●連載◯163監修=安川力五味文143網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管丸子留佳東京女子医科大学眼科2025年C5月にファリシマブが網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管に対する薬事承認を日本で初めて取得し,保険診療が可能となった.本稿では,全身疾患を合併することが多い網膜色素線条診療の注意点,また脈絡膜新生血管を合併した際の対応について概説する.網膜色素線条と弾力線維性仮性黄色腫の合併網膜色素線条(angioidstreaks:AS)は,先天的素因により全身の弾性線維の変性・断裂を伴う疾患である.Bruch膜は網膜側より網膜色素上皮細胞基底膜,内膠原線維層,弾性線維層,外膠原線維層,脈絡膜毛細血管内皮基底膜より構成されているが,その弾性線維が変性して断裂を生じる結果,視神経乳頭からヒトデ状に色素線条が伸び,進行すると乳頭周囲の網脈絡膜萎縮も伴う.後極部から中間周辺部にかけて黄白色点状所見がみられることが多く,梨子地眼底(peaud’orangefundusもしくはCmottledfundus)とよばれる.Ehlers-Danlos症候群,鎌状赤血球症,骨CPaget病などの全身疾患との合併が報告されているが,弾力線維性仮性黄色腫(pseudoxanthomaelasticum:PXE)との合併がもっとも多い.PXEは皮膚の弾性線維に変性・断裂がみられる遺伝疾患で,指定難病にも分類されている.側頸部や関節屈曲部に黄白色の小丘疹がみられ,癒合して網状局面を形成する.ASとCPXEの合併例はGronblad-Strandberg症候群とよばれる.ASの連続C44症例のうち,37例に皮膚生検を実施した結果,33例(89.2%)がCPXEと診断されたとの報告があるように1),ASとCPXEは高率に合併するとされている.しかし,日本の全人口を対象とした「レセプト情報・特定健診等情報データベース」を用いた大規模疫学研究では,AS患者におけるCPXEの合併率はわずかC4.4%であり,日常診療では多くのCAS患者でCPXEが見逃されているものと推察される2).PXE患者の平均死亡年齢はC77.1歳であり,日本人の平均寿命であるC84.6歳よりも有意に短い2).PXE患者は虚血性心疾患や脳梗塞,消化管出血といった致死的合併症を併発するため3),PXEを早期に診断し,全身スクリーニングを行うことは生命予後の改善のために重要と考えられる.PXEでは初診時に皮疹のない例や,非典型皮疹も知られており,日本皮膚科学会の「弾性線維性仮性黄色腫診療ガイ(77)表1弾性線維性仮性黄色腫の診断基準(2017年版)A.診断項目①皮膚病変がある②皮膚病理検査で弾性線維石灰化を伴う変性がある③網膜血管線条(色素線条)がある④CABCC6遺伝子変異があるB.診断CI.De.nite:(①または②)かつ③II.Possible:(①または②)のみ,または③のみ注意:1)II「Possible」に④遺伝子変異を証明できた場合はDe.niteとする.2)以下の疾患を完全に除外できること.類似皮膚症状を呈するもの:PXE-likeCpapillaryCdermalCelas-tolysis,Wilson病に対するCD-penicillamine内服網膜色素線条を呈するもの:骨パジェット(Paget)病,鎌状赤血球症,エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群,鉛中毒,外傷脈絡膜新生血管を生じるもの:加齢黄斑変性,変性近視消化管粘膜病変を呈するもの:胃・十二指腸潰瘍(文献C3より引用)ドライン(2017年版)」では,PXEの診断基準(表1)に含まれる皮膚生検は推奨度CB(行うよう勧められる)となっている3).AS症例は特徴的な皮膚所見がなくても積極的にCPXEを疑い,皮膚科に紹介する.網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管ASではC42~86%に脈絡膜新生血管(choroidalCneo-vascularization:CNV)を伴う4).加齢黄斑変性より若年で発症し,両眼性が多い(図1).CNVの型は,網膜色素上皮上に新生血管が位置するCtype2CNVが多いが,新生血管が網膜色素上皮下にとどまるCtype1CNVやポリープ状脈絡膜血管症の発症,またそれらへのCtype2CNVの合併も報告されている1).ASの色素線条が長いほどCCNVの合併率が上がり5),type2CNVは色素線条の部位に発生することが多い1).治療は抗CVEGF薬の硝子体内投与である.抗CVEGF薬により,改善した視力が長期にわたって維持できたという報告もあれば6),長あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026770910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1両眼に脈絡膜新生血管(CNV)を伴う網膜色素線条と弾性線維性仮性黄色腫の合併例57歳時に左眼にCCNVを発症した男性.Ca~c:左眼CCNV発症時の右眼.広範な黄斑萎縮がみられる.Cd~f:CNV発症時の左眼.中心窩上鼻側にCCNV(Cd:),OCT(f)で網膜色素上皮上に滲出を認める.Cg~i:CNV発症C80カ月後の左眼.抗CVEGF薬硝子体内投与を32回実施し,滲出のない状態を保てているが,黄斑萎縮の進行により視力が低下している.Cj:頸部の皮膚所見.黄白色の丘疹が多発・集簇し,鶏卵大の網状局面を形成している.皮膚生検にて真皮網状層に広範な弾性線維の変性・断裂がみられ,弾力線維性仮性黄色腫と診断された.その後,循環器内科にて冠動脈狭窄および左室心壁の局所運動低下を指摘され,現在経過観察中である.期予後は不良との報告もある7).ASは希少疾病であり,大規模な臨床研究はできないため,現時点では確立された抗CVEGF薬の投与方法はないが,type1CNVと比較してCtype2CNVの視力予後は不良であることから1),とくにCtype2CNVでは厳格な抗CVEGF治療が視機能維持に大切であると考えられる.日本ではこれまでCASに伴うCCNVに対して承認された治療薬はなかったが,抗VEGF/抗アンジオポエチン-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体であるファリシマブのCASに伴うCCNVへの適応拡大が,国内第CIII相臨床試験(NIHONBASHI試験)を経てC2025年C5月に承認された.おわりにAS患者は虚血性心疾患や脳梗塞などの致死的合併症を起こしうるCPXEを高率に併発するため,皮膚科に紹介してCPXEの診断基準を満たすかを確認する必要がある.PXEと診断された場合は他科と連携して全身検索を行い,患者の生命予後改善に努める.AS患者は高率にCCNVを合併し,もっとも多いCtype2CNVの予後は不良である.初診時にCCNVがみられなくても定期的に眼科検査を行い,CNVのスクリーニングを行う.片眼のCCNVでは治療眼のみに注目しがちであるが,常に僚眼のCCNV発症にも留意する.CNVを発症した場合は抗CVEGF治療が適応となり,日本ではC78あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026ファリシマブが投与される.とくにCtype2CNVでは厳格な抗CVEGF治療が視機能維持に大切である.文献1)NakagawaS,YamashiroK,TsujikawaAetal:ThetimecourseCchangesCofCchoroidalCneovascularizationCinCangioidCstreaks.RetinaC33:825-833,C20132)WadaS,MiyakeM,KidoAetal:EpidemiologyofangioidstreaksCandCpseudoxanthomaelasticum(2011-2020):ACnationwidepopulation-basedcohortstudy.OphthalmolSciC4:100370,C20233)弾性線維性仮性黄色腫診療ガイドライン策定委員会:弾性線維性仮性黄色腫診療ガイドラインC2017年版.日本皮膚科学会雑誌132:e91-e98,C20224)ChatziralliCI,CSaitakisCG,CDimitriouCECetal:Angioidstreaks:ACcomprehensiveCreviewCfromCpathophysiologyCtotreatment.RetinaC39:1-11,C20195)RisseeuwCS,COssewaarde-vanCNorelCJ,CvanCBuchemCCCetal:Theextentofangioidstreakscorrelateswithmaculardegenerationinpseudoxanthomaelasticum.AmJOphthal-molC220:82-90,C20206)Torres-CostaCS,CBernardesCJ,CManoCSSCetal:Long-termCe.ectCofCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(anti-VEGF)injectionsCinCchoroidalCneovascularizationCsecond-arytoangioidstreaks.JOphthalmolC2022:3332421,C20227)Velez-MontoyaCR,COsorio-LandaCHK,CFranco-RamirezCKCCetal:Long-termCfunctional,Canatomicaloutcome,Candquali-tativeCanalysisCbyCOCTA,CasCaCpredictorCofCdiseaseCrecur-rencesCinCpatientsCwithCchoroidalCneovascularizationCsecond-aryCtoCangioidCstreaks.IntCJCRetinaCVitreousC10:53,C2024(78)