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屈折矯正手術:重度円錐角膜に対する強膜レンズ

2020年12月31日 木曜日

監修=木下茂●連載247大橋裕一坪田一男247.重度円錐角膜に対する強膜レンズ水野泰子名古屋アイクリニック強膜レンズは,強膜でレンズを支え角膜にレンズが直接触れないため,良好な装用感が得られるうえ,ずれにくく,かつ不正乱視矯正効果もある.重度円錐角膜になると,装用時の異物感やハードコンタクトレンズのずれが許容できない場合がある.そのような場合に,強膜レンズは屈折矯正の一手段として有効である.径の小さい強膜レンズは,瞼裂の狭い場合や高齢患者の重度円錐角膜眼にも使いやすいコンタクトレンズである.●強膜レンズ円錐角膜眼の屈折矯正において,眼鏡やソフトコンタクトレンズで十分な視力が得られない場合は,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が用いられる.しかし,重症化した円錐角膜においては,角膜の強い突出により異物感が強く,またフィッティング不良によりはずれやすくなり,装用継続が困難となることが多い.強膜レンズ(sclerallens)は,強膜部分でレンズが支えられ,角膜とレンズの間に涙液が貯留し,レンズが角膜に直接触れない.この特徴のため装用感に優れており,また不正乱視に対する屈折矯正も可能である1,2).強膜レンズは,直径がC18.1~24.0Cmmのフルスクレラルレンズ,15.0~18.0Cmmのミニスクレラルレンズに分類されるが3),直径の大きなフルスクレラルレンズはその大きさから装脱に習熟を要し,また瞼裂の狭い症例は装用困難であった.ミニスクレラルレンズは強膜レンズの一種でありながら,取り扱いしやすい大きさで,HCLが装用困難となった重症円錐角膜の患者に対する屈折矯正として有効であり4),当院でも処方例が増えている.当院では,2019年の新規強膜レンズ処方のうち,36名C51眼はミニスクレラルレンズ,1名C1眼にフルスクレラルレンズを処方している.ミニスクレラルレンズの利点は装用がしやすい点であるが,その反面,強膜に接する部分の面積がフルスクレラルレンズより小さいため,若い患者では結膜への圧迫が強く充血が強くなる欠点を有する.一方,サイズの大きいフルスクレラルレンズは広い面積で接触するため,この点においては優位である.重度円錐角膜ではアトピー性角結膜炎など重症アレルギーを合併することも多く,強膜レンズ下のスペースに分泌物が蓄積し,時間とともに霧視を訴えることがある.この点はCHCLと比較した場合の短所であり,1日数回はずして,もう一度装用し直す必要があることを説(77)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYレンズ形状:5段階のカーブCT直径:16.4mmBaseCurve0.36mm厚さ:中心部の厚さ0.36mmBC6.00mmLimbusCurve①LimbusCurve②AlignmentCurvePeripheralCurveEdge9.4mm14.2mm15.4mm16.4mmレンズ番号11.52345678910BC6.006.256.506.757.007.257.507.758.008.258.50加入パワー───log12.0011.0010.00-9.00-8.00-5.00-3.00-3.00-2.50-1.50-1.0014.2mmでのSag4.91mm4.59mm4.33mm4.10mm3.89mm3.71mm3.55mm3.41mm3.46mm3.29mm3.20mmTotalSAG5.84mm5.53mm5.26mm5.03mm4.83mm4.62mm4.46mm4.30mm4.37mm4.18mm4.09mm図1iSightミニスクレラルレンズデザイン概要と前眼部OCTを活用したサグ表明することも重要である.C●ミニスクレラルレンズ処方手順とポイント当院では米国のCiSight(GPSpecialist社)を採用している.レンズ概要と,ファーストレンズの算出に用いる前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を活用したCiSightサグ表を図1に示す.サグとはCsagitaldepthのことで,レンズ後面からレンズエッジ部までの高さを表す.ファーストレンズの算出法は,まずCOCTで眼球直径がC14.2Cmmになる場所から角膜頂点までの距離を計測し,その値に角膜とレンズ間の涙液層の厚みであるクリアランスC350~400Cμmを足した数字に近いサグ高をもつレンズ番号を選択する.最初のクリアランスは時間経過による沈み込みを考慮してC350~400Cμmとなるよう設定する.その後,結膜血管の圧迫所見の有無,フルオレセイン染色下で涙液のレンズ下への流入の有無をチェックし,涙液交換が行われているか確認する.結膜あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1541SAG5.74mm図2症例1(右眼)の角膜形状と細隙灯顕微鏡および前眼部OCTによるミニスクレラルレンズの最終フィッティング血管圧迫所見を認めたり,涙液交換が確認できない場合は,必要に応じトライアル・アンド・エラーでレンズ種類やエッジタイプを交換する.3時間トライアルを行ったあとに再検査を行い,最終クリアランスが約C200μmとなるよう調整する.通常のレンズでは合わない症例にはバックトーリック,サイズの変更,クリアランスの調整などを追加で行っている.ミニスクレラルレンズは,厚生労働省未承認のコンタクトレンズであるため,当院倫理委員会の承認後,患者に十分なインフォームド・コンセントを行ったのち処方している.C●症例127歳,男性.高校生のときに右眼円錐角膜と診断され,以後CHCLを装用していたが,異物感があり使いづらい,ロードバイクに乗るので,できればCHCL以外の方法で矯正したいとミニスクレラルレンズ処方を希望された.初診時,Amsler-Krumeich分類で右眼はIV期,左眼はCI期の円錐角膜を認め,VD=0.01(0.1C×sph-16.00D(cyl-5.00DAx90°)であった.ファーストレンズはクリアランスがC118Cμmと低かったため,一段階サグ高が深いレンズに変更,3時間トライアル後のクリアランスはC367Cμm,フィッティングも良好で,ミニスクレラル装用下のCVDはC0.7Cp(0.7C×miniSCLsph+0.25D)であった(図2).その後はクリアランスおよびフィッティングとも安定しており,仕事で海外に行くことも多い生活だが快適に過ごしている.また,左眼はその後角膜クロスリンキングを施行し,今後,裸眼で生活しやすくするために後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(phakicICL,STAARSurgical社)を希望している.C●症例224歳,男性.大学生のときに両眼の円錐角膜を指摘された.右眼はCIII期の円錐角膜で,当初球面CHCLを使用していたがずれやすく,非球面CHCLに変更するもやはりスポーツ中にはずれてしまうことが多いため,ミニスクレラルレンズ処方を希望された.VD=0.2(n.c),ミニスクレラルレンズ装用でC1.0CpC×miniSCL(n.c)であった.ファーストレンズはフルオレセイン染色にて涙液のレンズ下への流入が乏しく,強膜に当たる部分のカーブをさらに一段階フラットに変更した.この際のクリアランスはC297Cμmで,3時間トライ後の再検にてクリアランスがC157Cμmとやや低かったため,全体のサグをC0.2mmアップし,また軽度の結膜血管の圧迫所見を認めた3~4時方向をC1段階フラットにする調整を行い処方した.レンズ渡しの際のクリアランスはC528~665Cμmとやや高めであったが,今後の時間経過による沈み込みを考慮すると,ちょうどよい程度と思われた.C●おわりに円錐角膜患者は若年であることが多く,今回提示した症例のようにスポーツを含め活発な日常生活を送り,また将来のさまざまな可能性を秘めた年代である.強膜レンズは角膜移植が必要になる症例を減らすことができることが報告されており5),円錐角膜治療における期待度は高い.HCL不耐症となった重度円錐角膜の患者にとって,ミニスクレラルレンズは,qualityofvisionのみならず,qualityCoflifeの向上にも寄与する有効な選択肢になると思われる.文献1)SchornackMM,PtelSV:Sclerallensinthemanagementofkeratoconus.EyeContactLensC36:39-44,C20102)小島隆司:円錐角膜に対して強膜レンズCProstheticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceEcosystem(PROSE)を処方した症例の検討.日コレ誌59:128-132,C20173)SindC:Basicsclerallens.ttinganddesign.ContactLensSpectrumC23:32-36,C20084)松原正男:円錐角膜などの患者におけるミニスクレラルレンズ処方の検討.日コレ誌53:267-273,C20115)KoppenC,KrepsEO,AnthonissenLetal:SclerallensesreduceCtheCneedCforCcornealCtransplantsCinCsevereCkerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C20181542あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(78)

眼内レンズ:人工虹彩(Partial aniridia ring)

2020年12月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森洋斉409.人工虹彩(Partialaniridiaring)宮田眼科病院虹彩欠損があると,羞明やコントラスト感度低下,近見障害など,さまざまな症状を生じるだけでなく,整容面での問題も患者の負担となる.人工虹彩の一つであるCpartialCaniridiaringは,虹彩縫合に比べて手術手技も簡便で,白内障手術と同時もしくは術後に挿入可能であり,虹彩欠損に対する治療として有用な手段の一つである.●はじめに人工虹彩の歴史は古く,1964年に初めてヒトの前房に人工虹彩が挿入された.1970年代には後房型の人工虹彩が開発され,1994年にはシングルピースの人工虹彩付き眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が登場した.そしてC2002年にはCfoldableの.内固定型人工虹彩が開発され,小切開から挿入できるモデルも使用可能となっている.現在,人工虹彩は数社より販売されており,なかでもCMorcher社の人工虹彩は,虹彩欠損の範囲や水晶体.の有無などに応じて多数のモデルが用意されている1).無虹彩症に対する全周型のCaniridiaringと虹彩部分欠損に対するCpartialCaniridiaringとがあり,本稿では後者について述べる.C●手術適応人工虹彩の適応となる無虹彩および虹彩部分欠損の原疾患は,先天性のものと後天性のものに大別される.前者は先天性無虹彩症や虹彩コロボーマがあり,後者には虹彩角膜内皮症候群,Adie症候群,急性緑内障発作後や内眼手術後,外傷後などがあげられる.虹彩欠損の範囲によって症状は異なるが,羞明,グレア,ゴースト現モデル名96F96G形状象,コントラスト感度低下,焦点深度が浅くなる,近見障害,dysphotopsiaなどさまざまな症状を生じる.また,視機能だけでなく整容的な問題も患者の負担となる.Partialaniridiaringは部分的な虹彩欠損を被覆することが可能であり(図1),虹彩欠損の範囲や.内固定可能かでモデルを選択する(図2).ただし,Zinn小帯が脆弱な症例には挿入できないため,その場合は縫着用の人工虹彩や虹彩付きCIOLを考慮することになる.C●手術方法白内障と同時に手術する場合は基本的に.内固定となる.通常の白内障手術と同様に,水晶体切除もしくは摘図1Partialaniridiaring挿入前後の前眼部写真a:術前.外傷により耳側の虹彩が欠損し,一部癒着している.Cb:術後.虹彩欠損部がCpartialaniridiaringで覆われている.C94G96C全長(mm)11.011.010.012.5瞳孔径(mm)4.04.06.54.0切開幅(mm)>3.5>3.5>1.75>4.5固定位置.内.内.内.外図2Partialaniridiaringの種類(75)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C15390910-1810/20/\100/頁/JCOPYabc図3Partialaniridiaringの手術方法a:モデルに応じて切開創を拡大してCringを挿入する.Cb:フックでダイアリングしながらプレートを進めていく.c:両端の穴にフックを引っ掛けると挿入しやすい.出を行ってCIOLを挿入する.その際,トリパンブルーなどで前.染色をしておくと,ringを挿入する際に水晶体.との位置関係を把握しやすい.その後,選択したモデルに応じて切開創を拡大する.モデルによって挿入するコツは多少異なるが,基本的にはフックでダイアリングしながら進めていき(図3a,b),虹彩欠損部を被覆するようにCringを固定する.その際に,両端に開いている小さい穴にフックを引っかけると回しやすい(図3c).虹彩根部から離断している場合は,.内にCringを固定しても周辺部を覆いきれないため,まず虹彩を根部に縫合したあとに,瞳孔側を覆うようにCringを挿入するとよい.IOL挿入眼など.内に固定できない場合は,.外固定用のモデルを選択する.4.5Cmm以上の切開創を作製し,ダイアリングしながら挿入していくが,プレートではなく足のほうから挿入したほうが容易である.その後,必要に応じて切開創を縫合して手術を終了する.C●利点と欠点虹彩部分欠損に対する外科的な方法としては,虹彩縫合が一般的である.しかし,手技がやや煩雑であり,慣れていないと思わぬ出血を生じたり,角膜内皮障害をきたすこともある.一方,partialaniridiaringは.内もしくは.外に挿入するのみというシンプルな手技であり,虹彩縫合と比較すると簡便かつ合併症のリスクも低いといえる.ただし,欠点としてCZinn小帯が脆弱な症例には挿入できないこと,虹彩欠損の適応範囲が限られることがあげられる.欠損範囲が大きい場合はC2枚挿入することも可能であるが,2枚目の挿入時に先に入れたringに引っかかることがあるため,留意する必要がある.さらに,個人輸入が必要であり費用を要すること,わが国では未承認であるという問題点がある.C●おわりにPartialCaniridiaringはわが国では未承認であるが,比較的安価で手術手技も簡便であり,虹彩部分欠損に対して非常に有用なツールである.また,本稿では紹介していないが,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)の認可を取得しているHumanOptics社のCCustomFlexは,僚眼の虹彩の色調をオーダーメイドで再現することが可能で,虹彩部分欠損や無虹彩にも適応があり,術後の整容面や視機能において優れていることが報告されている2).今後わが国でも人工虹彩の導入が期待される.文献1)KaratzaCEC,CBurkCSE,CSnyderCMECetal:OutcomesCofCprostheticCirisCimplantationCinCpatientsCwithCalbinism.CJCataractRefractCSurgC33:1763-1769,C20072)MayerCCS,CReznicekCL,CHo.mannAE:PupillaryCrecon-structionCandCoutcomeCafterCarti.cialCirisCimplantation.COphthalmologyC123:1011-1018,C2016

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 フルオレセインパターンによる判定(2)

2020年12月31日 木曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院7.フルオレセインパターンによる判定(2)■はじめに前回はフルオレセインパターン判定の際にチェックしなければならない二つのポイントについて解説した.一つ目は瞬目によるレンズの動きであり,二つ目は角膜曲率半径とハードコンタクトレンズ(HCL)のベースカーブ(basecurve:BC)との関係である.前者では「スムース」「ルーズ」「タイト」といった用語でレンズの動きを示した.後者では「パラレル」「フラット」「スティープ」といった用語でその関係を示した.今回はその他のチェックポイントについて解説する.■角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合角膜曲率半径とHCLのBCとの関係をあらわす用語として「パラレル」「フラット」「スティープ」がある.角膜曲率半径とBCが平行関係にある場合を「パラレル」(図1),角膜曲率半径のほうがBCよりも小さい場合を「フラット」(図2),角膜曲率半径のほうがBCより大きい場合を「スティープ」(図3)とよぶ.そして,角膜とHCLの間隙に貯留した涙液がフルオレセインによって染色されているので,パラレルではHCL下の涙液が均一に,フラットでは中央部が薄くて周辺部が濃く,スティープでは中央部が濃くて周辺部が薄く染まる.角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合を表わす用語として,パラレルでは「アライメント・クリアランス・タッチ」,フラットでは「アピカル・タッチ」,スティープでは「アピカル・クリアランス」がある.通常の角膜の場合は上記のようになるが,角膜の状態が変化していると,そのようにはならないことがあり注意を要する.最近のHCLはガス透過性の素材でできていて,rigidgas-permiablecontactlens(RGPCL)とよばれており,長時間装用しすぎても,角膜上皮びらんや角膜浮腫が生じにくくなっているが,スティープな処方で固着状態が続くと角膜浮腫がみられることがある(図4).このような場合,角膜曲率半径とBCの関係はスティープであるが,角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合はアピカル・タッチになる.また,放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)やレーシック(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を受けた患者の角膜中央部はフラットになっているために,角膜曲率半径とBCの関係はフラットであっても,角膜中央部でのフルオレセイン染色の具合はアピカル・クリアランスを示すことになる(図5).■ベベル幅のチェック(1)ベベルデザインはレンズの動きに大きな影響を及ぼす.ベベル下の涙液は涙液交換のための予備軍であり,図1パラレル通常の角膜ではアピカル・クリアランス・タッチになる.図2フラット通常の角膜ではアピカル・タッチになる.図3スティープ通常の角膜ではアピカル・クリアランスになる.(73)あたらしい眼科Vol.37,No.12,202015370910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4角膜上皮浮腫図5放射状角膜切開術(RK)術後図6最適なベベル幅角膜曲率半径とBCの関係ではスティー角膜曲率半径とBCの関係ではフラットサイズが8.8mmのHCLのベベル幅はプであっても,角膜中央部のフルオレセであっても,角膜中央部のフルオレセイ0.6mm程度が最適である.イン染色の具合はアピカル・タッチになン染色の具合はアピカル・クリアランスる.になる.エッジの浮き上がりはレンズの動きを左右する.ベベルベベル幅が広すぎると(図7)エッジの浮き上がりも幅とエッジの浮き上がりは連動していると考えてよく,大きくなり,レンズの動きが不安定(ルーズ)となるばベベル幅が広いほどエッジの浮き上がりは大きくなってかりか,将来的に涙液がベベル下に貯留しすぎてレンズいる.サイズ8.8mmのHCLのベベル幅は0.6mm程度表面が乾燥してドライなくもりを生じたり(図8),レンが最適であり,通常の角膜形状ではこのときにエッジのズ直下の涙液が乾燥して3時-9時ステイニングの原因浮き上がりも最適と考えてよい(図6).サイズが小さいになることがある(図9).場合はベベル幅も狭くてよく,サイズが大きくなればベベル幅も広くする.図7広すぎるベベル幅レンズの動きがルーズになる.図8ドライなくもりレンズ表面が乾燥して湿度が低くなると,ドライなくもりを生じる.図93時.9時ステイニングレンズ直下の水平方向の涙液が乾燥して3時-9時方向に点状表層角膜症が認められることがある.

写真:金属性角膜内異物

2020年12月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦439.金属性角膜内異物野々村美保横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ図1左眼の鼻側周辺部内に存在する異物異物周囲に錆は認められず,角膜浮腫もみられなかった.図3術前の前眼部光干渉断層計像金属片が角膜内皮付近にまで達し,虹彩上にacousticshadowを認める.図4異物除去後の鼻側周辺部の角膜所見異物除去部位に実質組織の不整はあるが,角膜浮腫はみられなかった.図5術後の前眼部光干渉断層計像異物除去部の角膜実質の不整はあるが,角膜浮腫はみられなかった.(71)あたらしい眼科Vol.37,No.12,202015350910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例は68歳,男性.眼疾患の既往なし.当院受診2週間前,換気扇に釘を打つ作業中に金属片が右眼に飛入.飛入直後に痛みはあったが,すぐに軽快したため眼科受診せず様子をみていた.2週間経過しても金属片が角膜内に残留していることが気になり近医を受診.病歴より角膜鉄片異物として当院に異物除去目的で紹介となった.受診時,右眼角膜の耳下側に金属片が認められたが,周囲に角膜浮腫や錆はなかった(図1~3).しかし,病歴と異物の光沢より鉄片異物を第一に疑い,早期の異物除去手術を計画し,受診4日後に局所麻酔下で手術を施行した.異物上の角膜に切開を入れて異物を直接確認したのち,眼内マグネットを近づけたが反応なく,角膜切開部をさらに開いて鑷子で異物を除去した.磁力で引き寄せられず,錆が認められなかったことから異物の材質が鉄でない可能性が考えられ,術後,再度患者に異物飛入時の状況について詳細に尋ねた.すると釘を打ちつけていた換気扇の材質がアルミニウムまたはステンレスであり,異物は換気扇側の破片であった可能性が出てきた.術後,角膜の切開部位の細隙灯顕微鏡所見(図4)および前眼部光干渉断層計による観察(図5)により異物の除去が確認され,経過は良好である.角膜異物は眼科救急疾患において頻度は高く,症状としては疼痛,異物感,充血,流涙が多い.異物が光軸にかかわると視機能低下をきたすが,光学領をはずれていると無症状の場合もある.角膜異物には,金属類,植物,ガラス片,木材などさまざまなものがあるが,頻度は鉄粉異物がもっとも多い.松原によれば,10年間で集められた2,532名の角膜異物うち,鉄粉異物は2,224名と約88%を占め,年代別では20~69歳と職業年齢に多く,男女比も2,108人対80人と圧倒的に男性の頻度が高く,仕事中の飛入が多いことがわかる1).鉄粉異物は鉄錆の出現が特徴的である.直径0.4mm程度の大きさであれば付着後30分で上皮層に錆が浸潤し,12時間経過するとBowman膜にまで達する.24~72時間で鉄粉下に錆輪が完成され,72時間を経過すると完成した錆輪の周囲が溶解して鉄粉異物はフィブリンに包まれ,周囲の角膜組織から隔離されるようになる.そのため上皮層のみの錆であれば自然脱落も期待できるが,実質まで達している場合は脱落しにくく,残存することが多いとされる2).また,鉄粉異物の存在位置は受診日に関係する.知覚神経の密度が高く,視機能に関係する角膜中央部の異物は受傷後早期に受診する傾向にあり,角膜周辺部の異物では受傷後数日してから受診する場合が多い.鉄粉異物では鉄イオンが角膜実質を融解する可能性があり,1カ月が経過してから角膜穿孔したとする報告もある3).本症例では受傷部位は角膜周辺部であり,異物は角膜深層に達していた.そのため痛みの症状がなく,受診までに時間を要したと考えられる.また,異物の直径は0.5mm程度であったが,角膜内に存在したにもかかわらず周りに錆がなかったことから,鉄以外の金属の可能性も考えるべきであった.そして,問診を詳細に行っていれば,眼内マグネットをもちだす必要はなかったかもしれない.角膜への飛入異物を見た場合,患者の職業,異物の飛入状況,角膜での存在様式,個数に加えて,材質をよく考えながら診察することが重要である.文献1)松原稔:角膜錆輪に起こる化学反応とその生成物・角膜の生体防御機構と鉄の細菌感染防止機序.あたらしい眼科25:389-398,20082)松原稔:角膜鉄粉異物摘出痕腔内に起こる現象の組織学的研究および細隙灯顕微鏡による摘出痕混濁の摘出直後と10年後との比較.あたらしい眼科28:123-130,20113)KatoK,HiranoK,TakashimaYetal:Histopathologic.ndingsofperforatedcorneasduetoferricionin.ltration.CanJOphthalmol50:322-327,2015

日本の多焦点眼内レンズの臨床2020

2020年12月31日 木曜日

日本の多焦点眼内レンズの臨床2020ClinicalPracticeofJapaneseMultifocalIntraocularLensesin2020田淵仁志*はじめに多焦点眼内レンズの臨床は非常に複雑であり,多くの観点から考える必要がある.多焦点眼内レンズの副作用の特性は数多く報告されているし,患者の自己負担額が桁違いである点も臨床上の大きな関門である.「君子危うきに近寄らず」という中国のことわざを実感している臨床家の先生は多いのではないかと思われる.そんな中で,筆者自身の医療観としてはこのレンズの利用を許容し,10年以上にわたって積極的な姿勢で臨んできた.本稿では,筆者自身が執刀してきた多焦点眼内レンズのデータを中心に示しながら,あくまでも筆者の考えを述べる.多焦点眼内レンズの臨床について考えるための参考としていただければ幸いである.I多焦点眼内レンズとは2020年9月時点で何をさすのか2020年3月に厚生労働省が定める先進医療から多焦点眼内レンズがはずれた.その時点までは「多焦点眼内レンズ」とは先進医療扱いされているレンズのことを一般的にさしていた(医師と患者双方の納得のうえで日本で未認可の海外輸入レンズを用いる医療については,筆者の施設では行っているが,筆者自身が行っていないため,本稿では取りあげない).ところが,時を同じくして,保険診療内で使える低加入度数分節型レンズである「レンティスコンフォート」(参天製薬)が販売された.このレンズはその機能表記名からもわるように,近方用の度数がレンズ内部に加入されており,少なくとも単焦点レンズではない.つまり,保険制度の違いとして一般の人にもわかりやすく定義されていた「多焦点眼内レンズ」が,そのレンズがもつ機能に従ったより専門的な視点での分類が必要になった.医師にとってその変化は原点回帰でもあり当然ともいえるが,なにも知らない患者への説明はますます複雑になってしまった.患者にどう「多焦点眼内レンズ」医療を定義するのか,定まっていないのが現時点の正直なところだと思う.本稿においては単焦点レンズではない厚生労働省認可を受けたレンズを「多焦点眼内レンズ」と定義して,自験例の多い「レンティスコンフォート」(参天製薬),「テクニスマルチフォーカル」(ジョンソン・エンド・ジョンソン),「PanOptix」(日本アルコン),今後ファーストチョイスとする予定の「テクニスシナジー」(ジョンソン・エンド・ジョンソン)を題材(図1)に,新型感染症や保険制度変更に大きく揺れる2020年の日本の多焦点眼内レンズ臨床の実像を自施設のデータを用いて解説する.II多焦点眼内レンズの自己負担について自施設のデータであるが,先進医療利用者の90%は民間の保険会社が提供している生命保険などに付属している先進医療特約を利用したものであった(図2).つまり,入院や手術保険にも加入していれば,本人負担はゼロという状況は珍しくはなかった.4月から厚生労働省が定める選定療養制度下で多焦点眼内レンズ医療が行わ*HitoshiTabuchi:三栄会ツカザキ病院眼科,広島大学医療のためのテクノロジーとデザインシンキング講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1社会医療法人三栄会ツカザキ病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(63)1527レンティスコンフォートテクニスマルチフォーカルPanOptixテクニスシナジー国民皆保険制度利用選定療養利用選定療養利用選定療養利用低加入度数分節型回折型二重焦点焦点深度拡張型三重焦点焦点深度拡張型二重焦点近方加入度数+4D(ただしZMB)近方加入度数3.25D近方最高視力位置-2.75D程度図1多焦点眼内レンズ各種保険診療内で使えるレンズと選定療養扱いのレンズが混在している.2020年10月に国内で新しく承認されたばかりのレンズもある.平成29年度IOL計5,172眼図2ツカザキ病院眼科の多焦点眼内レンズ利用比率と先進医療保険利用比率(平成29年度)使用した眼内レンズは5,172枚であり,そのうち775枚(15%)が多焦点眼内レンズであった.そのうちの91%が先進医療保険を利用していた.多焦点775眼テクニスレンティスマルチフォーカルコンフォート(+4DZMB)n=216n=391100.090.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0IOLによる裸眼視力向上小切開化による術後炎症/乱視向上手術短時間化による術中満足度向上乱視用IOLによる遠用眼鏡不要化多焦点IOLによる近用眼鏡不要化図3白内障の臨床進歩の過程(患者に自覚できる進歩を中心に)眼内レンズの登場とその形状(折り畳み化)や光学特性の付与の進化が白内障手術の臨床での患者の自覚症状改善に大きく寄与してきたといえる.テクニスPanOptixクリア(ZCB)n=163n=319図4ツカザキ病院眼科における多焦点眼内レンズ挿入眼の眼鏡“不”使用率ツカザキ病院眼科で施行した症例(両眼に同一レンズを挿入している,乱視タイプ使用例も含む)の遠用,中間距離(テレビ視聴),近用の3距離の眼鏡不使用率(時々使用も含む)を示す.比較のために単焦点クリアレンズのテクニスクリアのデータも示す.術後10週時に看護師,視能訓練士による対面で聞き取りを行った.近用眼鏡不使用率について,「テクニスマルチフォーカル」(+4DZMB)と「PanOptix」に有意差を認めなかった.(%)90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0昼間運転夜間運転悪条件運転■テクニスマルチフォーカル(+4D)■テクニスクリア(ZCB)図5NEIVFQ.25運転詳細項目100点(良好)患者比率NEIVFQ-25の運転項目を構成する詳細項目(昼間運転,夜間運転,悪条件運転)のそれぞれC100点満点でC100点の良好群の比率を,回折型二重焦点レンズ「テクニスマルチフォーカル」(+4D,ZMB)と同一素材単焦点クリアレンズ「テクニスクリア」(ZCB)で比較した.n数はそれぞれC663人とC452人である.(文献C2より改変)乱視用レンズと非乱視用レンズの眼鏡使用率(%)1009080706050403020100図6乱視用レンズ使用による眼鏡使用率軽減(単焦点トーリックレンズの検討)単焦点黄色着色アクリソフレンズのトーリックレンズ群と同一素材非トーリックレンズ群のツカザキ病院眼科症例での比較検討.両眼同一群挿入患者ともCn数はC103人で,術前乱視度数はC1.1Dで有意差がないように調整された検討である.(文献C3より改変引用)先進医療レンズ(EDoF二重焦点Toric),62,7%選定療養レンズ(EDoF三重焦点),43,8%海外輸入レンズ,32,4%先進医療レンズ選定療養レンズ(EDoF二重焦点),52,6%海外輸入レンズ,4,1%(回折型二重焦点+3.25D),2,0%先進医療レンズ選定療養レンズ(EDoF三重焦点Toric),34,4%(回折型二重焦点+4.0D),先進医療レンズ36,7%(EDoF三重焦点),38,4%先進医療レンズ(回折二重焦点+2.5D),19,2%,先進医療レンズ(回折二重焦点+3.0DToric),47,5%先進医療レンズ(回折二重焦点+3.0D),7,1%選定療養レンズ先進医療レンズ(EDoF二重焦点Toric),(回折三重焦点+3.25D),18,2%5,1%2020年4月~9月多焦点内レンズ内訳総数534枚,314人(女性181人,58%),平均年齢72.0(9.3)歳図7選定療養になってからの多焦点眼内レンズの臨床数(新型感染症の影響とともに)選定療養制度に代わってから半年間のツカザキ病院眼科での多焦点眼内レンズ臨床数を示す.比較のためにC1年前の同一期間のデータも併せて示した.保険診療下での分節型二重焦点レンズはC441眼からC341眼にC23%減少し,先進医療から選定療養レンズの移行はC422眼からC189眼にC55%の激減といってよい結果となった.保険診療下レンズの減少は新型コロナウイルス感染症による影響だとも考えると,高額自己負担に切り替わったことによる影響は当院ではC30%程度ではないかと推定している.白内障以外の視力低下要因がある患者希望あり夜間運転滅多にない運転しない角膜不正乱視あり散瞳不良Zinn小帯脆弱IOL度数設定なしIOL度数設定ありテクニスシナジー図8多焦点眼内レンズ決定フローチャートあくまでも筆者の私見に基づく意思決定フローチャートである.患者の希望と医学的禁忌事項を確認せずに医療を施行してしまうことを避けるためのチェックリスト的な役割を果たしている.図9前眼部OCTリアル値マップ(CASIA,トーメーコーポレーション)a:乱視度数はC0.5Dであるが,蝶ネクタイパターンを呈する倒乱視であり,このタイプの形状にはトーリックレンズを適応する.b:乱視度数はC1.0Dあるが,斜乱視の軸であり,蝶ネクタイパターンもはっきりしないため,単焦点眼内レンズ選択を考慮する.

老視に対する多焦点コンタクトレンズ

2020年12月31日 木曜日

老視に対する多焦点コンタクトレンズMultifocalContactLensesforPresbyopia塩谷浩*はじめに加齢により調節力が低下し老視の自覚症状が出現しているコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者や,老視年齢になり初めてCLを使用する患者に対しては,老視を考慮に入れたCLの処方が必要になる.CL装用者での老視への対応法にはCLと眼鏡を併用する方法,CLの球面度数を中間距離に設定する方法,CLの左右眼の球面度数の調整によるモノビジョン法,多焦点コンタクトレンズ(multifocalcontactlens:MFCL)の処方の四つの方法が考えられる.日常生活で眼鏡を使用しない生活を希望している患者へは,生活のスタイルを変更させないために可能な限りCLのみで対応する方法を選択する必要があるが,これらの四つの対応法のなかで,MFCLは両眼での自然な見え方をある程度維持させることができるため,もっとも有用な方法である.本稿ではMFCLの現状,可能性,そして特徴と実際の処方方法について述べる.IMFCLの現状日本におけるCL装用者数は2005年には1,500万人に達しており1),現在では1,500~1,800万人を超えていると推定されている2).日本の総人口は1億2,589万5千人(2020年5月現在,総務省統計局人口推計2020年10月報)であることから日本人の7~8人に1人以上がCLを使用している計算になる.CLの使用者の年齢を15歳以上から65歳未満として考えると,老視年齢層を45歳以上とした場合には老視対策を必要とするCL装用者は45%となり,老視年齢層の範囲を広げて40歳以上とした場合には老視対策を必要とするCL装用者は56.4%に達することになる.CLの使用者は年齢が上がるにつれて装用を中止する者が増えてくると思われるが,半数以上が脱落すると想定してもCL装用者全体の20%以上はなんらかの形で老視対策が必要であり,MFCLの処方割合は20%近くになっていてもおかしくはない.しかし,Morganらの調査3)では,日本におけるハードコンタクレンズ(hardcontactlens:HCL)処方における多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalhardcontactlens:MFHCL)の処方割合は11%と,世界各国の平均8%と同程度であるものの予想される処方割合よりは低く,ソフトコンタクレンズ(softcontactlens:SCL)処方における多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の処方割合は4%と,世界各国の平均13%と比べると1/3以下ときわめて低いのが現状である.日本におけるMFCLの処方割合が低い理由としては,処方の技術的なむずかしさ,処方の手順の煩雑さ,処方の時間的効率の悪さ,処方成功率あるいは患者の満足度の低さ,以前に販売されていたMFCL製品での処方不成功体験による新製品への信頼の低さや,眼科医の処方意欲の低下などが上げられる.さらに最近ではCLの販売および入手経路の多様化が進み,とくにインターネット販売の普及により,老視を自覚したCLの使用者が単*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(55)1519表1老視前年齢の患者へのMFSCLの処方例患者:26歳,女性,事務職.動機:眼鏡を掛けたくないので,CL処方を希望して受診した.最近見づらくなり,パソコンでの仕事後に頭痛があったため,2週間前に眼鏡店に直接行き眼鏡を作った.これまで眼鏡を使用したことはなかった.仕事時に眼鏡を使うようにしていたが,頭痛の改善はなかった.CLの使用経験はない.検査所見:自覚的屈折:RV=0.3(1.2×.1.25D)LV=0.2(1.2×.1.00D)優位眼:右眼細隙灯顕微鏡検査所見:両眼に軽度の点状表層角膜症選択レンズ:低加入度数遠近両用SCL(プライムワンデースマートフォーカス,アイレ社)近業による眼精疲労で頭痛を発症し,自覚的屈折が近視化していると考えられ,治療および視力補正のために屈折矯正と調節補助が必要と判断した.R)8.80/.0.25DAdd+0.50D/14.2L)8.80/.0.50DAdd+0.50D/14.2RV=1.2×SCL(0.8×+1.00D)(1.0×0.75D)(1.2×+0.50D)LV=1.2×SCL(0.9×+1.00D)(1.2×0.75D)(1.5×+0.50D)処方レンズ:R)8.80/0.00DAdd+0.50D/14.2L)8.80/.0.25DAdd+0.50D/14.2遠近の見え方に患者の満足が得られたため,ヒアルロン酸点眼液を使用しながら装用を開始した.CL使用経過:RV=1.5×SCL(n.c.)LV=1.2×SCL(better×.0.25D)両眼遠方視力=1.5×SCL両眼近方視力=1.0×SCL遠近ともによく見えようになった.これまであった頭痛がなくなった.表2白内障術後の患者へのMFHCLの処方例患者:58歳,女性,事務職.動機:白内障手術後,眼鏡ではなくHCLを日常生活で使用することを希望し,他眼科から紹介された.57歳時に白内障手術(単焦点眼内レンズ挿入術)を受けている.19~57歳まで38年間のHCLの使用経験がある.検査所見:自覚的屈折:RV=0.08(1.2×.3.50D=cyl.1.25DAx160°)LV=0.07(1.2×.3.50D=cyl.1.50DAx180°)優位眼:左眼細隙灯顕微鏡検査所見:特記すべきことなし処方レンズ:低加入度数遠近両用HCL(マルチフォーカルO2ノア,シード社)R)7.75/.2.00DAdd+1.00D/9.3L)7.80/.2.75DAdd+1.00D/9.3CL使用経過:RV=0.5×HCL(1.0×.0.50D)LV=1.0×HCL(better×.1.00D)両眼遠方視力=1.2×HCL両眼近方視力=0.6×HCL患者はHCL装用時に眼鏡を併用しないで遠方も近方も見え,日常生活に問題はなかった.HCLを装用した状態の視力検査で,普通自動車運転免許を更新することができた.表4MFCLの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視二重焦点セグメント型遠用HCL同心円型同心円型遠用SCL二重焦点近用回折型近用同時視累進屈折力非球面型遠用HCLSCL近用SCL拡張焦点深度同心円型遠用SCL近用HCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ表3白内障術後の患者へのMFSCLの処方例患者:57歳,女性,主婦.動機:白内障手術後,1日交換単焦点SCLを使用していた.SCL装用時に近用眼鏡を併用する生活に不満があったため,遠近両用SCLの処方を希望して受診した.54歳時に白内障手術(単焦点眼内レンズ挿入術)を受けている.20~57歳まで37年間のSCLの使用経験がある.検査所見:自覚的屈折:RV=0.05(1.2×.2.75D)LV=0.05(1.2×.4.00D)優位眼:左眼細隙灯顕微鏡検査所見:特記すべきことなし処方レンズ:遠近両用SCL(メダリストマルチフォーカル,ボシュロム社)R)9.00/.2.50DHighAdd(+2.50)/14.5L)9.00/.3.50DHighAdd(+2.50)/14.5CL使用経過:RV=0.7×SCL(0.9×.1.50D)LV=0.6×SCL(0.8×.0.50D)両眼遠方視力=0.8×SCL両眼近方視力=0.6×SCLテスト装用1週間後に遠方視に不満の訴えがあり,右眼の球面度数を.2.00Dから.2.50Dに変更して最終的な処方規格を決定した.遠方も近方も見え方に不便を感じず,就寝前の数時間を除き,眼鏡を使用しない生活を続けることができている.はすべての型があり,MFSCLにはセグメント型はない.セグメント型では,中心光学部は遠用であり,近用光学部はレンズの下方に独立して存在する.機能による分類では交代視型である.二重焦点型の同心円型では,中心光学部は遠用のもの近用のものがあり,中心光学部が遠用(または近用)のレンズでは,近用(または遠用)光学部はレンズの周辺に同心円状に配置されている.機能による分類では一般的には同時視型であるが,MFHCLには近方視時の視線の下方への移動時に相対的にレンズが上方偏位することにより視線がレンズ周辺の近用光学部を通過することで交代視型の機能を示すものもある.拡張焦点深度型の同心円型では,加入度数の違いにより中心光学部が遠用のものと近用のものがあり,機能による分類は同時視型である.回折型では,中心光学部は近用であり,レンズ中心の光学部に同心円状の回折構造を設置することにより遠方から近方まで見えるように設計されている.機能による分類では同時視型である.現在は製品として販売されていない.非球面型では,中心光学部は遠用のもの近用のものがあり,中心光学部が遠用(または近用)のレンズでは,近用(または遠用)光学部はレンズの周辺に同心円状に配置されている.レンズの前面あるいは後面を非球面デザインにすることで近用度数が累進的に加入されている.機能による分類では同時視型である.IVMFCLの処方方法1.レンズの選択MFCLの処方では,まずCLの使用経験を考慮し,レンズのタイプを選択する6~8).HCLの経験者にはMFHCLを選択し,SCLの経験者にはMFSCLを選択する.CLの未経験者には特殊な場合を除き,CLが初めての者でも扱いやすく,装用感がよくて使用するのに慣れが早いMFSCLを選択する.次に遠方視と近方視の重視度,視力の必要度を考慮して製品を選択する.MFCLは光学部のデザインが似ていても各メーカーの製品でそれぞれ見え方が異なるため,その特性から患者の条件や使用環境に合っていると考えられる製品を選択する.選択したレンズのフィッティングと装用感を確認し,問題がなければ処方レンズの種類を確定する.続いて追加矯正して仮の処方規格のレンズでの遠方の視力補正効果と近方の調節補助効果(とくに自覚的な見え方)を考慮し,規格の決定に移る.2.フィッティングの確認MFCLのフィッティングでは,光学的な機能を有効にするためにセンタリングが重要である.CLの経験者では,可能ならば使用していたCLのフィッティングを確認し,センタリングが不良な場合にはフィッティングを考慮してレンズのタイプを変更する.MFHCLのフィッティングでは,HCLの長期間の装用経験者のなかには,レンズが上方偏位して停止するフィッティングがよくみられる.このような場合にはセンタリングをよくするため,標準のデザインを変更する必要があるが,MFHCLはサイズの規格変更ができなかったり,ベースカーブ(basecurve:BC)の変更で加入度数(レンズ後面に加入度数が設定されている後面非球面型累進屈折力MFHCL)に影響が出てしまったりすることもあり,一種類の製品での対応は困難となる.とくに交代視型のMFHCLでは,センタリングが不良であれば遠方視,近方視とも見え方に患者の満足が得られない.そこでこのような場合には,サイズが大きくセンタリングがとりやすく,センタリングが多少不良でも見え方に影響の出にくい同時視型の非球面型塁進屈折力MFHCLを選択する.使用中のHCLに固着傾向がみられた場合には,BCを変えることで加入度を変化させる後面非球面型累進屈折力MFHCLは避け,レンズ後面が球面のMFHCLを選択する.さらにいずれの対応でもMFHCLで良好なフィッティングを得ることができない場合にはMFSCLに変更する.MFSCLのフィッティングでは,SCLの経験者で使用中のSCLのフィッティングが不良の場合,とくに上方偏位がある場合には,アレルギー性結膜炎などによる上眼瞼結膜の器質的変化で摩擦力が強いことや,上眼瞼圧が強いことが原因となっていると考えられる.その場合1522あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(58)には上眼瞼結膜への影響が少なく,フィッティングの改善を期待できる1日交換型か頻回交換型のMFSCLを選択し,そのなかでもセンタリングのとりやすいと考えられる柔らかい素材で,サジタルデプスの深いデザイン(サイズが大きめかBCが小さめ)の製品に変更する.3.加入度数の決定MFCLは,高加入度数になると近用光学部のデザインが変わり,遠用光学部は影響を受けて自覚的にも他覚的にも遠方視が変化することが多い.交代視型では外界の像のジャンプが起こりやすくなり,同時視型ではゴースト像を自覚しやすくなりコントラスト感度も低下し見え方が不良となる.またMFCLは,どの製品でも加入度数の規格範囲が狭く細かい設定もできないため,遠近両用眼鏡のように広い範囲での度数調整をすることはできない.そのためMFCLの加入度数の設定では,可能なかぎり低い加入度数で対応する必要がある.筆者の処方経験ではMFCLは交代視型,同時視型のどちらのタイプでも,視力と自覚的な見え方を片眼と両眼で比べると,片眼より両眼が良好なことが多く,初期老視から中期老視まで,ほとんどのケースで低い加入度数で対応が可能であった.多くのメーカーの処方マニュアルではMFCLの加入度数を年齢や眼鏡での近方矯正加入度数を参考にして設定するようになっており,原則的にはそれに従うことになるが,上述の理由から,どのケースにおいても,最初は処方しようとするMFCLに設定されている加入度数のなかから低い加入度数を選択するほうが処方成功率は高くなると考えられる.加入度数を選択し,仮の球面度数を決定してから,まず近方の両眼での見え方を確認する.このとき,近方の片眼での視力値,両眼での視力値にこだわらず自覚的な両眼での見え方から判断して加入度数を決定する.近方の両眼での見え方に問題がある場合には球面度数を調整し,場合によっては加入度数を変更する.4.球面度数の決定MFCLの球面度数の決定の仕方は,基本的には単焦点CLの処方時と同様であり,テストレンズを装用したうえで追加矯正し,遠方視に適正な角膜頂点間距離補正した球面度数を設定する.ただしMFCLの遠方視は,デザイン的に遠用光学部が近用光学部の影響を受けるため,単焦点CLと比べると一般的に見え方の質が劣っており,単純に片眼の視力だけで見え方を判断すると正しい評価ができず,過矯正を起こしやすい.過矯正状態を作ると低い加入度数では近方が見づらいため高い加入度数に変更を余儀なくされ,高い加入度数に設定すると遠方視の質がさらに低下するため,遠方視も近方視も患者の満足が得られない悪循環に陥ることになる.そこで過矯正を防ぐため,最初に選ぶMFCLの球面度数(テストレンズの球面度数が変更できる1日交換MFSCLや頻回交換MFSCLの場合)は,角膜頂点間距離補正後の自覚的屈折度数(すなわち単焦点CLを完全屈折矯正度数で処方すると想定した場合の球面度数)より0.50~1.00D(レンズの種類,ケースにより度数は異なる)プラス側(近視では低矯正,遠視では過矯正)に設定し,見え方は両眼での視力と自覚的な見え方で判断する.MFCLの球面度数の設定は,原則的にはメーカーの処方マニュアルに従うべきである.しかし,上記の処方方法であれば遠方視がやや不良となることが想定されるが,処方不成功につながりやすい過矯正を防ぐことができるばかりか,MFCLの装用開始時に低加入度数であっても近方が確実に見やすい状態にすることができる.また,遠方視に患者の不満がある場合にはマイナス側の球面度数の追加矯正で対応できるため過矯正となりにくく,度数調整が容易であり,処方成功率を上げることができると考えられる.5.見え方の確認MFCLのトライアルレンズの装用状態が安定してから,まず近方視を両眼での見え方で確認する(テストレンズの加入度数と球面度数が変更できる1日交換MFSCLや頻回交換MFSCLの場合には実際に処方するレンズの規格となる)(図1).このとき,できるかぎり視力表よりも雑誌や新聞や携帯電話のような実際の生活で見るもので確認することが望ましい.ここまで解説してきた処方方法であれば,低い加入度数でも近方が見やすくなる球面度数に設定になっており,ほとんどのケースで近方視に問題はないはずである.(59)あたらしい眼科Vol.37,No.12,20201523近方視の確認両眼で具体的な物を対象に自覚的見え方と確認遠方視の確認両眼で自覚的見え方と矯正視力を確認遠方視に不満近方視に不満優位眼の球面度数変更非優位眼の球面度数変更両眼の球面度数変更非優位眼の加入度数変更モディファイド・モノビジョン法両眼の加入度数変更処方度数を決定図1見え方の確認と度数調整表5遠方が見えにくい場合の度数調整1.優位眼の球面度数をマイナス側に追加矯正両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認2.両眼の球面度数をマイナス側に追加矯正両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認3.優位眼を単焦点SCLに変更(モディファイド・モノビジョン法)両眼での遠方視確認→両眼での近方視確認表6近方が見えにくい場合の度数調整1.非優位眼の球面度数をプラス側に追加矯正両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認2.非優位眼の加入度数を高い度数に変更両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認3.両眼の加入度数を高い度数に変更両眼での近方視確認→両眼での遠方視確認

軽度円錐角膜に対する屈折矯正

2020年12月31日 木曜日

軽度円錐角膜に対する屈折矯正RefractiveCorrectioninMildKeratoconus島﨑潤*はじめに円錐角膜の検査・診断はこの10年余りの間に大きな進歩を遂げた.その結果,より早期に正確な診断が可能となり,その自然経過に関する理解も進んだ.さらに治療面でも数多くの新しい方法が開発され,患者の年齢や進行度,ライフスタイルに合わせた治療を選択する時代に入ってきている.本稿では,とくに軽度の円錐角膜患者に対する治療法と屈折に与える影響について述べる.I円錐角膜は重度になる前に介入するべき円錐角膜の治療手段が増えたとはいえ,重症例に対する治療法は限られている.ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)による矯正は進歩したが,最重症例ではいまでも角膜移植が唯一の治療法となることも少なくない(図1).角膜移植による治療法も,深層層状角膜移植の術式改良やフェムトセカンドレーザーの応用などで進歩しているが,できる限りこの「最後の手段」を使わずにすむように対処することが重要である.また,HCLもデザインの改良や角膜トポグラフィの結果を取り入れたフィッティング,ピギーバック法や強膜レンズの使用などの進歩があった.しかしながら,中等度以上の円錐角膜でのコンタクトレンズ使用は,異物感やレンズのずれ・脱落,角膜形状の変化に伴う頻繁なレンズ交換や紛失に伴う費用負担などにより,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を損なっており,こうした面でも疾患の進行抑制が重要となる.II円錐角膜の進行停止かつて円錐角膜は,「30歳をすぎると進行しない」といわれていた.しかしながら,主として検査機器の進歩により,一部の患者では30歳代以降になっても進行することがわかってきた.図2は大阪大学のグループによる円錐角膜の角膜曲率の自然経過のデータであるが,30歳代以降も進行(グラフでは右肩下がりで示される)する例が少なくないことがわかる1).グラフでの+印は,急性水腫を起こした症例である.急性水腫を起こすと,実質瘢痕のために視力回復が妨げられる例があり,また角膜移植を行う際も全層角膜移植に限定されるため,この合併症を起こさないような介入が望ましい.III円錐角膜進行予防策:角膜クロスリンキング現在までのところ,円錐角膜の進行を効果的に抑制することが証明されているのは,角膜クロスリンキング(cornealcrosslinkng:CXL)のみである.以前は,HCL(とくにフラットに処方したもの)やあとに述べる角膜内リング(intracornealringsegment:ICRS)も進行抑制効果がある可能性を指摘されていたが,現状これらは角膜形状の変化はもたらすものの,進行そのものを抑制する効果については否定的に考えられている.CXLは,角膜にリボフラビンを点眼したのちに,長波長紫外線を照射することにより光化学反応を起こして*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)1511角膜前面のBFS軽症87651020304050Age[years]607080[mm]重症図2円錐角膜の年齢別進行Y軸で下方にいくほど重症度が増していることを示す.(文献1より引用)図1円錐角膜の重症度別治療法の概念2020kmax0kmax10kmin0kmin10kapex0kapex10beforeCXL10yearsafterCXL0図3角膜クロスリンキング(標準法)10年間の角膜曲率および乱視度数の変化(文献6より引用)80108MeanvalueinD606404り,照射時間を短縮した方法が高速照射法である3).ただし,CXLでは酸素を消費するので,紫外線強度をC45.0CmW/cm2以上にすると架橋効果が低下する.Cc.経上皮照射法(transepithelialCXL)上皮を掻爬しないで行うCCXLである.リボフラビン点眼液に,塩化ベンザルコニウムやエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraaceticacid:EDTA)などで上皮細胞間タイトジャンクションを弱めることでリボフラビンを実質に浸透させる4).標準法に比べて,術後の痛みが少ない,感染症の頻度が低いといった利点がある.Cd.カスタム照射法円錐角膜の角膜形状に合わせて,もっとも突出している部分に強く紫外線を照射し,その周辺に強度を弱めた紫外線を照射することで,突出部分を平坦にする試みである5).CXLに屈折矯正効果をもたせることを期待させる治療であるが,まだデータが少なく評価は定まっていない.C2.CXLは効果があるのかこれまでの数多くの報告から,少なくとも標準法においては円錐角膜の進行抑制効果が十分にあることが示されている.メタアナリシスを含むほぼすべての報告で,CXLの施行後,90%以上の症例で円錐角膜の進行が停止したとされている.近年発表されたC10年間の長期成績でも,90%以上の症例で円錐角膜の進行停止が認められ,再照射を要したものはC2眼(5.9%)であった6).年齢の若いもの,アトピー性皮膚炎を伴うもの,頻繁に眼をこする例ではCCXL施行後も進行が認められるとした報告が多い.しかし,エビデンスはないものの,こうした症例でもCCXLを施行しなかった場合と比べると進行の抑制が得られた可能性が高い.わが国ではCKatoらが行った日本人の円錐角膜症例における臨床研究で,CXLはC90%以上の症例で円錐角膜の進行を停止させていた7).高速照射法と経上皮照射法についても,一部の報告で標準法より効果が低いという報告はあるものの,大半の症例で進行抑制効果があることが示されている8.11).3.CXLの屈折矯正効果CXLの目的の第一は,その進行を抑制することにあるが,程度は少ないながら角膜の平坦化が得られる.ほとんどの報告では,裸眼視力,矯正視力の改善も認められた(図3).この結果は,歴史の長い標準法では明らかであり,高速法や経上皮照射法ではやや程度が軽いことを示唆する報告もあるが,ある程度の屈折矯正効果(遠視化,乱視軽減)が得られることが示されている6.12).C4.CXLは安全なのかCXLでは,重篤な合併症を生じることはまれであると示されている.CXLで起こりうる合併症を表1に示す.術直後は,上皮障害に伴う感染のリスクに気をつける必要がある.疼痛に対して治療用ソフトコンタクトレンズを装用させることが多いが,まれに上皮欠損の遷延が生じる.術後C1.2週間後に角膜実質の炎症細胞浸潤がみられることがある.治療はステロイド点眼の増量で大半の例で対応可能である.術後C1.3カ月では実質のびまん性混濁(haze)やCdemarcationline(架橋された表層から中層の角膜実質とされていない深層の実質との境界線の発生)などが発生する.時間の経過とともに自然治癒することが知られており,視機能にはほとんど影響しないことが多い.そのほか,頻度の低い合併症としては,術後上皮再生遅延,感染,非感染性角膜浸潤,遅発性実質瘢痕,持続性平坦化などが報告されているが,全体として術後に視機能を大きく損なうような重篤な合併症の発生はまれであり,安全な治療といえる.C5.CXLの治療における位置づけ従来,制御することができなかった円錐角膜の進行をCXLで抑制できるようになった意義は大きい.CXLはこれまで世界で数C10万件以上行われており,その効果と安全性は立証されたといえる.現在では,進行性円錐角膜の標準治療と位置づけられ,将来の角膜移植への移行を防ぐことで患者のCQOLや医療経済的にも改善をもたらすと考えられている13,14).一方で,屈折矯正手段としてはCCXLの効果は限定的であり,次項以降の屈折矯正法と組み合わせることで,安全性を高めつつ矯正効果(49)あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1513表1角膜クロスリンキングの合併症発症時期合併症頻度特徴治療術後早期(数日.1週間)上皮治癒遅延まれ遷延性の上皮欠損治療用コンタクトレンズドライアイ治療感染(細菌・真菌性)まれ強い毛様充血・前房内炎症,細胞浸潤感受性のある抗菌薬投与無菌性炎症7.6%上皮掻爬縁に沿った白っぽい上皮下細胞浸潤毛様充血は感染より弱いステロイド点眼・全身投与術後1.3カ月CHazeCDemarcationlineほぼ全例浅層.中層の角膜実質に微細な混濁Hazeのある層と透明な深層との間の境界線3.6カ月で自然治癒術後C6カ月以降実質深層混濁3.0%中央.傍中央部の実質深層に混濁と平坦化術後C1年以降持続性平坦化不明術後角膜形状が平坦化し続ける.C5年以上経っても平坦化が持続する症例もある表2角膜内リングの種類IntacsCIntacsSKC*Keraringメーカーと所在国AdditionTechnology社(米国)AdditionTechnology社(米国)Mediphacos社(ブラジル)長さ(弧の角度)C150°C150°90.3C40°断面形状六角形楕円形三角形厚み0.25.C0.45Cmm0.25.C0.45Cmm0.15.C0.35Cmm中心からの距離(内径)C6.77CmmC6.0Cmm5.0.6C.0Cmm中心からの距離(外径)C8.10CmmC7.30CmmCNA*FerraraRing(AJLOphthalmic社)と同規格.図4ICRS術後の前眼部写真図5円錐角膜に対する有水晶体眼内レンズ挿入の等価球面度数と乱視度数の経時的変化(文献C24より引用)通常の近視眼とあまり違いがなく良好であった.さらに,.1.50Dを超える近視,および+1.0Dを超える遠視になった例はなく,屈折の安定性もきわめて良好であった(図5).これらのことより,円錐角膜に対する有水晶体眼内レンズの挿入は,屈折矯正手段として有用で安全あることが示めされたと考えられる.ただし,非進行性であることの見きわめが重要であることは間違いなく,また収差に関連する視機能の不良は解決されないことには留意が必要である.文献1)FujimotoH,MaedaN,ShintaniAetal:Quantitativeeval-uationCofCtheCnaturalCprogressionCofCkeratoconusCusingCthree-dimensionalCopticalCcoherenceCtomography.CInvestOphthalmolVisSci57:OCT169-OCT175,C20162)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20033)GatzioufasZ,RichozO,BrugnoliEetal:Safetypro.leofhigh-.uencecornealcollagencross-linkingforprogressivekeratoconus:preliminaryCresultsCfromCaCprospectiveCcohortstudy.JRefractSurg29:846-848,C20134)DaxerCA,CMahmoudCHA,CVenkateswaranRS:CornealCcrosslinkingandvisualrehabilitationinkeratoconusinoneCsessionCwithoutCepithelialdebridement:newCtechnique.CCornea29:1176-1179,C20105)SeilerTG,FischingerI,KollerTetal:Customizedcorne-alcross-linking:one-yearCresults.CAmCJCOphthalmolC166:14-21,C20166)RaiskupCF,CTheuringCA,CPillunatCLECetal:CornealCcolla-gencrosslinkingwithribo.avinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearCresults.CJCCataractCRefractSurg41:41-46,C20157)KatoCN,CKonomiCK,CShinzawaCMCetal:CornealCcrosslink-ingCforCkeratoconusCinJapaneseCpopulations:oneCyearCoutcomesCandCaCcomparisonCbetweenCconventionalCandCacceleratedCprocedures.CJpnCJCOphthalmolC62:560-567,C20188)KobashiCH,CTsubotaK:AcceleratedCversusCstandardCcor-nealCcross-linkingCforCprogressivekeratoconus:aCmeta-analysisCofCrandomizedCcontrolledCtrials.CCorneaC39:172-180,C20209)ShajariCM,CKolbCCM,CAghaCBCetal:ComparisonCofCstan-dardCandCacceleratedCcornealCcross-linkingCforCtheCtreat-mentCofkeratoconus:aCmeta-analysis.CActaCOphthalmolC97:e22-e35,C201910)ZhangCX,CZhaoCJ,CLiCMCetal:ConventionalCandCtransepi-thelialcornealcross-linkingforpatientswithkeratoconus.PLoSOne13:e0195105,C2018(53)11)ZiaeiCM,CVellaraCH,CGokulCACetal:ProspectiveC2-yearCstudyCofCacceleratedCpulsedCtransepithelialCcornealCcross-linkingCoutcomesCforCKeratoconus.Eye(Lond)C33:1897-1903,C201912)LiJ,JiP,LinX:E.cacyofcornealcollagencross-linkingfortreatmentofkeratoconus:ameta-analysisofrandom-izedcontrolledtrials.PLoSOne10:e0127079,C201513)GodefrooijCDA,CGansCR,CImhofCSMCetal:NationwideCreductionCinCtheCnumberCofCcornealCtransplantationsCforCkeratoconusfollowingtheimplementationofcross-linking.ActaOphthalmol94:675-678,C201614)LeungVC,PechlivanoglouP,ChewHFetal:CornealcolC-lagenCcross-linkingCinCtheCmanagementCofCkeratoconusCinCanada:aCcost-e.ectivenessCanalysis.COphthalmologyC124:1108-1119,C201715)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nusCwithCintracornealCrings.CJCataractCRefractCSurgC26:C1117-1122,C200016)MiraftabM,HashemiH,HafeziFetal:Mid-termresultsofCaCsingleCintrastromalCcornealCringCsegmentCforCmildCtoCmoderateCprogressiveCkeratoconus.CCorneaC36:530-534,C201717)ZareCMA,CHashemiCH,CSalariMR:IntracornealCringCseg-mentCimplantationCforCtheCmanagementCofkeratoconus:CsafetyCandCe.cacy.CJCCataractCRefractCSurgC33:1886-1891,C200718)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:Complica-tionsCofCintrastromalCcornealCringCsegmentCimplantationCusingCaCfemtosecondClaserCforCchannelcreation:aCsurveyCofC850CeyesCwithCkeratoconus.CActaCOphthalmolC89:C54-57,C201119)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C7版).日眼会誌C123:167-169,C201920)AlfonsoCJF,CFernandez-VegaCL,CLisaCCCetal:CollagenCcopolymertoricposteriorchamberphakicintraocularlensinCeyesCwithCkeratoconus.CJCCataractCRefractCSurgC36:C906-916,C201021)AlfonsoCJF,CPalaciosCA,CMontes-MicoR:MyopicCphakicCSTAARcollamerposteriorchamberintraocularlensesforkeratoconus.JRefractSurg24:867-874,C200822)KatoCN,CTodaCI,CHori-KomaiCYCetal:PhakicCintraocularClensCforCkeratoconus.COphthalmologyC118:605-605,Ce602,C201123)SedaghatCM,CAnsari-AstanehCMR,CZarei-GhanavatiCMCetal:ArtisanCiris-supportedCphakicCIOLCimplantationCinCpatientswithkeratoconus:areviewof16eyes.JRefractSurg27:489-493,C210024)KamiyaCK,CShimizuCK,CKobashiCHCetal:Three-yearCfol-low-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationCforCtheCcorrectionCofChighCmyopicCastigma-tismineyeswithkeratoconus.BrJOphthalmol99:177-183,C2015あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020C1517

眼鏡,コンタクトレンズ処方

2020年12月31日 木曜日

眼鏡,コンタクトレンズ処方PrescriptionofContactLensesandGlasses梶田雅義*はじめに従来の眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方は遠方視力を基準にして処方されていた.しかし,現代の情報化社会では近くに多くの情報が集中しているため,眼鏡やCLの処方にも近方視の配慮が必要になってきている.近方視で問題になるのは,近方にピントを合わせるための調節と,近方を両眼視するための輻湊の負荷の増大である.たとえ,両眼で良好な視力と両眼視ができていても,それらの負荷が大きければ,眼精疲労の原因になりうる.実際に,調節と輻湊負荷が原因で眼精疲労を発症している患者は急増してきている.本稿では,現代人の眼に快適な矯正を提供する方法について述べる.I現代人の視環境の変化IT機器の進歩によって,視機能にかかる負担が変化してきている.1980年代にデスクトップタイプのパーソナルコンピューター(パソコン)が普及しはじめたときに,眼精疲労を訴える患者が増加し,巷ではテクノストレス眼症とよばれるようになった.その対象は中高齢者であった.その後,ノート型パソコンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者はさらに増加し,IT眼症ともよばれるようになった.対象者は若い世代までに広がった.そして2010年代になり,スマートフォンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者は急激に増加し,巷では,スマホ老眼・スマホ斜視などとよばれるようになり,その対象は全世代に拡散してきている.II屈折異常のタイプによって異なる視機能異常1.近視裸眼で近くは見えるが,遠方視には矯正用具の補助が必要である.この裸眼で近くがよく見えるが,スマホ老眼やスマホ斜視を引き起こしている.裸眼で近くが見えるため,長時間の近方視には矯正用具の使用が煩わしく感じられるため,裸眼で過ごしてしまう習慣ができてしまう.日常の生活も眼鏡やCLを使用せずに裸眼で過ごしてしまう状態が常在化してしまった結果,どうしても遠くを見なければならない事情が生じた場合に,これまで快適に使用できていた眼鏡を装用すると,視野は歪み,近方視時に強く輻湊していた効果が残存して,複視を生じる(スマホ斜視).眼鏡を通して近くを見ようとするとピントが合わせられない(スマホ老眼).外斜位傾向のある症例では,裸眼での近方視時にかかる輻湊負荷を回避するために,近方を片眼視する習慣が定着し,外斜視を発症していることも多く,複視の自覚を回避するための視野闘争が生じている症例も増加している.2.遠視一般には遠くがよく見える眼と思われているが,実際には調節努力を行わなければ近くにも遠くにもピントが*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)1503合わない眼である.長時間の近方視を強いられることによって,調節機能に異常が生じやすい.完全な老視眼になる前であれば,視力測定では遠方視力も近方視力も良好であり,調節力も十分に発揮できることから,視機能に異常なしと判断され,眼精疲労の原因が特定されず,体調不良に陥っている症例が増加している.これに眼位異常が加われば,めまいや悪心・嘔吐の症状も加わり,治療の主体が眼科から遠ざかっていることも少なくない.3.乱視一経線方向とそれと直交する方向に同時にピントが合わない眼である.本人は生まれながらにそのような見え方をしているので,ほとんど気にしていない場合が多い.日常生活や大きな文字ならばそれほど問題になることはないが,パソコンやスマホで数値を扱ってみると,1・4・7や3・6・8の数字の判別が困難な症例が多いが,ほとんど自覚していない.「表計算などでミスを犯すことが多くありませんか?」と問うとほとんど適中する.情報端末が小型化している社会では,乱視を適切に矯正することは必須の条件である.III現代人に必要な視機能矯正情報過密化社会にあっては,あらゆる距離に情報が提示されているため,社会適応をするためには,遠方から近方までどの距離も快適に明視することが望まれる.従来のように手元が見えづらくなったら老眼鏡を処方するという方法では対応できない.携帯情報端末を使用する機会が多い患者では,屈折検査に続いて必ず眼位検査を行い,内斜位傾向がある場合には調節輻湊介入の可能性を念頭に,外斜位傾向にある場合には斜位近視介入の可能性を念頭に,矯正を進めることが必要である.1.近視眼の矯正眼位異常がない場合には,片眼の自覚屈折値を参考に両眼同時雲霧法で,両眼視で快適な視力が得られる屈折値を求めて,矯正度数を決定する.内斜位傾向がある場合には,調節緊張状態である可能性が疑われるため,調節機能検査を行い,必要に応じて調節治療を行ってから矯正度数を決定する.外斜位傾向がある場合には,眼位矯正に必要なプリズム量を求め,プリズムなしで測定した両眼同時雲霧法の結果と,プリズムを入れて測定した両眼同時雲霧法の結果を比較し,プリズムを入れないほうが過矯正傾向にある場合にはプリズムを入れた矯正度数で処方する.2.遠視眼の矯正矯正度数の求め方は近視眼の場合と同じでよいが,矯正経験のない遠視眼では,眼鏡を通した見え方に適応できない場合も少なくない.この場合には,遠用度数は自覚的に満足できるギリギリまで低矯正にして,遠近両用累進屈折力レンズを用いて低矯正にした分くらいを加入度数に入れると,初期装用感を改善できる.3.乱視眼の矯正0.75D以上の乱視がある場合には,数字の読み取りミスが起こりやすいことを説明し,「ミスが多くなると他人からの信頼度が低くなる」ことを伝えると,乱視矯正に同意が得られやすい.乱視矯正したあとの球面度数の求め方は近視眼の場合と同じである.小児の頃から乱視を矯正していた中等度以上の乱視眼患者は,眼鏡による矯正にまったく問題のないことが多い.しかし,眼鏡で乱視が適切に矯正される面積は乱視が強くなるほど狭くなるため,眼の疲れや数字の読み取りミスが多いなどの状態が聞き出せた場合には,CLによる乱視矯正が奏効する.乱視が強すぎてCLで乱視が十分に矯正しきれない場合には,CLと眼鏡をあわせて矯正するのも快適矯正の一つの方法である.IVIT機器の変遷に伴う処方眼鏡レンズの変化梶田眼科で処方した処方眼鏡の種類を集計してみた.30.60歳を対象とした.調査の範囲を1期:ノートパソコンが普及した2004年,2期:スマートフォンが普及しはじめた2008年,3期:スマートフォンがすべての世代に普及した2018年,そしてテレワークが推奨されるようになったコロナ禍の2020年5月.10月に処方した眼鏡の種類を集計した.対象者は1期:73例,1504あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(40)表1眼鏡処方実数(割合%)表2処方実数(プリズム入り眼鏡の数)1期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力15(20.5)53(15.2)16(1.9)11(3.4)37(50.7)205(58.9)821(95.1)297(91.1)0(0.0)0(0.0)2(0.2)4(1.2)18(24.7)35(10.1)14(1.6)14(4.3)3(4.1)35(10.1)4(0.5)0(0.0)0(0.0)20(5.7)6(0.7)0(0.0)計733488633261期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力2(13.3)16(30.2)6(37.5)6(54.5)1(2.7)85(41.5)413(50.3)257(86.5)0(0.0)0(0.0)1(50.0)2(50.0)0(0.0)14(40.0)5(35.7)11(78.6)1(33.3)1(2.9)1(25.0)0(0.0)0(0.0)9(45.0)3(50.0)0(0.0)1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.表3視力判定基準標準閾値準標準閾値1視標1正答2視標2正答3視標3正答4視標3正答5視標3正答5視標4正答6視標4正答7視標4正答8視標5正答9視標5正答10視標6正答Landolt環だけの視標であれば,標準閾値を用いる.文字視標も含む視標であれば,準標準位置値を用いる.cdbe図1調節機能解析装置a:ライト製作所社製アコモレフ2.b:ニデック製AA-2.c:スマホ老眼衰弱タイプのFk-map所見.16歳女性.弱度の近視で,眼鏡を使用しないでスマホを操作していた.眼鏡をかけると近くがぼけると訴えて来院した.眼鏡を常用するように指導したところ,症状は改善してきた.d:スマホ老眼緊張タイプのFk-map所見.11歳男児.右眼が弱度近視性乱視,左眼が弱度混合乱視の不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼の奥の痛みを訴えて来院した.調節ができていない割に,HFC値は高かった.眼鏡を処方し,常用を行ったところ,症状は改善した.e:スマホ老眼テクノストレス眼症傾向のFk-map所見.11歳女児.両眼弱度近視眼で不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼が外に向くことが多くなったと母親が気になり来院した.外斜位を認めた.調節が十分にできないため,右眼は遠方,左眼は近方と交代視になっており,60.70cmの距離にピントが合わない状態であることがわかる.眼鏡を処方し,装用したところ,眼位は正位を維持できた.表4両眼同時雲霧法の手順1.両眼とも良好な矯正視力が得られており,不同視がないことを確認する.(球面屈折値の左右差が2D以下)2.自覚的屈折測定で得られている円柱レンズ度数および軸度を採用し,検眼枠に装入する.3.自覚的屈折測定で得られている球面レンズ度数に+3.0Dを加えた検眼球面レンズを両眼に装入する.4.両眼開放の状態で,両眼を同時に0.50Dずつ視力を確認しながら,レンズ交換法に従って検眼レンズ度数をマイナス側に移す.5.矯正視力値が0.5.0.7程度に達した状態で,左右眼のバランスを調整する.6.さらに,両眼同時に0.25Dづつレンズ交換法を継続し,両眼視で適切な矯正視力が得られる屈折値を求める.表5トライアルレンズのベースカーブ選択基準角膜乱視選択のベースカーブ参考値0.00.0.50D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど大きい値0.75.1.25D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど大きい値1.50D弱主経線の曲率半径にほぼ一致するもの1.75.2.00D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど小さい値2.25.2.75D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど小さい値涙液HCL角膜フィッティングフラットパラレルスティープ涙液レンズマイナスレンズプラノレンズプラスレンズ図2ハードコンタクトレンズのフィッティング上段:フィッティングの評価フラット:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがゆるい状態.角膜前面とHCL後面の間にマイナス度数を持つ涙液レンズが形成される.パラレル:角膜曲率とHCLのベースカーブが一致している状態.角膜前面とHCL後面の間に涙液レンズは形成されない.スティープ:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがきつい状態.角膜前面とHCL後面の間にプラス度数をもつ涙液レンズが形成される.涙液レンズは矯正度数として機能するため,眼鏡矯正度数からHCL度数を換算するときには,矯正に必要なコンタクト度数に加減する必要がある.標準のベースカーブの範囲ならば,角膜弱主経線曲率半径とベースカーブの差0.05mmが0.25Dと近似できる.下段:涙液のフルオレセイン染色HCLの中央(赤線枠内)の染色を観察する.フラット:中央部は角膜に強く接触し,周辺部には浮きが生じるため,中央部のフルオレセイン染色はほとんどなく,周辺部涙液が強く染色される.中央部は暗く,周辺部が明るく観察される.パラレル:範囲内はほぼ均一に薄く染色される.この写真はわずかにフラット気味である.スティープ:中央部に染色された涙液がプールしているため,中央部は明るく,周辺部は暗く観察される.スカーブ/球面度数/サイズを記載する.角膜乱視が3.50を超える場合には,後面トーリックHCL,両面トーリックHCL,ベベルトーリックHCLの処方を検討する.2.SCLの処方手順a.ベースカーブの選択SCLの理想的なベースカーブは角膜弱主経線に0.8.1.2mmを加えた値であることを念頭に置いて,レンズ銘柄によって異なるベースカーブを選択する.角膜曲率は中央部と周辺部で大きく異なっている場合もあるので,実際にはフィッティングで確認する以外にない.SCLのフィッティング確認のポイントは,①瞬目ごとに適度な動きがある.正面視で動きがわずかでも,上方視の瞬目で適切な動きが観察されればよい.瞬目によってまったく動きが観察されない場合には,指で下眼瞼を押し上げたときにSCLがスムーズに動けばよい(プッシュアップ法).②SCLのセンタリングがよく,角膜を十分に覆っている.下方へずれる場合にはベースカーブを大きくする.上方にずれる場合にはベースカーブを小さくする.③SCLの周辺部が結膜を圧迫していない.SCL周辺部で結膜に段差ができていたり,結膜血管に脈流がみられたりする場合には,フィッティングはタイトである.固着していれば別の銘柄のレンズを試し装用する.適切なフィッティングはSCLを安全に使用するために非常に大切である.b.レンズサイズの選択一部のSCL以外ではレンズサイズは銘柄ごとに定められており変更できない.c.レンズ度数の決定眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の円柱度数が0.75D以下であれば,等価球面度数を頂点間距離補正した値に近い度数のトライアルレンズを選択して試し装用を行う.乱視が1.00.3.50Dの範囲であれば,眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の強弱主経線それぞれの頂点間距離補正を求め,SCLで必要な乱視度数と球面度数を求め,それに近い値のトライアルレンズを装用して目的とする良好な矯正視力が得られれば,処方は完了で(45)ある.d.処方データの決定試し装用に用いたトライアルレンズの銘柄とベースカーブ,球面度数・サイズ,乱視用SCLならば銘柄とベースカーブ,球面度数・円柱度数・円柱軸度,サイズを記載する.HCLもSCLも銘柄によってフィッティングも矯正効果も異なるため,処方時には必ず銘柄も記載することが必要である.眼の疲労の訴えがある場合には,遠近両用CLが奏効することも多いので,試すことをお勧めする.VIII眼位異常者へのCL処方眼鏡ではプリズム矯正が可能であるが,CLではプリズム矯正ができない.しかし,強度の屈折異常眼では眼鏡よりもCLのほうが視野の歪みが少なく,快適な視界が得られるため,眼位異常があっても,CL矯正を望む人も少なくない.このような場合には,①左右眼の矯正に0.75.1.50Dの差を付けたモノビジョン矯正を行う.②強度屈折異常はCLで矯正し,CLとプリズム眼鏡を同時に使用する.などで対応すると快適な矯正を提供できることがある.おわりに携帯情報端末の普及によって作業環境が大きく変化してきており,従来のデスクトップモニターを使用していた時代に比べて,スマートフォンやタブレットPCのような小さな画面は自ずと視距離が短くなっている.これに伴い,ピント合わせの調節にかかる負担も両眼視のための輻湊にかかる負担も大きくなってきている.老視を自覚し,近方視に不自由が生じてきてから老眼鏡を提供するというような処方では適切とはいえない.年齢に関係なく,個人の調節機能・眼位状態に配慮した矯正が必要である.眼鏡・CLで提供したいのは,良好な遠方視力だけではなく,快適な視界,社会適応しやすい視機能である.あたらしい眼科Vol.37,No.12,20201509

近視の外科的治療

2020年12月31日 木曜日

近視の外科的治療SurgicalTreatmentofMyopia稗田牧*I近視の外科的治療のいま近視矯正手術は大都会の専門クリニックで行われる特殊な手術で,受けるためには長距離移動をしなくていけないというわが国の近視矯正手術事情も,「新しい生活様式」で変わりはじめている.新型コロナウィルスの影響で,三密を避ける,マスクを装用するに加えて,移動を少なくすることも普通のことになりつつある.これからは,地域に根ざした保険診療にも取り組んでいる総合的な眼科施設で近視矯正手術を受けることが増えるはずである.近視は日本でもっとも有病率の高い疾患であり,近視が失明や低視力の原因1)であり,経済活動のマイナス要因になる2)ことを示す報告がこの数年,あいついでなされている.近視進行予防,光学的矯正,病的近視の治療に近視矯正手術も加えて,近視を総合的に診療していかなくてはならない.CII近視矯正手術の種類と診療形態近視の矯正手術には大きく分けて,角膜屈折力を変化させる角膜屈折矯正手術(cornealCrefractivesurgery)と,眼内レンズを使った手術(lens-basedsurgery)とがある.眼球光学系の屈折要素に変化を与えることで効果を発揮する治療である.特殊な近視として角膜屈折力が著しく増加した円錐角膜がある.ハードコンタクトレンズによる矯正が標準治療ではあるものの,進行予防,矯正手術などの外科治療が世界的に標準的な治療となっている.わが国では角膜クロスリンキング(cornealcrosslinkig:CXL),角膜内リングは未承認の治療である.白内障による近視もある.核白内障では近視化が進み,皮質白内障では遠視化をきたす.この場合,白内障手術を行うことで,保険診療の範囲内で近視と水晶体混濁を治療できる.多焦点眼内レンズを使用すると眼鏡依存度をさらに減らすことができる.これらの屈折矯正手術の多くはC100%自己負担の自由診療として行われている.国内で承認された多焦点眼内レンズについては選定療養という枠組みでレンズ代だけ自己負担で診療が行われている.眼鏡,コンタクトレンズ費用が自己負担C100%であることに比較すると,保険診療で行われる白内障手術では眼内レンズはC30%の負担ですんでいる.自由診療のなかでも,承認された医療機器,薬剤を使用している場合と,未承認のものを使用する場合とでは,その意味合いは異なってくる(図1).承認されたものであれば,自由診療で行うことは自由である.しかし,未承認の医療機器や薬剤を使った治療を導入する前向き臨床研究を行う場合には特定臨床研究となり,厚生労働大臣に研究計画書を提出しなくてはならない(図2).未承認の医療機器や薬剤による治療は,患者に最適な治療として,医師の裁量で行われることは禁止されてい*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(33)C1497図1保険診療か保険診療以外か自由診療のなかには承認された治療と未承認の治療がある.コンタクトレンズ処方は保険診療なので自己負担はC30%ですむ.図2臨床研究法時代の未承認治療の位置づけ未承認治療の有効性・安全性を確かめる研究を行うには特定臨床研究をしなくてはならない.図3レーシック図4PRKフラップを作製して角膜実質にエキシマレーザーを角膜上皮を.離してCBowman膜からエキシマレー照射する.ザーを照射する.図5角膜クロスリンキング図6角膜内リングリボフラビンが浸透した角膜に紫外線を照射することで角膜実質内の深い位置にプラスチック製のリングが埋めコラーゲンを架橋する.込まれている.図7アイシーエル毛様溝にソフト素材のレンズが挿入されている.水晶体とレンズの間に空隙がある.表1レーシックとアイシーエルの違いレーシックアイシーエル矯正精度中程度近視まで良好変化なし強度近視で増加強度近視で良好強度近視で改善する変化なし増加(スリット型)コントラスト感度高次収差円錐疑い不適応適応のことあり眼内操作なし角膜潰瘍あり眼内炎感染症アイシーエルの高次収差は測定機器によって差が大きい.

小児白内障に対する眼内レンズの選択

2020年12月31日 木曜日

小児白内障に対する眼内レンズの選択OptimalIOLSelectionforPediatricCataractSurgery日下俊次*はじめに小児白内障に対する手術は症例数が少ないことや全身麻酔が必要なこともあり,治療をてがける施設は限られているが,患児の術後何十年に及ぶ期間の視機能を左右する重要なものである.小児では眼が解剖学的,機能的に成長途上にあるため,術後に屈折値変化が生じること,形態覚遮断弱視になっている場合には弱視治療が必要となることなど,成人と違ったさまざまな特徴がある.また,とくに低年齢児では外来での眼軸長測定,角膜屈折値測定が困難で,しばしば全身麻酔下でこれらの検査を行う必要があるといったことも,成人例に対する治療との相違点としてあげられる.本稿では小児白内障のさまざまな問題点のうち,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の選択を中心に概説する.CIIOLの適応小児に対するCIOL挿入は,添付文書上,永らく禁忌とされてきた.しかし,日本眼科学会などによる要望を受け,平成C23年にCIOL適応の見直しがなされ,小児に対するCIOL使用は他のぶどう膜炎や進行性糖尿病網膜症などとともに禁忌ではなくなった.現在,IOLの添付文書には以下のように記載されている.「小児については,小児の特性等について十分な知識と経験を有する眼科専門医のもとで眼内レンズ挿入術を行うこと.特にC2歳未満の小児においては,眼球のサイズから器具の挿入や操作が難しくなること,成長に伴う眼軸長の変化によって再手術の可能性が高くなることが報告されていることからも,その旨を含めた十分なインフォームドコンセントを保護者に対して行うとともに,リスクとベネフィットを考慮の上で慎重に適用すること」.すなわち,この文言に則って診療を行う限り,年齢制限は撤廃されたと考えることができる.では実際にはどうすべきであろうか.近年,米国で行われた生後C1.6カ月の片眼性白内障を対象とした多施設前向きランダム化比較試験(InfantCAphakiaTreatmentStudy:IATS)1)では,IOL挿入例とCIOL非挿入例(術後はコンタクトレンズ矯正)のC4歳半時点での成績を比較し,両群間で矯正視力に差はないものの,IOL挿入例で有意に術後合併症や追加手術が多かったことが示された.この結果を受けて,現在,米国では生後C6カ月以内の児にCIOL挿入は原則行われていない.また,生後C3カ月の水晶体直径はC7.1Cmm,生後3.6カ月でC7.7Cmm,核と皮質を吸引し水晶体.の状態でもこれにC1Cmm程度加えたサイズであるため2),全長10Cmm以上あるCIOLを挿入するにはかなり無理があると思われる.また,この時期は眼球の成長も速く,適切なCIOLの度数設定が困難である.わが国での小児白内障に対する多施設アンケートの結果3)によると,IOL挿入を行う最小年齢は,2歳がC41.2%ともっとも多く,55.8%の施設がC2歳以上であった.ただし,2歳未満がC17.6%,年齢制限を設けていないと回答した施設もC23.5%あり,施設による適応の違いが*ShunjiKusaka:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕日下俊次:〒589-8511大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C1491ある.現在,近畿大学病院(以下,当院)では,基本的に対象症例がC1歳半以上であれば両親とよく相談し,希望された場合にCIOL挿入を行っている.それより低年齢の児では水晶体切除のみを行うことを基本とし,2.3歳以上に成長した時点で両親の希望があればCIOLの二次挿入を行っている.ただし,コンタクトレンズ,眼鏡などで良好な視機能が得られていれば,できる限り大きくなるまで手術を遅らせるようにアドバイスしている.また,水晶体.が虹彩が癒着しているとCIOL挿入を.内,あるいは毛様溝に固定することは容易ではない.IOLの毛様溝縫着あるいは強膜内固定まで想定して手術を行うのかといった慎重な検討が必要である.CIIIOLの度数計算および術後屈折値おおむねC3,4歳以上では成人例と同様に外来での眼軸長測定,角膜曲率測定が可能であることが多いが,低年齢児,精神発育遅滞がある児などでは外来での検査施行が困難なので,手術直前に全身麻酔下での検査(examinationCunderanesthesia:EUA)を他の眼底検査などとあわせて行う必要がある.しかし,EUAでの眼軸長測定は超音波CAモードのプローブを手に持って測定することや,角膜曲率半径も開瞼器をかけた状態(生理的状態とは異なる状態)で手持ちケラトメータを用いて測定するために,精度に劣るという大きな問題がある.IOL度数の計算式に関しては小児白内障であっても,CHolladay1やCSRK/T式で安定した結果が得られていることが報告されている4).小児の場合,術後の狙い度数設定は視力発達・弱視予防の観点から非常に重要である.乳幼児の眼軸長は成長とともに伸長するため,将来の近視化を鑑み,術後屈折値を遠視側に設定することが推奨されている.Enyediら5)は,1歳では+6.0D,2歳では+5.0D,3歳では+4.0D,4歳では+3.0D,5歳では+2.0Dを目標にすることを提唱している.しかし,たとえば術後+6.0Dの遠視としてしまうと,術後早期に眼鏡装用が必要となり,視力発達,弱視予防の観点からは不利である.また,近視化の程度には個人差があり,近視化の程度が弱いと,将来的に遠視が残ってしまうことになる.一方,術後屈折値を正視に設定すると,術直後は眼鏡装用が不要となり,視力発達を促しやすくなる利点がある.しかし,その場合はCIOL度数が+30.0Dを超えてしまう可能性があり,使用できるCIOLがないということも想定される.また,挿入されたCIOL度数が大きいほど,たとえ同じ眼軸長変化であっても近視化の程度が強いとの説6)もある.当院では,Enyediらの報告を参考にしているが,術直後強い遠視になることのデメリット,とくにCEUAで検査を行う場合には狙いよりさらに遠視側にずれてしまうリスクを考慮し,彼らの推奨値より控えめの遠視度数とし,とくに+3.0以上の狙い度数を避けるようにしている.CIIIIOLの径先述の通り,低年齢児では水晶体.は小さく,7Cmm径のCIOLは挿入困難である.この点ではC5.5Cmm径のIOLが適しているかも知れないが,現時点でCIOLをC5.5mm径に限定するとシリコーン製,PMMA(polymethylmethacrylate)製のCrigidIOLといった選択肢となってしまう.当科ではおもにC6Cmm径のCIOLを使用している.Pandeyら7)はC2歳未満およびC2歳以上のそれぞれの群で,摘出された小児CIOL挿入眼におけるCIOLの状態を検討し,もっとも水晶体.の歪みが少なかったのは,光学部径がC5.5Cmmで光学部・支持部ともにアクリル素材でできているワンピースCIOLであったこと,また,光学部径がC6.0Cmmで支持部がCPMMAの場合は,水晶体.が支持部に牽引され,.が大きく変形していたことを報告した.しかしながら,5.5Cmm径のアクリル製ワンピースCIOLであっても,生後C5カ月の患児に対して挿入された例では水晶体.の歪みを呈していたことから,やはり生後C6カ月未満の場合,水晶体.の大きさが十分ではなくCIOL挿入は適していないと考えられる.一方,成人と同定度の水晶体.を有するC3,4歳以上の症例では光学径が大きいCIOLのほうが成人,とくに高齢者に比し瞳孔径の大きな小児では適しており,この点ではC7Cmm径CIOLがよいであろう.当院では視軸域の透明性が長期にわたって維持されるCOpticCapture法8)を好んで用いているが,7Cmm径CIOLではレンズ径が大きすぎて,適切な大きさの後.切開を作製することが技1492あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(28)図1小児白内障に対するIOL挿入の手術例患者はC5歳,女児.Ca:層間白内障を認める.b:水晶体吸引はサイドポートから前.下の水晶体上皮細胞も可能な限り吸引,除去した.Cc:後.の連続環状切開を行っているところ.Cd:ワンピースCIOL(本症例はトーリックIOL)を挿入した.Ce:マーカーレスシステム(Callistoeye,CarlZeiss社)を使用し,トーリックCIOLの軸合わせを施行しているところ.Cf:術終了直前.Opticcaptureを用い,IOL支持部は.内,光学部を後.下に固定した.中央部の混濁はCIOL挿入時に迷入した出血で,後.下にあるため洗浄できないが,翌日には消失した.術的に困難である.このような理由もあり,筆者らはおもにC6Cmm径のCIOLを使用している(図1).CIVIOLの種類および素材IOLの素材は,成人と同様に長期間透明性を保持できる疎水性アクリル素材(hydrophobicCacrylic)が多く選択されている.最近,いわゆるCglistening,whiteningなどのCIOLの透明性低下をきたす現象に関して理解が進んできている.同じアクリル素材でも製法などによってはCglistening,whiteningなどをきたしやすいとか,あるいは長期にわたって透明性維持が期待できる,などといった知見も得られてきている.小児の場合,IOLの透明性が長期にわたって維持できるというのはきわめて重要であるので,これらの知見を参考にしてCIOLを選択すべきであろう.デザインとしてはワンピース,スリーピースのどちらも使われているようであり,筆者らが知る限りどちらかが優れているといったエビデンスはない.当院では小さな創口で挿入できること,.が小さな症例でも挿入可能であることなどの理由でワンピースCIOLをおもに使用している.また,筆者らが知る限り着色IOLがよいのかといった点でもエビデンスは得られていないと思われる.筆者らは児の術後の長い人生に鑑み,着色CIOLをおもに使用しているが,これが果たして正しい選択なのか否かは現時点では不明である.CV単焦点IOL,多焦点IOL,トーリックIOL単焦点CIOLで失われる調節力を考慮すると多焦点IOLが,とくに片眼性白内障の児では適しているかもしれない.ただし,小児では術後に屈折値が変化する可能性が高いこと,術後の屈折値が狙いからはずれてしまうこともしばしばみられること,形態覚遮断弱視の可能性がある眼ではコントラスト感度などで単焦点に劣る多焦点CIOLを入れることのデメリットが考えられることなどから,多焦点CIOLが使用されることはほとんどない.当科では単焦点CIOLをもっぱら使用しており,補足的に累進屈折力レンズを眼鏡に用いることで近見,遠見の立体視改善を図っている9).一方,トーリックCIOLに関してはコントラスト感度低下といった問題がなく,小児白内障眼ではしばしば強い直乱視を認める症例があることから,筆者らは積極的に用いている.ただし,加齢に伴う倒乱視化を考慮し,乱視度数の完全矯正ではなく,直乱視を残すようにしている.おわりに小児白内障に対する手術は,難易度が高く,術前後の検査や術後の視能訓練などに手間と時間がかかる割には診療報酬が低く設定されており,経営的な側面からは割に合わない診療となってしまっている.しかし,小児白内障を早期に発見して,適切なタイミングで適切な方法で手術を行うことは,その児の術後の長い人生に大きな影響を与える重要な診療である.IATS1)によってようやくエビデンスレベルの高いデータが得られてきているが,それでもなお,IOLの狙い度数,IOLの素材,デザインなどに関して統一された見解はない.今後は多施設が連携して,IATSのようなエビデンスレベルの高いスタディを日本でも行う必要があると考えられる.文献1)InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup;LambertCSR,CLynnMJ,HartmannEEetal:Comparisonofcontactlensandintraocularlenscorrectionofmonocularaphakiadur-inginfancy:arandomizedclinicaltrialofHOTVoptotypeacuityatage4.5yearsandclinical.ndingsatage5years.CJAMAOphthalmolC132:676-682,C20142)BluesteinEC,WilsonME,WangXHetal:DimensionsoftheCpediatricCcrystallinelens:implicationsCforCintraocularClensesCinCchildren.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC33:C18-20,C19963)NagamotoT,OshikaT,FujikadoTetal:AsurveyofthesurgicalCtreatmentCofCcongenitalCandCdevelopmentalCcata-ractsinJapan.JpnJOphthalmolC59:203-208,C20154)VanderveenCDK,CTrivediCRH,CNizamCACetal;InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup:PredictabilityCofCintra-ocularClensCpowerCcalculationCformulaeCinCinfantileCeyesCwithCunilateralCcongenitalcataract:resultsCfromCtheCInfantAphakiaTreatmentStudy.AmJOphthalmol156:C1252-1260,C20135)EnyediCLB,CPeterseimCMW,CFreedmanCSFCetal:Refrac-tiveCchangesCafterCpediatricCintraocularClensCimplantation.CAmJOphthalmolC126:772-781,C19986)McClatcheyCSK,CHofmeisterEM:TheCopticsCofCaphakicCandCpseudophakicCeyesCinCchildhood.CSurvCOphthalmolC55:174-182,C20101494あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(30)