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序説:眼科疾患レジストリーの現状と未来 ─ 100 年に一度の大変革へ追いつくためのわが国 の細くて狭い最後の道

2021年2月28日 日曜日

眼科疾患レジストリーの現状と未来─100年に一度の大変革へ追いつくためのわが国の細くて狭い最後の道CurrentStatusandFutureofOphthalmicDiseaseRegistry─Japan’sNarrowandLastRoadtoCatchUpwiththeOnce-in-a-CenturyRevolution坂本泰二*今回は眼科における疾患レジストリーの現状と未来について特集した.疾患レジストリーとは,「特定の疾患群,治療や,医療機器等の医療情報の収集を目的として構築したデータベース」のことをさす.このデータベースを利用して,疾患の情報を集めて,効果的な診療や研究を行うことを目標とするシステムである.疾患レジストリー自体は以前から存在していた.それではどうして今,疾患レジストリーが注目を浴びているのであろうか.10年以上前になるが,ビッグデータと人工知能(arti.cialintelligent:AI)が社会に及ぼす可能性について,世界中で盛んに論じられた時期があった.さまざまな議論の末に,これが社会に与えるインパクトは「産業革命4.0」というべき甚大なものであり,この革命に乗り遅れた国は,今後永遠に富を収奪されるというコンセンサスが得られた.爾来,世界は一斉にビッグデータとAIを活用する方向に走り出した.これは医学において,より早くかつ強く具現化した.たとえば,米国IRISregistryや英国のUKBiobankは膨大なデータを集めて医療や研究への活用を開始している.ある治療の効果をみるためには,従来は治療群と対照群を一定期間観察して評価する必要があったが,ビッグデータとAIを用いれば,仮想空間上で最適症例を集めて,治療効果を瞬時に計算できるようになった.つまり,数年という時間を節約できることになる.これは,従来は考えられなかったほどの強烈なアドバンテージである.不平等な世界において,時間だけがすべての人に平等であることが人間の価値観や哲学の基礎であったにもかかわらず,ビッグデータとAIを有する者は,ついには時間を制することが可能になったことをも意味するのである.一方,ビッグデータが制度として定着すると,それぞれの診断の正確性や根拠に新たな責任が求められる.現在,症例報告や治療研究結果を論文投稿する場合,投稿される症例が実際に存在しているという証明は要求されていない.その理由は,症例の存在証明が不可能であるためであり,論文投稿者を信じざるを得ないからである.しかし,ビッグデータによる登録システムが主要国で確立されたら,そのことも可能になる.今後は論文投稿の際にはすべての症例のIDとそれを証明するアドレスが求められるであろう.そして,そのシステムをもたない国は,そのシステムをもつ国に症例*TaijiSakamoto:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科眼科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)117

心因性近見障害の1例

2021年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(1):108.111,2021c心因性近見障害の1例遠藤智己古森美和新井慎司堀田喜裕佐藤美保浜松医科大学眼科学講座CACaseofPsychogenicNearVisionDisturbanceTomokiEndo,MiwaKomori,ShinjiArai,YoshihiroHottaandMihoSatoCDepartmentofOphthalmology,HamamatsuMedicalUniversityC近見障害を認め,最終的に心因性であると診断するのにC3年を要した女児を経験したので報告する.症例はC11歳の女児.8歳頃より近見時の複視を自覚し,他院でプリズム眼鏡を処方されたが改善なく,浜松医科大学附属病院を受診した.遠見視力は良好だったが,近見時には凸レンズの加入を必要とした.屈折検査では大きな屈折異常は認めなかった.眼位は遠見で正位,近見でC20ΔXTであり,交叉性複視を訴えた.調節力は両眼とも約C3.00Dと同年代と比較し不良で,近見反応では縮瞳や輻湊も不良であった.頭部CMRI検査で異常は認めなかった.プリズムを組み込んだ累進屈折力眼鏡を処方し,複視の自覚は改善した.当初は学校生活を不自由なく送れていたが,母親単独で再度病歴を聴取したところ,過去のいじめや機能性難聴,夜尿の既往歴が複視の症状出現時と一致していることが聴取され,心因性による近見障害であると診断した.CPurpose:Toreportacaseofpsychogenicnear-visiondisturbancethattook3yearsfordiagnosis.Case:An8-year-oldpatientwasprescribedprismaticglassesafterbecomingawareofnear-distancediplopia.Atage11,thepatientwaspresentedatourhospitalduetonoimprovement.Nearvisionrequiringconvexlensesandinsigni.cantrefractiveCerrorsCwereCobserved.CTheCpatient’sCeyesCshowedC20prismCdiopters(D)ofCexotropiaCatCnearCwithCcrosseddiplopia,andaccommodationabilitywasapproximately3.00Dforeacheye.Innearresponses,nopupillaryconstrictionwasobserved;i.e.,convergencewaspoor.Cranialmagneticresonanceimagingshowednoabnormali-ties.CSinceCtheCpatientCreportedCnoCproblemsCatCschool,CpsychogenicCoriginsCwereCinitiallyCeliminated,CandCprogres-sivepowerlenseswithprismswereprescribed.Atthe4-monthfollow-upexamination,thepatientreporteddiplo-piaCimprovement.CInterviewedCalone,CtheCmotherCreportedCaChistoryCofCbullying,CfunctionalChearingCloss,CandCnocturnalenuresisthatstartedatthetimethatshebecameawareofthesymptoms.Thus,wecametothediagno-sisCofCpsychogenicCnear-visionCdisturbance.CConclusion:CasesCofCpsychogenicCnear-visionCdisturbanceCcanCsome-timestakeyearstocorrectlydiagnose.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(1):108.111,C2021〕Keywords:心因性視覚障害,輻湊不全,調節異常,近見障害.psychogenicvisualdisturbance,convergenceinsu.ciency,accommodativedisorder,nearvisiondisturbance.Cはじめに近見反応の障害は,松果体や脳幹など核上性の疾患が原因となり発症することが知られている1).今回筆者らは,原因不明の近見障害を認める小児を経験し,最終的に心因性によると診断したので報告する.なお,本症例の論文投稿については,患児および保護者の同意を得ている.I症例患者:11歳,女児.主訴:近見時の複視.現病歴:8歳頃,近見時の複視を主訴にCA眼科を受診し,斜視を指摘されたが,経過観察となっていた.その後CB眼科を受診し,プリズム眼鏡(度数不明)を処方され,3カ月〔別刷請求先〕遠藤智己:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山C1-20-1浜松医科大学眼科学講座Reprintrequests:TomokiEndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HamamatsuMedicalUniversity,1-20-1Handayama,Higashi-ku,Hamamatsu-shi,Shizuoka431-3192,JAPANC108(108)ごとに経過観察されていたが,改善がなく,10歳時にCC眼科を受診し,近医総合病院小児科へ紹介された.頭部CMRI検査施行で異常は認めず,C眼科で新たにプリズム眼鏡(右眼:2Δbasein,左眼:6CΔbasein)を作製・装用していたが,改善ないため精査目的に浜松医科大学附属病院紹介となった.初診時所見:瞳孔反応に異常はなく,遠見視力は右眼:1.2(n.c.),左眼:1.2(n.c.),近見視力は右眼:0.6(1.0×+2.00D),左眼:0.7(1.0×+2.00D)と凸レンズの加入が必要であった.シクロペントラート塩酸塩点眼後の屈折度数は,右眼:+0.00D(cyl.0.75DAx100°,左眼:+0.50D(cylC.0.75DAx80°であった.眼位は遠見で正位,近見でC20CΔXTであり,近見時に交叉性複視を訴えた.Hess赤緑試験では内転制限は認めなかった(図1).TitmusCstereotestではC.y(C.)だったが,遠見立体視(システムチャートCSC-1000Pola,ニデック)はC40”と良好であった.調節機能は調節微動解析装置(アコモレフCSpeedy-i,ライト製作所)を用いた調節反応検査にて,両眼とも調節刺激への反応が乏しく(図2),連続近点計(NPアコモドメーター,興和)では調節力は両眼とも約3.00Dと同年代と比較し不良であった.AC/A比(farGradient法)はC1CΔ/D,プリズムによる融像幅は.10Δ.+2Δと輻湊も不良で,近見反応では,縮瞳を認めなかった(図3).前眼部,中間透光体,眼底に異常は認めなかった.(D)(R)右眼-3.00-2.00-1.000.00他覚屈折値(調節反応量)-0.50-1.50-2.50-3.50(D)視標の位置(調節刺激量)~57.00[dB]57.01~65.00[dB]65.01~[dB]調節微動(毛様体筋の活動状態)経過:当院で施行した近見視力検査・アコモレフCSpeedy-i・NPアコモドメーターの結果から調節異常の状態であることがわかった.症状の日内変動や筋力低下はないものの,走るとすぐに疲れてしまうという病歴や,顔写真撮影でC9方向に目を動かしただけで疲れたとの訴えがあったため,重症筋無力症の可能性も考慮し,アイステストと抗アセチルコリンレセプター抗体検査を施行したが,ともに陰性であった.当初本人および母親同席での問診では,学校生活は不自由なく過ごしており,心因性とは積極的には疑わなかった.近見時の複視に対し,プリズムを組み込んだ累進屈折力眼鏡(右眼:plane+2.00Dadd:6CΔbasein,左眼:plane+2.00Dadd:6CΔbasein)を処方し,経過観察とした.初診時からC4カ月後の診察では,検査時の近見障害には変図1Hess赤緑試験内転制限は認めない.(D)(L)左眼-3.00-2.00-1.000.00-0.50-1.50-2.50-3.50(D)(D)-3.00-0.50-1.50-2.50-3.50(D)正常若年者の反応図2調節反応検査(アコモレフSpeedy.i)両眼とも調節刺激への反応が乏しい.左眼は近方時に調節緊張の反応がみられる.図3近見時の縮瞳反応上:遠見時,下:近見時.固視標を近づけても縮瞳を認めない.化はなかったが,プリズム眼鏡で近見時の複視は改善した.遠見での眼位は眼鏡装用でも正位から内斜位を保ち,複視の訴えはなかった.母親単独で再度病歴を聴取したところ,8歳(小学C2年生)頃学校でいじめを受け,近医にて機能性難聴と診断された病歴と,11歳(6年生)のときに夜尿が出現した病歴が聴取され,複視の症状出現時と一致していた.追加で色覚検査,中心フリッカ値やCGoldmann視野検査,および頭部造影CMRI検査を施行したが,明らかな異常を認めなかった.以上の結果より,本例を心因性近見障害と診断した.その後,いったん診療を中止したが,約C3年後に母親に電話で聴取したところ,現在は不登校になり心理カウンセリングを受けていることが明らかになった.また,現在もプリズム眼鏡を装用しないと近見時の複視は変わらないことが聴取された.CII考按本例では近見時の複視を主訴に来院し,当院にて新たに近見視力検査と調節機能検査を行い,近見反応の障害を生じていることがわかった.精神的なストレスの聴取に時間がかかり,症状出現から診断までにC3年の長期を要した.学校健診における視力検査では遠見視力を測定するのみのため,近見視力の不良は判定されない.このため,本例では学校健診で異常を指摘されず,前医でも調節障害が指摘されず輻湊不全のみが指摘されていた.本例のように,遠見視力が良好であるにもかかわらず見にくさを訴える場合は,近見視力検査が必要である.近見反応の障害をきたす原因には器質性のものと心因性のものが存在する.器質性のものには,薬剤,頭部外傷,ウイルス性脳炎,ジフテリア後神経麻痺,進行性核上性麻痺,中脳出血・梗塞,血管性病変などが原因としてあげられる1).これらの鑑別のためには,MRIなどでの画像診断が必要である.今回の症例では頭部単純CMRI検査,および造影CMRI検査を行っているが,原因となるような病変は検出されず,外傷や薬剤性を疑わせる情報も認めなかった.近見反応は輻湊・調節・縮瞳で構成され,この三者は単独にも起こる独立した中枢制御系ではあるが,互いに連動している2).一般に各要素の表出の組み合わせ・その程度は患者によって大きく異なり,本例のようにC3要素すべての障害をきたした報告3,4)はまれである.また,小児の心因性視覚障害では調節障害をきたしやすいとされている5).調節障害の心因性としての特有のパターンはなく,調節衰弱あるいは調節緊張を示す患者も散見されるが6),本例のように輻湊不全が関与した報告は少ない7.9).一般的に,心因性視覚障害は精神的葛藤や欲求不満などの精神的ストレスを感じたときに起こりやすいとされているが10),本例では受診当初は患者本人からのストレスの訴えはなく,その後の母親単独での問診から心因性を示唆させる病歴が聴取された.複視を自覚したのがC8歳頃であり,学校でのいじめにあっていた時期と一致する.その後も心理的負担を抱えていたことがわかり,心因性視覚障害をきたす要素が背景にあった可能性が考えられた.本例では,心因性視覚障害と診断した時点で診療を中止としてしまったが,後に経過を確認した時点でも不登校になっており,症状は変わらない状態であった.本例は眼科外来での介入だけなく,心理・精神的な対応をすべきであったと反省している.また患者が小児である場合は,習慣的に親子そろって問診することが多いが,同時に行う問診では,詳細な病歴聴取ができない可能性もあるため,心因性視覚障害を少しでも疑う場合は,親子別での詳細な病歴聴取が必要であると考えられた.CIII結論器質的疾患が明確でないにもかかわらず,近見反応のC3要素(輻湊・調節・縮瞳)すべてが障害されたC1例を経験し,最終的に心因性近見障害と診断した.視機能異常を訴える小児診療の際は,近見視力検査も考慮し,心因性視覚障害を疑う際には,親子別での病歴聴取を検討すべきと考えられた.文献1)石川均:見落としがちな近見反応とその異常.臨眼C64:1670-1674,C20102)高木峰夫,阿部春樹,坂東武彦:動物とヒトでの生物学的解析から.神経眼科21:265-279,C20043)OhtsukaK:AccommodationCandCconvergenceCpalsyCcausedCbyClesionsCinCtheCbilateralCrostralCsuperiorCcollicu-lus.AmJOphthalmolC133:425-427,C20024)ChrousosGA,O’NeillJF,CoganDG:Absenceofthenearre.exinhealthyadolescent.JPediatrOphthalmolStrabis-musC22:76-77,C19855)梶野桂子,川村緑,加藤純子:心因性視力障害と調節について.日視会誌C15:32-37,C19876)黄野桃代,山出新一,佐藤友哉ほか:心因性視覚障害の調節特性.眼臨86:165-169,C19927)伊藤博隆,平野啓治,石井幹人ほか:輻湊不全のみられた心因性視覚障害のC1例.眼臨94:631-633,C20008)金谷まり子,岡野朋子,依田初栄:輻湊不全が原因と思われる二次障害.眼臨84:841-846,C19909)小倉央子,高畠愛由美,大渕有理ほか:輻湊不全を伴った心因性視覚障害のC1例.日視会誌33:73-78,C200410)小口芳久:心因性視力障害.日視会誌C18:51-55,C1990***

SpotVisionScreenerと据置き型オートレフラクトメータの測定精度の比較検討

2021年1月31日 日曜日

SpotVisionScreenerと据置き型オートレフラクトメータの測定精度の比較検討宮内亜理紗*1後藤克聡*2水川憲一*1山地英孝*1馬場哲也*1宇野敏彦*1*1白井病院*2川崎医科大学眼科学1教室CComparisonofRepeatabilityBetweenSpotVisionScreenerandConventionalAuto-RefractometerArisaMiyauchi1),KatsutoshiGoto2),KenichiMizukawa1),HidetakaYamaji1),TetsuyaBaba1)andToshihikoUno1)1)ShiraiEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolC目的:SpotVisionScreener(SVS)と従来の据置き型オートレフラクトメータ(以下,AR)の測定精度を比較検討した.対象および方法:眼科的に器質的疾患のないC82例C164眼,平均年齢C10.5歳(3.18歳)を対象に,SVSとCARで各C3回連続測定後,自覚的屈折検査を施行し,測定精度(ICC)と各パラメータを比較した.結果:ICCは,球面度数がCSVS:0.994,AR:0.995,円柱度数がCSVS:0.885,AR:0.977だった.球面度数(平均値±標準偏差)はCSVS:C.0.92±2.19D,AR:.1.27±2.42D,円柱度数はCSVS:.0.66±0.47D,AR:.0.67±0.52Dで,SVSは球面度数で有意に遠視寄りに測定された(p<0.01).結論:SVSは測定の再現性が高く,従来のCARよりも器械近視や調節の影響が少ないため,より日常視に近い屈折の評価が可能と考えられる.CPurpose:ToCcompareCtheCrepeatabilityCofCaCSpotCVisionScreener(SVS)andCaCconventionalCstationary-typeauto-refractometer(AR).Casesandmethods:Thisstudyinvolved164eyesof82patientswithoutocularorganicdiseasewhounderwentexaminationbySVSandAR,andmeasurementofbest-correctedvisualacuity.Wecom-paredCtheCintra-classCcorrelationcoe.cients(ICC)andCeachCparameter.CResults:ICCs(SVS・AR)were0.994・C0.995CinCsphericalCpowerCand0.885・0.977CinCcylindricalCpower.CSphericalpower(average±standarddeviation)Cwas.0.92±2.19DinSVS,and.1.27±2.42DinAR.Cylindricalpowerwas.0.66±0.47DinSVS,and.0.67±0.52DCinCAR.CSVSCwasCmeasuredCsigni.cantlyCcloserCtoChyperopiaCinCsphericalCpowerCcomparedCtoAR(p<0.01).CConclusion:SVSCshowedChighCrepeatabilityCofCtheCmeasurementCandClessCin.uenceCofCinstrumentCmyopiaCandCaccommodationthanconventionalAR.Therefore,SVScanevaluatetherefractivepowerclosertoanaturallyview-ingcondition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(1):102.107,C2021〕Keywords:スポットビジョンスクリーナー,測定精度,屈折,器械近視,調節.SpotVisionScreener,repeat-ability,refraction,instrumentmyopia,accommodation.Cはじめに据置き型オートレフラクトメータ(以下,AR)の問題点は,内部視標を覗き込むことにより誘発される器械近視や調節の介入が避けられないこと,頭位が不安定な症例では額当てや顎台から顔がはずれること,固視不良例では測定が困難となることなどがあげられる.しかし近年,それら多くの問題点を解消できるCSpotVisionScreener(SVS,WelchAllynC社)の登場により,迅速かつ両眼同時に屈折検査を行えるようになった.SVSは遠視,近視,乱視,不同視,瞳孔不同,瞳孔間距離,眼位などの測定を行える簡易スクリーニング検査として眼科はもちろん,3歳児健診や小児科領域で屈折検査や眼位検査としての有用性が多く報告されている1.4).また,1Cm±5Ccmの長い測定距離で行えるため調節の介入が少ないことや1),弱視の危険因子の検出にも優れていることが〔別刷請求先〕宮内亜理紗:〒767-0001香川県三豊市高瀬町上高瀬C1339白井病院Reprintrequests:ArisaMiyauchi,ShiraiEyeHospital,1339Takase,Kamitakase,Mitoyocity,Kagawa767-0001,JAPANC102(102)SVS(AU-VS100S-B,WelchAllyn社)TONOREFIII(ニデック)測定原理フォトレフラクション法ラージピューピルゾーン式測定範囲C.7.50.+7.50DC.30.00.+25.00D瞳孔径4.0.C9.0Cmm1.0.C10.0Cmm内部視標視覚的パターンと可聴音絵検査距離C1Cm±5CcmC12Cmm測定時間1秒3.C4秒SVS:SpotVisionScreener.報告されている5.7).その一方で,SVSは単回測定の結果のみで,従来のCARのように代表値を取得できない問題点があり,SVS運用マニュアルではCSVSの測定精度を上げるために,2回以上の測定を推奨している8).しかし,これまで筆者らが調べた限りCSVSの測定精度を詳細に検討した報告はない.そこで今回,SVSと従来の据置き型CARの測定精度を比較検討した.CI対象および方法白井病院(以下,当院)倫理委員会承認のもと,ヘルシンキ宣言に基づき後向き研究を施行した.対象はC2018年C9月.2019年C6月に当院を受診し,眼科的に器質的疾患がなく,本研究に対して同意の得られたC82例C164眼である.症例の内訳は,正常眼C76例C152眼,弱視治癒後症例C3例C6眼,不同視弱視C2例C4眼,屈折異常弱視C1例C2眼である.除外対象は,SVSまたはCARのどちらか一方が施行できなかった症例,測定範囲を超えた症例,斜視のある症例とした.方法はCSVS(AU-VS100S-B)をC3回,AR(TONOREFIII,ニデック)をC3回の順に連続測定後,自覚的屈折検査を施行した.SVSの測定モードはC4Cmm瞳孔径とし,測定条件を統一するためにC1名の検者がすべて視力検査室の明室の自然瞳孔下にて行った.ARの値は複数回測定後に算出される代表値をC3回採用した.SVSとCARにおける機器の仕様を表1に示す.検討項目は,1.球面度数・円柱度数・等価球面値の比較,2.測定精度として検者内級内相関係数(intra-classCcorrelationcoe.cients:ICC)およびCBland-Altman解析,C3.等価球面値における自覚的屈折検査とCSVSおよびCARとの相関とした.また,検討で用いたCARの値は代表値のC3回の平均値とした.統計解析として,SVSとCARにおける各測定値の比較にはCpaired-ttest,SVS・AR・自覚的屈折検査のC3群における等価球面値の比較にはCTukeyの多重比較法,測定精度の検討にはCICCおよびCBland-Altman解析,自覚的屈折値との相関にはCPearsonの順位相関係数を用い,危険率5%未満を有意とした.統計ソフトはCSPSSver.22(IBM社)を用いて行った.II結果1.SVSとARの測定値の比較対象の年齢分布および屈折度数の分布を図1,2に示す.年齢の分布範囲はC3.18歳で,平均値C±標準偏差はC10.5C±4.1歳であった.球面度数の分布範囲はCSVS:+5.25D.C.7.00D,AR:+6.75.C.8.50D,円柱度数の分布範囲はSVS:+0.00.C.3.75D,AR:C.0.25.C.3.25Dであった.球面度数の平均値±標準偏差はCSVS:C.0.92±2.19D,AR:C.1.27±2.42D,円柱度数はCSVS:C.0.66±0.47D,AR:C.0.67±0.52D,等価球面値はCSVS:C.1.26±2.12D,AR:C.1.60±2.40Dで,SVSではCARと比較して球面度数と等価球面値でそれぞれ有意に遠視寄りに測定された(p<0.01)が,円柱度数では有意な差を認めなかった(p=0.862)(表2).ARよりもCSVSのほうが遠視寄りに測定された症例はC122眼(74.4%)であった.そのうち,SVSとCARの両方で遠視が確認できたC48眼のうち,SVSで遠視寄りに測定されたのはC25眼(52.1%)であった.C2.SVSとARの測定精度ICC(SVS・AR)は,球面度数:0.994・0.995,円柱度数:0.885・0.977,等価球面値:0.995・0.995で,SVS・ARともに有意に高い測定精度であった(p<0.01)(表3).しかし,SVSの円柱度数におけるCICCはCARよりも低い値を示した.Bland-Altman解析を図3に示す.2機種で測定した球面度数における測定誤差の平均はC0.35D,95%一致限界は.0.83.+1.53Dであり,屈折度数が遠視になるとCSVSはCARよりも測定値が小さくなる比例誤差がみられた(p<0.01).円柱度数における測定誤差の平均はC0.01D未満,95%一致限界は.0.62.+0.63Dであり,SVSはCARと比較してランダム誤差がみられた(p=0.025).C3.等価球面値における自覚的屈折検査とSVSおよびARの相関自覚的屈折検査が行えたC79例C158眼における相関係数は,SVSと自覚的屈折検査ではC0.978,ARと自覚的屈折検査ではC0.987で,SVSとCARのC2機種ともに自覚的屈折検査と強い相関がみられた(p<0.01)(図4).また,等価球面値の各平均値C±標準偏差は,SVS:C.1.34C±2.08D,自覚的屈折検査:C.1.07±2.40D,AR:C.1.67±2.37Dであり,3群間の比較では,SVSvs自覚的屈折検査ではCp=0.547,SVSvsARではCp=0.420と有意差はなかったが,自覚的屈折検査CvsARではCp=0.056で有意な傾向がみられ,ARのほうが近視寄りになっていた(表4).(人)4035252015161050III考按1.SVSとARの測定値の比較本研究では,SVSの球面度数および等価球面値はCARよりも約C0.35D程度ほど有意に遠視側の値を示したが,円柱度数に有意差はみられなかった.また,SVSはC164眼のうちC122眼(74.4%)でCARよりも遠視寄りに測定された.多々良ら9)は,3歳児健診においてCARとCSVSを比較検討し,球面度数はCAR:+0.44D,SVS:+1.49D,円柱度数はCAR:C.1.27D,SVS:C.1.72Dで,SVSで球面度数はC1.05D遠視側に,円柱度数はC.0.45D大きく測定されたと報告している.鈴木ら2)はC3歳児健診でハンディレフであるCReti-nomaxとCSVSを比較検討した結果,等価球面値はCRetino-maxでC.1.19D,SVSで+0.28D,とCSVSがC1.47D有意に遠視寄りの値を示し,93%の症例でCSVSのほうが遠視側に測定されたことを報告している.また,円柱度数はCRetino-maxでC.0.54D,SVSでC.0.73D,とCSVSがC.0.19D大きく測定される傾向があったと述べている.一方,藤田ら10)の小児を対象にCARとCSVSを比較した検討では,球面度数および円柱度数に有意差はなかったとの報告もある.本研究の球面度数および等価球面値は,SVSが遠視寄りの値を示すという過去の報告とおおむね一致する結果であっCAR(人)34327~1213~18(歳)図1対象の年齢分布球面度数(D)(人)SVS1008280726040206310球面度数(D)(人)AR10086806056402018130円柱度数(D)円柱度数(D)図2球面度数および円柱度数の分布球面度数の平均値±標準偏差はCSVS:C.0.92±2.19D,AR:C.1.27±2.42D,円柱度数はCSVS:C.0.66±0.47D,AR:.0.67±0.52Dであった.SVS:SpotVisionScreener,AR:据置き型オートレフラクトメータ.S(D)C(D)SE(D)p値SVSC.0.92±2.19C.0.66±0.47C.1.26±2.12CARC.1.27±2.42C.0.67±0.52C.1.60±2.40p<0.01,Cp=0.862,Cp<0.01Paired-t-testS:球面度数,C:円柱度数,SE:等価球面値.表3SVSとARにおける各測定値の検者内級内相関係数(ICC)ICCSCCCSEp値SVSC0.994C0.885C0.995p<0.01CARC0.995C0.977C0.995p<0.01S:球面度数,C:円柱度数,SE:等価球面値.球面度数円柱度数3.001.502.001.00AR(D)-2.00-1.00-4.00-3.00-2.00-1.000.00SVSとARの平均(D)図3SVSとARのBland.Altman解析球面度数における測定誤差の平均はC0.35D,95%一致限界はC.0.83D.+1.53Dであり,屈折度数が遠視になるとCSVSはCARよりも小さくなる比例誤差がみられた(p<0.01).円柱度数における測定誤差の平均は0.01D未満,95%一致限界は.0.62.0.63Dであり,SVSはARと比較してランダム誤差がみられた(p=0.025).SVS:SpotCVisionScreener,AR:据置き型オートレフラクトメータ.C8.008.006.006.004.004.00SVS-AR(D)1.00.50.00.00-1.00-.50-7.50-5.00-2.500.002.505.00SVSとARの平均(D)SVS(D)2.002.000.000.00-2.00-2.00-4.00-4.00-6.00-6.00-8.00-8.00-10.00-8.00-6.00-4.000.00-2.002.004.006.00-10.00-10.00-8.00-6.00--2.002.004.000.004.006.008.00自覚的屈折検査自覚的屈折検査図4等価球面値における自覚的屈折検査とSVSおよびARの相関相関係数Crは,SVSと自覚的屈折検査ではC0.978,ARと自覚的屈折検査ではC0.987で,ともに強い相関がみられた(p<0.01).SVS:SpotVisionScreener,AR:据置き型オートレフラクトメータ.SVS自覚CARp値SVSvs自覚CSVSvsAR自覚vsARSE(D)C.1.34±2.08C.1.07±2.40C.1.67±2.37C0.547C0.420C0.056CTukeyの多重比較法SVS:SpotVisionScreener,自覚:自覚的屈折検査,AR:据置き型オートレフラクトメータ.た.林ら11)は,小児を対象として,調節麻痺下と調節下においてCSVSと従来の屈折機器で記録した等価球面値の差を検討した結果,従来の屈折器機で2.26D,SVSで1.05Dと,SVSは従来の測定器機よりも有意に小さかったと報告している.そして,調節の介入が少なかったのは両眼開放下かつ検査距離によるものと述べている.また,多々良ら9)は,SVSが内部視標として非調節視標であるイルミネーション視標を用いていることから,機械的特性による遠視化の可能性を指摘している.SVSは両眼開放下で検査距離がC1Cmであることや非調節視標を用いているため,従来のCARよりも調節の介入が少なく,遠視側に測定されやすいと考えられる.一方,SVSは検者が器機を傾けて操作したり,被検者が顔を傾けたりすると乱視度数が変動しやすいため,円柱度数が大きく検出されやすい11)と考えられており,他にも同様の報告2,9)がみられる.しかし,本研究や藤田ら10)の検討のようにCSVSと従来のCARの円柱度数に有意差がなかった報告もあるため,頭位や眼瞼などを注意深く観察しながら検査を行う,あるいはスタッフや保護者の協力を得て適切な頭位の保持や眼瞼挙上を行うなどの測定条件を整えることにより,SVSでも従来のCARと同様に正確な乱視検出が行えると考えられるが,この点に関しては今後も詳細な検討が必要であるといえる.C2.SVSとARの測定精度筆者らが調べた限り,これまでCSVSの測定精度についてICCを用いて検討した報告はなく,本研究が初めての報告である.本研究によって,SVSは球面度数および円柱度数,等価球面値のいずれのパラメータにおいても高いCICCが得られ,測定精度が非常に高いことが明らかとなった.さらに,SVSの球面度数および等価球面値は従来のCARと同等の高い測定精度であった.しかし,円柱度数のCICCについては,SVSはC0.885と高い測定精度ではあったが,ARの0.977と比較すると低い値を示した.さらに,SVSとCARの測定値において,一定の偏った傾向をもつ系統的誤差の混入の有無を調べるためにCBland-Altman分析を行った結果,球面度数の測定誤差の平均はC0.35Dで,屈折度数が遠視寄りになるとCSVSはCARに比べて測定値が小さくなるという比例誤差がみられた.また,遠視C48眼のうちCSVSのほうが遠視寄りに測定されたのはC25眼(52.1%)に留まっていた.一方,円柱度数の測定誤差の平均はC0.01D未満で,SVSはARと比較してランダム誤差がみられた.SVSの球面度数において比例誤差がみられた明確な理由は不明であるが,今回の検討では遠視眼がC48眼(29.3%)しか含まれておらず,近視眼が大多数であったため症例の偏りが影響していると考えられる.遠視眼では,SVSがCARに比べて遠視度数が過小評価される傾向が考えられるため,今後遠視眼を多数含めた詳細な検討を行い,遠視眼においてSVSがCARよりも遠視度数が低く検出される原因を明らかにする必要がある.また,SVSの円柱度数においてランダム誤差がみられた理由としては,SVSは検査距離の関係上,測定時に検者による眼瞼挙上や頭位保持ができないため,睫毛や上眼瞼,頭位の傾きによって乱視度数が変動しやすいと考えられる.しかし,本研究での円柱度数の測定誤差はC0.01D未満と非常に小さく,実測値においてもCSVSとCARで有意差はなかったため,臨床的に意義のある誤差ではないと考えられる.C3.等価球面値における自覚的屈折検査とSVSおよびARの相関本研究によって自覚的屈折検査は,SVSで相関係数C0.978,ARで相関係数C0.987,ともに非常に強い相関を示すことが明らかとなった.鈴木ら2)は,SVSの値は遠視側に測定され調節の介入が少ないとされている検影法の弱主経線屈折値と同等であったと報告している.Muら12)もCSVSと検影法を比較し,両者の等価球面値は相関がみられたと報告している.また,林は1)SVSでは調節麻痺薬を使用しなくても真の値に近い数値を検出でき,調節麻痺薬を使用するのがむずかしい症例や検診において有用であると述べている.そのため,SVSは調節麻痺薬を使用することなく,技量が必要とされる検影法に近い測定値を得ることができるとともに,被検者を選ばずに施行できるため,3歳児検診や学校検診において自覚的屈折検査が行えない場合の屈折評価の手助けになると考えられる.また,SVSはCARよりも日常視下の他覚的屈折度数の評価に有用であり,5Cm視力表を用いた自覚的屈折検査における屈折矯正の一助にもなると考えられる.C4.本研究の限界本研究における問題点としては,後ろ向き研究デザインであること,対象の各年代のばらつきがあること,遠視眼が全体のC3割弱で屈折度数に偏りがあること,ほぼ正常眼での検討であることがあげられる.今後は,各年代の症例数を均等にするとともに遠視眼を増やし,弱視眼での検討も行う予定である.結論今回の検討により,SVSでは従来のCARに比べて球面度数および等価球面値は遠視側に測定され,球面度数および円柱度数は非常に高い測定精度であることが明らかとなった.そして,SVSは自覚的屈折検査と強く相関するため,従来のCARよりも調節の介入や器械近視の影響が少なく,より日常視に近い屈折度数の評価に有用であると考えられる.文献1)林思音:乳幼児の屈折スクリーニング.あたらしい眼科C36:973-977,C20192)鈴木美加,比金真菜,佐藤千尋ほか:3歳児健康調査でのCSpotCVisionScreenerの使用経験.日視会誌C46:147-153,C20173)萬束恭子,松岡真未,新保由紀子ほか:斜視を伴う小児に対するCSpotC.VisionScreenerの使用経験.日視会誌C46:C167-174,C20174)QianCX,CLiCY,CDingCGCetal:ComparedCperformanceCofCSpotandSW800photoscreenersonChinesechildren.BrJOphthalmolC103:517-522,C20195)DonahueCSP,CArthurCB,CNeelyCDECetal:GuidelinesCforCautomatedCpreschoolCvisionscreening:aC10-year,Cevi-dence-basedupdate.JAAPOSC17:4-8,C20136)SilbertCDI,CMattaNS:PerformanceCofCtheCSpotCvisionCscreenerCforCtheCdetectionCofCamblyopiaCriskCfactorsCinCchildren.JAAPOSC18:169-172,C20147)PeterseimMM,PapaCE,WilsonMEetal:Thee.ective-nessCofCtheCSpotCVisionCScreenerCinCdetectingCamblyopiaCriskfactors.JAAPOSC18:539-542,C20148)日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会マニュアルガイドライン:小児科医向けCSpotVisionScreener運用マニュアルCVer.1.https://www.jasa-web.jp9)多々良俊哉,石井雅子,生方北斗ほか:三歳児健康診査で要精密検査となった児のCSpotVisionScreenerと据え置き型オートレフケラトメータとの屈折値の比較.日視会誌C47:141-146,C201810)藤田和也,掛上謙,三原美晴ほか:小児におけるCSpotCVisionScreenerとCRT-7000の屈折検査結果の比較.眼臨紀11:112-116,C201811)林思音,枝松瞳,沼倉周彦ほか:小児屈折スクリーニングにおけるCSpotCVisionScreenerの有用性.眼臨紀C10:C399-404,C201712)MuCY,CBiCH,CEkureCECetal:PerformanceCofCSpotCphoto-screenerCinCdetectingCamblyopiaCriskCfactorsCinCChineseCpre-schoolandschoolagechildrenattendinganeyeclinic.CPLoSOneC11:e0149561,C2016***

2つの視野計による新しい視野障害等級判定─緑内障による検討─

2021年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(1):97.101,2021c2つの視野計による新しい視野障害等級判定─緑内障による検討─石井雅子*1,2間聡美*2末武亜紀*2福地健郎*2*1新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科*2新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野NewVisualFieldImpairmentClassDeterminationUsingTwoPerimeters:ConsiderationDuetoGlaucomaMasakoIshii1,2)C,SatomiAida2),AkiSuetake2)andTakeoFukuchi2)1)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,FacultyofMedicalTechnology,NiigataUniversityofHealthandWelfare,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC緑内障患者C65例のCGoldmann型視野計と自動視野計による視野障害等級について検討した.Goldmann型視野計での周辺視野角度,両眼中心視野角度と,自動視野計での両眼開放CEstermanテスト視認点数,10-2プログラム両眼視認点数を求めて視野障害等級判定を実施した.Goldmann型視野計での周辺視野角度が両眼ともにC80°以下の群では,6例全例(100.00%)が異級となった.一眼のみがC80°以下の群では,同級がC14例(46.67%),異級がC16例(53.33%),両眼ともに81°以上の群では,同級が19例(65.52%),異級が10例(34.48%)であった.二つの視野計での視野障害等級は,視野の残存状態,視覚特性,測定原理や検査条件の違いから乖離が生じる.このことに医療者は留意する必要がある.CPurpose:Toinvestigatethevisual.eldimpairmentgradeof65glaucomapatientsusingaGoldmannperime-terCandCautomaticCperimeter.CPatientsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC65CglaucomaCpatientsCinCwhomCtheCperipheralvisual.eldangleandbinocularcentralvisual.eldangleweremeasuredusingtheGoldmannperimeter,andinwhomthebinocularopenEstermantestvisualrecognitionscoreand10-2programbinocularvisualrecogni-tionscorewithautomaticperimeterwerecalculatedtodeterminethevisual.eldimpairmentgrade.All65patients(100%)CweregradedwhentheGoldmannperimeterperipheralvisualanglewas80°Corlessinbotheyes.Whentheperipheralvisualanglewas80°Corlessinonlyoneeye,therewere14casesthatshowedthesamegrade(46.67%)CandC16CcasesCthatCshowedCdi.erentgrades(53.33%)C.CWhenCtheCperipheralCvisualCangleCwasC81°CorCmoreCinCbothCeyes,therewere19casesthatshowedthesamegrade(65.52%)and10casesthatshoweddi.erentgrades(34.48%).Conclusion:Ophthalmologyspecialistsshouldkeepawareofthefactthatthevisual.eldimpairmentgradesofCtheCtwoCperimetersCcanCdi.erCdueCtoCtheCresidualCstateCofCtheCvisualC.eld,CvisualCcharacteristics,CmeasurementCprinciples,andtheconditionsthatexistwhentheexaminationsareperformed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(1):97.101,2021〕Keywords:視覚障害認定基準,視野障害等級,緑内障性視野障害,ゴールドマン型視野計,自動視野計.visualCimpairmentcerti.cationstandards,visual.eldimpairmentgrade,glaucomatousvisual.elddisorder,Goldmannpe-rimeter,automaticperimeter.Cはじめにしく低下し,その結果としてCactivityCofdailyCliving(ADL)緑内障は慢性進行性の視野障害をきたす代表的な疾患であも低下する.視野障害が進行した緑内障患者では読書,運る.視野障害の進行に伴い患者のCqualityoflife(QOL)は著転,移動の障害,認知能力の低下やうつを発症することも報〔別刷請求先〕石井雅子:〒950-3198新潟市北区島見町C1398新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科Reprintrequests:MasakoIshii,CPh.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,FacultyofMedicalTechnology,NiigataUniversityofHealthandWelfare,1398Shimami-cho,Kita-ku,Niigata950-3198,JAPANC表1新しい身体障害者認定基準(視野障害)(文献C5より一部改変)Goldmann型視野計自動視野計I-4視標I-2視標両眼開放CEsterman視認点数プログラムC10-2両眼中心視野視認点数2級両眼中心視野角度C28°以下70点以下20点以下3級周辺視野角度が両眼ともにC80°以下両眼中心視野角度C56°以下40点以下4級5級両眼による視野が2分のC1以上欠損100点以下両眼中心視野角度C56°以下40点以下告されている1.3).わが国では,超高齢化に伴い緑内障患者が増加している4).視覚機能の低下した緑内障患者のCQOLを守るためには,社会資源を活用してCQOLの低下を防ぐことが重要である.視機能障害を対象とした補装具などの購入費用の補助やヘルパー派遣などのサービスを利用するには,身体障害者手帳の取得が条件となる.そのため,患者の視機能を身体障害者手帳の基準に照らして判定することが必要である.2018年C7月より新しい身体障害者手帳(視覚障害)の障害認定基準が施行された5).視野障害については,従来はCGold-mann型視野計での基準で認定されていたが,新基準では,Goldmann型視野計に加えて自動視野計による認定基準も設けられた.緑内障診療では古くからCGoldmann型視野計が用いられてきたが,Goldmann型視野計は視野全体を把握できるという利点をもつ一方で,検者の技量に左右され客観性に欠くことから,視野の定量には不向きである.近年では視野の定量性に優れ,検者の技量の影響を受けにくいコンピューター制御された自動視野計が広く普及している.しかし日常診療において,二つの視野計で視野障害等級判定の結果に違いがでることをしばしば経験する.今回筆者らは,Goldmann型視野計および自動視野計における視野障害等級判定を比較し,若干の知見を得たので報告する.CI対象および方法本研究は,視力および視野測定の結果を診療録から調査した後ろ向き研究である.ヘルシンキ宣言に従い,新潟大学倫理審査委員会の承認(承認番号:2019-0273)を得て実施された.対象は,2008年C11月.2019年C10月のC11年間に新潟大学医歯学総合病院を受診した緑内障患者のうち,Goldmann視野計(タカギセイコー)(以下,GP)での動的視野検査およびCHumphrey視野計(CarlCZeissMeditec)(以下,HFA)での両眼開放CEstermanテスト(以下,両眼CES)とプログラムC10-2(以下,10-2)を施行したC65例である.GPとCHFAの施行間隔はC6カ月以内とし,その間に病状の変化がみられた者および緑内障以外の視力および視野に影響する眼疾患を重複している者は除外した.C1.患者背景男性C33例,女性C32例,平均年齢C63.7C±12.3歳である.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleglaucoma:POAG)がC41例,正常眼圧緑内障(normal-ten-sionglaucoma:NTG)がC21例,原発閉塞隅角緑内障(pri-maryangleclosureglaucoma:PACG)がC1例,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)がC2例である.C2.方法視覚障害等級判定のパラメータである視力,GPでのCI-4周辺視野角度および両眼中心視野角度,HFAでの両眼CES視認点数およびC10-2両眼視認点数の平均,標準偏差,95%信頼区間を求めた.GPによる視野障害判定では,GPのCI-4周辺視野角度が両眼ともにC80°以下,一眼のみC80°以下,両眼ともにC81°以上のC3群に分類した.両眼CI-2中心視野角度からCGPでの視野障害等級C2級,3級,4級,5級,非該当の判定を行った.次にCHFAによる視野障害判定では,両眼CESの視認点数およびC10-2の両眼視認点数からCHFAでの視野障害等級C2級,3級,4級,5級,非該当の判定を行った(表1).二つの視野計での視野障害等級を同級と異級に分類して比較した.CII結果視力値の平均は,bettereyeがC0.03C±0.18(平均C±標準偏差)logMAR,worseeyeがC0.29C±0.51ClogMARであった.小数視力はCbettereyeがC0.2.1.2,worseeyeがC0.04.1.2であった.視力での視覚障害等級は全例が非該当であった.GPではCI-4周辺視野角度の平均は,bettereyeがC219.98C±96.20°,worseeyeがC99.60C±87.42°であった.両眼CI-2中心視野角度はC46.78C±38.41°であった.HFAでは両眼CES視認点数がC95.02C±20.47点,10-2中心視野視認点数はC26.44C±15.57点であった(表2).GPでは,I-4周辺視野角度が両眼ともにC80°以下がC6例(9.23%),一眼のみが80°以下がC30例(46.15%),両眼ともにC81°以上が29例(44.62%)であった.GPのCI-4周辺視野角度が,両眼ともにC80°以下のC6例の視野障害判定は,GPではC2級がC5例,3級がC1例であった.HFAではC5級がC6例であった(表3).GPのCI-4周辺視野角度が,一眼のみがC80°以下のC30例の視野障害判定は,GPではC5級がC23例,非該当がC7例であった.HFAでは2級が6例,3級が2例,4級が1例,5級がC19例,非該当がC2例であった(表4).GPのCI-4周辺視野角度が,両眼ともにC81°以上のC29例の視野障害判定は,GPではC5級がC18例,非該当がC11例であった.HFAではC2級がC1例,5級がC24例,非該当がC4例であった(表5).GPのCI-4周辺視野角度が両眼ともにC80°以下のC6例は,全例(100.00%)が異級でCGPの視野障害判定がCHFAよりも上級であった.GPのI-4周辺視野角度が,一眼のみが80°以下のC30例では,同級がC14例(46.67%),異級がC16例(53.33%)であった.異級のC16例はCGPが上級C1例(3.33%),HFAが上級C15例(50.00%)であった.GPのCI-4周辺視野角度表2視野障害等級認定のパラメータ平均標準偏差95%信頼区間上限下限Goldmann型視野計周辺視野角度CbettereyeCworseeyeC219.98C99.60C96.20C87.42C243.82C121.26C123.79C12.18両眼中心視野角度C46.78C38.41C56.30C8.37自動視野計両眼開放CEstermanテスト視認点数CプログラムC10-2両眼中心視野視認点数C95.02C26.44C20.47C15.57C100.09C30.30C74.5510.86表3周辺視野角度:両眼ともに80°以下の6例両眼開放CEstermanテスト視認点数70点以下100点以下101点以上自動視野計プログラムC10-2両眼プログラムC10-2両眼中心視野視認点数中心視野視認点数20点以下40点以下41点以上40点以下41点以上Goldmann型視野計(2級)(3級)(4級)(5級)(5級)(非該当)Cn=0n=0n=0n=4n=2n=028°以下(2級)Cn=5C───3C2─両眼中心視野角度56°以下(3級)Cn=1C───C1C──C表4周辺視野角度:一眼が80°以下の30例両眼開放CEstermanテスト視認点数70点以下100点以下101点以上自動視野計プログラムC10-2両眼プログラムC10-2両眼中心視野視認点数中心視野視認点数Goldmann型視野計20点以下(2級)C40点以下(3級)C41点以上(4級)C(5級)C40点以下(5級)C41点以上(非該当)Cn=6n=2n=1n=9n=10n=256°以下(5級)Cn=23C6C2C1C6C※C7C※C1両眼中心視野角度57°以上(非該当)Cn=7C─C─C─C3C3C1C※※Goldmann型視野計と自動視野計の等級が一致.表5周辺視野角度:両眼ともに81°以上の29例両眼開放CEstermanテスト視認点数70点以下100点以下101点以上自動視野計プログラムC10-2両眼プログラムC10-2両眼中心視野視認点数中心視野視認点数20点以下40点以下41点以上40点以下41点以上Goldmann型視野計(2級)(3級)(4級)(5級)(5級)(非該当)Cn=1n=0n=0n=6n=18Cn=456°以下(5級)Cn=18C1C─C─C4※12※1両眼中心視野角度3※57°以上(非該当)Cn=11C───2C6C※Goldmann型視野計と自動視野計の等級が一致.a:周辺視野角度b:周辺視野角度c:周辺視野角度両眼ともに80°以下の6例一眼のみが80°以下の30例両眼ともに81°以上の29例Goldmann型視野計が上級13.33%Goldmann型視野計が上級13.45%図1視野障害等級:同級と異級が,両眼ともにC81°以上のC29例では,同級がC19例(65.52%),異級がC10例(34.48%)であった.異級のC10例はCGPが上級C1例(3.45%),HFAが上級C9例(31.03%)であった(図1).CIII考按GPおよび自動視野計における視野障害等級判定を比較した.左右眼それぞれのCI-4イソプターによる周辺視野角度の大きさにより,二つの視野計での障害等級判定に差があった.GPによる旧視野障害等級判定には,求心性視野障害の偏心に対する対応,輪状暗点の定義,視能率・損失率の算出方法などのいくつかの問題があった6).さらに近年,視野検査の主流がコンピューター制御された自動視野計へと移行したことで,公益財団法人日本眼科学会および公益社団法人日本眼科医会の合同委員会(以下,合同委員会)が,慎重な審議を重ねて改定案をまとめた6).その結果,GPでの視能率・損失率の用語を廃止,視野角度を採用した.高齢者,視野検査に対する理解不良者など自動視野計による検査が困難な場合を考慮し,これまでのCGPによる判定も残し,自動視野計での等級判定も可能とした.この改訂では,新旧の判定において不必要な等級変動が生じないよう,またとくに等級低下に伴う不利益が生じないよう考慮してある.旧認定基準では視野障害の該当はCI-4イソプターが両眼ともにC80°内に狭窄している,または両眼の視野が2分の1以上欠けていることが条件であった.その基準によれば今回の対象のうちC6例を除くC59例は,身体障害者手帳に非該当となる.新認定基準では,GPでC18例,自動視野計でC6例が非該当であった.このたびの改正では中心視野障害が強い場合には,周辺視野が等級に該当しなくとも中心視野のみで視野障害等級に該当することとなった.緑内障の中心視野障害の程度とCQOLは相関を示すことがいわれている7,8).新しい視野障害認定基準は,患者のCQOLを反映するように改訂されたものである6).周辺視野角度が両眼ともにC80°以上のC6例全例がCGPで上級となった理由として,GPで中心視野のCI-4イソプターと周辺視野のCI-4イソプターの連続性がなく,孤立した中心部の視野角度のみが計測の対象となったことがもっとも考えられる.この場合,自動視野計の周辺視野評価である両眼CESでは耳側に残存する視野も測定範囲(左右それぞれ約C80°,上方約C40°,下方約C60°)に入るため,視認点数が高スコアとなる.GPの「I-4イソプターの連続性」については,検者の手技に左右され客観性に問題があることを合同委員会が指摘している6).GPの測定では,視標を動かす速度は,視野中心部ほど視標スピードを遅くする必要がある9).しかし,熟練していない検者では,中心部の視野と耳側に残存する視野とのわずかなつながりを検出できない可能がある.そのほかにCGPが上級となる理由として,GPは片眼ずつ測定するが,両眼CESは両眼での測定である,という計測方法の違いも判定に影響すると考える.視覚機能には両眼加重という働きがある.Pirenne10)は両眼加重とは,両眼の網膜対応点からの視覚情報が大脳視覚野で収斂することによって起こる現象である,と述べている.単眼で計測するCGPでは視認されなくとも,「両眼加重の効果」から両眼CESでは視認点となり,その結果としてCGPでの等級判定が上級となる可能性がある.周辺視野角度が一眼のみC80°以下,周辺視野角度が両眼ともにC81°以上では,自動視野計で上級となる例が多かった.自動視野計が上級となる理由としては,動的計測と静的計測という測定原理の違いが考えられる.GPの計測では,視標が視細胞をなぞりながら動的に動くことで,空間加重効果11)が生じ,多数の刺激が神経節細胞に集まり,その結果として,動的刺激が静的刺激よりも閾値が低下し視認しやすくなる.これは「静的閾値と動的閾値の乖離」(stato-kineticdis-sociation:SKD)といわれ12),その乖離はC4.5CdBと報告されている13).これが,動的検査では検出されない緑内障性視野異常が,静的検査で検出される理由であるが,自動視野計での等級判定が上級となる一因と考える.さらに,両検査の測定点の違いも判定に影響する可能性がある.GPでの視野角度は,視野全体を等分にC8方向,45°間隔に区切って,計測しているのに対し,ESはさまざまなCqualityCofCvision(QOV)の評価に用いられているスクリーニングプログラム14,15)であり,日常生活に重要である下方視野におよそC2倍の加重をおいている.したがって計測ポイントは下方視野に多い.下方の視野障害が強い場合は,GPでの視野角度に比べて,ESの視認点数は低スコアとなり,自動視野計での等級判定が上級となるであろう.GPと自動視野計との視野障害等級認定の差は,上記に述べた「1-4のイソプターの連続性」「両眼加重の効果」「静的閾値と動的閾値の乖離」「Estermanテストにおける下方視野への重みづけ」が要因と考えられた.その他にも,GPのI-4視標とCESの視標輝度は,どちらもC1,000Casbであるが,GPのCI-4,I-2の計測視標が,視標サイズCI(1/4CmmC2)であるのに対し,自動視野計は視標サイズCIII(4CmmC2)を用いている.視標輝度は等しいが面積が異なるため,検査条件の違いも要因としてあげられる.これらが複合的に影響しあい等級認定の差となることが示唆された.このことをよく理解したうえで,等級判定をすべきである.文献1)AspinallPA,JohnsonZK,Azuara-BlancoAetal:Evalua-tionofqualityoflifeandprioritiesofpatientswithglauco-ma.InvestOphthalmolVisSciC49:1907-1915,C20082)GutierrezPR,WilsonMR,JohnsonCAetal:In.urnceofglaucomatousvisual.eldlossonhealth-relatedqualityoflife.ArchOphthalmolC115:777-784,C19973)ParrishRK2nd,GeddeSJ,ScottIUetal:VisualfunctionandCqualityCofClifeCamongCpatientsCwithCglaucoma.CArchCOphthalmolC115:1447-1455,C19974)日本眼科医会研究班:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80:付録,20095)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部:障企発C0427第C5号「身体障害認定基準の取扱い(身体障害認定要領)について」の一部改正について.20186)日本眼科学会視覚障害者との共生委員会,日本眼科医会身体障害認定基準に関する委員会:視覚障害認定基準の改定に関する取りまとめ報告書.厚生労働省社会・援護局障害保健衛生部「第C1回視覚障害の認定基準に関する検討会」(2017年C1月C23日)資料C3.2017.https://www.mhlw.go.jp/C.le/05-Shingikai-12201000-ShakaiengokyokushougaihokenCfukushibu-Kikakuka/0000149289.pdf7)SawadaH,FukuchiT,AbeH:Evaluationoftherelation-shipCbetweenCqualityCofCvisionCandCthevisualCfunctionCindexinJapaneseglaucomapatients.GraefesArchClinExpOph-thalmolC249:1721-1727,C20118)SawadaH,YoshinoT,FukuchiTetal:Assessmentofthevisionspeci.cCqualityCofClifeCusingCclusteredCvisualC.eldCinCglaucomapatients.JGlaucomaC23:81-87,C20149)DouglasCR,CAndersonMD:3CGoldmannCperimeter.CTest-ingthe.eldofvision,Mosby,StLouis,p22-32,198210)PirenneMH:Binocularanduniocularthresholdofvision.NatureC152:698-699,C194311)GoldmannH:EinCselbstregistrierendesCProjektionskugel-perimetersCsamtCtheoretischenCundCklinischenCBemerkun-genuberPerimeterie.OphthalmologicaC109:71-79,C194512)FankhauserCF,CSchmidtT:DieCoptimalenCBedingungenCfurdieUntersuchungderraumlichensummationmitste-henderCReizmarkeCnachCderCMethodeCderCquantitativenCLichtsinnperimetie.OpthalmologicaC139:409-423,C196013)HudsonCC,CWildJM:AssessmentCofCphysiologicalCstatoCkineticCdissociationCbyCautomatedCpermetry.CInvestCOph-thalmolVisSciC33:3162-3168,C199214)MillsRP,DranceSM:Estermandisabilityratinginsevereglaucoma.OphthlmologyC93:371-378,C198615)NoeG,FerraroJ,LamoureuxEetal:Associationbetweenglaucomatousvisual.eldlossandparticipationinactivi-tiesofdailyliving.ClinExpOphthalmolC31:482-486,C2003C

白内障手術を契機に実質型に移行した両眼性角膜ヘルペスの1例

2021年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科C38(1):91.96,2021c白内障手術を契機に実質型に移行した両眼性角膜ヘルペスの1例池田悠花子佐伯有祐岡村寛能内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofHerpeticStromalKeratitisthatTransitionedfromEpithelialTypeFollowingBilateralCataractSurgeryYukakoIkeda,YusukeSaeki,KannoOkamuraandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC皮膚疾患に合併した両眼上皮型角膜ヘルペス治癒後に白内障手術を行い,実質型ヘルペスが発症したC1例を経験したので報告する.症例はC59歳,男性.毛孔性紅色粃糠疹にて福岡大学病院皮膚科に入院中,プレドニンC40Cmg内服時に左眼の痛みを訴えたため眼科を受診した.左眼細菌性角膜潰瘍を認め抗菌薬頻回点眼を開始した.加療C14日目,左眼の細菌性角膜潰瘍は消失するも両眼の下方角膜から下方眼球結膜を中心にターミナルバルブを伴う小樹枝状潰瘍の多発を認めた.両眼上皮型角膜ヘルペスと診断し,アシクロビル眼軟膏,バラシクロビル内服にて加療を行い治癒に至ったが,2カ月後,両眼の後.下白内障を認め右眼の白内障手術を施行した.術後C2日目,右眼矯正視力は(1.5)に改善したが,術後C14日目,右眼の角膜中央実質混濁,浮腫を認め矯正視力は(0.7)と低下していた.実質型角膜ヘルペスと診断し,ベタメタゾン点眼,プレドニン内服,アシクロビル眼軟膏にて加療し徐々に軽快した.左眼手術時は術翌日よりルーチンでベタメタゾン点眼,アシクロビル眼軟膏を使用し,術後角膜混濁は軽度であった.角膜ヘルペスは原則的に片眼性であるが,皮膚疾患合併症例には両眼性に認められることがある.また,手術侵襲により角膜ヘルペスの病型が変化することがあり,術後に詳細な細隙灯顕微鏡による観察が必要である.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCherpeticCstromalCkeratitisCthatCtransitionedCfromCepithelialCtypeCafterCbilateralCcataractsurgery.Case:Thepatient,a59-year-oldmalewhowasdiagnosedaspityriasisrubrapilaris,wastreatedwith40CmgoralprednisoloneatFukuokaUniversityHospital.Afterpresentingatourcliniccomplainingofright-eyeCpain,CheCwasCdiagnosedCasCbacterialCcornealCulcer,CandCwasCtreatedCwithCantibacterialCeyeCdrops.CAtC2-weeksCposttreatment,smalldendriticulcerswithterminalbulbswereobservedinbothcorneasandconjunctivabulbi.HewasCdiagnosedCasCbilateralCherpeticCepithelialCkeratitis,CandCtreatedCwithCacyclovirCeyeCointment.CAtC1-weekCpostCtreatment,thesymptomsdisappearedandthedrugsweretapered.At2-monthsposttreatment,bilateralposteriorsubcapsularcataractswereobserved,andcataractsurgerywasperformedinhisrighteye.Followingsurgery,thebest-correctedvisualacuityintherighteyewas(1.5)C.At2-weekspostoperative,stromalopacityandedemawasobservedintheright-eyecornea,andvisualacuityworsenedto(0.7)C.Wediagnosedherpeticstromalkeratitis,andtheCconditionCgraduallyCimprovedCafterCtreatmentCwithCbetamethasoneCeyeCdrops,CoralCprednisolone,CandCacyclovirCeyeointment.Thattreatmentwasusedroutinelyaftercataractsurgeryinthepatient’slefteye,andthepostopera-tiveCcourseCwasCgood.CConclusion:BilateralCherpeticCkeratitisCisCrarelyCobservedCwithCcomplicatedCskinCdiseases.CSincethetypeofherpetickeratitiscanchangeaftercataractsurgery,detailedpostoperativeslit-lampobservationofthecorneaisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(1):91.96,2021〕Keywords:角膜ヘルペス,再発,白内障手術,毛孔性紅色粃糠疹.herpessimplexkeratitis,recurrence,cataractsurgery,pityriasisrubrapilaris.C〔別刷請求先〕佐伯有祐:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YusukeSaeki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC図1全身皮膚所見顔面,手掌,全身に鱗屑を伴う紅斑の多発が認められる.a:顔面,b:手掌,c:体幹胸部.図2左眼前眼部所見左眼角膜上方に円形の潰瘍を認める.潰瘍底に小さな膿瘍を併発している.はじめに単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)I型はヘルペス性角膜炎の原因ウイルスであり,初感染後,三叉神経に潜伏し,寒冷,外傷,精神ストレスや手術侵襲などの誘因により再賦活化され,再度角膜病変を生じる.ヘルペス性角膜炎の病変はその首座により上皮型,実質型,内皮型に分類されるが,再発時,そのいずれかの形態をとりうる1).また,ヘルペス性角膜炎は通常片眼性であり,両眼性のものはまれであるが,免疫抑制状態やアトピー性皮膚炎合併症例にはしばしば認められる2).今回筆者らはまれな皮膚疾患に合併し,白内障手術後にその病型が変化した両眼角膜ヘルペス症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:2014年C5月初旬より突然胸腹部に小紅斑が出現し,近医受診のうえ,ステロイド外用,内服にて軽快せず福岡大学病院(以下,当院)皮膚科を紹介受診した.顔面,体幹,四肢の鱗屑を伴う紅斑を認め(図1),皮膚病理所見より毛孔性紅色粃糠疹と診断され,7月初旬当院入院となった.PUVA療法を行うも全身は紅皮症を呈し,鱗屑は悪化,両下腿浮腫が出現し,血液検査で炎症反応高値(WBC:13,200,CRP:3.2)であり腎機能低下(Cr:1.2)と発熱を認め,cap-illaryCleaksyndromeと判断しヒドロコルチゾンC200Cmgよりステロイド投与を行った.プレドニゾロンC40Cmg内服中に左眼痛の訴えありC2014年C8月中旬に当院眼科外来を紹介受診した.初診時所見:VD=0.15(1.5C×sph.4.50D(cyl.1.0DAx95°).VS=0.15(1.5C×sph.4.50D(cyl.0.50DCAx25°).眼圧:右眼C19CmmHg,左眼C14CmmHg.前眼部:右眼には異常所見は認められず,左眼は角膜上方に小さな膿瘍を伴う潰瘍あり(図2).眼底:両眼視神経乳頭陥凹の拡大あり(C/D比:右眼0.8,左眼C0.6).臨床経過C1:左眼の細菌性角膜潰瘍と診断し,レボフロキサシン,セフメノキシムの頻回点眼を開始した.病巣の擦過培養にてCS.aureusが検出された.加療C14日後のC8月下旬に角膜潰瘍は消失するも,両眼の角膜,結膜にターミナルバルブを伴う大小の樹枝状潰瘍が多発していた(図3).また,同図3角膜ヘルペス発症時の前眼部所見両眼角膜ならびに眼球結膜にターミナルバルブを伴う大小の樹枝状潰瘍が多発している.Ca:右眼角膜上方,Cb:右眼角膜下方,c:左眼角膜上方,d:左眼角膜下方.2014年8月9月10月11月12月図4臨床経過1時期に原因不明の小丘疹が顔面を中心に全身に認められた.両眼上皮型角膜ヘルペスと診断し,また眼所見より皮疹もKaposi水痘様発疹症と皮膚科にて診断された.9月初旬に施行された血清ウイルス抗体価(EIA法)は抗CHSV-IgG:696.0,抗CHSV-IgM:0.28であった.アシクロビル眼軟膏を両眼にC5回使用し,バラシクロビルC1,000Cmg/日内服を行ったところC7病日で軽快し,14病日で樹枝状潰瘍は消失した.以後再発は認めず,静的量的視野検査にて両眼の鼻側視野欠損を認めたためラタノプロスト,チモロール点眼を開始した.両眼の点状表層角膜びらんが経過中に認められ,皮膚科にてステロイド内服を継続されていたため,アシクロビル眼軟膏をゆっくりと漸減した(図4).臨床経過C2:以後,上皮型角膜ヘルペスの再発は認めず,両眼水晶体後.下に混濁を認めたため,ステロイド白内障と診断し,2015年C10月下旬に右眼の白内障手術を施行した.手術前日よりアシクロビル眼軟膏を右眼にC2回使用し,白内障手術はC3Cmm強角膜切開による水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った.術翌日,右眼角膜は透明であり視力はC1.2(矯正不能)であった.術後点眼は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用せず,0.1%フルオロメトロン点眼,レボフロキサシン点眼をC4回使用し,アシクロビル眼軟膏をC2回継続した.手術C14日後,外来受診時,右眼のかすみの訴えがあり,右眼矯正視力は(0.6)と低下していた.前眼部所見は角膜中央の実質の淡い混濁と浸潤,ならびに強い浮腫が認められた(図5).右眼の実質型角膜ヘルペスと診断し,バラシクロビルC1,000mg/日内服ならびにプレドニンC30Cmg/日内服を追加したが,角膜浮腫は悪化し,手術C28日後,右眼矯正視力が(0.1)と低下したためC0.1%フルオロメトロン点眼をC0.1%ベタメタゾン点眼C4回に変更した.変更後,右眼角膜浮腫は軽快し矯正視力は(0.8)に改善したが,手術C56日後,上皮型ヘルペス発症を疑う小潰瘍を認めたため(図6),0.1%ベタメタゾン点眼C3回をC0.1%フルオロメトロン点眼C4回に変更したと図5右眼白内障術後14日目の前眼部所見a:角膜中央の実質の淡い混濁と浸潤ならびに浮腫を認める.Cb:角膜中央部に点状表層角膜びらんの多発がみられ,その周囲に角膜浮腫を反映した同心円状の皺襞が認められる(.).明らかな樹枝状潰瘍は認められない.図6右眼白内障術後56日目の前眼部所見a:角膜全体にびまん性の浮腫が認められる.Cb:同心円状の皺襞は軽快傾向である.Cc:bの拡大所見.点状表層角膜びらんの多発ならびに上皮型ヘルペスの発症を疑う小潰瘍が散見される.FLM:0.1%フルオロメトロン点眼BET:0.1%ベタメタゾン点眼2015年10月11月12月2016年1月2月図7臨床経過2ころC2週間で潰瘍は消失し,再度C0.1%ベタメタゾン点眼C2回に変更した.以後,右眼の角膜浮腫は軽快し,実質型ならびに上皮型ヘルペスの再発は認められなかった.2016年C1月下旬,左眼白内障手術を施行した.術前よりアシクロビル眼軟膏をC3回使用し,術後点眼としてC0.1%ベタメタゾン点眼とレボフロキサシン点眼をC4回使用した.手術C10日後より角膜傍中心部に実質型ヘルペスを疑う混濁と浮腫を認めたが,右眼の発症時と比較し軽度であった.点眼を継続したところC2カ月で治癒した(図7).以後,両眼の角膜ヘルペスの再発は認められず,右眼手術11カ月,左眼手術C8カ月後の最終所見では,両眼視力は矯正C1.5であり,両眼の角膜実質浮腫,上皮病変はみられなかった.0.005%ラタノプロスト点眼をC1回,0.5%チモプトール点眼をC2回,0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼をC2回,アシクロビル眼軟膏をC1回両眼に使用し,右眼眼圧はC13CmmHg,左眼眼圧はC11CmmHgに保たれている.CII考按今回筆者らは,毛孔性紅色粃糠疹という比較的まれな皮膚疾患に合併した両眼同時発症の上皮型角膜ヘルペスを経験した.毛孔性紅色粃糠疹は毛孔一致性の角化性丘疹,手掌,足底のびまん性紅斑と過角化を特徴とする炎症性疾患であり,現在のところ病因は不明とされている.治療は外用薬としてビタミンCDC3,ステロイド,尿素軟膏を使用し,内服薬はレチノイド,免疫抑制薬などが報告されている3).今回の症例では,毛孔性紅色粃糠疹にCcapillaryCleaksyndromeを合併していた.CapillaryCleaksyndromeは皮下の毛細血管透過性亢進に伴う浮腫,脱水を認め,重症例では多臓器不全に至る疾患であり,ステロイド全身投与を必要とする.今回の症例でもヒドロコルチゾンC200Cmgが投与された.本症例は原疾患である毛孔性紅色粃糠疹にCcapillaryCleaksyndrome,ステロイド全身大量投与といった上皮のバリア機能を低下させる要因が重なったため,HSVの感染もしくは再燃が誘発されたと考えられた.単純ヘルペス角膜炎は片眼に発症することが多く,両眼性は比較的まれであるが,免疫抑制状態や皮膚疾患の合併例に認められる2,4,5).升谷ら4)は両眼に初感染をきたしたヘルペス角結膜炎のC2例を報告しており,初感染の根拠として両眼性,眼瞼皮疹,結膜炎,発熱と咽頭痛といった全身症状をあげている.また,奥田ら5)は,輪部病変と周辺角膜に樹枝状病変を伴った両眼性ヘルペス性結膜炎の1例を報告し,皮疹ならびに輪部から周辺角膜に樹枝状の上皮病変を認めたこと,抗CHSV-IgM抗体価が上昇したことから初発感染としている.また,大久保ら6)は唐草状の角膜上皮炎といった非定型な単純ヘルペス性角膜炎が,健常者であるにもかかわらず両眼性に認められたまれな症例を報告し,抗CHSV-IgMが上昇していたため,初感染であると考察している.今回の症例においては初発時の両眼上皮型ヘルペス病変が,結膜にも樹枝状潰瘍を認めたこと,Kaposi水痘様発疹症を疑う皮疹を全身に合併していたことから,HSVの初感染が疑われた.しかし,抗CHSV-IgM抗体の上昇は認められず抗CHSV-IgG抗体の著明な上昇を認めており,ステロイド内服およびCcapillaryCleaksyndromeといった重篤な皮膚疾患を有していたことから,HSVの既感染が両眼性に顕在化した可能性が考えられた.手術侵襲とステロイド投与における角膜ヘルペス発症についての報告は,鈴木ら7)による角膜移植後の免疫抑制薬やステロイド使用時に角膜ヘルペスが発症した報告や,谷口ら8)による実質型角膜ヘルペスが上皮型として白内障手術後に再発した報告,三田ら9)による角膜ヘルペスにC20年前罹患した症例が白内障術後に再発により角膜穿孔をきたした報告など多数認められる.今回の右眼白内障術後のヘルペス再発においても,これらの報告同様,手術侵襲・ステロイド局所投与が原因と考えられた.角膜ヘルペスの既往歴を有する症例において白内障手術を施行する際に,0.1%ベタメタゾン点眼液を使用している間は必ず予防的にアシクロビル眼軟膏点入をC1.2回行い,ステロイド点眼はできるだけ早く中止することが推奨されている10).今回の症例ではアシクロビル眼軟膏の予防投与を行い,比較的弱いC0.1%フルオロメトロンの投与を行っていたため,上皮型は再発しなかったが実質型という形で再燃した.既報に角膜ヘルペス治癒C2年後の白内障手術においてベタメタゾン点眼を使用することにより再発を認めたC2症例8),治癒よりC10年後に白内障手術を契機として再発した症例9)が認められるが,それらの報告と比較し,筆者らの症例は治癒よりC1年と比較的短期間での白内障手術であったことが原因と考えられた.また,角膜ヘルペス初発時に両眼性かつ比較的重篤な臨床症状を有していたことも関与していると推測した.また,今回の症例は実質型ヘルペスとして再発したため難治であった.白内障術後に実質型ヘルペスが認められた症例の治療として,抗ウイルス薬の併用とステロイドの漸減が推奨されている10).筆者らも当初ステロイド点眼を強いものに変更することは病態が悪化するおそれがあると判断し,ステロイドならびにバルガンシクロビルの全身投与を行った.しかし,角膜浮腫が悪化したため,0.1%フルオロメトロン点眼をC0.1%ベタメタゾンに変更することにより角膜浮腫の軽快が認められ治癒に至った.今回,術後の実質型ヘルペスの治療においてフルオロメトロン点眼投与で改善しない場合,さらに強いステロイドであるベタメタゾンの局所投与が有用である可能性が示唆された.とはいえ,経過中に上皮型ヘルペスの再燃もきたしており,アシクロビル眼軟膏のカバーが必要であることと,詳細かつ短時間での経過観察ならびに角膜ヘルペスの病型にあわせた抗ウイルス薬やステロイドの変更が必要であることが示唆された.以上をふまえ,左眼の手術時には手術直後よりベタメタゾン点眼ならびにアシクロビル眼軟膏を使用した.術後に実質型角膜ヘルペスとして再発したものの,右眼に比較し混濁は軽度であり,速やかに治癒させることができた.以後角膜ヘルペスの再発は認めていないが,毛孔性紅色粃糠疹再発時や,緑内障点眼の上皮障害性より今後の再発が危惧されるため,以後の経過観察において詳細な角膜の観察,ならびに必要時にはアシクロビル眼軟膏とステロイドの局所投与が必要となる可能性があると考えられた.CIII結語今回,白内障手術を契機に上皮型角膜ヘルペスが実質型角膜ヘルペスへと移行した両眼性の角膜ヘルペス症例を経験した.毛孔性紅色粃糠疹といったまれな皮膚疾患には両眼性角膜ヘルペスを併発することがあり,また手術侵襲やステロイド投与によりその病型も多彩に変化するため,経過中,詳細な前眼部の観察ならびに適切な治療が必要と考えられた.文献1)下村嘉一,松本長太,福田昌彦ほか:ヘルペスと戦ったC37年.日眼会誌119:145-166,C20142)PaulaCMF,CEdwardCJH,CAndrewJW:BilateralCherpeticCkeratoconjunctivitis.OphthalmologyC110:493-496,C20033)小谷晋平,大森麻美子,小坂博志ほか:シクロスポリンが著効した毛孔性紅色粃糠疹のC1例.臨皮71:216-220,C20174)升谷悦子,北川和子,藤沢綾ほか:両眼に初感染のヘルペス性角膜炎と思われる症状を示したアトピー性皮膚炎患者のC2例.眼紀56:498-502,C20055)奥田聡哉,宮嶋聖也,松本光希:輪部病変と周辺角膜に樹枝状病変を伴った両眼性ヘルペス性角膜炎のC1例.あたらしい眼科18:651-654,C20016)大久保俊之,山上聡,松原正男:唐草状の角膜上皮炎を呈した両眼性単純ヘルペス性角膜炎のC1例.臨眼C66:653-657,C20127)鈴木正和,宇野敏彦,大橋裕一:局所免疫不全状態において経験した非定型的な上皮型角膜ヘルペスのC3例.臨眼C57:137-141,C20038)谷口ひかり,堀裕一,柴友明ほか:白内障術後に上皮型角膜ヘルペスを発症したC2症例.眼臨紀C6:363-367,C20139)三田覚,篠崎和美,高村悦子ほか:白内障術後に角膜ヘルペスの再発から角膜穿孔に至ったC1例.あたらしい眼科C24:685-687,C200710)藤崎和美:白内障術後感染症(ヘルペスを含む).IOL&RSC29:344-349,C2015***

基礎研究コラム44.選択的PPARα作動薬の網膜疾患への有用性

2021年1月31日 日曜日

富田洋平選択的PPARα作動薬の網膜疾患への有用性BostonChildren’sHospital,HarvardMedicalSchoolCPPARaと網膜症糖尿病網膜症は依然,わが国での失明原因の上位を占め,血糖の改善だけでは病態をコントロールできない症例を数多く経験します.ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体Ca(peroxisomeCproliferator-activatedCreceptoralpha:CPPARa)アゴニストであるフェノフィブラートは,脂質代謝改善薬として世界中で使用されています.欧米での大規模臨床研究により,糖尿病網膜症の進行抑制効果も示されており,オーストラリアでは糖尿病網膜症進行の予防薬として承認されています.また,基礎研究分野では,網膜症を示す動物モデルにおいて,その有用性が数多く報告されています.しかし,そのメカニズムは未だ不明な点も多く,肝臓や腎臓への副作用の可能性もあり,日本では脂質代謝改善薬としてのみ承認されています.選択的PPARa作動薬フェノフィブラートよりもさらにCPPARCaに特異的に作用する選択的CPPARCa作動薬ペマフィブラートが,近年日本で販売されました.少ない肝腎毒性をめざして,日本で開発された脂質代謝改善薬です.筆者らは,マウス酸素誘導網膜症(oxygen-inducedreti-nopathy:OIR)モデルにおいて,ペマフィブラートの投与群が,基剤投与群に比べ,網膜の病的血管新生を有意に抑制したことを報告しました.また,ペマフィブラートは,肝臓での線維芽細胞増殖因子(FGF)21の発現亢進,血漿での濃度亢進を認め,網膜での低酸素誘導因子(HIF),血管内皮細胞増殖因子(Vegf)の発現抑制を認めました1).さらにストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病マウスにペマフィブラートを投与したところ,基剤投与に比べ,網膜電図で低下したCOP波が回復することを確認しました.また,ペマフィ図1選択的PPARa作動薬の網膜への作用機序選択的CSPPARCa作動薬は,肝臓では維芽細胞増殖因子C21(FGF21)の発現を亢進させ,血中の濃度をあげ,網膜での抗血管新生,神経機能保護に働く1,2).網膜血管内皮細胞には直接作用し,throm-bomodulinの発現を亢進させ,血管透過性亢進,白血球吸着および炎症の抑制に働く3).慶應義塾大学医学部眼科学教室栗原俊英慶應義塾大学医学部眼科学教室ブラートは,血清でのCFGF21濃度亢進と,網膜におけるシナプトフィジン蛋白の発現亢進を示しました2).これらの結果から,ペマフィブラートが全身のCFGF21濃度を上昇させることで,網膜への効果を示す可能性を見出しました(図1).また,聖マリアンナ医科大学の塩野らは,ペマフィブラートがCSTZ誘導糖尿病ラットにおいて,thrombomodulinの発現を亢進させることにより網膜の血管透過性,血管の白血球吸着,および炎症を抑制することを報告しました3).以上のように複数の動物モデルで有用性が示されており,今後は臨床での有用性も期待できます.今後の展望現在,phaseIII試験であるpema.brateCtoCreduceCcardio-vascularCoutcomesCbyCreducingCtriglyceridesCinCpatientsCwithdiabetes(PROMINENT)studyが北米を中心に,高脂血症かつ糖尿病の患者を対象に行われています(ClinicalTri-als.govidenti.er:NCT03071692).内科領域での効果が確認され,さらに眼科領域でのエビデンスが蓄積されれば,眼科医がペマフィブラートを糖尿病網膜症進行予防のために処方できる日が来るかもしれません.文献1)TomitaY,OzawaN,MiwaYCetal:Pema.bratepreventsretinalCpathologicalCneovascularizationCbyCincreasingCFGF21ClevelCinCaCmurineCoxygen-inducedCretinopathyCmodel.IntJMolSciC20:5878,C20192)TomitaCY,CLeeCD,CMiwaCYCetal:Pema.brateCprotectsCagainstCretinalCdysfunctionCinCaCmurineCmodelCofCdiabeticCretinopathy.IntJMolCSciC21:E6243,C20203)ShionoA,SasakiH,SekineRCetal:PPARalphaactivationdirectlyCupregulatesCthrombomodulinCinCtheCdiabeticCreti-na.SciRepC10:10837,C2020選択的PPARa作動薬Thrombomodulin↑FGF21↑網膜血管内皮細胞血管透過性亢進抑制白血球吸着抑制抗炎症網膜(81)あたらしい眼科Vol.37,No.1,2020C810910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス.212視神経乳頭先天異常眼に生じた網膜下シリコーンオイル迷入(上級編)

2021年1月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載212212視神経乳頭先天異常眼に生じた網膜下シリコーンオイル迷入(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに先天乳頭ピットや朝顔症候群のような視神経乳頭先天異常に伴う網膜.離の発症機序には,従来諸説があった.最近では侵達度の高いCOCTにより,欠損した篩状板に構造異常を伴う網膜が嵌入し,その底部に硬膜が描出される所見が観察されるなど,視神経乳頭陥凹の深部がくも膜下腔と連続し,髄液が網膜下に流入することで網膜.離が生じるのではないかとする説が有力である1).一方で,これらの視神経乳頭異常を伴う網膜.離に対する硝子体手術時に用いたガスやシリコーンオイル(siliconeoil:SO)などのタンポナーデ物質が,術後に網膜下に迷入する報告が散見され2,3),その原因として眼圧と頭蓋内圧の圧勾配の関与が指摘されている.C●自験例の提示59歳,女性.右眼の朝顔症候群に伴う網膜.離を認め(図1),硝子体手術を施行した.コア硝子体を切除したのち,人工的後部硝子体.離を作製し,乳頭上の膜様組織を.離除去した.その後,意図的裂孔を作製し,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行した.術後,再.離をきたしたため,SOタンポナーデを施行したところ,約C1カ月後に泡沫状のCSOが多数網膜下に迷入している所見が観察された(図2).再度硝子体手術を施行し,意図的裂孔から網膜下CSOを抜去し,眼内光凝固を広範に施行し,ガスタンポナーデを行った.その後,網膜は復位した(図3)4).C●視神経乳頭先天異常を伴う網膜.離に対する硝子体手術の注意点先天乳頭ピット,朝顔症候群,乳頭コロボーマなどの視神経乳頭先天異常は,いずれも眼胚裂閉鎖不全に関連する疾患とされており,乳頭周囲の陥凹,乳頭上膜,篩状板欠損などを特徴とする.これらに起因する網膜.離は難治性であるだけでなく,上記のような他の網膜.離にはみられない術後合併症をきたす可能性がある.とくにCSOタンポナーデを施行した場合は,脳脊髄腔内への(79)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1術前の右眼眼底写真朝顔症候群に起因する視神経乳頭先天異常と網膜.離を認める.(文献C4より引用)図2シリコーンオイルタンポナ-デ後の右眼眼底写真泡沫状のシリコーンオイルが網膜下に多数迷入している.(文献C4より引用)図3再手術後の右眼眼底写真網膜下シリコーンオイルは除去され,網膜も復位している.(文献C4より引用)移行のおそれも指摘されているため5),慎重に経過観察する必要がある.文献1)Ohno-MatsuiK,HirakataA,InoueMetal:EvaluationofcongenitalCopticCdiscCpitsCandCopticCdiscCcolobomasCbyCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOph-thalmolVisSciC54:7769-7778,C20132)JohnsonCTM,CJohnsonMW:PathogenicCimplicationsCofCsubretinalgasmigrationthroughpitsandatypicalcolobo-masCofCtheCopticCnerve.CArchCOphthalmolC122:1793-800,C20043)DithmarCS,CSchuettCF,CVoelckerCHECetal:DelayedCsequentialCoccurrenceCofCper.uorodecalinCandCsiliconeCoilCinCtheCsubretinalCspaceCfollowingCretinalCdetachmentCsur-geryinthepresenceofanopticdiscpit.ArchOphthalmol122:409-411,C20044)北垣尚邦,佐藤孝樹,鈴木浩之ほか:シリコーンオイルが網膜下に迷入した朝顔症候群による網膜.離のC1例.眼臨紀13:330-334,C20205)KuhnF,KoverF,SzaboIetal:IntracranialmigrationofsiliconeCoilCfromCanCeyeCwithCopticCpit.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC244:1360-1362,C2006あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C79

若年者の血管新生黄斑症に対する抗VEGF薬による管理─脈絡膜骨腫に伴う新生血管について

2021年1月31日 日曜日

●連載103監修=安川力髙橋寛二83.若年者の血管新生黄斑症に対する抗VEGF薬に加瀬諭北海道大学大学院医学研究院眼科学教室よる管理─脈絡膜骨腫に伴う新生血管について若年者に対する抗CVEGF薬治療はオフラベル使用になることが多いが,特発性脈絡膜新生血管(特発性CNV),ぶどう膜炎,眼腫瘍に伴うCCNVなどに対して行われる.脈絡膜骨腫は若年の女性に好発する難治性の眼内腫瘍で,経過中CCNVを伴うことがある.近年,抗CVEGF薬治療により,CNVの消退,網膜下液や出血が消失し,視力の改善が期待できるようになった.しかし,黄斑部に色素沈着を伴い,視力予後が不良な報告もある.今後のさらなる症例数の蓄積が必要である.はじめに抗CVEGF薬は今や眼内新生血管疾患の治療に必須となっている.とりわけ加齢黄斑変性(age-relatedmacu-lardegeneration:AMD),糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の黄斑浮腫に対し,初回治療として多くの患者に投与されており,比較的高齢者が対象となる.他方,オフラベルの使用になることが多いが,抗CVEGF薬は若年者に投与されることもある.尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群などのぶどう膜炎に伴う脈絡膜新生血管(cho-roidalneovascularization:CNV),VonCHippel-Lindau病(VHL)に伴う網膜血管芽腫,脈絡膜骨腫などの若年者に発生する難治性疾患が対象となる.血管新生黄斑症は,黄斑部に新生血管を発症し,視力低下や歪視をきたす疾患である.強度近視や特発性CCNVが主体と考えられるが,網膜色素線状や脈絡膜骨腫に伴うCCNVも含まれると考えられる.本稿では若年者の血管新生黄斑症に対する抗CVEGF薬治療の一例として,脈絡膜骨腫(cho-roidalosteoma:CO)に伴うCCNVについて概説する.CCOにおけるCNVの臨床像COは視神経乳頭近傍に発生する骨形成性の脈絡膜良性腫瘍で,主として若年女性に好発する.若年男性に発生することもある.片眼性の頻度が高いが,両眼性にみられることもある.COの組織内には,石灰化と骨吸収による脱石灰化の病巣がみられる.COはC10年の経過観察中,約半数でCCNVを伴い1),視力障害の重要な因子である.CNVを伴う際には,網膜下液の貯留,漿液性網膜.離や網膜下出血がみられ,視力低下の原因となる.CNVは両眼性に発生することもある.COに伴うCCNVの診断にはフルオレセイン蛍光造影,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),OCT血管造影,超音波CBモード,CTが有用である.(77)脈絡膜陥凹に伴うCCNV形成もみられる2).COに伴うCNVに対しては,網膜光凝固,経瞳孔温熱療法,光線力学的療法,抗CVEGF薬治療が行われる3).COに対する抗VEGF薬治療の実際COに合併するCCNV8例(女性C5例,男性C3例)に対してベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealCbevaci-zumab:IVB)を行った報告では,平均年齢(中央値)はC34歳で,5例はC36歳以下の若年者であった.CNVの形状としてはC8眼中C6眼でCpredominantlyCclassicCNV,2眼はCminimallyCclassicCNVとCoccultCNVであった.注射回数はC3~10回で,経過観察期間はC3~15カ月(平均C9カ月),5眼でC2~6段階の視力改善がみられた.5眼でCCNVは消失し,3眼では部分的な消失であった.網膜厚も減少した4).Raoらは,黄斑部に及ぶCOによるCCNVに対して,AMDに準じてCIVBを月C3回施行し,視力の改善と網膜下出血,網膜下液の消失を得ることができたと報告した5).以上よりCIVBはCCOに伴うCCNVに対して有用であることが示されている.わが国では,Yoshikawaらが脱石灰化したCCOに伴うCCNVに対してCIVBを行ったC3例を報告した6).IVBの注射回数は平均C2回,平均観察期間はC56カ月と長期にわたっていた.中心窩下にCCNVがあった症例はC2例,傍中心窩はC1例であり,IVB後に視力が悪化した症例もあり,脱石灰化したCCOに伴うCCNVでは治療後に黄斑部に色素沈着をきたし,視力予後が不良になる可能性が示された6).ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)もCCOに伴うCCNVに対して用いられるようになった.近年,IVRのC2回投与により,長期間網膜下液の再発がみられず,IVRが有効であったとの報告もある7).IVBはCCNVの退縮に,IVRは網膜下液の消退を促進し,視力改善に貢献する可能性も示され8),IVRは網膜下液の残存がみられる際に有効であるあたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C770910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1症例1脈絡膜骨腫(30歳代,女性,右眼)a:初診時右眼視力(0.6).視神経乳頭近傍に脈絡膜骨腫,黄斑部に網膜下出血がみられる.Cb:OCTで黄斑耳側にCCNVを示唆する不正な網膜色素上皮の隆起がみられる().c:IVR施行後,網膜下出血が消退し,視力も(1.0)に改善した.Cd:CNV病巣も消失し,滲出の再燃はない().ことが示唆される.近年,COに伴うCCNVの退縮に,アフリベルセプト硝子体内注射のC1回投与も有効であるとの報告がある9,10).症例提示自験例を示す.症例C1はC30歳代,女性.右眼のCCOに伴うCCNVにより変視症,視力低下を認め,右眼の矯正視力は(0.6)であった.倫理委員会の承認のもと,IVRをC1回施行したところ,CNVが退縮し,視力も(1.0)に改善した(図1).その後C2年経過したが滲出の再燃はない.症例C2はC10歳代,男性.右眼の視力低下があり,矯正視力(0.08)であった.傍中心窩にCCNVが認められ,それに伴う網膜下出血がみられた.IVBをC1回施行したところ,腫瘍は脱石灰化し,色素沈着をきたした.視力は(0.1)で著明な改善はなかった.その後C3年経過したが滲出の再燃はない(図2).おわりに若年者に対するこのような抗CVEGF薬治療は,多くの場合オフラベル使用と考えられるが,患者の視力維持,改善に貢献する可能性があることが明らかになってきている.今後のさらなる症例の蓄積が必要である.文献1)ShieldsCL,SunH,DemirciHetal:FactorspredictiveoftumorCgrowth,CtumorCdecalci.cation,CchoroidalCneovascu-larization,CandCvisualCoutcomeCinC74CeyesCwithCchoroidalCosteoma.ArchOphthalmol123:1658-1666,C2005C78あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021図2症例2脈絡膜骨腫(10歳代,男性,右眼)a:初診時右眼視力(0.08).傍中心窩にCCNVとそれに伴う網膜下出血がみられる.b:OCTで傍中心窩に脈絡膜の不整な隆起,中心窩に網膜浮腫がみられる().c:IVBを1回施行.腫瘍は脱石灰化し,色素沈着をきたした.視力は(0.1)を維持.Cd:3年後.滲出の再燃はない().2)PierroCL,CMarcheseCA,CGagliardiCMCetal:ChoroidalCexca-vationinchoroidalosteomacomplicatedbychoroidalneo-vascularization.Eye(Lond)C31:1740-1743,C20173)古田実:脈絡膜骨腫.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編).医学書院,p360-365,20154)PapastefanouCVP,CPefkianakiCM,CAlCHarbyCLCetal:IntraC-vitrealCbevacizumabCmonotherapyCforCchoroidalCneovascu-larisationCsecondaryCtoCchoroidalCosteoma.Eye(Lond)C30:843-849,C20165)RaoS,GentileRC:Successfultreatmentofchoroidalneo-vascularizationCcomplicatingCaCchoroidalCosteomaCwithCintravitrealCbevacizumab.CRetinCCasesCBriefRep4:303-305,C20106)YoshikawaCT,CTakahashiK:Long-termCoutcomesCofCintravitrealinjectionofbevacizumabforchoroidalneovas-cularizationCassociatedCwithCchoroidalCosteoma.CClinCOph-thalmol9:429-437,C20157)NarangCS,CSindhuCM,CSheoranCKCetal:ChoroidalCosteo-ma:thevariedresponseofsubretinal.uidtoanti-VEGFagents.BMJCaseCRep13:20208)ShieldsCL,SalazarPF,DemirciHetal:Intravitrealbev-acizumab(avastin)andranibizumab(lucentis)forCchoroi-dalCneovascularizationCoverlyingCchoroidalCosteoma.CRetinCCasesBriefRepC2:18-20,C20089)ArrigoCA,CPierroCL,CSacconiCRCetal:BilateralCchoroidalCosteomacomplicatedbybilateralchoroidalneovasculariza-tion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC50:398-400,C201910)RajabianCF,CArrigoCA,CGrazioliCACetal:FocalCchoroidalCexcavationandpitchforksigninchoroidalneovascularisa-tionCassociatedCwithCchoroidalCosteoma.CEurCJCOphthalmolC1120672119892802,C2019(78)

緑内障性視神経症と乳頭周囲脈絡網膜萎縮 乳頭深層微小血管脱落

2021年1月31日 日曜日

●連載247監修=山本哲也福地健郎247.緑内障性視神経症と乳頭周囲脈絡網膜萎縮,阪口仁一石川県立中央病院金沢大学眼科乳頭深層微小血管脱落乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)は緑内障眼や近視眼に多く認める所見であり,Bruch膜の有無により,緑内障と関連が深いCb領域,近視と関連が深いCg領域がある.乳頭深層微小血管脱落(MvD)はCOCTangiographyでPPA内に検出される網膜深層の血管脱落であり,種々の緑内障性変化や進行と関連し,近視のみで緑内障がないCPPA内にはまれである.●はじめに緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)を示唆する所見のうち,本稿では乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA)について,そして光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyangiography:OCTA)によって明らかにされた所見である乳頭深層微小血管脱落(microvasculatureCdrop-out:MvD)について,最近の話題を交えて述べる.C●乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)PPAは視神経乳頭周囲にみられる構造変化である.古くから検眼鏡的に緑内障と関連する所見と報告1)されており,検眼鏡的にC2領域に分類2)されていた.スペクトラルドメインCOCTや組織学的検討により,Cb領域内にCBruch膜の有無など組織構造の多様性が存在することが示され,JonasらはCa,b,gの3領域(図1a)に分類することを提唱した.PPAは乳頭形状によりさまざまな形態をとる(図1b,c).PPAは従来から緑内障,近視,加齢などで拡大することが知られていた.そして臨床的には,ある患者におけるCPPAの成因を鑑別するという課題であった.スペクトラルドメインCOCTの登場により領域ごとの特性の解明が進み,Cb領域は緑内障性変化と,Cg領域は近視性図1PPAの分類と形態a:PPAの各領域と,断面のCOCT画像.Ca:青と赤の間.網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)があり,色素がまだらに過剰もしくは乏しい領域.b:赤と緑の間.RPEがなく,Bruch膜が存在する領域.検眼鏡的に脈絡網膜萎縮が強く,大血管や強膜が透見される.g:緑と紫の間.RPEがなく,Bruch膜が存在しない領域.検眼鏡ではCb領域と鑑別しにくい場合がある.Cb:典型的なCPPAとしてよくみられる例で,乳頭耳側からCa→Cb→Cgの順に並ぶ.c:PPAが全周に存在する緑内障眼.脈絡網膜萎縮が強く,Cb領域は広く存在するが,Bruch膜開口部は耳側に引き伸ばされており,Cg領域はCbと大差ない.変化と関連が強いという報告が多い.また,OCTAを用いた研究2)では,Cb領域とCg領域を別々にして重回帰分析したところ,Cb領域のみが網膜血管密度に対する有意な説明変数であった.これらの報告からも,Cb領域は緑内障と,g領域は近視と関連が強いことが示唆される.bc(75)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C750910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2緑内障眼と強度近視眼の比較a:緑内障眼の眼底写真.PPAを認め,耳上側/耳下側の視神経乳頭縁が菲薄化している.Cb:同眼のCOCTA(choroidalslab).耳上側/耳下側に血管構造の描出がない部位(=MvD)を認める.Cc:強度近視眼の眼底写真.広範なCPPA,傾斜乳頭を認める.d:同眼のOCTA.MvDは認めない.C●乳頭深層微小血管脱落(MvD)MvDは,OCTAでCPPA内の深層(choroidalslab)の血管がある程度の幅や角度で完全に脱落している所見3)である(図2).MvDと対応する部位にインドシアニングリーン蛍光造影検査でも血流低下が示されたことから,実際になんらかの循環障害が存在すると考えられる.また,乳頭内から篩状板にかけての血流脱落に連続しているとの報告4)がある.網膜深層血管は篩状板前部とともに短後毛様動脈支配であり,緑内障の発症や進行と血管障害との関連が示唆される.MvDを認める眼の特徴として,耳上側および耳下側に多いこと,視野欠損部位や網膜神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD)部位と対応すること,緑内障の重症度と相関すること,視野進行速度が早いこと,乳頭出血を多く認めること,角度が大きいと中心視野障害をきたしやすいことなどが報告されている.最近の報告では,とくに強度近視患者において,緑内障合併群ではC97%にCMvDを認め,視野欠損部位と良好に対応したのに対し,緑内障のない強度近視眼ではCMvDを認めなかった5).これらの性質からCMvDは緑内障の発症や進行の新たなリスクファクターであると考えられる.ただし,圧迫性視神経症でもCMvDを認めるという報告もあり,MvDの存在が即座に緑内障を意味しないことに注意が必要である.C76あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021●日常診療での活用先述のように,PPA(とくにCb領域)やCMvDはCGONに関連がある所見である.その病態生理や解釈には未解明な部分が残されているが,診断や治療方針の決定,緑内障眼と近視眼の鑑別に役立つ可能性がある.日常診療において,強度近視眼は大きな脈絡網膜萎縮や乳頭の傾斜などのために,検眼鏡的にCGONと区別しにくい場合がある.OCTではCsegmentationerrorのため,内蔵ソフトウェアによる解析が正しく行われないことが多い.視野検査でもCMariotte盲点の拡大や屈折暗点などのために,評価が正確に行われない場合がある.そのほかの緑内障と紛らわしい所見として,高血圧,糖尿病,原発性アルドステロン症などの全身疾患における網膜循環障害に続いて形成されるCNFLDがある6).これらのCNFLD部位では視野感度も低下しており,一見すると構造(NFLD)と機能(視野異常)が対応した緑内障性変化のように思われる.しかし,これらの疾患では長期的に乳頭陥凹拡大,NFLD拡大,視野進行などを認めにくいこと,反対眼の所見,全身疾患の既往などが鑑別点となり,加えてCPPAやCMvDも緑内障性変化の判別に役立つ場合がある.一方で,実用に堪える画像を得るには質の高いCOCT撮影が必要であり,正常眼を含めた自動解析ソフトがないため,計測や解析に熟練とマンパワーを要するという現状がある.OCTのさらなる発展が,診断や治療方針に悩む緑内障患者の一助となることが期待される.文献1)PrimroseJ:EarlyCsignsCofCtheCglaucomatousCdisc.CBrJOphthalmol55:820-825,C19712)SakaguchiK,HigashideT,UdagawaSetal:ComparisonofCsectoralCstructure-functionCrelationshipsCinglaucoma:CVesseldensityversusthicknessintheperipapillaryretinalCnerveC.berClayer.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:5251-5262,C20173)SuhMH,ZangwillLM,ManalastasPICetal:DeepretinallayerCmicrovasculatureCdropoutCdetectedCbyCtheCopticalCcoherencetomographyangiographyinglaucoma.Ophthal-mology123:2509-2518,C20164)AkagiT,ZangwillLM,ShojiTetal:Opticdiscmicrovas-culatureCdropoutCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCmea-suredCwithCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CPLoSONEC13:e0201729,C20185)NaCH,CLeeCEJ,CLeeCSHCetal:EvaluationCofCperipapillaryCchoroidalCmicrovasculatureCtoCdetectCglaucomatousCdam-ageCinCeyesCwithChighCmyopia.CJCGlaucomaC29:39-45,C20206)OhshimaY,HigashideT,SakaguchiKetal:Theassocia-tionCofCprimaryCaldosteronismCwithCglaucoma-relatedCfun-dusabnormalities.PLoSONECaccepted(76)

角膜移植術後のコンタクトレンズ処方のコツ

2021年1月31日 日曜日

●連載248248.角膜移植術後のコンタクトレンズ処方のコツ監修=木下茂大橋裕一坪田一男東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック山岸景子かしはら山岸眼科クリニック角膜移植術後の視力矯正はハードコンタクトレンズ(HCL)が第一選択となるが,非球面性が高いためにケラト値を参考にできない.台形化した角膜に合うようC10.0Cmmなど大きな直径で,ベースカーブC9.0Cmm以上のトライアルレンズを選択する.センタリングに注意してトライアルアンドエラーにてCHCLを処方する.●はじめに角膜移植術術後は,角膜の透明性は回復するものの,縫合糸による角膜の歪みで強い不正乱視が生じるために,裸眼や眼鏡矯正で十分な生活視力は期待できない.今回,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)の適応疾患のなかで,若年発症,かつCPKP術後に高い視力改善が求められる円錐角膜を取りあげ,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)処方のコツを解説する.C●PKP術後の円錐角膜形状の特徴PKPが適応になる円錐角膜は,重症で突出が強いだけでなく,周辺角膜までも薄くなっている.そのため,正常角膜厚の移植片を縫合すると,中央部は大きく扁平化して角膜は台形化する(図1).さらに縫合糸による歪みも加わって角膜形状解析を行ってもトライアルレンズ選択の指標となるケラト値を得ることができない.C●PKP後のHCL処方の注意点通常,HCLの処方は術後C6カ月程度経過して角膜の形状が安定したことを確認し,0.5以上の矯正視力を求める場合に試みる1,2).HCLを処方する際には,センタリングに注意して安定した視力を出すことと,涙液交換が良好なフィッティングをめざして酸素不足による内皮細胞へのダメージを減らすことに留意する.C●HCL処方手順①レンズサイズPKP後は,角膜の台形化と縫合部分の隆起のためHCLが偏位しやすい.筆者らはCPKP後眼に対して球面レンズを第一選択としている.球面レンズはオプチカルゾーンが広いのが特徴で,直径は最大C11.0Cmmまで製作できる.たとえCHCLが鼻側もしくは耳側に偏位しても,大きな直径であれば瞳孔領をカバーできる.さらに,レンズ周辺フロント部に溝加工(MZ加工)を施せば,なおいっそう良好なセンタリングが期待できる.ただし,大きな直径のCHCLでは,エッジが球結膜に当たり,充血や異物感の原因になるため,エッジリフトは高く調整しておく.②ベースカーブベースカーブ(basecurve:BC)は角膜の扁平化を考慮してC9.0~9.6Cmmなど大きなものを選ぶ.小さいCBCではレンズ下に空気が入りやすいうえに,縫合部の隆起を乗り越えられずに固着して涙液交換は低下する.図2に連続縫合抜糸後C1カ月の写真を示す.PKP直後に比図1円錐角膜に対してPKPを施行した症例a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真.PKP後,角膜の透明性は改善したが,角膜中央部の扁平化と縫合部分の不正性が強い.ケラト値は測定不能だった.(73)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C730910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2連続縫合抜糸後のHCL処方(図1と同一症例)a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真,c:HCL装用時のフルオレセイン染色.連続縫合抜糸後に角膜形状は改善する.BC9.60mm,度数+4.0D,直径C10.0Cmmの球面CHCL(エッジリフトCIII型,MZ加工)を処方した.図3HCL処方4カ月後(図1,2と同一症例)a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真,c:HCL装用時のフルオレセイン染色.角膜形状解析では角膜中央から周辺にかけてプラチドリングの連続性が確認できる.角膜形状が球面性を帯びたことで,レンズ下の涙液貯留は減少した.この症例ではCBC9.60Cmmと直径C10.0Cmmはそのままで,度数のみ+0.50Dに変更して矯正視力は(1.2)に改善した.較して角膜形状は改善していたが,扁平化は残っていた.製作範囲の最大となるCBC9.60CmmのトライアルHCLを選択したところ,レンズ下に涙液と空気の貯留を生じたものの,HCLの動きは悪くなく,矯正視力(1.0)を得た.③デザインの見直し度数はトライアルCHCLの上から眼鏡矯正を行い決定する.HCL装用を再開すると角膜形状は大きく改善する(図3).その変化に合わせて度数,BC,サイズも見直さなければならない.C●難症例対策①逆形状多段階カーブレンズ球面レンズで強い異物感やずれが生じる場合に,逆形状多段階カーブレンズを試す3).逆形状多段階カーブレンズは,屈折矯正術後に処方することを念頭において作られたCHCLで,BCより第C1中間カーブが小さく設計され,レンズ全体が台形状をなす.PKP後のような台形化した角膜においても,角膜中央のフルオレセインの溜まりを最小にできる.②ピギーバックレンズシステムHCLの偏位が強い場合に,ピギーバッグレンズシステムを試みる.ソフトコンタクトレンズ(softCcontactC74あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021lens:SCL)装用により,角膜の球面性が高まり,異物感の軽減にも役立つ.ただし,角膜の非球面性が強いとSCLがたわんで装用自体ができない場合もあるので注意する.C●おわりにPKP後の角膜形状は,術前の円錐角膜の重症度,移植片角膜と宿主角膜の差(角膜厚,曲率半径),術式や術後の経過時期(抜糸の状態)などの影響を受けるため,症例ごとにトライアルアンドエラーを行ってCHCLを処方するしかない.また,PKP後はC20年以上経過すると円錐角膜様に角膜が突出してくるため,数年に一度はHCLのフィッティングを見直すことも大切である.文献1)GenvertCGI,CCohenCEJ,CArestsenCJJCetal:FittingCgasC-permeableCcontactClensesCafterCpenetratingCkeratoplasty.CAmJOphthalmologyC99:511-514,C19852)大家義則,前田直之,相馬剛至ほか:全層角膜移植後のガス透過性ハードコンタクトレンズ装用状況/臨床応用.日コレ誌46:153-156,C20043)柳井亮二,石田康仁,植田喜一ほか:角膜移植後角膜に対する多段カーブハードコンタクトレンズの有用性.日コレ誌49:166-170,C2007(74)