First-lineSLTStudy(LiGHTTrial)がもたらしたものWhattheFirst-lineSLTStudy(LiGHTTrial)HasPresented片井麻貴*ISLTとは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertra-beculoplasty:SLT)は,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)と異なり,線維柱帯の熱変性やSchlemm管の障害を生じにくい低侵襲な方法であり,反復照射も可能とされている1).選択的光加熱分解論に基づいた照射エネルギーによる周囲に拡散しない短時間照射が特徴であるため,合併症が少ない.近年,他のレーザー線維柱帯形成術であるマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micro-pulsediodelasertrabeculoplasty:MDLT),パターンレーザー線維柱帯形成術(patternedlasertrabeculo-plasty:PLT)も施行されており,眼圧下降効果もほぼ同等との報告がみられる.しかし,周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性を生じさせずに,選択的にメラニン色素含有細胞のみに作用させる照射時間は1μs以内とされているため,この条件を満たすのはSLTに限られる2,3)(表1).緑内障診療における治療の順序として,一般的には薬物→レーザー→手術という図式が成り立っている.しかし,第一選択肢とされている薬物には副作用やアレルギー反応が存在し,低い確率ではあるものの避けて通ることはできない.ほかにさし心地や点眼本数,あるいは回数によるアドヒアランスの問題や,妊娠中などで薬物治療が継続できない場合,また患者自身が薬物治療そのものを望まない場合などはSLTの適応があると考えられ,早い段階での施行を考えなければならない.IISLTの作用機序とタイミングSLTの作用機序は,レーザー照射によりサイトカインが放出され4),また活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大5)させ,Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進することにより房水流出抵抗が減少するというものである(図1).線維柱帯切開術のような流出路再建術においてもそうだが,SLTの効果を期待するにはSchlemm管以降の流出路を担う集合管の開口やその数も重要になってくる.SLTの効果を判定する指標として眼圧下降率のほかにout.owpressure改善率(ΔOP)(%)を用いることが多い.ΔOPは上強膜静脈圧を10mmHgとし,ΔOP=(SLT前眼圧-SLT後眼圧)/(SLT前眼圧-10)×100(%)の式から求め,20%以上を反応群とする.Songら6)は不成功(=ΔOP<20%)率をSLT前の点眼数が0剤の場合で50%,4剤の場合で73%とし,齋藤ら7)は6カ月有効率がSLT前最大耐用薬治療下では約半数と報告,新田ら8)はSLT1カ月後で反応群の割合がSLT前点眼0剤で92.5%と報告している.これらより,SLTのタイミングは早期のほうが効果的であると予想される.その理由として,①病期が進行し線維柱帯の抵抗異常が慢性化すると線維柱帯細胞数が減少し,同時にSLTのターゲットであるメラニン色素含有細胞も減少*MakiKatai:NTT東日本札幌病院眼科〔別刷請求先〕片井麻貴:〒060-0061札幌市中央区南1条西15丁目NTT東日本札幌病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(69)1245表1各種レーザー線維柱帯形成術の違いとSLTの特徴サイトカイン放出・フリーラジカルが抗炎症細胞貪食能↑波長(nm)サイズ(μm)時間SLT5324003nsMDLT577/810300100μsSchlemm管内細胞の空胞↑PLT532/5771005msALT488/51450200ms透過性↑選択的に線維柱帯のメラニン色素含有細胞のみに作用させる場合の照射時間≦1μsSLT:selectivelasertrabeculoplasty,MDLT:micropulsediodelasertrabeculoplasty,PLT:patternedlasertrabeculoplasty,ALT:argonlasertrabeculoplasty.房水流出抵抗↓図1SLTの作用機序照射によりサイトカインが放出され,また活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ,Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進し,房水流出抵抗が減少する.-=表2LiGHTtrialの患者背景点眼群(n=362)SLT群(n=356)施設ムーアフィールズ眼科病院ハンティンドン病院ガイズアンドセントトーマス病院クイーンズ大学ベルファストノーフォークおよびノーリッチ大学病院ヨーク病院平均年齢(歳)性別男性女性人種アジア人黒人白人その他診断開放隅角緑内障(OAG)高眼圧症(OHT)既往歴喘息高血圧狭心症不整脈187(C51.7%)41(C11.3%)55(C15.2%)15(4C.1%)46(C12.7%)18(5C.0%)62.7(C11.6%)197(C54.4%)165(C45.6%)28(7C.7%)69(C19.1%)258(C71.3%)7(1C.9%)282(C77.9%)80(C22.1%)45(C12.4%)119(C32.9%)11(3C.0%)20(5C.5%)187(C52.5%)41(C11.5%)51(C14.3%)15(4C.2%)43(C12.1%)19(5C.3%)63.4(C12.0%)200(C56.2%)156(C43.8%)23(6C.5%)77(C21.6%)243(C68.3%)13(3C.7%)273(C76.7%)83(C23.3%)48(C13.5%)132(C37.1%)10(2C.8%)17(4C.8%)(文献C11より改変引用)表3LiGHTtrialの対象眼の背景点眼SLT(C362例C622眼)C(C356例C613眼)診断OHT185(C29.7%)195(C31.8%)初期COAG325(C52.3%)311(C50.7%)中期COAG77(C12.4%)67(C10.9%)後期COAG35(5C.6%)40(6C.5%)屈折誤差(球面D)-0.2(C2.7)-0.3(C3.2)視力0.1(C0.1)0.1(C0.2)視野検査CMD値(dB)-3.0(C3.6)-3.0(C3.4)HRTリム面積(mmC2)1.1(C0.4)1.2(C0.4)眼圧(mmHg)24.4(C5.0)24.5(C5.2)中心角膜厚(Cμm)551.6(C36.2)550.7(C38.1)偽落屑12(1C.9%)5(0C.8%)偽水晶体眼33(5C.3%)39(6C.4%)データはCn(%)または平均(SD).HRT:ハイデルベルグレチナトモグラフ.(文献C11より改変引用)表4LiGHTtrialの36カ月後の健康に関連する生活の質(HRQoL)EQ-5D0.96n平均(SD)Cn平均(SD)CEQ-5DC3360.89(0.18)C3370.90(0.16)C0.230CGUIC2990.89(0.13)C3030.89(0.13)〃CGSSC28183.3(17.3)C29483.1(17.7)〃CGQL-15C29719.8(7.8)C30419.8(7.2)〃CQALYC2632.70(0.42)C2612.74(0.37)C0.289QALY(割引)C2632.62(0.41)C2612.65(0.36)C0.286GUI:緑内障ユーティリティインデックス.スコアが高いほどHRQoLがよいことを示す.GSS:緑内障の症状のスケール.GQL-15:緑内障CQOL15.スコアが高いほどCHRQoLが悪いことを示す割引:長期間にわたる解析の際に将来発生する費用を現在の価値に換算したもの.(文献C11より改変引用)CGUI0.960.840.8400061218243036061218243036GSSGQL-1590220.940.94平均GSSスコア平均EQ-5Dスコア0.92平均GQL-15スコア平均GUIスコア0.920.900.900.880.880.860.8688218620841982188017006121824303600618301224Follow-up(months)Follow-up(months)図2LiGHTtrialの36カ月後のEQ-5D,GUI,GSSおよびGQL-15の平均スコア両群間に有意差はなかったがCGUI,GSS,GQL-15はCSLT群のほうがよりよい健康に関する生活の質(HRQoL)を示した.(文献C11より改変引用)表5LiGHTtrialの目標眼圧における治療効果点眼群SLT群36カ月後の眼圧16.3(C3.87)16.6(C3.62)36カ月後の目標眼圧における1眼あたりの薬剤数点眼なし16(3C.0%)419(C78.2%)1剤346(C64.6%)64(C12.0%)2剤99(C18.5%)21(3C.9%)3剤35(6C.5%)4(0C.8%)4剤3(0C.6%)1(0C.2%)36カ月で目標眼圧達成眼499(C93.1%)509(C95.0%)線維柱帯切除術追加要11(1C.8%)0(0%)データはCn(%)または平均(SD).36カ月の時点でCSLT群の78.2%は点眼なしで目標眼圧が達成された.追加で線維柱帯切除術を要したのはCSLT群でC0眼であるのに対し,点眼群では11眼であった.(文献C11より改変引用)表6LiGHTtrialの有害事象点眼群(n=362)SLT群(n=356)イベント数症例数(%)イベント数症例数(%)有害事象C単純ヘルペス角膜炎Cぶどう膜炎C点眼薬の審美的副作用*C点眼薬のアレルギー反応CSLT関連SLT後の炎症CSLT後の眼圧スパイクC§Cその他の一時的なイベント¶C1,196260(C71.8%)C11(0C.3%)C11(0C.3%)C11756(C15.5%)C3317(4C.7%)C─C─C─C─C21(0C.3%)C906261(C73.3%)11(0C.3%)22(0C.6%)127(2C.0%)1813(3C.7%)11(0C.3%)66(1C.7%)171122(C34.4%)*点眼薬の審美的副作用:過剰な睫毛の成長,眼周囲の色素沈着,虹彩の色調変化を含む§眼圧>5CmmHgをスパイクと定義.C¶一過性の不快感,かすみ目,光恐怖症,充血を含む.(文献C11より改変引用)2020年第C124回日本眼科学会ランチョンセミナーを例にあげる.これまでの研究会などで寄せられた数々の質問に数人の演者が回答した.以下に抜粋する.Q1:SLTの線維柱帯に与える影響は?SLT施行後は線維柱帯が硬くなっている印象があるか?回答:・症例によっては硬いと思う.SLT後の症例でCiStentを挿入して,そう感じたことがある.・硬くなっている気もいくらかする程度,意識しない.・硬いか否かの検証は困難だと思う.SLT後に行う従来の線維柱帯切開術ではとくに障壁はない.・硬くなるかどうかは不明だが,少なからず線維柱帯組織に影響は与えていると思う.Q2:緑内障診療ガイドラインでは第一選択治療になっていないが?回答:・最新のガイドラインには,「一般的に,眼圧コントロールに多剤(3剤以上)の薬剤を要するときは,レーザー治療も考慮」とあり,SLTの位置づけが後ろのほうである.次のガイドライン改訂のためには日本人のデータが重要.・欧米に比べて日本ではCSLTの認知度が低いことがその理由の一つと考えられる.また,SLTのノンレスポンダーが存在するので第一選択治療としては逡巡されていたのかもしれない.・日本人のCNTGに対する第一選択治療CSLTの報告は新田論文8)しかない.現在,新田先生を中心に多施設共同研究が進められている.Q3:第一選択治療としてのCSLTを早期から施行しているが“Lancet”を読んでやっぱりそうかと思ったか?回答:・2003年に日眼会誌に自施設の結果を報告8)しているが,“Lancet”でも同様の報告が出たことはすごくうれしい.以前から自分がマネージしてセミナーをやっているが,“Lancet”が出て雰囲気が変わってきた.・人種間の差があるために,日本人において“Lancet”に類似したデータとなるのかをぜひ検証したい.Q4:15年ほど前に導入されていったん消えたが,また脚光を浴びているのはなぜか?回答:・導入当初はフル点眼の症例で,さらなる治療強化の手段として手術を回避する目的でCSLTを施行していたので,効果が限定的であり注目されなかった.ALTに比べて侵襲も少ないので期待されていたが,患者側のレーザーに対する恐れもあった.第一選択治療としてのSLTが効果的であると考えている.低侵襲緑内障手術(minimalinvasiveglaucomasurgery:MIGS)や配合剤が出たことで,そちらに注目されていた面もある.・効果に関する論文も年々数多となり,点眼薬の多様化に伴い点眼剤アレルギーやアドヒアランス不良の患者にとってはよりよい適応となる.・MIGSやリパスジル点眼などで流出路への関心が高まったせいだと思う.・MIGSの出現が大きいと思う.効果は強くなくても低侵襲である術式に関心が高まったことがあると思う.これらの質問をみると,LiGHTtrialの影響もあり,わが国でも再注目されている治療法であることがうかがえる.しかし,英国と日本では医療保険制度も異なるため単純に費用対効果の評価の比較はむずかしい.やはり今後日本人でのデータを増やすことが重要であると思われる.CVどのような症例に有効か一方でCSLTの効果は薄いとする近年の文献もある.Khawajaら12)は英国におけるCSLT施行例C831眼に対するコホート研究の成績をC2020年に報告した.結論は,同じ英国でのCLiGHTtrialとは異なり,ほとんどの症例は施行後早期に反応を示したものの,多くはC1年以内に効かなくなるというものであった.両者の結論に違いが生じた理由として,LiGHTtrialの対象は未治療患者であったのに対し,Khawajaらの研究では大多数が緑内障点眼薬使用中であったことをあげている.これらのことより,SLTは現在のレーザー治療の位置づけとは異なり,できるだけ初期段階での照射や,点眼治療継続が困難な場合の第一選択治療法として,あるいは点眼C2剤目を追加する前など,早い段階での症例への効果が期待される.SLTの効果が大きい症例についての見解はさまざま1250あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(74)■用語解説■EQ-5D(EuroQol5Dimension):医療技術の経済評価において質調整生存年(quality-adjustedClifeyear:QALY)の算出に用いるためのCQOL値を提供することができるC5項目からなる質問票.欧州のCEuroQolグループが開発し,102の言語バージョンが存在し,世界各国で用いられている.「完全な健康==0」と基準化された健康状態のスコアが算出可能.質調整生存年(quality-adjustedlife-year:QALY):医療行為に対しての費用対効果を経済的に評価する技法.」「死亡C1C-’C’C