‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

社会問題化するアレルギー性結膜炎

2021年5月31日 月曜日

社会問題化するアレルギー性結膜炎TheE.ectsofLifestyleonAllergicConjunctivitis岸本達真*福田憲*はじめにアレルギー疾患は世界的にC1970年代以降急増し,日本ではスギ花粉症は国民病とよばれる.近年の調査でアレルギー疾患のなかでアレルギー性結膜炎がもっとも有病率が高いことが明らかとなった1).2006年にフィラグリン遺伝子の異常とアトピー性皮膚炎の罹患に相関があることが報告され2),アレルギー疾患の発症の考え方が大きく変化した.しかしながら,遺伝子変異だけでは近年のアレルギー疾患の増加は説明できず,さまざまな環境やライフスタイルの変化が影響していると推察される.本稿では,ライフスタイル・環境の変化とアレルギー性結膜疾患との関連について考察する.CIアレルギー疾患発症とライフスタイルの変化との関連アレルギー疾患の発症には,遺伝的要因に加えさまざまなライフスタイルの変化に伴う環境因子が関与していると考えられている.喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対し,原因と考えられるサイトカインなどの遺伝子変異などが数多く調べられたが,決定的なものは長らく見つからなかった.しかしながら,2006年に皮膚バリア機能の維持に重要なフィラグリン遺伝子の変異がアトピー性皮膚炎患者に有意に多いことが報告された.欧州のアトピー性皮膚炎患者の約C4割,日本人の患者でも約C3割にフィラグリン遺伝子変異が認められた.この発見により,アレルギー発症の原因には皮膚のバリア機能の破綻がかかわっているという考え方に変わってきた.新生児に保湿剤を毎日塗布することによりアトピー性皮膚炎の発症がC32%予防できたとの報告もあり3),アレルギーが先にあるのではなく,バリアの破綻が先にあって,そこからアレルゲンの感作が生じると考えられるようになった.食物アレルギーにおいても,バリアの破綻した皮膚からアレルゲンに感作され,幼少期に食べることはむしろ免疫寛容を誘導するかもしれない(アレルゲン二重暴露仮説)と考えが変わってきている4).フィラグリン遺伝子の異常による皮膚のバリア機能低下はアトピー性皮膚炎の発症における重要な因子であるが,それだけでは近年のアレルギー疾患の急増は説明できない.フィラグリン遺伝子変異を有するアトピー性皮膚炎患者の割合が日本のなかでも北海道や東京などで地域差がみられることから,たとえ遺伝的な素因をもっていても生まれた後の環境で発症しない可能性が示唆されている.したがって,環境因子・ライフスタイルもアトピー性皮膚炎・アレルギー疾患の発症に重要な要素である.澄川らはアトピー性皮膚炎の有病率の低い中国と有病率の高い日本で比較検討し,皮膚バリア機能に影響を与える入浴回数が中国と比較し日本で有意に多く,ライフスタイルがバリア機能低下・アトピー性皮膚炎の発症に影響を与えることを報告した5).またわが国では,加水分解小麦を含む石鹸で洗顔することで,顔面の皮膚バリアが破綻し,アレルゲンが少しずつ経皮的に感作しア*TatsumaKishimoto&*KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕岸本達真:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮C185-1高知大学医学部眼科学講座C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(9)C489レルギー発症の原因となった「茶のしずく石鹸」による加水分解小麦アレルギーは大きな社会問題になった6).さらに西洋化された食事とそれに伴う肥満の発症,屋内外の活動パターンの変化,抗生物質の早期使用の増加などの近年のライフスタイルの変化が,喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の増加に寄与している可能性が考えられている7,8).以前欧米を中心にアレルギー疾患が先進国で増加している要因の一つとして,いわゆる衛生仮説(hygienehypothesis)が提唱された.衛生仮説とは,乳児期までの感染・非衛生的環境がその後のアレルギー疾患の発症を低下させるという考えである.免疫機能が発達する乳幼児期に細菌やウイルスと接触する機会が少ない,すなわち清潔すぎる環境で育つとC1型(Th1)免疫反応を促進する刺激が減少し,2型(Th2)免疫応答が優位となり,アレルギー疾患の発症が促進するという機序が考えられている.衛生仮説を初めて提唱したStrachanは,1958年3月に生まれた英国人17,414名を対象に(すなわち同時期に同じ地域で生まれた人を対象に)アレルギー疾患の関連する環境要因を調査した9).その結果,花粉症や皮膚炎の保有や既往は,兄弟の数に反比例し,またその効果は年少の兄弟よりも年長の兄弟に大きく依存していることを見いだした.年長の兄弟がいる子どもが後のアレルギー疾患の保有率が低いのは,生育時における感染暴露頻度が高いためと推察した.また,現時点で同じ環境に暮らしているにもかかわらず,西ドイツ出身者は東ドイツ出身者よりも同じ民族でもアレルギー疾患の保有率が高いこと10)や牧畜農家などのエンドトキシン量が多い地域で育った場合はアレルギー疾患の発症率やCIgE抗体保有率が低いこと11)などが報告されている.さらに,生後C6カ月までに保育園に預けられた子どもは,6歳以降のアレルギー性喘息の罹患率が低いこと12)も明らかとなり,乳児期の感染が少ないことがアレルギー疾患の発症の原因の一つと推察されている.アレルギー疾患の発症のすべてが衛生仮説で説明できるわけではないが,わが国でC1950.1960年代以降に出生した人においてアレルゲン感作率が高いが,幼児期死亡率の急激な低下で示される当時の衛生環境の急激な改善との関連が推察される.IIアレルギー性結膜炎(スギ花粉症)とライフスタイルの変化アレルギー性結膜疾患でもっとも多いのが季節性アレルギー性結膜炎であるが,その代表疾患が花粉性結膜炎である.スギ花粉症患者の増加に伴いスギ花粉性結膜炎も増加の一途をたどっている.花粉症の歴史を振り返ると,花粉症はC1819年にイギリス人医師のCJohnBostockがイネ科の花粉症であった自分自身の症状を,原因がわからず,hayfeverと診断したことが初めての報告である.日本ではC1963年に荒木がブタクサ花粉症,1964年に堀口,斉藤らによりスギ花粉症がはじめて報告されたことからも花粉症の歴史は浅いことがわかる.日本においてスギは太平洋戦争の軍需目的に大量に伐採され,戦後に復興のため建材としてC1950.1970年にかけて大量に植林された.その後C1964年に林産物貿易の自由化により価格の安い木材が輸入されるようになり,建材用として植林されたスギは伐採されることなく放置された.スギが成熟し花粉を飛散するC30.50年後,すなわちC2000年前後にスギ花粉の飛散量はピークを迎えた.スギ花粉の飛散量の増加に伴いスギ花粉症の罹患者数は増え続け,国民病として認知されるようになった.東京都は定期的に東京都内の花粉症有病率の調査を行っており,1994年の調査でC19.4%であったのに対し,2016年の調査ではC48.8%とC2倍以上増加している13).また,年齢別でみるとC0.14歳でC40.3%,15.29歳で61.6%,30.44歳でC57.0%,45.59歳でC47.9%,60歳以上でC37.4%であり,発症が低年齢化しているのが特徴で,今後は全年齢層で有病率が高い水準を保つことが予想される.アレルギー性結膜疾患に関する疫学調査としては,日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班により,全国C28施設におけるC1993.1995年にかけてのC3年間の定点調査において,小児のC12.2%,成人のC14.8%がアレルギー性結膜疾患を有すると推定された14).2017年には全国の眼科医とその家族を対象とした花粉症をはじめとしたアレルギー性結膜疾患の有病率についての調査が行われ,アレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%であった.そのなかでスギ,ヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎はC37.4%であった(図1)15).花粉症490あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(10)0.545~63%37~45%27~37%0.41~27%0.30.20.10スギ・ヒノキの花粉による年齢季節性アレルギー性結膜炎図1アレルギー性結膜炎の年齢分布と地理的分布小児にもみられ,年齢とともに増加している.地理的には都市化が進む首都圏とスギやヒノキの多い山間部に多い.(文献C15より転載)スギ・ヒノキの花粉による季節性アレルギー性結膜炎の有病率図2ライフスタイルの変化によるアレルギー性結膜疾患の増加大気,都市化,ライフスタイル,衛生環境などの変化によってアレルギー性結膜疾患が増加していると考えられる.の有病率の上昇に伴い,約C20年でアレルギー性結膜疾患の有病率はC3倍以上に増加していることがわかる.飛散するスギ花粉量の増加に加え,わが国でのライフスタイルの変化がアレルギー性結膜疾患を増加・増悪させる因子を考えると,①家屋の近代化や都市化,②家屋内でのペットの飼育の増加,③大気汚染などがアレルギーの増加・増悪因子としてあげられる(図2).まず家屋の近代化により,冷暖房が完備され,密閉式住宅が増加することにより家屋内のヒョウヒダニが増加していることが知られている.家屋内のダニの増加が喘息や通年性アレルギー性結膜炎,鼻炎などの増加原因の一つとして考えられる.また,近年の日本の都市化により,土であった地面が,花粉が吸着・分解されにくいアスファルトやコンクリートなどに変化したことで,地面に落ちた花粉が風で舞い上がって再飛散するという状態が発生するようにもなった.また,現代では室内でイヌやネコ,ハムスターやウサギなどの小動物のペットを飼育することが増加する傾向にある.前述した衛生仮説の研究のなかに,1歳以下のときに室内での犬や猫を飼育した家で育った子どもはアレルギー疾患の発症頻度が有意に少ないことが明らかとなっている16,17).1歳以下のような免疫体質が未熟な時期においてはペットとの接触はむしろ免疫寛容などを介してアレルギー疾患の発症抑制に作用すると考えられる.しかしながら,乳幼児期を過ぎて免疫体質がアレルギー体質に決定されたあとにペットを飼育すると,ペット動物のフケや上皮などによるアレルギー疾患の増加・増悪が推察される.また,室内飼育のペットによるアレルギーは,発症してもペットとの隔離がむずかしいため,常にアレルゲンにさらされ治療しても症状の軽減がむずかしいという問題がある.その場合はペットを飼育する場所を限定したり,寝室に入れないなどの工夫が必要である.さらに自動車からの排気ガス,工場からの煤煙・中国大陸からの黄砂などの土壌粒子などの環境汚染物質が,喘息などの呼吸器症状を悪化させることが知られている18).眼表面は外界と接しているため,これらの大気汚染物質などに直接暴露され,影響を受けやすい組織であると考えられる.二酸化窒素や二酸化硫黄,オゾン,浮遊粒子状物質などの大気汚染物質の増加により結膜炎の患者数が増加するとの報告19)や,大気汚染がアトピー性角結膜炎や春季カタルなどの重症アレルギー性結膜疾患の有病率と関連するとの報告がある1).Mimuraらは,アレルギー性結膜炎患者における黄砂に対する反応を皮膚テストで検討し,微生物や花粉などの浮遊物質を含む黄砂がもっとも皮膚反応の反応性が高く,花粉や熱により微生物を取り除いた黄砂では反応性が低下したことを明らかにした20).黄砂に付着した種々の微生物がアジュバント作用を介してアレルギーを誘発・増悪させている可能性が示唆された.また,Koらは急性結膜炎の患者の洗眼液の黄砂を調べ,黄砂含有量が高い群は低い群よりも症状スコアが有意に高いことを示し21),黄砂飛散時には結膜炎症状が悪化する可能性を示唆した.黄砂よりもさらに粒子の小さい大気浮遊粒子であるCPM2.5の増加時期に喘息などの呼吸器疾患の患者数の増加することが知られており22),また,アレルギー性結膜炎患者数とPM2.5と正の相関があることが報告されている23).このようなライフスタイル・環境の変化が花粉症をはじめとしたアレルギー性結膜炎の発症や症状の増悪に関与している可能性が考えられる.CIIICOVID.19によるライフスタイルの変化が与える影響SevereCacuteCrespiratoryCsyndromeCcoronavirus-2(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により,われわれのライフスタイルは劇的に変化した.外出を自粛し,室内での生活が増え,外出時にはマスクを装着する生活スタイルが当たり前になった.COVID-19の症状は無症状から,嗅覚障害,味覚障害,重症の肺炎まで多岐にわたり,死亡に至ることもある.眼領域におけるCCOVID-19は他のウイルス性の結膜炎と同様に,充血・流涙・眼脂などの症状を呈することが知られており,重症度も軽度の充血のみという軽症例から偽膜を呈するような重症例までさまざまである.COVID-19による眼症状の発症率はこれまでの報告ではC0.8.31.6%とさまざまであるが,5%前後とする報告が多い24).COVID-19による結膜炎とアレルギー性結膜炎の症状の違いに関しては,すでにアレルギー性492あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(12)鼻結膜炎と診断されている患者でCCOVID-19に感染した患者に対して行った質問表によるアンケートでは,眼掻痒感,眼痛,流涙のすべてにおいて症状が異なっており,同一と答えたものはいなかったという報告がある25).しかし,現時点ではCCOVID-19に特異的な他覚的眼所見はなく,結膜炎をみたらCCOVID-19の可能性を考え診察をする必要がある.また,結膜はCCOVID-19の感染経路として可能性を否定できないことが報告されている26).2003年に流行したCSARS-CoVでは,ゴーグルやその他の眼を保護する器具を適切に使用しなかった医療従事者は,使用した医療従事者と比較して感染率が高く,そのオッズ比はC7.34であった27).SARS-CoVはCCOVID-19と同じコロナウイルスのファミリーであり,眼科医は診察する際にマスクに加え,ゴーグルやフェイスシールドで保護する必要があり28),まさにわれわれ眼科医の診療スタイルも変化したときであった.また,花粉症などのアレルギー性結膜炎による眼掻痒感で眼を擦過することでCCOVID-19感染を惹起する可能性が考えられ,コロナ禍時代のアレルギー性結膜炎の診療には眼を触らないような指導も加える必要がある.また,コロナ禍で生活習慣が極度に清潔化したために,これまでよりもさらに菌やウイルスに暴露されずに乳幼児期を過ごした子どもは,衛生仮説に当てはめるとさらにアレルギーの発症率が増加することが予想される.さらに乳児でなくてもアルコールによる消毒や手洗いの増加・マスクの摩擦によって皮膚バリア機能が障害されることによって,アレルゲンに感作され,アレルギー疾患の発症が増加することも考えられる.巣ごもりによって室内飼育しているペットとの接触時間も増加していることが予想される.現在のCCOVID-19のパンデミックによる急激なライフスタイルの変化がC10年後のアレルギー疾患の全世界的な増加につながらないことを願うばかりである.おわりにライフスタイル・環境の変化がアレルギー性結膜炎に与える影響について概説した.近代化によるさまざま々な環境変化に加え,COVID-19のパンデミックによってニューノーマルとよばれる新しい生活スタイルの変化が突然生じた.この近年のライフスタイルの急激な変化によって,今後また新たなアレルギー疾患の変化について注意が必要である.文献1)MiyazakiCD,CFukagawaCK,CFukushimaCACetal:AirCpollu-tionCsigni.cantlyCassociatedCwithCsevereCocularCallergicCin.ammatorydiseases.SciRepC9:18205,C20192)PalmerCCN,CIrvineCAD,CTerron-KwiatkowskiCACetal:CCommonloss-of-functionvariantsoftheepidermalbarrierCprotein.laggrinareamajorpredisposingfactorforatopicdermatitis.NatGenetC38:441-446,C20063)HorimukaiCK,CMoritaCK,CNaritaCMCetal:ApplicationCofCmoisturizerCtoCneonatesCpreventsCdevelopmentCofCatopicCdermatitis.JAllergyClinImmunolC134:824-830,C20144)LackCG,CFoxCD,CNorthstoneCKCetal:FactorsCassociatedCwithCtheCdevelopmentCofCpeanutCallergyCinCchildhood.CNCEnglJMedC348:977-985,C20035)澄川靖之,上木裕理子,三好彰ほか:日本,中国(江蘇省・チベット自治区)の学童におけるアトピー性皮膚炎・皮膚バリア機能調査.アレルギー56:1270-1275,C20076)YagamiCA,CAiharaCM,CIkezawaCZCetal:OutbreakCofCimmediate-typeChydrolyzedCwheatCproteinCallergyCdueCtoCafacialsoapinJapan.JAllergyClinImmunolC140:879-881,C20177)NuttenS:Atopicdermatitis:globalCepidemiologyCandCriskfactors.AnnCNutrMetabC66:8-16,C20158)RenzCH,CSkevakiC:EarlyClifeCmicrobialCexposuresCandCallergyrisks:opportunitiesCforCprevention.CNatCRevCImmunolC21:177-191,C20219)StrachanDP:HayCfever,Chygiene,CandChouseholdCsize.CBMJC299:1259-1260,C198910)RenzCH,CvonCMutius,CIlliCSCetal:TCH1/TH2CimmuneCresponsepro.lesdi.erbetweenatopicchildrenineasternandwesternGermany.JAllergyClinImmunol109:338-342,C200211)Braun-FahrlanderCC,CGassnerCM,CGrizeCLCetal:Preva-lenceCofChayCfeverCandCallergicCsensitizationCinCfarmer’sCchildrenCandCtheirCpeersClivingCinCtheCsameCruralCcommu-nity.CSCARPOLCteam.CSwissCStudyConCChildhoodCAllergyCandRespiratorySymptomswithRespecttoAirPollution.ClinCExpAllergyC29:28-34,C199912)MorganCWJ,CSternCDA,CSherrillCDLCetal:OutcomeCofCasthmaCandCwheezingCinCtheC.rstC6CyearsCoflife:follow-upthroughadolescence.AmJRespirCritCareMed172:C1253-1258,C200513)東京都花粉症対策検討委員会:花粉症患者実態調査報告書(平成C28年度).東京都福祉保健局,201714)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:835,C201015)MiyazakiD,TakamuraE,UchioEetal:JapaneseguideC-(13)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C493

現代社会がもたらしたドライアイと今後の 治療・予防戦略

2021年5月31日 月曜日

現代社会がもたらしたドライアイと今後の治療・予防戦略DryEyesCausedbyModernSociety─FutureTreatmentandPreventionStrategies小島隆司*はじめに化も現代社会の大きな特徴である.高脂肪食の摂取が多現代社会はスマートフォンなどの情報通信器機の普及くなり,メタボリックシンドロームの増加が指摘されてによって,オフィスだけでなく,日常生活でデジタル機いる.このように変わりゆく現代社会のなかで,ドライ器を操作する機会が増えている.また,“ウイズコロナ”アイをライフスタイル病としてとらえる考え方が生まれの環境において,仕事や友人とのコミュニケーションもた(図1).本稿ではその考え方,現時点でのエビデンオンラインとなり,情報端末のモニターを介した作業はス,治療戦略,将来の展望などを解説する.ますます増えているのが現状である.また,食生活の変長時間PC作業運動不足高脂肪食座りっぱなしの生活ドライアイ図1ライフスタイル病としてのドライアイ運動不足,高脂肪食によるメタボリックシンドローム,長時間のパソコン作業を伴う座りっぱなしのオフィスワークを中心としたライフスタイルがドライアイ発症に関与している可能性が示唆されている.*TakashiKojima:名古屋アイクリニック,慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小島隆司:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)C483Iライフスタイル病としてのドライアイ加齢に伴う疾患に影響を与えるメタボリックシンドロームなどの生活習慣因子や環境因子が多数存在し,その背景には酸化ストレスが関与していることが報告されている.複数のドライアイマウスモデルや臨床研究により,酸化ストレスの蓄積がドライアイの発症や病態生理に大きな役割を果たしているという考え方が支持されている.運動療法と食事療法からなるライフスタイル介入アプローチは,2型糖尿病やメタボリックシンドロームの治療法および予防法と同じであり,その根本は酸化ストレスの蓄積を減少させることにあると考えられる.CII運動とドライアイの関係オフィスワーカーを対象にした横断研究の結果,非ドライアイ群のほうがドライアイ群よりも運動量が多いことが示された1).この研究では,運動量が多い人ほど涙液分泌量が多いことが明らかになっており2),運動はドライアイに対して有効であるといえる.ヒトではまだ運動療法の介入の結果は明らかになっていないが,すでに動物実験では,運動は全身の健康状態の改善につながるだけでなく,涙液量の改善にも寄与することが示されている3).CIIIオフィスワークとドライアイオフィスワーカーのパソコン作業を伴うデスクワークがドライアイの危険因子であることが知られている.それに加え「座りっぱなしの生活習慣」や「交感神経優位」も影響している可能性がある.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)では,喫煙や肥満とならぶ健康リスクとして「座りっぱなしの生活習慣」をあげている(https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/physical-activity).実際にわが国のオフィスワーカーを対象に行われた大阪CStudyに含まれているサブ解析では,5秒未満の涙液層破壊時間(tearCbreakuptime:BUT)群では,5秒以上のCBUT正常群に比べてC1日の座位時間が有意に長くなっていることが示された1).これまでドライアイ患者への指導では,「VDT(視覚情報端末)作業や長時間の運転に従事する場合には,十分な休憩(眼を休める)をとること」が長らく行われてきました.しかし,現在では個人が座った状態から立って移動したり,軽い運動をしたりして,仕事に関連した活動から離れた時間を過ごすことが重要であると考えられている.自律神経のバランスの乱れと,その結果としての交感神経の優位性が悪影響を及ぼす場合には,副交感神経の優位性につながる介入も考慮されるべきである.副交感神経系を活性化させるエビデンスに基づいた方法の一つが腹式呼吸である.以前,3分間の腹式呼吸を行うと副交感神経が活性化し,涙量が増加することが報告されていた4).腹式呼吸は簡単で安全であり,道具や器具を使用しなくてもよい効果的なドライアイのセルフケアの効果法と考えられるため,腹式呼吸を取り入れた体操,ヨガなどを行うことも推奨される.CIV食生活とドライアイ食生活に関する複数の研究では,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedCfattyacid:PUFA)の摂取量が多い人ではドライアイの発症率が低いが,オメガC3に対するオメガC6の比率が高い人ではドライアイの発症率が高いことが示されている5).ドライアイは一般的に炎症を伴うことが多く,オメガC3の抗炎症特性がドライアイの自覚症状を改善するのに有用であること5),オメガC3の摂取がCDEの治療に有効であることが報告されている6).したがって,魚,ナッツ類,および他のオメガC3源を豊富に含む食事は,ドライアイに対して有効である可能性がある.最近の多施設,無作為化二重盲検試験では,オメガC3PUFAの摂取によるドライアイ症状スコア,角膜と結膜の生体染色スコア,BUTのベースラインからの有意な改善が報告された.しかし,コントロールとして用いられたオレイン酸摂取群との有意差は認められず,オメガC3摂取によるドライアイ改善効果は示されなかった.しかし,オレイン酸は抗炎症活性を有するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニストであることから,オメガC3PUFAはドライアイ疾患における眼炎症を改善する潜在的な働きも有している可能性があり7),さらなる解明が必要である.最近の報告では,ラクトフェリン8),プロバイオティクス,アスタキサンチンを含む機能性食品9)がドライア484あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(4)イの改善に有効であることが示され,ドライアイ患者における食事介入の重要性が強調されている.また,ローヤルゼリーの摂取が涙液量の増加につながることも報告されており10),ラクトフェリンと乳酸菌CWB2000を配合したサプリメントの摂取がドライアイ改善に有効であることも報告されている11).CV抗加齢アプローチ涙腺の機能低下による涙の分泌量の低下がドライアイの主要な原因である.抗酸化物質のバランスが悪いと涙腺の損傷による涙の分泌能力の機能低下を引き起こすことが明らかになっている.酸素フリーラジカルを分解するCCu,Zn-superoxidedismutase-1(SOD1)がマウスに欠損すると,涙腺の脂質およびCDNAの酸化ストレスによるダメージが広範囲に蓄積し,涙液分泌量が減少することが明らかになった12).また,ミトコンドリアの電子伝達系の活性を低下させたトランスジェニックマウスでは,活性酸素が過剰に蓄積し,涙液分泌量が減少し,涙腺の炎症を伴うことが明らかになった13).また,ラットの瞬目抑制ドライアイモデルでは,ラットをストレスの多い環境に繰り返し曝露することで,オフィスワーカーのCVDT作業環境をシミュレートし,活性酸素の過剰生成を伴う涙腺機能障害による涙腺機能の低下が示された14).涙腺から発生する活性酸素産生によって涙腺機能が障害されることを示したこれらの研究は,活性酸素産生への介入がドライアイの管理または予防のために大きな可能性を秘めている.アントシアニンは一般的な植物ポリフェノール色素である.他のフラボノイドと同様に,アントシアニンもまた抗酸化作用をもち,眼だけでなく健康維持に有益であると期待されている.アントシアニンを豊富に含むベリー類やベリー抽出物は,動物実験やヒト実験の知見に基づき,眼疾患の治療のための食品補助食品として摂取されている.しかし,ベリー類の適切な供給源やドライアイ症状を緩和する活性アントシアニンについては,まだ詳細な検討がなされていない.強力な抗酸化作用をもつ食用ベリーであるマキベリーのドライアイへの効果を評価するために,マウスとヒトの臨床試験が実施された.ラットの瞬目抑制ドライアイモデルにおいて,マキベリー抽出物を経口摂取した場合,涙液分泌量の減少と角膜障害が,有意に抑制された.ドライアイ疑い患者を対象に,無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験をC4週間実施したところ,マキベリー群では,プラセボ群と比較してCSchirmer値が有意に増加した15).ヒトの細菌叢であるマイクロバイオームが健康やさまざまな疾患の発症に関係しているというエビデンスが蓄積されている16).腸内細菌異常は乾燥ストレスを受けたSjogren症候群モデルマウスのドライアイを悪化させ,Sjogren症候群患者の眼球表面と全身の重症度は微生物の多様性と負の相関関係にあることが示されている17).プロバイオティクスは,潜在的に多種多様な恩恵を受けることができる微生物食品であり,世界中で広く使用されている18).プロバイオティクスの有益な多面的効果が報告されているが,基礎となるメカニズムは多因子的であり,まだ完全には解明されていない.酸化ストレスの低減は,最近,可能性のある基礎的なメカニズムとして提唱されている19,20).プロバイオティクスの補給がドライアイに及ぼす影響を検討するために,健常人の糞便から分離され,和漢胃腸薬に含まれるプロバイオティクスである乳酸菌CWB2000との併用サプリメントが,ヒト被験者およびマウスドライアイモデルにおけるドライアイの徴候や症状に及ぼす効果が報告されている11).ラットの瞬目抑制ドライアイモデルでは,プロバイオティクスを含むサプリメントでは,用量依存的に涙の分泌量の減少の防止と涙腺からの活性酸素の発生量の減少が観察された.ヒト患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験では,1日C1回C8週間投与した場合のSchirmer値の上昇率はサプリメント投与群のほうが高く,有害事象も認めていない.一般的な食品に含まれるアントシアニンやプロバイオティクスなどの抗酸化物質の摂取は,ドライアイ患者の治療に適している可能性がある.おわりにこれまでドライアイは眼表面の疾患と考えられていたが,近年の基礎研究や疫学研究により,ドライアイは生活習慣病であることが明らかになってきた.図2に示す(5)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C485アンチエイジングアプローチ点眼治療運動抗酸化物の摂取マイクロバイオームへのアプローチドライアイの発症予防・治療図2将来のドライアイ発症予防および治療戦略の概念図

序説:ライフスタイルが影響する眼疾患

2021年5月31日 月曜日

ライフスタイルが影響する眼疾患ImpactofLifestyleandDietaryFactorsonthePathogenesisofOcularDisease小沢洋子*多くの疾患において病態形成にはさまざまな因子が関与し,それらの因子の兼ね合いにより,同じ疾患であっても個人の予後は多様となりうる.現に,遺伝的素因に基づく疾患であっても個人により病状の進行が異なったり,一卵性双生児であっても老化の進行が異なったりすることが報告されている.すなわち,病態には遺伝的要因と環境要因の両方が関与しうるということである(図1).遺伝的要因を変えることは困難だが,環境要因は各自の努力で変えることも可能であろう.今回の特集ではライフスタイルが関与しうる疾患について解説し,疾患予後改善のための方策を考える.これにより,既存の治療に加えて患者の病状をコントロールするために必要な情報を共有したい.今,自分にできることは何でしょうか,と患者に聞かれることは臨床医であればよく経験することである.そのようなときにどのように対処すればよいか,この特集を通じて知識を整理し,日常診療に役立てていただければ幸いである.ライフスタイルのなかでも食生活,規則正しい生活などはこれまでにもよく話題にのぼっている.日本眼科学会が発表した加齢黄斑変性の治療ガイドラインにもこれらの指導の重要性が説かれている.しかし,どのような食生活がよいのか.その具体例はライフスタイルの改善環境要因現行の治療遺伝的要因図1多様な要因と病態の関係示されていない.一方,最近の基礎研究および疫学研究から脂質異常の影響が明らかにされた.この情報は共有したいものである.さらに,脂質異常は糖尿病網膜症にも関連することが,日本眼科学会の「糖尿病網膜症診療ガイドライン」に盛り込まれた.糖尿病網膜症にはさらに血圧などさまざまな要因が関連しうる.脂質異常や血圧の病態への関連は緑内障でも知られ,加えて近年では睡眠時無呼吸症候群が関係することが知られるようになった.睡眠時無呼吸症候群では,組織の低酸素を生じ,神経や血管の変性が進みうる.中心性漿液性脈絡網膜症にストレスが関係することは古くから知られるが,ではどのようなアドバイスをするべきか.ストレスがどのようなメカニズムで病態に影響しうるかを知ってい*YokoOzawa:聖路加国際大学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)481

Uveal Effusionを伴った原田病の1例

2021年4月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(4):470.475,2021cUvealE.usionを伴った原田病の1例恩田昌紀渡辺芽里佐野一矢牧野伸二川島秀俊自治医科大学眼科学講座CAPatientExhibitingSymptomsofBothUvealE.usionandVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseMasatoshiOnda,MeriWatanabe,IchiyaSano,ShinjiMakinoandHidetoshiKawashimaCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:Uveale.usionを伴った原田病と思われる症例を経験したので報告する.症例:61歳,女性.両眼の視力低下と難聴を自覚し,近医眼科を受診.両眼の虹彩炎と下方の胞状網膜.離を認めたため自治医科大学附属病院眼科を紹介受診した.両眼とも前房は浅く,炎症細胞があり,毛様体.離,視神経乳頭の発赤,超音波CBモードにて強膜肥厚および体位変換により移動する胞状網膜.離を認めた.光干渉断層計では黄斑部に漿液性網膜.離があり,厚い脈絡膜の波打ち様変化を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では,後極部に少数の点状過蛍光はあったが蛍光貯留はなかった.無菌性髄膜炎,感音性難聴,DR4陽性を認めたことより原田病と診断し,併せてCuveale.usionを呈している病態と考えた.ステロイドパルス療法を施行し,胞状網膜.離は速やかに消失した.結論:両疾患の合併報告は少ないが,女性,DR4陽性,短眼軸長などは発症に関連する因子の可能性がある.CPurpose:Toreportapatientwhoexhibitedsymptomsofbothuveale.usion(UE)andVogt-Koyanagi-Hara-da(VKH)disease.Casereport:Thisstudyinvolveda61-year-oldfemalewhovisitedalocalclinicafterbecomingawareofdecreasedvisioninbotheyesandahearingdisturbance.Examinationrevealediritisandbullousretinaldetachment(BRD),CandCsheCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCclinic.COphthalmologicalCexaminationCrevealedCthatCsheCmanifestedCBRDCthatCshiftedCwithCbodyCposition,CtogetherCwithCthickCsclera.COpticalCcoherenceCtopographyCrevealedCmacularCserousCdetachmentCandCaCwavyCthickCchoroid.CFluoresceinCangiographyCrevealedCaCspottedChyper.uorescentpatternintheposteriorfundus,andincombinationwithasepticmeningitis,sensoryhearingloss,andHLADR4,thepatientwasdiagnosedashavingbothUEandVKH.Corticosteroidtherapywasinitiated,whiche.ectivelyCeliminatedCtheCBRD.CConclusion:FactorsCincludingCfemaleCsex,CDR4,CandCshortCvisualCaxisClengthCmayChavecontributedtotheonsetofthisrarecondition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(4):470.475,C2021〕Keywords:原田病,uveale.usion,胞状網膜.離,脈絡膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveale.usion,bullousretinaldetachment,choroidaldetachment.CはじめにUveale.usion(UE)は体位変換によって網膜下液が容易に移動する可能性が高い非裂孔原性網膜.離と眼底周辺部全周に存在する毛様体.離・脈絡膜.離(choroidalCdetach-ment:CD)を主病像とする疾患群で,最近ではCuveale.u-sionsyndromeと呼称されている1.3).本症の病態の本態は強膜にあるとされ,経強膜的流出路障害説として強膜の肥厚および硬化により強膜を透過する眼内液の眼外への流出障害が主要因とされているが,経渦静脈流出路障害説も副次的要因と考えられている.これらの要因により生じる胞状網膜.離(bullousCretinaldetachment:BRD)は,網膜病変部の責任病巣直下に貯留することなく,体位による移動が特徴的で,他に多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorpigmentepitheliopathy:MPPE)などで認められる1).これらの疾患概念には交錯する部分もあり,とくに日常臨床において鑑別診断は必ずしも明解とはならない.さらに,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)にCUEあるいはCMPPEを合併したとの報告は少なく4.8),病態評価の機会は貴重である.〔別刷請求先〕恩田昌紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:MasatoshiOnda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC図1初診時前眼部写真(a,b)および前眼部光干渉断層計検査(c,d)a:右眼,b:左眼.両眼とも前房は浅い.c:右眼,d:左眼.両眼とも毛様体.離,脈絡膜.離(.)を認めた.今回筆者らは,uveale.usionを伴った原田病と思われる症例を経験したので報告する.CI症例患者:61歳,女性.主訴:両眼の視力低下と難聴.現病歴:受診C1.2カ月前からの両眼の視力低下と難聴,頭痛を自覚し近医眼科を受診,両眼の虹彩炎と下方のCBRDが認められたため,自治医科大学附属病院眼科を紹介受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.3×+2.25D(cyl+1.75DAx160°),左眼C0.1(0.3×+1.50D(cyl+1.50DAx180°),眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C11CmmHgであった.両眼とも前眼部は浅く(図1a,b),炎症細胞(1+)を認め,白内障はCEmery-LittleGrade3程度であった.前眼部光干渉断層計検査(opticalCcoherencetomography:OCT)では毛様体.離,CDを認めた(図1c,d).眼底は両眼とも視神経乳頭は発赤,腫脹し,網膜は下方にCBRDを認めた(図2a,b).フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)では後極部に少数の蛍光漏出による点状過蛍光はあったが,明らかな蛍光貯留は認めなかった(図2c~f).超音波CBモードでは肥厚した脈絡膜と強膜に加え,座位で下方に,仰臥位で後極側に移動する網膜.離を認めた(図3).眼軸長は両眼C21Cmm程度(右眼C21.07Cmm,左眼C21.22Cmm)であった.OCTでは黄斑部にフィブリン析出を伴う漿液性網膜.離があり,脈絡膜の波打ち様変化が観察された(図4).頭痛と感音性難聴の自覚症状もあり,原田病を疑い当院神経内科にて精査したところ,髄液検査では単核球優位の細胞増多を認め,感音性難聴もあることから原田病と診断した.さらに,肥厚した強膜および体位変換により移動するCBRDからCUEを合併した病態と考えた.MPPEは脈絡膜.離を伴っていることとCFAで蛍光貯留がないことなどから否定した.以上より,UEと原田病の合併症例と診断し,患者と相談のうえ,はじめにメチルプレドニゾロンステロイドパルス療法を実施することとした.なお,治療開始後にCHLAはCDR4陽性が判明している.経過:ステロイドパルス療法C1クール後,下方のCBRDは消失し(図5a,b),OCTによる脈絡膜の波打ち様変化も軽快したが,黄斑部の漿液性網膜.離は残存していた.前房深度は毛様体.離の消失に合わせて改善した(図5c,d).ステロイドパルス療法は計C3クール行い,その後,後療法としてプレドニゾロンC30Cmg/日(0.5Cmg/kg/日)より,内服漸減した.この時点で,強膜への外科的治療の介入の必要性は低いと判断した.さらに,漿液性網膜.離は徐々に軽快し,治療開始C2カ月後に両眼の漿液性網膜.離は消退した(図5e,f).治療開始C2カ月後の視力は,白内障のため右眼C0.3(0.3×+1.00D(cyl+1.00DAx145°),左眼C0.2(0.3×+0.50D(cyl+1.00DAx180°)にとどまったが,自覚症状は改善した.CII考按本症例は短眼軸長の女性で,HLADR4陽性の原田病に,UE,CDを伴ったことが特徴であった.図2初診時眼底写真(a,b)およびフルオレセイン蛍光造影検査(c~f)a:右眼,Cb:左眼.両眼とも視神経乳頭は発赤し,下方に胞状網膜.離を認めた.Cc:右眼(早期),d:左眼(早期),e:右眼(後期),f:左眼(後期).後極部に少数の蛍光漏出による点状過蛍光はあるが蛍光貯留はみられない.原田病の臨床症状として,多発する両眼性の漿液性網膜.離や視神経乳頭炎,前房炎症を伴う汎ぶどう膜炎がみられる.FAでは比較的初期から脈絡膜からのびまん性の蛍光漏出がみられ,後期ではこれらが融合し胞状の蛍光貯留を形成し,大きな円形の過蛍光が認められる.OCTでは,本症例のような隔壁を伴う炎症性変化の強い網膜下液を認める.ステロイドパルス療法の是非を勘案すべき本症例において,BRDを伴う病態としてのCMPPEの鑑別は不可欠であった.MPPEでも滲出性網膜.離が多発し,原田病によく似た臨床像を呈し,脈絡膜から網膜色素上皮に病変の主座がある9).しかし,MPPEでは本症例のようなCCDを伴うことはなく,FAで多発性過蛍光点が存在し,中心性網脈絡膜症の激症型とされている.杉本ら10)によると,UE,MPPEともにOCTにおける脈絡膜肥厚などの眼所見など知見の集積が待たれる分野である.また,さらなる鑑別として後部強膜炎もあげられるが,眼痛がないことや髄液検査で無菌性髄膜炎の図3初診時超音波Bモードa:右眼座位,Cb:左眼座位,Cc:右眼仰臥位,Cd:左眼仰臥位.座位から仰臥位への体位変換で下方の網膜.離(.)が後極部へ移動した(C.).脈絡膜および強膜が肥厚していることがわかる.図4初診時光干渉断層計検査a:右眼,b:左眼.黄斑部に漿液性網膜.離があり,脈絡膜の波打ち様変化を認めた.所見が得られたことから否定的と考えた.よって本症例で般的に特発性または真性小眼球に伴うものがCuveale.usionは,無菌性髄膜炎,難聴,COCT所見,CCDを伴うことなどsyndromeとよばれている1.3).CUyamaら2)は本症を小眼から,原田病が存在していると判断した.球・強膜肥厚の有無により,C3病型に分類した.過去の報告UEは強膜異常によりぶどう膜からの滲出が発生する比較から,病態は強膜にあると理解されており,経強膜的流出路的まれな疾患で,体位変換により網膜下液が容易に移動する障害説が主要因,経渦静脈流出路障害説が副次的要因とし可動性が高い非裂孔原性網膜.離と眼底周辺部全周に存在すて,上脈絡膜腔での液体貯留期間が長期に及ぶと脈絡膜.離るCCDを主病変とする疾患群として紹介された.現在では一を生じ,二次的に網膜色素上皮のポンプ機能が障害され,脈図5治療後の眼底写真(a,b)と前眼部光干渉断層計検査(c,d)および治療開始2カ月後の光干渉断層計検査(e,f)a:右眼,Cb:左眼.下方の胞状網膜.離は消失した.Cc:右眼,Cd:左眼.毛様体.離は消失し,前房は深くなった.Ce:右眼,f:左眼.黄斑部の漿液性網膜.離は消退した.絡膜下に滲出性網膜.離が発生すると考えられている.今回の症例は真性小眼球を伴わないCUEの病態を呈したと考えている.さらに,UEを生じた原因として,原田病による炎症を背景に,強膜病態が悪化してCUEとしての病態発症機転が閾値を超えてCBRDを生じたと考えている.合わせて,ステロイドパルス療法のみで外科的治療を要せず治癒したことも,このことを示唆している.すなわち,ステロイドパルス療法は直接的には原田病による炎症病態を抑制し,その炎症病態により誘発されていたCUE(BRD病態)も間接的に消失させたと考えた.ちなみに過去の報告によると,原田病で脈絡膜循環障害を生じて網膜色素上皮の柵機能障害が起きたことが,網膜下液貯留の原因としてあげられており4),病態発生に関与した可能性もある.また,原田病にCUE,CDを合併した報告は少ないが,そのなかでもCYamamotoら6)が女性,DR4陽性,眼軸長C21CmmのC1症例を報告しており,小眼球といかないまでも短眼軸長であることはCUE病態を惹起しやすいという可能性があると考えられ,移動性のあるBRDを伴う症例に遭遇した際は,眼軸計測は不可欠の臨床検査であると考える.本症例において治療開始C2カ月後の矯正視力は両眼(0.3)であるが,これは白内障の影響と考えている.OCTにて黄斑部網膜外層(ellipsoidzone)の消失があるようにもみえるが,UEとの合併や視力不良への関連については不明である.以上,UEを合併した原田病症例を報告した.BRDを伴っており,MPPEを否定することがステロイドパルス療法に先駆けて不可欠であった.本症例のごとく,女性,DR4陽性,短眼軸長であることは両疾患合併の危険因子となる可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)盛秀嗣,髙橋寛二:UvealCe.usionsyndrome.あたらしい眼科C34:1691-1699,C20172)UyamaCM,CTakahashiCK,CKozakiCJCetal:UvealCe.usionsyndrome:clinicalCfeatures,CsurgicalCtreatment,ChistologicCexaminationCofCtheCsclera,CandCpathophysiology.COphthal-mologyC107:411-419,C20003)ElagouzCM,CStanescu-SegallCD,CJacksonTL:UvealCe.u-sionsyndrome.SurvOphthalmolC55:134-145,C20104)林昌宣,山本修一,斉藤航ほか:Uveale.usionを伴う原田病のC2例.眼臨C95:297-299,C20015)植松恵,川島秀俊,山上聡ほか:ステロイドパルス療法が奏効した脈絡膜.離が顕著であった原田病のC2症例.臨眼C51:1625-1629,C19976)YamamotoCN,CNaitoK:AnnularCchoroidalCdetachmentCinCaCpatientCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC242:355-358,C20047)ElaraoudI,AndreattaWJiangLetal:Amysteryofbilat-eralCannularCchoroidalCandCexudativeCretinalCdetachmentCwithCnoCsystemicinvolvement:isCitCpartCofCVogt-Koy-anagi-HaradaCdiseaseCspectrumCorCaCnewentity?CCaseRepOphthalmolC8;1-6,C20178)斎藤憲,増田光司,三浦嘉久ほか:ステロイド療法中の原田病患者に見られた多発性後極部網膜色素上皮症.眼臨医報C91:1175-1179,C19979)宇山昌延,塚原勇,浅山邦夫ほか:Multifocalposteriorpigmentepitheliopathy多発性後極部色素上皮症とその光凝固による治療.臨眼C31:359-372,C197710)杉本八寿子,木村元貴,城信雄ほか:Uveale.usionsyn-dromeにおける網脈絡膜の光干渉断層計による観察.臨眼C70:1465-1472,C2016***

SS-OCT Angiographyを用いた正常眼における網膜血管密度の測定精度

2021年4月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(4):464.469,2021cSS-OCTAngiographyを用いた正常眼における網膜血管密度の測定精度杉本拓磨*1後藤克聡*2水川憲一*1白玖柾貴*1山地英孝*1馬場哲也*1宇野敏彦*1*1白井病院*2川崎医科大学眼科学1教室CReproducibilityofVesselDensityinNormalEyesusingSwept-SourceOpticalCoherenceTomographyAngiographyTakumaSugimoto1),KatsutoshiGoto2),KenichiMizukawa1),MasakiHaku1),HidetakaYamaji1),TetsuyaBaba1)andToshihikoUno1)1)ShiraiEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolC目的:swept-source光干渉断層計(SS-OCT)による光干渉断層血管撮影(OCTA)を行い,測定範囲別の測定精度を検討した.対象および方法:健常成人C18例C18眼を対象に,SS-OCT(PLEXElite9000)を用いてC9×9,12×12,C15×9CmmのCOCTAを行った.撮影はC2名の検者(A,B)が同日に各測定範囲をC3回連続で行い,中心窩無血管域(FAZ)と血管密度(VD)の検者内および検者間級内相関係数(ICC)を検討した.結果:FAZの検者内CICCは,2名の検者ともに各測定範囲でC0.997以上,検者間CICCでもC0.996以上であった(各p<0.001).各測定範囲におけるCVDの検者内CICCは,検者CAはC0.961以上,検者CBはC0.895以上,検者間CICCでもC0.729以上の高い値を示した(各p<0.001).結論:正常眼におけるCPLEXElite9000によるCOCTAは,検者や測定範囲にかかわらず高い再現性が得られた.CPurpose:ToCevaluateCtheCreproducibilityCofCvesselCdensityCinCnormalCeyesCusingCswept-sourceCopticalCcoher-enceCtomographyangiography(SS-OCTA).CCasesandMethods:InC18CeyesCofC18ChealthyCsubjects,CSS-OCTAimaging(range:9×9,C12×12,CandC15×9Cmmscans)wasCperformedCusingCtheCPLEXCElite9000(CarlCZeissCMed-itec)SS-OCTAdevice.Inallsubjects,SS-OCTAineachmeasurementrangewasperformedthreetimesbytwoexaminers(AandB)onthesameday.Results:Theintra-examinerintraclasscorrelationcoe.cients(ICC)ofthefovealCavascularCzoneCwasCmoreCthanC0.997CinCeachCmeasurementCrangeCforCbothCtwoCexaminers,CandCtheCinter-examinerCICCCwasCmoreCthan0.996(p<0.001,respectively).CTheCintra-examinerCICCCofCvesselCdensityCinCeachCmeasurementareawas0.961ormoreforexaminerA,0.895ormoreforexaminerB,and0.729ormoreforinter-examinerICC(p<0.001,respectively).CConclusions:SS-OCTACimagingCusingCPLEXCEliteC9000CinCnormalCeyesCshowedhighreproducibility,regardlessoftheexaminerandmeasurementrange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(4):464.469,C2021〕Keywords:光干渉断層血管撮影,血管密度,測定精度,二値化.opticalcoherencetomographyangiography,vesseldensity,reproducibility,binarization.Cはじめに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の進歩により,enfaceOCTの技術を用いて造影剤を使用することなく非侵襲的に網膜血管構造を観察できる光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が登場した1).OCTAの基本的原理は,同一部位を複数回測定し,赤血球の動きを検出して血流を可視化するというものである2).OCTAは蛍光眼底造影検査では捉えることのできない微細な血管構造を検出することができ,繰り返しの検査が行えるため,網脈絡膜疾患において必要不可欠な検査法となっている3).近年では,OCTAの問題点であった撮影範囲の狭さも改良され,より広範囲での高速撮影が可能となっており,網膜周辺部に〔別刷請求先〕杉本拓磨:〒767-0001香川県三豊市高瀬町上高瀬C1339白井病院Reprintrequests:TakumaSugimoto,ShiraiEyeHospital,1339TakaseKamitakase,Mitoyocity,Kagawa767-0001,JAPANC464(102)図1ImageJによるOCTA画像の二値化a:OCTAC9×9Cmm撮影.機器に内蔵されているソフトウェアで表層網膜(SRL)解析を行った.Cb:ImageCJソフトウェアのCNiblack法によりCOCTA画像の二値化を行い,中心窩無血管域(FAZ)と血管密度(VD)を計測した.おける虚血や新生血管の評価においても有用となっている4,5).しかし,測定範囲が広くなると従来のC3C×3Cmmなどの狭い範囲と比べて解像度が低下する6)ことや,撮影時間が長くなることで患者の負担も増えるという問題点がある.さらに,患者の負担増に伴い固視不良や頭位の保持が不安定になることで撮影画像にアーチファクトを生じる要因となり,OCTAの測定精度の低下にもつながってしまう.これまでに筆者らが調べた限り,OCTAを用いて狭域における血管密度の再現性の報告7.9)はあるが広範囲撮影による再現性の検討は少なく10),測定範囲別に比較検討した報告はない.そこで本研究は,広範囲の撮影が可能なCswept-sourceCOCT(SS-OCT)を用いてCOCTAの測定範囲別における測定精度を検討した.CI対象および方法1.対象白井病院倫理審査委員会の承認のもと,ヘルシンキ宣言に基づき前向き研究を施行した.2019年C1.3月に本研究に関して文書でインフォームド・コンセントを行い,データ収集に同意が得られた眼科的に器質的疾患のない健常成人の右眼のデータを対象とした.対象者は白井病院眼科外来にて視力検査,屈折検査および非接触式眼圧検査(TONOREFIII,ニデック),細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,光学式眼軸長測定(OA-2000,トーメーコーポレーション),SS-OCTおよびOCTA撮影を施行した.糖尿病網膜症などの網膜疾患や緑内障性変化が疑われる者,内眼手術の既往がある者,OCTA撮影に影響を与えるような中間透光体の混濁を認める者,等価球面度数が+3.0Dを超える者,あるいはC.6.0D未満の者,眼軸長がC26.0Cmmを超える者は除外した.C2.OCTAの測定および解析方法SS-OCT(PLEXCElite9000,Version1.7.1.31492,CarlCZeissMeditec社)で黄斑部を中心としたCOCTAを行い,測定範囲はC9C×9Cmm,12C×12Cmm,15C×9Cmmとした.各測定範囲で得られたCOCTA画像はC500C×500ピクセルから構成される.2名の検者(A,B)が同日の同時間帯に無散瞳下の暗室で,各測定範囲をC3回連続測定した.検者の測定順はランダムに行った.得られたCOCTA画像のCSignalCStrengthIndexがC7/10以下の画像,bandingCartifact,CsegmentationCerror,motionartifactなどのアーチファクト11)がある画像は除外し,アーチファクトの判定はC2名の評価者で行った.本研究における層別解析は機器に内蔵されているソフトウェアを用いて行い,内境界膜から内網状層までの表層網膜(super.cialClayer:SRL)をCenface画像で抽出した.SRLの定義は,内境界膜から内網状層までとした.得られたCOCTA画像を画像解析ソフトウェアImageJ(version1.51j8;CNationalInstituteofHealth,Bethesda,MD,USA)を用いてSonodaら12)のCNiblack法で二値化の画像変換を行い,中心窩無血管域(fovealCavascularzone:FAZ),血管密度(ves-seldensity:VD)を定量した.FAZの定量化はCFAZ境界部をマニュアルでトレースして面積を求めた.VDの定量化は既報13,14)の方法を用いて各撮影範囲を関心領域とし,次式【VD(%)=血管面積(pixels)/(関心領域-FAZ面積)(pix-els)C×100】にて算出し,すべての画像解析を単一測定者が行った(図1).検討項目は,FAZおよびCVDの検者内および検者間級内相関係数(intraclassCcorrelationCcoe.cients,CinterclassCcorrelationcoe.cients:ICC),変動係数(coe.cientofvariation:CV)とした.C3.SS-OCT(PLEXElite9000)本機器はC1,060nmの長波長光源を使用し,100,000Ascan/秒の高速撮影が可能で,解像度は軸方向分解能がC6.3μm(光学),1.95μm(デジタル),横断面分解能はC20μm,lineCscanophthalmoscope(LSO)によるアイトラッキングが搭載され,固視微動によるずれが補正される特徴を有している.OCTAのアルゴリズムには,位相と振幅の両方の変化を測定するopticalmicroangiography(OMAG法)を用いている15).C4.統計学的検討測定精度の検討には検者内および検者間CICCを用い,危険率5%未満を有意とした.統計ソフトはCSPSSver.22(IBM社)を用いて行った.CII結果対象となったC23例C23眼のうち,屈折度数が対象基準外であったC2例,OCTA画像にモーションアーチファクトのあったC1例,セグメンテーションエラーのあったC2例を除外したC18眼のデータを用いて解析した.対象は全例女性,平均年齢はC40.17C±14.18歳(22.62歳),屈折度数はC.2.76±1.90D(C.0.50.C.5.75D),矯正視力(logMAR換算)はC.0.15±0.04(C.0.18.C.0.08),眼圧はC13.8C±2.5mmHg(9.18mmHg),眼軸長はC24.38C±0.99Cmm(22.18.26.00mm)であった.各測定範囲におけるCFAZの平均値は検者CA:0.252.C0.270mm2,検者CB:0.257.0.267mmC2,VDの平均値は検者A:39.92.41.45%,検者CB:39.52.41.20%であった(表1).各測定範囲におけるCFAZのCCVは検者A:2.9.3.2%,検者B:1.7.2.6%,VDのCCVは検者A:0.4.0.6%,検者B:0.4.0.6%であった(表2).各測定範囲におけるCFAZの検者内CICCは,2名の検者ともにC0.997以上,検者間CICCでも0.996以上の有意に高い値を示した(各Cp<0.001).各測定範囲におけるCVDの検者内CICCは,検者CAはC0.961以上,検者CBはC0.895以上の有意に高い値で,検者間CICCでもC0.729.0.752で有意に高い値を示した(各p<0.001)(表3,4).表1FAZとVDの測定範囲別の結果(平均値±標準偏差)測定範囲FAZ(mmC2)VD(%)検者A検者B検者A検者B9×9mmC0.270±0.091C0.267±0.089C41.45±0.76C41.20±0.56C12×12mmC0.252±0.087C0.257±0.089C40.16±0.89C39.78±0.62C15×9mmC0.260±0.089C0.258±0.090C39.92±0.85C39.52±0.68(n=18)表2FAZとVDの変動係数(平均値±標準偏差)測定範囲FAZの変動係数(%)VDの変動係数(%)検者A検者B検者A検者B9×9mmC2.9±2.1C1.7±1.0C0.5±0.2C0.6±0.5C12×12mmC3.2±1.9C2.6±1.9C0.4±0.2C0.4±0.3C15×9mmC2.9±2.5C2.5±1.7C0.6±0.4C0.5±0.2(n=18)表3検者内ICC(95%信頼区間)測定範囲CFAZCVDC検者Ap値検者Bp値検者Ap値検者Bp値9×9mmC0.997(C0.994.C0.999)p<C0.001C0.999(C0.998.C1.000)p<C0.001C0.970(C0.935.C0.988)p<C0.001C0.895(C0.772.C0.957)p<C0.001C12×12mmC0.999(C0.998.C1.000)p<C0.001C0.998(C0.996.C0.999)p<C0.001C0.987(C0.972.C0.995)p<C0.001C0.959(C0.911.C0.983)p<C0.001C15×9mmC0.997(C0.994.C0.999)p<C0.001C0.998(C0.996.C0.999)p<C0.001C0.961(C0.916.C0.984)p<C0.001C0.967(C0.929.C987)p<C0.001ICC:級内相関係数.(n=18)表4検者間ICC(95%信頼区間)測定範囲CFAZCVDCICCp値CICCp値9×9Cmm0.997(C0.993.C0.999)p<C0.0010.729(C0.307.C0.897)p<C0.001C12×12Cmm0.996(C0.998.C0.999)p<C0.0010.734(C0.279.C0.901)p<C0.001C15×9Cmm0.997(C0.993.C0.999)p<C0.0010.752(C0.284.C0.910)p<C0.001ICC:級内相関係数.CIII考按本研究では広範囲でのCOCTAが可能なCSS-OCT(PLEXCElite9000)を用いて黄斑部を中心とした各測定範囲別のFAZおよびCVDの測定精度を検者内および検者間で検討した.これまでCOCTAにおいて狭域での測定精度を検討した報告は散見されるが7.9),広範囲で測定範囲別の比較をした報告はなく,本研究が初めての報告である.網膜表層におけるCFAZの測定精度について,Carpinetoら9)はCspectral-domain(SD)-OCT(RTVueCXRCAvanti,Optovue社)を用いて正常眼の黄斑部C3C×3mmを2名の検者で検討し,検者内CICCはC0.996.0.997,検者間CICCは0.994.0.999と非常に高い再現性であったことを報告している.Eastlineら10)はCSS-OCT(PLEXCElite9000)を用いて正常眼の黄斑部C3C×3Cmmの精度を検討した結果,検者内ICCはC0.998であったと報告している.本研究におけるCFAZの検者内および検者間CICCは各測定範囲においてC0.996.0.999を示し,広範囲の撮影にもかかわらず既報9,10)と同様に高い再現性が得られた.そのため,網膜表層のCFAZの定量化においてはCSD-OCTとCSS-OCTのどちらを用いても精度は高く,従来のC3C×3Cmm範囲をはじめ本研究で用いたC9C×9mmやC12C×12Cmm,15C×9mmのいずれの広範囲領域で撮影しても再現性が高く,同一検者はもちろん,複数の検者が検査をしても信頼性のあるデータを抽出できると考えられる.しかし,7機種のCOCTを用いてC3×3CmmのCFAZを比較した検討では,機種ごとのCFAZの面積に有意差がみられており,機種間での比較はほぼ不可能であることが示されている16).そのため,OCTAによるFAZの評価においては,機器自体の検者内または検者間の再現性は高いが,機種間では比較できないことに留意する必要がある.網膜表層におけるCVDの測定精度についてCSS-OCTを用いた検討では,Eastlineら10)はCSS-OCT(PLEXCEliteC9000)を用いて正常眼の黄斑部C3C×3Cmmの精度を検討した結果,検者内CICCはC0.834と高い再現性であったと報告している.Shojiら17)はCPLEXCElite9000とCDRICOCTTriton(トプコン)のC2機種のCSS-OCTを用いて,正常眼の黄斑部C3C×3C(n=18)mmの精度を機種間で比較した結果,検者内CICCはCPLEXCElite9000がC0.86,DRI-OCTTritonがC0.79,CVはCPLEXCElite9000がC0.34%,DRI-OCTTritonがC0.61%であったと報告している.SD-OCTを用いた黄斑部C3C×3mmや6C×6Cmmの検討では,正常眼においてCRTVueXRAvanti(Opt-ovue社)はCCVがC2.5.9.0%18),Cirrus5000HD-OCT(CarlZeiss社)は検者間CICCがC0.77,CVがC3.8%19)であったと報告されている.本研究では,9C×9Cmm,12C×12Cmm,15C×9Cmmの各測定領域におけるCVDの検者内CICCはC0.895.0.987,検者間CICCはC0.729.0.752であり,既報10,17)よりも高い検者内CICCを示し,検者間CICCにおいても既報19)と同様に高い再現性が得られた.また,本研究におけるCCVはC0.4.0.6%であり,既報のCDRI-OCTCTriton16)やCSD-OCT18,19)よりも低い値で,VDのばらつきが小さいという結果であった.そのため,PLEXElite9000を用いた広範囲での血管描出力は撮影範囲の影響を受けにくく,既報のCSD-OCTや他のCSS-OCTよりも再現性が高い可能性が考えられる.その理由として,SS-OCTはCSD-OCTよりも高速撮影のため撮影時間を短縮できるとともに,被検者の負担軽減によって高い協力性を得られやすいことがあげられる.さらに,SD-OCTではおよそC840Cnmの可視光のため,被検者からスキャンの走査線が見えることで固視不良が誘発されやすいが,SS-OCTでは1,050CnmやC1,060Cnmの長波長光源のため被検者からはスキャンの走査線が見えないため固視が安定しやすいことが考えられる.また,各社COCTにおいて,血流による信号変化を検出するために用いるアルゴリズムや解像度が異なっており20),その違いが血管の描出力とその再現性に影響している可能性もある.本研究によって,PLEXCElite9000による広範囲撮影のVDは,検者内および検者間においても信頼性の高いデータを取得できることが明らかとなった.しかし,検者間CICCは高い値であったものの,検者内CICCに比べると低い値を示した.その明らかな理由は不明であるが,撮影する検者の経験年数や技術による影響が推察されるが,今後の詳細な検討が必要である.また,Eastlineら10)はCSS-OCT(PLEXCElite9000)によるC12C×12mmの五つの画像を合成したwide-.eldOCTAにおいて,VDのCICCはC0.662と低い値を示し,広範囲での撮影では解像度の低下が周辺血管の描出に影響する可能性を述べている.そのため,本研究のように広範囲のC1枚撮影で高い再現性が得られたとしても,複数の画像を合成した際は再現性が低くなることを留意してCVDを評価すべきと考えられる.本研究のCSS-OCTを用いた検討により,広範囲のCOCTAによるCFAZとCVDは,検者内および検者間においても高い再現性が得られることが明らかとなった.FAZは糖尿病網膜症の病期進行に伴い拡大21)し,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症ではCFAZのサイズと視力が逆相関の関係を示す22)ことが報告されている.さらに,糖尿病網膜症におけるCPLEXElite9000によるC12C×12CmmのCOCTAは,広角眼底撮影による造影検査と同様に無灌流領域や網膜新生血管の検出の感度が高いことが報告されている4).そのため,本研究で用いた広範囲のCOCTAは,FAZを含めた広範囲の無灌流領域や網膜新生血管などの血流評価や視機能評価にもつながるため,網膜循環障害をきたす疾患において有用性が高いと考えられる.本研究における問題点としては,症例数が少ないこと,正常眼のみの検討であること,検者の撮影技術や経験年数など撮影に影響する因子の検討は行っていないことがあげられる.今後は,糖尿病網膜症などの広範囲でのCOCTAが有用な疾患を対象に再現性を検討するとともに,検者の撮影技術や経験年数など撮影に影響する因子の検討も行う予定である.CIV結論PLEXElite9000による広範囲のCOCTAは,健常眼の血管形態解析において各測定範囲で変動が少なく再現性が高い結果が得られ,検者内および検者間でも影響を受けにくいことが示唆された.文献1)SpaideRF,KlancnikJMJr,CooneyMJ:RetinalvascularlayersCimagedCbyC.uoresceinCangiographyCandCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CJAMACOphthalmolC133:45-50,C20152)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC35:C2163-2180,C20153)NakanoY,KataokaK,TakeuchiJetal:Vascularmaturityoftype1andtype2choroidalneovascularizationevaluat-edCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CPLoSCOne14:e0216304,C20194)SawadaO,IchiyamaY,ObataSetal:Comparisonbetweenwide-angleOCTangiographyandultra-wide.eld.uores-ceinCangiographyCforCdetectingCnon-perfusionCareasCandCretinalCneovascularizationCinCeyesCwithCdiabeticCretinopa-thy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:1275-1280,C20185)KhalidH,SchwartzR,NicholsonLetal:Wide.eldopticalcoherenceCtomographyCangiographyCforCearlyCdetectionCandobjectiveevaluationofproliferativediabeticretinopa-thy.BrJOphthalmol105:118-123,C20216)宇治彰人:OCTアンギオグラフィーの基本.神経眼科37:C3-8,C20207)Al-SheikhM,TepelusTC,NazikyanTetal:RepeatabilityautomatedCvesselCdensityCmeasurementsCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CBrCJCOphthalmolC101:449-452,C20178)吉川祐司,庄司拓平,菅野順二ほか:Swept-source光干渉断層計Cangiographyを用いた乳頭周囲血管密度の定量化と再現性の検討.日眼会誌122:685-692,C20189)CarpinetoCP,CMastropasquaCR,CMarchiniCGCetal:Repro-ducibilityCandCrepeatabilityCofCfovealCavascularCzoneCmea-surementsinhealthysubjectsbyopticalcoherencetomog-raphyCangiography.BrJOphthalmolC100:671-676,C201610)EastlineCM,CMunkCMCR,CWolfCSCetal:RepeatabilityCofCwide-.eldCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCnormalretina.TranslVisSciTechnol8:6,C201911)GhasemiFalavarjaniK,Al-SheikhM,AkilHetal:ImageartefactsCinCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.BrJOphthalmolC101:564-568,C201712)SonodaS,SakamotoT,YamashitaTetal:Choroidalstruc-tureinnormaleyesandafterphotodynamictherapydeter-minedCbyCbinarizationCofCopticalCcoherenceCtomographicCimages.InvestOphthalmolVisSciC55:3893-3899,C201413)FujiwaraA,MorizaneY,HosokawaMetal:Factorsa.ect-ingCfovealCavascularCzoneCinChealthyeyes:AnCexamina-tionCusingCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.PLoSOne12:e0188572,C201714)ArakiS,MikiA,GotoKetal:FovealavascularzoneandmacularCvesselCdensityCafterCcorrectionCforCmagni.cationCerrorCinCunilateralCamblyopiaCusingCopticalCcoherenceCtomographyangiography.BMCOphthalmol19:171,C201915)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSOne11:e0154691,C201616)CorviCF,CPellegriniCM,CErbaCSCetal:ReproducibilityCofCvesselCdensity,CfractalCdimension,CandCfovealCavascularCzoneusing7di.erentopticalcoherencetomographyangi-ographydevices.AmJOphthalmolC186:25-31,C201817)ShojiCT,CYoshikawaCY,CKannoCJCetal:ReproducibilityCofCmacularCvesselCdensityCcalculationsCviaCimagingCwithCtwoCdi.erentCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.TranslVisSciTechnolC7:31,C201818)ManalastasCPIC,CZangwillCLM,CSaundersCLJCetal:Repro-ducibilityCofCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCmacularandopticnerveheadvasculardensityinglauco-maandhealthyeyes.JGlaucomaC26:851-859,C201719)LeiCJ,CDurbinCMK,CShiCYCetal:RepeatabilityCandCrepro-ducibilityCofCsuper.cialCmacularCretinalCvesselCdensityCmeasurementsCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangi-ographyCenCfaceCimages.CJAMACOphthalmolC135:1092-calcoherencetomographyangiography.RetinaC35:2377-1098,C2017C2383,C201520)野崎実穂:光干渉断層血管撮影の機種による特徴.あたら22)BalaratnasingamCC,CInoueCM,CAhnCSCetal:VisualCacuityしい眼科34:771-779,C2017Ciscorrelatedwiththeareaofthefovealavascularzonein21)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:EnlargementoffovealdiabeticCretinopathyCandCretinalCveinCocclusion.COphthal-avascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopti-mology123:2352-2367,C2016***

円錐角膜眼におけるIOLMaster700の2種類の角膜屈折力を用いた予測屈折誤差の比較

2021年4月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(4):459.463,2021c円錐角膜眼におけるIOLMaster700の2種類の角膜屈折力を用いた予測屈折誤差の比較浅井優奈*1小島隆司*2玉置明野*1橋爪良太*1酒井幸弘*3加賀達志*1市川一夫*3*1独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科*2慶応義塾大学医学部眼科学教室*3医療法人いさな会中京眼科ComparisonofPostoperativeRefractivePredictionErrorbetweenKeratometric(K)ValueandTotalKeratometry(TK)ValueofKeratoconusYunaAsai1),TakashiKojima2),AkenoTamaoki1),RyotaHashizume1),YukihiroSakai3),TatushiKaga1)CKazuoIchikawa3)Cand1)JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,2)CKeioUniversitySchoolofMedicine,3)ChukyoEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,目的:円錐角膜眼のCKeratometric(K)値とCTotalKratometry(TK)値の予測屈折誤差の比較.対象および方法:対象は,白内障術前検査にCIOLMaster700を用いた円錐角膜C13例C17眼(平均年齢C64.5C±14.5歳)と,コントロール群として正常角膜眼C140例C140眼(平均年齢C73.7C±27.6歳)である.Amsler-Krumeich分類はCStage1がC10眼,StageC2がC6眼,Stage4がC1眼であった.術前のCK値とCTK値を比較した.さらに眼内レンズ度数計算式にCSRK/T式とCBar-rettUniversalII式を用い,それぞれにCK値を代入したCSRK/T群,Barrett群,TK値を代入して求めた数値をCSRK/T(TK)群,BarrettTK群とし,4式間で術後C3カ月の予測屈折誤差の絶対値(MAE)を比較した.結果:円錐角膜の平均角膜屈折力は,TK値(46.54C±2.41CD)が有意にCK値(46.66C±2.48CD)より小さかったが(p=0.0158),MAEはSRK/T群がC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群がC0.83C±0.64D,Barrett群がC0.78C±0.67D,BarrettTK群がC0.79C±0.65CDで有意差はなかった(p=0.9980).正常角膜の平均角膜屈折力はCK値がC44.52C±1.44CD,TK値がC44.51C±1.44CDで有意差はなかった(p=0.3440).MAEはCSRK/T群がC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群がC0.35C±0.33CD,Barrett群がC0.28C±0.23CD,BarrettTK群がC0.27C±0.23CDで有意差はなかった(p=0.2959).結論:円錐角膜では,正常眼と異なりCTK値はCK値より小さく本来の角膜屈折力をより反映していると思われたが,予測屈折誤差の改善は得られなかった.CPurpose:Tocomparethepostoperativerefractivepredictionerrorwhenthekeratometric(K)valueortotalkeratometry(TK)valueCisCappliedCforCintraocularClensCcalculationCinCeyesCwithCkeratoconus.CPatientsandMeth-ods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC17CkeratoconusCeyesCofC13patients(meanage:64.5C±14.5years)whoCunderwentIOLMaster700examinationbeforecataractsurgeryand140normal-corneaeyesof140patients(meanage:73.7C±27.6years)asCaCcontrol.COfCtheC17CkeratoconusCeyes,CAmsler-KrumeichCclassi.cationCrevealedCthatCthereCwereC10CStageC1Ceyes,C6CStageC2Ceyes,CandC1CStageC4Ceye.CPreoperativeCKCandCTKCvaluesCwereCcomparedCbetweenCtheCkeratoconusCandCcontrolCeyes.CMoreover,CaCcomparisonCofCmeanCabsoluteerror(MAE)ofCrefractionCwasconductedbetweentheSRK/Tgroup(SRK/TformulausingKvalue)C,theBarrettgroup(BarrettUniversalIIformulaCusingCKvalue)C,CtheSRK/T(TK)group(SRK/TCformulaCusingTK)C,CandCtheCBarrettCTKgroup(BarrettCUniversalCIICformulaCusingCTKvalue)atC3-monthsCpostoperative.CResults:InCtheCkeratoconusCgroupCeyes,CtheCmeanCTKvalue(46.54C±2.41D)wasCsigni.cantlyClowerCthanCtheCKvalue(46.66C±2.48D)(p=0.0158)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMAECbetweenCtheCfourgroups[SRK/T:0.79C±0.63D;SRK/T(TK):0.83C±0.64D;Barrett:0.78C±0.67D;Barrett(TK):0.79C±0.65D](p=0.9980)C.CInCtheCnormalCcorneaCcontrolCeyes,CtheCmeanCKCvalueandTKvaluewas44.52±1.44DCandC44.51±1.44D,respectively,andtherewasnosigni.cantdi.erence(p=0.3440)C.Therewasalsonosigni.cantdi.erenceinMAEofrefractivepredictionbetweenthefourgroups[SRK/T〔別刷請求先〕浅井優奈:〒457-8510愛知県名古屋市南区三条C1-1-10独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科Reprintrequests:YunaAsai,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoyacity,Aichi457-8510,JAPANCgroup:0.33C±0.28D;SRK/T(TK)group:0.35C±0.33D;Barrettgroup:0.28C±0.23D;Barrett(TK)group:0.27C±0.23D](p=0.2959)C.CConclusions:Inthekeratoconuseyes,theTKvaluewassmallerthantheKvalue,sotheTKCvalueCmayCbeCcloserCtoCtheCtrueCcornealCrefractiveCpowerCthanCtheCKCvalue.CHowever,CthereCwasCnoCimprove-mentinMAEofrefractiveprediction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(4):459.463,C2021〕Keywords:TK,角膜全屈折力,円錐角膜,予測屈折誤差.totalkeratometry,keratoconus,refractivepredictionerror.Cはじめにこれまで,IOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)は角膜前面の曲率半径をCtelecentric方式によって測定し,換算屈折率C1.3375による推計値である角膜全屈折力を眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算に用いてきた.バージョンアップによって角膜前面曲率半径は従来どおりCf2.5CmmのC6点の角膜反射をCtelecentric方式にて楕円近似して測定し,f2.0mmとCf3.0Cmmを加えたC18点の前面反射とCsweptsourceCopticalCcoherencetomography(SS-OCT)による角膜厚から後面曲率半径を計算し,補正された角膜全屈折力であるCTotalKeratometry(TK)が測定可能となった.近年,Scheimp.ug法を用いた前眼部画像解析装置や前眼部光干渉断層計により,角膜後面を実測して角膜全屈折力を算出したCtotalCcornealCrefractivepower(TCRP.Pentacam,Oculus社)やCReal(CASIA,トーメーコーポレーション)が測定可能となり,ShajariらはCPentacamのCTCRPとCIOLMaster700のCTKを比較し,TKは角膜後面を実測したこれらの角膜全屈折力よりCKeratometoricとの差が小さく補正された値である可能性があることを指摘している1).角膜後面形状の重要性については,複数の報告2,3)があり,Tamaokiらは角膜前面形状から後面異常を予測できない後部円錐角膜症例にて,IOL度数計算における角膜後面の形状評価の重要性を報告している2).また,KochらはCDualScheimp.ugCAnalyzer(GALILEI,CZiemerCOphthalmicCSys-tems社)を用いて,角膜後面の乱視を無視すると角膜全体の推定が不正確になる可能性を報告している3).円錐角膜は角膜前面に対して角膜後面の突出が強く,角膜中心より下方にCsteepな領域がある場合が多い.不正乱視によって角膜屈折力に測定誤差が生じ,IOL度数計算に影響する.また,SRK/T式などの理論式ではピタゴラスの定理を用いて前房深度を算出しているためCsteepな角膜では前房深度が深く見積もられる評価誤差を生じ,IOL度数計算に影響を及ぼす.LaHoodら4)は,正常角膜眼を対象としてトーリックCIOLの計算に推奨されている角膜後面屈折力を推計したCGogginノモグラムとCIOLMaster700のCTKによる残余角膜乱視を比較し,乱視軸別の評価では差はあるものの,全体では差がなかったと報告している.しかし,角膜形状異常眼に対するTKの有用性については不明である.本研究では,IOL度数計算において正常眼と比較し予測屈折誤差が大きいことが報告5,6)されている円錐角膜眼について,術前のCK値とCTK値の白内障術後予測屈折誤差を比較し,TK値の有用性を評価することを目的とした.CI対象および方法本研究はCJCHO中京病院倫理委員会の承認をうけ(承認番号C2019030),ヘルシンキ宣言に則り後方視的に検討を行った.対象は,2018年C2月.2019年C8月に水晶体再建術を施行した円錐角膜眼C13例C17眼(男性C5名,女性C8名,平均年齢C64.5±14.5歳)である.円錐角膜眼のCAmsler-Krumeich分類は,Stage1がC10眼,Stage2がC6眼,Stage4がC1眼であった.IOLはCAN6KA(興和)10眼,SN6AT3-6(アルコン)5眼,SN60WF(アルコン)1眼,NS60YG(ニデック)1眼であった.IOL度数計算式はCSRK/T式,BarrettCUniver-salII式にIOLCMaster700で測定したK値を代入したSRK/T群,Barrett群,同じくCTK値を代入したCSRK/T(TK)群,BarrettTK群のC4式間で比較した.また,正常角膜眼C140例C140眼(男性C65名,女性C75名,平均年齢C73.7±27.6歳)をコントロール群とした.正常角膜眼は,角膜疾患および屈折矯正手術を含む眼手術歴がない症例とし,術中術後に合併症がなく術後C3カ月時に矯正視力がC0.7以上であった症例を対象とした.IOLは,AN6KAとした.各CIOLの最適化CA定数はCAN6KAがC119.1,SN6ATxは119.3,SN60WFはC119.1,NS60YGはC119.45で,Barrett式の定数CLFはCA定数から算出された値を使用した.CIOLMaster700で測定した円錐角膜と正常眼の角膜屈折力CK値とCTK値を比較した.また,4群間の予測屈折値と術後3カ月時の自覚屈折値の等価球面度数の差(自覚C.予測)を予測屈折誤差として比較した.統計解析は,正規性の検定にCShapiro-Wilk検定,角膜屈折力の比較には対応のあるCt検定,予測屈折誤差の比較にはKruskal-Wallis検定またはCOne-wayANOVA検定を使用し,post-hoctestにはCDunn’smultiplecomparisonstestを用いた.統計解析ソフトは,GraphPadPrism(version6.0)を用いた.CII結果1.円錐角膜眼TKが測定不能であったC3眼(Stage2がC2眼,Stage4が1眼)を除いたC14眼の円錐角膜眼の平均角膜屈折力は,K値がC46.66C±2.48D,TK値はC46.54C±2.41Dで,有意にCTK値が小さかった(p=0.0158)(図1).また,黄斑上膜を合併し術後矯正視力が(0.03)であったC1眼を除いた円錐角膜C13眼のC4式による予測屈折誤差の絶対値平均(meanCabsoluteerror:MAE)は,SRK/T群でC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群C0.83C±0.64D,Barrett群はC0.78C±0.67D,BarrettTK群はC0.79C±0.65Dで,4式間に有意差は認められなかった(p=0.9980)(図2a).また,術後予測屈折誤差の算術平均0.0427)とCSRK/T(TK)群(p=0.0317)より有意に遠視化した(図4b).CIII考按本研究の結果,コントロール群の正常角膜眼のCMAEはSRK/T群でC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群はC0.35C±0.33D,Barrett群はC0.28C±0.23D,BarrettTK群はC0.27C±0.23D,であり円錐角膜眼のCMAEはCSRK/T群でC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群C0.83C±0.64D,Barrett群はC0.78C±0.67D,CBarrettTK群はC0.79C±0.65Dであった.すべての計算式において,MAEは円錐角膜眼のほうが大きい結果となった.また,円錐角膜眼の予測屈折誤差の絶対値の中央値(medianabsoluteerror:Med.AE)はCSRK/T群でC0.62D,Barrett群でC1.03Dであり,既報よりもわずかに小さい値であるが,(meanerror:ME)は,SRK/T群はC.0.23±1.01D,SRK/予測屈折誤差:絶対値平均(D)3210NSn=13SRK/TSRK/TBarrettBarrettT(TK)群はC.0.29D±1.03Dで近視化し,Barrett群はC0.55D±0.88D,BarrettTK群は0.45C±0.94Dで遠視化の傾向を認めた(p=0.0567)(図2b).2.正常角膜眼正常角膜眼の平均角膜屈折力は,K値がC44.52C±1.44D,TK値はC44.51C±1.44Dで有意差は認められなかった(p=0.3440)(図3).MAEは,SRK/T群ではC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群はC0.35C±0.33D,Barrett群はC0.28C±0.23D,BarrettTK群はC0.27C±0.23Dで4群間に有意差は認められなかった(p=0.2959)(図4a).MEは,SRK/T群はC.0.09±0.42D,SRK/T(TK)群はC.0.07±0.48D,Barrett群はC0.04C±0.36D,CBarrettTK群はC0.01C±0.35Dで4群間に有意差を認めた(p=0.0081).多重比較の結果,Barrett群は,SRK/T群(p=(TK)TK図2a円錐角膜眼における4群間の予測屈折誤差(絶対値平均)4群間に有意な差は認められなかった(p=0.9980:Kruskal-Wallis検定).ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.CNSn=1352*n=14予測屈折誤差:算術平均(D)3-2SRK/TBarrettBarrett角膜屈折力(D)484644210-1K値TK値図1円錐角膜眼における2種類の平(TK)TK均角膜屈折力の比較K値:CKeratometric,CTK値:CTotal図2b円錐角膜眼における4群間の予測屈折Keratometry.CK値はCTK値よりも有誤差(算術平均)意に大きかった(*Cp=0.0158:Ct検定).4群間に有意な差は認められなかった(COne-ボックスプロットの上端は第三四分wayCANOVA:Cp=0.0567).ボックスプロッ位,下端第一四分位,中央ラインは第トの上端は第三四分位,下端第一四分位,中二四分位を示す.C央ラインは第二四分位を示す.CNSn=140NSn=1402.050481.5絶対値算術予測屈折誤差(D)角膜屈折力(D)4644421.00.50.040K値TK値SRK/TSRK/TBarrettBarrett図3正常眼における2種類の平均角膜屈折力の比較K値:Keratometric,TK値:TotalKeratometry.K値とCTK値に有意な差は認められなかった(t検定:p=0.3440).各シンボルはC5.95%タイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.(TK)TK図4a正常眼における予測屈折誤差(絶対値平均)4群間に有意な差は認められなかった(Kruskal-Wallis検定:p=0.2959).各シンボルはC5.95パーセンタイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.算術平均予測屈折誤差(D)3210-1-2*n=140SRK/TSRK/TBarrettBarrettBarrett式において遠視化する傾向は一致していた7).角膜屈折力について,Srivannaboonらは正常眼においてIOLMaster700で測定したCKとCTKに有意差はなく,どの計算式を用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している8).本研究においても正常眼のCK値とCTK値は差がなく,TK値を用いても予測屈折誤差の改善は得られず,この結果は既報と一致していた.また,Hasegawaらは,正常角膜眼においては,CASIAによる角膜全屈折力であるRealの値を用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告し9),ShirayamaらもCIOLMaster700で測定したKeratometricとCGALILEI(ZiemerOphthalmicSystems社)で測定したCtotalCcornealpowerを比較し,totalCcornealpowerを用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している10).同様に,Saviniらは,GALILEIで測定したCsimulatedKを用いてもCtotalCcornealpowerを用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している11,12).従来のCIOL度数計算式は換算屈折率による全角膜屈折力で構築されており,角膜後面を実測した角膜屈折力を用いる場合,正常角膜においても両者の屈折力には差があり,本来定数の最適化が必要となる.円錐角膜眼の角膜屈折力について,K値はCTK値よりも有意に大きかったものの,K値とCTK値の差はC0.13C±0.18Dと小さかった.本研究ではCStage1の症例が半数以上であることが要因として考えられる.また,TK測定不能眼がC3眼,測定可能であったが信号品質が低い眼がC4眼あった.Srivannaboonらは正常角膜眼について,K値とCTK値はともに高い再現性を示し,有意な差はなかったと報告している8).円錐角膜眼に対する再現性について,SzalaiらはCASIAとCPentacamを用いて円錐角膜眼は正常眼よりも低(TK)TK図4b正常眼における予測屈折誤差(算術平均)KruskalWallis検定:p=0.0081.SRK/T群,SRK/T(TK)群の算術平均は,Barrett群よりも有意に小さかった(*Dunn’sCmultipleCcomparisonstest:SRK/TCvsCBarrettCp=0.0427,SRK/T(TK)CvsBarrettp=0.0317).各シンボルはC5.95パーセンタイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.かったと報告13)しているが,TK値についての再現性は不明であり,症例数を増やして検討する必要があるとしている.予測屈折誤差について,本研究ではC4式間の絶対値平均に有意差は認められなかった.予測屈折誤差の算術平均は,正常眼,円錐角膜眼ともにCSRK/T群,SRK/T(TK)群は近視化し,Barrett群およびCBarrettTK群は遠視化した.Kamiyaらは,円錐角膜眼ではCSRK/T式はCHaigis式,Hof-ferQ式より予測屈折誤差が少ないと報告している14).Saviniらは円錐角膜眼において,SRK/T式はCHaigis式,CHo.erQ式,BarrettCUniversalII式より予測屈折誤差が少なく,Stage3以上の円錐角膜眼は,どの式を用いても予測屈折誤差が大きいと報告している7).また両者ともすべての式について遠視化したと報告している.円錐角膜は,角膜前面に対して角膜後面の突出が強いこと,steepな領域が角膜中心より下方にある場合が多いことにより角膜全屈折力は過大評価され遠視化を引き起こす可能性がある.また,SRK/Tはピタゴラスの定理を用いて角膜曲率半径より前房深度を算出しており,曲率半径が小さい場合,前房深度は深く見積もられ,近視化を引き起こす可能性がある.本研究でCSRK/T群が近視化の傾向が認められたのは術後前房深度予測の差が影響していると考えられるが,Barrett式は開示されていないため詳細は不明である.また本研究では,円錐角膜群はK値よりCTK値が有意に小さく本来の角膜屈折力を反映していると思われたが,予測屈折誤差は正常角膜群と比較し有意に大きく,TK値を用いても改善しなかった.理由の一つとして円錐角膜眼でのCK値とCTK値の差は統計的な有意差はあるものの平均C0.13Dであり,計算式が内包する円錐角膜眼における誤差の要因に対し,貢献度が低いことが考えられる.また,本研究は全体の半数以上が円錐角膜眼のAmsler-Krumeich分類CStage1の症例であり,K値とCTK値の差(0.13DC±0.18)が小さかったということも考えられる.本研究の限界点として,軽度円錐角膜が大半を占めていること,症例数が少ないことがあげられる.Saviniらは,軽度円錐角膜における水晶体再建術は安全かつ効果的であり精度も良好であると報告しており7,12),Kamiyaらは,Scheimp-.ug法により後面を実測したCPentacamのCTCRPを用いた円錐角膜症例の術後屈折誤差はCK値を用いた場合に比較し近視化し,C±0.5D以内の誤差の割合はCK値を用いた場合よりも向上したと報告している14).CIOLMaster700のCTKは,正常角膜においてCK値との差が少なく,同じ定数を用いたCIOL度数計算式を使用可能であることが特徴と考えられるが,本研究では円錐角膜眼においてCTKを用いたことによる術後の屈折誤差の改善は得られなかった.進行した円錐角膜など形状異常眼の予測屈折誤差の低減は依然課題として残されており,多数例での検討が必要である.文献1)ShajariCM,CSonntagCR,CRamsauerM:EvaluationCofCtotalCcornealpowermeasurementswithanewopticalbiometer.CJCataractRefractSurgC46:675-681,C20202)TamaokiCA,CKojimaCT,CHasegawaCACetal:IntraocularClensCpowerCcalculationCinCcasesCwithCposteriorCkeratoco-nus.JCataractRefractSurgC41:2190-2195,C20153)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorCcornealCastigmatismCtoCtotalCcornealCastigmatism.CJCataractRefractSurgC38:2080-2087,C20124)LaHoodCBR,CGogginCM,CBeheregarayCSCetal:ComparingCtotalCkeratometryCmeasurementConCtheCIOLMasterRCwithCGogginnomogramadjustedanteriorkeratometry.JRefractSurgC34:521-526,C20185)KamiyaCK,CKonoCY,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCsimulatedkeratometryandtotalrefractivepowerforker-atoconusaccordingtothestageofAmsler-KrumeichClas-si.cation.CSciRepC8:12436,C20186)GhiasianCL,CAbolfathzadehCN,CMana.CNCetal:IntraocularClenspowercalculationinkeratoconus;Areviewoflitera-ture.JCurrOphthalmolC31:127-134,C20197)SaviniG,AbbateR,Ho.erKJetal:IntraocularlenspowercalculationCinCeyesCwithCkeratoconus.CJCCataractCRefractCSurgC45:576-581,C20198)SrivannaboonCS,CChirapapaisanC:ComparisonCofCrefrac-tiveCoutcomesCusingCconventionalCkeratometryCorCtotalCkeratometryCforCIOLCpowerCcalculationCinCcataractCsur-gery.GraefesArchClinExpOphthalmolC257:2677-2682,C20199)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularClenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C201810)ShirayamaCM,CWangCL,CKochCDDCetal:ComparisonCofCaccuracyCofCintraocularClensCcalculationsCusingCautomatedCKeratometry,CaCPlacido-basedCcornealCtopographer,CandCaCcombinedCPlacido-basedCandCdualCScheimp.ugCcornealCtopographer.CorneaC29:1136-1138,C201011)SaviniG,NegishiK,Ho.erKJetal:Refractiveoutcomesofintraocularlenspowercalculationusingdi.erentcorne-alCpowerCmeasurementsCwithCaCnewCopticalCbiometer.CJCataractRefractSurgC44:701-708,C201812)SaviniCG,CHo.erCKJ,CLomorielloCDSCetal:SimulatedCkera-tometryversustotalcornealpowerbyraytracing:Acom-parisonCinCpredictionCaccuracyCofCintraocularClensCpower.CCorneaC36:1368-1372,C201713)SzalaiE,BertaA,HassanZetal:Reliabilityandrepeat-abilityCofCswept-sourceCFourier-domainCopticalCcoherenceCtomographyCandCScheimp.ugCimagingCinCkeratoconus.CJCataractRefractSurgC38:485-494,C201214)KamiyaK,IijimaK,ShojiNetal:Predictabilityofintra-ocularClensCpowerCcalculationCforCcataractCwithCkeratoco-nus:Amulticenterstudy.SciRepC8:1312,C2018***

片眼に限局性網膜色素上皮異常があり糖尿病網膜症の病期に左右差を認めた1例

2021年4月30日 金曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(4):454.458,2021c片眼に限局性網膜色素上皮異常があり糖尿病網膜症の病期に左右差を認めた1例高田悠里喜田照代大須賀翔福本雅格佐藤孝樹池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CAsymmetricalDiabeticRetinopathywithUnilateralRetinalPigmentEpitheliumDisorderYuriTakada,TeruyoKida,ShouOosuka,MasanoriFukumoto,TakakiSatoandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:糖尿病網膜症(DR)は通常両眼性で同程度に進行するが,網膜色素変性(RP)を合併するとCDRの重症度は低いと報告されている.今回,片眼に局所性の網膜色素上皮異常があり,DRの進行に左右差を認めたC1例を長期観察できたので報告する.症例:74歳,男性.視力低下で近医受診,DRを指摘され大阪医科大学附属病院眼科紹介となった.初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.2),両眼白内障と右眼の増殖CDR,左眼の単純CDRと左右差を認めた.右眼は糖尿病黄斑浮腫(DME)も認め,左眼は耳上方に限局性のCRP様色素沈着を伴う網膜色素上皮異常を認めた.既往にC3年前交通事故で顔面打撲があった.両眼の白内障手術を施行,右眼はCDMEに対し抗血管内皮増殖因子療法,網膜新生血管に対し汎網膜光凝固を施行した.2年C7カ月後,視力は右眼(0.6),左眼(0.8)に改善し,初診より約C4年経過した現在も左眼はCDRの増悪は認めない.結論:左眼の網膜色素上皮異常は限局性にもかかわらず右眼に比べCDRの進行が緩徐でCDMEも発症しなかった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCdiabeticretinopathy(DR)inCwhichClocalizedCretinitispigmentosa(RP)-likeCdis-orderCoccurredCinConeCeye,CthusCillustratingCtheCasymmetricalCdi.erencesCinCtheCprogressionCofCDR.CCase:A74-year-oldmalepresentedwithavisualacuity(VA)of0.15ODand0.2OS.Examinationrevealedbilateral,yetdi.erent-stage,DRandcataract,accompaniedwithdiabeticmacularedema(DME)inhisrighteyeandalocalizedRP-likedisorderinhislefteye.Hehadapasthistoryofbluntfacialtraumathatoccurredduetoatra.caccident3-yearsprevious.Cataractsurgerywasperformedinbotheyes,andhisrighteyereceivedanti-VEGFtherapyfortheDMEandpan-retinalphotocoagulationtotreattheretinalneovascularization.At4-yearspostoperative,hisVAwas0.6ODand0.8OS.Conclusion:Todate,thestageofDRprogressioninhislefteyewiththelocalizedRP-likedisorderhasremainedslowerthanthatinhisrighteye,withnooccurranceofDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(4):454.458,C2021〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜色素上皮異常,片眼性,糖尿病黄斑浮腫,網膜色素変性.diabeticCretinopathy,Cretinalpigmentepitheliumdisorder,unilateral,diabeticmacularedema,retinitispigmentosa.Cはじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は通常,両眼性で同程度の進行を認めるが,網膜色素変性の患者においてDRを合併するとCDRの進行は緩徐であるといわれている1).今回,DRの片眼に鈍的外傷が原因と考えられる網膜色素上皮異常を認め,その網膜色素上皮異常が限局的であるにもかかわらずCDRの進行に左右差を認めた症例を長期に経過観察できたので報告する.CI症例74歳,男性.両眼の視力低下を主訴に近医を受診したところ眼底出血を指摘され,両眼CDRの疑いにてC2016年C4月大阪医科大学附属病院眼科紹介受診となった.初診時視力は右眼C0.1(0.15×sph.2.00D),左眼C0.2(矯正不能),眼圧は〔別刷請求先〕高田悠里:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuriTakada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC図1初診時眼底写真(a,b)および黄斑部光干渉断層計(OCT)画像(c,d)およびフルオレセイン蛍光造影検査(e,f)a:右眼.点状出血が散在している.Cb:左眼.限局性の網膜色素上皮異常を認める(..).c:右眼(横断).黄斑部にフィブリンと思われる漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫を認める.d:左眼(縦断).網膜色素上皮異常部位に一致した網膜の菲薄化を認める.Ce:右眼.網膜無灌流領域を認める.f:左眼.網膜色素上皮異常部位に一致したCwindowdefectを認める.右眼C14CmmHg,左眼C17CmmHgであった.前眼部中間透光coherencetomography:OCT)では右眼黄斑部にフィブリン体は右眼に虹彩後癒着と両眼の白内障を認めた.ぶどう膜炎析出を伴う漿液性網膜.離を認め,糖尿病黄斑浮腫(diabeticはみられなかった.既往歴にはC10年前に虫垂炎の手術歴,Cmacularedema:DME)と考えられた.左眼は網膜色素上3年前にバイクによる交通事故で顔面打撲があった.皮異常部位に一致した網膜の菲薄化を認めたがCDMEはみら初診時の眼底所見は,右眼は点状出血および硬性白斑,軟れなかった(図1c,d).フルオレセイン蛍光造影検査(flu-性白斑がみられ,左眼は点状出血に加えて耳上側に限局性のCoresceinangiography:FA)では右眼は網膜無灌流領域,左網膜色素上皮異常を認めた(図1a,b).光干渉断層計(optical眼は網膜色素上皮異常部位のCwindowdefectを認めた(図図2Goldmann視野検査左眼で網膜色素上皮異常部位に一致した視野欠損を認める.ab図3網膜電図(ERG)a:FlashERGで両眼のCOP波減弱を認める.Cb:フリッカCERGでは明らかな左右差は認めない.1e,f).採血検査でCHbA1cはC10.7%であり,糖尿病は無治療であったため,まず内科治療を開始した.また,眼底所見に左右差を認めていたため,内頸動脈閉塞症の除外を目的に頸動脈エコー検査を行ったが,異常所見は認めなかった.FA所見より右眼の網膜無灌流領域に網膜光凝固を施行したのち,両眼白内障手術を施行した.Goldmann視野検査では左眼の網膜色素上皮異常部位に一致した視野欠損を認めた(図2).網膜電図(electroretinogram:ERG)ではC.ashERGにおいて両眼とも律動様小波(OP波)の減弱を認め,b/a比は右眼でC1未満であった(図3a).フリッカCERGでは明らかな左右差はみられなかった(図3b).経過中に右眼のDMEに対し抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法をC4回施行し漿液性網膜.離は改善した.一方左眼は経過中に一度もCDMEは認めなかった.その後再度CFAを施行し,右眼に網膜新生血管が出現したため,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)を施行した(図4).その後右眼網膜新生血管は退縮し,初診から約C4年過ぎた現在も左眼は網膜症の進行を認めずCDMEはみられない(図5).視力は右眼C0.7,左眼C0.8であり,HbA1cはC6.4%であった.CII考按本症例は,片眼(左眼)に限局性の網膜色素上皮異常がありCDRの進行に左右差を認めた.右眼は増殖CDRに進行しDMEも合併したが,網膜色素上皮異常がみられた左眼にはDMEの発症はみられず単純CDRのまま経過した.DRは通常,両眼性であり,進行には大きな左右差はないとされているが2),本症例のように明らかに眼底所見に左右差があった原因としては,左眼にのみ認められた網膜色素上皮異常と何らかの関係があったのではないかと考えられる.今回,左眼にのみみられた網膜色素上皮異常の鑑別として,片眼性の網膜色素変性症と急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)に起因する片眼図4初診より2年3カ月後のフルオレセイン蛍光造影検査a:右眼.右眼に網膜新生血管を認めたため汎網膜光凝固を施行した.Cb:左眼.網膜無灌流領域の出現なく初診時より大きな変化は認めない.性の網膜色素異常がある.原発性片眼性網膜色素変性症は続発性の網膜色素変性との鑑別が必須であり,診断基準としては梅毒,ウイルス感染による眼内炎の既往がなく片眼のみ典型的な網膜色素変性症の所見が存在するものの,他眼はERG,眼球電図など電気生理学的にも異常を認めないこと,さらに長期観察においても他眼は異常を認めないことを確認したうえで片眼性の網膜色素変性症と診断する.片眼性網膜色素変性の原因として感染,外傷,循環不全などの続発性と,両眼性ではあるが病期が異なる非対称性網膜色素変性があげられる3,4).本症例は既往にC3年前に交通事故による顔面打撲があり,左眼は外傷性の網膜色素上皮異常と推測され,Baileyらも同様の症例を報告している5).本症例の左眼は続発性の片眼性網膜色素変性様の所見を呈した網膜色素異常と考えられる.外傷性の網膜色素変性では,外傷により網図5治療後の眼底写真(a,b)および黄斑部光干渉断層計画像(c,d)a:右眼.網膜新生血管は退縮し糖尿病網膜症の進行は認めない.Cb:左眼.糖尿病網膜症の進行は認めない.Cc:右眼(横断).漿液性網膜.離は改善し糖尿病黄斑浮腫は認めない.Cd:左眼(横断).糖尿病黄斑浮腫は認めない.膜色素上皮が障害され,その部分からメラニン色素が網膜内に侵入して血管周囲に集積し,本症例のような限局性の骨小体様色素沈着を生じる6).また,循環不全に伴うものとしては閉塞性血管障害による脈絡膜循環不全に起因する網膜色素変性の報告がある7,8).また,AZOORに起因する網膜色素異常については,AZOORの陳旧例で局所の網膜色素変性がみられるという報告がある9,10).AZOORは,光視症と急速な求心性視野狭窄を伴うものの検眼鏡,FAでは異常を認めず,ERGで網膜外層障害を示唆する異常所見を呈する網膜変性疾患である.また,広義のCAZOORであるCacuteCidiopathicCenlargedCblindspotCsyndrome(AIBSE)では,視神経乳頭周囲の色素沈着が発症初期から存在する場合もある11,12).今回の症例はCERGでは網膜色素変性症を疑う所見はなく,網膜の低酸素や循環障害を示唆するCOP波の減弱などCDRに特徴的な所見のみであることと外傷の既往,また,約C4年の経過で眼底所見,視野検査で変化がみられないことから,外傷に伴う網膜色素上皮異常と推測した.DRの進行には網膜の酸素需要の増大による相対的な低酸素の関与が指摘されている1).網膜は低酸素に反応しCVEGFが誘導される結果,血管内皮細胞障害や網膜血管の透過性亢進による血管からの漏出により血管新生を引き起こす1).PRPは血管漏出を抑制し,過剰なCVEGFの放出を防ぐことによって進行予防に作用していることに加え,網膜の酸素需要を下げて網膜の酸素濃度を相対的に増加させるといわれている13).一方,網膜色素変性における酸素需要については,健常者の暗順応において桿体細胞が作用するときに酸素消費量が増大するが,網膜色素変性患者では桿体細胞の障害のため健常者と比較し酸素需要は少ないと推測される14).また,網膜の瘢痕や脈絡膜炎など色素上皮の異常や高度の緑内障も,DRの進行を遅らせることが疫学的に証明されている1).本症例のように網膜色素上皮の異常がかなり限局的であっても網膜色素上皮異常が背景にあることで網膜全体の相対的酸素需要は減少するため,糖尿病による虚血の進行も緩徐で,網膜内の過剰なCVEGFの放出も少なく,本症例では左眼のDRの進行は緩徐であったと考えられる.また,DMEも起こりにくい病態であった可能性が考えられる.さらに網膜色素上皮異常の存在していた部位には点状出血の出現を認めなかったことから,網膜の酸素需要の低下に伴い,網膜内でも部位によってCDRの程度に差異が生じると推測される.本症例のように限局的な網膜色素上皮異常がCDRの左右差をきたしたとする過去の報告はなく,実際にこのような限局的な病変がCDRの重症度に本当に影響を与えるかについては不明な点もあるが,Moriyaらは,左右差のある脈絡膜欠損症の症例で,脈絡膜欠損範囲の軽度なほうにCDRがより著明にみられたC1例を報告しており15),今回のような局所的な病変がDRの左右差をきたす可能性はあるように思われる.今後は左右差のあるCDRをみた場合に,従来報告されている原因に加えて,限局的な病変の有無にも注意を払う必要があると考えられる.なお,本症例は第C25回日本糖尿病糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ArdenGB:TheabsenceofdiabeticretinopathyinpatientswithCretinitispigmentosa:implicationsCforCpathophysiolo-gyandpossibletreatment.BrJOphthalmolC85:366-370,C20012)IinoK,YoshinariM,KakuK:Prospectivestudyofasym-metricCretinopathyCasCaCpredictorCofCbrainCinfarctionCinCdiabetesmellitus.DiabetesCare16:1405-1406,C19933)安達京,岡島修,平戸孝明ほか:片眼性網膜色素変性症のC5症例.臨眼44:41-45,C19904)田中孝男,杉田理恵,土方聡ほか:片眼性網膜色素変性症のC2症例.臨眼52:619-623,C19985)BaileyCJE,CSwayzeCGB,CTownsendJC:SectorialCpigmen-taryretinopathyassociatedwithheadtrauma.AmJOptomPhysiolOptC60:146-150,C19836)BastekCJV,CFoosCRY,CHeckenlivelyJ:TraumaticCpigmen-taryretinopathy.AmJOphthalmolC92:621-624,C19817)RolandEC:Unilateralretinitispigmentosa.ArchOphthal-molC90:21-26,C19738)平野啓治,平野耕治,三宅養三:片眼性網膜色素変性様所見で初発した眼動脈循環不全のC1例.臨眼C86:289-295,C19929)GassJDM:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CClinCNeuroOphthalmolC13:79-97,C199310)GassJDM,AgarwalA,ScottIU:Acutezonaloccultouterretinopathy:alongtermfollow-upstudy.AmJOphthal-molC134:329-339,C200211)WatzkeRC,ShultsWT:Clinicalfeaturesandnaturalhis-toryoftheacuteidiopathicenlargedblindspotsyndrome.OphthalmologyC109:1326-1335,C200212)齋藤航:Acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)とCAZOORcomplex.臨眼62:122-129,C200813)StefanssonCE,CHatchellCDL,CFicherCBLCetal:PanretinalCphotocoagulationCandCretinalCoxygenationCinCnormalCandCdiabeticcats.AmJOphthalmolC101:657-664,C198614)ChenCYF,CChenCHY,CLinCCCCetal:RetinitisCpigmentosaCreducesCtheCriskCofCproliferativeCdiabeticretinopathy:ACnationwideCpopulation-basedCcohortCstudy.CPloSCOneC7:Ce45189,C201215)MoriyaT,OchiR,ImagawaYetal:Acaseofuvealcolo-bomasCshowingCmarkedCleft-rightCdi.erenceCinCdiabeticCretinopathy.CaseRepOphthalmolC7:167-173,C2016***

糖尿病既往患者に対する小切開硝子体手術における術直前HbA1cの影響

2021年4月30日 金曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(4):449.453,2021c糖尿病既往患者に対する小切開硝子体手術における術直前HbA1cの影響佐藤孝樹大須賀翔河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CE.ectofPreoperativeHbA1cValueontheOutcomeofMicro-IncisionVitreousSurgeryinDiabeticPatientsTakakiSato,ShouOosuka,RyohsukeKohmoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC緒言:糖尿病患者に対する小切開硝子体手術(MIVS)における術直前HbA1cの影響について後ろ向きに検討した.対象および方法:2014年C1月.2016年C12月に大阪医科大学附属病院にてCMIVSを施行した患者のうち,糖尿病を有するC289例C347眼を対象とした.MIVSの原因疾患が黄斑上膜など糖尿病網膜症(DR)以外であったC100例C104眼をDR以外群,原因疾患がCDRであったC189例C243眼をCDR群とした.さらに各群を術前のCHbA1c値により,HbA1c8%以上を不良群,8%未満を良好群に分けた.検討項目は視力変化,術後感染性眼内炎発症の有無に加えてCDR群については,再手術の割合,両眼手術の割合,血管新生緑内障(NVG)手術の有無も検討した.結果:視力はCDR群,DR以外群,良好群,不良群とも有意に改善を認めた.DR群の術前後の視力,再手術の割合,両眼手術の割合,NVG手術の有無は,不良群,良好群で有意差はなかった.術後感染性眼内炎発症は全例で認めなかった.考察:糖尿病患者に対するCMIVSにおいて,術直前のCHbA1c高値は術後成績に大きく影響しないと考えられる.CPurpose:ToCinvestigateCtheCe.ectsCofCHbA1cCimmediatelyCbeforeCmicroCincisionCvitreoussurgery(MIVS)inCdiabeticmellitus(DM)patients.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved347eyesof289patientswithahisto-ryofDMwhounderwentMIVSatOsakaMedicalCollegeHospitalbetweenJanuary2014andDecember2016.Inthose289cases,thecausativediseaseleadingtosurgerywasdiabeticretinopathy(DR)(189cases,243eyes)andnon-DR,CsuchCasCepiretinalmembrane(100Ccases,C104eyes)C,CandCtheCpreoperativeCHbA1cvalue[i.e.,CanCHbA1cCvalueCof8%Cormore(badgroup)C,CandCanCHbA1cCvalueCofClessCthan8%(goodgroup)]wasCretrospectivelyCcom-pared.WeexaminedtherelationshipbetweenpreoperativeHbA1cvalueandvisualacuity(VA)C,andtheincidenceofCpostoperativeCinfectiousCendophthalmitis.CWeCalsoCexaminedCtheCrelationshipCbetweenCtheCpreoperativeCHbA1cCandCtheCrateCofCreoperation,CtheCrateCofCsurgeryCinCbothCeyes,CandCrelationshipCwithCneovascularglaucoma(NVG)CsurgeryCinCDRCcases.CResults:PostCsurgery,CtheCVACimprovedCsigni.cantlyCinCbothCtheCDRCandCnon-DRCcasesCinCbothgroups.Therewasnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroupsinpre-andpostoperativevisualacuity,rateofreoperation,rateofsurgeryinbotheyes,andrelationshipwithNVGsurgeryinbothproliferativediabeticretinopathyCandCdiabeticCmacularCedema.CNoCpostoperativeCinfectiousCendophthalmitisCdevelopedCinCallCcases.CCon-clusion:InMIVS,ahighpreoperativeHbA1cvaluedidnotappeartosigni.cantlya.ectthepostoperativeresults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(4):449.453,C2021〕Keywords:HbA1c,糖尿病合併,術前血糖コントロール,小切開硝子体手術.HbA1c,diabetescomplications,preoperativeglycemiccorrection,microincisionvitreoussurgery(MIVS)〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANCはじめに近年,小切開硝子体手術(microCincisionCvitreousCsur-gery:MIVS)の普及により手術侵襲は減少し,硝子体手術適応も拡大している.また,厚生労働省の平成C29年「国民健康・栄養調査」によると,わが国の成人で「糖尿病が強く疑われる者」の割合はC13.6%(男性C18.1%,女性C10.5%)であり,平成C9年以降増加傾向である1).そのため,糖尿病患者に対し,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)以外の疾患で硝子体手術を施行する機会は増えていると考えられる.しかし,現在のところ糖尿病患者に対する硝子体手術における術前CHbA1c値の基準は確立されていない.今回,筆者らは,DRおよびCDR以外の疾患でCMIVSを施行した糖尿病患者における術直前CHbA1cの影響について検討したので報告する.CI対象および方法2014年C1月.2016年C12月に,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当院)にて硝子体手術を施行した患者のうち,半年以上経過観察可能であった糖尿病を有する患者C289例C347眼(男性C173例,女性C116例)を対象とした.手術は硝子体手術を専門とする熟達した術者が,25ゲージまたはC23ゲージのCMIVSで,シャンデリア照明を使用したC4ポートシステムで行った.検討項目は,全症例に対して術前C1カ月以内のCHbA1cと,血糖値高値に伴う合併症として術後感染性眼内炎発症の有無,術前後の視力,術前血糖コントロール入院の有無,DR以外の疾患で手術をした患者(DR以外群)については,DRの病期進行の有無,DRで手術をした患者(DR群)については,再手術の割合,両眼手術の割合,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対する緑内障手術の有無とした.さらに術前のCHbA1c値C8%以上をコントロール不良群(不良群),8%未満をコントロール良好群(良好群)とし,2群に分けてレトロスペクティブに検討を行った.DR以外群の原因疾患は,網膜静脈閉塞症がC9例C9眼(良好群C8例C8眼,不良群C1例C1眼),網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)がC21例C22眼(すべて良好群),水晶体および偽水晶体脱臼がC15例C16眼(良好群C14例C15眼,不良例C1例C1眼),裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinaldetachment:RRD)および黄斑円孔網膜.離がC21例C21眼(良好群C15例C15眼,不良群C6例C6眼),黄斑円孔(macularhole:MH)がC9例C9眼(すべて良好群),その他疾患がC25例27眼(良好群23例25眼,不良群2例2眼)であった.DR群では,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)が33例44眼(良好群28例39眼,不良群5例5眼),増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)がC156例C199眼(良好群C111例C135眼,不良群C45例64眼)だった(表1).視力は,既報2,3)を参考にして,指数弁はClogMAR換算1.85,手動弁はClogMAR換算C2.30,光覚ありはClogMAR換算C2.80,光覚なしはClogMAR換算C2.90として統計学的処理を行った.対応のないC2群間での比較はCt-testを用いて検定し,群間での頻度の比較はCChi-squaretestもしくはCFisherCexacttestを用いて検定した.p<0.05で有意差ありと判定した.CII結果全例において術後感染性眼内炎の発症は認めなかった.DR以外群におけるCDRの病期は,糖尿病網膜症なし(noCdiabeticretinopathy:NDR)がC84例C87眼(良好群C77例C80眼,不良群C7例C7眼),単純糖尿病網膜症(simpleCdiabeticretinopathy:SDR)8例C8眼(全例良好例),増殖前糖尿病網膜症(pre-proliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)8例C9眼(良好群C5例C5眼,不良例C3例C4眼)であった.logMAR視力は,不良群において術前C1.00,術後C0.32(p=0.047),良好群において術前C0.84,術後C0.40(p<0.001)と両群とも有意に視力改善を認めた.術前後においてCDRの病期が進行したものは認めなかった.術前血糖コントロール入院については,コントロール入院を行った症例はすべてCDR群の症例で,不良群の症例であった.術前血糖コントロールの方法としては,手術前にC2週間程度内科血糖コントロール入院を行った.コントロールに一定の基準はなく,内科より必要といわれ,硝子体手術に緊急性がない場合に施行された.DR群の不良群C50例C69眼のうち,術前血糖コントロール入院が行われたのはC17例C24眼(DME1例C1眼,PDR16例C23眼)であった.logMAR視力は,コントロール入院あり群で術前C1.31,術後C0.45,コントロール入院なし群で術前C1.40,術後C0.54とコントロール入院の有無に関係なく,両群とも有意(p<0.001)に視力は改善し,術前(p=0.607)術後(p=0.548)の視力はC2群間に有意差を認めなかった.DR群の患者背景(表2)は,年齢,インスリンの使用の有無,DME,PDRの割合について,不良群,良好群で,有意差を認めた.不良群は良好群に比べ,より若年であり,インスリンの使用が多く,硝子体手術となった状況はCDMEよりPDRによるものが有意に多かった.両眼手術となった割合は,良好群でC139例中C35例(25.1%),不良群でC50例中C19例(38%)と有意差は認めなかった(p=0.09).logMAR視力は,PDRは不良群で術前C1.40,術後C0.51,良好群で術前1.34,術後C0.55と術前(p=0.55),術後(p=0.68)とも2群間に有意差なかった.DMEでも不良群は術前C0.91,術後0.45,良好群で術前C0.76,術後C0.52で術前(p=0.41),術後(p=0.82)ともC2群間に有意差は認めなかった.複数回硝子体手術を要した割合は不良群でC69眼中C13眼(18.8%),良表1MIVSの原因疾患疾患全体良好群不良群網膜静脈閉塞症9(9)8(8)1(1)網膜前膜21(22)21(22)C0(偽)水晶体(亜)脱臼15(16)14(15)1(1)網膜.離21(21)15(15)6(6)(裂孔原性,黄斑円孔)黄斑円孔9(9)9(9)C0その他25(27)23(25)2(2)糖尿病黄斑浮腫33(44)28(39)5(5)増殖糖尿病網膜症156(199)111(135)45(64)計289(347)229(268)60(79)症例数(眼数)表3DR群のうち再手術を要した割合複数回手術を手術回数2回以上1回要した割合(%)不良群(69眼中)C13C56C18.8良好群(174眼中)C21C153C12.1C不良群C18.8%,良好群C12.1%とC2群間に有意差を認めなかった.好群C174眼中C21眼(12.1%)と有意差を認めなかった(p=0.17)(表3).NVGで緑内障手術を要した割合は,243眼中17眼(7.0%)だった.良好群でC174眼中C11眼(6.3%),不良群でC69眼中C6眼(8.7%)とC2群間に有意差を認めなかった(p=0.18)(表4).CIII考按血糖コントロール不良例では創傷治癒遅延や易感染性が懸念されるが,術後眼内炎の危険因子であるかどうかは不明である.須藤ら4)は,白内障手術症例においてCHbA1c9%以上とC9%以下で術前結膜.細菌検出率に差がなかったが,糖尿病患者は非糖尿病患者よりメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率は有意に高かったとしている.MIVSの場合,結膜上からトロッカールを刺入して手術創を作製するため,結膜.からの菌検出率の高い糖尿病患者では,感染のリスクが高くなる可能性は否定できないと考える.今回の検討では,全症例において術後感染性眼内炎の発症は認めなかったが,硝子体術後感染性眼内炎の発症率はCShimadaら5)の報告ではC25ゲージでC0.0299%であることを考慮すると,より多数例での検討が必要であると考える.また,硝子体手術は,2002年頃よりCMIVSが普及したことで手術時間は短縮し,侵襲は著明に低下したと考えられる.それに伴い,手術適応も変化してきている.硝子体手術病変の対象となった原疾患の内訳について,1993年に鬼怒表2DR群の患者背景良好群不良群(139例174眼)(50例69眼)p値男女比(男:女)79:6027:230.73年齢(歳)C59.53C54.280.003血液透析あり11例(7.9%)3例(6%)0.66インスリン使用53例(38.1%)34例(68%)<0.001CDME39眼(22.4%)5眼(7.2%)CPDR135眼(77.6%)64眼(92.8%)0.006不良群は良好群に比べて,平均年齢が若く,インスリンの使用が多く,MIVSの原因疾患はCDMEよりCPDRが有意に多かった.表4DR群のうちNVGで緑内障手術を要した割合NVG手術例(%)不良群(6C9眼中)C6C8.7良好群(1C74眼中)C11C6.3計C17C7.0良好群C6.3%,不良群C8.7%とC2群間に有意差を認めなかった.川ら6)は,増殖硝子体網膜症C34.7%,PDR19.1%,ERM7.5%,MH4.5%,その他C34.2%と報告している.2015年には田中ら7)は,RRD33.3%,ERM21.4%,DR(DME含む)13.8%,MH12.7%,その他C18.8%と重症例の比率が減少し硝子体手術適応が拡大していると報告している.糖尿病患者において硝子体手術の対象となった原疾患の内訳について,堀ら8)は,DRがC48.9%(DME6.2%,PDR35.7%),RRD15.4%,ERM9.7%,MH6.2%,その他C19.8%としている.今回の検討では,DRがC65.3%(DME11.4%,PDR53.9%)であり,過去の報告よりCDR症例が多く,とくにCPDR症例が多かった.理由としては,既報の施設は眼科専門病院であり,当院のような大学病院との特性の違いが要因であると考えられる.このように,硝子体手術における重症例の比率が減少し硝子体手術適応が拡大しているという報告がある一方で,糖尿病患者がCDR以外の疾患で硝子体手術を受けた場合に,術前のCHbA1cが手術成績に及ぼす影響を検討した報告は,調べた限り認めない.糖尿病患者における白内障手術前のCHbA1cについての検討は多数報告がある.岩瀬ら9)はCHbA1c9%以上であることが白内障手術後のCDRの増悪因子の一つであるとしている.森脇ら10)は,DRの悪化を避けるためにはCHbA1c7%台が理想であるとしている.中西ら11)は,罹病期間の長いものは有意にCDRの悪化がみられ,HbA1cとCDRの進行には有意に相関がみられ,HbA1cはC7.9%以下に保つことが望ましいとしている.以上のデータから,旧来より当院で白内障手術において基準としていたCHbA1c8%を,今回はC2群に分ける基準として検討を行った.しかし,これらの報告はC1992年以前の報告である.現在,MIVSは切開幅約C3Cmmから,さらに切開幅の小さいC1.8.2.4Cmmの極小切開白内障手術となった.加えて手術器械の進歩もあり,白内障手術はより安全に侵襲の少ない手術が可能となってきているため,白内障手術基準も変化してきていると考える.最近の報告では,須藤らは,血糖不良例で施行しても術後CDRの悪化は認めなかった12)とし,10%未満であれば手術可能であるだろうとしている.しかし,DR病期が前増殖期であると,術前C3カ月間に急速に血糖コントロールし,HbA1cがC3%以上低くなった群において,有意にCDRおよびCDMEの悪化率が高い13)とし,術前の急激な血糖コントロールには注意を要すると報告している.今回の硝子体手術症例では,白内障手術と違い手術を待てないものもあり,術直前に厳格な血糖コントロールがなされた症例はなかった.また,入院による術前血糖コントロールをされた症例も,術直前にC2週間程度の入院によるコントロールであり,HbA1cをC3%以上急激にコントロールされた症例はなかった.DR以外群にもCSDR,PPDR眼が含まれていたが,術後に明らかなCDR病期の進行を認めなかった.また,術前血糖コントロール入院は行われていなかったが,両群とも有意に視力の回復を認めた.DR群は,DRやCDMEの術後悪化がCHbA1cによるものかどうかを評価するのは困難ではあるが,術前血糖コントロール入院の有無に関係なく有意に視力回復を認めており,少なくとも術前血糖コントロール入院は視力回復には影響は認めないと考えられた.DRに対する硝子体手術後の予後因子についてはさまざまな報告があるが,全身的な因子としては,松本ら14)は,若年,罹病期間がC20年以上,インスリンによる治療を必要とし腎症や神経症を合併している症例では術後視力不良であるとしている.笹野ら15)は,高度腎性貧血症例では,貧血治療が視力予後改善に有効であるとしている.NVG発症については,小田ら16)は,血中ヘモグロビン低値,BUN高値,蛋白尿といった腎機能障害が強くかかわっているとし,臼井ら17)は,NVGを合併するCPDRでは視力予後に腎機能障害が影響している可能性があるとしている.このように,DRには多因子が影響しており,一元的には評価が困難であるが,術前のCHbA1cは少なくともCDRの悪化および視力回復には影響しないと思われた.また,疫学研究18,19)では,血糖コントロールを厳格に行った群において,DRの進展,DMEの発生,汎網膜光凝固の必要性が有意に抑制されたと報告されるなど,糖尿病罹病期間および血糖コントロールがDRの発症発展には大きく影響すると考える.しかし,今回の検討では後ろ向き検討のため罹病期間が不明のものが多く,罹病期間の影響を検討することが困難であった.今回,HbA1c8%以上と未満のC2群に分けて検討を行い,すべての症例において,術直前のCHbA1c高値は,術後感染性眼内炎発症に影響せず,術後の視力回復への影響も認めなかった.DR以外群の疾患において,術後CDR病期の進行を認めなかった.DRにおいては,HbA1c高値は再手術のリスク,緑内障手術が必要となるコントロール不良なCNVGの発症のリスクとはならないと考えられた.また,DR群においてCDME,PDRに分けて検討を行い,硝子体手術となった状況は不良群においてCDMEよりCPDRによるものが有意に多いが,視力はCPDR,DMEとも術前後に有意差を認めず,有意に視力回復を認めた.以上を考慮すると,術直前に手術のための血糖コントロールは必ずしも必要ではないように思われる.しかし,硝子体術直前の血糖コントロールは不要という訳ではなく,長期的にCDRを安定させるためには血糖コントロールは不可欠であると考える.硝子体手術はCMIVSとなり,手術時間も短縮し,術後炎症も軽減していることから,術直前のCHbA1cのコントロールは白内障手術と同程度の基準で考えてもよいのではないかと思われた.本要旨は,第C25回日本糖尿病眼学会にて報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成C29年国民健康・栄養調査報告.厚生労働省,2018(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/h29-houkoku.html)2)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handCmotion”and“countingC.ngers”canCbeCquan-ti.edCwithCtheCfreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20063)GroverS,FishmanGA,AndersonRJetal:Visualacuityimpairmentinpatientswithretinitispigmentosaatage45yearsorolder.OphthalmologyC106:1780-1785,C19994)SutoCC,CMorinagaCM,CYagiCTCetal:ConjunctivalCsacCbac-terialC.oraCisolatedCpriorCtoCcataractCsurgery.CInfectCDrugCResistC5:37-41,C20125)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Incidenceofendophthalmitisafter20and25gaugevitrectomy:causesandprevention.OphthalmologyC115:2215-2220,C20086)鬼怒川雄一,志村雅彦,小林直樹ほか:東北大学眼科における硝子体手術件数の年次的推移.眼臨90:10-13,C19967)田中宏樹,堀貞夫,小林一博ほか:地域の眼科単科病院における硝子体手術を施行した網膜硝子体疾患の頻度と特性.2015年の横断面調査.眼臨紀10:989-992,C20178)堀貞夫,井上順治,川添賢志ほか:硝子体手術を受けた糖尿病患者の手術適応となった網膜硝子体病変.臨眼C71:C545-550,C20179)岩瀬光:糖尿病網膜症におけるCIOL挿入術,眼科手術3:195-200,C199010)森脇裕平,能美俊典:糖尿病患者に対する人工水晶体手術,眼臨医86:1-4,C199211)中西堯朗,尾﨏雅博:糖尿病に併発した白内障手術成績.眼臨医86:2412-2417,C199212)SutoC,HoriS:RapidpreoperativeglycemiccorrectiontopreventCprogressionCofCretinopathyCafterCphacoemulsi.ca-tionindiabeticpatientwithpoorglycemiccontrol.JCata-ractRefractSurgC29:2034-2035,C200313)SutoC,HoriS:E.ectofperioperativeglycemiccontrolinprogressionofdiabeticretinopathyandmaculopathy.ArchOphthalmolC90:e237-e239,C201214)松本年弘,佐伯宏三,内尾英一ほか:糖尿病網膜症に対する硝子体手術予後の検討.臨眼48:1527-1531,C199415)笹野久美子,安藤文隆,鳥居良彦ほか:増殖糖尿病網膜症硝子体手術の視力予後への全身的因子の関与について.眼紀47:306-311,C199616)小田仁,今野公士,三井恭子ほか:糖尿病網膜症に対する硝子体手術─最近C5年間の検討.日眼会誌C109:603-612,C200517)臼井亜由美,木村至,清川正敏ほか:血管新生緑内障を合併する重症増殖糖尿病網膜症の治療成績と予後不良因子についての検討.眼臨紀7:928-933,C201418)TheCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial/Epidemiol-ogyCofCDiabetesCInterventionsCandCComplicationsCReserchGroup:RetinopathyCandCnephropathyCinCpatientsCwithCtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivethera-py.NEnglJMedC342:381-389,C200019)WhiteCNH,CSunCW,CClearyCPACetal:ProlongedCe.ectCofCintensiveCtherapyConCtheCriskCofCretinopathyCcomplicationCinCpatientsCwithCtypeC1Cdiabetesmellitus:10CyearsCafterCtheCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial.CArchCOph-thalmolC126:1707-1715,C2008***

基礎研究コラム:線維化と細胞老化

2021年4月30日 金曜日

線維化と細胞老化線維化と細胞老化の関係細胞老化とは,DNA損傷,癌遺伝子の活性化などのストレスにより誘導される持続的な細胞周期の停止した状態です.そのため,細胞老化は癌抑制機序の一つと考えられています.老化した細胞は,炎症性サイトカインなどの炎症関連遺伝子の発現を亢進させるCSASP(senescence-associatedsecretoryCphenotype)を起こすことが知られています.そして,老化した細胞が分泌するCSASP因子によって癌抑制の促進をします.一方で,SASP因子により加齢性疾患が引き起こされることが明らかとなってきています.細胞老化は,さまざまな臓器で線維化を抑制することも知られています.皮膚や肝臓,腎臓の損傷時,その治癒過程で間質の線維芽細胞に細胞老化が起こり,線維化や瘢痕化を抑制することが報告されています1).眼の領域ではどうでしょうか新生血管を伴う加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegenration:AMD)の治療は抗血管内皮増殖因子薬の硝子体注射が一般的ですが,治療にもかかわらず最終的に網膜下の線維増殖が進行し失明してしまう患者もいます.そこで,筆者のグループでは,上皮間葉転換(epithelial-mesenchy-maltransition:EMT)にかかわるCCaveolin-1と網膜色素上皮の線維化,細胞老化の関係を調べています.Caveolin-1はCcaveolaeに存在する膜内在性蛋白で,細胞内外の物質輸送やシグナル伝達などに関与しています.肺の領域ではCaveolin-1と線維化の関係についての研究が盛んで,Cave-olin-1が線維化を抑制する可能性が示唆されています2).これまでの研究で,Caveolin-1遺伝子欠損マウスでレーザー誘発性の網膜下線維増殖が促進され,Caveolin-1の骨格領域に細胞の内在化配列を連結して作製したCcavtratinを図1線維化と老化の関係細胞老化により網膜の線維化は抑制されるが,萎縮をきたす可能性がある.清水英幸兼子裕規名古屋大学大学院医学系研究科眼科学講座硝子体注射することで網膜下線維増殖が抑制されることがわかりました.また,網膜下線維増殖の部分に細胞老化のバイオマーカーであるCp16CINK4aが共局在しており,高齢マウスや地図状萎縮を伴うCAMDの網膜色素上皮でCp16CINK4aの発現が上昇していることもわかりました3).以上のことから筆者らは,Caveolin-1は網膜色素上皮細胞のCEMTを抑制して網膜下線維増殖を抑制する一方で,細胞老化を促進すると考えています.今後の展望現在CAMDの新生血管に対する治療薬はありますが,網膜下線維増殖を抑制する治療薬はありません.今後CCaveo-lin-1のような線維化を抑制する蛋白質がCAMDの治療薬として候補にあがる可能性があります.しかし,線維化の抑制と同時に細胞老化を引き起こす諸刃の剣です.さらには持続的な投与により,線維化は抑制されても老化した細胞から分泌されるCSASP因子が網膜色素上皮に萎縮性の変化をきたし,結果的に地図上萎縮のような状態を促進するリスクもあります(図1).治療薬として使用可能か,慎重な検討が必要になってくるでしょう.文献1)JunCJI,CLauLF:CellularCsenescenceCcontrolsC.brosisCinCwoundhealing.AgingC2:627-631,C20102)WangXM,ZhangY,KimHPetal:Caveolin-1:acriticalregulatoroflung.brosisinidiopathicpulmonary.brosis.JExpMedC203:2895-2906,C20063)ShimizuCH,CYamadaCK,CSuzumuraCACetal:Caveolin-1CpromotesCcellularCsenescenceCinCexchangeCforCblockingCsubretinalC.brosisCinCage-relatedCmacularCdegeneration.CInvestOphthalmolVisSciC61:21,C2020(75)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4370910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:網膜格子状変性の成因(研究編)

2021年4月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載215215網膜格子状変性の成因(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに網膜格子状変性(latticeCdegenerationCofCtheretina)は眼底赤道部付近に観察される網膜の萎縮性病変と,それに隣接した硝子体の液化を伴う網膜硝子体変性の一つである1).裂孔原性網膜.離の約C30%は網膜格子状変性が原因で起こるとされており,臨床上きわめて重要である.C●網膜格子状変性の病理変性部の網膜は菲薄化しており,視細胞は消失し,網膜全層はグリア細胞で置き換えられているとする報告が多い2).しばしば色素沈着を伴い,変性部に一致した網膜色素上皮の厚さが不均一で一部消失していることがあり,メラニン色素をもったマクロファージの遊走がみられるが,脈絡膜には通常変化はみられない.これらの所見は網膜格子状変性の成因に網膜色素上皮細胞が関与している可能性を示している.C●網膜格子状変性に網膜色素上皮の遊走が関与筆者らは硝子体手術時に採取した網膜格子状変性の組織片を使用し,網膜色素上皮のマーカーであるCRPE65とサイトケラチンの抗体を用いて免疫染色を行った.その結果,RPE65は変性のやや周辺部に,サイトケラチンは全体的に染色性がみられた.コントロールとしてサル眼を用いたが,神経網膜にはCRPE65,サイトケラチンの染色性はみられなかった(図1).このことは変性部位に網膜色素上皮が遊走増殖して補.している可能性を示唆している3).C●網膜格子状変性辺縁の網膜硝子体癒着変性部位直上の硝子体は高度に変性して液化腔を形成Case1Case2NormalRPE65Pan-CK図1網膜格子状変性の免疫染色Case1,2とも網膜色素上皮のマーカーであるCRPE65とCpanサイトケラチンに明瞭に染色された.正常の神経網膜ではこれらのマーカーの発現はみられない.(文献C3より引用)し,膜状の硝子体が変性巣周囲で強固に癒着している.なぜ硝子体がこのような特異な構造を呈するのかについては不明な点が多いが,一つの仮説として,遊走してきた網膜色素上皮細胞が,未熟なコラーゲンを産生する可能性が考えられる4).一般に網膜色素上皮のような間葉系の性格をもつ細胞は未熟なコラーゲンを産生し,未熟なコラーゲンはCcross-linkせずに直線的に伸長する性質がある5).硝子体基底部ではコラーゲン線維が毛様体上皮と網膜に対して垂直に密集して走行し,毛様体の基底膜と網膜内境界膜に入り込んでいるため癒着が強固となっているが,網膜格子状変性部位の硝子体の走行も網膜面と垂直であり,硝子体基底部と類似の解剖学的特徴を有している.これは遊走してきた網膜色素上皮細胞が変性部位で未熟な硝子体線維を産生するためではないかと考えられる.文献1)StraatsmaBR,ZeegenPD,FoosRYetal:Latticedegen-erationoftheretina.XXXEdwardJacksonMemorialLec-ture.AmJOphthalmol77:619-649,C19742)ByerNE:LatticeCdegenerationCofCtheCretina.CSurvCOph-thalmolC23:213-248,C19793)MizunoCH,CFukumotoCM,CSatoCTCetal:InvolvementoCofCtheretinalpigmentepitheliuminthedevelopmentofreti-nallatticedegeneration.IntJMolSci21:7347,C20204)UlbrichCS,CFriedrichsCJ,CValtinkCMCetal:RetinalCpigmentCepitheliumCcellCalignmentConCnanostructuredCcollagenCmatrices.CellsTissuesOrgans194:443-456,C20115)MathieuM,VigierS,LabourMNetal:Inductionofmes-enchymalstemcelldi.erentiationandcartilageformationbyCcross-linker-freeCcollagenCmicrospheres.CEurCCellCMaterC28:82-96,C2014(73)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4350910-1810/21/\100/頁/JCOPY