●連載249監修=山本哲也福地健郎249.原発閉塞隅角病:最近の話題力石洋平琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座近年,原発閉塞隅角緑内障の概念が大きく変容し,病期によって細分化され,原発閉塞隅角病(primaryCangleclosuredisease:PACD)と総称されるようになってきている.隅角閉塞の機序によっては,以前主流であったレーザー虹彩切開術では無効な例もある.最近ではCPACDの治療として水晶体摘出術(透明水晶体を含む)が第一選択となりつつある.●はじめにPACと聞いてC1980年に発売されたアーケードゲームのキャラクターが頭をよぎるのは筆者だけだろうか.今回のPACは原発閉塞隅角症(primaryCangleCclo-sure:PAC)の話である.この数十年で原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の概念が大きく変化してきた.隅角所見においてC270°以上線維柱帯が観察されず(180°という考えもある),機能的隅角閉塞による眼圧上昇や,器質的隅角閉塞である周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)を伴わないものを原発閉塞隅角症疑い(primaryCangleCclo-suresuspect:PACS),PACSに機能的閉塞による眼圧上昇(>21CmmHg),もしくはCPASを伴うが緑内障視神経症(glacomatousCopticCneuropathy:GON)がないものをCPAC,そしてCPACにCGONを伴うものがCPACGと定義され,近年CPACG,PAC,PACSを含めた包括的呼称として原発閉塞隅角病(primaryCangleCclosuredisease:PACD)が提唱されるようになっている(表1).治療としてはレーザー周辺虹彩切除術(laserperipheraliridotomy:LPI)やレーザー隅角形成術(laserCgonio-plasty:LGP)などがかつて行われてきたが,近年水晶体摘出術の有効性も示されてきている.では,どの時期にどの治療が適切なのかC?本稿ではCPACDに対する治療について最近の知見も交えて述べる.C●PACDの治療すべての緑内障の病型において,治療の根幹は眼圧を下げることである.ただし,眼圧上昇の原因が治療可能な病態であるなら,眼圧下降治療と並行して原因に対する治療が必要である.これが原発開放隅角緑内障(pri-maryCopenangleCglaucoma:POAG)とCPACDでは異なる.つまり,PACDでは隅角閉塞が眼圧上昇の原因であるため,閉塞を解除することが原因に対する治療ということになる.早期段階で閉塞が解除されればPACDは治癒するのである.PACDの隅角閉塞の機序として相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,水晶体後方因子があり,単一因子ではなく複数の因子が絡んでいることが多い.どの因子が隅角閉塞の主体であるかによって適切な治療法を選択する必要がある.PACDに対する従来の治療としてはCLPIが第一選択であった.TannerらはCPACSに対するCLPIはハイリスク症例にのみ行うべきとしている.ハイリスク症例とはCacutePAC(APAC)僚眼,診断や治療で散瞳が必要な場合,抗コリン作用のある抗うつ薬の使用,緑内障の家族歴,離島に在住などですぐに対応できない場合など,としている1).LPIで問題になることもある角膜内皮障害に関しては,PACSに対するCYAGレーザーを用いたLPIで,72カ月の経過期間で有意な障害はなかったと報告された2).しかし,LPIが効果あるのは瞳孔ブロックが隅角閉塞の主体である場合のみであり,そのほかの機序が主原因である隅角閉塞症例には無効である.さらにCLPI後に追加治療が必要な症例の割合はCPACSでC0~8%,PACでC42~67%,PACGでC83~100%という報告や,PACS,PAC,PACGすべてにおいてCLPIに表1原発閉塞隅角病(PACD)の分類GON(緑内障性視神経症)隅角閉塞原発閉塞隅角症疑い(PACS)なし機能的隅角閉塞原発閉塞隅角症(PAC)なし器質的隅角閉塞(PAS),または眼圧上昇原発閉塞隅角緑内障(PACG)あり同上(89)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3270910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1水晶体摘出術前後の前眼部の変化PACS(70歳,女性)の前眼部光干渉断層計像.Ca:術前.b:術後.隅角は開大し,前房も深くなったのがわかる.より隅角は開大するものの,水晶体の加齢性変化により次第に浅くなっていくことも報告されている3).近年,LPIに替わってCPACDに対する治療の第一選択になりつつあるのが水晶体摘出術である.2016年には多施設ランダム化比較試験の結果が報告され,透明水晶体に対する水晶体摘出術はCLPIと比べて眼圧コントロールは良好であり,費用対効果も高いことが示された4)(図1).さらに最近の報告では,水晶体摘出術はCPACS,PAC,PACGすべてで眼圧下降があり,PAC,PACGでは抗緑内障点眼薬数が減少したとされる.この報告の中でPACGは術後に緑内障が進行したとされ,PACGに進行する前にCPACS,PACでは水晶体摘出術をすべきと結論づけている5).術前にCPASの存在が疑われる症例では隅角癒着解離術の追加も考慮する.しかし,PACDに対する水晶体摘出術に関しては通常の水晶体摘出術よりも合併症のリスクが高いことが報告されている6,7).通常の水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術の合併症の頻度はC2.2%であるのに対し6),PACD眼は短眼軸,浅前房,眼圧上昇などによる影響を受けC12.7%と高くなる7).また,以前筆者らは術前検査にて明らかな毛様小帯脆弱のないCPACD眼に対する水晶体摘出術を施行したC184眼のうち,10眼(5.4%)で毛様小帯脆弱があったと報告した8).PACDに対する水晶体摘出術では,これらの合併症に対応できる手術技量が必要である.また,水晶体を摘出するメリット,デメリットをきちんと理解してもらうことが重要である.とくに透明水晶体の場合や若年者の場合は視力低下がなく調節力もあるため,術後にCqualityofvisionが低下する可能性も説明しておくべきである.C●おわりにPACGの場合,隅角の閉塞機序にかかわらず第一選択として水晶体摘出術が必要である.これは透明水晶体の場合でも同様である.水晶体摘出術が不可能な症例にC328あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021おいて瞳孔ブロック形状が隅角閉塞の主体である場合は,LPIもしくは観血的周辺虹彩切除術を行い,プラトー虹彩形状が隅角閉塞の主体である場合はCLGPなどを考慮する.PAC,PACSに対しては,機能的閉塞がC3象限またはC2象限であっても,上述のようなCAPAC発症のハイリスク症例に関しては水晶体摘出術が第一選択と考えられる.機能的閉塞が軽度である症例に対しては定期的な隅角形状の経過観察が必要である.文献1)TannerCL,CGazzardCG,CNolanCWPCetal:HasCtheCEAGLEClandedfortheuseofclearlensextractioninangle-closureglaucoma?CAndChowCshouldCprimaryCangle-closureCsus-pectsbetreated?EyeC34:40-50,C20202)LiaoC,ZhangJ,JiangYetal:Long-terme.ectofYAGlaserCiridotomyConCcornealCendotheliumCinCprimaryCangleCclosuresuspects:aC72-monthCrandomisedCcontrolledCstudy.CBrCJCOphthalmolC2020,doi:10.1136/bjophthalmol-2020-315811.Onlineaheadofprint3)RadhakrishnanS,ChenPP,JunkAKetal:Laserperiph-eraliridotomyinprimaryangleclosure:AreportbytheAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC125:1110-1120,C20184)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20165)SongCMK,CSungCKR,CShinCJWCetal:GlaucomatousCpro-gressionafterlensextractioninprimaryangleclosuredis-easespectrum.JGlaucomaC29:711-717,C20206)PoweCNR,CScheinCOD,CGieserCSCCetal:SynthesisCofCtheCliteratureonvisualacuityandcomplicationsfollowingcat-aractCextractionCwithCintraocularClensCimplantation.CCata-ractCPatientCOutcomeCResearchCTeam.CArchCOphthalmolC112:239-252,C19947)ShamsPN,FosterPJ:Clinicaloutcomesafterlensextrac-tionCforCvisuallyCsigni.cantCcataractCinCeyesCwithCprimaryCangleclosure.JGlaucomaC21:545-550,C20128)酒井寛,與那原理子,新垣淑邦ほか:原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症.あたらしい眼科34:292-295,C2017(90)