‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

考える手術:白内障硝子体同時手術における屈折誤差最小化をめざした術前戦略

2025年12月31日 水曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅白内障硝子体同時手術における屈折誤差最小化をめざした術前戦略後藤聡大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室術前角膜評価に基づく“4ステップアプローチ”で最適なIOL選択を実現する(表1,動画①)ステップ1:角膜高次収差(higher-orderaberrations:HOAs)または不正乱視(irregularastigmatism)角膜トポグラフィーや波面収差計測を必要とする測定値であるが,角膜不正乱視を示すCHOAsがC0.3~0.5以上と検出される場合には,最良矯正視力の限界や非球面IOLの適応を十分に検討する必要があり,多焦点CIOLの使用は控えることが推奨される.ステップ2:角膜形状ケラト値の正常値はC40~48Dで,その範囲にC95%以上の患者が属することから,この値を逸脱する患者には注意が必要である.とくにC40Dより低い場合は,LASIKをはじめとしてなんらかの角膜屈折矯正手術の既往を確認する必要がある.48Dを超えるスティープな角膜では円錐角膜を疑う必要があり,角膜形状解析によって詳細に検証することが推奨される.LASIKやPRK,円錐角膜眼では特殊CIOL度数計算式を選択しなければ,術後予測屈折誤差が大きくなるため注意が必要である.ステップ3:角膜乱視ステップC1,2で不正乱視と特殊な度数計算を必要と表1眼内レンズ選択の4ステップステップ評価項目判定基準C1角膜高次収差(HOAs)HOAsが高値なら多焦点・トーリックCIOLを避け,術後視力の限界についてインフォームドコンセントが必要(HOAsはC0.3以下が望ましく,C0.3~C0.5では注意を要する)C2角膜形状屈折矯正手術後や円錐角膜のパターンなら,特別なCIOL計算式を使用C3角膜乱視規則的かつ非対称でない乱視ならトーリックCIOLが適応可能C4角膜球面収差角膜球面収差が負なら球面CIOLの適応を検討(67)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15450910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術する症例を除外してきた.正乱視に対してはトーリックIOLの適応を考慮することで術後満足度向上が期待できる.適応基準値はさまざまであるが,直乱視であれば1.25~1.5D以上で,倒乱視ではC1.0D以上でトーリックレンズを使用することが多い.ステップ4:角膜球面収差(sphericalaberration:SA)角膜球面収差に応じた非球面CIOLの選択により,コントラスト感度や夜間視力の改善が期待される.平均的な日本人の球面収差はC0.27Cμmであり,非球面CIOLの球面収差は-0.27~0Cμmであることを考慮すると,眼全体の球面収差を低減させることでコントラスト感度を上昇させることが期待でき,プレミアムCIOLの選択時には考慮したい項目である.このような多角的アプローチにより,IOL選択の個別化が進み,術後の視機能満足度が向上することが期待される.聞き手:4ステップアプローチの方法を教えてください.後藤:図1と動画①で具体例を示して概説します.日本では白内障手術と硝子体手術が同時に行われることが多く,近年では日常診療において白内障硝子体同時手術後の屈折値に関しても高い予測精度を求められるケースに遭遇します.角膜形状異常眼をみつけるために有用な知識として,角膜屈折力の正常値がC40~48Dであることを覚えておくと臨床的にとても役立ちます(ゴロ合わせ図1術前角膜形状評価の例①高次収差(HOAs)の確認.本症例はやや高値で黄色にハイライトされているので,プレミアムレンズは積極的には薦められない.②角膜形状の確認.必要に応じて特殊計算式でCIOL度数計算を行う必要がある.③正乱視成分の確認でトーリックIOLの適応を検討する.本症例では乱視は大きくないのでCnon-toricIOLを選択.④角膜球面収差(SA)は負の値ではないので非球面レンズ使用可.動画①も参照のこと.C1546あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025で「塩,しょっぱい」).さらには,眼軸長と角膜屈折力のバランスを意識することも,IOL計算をするうえで非常に重要な点です(動画②).聞き手:一般的に白内障硝子体同時手術の予測屈折誤差はどれくらいですか?後藤:これまでにさまざまな報告があり,以前はC0.5Dほど近視化するとの報告が散見されました.しかし,近年の報告をまとめると,BarrettCUniversalCII式を用いた黄斑上膜などのガスタンポナーデを使用しない場合では,予測屈折誤差はおおよそゼロであり,近視化を考慮する必要はないだろうとの見解が多いです.もちろん術者によるバイアスもあるため,個々の術者が自分の手術結果を一度はまとめることをお勧めします.聞き手:ガスタンポナーゼ症例における予測屈折値はどうですか?後藤:この場合はCIOLが前方固定される傾向にあり,C.0.4D前後の近視が報告されていることから2),近視化を考慮する必要があります.動画②のCLASIK術後眼の網膜.離症例にて多くのチップスを提示しています.聞き手:重症例での屈折値の考え方を教えてください.後藤:残存黄斑機能にもよりますが,ロービジョンの観点からは拡大効果を考慮し,C.5Dなどをターゲットレフとして選択する場合もあります.その点は,患者とよく話をする必要があります.なお,本稿で取り上げている屈折矯正白内障硝子体同時手術に関しては,十分な技術を有する硝子体術者であることが前提条件です.硝子体手術の経験が浅い術者は,まずは大原則として単焦点レンズを使用し,術後予測屈折誤差がどれほどなのかを把握するところから始めてほしいと考えています.文献1)GotoS,MaedaN:CornealtopographyforintraocularlensselectionCinCrefractiveCcataractCsurgery.COphthalmologyC128:e142-e152,C20212)ShirakiCN,CWakabayashiCT,CSakaguchiCHCetal:E.ectCofCgastamponadeontheintraocularlenspositionandrefrac-tiveerrorafterphacovitrectomy:Aswept-sourceanteri-orCsegmentCOCTCanalysis.COphthalmologyC127:511-515,C2020(68)

抗VEGF治療セミナー:パキコロイド所見に基づく抗VEGF治療レジメの選択

2025年12月31日 水曜日

●連載◯162監修=安川力五味文142パキコロイド所見に基づく抗VEGF治療鎌尾浩行木村修平川崎医科大学眼科学C1教室レジメの選択現在,新生血管型加齢黄斑変性に対する抗CVEGF治療は,長期的な視力維持の観点から薬剤や治療レジメが選択されている.そこで本稿では,筆者が考えるパキコロイド所見に基づく治療レジメ選択を紹介する.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)は画像解析の進歩により病態理解が大きく進んだ.とくに黄斑新生血管(mac-ularneovascularization:MNV)の発症は,網膜色素上皮細胞(retinalpigmentCepithelium:RPE)-Bruch膜の機能低下に伴うドルーゼンの蓄積が基盤となるとされていたが,2013年にパキコロイドの概念が提唱されたことで,脈絡膜循環障害もCMNV発症の一因と考えられるようになった.このためCnAMDの病型はドルーゼンタイプとパキコロイドタイプに分類され,両者の間で遺伝的背景や抗CVEGF治療への反応性に違いがあることが報告されている.パキドルーゼンドルーゼンはCRPEとCBruch膜の間に沈着する細胞外沈着物で,とくに直径C125Cμm以上の軟性ドルーゼンはnAMDや地図状萎縮の前駆病変として臨床的に重要である.この軟性ドルーゼンには補体関連蛋白,アミロイドCbなど多様な成分が含まれ,これらが慢性炎症を惹起しCMNVの形成に関与すると考えられている.一方,パキコロイドは脈絡膜血流のうっ滞によるCHaller層の脈絡膜血管拡張,Sattler層と脈絡毛細血管板の菲薄化を伴う脈絡膜肥厚,脈絡膜血管透過性亢進を特徴とする.パキコロイドタイプのCMNVは脈絡毛細血管板の菲薄によるCRPEの虚血性障害を介して発症すると考えられているが,軟性ドルーゼンのような前駆病変の存在は不明であった.この点に関して,Kangらは典型CAMD患者と比較し,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)患者においては軟性ドルーゼンとは外観が異なる,境界明瞭で直径C125Cμm以上のドルーゼン様沈着物の頻度が高いことを報告した.その後,Spaideがこのドルーゼン様沈着物を「パキドルーゼン」と命名し,脈絡膜肥厚と関連する新たなドルーゼンとして位置づけ,直径C125Cμm以上の大きさ,境界明瞭の黄白色病変,孤立性または散在性に後極に分布(網膜血管アーケード周辺に分布)をパキドルーゼンの特徴として報告した.しかし,パキドルーゼンが軟性ドルーゼンと同様にCMNV発症の危険因子であるか否かは明確でない.Teoらは片眼性CnAMD患者を対象に僚眼のCMNV発症について検討し,軟性ドルーゼンでは100%がCMNVと共局在したのに対し,パキドルーゼンではC29%にとどまったと報告しており,パキドルーゼンはCMNV発症に直接的に関与しない可能性がある.パキドルーゼンと抗VEGF治療パキドルーゼンを有するCnAMD症例は,他のドルーゼン群と比較して抗CVEGF治療に対する反応が良好との報告がある.Fukudaらは片眼性CPCV患者の僚眼をパキドルーゼン,軟性ドルーゼン,subretinaldrusenoiddeposit(SDD.以前のCpseudodrusen),ドルーゼンなしに分類し,アフリベルセプト硝子体内注射(intravit-reala.ibercept:IVA)の治療成績を比較した.その結果,導入期後の再発率はパキドルーゼン群で有意に低かった.また,筆者らの片眼性CnAMD患者を対象にした研究でも,パキドルーゼン群はCIVA3回投与後の再発率が有意に低かった1).以前より,PCVとCtypicalAMD,またはパキコロイド関連CMNVと非パキコロイド関連MNVを比較した研究で,パキコロイドタイプであるPCVやパキコロイド関連CMNVで抗CVEGF治療の有効性が高いことが示されている.このことからパキドルーゼンを有する症例において治療反応性が高いことは妥当である.一方でパキコロイドの概念が登場した当初,ドルーゼンなしはパキコロイドの特徴的な臨床所見の一つとされ,軟性ドルーゼンとCSDDはドルーゼンタイプ,パキドルーゼンとドルーゼンなしはパキコロイドタイプと考えられていた.しかし,前述のC2研究においては,パキドルーゼン群とドルーゼンなし群の間でCIVAの有効性に有意差があり,ドルーゼンなし群がパキコロイドタイプと一致しない可能性がある.(65)あたらしい眼科Vol.42,No.12,202515430910-1810/25/\100/頁/JCOPY軟性トルーゼンFAIA図1軟性ドルーゼンとパキドルーゼンの眼底写真と蛍光眼底造影インドシアニングリーン蛍光造影(IA)で軟パギドルーゼンFAIA性ドルーゼンは低蛍光(),パキドルーゼンは過蛍光()を示す.FA:フルオレセイン蛍光造影.表1ドルーゼンとIA所見による新たなnAMD分類の脈絡膜厚と抗VEGF治療の再発率,および推奨する抗VEGF治療軟性ドルーゼンCSDDドルーゼンなしパキドルーゼン従来のCnAMD分類非パキコロイドタイプパキコロイドタイプ筆者らの考えるCnAMD分類非パキコロイドタイプパキコロイドタイプCIA点状過蛍光なし点状過蛍光あり脈絡膜厚C224.5CμmC151.6CμmC213.8CμmC267.2CμmC273.7Cμm再発率/年78.1%年87.5%年86.2%年65.5%年46.4%年推奨する抗CVEGF治療CTAECmodi.edTAEorPRNSDD:subretinaldrusenoiddeposit,IA:インドシアニングリーン蛍光造影,nAMD:新生血管型加齢黄斑変性,TAE:treatandextend,PRN:prorenata「再発率/年」は,IVAをC3回投与後に休薬し,導入期終了からC1年以内にC.uidの再発を認めた割合を示す.IAの点状過蛍光あり群は,再発率が低く,脈絡膜肥厚などパキコロイドタイプに特徴的な臨床所見を示した.(文献C1と文献C2の結果を再構成)パキドルーゼンとIAの点状過蛍光軟性ドルーゼンとパキドルーゼンの鑑別方法の一つにインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)所見があり,軟性ドルーゼンは低蛍光を示すのに対し,パキドルーゼンは(点状)過蛍光を呈する(図1).このCIAの点状過蛍光は最初の報告で,中心性漿液性脈絡網膜症において高頻度に認め,脈絡膜血管透過性亢進領域に存在することが示された.パキドルーゼンはC125Cμm以上の大きさを基準に定義されることが多く,これより小さい点状過蛍光はドルーゼンなし群に分類されていた.そこで筆者らはドルーゼンなし群をこの点状過蛍光の有無で分類し,IVAの有効性を検討したところ,点状過蛍光あり群は有意に脈絡膜が厚く,IVAの有効性が高いことが示され,同じCIAで過蛍光を示すパキドルーゼン群と類似した特徴を示すことを報告した2).IAの点状過蛍光を有する症例で抗CVEGF治療の反応が良好である理由は明らかでないが,筆者らC1544あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025はC.uidの由来の違いが起因すると考えている.点状過蛍光がある症例におけるC.uidは,MNV由来の滲出液に加えて,脈絡膜血管透過性亢進(点状過蛍光)由来の漏出液に起因する可能性がある.このためC.uidはRPE-Bruch膜の障害が進行する前に出現し,結果として再発が少なくなると推察される.以上より筆者らはIAの点状過蛍光を有するCnAMD症例をパキコロイドタイプと分類し,抗CVEGF治療の方法はCprorenata(PRN)法もしくはCmodi.edtreatandextend(modi.edTAE)法を用いている(表1).文献1)KamaoCH,CMitsuiCE,CDateCYCetal:ClinicalCcharacteristicsCofCunilateralCmacularCneovascularizationCpatientsCwithCpachydruseninthefelloweye.JClinMedC13:3757,C20242)KamaoH,GotoK,DateYetal:ClinicalcharacteristicsofpunctateChyper.uorescenceCspotsCinCtheCfellowCeyeCofCpatientsCwithCunilateralCmacularCneovascularizationCwithCnodrusen.JClinMedC13:5394,C2024(66)

屈折矯正手術セミナー:SMILE術後の白内障手術

2025年12月31日 水曜日

●連載◯307監修=稗田牧神谷和孝307.SMILE術後の白内障手術磯谷尚輝名古屋アイクリニックレーザー屈折矯正手術後に白内障手術を行う際,眼内レンズ(IOL)度数の正確な算出は容易ではない.これは,レーザー屈折矯正手術後の角膜が正常の形状から変化しているためであり,従来のCIOL計算式では誤差が生じやすく,専用の計算式が必要となる.SMILE術後眼は,LASIK術後眼とは少し異なる特性をもつため,より慎重な対応が求められる.●はじめにSmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)は,2011年にフェムトセカンドレーザーCVisuMax(CarlCZeissMeditec社)とCReLExSMILE技術が欧州でCCEマークを取得している.2024年末時点で世界における施術件数は累計C1,000万件を超えており,レーザー屈折矯正手術の一手法として広く普及してきた.一方,わが国ではC2023年に認可されたばかりで,SMILE術後に白内障手術を受ける患者数は現時点では少ない.しかし,術後C10年以上が経過する患者の増加に伴い,その数は確実に増加すると予想される.したがって,SMILE術後における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数の正確な算出方法について,あらかじめ理解を深めておくことが今後重要となる.C●LASIK術後のIOL度数計算LaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)では,角膜前面の中心部をエキシマレーザーで蒸散・平坦化することにより,角膜前面の曲率(K値)が大きく変化し,非球面性(Q値)も顕著に正方向(oblate)へと移行する.このような角膜形状の変化により,IOL度数の算出には複数の課題が生じる.第一に,角膜中心屈折力の推計誤差である.多くのケラトメータでは角膜中心部のCK値を測定できず,傍中心部から算出する.角膜中心部と傍中心部の屈折力分布が異なると,角膜中心の屈折力を正確に評価することが困難になる.第二に,角膜前面と後面の曲率比が術前とは異なるバランスになることで,角膜前面から推計される角膜全体の屈折力の算出に誤差が生じやすくなる.これらの問題に対応するため,角膜トモグラフィなどを用いて角膜前後面の情報を含めた屈折力(63)評価を行うことが有効であり,さらに,Haigis-L式やCBarrettTrue-K式,AI技術を応用した補正式など,術後の角膜形状変化に対応したCIOL計算式も開発され,一定の予測精度が得られている1,2).C●SMILE術後とLASIK術後の角膜形状の違いエキシマレーザーによる角膜切除は,角膜中心部ほど切除効率が高く,周辺部はレーザーが斜めに当たるため,切除効率が低下する.一方フェムトセカンドレーザーを用いるCSMILE手術では,角膜周辺部まで狙った厚みで角膜切除が可能である.実際にCSMILE眼とLASIK眼の角膜中心部から周辺部に欠けた屈折矯正の効果を詳細に検討した研究では,フェムトセカンドレーザーを用いるCSMILEはエキシマレーザーを用いるLASIKよりも角膜周辺部の矯正効率が高いことが示されている3).また,LASIKでは角膜フラップを作製することで角膜の中でもっとも強度が高い角膜表層のコラーゲン線維が切断され,角膜生体力学特性の減弱化によって角膜中央部が平坦化し,周辺部が相対的に急峻となる.この変化によってCQ値は術前よりも大きく変化し,角膜はoblate形状(正のCQ値)に近づく傾向がある.一方,SMILEでは,角膜表層のコラーゲン線維をある程度温存するため,角膜剛性の低下が小さく,非球面性の変化は比較的小さく,とくに矯正量が少ない場合には術後もprolate形状(負のCQ値)を比較的維持しやすい傾向にある(図1).Liらの報告4)においても,SMILE術後ではCQ値の変化が小さく,結果としてCLASIK術後よりも術後の光学特性が良好である可能性が示唆されている.このような特性を踏まえると,LASIK後に最適化されたCIOL計算あたらしい眼科Vol.42,No.12,202515410910-1810/25/\100/頁/JCOPYSMILEにおける角膜Q値の変化LASIKにおける角膜Q値の変化-0.170.01-0.150.57術前術後術前術後図1SMILEとLASIKの術前後におけるQ値の変化同じ矯正量.3.0DにおけるCSMILEとCLASIKの角膜非球面性(Q値)の変化を示す.LASIKに比べてCSMILEのほうがCQ値の変化量は少ない.式をそのままCSMILE術後に適用することには,慎重な検討が必要である.C●SMILE術後のIOL度数計算式現在,SMILE術後のCIOL度数計算に特化したアルゴリズムは確立されておらず,どの計算式がもっとも有効であるかについては,世界で研究が進められている.Liらの報告によれば,理論モデルを用いたシミュレーションではあるが,BarrettTrue-K式はCSMILE術後においても一定の予測精度を示すものの,LASIK術後と比較すると誤差のばらつきがやや大きく,SMILE特有の角膜形状変化を十分に反映できていない可能性が指摘されている5).また,症例数は少ないものの,SMILE術後に白内障手術を施行した眼の検討では,光線追跡法がもっとも良好な成績を示し,ついでCPotvin-Hill式およびCBarrettTrue-K式も良好な結果を示したとCLischkeらが報告している6).このような背景から,SMILE術後のCIOL計算においては,以下のような対応が推奨される.①術前の情報がない場合には光線追跡法,術前の屈折値やCK値などのデータが取得可能な場合にはCHistory法を活用し,BarrettTrue-K式(Historyモード)やMasket法などの補正式を検討する.②CCASIA2などの角膜トモグラフィ装置や,IOL-Master700で取得可能なCTK値(TotalKeratometry)を用いて角膜全体の屈折力を評価し,IOL計算式と併せて活用する.③既存のCLASIK術後向けCIOL計算式では,一定の誤差が生じる可能性があることを術前に患者に十分説明し,必要に応じてCIOLの交換やタッチアップなど,段C1542あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025階的な追加矯正の選択肢を考慮する.C●おわりにSMILE術後のCIOL計算は,LASIKと比較して角膜構造の温存性に優れる一方で,従来の計算式をそのまま適用するには一定の限界があるとされている.ただし,光線追跡法などの実理論に基づいた計算方法や,Bar-rettTrue-K式など既存の補正式を用いた場合でも,一定の予測精度が得られる可能性が報告されており,実臨床において有用性が認められる場面も少なくない.今後は,SMILE特有の角膜特性をより的確に反映したCIOL度数計算アルゴリズムのさらなる開発と,それに基づく予測精度の検証が期待される.文献1)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryCformyopia:Haigis-LCformula.CJCCataractCRefractCSurgC34:1658-1663,C20082)PanX,WangY,LiZetal:mntraocularlenspowercalcu-lationCinCeyesCafterCMyopicClaserCrefractiveCsurgeryCandCradialkeratotomy:BayesianCnetworkCmeta-analysis.CAmJOphthalmol262:48-61,C20243)KataokaCT,CNishidaCT,CMurataCACetal:Control-matchedCcomparisonCofCrefractiveCandCvisualCoutcomesCbetweenCSMILECandCfemtosecondCLASIK.CClinCOphthalmolC12:C819-825,C20184)LiM,ChenY,WangJetal:Comparativechangeinante-riorCcornealCasphericityCafterCFS-LASIKCandCSMILECforCmyopia.JRefractSurgC37:158-165,C20215)LiL,YuanL,YangKetal:ComparativeanalysisofIOLpowerCcalculationsCinCpostoperativeCrefractiveCsurgerypatients:aCtheoreticalCsurgicalCmodelCforCFS-LASIKCandCSMILEprocedures.BMCOphthalmol23:416,C20236)LischkeR,EppigT,BruennerHetal:IOLpowercalcula-tionsCandCcataractCsurgeryCinCeyesCwithCpreviousCsmallCincisionlenticuleextraction.JClinMedC11:4418,C2022(64)

眼内レンズセミナー:Dead bag syndrome

2025年12月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋住岡孝吉463.Deadbagsyndrome和歌山県立医科大学医学部眼科学講座Deadbagsyndromeは,白内障手術後長期経過例において水晶体.が異常に透明化し柔軟化することで,.内眼内レンズ支持機構が破綻するまれな病態である.本症は水晶体上皮細胞の消失および線維性成分の欠如,.の分裂・層間.離を特徴とし,眼内レンズ偏位・脱臼ならびに視機能障害を惹起する.●はじめに白内障手術で眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を水晶体.内に固定したのち,長期経過により.構造が変化し,IOLの安定性が損なわれることがある.代表的な合併症である後発白内障(posteriorCcapsuleCopaci.ca-tion:PCO)は,水晶体上皮細胞(lensCepithelialcells:LEC)の増殖や上皮-間葉転換(epithelial-mesenchymaltransformation:EMT)によって線維性組織が形成され,Soemmerring輪やCElschnig真珠が生じ,視力低下やIOL偏位をきたす.一方,近年報告されているCdeadbagCsyndrome(DBS)はCPCOと異なり,術後平均C10年以上経過した患者で水晶体.が異常に透明かつ柔軟(フロッピー)となり,IOL支持が破綻するまれな病態である1)(図1).術中にCZinn小帯脆弱を認めないことが多く,病理組織学的にはCLECの著明な消失,線維成分の欠如,.の分裂や層間.離が特徴とされる2)(図2).C●病態生理と原因の考察DBSにおけるCLECの消失は免疫染色で明らかとなり,術後になんらかの要因で細胞死が生じていると考えられる.通常,残存CLECは創傷治癒反応として増殖し,Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスを分泌するが,DBSではこれらがごく限られた領域にしか認められない2).房水成分の影響も重要であり,残存CLECが房水に持続的に曝露されることで細胞死が促進される.とくに,.の分裂や層間.離がCZinn小帯付着部で生じた場合,房水が層間へ流入し続け,LEC障害を助長する可能性がある.水晶体.研磨の影響については,PCO予防目的の研磨によりCLECが減少すれば,長期的に.構造の維持が損なわれる可能性はある.しかし,広範囲研磨を行っていない患者でもCDBSは発生しており,決定的な原因とはいいがたい.アトピー性皮膚炎との関連も報告されており,前房内の好酸球から放出される主要塩基性蛋白質がCLECに損傷を与え,分化過(61)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1Deadbagsyndromeの水晶体.とIOL(住岡孝吉,WernerL,安田慎吾ほか:白内障手術後の水晶体.の線維性混濁とCdeadbagCsyndrome.眼科65:63-67,2023より許可を得て改変転載)図2IV型コラーゲンによる免疫染色前.の分裂・層間.離がみられる.程を抑制し,.の既存の脆弱性を悪化させる可能性がある3).実際にアトピー性皮膚炎を伴うCIOL脱臼の患者ではCLECの変性・水晶体.の脆弱化がより高度に進行しており,.の脆弱性がCIOL脱臼の一因となっており,その一形態としてCDBSもみられると報告されている4).疫学的特徴としては,男性に多いこと,軸性近視との関連が示されている5).また,遺伝的背景として,FBN2,LAMB1,LAMB2遺伝子変異が半数以上の症例で同定されており,結合組織や基底膜構造の異常が関与している可能性がある6).さらに直近の学会では,DBS症例では前.への終末糖化産物(advancedCglycationCendproducts:AGE)の蓄積が顕著で,水晶体.構造が糖化により脆弱化することで,.の分裂が誘発される可能性も報告されている7).C●臨床像,治療,管理DBSは.の透明化と柔軟化が術後早期には見逃されあたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1539abc図3IOL脱臼を繰り返したアトピー性皮膚炎を伴うdeadbagsyndromeの1例透明でフロッピーな.と下方に脱臼したCIOLがみられる.やすく,軽度のCIOL偏位や視機能低下が緩徐に進行するため,長期経過観察で初めて発見されることが多い.発症初期の診断は困難であり,IOL亜脱臼が急速に進行する例もある.臨床像はCPCOや.収縮症候群など他の晩期合併症と類似するため,鑑別には前眼部光干渉断層計や超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)による形態評価が有用で,術中所見と併せて病態を把握することが重要である.症状は初期には乏しいが,.の変化に伴いCIOL偏位と視力低下が顕在化する.手術時にCZinn小帯脆弱を認めないことが多く,IOL整復後も再脱臼を繰り返す例がある8)(図3).予防は困難で,治療はCIOL抜去後の強膜内固定または毛様溝縫着が行われる.アトピー性皮膚炎合併例では,術後も長期にわたりCIOLの位置と視機能の定期評価が推奨される.C●おわりにDeadbagsyndromeは,白内障手術後の長期経過において,LECの消失と線維成分の欠如を背景に,水晶体.が構造的に脆弱化し,IOLの支持が破綻するまれな病態である.本症は臨床的に発症初期の診断が困難で,しばしば他の晩期術後合併症との鑑別を要する.早期発見には定期的な画像評価と術中所見の記録が重要であり,とくにアトピー性皮膚炎など既知の危険因子をもつ患者では,長期的な経過観察が不可欠である.その明確な発症機序は未解明であり,予防法の確立には今後のさらなる研究が不可欠である.将来的には,危険因子の有無に応じた患者ごとの発症リスク評価や,.構造の保持を目的とした新たな術中・術後管理法の開発が望まれる.文献1)CulpC,QuP,JonesJetal:Clinicalandhistopathological.ndingsCinCtheCdeadCbagCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC48:177-184,C20222)SumiokaT,WernerL,YasudaSetal:Immunohistochem-icalC.ndingsCofClensCcapsulesCobtainedCfromCpatientsCwithCdeadbagsyndrome.JCataractRefractSurgC50:862-867,C20243)YamamotoN,HiramatsuN,IsogaiSetal:MechanismofatopicCcataractCcausedCbyCeosinophilCgranuleCmajorCbasicCprotein.MedMolMorpholC53:94-103,C20204)KomatsuCK,CMasudaCY,CIwauchiCACetal:LensCcapsuleCpathologicalcharacteristicsincasesofintraocularlensdis-locationCwithCatopicCdermatitis.CJCCataractCRefractCSurgC50:611-617,C20245)NathCV,CVasavadaCAR,CDholuCSCetal:ClinicalCfeatures,Criskfactorsandoutcomesfollowingsurgeryforlateintra-ocularlensdecentrationinthedeadbagsyndrome.AmJOphthalmol272:38-47,C20256)VasavadaCAR,CRajkumarCS,CVasavadaCSACetal:GeneticCvariantsCinCgenesCregulatingClensCcapsuleCstructureCandCstabilityCinCdeadCbagCsyndrome-PartC1.CJCCataractCRefractCSurg,2025Jun30.Onlineaheadofprint7)小松功生士,増田洋一郎,飯田将展ほか:眼内レンズ脱臼症例における前.CAGE免疫染色の病理学的特性.第C64回日本白内障学会総会.20258)安田慎吾,宮本武,石川伸之ほか:水晶体.混濁のない水晶体.内に挿入された眼内レンズが脱臼を繰り返した一例.臨眼70:1443-1447,C2016

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 総括

2025年12月31日 水曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く24.総括土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科2024年C1月からC2年間にわたり連載してきた「英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く」このセミナーも今回で最終回である.本稿ではこれまでの総括として“ContactLensEvidence-BasedAcademicReports(CLEAR)”の意義をふり返るとともに,日本のコンタクトレンズ診療ガイドラインとの相違点を踏まえたうえでの両者の効果的な活用法を提案する.総覧としてのCLEAR英国コンタクトレンズ協会がC2021年に発表したCCLEAR1)を一言で表すならば,コンタクトレンズ(CL)に関するサイエンスを基盤とした「総覧」といえるだろう.CL研究はこれまで材料工学から臨床応用,感染症対策に至るまで多様な領域で発展してきたが,それらを体系的に統合し,分野全体のエビデンスを一望できる形で整理した試みはほとんど存在しなかった.「CLそのもの」に焦点を当て,素材・デザイン・ケア・臨床応用・装用感・ドライアイ・感染症・小児・近視・教育・将来技術などを横断的に俯瞰した「総合レビュー」は画期的であり,おそらく初めての試みである.このエビデンス・ベースドの統合プロジェクトのメンバーは,100名を超える世界各国の研究者・臨床医・教育者ら専門家で構成されている.その中には日本コンタクトレンズ学会常任理事の高静花先生も参加されており,今回は特別にCCLEARそのものの意義や本セミナーの活用法などについてコメントをお寄せいただいた(次頁の掲載).CCLEARの目的と意義CLEARの目的は,「CLに関するサイエンスのあらゆる分野を俯瞰し,現時点におけるエビデンスを再定義する」ことといえる.その最大の特徴は,既存の知見を単に羅列するのではなく,研究水準やエビデンスレベルを明示したうえで,臨床応用への橋渡しを試みている点にある.たとえば,レンズ素材の章では酸素透過性,表面エネルギー,湿潤性といった物理的・化学的性質が実際の装用感や涙液安定性とどのように関連するかを解説している.また,感染症の章では,微生物学的リスクに関する疫学研究と臨床報告を総合し,ケアシステムやユー(59)ザー行動との因果関係をエビデンスに基づいて再構築している.近視抑制や小児のCCL装用に関する章では,オルソケラトロジーや多焦点ソフトCCLの長期成績を解析し,エビデンスの質を評価したうえで臨床指針を提案している.このようにCCLEARは,CLに関する学術的知見を実臨床へと結びつける「国際的共通言語」としての役割を果たしている.日本のガイドラインとの関係・位置づけわが国では,日本コンタクトレンズ学会が策定した「コンタクトレンズ診療ガイドライン」(以下,ガイドライン)が臨床現場における実践指針として広く活用されている2).その内容は,適応・禁忌・処方・フィッティング・ケア・合併症管理などを中心に,国内の医療制度や医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律,販売管理制度との整合を図った実務的な指針である.これに対しCCLEARは,臨床の枠を超えて科学的根拠を国際的に体系化した「知のプラットフォーム」であり,両者は性格を異にしながらも相補的な関係にあるといえる.臨床医や教育者が現場で安全性と遵法性を確保するためにはガイドラインが不可欠であるが,その背後にある物理化学的・生理学的エビデンスを理解し,科学的根拠に基づいて判断を行うには,CLEARの知見がきわめて有用である.いいかえれば,ガイドラインが「どう行うか」を定めた手引きであるのに対し,CLEARは「なぜそれが必要なのか」を示す科学的根拠集である.ただし,CLEARの多くは欧州を中心とした製品や環境を前提としており,わが国のレンズ流通や法規,保険制度とは一部条件が異なる.そのため,国内臨床で応用する際には,日本のガイドラインの枠組み内で,CLEARの記載内容における国内外の差異あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15370910-1810/25/\100/頁/JCOPYを認識しつつ活用するのが,現時点でのベストと思われる.今後は,CLEARが提示する最新の科学的知見をどのようにわが国の臨床実践に反映させるかが課題となるであろう.2年間にわたる本セミナーが,その「国際エビデンスを日本の現場へ橋渡しする」一助となったのであれば,望外の喜びである.おわりに本連載を終えるにあたって,CLEARのメンバーの一人であった高静花先生から,本セミナーを総括するにふさわしいコメントをお寄せいただいたので,ここに掲載する.文献1)Wol.sohnCJS,CMorganCPM,CBarnettCMCetal:CLEARC-Contactlenstechnologiesofthefuture.ContLensAnteri-orEyeC44:129-131,C20212)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-591,C2014CLEARに学ぶ:国際的エビデンスと日本の実践のあいだで高静花大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学寄附講座CLEARプロジェクトは,コンタクトレンズに関する科学的知見を国際的に体系化した初の試みであり,研究と臨床を結ぶ新たな視座を提示した点で画期的であった.私自身,執筆に参加した際には,海外の考え方や用語の違いにとまどいながらも,多くを学んだことを鮮明に覚えている.欧州を中心にまとめられたCCLEARの内容は,日本のレンズ流通や法規・保険制度とは一部前提が異なるが,その違いを理解し,日本のガイドラインの枠組みのなかで活かすことが重要だと感じている.本連載を通じてCCLEARの理念を丁寧に紹介し続けてくださったことに深く感謝申しあげたい.今後,コンタクトレンズの世界はさらに発展をとげ,新しい常識が生まれていくだろう.常にアンテナを張り,研究者と企業が協力しながら,エビデンスに基づいた柔軟な視点を持ち続けて進んでいくことを心から願っている.

瞳 孔異常 ─瞳孔不同,対光反射,対光近見反応解離

2025年12月31日 水曜日

瞳孔異常─瞳孔不同,対光反射,対光近見反応解離PupilAbnormalities前久保知行*はじめに瞳孔は虹彩前面に放射状に走行する瞳孔散大筋と,瞳孔縁で輪状に走行する瞳孔括約筋の,筋緊張のバランスに伴い変動する.瞳孔散大筋は交感神経支配であり,瞳孔括約筋は副交感神経(動眼神経の分枝)による支配を受ける.瞳孔は多くの情報をわれわれに与えてくれる一方で,注目して観察をしないと見逃してしまう変化も多い.瞳孔の異常は,瞳孔の大きさの違い(瞳孔不同)と対光反射の異常の二つに大きく分けられる.瞳孔不同,形状の異常では眼交感神経路,副交感神経の異常であるのか,瞳孔散大筋もしくは瞳孔括約筋の異常であるのか,もしくは中枢性の異常であるのか,順序立てて検査を行うことで診断へつなげることができる.また,CswingingC.ashlighttestにより評価される相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)は視神経疾患を見つけ出す重要な所見となる.本稿ではまず瞳孔所見のとり方,観察時の注意点について触れ,Horner症候群,動眼神経麻痺,瞳孔緊張症,light-neardissociationの鑑別をまとめた.CI瞳孔検査のポイント(図1)1.5)瞳孔径の評価は暗室,明室のC2環境下での瞳孔径を評価することが重要である.それはある一環境下だけの観察ではどちらの眼の異常であるかの判断ができないためである.測定はできる限り室内の遠方の指示指標を見てもらい,検者は近見反応が入らないように被検者の視線図1正常眼(赤外線撮影)(20代,女性)を遮らず横から観察を行い,0.5Cmm単位での瞳孔径を記録する.対光反射では片眼に光を照射し,その眼の縮瞳が迅速(prompt)であるか遅鈍(sluggish)か,縮瞳量は完全(十分)か不完全(不十分)か評価する.対光反射は光刺激によって生じる反射性の縮瞳を意味する.網膜視細胞から双極細胞,網膜神経節細胞を経て,その求心線維は視神経,視交叉,視索に達し,外側膝状体の前で視路と分岐して中脳背側部の視蓋前域に入り,その後両側のEdinger-Westphal核(EW核)に投射される.その後,遠心路として動眼神経の一部として走行し,眼窩内で動眼神経下枝から毛様体神経節に至り,シナプスを替え,節後神経線維である短毛様体神経として眼球内に入り虹彩の瞳孔括約筋に終わる6).そのため,片側の光入力に対して,両側同量の出力(縮瞳)を生じる変化が起こり,直接対光反射=間接対光反射となる.SwingingC.ashlighttestは光を左右眼に対して素早く2.3秒ごとに交互に照射し,その入力系の差(RAPD)を検出するものである.縮瞳量の差から縮瞳状態から散大する動き*TomoyukiMaekubo:眼科三宅病院〔別刷請求先〕前久保知行:〒462-0825名古屋市北区大曽根C3-14-20眼科三宅病院(1)(51)C15290910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2Horner症候群(頸椎症術後)(40代,男性)右眼の縮瞳と軽度の眼瞼下垂を認める.C–図3動眼神経麻痺(70代,男性)a:顔写真.b:赤外線撮影.左内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤による左動眼神経麻痺.左瞳孔散大,眼瞼下垂,外斜視を認める.図4瞳孔緊張症(30代,男性)a:暗所.b:左眼への光照射.c:近見反応.暗所では左瞳孔は散大し,左眼に光刺激を行っても縮瞳はみられないが近見反応では縮瞳を認める(light-neardissociation).要ない.症状が強い場合や改善傾向が認められない場合に治療を検討する.点眼治療として低濃度ピロカルピン点眼をC1日C3.4回点眼する.羞明症状が強い際にはサングラスや着色コンタクトレンズなどを用い,近方視力障害の症状が強い際には近見への屈折矯正を行う.CV対光近見反応解離対光近見反応解離(light-neardissociation)18)は対光反射が減弱ないしは消失しているのに対して,近見反応は保存されている状態をさす.中枢性と末梢性に分け,中枢性では中脳背側症候群(dorsalCmidbrainCsyn-drome,ほぼ同義でParinaudsyndrome)とArgyllRobertson瞳孔を考え,末梢性では瞳孔緊張症を考える.対光反射は前述のように視交叉後に視索から中脳背側の視蓋前域,後交連に入りCEdinger-Westphal(EW核)へ投射する.中枢性対光近見反応解離はおもに視蓋前域の部分が障害されることにより対光反射の異常が生じるのに対して,近見反応は視覚入力が外側膝状体より第一次視覚中枢を経由し別経路でCEW核に入ることから保たれるため,この解離が生じるものと考えられている.中脳背側症候群では松果体腫瘍などによる中脳背側への圧排や出血,梗塞,炎症,脱髄などで生じる.ArgyllRobertson瞳孔はもともと神経梅毒の特殊な瞳孔異常としてとらえられおり,両眼の縮瞳に対光近見反応解離を伴うものをいう.しかし,近年は重症梅毒患者の減少に伴い,梗塞,多発性硬化症などを背景とした報告のみであり症例は減っている.瞳孔緊張症は,急性期では対光反応・近見反応のいずれも障害されるが,亜急性から慢性期にかけて末梢性対光近見反応解離を認めるようになる.末梢性対光近見反応解離は,中枢性の場合とは機序が異なると考えられており,その発現機序については諸説がある.その一つとして,異所再生(aberrantregeneration)の関与が考えられている.瞳孔括約筋への神経線維は動眼神経下枝内を走行し,毛様体神経節でシナプスを形成する.節後線維は短毛様体神経とよばれ,およそC95%が毛様体へ,残りが瞳孔括約筋へ分布するとされる.障害後の再生過程で,本来毛様体へ向かうべき神経線維が瞳孔括約筋へ迷入する異所再生が生じると,対光反射が消失または不良な状態であっても,近見反応が保持されるようになるとされる19).また,瞳孔括約筋における脱神経過敏による機序も考えられており,近見反応時に毛様体筋から大量のアセチルコリン(acetylcholine:ACh)が放出され,房水を介して過敏化した瞳孔括約筋に作用することで,近見反応時に縮瞳が生じるのではないかとする説である20).近見反応による縮瞳は急速ではなく,緩徐に縮瞳し,遠見に戻した際の瞳孔の拡大もゆるやかとなる点が末梢性の特徴とされる.一方,中枢性の対光近見反応解離では,瞳孔が比較的速やかに戻るため,両者の鑑別に有用である.おわりに瞳孔所見から診断に至る症例も少なくなく,多くの情報を得ることができる.瞳孔不同は致死的な疾患が背後にあることもあり,決して見逃してはいけない変化である.また,対光反射やCRAPDを適切に評価することで視神経症の早期発見・診断につなげることができる.今回は瞳孔所見のとり方から各疾患の診断のポイントをまとめた.本稿が日常診療の一助となれば幸いである.文献1)前久保知行:神経眼科診療における所見の取り方(診察室・入門編).神経眼科C42:138-145,C20252)中馬秀樹:神経眼科診療の基本.フローチャートでみる神経眼科診断(中馬秀樹編).中山書店,p2-21,C20213)三村治:神経眼科診察法.神経眼科学を学ぶ人のために(三村治編),第C2版.医学書院,p19-31,C20174)MillerCNR,CNewmanCNJ,CRiousseCVCetal:WalshCandCHoyt’CsCclinicalneuro-ophthalmology:TheCessentialsC2ndCed,CLippincott,Cp299-306,C20085)LiuCGT,CVolpeCNJ,CGalettaS:Neuro-ophthalmology:CDiagnosisCandCmanagement-2ndCed,CPupillaryCdisorders.Cp428-441,C20106)前田史篤:対光反射の新しい考え方.神経眼科C36:372-377,C20197)MoralesCJ,CBrownCSM,CAbdul-RahimCASCetal:OcularCe.ectsCofCapraclonidineCinCHornerCsyndrome.CArchCOph-thalmolC118:951-954,C20008)前久保知行:Horner症候群のアイオピジン点眼試験について教えてください.あたらしい眼科C27(臨増):260-263,C20109)SabbaghCMA,CDeCLottCLB,CTrobeJD:CausesCofCHornersyndrome:aCstudyCofC318Cpatients.CJCNeuro-ophthalmolC40:362-369,C2020(55)あたらしい眼科Vol.C42,No.C12,2025C1533-

中 枢性眼球運動障害 ─病的眼振,核間麻痺,垂直水平注視麻痺

2025年12月31日 水曜日

中枢性眼球運動障害─病的眼振,核間麻痺,垂直水平注視麻痺CentralOcularMotorDisorders─PathologicalNystagmus,InternuclearOphthalmoplegiaandVertical/HorizontalGazePalsies吉田正樹*はじめに日常の眼科診療で中枢性眼球運動障害に接した際に,病因となる中枢病変をわれわれ眼科医が直接治療することはない.必要なことは,病因の最終診断や治療を担当する脳神経内科ないしは脳神経外科へ,適切かつ迅速に情報提供を行うことであろう.一方,先天眼振に代表される先天性の眼球運動障害では,眼科による管理が必要とされることもある.本稿ではおもに脳幹レベルでの眼球運動の中枢制御の基本事項を提示したのちに,中枢性眼球運動障害の眼科臨床的な側面につき解説する.I眼球運動の中枢制御:衝動性眼球運動と眼位維持のしくみヒト左右眼には3対計6本の外眼筋が付属し,左右の動眼・滑車・外転神経の支配を受けている.これらの脳神経は上位中枢から適切な制御を受け,左右眼の中心窩で視対象をとらえ,維持させることができる.最初に左右眼が共同して動くしくみについて述べる.1.三半規管と前庭眼反射による眼位維持1)左右の内耳には,前半規官(anteriorsemicircularcanal:AC),後半規官(posteriorsemicircularcanal:PC),外側半規官(lateralsemicircularcanal:LC)が互いに90°をなして位置し,頭部の回旋を三次元的に感知している.眼球も頭部回旋に対してそれぞれの半規官に対応した回旋角に対して逆位相の回旋運動を行うことで眼位の維持を可能にしている(図1a).具体的には右ACは右上直筋と左下斜筋を駆動させ,右PCは右上斜筋と左下直筋を,右LCは右内直筋と左外直筋を駆動させる(図1b).図中には記載していないが,左ACは左上直筋と左下斜筋を,左PCは左上斜筋と右下直筋を,左LCは左内直筋と右外直筋を駆動させる.頭部回転角に対する眼位補正を行っている.内耳の半規官で得られた頭部回旋情報は,矯・延髄移行部に位置する同側の前庭神経核への投射が行われたのちに,眼球運動神経核を介して外眼筋を逆位相に回旋させ視対象を網膜上に安定させる.この仕組みを前庭眼反射とよぶ.図2に右への顔回しに対する前底眼反射の経路をシェーマで示す.右への顔回しでは右水平半規官が水平回旋情報を右前庭神経核のおもに内側核へ伝える.右前庭神経核から対側の左外転神経核へ交差して投射され,左眼の外直筋を収縮させ左眼は左方向へ回転する.また,左外転神経核から交差線維が右内側縦束(mediallongitu-dinalfasciculus:MLF)を中脳レベルまで上行して右動眼神経核へ投射,右内直筋を収縮させ右眼も左方向へ回転する.結果として,右への顔回しに対して左右眼が左方向へ回転することで視対象を網膜上に保持させることができる.図3に右斜め下・右斜め上への頭部回旋に対する前庭眼反射の経路をシェーマで示す.右斜め下への頭部回旋が生じた(図3:赤線)とき,右前半規官が回旋情報を*MasakiYoshida:堀内眼科〔別刷請求先〕吉田正樹:〒400-0306山梨県南アルプス市小笠原386堀内眼科(1)(41)15190910-1810/25/\100/頁/JCOPYbPC:後半規管図1a3半規管による回旋角の感知と眼球回旋図1b右側各半規管による眼球回旋支配図2右への顔回しに対応する左向き水平前庭眼反射上向き系下向き系図3右斜め下・右斜め上への顔回しに対応する前庭眼反射上丘を背側上方からみたシェーマ左側吻側右側尾側図4上丘におけるサッケード指令の二次元地図図5左向き水平サッケード経路上向き系下向き系図6垂直サッケード経路(prepositusChypoglossinucleus),垂直サッケードではカハール間質核(interstitialCnucleusCofCajal)が重要な役割をもっているものの,これらが単独で機能するものではなく,前庭神経核や小脳を含めた脳幹に分布する複数の組織間の神経回路から成り立っているCII病的眼振のしくみ:病的な滑動性眼球運動の混入5)眼位維持の中枢機能として前庭眼反射と神経積分機構について前項で述べた.これらが正しく機能しないと眼球は視対象を黄斑部に維持しておくことができず,視線が視対象からゆっくりとはずれていく病的な滑動性の眼球運動が起こる.はずれた視線を反射性のサッケードで一度戻すものの,病的な滑動性眼球運動で再びそれてしまうという繰り返しが発生する.このサッケードの成分(急速相)と滑動性眼球運動の成分(緩徐相)が交互に繰り返される現象を眼振とよぶ.病的な滑動性の眼球運動によって眼位維持が損なわれることで,病的眼振が発生する.C1.前庭眼反射系の異常による病的眼振図2,3で示したように,前庭神経核は左右の神経核が互いに抑制制御を行うことで眼球運動への出力均衡を常に保っている.また,小脳からも前庭神経核は出力利得の調整を受けることで,前半規管が後半規管に比べ優位であるために起こりうる上向き眼球回旋を抑制したり,眼鏡装用前後で網膜像の大きさに変化が生じることで起こる過大ないしは過少な眼球回旋の補正を行ったりしている.脳幹部病変により前庭神経核の左右均衡が崩れ(toneimbalance,調律不均衡)たり,小脳病変による出力調整が不十分になることにより,不適切な前庭眼反射出力が起こり病的な滑動性の眼球運動を生じさせる.C2.神経積分機構の異常による病的眼振(低利得:後天性障害)サッケード後における適切な視線維持のための外眼筋出力を制御する神経積分機構は,前述の舌下神経前位核,Cajal間質核,小脳などに障害が起きると,出力が低利得となる.サッケード後の眼位維持に必要な外眼筋出力が低下するため,第一眼位へ戻ろうとする病的な滑動性の眼球運動が起こる.この結果起こる病的眼振は注視眼振(gazeevokednystagmus)とよばれる.C3.神経積分機構の異常による病的眼振(高利得:先天性障害)神経積分機構が先天的に異常亢進をきたす病態(先天眼振,idiopathicCcongenitalnystagmus,以下,idio-pathicCN)も存在する.idiopathicCNでは眼位を維持するための外眼筋への出力が過剰となり,眼位維持に必要な外眼筋出力が過大となるために,第一眼位からさらに偏心へ向かう病的な滑動性の眼球運動が起こる.Idio-pathicCNは,垂直・回旋成分を伴わず水平性であることが特徴である.臨床的な特徴はCIV-2項で後述する.CIII注視麻痺と核間麻痺1.注視麻痺I-2項で,垂直・水平サッケードの経路について解説した.水平サッケード(図5)では橋下部におけるPPRFから外転神経核に至る構造に障害が発生した場合,障害側への水平サッケードは発動されず水平注視麻痺をきたす.同様に垂直サッケード(図6)では,中脳背側においてCriMLFに一致した障害が発生した場合,垂直注視麻痺をきたす.水平・垂直注視麻痺を観察した場合,急性発症における病因としては,同部位の脳梗塞があげられる.慢性進行性の場合では,中脳レベルでの萎縮が観察される進行性核上麻痺で垂直注視麻痺(とくに下方注視麻痺)をきたす.同様に松果体部腫瘍においてもCriMLFの破壊により垂直注視麻痺をきたす.図7に脳梗塞後の恒常的な複視を主訴に来院したC46歳,男性症例を示す.右顔面神経麻痺を合併していたため橋下部脳幹梗塞を考え,脳梗塞入院時CMRI照会で同部位の病巣が確認された.左眼の内転は保たれており注視麻痺はきたしていないものの,顔面神経を含む外転神経核部分障害ないしは髄内外転神経線維障害と考えられた.右内直筋拘縮解除目的に内直筋CA型ボツリヌス毒素注射を行ったところ,右外転制限は残存するものの正面から左方視で融像が可能となり,定期的な追加注射で融像を維持している.1524あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(46)右橋下部梗塞右眼の外転制限左眼の内転は保たれている右内直筋A型ボツリヌス毒素注射後図7脳幹梗塞による右外転神経麻痺a急性期拡散強調画像b水平断冠状断図8脳幹梗塞による右核間麻痺

写真セミナー:放射線角膜上皮障害による角膜穿孔

2025年12月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史葛西梢499.放射線角膜上皮障害による角膜穿孔東京慈恵会医科大学附属病院眼科図2図1のシェーマ①角膜穿孔・虹彩嵌頓②瞼球癒着図1放射線角膜上皮障害による角膜穿孔の前眼部所見(74歳,女性)放射線治療開始からC3年C7カ月後(2025年C7月)の所見.角膜下方に角膜穿孔・虹彩嵌頓・瞼球癒着を認める.図3初診時前眼部所見放射線治療開始からC1年後(2022年C12月)の所見.表層角膜の角化,血管の侵入を認める.疼痛のため開眼が困難.図4図3のフルオレセイン所見角膜下方に上皮欠損とびまん性の角膜上皮障害を認める.(57)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15350910-1810/25/\100/頁/JCOPY頭頸部癌の多くが扁平上皮癌であり,放射線感受性が高いことから放射線治療を行うことが多い.一方で放射線による重篤な有害事象の発生も多い1).症例は74歳,女性.左上顎洞癌cT4aN0に対して2021年12月からC2022年C2月まで動注化学療法併用放射線治療をC70CGy/35fx施行された.病変は左眼窩内にも進展しており,角膜や網膜の耐容線量を超えて照射された.照射開始から約C1年後のC2022年C12月に左眼の眼痛を訴え開眼困難となったため,当院を紹介受診した(図3,4).初診時,水晶体や網膜に異常所見は認めないものの,左眼の角膜上皮障害,Descemet膜皺襞,瞼球癒着,血管侵入を認め,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.09と左眼の矯正視力低下を認めた.ジクアホソルナトリウム点眼と治療用ソフトコンタクトレンズの使用による治療を開始し,徐々に角膜上皮障害は改善した.その後は点眼・受診ともに自己中断していたが,2023年C10月,左眼疼痛を訴えて来院した.左眼の角膜上皮障害・輪部機能不全を認め,ヒアルロン酸ナトリウム点眼を開始したが,改善乏しく,涙点プラグを追加した.その後角膜上皮障害は改善したものの,瞼球癒着が強く,羊膜移植手術を勧めたが,手術への恐怖心が強く手術を希望しなかったため,疼痛コントロール目的でフォローしていた.2024年C6月,角膜上皮欠損が再度出現し,点眼治療を強化(レバミピドを追加)し改善した.同年C9月,急な眼痛で来院し,左眼前房内出血,左眼周囲の皮下出血,鼻出血を認め,急激な白内障の進行も認めた.左眼周囲の皮下出血,鼻出血については耳鼻咽喉科で精査したが原因不明であった.2025年C3月,角膜上皮欠損に細菌感染を合併し,抗菌薬点眼(レボフラキサシン水和物とセフメノキシム塩酸塩)で感染・上皮欠損は改善したが,5月から点眼・診察ともに自己中断した.7月,久しぶりに来院した際に角膜穿孔,虹彩嵌頓を認めた(図1,2).抗菌薬点眼を再開し,角膜穿孔部分は感染治癒ともに被覆化した.角膜上皮障害・感染を繰り返すリスクが高いことから眼球内容除去術を勧めているが,本人の手術に対する恐怖心が強く,同意が得られないため保存的に経過観察中である.放射線療法後の角膜潰瘍は瞼裂に沿って起こるとされているが,この患者でも病変は角膜下方に存在し,典型的な症例となっている.上顎癌は,切除可能な場合は手術が第一選択であるが,近傍に重要臓器が多いため全摘はむずかしく,手術不能例に対して術後照射として根治的(化学)放射線療法が行われる2~4).わが国では扁平上皮癌に対し縮小手術,(動注)化学療法,放射線治療の三者併用療法が行われてきた歴史がある.上顎癌の治療は,近年その治癒成績の向上に伴って機能・形態を保存する傾向にある.しかし,上顎癌に対する放射線照射は,周囲に放射線感受性の高い臓器(角結膜,網膜,視神経,視交叉,水晶体,涙腺)が多く,照射後に生じる眼障害は少なくない1).眼科領域では急性期有害事象として結膜炎,晩期有害事象として白内障,緑内障,網膜症,角結膜障害,ドライアイ,視神経障害がある5).動注化学療法併用放射線治療でC5年局所制御率C58%,5年生存率C68%の報告があり,有害事象に対しての治療が重要となってくる6).上顎癌の治療向上に伴い,放射線による眼障害は増加傾向にあるため,術後,定期的なフォローやドライアイに対する治療を積極的に行うことが重要である.文献1)平野実,三橋重信,市川昭則ほか:上顎癌における放射線照射と眼障害.日耳鼻76:456-463,C19732)伊藤照生:認定・専門技師が語る最新!放射線治療のテクニック頭頸部がんの放射線治療.映像情報CmedicalC47:298-303,C20153)HoppeBS,StegmanLD,ZelefskyMJetal:TreatmentofnasalCcavityCandCparanasalCsinusCcancerCwithCmodernCradiotherapytechniquesinthepostoperativesetting–theMSKCCCexperience.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC67:C691-702,C20074)DulguerovCP,CJacobsenCMS,CAllalCASCetal:NasalCandCparanasalCsinuscarcinoma:AreCweCmakingCprogress?CACseriesCofC220CpatientsCandCaCsystematicCreview.CCancerC92:3012-3029,C20015)日本頭頸部癌学会:頭頸部癌診療ガイドライン.2009年版,金原出版,20096)HommaCA,CSakashitaCT,CYoshidaCDCetal:SuperselectiveCintra-areterialCcisplatinCinfusionCandCconcomitantCradio-therapyCforCmaxillaryCsinusCcancer.CBrCJCCancerC109:C2980-2986,C2013C

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)

2025年12月31日 水曜日

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)Third,FourthandSixthPeripheralNerveParesisandMillerFisherSyndrome中馬秀樹*I外転神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の外転制限のみがみられる(図1).軽症例では眼位で判断する.麻痺側で内斜視角度が増大する非共同性の内斜視となる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患甲状腺眼症:牽引試験(forcedductiontest:FDT)で抵抗がある.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項を参照のこと)Duane症候群:先天性の外転神経麻痺で外転制限に内転時のウインク(眼球陥凹による)が特徴である.先天的な外転神経核の大細胞群の欠損または形成不全が原因とされる.筆者は,成人では内転時のウインクがわかりにくくなる印象をもっている.根治療法はなく,斜視,faceturnがあれば斜視手術の適応になる.内斜視(共同性・非麻痺性):両眼開放で側方視させると,右方視では左眼,左方視では右眼でみるため,右方視では右眼の,左方視では左眼の外転制限のようにみえる.しかし,片眼遮蔽すれば,それぞれ最後まで外転する.また,眼位ずれが共同性である.近見けいれん:近見反射とは,輻湊,縮瞳,調節からなる.したがって,近見けいれんでは必ず縮瞳を合併する.片眼遮蔽すると縮瞳状態から次第に改善し,散瞳してくる.両眼での眼球運動では外転制限を示すが,片眼での眼球運動では外転できる.調節緊張はわかりにくいが,レチノスコープを用いるとわかりやすい.若い女性に多く,ヒステリーが原因のことが多い.一方,器質性疾患が原因のこともあるので,頭蓋内病変検索も必要である.治療は調節麻痺薬点眼で,経過観察となる.眼窩腫瘍,眼窩吹き抜け骨折:FDTで抵抗があり,CT,MRIで明らかになる.3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:外転神経麻痺眼の瞳孔が対側に比べて小さく,対光反射は正常である.アプラクロニジン点眼30分後に対側に比べて大きくなる.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.中耳炎の合併:Gradenigo症候群.耳鼻咽喉科で加療する.両眼性の乳頭腫脹を合併:頭蓋内圧亢進を疑う.起床時に強い頭痛や吐き気など,ほかの症状の合併に注意し,とくに頭蓋内圧の亢進では,頭痛より強い肩こりと表現されることもある.頭部MRIをとり,加えて静脈洞血栓症が原因のことがあるので,磁気共鳴血管撮影(MRA),磁気共鳴静脈造影(MRV)も同時にとる.異常があれば脳外科へ紹介する.仮に画像診断が異常なくても,髄液圧の測定,性状の検索をすべきである.画像診断に異常なく,髄液圧が亢進しており,性状に異常なければ,特発性頭蓋内圧亢進*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(31)15090910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1典型的な右眼外転神経麻痺の眼球運動右眼の外転制限のみがみられる.なし.・瞭眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)なし眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・6カ月以内に改善する.6.非虚血性単独外転神経麻痺で行うべき検査(必要に応じて選択)・頭部MRI:外転神経の走行に沿って・血液検査:すべての患者に基本的な検査:血算,電解質,肝機能,血糖,赤沈,CRP抗核抗体ACE(angiotensinconvertingenzyme)自己抗体:ANCA抗体,リウマチ因子,抗GQ1b抗体ビタミンB1胸部単純,CT脳脊髄液検査(MRIで異常ないことを確認後)これが以下の異常を検出する唯一の方法頭蓋内圧亢進非典型的な髄膜炎(白血病,リンパ腫,癌性髄膜炎,真菌感染,サルコイドーシス,結核)検査項目髄液圧(openingpressure)生化(蛋白,グルコース,オリゴクローナルバンド,myelinbasicprotein,)微生物および細胞診(鏡検,細胞数,培養)7.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.小児の非外傷性の単独外転神経麻痺は神経眼科医へ即刻紹介する.8.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.II動眼神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の眼瞼下垂,上転,下転,内転制限がみられる(図2).病側の瞳孔は散瞳し,対光反射が弱化,あるいは消失する.軽症例では眼位で判断する.たとえば右動眼神経麻痺では,右上斜視が上方視では増強し,下方視では左上斜視になる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項参照のこと)3.よくみられる混合麻痺外転神経麻痺の合併;海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.滑車神経麻痺の合併:下転時の内方回旋がみられないことから判断する.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経麻痺の合併:海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経第一枝が障害されていれば海綿静脈洞の前部または上眼窩裂の病変,三叉神経第一枝,第二枝が障害されていれば海綿静脈洞の中部から後部の病変を考える.海綿静脈洞後部の病変では三叉神経が三枝とも障害され,視交叉,視索の障害が加わることもある.上記の海綿静脈洞の炎症性疾患は,Tolosa-Hunt症候群が有名であるが,あくまでも他の疾患が除外されて初めて診断できる.RAPDを合併:視神経が障害されていることを示し,眼窩先端部の病変を考え,画像検査を行う.(33)あたらしい眼科Vol.42,No.12,20251511図2典型的な動眼神経麻痺の症例右眼瞳孔散大,対光反射不良,眼瞼下垂,内転,上転,下転制限がみられる.30R/L0R/LΔΔ図3典型的な滑車神経麻痺の症例眼位検査で右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する.右眼左眼上直筋:SR下斜筋:IO下斜筋:IO上直筋:SR下直筋:IR上斜筋:SO上斜筋:SO下直筋:IR図4眼球運動の作用方向の図図5右滑車神経麻痺の作用方向の図を用いた診断方法つの筋のうち,数字の大きいほうの斜頸方向(額と顎を結ぶライン,図5赤線)に一致したC1つに丸を付ける(図5赤丸).・最後の一つか麻痺筋である.・Maddoxrodを用いる方法もある.・この方法は,斜視角が小さい,成人の滑車神経麻痺に有用である.・右眼の前にCrodを縦におき,ペンライトを固視させる.・右眼には水平の赤い直線,左眼にはペンライトの光が見える.・赤い線が光より上にあるか,真ん中か,下にあるかを問う.・たとえば,赤い線が光より下に見えれば,右上斜視を意味する.・右眼の前にバープリズムをベースを下にしておく.・光と赤い線の距離が次第に小さくなり,動かなくなるまでプリズムの度数を強める.・真ん中になった度数が正面視での斜視角度で,格子の真ん中に記載する.・以後は同様に左右方視時,左右斜頸時に測定,記録し,同様に麻痺筋を同定する.*両眼性滑車神経麻痺正面視での上下斜視角はほとんどみられず,眼球運動も一見正常にみえる.外方回旋角度がC10°を超えれば両眼性を考える.眼底写真が診断に有用なこともある.右方視では左上斜視,左方視では右上斜視になることがある.右斜頸では右上斜視,左斜頸では左上斜視になることがある.外傷性が多いが,非外傷性であれば画像診断で中脳背側病変を検索する.C2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患Skewdeviation:耳石器の異常により生じる上下斜視と斜頸である.滑車神経とCskewdeviationは鑑別が困難なことがあり,滑車神経麻痺型のCskewdeviationもあるのでややこしい.両者の鑑別には,滑動性追従運動,pursuitの障害の有無,眼振の有無,回旋変位の有無が有用である.SkewdeviationではCpursuitの障害があり,眼振があり,回旋変位がない.回旋変位はCdouC-bleMaddoxrodtestなどで判定する.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.詳細は重症筋無力症の項(1501頁)を参照する.C3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:中脳病変を考え,MRIをとる.RAPDを合併:中脳病変を考えCMRIをとる.中脳背側には滑車神経核,神経線維束があり,近くを交感神経線維,対光反射求心路が走行する.滑車神経は中脳背側の核をでたあと,膝部で左右交差して反対側へ走行する.滑車神経線維束と交感神経線維が障害されると滑車神経麻痺にCHorner症候群が合併する.滑車神経線維束と対光反射求心路が障害されると滑車神経麻痺に対側または同側のCRAPDが陽性となる.C4.単独滑車神経麻痺の原因成人小児外傷性C40.50%先天性C80%虚血性C20.30%外傷性C10%非代償性炎症性頭蓋内圧亢進*知っておくべきことは,成人では非代償性滑車神経麻痺として,複視を自覚して来院する.生まれつき代償性に首が傾いていることが多く,写真で確認することが有用である.上下の融像域が広いことが特徴で顔面の非対称がみられることもある.C5.虚血性の滑車神経麻痺の特徴以下のすべてをみたす.・40歳以上.・一つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙).・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし.・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく.・複視の型,程度にC1日のうちで変化なし.・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし.・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし.(37)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1515・全身神経症状なし.側頭動脈炎の症状なし・正面視で垂直偏位がみられる.・正面視で上斜視眼が,内転時に増加,上斜視側への斜頚で増加する.・正面視で上斜視眼が,以下の眼球運動の特徴を合併する.下斜筋過動症上斜筋のCunderaction・僚眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.・視力・対座法視野検査・瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)・眼瞼(下垂なし)・外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)・角膜,顔面知覚・眼輪筋力,顔面筋力・眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・複視がC3カ月以内に軽減しはじめる.C6.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.成人の単独滑車神経麻痺は以下のように管理,治療する.外傷性は最低でもC6カ月は経過観察する.外傷性の経過観察期間や虚血性の回復までの期間,手術加療を希望しない例,斜視角が小さな複視には,Fresnelプリズム膜や眼鏡組み込みプリズムで矯正する.成人では上下複視の改善を目的として,反対側(僚眼)の下直筋後転を行う.両眼性では回旋複視の改善を目的として,下直筋の外方移動術,または原田-伊藤法を行う.小児では病眼の下斜筋後転を基本とする.小児での正面視時の上下斜視については,下斜筋後転と同時に行うよりもC2段階に分けて行うほうが過矯正を防ぐことができる.7.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.CIVFisher症候群1.決め手になる症状・所見単相性多発神経症で,失調,腱反射消失,外眼筋麻痺を三徴候とする(図6).外眼筋麻痺はさまざまで,上記のような眼球運動神経麻痺,または複合麻痺を呈する.時折球麻痺を生じるが四肢麻痺は生じない.初期の症状は複視で,続いて失調性歩行になり,数日後に腱反射が消失する.感覚低下がC50%に起こり,近位筋力の低下がC30%にみられる.30%で筋力低下に至り,これらはFisher症候群とCGuillain-Barre症候群のオーバーラップを示唆する.一方で,外眼筋麻痺は,末梢性眼球運動障害なのか,中枢性(脳幹部)眼球運動障害なのか鑑別が困難な場合があり,議論されるところである.中枢性眼球運動障害を支持する意見としては,眼球運動障害が画一的で,上方視が最初に障害され,その後,水平眼球運動,最後に下方視が障害されるというものである.回復は逆の順序で起こり,下方視から改善してくることから,これらの変化がちょうど吻側から尾側へと眼球運動神経核の配列に沿っており,中枢性の機序も考えられるというものである.また,51%に核間麻痺を合併することもその根拠としている.筆者も実際,脳幹部障害を示唆する眼振を合併する症例にしばしば遭遇する.頭部CMRIはしばしば正常であるが,なかには脳幹部が造影される例も報告されている.原因はほとんどの例で胃腸炎などの前駆感染徴候をもつ.この感染は,CampylobacterCjejuniによるものが大多数を占める.ほかには,マイコプラズマやCHIV-1,サイトメガロウイルス,EBウイルス,悪性リンパ腫や,風疹混合ワクチン接種後に起こることもある.C2.疑うときに行うべき検査神経ガングリオシドに特異的な自己抗体,とくにGQ1b抗体がC90%の症例で陽性となる.GQ1b抗体は,脳神経II,III,IV,VIに高濃度でみられ,臨床所見とよく相関している.GQ1b抗体は,CIII,IV,VI脳神経1516あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(38)図6Fisher症候群の眼球運動の歩行時の様子軽度の左眼の外転制限がみられ,失調性歩行のため,継ぎ足歩行ができない.’C-

重症筋無力症

2025年12月31日 水曜日

重症筋無力症MyastheniaGravis松本直*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は神経筋接合部での伝達障害により筋力低下や疲労現象を認める自己免疫疾患である.図1に正常とMGにおける神経筋接合部の模式図を示す.MGでは伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine:ACh)とシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholinereceptor:AChR)との結合がAChR抗体により阻害され,伝達障害をきたし,筋力低下をきたす.胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常が合併することがあるが,臨床症状との関連性は十分には解明されていない.I決め手になる症状・所見初発症状として眼瞼下垂(71.9%)や眼球運動障害,複視(47.3%)などを認める眼筋型と,症状が眼筋のみではなく頸部や四肢筋力低下(23.1%),軟口蓋・咽喉頭筋・舌筋の障害による構音障害や嚥下障害,咀嚼障害などの球症状(14.9%),顔面筋力低下(5.3%),重症例での呼吸障害(2.3%)を伴う全身型がある.症状の日内変動(夕方に症状悪化)や易疲労性(反復運動による症状悪化と休養後の改善)を認める1).重症筋無力症(myastheniagravis:MG)に伴う眼球運動障害は複数筋に及び,神経支配と一致しない障害を認めることがある.有病率は10万人あたり2005年では11.8人,2017年では23.1人と推定され増加してきている2).眼筋型MGの割合は0.4歳発症で80.7%,5.9歳で61.5%,10.49歳で26.2%,50歳以上で37.7%となっている1).全身型に移行する場合でも,初発症状は眼科所見が多く,患者は眼科を受診することが多い.MGは眼科所見,自己抗体の採血,神経筋接合部障害の検査から診断2)される(表1).とくに眼瞼下垂と複視の主訴には注意が必要であり,問診が重要となる.たとえば「眼瞼下垂は片眼性なのか,両眼性なのか」「自覚症状はいつからか,急に気がついたか」「朝と夕方で症状は変化するか」「両眼で見たときに二つに見えないか」などをなるべく具体的に聴取する必要がある.眼瞼下垂については形成外科にて手術をされており下垂の判別がむずかしい場合や,手術効果不十分で受診することもあり,眼瞼手術の既往を確認することも重要となる.また,MG患者は発症起点を明確に覚えていることが多く,発症が「徐々に」なのか「急に」なのかを聴取することも重要である.日内変動においてもMGでは「朝症状が軽いが,夜症状が重くなる」が,甲状腺機能亢進症では逆に「起床時にもっとも症状が重く,日中に軽くなる」と違いがある.しかし,この二つの疾患は合併することもあり注意が必要である.その他に単一の眼運動神経麻痺として説明のつかない外眼筋麻痺を認める場合にMGを疑い精査を進める必要がある.II疑うときに行うべき検査診断において抗体検査の結果は重要であるが,結果判明まで時間を要するうえに眼筋型MGの約半数は*TadashiMatsumoto:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕松本直:〒143-8541東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科(1)(23)15010910-1810/25/\100/頁/JCOPY運動神経終末シナプス小胞シナプス後膜AChRMuSKLrp4AChChE重症筋無力症AChR抗体図1重症筋無力症のメカニズム正常であれば運動神経終末のシナプス小胞より放出されたアセチルコリン(ACh)が後シナプス膜に存在するアセチルコリン受容体(AChR)に結合し筋収縮が起こり,信号の終了とともにコリンエステラーゼ(ChE)の作用でAchが分解し,筋収縮が終了する.重症筋無力症においては形質細胞から産生されたAChR抗体により,神経筋接合部でのAChの結合が阻害され,伝達障害をきたす.表1重症筋無力症診断基準2022A症状(1)眼瞼下垂(2)眼球運動障害(3)顔面筋力低下(4)構音障害(5)嚥下障害(6)咀嚼障害(7)頸部筋力低下(8)四肢筋力低下(9)呼吸障害<補足>上記症状は易疲労性や日内変動を呈するB病原性自己抗体(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性(2)抗菌特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性C神経金接合部障害(1)眼瞼の易疲労性試験陽性(2)アイスパック試験陽性(3)エドロホニウム(テンシロン)試験養成(4)反復刺激試験養成(5)単線維筋電図でジッターの増大D支持的診断所見血漿浄化療法によって改善を示した病歴があるE判定Definite:以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する(1)Aの1つ以上,Bのいずれかが認められる(2)Aの1つ以上,Cのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できるProbable:Aの1つ以上,Dを認め,血液浄化療法が有効な他の疾患を除外できる(文献2より転載)ab図2眼瞼縁角膜反射距離(marginre.exdistance:MRD)の測定方法a:患者の眼前からペンライトを当て,角膜反射と上眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-1,下眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-2として測定する.Cb:写真で記録しておくと判定が容易となる.~図3上方注視負荷試験a:上方視をC1分程度継続させ,眼瞼の状態,複視の悪化を確認する.Cb:試験前.両眼CMRD-1:2mm,MRD-2:5Cmmと軽度の眼瞼下垂を認める.Cc:上方視開始.d:試験開始C30秒後眼瞼下垂が悪化(右>左)している.表2重症筋無力症眼科領域判定表正常C0軽度C1中等度C2重度C3QMGスコア側方視時の複視出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時CTheMyastheniaGravis側方視時の複視出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:3常時:4CompositeScale上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:2常時:3(文献C2より転載)a抗コリンエステラーゼ薬ナファゾリン点眼プレドニゾロン少量(胸腺主腫あれば胸腺摘除)bIVMP反復免疫抑制薬図5眼筋型重症筋無力症の治療アルゴリズムIVMP:メチルプレドニゾロン静脈内注射.C図6メスチノン試験内服a:内服前.b:内服開始C1週間後.左眼瞼下垂の改善が認められる.