●連載106監修=安川力髙橋寛二86.アフリベルセプトの血管新生緑内障への植木麻理永田眼科適応拡大血管新生緑内障に対する抗CVEGF治療の有効性は以前から報告されていたが,承認薬がなく,適応外使用については施設および医師の采配にゆだねられていた.2019年C6月,わが国において眼科用抗CVEGF治療薬であるアフリベルセプトが血管新生緑内障に対し希少疾病用医薬品に指定され,2020年C3月に適応承認を受けた.この機会に血管新生緑内障に対する抗CVEGF治療について再考したい.これまでの治療法の問題点血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は,虚血網膜から産生された血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)に暴露した虹彩・隅角に新生血管や線維性増殖膜が形成され,房水の流出が阻害されることで眼圧が上昇する続発緑内障であり,緑内障のなかで眼圧コントロールが困難な難治緑内障の代表である.NVGの基本治療は,原因である網膜虚血に対して汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)を行い,網膜虚血の改善により新生血管を退縮させ,そのうえで眼圧コントロールが不良であれば手術を含む緑内障治療を行うことである.しかし,この基本治療には二つの問題があった.一つ目はCNVGでは眼圧上昇が著しく,角膜浮腫でPRPが困難な症例が多いことや,PRPが眼圧下降効果に関しては即効性がないことである.二つ目はCNVGの手術治療の主たるものである線維柱帯切除術の成績が不良であることである1).図1ベマシズマブ硝子体内注射(IVB)の術前投与有無による術中出血a:IVBなし.虹彩切除部からの出血が多く,前房に迷入している.Cb:IVBあり.めだった出血は認められない.抗VEGF薬の有効性抗CVEGF治療によりこれらの問題には大きな改善があった.一つ目の問題ではCWakabayashiらが,開放隅角期のCNVGでは単回ベバシズマブ硝子体内注射により隅角新生血管(neovascularizationCofCtheangle:NVA)を退縮させることで一定期間眼圧下降が得られ,その間に十分なCPRPを施行すれば半数以上の症例で緑内障手術が回避できることを報告した2).この報告により抗VEGF治療が開放隅角期CNVGの眼圧下降に即効性があり,PRPを完成可能にするという有効性が認知された.二つ目の問題では,NVGに対する線維柱帯切除術では術後,高頻度に前房出血が起こり,それが手術成績を悪化させるファクターであったが3),術前に抗CVEGF治療を行うことで,虹彩新生血管(neovascularizationCofCtheiris:NVI)を退縮させ,術中・術後の出血を有意に減少させることが可能となった.術前の抗CVEGF治療を行った症例では,施行しなかった症例よりも術後合併症が少なく,線維柱帯切除術の成績が良好であったとの報告がなされている4,5).(71)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4330910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2アフリベルセプト投与による虹彩新生血管の変化a:投与前.RT=40CmmHg.虹彩に累々とした新生血管を認める.b:投与C3日後.RT=26CmmHg.虹彩新生血管が退縮している.(投与C7日後に線維柱帯切除術施行.術後の前房出血は軽度.術後C3カ月現在,RT=11mmHg)アフリベルセプトの適応拡大このように抗CVEGF治療がCNVG治療に対して有用であることは知られていたが,これまで眼科用抗CVEGF治療薬にCNVGの適応はなく,オフラベル使用であるベマシズマブによる治療が行われており,使用する対象や方法は個々の医師にゆだねられていた.NVGを有する日本人患者を対象とした抗CVEGF治療薬アフリベルセプトの硝子体内注射による無作為化二重遮蔽比較対照第CIII相試験(VEGA試験)および非無作為化非遮蔽単群第CIII相試験(VENERA試験)が行われた.VEGA試験はアフリベルセプト投与群C27例と偽注射(Sham)群C27例の比較試験である.NVIが改善した症例はCSham群C11.5%,投与群C70.4%,NVAの改善はSham群C11.5%,投与群C59.3%とCNVI,NVAの改善はともに投与群で有意に多かった.眼圧下降は投与C1週後に投与群C8.5CmmHg,Sham群C4.9CmmHgとCSham群でも有意に下降し,投与群とCSham群で有意差はないという結果であった.これは炭酸脱水酵素阻害薬内服が眼圧評価前日まで可能であったことが関与している可能性が考えられた4).引き続き行われたCVENERA試験は開放隅角期のCNVG16例に対する試験であるが,NVIはC81.3%,NVAはC50.0%で改善した.眼圧はエントリー前C24時間,眼圧測定のC3日以内の炭酸脱脱水酵素阻害薬内服不可として評価したが,投与C1週間後の眼圧は-8.3mmHgと有意に下降,投与C5週後ではC86.7%が21CmmHg以下にコントロール可能であった5).両試験とも合併症は既存の使用方法と同頻度であり,新たな合併症はなく,同剤のCNVGに対する有効性・安全性が確認された4,5).これらの結果を踏まえてC2019年6月に希少疾病用医薬品に指定され,2020年C3月に世界に先駆けわが国でアフリベルセプトがCNVGの治療薬として承認された.C434あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021おわりに抗CVEGF治療には虚血改善の効果はない.抗CVEGF治療でいったん新生血管が退縮しても,PRPによる網膜虚血の改善や緑内障手術による眼圧下降で眼灌流改善など眼内環境が改善しなければ,再び新生血管は旺盛となる.これまで,抗CVEGF治療のみを安易に繰り返し行われ,その間に視機能が悪化した患者を経験することもあった.アフリベルセプトが承認されたことで,NVGに対する抗CVEGF治療が適正に行われるのではないかと期待している.文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognos-ticCfactorsCforCsurgicalCfailure.CAmCJCOphthalmC147:912-918,C20092)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C20083)NakatakeS,YoshidaS,NakaoSetal:Hyphemaisariskfactorforfailureoftrabeculectomyinneovascularglauco-ma:aCretrospectiveCanalysis.CBMCCOphthalmolC14:55,20144)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:C96-102,C20105)KimCM,CLeeCC,CPayneCRCetal:AngiogenesisCinCglaucomaC.ltrationCsurgeryCandCneovascularglaucoma:ACreview.CSurvOphthalmolC60:524-535,C20156)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:theCVEGACrandomizedCclinicalCtrial.CAdvCTherC38:C1116-1129,C20217)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:outcomesCfromCtheCVENERAStudy.AdvCTherC38:1106-1115,C2021(72)