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抗VEGF薬

2021年11月30日 火曜日

抗VEGF薬Anti-VascularEndothelialGrowthFactor(anti-VEGF)Drugs志村雅彦*はじめに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)は1989年にLeung1)らによってその存在が同定され,のちに遺伝子クローニングによって,1983年にすでに報告されていた血管透過性因子(vascu-larpermeabilityfactor:VPF)とVEGFが同一分子であることが判明したことから,VEGFは血管増殖である新生血管の発症と,血管透過性亢進の結果としての組織浮腫に関与する因子であることが判明した.その後,抗VEGF薬としてVEGFに対するヒトモノクローナル抗体であるベバシズマブが開発され,転移性結腸癌の治療薬として米食品医薬品局(FDA)に承認され,VEGFが関与する疾患への抗VEGF薬の臨床適応が広がっていったが,その恩恵をもっとも得たといってもよいのが眼科領域である.眼科領域のなかでも,とくに血管病変の多い網膜硝子体疾患では,新生血管と血管透過性亢進は重要な病態である.網膜での新生血管は虚血を病態とする糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や血管新生緑内障(neo-vascularglaucoma:NVG),未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)でみられ,脈絡膜での新生血管は加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)の病態でもある.また,網膜での血管透過性亢進は網膜静脈閉塞(retinalveinocclusion:ROV)の病態であり,脈絡膜での血管透過性亢進は中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouscho-rioretinopathy:CSC)の病態に関係する.抗VEGF薬の登場によって,これらの網膜疾患の治療は劇的に変化していった.2005年に初めてベバシズマブのAMDに対する適用外使用が報告され,それまで有効な治療法がなかったAMDに対し,ベバシズマブの投与が予想をはるかに超えた有効性を示したことは,AMD以外の網膜硝子体疾患への適用が広がっていくきっかけになった.こうして抗VEGF薬は,網膜硝子体疾患の治療方針に多大な影響を与えていった.IVEGFの生物学的作用(図1)VEGFはいくつかのアイソフォームが存在するが,眼内で確認されているものはVEGF-Aと胎盤成長因子(placentagrowthfactor:PlGF)であり,VEGF-AはVEGF121とVEGF165が,PlGFではPlGF-1が報告されている.VEGFは組織の受容体であるVEGFreceptor(VEGFR)に結合することで生理活性をもたらすが,おもな受容体は3種類報告されている.VEGFR-1は炎症細胞に発現し,IL-6などのサイトカインを分泌して炎症細胞を誘導し,組織炎症に関与すると考えられている.VEGFR-2は血管内皮細胞に発現し,血管損傷後の血管再生に関し内皮細胞を集簇させることから,血管新生に関与すると考えられている.VEGFR-1とVEGFR-2はNF-kBなどのさまざまな細胞内シグナルを活性化す*MasahikoShimura:東京医科大学八王子医療センター眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒193-0998東京都八王子市舘町1163東京医科大学八王子医療センター眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(45)1283PIGF-1VEGF121VEGF165図1VEGFファミリーとVEGF受容体眼内に確認されているVEGFファミリーはVEGF121とVEGF165,そしてPlGF-1である.PlGF-1とVEGF121は炎症細胞に発現している受容体のVEGFR-1に結合し,組織の炎症に関与する.VEGF165とVEGF121は血管内皮細胞に発現している受容体のVEGFR-2に結合し,新生血管の発症や増殖変化に関与する.VEGFR-1とVEGFR-2はさまざまなサイトカインを介して相互に活性化する.表1抗VEGF薬薬剤名(商品名)投与量(濃度)創薬デザイン分子量CIC50*半減期#適用疾患ベバシズマブ(アバスチン)C1.25Cmg/50Cμl(1C67.8nM)ヒト化モノクローナル抗体C149CkDC32CpMCNoData適用疾患なしペガプタニブ(マクジェン)C0.3Cmg/90Cμl(6C6.7nM)特異的結合核酸分子(アプタマー)C50CkDCNoData6.3日CAMDラニビズマブ(ルセンティス)C0.5Cmg/50Cμl(2C08.3nM)ヒト化モノクローナル抗体CFab断片C48CkDC47CpM7.9日AMD,RVO,mCNV,DME,ROPアフリベルセプト(アイリーア)C2.0Cmg/50Cμl(3C47.8nM)遺伝子組換え融合糖蛋白質C115CkDC5.5CpM4.8日AMD,RVO,mCNV,DME,NVGブロルシズマブ(ベオビュ)C6.0Cmg/50Cμl(C4562.7CnM)ヒト化モノクローナル抗体一本鎖CFv断片C26.3CkDC6.8CpM4.4日CAMD*13pMVEGF165のCVEGFR-2結合阻害作用(24時間)C#硝子体内投与での硝子体中半減期a.ラニビズマブb.アフリベルセプトc.ブロルシズマブCDRs:抗体の抗原結合特異性を構成する配列領域2Fabdomainsヒト化一本鎖抗体スカフォールド領域+pM=10-12Mリンカー配列図2保険適用の抗VEGF薬a:ラニビズマブ.ヒト化モノクローナル抗体のCFab断片.Cb:アフリベルセプト.VEGFR-1とCVEGFR-2の各々の結合ドメインを有する合成蛋白質.c:ブロルシズマブ.ヒト化モノクローナル抗体の結合領域であるCL鎖とCH鎖を含む断片をリンカー結合.ブロルシズマブ(26.3kDa)PDR)への有効性が期待されている.C4.mCNV,ROP,NVGに対する抗VEGF薬抗CVEGF薬適用の三大疾患はCAMD,RVO,DMEであるが,そのほかにも保険適用を受けている疾患がある.mCNVはラニビズマブがC2013年C8月,アフリベルセプトがC2014年C9月に保険適用されている.いずれの薬剤もC1回投与後,増悪時に投与するというプロトコールでC1年後に+14.4文字(ラニビズマブ)15),+13.5文字(アフリベルセプト)16)という良好な視力予後が得られている.ROPについてはラニビズマブのみがC2019年C11月に保険適用となり,NVGについてはアフリベルセプトのみがC2020年C3月に保険適用となっている.これらの疾患は継続的な投与を行うことは少ないため,ほとんどは単回投与で行われている.CIII抗VEGF薬の問題点1.投与プロトコール抗CVEGF薬は生物学的製剤であることから活性期間は有限であり,効果を持続させるためには継続的な投与が必要となる一方で,生物学的製剤ならではの高額な薬剤費の問題もあり,「どのようなプロトコールで,いつまで」投与するのかが問題となる.一般的な抗CVEGF薬の投与の考え方として,最初に病態をしっかり抑えるために導入期として毎月連続投与を行い,病態が安定した時点で維持期としての投与方法に変更していくことが多い.AMDやCDMEでは導入期はC3回連続投与を採用することが多く,維持期は当初,再発時に投与するCproCrenata(PRN)法が採用されていたが,増悪してからの投与によって視力が維持できなくなることが報告されて以降,2カ月あるいはC3カ月ごとの定期投与,最近では,増悪していなければ投与期間を延長していくCtreatCandextend法を採用していく傾向にある.後述するが,抗CVEGF薬は疾患や患者によって反応性が異なることが多く,固定的な投与プロトコールを当てはめることはむずかしい.したがって,導入期に薬剤反応性を評価し,対象患者に対応した個別の投与プロトコールを作成していくべきである.C2.全身への影響抗CVEGF薬は硝子体中への投与ではあるものの,全身循環への流出による影響が報告されており,VEGF阻害による末梢循環での内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelialnitrogenoxidesynthetase:eNOS)の活性阻害によってCNO依存性の血管拡張を阻害し,全身血圧を上昇させ,心血管イベントの確立を高める可能性があることが報告されている.ただし,適正使用下での抗VEGF薬投与による心血管イベントの発症確率の上昇については,肯定・否定の両方の報告があり,明確な結論は得られていない.C3.抗VEGF薬の限界抗CVEGF薬に対するもう一つの大きな問題は「効果のある人と,ない人がいる」ということである.とくにDMEに対する抗CVEGF薬の有効性については,治療に抵抗する患者が全体のC30%近くに及ぶことが知られており,図3のように,同じようにみえて効果が異なる患者をしばしば診察する.筆者らの研究によれば,1回の投与で浮腫が消退するCDME患者は全体のC35%程度,3回目までにC66%程度に及ぶ一方で,6回連続投与しても浮腫が消退しないCDME患者がC18%程度存在することが判明している17).とくにCDMEのような全身疾患の影響が大きい疾患については,個別化された投与プロトコールのみならず,全身状態を把握しながら治療を行う必要がある.CIV実臨床における抗VEGF薬さて,実臨床において抗CVEGF薬が疾患に対してどのように使われ,どのような視力予後が得られているのかというと,大規模臨床試験の結果とは異なることが報告されている.AMDでは,1年間にC7.7回程度の抗CVEGF薬投与で+5.5文字の改善,2年間でC13回程度の抗CVEGF薬投与で+4.9文字の改善との報告がある18)が,既報の大規模臨床試験の結果に比べ,投与回数も少なく,視力予後も及ばない.(49)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1287図3抗VEGF薬への反応性上段:反応良好例.71歳,男性.DME矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C692Cμm.抗CVEGF薬C1回注射後C1カ月で浮腫は消退.矯正視力(0.6)中心窩網膜厚C295Cμmに改善し,その後,再注射をせずにC6カ月後は矯正視力(0.8)中心窩網膜厚C244Cμmを得た.下段:反応不良例.75歳,男性.DME矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C559Cμm.抗CVEGF薬C1回注射後C1カ月で浮腫は残存し,矯正視力(0.3)中心窩網膜厚C489Cμmと改善せず.その後,5回連続で抗CVEGF薬を注射したが,6カ月後は矯正視力(0.4)中心窩網膜厚C455Cμmと著明な改善はみられなかった.速にCPDRが進行することも報告22)されており,汎網膜光凝固の前処置としての適用などが模索されている.CSCに対しては現時点では低用量光線力学療法には及ばないという報告23)がある一方で,CNVを合併したCSCでは有効とする報告24)もあり,CSCのサブタイプへの有効性について,今後の研究結果が待たれる.C2.既存の抗VEGF薬の将来既存の抗CVEGF薬の問題点は,極論すると①薬剤価格が高い,②投与頻度が高い,ことである.まず①については,既存の薬剤であるラニビズマブとアフリベルセプトについて,バイオシミラーとよばれる同様の抗CVEGF抗体とCVEGFtrap蛋白が開発されており,現在わが国で臨床治験が行われている.また,アフリベルセプトについてはバイオセイムとよばれる製品(先発品とまったく同じだが,パッケージと価格が異なる)が準備されている.いずれも既存の薬剤のC7割程度の価格での上市が予想されている.②については,ラニビズマブをポートデリバリーシステムとして眼球に埋め込むことで長期作用を期待する方法と徐放型製剤化して硝子体内に留置する方法が開発段階にあり,前者はわが国においても治験段階に入ったところである.一方,既存のアフリベルセプトを高濃度(8Cmg/0.05Cml)にすることで長期の活性が期待されており,これもまた現在臨床治験段階にあって,結果と適用認可が待たれている.C3.開発中の抗VEGF薬抗CVEGF薬に新たな薬理効果を追加するという創薬デザインで,現在臨床治験が行われている薬剤にCFaric-imabがある.VEGFと血管外壁のCpericyteを不安定化するCAngiopoietin-2に対する二つの抗体を合成したBi-speci.c抗体の臨床治験がわが国でも進められている.とくにCpericyteの脱落を病態とするCDMEに対する有効性が期待されており,海外での大規模臨床試験ではC1年時点での視力改善度はアフリベルセプトに対して非劣性が証明され,投与間隔はC3カ月以上をC70%以上の患者で達成されており,より長期に作用することが期待されている.また,興味深い開発中の薬剤としては,抗CVEGF薬遺伝子を搭載させたアデノ随伴ウイルスを網膜下に投与し半永続的に抗CVEGF薬を分泌させる方法なども開発されており,これからもさまざまな抗CVEGF関連薬の開発が行われることになるだろう.おわりにVEGFの存在が初めて証明され,抗CVEGF薬が開発されてC30年近く経過するが,当時はまさかこれほど眼科領域で抗CVEGF薬が普及するとは想像できなかったに違いない.今やラニビズマブは年間C250億円,アフリベルセプトは年間C700億円規模の市場となっており,眼科領域での薬剤費C3,600億円のC1/4以上を占めるまでになった.裏返せば,虚血や血管透過性亢進を病態とする網膜硝子体疾患に,これほどCVEGFが大きな役割を果たしていたことは驚きでもあった.一方,抗CVEGF薬が有効とされる各疾患の根本的な原因は血管の損傷であり,虚血や血管透過性は二次的な現象である以上,眼内でのCVEGFの抑制で原疾患の根本的な治療が行われるわけではなく,抗CVEGF薬はあくまでも各疾患の進行あるいは増悪を抑制する薬でしかないことを認識すべきであろう.文献1)LeungDW,CachianesG,FerraraNetal:Vascularendo-thelialgrowthfactorisasecretedangiogenicmitogen.Sci-enceC246:1306-1309,C19892)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEngJMedC355:1419-1431,C20063)BrownCDM,CKaiserCPK,CMichelsCMCetal:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.NCEngJMedC355:432-1444,C20064)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,C20125)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:RiskofgeographicatrophyCinCtheCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegen-erationCtreatmentsCtrial.COphthalmologyC121:150-161,C20146)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC127:72-84,C2020(51)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1289—

眼科で用いるステロイド点眼薬と非ステロイド性抗炎症薬

2021年11月30日 火曜日

眼科で用いるステロイド点眼薬と非ステロイド性抗炎症薬SteroidDrugsandNon-SteroidalAnti-In.ammatoryDrugs(NSAIDs)山﨑将志*堀純子*はじめに眼科領域において炎症病態が関与する疾患は多く,日常診療でステロイドまたは非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)を処方する頻度は多い.これらの薬剤は,点眼など眼局所投与のみでなく,内服や点滴による全身投与もあり,前眼部から後眼部まで適応疾患は広い.炎症の部位,重症度,併発症と副作用を考慮して,最適期な薬剤と投与経路を選択することが望まれる.本稿では,おもに点眼薬を中心に,ステロイドとNSAIDsの作用機序,適応疾患,使用方法と注意点についてアップデートする.Iステロイド点眼薬ステロイド点眼薬は1950年初頭に誕生した.ステロイドの抗炎症作用は,ステロイド・グルココルチコイドレセプター複合体がホスホリパーゼA2を阻害することでアラキドン酸カスケードを抑制する,また,AP-1やNF-kBなどの転写因子を抑制することで抗炎症作用を発揮する.ステロイド点眼薬は,抗炎症作用の強さ(力価)や作用時間が異なる多種類がある(表1).病変部位,重症度,併発症により使い分けが重要である.ステロイドは副作用も多く,使い方には注意を要するため,副作用について解説してから,処方する頻度の多い疾患における使い方を述べる.1.副作用ステロイド点眼薬の副作用としてもっとも留意すべきは,眼圧上昇によるステロイド緑内障である.ステロイドレスポンダーの眼圧上昇の頻度は成人より小児で高い1).点眼,結膜下やTenon.下注射,全身投与のいずれの場合も眼圧上昇は起こりうる.眼圧が上昇しても自覚症状は伴わないことが多いため,たとえ低力価のステロイド点眼薬であっても定期的な眼科への通院を促すことが大切である.ステロイドによる眼圧上昇は通常可逆的であり,点眼中止や点眼回数の漸減などにより,1~数週で眼圧は正常化する場合が多いが,眼圧上昇の程度によっては緑内障点眼薬を処方して速やかに下降させる.ステロイド点眼薬の他の副作用として,白内障がある.全身投与のみならず,点眼やTenon.下注射によって後.下白内障を誘発する.長期のステロイド使用による易感染性も留意すべき副作用である.ステロイド点眼薬や軟膏の使用が長期化する場合,ヘルペス属などウイルスや真菌,細菌による角膜炎の発生に留意すべきである.なお,ステロイドの全身投与が数カ月に及ぶ場合には,定期的な採血や胸部X線検査により日和見感染,耐糖能異常,高脂血症や高血圧などをモニターする.米国リウマチ学会は,プレドニゾロン5mg/日以上を3カ月以上継続する場合,骨粗鬆症予防薬を併用することを推奨している2).*MasashiYamazaki&JunkoHori:日本医科大学多摩永山病院眼科〔別刷請求先〕山﨑将志:〒206-8512東京都多摩市永山1-7-1日本医科大学多摩永山病院眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(37)1275表1おもなステロイド点眼薬抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱フルオロメトロンフルメトロン0.1%オドメール0.1%<1アレルギー性結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など中ヒドロコルチゾン酢酸エステル液HCゾロン0.5%1.2~1.5結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムオルガドロン0.1%3.5~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウムサンテゾーン0.1%3.5~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩液リンデロンA0.1%3.3~5.0外眼部の細菌感染を伴う炎症性疾患強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムリンデロン0.1%3.3~5.0結膜炎,角膜炎,強膜炎,ぶどう膜炎など表2おもなステロイド眼軟膏抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱プレドニゾロン酢酸エステルプレドニン眼軟膏2.5~3.3霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎,角膜炎,結膜炎など弱フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロンネオメドロールEE軟膏2.8~3.3霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など強デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウムサンテゾーン眼軟膏3.5~5.0霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など強ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩リンデロンA眼軟膏3.3~5.0霰粒腫,麦粒腫,眼瞼周囲炎,アレルギー性眼瞼炎など図1VZVによる多発性角膜上皮下混濁(MSI)眼部帯状疱疹の治療後に数カ月して出現したCMSI.上皮下混濁は細胞浸潤であり,ステロイド点眼に反応が良好であるが,早期に点眼を終了すると再発する.表3ステロイド眼周囲注射抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患中トリアムシノロンアセトニドマキュエイドC120非感染性ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症または糖尿病網膜症による黄斑浮腫,硝子体手術時の硝子体可視化中デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムデキサート3.5~C5.0非感染性ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症または糖尿病網膜症による黄斑浮腫,術後の炎症抑制右眼a右眼左眼b右眼左眼図2Vogt・小柳・原田病に対するステロイドパルス療法Vogt・小柳・原田病の急性期は後極部に多発性浸出性網膜.離を認める(Ca).OCTで認めた滲出性網膜.離と網膜色素上皮.離(Cb)は,ステロイドパルス療法により消退した(Cc).表4眼科で用いるステロイド全身投与(経口,点滴)抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱プレドニゾロンプレドニンC2.7(経口)非感染性角膜炎,非感染性ぶどう膜炎や強膜炎,視神経炎,眼窩炎症など中メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムソル・メドロールC3.0(点滴)生物学的製剤の投与時反応,治療抵抗性のリウマチ性疾患中メチルプレドニゾロンメドロール2.8~C3.3(パルス療法)Vogt・小柳・原田病,後部強膜炎,視神経炎,甲状腺眼症など表5おもなNSAIDs点眼薬抗炎症作用の強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患弱アズレンスルホン酸ナトリウム水和物AZ点眼液C0.02%C13急性・慢性結膜炎,アレルギー性結膜炎など中ジクロフェナクナトリウムジクロード点眼液C0.1%C2.4眼手術後の炎症,結膜炎など中ブロムフェナクナトリウムブロナック点眼液C0.1%C4眼手術後の炎症,結膜炎など中ネパフェナクネバナック懸濁性点眼液C0.1%C8.7眼手術後の炎症,結膜炎など中プラノプロフェンニフラン点眼液C0.1%C5.4急性・慢性結膜炎,眼瞼炎など表6眼科で用いるNSAIDs全身投与(経口,坐剤)強さ一般名商品名半減期(時間)適応疾患中ジクロフェナク(酢酸系)ボルタレンC1.3術後疼痛,関節リウマチなど中ロキソプロフェン(プロピオン系)ロキソニンC1.3術後疼痛,術後消炎,関節リウマチなど中イブプロフェン(プロピオン系)ブルフェンC2術後疼痛,術後消炎,関節リウマチなど強セレコキシブ(COXC2阻害薬)セレコックスC7術後疼痛,強膜炎などリウマチ性疾患C図3セレコキシブ内服の単独投与で改善したびまん性強膜炎全身性炎症性疾患に随伴しない軽症のびまん性強膜炎(Ca)の患者が初診時に処方した点眼薬をすぐに紛失しセレコキシブ内服のみ行い,初診C5日後に再診した際に所見が消失していた(Cb).-

免疫抑制点眼薬

2021年11月30日 火曜日

免疫抑制点眼薬TopicalImmunosuppressiveDrugs(CalcineurinInhibitorEyeDrops)松田彰*Iシクロスポリンとタクロリムス点眼の登場2006年にシクロスポリン水性点眼薬であるパピロックミニ点眼薬0.1%が,2008年にタクロリムス水性懸濁点眼薬であるタリムス点眼0.1%が,ともに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)を適応疾患として日本国内で使用が開始されて10年以上が経過した.これらの免疫抑制点眼薬は抗アレルギー点眼薬でコントロールできないVKCやアトピー性角結膜炎(atopickera-toconjunctivitis:AKC)に対して用いられて,治療上の効果を上げてきたことはすでに多く報告がなされている1~3).AKCに関しては,厳密には適応疾患としての承認がなされていないが,そもそもVKCとAKCを厳密に鑑別することが困難な場合も多く,実際の臨床の現場ではAKC症例にも使用されていることを考えると適応症の拡大が期待される.IIシクロスポリンとタクロリムスの作用機序,臨床応用の歴史的経緯どちらの薬剤も“通常細胞内でリン酸化されて活動性が抑制されているnuclearfactorofactivatedTcell(NF-AT)を脱リン酸化して活性状態にするカルシニューリン”を抑制する薬剤(カルシニューリン阻害薬)であり,獲得免疫系の主要シグナルであるT細胞の活性化(IL-2産生が代表的指標)を抑制する作用をもつ(図1)4).一方でグルココルチコイド点眼薬(以下,ステロイド点眼薬)はカルシニューリン阻害薬点眼薬と比較して,より広範に遺伝子発現を抑制したり,逆に遺伝子発現を亢進させる作用があり,眼圧上昇をはじめとする種々の副作用のため,長期の連用には注意が必要である(図2).1983年にシクロスポリンが臨床導入されたことによって,心臓移植をはじめとする臓器移植における拒絶反応のコントロールの成績が改善し,その後シクロスポリンの大きな問題点であった腎障害を起こしにくい薬剤としてタクロリムスが臨床導入された5).眼科領域でも当初Behcet病にシクロスポリン内服が導入され,その後点眼薬の形でVKCにシクロスポリンとタクロリムスが使用されるようになった.また,アトピー性皮膚炎の治療にはタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏0.1%成人用,0.03%小児用)が用いられ,ステロイド軟膏の副作用が生じやすい顔面の皮疹への塗布に用いられている6).IIIシクロスポリンとタクロリムスの点眼薬シクロスポリンもタクロリムスも水にほとんど溶けない薬剤のため,日本の製薬会社のもつ技術によって,水性点眼あるいは懸濁液点眼として製品化されている.それゆえ,近年まで免疫抑制点眼薬によるVKC(AKC)の治療が可能であったのはわが国と両社が進出しているアジアの一部の国のみであった.最近になって欧米諸国でシクロスポリン懸濁液点眼(日本のパピロックミニと*AkiraMatsuda:順天堂大学大学院医学研究科眼科・眼アトピー研究室〔別刷請求先〕松田彰:〒113-8421東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学大学院医学研究科眼科・眼アトピー研究室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(31)1269カルシニューリン阻害薬はNFAT(nuclearfactorofactivatedTcell)の活性化を阻害図1カルシニューリン阻害薬の作用機序グルココルチコイドとその受容体(GR)はNF-kB,AP-1の活性化を阻害(同時に他の遺伝子の発現にも影響する=種々の副作用)図2グルココルチコイドの作用機序IVVKC(AKC)治療におけるシクロスポリンとタクロリムス抗アレルギー点眼で効果が不十分なCVKC症例に対して,シクロスポリンはC1日C3回,タクロリムスはC1日C2回の点眼で投与する.眼瞼型のCVKC/AKCに対しては,どちらの免疫抑制点眼薬も投与後C1カ月の時点で有意な臨床スコアの低下を示した.一方で眼瞼型や混合型においては,両者とも有意な治療効果を示したが,タクロリムス点眼薬の効果がシクロスポリンより強いことが報告されている9).免疫抑制点眼薬の使用による大きな治療上のメリットは,ステロイド点眼の減量(中止)が可能になることである.Miyazakiらは角膜病変を伴うCVKC/AKC患者791名を対象に,ステロイド点眼+タクロリムス点眼で治療したC337名とタクロリムス点眼のみで治療したC454名を比較したところ,角膜病変の治療効果においてステロイド併用群と非併用群で有意な差がなかったことを報告している9).この結果から,タクロリムス点眼の単剤による治療が角膜病変を伴う慢性重症アレルギー性角結膜炎の治療法として有効であることを示唆しており,アレルギー性結膜炎診療ガイドラインにおいても中等症以上のCVKC/AKCに対する標準的な治療として抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬の併用を推奨している10).急性期の炎症を制御するために短期的にステロイド点眼を併用するケースはありえるが,ステロイド点眼による眼圧上昇のリスクを常に考えておく必要がある.免疫抑制点眼薬の市販後調査の報告によるとシクロスポリン点眼使用の場合C33.6%,タクロリムス点眼使用の場合C51.8%がステロイド点眼からの離脱が可能であった9).これまでの臨床データから考えると,抗アレルギー点眼薬でコントロールができないCVKC/AKCにおいては,1)まずタクロリムス点眼薬を抗アレルギー点眼薬と併用して治療,2)症状のコントロールが不十分な場合は短期間ステロイド点眼薬を加える,3)それでもコントロールできない重症例にはステロイド内服を加える,という治療法が推奨される3,9).V免疫抑制点眼薬の副作用と長期使用の問題シクロスポリン点眼の副作用としては眼刺激感(2.53%)が,タクロリムス点眼の副作用としては眼部熱感(4.05%)と眼刺激感(2.85%)が多く報告されている.個人的には投与前に説明をしておくことで多くの患者で継続使用が可能である印象をもっている.アトピー性皮膚炎の治療に使われるタクロリムス軟膏の使用開始時にも刺激感を感じることが報告されており,これはタクロリムス使用に伴うサブスタンスCPの組織への遊離が関連しているとの報告11)があり,眼表面でも同様の機序での刺激感が生じていると推測される.また,臨床的に問題となる副作用に感染症(なかでもヘルペス角膜炎)の発症があり,適切な管理が求められる.一方,タクロリムス点眼薬の使用による血中への移行はほとんど生じないとされており12),長期使用例も経験している.難治CAKCでは免疫抑制点眼薬をC10年以上にわたって長期使用している患者も経験しており,増悪と寛解を繰り返すことから,増悪期に特徴的な所見(たとえば結膜上の粘性分泌物,落屑角膜炎,角膜上皮欠損など)と自覚症状を指標に粘り強く治療を継続することが重要である(図3).また,患者によっては免疫抑制点眼薬を減量し,症状がない時期にも寛解状態を維持する目的で,たとえば週C1回程度の点眼を継続(プロアクティブ療法)している患者(図4)や,寛解期が続き免疫抑制点眼薬から離脱ができた患者も経験している.このような慢性重症のCAKC/VKC患者では,免疫抑制点眼薬によってステロイド点眼薬の使用量を削減したり,使用を控えることができるメリットは大きい.CVIタクロリムス点眼抵抗性の難治VKC.AKC症例タクロリムス点眼薬はCVKC/AKCに対して,優れた治療効果を示すが,10~15%程度の頻度で治療に抵抗する患者が存在する.そのような場合は慢性炎症を伴う病変部位を除く効果が期待して,治療目的で巨大乳頭組織を切除することがある.筆者らはタクロリムス抵抗性のCVKC/AKC患者から切除した巨大乳頭組織と,対照として結膜弛緩症の切除組織からCRNAを抽出して(33)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1271図3重症アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性角結膜炎(45歳,女性)10年前からタクロリムス点眼(両眼),増悪と寛解を繰り返している.増悪時にシールド潰瘍(Ca),角膜上皮欠損落屑角膜炎(b),上眼瞼巨大乳頭(Cc)が出現.タリムス点眼の継続と短期のデキサメサゾン点眼の追加で,シールド潰瘍の瘢痕化(Cd)の時期を経て寛解期に入った(Ce,f).タクロリムスの点眼は継続しており,角膜新生血管は残存している(Ce).図4春季カタル(アトピー性皮膚炎の合併はない)(9歳,男児)分泌物を伴う巨大乳頭結膜炎(Ca),落屑角膜炎(Cb)とシールド潰瘍(Cc)を認める.タクロリムス点眼薬で治療し,症状所見は軽快.その後週C1回タクロリムス点眼でC6年間寛解を維持している(Cd).図5重症アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性角結膜炎(37歳,女性)6年前からタクロリムスの点眼を継続中.3年前にアトピー性皮膚炎のコントロールが悪化し,強い痒みと落屑角膜炎(Ca,b),眼瞼の巨大乳頭結膜炎(Cc)を認めた.デュピルマブの投与後C3カ月で眼所見は軽快(Cd~f)し,寛解期に入った.タクロリムス点眼とデュプルマブの投与を継続中.-

ドライアイ点眼液

2021年11月30日 火曜日

ドライアイ点眼液EyeDropsMedicationsforTreatingDryEye横井則彦*はじめにドライアイ(dryeye:DE)の点眼治療は,2010年12月のジクアホソルナトリウム(diquafosolsodium:DQS)点眼液,2012年1月のレバミピド(rebamipide:Rbm)点眼液の登場により,この10年間で大きく様変わりした.また,それらの登場を受けて,眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD),眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)(TFOD/TFOT)の考え方が生まれて1.4),日本のDEの診断・治療はパラダイムシフトを迎えた.涙液層に主眼を置くDEの新しい考え方は,それまでの定義・診断基準では,位置づけが困難であった涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)短縮型DE5,6)にDEとしての市民権を与えるとともに,そのサブタイプとしての水濡れ性低下型DE(decreasedwettabilityDE:DWDE)1.4,6)の重要性を浮かび上がらせた.現在,BUT短縮型DEは,2016年版のDEの定義・診断基準7)において,涙液減少型DE(aqueousde.cientdryeye:ADDE)と合わせて,DEの一つの体系のなかで捉えられるようになり,日本発世界初のTFOD/TFOT1.4)は,アジアの他国でも受け入れられて8,9),欧米の臨床家にも評価されている10).DEにおいて欧米で重視される涙液の浸透圧上昇,眼表面炎症の考え方は可視化できず,かつ,細隙灯顕微鏡以外の検査法を要するものであり11),TFOD/TFOTのコンセプトが普及しつつある日本においては,不可欠なものとはなっていない.しかし,Sjogren症候群,移植片対宿主病,粘膜天疱瘡に伴いうる重症のADDEにおいては,DEと眼表面炎症が関与することは間違いなく,低力価ステロイド点眼液で管理できないような強い眼表面炎症に対しては,欧米で用いられているようなシクロスポリン,li.tegrastといった免疫抑制薬点眼12)が,治療の選択肢として必要になってきている.振り返ってみると,DQSやRbmの登場は,日本のDE診療の発展に大きな門戸を開き,DEが効果的に治療できる疾患になったことは大変に喜ばしいことであり,大きな歴史的意義があると思われる.ここでは,DE診療ガイドライン13)を参照しながらも,実際の臨床での経験を入れながらDE点眼液について考察する.IDEの病態生理の考え方と点眼液の関係DEの病態生理の考え方は,定義・診断基準に関係するとともに,実際に使用できる治療法,中でも点眼治療と関係する.日本におけるこれまでの3回のDEの定義・診断基準の策定7,14,15)において,過去の2回14,15)では角結膜上皮障害が必須であり,DEは角結膜上皮障害をきたす疾患として捉えられていた.したがって,角結膜上皮治療用点眼薬として1995年に登場したヒアルロン酸ナトリウム(hyaluronicacid:HA)点眼液は,DE治療用点眼液としての地位を築くものであった.そのため,上皮障害がみられないか軽度のBUT短縮型DE5,6)は,DE疑いとされた.しかし今考えると,症状の強いBUT短縮型DE5,6)は,DWDE1.4,6)であった可能性があ*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(17)1255日本米国図1ドライアイの考え方の日本と米国との違い日本では,可視化しうる涙液層の破壊と結果としての上皮障害を重視するのに対し,米国では,可視化できない,涙液の浸透圧上昇,炎症を重視する.この違いは,使用できる点眼液の違いを反映している可能性がある.図2塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有する緑内障点眼液による薬剤性角膜上皮障害に対してBAK非含有緑内障点眼液への変更と人工涙液点眼によるウオッシュアウトを行った例6カ月以上を要したが,高度の角膜上皮障害(Ca)が消失している(Cb)のがわかる.現在もCBAKフリーの緑内障点眼液を継続している.=図3涙液減少型ドライアイ(ADDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液への変更の効果ADDEと点状表層角膜症(SPK)の合併眼(Ca).ADDEに対してCHA(4回/日)とCRbm(4回/日)を点眼していたが,それらをCDQS(6回/日)に変更してC1カ月後(Cb)には,涙液層の安定性が改善し,SPKも大幅に改善した.=図4水濡れ性低下型ドライアイ(DWDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液の効果LineCbreakCwithrapidCexpansionを認めるCDWDE(Ca)に対し,点眼開始後約C6カ月で,randombreakへのシフト(b)(IEDEに相当)が観察され,角膜表面の水濡れ性は改善した.涙液層の安定性低下瞬目摩擦亢進眼瞼結膜上皮ドライアイの眼表面の他覚所見を表現開瞼維持時悪循環角膜上皮表面涙液層(おもにLidwiper部)涙液悪循環眼球側の角結膜上皮瞬目時図5眼表面におけるドライアイの階層構造ドライアイでは,さまざまな内的,外的要因が眼表面に作用して,二つの悪循環(開瞼維持時の涙液層の破壊および瞬目時の摩擦の亢進)を介して,眼不快感,視機能異常を生じる.これら二つの悪循環がコアとなるドライアイのメカニズムであり,他覚所見を形成する.(文献2,13より引用改変)図6涙液減少型ドライアイ(ADDE)に対するジクアホソルナトリウム(DQS)点眼液とレバミピド(Rbm)点眼液の併用療法ADDEでは,涙液層の破壊と瞬目摩擦の亢進がともに引き起こされやすい.前者はCDQS点眼液で効果的に治療できるのに対して,後者はCRbm点眼液で効果的に治療できるため,両者を併用することも多い.本症例では,合併する糸状角膜炎と角膜下方のClinebreakを伴う点状表層角膜症がCDQSとCRbmの併用療法で効果的に治療されている.留意が必要とある13).ADDEに伴う眼表面炎症は,炎症性メディエーターがCMUC16をCsheddingさせることで角膜の水濡れ性を低下させる30).そのような続発性の水濡れ性低下に対して,ステロイド点眼液は,炎症性のメディエーターの産生を抑えて,MUC16のCsheddingを抑制し,間接的に角膜の水濡れ性の改善をもたらすと考えられるが,DQSやCRbmはCMUC16の発現を直接促進29,30,37,38)して水濡れ性を改善することを再度確認しておきたい.BUP分類で,spotやCdimplebreak,breakupのCrapidexpansionがみられるCDWDE1.4)は,涙液層の疾患というより上皮の疾患と考えられ,炎症の関与はあるとしても少ないと考えられるが,ドライアイは,涙液層の破壊と摩擦亢進による悪循環が,眼表面炎症を引き起こすため,結果としての炎症が惹起されている可能性は十分に考えられる.筆者は長年,DWDEに対しても,ADDEと同様に,0.1%フルオロメトロンをC1日C2回の点眼で使用してきたが,近年,フルオロメトロンそのものが積極的に膜型ムチンの発現を促していることが報告された39)ことで,これまでの治療法が効果的な方法の一つであった可能性があると考えている.おわりにドライアイには難治例も多く,日本においては多種類の点眼液が利用できるために,頻回点眼,多剤併用となりやすい.臨床試験や臨床研究から得た有効性とは別に,臨床においては医師側の点眼液の用い方,患者の実際の使用法,ライフスタイル,生活習慣,生活環境など,さまざまな制約を受けるため,実際には,診療ガイドライン13)に即したものにはなっていない場合もあるのではないかと思われる.今後,DEの眼表面炎症をゲートキーパーとして安全に抑えることのできる点眼液や,点眼回数が少ない効果的な点眼液の登場が期待されるところである.DEは,自覚症状のある疾患であるがゆえに,アドヒアランスよく点眼される可能性はあるが,慢性疾患であるがゆえに,すぐには改善が得られにくく,いったん改善しても,上流のリスクファクターを治療しているわけではないので,治療をやめると再び眼表面の悪循環が再発しうる.したがって,点眼液を効果的に用いて,症状が許容範囲になるようマネージメントするのが目標であることを常々意識しておく必要がある.本稿がCDEの日常診療に役立てば幸いである.文献1)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCandCtherapyCforCdryCeye.In:DryCeyesyndrome:basicCandclinicalperspectives(YokoiN,ed)C,p96-108,FutureMedi-cineLondon,20132)YokoiCN,CGeorgievCGA,CKatoCHCetal:Classi.cationCof.uoresceinbreakuppatterns:Anovelmethodofdi.eren-tialCdiagnosisCforCdryCeye.CAmCJCOphthalmolC180:72-85,C20173)YokoiCN,CGeorgievGA:TearC.lm-orientedCdiagnosisCandCtear.lm-orientedTherapyfordryeyebasedontear.lmdynamics.CInvestCOphthalmolCVisCSciC9:DES13-DES22,C20184)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCforCdryeye.JpnJOphthalmol63:127-136,C20195)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCdecreasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicCconjunctivitis.COphthalmologyC102:302-309,C19956)山本雄士,横井則彦,東原尚代ほか:TearC.lmCbreakuptime(BUT)短縮型ドライアイの臨床的特徴.日眼会誌C116:1137-1143,C20127)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20178)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACConsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C20179)TsubotaCK,CYokoiCN,CWatanabeCHCetal:ACnewCperspec-tiveConCdryCeyeclassi.cation:proposalCbyCtheCAsiaCdryCeyesociety.EyeContactLensC46:S2-S13,C202010)TsubotaCK,CP.ugfelderCSC,CLiuCZCetal:De.ningCdryCeyeCfromaclinicalperspective.IntJCMolSciC21:9271,C202011)Wol.sohnJS,AritaR,ChalmersRetal:TFOSDEWSIIdiagnosticCmethodologyCreport.COculCSurfC15:539-574,C201712)JonesL,DownieLE,KorbDetal:TFOSDEWSIIman-agementCandCtherapyCreport.COculCSurfC15:575-628,C201713)ドライアイ診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C201714)島﨑潤:ドライアイの定義と診断基準.眼科C37:765-770,C199515)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,C200716)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCby3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalC(23)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1261-’C-

緑内障薬

2021年11月30日 火曜日

緑内障薬AcquiringNovelGlaucomaTreatmentConceptsbyStayingUpdatedonCurrentMedications本庄恵*はじめに緑内障は40歳以上の20人に1人以上が罹患する進行性の視神経症であり,わが国では成人の中途失明原因の第一位となっている.無治療自然経過では確実に進行する疾患であることから,治療しても視機能の回復はないが,患者の視機能障害の進行をゆるやかにし,患者の余命に応じた治療を継続することで,生涯にわたって視機能を維持することが治療の目標となる.現在,視野障害進行抑制のエビデンスのある唯一確実な治療は眼圧下降治療のみである.眼圧については眼圧値そのものを下げる必要があるほか,変動が大きいことが緑内障進行の危険因子の一つと報告されており,変動を抑制する必要がある.眼圧を下げても緑内障性視神経障害が進行する症例も多く,とくにわが国では眼圧が正常範囲内でも進行する正常眼圧緑内障の割合が高い.視神経乳頭・網膜の血流改善治療や神経保護治療など,眼圧下降以外の治療も試みられており,一部臨床試験では眼圧下降効果に加えて有意な視野維持効果を示唆する報告があるが,現時点では神経保護治療についての十分なエビデンスは得られていない.緑内障に対する眼圧下降治療には薬物治療,レーザー治療,手術治療の選択肢がある.それぞれの治療方法の効果と副作用,利点と欠点を考慮し,患者ごとの病期・病型,危険因子に応じて目標眼圧を設定し(図1)1),その達成のために適切な治療を選択する1).緑内障の発症,進行にかかわる危険因子として,もっとも大きなものは後期低値低い速い(+)図1目標眼圧の設定(文献1より引用)眼圧上昇であり,そのほか家族歴や年齢,乳頭出血,角膜厚,眼灌流圧などが指摘されている(表1)1).眼圧上昇の原因が治療可能な場合には眼圧下降治療とともに原因に治療を行うが,基本的には点眼による薬物治療が眼圧下降治療の第一選択となる(図2)1).近年,緑内障薬物は新規薬物の開発,配合点眼薬の増加,後発品など治療の選択肢が広がっている.基本は単剤から治療開始しても,治療効果を上げるために複数の薬剤が必要なことも多い.毎日の点眼動作,治療の副作用,通院の負担,経済的負担,失明への不安などはすべて患者の生活の質(qualityoflife:QOL)に影響し,アドヒアランスを維持できないことで治療の継続がうまく初期高値高い遅い(-)*MegumiHonjo:東京大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕本庄恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(11)1249表1緑内障の発症,進行にかかわる危険因子・高眼圧:ベースライン眼圧が高い,経過中の平均眼圧が高い,眼圧変動が大きい・高齢・家族歴・C/D比が大きい,視神経リム面積が小さい・乳頭出血・乳頭周囲脈絡網膜萎縮域が大きい・角膜厚が薄い・角膜ヒステレシスが低い・眼灌流圧が低い・拡張期・収縮期血圧が低い・2型糖尿病・落屑症候群・薬物アドヒアランスが不良(文献C1より改変引用)(+)(-)図2原発開放隅角緑内障(広義)の薬物治療方針(文献C1より引用)表2国内で使用可能なおもな緑内障治療薬(単剤)と導入時期a(b)遮断薬プロスタノイド受容体関連薬Cb遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬Ca2刺激薬ROCK阻害薬その他1980年代チモロールカルテオロールジピベフリン1990年代ニプラジロールレボブノロールラタノプロスト(FP刺激薬)ベタキソロールドルゾラミドアプラクロニジンウノプロストントラボプロスト2000年代ブナゾシンタフルプロストビマトプロストブリンゾラミド(FP刺激薬)2010年代ブリモニジンリパスジル2020年代オミデネパグ(EPC2刺激薬)表3メタアナリシスによる平均眼圧下降の比較5.61(4.94.6.29)4.85(4.24.5.46)4.83(4.12.5.54)4.51(3.85.5.24)4.37(2.94.5.83)3.70(3.16.4.24)3.59(2.89.4.29)3.44(2.42.4.46)2.56(1.52.3.62)2.52(0.94.4.11)2.49(1.85.3.13)2.42(1.62.3.23)2.24(1.59.2.88)1.91(1.15.2.67)(文献C2より改変引用)2.b遮断薬眼圧下降効果と認容性の面でCb遮断薬およびCEP2刺激薬も第一選択になりうる.そもそも,1990年代にCFP刺激薬が使用可能となるまではCb遮断薬が第一選択薬であった.Cb遮断薬は房水産生抑制による眼圧下降効果を示し,昼間は約C20%の眼圧下降効果を示すが,夜間は眼圧下降効果が低い.そのため,1日C1回点眼の徐放性製剤,また配合点眼薬が開発されているが,朝点眼が望ましいと考えられる.眼圧下降効果は劣るが(表3)2),FP刺激薬のノンレスポンダーや,FP刺激薬が副作用のために使えない患者では第一選択薬となりうる薬剤である.ただし,Cb受容体は心臓や気管支などに広く分布するため,循環器系・呼吸器系に関する禁忌や全身副作用の問題がある.緑内障点眼薬のなかでももっとも全身的副作用に留意が必要で,気管支喘息と気管支痙攣の既往,重篤慢性閉塞性肺疾患,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III),心原性ショック,過敏症などが禁忌となる.処方前には患者への問診,既往歴や全身疾患についての聴取,内科医との連携が重要である.C3.炭酸脱水酵素阻害薬(点眼)点眼炭酸脱水酵素阻害薬にはドルゾラミドとブリンゾラミドのC2種類の薬剤が存在し,毛様体上皮の炭酸脱水酵素を阻害し,房水産生抑制効果を示す.同じ房水産生抑制による眼圧下降を示すCb遮断薬と比較して,炭酸イオンの調節による基礎分泌の抑制のため,夜間も眼圧下降効果が継続する特徴がある.単剤としての効果はそれほど強くないが(表3)2),FP刺激薬などとの組み合わせで安定した眼圧下降を示すことが報告されている.経口炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドは優れた眼圧下降効果を示すが,全身副作用のため長期連用が困難であることが多い.点眼炭酸脱水酵素阻害薬では全身副作用はほぼ問題とならないが,重篤な腎疾患や肝障害を有する患者には禁忌,あるいは慎重投与となっている.眼局所では角膜内皮障害を有する場合の角膜症の発症リスク,眼刺激や霧視が特徴的な副作用である.4.交感神経a2受容体刺激薬(a2刺激薬)a2刺激薬は房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路促進により眼圧下降効果を示す.アプラクロニジンはアレルギーや血管収縮,薬剤耐性が起きやすいため,レーザー処置前後の眼圧上昇防止のために限定的に使用されている.一方,ブリモニジンは長期点眼が可能で,単剤治療でも,他剤との併用治療でも,長期間の良好な眼圧下降効果の持続が報告されており,他の緑内障治療剤が効果不十分または使用できない場合の選択肢となりうるほか,神経保護作用も報告されている.2歳未満には禁忌であること,長期連用によりアレルギーを生じることがあるため注意が必要である.C5.ROCK阻害薬ROCK阻害薬リパスジルは主流出路,隅角線維柱帯に直接作用して眼圧下降を示し,他の薬剤とは異なる作用機序であるのが特徴である.海外で開発されているROCK阻害薬については,上強膜静脈圧を低下させる作用が報告されている.副作用については結膜充血,眼瞼炎などの眼局所の副作用がほとんどで,重篤な全身性の副作用は報告されていない.作用機序が異なることから,他の薬剤と併用しても効果を発揮する特徴があるが,多剤併用症例で処方されることが多いため,眼局所の副作用が発現しやすく,注意が必要である.C6.その他副交感神経刺激薬ピロカルピンは瞳孔括約筋の収縮,毛様体筋の収縮により線維柱帯の開大と,房水流出抵抗の減少により眼圧下降効果を示す.閉塞隅角緑内障で使用されることが多いが,レーザー虹彩切開術を行っていない閉塞隅角緑内障ではピロカルピン点眼により水晶体前方移動が起こるため注意が必要である.縮瞳に伴う暗黒間,視野狭窄,近視化による遠方視力低下など,眼局所の副作用から長期連用されることは少なくなっているが,近年,低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglau-comasurgery:MIGS)の発達に伴い,流出路再建術系のCMIGSのあとに使用される機会が増えている.Ca1受容体遮断薬ブナゾシンはぶどう膜強膜流出を促進させ,眼圧下降効果を示す.1日C2回点眼である.過1252あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021(14)表4現在わが国で使用可能な配合剤成分の組み合わせ製品名FP刺激薬Cb遮断薬点眼炭酸脱水酵素阻害薬Ca2刺激薬点眼回数アイラミドラタノプロストラタノプロストトラボプロストタフルプロストチモロールカルテオロールチモロールチモロールチモロールチモロールチモロールブリンゾラミドドルゾラミドブリンゾラミドブリモニジンブリモニジン1日2回1日2回1日1回1日1回1日1回1日1回1日2回1日2回アイベータミケルナザラカムデュオトラバタプコムコソプト/コソプトミニアゾルガ合剤は単剤併用と比べて眼圧下降効果はやや劣るとされるが,実臨床での比較試験では同等か,有意に下降したとする報告が多い.とくに多剤併用例では適切な配合剤の利用を推奨すべきと考えられる.わが国で使用可能な配合点眼薬はCPG関連薬とCb遮断薬の配合点眼薬(PG/Cb),炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬の配合点眼薬(Cb/CAI)であったが,近年,ラタノプロストとカルテオロール(1日C1回点眼のCLA)の配合剤も新たに加わった(ミケルナ点眼液,大塚製薬).単剤併用と同様の眼圧下降効果,認容性が報告されている5).また,一昨年,昨年とCb遮断薬チモロールマレイン酸もしくは炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミドとCa2作動薬ブリモニジンの配合剤(アイベータ点眼液,アイラミド点眼液,千寿製薬)が新規に臨床使用可能となった(表4).とくに後者はわが国において初めて臨床使用可能となったCb遮断薬を含有しない配合剤である.とくに後者の炭酸脱水酵素阻害薬/Ca2刺激薬配合点眼薬はPG関連薬/Cb遮断薬配合点眼薬との組み合わせにより,少ない点眼ボトル数,点眼回数でCfullmedicationが可能である.複数の点眼を併用する場合,点眼間隔遵守ができないためにCwashout効果により前房内への薬剤移行が低下すること,一方で配合剤では薬剤の前房内移行が担保されているかどうかが危惧されるが,チモロール/ブリモニジン,ブリンゾラミド/ブリモニジンのそれぞれについて,家兎眼において単剤併用と配合剤での薬剤の房水移行が検討され,5分の点眼間隔遵守ができないと薬剤の前房内移行が担保されないこと,配合剤においても単剤併用と同等の薬剤移行が担保されていたことが報告されている6).配合剤使用においても,単剤使用の場合と同様に副作用のリスクについての十分な配慮は必要だが,アドヒアランス維持は緑内障薬物治療の成否の大きな要因となっているため,患者背景を考慮し,適切な配合剤にきり変えていくことは有用な手段だと考えられる.また,いくつかの配合剤については後発品が登場し選択肢が増えている.後述のように後発品については添加剤などが異なる可能性もあり,健常者に先発医薬品と後発医薬品を同様に投与し,効果を検証する生物学的同等性試験によっC1254あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021て検証されているものとそうではないものがあるため,留意が必要である.おわりに現在の緑内障治療は点眼による薬物治療が中心となっている.近年,使用可能な薬物は非常に増え,新規機序による薬剤も増えているが,まだまだ従来から使用してきた薬剤も重要な役割を果たしており,さまざまな薬物を配合した配合点眼薬も増えている.単剤使用でももちろんだが,配合剤を使用する際にはとくに,それぞれの含有する成分や製剤の特徴,作用,副作用,禁忌などをしっかりと把握し,患者に応じた適切な処方をすることが緑内障治療の成功につながる.今後はさらなる新規薬物の開発,ドラッグデリバリーシステムの開発などによって,患者負担を少しでも減らせる緑内障治療の発展が期待される.文献1)緑内障ガイドライン編集委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌(査読中Cinpress)2)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessof.rst-linemedicationsforprimaryopen-angleglau-coma:aCsystematicCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.COphthalmologyC123:129-140,C20163)AiharaM,RopoA,LuFetal:Intraocularpressure-low-eringCe.ectCofComidenepagCisopropylCinClatanoprostCnon-/Clow-responderCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularhypertension:theCFUJICstudy.CJpnCJCOph-thalmolC64:398-406,C20204)SakataR,FujishiroT,SaitoHetal:Recoveryofdeepen-ingoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromprosta-glandinCFPCreceptorCagonistsCtoCEP2Creceptoragonist:aC3-monthprospectiveanalysis.JpnJOphthalmolC65:591-597,C20215)InoueCK,CPiaoCH,CIwasaCMCetal:Short-termCe.cacyCandCsafetyofswitchingfromalatanoprost/timolol.xedcombi-nationCtoCaClatanoprost/carteololC.xedCcombination.CClinCOphthalmolC14:1207-1214,C20206)SuzukiCG,CKunikaneCE,CShinnoCKCetal:OcularCandCsys-temicCpharmacokineticsCofCbrimonidineCandCtimololCafterCtopicalCadministrationCinrabbits:comparisonCbetweenC.xed-combinationandsingledrugs.OphthalmolTher9:C115-125,C2020(16)

抗菌薬

2021年11月30日 火曜日

抗菌薬Antibiotics井上英紀*鈴木崇**はじめにわが国において眼細菌感染の治療にもっとも使用されているのはフルオロキノロン系の薬剤である.抗菌スペクトラムが広く,細菌感染治療の第一選択薬として使用する頻度も高い.しかし,近年,フルオロキノロン製剤の使用頻度が増えたことによるキノロン耐性菌の増加が眼科領域では問題になっている.抗菌薬の使用の鉄則は,疾患に対して起因菌と推定される菌に対するCempirictherapyを施行し,塗抹検査や培養検査による菌の同定に伴いCde-escalation,そしてCde.nitiveCthera-pyを行うことである.抗菌薬の適切な使用には,抗菌薬の基本的な知識と適切な使用法に関する知識が必須である.本稿では,各抗菌薬の特徴を解説し,主要な眼科疾患における抗菌薬の使用方法についても述べる.また,近年発売されたマクロライド系の点眼薬であるアジスロマイシン点眼について解説する.CI抗菌薬の特徴(表1)C1.フルオロキノロン系キノロン系抗菌薬はC1960年代初期に開発された.その後改良され,基本骨格の二つの環構造にフッ素を加え,活性が増強されたのがフルオロキノロン系抗菌薬である.フルオロキノロン系抗菌薬は,細菌のCDNAの合成や修復を担う酵素であるCDNAジャイレースやトポイソメラーゼの活性を阻害することで殺菌的に作用する.一方で,DNAジャイレースやトポイソメラーゼの両方の遺伝子に特定の変異が生じると,キノロン系薬剤に対して高度耐性を細菌は獲得するようになる.従来のキノロン系抗菌薬は,グラム陰性菌に対する抗菌力のみであったが,世代が新しくなるにつれて,グラム陽性球菌にも高い抗菌力を有し,幅広い抗菌スペクトルをもち,さらには多くの非定型菌,そして抗酸菌に対しても抗菌力をもつようになった.眼科領域では,複数のフルオロキノロン系薬剤の点眼薬が市販されている.薬剤として安定性が高く,点眼薬としても使用しやすい.また,それぞれ,薬剤濃度,薬剤活性,薬剤スペクトル,薬剤の組織移行・滞留性などに違いがあり,使い分けをしている.たとえば,フルオロキノロン系抗菌薬のなかでもモキシフロキサシンは白色家兎の実験で他の薬剤よりも眼内移行性が高いと報告されている.一方,全身投与では,組織移行性が高く,副作用も少ないため使用しやすい.フルオロキノロン系薬剤は濃度依存性の抗菌薬であり,投与方法としては,高濃度薬剤をC1日C1回服用することが望まれる.C2.bラクタム系bラクタム系抗菌薬は分子中にCbラクタム環を有する抗菌薬の総称である.細菌が有するペニリシン結合蛋白に結合することで細胞壁の合成を阻害することで作用する細胞壁合成阻害薬であり,殺菌的に作用する.グラム陽性菌の治療に際して第一選択薬として用いられる.*HidenoriInoue:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学**TakashiSuzuki:いしづち眼科〔別刷請求先〕井上英紀:〒791-0925愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)C1241表1おもな抗菌薬の作用機序と特性作用機序抗菌薬の系統作用CPAE細胞壁合成阻害Cbラクタム系グリコペプチド系殺菌作用殺菌作用短いかなし蛋白合成阻害アミノグリコシド系マクロライド系テトラサイクリン系クロラムフェニコール系殺菌作用静菌作用静菌作用静菌作用ありDNA合成阻害フルオロキノロン系殺菌作用あり※細胞壁に作用するものは殺菌性,蛋白合成に作用するものは静菌性の傾向.※CPAEがとくにみられるのは蛋白合成やCDNA合成を阻害する抗菌薬.期待できるため,使用価値は高い.副作用として消化器症状,肝障害に注意する.また,妊婦には投与が禁忌である.C6.クロラムフェニコール系蛋白合成阻害薬であり,リボソームC50Sサブユニットに結合し効果を発揮する.静菌的に作用する.近年ではあまり使用されなくなったが,MRSAに対する効果も報告されている.眼科領域では点眼薬も市販されており,毒性も少なく有用である.C7.その他の抗菌薬グリコペプチド系抗菌薬であるバンコマイシンは,細胞壁の合成阻害によって効果を発揮する.他の抗菌薬に比べて分子量が大きいため,グラム陽性菌の外膜を通過できない.そのため効果はグラム陽性菌に限定される.MRSAに対して高い感受性を有している.眼科領域ではバンコマイシンの眼軟膏が市販され,結膜炎や眼瞼炎などに使用されている.自家調整でバンコマイシン点眼を使用している施設もある.バンコマイシンは全身投与では,点滴静注で用いる.副作用には腎障害や難聴があり,またバンコマイシの点滴静注による急速投与が原因となり,redCnecksyndromeとよばれる皮膚合併症や血圧低下などをきたす場合があるので注意が必要である.同じく,MSRAに対して高い感受性を有するのが,オキサゾリジシン系のリネゾリドである.細胞壁合成阻害薬であり,ペプチド合成の開始複合体の形成を阻害し抗菌力を発揮する.組織移行性が高いことが特徴で,MRSAやバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycinCresistantEnterococci:VRE)に対しても効果を有する.副作用として,視神経障害があり,長期投与では注意する.CII主要な眼感染症における抗菌薬の使い方(表2)C1.結膜炎細菌性結膜炎の原因菌として多いものは,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌などが考えられる1).これらの結膜炎は抗菌点眼薬単剤をC1日C3.4回で投与する.使用する抗菌薬は,結膜炎から分離された細菌の薬剤感受性試験をもとに考慮する必要があるが,empir-icaltherapyを行う場合は,フルオロキノロン系点眼もしくはセフメノキシム点眼の単剤を中心に選択する.ただし,抗菌点眼薬の長期使用によるCMRSAによる結膜炎,また高齢者ではフルオロキノロン系薬剤に対して耐性のコリネバクテリウム結膜炎が近年臨床現場では問題となっている.MRSAによる結膜炎は,クロラムフェニコール点眼で加療する.治療に抵抗をするときにはバンコマイシン眼軟膏で加療する.バンコマイシンへの耐性獲得のリスクを避けるため,初期からの使用は避けるほうがよい.鼻腔などにCMRSAが保菌している場合は,結膜炎が遷延したり再発したりするため,除菌のために全身投与の併用も考慮する必要がある.フルオロキノロン耐性コリネバクテリウムによる結膜炎の加療には,セフメノキシム点眼を用いると有効である.多量の白色膿性眼脂を伴う結膜炎に,性感染症である淋菌による結膜炎がある(図1).急速に進行して角膜穿孔を起こす場合があるため,局所ならびに全身投与も併用した治療が必要である.以前は,フルオロキノロン系薬剤で加療をしていたが,耐性株が増加しており,現在では,局所ではセフメノキシム点眼,全身ではセフトリアキソン点滴などのセフェム系による治療が第一選択になる.しかし,セフェム系に対する耐性菌も出現しており,薬剤感受性試験の結果を参考に治療戦略を考慮する必要がある.クラミジアによる結膜炎は,性感染症で成人に発症する場合と,経産道感染で新生児に発症する場合がある.マクロライド系もしくはフルオロキノロン系の点眼もしくは眼軟膏に加えて,アジスロマイシンやミノサイクリンの内服を行うことが一般的である.C2.角膜炎細菌性角膜炎は,ときに重篤な視力障害を引き起こす可能性のある疾患である.早期に適切な診断と適切な加療が重要である.治療の基本は,抗菌薬の点眼のC2剤併用で行う.また,重症例や夜間の薬剤効果を期待して,全身投与を行う場合もある.治療は,起因菌は所見ならびに塗抹標本の結果を参考(5)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C1243表2おもな眼感染症における抗菌薬の処方例図1淋菌性結膜炎充血とクリーム状の白色膿性眼脂を認める.図2黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)による角膜炎円形の浸潤と周囲に角膜浮腫を伴う.図3モラクセラ菌(グラム陰性桿菌)による角膜炎角膜中央に輪状膿瘍を認め,前房蓄膿を伴う,図4術後の細菌性眼内炎高度の充血と前房炎症・蓄膿を認める.C–■用語解説■殺菌的作用・静菌的作用:殺菌的作用は菌を死滅させて,量を減らす作用で,Cbラクタム系・フルオロキノロン系・アミノグリコシド系が有する.静菌的作用は細菌の発育,増殖を阻止する作用で,マクロライド系・テトラサイクリン系・クロラムフェニコール系が有する.時間依存性・濃度依存性:時間依存性の抗菌薬は,最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)以上の抗菌薬濃度を長く維持するほど薬効が強くなる.投与回数を増やすほうが効果を期待できる.濃度依存性の抗菌薬は,接触する濃度が高いほど薬効が強くなる.1回投与量を増やすことが有効である.CPAE(postantibiotice.ect):抗菌薬がCMIC以上の濃度で細菌に接触した場合に,抗菌薬の濃度がCMIC以下になってもあるいは消失しても持続してみられる細菌の増殖抑制効果のことである.

序説:薬剤の温故知新

2021年11月30日 火曜日

薬剤の温故知新TheAge-OldWisdomofUsingDrugsfortheTreatmentofOcularDisorders外園千恵*眼科領域の新しい薬剤が毎年のように上市され,有用性に関する情報を得られる一方で,類似薬との相違や安全性に関して十分にはわからないという側面がある.長く使われてきた薬剤はその有用性が確立している一方で,その限界も明らかだったりする.日常診療で漫然と同じ処方を繰り返すのではなく,病態を考慮した細やかな薬剤選択ができれば,よりよい治療につながる可能性がある.本特集では各領域での薬剤の使い方について,考え方の基本と新たな薬剤を含む各分野の薬についてエキスパートより解説いただいた.抗菌薬の歴史は,耐性化とのイタチごっこといっても過言ではない.かつて結膜炎は広域スペクトルの抗菌点眼薬で軽快することがほとんどであったが,眼表面の常在細菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やコリネバクテリウムの薬剤耐性化が一般的となり,塗抹検査や培養検査による菌の同定を行ったうえで治療する必要性が増している.井上英紀先生と鈴木崇先生には眼感染症の診断と治療,抗菌薬の使い方を解説いただいた.抗緑内障薬は市場規模が大きいことから,新規薬物の開発が活発である.さまざまな作用機序の抗緑内障薬があるうえに,配合点眼薬もあり,薬物選択に迷うことも少なくない.本庄恵先生に従来からの薬剤,新しく臨床使用可能になった緑内障点眼薬についてまとめていただいた.ドライアイは軽症から難治例までさまざまな病態が存在する.日本には独自に開発されたドライアイ治療薬があり,病態に即した治療が可能となっている.ドライアイ診療のパラダイムシフト,病態生理を理解したうえでの治療について,横井則彦先生より豊富な実例をもとに解説いただいた.抗アレルギー薬も日常診療で処方する機会の多い薬剤であり,近年の開発がめざましい.角環先生よりアレルギーの機序,抗アレルギー薬の作用機序,薬剤開発の歴史を紐解いていただいた.また,抗アレルギー点眼薬でコントロールできない春季カタルやアトピー性角結膜炎は,かつては難治であり角膜障害による失明もありえたが,免疫抑制点眼薬の開発によって予後が著しく向上した.松田彰先生より免疫抑制点眼薬について解説いただいた.眼疾患は感染性と非感染性に大別され,非感染性のうち重要なものが炎症性疾患あるいは炎症性の病態である.炎症を抑える薬剤として,ステロイドと非ステロイド系抗炎症薬があるが,患者ごとにこれらを上手に使うことは結構むずかしい.山﨑将志先生,堀純子先生よりステロイドあるいは非ステロイド系抗炎症薬を必要とする眼疾患,臨床での使い*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)1239

抗アレルギー薬

2021年11月26日 金曜日

抗アレルギー薬Anti-AllergyDrugs角環*はじめにアレルギー疾患はアレルギー性結膜疾患,花粉症,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,食物アレルギー,蕁麻疹などがあり,これらのアレルギー疾患は今や国民病といわれている.そして,アレルギー性結膜疾患の患者の大半が,スギ花粉症に代表される季節性アレルギー性結膜炎,ダニやハウスダストによって引き起こされる通年性アレルギー性結膜炎である.アレルギー性結膜炎は結膜の増殖性変化がないため,角膜障害からくる視力低下などはないが,眼掻痒,充血,流涙,眼脂などの症状により日常生活に支障が生じる.そのため痒みや充血の症状を速やかに改善させ,かつ副作用が少ない治療薬が求められる.アレルギー疾患の治療の3本柱は,セルフケア,薬物治療,免疫療法である.しかし,抗原の完全な遮断は不可能であるため,発症予防のみでは不十分である.免疫療法は全身性副反応の対応の点から,眼科医には少し導入しづらい.つまり現時点では発症後の対症療法である薬物治療がおもな治療となるが,アレルギー疾患自体の歴史が比較的浅いため,その治療の歴史もまだ浅い.治療薬である抗アレルギー薬の開発の背景にはアレルギー疾患の歴史と病態解明が大きく関連している.本稿では日本におけるアレルギー性結膜疾患の歴史を紐解きながら,抗アレルギー薬について概説する.Iアレルギーの歴史(表1)アレルギーに関するもっとも古い記録は,紀元前27世紀にさかのぼる.古代エジプトのメネス王がハチ毒アナフィラキシーで死亡したという記述が象形文字が壁画に残されている.また,ヒポクラテスは,紀元前4世紀頃に牛乳によって嘔吐,下痢,蕁麻疹を起こすなどの食物アレルギーに関する文書を残している.しかし,その病態は20世紀になるまで「ごく一部の特異体質の者だけがかかる病気」として捉えられていた.顕微鏡,細胞染色法の進歩により病理学者のEhrlichは肥満細胞(マスト細胞)を1878年に,好酸球を1879年にそれぞれ発見し命名した.しかし,これらがアレルギー反応に大きく関係することが明らかになるのは,細菌学の研究を契機に抗体を含む血清を感染症の治療に用いる(受動免疫)などの免疫,アレルギーの研究が発展してからであった.用語的には1902年にRichetとPortierがアナフィラキシー現象を発見し命名,1906年にvonPirquetが「アレルギー」を,1923年にCocaが「アトピー」という言葉を初めて使ったとされる.1921年にはPrausnitzとKustnerがアトピー抗体を患者血清によって健康人へ移入することができるP-K反応を発見し,この物質をレアギン(同種皮膚感作抗体)とよぶようになった.そして,1966年に石坂公成・照子夫妻がブタクサ花粉症の研究から即時性アレルギー抗体とされる免疫グロブ*TamakiSumi:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕角環:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(25)1263表1アレルギーの歴史1878年Ehrlich肥満細胞(マスト細胞)発見1879年Ehrlich好酸球発見1902年RichetとPortier「アナフィラキシー」発見,命名1906年vonPirquet「アレルギー」という概念を提唱1921年PrausnitzとKustner「P-K反応,レアギン」発見1923年Coca「アトピー」命名1945年.55年頃日本の高度成長期が始まり,スギの植林が始まる1961年ブタクサ花粉症の発表(日本)1963年GellとCoombsアレルギー反応の分類1963年アトピー性皮膚炎の患者の増加(日本)1964年(東京オリンピック)スギ花粉症の発表(日本),木材の完全自由化1966年石坂公成と石坂照子「IgE」発見1970年代以降免疫アレルギー学の進歩によりメカニズムの解明進む植林スギの花粉飛散本格化し花粉症患者激増抗原+感作:肥満細胞+IgEB細胞IL-4Th2細胞活性酸素増殖・分化抗原提示細胞ヒスタミンロイコトリエン+抗原+T細胞トロンボキサンA2など抗酸球の遊走・活性化好酸球活性酸素組織障害蛋白(MBP,EPO,ECP)コラーゲン産生の亢進線維芽細胞増殖結膜充血結膜浮腫炎症細胞浸潤かゆみ角膜上皮障害図1アレルギー性結膜疾患(I型アレルギー)の発症機序表2抗アレルギー薬の特徴特徴メディエーター遊離抑制薬細胞の膜安定化などにより脱顆粒を抑制,化学伝達物質の遊離過程を抑える.ヒスタミンH1受容体拮抗薬放出されたヒスタミンの作用を細胞のヒスタミン受容体レベルで拮抗的に抑制する.トロンボキサンA2阻害・拮抗薬トロンボキサンの生成を抑制(阻害薬)し,トロンボキサンの作用を細胞の受容体レベルで拮抗的に抑制(拮抗薬)する.ロイコトリエン拮抗薬ロイコトリエンの作用を細胞の受容体レベルで拮抗的に抑制する.Th2サイトカイン阻害薬ヘルパーT細胞からのIL-4,IL-5の産生を抑制しIgE抗体の産生を抑える.表3抗アレルギー点眼薬の販売年と作用販売年薬剤名ヒスタミンH1受容体拮抗作用メディエーター遊離抑制作用1984198919911995クロモグリク酸ナトリウム*アンレキサノクス**ケトチフェンフマル酸塩ペミラストカリウムトラニラストイブジラストアシタザノラスト水和物レボカバスチン塩酸塩オロパタジン塩酸塩エピナスチン塩酸塩0.05%エピナスチン塩酸塩0.1%〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇20002001200620132016*先発品の販売中止(後発品のみ).**販売中止.表4メディエーター遊離抑制点眼薬の作用クロモグリク酸ナトリウムアンレキサノクスペミロラストカリウムトラニラストイブジラストアシタザノラスト水和物メディエーター遊離抑制◎○◎○◎◎抗ロイコトリエン作用×○××××線維芽細胞増殖抑制×××◎××活性酸素抑制××○×◎×好酸球活性抑制○×○○○×◎:強く作用,〇:作用あり,×:作用なし

肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じたSAPHO 症候群の1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1229.1233,2021c肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じたSAPHO症候群の1例佐々木允*1,2木村雅代*1,2,3杉山和久*1*1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室*2富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院眼科*3名古屋市立大学眼科学教室CACaseofSAPHOSyndromewithAbducensNervePalsyandDiplopiabyHypertrophicPachymeningitisMakotoSasaki1,2)C,MasayoKimura1,2,3)CandKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JAToyamaKouseirenTakaokaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityofMedicineC目的:SAPHO症候群は掌蹠膿疱症や皮膚疾患に骨炎症を伴う疾患であり,骨病変が頭部に起こることは比較的まれである.今回,SAPHO症候群による肥厚性硬膜炎により外転障害・視力障害を生じ,扁桃腺摘出およびステロイド治療により改善した症例を経験した.症例:57歳,女性.急性発症の右眼外転障害にて受診.既往歴として掌蹠膿疱症および繰り返す下顎骨髄炎がある.造影頭部CMRIにて右中頭蓋窩の硬膜の肥厚および濃染を認め,肥厚性硬膜炎が疑われた.骨髄生検では感染は否定的であり,血液検査などの全身精査でも原因となる異常はなかった.掌蹠膿疱症を伴う滑膜炎であり,その他疾患が否定的であったためCSAPHO症候群と診断した.ステロイド全身投与および扁桃摘出を行ったところ,治療後C3カ月で外転障害および視力障害は著明に改善した.結論:SAPHO症候群による肥厚性硬膜炎で続発的に外転神経麻痺,視神経障害を生じたまれなC1例を経験した.CPurpose:SAPHOCsyndrome,CanCosteoarticularCdiseaseCassociatedCwithCskinCdisordersCincludingCpalmoplantarCpustulosis,CrarelyCshowsCskullClesions.CWeCreportCaCcaseCofChypertrophicCpachymeningitisCcausedCbyCSAPHOCsyn-dromeCinducingCabducensCnerveCpalsyCandCvisualCimpairment,CwhichCwasCimprovedCbyCtonsillectomyCandCsteroidCtreatment.Casereport:A57-year-oldfemalewithahistoryofpalmoplantarpustulosisandrecurrentmandibularosteomyelitispresentedwithanacuteabducensdisorderinherrighteye.Contrast-enhancedheadMRIrevealedahypertrophicandstronglyenhancedduramaterintherightmiddlecranialfossa,suggestinghypertrophicpachy-meningitis.Bonemarrowbiopsyandsystemicexaminationsincludingbloodtestsshowednoinfectionorcausativeabnormalities.Synovitisassociatedwithpalmoplantarpustulosiswassuggestedafterexcludingotherdiseases,andSAPHOsyndromewasdiagnosed.Systemicsteroidandtonsillectomysigni.cantlyimprovedabducensnervepalsyandvisualimpairmentby3-monthsaftertreatment.Conclusion:WeencounteredararecaseinwhichabducensnervepalsyandvisualimpairmentsecondarilyoccurredduetohypertrophicpachymeningitisofSAPHOsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1229.1233,C2021〕Keywords:SAPHO症候群,肥厚性硬膜炎,外転神経麻痺,掌蹠膿疱症.SAPHOsyndrome,hypertrophicpachymeningitis,abducensparalysis,palmoplantarpustulosis.Cはじめに症の波及や,神経の圧迫にて種々の脳神経症状を生じる1).肥厚性硬膜炎は硬膜に慢性炎症を生じ,その結果硬膜の肥従来,肥厚性硬膜炎の確定診断には生検が必要とされてお厚をきたす疾患である.硬膜の肥厚をきたす部位により症状り,診断がむずかしく,まれな疾患であったが,MRIの進はさまざまであるが,頭蓋底にきたした場合,脳神経への炎歩により,肥厚性硬膜炎の診断技術が向上してきている1).〔別刷請求先〕佐々木允:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室Reprintrequests:MakotoSasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversity,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPANC肥厚性硬膜炎の原因は感染性,自己免疫性などさまざまである.なかでもCSAPHO症候群はC1987年にリウマチ医であるChamotらが提唱した疾患概念で,重度の.瘡に伴うリウマチ性関節炎,胸肋鎖骨関節をはじめとする骨関節疾患,掌蹠膿疱症性骨関節炎などに無菌性皮膚炎症性疾患の合併を基本とし,synovitis-acne-pustulosis-hyperostosis-osteitis(滑膜炎-.瘡-膿疱症-骨過形成-骨炎症候群)の頭文字を取り命名された2).SAPHO症候群の骨・滑膜炎症は頭蓋部ではまれであるが,今回,SAPHO症候群による硬膜炎を頭蓋底にきたし眼球運動障害・視力障害を認めた症例を経験したので報告する.CI症例患者:57歳,女性.主訴:右眼の外転障害.現病歴:2020年C4月,急性発症の複視を主訴に近医眼科を受診した.右眼の外転障害を認め,外転神経麻痺疑いにて金沢大学病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:掌蹠膿疱症および下顎骨の骨髄炎を認め,当院歯科口腔外科に通院中であった.2018年とC2020年に下顎骨生検が施行されているが,不規則な造骨所見および肉芽を認めるのみで,明らかな感染所見は認めなかった.しかし,感染性下顎骨髄炎を念頭に抗菌薬を投与されながら経過観察されていたが,骨髄炎は増悪・寛解を繰り返していた.初診時眼所見:視力は右眼C0.03(0.8C×sph.10.0),左眼0.03(1.0C×sph.8.0),眼圧は右眼18.0mmHg,左眼19.7CmmHgであった.前眼部,中間透光体には異常を認めなかった.眼底は両眼に軽度の視神経乳頭陥凹を認めたが,それ以外に明らかな異常はなかった.中心フリッカ値では両眼ともC40CHz程度と,明らかな視神経機能障害は認めなかった.右眼の眼球運動障害があり,Hessチャート(図1)では著明な右眼の外転障害を認めた.経過:頭蓋内疾患を疑い,頭部CCTを施行したが,頭蓋内,副鼻腔内,眼窩内に明らかな占拠性病変などは認めず,神経内科による神経学的診察でも外転神経障害以外に異常はなかった.頭部CMRIで右中頭蓋窩の硬膜炎を認め(図2),下顎骨髄炎の進展による硬膜炎が疑われたため,感染,自己免疫疾患,掌蹠膿疱症に関連した滑膜炎(SAPHO症候群)を疑い,精査を進めた.下顎骨生検では無菌性骨髄炎を認めるのみであり,感染は否定的であった.また,自己免疫性疾患についても採血などの全身精査で明らかな原因を指摘できなかった.感染性および自己免疫性の硬膜炎が否定的であり,掌蹠膿疱症を合併していることからCSAPHO症候群による硬膜炎が強く疑われた.2020年C6月には右眼矯正視力が(0.3)と低下し,中心フリッカ値の低下および右眼に中心暗点を伴う視野異常(図3)を認めた.視神経障害が疑われ,右眼外転障害の改善もなかったため,プレドニゾロン30Cmg/日を開始するとともに,SAPHO症候群の治療として近年有効性が指摘されている扁桃摘出を行った.右眼矯正視力は2020年7月に(0.7),8月には(1.0)まで改善し,眼球運動障害も改善した(図4).ステロイド全身投与は漸減し,12月時点でC10Cmg/日であるが,眼症状の再発は認めていない.CII考察SAPHO症候群は比較的新しくまれな疾患とされてきた図1初診時のHess赤緑試験右眼の外転障害を認める.図2頭部MRI(造影T1強調脂肪抑制)a:冠状断画像.右中頭蓋窩の下面から内面側に硬膜の肥厚および濃染を認める.Cb:水平断画像.右中頭蓋窩の下面の硬膜の濃染を認める.図3視力障害出現時の動的視野右眼傍中心暗点を認める.図4治療後のHess赤緑試験右眼の外転障害の改善を認める.が,有病率はC1万人にC1人との報告もあり3),近年注目されている疾患である.一定の診断基準はないが,1988年にBenhamouらが提唱した基準が多く用いられる4).その診断基準では,①.瘡に伴う骨関節病変,②掌蹠膿疱症に伴う骨関節病変,③胸肋鎖骨部,脊椎,または四肢の骨肥厚,④慢性反復性多発骨髄炎のうちいずれかC1項目を満たし,感染性骨関節炎,感染性掌蹠膿疱症,掌蹠角化症,びまん性特発性骨肥厚症が除外されるものとされている.本症例は掌蹠膿疱症と骨髄炎硬膜炎が合併しており,その他の疾患が否定的であったためCSAPHO症候群と診断した.しかし,SAPHO症候群には皮膚症状が関節症状より遅れてくる場合や皮膚症状が出現しない場合もみられ,病状が一定しないため診断に苦慮するケースもある.SAPHO症候群における頭蓋骨炎症はまれで,数例報告されているのでみであり5),これまで肥厚性硬膜炎に伴う外転神経麻痺を合併した症例の報告はない.本症例は眼症状発症前に掌蹠膿疱症および下顎骨髄炎の既往が判明していたため,SAPHO症候群に伴う肥厚性硬膜炎が外転神経麻痺の原因であると診断することができた.眼外症状が不明であった場合,複視や視神経障害のある症例においてCSAPHO症候群を鑑別疾患として考えることは少ない.眼症状で眼科を受診したCSAPHO症候群患者が診断に至るケースが少ないことが,SAPHO症候群における眼合併症の報告が少ない要因である可能性は否定できない.肥厚性硬膜炎の症状としては頭痛・眼窩部痛をC90%に認める6).硬膜炎症が起こった部位の神経症状が出現し,第CI.第CXII神経症状を発症する可能性があるが,そのなかでもとくに視神経,聴神経に障害が起こりやすいとされている6).視神経に障害が起こった場合は視力障害をきたし,動眼神経・滑車神経・外転神経などに障害が起こった場合は眼球運動障害による複視や眼瞼下垂をきたす.本症例では肥厚性硬膜炎により外転神経障害を生じ,続いて軽度の視神経障害を生じた可能性が考えられる.肥厚性硬膜炎は原因不明の特発性と続発性がある.続発性の原因としては結核,梅毒,真菌,HTLV-1などの感染性のもの,サルコイドーシスや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicanti-body:ANCA)関連疾患,関節リウマチ,IgG4関連疾患など自己免疫疾患に伴うもの,腫瘍性疾患に伴うものなどがある7).SAPHO症候群の病因は明らかではないが,掌蹠膿疱症に合併する場合は扁桃腺炎などの慢性感染症との関連が示唆されている.掌蹠膿疱症と慢性扁桃炎の関連としては,扁桃常在菌であるCaレンサ球菌に対する過剰な免疫応答が扁桃CTリンパ球上の活性化を促し,皮膚リンパ球抗原(cutaneouslymphocyteantigen:CLA),b1インテグリン,CCchemo-kinereceptorの発現を亢進させ,末梢血を介し,いずれかのリガンドが発現している掌蹠皮膚にホーミングし,掌蹠膿疱症が発症する可能性が報告されている8.10).掌蹠膿疱症に骨病変を合併したCSAPHO症候群の症例において,炎症部の骨生検でCCLA陽性細胞の発現を認めたとの報告があり,慢性扁桃炎と骨病変の関連が示唆されている11).SAPHO症候群の治療はエビデンスレベルの高いものはなく,症例報告に基づくような治療が多い.基本的には消炎治療を対症的に行うことが多く,非ステロイド性抗炎症薬,コルヒチン,副腎皮質ステロイド,メトトレキサート,スルファサラジン,抗生物質,インフリキシマブ,ビスホスホネートなどによる治療が試みられている12.14).また,上述のように慢性扁桃炎とCSAPHO症候群の関連性も注目されており,扁桃摘出による治療も試みられている.Katauraらは,SAPHO症候群に対して扁桃摘出を行い,術後経過観察が可能であったC89例中C46例(52%)に関節痛の消失を,72例(81%)に改善を認めたとし,扁桃摘出術の効果は高いと考察している15).高原らは,SAPHO症候群患者C51名に対し扁桃摘出を行い,術後の自覚症状の改善をCVAS(visualana-loguescale)による自己採点法で評価し,47例(92%)に有効以上の効果を認めた11).今回の症例ではステロイド全身投与と扁桃摘出を併用し,視力および眼球運動の改善を得ることができた.おわりにSAPHO症候群に頭蓋底の肥厚性硬膜炎を伴う症例はまれであるとされているが,眼球運動障害や視神経障害による視力障害などの眼症状を合併する可能性がある.肥厚性硬膜炎を伴う眼合併症を認めた場合,SAPHO症候群も念頭におく必要があり,治療にはステロイド全身投与と扁桃摘出の併用が有用である可能性がある.文献1)鈴木利根:難治性視神経眼科疾患の治療を考える肥厚性硬膜炎.眼科C60:127-131,C20182)ChamotAM,BenhamouCL,KahnMFetal:Acne-pustu-losis-hyperostosis-osteitisCsyndrome.CResultsCofCaCnationalCsurvey.85cases.RevRhumMalOsteoarticC54:187-196,C19873)MagreyCM,CKhanMA:NewCinsightsCintoCsynovitis,Cacne,Cpustulosis,Chyperostosis,Candosteitis(SAPHO)syndrome.CCurrRheumatolRepC11:329-333,C20094)BenhamouCCL,CChamotCAM,CKahnMF:Synovitis-acne-pustulosishyperostosis-osteomyelitissyndrome(SAPHO)C.ACnewCsyndromeCamongCtheCspondyloarthropathies?CClinCExpRheumatolC6:109-112,C19885)Marsot-DupuchCK,CDoyenCJE,CGrauerCWOCetal:SAPHOCsyndromeofthetemporomandibularjointassociatedwithsuddenCdeafness.CAJNRCAmCJCNeuroradiolC20:902-905,C19996)河内泉,西澤正豊:肥厚性硬膜炎.知っておきたい神経眼科診療(三村治編).p303-313,医学書院,20167)米川智,吉良潤一:肥厚性硬膜炎の疾患概念と最近の分類.神経内科C76:415-418,C20128)NozawaCH,CKishibeCK,CTakaharaCMCetal:ExpressionCofCcutaneouslymphocyte-associatedCantigen(CLA)inCtonsil-larCT-cellsCandCitsCinductionCbyCinCvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinCpatientsCwithCpustulosisCpalmarisCetplantaris(PPP)C.ClinImmunolC116:42-53,C20059)UedaCS,CTakaharaCM,CTohtaniCTCetal:Up-regulationCofCss1CintegrinConCtonsillarCTCcellsCandCitsCinductionCbyCinvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinCpatientsCwithCpustulosispalmarisetplantaris.JClinImmunolC30:861-871,C201010)YoshizakiCT,CBandohCN,CUedaCSCetal:Up-regulationCofCCCCchemokineCreceptorC6ConCtonsillarCTCcellsCandCitsCinductionCbyCinCvitroCstimulationCwithCalpha-streptococciCinpatientswithpustulosispalmarisetplantaris.ClinExpImmunolC157:71-82,C200911)高原幹:専門医が知っておくべき扁桃病巣疾患の新展開扁桃との関連が明らかになった新たな疾患SAPHO症候群.口腔・咽頭科C29:111-114,C201612)HayemCG,CBouchaud-ChabotCA,CBenaliCKCetal:SAPHOsyndrome:aClong-termCfollow-upCstudyCofC120Ccases.CSeminArthritisRheumC29:159-171,C199913)OlivieriI,PadulaA,CiancioGetal:SuccessfultreatmentofSAPHOsyndromewithin.iximab:reportoftwocases.AnnRheumDisC61:375-376,C200214)AmitalCH,CApplbaumCYH,CAamarCSCetal:SAPHOCsyn-dromeCtreatedCwithpamidronate:anCopen-labelCstudyCof10patients.Rheumatology(Oxford)C43:658-661,C200415)KatauraCA,CTsubotaH:ClinicalCanalysesCofCfocusCtonsilCandCrelatedCdiseasesCinCJapan.CActaCOtolaryngolCSupplC523:161-164,C1996***

ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果 および検査時間の比較

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1221.1228,2021cヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較北川厚子*1清水美智子*1山中麻友美*1堀口剛*2*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofHead-MountedPerimeterandTraditionalFieldAnalyzerAtsukoKitagawa1),MichikoShimizu1),MayumiYamanaka1)andGoHoriguchi2)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,UniversityHospital,KyotoPrefectur-alUniversityofMedicineC目的:ヘッドマウント型視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)のC24Cplus(1-2)は,24-2の検査点に10-2のC24点を追加し,黄斑部の検査密度を高めたものである.Humphrey視野計による配列C2種(24-2,10-2)との測定結果,測定時間を比較し,その臨床的意義を検討する.対象および方法:2018年C2月.2019年C1月に緑内障患者39例C50眼に対し,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,10-2の計C3種の検査を行い,グローバルインデックスとして標準偏差(MD)とパターン標準偏差(PSD),パターン偏差,トータル偏差,検査時間を比較した.結果:アイモ24Cplus(1-2)とCHumphrey24-2ではCMD値,PSDの差の平均に大きな差はなく,また,級内相関係数はどちらも一致度は高かった.パターン偏差,トータル偏差の級内相関係数はC24°内,10°内とも高い一致度を示した.検査時間はアイモが統計的に有意に短かった.CPurpose:Theimo24Cplus(1-2)head-mountedautomatedperimeter(CrewtMedicalSystems)adds24CpointsofC10-2CtoCtheCinspectionCpointsCofC24-2CtoCincreaseCtheCinspectionCdensityCofCtheCmacula.CInCthisCstudy,CweCcom-paredthemeasurementresultsandtimesoftheimo24Cplus(1-2)withthetwosequences(24-2and10-2)o.eredbytheHumphreyPerimeter(ZEISS)andexaminedtheirclinicalsigni.cance.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved50eyesof39glaucomapatientsthatwereanalyzedwiththeimo24plusandtheHumphreyPerimeterfromFebruary2018toJanuary2019.Inalleyes,thefollowing3distinctscanpatternswereperformed:1)imoCR24Cplus(1-2)inAIZE-Rapidmode,2)Humphrey24-2inSITAFastmode,and3)Humphrey10-2inSITAFastmode.MeasurementresultswerethencomparedwithrespecttoGlobalIndexMeanDeviation(MD)andPatternStandardDeviation(PSD)C,CasCwellCasCPatternCDeviationCandCscanCtime.CResults:NoCsigni.cantCdi.erencesCwereCfoundCinCtheCaverageCdi.erenceCbetweenCMDCvalueCandCPSDCbetweenCtheCimo24Cplus(1-2)andCHumphreyC24-2Cscans,CandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientChadCaChighCdegreeCofCagreement.CTheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCofCpatternCdeviationCandCtotalCdeviationCshowedCaChighCdegreeCofCagreement,CbothCwithinC24°CandC10°.CConclusion:Althoughmeasurementresultsofthetwoperimeterswerehighlysimilar,astatisticallysigni.cantlyshorterexaminationtimewasobtainedwiththeimo24Cplus(1-2)C.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1221.1228,C2021〕Keywords:緑内障,視野,アイモC24Cplus(1-2),Humphrey24-2,Humphrey10-2.Glaucoma,visual.eld,“imo”24Cplus(1-2)C,HFA24-2,HFA10-2.Cはじめに世界の人口は増加しており,それに伴い緑内障患者も増加緑内障は発見が遅れたり放置されたり,あるいは治療が適し,2020年までにC8億人が緑内障に罹患し,1,120万人が切に行われない場合,失明に至る可能性のある疾患である.失明するといわれている1).〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City607-8041,CJAPANC日本においてはもともと近視人口の比率は西洋に比べて高かったが2),最近は世界的にも近視人口は増加傾向にある.また,スマートフォンやパソコン,ゲーム機の多用により,若年者の近視化が著明となり警告が発せられており,文部科学省のC2019年度学校保健統計調査によると,裸眼視力C1.0未満の小学生はC5年連続の増加でC34.57%,中学生のC57.47%,高校生のC67.64%といずれも過去最多の割合となっていて,その多くが近視であると考えられる.近視は緑内障発症のリスクファクターであり3),近視眼緑内障の増加も示唆されている.また,高齢者人口の増加に伴い,合わせて緑内障患者の増加が予想される.緑内障の診療においては眼圧・視神経乳頭所見・光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)・視野検査などが必須であるが,なかでも視野検査は緑内障の発見や進行度の判定にきわめて重要な検査である.視野検査は現在もっぱら自動視野計が用いられ,片眼遮閉下に片眼ずつ測定するCHumphreyCfieldanalyzer(HFA)が従来多く用いられてきた.2015年にCHFAの検査配置に加え,オリジナルの検査配置を有し,また両眼開放下に片眼ずつの検査が可能なヘッドマウント型の自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)が開発された4,5).本研究では,緑内障患者に対して行ったアイモによる検査〔24Cplus(1-2)AIZE-Rapid・スタンド型使用,以下Cimoと表記〕とCHFAII-iによる検査(24-2CSITA-Fast/10-2SITA-Fast,以下CHFA24-2/HFA10-2と表記)の結果を比較検討した.検査プログラムは,検査時間の短いCimoAIZE-Rapid,HFASITA-Fastを採用し,疲労による精度低下を軽減した.併せて検査時間についても検討し,imo24Cplus(1-2)の有用性について評価する.CI対象および方法1.対象対象は,①緑内障の通常診療において,2018年C2月C1日.2019年C1月C31日にCimo・HFA2種を行い,すべて正確に検査できた患者,②C3種の視野検査の比較の必要性を説明し,口頭で同意を得られる患者,③年齢がC20歳以上,以上三つの適格基準を満たす患者とした.検査の信頼性についての除外基準は,固視不良C10%以上・偽陽性C15%以上・偽陰性C15%以上とした.固視状態はゲイズトラックにより判定し,また明らかな網脈絡膜病変を有するものは除外した.なお,この臨床研究は倫理委員会の承認(ERB-C-1565)を得ている.C2.診断機器HFAは白色背景上に白色視標を呈示し,(背景輝度31.5Casb・視標最大輝度C10.000Casb),視標サイズCIIIを用いて片眼遮閉下に検査を行う.HFASITA-StandardのアルゴリズムはCSwedishCinteractivethresholdingCalgorithm法であり,4CdB-2CdBbracketing法による閾値測定を行っている.SITA-FastではC4CdBbracketing(singleCstep)により,検査時間の短縮を図っている.imoはCHFAと同じ条件下で視野検査を行うが,左右眼で独立した光学系を搭載し,被検者の左右各眼に個別に視標を呈示するので,被検者は両眼を開放したまま検査を受けることになる.また,近赤外線カメラで左右の瞳孔をモニターし,眼球追尾する自動補正により,検査時間の短縮や固視ズレの解消を図っている4,5).仮に固視ズレが生じてもC5°以内であれば正確な測定が可能となっている.imoのアルゴリズムはCAIZE〔AmbientCInteractiveZEST(ZippyCEstimationCofSequentialTesting)〕である.AIZEは検査点の結果を周囲の検査点にその結果を反映し閾値決定までの試行回数を低減することで測定時間の短縮を図っている.その影響度は検査点とその他の検査点との距離で重みづけしている.AIZE-Rapidは検査点の結果を隣接点により強く反映させ,さらに収束条件を変更し,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては,追加の刺激を行わないことで検査スピードを上げている.C3.評価imoの検査配置点はCHFAに準じているが,オリジナルのモードとしてC24Cplus(1-2)を有している.24Cplus(1-2)は24-2の検査点(6°間隔)54点に10-2の検査点(2°間隔)24点を加え,黄斑部の検査密度を高めている(図1).imoとCHFA(10-2/24-2)の検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.①視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD)およびパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)6).②C76個の検査点(図2)ごとの指標としてのパターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差については,偏差量の統計学的な有意性をもとにC4カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.③検査時間(分).C4.統計解析連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MDおよびCPSDにおけるCimoのCHFA24-2に相当する24°内の結果とCHFA24-2の結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間(confidenceinterval:CI),および級内相関係数とそのC95%CCIを推定した.また,MDおよびCPSDにおけるCimoとCHFA24-2の関係についてCBland-AltmanCplot7)を作成した.さらに,MDおよびCPSDにおけるCimo全体(10°内とC24°内を含む)の結果とCHFA24-2の結果についても,同様の解析を行った.パターン偏差プロットについて,imoの10°内とHFA10-2,およびimoの24°内とHFA24-2HFA10-2図1imo24plus(1.2)配列図2検査点の番号(右眼)左眼は反転.検査点C71・72はCMariotte盲点.HFA24-2の結果の重み付きカッパ係数を検査点(10°内:全36点,24°内:全52点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした8).パターン偏差およびトータル偏差について,imoのC10°内とCHFA10-2,およびCimoのC24°内とCHFA24-2の結果の級内相関係数を検査点(10°内:全C36点,24°内:全C52点)ごとに算出し,それらの級内相関係数について平均およびそのC95%CCIを算出した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.検査時間については,検査の種類ごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作成した.また,imoとCHFA10-2およびCimoとCHFA24-2についてそれぞれWilcoxon符号付き順位検定を行った.検定の有意水準は両側5%とした.なお,imoで両眼同時に検査した場合は検査時間をC1/2にすることで調整した.CII結果対象特性は緑内障症例C39例C50眼(右眼C24眼,左眼C26眼),年齢はC46.88歳(中央値:68.0歳),男女比C21人:18人,屈折+2.75D.C.10.00D,乱視C0.5D.2.0D,矯正視力C0.6Cp.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,imo,HFA24-2,HFA10-2の各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.5%(1眼Cnotavailable),0.10%,0.10%,偽陽性はC0.8%,0.9%,0.13%,偽陰性はC0.3%,0.14%(2眼Cnotavailable),0.12%と,正確な検査が可能であっ「24°内のimo24plus(1-2)のMD・PSD値」(検査点:52点)「24°内と10°内を含むimo24plus(1-2)のMD・PSD値」と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較(検査点:76点)と「HFA24-2のMD・PSD値」(検査点:52点)の比較表1検査順序検査順序人数CimoC→CHFA10-2C→CHFA24-2C14CHFA10-2C→CHFA24-2C→CimoC5CHFA10-2C→CimoC→CHFA24-2C4CHFA24-2C→CHFA10-2C→CimoC3CimoC→CHFA24-2C→CHFA10-2C2(HFAC10-2・imo)C→CHFA24-2C3HFA10-2C→(imo・HFAC24-2)C3imoC→(HFAC10-2・HFAC24-2)C2(HFAC10-2・HFAC24-2)C→CimoC2(imo・HFAC24-2)C→CHFA10-2C1計39人*全C10パターン.()は同日に検査施行.た症例を対象とした.3種の検査の測定順序はさまざまであり,表1に示すとおり「imoC→CHFA10-2C→CHFA24-2」の順序がもっとも多かった.また,同意の得られたC11例では同日にC2種の検査を行った.検査実施の間隔は最短:2カ月,最長:11カ月,中央値C6.0カ月であった.C1.グローバルインデックスimoのC24-2に相当する検査点とCHFA24-2の検査点のグローバルインデックス(MD,PSD)を比較した結果,MDについてCimoでは中央値C.5.8(C.10.5.C.2.3)dB,HFA24-2では中央値C.5.3(C.10.6.C.3.1)dBであり,PSDについてCimoでは中央値C6.6(4.1.11.4)dB,HFA24-2では中央値C6.2(2.3.11.0)dBであった.差の平均については,MDでC0.42(95%CCI:C.0.19.1.02)dB,PSDでC1.04(95%CI:0.67.1.42)dBであり,どちらも大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97),PSDでC0.95(95%CCI:0.92.0.97)であり,どちらも一致度は高かった.また,imoの10°内とC24°内を含む全体の検査点とHFA10-2図3MDおよびPSDのBland.Altmanプロットab図4各検査点の一致度a:パターン偏差プロットにおける重み付きカッパ係数,Cb:パターン偏差における級内相関係数.HFA24-2の検査点のCMDおよびCPSDを比較した結果,imo全体についてCMDの中央値はC.5.5(C.10.6.C.2.2)dB,PSDの中央値はC6.2(3.9.11.1)dBであった.差の平均は,MDでC1.15(95%CCI:0.36.1.94)dB,PSDでC0.98(95%CI:0.51.1.44)dB,級内相関係数は,MDでC0.91(95%CI:0.85.0.95),PSDでC0.93(95%CCI:0.88.0.96)であった.MD,PSDともに大きな差はなく,級内相関係数においてはどちらも一致度は高かった.Bland-Altmanプロットを作成した結果,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった(図3).C2.パターン偏差とトータル偏差パターン偏差について,重み付きカッパ係数を算出した結果,10°内でC0.51(95%CCI:0.47.0.56),24°内でC0.66(95%CCI:0.62.0.71)であり,10°内よりもC24°内の一致度のほうが高かった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,10°内に対してそれぞれC0.68(95%CCI:0.60.0.76),0.71(95%CCI:0.63.0.79),24°内に対してそれぞれ0.79(95%CCI:0.77.0.82),0.83(95%CI:0.80.0.85)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,パターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図4a),パターン偏差に対しては級内相関係数(図4b)をそれぞれヒートマップで表した.10°内の特定の検査点において一致度が低かったが,全体としては高い一致度を示した.トータル偏差の一致度はパターン偏差と同程度であったため省略する.検査時間(分)76543imo24plus(1-2)HFA10-2HFA24-2図5各視野計の検査時間3.検査時間検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,imoで中央値C3.62(3.11.4.02)分(検査点:78点),HFA10-2で中央値C4.09(3.37.4.58)分(検査点:68点),HFA24-2で中央値C3.74(3.17.4.88)分(検査点:54点)であり,箱ひげ図を図5に示した.また,検査種類間での検査時間の違いをCWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,imoとCHFA10-2の比較(Z=.394,p<0.001),およびCimoとCHFA24-2の比較(Z=.331,p<0.001)においてCimoが有意に短かった.CIII考按緑内障の診断に際しては,OCTの普及に伴い視神経乳頭および網膜神経障害の診断が早期に可能となった.また,中等度までの緑内障においては,OCTによる進行の判断も可能であり,OCTと視野検査・眼圧・視神経乳頭所見などを組み合わせることにより,総合的な判断がなされている.ただ,後期緑内障においてはCOCTの有用性は低下し,もっぱら視野検査により進行の有無を判断する.視野検査はC30-2,24-2の静的視野計測が多く選択されているが,DeMoraesらは,24-2検査は緑内障疑い症例・高眼圧症・早期緑内障においてはC10-2検査によって初めて判明する中心視野障害を見逃すことが少なくないと報告している9).わが国で今後さらに増加が懸念される近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることも多く,とくに強度近視を伴う緑内障のC42%に初期から乳頭黄斑線維束欠損を認め,非近視眼緑内障と比較して有意に高率であり,耳下側傍中心暗点も早期から認められる10).また,後期緑内障においては,乳頭黄斑線維束を含む神経線維層欠損の進行に十分な注意を払わなければならない.したがって,10-2検査はきわめて重要であるが,一般的に緑内障患者の視野観察はC1.3回/年であり,24-2あるいはC30-2とC10-2を適切に検査することには制限があり,また同日にC24-2とC10-2検査を行うことは患者の疲労のため正確性に疑問が生じる可能性がある.読書に際して使用される視野の大きさはC4.10°であり,これは日本語ではC10.17文字相当である.中心窩視でまず単語の認知を行い,さらにその周辺を近中心窩視(中心視野5°まで)によって注視し,つまり最初に認知した単語の次の単語に対し,何らかの前処置を行い読書している.通常のスピードで読書ができるためには視野C10°が必要となっている11,12).固視点近傍の視野感度の低下はCqualityCofCvison(QOV)に大きな影響を与えるため,緑内障診療においては10-2の検査の必要性が以前より指摘されている.imoはC1回の検査でC24-2とC10-2を合わせて検査し,10°内ではC36点,読書に必要な半径C5°内においてはC10-2と同様にC16点を検査することから,QOVの管理に有用であると考えられる.今回行ったCHFA24-2と,imo24Cplus(1-2)のCHFA相応点の比較においてはCMD・PSDは差の平均がCMDでC0.42dB,PSDでC1.04CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はMDでC0.95,PSDでC0.95であり,どちらも一致度は高かった.imo全体とCHFA24-2の比較においても差の平均はMDでC1.15CdB,PSDでC0.98CdBとどちらも大きな差はなく,級内相関係数はCMDでC0.91,PSDでC0.93とどちらも一致度は高かった.また,Bland-Altmanプロットについて,PSDでは大きな偏りはなかったが,MDでは平均が小さい場合においてCimoの値が大きい傾向があった.今回のデータではMD値の小さい症例が比較的少なく,偶然Cimoの値が大きくなったのか,あるいはその他の系統的な原因があるのかは判別できないため,この点については今後の検討が必要である.今回の比較検討では重み付けカッパ係数の評価から検査全体としては高度な一致であり,とくに周辺のC24°内は高度な一致であることがわかった.10°内とC5°内は中等度の一致となった.これはC24°内がC6°間隔であることに対し,中心部は2°間隔であり,固視ずれに対する機械差や両眼開放下検査と片眼遮閉下検査による差が考えられる.図6aに一致度の高い例のCimoとCHFAのグレースケール合成イメージを示す.図6bに検査点C51(図2,図4参照)におけるCPDの散布図を示すが,2例でCimoとCHFAの結果に大きな差がみられている.このC2例について図6c①②にそれぞれのCOCT画像とCPD確率プロットの合成図,およびグレースケールを示した.OCTとCPD確率プロットの合成の際には,視野検査とOCTを対応させるため,理論式〔網膜神経節細胞偏心度(mm)=1.29・(視細胞偏心度(mm)+0.046)C0.67〕を用いた14,15).OCTとCPD確率プロットの合成図では,HFAにおいて不一致が認められ,機械差やC10-2検査における片眼遮b図6imoのグレースケールとHFA2種のグレースケール合成図の比較a:一致度の高い例.Cb,c:検査点C51においてCPDの一致度が低かったC2例のグレースケールおよびCOCT画像とPD確率プロットの合成図.閉による固視ずれの可能性が考えられる13).一般的に緑内障患者を長年にわたり診察する場合,その治療の是非はCMDスロープを用いて判断することが多いが,今回の結果よりCimoとCHFAのCMDに大きな差はなく,両者にある程度の互換性の可能性が示唆された.視野検査は高い集中力や緊張を強いることになり,「つらい検査」と捉える患者は少なくない.たとえばCHFASITA-Standardでは,検査時間はC30-2で片眼C7.9分,24-2でC6.8分,SITA-FastではC30-2でC5.7分,24-2でC4.6分の検査時間を要するとされている.今回の研究結果においては,HFA24-2SITA-FastでC3.74(3.17.4.88)分,HFA10-2SITA-FastでC4.09(3.37.4.58)分,imo24Cplus(1-2)AIZE-RapidでC3.62(3.11.4.02)分(片眼)であった.検査点の数はCimo24Cplus(1-2)が78点,HFA10-2がC68点,24-2がC54点であり,imo24Cplus(1-2)ではより多くの検査点を短時間で検査しており,患者の負担を軽減しつつさらに多くの情報を得ることができた.Cimo24plus(1-2)はHFA24-2に加え,10-2の24点を加えた検査点を有し,一度の検査で黄斑部を密に検査し,24-2に相当するCMD値・PSD値はCHFAと大きな差がなく,また両者間のパターン偏差,トータル偏差は一致度が高かった.検査時間はCimoが有意に短かった.以上より,imo24Cplus(1-2)は緑内障の発見,とくに早期より中心C10°内に視野異常のみられる例や今後増加の予想される近視眼緑内障の発見,後期における固視点近傍の詳細な観察に有用であり,また長期にわたる経過観察においても有用であることが示唆された.また,その検査時間の短縮により検査のストレスを軽減することが可能となった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CookCC,CFosterP:EpidemiologyCofglaucoma:whatC’sCnew?CanJOphthalmolC47:223-226,C20122)TokoroT:RefractiveCerrorCandCitsCcorrection.C2ndCed,CKanehara,Tokyo,1991,chap43)SuzukiCY,CYamamotoCT,CAraieCMCetal:TajimiCStudyCreview.CNipponCGankaCGakkaiCZasshiC112:1039-1058,C20084)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCPerimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20165)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20196)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,19997)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C20038)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.CEducationalCandCPsychologicalCMeasurementC33:613-619,C19739)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visu-al.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglau-comaCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201710)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C201211)懸田孝一:読書時の単語認知過程:眼球運動を指標とした研究の概観.北海道大學文學部紀要C46:155-192,C199812)神部尚武:読みの眼球運動と読みの過程.国立国語研究所報告85:29-66,C198613)WakayamaCA,CMatsumotoCC,CAyatoCYCetal:ComparisonCofCmonocularCsensitivitiesCmeasuredCwithCandCwithoutCocclusionCusingCtheChead-mountedCperimeterCimo.CPLoSCOneC14:e0210691,C201914)江浦真理子,松本長太,橋本茂樹ほか:緑内障眼における黄斑部の各種視野検査とCGCL+IPL厚との対応.近畿大医誌C39:39-48,C201415)SjostrandCJ,CPopovicCZ,CConradiCNCetal:MorphometricCstudyCofCtheCdisplacementCofCretinalCganglionCcellsCsub-servingconeswithinthehumanfovea.GraefesArchClinExpOphthalmolC237:1014-1023,C1999***