‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス:270.胞状網膜剝離に対するD-ACE法(中級編)

2025年11月30日 日曜日

270胞状網膜.離に対するD-ACE法(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに上方の弁状裂孔に起因する胞状の裂孔原性網膜.離に対して,現在では多くの術者が硝子体手術を選択しているものと思われる.一方,Gilbertらが報告したCD-ACE(drainage+airCinjection+cryopexy+exoplant)法は胞状の網膜.離に対しても強膜バックリング手術で治療することのできる優れた術式である1).C●症例提示患者はC49歳,男性.上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔を認め,上方C2象限に胞状の網膜.離をきたしていた(図1).このままでは冷凍凝固プローブが裂孔部位に届かないので,D-ACE法を選択した.まず上方で網膜下液排除を施行し(図2),十分に眼圧を低下させたうえで,鑷子で強膜を確実に把持し,その横からC27ゲージ針を硝子体腔内に刺入し,空気が一塊になるようにゆっくりと注入した(図3).網膜下液がほぼ排除できた時点で,双眼倒像鏡眼底観察下に空気を通して経強膜冷凍凝固を施行し,その後,#C501シリコーンスポンジをC10時.2時の円周方向に縫着した(図4).伏臥位はC1日のみとし,翌日に網膜が復位していることを確認したあとは側臥位を指示した.術後,網膜は復位し,矯正視力は術前C0.02から術後C1.0に改善した(図5).C●D-ACE法のポイント本術式は,ガス注入眼における仰臥位での眼底検査と強膜バックリング手術に習熟している術者であれば,とくに抵抗なく施行できる.利点としては,水晶体を温存できること,伏臥位の期間が短くてすむこと,いったん復位が得られれば再.離の可能性が低いことなどがあげられる.欠点としては,術中眼底検査や手術手技にある程度の習熟を要する点である.とくに硝子体腔内に空気を注入する際に,魚鱗状になるとその後の眼底観察が困難となるので,網膜下液排除にて眼圧を十分に低下させたあとに,硝子体腔内にゆっくりと空気を注入するのがコツである.針を硝子体腔内に刺入する際には眼圧が低図1術前の眼底写真上方の網膜格子状変性の両端に弁状裂孔および胞状の網膜.離を認める.図2網膜下液排除網膜下液排除を施行し,眼圧を十分に低下させておく.図3硝子体腔内空気注入ゆっくりと空気が一塊となるように注入する.図4強膜バックリング空気注入眼は圧に対する許容性が大きいので,バックルを締めやすい.図5術後眼底写真裂孔はバックル上に乗り,網膜は復位している.くなっているので,強膜を鑷子でしっかりと把持するか,あらかじめ強膜に糸を縫合しておき,その糸を鑷子で把持しながら,すぐ横から針を刺入するようにする.翌日に網膜が完全に復位していれば,その後の伏臥位は不要となることが多い.文献1)GilbertCC,CMcLeodD:D-ACECsurgicalCsequenceCforCselectedCbullousCretinalCdetachments.CBrCJCOphthalmolC69:733-736,C1985(79)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514430910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:多焦点眼内レンズ脱臼

2025年11月30日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅多焦点眼内レンズ脱臼山根真山根アイクリニック馬車道白内障手術の進歩により,多焦点眼内レンズ(MFIOL)の適応は拡大し,術後の眼鏡依存度を減らす大きな選択肢となっている.しかし,加齢や外傷,Zinn小帯脆弱を背景とした眼内レンズ脱臼が近年増加しており,単焦点眼内レンズとは異なるMFIOL特有の課題が治療法選択を複雑にしている.MFIOLは光学的設計上,レンズ中心と視軸の精密なアライメントが視機能に直結するため,わずかな偏位や傾斜でも著明な見えにくさや不満につながりやすい.また,患者層は若年から中高年に及び,術後の生活の質にを摘出し,別の眼内レンズを移植する方法がある.MFIOLを温存する利点は,患者の「眼鏡なし生活」への期待を継続できる点であるが,術式は技術的に煩雑で,安定したセンタリングを得ることがむずかしい場合もある.一方,単焦点眼内レンズへの入れ替えは手技の安定性や長期的予後の予測可能性で優れるが,患者満足度とのバランスを慎重に検討する必要がある.近年では,強膜内固定や無縫合固定技術の進歩により,MFIOL再固定の実現性は高まりつつある.本稿では,MFIOL脱臼時の再固定の実際的な手術手技と選択の考え方を概説する.聞き手:多焦点眼内レンズ(multifocalCintraocular法が選択できません.lens:MFIOL)の普及とともに,脱臼症例の対応に迫られる機会が増えています.まずは,これまで行ってきた聞き手:現在はどのような方法になりますか.方法を教えていただけますか.山根:選択肢は大きくは二つです.ひとつは脱臼した山根:私がよく行っていたのは,3ピースCMFIOLのMFIOLを摘出して単焦点CIOLを強膜内固定する方法,ZMA00を強膜内固定する方法(Yamanetechnique)でもうひとつは脱臼したCMFIOLを再固定する方法です.す1).ZMA00はCCループ形状の支持部をもつC3ピース前者は手技的に安定しており,長期成績も予測しやすい眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であり,強膜内固のですが,多焦点機能を失うというデメリットがありま定した際に比較的容易にきれいなセンタリングが得らす.後者は患者の「裸眼での快適さ」を温存できる反れ,術後の光学的成績も安定していました.しかし,残面,術式はレンズの種類や状態に強く依存します.念ながらC2024年に販売が終了してしまい,今はこの方(77)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14410910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:再固定を考える際に,カプセルテンションリング(capsulartensionring:CTR)の有無は重要ですか.山根:非常に重要です.CTRが入っていれば,基本的にどのタイプのCMFIOLでもCCTRに糸を通すことで再縫着が可能です.9-0ポリプロピレン糸やCCV-8ゴアテックス糸を用いて強膜へ縫着し,縫い目を強膜内へ埋没します.CTRに糸をかけるときは,2点では傾斜を起こす可能性があるため,3点以上の縫着が望ましいです.聞き手:CTRが入っていない場合はどうでしょうか.山根:その場合はCIOLに直接糸をかけます.レンティスコンフォートのようにアイレットが付いたCIOLであれば,アイレットに通糸して強膜へ縫着することで比較的安定した結果が得られます.問題は広く普及しているCループ型のシングルピースCIOLで,これは再縫着に不向きです.最近,支持部の根元に糸をかける「ベルトループテクニック」が報告されており,支持部の付け根に水晶体.を貫いて糸を通して強膜へ縫着することでシングルピースレンズを再固定することが可能です(図1).良好な成績が報告されていますが2),IOLの傾斜をコントロールすることがむずかしく,長期的な安定性にも疑問が残ります.聞き手:ベルトループを行う際の工夫はありますか.山根:一番大切なのは糸を通す位置を光軸に対して左右対称にすることで,ねじれが生じないように縫合糸が輪部に対して完全に直角である必要があります.わずかなIOLの偏心や傾きが多焦点光学系では視機能の低下につながります.また,糸のテンションを両側で均等に保つことが肝心で,無縫合で行うCCanabravatechniqueより図1ベルトループテクニック支持部を挟み込むように上下に糸を通して強膜に縫着する.も,縫合したほうがテンションのコントロールが容易です.聞き手:単焦点CIOLに置き換える場合の注意点はありますか.山根:私はCYamanetechniqueによる強膜内固定を第一選択にしています.レンズはCNX-70やCPN6Aなど,支持部がポリフッ化ビニリデン(PVDF)製で破損しにくいものを選びます.脱臼したレンズがクリアレンズの場合は,イエローレンズではなくクリアレンズを選択します.正視に合わせることが多いですが,他眼の屈折やIOLの種類,ライフスタイルに応じて屈折を選択します.聞き手:海外では強膜内固定用のCIOLも登場しているそうですね.山根:はい.Carlevareレンズは強膜内固定専用に設計されたレンズで,T字状の支持部を強膜に固定する構造になっています3).このCIOLは単焦点だけではなく多焦点タイプもラインナップされており,MFIOL脱臼例に対して魅力的なオプションです.ただし,近方加入度数がやや弱いため,術前に「遠方は良好でも,近見は以前ほど出ない可能性がある」と説明する必要があります.聞き手:こうした手術を行う際に心がけていることはありますか.山根:MFIOLの二次固定は,単焦点CIOLの固定より数倍シビアです.求められる中心固定や傾斜のコントロールの水準が高く,0.2~0.3Cmmの偏位が視機能低下を招きます.そのため針の刺入角度や糸のテンションなど,細部にこだわった調整が必要です.また,術前のカウンセリングも不可欠です.術前と完全には同じ見え方にならないことや,タッチアップが必要になる可能性を説明し,患者と一緒に治療方針を決定することが大切だと考えています.文献1)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C20172)ByCMottM(contributingwriter)interviewingCFramCNR,CMMcCabe,MeghparaBB:Beltlooptechniqueforscler-al.xationofin-the-bagdislocatedIOLs.AmericanAcade-myCofOphthalmologyCEyeNetCMagazineCAugust:23-24,C20223)RossiT,IannettaD,RomanoVetal:AnovelintraocularlensCdesignedCforCsuturelessCscleral.xation:surgicalCseries.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC259:257-262,C2021C1442あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(78)

抗VEGF治療セミナー:感染性眼内炎におけるヨード使用

2025年11月30日 日曜日

●連載◯161監修=安川力五味文141感染性眼内炎におけるヨード使用正田千穂日本大学病院アイセンター眼内炎治療は抗菌薬を用いた硝子体内注射・硝子体手術が主流であるが,近年増加傾向である耐性菌への対応や高濃度抗菌薬による網膜毒性などの懸念がある.本稿では抗菌薬に代わる治療法として,筆者の施設で行っているポビドンヨード硝子体内注射の有用性と治療の実際について述べる.眼内炎治療の問題点とヨードの利点内眼手術後の感染性眼内炎は,適切な治療を行っても視力予後が不良となりうる重篤な術後合併症である.わが国の眼内炎治療では,①初期治療としての抗菌薬硝子体内注射,②抗菌薬含有灌流液による前房洗浄と硝子体手術,③手術終了時の抗菌薬硝子体内注射,④補助療法として抗菌・消炎点眼と抗菌薬全身投与,が行われることが多い.しかし,抗菌薬は殺菌に要する時間が長く,初期治療としての硝子体内注射の効果には疑問がある.また,硝子体内注射で使用されるバンコマイシンは前房内投与による出血性閉塞性網膜血管炎の報告があり1),高濃度での使用にはリスクが伴う.さらに,近年の眼内炎の起因菌は多剤耐性菌・バンコマイシン耐性菌・真菌などが増加しており,眼内炎治療における抗菌薬使用方法を再考する必要があると考える.一方,ヨード製剤は抗微生物スペクトルが広く,殺菌作用の発揮にはC15秒.数分と短時間で効果が現れることが利点である.近年,わが国で使用可能なポビドンヨードの基礎・臨床研究が急速に進歩し,眼組織に使用した研究も多くみられる.本稿では現在,日本大学病院アイセンター(以下,当院)で行っているポビドンヨードを用いた眼内炎治療について解説する.ヨードの有効濃度と眼毒性まずポビドンヨードの眼組織への使用は適応外使用となるため,各施設での承認が必要となることに留意する.ポビドンヨードの有効濃度はC0.005.10%とされ,0.01%以上であれば黄色ブドウ球菌に強い殺菌作用を示す.眼内炎治療のために硝子体内に使用することを想定した研究としては,硝子体内濃度C0.013%以上で表皮ぶどう球菌によるウサギ眼内炎が改善したとの報告がある2).網膜への安全濃度はC0.027%以下とされており,0.013.0.027%の濃度で使用することが望ましい.当院では硝子体内濃度C0.025%で使用している.(75)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPYポビドンヨード硝子体内注射による眼内炎治療1.25%ポビドンヨードC0.1Cmlを硝子体内に投与すると,硝子体内濃度は約C0.025%となる.中静らは,この1.25%ポビドンヨードの硝子体内注射による初期治療に加え,0.025%ポビドンヨード含有灌流液を用いて硝子体手術を行った眼内炎C9眼の治療成績を報告した3).いずれの症例も術後視力は改善し,視野,網膜電図,角膜内皮細胞密度に術後明らかな異常はなく,有効性と安全性が示された.一方で,ポビドンヨード含有灌流液の前房灌流により,眼内炎で軽度障害された角膜内皮細胞に強い障害をきたす症例がみられたことから,現在当院では,手術時の灌流液には従来どおり抗菌薬を添加し,手術前後の硝子体内注射にポビドンヨードを用いている(図1).1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射の作製方法を図2に示す.比較的簡便に作製できるので,感染性眼内炎の診断後,手術までの待機時間に硝子体内注射を速やかに施行することが可能である.ポビドンヨード硝子体内注射の前に,培養検査のための結膜.擦過と前房水・硝子体液採取をすることに留意する.ポビドンヨード硝子体内注射は単独でも眼内炎治療に初期治療:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%硝子体手術バンコマイシン10mg,500ml硝子体内濃度20μg/mlセフタジジム20mg,500ml硝子体内濃度40μg/ml手術終了時:硝子体内注射l1m.25%,0.1ポビドンヨード硝子体内濃度0.025%図1当院での眼内炎治療プロトコル硝子体手術では従来どおり抗菌薬含有灌流液を使用し,前後の硝子体内注射をC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射におきかえている.あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251439図21.25%ポビドンヨード0.1ml硝子体内注射液の作製方法a:ミリポアフィルターを使用してポビドンヨード原液(10%)をC1Cml採取する.Cb:生理食塩水をC7Cmlに調整する(ポリアンプから採取してもよい).c:7Cml生理食塩水とC1Cmlポビドンヨードを混和し,1.25%ポビドンヨード液を作製する.Cd:1.25%ポビドンヨード液をC1CmlシリンジでC0.1Cml以上採取する.Ce:硝子体内注射用針をとりつけ,0.1Cmlに調整する.図31.25%ポビドンヨード硝子体内注射で加療を行った内因性眼内炎の症例88歳,女性.グラム陽性球菌による菌血症に伴う内因性眼内炎.全身状態不良のため硝子体手術が施行できず,1.25%ポビドンヨード硝子体内注射をC1回施行したところ,眼内炎は改善した.Ca:初診時.前房蓄膿がみられる(→).視力は手動弁.Cb:注射後C7日.前房蓄膿は消失し,眼底透見も良好となった.矯正視力は(0.2)に改善した.Cc:注射後C1カ月.眼内炎の再発はない.有用となる可能性がある.ウサギ眼内炎においてC0.1%ポビドンヨード硝子体注射(硝子体内濃度C0.0067%)の1日おきC3回投与の有効性が示されている4).また,田中らは手術加療が困難であったグラム陽性菌に起因する内因性眼内炎の患者にC1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射をC1回施行し,眼内炎の改善と視力改善がみられたことを報告した(図3)5).以上のように,1.25%ポビドンヨードC0.1Cml硝子体内注射は安全かつ有効性が示されており,眼内炎治療としての有用性が期待される.文献1)WitkinCAJ,CShahCAR,CEngstromCRECetal:PostoperativeChemorrhagicCocclusiveCretinalvasculitis:ExpandingCtheCclinicalCspectrumCandCpossibleCassociationCwithCvancomy-cin.OphthalmologyC122:1438-1451,C20152)BrozouCCG,CKarabatakisCV,CGiannousisCMCetal:TheC1440あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(文献C9より引用)Ce.cacyCofCintravitrealCpovidoneCiodineCapplicationCinCexperimentalCStaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.COphthalmicRes41:181-185,C20093)NakashizukaCH,CShimadaCH,CHattoriCTCetal:IntravitrealCinjectionof1.25%povidoneiodinefollowedbyvitrectomyusing0.025%povidoneiodineirrigationfortreatingendo-phthalmitis.TranslVisSciTechnolC8:21,C20194)KimKH,CaoJ,YooJWetal:Intraocular.pharmacokinet-icsCofCpovidone-iodineCandCitsCe.ectsConCexperimentalCstaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.CInvestCOph-thalmolVisSciC56:6694-6700,C20155)TanakaCH,CNakashizukaCH,CMizunoCYCetal:EndogenousCendophthalmitisCsuccessfullyCtreatedCwithCintravitrealpovidone-iodineinjection:acasereport.BMCOphthalmolC20:217,C2020参考文献島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント第C3版,日本医事新報社,2024(76)

緑内障セミナー:AI技術を用いた緑内障視野スクリーニングへの取り組み

2025年11月30日 日曜日

●連載◯305監修=福地健郎中野匡305.AI技術を用いた緑内障視野西島義道東京慈恵会医科大学眼科学講座スクリーニングへの取り組み緑内障は早期発見早期治療が原則であり,スクリーニングはその一助となっている.近年,両眼開放視野計であるCimoを用いた緑内障スクリーニングプログラムが登場した.さらに深層学習技術を併用することで,スクリーニング検査の情報からCHumphrey視野計の視野情報,およびその進行リスクを予測する取り組みも行われている.●はじめに緑内障は不可逆性視機能障害の主因であり,2040年には世界中の罹患者がC1億C1,180万人に達すると推計されている1).そのため,早期発見・早期介入の重要性はますます高くなっていくことが予想される.スクリーニングは早期発見のための一つの有用な手段と考えられるが,緑内障の診断に必要な視野検査は時間を要し,スクリーニング環境での実施には制約がある.スクリーニング用に開発されている視野計や視野プログラムは複数報告されているが,近年は両眼開放視野計Cimo(クリュートメディカルシステムズ)を用いた緑内障スクリーニングプログラムが開発され2),企業健診などでの実用化が進んでいる.さらに,医療分野における人工知能(arti.cialintelli-gence:AI)技術の発展により,眼科領域でも診断支援システムの開発が急速に進展している3).本稿では,imoを用いた視野スクリーニングプログラム(imoCScreeningProgram:ISP)とCAI技術を統合したCDeep-aISPモデルの開発,およびその臨床的有用性について述べる.C●imoを用いた緑内障スクリーニングプログラム(ISP)の開発imoは両眼開放かつ暗室不要の視野計である.筆者のグループはCHumphrey視野計(HumphreyCFieldCAna-lyzer:HFA)24-2とCHFA10-2の測定点から緑内障検出に最適なC28点を抽出し,90.120秒で測定可能なISPを開発した(図1)2).imoは暗室が不要で測定可能であることから,健診の場においても導入が可能である.現在実際にC2施設で企業健診に導入され,popula-tion-baseのスクリーニングでの有効性を確認中である.C●DeepISPモデルの開発と検証ISPは緑内障の有無を短時間で検出することは可能であったが,筆者らはさらに,重症度や進行リスクを同時に判定することを目的として,深層学習技術を用いてISPの単純な二値情報からCHFA24-2の情報を予測する図1imoの外観およびimoscreeningprogramの測定点a:両眼開放視野計Cimoの外観.b:imoscreeningprogram(ISP)における右眼の測定点.赤丸はCHFA24-2と同一の測定点.青丸はCHFA10-2と同一の測定点.赤青半円はCHFA24-2およびCHFA10-2と同一の測定点を示す.(文献3,4より改変引用)(73)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514370910-1810/25/\100/頁/JCOPYGlaucomalikelihoodHFA24-2lmoscreeningprogram(ISP)GHTclass2010緑内障重症度Degrees-100MDPSDVFIDegrees0DeeplSP緑内障進行速度-20-200Degrees・測定点は合計28点・各測定点は「見えた(○)」or「見えていない(×)」で判定MDprogression-20020VFIprogressionDegrees確率プロットマップTDmapclassPDmapclass図2DeepISPの概念図DeepISPはCISPの情報を用いてCHFA24-2のCGlobalIndex,確率プロットマップ,GHT判定,および進行リスクを同時に判定する.DeepISPモデルを開発した4).DeepISPは,ISPの結果からCHFA24-2の平均偏差(MD),パターン標準偏差(PSD),VisualCFieldCIndex(VFI),Totaldeviation(TD)マップ,PatternCdevia-tion(PD)マップ,そして緑内障半視野テスト(GHT)分類を同時に予測するマルチタスク深層学習モデルとして構築されている(図2).より高精度な予測モデルの構築のために,データ拡張技術によりCHFA24-2とCHFA10-2のデータより合成ISPデータを生成し,モデルの学習を行った.最終的に3,470件の合成CISPデータ,187件の実際のCISPデータを用いた.MD予測の平均絶対誤差はC1.869C±0.114CdB,PSD予測ではC1.918C±0.082CdB,VFI予測ではC5.146C±0.487%であった.また,GHT分類のCAUCはC0.920C±0.008,TD/PDマップの点別分類CF1スコアもそれぞれ0.761,0.775と良好な予測精度を達成した.C●視野進行予測への応用スクリーニングの段階で緑内障の進行傾向も把握する目的で,HFA24-2の縦断データおよび同一患者のCISPデータを用いて視野進行予測モデルを構築した.その結果,MD進行(C.1.0dB/年以下)およびCVFI進行(C.1.8%/年以下)の予測において,それぞれCAUCC0.828±0.060,0.832C±0.062を達成し,単回検査から将来の進行リスク評価が可能であることを示した.C●臨床的意義と今後の展望ISPはすでに企業健診の現場で実用化され,日立健康管理センタおよびトヨタ自動車健康保険組合健康支援センターウェルポにおいて,年間数万件規模のスクリーニC1438あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025ングが実施されている.また,DeepISPは,ISPの結果からより詳細な視野情報を提供できる可能性があり,将来の進行リスクも同時に予測可能な点を特徴とする.さらに,広く利用されているCHFAデータから合成CISPを生成できるため,AIにおいて問題となる外的妥当性に関しても,ISPが導入されていない施設でもモデル開発が可能であり,グローバルな展開が期待される.C●おわりに本稿では,両眼開放視野計Cimoを用いたスクリーニングプログラムであるCISPと深層学習技術を活用したDeepISPモデルの開発について述べた.本システムは,AI技術を併用することでスクリーニングの簡便性を保ちながら詳細な視野情報の予測を可能とし,大規模スクリーニングにおける次世代の緑内障診断支援技術として,視覚障害予防に貢献することが期待される.文献1)ThamCY-C,CLiCX,CWongCTYCetal:GlobalCprevalenceCofCglaucomaCandCprojectionsCofCglaucomaCburdenCthrough2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthal-mologyC121:2081-2090,C20142)AraiCK,CNishijimaCE,COgawaCSCetal:ACnovelCvisualC.eldCscreeningCprogramCforCglaucomaCwithCaChead-mountedCperimeter.JGlaucomaC32:520-525,C20233)TingCDSW,CPasqualeCLR,CPengCLCetal:Arti.cialCintelli-genceCandCdeepClearningCinCophthalmology.CBrCJCOphthal-molC103:167-175,C20194)SanoK,NishijimaE,SumiSal:Deeplearning-basedpre-dictionCofCglaucomaCseverityCandCprogressionCusingCimo/CTEMPOCscreeningCprogram.COphthalmolCSciC5:100805,C2025(74)

屈折矯正手術セミナー:老視用インレイによる角膜混濁

2025年11月30日 日曜日

●連載◯306監修=稗田牧神谷和孝306.老視用インレイによる角膜混濁出家寿々近間泰一郎広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学老視治療のひとつとして角膜インレイが用いられているが,長期使用に伴う合併症も報告されている.今回,CKamracornealinlay術後に角膜線維化と混濁を生じ,摘出後も混濁が遷延し視力が十分に改善しなかった一例を経験した.インレイの安全性は証明されているが,場合によっては不可逆的な視力低下をきたすことがあるため,慎重な術後管理と適切な対応が求められる.●はじめに老視は加齢に伴う視力障害で,毛様体筋の衰えや水晶体の弾力性低下により,近くのものに焦点を合わせることができなくなる.40歳以上のC85%が老視になるといわれており,加齢とともに有病率と重症度は増加する.2030年には全世界で約C21億人とピークに達すると予想されている1).老視に対する治療法の一つとして,欧米ではC2000年代前半から角膜インレイが普及した.日本ではC2010年代中頃から自由診療で導入されている.インレイは通常,片眼(非優位眼)に挿入され,遠方視力を維持しながら近方および中間視力を改善する.日本で使用されているCAcuFocus社のCKamraCcornealinlay(以下,Kamraインレイ)は直径C3.8Cmm,中央孔C1.6Cmmのデバイスで,ポリフッ化ビニリデンとカーボンナノ粒子で構成されている.中央の小孔から光を通し,周辺のピントが合っていない光を遮断することで焦点深度を増加させるピンホール効果を有する.8,400個の微細な穴により栄養分や酸素を通過させ,角膜上皮や実質の透明性を保つ設計になっている.米国ではC2015年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認を受けたが,ドライアイや夜間視力低下,ハローの悪化の可能性は指摘されていた.実際に,これまで一定数のインレイ摘出がなされており,長期的な使用による合併症の報告もある.筆者らはインレイ術後に角膜実質の線維化に伴う角膜混濁を生じ,抜去後にもその混濁が遷延した患者を経験した2).その経過をあわせて報告する.C●症例患者はC63歳,男性.左眼の視力低下,単眼複視,薄暗い場所での不快感を訴えて筆者の施設を受診した.2年前に両眼CLASIKと左眼CKamraインレイ挿入術の既往があった.初診時視力は右眼C1.5(1.5×sph+0.05D),(71)左眼C1.0(矯正不能),眼圧は右眼C17mmHg,左眼18CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査ではインレイ内に角膜上皮下混濁とインレイに沿った鉄線を認めた.前眼部光干渉断層計では,インレイ周囲に高輝度の反射,角膜上皮の肥厚を認めた(図1).トラニラスト点眼C1日C3回で加療を開始したところ,18カ月間は混濁の増強を認めなかった.点眼薬を一時中止したところ,6カ月後に左眼矯正視力は(0.7)へ低下した.角膜混濁は上皮下から実質浅層まで進展し,不正乱視を生じていた(図2).また生体共焦点顕微鏡では,上皮下および実質浅層に線維化を伴う筋線維芽細胞を確認した(図3).これらの所見から,患者はインレイ挿入手術施設でのインレイ摘出を決断した.インレイ摘出術後はベタメタゾン点眼,フルオロメトロン点眼を漸減終了した.加えて,トラニラスト点眼をC1日C4回,2年間使用し,その後漸減終了した.インレイ摘出からC6カ月後,左眼の裸眼視力は(0.6)で改善はなかった.細隙灯顕微鏡検査では角膜実質混濁の軽度改善がみられた(図4).その後のC5年間の経過観察でも,混濁は徐々に改善したものの,視力は変わらなかった.C●おわりにインレイの有効性と安全性は米国CFDAで証明されており,全世界で老視治療の一つとして使用されてきた.インレイは必要時には摘出できることがメリットであり,実際,術後C3年以内でC1.8.10.3%の摘出率が報告されている3).摘出に至った原因は,屈折の変化や期待どおりの見え方ではなかったことなどの自覚的な問題が多い.ほとんどの場合,視力低下を伴わず,1年以内の摘出であれば視力の悪化はない3).これらの視覚的な問題は挿入深度が浅いことが原因となっているとの報告もある.一方で,本症例のほかにも長期間のインレイ使用後に視力低下を伴った症例もある4).屈折変化や角膜混濁以外にも,インレイの偏位,感染性角膜炎,フラップあたらしい眼科Vol.42,No.11,202514350910-1810/25/\100/頁/JCOPY図3生体共焦点顕微鏡所見LASIKの切開面と同じ深さに筋線維芽細胞を認め(Ca,..),インレイ周囲の筋線維芽細胞により線維化組織が形成されていた(b,).下上皮増殖の合併症も報告されている5).インレイ手術の術後管理には慎重な判断が求められる.とくに,術後に視力低下や角膜所見の変化が認められた場合には,早期に詳細な評価と治療介入を行うことが,視機能の不可逆的変化を防ぐために重要である.文献1)KatzCJA,CKarpeckiCPM,CDorcaCACetal:Presbyopia-ACreviewCofCcurrentCtreatmentCoptionsCandCemergingCthera-pies.ClinOphthalmolC15:2167-2178,C20212)YoshitomiS,ChikamaT,KiuchiY:Casereport:CornealinlayCremovalCafterCmyo.broblastCdetectionCunderCinCvivoC1436あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025図2インレイ摘出前の前眼部所見傍中心部の角膜混濁はC2年前と比較して大きく,濃くなり(Ca,C..).不正乱視を生じていた(Cb).前眼部COCTでは,混濁が上皮下から実質浅層まで伸展していた(Cc,..).図4インレイ摘出6カ月後の前眼部所見傍中心部の角膜混濁の大きさは摘出前と比較してほとんど変化がなかったが,混濁の強さは軽減し(Ca,..),不正乱視は改善した(Cb).前眼部COCTでは角膜実質内の輝度上昇の範囲が縮小した(Cc).Cconfocalmicroscopy.OptomVisSciC100:334,C20233)VukichJA,DurrieDS,PeposeJSetal:Evaluationofthesmall-apertureCintracornealinlay:Three-yearCresultsCfromthecohortoftheU.S.FoodandDrugAdministrationclinicaltrial.JCataractRefractSurg44:541-556,C20184)RomitoCN,CBasliCE,CGoemaereCICetal:PersistentCcornealC.brosisCafterCexplantationCofCaCsmall-apertureCcornealCinlay.JCataractRefractSurgC45:367-371,C20195)Sanchez-GonzalezCMC,CGutierrez-SanchezCE,CSanchez-GonzalezJMetal:Complicationsofsmallapertureintra-cornealinlays:Aliteraturereview.LifeC13:312,C2023(72)

眼内レンズセミナー:角膜切開創からの虹彩脱出に対する虹彩リトラクター・タック法

2025年11月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋462.角膜切開創からの虹彩脱出に対する大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科虹彩リトラクター・タック法術中虹彩緊張低下症例における創口からの虹彩脱出は,いったん生じると虹彩が損傷し,その後,脆弱化した虹彩が繰り返し脱出することにより,状況が悪化して悪循環に陥ることがある.本稿では,角膜切開創からの虹彩再脱出を防ぐ方法として,比嘉らが報告した手技を一部改良し,新たな命名を行った手法を紹介する.本法では,まず脱出した虹彩を整復したのち,角膜切開創より約1mm手前の結膜上から25ゲージの鋭針を刺入し,そこからirisretractorを前房内に挿入する.Irisretractorを用いて虹彩を手前に引き寄せてtuckすることで,虹彩を創口下に安定的に固定し,再脱出を防止することができる.●はじめに白内障手術における創口からの虹彩脱出は,比較的マイナーな術中合併症ではあるが,扱いを誤ると手術の円滑な進行を妨げ,さまざまなトラブルを引き起こし,手術結果に重大な影響を及ぼす可能性がある.そのため,トラブルの芽を早期に摘みとり,さらなる合併症の発生を予防することが重要である.術中虹彩緊張低下症(intraoperative.oppyirissyn-drome:IFIS)は,前立腺肥大症の治療薬であるa1遮断薬の内服歴がある患者の白内障手術中に,「灌流液による虹彩のうねり」「虹彩脱出・嵌頓」(図1),「進行性の縮瞳」という三徴を呈する症候群である.とくに虹彩の脱出・嵌頓がいったん生じると,虹彩組織が損傷し,脆弱化した虹彩が繰り返し脱出することが少なくない.それによって虹彩はさらにダメージを受け,組織損傷,色素脱落,穿孔,断裂,隅角離断といった重篤な合併症に至ることがある.IFISにおける虹彩の再脱出を防ぐ方法として,虹彩リトラクター(irisretractor)を用いた方法が報告されている1,2).筆者らは過去の方法を若干改良し,適切と思われる命名を行った.この「虹彩リトラクター・タック法(irisretractortuck法)」を紹介する.●虹彩リトラクター・タック法の手技本法は角膜切開創で手術を行っている際に,主創口から虹彩脱出が生じた場面で行う操作である.まず,脱出した虹彩をできるだけ損傷しないように分散型粘弾性物質を使いながら整復する(図2).分散型粘弾性物質を十分に注入して虹彩を押し下げたのち,角膜切開創から約1mm手前の結膜上から25ゲージの鋭針を刺入し(図3)前房内に到達する.同部からirisretractorを挿入し(図4),虹彩を手前に引き寄せてtuckする(図5).これにより虹彩組織は創口の下にしっかりと固定され,再び脱出することはない.超音波乳化吸引操作は角膜切開創から通常どおり行うことが可能である(図6).シェーマで示すと図7のごとくで,脱出した虹彩(図7左)を整復したのち,創口手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入し,irisretractorを眼内に挿入して,虹彩を手前に引いてtuckする(図7右).このようにすれ図1角膜切開創からの虹彩脱出IFIS三徴のうちの「虹彩脱出・嵌頓」.図2虹彩の整復脱出した虹彩を,できるだけ損傷しないよう分散型粘弾性物質を用いながら整復する.(69)あたらしい眼科Vol.42,No.11,202514330910-1810/25/\100/頁/JCOPY図325ゲージ鋭針の刺入分散型粘弾性物質で虹彩を押し下げたのち,角膜切開創から約1mm手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入する.図5虹彩のtuckIrisretractorによって虹彩を手前に引き寄せ,tuckする.これにより虹彩組織が創口下に抑えられ,創口から再び脱出することはない.ば虹彩の損傷を避けることができる.本法は,IFIS症例の角膜切開創手術における虹彩脱出に対して有効な方法である.サイドポートからの虹彩脱出に対しても,同様の操作を行うことができる.一方で,強膜切開創からの虹彩脱出には適応がむずかしい.また,IFIS以外の要因,たとえばearlyperforation(早期穿孔)などの創口作製不備に起因する虹彩脱出では,本法の適用は困難である.このような場合は,早めに創口を縫合閉鎖し,別の部位に新たな切開創を設けることが望ましい.文献1)TintNL,YeungAM,AlexanderP:Managementofintra-operative.oppy-irissyndrome-associatedirisprolapseusingasingleirisretractor.JCataractRefractSurg35:1849-1852,2009図4Irisretractorの挿入25ゲージの針穴から十分挿入可能である.図6超音波乳化吸引操作角膜切開創から通常どおりの操作が可能である.図7虹彩リトラクター・タック法のシェーマ脱出した虹彩(左)を整復したのち,創口手前の結膜上から25ゲージ鋭針を刺入し,irisretractorを挿入して虹彩をtuckする(右).2)比嘉利沙子,大内雅之,井上賢治ほか:術中虹彩緊張低下症の手術戦略─虹彩脱出に対するタッセル法の試み─.IOL&RS25:228-232,2011

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 未来のコンタクトレンズ技術(3)

2025年11月30日 日曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く23.未来のコンタクトレンズ技術(3)土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の最終章「コンタクトレンズ技術の将来像(ContactClensCtechnologiesCofCthefuture)」1)の概要を紹介する.今回はそのC3回目である.屈折矯正の革新:オートフォーカス機構の導入現在のコンタクトレンズ(CL)は固定焦点のレンズが主流であるが,将来的には液晶レンズやエレクトロアクティブ材料を利用した焦点可変型レンズが開発される可能性がある.たとえば,調節機能の低下した老視や術後眼において,スマートデバイスと組み合わせることで視線追跡や被写体の距離測定に連動して焦点を合わせる技術が想定される.視覚の拡張:高次視覚補正と機能強化視機能を補正するだけでなく,人間の生理的限界を超えて「拡張」する技術が注目されている.たとえば,高次収差補正に対応する自由曲面型レンズや,メタサーフェスを活用した波長選択的設計があげられる.これらにより従来の球面・乱視矯正を超えて,夜間視力,コントラスト感度,色覚異常の補助などが可能となる.さらに,特殊波長領域の可視化,偏光の検出,紫外光・赤外線への感受性を拡張する技術も理論的に示されており,視覚情報の次元そのものを拡張する「拡張視覚」の概念が紹介されている.近視進行抑制従来の矯正とは異なる疾患予防的介入として近視進行抑制がある.2050年までに世界の近視人口は約C50%に達し,そのうちC10%は高度近視で,網膜.離,緑内障,黄斑症などの重篤な合併症のリスクが上昇すると予測されている.こうした背景から,近視の進行を抑制する光学的介入が重要な課題となっている.CLによる近視進行抑制は,おもに周辺網膜へのデフォーカスを利用した光学設計に基づいている.これは,眼軸伸長の主要因とされる遠視性デフォーカスを軽減し,視軸周辺に近視性デフォーカスを与えることで眼の過剰成長を抑えること(67)を目的とする.現在,以下のC3種類のレンズがある.①多焦点CCL:中心部に遠用ゾーン,周辺部にプラスの加入度数をもたせることで,中心視力を維持しつつ周辺網膜に近視性デフォーカスを与える設計である.既報では,特定の加入度(+2.00Dなど)をもつレンズが単焦点レンズと比較して近視進行を有意に抑制することが示されている.②オルソケラトロジーレンズ:就寝中に装用し,角膜中央を平坦化,周辺部を相対的に隆起させることで近視性デフォーカスを実現する.小児において年間0.25.0.30Cmmの眼軸伸長を抑制した報告もある.短期・中期の効果は確立されつつあるが,長期の安全性と効果の持続性には今後の検証が必要である.③ハイブリッド設計のレンズ:中心.中間部に屈折矯正ゾーン,周辺部に累進的に加入度を加えたゾーンを設けたデザインで,中心視を損なわず効果的な周辺デフォーカスを実現させる.そのほか,動物実験や光学モデリング研究では,近視性デフォーカスの量・位置・空間的広がり・連続性が近視進行抑制の強さに影響を与えることが示唆されており,設計パラメータの最適化が今後の課題とされる.CL以外の光学介入(例:多焦点眼鏡,双焦点眼鏡)や,薬物療法(低濃度アトロピン点眼)との比較・併用の可能性についても議論されている.とくにアトロピンとの併用療法は相加的な効果が得られる可能性がある.将来的には,患者の眼軸伸長や角膜形状,生活環境,装用習慣などをリアルタイムでモニタリングし,個別化したレンズ設計や使用指導を行う「スマート近視コントロールレンズ」の開発も視野に入っている.包装CLの包装は単なる輸送・保管手段としての役割にとあたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14310910-1810/25/\100/頁/JCOPYどまらず,レンズの清浄性,安定性,使用時の安全性を確保するための重要な技術的要素である.従来のブリスターパックは,レンズを等張の緩衝液中に保持し,外部の微生物や物理的損傷から保護する密閉構造を有している.しかし,環境負荷やユーザビリティ,パッケージ内溶液の保存剤含有の有無による安全性など,多くの課題も指摘されている.近年では,環境配慮型素材の導入や,開封時の使いやすさを高めるデザイン,点眼薬や装用補助剤を含めた設計など,ユーザーのニーズに応じた包装形態が模索されている.また,滅菌技術や溶液中の成分がレンズ素材に影響を与える可能性をはじめとするレンズ材料との相互作用なども,製品設計上の重要な検討事項となっている.レンズケースレンズケースは使い捨て以外のCCLを安全に使用するうえで,日常衛生管理の要である.洗浄や保存が不適切な場合,レンズケース自体が微生物繁殖の温床となり,重篤な感染性角膜炎のリスクが高まる.こうした感染リスクの低減のため,銀や銅,亜鉛などの金属イオン,あるいは抗菌ポリマーなどを素材に取り入れることでケース内での微生物の付着や増殖を抑制する抗菌性設計が開発されている.また,ケース内部の液体の流動性を高める構造や,レンズへの直接接触を最小限にするホルダー機構,さらに片手でも開閉しやすく,密閉もできる蓋の設計なども考案されている.ケースの使用期限の明示や使用履歴の管理といった観点も重視されるようになった.使い捨て型のケースのほか,交換時期がひと目でわかるように色変化や記録ラベル,あるいはスマートフォンと連携したデジタル記録といった技術も登場している.センサーを内蔵したスマートケースの開発も始まっており,消毒液の状態や温度,レンズの有無などを自動的にモニタリングできるしくみが実現されつつある.これらはCinternetofthings(IoT)技術との連携により,より高度な感染予防と管理体制構築につながると期待されている.ストレージケースと消毒液との相互作用にも十分な注意が必要である.特定のケース素材は,消毒液中の有効成分を吸着したり分解したりすることがあり,これにより十分な消毒効果が得られなくなるおそれがある.そのため,ケース設計においては,使用される消毒剤との適合性の検証が必須となる.近年では環境への配慮から,再生可能素材や生分解性樹脂を用いたケースの開発も進められている.もはやストレージケースは単なる「容器」ではなく,CL診療におけるデバイスの一部として,衛生性,安全性,環境持続性,そしてユーザビリティを兼ね備えた設計が求められる時代に入っている.文献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEAR-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C

写真セミナー:角膜上皮接着障害に感染を併発した再発性角膜びらんの症例

2025年11月30日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史498.角膜上皮接着障害に感染を併発した松本卓也北澤耕司京都府立医科大学眼科学教室再発性角膜びらんの症例図1初診時前眼部所見角膜中心から傍中心部の上皮下に多発する角膜浸潤を認めた.図3図1のフルオレセイン所見浸潤部位に一致した角膜上皮接着障害を認める.図4受傷から3週間後の前眼部所見炎症は残存しているが上皮下浸潤は瘢痕治癒した.(65)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14290910-1810/25/\100/頁/JCOPY再発性角膜びらんに感染症を合併した症例を提示する.患者は52歳,女性.1年前から再発性角膜びらんで前医をたびたび受診していた.1週間ほど前から角膜びらんが再発し,前医で角膜掻爬,治療用ソフトコンタクトの装用にて治療していたが,3日前に右眼痛と流涙が出現し,角膜感染の診断で京都府立医科大学附属病院(以下,当院)に紹介となった.当院受診時,角膜中央部に角膜上皮の接着障害を多数認め,その辺縁に小円形の多発する角膜浸潤,前房蓄膿を認めた(図1~3).矯正視力は右眼C0.1であった.前眼部光干渉断層計検査では角膜上皮下に混濁を認め,前房内にフィブリンが析出していた.前医からはモキシフロキサシン塩酸塩点眼液C2時間ごと,セフメノキシム塩酸塩点眼液C2時間ごとを処方されており,当院受診日よりオフロキサシン眼軟膏眠前C1回を追加した.当院で施行した角膜擦過物の塗沫鏡検および培養検査の結果は陰性であった.2週間後には前房内炎症は改善し,抗菌薬点眼をC1日C4回へ減量した.3週間後には矯正視力は右眼C0.5まで改善し,多発していた角膜浸潤は瘢痕化したが,角膜上皮の接着障害は残存しており,オフロキサシン眼軟膏をC1日C4回へ増量し経過観察中である(図4).再発性角膜びらんは,繰り返す角膜上皮の接着障害により眼痛・羞明・流涙などの症状をきたす.正常な角膜上皮は,基底膜,ヘミデスモソーム,アンカリングフィブリルから構成される複合体により角膜実質に付着している.再発性角膜びらんの患者では,ヘミデスモソームの減少や基底膜細胞の腫大,異常増殖などの異常がみられ,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9の過剰発現を認める1,2).そこに睡眠時の上皮浮腫や眼瞼との摩擦が関与し,起床時の瞬目によりびらんが生じると考えられている.再発性角膜びらんを生じる原因の多くは外傷や特発性であるが,マイボーム腺機能不全を高率に合併するとの報告もある3).一般的な角膜の細菌感染では,感染巣は角膜の中心から傍中心部からに単発することが多い4)が,本症例ではびらんの辺縁部に多発する感染巣を認めた.個々の感染巣の形状は類円形で,浸潤は各感染巣の周囲に限局しており,浸潤は多発しているものの,グラム陽性球菌の感染所見として矛盾しないものであった.再発性角膜びらんに限らず,糖尿病や神経栄養性角膜症などでも上皮の接着障害が起こりうる.角膜の接着障害を認める場合,角膜上皮が接着と脱落を繰り返す過程で,細菌が上皮下にトラップされることで,このような上皮下浸潤をきたすのではないかと筆者らは推察している.再発性角膜びらんに細菌感染を合併することはまれである.既報では英国で救急外来を受診したおよそC5,800人の再発性角膜びらんの患者のうち,細菌感染を合併したのはわずかC11例であった5).まれではあるが,合併すれば上記のような特徴的な所見が観察される可能性は高い.また,このような角膜上皮の接着障害に伴う細菌感染では,びらん辺縁に感染巣が多発するため,細菌感染後の瘢痕治癒により角膜混濁が広範囲に及ぶことがある.また,瘢痕治癒に伴う不整乱視が残ることも多く,治療開始前に視力予後について十分な説明が必要である.文献1)RodriguesCMM,CFineCBS,CLaibsonCPRCetal:DisordersCofCtheCcornealCepithelium.CACclinicopathologicCstudyCofCdot,Cgeographic,CandC.ngerprintCpatterns.CArchCOphthalmolC92:475-482,C19742)GoldmanCJN,CDohlmanCCH,CKravittBA:TheCbasementCmembraneCofCtheChumanCcorneaCinCrecurrentCepithelialCerosionCsyndrome.CTransCAmCAcadCOphthalmolCOtolaryn-golC73:471-481,C19693)Hope-RossMW,ChellPB,KervickGNetal:Oraltetra-cyclineinthetreatmentofrecurrentcornealerosions.EyeC8:373-377,C19944)薄井紀夫,後藤浩:眼感染症診療マニュアル.眼科臨床エキスパート,p178-187,医学書院,20165)LonidesCACW,CTuftCSJ,CFergusonCVMGCetal:CornealCin.ltrationCafterCrecurrentCcornealCepithelialCerosion.CBrJOphthalmolC81:537-540,C1997

生物製薬の点眼開発

2025年11月30日 日曜日

生物製剤の点眼開発TheDevelopmentofBiologicalEyeDropTherapies鴨居功樹*はじめに生物製剤は抗体,ペプチド・蛋白質,遺伝子治療,核酸医薬,細胞製剤などを含み,全身領域では多くの疾患で画期的な治療効果をもたらしてきた.眼科領域でも近年,生物製剤を点眼薬として応用する試みが進展している.従来は,ドライアイや眼炎症などに対する人工涙液や免疫調節薬・低分子薬の点眼,眼感染症に対する抗菌薬/抗ウイルス薬の点眼,加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体/融合蛋白質の硝子体内注射が標準であった.しかし,患者負担の軽減と非侵襲的治療へのニーズの高まりを受け,「点眼で投与可能な生物製剤」の開発が国内外で注目されている.点眼は前眼部病変に有効である一方,後眼部疾患に対しては生体利用率の低さや角膜/結膜/強膜バリアなど薬物動態上の制約が大きく,臨床実装の障壁となっている.本稿では,生物製剤を上記の広義概念として用い,点眼治療の現状と将来展望を概説し,克服戦略と安全性について論じる.CI生物製剤の種類と作用機序生物製剤は分子種(抗体,ペプチド・蛋白質,核酸医薬,遺伝子治療,細胞製剤)により作用機序が異なる.以下では,それぞれの概要と眼科疾患への応用を整理して概説する.抗体医薬(モノクローナル抗体,抗体フラグメントなど)は,標的となるサイトカインや成長因子を高い特異性で中和する.眼科では炎症性サイトカイン〔たとえば腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactoralpha:TNF-a)〕や血管新生因子(VEGF)を抑制することで炎症・新生血管を制御する.抗CTNF-a抗体フラグメントのリカミニリマブは,前部ぶどう膜炎に対して点眼で有効性を示したとの報告がある1).従来の全長抗体(分子量約150CkDa)は角膜を通過しにくいが,低分子量の単鎖抗体(single-chainvariable.fragment:scFv)などにすることで角膜透過性を高める工夫がなされている.ペプチド・蛋白質医薬は,生理活性ペプチドや成長因子,サイトカインなどを利用した製剤である.神経成長因子(nervegrowthfactor:NGF)やサイトカインを補充・刺激することで組織修復や神経再生を促す.眼科では角膜上皮や神経の再生を促す目的で応用され,代表例としてセネゲルミン(オクサーベート)があげられる.これはヒト遺伝子組み換えCNGF製剤であり,角膜知覚神経の障害による難治性角膜潰瘍(神経栄養性角膜症)を治癒に導く.オクサーベートは眼科領域で初めて承認された局所生物製剤であり,8週間の点眼療法で角膜上皮欠損の完全治癒をもたらし得る画期的治療薬である2).ほかにも創傷治癒ペプチドであるチモシンCb4を含む点眼薬(RGN-259)がドライアイや神経障害性角膜症で臨床試験中である3).核酸医薬(アンチセンス,siRNA,DNA/RNAアプタマーなど)は遺伝子発現を操作したり,標的蛋白質に*KojuKamoi:東京科学大学眼科学教室〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京科学大学眼科学教室(1)(57)C14210910-1810/25/\100/頁/JCOPY結合して働きを阻害する核酸分子である.たとえばRNAアプタマー(PEG化したCRNAオリゴヌクレオチド)はCVEGFに結合して失活させる作用をもち,すでにペガプタニブ(マクジェン)としてCAMDに導入された.眼科領域では,角膜や結膜における炎症性サイトカインの発現抑制や病的遺伝子変異のサイレンシングを狙ったCsiRNAやアンチセンスの点眼投与が研究されているが,核酸医薬は細胞膜透過性が低いため,ドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)の助けなしに点眼のみで効果を発揮するのはむずかしく,現在はおもに注射投与が中心である.ただし,一部では核酸を封入したナノ粒子点眼や細胞膜透過ペプチド(cellpenetratingCpeptide:CPP)との複合体による送達技術が模索されている.遺伝子治療は,ウイルスベクターや遺伝子導入プラスミドを用いて標的細胞に新たな遺伝子を送り込み,治療効果を得るアプローチである.眼科では網膜ジストロフィに対するアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療(たとえばルクスターナ注の網膜下注射)が実用化されているが,これは侵襲的手技である.点眼による遺伝子治療は技術的ハードルが高いものの,最近点眼型の遺伝子治療薬が難治性角膜疾患で劇的効果を示したケースも報告されている.米国ではCBeremageneCgeper-pavec(Vyjuvek)が単純ヘルペスウイルス(herpessim-plexvirus:HSV)-1ベクターを用いた皮膚用遺伝子治療薬として栄養障害型表皮水疱症(dystrophicCepider-molysisbullosa:DEB)に承認されており,DEBに起因する重度の眼表面瘢痕に対して術後に点眼投与した症例がCNewCEnglandCJournalCofMedicine(NEJM)で報告され,角膜上皮の治癒および視力改善が示された4).細胞治療は培養細胞や誘導細胞そのもの,あるいはそれらが産生するエクソソーム・サイトカインを利用する治療法である.眼科では角膜上皮幹細胞移植や培養角膜上皮シートなど移植医療が実践されているが,点眼への応用としては細胞培養上清や幹細胞由来エクソソームの点眼療法が注目されている.たとえば間葉系幹細胞(mesenchymalstemcell:MSC)のコンディショニング培地(細胞が放出した成長因子やサイトカインを含む上清)を点眼投与することで,ドライアイモデルで角膜バリア機能が改善し上皮障害が軽快することが報告された.この効果はトランスフォーミング増殖因子(transC-formingCgrowthfactor:TGF)C-bおよびCJAK-STAT経路の関与が示唆される5).また,幹細胞由来エクソソームの点眼は,ドライアイに対する小規模ランダム化試験で安全性と有効性が確認されている6).以上のように,生物製剤はそれぞれ異なるメカニズムで眼科疾患にアプローチする.抗体は病的因子の中和,ペプチドは組織修復促進,核酸は遺伝子発現制御,遺伝子治療は根本原因への介入,細胞治療は多面的な再生促進といった特徴がある(表1).CII点眼用生物製剤の疾患別の開発状況現在,点眼投与可能な生物製剤の研究開発は眼表から眼底まで幅広い疾患を対象に世界中で進められている.以下,おもな疾患領域ごとに開発状況を概観する.C1.眼表疾患ドライアイや角膜上皮障害では,組織修復や涙液補充を目的とした生物製剤が開発されている.代表的なのが前述のセネゲルミン(NGF製剤)であり,欧米では神経栄養性角膜症の治療薬として実用化されている2)ドライアイに対してはチモシンCb4点眼薬(RGN-259)の第CIII相試験が進行中であり,速やかな角膜上皮治癒や症状改善が示唆されている3)が,一部試験では主要評価項目未達も報告されている.角膜上皮障害(難治性角膜潰瘍,遷延性上皮欠損など)に対しては,生物製剤の活躍が顕著である.既述のCNGF製剤,チモシンCb4製剤に加え,dHGF(oremeperminalfa)点眼CCSB-001が神経栄養性角膜症(stage2.3)に対して開発中である.アレルギー性結膜炎領域では,点眼型の生物学的製剤はまだ限られるが,抗体断片の点眼による抗原中和などの局所免疫調節が動物で実証されている(例:スギ花粉アレルゲンCCryCj1特異的CFabの点眼で炎症抑制).一方で,免疫グロブリンCE(immunoglobulinE:IgE)や胸腺間質性リンホポエチン(thymicstromallymphopoi-etin:TSLP),インターロイキン(interleukin:IL)-5,IL-4/IL-13などのサイトカイン軸は病態の中心であり,1422あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(58)表1点眼用生物製剤製剤分類標的/作用おもな対象CLicaminlimab抗体医薬(抗CTNFCa抗体断片)抗炎症急性前部ぶどう膜炎細胞侵入ペプチド(CPP)結合抗CVEGF点眼抗体医薬(抗体×CPP)後眼部送達/抗脈絡膜新生血管加齢黄斑変性CCenegerminペプチド・蛋白質(神経成長因子)神経栄養・上皮治癒促進神経栄養性角膜症(NK)CThymosinb4ペプチド・蛋白質(ペプチド)上皮治癒・抗炎症ドライアイ/NK多機能ペプチドペプチド・蛋白質(メラニン結合+CPP)メラニン組織デポ化/持続化視神経保護などCBeremagenegeperpavec遺伝子治療(HSV-1ベクター)COL7A1遺伝子導入→CVII型コラーゲン発現/上皮治癒促進栄養障害型表皮水疱症関連眼表障害間葉系幹細胞(MSC)コンディショニング培地細胞治療(生体由来上清)多因子(TGF-b/JAK-STAT関与)ドライアイ間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソーム細胞治療(細胞外小胞)多因子ドライアイ抗体医薬ペプチド/蛋白質遺伝子治療細胞治療細胞侵入ペプチド-抗VEGF多能ペプチド(HR97)HSV(Ber間葉系幹細胞コンディショニング培地TNF-a単鎖抗体(Licaminlimab)-1ベクターemagenegeperpavec)間葉系幹細胞由来エクソソーム神経成長因子(Thymosinb)神経成長因子(Cenegermin)前臨床第Ⅰ/Ⅱ相第Ⅲ相承認図1点眼用生物製剤の開発状況表2後眼部送達と持続化のおもな戦略戦略作用概念長所おもな課題CPP結合抗体角膜バリア通過→網膜到達,抗新生血管活性非侵襲・分子拡張性安全域・用量域の確立反復投与時免疫反応メラニン結合ペプチド/低分子毛様体やCRPEのメラニンへドラッグデポ→作用持続用量頻度低減,持続化個体差(メラニン量)長期安全性イオントフォレーシス微弱電流で角膜/強膜通過促進手技で透過制御網膜到達は限定的装置依存コンタクトレンズ型/留置デバイス眼表に留置し長時間放出患者操作で持続化装用快適性アドヒアランスinsituゲル/カチオン性エマルション滞留延長・放出制御製剤で簡便に持続化後眼部到達は限定的VI将来の展望と新技術生物製剤の点眼開発における将来展望として,近年のキーワードはCDDS技術の進化とCAI活用である.C1.DDS技術の進化ナノテクノロジーの進歩により,これまで到達がむずかしかった眼内へ薬剤を非侵襲的に届ける試みが加速している.リポソーム,ナノ粒子,ナノゲル,エマルション等の各種ナノキャリアは,滞留時間の延長・角膜透過性の改善・持続放出化に有用であり,眼科応用に関する報告が相次いでいる.前述のCCPPやメラニン結合ペプチドもCDDSの一種である.さらに,持続性デリバリーの観点では,埋め込み型デバイスを用いる代わりに点眼薬自体で持続効果を生む工夫(点眼薬中でのドラッグデポ形成など)が研究されており,メラニン結合性ペプチドや低分子を利用して毛様体やCRPEのメラニンへ薬剤をデポし作用持続を得るアプローチが報告されている18).将来的には「貼る点眼薬」のようなデバイス,すなわちコンタクトレンズ型のドラッグデリバリーや眼表留置デバイスも登場し,患者自身が貼付・点眼することで半減期の短い生物製剤を長時間作用させるプラットフォームとして有望視される.C2.AI活用創薬の分野ではCAIが活躍し始めているが,眼科における生物製剤でも例外ではない.AIは標的分子の探索から分子デザイン,最適製剤処方に至るまで幅広く応用可能である.実際に,前述の多機能ペプチドCHR97は機械学習アルゴリズムで設計され,細胞侵入能・メラニン結合性・低毒性を兼ね備える配列が同定された18).このような「創薬C×AI」の成功例は今後増えていくと予想され,より安定で浸透性の高い抗体断片や分解酵素に強い改変蛋白質の設計にCAIが活用されるであろう.また,インシリコシミュレーションも強力なツールであり,眼球内の薬物動態を計算モデルで予測し,最適な点眼間隔や濃度を導出する試みも報告されている29).これにより,臨床試験前に有望な処方や投与レジメンを合理的に絞り込むことが可能となる.おわりに生物製剤の点眼開発は,多様なカテゴリーのバイオ医薬品を眼科領域へと誘導する最先端の試みである.すでに実装されたCNGF点眼薬に続き,複数の候補が開発の後期段階にある.薬物動態・安定性・免疫学的課題など困難も多いものの,DDS技術やCAIの力を借りてその壁は着実に破られつつある.国内外の協調と競争のもと,今後ますます革新的な点眼治療が生まれるであろう.眼科領域における生物製剤点眼療法の発展に,今後も注目したい.文献1)PasqualiCTA,CToyosCMM,CAbramsCDBCetal:TopicalCocu-larCanti-tnfalphaCagentClicaminlimabCinCtheCtreatmentCofCacuteCanterioruveitis:aCrandomizedCphaseCiiCpilotCstudy.CTranslVisSciTechnolC11:14,C20222)BakrM,EleiwaTK,SaeedHNetal:TopicalcenegerminforpediatricCneurotrophicCkeratopathy:aCreviewCofCtheCliteratureCandCsystematicCreview.CCornea2025:doi:C10.1097/ICO.0000000000003960Onlineaheadofprint3)SosneCG,CKleinmanCHK,CSpringsCCCetal:0.1%CRGN-259(Thymosinss4)ophthalmicsolutionpromoteshealingandimprovescomfortinneurotrophickeratopathypatientsinarandomized,placebo-controlled,double-maskedphaseiiiclinicaltrial.IntJMolSciC24:554,C20224)TovarCVetencourtCA,CSayed-AhmedCI,CGomezCJCetal:COcularCgeneCtherapyCinCaCpatientCwithCdystrophicCepider-molysisbullosa.NEnglJMedC390:530-535,C20245)ImaizumiCT,CHayashiCR,CKudoCYCetal:OcularCinstillationCofCconditionedCmediumCfromCmesenchymalCstemCcellsCisCe.ectivefordryeyesyndromebyimprovingcornealbar-rierfunction.SciRep13:13100,C20236)HabibiA,KhosraviA,SoleimaniMetal:E.cacyoftopi-calCmesenchymalCstemCcellCexosomeCinCSjogren’sCsyn-drome-relatedCdryeye:aCrandomizedCclinicalCtrial.CBMCCOphthalmolC25:299,C20257)MizutaniN,NabeT,YoshinoS:TopicaloculartreatmentwithCmonoclonalCantibodyCFabCfragmentsCtargetingCJapa-neseCcedarCpollenCCryCjC1CinhibitsCJapaneseCcedarCpollen-inducedCallergicCconjunctivitisCinCmice.CEurCJCPharmacolC798:105-112,C20178)LambiaseCA,CAloeCL,CCentofantiCMCetal:ExperimentalCandCclinicalCevidenceCofCneuroprotectionCbyCnerveCgrowthCfactorCeyedrops:ImplicationsCforCglaucoma.CProcCNatlCAcadSciUSAC106:13469-13474.C20099)KimCHM,CWooSJ:OcularCdrugCdeliveryCtoCtheretina:CcurrentCinnovationsCandCfutureCperspectives.CPharmaceu-tics13:108,C20211426あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(62)–

小児への点眼処方の注意点

2025年11月30日 日曜日

小児への点眼処方の注意点PrecautionswhenPrescribingEyeDropstoChildren野々部典枝*はじめに小児は成人と比べて解剖学的・生理学的な違いが多く,薬剤の吸収・分布・代謝・排泄において特異な薬物動態を示す.小児を対象とした臨床試験を経て小児への適用を明示している点眼薬はごく一部であり,処方の際には必要性,有効性を十分に検討し,基礎疾患の有無を必ず確認して副作用についても慎重に経過観察することが重要である.本稿では,小児への点眼処方についての注意点を解説する.I小児の薬物動態と眼科治療の特異性低年齢であるほど消化管からの吸収が遅く,体水分量が多く,とくに新生児・乳児では肝代謝酵素や腎排泄機能が未熟であり,薬物の半減期が延長して体内に蓄積されやすい.このため,小児への薬物の全身投与では年齢や体重,体表面積に基づいて用量・用法が算出されているが,日常診療における点眼投与は小児用の調整方法が確立されていない.小児用の点眼容器などもないため,成人と同じ1滴(約30.50.μl)が滴下される点眼容器を用いて検査や治療にあたらなければならない.Micro-drops(5.10μl,論文により異なる)での効果をレビューし,有効性を論じている報告1)もみられるが,極少量を点眼できるようにするには容器の改良など課題も多い.また,点眼薬の薬物動態に影響を与える結膜.の容量や瞬目回数,涙液分泌量,瞼裂幅,鼻涙管閉塞の有無などは年齢によって大きく異なる.協力が得られない児への点眼では,児が泣いてしまい,点眼が涙液で希釈されて効果が不安定になりやすい.点眼薬は局所治療であるが,涙.および鼻粘膜から全身循環へ移行する可能性があること,さまざまな要因で効果が不安定になることを念頭において,点眼を行う保護者や医療スタッフへ点眼手技,適切な使用方法を指導し,処方後の効果と副作用についても慎重に経過観察して用法の調整を行うことが重要である.II小児への点眼方法点眼治療において重要なのは,眼局所での有効な薬物濃度を得つつ,全身循環への移行を最小限にして副作用を生じさせないことである.小児では自己による点眼や保管管理が適切に行いにくく,家庭で点眼治療を行う場合には保護者の介助が不可欠である.処方時には家族への説明を徹底し,適切な投与回数・手技・副作用の徴候について理解してもらうことが治療成功の鍵となる.とくに初診の児では,これまでに点眼薬を使用したことがあるか,その際の反応はどうだったか(嫌がって暴れてしまった,まったく眼をあけてくれなかったなど)を聴取し,後述する点眼の方法やタイミングを丁寧に説明する.わずかでも結膜に入ればよいこと,できなくても少し時間をおいて再度トライすることなど,点眼を行う保護者を励ますことも大切である.乳幼児では,図1のようにタオルなどで体幹をくるみ(肩をしっかり巻くことがポイント),足で頭部を挟むように固定して下眼瞼を*NorieNonobe:いとう眼科,浜松医科大学〔別刷請求先〕野々部典枝:〒491-0113一宮市浅井町西浅井郷中25-1いとう眼科(1)(51)14150910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1大人が一人で乳幼児に点眼する場合の一例タオルなどで体をくるみ,児の手足がばたつかないようにする.足で頭部を固定して点眼する.眼を開けてくれない場合は下眼瞼を下方に引くようにして目頭に向けて点眼する.閉瞼した状態で目頭に一滴おとし,瞬目で結膜に入るようにしてもよい.していると抗菌薬点眼を希望される保護者は多いが,漫然と抗菌薬点眼を処方するのではなく,保護者にも納得してもらえるようガイドラインに従って適切な指導を行うようにする.b.新生児結膜炎おもに産道感染による母子感染で生じるため,産科,小児科との連携が不可欠な感染症である.現在は全新生児に対して出生1時間以内に両眼に眼軟膏を塗布することが推奨されている.しかし,現在使用可能なエコリシン眼軟膏は淋菌に対しては耐性の可能性があること,クラミジアに対しては予防効果が否定的であることから,母体のスクリーニングに重点をおき,母体治療を行うことで新生児結膜炎を予防するなど,施設により対策が行われている.淋菌は現在ニューキノロン系薬に対して80%前後の耐性率を示すため,キノロン点眼は無効と考え,セフメノキシム塩酸塩点眼(ベストロン点眼液0.5%)点眼に加え,セフトリアキソンまたはセフォタキシムの点滴投与を行う.クラミジア結膜炎は生後5.12日に起こり,鼻咽頭感染の併発も多いため,局所的なトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液やオフロキサシン眼軟膏に加え,エリスロマイシンもしくはアジスロマイシンの全身投与を行う必要がある.c.乳幼児期以降の感染性結膜炎日常臨床ではスペクトラムの広い薬剤を第一選択とすることが多いが,小児に対して治験を行い,適用を明示している点眼薬はトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液(オゼックス点眼液0.3%)のみである.治験においてトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液は正期産新生児,乳幼児,2.11歳の児童において有効率が98.1%と確認されており,副作用の発現はみられていない.ほかにはガチフロキサシン点眼液(ガチフロ点眼液0.3%)では1歳以上の小児において国内第III相臨床試験を行っており,副作用は認められなかった.モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液0.5%)は,国内第III相臨床試験において41日齢以上12歳未満に使用しており,また,新生児・乳幼児に対する特定使用成績調査においては低出生体重児および新生児(出生後28日未満)と乳幼児(出生後28日以上15歳未満)の症例が含まれており,副作用は認められなかった.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液1.5%)は8歳未満に投与した臨床試験は実施されていない.2.抗炎症薬点眼抗炎症薬点眼(副腎皮質ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症点眼薬)は,アレルギー性結膜炎,ぶどう膜炎,術後炎症の抑制などに用いる.a.副腎皮質ステロイド点眼長期使用は眼圧上昇や白内障形成などのリスクがある.とくに10歳未満の小児はステロイド感受性が高く,0.1%デキサメタゾン点眼による眼圧上昇の頻度が高い3)ため,眼圧のモニタリングが必須である.力価の高いステロイドの点眼は病勢をみて短期間の使用にとどめ,その後は可能なら中止,ステロイド中止が困難ならばフルオロメトロン点眼への変更もしくは非ステロイド性抗炎症点眼薬への変更を考慮する.アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)4)によると,春季カタルでは抗アレルギー点眼薬で効果不十分な中等症以上の症例に対して免疫抑制点眼薬を追加投与し,それでも改善がみられない重症例にステロイド点眼の追加という順序で治療を強化していく.ステロイドの瞼結膜下注射は,10歳未満の小児への使用は避けることが望ましい.b.副腎皮質ステロイド全身投与眼疾患以外においても,ステロイドは小児の造血器腫瘍やネフローゼ症候群などの腎疾患,自己免疫疾患などで長期に大量に全身投与されることも多く,プレドニン換算20.mg/日以上,0.5.mg/kg/日以上で眼圧上昇リスクが高い.そのほかにも緑内障の家族歴や春季カタル,ぶどう膜炎などでステロイドへ反応しやすい5).小児科との連携が重要で,眼圧のモニタリングを定期的に行うこと,高眼圧となり治療を要した症例に対してその後の治療プロトコールや再発などに対し再びステロイドを使用しなければならない場合にはあらかじめ緑内障点眼を開始し,点眼薬のみでは眼圧コントロール不能になった場合の外科的治療の時期(全身麻酔手術に耐えうる全身状態にしなくてはならない)についても認識を共有しておく.小児では眼圧上昇時の症状をうまく訴えられないことも多く,入院中の病棟でいつもより食欲がなく吐いているなどから眼圧上昇が判明する場合もある.小児科(53)あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251417のスタッフにもステロイド全身投与時に眼圧上昇が起きうること,その際に考え得る身体症状を啓発し,早期に眼科との連携がとれる体制を構築しておきたい.小児では眼圧測定を嫌がり,無理に測定すると高く計測されることもあり,そもそも眼圧測定させてくれない場合も多い.状況によっては鎮静して眼圧測定を行い,治療方針について小児科と相談する必要がある.c.非ステロイド性抗炎症薬白内障術後によく使用されるジクロフェナクNa点眼液0.1%では,小児などを対象とした臨床試験は実施されていないため,小児に使用する機会はあまりない.ブロムフェナクNa点眼液0.1%では,低出生体重児または新生児を対象とした臨床試験は実施されていないが,幼児以降の児では,眼炎症があるもののステロイド点眼を避けたい場合には角膜上皮障害に注意しつつ処方することがある.3.抗アレルギー薬季節性・通年性アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタルなどのアレルギー性結膜疾患治療の基盤として使用する.近年有病率は増加しており,アレルギー性結膜炎は10歳代に年齢分布のピークがある.小児ではかゆみの訴えが曖昧な場合もあり,眼をこするなどの掻爬行動から疾患を推測する必要がある.防御対策や治療継続に関して保護者の協力と理解が重要であり,児には眼をこすらないよう指導する.無症状時でも予防的に使用し,季節前からの定期投与が効果的であるが,かゆい時にしか点眼しないなど点眼薬の効果が十分に発揮されない使用方法をしている場合も多く,効果不十分の場合にすぐにステロイド点眼を追加するのではなく,防御対策や適切な点眼使用方法について処方時の説明が重要である.近年は後発品を処方する場合も多いが,先発品と異なる防腐剤(一例として塩化ベンザルコニウム)が使用されていたりすると刺激症状には注意する.また,改善したから中止するのではなく維持療法が必要な場合があり,自己判断でやめてしまうと改善しては増悪をくりかえすことになる.定期投与が必要な場合は無症状でも継続する大切さを説明する.頻回点眼を面倒がる児,コンタクトレンズを使用しており点眼のタイミングがむずかしい児などに対しては,エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム(アレジオン眼瞼クリーム)が2024年5月に発売され,有用である.ただし,12歳未満の小児などを対象とした臨床試験は実施されておらず慎重に使用する.4.緑内障治療薬(とくに先天緑内障・小児緑内障)原発先天緑内障では治療の第一選択は手術治療であり,薬物治療は周術期の補助手段として行う.4歳以降に発症する若年開放隅角緑内障では原則原発開放隅角緑内障の治療に準ずるが,その際には体重・体表面積あたりの投与量が相対的に多いことを意識して低濃度で全身副作用の少ない薬剤を選択する.緑内障点眼薬はいずれも幼児,小児における安全性および効果についてのデータが確立していないことを忘れずに最小限の薬剤投与量にとどめる.とくにb遮断薬使用時は全身副作用(徐脈・低血圧・気管支けいれんなど)が重篤になるため注意が必要であり,新生児・乳児には基本的に避けたほうがよい.やむを得ず使用する場合は,涙.部圧迫による全身吸収の抑制を徹底する.FP受容体作動薬は小児での効果は成人に比較して弱い.a2刺激薬は中枢神経抑制作用があり,乳幼児では傾眠,昏睡,呼吸抑制をきたすため2歳未満には禁忌である6).炭酸脱水酵素阻害薬は点眼としても内服薬としても使用する.全身副作用は比較的少ないが,味覚異常や胃腸障害に注意が必要である.5.散瞳・調節麻痺薬屈折検査,調節麻痺,眼底検査,炎症抑制のため使用する.シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン)やトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼(ミドリンP)は外来での使用頻度が高く,使用方法・効果の持続時間・副作用についてとくに眼科スタッフに周知が必要である.散瞳や調節麻痺目的で使用するときには5.10分おきに2.3回点眼する.外来で点眼する際には家族にも協力してもらい,図2のような態勢で行うとやりやすい.副作用としては頻脈,血圧上昇,顔面紅潮,結膜充血,口渇などがみられる.シクロペントラートではさらに中枢作用を有し,とくに乳幼児では傾眠・発熱・幻1418あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(54)図2診察前に家族に協力してもらいながら乳幼児に点眼する場合の一例a:母と向かいあうように児を抱っこしてもらい,そこから点眼者の膝に仰向けに倒れて頭を預けてもらう.b:下眼瞼をそっと引き,上方を見るように指示して下眼瞼に点眼を落とす.図30.025%低濃度アトロピン点眼を1カ月継続使用している9歳男児の左眼前日21時に点眼し,12時間後の瞳孔の状態.細隙灯顕微鏡の光をあてても弱い縮瞳のみで,瞳孔径は5.8mm程度と中等度散瞳している.