●連載◯290監修=稗田牧神谷和孝290.ICL手術の術前検査の注意点磯谷尚輝名古屋アイクリニックCImplantablecollamerlens(ICL)手術を施行する際の術前検査は,術後の見え方に関連する度数を決める検査と,術後の合併症に大きく関連するレンズサイズを決める検査が重要である.度数を決める検査では屈折検査を基本に,患者の希望や術前の状態,惹起乱視など種々の情報を統合して度数を決めなければいけない.レンズサイズを決める検査では測定機器の値の妥当性についての理解が必要である.●はじめに屈折矯正手術であるCimplantableCcollamerlens(ICL)手術は健常眼に対して行う手術であり,患者は術後の良好な視環境を希望し,起こりえる合併症の可能性を限りなくゼロにすることを望む.ICL手術では術後の見え方を決めるレンズ度数と,合併症のリスクに影響するレンズサイズを適切に選択することが不可欠であり,その検査の精度も高くなければならない.本稿ではCICLの術前検査の中でもレンズ度数決定とレンズサイズ決定における注意点について述べる.C●レンズ度数決定検査の注意点1.コンタクトレンズ中止期間角膜形状への影響を残したままレンズ度数を決めてしまうと,思わぬ術後の屈折誤差を生じる可能性がある.筆者の施設(以下,当院)ではソフトコンタクトレンズ(contactlens:CL)の場合はC1週間,乱視ソフトCCLの場合はC2週間,ハードCCLの場合はC3週間中止した後に屈折検査を行っている.C2.屈折検査屈折検査ではオートレフケラトメータ,角膜形状解析装置や前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-taphy:OCT),波面収差解析装置などで他覚的屈折検査を行い,その値を参考にして自覚的屈折検査を行う.雲霧法を用い,過矯正を避けるべく矯正を行う.当院では調節麻痺下屈折検査の結果を参考にし,適切な雲霧量からスタートすることで検査時間の短縮をしている.調節麻痺剤はC1%シクロペントラート塩酸塩を用いる.術後の過矯正を防ぐため,適切な調節麻痺効果を得るためには必須と考える1).Toric-ICLの乱視度数についても,球面度数同様に自覚的屈折検査の結果で決定する.レンズ交換法にて得られた完全矯正値の確認のためにクロスシリンダーや乱視表を用い,乱視軸の逆転が生じていな(71)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYいかの確認を行う.C3.患者の把握患者の年齢,術前の矯正方法,屈折値を把握することが大切である.とくに老視年齢の患者や術前に低矯正で生活している患者に完全矯正のレンズ度数を選択してしまうと,術後の近方視障害や頭痛,眼精疲労などの不定愁訴を訴える可能性があるため,十分な説明が必要になる.場合によってはCCLでのシミュレーションを行い,術後の見え方をイメージしてもらうことでギャップをなくすことが大切である.また,完全矯正であっても眼鏡のみで矯正している場合には,見かけの調節力が影響するため注意が必要である.C4.ICL度数計算目標とする屈折度数を決めたら専用の計算フォームOCOSにその結果を入力するのだが,ICL度数は球面・乱視ともにC0.5D刻みであることにも注意が必要である.術後の希望に近いレンズを選択する際に,場合によってはC0.2~0.1D程度プラスかマイナスかに分かれる場合があるため,患者との度数決めの際には念頭に置いておく必要がある.またCICLは角膜切開にて手術を行うのだが,切開による惹起乱視も考慮に入れなければならない.レンズの固定は基本的に水平固定で行われる.そのため耳側切開ではC0.2~0.3D程度の直乱視を惹起することを加味してCICLの乱視度数を決定する.また,この惹起乱視を利用し,直乱視に対して角膜上方切開にて手術を行うことで,乱視矯正効果を加味したレンズ度数決定を行う施設も多くなっている.ただし角膜縦径は横径よりも短いため,切開が角膜中心に近くなる上方切開は,耳側切開よりも惹起乱視の影響が強くなる可能性があることに留意しなければいけない2).C5.その他の検査優位眼検査はモノビジョン法やマイクロモノビジョン法を選択する際に重要な検査であるが,前述したCICLの度数計算の際にC0.2D~0.1D程度プラスかマイナスかあたらしい眼科Vol.41,No.7,2024817図1CASIA2に搭載されている2種のICLサイズ計算式の結果隅角底(anglerecess:AR)の自動トレースに誤りがあるため手動でトレースの修正が必要となった症例である.に分かれる場合のレンズ度数決定の際に参考になる.また,眼軸長検査は屈折度数の妥当性や左右差の確認など,自覚的屈折検査やレンズ度数決定の際の参考になるため測定しておくことが望ましい.C●レンズサイズ決定検査の注意点レンズサイズの計算には角膜水平径Cwhite-to-white(WTW)と角膜後面から水晶体前面までの前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が必要である.しかし,レンズサイズを決めるためのCOCOSは,すでに製造されていないCOrbscanで測定されたパラメータを採用しており,他の機器で測定した同一パラメータとの互換性は確認されていない.両パラメータは前眼部COCTや前眼部画像解析装置,眼軸長測定装置などでも測定が可能ではあるが,その測定値については最適化が必要になるため注意が必要である.最近では前眼部COCTのCASIA2(トーメーコーポレーション)にCICLレンズサイズ測定モードが搭載されており,2種の計算式(NK式,KS式)にてレンズサイズ選択が可能になった.これらC2式は,日本人の計測データから回帰式を用いて構築されている3,4).各式で用いるパラメータは異なるが,それらは自動で検出されるため簡便に測定が可能である.注意点としては,検出された測定点が誤っていることもあるため,画像の確認や測定の再現性を確認するこC818あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024とが重要である(図1).また,術後の角膜後面とCICL前面までの距離を予測したCpostACD,隅角角度(tra-becular-irisangle:TIA)を予測したCpostTIAもサイズ選択の指標となる.C●おわりに本稿ではレンズ度数決定とレンズサイズ決定のための検査について注意点を述べた.ICL手術は自費診療であるがゆえに,患者の求める満足度は高い.そのためC1回の検査結果のみで決めるのではなく,日を改め複数回の検査を行い,再現性や妥当性を確認し,患者の希望などを十分把握したうえでレンズ決定を行うことが大切である.文献1)安里崇徳:成人におけるC1%塩酸シクロペントレート点眼を用いた調節麻痺屈折検査の評価.IOL&RSC26:197-201,C20122)KamiyaCK,CAndoCW,CTkahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.CAmJOphthalmolC187:99-107,C20184)五十嵐章史:前眼部COCTを用いたCICLサイズ決定.あたらしい眼科36:1043-1044,C2019(72)