障害により,30年前は命を落とす糖尿病患者が非常に多かったが,ごく最近の死因調査では,血管障害により亡くなる糖尿病患者は,30年前のC1/3程度になり,その分,悪性腫瘍により亡くなる患者が増えている.とくに,肝臓癌,膵臓癌は糖尿病患者で多く,死因として重要である3).図1糖尿病(慢性)合併症そのような背景を踏まえて,どのように血糖を調整すればよいのであろうか?以前は,とにかく血糖を下げることが重要と考えられていたが,2型糖尿病に対する治療強化の効果を検証したCACCORD研究において,重症低血糖によりかえって死亡率が上がることが示され,患者背景を十分に考慮し,低血糖を起こさない治療の重要性が認識された4).これらの結果を考慮して,とくに認知機能や日常生活動作(activitiesCofdailyCliving:ADL)の低下した高齢者に対しては,低血糖を起こさずに目標血糖をやや高めに設定することが推奨されている(図2).それでは,具体的な治療はどのようにしたらよいだろうか?2型糖尿病の治療の基本は,やはり食事療法であるが,2型糖尿病に対する糖質制限については,なお議論がある.たしかに糖質制限により短期的には血糖コントロー*AkiraShimada:埼玉医科大学内分泌糖尿病内科〔別刷請求先〕島田朗:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷C38埼玉医科大学内分泌糖尿病内科C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(67)C671重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤,SU薬,グリニド薬など)の使用図2高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66)ルが改善するとの報告がある5)が,一方で,2型糖尿病における明確な長期の検討はない.参考になる報告としては,スウェーデン女性に食事についてのアンケート調査を行い,その組成により,糖質優位なのか蛋白質優位なのかを考慮し,その後C15年の間に血管障害を起こすかどうかを検討したデータがある.この調査は健常人も多く含まれると考えられる一般人が対象であり,糖尿病の人がどのくらい含まれているかは不明である.その検討では,糖質摂取の少ない人が,より血管障害を起こす可能性が高いことが示されており,糖質制限に警鐘を鳴らす報告となっている6).糖質制限が食後の血糖上昇を減らすことは事実であるが,糖質制限以外の方法で食後血糖を制御できないものだろうか.その意味で食事摂取の順番の重要性も示されている.同じものを摂取しても先に糖質をとり,あとから野菜をとると血糖が上がりやすいが,逆では血糖上昇が抑えられるという成績もある(図3)7).また,食べ方では,欠食を避けることが重要とのデータもある.具体的には,1日C3食食べたほうが,1日C1食の場合よりも食後血糖が上がりにくいとのデータである(図4)8).したがって,必ずしも糖質制限をしないでも,食べ方の工夫で食後血糖が調整できる場合があると考えられる.2型糖尿病の治療薬として以前より使われてきたスルフォニル尿素薬(SU薬)は,24時間持続糖モニタリング(continuousglucoseCmonitoring:CGM)で確認すると,気がつかない時間帯に低血糖と高血糖を繰り返していることが近年認識されており,とくに低血糖は動脈硬化性疾患発症のリスクとなるため,とくに高齢者では注意が必要である(図5).したがって,単剤では低血糖を起こしにくい薬剤を初期に選択することが重要である.その一つ目は,アルファグルコシダーゼ阻害薬である.DECODE研究で,食後高血糖があると死亡率が高いことが示されている9)が,実際,本薬剤で食後血糖を改善させた結果,心血管疾患が抑制されることも示されている10).ただし,速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)ではそのようなエビデンスはなく,インスリン分泌を促進しない状況での食後血糖改善が大切と思われる.二つ目の「単剤では低血糖を起こさない薬剤」としては,チアゾリジン薬がある.これは,膀胱癌,膵臓癌などのリスクが増える可能性を否定できず,一部,海外では使用できなくなっているが,わが国ではそのような証拠はないとして,現在も注意しながら使用している状況である.チアゾリジン薬は,抗動脈硬化作用が期待されること11)から,動脈硬化性疾患が生命予後を規定する可能性が高い場合にはよい選択肢である.最近,日本人2型糖尿病に対する多角的な治療介入(J-DOIT3)の結果が出たが,脳血管障害をはじめ,多くのイベント発症を抑制した12).その一因として,かなり初期にチアゾリジン薬を使用するプロトコールになっていたことも影響4月19日4月20日4月21日4月22日mg/dl平均血糖値172mg/dl平均167mg/dl平均170mg/dlSD46mg/dl30020010036912151821時36912151821時36912151821時36912151821時4/21空腹時朝食後2時間血糖(mg/dl)138212Cペプチド(mg/dl)5.29.5食事摂取図5スルホニル尿素薬(SU薬)使用症例の24時間持続糖モニタリング(CGM)(東京都済生会中央病院糖尿病内分泌内科富田益臣医師のご厚意による)血糖値の上昇幅ご飯,サラダの順に摂取(mg/dL)サラダ,ご飯の順に摂取40-100306090120時間(分)図3食べ方も大事(先に野菜を)健康な男女C10人を対象に,ドレッシングをかけたキャベツのサラダを食べてから白米ご飯を食べた場合と,その逆の順番で食べた場合について血糖値を比較.サラダから食べると血糖値の急上昇が抑えられた.(文献C7より転載)血糖値(mg/dL)朝食400kcal,昼食800kcal,夕食1,000kcal摂取180昼食800kcal,夕食1,000kcal摂取夕食1,000kcal摂取1601401201008081012141618202224時間(分)図4食べ方も大事(欠食を避ける)健康なC91人を対象に,3食とも食べた場合()と朝食を抜いた場合(),朝食も昼食も抜いた場合()で血糖値を比較.欠食によってC1日総摂取カロリーは減るが,欠食後の血糖値が上がりやすくなることがわかる.(文献C8より転載)した可能性がある(図6).シドーシスの副作用で使用されない時期もあったが,イ三つ目の「単剤では低血糖を起こさない薬剤」としてギリスにおけるC2型糖尿病への大規模介入研究であるは,ビグアナイド薬がある.本薬剤は,過去には乳酸アUKPDSにおいて,多くのイベント発症を抑制したこと各ステップの治療は6カ月間維持HbA1c5.8%以上または低下が1%未満なら次ステップへ3~6カ月で目標値120/75mmHgLDL<80(70)mg/dl,TG<120mg/dl,をめざすTG.150mg/dlの場合はnonHDL<110(100)mg/dl()内はIHDの既往がある場合の目標値図6強化療法群の治療概要(http://www.pimrc.or.jp/diabetes/research3_protocol.pdf)血糖値血糖値HbA1c:7.5%HbA1c:7.5%時間図7HbA1c値が同じでも血糖日内変動は異なる(文献C15より転載)から見なおされ,現在では汎用されている.証明はされていないが,悪性腫瘍に対しても減らす可能性が指摘されている.四つ目の「単剤では低血糖を起こさない薬剤」であるDPP-4阻害薬は,CGMで確認すると血糖変動が抑制されており,合併症進展予防に貢献する可能性がある.とくに,bodyCmassindex(BMI)の低い日本人を含むアジア人で血糖改善効果も高い.ただし,膵炎などの副作については十分に注意が必要である.ごく最近注目されているCSGLT2阻害薬は,ビグアナイド薬,DPP-4阻害薬と併用するとさらに血糖変動を減らす.ただし,やせている患者ではケトーシスに注意が必要である.従来は,少ない併用薬で若い肥満の患者がよい適応とされていたが,EMPA-REG研究の結果から,むしろ動脈硬化性疾患を有する高齢者に使うと予後が改善することが示され,大きく考え方が変化した13).その後のCCANVAS研究でも同様の傾向があり,心不全リスクを減らし,腎機能が悪い場合にもそれを改善させる可能性が示された14).ただ,下肢切断リスクを上げる可能性があり,そのハイリスク者に対する投与は避けることが望ましい.以上のような治療薬を含めた集学的治療により,同じHbA1cであっても血糖変動を減らし(図7)15),目標血糖範囲内にできる限り収める治療が,合併症進行の抑止につながるものと推察される.文献1)今井孝俊,及川洋一,渥美義仁ほか:糖尿病網膜症と全身グリコアルブミン(GA)/HbA1c比が高値であると糖尿病網膜症は進展しやすい.日本糖尿病眼学会誌C17:39-42,C20132)平田直己,高橋寿由樹,沖杉真理ほか:細小血管障害を有する糖尿病患者における動脈硬化病変のスクリーニング.糖尿病57(Suppl1)S-362,20143)中村二郎,神谷英紀,羽田勝計ほか:糖尿病の死因に関する委員会報告アンケート調査による日本人糖尿病の死因2001.2010年のC10年間,45,708名での検討.糖尿病C59:C667-684,C20164)ActionCtoCControlCCardiovascularCRiskCinCDiabetesCStudyGroup;GersteinCHC,CMillerCME,CByingtonCRPCetal:CE.ectsofintensiveglucoseloweringintype2diabetes.NCEnglJMedC358:2545-2559,C20085)GuldbrandH,DizdarB,BunjakuBetal:Intype2diabeC-tes,randomisationtoadvicetofollowalow-carbohydratedietCtransientlyCimprovesCglycaemicCcontrolCcomparedCwithCadviceCtoCfollowCaClow-fatCdietCproducingCaCsimilarCweightloss.DiabetologiaC55:2118-2127,C20126)LagiouCP,CSandinCS,CLofCMCetal:LowCcarbohydrate-highCproteinCdietCandCincidenceCofCcardiovascularCdiseasesCinCSwedishwomen:prospectiveCcohortCstudy.CBMJC344:Ce4026,C20127)金本郁男,井上裕,守内匡ほか:低CGlycemicIndex食の摂取順序の違いが食後血糖プロファイルに及ぼす影響.糖尿病53:96-101,C20108)NakayamaCY,CSanematsuCK,COhtaCRCetal:DiurnalCradia-tionofhumansweettasterecognitionthresholdsiscorre-latedCwithCplasmaCleptinClevels.CDiabetesC57:2661-2665,2008)9)TheDECODE-studygroup;EuropeanDiabetesEpidemi-ologyCGroup.CDiabetesEpidemiology:CollaborativeCanaly-sisCofCDiagnosticCCriteriaCinCEurope.CIsCfastingCglucoseCsu.cienttode.nediabetes?Epidemiologicaldatafrom20Europeanstudies.DiabetologiaC42:647-654,C199910)ChiassonCJL,CJosseCRG,CGomisCRCetal;STOP-NIDDMCTrialCResearchGroup:AcarboseCtreatmentCandCtheCriskCofCcardiovascularCdiseaseCandChypertensionCinCpatientsCwithimpairedglucosetolerance:theSTOP-NIDDMtrial.JAMAC290:486-494,C200311)DormandyCJA,CCharbonnelCB,CEcklandCDJCetal:PROac-tiveInvestigators.SecondarypreventionofmacrovasculareventsCinCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCinCtheCPROactiveStudy(PROspectiveCpioglitAzoneCClinicalCTrialCInCmacro-VascularEvents):aCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC366:1279-1289,C200512)UekiCK,CSasakoCT,COkazakiCYCetal;J-DOIT3CStudyGroup:E.ectCofCanCintensi.edCmultifactorialCinterventionConcardiovascularoutcomesandmortalityintype2diabe-tes(J-DOIT3):anCopen-label,CrandomisedCcontrolledCtrial.LancetDiabetesEndocrinolC5:951-964,C201713)ZinmanB,WannerC,LachinJMetal:EMPA-REGOUT-COMECInvestigators.CEmpagli.ozin,CcardiovascularCout-comes,CandCmortalityCinCtypeC2Cdiabetes.CNCEnglCJCMedC373:2117-2128,C201514)NealCB,CPerkovicCV,CMaha.eyCKWCetal;CANVASCPro-gramCCollaborativeGroup:.CCanagli.ozinCandCcardiovas-cularCandCrenalCeventsCinCtypeC2Cdiabetes.CNCEnglJMedC377:644-657,C201715)DelCPratoS:InCsearchCofCnormoglycaemiaCindiabetes:Ccontrollingpostprandialglucose.IntJObesC26(Suppl3):CS9-S17,C2002C☆☆☆