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小児網膜疾患の特徴

2024年7月31日 水曜日

小児網膜疾患の特徴CharacteristicsofPediatricRetinalDiseases仁科幸子*はじめに小児の網膜疾患には重篤な視覚障害をきたす疾患が多く,小児の失明原因の約46%を占めている1).しかし,眼科医が眼底検査を行わないと発見できないため,とくに乳幼児期では発見が遅れがちである.近年,検査や診断技術の進歩により,さまざまな網膜疾患の病態解明が進み,早期に的確な診断がついて治療やロービジョンケアを導入できるケースが増えてきた.本稿では,小児の網膜疾患の特徴について概説し,日常臨床においてどのように網膜疾患を発見し,どう診断につなげていくか,その要点を述べる.I小児の網膜疾患の特徴1.小児に起こる網膜疾患の病因小児に起こる網膜疾患は成人に比べて頻度が少ない.また,病因や病態は成人の疾患と異なり,先天異常,周産期異常,遺伝性疾患,全身疾患に伴う疾患が多い.代表的な小児の網膜疾患を表1に示す.これらの疾患を念頭に置いて,所見をとることが重要である.各論については他稿を精読いただきたい.小児の網膜疾患は病因・疾患概念が同一であっても多様な臨床像を呈する.また,乳児期に病像が急速に変化することがあるため,発見時には診断が困難な例もある.しばしば前眼部所見を伴うので,眼球全体を十分観察し,全身疾患や家族歴の有無を調べることが肝要である.2.網膜硝子体の発生と先天異常2)硝子体および網膜の発生は,相互に密接に関与している.小児の網膜疾患の病態を把握するために,網膜硝子体の発生における主要なイベントを知っておきたい.発生初期(胎齢5週頃)に眼杯,水晶体胞,胎生裂が形成されると,胎生裂あるいは眼杯前縁と水晶体胞の間隙から眼杯内に神経堤細胞と血管が侵入して初期の硝子体(第一次硝子体)が発生する.つぎに血管を含まない第二次硝子体が網膜側より発達し,第一次硝子体は萎縮消失してCloquet管になる.初期発生に異常をきたすと,小(無)眼球となり,網膜硝子体のみならず,全眼球に及ぶ高度の先天異常となる.発達期の眼球内を栄養する硝子体血管系は,内頸動脈由来の背側眼動脈の分枝として発生し,胎生裂から眼杯内に侵入する.胎齢6~7週で胎生裂が閉鎖するが,このイベントが正常に進まないと網脈絡膜コロボーマを生じ,重症例では虹彩・水晶体から視神経乳頭に及ぶ広汎なコロボーマとなる(図1a).胎生裂の閉鎖後,視神経乳頭から水晶体後部に向かう本幹と分枝(硝子体固有血管)が発達し,水晶体血管膜に続く.また,眼杯外で伸びた背側および腹側眼動脈は眼杯前縁で血管輪を形成して水晶体血管膜と吻合する.硝子体血管系は胎齢10~12週にもっとも発達するが,硝子体固有血管は胎齢15~20週,本幹は周産期までに退縮する.しかし,胎生期の硝子体血管系が異常増殖もしくは遺残すると,硝子体血管系遺残(persistenceof*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕仁科幸子:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(5)751表1小児に起こる代表的な網膜疾患分類代表的網膜疾患先天異常胎生血管系遺残,家族性滲出性硝子体網膜症,Norrie病,網膜有髄神経線維,黄斑低形成,網脈絡膜コロボーマ周産期異常未熟児網膜症他の血管増殖性疾患Coats病全身疾患・症候群に伴う網膜疾患色素失調症,眼白皮症・眼皮膚白皮症,先天代謝異常,症候性網膜色素変性症(Usher症候群,Bardet-Biedl症候群,Kearns-Sayer症候群,Cockayne症候群など),Stickler症候群,Marfan症候群,結節性硬化症,白血病網膜症遺伝性網膜ジストロフィLeber先天盲・早発型網膜色素変性症,先天網膜分離症,先天停止性夜盲,卵黄状黄斑ジストロフィ,Stargardt病,錐体(杆体)ジストロフィ,白点状眼底,杆体一色覚腫瘍性疾患網膜芽細胞腫,網膜過誤腫,網膜血管腫感染・炎症性疾患胎内感染(トキソプラズマ,サイトメガロウイルスなど),サルコイドーシス,中間部ぶどう膜炎外傷虐待性頭部外傷,裂孔原性網膜.離図1網膜硝子体の発生異常による疾患a:小眼球・網脈絡膜コロボーマ.b:後部型硝子体血管系遺残.c:進行性の牽引性網膜.離を呈する家族性滲出性硝子体網膜症.d:黄斑低形成.る.未熟児網膜症は発達途上の網膜血管に起こる増殖性疾患であるが,在胎週数が少ないほど網膜血管が未発達なため重症化する.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)は,遺伝素因によって網膜血管の発育不全が起こり牽引網膜,網膜ひだ,牽引性網膜.離,白色瞳孔など,左右眼に進行性の多彩な網膜異常をきたす(図1c).網膜は眼杯内板(神経網膜),外板(網膜色素上皮)から発生分化する.胎齢7~8週には神経節細胞が分化し,神経線維の進展が始まるが,視神経無形成が起こると,網膜血管の形成も阻害される.網膜層構造は胎齢7~9カ月頃までに発達するが,後極部では発達が早く周辺部では遅い.さらに黄斑部が完成するのは生後4カ月頃である.網膜の形成異常(異形成)があれば,第二次硝子体の発生が障害され,眼球全体の発育不全(小眼球)をきたしやすい.また,さまざまな先天異常に合併して,もしくは単独に黄斑低形成が起こる(図1d).3.小児の網膜硝子体疾患の特殊性3)発達途上にある小児の網膜硝子体の特殊性は,病態・病像に大きく関与する.おもな特徴として,眼球の形態・機能とも未発達であること,高度の増殖や牽引が起こること,網膜が伸展性に富むこと,ときに遺残組織を伴うこと,硝子体線維の走行が成人とは異なること,網膜硝子体間の接着が強いことがあげられる.未熟児網膜症,FEVR,Coats病,色素失調症に伴う血管増殖性の網膜症では,急速に牽引性変化が進行して,牽引網膜,網膜ひだ,水晶体後面に向かう牽引性網膜.離・白色瞳孔など小児に特有の網膜.離の形態を呈する.発達途上で視覚の感受性の高い乳幼児期に起こる網膜疾患は,たとえ治療ができたとしても,重篤な視覚障害をきたしやすい.片眼性や左右差のある両眼性の重症眼では,高度の弱視をきたし,視機能の予後はきわめて不良である.II網膜疾患の発見と診断1.乳幼児の眼底検査はいつ行うか小児の視覚障害の84%は0歳で発生する.原因疾患として未熟児網膜症が16.9%,先天眼底疾患は合わせて約25%を占めている1).新生児期,乳児期から,眼科医は初診時に必ず散瞳して眼底検査を行うよう努めたい.とくに以下の場合には,眼底検査が必須である.①眼症状がある網膜疾患を疑う症状として,白色瞳孔・猫眼,小眼球,視反応不良,斜視,眼振,羞明,夜盲などがあげられる.保護者から気になる症状を聴取した場合には,必ず眼底検査を行う必要がある.産科,小児科,保健師など,他科多職種にも,日頃から周知を図りたい.②家族歴がある網膜芽細胞腫,小児期・若年期の網膜.離,網膜疾患をきたす全身疾患の家族歴がある場合には,生後1カ月までに眼底検査を受けるように勧めたい.網膜芽細胞腫,FEVR,色素失調症では,超早期の治療が視覚の予後向上に寄与する.遺伝子検査が保険収載されている網膜芽細胞腫,遺伝性網膜ジストロフィ,難聴,先天異常症候群などは,両親の遺伝子検査結果をもとに,眼底検査や精密検査〔網膜電図(electroretinogram:ERG),光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)など〕を計画する.米国では網膜芽細胞腫に対し,RB1遺伝子変異患者家系のリスク評価と,リスクのある小児の眼底スクリーニングについて,ガイドラインを策定している4).ハイリスク児に対しては,生後8週まで2~4週おきに眼底検査,8週~1歳までは毎月の眼底検査を全身麻酔下で行うことを推奨している.日本では遺伝子検査や全身麻酔下検査をルーチンに実施できる施設が限られているが,今後,参考にすべき管理法である.③新生児集中治療室(NICU)診療未熟児網膜症の眼底検査の開始時期は定まっているが,未熟児以外の患児に対しても,NICU診療の一環として積極的に眼底検査を行う.胎内感染が疑われる児,網膜疾患を伴う全身疾患や症候群を疑う児に対しては,可及的早期に眼底検査を行えるように,新生児科医と連携をとる.原因不明の全身症状に対し,眼底所見が診断に役立つこともある.④小児科からの依頼小児科医が眼異常を疑った場合や,眼異常を伴う全身(7)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024753図3虐待性頭部外傷の眼底所見5カ月,女児.眼底後極部から周辺部まで及ぶ多発性・多層性の動静脈からの網膜出血,黄斑部を含むドーム状の出血性網膜分離・網膜ひだを認める.図23歳児健診で斜視判定となり発見された網膜疾患a:右眼偽斜視.b:右眼牽引網膜,家族性滲出性硝子体網膜症の疑い.abc図4色素失調症の眼底所見3カ月,女児.a:右眼後極部眼底,網膜血管の拡張や蛇行を認める.b:右眼中間周辺部眼底,網膜血管走行異常と拡張蛇行が顕著にみられ,網膜血管の異常吻合・ループ形成を認める.c:蛍光眼底造影所見,網膜血管の透過性亢進,顕著な網膜動脈閉塞と無灌流域を認める.早急に光凝固治療を実施した.

序説:小児の網膜疾患 

2024年7月31日 水曜日

小児の網膜疾患PediatricRetinalDisorders佐藤美保*外園千恵**日下俊次***小児の網膜疾患の診療にはさまざまなむずかしさがある.小児の診察そのものが特殊で多くの医師は苦手としていること,小児の網膜疾患は頻度が少ないこと,さらに疾患によっては大人と所見が大きく異なることなどから,診断までに長い時間がかかることもまれではない.さらに手術はもちろんだが術後管理もむずかしい.平行して行う弱視治療やロービジョンケアも必要である.小児の疾患であっても青年.成人期になると新たな問題がでてくる.治療の晩期合併症,進学,就職,結婚などの問題,次世代への遺伝の問題などがもちあがる.成長の過程で転居したり医師の交代が起きたりすることがあり,子どもの頃からケアしてきた眼科医がずっと経過を追えないことも多い.未熟児網膜症に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内投与や網膜色素変性症に対する遺伝子治療など新しい治療が開発されているが,それには新たな問題も起きてくる.小児眼科医だけではなく,すべての眼科医がどこかの時点でなんらかの形でかかわる可能性があるため,その時々に知識をアップデートすることが求められる.幸いなことに,診断に関しては診断機器の進歩や遺伝子診断がめざましく,これまで診断がなかなかつかなかった遺伝性網膜疾患が皮膚電極網膜電図(electroretinogram:ERG)によって診断ができたり,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や広角眼底カメラの発展によって低年齢の子どもたちの網膜の状態をこれまでより早期に的確に診断できたりするようになってきた.国立成育医療研究センターの仁科幸子先生には,豊富な臨床経験に基づいた小児網膜疾患の特徴と診断方法を解説いただいている.いつ,どのような訴えのときに重篤な眼疾患を疑うか,最新の健診事情など,一般の眼科診療の範囲で知っておくべき知識を網羅していただいた.弘前大学の原藍子先生と上野真治先生にはさまざまな検査の具体的方法について記載していただいている.ERGや広角眼底写真撮影,OCTなどの検査は,最初から「子どもには無理」と思い込まないことが大切である.実際の検査は時間がかかり,慣れたスタッフと医師の経験が要求される.視能訓練士の協力は必須であるが,どの検査をどの順序で行うか,今日できなかった検査をいつするか,小児科医の協力を得て鎮静化で行うか,などの判断は医師が下さなくてはならない.また,現在大きな問題となっている揺さぶられっこ症候群では眼底写真が重要であることから,撮影方法を日常から修練しておくことが大切である.慈恵医大の林孝彰先生には遺伝学的検査について詳細*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学***ShunjiKusaka:近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)747に記載していただいた.網膜色素変性症に対する遺伝子治療が開始されたことで,多くの網膜色素変性患者はその恩恵を期待している.ただし適用患者決定のための遺伝子診断はごく限られた施設のみで行われ,一般の眼科医の関心は不十分かもしれない.希望する患者にどのように説明するか,そのための費用は,など一般の眼科医も最低限の知識が要求されている.次に,さまざまな小児網膜疾患のなかから頻度が比較的高く,誰もが一度は診察する可能性のある疾患を各論でとりあげた.先天異常の多くは,教科書でみて知っていても実際に経験する眼科医は多くないと思われる.先天異常とはいっても生後すぐに症状が明らかなことばかりではなく,成長に伴い異常が明らかになってくる進行性の疾患や先天異常が引き起こす二次的な障害もあり,いずれも長く経過をみる必要がある.ある程度初期の治療が終了し,進行が止まった段階で一般眼科医にフォローが依頼される場合もある.胎生血管系遺残(persistentfetalvasculature:PFV),ピット黄斑症候群(pit-macularsyndrome),コロボーマ,朝顔症候群などに伴う網膜.離はもっとも予後の不良な状態であるが,新しい治療方法の報告もみられている.手術予後や手術適用も含め最新の考え方を杏林大学の横井匡先生に解説をお願いした.未熟児網膜症は近年治療方法や予後がもっとも大きく進歩した眼科疾患の一つといってよい.それは周産期医療が発達し低出生体重児の全身管理が良くなったことも大きな要因であるが,抗VEGF薬の硝子体注射が一般的に行われるようになり,重篤な未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の治療が可能になったことがあげられる.その一方で,治療後の長期にわたる眼底変化と追加治療のためのガイドラインなど未確定の部分も多く,診療にあたる医師は常に情報をアップデートしておく必要がある.大阪大学の福嶋葉子先生には新たな国際分類も含め最新の情報を記載していただいた.網膜芽細胞腫はわが国を含む先進国では生命予後が良好な悪性腫瘍であるが,その分,長期にわたる管理が必要である.特に遺伝性の場合には,二次癌の発生が現在も問題である.現在ではレーザー治療,冷凍凝固,小線源放射線治療や全身化学療法などを行い眼球温存に努めるが,それでも眼球温存率は50%である.そして成人になってからのケアも必要であることを忘れてはならない.乳幼児期に大量の化学療法を受けていること,両側性の場合の次世代への遺伝が50%の確率で起きるなど,AYA世代と呼ばれる思春期・若年成人世代へのケアも重要である.国立がんセンターの鈴木茂伸先生には,わが国で行われている治療方針とともに,網膜芽細胞腫の出生前診断,着床前診断による早期診断・早期治療への課題も示していただいた.遺伝性網膜ジストロフィは近畿大学の國吉一樹先生に解説いただいた.小児期は眼底検査が困難であること,所見が少ないこと,そして屈折異常を伴うことが多いことから,弱視として治療を受けていることも少なくない.弱視治療を行っても視力の向上が十分にみられない場合には,OCTやERGなど小児でも可能な検査を積極的に行い診断につなげる必要がある.遺伝性網膜ジストロフィの診断がついても,弱視としての治療を視覚感受性期間内に行うことは意味がある.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)については,長年精力的に治療,研究にあたっておられる産業医大の近藤寛之先生に執筆していただいた.FEVRは小児先天網膜.離の原因としては比較的頻度の高い疾患である.疾患の重症度に血縁内での差があることから,未診断のFEVRは決して少なくないと思われ748あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(2)

強膜炎と辺縁系脳炎を発症した再発性多発軟骨炎の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):733.739,2024c強膜炎と辺縁系脳炎を発症した再発性多発軟骨炎の1例案浦加奈子*1,2渡辺芽里*1川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2原眼科病院CRelapsingPolychondritisPresentingasScleritisandLimbicEncephalitisKanakoAnnoura1,2)C,MeriWatanabe1)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)HaraEyeHospitalC目的:強膜炎の治療中に耳介腫脹と辺縁系脳炎を併発し,耳介生検で再発性多発軟骨炎(RP)の診断に至った症例を報告する.症例:46歳,男性.両眼の充血と強度の眼痛で当科を紹介受診,プレドニゾロン内服C30Cmg/日を開始した.7カ月かけて漸減終了したが,軽度の充血は持続していた.内服終了後C1カ月で両耳介の腫脹が出現,意識障害で当院へ救急搬送された.MRIで辺縁系脳炎を認め,耳介生検でCRPの診断が確定した.内科でステロイドパルスC2回,エンドキサンパルスC3回,リツキシマブ投与C4回が投与され,その後トシリズマブ導入,メトトレキサート,デキサメタゾン内服を併用した.高次機能障害は残存したが全身症状の悪化はなく,退院となった.退院後C2カ月でステロイド点眼も中止したが眼症状の再燃なく経過している.結論:強膜炎においてCRPは鑑別診断として考慮すべき疾患である.さらに,RPは中枢神経系の合併症を非常にまれだが伴うことがあるので,留意すべきである.CPurpose:Toreportacaseofdevelopingauricularswellingandlimbicencephalitisduringtreatmentforscleri-tis,CleadingCtoCaCdiagnosisCofrelapsingCpolychondritis(RP)viaCauricularCbiopsy.CCase:AC46-year-oldCmaleCwasCreferredCtoCourCdepartmentCdueCtoCrednessCandCsevereCocularCpainCinCbothCeyes.COralprednisolone(30Cmg/day)Cwasprescribed,andtheconditionwasresolvedoveraperiodof7months.However,swellingofbothauriclesthenappeared,andhewasrushedtotheemergencyroomatourhospitalduetoimpairedconsciousness.Magneticreso-nanceCimagingCrevealedClimbicCencephalitis,CandCauricularCbiopsyCcon.rmedCaCdiagnosisCofCRP.CForCtreatment,Cste-roidpulsetherapy,intravenouscyclophosphamide,rituximab,tocilizumab,methotrexate,anddexamethasonewereadministered.Higherbraindysfunctionremained,butsystemicsymptomsdidnotworsen,andhewasdischargedwithnosubsequentrecurrenceofeyesymptoms.Conclusions:Amongscleritispatients,RPshouldbeconsidered,asitcanbeaccompaniedbycomplicationsofthecentralnervoussystem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(6):733.739,C2024〕Keywords:強膜炎,再発性多発軟骨炎,耳介生検,辺縁系脳炎.scleritis,recurrentpolychondritis,auricularbi-opsy,limbicencephalitis.Cはじめに再発性多発軟骨炎(relapsingCpolychondritis:RP)は,全身の軟骨組織に特異的に,再発性の炎症をきたす比較的まれな難治性疾患である1).中枢神経系の合併症を伴うこともあるが,非常にまれであり1,4),今回,筆者らは強膜炎の治療中に耳介腫脹と辺縁系脳炎を併発し,耳介生検でCRPの確定診断に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:46歳,男性.主訴:両眼の充血と眼痛.既往歴:特記事項なし.現病歴:20XX年C9月頃より両眼の充血と眼痛があり,近医を受診,0.1%ベタメタゾン点眼頻回投与や,デキサメタゾン結膜下注射が施行されたが改善せず,右眼C32CmmHg,左眼C26CmmHgと眼圧上昇も認め,0.1%ベタメタゾン点眼液C2時間おき,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液が投薬されたうえで,20XX年C11月に精査加療目的で当院紹介初診となった.初診時所見:視力は右眼(1.2),左眼(1.2).眼圧は右眼〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC図1a初診時前眼部所見(右眼/左眼)両眼とも角膜は透明で,びまん性に強膜充血を認めた.図1b初診時超音波Bモード(右眼/左眼)明らかな強膜肥厚は認めなかった.18CmmHg,左眼C19CmmHg.両眼とも角膜は透明で,びまん性に強膜充血を認めた.前房内炎症はなく,水晶体は軽度の白内障があったが,後眼部に異常所見は認めなかった.超音波CBモード検査では,明らかな強膜肥厚は認めなかった(図1a,b).臨床検査所見:初診時の血液検査では,白血球C7,800/μl,C反応性蛋白(CRP)はC0.45Cmg/dlと軽度の上昇を認めるのみで,リウマチ因子,抗核抗体,抗白血球細胞質抗体(P-ANCA,C-ANCA)の上昇はなかった.その他特記すべき異常は認めなかった.経過:疼痛が非常に強く,感染が原因ではない強膜炎として,初診時よりプレドニゾロン(PSL)30Cmg/日内服を開始した.眼症状は改善傾向であったため,20XX年C12月頃よりCPSL10mg/日へ漸減したが,充血の再燃を認め,PSL20mg/日へ増量とし,両眼へデキサメタゾン結膜下注射も行った.その後は眼症状は落ち着いたため,20XX+1年1月頃よりCPSL15mg/日に減量したところ,記憶障害,食欲不振,不眠,不安症状などが出現した.精神症状はCPSL内服の影響もあると考え,20XX+1年C2月頃からCPSL10Cmg/日へ,3月頃よりC5mg/日,4月頃よりC2.5mg/日へ減量したが,同時期から多弁,妄想,幻聴が出現した.5月頃よりCPSLはさらにC1Cmg/日に減量としたが,症状は改善せず,精神科を受診した.器質的疾患の除外目的で血液検査と頭部CMRIが施行された.血液検査では,白血球C7,400/μl,Hb12.7Cg/dl,MCV100C.の軽度の正球性正色素性貧血,CRPはC0.02と上昇はなく,ビタミンCB12はC620Cpg/mlと正常範囲内であった.葉酸はC3.1Cng/mlと低下を認めたが,アルコール多飲歴もなく,経過観察とされた.MRIでは活動性のある病変はなしと判断された(図2a).精神科ではステロイドを誘引とした双極性障害として,抗精神病薬が処方された.眼所見は落ち着いており,20XX+1年C6月頃よりCPSLは中止とした.軽躁状態や不安症状は改善したが,記憶障害は残存した.7月頃より,両耳介の腫脹を認めていたが,経過観察としていた.8月頃からは吃逆や咳き込みなどの症状も認めた.図2a精神科受診時の頭部MRI(FLAIR画像)同時期に軽度の結膜充血が出現しており,点眼強化で経過観察としていた.9月C5日にC37.9℃の発熱を認めたが,内科受診はせず,自然経過で解熱した.9月C7日,筋強直を伴う意識障害にて当院へ救急搬送となった.入院までの経過を図3に示した.血液検査では,白血球C10,700/μl,CRP4.91Cmg/dlと上昇を認め,両側耳介に発赤・腫脹を認めた(図2b).ビタミンB1はC37Cng/mlと正常であった.髄液検査では単核球優位の細胞数上昇(細胞数:22/μl,単核球C16/μl,多形核球C6/μl)とCIL-6の上昇(872Cpg/ml)を認めた.頭部CMRIでは辺縁系脳炎を認め(図2c),同日神経内科に緊急入院となった.ヘルペス性脳炎と診断され,アシクロビルが投与開始された.けいれん重責状態に対しては抗てんかん薬が投与され,人工呼吸器が装着された.翌日には意識障害,耳介の発赤・腫脹は改善傾向にあったが,9月C15日のCMRI検査で両側海馬傍回と両側尾状核,左外障,右側頭葉皮質にも異常信号を認めた(図2d).入院時の両耳介所見,強膜炎の既往からRPが疑われ,同日耳介生検が行われた.病理結果ではCRPの所見として了解可能であり,確定診断となった(図2e).髄液CHSV-DNA-PCRは陰性が確認され,アシクロビル内服は中止となった.アレルギーリウマチ科へ転科し,9月C30日よりステロイドパルスを開始した.入院中,脳波検査やMRI検査,髄液検査所見に応じてステロイドパルスC2回,エンドキサンパルスC3回,リツキシマブ投与C4回が施行された.20XX+2年C1月よりトシリズマブを導入,3月よりメトトレキサートC6Cmg/週を追加,12Cmg/週まで増量し,メトトレキサートC12CmgとデキサメタゾンC2.25Cmg内服のみで経過観察となった.炎症後の顕著な脳実質の萎縮に伴い(図2f),高次機能障害は残存したが,全身症状の悪化はなく,20XX+2年5月図2b入院時耳介所見両耳介の発赤腫脹を認めている.に退院となった.眼所見については,内科でステロイドパルス加療開始後C9日後の往診では,充血は完全に消退していた.その後も所見の悪化はなく,退院後C2カ月でステロイド点眼も中止としたが,現在も再燃なく経過している(図2g).CII考按RPは,全身の軟骨組織に特異的に再発性の炎症をきたす比較的まれな難治性疾患である.日本における患者数はC400.500人と推定されている.さまざまな年齢で発症するが,発症年齢のピークはC40.50代で,性差はないとの報告が多い1).臨床症状は,耳介軟骨炎,非びらん性の炎症性多発関節炎,鼻軟骨炎,皮膚病変(特有の皮疹はなく,口内アフタ,結節性紅斑,紫斑など非特異的な皮膚症状を呈する)や,肺炎・気管支炎のほか,心臓血管病変として,大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症,心膜炎,心筋炎,心筋梗塞,不整図2c入院時頭部MRI(FLAIR画像)両側海馬傍回,右尾状核にCFLAIRで異常高信号(白丸部分)を認め,辺縁系脳炎を生じていた.図2d入院10日後MRI(FLAIR画像)両側海馬傍回と両側尾状核,左外障,右側頭葉皮質にも異常信号の増悪を認めた(白丸部分).脈(房室ブロック,上室性頻脈),大血管の動脈瘤などが起こることがある.呼吸器合併症や心血管病変は死亡の原因となる.また,まれに腎障害および骨髄異型性症候群,白血病を認め,重症化する1,4).初発症状は耳介の疼痛,発赤が多く,患者のC80.90%にみられる.耳介が崩壊すると外耳道閉塞をきたし,伝音性難聴となることもある1,4).眼病変はC50.65%の患者にみられ,強膜炎,上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が中心であるが,視神経乳頭炎を伴い重症化することもある.強膜炎の原因疾患としては,関節リウマチ,ANCA関連血管炎などについで多く,強膜炎患者の約2.4%を占める1).中枢神経症状としては脳炎や髄膜炎,脳梗塞,脳出血を合併することがあるが,わが国ではまれであり,全経過のなかで,1割にも満たない.男性に有意に多く,死亡率はC18%と高い1,4).血液検査は特異的な所見に乏しいが,炎症状態に応じて血沈亢進,CRP上昇がみられる.正球性正色素性貧血を呈することもある.33%が抗CTypeIIコラーゲン抗体陽性,22.66%が抗核抗体陽性,約C16%がリウマチ因子陽性,24%でANCA陽性となるが,今回の患者では,抗CTypeIIコラーゲン抗体は測定しておらず,他の抗体も陰性であった1).図2e耳介軟骨病理軟骨周囲に軽度.中等度の炎症細胞の浸潤を認め,軟骨辺縁部は好酸性を帯び,周囲間質との境界が一部で不明瞭になっていることから再発性多発軟骨炎として了解可能であった.図2f退院時頭部MRI(FLAIR画像)脳実質全体の顕著な萎縮により,くも膜下腔が目立っている.図2g退院5カ月後の前眼部所見強膜炎病態は完全に消退し,炎症の再燃なく経過している.表1McAdamらの診断基準(1976年)2)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害※C6項目のうちC3項目以上が陽性.表2Damianiらの診断基準(1979年)3)1.McAdamらの診断基準でC3項目以上が陽性2.McAdamらの診断基準でC1項目以上が陽性で,確定的な病理組織所見3.軟骨炎が解剖学的に離れたC2カ所以上で認められ,ステロイド/ダプソン治療に反応して改善する場合診断には,McAdamの基準とCDamianiの基準が用いられるが(表1,2)2,3),本症例においては,McAdamの基準はC2項目のみ該当で診断基準を満たさなかったが,Damianiの基準では病理組織所見とあわせて確定診断に至った.今回の症例で生じた辺縁系脳炎とは,海馬,扁桃体などを含めた大脳辺縁系が障害される脳炎のことをさし,臨床症状としては幻覚・妄想・興奮・抑うつなどの精神症状,それらに基づく異常行動,意識障害,けいれん発作などを生じる5).自己免疫性脳炎で呈することの多い臨床所見であり6),頭部MRIのC.uidCattenuatedCinversionrecovery(FLAIR)画像やCdi.usionweightedCimage(DWI)において両側性に側頭葉内側の異常信号変化を認めた場合に同疾患の可能性が高いといわれている7).まれではあるがCRPにも合併することがあり2,12),発症機序としては,全身性エリテマトーデスなど図3内科入院までの経過に類似した中枢神経系の血管炎に起因するもの8)と考えられている.自己免疫性脳炎の治療としては,第一選択免疫療法として,メチルプレドニゾロンパルス療法(intravenousmethyl-prednisolone:IVMP),免疫グロブリン大量静注(intrave-nousimmunoglobulin:IVIg),血液浄化療法などを単独もしくは組み合わせて行い,第二選択免疫療法として,リツキシマブあるいはシクロホスファミドによる治療が行われる.近年では,第二選択免疫療法で効果がみられない患者に対して,形質細胞の産生を阻害するプロテアソーム阻害薬(bort-ezomib),インターロイキンC6受容体阻害薬(tocilizumab),低用量インターロイキンC2療法で改善がみられたとの報告もある7,9,10).RPに伴うものでは,ステロイド単剤での治療11)や,ジアフェニルスルホン(ダプソン),シクロホスファミド,メトトレキサート,シクロスポリンの併用や,インフリキシマブを用いた治療報告がある12).今回の症例でも,同様の加療が用いられ,高次機能障害は残存したが,全身症状は改善した.本症例では当初ステロイド精神病が疑われたが,精神症状が辺縁系脳炎の初期症状であった可能性は高く,その時点で神経内科に相談を行うことで早期に治療介入を行うことが開始できた可能性は否めない.反省すべき点であったと考える.強膜炎の診断においては,RPも念頭に身体診察や問診を行うべきと考えられる.さらにCRPにおいては,非常にまれではあるが中枢神経症状を合併することがあるため,経過中に精神症状の変化があれば速やかに神経内科との連携を図ることが必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)田中理恵,蕪城俊克:再発性多発軟骨炎.あたらしい眼科C33:941-946,C20162)McAdamLP,CO’HanlanCMA,CBluestoneCRCetal:Relapsingpolychondritis:prospectiveCstudyCofC23CpatientsCandCaCreviewCofCtheCliterature.Medicine(Baltimore)C55:193-215,C19763)DamianiCJM,CLevineHL:RelapsingCpolychondritis-reportCoftencases.LaryngoscopeC89:929-946,C19794)鈴木登:新薬と臨牀69:131-137,C20205)近江翼,金井講治,陸馨仙:総合病院で行われる自己免疫性脳炎の治療の実際.当センターで経験したC7症例をふまえて.精神科救急20:100-109,C20176)木村有喜男,千葉英美子,重本蓉子:自己免疫性辺縁系脳炎.画像診断42:1092-1093,C20227)木村暁夫:神経免疫疾患の最新治療.日本内科学会雑誌C110:1601-1610,C20218)StewartCSS,CAshizawaCT,CDudleyAWCJrCetal:CerebralCvasculitisCinCrelapsingCpolychondritis.CNeurologyC38:150-152,C19889)ScheibeCF,CPrussCH,CMengelCAMCetal:BortezomibCforCtreatmentCofCtherapy-refractoryCanti-NMDACreceptorCencephalitis.NeurologyC88:366-370,C201710)AbboudCH,CProbascoCJ,CIraniCSRCetal:Autoimmuneencephalitis:proposedrecommendationsforsymptomaticandlong-termmanagement.JNeurolNeurosurgPsychia-tryC92:897-907,C202111)藤原聡,善家喜一郎,岩田真治ほか:脳炎を発症した再発性多発軟骨炎のC1例.脳神経外科C40:247-253,C201212)KondoT,FukutaM,TakemotoAetal:Limbicencepha-litisassociatedwithrelapsingpolychondritisrespondedtoin.iximabCandCmaintainedCitsCconditionCwithoutCrecur-renceCafterCdiscontinuationCNagoyaCJCMedCSciC76:361-368,C2014C***

非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じた Vogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):728.732,2024c非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じたVogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1例黒木洋平山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CACaseofVogt-Koyanagi-Harada-LikePanuveitisDuringChemoimmunotherapyforPrimaryLungCancerYoheiKuroki,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineC目的:肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)加療中に両眼に生じたCVogt-小柳-原田病(VKH)様ぶどう膜炎のC1例の経過を報告する.症例:75歳,男性.非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,ICI加療開始C4カ月後に眼痛が出現し,佐賀大学附属病院眼科に紹介となった.両眼漿液性網膜.離(SRD),脈絡膜肥厚を認め,フルオレセイン蛍光造影検査でCSRDと一致する多発点状蛍光漏出,視神経乳頭の過蛍光,インドシアニングリーン蛍光造影検査で中期から後期にCdarkspotを認めた.ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎と診断し,呼吸器内科と協議してCICIの休薬を行い,トリアムシノロン後部CTenon.下注射(STTA)のみでCSRDは消失した.経過中生じた薬剤性肺障害に対してプレドニゾロン内服をC6.5カ月行い,現在まで再発は認めていない.結論:本症例では一般的なCVKHと異なり,単回CSTTAとCICIの中止のみで眼炎症は軽快した.しかし,ICI中止の判断はむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)-likeCuveitisCthatCappearedCduringCimmuneCcheckpointinhibitor(ICI)therapyforlungcancer.CaseReport:A75-year-oldmalewasreferredtotheDepart-mentofOphthalmology,SagaUniversity,duetoocularpain4monthsafterthestartofICItherapyforlungcan-cer.CSerousCretinaldetachment(SRD)andCchoroidalCthickeningCwereCobserved.CFluoresceinCangiographyCshowedC.uorescenceCleakageCconsistentCwithCSRD.CIndocyanineCgreenCangiographyCshowedCmidCtoClateCdarkCspots.CTheCpatientCwasCdiagnosedCasCVKH-likeCuveitisCrelatedCtoCICI,CandCICICwasCdiscontinuedCafterCconsultationCwithCtheCdepartmentCofCpulmonology.CMoreover,CsubtenonCtriamcinoloneacetonide(STTA)injectionCwasCperformedCandCSRDresolved.Prednisolonewasadministeredfor6.5monthstoaddressdrug-inducedlungdisease,withnouveitisrecurrenceCobserved.CConclusion:InCthisCcase,CocularCin.ammationCwasCrelievedCviaCdiscontinuationCofCICICandCSTTAinjection.SincedecidingtodiscontinueICIiscomplex,cooperationwithotherdepartmentsisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):728.732,C2024〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,ぶどう膜炎,免疫チェックポイント阻害薬,免疫関連有害事象.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveitis,immunecheckpointinhibitor,immune-relatedadverseevents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)はCcytotoxicCTClymphocyte-associatedCantigenC4(CTLA-4),programmedCcelldeath-1(PD-1),pro-grammedCcellCdeath-ligand1(PD-L1)といった免疫チェックポイント分子を阻害し,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化し,抗腫瘍効果を発揮する薬剤である1).ICIを用いた癌免疫治療法は,日本ではC2014年に悪性黒色腫で保険適用されて以降,さまざまな癌種の治療に使用され,高い奏効率と全生存期間延長を示している2).しかし,この新しい治療法は,全身の正常な臓器で自己免疫反応を引き起こすため,さまざまな全身性の免疫〔別刷請求先〕黒木洋平:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YoheiKuroki,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC728(124)図1初診時画像所見a:右眼広角眼底写真.Cb:左眼広角眼底写真.両眼ともに脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(SRD),視神経乳頭発赤・浮腫を認めた.Cc:右眼広角CSS-OCT.Cd:左眼広角CSS-OCT.脈絡膜厚は右眼C943Cμm,左眼C964Cμmと肥厚を認めた.関連有害事象(immune-relatedCadverseevents:irAE)が40.60%で発生すると報告されている.眼科関連のCirAEは1.3%で発生し,そのなかにはドライアイ,重症筋無力症,視神経障害,ぶどう膜炎が含まれ,使用開始後数週間.数カ月以内に発生する可能性がある.既報ではもっとも一般的な副作用はドライアイ(57%)で,続いてぶどう膜炎(14%)であると報告されているが,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koy-anagi-Haradadisease:VKH)様汎ぶどう膜炎の報告例はごく少数である3,4).今回,非小細胞肺癌に対してCICI加療中に,VKH様ぶどう膜炎を生じたC1例を経験したので経過を報告する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:右眼結膜充血,右眼痛.既往歴:身体疾患の既往なし.現病歴:20XX年C1月C28日,非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,佐賀大学附属病院(以下,当院)呼吸器内科にてカルボプラチン+ペメトレキセドに加えて,ICIであるイピリムマブ(抗CCTLA-4抗体)+ニボルマブ(抗CPD-1抗体)での加療を開始された.その後,3月C12日にイピリムマブ+ニボルマブC2クール目,4月C23日にイピリムマブ+ニボルマブC3クール目を施行された.5月C27日に右眼結膜充血,右眼眼痛が出現し,5月C29日に近医眼科を受診した.頭痛,感冒症状,めまいや耳鳴りなどの症状は認めなかった.右眼の前房炎症所見,両眼眼底周辺部の脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認めたため,当院眼科へ紹介となった.初診時所見:初診時視力は右眼C0.08(0.5C×sph+2.50D),左眼C0.3(0.7C×sph+3.00D(cyl.1.75DAx90°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部所見は両眼に全周の結膜充血,浅前房化,毛様体.離を認め,右眼前房細胞2+,左眼前房細胞+であった.両眼ともに有水晶体眼であった.眼底検査では両眼に脈絡膜皺襞を伴うCSRD,視神経乳頭発赤・浮腫を認めた(図1).また,脈絡膜厚は右眼943μm,左眼C964μmであり著明な脈絡膜肥厚を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では両眼に顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では中期から後期にCdarkspotが散見された(図2).血液検査ではぶどう膜炎の原因となるような,ウイルス感染や膠原病などの所見は認めず,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)はCDR4,DR9が陽性であった.腰椎穿刺は施行しなかった.臨床経過:ICIを用いた免疫療法開始C4カ月後から眼症状が出現しており,irAEの可能性が考えられ,呼吸器内科と協議し精査もかねてCICIは初診日より休薬とした.また,ICI休薬に加えて,初診日に両眼のトリアムシノロンアセトニドC20Cmg後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)を施行した.ステロイドパルス療法,ステロイド点眼は施行しなかった.ICI休薬C2週後の矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.6であったが,両眼の前眼部炎症所見は消失し,SRDは減少していた.ICI休薬C6週後の図2初診時蛍光眼底検査a:右眼フルオレセイン蛍光検査(FA).b:左眼CFA.顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認めた.c:右眼インドシアニングリーン蛍光検査(IA).d:左眼IA.中期から後期にCdarkspotが散見された.図3治療開始後のOCT経過a:右眼初診日(免疫療法開始C16週後).b:左眼初診日.Cc:右眼休薬C2週後.Cd:左眼休薬C2週後.Ce:右眼休薬C6週後.Cf:左眼休薬C6週後.初診日より免疫チェックポイント阻害薬は休薬とし,両眼にトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射を施行.経時的にCSRDは減少し,休薬C6週後にはCSRDは消失した.矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.6で両眼ともにCSRDの消失を認めた(図3).ICI休薬C14週後にCICIに起因すると考えられる薬剤性肺障害を認め,呼吸器内科でプレドニゾロン(PSL)25Cmg/日内服が開始となった.その後,肺障害の改善に伴いCPSLは漸減され,ICI休薬C41週後にCPSL内服は終了となった.ICI休薬C1年後には夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めたが,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7まで改善した(図4).その後もステロイド点眼やCSTTAの追加は行わず,眼炎症の再燃はなく現在まで経過している.経過中に脱色素斑や毛髪の白毛化は認めなかった.肺癌については,休薬C10カ月後から原発巣の増大を認めたが,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎,薬剤性肺障害が出現しており,ICIは再開しなかった.休薬C12カ月後よりアルブミン懸濁型パクリタキセル療法を開始したが,肺内転移巣の増大を認めた.その後,全身状態が増悪したが,患者がCbestCsupportivecareを希望したため,休薬C20カ月後より在宅療法となった.図4休薬1年後の眼底写真a:右眼パノラマ眼底写真.Cb:左眼パノラマ眼底写真.Cc:右眼COCT.Cd:左眼COCT.休薬C1年後に夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めた.CII考按本報告では,非小細胞肺癌に対するCICIを用いた免疫療法中にCVKH様汎ぶどう膜炎を発症した症例を提示し,ICI中止とCSTTAのみで眼炎症が軽快したことと,その管理における複数診療科の連携の重要性について報告した.VKH様ぶどう膜炎の発症メカニズムは,いまだ不明なことが多い.ICIは,免疫反応の制御に関与する特定の分子を標的とする.CTLA-4はCT細胞の活性化を抑制する.PD-1は活性化CT細胞に発現し,そのリガンドCPD-L1は抗原提示細胞や癌細胞に発現してCPD-1と結合することで,PD-1を発現するCT細胞を抑制している.ICIはこれらの免疫抑制分子をブロックすることにより,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化する1).抗CTLA-4抗体にはCTh1様CCD4+T細胞増加作用があり4),抗CPD-1/PD-L1抗体と比較してぶどう膜炎を引き起こすリスクが高く,抗CPD-1抗体単剤療法と比較すると抗CTLA-4抗体併用療法では,ぶどう膜炎発症のオッズ比が4.77からC17.1に増加することが報告されている5).一般的にCVKHの発症機構は,自己抗原であるメラノサイト関連抗原のCtyrosinaseに感作され,活性化したCCD4+Tリンパ球が中心的な働きをしている6).ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の発症は,明確な機序は不明であるが,本症例ではICIの抗CPD-1抗体,抗CCTLA-4抗体の併用により,T細胞媒介免疫プロセスが増強されたことで,炎症惹起につながったと考えられる.また発症要因として,VKH様ぶどう膜炎でもCHLA-DR4(127)が発症に関与している可能性が示唆されている7.12).HLAは,白血球の相互作用を媒介する細胞表面分子のセットである主要組織適合性複合体をコードする遺伝子座である.HLAは免疫機能だけでなく,VKHを含む複数の自己免疫疾患の病因においても重要な役割を果たし,VKHではCHLA-DR4,とくにCHLA-DRB1と密接に関連していると報告されている6,13).本症例ではCHLA-DR4,DR9が陽性であった.また,既報でもCHLA検査を施行されたC8症例のうちC6症例でCHLA-DR4陽性の報告を認めた7.12).しかし,ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の報告は少なく,HLAとの関連は現時点では不明である.VKH様汎ぶどう膜炎の定型化された治療指針は確立されていない.一般的にCVKHではステロイドパルス療法が治療の第一選択となるが,本症例ではステロイドの免疫抑制作用によってCICIの悪性腫瘍に対する免疫応答の増強効果低下が懸念されたため,ICIの中止とともにCSTTAでの眼局所ステロイド治療を選択した.irAEとしてのぶどう膜炎に対する治療方針は米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインで,炎症所見の重症度ごとにCGrade分類されており,Gradeに応じて治療方針が異なる3).本症例は汎ぶどう膜炎を認め,CGrade3に当てはまり,ICIの休薬および眼内または眼窩内ステロイド局所投与またはCPSL内服が推奨された.経過中に薬剤性肺障害に対してCPSL内服を要したが,眼炎症の再燃は認めなかった.既報ではCVKH様汎ぶどう膜炎に対して,本症例と同様にCICIの中止およびCSTTA単独で初期治療を行ったものがC2例報告されているが,SRDの再燃またはSRD改善不良のため,ステロイドパルス療法を施行されあたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C731た7,8).しかし,VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIの中止およびステロイド内服での治療を行ったC3例の報告ではすべてで内服開始後速やかに炎症鎮静化を認め,炎症の再燃はなく,ステロイドパルス療法施行例との治療経過,視力予後に差は認めなかった9,10,14).VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIを中止しなかった症例報告では,ステロイド全身投与を行い,一時炎症軽快を認めたが,ステロイド中止後に炎症が再燃した15).本症例の経過および既報から,ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は,ICI中止に加えて適切なステロイド治療を行うことで炎症鎮静化,再発抑制が可能となる可能性が示唆された.また,ICI継続により炎症再燃を認めた症例があるため,ICIの中止はとくに重要である.ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は報告例が少なく,定型化された治療指針はないが,一般的なCVKHと比較してCICIを中止することで軽度のステロイド治療で炎症の鎮静化が得られる可能性が考えられる.しかし,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎と一般的なCVKHの臨床所見に明確な差異が認められなかったとの報告があるため7.12,14,15),irAEと関連がなく一般的なCVKHを偶発的に発症している可能性も考慮しておく必要がある.そのためCICI中止後も眼炎症の改善が得られない場合は,一般的なCVKHと同様にステロイドパルス療法の検討も必要と考えられる.さらに,ASCOガイドラインではCGrade3以上のぶどう膜炎でステロイド全身投与に反応が乏しい場合はメトトレキサート(MTX)の使用を推奨されているが3),VKH様ぶどう膜炎に対してCMTXでの加療を行われた報告は認めておらず,その有効性は明らかではない.CIII結論ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の治療では,ICIの中止が重要である.しかし,眼科医のみでCICIの中止の判断を行うことはむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.また,通常のCVKHと比較して軽度のステロイド治療で炎症が沈静化する可能性があり,今後の症例の蓄積および治療法の定型化が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HeCX,CXuC:ImmuneCcheckpointCsignalingCandCcancerCimmunotherapy.CellResC30:660-669,C20202)各務博:免疫チェックポイント阻害薬の現状と展望.肺癌C59:217-223,C20193)SchneiderCBJ,CNaidooCJ,CSantomassoCBDCetal:Manage-mentofimmune-relatedadverseeventsinpatientstreat-edCwithCimmuneCcheckpointCinhibitortherapy:ASCOCGuidelineUpdate.JClinOncolC39:4073-4126,C20214)WeiCSC,CLevineCJH,CCogdillCAPCetal:DistinctCcellularCmechanismsunderlieanti-CTLA-4andanti-PD-1check-pointblockade.CellC170:1120-1133,C20175)BomzeCD,CMeirsonCT,CHasanCAliCOCetal:OcularCadverseCeventsCinducedCbyCimmuneCcheckpointinhibitors:aCcom-prehensiveCpharmacovigilanceCanalysis.COculCImmunolCIn.ammC30:191-197,C20226)望月學:眼内炎症と恒常性維持.日眼会誌C113:344-378,C20097)KikuchiCR,CKawagoeCT,CHottaK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCfollowingCnivolumabCadministrationCtreatedCwithCsteroidCpulsetherapy:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:252,C20208)MinamiK,EgawaM,KajitaKetal:AcaseofVogt-Koy-anagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCinducedCbyCnivolumabCandCipilimumabCcombinationCtherapy.CCaseCRepCOphthal-molC12:952-960,C20219)EnomotoCH,CKatoCK,CSugawaraCACetal:CaseCwithCmeta-staticCcutaneousCmalignantCmelanomaCthatCdevelopedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCuveitisCfollowingCpembroli-zumabtreatment.DocOphthalmolC142:353-360,C202110)YoshidaCS,CShiraishiCK,CMitoCTCetal:Vogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCinducedCbyCimmuneCcheckpointCinhibitorsinapatientwithmelanoma.ClinExpDermatolC45:908-911,C202011)UshioCR,CYamamotoCM,CMiyasakaCACetal:Nivolumab-inducedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCandCadre-nocorticalCinsu.ciencyCwithClong-termCsurvivalCinCaCpatientCwithCnon-small-cellClungCcancer.CInternCMedC60:C3593-3598,C202112)BricoutCM,CPetreCA,CAmini-AdleCMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likesyndromecomplicatingpembrolizumabtreatmentCforCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC40:C77-82,C201713)ShiinaCT,CInokoCH,CKulskiJK:AnCupdateCofCtheCHLACgenomicCregion,ClocusCinformationCandCdiseaseCassocia-tions:2004.TissueAntigensC64:631-649,C200414)GodseCR,CMcgettiganCS,CSchuchterCLMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likeCsyndromeCinCtheCsettingCofCcombinedCanti-PD1/anti-CTLA4Ctherapy.CClinCExpCDermatolC46:C1111-1112,C202115)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor)C,CforCmetastaticCcutaneousCmalignantCmelanoma.CClinCCaseRepC5:694-700,C2017***

軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった 侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):722.727,2024c軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1例山下翔太*1,2佐々由季生*3永浜布美子*3飯野忠史*4江内田寛*2*1独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科*2佐賀大学医学部眼科学講座*3地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館眼科*4地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館血液内科CACaseofOrbitalApexSyndromeCausedbyInvasiveAspergillosiswithaGoodClinicalCourseaftertheDiagnosisofaSlightVisualFieldDefectShotaYamashita1,2),YukioSassa3),FumikoNagahama3),TadafumiIino3)andHiroshiEnaida2)1)DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Saga-kenMedicalcentreKoseikan,4)DepartmentofHematology,Saga-kenMedicalcentreKoseikanC目的:軽微な視野障害を契機に副鼻腔侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端症候群の診断に至り,良好な転機が得られたC1例を経験したので報告する.症例:58歳,女性.急性骨髄性白血病に対する寛解導入後の地固め療法で入院中,発熱に続き左歯痛,左.部疼痛・知覚鈍麻が出現.霧視も出現したため,眼科へ紹介となった.初診時の矯正視力は両眼ともC1.0と良好だったが,静的視野検査では左眼に傍中心暗点を認めた.画像上は副鼻腔炎を認め,抗真菌薬加療を行われていたが,数日で視力・視野障害が進行.再検したCMRIで側頭葉への炎症波及を認め,深在性真菌症疑いで内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,摘出組織からアスペルギルス症の診断となった.術後は視力・視野は速やかに改善,2年以上経過後も生存し,視力と視野は維持されている.結論:免疫不全患者で急速に進行する視力障害では侵襲性副鼻腔真菌症を考慮し,早期の診断治療につなげることが予後に重要である.CPurpose:Toreportacaseinwhichaslightvisual.elddefectwasobservedastheearlysymptomofinvasiveaspergillosis,alife-threateninginfectioninimmunocompromisedhosts.CaseReport:A58-year-oldfemalepatientwasadmittedtotreatacutemyeloidleukemia.Shehadfeverfollowedbybuccalpainandparesthesiaonherleftside,andat20-dayspostfever,visualdiscomfortoccurred.Althoughasmallparacentralscotomawasdetectedinherlefteye,hervisualacuity(VA)was20/20.MagneticresonanceimagingandserologicalexaminationsrevealedsinusitisCwithCanCaspergillosisCantigenemia.CDespiteCpharmaceuticalCtreatments,CherCleft-eyeCVACwasCa.ectedCinCaCcoupleCofCdays.CEndoscopicCparanasalCsurgeryCwasCimmediatelyCperformed,CandCherCVACandCvisualC.eldCimprovedCwithin1-weekpostsurgeryandhasbeenmaintainedfor2years.Conclusion:Aninvasivefungalinfectionshouldbeconsideredinimmunocompromisedpatientswithrapidlyprogressivevisualimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):722.727,C2024〕Keywords:副鼻腔侵襲性アスペルギルス症,侵襲性真菌症,眼窩先端症候群急性骨髄性白血病,傍中心暗点.in-vasiveaspergillosis,invasivefungaldisease,orbitalapexsyndrome,acutemyeloidleukemia(AML),paracentralCscotoma.Cはじめにある.診断にはCCTやCMRIなどの画像検査が有用だが,真侵襲性アスペルギルス症はアスペルギルス症のうち組織浸菌性副鼻腔炎に特有の石灰化などの特徴的所見がみられない潤を伴う急速進行性の病型とされる1).肺アスペルギルス症場合もあり,画像のみでは確定診断に至らない場合もある.がもっとも一般的だが,副鼻腔や皮膚病変から始まる場合も副鼻腔侵襲性アスペルギルス症の症状として,一般的には〔別刷請求先〕山下翔太:〒843-0393佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿甲C4279-3独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科Reprintrequests:ShotaYamashita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,4279-3Shimojuku-kou,Ureshinomachi,Ureshino,Saga843-0393,JAPANC722(118)悪臭のある鼻漏や.部痛,.部腫脹を初発とすることが多く,病変が眼窩内へ進展すると眼窩周囲の疼痛や視機能障害を生じる2).さらに頭蓋内に進展すると種々の脳神経障害や脳梗塞,意識障害などを起こす.診断が遅れると死に至る疾患であり,血液悪性疾患やステロイドの長期内服,糖尿病など免疫不全患者において発症のリスクが高い1,2).一方,眼窩先端症候群は感染症,腫瘍,外傷などさまざまな要因で生じ,視神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,外転神経の機能障害をきたす.視力低下・複視・眼球突出や眼瞼下垂などの症状を呈する3).その症状から,早期より眼窩先端症候群を考慮する症例はあるものの原因が多彩であり,とくに侵襲性アスペルギルス症によるものはまれなため,診断に難渋した症例や,治療が行われ救命につながった場合でも失明に至った症例が散見される4).今回,筆者らは軽微な視野異常を契機に,副鼻腔侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の診断に至り,外科的治療と抗真菌薬治療で生命予後のみならず,視機能の面でも良好な転機を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:胃潰瘍,急性骨髄性白血病.現病歴:急性骨髄性白血病に対して寛解導入後の地固め療法目的にC20XX年C7月C16日に血液内科に入院となった.血球減少期に発熱があり,セフェピムやメロペネムなどの抗菌薬治療が開始された.発熱C4日後から左歯痛,左.部知覚鈍麻が出現した.血液検査でCbDグルカンは陰性で,追加で評価されたアスペルギルス抗原は陽性であったが,感染巣は不明であった.発熱の原因としてアスペルギルス感染症が予想され,発熱C7日後からCCPFG(カスポファンギン)50mg/dayの投与を開始した.その後も症状は改善に乏しく,発熱11日目から鼻閉,霧視が出現したため精査目的で当科へ紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼(1.0×+2.25D),左眼(1.0C×+1.50D).眼圧は右眼C11mmHg,左眼C16mmHg.眼位・眼球運動に明らかな異常所見はなく,相対性求心性瞳孔反応欠損は左眼でわずかに陽性であった.フリッカ値は左眼で15CHz前後に低下していた.前眼部,中間透光体,眼底には白内障以外に特記所見を認めなかった(図1a,b).静的視野検査(Humphrey視野計:HFA)では左内下方に傍中心暗点を認めた(図1c).視野異常の原因検索目的で頭部CCT・眼窩部CMRIが評価され,CTでは左上顎洞・左篩骨洞に粘膜肥厚を認め,MRIでも副鼻腔炎を疑う粘膜肥厚と左下直筋の肥厚を認めたが,真菌症を示す石灰化などの特異的な所見は認めなかった(図2a,b).1週間後の再診時の左眼の視力は(0.2×+2.50D)と著明な低下を認め,眼底には大きな変化はみられなかったがCHFAでは中心C30°に広く拡大した視野障害を認めた(図3).頭部CMRIを再検したところ,左側頭葉に炎症の波及がみられた(図4a).深在性副鼻腔真菌症を疑い,再来C2日後,耳鼻科で内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,病理結果から侵襲性アスペルギルス症の診断となった(図4b).術後はCCPFGの投与が継続されていたが,画像所見では改善に乏しく,副鼻腔手術C1週間後よりアムホテリシンCB100Cmg/日の点滴に変更となった.同時期に当科を再来した際は,左眼視力はC0.3(0.8×+1.50D)まで改善しており,視野検査でも明らかな改善を認めた(図5a).その後は症状の増悪などなく経過していたが,副鼻腔手術C1カ月後より左の眼瞼下垂が出現した.その後のCMRIで左の海綿静脈洞部に感染性動脈瘤が疑われ,脳神経外科にて左浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス+左内頸動脈遮断術が施行された.術後C6日目からけいれん,見当識障害・発語障害が出現し,保存的加療でC10日目までにけいれん,見当識障害は改善したものの失語症は残存した.全身状態の悪化のために眼科受診は中断されていたが,約2年後の再来時には,左眼視力はC0.3(1.2CpC×sph+1.75D(cyl.0.50DAx40°)と良好で,HFAもほぼ正常であった(図5b).CII考察本症例は発熱と.部から側頭部の疼痛および知覚鈍麻に続き,急激な視力低下・視野障害を生じ,診断に至った侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端部症候群である.良好な生命予後,視機能維持が得られた要因について,既報を参照しながら検討した.真菌感染症の早期の診断のため,非侵襲的であり広く行われているのが生化学検査である.Cb-Dグルカンが一般的には使用されるが,侵襲性アスペルギルス症においては陽性率がC77%との報告があり,診断に至らない場合もある5).一方で,好中球減少患者における侵襲性真菌症では,発熱に続くもっとも早期の検査所見としてCb-Dグルカンの有用性をあげているものもみられる6).同報告では,侵襲性真菌症の診断がつくまでの日数の中央値がC7.5日であったのに対し,Cb-Dグルカンは発熱から中央値C0.5日,CT上の変化は中央値C4日で陽性となっていた6).また,血清アスペルギルス抗原も広く使用されており,侵襲性アスペルギルス症において感度C71%,特異度C89%と良好な成績であったとの報告もある7).さらに感度を高めるため両者の併用を推奨する論文もみられ,今回の症例でも両者を併用しており,Cb-Dグルカンは陰性であったもののアスペルギルス抗原が陽性であったため,早期の抗真菌薬投与を行っている8).CTを用いた診断の有効性について検討した論文では,侵abc左眼右眼図1初診時検査所見(20XX/8/7)Ca:眼底写真.眼底には視神経乳頭を含め明らかな異常所見を認めなかった.Cb:光干渉断層写真(OCT).左眼の内下方にわずかな神経線維層の菲薄化を認める以外に大きな変化はみられなかった.Cc:HFA.右眼はほぼ正常所見であったが,左眼に傍中心暗点を認めた.襲性真菌性副鼻腔炎と診断のついた患者C43人のうち,11.6腔内視鏡での観察を行い,感染が疑わしい際は生検まで施行%の症例ではCCTでまったく副鼻腔所見がなく,39.5%ではし,早期に診断をつける方法の有用性を示している.この方軽微な変化にとどまり,真菌感染症に特異的な石灰化像の所法で,同施設における生命予後は約C50.69.8%まで改善し見もなかったとされており,CTのみでは診断がむずかしいたとされているが,これほどの密な対応を行っても罹患後のことを示している9).同報告では易感染性のある患者で発熱生命予後はC70%に届かず,この疾患の生命予後の悪さが伺や.部痛などがみられた場合は全例でC24.48時間ごとの鼻える9).ab図2頭部CT,MRI所見(20XX/8/8)Ca:頭部CCT画像.眼科初診後に施行した頭部CCTでは,左上顎洞,左篩骨洞に粘膜肥厚を認めたが,石灰化の所見などはみられなかった.Cb:頭部CMRI画像.同日施行した頭部CMRIでも副鼻腔炎を疑う左副鼻腔の粘膜肥厚や左下直筋の肥厚を認める程度であった.侵襲性副鼻腔真菌症の生命予後に関連する因子として,Monroeらは頭蓋内進展の有無をあげているが,年齢や免疫不全の原因疾患は有意差がなかった10).Piromchaiらは急性侵襲性副鼻腔真菌症C59例の解析において,症状出現から治療開始までの期間が予後に関連していた(p=0.045)としており,とくにC14日以内の生存確率の減少が著しいことから,14日を良好な生命予後のための治療開始のカットオフポイントとしている11).また,Turnerらは急性侵襲性真菌症として報告されたC398症例で多変量解析を行った結果として,年齢が高く(OR:1.018,p=0.005),頭蓋内への波及(OR:1.892,p=0.03)がある患者で予後が不良であった12).この解析で扱った患者のC2割は何らかの眼窩部への進展の症状を認めていたが,直接的な生命予後とは結びついておらず,眼図3再診時HFA所見(20XX/8/13)初診からC6日後には,中心C30°まで広汎に視野障害が進行していた.図4頭部MRI再検時の所見および病理検査所見a:頭部CMRI画像.視野障害進行後(20XX/8/13)に再検された際には,左側頭葉に炎症の波及がみられた.Cb:病理所見.手術時に左蝶形骨洞より摘出された病変からは壊死組織とともにアスペルギルスを疑う真菌が認められ,侵襲性アスペルギルス症の診断となった.ab図5:耳鼻科手術2週後および2年後の左眼HFA所見a:耳鼻科手術C2週後に施行したCHFA所見.視野障害は著明に改善していた.b:2年後に再来となった際のCHFA所見.視野障害は改善を維持していた.窩部への進展を認めた場合でも,眼球摘出および眼窩内容除去術を行うかどうかは,状況を見きわめる必要がある12).一方で副鼻腔手術(OR:0.357,p=0.02)は生命予後を改善し,内視鏡を用いた手術(OR:0.486,p=0.005)でも改善効果が統計学的に示されている12).侵襲性副鼻腔真菌症と診断されたC55症例の解析では,45%に眼筋麻痺,36%に視力低下,33%に眼球突出を認めたと報告されており,眼症状の頻度は高い13).そのうち診断初期に視力評価を行えたC34例C68眼において,16眼(24%)は光覚なしであった.また,最終的な視力評価を行えたC32例61眼ではC18眼(30%)で光覚なし(眼球内容除去・眼球摘出を行ったC9例を含む),8眼(13%)で矯正視力C0.3以下であったと報告されており,実に半数近くの症例で視力に強い悪影響を及ぼしていた13).視力予後良好因子を解析した報告は少ないが,Hirabayashiらは内視鏡下副鼻腔手術を受けた患者は受けられなかった患者と比較し,logMAR視力で平均C7.8ライン視力がよかったと報告しており,手術は視機能維持にも有用と考えられる13).しかし,症状出現から手術までの期間については言及されておらず,視機能に対する早期手術療法の有用性については,さらなる解析が待たれる.筆者らの経験した症例では,副鼻腔感染を疑わせる歯痛,頭痛の出現からC3日,.部疼痛,知覚鈍麻出現からC1日でCPFGの投与が開始されており,そのC13日後に手術となっている.眼症状を契機とした場合には,軽微な視野障害が判明してからはC8日,視野障害が進行し視力がC0.2まで悪化してからはC2日で手術と速やかに対応できた.一方で,前述のように綿密に副鼻腔内視鏡検査を行う場合でも診断に難渋したとの報告もある.今回の症例は眼窩先端部への侵襲により自覚症状が出現しやすく,真菌抗原血症の感染源同定にもつながり,病巣コントロールとしての内視鏡下副鼻腔手術を早期に施行できたため,頭蓋内進展があったにもかかわらず良好な生命予後および視力予後を得られたものと考えられる.侵襲性副鼻腔真菌症は予後不良な疾患であり,眼窩先端症候群を生じた場合は視機能維持も困難な症例が多い.眼症状の頻度が高い疾患であり,眼科が初診となる場合もあるため,病期や進展部位によって症状が多彩であることを理解し,とくに免疫不全の病歴のある患者において,自覚症状がある場合には視力がよくても視野検査,フリッカ視野計測などまで行って視神経への影響を検索することが疾患を見落とさないC1つのポイントと思われる.そして他科と協力し早期の診断・治療につなげることが生命予後のみならず視機能維持のためにも非常に重要である.文献1)ChakrabartiCA,CDenningCDW,CFergusonCBJCetal:Fungalrhinosinusitis:aCcategorizationCandCde.nitionalCschemaCaddressingCcurrentCcontroversies.CLaryngoscopeC119:C1809-1818,C20092)大國毅,朝倉光司,本間朝ほか:副鼻腔真菌症症例の検討.耳鼻臨床101:21-28,C20083)YehCS,CForoozanR:OrbitalCapexCsyndrome.CCurrCOpinCOphthalmolC15:490-498,C20044)越塚慶一,花澤豊行,中村寛子ほか:眼窩先端症候群を伴った浸潤型副鼻腔真菌症のC2症例.頭頸部外科C25:325-332,C20155)KarageorgopoulosCDE,CVouloumanouCEK,CNtzioraCFCetal:b-D-glucanassayforthediagnosisofinvasivefungalinfections:aCmeta-analysis.CClinCInfectCDisC52:750-770,C20116)SennL,RobinsonJO,SchmidtSetal:1,3-Beta-D-glucanantigenemiaCforCearlyCdiagnosisCofCinvasiveCfungalCinfec-tionsCinCneutropenicCpatientsCwithCacuteCleukemia.CClinCInfectDisC46:878-885,C20087)Pfei.erCCD,CFineCJP,CSafdarN:DiagnosisCofCinvasiveCaspergillosisusingagalactomannanassay:ameta-analy-sis.ClinInfectDisC42:1417-1427,C20068)DichtlCK,CForsterCJ,COrmannsCSCetal:ComparisonCofCb-D-glucanandgalactomannaninserumfordetectionofinvasiveaspergillosis:retrospectiveCanalysisCwithCfocusConearlydiagnosis.JFungi(Basel)C6:253,C20209)SilveiraCMLC,CAnselmo-LimaCWT,CFariaCFMCetal:CImpactofearlydetectionofacuteinvasivefungalrhinosi-nusitisCinCimmunocompromisedCpatients.CBMCCInfectCDisC19:310,C201910)MonroeMM,McLeanM,SautterNetal:Invasivefungalrhinosinusitis:aC15-yearCexperienceCwithC29Cpatients.CLaryngoscopeC123:1583-1587,C201311)PiromchaiCP,CThanaviratananichS:ImpactCofCtreatmentCtimeConCtheCsurvivalCofCpatientsCsu.eringCfromCinvasiveCfungalCrhinosinusitis.CClinCMedCInsightsCEarCNoseCThroatC7:31-34,C201412)TurnerJH,SoudryE,NayakJVetal:SurvivaloutcomesinCacuteCinvasiveCfungalsinusitis:aCsystematicCreviewCandquantitativesynthesisofpublishedevidence.Laryngo-scopeC123:1112-1118,C201313)HirabayashiKE,IdowuOO,Kalin-HajduEetal:Invasivefungalsinusitis:riskCfactorsCforCvisualCacuityCoutcomesCandCmortality.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:535-542,C2019C***

眼底イメージングの進化─さらによく見える─

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科41(6):717.721,2024c眼底イメージングの進化─さらによく見える─松井良諭三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学,中部眼科CTheEvolutionofFundusImagingYoshitsuguMatsuiCDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,ChubueyeclinicCはじめに眼底写真や光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)がわれわれに提供してくれる情報は現在の眼科臨床および研究に欠かすことができない.とくに,この十数年において,これらの眼底画像を巡る撮影装置のテクノロジーの進歩は著しい.観察対象の拡大が起こり,網膜を中心にその前後の硝子体や脈絡膜の画像化が容易になり,撮影の侵襲性も低下し,さらに生成される画像がもたらす情報の粒度は加速度的に増大している.その恩恵として,患者の診断精度の向上,治療成績の改善につながっている.本稿では,①CWide.eldCFundusImaging,②COCT,③CArti.cialIntelligence(AI)inCFundusImagingのC3つのポイントに着目し,これらのテクノロジーの進歩と今後の発展について述べたい.CIWide.eldFundusImaging眼底から情報を得る営みは,1851年に直像鏡を開発したCvonHelmholtzにより始まり,その後,1886年に眼底撮影が可能となり,1926年にCZeiss社から市販機の眼底カメラが登場した.その後,1枚の撮影範囲はC35.60°程度のものとなった.眼底全体の広さに対して限られた範囲であったが,視神経や黄斑を中心とした後極を記録可能な画角は非常に有用であった.2011年に超広角走査型レーザー検眼鏡のCOptos200Txが市販され,検眼鏡は網膜全体を見る機械へと進化した.眼球中心からC1画像でC200°の画像を取得可能となり,焦点深度が非常に深く,周辺の病変の記録が容易となった.しかし,Optos画像の色調は赤と緑のレーザーで取得した走査レーザー検眼鏡(scanningClaserophthalmoscope:SLO)画像を合成する.このため,通常の眼底カメラから青成分を除いた緑色の強い擬似カラー画像であり,網膜表面の微細な病変の観察には不十分であった.この色調に対する改善を光源の変更により実現したCTruecolorの超広角検眼鏡装置が登場した.まず,CRALUSC500.は,走査型レーザー検眼鏡で光源は赤色CLED,緑色LED,短波長の青色CLEDのC3色を用いてカラー画像を作成するため,網膜の深層から表面までさまざまのレイヤーの病変の描出が可能となり,検眼鏡でじかに眼底を観察した際に認識する眼底に近い色調の画像が得られる.また,解像度が7Cμmと高く,画像取得後に画像拡大による微小変化の観察評価が可能となった.なお,撮影範囲はC2画像の自動モンタージュにより,眼球中心C200°の撮影が可能であり,共焦点技術により周辺部のアーチファクトも除外可能となった.Optosと比較して,それぞれの画像中心が異なる点と周辺部の焦点深度の差からCCRALUSは鼻側の周辺部評価がより広いことが判明している(図1)1).つぎに,EidonはC3画像の自動モンタージュにて最大C163°の画角を完全に自動撮影で得られる.そして,Miranteは眼球中心から最大C270°のモンタージュ画像を取得可能であり,血管造影,眼底自発蛍光,OCTやCOCTCangiography(OCTA)も可能な複合機である.これらの新たな検眼鏡装置の出現から考えられる今後の進化の方向性として,画像の高解像度化,撮影の自動化,広角化,多機能化にあると思われる.CIIOCT眼底写真の情報は二次元の網膜情報であるが,OCT画像は微細な三次元の網膜情報をわれわれに与え,病状,病態および治療効果の評価において欠かすことができない検査装置である.1980年代にCFujimotoらがフェムトセカンドレーザーで得た知見と短コーヒレンス長干渉の技術を組み合わせて,反射率の低い網膜からの反射光の測定に成功したことに〔別刷請求先〕松井良諭:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学Reprintrequests:YoshitsuguMatsui,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie514-8507,JAPANC図1OptosとCRALUSの画質,周辺部の比較aはCLARUS500の200°画像(Ultra-Wide),bはCOptosC200TxのC200°画像.ともに眼球中心のC200°の範囲であるが,周辺部の血管視認性をみるとCCLARUSはアーチファクトが少なく,また,画像の中心が黄斑鼻側にあることもあり,鼻側の周辺部がCOptosより広いことがわかる.色調はCCRALUSが通常の眼底検査のときと同じ,自然な色調であり,網膜表面の視認性が高い.端を発し,1996年にCZeiss社から市販機のCOCT装置が販売された2).その後,時間分解能と空間分解能の改善があり,臨床での利活用にてCOCT画像の網膜形態と視機能の関係の理解が深まった.とくに網膜外層の高輝度反射帯の形態は視機能を反映しており,その連続性に着目する定性的な評価は臨床で非常に有用である.スペクトラルドメイン干渉光干渉断層計(SD-OCT)の深さ解像度は高いが,7Cμ程度の装置ではCinterdigi-tationzone(IZ)の反射帯は正常者においての検出率はC88.96%程度の検出率となる3).このため,黄斑ジストロフィの一種の三宅病や急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)complexの初期の変化としてのCIZの反射帯の連続性の変化を評価する際には注意が必要である.そこでCKOWA社製の超高解像度CSD-OCTは解像度がC2Cμを使用した知見を共有する.この画像では,7Cμ程度の装置と比較して網膜の各層の境界が明瞭となり,IZも鮮明となる(図2a,b).それぞれの装置における網膜外層の輝度値のプロファイルでは,高解像度画像ではCellip-soidzone(EZ)やCIZのプロファイルの高さに変化はないが,それらのピークは細く,また,それらの間の谷の部分も深かった(図2c,d).この結果,主観的にも評価困難なCIZの視認性は改善することが判明した4).この一例から,見えるという主観は装置の解像度による限界がある点に留意する必要があること,そして,解像度の進化により,疾患眼を含めて網膜各層のアライメント評価はさらに改善する可能性があると思われる.また,画像鮮明化技術も進歩している.画像鮮明化装置のMIErは,撮影されたデジタル画像のC1画素単位に対して解析を行い,注目画素の周囲の明度分布から近傍のダイナミックレンジを求め,ダイナミックレンジが最大になる明度を算出する技術である.この装置の応用はすべてのデジタル画像,さらには動画への適応が可能である.OCT画像へのMIErの応用について,筆者らは黄斑円孔(macularhole:MH)のCOCT画像に対して,この画像鮮明化技術を適用した.MHでは円孔周囲の網膜内液の貯留により,その後方の組織からの反射が減弱し網膜外層の状態評価が困難となる.この装置の使用により,外境界膜-網膜色素上皮間の面積とCphotoreceptorCoutersegment(PROS)面積ともに鮮明化後にともに有意に増大することが判明した(図3,4).不鮮明なCOCT画像から評価困難な長さや面積などのベクトル情報を抽出する方法として,この技術の可能性を感じる結果であった.CIIIAIinFundusImaging前述のように検眼鏡とCOCTは現在も進歩の途上にあり,画像装置が得た情報量と複雑性が増大している.これらの画像情報は臨床医が読影をしてこそ臨床的な価値をもつが,それらの解釈に要するコストの増大は,日々の診療における時間の有限性から困難な課題となりうる.そこで,膨大な眼底情報を最適に利活用するために,AI技術への期待が高まっている.第三次CAIブームの到来により,医療分野でもCAIを用いた研究や技術開発が盛り上がっており,①物体検出による注目領域を示唆するカメラの登場,②領域抽出で病勢を判断するアルゴリズムの登場,③臨床予後予測,これらへのCAIの応用が期待されている.筆者らは網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)の黄斑浮腫への抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthfactor:VEGF)治療の維持治療前のOCT画像情報と患者情報から,維持治療期間の経時的な視機能が良好な群と,その他を分類する課題に取り組み,その図2SD-OCTの比較aは深さ分解能が7μmのSPECTRALISのhighCresolutionmodeのSD-OCT画像,CbはC2μmのCbi-μのSD-OCT画像.CcはCSPECTRALISの網膜外層の輝度値のプロファイル,CdはCbi-μの網膜外層の輝度値のプロファイル.accuracyはC80%で可能であることを報告した5).その経験から機械学習を用いて予後予測をするうえで重要な二つの点について説明する.1点目は,AIアライメントを考慮する点である.AIアライメントとは,AIシステムを利用者である人間の意図する目的や嗜好に合致させるとこを目的とする研究領域である.臨床予後予測においては,患者の治療意思決定を支援し,かつ治療モチベーションの向上に寄与するモデルデザインが重要と考え,実験では予後良好群に高適合し,予後不良群への適合率は低くても許容するモデル設計を行った.その結果,予測モデルが予後良好と予測した場合,「この場合,ほぼ確実に回復するので頑張って治療していきましょう」と励ますことが可能となる.一方で,予測モデルが予後不良と予測した場合,「この場合,40%の確率で外れるかもしれません.頑張ってみませんか?」と治療を促すこと,あるいは今回の実験データで用いたC1+prorenata(PRN)の治療アルゴリズム以上の強度の治療を提案することも可能となる.2点目はモデルの予測結果への説明可能性の重要性である.臨床予測が信頼可能となるかは,その説明可能性に依存する.すでにCBRVOの黄斑浮腫への抗CVEGF治療における予後因子について,多くの特徴量が報告されている.しかし,それらを統合して個別の患者の予測をすることはむずかしい.そこで,ShapleyCAdditiveexPlanations(SHAP)値を利用することで,予測に貢献した特徴量の交互作用も包含図3画像鮮明化技術aは鮮明化処理前のCOCT画像,Cbは鮮明化処理後のCOCT画像.した評価を行った.SHAP値とはゲーム理論に由来するShapley値の概念を基にしており,機械学習モデルの解釈可能性を高めるための一手法で,複雑なモデルが出力する予測に対して,入力特徴がどれだけ影響を与えたのかを定量的に評価することが可能である.モデル情報として,解析対象の各患者の各説明変数の値とCSHAP値をCbeeswarmplotで視覚化し,説明変数ごとの予測への貢献の大きさと方向を明示2,500外境界膜-網膜色鮮明化前vs鮮明化後素上皮間の画素数1,400PROS鮮明化前の画素数vs鮮明化後2,0001,2001,000鮮明化後1,5001,000鮮明化後800600500400200005001,000鮮明1,500化前02,0002,5000200400600鮮明8001,0001,2001,400化前図4画像鮮明化技術網膜外層における外境界膜から網膜色素上皮層の間の画素数の鮮明化前後の分布とCPROSの画素数の鮮明化前後の分布.ともに鮮明化前後において,検定で有意差を認めた(p<0.01).横軸と縦軸の単位はpixel.CHigh浮腫消失時logMAR視力ELMの輝度値治療前logMAR視力年齢左右病型EZの輝度値性別ELMの輝度値_org発症から治療までの期間視細胞面積EZの輝度値_orgEZの連続性ELMの連続性治療~浮腫消失の期間病変位置(上下)不良群のほうに寄与良好群のほうに寄与FeaturevalueLow-6-4-202SHAPvalue(impactonmodeloutput)図5Beeswarmplot各説明変数の値が低いものは青で,高いものは赤でドットの色調で表現し,説明変数のCSHAP値の横軸の分布が大きいものが上位にある.この場合,浮腫消失時のClogMAR視力がもっとも予測に大きく貢献していること,そして,相関の方向がわかる.した(図5).さらに,患者個人への予測過程をCwaterfall報とするための眼底画像はめざましい進化を遂げている.眼plotで視覚化した(図6).このように詳細なモデルの説明底カメラやCOCTの進化の方向として,広角化,高解像度化,可能性により,臨床予後予測が患者の臨床意思決定システム自動化,リアルな色調の再現,複合化が進んでいる.また,の補助となる可能性を感じている.その画像のベクトル情報を増加させる画像鮮明化技術が登場している.そして,眼底からの情報は,「より見える」環境まとめにおいて情報過多ともなり,AIの利活用がこの課題への解眼底から情報を得ることはC1851年のCHelmholtzの眼底観決となる可能性がある.AIシステムの臨床導入には,シス察に起源があり,主観的な眼底検査からそれらを客観的な情テムデザインや説明可能性など配慮すべき点がある.図6Waterfallplotaはある症例の予測過程を視覚化したCwaterfallplot.訓練データの平均値のベースレートから最終的な出力までの,各説明変数のCSHAP値の貢献がわかる.Cbはその出力を分類閾値と比較する過程を示す.この場合は,ベースレートのC.2.595から説明変数のCSHAP値から出力がC.3.708となり,シグモイド関数に代入後に分類閾値のC0.639未満であったため,最終的に予後不良と分類された.文献1)MatsuiCY,CIchioCA,CSugawaraCACetal:ComparisonsCofCe.ectiveC.eldsCofCtwoCultra-wide.eldCophthalmoscopes,COptos200TxandClarus500.BioMedResInt:20192)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCatal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19913)Terasaki,CH,CShirasawaCM,CYamashitaCTCetal:Compari-sonCofCfovealCmicrostructureCimagingCwithCdi.erentCspec-traldomainopticalcoherencetomographymachines.Oph-thalmologyC119:2319-2327,C20124)MatsuiCY,CKondoCM,CUchiyamaCECetal:NewCclinicalCultrahigh-resolutionCSD-OCTCusingCA-scanCmatchingCalgorithm.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:255-263,C20195)MatsuiCY,CImamuraCK,COokaCMCetal:Classi.cationCofCgoodvisualacuityovertimeinpatientswithbranchreti-nalveinocclusionwithmacularedemausingsupportvec-torCmachine.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC260:C1501-1508,C2022C***

視野ケースカンファレンス~この視野,なんだゃあも: 網膜編Part 1 「ASPPC とAAOR」

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科41(6):713.716,2024c視野ケースカンファレンス~この視野,なんだゃあも:網膜編Part1「ASPPCとAAOR」國吉一樹近畿大学医学部眼科学教室Visual-FieldGrandRound:AcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisandAcuteAnnularOuterRetinopathyKazukiKuniyoshiCDepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicineCはじめに近年,わが国では梅毒感染の届け出数が急増している1).それに伴って梅毒による眼炎症(眼梅毒)も増加していると考えられる.眼梅毒には先天梅毒と後天梅毒に伴うものがあり,先天梅毒には,角膜実質炎,内耳難聴,Hutchinsonの歯(三徴候),後天梅毒には,網膜の滲出斑や出血を伴う網膜脈絡膜炎,虹彩炎,強膜炎,視神経炎などがよく知られている.しかし近年,後天梅毒に伴う梅毒性網膜外層症(syph-iliticCouterretinopathy)2)やCacuteCsyphiliticCposteriorCplac-oidchorioretinitis(ASPPC)3)が報告されており,いずれも眼底所見からは梅毒の感染を想起しにくい.本稿ではそのなかで,ASPPCと,それに類似した眼底所見を呈するCacuteCannularouterretinopathy(AAOR)3)の症例を提示し,その鑑別ポイントと治療方針について解説する.CI症例[症例1]ASPPC(図1,2)57歳,男性.初診の半年前から左眼に「何か違和感があった」という.初診のC1週間前から左眼の視力が急に落ち,「左眼視野の中央部が真っ暗」ということであった.初診時,左眼眼底の視神経乳頭から黄斑部,上方の血管アーケード付近にかけて円形の白濁病変が認められた(図1,2).右眼眼底は正常であった.初診時視力は,右眼C0.05(1.5C×sphC.6.0D(cyl.1.5DAx15o),左眼C0.02(0.05C×sph.2.75D(cyl.1.5DAx155o)であった.病変部は眼底自発蛍光検査では過蛍光を示し,フルオレセイン蛍光造影検査では網膜血管からの蛍光漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では後期像で低蛍光を示した(図1).Goldmann視野計による動的視野では大きな中心暗点を認めた(図2).光干渉断層計検査(opticalCcoherencetomography:OCT)では硝子体中に炎症性細胞を認め,網膜色素上皮のラインは不整で,多数の隆起を認めた(図2矢印).初診C1週後には左眼眼底の円形病巣はやや広がったものの淡くなり,左眼矯正視力は(0.2)まで改善した(図2).本人も「視野の暗点がうすくなってきた」というので,無投薬で経過観察することとした.その結果,左眼眼底の円形病巣は次第に不明瞭となり,初診C2カ月後には左眼の矯正視力は(0.9)に改善し,OCTではCellipsoidzoneが回復してきた(図2小矢印).この時点で全身検査を施行したところ,RPRはC137.89CR.U.(正常値:1CR.U.未満),TPHAはC40,960倍(正常値:80倍未満)と高値を示したので,ASPPCと診断し,皮膚科へ紹介してペニシリンによる駆梅療法を行った.[症例2]AAOR(図3)33歳,男性.初診のC1年半ほど前から右眼視野の中央に「カメラのフラッシュを見た後のような」暗点があり,右眼の視力が低下した.以来,初診まで症状は不変である.図3に眼底,眼底自発蛍光,OCT,視野の所見を示す.初診時の右眼眼底では視神経乳頭周囲の網膜色素上皮が軽度萎縮していた.左眼は正常であった.初診時視力は,右眼C0.01(0.08C×15.0.sph×,左眼0.04(0.9Ax5o)C1.25D.cyl(0DC.16.sphD)であった.右眼の病変部は,眼底自発蛍光検査では過蛍光に縁どられた低蛍光と過蛍光のモザイク状の異常蛍光を示した.OCTではCellipsoidzoneが消失して外顆粒層は著しく菲薄化し,中心窩付近の網膜色素上皮ラインは途絶していた.視野検査では大きな中心暗点を示した(図3).全身検査を行ったが,RPR,TPHAともに陰性で,トキソプラズマ〔別刷請求先〕國吉一樹:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KazukiKuniyoshi,DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-Higashi,Osakasayama,Osaka589-8511,JAPANCIgGは陰性,TスポットCTB,単純/帯状ヘルペス抗体価も陰性であった.これらの結果から,AAORの慢性期と診断した.発症からC1年以上経過しており,OCTで外顆粒層がほとんど消失していたことから,視機能回復の可能性は低いと判断し,経過観察となった.CIIASPPCとAAOR(表1)ASPPCとCAAORは,それぞれC1990年2)とC1995年3)にGassが報告した疾患概念である.いずれも片眼あるいは両眼に発症し,視神経乳頭に連続した,あるいは眼底後極の円形白色病巣を特徴とし,急激な視力低下と大きな中心暗点を呈する疾患である.両者ともCOCT画像では網膜外層の障害を示し,網膜電図(electroretinogram:ERG)は病変部で低下し,フルオレセイン/インドシアニングリーン蛍光検査所見では病変部は過蛍光あるいは低蛍光を示す(表1).つまりCASPPCとCAAORの眼科所見は類似する.したがって,両者の鑑別には血液検査が必要で,梅毒血清反応が陽性であればCASPPCと診断できる(表1).症例C1は,当初はCAAORを疑って経過観察した.しかし,図1ASPPC(acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinopathy)の眼底,眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF),フルオレセイン蛍光造影(FA),インドシアニングリーン蛍光造影(IA)検査所見(症例1)症状が改善してから行った血液検査で梅毒感染が判明した.つまりCASPPCは,最初から梅毒感染を疑って血液検査を行わなければ診断できない.ASPPCの眼底病変は症例C1のように自然緩解することもあるが,全身の梅毒感染に対して駆梅療法が必要である.ステロイドの単独投与は眼梅毒を重症化させることがあり,投与は慎重になされるべきである5).一方のCAAORは自然緩解例が報告されている6)一方で,症例C2のように瘢痕とともに恒久的な視機能障害を残すことがある4).ASPPCとCAAORの病因は不明だが,ASPPCは梅毒トレポネーマに対する免疫反応3),AAORは何らかのウイルスに対する免疫反応4)の可能性が疑われている.ASPPCや梅毒性網膜外層症を含む眼梅毒は早期神経梅毒に含まれており,第C1期梅毒から発症するので,患者は他科よりも先に眼科を受診することがある.したがって,原因不明の脈絡膜炎や網膜炎に遭遇した場合には,老若男女を問わずに「梅毒を疑うこと」が重要で,血液検査を必ず行う必要がある.眼底視野OCT初診時VS=(0.05)初診4日後VS=(0.05)初診1週後VS=(0.2)初診1カ月後VS=(0.6)初診2カ月後VS=(0.9)図2ASPPCの経過(症例1)病初期にはCOCTで網膜色素上皮ラインの凹凸や隆起が認められ(.),ellipsoidzoneは消失している.初診C2カ月後にはCellipsoidzoneは回復してきている(→).本症例の眼底病変は無投薬で自然緩解したが,梅毒感染が判明したため,駆梅療法を行った図3AAOR(acuteannularouterretinopathy)(慢性期)の眼底,FAF(眼底自発蛍光),OCT,視野検査の所見(症例2)視神経乳頭の周囲に萎縮病変を認め,同部位の網膜外層は萎縮している.表1Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)とAcuteannularouterretinopathy(AAOR)ASPPCCAAOR眼底(急性期)白色円形病巣灰白色輪状病巣側性両眼性/片眼性片眼性/両眼性視力・視野急激な視力低下・病巣に一致した暗点急激な視力低下・病巣に一致した暗点COCT網膜外層障害(EZ消失,RPEの不整,隆起)網膜外層障害(EZ消失,RPEの隆起)CERG病巣に一致して低下病巣に一致して低下CFA円形の過蛍光(蛍光漏出)輪状の過蛍光CIA円形の低蛍光内に点状の低蛍光輪状の低蛍光確定診断梅毒血清反応陽性除外診断経過・治療ペニシリンによる駆梅療法自然治癒あり・ステロイド+抗ウイルス治療病因梅毒トレポネーマに対する免疫反応?ウイルスに対する免疫反応?眼科臨床所見(水色)は類似する.治療方針は異なるので,血清反応で鑑別する(オレンジ色).OCT:光干渉断層計検査,ERG:網膜電図検査,FA:フルオレセイン蛍光造影検査,IA:インドシアニングリーン蛍光造影検査,EZ:ellipsoidzone,RPE:retinalpigmentepithelium(網膜色素上皮).文献1)厚生労働省ホーム>政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>性感染症>梅毒について.Chttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenk-ou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/Csyphilis.html2)LimaBR,MandelcornED,BakshiNetal:Syphiliticouterretinopathy.OculImmunolIn.ammC22:4-8,C20143)GassCJDM,CBraunsteinCRA,CChenowethRG:AcuteCsyphi-liticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.COphthalmologyC97:C1288-1297,C19904)GassJDM,SternC:Acuteannularouterretinopathyasavariantofacutezonaloccultouterretinopathy.AmJOph-thalmolC119:330-334,C19955)FurtadoJM,SimoesM,Vasconcelos-SantosDetal:Ocu-larsyphilis.SurvOphthalmolC67:440-462,C20226)SimunovicCMP,CHughesCEH,CTownendCBSCetal:AcuteCannularCouterCretinopathyCwithCsystemicCsymptoms.CEye(Lond)C24:1125-1126,C2010

西葛西・井上眼科病院運転外来における ドライビングシミュレータ施行後の運転追跡調査

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科41(6):707.712,2024c西葛西・井上眼科病院運転外来におけるドライビングシミュレータ施行後の運転追跡調査岩坂笑満菜*1國松志保*1平賀拓也*1深野佑佳*1小原絵美*1野村志穂*1黒田有里*1伊藤誠*2高橋政代*3田中宏樹*1溝田淳*1井上賢治*4*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3ビジョンケア*4井上眼科病院CFollow-UpSurveyafterDrivingSimulatorTestingattheNishikasai-InouyeEyeHospitalDrivingAssessmentClinicEminaIwasaka1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),TakuyaHiraga1),YukaFukano1),EmiObara1),ShihoNomura1),YuriKuroda1),MakotoItoh2),MasayoTakahashi3),HirokiTanaka1),AtsushiMizota1)andKenjiInoue4)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofInformationandSystemsEngineering,UniversityofTsukuba,3)4)InouyeEyeHospitalCVisioncare,目的:運転外来にてドライビングシミュレータ(DS)を施行したのち,追跡調査を行い,その効果を調べた.対象および方法:運転外来を受診したC144例に対して,Humphrey視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),DSを施行した.HFA24-2から両眼重ね合わせ視野(IVF)を作成した.DS施行後C2年以上経過し,運転状況を聴取できた48例を対象に,運転中止群と継続群の背景因子を比較した.結果:DS施行後に運転中止したのはC13例(27%)であった.運転中止群は,継続群と比較し,年齢,視力,IVF上半視野の平均網膜感度に差はないが,IVF下半視野の平均網膜感度が有意に低下していた(p=0.004).緑内障患者C46名では病期が進行するにつれ,運転を中止していたものが多かった(p=0.025).運転継続群では,運転時間は,DS施行時と比べ減少しており(p=0.011),より運転に注意をするようになったと述べられていた.結論:DS施行後の追跡調査では,患者の運転時間・意識の変化を確認でき,視野障害患者の安全運転指導のために運転外来が有効であることがわかった.CPurpose:Toinvestigatethee.ectofadrivingsimulator(DS)anddrivingcessationinadrivingassessmentclinic.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved144patientswhounderwentDS(HondaMotorCo.)testingandtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-Sprogram(HFA24-2;CarlCZeissCMeditecAG)C.CWeCcalculatedCtheintegratedvisual.eld(IVF)basedontheHFA24-2data.Forty-eightpatientswhosedrivingstatuswasavailableforCmoreCthanC2CyearsCafterCDSCwereCinterviewed,CandCweCcomparedCmeandeviation(MD)andCIVFCinCpatientsCwhocontinuedorceaseddriving.Results:Thirteenpatients(27%)ceaseddriving.Theceased-drivinggrouphadlowerinferior-hemi.eldIVFsensitivity(p=0.004)C.Of46glaucomapatients,thenumberofthosewhoceaseddriv-ingwashigherinthesevereglaucomagroup(p=0.025)C.Thecontinued-drivinggroupstatedthattheydroveless(p=0.011)C,andbecamemorecautiousaboutdriving.Conclusion:The.ndingsinthisfollow-upsurveyafterDStestingshowedchangesinpatients’drivingtimeandawareness,indicatingthatDSmightbeusefulforimprovingdrivingsafetyinpatientswithvisual.eldimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(6):707.712,C2024〕Keywords:ドライビングシミュレータ,運転中止,運転継続,追跡調査.drivingsimulator,drivingcessation,continuedriving,follow-upsurvey.Cはじめにり運転外来を開設し,アイトラッカー搭載ドライビングシ西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,2019年C7月よミュレータ(DS)を用いて,自動車運転能力の評価を行って〔別刷請求先〕岩坂笑満菜:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3C-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:EminaIwasaka,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(103)C707いる.運転外来では,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすいと予想される場面を織り込んだCDSを用いて走行する(5分間).その後,リプレイ機能を用い,運転場面ごとの視線の動きを確認しながら,患者およびその家族に,視野障害が原因で事故が起こりうることを知らせている1,2).過去に須藤らは,自治医科大学眼科にてCDSを施行した後期緑内障患者C30例を対象に,ドライビングシミュレータ施行後C2.17カ月後の追跡調査を行ったところ,DS施行後,運転を中止していたのはC5例であり,運転を中止した患者の理由は「自分が見えていないのを確認した」「視野が狭いことを実感した」であった.一方,運転を継続していたのは25例であり,全例から「より注意深く運転するようになった」という回答が得られた.患者はCDSを行うことにより,運転時に注意すべき点を理解し,その後の運転に活かされ,DSは有用であったと報告している3).今回,筆者らは,DS施行後C2年以上経過した患者に運転追跡調査を行った.また,患者本人の運転意識,運転状況を調査し,DSの有用性について検討したので報告する.CI対象および方法2019年C7月.2023年C2月に,当院の運転外来に受診し,DSを施行した視野障害患者C144例のうち,DS施行後C2年以上経過し運転追跡調査を施行したC48例(平均年齢C65.7C±12.5歳,緑内障C46例,網膜色素変性C2例,男:女=36:12)を対象とした.全例に対して,DS施行時に視力検査,Humphrey自動視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放Estermanテスト,運転状況の聴取,認知機能検査(Mini-MentalCStateExamination:MMSE),DSを施行した.なお,HFA24-2をもとに,既報に基づき4,5),両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)を作成し,上下半視野の平均網膜感度を算出した.視力検査,運転調査,MMSE,DSは同日に実施し,HFA24-2,両眼開放CEstermanテストはCDS施行日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.運転評価のためのCDSは,エコ&安全運転教育用ドライビングシミュレータであるCHondaセーフティナビ(本田技研工業)を改変したものを使用した.運転条件を統一するため,速度は一定とし,ハンドル操作はなく,危険を感じたらブレーキを踏むのみとしている.所要時間は,練習コースをC3分間,評価コースをC5分間走行し,赤信号や左右からの飛び出しなど,全C15場面の事故の有無を記録した6).運転追跡調査時には,視力検査,HFA24-2,両眼開放Estermanテストを施行し,対面にて,〔①運転時間の変化(中止・減少・変化なし・増加),②運転中止または減少の理由,③CDS施行後の自動車事故の有無,④CDS施行後の感想〕の聞き取りを行った.運転追跡調査にて,運転中止と回答したものを運転中止群,運転時間が減少,変化なし,増加と回答したものを運転継続群のC2群に分け,両群を比較検討した.運転中止・継続群の比較にあたっては,Wilcoxon順位和検定,Fisher正確確率検定を使用し,運転継続群のCDS施行前後の比較にはCWilcoxon符号付順位和検定,Fisher正確確率検定を使用した.さらに緑内障患者のC46名については,病期をCHFA24-2のCmeandeviation(MD)によりC3期(初期:>.6CdB,中期:C.6.C.12CdB,後期:<C.12CdB)7)に分類し,病期別に運転継続群と中止群の割合が異なるのかを検討をした(Cochran-Armitage検定).本研究は,当院倫理委員会の承認のもと(「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:201906-1)各対象者にインフォームド・コンセントを得た.CII結果運転外来を受診したC144例中,DS施行後C2年以上経過したC48例に対して運転追跡調査を施行した.運転中止群はC48例中C13例(27%),運転継続群はC35例(73%)であった.運転中止群と運転継続群を比較した結果,運転中止群は,女性が多く(p=0.061),視野良好眼のCHFA24-2のCMD,Ester-manスコアが悪い傾向があった(p=0.054,p=0.081).また,IVF下半視野の平均網膜感度は,有意に低かった(p=0.0040)(表1).運転中止群と継続群でCMMSEスコアに有意差はなく,認知機能に差はみられなかった.運転継続群のCDS施行前後の患者背景を表2に示す.DS施行前と施行後C2年以上の背景を比較したところ,視力に変化はなく,視野良好眼のCMD値,Estermanスコアが悪化していた(p=0.0003,0.0004).また,1週間の運転時間は,C4.5±5.8時間からC3.5C±5.8時間と,運転時間が減少していた(p=0.011,Wilcoxon符号付順位和検定).運転時間が減少した理由として,「見えにくさの増加」と回答した例がもっとも多かった.また,DS施行前は,35例中C11例が過去C5年間に事故を起こしていたが,DS施行後は軽微な事故を起こしたC1例のみだった.運転継続群C35例中,33例(94%)が運転時に注意を払うようになったと回答した.緑内障患者C46名を,DS施行時の病期別に分類したところ,初期C11例,中期C15例,後期C20例であった.初期では,運転中止した例はいなかったものの,中期ではC15例中C5例(33.3%),後期ではC20例中C8例(40.0%)が運転を中止しており初期より中期,後期と進行した病期であるほど,運転を中止した割合が有意に高かった(p=0.0250).運転中止群はC13例中C11例が,DS施行後C1年以内に運転を中止していた.運転中止の理由として,「DS後自主的に中止,または家族から勧められたため(6例)」がもっとも多表1運転中止群と運転継続群の患者背景運転継続群(n=35)運転中止群(n=13)p値年齢(歳)C61.4±12.9C67.5±9.6C0.18+性別(男:女)29:67:6C0.061++MMSEtotalscoreC28.81±1.93C27.85±2.82C0.36+1週間の運転時間(h/w)C4.5±5.8C8.2±13.1C0.63+過去C5年間の事故歴あり11例(C31.4%)6例(4C6.2%)C0.50++視力良好眼視力ClogMARSC.0.03±0.09C0.001±0.09C0.17+視力不良眼視力ClogMARSC0.17±0.35C0.27±0.38C0.19+視野良好眼CMD(dB)C.10.56±6.48C.14.64±5.85C0.054+視野不良眼CMD(dB)C.19.03±8.20C.20.58±5.48C0.31+EstermanスコアC86.80±16.90C79.10±16.82C0.081+IVF上半視野の平均網膜感度(dB)C20.80±7.73C19.66±6.94C0.59+IVF下半視野の平均網膜感度(dB)C22.95±6.71C15.72±8.52C0.0040+DSでの衝突件数(件)C1.55±1.18C2.92±2.93C0.37+【運転目的別】仕事で使用(%)16(C45.7%)5(3C8.5%)C0.75++平均±標準偏差/+:Wilcoxon順位和検定,++:Fisher正確確率検定表2運転継続群のDS施行前後の患者背景DS施行前DS施行後p値視力良好眼視力ClogMARSC.0.03±0.09C0.0006±0.14C0.10+視力不良眼視力ClogMARSC0.17±0.34C0.18±0.32C0.55+視野良好眼CMD(dB)C.10.56±6.48C.12.14±6.47C0.0003+視野不良眼CMD(dB)C.19.03±8.20C.20.37±7.62C0.25+EstermanスコアC86.80±16.90C82.39±17.38C0.0004+1週間の運転時間(h/w)C4.5±5.8C3.5±5.8C0.011+事故歴DS施行前C5年間で事故あり11例(31%)DS施行後C2年以上で事故あり1例(3%)C0.0029**平均±標準偏差/+:Wilcoxon符号付順位和検定,**:Fisher正確確率検定DS後n=13n=13運転中止の理由運転減少の理由図1運転中止と減少の理由く,ついで「事故を起こしたため(3例)」であった(図1).査を実施したところ,48例中C13例が運転を中止していた.視野障害度と運転中止との関連については,Ramuluらは,CIII考按1,135名のドライバー(73.93歳)をC10年間経過観察した今回,DS施行後C2年以上経過したC48例に,運転追跡調ところ,正常者のC15%,片眼緑内障患者のC21%,両眼緑内MD-10.60dBMD-13.84dB左眼視力=(0.2)右眼視力=(0.8)IVFとDS場面を被せたもの.視野障害部位と青い車が一致し,車に気づかず衝突した.図2運転を中止した事例64歳,男性,緑内障.運転歴:46年.過去C5年間の事故歴:なし.運転時の自覚症状:なし.DS結果:15場面中C2場面で事故.運転外来での指導内容:IVFでは左下方の視野障害を認めるが,視力良好の右眼は,左眼と比べて下半視野障害が重症なことから,左右からの飛び出しに反応が遅れることを説明した.患者は「見えていない部位がよくわかり,勉強になった」と述べていた.DS後の運転追跡調査:患者から「ふだんから左右を注意して運転していたが,左側の縁石に乗り上げて消火栓と衝突し廃車になった.」と報告があった.事故の原因が,自身の視野障害によって起きた可能性があることを理解し,運転を中止した.障患者のC41%が運転を中止していると報告している8).Takahashiらは,正常者C148名と緑内障患者C211名をC3年間経過観察したところ,正常者のC7%,軽度緑内障患者のC5%,中等度緑内障患者のC0%,重度緑内障患者のC31%が運転を中止し,視野障害が高度になるに従い,運転を中止している例が増えていた9).TamらもC50歳以上の緑内障患者C99名のうち,19名(19%)が運転を中止しており,中期・後期の緑内障患者は,初期の緑内障患者と比較して,運転中止の割合が高かったと報告している10).筆者らも,緑内障患者46例では,緑内障の病期が進行するに従い,運転を中止している例が多く,既報と同様の結果であった.今回,運転中止群が,運転継続群と比較して,Estermanスコアが低い傾向にあった.運転に関する視機能を評価の方法では,視野良好眼のCMD値,両眼重ね合わせ視野CIVFのほかに,80°の範囲で周辺視野を評価できるCEsterman視野検査がよいとされている11).一方で,路上運転の結果とCEsterman視野の結果からは,視野欠損のある個々のドライバーの運転能力を予測できなかったとする報告もある12).筆者らの研究からは,運転の継続・中止には,Estermanスコアの低下も関与している可能性があると考える.筆者らは,運転中止群・継続群の比較を行ったところ,運転中止群は,IVF下半視野の平均網膜感度が,運転継続群に比べ有意に低かった.運転外来を受診する患者は,視野障害の重症例が多く,すでにCIVF上半視野の平均網膜感度は両群ともに低下していた.しかし,運転中止群は継続群に比べて,IVF下半視野の平均網膜感度が低かったことから,IVF下半視野の平均網膜感度の低下が運転中止に関与することが考えられた.今回の運転追跡調査では,運転中止群のC13例中C11例(84.6%)がCDS施行後C1年以内に運転を中止していたことがわかった.その理由として,「DS後自主的に中止,または家族から運転中止を勧められた」と回答した例が多かった.DS施行後に,視野障害が原因で事故を起こしたことを理解し,運転を中止した症例もあった(図2,3)一方,運転継続MD-12.64dBMD-24.29dB左眼視力=(1.0)右眼視力=(1.2)図3DS無事故例での運転中止事例58歳,男性,緑内障.運転歴C35年.過去C5年間の事故歴:物損事故C1回運転時の自覚症状:なしDS結果:15場面で事故・違反なし.運転外来での指導内容:DSではC15場面とも無事故であったが,下方視野障害のため,左右からの飛び出しへの反応が遅れる可能性があることを伝えた.患者は,「日常生活の運転は控えるが,65歳くらいまで仕事での運転は続けたい」と述べていた.DS後の運転追跡調査:急な上り坂にある駐車場を左折時に,左側の柱と衝突した(廃車になった).患者から「柱がまったく見えなかった.普段の道より,上り坂のほうが,下方が見えにくいと感じた.そのために,柱が見えずに衝突したのだと思う」と述べていた.運転は危険だと理解し,仕事での運転を中止した.群は,DS施行後C2年以上経過で,1週間の運転時間は減少と,緑内障患者が多く,網膜色素変性はC2例,脳出血・脳梗し,DS施行前には,35例中C11例(31%)が過去C5年間に自塞の症例がないなど,疾患に偏りがみられた.これは,当院動車事故を起こしていたが,DS施行後はC1例のみ,しかもの患者は緑内障が多いことに加えて,緑内障患者はC2.3カ軽微な事故であった.運転継続群のC35例中C33例が「運転月ごとと,定期的に通院されており,運転追跡調査をしやす時に注意を払うようになった」と回答が得られた.運転継続かったことが考えられる.運転中止・継続には,疾患による群が,視野良好眼のCMD値,Estermanスコアが悪化してい違いがみられるのかを,今後は症例を増やして検討したい.たにもかかわらず,DS後に事故をほとんど起こしていなか今回は,DS施行後の運転追跡調査を行うことにより,患ったのは,運転を控え,安全運転のための意識を高めていた者の運転時間・意識の変化を確認することができた.運転中ためと考えられ,運転外来の効果があったと考える.止群は,自身の運転のリスクを理解し運転を中止し,運転継運転追跡調査の問題点としては,聞き取り調査の対象は患続群は運転時の意識を改め安全運転を心がけていることがわ者本人であり,家族などからの事実確認を行っていないことかった.運転外来受診後は,DSを通して,自身の視野障害があげられる.患者本人が「運転を中止した」といっていてのリスクをより理解し,その後の生活に活かされていることも,後日「運転用の眼鏡がほしい」と,運転を継続しているがわかり,運転外来の有用性が確認された.と思われる発言が聞かれることがある.運転中止群が,全員が運転を中止しているかは定かでなく,聞き取り調査の限界利益相反:利益相反公表基準に該当なしと考える.また,今回の対象は,48例中緑内障患者がC46例文献1)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20212)高橋佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:西葛西・井上眼科病院における職業運転手の運転機能評価.臨眼C76:1259-1263,C20223)須藤治子,國松志保,保沢こずえほか:後期緑内障患者に対するドライビングシミュレータ後の運転調査.眼臨紀6:C626-629,C20134)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinoc-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C20005)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C20046)小原絵美,野村志穂,國松志保ほか:西葛西・井上眼科病院運転外来における視野障害と事故との関連.あたらしい眼科40:257-262,C20237)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndEdition,StLouis,CVMosby,19998)RamuluCPY,CWestCSK,CMunozCBCetal:DrivingCcessationCandCdrivingClimitationCinCglaucoma.COphthalmologyC116:C1846-1853,C20099)TakahashiCA,CYukiCK,CAwano-TanabeCSCetal:Associa-tionCbetweenCglaucomaCseverityCandCdrivingCcessationCinCsubjectsCwithCprimaryCopen-angleCglaucoma.CBMCCOph-thalmolC18:122,C201810)TamCALC,CTropeCGE,CBuysCYMCetal:Self-perceivedCimpactCofCglaucomatousCvisualC.eldClossCandCvisualCdisabili-tiesConCdrivingCdi.cultyCandCcessation.CJCGlaucomaC27:C981-986,C201811)CrabbDP,ViswanathanAC,McNaughtAIetal:Simulat-ingbinocularvisual.eldstatusinglaucoma.BrJOphthal-molC82:1236-1241,C199812)FarajiY,Tan-BurghouwtMT,BredewoudRAetal:Pre-dictivevalueoftheEstermanvisual.eldtestontheout-comeoftheon-roaddrivingtest.TranslVisSciTechnolC11:20,C2022***

imo vifa とHumphrey 視野計の比較

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科41(6):703.706,2024cimovifaとHumphrey視野計の比較栗岡恵坂本麻里島内深希荒井実奈高野史生上田香織和田友紀中西裕子中村誠神戸大学医学部附属病院眼科CComparisonoftheimovifaandtheHumphreyFieldAnalyzerMegumiKurioka,MariSakamoto,MikiShimauchi,MinaArai,FumioTakano,KaoriUeda,YukiWada,YukoNakanishiandMakotoNakamuraCDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospitalC目的:imovifa(imoV)とCHumphrey視野計(HFA)の結果を比較検討すること.対象および方法:神戸大学附属病院眼科に通院中の,imoVによる視野検査を受けたC18歳以上の患者を対象とした.imoVはCAmbientCInteractiveZippyEstimatedSequentialTesting(AIZE)の単眼測定を右眼から左眼の順に施行し,測定プログラムは前回のCHFAと同じプログラムを採用した.対象者のCimoVと前回のCHFACSwedishCInteractiveCThresholdAlgorithm(SITA)Standardの検査時間およびCmeandeviation(MD)値をCWilcoxon符号順位検定およびCBland-Altmanplotを用いて比較した.結果:33例C66眼の視野検査を解析した.患者の年齢の中央値(四分位範囲)はC61(52.70)歳で,疾患内訳は,緑内障がC18例,非緑内障がC15例であった.検査時間はCimoV右眼:303(247.359)秒,左眼:316(262.363)秒,HFAは右眼:415(368.474)秒,左眼:429(379.487)秒で,imoVがCHFAより有意に短かった(p<0.0001).imoVとCHFAのCMD値は左右眼ともに統計学的有意差はなく,Bland-Altmanplotで固定誤差および比例誤差は認めなかった.結論:imoVではCHFAより短い検査時間で同等の視野検査を行うことができる可能性がある.CPurpose:ToCcompareCtheCresultsCofCtheCimovifa(CREWTCMedicalSystems)(IMOV)andCtheCHumphreyFieldAnalyzer(HFA;CarlZeissMeditec)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolvedpatientsaged18yearsorolderseenattheDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospitalwhounderwentvisual.eld(VF)testingwithCtheCimoCvifa.CimoCvifaCwasCperformedCbyCAmbientCInteractiveCZippyCEstimationSequentialCTesting(AIZE)CmonocularCmeasurementCfromCtheCrightCeyeCtoCtheCleftCeye,CandCtheCmeasurementCprogramCwasCtheCsameCasCtheCpreviousHFASwedishInteractiveThresholdAlgorithm(SITA)Standardprogram.Ineachsubject,theexamina-tiontimeandmeandeviation(MD)wascomparedbetweentheimovifaandthesubject’spreviousHFA.ndingsusingtheWilcoxonsigned-ranktestandBland-Altmanplotanalysis.Results:VFexaminationsof66eyesin33patientswereanalyzed.Themedianage(interquartilerange)ofthepatientswas61(52to70)years.Therewere18glaucomapatientsand15non-glaucomapatients.Fortherighteyeandlefteye,respectively,themedianexam-inationtime(seconds,interquartilerange)forimovifawas303(247-359)and316(262-363)C,whilethatforHFAwas415(368-474)and429(379-487)(p<0.0001)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMDCbetweenCimoCvifaCandHFAfortherightandlefteyes,andBland-Altmanplotanalysisrevealedno.xedorproportionalbias.Con-clusions:imovifaCmayallowforcomparableVFtestinginashortertestingtimethanHFA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(6):703.706,C2024〕Keywords:imovifa,ハンフリー視野.imovifa,Humphreyvisual.eld.はじめにの負担軽減を目指して開発された小型軽量の自動静的視野計視野検査は検者・被検者双方にとって負担が大きい検査でである1).imoは暗室不要で,両眼開放下で視野検査を行うあり,imo(クリュートメディカルシステムズ)は視野検査ことができ,また独自の閾値決定アルゴリズムにより検査時〔別刷請求先〕坂本麻里:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MariSakamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuou-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC間が短縮されるため,患者に好評であると報告されている2,3).また,緑内障や脳疾患において従来の自動視野計よりも短時間に,かつ同等の視野測定が可能であることが報告されている2.5).imoは当初ヘッドマウント型視野計として開発されたが,より小型化した据え置き型のCimovifaが登場した.頭部装着がなくなったことにより,被検者は従来型の検査時の圧迫感がなくなり,また検者は検査中の被検者の状態(眼の位置や眼瞼の状態など)を確認しやすくなった.また,非測定眼を遮閉して測定する従来の自動視野計と異なり,imoは両眼開放下で,左右眼で独立した光学系を覗いて検査を行うため,検査開始前に瞳孔間距離や左右眼の位置を正しく調整する必要がある.ヘッドマウント型の場合,顔や頭の形,大きさや被検者の眼の状態によっては,この検査前の調整に時間を要することが問題であった.imovifaではこの点が改善され,また正しい頭部の位置がわかるように液晶画面に表示されるため,被検者自身が画面を見ながら頭部の位置を調整することができ,検査前の調整が容易になった.Cimovifaの登場により,視野検査の負担がさらに軽減されることが期待されるが,imovifaを用いた視野検査の報告はまだ少ない6.8).本研究の目的は,imovifaとCHumphrey視野計(Hum-phreyC.eldanalyzer:HFA)(CarlCZeissMeditec,Inc.)の結果を比較検討することである.CI対象および方法本研究は診療録の後ろ向き調査研究である.2022年C10.11月に神戸大学医学部附属病院眼科を受診した患者のうち,Cimovifaによる視野検査を受けたC18歳以上の患者を対象とした.imovifaによる視野検査と前回の視野検査との間に内眼手術を受けた者は除外した.imovifaは,AmbientInter-activeCZippyCEstimatedSequentialCTesting(AIZE)による単眼視野検査を,両眼開放下で右眼から左眼の順に行った.背景輝度は検査眼,非検査眼ともにC31.5Casbで,視標最大輝度はC10,000Casb,標準視標提示時間はC0.2秒,視標サイズはCGoldmannIIIで行った.テストプログラムは,同患者の前回のCHFA視野検査と同じプログラムを採用した.つまり,前回CHFAがC30-2だった者はCimovifaもC30-2,前回CHFAがC24-2だった者はCimovifaもC24-2で測定した.HFAはCSwedishCInteractiveCThresholdAlgorithm(SITA)Stan-dardを用いて,右眼から左眼の順に測定された.HFA測定時には非測定眼はアイパッチで遮閉された.imovifaと前回HFAの検査時間およびCmeandeviation(MD)値を,Wil-coxon符号順位検定およびCBland-Altmanplotを用いて比較した.有意水準はCp<0.05とし,統計解析はCMedCalcCSta-tisticalSoftware19.3.1(MedCalcSoftwareLtd)を用いた.本研究は臨床研究に関する倫理指針を遵守し,ヘルシンキ宣言に則り行われ,院内の倫理委員会の承認を受けて第C12回日本視野画像学会学術集会において報告した.CII結果33例C66眼の視野検査を解析した.年齢の中央値(四分位範囲)はC61(52.70)歳で,16例(48%)が男性だった.測定プログラムはC30-2がC29例,24-2がC1例,10-2がC3例であった.対象者の過去のCHFA歴の中央値(四分位範囲)はC7(5.15)回で,前回のCHFAからの期間はC8(6.12)カ月であった.対象者の疾患の内訳は,緑内障がC18例,高眼圧症がC3例,視神経低形成がC1例,脳腫瘍がC6例,視神経炎がC3例,その他がC2例であった.CimovifaとCHFAの検査時間とCMD値の結果を表1に示す.検査時間の中央値(四分位範囲)はCimovifaの右眼は303(247.359)秒,左眼はC316(262.363)秒,HFAの右眼はC415(368.474)秒,左眼はC429(379.487)秒で,imovifaがCHFAより有意に短かった(p<0.0001).一方,imovifaとCHFAのCMD値は左右眼ともに差はなかった.imovifaとCHFAのCMD値のCBland-Altmanplotを図1に示す.CimovifaとCHFAの平均差(95%信頼区間,p値)とC95%ClimitsCofagreement(LoA)は,右眼C.0.6CdB(C.1.3.0.1,0.07)とC.4.4.3.1CdB,左眼C.0.5CdB(C.1.1.0.1,0.12)とC.3.9.3.0dBであった.右眼,左眼ともに,imovifaとHFAのCMD値には固定誤差および比例誤差は認めなかった.CIII考按本研究において,imovifaにより検査時間はCHFAの約C27%短縮され,これは従来のヘッドマウント型Cimoを用いた既報と矛盾しなかった2.5).imovifaを用いたCNishidaらの報告では,imovifaで検査時間がCHFAのC39%短縮したが,彼らの研究では検査時間短縮プログラムであるCAIZE-RapidとCHFASITA-Fastが採用されている.筆者らが過去にヘッドマウント型CimoのCAIZE(両眼ランダム測定)とCHFAのSITA-standardを比較した研究では,緑内障眼でCHFAの約25%3),脳疾患患者においてはCHFAの約C20%5)検査時間が短縮された.本研究では両眼ランダム測定ではなく単眼検査を行ったが,単眼検査でも両眼ランダム測定と同様に検査時間が短縮されることがわかった.AIZEはベイズ推定により測定毎に刺激強度を決定し,最尤法を用いて最終的な網膜感度閾値を決定するもので,各検査点における応答を隣接する周囲の検査点に反映し事前の予測精度を高め,閾値決定までの試行回数を低減する.既報と同様に,本研究におけるCimoの検査時間の短縮は,アルゴリズムの違いによるものと考えられる.また,この検査時間には,測定前の設定に要する時間や休憩時間は含まれない.imovifaでは,前述のようにヘッドマウント型Cimoに比べ測定開始前の設定が容易とな表1imovifaとHFAの測定時間およびMD値検査時間(秒)C右眼左眼imovifaC303(C247.C359)316(C262.C363)HFAC415(C368.C474)429(C379.C487)pvalue<C0.0001<C0.0001MD(dB)C右眼C左眼CimovifaC.1.8(C.8.4.C.0.1)C.4.3(C.9.3.C.1.1)CHFAC.1.3(C.7.0.0)C.2.3(C.8.3.C.1.3)Cpvalue0.140.40HFA:humphrey.eldanalyzer,MD:meandeviation.Dataarepresentedasmedian(interquartilerange)C,Wilcoxontest.4左眼MD値(dB)右眼MD値(dB)4322imovifaR.HFAimovifaR.HFA10-10-2-2-3-4-5-4-6-25-20-15Meano-6-10-505-30-25-20-15fimovifaRandHFAMeanofimovifaR-10-5andHFA05図1imovifaとHFAのMD値のBland-AltmanplotimovifaとCHFAの平均差(95%信頼区間,p値)とC95%一致限界は,右眼C.0.6CdB(C.1.3.0.1,0.07)とC.4.4.3.1CdB,左眼C.0.5CdB(C.1.1.0.1,0.12)とC.3.9.3.0CdBで右眼,左眼ともに固定誤差および比例誤差は認めなかった.ったため,設定時間も含めた総検査時間は従来型Cimoよりもさらに短縮される可能性がある.検査時間の短縮は,被検者のみならず検者にも有益であり,imovifaの臨床的有用性を考えるうえで,今後,設定に要する時間も含めた検討が必要と考える.今回の対象において,MD値はCimovifaとCHFAで差を認めなかった.従来型Cimo(両眼ランダム検査)とCHFAを比較した過去の研究では,両者のCMD値の差の平均値(95%LoA)は緑内障3)でC0.4(C.3.3,4.1)dB,脳疾患5)でC0.1(.3.6,3.9)dBで,本研究の結果と同様であった.また,CimovifaとCHFAを比較した既報6,8)でも両者のCMD値には差がなく,Nishidaらの報告では両者の差の平均値(95%LoA)はC.0.1(C.3.8,3.5)dBで,本研究と同様であった.よって,imovifaでも,ヘッドマウント型と同様に,従来の自動視野計と同等の視野検査ができる可能性がある.本研究の問題点として,少数の対象者における後ろ向き解析であり,事前にサンプルサイズを設定していないことがある.今後,必要な症数例における追試験が必要である.また,対象者はCHFAの経験は十分あるものの,imoの経験者はC1名のみで,全例がCvifaは初回であったことが結果に影響した可能性がある.今後,imoの経験を増やした対象で追試験が必要である.また,本研究の対象者には選択バイアスがある.今回対象となった患者は,病状が安定しCHFAで視野結果が安定しており,HFAからCimovifaに変更しても問題がないと判断された患者のみで,病状が進行している症例は対象には含まれていない.対象者は病状が安定しているため,頻回の視野検査はされておらず,本研究でCimovifaの結果と比較した前回CHFAは約半年からC1年前に測定されたものであった.病状が安定しているとはいえ,前回CHFAとCimovifaの期間が開いているため,前回から視野障害が進行した可能性はあり,結果に影響をおよぼした可能性がある.結果としては,全例が視野障害は概ね変化なしと判断され,引き続き経過観察されている.結論として,imovifaは,短い検査時間でCHFAと同様に視野検査を行うことができた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20162)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24plus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科C35:1117-1121,C20183)林由紀子,坂本麻里,村井佑輔ほか:緑内障診療におけるアイモ両眼ランダム測定の有用性の検討.日眼会誌C125:C530-538,C20214)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20195)SakamotoCM,CSawamuraCH,CAiharaCMCetal:AgreementinCtheCdetectionCofCchiasmalCandCpostchiasmalCvisualC.eldCdefectsCbetweenCimoCbinocularCrandomCsingle-eyeCtestCandCHumpheryCmonocularCtest.CJpnCJCOphthalmolC66:C413-424,C20226)NishidaT,EslaniM,WeinrebRetal:Perimetriccompar-isonbetweentheIMOvifaandHumphreyFieldAnalyzer.JGlaucomaC1:32:85-92,C20237)FreemanSE,DeArrigunagaS,KangJetal:Participantexperienceusingnovelperimetryteststomonitorglauco-maprogression.JGlaucomaC32:948-953,C20238)KangJ,DeArrigunagaS,FreemanSEetal:ComparisonofCperimetricCoutcomesCfromCaCtabletCperimeter,CsmartCvisualCfunctionCanalyzer,CandCHumphreyC.eldCanalyzer.COphthalmolGlaucomaC6:509-520,C2023***

基礎研究コラム:15.サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の病態解明

2024年6月30日 日曜日

サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の病態解明白根茉利子図2眼内液から検出したUL40の特徴眼内から検出したCUL40は,NK細胞抑制能が強く,ホストのCHLAクラスⅠと一致するという特徴があった.サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の現状近年の眼内液CPCR検査の普及により,明らかな免疫低下のないホストにサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎(cyto-megalovirusanterioruveitis:CMV-AU)を生じることが明らかとなりました.CMV-AUはわが国の感染性ぶどう膜炎の最多の原因であるにもかかわらず,根治的治療はなく,病態もほとんどわかっていません.一方,日本を含む東アジアで高頻度にみられることがわかっており,発症の地域差があることから,ウイルス・ホストの遺伝的背景が病態に関与していると考えられています.CCMV-AU発症におけるCMV蛋白UL40の意義CMVは初感染後,血球に潜伏感染し,血行性に眼組織へ進展しますが,眼組織には血管内皮による血液C-眼バリアがあることから,限られたウイルスのみ眼内へ進展していることが考えられます.CMVは約C250の遺伝子を有していますが,その多くは免疫逃避にかかわることが知られており,なかでもCUL40のシグナルペプチド(UL40signalpeptides:CUL40SP)は免疫制御に重要な蛋白として近年報告されました1).筆者らは患者の眼内液と末梢血で次世代シーケンスによるCUL40SP多型解析とホストの免疫機能解析を行い,眼内液に特徴的なCUL40SPがCNK細胞活性を強く抑制すること,患者CHLAクラスⅠCSPと一致することを見出し,これらのCUL40SPをもつCCMVが,中枢性・末梢性免疫回避を介し,血液C-眼バリアを越えて眼内へ侵入する可能性を提唱しました2).①NK細胞抑制能が強いNK細胞抑制能末梢血NKCD8+T免疫寛容眼内抑制UL40SPSP1SP3SP2CMVの眼内進展(91)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY九州大学大学院医学研究院眼科学今後の展望他のCCMV遺伝子についても眼内液と末梢血中で多型解析および免疫学的意義を検討することで,CMV-AUのより深い病態理解をめざします.そして将来的に治療予後予測や新たな治療法の開発につながることを期待しています.文献1)TomasecP,BraudVM,RickardsCetal:Surfaceexpres-sionCofCHLA-E,CanCinhibitorCofCnaturalCkillerCcells,CenhancedCbyChumanCcytomegalovirusCgpUL40.CScienceC287:1031-1033,C20002)ShiraneCM,CYawataCN,CMotookaCDCetal:IntraocularChumanCcytomegalovirusesCofCocularCdiseasesCareCdistinctCfromCthoseCofCviremiaCandCareCcapableCofCescapingCfromCinnateCandCadaptiveCimmunityCbyCexploitingCHLA-E-mediatedperipheralandcentraltolerance.FrontImmunol13:1008220,C2022図1サイトメガロウイルス(CMV)の眼内進展機序血管内皮でのCNK細胞やCCD8T細胞による抗ウイルス応答を免れたCCMVが眼内へ進展する.あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C695