J-CRESTJapanClinicalRetinaStudy近藤峰生*IJ-CRESTとはJ-CRESTとは,JapanCClinicalCRetinaStudyの略であり,日本において網膜硝子体分野の臨床研究を行う共同研究グループの名称である.論文におけるグループ名としてはCJapanCClinicalCRetinaStudy(J-CREST)groupが使われることが多い.これまで日本の学会における研究発表や論文では,1つあるいはC2~3の大学病院や施設のデータを収集して解析するものが多かった.しかし,そのような少ないデータ数では中国,韓国,シンガポールなどの圧倒的な症例数に太刀打ちできない.海外の学術誌に投稿できるレベルの症例数になるまで根気よく集めたとしても,その時にはすでにテーマが古くなってしまっていることも珍しくない.そこで,大学や施設の垣根を超え,多施設での共同研究により多くの症例数を基に解析を行い,日本から世界に臨床研究データを積極的に発信することを目的に作られたのがCJ-CRESTである.CIIランダム比較試験と新臨床研究法の壁たとえばある疾患に対する治療としてCAとCBのどちらが有効かを調べる場合,これまではランダム比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)がもっとも強力な方法と考えられてきた.無作為化によりバイアスを除き,対象集団の背景を揃えて比較することができるためである.しかし,RCTには膨大なコストと時間および多大な労力が必要である.さらに,RCTで得られた結論が対象以外の集団に対してあてはまるかどうかの証拠もない.日本においてCRCTの壁をさらに高くしたのは,新臨床研究法である.2018年に施行された新臨床研究法では,たとえば未承認薬の治療効果判定や二つの治療法のRCT,あるいは適応外の治療法の効果を研究しようとすれば特定臨床研究に該当し,1)モニタリング・監査の実施,利益相反の管理,研究対象者の保護,疾病などの報告やC5年間の記録の保存,2)研究計画書の厚生労働省への提出義務,3)研究対象者への補償,4)実施基準違反に対する指導・監督といった厳しいハードルを超えなければならず,書類作成の負担,臨床研究保険などを考えると,医師が小さな医局のなかで容易に行える研究ではなくなってしまったといえる.新臨床研究法では,違反した場合には罰則規定もある.CIIIビッグデータを用いた観察研究このような状況下で,臨床現場のビッグデータを用いた観察研究が注目されるようになった.たとえば十分な量の症例数があれば,後ろ向きデータであってもCpro-pensityscorematchingなどで既知の限られた因子については背景を十分に揃え,治療法の効果を検証することが可能である.しかし,そのためには,できるだけ多くの情報(データベース)が必要になる.日本において十分な数のデータベースを作成しようとすれば,当然一つ*MineoKondo:三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学〔別刷請求先〕近藤峰生:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(29)C145の施設だけでは不十分であり,多施設共同研究が必要となる.しかし,10~20以上の施設が集まって共同研究を行う場合には同然デメリットも生じうる.Authorship(その論文に誰が名前を連ねるのか)の問題,またグループ全体の研究活動を回していくためのルール作りやコミュニケーション問題,そしてもっとも重要なポイントは,研究のモチベーションを長年どう維持していくか,である.CIVJ-CRESTの歴史筆者自身がCJ-CRESTに参加したのは途中からであり,J-CREST誕生当時の状況は詳しくない.2015~2017年にはすでに鹿児島大学が徳島大学,市立札幌病院,奈良県立医科大学と共同研究を行い,光断層干渉計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いた脈絡膜画像の二値化と脈絡膜血管腔面積の解析の研究成果1~10)を報告している.このあたりがCJ-CRESTの黎明期にあたると思われる.発足当時から,代表は鹿児島大の坂本泰二先生が務めている.2015年の秋には,上記のC4大学に加えて滋賀医科大学,筑波大学,防衛医科大学校,東京医科大学八王子医療センター,新潟大学などの施設が加わり,「臨床網膜研究グループ」という名称で臨床眼科学会中に第C1回会合が開かれている.この会合では,脈絡膜血管腔のOCT解析の共同研究のほかにさまざまな網膜疾患のデータベース構築の提案などが議論され,今後さらに参加施設を増やして症例を集積する計画が練られている.このグループの目的について議事録に以下のように記されている.「近年研究に対するマンパワーが減少しているにもかかわらず,わが国においては過去と同じように各大学,研究機関に依存した研究が続けられている.近年の諸外国の変化をみると,症例規模を大きくして行く必要がある.本研究グループは,いくつかの研究機関をまとめることで症例集積を迅速に進め,研究内容を向上させるためのプラットフォームに発展させることが目標である」.この時点で,上記の施設に加えて愛知医科大学,名古屋市立大学,福井大学なども参加している.この会合で,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞に対するレジストリー作成の案も開始された.2016年の会合では,さらに兵庫医科大学,東京女子医科大学糖尿病センターも加わっている.定期的な会合のたびに,アクセプトされた論文,投稿中の論文,また症例集積/解析中の課題などがまとめて報告され,同時に各施設から新たなテーマの提案も積極的に行われている.この年の会合では新たな研究の提案がC10個以上出されており,J-CRESTの研究が活発になってきたことがわかる.この年の冬にさらに山口大学,三重大学も加わっている.2017年の会議では,今後グループとして治験も見据えていくこと,またグループの正式名称として“JapanCClinicalCRetinaStudy(group)”を採用することが決められた.Authorshipについても議論され,雑誌の規定にもよるが,原則として主管大学がC3名以内,そのほかは提供症例の多い順に各施設C1名ずつとする原則が確認されている.さらに,データベースについては,論文投稿後もできるだけデータを集め,生きたデータベースとして各大学が使用できるようにすることが決められた.2018年の会議では,ある疾患についてデータを集積する際の集め方についても議論が行われた.データの集積方法としては,1)最初から網羅的にデータを集める方法,2)集計が容易な基本データのみ集める方法,3)論文作成に必要な因子のみに絞ったデータを集める方法があるが,基本的に2)と3)の収集方法を中心にすることが決められている.この年には,神戸大学,久留米大学,信州大学,聖マリアンナ医科大学,聖路加国際病院も加わっている.冬には,海外の研究者も招いて多施設研究や治験の重要性についての講演会も開催している.2019年になると,各施設が中心となった多施設研究の成果の論文化が進み,J-CREST関連の研究論文はC13本発表されている.増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性,未熟児網膜症,中心性漿液性脈絡網膜症など多くの網膜疾患でデータ収集が進められ,また新たなテーマによる研究の提案が活発に行われている.J-CRESTから投稿した論文がCrejectされた場合は,どのようなコメントでCrejectされたのか,またどのような雑誌が比較的CJ-CRESTに向いているのかについても議論された.この年には日本大学,ツ146あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021(30)図1J-CRESTの定期ミーティングで熱弁をふるう瓶井資弘先生表1J-CREST方式の研究の利点と欠点=-====る.真面目な研究者がデータ集積した施設CAではカルテを熱心に読み込んで因子Caの拾い上げ確率が高い一方で,少し不真面目な研究者がデータ集積した施設CBでは,カルテから因子Caの拾い上げ確率が低くなるという可能性がある.このようなことが起こらないように,データ収集の実務者に対する十分な注意喚起を行うことが必要である.おわりにこれまでも日本でさまざまな形で多施設の共同研究が行われてきたが,J-CREST方式は特色のある研究形態である.これまでの多くの方法は,「まず研究アイデアの発案」があり,その後に「共同研究すべき施設の選定」というプロセスが取られていた.J-CRESTでは,まず「多施設共同研究を望む多くの施設」があり,これらの施設に新しいアイデアを提案するだけですぐに研究が開始される.学会主導の多施設共同研究と比較すると明らかに小回りが効く.今後もCJ-CREST形式による共同研究形態は増えるであろうと考えられ,日本の研究活動の推進に寄与していくことが予想される.謝辞J-CRESTに関する詳細な資料や情報をご提供いただいた,鹿児島大学の寺崎寛人先生,坂本泰二先生に深謝します.文献1)IwataCA,CMitamuraCY,CNikiCMCetal:BinarizationCofCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographicCimagesofaneyewithWyburn-Masonsyndrome:acasereport.BMCOphthalmolC15:19,C20152)EgawaM,MitamuraY,SanoHetal:Changesofchoroi-dalstructureaftertreatmentforprimaryintraocularlym-phoma:retrospective,CobservationalCcaseCseries.CBMCCOphthalmol15:136,C20153)KawanoH,SonodaS,YamashitaTetal:Relativechang-esinluminalandstromalareasofchoroiddeterminedbybinarizationCofCEDI-OCTCimagesCinCeyesCwithCVogt-Koy-anagi-HaradaCdiseaseCafterCtreatment.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC254:421-426,C20164)SonodaCS,CSakamotoCT,CKuroiwaCNCetal:StructuralCchangesofinnerandouterchoroidincentralserouscho-rioretinopathyCdeterminedCbyCopticalCcoherenceCtomogra-phy.PLoSOne11:e0157190,C20165)KinoshitaCT,CMitamuraCY,CMoriCTCetal:ChangesCinCcho-roidalCstructuresCinCeyesCwithCchronicCcentralCserousCcho-rioretinopathyCafterChalf-doseCphotodynamicCtherapy.CPLoSOneC11:e0163104,C20166)NishiCT,CUedaCT,CMizusawaCYCetal:ChoroidalCstructureCinCchildrenCwithCanisohypermetropicCamblyopiaCdeter-minedCbyCbinarizationCofCopticalCcoherenceCtomographicCimages.PLoSOne11:e0164672,C20167)EgawaM,MitamuraY,AkaiwaKetal:Changesofcho-roidalCstructureCafterCcorticosteroidCtreatmentCinCeyesCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CBrJCOphthalmolC100:1646-1650,C20168)KinoshitaT,MoriJ,OkudaNetal:E.ectsofexerciseontheCstructureCandCcirculationCofCchoroidCinCnormalCeyes.CPLoSOne11:e0168336,C20169)DaizumotoE,MitamuraY,SanoHetal:Changesofcho-roidalCstructureCafterCintravitrealCa.iberceptCtherapyCforCpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol101:C56-61,C201710)KinoshitaCT,CMitamuraCY,CShinomiyaCKCetal:DiurnalCvariationsCinCluminalCandCstromalCareasCofCchoroidCinCnor-maleyes.BrJOphthalmolC101:360-364,C201711)ShiiharaH,SakamotoT,TerasakiHetal:E.ectof.uid-airexchangeonreducingresidualsiliconeoilaftersiliconeoilCremoval.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:C1697-1704,C201712)NishiT,UedaT,MizusawaYetal:E.ectofopticalcor-rectionConCsubfovealCchoroidalCthicknessCinCchildrenCwithCanisohypermetropicCamblyopia.CPLoSCOneC12:e0189735,C201713)OkamotoCM,CYamashitaCM,CSakamotoCTCetal:ChoroidalCbloodC.owCandCthicknessCasCpredictorsCforCresponseCtoCanti-VEGFCtherapyCinCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchretinalveinocclusion.RetinaC38:550-558,C201814)MorikawaCS,COkamotoCY,COkamotoCFCetal;(J-CREST)group:ClinicalCcharacteristicsCandCoutcomesCofCfall-relat-edCopenCglobeCinjuriesCinCJapan.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:1347-1352,C201815)TakamuraCY,CShimuraCM,CKatomeCTCetal;(J-CREST)group:E.ectofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjec-tionCatCtheCendCofCvitrectomyCforCvitreousChaemorrhageCrelatedtoproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthal-molC102:1351-1357,C201816)MorikawaCS,COkamotoCF,COkamotoCYCetal:ClinicalCchar-acteristicsCandCvisualCoutcomesCofCsport-relatedCopenCglobeinjuries.ActaOphthalmolC96:e898-e899,C201817)YamashitaT,SakamotoT,TerasakiHetal;(J-CREST)group:BestCsurgicalCtechniqueCandCoutcomesCforClargeCmacularholes:retrospectiveCmulticentreCstudyCinCJapan.CActaOphthalmolC96:e904-e910,C201818)OkamotoCY,CMorikawaCS,COkamotoCFCetal:ClinicalCchar-acteristicsCandCoutcomesCofCopenCglobeCinjuriesCinCJapan.C(33)あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C149—-