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屈折矯正手術セミナー:ICL手術の術前検査の注意点

2024年7月31日 水曜日

●連載◯290監修=稗田牧神谷和孝290.ICL手術の術前検査の注意点磯谷尚輝名古屋アイクリニックCImplantablecollamerlens(ICL)手術を施行する際の術前検査は,術後の見え方に関連する度数を決める検査と,術後の合併症に大きく関連するレンズサイズを決める検査が重要である.度数を決める検査では屈折検査を基本に,患者の希望や術前の状態,惹起乱視など種々の情報を統合して度数を決めなければいけない.レンズサイズを決める検査では測定機器の値の妥当性についての理解が必要である.●はじめに屈折矯正手術であるCimplantableCcollamerlens(ICL)手術は健常眼に対して行う手術であり,患者は術後の良好な視環境を希望し,起こりえる合併症の可能性を限りなくゼロにすることを望む.ICL手術では術後の見え方を決めるレンズ度数と,合併症のリスクに影響するレンズサイズを適切に選択することが不可欠であり,その検査の精度も高くなければならない.本稿ではCICLの術前検査の中でもレンズ度数決定とレンズサイズ決定における注意点について述べる.C●レンズ度数決定検査の注意点1.コンタクトレンズ中止期間角膜形状への影響を残したままレンズ度数を決めてしまうと,思わぬ術後の屈折誤差を生じる可能性がある.筆者の施設(以下,当院)ではソフトコンタクトレンズ(contactlens:CL)の場合はC1週間,乱視ソフトCCLの場合はC2週間,ハードCCLの場合はC3週間中止した後に屈折検査を行っている.C2.屈折検査屈折検査ではオートレフケラトメータ,角膜形状解析装置や前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-taphy:OCT),波面収差解析装置などで他覚的屈折検査を行い,その値を参考にして自覚的屈折検査を行う.雲霧法を用い,過矯正を避けるべく矯正を行う.当院では調節麻痺下屈折検査の結果を参考にし,適切な雲霧量からスタートすることで検査時間の短縮をしている.調節麻痺剤はC1%シクロペントラート塩酸塩を用いる.術後の過矯正を防ぐため,適切な調節麻痺効果を得るためには必須と考える1).Toric-ICLの乱視度数についても,球面度数同様に自覚的屈折検査の結果で決定する.レンズ交換法にて得られた完全矯正値の確認のためにクロスシリンダーや乱視表を用い,乱視軸の逆転が生じていな(71)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYいかの確認を行う.C3.患者の把握患者の年齢,術前の矯正方法,屈折値を把握することが大切である.とくに老視年齢の患者や術前に低矯正で生活している患者に完全矯正のレンズ度数を選択してしまうと,術後の近方視障害や頭痛,眼精疲労などの不定愁訴を訴える可能性があるため,十分な説明が必要になる.場合によってはCCLでのシミュレーションを行い,術後の見え方をイメージしてもらうことでギャップをなくすことが大切である.また,完全矯正であっても眼鏡のみで矯正している場合には,見かけの調節力が影響するため注意が必要である.C4.ICL度数計算目標とする屈折度数を決めたら専用の計算フォームOCOSにその結果を入力するのだが,ICL度数は球面・乱視ともにC0.5D刻みであることにも注意が必要である.術後の希望に近いレンズを選択する際に,場合によってはC0.2~0.1D程度プラスかマイナスかに分かれる場合があるため,患者との度数決めの際には念頭に置いておく必要がある.またCICLは角膜切開にて手術を行うのだが,切開による惹起乱視も考慮に入れなければならない.レンズの固定は基本的に水平固定で行われる.そのため耳側切開ではC0.2~0.3D程度の直乱視を惹起することを加味してCICLの乱視度数を決定する.また,この惹起乱視を利用し,直乱視に対して角膜上方切開にて手術を行うことで,乱視矯正効果を加味したレンズ度数決定を行う施設も多くなっている.ただし角膜縦径は横径よりも短いため,切開が角膜中心に近くなる上方切開は,耳側切開よりも惹起乱視の影響が強くなる可能性があることに留意しなければいけない2).C5.その他の検査優位眼検査はモノビジョン法やマイクロモノビジョン法を選択する際に重要な検査であるが,前述したCICLの度数計算の際にC0.2D~0.1D程度プラスかマイナスかあたらしい眼科Vol.41,No.7,2024817図1CASIA2に搭載されている2種のICLサイズ計算式の結果隅角底(anglerecess:AR)の自動トレースに誤りがあるため手動でトレースの修正が必要となった症例である.に分かれる場合のレンズ度数決定の際に参考になる.また,眼軸長検査は屈折度数の妥当性や左右差の確認など,自覚的屈折検査やレンズ度数決定の際の参考になるため測定しておくことが望ましい.C●レンズサイズ決定検査の注意点レンズサイズの計算には角膜水平径Cwhite-to-white(WTW)と角膜後面から水晶体前面までの前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が必要である.しかし,レンズサイズを決めるためのCOCOSは,すでに製造されていないCOrbscanで測定されたパラメータを採用しており,他の機器で測定した同一パラメータとの互換性は確認されていない.両パラメータは前眼部COCTや前眼部画像解析装置,眼軸長測定装置などでも測定が可能ではあるが,その測定値については最適化が必要になるため注意が必要である.最近では前眼部COCTのCASIA2(トーメーコーポレーション)にCICLレンズサイズ測定モードが搭載されており,2種の計算式(NK式,KS式)にてレンズサイズ選択が可能になった.これらC2式は,日本人の計測データから回帰式を用いて構築されている3,4).各式で用いるパラメータは異なるが,それらは自動で検出されるため簡便に測定が可能である.注意点としては,検出された測定点が誤っていることもあるため,画像の確認や測定の再現性を確認するこC818あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024とが重要である(図1).また,術後の角膜後面とCICL前面までの距離を予測したCpostACD,隅角角度(tra-becular-irisangle:TIA)を予測したCpostTIAもサイズ選択の指標となる.C●おわりに本稿ではレンズ度数決定とレンズサイズ決定のための検査について注意点を述べた.ICL手術は自費診療であるがゆえに,患者の求める満足度は高い.そのためC1回の検査結果のみで決めるのではなく,日を改め複数回の検査を行い,再現性や妥当性を確認し,患者の希望などを十分把握したうえでレンズ決定を行うことが大切である.文献1)安里崇徳:成人におけるC1%塩酸シクロペントレート点眼を用いた調節麻痺屈折検査の評価.IOL&RSC26:197-201,C20122)KamiyaCK,CAndoCW,CTkahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.CAmJOphthalmolC187:99-107,C20184)五十嵐章史:前眼部COCTを用いたCICLサイズ決定.あたらしい眼科36:1043-1044,C2019(72)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの光学設計(後編)

2024年7月31日 水曜日

■オフテクス提供■7.コンタクトレンズの光学設計(後編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C5章は,コンタクトレンズの光学設計について解説している.今回はその後半であるレンズの視機能評価や光学設計の評価について紹介する.測定装置オンアイの精度はコンタクトレンズ(CL)が正しく製造されていることが前提であるが,正確に製造されたレンズを確認するための眼外測定にはいくつかの方法がある.簡単な方法としては,光学焦点距離計やナイフエッジ法がある.これらの方法は低次光学系の限られた側面しか測定できず,感度が比較的低いという問題がある.一方で,レンズの度数を定量化するために新しいタイコグラフィック技術も使用されている.隣接する点から一連の回折パターンが記録され,そこからレンズの厚さのプロファイルが再構築され,度数を決定することができる.この技術では,解像度が非常に高く,急激な度数変化を測定することが可能である.また,半オープンセルを備えたCShack-Hartmann収差測定法は,高解像度で良好な再現性が報告されている.特定の地域でCCLの販売承認を受けるには,レンズが国際標準化機構(ISO),米国規格協会(ANSI),またはその他の規格に準拠している必要がある.これらの規格はレンズの度数やパラメータなど必要最小限を規定しており,メーカーが提供するレンズの一貫性を保っている.一方で,CLの設計や製造方法が高度化するにつれ,さらなるレンズ測定技術の進歩も求められる.光学設計効率の臨床評価1.視力視力はCCLの臨床評価としてもっとも再現性が高く標準化された方法であり,logMAR値が研究現場で使用されることが多い.近視視力はC40またはC33Ccm,中間視力はC100,80,またはC66Ccmで,老眼患者のCCLの視機能評価として検査が行われる.C2.コントラスト感度コントラスト感度は視力だけでなく視覚性能をより包括的に評価できる可能性があるものの,検査時間が長いため,再現性が低くなる場合がある.3.スルーフォーカスカーブスルーフォーカスまたは焦点深度曲線は,異なる表示距離でC1点またはC2~3点の距離で視力を測定するよりも,老眼矯正などの多焦点CCLにおけるさまざまな視距離でのレンズの有効性に関する情報を包括的に評価することができる.光学モデルを用いることで,実臨床での評価のように現実的ではないものの,調節力などの人的要因によって引き起こされる変動が少ないため,レンズ設計や眼のパラメータ(瞳孔サイズ,眼の収差)の比較が可能になる.C4.読書パフォーマンス日常生活の多くの活動は文字を読むこと(読書)に依存しているため,読書の困難さが視覚における生活の質に大きく関係する.読書パフォーマンスを評価するために利用されるおもなパラメータには,読書視力,平均読書速度,最大読書速度,最適読書速度,臨界文字サイズがある.これらの測定基準は,単に視覚解像度を測定するだけでなく,認知機能などの非視覚プロセスが影響していることに注意が必要である.C5.周辺屈折オープンビューレフラクトメーターでは,被験者が周辺を固視するための追加のターゲットを置き,瞳孔内の同じ点を測定することで軸外の屈折値を取得することが可能である.また,この装置は同心リングを含むさまざまなプロファイルのレンズを正確に測定できる.一方で,周辺の収差計は軸外の眼の高次収差に関する情報も含まれるため,取得したデータを正しく解釈するには注意が必要である.C6.視力の質に関する患者報告アウトカム適切な患者報告アウトカムの選択は,CL装用者の認識を理解するために重要である.CLを装用した際の視力の質に関しては,客観的な尺度では患者の満足度を予測できない場合があるため,視力の質はとくに重要な要素である.CL装用者の心理測定ツールとしては,CL生活の質への影響(CLIQ),視力の質(QOV),および(69)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8150910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1マルチフォーカルレンズの光学デザイン近距離活動視覚アンケート(NAVQ)が適したツールであることが示唆された.CLIQツールはC20ある質問のうちC4項目だけが視覚に関連し(まぶしさ,薄暗い照明,見え方の変動,焦点),老眼前の成人への使用を目的としている.QOVは妥当性と再現性が良好であり,スコアが視力の客観的評価(視力,収差,コントラスト感度)とよく相関している.NAVQは,老視の近方視力を評価するC10項目があり,そのスコアは近用視力および臨界文字サイズと中程度の相関がある.マルチゾーンと高度な光学設計老眼用の光学設計は,低下していく眼の調節力を補うために,近用度数が追加される.逆に近視用の光学設計は,網膜のデフォーカスを導入し,眼軸の伸展を抑制することを目的としている.これらは度数勾配または異なる度数のゾーンの光学設計により達成される(図1).C1.環状または同心円状設計環状または同心円状リングデザインのレンズは,遠方,中間,近方のいずれかの度数が同心円状または交互にリング状に配置されている.これらの設計は一部の老視矯正多焦点レンズおよび近視進行抑制目的のレンズで採用されている.この光学系は瞳孔に大きく依存するため,偏心と瞳孔径が重要なポイントになる.C2.非球面設計非球面設計には,遠方または近方のいずれかの矯正を目的としたセンターゾーンが存在し,レンズの中心から周辺にかけて勾配のある度数変化があるため,負の球面収差が存在する.非球面設計は一部の老視矯正多焦点レンズや近視進行抑制目的のレンズの光学設計に共通するが,その目的に関係なく,瞳孔サイズ内で必要な度数シフトがあるため,レンズの偏心によりコマ収差を誘発する可能性がある.C3.焦点深度拡張(extendeddepthoffocus:EDOF)EDOFは,非単調,非球面,非周期的に度数のプロファイルが設計されている.これらの設計は非球面レンズと似た部分もあり,球面収差の変化を利用して多焦点性を生み出し,さらに他の複数の高次球面収差を意図的に含めている.おわりに今回はCCLEARの第C5章の後半を要約し解説した.CLの目的は単に視力補正を行うだけでなく,眼の光学的な特性を補い,網膜像を最適化することであるが,近年はさまざまな付加価値があることも明らかとなっている.しかし,眼の自然な光学能力をより忠実に模倣でするなど,さらなる発展の余地が残っている.これらの新しい技術は,従来の光学設計では説明できない可能性があり,新しい計測方法と有効な評価方法も開発する必要がある.文献1)RichdaleK,CoxI,KollbaimPetal:CLEAR-Contactlensoptix.ContLensAnteriorEye44:220-239,C2021

写真セミナー:深層層状角膜移植術(DALK)後の実質型拒絶反応

2024年7月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史482.深層層状角膜移植術(DALK)後の笠松広嗣東京歯科大学市川総合病院眼科実質型拒絶反応図1DALK後の拒絶反応の前眼部所見1カ月前からの霧視を主訴に受診し,細隙灯顕微鏡検査で結膜毛様充血と角膜浮腫に伴う混濁を認めた.図3フルオレセイン染色所見角膜上皮のCmicrocystを認め,上皮浮腫が示唆された.角膜上皮の欠損は認めなかった.図4前眼部OCT(CASIA)によるトポグラフィマップ角膜厚マップ(Pachymetrymap)でびまん性の角膜浮腫を認める.(67)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8130910-1810/24/\100/頁/JCOPY深層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkerato-plasty:DALK)後に実質型拒絶反応を示し,全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PK)を施行したを症例を提示する.患者は66歳,男性.2年前に円錐角膜に対してCDALKを施行,術後はC0.1%フルオロメトロン点眼を使用し,漸減して術後C1年で終了した.術後の角膜内皮細胞密度は測定不能であったが,角膜の厚みと透明性は保たれていた.2カ月後,1カ月前からの右眼の霧視を主訴に来院した.DALK後の矯正視力は右眼(0.6)であったが,診察時は(0.02)に低下していた.右眼眼圧はC25CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査(図1,2)および前眼部光干渉断層計で毛様充血,角膜浮腫を認めた.フルオレセイン染色(図3)では角膜上皮の浮腫を認めたが,欠損は認めず,角膜の感染は否定的であったため,実質型の拒絶反応と診断し,ベタメタゾン頻回点眼による治療を開始した.治療に伴い所見は改善し,右眼の矯正視力も一時的に(0.1)まで改善したが,最終的に移植片機能不全に伴う水疱性角膜症となり,DALKからC1年後にCPKを施行した.DALKは角膜パーツ移植の一つで,患者のCDescemet膜を温存し,ドナー角膜の実質(と上皮)のみを患者に移植する術式である.したがって,適応は角膜内皮が正常な角膜実質に異常のある患者に限られるが,拒絶反応に関してはCPKと比較するといくつかの利点がある.角膜拒絶反応は上皮型,実質型,内皮型に分類され,内皮型がもっとも重篤で不可逆的なことが多いが,DALKではCDescemet膜は患者由来のものなので,理論上は角膜内皮型の拒絶反応は生じず,角膜上皮型,実質型の拒絶反応のみが生じうる.そのためCPKに比べて拒絶反応の頻度が少ない.報告により発生頻度はかなり差があるが,0~22.2%1~4)とされている.筆者らの研究では,わが国におけるCDALK後の拒絶反応の頻度はC5.2%である5).また,角膜内皮型の拒絶反応を回避できることで,症状は実質に限局し,比較的軽度なことが多く,ステロイド治療の反応性もよく,可逆的なことが多い5).ただし,治療までの期間が長い場合や,もともとの角膜内皮細胞密度が少ない場合は,二次的な炎症により角膜内皮が損傷し,水疱性角膜症を伴う移植片機能不全に陥ることもある5)ので,早期診断・治療が重要である.拒絶反応のリスクファクターとしては若年,ドライアイ,人種,角膜血管新生が知られている.また,拒絶反応はステロイドの減量・中止や,抜糸後に生じることが多い5).臨床所見としては,視力低下と角膜実質の浮腫を伴う充血,角膜裏面沈着物や前房内Ccellsを認めることが多い.なかにはCDescemet膜と角膜実質の.離を認めることもあり臨床所見はバリエーションに富むが,角膜実質の浮腫と結膜充血はどの患者にも共通して出現する5).リスクの高い患者の処置後の診察では,これらの所見にとくに注意することと,異常があればすぐに受診をするように患者を教育することが必要である.治療はステロイドの局所,全身投与である.ほとんどの患者はステロイドの頻回点眼で数週間~数カ月で改善するが,重篤な場合はステロイドの全身投与も検討する.文献1)SugitaCJ,CKondoJ:DeepClamellarCkeratoplastyCwithCcom-pleteCremovalCofCpathologicalCstromaCforCvisionCimprove-ment.BrJOphthalmolC81:184-188,C19972)MellesCGR,CLanderCF,CRietveldCFJCetal:ACnewCsurgicalCtechniquefordeepstromal,anteriorlamellarkeratoplasty.BrJOphthalmol83:327-333,C19993)AnwarCM,CTeichmannKD:DeepClamellarkeratoplasty:CsurgicaltechniquesforanteriorlamellarkeratoplastywithandwithoutbaringofDescemet’smembrane.Cornea21:C374-383,C20024)LyallDA,TarafdarS,GilhoolyMJetal:Longtermvisualoutcomes,graftsurvivalandcomplicationsofdeepanteri-orClamellarCkeratoplastyCinCpatientsCwithCherpesCsimplexCrelatedcornealscarring.BrJOphthalmolC96:1200-1203,C20125)KasamatsuCH,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetal:Inci-denceCandCclinicalCfeatuesCofCimmunologicCrejectionCafterCdeepanteriorlamellarkeratoplasty.CorneaC2023Nov301doi:10.1097/IC0.0000000000003444.CEpubCaheadCofCprint.PMID:38049155.

家族性滲出性硝子体網膜症

2024年7月31日 水曜日

家族性滲出性硝子体網膜症FamilialExudativeVitreoretinopathy近藤寛之*はじめに家族性滲出性硝子体網膜症(familialCexudativeCvit-reoretinopathy:FEVR)は多彩な網膜.離によって視力の喪失を起こす遺伝性疾患である.眼底所見が未熟児網膜症に似ている特徴がある.典型的な症例は常染色体顕性遺伝の家族例であるが,遺伝性や重症度が多様であることから家族例としては見逃されやすい.FEVRは眼に限局した疾患と思われてきたが,近年全身所見を呈するCFEVR様の疾患が知られ,疾患概念が変わりつつある.日本人のCFEVRは年間でC100人程度の新規発症と推定されているが,重症度が多様であるために診断されていない患者が多い.クリニックでも注意して診察を行うことで,FEVRの診断がつく患者に遭遇すると考えられる.適切な診断は網膜.離の予防,家族例の重症度の予測や遺伝カウンセリングにつながる.本稿ではFEVRの見つけ方や鑑別疾患,フォローに関するポイントを述べる.CI病態生理と基本事項1.病態生理FEVRの基本的な病態は網膜周辺部の無血管と走行異常である.網膜血管の異常は二次的な網膜新生血管や線維血管増殖を生じ,出生前や乳児早期に牽引性網膜.離を発症する.また,網膜新生血管による漏出性変化のために網膜滲出や滲出性網膜.離を起こす.さらに就学前~10歳代では周辺部無血管領域に網膜の菲薄化のた表1FEVRのStage分類Stage1周辺部網膜無血管CStage2網膜新生血管2A:滲出なし,2B:ありCStage3黄斑外網膜.離3A:滲出なし,3B:ありCStage4黄斑に及ぶ網膜.離4A:滲出なし,4B:ありCStage5網膜全.離(文献C1より引用)めに裂孔が生じ,裂孔原性網膜.離をきたす.若年者の裂孔原性網膜.離はアジア人に多い特徴があると考えられている.C2.Stage分類と眼底所見FEVRには複数の分類があるが,手術予後との関連性からCPendergastとCTreseの分類が用いられることが多い(表1,図1)1,2).Stage1では周辺部の網膜に無血管がみられる(図1a).耳側血管終末部でのCV字湾入や多分岐,網膜血管の過多,直線化などの所見を併発する.Stage2では新生血管を認める(図1b).Stage3~5は網膜.離の併発例であり,周辺部から水晶体後面に増殖組織が形成される.Stage3は黄斑外の網膜.離であり黄斑牽引を伴う所見がみられることが多い(図1c).Stage4は黄斑を含む部分的な網膜.離であり,鎌状網膜ひだが含まれる(図1d).Stage5は白色瞳孔*HiroyukiKondo:産業医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕近藤寛之:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(61)C807図1Stage分類と網膜所見a:Stage1.周辺部の網膜血管の形成異常や無血管(*),血管終末部での多分岐がみられる.b:Stage2.新生血管は眼底写真では滲出斑として認められることが多い.c:Stage3.周辺部の牽引性網膜.離のために黄斑部が耳側に牽引され,上下耳側の血管アーケードのなす角度が狭小化している.d:Stage4.黄斑部を含む網膜.離,鎌状網膜ひだを示すことが多い.e:Stage5.白色瞳孔を伴う網膜全.離を示す.(画像Ca,d,eは文献C2より引用)図2若年者の裂孔原性網膜.離a:超広角眼底写真では耳側に網膜.離と円孔を認める.b:超広角蛍光眼底造影造影所見では周辺部の無血管領域と血管の走行異常が明瞭である.図3軽症FEVRの後極部眼底所見とOCT所見a,b:視神経乳頭の形成不全(.)を示す症例.上下の耳側血管アーケードのなす角度の狭小化がみられる.b:OCTでは網膜分離を認める(b).c,d:左眼外方回旋がみられる症例.眼底所見では黄斑が下方に偏位している.耳側に横楕円形の網膜変性(.)がみられる.OCTでは網膜内層の萎縮像がみられる.e,f:黄斑低形成を合併した症例.眼底所見でははっきりしないが,OCTでは黄斑部の中心陥凹が減弱し,網膜内層構造の遺残がみられる(.).黄斑耳側に横楕円形の網膜変性(.)がみられる.(画像Caは文献C2より引用)図4小頭症を伴うKIF11遺伝子異常陽性FEVRの特徴a:発端者の左眼眼底所見.周辺部に網膜ひだと黄斑牽引を認める.b:発端者の祖母の眼底所見.網膜全域に色素変性所見を認める.-

遺伝性網膜ジストロフィ

2024年7月31日 水曜日

遺伝性網膜ジストロフィInheritedRetinalDystrophyinPediatricPatients國吉一樹*はじめに小児の遺伝性網膜ジストロフィは,頻度は低いものの,多くの種類の疾患が含まれている.そのなかには眼底所見に乏しく,弱視との鑑別が問題となる疾患もある.本稿では,眼底観察がむずかしい小児にみられる遺伝性網膜ジストロフィのなかで,代表的な疾患について解説する.ILeber先天黒内障(図1)1869年にドイツのLeberが最初に報告した新生児~乳児の重篤な遺伝性網膜ジストロフィで,頻度は3万~8万出生に1人とされる.典型例では生後半年までに視覚障害に気づかれ,おもな症状は,ものを追視しない,眼振,対光反射の減弱ないし消失などである.指で眼をこする,押さえるなどの症状がみられることがあり,指眼現象(digito-ocularsign)とよばれる.眼底はびまん性の網膜変性を示すことが多いが,正常のこともある.Leber先天黒内障の本態は網膜の強い機能障害なので,診断には網膜電図(electroretinogram:ERG)が減弱ないし消失しているという所見が必要である.Leber先天黒内障は現在までに20種類以上の原因遺伝子が同定されており,多くは常染色体潜性遺伝を示す.そのなかで,RPE65遺伝子異常によるLeber先天黒内障に対して,アデノ随伴ウイルス(adeno-associat-edvirus:AAV)ベクターを用いた遺伝子治療(遺伝子補充療法)が2023年8月からわが国でも承認され,2024年5月現在,東京医療センターと神戸アイセンター病院で治療が行われている.これに伴って,遺伝性網膜ジストロフィに対する遺伝子パネル検査が保険適用となった.これは,今まで治療方法のなかった遺伝性網膜ジストロフィの診療における画期的な進歩であり,患者やその家族にとってこのうえない福音である.しかし,本治療にはいくつかの問題が指摘されている.それは,①わが国ではRPE65遺伝子異常によるLeber先天黒内障の頻度は欧米に比較して低い,②治療後に炎症や網脈絡膜萎縮をきたす可能性がある,③どの程度長期にわたって効果が持続するかは不明である,④非常に高価である(両眼でほぼ1億円),⑤視力を向上させるには,視覚の臨界期(感受性期)を過ぎる前に治療を行う必要がある,などである.さらに今後,遺伝子治療の対象疾患を拡大するにあたっては,AAVベクターに搭載できる遺伝子の大きさに限界があることや,顕性遺伝の網膜ジストロフィにはゲノム編集など,ほかの方法が必要であることが問題である.IIStargardt病(図2)1909年にドイツのStargardtによって最初に報告された遺伝性網膜ジストロフィである.本疾患は後に黄色斑眼底と合わせて一つの疾患概念となった(Stargardt病/黄色斑眼底).本症は,欧米では若年者の遺伝性網膜ジストロフィとして頻度が高く,常染色体潜性遺伝形式*KazukiKuniyoshi:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕國吉一樹:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(53)799図1Leber先天黒内障の眼底(a,b),指眼現象(digito-ocularsign,c),フラッシュERG原因遺伝子は,それぞれRDH12(a),CRB1(b),NMNAT1(c)であった.いずれもERGは消失型(non-recordable)であった.図2Stargardt病の眼底(a,b)とフルオレセイン蛍光造影像(c)a:小児例.b:成人例.c:成人例.背景蛍光が暗い(darkchoroid/choroidalsilence).-図3卵黄状黄斑ジストロフィの眼底(a)とOCT所見(b)本症例は成人例で,卵黄期である.(弘前大学上野真治先生のご厚意による)-FlashERGXLRS図4先天網膜分離症の広角眼底写真(a),黄斑部拡大写真(b),フラッシュERG広角眼底写真では耳下側に網膜分離を認め,大きな網膜内層裂孔を伴っている.黄斑部には車軸状(桑実様)黄斑変性を認める.フラッシュERGはb波が減弱してa波よりも振幅が小さく,陰性型(negative型)ERGである(.).図5杆体一色覚の眼底(a),OCT所見(b),ERG(DA0.01,DA30,LA3,LA.icker)眼底は正常であるが,OCTでは中心窩下のellipsoidzoneが不明瞭である.ERGでは,杆体ERG(DA0.01)とフラッシュERG(DA30)はよく記録されているが,錐体ERG(LA3)とFlickerERG(LAFlicker)は消失型(non-recordable)である.正常例~CSNB(完全型)CSNB(不全型)眼底正常例ERG図6先天停在性夜盲(Schubert-Bornschein型)の完全型と不全型フラッシュERG(DA30)は完全型,不全型ともにnegativeERGを示す(.).On応答とo.応答の分離記録(LAOn-O.)では,完全型ではon応答のb波が欠如しているのに対して,不全型はon応答もo.応答も減弱している.DA0.01:杆体ERG,LA3:錐体ERG,LAFlicker:FlickerERG.小口病白点状眼底眼底正常例図7小口病と白点状眼底いずれもフラッシュERGのa波,b波ともに減弱し,b波の振幅はとくに小さい(.).On応答とo.応答(LAOn-O.)は,いずれもやや減弱しているが記録可能で,特異的な変化はない.

網膜芽細胞腫

2024年7月31日 水曜日

網膜芽細胞腫Retinoblastoma鈴木茂伸*はじめに網膜芽細胞腫は小児の網膜に生じる悪性腫瘍であり,国内の年間新規発症数は70~80人の希少疾患である.早期発見し,正しい診断を行うことが重要であり,診断がつけば治療法はある程度決まってくる.治療終了後は眼球だけではなく全身の経過観察が重要である.本稿では発生機序,診断,治療,治療後の経過観察について概要を述べる.I疾患概要発症頻度に人種差,性差はない.片眼だけの場合と両側発症の場合があり,2対1の割合である.41%が1歳まで,89%が3歳までに診断される1).先進国では多くの患者が眼球内に限局した状態で発見され,この段階で転移を生じることはほとんどない.そのため,5年生存率は95%以上という疾患である.腫瘍の位置や大きさに依存するが,半分程度の眼球が温存され,有効な視機能温存が可能な場合がある.両側性の全例と片側性の1/6が遺伝性を有し,子に遺伝する可能性があり,後述する二次がんや三側性網膜芽細胞腫に注意を払う必要がある.II疾患の発生機序本疾患の原因遺伝子は13番染色体長腕にあるRB1遺伝子である.片側性の1%程度はMYCN遺伝子の増幅が原因であるが2)今回は割愛する.RB1遺伝子は細胞周期を制御する重要な蛋白である網膜芽細胞腫蛋白質(retinoblastomaprotein:pRB)をコードしている.遺伝子の変化によりpRBが機能しなくなると細胞周期を制御できなくなり,種々の遺伝子変異が蓄積し,最終的にがん化すると考えられている.網膜に生じたがん細胞は増大して網膜.離や硝子体播種を生じ,眼球外に浸潤したり転移を生じるようになる.1細胞には2遺伝子座がある.RB1遺伝子の場合は,一方の遺伝子座に変化を生じても細胞機能は維持されるが,両方の遺伝子座に変化を生じるとがん化する(two-hittheory).腫瘍以外の体細胞のRB1遺伝子の状態で2通りある(図1).体細胞のRB1遺伝子に変化がなく,網膜の1細胞で2段階の遺伝子変化を生じた場合は,生殖細胞には遺伝子の変化がないため遺伝せず(=非遺伝性),確率的に複数の細胞で2段階の遺伝子変化を生じることはないため単発腫瘍・片側性になる.生まれながらにすべての細胞で1遺伝子座のRB1遺伝子変化を有している状態を生殖細胞系列変異とよび,遺伝性網膜芽細胞腫の状態である.細胞機能は保たれているが,複数の細胞で残りの1遺伝子座に変化を生じることが多く,眼腫瘍は多発・両側性になり,体の他の細胞に生じればその組織に別の腫瘍,すなわち二次がんを生じる.また,生殖細胞にも減数分裂で1/2の確率でRB1遺伝子の変化が伝わり,子に遺伝することになる.がんが遺伝するのではなく,RB1遺伝子の変化という「がんになりやすい状態」が遺伝するということになり,*ShigenobuSuzuki:国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科〔別刷請求先〕鈴木茂伸:〒104-0045東京都中央区築地5-1-1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(45)791体細胞変異(Somaticmutation)=・網膜の1細胞だけの変化・単発腫瘍,片側性・遺伝しない・すべての体細胞に1遺伝子座の変化・複数の細胞で2段階目の変化・両眼性,片眼性の1/6・遺伝性onehitonehit図1遺伝性と非遺伝性体細胞変異は網膜のC1細胞だけの問題であり,遺伝しない.生殖細胞系列変異は複数の細胞でC2段階目の変化を生じ,多発することがあり,遺伝性である.図2初期病変の眼底所見網膜に白色隆起病変を認め,内部に白く反射する石灰化を認める.図3超音波断層検査硝子体腔に突出する実質性の腫瘤を認め,内部に石灰化を反映する高反射を認める.図4MRIa:T1強調画像.Cb:T2強調画像.a,bで両眼とも脳実質と同程度の信号を呈する.Cc:腫瘍は造影効果を示す.腫瘍辺縁の網膜下液も描出されている.図5選択的眼動脈注入バルンカテーテルで内頸動脈遠位を一時的に閉塞し,眼動脈へ薬剤を投与する.ab図6眼球温存治療前の眼底写真2カ月,男児,Ca:右眼,b:左眼.治療前,両眼とも後極に複数の大きな腫瘍を認め,視神経乳頭が見えない.Cab図7眼球温存治療後の眼底写真a:右眼,b:左眼.全身化学療法による複数回の局所治療により視神経乳頭は見えるようになり,病変は不活化したと判断した.その後,10年以上再発はない.的には視機能,二次がんなどに注意をはらう.成人になった場合には遺伝に関する情報を提供する.Ca.治療後の眼科的診察局所治療による寛解の判断は眼底検査で行うしかない(図6,7).リキッドバイオプシーや腫瘍マーカーの意義は確立していない.定期的診察で再発を確認した場合は局所治療の追加を検討する.再発発見時に追加治療可能な程度で発見するため,治療後半年は月C1回,その後は2~3カ月と間隔を伸ばしつつ長期間観察を行うことが望ましい.眼球摘出をした場合には,眼窩内再発に注意しつつ,義眼をはずして眼窩内を観察し,再発を疑う場合にはCMRIなどで確認する.Cb.長期フォロー視機能はC3歳ころから測定可能であるが,視力不良眼の検査は困難な場合が多い.弱視訓練に関しては,ある程度視機能が保たれていると予測される場合には検討の余地があるが,後極腫瘍ではむずかしいことが多い.二次がんに関しては肉腫が多いが,体の成長するC10~20歳代は細胞分裂が多いこともあり,二次がんの好発時期になる.放射線治療を受けると遺伝子に傷が生じるため,発がん確率が高くなる.放射線治療が使われていた時代のデータであるが,両側性患者の二次がん発症率はC20年でC15.7%であった13).二次がん自体は網膜芽細胞腫と異なり,生命予後を悪化させる大きな要因であり,予後は腫瘍の組織型,部位により大きく異なる.また,二次がんを治療後,三次,四次がんなどのリスクが増えるため,生涯にわたり発がんの不安が付きまとうことになる.二次がんは有効なサーベイランスの方法が確立しておらず,症状に応じた全身検査が推奨されているのが現状である14).全身CMRIは解像度が低く,有効性は確立していない.遺伝については,両側性は遺伝性でありC50%の確率で子に遺伝し,浸透率がC90%以上であることからC45%が発病することになる.片側性のうちC15%程度は遺伝性であり,7.5%が子に遺伝することになる.発病者に対する遺伝学的検査はC2016年から保険収載されている.発端者で病的バリアントが検出されなければ子の遺伝学的検査は意味がない.発端者で病的バリアントが検出された場合,これが子に検出されれば遺伝していることになり,ほぼ発病することになる.子の検査は,新生児の採血は負担が大きいことから,臍帯血を用いた検査が行われる.ただ,検査結果が出るまでC3週間ほどかかることから,出生時に眼底検査を行い,結果開示の際にも眼底検査を行うことが望ましく,その後は検査結果に基づき判断する.発端者の病的バリアントが判明している場合,絨毛もしくは羊水を採取し検査する出生前診断が可能であり,海外では広く行われている.流産の危険がゼロではなく,堕胎につながる可能性も否定できないということで,国内ではごく一部の施設のみで行われている.着床前診断(preimplantationCgeneticCtestCforCmonogenic/CsingleCgenedefect:PGT-M)は,重篤な遺伝性疾患に対し,体外受精により得られた受精卵の検査を行い,病的バリアントのない胚を母体に戻す方法であり,海外では複数の国で行われているが,国内では日本産科婦人科学会の倫理審査を受ける必要がある.文献1)TheCCommitteeCforCtheCNationalCRegistryCofCRetinoblasto-ma:TheCnationalCregistryCofCretinoblastomaCinCJapan(1983.2014)C.CJpnJOphthalmol62:409-423,C20182)RushlowDE,MolBM,KennettJYetal:CharacterisationofretinoblastomaswithoutCRB1Cmutations:genomic,geneexpression,CandCclinicalCstudies.CLancetCOncolC14:327-334,C20133)MallipatnaCA,CGallieCBL,CChevez-BarriosCPCetal:Retino-blastoma.AJCCcancerstagingmanual,8thed(AminMB,EdgeSB,GreeneFLetaleds)C,p819-831,Springer,20174)ShieldsCL,MashayekhiA,AuAKetal:Theinternation-alclassi.cationofretinoblastomapredictschemoreductionsuccess.Ophthalmology113:2276-2280,C20065)ShieldsJA,ShieldsCL,ParsonsHetal:Theroleofpho-tocoagulationCinCtheCmanagementCofCretinoblastoma.CArchCOphthalmol108:205-208,C19906)ShieldsJA,ParsonsH,ShieldsCLetal:Theroleofcryo-therapyinthemanagementofretinoblastoma.AmJOph-thalmolC108:260-264,C19897)ShuelerCAO,CFluhsCD,CAnastassiouCGCetal:Beta-rayCbrachytherapywith106Ruplaquesforretinoblastoma.IntJRadiatOncolBiolPhysC65:1212-1221,C20068)ShieldsCL,BasZ,TadepalliSetal:Long-term(20-year)Creal-worldoutcomesofintravenouschemotherapy(chemo-reduction)forCretinoblastomaCinC964CeyesCofC554CpatientsCatasinglecentre.BrJOphthalmolC104:1548-1555,C20209)SuzukiS,YamaneT,MohriMetal:Selectiveophthalmic796あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(50)

未熟児網膜症

2024年7月31日 水曜日

未熟児網膜症HotTopicsinRetinopathyofPrematurity福嶋葉子*はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,早産児の網膜にみられる異常血管新生を本態とする小児期の失明疾患の一つである.近年,ROP診療では国際分類の改訂と血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を阻害する薬物療法の承認という二つの新しい話題があった.初回治療として網膜光凝固だけでなく抗VEGF薬を選択できるようになったことから,光凝固と抗VEGF薬の選択基準,抗VEGF治療後の適切な診察期間の設定,周辺網膜の無血管領域の扱いなど新たな課題も顕在化してきた.本稿では,ROP診療に関する最新情報をキャッチアップできるように,診断と治療について概説したうえで,最近の診断支援技術の開発研究についても言及する.I疫学新生児医療の水準によってROPの発症率や治療率は異なる.わが国では,新生児医療の進歩を反映して治療例や失明例は減少傾向にある.新生児臨床研究ネットワークデータベースによれば,在胎32週未満および出生体重1,500g以下の新生児における治療率は2007年の16%をピークに徐々に減少し,2017年には9%となった.東京都を対象とした多施設研究でも,超低出生体重児(出生体重1,000g未満)の治療率は2002年,2011年,2020年でそれぞれ41%,29%,27.5%と減少傾向にあることが最近報告された1).また,全国盲学校の3~5歳児における視覚障害原因としてROPの占める割合は2005年からの10年間で32%から13%と大きく減少しており,ROP診療の質的向上があると推察される.II診断のための検査と重症度判定スクリーニング対象は在胎34週未満,または出生体重1,800g以下の児とすることが多い.高濃度酸素投与や人工換気を要した児に対しては,この基準にかかわらず眼底検査を行う.在胎26週未満の児では修正29~30週から,在胎26週以上の児では生後3週から検査を開始する.診察の際には,眼球心臓反射や無呼吸発作に注意して,短時間で終えるよう心がける.画像記録には広画角デジタル眼撮影装置RetCamRが有用であるが,ほかにもPanoCamや3nethraneoがある.代替として,画角は狭いが倒像鏡レンズを用いたスマートフォン撮影法もある.重症度の判定には国際分類(internationalclassi.cationofROP:ICROP)が用いられる.近年の画像診断ならびに画像撮影機器の進歩や抗VEGF薬の普及などの現状を踏まえて第3版(ICROP3)が2021年に公開された2)〔小児眼科学会のウェブサイト(http://www.japo-web.jp/info.php?page=4)から改訂要旨を確認できる〕.この分類では,活動期の網膜症を病変の位置(Zone),病変部の外観(Stage),plusdiseaseによって重症度を決定する(図1).Zoneは,視神経乳頭を起点として血管が伸びた距離を示し,ZoneI,II,IIIで記す.ZoneI*YokoFukushima:大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座〔別刷請求先〕福嶋葉子:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(37)783図1Notch(湾入)耳側の境界線が他と比べて後極よりにある.これがnotchである.aはbと比べてさらに後方まで湾入している.NotchがZoneI領域に位置しているが他の境界線はZoneIIにある場合には,ZoneIsecondarytonotchと表記して,ZoneIとして扱い治療適応を決める.-図2ZoneIとZoneIIZoneIとZoneIIを示す.ZoneIに近い領域をposteriorZoneIIとして区分する.この画像はposteriorZoneIIよりも周辺側に血管が伸びており,ZoneIIstage3withoutplusと判定される.図3Plusdisease後極血管の拡張と蛇行で判定する.a,Cb,Cc,Cdの順に蛇行と拡張が進行している.Normal(Ca)とCplus(Cd)の判定についての評価者間の差は少ないが,bをCnormal/preplus,CcをCpreplus/plusと判定するかは評価者によってばらつくことが予想される.図4ラニビズマブ治療例a:在胎C25週C480.gで出生.修正C33週にCZoneCIA-ROPに対してラニビズマブ硝子体注射.Cb:修正在胎C41週(治療後C2カ月).網膜血管は伸長したが,血管の拡張と蛇行がみられる.再燃の所見である.点線は治療時の血管先端部,は現在の血管先端部を示す.(文献C6より引用)表1国際治験の比較薬剤治療判定時期治療成功率(全体)治療成功率(A-ROP)再治療率※1(症例数)再治療時期(中央値)最周辺まで血管伸長した割合(治療C2年)CRAINBOWCstudyラニビズマブC0.2.mg治療後C24週C80%C40%C31%8週(4~16週)C59%CFIREFLEYECstudyアフリベルセプトC0.4.mg治療後C24週C85%C73%28%C※211週(4~17週)80%C※3C※C1レスキュー治療を含む.※C2眼数ではC21%.※C3CFIREFLEYECnextstudyによる.治療C1年ではC71%.図5Persistentavascularretina(PAR)在胎C22週C536.gで出生.修正在胎C36週にCTypeC1CROPに対してベバシズマブ投与.5歳時の超広角走査型レーザー検眼鏡による眼底画像(a)と後極の拡大像(b)を示す.耳側周辺部にCPARがある.眼位は正位,視力はCLV=1.0と良好.(文献C9より引用)に光凝固を考慮する.抗CVEGF治療後の適切な診察間隔の設定とCPARの扱いは今後の課題である.C3.視機能a.光凝固視機能に影響する頻度の高い後遺症として,近視化がある.また,凝固範囲や凝固数と近視の程度は相関することが報告されている.とくにCZoneCIROPはCZoneCIIROPに比べて凝固領域が広く高度近視となる可能性が高い.近視の進行はC1歳すぎまでに急速に進むが,それ以降は緩やかになる傾向となる.また,光凝固で瘢痕化した領域を含む視野狭窄がみられる.ほかにも,網膜.離,緑内障,白内障,斜視,屈折異常など,多彩な長期後遺症に注意を払わなければならない.Cb.抗VEGF薬光凝固治療と比較して近視化は軽度となる.RAIN-BOWstudyのC2年経過の結果8)では,片眼に.5Dを超える近視がある例はラニビズマブC0.2Cmg群でC7%であるのに対して,光凝固群ではC34%と有意にラニビズマブ群が近視化は少ないことが示された.また,FIREFL-EYECnextCstudy11)において,2年経過の平均等価球面値はアフリベルセプト群で.0.6D,光凝固群でC.1.9Dであった.C.5Dを超える近視はアフリベルセプト群で7.8%,光凝固群でC21.7%となっており,RAINBOWstudyと近い結果となった.CVROP診療を支援する技術開発日本ではCROPの発症率・治療率は減少傾向にあるが,世界的には低中所得国における早産児の生存率が上がったことによりCROPは増加傾向にある.専門医の不足も相まって診療の効率化が喫緊の課題となっており,診断支援技術の開発が進められている.C1.ハイリスク児の予測早産児にとって眼底検査は心拍低下や無呼吸を誘発する全身負担の大きい検査の一つである.先進国ではスクリーニング対象のうち治療例はC10%前後であり,不要な検査を減らす目的で重症化リスクを判定する方法が数多く報告されてきた.リスク判定モデルの多くは在胎週数,出生体重,体重増加を変数として用いている.ウェブ上には,情報を入力すればリスク判定値が出力されるプラットフォームを提供しているサイトもある(DIGI-ROP:https://www.digirop.com/).人種や医療水準が異なるため必ずしもすべてが普遍的なモデルとはいえないが,日本人集団にも適応可能なモデルもある.たとえば,北米コホートを対象としたCG.ROP基準を日本人に適応すると,重症例を見逃すことなく,現行のスクリーニング基準から対象患児を約C25%減らすことができる12).ほかにも日常的に計測されている動脈血酸素飽和度の値をスクリーニング開始前までに解析することでスクリーニング効率の向上につながる可能性がある13).こうしたリスク予測モデルは,早産児・医療従事者の負担を減じるだけでなく,医療経済にも貢献できる.C2.OCT網膜領域のマルチモーダルイメージングの進歩はめざましいが,小児への応用はいまだに限定的である.それでも機器開発の兆しはみられており,その一つに手持ち光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)がある.OCT画像から病期によらない黄斑浮腫の存在,視細胞の未熟性による中心窩陥凹形成の遅れ,進行したROP既往例での薄い脈絡膜厚など,新しい知見が報告されている2,14).今後さらに開発が進み普及すれば,病態理解や診断に寄与するであろう.C3.画像診断へのAI応用網膜疾患では糖尿病網膜症や加齢黄斑変性に対する人工知能(arti.cialintelligence:AI)応用は広く知られているが,ROPでもCRetCamなどの広角眼底撮影機器で取得した画像を用いた研究が増加している14).初期の深層学習モデルは,Stage,CZone,Cplusの判別などの単一の特徴抽出を対象とするものであったが,近年ではCROP病期の識別,重要な特徴量の抽出,進行・退縮・再燃を含む予後予測など,より複雑な目的を果たすように設計されている.米国発のCtheCImagingCandCInformaticsCinCROPCdeeplearning(i-ROPDL)AIシステムでは,後極血管の形態から重症スコア(vascularCseverityscore:VSS)を設788あたらしい眼科Vol.C41,No.7,2024(42)定し,従来のCZone,CStage,plusの三つの別次元のパラメータを一元化して数値で表した15).これを用いることで治療前の重症度のみならず治療後の改善や再燃についても数値の大小によって評価できると示唆されている.こうした客観的な定量評価は均質で精度の高い診断につながる.ほかにも診断補助技術として実用化が期待できる自動診断の成果が,海外から次々と報告されている.おわりにROP診療における最近の話題をとりあげた.改訂された国際分類CICROP3は現状に即した体系的な分類を提供し,主観的判断を極力少なくして客観性と再現性の向上を図っている.これにより,診断の標準化に近づける重要な指針となっている.また,新たに承認された抗VEGF治療は「虚血網膜に血管を誘導する」という革新をもたらした.抗CVEGF治療後の視力や屈折についてはおおむね良好な報告が多く,解剖学的な予後の改善だけでなく機能的な予後の改善が予想される.しかし,再燃やCPARを背景とした網膜.離の潜在的な危険があることを念頭に置き,長期に経過観察をする必要がある.さらに,血清CVEGF抑制は全身への影響も懸念されており,抗CVEGF薬の安全性を立証するために治療後の追跡データの蓄積が望まれる.これまでの情報を踏まえて,治療選択の際には光凝固・抗CVEGF薬それぞれの治療方法に固有の合併症や課題を理解し,最適な方法を選択することが求められる.治療選択肢が増えたことで良好な視機能の獲得が期待される一方で,国際治験では光凝固・抗CVEGF薬いずれも治療成功率はC60~80%にとどまった.つまり,いまだ治療不成功が存在し,失明に至る疾患であることに変わりはない.治療を成功させるためには,正しく診断して適切な時期に治療することが依然としてもっとも重要であるが,医師側の習熟度によって診断のばらつきが生じる.重症化リスク判定やCAIによる画像診断が社会実装されれば,専門医のいない施設でも最適なCROP診療ができるようになる.診断支援技術の開発スピードは目を見張るものがあり,この領域での実用化に期待したい.文献1)太刀川貴子,清田眞理子,吉田朋世ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症東京都多施設研究第C3報.日眼会誌C127:231,C20232)ChiangCMF,CQuinnCGE,CFielderCARCetal:InternationalCclassi.cationCofCretinopathyCofCprematurity,CthirdCedition.COphthalmologyC128:e51-e68,C20213)FukushimaCY,CKawasakiCR,CSakaguchiCHCetal:Character-izationCofCtheCprogressionCpatternCinCretinopathyCofCprema-turityCsubtypes.COphthalmolRetinaC4:231-237,C20204)EarlyCtreatmentCforCretinopathyCofCprematurityCcoopera-tivegroup:RevisedCindicationsCforCtheCtreatmentCofCreti-nopathyCofprematurity:resultsCofCtheCearlyCtreatmentCforCretinopathyCofCprematurityCrandomizedCtrial.CArchCOphthalmolC121:1684-1694,C20035)寺崎浩子,東範行,北岡隆ほか:未熟児網膜症に対する抗CVEGF療法の手引き(第C2版).日眼会誌C127:570-578,C20236)KubotaCH,CFukushimaCY,CNandinantiCACetal:RetinalCbloodCvesselCformationCinCtheCmaculaCfollowingCintravitrealCranibizumabCinjectionCforCaggressiveCretinopathyCofCpre-maturity.CCureus16:e60005,C20247)StahlCA,CLeporeCD,CFielderCACetal:RanibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantsCwithCretinopathyCofprematurity(RAINBOW):anCopen-labelCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC394:1551-1559,C20198)StahlCA,CSukgenCEA,CWuCWCCetal:E.ectCofCintravitrealCa.iberceptCvsClaserCphotocoagulationConCtreatmentCsuccessCofCretinopathyCofprematurity:theC.re.eyeCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAC328:348-359,C20229)近藤寛之,荒木俊介,三木淳司ほか:ファーストステップ!子どもの視機能をみるスクリーニングと外来診療(仁科明子,林思音編),全日本病院出版会,202210)MarlowCN,CStahlCA,CLeporeCDCetal:2-yearCoutcomesCofCranibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantsCwithCretinopathyCofCprematu-rity(RAINBOWCextensionstudy):prospectiveCfollow-upCofCanCopenClabel,CrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetChildAdolescHealthC5:698-707,C202111)StahlCA,CNakanishiCH,CLeporeCDCetal:IntravitrealCa.iberceptCvsClaserCtherapyCforCretinopathyCofCprematuri-ty:two-yearCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCinCtheCnonran-domizedCcontrolledCtrialCFIREFLEYECnext.CJAMACNetwCOpenC7:e248383,C202412)ShirakiCA,CFukushimaCY,CKawasakiCRCetal:RetrospectiveCvalidationCofCtheCpostnatalCgrowthCandCretinopathyCofCpre-maturity(G-ROP)criteriaCinCaCJapaneseCcohort.CAmJOphthalmolC205:50-53,C201913)KubotaCH,CFukushimaCY,CKawasakiCRCetal:ContinuousCoxygenCsaturationCandCriskCofCretinopathyCofCprematurityCinCaCJapaneseCcohort.CBrCJOphthalmol(publishedConlineC(43)あたらしい眼科Vol.C41,No.7,2024C789

先天異常

2024年7月31日 水曜日

先天異常CongenitalDisorders横井匡*はじめに小児網膜疾患は多岐にわたるが,本稿においては遺伝子異常に伴う疾患や,いわゆる構造異常または奇形に伴う先天素因のある,比較的臨床で遭遇する頻度の高い疾患について,近年の知見や治療の知識をアップデートする.IStickler症候群Stickler症候群はコラーゲン代謝異常によって,白内障や網膜.離などの眼症と,口蓋裂や鞍鼻,小顎,難聴,関節過可動などの全身症状を示す症候群である.小児においては未熟児網膜症(retinopathyofprematuri-ty:ROP),家族性滲出性硝子体網膜症(familialexuda-tivevitreoretinopathy:FEVR)とともに網膜.離をきたす代表疾患であり,巨大裂孔網膜.離を特徴とし,生涯にわたり,50%程度の網膜.離合併リスクがあるとされる.COL2A1遺伝子変異を認めるものはType1Stickler症候群とよばれ,サブグループのうち80%を占め1),もっとも多い.硝子体は液化し,膜様・ベール状の異常硝子体がみられる.通常の格子状変性と,本疾患に特徴的な血管に沿う放射状の網膜変性を認める.巨大裂孔網膜.離には硝子体手術が適応され,とくにパーフルオロカーボンを用いて硝子体切除,光凝固を行ったあと,シリコーンオイル直接置換が行われる.硝子体は完全に液化しているようにみえて,強度近視眼にみられるような薄く変性した硝子体膜が残っていることが多く,できる限り.離,除去する.下方の巨大裂孔には硝子体手術とともにバックリングの併用が望ましい.現代の硝子体手術では最終復位率は90%を超えるが,再.離率が高いため,慎重な経過観察が必要である2).昨年“NewEnglandJournalofMedicine”に本症における網膜.離が冷凍凝固によって多くを予防できることが報告された3).硝子体手術の復位率が向上したとはいえ網膜.離における視機能障害は避けられず,本報告のインパクトは大きく,今後Stickler症候群の網膜.離は予防の時代に入っていくかもしれない(図1).II色素失調症色素失調症は乳児期に体幹四肢を主体に発症する小紅斑を主症状とするほか,歯牙,骨,中枢神経,肺,眼に症状を引き起こす症候群であり,Bloch-Sulzberger症候群ともよばれる.X連鎖顕性遺伝形式をとる遺伝性疾患であり,ごくまれな例を除いて女児に発症する.男児は胎生致死である.炎症,細胞接着,細胞死に関与するNF-lBの調節蛋白をコードするIKBKG/NEMO遺伝子変異によって発症し4),約35%の症例が眼症状を呈する5).ROPやFEVRとは違い,視力低下の多くはすでに形成された網膜動脈の閉塞によって周辺部網膜に無還流領域が形成されることによる二次的な新生血管,線維血管増殖の形成と,これによる牽引性網膜.離によるものである.網膜動脈の蛇行,周辺部網膜の蒼白化,動静脈シャントが網膜症の徴候であり,治療方針決定のため蛍光眼底造影が必須である.無血管野を認め,かつ新生*TadashiYokoi:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕横井匡:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(27)773図1Stickler症候群(12歳,女児.左眼)a:周辺部網膜に高度な変性を認める.硝子体は液化している.b:変性に対してやや後方まで全周光凝固を行った.9年経過し網膜.離を認めず視力は0.5である.図2色素失調症(7歳,女児)a:左眼は生後から網膜全.離.b:眼底像.とくに耳下側に軽度の浸出と血管拡張,新生血管を疑う.c:蛍光眼底造影検査所見.耳側に広汎な無血管野と,新生血管からの漏出.光凝固によって治癒し,矯正視力は1.0である.図3Coats病(3か月,男児)白色瞳孔に気づかれ受診.a:網膜全.離,網膜下の高度な浸出,毛細血管拡張と血管瘤がみられる.b:蛍光眼底造影では漏出は明らかでなく,数珠状に拡張した毛細血管が確認できる.図4Coats病(6歳,女児)就学時健診で右眼視力不良を指摘された.a:黄斑部は回避されるが,耳側から下方に高度な浸出性変化を認める.b:蛍光眼底造影耳側から下方に毛細血管拡張・血管留を認める.c:冷凍凝固後9年.浸出性変化,網膜上の増殖は鎮静化している.矯正視力は0.2である.図5混合型PFVS(1歳,男児.左眼)内斜視を主訴に紹介受診した.硝子体血管本幹の遺残,これによる黄斑牽引と形態異常.水晶体後面の混濁を伴う.片眼性で器質変化は強く,黄斑部も障害されており廃用性斜視となっている.手術による視力上昇は見込めない.図6Pit-macular症候群(16歳,女児.左眼)a:視神経乳頭耳側にピットを認め,アーケード内から下方に網膜.離を認める.b:OCT像.Cc:硝子体切除後C5年.網膜は復位したが矯正視力はC0.01.術前に網膜下液が吸収・再発を繰り返し,手術をせず長期に経過を観察したことが術後視力不良の一因と考えられる.図7脈絡膜コロボーマ(16歳,男児.右眼)a:網膜.離を合併,黄斑部はコロボーマからわずかにはずれている.b:硝子体手術後C5年,網膜は復位している.コロボーマ周囲への光凝固を認める.黄斑部はわずかに回避されている.矯正視力はC0.3.後発白内障を合併している.図8朝顔症候群(7歳,男児.右眼)a:朝顔症候群に網膜.離を合併している.b:硝子体手術により網膜復位を得た.乳頭周囲全周に光凝固が必要であり視力は術直後はC0.01であったが,その後光覚なしとなった.図9胞状の若年性網膜分離症(1歳,男児.右眼)a:網膜は全周に分離を認め,下方は胞状に分離している.分離した黄斑部が上方に翻転している.b:下方胞状.離が自然軽快している.分離した黄斑部が確認でき,視力はC0.07である.胞状.離はしばしば自然軽快する.離をC98.100%に合併し,車軸様変性をきたすことが特徴的である.また,黄斑部のみならず周辺部にも分離が及び銀箔様変化ともいわれる.眼底変化が軽微であれば機能的な弱視と間違われ経過を観察される場合がある.受診のきっかけは乳児期からの眼振や斜視,健診による視力不良がほとんどであり,まれに架橋血管の破綻による硝子体出血によって視力低下が自覚され受診する.眼底検査,OCTで網膜分離があり,網膜電図(electro-retinogram:ERG)で陰性Cb波を示せば診断はほぼ確定するが,遺伝子検査でCRS1遺伝子変異を同定できれば確実である.分離した外層に裂孔を形成し,牽引が生じれば分離でなく.離が生じる.網膜硝子体界面は高度に異常があるため硝子体手術はむずかしく,はっきりとした外層孔が同定できれば強膜バックリングを第一選択とする.強膜バックリングが不能であれば硝子体手術を行う.分離して硝子体腔中に浮遊する網膜内層は機能していないため,止血後切除し,術後の異常牽引を生じないようにする.硝子体.離が非分離部網膜でも生じないことはあるが,可及的に硝子体を切除する.最近,胞状の網膜分離で黄斑部を覆う場合には形態覚遮断予防に早期に内層を切除する報告がなされた29).自然軽快例もあり適応は慎重に行う必要がある(図9).アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の治験も行われるなど30)今後の動向も注目したい.文献1)RichardsCAJ,CMcNinchCA,CMartinCHCetal:SticklerCsyn-dromeCandCtheCvitreousphenotype:mutationsCinCCOL2A1andCCOL11A1.CHumMutatC31:e1461-1471,C20102)LeeAC,GreavesGH,RosenblattBJetal:Long-termfol-low-upofretinaldetachmentrepairinpatientswithstick-lerCsyndrome.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC51:612-616,C20203)AlexanderCP,CFinchamCGS,CBrownCSCetal:CambridgeCprophylacticCprotocol,CretinalCdetachment,CandCsticklerCsyndrome.NEnglJMedC388:1337-1339,C20234)SmahiA,CourtoisG,VabresPetal:Genomicrearrange-mentinnemoimpairsnf-kappabactivationandisacauseofCincontinentiaCpigmenti.CtheCinternationalCincontinentiapigmenti(IP)consortium.NatureC405:466-472,C20005)CarneyRG:IncontinentiaCpigmenti.CACworldCstatisticalCanalysis.CArchDermatol112:535-542,C19766)ShieldsCJA,CShieldsCCL,CHonavarCSGCetal:ClinicalCvaria-tionsandcomplicationsofCoatsdiseasein150cases:the2000CsanfordCgi.ordCmemorialClecture.CAmCJCOphthalmolC131:561-571,C20017)ZhaoCQ,CPengCXY,CChenCFHCetal:VascularCendothelialCgrowthCfactorCinCCoats’Cdisease.CActaCOphthalmolC92:Ce225-e228,C20148)LiangT,PengJ,ZhangQetal:Managementofstage3BCoatsdisease:presentationCofCaCcombinedCtreatmentCmodalityandlong-termfollow-up.CGraefesArchClinExpOphthalmolC258:2031-2038,C20209)Mullner-EidenbockCA,CAmonCM,CMoserCECetal:Persis-tentCfetalCvasculatureCandCminimalCfetalCvascularCrem-nants:afrequentcauseofunilateralcongenitalcataracts.OphthalmologyC111:906-913,C2004;10)DassAB,TreseMT:Surgicalresultsofpersistenthyper-plasticCprimaryCvitreous.COphthalmologyC106:280-284,C199911)Ohno-MatsuiK,HirakataA,InoueMetal:EvaluationofcongenitalCopticCdiscCpitsCandCopticCdiscCcolobomasCbyCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOph-thalmolVisSci54:7769-7778,C201312)IrvineAR,CrawfordJB,SullivanJH:Thepathogenesisofretinaldetachmentwithmorningglorydiscandopticpit.RetinaC6:146-150,C198613)Linco.CH,CSchi.CW,CKrivoyCDCetal:OpticCcoherenceCtomographyofopticdiskpitmaculopathy.AmJOphthal-molC122:264-266,C199614)TheodossiadisCPG,CGrigoropoulosCVG,CEm.etzoglouCJCetal:VitreousC.ndingsCinCopticCdiscCpitCmaculopathyCbasedConCopticalCcoherenceCtomography.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC245:1311-1318,C200715)KiangCL,CJohnsonMW:formationCofCanCintraretinalC.uidCbarrierincavitaryopticdiscmaculopathy.AmJOphthal-molC173:34-44,C201716)HeidaryG:CongenitalCopticCnerveCanomaliesCandCheredi-taryopticneuropathies.JPediatrGenetC3:271-280,C201417)HirakataCA,CInoueCM,CHiraokaCTCetal:VitrectomyCwith-outlasertreatmentorgastamponadeformaculardetach-mentCassociatedCwithCanCopticCdiscCpit.COphthalmologyC119:810-818,C201218)JainN,JohnsonMW:Pathogenesisandtreatmentofmac-ulopathyCassociatedCwithCcavitaryCopticCdiscCanomalies.CAmJOphthalmolC158:423-435,C201419)TanakaA,SaitoW,KaseSetal:RoleoftheepipapillarymembraneCinCmaculopathyCassociatedCwithCcavitaryCopticCdiscanomalies:morphology,surgicaloutcomes,andhisto-pathology.CJOphthalmol2018:5680503,C201820)FigueroaMS,NadalJ,ContrerasI:Arescuetherapyforpersistentopticdiskpitmaculopathyinpreviouslyvitrec-tomizedeyes.RetinCasesBriefRepC12:68-74,C201821)SobolWM,BlodiCF,FolkJCetal:Long-termvisualout-comeCinCpatientsCwithCopticCnerveCpitCandCserousCretinalCdetachmentofthemacula.Ophthalmology97:1539-1542,780あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(34)–

遺伝学的検査・遺伝子検査

2024年7月31日 水曜日

遺伝学的検査・遺伝子検査GeneticTesting/GeneticAnalysis林孝彰*はじめに小児期発症の網膜疾患のなかで,遺伝性網膜ジストロフィ(inheritedretinaldystrophies:IRD)の存在を見逃さないことは重要である.IRDとは,生まれつきもつ遺伝子変異(用語解説参照)が原因で発症する遺伝性の網膜疾患である.2024年4月13日現在,IRDの原因として284遺伝子が,RetinalInformationNetwork(RetNet)(https://web.sph.uth.edu/RetNet/)に報告されている.網膜色素変性と黄斑ジストロフィがIRDの代表疾患で,いずれも難病に認定されている1~4).網膜色素変性は,IRDのなかでもっとも頻度が高く,4,000人に1人の発症頻度とすれば,日本に約3万人の罹患者が存在する(難病センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/196).網膜色素変性や黄斑ジストロフィの発症年齢はさまざまであるものの,小児期に発症するケースはむしろ少ない.小児期に発症するIRDは,全身合併症を伴う症候性とIRD単独で発症する非症候性に分類される.症候性IRDは希少疾患で,Alstrom症候群,Bardet-Biedl症候群,Senior-Loken症候群,Joubert症候群などが報告されている.非症候性IRDは,生後1年以内に臨床症状(振子様眼振,羞明,夜盲,追視困難,oculo-digi-talサインなど)が出現するLeber先天黒内障,先天性錐体機能不全(青錐体1色覚,杆体1色覚),先天性夜盲(完全型先天停在性夜盲,不全型先天停在性夜盲,白点状眼底,小口病)が代表疾患である5).IRDの原因・責任遺伝子の遺伝子変異をつきとめる検査は,遺伝学的検査(または遺伝子検査)とよばれる6).遺伝学的検査はその結果が血縁者や次世代に影響を与えるため,検査のプロセス,すなわち検査の意義や結果の解釈を正しく理解することが重要である.本稿では,小児期に発症するIRDに対する遺伝学的検査実施のプロセス,種類と方法,結果解釈,実際例,問題点について解説する.I遺伝学的検査実施のプロセス日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」によれば,遺伝学的検査とは,IRDなどの単一遺伝子疾患の診断,加齢黄斑変性や緑内障などの多因子疾患のリスク・易罹患性評価,薬物などの効果・副作用・代謝の推定,個人識別にかかわる遺伝学的検査などを目的とした,核およびミトコンドリアゲノム内の原則的に生涯変化しない,その個体が生来的に保有する遺伝学的情報(生殖細胞系列の遺伝子解析より明らかにされる情報)を明らかにする検査と定義されている7).遺伝学的検査実施にあたっては,本ガイドラインを遵守し,十分な遺伝カウンセリングを提供することが求められる.遺伝カウンセリングは,疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を理解し,それに適応していくことを助けるプロセスである.このプロセスには,①疾患の発生および再発の可*TakaakiHayashi:東京慈恵会医科大学葛飾医療センター〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(17)763能性を評価するための家族歴および病歴の解釈,②遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育,③インフォームド・チョイス(十分な情報を得たうえでの自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリングなどが含まれる7).2023年に「IRDにおける遺伝学的検査のガイドライン」8)が発刊されているので,参照していただきたい.しかし,実際の眼科診療で十分な遺伝カウンセリングを提供することは時間的に容易ではない.大学病院などでは,遺伝子診療部と連携することが必要である.未成年者など同意能力がない罹患者に対して遺伝学的検査を実施する場合は,本人に代わって検査の実施を承諾することのできる立場にある者の代諾を得る必要があり,その際は,罹患者の最善の利益を十分に考慮すべきである.また,罹患者の理解度に応じた説明を行い,できるだけ本人の了解(インフォームド・アセント,用語解説参照)を得ることが望ましい7,8).IRD特有のカウンセリングとして,後述する遺伝子治療薬のほかに,さまざまな遺伝子治療や内服治療の臨床試験が実施されていることを伝えることも重要である.特定された原因遺伝子によっては,将来国内で実施される臨床試験の対象者になり得るからである.遺伝学的検査を受けることによって,IRD診断の域に留まらず,臨床試験への参加資格や新たな治療法の開発研究へとつながる可能性がある.II遺伝学的検査の種類・方法2023年6月に両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRDに対する遺伝子補充療法薬であるボレチゲンネパルボベク(ルクスターナ注,ノバルティスファーマ社)の製造販売が承認され,同年,IRDに特化した遺伝学的検査「PrismGuideIRDパネルシステム」(シスメックス社)の製造販売も承認された.2024年度からPrismGuideIRDパネルシステムの運用が開始される.これまでIRDに対する遺伝学的検査は,すべて研究レベルで行われてきたが,健康保険の適用となったことは,患者とその家族に光をもたらすという意味で大きな進展といえる.眼科以外では難病領域の遺伝学的検査の保険収載化が進み,2022年度には合計191の検査項目が保険収載(D006-4遺伝学的検査)されるに至っている9).これまでIRDに対して遺伝学的検査が保険収載されなかった理由として,網膜色素変性に絞っても105種類(常染色体顕性遺伝31種類,常染色体潜性遺伝71種類,X連鎖性遺伝3種類)の責任遺伝子がRetNetに報告されており,IRD全体としてはさらに多数の責任遺伝子が存在するため,遺伝子変異をつきとめることがきわめて困難と考えられていたためである.遺伝学的検査を理解するために,遺伝子の構造について述べる.遺伝子はおおまかにプロモータ,エクソン,イントロンの三つから構成されている(図1)6).プロモータは遺伝子の司令塔で,mRNA(メッセンジャーRNA)の発現をコントロールしている.スプライシングによって,遺伝子からmRNAに転写される領域がエクソンで,転写されず除去される領域がイントロンである(図1)6).転写されたmRNAが,蛋白質に翻訳される設計図となる.エクソンとイントロンの境界部は,遺伝子変異の好発部位として知られ,転写に影響を与える.現状,日本で行われているIRDに対する遺伝学的検査は,保険適用となった遺伝子パネル検査,研究レベルで行われている全エクソーム解析,全ゲノム解析の三つがある6).遺伝子パネル検査の試料は血液で,末梢血から白血球を分離しゲノムDNAを抽出する.全エクソーム解析と全ゲノム解析も多くの場合,同様に試料を採取する.それぞれの特徴について述べる.1.遺伝子パネル検査IRDに関連しRPE65遺伝子を含む82遺伝子(表1)を網羅的に調べるPrismGuideIRDパネルシステムが保険収載された.ハイブリダイゼーション・キャプチャー法(用語解説参照)で,各遺伝子のエクソン領域とエクソン・イントロン境界部から10bpイントロン側の配列をキャプチャーし,次世代シークエンサを用いて塩基配列を決定する(図2).詳細は,本システムのカタログ(https://products.sysmex.co.jp/)を参照していただきたい.遺伝学的検査に対する遺伝カウンセリングの提供,インフォームド・コンセント取得後,SRL社などを経由して,採血管が最終的に理研ジェネシス社に配送され解析が行われる.保険収載に先立って,IRDと診断された100例で臨床研究が実施され,遺伝子変異の764あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(18)プロモータ3′5′遺伝子イントロン1イントロン2転写mRNA蛋白質に翻訳図1遺伝子の構造,転写,翻訳エクソンを三つ有する遺伝子を例に示す.ゲノム上でDNA配列中に遺伝子は存在している.DNAや遺伝子は相補性のある2本鎖を形成し存在している.遺伝子が読まれる方向の上流(図の左)側が5′(プライム),下流(図の右)側が3′(プライム)と定義されている.転写によって,イントロンが除去され1本鎖のmRNAとなり,蛋白質翻訳の設計図となる.(文献6より改変引用)表1PrismGuideIRDパネルシステムで解析対象の遺伝子No.対象遺伝子21CYP4V242NR2E363RHO1ABCA422DHDDS43NRL64RLBP12ADGRV123DRAM244NYX65ROM13AIPL124EYS45PCARE66RP14BEST125FAM161A46PDE6A67RP1L15C8orf3726FSCN247PDE6B68RP26CA427GNAT248POE6C69RP97CACNA1F28GRK149PDE6G70RPE658CDH2329GUCA1A50POC1B71RPGR9CDHR130GUCY2D51PRCD72RPGRIP110CEP29031IDH3B52PROM173RS111CERKL32IMPDH153PRPF374SAG12CFAP41033lMPG254PRPF3175SEMA4A13CHM34lQCB155PRPF676SNRNP20014CLRN135KCNV256PRPF877SPATA715CNGA136KLHL757PRPH278TOPORS16CNGA337LRAT58RBP379TTC817CNGB138MAK59RDH1280TULP118CNGB339MERTK60RDH581USH2A19CRB140MYO7A61RGR82ZNF51320CRX41NMNAT162RGS9BP本システムではRPE65遺伝子を含む82遺伝子が解析対象となっている(シスメックス社の製品カタログより抜粋).エクソン・エクソン・エクソン・エクソン・イントロンイントロンイントロンイントロン境界境界境界境界イントロン1イントロン2イントロン33′5′遺伝子10bp10bp10bp10bp塩基配列を決定する範囲塩基配列を決定する範囲図2PrismGuideIRDパネルシステム(シスメックス社)の塩基配列決定領域ある遺伝子のエクソンC2とエクソンC3領域を例として示す.本パネルシステムでは,解析遺伝子のエクソン領域,エクソン・イントロン境界部からイントロン側にC10Cbp(塩基対)の領域の塩基配列を決定する.エクソン・イントロン境界部のイントロン側3′末端(最下流)のC2塩基(アデニン,グアニン)はアクセプター部位と,イントロン側5′末端(最上流)のC2塩基(グアニン,チミン)はドナー部位と定義され,両者はCcanonicalスプライス部位とよばれ,遺伝子変異の好発部位として知られている.本パネルシステムは,canonicalスプライス部位の変異は検出される.一方,エクソン・イントロン境界部からイントロン側にC10Cbpよりさらに深いイントロン側は,ディープイントロンとよばれ,解析対象とはならない.責任遺伝子A責任遺伝子B変異1変異2変異3塩基配列が読まれるリード3′5′3′遺伝子パネル解析全エクソーム解析全ゲノム解析図3遺伝学的検査の解析範囲遺伝子パネル解析,全エクソーム解析,全ゲノム解析領域の違いを示す.遺伝子パネル解析では,責任遺伝子CAが含まれるものの責任遺伝子CBは含まれない.変異C1(責任遺伝子CA)と変異C3(責任遺伝子CB)はエクソン領域に存在し,変異C2(責任遺伝子CA)はディープイントロン領域に存在している.遺伝子パネル解析:解析対象の責任遺伝子CAの変異C1のみを検出.全エクソーム解析:変異C1と責任遺伝子CBの変異C3を検出.全ゲノム解析:イントロン領域も解析範囲であることから,変異1~3のすべてを検出.(文献C6より改変引用)表2バリアントデータベースdbSNPrs番号などChttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/C頻度主体CHGVDgnomAD遺伝子名,rs番号,バリアントC遺伝子名Chttps://www.hgvd.genome.med.kyoto-u.ac.jp/Chttps://gnomad.broadinstitute.org/CJMorp遺伝子名,rs番号Chttps://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/ClinVar遺伝子名,rs番号,バリアントChttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/C疾患関連CHGMD遺伝子名Chttps://www.hgmd.cf.ac.uk/CLOVDv.3.0遺伝子名Chttps://databases.lovd.nl/shared/genesC統合型CVarSome遺伝子名,rs番号,バリアントChttps://varsome.com/CdbSNP:TheSingleNucleotidePolymorphismdatabase,HGVD:HumanGeneticVariationDatabase,gnomAD:CTheGenomeAggregationDatabase,JMorp:JapaneseMultiOmicsReferencePanel,HGMD:TheHumanGeneMutationDatabase,LOVD:LeidenOpenVariationDatabase図4IntegrativeGenomicsViewerを用いたNF1遺伝子領域・塩基配列の可視化a:染色体C17上に存在するCNF1遺伝子領域のカバレッジはC430Xで,コーディング領域(エクソンC16とC17)が十分にシークエンスされている.Cb:エクソンC17の拡大図.示されているとおり,全リードの約半数で,NF1mRNA(NM_000267.3)のCc.1884の位置でシトシン(C)からアデニン(A)への塩基置換(c.1884C>A,rs555635097)に伴うストップゲイン変異(p.Tyr628Ter)がヘテロ接合性に検出されている.(文献C12より改変引用)カバレッジ欠損範囲カバレッジ母親カバレッジ罹患者(姉)3′カバレッジ罹患者(弟)5′エクソン17エクソン18エクソン19RPGRIP1遺伝子カバレッジ欠損範囲図5IntegrativeGenomicsViewerを用いたRPGRIP1遺伝子領域の可視化全ゲノム解析を行い,RPGRIP1遺伝子のエクソンC17からC19までの領域を示す.杆体C1色覚と診断された姉と弟のカバレッジ・リードアライメントをみると,エクソン18を含む領域が広範囲にホモ接合で欠損している.一方,母親では,同部位のカバレッジはその周囲に比べて明らかに低くなっており,ヘテロ接合で欠損していることが示唆される.(文献C13より改変引用)■用語解説■遺伝子変異:IRDの原因となる生殖細胞遺伝子変異をさす.生殖細胞遺伝子変異は,体細胞変異とは異なり,次世代に遺伝する.生殖細胞とは,配偶子(精子や卵子)の形成過程において受精能力を有している細胞である.インフォームド・アセント:検査や治療を受ける小児患者に対して,その検査や治療について理解できるようにわかりやすく説明し,その内容について本人の納得を得ること.ハイブリダイゼーション・キャプチャー法:ハイブリダイゼーションとは,1本鎖の核酸(DNAやCRNA)が相補性に別の核酸に水素結合を通してC2本鎖を形成することをいう.遺伝子のターゲット領域(塩基配列を決定する部位)のCDNAに対して,プローブCDNA(キャプチャープローブ)を用い,ハイブリダイゼーションによって,ターゲット領域を抽出する方法を,ハイブリダイゼーション・キャプチャー法とよんでいる.リード:次世代シークエンサによって塩基配列が決定される一つの読み取り断片をリードとよんでいる.PCR法産物に例えると,増幅されたCPCR法産物全体のC1分子(2本鎖CDNA)がリードに相当する.通常の次世代シークエンサで読まれるリード長は,150Cbp(塩基対)ほどである.カバレッジ:次世代シークエンサで得られた配列データを評価する際,しばしば出現する専門用語である.次世代シークエンサで読まれるリードデータの重なりをカバレッジ,カバレッジの厚みをカバレッジ深度(coveragedepth)と表現している.遺伝子パネル検査では,100CX(倍)以上のカバレッジで配列が読まれ,全エクソーム解析ではC50CX以上のカバレッジで読まれ,全ゲノム解析ではC25-30CXのカバレッジで読まれる.「カバレッジの均一性(uniformity)が高い」とは,どの遺伝子のカバレッジを比較してもカバレッジ深度に大きな差がないことを意味する.CClinVar:ヒトゲノムのバリアントと関連する疾患についての情報を収集し,誰でもアクセス可能な公開アーカイブとして米国国立生物工学情報センター(Nation-alCCenterCforCBiotechnologyInformation:NCBI)が提供しているデータベースのこと.①CNCBIが管理・運営しているヒトの一塩基置換(singleCnucleotidepolymorphism:SNP)ID(rs番号),②遺伝子名・シンボル,③疾患名などを入力してCClinVar内を検索することができる.二次的所見:IRDの疾患原因となる遺伝子変異を一次的所見とよぶ.一方,全エクソーム解析のような網羅的遺伝子解析では,IRD以外の遺伝子配列も結果的には調べている.ACMGの提案では,遺伝性不整脈や遺伝性腫瘍など,臨床的に有用性のある遺伝子変異を二次的所見と定義している.2021年,開示すべき遺伝子リストとして,35疾患・73遺伝子を報告している.日本医療研究開発機構の小杉班は,「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」で,「ゲノム医療におけるコミュニケーションプロセスに関するガイドライン―そのC2:次世代シークエンサーを用いた生殖細胞系列網羅的遺伝学的検査における具体的方針(改訂第C2版)」を報告している(https://www.amed.go.jp/content/000087775.pdf)ので,参考にしていただきたい.IRDに対する網羅的遺伝子解析研究のなかで,二次的所見の扱いについては,今後の重要な検討課題である.C-

小児の網膜検査の実際

2024年7月31日 水曜日

小児の網膜検査の実際EvaluationoftheRetinainPediatricOphthalmology原藍子*上野真治*はじめに眼科における検査は,自覚的検査と他覚的検査に大別されるが,小児において自覚的検査は,協力が得られているようでも集中力が足りずに正確な結果が出ない場合が多く,あくまで参考値にとどまることも珍しくない.しかし他覚的検査は,検査の条件がよいことも前提とはなるが,正確な診断の根拠になるものでもあるため,月齢が低く自覚的検査ができない児において診断の重要なツールとなる.本稿では,網膜疾患における検査として代表的な眼底検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),蛍光眼底造影検査,網膜電図(electroretino-gram:ERG)の実際の小児検査におけるポイントについて述べる.眼科検査以外においてもいえることであるが,基本的には小児が嫌がらない検査から順に施行し,最後に一番嫌がられる検査を行うのが重要である.I眼底検査眼底検査は網膜疾患において重要であるが,まぶしさを感じる検査で苦痛もあり,保護者の理解を得て行うべきである.抑制を要することも珍しくないが,これはとくに保護者が立ち会うとショックが大きいため,席をはずしてもらうことが望ましい.抑制時は,開始前にしっかり散瞳されていることを確認してから開始する.とくに嫌がる小児に点眼するときは,散瞳薬が涙で流れてしまい,検査時に散瞳されていないこともあるので複数回点眼することが望ましい.抑制には人手が必要なことも多いため,あらかじめスタッフの確保も必要である.点眼麻酔のあとに開瞼器を用いる.開瞼器は小児用にさまざまなサイズや形状があり,ネジ固定式のバンガーター氏開瞼器やデマル氏開瞼鈎の適切な大きさのものを使用する.観察は単眼倒像,双眼倒像でも可能だが,とくに未熟児網膜症の診察においては,強膜圧迫子を用いての診察を要するため,手があく双眼倒像鏡での診察が一般的と思われる.角膜乾燥予防のために,途中で補助者に人口涙液などの点眼を適宜行ってもらう.自然睡眠下で検査可能な場合もあるが,まぶしさで起きてしまうこともある.時間をかけて検査を行いたい場合は鎮静で行うのが望ましい.トリクロホスナトリウムは内服のみで完結するために,簡便に用いられることも多いが,結局あまり効果が出ずに十分な検査ができなかったという経験も珍しくない.しかし,頻度こそ高くはないものの,呼吸停止,心停止まで至った患者も報告されているため,医療者側は十分に注意して過量投与しないようにするべきである.とくに低年齢の乳幼児は,急速に効いて呼吸抑制を生じる場合と,なかなか効かないからと追加を繰り返すうちに覚醒が遅くなり,呼吸抑制に至っている場合もある.トリクロホスナトリウムでの鎮静がむずかしい場合は,経静脈的に鎮静薬投与を行うことになる.とくに抗てんかん薬であるビガバトリンの副作用のチェックなどの検査では,筆者らは,小児科に*AikoHara&ShinjiUeno:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(11)757鎮静を依頼して施行している.2019年に神経生理検査時の鎮静における医療安全に関する提言・指針が日本小児神経学会より公開された.検査中に徐脈がないかの観察を行い,可能なら経皮酸素飽和度の測定を行うことが望まれるが,困難な場合には,顔色や呼吸状態などを随時観察すると記載されている1).誤嚥の防止に対しては,2-4-6ルールが提唱されている.2-4-6ルールとは,検査前の経口摂取制限時間のことであり,清澄水は2時間前,母乳は4時間,人工乳,牛乳,粉ミルク,軽食は6時間前までに済ませることをさしている.検査時の誤嚥による窒息を防ぐためには,このルールを遵守して施行すべきである.II光干渉断層計検査OCTは撮像時に近赤外光を用いるため,被験者がまぶしくないので小児でも行いやすい検査である.特殊な手持ちOCTなどがあれば何歳からでも撮影は可能であるが,通常のOCTでの撮影は協力的な児であれば顎台で顔を固定できる2歳頃から可能となる2).OCTにはさまざまな機種があるが,固視がむずかしい小児では,撮影の際に撮影側の機器が固定されているものよりも,左右に動かせるような機器(たとえばハイデルベルグ社製のスペクトラリス)が,患児の視線に合わせて撮影できるので使いやすい.小児の撮影時には,一人で椅子に座れそうな児はあらかじめ椅子を普段よりやや機器に近いところに寄せておき,検査台を低くした状態で座らせると撮影開始までがスムーズである.顎台に顔が届かない児は,保護者の膝の上に座って検査を行う.短時間の検査で撮像するには顔の固定が重要となるが,あまり押し付けようとすると児が嫌がって顔を離してしまうため,顎台の高さや椅子の高さなどの環境を整えるのが重要である.撮影中はなるべく児の眼瞼を触らないようにすると,児が恐怖感なく固視灯を見てくれやすい.検査時には,画面の中に児の好きなキャラクターがいるとか,色の変化など,興味をそそる話をすると固視が持続しやすい.現在ではさまざまなOCTが開発され,広範囲のスキャンや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)もできるが,時間がかかるため小児ではむずかしいことが多い.短時間で診断に必要な最低限の情報を得るためには,まず黄斑部のラインスキャンの加算回数を減らして記録する.余裕があれば,加算回数を増やし質のよい画像を撮影したり,より広範囲に記録して病巣の範囲を確認したりするとよい.広範囲にOCTを記録する場合には,アイトラッキング機能をオンにすると,1回のスキャン時間は機能オフ時よりも撮像時間が長くなってしまうが,スキャン中の瞬目によるアーチファクトを除外して撮像できるため,小児でもきれいな画像を得やすくなる.III眼底写真眼底に異常のある疾患において,眼底写真を記録することは小児,大人を問わず重要であり,とくに小児の場合は保護者への説明にも役立つ.未熟児網膜症のように病状が刻々と変化し状況によって治療の選択が迫られる疾患は,経時的な変化や治療の効果をみるために眼底撮影が必須となる.また,揺さぶられっ子症候群で訴訟問題になることもあるが,眼底所見が非常に重要になるため,眼底写真を撮影しておくべきである.未熟児網膜症などの乳児の広角の眼底検査でもっとも用いられているのが,手持ちの広角眼底カメラRetCam(Natus社)であろう(図1a).RetCamは画角も130°と広く(図1b),網膜の周辺部の観察が重要な未熟児網膜症の評価になくてはならない存在となっている.近年はスマートフォンに取り付けられるカメラを使用して眼底写真を撮影する報告もあるが,やはり画角が広く,オプションをつければ蛍光眼底造影検査も施行できるRetCamには及ばない.RetCamがない施設では,乳幼児は催眠下またはタオルなどでの抑制のうえ,手持ちの眼底カメラで撮影することになる.いくつかの会社から機器は販売されているが,記録したい範囲を撮影することがむずかしいこともある.眼底検査と同様にスタッフと協力して撮影を行う.今までの通常の眼底カメラでは顎台に顔を乗せられたとしても,周辺視の状態を撮影するのが困難であったが,無散瞳でも周辺部網膜を撮影できる広角眼底カメラの登場により状況は一変した.広角眼底カメラによる眼底写真により,小児の網膜診療に慣れていない眼科医で758あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(12)図1未熟児網膜症のRetCamにおける眼底写真と撮影風景a:RetCamでの実際の撮影風景.b:在胎26週3日,932gで出生した未熟児網膜症Stage2の児の眼底写真である.この写真が撮影された約2週間後,修正39週で両眼にラニビズマブ硝子体注射が施行された.(名古屋大学眼科野々部典枝先生のご厚意による)図2小児の広角眼底カメラでの撮影風景広角眼底写真撮影時には,顔の位置を検査者が調整するが,あまり押さえつけないように注意する.Optos社製の眼底カメラは顎台を設置していないため,椅子を適切な高さにし,成人の撮影よりも椅子を近づけてから中をのぞいてもらい,撮影者が瞳孔の位置を調整して撮影する.図3小児の蛍光眼底造影画像5歳9カ月で当科初診,左眼Coats病の診断となった.検査に非常に協力的で,当科にまだ広角眼底カメラが導入されていなかった時代であったが,その年齢で9方向視も上手にできた画像である.図4RETevalを用いたERGの撮影の実際センサーストリップとよばれるシール型の電極を貼付して波形を記録する.小さなドームの内部から光刺激が発出され,被検者はドームをのぞき込んでERGを記録する.開瞼しているかは赤外線モニターで確認できるため,小児の検査にはとくに有用である.aRODbSFcBF15μV/div05015010020005005025msec/div10msec/div10msec/divdCONEeFLK10μV/div10μV/div0505010010msec/div10msec/div図5HE-2000により記録された国際臨床視覚電気整理学会が推奨するERG波形12歳女児の正常波形である.a:ROD(DA0.01)暗順応下に弱い光刺激で杆体系の機能を評価.b:SF(Standard.ash,DA3)暗順応下に中等度の光刺激で網膜全体の機能を評価.c:BF(Bright.ash,DA30)暗順応下に強度の光刺激で網膜全体の機能を評価.d:CONE(LA3)明順FLK(Flicker,LA30Hz)30Hz応下に中等度の光刺激で錐体系の機能を評価.e:のFlicker刺激により錐体系の機能を評価.