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パッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の1例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1321.1326,2025cパッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の 1例栁 翔涼*1 小幡博人*1 山﨑厚志*1 高村さおり*2 福田知雄*2*1埼玉医科大学総合医療センター眼科 *2埼玉医科大学総合医療センター皮膚科CA Rare Case of Eyelid Contact Dermatitis Caused by Ophthalmic Eye Drops for Glaucoma Treatment in which Patch Testing was Useful Shosuke Yanagi1), Hiroto Obata1), Atsushi Yamasaki1), Saori Takamura2)and Tomoo Fukuda2)CDepartment of Ophthalmology1)and Dermatology2), Saitama Medical Center, Saitama Medical UniversityC目的:上眼瞼縁の腫脹と黄色滲出物がめだつ緑内障治療点眼薬による眼瞼接触皮膚炎を経験したので報告する.症例:72歳,女性.8年前から近医で緑内障治療点眼薬が処方されていた.9カ月前に眼瞼炎が発症し,フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロン軟膏,ベタメタゾン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏,抗菌薬の点眼や内服などによる治療が行われたが,軽快しないため当科へ紹介となった.初診時に両眼の上眼瞼縁が発赤腫脹し,黄色の滲出物を伴っていた.眼瞼皮膚の紅斑や結膜の充血はみられなかった.フラジオマイシンを含まないプレドニゾロンやベタメタゾンの軟膏を処方したが改善せず,皮膚科へコンサルトした.タクロリムス軟膏が処方されたが所見は軽快せず,パッチテストが施行された.7種類の薬剤を背部に貼付した結果,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬のみが陽性となり,この点眼薬を中止したところ,眼瞼炎は速やかに改善した.結論:上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そしてパッチテストを施行することが大切である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCeyelidCcontactCdermatitisCcausedCbyCglaucomaCophthalmicCeyeCdropsCwithCswellingCandCyellowCexudateCatCtheCeyelidCmargin.CCase:AC72-year-oldCwomanCwithCglaucomaChadCbeenCusingCeye-drop medication prescribed by her primary care physician over the past 8 years. Nine months prior to being referred to our department, she developed blepharitis, and various eye drops and oral medications failed to relieve theCsymptoms.CAtCtheCinitialCexamination,CtheCupperCeyelidCmarginsCofCbothCeyesCwereCerythematousCandCswollenCwith yellow exudates. Prednisolone and betamethasone ointments without fradiomycin were prescribed, yet there was no improvement and the patient was referred to a dermatologist. Tacrolimus ointment was prescribed, but the .ndings did not improve, so a patch test was performed. Seven di.erent drugs were applied to the back, but only dorzolamide hydrochloride/timolol maleate ophthalmic solution tested positive, and the blepharitis resolved quickly after it was discontinued. Conclusion:Blepharitis that does not respond to antibacterial or corticosteroid therapy should be suspected as contact dermatitis, and all eye drops should be temporarily discontinued and a patch test performed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1321.1326,C2025〕 Key words:眼瞼炎,接触皮膚炎,パッチテスト,緑内障治療点眼薬.Blepharitis, contact dermatitis, patch test, glaucoma treatment eye drops.Cはじめに皮膚に接触することによって発症する湿疹性の炎症反応をい接触皮膚炎とは,外来性の刺激物質や抗原(ハプテン)がう1,2).病態として大きく分けると,刺激性接触皮膚炎とア〔別刷請求先〕 栁 翔涼:〒350-8550 埼玉県川越市鴨田C1981 埼玉医科大学総合医療センター眼科Reprint requests:Shosuke Yanagi, M.D., Department of Ophthalmology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University 1981 Kamoda, Kawagoe-shi, Saitama-ken 350-8550, JAPANCレルギー性接触皮膚炎がある1,2).前者は皮膚に接触する物質の化学的特徴によって角層バリアを傷つけて起こるものである.後者は個体が抗原であると認識に至る過程である感作層とその後の惹起層を経て炎症反応が起こるもので,眼瞼の接触皮膚炎は後者であることが多い1.3).眼瞼の接触皮膚炎の原因として,点眼薬,眼軟膏,外用薬,化粧品,香水,洗顔剤,眼鏡,ゴーグル,ビューラー,植物,食物などが知られているC2.4).点眼薬のなかでは,散瞳薬として用いられるフェニレフリン塩酸塩やアミノグリコシド系抗菌薬であるフラジオマイシン硫酸塩などの頻度が高い4.12).また,長期間点眼されることが多い緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎も報告されている13,14).これらの臨床所見は眼瞼皮膚の浮腫性紅斑がおもなものである.今回,上眼瞼縁の腫脹と滲出物がめだつ特異な眼瞼炎で,診断と治療に難渋し,パッチテストの結果,緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎と判明した症例を経験したので報告する.CI 症   例
患者:72歳,女性.主訴:両上眼瞼腫脹.現病歴:近医からの紹介状および本人の記録によると次のような病歴である.8年前から近医で緑内障として加療を受けていた.当初は,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)が処方され,3年前から同点眼薬がドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプト配合点眼液)に変更,1年前から同点眼薬がブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)に変更となった.9カ月前から両眼瞼炎を発症した.当初,メチルプレドニゾロン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(ネオメドロールCEE軟膏)を処方されたが改善しなかった.細菌感染が疑われアジスロマイシン水和物点眼液(アジマイシン点眼液),モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液),ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)の内服が開始されたが,若干の改善がみられたが再燃した.点眼薬アレルギーを考え,アゾルガ点眼液から防腐剤フリーのドルゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトミニ配合点眼液)に変更したが改善しなかった.ガチフロキサシン水和物点眼液(ガチフロ点眼液),オフロキサシン眼軟膏(タリビット眼軟膏)が追加されたが再燃した.そこで,ガチフロ点眼液とタリビット眼軟膏を中止し,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(眼・耳科用リンデロンCA軟膏),オロパタジン塩酸塩内服(アレロック),プランルカスト水和物内服(オノンカプセル)に変更したが,眼瞼炎は改善しなかったため筆者の施設(埼玉医科大学総合医療センター眼科)を紹介され受診となった.前医での点眼薬・眼軟膏の投与歴を表 1にまとめた.既往歴:高血圧,脂質異常症,両眼白内障手術.初診時眼所見:視力は右C1.2(n.c.),左C0.9(1.2C×sph.0.50CD(cyl.0.50DAx80°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両上眼瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物を認めた(図 1).中間透光体は両眼に眼内レンズ挿入されており,眼底は両眼とも特記すべき所見はみられなかった.経過:前医での病歴が長く写真の記録もないことから,まずフラジオマイシン硫酸塩のアレルギーを疑い,眼・耳科用リンデロンCA軟膏,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%を中止し,プレドニゾロン酢酸エステル眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を開始した.1週間後にプレドニン眼軟膏をつけたところ眼瞼皮膚が赤くなったとのことで,使用開始C2日目に自己中断した.ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(リンデロンCVG軟膏0.12%)とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(サンベタゾン点眼液)を開始した.コソプトミニ配合点眼液の代わりにコソプト配合点眼液を処方した.2日後に上眼瞼の発赤は軽度減少した.サンベタゾン点眼液を中止し,フルオロメトロン点眼液C0.1%を開始した.しかし,初診から1カ月後に上眼瞼の腫脹,滲出物は改善しなかったため,皮膚科にコンサルトした(図 2).皮膚科ではタクロリムス軟膏0.1%(プロトピック軟膏C0.1%)が処方された.1週間後にプロトピック軟膏C0.1%で悪化したと訴えがあり,ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏(ロコイド軟膏)に変更された.1週間後にロコイド軟膏で滲出が悪化したため中止した.1週間後にプレドニン眼軟膏が再開され,ビラスチン(ビラノア)OD錠の内服が開始された.改善がみられないため点眼薬によるアレルギーを考え,2週間後に皮膚科でパッチテストを施行した.パッチテストは次のC7種類の薬剤を用いて上背部に施行した.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏である.これ以外の薬剤に関してはパッチテスト施行時に患者が持参せず,施行できなかった.48時間後,72時間後,1週間後でぞれぞれ陽性度判定を行った.72時間後に,コソプト配合点眼液のみ陽性となった(図 3).そこで,コソプト配合点眼液を中止したところ,1週間後,両眼瞼炎は速やかに改善した.副腎皮質ステロイドや抗菌薬の外用薬の併用はなかった.1カ月後,左眼圧がC24CmmHgに上昇したため,チモロールマレイン酸塩点眼液C0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)を開始した.2週間後,リズモンCTG点眼液C0.5%で掻痒感が出現したと訴えが表 1 前医での点眼薬・眼軟膏処方歴リズモンTG点眼液C0.5% コソプト配合点眼液 アゾルガ配合懸濁性点眼液 ネオメドロールEE軟膏 アジマイシン点眼液 ベガモックス点眼液C0.5% コソプトミニ配合点眼液C0.4Cml ガチフロ点眼液0.3% タリビッド眼軟膏 ベタメタゾンリン酸エステルNa・PF点眼液C0.1% 眼・耳科用リンデロンCA軟膏 8年前C ○ 3年前C ○ 9カ月前C ○C ○ 4カ月前C ○C ○C ○C ○ 2カ月前C ○C ○C ○C ○ 1カ月前C ○C ○C ○ 当科受診直前C ○C ○C ○ 

図 1 初診時外眼部所見 a, c:右眼.b, d:左眼.両上眼瞼の瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物がみられた.あったが,特記すべき所見はなかった.リズモンCTG点眼液常値C173.0CIU/ml以下)と高値であったが,好酸球はC3.3%0.5%をカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(正常値C0.4.8.6%)と正常であった.また,MAST36とい(ミケルナ配合点眼液)に変更した.以降,眼瞼炎の再燃はC1うC36種類のアレルゲンの特異的CIgEを調べる血液検査はす年間みられず,近医で経過観察することとなった.なお,皮べて陰性であった.膚科で施行された血液検査の結果,IgEがC1,580.0CIU/ml(正
図 2 初診から 1カ月後の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼の腫脹や滲出物は改善しなかった.
図 3 パッチテスト 72時間後
7種類の薬剤の背部へのパッチテストを行った結果を示す.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏.このうち②のコソプト配合点眼液のみ陽性となった.C
II 考   按
眼瞼皮膚は人体のなかでもっとも薄く,バリア機能が弱いため,点眼薬の主成分または防腐剤や緩衝剤などにより感作されやすいとされる2,4,7).接触皮膚炎はすべての点眼薬で発症する可能性はあるが,とくに発症しやすい点眼薬の成分として,フェニレフリン塩酸塩とフラジオマイシン硫酸塩が知られている3.14).そのほかに,ゲンタマイシン硫酸塩,クロラムフェニコール,チモロールマレイン酸塩,ラタノプロストなどがある3.14).近年では,緑内障治療点眼薬であるブリC1324  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025モニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物による眼瞼炎の発症も知られている.また,主成分だけではなく防腐剤の塩化ベンザルコニウムや添加物のCf-アミノカプロン酸によっても発症することがある3.7).注意すべきは抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウムなどや副腎皮質ステロイドでも接触皮膚炎が起こることである2,6,7).接触皮膚炎の臨床所見は,紅斑,丘疹,小水疱であるが,眼瞼皮膚はきわめて薄いため,小水疱ではなく紅斑や浮腫が険になることが多い1,2).慢性化した場合には苔癬化を伴う痂皮が亀裂などを呈することがあるという.本症例は,上眼瞼縁に限局して発赤,腫脹,黄色滲出物がみられ,眼科医がときに遭遇するフェニレフリンやフラジオマイシンによる接触皮膚炎でみられる上下眼瞼全体の浮腫性紅斑と所見が異なっていた.そのため,当初は眼瞼炎の原因として細菌感染やなんらかのアレルギーを考えて治療を行ったが改善しなかった.治療に難渋したため,皮膚科へコンサルトした.皮膚科でも当初は点眼薬による接触皮膚炎としては非典型的な所見と考えられ,タクロリムス軟膏が処方された.しかし,改善しないため点眼薬による接触皮膚炎の可能性を考え,パッチテストが施行された.パッチテスト陽性となったコソプト配合点眼薬を中止すると眼瞼炎は速やかに改善したが,眼瞼皮膚の浮腫性紅斑ではなく眼瞼縁を中心に発赤,腫脹,黄色滲出物を呈した理由は不明である.毛.炎の所見に類似しており,二次的な細菌感染やCDemodex関連の炎症も可能性として考えられるが,本症例では原因薬剤の中止のみで速やかに皮疹が消失しており,追加の抗菌治療や抗寄生虫治療を行わずに改善がみられたことから,接触性皮膚炎が主たる病態であった可能性が高い.なお,初診時に病巣部の培養検査を行うべきであったが,今回は未施行であった.点眼薬による接触皮膚炎の発症時期については,一般に感作までの期間は長く,数年間使用後に発症することも多いと(106)

図 4 コソプト配合点眼液中止後 1週間の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼炎は速やかに改善した.されている2,7).点眼薬の使用開始から発症までの期間が長いことが,点眼薬による接触皮膚炎の診断をむずかしくしていると考えられている2).その理由として,点眼薬はごく少量が短時間目のまわりに付着するのにとどまるため,簡単には感作が成立せず,眼瞼皮膚が乾燥する,こすって皮膚に傷がつくなどの特定の条件がそろったタイミングで抗原として認識されるからと考えられている2).本症例はC8年前から緑内障の点眼治療が開始され,9カ月前から両眼瞼炎が出現していたということから,感作までの期間はかなり長いものであった.一般に,眼瞼炎の原因として,黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの細菌,真菌,Demodexなどの感染以外に,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,接触皮膚炎などがある15).しかし,死菌を抗原とするアレルギー反応もあり,眼瞼炎の真の病態を理解するのはむずかしい15).現実には抗菌薬の眼軟膏,副腎皮質ステロイドの眼軟膏,両者の配合剤の眼軟膏のいずれかでCempiric therapyを行っていることが多い.本症例で明らかなように,接触皮膚炎の場合はアレルゲンが除去されない限り,副腎皮質ステロイドを投与しても改善がない.接触皮膚炎の原因を特定するためにはパッチテストを行う2.8).現在,ジャパニーズスタンダードアレルゲンという日本人の接触皮膚炎の原因となることが多いC25種類のアレルゲンが知られており,パッチテストパネル(佐藤製薬)という検査薬も市販されている.25種類のアレルゲンのなかに,眼瞼接触皮膚炎の原因となることが多いフラジオマイシン硫酸塩が含まれている.パッチテストには偽陽性,偽陰性があることも知っておくべきである.本症例では陽性結果が得られており,原因薬剤の中止のみで速やかに皮膚症状が消失したことから,偽陰性の影響はなかったと考えられる.原因アレルゲンを調べる検査としてスクラッチテストもあるが,スクラッチテストは即時型アレルギー反応の評価に適しており,パッチテストは遅延型アレルギー反応の評価に適している.本症例では,点眼薬に対する接触皮膚炎が疑われ,遅延型アレルギー反応の評価を目的としてパッチテストを施行した.接触皮膚炎の治療は原因物質の除去と副腎皮質ステロイドの外用薬が基本である2,5,6).本症例はパッチテストが陽性となった点眼薬を中止するのみで改善がみられた.薬剤アレルギーを疑った場合は,薬剤をすべて中止して改善がみられるかどうかを診ることである.本症例の反省点は,緑内障点眼薬を原因として疑い中止しなかったことである.皮膚科にコンサルトする前にすべての点眼薬を中止することで眼瞼炎の改善がみられたはずである.緑内障の治療薬は疾患の性質上,中止することがためらわれるが,進行した緑内障や落屑緑内障でなければ一次的な中止は可能であると考える.今回の原因となったコソプト配合点眼液は,前医では防腐剤フリーのユニットドース製剤が処方されていた.よって,原因は防腐剤ではないものの,配合剤であるため原因がドルゾラミドなのか,チモロールマレイン酸塩なのかは特定できなかった.緑内障治療点眼薬のなかでチモロールマレイン酸塩点眼薬は眼瞼の接触皮膚炎の原因物質として報告されている13,14).本症例も長年チモロールマレイン酸塩を含む点眼液(リズモンCTG点眼液C0.5%,コソプト配合点眼液,コソプトミニ配合点眼液,アゾルガ点眼液)が処方されていたことを考えるとチモロールマレイン酸塩が原因の可能性が高い.近年では,緑内障治療点眼薬で多くの配合剤が流通しており,接触皮膚炎の原因物質の同定をむずかしくしている7).本症例ではフラジオマイシン硫酸塩も接触皮膚炎の被疑薬として考えられるが,パッチテストの当日,フラジオマイシン硫酸塩を含む眼軟膏は持参されなかったため施行できなかった.C
III 結   論
上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そして原因検索のためパッチテストを施行することが大切であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献
1)高山かおる,横関博雄,松永佳世子ほか:接触皮膚炎ガイドラインC2020.日皮会誌 130:523-567,C20202)高山かおる:眼瞼・結膜に起こる接触皮膚炎.OCULISTAC79:33-40,C20193)西 純平,杉田和成:痒みの強い目の周りの皮疹を上手に治療する.MB DermaC339:9-16,C20234)椛島健治:接触皮膚炎.VisualCDermatolC18:1219-1220,C20195)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日本の眼科 87:855-858,C20166)佐々木香る:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎.あたらしい眼科 34:1423-1424,C20177)海老原伸行:点眼薬による接触皮膚炎.アレルギーC71:C258,C20228)伊佐見真実子,矢上晶子,亀山梨奈,ほか:3年間の当科での眼瞼の接触皮膚炎を疑いパッチテストを行った症例のまとめ.皮膚病診療 33:753-757,C20119)峠岡理沙,和田 誠,加藤則人:硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎.Visual DermatolC12:162-163,C2013
10)西岡和恵,小泉明子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnvironCDer-matol Cutan AllergolC9:25-33,C201511)鈴木加余子:アレルギー性接触皮膚炎.現代医学C70:120-123,C202312)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療 37:475-478,C201513)廣門未知子,川口とし子,金井 光:緑内障治療点眼剤による接触皮膚炎のC5例.皮膚科の臨床 48:773-776,C200614)尾崎弘明,ファン・ジェーン,内尾英一,ほか:緑内障点眼薬による接触性皮膚炎のC1例.臨眼C64:1395-1399,C201015)EliasonJA:Blepharitis:OverviewCandCClassi.cation.In:KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ(Eds):CorneaC3rd edition, p403-406, Mosby, 2011C*     *     *

基礎研究コラム:疾患ゲノム研究

2025年10月31日 金曜日

疾患ゲノム研究遺伝性疾患に対する遺伝子解析アプローチ次世代シークエンサーの登場以降,大規模な遺伝子解析が行われるようになり,集団中にC1%未満の頻度で存在するレアバリアントから一塩基多型(singleCnucleotideCpolymor-phism:SNP)に代表されるコモンバリアントまで,ヒトゲノム情報の全容が徐々に明らかになりつつあります.同時に,遺伝性疾患に対する遺伝子解析手法が発展し,今日のゲノム医療の実現につながっています.たとえば,遺伝的要因と環境的要因が複合的に病気に関与する多因子疾患(加齢黄斑変性や緑内障など)に対して,SNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:GWAS)が有力な解析手法として用いられ,多数の疾患感受性領域が同定されてきました.さらに,GWASで同定されたCSNPを用いて疾患発症リスクを予測する試みが行われています.また,単一遺伝子病(遺伝性網膜ジストロフィなど)においては,全ゲノムシークエンスによるレアバリアント解析が行われるようになり,同定した原因遺伝子をターゲットとした創薬開発が行われています.
レアバリアントとコモンバリアントの相補的関係上述のように,多因子疾患に対してコモンバリアント,単一遺伝子病に対してレアバリアントに着目した遺伝子解析が行われてきました.このアプローチは一定の成果をあげてきたものの,依然として未解明な遺伝要因が多く残っています.多因子疾患においては,GWASで同定されるCSNPは遺伝要因の一部しか説明できないことが明らかになり,未解明な遺伝要因は「失われた遺伝性(missing heritability)」とよばれています.Missing heritabilityを説明する原因として,たとえば,多因子疾患におけるレアバリアントの関与が考えられています.詳細は割愛しますが,burdentestやCsequenceCkernelCassociationtest(SKAT)などのレアバリアンの検出力を上げる解析手法により,GWASでは検出できないレアバリアントの関与が検証されています1).一方で,単一遺伝子病においてもコモンバリアントの関与が注目されています.たとえば,神経疾患の分野では,希少なCneurodevelopmentaldisorderは単一遺伝子病と考えられてきましたが,近年ではコモンバリアントの関与も報告されています2).無数のコモンバリアントがポリジェニックに疾患に関与し,レアバリアントとコモンバリアントのリスク効果が一定の閾値を超えることで疾患が発症する「易罹病性・閾値モデル(liability-thresholdmodel)」が実証されていま後藤健介大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点名古屋大学大学院医学系研究科眼科学
図 1 バリアントのアレル頻度と疾患寄与度の関係一般的に,疾患発症に強く寄与するバリアントはアレル頻度が低い傾向があり,逆に頻度が高いバリアントほど,疾患発症への寄与度は弱いとされている.単一遺伝子病では,レアで寄与度の高いバリアントが関与しているのに対し,多因子疾患では,コモンで寄与度の低いバリアントが関与していると考えられている.しかし近年,レアバリアントとコモンバリアントの双方が疾患に関与する可能性が報告されている.す.また,日本のように地理的に隔離された島国では,創始者効果によって広まった高頻度なバリアントが単一遺伝子疾患に関与することも報告されています3).

今後の展望このように,従来の「レアバリアント」や「コモンバリアント」という二元的なとらえ方に代わり,これらの相補的な効果が疾患に寄与するという考え方が広まりつつあります.疾患ゲノム研究はめざましい進展をとげており,病気の遺伝的理解がさらに深まることで,ゲノム医療のさらなる発展が期待されています.文   献1)WuCMC,CLeeCS,CCaiCTXCetal:Rare-variantCassociationCtesting for sequencing data with the sequence kernel aso-ciation Test. Am J Hum Genet 89:82-93,C2011
2)HuangCQQ,CWigdorCEM,CMalawskyCDSCetal:ExaminingCtheCroleCofCcommonCvariantsCinCrareCneurodevelopmentalCconditions. NatureC636:404-411,C2024
3)GotoCK,CKoyanagiCY,CAkiyamaCMCetal:Disease-speci.cCvariantCinterpretationChighlightedCtheCgeneticC.ndingsCinC2325CJapaneseCpatientsCwithCretinitisCpigmentosaCandCallied diseases. J Med GenetC61:613-620,C2024

(93)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1311 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

硝子体手術のワンポイントアドバイス:269.ドレープの息漏れによる術中視認性低下(初級編)

2025年10月31日 金曜日

269ドレープの息漏れによる術中視認性低下(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに多くの硝子体術者が経験していることと思われるが,術中にドレープの息漏れにより,広角眼底観察システムのレンズに結露を生じ,術中の視認性が低下することがある.
●症例提示患者は55歳,男性.右眼の上耳側に弁状裂孔を認め,上方から耳側にかけて胞状の網膜.離が生じていた.この患者に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.ドレープ装着時に鼻側の皮膚面との接着が不十分で,同部位から息漏れが生じた.白内障手術はとくに支障なく遂行できた(図 1)が,硝子体手術で広角眼底観察システム(Resight)のレンズをセットしたときに,レンズに結露が生じて眼底の視認性が低下した(図 2).ドレープを一部切除したうえで,皮膚面の水分を十分にガーゼで除去し,滅菌テープを同部位に貼付して息漏れを防いだ(図 3)ところ,眼底の視認性は一時改善した(図 4).しかし,手術終了時に再度息漏れによりレンズに結露が生じた.Resightのレンズを少し挙上したところ結露は軽減し,最後まで手術の遂行が可能となった.

●ドレープの息漏れの予防と対策ドレープの息漏れは,多くの場合トレープと皮膚との接着が弱く,鼻側のドレープが浮き上がることによって生じる.予防としては眼周囲消毒のあと,とくに鼻側の皮膚に水分が残らないようにしっかりとガーゼで拭き取り,接着力の強いドレープを使用することが重要である.また鼻の高い患者では,鼻の湾曲に沿って丁寧にトレーピングを行う.息漏れが生じた場合の応急処置としては,ドレープを一部切除して皮膚面の水分を確実に除去し,滅菌テープを貼付する.レンズを挙上することで(91)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 図 1 術中所見(1)ドレープ装着時に鼻側の皮膚面との接着が不十分で,ドレープが浮かび上がり同部位から息漏れが生じた.図 2 術中所見(2)硝子体手術で広角眼底観察システムのレンズをセットしたときに,レンズに結露が生じて眼底の視認性が低下した.図 3 術中所見(3)滅菌テープを貼付して息漏れを防いだ.
図 4 術中所見(4)眼底の視認性は一時改善した.

も結露は軽減するが,眼底像が縮小するといった欠点がある.Moriokaらは二酸化炭素イメージングカメラを用いて呼気による気流の変化を可視化し,粒子カウンターを使用して眼の周囲の粒子数の変化を評価した.その結果,ドレープの鼻側が皮膚から.がれた場合は,眼の周囲に気流が生じ粒子数が大幅に増加することで術野が汚染される可能性が高くなることを示した1).硝子体手術に限らず,眼科手術のドレーピングは息漏れが生じないように心がけるべきである.文   献
1)MoriokaM,TakamuraY,MiyazakiHetal:Relationshipbetweensurgical.eldcontaminationbypatient’sexhaledairandthestateofthedrapesduringeyesurgery.SciRep13:5713,2023あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1309 

考える手術:Digital assisted vitrectomy

2025年10月31日 金曜日

考える手術.監修 松井良諭・奥村直毅 Digital assisted vitrectomy
奥田吉隆医療法人奥田眼科,八尾徳州会総合病院眼科C
Digital assisted vitrectomyとは,硝子体手術においてデジタル技術を活用する手法の一つである.とくにデジタル技術による術中の視認性の向上は,手術結果に大きく貢献する.眼科手術の歴史は肉眼観察下の外科手術で始まり,1970~1980年代に手術顕微鏡を得て飛躍的に進歩した.手術顕微鏡は術野を直接観察するものと,カメラで撮像してモニター映像を観察するものがあるが,近年は後者が注目されてきている.その代表的ラの利用とデジタル技術による映像加工は,HUSの大きな利点であり,コントラストと色調を変換することで,鏡筒での肉眼観察よりも組織の機造が強調され,判別しやすくなる点と,低照明での手術が可能という点は,硝子体手術においてはとくに有利に働く.また,HUSを使用することで術者と同等の術野を他のスタッフも共有できることから,より質の高い教育が可能となる.そのほかにも術者の姿勢の改善,異なる情報の術中同時表示として術中 OCTやサージカルガイダンス(切開位置,前.切開位置,乱視軸の投影)など,さまざまな digital assistがあり,今後さらなる発展をとげる可能性がある.聞き手:硝子体手術におけるCheads-upsurgery(HUS)加工機能,これらによって,各手術場面において最適なの利点はなんですか?術野が得られ,より質の高い硝子体手術が可能になりま奧田:日本の硝子体術者の多くは顕微鏡で直接観察してす.また,リアルタイムで各場面の術野を共有することいると思われます.それはCHUSシステムへの慣れや導で,若手医師の手術教育やメディカルスタッフを含めた入コストなどの問題があるからだと思います.現時点で手術チーム全員の状況把握にも役立ちます.は,HUSシステムは顕微鏡を覗く直接観察システムに取って代わるシステムではないかもしれません.しか聞き手:DigitalCassistedvitrectomyの工夫を教えてくし,硝子体手術においてCHUSはたくさんの利点がありださい.ます.光量の軽減,高度な被写界深度,高い解像度での奧田:HUSでは,設定を変えることでより良い術野を強拡大機能,画像鮮明化機能,特定の色を強調する画像確保できます.HUSの代表的な機器にはCARTEVO
(89)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1307 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

考える手術
(Zeiss社),SeeLuma(BauschC&Lomb社),NGENU-ITY(Alcon社)などがありますが,今回は私が使用しているCNGENUITYを例に解説します(図 1).まず,硝子体郭清の場合ですが,BlueCEnhancement,CGreenEnhancementを入れます.従来,硝子体はライトガイドなどで照らし可視化しますが,ColorCEnhancementを入れることでより精度の高い可視化が実施し,硝子体郭清の精度が上がります.また,硝子体出血の場合はSaturationをC0に近づけ,画面をモノクロにします.そうすることで出血に隠れている網膜の視認が可能となり,カッターによる網膜損傷や網膜誤吸引を回避し,より安全に硝子体郭清が可能となります.また,トロカール抜去時に結膜下出血などで視認性が悪いときも有用です.空気置換時の場合は,RGBのCYellowを増やし,HUEを+に増やします.網膜.離の手術時などで行う空気置換時は多くの光の収差が生じ,眩しさにより視認性が低下することが多々あります.しかし,この設定により収差は軽減し,より良い術野を確保できるため,網膜下液の排液やレーザー凝固などの手技もより精度が高くなります.黄斑操作の場合は,NGENUITY EnhanceC-mentを入れ,Gammaを下げます.ブリリアントブルーG使用時はCBlueを,インドシアニングリーン使用時はGreenを入れます.そうするとCILM.離時の視認性が改善します.さらに,強度近視眼の黄斑操作の場合は,超眼軸で眼底が赤・黄色い症例にはCHUEを+に増やし,赤色や黄色を強調してモノクロにすると,コントラストがはっきりし,黄斑操作が楽になると思われます.このように設定を変えることで眼科用染色剤の濃度も下げることができ,より網膜に優しい手術が可能となります.HUSシステムにはまだまだたくさんの細かい設定があり,それらを駆使すればよりさまざまな場面において精度の高い術野を得られる可能性があります.聞き手:DigitalCassistedvitrectomyによる教育についてどう考えていますか?奧田:HUSシステムは今後,より普及していくと考えております.HUSシステム以上に教育に向いているCdigitalassistはないと考えています.その理由はさまざまな設CRGBK値 Gain 
定を駆使したより精度の高い術野を得られるだけでなく,その術野をリアルタイムで手術室内のすべての人と共有できるからです.当院では,視能訓練士と看護師対象に,4カ月間「鏡筒のみで教育したグループ」「HUSシステムのみで教育したグループ」を比較しました.その結果.鏡筒群ではC4カ月で白内障手術,術中合併症も含め完璧に対応できる人がC6人育ちましたが,硝子体手術や他の手術まで完璧にこなせたのはC3人でした.一方,HUS群では,白内障と硝子体を完璧にこなせたのがC5人,さらにどの手術でも完璧にこなせる人はC2人でした.もちろん個人差はありますが,教育効果の点ではCHUSシステムが優れていると思います.これは若手医師の教育にもいえます.HUSシステムによる教育は,より短期間で若手医師やメディカルスタッフが成熟する助けになる可能性がありますし,このことは高い水準の眼科医療を提供するために必要であると考えています.聞き手:今後のCdigitalCassistedvitrectomyへの期待は何ですか?奧田:HUSシステムはまだまだ発展過程にあります.現在でも術野を映しているモニターにCpictureCinCpic-ture(PIP)でCOCT画像などを挿入可能ですが,今後はさまざまな外来画像を術野にオーバーレイできるシステムが開発されることを期待しています.そうなれば,黄斑上膜や無灌流領域などの範囲を術中に精確に確認できます.また,緑内障患者の黄斑円孔の手術では,暗点拡大を防ぐ目的で,マイクロペリメータを用いて内境界膜.離の位置と範囲を決定した報告があります1).将来的には,digital assistedによりマイクロペリメータの検査結果を術野にオーバーレイすることで,緑内障患者の黄斑処理時に視機能の悪化をさらに防ぐことが可能になると考えられます.このようにCdigitalCassistedCvitrecto-myには今後も多くの可能性があると考えています.文   献1)MatobaCR,CKanzakiCY,CMoritaCTCetal:Microperimetry-guided inverted internal limiting membrane .ap site selec-tionCtoCpreserveCretinalCsensitivityCinCmacularCholeCwithCglaucoma. Am J Ophthalmol Case RepC33:102007,C2024C
Digital Picture 図 1 NGENUITYのおもな設定項目RGB:モニター画像全体のCRGHを調整する.K値:色温度モード使用時のCKelvin値の変更で暖色と寒色のバランスを調整する.Gain:カメラ感度を招請・変更する.CDigital Picture:モニター画像の輝度・コントラスト・中間色の明るさ・色調・彩度を調整・変更する.
1308  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(90)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とサプリメント

2025年10月31日 金曜日

●連載◯160監修=安川 力 五味 文     140 加齢黄斑変性とサプリメント沢 美喜堺市立総合医療センターアイセンター
米国の大規模スタディCAREDS・AREDS2においてビタミンCC・E,亜鉛,ルテイン・ゼアキサンチンを含有するサプリメント摂取による中期・後期加齢黄斑変性(AMD)に対する予防効果が示された.わが国の新ガイドラインでもサプリメント摂取推奨が明記され,発症予防に対するサプリメントの重要性が再認識されている.
はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は先進国における失明原因の主因となる疾患であり,高齢化の進行とともに患者数は増加している.その病態背景には喫煙や光線曝露による酸化ストレスの関与が推察され,AMD予防においては「抗酸化」が重要視されている.米国CNationalCEyeInstitute(NEI)主導の大規模臨床試験,Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudy(AREDS)ならびにその後のCAREDS2では,ビタミンC・Eや亜鉛などの抗酸化作用を期待したサプリメントがCAMD発症予防につながるかどうかを長期的に調査した1,2).C
AREDS・AREDS2AREDSでは,抗酸化サプリメント配合の最適な組み合わせ,摂取量について調査を行った1).2001年の調査では,ドルーゼンのサイズ,対側眼CAMD発症の有無に基づいて四つカテゴリーに分類しCAMD発症の有無を検証した.少数の小型・中型ドルーゼンを有するカテゴリーC1・2ではサプリメントの有効性はみられず,カテゴリーC3(多数の中型・大型軟性ドルーゼン)とC4(中心窩外の地図状萎縮もしくはCAMDの僚眼)を合わせた群でのC5年CAMD発症率は,プラセボでC28%,抗酸化物質+亜鉛の併用摂取でC20%であった.この結果から,サプリメントのCAMD発症予防効果を示すことができた.その一方で,サプリメントの有害事象として,高容量亜鉛摂取による地図状萎縮発生,男性の泌尿器系異常,AMD患者には喫煙者が多いことからCb-カロテン摂取に伴う肺癌リスクとの関連が問題視されていた.そこで,亜鉛減量やカロテノイド変更などの検証が求められ,次なるCAREDS2が実施された.AREDS2では,ハイリスク群のカテゴリー3・4の症例に限定して調査が行われた2).先行のCAREDSサプリメントの組み合わせを基本として,bカロテン削除・ル(87)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY テイン・ゼアキサンチンへの変更,亜鉛減量などを検討した.さらに,魚などに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)/エイコサペンタエン酸(EPA)などのC~-3多価不飽和脂肪酸の追加摂取の効果についても検討したものの,その有効性を見出すことはできなかった.亜鉛25Cmgへの減量はCAMD発症率への影響がなく,bカロテンからルテイン・ゼアキサンチンへの置き換えは予防効果が増強することが示された.また,食事アンケートに基づいて,緑黄色野菜摂取頻度をC4群に分けたサブ解析において,緑黄色野菜摂取のもっとも少ない群においてはCAMD発症予防効果もみられた.

サプリメント摂取に関する国内の報告小規模ではあるが,国内でのCAMDに対するルテインサプリメント研究の論文が散見される.JFAM studyは,片眼が後期CAMDで,僚眼に眼底自発蛍光異常を認める患者を長期に観察した国内の多施設研究である.眼底自発蛍光異常を有するCAMD僚眼のC5年間の後期CAMD発症率はC30.4%であり,サプリメント非摂取者では新生血管型CAMD(neovascular-AMD:nAMD)進行リスクが高かったと発表している3).また,筆者らが行った単施設研究では,片眼性nAMD患者C39人を対象とし,20Cmgルテインを半年間摂取してもらい,AMD対側眼の黄斑色素密度と血漿ルテイン濃度をC3カ月ごとに測定した.血漿ルテイン濃度はC3カ月でベースラインの約C2倍,6カ月で約C3倍と有意に増加し(図 1),黄斑色素密度も上昇傾向がみられた(図 2)4).さらに,疫学調査に基づくCAMDリスク因子と摂取開始前の血漿ルテイン濃度との関連についてサブ解析を行った.高齢化(図 3),男性,現喫煙者,週C1回以下の緑黄色野菜摂取患者では血漿ルテイン濃度が低い傾向がみられた.興味深いことに,食事アンケートに基づく野菜摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられ(図 4),毎日C1回以上の摂取群に比べて,週C1回以下の摂取群の平均血漿ルテイン濃度は約C1/3であっあたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1305 (ng/ml)(DU)(ng/ml) 0.52 180 160 0.50 

140 120 100
血漿ルテイン濃度0.48 0.46 0.44 80 60 40 0.42 20 0 70 80900.40 
ベースライン3カ月6カ月年齢(歳)
ベースライン3カ月6カ月図 1 ルテイン 6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移片眼性CnAMD患者C39例を対象としたルテインC20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移を示す.血漿ルテイン濃度は有意に増加した.(文献C4から改変引用)(ng/ml) 180*p<0.05図 2 ルテイン 6カ月間摂取による平均黄斑色素密度の推移片眼性CnAMD39例を対象としたルテイン20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均黄斑色素密度の推移を示す.黄斑色素密度は増加傾向がみられた.DU:density unit.(文献C4からの改変引用)

おわりに図 3 ルテイン摂取前における年齢と血漿ルテイン濃度の関係年齢とサプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度には負の相関がみられた.血漿ルテイン濃度=333.41734~C3.8749641×年齢,RC2=0.225841,p<0.01(文献C4からの改変引用)
ベースライン血漿ルテイン濃度160 140 120 100 80 60 40 20 0
毎日1回以上週2~6回週1回以下緑黄色野菜摂取頻度
2024年に発表された「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」で示されているように,超高齢社会におけるCAMD発症予防はきわめて重要である.AMDを発症していても,もう一方の眼の視力が良好であれば日常生活への大きな支障はない.多忙なCAMD診療の中でも,禁煙指導やルテインサプリメントによる予防啓発に取り組む必要があると考える.文   献
1)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-図 4 ルテイン摂取前における緑黄色野菜摂取頻度domized, placebo-controlled, clinical trial of high-dose sup-と血漿ルテイン濃度の関係
緑黄色野菜摂取頻度をC3段階(毎日C1回以上,週C2~6回,週C1回以下)に分け,サプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度の比較をしたところ,摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられた.(文献C4からの改変引用)た.摂取頻度が極端に少ない理由は,野菜嫌いという食習慣の偏り,ワーファリン内服による野菜摂取制限などであった.

地図状萎縮に対するルテインサプリメント最近発表されたCAREDS事後解析の論文において,ルテインサプリメント摂取群では中心窩方向への萎縮拡大面積が緩やかであったという結果が報告された5).萎縮型CAMDに対するルテインサプリメントの効果も期待できるかもしれない.C1306  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20012)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013
3)OshimaCY,CShinojimaCA,CSawaCMCetal:ProgressionCofCage-relatedCmacularCdegenerationCinCeyesCwithCabnormalCfundusCauto.uorescenceCinCaJapaneseCpopulation:JFAMCstudy report 3. PLoS OneC17:e0264703,C2022
4)SawaCM,CShuntoCT,CNishiyamaCICetal:E.ectsCofCluteinCsupplementation in Japanese patients with unilateral age-relatedCmaculardegeneration:TheCSakaiCLuteinCStudy.CSci RepC10:5958,C2020
5)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup;Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:OralCanti-oxidantCandCLutein/ZeaxanthinCsupplementsCslowCgeo-graphicCatrophyCprogressionCtoCtheCfoveaCinCage-relatedCmacular degeneration. OphthalmologyC132:14-29,C2025

(88)

緑内障セミナー:呼吸機能と眼圧の関連

2025年10月31日 金曜日

●連載◯304監修=福地健郎 中野 匡
304.呼吸機能と眼圧の関連寺内 稜東京慈恵会医科大学眼科学講座
近年のビッグデータ解析から,呼吸機能と眼圧には関連性があると報告されている.慢性閉塞性肺疾患(COPD)では眼を含むさまざまな臓器で血流障害・低酸素血症をきたしていると考えられ,眼科疾患との関連が注目されている.●はじめに
眼圧下降療法は緑内障に対する唯一のエビデンスのある治療法であり,眼圧についての知見を深めることは緑内障診療において重要である.眼圧は常に一定の値をとるのではなく,さまざまな要因の影響を受けながら常に変動している.たとえば,血圧や血糖値が高いと眼圧は高くなる.短期的な変動としては日内変動がよく知られており,長期的には日本人の眼圧は加齢とともに低下する.近年では,大規模な臨床情報を扱うビッグデータ研究によって全身因子と眼圧との新たな関連性があいついで発見されている.筆者らは呼吸器疾患と眼の関連に着目し,全国C28万人の眼圧データを用いて,スパイロメトリーで測定された呼吸機能と眼圧の関連を調査した1).C
●閉塞性換気障害と眼圧
本調査では,人間ドック受診者C283,199名(平均C51.7C±10.3歳)を対象に,非接触型眼圧計およびスパイロメトリーの測定結果を用いた.代表的な呼吸機能評価の指標である一秒率(FEV1%),対標準一秒率(%CFEV1),対標準努力肺活量(%CFVC)(図 1)と眼圧値の関連を検討し,血圧や血糖値などの既知の眼圧影響因子は共変量として調整した.その結果,FEV%と眼圧には正の相関があることが示唆された(b=0.0115,95%CCI:0.013~0.016,p<0.001).FEV%は呼吸機能障害のなかでも閉塞性換気障害を評価す1る代表的な指標であり,70%未満の場合は閉塞性障害が疑われる.FEV%がC95~100%の健常者C4,940名とCFEV%がC60%未満1のC2,288名を比較すると,後者の眼圧は1前者と比較してC0.89mmHg低いことが明らかになった(図 2).この結果から,呼吸機能は眼圧に対する独立した影響因子であることが示唆され,その効果量がC1CmmHg弱にまで及ぶとすれば,臨床的なインパクトは決して小さくないと考えられた.(85)

● COPDは眼圧を下げる?閉塞性換気障害をきたす代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患(chronicCobstructiveCpulmonarydisease:COPD)があげられるが,本調査ではCFEV%が低いグループで喫煙率が高かったため,閉塞性換気1障害の原因としてCCOPDが関与していることが示唆された.このことからCCOPDによる閉塞性換気障害の増悪に伴って眼圧が低下する可能性が考えられた.COPDでは血管収縮に働くエンドセリンC1の血清中濃度が上昇している(図 3).この影響が眼組織にも及んでいるとすれば,エンドセリンC1による過剰な血管収縮によって毛様体の血流障害・低酸素状態が引き起こされ,房水産生能が障害される可能性がある.実際のところ,COPD患者に対して光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phy angiography:OCTA)を実施した研究では,低酸素状態の悪化と関連して網膜表層・深層および視神経乳頭周囲の血管密度は低下し,中心窩無血管域の有意な拡大も認められた2).さらにCCOPDでは脈絡膜厚が菲薄化しているとの報告もある3).これらの知見をふまえると,COPDにおいて房水産生能が低下しているという仮説は十分考慮に値すると思われる.一方でCCOPDでは肺に溜めた空気を吐き出す際に努力呼吸となる.これに伴い胸腔内圧が上昇し,頭部からの静脈還流が低下することで眼圧が上昇する可能性も考えられる.このようにCOPDでは眼圧を低下させる機序と上昇させる機序の両方が考えられるが,筆者らの研究結果を考慮すると,眼圧低下に作用する機序がより強く影響しているものと思われる.C
● COPDと緑内障COPDは眼圧だけでなく緑内障そのものとの関連も指摘されている.UKBiobankのC85,369名を対象とした研究では,肺機能検査の各指標と眼圧は正の相関を示すとともに,緑内障の有病率と有意な逆相関の関係がああたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1303 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

一秒率対標準一秒率図 1 換気障害の分類換気障害は閉塞性および拘束性に大別される.閉塞性換気障害は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息が代表的な疾患であり,一秒率が低下する.拘束性障害は肺線維症や間質性肺炎などで対標準肺活量が低下する.

ることが明らかにされた4).また,8,941名を対象とした韓国からの報告でも,COPDは女性において緑内障のリスクになることが示唆されている5).COPDが緑内障リスクを高める機序は不明であるが,眼圧上昇を介さずに網膜の微小血管障害や虚血性変化などが関与している可能性がある.C
●ま と め
このように近年の大規模データを用いた研究を中心に,呼吸機能と眼の関連があいついで報告されている.睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連はすでによく知られているが,COPDを含めた他の呼吸器疾患も緑内障診療において重要かもしれない.前述の通りCCOPDが眼圧や緑内障発症に影響を及ぼす機序については仮説の範疇を出ず,ほとんど解明されていないのが現状であり,今後のさらなる研究が期待される.C1304  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,202590 to 95 85 to 90 80 to 85 75 to 80 70 to 75 65 to 70 60 to 65 under 60 
-1.5-1.0-0.5 0.0 0.5 眼圧(mmHg)図 2 1秒率( FEV1%)と眼圧の関係 FEV1%がC95%以上のグループを基準としてCFEV%の低下に伴う眼圧の変化を示す.年齢,性別,BMI,血圧1,HbA1c,心拍数,ヘマトクリット,喫煙,飲酒,運動習慣などを共変量として調整した.図 3 慢性閉塞性換気障害( COPD)が眼圧に与える影響COPDでは努力呼吸に伴う胸腔内圧上昇により頭部からの静脈還流が低下し,眼圧上昇をきたす機序が考えられる.一方で過剰なエンドセリン1の産生は,毛様体への血流障害を引き起こし,房水産生能を低下させる可能性がある.文   献1)TerauchiCR,CFukaiCK,CFujimotoCSCetal:RelationshipCbetween intraocular pressure and pulmonary function. Sci RepC15:21187,C2025
2)Songur MS, .ntepe YS, Bayhan SA et al:The alterations ofCretinalCvasculatureCdetectedConCopticalCcoherenceCtomography angiography associated with chronic obstruc-tive pulmonary disease. Clin Respir JC16:284-292,C2022
3)Alim S, Demir HD, Yilmaz A et al:To evaluate the e.ect ofCchronicCobstructiveCpulmonaryCdiseaseConCretinalCandCchoroidalCthicknessesCmeasuredCbyCopticalCcoherenceCtomography. J OphthalmolC2019:7463815,C2019
4)YuCJ,CZhangCY,CKamCKWCetal:LungCfunctionCasCaCbio-markerCforglaucoma:TheCUKCBiobankCStudy.CInvestCOphthalmol Vis SciC66:48-48,C2025
5)LeeCJS,CKimCYJ,CKimCSSCetal:IncreasedCriskCofCopen-angleCglaucomaCinCnon-smokingCwomenCwithCobstructiveCpatternCofCspirometricCtests.CScienti.cCReportsC12:16915,C2022

(86)

屈折矯正手術セミナー:ICL縦固定の実際

2025年10月31日 金曜日

●連載◯305監修=稗田 牧 神谷和孝 305. ICL縦固定の実際北澤世志博アイクリニック東京
有水晶体後房レンズのCimplantable collamer lens(ICL)は,ホールの開発により虹彩切除が不要になったことで必ずしも横固定にする必要がなくなった.そこでレンズのサイズ選択に悩む場合やトーリックCICLで回旋を避けるために縦固定が施行されている.しかし,縦固定用のサイズ決定方法が未確立の現時点では,全症例を縦固定にするのではなく横固定と縦固定を使い分けることが望ましい.● ICLが耳側切開&横固定であった理由
スターサージカル社(以下,STAAR社)の有水晶体後房レンズCimplantableCcollamerlens(ICL)はC2010年に厚労省の承認を受けたが,当時はホールがなく,虹彩切開・切除が必要であった.そのため切除した房水循環の穴がレンズで閉鎖されないようにレンズは水平に固定しなければならなかった.その後C2014年にホールCICLが登場して虹彩切除は不要になったが,レンズ挿入時に透明水晶体に触れないように,また眼内に挿入後に回転させる必要がないことから,レンズは耳側切開挿入で水平固定が安全とされた.また,トーリックCICLは乱視軸が垂直方向に入っていたため,レンズは水平方向,すなわち横固定にしなければならなかった.C
● ICL縦固定の必要性

ICLにはC12.1,12.6,13.2,13.7のC4サイズがあるが,術後にレンズと水晶体との距離(vault)が極端なChighvaultやClowvaultになり,レンズのサイズ交換が必要になることがあった.実際,筆者がC2007年C11月~2025年C8月にCICLを挿入したC16,609例C33,067眼のうち,ホールCICL 15,687例C31,246眼においてサイズ交換が必要となったケースがC30例C38眼(0.12%)あった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomorgaphy:OCT)のCCASIA2に推奨サイズと術後予想Cvaultが表示されるCNK式とCKS式が搭載されて,サイズの問題はかなり減った.しかし,両式の推奨サイズが異なる場合は,術後予想CvaultがC500Cμmに近いサイズを選択していたが,結果として全体でC18.8%が術後Chighvaultに,そしてC16.9%がClowvaultになった(図 1).また,トーリックCICLでは,サイズが小さく極端なClow vaultにな(83)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
るとレンズが縦に90°
回転したり,vaultが十分あるにもかかわらずレンズが回旋することで乱視矯正効果が減弱してしまうケースが散見された.このような場合には一つ大きなサイズに入れ替えて縦固定にするとレンズの再回旋が防げることから,レンズを縦固定にするという発想が生まれた.つまり,ホールICLの開発によりレンズは必ずしも水平方向に固定する必要がなくなり,トーリックの回旋を防ぐためにもレンズは最初から縦固定にするほうがよいのではないかとの考えから,縦固定1,2)の臨床成績が報告されている.また,STAAR社が縦固定用のトーリックICLの生産を増やしたこともあり,レンズの縦固定が一般的に施行されるようになった.C● ICL横固定縦固定v.s.筆者はCASIA2による推奨サイズが両式で異なる場合を中心に,サイズ選択に迷う場合にはサイズが大きいほうのレンズを縦固定にする方法を採用した.選択した割合(%) 100 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0サイズ図 1 両式の推奨サイズが異なった症例の術後 Vault(207眼)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1301 
横固定(4,627眼)縦固定(613眼)Normal vaultを 200~800μmと定義0.9%3.1%4.4% 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 
40.0 30.0
図 2 選択したレンズのサイズ(固定方向別) 20.0 10.0レンズのサイズを方向別にみると,横固定ではC12.6がC0.0 12.1 12.6 13.2 13.7全体割合(%)

■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 ■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 
65.1%ともっとも多く,ついでC13.2,12.1の順となったのに対して,縦固定ではC13.2がC56.4%ともっとも多く,ついでC12.6,12.1の順となった(図 2).また,縦固定を施行するようになって術後Cvaultは全体でC78.3%がCnor-malvaultとなり,lowvaultはC6.7%,highvaultは15.0%でChigh vaultやClow vaultの症例を減らすことができた(図 3).とくに縦固定にした症例だけをみると,全体のうちC84.3%がCnormalvaultでClowvaultはC10.4%,highvaultはC5.2%で,多くの症例で適切な術後vaultを得ることができた(図 4).それならば全症例を縦固定で施行すればよいのではないかという意見もあるが,今回の結果はあくまでもレンズのサイズ選択で悩む場合においてのみ縦固定を施行した結果であること,さらに全症例を縦固定にした場合はレンズのサイズがC4サイズしかないことからClow vaultやChigh vaultの症例が増えることが予想される.また,縦固定は横固定よりも術後Cvaultが有意に低く,術前の予想Cvaultとの差も大きいという報告3)もあり,現時点では両式の推奨サイズを参考に基本的には横固定とするが,サイズ選択に悩む場合は縦固定をオプションとして採用するのが最善の方法と考えられる.C●適切なサイズ選択の限界と今後
ICLの術後Cvaultは両式のたび重なる改良やサイズ選択に悩む場合に大きめのレンズを縦固定にすることで適切になる症例が増えるが,それでも完全に問題が解決されたわけではなく,少数例ではあるが術後にサイズ交換が必要になることもある.近年,機械学習による縦固定の術後Cvault予想式の報告4)や両式の縦固定用のノモグラムも開発中であること,さらにCSTAAR社はCICLのサイズ自体を現在のC4サイズからC6サイズに増やす計画C1302  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025サイズ図 3 サイズごとの術後 Vault(全症例 5,240眼)
割合(%) 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 サイズ図 4 サイズごとの術後 Vault(縦固定のみ 613眼)
であり,近い将来,レンズのサイズ問題で入れ替える必要がなくなることに期待したい.文   献1)Kamiya K, Ando W, Hayakawa H et al:Vertically .xated posteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCthrough a superior corneal incision. Ophthalmol Ther 11:C701-710,C2022
2)LeeCY,CHanCSB,CAu.arthCGUCetal:VerticalCimplantableCcollamer lens as a novel method to increase rotational sta-bility. PLoS One 19:e0308830,C2024
3)Ouchi M:Vault of the phakic intraocular lens during ver-tical and horizontal .xation within patient comparison. Sci Rep 15:10002,C2025
4)ShimadaCR,CKatagiriCS,CHoriguchiCHCetal:PredictionCofCvaultsCinCeyesCwithCverticalCimplantableCcollamerClensCimplantation. J Cataract Refract SurgC51:45-52,C2025

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眼内レンズセミナー:Marfan症候群における毛様体突起と毛様溝の形成不全

2025年10月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木 洋461. Marfan症候群における毛様体突起と 杉浦 毅 杉浦眼科 毛様溝の形成不全 
Marfan症候群を有し水晶体偏位をきたしたC3例C6眼を観察した.6眼とも毛様体突起は正常眼でみられる眼内に向かう突起がほとんどなく,毛様体突起の幅は細く萎縮していた.毛様体突起間の隙間も大きく,毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため毛様溝は形成されていなかった.●はじめにMarfan症候群における水晶体偏位はCZinn小帯断裂によって発症するが,その原因となっているであろう毛様溝と毛様体突起についての研究はわずかしかない.Palvinらは,超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicros-copy:UBM)を用いてCMarfan症候群の生体眼を調べ,Zinn小帯断裂と毛様体突起の平坦化を認めたと報告した1).筆者はCMarfan症候群によって水晶体亜脱臼をきたしたC3例C6眼において,眼内レンズ毛様溝縫着術時に眼内内視鏡を用いて毛様溝を観察し,毛様体突起の形成不全を認めたので報告する2).C
●症   例はじめにCMarfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝を示す(図 1).毛様体突起は太く内側に張り出し,その根元の部分では隣同士が癒合し面を形成している.この面と虹彩裏面で毛様溝が形成される.症例C1はC46歳,女性.水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を両眼に施行した.眼内レンズ縫着の前に,内視鏡で観察したところ,両眼とも毛様体突起の幅は細く萎縮していて眼内に向って張り出す突起がなかった.毛様体突起間の隙間も大きく,正常眼でみられる毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため,毛様溝も形成されていなかった(図 2).症例C2はC53歳,男性.両眼の水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,両眼とも症例C1と同様の毛様体突起の形成不全を認めた(図 3).症例C3はC41歳,男性.36歳時に右眼の,41歳時に左眼の水晶体亜脱臼を発症し,水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,右眼は毛様体突起の形成不全を認めた.左眼は,10時方向の毛様体突起は隣同士の癒合をわずかに認め,面をわずかに形成していたが,毛様溝を形成するほどの毛様体突(81)起の張り出しはなかった(図 4).C
●考   按Marfan症候群における水晶体偏位は,変異フィブリリン-1蛋白質により,Zinn小帯が脆弱化して生じる3).しかし,毛様体突起の形成不全も関係している可能性がある.ここで問題となるのは,Zinn小帯の脆弱化と毛様体突起の形成不全のどちらが先に起こるかである.Zinn小帯の脆弱化が先だと仮定すると,脆弱なCZinn小帯は,胎生期に毛様体突起を十分に内側に牽引できないため,毛様体突起は内側に張り出すように形成されないと推測される.一方,毛様体突起の形成不全が先だと仮定すると,毛様体突起が十分形成されないため,水晶体赤道部と毛様体突起の距離が長くなり,Zinn小帯が引き延ばされて脆弱になると推測される.筆者は,水晶体.内摘出術後C16年とC21年を経た無水晶体眼の毛様溝をCUBMと眼内内視鏡で観察したが,どちらも毛様体突起は萎縮していなかった4).この事実から,毛様体突起の形成不全が先に生じて,Zinn小帯を引き延ばして細くなり,さらに,変異フィブリリン-1蛋白質の作用もあって,Zinn小帯の脆弱性と断裂を生じると推論するが,今後の研究課題である.文   献1)PavlinCCJ,CBuysCYM,CPathmanathanT:ImagingCzonularCabnormalitiesCusingCultrasoundCbiomicroscopy.CArchCOph-thalmolC116:854-857,C1998
2)SugiuraCT,CSakimotoT:CiliaryCprocessesCandCciliaryCsul-cusChypoplasiaCinCMarfanCsyndrome.CJCRSCOnlineCCaseCRepC12:e00136,C2024
3)ZeiglerCS,CSloanCB,CJonesJA:TheCpathophysiologyCandCpathogenesisCofCMarfanCsyndrome.CAdvCExpCMedCBiolC1348:185-206,C2021
4)Sugiura T, Kaji Y, Tanaka Y:Anatomy of the ciliary sul-cusCand the optimumCsiteCofCneedleCpassage forCintraocularClensCsutureC.xationCinCtheClivingCeye.CJCCataractCRefractCSurgC44:1247-1253,C2018

あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1299 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
図 1 Marfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝の内視鏡画像

図 2 症例 1(46歳,女性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.
図 3 症例 2(53歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,図 4 症例 3(41歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 d:左眼C4時方向.右眼はC36歳時,左眼はC41歳時.Ca:右眼C2時方向,Cb:右眼8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 未来のコンタクトレンズ技術(2)

2025年10月31日 金曜日

■オフテクス 提供■ コンタクトレンズセミナー 英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く
22. 未来のコンタクトレンズ技術( 2)土至田 宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科
英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の最終章「コンタクトレンズ技術の将来像(Contact lens technologies of the future)」1)を前回に引き続き紹介する.
オキュラーサーフィスへのドラッグデリバリー薬物送達の手段としてコンタクトレンズ(CL)を用いるために,多様な材料・構造・放出制御技術が考えられている.点眼薬による治療では,涙液・瞬目・角膜バリアの影響により薬物の生体利用率が低く(5%未満),頻回点眼においてはアドヒアランス低下や全身吸収に伴う副作用のリスクも課題となる.これに対し,CLをドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)として用いれば,薬物を持続的かつ高い精度で眼表面に供給することが可能となる.もっとも基本的なアプローチは,レンズの材料自体に薬剤を含浸・吸着させる手法であるが,単純な含浸では初期バースト放出が避けられず,制御された持続放出には限界がある.このため,薬物放出を制御するための多様な技術が考案されている.分子インプリンティングによる方法は,薬物の分子構造に対応する空間をレンズ内に構築し,薬物の再結合に特異性をもたせることで,放出速度を緩徐にするものである.とくに,アセタゾラミドや非ステロイド性抗炎症薬のCketorolacなどで有効性が示されている.ナノ粒子やリポソームの担持による手法は,薬物を含むナノキャリアをレンズ内に分散させ,これらからの徐放を通じて薬物の時間依存的放出を制御するアプローチである.ヒアルロン酸やカルボキシメチルセルロースなどの高分子と組み合わせることで,粘着性や持続性を向上させる設計も検討されている.層状構造や多層コーティングを用いて中間層に薬剤を保持し,外層を拡散バリアとして機能させることで薬物の流出速度を抑制し,持続性の向上を図るレンズも報告されている.ポリマー被覆やイオノマー膜の利用などにより,特定の薬剤放出プロファイルの設計が可能となる.光応答性材料を利用し,外部光刺激により薬物放出をオンデマンドに制御する技術も研究されている.紫外線(79)や近赤外線などを用いて,光照射に応じて化学構造が変化し,薬物が遊離するシステムが構築されている.また,温度応答性材料や磁気応答性材料も理論的には応用可能であり,外的制御因子を利用した放出制御技術は今後の展開が期待される.実臨床への応用に向けては,安全性,生体適合性,レンズの光学的・物理的特性の保持,製造工程での安定性など,多くの課題も残されているが,点眼薬に代わる新たな投薬手段としてのポテンシャルはきわめて高い.とくにラタノプロストやチモロールなどの緑内障治療薬,ステロイド,抗菌薬,抗真菌薬,抗アレルギー薬などで有望な結果が得られている.

抗菌コンタクトレンズ抗菌CCLは感染症予防を目的とした次世代CCL技術として注目されている.とくに,角膜感染症(例:感染性角膜炎)は視力に深刻な影響を及ぼすことがあり,予防的なアプローチの必要性が高まっている.近年の研究では,レンズ表面や内部に抗菌性物質を導入することで,レンズ自体が抗菌バリアとして機能する可能性が示されている.その設計はおもに,①銀ナノ粒子などの直接的な殺菌作用をもつ素材をレンズ材料に組み込む方法,②抗菌薬をレンズ内に含浸させ,装用中に徐々に放出させるドラッグデリバリー型,③バイオフィルム形成を抑制するための表面改質技術を活用したもの,に大別される.動物実験やCinvitro試験により,多くの抗菌CCLが細菌増殖を抑制する効果が示されており,とくに緑膿菌や黄色ブドウ球菌といった眼感染症の主要な起因菌に対する有効性が確認されている.さらに,薬剤徐放機能を組み合わせることで治療用CCLとしての応用も期待されており,術後感染予防や角膜損傷の治癒促進など,臨床的価値は高いと考えられる.一方で,長期装用における安全性や抗菌成分の安定あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1297 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 性・毒性,さらには耐性菌出現の可能性など,解決すべき課題も多い.今後は規制面での整備や製造コストの抑制,さらには臨床での有効性の実証が求められる.将来的には,個別化医療やスマートレンズ技術との融合により,より高機能かつ安全性の高い抗菌CCLの実現が期待されている.

セラノスティクスセラノスティクス(theranostics)は,治療(therapy)と診断(diagnostics)を融合させた新しい医療概念であり,CL技術においてもその応用が進められている.とくにオキュラーサーフィス(眼表面)は薬物送達や生体情報のモニタリングに適した部位であり,CLをプラットフォームとすることで,個々の患者に最適化された治療・診断の一体化が可能となる可能性が高い.セラノスティックCCLの実装には,リアルタイムでの生体マーカー検出と,同時またはタイミング制御された薬剤放出機能の融合が必要である.具体的には,涙液中のグルコース,炎症性サイトカイン,pH,浸透圧などのバイオマーカーを感知し,それに応じて薬剤を放出するスマートな設計が提案されている.また,これらの検出には,ナノテクノロジーやマイクロセンサー,光学的・電気化学的センシング技術の応用が必須である.近年では,緑内障やドライアイ,アレルギー性結膜炎,角膜感染症などの慢性眼疾患に対して,患者の状態に応じて薬剤放出量を自動制御する機構の開発が試みられている.これにより,過剰投与や副作用のリスクを軽減し,治療効果の最大化をめざすことが可能となる.さらに,セラノスティクスの応用は疾患の早期検出やモニタリングにも拡大しており,たとえば糖尿病網膜症に対する涙液中グルコース濃度の継続的測定を通じた血糖コントロール支援,炎症性眼疾患の活動性モニタリングによる再発予測といった臨床的有用性が期待されている.一方で,複雑なデバイス構成や電源供給,眼表面における生体適合性,長期使用における安定性と安全性など,解決すべき課題も多い.今後は,これらの技術的障壁の克服に加え,個別化医療の流れのなかで,セラノスティクスCCLが眼科診療の新たなスタンダードとなることが期待されている.文   献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEARC-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C

写真セミナー:メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害

2025年10月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記 山口剛史曽谷 令 497. メトトレキサート硝子体内注射による神戸大学医学部附属病院眼科角膜上皮障害楠原仙太郎神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科分野

図 2 図 1のシェーマ①点状表層角膜障害②渦巻き状角膜症図 1 メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害渦巻き状角膜症のフルオレセイン染色後の前眼部写真.角膜周辺部に異常上皮への染色がみられ,中央部に向かって渦巻き状の染色像を呈している.角膜中央部には点状病変が確認できる.

図 3 メトトレキサート投与前のカラー眼底画像生検C1カ月後.黄斑部および黄斑部耳側に黄白色網膜下病変を認める.乳頭鼻側の瘢痕は網膜下生検によるものである.図 4 メトトレキサート投与終了後のカラー眼底画像黄白色網膜下病変は消失している.
(77)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1295 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 眼内悪性リンパ腫の治療のためメトトレキサート(以下,MTX)硝子体内注射を施行し,経過中に角膜上皮障害を発症した症例を紹介する.患者は85歳,女性.左眼に多数の黄白色隆起性網膜下病変を認めた.眼所見から眼内悪性リンパ腫(硝子体網膜リンパ腫)が強く疑われた.硝子体混濁が軽度であったため,硝子体生検に加え網膜下生検を実施した結果,B細胞眼内悪性リンパ腫の確定診断に至った.全身精査で他臓器病変が確認されず,患者が予防的全身治療を希望されなかったことから,眼局所治療としてCMTX硝子体内注射を選択した.寛解導入治療として週C2回のCMTX硝子体内注射を開始したところ,6回目のCMTX投与後に視力低下と渦巻き状角膜症を認めたため,MTX投与を一時中断した(図 1, 2).1カ月の休薬により角膜上皮障害が軽快したことから,MTX硝子体内注射を再開した.20回目のMTX投与後に網膜下病変は完全に消失したため,硝子体内注射は中止とした.以降再発なく経過している(図 3, 4).MTX硝子体内注射は全身化学療法に比して副作用が少なく,眼局所病変に対する制御効果が高いことから,眼内悪性リンパ腫の初期治療として選択されることが多い.筆者らの施設(以下,当院)では初報のプロトコールに準拠し,MTX(400Cμg/0.1Cml)を週2回(4週間),週C1回(8週間),月C1回(9カ月間),計C25回のスケジュールで施行している1).葉酸拮抗薬であるCMTXは,角膜上皮細胞に対して毒性を示すことが知られており,繰り返し硝子体内に投与することにより,本症例のように渦巻き状角膜症が生じ,休薬が必要となる場合もある.しかし,休薬や投薬間隔の延長によって改善が得られることが多い.また,ヒアルロン酸点眼による表層保護や葉酸製剤の内服といった支持療法の有用性も示されている2,3).一方,病勢が強くCMTX治療の継続を優先せざるを得なかったケースでは,角膜障害が遷延し,最終的に不可逆的な視力障害を残した患者も当院で経験している.また,本症例では結膜や角膜輪部の充血は伴っていなかったが,MTX治療中に輪部炎を生じ,それに伴い上皮障害を生じた症例も報告されている4).そのため,各回のCMTX硝子体内注射後には眼表面の詳細な観察を行い,障害が認められた場合には病勢や視機能への影響を考慮し,休薬や支持療法の導入を含めた適切な対応を速やかに検討することが重要である.葉酸製剤は全身投与において,MTXによる副作用を軽減する効果があることが知られており,硝子体内注射に伴う角膜障害に対しても有効であったとの報告がある3).当院では,角膜上皮障害が出現した際にはCMTXの投与を一時中止し,活性型葉酸製剤の内服を併用している.本症例では,MTX硝子体内注射中に生じた角膜上皮障害により一時的な治療中断を余儀なくされたが,MTX休薬により速やかに角膜病変の改善が認められたことから,その後のCMTX硝子体内注射継続が可能となり,網膜下病変の寛解が得られた.本症例はCMTX治療の効果と副作用を正確に評価し,適切な対応を行うことの重要性を示す一例である.しかし,眼内悪性リンパ腫患者のC60~80%は経過中に中枢神経系リンパ腫を発症し,その場合の生命予後は不良である.2009年にわが国で行われた多施設後ろ向き研究では,原発眼内悪性リンパ腫のC5年生存率はC61.1%であった5).MTX硝子体内注射は眼内病変には有効である一方,中枢神経系リンパ腫進展への抑制効果は限定的であるため,生命予後の改善を見すえた集学的な治療戦略の確立が望まれる.文   献1)FrenkelCS,CHendlerCK,CSiegalCTCetal:IntravitrealCmetho-trexateCforCtreatingCvitreoretinallymphoma:10CyearsCofCexperience. Br J OphthalmolC92:383-388,C2008
2)GorovoyCI,CPrechanondCT,CAbiaCMCetal:ToxicCcornealCepitheliopathy after intravitreal methotrexateCand its treat-mentCwithCoralCfolicCacid.CCorneaC32:1171-1173,C2013
3)Jeong Y, Ryu JS, Park UC et al:Corneal epithelial toxici-tyCafterCintravitrealCmethotrexateCinjectionCforCvitreoreti-nallymphoma:ClinicalCandCinCvitroCstudies.CJCClinCMedC9:2672,C2020
4)Sahay P, Maharana PK, Temkar S et al:Corneal epithelial toxicity with intravitreal methotrexate in a case of B-cell lymphomaCwithCocularCinvolvement.CBMJCCaseCRepCbcr2018226005,C2018
5)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoH;JapaneseCIntraocularCLymphomaStudy Group:Clinical features and diagnostic signi.cance ofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma. Jpn J OphthalmolC56:383-389,C2012