●連載247監修=山本哲也福地健郎247.緑内障性視神経症と乳頭周囲脈絡網膜萎縮,阪口仁一石川県立中央病院金沢大学眼科乳頭深層微小血管脱落乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)は緑内障眼や近視眼に多く認める所見であり,Bruch膜の有無により,緑内障と関連が深いCb領域,近視と関連が深いCg領域がある.乳頭深層微小血管脱落(MvD)はCOCTangiographyでPPA内に検出される網膜深層の血管脱落であり,種々の緑内障性変化や進行と関連し,近視のみで緑内障がないCPPA内にはまれである.●はじめに緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)を示唆する所見のうち,本稿では乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA)について,そして光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyangiography:OCTA)によって明らかにされた所見である乳頭深層微小血管脱落(microvasculatureCdrop-out:MvD)について,最近の話題を交えて述べる.C●乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)PPAは視神経乳頭周囲にみられる構造変化である.古くから検眼鏡的に緑内障と関連する所見と報告1)されており,検眼鏡的にC2領域に分類2)されていた.スペクトラルドメインCOCTや組織学的検討により,Cb領域内にCBruch膜の有無など組織構造の多様性が存在することが示され,JonasらはCa,b,gの3領域(図1a)に分類することを提唱した.PPAは乳頭形状によりさまざまな形態をとる(図1b,c).PPAは従来から緑内障,近視,加齢などで拡大することが知られていた.そして臨床的には,ある患者におけるCPPAの成因を鑑別するという課題であった.スペクトラルドメインCOCTの登場により領域ごとの特性の解明が進み,Cb領域は緑内障性変化と,Cg領域は近視性図1PPAの分類と形態a:PPAの各領域と,断面のCOCT画像.Ca:青と赤の間.網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)があり,色素がまだらに過剰もしくは乏しい領域.b:赤と緑の間.RPEがなく,Bruch膜が存在する領域.検眼鏡的に脈絡網膜萎縮が強く,大血管や強膜が透見される.g:緑と紫の間.RPEがなく,Bruch膜が存在しない領域.検眼鏡ではCb領域と鑑別しにくい場合がある.Cb:典型的なCPPAとしてよくみられる例で,乳頭耳側からCa→Cb→Cgの順に並ぶ.c:PPAが全周に存在する緑内障眼.脈絡網膜萎縮が強く,Cb領域は広く存在するが,Bruch膜開口部は耳側に引き伸ばされており,Cg領域はCbと大差ない.変化と関連が強いという報告が多い.また,OCTAを用いた研究2)では,Cb領域とCg領域を別々にして重回帰分析したところ,Cb領域のみが網膜血管密度に対する有意な説明変数であった.これらの報告からも,Cb領域は緑内障と,g領域は近視と関連が強いことが示唆される.bc(75)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C750910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2緑内障眼と強度近視眼の比較a:緑内障眼の眼底写真.PPAを認め,耳上側/耳下側の視神経乳頭縁が菲薄化している.Cb:同眼のCOCTA(choroidalslab).耳上側/耳下側に血管構造の描出がない部位(=MvD)を認める.Cc:強度近視眼の眼底写真.広範なCPPA,傾斜乳頭を認める.d:同眼のOCTA.MvDは認めない.C●乳頭深層微小血管脱落(MvD)MvDは,OCTAでCPPA内の深層(choroidalslab)の血管がある程度の幅や角度で完全に脱落している所見3)である(図2).MvDと対応する部位にインドシアニングリーン蛍光造影検査でも血流低下が示されたことから,実際になんらかの循環障害が存在すると考えられる.また,乳頭内から篩状板にかけての血流脱落に連続しているとの報告4)がある.網膜深層血管は篩状板前部とともに短後毛様動脈支配であり,緑内障の発症や進行と血管障害との関連が示唆される.MvDを認める眼の特徴として,耳上側および耳下側に多いこと,視野欠損部位や網膜神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD)部位と対応すること,緑内障の重症度と相関すること,視野進行速度が早いこと,乳頭出血を多く認めること,角度が大きいと中心視野障害をきたしやすいことなどが報告されている.最近の報告では,とくに強度近視患者において,緑内障合併群ではC97%にCMvDを認め,視野欠損部位と良好に対応したのに対し,緑内障のない強度近視眼ではCMvDを認めなかった5).これらの性質からCMvDは緑内障の発症や進行の新たなリスクファクターであると考えられる.ただし,圧迫性視神経症でもCMvDを認めるという報告もあり,MvDの存在が即座に緑内障を意味しないことに注意が必要である.C76あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021●日常診療での活用先述のように,PPA(とくにCb領域)やCMvDはCGONに関連がある所見である.その病態生理や解釈には未解明な部分が残されているが,診断や治療方針の決定,緑内障眼と近視眼の鑑別に役立つ可能性がある.日常診療において,強度近視眼は大きな脈絡網膜萎縮や乳頭の傾斜などのために,検眼鏡的にCGONと区別しにくい場合がある.OCTではCsegmentationerrorのため,内蔵ソフトウェアによる解析が正しく行われないことが多い.視野検査でもCMariotte盲点の拡大や屈折暗点などのために,評価が正確に行われない場合がある.そのほかの緑内障と紛らわしい所見として,高血圧,糖尿病,原発性アルドステロン症などの全身疾患における網膜循環障害に続いて形成されるCNFLDがある6).これらのCNFLD部位では視野感度も低下しており,一見すると構造(NFLD)と機能(視野異常)が対応した緑内障性変化のように思われる.しかし,これらの疾患では長期的に乳頭陥凹拡大,NFLD拡大,視野進行などを認めにくいこと,反対眼の所見,全身疾患の既往などが鑑別点となり,加えてCPPAやCMvDも緑内障性変化の判別に役立つ場合がある.一方で,実用に堪える画像を得るには質の高いCOCT撮影が必要であり,正常眼を含めた自動解析ソフトがないため,計測や解析に熟練とマンパワーを要するという現状がある.OCTのさらなる発展が,診断や治療方針に悩む緑内障患者の一助となることが期待される.文献1)PrimroseJ:EarlyCsignsCofCtheCglaucomatousCdisc.CBrJOphthalmol55:820-825,C19712)SakaguchiK,HigashideT,UdagawaSetal:ComparisonofCsectoralCstructure-functionCrelationshipsCinglaucoma:CVesseldensityversusthicknessintheperipapillaryretinalCnerveC.berClayer.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:5251-5262,C20173)SuhMH,ZangwillLM,ManalastasPICetal:DeepretinallayerCmicrovasculatureCdropoutCdetectedCbyCtheCopticalCcoherencetomographyangiographyinglaucoma.Ophthal-mology123:2509-2518,C20164)AkagiT,ZangwillLM,ShojiTetal:Opticdiscmicrovas-culatureCdropoutCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCmea-suredCwithCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CPLoSONEC13:e0201729,C20185)NaCH,CLeeCEJ,CLeeCSHCetal:EvaluationCofCperipapillaryCchoroidalCmicrovasculatureCtoCdetectCglaucomatousCdam-ageCinCeyesCwithChighCmyopia.CJCGlaucomaC29:39-45,C20206)OhshimaY,HigashideT,SakaguchiKetal:Theassocia-tionCofCprimaryCaldosteronismCwithCglaucoma-relatedCfun-dusabnormalities.PLoSONECaccepted(76)