‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

長期経過観察を行った抗リン脂質抗体陽性SLE網膜症の2例

2024年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(10):1256.1265,2024c長期経過観察を行った抗リン脂質抗体陽性SLE網膜症の2例福永直子*1林孝彰*1,2溝渕圭*2伊藤晴康*3野田健太郎*3中野匡*2*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座*3東京慈恵会医科大学内科学講座リウマチ・膠原病内科CLong-TermFollow-UpinTwoCasesofSystemicLupusErythematosusRetinopathyNaokoFukunaga1),TakaakiHayashi1,2),KeiMizobuchi2),HaruyasuIto3),KentaroNoda3)andTadashiNakano2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)DivisionofRheumatology,DepartmentofInternalMedicine,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:全身性エリテマトーデス(SLE)網膜症の視機能予後において,対照的な転帰をたどったC2症例の長期経過を報告する.症例:症例C1はC42歳,女性.左眼霧視を自覚し受診した.34歳時に抗リン脂質抗体(aPL)陽性と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を指摘され,ITPに対してプレドニゾロン内服加療中であった.矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.07で,両眼底に多数の綿花様白斑を認め,左眼は網膜出血を伴う虚血性変化を認めた.SLEと診断されていたことからCSLE網膜症と診断した.内科的治療の強化に加え抗凝固薬が投与されたが,両眼ともに網膜血管閉塞による広範囲な虚血性変化を呈し,汎網膜光凝固術が施行された.その後,網膜菲薄化による重度視力障害を残し鎮静化した.約C13年後の矯正視力は右眼C0.02,左眼手動弁で,両眼視神経は蒼白化していた.症例C2はC21歳,女性.左眼視力低下を自覚し受診した.aPL陽性のCSLEと診断されていた.矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7で,両眼ともに多数の綿花様白斑を認め,SLE網膜症と診断した.網膜血管閉塞所見ははっきりしなかったが,抗凝固薬投与に加え内科的治療が強化された.その後,血管閉塞による無灌流領域が出現し,両眼に汎網膜光凝固術が施行され,SLE網膜症は鎮静化した.約C5年経過し,矯正視力は両眼とも(1.2)を維持していた.結論:活動性のあるCaPL陽性のCSLE網膜症に対しては,内科医と連携してCSLEに対する治療を強化するとともに,早期に抗凝固療法を検討することが視力予後に重要と考えられた.CPurpose:Toreportthelong-termoutcomesintwocasesofsystemiclupuserythematosus(SLE)retinopathywithcontrastingprognosesofvisualfunction.Casereports:Case1involveda42-year-oldfemalewhopresentedwithblurredvisioninherlefteye.Attheageof34,shewasdiagnosedwithidiopathicthrombocytopenicpurpura(ITP)andpositiveforantiphospholipidantibodies(aPL),andwasundergoingtreatmentwithoralprednisoloneforITP.CUponCexamination,CherCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)wasC1.2CO.D.CandC0.07CO.S.,CandCmultipleCcotton-woolCspotsCwereCobservedCinCtheCfundusCbilaterally.CMoreover,CischemicCchangesCwithCretinalChemorrhageCwereCobservedCinCherCleftCeye,CandCsheCwasCdiagnosedCwithCSLECretinopathy.CInCadditionCtoCintensi.edCsystemicCtreat-ment,CanticoagulantCtherapyCwasCadministered.CHowever,CextensiveCischemicCchangesCdevelopedCinCbothCeyesCdueCtoCretinalCvascularCocclusion,CandCpanretinalCphotocoagulationCwasCperformed.CSubsequently,CsevereCvisualCimpair-mentCdueCtoCretinalCthinningCwasCnoted,CandCapproximatelyC13CyearsClater,CherCBCVACwasC0.02CO.D.CandChandCmotionO.S.,withpallorofbothopticdiscs.Case2involveda21-year-oldfemalewhopresentedwithvisionlossinherlefteye.ShehadadiagnosisofaPL-positiveSLE,andherBCVAwas1.0CO.D.and0.7CO.S.,withmultiplecot-ton-woolspotsobservedinbotheyes.SLEretinopathywasdiagnosed,althoughretinalvascularocclusionwasnotevident.CAlongCwithCanticoagulantCtherapy,CsystemicCtreatmentCwasCintensi.ed.CSubsequently,Cnon-perfusionCareasCduetovascularocclusionappeared,leadingtobilateralpanretinalphotocoagulation.SLEretinopathystabilized,andafterCapproximatelyC5Cyears,CBCVACinCbothCeyesChasCremainedCatC1.2.CConclusion:ForCgoodCprognosisCofCvisionCfunctioninactiveandaPL-positiveSLEretinopathycases,itisvitaltocollaboratewithinterniststointensifytreat-mentforSLEandtoconsiderearlyanticoagulationtherapy.C〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC1256(108)〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(10):1256.1265,C2024〕Keywords:全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体,SLE網膜症,網膜虚血,抗凝固療法.systemicClupusCer-ythematosus,antiphospholipidantibodies,SLE/lupusretinopathy,retinalischemia,anticoagulationtherapy.Cはじめに全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythemato-sus:SLE)は,自己抗体の産生,免疫複合体の沈着により,皮膚,腎臓,網膜,脳などに臓器傷害を引き起こす自己免疫疾患で,指定難病(告示番号C49)に認定されている(難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/53).2019年における難病認定届け出人数はC61,835人で,申請していないケースなどを含めるとこの約C2倍の人がCSLEに罹患していると推定され(難病情報センター),有病率は人口C10万人あたりC50.100人ほどである.発症年齢は,20.40代の女性に多く,男女比はC1:9と圧倒的に女性に多い疾患である.もっとも重篤な眼合併症はCSLE網膜症であり,SLE全体のC10%前後に発症する1.3).SLE網膜症は,閉塞性網膜血管炎・網膜虚血によって視力障害を引き起こす病態である.日本リウマチ学会からCSLEの診療ガイドライン(2019)4)が発表されているが,SLE網膜症に関して,急性活動性病変として重要であるとの記載はあるものの,分類基準や治療に関する記載はない.抗リン脂質抗体(antiphospholipidantibodies:aPL)は,細胞膜のリン脂質もしくはリン脂質と蛋白質との複合体に対する自己抗体をさす.aPLには,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピンCb2グリコプロテインCI複合体抗体(抗CCL・Cb2GPI抗体)などが含まれる.aPLが原因となって動静脈血栓症や習慣性流産などを発症する疾患を抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidsyn-drome:APS)という.SLEのC30.40%でCaPLが陽性となる5).これまでにCSLE網膜症の長期経過に関する報告は少ない.今回,対照的な転帰をたどったCaPL陽性CSLE網膜症C2症例の長期経過について報告する.CI症例[症例1]42歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2009年某月,顔面紅斑を認めた.2カ月後に手関節および手指関節の関節痛が出現し,そのC2週後,東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)救急外来を受診した.顔面紅潮,関節痛,血小板減少がみられ,SLEが強く疑われリウマチ・膠原病内科に緊急入院となった.34歳時にaPL陽性と特発性血小板減少性紫斑病(idiopathicCthrombo-cytopenicpurpura:ITP)と診断され,当院腫瘍・血液内科に通院中であった.aPL陽性であったものの血管血栓症や妊娠合併症はみられず,抗血小板薬や抗凝固薬の導入には至らなかった.入院前より,ITPに対してプレドニゾロン(pred-nisolone:PSL)20mg/日内服加療中であった.身長C156cm,体重C57Ckg,BMIC23.42Ckg/m2.また,左眼霧視(第C1病日)を自覚していたため,眼科受診となった.既往歴:34歳時にCaPL陽性とCITPの診断,36歳時に腹腔鏡下脾臓全摘手術,2妊C2産.初診時眼科所見:前眼部に異常所見なく,眼底検査で右眼に数個の綿花様白斑が,左眼上方血管アーケードに融合した綿花様白斑を認めたため,眼底疾患の精査予定となった.経過:血液検査が施行され,血小板数C5万/μl,蛍光抗体法による抗核抗体C640倍(基準値:40倍未満)で染色パターンは斑紋型(speckledpattern),抗CdsDNAIgG抗体はC10未満,抗CSS-A抗体C57.7CU/ml(基準値C10CU/ml未満),抗SS-B抗体C7CU/ml,抗CSm抗体C42.6CU/ml(基準値C10CU/ml未満)であった.一方,APSに関連するCaPLで,ループスアンチコアグラントC1.11(基準値C1.29以下),抗カルジオリピンCIgG抗体C8U/ml(9U/ml未満),抗CCL・Cb2GPI抗体1.2CU/ml(3.5CU/ml未満)は陰性であった.肝機能および腎機能に異常はなかった..部紅斑,関節炎,血液学的異常,免疫学的異常,抗核抗体陽性所見から,ACR(AmericanCCollegeCofRheumatology)分類改訂基準(1997)6)の4項目以上の基準を満たしCSLEと診断された.第C6病日に眼科的検査を行った.矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.07),眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C9CmmHgであった.眼底所見として,右眼は綿花様白斑の増加,左眼も綿花様白斑増加に加え血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認めた(図1a).同日,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangi-ography:FA)を施行し,右眼は網膜血管炎に加え点状の蛍光漏出,左眼は血管アーケード内の網膜血管閉塞の所見を認め,SLE網膜症と診断した.黄斑部の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT,StratusCOCTCIII3000,CCarlZeissMeditec社)検査で,右眼に明らかな異常所見はなかったが,左眼に黄斑浮腫を認めた.SLE網膜症が悪化したこともあり,第C7病日からメチルプレドニゾロンC1,000mg/日によるステロイドパルス療法(intravenousCmethyl-predonisolone:IVMP)がC1クール(3日間)施行され,後療法としてCPSL40Cmg/日が投与された.第C12病日よりプロトロンビン時間国際標準比(prothrombintime-internationalnormalizedratio:PT-INR)がC1.5.2.0になるように抗凝固図1症例1の眼底写真とフルオレセイン蛍光造影写真a:第C6病日のカラー眼底写真を示す.右眼は多数の綿花様白斑,左眼も多数の綿花様白斑に加え血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認める.Cb:第C15病日のカラー眼底写真を示す.両眼ともに,眼底所見は悪化しており,血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認め,左眼はさらに悪化している.Cc:第C15病日のフルオレセイン蛍光造影写真(後期相).右眼(7分C41秒)は後極の網膜血管閉塞による虚血,左眼(8分C3秒)も広範囲な網膜虚血を認める.図2症例1の眼底写真とOCT画像(第203病日)a:眼底所見として,両眼ともに汎網膜光凝固術が施行されCSLE網膜症の活動性は低下している.Cb:OCTでは,両眼ともに黄斑部網膜は菲薄化している.薬ワルファリンカリウム(1.2Cmg/日)内服が開始された..部紅斑ならびに関節炎症状は改善した.その後,左眼の閉塞性血管炎に起因する著しい視力低下に加え,右眼の視力低下も認め,第C15病日の視力は右眼(0.02),左眼C20Ccm/指数弁とさらに悪化した.眼底所見は,両眼ともに血管アーケード内の網膜出血を伴う網膜白濁所見を認め,左眼はさらに悪化していた(図1b).同日施行したCFAで,右眼は後極の網膜血管閉塞による虚血,左眼も広範囲な網膜虚血を認めた(図1c).第C16病日より左眼から汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)を開始し,並行して右眼のCPRPも行った.第C14病日から開始されたシクロスポリン(cyclo-sporineA:CyA)200Cmg投与後に全身症状がやや悪化したため,第C15病日で終了し,第C16病日よりシクロホスファミド(500Cmg)間欠静注療法(intravenousCcyclophospha-mide:IVCY,1日C1回の点滴治療をC2週間以上開けて複数回施行する治療)が計C3回施行された.その後,血小板数減少を認め,第C30病日からワルファリンカリウムを約C1カ月間休薬となった.IVCY後,寛解維持を目的に,第C82病日よりアザチオプリン(azathioprine:AZP)50Cmg/日投与が開始された.第C132病日の視力は右眼(0.1),左眼(0.04)であった.経過観察を継続し,第C203病日の視力は右眼(0.08),左眼(0.04)と維持していた.眼底所見として,両眼ともにPRPによりCSLE網膜症の活動性は低下していたが(図2a),OCT(CirrusCHD-OCT5000,CarlCZeissMeditec社)検査で,両眼ともに黄斑部網膜は菲薄化していた(図2b).その後,第C438病日,後部硝子体.離に伴う左眼硝子体出血に対して,23CGシステムを用いた硝子体手術,眼底周辺部に網膜光凝固術(photocoagulation:PC)を追加施行した.経過(病日)第1病日第1病日経過(病日)図3治療経過ならびに視力の経時変化a:症例C1.横軸に第C1病日からの経過(日数)を示す.ステロイドパルス療法(IVMP),プレドニゾロン(PSL)内服投与量,ワルファリンカリウム内服,シクロスポリン(CyA)内服,シクロホスファミド(IVCY)間欠静注療法,アザチオプリン(AZP)内服の投与量と投与期間を示す.視力は,小数視力からClogMARに換算している.Cb:症例C2.横軸に第C1病日からの経過(日数)を示す.IVMP,PSL内服,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA),ヘパリンナトリウム持続点滴,ワルファリンカリウム内服,AZP内服の投与量と投与時期を示す.視力は,小数視力からClogMARに換算している.徐々にCSLE網膜症の活動性は低下し,第C637病日が最終受8Cmg/日とCAZP100Cmg/日の内服加療で,SLEの臨床症状診となり,近医へ逆紹介となった.最終受診時の視力は,右は落ち着いていた.初診からの臨床経過を図3aに示す.眼(0.09),左眼C10Ccm/指数弁であった.内科的には,PSL2022年某日(初診からC13年後)に眼科受診され,視力は,右眼(0.02),左眼手動弁であった.眼底は両眼CPRP後で鎮静化しており,両眼視神経は蒼白化していた.[症例2]21歳,女性.主訴:羞明,左眼視力低下.現病歴:2018年某月,発熱,発疹,手首の痛みを自覚し(発症日),東京慈恵会医科大学葛飾医療センター総合診療部を受診,顔面紅斑および汎血球減少を認め,7日後に精査加療目的で入院となった.身長C160Ccm,体重C50.8Ckg,BMIC19.84Ckg/m2.胸腹部CCTで全身リンパ節腫脹および肝脾腫がみられたものの,骨髄検査で芽球はC5%未満であった.顔面部から採取した皮膚病理の結果,皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupusCerythematosus:CLE)に矛盾ない組織像であった.血液検査で,白血球数C2,500/μl,血小板数C14万/μl,蛍光抗体法による抗核抗体はC640倍(基準値:40倍未満)で染色パターンは斑紋型(speckledpattern),補体蛋白CC322Cmg/dl(基準値:73.138Cmg/dl),C42.0Cmg/dl(11.31Cmg/dl),CH5010CU/ml(基準値:31.6.57.6CU/ml)は低値,抗CSm抗体C8CU/ml,抗CdsDNAIgG抗体C74CIU/ml(基準値C12CIU/ml以下)と陽性であった.腎機能に異常はなかった.aPL関連の抗カルジオリピンCIgG抗体C20CU/ml(基準値:12.3U/ml以下),抗CCL・Cb2GPI抗体C3.5U/ml(基準値:3.5CU/ml未満)の陽性も確認された.ACR分類改訂基準(1997)6)のC4項目以上の基準を満たしCSLEと診断された.発症C11日後からCPSL40Cmg/日内服治療が開始された.血液検査所見の改善がみられ退院した.発症C23日後(第C1病日),左眼視力低下を認め,第C10病日,再入院するとともに眼科に紹介受診となった.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.05(1.0C×sph.3.25D(cylC.0.75DAx55°),左眼C0.04(0.7C×sph.4.75D(cyl.0.25DAx90°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼C14mmHgであった.前眼部に異常所見なく,眼底所見として,両眼ともに後極部を中心として多数の綿花様白斑を認めた(図4a).黄斑部OCT(CirrusCHD-OCT5000)検査において,両眼ともに.胞様黄斑浮腫を認めた(図4b,c).SLE網膜症と診断し,FAを施行し,両眼に網膜血管炎の所見はみられたが,明らかな網膜血管閉塞所見ならびに無灌流領域(nonCperfusionarea:NPA)は検出されなかった.経過:再入院後,IVMPのC1クール(2日間)に加え抗凝固療法(ヘパリンナトリウムC10,000.15,000単位/日持続点滴)が開始された.その後,サイトメガロウイルス感染症を発症し,ガンシクロビル(デノシン250CmgをC1日C2回,4日間)点滴治療,PSL50Cmg/日内服,抗凝固薬はワルファリンカリウム2.4Cmg/日(PT-INR1.5.2.0を目標)に変更となった..胞様黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドCTanon.下注射(sub-tenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide:STTA)を計画していたが,治療強化の目的で,第C15病日に東京慈恵会医科大学附属病院リウマチ・膠原病内科および眼科に転院となった.同日CFA施行,両眼に網膜血管炎,一部CNPAがみられたが,経過観察となった.第C17病日に左眼にCSTTA施行,第C22病日にCFA施行したところ,右眼は上方から耳側にかけて,左眼は上方と下方の広範囲にCNPAが検出され(図5),右眼CNPAにCPC,左眼にPRPを施行した.第C32病日の視力は右眼(1.2),左眼(0.6)であった.第43病日よりPSL45mg/日に加え,AZPC25mg/日投与が開始となり,2週後からC50Cmg/日へ増量された.以降,内科的にはCPSL内服を漸減し,眼科的には適宜FA施行し,両眼のCNPAに対してCPCの追加治療を行った.第C161病日の視力は右眼(1.5),左眼(1.2)まで改善した.その後,右眼に網膜血管.離に伴う硝子体出血を認め,第400病日にC27CGシステムを用いた硝子体手術を施行,網膜.離や増殖膜はみられず,眼底周辺部にCPCを追加した.その後,追加治療はせず経過観察となった.初診からの臨床経過を図3bに示す.第C500病日の眼底は,両眼CPRP後に鎮静化し(図6a),OCT検査で網膜外層構造は保たれている(図6b).第C654病日,白血球減少がみられたためCAZP中止となった.初診からC4年以上経過した某日より,顔面と右上腕皮膚のCCLEが悪化し,可溶型CBリンパ球刺激因子(BLyS)阻害薬であるベリムマブ(ベンリスタC200Cmg)皮下注製剤が開始され,そのC2カ月後にヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ,プラケニル200Cmg/日とC400Cmg/日をC1日おきに経口投与)が追加投与された.最終受診時,内科初診からC5年経過し,PSL4Cmg/日に加えCHCQとベリムマブを継続している.視力は両眼それぞれ(1.2)を維持し,SLEとCSLE網膜症の悪化はみられていない.また,初診時にCaPL陽性であったが,そのC12週以降から最終受診までCaPLは陰性であった.CII考按今回,SLE網膜症の視機能予後において,対照的な転帰を辿ったC2症例の長期経過について報告した.症例C1の特徴として,SLE活動期にCSLE網膜症が急速に進行し,血管アーケード内の網膜血管閉塞により,重篤な黄斑部網膜虚血(図1b,c)が起こり,網膜菲薄化(図2b)による重度視力障害を残し鎮静化した.一方,症例C2では,SLE網膜症診断後,網膜血管閉塞による重篤な網膜虚血が回避され,良好な視力が維持され,網膜症が鎮静化した(図5).SLEの診断に関して,ACR分類改訂基準(1997)6)に準じた難病情報センターの診断基準に照らし合わせると,症例C1(顔面紅斑,関節炎,血小板減少,抗核抗体陽性,抗CSm抗体陽性)と症例C2(顔面紅斑,関節炎,白血球減少,抗核抗体陽性,抗CdsDNAIgG抗体陽性,aPL陽性)ともに,診断図4症例2の眼底写真とOCT画像(初診時)a:眼底所見として,両眼ともに後極部を中心として多数の綿花様白斑を認める.Cb:OCTでは,両眼ともに.胞様黄斑浮腫を認める.カテゴリーのC4項目以上を満たし,SLEの診断に合致している.2024年現在,SLE分類基準はCACR分類改訂基準(1997)6)とともに,EuropeanLeagueAgainstRheumatism(EULAR)/ACR2019が採用され,少なくともC1回は抗核抗体C80倍以上の陽性が必須(エントリー基準)とされ,7つの臨床項目(発熱,血液学的所見,神経精神症状,皮膚粘膜所見,漿膜炎,関節炎,腎病変)と三つの免疫学的項目(aPL,補体蛋白,特異的自己抗体)に分け,一つ以上の臨床項目を含み,臨床項目と免疫学的項目を合わせて,合計が10点以上でCSLEに分類される7.9).症例C1の初診時,すでにCITPに対するCPSL加療中であったが,今回のC2症例を現在のCEULAR/ACR2019分類基準に照らし合わせても,合計点数がC10点を超えており,SLEに分類される結果であった.SLEの治療について考察する.2015年C7月C3日にCSLEとCLEの治療薬として,HCQが承認され,同年C9月に販売さ図5症例2の超広角フルオレセイン蛍光造影写真(第17病日)右眼(1分C52秒)は上方から耳側にかけて,左眼(2分C28秒)は上方と下方の広範囲に無灌流領域が検出されている.図6症例2の眼底擬似カラー画像とOCT画像(第500病日)a:超広角眼底写真で,両眼汎網膜光凝固術が施行され,SLE網膜症は鎮静化している.Cb:OCTで黄斑浮腫はなく,網膜外層構造は保たれている.れた.HCQは,抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作られている4,10).SLEの診療ガイドライン(2019)4)において,用など多岐にわたる薬理作用を有する薬剤である.その分子HCQは病態や臓器病変にかかわらず,禁忌事項に注意しなメカニズムについては十分に明らかになっているとはいえながら全例で投与を考慮すると記載されている.ただし,皮膚いが,Toll様受容体の機能阻害ならびにエンドソームCpH上に限局するCCLEの場合,まず外用治療を行い,それに抵抗昇作用による抗原提示を阻害することに関連していると考え性の場合に投与を検討すると記載されている.2023改訂SLE患者の管理・治療に関するCEULAR推奨においても,目標量C5Cmg/kg/日で基本的にすべてのCSLE症例に対してHCQを推奨している11).現状,SLEと診断されれば,最初にCHCQ投与が行われる.HCQ投与後の治療指針として,SLE診療アルゴリズムが提唱されている4).その後はCPSL内服治療と並行して,ループス腎炎の有無・Class分類,神経精神ループスの有無,血液検査所見,全身状態を評価し,寛解導入に向けてCIVMP,IVCY,免疫抑制薬,モノクローナル抗体製剤を追加投与する治療アルゴリズムとなっている4).症例C1では,活動性CSLEの発症時期が,HCQ保険収載以前であったことから,経過中にCHCQの使用歴はない.一方,症例C2では,診療ガイドライン(2019)発表以前に発症し,活動期にCSLE網膜症を発症していたことからCHCQ投与が見送られた可能性がある.発症からC4年後にCHCQが開始されているが,最終受診までC1年は経過していない.現在,HCQの保険適用からC8年以上が経過し,本剤の副作用としてもっとも留意すべきものとして網膜障害(ヒドロキシクロロキン網膜症)がある12,13).とくに累積投与量がC200Cgを超えたら注意する必要がある12,13).HCQ投与後は,通常の眼科的検査に加え,OCT検査,色覚検査,視野検査をC6カ月からC1年ごとに行うことが必須となっている.しかし,症例C1のように網膜血管閉塞後の黄斑部網膜菲薄化による不可逆的変化(図2)が生じた場合,たとえCHCQを投与していたとしてもヒドロキシクロロキン網膜症の発症を評価することは不可能である.SLEと診断され,HCQ投与検討時期に,SLE網膜症を発症している場合,HCQ投与後にヒドロキシクロロキン網膜症発症の評価が困難となるため,投与に関しては,慎重にならざるをえない.現在,SLEの病態に保険収載されているモノクローナル抗体製剤は,ベリムマブ,アニフロルマブ,リツキシマブの3剤である(表1).ベリムマブはCB細胞活性化を制御する薬剤で,標準的治療に対して効果不十分な症例に適応がある.また,SLEに合併するCCLEに対する有効性も報告されている14).症例C2では,CLE悪化時にベリムマブが導入された.ステロイドとCHCQ治療にベリムマブが追加投与され,SLE網膜症による視力低下の改善を認めた報告例がある15).アニフロルマブは,I型インターフェロンCa受容体のサブユニットC1(IFNAR1)の阻害薬で,IFNAR1を介したインターフェロンシグナル伝達を阻害し,IFNAR1応答性の遺伝子発現を抑制する薬剤で,既存の治療を行っても疾患活動性を有する場合に追加投与を検討する.CD20陽性のCB細胞を枯渇化させるリツキシマブは,ループス腎炎に対して適応が拡大された.APSの診断に関して,難病情報センターの診断基準では,臨床基準C1項目以上が存在し,かつ検査項目(ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗CCL・Cb2GPI抗体)のうちC1項目以上が陽性で,12週間以上の間隔をおいてC2回以上検出されることとなっている.今回のC2症例とも,1回のCaPL陽性を認めているが,診断基準は満たしていない.SLEに対する治療が行われていたことと関係している可能性は否定できない.しかし,両症例ともCaPL陽性が確認されていることから,APSでみられる血管血栓症に留意する必要があったと考えられる.SLEにCAPSを合併する症例では,網膜血管閉塞性疾患を発症するリスクが高いことが指摘されている16).SLE網膜症に対する治療アルゴリズムは存在しないが,.胞様黄斑浮腫に対してはCSTTAを行い17),適宜CFAを施行し網膜血管閉塞やCNPAが検出されればCPCやCPRPを検討する必要がある17,18).しかし,いずれも対症療法で,重篤な閉塞性網膜血管炎に対する治療を強化しなければ根本治療とはいえない.APSを合併している場合,血管血栓症や視力予後の悪化を防ぐために,抗凝固薬による迅速な治療が重要であると指摘する報告もある19).大島らは20),網膜血管閉塞を発症したCSLE網膜症のC2例を報告し,1例はCAPS合併例で,もうC1例はCAPS非合併例であったが,血管閉塞が進行する活動性の高いCSLE網膜症において,既存の治療に加えて抗凝固療法が進行抑制に有効であったと考察している.抗凝固薬の開始時期について,症例C1では,第12病日からワルファリンカリウム内服を開始している.しかし,発症時(第C1病日),すでに左眼霧視を訴えていたこと,ITPに対してCPSL20Cmg/日内服加療中であったことか表1全身性エリテマトーデスに対するモノクローナル抗体製剤ベリムマブ(ベンリスタ)アニフロルマブ(サフネロー)リツキシマブ(リツキサン)標的抗原可溶型CBリンパ球刺激因子(BLyS)I型インターフェロンCa受容体のサブユニットC1(IFNAR1)CCD20作用機序BLyS阻害I型CIFN受容体阻害CD20発現細胞除去効能・効果既存治療を行っても疾患活動性がある場合既存治療を行っても疾患活動性がある場合既存治療で効果不十分なループス腎炎投与方法点滴静注/皮下注点滴静注点滴静注投与量10Cmg/kgを初回,2週後,4週後/C200CmgC300CmgC375Cmg/m2(体表面積)投与間隔静注C4週ごと/皮下注C1週ごと4週ごと1週間間隔でC4回注意点アナフィラキシー,重症感染症,間質性肺炎などアナフィラキシー,重症感染症投与時反応,感染症承認時期2017年C9月2021年C9月2023年C8月ら,正確なCSLEならびにCSLE網膜症の発症日は不明であったと考えられた.また,SLEではしばしば血小板減少症を合併することから,SLEと確定診断された以前より,潜在的なCSLEが存在していた可能性は考えられる.仮にCSLEの診断時期が早ければ,SLE網膜症をより早期に診断できた可能性があり,左眼の重度視力障害をきたす前に,抗凝固療法を含めたCSLEの治療強化行えた可能性がある.一方,症例C2では,SLE網膜症の診断日(視力低下自覚のC9日目・第10病日)からCIVMPならびにヘパリンナトリウムによる抗凝固療法が開始された.SLEに対する治療は,2015年以降,HCQの保険適用やモノクローナル抗体製剤の開発など,めざましい進歩を遂げている.一方,閉塞性網膜血管炎を主体とするCSLE網膜症は不可逆的かつ重篤な視機能障害を引き起こす病態であるにもかかわらず,治療アルゴリズムは存在しない.今回経験した2症例の治療経過と過去の報告と併せて考えると,急速に進行するCSLE網膜症がみられた場合,aPL陽性やCAPS合併の有無にかかわらず,内科医と連携して,SLEに対する治療を強化するとともに,早期に抗凝固療法を検討することが重要であると考えられた.本論文の内容は,第C36回日本眼循環学会(札幌,2019),第C56回日本眼炎症学会(大阪,2023)にて発表しました.利益相反:林孝彰FクラスCIII(ジョンソン・エンド・ジョンソン/AMO株式会社,株式会社リィツメディカル,株式会社ユニハイト,バイエル薬品株式会社,日本アルコン株式会社,田辺三菱製薬株式会社,参天製薬株式会社),FクラスCII(千寿製薬株式会社,第一三共株式会社,株式会社オグラ,株式会社栗原医療器械店,中外製薬株式会社,わかもと製薬株式会社,大塚製薬株式会社,興和株式会社,協和キリン株式会社)文献1)Sta.ord-BradyCFJ,CUrowitzCMB,CGladmanCDDCetal:CLupusCretinopathy.CPatterns,Cassociations,CandCprognosis.CArthritisRheumC31:1105-1110,C19882)KharelCSitaulaCR,CShahCDN,CSinghD:RoleCofClupusCreti-nopathyCinCsystemicClupusCerythematosus.CJCOphthalmicCIn.ammInfectC6:15,C20163)SethCG,CChengappaCKG,CMisraCDPCetal:LupusCretinopa-thy:aCmarkerCofCactiveCsystemicClupusCerythematosus.CRheumatolIntC38:1495-1501,C20184)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班):全身性エリテマトーデス診療ガイドラインC2019.南山堂,20195)DurcanCL,CPetriM:ClinicalCaspectCofCantiphospholipidCsyndrome,C9thCedition.In:WallaceCDJ,CHahnBH(ed):CDubois’ClupusCerythematosusCandCrelatedCsyndromes.Cp532-538,Elsevier,Amsterdam,Netherlands,20196)HochbergMC:UpdatingCtheCAmericanCCollegeCofCRheu-matologyrevisedcriteriafortheclassi.cationofsystemiclupuserythematosus.ArthritisRheumC40:1725,C19977)AringerM,CostenbaderK,DaikhDetal:2019EuropeanLeagueCAgainstCRheumatism/AmericanCCollegeCofCRheu-matologyCclassi.cationCcriteriaCforCsystemicClupusCerythe-matosus.ArthritisRheumatolC71:1400-1412,C20198)AringerM,CostenbaderK,DaikhDetal:2019EuropeanLeagueCAgainstCRheumatism/AmericanCCollegeCofCRheu-matologyCclassi.cationCcriteriaCforCsystemicClupusCerythe-matosus.AnnRheumDisC78:1151-1159,C20199)長谷川靖浩,奥健志:【全身性エリテマトーデス─診断・治療の最新動向─】総論とCSLEの発症メカニズムCSLEの分類基準と診断.日本臨床C80:763-769,C202210)古川福実,衛藤光,谷川瑛子ほか:ヒドロキシクロロキン適正使用の手引き.日本皮膚科学会雑誌C125:2049-2060,C201511)FanouriakisA,KostopoulouM,AndersenJetal:EULARrecommendationsCforCtheCmanagementCofCsystemicClupuserythematosus:2023update.AnnRheumDisC83:15-29,C202412)近藤峰生,篠田啓,松本惣一ほか:ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き.日眼会誌C120:419-428,C201613)篠田啓,近藤峰生,松本惣一ほか:ヒドロキシクロロキン網膜症のスクリーニング.日本の眼科C88:80-84,C201714)KneelandCR,CMontesCD,CEndoCJCetal:ImprovementCinCcutaneousClupusCerythematosusCafterCtwentyCweeksCofCbelimumabuse:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.ArthritisCareRes(Hoboken)C75:1838-1848,C202315)FujitaCY,CIwataCS,CNakanoCKCetal:ACcaseCofCsimultane-ousConsetCofChighlyCactiveCsystemicClupusCerythematosusCandIgG4-relatedrenaldisease.ModRheumatolCaseRepC6:178-182,C202216)AshersonCRA,CMerryCP,CAchesonCJFCetal:Antiphospho-lipidantibodies:ariskfactorforocclusiveocularvasculardiseaseCinCsystemicClupusCerythematosusCandCthe‘prima-ry’antiphospholipidsyndrome.AnnRheumDisC48:358-361,C198917)杉本昌彦,佐宗幹夫,松浦美紀子ほか:さまざまな眼合併症による視力低下を呈した全身性エリテマトーデスのC1例.日眼会誌C115:27-33,C201118)下長野由佳,鵜木滋子,速見佳代子ほか:重篤なCSLE網膜症を示した中枢神経ループスのC3例.あたらしい眼科C20:C1323-1327,C200319)Hong-KeeN,Mei-FongC,AzhanyYetal:Antiphospho-lipidsyndromeinlupusretinopathy.ClinOphthalmolC8:C2359-2363,C201420)大島由莉,蕪城俊克,藤村茂人ほか:ステロイド大量療法とワーファリンによる厳密な抗凝固療法を行った網膜血管閉塞を伴う全身性エリテマトーデス網膜症のC2例.臨眼C62:399-405,C2008***

Selective Laser TrabeculoplastyとPattern Scanning Laser Trabeculoplastyの2年成績

2024年10月31日 木曜日

SelectiveLaserTrabeculoplastyとPatternScanningLaserTrabeculoplastyの2年成績中野花菜*1小椋俊太郎*1木村雅代*1安川力*1野崎実穂*1,2*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科CComparativeStudyofSLTandPSLTforGlaucomaTreatmentwith2-yearFollow-upKanaNakano1),ShuntaroOgura1),MasayoKimura1),TsutomuYasukawa1)andMihoNozaki1,2)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenterC目的:2年間経過を追えた選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)とCPASCALのパターンシステムを利用したパターンレーザー線維柱帯形成術(PSLT)を施行した症例について後ろ向きに比較検討した.対象と方法:2010.2018年に名古屋市立大学病院でCSLTあるいはCPSLTを施行し,2年間経過観察できた原発開放隅角緑内障C17眼(SLT群C8眼,PSLT群C9眼).両群ともC360°照射を行い,眼圧および点眼スコアを比較,検討した.結果:眼圧はCSLT群,PSLT群共にC2年の時点で有意に低下していた.点眼スコアは,両群とも有意に増加していたが,両群で点眼スコアに有意差は認めなかった.また,平均眼圧下降率は両群で統計学的有意差は認めなかった.結論:PSLTはC2年の経過観察期間においてCSLTと同等の眼圧下降効果を有すると考えられた.CPurpose:Toretrospectivelycomparethee.cacybetweenselectivelasertrabeculoplasty(SLT)andpatternscanninglasertrabeculoplasty(PSLT)usingthePASCAL(Topcon)patternsystemovera2-yearfollow-upperi-odCinCprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)patients.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC17CPOAGCeyesCthatCunder-wentSLT(8eyes)andPSLT(9eyes)with360°Cirradiationbetween2010and2018.Inbothgroups,intraocularpressure(IOP)andthenumberofocularhypotensivemedications(OHM)administeredoverthe2-yearfollow-upperiodwasexamined.Results:At2-yearspostoperative,signi.cantIOPreductionwasobservedintheSLTandPSLTgroups.AlthoughbothgroupsdidrequireanincreasednumberofOHM,therewasnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.AverageIOPreductionintheSLTandPSLTgroupswas17.5%and22.9%,respectively,thusshowingnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.Conclusion:SLTandPSLTwereequallye.ectiveforCreducingCIOPCinCPOAGCeyesCoverCaC2-yearCfollow-upCperiod,CthusCshowingCthatCPSLTCisCaCviableCtreatmentCoptionforlong-termIOPmanagementinglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(10):1251.1255,C2024〕Keywords:原発開放隅角緑内障,選択的レーザー線維柱帯形成術,パターンレーザー線維柱帯形成術.primaryCopenangleglaucoma,selectivelasertrabeculoplasty,patternscanninglasertrabeculoplasty.Cはじめにパターンレーザー線維柱帯形成術(patternscanninglasertrabeculoplasty:PSLT)はレーザー光凝固装置CPASCAL(トプコン)のパターンシステムを利用したレーザー線維柱帯形成術である.選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)と比較し,一度に複数発のレーザー発射が可能で,コンピューターで照射範囲を制御できる特徴を有する.2010年にCTuratiらは,波長C532Cnm(緑)のCPASCALを用いてCPSLTを施行し,6カ月の平均眼圧下降率はC24%であったことを報告した1).PSLTは施行後も組織瘢痕や癒着をきたさないため,その奏効機序はCSLTに類似していると考えられていたが,当時CPSLTとCSLTの眼圧下降効果は比較検討されていなかった.そのため,筆者らは以前にC6カ月の観察期間における波長C577nm(黄)の〔別刷請求先〕野崎実穂:〒464-8547愛知県名古屋市千種区若水C1-2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenter.1-2-23Wakamizu,Chikusa-ku,Aichi,Nagoya464-8547,JAPANCSLT群(n=8)PSLT群(n=9)p値年齢(歳)C70.8±11.3(C60.C83)C69.1±10.4(C53.C84)C0.78a性別男性C4例,女性C2例男性C4例,女性C4例C0.53b病型狭義CPOAG8眼狭義CPOAG8眼,NTG1眼C0.33b眼圧(mmHg)C19.9±4.5C17.4±2.4C0.20a点眼スコアC3.5±1.1C3.8±1.1C0.60alogMAR視力C0.33±0.60C0.16±0.28C0.47a視野重症度早期2,中期2,後期C4早期2,中期0,後期C7C0.25bCat検定,CbC|2検定.PASCALによるCPSLTとCSLTを比較検討し,両者は同等の眼圧下降効果が得られると報告した2).さらに,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)または高眼圧症患者に対してC12カ月間比較した報告3)や,開放隅角緑内障(openangleglaucoma:OAG)と高眼圧症に対して,24カ月間の長期観察した海外の報告4)でも,PSLTの眼圧下降効果や安全性はCSLTと同等であった.今回筆者らは,2年間経過を追うことのできたCOAG患者のCSLTあるいはCPSLT施行症例について後ろ向きに比較検討したので報告する.CI対象と方法対象はC2010.2018年までに名古屋市立大学病院でCSLTまたはCPSLTを施行し,2年間経過観察できたCPOAG17眼である.SLTを施行した群C8眼をCSLT群,PSLTを施行したC9眼をCPSLT群とした.視野重症度はCHumphrey視野計における視野異常の判定基準(Anderson-Patellaの基準)に従った.視野の統計学的指標の一つであるCmeanCdeviation(MD)値が,MD>C.6dBは初期,C.6CdB≧MD≧.12CdBは中期,MD<C.12CdBは後期と分類した.施行前に,対象患者に対しあらかじめ起こりうる事態の可能性を説明し,長期予後は不明である旨を十分説明し,インフォームド・コンセントを得た.レーザー照射前の処置として,レーザー開始30.60分前にCa2受容体作動薬であるアプラクロニジンを点眼し,麻酔薬はオキシブプロカイン点眼液を使用した.PSLT群では,PASCALCStreamline577(波長577nm),SLT群ではタンゴオフサルミックレーザー(波長C532Cnm)(エレックス社)を使用し,両群ともCLatinaSLTゴニオレーザーレンズ(オキュラー社)を使用して,線維柱帯全周C360°に照射を行った.レーザーの照射条件は,SLT群では,線維柱帯からごくわずかに気泡が認められる程度を目安にエネルギー設定を行った.PSLT群では,はじめにシングルスポットC10ミリ秒の照射時間で,線維柱帯の色調がわずかに変化する程度に出力を設定し,実際には照射時間が半分のパターンスポットのエネルギーで照射した.レーザー終了後に再びアプラクロニジンを点眼し,術後はステロイド点眼,非ステロイド性抗炎症点眼は使用しなかった.また,すでに緑内障点眼治療を受けている症例ではレーザー後も点眼をすべて継続した.点眼スコアは点眼C1種をC1点と計算,配合点眼薬と炭酸脱水酵素阻害薬C2錠/日の内服は,2点として計算した.有意差検定にはCStudentのCt検定あるいはC|2検定を用い,有意確率C5%未満を有意と判定した.本研究に関しては名古屋市立大学病院倫理委員会承認のもと施行した.CII結果平均年齢は,SLT群でC70.8C±11歳(60.83歳),PSLT群でC69.1C±10歳(53.84歳),病型の内訳は,SLT群では狭義CPOAGがC8眼,PSLT群では狭義CPOAGがC8眼,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)1眼で,年齢,性別,病型,緑内障手術既往眼の割合に両群間で有意差はみられなかった.また,術前の眼圧はCSLT群でC19.9C±4.5mmHg,PSLT群でC17.4C±2.4CmmHgで有意差はみられなかった.術前の点眼スコアはCSLT群で,3.5C±1.1,PSLT群でC3.8±1.1と有意な差はなかった.視力や視野重症度のいずれも有意差を認めなかった.病期は早期症例だけではなく,中期や後期に至っているものも含まれた(表1).平均照射エネルギーは,SLT群でC0.70CmJ,PSLT群では平均レーザー出力C379CmW,平均照射エネルギーがC1.89CmJであった(表2).術後C24カ月の平均眼圧はCSLT群C15.8C±2.9CmmHg,PSLT群C13.4C±2.6CmmHgでベースラインと比較して両群とも有意な眼圧下降を得た(p<0.05)(図1).また,点眼スコアは,SLT群で術前C3.5C±1.1であったものが術後C4.0C±0.8,PSLT群で術前C3.8C±1.1であったものが術後C4.2C±0.8と,両群ともに増加していたが,術前後で有意な差は認めなかった(図2).24カ月における平均眼圧下降率はCSLT群C17.5%,PSLTSLTCPSLTCレーザー波長C532CnmC577CnmレーザースポットサイズC400CμmC100Cμm378.6±69.9CmWレーザー出力・エネルギーC0.70±0.14CmJ(0C.4.C0.9mJ)C(3C00.C500mW)C1.89±0.35CmJ(1C.50.C2.50mJ)レーザー照射時間C3CnsecC5CmsecIOP(mmHg)群C22.9%で,有意な差は得られなかった.さらに視力や重症度も両群間において有意差はみられなかった(表3).また,SLT群,PSLT群ともにC5CmmHg以上の一過性眼圧上昇や,強い炎症などの術後合併症を生じた症例はなかった.C6N.S.SLT24カ月の期間内に眼圧下降目的に観血的手術を施行したC5N.S.症例はなかったが,1眼追加の治療を行った.追加治療を要4点眼スコアしたC1眼はCSLTを施行した狭義CPOAGの症例で,SLT後C63カ月間は眼圧C14-16CmmHgで推移していたが,徐々に眼圧上昇があり,22カ月後にCPSLTを施行した.,PSLT後は,2緑内障点眼を継続し,眼圧C12-14CmmHg程度で経過した.CIII考按今回筆者らは,すでに点眼治療中のCPOAGに対し,追加治療としてCSLTまたはCPSLTを施行し,その眼圧下降効果について後ろ向きにC2年間の比較検討をした.SLT群,PSLT群ともに術後2年の期間で有意な眼圧下降効果を示し,1024カ月後t検定*p<0.05(術前と比較),N.S.有意差なし.図2術前術後点眼スコア点眼C1種を点眼スコアC1点,合剤はC2点と計算.SLT群,PSLT群とも有意差は認めなかったが,点眼スコアは増加した.SLT(n=8)PSLT(n=9)p値眼圧C点眼スコアC眼圧下降率C眼圧下降率C20%以上を達成した割合logMAR視力C視野重症度15.8±2.9CmmHgC3.5±1.1C17.5±21.5%C50.0%(Cn=4)0.45±0.52C早期1,中期4,後期C313.4±2.6CmmHgC3.8±1.1C22.9±10.5%C66.7%(Cn=6)C0.34±0.47※C早期1,中期2,後期C6C※C0.10a0.57a0.53a0.49b0.67a0.45b※経過観察中C1眼が網膜静脈分枝閉塞症を発症,1眼が網膜前膜に対する手術を受け視力低下,いずれも術前の視野重症度で後期緑内障.at検定,CbX2検定.PSLT群,SLT群間で有意差はなかった.SLTによる眼圧下降の奏効機序としては線維柱帯色素細胞を選択的に標的とし,レーザー治療を行うことで,治療後の組織瘢痕や癒着が生じにくいとされている5).Alvaradoらによれば,SLTによるレーザー照射はマクロファージの遊走を促進し,炎症性サイトカインの放出がCSchelemm管内皮細胞の房水透過性を増加させ,これによって眼圧が下降する可能性が示唆されている6,7).一方で,PSLTによる眼圧低下のメカニズムはまだ解明されていないが,アルゴンレーザーによる線維柱帯形成術と比較すると,PSLTはC15分のC1以下の低エネルギーで照射され,線維柱帯に不可逆性の障害を残さないため,PSLTの眼圧低下のメカニズムはCSLTとの類似性が推測されている8).ElahiらによるC24カ月のCSLTとCPSLTの効果比較した報告では,眼圧下降率はCSLT群C13.0%,PSLT群C11.0%で有意な差はなく,経過中点眼スコアの有意な増加もみられなかった4)が,対象症例のベースラインの視野CMD値がC.5CdB,点眼スコアもC1.2と,今回の筆者らの研究よりも初期の症例が対象であった.本研究ではC65%が後期緑内障症例であり,SLT群,PSLT群ともに点眼スコアがC24カ月で有意な増加を認めていた.さらに,経過観察中にブリモニジン,リパスジルや種々の配合点眼薬の発売が相ついだことや,もともと後期緑内障症例が多く,より目標眼圧を低く設定する必要性があったことが点眼スコア増加の一因として考えられる.本研究の限界として,2年経過を追えた症例数が少ないこと,SLTとCPSLT症例の選択が無作為ではない点があげられるが,SLT群,PSLT群ともに術後C2年の期間で有意な眼圧下降効果を示し両治療ともに有効性が考えられた.これまでに,NTG眼に対する第一選択治療としてCSLTを施行した後C3年間観察した結果,SLTが第一選択治療として有効な方法の一つであったという報告や9),早期緑内障症例にCSLTを施行したほうがより大きな眼圧下降を得られたという報告もある10).コンピューターの制御下で自動的にエーミングビームが動き,180°あるいはC360°照射を行うことが可能であるCPSLTでは,SLTで起こりうるような重ね打ち照射や照射漏れといったことがなくなり,再現性のある手技が実現できる利点があげられる.本研究では,PSLTがSLTに劣らずC2年間経過後も眼圧下降効果を得られたが,今後初期症例に対してのCPSLTの長期にわたる有効性についての検討が重要であると思われた.本論文の要旨は第C33回日本緑内障学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TuratiCM,CGil-CarrascoCF,CMoralesCACetal:PatternedCLaserCTrabeculoplasty.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC41:538-545,C20102)荒木みどり,野崎実穂,服部知明ほか:PatternedClasertrabeculoplastyと選択的レーザー線維柱帯形成術の比較.臨眼68:1269-1273,C20143)WongMOM,LaiIS,ChanPPetal:E.cacyandsafetyofselectivelasertrabeculoplastyandpatternscanninglasertrabeculoplasty:arandomisedclinicaltrial.BrJOphthal-molC105:514-520,C20214)ElahiCS,CRaoCHL,CPaillardCACetal:OutcomesCofCpatternCscanninglasertrabeculoplastyandselectivelasertrabecu-loplasty:ResultsCfromCtheClausanneClaserCtrabeculoplastyCregistry.ActaOphthalmologicaC99:e154-e159,C20215)KramerTR,NoeckerRJ:ComparisonofthemorphologicchangesCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCandCargonClaserCtrabeculoplastyCinChumanCeyeCbankCeyes.COphthal-mologyC108:773-779,C20016)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20057)AlvaradoJA,KatzLJ,TrivediSetal:Monocytemodula-tionofaqueousout.owandrecruitmenttothetrabecularmeshworkCfollowingCselectiveClaserCtrabeculoplasty.CArchCOphthalmolC128:731-737,C20108)LeeCJY,CHaCSY,CPaikCHJCetal:MorphologicCchangesCin10)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:Ctrabecularmeshworkafterpatternedandargonlasertra-Selectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-beculoplastyincats.CurrEyeResC39:908-916,C2014ClineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma9)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術CcetC393:1505-1516,C2021の有用性.日眼会誌117:335-343,C2013***

前眼部OCTとオートケラトメータによる角膜乱視測定の再現性の比較

2024年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(10):1246.1250,2024c前眼部OCTとオートケラトメータによる角膜乱視測定の再現性の比較花月陸*1筒井健太*1多森崇人*2川路隆博*2佐藤智樹*1*1佐藤眼科*2佐藤眼科・内科CComparisonofRepeatabilityofCornealAstigmatismMeasurementsbyAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyandAuto-KeratometryRikuKagetsu1),KentaTsutsui1),TakahitoTamori2),TakahiroKawaji2)andTomokiSato1)1)SatoEyeClinic,2)SatoEye&InternalMedicineClinicC前眼部光干渉断層計(OCT)の角膜前後面実測値から計算されるCFRCylの再現性を,Keratometric(K)とオートケラトメータ(以下,ケラト)のC3群で比較検討した.対象は前眼部COCTとケラトをC3回ずつ測定したC228例C228眼(66.9±11.8歳).3群間における角膜乱視量の平均値の比較,変動係数(CV)と級内相関係数(ICC)による再現性の比較,CVとの相関関係を検討した.角膜乱視量はCFRCyl,K,ケラトの順にC1.38±0.84D,1.28±0.84D,1.40±0.93Dであり,有意差は認めず(p=0.314),CVはC15.21%,13.15%,10.99%であり,FRCylのばらつきが大きかった(p<C0.001).ICCはすべての項目でC0.9以上と高い再現性を示した.また,3群のすべてにおいて角膜乱視量とCCVとの間に負の相関を認めた.FRCylは角膜乱視量が小さいほどばらつきやすいため測定時の注意が必要と思われた.CPurpose:Therepeatabilityofcornealtotalpower(FRCyl)calculatedfromthemeasuredvaluesoftheanteri-orCandCposteriorCcornealCsurfacesCbyCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography(AS-OCT)wasCcom-paredandexaminedinthreegroups:FRCylgroup,Keratometric(K)group,andauto-keratometer(AK).Subjectsandmethods:Thisstudyincluded228eyesof228patients(meanage:66.9±11.8years)whowereexaminedbyAS-OCT(CASIA2;Tomey)andAK(TONOREFC.;Nidek),CwithCtheCmeasurementsCrepeatedCthreeCtimes.CWeCcomparedthemeancornealastigmatism,withrepeatabilityassessedbythecoe.cientofvariation(CV)andintra-classCcorrelationcoe.cient(ICC),CandCexaminedCtheCcorrelationCwithCCVCamongCtheC3Cgroups.CResults:IntheFRCylCgroup,CKCgroup,CandCAKCgroup,CtheCmeanCastigmatismCvaluesCwereC1.38±0.84D,C1.28±0.84D,CandC1.40±0.93D,respectively,withnosigni.cantdi.erencesobsereved(p=0.314).TheCVswere15.21%,13.15%,and10.99%,respectively,withalargevariabilityinFRCyl(p<0.001).TheICCwas0.9orhigher,showinghighreproduc-ibilityinall3groups.AnegativecorrelationwasfoundbetweentheCVandcornealastigmatisminall3groups.Conclusion:SinceCFRCylCtendsCtoCvary,CespeciallyCwhenCcornealCastigmatismCisClower,CourC.ndingsCshowCthatCitCvitaltobecarefulwhenobtainingthemeasurement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(10):1246.1250,C2024〕Keywords:前眼部OCT,Fourierrealpowercylinder,再現性.anteriorsegmentopticalcoherencetomogra-phy,Fourierrealpowercylinder,repeatability.Cはじめに古くから汎用されているオートケラトメータ(以下,ケラト)には,リング方式やテレセントリック光学系方式があり,おもに角膜前面の中心からC3Cmm付近の円周上を測定している.角膜後面乱視は測定していないため,角膜換算屈折率1.3375を用いて,角膜前面のみの値から角膜全体の屈折力を推測している.一方,前眼部光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)であるCCASIA2(トーメーコーポレーション)にもケラトと同様に角膜前面のC3Cmm円周上を測定しているCKeratometric(以下,K)があるが,近年はト〔別刷請求先〕花月陸:〒836-0072福岡県大牟田市上屋敷町C1-1-2佐藤眼科Reprintrequests:RikuKagetsu,SatoEyeClinic,1-1-2Kamiyashiki-machi,Omuta,Fukuoka836-0072,JAPANC1246(98)表1平均値の比較:3群間における平均角膜屈折力,角膜乱視量,J0,J45n=228C平均角膜屈折力角膜乱視量CJ0CJ45CFRCyl(D)C43.38±1.53D(C38.39.C49.13)C1.38±0.84D(C0.50.C6.53)C0.05±0.73D(.2.40.C2.09)C.0.06±0.33D(.0.94.C2.21)CK(D)C44.33±1.44D(C39.61.C49.49)C*1.28±0.84D(C0.14.C4.69)C0.14±0.70D(.1.85.C2.21)C.0.02±0.27D(.0.96.C1.44)Tケラト(D)C44.22±1.44D(C39.54.C49.79)C1.40±0.93D(C0.26.C5.17)C0.17±0.76D(.1.69.C2.58)C.0.03±0.30D(.0.91.C1.91)(平均±標準偏差)(最小値.最大値)*=p<0.001,One-wayANOVA,Tukeyの多重比較検定FRCyl:FourierRealpowerCylinder,K:Keratometry,Tケラト:TONOREFCRIII.ーリック眼内レンズ(toricintraocularlens:T-IOL)向けに考案されたCFourierRealpowerCylinder(FRCyl)も搭載されている1).FRCylは角膜前面と後面を実測しており,角膜前後面の中心C3Cmm円周内(領域内)すべての測定点と,角膜厚から計算されたCRealpowerのCFourier解析における正乱視成分をもとに算出されている1).近年のCT-IOL度数計算式では角膜後面乱視の重要性が注目されており,角膜後面乱視を含んだ角膜全乱視による度数決定が推奨されている2,3).角膜後面乱視は平均C0.3D程度の倒乱視とされているが,角膜前面乱視によって後面乱視の程度は異なるため2),角膜乱視の評価は角膜後面乱視までの実測が望ましいと思われる.角膜前後面実測による角膜全乱視測定における再現性についてはいくつか報告がある4.6).しかし,CASIA2でのFRCyl測定の再現性を検討した報告はなく,今回筆者らは,角膜屈折力および角膜乱視測定の再現性について,FRCyl,KとケラトのC3群で,比較検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2023年C2月.2023年C8月に当院で白内障手術前にCCASIA2とケラトを測定し,FRCylによる角膜乱視が0.5D以上の228例C228眼(男性C97例,女性C131例,平均年齢C66.9C±11.8歳)である.全症例とも右眼を対象とした.ケラトの測定には,リング方式であるCTONOREFIII(ニデック)(Tケラト)を用いた.測定は検者C1名がCASIA2とCTONOREFRIIIのC2機種を各3回ずつ測定し,FRCyl・K・TケラトのC3群間における角膜屈折力と角膜乱視量を算出した.角膜不正乱視を認めた症例,角膜疾患および眼手術歴のある症例は除外した.検討項目は,FRCyl・K・TケラトのC3群間における角膜屈折力,角膜乱視量の①平均値の比較,②変動係数(coe.cientCofvariation:CV)と級内相関係数(intraclassCcorrelationcoe.cient:ICC)による再現性の比較,③CCVとの相関関係,について検討した.また,検討①と②のCICCについては,powervector解析によりCJ0(直・倒乱視)成分とCJ45(斜乱視)成分を求め7),乱視軸も含めた評価を行った8).CVは測定値のばらつきの程度を示し,一般にC10%未満は再現性良好である.ICCは複数回測定による測定値の一致度(類似性)を示す指標で,一般にC0.7以上で再現性があると判定される.統計解析については,検討①と②のCCVの比較にはCOne-wayANOVAを用い,有意である場合はCTukeyの多重比較検定を行った.検討③にはCSpearman順位相関係数を用いて解析し,有意水準は5%未満とした.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,佐藤眼科の倫理審査委員会の承認のもと,後ろ向き研究で行った.CII結果①平均値の比較:3群間における角膜屈折力,角膜乱視量,J0,J45角膜屈折力はCFRCyl,K,Tケラトの順にC43.38C±1.53D,C44.33±1.44D,44.22C±1.44Dであり,KとTケラトに差は認めなかったが(p=0.680),FRCylはCKとCTケラトに比べ,有意に小さかった(p<0.001)(表1).角膜乱視量は同順にC1.38±0.84D,1.28C±0.84D,1.40C±0.93D(p=0.314),J0ではC0.05C±0.73D,0.14C±0.70D,0.17C±0.76D(p=0.168),J45がC.0.06±0.33D,C.0.02±0.27D,C.0.03±0.30Dであり(p=0.375),いずれも有意差を認めなかった(表1).②CCVとCICCによる再現性の比較:3群間における角膜屈折力,角膜乱視量,J0,J45角膜屈折力のCCVは,FRCyl,K,Tケラトの順にC0.31%,0.15%,0.20%であり,FRCylはCKおよびCTケラトに比べ,p<0.001p<0.00110.990.15.00.0FRCylKTケラト0.0FRCylKTケラト平均角膜屈折力角膜乱視量図1CVによる再現性の比較:3群間における平均角膜屈折力,角膜乱視量左はFRCyl・K・TケラトのC3群間における平均角膜屈折力,右は角膜乱視量を示す.CV:coe.cientofvariation,FRCyl:FourierRealpowerCylinder,K:Keratometry,0.630.00.5p<0.00125.0CV(%)CV(%)0.420.00.315.00.210.0Tケラト:TONOREFCRIII.表2ICCによる再現性の比較:3群間における平均角膜屈折力,角膜乱視量,J0,J45平均角膜屈折力角膜乱視量CJ0CJ45CFRCylC0.996C0.982C0.993C0.975CKC0.999C0.988C0.995C0.981TケラトC0.998C0.991C0.995C0.988ICC:intraclassCcorrelationcoe.cient,FRCyl:FourierCRealCpowerCylinder,K:Keratometry,Tケラト:TONOREFCRIII.有意に高いCCVを示した(p<0.001)(図1).また,KはFRCyl,Tケラトに比べ,有意に低いCCVを示した(p<C0.001)(図1).角膜乱視量では同順に,15.21%,13.15%,10.99%であり,KとCTケラトとの間に差は認めなかったが(p=0.724),FRCylはCKとCTケラトに比べ,有意に高いCVを示した(p<0.001)(図1).ICCはC3群間におけるすべて目においてC0.9以上であった(表2).③C3群間における角膜屈折力,角膜乱視量とCCVとの相関関係角膜屈折力ではCFRCyl,K,Tケラトの順にCr=.0.014(p=0.830),r=.0.048(p=0.472),r=0.042(p=0.527)であり,いずれもCCVとの間に有意な相関は認めなかった(図2).角膜乱視量については,FRCylがCr=.0.508,KがCr=.0.552,TケラトがCr=.0.480(いずれもCp<0.001)であり,すべてにおいて,CVとの間に有意な負の相関を認めた(図2).CIII考按T-IOL度数計算において,測定時のばらつきはCT-IOLモデル選択や術後の乱視矯正効果に影響する可能性があるため,機器の再現性を把握しておくことは重要である.今回筆者らはCFRCylの再現性を,KおよびCTケラトとのC3群間で比較検討した.その結果,角膜屈折力に関してはCFRCylが有意に小さかったものの,角膜乱視量,J0,J45については3群間に差はみられなかった.角膜前後面を実測した角膜屈折力は,角膜前面のみの測定値に比べ小さい値を示す,という報告は多く9,10),本検討においても同様の結果を示した.再現性については,FRCylによる角膜屈折力および角膜乱視量のCCVが,KやCTケラトに比べ有意に高く,ばらつきが大きい結果となった.しかし,CVは一般的にC10%未満であれば再現性良好といわれており,角膜屈折力ではC3群ともにC0.4%未満であり,ICCもC0.9以上であるため再現性は高いといえる.一方,角膜乱視量,J0とCJ45のCICCはC3群いずれもC0.9以上であったが,角膜乱視量のCCVはいずれも10%以上とばらつきがみられた.とくにCFRCylはCCVがC15%以上を示し,もっともばらつきが大きい結果となった.原因として以下に述べる測定原理や測定位置,角膜後面の実測の有無による違いが考えられる.ケラトの測定に用いたCTケラトはリング方式であり,角膜前面のC3.3Cmm位置にリング光源を投影し,その反射像より直接的に角膜の傾斜を計測している.一方,CASIA2はOCT方式であり,16本の断層像から常にC3Cmm位置の高さ情報を解析しており,角膜の形状情報から間接的に角膜の傾斜を計算している.光学的に重要な角膜中央部の軸上屈折力であるCAxialpowerは,角膜の傾斜の程度,つまり屈折そのものを計測している.角膜の傾斜を精度良く測定することを考えた場合,OCT方式はリング方式より測定精度が不利になると考える.また,FRCylは領域測定によって中心C3mm内を詳細に解析しているが,axialpowerは中心部ほどFRCylKTケラトy=-0.0071x+0.61421.6y=-0.0011x+0.1981.6y=0.0086x-0.1787r2=0.00021.2r2=0.00231.2r2=0.0018CV(%)CV(%)CV(%)CV(%)CV(%)CV(%)0.80.40.80.40.00.00.038.0043.0048.0053.0038.0043.0048.0053.0038.0043.0048.0053.00平均角膜屈折力(D)平均角膜屈折力(D)平均角膜屈折力(D)FRCylKTケラト707070y=-4.9658x+19.50860y=-5.6695x+23.01560y=-4.2539x+16.92960222=0.3047=0.2581=0.2304rrr5050504030204030204030201010100000.002.004.006.000.002.004.006.000.002.004.006.00角膜乱視量(D)角膜乱視量(D)角膜乱視量(D)図23群間における平均角膜屈折力,角膜乱視量とCVとの相関関係縦軸はCCVを示し,上段はCFRCyl・K・TケラトのC3群間における平均角膜屈折力,下段は角膜乱視量を示す.角膜乱視量においては,FRCylがCr=.0.508,KがCr=.0.552,TケラトがCr=.0.480)(いずれもCp<0.001)であり,すべてにおいて,CVとの間に有意な負の相関を認めた.CV:coe.cientofvariation,FRCyl:FourierRealpowerCylinder,K:Keratometry,Tケラト:TONOREFIII.表3既報との比較IOLMaster7004)(n=213)CIOLMaster7005)(n=69)CANTERION6)(n=96)測定機器(CarlZeissMeditec)(CarlZeissMeditec)(HeidelbergEngineering社)本検討:CASIA2(n=228)TotalKeratometryCTotalKeratometryCTotalcornealpowerCFRCyl(角膜全乱視量)(角膜全乱視量)(角膜全乱視量)(角膜全乱視量)CV(%)23.48%10.30%FRCyl:FourierRealpowerCylinder.わずかな傾斜の変化による屈折の変動が大きいため,中心部データを使用するCFRCylは測定時にばらつきが生じてしまうと思われる.さらにCFRCylは角膜前面のみではなく,角膜後面も実測している.後面乱視の実測は効果的に働いていると思われるが,複数の情報を扱うほどばらつきは加算的に大きくなってしまう.角膜前面と後面を実測した角膜全乱視測定の再現性を検討した既報はいくつかあるが,本検討で用いたCCASIA2とは測定機器が異なるものの,角膜全乱視測定では一定のばらつきが認められ,FRCylと同様の結果であった(表3)4.6).また,角膜乱視量のばらつきについては,3群間いずれも角膜乱視量が小さいほどばらつきの割合が大きい傾向を示した.Saviniら5)は,角膜乱視量の増加に伴い測定時のばらつきは小さくなると報告している.近年は角膜乱視C1.0D未満にも対応したCT-IOLの需要が高まっており,角膜乱視が小さいほど,測定時のばらつきや軸角度の再現性11)を確認する必要があると思われる.12.95%15.21%また,FRCylを用いてCT-IOL度数計算を行う際には,角膜前後面の実測値を用いた式を使用する必要がある.CASIA2にはCCASIAToric式が搭載されており,FRCylを用いたCT-IOL度数計算が可能である.CASIAToric式は,角膜のみのパラメーターで構築し算出しているため,測定時のばらつきを最小限に抑えることが,正確なCT-IOL度数計算に繋がると思われる.また,筆者らは過去にCFRCylを用いたCCASIAToric式による術後乱視誤差の検討をしているが12),対象がC39眼と少なかったため,今後はより症例数を増やして検討する必要があると考えている.本検討の結果より,FRCylはばらつきが生じやすいものの,角膜乱視量や各乱視成分の平均値に差はなかった.そのため,複数回測定による値の安定化がより正確な評価につながると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)上野勇太:CASIA2におけるCRealpower値とフーリエ解析.IOL&RSC33:345-352,C20192)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorCcornealCastigmatismCtoCtotalCcornealCastigmatism.CJCataractRefractSurgC38:2080-2087,C20123)KochCDD,CJenkinsCRB,CWeikertCMPCetal:CorrectingCastigmatismCwithCtoricCintraocularlenses:e.ectCofCposte-riorCcornealCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC39:C1803-1809,C20134)SharmaA,BatraA:Assessmentofprecisionofastigma-tismCmeasurementsCtakenCbyCaCswept-sourceCopticalCcoherencetomographybiometer-IOLMaster700.IndianJOphthalmolC69:1760-1765,C20215)SaviniCG,CTaroniCL,CSchiano-LomorielloCDCetal:Repeat-abilityoftotalKeratometryandstandardKeratometrybytheIOLMaster700andcomparisontototalcornealastig-matismbyScheimp.ugimaging.EyeC35:307-315,C20216)Schiano-LomorielloCD,CHo.erCKJ,CSaviniCGCetal:Repeat-abilityCofCautomatedCmeasurementsCbyCaCnewCanteriorCsegmentopticalcoherencetomographerandbiometerandagreementwithstandarddevices.SciRepC11:983,C20217)ThibosLN,HornerD:Powervectoranalysisoftheopti-caloutcomeofrefractivesurgery.JCataractRefractSurgC27:80-85,C20018)ZhaoY,ChenD,SaviniGetal:Theprecisionandagree-mentofcornealthicknessandkeratometrymeasurementswithCSS-OCTCversusCScheimp.ugCimaging.CEyeCVis(Lond)7:32,C20209)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularClenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C201810)HosikawaR,KamiyaK,FujimuraFetal:ComparisonofconventionalkeratometryandtotalkeratometryinnormalCeyes.BiomedResIntC13:1-6,C202011)二宮欣彦,金沢弥生,小島啓尚ほか:オートケラトメーターの再現性およびピッチの違いがトーリック眼内レンズの適応や乱視矯正効果などに及ぼす影響のシミュレーション.日眼会誌117:621-628,C201312)花月陸,筒井健太,堀田美木子ほか:前眼部COCTを用いたC2つのトーリック眼内レンズ計算式による術後乱視誤差の検討.日本視能訓練士協会誌C52:151-158,C2022***

京都府立医科大学眼科における眼瞼腫瘍の病理組織学的分類と特徴

2024年10月31日 木曜日

京都府立医科大学眼科における眼瞼腫瘍の病理組織学的分類と特徴北野ひかる*1,2渡辺彰英*1中山知倫*1米田亜規子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2バプテスト眼科クリニックCHistopathologicalClassi.cationandFeaturesofEyelidTumorsTreatedattheDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineHikaruKitano1,2)C,AkihideWatanabe1),TomomichiNakayama1),AkikoYoneda1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)BaptistEyeInstituteC目的:京都府立医科大学附属病院眼科で治療した眼瞼腫瘍の病理組織学的分類および特徴を明らかにする.対象および方法:2009年C1月.2020年C5月に京都府立医科大学附属病院眼科を受診し,生検または切除術を施行した眼瞼腫瘍を対象に,病理組織学的分類と臨床的特徴を後ろ向きに検討した.結果:全C477例の内訳は,良性C330例,悪性147例で,平均年齢は良性C59.1C±18.9歳,悪性C75.1C±13.0歳であった.良性は母斑細胞母斑C112例(33.9%),脂漏性角化症C83例(25.1%)の順に多く,悪性は脂腺癌がC78例(53.1%),基底細胞癌がC50例(34%)で大半を占めた.脂腺癌は上眼瞼中央にもっとも多く発生し,結節型が大半を占めた.脂腺癌C78例中C11例に(14.1%)に転移を認め,耳側病変は他部位と比較して転移率がC22.7%と高かった.結論:眼瞼悪性腫瘍では脂腺癌が半数以上を占め,脂腺癌の耳側病変は他部位と比較して転移率が高く,注意が必要である.CPurpose:Toclarifyhistopathologicaltrendsofeyelidtumorsdiagnosedandtreatedatasingleinstitute.Sub-jectsandMethods:Weretrospectivelyinvestigatedthehistopathologicclassi.cationandclinical.ndingsofeyelidtumorsCdiagnosedCbetweenCJanuaryC2009CtoCMayC2020CatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicine.CResults:InCaCtotalCofC477CpatientsCseen,C330CbenignCtumorsCandC147CmalignantCtumorsCwereobserved.Meanpatientageatdiagnosisinthebenigntumorandmalignanttumorscaseswas59.1±18.9and75.1±13.0years,respectively.Ofthe477casesseen,thebenigntumorswerenevocellularnevus(112cases,33.9%)andseborrheickeratosis(83cases,25.1%)C,andthemalignanttumorsweresebaceouscarcinoma(SC)(78cas-es,53.1%)andbasalcellcarcinoma(50cases,34%)C.IntheSCcases,thetumorsweremostfrequentlylocatedinthecentralregionoftheuppereyelid,withthemajoritybeingofanodulartype,ofwhichtemporallesionshadthehighestrateofmetastasis(22.7%).CConclusion:SCaccountedformorethan50%Cofthemalignanteyelidtumorsseen,andthetemporallesionsofSChadthehighestrateofmetastasis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(10):1241.1245,C2024〕Keywords:眼瞼腫瘍,病理組織学的分類,疫学,脂腺癌,基底細胞癌.eyelidtumor,histopathologicalclassi.cation,epidemiology,sebaceouscarcinoma,basalcellcarcinoma.Cはじめに眼瞼はさまざまな組織から構成されているため,多種多様な眼瞼腫瘍が存在し,眼科領域の腫瘍に占める割合は高い1).眼瞼腫瘍には,母斑細胞母斑や脂漏性角化症,乳頭腫といった良性腫瘍と,基底細胞癌や脂腺癌といった悪性腫瘍があるが,悪性の場合は切除後の整容面や機能面,生命予後にも影響するため,診察時に腫瘍の組織型を推測することは治療方針や予後を考えるうえで重要であり,頻度の高い腫瘍の種類や特徴を知っておくと有用である.一般的に,眼瞼悪性腫瘍は基底細胞癌,扁平上皮癌,脂腺癌といった上皮性腫瘍が多いといわれている.国外では基底細胞癌の割合が多い国が多く,とくに欧米2,3)では基底細胞〔別刷請求先〕北野ひかる:〒602-8566京都市上京区梶井町C465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:HikaruKitano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC症例数90788072706053505243384034302317000~910~1920~2930~3940~4950~5960~6970~7980~8990~年齢20171511991031200図1良性腫瘍330例と悪性腫瘍147例の年齢別分布良性腫瘍はC60歳代にピークがあった.悪性腫瘍はC70歳代がもっとも多く,70歳以上の症例で悪性腫瘍全体の約C4分のC3を占めた.癌が悪性腫瘍のC90%前後を占め,シンガポール4)や香港5),台湾6)などのアジア諸国でも基底細胞癌が多い傾向にある.それに対し脂腺癌は,欧米ではC2.7%,アジア諸国ではC6.12%とまれであることが報告されている2.6).一方でわが国では国外と比較して悪性腫瘍に占める脂腺癌の頻度がC29.C44%1,7)と高いという特徴があるが,日本人の生活スタイルや食生活の変化とともに,その傾向が変化している可能性がある.今回,京都府立医科大学病院眼科(以下,当科)で加療した眼瞼腫瘍を対象に,病理組織学的分類およびその特徴について検討を行ったので報告する.CI対象および方法対象は,2009年C1月.2020年C5月に当科を受診し,生検・切除術を施行し,病理組織検査にて診断が確定した眼瞼腫瘍C477例である.診療録および病理診断部のデータベースを用いて後ろ向きに調査し,良性腫瘍と悪性腫瘍に分け,各群においてそれぞれ,男女比,受診時平均年齢,年齢別分布,病理診断別頻度について検討した.とくに病理診断が脂腺癌と基底細胞癌であった症例について,発症部位と転移率を調べた.さらに脂腺癌については臨床病型の分類についても検討し,診療録,術前写真の情報から結節性病変を有するものをCnodulartype,びまん性の眼瞼肥厚病変を有するものをCdi.usetypeと分類した.今回の検討では,眼瞼縁に発生した腫瘍を眼瞼腫瘍に分類し,瞼結膜に発生した腫瘍は眼瞼腫瘍ではなく結膜腫瘍として除外した..胞は自律性増殖という腫瘍の定義を考えると厳密には腫瘍ではないが,臨床上腫瘍の鑑別疾患として重要なため,今回の検討に加えた.また,霰粒腫は厳密には腫瘍でないため除外した.CII結果今回の対象となった眼瞼腫瘍C477例の内訳は良性がC330例,悪性がC147例であり,それぞれの男女比は,良性が男性C126例(38.2%),女性C204例(61.8%)で,悪性が男性C58例(39.5%),女性C89例(60.5%)であった.受診時の年齢は,良性C59.1C±18.9歳(平均C±標準偏差),悪性C75.1C±13.0歳であった.年齢別分布を図1に示した.良性腫瘍は年齢とともに徐々に症例数が増加し,60歳代にピークがあった.悪性腫瘍はC0.29歳の若年では存在せず,30歳代に初めて1例認めた.70歳代がもっとも多く,80歳以上の症例も多数あり,70歳以上の症例がC111例と悪性腫瘍のC75.5%を占めた.良性腫瘍,悪性腫瘍それぞれの病理組織学的分類を,頻度の高い順に表1,2に示した.良性腫瘍C330例のうち,おもなものは母斑細胞母斑C112例(33.9%),脂漏性角化症C83例(25.1%),粉瘤(表皮.胞)36例(10.9%),肉芽腫C14例(4.2%)であった.悪性腫瘍C147例でおもなものは脂腺癌C78例(53.1%),基底細胞癌C50例(34%),扁平上皮癌C12例(8.2%)であり,このC3疾患で眼瞼悪性腫瘍のC95.2%を占めた.脂腺癌C78例の臨床病型はCnodularCtype66例(84.6%),Cdi.usetype12例(15.4%)であり,53例(67.9%)が上眼瞼病理診断性別症例数(%)年齢平均年齢±標準偏差男女母斑細胞母斑C27C85112(C33.9)C56.0±18.5脂漏性角化症C34C4983(C25.1)C66.4±14.3粉瘤(表皮.胞)C14C2236(C10.9)C58.3±19.6肉芽腫C7C714(C4.2)C58.6±19.3脂腺腺腫C5C611(C3.3)C71.0±11.8乳頭腫C3C710(3)C50.4±23.5.胞C8C210(3)C57.9±20.9脂腺過形成C3C47(2C.1)C71.6±9.2黄色腫C3C47(2C.1)C61.3±8.6血管腫C3C25(1C.5)C53.6±27.1疣贅C2C24(1C.2)C51.3±20.3その他C17C1431(C9.4)C50.1±23.8計C126C204330(C100)C59.1±18.9その他:伝染性軟属腫,黄色肉芽腫,線維腫,毛母腫,顆粒細胞腫,石灰化上皮腫,神経鞘腫,多形腺腫,毛包腺腫,反応性リンパ過形成,偽癌性軟属腫,管状腺腫など.表2眼瞼悪性腫瘍147例の病理組織学的分類病理診断性別計症例数(%)年齢平均年齢±標準偏差男女脂腺癌C29C4978(C53.1)C74.2±13.6基底細胞癌C18C3250(34)C77.3±11.7扁平上皮癌C8C412(C8.2)C71.1±14.8悪性黒色腫C1C34(2C.7)C73.8±6.2Merkel細胞癌C1C01(0C.7)C105鼻腔癌浸潤C1C01(0C.7)C71Bowen病C0C11(0C.7)C78計C58C89147(C100)C75.1±13.0Cに局在していた.NodularCtype66例の部位は上眼瞼がC44例,下眼瞼がC22例であった.nodulartypeをさらに鼻側,中央部,耳側に分類すると,3例は明確に分類することができず,分類可能だったC63例はそれぞれC12例,29例,22例であった.計C6分割にすると,上眼瞼中央部がC23例と最多で,ついで上眼瞼耳側C13例,下眼瞼耳側C9例,上眼瞼鼻側7例であった.脂腺癌C78例中C11例(14.1%)に転移を認めたが,そのうちC10例がCnodulartypeであった.部位別の転移率は鼻側12例中C2例(16.7%),中央部C29例中C3例(10.3%),耳側22例中C5例(22.7%)であった.耳側の脂腺癌転移例C5例のうちC4例はまず耳前リンパ節への転移を認めたが,その他の脂腺癌転移例C6例(di.usetypeのC1例も含める)は全例,頸部リンパ節への転移を認めた.転移例C11例中C3例(全体のC3.8%)はリンパ節転移にとどまらず,眼窩内および脳・髄腔内転移を認めたものがC1例,全身転移を認めたものがC1例,肺転移を認めたものがC1例あり,全身転移を認めた症例についてはその後死亡した.基底細胞癌C50例中C37例(74%)が下眼瞼に局在し,転移例はなかった.脂腺癌と同様にC6部位に分類すると,下眼瞼鼻側がC14例と最多で,ついで下眼瞼中央部C12例,下眼瞼耳側C9例であった.なお,2例は下眼瞼の広範囲に及んでおり,局在による分類は不可能であった.CIII考按今回の対象となった眼瞼腫瘍C477例のうち,330例が良性,147例が悪性であった.悪性腫瘍を疑う場合は生検または切除術を行い,病理組織学検査に供するのに対して,臨床所見より良性とみなす場合は積極的に手術加療しない場合もあることより,良性腫瘍の症例数は実臨床ではさらに多いと考えられる.したがって,他施設との単純な比較はできないが,母斑細胞母斑および脂漏性角化症が多くを占めるという今回の結果は,国内外の既報1,2,7,8)と同様であった.地域(発表年)期間悪性総数眼瞼悪性腫瘍に占める割合脂腺癌基底細胞癌扁平上皮癌悪性腫瘍の男女比男C/女当院(本研究)2009.C2020C14753.1%34%8.2%C39.5/60.5聖隷浜松病院1)(C2014)2005.C2013C9831%48%15%記載なし東京医科大学病院7)(C2022)1995.C2019C41244%36%9%C43.9/56.1香港5)(C2011)1997.C2009C3611.1%75%5.6%C44.4/55.6台湾6)(C2006)1979.C1999C11207.9%65.1%12.6%C53.3/46.7シンガポール4)(C1999)1968.C1995C32510.2%84%3.4%C49.8/50.2ギリシャ2)(C2015)1983.C2012C3510%86%7%記載なし米国3)(C1999)1976.C1990C1740%90.8%8.6%C50/50ブラジル8)(C2018)2000.C2012C3246.8%69.8%17%C49/51C悪性腫瘍のもっとも若年の症例はC33歳の脂腺癌であったが,若年性の悪性腫瘍の既報に関しては,Shieldsらによる17歳の脂腺癌の症例や9),国内でもC29歳の扁平細胞癌や,31歳の脂腺癌,基底細胞癌の症例がある7).年齢的に悪性腫瘍の可能性が低そうではあっても,生検あるいは切除した腫瘍の病理組織検査で確認することが重要であると考える.眼瞼悪性腫瘍の頻度について,国内外の他施設との比較を表3に示す.今回の検討では女性がC60%以上と男性よりも多かった.この理由として,平均寿命が女性のほうが高いため,生命予後に影響の少ない眼科領域の腫瘍に関して女性患者が多くなった可能性や,女性のほうが男性に比較して健康や整容面への意識が高いため,早く眼瞼病変に気づき受診した可能性,眼瞼悪性腫瘍自体の有病率に性差がある可能性などがある.わが国は国外より眼瞼悪性腫瘍全体における脂腺癌の頻度が高いという特徴があるが1,7),今回の検討では眼瞼悪性腫瘍全体の半数以上を脂腺癌が占めており,当科はとくに脂腺癌の占める割合が高かった.その理由として,当科の専門外来は脂腺癌の切除後の眼瞼再建術も積極的に行っており,悪性を疑うような症例をはじめ,悪性の診断後や他施設での治療後のセカンドオピニオンとしての紹介も多く,結果的に悪性度の高い脂腺癌の症例が集まりやすいことが考えられる.脂腺癌は,欧米人ではCdi.usetypeが多いと報告されているが9),日本人ではCnodulartypeが多いとされており10,11),人種差のある腫瘍であることが知られている.本検討でも既C1244あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024報に一致した結果であった.人種差や臨床像に差があることからなんらかの遺伝子背景があると推測されるが,脂腺癌についての遺伝子検索はこれまであまり行われておらず,はっきりしたことがわかっていない.脂腺癌はそのほとんどが瞼板内のマイボーム腺より発生するため眼瞼縁や瞼結膜に認めることが多く,マイボーム腺の数が多い上眼瞼の発生が多いといわれている9).本検討でも上眼瞼の発生が多かったが,さらなる検討で上眼瞼中央が全体の約C3分のC1を占めていることがわかった.脂腺癌の領域リンパ節転移,遠隔転移については,既報9,11.15)では,それぞれC8.23%,2.14%と報告されており,今回も同様の結果であった.AmericanJointCommit-teeonCancerによって定義された眼瞼腫瘍のCTNM分類で,T分類が脂腺癌転移の予測因子になりうると示唆している報告11.15)が多い.筆者らは今回その検討は行っていないものの,転移率について部位別に検討したところ,とくに眼瞼耳側は約C4分のC1の確率で転移しており,他部位に比較してリンパ節転移しやすい可能性が考えられた.また,その転移先として,眼瞼耳側病変の転移例は耳前リンパ節への転移を認める症例が大半であったのに対し,他部位の転移例はすべて頸部リンパ節への転移を認めており,これはリンパ流によって転移先が規定されるからであり,それに留意して経過観察する必要があると考える.基底細胞癌は紫外線曝露との関連があるとされており,上眼瞼は常時瞬目で動くうえ,眉毛により紫外線曝露を受けにくく,相対的に紫外線曝露が多い下眼瞼に発生しやすいと考えられている.今回の検討でも下眼瞼に多く発生しており,全症例で転移を認めなかった.今回の検討では,眼瞼悪性腫瘍のうち女性の割合が高く,脂腺癌が半数以上を占めた.脂腺癌は上眼瞼中央部の発生が多く,耳側病変は転移率が高く注意が必要である.眼瞼悪性腫瘍を疑った際には,必要に応じて積極的に生検を施行し,(96)利益相反北野ひかるなし渡辺彰英なし中山知倫なし米田亜規子なし外園千恵F(IV)参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGen文献1)末岡健太郎,嘉鳥信忠,笠井健一郎ほか:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科における過去C9年間の眼窩,眼瞼,結膜腫瘍の検討.臨眼C68:463-470,C20142)AsproudisCI,CSotiropoulosCG,CGartziosCCCetal:EyelidCtumorsattheUniversityEyeClinicofIoannina,Greece:CAC30-yearCretrospectiveCstudy.CMiddleCEastCAfrCJCOph-thalmolC22:230-232,C20153)CookCBECJr,CBartleyGB:EpidemiologicCcharacteristicsCandCclinicalCcourseCofCpatientsCwithCmalignantCeyelidCtumorsinanincidencecohortinOlmstedCounty,Minne-sota.OphthalmologyC106:746-750,C19994)LeeCSB,CSawCSM,CEongCKGACetal:IncidenceCofCeyelidCcancersinSingaporefrom1968to1995.BrJOphthalmolC83:595-597,C19995)MakCST,CWongCACM,CIoCIYFCetal:MalignantCeyelidCtumorsCinCHongCKongC1997-2009.CJpnCJCOphthalmolC55:C681-685,C20116)LinCHY,CChengCCY,CHsuCWMCetal:IncidenceCofCeyelidCcancersCinTaiwan:AC21-yearCreview.COphthalmologyC113:2101-2107,C20067)GotoCH,CYamakawaCN,CKomatsuCHCetal:EpidemiologicalCcharacteristicsCofCmalignantCeyelidCtumorsCatCaCreferralChospitalinJapan.JpnJOphthalmolC66:343-349,C20228)DamascenoCJC,CIsenbergCJ,CLopesCLRCetal:LargestCcaseCseriesCofCLatinCAmericanCeyelidCtumorsCoverC13-yearsCfromCaCsingleCcenterCinCSaoCPaulo,CBrazil.CArqCBrasCOftal-molC81:7-11,C20189)ShieldsJA,DemirciH,MarrBPetal:Sebaceouscarcino-maCofCtheeyelids:personalCexperienceCwithC60Ccases.COphthalmologyC111:2151-2157,C200410)渡辺彰英:脂腺癌の臨床.あたらしい眼科C32:1717-1718,C201511)WatanabeCA,CSunCMT,CPirbhaiCACetal:SebaceousCcarci-nomaCinJapaneseCpatients:clinicalCpresentation,CstagingCandoutcomes.BrJOphthalmolC97:1459-1463,C201312)EsmaeliB,NasserQJ,CruzHetal:AmericanJointCom-mitteeonCancerTcategoryforeyelidsebaceouscarcino-maCcorrelatesCwithCnodalCmetastasisCandCsurvival.COphthal-mologyC119:1078-1082,C201213)LamSC,LiEYM,YuenHKL:14-yearcaseseriesofeye-lidCsebaceousCglandCcarcinomaCinCChineseCpatientsCandCreviewofmanagement.BrJOphthalmolC102:1723-1727,C201814)TakahashiY,TakahashiE,NakakuraSetal:RiskfactorsforClocalCrecurrenceCorCmetastasisCofCeyelidCsebaceousCglandCcarcinomaCafterCwideCexcisionCwithCpara.nCsectionCcontrol.AmJOphthalmol171:67-74,C201615)SaHS,RubinML,XuSetal:Prognosticfactorsforlocalrecurrence,metastasisandsurvivalforsebaceouscarcino-maoftheeyelid:observationsin100patients.BrJOph-thalmolC103:980-984,C2019***

基礎研究コラム:89.高VEGF環境下でのCX3CR1陽性硝子体界面マクロファージ

2024年10月31日 木曜日

高VEGF環境下でのCX3CR1陽性硝子体界面山口宗男マクロファージ組織常在マクロファージとは単球とマクロファージは,組織の恒常性だけでなく,さまざまな病態においても重要な役割を果たしています.健常人のほとんどの組織には組織常在マクロファージが存在し,それらは血液中の単球からの補充に依存していることが広く認識されています1).病的状態においては,ケモカイン受容体の一つであるCC-Cケモカイン受容体C2型(CCR2)を発現する循環単球の浸潤亢進により,組織常在マクロファージが増加します.近年,ある種の組織常在マクロファージは炎症部位で増殖する能力を保持しているという報告がありました2).眼の領域ではどうでしょうか網膜硝子体界面には硝子体の組織常在マクロファージであるヒアロサイトが単層で広がっています.網膜前膜などで,このマクロファージの活性化と病態との関連性が報告されています.筆者らは,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の網膜硝子体界面における硝子体界面マクロファージの本態について,眼内でCVEGFを高発現するCKimbaマウスを用いて検討しました.F4/80陽性CM2-likeマクロファージは,野生型(wildtype:WT)マウスと比較して網膜硝子体界面で著明に増加していました.Ccr2Crfp/rfpCx3cr1gfp/gfpマウスとCKimbaマウスを交配させ,硝子体界面マクロファージを蛍光させたところ,硝子体界面マクロファージはCX3CR1を発現しており,CCR2を発現していないことがわかりました.BrdUの取り込み,Ki-67染色から,Kimbaマウスの硝子体界面マクロファージは,硝子体界面局所で自己増殖することにより増加していることがわかりました3).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の解像度が上がったことにより,マクロファージ,網膜色素上皮または視細胞からなる細胞病変と考えられるChyper-re.ectivefoci(HRF)の存在が知られるようになりました.Kimbaマウスでは硝子体界面のマクロファージの数が増加しているので,OCT(コーワCOCTBi-μ)で評価してみました.WTマウスではほとんど網膜硝子体界面のCHRFが検出できませんでしたが,Kimbaマウスでは多数検出することができました.また,クロドロネートリポソームを硝子体内注射してマクロファージを消去することにより,HRFの数も減少していることが観察できました.硝子体界面マクロファージの一部は網膜硝子体界面のCHRFとして画像評価できる可能性が示唆されました3).福岡赤十字病院眼科M2-likeCX3CR1(+)Mφ硝子体腔局所増殖血管新生,増殖膜形成図1高VEGF環境下での硝子体界面マクロファージと病態の仮説今後の展望筆者らは,基礎研究と臨床研究の橋渡し役として眼科イメージング機器を使用しています.実際にCDR患者の網膜硝子体界面のCHRFの数は,DRの進行に伴い増加していました.M2-likeマクロファージは一般的に創傷治癒,新生血管,増殖膜形成に関与しているとされています.DR患者の網膜硝子体界面でもCM2-likeマクロファージが病期の進行とともに自己増殖しているとするならば,増殖糖尿病網膜症の病態に関与していることが考えられます(図1)3).硝子体界面マクロファージとCDRの病態進行を結びつける分子メカニズムがはっきりすれば,DR進行のバイオマーカー,また治療ターゲットとなりうる可能性があると考えます.文献1)EglitisCMA,CMezeyE:HematopoieticCcellsCdi.erentiateCintoCbothCmicrogliaCandCmacrogliaCinCtheCbrainsCofCadultCmice.ProcNatlAcadSciUSAC94:4080-4085,C19972)HaaseCJ,CWeyerCU,CImmigCKCetal:LocalCproliferationCofCmacrophagesCinCadiposeCtissueCduringCobesity-inducedCin.ammation.CDiabetologiaC57:562-571,C20143)YamaguchiCM,CNakaoCS,CWadaCICetal:IdentifyingChyperre.ectiveCfociCinCdiabeticCretinopathyCviaCVEGF-inducedClocalCself-renewalCofCCX3CR1+vitreousCresidentCmacrophages.DiabetesC71:2685-2701,C2022(87)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12350910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:257.シリコーンオイル注入眼のOCT所見(初級編)

2024年10月31日 木曜日

257シリコーンオイル注入眼のOCT所見(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにシリコーンオイル(siliconeoil:SiO)は網膜のタンポナーデ物質としてしばしば用いられるが,近年の光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の解像度向上により,SiO界面と網膜の状態がより詳細に観察可能となってきている.C●症例提示72歳,男性.右眼は以前に網膜.離を発症し失明している.左眼にも多発裂孔を伴う網膜.離が発症し,初回手術として硝子体切除,輪状締結,SiOタンポナーデを施行し,術後網膜は復位した.術後のCOCTによる観察では中心窩陥凹部位にCSiOの界面と思われる水平ラインを認め,中心窩周囲ではその輝度が増強していた(図1).術後半年を経過し,SiOの乳化が進行してきたが,SiO界面と網膜の間に乳化CSiOあるいはフィブリンと思われる陰影が出現してきた(図2).SiOの抜去時期と思われたが,患者の強い希望により引き続き経過観察している.乳化がさらに進行あるいは眼圧上昇してきた時点でCSiO抜去を施行する予定である.C●SiO注入眼のOCT所見SiOはその比重と界面張力により,OCTでは特徴的な所見を呈する.Osterらは黄斑円孔に対する硝子体手術で気体に加えてCSiOを使用し,術後CSiOの界面が黄斑円孔縁をブリッジし,黄斑円孔部位への房水を遮断していること,多くの症例で中心窩陥凹の部位で液化腔が存在していること,仰臥位では網膜面からCSiO界面が遊離し,タンポナーデ効果が減弱していることなどを報告している1).Ozsaygiliらは長期のCSiO留置により網膜内層と外層,とくに神経節細胞層と外顆粒層の菲薄化をきたしたとし,その原因としてCSiOの網膜への毒性(85)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYab図1術後1カ月後の眼底写真(a)とOCT画像(b)中心窩陥凹部位にCSiOの界面と思われる水平ラインを認め,中心窩周囲ではその輝度が増強していた.Cab図2術後6カ月後の眼底写真(a)とOCT画像(b)SiO界面と網膜の間に乳化CSiOあるいはフィブリンと思われる陰影が出現してきた.を推測している2).本提示例でもCSiOと網膜面に液化腔が存在し,その間隙に陰影が観察されたように,OCTは眼底検査では捉えにくい液化CSiOやフィブリン析出などを可視化できる可能性があり,SiOタンポナーデ後の眼底所見をより詳細に評価できる利点がある.それとともに,網膜の層状構造の変化から網膜傷害の程度を推測することで,SiO抜去の時期決定にも有用な指標になると思われる.文献1)OsterSF,MojanaF,BartschDUGetal:Dynamicsofthemacularhole-siliconeoiltamponadeinterfacewithpatientpositioningCasCimagedCbyCspectralCdomain-opticalCcoher-encetomography.CRetinaC30:924-929,C20102)OzsaygiliCC,CBayramN:E.ectsCofCdi.erentCtamponadeCmaterialsConCmacularCsegmentationCafterCretinalCdetach-mentrepair.JpnJOphthalmolC65:227-236,C2021あたらしい眼科Vol.41,No.10,20241233

考える手術:34.ニードリングのこだわり

2024年10月31日 木曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅ニードリングのこだわり庄司拓平小江戸眼科内科ニードリングは,トラベクレクトミーを含めた濾過手術系の術後に濾過が不十分なことにより眼圧が再上昇した患者に対して,比較的簡便な濾過胞再建方法として広く行われている術式である.2022年以降「濾過胞再建術(needle法)」として保険収載されているが,術式自体は30年以上前から報告されている.ただし,ニードリングの際に使用する器具や施行する場所(診察室・処置室・手術室など)は術者や施設によって異なり,ニー聞き手:濾過手術後に眼圧が上昇した場合は,どのような処置をとることが多いでしょうか?庄司:術直後~2週間程度であれば,レーザー切糸術やマッサージによって濾過量を増加させることも可能ですが,それ以降になればこれらの処置による眼圧下降効果は限定的になります.その場合の次の対応方法には表1のようなものがあげられます.この中から眼圧値,病期,他疾患の有無,患者の社会的背景,医療機関の条件(入院の可否,手術室へのアクセスのしやすさなど),術者の経験などを考慮して,最適と思われる方法を選択します.ニードリングはこの選択肢の一つと考えられています.聞き手:ニードリングとはどのような術式でしょうか?庄司:前房水を眼外に濾過することにより眼圧を下降させる手術を行ったあとに,なんらかの原因で癒着が生じて濾過量が減少したために眼圧が再上昇した状態となった眼に,癒着を外科的に解除して濾過量を増加させ,眼圧下降をめざす手術がニードリングです.トラべクレクトミーの術後に行われることがもっとも一般的です.細隙灯顕微鏡下で代謝拮抗薬(5-FUまたはマイトマイシンCC)を使用したニードリングの有用性はC1990年代より報告されています1,2).ニードリングの効果が点眼薬と比較して有効ではない,という報告もありますが3),純粋なランダム化比較試験での報告が少ないためであると考えられ,日常臨床では広く行われています.また,トラベクレクトミーだけでなく,ロングチューブ施行例に対するニードリングの有効性も古くから報告されています4).近年ではニードリング時の代謝拮抗薬使用の有無で結果に差がなかったとの報告もあり5),代謝拮抗薬の使用については術者の判断に委ねられているといえるでしょう.(83)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12310910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:具体的にはどのような方法と違いがあるのでしょうか?庄司:ニードリングにはさまざまなバリエーションがありますが,施行場所によって施行可能な処置も異なります(表2).診察室の細隙灯顕微鏡で行う処置はもっとも簡便ですが,制御糸をかけたり,縫合をするには適していないと考えられます.一方で入院して手術室を使用するのはもっとも安全に処置が可能であり,唯一眼にも積極的にアプローチ可能ですが,手術室へのアクセスの容易さは各医療機関によって異なります.どの方法を選択するかは患者の眼の状態,社会的背景,医療機関の条件(入院の可否,手術室へのアクセスのしやすさなど)などによって分かれます.前房内操作をするのであれば清潔環境下で行うことが推奨されます.一方で前房内と交通する危険性がある場合には,代謝拮抗薬の使用は慎重になるべきです.聞き手:具体的な方法を教えてください.庄司:ニードリングの目的は,眼圧上昇の原因となっている濾過胞の癒着を解除することです.まずは細隙灯顕微鏡での観察で癒着部位を考察する必要があります.前房水の流出経路として前房側から順に①虹彩切除部での閉塞,②強膜フラップ下の強膜-強膜の癒着,③強膜フラップエッジの癒着,④強膜-結膜(またはCTenon.)間の癒着が考えられます.ニードリングは経結膜的に遠位側から上記の癒着を.離していきます.Bleb形成がしっかりしているのであれば癒着しているのは④であると考えますが,bleb自体が平坦になっていた場合はより前房側に近い①~③の癒着が考えられます.私はニードリングを行う際には①~④のすべての部位での癒着を乖離し,確実に眼圧を下げることをめざしています.具体的には表2で示した「手術室で」「ブレブナイフを用いて」「制御糸を用いて」「代謝拮抗薬は用いずに」「前房内操作も行う」ニードリングを行っています.ニードリングによって前房内との交通を確認しておくことが術後の眼圧下降には重要であると考えています.また,風間成泰先生(新城眼科)が提唱されているコンバートポー表1濾過手術不成功時表2ニードリングのバリエーションの対応法施行場所(細隙灯・処置室・手術室)点眼再開使用器具(針・ナイフ)ニードリング制御糸の使用(有・無)ブレブ再建(結膜切開)代謝拮抗薬の使用(有・無)別創での追加手術前房内操作(有・無)入院(有・無)トも作製するようにしています.コンバートポートには専用のナイフ(recoveryPort1.0Cmm,マニー社)も販売されています(動画①②).聞き手:患者に伝えておくべき合併症はありますか?庄司:ニードリングに関連する合併症を表3に示します.術後いったん眼圧が下降しても,再癒着が生じ眼圧再上昇するリスクや,逆に過剰濾過になってしまい低眼圧になるリスクがあります.低眼圧になると視力が術前よりも低下することもあります.また,前房出血による視力低下のリスクもありますが,前房内穿孔時に前房出血をきたした場合は,エピネフリン入りCBSSを前房内に灌流することにより止血可能です.術後の一過性の視力低下や眼圧再上昇については,必ず術前に伝えておくべきだと思います.聞き手:ニードリングの術後成績はどの程度でしょうか.庄司:術後C2回連続で眼圧がC21mmHg以上,または追加手術を必要としたことを外科的死亡と定義すると,当院での術後C1年時点での生存率はC78%でした(図1).初回の濾過手術後半年以内の患者では,眼圧上昇時に点眼薬ではなく,積極的にニードリングによる濾過胞再建を選択するようにしています.文献1)EwingCRH,CStamperRL:NeedleCrevisionCwithCandCwith-outC5-.uorouracilCforCtheCtreatmentCofCfailedC.lteringCblebs.CAmJOphthalmolC110:254-259,C19902)MardelliCPG,CLedererCCMCJr,CMurrayCPLCetal:Slit-lampCneedlerevisionoffailed.lteringblebsusingmitomycinC.OphthalmologyC103:1946-1955,C19963)Feyi-WabosoCA,CEjereHO:NeedlingCforCencapsulatedCtrabeculectomyC.lteringCblebs.CCochraneCDatabaseCSystCRevC2012:CD003658,C20124)ChenCPP,CPalmbergPF:NeedlingCrevisionCofCglaucomaCdrainagedevice.lteringblebs.OphthalmologyC104:1004-1010,C1997C1.00.80.6表3ニードリング0.4の合併症0.2眼圧再上昇C0.0低眼圧C05101520前房出血図1当院におけるニードリングの術後成績結膜下出血2回連続して眼圧C21CmmHg以上,または追加結膜ボタンホール処置を行った場合を外科的死亡と定義した.処一過性視力低下置C1年後の生存率はC78%であった.1232あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(84)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF療法継続困難な症例

2024年10月31日 木曜日

●連載◯148監修=安川力五味文128抗VEGF療法継続困難な症例山本有貴兵庫医科大学眼科学教室抗CVEGF薬の適応疾患は慢性疾患が多く,繰り返しの硝子体内注射が必要となる場合がほとんどである.薬剤が高額で通院が長期に及ぶことから,経済的理由や高齢であることなどを理由に治療継続を断念する場合も少なくない.また,慢性期になると患者自身が抗CVEGF薬による治療効果を実感しにくいため,通院が途絶えてしまうケースも多い.今回は通院を自己中断後,広範な網膜下出血,硝子体出血をきたし,再紹介となった症例を提示する.a図1当院初診時の検査所見a:カラー眼底写真.黄斑部全体にCsoftdrusenを認め,中心窩には網膜色素上皮.離を認める.中心窩直上にCNVを疑う赤色病変がある.鼻側に出血を認める.b:OCT.網膜色素上皮.離と網膜浮腫Ceを認める.c:FA.赤色病変に一致して過蛍光を認める.Cd:IA.網膜血管との吻合が確認できる.e:OCTA.造影所見に一致したシグナルを認める.症例提示患者:80歳,男性主訴:左眼の歪み現病歴:3カ月前からの左眼歪視を主訴に近医受診.左眼黄斑変性を指摘され当院紹介受診.既往歴:高血圧内服加療中.喫煙C15本/日,55年.初診時所見:左眼矯正視力C0.5.前眼部には異常なく,中等度白内障を認めた.眼底は黄斑に色素上皮.離とその辺縁にCsoftdrusenの沈着,網膜浮腫を認めた.光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangi-ography:OCTA)で中心窩上方に異常な血流シグナルを認め,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiog-raphy:FA)およびインドシアニングリーン蛍光造影(ndocyanineCgreenangiography:IA)で同部位に脈絡膜新生血管と網膜血管の吻合が確認された(図1).右眼dにもCsoftdrusenを認めたが,滲出性変化は認めなかった.経過OCTA,FA・IAの結果よりC3型黄斑新生血管(mac-ularneovascularization:MNV)網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)と診断し,アフリベルセプトを導入期C3回投与後,基本的にCtreatCandextend(TAE)で施行した.ただし患者希望でときどきスキップしたり,再診予約の無断キャンセルがあった.最終受診は初診からC2年C7カ月後であり,左眼矯正視力C0.9を維持していた.最終受診時にもアフリベルセプト投与を行っている(図2).その後来院せず,2年ぶりに左眼が真っ暗になったと近医を受診し,硝子体出血を指摘され当院へ再紹介となった.左眼視力は手動弁であった.硝子体手術+水晶体(81)あたらしい眼科Vol.41,No.10,202412290910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2受診中断前の最終受診時(初診から2年7カ月後)網膜色素上皮.離,網膜浮腫は消失し,OCTAでもシグナルは確認できない.再建術を施行し,硝子体出血は除去できたものの,広範な網膜下出血(subretinalhemorrhage:SRH)は器質化し,網脈絡膜萎縮も著しく,現在は視力C0.02である(図3).解説通院中は治療が奏効しCdryな状態を維持できていたが,通院がとだえ,2年後に大出血を起こして再紹介となったCRAP(3型MNV)1)症例である.3型CMNVは抗CVEGF療法によく反応して滲出性変化は減少するが,再発率が非常に高く,また長期の経過で萎縮病巣が生じやすい.そしてしばしばポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)同様,広範な網膜下出血をきたす.PCVは光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)が奏効する場合も多く,治療の選択肢があるが,萎縮病巣をきたしやすい3型CMNVに対しては基本的にCPDTは推奨されないため,現在の治療方法は抗CVEGF療法しかない.大幅に注射間隔を延長することができないこともドロップアウトを生みやすい要因であろう.治療を中止した加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)症例を後ろ向きに検討した研究では,16%にCSRHが発生し,なかでもC3型CMNVが出血のリスクが高いことが報告されている2).3型CMNVは通常両眼性であり,qualityofvision(QOV)を考えると厳格な治療マネージメントを必要とするが3),患者が他のCAMDに比較しても高齢であることも通院中断の大きな要因となっている.C1230あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024図3最終受診から2年後,術後の所見a:広角眼底写真でアーケードを超えた広範な網膜下出血を認める.周辺部は器質化している.Cb:OCTでも器質化した出血が確認できる.おわりに3型CMNVに限らず,AMDは慢性疾患であるため,導入期よりむしろ維持期の治療のほうがむずかしい.抗VEGF薬は経済的負担が大きいことに加え,硝子体内注射は何回受けてもストレスだと訴える患者がほとんどである.本症例も,通院を継続していたときも何回か受診せず,注射の間隔がC7カ月ほどあいたことがあった.本人に通院中断の理由を聞くと,注射と待ち時間のストレスを理由としてあげた.右眼にもCsoftdrusenを認めているため,継続通院の必要性を強く説明し,納得いただいたが,いつまで継続してもらえるかはわからない.AMD診療のむずかしさを改めて感じた症例である.文献1)SpaideRF,Ja.eGJ,SarrafDetal:Consensusnomencla-tureforreportingneovascularage-relatedmaculardegen-erationdata:ConsensusConCNeovascularCAge-RelatedCMacularCDegenerationCNomenclatureCStudyCGroup.COph-thalmologyC127:616-636,C20202)KimCJH,CKimCJW,CKimCG:DevelopmentCofCsubretinalChemorrhageaftertreatmentdiscontinuationforneovascu-larCage-relatedCmacularCdegenerationCandCpolypoidalCcho-roidalCvasculopathy.CGraefe’sCArchCClinCExpCOphthalmolC2022:3231-3239,C20223)HajNajeebB,DeakGG,Schmidt-ErfurthUMetal:RAPstudy,report1:Novelsubtypeofmacularneovascularisa-tionCtypeCIII,CcilioretinalCMNV3.CBrCJCOphthalmolC105:C113-117,C2021(82)

緑内障セミナー:緑内障の神経保護・再生医療研究の現状

2024年10月31日 木曜日

●連載◯292監修=福地健郎中野匡292.緑内障の神経保護・再生医療研究の現状西島義道東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障の神経保護・再生医療研究では近年,遺伝子治療や薬物療法,インプラント治療など新たなアプローチが試みられている.改変型CTrkB受容体を用いた遺伝子治療では視神経軸索再生効果が,リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬では神経保護効果が報告されている.また,CNTF徐放性眼内インプラントの臨床試験も現在進行中である.●はじめに緑内障は世界的に主要な失明原因の一つであり,網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)および視神経軸索の不可逆的な障害によって引き起こされる進行性の視野障害を特徴とする1).以前より眼圧下降以外の治療法の開発のひとつとして神経栄養因子による軸索再生治療が注目されているが,これまで十分な効果が得られずにいた.しかし近年,遺伝子治療が急速に進展し,なかでもアデノ随伴ウイルス(adeno-associatedvirus:AAV)を使用した遺伝子治療は眼科分野でも臨床応用が進められている.ここでは神経栄養因子の受容体の一つであるCTrkBの改変型遺伝子を組み込んだCAAVによる遺伝子治療研究2)を中心に,近年の緑内障に対する神経保護および再生治療研究に関して述べる.C●改変型TrkB受容体の作製およびシグナル伝達TrkBは神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF)の受容体であり,神経の分化および成長に重要な役割を担っている.筆者らはCTrkBの細胞内領域のみを取り出し,ファルネシル化シグナル配列を付加することで常時BDNF-TrkBシグナルを活性化することが可能なCfarne-sylatedCintracellularTrkB(F-iTrkB)を作製した(図1).C●F-iTrkB遺伝子を用いた視神経軸索の再生効果マウスの急性の傷害モデルである視神経挫滅(opticCnervecrush:ONC)モデルを用いて,F-iTrkBをAAVに組み込んだCAAV-F-iTrkBによる治療効果を検証した.その結果,AAV-F-iTrkB投与群では視神経の軸索再生効果を認め,再生した軸索の一部は,視神経損傷部位から約C4Cmm離れた視交叉に到達した(図2).さらに,マウスの視神経軸索をより中枢に近い上丘(superiorcolliculus:SC)近傍で切断したモデルについても検証を行った.その結果,AAV-F-iTrkB投与群のCSCでは再生軸索が観察された(図3a)2).同時に視機性眼球反応(optokineticresponse:OKR)を測定したところ,AAV-Control投与群ではCOKRはほぼ消失していたが,AAV-F-iTrkB投与群では有意に回復していることがわかった(図3b)2).C●リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果リパスジルとブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果を報告した3).リパスジルとブリモニジンの点眼はそれぞれCRGC死を抑制するが,両剤の配合点眼によりさらなる保護効果が認められた(図4)3).リパスジルはp38のリン酸化や炎症性サイトカインの発現を抑制し,ブリモニジンはCp38のリン酸化を抑制するとともに,塩基性線維芽細胞増殖因子の発現を増加させた.これらのことから,リパスジルとブリモニジンの配合点眼薬は,複数の経路を介して相乗的に神経保護効果を示す可能性が示唆された.C●毛様体神経栄養因子(CNTF)徐放性眼内インプラントによる緑内障治療神経栄養因子を用いた緑内障に対する実際の臨床応用として,毛様体神経栄養因子(ciliaryCneurotrophicCfac-tor:CNTF)を眼内で徐放するインプラント(NT-501インプラント)の臨床試験が進められている.スタンフォード大学を中心として昨年CphaseIの臨床試験の結果が発表された4).開放隅角緑内障患者C11名を対象に,片眼にCNT-501インプラントを投与し,もう一方の眼を対照眼とした結果,投与眼では網膜神経線維層厚が治療前よりも増加する傾向を認めた.現在も臨床試験は継続されている.(79)あたらしい眼科Vol.41,No.10,202412270910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1FarnesylatedintracellularTrkB(F-iTrkB)の模式図TrkBの細胞内領域のみを取り出し,Farnesyl基を付与した活性型CTrkBを作製した.aInjuryaPBSRipasudilBrimonidineMix図2視神経挫滅モデルにおけるAAV-F-iTrkBの軸索再生効果視神経挫滅モデルマウスの眼球内にCAAV-F-iTrkBを投与すると,視交叉に至るほどの軸索再生効果を認めた.(文献C2より改変引用)b1,000**図3上丘切断モデルにおけるAAV-F-iTrkBの軸索再生効果a:AAV-ControlまたはCAAV-F-iTrkBを眼球内投与したマウスの上丘付近における再生軸索上丘の領域は白い点線で示す.RBPMS陽性細胞数(cell/mm2)黄色の点線部分の拡大図を下段に示す(スケールバーは上段C0300Cμm,下段C50Cμm).Cb:左は視機性眼球反応の測定の様子.右はCAAV-ControlまたはCAAV-F-iTrkBを投与した上丘切断モデルの検査結果.StudentのCt検定.*はCp<0.05で有意差があることを示す.(文献C2より改変引用)PBSRipasudilBrimonidineMix●おわりにTrkBの改変型であるCF-iTrkBを用いた遺伝子治療による視神経軸索再生研究と,リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果研究,およびCCNTFを徐放する眼内インプラントによる緑内障に対する臨床試験の現状について述べた.これらの治療法は作用機序が異なることから,今後は併用治療なども含め,新たな緑内障治療の進展が期待される.文献1)MalihiCM,CMouraCFilhoCER,CHodgeCDOCetal:Long-termCtrendsCinCglaucoma-relatedCblindnessCinCOlmstedCcounty,CMinnesota.OphthalmologyC121:134-141,C20142)NishijimaE,HondaS,KitamuraYetal:Visionprotection1228あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024図4視神経挫滅モデルマウスに対するリパスジル,ブリモニジン,および合剤を用いた点眼治療における神経保護効果a:視神経損傷C14日後における各治療後の網膜のCRBPMS陽性細胞(網膜神経節細胞)の免疫染色像(スケールバーはC100μm).Cb:網膜全体における網膜神経節細胞の定量グラフ.Tukeyの多重比較検定.*p<0.05,**p<0.01で有意差があることを示す.(文献C3より改変引用)CandCrobustCaxonCregenerationCinCglaucomaCmodelsCbyCmembrane-associatedCTrkCreceptors.CMolCTherC31:810-824,C20233)NamekataCK,CNoroCT,CNishijimaCECetal:DrugCcombina-tionCofCtopicalCripasudilCandCbrimonidineCenhancesCneuro-protectioninamousemodelofopticnerveinjury.JCPhar-macolSciC154:326-333,C20244)GoldbergCJL,CBeykinCG,CSatter.eldCKRCetal:PhaseCICNT-501ciliaryneurotrophicfactorimplanttrialforprima-ryCopen-angleglaucoma:Safety,Cneuroprotection,CandCneuroenhancement.OphthalmolSciC3:100298,C2023(80)

屈折矯正手術セミナー:白内障手術後の調節微動

2024年10月31日 木曜日

●連載◯293監修=稗田牧神谷和孝293.白内障手術後の調節微動貝田智子宮田眼科病院白内障手術後に眼精疲労を自覚する患者を経験する.眼精疲労の原因となる調節けいれんは,調節微動が増加して発症する.白内障手術後のCIOL挿入眼には調節微動が存在し,調節負荷により調節微動の高周波成分出現頻度(HFC)が増加し,調節けいれんでみられる高値CHFCも存在する.とくに長眼軸眼に高値CHFCが多く,術後調節けいれんに注意が必要である.●はじめに臨床において,白内障手術後に原因不明の眼精疲労を訴える患者にしばしば出会う.眼精疲労の原因の一つに調節けいれんがある.従来,白内障手術後は水晶体の調節作用がなくなるため調節反応は起こらないと考えられてきた.一方,多くの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入患者で調節作用が観察され,調節けいれん様他覚屈折(D)瞳孔径(mm)通常のIOL挿入眼調節微動調節微動屈折刺激(D)屈折刺激(D)の臨床像を経験する.これまで,IOL挿入眼は調節負荷が加わるとCIOLの前方移動により見かけ上の調節変化が生じること1,2)が報告されている.筆者らは,IOL挿入眼には調節微動が存在し,調節負荷で調節微動の高周波成分(high-frequencyCcomponents:HFC)出現頻度が増加することを示した3).さらに調節けいれんでみられる高値CHFCが約C3割に存在し,長眼軸眼で多い傾向であった3).これらの知見を紹介するとともに,白内障術後眼精疲労への治療症例を提示する.C●調節微動とは調節微動とは,一定の距離にピントを合わせている状態でみられる屈折値の揺らぎのことで,調節負荷による持続的な調節輻湊の際に生じる屈折値の急速で小さな変動である.この調節微動は,0.6CHz以下の低周波成分(low-fre-quencycomponents:LFC)と,1.0.2.3CHzのCHFCの二つの帯域パターンから構成される.HFCは毛様体筋やCZinn小帯の動きに由来し,HFC出現頻度は調節負荷時や調節けいれんで増加し,眼精疲労の指標として用いられている.C●IOL挿入眼の調節微動検査調節微動は,アコモレフCSpeedy-i(ライト製作所)で測定した.アコモレフCSpeedy-iは,調節負荷時の他覚屈折値の微動を測定し,1.0.2.3CHz帯成分の出現頻度(77)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1IOL挿入眼の調節微動検査結果調節微動はアコモレフCSpeedy-i(ライト製作所)で測定.調節安静位(0D),調節負荷(.1D,.2D,.3D)における調節微動のC1.0.2.3CHz帯の積算ゲイン(dB)を計算し,HFC値として表示.HFC値のC65以上を高値とし,赤色で表示している.調節けいれんでは高値CHFCが増加する.を積算した値を,毛様体筋の震えを反映した数値としてHFC値としている.HFC値C65以上を高値として赤色で表示し,高値CHFCの増加は調節けいれんと診断される.IOL挿入眼における通常の結果と調節けいれんの結果を図1に示す.C●研究結果と考察単焦点CIOLを挿入したC713例C1,160眼を対象とした.白内障手術後C2カ月とC6カ月時に調節負荷をかけると,HFC値は有意に増加し,年齢,術後の期間にかかわらず,約C3割の患者で高値CHFCがみられた.高値CHFCの割合は術後C2カ月におけるC26Cmm以上の眼軸長眼で有意に高かった.また,IOL挿入眼の安静位(0D負荷時)平均CHFC値は,以前の研究における有水晶体眼のHFC値とほぼ同じであった4).過去に,単焦点CIOL挿入眼は近見視力に対する自覚的屈折値と他覚的屈折値に差があり,調節力はほぼゼロであるが,調節努力が存在することが報告されている1).つまり,白内障手術後であっても,毛様体が動いてCIOLの位置や形状を変化させ,焦点を合わせるための調節努あたらしい眼科Vol.41,No.10,20241225a点眼開始前b点眼開始1カ月後点眼中止1カ月後d点眼再開始1カ月後図2提示症例の調節微動検査の結果60歳,男性(右眼C2焦点IOL,左眼有水晶体眼).0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼前,HFCは高値を示し眼精疲労を自覚していた(Ca).点眼開始C1カ月後,HFCは低下し症状が改善したため点眼を中止した(Cb).点眼中止C1カ月後,HFCが高値を示し眼精疲労が再発したため(Cc)点眼を再開したところ,HFCは低下し症状は改善した(Cd).力が行われていると考えられる.筆者らの検討も,この調節努力が調節けいれんを生み,眼精疲労をもたらす可能性を裏付ける結果と考える.C●白内障手術後の眼精疲労への治療有水晶体眼では,調節けいれんを原因とした眼精疲労にC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼が有効である.筆者らはCIOL挿入眼にも調節けいれんが発症すると考え,白内障手術後,原因不明の眼精疲労があり高値HFCを認めた患者にC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼治療を行い,症状の改善を得たので紹介する5).患者はC60歳,男性.右眼C2焦点CIOL挿入眼,左眼有水晶体眼.術後視力:右眼C1.2(1.5C×cyl+0.75DAx110°),左眼0.9(1.2C×sph+0.5D×cyl.1.5DCAx90°)現病歴:右眼の白内障手術後から眼精疲労を自覚,高値CHFCを認めた.術後C8カ月目よりC0.05%シクロペントラート塩酸塩の就寝前C1回点眼を開始した.点眼開始後,HFCは低下し症状が改善したため点眼を中止した.中止後C1カ月目,HFCは高値を示し眼精疲労が再発したため点眼を再開したところ,HFCは低下し症状は改善したが,点眼は本人の希望により継続とした(図2).●おわりに臨床において白内障手術後も調節けいれんが発症する可能性があるため,原因不明の眼精疲労を訴えるCIOL挿入眼患者には調節微動の検査が有効である.とくに強度近視患者では術後の調節けいれんに注意することが重要である.文献1)Win-HallCDM,CGlasserA:ObjectiveCaccommodationCmea-surementsCinCpseudophakicCsubjectsCusingCanCautorefrac-torandanaberrometer.JCataractRefractSurgC35:282-290,C20092)Lesiewska-JunkCH,CKa.uznyJ:IntraocularClensCmove-mentandaccommodationineyesofyoungpatients.JCat-aractRefractSurgC26:562-565,C20003)KaidaT,OnoT,TokunagaTetal:Prevalenceofaccom-modativemicro.uctuationsineyesaftercataractsurgery.JClinMedC12:5135,C20234)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,C19975)桑原直杜,貝田智子,徳永忠俊ほか:白内障手術後の眼精疲労に対するC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼の治療効果.臨眼77:1203-1208,C20231226あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(78)