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硝子体手術,眼球摘出術,眼球内容除去術の術後交感性眼炎のリスク

2021年10月31日 日曜日

硝子体手術,眼球摘出術,眼球内容除去術の術後交感性眼炎のリスクRiskofSympatheticOphthalmiaFollowingVitrectomy,EnucleationandEvisceration重安千花*岡田アナベルあやめ*はじめに交感性眼炎(sympatheticophthalmia)は非常にまれな疾患であるが,その概念は紀元前のヒポクラテスの時代まで遡るといわれる1).“Sympatheticophthalmia”という用語は1840年にMackenzieが提唱し,症例を提示して詳細に病態の記載している2,3).なお,罹患した歴史上の人物のなかでは,5歳頃に交感性眼炎のために失明し点字を考案したフランスの盲学校教師であるLouisBrailleが有名である4).現在,ぶどう膜炎の分類や疾患の用語は国際的に統一され,2019年にはわが国におけるぶどう膜炎診療ガイドラインが発表され5),また2021年には国際的なぶどう膜炎の研究グループStandardizationofUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroupによる交感性眼炎の国際分類基準が定義された6).本稿では,時代とともに変化してきた硝子体手術後の交感性眼炎のリスクおよび眼球摘出術後・眼球内容除去術後の交感性眼炎のリスクについて記載する.I交感性眼炎とは1.定義交感性眼炎は「片眼の穿孔性眼外傷または内眼手術後に生じた両眼性のぶどう膜炎」とSUNWorkingGroupによる国際分類基準で定義されている5,6).フォークト・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)と同様に,メラノサイトに対する自己免疫疾患であり,穿孔性眼外傷または内眼手術の既往の有無より鑑別する.なお,外傷や手術の既往のある眼を起交感眼(excit-ingeye),既往のない対眼を被交感眼(sympathizingeye)という7).起交感眼は,角膜瘢痕,眼球癆や眼球摘出術後であることも多く,炎症の確認ができないことも多いのが現状である.2.疫学近年,発症率は年間10万人あたり0.03人と推計されているまれな疾患であり8),外傷後は0.02~0.05%,手術後は0.01%と予測され6),過去の報告と比べるとその発症頻度は減少している9).また,複数回に及ぶ手術や硝子体手術のリスクが高いといわれるが10~12),線維柱帯切除術後13),白内障術後14),翼状片術後の強膜軟化症15),黄斑変性に対する複数回の硝子体注射後16)などに加え,眼内腫瘍に対する治療目的の放射線照射後に発症した例も報告されている17).歴史的には外傷リスクの高い小児や男性に多いとされるが,近年はあらゆる年齢で発症し,あまり性差はないともいわれている1,18).発症の契機から対眼が発症するまでの期間は5日~66年と報告の幅は広いが1,19),70~80%は3カ月以内,90%は1年以内に発症するとされる11,20).なお,外傷後から交感性眼炎の発症までの期間は平均6.5カ月と報告され,手術後の14.3カ月と比較して短期間であること,また視力予後が外傷後のほうが手術後と比較をして2.39倍悪いと報告されている8).発*ChikaShigeyasyu&AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕重安千花:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(35)1167症に際し人種差はないとされるが21),主要組織適合抗原であるCHLA-DRB1*04,CDQA1*03,CDQB1*04との関連が報告される22,23).日本人の交感性眼炎患者C16例を調べた調査ではCHLA-DR4がC93.4%(DRB1*0405:81.3%,DRB1*0410:6.3%)にみられた22).HLA-DRB1*0405の頻度は健康な日本人ではC26.7%とされており24),HLA-DR4の保有者は日本人をはじめとしたモンゴロイドに多い.また,地中海のサルデーニャ島には中央アジアを由来とする保有者が多いとされ,歴史的にはクリミア戦争と交感性眼炎の関連なども散見される3).なお,日本人ではCVKHと同様に少なくともCHLA-DR4,DR53の遺伝子素因が存在する24).C3.病態初期はCCD4陽性ヘルパーCT細胞の活性からはじまり25),CD8陽性キラーCT細胞の活性に続く26).組織学的には炎症性の単球(T,Bリンパ球,マクロファージ)の浸潤がみられ,一部の患者では多核巨細胞の肉芽腫形成をみる.また,網膜色素上皮とCBruch膜との間にリンパ球,類上皮細胞の集簇によるCDalen-Fuchs結節が25~35%にみられることもある21,27,28).VKHと比較して,脈絡膜および網膜に炎症所見があまりみられないことが多いとされ29,30),解剖学的に観察した病期(急性期か慢性期)が異なることを反映している可能性がある.C4.臨床所見5)Ca.発症早期自覚症状としては霧視,羞明から始まり毛様充血,視力低下などがみられ,眼外症状はみられないこともあるが,VKHと同様に頭痛,難聴,耳鳴りを示すこともある.他覚所見としては,両眼性の急性肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.眼底は滲出性網膜.離,網膜浮腫,視神経乳頭の発赤・腫脹,硝子体炎がみられる.また,脈絡膜.離や多発性脈絡膜炎(散在性白斑)などがみられる.筆者らの経験では,初期のCVKH典型例にみられる漿液性網膜.離と比較して,初期の交感性眼炎では脈絡膜炎を示唆する多発性脈絡膜白斑の眼底所見が多い.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で,初期に点状の多発性蛍光漏出,後期に網膜下の蛍光色素の貯留,視神経乳頭の過蛍光がみられる.超音波CBモード検査では脈絡膜の肥厚がみられ,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では網膜下液の貯留,網膜色素上皮.離などがみられる.全身検査では,髄液検査で細胞増多,聴力検査では感音性難聴が検出されることがある.Cb.寛解期・晩期他覚所見として,夕焼け状眼底,視神経乳頭周囲の萎縮,多発性網脈絡膜萎縮斑,黄斑部の色素沈着や網膜色素上皮の集簇・遊走などがみられる.脈絡膜新生血管,網膜下索状物の形成を合併した場合は,視力の予後不良の原因となる.また,全身的に皮膚の白斑,頭髪の白髪,脱毛などがみられることがある.C5.診断基準5)現時点では明確なものはないが,以下の所見から判断する.①穿孔性眼外傷,内眼手術の既往②交感性眼炎を示唆する眼所見③頭痛,難聴,耳鳴りなどの眼外症状④髄液細胞増多⑤CHLA-DR4,HLA-DR53の有無⑥他のぶどう膜炎疾患を示唆する所見がないことCII硝子体手術の術後交感性眼炎のリスク1.エビデンスに基づいたショートレビュー歴史的な背景により穿孔性眼外傷が減少したため,交感性眼炎を発症する総数は減少し,また手術技術の向上は外傷後や硝子体手術後に交感性眼炎を発症する患者の減少に寄与している31).そのため,相対的に硝子体手術後に交感性眼炎を発症する割合が増えている32).20ゲージ(G)硝子体手術による強膜・結膜を縫合する手技とC23G,25G無縫合硝子体手術では,無縫合のほうが術後の眼内液の漏出により交感性眼炎の発症リスクが上昇するという報告もあれば33),差はないとする報告もあり34),現段階では一定の結論は出ていない.しかしながら,27Gの硝子体手術に伴う交感性眼炎の報告は現段階で筆者らが検索した限りC2021年のCTakaiらによる症例報告のみであり35),近年の硝子体手術は,より小切開1168あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(36)で低侵襲の手技になったため交感性眼炎のリスクは少ないものの,発症する可能性は残されていることには注意が必要である.C2.処置の目的,予測するメリット強膜穿孔創からの抗原の漏出が交感性眼炎の発症に関与する可能性があると考えられており36),ぶどう膜組織が結膜リンパ組織を介して所属リンパ節に達し,細胞性免疫を誘導すると考えられている37).硝子体手術後の強膜穿刺部からの眼内液の漏出による低眼圧や,結膜に術後色素沈着がみられる場合は,交感性眼炎のリスクとなりうる38).また,複数回に及ぶ手術既往のある眼やシリコーンオイル注入眼,眼球癆に至った眼が,起交感眼として多い39).術後は自覚症状や他覚所見が取りづらく,交感性眼炎のリスクをふまえ,術眼だけでなく,僚眼も経過観察を行う.C3.タイミング,術周期の治療(局所,全身)5)前眼部の炎症に対しては局所のステロイド点眼を行い,交感性眼炎の診断が確定次第,原田病に準じて早期にステロイドの全身投与を行う40).ステロイドの治療は長期に継続する必要があり,投与前には糖尿病,高血圧,脂質異常症,肝腎機能障害,精神疾患の有無について確認する.また,感染症(結核,ヘルペスウイルス,肝炎ウイルスなど)について確認し,ステロイドの副作用(胃腸障害,耐糖能異常,骨粗鬆症,易感染症,精神症状など)につき十分に説明する.定期的に血液検査に加え,必要に応じて消化管検査や骨密度の測定を行う.Ca.初発例局所療法:前眼部の炎症を伴うときはC0.1%リンデロン点眼をC4~6回,虹彩後癒着予防のためミドリンCP点眼を1~4回用いる.全身療法:ステロイドパルス療法あるいはステロイドの大量療法が基本となり,眼所見を確認しながら徐々に減量する.処方例としてはメチルプレドニゾロンC200~1,000CmgをC3日間点滴静注後,プレドニゾロンC40Cmgの内服に切り替えて漸減するが,病態によりこの限りではない.ステロイドの内服はC6~9カ月程度継続することが望ましい7).Cb.遷延例眼底型の再燃の際はステロイドを増量し,より長い期間の免疫抑制が必要となり,ステロイド減量(steroid-sparing)のために免疫抑制薬の併用を検討する.眼底型の再燃時には,トリアムシノロンのCTenon.下注射(単独あるいは追加)の選択も行う.白内障の程度,ステロイドによる眼圧上昇の既往の有無,腎機能・肝機能などの全身状態を考慮したうえで治療方針を総合的に判断する.遷延化を防ぐには,ステロイドの治療開始の時期,初期投与量,漸減・再発時の管理が重要である41).遷延した患者や副作用のためにステロイドの継続投与が困難な患者には,免疫抑制薬のシクロスポリン(2~4Cmg/kg:トラフ値がC100Cng/ml程度になるように調整)やアザチオプリンの有効性が報告されている32).免疫抑制薬の使用時も肝腎機能障害,高血圧,中枢神経障害などの副作用については説明ならびにモニタリングが必要である.また,海外では交感性眼炎の治療として生物学的製剤であるアダリムマブ(ヒュミラ)の有効性も報告されている42,43).使用中は重篤な感染症をはじめとした有害事象に対して留意が必要な薬剤であり,「非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル」に準拠する必要がある44).わが国では交感性眼炎に対してはまだ使用頻度は少ないものの,今後の報告が待たれる薬剤である.C4.具体的な方法,注意点,コツ強膜内陥術後の交感性眼炎も報告されるものの45),強膜内陥術と比較して硝子体手術による交感性眼炎のリスクは約C2倍といわれる36).交感性眼炎の発症予防という観点からは低侵襲の手術が推奨され,また術後は僚眼の眼所見についても注意する.また,VKHの既往がある場合は,交感性眼炎ではないものの術後の再燃リスクをふまえて十分観察を行う.(37)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C1169図1前眼部所見(低倍率)毛様充血がみられる.図3眼底所見図2前眼部所見(高倍率)硝子体混濁により視認性は不良で,視神経乳頭は発赤して角膜後面沈着および虹彩炎がみられる.いる.図4フルオレセイン蛍光眼底造影検査の所見造影早期(Ca)に視神経乳頭部および下方の周辺網膜より蛍光色素の漏出がみられ,後期(Cb)には網膜下に漏出液の貯留がみられた.図5光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見網膜下液の貯留がみられ,網膜色素上皮ラインは波打ち,脈絡膜の肥厚がみられた.1),角膜後面沈着物および虹彩炎がみられた(図2).眼底検査では,硝子体混濁により視認性はやや不良で,視神経乳頭は発赤していた(図3).フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,造影早期に視神経乳頭部および下方の周辺網膜より蛍光色素の漏出がみられ(図4a),後期には網膜下に漏出液の貯留がみられた(図4b).OCTでは網膜下液の貯留がみられ,網膜色素上皮ラインは波打ち,脈絡膜の肥厚がみられた(図5).本症例では頭痛,難聴の自覚はなかったが,入院後の髄液検査で細胞増多を確認し,交感性眼炎と診断した.また,入院時の採血によりCHLA-DRB1*04,DRB1*15が陽性であることが経過中に確認された.加療に際して全身状態を確認後,速やかにステロイドパルス療法(ソルメドロールC1Cg/日をC3日間点滴)を施行し,その後プレドニソロン内服C50Cmg/日に切り替えた.内服に変更後C1週間の時点で,OCTで網膜下液の消失を確認した.外来でステロイド内服を徐々に漸減し,ステロイド加療開始後C2カ月の時点でシクロスポリン内服(100Cmg/日)とプレドニゾロンC35Cmg/日を併用して,漸減中である.現在は炎症の再燃はなく,全身への副作用も生じていない.おわりに交感性眼炎は手術技術の向上に伴い,発症率は減少している.しかしながら,低侵襲の手技であっても交感性眼炎を発症する可能性は残されていることには留意し,患者の理解を得たうえで術眼のみでなく僚眼も含めた経過観察を行うことが重要であると考える.文献1)AlbertCDM,CDiaz-RohenaR:AChistoricalCreviewCofCsym-patheticCophthalmiaCandCitsCepidemiology.CSurvCOphthal-molC34:1-14,C19892)MackenzieW:Apracticaltreatiseonthediseasesoftheeye.p523-534,Longmans,London,18403)北市伸義,北明大洲,大野重昭:炎症性眼疾患の診療交感性眼炎.臨眼62:650-655,C20084)KadenR:[HistoricnoticesofLouisbrailleandthedevel-opmentCofdot-writing(authorC’stransl)]C.CKlinCMonblCAugenheilkdC170:154-158,C19775)大野重昭,岡田アナベルあやめ,後藤浩ほか:ぶどう膜炎診療ガイドライン.日眼会誌123:635-696,C20196)JabsCDA,CDickCA,CKramerCMCetal:Classi.cationCcriteriaCforCSympatheticCOphthalmia.AmJOphthalmolC2021.doi:10.1016/j.ajo.2021.03.0487)慶野博,岡田アナベルあやめ:眼科手術のリスクマネージメント交感性眼炎と硝子体手術.眼科手術20:523-524,C20078)GalorCA,CDavisCJL,CFlynnCHWCJrCetal:SympatheticCoph-thalmia:incidenceCofCocularCcomplicationsCandCvisionClossCinthesympathizingeye.AmJOphthalmol148:704-710,Ce702,C20099)GotoH,RaoNA:SympatheticophthalmiaandVogt-Koy-anagi-HaradaCsyndrome.CIntCOphthalmolCClinC30:279-285,C199010)MakleyCTACJr,CAzarA:SympatheticCophthalmia.aClong-termfollow-up.ArchOphthalmol96:257-262,C197811)LubinCJR,CAlbertCDM,CWeinsteinM:Sixty-.veCyearsCofCsympatheticCophthalmia.CaCclinicopathologicCreviewCofC105cases(1913-1978)C.COphthalmologyC87:109-121,C198012)井上俊輔,出田秀尚,石川美智子ほか:網膜・硝子体手術後にみられた交感性眼炎の臨床的検討.日眼会誌C92:372-376,C198813)竹田朋代,小嶌祥太,高井七重ほか:線維柱帯切開術後に交感性眼炎を発症したステロイドレスポンダーのC1例.眼科57:1067-1074,C201514)竹宮信子,菅野貴子:稲用和也白内障術後に水痘帯状ヘルペスウイルス虹彩炎を生じ,経過中に交感性眼炎をきたしたC1例.臨床眼科71:1369-1375,C201715)大橋和広,宮平大輝,下地貴子ほか:第C71回日本臨床眼科学会講演集[2]強膜軟化症を契機に発症した交感性眼炎のC1例.臨床眼科72:537-542,C201816)古泉英貴,長谷川泰司,丸子一朗ほか:滲出型加齢黄斑変性に対する多数回の抗血管内皮増殖因子薬治療を契機に発症した交感性眼炎のC1例.日眼会誌124:713-719,C202017)BrourJ,DesjardinsL,LehoangPetal:SympatheticophC-thalmiaCafterCprotonCbeamCirradiationCforCchoroidalCmela-noma.OculImmunolCIn.ammC20:273-276,C201218)CastiblancoCCP,CAdelmanRA:SympatheticCophthalmia.CGraefesArchCClinExpOphthalmolC247:289-302,C200919)ZahariaCMA,CLamarcheCJ,CLaurinM:SympatheticCuveitisC66CyearsCafterCinjury.CCanCJCOphthalmolC19:240-243,C198420)NussenblattR:Sympatheticophthalmia.In:Uveitis:fun-damentalCandCclinicalpractice(NussenblattCR,CWhitcupCSM,CPalestineCAG,eds)C.CpC97-134,Cp311-323,CMosby,CSt.CLouis,199621)ChanCCC,CRobergeCRG,CWhitcupCSMCetal:32CcasesCofCsympatheticCophthalmia.CaCretrospectiveCstudyCatCtheCNationalCEyeCInstitute,CBethesda,CMd.,CfromC1982CtoC1992.CArchOphthalmol113:597-600,C199522)ShindoY,OhnoS,UsuiMetal:ImmunogeneticstudyofsympatheticCophthalmia.CTissueCAntigensC49:111-115,C199723)KilmartinDJ,WilsonD,LiversidgeJetal:Immunogenet-1172あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(40)–

急性網膜壊死に合併する裂孔原性網膜剝離 の硝子体手術

2021年10月31日 日曜日

急性網膜壊死に合併する裂孔原性網膜.離の硝子体手術VitrectomyforRhegmatogenousRetinalDetachmentComplicatingAcuteRetinalNecrosis厚東隆志*はじめに急性網膜壊死(acuteCretinalnecrosis:ARN)は単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicellaCzostervirus:VZV)の網膜感染により生じる壊死性網膜炎を主体とする病態である.1971年に桐沢型ぶどう膜炎として浦山らが報告1)し,その後CHSV,VZVが原因であるぶどう膜炎であることが解明された2~4).無治療の場合は数週間~数カ月で失明に至るきわめて予後不良の疾患である.しばしば裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)を合併し,硝子体手術の絶対適応となるが,手術のタイミングや術式に統一的な見解は得られていない.本稿では筆者の施設での経験を元にした私見も交え,ARNに対する硝子体手術について述べる.CI急性網膜壊死の診断と薬物治療ARNはわが国におけるぶどう膜炎の約C1%強と推定される5).肉芽腫性前部ぶどう膜炎(図1)と,網膜周辺部の黄白色病変を初期病変の特徴とし,眼底所見で網膜動脈炎,視神経乳頭発赤,硝子体混濁(図2)や眼圧上昇が診断基準に含まれる.フルオレセイン蛍光眼底検査は,網膜動脈炎や視神経乳頭炎の存在を描出するのに有図1急性網膜壊死の肉芽腫性前眼部ぶどう膜炎(47歳)強い毛様充血と虹彩後癒着を生じ(a),白色の豚脂様角膜後面沈着物を認める(b).*TakashiKoto:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕厚東隆志:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(29)C1161図2急性網膜壊死の初期眼底所見図C1と同一症例.硝子体混濁とともに,周辺部網膜に黄白色病変を認める.中間周辺部の病変は斑状,顆粒状だが,再周辺部の病変は癒合し広い壊死病変となっている.図3急性網膜壊死のフルオレセイン蛍光眼底検査所見図C1と同一症例.全周の網膜動脈炎と血管閉塞を造影早期(Ca)より認め,後期(Cb)では視神経乳頭周囲の漏出を認め視神経乳頭炎の存在が確認できる.図5急性網膜壊死に合併した裂孔原性網膜.離(RRD)図C1と同一症例.抗ウイルス薬治療中,下耳側にCRRDを生じた().術中所見から原因裂孔はC4時方向の健常網膜と壊死網膜の境界部にスリット状に生じた裂孔であった.図4OCTによる後部硝子体.離(PVD)の検出図C1と同一症例.ARN初診時はCPVD(-)であった(Ca)が,3週間の抗ウイルス薬治療の経過中,PVDが生じた(b)ことがCOCTで検出された.後部硝子体膜()が硝子体混濁のため比較的明瞭に判別できる.C-図6急性網膜壊死に合併した裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術の術中所見別症例.術中に裂孔を検索し,裂孔部位()をジアテルミーでマーキングする(Ca).圧迫下に際周辺まで十分にシェービングを行う(Cb).#287シリコーンタイヤを用いて輪状締結を併施する(Cc).壊死網膜と健常網膜の境界の健常網膜側に全周光凝固を施行する(Cd).図7硝子体術後の再増殖図C1と同一症例.2度のガスタンポナーデ後いずれも再.離を生じ,最終的にシリコーンオイル下に復位した.耳側を中心に増殖性変化を生じているが,この所見は術後も徐々に増悪している.低眼圧となっており,シリコーンオイル抜去を行うと眼球癆に至る可能性が高い.-

硝子体生検目的の硝子体手術

2021年10月31日 日曜日

硝子体生検目的の硝子体手術VitreousBiopsyfortheDiagnosisofUveitis橋田徳康*はじめにぶどう膜炎の日常診療においては,しっかりとした診断をつけたうえでの治療が第一であるのは周知の事実であるが,ときに内眼手術が必要になる場合がある.眼内の状態を評価するためには,前房水や硝子体液の採取および解析が重要である.なぜなら,細胞やサイトカイン濃度を直接的に解析できるために診断に直結し,病態把握につながるからである.ただし,ぶどう膜炎に対する内眼手術は,術前の十分な消炎が得られたうえでの施行が望ましいとされている1).いままでは炎症眼に対する硝子体手術は大きな侵襲性のために原疾患の炎症悪化をきたす可能性が高く,慎重に症例選択がなされていたが,低侵襲硝子体手術(minimally-invasiveCvitreoussurgery:MIVS)の急速な進歩により,硝子体手術の安全性が向上し,炎症疾患に対する手術適応が拡大してきている2,3).本稿では,ぶどう膜炎疾患において,硝子体生検目的で行われる硝子体手術の適応・手技・注意点などについて解説する.CI硝子体手術を行う目的とタイミングぶどう膜炎疾患領域において硝子体手術を行う目的は,治療と診断に大きく分けられる4).本稿では(生検として)得られた硝子体液からいかに診断につなげるかというテーマで,診断目的で行われる硝子体手術について解説する.生検といえば悪性腫瘍が疑われる患者において,診断や進行度の解析に行われる手技のイメージがあるが,眼科領域においては広義に解釈すれば得られた硝子体サンプルを用いて,腫瘍細胞の検出と悪性度判定だけでなく,細菌性・真菌性眼内炎における感染病原体の検出・硝子体サイトカイン濃度測定,細胞解析および遺伝子再構成の有無の検索を行うなど,多彩な利用目的が存在する.次に手術を行うタイミングであるが,感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎で大きく異なる.感染性ぶどう膜炎において硝子体手術を考えなければならない場合は,もともと緊急性疾患であるために時間的な猶予がない状況である.前房内や硝子体に激しい炎症があり中間透光体の混濁で網膜の状態が評価できない場合は,超音波画像診断(Bモード)による硝子体混濁の有無の精査が役に立つ(図1).さらに,網膜電図(electroretino-gram:ERG)を用いた網膜の機能評価も手術を行うか否かの一つの判断材料になる5,6).フリッカ網膜電位計レチバル(メーヨーコーポレーション)も,角膜電極ERGと同等の評価ができるかは今後の課題であるが,非侵襲的かつ簡便に錐体系機能を評価できるので有用である7).CII感染性ぶどう膜炎における硝子体生検目的の硝子体手術感染性ぶどう膜炎の代表疾患として急性網膜壊死や細菌性・真菌性眼内炎があるが,急性網膜壊死に関しては他稿に解説があるので参照していただきたい.眼内炎に*NoriyasuHashida:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕橋田徳康:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(23)C1155図1超音波画像診断(Bモード)による硝子体の評価中間透光体の混濁で眼底観察が困難な状況での評価に重要で,本症例では非常に強い硝子体混濁が認められる.図3穿孔性眼外傷後の感染性眼内炎の症例受傷後,前医で経過観察されていたが前房内炎症が激しくなり当院に紹介された.前房蓄膿・前房出血を伴う激しい前房内炎症,毛様充血を認める.図2Cutibacteriumacnesによる遅発性眼内炎の1例外傷後の無水晶体眼対する眼内レンズ二次挿入後,4カ月して出現した遅発性眼内炎.眼内レンズのCopticおよびChapticに沈着物の付着が多数みられる.図5抗菌薬を混注した灌流液での前房内洗浄図C3と同一症例.細菌性眼内炎が疑われ,眼の状況を確認すると同時に抗菌薬を混注した灌流液で前房内の洗浄を行っている.図4白内障術後早期に出現した術後眼内炎の症例紹介元での朝一番の診察時には,「眼底は十分透見可能であった」と紹介状にあったが,数時間で硝子体混濁が進み,同日の当院受診時には眼底観察が困難な状況まで病状が進行していた.図7感染性眼内炎に対する硝子体手術における周辺網膜処理図C3と同一症例.強い硝子体混濁があり視認性が悪い状況で医原性裂孔を作らないように丁寧に確実に周辺網膜を処理する.(大阪大学丸山和一先生より提供).図6前房に析出したフィブリン膜の前.鑷子による除去図C3と同一症例.瞳孔領に析出したフィブリン膜を,前.鑷子を用いて除去している.図8眼内悪性リンパ腫における硝子体混濁図9硝子体生検1週間後の術後眼底所見ベール状もしくはオーロラ状と表現される比較的強い硝子図C8の硝子体手術後.硝子体生検後,網膜浸潤病巣が明ら体混濁が赤道部から周辺も網膜にかけてびまん性に認めらかになった.周辺網膜郭清中に網膜最周辺部に裂孔があっれる.強い混濁の割には,視力がある程度保たれることがたため,網膜光凝固術を施行し,ガス注入で終了してい多い.る.図10硝子体生検時の無灌流硝子体手術(dryvitrectomy)眼球を圧迫しながらCdryvitrectomyを行い,生検サンプル1.2Cmlを採取する.細胞診やサイトカイン濃度測定用に使用する.図11灌流下での硝子体混濁の除去図C8,9と同一症例.十分な視認性を保ちながら混濁が強い部分を中心に硝子体をくまなく切除していく.生検サンプルはフローサイトメトリーなどに使用する.(大阪大学丸山和一先生より提供)—

ぶどう膜炎続発緑内障に対する手術: 考え方と実際

2021年10月31日 日曜日

ぶどう膜炎続発緑内障に対する手術:考え方と実際TypesofSurgeryforUveiticGlaucoma:ProcedureandManagement高橋枝里*井上俊洋*はじめにぶどう膜炎では,炎症が眼圧上昇の原因となる,消炎のためのステロイドが眼圧上昇の原因となる,手術により炎症が増悪し,その炎症により手術不成功率があがる,といったように,一方の治療が他方を悪化させるため,管理がむずかしい.また,ぶどう膜炎続発緑内障は,発症年齢が若い,難治で度重なる手術が必要となる,という特徴もある.本稿では,このような管理がむずかしいぶどう膜炎続発緑内障に対して,どのようなときにどの手術を選択すべきかを考える.I術式の選択図1に術式選択のシェーマを示す.消炎,緑内障点眼による治療を行っても眼圧が下降しないときに緑内障手術を決断する.まず,炎症の状態を評価する.炎症が鎮静化していない状態で手術に踏み切る場合は,濾過手術を選択し,術後,ステロイドの全身投与も含め消炎に努める.炎症がサイレントにみえても,必ず隅角鏡検査を行い,隅角結節やanglehypopion(隅角鏡で確認される前房蓄膿)を認める場合は濾過手術を選択する.基本的に,ぶどう膜炎続発緑内障に対する手術の第一選択は濾過手術で,線維柱帯切除術であるが,近年の低侵襲緑内障手術(microinvasiveglaucomasurgery:MIGS)の普及に伴い,炎症所見を認めず,広範な周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)がなければ,眼内法による線維柱帯切開術(トラベクロトミー)も選択されている.しかし,視野が後期の症例では眼内トラベクロトミーは慎重に検討したほうがよい.緑内障手術や硝子体手術など,白内障手術以外の内眼手術の既往がある場合は,線維柱帯切除術よりチューブシャント手術の適応である.1.眼内線維柱帯切開術(眼内トラベクロトミー)線維柱帯切開術は,房水の流出抵抗の場である線維柱帯を切開または切除することで房水をSchlemm管へ直接流す術式である.眼外法は線維柱帯切除術と同様に結膜を切開し強膜フラップを作製する術式で,ステロイド緑内障や落屑緑内障におもに行われてきた.現在,角膜創からのアプローチで眼内から線維柱帯切開を可能にしたMIGSが導入されたため,角膜混濁など特殊な事情がなければ,眼外法を選択する理由はない.眼外法によるトラベクロトミーはぶどう膜炎続発緑内障に対する適応は非常に低いが,眼内トラベクロトミーは後述する濾過手術に比べ低侵襲で安全性が高いこと,角膜切開で行うため将来的な濾過手術に支障が生じないこと,またステロイド緑内障の要素も否定できない症例が少なからずあるという理由から,ぶどう膜炎続発緑内障に対して選択の余地がある1).ただし,炎症がアクティブなときは手術により炎症が増悪しPASの形成を増悪させる可能性が高く,行うべきではない.また,線維柱帯切除術に比して眼圧下降効果が弱く,術後眼圧スパイクがしばしばみられるため,視野が後期の症例には慎重に検討しな*EriTakahashi&ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕高橋枝里:〒860-8556熊本市中央区本荘1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(17)1149隅角に(広範な)癒着があるYESNO炎症が鎮静化しているYES視野初期~中期NO視野後期眼内トラベクロトミー濾過手術線維柱帯切除術バルベルトチューブシャント手術アーメド緑内障バルブ手術図1ぶどう膜炎続発緑内障における緑内障手術選択のシェーマ図2MIGSデバイスa:カフークデュアルブレード.b:カフークデュアルブレードによる線維柱帯切除イメージ.(提供:JFCセールスプラン)図3眼内線維柱帯切開術(眼内トラベクロトミー)のイメージ図4線維柱帯切除術のイメージ図5バルベルト緑内障インプラント図6アーメド緑内障バルブ(提供:エイエムオー・ジャパン)(提供:JFCセールスプラン)図7チューブシャント手術におけるチューブの留置a:前房挿入例.b:毛様溝に挿入されたチューブ.図8全周性虹彩後癒着による瞳孔ブロックa:細隙灯顕微鏡写真.著明な充血と全周性虹彩後癒着を認める.Cb:瞳孔領部の写真.慢性炎症により著明な虹彩ルベオーシスをきたしている.Cc:前眼部光干渉断層計画像.著明な膨隆虹彩を認め,虹彩と角膜は接触している.図9観血的周辺虹彩切除術のイメージabc図10全周性虹彩後癒着による瞳孔ブロックに対し白内障手術を施行した症例a:術前の細隙灯顕微鏡の写真.全周性の虹彩後癒着と膨隆虹彩を認める.Cb:前眼部光干渉断層計画像.aに一致した膨隆虹彩が確認される.c:白内障手術後の前眼部光干渉断層計画像.瞳孔ブロックは解除されているが,隅角は癒着している.

ぶどう膜炎併発白内障の手術:考え方と実際

2021年10月31日 日曜日

エピジェネティックな転写制御エピジェネティックな遺伝子発現制御われわれヒトを含む多細胞生物を構成する細胞はそれぞれ異なる形態や機能をもち,それらが協力しあうことで個体としての生存を可能にします.一方で,細胞のいわば設計図であるゲノムは,当然ながら一つの個体の中では基本的に同一です.また,同じ個体・細胞であっても,生涯にわたって病気や加齢,環境などの変化にさらされ,それに伴い求められる機能も変化していきます.それでは,どのようにして共通の設計図から,多様で柔軟な生命が生み出されるのでしょうか.細胞には,その多様性や柔軟性を実現する仕組みの一つとして,遺伝子発現を臨機応変に変化させる機能が備わっています.そのなかでもCDNA配列に依存せずに(つまり設計図が同一であっても)遺伝子発現を制御するメカニズムが知られており,それを扱う学問領域はエピジェネティクスとよばれます.その物質的な実態として,古くから知られているものとしてはヒストン修飾,DNAメチル化の二つがあります.近年ではゲノムの三次元構造の重要性も新たに明らかにされ,ゲノムワイドな解析手法の普及と相まって新しいエピジェネティックな因子としてトレンドとなっています.網膜発生におけるエピジェネティクス網膜においてもエピジェネティックな発現制御が重要であることが知られています.とくに筆者らが着目している網膜発生においては,ヒストン修飾の重要性が明らかにされています1).ヒストン修飾も数多くありますが,筆者らはそのなかでヒストンCH3のC36番目のリジン残基(H3K36)を脱メチル化図1H3K36脱メチル化酵素の網膜発生への寄与網膜特異的にCH3K36脱メチル化酵素をノックアウトしたところ,桿体細胞の発生に異常が生じた.この酵素にかぎらず,ヒストン修飾をつかさどる複数の酵素が網膜発生に影響を与えることが知られている.福島正哉東京大学医学部附属病院眼科する酵素が桿体細胞の発生に必須であることを明らかにしました(図1,論文投稿準備中).この遺伝子はCDNAのメチル化状態によって局在が変化することが知られており,ヒストン修飾とCDNAメチル化をつなぐプレイヤーとして注目しています.エピジェネティクスの展望近年,超並列シーケンサーの性能向上と解析技術の発展により,網羅的な解析手法がますます一般的になっています.筆者らの扱うヒストン修飾についても,2018年頃から単一細胞レベルでゲノムワイドに解析する手法が複数報告されています2,3).今後はこれまでにない詳細なレベルで遺伝子発現の制御機構が明らかになることは間違いありません.また,医療と関係する話題としては,現時点では発癌との関連に着目した創薬が行われています.とくにヒストンH3K27メチル化酵素であるCEZH2に対する阻害薬は,米国で濾胞性リンパ腫などに対して承認を受けています.今後ターゲットとなる分子や疾患領域が広がっていくことが期待されます.文献1)IwagawaCT,CWatanabeS:MolecularCmechanismsCofCH3K27me3andH3K4me3inretinaldevelopment.Neuro-sciRes138:43-48,C20192)SkeneCPJ,CHeniko.CJG,CHeniko.S:TargetedCinCsituCgenome-wideCpro.lingCwithChighCe.ciencyCforClowCcellCnumbers.NatProtocC13:1006-1019,C20183)Kaya-OkurCHS,CJanssensCDH,CHeniko.CJGCetal:E.cientClow-costCchromatinCpro.lingCwithCCUT&Tag.CNatCProtocC15:3264-3283,C2020(57)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C11890910-1810/21/\100/頁/JCOPY

眼局所の薬物投与 (ステロイド結膜下注射,Tenon 囊下注射)

2021年10月31日 日曜日

眼局所の薬物投与(ステロイド結膜下注射,Tenon.下注射)LocalOcularDrugAdministration(SubconjunctivalInjectionofSteroid,Sub-Tenon’sTriamcinoloneAcetonideInjectionofSteroid)長谷川英一*園田康平*はじめにぶどう膜炎の治療は原因検索ののち,薬物治療や外科的治療を組み合わせて行うが,消炎を目的とした副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)の投与はぶどう膜炎治療の中心である.ステロイドの投与方法は病態や病状に合わせて点眼,眼局所注射,内服もしくは点滴による全身投与を選択する.本稿では眼局所注射について,その適応と投与の実際について解説する.Iぶどう膜炎における眼局所治療ぶどう膜炎の激しい炎症や持続する炎症は,各眼組織を障害し不可逆的な視力低下をもたらす.感染症による炎症であることを否定したのち消炎目的にステロイドの投与を行うが,そのうち眼局所への注射によるステロイドの投与は,ステロイドの全身への副作用を抑えつつ眼炎症に対する消炎効果も高い投与方法であり,実臨床でも汎用されている.ここでは結膜下注射とTenon.下注射について述べる.II結膜下注射1.結膜下注射の適応前眼部の炎症に対してはまず点眼にて加療を行うが,炎症が強く点眼ではコントロールができない場合はステロイドの結膜下注射を行う.水溶性デキサメタゾンを炎症の強い部分の結膜下に注射する.激しい炎症により虹彩後癒着をきたしている患者では,散瞳薬を少量混ぜて注射することで虹彩後癒着を解除できることがある.急性前部ぶどう膜炎などとくに炎症が強い場合は,連日の複数回投与が必要になることもある(図1).注射時はキシロカイン点眼による表面麻酔を行ったのちに注射するため注射針刺入による痛みはないが,薬液注入に伴う物理的な結膜の伸展によって痛みを生じることが多い.薬液にキシロカインを少量混ぜてゆっくり注入することで痛みを緩和することができる.強膜炎の治療では,点眼のみでは炎症コントロールに難渋することが多く,ステロイドの内服併用を必要とすることも多い.しかし,全身疾患によりステロイドの内服が困難な場合もあり,その際にはトリアムシノロンアセトニドの結膜下注射が有効なことがある.炎症の強い部分に注入を行うが,強膜が菲薄化していることもあるため,穿孔に注意しながら投与を行う.また,強膜壊死を引き起こすこともあり,慎重投与が必要である.2.結膜下注射の手順1)①点眼麻酔薬と抗菌薬を点眼する.②デキサメタゾン(デカドロン)1.65mg/mlを1.mlシリンジに入れる.③開瞼器をかけたのち27ゲージ(G)鋭針で炎症の強い部位に0.5~1.0ml注入する.虹彩後癒着を解除したい場合はミドリンP点眼液を0.2ml,薬液注入時の痛みを緩和したい場合は2%キシロカイン0.2mlを混ぜて投与する.*EiichiHasegawa&Koh-HeiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕長谷川英一:〒812-8582福岡市南区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(7)1139図1急性前部ぶどう膜炎の前眼部写真a:強い毛様充血を認める.b:点眼で消炎が不十分であったため結膜下注射を複数回施行し,毛様充血は改善している.図2ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫a:STTA施行前.b:STTA施行後,黄斑浮腫は消失している.図3ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HumanT.cellLeukemiaVirusType1:HTLV.1)関連ぶどう膜炎に伴う硝子体混濁a:STTA施行前.b:STTA施行後,硝子体混濁は消失し眼底の透見が改善している.図4Tenon.下注射針25G鈍針.針先は少し弯曲している.図5後部Tenon.下注射の手順(右眼)a:上鼻側を注視させる.b:結膜・Tenon.を切開し強膜を露出させる.c:25GTenon.下注射針をTenon.下に挿入し,眼球壁に沿わせながら奥に進めて薬液を注入する.表1局所注射による合併症結膜下出血眼球穿孔眼圧上昇血圧上昇白内障感染症’

ぶどう膜炎の鑑別診断のための前房水採取

2021年10月31日 日曜日

ぶどう膜炎の鑑別診断のための前房水採取DiagnosticAnteriorChamberParacentesisforUveitis林勇海*はじめにぶどう膜炎の原因は多岐にわたり,感染性,非感染性,腫瘍性に大別される.治療方針の決定において感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎の鑑別は重要であるが,臨床所見のみではその判断に悩まされることも多い.2016年にわが国で行われたぶどう膜炎の大規模疫学研究の結果では全体のC16%が感染性ぶどう膜炎であったが,そのなかで頻度が高いものはヘルペス性虹彩炎(6.5%),急性網膜壊死(1.7%),サイトメガロウイルス網膜炎(1.2%)といずれもウイルス性ぶどう膜炎が上位を占め,過去の国内疫学研究と比較し,いずれも増加傾向であった1).この要因として,環境・生活習慣の変化に加え,眼内液を用いたポリメラーゼ連鎖反応(poly-meraseCchainreaction:PCR)法によるウイルスCDNAの網羅的検索が可能となったことにより診断率が大きく向上した可能性が指摘されている.本稿では,ウイルス性ぶどう膜炎をはじめとした感染性ぶどう膜炎の診断に有用な前房水採取について,その適応や方法,合併症などを含め概説する.CI房水の機能と循環房水は前房および後房からなる眼房を満たす無色透明な液体で,水晶体・虹彩・角膜などの前眼部組織の栄養供給や老廃物の除去,さらに眼球の形態保持や眼圧の維持に主要な役割を果たしている.房水は毛様体で産生され,後房,水晶体前面と虹彩後面との間隙を通って瞳孔から前房に入り,前房を循環したあと隅角を通過して眼外へと流出する.房水と硝子体の容積は約C5Cmlで,そのうち硝子体がC94%,前房水がC5%,後房水がC1%である.つまり,前房は約C0.25Cmlの容積を占める空間である.CII前房水採取の適応おもにウイルス性ぶどう膜炎をはじめとする感染性ぶどう膜炎を疑った場合,臨床所見からいくつかの原因微生物を鑑別にあげ,その存在を確認あるいは否定するため前房水採取を考慮する.炎症の活動期の,可能であれば治療開始前の検体を採取することが重要であり,すでに活動性のない検体を採取した場合は偽陰性の可能性が高くなり有用性が落ちる.前房水CPCR検査の有用性や安全性を検討した既報は散見される.Anwarらは感染性前部ぶどう膜炎が疑われ前房水CPCR検査を施行したC53症例を後向きに検討し,前房水CPCRはその合併症のリスクに比して診断的有用性が低く,臨床的判断への貢献に乏しかったと報告している2).一方で,Choiらは感染性ぶどう膜炎が疑われ前房水CPCR検査を施行したC358症例を後向きに検討しており,前房水CPCRは診断上有用な手段であったと結論するとともに,中間部・後部ぶどう膜炎に比して,前部ぶどう膜炎や汎ぶどう膜炎でより診断的価値が高かったと報告している3).眼感染症は,ウイルス・細菌・真菌・寄生虫など各種*IsamiHayashi:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕林勇海:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)C1135図1ストリップPCR検査で同定可能な24項目の病原微生物(文献C5より引用)図2前房穿刺の模式図図3初診時の両眼底後極写真両眼に硝子体混濁,また右眼優位に網膜血管の白鞘化を認め網膜血管炎が示唆される.図4右眼の広角眼底写真耳側周辺部に類円形斑状の滲出斑()が散在している.

序説:ぶどう膜炎の外科的処置:入門

2021年10月31日 日曜日

ぶどう膜炎の外科的処置:入門AnIntroductiontoSurgicalProceduresinUveitis岡田アナベルあやめ*山本哲也**ぶどう膜炎は眼科のなかではもっとも内科的な領域であるが,慢性炎症により合併症が生じて,眼内手術が必要になることはよくある.また,ウイルス性疾患あるいは悪性疾患を疑う場合は,前房水や硝子体のサンプルを取得し,微生物学的,病理学的な精密検査の結果をみて診断を確定する必要もある.とくに,もともと眼内炎症が背景にある眼や,ときに重篤な全身疾患が背景にある患者については,その外科的処置の適応,方法,タイミング,注意点などが非常に重要になってくる.また,ぶどう膜炎の専門家が処置・手術を施行する場合もあれば,緑内障の専門家や硝子体サージャンなどと連携して手術を行うこともあり,術周期の眼局所治療(たとえば,虹彩後癒着を防ぐための瞳孔管理)および全身治療(たとえば,一時的なスロイド全身投与の使用)はぶどう膜炎専門家の責任で,事前に検討する必要がある.本特集では,これらぶどう膜炎における手術や処置の基本的な知識および代表症例を紹介する.最初は外来で施行可能な前房水採取と眼局所の薬物投与について,それぞれ林勇海先生と長谷川英一先生・園田康平先生に執筆をお願いした.次にもっとも多いぶどう膜炎合併症である白内障と緑内障における手術のベテランの考え方を,新井悠介先生・川島秀俊先生と高橋枝里先生・井上俊洋先生に教示いただいた.その次は完全に硝子体サージャンの領域になるが,硝子体生検と急性網膜壊死における硝子体手術を,橋田徳康先生と厚東隆志先生に取り上げていただいた.最後はまれな術後合併症であるが,硝子体手術,眼球摘出術や眼球内容除去術をきっかけに発症する交感性眼炎のリスクについて,重安千花先生にレビューしていただいた.さて,ぶどう膜炎の合併症である白内障と緑内障についてここで少し考えてみたいと思う.どのぐらいの頻度で起きるのであろうか?これについては,米国で行われたMUSTTrialのデータが大変有意義な情報になる1).この前向き多施設無作為臨床試験では,中間・後部・汎ぶどう膜炎に対してステロイド±免疫抑制薬の全身投与群とフルオシノロンアセトニド硝子体内インプラント群を2年間比較検討している.おもな結果としては,両群に視力の改善がみられ,それぞれの視力改善度には差がなかった.インプラントはわが国では承認されていないので,全身投与群における眼合併症に注目すると,2年間の試験終了の段階では,新たな合併症としては白内障を44.9%,白内障手術施行を31.3%,眼圧下降薬使用を20.1%,緑内障(緑内障性視野障害あるいは緑内障性視神経障害)を4.0%,緑内障手術*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室**TetsuyaYamamoto:海谷眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)1133

20 年前に迷入したと考えられる涙囊内異物の1 例

2021年9月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科38(9):1123.1126,2021c20年前に迷入したと考えられる涙.内異物の1例松下裕亮*1上笹貫太郎*1平木翼*2谷本昭英*2坂本泰二*1*1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻腫瘍学講座病理学分野CACaseofaLacrimal-SacForeignBodythatPossiblyIntrudedTwenty-YearsPreviousDuringTraumaYusukeMatsushita1),TaroKamisasanuki1),TsubasaHiraki2),AkihideTanimoto2)andTaijiSakamoto1)1)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,2)DepartmentofPathology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciencesC外傷時に迷入したと考えられる涙.内異物の症例を報告する.症例はC34歳,男性.約C20年前に左眼下涙点付近を竹で受傷した既往がある.受傷後から慢性的に左鼻汁を自覚していた.最近になって左眼の眼脂を自覚し,近医で涙道閉塞を疑われ当科へ紹介となった.初診時に左眼内眼角部に外傷の痕跡はなかった.通水検査で左側の通水を認めなかった.単純CCT検査を行ったところ左眼涙.内にC10Cmm大で高信号の棒状陰影を認めた.涙道内視鏡検査では左眼涙.内の異物が疑われた.涙道内視鏡による摘出は困難と考え涙.鼻腔吻合術(DCR)鼻内法を行った.摘出した異物は,病理組織学的検査で放線菌が全周に付着した植物片と診断された.術直後より左眼の眼脂は消失し,通水は改善した.異物は涙小管や鼻涙管の通過が困難な大きさであり,また外傷の既往があることから,受傷時に涙.内へ迷入したものと考えられた.大型の涙.内異物であったがCDCR鼻内法で摘出が可能であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCaClacrimal-sacCforeignCbodyCthatCmayChaveCintrudedCduringCtrauma.CCase:A34-year-oldmalewhowasinjuredwithapieceofbamboonearhisleftlacrimalpunctumabout20-yearspreviousbecameCawareCofCleftCmildCrhinorrheaCandCrecentCdischargeCinChisCleftCeye,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCdepartmentbyalocalphysicianduetosuspectedlacrimalductobstruction.Uponexamination,noevidenceoftrau-matohisleftinnereyelidwasobserved.However,forcedirrigationwasobstructed,andasimpleCTscanshowedaC10Cmm-size,Chigh-signal,Crod-shapedCshadowCinCtheCleftClacrimalCsac.CDacryoendoscopyCrevealedCaCforeignCbody,Canddacryocystorhinostomy(DCR)wasperformed.Histologicalexaminationoftheremovedtissuerevealedaplantpiecesurroundedbyactinomycetes.Postsurgery,therewasnolacrimaldischarge,andforcedirrigationwasnor-malized.Sincetheforeignbodywastoolargetoeasilypassthroughthecanaliculiandnasolacrimalduct,andsincetherewasahistoryoftrauma,wetheorizethatithadenteredthelacrimalsacatthetimeofinjury.Conclusion:COur.ndingsshowthatevenalargeforeignbodyinthelacrimalsaccanberemovedbyendonasalDCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1123.1126,C2021〕Keywords:涙.内異物,涙道閉塞,涙道内視鏡,涙.鼻腔吻合術,植物片.lacrimalsacforeignbody,obstruc-tionoflacrimalpathway,dacryoendoscopy,dacryocystorhinostomy,plantpiece.Cはじめに涙道閉塞は先天性と後天性がある.後天性涙道閉塞は原因不明の原発性が多く,中年以降の女性に多く発症する1).しかし,後天性涙道閉塞の原因のうち涙道内異物は涙道閉塞の6.18%に認められ2.4),若年者にも発症すると報告されている5,6).涙.内異物のほとんどは涙石である.化粧品や涙管プラグ,チューブなど医療器具といった外因性異物は涙石の発生原因と示唆されているが7),これらは涙点,涙小管からの侵入が可能な大きさである.今回筆者らは,10Cmm大の涙.内異物を涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)鼻内法で摘出した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕松下裕亮:〒890-8520鹿児島県鹿児島市桜ケ丘C8-35-1鹿児島大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YusukeMatsushita,DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversity,8-35-1Sakuragaoka,Kagoshima,Kagoshima890-8520,JAPANCI症例患者:34歳,男性.主訴:左眼流涙,眼脂,左鼻腔からの慢性的な鼻汁.現病歴:X年C8月に左眼流涙,眼脂を主訴に近医を受診した.左眼涙点からの排膿から左眼涙道閉塞を疑われ,鹿児島大学病院眼科に紹介となった.既往歴:20年前に竹による左眼下涙点付近の刺傷,肝臓移植ドナーとして肝臓を一部切除.初診時所見:矯正視力は右眼C1.5(n.c.),左眼C1.5(n.c.).眼圧は右眼C16CmmHg,左眼C15CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では両上下涙点は開放していたが,左側のCtearmeniscusの上昇を認めた.通水検査では右側は通水良好であったが左側は通水を認めなかった.両側とも明らかな排膿は認めなかった.左眼内眼角付近にC20年前の外傷の痕跡は認めなかった.左眼涙道閉塞を疑い単純CCTを撮影したところ,左涙.内にC10Cmm大の高信号の棒状陰影を認めた(図1).経過:異物による涙.閉塞を疑い,異物摘出術を検討した.涙道内視鏡検査では,涙小管には上下とも異常所見を認めなかったが,涙.内に容易に可動する異物を認めた.異物の外径は涙.内径よりやや小さい程度であると考えられた.その大きさから,鼻涙管を経由した摘出は困難と判断し,DCR鼻内法での摘出を選択した.一般的な鼻内法の術式に従い鼻粘膜を.離し骨窓を作製,涙.を切開したところ黒色の異物を認めた(図2).涙道内視鏡を用いて異物を鼻腔内へ押し出して摘出した.涙.内を十分に洗浄し,異物の残存がないことを確認したのち,涙管チューブをC2セット留置して手術を終了した.摘出された異物は硬く黒色を呈しており(図3),10CmmC×3Cmm×2Cmm大と単純CCTの所見と相違はなかった.病理組織学的検査では放線菌が表面に付着した細胞壁を有する植物片であった(図4).術直後より流涙および眼脂は消失し,左側のCtearmeniscusは正常範囲に改善した.通水検査でも左側の通水は良好であった.一時左眼に軽度の点状表層角膜症を認めたが,速やかに改善した.術後C3カ月で施行した鼻腔内視鏡検査では,中鼻道にCDCR術後開口部を認め,周囲の粘膜腫脹はごく軽度であった.術後C3カ月で涙管チューブを抜去した.涙管チューブ抜去後C1.5カ月間の経過観察で涙道閉塞の再発は認めていない.CII考按涙道閉塞の原因の一つに涙.内異物がある.代表的なものは涙石である5,8).涙石の発生原因は不明ではあるが,慢性炎症,涙液層の停滞,外因性異物などが示唆されている.外因性異物には化粧品や医療器具などの報告が散見されるが,これらに共通することは,涙点や涙小管を経由して涙道内に侵入しうる大きさである点である8,9).迷入した異物をもとに涙石が涙.内で増大,巨大化して排出困難となる病態は珍しくないが,本症例のように異物そのものがC10Cmmを超える巨大なものであった例はまれである.その大きさから涙点からの迷入は否定的であり,さらにC20年前に竹で受傷した既往から,外傷時に迷入した竹の一部であったと考えられた.植物片のような異物は早期に感染を引き起こすと考えられ,また鼻涙管閉塞による涙液停滞が慢性涙.炎の原因となることが報告されている10).本症例では左側の通水不良に加え左鼻腔からの慢性的な鼻汁を自覚していた.それらのことから,受傷により迷入した植物片は涙.内にちょうど納まり涙道は閉塞していたが,鼻涙管を経由して鼻内へ持続的に排膿されることで膿瘍形成や蜂窩織炎などを発症せず長期間残存しえたと考えられた.この植物片には放線菌が全周に付着していた.Perryらは涙液排泄システム内の結石をムコペプチドと細菌によるもののおもなC2種類に分類し,主要な位置と病理組織学的所見の相違を示している11).細菌性の結石は放線菌により構成された大きな塊で,おもに涙小管に位置している.ムコペプチドの結石はまとまりのない無細胞の好酸性の素材により構成され,小さな空胞で区切られた薄板状の結石で涙.内にのみ発見された.本症例は放線菌の付着を認めたが,放線菌は土壌や動植物の病原菌として棲息しており,植物片とともに侵入した可能性が考えられた.従来は涙.内に涙石があり涙.内の観察を必要とする場合にはCDCR鼻内法の適応はないとされていたが12),最近ではDCR鼻内法により長軸長C35Cmm大の涙.内異物を摘出した症例も報告されている13).本症例では単純CCTで異物は涙.内に納まっており,涙道内視鏡で可動性を認めたためCDCR鼻内法での除去が可能であると判断した.さらに若年男性であり整容的に顔面の皮膚切開を望まなかったことから,今回は外切開を加えず低侵襲で行える12)DCR鼻内法を用いて異物を摘出した.異物除去後の排膿を促し,涙.内を大きく開放するために骨窓を広く維持する必要があると判断し,涙管チューブをC2本留置した.DCR鼻内法の術後再閉塞はC10.20%とされるが14),本症例では術後の通水は良好に保たれており,鼻腔粘膜の炎症もごく軽度であったことから,植物片摘出により涙.内の感染は消失したと考えられた.ただし,経過観察期間が短いため,さらに長期間の観察が必要である.CIII結論外傷により迷入したと考えられる大型の涙.内異物をDCR鼻内法によって摘出したC1例を経験した.大型植物片に放線菌が付着する構造物であったが,強い急性の炎症を惹起することなく,慢性涙.炎の状態であった.10Cmmを超える巨大な異物であったが,DCR鼻内法による摘出が可能図1術前単純CT画像a,b:左涙.内にC10Cmm大の高信号の棒状陰影(.)を認めた.図3摘出した涙.内異物10Cmm×3Cmm×2Cmm大の黒色異物を摘出した.であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし図2術中の鼻腔内視鏡所見涙.切開後に撮影した.涙.内に黒色異物(.)を認めた.図4涙.内異物の顕微鏡写真(ヘマトキシリン・エオジン染色)表層に放線菌(.)の付着した細胞壁を有する植物片(.)を認めた.文献1)坂井譲:後天性涙道閉塞の原因について教えてください.あたらしい眼科(臨増)C30:82-84,20132)YaziciCB,CHammadCAM,CMeyerCDRCetal:LacrimalCsacdacryoliths:predictivefactorsandclinicalcharacteristics.OphthalmologyC108:1308-1312,C20013)ReppCDJ,CBurkatCCN,CLucarelliCMJCetal:LacrimalCexcre-toryCsystemconcretions:canalicularCandClacrimalCsac.COphthalmologyC116:2230-2235,C20094)HawesMJ:TheCdacryolithiasisCsyndrome.COphthalCPlastCReconstrSurgC4:87-90,C19885)JonesLT:Tear-sacCforeignCbodies.CAmCJCOphthalmolC60:111-113,C19656)BerlinCAJ,CRathCR,CRichL:LacrimalCsystemCdacryoliths.COphthalmicSurgC11:435-436,C19807)BrazierCJS,CHallV:PropionibacteriumCpropionicumCandCinfectionsCofCtheClacrimalCapparatus.CClinCInfectCDisC17:C892-893,C19938)大野木淳二:鼻内視鏡による鼻涙管下部開口の観察.臨眼C55:650-654,20019)HeathcoteJG,HurwitzJJ:MechanismofstoneformationinCtheClacrimalCdranageCsystem.CTheC8thCInternationalCSymposiumConCtheCLacrimalSystem(JuneC25CtheC1994,Tronto).DacriologyNewsNo.215,199410)MandalR,BanerjeeAR,BiswasMCetal:Clinicobacterio-logicalCstudyCofCchronicCdacryocystitisCinCadults.CJCIndianCMedAssocC108:296-298,C200811)PerryCLJ,CJakobiecCFA,CZakkaFR:BacterialCandCmuco-peptideCconcretionsCofCtheClacrimaldrainageCsystem:anCanalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurgC28:126-133,C201212)田村奈々子,垣内仁,山本英一ほか:ライトガイドを用いた内視鏡下涙.鼻腔吻合術の経験.耳鼻と臨床C47:393-397,200113)SungCTS,CJiCSP,CYongCMKCetal:AChugeCdacryolithCpre-sentingCasCaCmassCofCtheCinferiorCmeatus.CKorCJCOphthal-molC59:238-241,C201614)OlverJ:Colouratlasoflacrimalsurgery.p104-143,But-terworth-Heinemann,Oxford,2002C***

内境界膜下出血に対してNd:YAG レーザーを用いた 内境界膜穿破後のOCT 所見

2021年9月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科38(9):1118.1122,2021c内境界膜下出血に対してNd:YAGレーザーを用いた内境界膜穿破後のOCT所見加納俊祐*1木許賢一*2八塚洋之*2久保田敏昭*2*1加納医院*2大分大学医学部眼科学講座OCTFindingsafterNd:YAGLaserPhotoDisruptionforSub-InternalLimitingMembraneHemorrhageShunsukeKano1),KenichiKimoto2),HiroyukiYatsuka2)andToshiakiKubota2)1)KanoClinics,2)DepartmentofOpthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:外傷性内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザー(以下,YAG)にて内境界膜を穿破したあとの内境界膜の変化を光干渉断層計(OCT)で観察したC1例を報告する.症例:36歳の男性.雑木の牽引作業中に断裂したロープによって両眼の眼球打撲を生じた.両眼の前房出血のため大分大学眼科を紹介受診した.右眼には内境界膜下出血があり,YAGで内境界膜を穿破した.内境界膜下出血は速やかに硝子体腔に拡散し,穿破してC3時間後には穿破部をCOCTで同定することができたが,穿破部はC2日後には同定できなくなった.穿破当初は内境界膜と神経線維層との間に空洞があったが,内境界膜下出血の消退に伴い消失した.その後も,黄斑部には膜様反射があり,OCTでも膜が描出されるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない.結論:内境界膜下出血に対して内境界膜をCYAGで穿破したあとの変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,平坦化した内境界膜は網膜前膜による皺を呈した.CPurpose:Toreportopticalcoherencetomography(OCT).ndingspostNd:YAGlaser(YAG)membranotomyforatraumaticsub-internallimitingmembrane(ILM)hemorrhage.Case:A36-year-oldmaleexperiencedbilat-eralocularbruisingduetoaropebreakingwhilehaulingsmallfallentrees,andwasreferredtotheOitaUniversi-tyHospitalduetobilateraltraumatichyphema.Fundusexaminationrevealedasub-ILMhemorrhageinhisrighteye,andhewasadmittedtothehospital.WethenperformedYAGmembranotomyoftheILM.Thesub-ILMhem-orrhageCrapidlyCdi.usedCintoCtheCvitreousCcavity,CandCalthoughCtheCmembranotomyCsiteCwasCidenti.edCbyCOCTC3Choursaftertheperforation,itcouldnotbedetected2dayslater.Soonaftertheperforation,acavitywasobservedbetweentheILMandtheCnerveC.berlayer,CyetCitdisappearedwithCtheCdisappearanceCofthesub-ILMChemorrhage.Posttreatment,fundusexaminationrevealedamembranousre.exonthemacula,andthemembranewasvisual-izedbyOCT,buttherewasnoabnormalchangeintheouterlayeroftheretinaandnocomplaintofvisualdistur-bancefromthepatient.Conclusion:OCT.ndingsrevealedtime-dependentchangesoftheILMpostYAGmem-branotomyCforCaCsub-ILMChemorrhage,Chowever,CtheCperforationCwasCclosedCwithinCaCfewCdaysCandCtheC.attenedCILMshowedawrinkleandresultedinepiretinalmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1118.1122,C2021〕Keywords:内境界膜下出血,Nd:YAGレーザー,光干渉断層計.sub-internallimitingmembranehemorrhage,Nd:YAGlaser,opticalcoherencetomography.はじめに界膜を穿破した後に光干渉断層計(OCT)で評価した報告は網膜前出血や内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザ多くない.筆者らは眼球打撲傷によって生じた内境界膜下出ー(以下,YAG)で内境界膜を穿破して硝子体腔に出血をド血に対して内境界膜を穿破して治療を行った後の内境界膜のレナージする治療法が行われることがある1).しかし,内境変化をCOCTで追うことができたので報告する.〔別刷請求先〕加納俊祐:〒879-2441大分県津久見市中央町C3-14加納医院Reprintrequests:ShunsukeKano,KanoClinics,3-14Chuomachi,Tsukumi-shi,Oita879-2441,JAPANC1118(136)I症例36歳,男性.家族歴,既往歴に特記すべき事項なし.2018年C9月C17日,雑木の牽引作業中に断裂した直径C10.12Cmmほどのロープで両眼を打撲した.視力低下を自覚して近医眼科を受診し,両眼の前房出血のため当科を紹介受診した.初診時所見:VD=30cm手動弁(矯正不能),VS=0.02(0.3C×sph.6.50D),RT=21mmHg,LT=22mmHg.前眼部は右眼に外傷性散瞳があり,両眼に前房出血があった.右眼眼底に硝子体出血および黄斑部に境界明瞭な血腫があった.血腫の辺縁は神経線維層が出血で染色され,刷毛状に毛羽立っていた.OCTでは胞状に膜が突出していた.内部は出血による高輝度反射があり,ニボーを形成していた.右眼の内境界膜下出血と診断した(図1,2).左眼眼底には網膜振盪および網膜出血があり外傷性黄斑円孔を生じていた.安静目的に入院して経過をみたが,内境界膜下出血の移動や消退はなく,前房出血も消退したため,2018年C9月C22日にCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔にドレナージすることとした.機器はセレクタオフサルミックレーザーシステム(日本ルミナス社)で,レンズはトランスエークエー図1初診時の右眼広角眼底写真後極にはニボーを形成する大きな内境界膜下出血を生じていた.前房出血のため不鮮明な画像となっている.(AmJOphthalmolC136:763-766,C2003)図2内境界膜穿破後の眼底写真・OCT上:内境界膜穿破C1分後の眼底写真.内境界膜下出血は速やかに穿破部(C.)から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔へと拡散した.下:Nd:YAGレーザー穿破3時間後の右眼OCT.内境界膜穿破部()が同定できた.図3右眼OCT(黄斑部・垂直断)と視力の経時的変化内境界膜下出血の吸収に伴い,内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失し,視力も改善した.ター(VOLK社)を使用した.条件はC3.0CmJで黄斑外下方に1発照射し,内境界膜を穿破した.出血は速やかに穿破部から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔に拡散していった(図2a).3時間後にはCOCTで穿破部を同定することができ,穿破部は出血が排出されるのに伴って硝子体腔に向けて突出するような形状をとっていた.穿破部の裂隙の幅は67Cμmで,突出の幅はC258Cμmであった(図2b).穿破部は1日後には同定できたが,2日後には同定できなくなった.術後,内境界膜と神経線維層との間に空洞が生じていたが,内境界膜下出血がしだいに吸収されていくに伴い,6カ月後には消失した.また,視力は内境界膜下出血の吸収に伴い,しだいに改善した(図3).硝子体腔に排出された出血は器質化し,硝子体腔の下方に少量残存している.黄斑部には黄斑前膜様の反射があり,OCTでも高輝度の膜様物が描出され,軽度の網膜皺襞があるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない(図4).一方,左眼は受傷当日から外傷性黄斑円孔を生じていたが,1週間後には全層円孔となり,徐々に円孔径が拡大し,円孔縁の外網状層に.胞形成が生じてきた.自然閉鎖は期待できないと考えたため,受傷C1カ月後に手術を行った.水晶体を温存して硝子体を円錐切除したあとに後部硝子体.離を作製し,アーケード血管内の内境界膜をC3乳頭径ほど.離した.眼内を空気で置換して術後は腹臥位とした.術後C5日で黄斑円孔は閉鎖したことが確認できた.以後,黄斑円孔の再発はない.1年C9カ月後の最終受診時にはCVD=(1.2),VS=(1.2),CRT=15CmmHg,LT=19CmmHgであった.歪視の自覚はない.CII考按Valsalva網膜症やCTerson症候群,白血病などの血液疾患,網膜細動脈瘤,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などによって内境界膜下出血を生じることがあり,出血が遷延して視力障害をきたす場合には治療が必要となる1.3).内境界膜下出血に対してCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔に拡散させる治療法はC1989年にCGabelらにより報告された1).わが国での報告もあり,後部硝子体.離の生じている高齢者は硝子体が液化しているため,出血が速やかに硝子体腔へ拡散し吸収されることが期待できる.そのため,よい適応とされる3).合併症としては,黄斑円孔,裂孔原性網膜.離,網膜前膜,一過性の網膜前の空洞などがあると報告されている2,4).本症例で,内境界膜を穿破した直後は,出血の流出のために検眼鏡やCOCTで穿破部を同定することはできなかった.図4最終受診時の右眼眼底写真とOCT黄斑部には膜様反射がある.OCTでも膜が高輝度として描出され,軽度の網膜牽引も伴っている.しかし,流出が止まるにつれて,OCTで内境界膜穿破部の同定,直径の計測が可能となった.孔の縁は硝子体側に突出しており,裂隙部の幅はC67μmであり,突出部の幅は258Cμmであった.穿破部の同定が不可能だったため,内境界膜穿破直後の裂隙の幅は不明だが,内境界膜下出血の流出に伴って裂隙や突出部の幅は広がった可能性がある.翌日には突出はなくなり孔の縁は平坦化していた(図5).内境界膜下出血の流出に伴って縁が突出していたものが,流出の停止によって平坦化したものと考えられた.内境界膜下出血が硝子体腔に排出されるに伴い,内境界膜と網膜神経線維層との間には空洞が生じた.術翌日にも穿破部を同定できたが,2日目にはCOCTで穿破部を同定することは不可能となった.内境界膜と神経線維層との空洞は一過性のもので,内境界膜下血腫の消失に伴いしだいに縮小していき,2カ月後には消失した.また,6カ月後には内境界膜下出血も吸収された.既報でも内境界膜下血腫にCYAGで内境界膜穿破を行った症例で,OCTで経過を追った報告はいくつかある5.7).本症例でもみられたように,一過性に網膜前の空洞が生じたことも報告されている.この空洞の発生原因としては,既報では,網膜下血腫が排出された後に増殖細胞が内境界膜上を覆って穿破部を被覆し,網膜前の凸型の空洞を形成したという仮説が立てられている5).本症例で穿破部の同定ができなくなったのも,穿破部を細胞が被覆して閉鎖されたことが原因と考えられる.また,その後は内境界膜下出血の排出は止まり,僚眼の手術時に数日間腹臥位となったが,その間に内境界膜下出血が硝子体腔に排出されて減少することはなかった.残存した出血はおそらく網膜側に吸収されたと思われる.空洞消失後,OCTでは網膜前に高輝度の膜が描出されるようになり,中心窩の網膜内層は牽引されて平坦化している.現状では視力低下や歪視はないため経過観察をしており,高輝度反射の膜は表面に細胞増殖を伴った内境界膜と考えられるが,画像上の判別は困難である.もし,今後手術で膜を.離するようなことになれば,病理検査を行う予定である.既報では,内境界膜下血腫に対する内境界膜穿破後に生図5右眼OCT(内境界膜穿破部)穿破当日は穿破孔の縁は硝子体側に突出していたが,翌日には突出はなくなり,孔の縁は平坦化していた.じた網膜前膜に対して硝子体手術を施行した際,インドシアニングリーンで染色されない網膜前膜があり,.離した内境界膜の病理学的検査では内境界膜の網膜側にはマクロファージ内にヘモジデリンが付着していたと報告されている8).前述の仮説に従うと,内境界膜上にグリア細胞などによる細胞増殖が生じて穿破部を被覆した後も細胞増殖が遷延し,二次性に内境界膜と一体となった網膜前膜を発症した可能性が考えられた.CIII結論内境界膜下血腫に対して内境界膜をCYAGで穿破した後の変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,穿破C6カ月後には内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失した.空洞の消失により平坦化した内境界膜はちりめん状の皺を呈した.文献1)GabelCV,CBirngruberCR,CGunter-KoszukaCHCetal:Nd-YAGlaserphotodisruptionofhemorrhagicdetachmentoftheCinternalClimitingCmembrane.CAmCJCOphthalmolC107:C33-37,C19892)MaeyerCKD,CGinderdeurenCRV,CPostelmansCLCetal:Sub-innerClimittingCmembranehemorrhage:causesCandCtreat-mentCwithCvitrectomy.CBrCJCOphthalmolC91:869-872,C20073)森秀夫,太田眞理子,鈴木浩之:黄斑部内境界膜下血腫に対するCNd:YAGレーザー治療.眼科手術C22:113-181,C20094)UlbigCMW,CNabgouristasCG,CRothbacherCHHCetal:Long-termCresultsCafterCdrainageCofCpremacularCsubhyaloidChemorrhageCintoCtheCvitreousCwithCaCpulsedNd:YAGClaser.ArchOphththalmolC116:1465-1469,C19985)MayerCCH,CMennelCS,CRodriguesCEBCetal:PersistentCpremacularCcavityCafterCmembranotomyCinCValsalvaCreti-nopathyevidentbyopticalcoherencetomography.RetinaC26:116-118,C20066)HeichelCJ,CKuehnCE,CEichhorstCACetal:Nd:YAGClaserChyaloidotomyCforCtheCtreatmentCofCacuteCsubhyaloidChem-orrhage:acomparisonoftwocases.OphthalmolTherC5:C111-120,C20167)Vaz-PereiraS,BaratAD:Multimodalimagingofsubhya-loidhemorrhageinValsalvaretinopathytreatedwithNd:CYAGlaser.OphthalmolRetinaC2:73,C20188)KwokCAK,CLaiCTY,CChanNR:EpiretinalCmembraneCfor-mationCwithCinternalClimitingCmembraneCwrinklingCafterNd:YAGClaserCmembranotomyCinCValsalvaCretinopathy.CAmJOphthalmolC136:763-766,C2003(140)