●連載250監修=山本哲也福地健郎250.抗緑内障点眼薬と黄斑浮腫北村一義柏木賢治山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座緑内障薬物治療の第一選択であるプロスタグランジン(PG)関連薬の重篤な局所副作用の一つである黄斑浮腫の発症頻度,発症機序,発症リスクについて記述するとともに,発症の早期発見法や発症予防法や治療法などについてまとめた.●PG関連薬による黄斑浮腫の発症状況わが国では,これまで使用可能であったプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬のラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストに加えて,選択的CEP2受容体作動薬であるオミデネパグイソプロピルが最近上市された.最初のCPG関連薬のラタノプロストの上市以降,PG関連薬により黄斑浮腫(macularedema:ME)が発症するとの報告が多くある1~3)(図1).PG関連薬によるCMEの発症率について,原発開放隅角緑内障患者においてCPG関連薬を使用している患者は,使用していない患者のC5.51倍(p=0.001)MEの発症率が高いとの報告もある4).PG関連薬間でMEの発症頻度は異なり,ビマトプロストとトラボプロストでより高頻度に発症するが,ラタノプロストは有意差を認めなかった5).2018年に上市されたオミデネパグイソプロピルは第CII相および第CIII相試験において,.胞様CMEを含むCMEをC5.2%(14/267例)に認めたが,これらはすべて眼内レンズ挿入眼であった.眼内レンズ挿入眼での発症率はC14/52例(26.9%)であった6).このため同剤は無水晶体眼または眼内レンズ挿入眼を有する患者に対する投与は禁忌である.しかし,MEの発症率については一定の結論には至っておらず,今後詳細な前向き研究が必要である.C●黄斑浮腫発症の危険因子と発症機序PG関連薬によるCMEの発症は,白内障術後,とくに術中合併症が発生した症例に多いとされ7),とくに後.破損を生じた症例に多いことは注目すべきである.実際,内眼手術歴や眼内炎症歴のない患者を対象に行った研究では,ラタノプロスト点眼液によるCMEの発症は認めなかった8).ME発症機序については,低眼圧説,手術侵襲による眼内の炎症性CPGや眼内疾患による炎症が誘因となる血液房水柵および血液網膜柵の破綻,黄斑部への硝子体牽引なども原因として指摘されている.しかし,詳細な機序は現時点では明らかではなく,今後の検討が必要である.PG関連薬以外にCMEを発症する病態として,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など網膜血流障害をきたす疾患,網膜色素変性症,ぶどう膜炎,Irvine-Gass症候群,硝子体による黄斑部牽引などがある.このようなCME発症リスクをもつ患者においてCPG関連薬がCMEの発症図1黄斑浮腫(ME)の蛍光造影所見a:後期相.ラタノプロスト点眼開始後C2カ月でCMEを生じた.Cb:ラタノプロスト点眼中止後,MEは消失した.(文献C3より許可を得て転載)(69)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4310910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2黄斑浮腫(ME)のOCT所見網膜上膜(ERM)に対して硝子体切除術後の偽水晶体眼.ラタノプロスト点眼にてCMEを生じたが,ラタノプロスト点眼中止にてCMEは消失した.を促進するかについてはまだ十分なエビデンスはないが,注意は必要である.防腐剤のCME発症への関与も示唆されている9).三宅らによると,防腐剤を含有する薬剤は含有しない薬剤と比べてCMEの頻度が有意に増加し,PG関連薬で惹起されるCMEに防腐剤の関与があると報告している2).発症機序として白内障手術後早期に防腐剤の塩化ベンザルコニウムが水晶体上皮細胞などの眼内細胞に触れ,炎症性PGの産生が増強されCMEを誘発する可能性が指摘されている.C●黄斑浮腫に対する対処法治療としては,原因のCPG関連薬の中止,非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrugs:NSAIDs)点眼,ステロイド硝子体注射,抗CVEGF薬硝子体注射,炭酸脱水酵素阻害薬内服,硝子体手術などがある.とくにCNASIDs点眼は白内障術後CMEに対する治療として有効といわれている10,11).方針としてまずはNSAIDs点眼,それでも改善しない場合に抗CVEGF薬硝子体注射などの治療を検討する.なお,初回から抗VEGF薬硝子体注射を行うのは控えるべきである.ラタノプロストを術前使用している患者で,手術C1週間前に中止した患者は全員CMEを発症しなかったのに対し,術後も点眼を継続した患者は全員CMEを発症したという報告や,白内障手術C1カ月前よりCPG関連薬とCb遮断薬を使用すると,術後にCMEの発症リスクが高まるとの報告がある7).MEの発症リスクの高い患者やCPG関連薬が休止できる患者では術前術後の休薬が有用である.C●まとめ光干渉断層計の進歩により無症状の.胞様黄斑浮腫を非侵襲的に検出し,客観的に定量することができるようになった(図2).これにより,早期の治療介入を行い視C432あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021力低下のリスクを抑えることが可能となる.とくにハイリスク患者では,これらの検査を積極的に行うことが臨床的に重要である.同時にハイリスク患者においては,MEの原因となるCPG関連薬の中止や薬剤変更を検討すると同時に,予防的なCNSAIDs点眼の使用なども考慮する必要がある.文献1)三宅健作:偽水晶体眼における術後合併症とその対策.術後炎症とCME.眼科39:347-357,C19972)三宅健作,太田一郎,扇谷晋ほか:防腐剤黄斑症.臨眼C56:1303-1310,C20023)TokunagaT,KashiwagiK,SaitoJetal:AcaseofcystoidmacularCedemaCassociatedCwithClatanoprostCophthalmicCsolution.JpnJOphthalmolC46:656-659,C20024)LeeCKM,CLeeCEJ,CKimCTWCetal:PseudophakicCmacularCedemaCinCprimaryCopen-angleglaucoma:aCprospectiveCstudyCusingCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJCOphthalmolC179:97-109,C20175)WendelC,ZakrzewskiH,CarletonBetal:Associationofpostoperativetopicalprostaglandinanalogorbeta-blockeruseandincidenceofpseudophakiccystoidmacularedema.JGlaucoma27:402-406,C20186)谷敬子:選択的CEP2受容体作動薬緑内障・高眼圧症治療薬「エイベリス点眼液C0.002%」.眼薬理33:13-16,C20197)HolloG,AungT,AiharaMetal:Cystoidmaculaedemarelatedtocataractsurgeryandtopicalprostaglandinana-logs:mechanism,Cdiagnosis,CandCmanagement.CSurvCOph-thalmol65:496-512,C20208)FuruichiCM,CChibaCT,CAbeCKCetal:CystoidCmacularCedemaassociatedwithtopicallatanoprostinglaucomatouseyesCwithCaCnormallyCfunctioningCblood-ocularCbarrier.CJGlaucomaC10:233-236,C20019)MiyakeK,IbarakiN:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmolC47:S203-218,C200210)RhoDS:Treatmentofacutepseudophakiccystoidmacu-laredema:diclofenacversusketorolac.JCataractRefractSurg29:2378-2384,C200311)WarrenCKA,CBahraniCH,CFoxJE:NSAIDsCinCcombinationCtherapyforthetreatmentofchronicpseudophakiccystoidmacularedema.RetinaC30:260-266,C2010(70)