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色々ありすぎる糖尿病網膜症の分類-統一をめざす

2021年4月30日 金曜日

色々ありすぎる糖尿病網膜症の分類─統一をめざすIntegrativeClassi.cationofDiabeticRetinopathy村上智昭*はじめにわが国では糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の重症度に関する複数の分類が広く使われているが,DRの専門家でなければ,いずれか一つをおもに使用している先生が多い.「糖尿病網膜症診療ガイドライン」(第1版)(以下,本ガイドライン)では,複数の分類の対応の目安を記載しており,異なる分類を使用する先生同士の共通言語となるように工夫されている.また,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は近年治療が充実してきたが,その診断に関しても複数の基準がある.とくに,「視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫」(clinicallysigni.cantmacularedema:CSME)(用語解説参照)と「中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫」(center-involvingdiabeticmacularedema)(用語解説参照)の診断を適切に行う必要がある.IDR重症度分類複数のDR重症度分類があるが,わが国では国際重症度分類,Davis分類,新福田分類が広く用いられてきた.それぞれ,エビデンス,病態,臨床所見の詳述が特徴であるが,各医師がいずれか一つを軸に使用していることが多い.つまり,異なる分類が医師間でのコミュニケーションの障害となることが多かった.本ガイドラインではこれらの3分類の対応の目安を提示することで,臨床的,また学術的な意味で,DR重症度に関する共通言語が提供された(表1).対応表からは,疾患の重症度や進行度に関して,増殖前糖尿病網膜症(pre-proliferativediabeticretinopathy)と増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)を軸に考え,各分類のバリエーションを考えると,病態と病期を把握しやすいことがわかる.1.国際重症度分類国際重症度分類は,DRを無/非増殖/増殖の三つに大別したうえで,非増殖網膜症を軽症,中等症,重症と,3段階に分類する1).PDRは,新生血管または硝子体出血・網膜前出血のいずれかを認めるものであり(図1,2),「網膜症なし」は,眼底の異常所見を認めないものである.非増殖糖尿病網膜症では,4象限で20個以上の網膜出血,2象限以上で静脈数珠状拡張(venousbeading),1象限以上での網膜内細小血管異常(intra-retinalmicrovascularabnormalities:IRMA)のいずれかを認めれば重症とするが,4-2-1ルール(用語解説参照)とよばれている(図3,4).これらは,EarlyTreat-mentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)分類,臨床試験,疫学研究の結果から,PDRへの進展の予測に有用な三つの眼底所見である.毛細血管瘤のみを軽症とし,中等症は軽症と重症の間の状態としている.内科医と眼科医の連携を促進する目的もあり,覚えやすく簡潔な分類であるとともに,PDRの臨床的な予測に際して非常に有用である.また,実質的なグローバルスタンダードとなっており,学術的に重要である.*TomoakiMurakami:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕村上智昭:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(9)371表1糖尿病網膜症重症度分類の対応の目安国際重症度分類Davis分類新福田分類網膜症なし異常所見なし──軽症非増殖網膜症毛細血管瘤のみ中等症非増殖網膜症毛細血管瘤以上の病変が認められる重症非増殖網膜症よりも軽症のもの単純網膜症毛細血管瘤網膜点状・斑状・線状出血硬性白斑・網膜浮腫(少数の軟性白斑)A1:軽症単純網膜症毛細血管瘤,点状出血A2:重症単純網膜症しみ状出血,硬性白斑,少数の軟性白斑重症非増殖網膜症・眼底4象限で20個以上の網膜内出血・2象限での明瞭な数珠状拡張・明確な網膜内細小血管異常上記のいずれかを認める増殖網膜症の所見を認めない増殖前網膜症軟性白斑静脈異常網膜内細小血管異常(網膜無血管野:蛍光眼底撮影)B1:増殖前網膜症軟性白斑,網膜浮腫,線状・火焔状出血静脈拡張網膜内細小血管異常(網膜無血管野:蛍光眼底造影)増殖網膜症新生血管または硝子体出血・網膜前出血のいずれかを認めるもの増殖網膜症新生血管(網膜・乳頭上)網膜前出血,硝子体出血線維血管膜牽引性網膜.離A3:軽症増殖停止網膜症陳旧性の新生血管A4:重症増殖停止網膜症陳旧性の硝子体出血A5:重症増殖停止網膜症陳旧性の(線維血管性)増殖組織B2:早期増殖網膜症乳頭に直接連絡しない新生血管B3:中期増殖網膜症乳頭に直接連絡する新生血管B4:末期増殖網膜症硝子体出血・網膜前出血B5:末期増殖網膜症硝子体への(線維血管性)増殖組織を伴うもの*:新福田分類においては治療により6カ月間以上鎮静化している場合には,増殖停止網膜症とする.**:新福田分類における合併症に関する表記:黄斑病変(M),牽引性網膜.離(D),血管新生緑内障(G),虚血性視神経症(N),光凝固(P),硝子体手術(V).(日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版).日眼会誌124:963,2020より転載)図1網膜新生血管a:乳頭新生血管.b:網膜新生血管()に増殖膜を伴っている.図2PDRに伴う合併症a:網膜前出血.b:硝子体出血.c:血管新生緑内障合併例における虹彩新生血管.d:乳頭および黄斑に重篤な増殖組織()を認め,OCTでは牽引性網膜.離(*)を伴う.図3多発性網膜内出血眼底所見で多発性網膜内出血を伴う症例(a)では,FAではしばしば網膜無血管野を認める(b).図4網膜内細小血管異常と静脈数珠状拡張a:網膜内細小血管異常()は,その周辺側に広範な網膜無血管野を伴うことが多い.b:静脈数珠状拡張()の周囲には,しばしば網膜無血管野を認める.abc図5網膜無血管野a:網膜無血管野は,毛細血管床が閉塞し,FAで低蛍光(*)を呈する.Cb,c:軟性白斑(c,)は限局性の無血管野(b,*)に相当することが多い.図6中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫a:中心網膜厚が基準値以上であり,中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫と診断した.b:中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫の男性症例.黄斑部耳側に網膜浮腫を認めるが,中心網膜厚は基準値以下であった.図7視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫(CSME)本症例では硬性白斑が中心窩に迫っており,3つの診断基準のうちCBに相当する.FA早期FA後期OCT二次元マップ図8びまん性黄斑浮腫と局所性黄斑浮腫a:びまん性黄斑浮腫では漏出源が判然とせず,広範な漏出を伴う網膜浮腫を認める.b:本症例では黄斑部耳側に毛細血管瘤()から漏出を認めており,局所性黄斑浮腫とした.表2糖尿病黄斑浮腫の国際重症度分類重症度眼底所見糖尿病黄斑浮腫なし後極部に網膜肥厚や硬性白斑なし糖尿病黄斑浮腫あり軽症中等症重症後極部に網膜肥厚や硬性白斑あり黄斑部中心から離れている黄斑部中心に近いが,含んでいない黄斑部中心を含む(日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌124:966,2020より転載)■用語解説■視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫(clinicallysigni-.cantmacularedema:CSME):ETDRSで定義された黄斑部光凝固の適応決定の診断基準に相当した場合に診断する.今まで最適な訳語がなかったが,本ガイドラインで新たに日本語訳を記載することで,治療勧奨に役立つよう工夫している.中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫(center.involvingdia-beticmacularedema):OCTを用いて計測した中心網膜厚が基準値以上であるCDMEのこと.わが国ではもともと中心窩を含んだ状態をCDMEとしている眼科医が多く,なじみやすい定義である.ただし,機種ごとで画像取得やセグメンテーションの特性が異なるため,基準値が異なることに注意が必要である.4.2.1ルール:国際重症度分類における重度非増殖糖尿病網膜症の三つの所見をまとめた通称である.それぞれ,4象限の多発性網膜出血,2象限以上の静脈数珠状拡張,1象限以上の網膜内細小血管異常に相当する.’C

糖尿病網膜症の疫学を知って患者に伝えよう

2021年4月30日 金曜日

糖尿病網膜症の疫学を知って患者に伝えようInformingPatientsontheEpidemiologyofDiabetesandDiabeticRetinopathy川崎良*I糖尿病と糖尿病網膜症の関係「糖尿病網膜症診療ガイドライン」(第C1版)(以下,本ガイドライン)における糖尿病の病因(表1)と病型などについては,糖尿病診断基準に関する調査検討委員会による「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)」(ガイドライン文献C1)に準拠している.糖尿病の診断基準について,本ガイドラインでは詳細には触れておらず,日本糖尿病学会による「糖尿病診療ガイドライン」やその他の成書を参考にしていただきたい.歴史的には糖尿病そのものをどのような基準で診断するかという基準を決める際には「糖尿病網膜症の存在」が重要な役割を果たしてきた.すなわち,血糖値やヘモグロビンCA1cの閾値を決定するにあたり,糖尿病の早期に認められる細小血管合併症である糖尿病網膜症の有病割合が急激に上昇する血糖値,あるいはヘモグロビンA1c値を糖尿病の診断基準の閾値として用いてきた経緯がある(図1).たとえば,1997年に米国糖尿病学会(AmericanDiabetesAssociation:ADA)において糖尿病の基準を検討した委員会報告では,空腹時血糖値や負荷後C2時間血糖値に対して「何らかの網膜症」の存在が高まる値を閾値の参考にしてきた.2009年の委員会報告1)では国際重症度分類の中等症非増殖糖尿病網膜症(すなわち,網膜毛細血管瘤のみは含まず,それ以上の網膜症所見がある場合)を用いて同様の解析を行った結表1糖尿病の病因I糖尿病の病因糖尿病はその病因から大きく以下のC4つに分けられる1).1)1型糖尿病膵Cb細胞が破壊され,絶対的インスリン欠乏に至る.自己免疫性と特発性とがある.2)2型糖尿病インスリンの相対的不足による病態で原因として膵Cb細胞から十分なインスリンが分泌されないインスリン分泌低下と,インスリン存在下でも細胞に糖を取り込めないために血糖が上昇するインスリン抵抗性がある.実際には両者が混在して関与していることが多い.3)その他の特定の機序,疾患によるもの遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものとして,①膵Cb細胞機能に関わる遺伝子異常,②インスリン作用の伝達機能に関わる遺伝子異常がある.その他の疾患に伴うものとしては,①膵外分泌疾患,②内分泌疾患,③肝疾患,④薬剤や化学物質によるもの,⑤感染症,⑥免疫機序によるまれな病態,⑦その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いものなどがある.4)妊娠に関連した糖代謝異常以下に分類される.①糖尿病合併妊娠(pregestationaldiabe-tes):妊娠前にすでに診断されている糖尿病.②妊娠糖尿病(gestationalCdiabetesmellitus):妊娠中にはじめて発見された糖尿病に至っていない糖代謝異常.③妊娠中の明らかな糖尿病(overtCdiabetesCinpregnancy):妊娠前に見逃されていた糖尿病や妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常.(「糖尿病網膜症診療ガイドライン」日眼会誌124:952より引用)果が用いられている.この理由としては,このような検討の根拠となる疫学研究において,網膜症の判定に眼底写真が用いられるようになったことが背景にあると思われる.すなわち,検眼鏡を用いて医師が目視により観察*RyoKawasaki:大阪大学医学部附属病院CAI医療センター,大阪大学大学院医学系研究科視覚情報制御学・寄附講座〔別刷請求先〕川崎良:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学医学部附属病院CAI医療センターC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)C365網膜症の有病率「網膜症の頻度が急峻に高まる血糖値を糖尿病診断の閾値としよう」眼底写真で詳細にみ実は正常域の血糖値軽症の網膜症をみるるとでもがある.そのため,値における閾値はか低くなってしまう.こと血糖なり2009年の米国糖尿病学会の委員会報告では,中等症非増殖糖尿病網膜症以上の網膜症の有病率を基に血糖値の閾値を推定した.血糖値何らかの網膜症中等症非増殖糖尿病網膜症以上の網膜症図1糖尿病の診断基準となる血糖値の考え方糖尿病網膜症の有病率は糖尿病の診断基準となる血糖値,ヘモグロビンCA1c決定の参考とされている.表2糖尿病の疫学II糖尿病の疫学糖尿病の有病者は国際糖尿病連合(InternationalCDiabetesFederation:IDF)によると,世界でC4億C2,500万人(2017年現在)に上ると推計されている.成人(20.79歳)の糖尿病有病率はC8.8%で,2045年までにC9.9%(6億C9,300万人)まで増加すると予測された2).厚生労働省の平成C29年「国民健康・栄養調査」によれば,我が国のC20歳以上の成人で「糖尿病が強く疑われる者〔nationalglycohemoglobinstandardizationprogram(NGSP)換算ヘモグロビン(Hb)A1c値がC6.5%以上〕」の割合は男性18.1%,女性C10.5%であった.「糖尿病の可能性を否定できない者(HbA1c値がC6.0%以上,6.5%未満)」の割合は男性C13.7%,女性C18.1%であった3).(「糖尿病網膜症診療ガイドライン」日眼会誌124:952より引用)表3糖尿病患者における糖尿病網膜症の発症率1.糖尿病患者における糖尿病網膜症の発症率日本人C2型糖尿病患者C976名を平均C8.3年追跡したコホート研究では,糖尿病網膜症の発症率は年C3.98%であった4).日本人のC2型糖尿病患者を対象に生活習慣に対する積極的介入による合併症予防効果および日本人患者における合併症の臨床的特徴を検討した前向き観察研究CJapanCDiabetesCComplicationsStudy(JDCS)では,日本人成人C2型糖尿病患者C1,221名(年齢範囲40.70歳,平均年齢58.2歳,平均罹病期間9.8年,HbA1c値C8.2%)をC8年間追跡し,糖尿病網膜症の発症率は年3.83%であったと報告している5).(「糖尿病網膜症診療ガイドライン」日眼会誌124:952より引用)通常,「糖尿病網膜症の有病率」として報告されているのは:*糖尿病網膜症は糖尿病患者にしか起こらない疾患なので,「糖尿病網膜症の一般住民における有病率」=糖尿病網膜症を有する人の数/対象住民の数はあまり用いられない.図2「糖尿病網膜症の有病率」の定義の注意点表4糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率2.糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率35か国C22,896名分の疫学研究個別データを米国,オーストラリア,ヨーロッパ,アジア各国から集めたメタ解析研究では世界人口で年齢調整を行った糖尿病網膜症の有病率はC35.4%であった6).このうち増殖糖尿病網膜症はC7.2%,糖尿病黄斑浮腫7.5%で,この両者のいずれかを持つ状態,すなわち視力をおびやかす可能性のある糖尿病網膜症はC11.7%存在した.また,2000年を境に分けて比較すると,2000年以降の研究では糖尿病網膜症の有病率は低い傾向があり,何らかの眼底所見を有する糖尿病網膜症の有病率がC24.8%(24.6.25.0%),増殖糖尿病網膜症C3.5%,糖尿病黄斑浮腫C5.5%,視力をおびやかす可能性のある糖尿病網膜症C7.9%であった.全調査期間を通じた推計では日本を含むアジア地域では何らかの糖尿病網膜症の有病率は19.9%,増殖糖尿病網膜症C1.5%,糖尿病黄斑浮腫C5.0%,視力をおびやかす可能性のある糖尿病網膜症C5.3%であった.(「糖尿病網膜症診療ガイドライン」日眼会誌124:952より引用)===表5非増殖糖尿病網膜症から増殖糖尿病網膜症への進展率3.非増殖糖尿病網膜症から増殖糖尿病網膜症への進展率JDCSは成人C2型糖尿病患者C410名(年齢範囲C40.70歳,平均年齢C59.1歳,平均罹病期間C12.8年,HbA1c値C8.4%)をC8年間追跡し,軽症非増殖糖尿病網膜症から重症非増殖糖尿病網膜症もしくは増殖糖尿病網膜症まで進行する頻度は年間C2.11%と報告している5).(「糖尿病網膜症診療ガイドライン」日眼会誌124:952より引用)====

序説:糖尿病網膜症診療ガイドライン-実臨床ではこう使おう

2021年4月30日 金曜日

糖尿病網膜症診療ガイドライン─実臨床ではこう使おうDiabeticRetinopathyClinicalPracticeGuidelines─Let’sStandardizetheAppliedTreatments村田敏規*瓶井資弘**小椋祐一郎***「糖尿病網膜症診療ガイドライン」(第1版)(以下,本ガイドライン)が,『日本眼科学会雑誌』2020年12月号に掲載された.ぜひ,ご一読いただきたい.本特集は,本ガイドラインを実際に執筆された先生方に解説をお願いした.日本眼科学会のホームページにある「糖尿病網膜症ガイドライン」と併せてご一読いただければ,より理解が深まるであろう.糖尿病網膜症による失明をなくし,少しでもよい視力を患者に届けたいという眼科医の思いは一つである.その一方で,分類方法だけでもDavis分類,国際重症度分類,福田分類が混在していて,異なる施設間でのコミュニケーションをとるのがむずかしい場合がある.汎網膜光凝固の実施基準も,蛍光眼底造影で無灌流領域を見つけて丹念に凝固していくわが国に固有ともいえる凝固方法が,今でも多くの眼科医にスタンダードとして受け入れられている一方で,蛍光眼底造影を行える施設が減少し,欧米式の教科書を参考に,網膜新生血管が発生したら一気に汎網膜光凝固を施行する眼科医も増えている.どの方法も正しい,というのが正解だとは思うが,日本全体で糖尿病網膜症治療のコンセンサスと用語の共通化を図り,さらなる治療法の進歩に貢献するディスカッションの素地を作ること,これも本ガイドラインの目的の一つである.海外の専門家とのディスカッションを行ううえでは,上記の病期分類の国際化も避けては通れない.また,内科の教科書では,三大合併症は糖尿病性腎症,糖尿病性神経症,糖尿病(性)網膜症である.その一方で,われわれ眼科医が糖尿病網膜症と“性”をつけないことは,内科の学会の場での討論で,しばしばお互いをとまどわせている.「英語ではdiabeticretinopathyであり,diabetesretinopathyではないですよね」という内科の先生方の指摘は,きわめて正論であり,個人的には反論できずにいる.多くの眼科医が日常的に診療する糖尿病網膜症であるので,極論すれば,眼科医の数だけ糖尿病網膜症診療ガイドラインが存在しているともいえるのが現状である.そんななかでも,本ガイドラインは広く認められている内容を,正確に列挙する形で記載している.筆者らは,本ガイドラインの作成に携わった日本糖尿病眼学会の一員として,これほど多くの内容をわかりやすくまとめた文章は過去にないと自負している.本特集が,先生方の明日からの糖尿病網膜症診療の一助になれば幸いである.*ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室**MotohiroKamei:愛知医科大学眼科学教室***YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)363

アルコール依存症に合併した栄養欠乏視神経症の1 例

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):352.356,2021cアルコール依存症に合併した栄養欠乏視神経症の1例福島亘希*1芳賀彰*1筒井順一郎*2井上俊洋*1*1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座*2熊本赤十字病院眼科CNutritionalOpticNeuropathyinaCaseofAlcoholismKoukiFukushima1),AkiraHaga1),JunichiroTsutsui2)andToshihiroInoue1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKumamotoHospitalC症例はC47歳,男性.アルコール依存症に対して精神科病院にて入院治療経過中,約C1年前から続く両眼の視力低下を訴え近医眼科を受診し,両眼の視神経症疑いで当院を紹介受診した.初診時最良矯正視力は右眼C0.3,左眼C0.3と低下しており,両眼の中心暗点とCMariotte盲点拡大を認めた.限界フリッカ値は右眼C19CHz,左眼C21CHzと低下を認め,両眼とも視神経乳頭耳側に網膜神経線維層の菲薄化を認めた.臨床所見に加え,過剰飲酒や喫煙,不規則な食生活の病歴から栄養欠乏視神経症と診断し,断酒と食生活の改善,総合ビタミン剤の継続投与によってC12カ月後には最良矯正視力は両眼ともにC1.2,限界フリッカ値は右眼C31Hz,左眼C32CHzと良好な視機能の回復を認めた.CPurpose:Toreportnutritionalopticneuropathyinacaseofalcoholism.Casereport:Thisstudyinvolveda47-year-oldmalewhohadcomplainedofprogressivebilateralvisualdisturbanceforapproximately1yearduringtheCcourseCofChospitalizationCforCalcoholismCatCaCpsychiatricChospital.CUponCinitialCexamination,ChisCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)was.0.52logMARinbotheyes,andvisual.eldtestingrevealedbilateralcentralscotomasandCblind-spotCenlargements.CCriticalC.ickerfusion(CFF)testingCrevealedCfrequenciesCofC19CHzCandC21CHzCinChisCrighteyeandlefteye,respectively.Wesubsequentlydiagnosedthecaseasnutritionalde.ciencyopticneuropathybasedonthepatient’shistoryofexcessivedrinkingandsmokingandirregulareatinghabits,inadditiontotheclin-ical.ndings.Inbotheyes,visualfunctionimprovedviasystemictreatmentwithmultivitamincomplex,abstinencefromCalcohol,CandCbalancedCmeals.CTwelveCmonthsClater,ChisCBCVACwasC0.08ClogMARCinCbothCeyes,CandCtheCCFFCfrequencieswere31CHzand32CHzinhisrighteyeandlefteye,respectively.Conclusion:Our.ndingsshowedthatsystemicCtreatmentCwithCmultivitaminCcomplex,CabstinenceCfromCalcohol,CandCbalancedCmealsCwasCe.ectiveCforCrecoveryofvisualfunctioninnutritionalopticneuropathyinacaseofalcoholism.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):352.356,C2021〕Keywords:栄養欠乏視神経症,アルコール依存症.nutritionalde.ciencyopticneuropathy,alcoholism.はじめに栄養欠乏視神経症は,飢餓や偏食,過度の飲酒や喫煙,消化管疾患などによるビタミンCB群の欠乏が発症の原因と考えられている.現在,わが国においては飢餓による本症の発症はきわめてまれであるが,偏食や神経性食思不振症などによる摂取不足,消化管疾患による消化・吸収不良,また過度の飲酒や喫煙による消費亢進によって発症しうる1).今回筆者らは,アルコール依存症に対して精神科病院にて加療中であった症例において,臨床症状や所見,生活歴などから栄養欠乏視神経症と診断し,総合ビタミン剤の継続投与や禁酒,禁煙,バランスの取れた食事を継続することで良好に視機能が改善した症例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:2012年頃からアルコール依存症の離脱期けいれん発作を繰り返しており,2015年C6月,アルコール依存症の加療目的に精神科病院に入院となった.入院時にC1年ほど前から徐々に進行する両眼視力低下の訴えがあり,近医眼科〔別刷請求先〕福島亘希:〒860-8505熊本市中央区本荘C1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座Reprintrequests:KoukiFukushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,1-1-1Honjo,Chuo-ku,Kumamoto860-8505,JAPANC352(114)を受診し,両眼性の視神経症を疑われ,2015年C7月に当院紹介となった.既往歴:アルコール依存症,高血圧症,虫垂炎.生活歴:17歳より毎日飲酒しており,ここC10年間は焼酎1Cl/日を飲酒していた.飲酒の際にはほとんど食事を摂取していなかった.喫煙歴は約C20本/日をC27年間.内服歴:2015年C6月より精神科病院にて処方された総合ビタミン剤(パンビタン2Cg/日),嫌酒薬および降圧薬を内服.初診時所見:視力は右眼C0.3(矯正不能),左眼C0.2(0.3C×sph.0.50D),眼圧は右眼C19mmHg,左眼C17mmHgであった.眼位は両眼ともに正位で,眼球運動障害および眼球運動痛は認めなかった.瞳孔は両眼ともに正円同大であり,直接および間接対光反射は正常,相対的瞳孔求心路障害は陰性右眼であった.限界フリッカ値は右眼C19CHz,左眼C21CHzと両眼ともに低下を認めた.前眼部および中間透光体に異常は認めず,黄斑部に異常所見は認めなかった.視神経乳頭の境界は両眼ともに明瞭であったが,耳側の色調は蒼白であった(図1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼ともに中心窩近傍はとくに問題なく,右眼は視神経乳頭を中心としてC8時からC10時,左眼はC1時からC3時の乳頭周囲網膜神経線維層の菲薄化を認めた(図2上段,図3).CGoldmann視野検査において両眼に中心暗点とCMariotte盲点拡大を認めた(図4上段).全身検査所見:血液生化学検査では,血清総蛋白C7.0Cg/dl,血清アルブミン値C4.4Cg/dl,AST26CU/l,ALT34CU/l,血糖値88Cmg/dlといずれも基準範囲内であり,CRPも陰性であった.血液一般検査では赤血球数やヘモグロビン,白血左眼図1初診時眼底写真両眼ともに黄斑部の異常は認めなかった.視神経乳頭は境界明瞭であったが,耳側の色調は蒼白であった.右眼左眼図2初診時(上段)と5カ月後(下段)の光干渉断層計画像両眼ともに治療前後において明らかな異常は認めなかった.右眼左眼図3初診時の光干渉断層計画像(視神経乳頭マップ)右眼はC8時からC10時,左眼はC1時からC3時に視神経乳頭周囲網膜神経線維層の菲薄化を認めた.右眼左眼図4初診時(上段)と18カ月後(下段)のGoldmann視野検査上段:両眼の中心暗点,Mariotte盲点の拡大を認めた.下段:右眼はほぼ正常な視野所見に改善した.左眼は中心比較暗点が残存するものの,初診時と比較して改善を認めた.球数,血小板数などいずれも基準範囲内であった.血中ビタ診断:初診時には血中ビタミン値の低下は認められなかっミン値は,ビタミンCBC12がC385Cpg/ml(正常値:233.914)たが,炎症性やその他の視神経症を除外診断し,過度の飲酒と基準範囲内,葉酸がC29.5Cng/ml(正常値:3.6.12.9)と高や喫煙,不規則な食事摂取などの生活歴から栄養欠乏視神経値であった.頭部単純CCT,頭部および全脊髄造影CMRIを症と診断した.施行したが異常は認められなかった.治療と経過:入院中の精神科病院で処方されていた総合ビタミン製剤(パンビタン,2Cg/日)の継続投与,禁酒と禁煙およびバランスの取れた規則正しい食生活の継続を行った.初診からC1カ月後には視力は右眼C0.7(矯正不能),左眼C0.9(矯正不能),12カ月後には右眼C1.2(矯正不能),左眼C1.0(1.2C×sph+0.50D)へと改善を認めた.限界フリッカ値は早期の改善は認めなかったが,12カ月後には右眼C31CHz,左眼C32CHzまで改善を認めた(図5).また,視野障害も緩徐に改善を認め,18カ月後には右眼の中心暗点および盲点拡大は消失し,左眼は中心に比較暗点を残すのみとなった(図4下段).CII考按栄養欠乏視神経症は低栄養状態に加えてビタミンCB群の欠乏や不足を生じることが原因とされており,偏食や神経性食思不振症などによる摂取不足や消化管疾患による消化・吸収障害,また過度の飲酒や喫煙による消費亢進などが発症に関与していると考えられている.ビタミンCB群の不足によって神経伝達機能に障害をきたし,その結果,視機能障害を呈する可能性が示唆されているが,詳細な発症機序については不明な点が多い2,3).臨床所見の特徴として徐々に進行する視力障害,中心暗点あるいは盲点中心暗点を認め,通常は両眼性であるが,発症時期に左右差のあった症例も報告されている4).また,本症やメタノール中毒性視神経症,Leber遺伝性視神経症においては対光反応が温存されることが多く,これらの疾患群には共通してアデノシン三リン酸(ATP)欠乏が存在することからCATP欠乏性視神経症として知られている.X細胞系であるCmidget細胞は網膜神経節細胞の約70.80%を構成しており,ATP要求性が高いためCATP低下によって細胞障害を受けやすく,その結果,網膜神経節細胞の機能障害を惹起する5).細い軸索をもつ乳頭黄斑線維はATP欠乏による障害を受けやすいが,網膜神経節細胞のなかでも対光反応に関与するCW細胞系はCX細胞系やCY細胞系と比べてCATP欠乏による障害を受けにくく,そのため対光反応が保たれやすいと考えられている2,6).本症例においては前眼部および中間透光体,黄斑部には異常所見を認めなかった.対光反応は温存されていたが限界フリッカ値は低下しており,Goldmann視野検査において中心暗点およびCMariotte盲点拡大を認めた.また,視神経乳頭は両眼とも検眼鏡的に境界明瞭であったが耳側の色調は蒼白であり,OCTでは両眼の視神経乳頭耳側に網膜神経線維層の菲薄化を認めたため視神経疾患が疑われた.初診時,血中ビタミン値の低下は認められなかったのは,総合ビタミン剤の投与開始からC1カ月以上を経過した時点のもので,すでに血清値が改善していた可能性が考えられる.また,ビタミンCB12含有量は神経組織では血清値の約C100倍にも達しているといわれており7),血清値がただちに神経組織のビタミン値1.61.41.210.80.60.40.20初診時1カ月矯正視力2カ月5カ月右眼12カ月左眼18カ月Hz35限界フリッカ値3025201510初診時1カ月2カ月5カ月右眼12カ月左眼18カ月図5矯正視力,限界フリッカ値の経過矯正視力は両眼ともに速やかに改善し,限界フリッカ値は両眼ともに緩徐に改善を認めた.を反映しているとはいえず,今回の検査値によってビタミン群の欠乏を否定することはできない.また,栄養欠乏視神経症の鑑別疾患としてCLeber遺伝性視神経症があがるが,本症例においてミトコンドリア遺伝子解析は行っていない.Leber遺伝性視神経症の発症はこれまでC10.20歳代が中心とされてきたが,2014年に行われた調査によると発症時の平均年齢はC33.5歳と以前より発症年齢が上昇している可能性が示唆されている8).本症例においてもCLeber遺伝性視神経症の可能性を完全に否定することはできないが,臨床経過や所見に加えて,総合ビタミン剤の内服,禁酒や禁煙,規則正しくバランスのとれた食生活を継続したことにより改善を認めたことから,その背景にはビタミンCB群の欠乏が存在していたことが推測された.本症例のように初診時ですでに治療介入されている場合,典型的な所見や症状を呈さないこともあるため,より慎重な鑑別が必要である.既報では栄養欠乏視神経症において乳頭黄斑線維束に一致して網膜内層が菲薄化し,OCTを用いた網膜断面の評価にて視機能改善後も網膜内層厚に変化は認めなかったと報告されている5).本症例では初診時と治療後C5カ月の時点でCOCTを撮影しているが,初診時において両眼ともに明らかな網膜内層の菲薄化は認めず,視機能改善の前後においても網膜内層厚に明らかな変化は認めなかった(図2).栄養欠乏視神経症は早期に補充療法などの治療を行うことで視力予後の改善が期待されるが,治療介入が遅れた例では視神経萎縮をきたし予後不良となることがあるといわれている7).これまでの報告では視機能が低下して数日からC3カ月程度と比較的短期間で治療介入に至った症例が多いが1,2,4.7),本症例では治療介入まで約C1年経過していたものの良好な視力,視野の改善を認めている.したがって,諸検査によっても確定診断に至らない視神経障害では,比較的まれな疾患ではあるが本症の鑑別,除外が必要であるため,生活歴や身体症状に留意した詳細な問診を行うことが重要であり,聴取した情報をもとに行った臨床検査で本症が強く疑われる場合には,経過期間の長短にかかわらず積極的な治療介入を行うことが望ましいと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)足立格郁,鈴木克佳,熊谷直樹ほか:ビタミンCB1欠乏が主因であると考えられた栄養欠乏性視神経症のC1例.臨眼C58:607-611,C20042)藤田今日子,奥英弘,菅澤淳ほか:栄養欠乏性視神経症のC1例.神経眼科21:41-46,C20043)松井淑江:栄養欠乏性視神経症.視神経疾患のすべて(中馬秀樹編),眼科診療クオリファイC7,p189-191,中山書店,20114)大江敬子,岸俊行:悪性貧血と亜急性連合性脊髄変性症に合併した栄養欠乏性視神経症のC1例.臨眼C64:517-520,C20105)佐藤慎,石子智士,籠川浩幸ほか:Spectral-domeinOCTにて網膜内層の菲薄化を認めた栄養欠乏性視神経症の1例.臨眼67:1373-1379,C20136)RizzoJF:AdenosineCtriphosphateCde.ciency.CaCgenreCofCopticneuropathy.NeurologyC45:11-16,C19957)明石智子,飯島康仁,渡辺洋一郎ほか:Crohn病に合併した栄養欠乏性視神経症が疑われたC1例.臨眼C58:1945-1949,C20048)上田香織:Leber遺伝性視神経症最新の話題.眼科C62:C255-258,C2020C***

漿液性網膜剝離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1 例

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):346.351,2021c漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1例平島昂太石川桂二郎中尾新太郎園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CACaseofAcuteLymphoblasticLeukemiawithSerousRetinalDetachmentasaPrimarySymptomKotaHirashima,KeijiroIshikawa,ShintaroNakaoandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversityC背景:漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病のC1例を報告する.症例:59歳,女性.右眼視力低下,発熱,頭痛が出現し,近医眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C1.0で,両漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚(右眼C662Cμm,左眼C562Cμm),フルオレセイン蛍光眼底造影検査で黄斑部の蛍光漏出・蛍光貯留,インドシアニン蛍光眼底造影で同部位に一致したCdarkspotと点状の過蛍光を認め,Vogt-小柳-原田病が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,血液疾患が疑われ,九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,急性リンパ性白血病と診断され,血液アフェレーシス,メトトレキサートとステロイドの髄液腔内注射,全身化学療法を施行された.治療開始後,白血球数は正常化した.それに伴い両眼の漿液性網膜.離は消退し,脈絡膜厚は右眼285Cμm,左眼C328Cμmまで改善し,両眼矯正視力はC1.2まで改善した.結論:白血病の眼合併症としてはCRoth斑,綿花状白斑,網膜出血などが知られているが,漿液性網膜.離による視力障害を初発症状とする白血病の報告は少ない.両眼性の脈絡膜肥厚を伴う漿液性網膜.離を認めた際は,白血病に伴う眼合併症の可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteClymphoblasticleukemia(ALL)withCbilateralCserousCretinalCdetachment(SRD)astheinitialsign.Casereport:A59-year-oldfemalepresentedwithdecreasedvisualacuity(VA)inherrighteye.Uponexamination,thebest-correctedVA(BCVA)inherrighteyeandlefteyewas0.3and1.0,respec-tively,CandCfundusCexaminationCrevealedCbilateralCSRD.CBasedConC.uoresceinCangiography,CindocyanineCgreenC.uoresceinangiography,andopticalcoherencetomography.ndings,Vogt-Koyanagi-Haradadiseasewassuspected.CBloodexaminationshowedelevatedwhitebloodcellsandthrombocytopenia.Basedonthehematology.ndings,shewasdiagnosedwithPhiladelphiachromosome-positiveALLandunderwenthaemapheresis,intraspinalinjectionofmethotrexateCandCsteroid,CandCsystemicCchemotherapy.CPostCtreatment,CherCwhiteCbloodCcellCcountCnormalized,CBCVACimprovedCtoC1.2CinCbothCeyes,CandCthereCwasCcompleteCresolutionCofCtheCbilateralCSRD.CConclusions:TheappearanceofSRDshouldraisesuspicionforleukemia.Promptrecognitionofthisdiseaseisimportantforinduc-tionofsystemictreatmentandvisualfunctionrestoration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):346.351,C2021〕Keywords:急性リンパ性白血病,漿液性網膜.離,Vogt-小柳-原田病.acutelymphoblasticleukemia,serousretinaldetachment,Vogt-Koyanagi-Haradadisease.Cはじめに液性網膜.離を眼部の初発症状とした急性リンパ性白血病白血病の代表的な眼所見にはCRoth斑,綿花状白斑,網膜(acuteClymphoblasticleukemia:ALL)のC1例を経験したの出血などが知られている1).視力障害が白血病の眼部の初発で報告する.症状であったわが国での報告は少なく,筆者らが探す限り吉CI症例田らと井上らによる報告のC2例のみであった2,3).また,白血病に漿液性網膜.離を合併した報告も少ない3).今回,漿患者:59歳,女性.〔別刷請求先〕平島昂太:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KotaHirashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC346(108)主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C7月に右眼視力低下,発熱,頭痛を自覚し,近医眼科を受診した.視力は右眼C0.3(矯正不能),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C11CmmHg,右漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)で蛍光漏出を認め,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,近医初診後C4日目に精査加療目的に九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,ALLと診断された.6日目に眼科的精査目的に九州大学病院眼科へ紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼C0.2(矯正不能),左眼0.8(矯正不能),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHg,平均中心フリッカー値は右眼C19CHz,左眼C19CHzであった.両眼球結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体,前部硝子体に明らかな異常を認めなかった.右眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,黄斑外上方の脱色素斑を認めた(図1a).左眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,網膜出血を認めた(図1b).波長掃引光源光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoher-encetomography:SS-OCT)では両眼の漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚を認め,また,脈絡膜に点状の高輝度領域が多発していた(図1c,1d).右眼の脱色素斑はCOCTにおいて,網膜色素上皮の軽度隆起を伴った(図1e).眼底自発蛍光では右眼の脱色素斑と同部位に高輝度領域,黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認めた(図2).FAでは造影初期より右眼に脱色素斑に一致した過蛍光,後期では両眼に黄斑部の蛍光貯留を認めた(図3).インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)では,造影初期より両眼後極内にCdarkspotが散在し,後期では同部位に点状の過蛍光を認めた(図4).血液検査では,白血球C222,600/μl,芽球C96.4%,赤血球C331万/μl,ヘモグロビンC10.1Cg/dl,血小板C6.2万/μlと,白血球異常高値,貧血,血小板減少を認めた.血中クレアチニンC0.68mg/dlと,腎機能異常は認めなかった.髄液検査では髄液の細胞数上昇はなく,蛋白質も正常範囲内であった.骨髄フローサイトメトリーでは,CD10(+),CD19(+),CD20(+),HLADR(+),MPO(C.),TdT(+),CD79a(+)と,リンパ性白血病のマーカーが陽性であった.染色体はCt(9;22)(q34;q11.2)で,フィラデルフィア染色体陽性であった.頸部.骨盤部CCTでは明らかな異常を認めなかった.以上からCALLと診断した.血液腫瘍内科で血液アフェレーシス,メトトレキサートC15CmgとデキサメタゾンC3.3Cmgの髄注をC14日間,プレドニンC100Cmgの点滴静注をC14日間行った.分子標的薬としてチロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブの内服を開始したが,ダサチニブが原因と疑われる慢性硬膜下血腫を発症し,脳血管外科で手術を施行したため,ダサチニブの内服は中止し,BCR-ABL転座を標的としてチロシンキナーゼ阻害薬としてイマチニブの内服を開始した.治療開始後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,両視力は矯正視力C1.2まで改善した.脈絡膜肥厚に関しては右眼の中心窩下脈絡膜厚がC662Cμmから治療後C14日目でC285Cμmまで改善し,左眼の中心窩下脈絡膜厚がC562Cμmから治療後C14日目C328Cμmまで改善した(図5).その後,初発からC2年後の受診時には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚の再発を認めずに経過している(最終受診時の右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力C1.2,右眼中心窩下脈絡膜肥厚C306Cμm,左眼中心窩下脈絡膜肥厚C340Cμm).CII考按本症例では,視力低下を初発症状として漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚を認め,VKHを疑われたが,各種検査でCALLと診断された.化学療法後,速やかに眼症状は改善した.ALLに関連する漿液性網膜.離の病態として,白血病剖検眼のC29.65%に白血病細胞の脈絡膜浸潤を認め,網膜色素上皮細胞は萎縮,肥厚,過形成を呈し,続発性に.胞状黄斑浮腫や漿液性網膜.離をきたすとされている4,5).したがって,本症例の漿液性網膜.離は白血病細胞の脈絡膜浸潤に伴うものであることが考えられた.また,白血病患者ではレーザースペックルフローグラフィーによる解析で脈絡膜血流速度の低下と脈絡膜肥厚を認めるという報告がある6).本症例は,脈絡膜血管内壁への白血病細胞の接着や血管外への白血病細胞浸潤に伴う脈絡膜血管の圧迫により,脈絡膜血流が障害されたことによる網膜色素上皮障害と,血流うっ滞による脈絡膜間質組織への滲出液の増加が,漿液性網膜.離と脈絡膜肥厚の病態として考えられた.さらに,白血病細胞の脈絡膜浸潤も脈絡膜肥厚の一因と推察された7).右眼黄斑外上方の脱色素班部位に一致したことは,OCTでの網膜色素上皮の軽度隆起とCFAでの過蛍光を認めたことから,網膜色素上皮の障害を反映しているものと考えられた.これらのことを踏まえると,脈絡膜肥厚は白血病の脈絡膜浸潤や脈絡膜循環障害を反映しており,IAで同部位に一致してCdarkspotの所見を呈していると考えられた.また,OCTでの網膜色素上皮の不整は網膜色素上皮の障害を反映していると推察され,血液網膜バリアの破綻も漿液性網膜.離発症のさらなる病態として考えられた.本症例は初診時にCVKHを疑われた.VKHの病態はメラノサイトに対する自己抗体の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害であり,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,IAでの早期のCdarkspotと後期の過蛍光所見を認める点において本症例と類似図1初診時の眼底写真(a,b)および波長掃引光源OCT(SS.OCT)像(c,d,e)a:右眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,黄斑外上方に脱色素班(C.)を認める.Cb:左眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,視神経乳頭耳下側に網膜出血を認める.Cc,d:漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚,脈絡膜に多発する点状の高輝度領域を認める.Ce:右眼底.黄斑外上方の脱色素班部位は網膜色素上皮の軽度隆起を伴う.図2初診時の眼底自発蛍光写真右眼(Ca)の脱色素斑と同部位に高輝度領域(C.),両眼(Ca,b)の黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認める.図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).脱色素斑に一致した過蛍光(C.)を認める.Cb:後期(右眼,18分C54秒).黄斑部の蛍光貯留(C→)を認める.している.しかし,VKHでは,眼内炎症や,フィブリンと考えられる隔壁を伴う漿液性網膜.離を認める点で臨床像が異なる.また,VKHでは皮膚,神経,感冒様症状を認めることが多く,髄液検査では単球優位の細胞増多を認め,血液検査で特異的な所見がないことが本症例と異なる.また,本症例は眼底所見,FA所見,OCT所見より中心性紫液性脈絡網膜症(centralCsereouschorioretinopathy:CSC)との鑑別も重要である.本症例とCCSCでは,OCTでの漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,FAでの点状過蛍光と後期の蛍光貯留の所見が一致する.一方,本症例はCIA早期から徐々に明瞭化する後極内のCdarkspotを認めるが,CSCではCIA中期に拡張した脈絡膜血管,後期に異常組織染を認める点が鑑別に重要である.また,白血球増多に伴う過粘稠症候群も鑑別に考慮すべきであるが,過粘稠症候群はマクログロブリン血症と多発性骨髄腫に代表されるCM蛋白増多が病因のことが多く,過粘稠症候群でみられる静脈ソーセージ様怒張,乳頭浮腫,網膜多発出血などの典型的な所見を本症例では伴わず,過粘稠症候群による循環障害としては非典型的図4初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).後極内にCdarkspotが散在している.Cb:後期(右眼,18分C54秒).後極内に点状の過蛍光(C.)を認める.治療前治療後6日目治療後14日目右眼視力(0.2)(1.2)中心窩下脈絡膜厚662μm480μm285μm左眼視力図5治療開始後の経過治療後,両眼の漿液性網膜.離と中心窩下脈絡膜(C.)肥厚は改善を認めた.であると考えられた.後に大きく影響するため,早期診断が重要であると考えられ漿液性網膜.離を初発症状としたCALLの本症例は,白血る.病細胞の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害が病因として考えら利益相反:利益相反公表基準に該当なしれ,視力低下の原因となる.また,脈絡膜悪性リンパ腫でも同様に漿液性網膜.離をまれにきたすことが報告されている7).以上より,血液疾患では漿液性.離を初発症状とすることがあり2,3,7),全身化学療法が患者の視機能維持や生命予(0.8)(1.2)562μm475μm328μm文献1)毛塚剛司:白血病眼浸潤.あたらしい眼科29:19-24,C20122)YoshidaA,KawanoY,EtoTetal:Serousretinaldetach-mentCinCanCelderlyCpatientCwithCPhiladelphia-chromo-some-positiveCacuteClymphoblasticCleukemia.CAmCJCOph-thalmolC139:348-349,C20053)井上順治,設楽幸治,平塚義宗ほか:漿液性網膜.離を呈した急性リンパ性白血病のC1例.臨眼医報C98:141,C20044)KincaidCMC,CGreenCWR,CKelleyJS:OcularCandCorbitalCinvolvementCinCleukemia.CSurvCOphthalmolC27:211-232,C1983C5)LeonardyCNJ,CRupaniCM,CDentCGCetal:AnalysisCofC135CautopsyCeyesCforCocularCinvolvementCinCleukemia.CAmJOphthalmolC109:436-444,C19906)TakitaCA,CHashimotoCY,CSaitoCWCetal:ChangesCinCbloodC.owCvelocityCandCthicknessCofCtheCchoroidCinCaCpatientCwithCTCleukemicCretinopathy.CAmCJCOphthalmologyCCaseCReportsC12:68-72,C20187)FukutsuK,NambaK,IwataDetal:Pseudo-in.ammato-rymanifestationsofchoroidallymphomaresemblingVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmulti-modalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C2020***

角膜移植後にアカントアメーバ感染が判明した角膜炎の1 例

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):342.345,2021c角膜移植後にアカントアメーバ感染が判明した角膜炎の1例岡あゆみ佐伯有祐伊崎亮介内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofAcanthamoebaKeratitisDiagnosedafterPenetratingKeratoplastyCAyumiOka,YusukeSaeki,RyosukeIzakiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC全層角膜移植後(PKP)に検体よりアカントアメーバが検出され,治療に難渋したアカントアメーバ角膜炎(AK)のC1例を経験したので報告する.症例はC59歳,女性.外傷後,原因不明の角膜ぶどう膜炎がC1年間遷延し,当院当科を初診した.ハードコンタクトレンズを使用していた.左眼角膜全体にびまん性の全層性角膜混濁があり,角膜中央部に大きな潰瘍を認め,潰瘍部の角膜実質が断裂し上方に偏位していた.角膜移植を予定していたが,角膜穿孔が生じたため,PKP,水晶体.外摘出術,眼内レンズ挿入術を施行した.摘出角膜より多数のアカントアメーバシストが検出され,AKと診断した.さらに,2度のCPKPを施行し,最終視力は矯正C0.125,最終眼圧はC8CmmHgであった.コンタクトレンズ使用例に原因不明の強い角膜混濁を認めた場合,AKの可能性を疑い加療する必要がある.遷延したCAKは角膜移植後に強い前房炎症や早期の移植片不全を生じやすく,再移植が必要となる可能性がある.CPurpose:ToreportacaseofrefractoryAcanthamoebakeratitis(AK)thatwasdiagnosedbyhistopathologicalexaminationCafterpenetratingCkeratoplasty(PKP).CCasereport:AC59-year-oldCfemaleCwhoCwasCaCcontactClens(CL)wearerwasreferredtoouroutpatientclinicduetorefractorykeratouveitisofunknowncauseinherlefteyefollowingoculartraumathatworsenedandprolongedfor1-yearfromtheinitialonsetofkeratitis.Uponexamina-tion,di.usecornealopacity,alargecornealulcerinthecentralcornea,andshiftingcornealstromawasobservedinherlefteye,soacornealtransplantationwasscheduled.However,cornealperforationoccurred10dayslater,sourgentPKPandcataractsurgerywithintraocularlensimplantationwasperformed.AlargenumberofAcantham-oebacystsweredetectedhistopathologicallyintheremovedcornea,andAKwasdiagnosed.AfterathirdPKPwasperformedinherlefteye,the.nalvisualacuitywas0.125andthe.nalintraocularpressurewas8CmmHg.Conclu-sions:WhenCatypicalCkeratitisCwithCdi.useCopacityCisCobservedCinCpatientsCwhoCwearCCLs,CtheCpossibilityCofCAKCshouldbesuspectedwithcloseobservationandcarefultreatment.ProlongedAKmaycausesevereanteriorcham-berin.ammationaftersurgery,andimmediategraftfailurerequiringrepeatPKPcanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):342.345,C2021〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,外傷,穿孔,全層角膜移植術,ハードコンタクトレンズ.AcanthamoebaCkeratitis,trauma,perforation,penetratingkeratoplasty,hardcontactlens(HCL).Cはじめにアカントアメーバ(Acanthamoeba:AC)は土壌や水道水などに生息する原性動物で,1988年に石橋ら1)によりわが国で最初のアカントアメーバ角膜炎(AcanthamoebaCketrati-tis:AK)が報告された.AKの視力予後は初期では比較的良好とされているが,完成期では不良例が多いため2),早急に確定診断を行い,いわゆる三者併用療法を行うことが重要である.難治性角膜潰瘍を診察するにあたりCAKの診断に至る重要な臨床所見として,コンタクトレンズ装用歴,強い疼痛,放射状角膜神経炎があげられるが,病巣擦過物の検鏡や培養によりCACを検出することが確定診断としてもっとも重要である.今回筆者らは,難治性角膜炎と診断され,初発よりC1年が経過してから紹介され,全層角膜移植を行うことによって,病理学的にCAKと診断され,以後の治療に難渋したC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕岡あゆみ:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyumiOka,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANCI症例患者:59歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.生活歴:ハードコンタクトレンズを装用している(近医受診時C2018年C5月まで).現病歴:2018年C4月,ハンガーで左眼外傷後,左眼の眼痛を認めC2018年C5月に近医を受診した.右眼視力は(1.5),左眼視力はC20cm手動弁(矯正不能).眼圧は,右眼20CmmHg,左眼C56CmmHg.左眼角膜中央に円形でびまん性の角膜混濁と前房炎症を認めたため,外傷による角膜潰瘍およびぶどう膜炎を疑い,タフルプロスト,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸,モキシフロキサシン塩酸塩,セフメノキシム塩酸塩,0.1%フルオロメトロンにより治療を開始した.6月に左眼眼圧は正常化したが,角膜混濁は残存しており,サイトメガロウイルス,ヘルペスウイルスなどのウイルス感染を疑い,バルガンシクロビル塩酸塩,アシクロビルの内服投与を行ったが,角膜混濁の変化は認められなかった.10月に角膜上皮擦過を行ったところ,中央からやや下方に角膜実質に横走する亀裂を認め,その後も改善せず,2019年C4月に当科紹介となった.当科初診時所見:左眼視力C50Ccm手動弁(矯正不能).左眼眼圧は測定不能.前眼部は左眼球結膜充血は軽度であり,角膜は角膜全体に全層性の混濁,中央部角膜の菲薄化と角膜実質深部の脱落,脱落部の上方への偏位が認められた(図1).経過:前医で処方されたモキシフロキサシン塩酸塩,デキサメタゾン,タフルプロスト点眼を継続使用し,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)を予定していたが,5月に当院外来再来時,角膜中央菲薄部の穿孔を認め(図2),緊急で左眼に対しCPKP,水晶体.外摘出術および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術の同時手術を施行した.術中合併症は認められなかった.摘出角膜の病理学的検査で角膜実質にCACシストが多数認められ,蛍光用真菌染色(ファンギフローラCY)陽性(図3)であったことからCAKと診断した.術後左眼視力はC10Ccm指数弁(矯正不能)であり,術後C2週間で前房炎症,角膜後面沈着物,浅前房および隅角癒着を認めた(図4).急速に移植片不全が進行し,8月に左眼に対し再度CPKPを施行した.術中に虹彩の後方からCIOL図1当院初診時の前眼部所見角膜組織の脱落と一部の上方への偏位を認めた.図2初回手術前の前眼部所見下方角膜菲薄部が穿孔し,虹彩が脱出していた.図3摘出角膜の術後病理所見アカントアメーバシストが角膜実質膠原線維の層板状配列に沿って著明に増殖しており(→),ファンギフローラCY染色陽性だった.図4初回手術2週間後の前眼部所見前房炎症,角膜後面沈着物,浅前房および隅角癒着を認めた.による圧迫が認められ,それに起因する浅前房と虹彩前癒着と考えられたため,水晶体.ごとCIOLを摘出し,前部硝子体切除とCIOL毛様溝縫着術を併施した.再手術後,左眼視力はC0.03(0.1C×sph.2.75D(cyl.7.00DAx90°)まで改善したが,再手術後C1カ月のC9月には再度移植片機能不全が進行した.プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム内服をC40Cmgより開始し,減量を行ったが改善が認められず,2020年C1月にC3回目の左眼CPKPを施行した.術後経過は良好であり,術後C3カ月で左眼視力はC0.03(0.125C×sph.10.75D(cyl.10.00DAx35°)であり,移植片は透明である(図5).CII考按本症例は,角膜潰瘍およびぶどう膜炎として他院で初期治療が行われた.疼痛も強くなく,またCAKを示唆する前眼部所見も乏しかったため,長期にわたってCAKの診断が困難であったと考えられる.当院の初診時所見では,角膜の著明な混濁と角膜組織の脱落ならびに偏位という非定型的な角膜所見を呈しており,AKの診断には至らなかった.臨床像から感染症を疑わなかったために,微生物学的検査を行わなかったことが,術前に病因診断できなかった直接的な理由であった.以後,ステロイドと抗菌薬点眼を使用することで最終的に穿孔した.治療的角膜移植術が行われ,その病理学的所見からCAKと診断された.完成期の重症CAKの角膜所見として円板状角膜炎が知られているが,さらに病状が悪化した場合,本症例のように角膜の脱落ならびに角膜穿孔が認められる可能性がある.また,角膜の脱落が起こった機序としては,ACのシストが角膜実質膠原線維の層板状配列に沿って著明に増殖したことにより,楔状に角膜実質が障害され,図5最終前眼部所見移植片は透明であり,前房形成も良好であった.角膜脱落に至ったと推測される.これは経過中に角膜実質に横走する亀裂が認められたことから推測された.ただし,患眼はハンガーによる比較的強い鈍的外傷を角膜に受けているので,その際に角膜実質に裂傷を生じていた可能性も考えられる.AKの標準治療として局所および全身の抗真菌薬,消毒薬点眼(0.02%グルコン酸クロルヘキシジン),角膜掻爬の三者併用療法2,3)があるが,本症例ではCAKの診断が困難であったため三者併用療法を施行できず,治療的角膜移植に至った.三者併用療法のうち,角膜掻爬がもっとも重要との報告があり4),筆者らは角膜掻爬の延長としてCAKに対し深部層状角膜移植(deepCanteriorClamellarkeratoplasty:DALK)を行い良好な結果が得られたことを過去に報告した5).しかし,AKに対してはC1990年代前半までに行われたCPKPの治療成績は不良であり6,7),最近の報告でも半分の症例の視力予後が不良とされている8).このようなCAK診療の困難さを踏まえたうえで,この症例について詳細な検討を行った.今回の症例では,角膜穿孔に至り,緊急手術でCPKPを行い,当院の標準術式であるCDALKを施行できなかった.前述のように,初診時に病因診断でCAKを確定できていれば,角膜穿孔を回避して保存的治療を行うことも可能であった可能性はあるが,角膜穿孔を生じてしまったあとの段階では,治療的CPKPを行わなければ,眼球の温存も困難であったと考えられる.DALKと比較して,PKPでは術後炎症が強く生じる傾向があるが,本症例では初回手術中に強い炎症所見があることが確認されている.さらに初回手術後,早期に術後炎症のために水晶体.と虹彩に非常に強い癒着を生じていたことが,第C2回目手術の際に確認されている.炎症は鎮静化しつつあるが,第C2回および第C3回目のCPKPを行った際には,摘出された組織の病理検査を行っていないので,明らかではないが,水晶体.,毛様体などに残存したアカントアメーバが遷延する炎症を生じた可能性があったことは考えられる.しかし,3回目の角膜移植後,まだ時間が経っておらず,今後も注意深い術後経過観察が必要と考えられる.CIII結語今回,難治性角膜ぶどう膜炎と診断され初発よりC1年が経過した非定型な角膜炎が,PKPを行うことによりCAKと診断されたC1例を経験した.診断後,2回のCPKPが施行され角膜炎は鎮静化した.コンタクトレンズを装用している患者でCAKに特徴的な症状および前眼部所見には乏しいが,遷延する難治性角膜炎がみられた場合には,AKを疑い,微生物学的検査や手術検体の病理学的検索を行って診断を行う重要性が示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの一例─臨床像,病原体検査法及び治療についての検討.日眼会誌92:963-972,C19882)野崎令恵,宮永嘉隆:当院でのアカントアメーバ角膜炎の検討.あたらしい眼科C26:390-394,C20093)石橋康久:最近増加するアカントアメーバ角膜炎の治療のポイントは?.あたらしい眼科C26(臨増):38-43,C20104)木下茂,塩田洋,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C117:467-509,C20135)大塩毅,佐伯有祐,岡村寛能ほか:福岡大学病院における最近C10年間のアカントアメーバ角膜炎の治療成績.臨眼C73:1291-1295,C20196)DorenCGS,CCohenCEJ,CHigginsCSECetal:ManagementCofCcontactClensCassociatedCAcanthamoebaCkeratitis.CCLAOCJC17:120-125,C19917)VerhelleV,MaudgalPC:Keratoplastyachaudinseverekeratitis.BullSocBelgeOphtalmolC261:29-36,C19968)CarntCN,CRobaeiCD,CMinassianCDCCetal:AcanthamoebaCkeratitisCinC194patients:riskCfactorsCforCbadCoutcomeCandCsevereCin.ammatoryCcomplications.CBrCJCOphthalmolC102:1431-1435,C2018***

アデノウイルスベクターを用いた角結膜感染モデルマウス作製の試み

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):337.341,2021cアデノウイルスベクターを用いた角結膜感染モデルマウス作製の試み福田理子*1島田勝*2伊藤沙織*1宮永嘉隆*3川添賢志*3河越龍方*4奥田研爾*2水木信久*1*1横浜市立大学眼科学教室*2横浜市立大学微生物学・分子生体防御学教室*3西葛西井上眼科*4亀田総合病院眼科CPreparationofaKeratoconjunctivalInfectionMouseModelusingAdenovirusVectorMichikoFukuda1),MasaruShimada2),SaoriItoh1),YoshitakaMiyanaga3),TakashiKawazoe3),TatsukataKawagoe4),KenjiOkuda2)andNobuhisaMizuki1)1)DepratmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversity,2)DepartmentofMicrobiology,YokohamaCityUniversity,3)Nishi-KasaiInoueOphthalmologicalClinic,4)DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenterC目的:マウスの眼にアデノウイルス(Ad)ベクターを接種し,角結膜への取り込みと免疫誘導について評価する.方法:蛍光遺伝子を発現するC5型CAdベクターをマウスに点眼し,角結膜への遺伝子導入の有無を評価した.また,AdベクターをマウスにC2回C2週おきに点眼したのち,血清および眼表面洗浄液中のCAd特異的CIgG,IgA抗体価をELISA法で測定した.その後ルシフェラーゼ発現CAdベクターをマウス眼に点眼し,角結膜におけるルシフェラーゼ活性を測定した.結果:Adベクターのマウス角結膜への遺伝子導入を確認した.Adベクターを点眼したマウスでは血清,眼表面洗浄液ともにCAd特異的CIgG,IgA抗体価の上昇を認めた.また,Adベクターの角結膜への遺伝子導入が阻害された.結論:点眼によるマウス角結膜へのCAd遺伝子導入の実験方法を確立した.点眼によりCAdの角結膜への遺伝子導入が阻害され,ワクチンとしての可能性が示された.CPurpose:ToCinoculateCmouseCeyesCwithCanadenovirus(Ad)vectorCandCevaluateCgeneCtransductionCintoCtheCkeratoconjunctivaCandCimmunityCinduction.CMethods:AC.uorescentCgene-expressingCAdCvectorCeye-dropCwasCadministeredtomiceeyes.AftertheAd-vectoreye-dropimmunizationtothemice,Ad-speci.cIgGandIgAanti-bodiesfromserumandeye-washsolutionweremeasuredbyELISA.Theimmunemicewerethenchallengedwithluciferase-expressingCAdCvectorCinCeye-dropCform,CfollowedCbyCquali.cationCofCluciferaseCactivityCinCtheCeyes.CResults:OurC.ndingsCcon.rmedCthatCAdCvectorCcanCbeCtransductedCtoCtheCcorneaCandCconjunctiva,CandCthatCAd-speci.cIgGandIgAinbothserumandeye-washsolutioncanbeinducedbyAd-vectoreyedrops.Moreover,theCtransductionCofCluciferase-expressingCAdCvectorCwasCgreatlyCinhibitedCinCtheCimmuneCmice.CConclusions:WeestablishedCanCexperimentalCmethodCforCAdCgeneCtransductionCintoCtheCkeratoconjunctivaCofCmiceCviaCeyeCdrops.CThetransductionofAdvectortothecorneaandconjunctivawasinhibitedbyAd-vectoreyedrops,thusindicat-ingtheirpossiblepotentialforuseasavaccine.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(3):337.341,C2021〕Keywords:アデノウイルス角結膜炎,点眼ワクチン,遺伝子導入.adenoviruskeratoconjunctivitis,eyedropvaccination,genetransduction.Cはじめに炎の原因としても同定された2).アデノウイルスは複数の血ヒトアデノウイルスは流行性角結膜炎や咽頭結膜熱といっ清型が同定されており,結膜炎の原因としてはC8,19,37た結膜炎を引き起こす.1952年CHillemanらによって感冒の型が広く知られているが,3,4,7,11,14型も報告があが原因として初めてアデノウイルスが報告され1),その後結膜っている.最近では全遺伝子配列のバイオインフォマティク〔別刷請求先〕福田理子:〒143-0023東京都大田区山王C4-21-17Reprintrequests:MichikoFukuda,4-21-17Sanno,Ota-ku,Tokyo143-0023,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(99)C337ス解析による遺伝子型が定義されており,53,54,56型によるアウトブレイクが報告されている.アデノウイルス角結膜炎は感染力が非常に強く,おもに接触で感染する.集団で大規模感染を起こし学級閉鎖にもなるため,学校保健安全法ではアデノウイルス角結膜炎は出席停止の対象疾患とされている.成人においても大規模感染を引き起こすために,医療施設や福祉施設で業務制限,出勤停止を定めているところもある.臨床上重要な疾患であるにもかかわらず,最初の報告から60年以上経過した現在に至るまで,アデノウイルス角結膜炎に対する有効な治療法やワクチンは確立されていない.その原因の一つがアデノウイルスの種特異性の高さである3,4).アデノウイルス科は哺乳類アデノウイルスとトリアデノウイルスのC2属に分けられる.ヒト以外の哺乳類アデノウイルスとしてサル,ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ,イヌ,マウスなどのアデノウイルスが知られており,感染臓器や呈する所見,疾患は種によって異なる.一部動物において,ヒトアデノウイルス遺伝子の発現や,角膜上皮下浸潤といった角膜所見が観察されているが,いずれもウイルス接種の方法は外科的手技によるものであり,また現在に至るまで適切なモデル動物は作製されていない.筆者らは今回,眼表面局所での感染防御能を明らかにすべく,またアデノウイルス角結膜炎に対するワクチン開発をめざし,点眼によるアデノウイルス眼感染モデルマウスの作製を試みた.また,アデノウイルスを点眼で投与した場合の免疫誘導とその感染防御能について評価した.CI材料および方法1.実験動物とアデノウイルスベクター実験動物として,8週齢メスのCBALB/Cマウスを使用した.レポーター蛋白質で標識したC5型CAdベクター(Ad5-GFP,Ad5-mCherryおよびCAd5-luciferase)は,いずれも増殖に必要なCE1およびCE3領域を除去している5).これらアデノウイルスベクターをCHEK293細胞中で増殖させ,10mMトリスバッファー(pH7.5),1CmMMgCl2,およびC10%グリセロールを含む溶液で,CsClによる等密勾配遠心分離により精製した.各調製物中のウイルスの濃度は,260Cnmでの吸光度(OD)についてC1OD260=1×1012vectorgenomes(vg)/mlとして計算した.C2.マウス角結膜へのヒト5型アデノウイルス接種Ad5-mCherryをマウスC1眼につきC10C10vg点眼した.点眼後C1.5日目に連日マウスの眼球を摘出し,それぞれ蛍光顕微鏡下で直接観察した.別のマウスに,Ad5-luciferaseをC1眼につきC10C10vg点眼し,点眼後C1.5日目に連日マウスの眼球を摘出してCPBSで洗浄し,水晶体を除去した後CLysisCBu.er300Cμlとともに1.5Cmlエッペンドルフチューブに入れ,ホモジネートした.得られた細胞溶解液をC8,000CgでC10分間遠心分離したのち,上清C4Cμlをルシフェラーゼアッセイ基質C20Cμlと混合し,ルミノメーターでルシフェラーゼ活性を測定した.C3.免疫誘導および角結膜感染に対する感染防御能の評価0日およびC2週目に,マウス各眼に対しCAd5-GFPをC1C×1010vg点眼した.コントロール群マウスには同量のCPBSを点眼した.最初の点眼からC5週目に尾静脈から血液を採取し,血清を分離した.また,同じくC5週目にマウスC1眼につきプロテインインヒビターを混合したCPBS40Cμlで眼表面を20回ピペッティングし,洗浄液を回収した.採取した血清と眼表面洗浄液中のCAd5特異的CIgGおよびCIgAの抗体価を,それぞれCELISA法で測定した.ELISA法ではCAd5-GFPでコーティングしたC96ウェルマイクロプレートを用い,HRP標識された二次抗体を用いた間接法で測定した.サンプルである血清や眼表面洗浄液は連続C2倍希釈した.o-フェニレンジアミンジヒドロクロリドを基質として加え,450Cnmでの吸光度を測定し,希釈倍率C2のCx乗倍で吸光度<0.2となったときのC2のCx乗の最大値を抗体価とした.さらに,マウス1眼に対しCAd5-luciferaseC1010vgを点眼し,3日後に全眼球を摘出し,ホモジネートしてルシフェラーゼ活性を測定した.CII結果Adをマウス眼に感染させたところ,Ad5-mCherry点眼後C1からC5日目のマウス眼すべてにおいて,角結膜で橙色の蛍光を確認した.また,3日目のマウス眼でもっとも強く広範囲に蛍光を認めた(図1).Ad5-luciferaseを点眼したマウス眼球から作製した細胞溶解液では,点眼後C1日目から経時的にルシフェラーゼ活性が上昇し,点眼後C3日目をピークとしてその後低下した(datanotshown).以上より,ルシフェラーゼ活性の測定はCAd5-luciferase点眼後C3日目に実施することとした.Ad5-GFPを点眼後C7週目のマウス血清において,Ad5特異的CIgGおよびCIgAの抗体力価はCIgG抗体力価C2のC13.2乗,IgA抗体力価C2のC8.6乗といずれも上昇していた.血清CIgGおよびCIgAの抗体力価はともに有意差があった.また,点眼後C7週目の眼表面洗浄液においても,Ad5特異的CIgGおよびCIgAの抗体力価はCIgG抗体力価C2のC8.4乗,IgA抗体力価C2のC7.6乗といずれも上昇していたが,有意差は認めなかった(図2).事前にCAd5-GFPをC2回点眼した群とCPBSを点眼したコントロール群において,その後CAd5-luciferaseを点眼後C3日目の眼球におけるルシフェラーゼ活性は,コントロール群をC1とした場合,Ad5-GFPを点眼したマウスではC0.115と有意に低下していた(図3).図1Ad5.mCherry点眼後の蛍光顕微鏡像各日C3匹,合計C18匹のマウスを使用した.点眼後C1.5日すべてにおいて角結膜に橙色の蛍光を認めた.C2抗体力価(log2)1510血清眼洗浄液血清眼洗浄液図2Ad5特異的IgGおよびIgA抗体価各グループC5匹のマウスを使用し,Mann-WhitneyのCU検定で有意差を検定した.点眼で免疫誘導した群では血清,眼表面洗浄液ともにCAd5特異的CIgGおよびCIgA抗体価の上昇を認めた.CIII考按Ad角結膜炎は自然治癒する疾患であるが,罹患後角膜混濁を残す場合には羞明や視力低下により患者のCQOLは低下する.そのため,感染そのもの,感染拡大を防止することが必要である.C57BL/6Jマウスの角膜にマイクロインジェクション法でヒトCAd37型を接種した研究では,接種後角膜間質混濁と炎症,ウイルス複製初期に関与するCmRNAの発現を認めた6).また,25ゲージ針でウサギの角膜に傷をつけ,アデノウイルス角結膜炎患者から分離したCAd5を接種した研究では,ヒト類似の遅発性上皮下浸潤が報告されている7).対照群免疫群相対ルシフェラーゼ活性1.81.61.41.210.80.60.40.20図3点眼による角結膜感染防御3回の実験のうちC1回の結果を提示する.点眼で免疫誘導した群でルシフェラーゼ活性の低下を認めた.ほかのC2回の結果も同様の結果を示した.各グループC5匹のマウスを使用し,Mann-WhitneyのCU検定で有意差を検定した.ほかにも動物実験の報告はいくつか存在するが8),現時点で確立されたアデノウイルス角結膜炎の動物モデルは存在せず,またいずれもウイルスの接種方法は外科的手技によるもので,自然な感染経路とは大きく異なる.筆者らは今回,Ad5ベクターを用いて実験を行った.角結膜炎を引き起こすアデノウイルスの血清型はほとんどがCD群のウイルスであり,5型CAdはヒトでもマウスでも角結膜炎の原因とはならない.また,今回用いたCAd5ベクターは増殖に必要な領域を除去しているため,ウイルス増殖や疾患発症の抑制については評価できない.しかし,Ad5ベクターは研究や臨床に広く用いられ安定して入手可能であり,遺対照群免疫群伝子操作や導入方法などが十分に確立されている点から,実験方法の確立には適していると判断した.Ad5-mCherryを点眼したマウスの角結膜のみが蛍光を呈していたことは,Ad5-mCherryがマイクロインジェクションや針などの外科的手技を用いず点眼という簡便な接種方法でマウス角結膜細胞内に取り込まれ,蛍光蛋白遺伝子を発現したことを示している.同様にCAd5-Luciferaseも,点眼によりマウスの角結膜に取り込まれ,ルシフェラーゼ遺伝子を発現したと考えられる.このルシフェラーゼ活性を測定することで感染の初期段階であるC5型CAdの角結膜への導入を定量的に評価し,免疫誘導による防御能を比較検討することは可能である.Adを点眼したマウスにおいて,その後CAd5-luciferase点眼をした際のルシフェラーゼ活性が低下していた.このことはCAdにより免疫誘導が起こり,その結果CAdの再定着が抑制されたことを示している.血清および眼表面洗浄液中の特異的CIgAおよびCIgGが有意に上昇していたことがこの防御に関与している可能性が考えられる.IgG抗体価がCIgA抗体価よりも有意に高値であり,眼粘膜免疫ではCIgGの関与も大きいのではないかと示唆される.粘膜上では,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedClymphoidtissure:MALT)が免疫で重要な機能を果たしており9),NagatakeらはCMALTの内涙.に存在する涙道関連リンパ組織(tearduct-associatedlymphoidtissue:TALT)が前眼部における抗原特異的な免疫に関与していると述べている10).また,マウスの瞬膜とよばれる眼組織には結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedClymphoidtissue:CALT)が存在しており,M細胞が点眼した抗原を取り込むことも報告されている11).今回眼表面洗浄液中に産生されたIgAは,これらのリンパ組織を介して分泌されたと考えられる.粘膜表面に分泌される分泌型CIgAは交差防御能が高く,ワクチン株と流行株の抗原性に差異が生じた場合も有効性が期待できる.遺伝子変異を起こしやすいインフルエンザウイルスについては,この交差防御能が期待できる経鼻ワクチンが注目されている.Adについてもこの交差防御能により,一度のワクチン投与で角結膜炎の原因となる複数の型に対して効果を発揮することが期待できるのではないかと考えられる.一方で,耳鼻咽喉科領域においては細菌やウイルスによる感染が慢性化して生じる慢性副鼻腔炎患者の鼻汁中にはIgA,IgGがともに正常者の鼻汁中よりも増加していることが報告されており12,13),鼻粘膜では眼表面における粘膜防御同様にCIgAだけでなくCIgGも重要な役割を果たしていることが考えられる.Seoらの報告11)では,インフルエンザウイルスCH1N1をマウスに点眼投与することで,同じ粘膜である呼吸器の感染が予防され,点眼ワクチンの肺におけるインフルエンザ発症を抑制する有効性が示されている.インフルエンザウイルスと同様に,Adにおいても点眼により眼局所の感染予防だけでなく,重症肺炎を引き起こすCAdの予防にも効果がある可能性があり,今後の研究が望まれる.また,誘導されたCIgA交差防御能の可能性についても,どの型のCAdが別のどの型のCAdを抑制しうるかに関しても検討していく必要がある.今回の実験で点眼による免疫誘導で角結膜でのC5型CAd遺伝子導入が防御できる可能性が示唆された.ワクチンの投与方法として,皮下注射と比較して点眼は投与方法が簡便であるという利点があり,小児患者の多いCAd角結膜炎対策としては適しているといえる.今後はC8,19,37型などヒトで角結膜炎の原因となる他の型のCAdについてもルシフェラーゼ発現遺伝子を組み込み,同様に防御能を評価していきたい.また,マウス以外の種に関しても検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GinsbergHS:TheClifeCandCtimesCofCadenoviruses.CAdVi-rusResC54:1-13,C19992)JavetsE,KimuraS,NicholasANetal:NewtypeofAPCvirusCfromCepidemicCkeratoconjunctivitis.CScienceC122:C1190-1191,C19553)JoglerCC,CHo.mannCD,CTheegartenCDCetal:ReplicationCpropertiesofhumanadenovirusinvivoCandinculturesofprimaryCcellsCfromCdi.erentCanimalCspecies.CJCVirolC80:C3549-3558,C20064)RamkeCM,CLamCE,CMeyerCMCetal:PorcineCcornealCcellCculturemodelsforstudyingepidemickeratoconjunctivitis.MolVisC19:614-622,C20135)ShojiCM,CYoshizakiCS,CMizuguchiCHCetal:ImmunogenicCcomparisonCofCchimericCadenovirusC5/35CvectorCcarryingCoptimizedChumanCimmunode.ciencyCvirusCcladeCCCgenesCandvariouspromoters.PLoSOneC7:e30302,C20126)AshishVC,RogerA,JamesC:AdenovirusType37Ker-atitisCinCtheCC57BL/6JCMouse.CInvestCOphthalmolCVisCSciC48:781-788,C20077)GordonCYJ,CRomanowskiCE,CAraullo-CruzT:AnCocularCmodelCofCadenovirusCtypeC5CinfectionCinCtheCNZCrabbit.CInvestOphthalmolVisSciC33:574-580,C19928)TsaiCJC,CGarlinghouseCG,CMcDonnellCPJCetal:AnCexperi-mentalCanimalCmodelCofCadenovirus-inducedCocularCdis-ease.CTheCcottonCrat.CArchCOphthalmolC110:1167-1170,C19929)清野宏,岡田和也:粘膜免疫システム─生体防御の最前線.日耳鼻C114:843-850,C201110)NagatakeCT,CFukuyamaCS,CKimCDYCetal:Id2-,CRORgt-,CandLTbR-independentinitiationoflymphoidorganogene-sisinocularimmunity.JExpMedC206:2351-2364,C200911)SeoKY,HanSJ,ChaHRetal:Eyemucosa:ane.cientvaccinedeliveryrouteforinducingprotectiveimmunity.JImmunolC185:3610-3619,C2010Cnasalsecretionsofpatientswithallergicrhinitisandchron-12)石川保之:慢性副鼻腔炎と鼻汁中分泌型CIgA,IgG.耳鼻臨CicCrhinosinusitis.CEurCArchCOtorhinolaryngolC265:539-床C83:885-889,C1990C542,C200813)HsinCCH,CShunCCT,CLiuCCMCetal:ImmunoglobulinsCinC***

基礎研究コラム:AIを用いた眼科研究

2021年3月31日 水曜日

AIを用いた眼科研究AIとは人工知能(arti.cialintelligence:AI)は研究者によって定義が異なりますが,なんらかの人工の知能をさします.2012年に実用化された深層学習によって画像識別などの能力がヒトを超えたため,おもに深層学習や,深層学習を含む機械学習が使われている知能をさします.なぜ深層学習というか.それは動物の神経ネットワークのような多層構造で学習するからです.2011年以前の機械学習では,技術的な問題および計算資源の問題から多層構造で学習できず,少ない層数で学習していたため,ヒトに匹敵する一般画像識別などはできませんでした.多層構造が実用化して大幅な性能向上が認められたことから,これを深層学習とよんで他と区別しました.実用化以後世界中の研究機関が集中して取り組んだことで,わずかC3年でヒトを超える一般画像識別能力を獲得しました1).眼の領域では眼科は画像診断の割合の高い科であり,AIによる診断力向上が大きく期待される科です.そのためCAIの一般画像識別能力・解析能力を生かし,診断支援や画像高解像化に用いられています.2015年頃はCAIを単に眼科画像に適用して,人に近い判定が報告されていました.最近は希少疾患などまでほとんど出尽くした感があり,治療の要否など少しずつ高度な判定をCAIにゆだねる研究結果が報告されています.今後は,単に適用した精度を測るだけでなく,専門家でも気づかなかった所見を発見するツールとして使われるのではないかと筆者は考えています.糖尿病網膜症病期分類をするAIを筆者のグループは開発しましたが,増殖糖尿病網膜症のカラー眼底写真において,AIは肥厚した内境界膜のてかりを注視していました(図1).今まで増殖糖尿病網膜症の診図1増殖糖尿病網膜症と推定した根拠を示すヒートマップ(自験例)aのカラー眼底写真は増殖糖尿病網膜症と判定されたが,CbのヒートマップのようにCAIは後極の肥厚した内境界膜のてかりを注視して判断した.髙橋秀徳自治医科大学眼科学講座断基準になったことはない所見がCAIの診断に使われたことがわかりました2).これによって,さまざまな疾患画像の新規診断根拠や治療の新規判断根拠を特定することも可能だと考えています.今後の展望Googleは「AIの民主化」,誰でもCAI技術を使えるようになること,を掲げており,ウェブブラウザからプログラミング不要で,練習段階では無償で始められるCGoogleCCloudCAutoMLプラットフォームを提供しています.実際にプログラミング素人の医師が使用して,カラー眼底写真やCOCT像を良好に分類できました3).さらに日本眼科学会において,日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代眼科医療を目指す,ICT/人工知能を活用した画像等データベースの基盤構築」が実施されています.全国数十カ所の医療機関から大量の眼科画像が自動で国立情報学研究所に集積されています.これによりCAIとその元になるビッグデータが容易に手に入るようになりますので,さまざまなアイデアを試して研究していかれるようになるでしょう.文献1)HeCK,CZhangCX,CRenCSCetal:DeepCresidualClearningCforCimagerecognition.arXivC1512.03385,C20152)TakahashiCH,CTampoCH,CAraiCYCetal:ApplyingCarti.cialCintelligenceCtoCdiseasestaging:DeepClearningCforCimprovedstagingofdiabeticretinopathy.PLoSOneC12:Ce0179790,C20173)FaesL,WagnerS,FuDetal:Automateddeeplearningdesignformedicalimageclassi.cationbyhealth-carepro-fessionalsCwithCnocodingCexperience:aCfeasibilityCstudy.CLancetDigitalHealthC1:e232-e242,C2019(95)あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020C3330910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜剥離(上級編)

2021年3月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載214214急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜.離(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)は,ヘルペスウイルスにより生じる感染性ぶどう膜炎であり,経過中に壊死性裂孔が形成され裂孔原性網膜.離(rheg-matogenousretinaldetachment:RRD)に至ることが多い.ARNに併発するRRDは通常急性期に生じるが,ARN発症後,長期間が経過してからRRDが発症したとする報告は比較的少ない.筆者らはARNの発症から15年後にRRDを生じた一例を経験し報告したことがある1).●症例提示27歳,男性.12歳時に左眼にARNを発病.アシクロビル点滴,ステロイド内服にて加療し,手術は行わずに治癒した.その後再発することはなく定期的に通院していたが,最近になって左眼の視野欠損を自覚した.黄斑部から耳側から下方にかけて2象限に及ぶ網膜.離を認めた(図1).眼底周辺部には色素沈着およびARNの瘢痕病巣と考えられる黄色調の線維膜を全周性に認めたが,滲出病巣はなく,ARNの炎症再燃ではないと判断した.また,肥厚した後部硝子体膜の辺縁が下耳側中間周辺部に認められた.入院のうえ,左眼の硝子体切除術を施行した.以前のARNの瘢痕萎縮病巣に原因裂孔があると推測されたが,術中に明確な網膜裂孔は確認できなかった.後部硝子体膜は中間周辺から網膜と面状に強固に癒着していた.2本の硝子体鑷子あるいは硝子体鑷子と硝子体カッターの双手法で赤道部まで人工的後部硝子体.離を作製したが,術中に医原性裂孔を複数個形成した.その後,気圧伸展網膜復位術,医原性裂孔周囲および瘢痕病巣周囲に広範な眼内光凝固術を施行し,輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデを行った.さらに4カ月後にシリコーンオイル抜去と眼内レンズ二次挿入術を施行した.術後RRDの再発はなく経過は良好である(図2).(93)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1当科初診時の左眼眼底写真黄斑部から耳側から下方にかけて2象限に及ぶ扁平なRRDと,中間周辺部には肥厚した後部硝子体膜の辺縁が認められた.(文献1より引用)図2術後の左眼眼底写真輪状締結術を併用し,復位を得た.(文献1より引用)●急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜.離の特徴本症例では菲薄化した瘢痕萎縮病巣に硝子体による牽引が働き,小裂孔が形成されRRDが生じたと考えられるが,瘢痕病巣のため裂孔確認が困難であった.また,ARN発症から長期間が経過しているため,肥厚した後部硝子体膜が網膜と面状に癒着しており,とくに瘢痕病巣では網膜が菲薄化しており容易に医原性裂孔を形成するため,人工的後部硝子体.離作成は赤道部までに留めて,あとは輪状締結術を併用する方針とした.今回のようにARNは薬物治療にて炎症が鎮静化しても,長期間が経過したのちにRRDになることがあり,継続的な経過観察が必要あると考えられた.文献1)小林崇俊,高井七重,庄田裕美ほか:発症後15年を経過した後に裂孔原性網膜.離を生じた急性網膜壊死の1例.臨眼74:677-681,2020あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021331

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の長期マネジメント

2021年3月31日 水曜日

●連載105監修=安川力髙橋寛二85.加齢黄斑変性の長期マネジメント中間崇仁塩瀬聡美九州大学大学院医学研究院眼科学分野抗CVEGF治療は滲出型CAMDに対する第一選択であるが,長期マネジメントにおいては患者負担や医療経済負担,治療抵抗例の存在などが問題となる.また,片眼発症症例では僚眼のマネジメントも必要となる.本稿では滲出型CAMD治療における長期マネジメントについて述べる.はじめに抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)治療が滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として日本で承認されC10年以上が経過し,現在では治療の第一選択肢となっている.これにより滲出型CAMD治療は新たな時代を迎えたが,その一方で長期的には頻回の再来・投与が必要な患者の存在や,高額な薬剤費による患者負担・医療経済負担が問題となってきている.また,既存薬に対する治療抵抗症例も存在し,今なお滲出型AMD治療においてCqualityCofvision(QOV)を改善し,それを維持するための長期マネジメントには課題が多くある.本稿では滲出型CAMD治療の長期マネジメントについて,九州大学病院(以下,当院)の方針を述べる.抗VEGF治療の投与方針滲出型CAMDに対する抗CVEGF治療長期マネジメントにおいて,3回導入期投与後の投与方針は大きな要素のひとつである.投与方針として,reactive治療であるCproCrenata(PRN),proactive治療である固定投与,Ctreatandextend(TAE)があげられるが,当院では基導入期TAE・・・4週4週6週8週10週drydrydrydry本的にはCTAEでの抗CVEGF治療としている.これは,治療により改善したCQOVを可能な限り維持し,かつ再来回数を減らすためである.PRNではCSEVEN-UPstudyで示されたように,QOV維持が困難な可能性があること1),固定投与では過多投与・治療不足となる可能性があることから,それぞれ第一選択の投与方針とはしていない.しかしながら長期マネジメントとして,僚眼が視力良好で患眼の抗CVEGF治療に対する疲れを感じている患者ではCPRN,僚眼が視力不良で患眼の視力維持のために積極的な治療が必要な患者では固定投与など,治療経過や僚眼の状況などによってはCTAE以外での抗CVEGF治療を選択することもあり,個別化医療をめざしている.当院におけるCTAEは,滲出がなくなった時点からC2週ごとに延長し,投与間隔を最大C16週まで延長する.16週の投与間隔でC1年間Cdrymaculaを維持できれば,いったん抗CVEGF治療を終了して経過観察の方針とし,治療回数の軽減をめざしている.治療中止してもC1年間再発がない患者は,近医での経過観察を依頼し,地域連携をしながら診ている(図1).しかし,長らく落ち着いていても突然再発する症例も存在し,今後も最適なマネジメントの検討が必要である.また,polypoidalchoroi-・投与間隔は最大16週まで延長・16週で1年drymacula維持→治療終了・治療終了後1年再発なし→近医にて経過観察図1当院でのTAEでの抗VEGF治療3回導入期投与後,滲出がなくなったらC2週ごとに投与間隔を延長する(最大C16週).16週の投与間隔でC1年間Cdrymaculaを維持できれば治療を終了する.中止後C1年間再発がなければ近医での経過観察を依頼する.(91)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3290910-1810/21/\100/頁/JCOPY切り替え前切り替え後図2アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替えた症例アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替え,PED・SRDの改善を認める.その一方で周辺部の網膜静脈閉塞を認める.Cdalvasculopathy(PCV)やCpachychoroidCneovasculop-athy(PNV)では,EVEREST2studyなどの結果を踏まえて,抗CVEGF治療回数軽減を目的とした光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)を併用することもある2).抗VEGF治療抵抗症例への対応これまで滲出型CAMDに対する抗CVEGF薬として,おもにペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトが用いられてきた.それぞれ効果や作用期間の点などで違いがあるものの,これら従来の薬による抗CVEGF治療に抵抗を示す症例をC10~20%程度に認める.とくに網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)は,従来の薬での抗CVEGF治療では完全に消退しないことも多い.PEDの完全消退がCQOVにどこまで寄与するかについては議論の余地があるため,滲出型AMD治療の長期マネジメントにおいてCPEDをどの程度まで積極的に治療をするかは悩ましい.とくに大きなPEDでは,抗CVEGF治療をきっかけに網膜色素上皮裂孔(retinalCpigmentCepithelialtear:RPEtear)が発生し,不可逆的なCQOV低下を招く可能性もあるため,慎重な判断が必要と考える.当院では従来の薬での抗VEGF治療で完全消退しないCPEDに対して,追加加療としてCPDTの併用を行ったり,日本でC2020年C3月に新たに承認されたブロルシズマブへの切り替えを検討したりしている.ただし,ブロルシズマブは投与後の血管炎発症の報告もあり,RPEtear発生と同様に不可逆的なCQOV低下を招く可能性もあることから,視力,治療経過,僚眼の状態などを含めて慎重に対象を選択している(図2).また,type1脈絡膜新生血管では,浅い漿液性網膜C330あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021.離が遷延する症例にも遭遇する.このような患者は視力がよいことが多く,漿液性網膜.離の完全消退をめざして投与を行っていても再発を繰り返す.各種Cstudyでフルイドの残存は視力低下の原因となることが知られてはいるが,このような患者に厳密に毎月投与を行うと通院や治療の自己中断につながるため,明らかな視力低下や患者の自覚悪化がある場合を除いて,患者と相談しながら投与間隔を決め,やや寛容な固定投与を行うことにしている.僚眼のマネジメント片眼発症の滲出型CAMD症例では,僚眼発症の可能性があり,両眼性になるとCQOVが著明に落ちるため,滲出型CAMD治療の長期マネジメントにおいて僚眼のマネジメントも重要と考える.当院では,滲出型CAMD患者の喫煙歴を必ず確認し,再来時に喫煙に対する注意喚起をするようにしている.また,食生活やサプリメント摂取に関してもアンケートを用いて積極的に聴取し,とくに片眼発症の滲出型AMD患者には,AREDS・AREDS2試験の結果を踏まえて,ビタミンCC,ビタミンCE,亜鉛,ルテイン,ゼアキサンチンなどを含むサプリメントを推奨している3,4).これにより僚眼発症リスクを軽減し,長期のCQOV維持をめざしている.AMD発症に関しては未だに病態が不明な部分があり,遺伝子の違いによる発症リスクの変化に関しても研究が進んできているため,今後も僚眼を含めた長期マネジメント方法の更新が必要であると考える.文献1)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandHORIZON:aCmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,C20132)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C20173)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20014)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013(92)