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基礎研究コラム:脂質解析による網膜色素変性症の発症機序解明

2026年1月31日 土曜日

脂質解析による網膜色素変性症の発症機序解明小野喬ホスホリパーゼA2(PLA2)と網膜変性網膜色素変性症は視細胞と網膜色素上皮細胞(retinalpig-mentepithelium:RPE)の機能が障害される進行性の変性疾患です.遺伝性疾患であり,100以上の遺伝子変異が報告されていますが,治療法は未だ不十分であるため,本疾患の新たな発症メカニズムの解明が現在も求められています.ホスホリパーゼCA(PLA)は生体内で機能する代表的な脂質代謝酵素で,50以2上の多2様な分子種が含まれています1).PNPLA6はその一種で,網膜色素変性症や神経障害と関連することが遺伝学的な研究で報告されています2).しかし,PNPLA6の網膜における役割は不明だったため,筆者らは脂質代謝に基づく網膜制御メカニズムの解明を行ってきました3).CPNPLA6による網膜色素上皮細胞の調節ヒトとマウスの網膜で,PNPLA6がおもにCRPEに発現していることが免疫染色や遺伝子発現解析で確認されました.本酵素は生体膜の代表的なリン脂質であるホスファチジルコリンのC2本の脂肪酸を加水分解するホスホリパーゼCBとして機能することも明らかになりました.眼においてPNPLA6を欠損させたマウスでは,網膜が薄くなり,視細胞層の異常がみられました(図1).さらに酸化ストレスを与えると,網膜変性が対照群に比べて悪化しやすくなったことから,PNPLA6が網膜の恒常性維持に重要であると考えられました3).CPNPLA6の下流の代謝フローPNPLA6の機能を減少させたCRPEの解析により,細胞の増殖や接着に関連する遺伝子群の発現が変化し,細胞内のコリンが減少していることがわかりました.コリンの補充により,増殖や接着の低下が回復し,ミトコンドリアの異常も改善されました.コリンはリン脂質の単なる分解産物ではなく,リン脂質の新規合成に利用され,生体膜をリサイクルすることによりCRPEの恒常性維持に重要であることが示唆されました.マウスを用いた実験では,PNPLA6欠損によりコリン供給がとだえて生じる網膜変性は,コリン溶液を点眼することにより進行を予防することができました3).今後の展望PNPLA6はCRPEにおいてリン脂質を分解し,内因性コリンを動員します.この結果,リン脂質のリサイクルが行わ東京大学医学部附属病院眼科CabCreER(-)CreER(+)図1眼でPNPLA6を欠損させたマウスの網膜構造a:眼特異的CPNPLA6欠損マウス網膜のヘマトキシリン・エオジン染色像.Cb:眼特異的CPNPLA6欠損マウス網膜の電子顕微鏡像.(:視細胞のディスク構造)(文献C3より規定に従い引用)(CCBY-NC-ND)れ,網膜の恒常性が維持されています.PNPLA6の機能不全はリン脂質の新陳代謝を阻害することにより網膜色素変性の原因となります.したがって,コリン代謝の活性化が網膜変性疾患の新しい治療法のターゲットとなることが想定されます.文献1)MurakamiM:TheCphospholipaseCA2CsuperfamilyCasCaCcentralChubCofCbioactiveClipidsCandCbeyond.CPharmacolCTher244:108382,C20232)SynofzikCM,CGonzalezCMA,CLourencoCCMCetal:PNPLA6CmutationsCcauseCBoucher-NeuhauserCandCGordonCHolmesCsyndromesCasCpartCofCaCbroadCneurodegenerativeCspec-trum.BrainC137:69-77,C20143)OnoCT,CTaketomiCY,CHigashiCTCetal:PNPLA6CregulatesCretinalhomeostasisbycholinethroughphospholipidturn-over.NatCommunC16:2221,C2025(83)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026C830910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:272.White dot fovea(初級編)

2026年1月31日 土曜日

272Whitedotfovea(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑部に白色輪を呈し,一見黄斑円孔のように見える症例を経験することがある.今はCOCTがあるので黄斑円孔と誤診することはないが,この病態は意外と知られていないので,今回とりあげることにした.C●症例呈示72歳,男性.両眼黄斑部の色調にやや異常があるとのことで紹介となった.それまではCAmslerチャートで異常なく,視力も良好であったため経過観察となっていた.既往歴,家族歴に特記すべきことはない.両眼とも黄斑部にハローのような白色輪を認め(図1),OCTではこの部位に一致して網膜内層に高輝度反射を認めた(図2).以上の所見からCwhitedotfoveaと診断した.C●WhitedotfoveaとはWhiteCdotfoveaはCOCTのない時代にCYokotsukaやKishiらがすでに報告しており1),日本語では中心窩白色顆粒症と訳される.その後COCTの普及により,この病変に一致して網膜内層に高輝度反射を呈することがわかってきた2).本疾患は,灰白色の顆粒が中心窩,とくにその陥凹の縁に帯状に分布するため,検眼鏡的にC.uidcu.のある黄斑円孔に酷似した所見を呈する.本疾患は通常は視力低下をきたさず,網膜電図でも異常を認めない.中心窩の白色顆粒を走査レーザー顕微鏡で観察するとアルゴンブルーで鮮明に見え,ヘリウムネオンでは不明瞭となる.アルゴンブルーは短波長で網膜内層を強調し,ヘリウムネオンは長波長で網膜深層を強調することから,この病変は網膜内層に存在すると予測されていた1)が,OCTでそれが証明された.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では描出されない.本疾患には通常自覚症状はなく,視力は良好である,高齢者に多い,男女比C1:2で女性に多い,多くが両眼性,後部硝子体.離の有無とは無関係,などの特徴がある.原因は不明であるが,中心窩は内境界膜が薄いため,内境界膜の間隙から遊走していたグリア細胞の可能(81)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼底写真(a:右眼,b:左眼)両眼とも中心窩に白色輪を認め,.uidcu.を伴う黄斑円孔様の所見を呈している.性が示唆されている1).鑑別疾患として,黄斑円孔以外に,異常な代謝物が中心窩に沈着するガングリオシドーシス(量が多いとCcherryCredspotとなる)などがあげられる.多発消失性白点症候群(multipleCevanescentCwhiteCdotCsyn-drome:MEWDS),慢性骨髄性白血病,急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteCposteriorCmultifocalCplacoidpigmentCepitheliopathy:APMPPE)も白色顆粒状の所見を呈するが,範囲が中心窩に限局することは少ない.文献1)YokotsukaK,KishiS,ShimizuK:Whitedotfovea.AmJOphthalmolC123:76-83,C19972)WitkinAJ,LondonNJ,WenderJDetal:Spectral-domainopticalCcoherenceCtomographyCofCwhiteCdotCfovea.CArchCOphthalmolC130:1603-1605,C2012あたらしい眼科Vol.43,No.1,202681

考える手術:甲状腺眼症の眼窩減圧術

2026年1月31日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅甲状腺眼症の眼窩減圧術奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学甲状腺眼症は,おもにBasedow病に伴って生じる自己免疫性の眼窩組織炎症である.主病変は眼窩内の外眼筋および脂肪組織に及び,炎症性浮腫や線維化が進行することで多彩な眼症状を呈する.代表的な症状には,眼球突出,上眼瞼後退,兎眼,複視,眼痛,視神経障害などがあり,その重症度は軽度の審美的変化から失明に至るものまで多岐にわたる.とくに視神経障害を伴う症例は最重症に分類され,早期の診断と治療が不可欠である.視神経障害の発症機序としては,炎症により外眼筋が腫大化し,限られた眼窩内腔で筋肉や脂肪組織が容積内圧の上昇を軽減し,視神経圧迫を解除する目的で行われる外科的手技である.眼窩内壁,下壁,さらに症例によっては外壁の骨を人為的に開放・削除し,肥厚した外眼筋や眼窩脂肪を副鼻腔側に脱出させることで眼窩内容積を拡大する.これにより視神経の圧迫が解除されるとともに,眼球が後方へ移動し突出が改善する.また,著明な眼球突出により兎眼を生じ,角膜上皮障害や角膜穿孔に至るような重症例でも,眼窩減圧術によって兎眼が改善し,角膜保護が可能となる.手術ではLynch切開または下眼瞼睫毛下切開を行い,眼窩縁まで到達する.骨膜を切開後,骨膜を骨より.離していく.その後,副鼻腔側に眼窩骨の骨折を起こし,スペースを広げる.骨膜を大きく切開し,眼窩内脂肪を副鼻腔に十分量脱出させる.聞き手:甲状腺眼症に対する眼窩減圧術の適応はどのよ眼窩減圧術を検討します.もう一つの兎眼は,眼球突出うに決めたらよいでしょうか.による閉瞼不全が原因で角膜上皮障害をきたす状態で奥:適応は大きく「視神経障害」と「兎眼による角膜障す.点眼や軟膏での角膜保護では改善しない場合は,角害」に分けられます.まず視神経障害は,肥大した外眼膜穿孔などの重篤な合併症を防ぐ目的で手術を考慮しま筋が限られた眼窩内で容積を占め,視神経を圧迫するこす.このように,眼窩減圧術は視機能の温存と角膜保護とで生じます.視力低下,視野障害,中心フリッカ値のの両面から,重症例で適応となる手術治療です.低下,または相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)を認める場合には強く疑い,聞き手:眼窩減圧術ではどこからどこまでの骨を除去しステロイドパルス療法で改善が得られない場合は緊急でますか?(79)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026790910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術奥:眼窩減圧術の目的は,眼窩内圧を下げるためにできるだけ多くの眼窩内容物を副鼻腔側へ脱出させ,眼窩内容積を拡大することにあります.そのため,可能な限り広範囲に骨を除去し,十分な減圧スペースを確保することが重要です.とくに重要となるのが眼窩内壁と下壁の移行部(junction部)で,ここを除去することで眼窩内容物の脱出経路が大きく開放され,効果的な減圧が得られます(図1).Junction部は骨性の支柱(orbitalstrut)で支えられているため,除去にはある程度の力を加えて骨折を誘発する必要があります.また,後方の減圧も非常に重要です.後方に進むほど眼窩尖端部に近づき減圧効果が高い一方,視神経管が近くなるため操作範囲を的確に見きわめる必要があります.内壁側では後篩骨孔を,下壁側では下眼窩神経の走行を指標として,安全に減圧できる範囲を判断します.過度に後方へ進めると視神経損傷の危険があるため,解剖学的ランドマークを常に確認しながら慎重に行うことが重要です.そのほか,内壁の開放と外壁の削骨を同時に行う減圧術や,外壁の削骨のみを行う方法もあります.その場合は眼球突出の改善を目的とした術式になります.聞き手:眼窩減圧術の合併症などはありますか?奥:もっとも重要で,かつ頻度の高い合併症は術後の複視および斜視です.減圧によって外眼筋や眼窩脂肪が副鼻腔側に脱出する際,眼球は一般的に内下方へ偏位する傾向があります.とくに,内壁および下壁の骨を広範囲に除去した場合は,その偏位量が増大し,眼位変化による複視が生じやすくなります.また,骨除去範囲が過剰な場合や術中操作が深部に及んだ場合には,視神経損傷を生じる危険もあります.さらに,下壁減圧では下眼窩神経損傷による頬部・上唇の知覚鈍麻が生じることもあります.聞き手:眼窩減圧術以外の治療法はありますか?奥:甲状腺眼症の治療は,炎症の活動性や重症度によって段階的に選択されます.従来からもっとも一般的に行術前術後図1両眼窩減圧術前後のCT画像内下壁骨にて骨折を起こし,眼窩内容積を拡大した.われているのはステロイドパルス療法です.高用量のメチルプレドニゾロンを短期間静注することで,眼窩内の外眼筋や脂肪組織の炎症を抑制し,浮腫の軽減,眼球突出や複視などの改善が期待されます.活動期における第一選択であり,多くの患者で一定の効果が得られますが,効果が不十分な場合や再発を繰り返す患者では,放射線療法や免疫抑制剤(シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチルなど)を併用することもあります.しかし,これらの薬物療法でも改善が乏しい場合や,視神経障害・角膜障害を伴う重症例では,眼窩減圧術が必要となります.聞き手:甲状腺眼症の新しい治療薬テプロツムマブについて教えてください.奥:新規分子標的薬テプロツムマブ(商品名:テッペーザ)が2024年に登場して,治療方針が大きく変化しつつあります.テプロツムマブはインスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)を標的とする抗体薬で,炎症,脂肪の増加,筋肉の肥大化を抑制し,炎症や眼球突出の改善をもたらします.従来治療で効果不十分だった活動期の症例でも高い有効性が報告されており,今後は薬物療法の中心的選択肢となる可能性があります.臨床試験では,24週間の点滴投与で眼球突出が平均3mm以上改善し,炎症スコアの有意な低下が報告されています.従来のステロイド治療に比べ,眼球突出自体の改善効果が明確に示された点が特徴です1).3週間ごとに静脈内投与を行い,計8回で1クールとなります.おもな副作用としては,糖尿病の悪化,軽度の聴力低下などが報告されています.図2に示すように筆者の施設でも実際に視神経障害を認めた甲状腺眼症患者にテプロツムマブを使用し,著明な筋肥大の改善を認めております.文献1)DouglasRS,KahalyGJ,PatelAetal:Teprotumumabforthetreatmentofactivethyroideyedisease.NEnglJMed382:341-352,2020投与前8回投与後図2甲状腺眼症症例におけるテプロツムマブ使用前と治療終了後のMRI画像治療後は外眼筋肥大の著明な改善を認め,視神経圧迫は解除されている.80あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026(80)

抗VEGF治療セミナー:網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管

2026年1月31日 土曜日

●連載◯163監修=安川力五味文143網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管丸子留佳東京女子医科大学眼科2025年C5月にファリシマブが網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管に対する薬事承認を日本で初めて取得し,保険診療が可能となった.本稿では,全身疾患を合併することが多い網膜色素線条診療の注意点,また脈絡膜新生血管を合併した際の対応について概説する.網膜色素線条と弾力線維性仮性黄色腫の合併網膜色素線条(angioidstreaks:AS)は,先天的素因により全身の弾性線維の変性・断裂を伴う疾患である.Bruch膜は網膜側より網膜色素上皮細胞基底膜,内膠原線維層,弾性線維層,外膠原線維層,脈絡膜毛細血管内皮基底膜より構成されているが,その弾性線維が変性して断裂を生じる結果,視神経乳頭からヒトデ状に色素線条が伸び,進行すると乳頭周囲の網脈絡膜萎縮も伴う.後極部から中間周辺部にかけて黄白色点状所見がみられることが多く,梨子地眼底(peaud’orangefundusもしくはCmottledfundus)とよばれる.Ehlers-Danlos症候群,鎌状赤血球症,骨CPaget病などの全身疾患との合併が報告されているが,弾力線維性仮性黄色腫(pseudoxanthomaelasticum:PXE)との合併がもっとも多い.PXEは皮膚の弾性線維に変性・断裂がみられる遺伝疾患で,指定難病にも分類されている.側頸部や関節屈曲部に黄白色の小丘疹がみられ,癒合して網状局面を形成する.ASとCPXEの合併例はGronblad-Strandberg症候群とよばれる.ASの連続C44症例のうち,37例に皮膚生検を実施した結果,33例(89.2%)がCPXEと診断されたとの報告があるように1),ASとCPXEは高率に合併するとされている.しかし,日本の全人口を対象とした「レセプト情報・特定健診等情報データベース」を用いた大規模疫学研究では,AS患者におけるCPXEの合併率はわずかC4.4%であり,日常診療では多くのCAS患者でCPXEが見逃されているものと推察される2).PXE患者の平均死亡年齢はC77.1歳であり,日本人の平均寿命であるC84.6歳よりも有意に短い2).PXE患者は虚血性心疾患や脳梗塞,消化管出血といった致死的合併症を併発するため3),PXEを早期に診断し,全身スクリーニングを行うことは生命予後の改善のために重要と考えられる.PXEでは初診時に皮疹のない例や,非典型皮疹も知られており,日本皮膚科学会の「弾性線維性仮性黄色腫診療ガイ(77)表1弾性線維性仮性黄色腫の診断基準(2017年版)A.診断項目①皮膚病変がある②皮膚病理検査で弾性線維石灰化を伴う変性がある③網膜血管線条(色素線条)がある④CABCC6遺伝子変異があるB.診断CI.De.nite:(①または②)かつ③II.Possible:(①または②)のみ,または③のみ注意:1)II「Possible」に④遺伝子変異を証明できた場合はDe.niteとする.2)以下の疾患を完全に除外できること.類似皮膚症状を呈するもの:PXE-likeCpapillaryCdermalCelas-tolysis,Wilson病に対するCD-penicillamine内服網膜色素線条を呈するもの:骨パジェット(Paget)病,鎌状赤血球症,エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群,鉛中毒,外傷脈絡膜新生血管を生じるもの:加齢黄斑変性,変性近視消化管粘膜病変を呈するもの:胃・十二指腸潰瘍(文献C3より引用)ドライン(2017年版)」では,PXEの診断基準(表1)に含まれる皮膚生検は推奨度CB(行うよう勧められる)となっている3).AS症例は特徴的な皮膚所見がなくても積極的にCPXEを疑い,皮膚科に紹介する.網膜色素線条に伴う脈絡膜新生血管ASではC42~86%に脈絡膜新生血管(choroidalCneo-vascularization:CNV)を伴う4).加齢黄斑変性より若年で発症し,両眼性が多い(図1).CNVの型は,網膜色素上皮上に新生血管が位置するCtype2CNVが多いが,新生血管が網膜色素上皮下にとどまるCtype1CNVやポリープ状脈絡膜血管症の発症,またそれらへのCtype2CNVの合併も報告されている1).ASの色素線条が長いほどCCNVの合併率が上がり5),type2CNVは色素線条の部位に発生することが多い1).治療は抗CVEGF薬の硝子体内投与である.抗CVEGF薬により,改善した視力が長期にわたって維持できたという報告もあれば6),長あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026770910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1両眼に脈絡膜新生血管(CNV)を伴う網膜色素線条と弾性線維性仮性黄色腫の合併例57歳時に左眼にCCNVを発症した男性.Ca~c:左眼CCNV発症時の右眼.広範な黄斑萎縮がみられる.Cd~f:CNV発症時の左眼.中心窩上鼻側にCCNV(Cd:),OCT(f)で網膜色素上皮上に滲出を認める.Cg~i:CNV発症C80カ月後の左眼.抗CVEGF薬硝子体内投与を32回実施し,滲出のない状態を保てているが,黄斑萎縮の進行により視力が低下している.Cj:頸部の皮膚所見.黄白色の丘疹が多発・集簇し,鶏卵大の網状局面を形成している.皮膚生検にて真皮網状層に広範な弾性線維の変性・断裂がみられ,弾力線維性仮性黄色腫と診断された.その後,循環器内科にて冠動脈狭窄および左室心壁の局所運動低下を指摘され,現在経過観察中である.期予後は不良との報告もある7).ASは希少疾病であり,大規模な臨床研究はできないため,現時点では確立された抗CVEGF薬の投与方法はないが,type1CNVと比較してCtype2CNVの視力予後は不良であることから1),とくにCtype2CNVでは厳格な抗CVEGF治療が視機能維持に大切であると考えられる.日本ではこれまでCASに伴うCCNVに対して承認された治療薬はなかったが,抗VEGF/抗アンジオポエチン-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体であるファリシマブのCASに伴うCCNVへの適応拡大が,国内第CIII相臨床試験(NIHONBASHI試験)を経てC2025年C5月に承認された.おわりにAS患者は虚血性心疾患や脳梗塞などの致死的合併症を起こしうるCPXEを高率に併発するため,皮膚科に紹介してCPXEの診断基準を満たすかを確認する必要がある.PXEと診断された場合は他科と連携して全身検索を行い,患者の生命予後改善に努める.AS患者は高率にCCNVを合併し,もっとも多いCtype2CNVの予後は不良である.初診時にCCNVがみられなくても定期的に眼科検査を行い,CNVのスクリーニングを行う.片眼のCCNVでは治療眼のみに注目しがちであるが,常に僚眼のCCNV発症にも留意する.CNVを発症した場合は抗CVEGF治療が適応となり,日本ではC78あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026ファリシマブが投与される.とくにCtype2CNVでは厳格な抗CVEGF治療が視機能維持に大切である.文献1)NakagawaS,YamashiroK,TsujikawaAetal:ThetimecourseCchangesCofCchoroidalCneovascularizationCinCangioidCstreaks.RetinaC33:825-833,C20132)WadaS,MiyakeM,KidoAetal:EpidemiologyofangioidstreaksCandCpseudoxanthomaelasticum(2011-2020):ACnationwidepopulation-basedcohortstudy.OphthalmolSciC4:100370,C20233)弾性線維性仮性黄色腫診療ガイドライン策定委員会:弾性線維性仮性黄色腫診療ガイドラインC2017年版.日本皮膚科学会雑誌132:e91-e98,C20224)ChatziralliCI,CSaitakisCG,CDimitriouCECetal:Angioidstreaks:ACcomprehensiveCreviewCfromCpathophysiologyCtotreatment.RetinaC39:1-11,C20195)RisseeuwCS,COssewaarde-vanCNorelCJ,CvanCBuchemCCCetal:Theextentofangioidstreakscorrelateswithmaculardegenerationinpseudoxanthomaelasticum.AmJOphthal-molC220:82-90,C20206)Torres-CostaCS,CBernardesCJ,CManoCSSCetal:Long-termCe.ectCofCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(anti-VEGF)injectionsCinCchoroidalCneovascularizationCsecond-arytoangioidstreaks.JOphthalmolC2022:3332421,C20227)Velez-MontoyaCR,COsorio-LandaCHK,CFranco-RamirezCKCCetal:Long-termCfunctional,Canatomicaloutcome,Candquali-tativeCanalysisCbyCOCTA,CasCaCpredictorCofCdiseaseCrecur-rencesCinCpatientsCwithCchoroidalCneovascularizationCsecond-aryCtoCangioidCstreaks.IntCJCRetinaCVitreousC10:53,C2024(78)

屈折矯正手術セミナー:ICL手術後の白内障病型変化

2026年1月31日 土曜日

●連載◯308監修=稗田牧神谷和孝308.ICL手術後の白内障病型変化神谷和孝昭和医科大学後房型有水晶体眼内レンズCICL挿入眼に発症する白内障病型は,従来は前.下白内障が一般的であったが,ホールCICLに移行してからは核白内障が増加していたことが国内多施設共同研究により明らかとなった.ICLは生体適合性が高い軟性素材であり,術後長期経過しても癒着は生じず,小切開創から容易に摘出できる.また,ICL摘出・水晶体再建術の予測性は高く,特別な計算式や補正も不要である.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズCVisianICL(STAARSur-gical社)は,安全性や有効性が高いだけでなく術後視機能や満足度にも優れていることから,日本国内における屈折矯正手術の主流となっている.Shimizuら1)が開発したホールCICL(KS-AquaPORT)の導入により白内障の発症リスクは大幅に軽減しているが,わが国に導入されてから長期経過していることから,経年的な白内障を認めることも少なくない.通常,ICL挿入眼ではCICL摘出と同時に白内障手術を行うが,患者背景や白内障病型については不明な点が多い.本稿では,ICL摘出および水晶体再建術を要した患者の背景因子や白内障病型について,筆者を含むCICL研究会が実施した多施設共同研究で得られた知見を紹介し,さらにノンホールCICLとホールCICLの病型の違い,手術の実際についても概表1患者背景白内障手術時の年齢C49.8±6.8歳性別男性C46人:女性C37人ICLの種類ノンホールCICL群C50眼ホールCICL群C33眼裸眼視力(logMAR)C0.42±0.25矯正視力(logMAR)C0.09±0.30等価球面度数C.1.32±2.12D角膜内皮細胞密度C2,567±328cells/mm2平均角膜屈折力C44.05±2.03D眼軸長C28.49±1.97Cmm核硬化度G1:24眼,G2:40眼,G3:17眼,G4:2眼ICL挿入から白内障手術までの期間C7.7±5.2年C説する.C●患者背景患者背景を表1に示す.対象はC72例C83眼で,年齢はC49.8±6.8歳,ICL挿入から白内障手術までの期間はC7.7±5.2年,ノンホールCICL群がC50眼(60%),ホールICL群がC33眼(40%)であった.他の眼疾患として正常眼圧緑内障(6眼),黄斑前膜(2眼),網膜.離術後(3眼),単純糖尿病網膜症(1眼)が認められた2).白内障病型は前.下白内障が最多であり,ついで核白内障,皮質白内障の順であった(図1).C●ホールの有無による白内障病型の違いノンホールCICLおよびホールCICL群における白内障病型を図2に示す.ノンホールCICL群では前.下白内眼数302520151050NUCCORASCPSCASC+PSCNUC+COR図1ICL摘出および水晶体再建術を要した症例の白内障病型前.下白内障が最多であり,ついで核白内障,皮質白内障であった.NUC:核白内障,COR:皮質白内障,ASC:前.下白内障,PSC:後.下白内障,Non-hokeICLgroup:ノンホールCICL群,HoleICLgroup:ホールCICL群(文献C2より改変引用)(75)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026750910-1810/26/\100/頁/JCOPY眼数302520151050NUCCORASCPSCASC+PSCNUC+COR図2ホールの有無による白内障病型の違いノンホールCICL群では前.下白内障(ASC),ホールCICL群では核白内障(NUC)がもっとも頻度が高かった.NUC:核白内障,COR:皮質白内障,ASC:前.下白内障,PSC:後.下白内障,Non-holeICLgroup:ノンホールCICL群,HoleICLgroup:ホールCICL群.(文献C2より改変引用)障が最多であったが,ホールCICL群では核白内障が最多となっており,前.下白内障の発症が軽減していた.従来のCICLでは外傷性白内障や房水循環不全による前.下白内障がもっとも頻度が高かったが,ICL手術に習熟した術者が増加し,ホールCICL導入による代謝性白内障が大幅に軽減したことで,前.下白内障の発症が減少し,もともと対象となる強度近視による経時変化となる核性白内障が増加したのではないかと考えられる.前.下白内障の機序としては,水晶体上皮細胞の間葉系細胞への化生,線維芽細胞様細胞の増殖,コラーゲン線維の増殖などが示唆されている3).C●手術の実際ICLはコラマーという生体適合性に優れた軟性素材で構成されており,術後長期経過しても眼内における癒着はほぼ生じず,ICL摘出を選択しても約C3Cmmの角膜切開創から容易に摘出可能である4).実際の手術では,サイドポートから粘弾性物質をCICL前後に注入して角膜内皮細胞や水晶体を保護し,マニピュレーターを用いて手前のハプティクスの一端を虹彩面上に脱臼させ,眼内レンズ鑷子などを用いてできるだけレンズを幅広く把持したのち,ゆっくり引き抜く(図3).その後は耳側角膜切開による通常の白内障手術と同様となるが,やや創口が大きく前房が安定しない場合は先に軽くハイドレーションを行っておくとよい.ICL挿入眼に対する眼内レンズ度数計算に関しては,C76あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026図3ICLの摘出方法ICLの素材は軟性のコラマーであり,約C3Cmmの創口から無理なくレンズを摘出可能である.通常の眼軸長測定やケラト値測定が可能であり,レーシック後と異なり,特別なCIOL度数計算式や補正は不要である.今回の多施設共同研究の結果でも,目標屈折度数に対して±0.5D,1.0D以内に入る割合がそれぞれ76%,94%と良好であった.ただし,ICL前面までを前房深度として誤計測することがあり,近年普及している前房深度をパラメータとして用いる計算式では,屈折誤差への影響は少ないものの注意したい5).文献1)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Earlyclinicalout-comesofposteriorchamberphakicintraocularlenswithaCentralHole(holeICL)implantationformoderatetohighmyopia.BrJOphthalmolC96:409-412,C20122)KamiyaK,ShimizuK,KitazawaYetal;JapanICLStudyGroup:Amulticenterstudyonclinicaloutcomesofsimul-taneousimplantablecollamerlensremovalandphacoemul-si.cationwithintraocularlensimplantationineyesDevel-opingcataract.OphthalmolTher14:337-350,C20253)KhalifaCYM,CMoshirfarCM,CMi.inCMDCetal:CataractCdevelopmentassociatedwithcollagencopolymerposteriorchamberCphakicCintraocularlenses:clinicopathologicalCcorrelation.JCataractRefractSurgC36:1768-1774,C20104)神谷和孝:手術のコツとトラブルシューティング.屈折矯正手術編,後房型有水晶体眼内レンズ.眼科C66:1035-1041,C20245)OuchiM:EvaluationCofCimpactCofCposteriorCphakicCIOLCimplantationonbiometryande.ectivenessofconcomitantuseCofCanteriorCsegmentCOCTConCIOLCpowerCcalculationCforcataractsurgery.JCataractRefractSurgC48:657-662,C2022(76)

眼内レンズセミナー:前部硝子体膜剝離眼における眼内レンズ先入れ法

2026年1月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋464.前部硝子体膜.離眼における大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科眼内レンズ先入れ法前部硝子体膜は,通常,Wieger靱帯を介して後.と癒着し,Berger腔を形成している.しかし,まれにこの癒着がはずれ,Berger腔が拡大している患者がいる.このような患者では,白内障手術中に後.が非常に不安定となり,挙上しやすくなるため,超音波水晶体乳化吸引中に後.損傷をきたす危険性が著しく高くなる.このリスクを回避する方法として,水晶体核の除去が完全に終了する前に眼内レンズを挿入し,後.を安定させたうえで残存核片の除去および皮質吸引を行う手技がある.本法は後.の支持性を高め,損傷を確実に防ぐことができるため,前部硝子体膜.離眼に対する白内障手術において有用な術式である.前部硝子体膜(anteriorhyaloidmembrane)は,Wieger靱帯を介して後.と接着し,Berger腔を形成している(図1).この癒着は通常,強固であり,正常眼において自然にはずれていることは少ない1,2).しかし,まれに前部硝子体膜.離(anteriorvitreousdetach-ment:AVD)が生じ,Berger腔が拡大している患者がみられる(図2).このような患者では,後.が白内障手術中に非常に不安定となり,挙上しやすくなる(図3).その結果,超音波水晶体乳化吸引中に後.を誤吸引しやすく(図4),後.損傷の危険性が高くなる3).とくに水晶体核が残り少なくなると,慎重に手術を進めていても,後.が持ちあがって超音波チップに巻きつき,吸引口に自ら入り込むような挙動を示すため,後.損傷を避けるのは容易ではない.このリスクを回避する方法として,眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)を先に挿入する手技がある4).水晶体核の残りが半分以下になり,後.の挙動がおかしいと思われたら,そこで操作をいったん中断する(図5).粘弾性物質で核片を脇に押しやり(図6),水晶体.を膨らませてIOLを水晶体.内に固定する(図7).その後,水晶体核を取り囲むように分散型粘弾性物質を注入する(図8).これは,その後の操作中に,核片が動き回って眼内組織を損傷することを防ぐためである.IOLが挿入された分だけ前房は浅くなっているので,核片が角膜内皮に接触しないように注意しながら,超音波チップにて残存核片を吸引除去する(図9).この際,図1前眼部の解剖前部硝子体膜は,Wieger靱帯帯を介して後.と接着し,Berger腔を形成している.図2前部硝子体膜.離の症例前部硝子体膜と後.の接着がはずれ,Berger腔が拡大している.a.正常眼b.前部硝子体膜.離眼図3白内障手術中の後.の挙動正常眼(a)に比べて,前部硝子体膜.離を生じている眼(b)では,後.は不安定となり,挙上しやすい.図4前部硝子体膜.離症例における後.破損が生じた例水晶体核が残り少なくなった段階で,後.が超音波チップに巻き付くように挙上し,後.のパンチアウトが生じた.(73)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026730910-1810/26/\100/頁/JCOPY図5手術の一時中断図6核片の退避操作図7IOL挿入水晶体核が半分以下になり,後.の挙動に粘弾性物質を用いて核片を脇に押しやる.IOLを.内に挿入する.異常がみられた時点で,操作をいったん中断する.強い超音波を発振すると核片が前房内で跳ねまわり,角膜内皮障害の原因となるので,低パワーでゆっくり操作を行うことが重要である.過去の文献で,術中に後.が破損した際に核落下を防ぎ,安全に超音波乳化吸引除去を続行する目的で,IOLをまず挿入して,それをsca.oldとして核片除去操作を行う方法が報告されている.今回紹介した方法は,後.が破損する前にIOLを先行挿入することで,合併症の発生を未然に防ぐアプローチである4).さらに,Morgagni白内障のように水晶体核による後.支持性が乏しい患者でも,術中に後.が挙上し,超音波水晶体乳化吸引術中の合併症発生リスクが高くなる.こういった患者でもIOL先入れ法を活用することにより,良好な成績が報告されている4).図8分散型粘弾性物質の注入その後の操作において核片が動き回り,角膜内皮を損傷するのを防ぐため,核片を囲むように分散型粘弾性物質を注入する.図9残存核片の除去IOL挿入により前房は浅くなっているので,核片が角膜内皮に接触しないように注意しながら,弱い超音波パワーで残存核片をゆっくり吸引除去する.文献1)ToriiH,TakahashiK,YoshitomiFetal:Mechanicaldetachmentoftheanteriorhyaloidmembranefromtheposteriorlenscapsule.Ophthalmology108:2182-2185,20012)MoriH,UenoY,FukudaSetal:Detectionofanteriorhyaloidmembranedetachmentusingdeep-rangeanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JClinMed11:3057,20223)AnisimovaNS,ArbisserLB,ShilovaNFetal:Anteriorvitreousdetachment:riskfactorforintraoperativecom-plicationsduringphacoemulsi.cation.JCataractRefractSurg46:55-62,20204)ParkashRO,MahajanS,ParkashTOetal:Intraocularlenssca.oldtechniquetopreventposteriorcapsulerup-tureincasesofmorgagniancataract.JCataractRefractSurg43:8-11,2017

コンタクトレンズセミナー:弱度乱視矯正とトーリックソフトコンタクトレンズ処方の現状

2026年1月31日 土曜日

■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之1.弱度乱視矯正とトーリックソフト高静花大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学講座コンタクトレンズ処方の現状世界と日本におけるコンタクトレンズ処方の現状コンタクトレンズ(CL)の処方状況は毎年C1月に世界22カ国から報告されている.2023年の集計によると,2000~2022年の世界の処方動向では,全ソフトコンタクトレンズ(SCL)処方のうちトーリックCSCLの処方率はC28%であり,単焦点CSCLのみを対象とした場合には37%に上昇し,2000年以降ほぼ倍増している(図1)1).この背景には,CL製造メーカーによる品質改良や,処方者が自信をもってトーリックCSCLを選択できるようになったことがあると推察される.しかし,その処方傾向には国ごとの特徴がある.欧米ではトーリックCSCLが広く普及し,乱視矯正はスタンダードな選択肢として定着している一方,日本ではトーリックCSCLの処方率は依然として約C20%にとどまる.乱視(C.0.75D以上)の有病率はC47%と広く知られているが2),日本においてトーリックCSCLを実際に装用しているのはその半数以下に過ぎない.このギャップには,眼科医側の処方習慣や患者側の認識不足,価格の高さな60%50%40%30%20%10%日本0%0001020304050607080910111213141516YEARSOFTTORICS(OFSTANDARDSINGLEVISION)ど,複数の要因が関与していると考えられる.従来,日本では「乱視度数が強い場合のみトーリックレンズを処方する」という考え方が一般的であった.とくに弱度乱視では,球面レンズでの矯正でも実用上問題ないとされ,眼科医も患者も積極的な乱視矯正を求めてこなかった.しかし,近年のレンズ設計や円柱軸安定化技術の進歩により,トーリックCSCLは快適性と視力の両立が可能となり,弱度乱視でも視機能向上や快適性改善が得られることが示されている.世界的には「弱度乱視こそ積極的に矯正すべき」という考え方が主流になりつつある.デジタル環境下で顕在化する弱度乱視の影響現代の生活はスマートフォンやパソコンなしには成り立たない.小さな文字を長時間注視する生活習慣は,眼精疲労やドライアイだけでなく,弱度の乱視の影響を顕在化させやすい.弱度乱視が残存していても,通常の視力検査ではC1.0が得られることが多いが,実際にはコンAustraliaBulgariaCanadaCzechRepublicDenmarkIsraelJapanLithuania図1世界の単焦点NetherlandsトーリックコNewZealandンタクトレンNorwayPortugalSpainズ処方状況(文献C1より一部改変して転載)SwedenTaiwanUnitedKingdomUnitedStatesMean171819202122(71)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026C710910-1810/26/\100/頁/JCOPY図2デジタル眼精疲労トラスト感度や夜間視力が低下し,夕方以降の薄暗い環境で「にじんで見える」「はっきりしない」といった訴えが生じやすい.これらは未矯正乱視による視覚ストレスであり,眼精疲労,頭痛,肩こりといった全身症状にもつながりうる.近年ではデジタル眼精疲労(digitalCeyestrain)という概念が注目されており,デバイス使用時の視覚的負担を軽減するためにも,弱度乱視を含めた適切な乱視矯正が重要である(図2)3).適切な乱視矯正がもたらす価値弱度乱視を適切に矯正することは,単に視力を改善するだけでなく,視覚ストレスを軽減し,日常生活の快適性を大きく向上させる.Chaudhryらは,C.0.75DからC.1.25Dの弱度乱視眼C36例を対象に,球面CSCLとトーリックCSCLを比較した.その結果,トーリックCSCLでは視力がより良好であっただけでなく,眼の疲れの自覚スコアも有意に低下したと報告している4).この知見は,適切な乱視矯正が「ぼやけ」を減らし,眼精疲労の軽減に直接寄与することを示すものである.さらに,良好な見え方は装用感の改善にもつながり5),CL装用の継続率を高める.とくにデジタル機器を長時間使用する若年層や,夜間運転を行う成人ではその恩恵が顕著である.眼科医が積極的にトーリックCSCLを提案することは,患者に「快適な視覚体験」を提供し,生活の質を向上させる第一歩となるだろう.弱度乱視矯正をためらわないためにトーリックCSCL処方が進まない背景には,心理的・実務的なハードルが存在する.かつてはトライアルレンズの選択肢が限られ,適合検査に手間がかかることが課題であった.しかし現在では,各メーカーから多様な乱視度数・軸度のレンズが提供され,処方の自由度は大きく向上している.また,トーリックCSCLによる視機能向上や快適性の価値を実感できれば,球面CSCLに比べて約C50%高い費用負担であっても,多くの患者が受け入れ可能であることが報告されている6).すなわち,従来の懸念は徐々に解消されつつあるといえる.筆者らが最近行った研究では,異なるデザインのトーリックCSCLを装用した被験者,視機能を波面センサーを用いて評価した結果,レンズデザインによる「見え方」の違いが明らかになり,従来は主観評価に頼っていた快適性評価が,今後はより客観的に行える可能性が示された7).こうした知見は,眼科医がトーリックCSCL処方に自信をもつ一助となるだろう.文献1)https://www.clspectrum.com/issues/2023/january-20232)YoungG,SulleyA,HuntC:Prevalenceofastigmatisminrelationtosoftcontactlens.tting.EyeContactLensC37:C2025,C20113)Wol.sohnCJS,CLinghamCG,CDownieCLECetal:TFOSClife-style:ImpactCofCtheCdigitalCenvironmentConCtheCocularCsurface.OculSurf28:213-252,C20234)ChaudhryM,SahSP,SharmaIPetal:Doeso.eringonlytheCsphericalCcontactClensCtrialCtoCtheClowCastigmatsCmis-leadCtheCpractitioners?CIntCJCOphthalmolC14:1281-1284,C20215)Maldonado-CodinaC,NavascuesCornagoM,ReadMLeta:Theassociationofcomfortandvisioninsofttoriccon-tactlenswear.ContLensAnteriorEyeC44:101387,C20216)MorganOA,MirzaAA,ParmarKRetal:Clinicalperfor-manceandwillingnesstopayforsofttoriccontactlensesinClowCandCmoderateCastigmats.CContCLensCAnteriorCEyeC46:101887,C20237)KohS,MaedaN,TeraoMetal:Opticalqualityandvisu-alCperformanceCwithCdi.erentCtoricCcontactClensCdesigns.CEyeContactLensC49:483-488,C2023

写真セミナー:Corneal inlay挿入眼

2026年1月31日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史伊藤栄500.Cornealinlay挿入眼獨協医科大学眼科学講座図2図1のシェーマ①CKAMRAC図1前眼部所見角膜中央部に黒色のドーナツ形状をしたCcornealinlay(KAMRA)を認める.図3Cornealinlay挿入眼の眼底所見a:30°プリズムレンズによる眼底所見.Cb:後極部観察用レンズによる眼底所見(inlayの外側).c:後極部観察用レンズによる眼底所見(inlayの内側).レンズを水平方向に動かし,inlayの内側と外側から術野を確保して手術操作を行った.(69)あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026C690910-1810/26/\100/頁/JCOPY老視矯正の方法としてcornealinlayが用いられることがある.AcuFocus社製のKAMRAやReVisionOptics社製のRainDrop,Presbia社製のFlexivueMicrolensなどがあり,いずれも角膜内に挿入するため,laserinsitukeratomileusis(LASIK)と併用されることも多い.Cornealinlayは不適合の場合,除去できることが利点である.しかし,cornealinlay挿入眼に眼疾患を併発した場合の対応方法は議論されるところである.今回,KAMRA挿入眼に硝子体手術を施行した症例を提示する.患者はC65歳,女性.近医で右眼の黄斑円孔を指摘され,筆者の病院を紹介受診した.13年前に両眼にLASIKが施行され,8年前には右眼にCKAMRAが挿入されていた(図1,2).初診時の細隙灯顕微鏡検査で明らかな白内障は認めなかった.眼底検査,眼底三次元画像解析で右眼に強度近視による網膜分離を伴う黄斑円孔を認めた.視力は右眼C0.1(0.3pC×sph-3.00D(cyl.1.75DAx10°),左眼C1.2(n.c.)であった.KAMRAと水晶体を温存し,右眼の硝子体手術を施行した.術中所見ではCKAMRAにより術野の視認性低下を認めたが,接触型の硝子体手術用コンタクトレンズを水平方向に動かして,inlayで妨げられる視野の外側や内側から視認し,内境界膜を.離した(図3).術後,中心窩の網膜分離はわずかに残存したものの黄斑円孔は閉鎖した.術後視力は右眼(0.3pC×sph-2.00D(cyl.0.75DAx15°)であった.KAMRAはCpolyvinylidenedi.uorideでできており,内径がC1.6mm,外径がC3.8mm,厚さC6μmで黒色のドーナツ形状をしている1).ピンホール効果を用いて焦点深度を拡大し,近方視力を改善する.屈折異常がある場合にはCLASIKで矯正したあとにCinlayを挿入し,通常は非優位眼のみに挿入する.2005年にCCEマークを取得し,2015年に米国食品医薬品局によりC45~60歳の患者への使用が承認された.2017年までに世界中でC2万眼以上に挿入されたが,米国ではC2022年に販売が中止となっている2).KAMRAは除去可能であることがメリットの一つであるが,除去後に角膜混濁の残存,屈折値の遠視化,視力低下を起こす場合もある2).除去せずに内眼手術を行う場合は,inlayによって術野が妨げられ手術操作がむずかしくなるが,白内障手術に関しては眼球を回転することで術野を確保しながら手術可能である3).また,裂孔原性網膜.離を合併した症例でも,広角観察システムを用いて硝子体手術が可能であったと報告されている4,5).今回の症例は黄斑疾患で内境界膜.離を行う必要があり,より繊細な黄斑部操作が必要なケースであった.C30°プリズムレンズと後極部観察用の硝子体レンズを用いて,レンズを水平方向に動かすことで,術野を確保して手術操作をすることが可能であった.今後,高齢化に伴いCcornealinlay挿入眼に眼疾患を併発した患者も増えてくるため,対応に留意しておく必要がある.文献1)USCFoodCandCDrugAdministration:KAMRACRCinlayCpro-fessionaluseinformation.https://www.accessdata.fda.gov/Ccdrh_docs/pdf12/p120023d.pdf.CAccessedC12CSeptemberC20252)MoshirfarM,LauC-K,ChartrandNAetal:ExplantationofKAMRACornealInlay:10-yearoccurrenceandvisualoutcomeanalysis.ClinOphthalmol16:3327-3337,C20223)TanT-E,MehtaJS:CataractsurgeryfollowingKAMRApresbyopicimplant.ClinOphthalmolC7:1899-1903,C20134)佐藤英寿,三浦玄,大和田彩子ほか:老視用角膜インレー挿入眼に対する硝子体手術.臨眼70:331-335,C20165)JabburCNS,CAwwadCST,CBashshurZF:SequentialCparsCplanavitrectomyandcataractextractionwithintraocularlensimplantationinpatientwithcornealinlaywhodevel-opedCretinalCdetachmentCfollowedCbyCcataract.CJCCataractCRefractSurg43:570-571,C2017

Deep Learning(DL Segmentation)と Structural Normality Map(SN map)

2026年1月31日 土曜日

DeepLearning(DLSegmentation)とStructuralNormalityMap(SNmap)IntegrationofDeepLearning-BasedSegmentationandStructuralNormalityMappingforRetinalImaging園田祥三*はじめに深層学習(ディープラーニング,deeplearning:DL)の登場により人工知能(arti.cialintelligence:AI)の発展にはめざましいものがあり,眼科分野でもさまざまな医療画像に対し応用され,高い精度での疾患の診断などの有用性が報告されており,一部については臨床応用も始まっている1).しかし,診断根拠となった所見やポイントを示すことができないという根本的な問題がAIにはあり,ブラックボックスAIとよばれ,臨床現場でのAIの利活用のステージでは致命的な課題といえる2,3).近年では次世代診断用のAIとして,Adler,MilsteinらはWay.ndingAIという考え方を提唱した4).AIが提示するのは最初から最終診断である.しかし,医療者と患者は多くのデータ中から不確実な情報を取り除いて行くことが正しい道であり,それを通じてdevelopmentofcareplanを行うのが常である.最初から最終診断を出されても決して臨床家の信頼を得ることはできない.そこで,最終診断を行う現在のAIではなく,このプロセスの“ナビゲーション”をAIが支援する次世代AI,すなわちway.ndingAIの必要性を述べている.筆者らは光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)診断において,人間が迷う症例は同じようにAIも判断に迷うことを見いだした5).さらに,AIの優れたところは,診断や所見に関しての自信の強さを数字で表すことができる点であり,その機能を使えば最終診断だけではなく,臨床所見のそれぞれについて自身の強さを数値で示すことができる.臨床家はそのなかから適切なものを選択していけるので,way.ndingprocessを誘導することが可能となる6).網脈絡膜組織は,その機能を体現するため筆者らが知る組織構造を呈している.疾患眼では,病状形成の過程で正常組織の破壊がおきるため,形態観察によりその状態を推察することにつながる.筆者らは,AIを用いてこの原則を定量化,マップ化して可視化するモデルを考案し市販OCTに実装したので,その原理について,ならびに症例を通して有効性について述べる.ISNmapとは:原理の概要を理解するStructuralNormalitymap(SNmap)とは,OCT画像上で「構造の乱れ=AIの迷い」を色で可視化した地図のようなものである.網膜各層の境界検出(セグメンテーション)をDLによって行うというモデルを,筆者らとNIDEK社が共同開発するなかで生み出されたものである.考え方の背景にあるのは,正常眼は網膜構造に異常がなく,OCTで観察すると網膜各層の境界が明瞭であるため層境界検出が成功しやすいと確認されていることである.他方で,疾患眼では障害部位の構造変化によって層境界が不明瞭なため層境界検出がむずかしく,構造変化の程度が強ければ複数の層にまたがって影響が現れるため,さらに検出が困難となる.この原則をDLが計算する過程において,層検出の迷いを定量化しマップ化したものがSN*ShozoSonoda:医療法人明星会鹿児島園田眼科形成外科,鹿児島大学〔別刷請求先〕園田祥三:〒890-0053鹿児島市中央町29-4鹿児島園田眼科形成外科(1)(59)590910-1810/26/\100/頁/JCOPYcd境界判定の確信度が高いほどピークが一つエントロピーとは「状態の混沌性・不規則性の程度を表す指標」px,z,l:層境界lの座標(x,z)におけるネットワークの出力値.図1網膜6層の境界をAIを用いて判定するモデル網膜各層の境界を検出するAIモデルを作成した.正常眼では境界が明瞭(a),疾患眼では層境界は不明瞭(b)でAIでも正確な判定はむずかしい.このAIの迷いをエントロピーとして,cに示す数式で算出できる.具体的にAIの迷いの定量化は,OCTAスキャンごとに判定していく.OCTAスキャンが512画素から構成される場合,aのように網膜各層の境界が明確であると,AIは高い確度で答えを出すことができる.bのように網膜構造が破壊されると,目的のOCTシグナルが不明確となり,AIの目的となる層の算出確度も下がり,エントロピーも上昇する(d).確率が均一になるほどエントロピーは高くなるhig図2正常眼のSNmapa~d,g~h:網膜6層の境界判定のAIモデルを元に表示されたSNmap.眼底後極赤外光の眼底写真上に異常シグナルが色で表示される.寒色系が低いエントロピーで,赤になるほどエントロピーが高値である.すなわち,色によって正常構造からの逸脱の程度を示している.正常眼ではほとんどシグナルは表示されないが,アーケード血管などの網膜浅層の大きな血管や黄斑(とくにbとd)ではシグナルが観察できる(b,cのはアーケード血管に一致したシグナル,dのは黄斑に一致した円形のシグナル).大部分の網膜構造と比較すると,血管に一致した部位や黄斑では構造が異なるため,正常眼でもシグナルが検出されると考えられる.BM:構造マップ眼底観察画像ILMIPL/INLEZRPE/BMBM図3実際のSNmapの表示画面OCT市販機では,ILM,IPL/INL,EZ,RPE/BM,BMの5層が表示画面のサイズの都合から選択され表示されている.本症例は中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)であるが,漿液性網膜.離(SRD)のためにEZ層がとくに障害をうけていることがすぐに判別できる.このように,疾患眼では表示された隣り合う層のシグナルの関係性を読影することが重要である.f図4症例1OCTBスキャン像(e)を確認すると,脈絡膜新生血管(CNV)の存在を示唆するdoublelayersignと漿液性網膜.離があり,加齢黄斑変性(AMD)の診断は容易にできる.SNmap(a~d)ではBM層(d)のシグナルがもっとも強く,CNVに一致している.しかし,BM層からもっとも離れたILM層でも異常シグナルがあり,これは網膜前膜を示し,OCTBスキャン像(e)でも確認できる().眼底写真(f)でも黄斑上方に前膜が観察できる.-図5症例2a~h:軟性白斑(右眼)の症例.患者の自覚はなく,定期検査でのCSNmapである.僚眼は網膜静脈閉塞の既往がある.SNmapでNFL/GCL層(Cb)にもっとも強いシグナルがあり,隣り合う層(Cc,d)にも同じ形でシグナルが確認でき,EZ層(Cf)まで続いている.隣り合う層の関係をみることで,おもに障害を受けている部位や,その障害がどこまで及んでいるのかを視覚的に観察できる.abcdIPL/INL層図6症例3a,b:単純型糖尿病網膜症の眼底写真(Ca)とCOCT像(Cb).拡大図でCOCTの層構造の乱れが確認できる().これは,いわゆる網膜内層の層構造の乱れ(DRIL)とよばれる所見で,OCT上で早期糖尿病網膜構造変化を示唆するとされる.しかし,DRILを検出するためには丁寧なCOCT観察が必要である.また,糖尿病診察に用いられる網膜厚みマップ(Cc)には暖色で表示される部位はなく,正常と判断される.SNmapではCIPL/INL層(Cd)において異常シグナルが後極に存在しており,これらがCDRILを示唆するものである.図7症例4a~f:前増殖糖尿病網膜症の症例.網膜内層CIPL/INL層およびCOPL/ONL層で異常シグナルが確認できる(Ca,b).DRIL並びに虚血による網膜構造変化を示しており,同症例のCOCTA(Cf)において,SNmapの異常シグナル(Cbの)に一致して低反射領域が確認できる().また,眼底写真(Ce)でも観察できる黄斑耳側の網膜光凝固斑がCSNmapでも観察できる.SNmapで多くの層に同じ形で観察できる凝固斑に一致した異常シグナルは,光凝固からの時間が長く経過したことを示している.図8症例5ポリープ状脈絡膜血管症の症例.当初(Ca)はの部位がもっとも活動性が高く,ポリープの丈が高かったが,経過中(Cb~g)に抗VEGF療法を行うことでポリープの形,部位が変わっていることがわかる.最後のCOCT(Ch)ではC.の部分に新たな病変が広がってきていることがわかる.従来のCOCTBスキャンの観察とは異なり,病勢観察の新しい手法になると考えている.ab図9症例6中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の経時的な変化を示す(Ca,b,cの順).本症例はCCSCのCSRDが経過観察中に自然吸収された.当初はCBM層で隆起性変化が観察されていた.SRDの吸収後も,SNmapでは漏出の責任部位に異常シグナルが残っている.SNmapの経時変化の観察の有効性を示すと同時に,仮にCSRDが消失した状態で初めての診察を行う場合でも,これまでの病態の推察に利用できる可能性がある.ILM層IPL/INL層EZ層視力(1.0)視力(0.7)視力(0.06)図10症例7網膜前膜(ERM)のC3症例.中心窩視細胞の形態変化に伴ってCEZ層のシグナルが出現している.原則として,視力の障害が強いほどCEZ層での異常シグナルが強く表示される.また,ILM層では,ERMと網膜に隙間が存在するほどCSNmapでのシグナル強度が強くなる傾向があり,手術時のCERM.離のきっかけの目安として活用できる.これまで定量評価がむずかしかったCERMなどの疾患において,SNmapが新たな定量評価を可能にするかもしれない.

電子カルテに眠るデータを臨床に活かす: AI による医療情報抽出

2026年1月31日 土曜日

電子カルテに眠るデータを臨床に活かす:AIによる医療情報抽出AI-DrivenExtractionofHiddenClinicalDatafromElectronicHealthRecords奥村直毅*はじめに電子カルテの普及により,日常診療で記録された膨大な情報をあとから解析することが容易になって久しい.患者の主訴,診察所見,検査結果,治療方針などは,個々の診療に不可欠であると同時に,集めれば臨床研究における貴重な資源となる.しかし,電子カルテのなかで構造化されたデータも存在する一方で,「自由記述」として記録されているデータも多く,解析やデータベース化に活用するには大きな壁が存在する.人間にとっては容易に理解できる記録も,コンピュータにとって非構造化データは扱いにくく,従来は大規模な自動解析は現実的ではなかった.近年では,この「言葉の壁」を乗り越える技術として人工知能(arti.cialintelligence:AI),とくに自然言語処理や大規模言語モデル(largelanguagemodel:LLM)が急速に発展している.これらの技術は,電子カルテに眠る膨大な記録を解析可能なデータへと変換し,臨床研究の新たな推進力となる可能性を秘めている.IAIによる「言葉の壁」の突破口―自然言語処理とは1.自然言語処理の位置づけと電子カルテ応用の試みAIは多様な技術から構成されており,その一つが自然言語処理である.自然言語処理は,人間の書き言葉や話し言葉をコンピュータに理解させる技術であり,検索エンジン,翻訳サービス,音声認識などを通じて,すでに社会に広く浸透してきた.医療分野でも早くから電子カルテの文章解析に応用しようとする試みが早くから行われてきたものの,自由記述の多様性や複雑さが大きな壁となり,従来の技術では十分な成果を得ることは困難であった.2.従来の自然言語処理の限界とBERTによる革新従来の自然言語処理は,人間があらかじめルールを設定し,そのルールに基づいて記録を処理する方法が主流であった.たとえば,「文章に『緑内障』という単語が含まれていれば緑内障と判断する」といった単純な規則である.しかし実際のカルテは「緑内障の疑い」「gla.sus.(glaucomasuspectの略)」「家族歴:母が緑内障」など表現が多様であり,同じ単語を含んでいても意味はまったく異なる.これらを網羅するルールを構築するのは現実的ではなく,従来のアプローチには精度の限界があった.この状況を大きく変えたのが,2018年にGoogleが発表したbidirectionalencoderrepresentationsfromtransformers(BERT)である1).BERTは前後の文脈を同時に処理することで単語の意味を理解できるようになり,たとえば人間が「はし」を「橋」と「箸」の文脈で区別できるように,人間に近い形で解釈できるようになった.さらに,一般的な言語能力を獲得したあとに特定領域で追加学習(ファインチューニング)を行うことで,医療記録のように専門用語や独特の記載が多い領域にも*NaokiOkumura:同志社大学生命医科学部〔別刷請求先〕奥村直毅:〒610-0394京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部(1)(51)510910-1810/26/\100/頁/JCOPY対応できるようになった.これにより,従来の自然言語処理を超える精度で電子カルテから有用な情報を抽出できる可能性が開かれた.IILLMの衝撃1.LLMの登場とその特徴2018年にBERTが登場して自然言語処理に革新がもたらされたあと,OpenAIのGPTシリーズが次々に発展し,2022年にChatGPTが一般公開されたことで,LLMは一躍社会に広く知られる存在となった.そのあともGoogleのGeminiやAnthropicのClaudeなど多様なLLMが開発され,LLMの継続的な性能向上と爆発的な普及は広く認知されている.これらのモデルは事前に大規模なデータを学習しており,BERTのような単語の意味理解にとどまらず,人間に近い自然な文章の生成,要約,質問応答など,多様なタスクをこなすことができる.その最大の特徴の一つは,膨大な教師データを用いた従来型のファインチューニングを必ずしも必要とせず,「ゼロショット学習」や「フューショット学習」とよばれる方法で,わずかな指示(プロンプト)だけで柔軟に応用できる点にある.2.BERTとの比較と医療応用の可能性BERTとLLMは,その性質の違いから「専門家」と「ジェネラリスト」にたとえることができる.BERTは詳細なマニュアル(正解データ)に基づいて徹底的に訓練された専門スタッフのように,特定の業務(例:眼圧や視野データの抽出)を高精度にこなす.一方,LLMは幅広い知識をもつ汎用的なスタッフのように,マニュアルがなくても「このカルテから眼圧,視力,処方薬を抜き出して表にまとめてほしい」といった口頭指示に対応できる.この柔軟性と汎用性は,医療情報の抽出や整理にも新しい可能性を開くものであり,従来の手法では時間や労力がかかりすぎた研究や解析に,迅速かつ容易に実現できる環境をもたらすと期待されている.III眼科領域でのAI活用―自然言語処理とLLMの展開1.自然言語処理を用いた緑内障診療データの自動抽出の実例電子カルテの自由記述から臨床研究に必要な情報を抽出する作業は,従来は膨大な時間と人手を要し,大規模研究の障害となっていた.筆者らの研究チームはこの課題に対処するため,緑内障患者の診療記録を対象にBERTを応用した自動抽出モデルを開発した.ここでは,眼科領域の臨床研究における自然言語処理活用の1例として紹介する.研究を行った時点ではLLMがまだ一般に普及しておらず,電子カルテの文章から定型的な数値や薬剤名を正確に抽出するには,自然言語処理がもっとも適した選択肢であった.島根大学医学部附属病院の緑内障患者1,091名の診療記録を取得し,そのうち150名分を学習データとした.Googleが発表したBERTに日本語が理解できるようにしたモデルである「京大BERT」に,緑内障患者150名分のデータを転移学習させた(図1).その結果,眼圧,視力,屈折値,視野検査データ〔meandeviation(MD)値など〕,処方薬名といった多様な情報を高精度で抽出できる「緑内障BERT」が作成できた.京大BERTでは緑内障の診療データから情報がうまく抽出できないことも多くあったが,緑内障BERTではほとんど問題なく情報が抽出できるようになった(表1).従来は1症例30分以上を要していた手作業の抽出が,AIの利用で平均30秒に短縮され,多くの患者の複数回にわたる診療記録から,迅速に必要な情報を抽出して研究に活用できるようになった2).この成果は,BERTであっても十分に実用的な成果が得られることを示したものであり,文章から必要な情報を抜き出すタスクであればLLMでなくても自然言語処理で可能であることを示した1例である.また,わずか150名分のデータの転移学習で緑内障の診療データに特化したモデルが作成できるため,この技術を用いて異なる医療機関や緑内障以外の疾患に特化したモデルを作成することもそれほどむずかしくないことを示しており,自然言語処理モデルを用いた臨床研究の可能性を強く支持するものといえる.52あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026(52)日本語対応緑内障診療記録対応Googleが開発京都大学が開発同志社大学,島根大学が開発学習学習日本語Wikipedia緑内障診療記録約1,800万文150名(14,054文)図1緑内障BERT作成の流れGoogleが開発したCBERTを基盤に,京都大学が日本語CWikipedia約C1,800万文を学習させて日本語に対応させた「京大BERT」を構築し,研究者が事前に利用できるよう公開した.さらに,島根大学医学部附属病院の緑内障患者C150名の診療記録(14,054文)を用いて転移学習を行い,緑内障診療記録に特化した「緑内障CBERT」を作成した.本図は,BERTから京大CBERTを経て,転移学習によって緑内障CBERTへと特化させていったプロセスを示している.表1緑内障BERTによるデータ抽出の一例日付右裸眼視力右矯正視力右S右C右A左裸眼視力左矯正視力左S左C左A右眼圧(GAT)左眼圧(GAT)右HFA左HFA右角膜内皮細胞密度左角膜内皮細胞密度右角膜厚左角膜厚収縮期血圧拡張期血圧脈拍キサラタン点眼液0.005%キサラタン点眼液0.005%タプロス点眼液0.0015%タプロス点眼液0.0015%C2014/04/21C0.5C0.7C.1.5C90C0.4C0.8C2C19C.6.32C.5.01C1193C2284C463C460C164C79C70C1C1C2C2C2014/06/27C0.6C1.2C.1.5C110C0.4C1.2C3C.3C90C15C9C2190C458C163C81C72C0C0C0C0C2014/08/01C0.4C1C.1.25C90C0.3C1C2.25C.2C70C11C9C1560C2025C476C447C155C73C75C1C1C2C2C2014/10/31C0.6C1C.1.25C90C0.7C1C.0.5C14C13C1354C1258C469C478C144C76C74C1C1C2C2C2017/03/27C0.7C1C.1C80C0.1C0.3C1C.1.5C90C25C22C.14.87C.9.1C1430C1502C474C497C190C81C76C0C0C0C0C2017/04/24C0.4C0.5C.0.5C.1C130C0.5C9C11C1436C485C1C1C0C2C2017/05/29C0.4C1C0C.1C130C0.5C0.8C0.75C12C13C1126C2103C469C437C1C1C0C2C2017/06/26C0.4C0.6C.0.5C.1.5C150C0.15C0.7C3C.4.5C70C7C13C1380C1824C462C444C154C83C74C0C0C0C0C2017/07/10C0.01C0.5C0.7C2.5C.3.5C80C13C13C1224C1372C503C453C1C1C0C2C2017/07/20C0.08C0.1C.2.5C110C0.3C0.7C.2.5C.3.5C80C12C1C1C0C2C2017/08/04C0.3C0.7C.2C110C0.3C0.4C3.5C.3.75C85C17C16C1282C1504C475C411C156C80C74C1C1C0C2C2017/09/04C0.3C0.7C0.5C.2C110C0.15C0.6C4.75C.5C90C15C11C.13.52C.8.31C1343C1560C462C415C152C77C73C1C1C2C2C2017/10/18C0.4C0.4C0.5C.2C110C0.15C0.3C.2C100C9C10C1038C1179C472C434C149C74C64C0C0C0C0C2017/12/18C0.3C0.5C1.5C.3C90C0.2C0.4C1C.4C80C10C15C1082C1745C459C460C0C0C0C0C2018/02/13C0.3C0.6C1.5C.2.5C100C0.4C0.6C3.75C.3.5C90C11C15C.12.77C.5.35C1146C1238C459C443C175C79C73C0C0C0C0C2018/05/24C0.4C0.8C1.25C.2.25C100C0.9C0.9C3.5C.2.25C80C12C12C.3.69C2310C1929C465C443C139C63C64C0C0C0C0C2018/08/23C0.2C0.8C1C.2C100C0.5C0.9C2.75C.2.25C80C11C14C.12.04C.4.38C2249C2067C465C450C150C64C66C0C0C0C0C2018/11/27C0.8C1.5C.2.5C90C0.8C3C.2.5C80C18C18C.13.2C.7.64C1458C1476C466C447C192C87C80C0C0C0C0C2019/08/08C0.2C0.8C1.5C.1.75C90C0.3C0.8C2.25C.2C80C8C11C.14.35C.8.25C1362C1498C468C452C179C75C75C0C0C0C0C2020/02/13C0.5C0.7C1.5C.2.5C90C0.6C0.8C1.5C.1.5C90C11C11C.11.63C.10.62C1779C1879C470C459C187C93C82C0C0C0C0(文献C2より改変引用)角膜内細胞密度の低下(%)30MovingAverage±1SDRange20100-10-20-30y=-0.00955x-40-500200400600800100012001400術後経過日数(日)・36,561受診のデータを自動的に取得.・濾過手術後の角膜内細胞密度は,100日ごとに1%の割合で減少.・Ex-PRESSシャントと線維柱帯切除術で差はない.・原疾患として原発開放隅角緑内障(POAG)と落屑緑内障(EXG)で差はない.図2濾過手術後の角膜内皮細胞密度変化の解析例緑内障CBERTを用いて抽出した診療記録を解析し,濾過手術を受けたC136名の患者におけるC36,561回分のデータを評価した.術後C1,500日間にわたり,角膜内皮細胞密度はほぼ直線的にC100日あたり約C1%ずつ低下することが明らかとなった.また,Ex-PRESSシャントと線維柱帯切除術の間に有意な差はなく,原疾患が原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)か落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)かによる差も認められなかった.本図は,AIによるデータ抽出が長期的なリアルワールドデータ解析を可能にした一例を示している.表2人工知能(AI)が医療分野にもたらす変化領域おもな変化具体例1.創薬・治験分子設計の効率化,バイオマーカー探索,治験支援・AI創薬企業(Exscientia,InsilicoMedicine)による候補・薬設計・治験患者リクルートの自動化(EMR活用)・デジタルツインで治療効果を事前シミュレーション2.基礎研究ビッグデータ解析,構造予測,自動化・AlphaFoldによる蛋白質構造予測・大規模RNA-seq/シングルセル解析の自動化・AI駆動の実験ロボット(labautomation)3.臨床研究データ解析効率化,新知見発見・眼科COCT画像からの疾患分類研究・文献自動要約(Scholarcy,Elicit)・リアルワールドデータを用いた薬剤比較研究4.疫学研究公衆衛生データ解析,予測モデル・COVID-19流行予測モデル(機械学習)・ソーシャルメディアからのインフルエンザ流行監視・気候・環境データとアレルギー発症の関連解析5.日常診療診断支援,記録自動化,患者対応・糖尿病網膜症診断CAI(FDA承認IDx-DR)・診療音声をCSTTで記録→LLMで要約・患者向け説明文を自動生成して理解促進・遠隔診療でのCAIトリアージ6.医療運営・教育資源配分,教育・支援・病院ベッド稼働率予測と最適化・VR+AIによる手術トレーニング・患者向けセルフマネジメントCAIアプリEMR:電子医療記録,RNA-seq:RNAシークエンス,FDA:米国食品医薬品局,STT:音声認識.でのトリアージ支援などが実用化され,教育・運営面ではCVR+AIによる手術トレーニングや病院経営の最適化が試みられている.これらは代表的な応用の一部にすぎず,AIの活用はこれらにとどまらず,今後さらに多様な領域へ広がることが確実である.AIは,臨床・研究・教育を含む包括的な医療システムそのものを変革する可能性を秘めている.C2.電子カルテ活用の位置づけこれまで臨床研究は,電子カルテに記録された情報を研究者が半ば手作業で抽出し,集計・解析を行うことで進められてきた.この手法は多くの労力を要する一方で,重要なクリニカルクエスチョンに対して数多くの答えを導き出してきた実績があり,今後も重要な役割を果たし続けるであろう.しかし近年では,自然言語処理やLLMを用いて診療記録などの大量のデータを自動的に解析する新しいタイプの臨床研究が可能となりつつある.この新しいアプローチは,従来の研究手法と対立するものではなく,むしろ目的に応じて使い分けられるべきものであろう.とくに,より多くの症例を対象とする研究や,長期間にわたる追跡解析,あるいは多岐にわたる項目を同時に扱う必要がある研究では,AI技術を用いることで効率的かつ高精度な解析が可能になる.こうしたアプローチはまだ馴染みが薄いかもしれないが,技術的ハードルは大きく下がっており,臨床研究の方向性としてきわめて合理的である.特別なプログラミングの知識を有する一部の研究者が行うような手法ではなく,文字どおり「誰でも」活用できるところまでハードルが下がっていることを強調させていただきたい.さらに,単施設の研究にとどまらず,レジストリーや多施設共同研究にCAIを応用することで,より大規模で実臨床に即した知見が得られる可能性が高い.C3.PHR時代の到来とAIの不可欠性今後の医療情報基盤を考えるうえで,パーソナルヘルスレコード(personalChealthrecord:PHR)の概念はきわめて重要である.PHRとは,医療機関が保有する診療情報だけでなく,患者自身が健康に関するさまざまなデータを一元的に管理・活用できる仕組みをさす.従来の電子カルテは病院や診療所ごとに分断され,患者が自らの診療記録を統合的に把握することは困難であった.これに対しCPHRでは,複数の医療機関をまたいで診療情報を統合できるだけでなく,ウェアラブルデバイスによる日常の活動量や心拍,睡眠の記録,さらには食事や生活習慣に関するデータまで含めて,患者本人が主体的に管理できる点が特徴である.米国ではすでに,電子カルテ情報を患者自身がアプリやオンラインサービスを通じて閲覧・管理できる環境が広がっている.将来的には,診療情報,生活習慣データ,さらにはゲノムや分子レベルのデータまでが統合され,個々の患者に関する膨大で多様な情報がデジタル化されると予測される.このような「個人単位の大規模データ」を有効に解析し,臨床や予防医療に活かすためには,AIの力が不可欠である.とくに,疾患リスクの予測,治療効果の最適化,個別化医療の実現といった課題は,PHRとCAIの組み合わせによって初めて現実味を帯びてくる.PHRの普及は,研究と診療の両面でデータ駆動型医療を推進する原動力となり,AIはその中心的役割を担う存在になるだろう.CVAI活用における新たなリテラシーの必要性AIの普及により,これまで専門的な知識や技術を要した複雑な作業が誰にでも容易に実行できるようになった.今後,臨床や研究の現場でもCAIの活用はさらに広がっていくと考えられるが,その利便性の裏側には新たな課題が潜んでいる.それは,どのような使い方が許容され,どのような使い方が危険であるかを明確に理解するリテラシーが不可欠になったという点である.たとえば,患者の個人情報をそのまま入力することや,診療記録全体を外部サービスに投げ込むこと,氏名やCIDが記された医療画像データを読み込ませることなどは厳に慎むべき行為である(表3).日常生活におけるCAI利用が急速に一般化している現在,こうした「してはならない使い方」を理由とともに理解しておく必要がある.一方で,「してはいけないこと」があるので危険だから使わない,という姿勢は医学の発展と逆行するもので56あたらしい眼科Vol.43,No.1,2026(56)表3AI活用における安全性・情報流出の観点からの禁止事項の例1.個人情報を含むデータの入力・患者氏名,住所,電話番号,ID番号などの直接識別子を入力してはいけない・電子カルテの内容をそのままコピー&ペーストしてCAIに入力するのは厳禁2.診療記録や医療文書の丸投げ・診療録(カルテ),退院サマリー,紹介状,オペ記録などをそのままCAIに作成・編集させるのは危険3.音声や画像の無断入力・診察中の音声をそのまま録音してCAIに送信しない・患者の眼底写真や角膜画像などを個人同定情報と紐づいた形で入力しないAIを医療に応用する際に,情報流出や安全性の観点から厳に避けるべき行為をまとめた.患者氏名や住所,ID番号などの直接識別子を含むデータの入力,診療録や退院サマリー,紹介状,手術記録といった医療文書の丸ごとの入力,さらには個人情報と紐づいた音声や眼底写真,角膜画像の無断入力などがあげられる.これらは患者のプライバシー保護や法的規制の観点から重大なリスクを伴うため,医療者は「してよいこと」と「してはいけないこと」を正しく区別し,AIを適切に活用するためのリテラシーを身につける必要がある.