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CorNeat EverPatch Plus を用いた緑内障ロングチューブ手術

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1468.1472,2025cCorNeatEverPatchPlusを用いた緑内障ロングチューブ手術千原悦夫千原智之千照会・千原眼科CGlaucomaLongTubeSurgeryUsingCorNeatEverPatchPlusEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC目的:緑内障ロングチューブ手術においてCCorNeat社がウレタン素材から合成した新しいパッチ材料であるCEver-PatchPlusを用いて手術を行い,その後の結膜の状態を前眼部COCTによって検討した.方法:11例C11眼の難治緑内障に対してCAhmed緑内障バルブあるいはCPaul緑内障インプラント(PGI)を設置し,そのチューブをCCorNeat社のCEverPatchPlusのうちCshieldtypeとCrectangulartypeを用いて被覆した.手術部の浮腫,滲出物や結膜の厚さは前眼部COCTCASIAIIによって調べた.結果:術前C4.3±0.9剤点眼下にC33.6±1.3CmmHgであった眼圧は,1カ月後にC2.3C±2.4剤点眼下にC16.3±3.5CmmHgに下がり,異常な滲出物や炎症所見などは認めなかった.結膜は術後C4日.2週間には浮腫,microcyst,漏出房水の貯留を認めるがC1月後にはいずれも消退し,2カ月の間にパッチ材料の脱出を認めたものはなかった.結論:新しい合成パッチ材料であるCEverPatchPlusは少なくとも術後C2カ月の期間安全にチューブを被覆でき,臨床的に問題となる合併症を認めなかった.CPurpose:ToCevaluateCtheCpostoperativeCconjunctivaCusingCanteriorCsegment-opticalCcoherenceCtomography(AS-OCT)afterCglaucomaCdrainageCdevice(GDD)surgeryCusingCEverPatchCPlus(CorNeatCVision,Ltd.),CaCnovelCsyntheticCpatchCmaterialCcomposedCofCpolyurethane.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC11CrefractoryCglaucomapatientsinwhomGDDsurgerywasperformedinoneeye.ThedrainagetubewascoveredwitheithertheshieldorrectangulartypeofEverPatchPlus.Postoperativeedema,exudation,andconjunctivalthicknessatthesurgicalsitewereassessedusingAS-OCT.Results:Thepreoperativeintraocularpressureof33.6±1.3CmmHgon4.3±0.9CtopicalCmedicationsCdecreasedCtoC16.3±3.5CmmHgCatC1-monthCafterCsurgery.CNoCabnormalCexudatesCorCin.ammationCwereCobserved.CBetweenCpostoperativeCdaysC4CandC14,CconjunctivalCedema,Cmicrocysts,CandCaqueousCaccumulationCwereCnoted,CyetCresolvedCwithinC1Cmonth.CNoCcasesCofCpatchCextrusionCwereCobservedCduringCtheC2-monthCfollow-upCperiod.CConclusion:TheCEverPatchCPlusCsyntheticCpatchCprovidedCsafeCtubeCcoverageCforC2-monthspostoperativewithoutanyclinicallysigni.cantcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1468.1472,C2025〕Keywords:エバーパッチ,緑内障インプラント,結膜,Tenon.,前眼部OCT.EverPatch,glaucomadrainagedevice,conjunctiva,Tenon’scapsule,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめに近年わが国では緑内障手術の選択に大きな変化が起こり,従来の眼外型線維柱帯切開術(トラベクロトミー)や線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)に代わって眼内から行う低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)や,ミニチューブあるいは緑内障ドレナージデバイス(glaucomadrainagedevice:GDD)手術が増えてきた1,2).ロングチューブは術後眼圧の安定性においてトラベクレクトミーよりも優れており,このことが術後合併症の少なさにつながっていると考えられている.ただし,ロングチューブは未だに発展途上であり,従来のCBaerveldtCglaucomaimplantやCAhmed緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)に加えてCAhmedClearPath(ACP)やCPaul緑内障インプラント(PaulglaucomaCimplant:PGI)が導入されるなど,現在も改良がなされている3,4).ロングチューブに関しては,角膜内皮障害5)とチューブや〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会・千原眼科Reprintrequests:EtsuoChihara,M.D.,Sensho-kaiEyeInstitute,50-1Minamiyama,Iseda,Uji,Kyoto611-0043,JAPANC1468(104)プレートの脱出や感染6)という問題が残っており,今後の改善が望まれる.インプラントの脱出に関しては,どのようなパッチ材料を使うかということが重要である.GDD開発の当初から保存強膜や乾燥心内膜などが使われてきており7.9),乾燥脳硬膜が使われたこともあるが,これはプリオンの感染リスクのために現在は使用されなくなってきた.現在外国では抗原性を除去し病原体を処理した乾燥強膜や心内膜が市販されており,入手に困難はないが,日本では種々の制約のために外国のパッチ材料の入手は困難である.国内の多くの施設では角膜移植に提供された眼球の残余部分をそのまま使用しているところが多いようであるが,この方法では提供された患者がどのような病気で亡くなっているのかを知ることに不安があるそれぞれの施設で移植片の処理をされているのかもしれないが,感染のリスクがないとはいえない状況と思われる.また,免疫反応の原因となる抗原が無処理であるので,移植片の拒絶反応が起こる可能性も残っている.このような状況に鑑み,国内のいくつかの施設では強膜トンネル法によるチューブの挿入が行われてきた10.12).強膜トンネル法はパッチ材料を使わないので生体材料を使う方法に比べると感染や免疫反応のリスクがなく優れた方法であるが,問題は残余強膜が薄く,チューブの脱出が起こることがあるということであろう.Younの報告によるとC204眼C183名の患者にトンネル法でチューブを挿入したところ,5年間でC6.9%の脱出を経験しており,とくにC65歳以下の患者ではリスクが高いといわれている13).したがって,従来の方法では限界があるので,新しいパッチ材料の開発も必要と考えられる.国内ではCPolytetra.uoroethylene(ゴアテックス)による被覆がすでに報告されている14)が,この材質は軽度の線維性反応15)が報告されているので,実用化にはさらなる検討が求められるかもしれない.CorNeat社のCEverPatchPlusはC2023年に緑内障インプラント手術用のパッチ材料として米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)の認可を得たもので,材質はCaromaticCpolycarbonateurethanであり,米国では2024年から使用されている.当初はC0.5CcmC×0.65Ccmの矩形で,厚さはC100.150Cμmのタイプが発売された.しかし,この製品はCWilmer眼研究所の調査で,27眼中C13眼において先端部分が結膜を破って出てくることが報告された16).そこで,機械的な刺激を避けるために同じ厚さで先端を丸くしたCShieldtypeがC2025年C1月に発売された.筆者らはこの新しい製品を用いてC11例に手術を行い,手術ビデオをC2025年C2月の米国におけるCAmericanCGlaucomaCSocietyCmeet-ing(WashingtonDC)において供覧した.ここでは,術後の短期成績について報告する.I対象と方法11例の内訳は血管新生緑内障C4眼,こじれた原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)4眼,落屑緑内障(pseudoexfoliationCglaucoma:PEG)1眼,ぶどう膜炎による続発緑内障C1眼,シリコーンオイルによる続発緑内障C1眼である.基礎データは表1に示した.臨床研究法はヘルシンキ宣言に準拠した.EverPatchとPGIは医療材料として国内未認可であるので近畿厚生局に使用の認可をとり,院内CIRB(厚生労働省認可番号C25000009)の承認(C2025-01R,2023-03R)を受け,患者の了解を得て手術した.術式:ロングチュ.ブの術式は以前に報告したとおりである17).簡単に述べると,結膜下にリドカイン注射による局所麻酔を行い,円蓋部基底で輪部切開を行って結膜とCTenonを強膜から.離して郭清した.再手術で癒着が強い場合は強膜刀を用いて結膜を損傷しないように注意しながら丁寧な.離を心掛けた.GDDのプレートを挿入し,必要な場合はCstentを挿入してからプレートをC5-0ダクロン糸で強膜に固定し,shieldtypeのCEverPatchの場合はループにチューブを挿入してから強膜を穿刺してチューブを眼内に挿入した.6眼は毛様溝にC2眼は硝子体腔に,3眼は前房内に挿入した.挿入象限は8眼が耳上側,3眼が鼻下側である.使用したインプラントはC4眼がCAGV,7眼がCPGIである.手術所見を図1,2に示す.CII結果11眼の術前眼圧はC4.3C±0.9剤点眼下にC33.6C±1.3CmmHgであったが,術後C1カ月の時点の眼圧はC2.3C±2.4剤点眼下にC16.3C±3.5CmmHgに下がった.前房や結膜に特別な炎症所見はなく,パッチ材料の脱出も認めなかった.術後の結膜出血や充血は保存強膜の場合とほぼ同じ経過をとり,1カ月程度で消退する.術後のパッチ材料は出血や血管で覆われるため,通常の細隙灯で観察することはむずかしいが,赤外線カメラ(浜田商会,京都)を用いると,容易に観察することができる(図3).結膜の断面は前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomograph:OCT)のCCASIAII(トーメーコーポレーション)で観察した.術後C4日.2週間の期間結膜切開の範囲で組織の浮腫や細胞間液の貯留のために肥厚するが,すべての症例でC1カ月以内に細胞間液の貯留は消退し,結膜の厚さは次第に減少した(図4,5).CIII考按新しい医療材料を使用する場合はその安全性と有効性が大表1対象眼の基礎データEverPatchのタイプGDD種類と挿入部位挿入経線左右緑内障の病型年齢性別術前眼圧内眼手術既往数術前点眼・内服数.数視.ClogMAR視.視野CMD(dB)内皮数Ccell/mm2CshieldCAGVcs耳上側CLCNVGC81CMC28C0C4C0.02C1.699C.29.15C3,017CrectangularCAGVpp耳上側CLCNVGC65CMC66C3C6CfcCNA*C2,268CshieldCPGIac耳上側CRCPOAGC74CMC40C1C5C0.02C1.699C.26.38C2,632CshieldCAGVcs+vit耳上側CRCPEGC75CMC26C1C3C0.6C0.222C0.27C1,661CshieldCPGIcs耳上側CLCPOAGC64CFC25C1C4C0.2C0.699C.17.72未測定CshieldCPGIac耳上側CRCUveiticC79CFC48C2C5C0.9C0.046C.23.32C1,748CrectangularCPGIpp鼻下側CRCNVGC45CMC29C7C5C0.03C1.523CNA*C1,342CshieldCPGIcs耳上側CRSG(RD)C76CMC21C3C3C0.03C1.523C.31.2C1,701CshieldCAGVcs耳上側CLCNVGC83CMC30C2C4C1.2C.0.079C.16.7C3,096CshieldCPGIac鼻下側CLCPOAGC43CMC27C4C4C0.8C0.097C.21.74C2,433CshieldCPGIcs鼻下側CRCPOAGC67CMC30C5C4C0.03C1.523C.30.66C519AGV:Ahmedglaucomavalve,PGI:Paulglaucomaimplant,cs:毛様溝挿入,pp:経扁平部硝子体腔内挿入,ac:前房内挿入,NVG:血管新生緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,PEG:落屑緑内障,Uveitic:ぶどう膜炎による続発緑内障,SG(RD):シリコーンオイルによる緑内障,NA:測定不能.図1EverPatchPlusshieldtypeの術中所見パッチ材料の脱出を防ぐためにCEverPatchPlusと輪部の距離は1Cmm以上空けることが推奨される.また,結膜のみではなくTenon.もしっかりと縫合しておくことが望ましい.切であり,それを使用することによって得られるメリットとデメリットを斟酌する必要がある.EverPatchは従来の生体材料と比べて薄く丈夫であるので,その耐久性,操作性において優れていると推察され,また人工材料であるので,保存期間も長い.400ドルという定価も合理的だと思われる.細胞毒性に関しては米国CclinicalCtrialCregistryCnumberNCT04037917に登録されジョージアのトビリシ市にあるDaVinci病院と米国CWilmerEyeInstituteで調べられ,問題はないといわれており16),今回筆者らの臨床経験においても,パッチ材料の周囲に異常な滲出物は認めていない.一方,WilmerEyeInstituteでの臨床経験でパッチ材料の先端部が結膜を破って出てきたものが術後C12日.120日にC27眼図2EverPatchPlusrectangulartypeの術中所見中C13眼(45%)でみられており,脱出までの平均期間はC52日であった.したがって,パッチ材料の形態には注意が必要かもしれない.今回使用したC11眼のうちC9眼は先端が丸みを帯びたCshieldtypeで,rectangularCtypeはCparsCplanainsertionを行ったC2眼のみの使用であったが,いずれもC2カ月の時点で脱出をみていない.WilmerEyeInstituteではCrectangulartypeのみを使っており,この形状のものが脱出した理由としてはいくつかの可能性が考えられる.まず四角のパッチ材料の尖った角が結膜を刺激した可能性があげられ,次に輪部付近を広く覆うことによって結膜への血液供給が遮断されることによる虚血や低栄養が起こった可能性が考えられる.そのほかに人種差,あるいは結膜(Tenon.)縫合のやり方の違いなどが影響する可能性も指摘されるであろう.これに対して今回筆者らは,先端が丸い形状のCShieldtypeをおもに使用した.このタイプは,少なくとも機械的な刺激に関してはCrectangulartypeよりも軽減されると考図3赤外光撮影によるEverPatchPlusの描出通常の細隙灯検査では出血や血管のために結膜下に存在するCEverPatchPlusの位置の確認はむずかしいが,赤外光であれば明瞭にその境界を確認し輪部との距離を確認することができる.撮影は浜田カメラ(浜田商会)を使用.えられ,そのことが今回の脱出を認めないという結果につながったのかもしれない.同様のパッチ材料として筆者らは以前にオロゲンを検討したことがあるが18),オロゲンはスポンジ状で脆弱であり,既報ではC43眼中C2眼で脱出を認めている19).筆者らの経験では今回C11眼において脱出を認めておらず,手術後の耐久性はCEverPatchのほうが優れていると思われる.利益相反:FIICorneatVision,Ra’ananaIsrael文献1)ChiharaE:TrendsCinCtheCnationalCophthalmologicalChealthcarefocusingoncataract,retina,andglaucomaover15yearsinJapan.ClinOphthalmolC17:3131-3148,C20232)TanitoM:NationwideCanalysisCofCglaucomaCsurgeriesCinC.scalCyearsCofC2014CandC2020CinCJapan.CJCPersCMedC13:C1047,C20233)千原悦夫,千原智之:AhmedClearPath(ACP)の使用経験とC6カ月の短期治療成績.あたらしい眼科C42:924-927,C20254)千原悦夫,千原智之:PaulGlaucomaImplantの短期臨床経験(予報).あたらしい眼科42:1206-1210,C20255)ChiharaCE,CTanitoCM,CKonoCMCetal:PP-PLCStudyGroup:Di.erentCpatternsCinCtheCcornealCendothelialCcellClossafterparsplanaandparslimbalinsertionoftheBaer-veldtCglaucomaCimplant.CAmCJCOphthalmolC253:12-21,C20236)MitsuiCN,CSugiharaCK,CSeguchiCJCetal:CorynebacteriumCocularCinfectionCafterCBaerveldtCglaucomaCimplantCsur-gery:treatmentCinvolvingCimmediateCtubeCwithdrawalCandCtemporaryCsubconjunctivalCtubeplacement:aCcaseC図4血管新生緑内障症例の術後3日目の前眼部OCT所見血管新生緑内障症例に経扁平部で緑内障ロングチューブを硝子体腔に入れ,チューブをCEverPatchPlusで被覆した症例の術後C3日目の前眼部COCT所見.結膜は浮腫状になって多くのCmicro-cystを認め,著しく肥厚している.輪部では結膜が盛り上がり段差を形成している.EverPatchPlusは無定形な塊のように描出される.図5図3の症例の1カ月後所見結膜浮腫は軽減し,輪部の膨隆は改善して平坦になっている.結膜厚の測定値は緑色で示したとおり,3日目より軽減している.この症例では高度のCPASのために隅角が完全に閉塞しており,術前眼圧はC66CmHgであったが術後は無点眼でC13CmmHgに下がっている.report.BMCOphthalmolC21:368,C20217)ThakurCS,CIchhpujaniCP,CKumarS:GraftsCinCglaucomasurgery:aCreviewCofCtheCliterature.CAsiaCPacCJCOphthal-mol(Phila)C6:469-476,C20178)FreedmanJ:ScleralCpatchCgraftsCwithCMoltenoCsetons.COphthalmicSurgC18:532-534,C19879)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmolC28:194-198,C201710)Albis-DonadoCO,CGil-CarrascoCF,CRomero-QuijadaCRCetal:EvaluationCofCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationCthroughCaCneedle-generatedCscleralCtunnelCinCMexicanCchildrenCwithCglaucoma.CIndianCJCOphthalmolC58:365-373,C201011)MiuraY,FukudaK,YamashiroK:AnovelscleraltunneltechniqueCforCtheCpreventionCofCAhmedCglaucomaCvalveCtubeexposure.CureusC17:e79290,C202512)TanitoCM,COhtaniCH,CIdaCCCetal:TubeCinsertionCofCAhmedglaucomavalveusingamicro-incisionscleraltun-neltechnique.CureusC16:e75899,C202413)YounCS,CYanDB:Five-yearCoutcomesCofCgraft-freeCtubeCshuntsandriskfactorsfortubeexposuresinglaucoma.JGlaucomaC33:139-147,C202414)YasuokaK,TadaK,YasuokaK:Ahmedglaucomavalve(AGV)implantationCusingCGore-Tex.CJpnCJCOphthalmicCSurgC37:541-545,C202415)LeszczynskiCR,CGumulaCT,CStodolak-ZychCECetal:Histo-pathologicalCevaluationCofCaChydrophobicCterpolymer(PTFE-PVD-PP)asanimplantmaterialfornonpenetrat-ingCveryCdeepCsclerectomy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:5203-5209,C201516)KantorJ,GarkalA,CardakliNetal:Earlypostoperativeconjunctivalcomplicationsleadingtoexposureofsurgical-lyCimplantedCCoNeatCEverPatchCdevices.COphthalmologyC132:799-814,C202517)千原悦夫:緑内障インプラント手術.臨眼C68:127-133,C201418)千原悦夫:緑内障手術における生物分解性インプラント・オロゲンの応用.眼科手術29:622-626,C201619)StephensJD,SarkisianSRJr:Theuseofcollagenmatrix(Ologen)asCaCpatchCgraftCinCglaucomaCtubeCshuntCsur-gery,CaCretrospectiveCchartCreview.CF1000ResC5:1898,C2016C***

絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1464.1467,2025c絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴大久保寛*1南泰明*1鈴木智*1,2*1地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CClinicalFeaturesofInfectiousCornealUlcersinAbsoluteGlaucomaEyesHiroshiOkubo1),YasuakiMinami1)andTomoSuzuki1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてレトロスペクティブに検討する.対象および方法:京都市立病院においてC2012年C1月.2022年C7月のC10年C6カ月の期間に,絶対緑内障眼に感染性角膜潰瘍を生じたC8例C9眼を対象とし,患者背景,緑内障病型,感染前の眼圧,使用点眼薬,失明から発症までの期間,起炎菌,前房蓄膿の有無,マイボーム腺機能不全(MGD)および後部眼瞼炎の有無,上皮化までの日数について検討した.結果:患者の平均年齢はC77.8±8.8歳.男性C2例C2眼,女性C6例C7眼.緑内障の病型は血管新生緑内障C6眼,原発開放隅角緑内障C2眼,急性閉塞隅角緑内障C1眼で,失明から発症までの平均期間はC5.2±4.5年,発症時抗緑内障点眼の使用がC3眼,その他点眼薬の使用がC8眼であり,感染直前の平均眼圧はC54.9±25.7CmmHgであった.検出菌はブドウ球菌属C3眼(MSSA,MSSE,MRSE各C1眼),コリネバクテリウムC2眼,肺炎球菌C1眼で,角膜所見と臨床経過からC2眼でグラム陰性桿菌,1眼で真菌の関与が疑われた.前房蓄膿はC7眼に,MGDを伴う後部眼瞼炎はC8眼に認められ,上皮化までの平均日数はC66.6±57.9日であった.結論:絶対緑内障眼では失明後数年が経過して重篤な感染性角膜潰瘍を生じることがある.高眼圧に伴う角膜上皮浮腫の持続により上皮バリア機能が低下していること,MGDの合併や慢性炎症に伴う眼表面常在細菌叢の変化が感染性角膜潰瘍の発症要因となっている可能性が示唆された.CPurpose:ToCretrospectivelyCreviewCtheCclinicalCfeaturesCofCinfectiousCcornealCulcersCinCabsoluteCglaucomatousCeyes.CPatientsandMethods:WeCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC8Ccases(9eyes)ofCinfectiousCcornealCulcersCinCpatientsCwithCabsoluteCglaucomaCatCKyotoCCityCHospitalCoverCaCperiodCofC10CyearsCandC6Cmonths(i.e.,CfromCJanuaryC2012CtoCJuly2022).CPatientCbackground,CtypeCofCglaucoma,Cpre-infectionCintraocularCpressure(IOP),CeyedropCusage,CtimeCfromCblind-nessConsetCtoCinfection,CcausativeCmicroorganisms,CpresenceCofChypopyon,CpresenceCofCmeibomianCglandCdysfunction(MGD)andCposteriorCblepharitis,CandCtheCnumberCofCdaysCuntilCepithelializationCwereCinvestigated.CResults:ThisCstudyCinvolved2Cmale(n=2eyes)and6female(n=7eyes)patients(meanage:77.8±8.8years).CTheCtypesCofCglaucomaCwereCneovascularCglaucomaCinC6Ceyes,primaryCopen-angleCglaucomaCinC2eyes,andCacuteCangle-closureCglaucomaCinC1Ceye.CTheCmeanCperiodCfromCblindnessConsetCtoCinfectionCwasC5.2±4.5Cyears.CAtCtheCtimeCofCinfection,C3CeyesCwereCbeingCtreatedCwithCanti-glaucomaCeyedropsCandC8CeyesCwereCbeingCtreatedCwithCotherCeyedrops.CMeanCIOPCbeforeCinfectionCwasC54.9±25.7CmmHg.CTheCdetectedCmicroorganismsCwereCStaphylococcusCspp.CinC3Ceyes(MSSA,CMSSE,CandCMRSECinC1Ceyeeach),CCorynebacteriumCspp.CinC2Ceyes,CandCStreptococcusCpneumoniaeCinC1Ceye.CGram-negativeCrodsCwereCsuspect-edCtoCbeCinvolvedCinC2Ceyes,CandCfungiCwereCsuspectedCinC1CeyeCbasedConCcornealC.ndingsCandCclinicalCcourse.CHypopyonCwasCpresentCinC7Ceyes,CandCMGDCandCposteriorCblepharitisCwereCobservedCinC8Ceyes.CTheCmeanCperiodCuntilCepithelializa-tionCwasC66.6±57.9Cdays.Conclusions:SevereCinfectiousCcornealCulcersCmayCoccurCinCabsoluteCglaucomaCeyesCseveralCyearsCafterCblindness.CItChasCbeenCsuggestedCthatCtheCepithelialCbarrierCfunctionCisCimpairedCdueCtoCpersistentCcornealCepithelialCedemaCassociatedCwithChighCIOP,CandCchangesCinCtheCocularCsurfaceCindigenousCbacterialC.oraCassociatedCwithCMGDCcomplicationsCandCchronicCin.ammationCmayCbeCfactorsCinCtheCdevelopmentCofCinfectiousCcornealCulcers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1464.1467,C2025〕Keywords:感染性角膜潰瘍,絶対緑内障,起炎菌,マイボーム腺機能不全.infectiouscornealulcer,absoluteglaucoma,causativebacteria,meibomianglanddysfunction(MGD).〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2MibuHigashitakadacho,Nakagyo-ku,Kyoto-city,604-8845,JAPANC1464(100)はじめに絶対緑内障とは,緑内障の病型にかかわらず眼圧が高いまま失明した状態である.薬物治療により眼圧下降が得られず眼痛が著明な場合は,眼痛軽減の目的で濾過手術や毛様体冷凍凝固術などが行われることが報告されているが1),実際の臨床では自覚症状がなければ放置されていることが多いのではないかと想像される.高眼圧が持続すると,眼表面では慢性炎症が持続し,角膜は上皮浮腫によりバリア機能の低下をきたす2).一方,長期にわたる緑内障点眼の使用は,角膜知覚の低下を引き起こし3),薬剤性角膜上皮障害を生じやすい状況になる.そのため,絶対緑内障眼は易感染状態にあると考えられる.外傷や眼手術の既往,ドライアイや眼瞼炎など眼表面疾患が感染性角膜潰瘍の誘因となることが多く4),細菌性または真菌性であれば,軽症なら異物感,重症なら眼痛を訴えるほか,充血や眼脂,流涙,視力低下を訴えることも多いとされる5).しかし,絶対緑内障眼では自覚症状が乏しく受診が遅れがちで重症化しやすいため,治療に難渋することが多い.筆者らが知る限り,過去に絶対緑内障眼に発症した感染性角膜潰瘍についてまとめた報告はない.そこで今回筆者らは,過去C10年間に当院で経験した絶対緑内障眼に生じた感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてレトロスペクティブに検討した.CI対象および方法対象は,2012年1月.2022年7月の10年6カ月に,絶対緑内障眼に感染性角膜潰瘍を生じたC8例C9眼である.診断の契機,緑内障の病型,感染前の眼圧,使用点眼薬,失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間,起炎菌,前房蓄膿の有無,マイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)および後部眼瞼炎の有無,上皮化までの日数を診療録によりレトロスペクティブに検討した.感染前の眼圧については前回受診時(感染所見を認めない時点)の値とした.失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間は,診療録によって「光覚弁なし」を最初に確認できた時点からの期間とした.起炎菌については細隙灯顕微鏡による角結膜所見,角膜潰瘍および結膜.擦過物の塗抹鏡検,培養検査,抗菌薬治療効果から総合的に同定・推定した.MGDはC2023年に発表されたCMGD診療ガイドライン6)の分泌減少型CMGDの診断に基づいて,マイボーム腺開口部の閉塞所見,圧出低下から診断した.CII結果症例の臨床像を表1に示す.8例C9眼の平均年齢はC77.8C±8.8歳で,男性がC2例C2眼,女性がC6例C7眼であった.診療録上で確認できる明らかな認知症をC2例で認めた.受診の契機は,眼痛がC5眼,充血と眼脂(他者に指摘された)がC2眼,角膜混濁(他者に指摘された)がC1眼あり,自覚症状がなく定期受診時に診断された症例がC1眼であった.失明に至った緑内障の病型は,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)がC9眼中C6眼と最多であり,ついで原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)がC2眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)が1眼であった(図1).感染症発症前の眼圧はC54.9C±25.7mmHgと非常に高値であった.緑内障点眼薬の使用はC3眼(3剤併用,2剤併用,単剤それぞれC1眼ずつ),ステロイド点眼の使用はC2眼に認められた.失明から感染性角膜潰瘍の診断までの期間は平均C5.2C±4.5年と幅広く分布していた.感染性角膜潰瘍の起炎菌は,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitiveCStaphylococcusaureus:MSSA),メチシリン感受性表皮ブドウ球菌(methicillin-sensitivestaphylococcusCepidermidis:MSSE),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusepidermid-is:MRSE)各C1眼,コリネバクテリウム属をC2眼で認め,9眼中C5眼が結膜.やマイボーム腺の常在細菌であった.そのほかは角膜所見と治療効果からグラム陰性桿菌(gramnega-tiverod:GNR)がC2眼,肺炎球菌がC1眼,真菌と考えられた症例がC1眼であった(図2).前房蓄膿はC9眼中C7眼で認めた.MGDおよび後部眼瞼炎の合併をC9眼中C8眼で認めた.治療開始から上皮化までに平均C66.6C±57.9日を要した.治療は,起炎菌がグラム陽性菌ならセフメノキシム点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼の頻回点眼+オフロキサシン眼軟膏,グラム陰性桿菌ならC1.5%レボフロキサシン点眼の頻回点眼+オフロキサシン眼軟膏,真菌なら自家調整したC1%ボリコナゾール頻回点眼+ピマリシン眼軟膏で加療した.薬剤感受性結果や治療に対する反応性からCMRSE/MRSA感染の関与が考えられた場合にはバンコマイシン眼軟膏を併用した.後部眼瞼炎が強い症例においてはテトラサイクリン系やマクロライド系抗菌薬の内服を併用した.上皮化後に眼圧コントロールのために毛様体冷凍凝固術をC2例,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術をC2例で施行した.CIII考案絶対緑内障眼では失明後数年が経過して重篤な感染性角膜潰瘍を生じることがあるが,患者の半数は自覚症状が乏しかった.起炎菌のうち半数は,結膜.やマイボーム腺内の常在細菌と考えられ,MGDを伴う後部眼瞼炎をほとんどの症例に合併していたことから,マイボーム腺内で増殖している細菌の関与が推測された.筆者らは,健常者の結膜.やマイボーム腺内の細菌叢は加齢とともにアクネ菌の存在量の低下し,高齢者ではコリネバクテリウムの存在量が増える個体が増加し,結果として細菌の多様性が減少することを報告して表1全患者の詳細No.発症年齢性別病型失明から発症までの期間眼圧起炎菌上皮化までの日数抗緑内障点眼数その他点眼数MGDの合併C186歳女性CNVG3.1年C.真菌62日2本1本+276歳男性CNVG3.3年C46CmmHgCMSSA51日0本2本C.366歳女性CNVG1.75年C21CmmHgCCorynebacteriumsp15日0本1本+468歳女性CNVG4.2年C91CmmHgCMRSE98日0本1本+590歳男性CPACG不明C66CmmHgCCorynebacteriumsp23日0本0本+679歳女性CPOAG4年以上C80CmmHg肺炎双球菌177日3本1本+788歳女性CNVG不明C.GNR133日0本0本+870歳女性CPOAG13年C51CmmHgCGNR25日0本2本+977歳女性CNVG10年C29CmmHgCMSSE15日1本3本+平均C77.8±8.8歳C5.2±4.5年C54.9±25.7CmmHgC66.6±57.9日起炎菌については細隙灯顕微鏡による角結膜所見,角膜潰瘍および結膜.擦過物の塗抹鏡検,培養検査,抗菌薬治療効果から総合的に同定・推定した.図1緑内障病型いる7).また,筆者らが過去に行った検討では,感染性角膜潰瘍の発症年齢にはC20歳代とC70歳代のC2つのピークがあり,高齢者では緑内障点眼使用とCMGDが発症に関与していること,特に緑内障患者の起炎菌は耐性菌の割合が高いことなどを報告している8).加齢に伴いマイボーム腺機能は低下しCMGD有病率が増加すること9),緑内障点眼薬の使用によりCMGDの有病率が増加するという報告などもあり10,11),緑内障点眼を使用している高齢者はCMGDを生じていることを念頭に診療にあたる必要がある.本検討でもCMGDの合併は9眼中C8眼で認められ,マイボーム腺開口部周囲の充血や腫脹などを伴った後部眼瞼炎を生じており,マイボーム腺内の細菌増殖が絶対緑内障眼の感染性角膜潰瘍に関与している可能性が推測された.MGDを合併していなかったC1例では,防腐剤を含まない人工涙液と眼軟膏を使用しており,緑内障点眼の使用はなかった.絶対緑内障眼では,持続的な高眼圧による角膜上皮浮腫や,長期間に及ぶ複数の緑内障点眼薬の使用による角膜知覚低下が上皮障害の原因となり,充血に対して漫然と使用されるステロイド点眼は易感染性を助長すると考えられる.本検討では,失明後も継続して緑内障点眼薬使用していた症例は3例で,使用期間は(診療録で確認できる範囲で),2年,3年C9カ月,47年と長期間であった.また,多くの緑内障点眼薬に防腐剤として添加されている塩化ベンザルコニウムは,角膜上皮障害12),結膜杯細胞の減少13),角膜創傷治癒の遅延14)などの影響を及ぼすため,絶対緑内障眼では複数の緑内障点眼を継続使用していると薬剤毒性による角膜上皮障害により易感染状態となり,いったん感染が成立すると,上皮修復に長期間を要すると考えられる.本研究の症例は,感染性角膜潰瘍発症前に高眼圧による眼痛の訴えはなかった.絶対緑内障眼のおもな治療は疼痛コントロールを目的とした眼圧下降が中心とされるが,長期に及ぶ複数の点眼治療は感染性角膜潰瘍の発症リスクともなりうるため,点眼薬の使用を極力減らした状態で管理をすることが重要である.そのため,濾過手術(線維柱帯切除術やインプラント手術)や,房水産制を低下させる毛様体冷凍凝固術や毛様体光凝固術が適応となる場合がある1).また,減圧手術が無効あるいは適応にならず疼痛コントロールができない場合は,眼痛を軽減するための最終手段として眼球摘出術や眼球内容除去術が選択肢となる.しかし,眼球摘出は心理面の負担も大きく患者の理解が得られないことも多い.当院ではマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(Iridex社,CCYCLOG6)を行い15),角膜上皮浮腫が生じない程度の眼圧コントロールを得ることで将来的な再感染の予防にもなると考えている.一方で,本研究は単一施設の後ろ向き研究であり,サンプルサイズが限られているため,統計学的な検出力には限界があり,絶対緑内障眼における感染性角膜潰瘍の臨床的特徴についてさらなるデータの蓄積が必要である.絶対緑内障眼は,受診していても診察そのものが行われていない症例も多いのではないかと想像される.高眼圧に伴う角膜上皮浮腫の持続による上皮バリア機能の低下,緑内障点眼使用による角膜知覚の低下,薬剤性角膜上皮障害,さらにはCMGDの合併や慢性炎症に伴う眼表面やマイボーム腺の常在細菌叢の変化が感染性角膜潰瘍の発症要因となっている可能性が示唆された.絶対緑内障眼こそ,眼圧測定とともに眼瞼縁を含めた眼表面全体の診察を丁寧に行うことが不可欠であり,点眼薬を整理し,角膜上皮障害がない状態を維持することが重篤な感染性角膜潰瘍の予防において重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)阿部春樹,白柏基宏:高齢患者の眼科手術緑内障絶対緑内障眼球摘出も含めて.臨眼48:120-121,C19942)小室青,横井則彦,西田幸二ほか:角膜上皮浮腫における角膜上皮バリアー機能の評価.日眼会誌C99:683-686,C19953)VanWentC,AlalwaniH,BrasnuEetal:[Cornealsensi-tivityinpatientstreatedmedicallyforglaucomaorocularhypertension].JFrOphtalmolC34:684-690,C20114)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,C20065)鈴木崇,江口洋,戸所大輔ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌127:859-895,C20236)天野史郎,島崎潤,横井則彦ほか:マイボーム腺機能不全診療ガイドライン.日眼会誌127:109-228,C20237)SuzukiCT,CSutaniCT,CNakaiCHCetal:TheCMicrobiomeCofCtheCMeibumCandCOcularCSurfaceCinCHealthyCSubjects.CInvestOphthalmolVisSciC61:18,C20208)柴田学,張佑子,曽田里奈ほか:当科におけるC10年間の感染性角膜潰瘍の起炎菌と薬剤感受性.あたらしい眼科C40:243-247,C20239)AritaCR,CMizoguchiCT,CKawashimaCMCetal:MeibomianCglandCdysfunctionCandCdryCeyeCareCsimilarCbutCdi.erentCbasedonapopulation-basedstudy:TheHirado-TakushiC-maStudyinJapan.AmJOphthalmolC207:410-418,C201910)KimJ.H.,ShinY.U.,SeongMetal:Eyelidchangesrelat-edCtoCmeibomianCglandCdysfunctionCinCearlyCmiddle-agedCpatientsCusingCtopicalCglaucomaCmedications.CCorneaC37:C421-425,C201811)UzunosmanogluE,MocanMC,KocabeyogluSetal:Mei-bomianglanddysfunctioninpatientsreceivinglong-termglaucomamedications.CorneaC35:1112-1116,C201612)KimCYH,CJungCJC,CJungCSYCetal:ComparisonCofCtheCe.cacyCofC.uorometholoneCwithCandCwithoutCbenzalkoni-umCchlorideCinCocularCsurfaceCdisease.CCorneaC35:234-242,C201613)KahookMY,NoeckerRJ:Comparisonofcornealandcon-junctivalCchangesCafterCdosingCofCtravoprostCpreservedCwithCsofZia,ClatanoprostCwith0.02%CbenzalkoniumCchlo-ride,CandCpreservative-freeCarti.cialCtears.CCorneaC27:C339-343,C200814)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcor-nealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailableClatanoprostCandCtravoprostCinCratCdebridedCcor-nealepithelium.JOleoSciC59:135-141,C201015)SinhaCA,CRahmanA:CyclocryotherapyCinCabsoluteCglau-coma.IndianJOphthalmolC32:77-80,C1984***

両眼に渦状混濁を伴ったLisch 角膜ジストロフィが疑われる 1 例

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1459.1463,2025c両眼に渦状混濁を伴ったLisch角膜ジストロフィが疑われる1例竹澤由起*1井上英紀*1鳥山浩二*1坂根由梨*1鎌尾知行*1,2田坂義孝*2溝上志朗*1,2白石敦*1大橋裕一*2*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2南松山病院眼科CACaseofSuspectedLischEpithelialCornealDystrophywithBilateralVortexKeratopathyYukiTakezawa1),HidenoriInoue1),KojiToriyama1),YuriSakane1),TomoyukiKamao1,2)C,YoshitakaTasaka2),ShiroMizoue1,2)C,AtsushiShiraishi1)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospitalC目的:Lisch角膜上皮ジストロフィ(LECD)は羽毛状の角膜混濁を特徴とする常染色体優性遺伝疾患である.ライソゾーム関連蛋白であるCMCOLN1遺伝子変異が原因の一つとされるが,わが国でCLECDの報告はない.今回,片眼のカブトガニ様上皮混濁と両眼の渦状混濁を伴ったCLECDが疑われるC1例を経験した.症例:56歳,女性.緑内障に対し点眼加療中に右眼の霧視を訴えた.右眼角膜中央部にカブトガニ様の上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.全身疾患や特記すべき薬剤の服用歴はなく,生体共焦点顕微鏡(IVCM)では,病変部に高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が観察された.結論:渦状混濁を伴う点は既報とは異なるが,特有の上皮混濁とIVCM所見からCLECDが疑われた.IVCM所見はライソゾーム関連疾患の角膜混濁とも合致しており,本例はCLECDの新たな表現型である可能性が考えられた.今後は確定診断のためCMCOLN1遺伝子変異の検索や混濁病変の病理学的検索を含めた精査を行う必要がある.CPurpose:Lischepithelialcornealdystrophy(LECD)ischaracterizedbyfeatheryopacityarisingfromthelim-buswithautosomaldominantinheritance,andisthoughttobecausedbyageneticmutationofMCOLN1,alyso-some-associatedCprotein,CwhichChasCnotCpreviouslyCbeenCreportedCinCJapan.CHereinCweCreportCaCcaseCofCsuspectedCLECD.CCaseReport:AC56-year-oldCfemaleCcomplainedCofCblurredCvisionCinCherCrightCeye.CSlit-lampCexaminationCrevealedthepresenceofacrab-shapedepithelialopacityatthecenterofthecorneaoftherighteyeandbilateralvortexCkeratopathy.CInCvivoCconfocalmicroscopy(IVCM).ndingsCshowedCthatCtheClesionCconsistedCofCclustersCofCepithelialCcellsCwithChyperre.ectiveCcytoplasmCandChypore.ectiveCnuclei.CConclusions:AlthoughCvortexCkeratopa-thydi.eredfrompreviousreports,thecrab-shapedepithelialopacityandcharacteristicIVCM.ndingssupportedtheCdiagnosisCofCLECD.CSuchCIVCMC.ndingsCareCconsistentCwithCthoseCofClysosomalCstorageCdiseases,CsuggestingCthatvortexkeratopathymaybeanovelphenotypeofLECD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1459.1463,C2025〕Keywords:Lisch角膜上皮ジストロフィ,角膜上皮混濁,渦状混濁,生体共焦点顕微鏡,ライソゾーム.Lischep-ithelialcornealdystrophy,cornealepithelialopacity,vortexkeratopachy,invivoCconfocalmicroscopy,lysosome.CはじめにLisch角膜上皮ジストロフィ(LischCepithelialCcornealdystrophy:LECD)は,1992年にCLischらが最初に報告した常染色体顕性の遺伝性疾患で,両眼性あるいは片眼性の境界明瞭な羽毛状の角膜上皮混濁を臨床的な特徴とする.混濁病変の多くは角膜輪部から連続性を有し,通常は無症状であるが,病変が中央部に達すると霧視や視力低下を訴えることがある.病理学的には翼細胞層を中心に細胞質内に多数の空胞変性像が認められるのが特徴で,近年はライソゾームに関連する蛋白であるムコリピンC1(MCOLN1)の遺伝子変異が〔別刷請求先〕竹澤由起:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiTakezawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANC右眼左眼図1当院初診時の前眼部写真右眼は角膜中央にカブトガニ様の混濁病変を認め,また,両眼とも角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.フルオレセイン染色では明らかな上皮病変は認めなかった.原因の一つであることが明らかにされている.わが国では,類似症例の報告はこれまでに散見されるが,LECDとしての報告はない.今回,片眼の特異なカブトガニ様角膜上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を主徴とし,LECDが疑われるC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:55歳,女性.主訴:右眼霧視既往歴:子宮筋腫,虫垂炎,不妊治療で多胎妊娠の既往はあるが,アミオダロンなどの特記すべき薬剤の服用歴はない.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の正常眼圧緑内障のため南松山病院においてカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼薬C1剤で両眼加療中であったが,前医での定期診察時に約C1カ月前からの右眼霧視の訴えがあり,右眼角膜中央に白色上皮混濁および両眼の角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.1週間後に原因精査のため愛媛大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時所見および経過:視力は右眼1.2Cp(1.2C×cyl.0.50DAx80°),左眼C1.2(1.2×+0.50D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.右眼角膜中央にカブトガニ様の白色上皮混濁,両眼角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めたが,フルオレセイン染色では両眼とも明らかな上皮欠損などの所見は認めなかった(図1).両眼とも正常眼圧緑内障の他は中間透光体および網膜に異常を認めなかった.生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalmicroscopy:IVCM)で角膜混濁病変部を観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁の両方ともに,高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が集簇して観察された(図2,3).初診時よりC6カ月後に観察したところ,右眼のカブトガニ様混濁は消退しており,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁は形状にやや変化がみられた(図4).CII考按今回,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁と片眼にカ図2右眼角膜混濁病変部の生体共焦点顕微鏡(IVCM)画像所見上段:3点ともカブトガニ様混濁部の画像.下段:2点とも渦状混濁病変部のCIVCM画像.どちらも低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ上皮細胞が集簇していた.図3左眼角膜混濁病変部のIVCM画像所見左眼の渦状混濁病変部のCIVCM画像である.右眼と同様,低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ角膜上皮細胞が確認された.ブトガニ様角膜上皮混濁を呈するC1症例を経験し,LECDの可能性を疑った.LECDは,片眼または両眼の羽毛状・渦状の角膜上皮混濁を呈し,病変部の光学顕微鏡所見では細胞質空胞化を特徴とする新たな上皮ジストロフィとして,LischらがC1992年に最初に報告した1).Kurbanyanら2)は,LECDに対しCIVCMによる検討を行い,病変部において角膜上皮全層にわたる高輝度な細胞群を観察したところ,病変部と正常部の境界はきわめて明瞭であり,低輝度な核と高輝度な細胞質は細胞の空胞変性という病理学的特徴によく一致すると報告している.わが国においては,宇野らが輪部から連続するオタマジャクシ様の角膜混濁の症例をC1994年に報告している3)が,LECDとしては報告されていない.しかし,その臨床所見や,病巣掻爬後もすぐに輪部から混濁が再発したといった経図4初診時より6カ月後の前眼部写真a:右眼.b:左眼.右眼にあったカブトガニ様混濁は消退し,両眼の渦状混濁も形状に変化がみられた.過,さらに掻爬後の病変上皮に空胞変性がみられたという病理所見など,既報のCLECDと一致する点が多い.わが国ではこのようにCLECDに類似した症例の報告は散見されるものの,LECDとしての報告は未だない.本症例からCLECDの可能性を考えた理由として,IVCMでの所見があげられる.本症例の病変部をCIVCMで観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁ともに同一であり,Kurbanayanらの報告2)に一致した所見が得られた.鑑別疾患としてはCMeesmann角膜ジストロフィや上皮基底膜ジストロフィが考えられたが,本症例ではCmicrocyst様の角膜上皮所見やフルオレセイン染色での上皮欠損や上皮の乱れは認めず,また角膜上皮基底膜病変も認めなかった.角膜渦状混濁をきたす点ではCFabry病やアミオダロンなどの薬剤起因性の角膜上皮異常4)も考えられるが,本症例では家族歴はなく,アミオダロンなどの薬剤投与歴もなかった.しかし,本症例が既報のCLECDと異なる部分もあげられる.一つは混濁病変が輪部と連続していない点,さらに,アミオダロン角膜症を思わせる渦状混濁を伴う点である.既報におけるCLECDの病変は輪部から連続した角膜混濁で掻爬後も再発が多い5)とされ,病変は輪部の上皮幹細胞より由来していると考えられている5)が,詳細は未だ不明である.また,既報のCLECDにおける混濁病変の形状は羽毛状や棍棒様,車軸様などさまざまあるが,アミオダロン角膜症様の渦状混濁の報告はみられていない.本症例ではカブトガニ様混濁とともに形状の異なる二つの混濁病変が同一眼に認められ,それぞれ別の病態によるものか,もしくは同一の病態による可能性が考えられた.IVCMでは二つの形状の異なる混濁病変はともに高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ同一の所見が得られ,形状は異なるものの混濁病変としては同一の病態の可能性が高いと推測される.また,本症例では半年間の経過中にカブトガニ様混濁が自然消退していた.アミオダロン様渦状混濁も形状変化をきたしており,二つの混濁病変はともに角膜上皮の流れとともに形状変化,自然脱落した可能性が考えられた.これまでにLECDにおける角膜混濁が自然消退した報告はなく,既報ではCLECDの混濁病変に対する治療として,単純掻爬やソフトコンタクトレンズ装用の報告があるが,再発も多い5).また,近年ではC5-フルオラシル(.uorouracil:FU)点眼の使用6)や僚眼からの自己輪部角膜移植などの報告7)もある.本症例の混濁病変は輪部と連続しておらず,病変の由来は不明であるが,今後再発する可能性も十分考えられる.LECDの遺伝子異常についてC2000年のCLischらの報告8)では,LECDの家系についてCMeesmann角膜ジストロフィに関連したケラチンCK3,K12の遺伝子異常の有無を検索し,LECDはCMeesmann角膜ジストロフィとは遺伝子的に異なることが確認された.さらに,2024年のCPattersonらの報告9)では,LECDのC13家系を包含した多施設スタディにおいて,第C19染色体上にあCMCOLN1の遺伝子変異が判明した.発症は基本的にヘテロ接合体のハプロ不全により生じるとされているが,疾患頻度から考えるとこの遺伝子変異に加えて,プラスCaの因子が必要なのではないかと推論されている.これらの報告より,以前CLECDの遺伝形式はCX連鎖性とされていた8)が,2024年の国際角膜ジストロフィ分類委員会(InternationalCCommitteeCforCClassi.cationCofCCor-nealDystrophies:IC3D)の報告10)では常染色体顕性に改められた.本症例では,患者の親に特記すべき眼科疾患の既往はなく,患者の子には現時点で明らかな角膜上皮混濁は認めていない.IC3Dの報告10)では,LECDの家族性の症例はすべて両眼性であり,孤発例では片眼性または両眼性であるとされている.本症例も孤発例の可能性はあるが,今後患者本人および家族のCMCOLN1遺伝子変異の検索を検討していく方向である.LECDにおいて変異が報告されたCMCOLN1遺伝子は,ムコリピンC1というライソゾームの膜状にあるイオンチャネル蛋白をコードしている.そのため,LECDの発症にはライソゾームが関与していると考えられている9).ライソゾームはほかの疾患における角膜混濁にも関連しており,ライソゾーム内への薬剤の蓄積がかかわるアミオダロン角膜症や,ライソゾーム病であるCFabry病での角膜混濁がよく知られている.それらの疾患におけるCIVCMの所見でも,角膜混濁部と正常部の境界は明瞭であり,混濁部では高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ上皮細胞群が共通してみられることが報告されている11).この「高輝度な細胞質」の本態は,病理学的には異常物質を含んだ多数のライソゾームの集積像であり,アミオダロン角膜症やCFabry病などのライソゾーム関連疾患の角膜混濁に特有の所見と考えられる11).LECDにおいても,病変部の電子顕微鏡的検索では空胞変性の本態はCautophagosomeやCautolysosomeと考えられており12),IVCMの所見含めライソゾーム関連疾患の角膜混濁と共通している.本症例の所見もCLECDやライソゾーム関連疾患の所見と合致しており,ほかに渦状角膜を生ずる原因がないことを踏まえれば,LECDの新たな表現型,もしくはライソゾーム機能異常に伴う角膜混濁の可能性が示唆された.しかし,本症例ではCIVCMの所見以外での病理学的検索や遺伝子的検索が行われておらず,確定診断には至っていない.よって今後,家族の遺伝的スクリーニングや責任遺伝子とされCMCOLN1遺伝子変異の検索,また,可能であれば混濁病変部の病理学的検査を含めたさらなる精査を行う必要がある.本論文は第C78回臨床眼科学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LischCW,CSteuhlCKP,CLischCCCetal:ACnew,Cband-shapedCandwhorledmicrocysticdystrophyofthecornealepithe-lium.AmJOphthalmolC114:35-44,C19922)KurbanyanK,SejpalKD,AldaveAJetal:Invivoconfo-calCmicroscopicC.ndingsCinCLischCcornealCdystrophy.CCor-neaC31:437-441,C20123)宇野敏彦,大橋裕一,井上幸次ほか:輪部から発生した再発性角膜上皮混濁のC1例.臨眼C48:709-713,C19944)RaizmanCMB,CHamrahCP,CHollandCEJCetal:Majorreview:Drug-inducedCcornealCepithelialCchanges.CSurvCOphthalmolC62:286-301,C20175)LischCW,CWasielica-PoslednikCJ,CLischCCCetal:ContactClens-inducedregressionofLischepithelialcornealdystro-phy.CorneaC29:342-345,C20106)MonaM,ArzeK,GalorAetal:RecurrentLischepitheli-alCcornealCdystrophyCtreatedCwith5-.uorouracil:ACcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC42:645-647,C20237)Cano-OrtizA,VentosaAS,CrucesTGetal:Lischcorne-aldystrophy:AutologousClimbalCtransplantationCasCde.nitivetreatment.JFrOphtalmolC46:e91-e92,C20238)LischW,TinerAB,Oe.nerFetal:LischcornealdystroC-phyisgeneticallydistinctfromMeesmanncornealdystro-phyCandCmapsCtoCXp22.3.CAmCJCOphthalmolC130:461-468,C20009)PattersonCK,CChongCJX,CChungCDDCetal:LischCepithelialCcornealCdystrophyCisCcausedCbyCheterozygousCloss-of-functionCvariantsCinCMCOLN1.CAmCJCOphthalmolC258:C183-195,C202410)JayneCSCW,CChristopherCJCR,CBertholdCSCetal:IC3DCClassi.cationCofCCornealCDystrophies-EditionC3.CConreaC43:466-527,C202411)IkegawaCY,CShiraishiCA,CHayashiCYCetal:InCVivoCConfo-calCMicroscopicCObservationsCofCVortexCKeratopathyCinCPatientsCwithCAmiodarone-InducedCKeratopathyCandCFabryDisease.JOphthalmolC2018:5315137,C201812)GrauCAE,CGonzalesCS,CZoroquiainCPCetal:EvidenceCforCautophagicvesiclesinapatientwithLischcornealdystro-phy.ArqBrasOfthalmolC83:146-148,C2020***

Mars Letter Contrast Sensitivity Test で測定される コントラスト感度に及ぼす検査距離の影響

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1454.1458,2025cMarsLetterContrastSensitivityTestで測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響東本美於川嶋英嗣愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻CE.ectofTestDistanceonContrastSensitivityMeasuredUsingtheMarsLetterContrastSensitivityTestMioTomotoandHidetsuguKawashimaCMajorofVisionSciences,DepartmentofMedicalSciences,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC目的:MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(Marstest)において測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響をCBangerterフィルター装用時および非装用時で検討する.対象および方法:眼疾患を有さない矯正視力C1.0以上のC14名(平均年齢C21.14±0.36歳)を対象とした.Marstestを用いて,検査距離C40Ccm,27Ccm,18CcmのC3条件におけるコントラスト感度の測定をCBangerterフィルター装用時と非装用時で行った.結果:フィルター非装用条件では,検査距離によるコントラスト感度(logCS)の有意な変化は認められなかった(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS,27Ccm:1.811±0.040ClogCS,18Ccm:1.817±0.041ClogCS).一方,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほど測定されるコントラスト感度が有意に上昇した(p<0.001)(40Ccm:0.991±0.146ClogCS,27Ccm:1.120C±0.124ClogCS,18Ccm:1.229±0.093ClogCS).結論:Bangerterフィルターで人工的にコントラスト感度を低下させた条件下では,検査距離を短縮し,それに伴い視標サイズが大きくなることで,測定されるコントラスト感度が上昇することが示唆された.CPurpose:Toinvestigatethee.ectoftestdistanceoncontrastsensitivity(CS)measuredusingtheMarsLet-terCContrastCSensitivityCTestCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CSubjectsandMethods:ACtotalCofC14Csubjects(meanage:21.14±0.36years)withnooculardiseaseandcorrectedvisualacuity.1.0participatedinthisstudy.CSCwasCmeasuredCusingCtheCMarsCLetterCContrastCSensitivityCTestCatC40,C27,CandC18Ccm,CbothCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CResults:InCtheCun.lteredCcondition,CtestCdistanceCexertedCnoCe.ectConCS(logCS)(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS;27Ccm:1.811±0.040ClogCS;18Ccm:1.817±0.041ClogCS),CwhereasCinCtheCBangerter-.lteredcondition,CSshowedsigni.cantimprovementwithadecreaseintestdistance(p<0.001)(40cm:0.991±0.146logCS;27cm:1.120±0.124logCS;18cm:1.229±0.093logCS).Conclusion:WhenCSisarti.ciallyreducedusingCBangerterC.lters,CdecreasingCtheCtestCdistanceCandCincreasingCtheCoptotypeCsizeCmayCimproveCCSCmeasure-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1454.1458,C2025〕Keywords:コントラスト感度,MarsLetterContrastSensitivityTest,検査距離,バンガーターフィルター.Ccontrastsensitivity,MarsLetterContrastSensitivityTest,testdistance,Bangerter.lter.Cはじめにコントラスト感度とは,輝度の相対的な違いに基づく輝度コントラストの検出閾値の逆数として定義され,ロービジョン患者における物体と背景の識別や顔認知1),歩行時の段差の検出2)など,日常生活における視覚を用いた行動と密接に関係する3)視覚機能の指標である.MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(以下,MarsCtest)4)はCPelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartと同じCSloan文字を視標として採用したコントラスト感度検査表である.より細かいコントラストの段階で測定が可能であり,持ち運びが容易で簡便に利用〔別刷請求先〕川嶋英嗣:〒480-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学健康医療科学部Reprintrequests:HidetsuguKawashima,Ph.D.,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakute,Aichi480-1197,JAPANC1454(90)できる点が特徴である.Marstestの標準検査距離はC40Ccmに設定されており,視標の大きさは視角2.5°の1種類のみである.そのため,視力が低下すると視標の判読が困難になり,コントラスト感度の測定が制限される可能性がある.この問題への対応策として,検査距離を短縮し,視標の網膜像サイズを拡大する方法が考えられる.しかし,この方法がコントラスト感度に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究では,検査距離の短縮がCMarstestにおけるコントラスト感度測定に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本研究は基礎的データの収集を目的としており,視覚正常者を対象とした.また,コントラスト感度が低下した状況においても,検査距離が測定値に及ぼす影響を検討した.実際のロービジョン患者を対象とする場合,視機能に個人差が大きく,同一条件下で検査距離の影響を評価することは困難である.加えて,コントラスト感度にはさまざまな視覚要因,たとえば視野異常5)や眼振6)などが影響を及ぼす可能性があり,それらすべてを統一的に制御したうえで実験を行うことは現実的にはむずかしい.さらに多数の条件を要する検討をロービジョン患者に対して実施することは,研究の初期段階においては倫理的な制約も伴う.以上の理由から本研究では,視覚正常者に対し,Bangerterフィルターを装用させて人工的にコントラスト感度を低下させた条件下で検討を行った.Bangerterフィルター装用時には,全空間周波数帯域にわたるコントラスト感度の低下を生じ,とくに高空間周波数帯域において顕著な低下が報告されている7).このような傾向は一部のロービジョン患者のコントラスト感度関数においても観察されることが報告されており8),本研究の結果は,特定のタイプのコントラスト感度低下を示すロービジョン患者の状態を模擬していると考えられる.本研究は,二つの実験で構成されている.実験C1では,検査距離がCMarstestによるコントラスト感度に及ぼす影響を検討した.実験C2では,実験C1の結果を踏まえ,視標サイズがコントラスト感度に与える影響をさらに詳細に検討した.両実験ともに,視覚正常者を対象とし,Bangerterフィルター装用の有無を条件として実施した.CI方法1.対象本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻倫理委員会の承認(健視倫理C2024-05)を得て実施した.研究対象者は,眼疾患を有さず,視標を明視するために十分な調節力のある矯正視力1.0以上のC14名(平均年齢C21.14C±0.36歳)とした.実験開始前に目的と手順を研究対象者に十分説明し,自由意志によるインフォームド・コンセントを取得した.測定は,非優位眼を遮蔽し,優位眼のみで行った.優位眼はCHole-in-card法で決定した.[実験1]コントラスト感度の測定には,Marstest(MarsPercep-trix製)のC3種類の検査表を用いた(図1).この検査表はバックライトが備わっていないため,天井設置型CLED照明による室内照明下で測定を実施した.検査表表面の照度は340Clxであり,検査表の白地部分の輝度(視標背景輝度)はC85Ccd/m2であった.検査距離条件はC40Ccm,27Ccm,18Ccmの3条件(表1),フィルター条件は装用と非装用のC2条件とした.装用するCBangerterフィルター(Ryser製)は,濃度0.1およびC0.8のフィルターC2枚を重ね,ゴーグルに貼付して使用した.各研究対象者に対し,フィルター条件ごとの検査距離条件の測定順序を無作為化し,Marstestの所定の手順に基づいて測定を行い,対数コントラスト感度(logCS)を算出した.[実験2]フィルター装用条件下と非装用条件下で実施した.視標はCMarstestと同じCSloan文字であり,iMac21.5Cinch(Apple製)で動作するPsykinematix(v2.6GPUedition,KyberVision製)9)でガンマ補正を行ったCCRTディスプレイ(MITSUBISHI製CRDF223H)上に無作為順でC1文字ずつ呈示した.測定は暗室内で行い,視標背景輝度はC85Ccd/mC2であった.視標サイズ条件はC0.068.2.18ClogMAR(視角C0.098.12.66°)の範囲のC7条件であり,視標サイズ条件ごとに階段法によるコントラスト感度の測定を行った.CII結果[実験1]フィルター装用条件における平均視力はC0.14(0.85C±0.13logMAR),非装用条件では平均視力1.58(C.0.20±0.06logMAR)であった.測定結果を図2に示す.対応のある二元配置分散分析の結果,検査距離の主効果(F(2,26)=52.31,p<0.001),フィルターの主効果(F(1,13)=764.00,p<0.001),検査距離とフィルターの交互作用(F(2,26)=36.51,p<0.001のいずれも統計的に有意であった.交互作用の解釈のために,検査距離の単純主効果検定を行った.その結果,フィルター非装用条件では検査距離による有意な差は認められなかった(p=0.19).一方,フィルター装用条件では検査距離の単純主効果が有意であった(p<0.001).多重比較(Sha.er法)により検査距離条件間の比較を行った結果,フィルター装用条件ではすべての検査距離条件間で有意差が認められた(p<0.001).以上の結果から,検査距離を短くすることで視標の網膜像サイズが大きくなった場合に,フィルター非装用条件ではコントラスト感度の変化は認められなかった.一方で,フィルター装用条件では検査距離が短いほどコントラスト感度が有意に上昇することが示された.図1MarsLetterContrastSensitivityTest左からCForm1,Form2,Form3.表1検査距離条件と対応する視標の視角,logMAR,小数視力,空間周波数検査距離視標の視角ClogMAR小数視力空間周波数(cycles/degree)C40CcmC2.5°C1.48C0.033C1.00C27CcmC3.7°C1.65C0.023C0.68C18CcmC5.6°C1.82C0.015C0.45C[実験2]図3では,視標サイズ(logMAR)を横軸,対数コントラスト感度(logCS)を縦軸にとり,フィルター条件別にデータをプロットしている.それぞれのフィルター条件ごとに二次関数をあてはめた.図2から曲線の形状はフィルター条件によって異なっていることが確認された.フィルター非装用条件では視標サイズが大きい場合と小さい場合の両側でコントラスト感度が低下し,ピーク付近でなだらかに変化する区間を示した.一方で,フィルター装用条件では視標サイズ(logMAR)が大きいほどコントラスト感度が上昇する形状を示した.さらに,図2に示したCMarstestを三つの検査距離条件(40cm,27cm,18cm)で実施した際の視標サイズに相当する大きさ(1.48,1.65,1.82ClogMAR)に注目した.これらのデータが二次関数の曲線上で含まれる区間は,フィルター条件によって異なっていた.非装用条件では,これらのデータはピーク付近のなだらかに変化する区間に位置していた.一方で,装用条件では曲線の増加区間に位置していた.このことから,Marstestにおける検査距離の影響の違いは,フィルター条件ごとにCSloan文字を視標としたときのコントラスト感度関数の形状が異なるためであることが示唆された.CIII考按Marstestによるコントラスト感度の測定において,検査距離を短くしても,フィルター非装用条件ではコントラスト感度に大きな変化は認められなかった.一方で,Bangerterフィルターを装用して人工的に感度を低下させた条件では,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する傾向が確認された(実験1).この結果は,視標として文字刺激を用いたときのコントラスト感度関数の形状に起因することが示唆された(実験2).視覚正常者においては,正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度関数は,一般に高空間周波数および低空間周波数で感度が低下するバンドパス型の形状を示す10).一方で,視標として文字を用いた場合には,視標サイズが大きくなるにつれてコントラスト感度が上昇するローパス型の傾向が報告されている11).本研究では,先行研究11)で検討された最大視標サイズ(1.18logMAR)よりもさらに大きいC2.18logMARまで測定範囲を拡張し,コントラスト感度を測定した.その結果,図3に示すとおり,大きな視標サイズの範2.0相当するMarstestの検査距離40cm3.0対数コントラスト感度(logCS)対数コントラスト感度(logCS)2.01.00.001020304050検査距離(cm)図2検査距離と対数コントラスト感度の関係エラーバーは標準偏差を示している.フィルター非装用条件では0.01.02.03.0検査距離によるコントラスト感度の違いは認められなかった.一方で,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほどコントラスト感度が有意に上昇した.囲において顕著な感度の低下は観察されなかった.文字視標のコントラスト感度関数がローパス型の傾向を示す要因としては,広範囲の空間周波数成分を含む文字刺激の認識において,文字サイズの拡大に伴う認識に寄与する空間周波数帯域の変化が関係していることが示唆されている12).しかし,このメカニズムの詳細は十分に解明されておらず,今後のさらなる検討が求められる.ロービジョン患者のコントラスト感度関数には,(A)高空間周波数帯域のみでの感度低下,(B)全空間周波数帯域にわたる均一な感度低下,(C)全空間周波数帯域にわたる不均一な感度低下,(D)中間周波数帯域のみでの感度低下のC4種類8)があるとされている.しかし,この分類は正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度の測定結果に基づくものである.ロービジョン患者において,文字刺激を視標とした場合に,視標サイズごとのコントラスト感度から得られるコントラスト感度関数の種類については十分に明らかになっていない.文字刺激を視標とした場合のコントラスト感度関数の形状が,正弦波グレーティングを視標とした場合と同様に複数種類存在するのであれば,Marstestにおける検査距離の短縮に伴うコントラスト感度の変化は,これらの形状に依存する可能性がある.たとえば,図3に示したフィルター装用条件のように,視標サイズが小さい区間で顕著にコントラスト感度が低下する場合,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する可能性がある.一方で,コントラスト感度が視標サイズ全体にわたって均一に低下する場合には,検査距離を短くしてもコントラスト感度に変化は生じない可能視標サイズ(logMAR)図3視標サイズと対数コントラスト感度の関係横軸は視標サイズを示しており,logMAR値が大きいほど視標サイズが大きくなる.曲線は,各条件に当てはめた二次関数の回帰曲線であり,フィルター非装用条件ではCy=.0.552×2+1.858x+0.150,フィルター装用条件ではCy=.0.713×2+3.046x.2.206であった.また,Marstestを三つの検査距離条件(40Ccm,27cm,18Ccm)で実施したときに視標サイズに相当するClogMAR値(1.48,1.65,1.82ClogMAR)が回帰曲線上でどの区間に含まれるかが,フィルター条件によって異なっていた.性がある.コントラスト感度関数において,とくにピークコントラスト感度は,歩行時の段差の検出など,視覚を用いた行動との関連から重要な指標とされている2).Marstestはこのピーク感度を測定する検査表として位置づけられている4).本研究のフィルター装用条件において,検査距離を短縮することでコントラスト感度が上昇したことは,標準検査距離C40Ccmでは視標サイズが小さく,ピーク感度に達していないことを示唆している.ただし,検査距離を短縮することは調節の影響が出る可能性がある.加えて,実験C1で使用した最短距離(18Ccm)でも視標サイズの拡大は検査距離C40Ccmのときと比べて約C2.2倍にとどまり,十分な視標サイズの種類を確保するには限界がある.したがって,視標サイズの選択肢を広げるためには,検査距離C1Cmで使用されるCPelli-RobsonCon-trastCSensitivityChartの活用が有効と考えられる.この検査表の視標サイズ(2.8°)はCMarstest(2.5°)とほぼ同等であり,本研究の知見を応用できる可能性があると期待される.あるいは,FreiburgCVisionCTest13)を大型ディスプレイ上で使用すれば,任意の視標サイズで測定が可能となり,測定方法の柔軟性をさらに高めることができる.検査距離を短くして視標サイズを拡大するときに,コントラスト感度がピークに達する視標サイズが明らかでない点は新たな課題となる.この点に関しては,文字視力値からピーク感度が得られる視標サイズを推定し,Pelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartにおける最適な検査距離を算出する方法が提案されている14).しかし,本研究では視力測定にLandolt環を用いたため,この推定方法の妥当性を検証することはできなかった.本研究にはいくつかの限界がある.本研究の結果は,Bangerterフィルターの装用により人工的にコントラスト感度を低下させた視覚正常者を対象としており,実際の眼疾患に起因する感度低下とは異なる条件下で得られたものである.このため,本研究の結果がすべてのロービジョン患者に当てはまるとは限らない.実際のロービジョン患者のコントラスト感度関数は多様であり8),異なる結果が得られる可能性もある.今後は,実際のロービジョン患者を対象とした実証的な検討を進めることが課題である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OwsleyCC,CSloaneME:ContrastCsensitivity,Cacuity,CandCtheCperceptionCof‘real-world’Ctargets.CBrCJCOphthalmolC71:791-796,C19872)MarronCJA,CBaileyIL:VisualCfactorsCandCorientation-mobilityperformance.AmJOptomPhysiolOptC59:413-426,C19823)WestCSK,CMunozCB,CRubinCGSCetal:FunctionCandCvisualCimpairmentCinCaCpopulation-basedCstudyCofColderCadults.CTheCSEECproject.CSalisburyCEyeCEvaluation.CInvestCOph-thalmolVisSciC38:72-82,C19974)ArditiA:ImprovingCtheCdesignCofCtheCletterCcontrastCsensitivitytest.InvestOphthalmolVisSciC46:2225-2229,C20055)HyvarinenL,RovamoJ,LaurinenPetal:Contrastsensi-tivityCfunctionCinCevaluationCofCvisualCimpairmentCdueCtoCretinitispigmentosa.ActaOphthalmol(Copenh)C59:763-773,C19816)HertleCRW,CReeseM:ClinicalCcontrastCsensitivityCtestingCinCpatientsCwithCinfantileCnystagmusCsyndromeCcomparedCwithage-matchedcontrols.AmJOphthalmolC143:1063-1065,C20077)鵜飼一彦,波呂栄子:バンガーターフィルターによるコントラスト感度の低下.VISIONC4:71-72,C19928)ChungSTL,LeggeGE:ComparingtheshapeofcontrastsensitivityCfunctionsCforCnormalCandClowCvision.CInvestCOphthalmolVisSciC57:198-207,C20169)BeaudotWHA:Psykinematix:ACnewCpsychophysicalCtoolforinvestigatingvisualimpairmentduetoneuraldys-functions.VISIONC21:19-32,C200910)CampbellFW,Robson,JG:Applicationoffourieranalysistothevisibilityofgratings.JPhysiolC197:551-566,C196811)AlexanderCKR,CDerlackiCDJ,CFishmanGA:ContrastCthresholdsCforCletterCidenti.cationCinCretinitisCpigmentosa.CInvestOphthalmolVisSciC33:1846-1852,C199212)MajajCNJ,CPelliCDG,CKurshanCPCetal:TheCr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小児霰粒腫の臨床的特徴および治療についての考察

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1449.1453,2025c小児霰粒腫の臨床的特徴および治療についての考察鈴木智*1,2三木岳*1宮平大*1大久保寛*1中路進之介*1南泰明*1*1地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CClinicalFeaturesandTreatmentofPediatricChalazionTomoSuzuki1,2)C,TakeruMiki1),HiroshiMiyahira1),HiroshiOkubo1),ShinnosukeNakaji1)andYasuakiMinami1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:小児霰粒腫の臨床的特徴および治療内容についてレトロスペクティブに検討する.対象と方法:2017年C1月からC2023年C7月に霰粒腫と診断したC15歳未満の小児例について,年齢,性別,発生部位,治療期間,治療内容について検討した.結果:症例はC63例(うちC53例が紹介例)で,平均年齢はC5.2歳,男児がC26例,女児がC37例であった.発生部位は上眼瞼(57.1%),眼瞼の中央C1/3(39.7%)が多かった.前医ではおもにキノロン系抗菌点眼薬が処方され(92.0%),平均治療期間C40日で当科紹介に至っていた.当院では,5例に外科的摘出術を施行し,残りC58例(92%)はマクロライド系の抗菌点眼薬および内服を中心とした保存的治療を施行し,平均C57日で軽快していた.結論:小児霰粒腫は女児にやや多く,マイボーム腺内の肉芽腫形成に関与していると想定されるアクネ菌に対し,脂溶性のマクロライド系抗菌薬治療が奏効すると考えられた.CPurpose:Toretrospectivelyanalyzetheclinicalcharacteristicsandtreatmentofpediatricchalazion.SubjectsandMethods:WeCreviewedCtheCcasesCofCchildrenCunderC15CyearsColdCdiagnosedCwithCchalazionCbetweenCJanuaryC2017andJuly2023,focusingonage,gender,location,treatmentduration,andmethodsapplied.Results:Atotalof63CcasesCwereCanalyzed,CincludingC53CreferredCcases.CTheCaverageCageCwasC5.2Cyears,CandC37CofCtheC63CpatientsCwereCfemale.CChalazionCwasCmostCcommonCinCtheCuppereyelid(57%)andCtheCcentralCthirdCofCtheeyelid(40%)C.CPriortreatmentwith.uoroquinoloneeyedropswasprescribedin92%,withanaveragetreatmentdurationof40daysbeforereferral.Atourinstitution,5casesunderwentsurgicalexcision,while58weremanagedconservativelywithCmacrolideCantibiotics,CachievingCresolutionCinCanCaverageCofC57Cdays.CConclusion:PediatricCchalazionCwasCslightlyCmoreCcommonCinCfemales,CandClipid-solubleCmacrolideCantibioticsCwereCe.ective,CtargetingCCutibacteriumCacnesCassociatedwithmeibomianglandgranulomas.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1449.1453,C2025〕Keywords:霰粒腫,小児,マクロライド系抗菌薬,アクネ菌.chalazion,Cchildhood,Cmacrolides,CCutibacteriumCacnes.Cはじめに霰粒腫は全年齢層に生じうる,日常診療において頻繁に遭遇する疾患である.その病態は,うっ滞したマイボーム腺分泌脂(以下,meibum)に対する慢性炎症性肉芽腫と考えられている.典型的な霰粒腫のヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色組織所見は,肉芽腫の中央に脂肪滴があり,その周囲を多核巨細胞,さらにはリンパ球や組織球が取り囲んでいる,いわゆる異物肉芽種(lipo-granuloma)である1),実際,掻爬した肉芽腫の脂質分析により,meibumを構成する正常な脂質の消失とコレステロールの増加が明らかにされており2),変質したCmeibumが肉芽腫形成の原因となっている可能性が考えられる.一方,Demodexbrevisを含むいくつかの病原体が危険因子として報告されているが,病因であることは未だ証明されていない3).一方,若年者のマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:CMRKC)4,5),とくにフリクテン型には霰粒腫の既往が多い.筆者らは,MRKCフリクテン型では,meibumの細菌培養結果4,5)や動物実験6)から,マイボーム腺内で増殖しているアクネ菌が角膜細胞浸潤の起炎菌である可能性が高いこと,アクネ菌をターゲットとした抗菌薬の選択によるマイボーム腺炎の治療が必須であることを報告してきた4,5).さらに,摘出霰粒腫の免疫組織学的染色により,肉芽腫形成にアクネ菌〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2MibuHigashitakadacho,Nakagyo-ku,Kyoto-city,604-8845,JAPANC人数(人)65■:男児■:女児432100123456789年齢(歳)図1年齢別の男児・女児の人数1011121314が関与している可能性を世界で初めて報告した7).これらのことから,霰粒腫の治療には,アクネ菌の関与を念頭に置いた抗菌薬の選択が最適であると考えられる.霰粒腫は乳幼児.小児に生じることもあり,大きいものになると機械的眼瞼下垂や惹起乱視による弱視のリスクが増加するため,遅滞のない治療が重要である8).霰粒腫の病態が異物肉芽腫であるという観点から,治療の基本は切開・掻爬とされ,トリアムシノロンの局所注射の有効性も報告されているが9),小児では局所麻酔下での外科的治療や結膜下注射は困難な症例が多い.これまで,霰粒腫は「非感染性」肉芽腫と考えられてきたため,治療に抗菌薬の投与は効果がないという報告もあるが10),日本の実臨床では,キノロン系抗菌点眼薬がほとんどの症例で使用されている.そこで,今回,京都市立病院(以下,当院)で経験した小児霰粒腫の臨床的特徴および治療内容についてレトロスペクティブに検討を行った.CI対象と方法対象はC2017年C1月.2023年C7月に当院眼科を受診し,霰粒腫と診断されたC15歳未満の小児C63例である.霰粒腫以外の眼科疾患を認めた症例は除外した.検討項目は年齢,性別,発生部位,治療内容,治療期間である.各数値は平均値±標準偏差(standarddeviation:SD)で表記した.本研究はヘルシンキ宣言に従っており,京都市立病院機構臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行ったものである(登録番号C841).CII結果平均年齢はC5.24C±4.15歳であり,性別は,男児がC26例(41.3%),女児がC37例(58.7%)とやや女児に多かった(stu-dent’st-test:p=0.16).年齢別の男女の人数を図1に示す.発生部位は,上眼瞼がC36例(57.1%),下眼瞼がC20例(37.1%),上下眼瞼がC6例(9.5%),不明C1例であった.眼瞼を三等分して耳側C1/3,中央C1/3,鼻側C1/3で検討すると,耳側C21例(33.3%),中央C25例(39.7%),鼻側C9例(14.3%)で,眼瞼の中央が多かった.眼瞼の複数の部位に多発していた症例がC6例(9.5%),不明C2例であった(図2).なお,多発例では,両眼上下眼瞼におけるマイボーム腺開口部のびまん性閉塞を認めたが,血管拡張は認めなかった.今回の観察期間では,再発例は認めなかった.63例のうち,他院からの紹介症例はC53例であった.前医での平均治療期間はC39.7C±55.6日で,十分な治療効果が得られないため当院紹介となっていた.前医では,抗菌点眼薬がC53例中C42例に投与されており,キノロン系C39例(92.0%),マクロライド系C1例(2.4%),セフェム系C1例(2.4%),アミノグリコシド系C1例(2.4%)であった.また,抗菌眼軟膏はC53例中C15例に投与されており,キノロン系軟膏がC11例(73.3%),マクロライド系軟膏がC4例(26.7%)であった(図3).ステロイドについては,眼軟膏がC38例で使用され(うちデキサメサゾンC28例,ベタメタゾンC10例),点眼薬図2霰粒腫の発生部位a:上眼瞼と下眼瞼の比較.b:眼瞼耳側C1/3,中央部C1/3,鼻側C1/3の比較.Ca抗菌点眼薬(53例中42例に投与)b抗菌眼軟膏(53例中15例に投与)図3前医での治療内容と治療期間平均治療期間はC39.7C±55.6日.はC10例(うちフルオロメトロンC9例,デキサメサゾンC1例)に使用されていた.当院での平均治療期間はC56.8C±51.8日であり,全症例で霰粒腫が寛解したため終診となっていた.当院で外科的治療を要したのはC63例中C5例(7.9%)で,58例(92.1%)は保存的治療のみ(点眼,眼軟膏,内服による治療であり,温罨法と眼瞼清拭は含んでいない)で軽快した.ただし,眼軟膏は抗菌点眼薬あるいは内服と併用して使用し,眼軟膏単独で治療を行った症例はなかった.外科的治療を要したC5例のうち2例は手術目的に受診し,初診時に手術を決定していた.残りのC3例は保存的治療で改善傾向にあったが,より早期の治療効果を求めたため手術に至った.当院での治療内容は,抗菌点眼薬がC63例中C45例に投与されており,マクロライド系がC24例(53.3%),セフェム系がC7例(15.6%),キノロン系がC14例(31.1%)であった.抗菌眼軟膏はC63例中C19例に投与されており,マクロライド系がC17例(89.5%),キノロン系がC2例(10.5%)であった.また,抗菌内服薬はC63例中33例に投与されており,マクロライド系がC26例(78.8%),a抗菌点眼薬b抗菌内服薬c抗菌眼軟膏(63例中45例に投与)(63例中33例に投与)(63例中19例に投与)図4当院での治療内容と治療期間平均治療期間はC56.8C±51.8日.図5代表症例写真(5歳,女児)a:左下眼瞼に発赤・腫脹を伴う大きな霰粒腫を認め,クラリスロマイシン内服,アジスロマイシン点眼,デキサメサゾン眼軟膏で加療した.b:3カ月で消退した.セフェム系がC7例(21.2%)であった(図4).代表症例の写真を図5に示す.CIII考按当院における小児霰粒腫は女児がC58.7%とやや多かった.筆者らは,過去に全年齢層の霰粒腫C206症例の検討で,女性のほうが多いこと(60.2%),とくにC40歳以下では女性に有意に多い(p=0.005)が,41歳以降では性差がなくなる(p=0.18)ことを報告しており7),今回の小児例においてもほぼ同様の結果となった.マイボーム腺は性ホルモンの標的器官であり,その生理機能は月経周期により変化し,とくに周期の後半にはマイボーム腺開口部が有意に小さくなる11).したがって,思春期の女児でも,霰粒腫発症に女性ホルモンが影響している可能性が推測される.一方,今回の検討では,受診患者の多くが未就学児であり,性ホルモン以外の要因についてはさらなる検討が必要である.たとえば,性ホルモン濃度が低い幼少児期ではCmeibumを分泌する機能が未熟である可能性が推測される.また,マイボーム腺の細菌叢は,健常若年者ではアクネ菌の菌量が高く,加齢によりその菌量が低下することも12)若年者のほうが霰粒腫を発症しやすい一因と推測される.霰粒腫の発生部位は,既報8)と同様に,上眼瞼がC57.1%,眼瞼中央部がC39.7%と多かった.マイボーム腺は,下眼瞼より上眼瞼のほうが長く,眼瞼中央部がもっとも長いという解剖学的特徴から,上眼瞼の中央部でCmeibumのうっ滞をきたしやすく,霰粒腫の発症が多かったと推測される.当院の治療は,63例中C60例(95.2%)で保存的に開始されていた.とくに小児例においては保存的治療が安全かつ治療への協力を得られやすいと考えられる.治療は,前医ではほとんどの症例で点眼および眼軟膏ともにキノロン系抗菌薬が処方されていたが,当院では霰粒腫の病態にアクネ菌が関与していると考え,マクロライド系あるいはセフェム系抗菌薬に処方変更し,その治療が奏効していると考えられた.日本眼感染症学会によって行われた,前眼部・外眼部感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査では,アクネ菌に対してエリスロマイシンが高感受性であったことが示されている13).また,アジスロマイシンは,アクネ菌に対する最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)がオフロキサシンのC1/64,ガチフロキサシンのC1/4であり,強い抗菌活性を有することが報告されている14).筆者らは,生後C2カ月の乳児の両眼上下眼瞼に多発した霰粒腫を,セフェム系,マクロライド系抗菌薬の全身的および局所投与とデキサメサゾン眼軟膏の併用で,寛解導入した症例を報告している15).エリスロマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬は脂溶性が高いため,マイボーム腺内のCmeibumに移行しやすく効果を発揮しやすいと考えられる.さらに,マクロライド系抗菌薬は,抗菌作用に加え,抗炎症作用があり,アクネ菌の増殖を抑制するとともに肉芽腫炎症の抑制にも効果を発揮している可能性がある.アジスロマイシン点眼については,いわゆる霰粒腫は適応症とはなっていないが,マイボーム腺におけるアクネ菌の増殖に基づく肉芽腫性炎症は,細菌増殖の関与した眼瞼炎に含まれると考えることもできるはずである.ステロイド眼軟膏は,皮膚側からマイボーム腺へ移行し,肉芽腫性炎症を抑制するために有効である.今回の症例では,すべて診察ごとに眼圧測定を行ったが,ステロイドによる眼圧上昇は生じておらず,追加治療が必要な症例は認められなかった.なお,今回の考察はレトロスペクティブ研究によるものであり,マクロライド系抗菌薬が真に霰粒腫の治療に有効か否かを結論付けるためにはプロスペクティブ研究の結果を待つ必要がある.CIV結論小児の霰粒腫はやや女児に多く,マイボーム腺内のアクネ菌の関与を考慮した脂溶性マクロライド系抗菌薬を中心とした適切な抗菌薬の選択を行うことにより,保存的治療が奏効すると考えられた.利益相反:鈴木智(千寿製薬)FIII文献1)Yano.CM,CFineBS:OcularCpathologyC5thCed.Cp173-174,CMosby,Philadelphia,20022)WojitwiczCJC,CButovichCIA,CMcMahonCACetal:Time-dependentCdegenerativeCtransformationsCinCtheClipidomeCofchalazia.ExpEyeResC127:261-269,C20143)JingH,Meng-XiangG,Dao-ManXetal:Theassociationofdemodexinfestationwithpediatricchalazia.BMCOph-thalmolC22:124,C20224)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,C20005)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaCS.CMeibomianCglandsCandocularsurface.OculSurfC13:133-149,C20156)SuzukiCT,CSanoCY,CSasakiCOCetal:OcularCsurfaceCin.ammationinducedbyPropionibacteriumacnes.CorneaC21:812-817,C20027)SuzukiCT,CKatsukiCN,CTsutsumiCRCetal:ReconsideringCthepathogenesisofchalazion.OculSurfC24:31-33,C20228)OuyangCL,CChenCX,CPiCLCetal:MultivariateCanalysisCofCtheCe.ectCofCchalazionConCastigmatismCinCchildren.CBMCCOphthalmolC22:310,C20229)GoawallaA,LeeV:AprospectiverandomizedtreatmentstudyCcomparingCthreeCtreatmentCoptionsCforchalazia:CtriamcinoloneCacetonideCinjections,CincisionCandCcurettageCandtreatmentwithhotcompresses.ClinExpOphthalmolC35:706-712,C200710)AlsoudiAF,TonL,AshrafDCetal:E.cacyofcareandantibioticuseforchalaziaandhordeola.EyeContactLensC48:162-168,C202211)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201712)SuzukiCT,CSutaniCT,CNakaiCHCetal:TheCmicrobiomeCofCmeibumCandCocularCsurfaceCinChealthyCsubjects.CInvestCOphthalmolVisSciC61:18,C202013)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか:前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性─日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第二報).日眼会誌C115:C814-824,C201114)アジマイシン点眼液C1%申請資料概要.2.6非臨床試験の概要文及び概要表.2.6.2薬理試験の概要文.2.6.2.2.1.3眼科臨床分離株に対する抗菌活性.p6,10,千寿製薬株式会社.承認年月日:2019年C6月C18日15)中井浩子,杉立有弥,鈴木智:生後C2カ月の乳児に生じた多発霰粒腫のC1例.あたらしい眼科36:105,C2019***

基礎研究コラム:杯細胞ムチンとそのシアル化糖鎖

2025年11月30日 日曜日

杯細胞ムチンとそのシアル化糖鎖杯細胞のムチン杯細胞は上皮細胞の一種で,副交感神経からのアセチルコリンやマスト細胞からのヒスタミンなどの刺激により,粘液を放出します.粘液の主成分はムチンとよばれる糖蛋白質です.ヒトではC20種類以上のムチンが同定されており,粘膜臓器によってその主成分が異なりますが,結膜の杯細胞においてはおもにCmucin5AC(MUC5AC)です.また,ムチン上の糖鎖の長さは臓器によって異なり,眼表面の糖鎖は腸管粘膜における糖鎖よりも比較的短いことが知られています.結膜杯細胞のシアル化ムチン花粉症などのアレルギー研究では,黒い毛皮をもったC57BL/6系統と,白いCBalb/c系統のマウスがよく用いられます.これらのマウスの結膜組織像を顕微鏡で観察すると,前者の杯細胞がシアル酸依存的にアルシアンブルー染色で青染するのに対し,後者のCBalb/cマウスでは染色されないことがわかりました.そこで,シアル酸の有無を決定している遺伝子の同定を試みたところ,Balb/cマウスにおいては,St6galnac1というシアル酸転移酵素の遺伝子に点突然変異があり,正常なCmRNAが発現できていないことが明らかになりました(図1)1).そこで,正常なCSt6galnac1遺伝子をCBalb/cに導入したマウス(Aoマウス)を作製したところ,ブタクサ花粉による結膜炎モデルにおいて,Aoマウスでは結膜炎が抑制されました.花粉を点眼すると,杯細胞は粘液を放出し,花粉はこの粘液に絡めとられて凝集塊を形成します.Aoマウスではゲル状の粘液層によるカプセルが形成されていましたが,野生型ではこれが欠損しており,シアル化ムチンには,粘液Balb/cマウスAoマウス粘液シアル酸(-)粘液シアル酸(+)図1花粉点眼後に結膜上で形成された花粉粒子の凝集体Aoマウスにおいては花粉の凝集体が粘液カプセル層に覆われているが,野生型CBalb/cマウスでは欠損している.(文献C1より改変引用)松澤萌順天堂大学医学部医学研究科眼科学アトピー疾患研究センターカプセルを形成して花粉を閉じこめ,効率的に除去する作用があることがわかりました(図2)1).ヒトにおける結膜杯細胞St6galnac1遺伝子は,ヒトの結膜においても,もっとも発現が高いシアル酸転移酵素です.ヒトの正常結膜においても,杯細胞がもつ粘液はアルシアンブルー染色で青染することが知られていますが,シアル酸除去酵素で処理すると青染しなくなり,ヒト結膜杯細胞のアルシアンブルー染色性もシアル化糖鎖の有無に依存していることが明らかになりました.また,翼状片やアトピー性角結膜炎患者の結膜ではST6GALNAC1の発現上昇や,ST6GALNAC1が合成にかかわるシアル化糖鎖(sialyl-Tn)を発現している杯細胞の割合が増加していることが明らかになり,慢性的な物理・炎症刺激下では反応性にシアル化ムチンが増加することも考えられます.今後の展望シアル化ムチンは眼表面における第一線の防御として,保護的な役割を果たしている可能性があります.シアル化糖鎖の制御が可能になれば,将来アレルギー性結膜炎を抑制できるようになるかもしれません.文献1)MatsuzawaCM,CAndoCT,CFukaseCSCetal:TheCprotectiveCroleofconjunctivalgobletcellmucinsialylation.NatCom-munC14:1417,C2023図2St6galnac1の有無による杯細胞からの粘液性状正常なCSt6galnac1をもつCC57BL/6マウスでは,粘液がカプセル化し花粉を効率的に捕捉する一方で,St6galnac1活性が欠損しているCBalb/cマウスでは,カプセル化せずに花粉を効率的に捕捉できない.(文献C1より改変引用)(81)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14450910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:270.胞状網膜剝離に対するD-ACE法(中級編)

2025年11月30日 日曜日

270胞状網膜.離に対するD-ACE法(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに上方の弁状裂孔に起因する胞状の裂孔原性網膜.離に対して,現在では多くの術者が硝子体手術を選択しているものと思われる.一方,Gilbertらが報告したCD-ACE(drainage+airCinjection+cryopexy+exoplant)法は胞状の網膜.離に対しても強膜バックリング手術で治療することのできる優れた術式である1).C●症例提示患者はC49歳,男性.上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔を認め,上方C2象限に胞状の網膜.離をきたしていた(図1).このままでは冷凍凝固プローブが裂孔部位に届かないので,D-ACE法を選択した.まず上方で網膜下液排除を施行し(図2),十分に眼圧を低下させたうえで,鑷子で強膜を確実に把持し,その横からC27ゲージ針を硝子体腔内に刺入し,空気が一塊になるようにゆっくりと注入した(図3).網膜下液がほぼ排除できた時点で,双眼倒像鏡眼底観察下に空気を通して経強膜冷凍凝固を施行し,その後,#C501シリコーンスポンジをC10時.2時の円周方向に縫着した(図4).伏臥位はC1日のみとし,翌日に網膜が復位していることを確認したあとは側臥位を指示した.術後,網膜は復位し,矯正視力は術前C0.02から術後C1.0に改善した(図5).C●D-ACE法のポイント本術式は,ガス注入眼における仰臥位での眼底検査と強膜バックリング手術に習熟している術者であれば,とくに抵抗なく施行できる.利点としては,水晶体を温存できること,伏臥位の期間が短くてすむこと,いったん復位が得られれば再.離の可能性が低いことなどがあげられる.欠点としては,術中眼底検査や手術手技にある程度の習熟を要する点である.とくに硝子体腔内に空気を注入する際に,魚鱗状になるとその後の眼底観察が困難となるので,網膜下液排除にて眼圧を十分に低下させたあとに,硝子体腔内にゆっくりと空気を注入するのがコツである.針を硝子体腔内に刺入する際には眼圧が低図1術前の眼底写真上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔および胞状の網膜.離を認める.図2網膜下液排除網膜下液排除を施行し,眼圧を十分に低下させておく.図3硝子体腔内空気注入ゆっくりと空気が一塊となるように注入する.図4強膜バックリング空気注入眼は圧に対する許容性が大きいので,バックルを締めやすい.図5術後眼底写真裂孔はバックル上に乗り,網膜は復位している.くなっているので,強膜を鑷子でしっかりと把持するか,あらかじめ強膜に糸を縫合しておき,その糸を鑷子で把持しながら,すぐ横から針を刺入するようにする.翌日に網膜が完全に復位していれば,その後の伏臥位は不要となることが多い.文献1)GilbertCC,CMcLeodD:D-ACECsurgicalCsequenceCforCselectedCbullousCretinalCdetachments.CBrCJCOphthalmolC69:733-736,C1985(79)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514430910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:多焦点眼内レンズ脱臼

2025年11月30日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅多焦点眼内レンズ脱臼山根真山根アイクリニック馬車道白内障手術の進歩により,多焦点眼内レンズ(MFIOL)の適応は拡大し,術後の眼鏡依存度を減らす大きな選択肢となっている.しかし,加齢や外傷,Zinn小帯脆弱を背景とした眼内レンズ脱臼が近年増加しており,単焦点眼内レンズとは異なるMFIOL特有の課題が治療法選択を複雑にしている.MFIOLは光学的設計上,レンズ中心と視軸の精密なアライメントが視機能に直結するため,わずかな偏位や傾斜でも著明な見えにくさや不満につながりやすい.また,患者層は若年から中高年に及び,術後の生活の質にを摘出し,別の眼内レンズを移植する方法がある.MFIOLを温存する利点は,患者の「眼鏡なし生活」への期待を継続できる点であるが,術式は技術的に煩雑で,安定したセンタリングを得ることがむずかしい場合もある.一方,単焦点眼内レンズへの入れ替えは手技の安定性や長期的予後の予測可能性で優れるが,患者満足度とのバランスを慎重に検討する必要がある.近年では,強膜内固定や無縫合固定技術の進歩により,MFIOL再固定の実現性は高まりつつある.本稿では,MFIOL脱臼時の再固定の実際的な手術手技と選択の考え方を概説する.聞き手:多焦点眼内レンズ(multifocalCintraocular法が選択できません.lens:MFIOL)の普及とともに,脱臼症例の対応に迫られる機会が増えています.まずは,これまで行ってきた聞き手:現在はどのような方法になりますか.方法を教えていただけますか.山根:選択肢は大きくは二つです.ひとつは脱臼した山根:私がよく行っていたのは,3ピースCMFIOLのMFIOLを摘出して単焦点CIOLを強膜内固定する方法,ZMA00を強膜内固定する方法(Yamanetechnique)でもうひとつは脱臼したCMFIOLを再固定する方法です.す1).ZMA00はCCループ形状の支持部をもつC3ピース前者は手技的に安定しており,長期成績も予測しやすい眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であり,強膜内固のですが,多焦点機能を失うというデメリットがありま定した際に比較的容易にきれいなセンタリングが得らす.後者は患者の「裸眼での快適さ」を温存できる反れ,術後の光学的成績も安定していました.しかし,残面,術式はレンズの種類や状態に強く依存します.念ながらC2024年に販売が終了してしまい,今はこの方(77)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14410910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:再固定を考える際に,カプセルテンションリング(capsulartensionring:CTR)の有無は重要ですか.山根:非常に重要です.CTRが入っていれば,基本的にどのタイプのCMFIOLでもCCTRに糸を通すことで再縫着が可能です.9-0ポリプロピレン糸やCCV-8ゴアテックス糸を用いて強膜へ縫着し,縫い目を強膜内へ埋没します.CTRに糸をかけるときは,2点では傾斜を起こす可能性があるため,3点以上の縫着が望ましいです.聞き手:CTRが入っていない場合はどうでしょうか.山根:その場合はCIOLに直接糸をかけます.レンティスコンフォートのようにアイレットが付いたCIOLであれば,アイレットに通糸して強膜へ縫着することで比較的安定した結果が得られます.問題は広く普及しているCループ型のシングルピースCIOLで,これは再縫着に不向きです.最近,支持部の根元に糸をかける「ベルトループテクニック」が報告されており,支持部の付け根に水晶体.を貫いて糸を通して強膜へ縫着することでシングルピースレンズを再固定することが可能です(図1).良好な成績が報告されていますが2),IOLの傾斜をコントロールすることがむずかしく,長期的な安定性にも疑問が残ります.聞き手:ベルトループを行う際の工夫はありますか.山根:一番大切なのは糸を通す位置を光軸に対して左右対称にすることで,ねじれが生じないように縫合糸が輪部に対して完全に直角である必要があります.わずかなIOLの偏心や傾きが多焦点光学系では視機能の低下につながります.また,糸のテンションを両側で均等に保つことが肝心で,無縫合で行うCCanabravatechniqueより図1ベルトループテクニック支持部を挟み込むように上下に糸を通して強膜に縫着する.も,縫合したほうがテンションのコントロールが容易です.聞き手:単焦点CIOLに置き換える場合の注意点はありますか.山根:私はCYamanetechniqueによる強膜内固定を第一選択にしています.レンズはCNX-70やCPN6Aなど,支持部がポリフッ化ビニリデン(PVDF)製で破損しにくいものを選びます.脱臼したレンズがクリアレンズの場合は,イエローレンズではなくクリアレンズを選択します.正視に合わせることが多いですが,他眼の屈折やIOLの種類,ライフスタイルに応じて屈折を選択します.聞き手:海外では強膜内固定用のCIOLも登場しているそうですね.山根:はい.Carlevareレンズは強膜内固定専用に設計されたレンズで,T字状の支持部を強膜に固定する構造になっています3).このCIOLは単焦点だけではなく多焦点タイプもラインナップされており,MFIOL脱臼例に対して魅力的なオプションです.ただし,近方加入度数がやや弱いため,術前に「遠方は良好でも,近見は以前ほど出ない可能性がある」と説明する必要があります.聞き手:こうした手術を行う際に心がけていることはありますか.山根:MFIOLの二次固定は,単焦点CIOLの固定より数倍シビアです.求められる中心固定や傾斜のコントロールの水準が高く,0.2~0.3Cmmの偏位が視機能低下を招きます.そのため針の刺入角度や糸のテンションなど,細部にこだわった調整が必要です.また,術前のカウンセリングも不可欠です.術前と完全には同じ見え方にならないことや,タッチアップが必要になる可能性を説明し,患者と一緒に治療方針を決定することが大切だと考えています.文献1)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C20172)ByCMottM(contributingwriter)interviewingCFramCNR,CMMcCabe,MeghparaBB:Beltlooptechniqueforscler-al.xationofin-the-bagdislocatedIOLs.AmericanAcade-myCofOphthalmologyCEyeNetCMagazineCAugust:23-24,C20223)RossiT,IannettaD,RomanoVetal:AnovelintraocularlensCdesignedCforCsuturelessCscleral.xation:surgicalCseries.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC259:257-262,C2021C1442あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(78)

抗VEGF治療セミナー:感染性眼内炎におけるヨード使用

2025年11月30日 日曜日

●連載◯161監修=安川力五味文141感染性眼内炎におけるヨード使用正田千穂日本大学病院アイセンター眼内炎治療は抗菌薬を用いた硝子体内注射・硝子体手術が主流であるが,近年増加傾向である耐性菌への対応や高濃度抗菌薬による網膜毒性などの懸念がある.本稿では抗菌薬に代わる治療法として,筆者の施設で行っているポビドンヨード硝子体内注射の有用性と治療の実際について述べる.眼内炎治療の問題点とヨードの利点内眼手術後の感染性眼内炎は,適切な治療を行っても視力予後が不良となりうる重篤な術後合併症である.わが国の眼内炎治療では,①初期治療としての抗菌薬硝子体内注射,②抗菌薬含有灌流液による前房洗浄と硝子体手術,③手術終了時の抗菌薬硝子体内注射,④補助療法として抗菌・消炎点眼と抗菌薬全身投与,が行われることが多い.しかし,抗菌薬は殺菌に要する時間が長く,初期治療としての硝子体内注射の効果には疑問がある.また,硝子体内注射で使用されるバンコマイシンは前房内投与による出血性閉塞性網膜血管炎の報告があり1),高濃度での使用にはリスクが伴う.さらに,近年の眼内炎の起因菌は多剤耐性菌・バンコマイシン耐性菌・真菌などが増加しており,眼内炎治療における抗菌薬使用方法を再考する必要があると考える.一方,ヨード製剤は抗微生物スペクトルが広く,殺菌作用の発揮にはC15秒.数分と短時間で効果が現れることが利点である.近年,わが国で使用可能なポビドンヨードの基礎・臨床研究が急速に進歩し,眼組織に使用した研究も多くみられる.本稿では現在,日本大学病院アイセンター(以下,当院)で行っているポビドンヨードを用いた眼内炎治療について解説する.ヨードの有効濃度と眼毒性まずポビドンヨードの眼組織への使用は適応外使用となるため,各施設での承認が必要となることに留意する.ポビドンヨードの有効濃度はC0.005.10%とされ,0.01%以上であれば黄色ブドウ球菌に強い殺菌作用を示す.眼内炎治療のために硝子体内に使用することを想定した研究としては,硝子体内濃度C0.013%以上で表皮ぶどう球菌によるウサギ眼内炎が改善したとの報告がある2).網膜への安全濃度はC0.027%以下とされており,0.013.0.027%の濃度で使用することが望ましい.当院では硝子体内濃度C0.025%で使用している.(75)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPYポビドンヨード硝子体内注射による眼内炎治療1.25%ポビドンヨードC0.1Cmlを硝子体内に投与すると,硝子体内濃度は約C0.025%となる.中静らは,この1.25%ポビドンヨードの硝子体内注射による初期治療に加え,0.025%ポビドンヨード含有灌流液を用いて硝子体手術を行った眼内炎C9眼の治療成績を報告した3).いずれの症例も術後視力は改善し,視野,網膜電図,角膜内皮細胞密度に術後明らかな異常はなく,有効性と安全性が示された.一方で,ポビドンヨード含有灌流液の前房灌流により,眼内炎で軽度障害された角膜内皮細胞に強い障害をきたす症例がみられたことから,現在当院では,手術時の灌流液には従来どおり抗菌薬を添加し,手術前後の硝子体内注射にポビドンヨードを用いている(図1).1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射の作製方法を図2に示す.比較的簡便に作製できるので,感染性眼内炎の診断後,手術までの待機時間に硝子体内注射を速やかに施行することが可能である.ポビドンヨード硝子体内注射の前に,培養検査のための結膜.擦過と前房水・硝子体液採取をすることに留意する.ポビドンヨード硝子体内注射は単独でも眼内炎治療に初期治療:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%硝子体手術バンコマイシン10mg,500ml硝子体内濃度20μg/mlセフタジジム20mg,500ml硝子体内濃度40μg/ml手術終了時:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%図1当院での眼内炎治療プロトコル硝子体手術では従来どおり抗菌薬含有灌流液を使用し,前後の硝子体内注射をC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射におきかえている.あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251439図21.25%ポビドンヨード0.1ml硝子体内注射液の作製方法a:ミリポアフィルターを使用してポビドンヨード原液(10%)をC1Cml採取する.Cb:生理食塩水をC7Cmlに調整する(ポリアンプから採取してもよい).c:7Cml生理食塩水とC1Cmlポビドンヨードを混和し,1.25%ポビドンヨード液を作製する.Cd:1.25%ポビドンヨード液をC1CmlシリンジでC0.1Cml以上採取する.Ce:硝子体内注射用針をとりつけ,0.1Cmlに調整する.図31.25%ポビドンヨード硝子体内注射で加療を行った内因性眼内炎の症例88歳,女性.グラム陽性球菌による菌血症に伴う内因性眼内炎.全身状態不良のため硝子体手術が施行できず,1.25%ポビドンヨード硝子体内注射をC1回施行したところ,眼内炎は改善した.Ca:初診時.前房蓄膿がみられる(→).視力は手動弁.Cb:注射後C7日.前房蓄膿は消失し,眼底透見も良好となった.矯正視力は(0.2)に改善した.Cc:注射後C1カ月.眼内炎の再発はない.有用となる可能性がある.ウサギ眼内炎においてC0.1%ポビドンヨード硝子体注射(硝子体内濃度C0.0067%)の1日おきC3回投与の有効性が示されている4).また,田中らは手術加療が困難であったグラム陽性菌に起因する内因性眼内炎の患者にC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射をC1回施行し,眼内炎の改善と視力改善がみられたことを報告した(図3)5).以上のように,1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射は安全かつ有効性が示されており,眼内炎治療としての有用性が期待される.文献1)WitkinCAJ,CShahCAR,CEngstromCRECetal:PostoperativeChemorrhagicCocclusiveCretinalvasculitis:ExpandingCtheCclinicalCspectrumCandCpossibleCassociationCwithCvancomy-cin.OphthalmologyC122:1438-1451,C20152)BrozouCCG,CKarabatakisCV,CGiannousisCMCetal:TheC1440あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(文献C9より引用)Ce.cacyCofCintravitrealCpovidoneCiodineCapplicationCinCexperimentalCStaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.COphthalmicRes41:181-185,C20093)NakashizukaCH,CShimadaCH,CHattoriCTCetal:IntravitrealCinjectionof1.25%povidoneiodinefollowedbyvitrectomyusing0.025%povidoneiodineirrigationfortreatingendo-phthalmitis.TranslVisSciTechnolC8:21,C20194)KimKH,CaoJ,YooJWetal:Intraocular.pharmacokinet-icsCofCpovidone-iodineCandCitsCe.ectsConCexperimentalCstaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.CInvestCOph-thalmolVisSciC56:6694-6700,C20155)TanakaCH,CNakashizukaCH,CMizunoCYCetal:EndogenousCendophthalmitisCsuccessfullyCtreatedCwithCintravitrealpovidone-iodineinjection:acasereport.BMCOphthalmolC20:217,C2020参考文献島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント第C3版,日本医事新報社,2024(76)

緑内障セミナー:AI技術を用いた緑内障視野スクリーニングへの取り組み

2025年11月30日 日曜日

●連載◯305監修=福地健郎中野匡305.AI技術を用いた緑内障視野西島義道東京慈恵会医科大学眼科学講座スクリーニングへの取り組み緑内障は早期発見早期治療が原則であり,スクリーニングはその一助となっている.近年,両眼開放視野計であるCimoを用いた緑内障スクリーニングプログラムが登場した.さらに深層学習技術を併用することで,スクリーニング検査の情報からCHumphrey視野計の視野情報,およびその進行リスクを予測する取り組みも行われている.●はじめに緑内障は不可逆性視機能障害の主因であり,2040年には世界中の罹患者がC1億C1,180万人に達すると推計されている1).そのため,早期発見・早期介入の重要性はますます高くなっていくことが予想される.スクリーニングは早期発見のための一つの有用な手段と考えられるが,緑内障の診断に必要な視野検査は時間を要し,スクリーニング環境での実施には制約がある.スクリーニング用に開発されている視野計や視野プログラムは複数報告されているが,近年は両眼開放視野計Cimo(クリュートメディカルシステムズ)を用いた緑内障スクリーニングプログラムが開発され2),企業健診などでの実用化が進んでいる.さらに,医療分野における人工知能(arti.cialintelli-gence:AI)技術の発展により,眼科領域でも診断支援システムの開発が急速に進展している3).本稿では,imoを用いた視野スクリーニングプログラム(imoCScreeningProgram:ISP)とCAI技術を統合したCDeep-aISPモデルの開発,およびその臨床的有用性について述べる.C●imoを用いた緑内障スクリーニングプログラム(ISP)の開発imoは両眼開放かつ暗室不要の視野計である.筆者のグループはCHumphrey視野計(HumphreyCFieldCAna-lyzer:HFA)24-2とCHFA10-2の測定点から緑内障検出に最適なC28点を抽出し,90.120秒で測定可能なISPを開発した(図1)2).imoは暗室が不要で測定可能であることから,健診の場においても導入が可能である.現在実際にC2施設で企業健診に導入され,popula-tion-baseのスクリーニングでの有効性を確認中である.C●DeepISPモデルの開発と検証ISPは緑内障の有無を短時間で検出することは可能であったが,筆者らはさらに,重症度や進行リスクを同時に判定することを目的として,深層学習技術を用いてISPの単純な二値情報からCHFA24-2の情報を予測する図1imoの外観およびimoscreeningprogramの測定点a:両眼開放視野計Cimoの外観.b:imoscreeningprogram(ISP)における右眼の測定点.赤丸はCHFA24-2と同一の測定点.青丸はCHFA10-2と同一の測定点.赤青半円はCHFA24-2およびCHFA10-2と同一の測定点を示す.(文献3,4より改変引用)(73)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514370910-1810/25/\100/頁/JCOPYGlaucomalikelihoodHFA24-2lmoscreeningprogram(ISP)GHTclass2010緑内障重症度Degrees-100MDPSDVFIDegrees0DeeplSP緑内障進行速度-20-200Degrees・測定点は合計28点・各測定点は「見えた(○)」or「見えていない(×)」で判定MDprogression-20020VFIprogressionDegrees確率プロットマップTDmapclassPDmapclass図2DeepISPの概念図DeepISPはCISPの情報を用いてCHFA24-2のCGlobalIndex,確率プロットマップ,GHT判定,および進行リスクを同時に判定する.DeepISPモデルを開発した4).DeepISPは,ISPの結果からCHFA24-2の平均偏差(MD),パターン標準偏差(PSD),VisualCFieldCIndex(VFI),Totaldeviation(TD)マップ,PatternCdevia-tion(PD)マップ,そして緑内障半視野テスト(GHT)分類を同時に予測するマルチタスク深層学習モデルとして構築されている(図2).より高精度な予測モデルの構築のために,データ拡張技術によりCHFA24-2とCHFA10-2のデータより合成ISPデータを生成し,モデルの学習を行った.最終的に3,470件の合成CISPデータ,187件の実際のCISPデータを用いた.MD予測の平均絶対誤差はC1.869C±0.114CdB,PSD予測ではC1.918C±0.082CdB,VFI予測ではC5.146C±0.487%であった.また,GHT分類のCAUCはC0.920C±0.008,TD/PDマップの点別分類CF1スコアもそれぞれ0.761,0.775と良好な予測精度を達成した.C●視野進行予測への応用スクリーニングの段階で緑内障の進行傾向も把握する目的で,HFA24-2の縦断データおよび同一患者のCISPデータを用いて視野進行予測モデルを構築した.その結果,MD進行(C.1.0dB/年以下)およびCVFI進行(C.1.8%/年以下)の予測において,それぞれCAUCC0.828±0.060,0.832C±0.062を達成し,単回検査から将来の進行リスク評価が可能であることを示した.C●臨床的意義と今後の展望ISPはすでに企業健診の現場で実用化され,日立健康管理センタおよびトヨタ自動車健康保険組合健康支援センターウェルポにおいて,年間数万件規模のスクリーニC1438あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025ングが実施されている.また,DeepISPは,ISPの結果からより詳細な視野情報を提供できる可能性があり,将来の進行リスクも同時に予測可能な点を特徴とする.さらに,広く利用されているCHFAデータから合成CISPを生成できるため,AIにおいて問題となる外的妥当性に関しても,ISPが導入されていない施設でもモデル開発が可能であり,グローバルな展開が期待される.C●おわりに本稿では,両眼開放視野計Cimoを用いたスクリーニングプログラムであるCISPと深層学習技術を活用したDeepISPモデルの開発について述べた.本システムは,AI技術を併用することでスクリーニングの簡便性を保ちながら詳細な視野情報の予測を可能とし,大規模スクリーニングにおける次世代の緑内障診断支援技術として,視覚障害予防に貢献することが期待される.文献1)ThamCY-C,CLiCX,CWongCTYCetal:GlobalCprevalenceCofCglaucomaCandCprojectionsCofCglaucomaCburdenCthrough2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthal-mologyC121:2081-2090,C20142)AraiCK,CNishijimaCE,COgawaCSCetal:ACnovelCvisualC.eldCscreeningCprogramCforCglaucomaCwithCaChead-mountedCperimeter.JGlaucomaC32:520-525,C20233)TingCDSW,CPasqualeCLR,CPengCLCetal:Arti.cialCintelli-genceCandCdeepClearningCinCophthalmology.CBrCJCOphthal-molC103:167-175,C20194)SanoK,NishijimaE,SumiSal:Deeplearning-basedpre-dictionCofCglaucomaCseverityCandCprogressionCusingCimo/CTEMPOCscreeningCprogram.COphthalmolCSciC5:100805,C2025(74)