監修=木下茂●連載258大橋裕一坪田一男258.小児へのクロスリンキング小橋英長慶應義塾大学医学部眼科学教室角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行抑制のための治療法として安全で有効であることが多くの臨床研究で証明されている.近年,診断装置の進歩により円錐角膜を臨床現場で目にする機会が増えている.病期進行が著しいとされるC18歳未満の小児円錐角膜例に対して,予防的観点から角膜クロスリンキングを早い段階で介入する臨床試験が散見されるようになって久しい.今回は,小児円錐角膜に対する角膜クロスリンキングについてメタアナリシスを用いて解説する.C●はじめに角膜クロスリンキング(coronealcrosslinking:CXL)は円錐角膜の進行を停止させる治療である.Wollensak,Seilerら1)によってヒト円錐角膜眼へCCXLが施されてすでにC15年以上経つ.米国ではCGlaukos社製のリボフラビン点眼液(Photrexa)と長波長紫外線(ultravioletA:UVA)照射器(iLink)がCCXLで用いられる承認医薬品と医療機器として臨床で使用されている.進行性の成人円錐角膜に角膜上皮.離を伴うドレスデンCCXL(epi-o.)を行うことで,90%以上の患者で進行抑制効果を発揮することがさまさまな臨床研究で報告されてき筆頭著者Arora2012Caporossi2011Eissa2019Hashemi2013Henriquez2017Iqbal2019Knutsson2018KumarKodavoor2014Magli2013Peyman2015Soeters2014Vinciguerra2012Wise2016Total(95%CI)術前術後1年MeanSDTotalMeanSDTotalWeight59.636.171558.615.15152.6%50.229.29449.538.49416.2%47.191.626846.411.596811.4%49.254.41048.93.9101.7%51.316.442550.375.23254.3%50.783.829150.183.629115.6%59.37.085257.956.92528.9%55.15.33553.84.9356.0%50.1342349.024.6233.9%53.820.726453.310.726410.4%60.59.23158.78.4315.3%51.483.44052.163.5406.9%58.45.54057.66406.9%588588100.0%Heterogeneity:Chi2=14.21,df=12(P=0.29);I2=16%Testforoveralle.ect:Z=3.87(P=0.0001)た.CXLは有効で安全な治療法であることから,進行が必至である小児円錐角膜に対して適応するべきか議論されることが多いが,epi-o.であるため疼痛を伴うことが躊躇される点であった.Epi-o.の疼痛を回避できるCepi-onCXLは,小児に躊躇することなく応用できるが,実際に進行を抑制できるかは不明な点が多い.変法の術式としてCepi-on法のほかに,短時間でCUVA照射を行う高速法およびその組み合わせである高速Cepi-on法も登場し,小児例に試みられている.今回は,筆者が行った小児円錐角膜に対するCCXLを概説したメタアナリシスを紹介する2).標準平均差異標準平均差異Ⅳ,Fixed,95%CIⅣ,Fixed,95%CI0.17[-0.54,0.89]0.08[-0.21,0.36]0.48[0.14,0.82]0.08[-0.80,0.96]0.16[-0.40,0.71]0.16[-0.13,0.45]0.19[-0.19,0.58]0.25[-0.22,0.72]0.25[-0.33,0.83]0.70[0.35,1.06]0.20[-0.30,0.70]-0.20[-0.63,0.24]0.14[-0.30,0.58]0.23[0.11,0.34]-2-1012術前術後1年図1ドレスデン法1年後の角膜最大屈折力(Kmax)の変化術後C1年のCKmaxは有意に平坦化して進行抑制効果を認めている.(文献C2より引用)(69)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13070910-1810/21/\100/頁/JCOPY術前術後1年筆頭著者MeanSDTotalMeanSDTotalWeightBadawi20170.540.2330.340.223320.6%Eissa20190.181.4680.111.66827.0%Iqbal20190.970.26920.810.259228.6%Ozgurhan20140.520.36440.410.264423.8%Total(95%CI)237237100.0%Heterogeneity:Tau2=0.09;Chi2=10.64,df=3(P=0.01);I2=72%Testforoveralle.ect:Z=2.56(P=0.01)標準平均差異Ⅳ,Random,95%CI0.94[0.43,1.45]0.05[-0.29,0.38]0.62[0.33,0.92]0.35[-0.07,0.77]標準平均差異Ⅳ,Random,95%CI0.47[0.11,0.83]-2-1012術前術後1年図2高速法1年後の裸眼視力の変化術後C1年で裸眼視力は有意に改善した.●ドレスデン法18歳以下の小児円錐角膜に対するCCXLを実施した文献を網羅的に検索し,26本を抽出し,うち術後C1年まで報告したC21本をメタアナリシスに採用した.図1は,ドレスデン法の術前後における角膜最大屈折力(Kmax)を比較したフォレスト分布である2).多くの試験でドレスデン法術後C1年時のCKmaxの平坦化を認め,標準平均差異C0.23Dであり有意であった.そのほか裸眼・矯正視力,最小角膜厚の項目でも有意な改善を認めた.C●高速法高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というCBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.筆者のメタアナリシスでは,高速法をCUVA照射照度C9mW/cmC2以上かつ照射時間C10分以下と定義した.図2に高速法術後C1年の裸眼視力の変化をフォレスト分布で示す2).裸眼視力は有意に改善した.C●Epi.on法および高速epi.on法リボフラビンは分子量が大きいため,そのままの状態では角膜上皮細胞間のバリアを破壊できない.Epi-on法では防腐剤を添加したリボフラビンを使用することで角膜実質の薬剤濃度を増やすことができるが,epi-o.と比較すると少ない.Epi-on法および高速Cepi-on法C1年後のCKmax,裸眼視力および矯正視力は有意な変化を(文献C2より引用)認めなかった.これはCepi-on法が有効性の点で劣るようにみえるが,無治療のコントロール群と比較した試験でないため不明である.成人に対するCCXLにおいて,epi-onとCepi-o.を比較した際,epi-o.CXLのほうが有意に平坦化し,デマルケーションラインが深いepi-o.法のほうが進行抑制効果を発揮するとされている3).C●おわりに過去の文献データに基づき,小児円錐角膜にCCXLをドレスデン法または高速法で実施すると,視力改善と円錐角膜の進行抑制効果が得られることが確認された.従来は病期進行を評価するために通院を一定期間あけていたが,小児の場合は年齢そのものがリスクファクターであるため,診断後速やかにCCXLを計画することが望ましいと考える.また,病期進行を生じやすいその他の因子(眼瞼擦過,アトピー性皮膚炎)を薬物療法でコントロールすることも重要である.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20032)KobashiH,HiedaO,ItoiMetal:TheKeratoconusStudyGroupofJapan.Cornealcross-linkingforpaediatrickera-tocus:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCClinCMedC10:2626,C20213)KobashiCH,CRongCSS,CCiolinoJB:TransepithelialCversusCepithelium-o.CcornealCcrosslinkingCforCcornealCectasia.CJCataractRefractSurg44:1507-1516,C20181308あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021(70)