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毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に 発症した網膜剝離に対してシリコーンオイル注入を行った1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1216.1220,2021c毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入を行った1例雲井美帆*1松田理*1松岡孝典*1橘依里*1辻野知栄子*1大鳥安正*1木内良明*2*1独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofSiliconeOilInjectionforRetinalDetachmentthatOccurredPostParsPlanaBaerveldtImplantSurgeryMihoKumoi1),SatoshiMatsuda1),TakanoriMatsuoka1),EriTachibana1),ChiekoTsujino1),YasumasaOtori1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC目的:バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入が有用であった例を報告する.症例報告:53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による硝子体出血,血管新生緑内障を発症し,両眼に複数回の硝子体手術,線維柱帯切除術を施行された.右眼眼圧コントロールが不良のため,2013年にバルベルト緑内障インプラント手術(毛様体扁平部挿入型)を施行された.2017年C6月右眼の視力が急激に低下し,大阪医療センター眼科を受診した.右眼の視力はC50Ccm手動弁,眼圧C5CmmHgで黄斑まで及ぶ網膜.離を認め,硝子体茎離断術,シリコーンオイル注入を行った.術後,網膜は復位しており眼圧はC15CmmHg以下で推移している.術後C2年半まで再.離や眼圧上昇,シリコーンオイル漏出の合併症なく経過している.結論:バルベルト挿入眼にもシリコーンオイル注入が可能であったが,眼圧上昇やシリコーンオイル漏出の可能性があり,注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToreportacaseofsiliconeoilinjectionforretinaldetachmentthatoccurredpostBaerveldtGlauco-maImplant(BGI)(Johnson&JohnsonVision)surgery.Casereport:A53-year-oldAsianfemalepresentedwiththecomplaintofseverevisonlossinherrighteye.In2013,shehadundergoneparsplanBGIsurgeryinherrighteyeduetopoorcontrolofintraocularpressure(IOP).In2017,retinaldetachmentwasoccurredinherrighteye,andCparsplanaCvitrectomy(PPV)andCsiliconeCoilCinjectionCwasCperformed.CResults:ForC2.5-yearsCpostoperative,CtheIOPinherrighteyehasremainedunder15CmmHg,withnoapparentleakageorrecurrenceofretinaldetach-ment.Conclusion:PPVcombinedwithsiliconeoilinjectionwasfoundusefulforretinaldetachmentthatoccurredinaneyepostBGIsurgery,however,strictfollow-upisrequiredinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(10):1216.1220,C2021〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,網膜.離,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,シリコーンオイル.Baer-veldtCglaucomaCimplant,CretinalCdetachment,CproliferativeCdiabeticCretinopathy,CparsCplanaCvitrectomy,CsiliconeCoil.Cはじめに続発緑内障,血管新生緑内障,角膜移植後などで線維柱帯切除術が困難な症例や,線維柱帯切除術による眼圧下降が不十分な難治性緑内障,結膜瘢痕が強い症例ではチューブシャント手術が必要となる.チューブシャント手術は,チューブからプレートへ房水を漏出させ,プレート周囲の線維性の被膜により濾過胞を形成し眼圧を下降させる.チューブの留置位置により前房型,毛様体扁平部型があり,術者,症例により使い分けられている1).わが国で使用可能なロングチューブシャントにはバルブのあるもの(アーメド緑内障バルブ),〔別刷請求先〕雲井美帆:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:MihoKumoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,ChuoKu,OsakaCity,Osaka540-0006,JAPANC1216(84)バルブのないバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)がある.硝子体手術の既往がある場合には毛様体扁平部型を使用する例が増加しているが2),それに伴いチューブシャント手術後の網膜硝子体疾患の合併症例も増加している3).なかでも網膜.離はC6%と報告されている4).難治網膜.離に対してはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)注入が必要になる可能性があるが,チューブへのCSOの迷入,眼圧上昇などの危惧があり5)世界でも報告は少なく,わが国ではCBGI留置眼へのCSO注入の報告は確認できなかった.今回毛様体扁平部挿入型CBGI手術後に網膜.離を合併し,SO注入をした症例を経験したので報告する.CI症例53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による両眼の硝子体出血,血管新生緑内障を発症した.右眼はC1999年C4月に初回の線維柱帯切除術,6月に硝子体茎離断術,白内障同時手術を施行された.眼圧コントロール不良のため,その後線維柱帯切除術・濾過胞再建術を合計C8回行われ,2013年C1月にCBGIを用いたチューブシャント手術(毛様体扁平部挿入型)を下耳側に施行された.左眼も複数回の硝子体手術,線維柱体切除術を施行されたがC2002年に失明状態となった.2017年C6月,右眼の急激な視力低下を自覚し大阪医療センター眼科受診した.視力低下時の右眼視力はC50Ccm手動弁,左眼は光覚弁で眼圧は右眼C5CmmHg,左眼C25CmmHgであった.右眼の結膜は全周が瘢痕化しており下耳側にCBGIが留置されていた.前眼部に帯状角膜変性があり透見性が不良であったが,下方網膜に裂孔を原因とする網膜.離を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼C518個/mm2であった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも黄斑部にまで及ぶ網膜.離があり(図1a),硝子体手術を施行した.術中所見(図2)結膜は非常に癒着が強い状態であった.結膜を切開しCBGIを露出すると,房水の漏出が確認された.BGIのチューブをC6-0バイオソルブで結紮し,輪部から13Cmmの位置に輪状締結術(#240)を施行した.BGI部分では後方のプレートの上から留置した.その後硝子体茎離断術(parsplanaCvitrectomy:PPV)を行った.BGIのチューブ先端は硝子体腔内にあり,周囲に網膜.離や増殖膜はなかCb図1黄斑部光干渉断層計所見a:.離時,b:術後C3カ月.図2術中所見a:全周に結膜瘢痕があった.b:下耳側にCBGIのチューブを確認した.被膜に覆われており,切開により房水の漏出があった.c:輪状締結術を行った.d:全体に増殖膜があり,下方にC6カ所の裂孔があった.Cab図3動的視野検査所見a:手術C6カ月前,b:術後C1カ月.硝子体手術前後で,V-4イソプターに著明な変化はなかった.眼圧(mmHg)1412108642000.511.5術後日数(年)図4術後眼圧経過術後C2年半まで眼圧はC15CmmHg以下で経過している.22.53った.網膜は後極から周辺部にかけて増殖膜が強く張っており下方に牽引性の裂孔をC6カ所確認した.可能なかぎり増殖膜を除去し,牽引が除去できない部位は網膜切開を追加した.最後にCSOを注入して終了した.経過:術翌日,SOの割合はC9割程度であった.術後眼圧はC10CmmHg程度で推移した.術後C1カ月後の動的視野検査では網膜.離発症のC6カ月前の視野検査と比較すると,黄斑部の.離のため視野の感度低下はあるがCV-4イソプターでは著明な変化はなかった(図3).術後C3カ月の時点で黄斑部の網膜は復位していた(図1b).術後C2年半経過時にも眼圧は緑内障点眼なしでC15CmmHg以下で経過している(図4).周辺部の増殖組織は完全な除去が困難であり,SO抜去によって眼球癆になる可能性があるため,SOは抜去せずに経過を観察している.帯状角膜変性の増強はあるが,右眼視力は0.01(0.01C×sph+1.5D(cyl.1.5DAx180°),であった.細隙灯顕微鏡検査で確認できるようなCSOの漏出はないが,硝子体腔のCSOはC7割程度に減少していた.CII考按近年,難治性緑内障に対しチューブシャント手術が行われる症例が増加してきており6),毛様体扁平部に留置されたBGI手術後に発症する網膜.離はC6%4),その他のチューブシャント手術も含めたものではC3%との報告がある7).チューブシャントによって房水柵機能が破綻され眼内に増殖因子が分泌されるため4),糖尿病網膜症が落ち着いていない状況でCBGIを挿入すると網膜症が悪化する可能性があると報告されている7).本症例はCBGI手術後C4年C5カ月で牽引性網膜.離を発症しており,増殖糖尿病網膜症の悪化やCBGI留置が網膜.離の原因になった可能性がある.糖尿病網膜症や血管新生緑内障の患者にチューブシャント手術を行う場合はとくに増殖膜の形成や網膜.離に注意する必要がある.チューブシャント手術後の網膜.離については,硝子体手術が有効であるとの報告があり,Benzらによると,初回からCPPVを施行したものでは全例術後再.離は起こらなかったとしている8).それに対してCPPVを行わずに網膜復位術や気体網膜復位術を行ったC3例では全例再.離を起こしPPVが必要になった8).治療についてはCPPVを選択し,網膜復位が困難な例ではCSO注入も検討する必要がある.本症例では周辺部に増殖膜による牽引性網膜.離を発症しており,すべての増殖膜除去が困難であったため輪状締結とPPV,SO注入を行ったが,術後C2年半まで再.離なく経過している.チューブシャント手術眼へのCSO注入ではオイルの漏出が問題となる.チューブにCSOが閉塞し眼圧が上昇するとさら漏出を起こしやすくなるため,チューブシャント手術後でSOの漏出によって再手術が必要になった例が今までにも報告されている.FribergらはCBGI(無水晶体眼,前房型,上方)でチューブからのCSOの漏出と眼圧上昇のためオイル抜去が必要になった症例を報告している9).Chanらは上方のBGI留置後に増殖糖尿病網膜症・網膜.離を発症し,SO注入を行ったC5カ月後の漏出を経験しているが,その際下方にチューブを移動させ再漏出を防いだと報告している10).SOは房水より比重が軽いため,チューブからの漏出を予防するにはCSOとの接触を減少させる下方へのチューブ設置が有利と思われる.本症例では下耳側の毛様体扁平部挿入型CBGI留置眼にCSOがC9割程度注入された.現在術後C2年半経過しており,SOはC70%程度に減少している.SOの減少は睡眠中などの臥位での漏出が疑われるが,チューブが下方に留置されていることから比較的脱出しにくくなっていると考えられる.結膜下にCSOが漏出している可能性はあるが,眼圧上昇や再.離,漏出による眼球運動障害,結膜腫脹はなく,検眼鏡的に確認できるようなCSOの貯留所見はない.しかしながら,Moralesら11),Nazemiら12)は下方に留置されたチューブ眼でも,シリコーン漏出や閉塞による眼圧上昇のため再手術が必要になった例を報告しており,今後も注意深い経過観察が必要と思われる.場合によっては毛様体の光凝固やマイクロパルスなどチューブシャント手術以外の眼圧下降方法も検討が必要である7).BGI硝子体腔留置術後の網膜.離に対してCSOを使用した硝子体手術は有効な選択肢であるが,長期予後については不明であるため,術後のCSO減少や眼圧上昇については注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)千原悦夫:チューブシャント手術の適応とチューブの選択.緑内障チューブシャント手術のすべて,メジカルビュー社,p16-19,20132)GandhamCSB,CCostaCVP,CKatzCLJCetal:AqueousCtube-shuntCimplantationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC116:189-195,C19933)LuttrullCJK,CAveryCRL,CBaerveldtCGCetal:InitialCexperi-enceCwithCpneumaticallyCstentedCbaerveldtCimplantCmodi.edforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.OphthalmologyC107:143-150,C20004)SidotiCPA,CMosnyCAY,CRitterbandCDCCetal:ParsCplanaCtubeCinsertionCofCglaucomaCdrainageCimplantsCandCpene-tratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCcoexistingCglaucomaCandcornealdisease.OphthalmologyC108:1050-1058,C20015)NguyenCQH,CLloydCMA,CHeuerCDKCetal:IncidenceCandCmanagementCofCglaucomaCafterCintravitrealCsiliconeCoilCinjectionforcomplicatedretinaldetachments.Ophthalmol-ogyC99:1520-1526,C19926)ChenCPP,CYamamotoCT,CSawadaCACetal:UseCofCanti-.brosisCagentsCandCglaucomaCdrainageCdevicesCinCtheCAmericanCandCJapaneseCGlaucomaCSocieties.CJCGlaucomaC6:192-196,C19977)LawSK,KalenakJW,ConnorTBJretal:Retinalcompli-cationsCafterCaqueousCshuntCsurgicalCproceduresCforCglau-coma.ArchOphthalmolC114:1473-1480,C19968)BenzCMS,CScottCIU,CFlynnCHWCJrCetal:RetinalCdetach-mentCinCpatientsCwithCaCpreexistingCglaucomaCdrainagedevice:anatomic,CvisualCacuity,CandCintraocularCpressureCoutcomes.RetinaC22:283-287,C20029)FribergCTR,CFanousMM:MigrationCofCintravitrealCsili-coneoilthroughaBaerveldttubeintothesubconjunctivalspace.SeminOphthalmolC19:107-108,C200410)ChanCCK,CTarasewiczCDG,CLinSG:SubconjunctivalCmigrationCofCsiliconeCoilthroughCaCBaerveldtCparsCplanaCglaucomaimplant.BrJOphthalmolC89:240-241,C200511)MoralesJ,ShamiM,CraenenGetal:Siliconeoilegress-ingCthroughCanCinferiorlyCimplantedCahmedCvalve.CArchCOphthalmolC120:831-832,C200212)NazemiPP,ChongLP,VarmaRetal:Migrationofintra-ocularsiliconeoilintothesubconjunctivalspaceandorbitthroughCanCAhmedCglaucomaCvalve.CAmCJCOphthalmolC132:929-931,C2001***

強角膜移植術後の高眼圧症に対して マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術を行った1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1212.1215,2021c強角膜移植術後の高眼圧症に対してマイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術を行った1例織田公貴*1子島良平*1小野喬*1,2森洋斉*1大谷伸一郎*1岩崎琢也*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室CACaseofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationforOcularHypertensionAfterSclerokeratoplastyKimitakaOda1),RyoheiNejima1),TakashiOno1,2),YosaiMori1),ShinichiroOhtani1),TakuyaIwasaki1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicineC緒言:壊死性強膜炎と真菌性角膜炎の治癒後に強角膜移植術を行い,マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)により良好な眼圧コントロールを得られた症例を経験した.症例:63歳,男性.糖尿病網膜症の加療中に両眼の特発性壊死性強膜炎を発症し,強膜の菲薄化が進行していた.強膜炎治療中に両眼の真菌性角膜炎を発症し,抗真菌薬の点眼・内服および角膜クロスリンキングで加療し軽快したが,視力は両眼とも光覚弁となった.角膜が周辺部まで菲薄化していたため全層角膜移植術は困難と判断し,視機能回復のため左眼の強角膜移植術を行った.術後に眼圧が上昇し,抗緑内障薬でコントロール不良であったため,MP-CPCを行った.強角膜移植術後C15カ月現在で,左眼の矯正視力は(0.08),眼圧はC16CmmHgであり,角膜の透明性は良好である.結論:トラベクレクトミーやチューブシャント術が困難な強角膜移植術後の高眼圧症に対し,MP-CPCは有効な治療法の一つである.CPurpose:WeCreportCaCcaseCthatCunderwentCsclerokeratoplastyCafterCnecrotizingCscleritisCandCfungalCkeratitisCandCachievedCgoodCintraocularCpressureCwithCmicropulseCtransscleralcyclophotocoagulation(MP-CPC).CCaseReport:Thisstudyinvolveda63-year-oldmalepatientwhohadbilateralnecrotizingscleritiswithdiabeticreti-nopathyandathinsclera.Hecontractedfungalkeratitisbilaterallyduringtreatmentofscleritis.Althoughantifun-galeyedrops,oralmedicine,andcornealcross-linkingimprovedthekeratitis,hisvisualacuitywaslightsensationinbotheyes.Sincepenetratingkeratoplastywasconsidereddi.cultinhislefteyeduetoathinperipheralcornea,sclerokeratoplastyCwasCperformed.CSinceCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)increaseCwasCdi.cultCtoCcontrolCwithananti-glaucomadrug,MP-CPCwasadministered.At15-monthspostsclerokeratoplasty,hisbest-correctedvisualacuitywas0.08andtheIOPwas16CmmHgwithatransparentcornea.Conclusion:MP-CPCisoneofthee.ectiveCtreatmentsCforCpatientsCwithCocularChypertensionCinCwhomCtrabeculectomyCorCtubeCshuntCsurgeryCpostCsclerokeratoplastyisinapplicable.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(10):1212.1215,C2021〕Keywords:壊死性強膜炎,真菌性角膜炎,強角膜移植術,マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術.necrotizingCscleritis,fungalkeratitis,sclerokeratoplasty,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation.Cはじめに強角膜移植術は,強膜と同時にドナー角膜を移植する手術であり,広範囲にわたる角膜病変や通常の全層角膜移植術が不可能な症例に対して行われる1,2).強角膜移植術は重症症例の視機能を維持する有効な術式であるが,術後の眼圧上昇,感染症,拒絶反応などの合併症が認められる3).とくに眼圧上昇は起こりやすく,眼圧コントロールが困難な症例に対してはチューブシャント術や毛様体光凝固術が行われるが,予後不良であることが多い2,3).近年,緑内障に対する新しい治療法としてマイクロパルス〔別刷請求先〕織田公貴:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KimitakaOda,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC1212(80)波経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralCcyclopho-tocoagulation:MP-CPC)が行われている.MP-CPCは点眼治療で眼圧下降効果が乏しい症例や,従来の手術治療に対して抵抗性を示す症例に用いられ,その高い臨床効果が示されている4).全層角膜移植術後の高眼圧症に対してCMP-CPCが有効であったと報告されているが5,6),強角膜移植術後のMP-CPCの有効性はこれまでに示されていない.今回筆者らは,真菌性角膜炎後の角膜混濁に対して強角膜移植術を行い,MP-CPCを用いて術後の眼圧コントロールを行った症例を経験したため報告する.CI症例患者:63歳,男性.主訴:両眼の視力低下,充血および疼痛.職業:養鶏業.既往歴:糖尿病網膜症(両眼).現病歴:2015年C11月から両眼の糖尿病網膜症に対し宮田眼科病院(以下,当院)にて治療中に,特発性壊死性強膜炎を発症し,強膜の菲薄化が進行していた.0.1%ベタメタゾン点眼による治療を行っていたところ,2017年C10月に左眼の角膜穿孔,虹彩脱出,実質内膿瘍を認め(図1a),角膜擦過物の塗抹検査で糸状真菌(後の培養検査でCPaecilomycesspecies陽性)が検出された.抗真菌薬の点眼と内服では十分に改善が得られず,11月中旬に角膜クロスリンキングを行ったところ鎮静化した(図1b).さらに,2018年C1月に右眼の角膜に浸潤巣を認め,培養検査でCPaecilomycesCspe-ciesが検出された.抗真菌薬による治療を開始したが真菌性角膜炎は増悪し,角膜クロスリンキングにより鎮静化した.その後,感染の再燃はなかったが強膜の菲薄化および角膜混濁を認め,視力は両眼とも光覚弁となった(図1c,d).経過:2018年C10月,視機能回復目的に左眼の角膜移植術を検討したが,前眼部光干渉断層計による評価で角膜周辺部の菲薄化を認めた(最菲薄化部位の角膜厚:171Cμm)(図2).全層角膜移植は困難と判断し,患者に十分な説明と同意のもとで,直径約C12Cmmの強角膜移植術を行った.全身麻酔下で,菲薄化した角膜を輪部まで切除したのち,10-0ナイロン糸を用い強角膜切片を端々縫合した.術後はC1.5%レボフロキサシン,0.1%リン酸ベタメタゾン,アトロピン,トロ図1真菌性角膜炎時の前眼部写真a:角膜穿孔時の前眼部写真(左眼).瞳孔領下方に角膜穿孔,虹彩脱出,および実質内膿瘍を認める.のちに糸状真菌が検出された.Cb:真菌性角膜炎に対する角膜クロスリンキング後の前眼部写真(左眼).広範に菲薄化した角膜を虹彩が圧迫している.前房は消失している.Cc:真菌性角膜炎鎮静化後の前眼部写真(左眼).壊死性強膜炎に認められた強膜の菲薄化がさらに進行し,角膜混濁も認められる.Cd:真菌性角膜炎鎮静化後の前眼部写真(右眼).左眼と同様に,壊死性強膜炎による強膜の菲薄化,真菌性角膜炎後の角膜混濁,角膜の菲薄化が観察される.171μmab図2強角膜移植術前の左眼の前眼部写真a:強角膜移植術前の前眼部写真(左眼).真菌性角膜炎後の角膜混濁を認め,菲薄化した角膜を虹彩が圧迫しており前房が消失している.Cb:強角膜移植術前の前眼部光干渉断層計像(左眼).角膜が大きく前方に突出し,周辺部の著しい菲薄化が認められる.Cab図3強角膜移植術後の左眼の前眼部写真a:強角膜移植術後C1カ月時の前眼部写真(左眼).移植片の接着は良好であり,角膜の透明性は維持されている.Cb:強角膜移植術後の前眼部光干渉断層計像(左眼).前房が形成されており,中心角膜厚はC671Cμmである.ピカミド・フェニレフリン点眼を使用・漸減した.また,プレドニゾロンの内服をC30Cmgから開始し,2018年C11月末にはC5Cmgまで漸減した.以降も壊死性強膜炎の再燃予防のために内服継続とした.術後C1カ月における角膜の透明性は良好で,角膜内皮細胞密度はC1,550Ccells/mmC2であった(図3).糖尿病黄斑症のため左眼の矯正視力は(0.05)であった.術後早期から眼圧が上昇したため,トラボプロスト・チモロールマレイン酸とリバスジル点眼を使用し,アセダゾラミドを内服していたが,術後C1カ月の時点で眼圧は28CmmHgと高値であった.明らかな虹彩前癒着は観察されなかった.強膜の菲薄化によりトラベクレクトミーやチューブシャント術は困難と判断し,MP-CPC(CycloG6:TOMEY)(power:2,000CmW,dutycycle:31.3%,80秒C×2)を行った.術直後に眼圧はC22CmmHgまで下降したが,術後C8カ月および12カ月に眼圧が上昇したため,再度CMP-CPCを行った.いずれの処置後においても,前房内の炎症の増悪は認められず,下方の一部角膜上皮欠損以外にCMP-CPCによる明らかな合併症は認めなかった.強角膜移植術後C15カ月現在で,左眼の矯正視力は(0.08),眼圧はC16CmmHgであり,角膜の透明性は良好で角膜内皮細胞密度C1,634Ccells/mmC2を維持している.CII考按特発性壊死性強膜炎と真菌性角膜炎後の強膜菲薄化と角膜混濁に対して強角膜移植術を行い,術後の眼圧コントロールにCMP-CPCが有効であった症例を経験した.角膜移植後の眼圧上昇は,全層角膜移植術後でC10.30%7,8),強角膜移植術後でC56.5%2)に生じると報告されている.本症例では角膜移植時にチューブシャント術の併施を検討したが,強膜の菲薄化により困難と予想された.加えて,患者が高齢であるためブレブ管理が困難であると予想され,術後にCMP-CPCを行った.術後C15カ月経過後も,強膜炎と真菌性角膜炎の再燃はなく,強角膜移植片は透明であり良好な眼圧コントロールが得られている.MP-CPCの眼圧下降効果について,TanらはC40眼の検討で術前眼圧C39.3CmmHgから術後C12カ月時点でC26.2CmmHgまで眼圧が低下し,38.0%の眼圧下降効果を報告している9).わが国においても,光田らはC20眼の検討で術前眼圧C32.6mmHgから術後C6カ月時点でC22.2CmmHgまで眼圧が低下し,29.7%の眼圧下降効果を認めている10).本検討においても同様に眼圧低下が得られ,MP-CPCの有効性が確認された.さらに,MP-CPCは繰り返し行うことが可能であり10),本症例でも眼圧の再上昇に対して計C3回のCMP-CPCを行い最終的に良好な眼圧コントロールが得られた.従来行われてきた毛様体光凝固術は,毛様体を破壊し房水産生を減少させる方法であり,術後に眼内の炎症,前房出血,眼球瘻への進行などの合併症が問題であった11).一方,MP-CPCは毛様体扁平部を刺激し,組織間隙を拡大することでぶどう膜強膜流出路の排出を促進しているため,眼組織への侵襲が少ないと考えられている4).本症例でも,術後に前房内に炎症は認められず,特筆すべき合併症は生じなかった.術後の経過観察中,角膜の透明性も維持されており,角膜内皮細胞への影響も小さいことが推察された.強角膜移植術は術後に拒絶反応が起きやすく,ShiらはC17眼の検討でC1カ月以内にC70.5%で拒絶反応が生じたと報告している12).強角膜移植片には角膜,角膜輪部上皮,強膜が含まれるため,抗原性の高い上皮細胞が直接血管の豊富な結膜に接触することにより,拒絶反応のリスクが高くなる13).しかしながら,本症例では術後C15カ月経過した時点で明らかな拒絶反応は観察されなかった.壊死性強膜炎の再発予防目的にプレドニゾロン内服を継続していたことが拒絶反応の予防に寄与した可能性がある.一方で,ステロイドの長期使用によりさらなる眼圧上昇が生じる可能性があり,今後も慎重な経過観察が必要である.今回筆者らは,特発性壊死性強膜炎と真菌性角膜炎の治療後,強角膜移植術を行い,MP-CPCにより良好な眼圧コントロールが得られたC1例を経験した.トラベクレクトミーやチューブシャント術が困難な強角膜移植術後の高眼圧症に対し,MP-CPCは有効な治療法の一つであると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CoboCM,COrtizCJR,CSafranSG:SclerokeratoplastyCwithCmaintenanceCofCtheCangle.CAmCJCOphthalmolC113:533-537,C19922)HirstCLW,CLeeGA:CorneoscleralCtransplantationCforCendCstageCcornealCdisease.CBrCJCOphthalmolC82:1276-1279,C19983)ThatteCS,CDubeCAB,CDubeyCTCetal:OutcomeCofCsclero-keratoplastyCinCdevastatingCsclerocornealCinfections.CJCurrOphthalmolC32:38-45,C20204)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20155)SubramaniamCK,CPriceCMO,CFengCMTCetal:MicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCkeratoplastyCeyes.CCorneaC38:542-545,C20196)LeeJH,VuV,Lazcano-GomezGetal:ClinicaloutcomesofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCaChistoryCofCkeratoplasty.CJCOphthalmol2020:6147248,C20207)杉岡孝二,福田昌彦,日比野剛ほか:近畿大学眼科における全層角膜移植術後の続発緑内障.あたらしい眼科C18:C948-951,C20018)池田和敏,福岡詩麻,臼井智彦ほか:角膜移植術後の続発緑内障に対する線維柱帯切除術の成績.あたらしい眼科C25:219-221,C20089)TanAM,ChockalingamM,AquinoMCetal:Micropulsetransscleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreat-mentCofCrefractoryCglaucoma.CClinCExpCOphthalmolC38:C266-272,C201010)光田緑,中島圭一,谷原秀信ほか:マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術の短期成績.あたらしい眼科C36:C1078-1082,C201911)PantchevaMB,KahookMY,SchumanJSetal:Compari-sonCofCacuteCstructuralCandChistopathologicalCchangesCinChumanCautopsyCeyesCafterCendoscopicCcyclophotocoagula-tionandtrans-scleralcyclophotocoagulation.BrJOphthal-molC91:248-252,C200712)ShiCW,CWangCT,CZhangCJCetal:ClinicalCfeaturesCofCimmuneCrejectionCafterCcorneoscleralCtransplantation.CAmJOphthalmolC146:707-713,C200813)YamagamiS,YokooS,UsuiTetal:Distinctpopulationsofdendriticcellsinthenormalhumandonorcornealepi-thelium.InvestOphthalmolVisSciC46:4489-4494,C2005***

角膜トポグラフィと前眼部OCT の異なる角膜形状解析装置に よる角膜乱視量の比較

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1207.1211,2021c角膜トポグラフィと前眼部OCTの異なる角膜形状解析装置による角膜乱視量の比較加藤幸仁*1小島隆司*2玉置明野*3酒井幸弘*1市川一夫*1*1中京眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科CComparisonofCornealAstigmatismbetweenCornealTopographyandAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyfortheAnalysisofCornealShapeYukihitoKato1),TakashiKojima2),AkenoTamaoki3),YukihiroSakai1)andKazuoIchikawa1)1)ChukyoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalC目的:2種の角膜形状解析装置による角膜乱視量のトーリック眼内レンズ(T-IOL)への影響の検討.対象および方法:対象は角膜トポグラフィと前眼部COCTを測定した角膜C111例C165眼(72.1C±11.6歳).各装置での角膜乱視量とCT-IOLスタイル選択を検討した.結果:Keratometric値の乱視量は角膜トポグラフィ(1.80C±0.69D)が,前眼部OCT(1.75C±0.62D)より有意に大きかった(p=0.0358).前眼部COCTの角膜前後面から計算された角膜全屈折力(Real値)の乱視量(1.79C±0.59D)は,FRCyl(直径C3mm領域内の角膜全屈折力からCFourier解析を用いて計算)の乱視量(1.89C±0.62D)より,有意に小さかった(p=0.0002).Real値の乱視とCFRCyl間で,T-IOLのスタイルに影響する症例はC38%だった.結論:角膜形状解析は,装置によりCT-IOL選択に影響を与えるため注意が必要である.CPurpose:ToevaluatecornealastigmatismamongthetwocornealshapeanalysismethodsandtheimpactontoricCintraocularlens(T-IOL)selection.CSubjectsandMethods:InC165CeyesCofC111subjects(meanage:72.1C±11.6years)withnohistoryofcornealdisease,cornealastigmatismwascomparedbetweencornealtopographyandanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CTheCin.uenceCofCtheCexaminationCvaluesCofCeachCmethodConCtheCT-IOLstyleselectionwasevaluated.Results:Themeankeratometricastigmatismmeasuredbycornealtopogra-phy(1.80C±0.69D)wasCsigni.cantlyCgreaterCthanCthatCmeasuredbyCtomography(1.75C±0.62D)(p=0.0358)C.CTheCmeancylinderderivedfromthecornealtotalpower(Realpower)(1.79C±0.59D)wassigni.cantlysmallerthantheRealCpowerCinCtheCF3CmmCregionCcalculatedCbyCFourieranalysis(FRCyl)(1.89C±0.62)(p=0.0002)C.CWhenCusingCRealpowerastigmatismorFRCyl,thetypeofT-IOLselecteddi.eredin38%ofthecases.Conclusion:CaremustbetakenintheselectionofT-IOLtype,asitisa.ectedbythecornealshapeanalysismethodanddeviceused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1207.1211,C2021〕Keywords:角膜乱視,角膜形状解析,前眼部COCT,プラチドリング,トーリック眼内レンズ.cornealCastigma-tism,cornealtopography,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,Placidoring,toricintraocularlens.Cはじめに角膜屈折力は,角膜形状解析装置の発展により前面のみならず後面の解析も可能となり,後面乱視の重要性が注目されている.角膜屈折力測定におけるゴールドスタンダートであるケラトメータは,欠点として測定点が少ないこと,角膜換算屈折率を用いていることがあげられている1).近年トーリック眼内レンズ(toricintraocularlens:T-IOL)のスタイル選択には,角膜後面を実測した角膜屈折力を用いることが推奨されている2).また,後面を実測して角膜全屈折力を計測する機器は種々開発されている.正常角膜眼において前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)と,Placido式トポグラフィによる角膜前面曲率半径と換算屈折率を用いた推計値(Keratometricpower)である平均角膜屈折力には有意差はないが,乱視量は前眼部COCTが有意に小さいと報告されている3).CSweptCsourceOCTである前眼部三次元画像解析装置〔別刷請求先〕加藤幸仁:〒456-0032愛知県名古屋市熱田区三本松町C12-22中京眼科Reprintrequests:YukihitoKato,ChukyoEyeClinic,12-22,Sanbonmatsu-cho,Atsuta-ku,Nagoyacity,Aichi456-0032,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(75)C1207図1Placido式と前眼部OCTの解析位置青色リング位置(直径C3Cmm)は,Placido式と前眼部COCTの測定位置を示す.Placido式では角膜の曲率半径により計測位置は若干異なる.RealCylは,青色リング位置の角膜前後面の実測と,角膜厚から計算された乱視量をさす.FKCylは,青色リング内の角膜前面を解析領域として計算される乱視量をさす.FRCylは,青色リング内の角膜前後面を解析領域として計算される乱視量をさす.CASIA2(トーメーコーポレーション)は,2017年C10月末より角膜中心の輝線の影響による形状解析精度の改良がされた.これまで直径C3Cmm“位置”での乱視評価であったものが,直径C3Cmm“領域内”の乱視量としてCFourierCKerato-metriccylinder〔FKCyl:推計角膜屈折力から計算されるCKeratometricpowerをCFourier解析し得られた正乱視成分(二次項)の振幅をC2倍にした値〕とCFourierCRealCcylinder〔FRCyl:角膜前後面の実測と角膜厚から計算されたCRealpowerをCFourier解析し得られた正乱視成分(二次項)の振幅をC2倍にした値〕の評価が可能となり,角膜中心に限局した乱視の解析が改善されることが期待される(図1).今回筆者らは,前眼部COCTとCPlacido式(TMS-4A:トーメーコーポレーション)による測定値を比較し,T-IOL選択に及ぼす影響を検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2016年C8月.2017年C10月に中京眼科にて白内障手術前に前眼部COCT(CASIA2)とCPlacido式(TMS-4A)の角膜形状解析装置を用いて角膜形状を測定した連続症例のうち,眼手術歴がなく明らかな角膜疾患がないC111例C165眼である.前眼部COCTによる角膜前面乱視は,直乱視がC54眼,倒乱視がC92眼,斜乱視がC19眼であった.平均年齢はC72.1±11.6歳で,全例CT-IOLを挿入した症例とした.検討項目は,①前眼部COCTとCPlacido式によるCKerato-metricpowerと乱視量(Keratometriccylinder)の比較,②前眼部COCTのソフトウェア改良によるCKeratometricCcylin-derの変化,C③CPlacido式のCKeratometriccylinderと,FKCylの比較および,④ソフトウェア改良後のCRealpowerの乱視(Realcylinder)とCFRCylを比較し,さらに⑤各種乱視量によるCT-IOLスタイル選択の違いについて検討した.本研究においては,強主経線と弱主経線の屈折力の差(乱視量)であるCFKCylおよびCFRCylを算出する屈折力をそれぞれCFKCylpower,FRCylpowerとした.T-IOLのスタイル計算には,Alconのオンラインカリキュレータを用いた.CKeratometricpowerとCFKCylpowerは角膜後面乱視を予測して加味した式であるCBarretttoric式へ,角膜後面乱視が実測されているCRealpowerとCFRCylpowerはCHolladayI式へ代入した.惹起乱視は全例C0.1Dとした.前眼部COCTのCRealpower代入時のCT-IOLスタイルを第一選択として,CRealpowerでのスタイルを基準に,他の角膜屈折力を代入したときのスタイルを比較検討した.また,角膜乱視の相同性の観点から,統計解析を要した①.④については,対象を1例C1眼としC111例C111眼を採用した.両眼症例の場合は,左眼を対象とした.111眼の内訳は,直乱視がC40眼,倒乱視がC63眼,斜乱視がC8眼であった.統計解析にはCGraphPadPrismにてCWilcoxonの符号順位検定を用い,有意水準はC5%未満とした.正規性の検定にはCShapiro-WilkCnormalitytestを用いた.また,異なる二つの乱視量評価にはCBland-Altmanplotを用いた.本研究は中京メディカル倫理審査委員会の承認のもと(承認番号C20181211-01),ヘルシンキ宣言の理念に則り後方視的に行われた.CII結果①改良前の前眼部COCTとCPlacido式のCKeratometricpowerの平均C±標準偏差はC44.48C±1.47DとC44.49C±1.53D,95%許容限界(limitsofagreement:LoA)はC.0.35.0.33D,95%信頼区間(con.denceinterval:CI)はC.0.04.0.02Dで差を認めず(p=0.6546)(図2a),KeratometriccylinderはC1.75±0.62DとC1.80C±0.69D,95%CLoAはC.0.55.0.66D,95%CCIはC0.00.0.11D(p=0.0358)であった(図2b).Placido式とトレース改良前の前眼部COCTのCKeratometriccylinderは,相関係数Cr=0.7871(p<0.0001)で高い相関を示した.また,Keratometriccylinderが2Dを超える症例(28眼)では,前眼部COCTがCPlacido式より小さいものが25眼(89%)であった(図3).乱視軸別のCKeratometriccylinderの比較では,前眼部OCT,Placido式の順に直乱視はC2.04C±0.79DとC2.21C±0.86D(p=0.0009),倒乱視はC1.64C±0.51DとC1.63C±0.54D(p=0.6507),斜乱視はC1.40C±0.37DとC1.57C±0.50D(p=0.0797)で,直乱視症例のみ有意に前眼部COCTのCKeratometriccyl-図2Bland.Altmanplotによる各パラメータの関係実線は差の平均値,点線はC95%許容限界を示す.Ca:Placido式と前眼部COCTの平均角膜屈折力CKeratometricの関係.Cb:Placido式と前眼部COCTの角膜前面の計測値から換算屈折率により推計される角膜乱視量(KeratometricCyl)の関係.Cc:前眼部COCTの改良前後のKeratometric乱視量の関係.Cd:Placido式のCKeratometricCylと前眼部COCTのCFKCylの関係.Ce:前眼部COCTのCRealCylとCFRCylの関係.inderが小さかった.②前眼部COCTのトレース改良によるCKeratometricCcylin-derは,改良前がC1.75C±0.62D,改良後はC1.73C±0.63D,95%LoAはC.0.13.0.03D,95%CCIはC.0.059.C.0.044Dで改良後が有意に小さかった(p<0.0001)(図2c).改良後もCKera-tometriccylinderは,前眼部COCTがCPlacido式よりも平均0.07D有意に小さかった(p=0.0003).乱視軸別に比較すると,直乱視はC2.04C±0.79DとC2.00C±0.77D(p<0.0001),倒乱視はC1.64C±0.51DとC1.61C±0.49D(p<0.0001),斜乱視はC1.40±0.37DとC1.35C±0.36D(p=0.0247)であり,乱視軸に関係なく改良後が小さかった.③CPlacido式のCKeratometriccylinderはC1.80C±0.69D,直径C3Cmm領域内の乱視量CFKCylはC1.81C±0.70Dで,有意差を認めなかった(p=0.5872).95%CLoAはC.0.62.0.65D,95%CIはC.0.04.0.08Dであった(図2d).乱視軸別の比較では,Keratometriccylinder,FKCylの順に直乱視はC2.21C±0.86DとC2.17C±0.79D(p=0.2193),倒乱視はC1.63C±0.54DとC1.63C±0.51D(p=0.6323),斜乱視はC1.57C±0.50DとC1.51C±0.48D(p=0.4828)で,有意差は認めなかった.C④CRealcylinderとCFRCylは,それぞれC1.79C±0.59DとC1.89±0.62Dで,有意にCFRCylが強く(p=0.0002),95%LoAはC.0.67.0.47D,95%CCIはC.0.16.C.0.05Dであった(図2e).乱視軸別の比較では,Realcylinder,FRCylの順に直乱視はC1.77C±0.74DとC1.95C±0.78D(p=0.0002),倒図3Placido式と前眼部OCTの乱視量(KeratometricCyl)の関係乱視はC1.87C±0.48DとC1.91C±0.51D(p=0.1946),斜乱視はC1.33±0.30DとC1.49C±0.43D(p=0.1094)で,直乱視症例のみ有意にCFRCylが強かった.RealcylinderとCFRCylの差が0.5D以上の症例は全体で14眼(12%)であった.RealCcyl-inderとCFRCylにC0.5D以上の差があったC14眼とその他の症例について,Placido式による角膜表面のなめらかさの指標であるCsurfaceCregularityindex(SRI,解析範囲直径C3.4mm,異常値C1.97以上)は,0.66C±0.31とC0.43C±0.25(p=0.0128)で,角膜表面の対称性の指標であるCsurfaceCasym-図4前眼部OCTのRealCylにより計算されたトーリック眼内レンズのスタイルを基準とした際の,他の各種乱視による選択されたスタイル変化の関係左は角膜前面直乱視,中央は角膜前面倒乱視,右は角膜前面斜乱視を示す.緑斜線がCPlacido式,赤横線が改良後Ckeratometricpower,青横線がCFKCylpower,黄色がCFRCylpowerを示す.縦軸は眼数,横軸はスタイル変化を示し,“+”はスタイルアップ,“E”は変化なし,C“.”はスタイルダウン,数字はステップを示す.metryindex(SAI,解析範囲直径C8.8mm,異常値C0.50以上)はC0.66C±0.38とC0.43C±0.24(p=0.0274)でいずれも両群間に有意差を認めた.14眼中,SRIが異常値を示す症例はいなかったが,SAIが異常値を示した症例がC5眼だった.この5眼に関しても角膜屈折矯正手術や円錐角膜などの既往はなく,他眼に角膜疾患も認めず,コンタクト装用者でもないため明らかな角膜異常眼とは確認できなかった.⑤前眼部OCTの改良後Realpowerにより計算されたT-IOLのスタイルを基準とした際のスタイル変化について比較した(図4).直径C3Cmm領域の乱視を評価するCFRCylpowerは,ソフトウェア改良後のCRealpowerと比較し,前面直乱視はC43%,前面倒乱視はC35%,前面斜乱視はC37%がスタイル変更となり,全症例ではC165眼中C62眼C38%でスタイル変更となった.CIII考察今回は前眼部COCTの新たな乱視指標と,Placido式の乱視の差を評価することを目的とした.これまで前眼部COCTとCPlacido式による乱視量に検出原理上,差が出ることが報告されている4,5).今回の対象では,角膜前面直乱視症例にて差が確認できた.今回用いた前眼部COCTは角膜中心近傍のトレース改良に併せ,局所的な形状認識感度を高めるためのソフトウェアの改良がなされた.改良前後のCKeratomet-riccylinderは,改良後が有意に小さい値であったが,平均0.02Dの変化で臨床的な差はないと考えられる.Placido式との比較では,乱視量は改良後も平均値の差はC0.10D程度で臨床的には問題ないと考えられるが,0.5D以上の差を認める症例もC11眼(10%)あった.Keratometriccylinderが2.0Dを超える症例では,前眼部COCTはCPlacido式に比べ乱視量が小さい症例がC89%であり,注意が必要である.この差は計算原理の違いと測定点の数が原因として考えられる.本前眼部COCTはC16本の断層像から常に直径C3Cmm位置のHeightデータによる傾きから曲率半径を計算しており,Pracido式は直径C3Cmm付近に相当するリングと中心点から直接的に曲率半径を求めている.さらにC1リング当たり測定点がC256点あることから涙液を含め鋭敏に最大と最小値を評価していると考えられる.このことからも前眼部COCTではわずかな形状変化を捉えきれていない可能性がある.今後角膜形状異常眼においての形状認識感度を評価する必要がある.一方,前眼部COCTの直径C3Cmm領域内のCKeratometriccylinderを示すCFKCyl(1.81C±0.70D)は,Placido式によるCKeratometriccylinder(1.80C±0.69D)に近い値を示し,ソフトウェアの改良による一定の効果が確認された.T-IOLのスタイル選択において,角膜前面曲率半径と換算屈折率から推計した屈折力を使用した場合,角膜後面乱視の影響により角膜前面直乱視症例は過矯正に,角膜前面倒乱視症例は低矯正となることが考えられ,スタイル変更を考慮することが推奨されている6.10).Preussnerらは,角膜後面乱視はC0.3D程度で影響は小さいものの,最大C1.5Dを示すものもあり,考慮することでCT-IOL挿入による結果の改善が得られると報告している11).一方,岡田らは角膜前面直乱視症例と倒乱視症例でそれぞれ過矯正や低矯正があり,Realpowerを用いても最適なスタイル選択にはつながらなかったと報告している12).T-IOLの選択は,理論的には角膜前後面の実測値による乱視量を計算に使用することで,換算屈折率による推計値より術後乱視は軽減できると考えられるが,術後の乱視矯正効果にはさまざまな要因が関係する.今回の症例から,スタイル選択に使用する式とそれに対応する屈折力を挿入することで選択スタイルは多くの症例で一致することが確認されたが,症例数が少なく,どの乱視量を使用したら最適なトーリックスタイルが算出できるのかを決定づけることは困難であった.今後,多数例でのさらなる検討が必要である.角膜前後面の形状解析による各種乱視パラメータが存在するなか,直径C3Cmm位置での角膜評価であるCRealCcylinderと直径C3Cmm領域内の角膜形状解析によるCFRCylでは,その差がCT-IOLのスタイル変更に影響する症例は,本研究では全体のC38%であった.今回CRealcylinderとCFRCylに0.5D以上の差があった症例は,その他の症例と比較し,Placido式による角膜表面のなめらかさの指標であるCSRIや,角膜表面の対称性の指標であるCSAIともに有意に高いことが示された.今回の対象眼に明らかな角膜疾患が認められなかったが,SAIが異常値を示す症例があり,これらの指標にて不整性が高い場合には,複数の装置による乱視量評価を行ったうえでCT-IOLのスタイル選択をすることが必要である.今後は完全に角膜形状が正常な症例のみで検討する必要があるとともに,角膜の不整性が疑われる場合には,どの角膜形状解析結果を用いるか術前に十分な検討が求められる.最後に今回は角膜形状解析装置による乱視の差の評価を目的としたが,オートケラトメータや光学式眼軸長測定装置に搭載されているケラト値でトーリックスタイルを決めている施設も多く,今後それらも含めて検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)平岡孝浩,上野勇太:角膜後面形状評価の進歩とその臨床的意義.視覚の科学C36:4-11,C20152)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorCcornealCastigmatismCtoCtotalCcornealCastigmatism.CJCataractRefractSurgC38:2080-2087,C20123)橋爪良太,玉置明野,小島隆司ほか:正常角膜眼におけるプラチドリングとシャインプルーフを用いた角膜形状解析装置と前眼部COpticalCCoherenceTonographyによる測定値の比較.日本視能訓練士協会誌C43:241-247,C20144)森秀樹:前眼部COCTによる角膜形状解析の特徴と今後.視覚の科学37:122-129,C20165)池田欣史,前田直之:プラチド角膜形状解析装置の測定原理.角膜形状解析の基礎と臨床(大鹿哲郎編).眼科プラクティスC89,p84-89,文光堂,20026)根岸一乃:度数およびモデル決定.トーリック眼内レンズ(ビッセン宮島弘子編),p65-74,南山堂,20107)KochCDD,CJenkinsCRB,CWeikertCMPCetal:CorrectingCastigmatismCwithCtoricCintraocularlenses:e.ectCofCposte-riorCcornealCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC39:C1803-1809,C20138)柳川俊博:トーリック眼内レンズ挿入術において推奨モデルとC1段階乱視矯正効果の強いモデルを挿入した症例の比較.臨眼C67:717-721,C20139)ReitblatO,LevyA,KleinmannGetal:E.ectofposteriorcornealCastigmatismConCpowerCcalculationCandCalignmentCofCtoricCintraocularlenses:ComparisonCofCmethodologies.CJCataractRefractSurgC42:217-225,C201610)二宮欣彦,小島啓尚,前田直之:トーリック眼内レンズによる乱視矯正効果のベクトル解析.臨眼C66:1147-1152,C201211)PreussnerCPR,CHo.mannCP,CWehlJ:ImpactCofCposteriorCcornealsurfaceontoricintraocularlens(IOL)calculation.CurrEyeResC40:809-814,C201512)岡田あかね,宇野裕奈子,山村彩ほか:角膜前後面屈折力を用いたトーリック眼内レンズモデル選択の検討.日本視能訓練士協会誌C45:143-149,C2016***

点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1203.1206,2021c点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討頓宮真紀*1加治優一*1松村望*2松本雄二郎*1*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター眼科CPainofLacrimalIrrigationWithorWithoutLocalAnesthesiaMakiHayami1),YuichiKaji1),NozomiMatsumura2)andYujiroMatsumoto1)1)MatsumotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenterC目的:涙管通水検査は,涙道疾患の診療でもっとも頻用される検査である.ところが涙管通水検査時に点眼麻酔を用いるべきかどうか,統一した見解がない.本検討では点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みがどのように異なるかを検討した.対象および方法:ボランティアC16名(男性C7名,女性C9名)に対して,右側を点眼麻酔なし,左側を点眼麻酔(0.4%オキシブプロカイン塩酸塩)ありで涙管通水検査を行った.検査に伴う痛みの程度を,視覚評価スケールを用いてC0.100のレベルで評価し,スケールの差についてCWilcoxon符号付検定を用いて統計学的に検討した.結果:痛みの中央値は点眼麻酔前でC15,点眼麻酔後でC17.5であり,涙管通水検査時の痛みには有意差がなかった(p=0.433).点眼麻酔を用いない場合,男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.027).点眼麻酔を用いた場合,男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.026).考按:涙管通水検査を行う際には事前に点眼麻酔薬を投与することが一般的である.しかし,点眼麻酔薬の投与によりアレルギーやショックが誘発されることもありうる.今回の検討の結果,点眼麻酔は涙管通水検査時の痛みに有意な影響を与えないことが明らかになった.さらに女性よりも男性のほうが痛みを訴えやすいという傾向がみられた.涙管通水検査前の点眼麻酔の投与は,必ずしも全例に行うのではなく,患者ごとに選択するという手法もあると考えられた.結論:点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みに大きな差はなかった.涙管通水検査の際,点眼麻酔が不要な場合もあると考えられた.CPurpose:TheClacrimalCirrigationCtestCisConeCofCtheCmostCfrequentlyCusedCtestsCinCtheCtreatmentCofCtearCductCdiseases.However,thereiscurrentlynoconsensusonwhetherornotocularanesthesiashouldbeusedduringthetest.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigatedCtheCdi.erenceCinCpainCduringCtheClacrimalCirrigationCtestCdepend-ingConCtheCpresenceCorCabsenceCofCocularCanesthesia.CSubjectsandMethods:Sixteenvolunteers(7Cmales,C9females)underwentCtheClacrimalCirrigationCtestCinCtheCrightCsideCwithCocularanesthesia(0.4%Coxybuprocainehydrochloride)andintheleftsidewithoutocularanesthesia.Thedegreeofexaminationpainwasratedonascalefrom0to100usingavisualratingscale,andthedi.erencesbetweenthescaleswerestatisticallyanalyzedusingtheWilcoxonsigned-ranktest.Results:Themedianpainwas15beforeand17.5afterocularanesthesia,withnosigni.cantdi.erenceinpainduringthelacrimalirrigationtest(p=0.433)C.Intheabsenceofocularanesthesia,themedianpainwas45formenand10forwomen,withmentendingtoexperiencemorepain(p=0.027)C.Withtheuseofocularanesthesia,themedianpainwas20formenand10forwomen,withmentendingtoexperiencemorepain(p=0.026)C.CConclusion:Thepresenceorabsenceofocularanesthesiamadenosigni.cantdi.erenceinpainatthetimeofthelacrimalirrigationtest,thusindicatingthatanesthesiamaynotbenecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1203.1206,C2021〕Keywords:涙管通水検査,痛み,点眼麻酔.lacrimalirrigation,pain,ocularanesthesia.〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2C-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,M.D.,MatsumotoEyeClinic,2-25Chuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(71)C1203はじめに涙管通水検査は,涙道疾患の診断や治療において頻用される検査手技の一つである.涙管通水検査を行う際に点眼麻酔を併用するかどうかについては,十分に点眼麻酔を行う,角膜に涙洗針が触れる可能性があるときに行う,原則的に点眼麻酔を用いないなど,施設によって異なっていると思われる.涙管通水検査時に行われる点眼麻酔は,検査に伴う疼痛を軽減させるために用いられるが,過去に点眼麻酔が涙管通水検査時の痛みを減らしているかどうか検討した報告はない.点眼麻酔に一般に用いられるオキシブプロカイン(ベノキシール)を点眼されること自体に強い疼痛を感じる場合や,薬剤によるアレルギーやショック反応なども生じうることより,点眼麻酔を用いることなく涙管通水検査を行うことができれば,それに越したことはない.今回,涙管通水検査時において点眼麻酔の有無によって痛みの程度がどのように影響を受けるかについて検討をした.涙管通水検査は涙道疾患を有する患者に対して行われることが多いために,本来はそのような患者に対して涙管通水検査時の痛みについて評価すべきである.しかし,今回バックグラウンドをそろえるために,涙道疾患を有さないボランティアを対象として検討を行うこととした.CI対象および方法ボランティアC16名(男性C7名,女性C9名)を対象とした.同一検者がC2段針を用いて,仰臥位の被験者に,右側は点眼麻酔なし,左側はC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩をC1滴点眼してC20秒後に涙管通水検査を行った.検査直後にそれぞれの側の通水検査に伴う痛みの程度を,視覚評価スケールを用いてC0.100のレベルで評価した.両群間の痛みのスケールの差についてCWilcoxon符号付検定を用いて統計学的に検討した.本研究は松本眼科の倫理委員会で承認を経て行われた.CII結果1.点眼麻酔の有無による痛みの程度の違い被験者ごとの右眼(麻酔なし)と左眼(麻酔あり)の痛みの程度を図1に示す.点眼麻酔の有無で痛みの程度は変わらない場合が多かった.さらに男性のほうが痛みを訴えやすい傾向にあった.痛みの程度の分布を箱ひげ図に示した結果を図2に示す.痛みの中央値は点眼麻酔ありでC15,点眼麻酔なしでC17.5であり,かつ涙管通水検査時の痛みの程度には統計学的な有意差がなかった(p=0.433).C2.痛みの程度と性差点眼麻酔を用いなかった右眼の男女別痛みの程度の分布を図3に示す.男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.027).点眼麻酔を用いた場合の男女別痛みの程度の分布を図4に示す.点眼麻酔を用いた場合,男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.026).CIII考按本検討は涙管通水検査に伴う痛みに対する点眼麻酔の影響を,ボランティアを対象にして検討したものである.結果は,点眼麻酔の有無で痛みの中央値に差はなく,統計学的にも有意差を認めなかった.よって,点眼麻酔により涙管通水検査に伴う痛みが軽減するということは証明できなかった.さらに,点眼麻酔の有無によらず,男性のほうが女性よりも涙管通水検査に伴う痛みを訴えやすい傾向が示された.本検討では,点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みに有意な差を認めなかった.成書によっては,涙洗針が角膜に触れない限り,点眼麻酔は必ずしも必要ないと記載されており,今回も涙洗針は涙点から涙小管にしか触れていなかったことより,痛みを感じにくい状況であった可能性がある.涙点あるいは涙小管上皮には,結膜上皮と同様に痛覚受容器が分布していると考えられるが,丁寧な涙管通水検査の手技により痛みを惹起しなかった可能性がある.涙管通水検査時に痛みを生じる機序として,涙洗針が涙点や涙小管上皮に触れることだけではなく,涙小管や鼻涙管が水圧により拡張することもありうる.さらに涙道に炎症が生じていれば,麻酔が効きにくく,痛覚が通常より過敏になる.しかし,今回は涙道疾患のないボランティアを対象にして行われたために,涙管通水時に涙小管や鼻涙管に加えられる圧力や,粘膜の炎症の影響を検討することができなかった.今後は涙道疾患のある患者に対しても対象を広げる必要があると思われる.また.本検討では,女性よりも男性が涙管通水検査時の痛みを訴えやすい傾向にあった.事実,群発頭痛,ヘルペス後の神経痛,膵炎の痛み,外傷後の痛みなど,男性のほうが痛みの発症頻度の多い疾患もある1).しかしながら,眼科手術後の痛みについては男女差がない2),あるいは女性のほうが痛みを訴えやすい3)という報告がある.動物実験では男性ホルモンであるテストステロンは痛みを和らげ,女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると痛みを感じやすくなることが示されている4).また,エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが痛みの軽減に役立つという報告もある5).痛みの性差については,まだ研究途上であり,今回の検討では,男性のほうが女性よりも痛みを訴えやすかった明確な理由を見出すことはできなかった.涙点が小さいほど涙洗針を涙点より挿入することがむずか1204あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(72)p=0.4336050506040痛みの程度403020痛みの程度3020100点眼麻酔なし(右眼)図1被験者ごとの涙管通水検査時の痛みの程度点眼麻酔の有無によって痛みの程度は変わらない場合が多い.点眼麻酔の刺激により逆に痛みが増強する例もある.Cp=0.0276050痛みの程度403020男性女性100図2涙管通水検査時の痛みの程度分布男女分けずに検討すると,痛みの中央値は点眼麻酔なし(右眼)でC15,点眼麻酔あり(左眼)でC17.5であり,涙管通水検査時の痛みには統計学的な有意差がなかった(p=0.433).Cp=0.0266050痛みの程度403020男性女性点眼麻酔なし点眼麻酔あり点眼麻酔あり(左眼)100図3点眼麻酔なしの涙管通水検査時の痛みの男女差男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値は10,男性のほうが痛みを強く感じる傾向がある(p=0.027).しく,痛みを生じやすくなることも予想される.女性より男性の体格が大きいことが多いため,涙点や涙小管のサイズは男性のほうが女性よりも小さいとは考えにくい.しかし,本研究では涙点の大きさを事前に測定していないために,男性ボランティアにおいて涙点が小さかった可能性は否定できない.点眼麻酔に用いられる薬剤としてオキシブプロカインが広く用いられている.点眼麻酔薬には主剤だけではなく塩化ベンザルコニウムを中心とした防腐剤も含まれている.そのためにたとえ点眼麻酔であったとしても,アレルギー症状やショック6),ぶどう膜炎などを生じることがあることが知られている7).一般に,眼科手術と異なり,涙管通水検査を行う際には同意書などをとることは少ないために,合併症が生じた際には問題となるかもしれない.よって,点眼麻酔を用いることなく涙管通水検査を行うという考えもありうる.実100図4点眼麻酔ありの涙管通水検査時の痛みの男女差男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値は10,男性のほうが痛みを強く感じる傾向がある(p=0.026).際,筆者らの施設では涙管通水検査時に原則として点眼麻酔を用いていないが,眼科医や看護師がともに痛みの少ない検査を行うことができている8).本検討は正常ボランティアを対象としたものであり,涙道疾患の診療にただちに応用することには限界がある.先にも述べたとおり,対象となったボランティアは涙道疾患を有していなかったことより,涙管通水時の内圧の上昇や粘膜の炎症の関与を知ることはできなかった.涙管通水検査を行った検者が右利きであったため,右側と左側の涙道通水検査の手技がまったく同等ではなかった可能性もある.最後に,涙管通水検査についての理解度がボランティアによって異なっており,事前に検査内容を十分に周知させることによって痛みを軽減させることができた可能性がある.今回,筆者らは,涙管通水検査に伴う痛みに対する点眼麻酔の影響について検討をした.限られた条件下であるもの(73)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C1205の,点眼麻酔は必ずしも検査に伴う疼痛を軽減させるわけではないことが明らかになった.すなわち涙道通水検査には,点眼麻酔は必ずしも必須ではないと考えられた.今後,涙道疾患を有する患者を対象に含めることにより,涙管通水検査に伴う痛みの機序を解明するとともに,少しでも苦痛の少ない検査法の確立に寄与できるものと考える.文献1)BelferI:Paininwomen.AgriC29:51-54,C20172)LesinCM,CDzajaCLozoCM,CDuplancic-SundovCZCetal:RiskCfactorsCassociatedCwithCpostoperativeCpainCafterCophthal-micsurgery:aprospectivestudy.TherClinRiskManagC12:93-102,C20163)LesinM,DomazetBugarinJ,PuljakL.FactorsassociatedwithCpostoperativeCpainCandCanalgesicCconsumptionCinCophthalmicsurgery:aCsystematicCreview.CSurvCOphthal-molC60:196-203,C20154)CraftRM:ModulationCofCpainCbyCestrogens.CPainC132(S1):S3-12,C20075)SmithCYR,CStohlerCCS,CNicholsCTECetal:PronociceptiveCandCantinociceptiveCe.ectsCofCestradiolCthroughCendoge-nousCopioidCneurotransmissionCinCwomen.CVersionC2.CJNeurosciC26:5777-5785,C20066)SewellWA,CroucherJJ,BirdAG:Immunologicalinvesti-gationsCfollowingCanCadverseCreactionCtoCoxybuprocaineCeyedrops.BrJOphthalmolC83:632,C19997)HaddadR:FibrinousCiritisCdueCtoCoxybuprocaine.CBrJOphthalmolC73:76-77,C19898)頓宮真紀,松村望,加藤祐司ほか:看護師による涙管通水検査の正確性と安全性.あたらしい眼科C36:415-417,C2019C***1206あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(74)

基礎研究コラム:53.エピジェネティックな転写制御

2021年10月31日 日曜日

エピジェネティックな転写制御エピジェネティックな遺伝子発現制御われわれヒトを含む多細胞生物を構成する細胞はそれぞれ異なる形態や機能をもち,それらが協力しあうことで個体としての生存を可能にします.一方で,細胞のいわば設計図であるゲノムは,当然ながら一つの個体の中では基本的に同一です.また,同じ個体・細胞であっても,生涯にわたって病気や加齢,環境などの変化にさらされ,それに伴い求められる機能も変化していきます.それでは,どのようにして共通の設計図から,多様で柔軟な生命が生み出されるのでしょうか.細胞には,その多様性や柔軟性を実現する仕組みの一つとして,遺伝子発現を臨機応変に変化させる機能が備わっています.そのなかでもCDNA配列に依存せずに(つまり設計図が同一であっても)遺伝子発現を制御するメカニズムが知られており,それを扱う学問領域はエピジェネティクスとよばれます.その物質的な実態として,古くから知られているものとしてはヒストン修飾,DNAメチル化の二つがあります.近年ではゲノムの三次元構造の重要性も新たに明らかにされ,ゲノムワイドな解析手法の普及と相まって新しいエピジェネティックな因子としてトレンドとなっています.網膜発生におけるエピジェネティクス網膜においてもエピジェネティックな発現制御が重要であることが知られています.とくに筆者らが着目している網膜発生においては,ヒストン修飾の重要性が明らかにされています1).ヒストン修飾も数多くありますが,筆者らはそのなかでヒストンCH3のC36番目のリジン残基(H3K36)を脱メチル化図1H3K36脱メチル化酵素の網膜発生への寄与網膜特異的にCH3K36脱メチル化酵素をノックアウトしたところ,桿体細胞の発生に異常が生じた.この酵素にかぎらず,ヒストン修飾をつかさどる複数の酵素が網膜発生に影響を与えることが知られている.福島正哉東京大学医学部附属病院眼科する酵素が桿体細胞の発生に必須であることを明らかにしました(図1,論文投稿準備中).この遺伝子はCDNAのメチル化状態によって局在が変化することが知られており,ヒストン修飾とCDNAメチル化をつなぐプレイヤーとして注目しています.エピジェネティクスの展望近年,超並列シーケンサーの性能向上と解析技術の発展により,網羅的な解析手法がますます一般的になっています.筆者らの扱うヒストン修飾についても,2018年頃から単一細胞レベルでゲノムワイドに解析する手法が複数報告されています2,3).今後はこれまでにない詳細なレベルで遺伝子発現の制御機構が明らかになることは間違いありません.また,医療と関係する話題としては,現時点では発癌との関連に着目した創薬が行われています.とくにヒストンH3K27メチル化酵素であるCEZH2に対する阻害薬は,米国で濾胞性リンパ腫などに対して承認を受けています.今後ターゲットとなる分子や疾患領域が広がっていくことが期待されます.文献1)IwagawaCT,CWatanabeS:MolecularCmechanismsCofCH3K27me3andH3K4me3inretinaldevelopment.Neuro-sciRes138:43-48,C20192)SkeneCPJ,CHeniko.CJG,CHeniko.S:TargetedCinCsituCgenome-wideCpro.lingCwithChighCe.ciencyCforClowCcellCnumbers.NatProtocC13:1006-1019,C20183)Kaya-OkurCHS,CJanssensCDH,CHeniko.CJGCetal:E.cientClow-costCchromatinCpro.lingCwithCCUT&Tag.CNatCProtocC15:3264-3283,C2020(57)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C11890910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:221.強膜バックリング手術後晩期に発症する嚢胞様黄斑浮腫(初級編)

2021年10月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載221221強膜バックリング手術後晩期に発症する.胞様黄斑浮腫(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)の術後合併症のひとつに.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME)があるが,過剰な冷凍凝固による術後炎症や深部バックルによる脈絡膜循環障害など,手術侵襲によって術後早期に発症するものが多い.筆者らは以前にCRRDに対する強膜バックリング手術(scleralbucklingCprocedure:SBP)後C25年を経過した晩期にCCMEが出現したC1例を報告したことがある1).C●症例70歳,男性.左眼はC25年前にCRRDに対するCSBPの既往があり,術後矯正視力C1.0を保持していたが,0.4に低下した.左眼眼底は中心窩近傍に及ぶ色素沈着を伴う境界明瞭な網膜色素上皮萎縮を認めた(図1).下方C2象限には扁平なバックル隆起を認め,OCTでは色素上皮萎縮部位に一致して網膜菲薄化を認め,CMEをきたしていたが,網膜硝子体牽引は認めなかった(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影では色素上皮萎縮部に一致したCwindowdefectを認めた.中心窩にはCCMEによる軽度の蛍光漏出を認めた(図3).トリアムシノロン注や抗VEGF薬注などは選択せず,まずカリジノゲナーゼ内服を開始したところ,6週間後にCCMEはほぼ消退し,視力矯正はC1.0に改善した(図4).C●広範囲の網膜色素上皮萎縮とCME本提示例のような広範囲の色素上皮萎縮および色素沈着は,扁平な若年CRRDにしばしばみられる.術後いったん視力は改善していたことから,術後炎症が遷延してCMEをきたしたとは考えにくい.本提示例と同様に広範囲の色素上皮萎縮をきたす網膜色素変性では,CMEをC10~20%に合併し,その原因として網膜硝子体牽引,色素上皮のポンプ作用障害などがあげられている2).本提示例でも広範囲の色素上皮萎縮によってもともと色素上皮のポンプ作用が低下していたうえに,加齢によって(55)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1初診時左眼眼底写真中心窩近傍に及ぶ広範囲の網膜色素上皮萎縮を認める.図2初診時左眼OCT色素上皮萎縮部位に一致して網膜菲薄化を認め,中心窩にCMEを認める.図3左眼のフルオレセイン蛍光眼底写真網膜色素上皮萎縮部に一致したCwindowdefectと中心窩にCMEによる軽度の蛍光漏出を認める.図4カリジノゲナーゼ内服開始6週間後の左眼OCTCMEはほぼ消退している.さらにその機能が低下し,CMEが発症した可能性がある.中心窩近傍に色素上皮萎縮が及ぶ陳旧性CRRDの術後には,このような軽度のCCMEが術後晩期に生じることがあり,視力低下をきたした場合にはCOCTによる精査が必要である.文献1)角南健太,石崎英介,森下清太ほか:強膜バックリング手術後晩期に発生した.胞様黄斑浮腫のC1例.眼臨紀C9:C441-444,C20162)HirakawaCH,CIijimaCH,CGohdoCTCetal:OpticalCcoherenceCtomographyofcystoidmacularedemaassociatedwithret-initispigmentosa.AmJOphtalmol128:185-191,C1999あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C1187

抗VEGF治療:光線力学的療法の使い道

2021年10月31日 日曜日

●連載112監修=安川力髙橋寛二92.光線力学的療法の使い道荒木敬士五味文兵庫医科大学眼科学教室加齢黄斑変性の治療においては,抗CVEGF薬が第一選択となっている.しかし,抗CVEGF薬に対する治療抵抗例は多く存在し,光線力学的療法(PDT)の再活用も議論されている.本稿では現時点におけるCPDTの適応について述べる.背景光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)は光感受性物質ベルテポルフィンと非発熱性レーザー照射との組み合わせで行われる治療であり,わが国ではC2004年に滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegen-eration:AMD)に対して認可されたが,抗CVEGF薬が登場してからは抗CVEGF薬がCAMD治療における第一選択となり,その高い視力改善効果と簡便さのため,PDTが使用される頻度は少なくなっている.一方で,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCvascu-lopathy:PCV)に対する有効性の高さや,抗CVEGF薬に対する治療抵抗例に対する使用などで,再度注目されてきている.適応症例と使い方以前からCPDTはCPCV症例に有効1)であることが知られていた.PCV以外にも抗CVEGF薬による滲出抑制効果が弱いとされる脈絡膜血管透過性亢進を認める症例や,脈絡膜厚が厚い症例において,抗CVEGF薬とCPDTの併用療法が再燃回数を減らすうえで効果的と報告されている.なお,PDT単独療法は,脈絡膜毛細管板および網膜色素上皮細胞の萎縮や網膜下出血などの副反応を生じることから推奨されておらず,それらの副反応は抗VEGF薬の併用により一定頻度抑制できることが報告されてからは,抗CVEGF薬を併用して行うことが一般的となっている.ポリープ状脈絡膜血管症EVERESTII試験2)において,PCV患者に対するラニビズマブとCPDTの併用群が,ラニビズマブ単独群と比較して視力改善と高いポリープ完全退縮率が得られたことから,ポリープ状病巣の強い退縮効果を期待し,治療回数を減らす目的で初回から併用療法を行うことがある.抗CVEGF薬単独で治療を開始して,反応不良例にはCPDTの追加を早期に行うことも検討すべきである3).図1抗VEGF療法抵抗性の色素上皮.離を伴う1型脈絡膜新生血管例に対する光線力学的療法初診時のCOCT(Ca),フルオレセイン蛍光眼底造影(6分)(b),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(11分)(c)より,1型脈絡膜新生血管と色素上皮.離(PED)を認める.アフリベルセプト硝子体内投与をC3回施行後もCPEDの残存がみられる(Cd).併用CPDT施行したところ,速やかにCPEDは軽快した(Ce).(53)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C11850910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2抗VEGF療法抵抗性のpachychoroidneovasculopathy例に対する光線力学的療法初診時のCOCT(Ca),アフリベルセプト硝子体内投与をC3回施行後のCOCT(Cb).漿液性.離(SRF)の残存を認める.フルオレセイン蛍光眼底造影(10分)(c).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(10分)(d)より,広範囲の脈絡膜血管透過性亢進を認める.併用CPDT施行したところ,速やかにCSRFは消失した(Ce).網膜色素上皮.離を伴う抗VEGF薬抵抗例網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)の存在は,抗CVEGF薬に対する反応不良因子として報告されている.抗CVEGF薬投与にもかかわらず,漿液性CPEDの改善がみられない治療抵抗例(図1)に対しては,抗CVEGF薬とCPDTの併用療法を考慮する.ただし,網膜色素上皮裂孔や網膜色素上皮萎縮などをきたす可能性もあるため,患者に十分に説明し,理解を得たうえで行う必要がある.CPachychoroidneovasculopathy抗CVEGF薬に抵抗性の脈絡膜肥厚を伴うC1型CCNV(図2)に対するCPDTは有用と報告4)されている.PachychoroidCneovasculopathy(PNV)の治療として脈絡膜厚を減らすことは理にかなっており,脈絡膜厚の減少に高い効果を発揮するCPDTは有効と考える.抗VEGF薬併用CPDTは,ポリープの有無にかかわらずPNVにおいて追加治療を減らすために有効と報告5)されているが,今後は長期成績を含めさらなる検討が必要と考える.文献1)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.Ophthalmology115:141-146,C20082)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C20173)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetal:InitialCversusCdelatedCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCfortreatmentofpolypoidalchoroidalvasculopathy.RetinaC35:1569-1576,C20154)LeeJH,LeeWK:One-yearresultsofadjunctivephotody-namicCtherapyCforCtypeC1CneovascularizationCassociatedCwiththickenedchoroid.RetinaC36:889-895,C20165)MikiA,KusuharaS,OtsujiTetal:Photodynamicthera-pycombinedwithanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyCforCpachychoroidCneovasculopathy.CPLoSCOneC16:e0248760,C2021☆☆☆1186あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(54)

緑内障:緑内障疫学研究の新展開

2021年10月31日 日曜日

●連載256監修=山本哲也福地健郎256.緑内障疫学研究の新展開藤原康太九州大学大学院医学研究院眼科学緑内障は視覚障害の主要な原因となり今後さらに増加することが懸念される.緑内障の実態把握,病態解明のためにも継続した疫学研究から得られる追跡データが必要であり,全身因子,遺伝子情報を含めた包括的な関連解析が望まれる.●はじめに緑内障は慢性進行性であり,わが国における視覚障害の主要な原因となっている.緑内障の有病率は加齢に伴い上昇し,超高齢社会を迎えたわが国では緑内障患者が今後さらに増加することが懸念される.わが国においては地域一般住民を対象とした疫学研究が行われているが,緑内障関連の追跡研究のデータは少なく緑内障発症率の報告はない.また,緑内障は多因子疾患であり,全身因子である糖尿病が緑内障のリスクを上昇させるが,詳細な全身因子との関連をみた報告はない.詳細な全身因子を含めた緑内障との関連を検討することは緑内障の病態解明や効率的な発症予防,進展予測のためにも意義がある.本稿では久山町研究から得られた成績を含め,これからの緑内障疫学研究について概説する.C●久山町研究とは久山町研究は,福岡県糟屋郡久山町のC40歳以上の住民を対象とした住民健診を基とする疫学調査である.久山町の人口の年齢分布,職業構成,生活様式,疾病構造は各時代とともに全国統計と差異がなく,久山町住民は偏りのない日本人の代表的なサンプル集団であり,わが国の実態を把握するための疫学調査に適した町であると考えることができる.九州大学眼科学教室ではC1998年からC20年以上にわたり眼疾患調査に参加して地域住民の眼科データを収集している.久山町研究の特色は眼疾患のみではなく全身のさまざまな検査を行うことにより,全身状態を包括的に調査している点である.そのため眼科因子のみならず全身因子と眼疾患との関連が検討可能となる.最近では追跡調査から近視性網膜症の発症率を算出し,時代とともに近視が増えていることも明らかにしている.さらに緑内障有病率調査,追跡調査も開始している.また,久山町では生活習慣病のゲノム疫学研究も行っており,脳梗塞や糖尿病などの生活習慣病に加え眼科疾患の遺伝子解析も進んでいる.これまで日本人における加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子を発見し遺伝子による治療感受性の差異も明らかにしている1).緑内障についても遺伝子情報を含めた全身因子との相互作用,進行因子についての包括的な検討が可能となる.C●緑内障の追跡調査眼科因子や全身因子と緑内障との関連を明らかにするために追跡研究が有用である.追跡研究により因果関係が明確になり発症予防や進展対策につながる.地域住民を対象とした追跡研究から算出される緑内障発症率とその関連因子が報告されている.既報から緑内障発症率を表1地域住民を対象とした開放隅角緑内障発症率と関連因子研究名(報告年)地域追跡期間対象者年齢発症率関連因子VisualImpairmentProject(2002)オーストラリア5年2,448人40歳.0.5%加齢BarbadosEyeStudies(2007)バルバドス9年3,222人40歳.4.4%眼圧↑LosAngelesLatinoEyeStudy加齢,ウエストヒップ比↑,眼圧↑,(2012)米国4年3,939人40歳.2.3%眼軸長↑,角膜厚↓RotterdamStudy(2012)オランダ9.7年3,502人55歳.2.6%マグネシウム↑,女性の非肥満ChennaiEyeDiseaseIncidenceStudy(2014)インド6年4,421人40歳.2.9%加齢,都市,眼圧↑,眼軸長↑YunnanMinorityEyeStudy(2017)中国6年1,520人50歳.1.3%加齢,眼圧↑,近視,高学歴SingaporeIndianEyeStudy(2021)シンガポール6年2,200人40歳.1.4%加齢,眼圧↑,垂直CC/D比↑(51)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C11830910-1810/21/\100/頁/JCOPY眼圧変化(mmHg)-0.4-0.4-0.6-0.6-0.8週あたりの運動頻度(回数)週あたりの運動時間(分)0<23~6701~119120~210210<(n)(975)(290)(328)(278)0(n)(975)(267)(338)(291)0-0.2-0.2-0.74-0.74-0.94†-1.03*眼圧変化(mmHg)-0.8-1-1-1.2-1.2-1.4-1.4図1運動頻度・運動時間別にみた5年間の眼圧変化対象者は久山町在住のC40歳以上の男女C1,871人.期間はC2007.2012年.運動頻度・運動時間の増加とともにC5年間の眼圧変化は有意に減少した(p<0.05).多変量調整.調整因子:年齢,性別,収縮期血圧,糖尿病,血清総コレステロール,HDLコレステロール,BMI,腹囲,喫煙,飲酒,ベースライン眼圧,労作時の活動強度.*p<0.05vs0回/週Cor0分/週,†傾向性Cp値<0.05比較すると,米国からの報告では開放隅角緑内障のC4年発症率はC2.3%,オーストラリアからの報告ではC5年発症率はC0.5%,シンガポールでのC6年発症率はC1.4%であり,人種差や地域差を認めることがわかっている(表1).緑内障発症の関連因子については眼科的因子である眼圧上昇や近視との有意な関連を認めているが,全身疾患との関連は十分に検討されていない.また,わが国において地域住民を対象とした緑内障発症率の報告はない.緑内障有病率が他国と比べ高く2),また正常眼圧緑内障が多い特徴をもつわが国での追跡データの報告が必要とされ,さらに詳細な全身疾患との関連を検討する必要がある.C●追跡データから得られた運動習慣と眼圧変化との関連緑内障の進行と関連する眼圧は全身因子の影響を受けることが知られており,眼圧と関連する全身因子はこれまで多数報告されている.有酸素運動をすることで眼圧が一時的に低下するという報告や,筋力トレーニングなどの等尺性運動により一時的に眼圧が上昇するという報告がある.しかしながら運動習慣が長期の眼圧変化に与える影響についての報告はない.筆者らは久山町の地域一般住民を対象として運動習慣(散歩を含むすべての運動)と眼圧変化との関連を検討した.追跡データの成績から,運動習慣がない群でのC5年間の眼圧変化C±標準偏差は-0.73CmmHg±1.8,運動習慣がある群での眼圧変化は-0.97CmmHg±1.9となり,運動習慣がある群で有意に眼圧は低下した(p=0.01)3).さらに週あたりの運C1184あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(文献C3より改変引用)動頻度・運動時間が増えると眼圧は低下し,眼圧に関連する交絡因子(年齢,性別,収縮期血圧,糖尿病,血清総コレステロール,HDLコレステロール,BMI,腹囲,喫煙,飲酒,ベースライン眼圧,労作時の活動強度)を考慮した多変量解析でもこの関係は変わりなかった(図1).本報告は追跡研究から得られた眼科データを用いており,生活習慣である運動習慣が眼圧変化に影響を与える重要な疫学エビデンスである.C●今後の展望緑内障の実態把握,病態解明のためにも継続した調査から得られる追跡データの成績が必要である.それに加え全身因子,遺伝子情報を含めた網羅的解析も重要である.今後は追跡調査のデータとゲノム解析の結果から得られた遺伝的要因を組み合わせた包括的な緑内障研究が期待される.文献1)ArakawaCS,CTakahashiCA,CAshikawaCKCetal:Genome-wideassociationstudyidenti.estwosusceptibilitylociforexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCtheCJapa-nesepopulation.NatGenetC43:1001-1004,C20112)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieCMCetal:TajimiCStudyCGroup,CJapanCGlaucomaSociety:TheCprevalenceCofCprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Oph-thalmologyC111:1641-1648,C20043)FujiwaraCK,CYasudaCM,CHataCJCetal:Long-termCregularCexerciseCandCintraocularpressure:theCHisayamaCStudy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC257:2461-2469,C2019(52)

屈折矯正手術:ICLの長期成績

2021年10月31日 日曜日

監修=木下茂●連載257大橋裕一坪田一男257.ICLの長期成績北澤世志博サピアタワーアイクリニック東京CImplantablecollamerlens(ICL)はC20年以上の長期実績があり,臨床成績も良好である.またホールCICLにより懸念事項であった術後の白内障や緑内障も解決され,今後は屈折矯正手術の中心になると思われる.●はじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)はC1989年にPallikalisが施行してから屈折矯正手術の中心を担ってきたが,近年その主役はCLASIKからCimplantableCcolla-merlens(ICL.CStaarSurgical社)に代わりつつある.その理由は,LASIKではドライアイや術後視機能の低下,長期的に視力が低下するリスクが高いのに対して,ICLはこれらの欠点が補えること,そしてリバーシブルであることが利点であり,1993年から現在の素材Ccolla-merが使用され長期臨床経過が報告されている.ICLはレンズ中心に穴のない時代には術後に眼圧上昇や白内障が起こることがあったが,ホールCICL(VisianICLKS-AquaPORT)の普及により術後合併症は激減した.本稿ではCICLの今後の展望を考えるうえで重要なCICLの長期臨床成績と術後合併症について検討した.C●ICLの長期成績の報告Shimizuらは,片眼にホールのないCICLを僚眼にホールCICLを挿入した術後C5年の成績で,術後視力や屈折度,視機能に有意差はなかったと報告している1).ホールのないCICLはすでにC10年を超える長期臨床報告が多数あり,術後裸眼視力や矯正精度は良好であるが,白内障発症率が高い.一方,ホールCICLについてはCPackerがC4,196眼の文献レビューを報告しており,前.下混濁0.49%,白内障手術C0%,瞳孔ブロックC0.04%と少ない2).また,Nakamuraらは白内障手術のために摘出したCICL(平均挿入期間C10.5年)を解析したところ,分光透過性は新品と変わりなく,電子顕微鏡的にも異常がなかったと報告しており3),ICLの素材Ccollamerの長期安全性が確認されている.C●ICL多数症例の長期臨床成績筆者が2007年11月~2021年4月に施行したICL5,146例C10,218眼(うちホールCICL4,224例C8,397眼)の臨床結果をまとめた.屈折度と視力は術後C5年以上経過を追えたホールのないCICL109例C212眼とホールICL280例C560眼で比較し,術後合併症は全例で検討した.等価球面屈折度は術後やや近視化したが,術後C5年でCICL-0.24D,ホールCICL-0.21Dであった(図1).また,裸眼視力CLogMAR(換算少数視力)は術後C5年で-0.13(1.35)とC0.12(1.32)(図2),裸眼視力C1.0以上はC89.6%とC91.1%,1.5以上はC62.3%とC63.6%,矯正精度は±0.25D以内がC59.0%とC66.1%,C±0.50D以内が81.1%とC80.4%と良好な結果であった.眼圧は術後C5年でC14.2C±2.7CmmHgとC13.6C±2.7CmmHg(図3),角膜内皮細胞密度はC2,844.1C±364.5個/mmC2とC2,838.7C±428.6個/mmC2で有意差なく,術前からの減少率はC4.1%とC4.9%で有意差はなかった(図4).術後合併症(表1)は,ICLで緑内障発作や浅前房で虹彩切開を施行した症例がC47眼(2.58%),白内障手術がC5眼(0.27%)あったが,ホールCICLではいずれもC0眼(0%)であり,ホールの存在が緑内障や白内障のリスク回避に寄与していた.また,トーリックの軸ずれ再固定はCICL25眼(1.37%),ホールCICL52眼(0.51%),サイズ交換がC26眼(1.43%)とC13眼(0.13%)で,いずれもホールCICLで有意に少なかった.度数交換はCICL2眼(0.11%)に対してホールCICL25眼(0.24%)と多かったが,ICLでは残余屈折異常に対して追加CLASIK16眼(0.88%)を施行していたが,ホールCICLでは追加CLASIK9眼(0.09%)ではなく度数交換を推奨したためである.本人希望による抜去はCICL2眼(0.11%),ホールCICL20眼(0.20%)あった.また,眼内炎が各C1眼(0.05%とC0.01%)あったが,いずれもいったんCICLを抜去し,前房洗浄からC6カ月後に再挿入して視力は改善し経過良好である.そのほかCICLで術前の虹彩切開のYAGレーザーの影響と思われるC20%以上の角膜内皮細胞減少がC1眼(0.05%)みられた.またホールCICLでは中毒性前眼部症候群が一定期間に連続してC7眼(0.08%)起きたが,ステロイドの頻回点眼と内服で軽快した.(49)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C11810910-1810/21/\100/頁/JCOPY2.0-1.00.0-2.00.0-4.0等価球面屈折度(D)-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0logMAR(少数視力)(1.0)1.0(0.1)2.0(0.01)術前6M1Y2Y3Y5Y*:p<0.05,n.s.:notsigni.cant,対応のないt検定*:p<0.05,n.s.:notsigni.cant,対応のないt検定図1ICLとホールICLの等価球面屈折度の経時的変化図2ICLとホールICLの裸眼視力の経時的変化ICLとホールCICLの等価球面屈折度は全期間で有意差なく良ICLとホールCICLの裸眼視力は全期間で有意差なく良好である.好で正視に近い.)20.018.016.03,500.0角膜内皮細胞密度(個/mm23,000.02,500.02,000.01,500.01,000.0500.00.0眼圧(mmHg)14.2D14.012.010.08.06.04.013.6D2.00.0術前6M1Y2Y3Y5Y術前6M1Y2Y3Y5Y*:p<0.05,n.s.:notsigni.cant,対応のないt検定*:p<0.05,n.s.:notsigni.cant,対応のないt検定図3ICLとホールICLの眼圧の経時的変化図4ICLとホールICLの角膜内皮細胞密度の経時的変化ICLとホールCICLの眼圧は全期間で有意差なく安定している.ICLとホールCICLの角膜内皮細胞密度は全期間で有意差なく経年変化内である.表1ICLとホールICLの術後合併症・追加処置のまとめICL(C1,821眼)ホールCICL(C8,397眼)p値(c2検定)緑内障発作16眼(C0.88%)0眼(0C.00%)<C0.001予防的虹彩切開・切除31眼(C1.70%)0眼(0C.00%)<C0.001再固定(軸ずれ)(外傷脱臼)25眼(C1.37%)3眼(0C.16%)52眼(C0.51%)1眼(0C.01%)<C0.001<C0.001入れ替え(サイズ)(度数)26眼(C1.43%)2眼(0C.11%)13眼(C0.13%)25眼(C0.24%)<C0.001C0.008追加CLASIK16眼(C0.88%)9眼(0C.09%)<C0.001抜去(本人希望)白内障手術2眼(0C.11%)C5眼(0C.27%)20眼(C0.20%)0眼(0C.00%)<C0.001C0.106眼内炎1眼(0C.05%)1眼(0C.01%)<C0.001角膜内皮細胞減少1眼(0C.05%)0眼(0C.00%)<C0.001中毒性前眼部症候群0眼(0C.00%)7眼(0C.08%)<C0.001合計128眼(C7.03%)C128眼(C1.25%)<C0.001LASIKは非眼科専門医による手術や美容系クリニックによる価格破壊などにより,LASIKバブルが崩壊し,症例数が減少した.その一方,ICLは眼科専門医の白内障術者が一定水準以上の技量をもって適正な価格で手術を提供することが継続できれば,LASIKとは違う道を歩み,近い将来屈折矯正手術の第一選択肢になると思われる.文献1)ShimizuCK,CKamiyaCK,CIgarashiCACetal:Long-termCcom-parisonofposteriorchamberphakicintraocularlenswithandCwithoutCaCcentralhole(holeCICLCandCconventionalICL)implantationCforCmoderateCtoChighCmyopiaCandCmyo-picastigmatism:Consort-compliantarticle.Medicine(Bal-timore)95:e3270,C20162)PackerM:TheImplantableCollamerLenswithacentralport:reviewoftheliterature.ClinOphthalmol27:2427-2438,C2018C●おわりにICLの執刀にはライセンスの取得が必要で,2021年3)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Long-terminvivostabilityCofCposteriorCchamberCphakicCintraocularlens:PropertiesCandClightCtransmissionCcharacteristicsCofC5月末時点でC281名のライセンス取得医師がいる.Cexplants.AmJOphthalmolC219:295-302,C2020C1182あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(50)

眼内レンズ:外傷性虹彩離断を伴う成熟白内障に対する手術

2021年10月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋419.外傷性虹彩離断を伴う成熟白内障に松島博之獨協医科大学眼科学教室対する手術外傷による虹彩離断と角膜内皮減少を伴うMorgagni様成熟白内障を有する患者に対して,離断部を利用して水晶体を娩出したあとに,虹彩縫合と強角膜切開創の縫合を同時に行う手術戦略を立てたことで,角膜の透明性を保ったまま白内障手術を行うことが可能であった.●はじめに外傷によって虹彩離断を認める患者では水晶体亜脱臼を合併していることが多く,離断した虹彩が手術の邪魔をするので,むずかしいケースとなる.さらに白内障のグレードが高い場合は術前の戦略が重要である.本稿の症例は,さらに角膜内皮細胞数の減少を伴っていたので,角膜内皮細胞に対する負担を恐れて超音波乳化吸引術を選択肢からはずし,水晶体.内摘出術+虹彩縫合+強膜内固定術を施行し,良好な経過であったので報告する.●症例65歳,男性.50年前に右眼打撲の既往あり.視力低下のため近医を受診し,白内障の進行が認められ,手術目的で紹介となった.前立腺癌の治療歴はあるが他に特記すべき既往はない.右眼10時から2時部位にハンモック状虹彩離断と茶色いMorgagni様核を有する成熟白内障を認めた(図1).術前右眼視力は0.01(矯正不能),角膜内皮細胞数は875cells/mm2であった.虹彩離断部より脱出した硝子体が観察されたので,水晶体.内摘出術を予定した.Tenon.下麻酔後,10mmの強角膜切開創を作製し(Morgagni様であったため水晶体核は小さいと判断した),分散型眼粘弾剤シェルガン(参天製薬)で角膜内皮細胞を保護しながら,リンピを用いて離断した虹彩の下から褐色水晶体を摘出した(図2).摘出後,脱出硝子体の処理を行い,強角膜切開創を10-0ナイロン糸で縫合した.離断した虹彩の整復のため,強角膜切開創直下にVランスで穿孔創を作製し,離断虹彩を穿孔創に嵌頓させた状態で,強角膜切開創の縫合と同時に虹彩縫合も施行した.縫合時に虹彩整復部位と強角膜切開創縫合部位を一致させることで,創口閉(47)鎖と虹彩整復を同時に行う工夫をした.その後,NX-70(参天製薬)を用いてダブルニードルフランジ強膜内固定術1)を施行した.離断後長期経過していたため,虹彩は少し楕円になった(図3)が,眼内レンズの位置は良好で,術後2週間後の右眼視力は0.15(0.4×sph+0.5D(cyl-3.5DAx10°)と改善した.●考按外傷によって虹彩離断を有するケースでは,離断部に一致してZinn小帯断裂を有することが多く,前.切開後に水晶体.拡張リング(HOYA)を挿入し,超音波乳化吸引術を施行することが多い2).この場合,水晶体核硬度のグレードが低いことが手術可能な条件であり,進行した白内障ではZinn小帯断裂が進行してしまうこともある.超音波乳化吸引術の場合,離断部から脱出した硝子体が嵌頓する可能性があるので,白内障手術のための切開創は離断部から離す.しかし,今回は特殊症例で,術前から角膜内皮細胞数減少があったため,超音波乳化吸引による角膜侵襲を恐れて水晶体.内摘出術を選択した.水晶体核も褐色に着色しており,核破砕吸引がむずかしく時間がかかり,角膜内皮細胞の手術侵襲による減少から水疱性角膜症の発生が予測できたため,核硬度の高い白内障でもできるだけ角膜内皮細胞に対する負担が少ない術式を選択した.術前の戦略として,虹彩離断の範囲が広かったので,水晶体.内摘出術のための切開創を虹彩離断部がある12時を中心に作製することにした.散瞳状態が悪い場合,通常通りに水晶体を娩出すると圧出される水晶体によって虹彩が引き伸ばされ,虹彩離断が拡大し虹彩萎縮が生じる可能性がある.今回は,離断部位を利用し離断部の中を通して水晶体を娩出することで,大きい水晶体を最小限の組織侵襲で摘出することができた.さらにもう一つ工夫したのが,虹彩縫あたらしい眼科Vol.38,No.10,202111790910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1術前写真外傷のため広範囲に離断した虹彩と成熟白内障がみられる.図3術後写真虹彩は整復されているが,縫合のために上方へ偏位している.図2実際の手術手順a:Tenon.下麻酔後,10mmの強角膜3面切開を作製.b:分散型眼粘弾剤で角膜内皮細胞を保護しながら,リンピを用いて離断した虹彩の下から褐色水晶体を摘出.c:虹彩の整復のため,強角膜切開創直下にVランスで穿孔創を作製し,離断虹彩を穿孔創に嵌頓させ,強角膜切開創と同時に虹彩縫合.d:ダブルニードルフランジ強膜内固定術.合と強角膜切開創の縫合を同時に行ったことである.虹彩縫合用の強膜穿孔を強角膜切開創と平行に作製することで創口を閉じながら虹彩根部を縫合することが可能となった.今回の手術戦略によって角膜の透明性を保ったまま虹彩整復と水晶体.内摘出術および眼内レンズ強膜内固定術を行うことができた.外傷後の白内障は症例が少ないことに加え,各々の症例で状態が異なり,術者の経験値と手術力を問われる.正解をみつけることはむずかしいが,水晶体および周辺組織の状態をじっくり観察し,状況にあった手術戦略を考えることが重要である.文献1)YamaneS,SatoS,Maruyama-InoueMetal:Flangedintrascleralintraocularlens.xationwithdouble-needletechnique.Ophthalmology124:1136-1142,20172)松島博之:外傷性白内障,水晶体亜脱臼・脱臼.OCULIS-TA56:57-66,2017