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コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 円錐角膜・ハードコンタクトレンズの処方(2)

2021年5月31日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科病院12.円錐角膜・ハードコンタクトレンズの処方(II)■はじめに前回のセミナーでは,軽度円錐角膜に対する3点接触法によるハードコンタクトレンズ(HCL)処方について解説した.今回のセミナーでは,円錐角膜が進行して3点接触法では対処できなくなった場合のHCL処方について解説する.円錐角膜が進行するにつれてフォトケラトスコープ(photokeratoscope:PKS)のプラチドリング像の角膜中央部における歪みが大きくなり,角膜全体に写る像の範囲が狭くなる(図1).3点接触法ではタイトになってしまう症例では,レンズと角結膜が上方と中央のみで接触する2点接触法にてHCLを処方する.2点接触法にてもレンズが安定せず良好な視力が得られなかったり,角膜中央部に慢性的な機械的角膜上皮障害が生じるような症例では,多段カーブHCLを試してみる.また,HCLの異物感に耐えられない症例や前述した機械的角膜上皮障害が生じる症例には,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用させた上からHCLを装用するピギーバックレンズシステムを採用することもある.■2点接触法2点接触法におけるトライアルレンズのベースカーブ(basecurve:BC)選定についても,前回のセミナーで解説した方法にて決定する.角膜形状をPKSで観察したときに,プラチドリング像が角膜全体のどの範囲まで写っているかによってBCを決定する.PKSの最外周リングの大きさが角膜径と同じ場合は8.00mm前後,2/3の場合は7.50mm前後,1/2の場合は7.00mm前後のBCのレンズを選択する.図2は初診時に他医にて処方されたHCLで視力はLV=(0.3×7.40/-5.75/8.8)であった.装用感も悪く,レンズはタイトであった.この症例のPKSは図3のように最外周リングの大きさが角膜径とほぼ同じであったため,BC8.00前後のトライアルレンズを選択すると,レンズの動きはよくなり,視力もLV=(1.2p×7.95/-2.50/8.8)と改善した(図4).(63)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1進行した円錐角膜角膜中央部のプラチドリング像の歪みが大きくなり,角膜全体に写る像の範囲が狭くなる(右側・左眼).■ラージサイズHCLによる2点接触法図5は他医にて2点接触法で処方された図1の症例の左眼であるが,レンズがはずれやすい,違和感が強いという訴えがあった.視力もLV=(0.4×7.60/-3.00/8.8)とあまりよくはなかった.ただ,フルオレセインパターンで見るかぎりは比較的上手に処方されているように思える.そこでレンズサイズを大きくして2点接触法で処方してみると,レンズのはずれやすさも装用感も改善し,視力もLV=(1.0×7.70/-2.00/10.0)と大幅に向上した(図6).このようにはずれやすく安定性が悪い場合は,上眼瞼にてHCLを支持できるようにラージサイズのHCLを選択するのも一つの方法である.■多段カーブHCL球面HCLでは装用感の改善が得られない,あるいは角膜頂点近傍の上皮障害や角膜上方のレンズエッジによる上皮障害が強い場合には,多段カーブHCLを試してみる(図7).ただし,多段カーブHCLは光学径がやや狭く,センタリング不良例では,球面HCLよりも矯正視力は劣る.■ピギーバックレンズシステムHCLの異物感に耐えられない,あるいは角膜頂点近傍の上皮障害が強いなどの場合に,1日使い捨てSCLあたらしい眼科Vol.38,No.5,2021543図2進行した円錐角膜に3点接触法で処方されたHCLベベル幅は狭くてアピカル・タッチではあるが,全体としてスティープな印象を受ける.レンズの動きは非常にタイトであった.図5強度円錐角膜に他医にて2点接触法で処方されたHCL(図1の症例の左眼)アピカル・タッチを呈しており,フルオレセインパターンも悪くはないが,レンズの動きが不安定で,それがレンズをはずれやすくしており,視力も不安定で装用感も不良にしている.を装用した上にHCLを装用させるピギーバックレンズシステムを採用することがある.図8の症例は初診時にフルオレセインパターンによるフィッティング判定では良好と思われたが,視力はRV=(0.6×8.00/-2.25/8.8),LV=(0.6×7.90/-1.50/8.8)と予想外に悪く,またHCL装用による異物感を強く訴えた.HCL上のレチノスコープによるオーバースキアでは右眼-3.75DAx90図6図5の症例にラージサイズHCLを2点接触法で処方HCLの安定性が増し,装用感,視力ともに改善した.図3図2の症例のPKS像最外周リングの大きさは角膜径とほぼ同じであった.図7多段カーブHCL球面HCLでは角膜中央部近傍に角膜上皮障害が発生して,視力,装用感が不良の場合には,多段カーブHCLを処方することで改善する症例がある.図42点接触法図2の症例に2点接触法でHCLを処方した.レンズの動きは改善して視力も向上した.図8ピギーバックレンズシステムHCLでは異物感が強く,しかも残余乱視で視力が出ない症例に,乱視用1日使い捨てSCL装用上にHCLを装用させることで,装用感と視力の改善が得られた.°,左眼-1.00DAx90°の残余乱視が明らかになった.そこで乱視用1日使い捨てSCLを用いたピギーバックレンズシステムを試してみた.最終視力はRV=(1.2×HCL(8.50/-1.0/14.5/-1.75Ax90°),LV=(1.0×HCL(8.50/-1.0/14.5/-0.75Ax90°)と良好な視力が得られてHCL装用も可能となった(図8).

写真:白内障術後早期に生じた角膜白色沈着

2021年5月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦444.白内障術後早期に生じた角膜白色沈着鍵谷悠福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学図2図1のシェーマ図1紹介受診時の前眼部写真角膜中央やや下方に沈着を認める.以前あった上皮欠損に一致した形状であると考えられる.図3フルオレセイン染色角膜白色沈着上の上皮欠損を認めた.図4最終受診時の前眼部写真複数回の角膜掻爬後にCPTKを施行し,瞳孔領の透明性を得た.(61)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C5410910-1810/21/\100/頁/JCOPY症例は88歳,女性.両眼白内障と右眼加齢黄斑変性にて経過観察されていた.角膜内皮細胞密度は両眼とも2,700/mm2程度であり,角膜に異常はなかった.白内障の進行により視力低下をきたしたため,2020年C7月に両眼白内障に対して水晶体再建術を施行した.先に施行した右眼は問題なく経過良好であった.2週間後に左眼水晶体再建術を施行した.術中,1-6時方向の角膜浮腫により透見性が低下し手術が続行できず,角膜上皮.離を行った.手術は予定通り終了し,術終了時にオフロキサシン眼軟膏を点入した.術翌日には上皮.離部位の欠損を認めた.レボフロキサシン点眼液1.5%1日4回,ベタメタゾン液0.1%1日4回,ブロムフェナク点眼液C1日C2回を開始し,上皮保護のためオフロキサシン眼軟膏C1日C2回を追加した.術後C2日目に角膜上皮欠損部に一致した表層性の角膜混濁が出現した.淡い白色混濁は角膜表層で中央から下方にかけて上皮欠損部を埋めるように広がり,中央から耳側にかけてとくに濃い白色混濁があり,一部角膜表層から実質に至る深さに進行していた.当初,角膜感染症を疑い,レボフロキサシンをC7回に増量し,セフメノキシム点眼液C7回を開始した.角膜擦過培養検査は陰性であった.上皮欠損は改善していったが,白色の角膜混濁は徐々に濃くなった.術後C8日目に角膜専門医にコンサルテーションし,ベタメタゾン点眼によるカルシウム沈着の可能性を指摘されたため,ベタメタゾン点眼を中止し,ゴルフメスによる角膜上皮掻爬および沈着除去を行った.混濁は容易には除去できず,沈着物の除去には至らなかった.改善が認められないため大学病院に紹介となった(図1~3).前眼部所見よりカルシウム沈着を疑い,複数回の掻爬の結果,瞳孔領がうっすら見える程度まで改善した.瞳孔周辺の混濁は治療的表層角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)を施行し,瞳孔領の透明性を得た(図4).点眼薬には主成分となる薬剤のほかに,さまざまな添加剤が含まれており,pH緩衝の添加剤としてリン酸塩が知られている.機序は明らかになっていないが,リン酸塩はまれに角膜の表層から実質にかけてカルシウム沈着をきたすことがある1.2).原因としては,涙液のアルカリ化によりカルシウム溶解度が低下し,角膜へのカルシウム沈着を引き起こすことや,房水代謝異常,涙液異常などが考えられている3.6).角膜表面に急速なカルシウム沈着を疑わせる所見を認めた場合には,高カルシウム血症やその他の全身疾患(腎機能障害,サルコイドーシスなど)を除外したうえで,点眼液中のリン酸塩によるものを考え,点眼液の中止もしくは変更を考慮すべきである7.9).カルシウム沈着に対する治療法はCEDTA(エチレンジアミン四酢酸)による薬物的除去や,PTK,ゴルフメスによる掻爬などの機械的除去がある4).いずれも沈着したカルシウムの除去効果は良好であるが,視軸にかかる混濁がある場合は,視力予後は不良である4,9).文献1)SchrageCNF,CSchlossmacherCB,CAschenbernnerCSCetal:CPhosphateCbu.erCinCalkaliCeyeCburnsCasCanCinducerCofCexperimentalCcornealCcalci.cation.CBurnsC27:459-464,C20012)PopielaMZ:Cornealcalci.cationandphosphates:doyouneedCtoCprescribeCphosphateCfree?COculCPharmacolCTherC30:800-802,C20143)BerlyneGM:MicrocrystallineCconjunctivalCcalci.cationCinCrenalfailure.LancetC2:366-370,C19684)StokkermansCTJ,CGuptaCPC,CSayeghRR:AChands-onCapproachCtoCbandCkeratopathy.CRevCOptomC154:36-41,C20175)BernauerW,ThielMA,KurrerMetal:Cornealcalci.ca-tionCfollowingCintensi.edCtreatmentCwithCsodiumChyaluro-natearti.cialtears.BrJCOphthalmolC90:285-288,C20066)DoostdarCN,CManriqueCCJ,CHamillCMBCetal:SynthesisCofCcalcium-silicacomposites:aCrouteCtowardCanCinCvitroCmodelsystemforcalci.cbandkeratopathyprecipitates.JBiomedCMaterResC99A:173-183,C20117)RaoCGP,CO’BrienCC,CHicky-DwyerCMCetal:RapidConsetCbilateralCcalci.cCbandCkeratopathyCassociatedCwithCphos-phate-containingsteroideyedrops.EurJImplantRefractSurgC7:251-252.C19958)Calci.cbandkeratopathy.https://www.aao.org/bcscsnip-petdetail.aspx?id=1430bd5e-635d-4bad-92e6-c566680C55790.AccessedAugust22,20199)DonaghyCL,VisliselJM,GreinerMAetal:Calci.cbandkeratopathy.CEyeRounds.org.https://webeye.ophth.uiowa.Cedu/eyeforum/cases/214-band-eratopathy.htm.CPublishedCJune2,2015.AccessedAugust22,2019C

睡眠時無呼吸症候群と緑内障

2021年5月31日 月曜日

睡眠時無呼吸症候群と緑内障TheRelationshipbetweenGlaucomaandSleepApneaSyndrome檜森紀子*はじめにCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyで提唱された通り,緑内障の診療では視野保持のために眼圧を30%下降させる眼圧下降に重点を置いて治療しているが,眼圧が十分低いにもかかわらず視野進行を認める症例が存在する.最近,眼圧以外の緑内障の危険因子として全身疾患(高血圧,糖尿病,高脂血症,睡眠時無呼吸症候群など)が指摘されている.本稿では,睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関係について紹介し,いかに問診で聞き出し,その事実をふまえて診療に活かしていくのか概説する.I睡眠時無呼吸症候群とは睡眠時無呼吸症候群(sleepapneasyndrome:SAS)は閉塞性,中枢性,混合型の3型がある.ここでは睡眠中に上気道の狭窄・閉塞により呼吸停止(無呼吸)もしくは減弱(低呼吸)が出現する閉塞性SASについて説明する.有病率は50~70歳男性の22(9~37)%,女性では17(4~50)%といわれている1).そして,加齢によって出現頻度が増すことも知られ,SASの有病率は30~60歳で3%だが60歳以上で45~62%といわれている2).咽頭は軟部組織で構築されており,加齢によって筋緊張の低下・支持組織が脆弱化し,舌根部と軟口蓋の構造が保ちにくくなる.そのため加齢に伴いいびきの頻度が増し,さらに上気道が閉塞すると閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructivesleepapneasyndrome:OSAS)を呈する.また,東アジア人の顔面形態の特徴として,小顎および軟口蓋低位の傾向があげられる.欧米諸国と比較してBMI(bodymassindex)25以上の肥満割合が低いのにもかかわらず,OSASの有病率は同等と考えられている.無呼吸による睡眠の分断化から徐波睡眠が減少し,徐波睡眠とともに分泌のピークをもつ成長ホルモン(growthhormone:GH)の分泌は低下する.成長期以降も生体活動である代謝に重要なGHの分泌低下は,咽頭筋肉組織の減少,脂肪組織の増加を引き起こしSASが悪化するという悪循環をきたす.動脈血酸素飽和度と不飽和度,および睡眠の断片化の周期的なエピソードは,睡眠中の無呼吸と低呼吸によって引き起こされる3).SASは全身的に低酸素障害が引き起こされ,不整脈4),高血圧5),心筋梗塞などの致死性心疾患6)のリスクファクターといわれている(表1).症状は日中の過剰な眠気,いびきや中途覚醒,熟睡感が少ない,家族からの無呼吸の指摘などがあげられる(表2)7).診断は入院してポリソムノグラフィ(polysomnog-raphy:PSG)で脳波や脈拍も含めて精密検査を行う.診断基準は無呼吸低呼吸指数(apneahypopneaindex:AHI)が1時間に5回以上と自覚症状を伴うこと,もしくはAHIが15以上で他に睡眠異常をきたす疾患がなければ確定診断となる7)(表3).SASの治療はPSGでAHI20回/時以上の患者には経鼻的持続陽圧呼吸療法(continuouspositiveairway*NorikoHimori:東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(53)533表1睡眠時無呼吸症候群に関連する因子・性別(男性)・年齢・肥満・喫煙・アルコール・高血圧・冠動脈疾患・脳梗塞・糖尿病表3睡眠時無呼吸症候群の重症度AHI<5正常5<AHI<20軽症20<AHI<40中等度40<AHI重症(文献C7を改変)表2睡眠時無呼吸症候群の症状(文献C7より改変)図1酸化ストレスと睡眠時無呼吸症候群(文献C12より改変)表4睡眠時無呼吸症候群と関連する眼科疾患・フロッピーまぶた症候群・円錐角膜・非動脈炎性前部虚血性視神経症・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性症・緑内障表5緑内障と睡眠時無呼吸症候群表6緑内障の乳頭血流低下に起因する因子研究デザイン調査人数調査したタイプ結果CMojonetal.Ophthalmolgica.2000横断C30CPOAGSASは20%CMojonetal.Ophthalmolgica.2002横断C16CNTGSASは44%CMarcusetal.JGlaucoma.2001ケースコントロールC23/14/30NTG/NTG疑い/controlSASは78%CMojonetal.Ophthalmolgy.1999横断C114CSASSASの診断を受けた7%がCPOAG/NTGCBendeletal.Eye.2008横断C100CSASSAS群の27%がCPOAG/NTGと診断されたCSergietal.JGlaucoma.2007ケースコントロールC51/40CSAS/controlSAS群の5.9%がCNTGCLinPWetal.JGlaucoma.2011ケースコントロールC247CSAS/controlSAS群の5.7%がCNTG単回帰重回帰Cbp値Cbp値CcpRNFLT年齢男性(女性と比較して)Bodymassindex眼軸長角膜厚眼圧収縮期血圧拡張期血圧脈拍数喫煙歴高血圧糖尿病高脂血症心疾患睡眠時無呼吸片頭痛C0.35<C0.001-0.17<C0.001-0.23<C0.001-0.17<C0.001C0.04C0.371C0.04C0.366C0.01C0.907-0.09C0.057-0.09C0.053C0.07C0.147-0.02C0.660-0.09C0.063-0.13C0.011-0.01C0.891C0.04C0.458-0.15C0.002C0.05C0.282*C0.32<C0.001-0.06C0.171*C-0.16C0.001*-0.10C0.023-0.01C0.871*-0.09C0.042(文献C34より改変)(A)(B)(C)+6.06003,0002,500非SAS群SAS群+4.0500MDslope(dB/Y)dROM(U.CARR)400300200BAP(mmol/l)+2.00.0-2.02,0001,500-4.01000-6.00図2睡眠時無呼吸症候群と緑内障Wilcoxonsigned-ranktest,*p<0.05,**p<0.01(文献C35より改変)非SAS群SAS群非SAS群SAS群(A)(B)(C)5.01004.03.080MDslope(dB/Y)dROM(U.CARR)AHI(events/h)60402.01.00.0-1.0-2.0-3.020-4.0-5.00図3CPAP治療前後の酸化ストレスと視野進行Wilcoxonsigned-ranktest,*p<0.05,**p<0.01(文献C36より改変)CPAP前CPAP後CPAP前CPAP後CPAP前CPAP後睡眠時無呼吸症候群夜間の間欠的な低酸素炎症反応亢進NO(血管拡張),エンドセリン(血管収縮)バランスの崩れ視神経乳頭血管障害視野進行図4緑内障に対する睡眠時無呼吸症候群の影響交感神経亢進酸化ストレス亢進血圧上昇血管内皮障害の調節障害から視神経乳頭血流低下を起こすことが,視野進行が悪化する一因になっていると考えられる.おわりに本稿ではCSAS,酸化ストレス,緑内障について述べた.緑内障の基本である眼圧下降治療を行ったうえで,全身疾患にも着目し治療することが望まれる.SASに罹患している緑内障患者において,点眼治療に加え適切なCSAS治療を行うことによって,緑内障進行を抑えることが可能となると考えている.よって当科外来では,前述した症状(日中の過剰な眠気,いびきや中途覚醒,熟睡感が少ない,家族からの無呼吸の指摘)を認める場合,速やかに専門施設に紹介し治療を勧めている.本稿が読者の先生方の日常診療の一助になれば幸いである.文献1)FranklinCKA,CLindbergE:ObstructiveCsleepCapneaCisCaCcommondisorderinthepopulation-areviewontheepide-miologyofsleepapnea.JThoracCDisC7:1311-1322,C20152)YoungCT,CPaltaCM,CDempseyCJCetal:TheCoccurrenceCofCsleep-disorderedCbreathingCamongCmiddle-agedCadults.CNEnglJMedC328:1230-1235,C19933)BendelCRE,CKaplanCJ,CHeckmanCMCetal:PrevalenceCofCglaucomaCinCpatientsCwithCobstructiveCsleepCapnoea–aCcross-sectionalCcase-series.CEye(Lond)C22:1105-1109,C20084)MonahanCK,CStorfer-IsserCA,CMehraCRCetal:TriggeringCofCnocturnalCarrhythmiasCbyCsleep-disorderedCbreathingCevents.JAmCollCardiolC54:1797-804,C20095)PeppardCPE,CYoungCT,CPaltaCMCetal:ProspectiveCstudyCoftheassociationbetweensleep-disorderedbreathingandhypertension.NEnglJMedC342:1378-1384,C20006)GottliebDJ,YenokyanG,NewmanABetal:ProspectivestudyCofCobstructiveCsleepCapneaCandCincidentCcoronaryCheartCdiseaseCandCheartfailure:theCsleepCheartChealthCstudy.CCirculationC122:352-360,C20107)SpicuzzaCL,CCarusoCD,CDiCMariaG:ObstructiveCsleepCapnoeasyndromeanditsmanagement.ThercAdvChron-icDis6:273-285,C20158)TezelG,YangX,CaiJ:Proteomicidenti.cationofoxida-tivelyCmodi.edCretinalCproteinsCinCaCchronicCpressure-inducedratmodelofglaucoma.InvestOphthalmolCVisSciC46:3177-3187,C20059)NakajimaCY,CInokuchiCY,CShimazawaCMCetal:Astaxan-thin,CaCdietaryCcarotenoid,CprotectsCretinalCcellsCagainstCoxidativeCstressCin-vitroCandCinCmiceCin-vivo.CJCPharmCPharmacolC60:1365-1374,C200810)YukiCK,CTsubotaK:IncreasedCurinaryC8-hydroxy-2’-deoxyguanosine(8-OHdG)/creatinineClevelCisCassociatedCwithCtheCprogressionCofCnormal-tensionCglaucoma.CCurrCEyeResC38:983-988,C201311)HimoriCN,CK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血糖だけが原因ではない!? 糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫

2021年5月31日 月曜日

血糖だけが原因ではない!?糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫InfluenceofLifestyleonDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema佐々木真理子*はじめに生活習慣病は,ライフスタイル(生活習慣)が深く関与し,発症の原因となる疾患の総称である1).日本人の三大死因である癌,脳血管疾患,心疾患,さらに脳血管疾患や心疾患の危険因子となる動脈硬化症,糖尿病,高血圧症,脂質異常症などはいずれも生活習慣病とされる.疾患の発症には,遺伝要因,外部環境要因(病原体,有害物質,ストレッサーなど)に加え,ライフスタイル(食事,運動,喫煙,飲酒,ストレスなど)が関与するが,ライフスタイルはこれを改善することにより疾病の発症・進行が予防できる点で重要である(図1).このように考えた場合,糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫自体を生活習慣病ととらえることができるが,本稿では,糖尿病を含む“生活習慣病(一般に糖尿病網膜症の遺伝要因リスク因子)”もしくは“ライフスタイル”の,これらの疾患に対する影響について考察する(図2).生活習慣病については,各疾患の予防や治療は成書に譲り,糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫への血糖値(糖尿病)だけでない影響について,最近の知見を交え概説する.ライフスタイルの影響については,糖尿病合併症である大血管症や腎症に比べ研究は限られるが,現在までの知見を紹介し,糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の発症・進行予防のためのより良いライフスタイルについて考えたい.I最近の糖尿病網膜症・黄斑浮腫の動向InternationalDiabetesFederation(IDF)によれば,2000年の推定糖尿病患者人口は1億5,092万人であったが,2019年には4億6,300万人に増加し,2045年に外部環境要因病原体,有害物質,ストレッサーなどライフスタイル食生活,運動,喫煙,飲酒,ストレスなど図1生活習慣病とライフスタイル疾患の発症には,遺伝要因,外部環境要因に加え,ライフスタイルが関与するが,ライフスタイルは改善することにより疾病の発症・進行が予防できる点で重要である.*MarikoSasaki:国家公務員共済組合連合会立川病院眼科,慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕佐々木真理子:〒190-8531東京都立川市錦町4-2-22国家公務員共済組合連合会立川病院眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(43)523図2ライフスタイル・生活習慣病と糖尿病合併症の関係糖尿病合併症は“生活習慣病”と“ライフスタイル”の影響を受ける.糖尿病黄斑浮腫の有病率(%)糖尿病網膜症の有病率(%)9080706050403020100<1010~<2020≦≦7.07.1~8.08.1~9.09.0<正常血圧高血圧<44≦罹病期間(年)HbA1c(%)血圧総コレステロール(mmol/l)図3危険因子ごとの糖尿病網膜症の有病率糖尿病の罹病期間,HbA1c,血圧は多くの疫学研究で共通して指摘される糖尿病網膜症のリスク因子である.(文献3より作図)2520151050<1010~<2020≦≦7.07.1~8.08.1~9.09.0<正常血圧高血圧<44≦罹病期間(年)HbA1c(%)血圧総コレステロール(mmol/l)図4危険因子ごとの糖尿病黄斑浮腫の有病率糖尿病の罹病期間,HbA1c,血圧,脂質異常症が糖尿病黄斑浮腫のリスク因子である.(文献3より作図)れば,強化療法は発症・進展を含む糖尿病網膜症のイベントリスクを13%減少させた8).2型糖尿病患者を対象に日本で行われたKumamotoStudy9)では,HbA1cが7.0%未満(NGSP)で,細小血管合併症の発症・進展の予防効果が認められたため,血糖是正の目標値の一つとして用いられている.DCCTの追跡調査では,試験終了後,強化療法群と従来療法群の間にHbA1cに差はなくなったが,強化療法を継続された群では,糖尿病網膜症の進展,糖尿病黄斑浮腫の発生,汎網膜光凝固の必要性が有意に抑制された10).さらに,細小血管障害とともに大血管障害の発症も有意に抑制された.このような,早期の強力な血糖の是正が,その後の長期間にわたる合併症の発症・進展を抑制する現象をmetabolicmemory,もしくはlegacye.ectというが,早期に厳格な血糖コントロールに取り組むことがいかに大切かということを示している.b.低血糖とその管理状況血糖の強化療法の有用性については揺るがないところではあるが,そのコントロール状況も糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の発症や増悪に影響する.血糖コントロール開始時に生じる急速な糖尿病網膜症の悪化,earlyworseningもしばしば臨床で問題となる.血糖コントロール完了後3.6週で10.20%の患者に,進行した糖尿病網膜症患者では約2倍生じ,糖尿病網膜症がないか軽度では,増悪による変化は可逆的だが,進行した糖尿病網膜症では不可逆となる.ベースラインでの高い血糖値,HbA1cの大きな減少幅,長期の糖尿病歴,進行した糖尿病網膜症がリスクである.緩やかな血糖の是正が望ましいとされるが,その速度についてはエビデンスがなく,調整も容易ではない.リスクの高い患者では,内科医と連携をとり,血糖コントロール開始後,糖尿病網膜症の悪化所見に留意しつつ頻回に診察し,早期に治療を開始することが肝要である.また,他人の介助を要するような重症の低血糖症は,糖尿病網膜症の発生率を約4倍に増加させる11).内科的にも低血糖は重要な問題であり,とくに高齢者では,心身機能の個人差が著しく,重症低血糖をきたしやすいため,患者の年齢,認知機能,身体機能,併発疾患,重症低血糖のリスク,余命などを考慮して,血糖コントロールの目標を個別に設定することが推奨されている.さらに,HbA1cの長期的な変動が大きいことが,平均HbA1c値とは独立して糖尿病網膜症の発症リスクを2倍高める,Continuousglucosemonitoring(CGM)におけるtimeinrange(TIR)が2型糖尿病の糖尿病網膜症に関連するなどの報告があり,血糖の変動は網膜症に大きく影響する.インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬,GLP-1受動体作動薬),SGLT2阻害薬など,2000年以降に登場した新しい血糖降下薬は,血糖値の変動や重症低血糖を生じにくく,現在広く糖尿病治療に用いられている.大規模臨床試験では,GLP-1受動体作動薬やSGLT2阻害薬で心血管,腎保護作用が認められており,網膜保護作用も期待され注目されている.2.高血圧高血圧は糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の重要なリスク因子である(図3,4).収縮期血圧との関連が強く,WisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopa-thyでは,収縮期血圧が10mmHg上昇すると初期の糖尿病網膜症のリスクが10%,増殖糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫のリスクが15%上昇するとされている12).前述のメタ解析においても,非高血圧と高血圧における有病率は,糖尿病網膜症全体で30.8%から39.6%に上昇するが,増殖糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫を合わせた視力を脅かす糖尿病網膜症では,7.6%から17.6%と2倍以上に増加した3).これらの結果は,高血圧が糖尿病網膜症の重症化や糖尿病黄斑浮腫の発症に関与することを示唆する.血圧の是正が糖尿病網膜症の進展を抑制することを初めて明らかにした介入研究が,UKPDSである13).この研究では,高血圧を合併した2型糖尿病患者1,148名を対象としており,9年後に,厳格な血圧管理群(平均血圧144/82mmHg)は,非厳格群(同154/87mmHg)に比べ糖尿病網膜症の進行リスクは34%,視力低下のリスクは47%減少した.また,光凝固施行も35%減少したが,その80%は糖尿病黄斑浮腫に関するものであった13).一方,近年のAppropriateBloodPressureControlinNIDDM(ABCD)trial,ActiontoControlCardiovascu-526あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(46)larCRiskCinDiabetes(ACCORD)studyでは同様の効果が認められず,2015年のコクランレビューでは,厳格な血圧コントロールは,4.5年間でC20%の糖尿病網膜症の発症抑制効果とC22%の発症・進展抑制効果を認めたが,進展抑制効果は明らかではなかった14).現在では,血圧の是正は糖尿病網膜症の抑止に有効であるが,寄与率はCHbA1cより低いと考えられ,後述のように単独ではなく,他の生活習慣病や生活習慣の是正との組み合わせである集学的治療において有効と考えられる.降圧薬であるレニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensinCsystem:RAS)阻害薬は腎保護作用を有することが知られているが,正常血圧あるいは治療中の高血圧を伴う糖尿病患者を対象とした試験において,血圧とは独立して糖尿病網膜症の発症・進展抑制および改善効果をもつ可能性が示唆されている.正常血圧もしくは治療中の高血圧を有するC2型糖尿病網膜症患者を対象としたCDIRECT-Protect2では,カンデサルタンによる進展抑制効果はみられなかったが,糖尿病網膜症の改善が34%上昇した15).血圧正常のC1型糖尿病患者を対象としたCRenin-AngiotensinCSystemStudy(RASS)では,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-convertingenzyme:ACE)阻害薬のエナラプリル,アンジオテンシンCII受容体拮抗薬(angiotensinIIreceptorblocker:ARB)のロサルタンは糖尿病網膜症の進展をそれぞれ65%,70%減少させた16).さらに,これらの介入研究のメタ解析において,プラセボあるいは他の降圧薬との比較で,RAS阻害薬は糖尿病網膜症の発症・進展抑制および改善効果を認め,ACE阻害薬はCARBより有効であった17).C3.脂質異常症疫学研究では,脂質異常と糖尿病網膜症の関連について相反する報告がみられ,一致した見解が得られていない.一方,糖尿病黄斑浮腫に関しては,コホート研究におけるメタ解析で総コレステロール値との関連が(図4)3),症例・対照研究のメタ解析で総コレステロール,LDLコレステロール,中性脂肪との関連が認められている.また,糖尿病黄斑浮腫が消退したあとに,リポ蛋白が沈着する硬性白斑は,中心窩に集簇すると恒久的な視力障害をきたす.筆者らは,その面積は血清中のLDLと中性脂肪の濃度が高いほど大きく,中性脂肪の濃度が高いほど中心窩に沈着しやすいことを報告している18).このように,糖尿病網膜症だけでなく,糖尿病黄斑浮腫や硬性白斑の抑制という点においても,脂質のコントロールは重要である.介入研究では,2型糖尿病患者C9,795名を対象とし,高トリグリセリド血症,低CHDLコレステロール血症を是正する脂質異常症治療薬フェノフィブラートの効果を検討した無作為化比較試験であるCFenof.brateInterven-tionCandCEventCLoweringCinDiabetes(FIELD)Studyにおいて,フェノフィブラート投与群では,5年間の観察期間中,光凝固治療の導入がプラセボ群よりC31%減少し,増殖糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の発症リスクもそれぞれC30%,31%減少した19).一方,約C6万人のレジストリデータを用いた解析では,スタチン内服者において,非内服者と比較して糖尿病網膜症の発症リスクが,2.7年でC40%減少した20).フィブラート系薬剤やスタチンは,脂質の是正自体に加え,脂質を介さない糖尿病網膜症の進展や糖尿病黄斑浮腫の発症を抑制する作用をもつ可能性が示唆されている.C4.腎障害腎機能障害をもつ糖尿病黄斑浮腫患者で透析後の浮腫の改善が,臨床では散見される.疫学研究においては,腎症と糖尿病網膜症の関連はC1型に比べ,2型では弱いとされる.白人のC2型糖尿病患者を対象とした病院ベースの横断研究では,推算糸球体濾過値(estimatedCglemerularC.ltrationrate:eGFR)の低下は,糖尿病網膜症の有病と重症度に関連したが,糖尿病黄斑浮腫とは関連しなかった21).レセプトデータを用いた日本での解析では,蛋白尿とCeGFRの低下ならびにその組み合わせが,視力をおびやかすような重症糖尿病網膜症発症のリスクであった22).JDCSからは,微量アルブミン尿と糖尿病網膜症が併存すると腎機能低下が顕著であると報告されている23).これらの報告は,腎障害と糖尿病網膜症の相互の関連を示唆する(図5).(47)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C527図5糖尿病網膜症とその他の糖尿病合併症との関係糖尿病網膜症は腎障害や大血管障害のリスク因子であり,多くのリスク因子を共有している.ポリオール代謝ヘキソサミン生合成PKCの活性化経路亢進経路亢進炎症酸化ストレス虚血増悪抑制図6糖尿病網膜症の病態と食事摂取の影響食事摂取には,“網膜症を増悪させる”と“網膜症を抑制する”という二つの作用点がある.相対リスク糖尿病合併症(95%Cl)p値腎症0.39(0.17~0.87)0.003網膜症0.42(0.21~0.86)0.02自律神経症0.37(0.18~0.79)0.002末梢神経症1.09(0.54~2.22)0.660.00.51.01.52.025強化療法がよい標準療法がよい図7糖尿病合併症に対する多因子介入治療の効果血糖,血圧,脂質,生活習慣など多くの因子の総合的な是正効果を検討したCSteno-2studyでは,強化療法群は標準療法群に比べ,平均C3.8年で糖尿病網膜症の進展リスクがC58%低減した.(文献C32より改変作図)つながる.今,糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫を生活習慣病ととらえ,ライフスタイルを見直すことが重要ではないだろうか?文献1)厚生労働省編:生活習慣病.生活習慣病予防のための健康情報サイト,e-ヘルスネット(2021.2.6.アクセス)2)IDFCdiabetesCatlasC9thCeditionC2019.C2019.Chttps://www.Cdiabetesatlas.org/en/sections/proven-and-e.ective-actions.html.Accessed020620213)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal:GlobalprevalenceandCmajorCriskCfactorsCofCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCCare35:556-564,C20124)ThomasCRL,CHalimCS,CGurudasCSCetal:IDFCdiabetesatlas:areviewofstudiesutilisingretinalphotographyontheCglobalCprevalenceCofCdiabetesCrelatedCretinopathyCbetweenC2015CandC2018.CDiabetesCResCClinCPractC157:C107840,C20195)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20116)TheCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrialCResearchGroup:TheCe.ectCofCintensiveCtreatmentCofCdiabetesConCtheCdevelopmentCandCprogressionCofClong-termCcomplica-tionsCinCinsulin-dependentCdiabetesCmellitus.CNewCEnglJMed329:977-986,C19937)UKCProspectiveCDiabetesStudy(UKPDS)Group:Inten-siveCblood-glucoseCcontrolCwithCsulphonylureasCorCinsulinCcomparedwithconventionaltreatmentandriskofcompli-cationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33)C.Lan-cet352:837-853,C19988)ZoungasCS,CArimaCH,CGersteinCHCCetal:E.ectsCofCinten-siveglucosecontrolonmicrovascularoutcomesinpatientswithtype2diabetes:ameta-analysisofindividualpartic-ipantdatafromrandomisedcontrolledtrials.LancetDiabe-tesEndocrinol5:431-437,C20179)OhkuboCY,CKishikawaCH,CArakiCECetal:IntensiveCinsulinCtherapyCpreventsCtheCprogressionCofCdiabeticCmicrovascu-larCcomplicationsCinCJapaneseCpatientsCwithCnon-insulin-dependentCdiabetesmellitus:aCrandomizedCprospectiveC6-yearstudy.DiabetesResClinPract28:103-117,C199510)DiabetesControlandComplicationsTrial/EpidemiologyofDiabetesCInterventionsCandCComplicationsCResearchGroup:RetinopathyCandCnephropathyCinCpatientsCwithCtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivethera-py.NEnglJMed342:381-389,C200011)TanakaCS,CKawasakiCR,CTanaka-MizunoCSCetal:SevereChypoglycaemiaCisCaCmajorCpredictorCofCincidentCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CDiabetesMetab43:424-429,C201712)KleinR,KleinBE,MossSEetal:TheWisconsinepidemi-ologicCstudyCofCdiabeticCretinopathy.CII.CPrevalenceCandCriskCofCdiabeticCretinopathyCwhenCageCatCdiagnosisCisClessCthan30years.ArchOphthalmol102:520-526,C198413)UKCProspectiveCDiabetesStudy(UKPDS)Group:TightCbloodCpressureCcontrolCandCriskCofCmacrovascularCandCmicrovascularCcomplicationsCinCtypeC2diabetes:UKPDSC38.CBmj317:703-713,C199814)DoDV,WangX,VedulaSSetal:BloodpressurecontrolforCdiabeticCretinopathy.CCochraneCDatabaseCSystCRevC1:CCD006127,C201515)SjolieCAK,CKleinCR,CPortaCMCetal:E.ectCofCcandesartanConCprogressionCandCregressionCofCretinopathyCinCtypeC2diabetes(DIRECT-Protect2):arandomisedplacebo-con-trolledtrial.Lancet372:1385-1393,C200816)MauerCM,CZinmanCB,CGardinerCRCetal:RenalCandCretinalCe.ectsCofCenalaprilCandClosartanCinCtypeC1Cdiabetes.CNewCEnglJMedC361:40-51,C200917)WangCB,CWangCF,CZhangCYCetal:E.ectsCofCRASCinhibi-torsConCdiabeticretinopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CLancetCDiabetesCEndocrinolC3:263-274,C201518)SasakiCM,CKawasakiCR,CNoonanCJECetal:QuantitativeCmeasurementCofChardCexudatesCinCpatientsCwithCdiabetesCandtheirassociationswithserumlipidlevels.InvestOph-thalmolVisSci54:5544-5550,C201319)KeechCAC,CMitchellCP,CSummanenCPACetal:E.ectCofCfeno.brateConCtheCneedCforClaserCtreatmentCforCdiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomisedcontrolledtrial.Lancet370:1687-1697,C200720)NielsenCSF,CNordestgaardBG:StatinCuseCbeforeCdiabetesCdiagnosisandriskofmicrovasculardisease:anationwidenestedCmatchedCstudy.CLancetCDiabetesCEndocrinolC2:C894-900,C201421)ManRE,SasongkoMB,WangJJetal:Theassociationofestimatedglomerular.ltrationratewithdiabeticretinopa-thyCandCmacularCedema.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:C4810-4816,C201522)YamamotoCM,CFujiharaCK,CIshizawaCMCetal:OvertCpro-teinuria,moderatelyreducedeGFRandtheircombinationareCpredictiveCofCsevereCdiabeticCretinopathyCorCdiabeticCmacularCedemaCinCdiabetes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC60:2685-268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ストレス時代の中心性漿液性脈絡網膜症

2021年5月31日 月曜日

ストレス時代の中心性漿液性脈絡網膜症CentralSerousChorioretinopathyintheEraofStress齋藤理幸*はじめに現代社会はストレスの社会ともいえる.現代社会は経済的に豊かになり科学技術が高度に発達し,われわれはこれまでよりも「便利で快適」な生活を享受できている.しかしながら,われわれはその発達に見合う分「楽」な生活を送ることができているかというと必ずしもそうではない.情報技術の進歩によって仕事はよりインターラクティブかつ即時的となり時間に追われる仕事は増え,失業や高齢社会における介護問題など現代社会のストレスをあげると枚挙にいとまがない.眼科領域でストレスが関与する代表的な疾患としては,やはり中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)があげられ,教科書的にも精神的ストレスが発症誘因であることが記されている.しかしながら,漠然とした「精神的ストレス」がどのような病態機序でCSCの発症へとつながるのかを深く考えたことはあまりないのではないだろうか.昨今の画像診断,とくに高深達度光干渉断層計(enhanceddepthimagingopticalcoherencetomography:EDI-OCT)の進歩によってCSCの病変の首座は脈絡膜にあることがわかり,近年はCSCの病態はパキコロイドとの関連に注目が集まっている.そして,この画像診断の進歩と反比例するようにCSCとストレスの関係は見過ごされがちになっているのではないだろうか.しかしながら,CSCとストレスに関する研究はけっして停滞しているわけではなく,実は近年になり着々と進歩をみせている.CSCへの自律神経の関与や脈絡膜の血流調節障害,またストレスが関係する遺伝子まで,CSCとストレスを結びつけるさまざまな病態が明らかになってきた.本稿では,精神的ストレスとCSCに関する最新の知見を紹介する.CSCに対する精神的ストレスの関与は古くて新しいテーマである.ICSC患者におけるストレスと交感神経亢進精神的ストレスはCSCにどのようにかかわってくるのだろうか.CSCの患者の精神的ストレスをアンケートを用いて調べた疫学調査によると,91%の症例で非常に不安な心理的事象が視力喪失に先行していたとGelberらは報告している1).精神的ストレスは,恐怖などの動情の表出をつかさどる大脳辺縁系の扁桃体から視床下部を介して内分泌系および自律神経系の両者に影響を与える.視床下部は下垂体から副腎皮質刺激ホルモンを分泌させてストレスホルモンである副腎皮質ホルモンを上昇させるとともに,交感神経を活性化させていわゆる「闘争か逃走」の状態に体を保とうとする(図1).CSCに関係するリスク因子を列挙すると,精神的ストレス2~5)・typeA行動パターン(ストレスに感受性が強く敵対的・攻撃的な気質)2~4),男性4~6),中年5,7),ステロイド4,6,8),高血圧3,6,9),妊娠4,5),睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群)4,5,9),うつ病性障害7),喫煙3,7)などがあり,いずれもストレスおよび交感神経と関連していることが*MichiyukiSaito:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕齋藤理幸:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(37)517図2交感神経とかかわる中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)のリスクファクターコントロールする自律神経の調節が破綻することによって脈絡膜血流が上昇しやすいことを示している.正常な状態では,交感神経が活性化すると交感神経Cb作用により心拍出量は増大し,それを受けて末梢の血管は交感神経Ca作用によって反対に収縮し,組織に過剰な血流が流れ込まないように制御している.CSC患者ではその血流調節機構が自律神経の障害により破綻していると考えられる.このことは,古典的には吉岡らの家兎を用いた実験的CSCモデルの研究15)でも示されている.家兎へのアドレナリンの静脈内注射によって生じる実験的CCSCの発症は,Caアドレナリン受容体遮断薬の前処理によって完全に抑制され,Cbアドレナリン受容体遮断薬と神経節遮断薬の前処理によって不完全に抑制される.この結果は,交感神経の異常がCCSCの発症に重要な役割を果たしていることを強く示唆している.さらに,2018~2020年にかけてCCSCにおける眼局所の血流調節障害を示す研究が光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)の発達によって報告されている.2018年にCPiccolinoらはCOCTAを用いてCCSC患者では運動中に定性的・定量的に脈絡膜毛細血管板の血流が増加することを報告し16),脈絡膜微小循環を制御する自己調節メカニズムが脈絡膜毛細血管板の過灌流を完全に打ち消すことができないことを述べている.また,LupidiらもC2020年に慢性CCSC患者ではハンドグリップテスト中にCOCTAを施行すると,誘発された血圧の上昇に続く新生血管灌流の増加によって脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を検出する感度が向上することを報告17)し,慢性CCSC患者の脈絡膜血流調節不全を示している.このようにCCSC眼では,血圧および眼灌流圧の上昇に伴う脈絡膜過灌流への制御機構が破綻しており,容易に脈絡膜血流が上昇しやすい状態であると考えられる.CSC患者における脈絡膜血流異常に関する研究はOCTAの発達によって再び注目されてきているのである.CIII脈絡膜の血流調節異常とパキコロイド近年のCEDI-OCTの発達によって,CSCの脈絡膜は正常眼に比べ肥厚しているパキコロイドとよばれる病態であることわかっている18).このパキコロイドと脈絡膜循環はどのようにかかわるのであろうか?パキコロイドの原因としては第一に,pachyvesselとよばれる脈絡膜中大血管(Sattler層,Haller層)の管腔領域の拡大19)があり,これはインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)でとらえられている脈絡膜静脈の拡張所見と一致する.同様に,広江らは上下の渦静脈に流れる静脈血流の支配領域の偏りと渦静脈の拡張20)を示し,非対称拡張渦静脈と名づけた.これらの所見はパキコロイド眼での脈絡膜静脈のうっ滞による拡張と黄斑部での変位を示すと考えられる.次に,脈絡膜の肥厚はCIAのびまん性過蛍光を示す部位でより顕著である21)という報告があり,これらのことからパキコロイドにおける脈絡膜肥厚は,脈絡膜中大静脈の管腔の拡大と脈絡膜血管から漏出した漿液による脈絡膜浮腫の両者が原因であると考えられる.筆者らはCEDI-OCTとレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleC.owgraphy:LSFG)を用いた研究で,CSCの急性期で脈絡膜厚と黄斑部血流がともに増加しており,その増加率に相関がみられる22)ことを報告した(図3).このことは,CSCにおける脈絡膜肥厚の原因が脈絡膜過灌流による静水圧上昇によるものであることを示唆している.また,CSCの脈絡膜循環で脈絡膜静脈と同様に有名な所見として,IA初期相における充盈遅延がある.この所見は,一般に脈絡膜の虚血としての循環障害ととらえられがちである.しかしながら,近年の報告によるとCSCの充盈遅延は必ずしも単純な虚血を示す所見ではないようである.筆者らはCLSFGの波形解析を用いて脈絡膜充盈遅延部位における血流抵抗の増加を報告し23),Teussinkらは,慢性CCSCにおいて,IA後期相での低蛍光や蛍光漏出,hotspotなどの異常所見に一致してCOCTAの脈絡膜毛細血管板層において低信号が観察され,その低信号領域の周囲に過灌流を示す高信号領域が存在することを示した24).低信号領域はCIA初期相における脈絡膜充盈遅延を反映していると考えられるが,低信号領域の周囲に高信号領域が観察されたことが特徴的であり,IAの脈絡膜充盈遅延が単なる循環障害(39)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C519a(%)b(%)120中心窩脈絡膜厚変化率(3カ月)110100908070中心窩脈絡膜厚変化率(6カ月)120110100908070000708090100110120(%)0708090100110120(%)MBR変化率(3カ月)MBR変化率(6カ月)図3中心窩脈絡膜厚とmeanblurrate(MBR)の変化率無治療で改善した中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)における初診時からC3カ月目(Ca)とC6カ月目(Cb)の中心窩脈絡膜厚とCMBRの変化率.両者には相関がみられ,CSCの改善とともに脈絡膜血流と脈絡膜厚が相関をもって減少している.脈絡膜過灌流脈絡膜血流排出障害図5脈絡膜からの溢水脈絡膜過灌流と脈絡膜血流の排出障害による静水圧の上昇によって脈絡膜からの溢水が生じる.-今後,これらの新しい知見からCCSC・パキコロイド,さらにはその一因となる中枢神経系・ストレスを標的とした治療が可能になる日も遠くないと感じている.文献1)GelberGS,SchatzH:LossofvisionduetocentralserouschorioretinopathyCfollowingCpsychologicalCstress.CAmJPsychiatryC144:46-50,C19872)YannuzziLA:TypeCACbehaviorCandCcentralCserousCcho-rioretinopathy.CTransCAmCOphthalmolCSocC84:799-845,C19863)IslamCQU,CHanifCMK,CTareenS:FrequencyCofCsystemicCriskCfactorsCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CJCCollCPhysiciansSurgPakC26:692-695,C20164)ChatziralliCI,CKabanarouCSA,CParikakisCECetal:RiskCfac-torsCforCcentralCserouschorioretinopathy:multivariateCapproachinacase-controlstudy.CurrEyeCResC42:1069-1073,C20175)NkrumahG,Paez-EscamillaM,SinghSRetal:Biomark-ersCforCcentralCserousCchorioretinopathy.CTherCAdvCOph-thalmolC12:2515841420950846,C20206)TittlCMK,CSpaideCRF,CWongCDCetal:SystemicC.ndingsCassociatedCwithCcentralCserousCchorioretinopathy.CAmJOphthalmolC128:63-68,C19997)ChenYY,HuangLY,LiaoWLetal:Associationbetweencentralserouschorioretinopathyandriskofdepression:apopulation-basedCcohortCstudy.CJCOphthalmolC2019:C2749296,C20198)TewariCHK,CGadiaCR,CKumarCDCetal:Sympathetic-para-sympatheticCactivityCandCreactivityCinCcentralCserousCcho-rioretinopathy:aCcase-controlCstudy.CInvestCOphthalmolCVisSciC47:3474-3478,C20069)EomCY,COhCJ,CKimCSWCetal:SystemicCfactorsCassociatedCwithCcentralCserousCchorioretinopathyCinCKoreans.CKoreanCJOphthalmolC26:260-264,C201210)HorvathG,LiebT,ConnerGEetal:SteroidsensitivityofnorepinephrineCuptakeCbyChumanCbronchialCarterialCandCrabbitCaorticCsmoothCmuscleCcells.CAmCJCRespirCCellCMolCBiolC25:500-506,C200111)SunCJ,CTanCJ,CWangCZCetal:E.ectCofCcatecholamineConCcentralCserousCchorioretinopathy.CJCHuazhongCUnivCSciCTechnologMedSciC23:313-316,C200312)GargCSP,CDadaCT,CTalwarCDCetal:EndogenousCcortisolCpro.leCinCpatientsCwithCcentralCserousCchorioretinopathy.CBrJOphthalmolC81:962-964,C199713)YoshiokaCH,CKatsumeCY,CAkuneH:ExperimentalCcentralCserousCchorioretinopathyCinCmonkeyeyes:.uoresceinCangiographicC.ndings.COphthalmologicaC185:168-178,C198214)TittlM,MaarN,PolskaEetal:ChoroidalhemodynamicchangesCduringCisometricCexerciseCinCpatientsCwithCinac-tiveCcentralCserousCchorioretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisSciC46:4717-4721,C200515)YoshiokaH:Theetiologyofcentralserouschorioretinop-athy.NipponGankaCGakkaiZasshiC95:1181-1195,C199116)CardilloCPiccolinoCF,CLupidiCM,CCaginiCCCetal:ChoroidalCvascularCreactivityCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CInvestOphthalmolVisSciC59:3897-3905,C201817)LupidiCM,CFruttiniCD,CEandiCCMCetal:ChronicCneovascu-larCcentralCserouschorioretinopathy:aCstress/restCopticalCcoherencetomographyangiographystudy.AmJOphthal-molC211:63-75,C202018)ImamuraCY,CFujiwaraCT,CMargolisCRCetal:EnhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographyCofCtheCcho-roidincentralserouschorioretinopathy.RetinaC29:1469-1473,C200919)SonodaCS,CSakamotoCT,CKuroiwaCNCetal:StructuralCchangesofinnerandouterchoroidincentralserouscho-rioretinopathyCdeterminedCbyCopticalCcoherenceCtomogra-phy.PLoSOneC11:e0157190,C201620)HiroeT,KishiS:DilatationofasymmetricvortexveinincentralCserousCchorioretinopathy.COphthalmolCRetinaC2:C152-161,C201821)JirarattanasopaP,OotoS,TsujikawaAetal:AssessmentofCmacularCchoroidalCthicknessCbyCopticalCcoherenceCtomographyCandCangiographicCchangesCinCcentralCserousCchorioretinopathy.OphthalmologyC119:1666-1678,C201222)SaitoCM,CNodaCK,CSaitoCWCetal:RelationshipCbetweenCchoroidalCbloodC.owCvelocityCandCchoroidalCthicknessCinCpatientswithregressionofacutecentralserouschorioreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:227-229,C201823)SaitoCM,CSaitoCW,CHirookaCKCetal:PulseCwaveformCchangesCinCmacularCchoroidalChemodynamicsCwithCregres-sionofacutecentralserouschorioretinopathy.InvestOph-thalmolVisSciC56:6515-6522,C201524)TeussinkCMM,CBreukinkCMB,CvanCGrinsvenCMJCetal:COCTCangiographyCcomparedCtoC.uoresceinCandCindocya-nineCgreenCangiographyCinCchronicCcentralCserousCchorio-retinopathy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:5229-5237,C201525)Fusi-RubianoCW,CSaedonCH,CPatelCVCetal:OralCmedica-tionsCforCcentralCserouschorioretinopathy:aCliteratureCreview.Eye(Lond)34:809-824,C202026)ImanagaN,TeraoN,NakamineSetal:Scleralthicknessincentralserouschorioretinopathy.OphthalmolRetinaC5:C285-291,C202127)HosodaCY,CYoshikawaCM,CMiyakeCMCetal:CFHCandCVIPR2CasCsusceptibilityClociCinCchoroidalCthicknessCandCpachychoroidCdiseaseCcentralCserousCchorioretinopathy.CProcNatlAcadSciUSAC115:6261-6266,C201828)AgoCY,CHayata-TakanoCA,CKawanaiCTCetal:ImpairedCextinctionCofCcuedCfearCmemoryCandCabnormalCdendriticCmorphologyCinCtheCprelimbicCandCinfralimbicCcorticesCinCVPAC2receptor(VIPR2)C-de.cientmice.NeurobiolLearnMemC145:222-231,C2017522あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(42)

高脂肪食が加齢黄斑変性を助長するわけ

2021年5月31日 月曜日

高脂肪食が加齢黄斑変性を助長するわけHigh-FatDietandAge-RelatedMacularDegeneration永井紀博*はじめに高脂肪食の摂取は肥満,メタボリックシンドローム,糖尿病,癌,さらにはアルツハイマー病のような神経疾患の発症を誘発する因子となっており,公衆衛生上も問題となっている1).眼科領域でも脂質代謝の傷害や高脂肪食摂取は加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)と関連しており2,3),飽和脂肪酸の摂取は糖尿病網膜症のリスクを上げると報告されている4).わが国の失明原因疾患の第4位であるAMDのうち,脈絡膜新生血管を生じる滲出型AMDに対しては抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法が標準治療となっているが,再発を繰り返す症例や視力低下をきたす患者も少なくない.地図状萎縮を生じる萎縮型や軟性ドルーゼンと網膜色素上皮異常を特徴とする前駆病変では,黄斑色素や抗酸化ビタミンを含むサプリメントの摂取と禁煙,生活習慣の改善が推奨されており,これらの介入は滲出型AMD患者でも大切である.生活習慣の改善のなかには血圧コントロールや高脂肪食によって誘導される肥満の改善が含まれる.本稿では高脂肪食による眼への影響,脂質とAMDの関連についてポイントを述べる.I高脂肪食とメタボリックシンドローム1.脂質の役割と脂質によって引き起こされる疾患脂質は肉や植物油に多く含まれ,炭水化物や蛋白質とともに三大栄養素の一つである.脂質は身体のエネルギー源であるほか,細胞膜の構成成分や,ホルモンや生理活性物質の材料となる重要な役割を果たす.網膜の乾燥重量の20%は脂質である.余剰な脂質は中性脂肪として脂肪組織に蓄えられる.しかしながら,脂質の過剰な摂取は肥満,メタボリックシンドローム,糖尿病,癌,アルツハイマー病などの神経疾患の発症を誘発する因子となっており,公衆衛生上も問題となっている1).眼科領域でも飽和脂肪酸の摂取は糖尿病網膜症のリスクを上げることや4),脂質代謝の傷害や高脂肪食摂取とAMDとの関連が報告されている2,3).2.メタボリックシンドロームとはメタボリックシンドロームとは,内臓脂肪型肥満に高血糖,高血圧,脂質異常症のうち二つ以上の疾患が併発している状態をいう.メタボリックシンドロームは,血管の老化である動脈硬化を促進し,加齢性疾患である虚血性心疾患5),脳血管疾患5)やAMD6)などのリスクを上昇させることが知られている.メタボリックシンドロームでは個々の危険因子が重症でない場合でも,重責することで心血管疾患のリスクが顕著に高くなることが問題となる.II脂質摂取,高脂血症とAMDの疫学脂質摂取,高脂血症とAMDの関連についてはさまざまな報告がある(表1).脂質の過剰摂取により誘発される肥満がAMDのリス*NorihiroNagai:慶應義塾大学医学部眼科学教室,永寿総合病院眼科〔別刷請求先〕永井紀博:〒110-8645東京都台東区東上野2-23-16永寿総合病院眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(29)509表1加齢黄斑変性に影響を与える脂質関連因子脂質関連因子影響を与えるAMD関連因子肥満(bodymassindex高値)後期AMDや滲出型AMDリスク上昇高脂肪食AMDのリスク上昇血中総コレステロール高値地図状萎縮のリスク上昇血中酸化LDL黄斑色素密度と逆相関脂質関連遺伝子の遺伝子多型(ApoE,cholesterylestertransferproteinn)AMDのリスク上昇====なる.網膜色素上皮細胞は加水分解酵素を多く含む小胞様の細胞内小器官であるリソソームで,脂質に富んだ視細胞外節を消化している.網膜色素上皮細胞では生直後から酸化変性物質が自発蛍光を有するリポフスチンとして蓄積する.リポフスチンの蓄積が進むと網膜色素上皮細胞下に脂質が沈着し,ドルーゼンが生じる.やがてAMDの前駆病変である大きなドルーゼンや網膜色素上皮細胞の色素異常が形成される.これらの病変はCAMDのリスクファクターである.米国国立眼研究所(Nation-alCEyeInstitute:NEI)主導で行われたCAREDSは無作為大規模臨床試験で,カロテノイドであるCbカロテンと抗酸化ビタミン(ビタミンCC,E),亜鉛の併用摂取によるCAMDの進行予防効果を検討した.この検討のなかで対象者の眼底病変を四つのカテゴリーに分けCAMDへの進行を検討した15).カテゴリーC1(ドルーゼンなしもしくはC5個以上の小型ドルーゼン),カテゴリーC2(5個以上の小型ドルーゼン,1個以上の中型ドルーゼンもしくは色素上皮異常)ではCAMDへの進行はC5年間でそれぞれC0.4%,1.3%と低い値であった.一方,カテゴリー3(20個以上の中型ドルーゼン,1個以上の大型ドルーゼンもしくは中心窩外の地図状萎縮),カテゴリーC4(滲出型,萎縮型CAMDの僚眼)ではCAMDへの進行はC5年間でぞれぞれC18%,34%と高率であり,予防がとくに大切である16).加齢によりCBruch膜や脈絡膜の動脈にもコレステロールなどの脂質の沈着が増加する.動脈壁へのコレステロールの沈着は動脈硬化でもみられ,AMDと動脈硬化には共通の病態形成の要素があると考えらえて,AMDは眼のメタボリックシンドロームであるともいわれている.肥厚したCBruch膜は網膜色素上皮と脈絡膜の間の物質の輸送を阻害することが示唆される.CIV高脂肪食がAMDを助長するメカニズム1.高脂肪食の眼への影響高脂肪食による組織への影響は,高脂肪食を摂取させる動物モデルによって解析がなされてきた1).高脂肪食により体重増加,内臓脂肪の増加,血圧や血糖上昇,インスリン抵抗性の増加などメタボリックシンドロームと同様の病態が誘導される.眼への影響でも,角膜,水晶体,硝子体,網膜,網膜色素上皮細胞,Bruch膜などさまざまな組織への影響が報告されている1).角膜では透過性亢進や神経の減少が,水晶体では酸化ストレスの上昇,硝子体の炎症マーカーが亢進する.網膜では網膜神経線維層の菲薄化,血管透過性亢進,炎症シグナルや酸化ストレスの増加,脂質の蓄積など多岐にわたる悪影響がみられる.C2.高脂肪食と加齢黄斑変性a.脂質の網膜色素上皮細胞とBruch膜への影響網膜色素上皮細胞とCBruch膜は視細胞と脈絡膜毛細血管板の間に位置する.網膜色素上皮細胞は視細胞の外節の貪食,ビタミンCAの取り込みと視細胞への供給,視細胞への影響供給などの多くの役割を果たす.Bruch膜は弾性線維に富み,脈絡膜毛細血管板と網膜の間の物質輸送を行い,網膜色素上皮の構造を支える基盤となっている.筆者らはマウスに高脂肪食もしくは普通食を摂取させ高脂肪食モデルを作製した17).高脂肪食の摂取により内臓脂肪と体重が増加し,網膜色素上皮細胞や視細胞,脈絡膜に浸潤したマクロファージに酸化CLDLの蓄積がみられた.酸化CLDLは血中でコレステロールなどを運ぶLDLが活性酸素などによって酸化されたもので,メタボリックシンドロームのバイオマーカーである.網膜色素上皮細胞の電子顕微鏡所見では高脂肪食投与により細胞質内に指紋様構造の老廃物の蓄積がみられた.リソソームは細胞内に入った物質を消化する細胞内小器官であり,リソソーム内のカテプシンCDは蛋白質分解における主要な酵素である.指紋様構造はカテプシンCDの欠損したマウスの網膜18)やCAMD患者の網膜色素上皮の病理標本19)でみられることが報告されている.実際に高脂肪食投与マウスの網膜色素上皮ではリソソームを構成する分子の発現が低下しており,高脂肪食投与リソソーム機能が不十分となり,視細胞外節を消化する機能の低下から,視機能障害が生じると考えられた.高脂肪食の投与により網膜色素上皮細胞内の液胞増加,脂質沈着,細胞死が増加し,Bruch膜の肥厚,脂質沈着も生じることが報告されている(表2).網膜色素上皮細胞やBruch膜は視細胞の恒常性を司るため,これらの組織の(31)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C511表2脂質の加齢黄斑変性に関連する眼内組織への影響マクロファージの走化走化因子活性化したマクロファージマクロファージの浸潤とサイトカイン分泌図1高脂肪食が加齢黄斑変性を助長するメカニズム高脂肪食は網膜色素上皮細胞の代謝異常を誘発し,老廃物が蓄積して細胞の傷害が生じる.また,マクロファージに対しては酸化CLDLなどの脂質の蓄積を誘発し,アンジオテンシンII1型受容体(AT1R)活性化により転写因子(peroxisomeCproliferator-activatedCreceptorCg:PPARCg)/ABCA1経路を介してマクロファージからのコレステロールの排出が不十分となる.脂質の蓄積したマクロファージは活性化し,網膜色素上皮細胞からの走化因子によって脈絡膜に浸潤し,サイトカイン分泌を介して網膜色素上皮の傷害を加速する.網膜色素上皮傷害によって視細胞障害が誘発され,視機能障害が生じる.表3加齢黄斑変性の予防表4地中海式ダイエット禁煙肉類,乳製品を控えめにし,魚介類を多く摂る.遮光食用油としておもにオリーブオイルを用いる.全粒穀物,野菜,ナッツ,フルーツを多く摂るサプリメントの摂取赤ワインを適量飲む.AREDS2に基づく抗酸化ビタミン(ビタミンC,E,亜鉛)と黄斑色素(ルテイン,ゼアキサンチン)を含むものBMI改善血圧コントロール食事・ルテインを含有する緑黄色野菜の摂取(ホウレンソウ,ケールなど)・魚の摂取・地中海食=-活習慣の改善は重要である.おわりにAMD治療において,よりよいCqualityoflife(QOL)の維持には毎日の食事の改善や禁煙やや黄斑色素の摂取など,日々のライフスタイルの改善を通して,AMDの予防に努めることが大切である.今後脂質を対象としたバイオマーカーの検討や眼の脂質のイメージング,脂質を標的としたCAMDの治療開発が将来的な課題と考えられる.文献1)Clarkson-TownsendCDA,CDouglassCAJ,CSinghCACetal:CImpactsCofChighCfatCdietConCocularCoutcomesCinCrodentCmodelsofvisualdisease.ExpEyeRes204:108440,C20212)ChapmanCNA,CJacobsCRJ,CBraakhuisAJ:RoleCofCdietCandCfoodCintakeCinCage-relatedCmaculardegeneration:aCsys-tematicreview.ClinExpOphthalmol47:106-127,C20193)DigheCS,CZhaoCJ,CSte.enCLCetal:DietCpatternsCandCtheCincidenceofage-relatedmaculardegenerationintheAth-erosclerosisRiskinCommunities(ARIC)study.BrJOph-thalmol104:1070-1076,C20204)SasakiM,KawasakiR,RogersSetal:Theassociationsofdietaryintakeofpolyunsaturatedfattyacidswithdiabeticretinopathyinwell-controlleddiabetes.InvestOphthalmolVisSci56:7473-7479,C20155)EnginA:TheCde.nitionCandCprevalenceCofCobesityCandCmetabolicsyndrome.AdvExpMedBiolC960:1-17,C20176)ClemonsCTE,CMiltonCRC,CKleinCRCetal;Age-RelatedCEyeCDiseaseStudyResearchG:RiskfactorsfortheincidenceofCAdvancedCAge-RelatedCMacularCDegenerationCinCtheCAge-RelatedCEyeCDiseaseStudy(AREDS)AREDSCreportCno.19.Ophthalmology112:533-539,C20057)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchG:Riskfactorsassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.acase-controlstudyintheage-relatedeyediseasestudy:Age-RelatedEyeDiseaseStudyReportNumber3.Ophthalmol-ogy107:2224-2232,C20008)HoggRE,WoodsideJV,GilchristSEetal:CardiovasculardiseaseCandChypertensionCareCstrongCriskCfactorsCforCcho-roidalneovascularization.Ophthalmology115:1046-1052,Ce1042,C20089)ChoCE,CHungCS,CWillettCWCCetal:ProspectiveCstudyCofCdietaryfatandtheriskofage-relatedmaculardegenera-tion.AmJClinNutr73:209-218,C200110)TomanySC,WangJJ,VanLeeuwenRetal:RiskfactorsforCincidentCage-relatedCmaculardegeneration:pooledC.ndingsCfromC3Ccontinents.COphthalmologyC111:1280-1287,C200411)FritscheCLG,CFreitag-WolfCS,CBetteckenCTCetal:Age-relatedmaculardegenerationandfunctionalpromoterandcodingCvariantsCofCtheCapolipoproteinCECgene.CHumCMutatC30:1048-1053,C200912)ChengCCY,CYamashiroCK,CChenCLJCetal:NewClociCandCcodingvariantsconferriskforage-relatedmaculardegen-erationinEastAsians.NatCommun6:6063,C201513)VavvasCDG,CDanielsCAB,CKapsalaCZGCetal:RegressionCofCsomehigh-riskfeaturesofage-relatedmaculardegenera-tion(AMD)inCpatientsCreceivingCintensiveCstatinCtreat-ment.EBioMedicine5:198-203,C201614)NagaiCN,CIzumi-NagaiCK,CSuzukiCMCetal:AssociationCofCmacularpigmentopticaldensitywithserumconcentrationofoxidizedlow-densitylipoproteininhealthyadults.Reti-na35:820-826,C201515)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchG:ACrandom-ized,Cplacebo-controlled,CclinicalCtrialCofChigh-doseCsupple-mentationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:CAREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C200116)EvansJR:Riskfactorsforage-relatedmaculardegenera-tion.ProgRetinEyeRes20:227-253,C200117)NagaiCN,CKawashimaCH,CTodaCECetal:Renin-angiotensinCsystemCimpairsCmacrophageClipidCmetabolismCtoCpromoteCage-relatedmaculardegenerationinmousemodels.Com-munBiol3:767,C202018)KoikeCM,CNakanishiCH,CSaftigCPCetal:CathepsinCDCde.ciencyinduceslysosomalstoragewithceroidlipofuscininmouseCNSneurons.JNeurosci20:6898-6906,C200019)SinhaCD,CValapalaCM,CShangCPCetal:Lysosomes:regula-torsCofCautophagyCinCtheCretinalCpigmentedCepithelium.CExpEyeCRes144:46-53,C201620)BarathiCVA,CYeoCSW,CGuymerCRHCetal:E.ectsCofCsimv-astatinonretinalstructureandfunctionofahigh-fatath-erogenicCmouseCmodelCofCthickenedCBruch’sCmembrane.CInvestOphthalmolVisSci55:460-468,C201421)ApteRS:RegulationCofCangiogenesisCbyCmacrophages.CAdvExpCMedBiol664:15-19,C201022)ApteRS,RichterJ,HerndonJetal:Macrophagesinhibitneovascularizationinamurinemodelofage-relatedmacu-lardegeneration.PLoSMed3:e310,C200623)MooreCKJ,CTabasI:MacrophagesCinCtheCpathogenesisCofCatherosclerosis.Cell145:341-355,C201124)SeneCA,CKhanCAA,CCoxCDCetal:ImpairedCcholesterolCe.uxCinCsenescentCmacrophagesCpromotesCage-relatedCmaculardegeneration.CellMetab17:549-561,C201325)NagaiN,Izumi-NagaiK,OikeYetal:Suppressionofdia-betes-inducedretinalin.ammationbyblockingtheangio-tensinCIICtypeC1CreceptorCorCitsCdownstreamCnuclearCfac-tor-kappaBpathway.InvestOphthalmolVisSci48:4342-4350,C2007C(35)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C515-

屋外活動時間減少による近視の激増

2021年5月31日 月曜日

屋外活動時間減少による近視の激増ASharpIncreaseinMyopiaCasesDuetoDecreasedOutdoorActivity四倉絵里沙*鳥居秀成*はじめに近年,近視人口は東アジアを中心として世界的に増加傾向にあり,特筆すべきはわずか数十年で近視人口が急増していることである1).Holdenら2)は,合計200万人を対象とした145の研究をメタ解析し,2000年時点での世界の近視人口は14億人,強度近視人口は1.6億人と推察されるが,この増加傾向が続くと,2050年には近視(屈折値≦-0.5D)人口は48億人と現在の3~4倍に,強度近視(屈折値≦-5.0D)人口も9.4億人と約6倍になると発表し,警鐘を鳴らしている.実際,わが国でも文部科学省の学校保健統計によると,裸眼視力0.3未満の小学生の割合がここ30年間で2.6倍に増加しており,筆者らも東京都内の小中学生の近視有病率が高いことを報告した3).近視は遺伝因子と環境因子により発症,進行すると考えられているが,この短期間での近視人口急増の原因は,遺伝因子の変化というよりも環境因子の変化による影響とみるのが妥当であると思われる.近視に関連する環境因子のなかでもっともコンセンサスが得られているものは屋外活動であり,屋外活動時間が長いほど近視が抑制されるといわれている.本稿では,屋外活動と近視について網羅的に紹介する.I屋外活動時間と近視近年,屋外活動時間の減少が報告されている4).さらに2020年,新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため,日本でも休校措置が取られ外出自粛を要求された地域がある.近視予防フォーラム5)では2020年に,小中学生の子どもをもつ保護者1,000人を対象に「新型コロナウイルスによって変化した子どもの生活実態」に関するインターネット調査を行ったところ,1年前と比べ,小中学生の86.3%が「自宅で過ごす時間」が増加し,67.1%が「屋外で遊ぶ時間」が減少したと回答した.また,屋外活動時間は1日平均35.4分と,1年前の61.1分と比べ4割以上短くなっていることを報告した.このような屋外活動時間の減少が近視にどのような影響を及ぼすか,今後の検討が必要だが,本稿では屋外活動と近視の関連性について報告された代表的な既報を紹介する.1.屋外活動時間と近視有病率まず,近視有病率と屋外活動に焦点を当てた横断研究の既報6~10)を紹介する(表1).屋外活動と近視に関する代表的な研究の一つに,Roseらの2008年の報告6)がある.シドニーで1,735人(平均年齢6.7歳)と2,339人(平均年齢12.7歳)を対象に近視有病率と近業,屋外活動について検討したところ,屋外活動時間が長い(1日2.8時間以上)ほど,近視有病率が低かった.また,12歳児において性別,人種,近視家族歴,両親の職業,学歴を調整した結果,近業時間の多少にかかわらず,屋外活動時間が長ければ近視のリスクが低くなることも報告した(図1)6).*ErisaYotsukura&*HidemasaTorii:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕四倉絵里沙:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(21)501表1近視有病率をアウトカムとした横断研究著者雑誌名報告年研究を行った国n(人)対象年齢得られた知見RoseetalOphthalmology2008GuoetalOphthalmology2013ZhouetalPLOSONE2015SunetalJOphthalmol2018SinghetalOptomVisSci2019オーストラリア中国中国中国インド1,7352,3396811,9023,7531,234平均年齢:6.7歳平均年齢:12.7歳平均年齢:7.7歳平均年齢:9.8歳10~15歳平均年齢:10.5歳屋外活動時間が長い(1日2.8時間以上)と近視有病率は有意に低かった.年齢と両親の近視を調整したところ,1週間の屋外活動時間が長いと近視有病率は有意に低かった(オッズ比=0.32).近視群と非近視群の屋外活動時間を比較すると,それぞれ14.0時間/週と14.7時間/週で,非近視群のほうが有意(p=0.001)に長かった.年齢,性別,theChildren’sSleepHabitsscore,睡眠時間,近業時間を調整したところ,屋外活動時間が長いと近視有病率が有意に低かった(オッズ比=0.97).年齢,性別,両親の近視,近業時間,近業距離を調整したところ,屋外活動時間が長いと近視有病率は有意に低かった(オッズ比=0.74).1日1.5時間以上の屋外活動時間を行っていると近視有病率が有意に低かった(オッズ比=0.01).オッズ比-3.02.52.01.51.0Low=0.5==0.0HighModerateLow屋外活動時間近業時間図1屋外活動時間と近業時間の関係近業時間の多少にかかわらず,屋外活動時間が長ければ近視のリスクが低いことがわかる.また,近業時間が長くても屋外活動時間を長くすれば近視のリスクを低くできる可能性が示唆された.(文献6より引用)=表2近視の発症をアウトカムとした縦断研究著者雑誌名報告年観察期間研究を行った国Cn(人)対象年齢得られた知見CJonesetalInvestOphthalmolVisSci2007GuggenheimetalInvestOphthalmolVisSci2012FrenchetalOphthalmology20132年間8年間5~C6年間米国CイギリスCオーストラリアC5147,7472,0598~C9歳(平均年齢:8C.63歳)7歳(平均年齢:7C.5歳)6,12歳平均屋外活動時間は,小学C4年生時に近視にならなかった子どもでは週C11.65時間(=約1時間C40分C/日)であったのに対し,近視になった子どもでは週C7.98時間(=約1時間8分C/日)で有意差(p<0C.001)を認めた.C両親の近視,読書時間,性別,身体活動を調整した結果,C8~C9歳時点での屋外活動時間が長いとC11歳での近視発症率が有意に低くなった(オッズ比=0.65).C近視を発症しなかった子どもの平均屋外活動時間は,C21.0時間C/週で,発症した子どもの16.3時間C/週と比較し有意(Cp<C0.0001)に長かった.また,年齢,性別,両親の近視を調整した結果,屋外活動時間が短いと近視発症率が有意に高くなり,屋外活動時間が短い群と長い群を比較すると,C6歳児においては短い群の近視発症率は長い群のC2.84倍であり,C12歳児でもC2.15倍だった.C1.0=0.8=近視になる割合0.60.40.20.00~56~910~1414<屋外活動時間/週図2両親の近視の数別の子どもの屋外活動時間と近視になる割合両親が近視だと屋外活動時間が短くなるにつれ,近視になる割合も徐々に高くなり,また両親が近視だったとしても,1日C2時間以上の屋外活動で近視発症割合を低くすることができる.両親が近視でなかったとしても,屋外活動時間がC1日C1時間にも満たない場合,片親が近視の場合と同様の近視発症率となることがわかる.(文献C11より引用)屈折値変化量(D)543210-1-2-3-4-5日数図3照度別の屈折値変化近視を誘導したヒヨコの照度別の屈折値変化を示す.500Clux下で飼育されたヒヨコにおける,ベースラインからC7日間経過した屈折値変化は-8.02Dであったのに対し,40,000Clux下で飼育された場合,同日数での屈折値変化は-0.73Dで,近視の発症だけでなく進行もほぼ停止させた.(文献C18より引用)CArtisanArti.ex0.80.000.7*5年間の屈折値変化量(D/5年)-0.50-1.00-1.50-2.000.60.50.40.30.20.10-2.50ArtisanArti.ex図4有水晶体眼内レンズ挿入術後の屈折値・眼軸長変化量透過させる光の波長が異なるC2種類の有水晶体眼内レンズ群間(ArtisanとArti.ex)で,術後C5年間の屈折値・眼軸長変化量を比較したところ,バイオレットライトを透過させるCArti.ex群において,5年間の眼軸長変化量が有意に少なかった.(文献C21より引用)表3屋外活動を増やした介入型臨床試験著者雑誌名報告年観察期間研究を行った国Cn(人)対象年齢(介入群/コントロール群)介入群得られた知見CWuetalOphthalmology2013HeetalJAMA2015JinetalBMCOphthalmol2015WuetalOphthalmology20181年間3年間1年間1年間台湾C中国C中国C台湾C5711,9033,0519,307~C11歳(平均年齢:8C.89/9.02歳)6~C7歳(平均年齢:6C.61/6.57歳)6~C11歳(平均年齢:1C0.1/10.3歳)6歳(平均年齢:6C.3歳)1日80分間の屋外活動(平日C5日/週)1日40分間の屋外活動(平日C5日/週)1日40分間の屋外活動(平日C5日/週)1週間で11時間以上の屋外活動1年間の等価球面度数の変化量は,介入群で-0.25D,コントロール群で-0.38Dで,介入群で有意(Cp=0.029)に近視進行が抑制された.C眼軸伸長量は有意差を認めなかったものの(介入群:C0.95Cmm/3年,コントロール群:0.98Cmm/3年,p=0.07),コントロール群と比較して介入群は有意に近視進行が抑制され(介入群:-1.42D/3年,コントロール群:-1.59D/3年,p=0.04),近視の有病率も有意に低い(介入群:C30.4%,コントロール群:3C9.5%,p<0C.001)ことが示された.C1年間で近視を新規に発症した割合は,介入群:C3.70%,コントロール群C8.50%だった.眼軸長伸長量も介入群でC0.16Cmm,コントロール群C0.21Cmmで,介入群で有意に少なかった(p=0.034).C1年間の等価球面度数の変化量は介入群で-0.35D,コントロール群で-0.47D,眼軸長伸長量は介入群でC0.28Cmm,コントロール群0.33Cmmで,介入群で有意(p=0.002,C0.003)に近視進行が抑制された.近視を発症した割合100%80%60%40%20%0%47.75%8.41%43.84%49.16%17.65%33.19%介入群コントロール群介入前から近視近視を新規に発症介入後も近視なし図5近業時間と屋外活動の関係1日C80分間の屋外活動時間を増やす介入を行った結果,1年間で近視(等価球面度数≦-0.5D)を新規に発症した割合が,コントロール群C17.65%に対し介入群ではC8.41%だった.(文献C24より引用)%50.0040.0030.0020.0010.000.00年図6台湾における屋外活動時間を増やす国家プロジェクト導入による視力低下児童の割合の推移2010年までの近視予防策は遠方をみる,連続近業作業をしないなどが含まれていたが,2010年からC1日C120分以上の屋外活動を行うことが推奨され,導入C2年目以後,視力低下児童(小学生,どちらか片方の裸眼視力がC20/25以下)の割合を減少させることに成功した.(文献C28より引用)---=-’–

メタボリックシンドロームとコロナがもたらすマイボーム腺機能不全の急増

2021年5月31日 月曜日

メタボリックシンドロームとコロナがもたらすマイボーム腺機能不全の急増IncreaseofMGDPatientsDuetoMetabolicSyndromeandCoronaVirusCircumstances有田玲子*はじめに生物の性質が周囲の環境に対応して世代を経るごとに変化する現象を,適応進化とよぶ.適応進化の過程では,生物の設計図であるゲノム配列にも変化が生じる.ヒト集団の適応進化の過程は,各集団における地理的条件や生活環境に応じて世界各地で異なることが知られている.最先端の遺伝統計解析手法を用いた大規模ヒトゲノム情報を対象にした適応進化の解析で,日本人集団においては,アルコール摂取量・肥満・脂質(HDLコレステロール)などが,適応進化のおもな対象であったことが明らかになってきた.つまり,ライフスタイルにより遺伝子も適応し,変化するということがわかってきたのである.マイボーム腺機能不全(meibomianCglanddysfunction:MGD)は涙液の脂質を分泌し,涙液の蒸発を抑制する役割をしており,ドライアイの主因である.最近行われた疫学調査の結果,MGDは,オキュラサーフェス疾患の枠を超え,全身疾患やCVDT(visualCdisplayterminal)使用時間との関連が注目されている.本稿では,ライフスタイルがCMGDに及ぼす影響について,メタボリックシンドロームとCVDT使用時間という観点から考察する.CIマイボーム腺機能不全とはなにかマイボーム腺は眼瞼に存在する外分泌腺で,涙液の油層を分泌し涙液の蒸発を抑制している.上に約C25本,下に約C20本ある(図1).ドライアイ全体の約C86%がマイボーム腺関連疾患であることが報告されている.マイボーム腺開口部の閉塞,導管上皮の過角化が疾患の契機となり,それに慢性のサブクリニカルな炎症,感染,加齢が加わり悪循環になる1).MGD診断のキーとなるのはマイボーム腺開口部周辺の所見で,開口部閉塞,血管拡張,眼瞼縁不整,皮膚粘膜移行部の移動が代表的であ*ReikoArita:伊藤医院〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042埼玉県さいたま市見沼区南中野C626-11伊藤病院C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(15)C495図2マイボーム腺機能不全患者の眼瞼縁所見a:マイボーム腺開口部閉塞,b:眼瞼縁の血管拡張,c:眼瞼縁の不整,d:皮膚粘膜移行部の移動.表1マイボーム腺機能不全の定義さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.表3分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準以下のC3項目(自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見)が陽性のものを分泌減少性CMGDと診断する.1.自覚症状眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感などの自覚症状がある.2.マイボーム腺開口部周囲異常所見①血管拡張②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動③眼瞼縁不整①.③のうちC1項目以上あるものを陽性とする.3.マイボーム腺開口部閉塞所見①マイボーム腺開口部閉塞所見(plugging,pouting,ridgeなど)②拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下している.①②の両方を満たすものを陽性とする.表2マイボーム腺機能不全の分類1.分泌減少型①原発性(閉塞性,萎縮性,先天性)②続発性(アトピー,Stevens-Jhonson症候群,移植片対宿主病,トラコーマなどに続発する)2.分泌増加型①原発性②続発性(眼感染症,脂漏性皮膚炎などに続発する)図3非侵襲的マイボグラフィーの所見a:正常眼のマイボグラフィー所見.白いほうがマイボーム腺.b:MGD眼のマイボグラフィー所見.黒くぬけたり(dropout),短縮したり(shortening),屈曲(distortion)したりなど多彩な所見がみられる.白黒のコントラストが悪くなる.表4平戸度島検診によるMGDのリスクファクター性別(男性/女性)2.33(C1.41.C3.87)C0.001年齢/1C0年1.53(C1.24.C1.88)<C0.001マイボスコア1.35(C1.15.C1.58)<C0.001抗高血圧薬1.38(C0.84.C2.56)C0.049脂質降下薬2.56(C0.89.C7.42)C0.033CDemodex2.10(C1.21.C3.65)C0.008VDT時間1.77(C0.58.C1.02)C0.038図4マイボーム腺機能不全のリスクファクター図5LipiViewIIによる瞬目回数と不完全瞬目率の自動測定図6idraによる瞬目回数と不完全瞬目率の自動測定

社会問題化するアレルギー性結膜炎

2021年5月31日 月曜日

社会問題化するアレルギー性結膜炎TheE.ectsofLifestyleonAllergicConjunctivitis岸本達真*福田憲*はじめにアレルギー疾患は世界的にC1970年代以降急増し,日本ではスギ花粉症は国民病とよばれる.近年の調査でアレルギー疾患のなかでアレルギー性結膜炎がもっとも有病率が高いことが明らかとなった1).2006年にフィラグリン遺伝子の異常とアトピー性皮膚炎の罹患に相関があることが報告され2),アレルギー疾患の発症の考え方が大きく変化した.しかしながら,遺伝子変異だけでは近年のアレルギー疾患の増加は説明できず,さまざまな環境やライフスタイルの変化が影響していると推察される.本稿では,ライフスタイル・環境の変化とアレルギー性結膜疾患との関連について考察する.CIアレルギー疾患発症とライフスタイルの変化との関連アレルギー疾患の発症には,遺伝的要因に加えさまざまなライフスタイルの変化に伴う環境因子が関与していると考えられている.喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対し,原因と考えられるサイトカインなどの遺伝子変異などが数多く調べられたが,決定的なものは長らく見つからなかった.しかしながら,2006年に皮膚バリア機能の維持に重要なフィラグリン遺伝子の変異がアトピー性皮膚炎患者に有意に多いことが報告された.欧州のアトピー性皮膚炎患者の約C4割,日本人の患者でも約C3割にフィラグリン遺伝子変異が認められた.この発見により,アレルギー発症の原因には皮膚のバリア機能の破綻がかかわっているという考え方に変わってきた.新生児に保湿剤を毎日塗布することによりアトピー性皮膚炎の発症がC32%予防できたとの報告もあり3),アレルギーが先にあるのではなく,バリアの破綻が先にあって,そこからアレルゲンの感作が生じると考えられるようになった.食物アレルギーにおいても,バリアの破綻した皮膚からアレルゲンに感作され,幼少期に食べることはむしろ免疫寛容を誘導するかもしれない(アレルゲン二重暴露仮説)と考えが変わってきている4).フィラグリン遺伝子の異常による皮膚のバリア機能低下はアトピー性皮膚炎の発症における重要な因子であるが,それだけでは近年のアレルギー疾患の急増は説明できない.フィラグリン遺伝子変異を有するアトピー性皮膚炎患者の割合が日本のなかでも北海道や東京などで地域差がみられることから,たとえ遺伝的な素因をもっていても生まれた後の環境で発症しない可能性が示唆されている.したがって,環境因子・ライフスタイルもアトピー性皮膚炎・アレルギー疾患の発症に重要な要素である.澄川らはアトピー性皮膚炎の有病率の低い中国と有病率の高い日本で比較検討し,皮膚バリア機能に影響を与える入浴回数が中国と比較し日本で有意に多く,ライフスタイルがバリア機能低下・アトピー性皮膚炎の発症に影響を与えることを報告した5).またわが国では,加水分解小麦を含む石鹸で洗顔することで,顔面の皮膚バリアが破綻し,アレルゲンが少しずつ経皮的に感作しア*TatsumaKishimoto&*KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕岸本達真:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮C185-1高知大学医学部眼科学講座C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(9)C489レルギー発症の原因となった「茶のしずく石鹸」による加水分解小麦アレルギーは大きな社会問題になった6).さらに西洋化された食事とそれに伴う肥満の発症,屋内外の活動パターンの変化,抗生物質の早期使用の増加などの近年のライフスタイルの変化が,喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の増加に寄与している可能性が考えられている7,8).以前欧米を中心にアレルギー疾患が先進国で増加している要因の一つとして,いわゆる衛生仮説(hygienehypothesis)が提唱された.衛生仮説とは,乳児期までの感染・非衛生的環境がその後のアレルギー疾患の発症を低下させるという考えである.免疫機能が発達する乳幼児期に細菌やウイルスと接触する機会が少ない,すなわち清潔すぎる環境で育つとC1型(Th1)免疫反応を促進する刺激が減少し,2型(Th2)免疫応答が優位となり,アレルギー疾患の発症が促進するという機序が考えられている.衛生仮説を初めて提唱したStrachanは,1958年3月に生まれた英国人17,414名を対象に(すなわち同時期に同じ地域で生まれた人を対象に)アレルギー疾患の関連する環境要因を調査した9).その結果,花粉症や皮膚炎の保有や既往は,兄弟の数に反比例し,またその効果は年少の兄弟よりも年長の兄弟に大きく依存していることを見いだした.年長の兄弟がいる子どもが後のアレルギー疾患の保有率が低いのは,生育時における感染暴露頻度が高いためと推察した.また,現時点で同じ環境に暮らしているにもかかわらず,西ドイツ出身者は東ドイツ出身者よりも同じ民族でもアレルギー疾患の保有率が高いこと10)や牧畜農家などのエンドトキシン量が多い地域で育った場合はアレルギー疾患の発症率やCIgE抗体保有率が低いこと11)などが報告されている.さらに,生後C6カ月までに保育園に預けられた子どもは,6歳以降のアレルギー性喘息の罹患率が低いこと12)も明らかとなり,乳児期の感染が少ないことがアレルギー疾患の発症の原因の一つと推察されている.アレルギー疾患の発症のすべてが衛生仮説で説明できるわけではないが,わが国でC1950.1960年代以降に出生した人においてアレルゲン感作率が高いが,幼児期死亡率の急激な低下で示される当時の衛生環境の急激な改善との関連が推察される.IIアレルギー性結膜炎(スギ花粉症)とライフスタイルの変化アレルギー性結膜疾患でもっとも多いのが季節性アレルギー性結膜炎であるが,その代表疾患が花粉性結膜炎である.スギ花粉症患者の増加に伴いスギ花粉性結膜炎も増加の一途をたどっている.花粉症の歴史を振り返ると,花粉症はC1819年にイギリス人医師のCJohnBostockがイネ科の花粉症であった自分自身の症状を,原因がわからず,hayfeverと診断したことが初めての報告である.日本ではC1963年に荒木がブタクサ花粉症,1964年に堀口,斉藤らによりスギ花粉症がはじめて報告されたことからも花粉症の歴史は浅いことがわかる.日本においてスギは太平洋戦争の軍需目的に大量に伐採され,戦後に復興のため建材としてC1950.1970年にかけて大量に植林された.その後C1964年に林産物貿易の自由化により価格の安い木材が輸入されるようになり,建材用として植林されたスギは伐採されることなく放置された.スギが成熟し花粉を飛散するC30.50年後,すなわちC2000年前後にスギ花粉の飛散量はピークを迎えた.スギ花粉の飛散量の増加に伴いスギ花粉症の罹患者数は増え続け,国民病として認知されるようになった.東京都は定期的に東京都内の花粉症有病率の調査を行っており,1994年の調査でC19.4%であったのに対し,2016年の調査ではC48.8%とC2倍以上増加している13).また,年齢別でみるとC0.14歳でC40.3%,15.29歳で61.6%,30.44歳でC57.0%,45.59歳でC47.9%,60歳以上でC37.4%であり,発症が低年齢化しているのが特徴で,今後は全年齢層で有病率が高い水準を保つことが予想される.アレルギー性結膜疾患に関する疫学調査としては,日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班により,全国C28施設におけるC1993.1995年にかけてのC3年間の定点調査において,小児のC12.2%,成人のC14.8%がアレルギー性結膜疾患を有すると推定された14).2017年には全国の眼科医とその家族を対象とした花粉症をはじめとしたアレルギー性結膜疾患の有病率についての調査が行われ,アレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%であった.そのなかでスギ,ヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎はC37.4%であった(図1)15).花粉症490あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(10)0.545~63%37~45%27~37%0.41~27%0.30.20.10スギ・ヒノキの花粉による年齢季節性アレルギー性結膜炎図1アレルギー性結膜炎の年齢分布と地理的分布小児にもみられ,年齢とともに増加している.地理的には都市化が進む首都圏とスギやヒノキの多い山間部に多い.(文献C15より転載)スギ・ヒノキの花粉による季節性アレルギー性結膜炎の有病率図2ライフスタイルの変化によるアレルギー性結膜疾患の増加大気,都市化,ライフスタイル,衛生環境などの変化によってアレルギー性結膜疾患が増加していると考えられる.の有病率の上昇に伴い,約C20年でアレルギー性結膜疾患の有病率はC3倍以上に増加していることがわかる.飛散するスギ花粉量の増加に加え,わが国でのライフスタイルの変化がアレルギー性結膜疾患を増加・増悪させる因子を考えると,①家屋の近代化や都市化,②家屋内でのペットの飼育の増加,③大気汚染などがアレルギーの増加・増悪因子としてあげられる(図2).まず家屋の近代化により,冷暖房が完備され,密閉式住宅が増加することにより家屋内のヒョウヒダニが増加していることが知られている.家屋内のダニの増加が喘息や通年性アレルギー性結膜炎,鼻炎などの増加原因の一つとして考えられる.また,近年の日本の都市化により,土であった地面が,花粉が吸着・分解されにくいアスファルトやコンクリートなどに変化したことで,地面に落ちた花粉が風で舞い上がって再飛散するという状態が発生するようにもなった.また,現代では室内でイヌやネコ,ハムスターやウサギなどの小動物のペットを飼育することが増加する傾向にある.前述した衛生仮説の研究のなかに,1歳以下のときに室内での犬や猫を飼育した家で育った子どもはアレルギー疾患の発症頻度が有意に少ないことが明らかとなっている16,17).1歳以下のような免疫体質が未熟な時期においてはペットとの接触はむしろ免疫寛容などを介してアレルギー疾患の発症抑制に作用すると考えられる.しかしながら,乳幼児期を過ぎて免疫体質がアレルギー体質に決定されたあとにペットを飼育すると,ペット動物のフケや上皮などによるアレルギー疾患の増加・増悪が推察される.また,室内飼育のペットによるアレルギーは,発症してもペットとの隔離がむずかしいため,常にアレルゲンにさらされ治療しても症状の軽減がむずかしいという問題がある.その場合はペットを飼育する場所を限定したり,寝室に入れないなどの工夫が必要である.さらに自動車からの排気ガス,工場からの煤煙・中国大陸からの黄砂などの土壌粒子などの環境汚染物質が,喘息などの呼吸器症状を悪化させることが知られている18).眼表面は外界と接しているため,これらの大気汚染物質などに直接暴露され,影響を受けやすい組織であると考えられる.二酸化窒素や二酸化硫黄,オゾン,浮遊粒子状物質などの大気汚染物質の増加により結膜炎の患者数が増加するとの報告19)や,大気汚染がアトピー性角結膜炎や春季カタルなどの重症アレルギー性結膜疾患の有病率と関連するとの報告がある1).Mimuraらは,アレルギー性結膜炎患者における黄砂に対する反応を皮膚テストで検討し,微生物や花粉などの浮遊物質を含む黄砂がもっとも皮膚反応の反応性が高く,花粉や熱により微生物を取り除いた黄砂では反応性が低下したことを明らかにした20).黄砂に付着した種々の微生物がアジュバント作用を介してアレルギーを誘発・増悪させている可能性が示唆された.また,Koらは急性結膜炎の患者の洗眼液の黄砂を調べ,黄砂含有量が高い群は低い群よりも症状スコアが有意に高いことを示し21),黄砂飛散時には結膜炎症状が悪化する可能性を示唆した.黄砂よりもさらに粒子の小さい大気浮遊粒子であるCPM2.5の増加時期に喘息などの呼吸器疾患の患者数の増加することが知られており22),また,アレルギー性結膜炎患者数とPM2.5と正の相関があることが報告されている23).このようなライフスタイル・環境の変化が花粉症をはじめとしたアレルギー性結膜炎の発症や症状の増悪に関与している可能性が考えられる.CIIICOVID.19によるライフスタイルの変化が与える影響SevereCacuteCrespiratoryCsyndromeCcoronavirus-2(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により,われわれのライフスタイルは劇的に変化した.外出を自粛し,室内での生活が増え,外出時にはマスクを装着する生活スタイルが当たり前になった.COVID-19の症状は無症状から,嗅覚障害,味覚障害,重症の肺炎まで多岐にわたり,死亡に至ることもある.眼領域におけるCCOVID-19は他のウイルス性の結膜炎と同様に,充血・流涙・眼脂などの症状を呈することが知られており,重症度も軽度の充血のみという軽症例から偽膜を呈するような重症例までさまざまである.COVID-19による眼症状の発症率はこれまでの報告ではC0.8.31.6%とさまざまであるが,5%前後とする報告が多い24).COVID-19による結膜炎とアレルギー性結膜炎の症状の違いに関しては,すでにアレルギー性492あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(12)鼻結膜炎と診断されている患者でCCOVID-19に感染した患者に対して行った質問表によるアンケートでは,眼掻痒感,眼痛,流涙のすべてにおいて症状が異なっており,同一と答えたものはいなかったという報告がある25).しかし,現時点ではCCOVID-19に特異的な他覚的眼所見はなく,結膜炎をみたらCCOVID-19の可能性を考え診察をする必要がある.また,結膜はCCOVID-19の感染経路として可能性を否定できないことが報告されている26).2003年に流行したCSARS-CoVでは,ゴーグルやその他の眼を保護する器具を適切に使用しなかった医療従事者は,使用した医療従事者と比較して感染率が高く,そのオッズ比はC7.34であった27).SARS-CoVはCCOVID-19と同じコロナウイルスのファミリーであり,眼科医は診察する際にマスクに加え,ゴーグルやフェイスシールドで保護する必要があり28),まさにわれわれ眼科医の診療スタイルも変化したときであった.また,花粉症などのアレルギー性結膜炎による眼掻痒感で眼を擦過することでCCOVID-19感染を惹起する可能性が考えられ,コロナ禍時代のアレルギー性結膜炎の診療には眼を触らないような指導も加える必要がある.また,コロナ禍で生活習慣が極度に清潔化したために,これまでよりもさらに菌やウイルスに暴露されずに乳幼児期を過ごした子どもは,衛生仮説に当てはめるとさらにアレルギーの発症率が増加することが予想される.さらに乳児でなくてもアルコールによる消毒や手洗いの増加・マスクの摩擦によって皮膚バリア機能が障害されることによって,アレルゲンに感作され,アレルギー疾患の発症が増加することも考えられる.巣ごもりによって室内飼育しているペットとの接触時間も増加していることが予想される.現在のCCOVID-19のパンデミックによる急激なライフスタイルの変化がC10年後のアレルギー疾患の全世界的な増加につながらないことを願うばかりである.おわりにライフスタイル・環境の変化がアレルギー性結膜炎に与える影響について概説した.近代化によるさまざま々な環境変化に加え,COVID-19のパンデミックによってニューノーマルとよばれる新しい生活スタイルの変化が突然生じた.この近年のライフスタイルの急激な変化によって,今後また新たなアレルギー疾患の変化について注意が必要である.文献1)MiyazakiCD,CFukagawaCK,CFukushimaCACetal:AirCpollu-tionCsigni.cantlyCassociatedCwithCsevereCocularCallergicCin.ammatorydiseases.SciRepC9:18205,C20192)PalmerCCN,CIrvineCAD,CTerron-KwiatkowskiCACetal:CCommonloss-of-functionvariantsoftheepidermalbarrierCprotein.laggrinareamajorpredisposingfactorforatopicdermatitis.NatGenetC38:441-446,C20063)HorimukaiCK,CMoritaCK,CNaritaCMCetal:ApplicationCofCmoisturizerCtoCneonatesCpreventsCdevelopmentCofCatopicCdermatitis.JAllergyClinImmunolC134:824-830,C20144)LackCG,CFoxCD,CNorthstoneCKCetal:FactorsCassociatedCwithCtheCdevelopmentCofCpeanutCallergyCinCchildhood.CNCEnglJMedC348:977-985,C20035)澄川靖之,上木裕理子,三好彰ほか:日本,中国(江蘇省・チベット自治区)の学童におけるアトピー性皮膚炎・皮膚バリア機能調査.アレルギー56:1270-1275,C20076)YagamiCA,CAiharaCM,CIkezawaCZCetal:OutbreakCofCimmediate-typeChydrolyzedCwheatCproteinCallergyCdueCtoCafacialsoapinJapan.JAllergyClinImmunolC140:879-881,C20177)NuttenS:Atopicdermatitis:globalCepidemiologyCandCriskfactors.AnnCNutrMetabC66:8-16,C20158)RenzCH,CSkevakiC:EarlyClifeCmicrobialCexposuresCandCallergyrisks:opportunitiesCforCprevention.CNatCRevCImmunolC21:177-191,C20219)StrachanDP:HayCfever,Chygiene,CandChouseholdCsize.CBMJC299:1259-1260,C198910)RenzCH,CvonCMutius,CIlliCSCetal:TCH1/TH2CimmuneCresponsepro.lesdi.erbetweenatopicchildrenineasternandwesternGermany.JAllergyClinImmunol109:338-342,C200211)Braun-FahrlanderCC,CGassnerCM,CGrizeCLCetal:Preva-lenceCofChayCfeverCandCallergicCsensitizationCinCfarmer’sCchildrenCandCtheirCpeersClivingCinCtheCsameCruralCcommu-nity.CSCARPOLCteam.CSwissCStudyConCChildhoodCAllergyCandRespiratorySymptomswithRespecttoAirPollution.ClinCExpAllergyC29:28-34,C199912)MorganCWJ,CSternCDA,CSherrillCDLCetal:OutcomeCofCasthmaCandCwheezingCinCtheC.rstC6CyearsCoflife:follow-upthroughadolescence.AmJRespirCritCareMed172:C1253-1258,C200513)東京都花粉症対策検討委員会:花粉症患者実態調査報告書(平成C28年度).東京都福祉保健局,201714)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:835,C201015)MiyazakiD,TakamuraE,UchioEetal:JapaneseguideC-(13)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C493

現代社会がもたらしたドライアイと今後の 治療・予防戦略

2021年5月31日 月曜日

現代社会がもたらしたドライアイと今後の治療・予防戦略DryEyesCausedbyModernSociety─FutureTreatmentandPreventionStrategies小島隆司*はじめに化も現代社会の大きな特徴である.高脂肪食の摂取が多現代社会はスマートフォンなどの情報通信器機の普及くなり,メタボリックシンドロームの増加が指摘されてによって,オフィスだけでなく,日常生活でデジタル機いる.このように変わりゆく現代社会のなかで,ドライ器を操作する機会が増えている.また,“ウイズコロナ”アイをライフスタイル病としてとらえる考え方が生まれの環境において,仕事や友人とのコミュニケーションもた(図1).本稿ではその考え方,現時点でのエビデンオンラインとなり,情報端末のモニターを介した作業はス,治療戦略,将来の展望などを解説する.ますます増えているのが現状である.また,食生活の変長時間PC作業運動不足高脂肪食座りっぱなしの生活ドライアイ図1ライフスタイル病としてのドライアイ運動不足,高脂肪食によるメタボリックシンドローム,長時間のパソコン作業を伴う座りっぱなしのオフィスワークを中心としたライフスタイルがドライアイ発症に関与している可能性が示唆されている.*TakashiKojima:名古屋アイクリニック,慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小島隆司:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)C483Iライフスタイル病としてのドライアイ加齢に伴う疾患に影響を与えるメタボリックシンドロームなどの生活習慣因子や環境因子が多数存在し,その背景には酸化ストレスが関与していることが報告されている.複数のドライアイマウスモデルや臨床研究により,酸化ストレスの蓄積がドライアイの発症や病態生理に大きな役割を果たしているという考え方が支持されている.運動療法と食事療法からなるライフスタイル介入アプローチは,2型糖尿病やメタボリックシンドロームの治療法および予防法と同じであり,その根本は酸化ストレスの蓄積を減少させることにあると考えられる.CII運動とドライアイの関係オフィスワーカーを対象にした横断研究の結果,非ドライアイ群のほうがドライアイ群よりも運動量が多いことが示された1).この研究では,運動量が多い人ほど涙液分泌量が多いことが明らかになっており2),運動はドライアイに対して有効であるといえる.ヒトではまだ運動療法の介入の結果は明らかになっていないが,すでに動物実験では,運動は全身の健康状態の改善につながるだけでなく,涙液量の改善にも寄与することが示されている3).CIIIオフィスワークとドライアイオフィスワーカーのパソコン作業を伴うデスクワークがドライアイの危険因子であることが知られている.それに加え「座りっぱなしの生活習慣」や「交感神経優位」も影響している可能性がある.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)では,喫煙や肥満とならぶ健康リスクとして「座りっぱなしの生活習慣」をあげている(https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/physical-activity).実際にわが国のオフィスワーカーを対象に行われた大阪CStudyに含まれているサブ解析では,5秒未満の涙液層破壊時間(tearCbreakuptime:BUT)群では,5秒以上のCBUT正常群に比べてC1日の座位時間が有意に長くなっていることが示された1).これまでドライアイ患者への指導では,「VDT(視覚情報端末)作業や長時間の運転に従事する場合には,十分な休憩(眼を休める)をとること」が長らく行われてきました.しかし,現在では個人が座った状態から立って移動したり,軽い運動をしたりして,仕事に関連した活動から離れた時間を過ごすことが重要であると考えられている.自律神経のバランスの乱れと,その結果としての交感神経の優位性が悪影響を及ぼす場合には,副交感神経の優位性につながる介入も考慮されるべきである.副交感神経系を活性化させるエビデンスに基づいた方法の一つが腹式呼吸である.以前,3分間の腹式呼吸を行うと副交感神経が活性化し,涙量が増加することが報告されていた4).腹式呼吸は簡単で安全であり,道具や器具を使用しなくてもよい効果的なドライアイのセルフケアの効果法と考えられるため,腹式呼吸を取り入れた体操,ヨガなどを行うことも推奨される.CIV食生活とドライアイ食生活に関する複数の研究では,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedCfattyacid:PUFA)の摂取量が多い人ではドライアイの発症率が低いが,オメガC3に対するオメガC6の比率が高い人ではドライアイの発症率が高いことが示されている5).ドライアイは一般的に炎症を伴うことが多く,オメガC3の抗炎症特性がドライアイの自覚症状を改善するのに有用であること5),オメガC3の摂取がCDEの治療に有効であることが報告されている6).したがって,魚,ナッツ類,および他のオメガC3源を豊富に含む食事は,ドライアイに対して有効である可能性がある.最近の多施設,無作為化二重盲検試験では,オメガC3PUFAの摂取によるドライアイ症状スコア,角膜と結膜の生体染色スコア,BUTのベースラインからの有意な改善が報告された.しかし,コントロールとして用いられたオレイン酸摂取群との有意差は認められず,オメガC3摂取によるドライアイ改善効果は示されなかった.しかし,オレイン酸は抗炎症活性を有するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニストであることから,オメガC3PUFAはドライアイ疾患における眼炎症を改善する潜在的な働きも有している可能性があり7),さらなる解明が必要である.最近の報告では,ラクトフェリン8),プロバイオティクス,アスタキサンチンを含む機能性食品9)がドライア484あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021(4)イの改善に有効であることが示され,ドライアイ患者における食事介入の重要性が強調されている.また,ローヤルゼリーの摂取が涙液量の増加につながることも報告されており10),ラクトフェリンと乳酸菌CWB2000を配合したサプリメントの摂取がドライアイ改善に有効であることも報告されている11).CV抗加齢アプローチ涙腺の機能低下による涙の分泌量の低下がドライアイの主要な原因である.抗酸化物質のバランスが悪いと涙腺の損傷による涙の分泌能力の機能低下を引き起こすことが明らかになっている.酸素フリーラジカルを分解するCCu,Zn-superoxidedismutase-1(SOD1)がマウスに欠損すると,涙腺の脂質およびCDNAの酸化ストレスによるダメージが広範囲に蓄積し,涙液分泌量が減少することが明らかになった12).また,ミトコンドリアの電子伝達系の活性を低下させたトランスジェニックマウスでは,活性酸素が過剰に蓄積し,涙液分泌量が減少し,涙腺の炎症を伴うことが明らかになった13).また,ラットの瞬目抑制ドライアイモデルでは,ラットをストレスの多い環境に繰り返し曝露することで,オフィスワーカーのCVDT作業環境をシミュレートし,活性酸素の過剰生成を伴う涙腺機能障害による涙腺機能の低下が示された14).涙腺から発生する活性酸素産生によって涙腺機能が障害されることを示したこれらの研究は,活性酸素産生への介入がドライアイの管理または予防のために大きな可能性を秘めている.アントシアニンは一般的な植物ポリフェノール色素である.他のフラボノイドと同様に,アントシアニンもまた抗酸化作用をもち,眼だけでなく健康維持に有益であると期待されている.アントシアニンを豊富に含むベリー類やベリー抽出物は,動物実験やヒト実験の知見に基づき,眼疾患の治療のための食品補助食品として摂取されている.しかし,ベリー類の適切な供給源やドライアイ症状を緩和する活性アントシアニンについては,まだ詳細な検討がなされていない.強力な抗酸化作用をもつ食用ベリーであるマキベリーのドライアイへの効果を評価するために,マウスとヒトの臨床試験が実施された.ラットの瞬目抑制ドライアイモデルにおいて,マキベリー抽出物を経口摂取した場合,涙液分泌量の減少と角膜障害が,有意に抑制された.ドライアイ疑い患者を対象に,無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験をC4週間実施したところ,マキベリー群では,プラセボ群と比較してCSchirmer値が有意に増加した15).ヒトの細菌叢であるマイクロバイオームが健康やさまざまな疾患の発症に関係しているというエビデンスが蓄積されている16).腸内細菌異常は乾燥ストレスを受けたSjogren症候群モデルマウスのドライアイを悪化させ,Sjogren症候群患者の眼球表面と全身の重症度は微生物の多様性と負の相関関係にあることが示されている17).プロバイオティクスは,潜在的に多種多様な恩恵を受けることができる微生物食品であり,世界中で広く使用されている18).プロバイオティクスの有益な多面的効果が報告されているが,基礎となるメカニズムは多因子的であり,まだ完全には解明されていない.酸化ストレスの低減は,最近,可能性のある基礎的なメカニズムとして提唱されている19,20).プロバイオティクスの補給がドライアイに及ぼす影響を検討するために,健常人の糞便から分離され,和漢胃腸薬に含まれるプロバイオティクスである乳酸菌CWB2000との併用サプリメントが,ヒト被験者およびマウスドライアイモデルにおけるドライアイの徴候や症状に及ぼす効果が報告されている11).ラットの瞬目抑制ドライアイモデルでは,プロバイオティクスを含むサプリメントでは,用量依存的に涙の分泌量の減少の防止と涙腺からの活性酸素の発生量の減少が観察された.ヒト患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験では,1日C1回C8週間投与した場合のSchirmer値の上昇率はサプリメント投与群のほうが高く,有害事象も認めていない.一般的な食品に含まれるアントシアニンやプロバイオティクスなどの抗酸化物質の摂取は,ドライアイ患者の治療に適している可能性がある.おわりにこれまでドライアイは眼表面の疾患と考えられていたが,近年の基礎研究や疫学研究により,ドライアイは生活習慣病であることが明らかになってきた.図2に示す(5)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C485アンチエイジングアプローチ点眼治療運動抗酸化物の摂取マイクロバイオームへのアプローチドライアイの発症予防・治療図2将来のドライアイ発症予防および治療戦略の概念図