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硝子体手術のワンポイントアドバイス:脳梗塞を合併したTerson症候群に対する硝子体手術(初級編)

2021年7月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載218218脳梗塞を合併したTerson症候群に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにTerson症候群はくも膜下出血に続発する硝子体出血で,出血が遷延する症例では硝子体手術の適応となる.くも膜下出血の発症早期に,脳血管攣縮より脳梗塞を併発することがあるが,脳梗塞がTerson症候群の視機能に影響を及ぼしたとする報告は少ない.筆者らは以前に脳梗塞を併発したTerson症候群に対して硝子体手術を施行した1例を経験し報告したことがある1).●症例52歳,男性.前大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し,経過中に左側頭葉の梗塞をきたした(図1).約1カ月間,意識不明の状態であったが,意識回復した際に両眼の視力低下を訴え眼科受診となった.両眼とも硝子体出血のため上方の一部を除いて眼底透見困難で,矯正視力は眼前手動弁であった.Goldmann視野検査では両眼とも左側~下方周辺部のみイソプターを認め,出血による視野障害に加えて,脳梗塞による右同名半盲が疑われた(図2).両眼とも硝子体手術を施行し,右眼は術後矯正視力0.9を得たが,左眼は脳梗塞による視野障害がより中心近くまで認められ,黄斑萎縮も加わり矯正視力は0.2に留まった(図3).●脳梗塞を合併するくも膜下出血くも膜下出血後に生じる脳障害には,早期脳損傷(earlybraininjury:EBI)と遅発性脳損傷(delayedbraininjury:DBI)がある.EBIはくも膜下出血発症数分以内で脳血管攣縮発症前に生じる脳損傷の総称である.一方DBIは脳血管攣縮期に生じる脳障害で,その発症には脳血管攣縮のほかにEBI,静脈還流障害などが複合的に関与すると考えられている.過去にEBIがDBIや脳梗塞の原因になるとする報告や,脳梗塞とくも膜下出血を同時に呈した可逆性脳血管攣縮症候群の報(79)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1頭部MRI画像左側頭葉に脳梗塞を認めた().(文献1より引用)ab図2術前Goldmann視野検査(a:右眼,b:左眼)(文献1より引用)ab図3術後Goldmann視野検査(a:右眼,b:左眼)(文献1より引用)告などがある.●脳梗塞を合併するTerson症候群の特徴くも膜下出血に脳梗塞を併発すると全身状態がより悪化し,意識レベルも低下することが多いため,硝子体出血の発見が遅れる可能性がある.また,術前の視野検査では硝子体出血に加えて脳梗塞による視野障害が加わるため評価が複雑となり,術後視力の予測が単純硝子体出血例よりもむずかしい.脳梗塞を合併するTerson症候群では,術後視機能が脳梗塞による視野障害の影響を受ける可能性を念頭においたうえで,硝子体手術を施行する必要がある.文献1)許勢文誠,宮本麻起子,清水一弘ほか:脳梗塞を合併したテルソン症候群に対して硝子体手術を施行した1例.臨眼,印刷中あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021809

抗VEGF治療:硝子体内注射後の感染性眼内炎とその対策

2021年7月31日 土曜日

●連載109監修=安川力髙橋寛二89.硝子体内注射後の感染性眼内炎と盛岡正和高村佳弘福井大学医学部眼科学教室その対策硝子体内注射後の感染性眼内炎は,いったん発症してしまうと重篤な視力障害を残しうるため,何よりも予防が大切になる.そのために用いられるヨウ素系消毒薬と抗菌点眼薬について,最新の臨床研究結果を交えて概説する.感染性眼内炎:概要硝子体内注射のもっとも重篤な合併症は細菌による感染性眼内炎である.その発生頻度はおおむねC0.01~0.26%程度と報告されており1),比較的まれな合併症といえるものの,一度発症してしまうと重篤な視力障害を残すことも多い.原因菌としては,眼表面の常在菌であるStaphylococcus属や,口腔内常在菌であるCStreptococcus属などが多いと報告されている.典型例では注射翌日から数日の間に進行する急激な視力低下で発症し,前眼部および後眼部に高度な炎症を生じる(図1,2).CPA・ヨードによる予防の重要性感染予防のためには,日本網膜硝子体学会による黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン2)を参考に,十分注意した注射手技が大切になる.術者・介助者のマスクの着用,術者の手指消毒および滅菌手袋着用,眼瞼・睫毛・眼周囲皮膚の消毒,さらに滅菌開瞼器の使用が必要な手順としてガイドラインに明記されており,これらを必ず遵守する.そしてもっとも重要と考えられるのが,ポビドンヨード(イソジンなど)やヨウ素・ポリビニルアルコール点眼・洗眼液(PA・ヨード)などのヨウ素系消毒薬による結膜.の消毒である(ただし日本で結膜.の消毒に適応を有するのはPA・ヨードのみ).その理由は,ヨウ素系消毒薬による消毒が適切に行われていれば,点眼抗菌薬使用の有無にかかわらず,眼表面の細菌数を十分に減らすことができると報告されているからである.細菌の代謝に作用する抗菌薬とは異なり,ヨウ素系消毒薬は遊離したヨウ素が細菌の膜蛋白を直接障害して薬効を発揮するため,薬剤耐性菌を増加させないという利点がある.使用においては,適切な濃度で十分な作用時間を設けることが重要である.ヨウ素系消毒薬は,製剤を原液で用いるよりも希釈したほうが殺菌力は強まるが,それと同時に角膜上皮への悪影響も懸図1硝子体内注射後に生じた感染性眼内炎の前眼部写真注射後C1日で発症.前房蓄膿と前房内細胞浮遊がみられる.図2感染性眼内炎の眼底所見図C1と同じ症例.網膜血管の白線化と網膜出血の散在を認める.硝子体混濁のため,後極部は透見不能となっている.(77)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C8070910-1810/21/\100/頁/JCOPY表1硝子体内注射後の眼内炎発生率の比較(抗菌点眼薬使用方法別)AntibioticuseCNo.offacilitiesCNo.ofinjectionsCNo.ofendophthalmitisCIncidentrate(%)95%Con.denceintervalCNoneC3C19,738C1C0.0050.000894~C0.0287%CPreinjectiononlyC1C10,903C1C0.0090.00162~C0.0519%CPostinjectiononlyC4C33,433C4C0.0120.00465~C0.0308%CPre-andpostinjectionC10C83,366C4C0.0050.00187~C0.0123%CTotalC18C147,440C10C0.0070.00368~C0.0125%抗菌点眼薬の使用方法はC4種類に分類した.いずれの群においても眼内炎発生率は低く,群間で有意な差はなかった.(文献C4より引用)念される.よって,PA・ヨードであれば添付文書通りにC4~8倍に希釈して使用すれば,眼表面で涙液などによってさらに薄まっても十分な殺菌作用が期待でき,角膜上皮への影響も最小限にすることができる.抗菌点眼薬予防的投与の是非一方でレボフロキサシン(クラビット)やガチフロキサシン(ガチフロ)に代表される抗菌点眼薬は,ガイドライン上は術者が使用有無を判断するとされており,必ずしも必須であるとは記載されていない.しかし,現在日本で使用できる硝子体内注射薬のうち,アフリベルセプト(アイリーア),ラニビズマブ(ルセンティス),トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド)は注射前後3日間の広域抗菌点眼薬の使用が添付文書に明記されている.一方,米国の硝子体内注射ガイドラインでは,抗菌点眼薬は眼内炎リスクを低下させるエビデンスに乏しいため不要で,ヨウ素系消毒薬の使用が予防にもっとも重要であるとされている3).抗菌薬の使用は耐性菌を生じる可能性があり,度重なる使用でそのリスクは上昇する.硝子体内注射自体が何度も繰り返して行われる治療であるため,抗菌薬点眼による予防をルーチンで行うと,注射をするたびに眼表面に耐性菌を生じる危険性が増していく.このような背景から,日本でも患者に十分な説明を行って,抗菌薬点眼の予防的投与を行わずに硝子体内注射を施行する施設が出てきている.筆者らの施設が主導して国内C18施設が参加した多施設共同研究では,2015~2019年のC5年間に各施設で施行された全硝子体内注射を集計し,抗菌薬点眼投与方法別で眼内炎発生率を比較検討した4).すると,合計で約C14万件の注射件数のうち,約C2万件が抗菌薬を使用せずに注射されていたが,抗菌薬の使用方法で眼内炎の発生率に有意な差は認められなかった(表1).また,眼内炎を発症したC10症例のうち原因菌を検出できたのがC8症例あったが,そのうち5症例で薬剤耐性菌が検出されていた.したがって欧米での先行研究と同様に,抗菌点眼薬に眼内炎予防効果は認められず,むしろその使用で薬剤耐性菌を生んでしまっているといえる.臨床現場では注射薬の添付文書に則り,耐性菌の発生を危惧しながら抗菌点眼薬による予防を続けている眼科医も多いと推察されるが,上記のような結果を考慮すると,今後は日本においても抗菌薬点眼薬を用いない硝子体内注射を検討する段階にあると考えられる.文献1)Menchini,CF,CToneattoCG,CMieleCACetal:AntibioticCpro-phylaxisCforCpreventingCendophthalmitisCafterCintravitrealinjection:asystematicreview.EyeC32:1423-1431,C20182)小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20163)AveryCRL,CBakriCSJ,CBlumenkranzCMSCetal:Intravitrealinjectiontechniqueandmonitoring:Updatedguidelinesofanexpertpanel.RetinaC34:S1-S18,C20144)MoriokaCM,CTakamuraCY,CNagaiCKCetal:IncidenceCofCendophthalmitisCafterCintravitrealCinjectionCofCanCanti-VEGFCagentCwithCorCwithoutCtopicalCantibiotics.CSciCRepC10:22122,C2020☆☆☆808あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021(78)

緑内障:緑内障と間違えやすい視神経疾患(1)

2021年7月31日 土曜日

●連載253監修=山本哲也福地健郎253.緑内障と間違えやすい視神経疾患(1)坂本麻里神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野「緑内障と間違えやすい視神経疾患」の第C1回は,緑内障と間違えやすい視神経乳頭の形状異常である上方視神経乳頭低形成と巨大乳頭について,症例を交えて概説する.どちらも非進行性の先天異常で治療の必要はないが,緑内障を合併することがあり,注意が必要である.●はじめに視神経乳頭の形状異常である上方視神経乳頭低形成(superiorCsegmentalCoptichypoplasia:SSOH)と巨大乳頭(megalopapilla)について,実際の症例を交えながら概説する.C●上方視神経乳頭低形成部分視神経低形成は視神経の先天異常で,上方,鼻側,下方でみられるが,上方~鼻側にかけての部分低形成であるCSSOHの頻度が高い.視神経乳頭上方(とくに上鼻側)リムの菲薄化と同部位の神経線維層欠損(nerve.berClayerdefect:NFLD),上方乳頭周囲のハロー,網膜血管の上方偏位が特徴とされる.視野検査では下方周辺からCMariotte盲点に連続する楔状の視野欠損を認めるが,視野障害の自覚はないことが多い.Humphrey視野検査における緑内障との鑑別のポイントとして,視野欠損が水平経線に到達するかどうか,という点があげられ,到達するものは緑内障,しないものはCSSOHを疑う.また,Goldmann視野検査は両者の鑑別に有用であり,行うことが強く推奨される.山本らの報告によると,多治見スタディにおけるC40歳以上の日本人の有病率はC0.3%であった1).SSOHは先天異常であり,その乳頭形状や視野障害は通常進行しないといわれているが2),山崎らは両眼性のCSSOHの片眼に正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)を合併し視野障害が進行した症例を報告している3).また,LeeらはCSSOHの約C20%に開放隅角緑内障の合併を認めたと報告している4).したがって,SSOHであっても眼圧や視野検査など定期的に経過観察を行い,緑内障の合併に注意する必要がある.症例を提示する.25歳の女性で自覚症状はなく,無(75)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPYabcde初診時6年後図1高眼圧症および上方視神経乳頭低形成の症例a:眼底写真.視神経乳頭上方のリムの菲薄化(),周囲のハロー(),網膜血管の上方偏位と,上方から鼻側にかけて広く神経線維層欠損を認める.Cb:光干渉断層計.上方の乳頭周囲網膜神経線維層の菲薄化を認める.c:Goldmann視野検査.Mariotte盲点から下方にかけて扇状に広がる視野欠損を認める.d:Humphrey視野検査.下方周辺からCMariotte盲点に連続する視野欠損を認める.e:6年後のCHumphrey視野検査.視野障害の進行はない.治療時の眼圧がC23CmmHg(中心角膜厚正常)と高眼圧のため視野検査を行ったところ視野障害がみつかった.視神経乳頭は上方リムの菲薄化とその周辺にハロー,網膜動静脈の上方偏位と,上方から鼻側にかけて広いNFLDを認めた(図1a).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)では上方の乳頭周囲網膜神経線維層の菲薄化を認め(図1b),Goldmann視野検査ではCMariotte盲点から下方にかけて扇状に広がる視野欠損を認め(図1c),Humphrey視野検査では下方周辺かあたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C805図2巨大乳頭の症例a:眼底写真.両側ともに視神経乳頭の径は大きく陥凹も大きいが,リムは正常である.Cb:Goldmann視野検査では両側ともに正常である.らCMariotte盲点に連続する視野欠損を認めた(図1d,e).高眼圧症およびCSSOHと診断し,緑内障点眼C1剤で経過観察を行っている.眼圧はC10CmmHg台後半で維持され,現時点では乳頭所見や視野障害の進行はない.C●巨大乳頭巨大乳頭も乳頭形状の先天異常で,表面積がC2.5mm2以上の大きな視神経乳頭をさす5,6).乳頭径が大きく陥凹乳頭径比(C/D比)も大きいため,一見緑内障と間違えやすいが,リムの面積・容積は正常眼と差がなく,乳頭周囲網膜神経線維層も保たれている5,6).巨大乳頭には,①大きな乳頭径とCC/D比,陥凹は横長の楕円形で,血管の偏位を伴わないタイプと,②陥凹が上方に偏位しているタイプがあると報告されている5~7)が,いずれも巨大乳頭のみでは眼圧および視野は正常で治療の必要はない.しかし,巨大乳頭と緑内障の合併例の報告7)や,神経膠腫では進行性の視神経乳頭拡大がみられることが報告されていることから8),診断の際には眼圧やその他の異常所見がないかを確認し,異常がある場合は定期的に経時変化を観察する必要がある.実際の症例を提示する.症例C2は生来健康なC9歳の男児で,学校検診で色覚異常がみつかり近医受診したところ,視神経乳頭陥凹拡大が疑われ紹介となった.父親が色覚異常,母親は緑内障であった.両眼ともに視力は1.5,眼圧正常で前眼部に異常はなく,眼底検査では大きな視神経乳頭を認めCC/D比はC0.7であった(図2a).Goldmann視野検査は正常で(図2b)巨大乳頭と診断した.緑内障の家族歴もあることから,引き続き近医で経過観察を行っている.C●おわりに緑内障と間違えやすい視神経乳頭の形状異常として,SSOHと巨大乳頭について概説した.どちらも非進行性で治療の必要はないが,緑内障の合併に注意が必要である.文献1)YamamotoT:SuperiorCsegmentalCopticChypoplasiaCasCaCdi.erentialCdiagnosisCofCglaucoma,CTaiwanCJCOphthalmolC9:63-66,C20192)HayashiCK,CTomidokoroCA,CAiharaCMCetal:Long-termCfollow-upCofCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasia,JpnJOphthalmolC52:407-425,C20083)YamazakiCY,CHayamizuF:SuperiorCsegmentalCopticCnervehypoplasiaaccompaniedbyprogressivenormal-ten-sionglaucoma,ClinCOphthalmolC6:1713-1716,C20124)LeeHJ,OzakiM,OkanoMetal:Coexistenceanddevel-opmentCofCanCopen-angleCglaucomaCinCeyesCwithCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasia,CJCGlaucomaC24:207-213,C20155)LeeCHS,CParkCSW,CHeoH:MegalopapillaCinchildren:aCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCanalysis.CActaOphthalmolC93:e301-e305,C20156)CostaCAMC,CCronembergerS:OpticCdiscCandCretinalCnerve.berlayerthicknessdescriptiveanalysisinmegalo-papilla,JCGlaucomaC23:368-371,C20147)SampaolesiCR,CSampaolesiJR:LargeCopticCnerveheads:CmegalopapillaCorCmegalodiscs.CIntCOphthalmolC23:251-257,C20018)BrimsonCBS,CPerryDD:EnlargementCofCtheCopticCdiscCinCchildhoodopticnervetumors.AmJOphthalmolC97:627-631,C1984C806あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021(76)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキングと耐性菌

2021年7月31日 土曜日

監修=木下茂●連載254大橋裕一坪田一男254.角膜クロスリンキングと耐性菌加藤直子南青山アイクリニック角膜クロスリンキング(CXL)後の細菌感染はまれであるが,重篤な合併症である.CXL後の細菌感染の原因菌は,ほぼ全例でレボフロキサシン耐性菌であった.眼表面から検出される菌にレボフロキサシン耐性菌が増えていること,円錐角膜患者ではアトピー性皮膚炎合併例が多いことに鑑み,CXL時には耐性菌への十分な対策を行うことが推奨される.C●はじめに角膜クロスリンキング(cornealCcollagenCcrosslink-ing:CXL)は,進行性円錐角膜の進行を停止させる治療である.世界でもっとも多く行われている標準法では,角膜上皮をC7~8Cmm径で掻爬したのち,リボフラビンを点眼して角膜実質に浸透させ,その後,長波長紫外線C5.4CJ/cmC2を角膜に照射する.CXLによる円錐角膜の進行停止効果は多くの臨床研究によって検証されており,術後C1年の時点でC90~95%程度の症例で進行停止が得られることが明らかになっている.CXLはその手技が簡単であることもあり,術中合併症はほとんどない.術後合併症の特徴と頻度を表1に示す.重篤な術後合併症はまれである.しかし,上皮治癒遅延や角膜感染症は,術後視機能に影響を与える可能性のある合併症であり,施術によって視機能が低下しないことを前提として行うCCXLでは,起こってほしくない合併症といえる.本稿では,CXL後の角膜感染症の特徴と,その対策について述べる.C●角膜クロスリンキング後の感染症の特徴CXL後の感染症は,術翌日の細隙灯顕微鏡検査ではとくに異常を認めず,2~3日目から疼痛の増悪を訴え,角膜浸潤と強い毛様充血,前房炎症が出現することが多い.術後処方薬としてベタメタゾン点眼が処方されているためか,ブドウ球菌などのグラム陽性菌でも重症になることがあり,前眼部所見から原因菌を特定するのはむずかしいことがある(図1).細菌感染を疑った場合には必ず病巣部からの細菌培養検査を行い,原因菌と薬剤感受性を同定することが必要である.筆者はC2015年以降,2020年C5月までの間に合計でC7件の角膜細菌感染症を経験した.このC7件の中で角膜感染症の原因菌が特定されたのはC5件であったが,その内訳は,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus:MSSA)がC2件,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaph-ylococcusaureus:MRSA)がC2件,肺炎球菌がC1件であった.これらの細菌はすべてレボフロキサシンに耐性を示しており,感受性のある抗生物質を投与することで治癒した.C●角膜クロスリンキング後の感染症の原因CXLの術後には,感染予防のためにニューキノロン系抗生物質の点眼薬が処方されることが多い.筆者らも,CXLを開始した当時からレボフロキサシンの点眼薬を処方してきた.そして,2007年からC2014年までは感染症をC1例も経験しなかった(図2).施術件数が少なかったためとも考えられるが,筆者はC2014年までに表1角膜クロスリンキング後の合併症感染症強い毛様充血・前房内炎症まれ(不明)1週間以内非感染性炎症上皮掻爬縁に沿った白っぽい上皮下細胞浸潤.7.6%上皮治癒遅延遷延性上皮欠損と同様の所見.まれ(不明)Haze(実質混濁)紫外線照射を行った範囲の浅層~中層の実質に微細な混濁.1カ月前後Demarcationline(境界線)Hazeのある層と透明な深層との間に境界線.数カ月で自然に消失.ほぼ全例実質深層混濁中央~傍中央部の実質深層に混濁と平坦化.2.8%6カ月以降持続性平坦化術後角膜形状が年余にわたり平坦化し続ける.不明(73)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C8030910-1810/21/\100/頁/JCOPY16014012010080604020眼数図1角膜クロスリンキング後のぶどう球菌感染症の前眼部写真(術2日目)角膜浸潤と強い毛様充血,前房炎症を伴っている.0他の施設でも臨床研究としてC130件程度のCCXLを同じ術式で施行しており,やはりC1例も感染症を経験しなかった.これらを考え合わせると,2015年以降に合計C7件の細菌感染症が発生したことは,近年,なんらかの原因でCCXL後の感染が増加していることを示唆していると考えられる.CXL後の感染症が近年増加している一因として,眼表面感染症の原因菌の変化の影響が考えられる.現在,眼科手術の際に感染症予防目的でもっとも使用されているニューキノロン系抗生物質が登場してから,すでに30年以上が経過している.国内外の報告を参照すると,近年の前眼部感染症の原因菌の中でCMRSAの頻度は2000年代からC2010年代にかけてあまり変化していないが1,2),MSSAやコリネバクテリウムの中でレボフロキサシンなどのニューキノロン系抗生物質に対して耐性を示す菌の割合が増加しているという報告がみられる3).眼表面の常在菌にニューキノロン系抗生物質に対して耐性をもつ菌が増加し,それがCCXL後の感染症の増加をもたらしている可能性がある.とくに円錐角膜症例にはアトピー性皮膚炎の罹患者が多く,眼瞼皮膚や結膜の常在菌として多剤耐性菌を保菌している割合が高いと考えられる.CXL後の感染症を予防するために,筆者らはC2020年7月よりCCXLの術前に全例で鼻腔の細菌培養を開始した.結膜.では菌の検出率が低いが,鼻前庭から検体を採取することで,ほぼ全例でなんらかの菌を検出することができ,多剤耐性菌の保菌者についても一定の傾向を知ることができる.その結果を参照し,必要に応じて感染予防のために使用する抗生物質を調整するようにした結果,それ以降C2021年C2月現在まで,感染症は一例も経験していない.C●どの術式で行うべきかCXL後の感染症の危険を減らすために経上皮照射法C804あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021図2南青山アイクリニックにおける角膜クロスリンキング執刀件数と感染症発症件数の推移2014年までは感染症の発症はなかったが,2015年以降増加している.を行ったほうがいいのではないか,という相談を受けることがある.従来の経上皮照射法(紫外線照射量C5.4CJ/Ccm2)は,とくにC25歳以下の若い患者において,円錐角膜の長期的な進行抑制効果が弱いことがすでに明らかになっている4,5).一方で,近年開発された新しい照射方法(紫外線照射量C10CJ/cmC2のパルス照射やカスタム照射法)はまだヒトの円錐角膜眼でのデータが十分に蓄積されておらず,長期予後についても不明である.したがって,とくにC10歳代からC20歳代前半の若い患者に対しては経上皮照射法は選択せず,感染対策を万全に行ったうえで従来の上皮掻爬を行う方法で施術し,本来の目的である円錐角膜の進行抑制を図るのがよい,と筆者は考えている.文献1)AsbellPA,San.lippoCM,SahmDFetal:Trendsinanti-bioticCresistanceCamongCocularCmicroorganismsCinCtheCUnitedCStatesCfromC2009CtoC2018.CJAMACOphthalmolC138:1-12,C20202)DeguchiH,KitazawaK,KayukawaKetal:ThetrendofresistancetoantibioticsforocularinfectionofStaphylococ-cusaureus,coagulase-negativestaphylococci,andCoryne-bacteriumCcomparedCwithC10-yearsprevious:ACretro-spectiveCobservationalCstudy.CPLoSCOneC13:e0203705,C20183)加茂純子,村松志保,赤澤博美ほか:感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択C2018.あたらしい眼科37:484-489,C20204)KobashiCH,CRongCSS,CCiolinoJB:TransepithelialCversusCepithelium-o.CcornealCcrosslinkingCforCcornealCectasia.CJCataractRefractSurg44:1507-1516,C20185)ZiaeiCM,CVellaraCH,CGokulCACetal:ProspectiveC2-yearCstudyCofCacceleratedCpulsedCtransepithelialCcornealCcross-linkingCoutcomesCforCKeratoconus.Eye(Lond)C33:1897-1903,C2019(74)

眼内レンズ:再発眼内レンズ捕獲に対する虹彩縫縮術

2021年7月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋林研416.再発眼内レンズ捕獲に対する虹彩縫縮術林眼科病院眼内レンズ(IOL)を強膜に縫着,あるいは強膜内固定を行うと,何度も光学部の虹彩捕獲が再発することがある.再発を予防するために,虹彩を縫い縮める方法が考案された.虹彩縫縮術は,サイドポートのみからできる簡便でリスクの少ない手技である.光学部径よりも散瞳しないように縫縮すれば,再発は起こらない.●IOL縫着後の虹彩捕獲眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を縫着あるいは強膜内固定した場合,光学部は水晶体.に包まれずに,虹彩のすぐ後方に位置している.しかもIOLの強膜固定手術後には虹彩は脆弱になると推定され,またIOLが傾斜して虹彩を押している場合もある.暗所では瞳孔径は5~6mmになるので,光学部径と同程度の大きさになる.このようなときに下方をみたりすると,光学部の一部が虹彩の前に出てしまう(図1).とくに,眼を擦る癖があると,虹彩捕獲はいったん整復しても再発しやすい.再発虹彩捕獲は壮年男性に起こりやすいが,眼表面のアレルギーが関与している可能性もある.これらの原因により,再発虹彩捕獲は縫着後の約8%に起こるとされる.●虹彩縫縮術の実際このような状況において,近年,虹彩を縫い縮める手技が考案された.今までIOL縫着後の再発虹彩捕獲に対しては,夜間の縮瞳薬点眼などが行われてきたが,通常はなんの症状もない患者に長期にわたって点眼を続けてもらうことは,現実的にむずかしい.また,虹彩捕獲に逆瞳孔ブロックが関与している例もあるため,虹彩下方にiridectomyを作製する方法も行われてきたが,全例に効果があるわけではない.さらに,IOLの前に糸を通す方法もあるが,視機能に影響がある可能性は否定できない.虹彩捕獲は瞳孔が散大することによって起こるので,瞳孔を開きにくくすることは理にかなっている.また,視機能にも大きな影響はない.手技的には,プロリン糸の付いた弱弯針を用いて,瞳孔の上方あるいは下方の虹彩中央の2~3mm程度を通針して縫い縮めてしまう(図2).実際には,まず左右にサイドポートを2個作製し,粘弾性物質で前房を充.する(図3).9-0プロリン糸の付いた弱弯針を片方のサイドポートから通し,中央あたりの虹彩を2~3mm幅ですくって,そのまま対側のサイドポートから出す.出すほうは必ずしもサイドポートから出す必要はなく,角膜に通糸してもよい.その後,フックで引き出した糸を,ループ状に引っ張り戻して,最初のサイドポートから眼外に出す.虹彩は脆いので,このとき強く引っ張らないように注意する.そして,Siepserのslipnot法を用いて,眼外に出したループ状の糸に,元の糸を2回以上巻きつけたあと,糸の両端をゆっくりと引っ張る.すると,通針した虹彩が縫い縮められる.あとは,結紮した糸を切って終了である.粘弾性物質を吸引するときに,瞳孔が光学部径以上に拡張しないことを確認しておく.上方の一糸のみで拡張する場合は,下方にも同様の手技を追加する.図1眼内レンズ縫着後の再発虹彩捕獲アトピー性皮膚炎のある壮年男性に起こった虹彩捕獲で,それまで単純な整復を3回行っている.図2虹彩縫縮後上方に虹彩縫縮を施行して,その後再発は起こっていない.(71)あたらしい眼科Vol.38,No.7,20218010910-1810/21/\100/頁/JCOPYプッシュアンドプルループ状のプロリン糸にもしくはクーグレンフック2回巻き付ける図3虹彩縫縮の手技のシェーマ筆者は,虹彩の上方や下方にシェーマのような手順で虹彩縫縮を行っているが,簡便なので手技・器具ともに自由に変更するとよい.●おわりにこれまで10例以上にこの方法を施行したが,上方のみを縫縮した一例に再発が起こったので,下方にも追加した.それ以外は,一度で再発は予防できている.術中・術後の合併症もなく,視力の低下もないので,簡便で安全な方法と考えられる.結局,以前から行われている虹彩縫合の応用であり,手技に慣れると,角膜移植後など,虹彩が散大して視力の出ない例に広く応用できる.また,内皮移植にあたって,虹彩が萎縮・散大している例は,術前になるべく瞳孔を縮めておくとよい.以上のように,覚えておくと広く活用できる手技と考えられる.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 2. ドライアイ

2021年7月31日 土曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー2.ドライアイ■はじめにコンタクトレンズ(CL)装用者のドライアイと,通常(非コンタクトレンズ装用者)のドライアイとでは少し意味合いが異なるかもしれない.2016年にドライアイ研究会がドライアイの定義と診断基準を改定した1).それによると,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)が5秒以下で,かつ自覚症状(眼不快感または視機能以上)があるものがドライアイということになる.角結膜上皮障害の有無は問われないことになった.一方,contactClensdiscomfort(CLD)という言葉があり,「CL装用によって生じる一過性あるいは持続性の眼の感覚異常で,装用時間の短縮や装用中止を余儀なくされるもの」と定義されている2,3).CLDは視機能異常の有無は問われていない.今回のセミナーでは,CL装用によって生じるドライアイが主原因と考えられる他覚症状や自覚症状を紹介するとともに,その解決法について解説する.C■CL装用者のドライアイの他覚症状ソフトCCL(SCL)装用者によくみられる他覚症状としては点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopa-thy:SPK)があり(図1),角膜下方にスマイルマークの口のような形状がみられるため,スマイルマークパ小玉裕司小玉眼科病院ターンCSPKとよばれている.自覚症状がなければ無処置でよいが,乾燥感や異物感を訴える場合は人工涙液の点眼を処方する.ハードCCL(HCL)装用者によくみられる他覚症状としてはC3時-9時ステイニングがある(図2).3時-9時ステイニングには原因が二つあるが,ベベル幅が広すぎることでレンズ周辺がドライアップして生じるほうが今回の対象になる.この他覚症状も自覚症状を伴っていなければ無処置でよいが,異物感や充血を訴える場合は人工涙液の点眼を処方するか,修正によりベベル幅を狭くする.また,このような患者は,レンズ表面が乾燥して「くもる」「かすむ」などの症状を訴えることがある(図3).このような場合も対処法は同じである.C■CL装用者のドライアイの自覚症状CLDは一過性あるいは持続性の眼の感覚異常であり,乾燥感,異物感,違和感,眼痛,などが含まれる.視機能異常の有無は問われないということになっているが,かすむ,くもる,すっきり見えないなどの症状を訴えることもある.また,充血,眼脂などの症状を訴えることもある.CLを装用することで涙液の蒸発が亢進するうえに,涙液の分布異常も生じている.それに加えCCLと図1スマイルマークパターンSPK角膜下方にスマイルマークの口の形をしたSPKがよく認められる.図23時.9時ステイニングベベル幅が広すぎて,レンズ周囲の涙液がドライアップして生じるタイプ.エッジの機械的刺激によって生じるタイプとは鑑別を要する.図3ドライなくもりエアコンの効いた乾燥した状況などで,HCL表面が息を吹きかけたようにくもる.この原因もベベル幅が広すぎるか,ドライアイである.(69)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C7990910-1810/21/\100/頁/JCOPY角膜,結膜,眼瞼が接触しており,それらの間の摩擦亢進によって容易に眼の感覚異常が生じてくる.C■CL装用者におけるドライアイの対処法:点眼液の種類1.人工涙液生理食塩水をベースとした「ソフトサンティア」や「マイティア」など,さまざまな人工涙液が市販されている.CL専用と銘打っているものもあり,防腐剤に塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAK)は含まれておらず,軽度のドライアイ症状には有効である.C2.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液粘弾性と保水性がある.また,涙液層安定化効果やCLDのおもな原因である眼表面の摩擦軽減効果があるうえに,角膜上皮の修復促進効果も有する.以前のヒアレイン(参天製薬)には防腐剤としてCBAKが含まれており,筆者はヒアルロン酸ナトリウム点眼液(千寿製薬)あるいはヒアルロン酸ナトリウムCPF点眼液「日点」(日本点眼薬研究所)4)をおもに使用していたが,2018年頃からCBAKの替わりにクロルヘキシジングルコン酸塩が使用されるようになり,安心して使用できるようになった.ただ,前回セミナーでも伝えたように,BAKを含む点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液を併用すると,SCLに吸着したCBAKの検出量が増加する傾向にあるので注意を要する.C3.ジクアホソルナトリウム点眼液クロライドチャンネルを介して結膜から水分分泌を促す5)とともに,結膜上皮の杯細胞から分泌型ムチン分泌も促す6)といわれている.C4.レバミピド点眼液分泌型ムチンの増加作用,角膜上皮の修復促進作用があり,涙液層の安定化につながる7)といわれている.実際にドライアイ患者に使用して生体染色スコア,BUT,自覚症状で改善が認められた8)との報告がある.しかし,点眼後のかすみや味覚異常が強い場合があり,筆者はCL上の点眼液としては最終手段と考えている.5.「ピュラクルなみだ液EYE」生体適合性が高く,湿潤性のある「リピジュア」(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液)を含有する市販薬である.防腐剤にCBAKを使用せず,替わりにCSCLのマルチパーパスソリューソンの成分であるポリヘキサメチレンビグアニド(polyhexamethyleneCbiguanide:PHMB)を使用している.この点眼液はヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼液と同等の乾燥感軽減効果を有しており,この有効性はヒアルロン酸ナトリウム点眼液と併用すことにより増加する9).筆者はCCL非装用者のドライアイ患者にも,この点眼液を使用させて好評を得ている.文献1)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂.あたらしい眼科C34:309-313,C20172)DumbletonCK,CCa.eryCB,CDogruCMCetal:TheCTFOSCInternationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:CreportCofCtheCsubcommitteeConCepidemiology.CInvestCOph-thalmolVisSciC54:TFOS20-36,C20133)横井則彦:TheCTFOSCInternationalCWorkshopConCContactLensDiscomfort.日コレ誌57:286-287,C20154)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムCPF点眼液C0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科C29:665-668,C20125)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutionincornealhumaneyes.AmJOphthalmolC157:85-92,C20146)ShigeyasuC,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetraso-diumincreasestheconcentrationofmucin-likesubstancesinCtearsCofChealthyChumanCsubjects.CCurrCEyeCResC40:C878-883,C20157)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,C20128)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタCR点眼液CUD2%)の有効性と安全性-製造販売後調査結果.あたらしい眼科C33:443-449,C20169)小玉裕司:ピュラクルCRなみだ液CEYEによるソフトコンタクトレンズ装用の乾燥軽減効果の検討.日コレ誌C57:251-254,C2015C

写真:ANCA関連血管炎に伴う強膜炎

2021年7月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦加藤久美子446.ANCA関連血管炎に伴う強膜炎三重大学医学部眼科学教室図2図1のシェーマ①結節性強膜炎②角膜浸潤図1初診時の前眼部所見上方に結節性強膜炎を認める.隣接した角膜には浸潤が認められる.図3強膜炎寛解後の前眼部所見強膜が菲薄化し,ぶどう膜が透見される.図4経過中に出現した網膜血管炎耳側周辺部を中心に斑状の出血斑を認める.(67)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C7970910-1810/21/\100/頁/JCOPYANCA関連血管炎とは,病理組織学的に上気道と肺を主とする全身の壊死性肉芽腫性血管炎,半月体形成腎炎を呈し,その発症機序に抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)が関与する血管炎症候群である.Ungprasertら1)によれば,ANCA関連血管炎における眼合併症の発生率はC15%で,内訳は強膜炎がC22%ともっとも多く,続いて上強膜炎(21%),眼窩炎症(18%),涙道狭窄(10%),ぶどう膜炎(9%)である.このほかにも,角強膜潰瘍1),網膜血管炎1,2),視神経炎1,3)などを発症する.ANCA関連血管炎に伴う強膜炎に特異的な細隙灯顕微鏡所見はない.強膜炎は結節性,びまん性のいずれも起こりうる.また,強膜炎症に隣接する角膜に角膜潰瘍を伴うことがある.本疾患の男女比はC1:1で明らかな性差はなく,発症年齢は中高年に多い.強膜炎を呈する患者で,①全身症状(発熱や食欲不振,倦怠感,体重減少),②耳鼻科的症状(鼻漏,鞍鼻,難聴),③呼吸器科的症状(咽頭痛,血痰,咳,呼吸困難)などがあれば本症例を疑う.血液検査では抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)や抗好中球細胞質プロテイナーゼC3抗体(PR3-ANCA)が高率に陽性になるほか,白血球やCCRPの上昇,腎病変を伴う症例ではCBUNや血清クレアチニンが上昇する.本疾患は眼球に限局する場合もあるが,眼病変をきっかけに全身疾患が発見されることがあるため,他科と連携しながら診断と治療を進めることが重要である.ANCA関連血管炎に伴う強膜炎では,ステロイド点眼薬以外にコルチコステロイドの全身投与と,シクロホスファミド,リツキシマブ,メトトレキサートなどが併用されることがある1,4).強膜炎はC9割の症例で寛解するが,そのうちC2割の患者では再発すると報告されており1),定期的な経過観察が必要である.症例はC70歳代の男性で,緑内障と診断され近医で加療されていた患者である.最近になり右眼が充血するようになったため,当科を紹介され受診した.初診時の細隙灯顕微鏡検査では結節性の強膜炎と角膜浸潤を認めた.全身症状としてるい痩を,耳鼻科的所見として鼻漏を伴っていた.採血ではCMPO-ANCAが高値であり,ANCA関連血管炎による強膜炎と診断した.ベタメタゾン局所投与で強膜炎は寛解したが,経過中に腎炎を発症したため,プレドニゾロンとタクロリムスの内服治療を開始した.強膜炎は寛解状態が維持されていたが,網膜血管炎を発症した.ANCA関連血管炎と診断された症例では,細隙灯顕微鏡検査だけではなく,定期的に眼底検査を行い後眼部合併症のスクリーニングを行うことが勧められる.文献1)UngprasertCP,CCrowsonCCS,CCartin-CebaCRCetal:ClinicalCcharacteristicsofin.ammatoryoculardiseaseinanti-neu-trophilcytoplasmicantibodyassociatedvasculitis:aretro-spectiveCcohortstudy.CRheumatology(Oxford)C56:1763-1770,C20172)LinCM,CAnesiCSD,CMaCLCetal:CharacteristicsCandCvisualCoutcomeCofCrefractoryCretinalCvasculitisCassociatedCwithCantineutrophilCcytoplasmCantibody-associatedCvasculitides.CAmJOphthalmolC187:21-33,C20183)TakazawaT,IkedaK,NagaokaTetal:Wegenergranu-lomatosis-associatedCopticCperineuritis.COrbitC33:13-16,C20144)HoangLT,LimLL,VaillantBetal:AntineutrophilcytoC-plasmicantibody-associatedactivescleritis.ArchOphthal-molC126:651-655,C2008

トーリックカラーコンタクトレンズによる乱視矯正

2021年7月31日 土曜日

トーリックカラーコンタクトレンズによる乱視矯正CorrectionofAstigmatismwithToricColoredContactLenses月山純子*はじめにカラーコンタクトレンズ(contactlens:CL)が,CLのジャンルの一つとして定着している.眼科医療機関でもカラーCLを処方することが多くなり,各メーカーからさまざまな種類のカラーCLが販売されるようになった.比較的酸素透過性の高い,高含水性のハイドロゲル素材のカラーCLも増えてきた.しかし,乱視用のカラーCLとなると,まだまだ少ない.含水率が低く酸素透過性が低めのものや,インターネット経由で販売されている個人輸入のトーリックカラーCLなどもあり,注意が必要である.本稿では,現在販売されているトーリックカラーCLの概要と,個人輸入のトーリッカラークCLや,トーリックレンズ特有の注意点などについて述べる.Iわが国で販売されているトーリックカラーCL2021年4月の時点で,わが国で販売されているトーリックカラーCLについて調べた.厚生労働省認可のものではシリコーンハイドロゲル素材のトーリックカラーCLは存在せず,高含水性のハイドロゲル素材も少ない.メニコンからは,「2WEEKメニコンレイトーリック」という含水率が72%,Dk値が34×10-11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)のトーリックカラーCLが販売されている(図1,2,表1).現在,「メルスプラン」(メニコンの定額制CL利用サービス)取り扱い施設のみの販売だが,今後幅広く販売していただけることを期待したい.含水率の低いものは,大手メーカーも含めていくつか販売されている.しかし,乱視用のソフトCL(soft図1高含水性のトーリックカラーCL(「2WEEKメニコンレイトーリック」の外箱)(メニコンより提供)*JunkoTsukiyama:社会医療法人博寿会山本病院眼科〔別刷請求先〕月山純子:〒648-0072和歌山県橋本市東家6-7-26社会医療法人博寿会山本病院眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(61)791図22WEEKメニコンレイトーリック(色:ブラウン)を装用したときガイドマークの部分を拡大した.(メニコンより提供)表1「2WEEKメニコンレイトーリック」の製品概要(メニコンより提供)イト内をよく見ると,非常に小さな文字で個人輸入であることは書かれているのだが,普通は気がつかないと感じた.個人輸入であるので,日本の厚生労働省からの高度管理医療機器としての承認はない.添付文書も入っておらず,どんな素材が使われているかもわからなかった.ただ,度数についてはバリエーションが非常に豊富であった.インターネット上で検索したところ,度数は-14.0D,乱視度数も-4.0Dまで対応とあった.1年間使用するタイプである.わが国で高度医療管理機器として承認を受けて販売されているカラーCCLを調べてみると,高含水性素材のトーリックカラーCCLでは,乱視度数がC180°の-0.75Dのみ,低含水性素材のトーリックカラーCCLでも乱視度数はC180°の-1.25Dまでしかない.これ以上の乱視度数の人が,いろいろ検索しているうちに個人輸入に行き着いてしまうのではないかと危惧している.乱視用のカラーCCLを探し求めて,このような個人輸入サイトから実際に購入している人がいると思うと,大変心配である.採算性でむずかしい面もあると思うが,もう少しトーリックカラーCCLの度数のバリエーションが増えてほしい.CIIIトーリックカラーCLの性状筆者らは,厚生労働省承認のC2種類のトーリックカラーCCLとC4種類の個人輸入のトーリックカラーCCLの性状について調べた(表2).まず,シュリーレン法という方法で,表面の性状について観察した.シュリーレン法とは,透明なものの屈折率が異なる部分では,光線が曲げられる現象を利用して,わずかな屈折率の変化を可視化する方法で,シュリーレンスコープ(溝尻光学工業所)を用いて観察した(図3).厚生労働省承認のレンズでは,はっきりとガイドマークも存在し,レンズCAとCBはダブルスラブオフであると思われた.個人輸入のトーリックカラーCCLのC4種類は,驚いたことに乱視用レンズ処方に必須であるガイドマークがなかった.どうやって,フィッティング検査をするのか謎である.また,表面性状をさらに詳細に観察したが,個人輸入のレンズCCのトーリックカラーCCLの表面は,非常に粗く作られていた(図4).表面に細かいギザギザがある状態であるので,装用感はよくないものと思われる.また,表面に凹凸があると感染症のリスクが高くなる懸念もある.筋状のギザギザが同心円状に存在していることから,完成度の低いレースカット法で作製されたものと推察される.CIVトーリックレンズの厚みと酸素透過率トーリックCSCLは,乱視を補正するためにレンズの回転を抑えるような設計となっている.プリズムバラストやダブルスラブオフやその両者のハイブリッドタイプなどがある.プリズムバラストではレンズの下のほうが厚くなり,プリズムバラストでは,3時C9時の方向が厚い(図5).この部分はどうしても酸素透過率が下がってしまう.筆者らは,先に述べた厚生労働省承認のC2種類のトーリックカラーCCLと,4種類の個人輸入のトーリックカラーCCLの厚みを調べた.方法は,生理食塩水にC30分以上浸漬してレンズを平衡化した後,図6に示すように,中央部と上下左右のC4箇所,周辺からC2Cmmの部分の厚みを,膜厚計ライトマチックCVL-50A(ミツトヨ)にてC5回計測し,平均値を算出した.ダブルスラブオフではC3時とC9時方向,プリズムバラストではC6時方向が厚かった.中央部分はどのレンズも100Cμm程度であるのに対し,厚い部分はC300Cμmを超えるレンズも多かった.今回実験に用いた多くのトーリックレンズは,中央部の約C3倍の厚みの部分があるという結果であった.メーカーの酸素透過率の公表値は,中央部分のもっとも薄いところでの計算値で表示されていることが多く,注意が必要である.メーカー公表値を鵜呑みにするのではなく,実際の酸素透過性に問題ないのか,酸素不足の所見がないのかを常に注意深く経過観察する必要があると思われる.CBruce2)は,8種類のハイドロゲル素材のトーリックSCLの厚みを,中央と中間部,周辺部の上下左右で測定し,局所でのCDk/l値を計算している.球面度数は-8.0Dから+4.0D,乱視度数は-1.0Dと-1.25DCAx180°のものを用いて測定したところ,プリズムバラストでは下方,ダブルスラブオフでは左右のところでレンズが厚(63)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021C793表2検討に用いたトーリックカラーCLレンズの外観色規格装用スケジュール含水率素材直径(mm)CBC(mm)CAブラックCsph-3.0DCcyl-0.75DCAx180°2週間頻回交換72%DCMA,CNVCP,アルキルメタクリレート系化合物,EGDMAC14.5C8.6医療機関で処方,対面販売(厚生労働省承認レンズ)C医療機関で処方,対sph-3.0DCHEMA,CNVP,C面販売,インターBブラウンCcyl-1.25DCAx180°1日使い捨て42.5%MMA芳香族系化合物C14.2C8.6ネット販売(厚生労働省承認レンズ)CCブラウンCsph-3.0DCcyl-1.75DCAx180°1カ月定期交換不明不明C14.0C8.6個人輸入,インターネット販売CDブラウンCsph-3.0DCcyl-1.75DCAx180°1カ月定期交換不明不明C15.0C8.8個人輸入,インターネット販売CEブラウンCsph-3.0DCcyl-1.75DCAx180°1カ月定期交換不明不明C15.0C8.8個人輸入,インターネット販売CFブラウンCsph-3.0DCcyl-1.75DCAx180°1カ月定期交換不明不明C15.0C8.8個人輸入,インターネット販売BC:ベースカーブ,DMA:N,H-ジメチルアクリルアミド,NVP:N-ビニルピロリドン,EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート,HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート,MMA:メチルメタクリレート.-レンズAレンズBレンズCレンズDレンズEレンズF図3シュリーレンスコープでの観察(文献C1より転載)図5一般的なダブルスラブオフとプリズムバラストレンズの厚み分布ピンク:厚い,ブルー:薄い.図4図3のレンズCの中央部分同心円状に細かい筋があり,表面が粗いことがわかる.(文献C1より転載)レンズAレンズBレンズC厚みの計測場所中央(透明部)レンズDレンズEレンズF周辺(着色部)エッジから2mm図6厚みの計測結果-

トーリックソフトコンタクトレンズによる乱視矯正

2021年7月31日 土曜日

トーリックソフトコンタクトレンズによる乱視矯正AstigmaticCorrectionbyToricSoftContactLenses樋口裕彦*はじめにラグビーボールのように直交する二つの曲率半径が異なっている面をトーリック面とよび,レンズの前面または後面にトーリック面を有するコンタクトレンズ(con-tactlens:CL)をトーリックCLという.トーリックCLにはソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)とハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)がある.わが国では海外諸国に比べてトーリック(乱視用)レンズの処方割合が低いといわれている.2020年の国別SCL処方におけるトーリックレンズの割合を図1に示す.わが国におけるトーリックSCLの処方割合は17%と,オーストラリアや北米諸国,ヨーロッパ諸国に比べて非常に低く,世界平均(27%)を大きく下回っている1).この傾向はHCLに関しても同様である.トーリックレンズの処方率が低くなる理由として,処方者側の要因としては球面レンズの処方に比べてやや手間がかかり,経験と時間を要することや,トライアルレンズの種類が多く,施設内の保管場所に困るといったことなどが考えられる.また,装用者側の要因としては球面レンズに対してトーリックSCLが一般的に高価であることや,レンズデザインによっては球面レンズよりも装用感が劣ることなどが考えられる.矯正すべき乱視を放置した場合,SCL装用者の視機能が不良となり不快感や不満足感を与える可能性があるほか,結果として眼精疲労や頭痛,肩こりなどを惹起する可能性もある.IトーリックSCLで矯正可能な乱視乱視とは眼の経線によって屈折力が異なり,外界の1点から出た光線が眼内で1点に結像しない状態をいい,正乱視と不正乱視に大別される.正乱視眼では直交する強い屈折力をもつ経線(強主経線)と弱い屈折力をもつ経線(弱主経線)が存在し,無限遠の1点から出た光線は,それぞれの経線方向で前焦線と後焦線に結像する.前焦線と後焦線の間を焦域とよび,正乱視眼では焦域の中央付近に存在する最小錯乱円でボケを伴った像を見ていることが多い.正乱視はその強さにもよるが,原則としてトーリックSCLにより矯正が可能である.不正乱視は主として円錐角膜,角膜移植後,屈折矯正術後合併症,外傷や感染症後の角膜瘢痕,角膜変性などにより,角膜の屈折面(前面および後面)が不規則なため,外界の1点から出た光線が眼内で点または線など規則的な結像をしない状態をいう.不正乱視はトーリックSCLにより矯正することができない.IIトーリックSCLの種類トーリックSCLは使用期間,素材,トーリック面の設置部位,レンズの回転を抑え安定させるデザインの点からいくつかの種類に分類される.1.使用期間使用期間からトーリックSCLは1日交換型,2週間*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(53)783(%)4035302520151050図1国別SCL処方におけるトーリックレンズの割合(2020年)わが国におけるトーリックSCLの処方割合は17%と,オーストラリアや北米諸国,ヨーロッパ諸国に比べて非常に低く,世界平均(27%)を大きく下回っている.表1日本で処方可能な代表的なトーリック(乱視用)SCLレンズタイプメーカーレンズ名素材含水率Dk値*1)BC(mm)デザイン球面度数円柱度数軸度1日交換型J&Jワンデーアキュビューオアシス乱視用シリコーンハイドロゲル381038.5ダブルスラブオフ+4.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.25*2)90°180°ワンデーアキュビューモイスト乱視用ハイドロゲル58288.5ダブルスラブオフ+4.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.25*2)10°20°60°80°90°100°120°160°170°180°*2)CooperVisionワンデーバイオメディックストーリックハイドロゲル5519.78.7プリズムバラスト±0.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.75*2)20°90°160°180°*2)マイデイトーリックシリコーンハイドロゲル54808.6プリズムバラスト+6.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.2510°20°70°80°90°100°110°160°170°180°*2)Alconデイリーズアクアコンフォートプラストーリックハイドロゲル69268.8ダブルスラブオフ+4.00.-8.00-0.75,-1.25,-1.7520°90°160°180°Menicon1DAYメニコンプレミオトーリックシリコーンハイドロゲル56648.4ハイブリッド±0.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°*3)Magicトーリックハイドロゲル5719.48.6ハイブリッド±0.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°*3)B&Lメダリストワンデープラス〈乱視用〉ハイドロゲル59228.6プリズムバラスト±0.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°バイオトゥルーワンデートーリックハイドロゲル78428.4プリズムバラスト±0.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.2520°90°160°180°SEEDシード1dayPureうるおいプラス乱視用ハイドロゲル58308.8プリズムバラスト+2.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.7520°90°160°180°*2)*3)2週間交換型J&Jアキュビューオアシス乱視用シリコーンハイドロゲル381038.6ダブルスラブオフ±0.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.25*2)10°20°60°90°120°160°170°180°*2)CooperVisionバイオフィニティートーリックシリコーンハイドロゲル481288.7プリズムバラスト+5.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.25*2)10°20°90°160°170°180°*2)Alconエアオプティクス乱視用シリコーンハイドロゲル331088.7ハイブリッド+6.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.2520°90°160°180°*2)Menicon2WEEKメニコンプレミオトーリックシリコーンハイドロゲル401298.6ハイブリッド±0.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°*3)2WEEKメニコンレイトーリックハイドロゲル72348.6ダブルスラブオフ±0.00.-10.00-0.75180°2Wメニコンプレミオ遠近両用トーリックシリコーンハイドロゲル401298.6ダブルスラブオフ+5.00.-13.00-0.75,-1.2590°180°B&Lメダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト〈乱視用〉シリコーンハイドロゲル36918.9プリズムバラスト±0.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.2510°20°80°90°100°160°170°180°メダリスト66トーリックハイドロゲル66328.5プリズムバラスト±0.00.-9.00-0.75,-1.25,-1.75,-2.25,-2.7510°20°80°90°100°160°170°180°SEEDシード2weekPureうるおいプラス乱視用ハイドロゲル58308.6プリズムバラスト±0.00.-8.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°*3)定期交換型Meniconマンスウェアトーリックハイドロゲル72348.9ハイブリッド±0.00.-10.00-0.75,-1.25,-1.7590°180°*3)従来型Meniconメニコンソフト72トーリックハイドロゲル72348.1,8.4,8.7,9.0,9.3プリズムバラスト-1.00.-8.00-0.75.-2.75(0.50間隔)10°.180°(10°間隔)*2)AimeアイミーソフトII・トーリックハイドロゲル38128.3,8.6,8.9プリズムバラスト+5.00.-20.00-0.50.-6.00(0.50間隔)5°.180°(5°間隔)SEEDユーソフトハイドロゲル80447.8,8.0,8.2,8.4,8.6,8.8プリズムバラスト+30.00.-30.00(0.25)-0.25.-6.00(0.25間隔)5°.180°(5°間隔)*1)酸素透過係数:×10-11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)*2)球面度数により制作範囲は異なる.*3)円柱度数により制作範囲は異なる.1日交換トーリックSCLの円柱度数は最大-2.25D,2週間交換トーリックSCLの円柱度数は最大-2.75D,従来型のトーリックSCLの円柱度数は最大-6.00Dまで用意されている.プリズムバラストデザインダブルスラブオフデザイン薄い部分厚い部分厚い部分図2トーリックレンズデザイン(イメージ)プリズムバラストはレンズ下方に厚みをもたせ,ダブルスラブオフはレンズの上下を薄くしてレンズの回転を防ぐ.表2諸条件とトーリックSCLのデザイン別選択プリズムバラストデザインダブルスラブオフデザイン乱視の軸直乱視C○C△倒乱視C△C○眼瞼の形状上下の眼瞼が角膜輪部をカバーC○C○瞼裂が傾いているC○C△下三白眼C△C×装用感重視C△C○乱視の軸や眼瞼の形状によって,優先すべきデザインは異なる.〇:適応,△:比較的適応,×:非適応(文献C2より改変引用)-----7.75D-7.00D-6.50D-6.00D角膜頂点間距離補正sph-6.50Dcyl-1.25DAx180°sph-6.00Dcyl-1.00DAx180°〈自覚的屈折値〉〈角膜面での屈折値〉図3角膜頂点間距離補正自覚的屈折値(sph-6.50DCcyl-1.25DAx180°)の角膜頂点間距離補正後の角膜面での屈折値は(sph-6.00DCcyl-1.00DAx180°)である.球面度数,円柱度数ともに変化している点に注意.表3全乱視の強さと選択すべきCLの関係全乱視の強さ軽度(.C0.75D)中等度(C1.00D.C2.75D)強度(C3.00D.C5.75D)最強度(C6.00D.)球面CSCL○.C△△.C×××トーリックCSCLC×.C○C○○.C××HCLC○C○C○C○乱視矯正効果から考えた全乱視の強さと選択すべきCCLの関係を示す.〇:適応,△:比較的適応,×:非適応にシリコーンハイドロゲルレンズが望ましいと考える.1日交換型の場合は現時点で,三つのブランドが処方可能である(表1).球面度数の制作範囲も+6.00Dから-10.00D,円柱度数も-0.75Dから-2.25Dまで幅広く用意されており,1日交換型ハイドロゲルトーリックレンズに比べても選択肢に遜色はない.装用者の満足できる視機能が得られる球面度数,円柱度数,軸度などの必要な規格が存在するのであれば,やはりシリコーンハイドロゲルレンズを第一選択と考えたい.ただし,経済的な面ではハイドロゲルレンズよりも高価なことが多いので,この点も含めてこれらのレンズが処方不可能な場合はハイドロゲルレンズを選択することになる.2週間交換型ではすでに大手メーカーは製品をハイドロゲルレンズからシリコーンハイドロゲルレンズにシフトしてきており,シリコーンハイドロゲルレンズのほうが選択肢は広い(表1).あえて新規処方でハイドロゲルトーリックレンズを選択するケースは,乱視が強く円柱度数-2.75Dまで用意があるCBC&L社の「メダリストC66トーリック」でしか対応不可能な場合以外,筆者は思いつかない.ただし,1日交換型であれC2週間交換型であれ,シリコーンハイドロゲルレンズ装用者には,ときとして正しい装用法を守り正しいケアを行っていてもCsuperiorepiC-thelialCarcuatelesions(SEALS)とよばれる特有の角膜上皮障害やCcontactClensCinducedCpapillaryCconjunctivi-tis(CLPC)とよばれる乳頭増殖を特徴とする結膜炎が発生することがある.これらの障害の原因は一般的にはレンズのモデュラスの高さ(硬さ)が原因と考えられている.このような障害に直面した場合には,ハイドロゲルレンズに処方変更をすると問題を解決できる場合が多い.C3.トライアルレンズの選択ひぐち眼科には,自院で処方可能なトーリックCSCLの一覧表(表1のひぐち眼科バージョン)が作成してある.先に述べたC1)レンズの使用期間,2)レンズの材質を考慮しながら,装用者のケラトメータの値,自覚的屈折値を参考にもっとも適切と考えられるレンズ規格,すなわちベースカーブ(basecurve:BC),レンズ径,円柱軸,角膜頂点間距離補正後の円柱度数,角膜頂点間距離補正後の球面度数をもつブランドを一覧表から抽出し,最初のトライアルレンズとする.BC,レンズ径に関してはC1日交換型,2週間交換型の場合は固定されているため,選択の余地はないが,従来型の場合は複数のBCが選択可能である.円柱軸,円柱度数,球面度数に関しては,まず円柱軸を最優先し,次に円柱度数を優先して選択するとよい.球面度数に関しては多くのブランドで,マイナスレンズに関しては-9.00.-10.00Dまで作製されているが,プラスレンズについては約半数のブランドで作製されていない.したがって,遠視性乱視眼や混合性乱視眼にトーリックCSCLを処方するときは,あらかじめプラスレンズを作製しているブランドを把握しておくとよい.円柱度数に関しては,やや低矯正のトライアルレンズを選択する.一般的には-0.75Dの円柱レンズは-1.00.-1.50D,-1.25Dの円柱レンズは-1.75D.-2.25D,-1.75Dの円柱レンズは-2.25D.-2.75D,-2.25Dの円柱レンズは-2.75D.-3.25D,-2.75Dの円柱レンズは-3.25D.-4.00Dの全乱視に対して用いるのが一つの目安となる.ただし,実際の処方にあたっては乱視の方向(直乱視や倒乱視など)や年齢なども考慮する必要がある.球面度数に関しても,球面レンズを処方するときと同様にやや低矯正のレンズをファーストトライアルレンズとする.C4.フィッティング判定法フィッティングの判定は,通常レンズ装用後C15.20分程度経過してから行うのがよいが,時間を短縮したい場合にはC5分程度経過したところでC1回確認し,視力測定の後で最終確認を行うとよい.センタリング(安定位置)の確認や瞬目に伴うレンズの動き(タイトフィッティングやルーズフィッティング)の確認などは,球面レンズの処方の場合と同様なのでここでは割愛する.トーリックCSCLのフィッティング判定に際して重要なのは,円柱軸の安定性と安定位置である.トーリックSCLには円柱軸を確認するためのガイドマークがついている(図4).安定性については,一般に円柱度数が小さい場合にはレンズが回転した場合の残留乱視への影響は小さいが,円柱度数が大きい場合には少しの回転で残788あたらしい眼科Vol.38,No.7,2021(58)ワンデーバイオメディックストーリックなどワンデーアキュビューエアオプティクスデイリーズアクアコンフォートオアシス乱視用など乱視用などプラストーリックなど図4トーリックSCLのガイドマークの例メーカーやブランドによって,ガイドマークの位置は異なる.メダリスト66トーリックなど------=-=-=表4残留屈折値残留屈折値Ca(°)Sph(D)Cyl(D)Ax(°)C0C0C0C0C5C0.087-0.174C137.5C10C0.174-0.347C140C15C0.259-0.518C142.5C20C0.342-0.684C145C25C0.423-0.845C147.5C30C0.5C150C35C0.574-1.147C152.5C40C0.643-1.286C155C45C0.707-1.414C157.5C50C0.766-1.532C160C55C0.819-1.638C162.5C60C0.866-1.732C165C65C0.906-1.813C167.5C70C0.94-1.879C170C75C0.966-1.932C172.5C80C0.985-1.97C175C85C0.996-1.992C177.5C90C1-2C180C95C0.996-1.992C2.5C100C0.985-1.97C5C105C0.966-1.932C7.5C110C0.94-1.879C10C115C0.906-1.813C12.5C120C0.866-1.732C15C125C0.819-1.638C17.5C130C0.766-1.532C20C135C0.707-1.414C22.5C140C0.643-1.286C25C145C0.574-1.147C27.5C150C0.5C30C155C0.423-0.845C32.5C160C0.342-0.684C35C165C0.259-0.518C37.5C170C0.174-0.347C40C175C0.087-0.174C42.5-1.00Dの直乱視に,-1.00DAx180°のトーリックCSCLを装用してCa°軸ずれをした場合の残留屈折値を示す.この表から軸ずれがC0すなわちCa=0°であれば,-1.00Dの直乱視は完全に矯正されるが,Ca=15°で,残留乱視は-0.518D(軸度C142.5°)と矯正効果は半減し,Ca=30°で-1.00D(軸度C150°)と軸が変化するだけで乱視の矯正効果はまったく消失してしまうことがわかる.(文献C4より改変引用)

虹彩付ソフトコンタクトレンズによる羞明への対応

2021年7月31日 土曜日

虹彩付ソフトコンタクトレンズによる羞明への対応TreatmentofPhotophobiawithProstheticIrisColoredSoftContactLenses大口泰治*はじめに虹彩付ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)は美容が主目的であるカラーコンタクトレンズ(いわゆるカラコン,サークルレンズ)とは違い,整容や羞明の軽減を目的とするレンズである.日本では現在,「シード虹彩付ソフト」(シード社)が唯一認可されている虹彩付SCLである.このSCLは現在主流の1日交換型あるいは頻回交換型SCLと異なり,処方すると期限を設けず使用する従来型に分類される.素材はメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-hydroxyethylmeth-acrylate:HEMA,通称ハイドロゲル)である.処方の際にはこの従来型・HEMAであることを意識しながら調整を行っていく必要がある.1日交換型あるいは頻回交換型に比べて処方の手間はかかるが,このレンズの装用者が享受するメリットおよび喜びはとても大きいものがあり,装用者のその後の人生をも左右しうることもある.コンタクトレンズ診療に携わる眼科医には是非とも処方を行ってほしいレンズである.I素材の面から素材はHEMAで構成されており,酸素透過係数Dk値(Dはdi.usioncoe.cient,kはsolubilitycoe.cient)および酸素透過率Dk/t値(酸素透過係数をレンズの厚さで割った値)はそれぞれ12×10-11(cm2/sec)・{mlO2/(ml×mmHg)},9.2×10-9(cm/sec)・{mlO2/(ml×mmHg)}(-3.00Dの場合)となっており一般的な表1酸素透過係数および酸素透過率の比較Dk*Dk/t**シード虹彩付ソフト129.2シード1dayPureUP3042.9SHCL60.14086.184*Dk:酸素透過係数.単位:×10-11(cm2/sec)・{mlO2/(ml×mmHg)}**Dk/t:酸素透過率.単位:×10-9・{mlO2/(ml×(cm/sec)mmHg)}(-3.00Dの場合)SHCL:(siliconehydrogelcontactlens)HEMA素材のSCLよりも低値である(表1).また,現在1日交換型あるいは頻回交換型の市場の約半数を占めるシリコーンハイドロゲルレンズ(siliconehydrogelcontactlens:SHCL)に比べると非常に低値である.そのためレンズのフィッティングが適正でないために角膜上で固着した際は,角膜浮腫などの酸素供給不足による眼障害を生じやすく,フィッティングの確認には細心の注意を払う必要がある.また,HEMA素材のSCLは,一般的に酸素透過性以外にもドライアイの予防,アトピーなどの蛋白汚れへの耐性に関してはSHCLに劣る(図1).しかし,装用感,アレルギーの発生率,脂質汚れへの耐性はHEMA素材のほうが優れている面がある.筆者の印象では,「シード虹彩付ソフト」の適応で多い外傷後の患者は角膜表面や結膜が不整であり,素材が硬めのSHCLよりHEMAのSCLのほうが違和感の訴えが少ない印象があり,長*YasuharuOguchi:梶田眼科,福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕大口泰治:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(45)775図1ハイドロゲルレンズとシリコーンハイドロゲルレンズの特徴HEMA:ハイドロゲルレンズ,SHCL:シリコーンハイドロゲルレンズ.(文献1より改変)-図2「シード虹彩付ソフト」カラーチャート5種類のタイプと4種類の虹彩色をそろえ,全19通りのパターンから選択可能である.多種類のベースカーブ,度数,直径,虹彩径,瞳孔径,虹彩色が選択可能である.(シード社提供)表2虹彩付ソフトの適応疾患強い混濁を伴う角膜疾患虹彩異常瞳孔異常角膜内皮ジストロフィ白子症無虹彩小角膜症虹彩異色症瞳孔散大症帯状角膜変性症眼外傷水疱性角膜症眼内炎症の後遺症細菌,真菌,ウイルスの感染による角膜潰瘍角膜移植術後の角膜混濁外傷による角膜混濁整容目的羞明抑制羞明抑制虹彩付ソフトの適応疾患角膜白斑や虹彩・瞳孔異常に用いられる.(文献2より作表)表3「シード虹彩付ソフト」の処方箋ベースカーブ球面度数直径タイプカラー虹彩径瞳孔径mm±DmmNo.1,2,3,4,5茶(A),(B),(C),黒(D)mmmm通常のソフトコンタクトレンズ処方時に指定するベースカーブ,球面度数,直径に加えて,タイプ,カラー,虹彩径,瞳孔径の指定が必要である.表4角膜曲率半径弱主経線からのベースカーブ選択弱主経線値ベースカーブ7.60mm以下8.30mm7.61.8.10mm8.60mm8.11mm以上8.90mm装用眼あるいは非装用眼の弱主経線を参考にベースカーブを選択する.テストレンズの動き小大小さく直径大きく図3直径の選択テストレンズの動きで直径を調整する.abc図5虹彩の欠損タイプa:全欠損タイプ,b:部分欠損タイプ(周辺部まで欠損),c:部分欠損タイプ(中心のみ)図4スリット写真での虹彩径・瞳孔径の測定眼瞼に定規を添えて写真を撮影することで虹彩径や瞳孔径を確認する.図6眼球破裂後の虹彩全欠損a:虹彩が全欠損となっており,眼内レンズのループが見えている.b:外光がそのまま眼内に入る状態である.c:虹彩付ソフトを装用した状態.色合いも自然である.d:瞳孔領以外は減光されているのがわかる.表5症例1の処方箋ベースカーブ球面度数直径タイプカラー虹彩径瞳孔径8.60mm-1.25D14.0mmNo.3茶(B)12mm4mm--=--=--表6症例2の処方箋ベースカーブ球面度数直径タイプカラー虹彩径瞳孔径8.30mm0D13.5mmNo.5茶(C)11.5mm3.5mm図7交通外傷後の角膜混濁a:角膜が白濁している.b:右眼(正常眼).c:虹彩付ソフトを装用した左眼.義眼と異なり,眼の動きに合わせコンタクトも動くため対面者に自然な印象を与える.図8「シード虹彩付ソフト」装用不能例a:左眼虹彩欠損し整容的な問題を生じている.b:「シード虹彩付ソフト」を装用,センタリング不良で内側結膜に擦れを生じている.c:「ワンデーアキュビューディファインモイストアクセントスタイル」.輪部の不整を隠せる.d:「ワンデーアイレリアルUVBlack」.cよりも自然な感じでよいとのことであった.e:内側が急峻で外側が平坦な角膜形状.図9「シード虹彩付ソフト」長期装用例a:左眼角膜縫合後,瞳孔不整を認める.b:「シード虹彩付ソフト」装用.c:瞳孔不整により外光が多く入光する.d:「シード虹彩付ソフト」により入光量が絞られている.e:内皮細胞密度は2,193個/mm2と保たれている.f:整容上も左右差なく保たれている.--