‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

抗VEGF治療:アフリベルセプトの血管新生緑内障への適応拡大

2021年4月30日 金曜日

●連載106監修=安川力髙橋寛二86.アフリベルセプトの血管新生緑内障への植木麻理永田眼科適応拡大血管新生緑内障に対する抗CVEGF治療の有効性は以前から報告されていたが,承認薬がなく,適応外使用については施設および医師の采配にゆだねられていた.2019年C6月,わが国において眼科用抗CVEGF治療薬であるアフリベルセプトが血管新生緑内障に対し希少疾病用医薬品に指定され,2020年C3月に適応承認を受けた.この機会に血管新生緑内障に対する抗CVEGF治療について再考したい.これまでの治療法の問題点血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は,虚血網膜から産生された血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)に暴露した虹彩・隅角に新生血管や線維性増殖膜が形成され,房水の流出が阻害されることで眼圧が上昇する続発緑内障であり,緑内障のなかで眼圧コントロールが困難な難治緑内障の代表である.NVGの基本治療は,原因である網膜虚血に対して汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)を行い,網膜虚血の改善により新生血管を退縮させ,そのうえで眼圧コントロールが不良であれば手術を含む緑内障治療を行うことである.しかし,この基本治療には二つの問題があった.一つ目はCNVGでは眼圧上昇が著しく,角膜浮腫でPRPが困難な症例が多いことや,PRPが眼圧下降効果に関しては即効性がないことである.二つ目はCNVGの手術治療の主たるものである線維柱帯切除術の成績が不良であることである1).図1ベマシズマブ硝子体内注射(IVB)の術前投与有無による術中出血a:IVBなし.虹彩切除部からの出血が多く,前房に迷入している.Cb:IVBあり.めだった出血は認められない.抗VEGF薬の有効性抗CVEGF治療によりこれらの問題には大きな改善があった.一つ目の問題ではCWakabayashiらが,開放隅角期のCNVGでは単回ベバシズマブ硝子体内注射により隅角新生血管(neovascularizationCofCtheangle:NVA)を退縮させることで一定期間眼圧下降が得られ,その間に十分なCPRPを施行すれば半数以上の症例で緑内障手術が回避できることを報告した2).この報告により抗VEGF治療が開放隅角期CNVGの眼圧下降に即効性があり,PRPを完成可能にするという有効性が認知された.二つ目の問題では,NVGに対する線維柱帯切除術では術後,高頻度に前房出血が起こり,それが手術成績を悪化させるファクターであったが3),術前に抗CVEGF治療を行うことで,虹彩新生血管(neovascularizationCofCtheiris:NVI)を退縮させ,術中・術後の出血を有意に減少させることが可能となった.術前の抗CVEGF治療を行った症例では,施行しなかった症例よりも術後合併症が少なく,線維柱帯切除術の成績が良好であったとの報告がなされている4,5).(71)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4330910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2アフリベルセプト投与による虹彩新生血管の変化a:投与前.RT=40CmmHg.虹彩に累々とした新生血管を認める.b:投与C3日後.RT=26CmmHg.虹彩新生血管が退縮している.(投与C7日後に線維柱帯切除術施行.術後の前房出血は軽度.術後C3カ月現在,RT=11mmHg)アフリベルセプトの適応拡大このように抗CVEGF治療がCNVG治療に対して有用であることは知られていたが,これまで眼科用抗CVEGF治療薬にCNVGの適応はなく,オフラベル使用であるベマシズマブによる治療が行われており,使用する対象や方法は個々の医師にゆだねられていた.NVGを有する日本人患者を対象とした抗CVEGF治療薬アフリベルセプトの硝子体内注射による無作為化二重遮蔽比較対照第CIII相試験(VEGA試験)および非無作為化非遮蔽単群第CIII相試験(VENERA試験)が行われた.VEGA試験はアフリベルセプト投与群C27例と偽注射(Sham)群C27例の比較試験である.NVIが改善した症例はCSham群C11.5%,投与群C70.4%,NVAの改善はSham群C11.5%,投与群C59.3%とCNVI,NVAの改善はともに投与群で有意に多かった.眼圧下降は投与C1週後に投与群C8.5CmmHg,Sham群C4.9CmmHgとCSham群でも有意に下降し,投与群とCSham群で有意差はないという結果であった.これは炭酸脱水酵素阻害薬内服が眼圧評価前日まで可能であったことが関与している可能性が考えられた4).引き続き行われたCVENERA試験は開放隅角期のCNVG16例に対する試験であるが,NVIはC81.3%,NVAはC50.0%で改善した.眼圧はエントリー前C24時間,眼圧測定のC3日以内の炭酸脱脱水酵素阻害薬内服不可として評価したが,投与C1週間後の眼圧は-8.3mmHgと有意に下降,投与C5週後ではC86.7%が21CmmHg以下にコントロール可能であった5).両試験とも合併症は既存の使用方法と同頻度であり,新たな合併症はなく,同剤のCNVGに対する有効性・安全性が確認された4,5).これらの結果を踏まえてC2019年6月に希少疾病用医薬品に指定され,2020年C3月に世界に先駆けわが国でアフリベルセプトがCNVGの治療薬として承認された.C434あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021おわりに抗CVEGF治療には虚血改善の効果はない.抗CVEGF治療でいったん新生血管が退縮しても,PRPによる網膜虚血の改善や緑内障手術による眼圧下降で眼灌流改善など眼内環境が改善しなければ,再び新生血管は旺盛となる.これまで,抗CVEGF治療のみを安易に繰り返し行われ,その間に視機能が悪化した患者を経験することもあった.アフリベルセプトが承認されたことで,NVGに対する抗CVEGF治療が適正に行われるのではないかと期待している.文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognos-ticCfactorsCforCsurgicalCfailure.CAmCJCOphthalmC147:912-918,C20092)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C20083)NakatakeS,YoshidaS,NakaoSetal:Hyphemaisariskfactorforfailureoftrabeculectomyinneovascularglauco-ma:aCretrospectiveCanalysis.CBMCCOphthalmolC14:55,20144)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:C96-102,C20105)KimCM,CLeeCC,CPayneCRCetal:AngiogenesisCinCglaucomaC.ltrationCsurgeryCandCneovascularglaucoma:ACreview.CSurvOphthalmolC60:524-535,C20156)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:theCVEGACrandomizedCclinicalCtrial.CAdvCTherC38:C1116-1129,C20217)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:outcomesCfromCtheCVENERAStudy.AdvCTherC38:1106-1115,C2021(72)

緑内障:抗緑内障点眼薬と黄斑浮腫

2021年4月30日 金曜日

●連載250監修=山本哲也福地健郎250.抗緑内障点眼薬と黄斑浮腫北村一義柏木賢治山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座緑内障薬物治療の第一選択であるプロスタグランジン(PG)関連薬の重篤な局所副作用の一つである黄斑浮腫の発症頻度,発症機序,発症リスクについて記述するとともに,発症の早期発見法や発症予防法や治療法などについてまとめた.●PG関連薬による黄斑浮腫の発症状況わが国では,これまで使用可能であったプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬のラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストに加えて,選択的CEP2受容体作動薬であるオミデネパグイソプロピルが最近上市された.最初のCPG関連薬のラタノプロストの上市以降,PG関連薬により黄斑浮腫(macularedema:ME)が発症するとの報告が多くある1~3)(図1).PG関連薬によるCMEの発症率について,原発開放隅角緑内障患者においてCPG関連薬を使用している患者は,使用していない患者のC5.51倍(p=0.001)MEの発症率が高いとの報告もある4).PG関連薬間でMEの発症頻度は異なり,ビマトプロストとトラボプロストでより高頻度に発症するが,ラタノプロストは有意差を認めなかった5).2018年に上市されたオミデネパグイソプロピルは第CII相および第CIII相試験において,.胞様CMEを含むCMEをC5.2%(14/267例)に認めたが,これらはすべて眼内レンズ挿入眼であった.眼内レンズ挿入眼での発症率はC14/52例(26.9%)であった6).このため同剤は無水晶体眼または眼内レンズ挿入眼を有する患者に対する投与は禁忌である.しかし,MEの発症率については一定の結論には至っておらず,今後詳細な前向き研究が必要である.C●黄斑浮腫発症の危険因子と発症機序PG関連薬によるCMEの発症は,白内障術後,とくに術中合併症が発生した症例に多いとされ7),とくに後.破損を生じた症例に多いことは注目すべきである.実際,内眼手術歴や眼内炎症歴のない患者を対象に行った研究では,ラタノプロスト点眼液によるCMEの発症は認めなかった8).ME発症機序については,低眼圧説,手術侵襲による眼内の炎症性CPGや眼内疾患による炎症が誘因となる血液房水柵および血液網膜柵の破綻,黄斑部への硝子体牽引なども原因として指摘されている.しかし,詳細な機序は現時点では明らかではなく,今後の検討が必要である.PG関連薬以外にCMEを発症する病態として,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など網膜血流障害をきたす疾患,網膜色素変性症,ぶどう膜炎,Irvine-Gass症候群,硝子体による黄斑部牽引などがある.このようなCME発症リスクをもつ患者においてCPG関連薬がCMEの発症図1黄斑浮腫(ME)の蛍光造影所見a:後期相.ラタノプロスト点眼開始後C2カ月でCMEを生じた.Cb:ラタノプロスト点眼中止後,MEは消失した.(文献C3より許可を得て転載)(69)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4310910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2黄斑浮腫(ME)のOCT所見網膜上膜(ERM)に対して硝子体切除術後の偽水晶体眼.ラタノプロスト点眼にてCMEを生じたが,ラタノプロスト点眼中止にてCMEは消失した.を促進するかについてはまだ十分なエビデンスはないが,注意は必要である.防腐剤のCME発症への関与も示唆されている9).三宅らによると,防腐剤を含有する薬剤は含有しない薬剤と比べてCMEの頻度が有意に増加し,PG関連薬で惹起されるCMEに防腐剤の関与があると報告している2).発症機序として白内障手術後早期に防腐剤の塩化ベンザルコニウムが水晶体上皮細胞などの眼内細胞に触れ,炎症性PGの産生が増強されCMEを誘発する可能性が指摘されている.C●黄斑浮腫に対する対処法治療としては,原因のCPG関連薬の中止,非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrugs:NSAIDs)点眼,ステロイド硝子体注射,抗CVEGF薬硝子体注射,炭酸脱水酵素阻害薬内服,硝子体手術などがある.とくにCNASIDs点眼は白内障術後CMEに対する治療として有効といわれている10,11).方針としてまずはNSAIDs点眼,それでも改善しない場合に抗CVEGF薬硝子体注射などの治療を検討する.なお,初回から抗VEGF薬硝子体注射を行うのは控えるべきである.ラタノプロストを術前使用している患者で,手術C1週間前に中止した患者は全員CMEを発症しなかったのに対し,術後も点眼を継続した患者は全員CMEを発症したという報告や,白内障手術C1カ月前よりCPG関連薬とCb遮断薬を使用すると,術後にCMEの発症リスクが高まるとの報告がある7).MEの発症リスクの高い患者やCPG関連薬が休止できる患者では術前術後の休薬が有用である.C●まとめ光干渉断層計の進歩により無症状の.胞様黄斑浮腫を非侵襲的に検出し,客観的に定量することができるようになった(図2).これにより,早期の治療介入を行い視C432あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021力低下のリスクを抑えることが可能となる.とくにハイリスク患者では,これらの検査を積極的に行うことが臨床的に重要である.同時にハイリスク患者においては,MEの原因となるCPG関連薬の中止や薬剤変更を検討すると同時に,予防的なCNSAIDs点眼の使用なども考慮する必要がある.文献1)三宅健作:偽水晶体眼における術後合併症とその対策.術後炎症とCME.眼科39:347-357,C19972)三宅健作,太田一郎,扇谷晋ほか:防腐剤黄斑症.臨眼C56:1303-1310,C20023)TokunagaT,KashiwagiK,SaitoJetal:AcaseofcystoidmacularCedemaCassociatedCwithClatanoprostCophthalmicCsolution.JpnJOphthalmolC46:656-659,C20024)LeeCKM,CLeeCEJ,CKimCTWCetal:PseudophakicCmacularCedemaCinCprimaryCopen-angleglaucoma:aCprospectiveCstudyCusingCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJCOphthalmolC179:97-109,C20175)WendelC,ZakrzewskiH,CarletonBetal:Associationofpostoperativetopicalprostaglandinanalogorbeta-blockeruseandincidenceofpseudophakiccystoidmacularedema.JGlaucoma27:402-406,C20186)谷敬子:選択的CEP2受容体作動薬緑内障・高眼圧症治療薬「エイベリス点眼液C0.002%」.眼薬理33:13-16,C20197)HolloG,AungT,AiharaMetal:Cystoidmaculaedemarelatedtocataractsurgeryandtopicalprostaglandinana-logs:mechanism,Cdiagnosis,CandCmanagement.CSurvCOph-thalmol65:496-512,C20208)FuruichiCM,CChibaCT,CAbeCKCetal:CystoidCmacularCedemaassociatedwithtopicallatanoprostinglaucomatouseyesCwithCaCnormallyCfunctioningCblood-ocularCbarrier.CJGlaucomaC10:233-236,C20019)MiyakeK,IbarakiN:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmolC47:S203-218,C200210)RhoDS:Treatmentofacutepseudophakiccystoidmacu-laredema:diclofenacversusketorolac.JCataractRefractSurg29:2378-2384,C200311)WarrenCKA,CBahraniCH,CFoxJE:NSAIDsCinCcombinationCtherapyforthetreatmentofchronicpseudophakiccystoidmacularedema.RetinaC30:260-266,C2010(70)

屈折矯正手術:SMILE術中合併症の対処法

2021年4月30日 金曜日

監修=木下茂●連載251大橋裕一坪田一男251.SMILE術中合併症の対処法水野泰子中村友昭名古屋アイクリニックSMILEは,小切開創から矯正量に応じた角膜実質をレンチクルとして抜き取り,角膜曲率を変化させる屈折矯正手術である.SMILEのメリットは低侵襲であることであり,患者がその恩恵を最大限享受できるよう,より侵襲の少ない手術をめざさなければならない.今回は,術中陥りやすいレンチクルに関連する合併症の対処法について述べる.C●はじめにSmallCincisionCfemtosecondClenticuleCextraction(SMILE)は,フェムトセカンドレーザーを用いて行う屈折矯正手術で,最小C2Cmmの切開創から矯正量に応じた角膜実質をレンチクルとして抜き取ることにより,角膜の曲率を変化させ屈折矯正を行う手術手技である.SMILEは国内未承認の術式であるが,laserinsituCker-atomileusis(LASIK)と異なりフラップを作製しないため,フラップに起因する合併症が皆無であることが大きな特徴であり,ドライアイになりくく,角膜の生体力学特性が保たれ屈折の安定にも優れている,惹起高次収差が少ないなどの利点がある.SMILEの術中合併症には,サクションロスなどフェムトセカンドレーザーにまつわる合併症と,レンチクル.離時のトラブルやレンチクル分離不全,残存などのレンチクルに関連する合併症がある1).本稿では,術中陥りやすいレンチクルにまつわる合併症の対処法について解説する.C●レンチクル.離時のトラブル対処法より低侵襲なCSMILE手術を行うためには,レンチクル.離から抜き取りまでをいかにスムーズに行うかが重要である.SMILEの手術手順は,まず,フェムトセカンドレーザーでレンチクルを作製する.フェムトセカンドレーザーの切開は,最初にClenticulecutといわれるレンチクル後面,次にレンチクル側面のClenticuleCsidecut,そしてレンチクル前面のCcapcut,最後にCcapCopeningincisionの順に作製される(図1).その後レンチクル抜去を行う.手順は,あらかじめレンチクルセパレーターを用いてレンチクル後面に.離のきっかけになる部分を作製しておき,capopeningincisionからレンチクルスパチュラを挿入してレンチクル前面を.離したあと,レンチクル後面を.離し,フリーになったレンチクルを抜き取るという流れで行う.この際に陥りやすい各カットの名称1.Lenticulecut(レンチクルの裏面)2.Lenticulesidecut3.Capcut(レンチクルの表面)4.Capopeningincision図1SMILE手術:フェムトセカンドレーザーの切開順序トラブルとして,術者は前面を.離したつもりが気づかず最初に後面を.離してしまい,その後レンチクル後面にスパチュラを進めようとしても入らず,レンチクルがどこにあるかわからなくなってしまうということがある.いくら裏側を探ってもスパチュラが入らない場合は,レンチクルがCcapcut側(前面)に残っていることがほとんどであるが,状況が把握できないとパニックに陥ってしまう.また,これに気づいた時点で,レンチクル前面を.離する作業に入らなければならないが,気づくのに時間がかかったり,その後のリカバリー操作に時間がかかると,角膜の浮腫が生じて視認性が悪くなり,対処がさらにむずかしくなってしまう.このようなトラブルを避けるために筆者が考案した手術手技があるので紹介する.(67)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4290910-1810/21/\100/頁/JCOPYCapopeningincisionの片側からレンチクル前面1/2まで.離する.②③反対側からレンチクル前面の残りレンチクル後面を1/2を.離する.このとき,①の.離する.①②で.離につながる際の抵抗の有無別々の層に入ったで,同じ層に入っているかどうか場合は,①の続きが確認できる.①と別の層に入っ1/2を.離する.図3VisuMaxのminimumlenticulethickness設定画面ていても②の層は全部.離する.図2半分ずつレンチクル前面を.離する方法通常,レンチクル前面を.離する際はCcapCopeningincisionの切開創に沿ってどちらか片方からスパチュラを挿入し,対側へ向けて一気に.離していく.この前面の.離を一気に全部行わず,最初にCincisionの片方からスパチュラを挿入し.離を進めるが,半分まで.離したらいったん止め,次に最初に進めた側とは反対側から再度スパチュラを挿入し,反対側から残りの半分を.離するという,両側から半分ずつ.離する方法である.この際,両則ともきちんと前面に入っていれば,二刀目の残り半分を.離する際に,最初に.離した半分側へスムーズにつながる.仮にどちらか一方でレンチクル後面に入っても,二刀目の.離から一刀目の.離につながる際の抵抗の有無で別々の層に入ったことがすぐ把握できる.また,この方法であれば,前面側の.離の際にC2回チャンスがあるため,どちらかではレンチクル前面の層に入る可能性が高く,もしどちらかの.離が後面の層に入っても,反対側からの.離が,最初に.離した層につながらないため,一刀目と二刀目で別々の層に入ったことにすぐ気がつく.また,どちら側が残っても,その後は最初に半分.離した続きを.離すればよいので,比較的容易に行うことが可能である(図2).C●レンチクル分離不全,残存の対処法レンチクルは比較的強度があるため,分離不全や残存が起きることは滅多にないが,軽度近視の矯正で,レンチクルが薄く,.離が不十分な場合には,レンチクルが一部破れて残ってしまうことがある.残存してしまった場合は,ライトガイドなどでレンチクルの状態を詳細に確認し.離しなければならないが,どうしても分離がむずかしい場合には,CIRCLEという,通常はCSMILEの追加矯正に用いる方法を使用してフラップを作製し,フC430あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021ラップを一部起こして残存したレンチクルを直視下に確認し,除去することも可能である.レンチクルが薄いと,.離が困難となる可能性があるため,-1.0D未満の軽度近視ではCSMILEは避けたほうがよい.また,患者が強く希望する場合には,光学径を大きくし,少しでもレンチクルが厚くなるよう設定する.VisuMaxでは,矯正量を変えることなくレンチクル周辺の厚みをC15~30Cμm増やし,これに伴いレンチクル全体の厚みも増やすCminimumClenticulethicknessの設定を行うことが可能であり2)(図3),当院では術前等価球面度数が-1.5D以下の軽度近視でCSMILEを希望する患者に対しては,光学径を大きくすることに加え,この設定も併せて行い,レンチクルの厚みがC60Cμm以上になるよう調整している.C●おわりにSMILEのレンチクル.離は,角膜という透明な組織内で行う手技であるため,いったん困難な状況に陥ると,その後のリカバリーに大変苦慮することがある.今回紹介した半分ずつ.離する方法を用いれば,そのようなトラブルを回避することができ,現に筆者はこの方法を用いて以降,レンチクルにまつわる合併症は起きていない.安心かつ安全なCSMILE手術を行うために,本稿が少しでも役立てば幸いである.文献1)MoshirfarM,McCaugheyMV,ReinsteinDZetal:Small-incisionClenticuleCextraction.CJCataractCRefractCSurgC41:C652-665,C20152)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKeidelCLCetal:VariationCofClenticuleCthicknessCforCSMILECinClowCmyopia.JCRefractCSurgC34:C453-459,C2018(68)

眼内レンズ:ヒンジ型眼内レンズ脱臼に対するニードルリフト法

2021年4月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋413.ヒンジ型眼内レンズ脱臼に対する浅野泰彦昭和大学眼科学講座ニードルリフト法残存Zinn小帯によりIOLが眼内にぶら下がった状態であるヒンジ型IOL脱臼例では,IOL摘出の際に前房内に持ち上げるのに難渋することがある.毛様体扁平部から刺入した30G針を用いてIOLを挙上するニードルリフト法により,低侵襲かつ簡便にIOLを前房内に移動させることができる.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)脱臼は,IOLの位置によりいくつかのパターンがある.IOLが後房内に留まり瞳孔領に視認できる前眼部型,瞳孔領には視認できないが硝子体と虹彩・毛様体の間にサンドイッチされた状態の虹彩裏面型,残存Zinn小帯がヒンジとなりIOLが眼内でぶら下がった状態のヒンジ型,完全に眼底に落下した落下型に分類される1).このうち前眼部型と虹彩裏面型は前眼部操作でIOL摘出が可能なことが多く,落下型は3ポート硝子体手術を行い摘出するのが一般的である.一方ヒンジ型の摘出法は確立されておらず,前房内にIOLを移動させるのに難渋することがある.今回,30ゲージ(G)針を使用してヒンジ型に脱臼したIOLを持ち上げて前房内に挙上するニードルリフト法を紹介する.●方法角膜サイドポートか毛様体扁平部に灌流ポートを作製し,他方の角膜サイドポートから硝子体カッターを挿入して前部硝子体切除を行う.続いて硝子体注射に用いる30G針を持針器で約120°曲げておく(図2a).残存Zinn小帯によりIOLがぶら下がっているヒンジ部をみきわめ,それに一致する毛様体扁平部から,やや立てぎみの角度で30G針を刺入する(図2b,図1a).針先端を角膜側に動かし,テコの要領で針先端でIOLを持ち上げ(図2c,図1b),もう一方の手で前房内にビスコアダプティブ型粘弾性物質を満たす(図2d).引き続き前.鑷子などでIOLを把持して虹彩上に引き上げ(図2e),強角膜切開創よりIOLを摘出する(図2f).●ニードルリフト法の利点とコツヒンジ型IOL脱臼例において脱臼IOLを摘出する際の他の方法は,強膜を圧迫してIOLを瞳孔領まで持ち上げて引き上げる方法や,3ポート硝子体手術を行い,(65)0910-1810/21/\100/頁/JCOPYa30G針b図1ニードルリフト法の模式図a:曲げた30G針を立てぎみに毛様体扁平部より刺入する.b:テコの要領で針先端で脱臼IOLを挙上する.硝子体鑷子などで持ち上げる方法などがある.強膜圧迫による方法は手技は簡便であるが,前房内に引き上げることができる程度までIOLを持ち上げることは困難な場合があり,強膜圧迫による侵襲も考慮しなければならない(図3).広角観察システムを併用した硝子体手術を行う方法は確実であるが,硝子体手術をあまり行う機会がない術者にとっては難易度が高く,施設も限定される.ニードルリフト法の利点は,普段硝子体注射に用いている30G針を使用して低侵襲かつ簡便に脱臼IOLを挙上できることである.さらに,前眼部操作主体の手技で可能であるため,白内障手術機器に付属した前部硝子体切除システムを用いて施行することもでき,施設を選ばないことも利点である.コツと注意点であるが,1点目は前房内に満たした粘弾性物質でIOLをトラップさせるビスコトラップテクニック2)を併用することである.この際,IOLを針で持ち上げた状態を保ちながら注入すると眼底に粘弾性物質が落ちることなく,効率よく前房内に満たすことができる(図2d).2点目は脱臼IOLを挙上する前に十分に前部硝子体切除を施行しておくことである.これにより硝子体牽引を予防し,網膜裂孔発生リスクを回避する.あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021427図2ニードルリフト法の術式a:30G針を曲げる.b:30G針を眼内に刺入する(..).c:テコの要領でIOLを挙上する.d:ヒーロンVを前房内に満たす.e:鑷子でIOLを前房内に移動させる.f:IOLを摘出する.●おわりにニードルリフト法は術者を選ばず低侵襲で施行できる方法であり,ヒンジ型IOL脱臼例に対する選択肢の一つとして覚えておきたいテクニックである.文献1)森山涼:眼内レンズの脱臼・偏位・落下に対する対処法.眼科手術31:321-324,20182)塙本宰:眼内レンズ偏位・脱臼に対する手術―最新版偏位・脱臼した眼内レンズの眼内固定術.臨床眼科73:164-170,2019図3強膜圧迫によるIOL挙上(図2と同一症例)強く圧迫(..)してもIOLが挙上できない場合がある.

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 円錐角膜・ハードコンタクトレンズの処方

2021年4月30日 金曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科病院11.円錐角膜・ハードコンタクトレンズの処方(I)■はじめに円錐角膜は思春期に好発する角膜中央部(やや下方)が菲薄化し,円錐状に突出する疾患であり(図1),発症頻度は1万人に1人程度といわれている.発症初期では眼鏡やソフトコンタクトレンズ(SCL)で良好な矯正視力を得ることができるが,病状の進行にともない,不正乱視が強くなり(図2),良好な視力を得るにはハードコンタクトレンズ(HCL)が適応となる.また,症状が進行中にデスメ(Descemet)膜が破れて急性水腫(図3)とよばれる角膜浮腫が発症して急激に視力が低下することがある.このような場合はHCLの装用を中止させてしばらく経過観察をしていると,Descemet膜は修復されて角膜浮腫も消失する.角膜形状が急性水腫前と若干異なることがあるので,HCLを処方し直さなくてはならないケースもある.円錐角膜は角膜中央部が突出しているので,HCLのフィッティングはアピカル・タッチになるが,これをフラットととらえないことが重要なポイントになる.あくまで角膜全体とHCLの関係をフルオレセインパターンで確認しながらフィッティングチェックをすることが大切である.■円錐角膜に対するHCLの処方円錐角膜にHCLを処方する場合,その進行度に応じて3点接触法,2点接触法,多段カーブHCL処方,ピギーバッグレンズシステムによる処方などが考えられるが,まずはトライアルレンズのベースカーブ(basecurve:BC)選定について解説する.角膜形状をフォトケラトスコープ(photo-kerato-scope:PKS)で観察したときに,プラチドリングが角膜全体のどの範囲まで写っているかによってBCを決定する方法がある1).PKSの最外周リングの大きさが角膜径と同じ場合は8.00mm前後,2/3の場合は7.50mm前後,1/2の場合は7.00mm前後のBCのレンズを選択する.これはあくまで目安であり,実際の処方はフルオレセインパターン,レンズの動き,視力の出方を参考にしながらトライアルアンドエラーで決定する.■3点接触法初期~軽度の円錐角膜においては,角膜上方,中央,下方においてHCLが接触する方法で処方することができる(図4).しかし,この場合にも,図5のようにスティープ&タイトにならないように気をつけなければならない.図5は初診時に他医にて処方されたHCLで視力はRV=(0.03×730/-3.0/9.0)であった.装用感は不良でレンズの動きはほとんどなかった.そこで図6のPKS像から最初のトライアルレンズとしてBC8.00mm図1円錐角膜角膜中央部からやや下方にかけて菲薄化し,円錐状に突出する疾患で,進行によって不正乱視が増大して,眼鏡やSCLでは良好な視力が得られなくなり,HCLの適応になる.図2円錐角膜による不正乱視PKSによる等間隔のプラチドリング像の乱れにより,不正乱視の程度を知ることができる.図3急性水腫円錐角膜が進行する過程において,デスメ(Descemet)膜が破裂して急激に角膜実質内に浮腫が生じて視力が低下することがある.(63)あたらしい眼科Vol.38,No.4,20214250910-1810/21/\100/頁/JCOPY図43点接触法図5円錐角膜におけるスティープ&タイ初期~軽度円錐角膜においては,角膜のト処方上方,中央,下方がHCLと接触する3アピカル・タッチを呈してはいるが,角点接触法によってHCLを処方すること膜全体とHCLの関係はスティープでレンができる.ズの動きは不良でタイト症状を示している.このようなフィッティングでは装用感も悪く,良好な視力は得られない.図7円錐角膜における3点接触法による良好な処方アピカル・タッチであり,角膜全体とHCLの関係はパラレルからフラットである.このような処方でレンズの動きはよくなり,装用感や視力の改善が得られた.文献1)東原尚代:不正乱視に対するハードコンタクトレンズ(HCL)処方─円錐角膜に対するHCL処方.日コレ誌53:180-185,2011【お詫びと訂正】本年2月号の「コンタクトレンズセミナー9.パワーの決定」において,筆者の勘違いによる誤った記載がありましたので,ここにお詫びして訂正させていただきます.p.168の右段「■BC変更とパワー変更」の文章を下線部分のように訂正します.HCLのBCと角膜の間には涙液が存在し,この涙液がレンズの働きをしてしまう.これを涙液レンズとよぶ(図2).角膜曲率半径とレンズの関係が平行な「パラレル」の状態ではレンズとしての働きはないが,角膜曲率半径のほうがBCよりも大きい「スティープ」の状態では涙液レンズはプラスとして働き,角膜曲率半径のほうがBCよりも小さい「フラット」の状態では涙液レンズはマイナスとして働く.たとえばHCLのBCを1段階フラットにすると,ほぼ-0.25Dの度数が加わることになる.図6図5の症例のPKS像このケースの右眼のPKSはプラチドリングの最外周の大きさが角膜径と同じであった.を選択した.処方したHCLでは装用感は改善し,レンズの動きも良好で,視力はRV=(0.8×800/-0.25/8.8)とよくなった(図7).初診時,図5でみられるように,この症例は角膜中央部にびらんが発生していたが,経過とともに消失して視力も1.2に改善した.このように,円錐角膜においては,フルオレセインパターン判定時にアピカル・タッチであることはフラットパターンではない,ということを念頭に置き,レンズの動きや静止位置,角膜全体とHCLの関係を把握して,できるだけ良好な視力が得られるフィッティングをめざすことが重要である.

写真:再発性角膜びらんに角膜感染症を合併した症例

2021年4月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦443.再発性角膜びらんに角膜感染症を千森瑛子京都府立医科大学大学院視機能再生外科学合併した症例京都山城総合医療センター横井則彦京都府立医科大学大学院視機能再生外科学図2図1のシェーマ①異常な上皮領域②浸潤病巣図1初診時前眼部所見角膜中央付近の異常な上皮の領域に散在する類円形の小さな浸潤病巣が観察される.図3フルオレセイン染色下での角膜所見(ブルーフリーフィルターを観察に使用)異常な上皮の領域が接着不良を伴う上皮と小さな上皮欠損からなることがわかる.図4治療開始2週間後の前眼部所見a:角膜上皮欠損の異常所見および浸潤病巣は改善している.b:フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルターを観察に使用)で上皮の不整を示唆するCdarkareaが観察される.(61)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4230910-1810/21/\100/頁/JCOPY症例は56歳,女性.受診数日前より眼痛を自覚していた.当日起床時より眼を開けられないほどの眼痛を自覚し近医を受診し,レボフロキサシン水和物点眼(5回/日),オフサロキサシン眼軟膏(1回/日),ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬の処方を受けたが,改善に乏しく,翌日に当院を紹介されて受診した.初診時の前眼部所見では,角膜中央付近に接着不良上皮と小さな上皮欠損,ならびに,その領域に感染巣と考えられる類円形の小さな浸潤病巣を数カ所認め(図1~3),角膜感染症を合併した再発性角膜びらんと考えられた.セフメノキシム塩酸塩点眼薬(6回/日),レボフロキサシン水和物日),C/回C3日),オフサロキサシン眼軟膏(C/回C6点眼薬(眼帯装用にて経過観察し,受診C3日後には上皮欠損の消失および浸潤病巣の縮小を認めた.さらに眼局所治療を継続したところ,治療開始C2週間後には初診時の病巣は軽度の混濁を残して治癒した(図4a).しかし,フルオレセイン染色下では,上皮表面の不整に相当するCdarkCarea1)を認めたため(図4b),上皮.離の再発防止のため,オフサロキサシン眼軟膏(1回/日)を継続とした.角膜上皮は,上皮の基底細胞の基底部に存在するhemidesmosomeを介して基底膜に接着し,さらに基底膜から伸びるCIV型コラーゲンからなるCanchoringC.brilが基底膜とCBowman膜との接着を維持している.基底膜はCanchoring.lament,ラミニン,IV型コラーゲン,プロテオグリカンなどから構成され,区別されるC2層(laminalucidaおよびClaminadensa)からなり,上皮欠損が生じた場合の創傷治癒過程の初期段階である上皮細胞の伸展移動に重要な役割を担っている.再発性角膜びらんとは,なんらかの原因で基底膜が障害され,上皮の接着不良が生じる角膜疾患である1~3).角膜びらんの発症原因としては外傷がもっとも多いが,格子状ジストロフィやCReis-Bucklersdystrophy,map-dot-.ngerprintCdystrophyなど,上皮基底膜異常を有する角膜ジストロフィでもみられる.上皮の接着不良部位は通常限局性で,角膜びらんは基本的に同一部位に繰り返して生じやすい.起床時の開瞼を契機に発症することが多く,突然の強い眼痛,異物感,羞明,充血,流涙などを自覚することが多い.その急性発症のメカニズムには諸説あるが,睡眠中に涙液分泌が抑制されていることに加えて,開瞼時に強い瞬目摩擦が上皮の接着不良部に働くことが考えられる.治療は,角膜上皮の創傷治癒の促進および上皮と基底膜との接着不良の改善が目標となり,眠前の抗菌眼軟膏の点入の継続を基本とする.眼軟膏の点入は最低C1.5~2カ月続けるのがよいが,起床時に異物感が生じる場合は,それが生じなくなるまで継続する.接着不良上皮部に裂隙があり,その周りの上皮の可動性が高い場合は,点眼麻酔下で自由度の高い上皮をあえて除去して,治療用ソフトコンタクトレンズを,上皮欠損が消失し上皮の接着不良の解消が得られるまでのせておくのもよい.その場合も抗菌点眼液を併用する.一方,角膜上皮基底膜ジストロフィや糖尿病角膜上皮症などで再発を繰り返す難治例に対しては,anteriorCstromalpunctureやエキシマレーザーCPTK(phototherapeutickeratectomy)といった外科的治療の適応がある4).一般に保存的治療で軽快するが,上皮表面の不整を意味するCdarkCarea1)(フルオレセイン染色で黒く抜けたような観察像:図4b)がみられる例では基底膜の障害が残存しており,再発しやすく,Cdarkareaの所見に良好な改善がみられるまでは,眠前の眼軟膏点入を継続するのがよい.今回の症例は上皮欠損部位に感染巣を伴っており,眼軟膏の点入に加えて抗菌薬の点眼を行うことで治癒した.このように再発性角膜びらんでは,角膜びらんを契機に角膜感染症を伴うことがあり,注意が重要である.文献1)SugitaJ,YokoiN,KinoshitaS:Observationoftear.lminrecurrentCcornealCerosionCandCepithelialCbasementCmem-branedystrophy.AdvExpMedBiolC506:707-710,C20022)GoldmanCJN,CDohlmanCCH,CKravittBA:TheCbasementCmembraneCofCtheChumanCcorneaCinCrecurrentCepithelialCerosionCsyndrome.CTransCAmCAcadCOphthalmolCOtolaryn-gol73:471-480,C19693)田聖花:再発性角膜びらんについて教えてください.あたらしい眼科31:20-21,C20144)SujataCD,CBertholdS:RecurrentCcornealCerosionCsyn-drome.SurvOphthalmolC53:3-15,C2008

妊娠と糖尿病網膜症-ちゃんと理解していますか

2021年4月30日 金曜日

妊娠と糖尿病網膜症─ちゃんと理解していますかAssociationBetweenPregnancyandDiabeticRetinopathy杉本昌彦*はじめに世界的に糖尿病(diabetesmellitus:DM)患者数は増加しており,InternationalDiabetesFederationはC2019年にはC4億C6,300万人,2030年にはC5億C7,800万人の患者数に達するとしている.また,2019年にはC2,040万人の妊娠した女性が耐糖能異常を併発したとされている1).このすべてが必ずしも眼科受診の対象になるわけではないが,日常診療においてこれら耐糖能異常を伴う妊娠を診療する機会は多い.このことから,今回発行された「糖尿病網膜症診療ガイドライン」(第C1版)では耐糖能異常を伴う妊娠についても触れている.本稿では,本疾患について産科的・眼科的な見地から分類を詳述し,眼科医が理解しておくべき網膜症管理とともに解説する.CI耐糖能異常を伴う妊娠耐糖能異常を伴う妊娠では,正常妊娠に比し周産期の母児併発症のリスクが高いことが知られている.母体併発症としては妊娠高血圧症候群,流産,早産,羊水過多などの産科的併発症や腎症・網膜症などの糖尿病合併症が知られている.また,児の併発症としては胎児死亡,先天異常,巨大児,新生児低血糖,高ビリルビン血症,呼吸窮迫症候群などが生じうる.妊娠前からの厳格な血糖コントロールを行うことで,これらの併発症リスクが低下することが知られている2,3).現在とは異なり,適切な血糖コントロールがまだむずかしかった過去においては,糖尿病患者に対しては,これらの併発症を防止し母体の安全を優先するという観点から妊娠そのものが推奨されてない時代もあった4).しかし,薬剤や血糖管理技術の進歩により,わが国でも周産期合併症に伴う胎児死亡率はC1971~1975年のC5年間でC10.8%であったのが,1986~1990年ではC1.1%に低下した5).現在ではさらなる技術革新により,周産期血糖管理の安全性は向上している.周産期血糖コントロールに関する共通事項として,妊娠初期の血糖コントロールが重要であること,強い低血糖を起こさない程度でCHbA1c6.5%以下を目標とすることがあげられる.妊娠前から授乳期にかけての期間での薬物療法としてはインスリンが用いられることが多く,血糖コントロールが不良の場合や糖尿病合併症がある場合には,患者を糖尿病と妊娠の管理が可能な施設へ紹介することが望ましい.CII耐糖能異常を伴う妊娠の分類妊娠中の糖代謝異常は経口ブドウ糖付加試験(oralCglucoseCtolerancetest:OGTT)や随時血糖値,疾患背景などから以下に大別される(図1).1.糖尿病合併妊娠(糖尿病が妊娠前から存在するものpregestationaldiabetes)2.妊娠中に発見される糖代謝異常(hyperglycemicdis-ordersinpregnancy)1)妊娠糖尿病(gestationaldiabetesmellitus:GDM)*MasahikoSugimoto:三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(55)C417①妊娠前に糖尿病と診断75gOGTTにおいて以下のいずれかを満たす②確実な糖尿病網膜症がある基準*1の1点以上を満たす①空腹時血糖値≧126mg/dl②HbA1c値≧6.5%以上を満たす*2糖尿病合併妊娠妊娠糖尿病妊娠中の明らかな糖尿病*3*1)①空腹時血糖値≧92Cmg/dl(5.1Cmmol/l).②C1時間値≧180Cmg/dl(10.0Cmmol/l),③C2時間値≧153Cmg/dl(8.5Cmmol/l)*2)随時血糖値≧200Cmg/dlあるいはC75CgOGTTでC2時間値≧200Cmg/dlの場合は,妊娠中の明らかな糖尿病の存在を念頭におき,①または②の基準を満たすかどうか確認する.妊娠中,とくに妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して糖負荷後血糖値は非妊娠時よりも高値を示す.そのため,随時血糖値やC75CgOGTT負荷後血糖値は非妊娠時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない.*3)妊娠中の明らかな糖尿には,妊娠前に見逃されていた糖尿病と,妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常,および妊娠中に発症したCI型糖尿病が含まれる.いずれも分娩後は診断の再確認が必要.これらは妊娠中の基準であり,出産後は改めて非妊娠時の「糖尿病の診断基準」に基づき再評価することが必要である.OGTT:oralglucosetolerancetest(経口ブドウ糖負荷試験)(平松祐司ほか:糖尿病C58:801-803,2015より改変引用)図1耐糖能異常を伴う妊娠の分類(糖尿病網膜症診療ガイドラインより転載)a図2糖尿病合併妊娠症例a図3妊娠糖尿病症例—

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!-増殖糖尿病網膜症

2021年4月30日 金曜日

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!─増殖糖尿病網膜症ProliferativeDiabeticRetinopathy西田健太郎*はじめにこれまでの眼科医,内科医,および患者の努力により糖尿病網膜症が日本の失明原因の第2位から第3位に下がったことは非常に好ましいことである.それでも,硝子体出血などを契機に眼科初診となり,初めて糖尿病や増殖糖尿病網膜症とわかる場合は現在でもなくならない.また,「眼科には1~2回受診したが,もう行かなくてもいいと思った」という患者も少なからず経験する.そのため,筆者の場合は,初診の患者には仮に糖尿病網膜症の所見がなくても,糖尿病網膜症は自覚症状がなくても進行すること,元に戻す治療法がないこと,内科の治療が重要なこと,眼科には年に1回は最低受診しないといけないことなどを十分に説明するようにしていることを強調しておきたい.I増殖糖尿病網膜症治療の進め方硝子体出血を伴っていると考えられる患者や,問診で,これまでの血糖コントロールが非常に悪かったことが想像される患者であれば,視力眼圧の検査のあとに,まず無散瞳のうえ虹彩,隅角を観察し,新生血管や周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の有無を確認した後に散瞳をして眼底検査を行う.糖尿病網膜症が重症と考えられる場合は蛍光眼底造影などを行って,糖尿病網膜症の活動性を評価する.網膜新生血管が認められれば(図1),増殖糖尿病網膜症となり汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:図1糖尿病網膜症の精査で紹介された症例(63歳,男性)蛍光眼影検査で多数の網膜新生血管,無灌流領域を認める.ほぼすべての網膜血管の透過性亢進を認め,活動性が高いことがわかる.黄斑浮腫は認めなかったために,汎網膜光凝固をすぐに開始した.視力(1.0).PRP)の適応となる.虹彩,隅角に新生血管を認める場合は,速やかにPRPを開始し完成させる.血管新生緑内障に進行した場合は,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬投与を行うことでPRPが完成するまでの時間を稼ぐことが可能となった.しかし,抗VEGF薬は線維血管膜を収縮させるために,眼内に線維血管膜がある場合は投与後に牽引が強まって,牽引性網膜.離になる可能性があることにも注意する.また,血管新生緑内障でも開放隅角期であれば抗VEGF薬投与により一時的に眼圧や糖尿病網膜症も*KentaroNishida:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学寄附講座〔別刷請求先〕西田健太郎:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学寄附講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(47)409図2図1の症例の汎網膜光凝固後3カ月図3図1の症例の硝子体手術+水晶体再建術+内境界膜硝子体出血を発症したものの範囲は限定的であったが,.離施行後3週間OCTでは黄斑部近傍に強い牽引を認める.視力(0.7).黄斑部近傍の牽引も除去され,視力も(1.0)に回復した.図4反復する硝子体出血(73歳,男性)増殖糖尿病網膜症の汎網膜光凝固後に硝子体出血をきたしたが,視力も出ており患者の希望もあったために経過観察とした(Ca).8カ月後には硝子体出血もかなり消退した(Cb).そのC4カ月後,再度硝子体出血をきたしたが手術を希望されず経過観察となる(Cc).さらにC5カ月後,硝子体出血が増悪したために硝子体手術を施行した(Cd).図5図4の症例の硝子体手術後1カ月反復する硝子体出血に対して硝子体手術+水晶体再建術+20%CSFC6ガスタンポナーデを施行した際に,鼻側周辺部に裂孔原性網膜.離および牽引性網膜.離を認めた.術後C1カ月で(0.7)に回復した.図6図4の症例の発症後1年5カ月時点のBスキャン超音波検査検査画像からは視神経乳頭に連続する線維血管膜を認めるが,周辺部の牽引性網膜.離,裂孔原性網膜.離は判別できない.Bスキャン超音波検査は動的な情報量が多いため,とくに詳細な情報を得たい場合は,筆者は自ら検査を行うことにしている.図7未治療のハイリスク増殖糖尿病網膜症(62歳,男性)初診時は右眼の硝子体出血であったが(Ca,b),蛍光眼底造影を行った結果,両眼の未治療のハイリスク増殖糖尿病網膜症(Cc,d)であり,早急に汎網膜光凝固を開始した.図8図7の症例の汎網膜光凝固施行後何度か硝子体出血を起こしたがC3年後には落ち着いた(Ca,b).また,OCTでも幸い明らかな異常を認めていない(Cc,d).図9短時間照射の網膜光凝固斑短時間照射の網膜光凝固では,汎網膜光凝固斑が経時的に縮小C-する.a:照射直後,b:照射後C9カ月.

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!-重症非増殖糖尿病網膜症

2021年4月30日 金曜日

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!─重症非増殖糖尿病網膜症SevereNonproliferativeDiabeticRetinopathy平野隆雄*はじめに糖尿病網膜症の本態は,高血糖に起因した代謝異常によりさまざまなサイトカインやケモカインが誘導されることにより引き起こされる網膜の微小血管障害であり,二次的に多様な眼底病変がもたらされる.その基本病態は網膜血管の透過性亢進,血管閉塞,血管新生の三つに大別される.わが国の日常診療でよく用いられるCDavis分類の単純糖尿病網膜症,増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の主病変はこれらの基本病態とおおむね対応している.本稿で言及する国際重症度分類の重症非増殖糖尿病網膜症は血管閉塞を基本病態とし,Davis分類では軟性白斑(綿花様白斑),静脈異常,網膜内最小血管異常などを特徴とする増殖前糖尿病網膜症に相当する.他の疾患と同様に糖尿病網膜症においても早期発見,早期治療が長期的な視機能維持に重要であることはいうまでもなく,それぞれの病期に応じた治療が必要となってくる.糖尿病が存在しても糖尿病網膜症なしや軽症・中等症非増殖糖尿病網膜症の病期であれば原則,眼科的治療は必要なく,最善の治療は内科医師による血糖コントロールとなる.また,視力低下の原因となる遷延した硝子体出血,牽引性網膜.離を認める増殖網膜症の病期となれば汎網膜光凝固(panretinalCphotocoagulation:PRP)や硝子体手術が積極的に選択される.これらの病期にはさまれた重症非増殖糖尿病網膜症ではすでに網膜血管の器質的変化は不可逆性となりつつあるものの,糖尿病網膜症進行抑制のための治療方針決定や治療自体がむずかしく,個人的には眼科医の技量の見せどころの病期と感じている.糖尿病網膜症の多くの病期で認められる糖尿病黄斑浮腫治療については別稿にゆずり,本稿では重症非増殖糖尿病網膜症の病期における基本的な網膜光凝固治療を中心に最近の話題を加え概説する.CI汎網膜光凝固重症非増殖糖尿病網膜症で認められる軟性白斑などの所見は,網膜の虚血を直接または間接的に表現するものである.無灌流領域,つまり虚血状態の網膜では血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)の産生が著しく亢進する.その結果,網膜血管新生などの増殖性変化が引き起こされる.EarlyTreat-mentCDiabeticCRetinopathyStudy(ETDRS)による重症非増殖糖尿病網膜症はC1年以内に半数が増殖網膜症に進行するという報告もこの事実を強く裏づける1).PRPはこの無灌流領域を光凝固することにより酸素需要の低下,VEGF産生の抑制などがもたらされ,その結果として網膜血管新生などの増殖性変化への進行が抑制されると考えられている.CDiabeticCRetinopathyStudy(DRS)では増殖糖尿病網膜症のなかでも,①C1/4からC1/3乳頭径を超える乳頭上新生血管,②網膜前出血・硝子体出血を伴う乳頭上新生血管またはC1/2乳頭径を超える乳頭外(網膜上)新生血管,③C1乳頭径を超える硝子体出血または網膜前出血*TakaoHirano:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(41)C403図1重症非増殖糖尿病網膜症(74歳,女性)a:眼底写真.散在する点状・斑状の網膜出血,硬性白斑を認めるが明らかな新生血管は確認できない.Cb:広角COCTA(OCT-S1,キヤノン).4象限にわたり広範囲に無灌流領域を認めたため,汎網膜光凝固を施行した.図2パターンスキャンレーザーを用いて汎網膜光凝固を施行した重症非増殖糖尿病網膜症(58歳,女性)汎網膜光凝固後C3カ月の眼底写真.0.5.0.75凝固斑と凝固間隔をやや狭めに設定され,整然と並ぶ凝固斑が確認できる.図3Navilas(OD.OS社)を用いて選択的光凝固を施行した重症非増殖糖尿病網膜症(50歳,男性)a:術前の眼底写真.散在する点状・斑状の網膜出血,軟性白斑,鼻下側を中心に硬性白斑の沈着を認める.Cb:術後の眼底写真,鼻下側に光凝固斑を認める.Cc:術前のCFA.鼻下側に限局した無潅流領域を認める.Cd:Navilasの治療画面.視神経乳頭・中心窩に光凝固を行ってはいけない部分(黄丸)と無灌流領域に凝固予定部位(青丸)が設定されている.–

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!-軽症ないし中等症非増殖糖尿病網膜症

2021年4月30日 金曜日

糖尿病網膜症の治療:これがスタンダードだ!─軽症ないし中等症非増殖糖尿病網膜症TreatmentofMildorModerateNonproliferativeDiabeticRetinopathy(NPDR)中尾新太郎*はじめに「糖尿病網膜症診療ガイドライン」(第C1版)(以下,本ガイドライン)が完成した.全国の先生が何度も集まって作成した経緯がある.そのなかで,糖尿病網膜症はすべての眼科医が頻繁に診察している疾患にもかかわらず,地域ごとにその診療には違いがあるという点に気づいた.別項にあるように病期分類やレーザー光凝固の開始時期などは世界的にも一定の見解はない.それに比べれば,検査については比較的共通している.しかし筆者にも経験があるが,光干渉断層血管撮影(opticalcoher-enceCtomographyangiography:OCTA)はもちろんのこと,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)なしで診療しないといけない場面もある.眼科医の使命は患者の視機能を守ることで共通している.その目的に役立つガイドラインであるが,どのように解釈し実臨床でどのように使っていくかが大事になる.治療に関しては本ガイドラインの第C7章に記載されているが,治療を行ううえでは診断など他項も重要となる.本稿では「軽症ないし中等症の非増殖糖尿病網膜症」の治療について解説する.CI糖尿病網膜症なしの症例繰り返しになるが,眼科医の使命は糖尿病患者の視機能を守ることである.糖尿病患者では健常人と比較し,視機能が低下する可能性が高いことがわかっている.そのおもな原因は糖尿病網膜症であり,視機能低下につながる病態は増殖糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の二つである.幸いなことに現在では,糖尿病網膜症は早期に発見すれば失明を免れることが可能な疾患である.網膜症により発見される糖尿病もあるが,ほとんどは糖尿病とすでに診断された患者が眼科受診する場合が多い.糖尿病患者における網膜症の発症率は,日本人C2型糖尿病において年C4%程度である1).そのため定期的な眼科診療が必要となることを患者と共有することが重要である.CII軽症または中等症非増殖糖尿病網膜症の症例早期の糖尿病網膜症診療で心がけるべき注意点は二つある.一つは軽症・中等度の非増殖糖尿病網膜症でも発症する糖尿病黄斑浮腫の早期診断である.糖尿病網膜症患者のなかで糖尿病黄斑浮腫を有するのはC7.5%とされる2).また,2000年以降の研究では糖尿病黄斑浮腫は5.5%と報告される.つまりC15~20人にC1人程度の割合であるが,早期発見し適切な治療を行うことが重要である.もう一つは視力をおびやかす増殖糖尿病網膜症への進行を防ぐことである.1型糖尿病患者では約C14~16%がC4年以内に増殖糖尿病網膜症に進展し,2型糖尿病では軽症非増殖糖尿病網膜症から重症非増殖糖尿病網膜症または増殖糖尿病網膜症へ進行する頻度は年間C2.1%と報告されている3,4).こちらも本ガイドラインの第C3章に記載があるが,糖尿病病型(1型かC2型か),年齢,HbA1c,そのほか全身状態が網膜症進展に影響するた*ShintaroNakao:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕中尾新太郎:〒810-8563福岡市中央区地行浜C1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(37)C399め,内科と連携しながら把握する.CIII視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫を伴わない症例軽症ないし中等症非増殖糖尿病網膜症ではそれぞれ1.7~6.3%,20.3~63.2%に糖尿病黄斑浮腫を合併するため,網膜症病期での適切な経過観察が必要となる5).推奨される眼科診察間隔は本ガイドライン第C6章の表3を参考にする.しかし,その診療間隔は一つの目安であり,個々の症例での対応が必要となる.糖尿病黄斑浮腫は眼底検査により網膜浮腫と硬性白斑を観察する(図1).糖尿病黄斑浮腫がある症例ではCOCTの黄斑マップ機能が有用となる.それによりCnon-center-involvingかCcenter-involvingを確認できる(図1).また,OCTの中心窩網膜厚が治療開始,再投与決定,治療効果判定に有用である.視力良好な症例でも中心窩を含む黄斑浮腫を有する場合があり,治療開始時期を逃さないため適切なフォローアップが必要となる.患者のドロップアウトを防ぐためにもCOCTの黄斑マップは患者への病状説明に有用である.CIV視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫を伴う症例「視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫」は中心窩もしくは中心窩からC500Cμm以内の網膜肥厚または硬性白斑がある場合,またC1乳頭径大以上の網膜肥厚でその一部が中心窩からC1乳頭径以内に存在する場合である6)(図1).OCTがない環境でも眼底検査にて診断がつく.抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が一般化した現在,中心窩を含む黄斑浮腫,中心窩を含まないに黄斑浮腫に分類し,前者には抗VEGF療法,後者には直接/格子状光凝固または抗VEGF療法を第一選択に治療計画を立てる.黄斑浮腫が中心窩を含むか否か(center-involving)の判定にもOCTの中心窩網膜厚を表示できる黄斑マップが有用となる(図1).抗CVEGF療法の治療導入において,視力低下を基準とするか,中心窩網膜厚を基準とするかは個々の症例での判断となる.V抗VEGF療法中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫治療の第一選択は抗VEGF療法である.多くのランダム化臨床試験によって,直接/格子状網膜光凝固より視力改善および中心窩網膜厚の減少が高いエビデンスレベルで示されている7).抗CVEGF療法は薬剤の硝子体内投与であり,日本網膜硝子体学会による「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」に準拠し施行する8).投与開始,再投与決定,治療効果判定にはCOCTの中心窩網膜厚がもっとも有用な指標とされる.しかし,OCTの中心窩網膜厚が視機能と相関しない症例もあることに留意する.治療レジメンは要時投与(proCrenata:PRN),固定投与(treatCandextend:TAE)ともに有用性が確立されているため,視力,中心窩網膜厚,全身状態などの医学的見地と経済的,社会的状況などを総合的に判断して決定する.一般的にはCPRNは来院回数,TAEは投与回数が多い傾向となる.導入期治療については本ガイドラインでは言及はないが,導入期を設けた症例のほうが長期的な視力改善に優れるというデータもある.CVI直接.格子状網膜光凝固糖尿病黄斑浮腫に対する直接/格子状網膜光凝固は,自然経過より視力改善が確認されている有効な治療法である9).上述の抗CVEGF療法との比較試験の結果と,レーザー治療による網膜下線維増殖や瘢痕拡大(atrophiccreep)など副作用の観点から中心窩を含まない黄斑浮腫に推奨される.方法としては,中心窩からC500Cμm以内の照射は避け,低出力でレーザー間隔をより広く開ける.また,黄斑浮腫の原因となっている毛細血管瘤を検出し,直接凝固を行うことも有用である.CVIIステロイド療法糖尿病黄斑浮腫に対する持続性副腎皮質ステロイドであるトリアムシノロンアセトニドの硝子体内投与,Tenon.下注射は国内で認可されている治療である10).経過中の眼圧上昇と白内障などの合併症に十分な注意を払う.抗CVEGF療法と異なり,その治療プロトコールに一定の見解はない.400あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021(38)非増殖糖尿病網膜症網膜症なし軽症中等症黄斑浮腫の有無視力をおびやかす黄斑浮腫ー+黄斑浮腫なしnon-center-involvingcenter-involving経過観察経過観察経過観察レーザー光凝固抗VEGF療法レーザー光凝固抗VEGF療法図1軽症ないし中等症非増殖糖尿病網膜症の治療網膜症がない時期は内科との連携を行い眼科的には経過観察となる(Ca).軽症または中等症糖尿病網膜症が認められる症例では糖尿病黄斑浮腫の有無を確認する(Cb).眼底検査における網膜浮腫または硬性白斑の中心窩からの距離で視力をおびやかす黄斑浮腫かを鑑別する(Cc,d).cにおける硬性白斑()は中心窩からC500Cμm(1/3乳頭径)より離れているが,dにおける硬性白斑()は中心窩に迫りつつある.さらに光干渉断層計(OCT)の黄斑マップがCnon-center-involvingまたはCcenter-involvingかの鑑別に有用となる(Cd,e).dでは視力をおびやかす黄斑浮腫であるが,non-center-involvingであり輪状硬性白斑の中心に存在する毛細血管瘤の直接凝固,または抗CVEGF療法を検討する.eではCcenter-involvingである黄斑浮腫が認められ,抗CVEGF療法を検討する.-