眼とリンパ管リンパ管の歴史ヒトのリンパ系は間質液や蛋白質を含む高分子を除去したり,免疫細胞をリンパ節に輸送したりと,体液の恒常性にとって重要な役割を担っています.日本におけるリンパ管研究は杉田玄白の『解体新書』(1774年)に始まりますが,血液と異なり,無色透明なリンパ液は長年研究が進んできませんでした.近年,リンパ管内皮細胞マーカーであるCpodo-planinやClymphaticCvesselCendothelialChyaluronanCrecep-tor-1(Lyve1)の発見によりリンパ管研究は大きく発展しました.リンパ管はほとんどの臓器に存在しますが,中枢神経系,骨髄,軟骨,角膜,表皮などの無血管組織では存在が否定されてきました.しかし,長年存在が否定されてきた中枢神経系である脳において,硬膜静脈洞を覆う機能的リンパ管の存在が明らかとなりました1).眼の領域ではどうでしょうか眼球においては,正常時の結膜や視神経で存在が確認されています.一方,虹彩や線維柱帯,Schlemm管,毛様体,網膜,脈絡膜では,リンパ管構造が確認されたという報告と確認できなかったという矛盾した報告があります.一般にリンパ管形成は血管形成と同様に胎児期に生じ,静脈系の血管から分離することが知られています.また,癌や炎症などの病的状態では,血管新生に続いてリンパ管新生が生じること,二次的なリンパ管新生には血管新生にも重要なCvascularendothelialCgrothfactor(VEGF)-A,-Cが関与していることが知られており2),結膜と角膜では二次的なリンパ管新生が生じることが明らかとなっています.では慢性炎症性疾患である糖尿病網膜症ではどうでしょうか?糖尿病黄斑浮腫における間質液の貯留や,増殖糖尿病網膜症における網膜血管新生の発症にCVEGF-Aが関与していることは周知の事実ですが,網膜における二次的なリンパ管新生については十分に検討されてきませんでした.そこで糖尿病モデルマウスを用いて検討を行い,網膜の遺伝子発現図1糖尿病モデルマウス(12月齢)Lyve-1陽性細胞(赤)がCCD31陽性血管構造(緑)を被覆するように存在している.和田伊織九州大学大学院医学研究院眼科学分野,DohenyEyeInstitute,UCLAを調べたところ,VEGF-A,-Cのみならず,podoplanin,Lyve1,リンパ管内皮細胞の制御遺伝子であるCProx1の有意な発現を認めましたが(p<0.05),明らかなリンパ管様構造は認めませんでした3).しかし,老齢のマウスではCLyve1陽性細胞が血管周囲を被覆するように存在していました(図1).最近の研究では,Lyve-1陽性細胞がリンパ管の代わりに網膜のホメホスタシスを維持している可能性が示唆されています.今後の展望糖尿病網膜症の硝子体組成に関する研究は進んできた一方,病態の背景にある炎症,創傷治癒,血管新生については依然として不明な点が多く存在します.リンパ管新生のメカニズムを理解することは,疾患の新規治療戦略のために重要です.また最近の研究では,増殖糖尿病網膜症患者の線維血管組織をCexvivo培養すると,リンパ管内皮細胞の構造をもつProx1陽性毛細血管を形成することが示されました4).ある一定の条件下では網膜にリンパ管構造が形成されることを示唆しており,今後のさらなる検討が待たれます.文献1)LouveauCA,CSmirnovCI,CKeyesCTJCetal:StructuralCandCfunctionalCfeaturesCofCcentralCnervousCsystemClymphaticCvessels.NatureC523:337-341,C20152)LimCHY,CLimCSY,CTanCCKCetal:HyaluronanCreceptorCLYVE-1-expressingCmacrophagesCmaintainCarterialCtoneCthroughChyaluronan-mediatedCregulationCofCsmoothCmus-clecellcollagen.ImmunityC49:1191,C20183)WadaCI,CNakaoCS,CYamaguchiCMCetal:RetinalCVEGF-ACoverexpressionisnotsufficienttoinducelymphangiogene-sisCregardlessCVEGF-CCupregulationCandCLyve1+Cmacro-phageinfiltration.InvestOphthalmolVisSciC62:17,C20214)GucciardoCE,CLoukovaaraCS,CKorhonenCACetal:TheCmicroenvironmentCofCproliferativeCdiabeticCretinopathyCsupportslymphaticneovascularization.JPatholC245:172-185,C2018C(123)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14870910-1810/21/\100/頁/JCOPY