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アデノウイルスベクターを用いた角結膜感染モデルマウス作製の試み

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):337.341,2021cアデノウイルスベクターを用いた角結膜感染モデルマウス作製の試み福田理子*1島田勝*2伊藤沙織*1宮永嘉隆*3川添賢志*3河越龍方*4奥田研爾*2水木信久*1*1横浜市立大学眼科学教室*2横浜市立大学微生物学・分子生体防御学教室*3西葛西井上眼科*4亀田総合病院眼科CPreparationofaKeratoconjunctivalInfectionMouseModelusingAdenovirusVectorMichikoFukuda1),MasaruShimada2),SaoriItoh1),YoshitakaMiyanaga3),TakashiKawazoe3),TatsukataKawagoe4),KenjiOkuda2)andNobuhisaMizuki1)1)DepratmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversity,2)DepartmentofMicrobiology,YokohamaCityUniversity,3)Nishi-KasaiInoueOphthalmologicalClinic,4)DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenterC目的:マウスの眼にアデノウイルス(Ad)ベクターを接種し,角結膜への取り込みと免疫誘導について評価する.方法:蛍光遺伝子を発現するC5型CAdベクターをマウスに点眼し,角結膜への遺伝子導入の有無を評価した.また,AdベクターをマウスにC2回C2週おきに点眼したのち,血清および眼表面洗浄液中のCAd特異的CIgG,IgA抗体価をELISA法で測定した.その後ルシフェラーゼ発現CAdベクターをマウス眼に点眼し,角結膜におけるルシフェラーゼ活性を測定した.結果:Adベクターのマウス角結膜への遺伝子導入を確認した.Adベクターを点眼したマウスでは血清,眼表面洗浄液ともにCAd特異的CIgG,IgA抗体価の上昇を認めた.また,Adベクターの角結膜への遺伝子導入が阻害された.結論:点眼によるマウス角結膜へのCAd遺伝子導入の実験方法を確立した.点眼によりCAdの角結膜への遺伝子導入が阻害され,ワクチンとしての可能性が示された.CPurpose:ToCinoculateCmouseCeyesCwithCanadenovirus(Ad)vectorCandCevaluateCgeneCtransductionCintoCtheCkeratoconjunctivaCandCimmunityCinduction.CMethods:AC.uorescentCgene-expressingCAdCvectorCeye-dropCwasCadministeredtomiceeyes.AftertheAd-vectoreye-dropimmunizationtothemice,Ad-speci.cIgGandIgAanti-bodiesfromserumandeye-washsolutionweremeasuredbyELISA.Theimmunemicewerethenchallengedwithluciferase-expressingCAdCvectorCinCeye-dropCform,CfollowedCbyCquali.cationCofCluciferaseCactivityCinCtheCeyes.CResults:OurC.ndingsCcon.rmedCthatCAdCvectorCcanCbeCtransductedCtoCtheCcorneaCandCconjunctiva,CandCthatCAd-speci.cIgGandIgAinbothserumandeye-washsolutioncanbeinducedbyAd-vectoreyedrops.Moreover,theCtransductionCofCluciferase-expressingCAdCvectorCwasCgreatlyCinhibitedCinCtheCimmuneCmice.CConclusions:WeestablishedCanCexperimentalCmethodCforCAdCgeneCtransductionCintoCtheCkeratoconjunctivaCofCmiceCviaCeyeCdrops.CThetransductionofAdvectortothecorneaandconjunctivawasinhibitedbyAd-vectoreyedrops,thusindicat-ingtheirpossiblepotentialforuseasavaccine.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(3):337.341,C2021〕Keywords:アデノウイルス角結膜炎,点眼ワクチン,遺伝子導入.adenoviruskeratoconjunctivitis,eyedropvaccination,genetransduction.Cはじめに炎の原因としても同定された2).アデノウイルスは複数の血ヒトアデノウイルスは流行性角結膜炎や咽頭結膜熱といっ清型が同定されており,結膜炎の原因としてはC8,19,37た結膜炎を引き起こす.1952年CHillemanらによって感冒の型が広く知られているが,3,4,7,11,14型も報告があが原因として初めてアデノウイルスが報告され1),その後結膜っている.最近では全遺伝子配列のバイオインフォマティク〔別刷請求先〕福田理子:〒143-0023東京都大田区山王C4-21-17Reprintrequests:MichikoFukuda,4-21-17Sanno,Ota-ku,Tokyo143-0023,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(99)C337ス解析による遺伝子型が定義されており,53,54,56型によるアウトブレイクが報告されている.アデノウイルス角結膜炎は感染力が非常に強く,おもに接触で感染する.集団で大規模感染を起こし学級閉鎖にもなるため,学校保健安全法ではアデノウイルス角結膜炎は出席停止の対象疾患とされている.成人においても大規模感染を引き起こすために,医療施設や福祉施設で業務制限,出勤停止を定めているところもある.臨床上重要な疾患であるにもかかわらず,最初の報告から60年以上経過した現在に至るまで,アデノウイルス角結膜炎に対する有効な治療法やワクチンは確立されていない.その原因の一つがアデノウイルスの種特異性の高さである3,4).アデノウイルス科は哺乳類アデノウイルスとトリアデノウイルスのC2属に分けられる.ヒト以外の哺乳類アデノウイルスとしてサル,ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ,イヌ,マウスなどのアデノウイルスが知られており,感染臓器や呈する所見,疾患は種によって異なる.一部動物において,ヒトアデノウイルス遺伝子の発現や,角膜上皮下浸潤といった角膜所見が観察されているが,いずれもウイルス接種の方法は外科的手技によるものであり,また現在に至るまで適切なモデル動物は作製されていない.筆者らは今回,眼表面局所での感染防御能を明らかにすべく,またアデノウイルス角結膜炎に対するワクチン開発をめざし,点眼によるアデノウイルス眼感染モデルマウスの作製を試みた.また,アデノウイルスを点眼で投与した場合の免疫誘導とその感染防御能について評価した.CI材料および方法1.実験動物とアデノウイルスベクター実験動物として,8週齢メスのCBALB/Cマウスを使用した.レポーター蛋白質で標識したC5型CAdベクター(Ad5-GFP,Ad5-mCherryおよびCAd5-luciferase)は,いずれも増殖に必要なCE1およびCE3領域を除去している5).これらアデノウイルスベクターをCHEK293細胞中で増殖させ,10mMトリスバッファー(pH7.5),1CmMMgCl2,およびC10%グリセロールを含む溶液で,CsClによる等密勾配遠心分離により精製した.各調製物中のウイルスの濃度は,260Cnmでの吸光度(OD)についてC1OD260=1×1012vectorgenomes(vg)/mlとして計算した.C2.マウス角結膜へのヒト5型アデノウイルス接種Ad5-mCherryをマウスC1眼につきC10C10vg点眼した.点眼後C1.5日目に連日マウスの眼球を摘出し,それぞれ蛍光顕微鏡下で直接観察した.別のマウスに,Ad5-luciferaseをC1眼につきC10C10vg点眼し,点眼後C1.5日目に連日マウスの眼球を摘出してCPBSで洗浄し,水晶体を除去した後CLysisCBu.er300Cμlとともに1.5Cmlエッペンドルフチューブに入れ,ホモジネートした.得られた細胞溶解液をC8,000CgでC10分間遠心分離したのち,上清C4Cμlをルシフェラーゼアッセイ基質C20Cμlと混合し,ルミノメーターでルシフェラーゼ活性を測定した.C3.免疫誘導および角結膜感染に対する感染防御能の評価0日およびC2週目に,マウス各眼に対しCAd5-GFPをC1C×1010vg点眼した.コントロール群マウスには同量のCPBSを点眼した.最初の点眼からC5週目に尾静脈から血液を採取し,血清を分離した.また,同じくC5週目にマウスC1眼につきプロテインインヒビターを混合したCPBS40Cμlで眼表面を20回ピペッティングし,洗浄液を回収した.採取した血清と眼表面洗浄液中のCAd5特異的CIgGおよびCIgAの抗体価を,それぞれCELISA法で測定した.ELISA法ではCAd5-GFPでコーティングしたC96ウェルマイクロプレートを用い,HRP標識された二次抗体を用いた間接法で測定した.サンプルである血清や眼表面洗浄液は連続C2倍希釈した.o-フェニレンジアミンジヒドロクロリドを基質として加え,450Cnmでの吸光度を測定し,希釈倍率C2のCx乗倍で吸光度<0.2となったときのC2のCx乗の最大値を抗体価とした.さらに,マウス1眼に対しCAd5-luciferaseC1010vgを点眼し,3日後に全眼球を摘出し,ホモジネートしてルシフェラーゼ活性を測定した.CII結果Adをマウス眼に感染させたところ,Ad5-mCherry点眼後C1からC5日目のマウス眼すべてにおいて,角結膜で橙色の蛍光を確認した.また,3日目のマウス眼でもっとも強く広範囲に蛍光を認めた(図1).Ad5-luciferaseを点眼したマウス眼球から作製した細胞溶解液では,点眼後C1日目から経時的にルシフェラーゼ活性が上昇し,点眼後C3日目をピークとしてその後低下した(datanotshown).以上より,ルシフェラーゼ活性の測定はCAd5-luciferase点眼後C3日目に実施することとした.Ad5-GFPを点眼後C7週目のマウス血清において,Ad5特異的CIgGおよびCIgAの抗体力価はCIgG抗体力価C2のC13.2乗,IgA抗体力価C2のC8.6乗といずれも上昇していた.血清CIgGおよびCIgAの抗体力価はともに有意差があった.また,点眼後C7週目の眼表面洗浄液においても,Ad5特異的CIgGおよびCIgAの抗体力価はCIgG抗体力価C2のC8.4乗,IgA抗体力価C2のC7.6乗といずれも上昇していたが,有意差は認めなかった(図2).事前にCAd5-GFPをC2回点眼した群とCPBSを点眼したコントロール群において,その後CAd5-luciferaseを点眼後C3日目の眼球におけるルシフェラーゼ活性は,コントロール群をC1とした場合,Ad5-GFPを点眼したマウスではC0.115と有意に低下していた(図3).図1Ad5.mCherry点眼後の蛍光顕微鏡像各日C3匹,合計C18匹のマウスを使用した.点眼後C1.5日すべてにおいて角結膜に橙色の蛍光を認めた.C2抗体力価(log2)1510血清眼洗浄液血清眼洗浄液図2Ad5特異的IgGおよびIgA抗体価各グループC5匹のマウスを使用し,Mann-WhitneyのCU検定で有意差を検定した.点眼で免疫誘導した群では血清,眼表面洗浄液ともにCAd5特異的CIgGおよびCIgA抗体価の上昇を認めた.CIII考按Ad角結膜炎は自然治癒する疾患であるが,罹患後角膜混濁を残す場合には羞明や視力低下により患者のCQOLは低下する.そのため,感染そのもの,感染拡大を防止することが必要である.C57BL/6Jマウスの角膜にマイクロインジェクション法でヒトCAd37型を接種した研究では,接種後角膜間質混濁と炎症,ウイルス複製初期に関与するCmRNAの発現を認めた6).また,25ゲージ針でウサギの角膜に傷をつけ,アデノウイルス角結膜炎患者から分離したCAd5を接種した研究では,ヒト類似の遅発性上皮下浸潤が報告されている7).対照群免疫群相対ルシフェラーゼ活性1.81.61.41.210.80.60.40.20図3点眼による角結膜感染防御3回の実験のうちC1回の結果を提示する.点眼で免疫誘導した群でルシフェラーゼ活性の低下を認めた.ほかのC2回の結果も同様の結果を示した.各グループC5匹のマウスを使用し,Mann-WhitneyのCU検定で有意差を検定した.ほかにも動物実験の報告はいくつか存在するが8),現時点で確立されたアデノウイルス角結膜炎の動物モデルは存在せず,またいずれもウイルスの接種方法は外科的手技によるもので,自然な感染経路とは大きく異なる.筆者らは今回,Ad5ベクターを用いて実験を行った.角結膜炎を引き起こすアデノウイルスの血清型はほとんどがCD群のウイルスであり,5型CAdはヒトでもマウスでも角結膜炎の原因とはならない.また,今回用いたCAd5ベクターは増殖に必要な領域を除去しているため,ウイルス増殖や疾患発症の抑制については評価できない.しかし,Ad5ベクターは研究や臨床に広く用いられ安定して入手可能であり,遺対照群免疫群伝子操作や導入方法などが十分に確立されている点から,実験方法の確立には適していると判断した.Ad5-mCherryを点眼したマウスの角結膜のみが蛍光を呈していたことは,Ad5-mCherryがマイクロインジェクションや針などの外科的手技を用いず点眼という簡便な接種方法でマウス角結膜細胞内に取り込まれ,蛍光蛋白遺伝子を発現したことを示している.同様にCAd5-Luciferaseも,点眼によりマウスの角結膜に取り込まれ,ルシフェラーゼ遺伝子を発現したと考えられる.このルシフェラーゼ活性を測定することで感染の初期段階であるC5型CAdの角結膜への導入を定量的に評価し,免疫誘導による防御能を比較検討することは可能である.Adを点眼したマウスにおいて,その後CAd5-luciferase点眼をした際のルシフェラーゼ活性が低下していた.このことはCAdにより免疫誘導が起こり,その結果CAdの再定着が抑制されたことを示している.血清および眼表面洗浄液中の特異的CIgAおよびCIgGが有意に上昇していたことがこの防御に関与している可能性が考えられる.IgG抗体価がCIgA抗体価よりも有意に高値であり,眼粘膜免疫ではCIgGの関与も大きいのではないかと示唆される.粘膜上では,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedClymphoidtissure:MALT)が免疫で重要な機能を果たしており9),NagatakeらはCMALTの内涙.に存在する涙道関連リンパ組織(tearduct-associatedlymphoidtissue:TALT)が前眼部における抗原特異的な免疫に関与していると述べている10).また,マウスの瞬膜とよばれる眼組織には結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associatedClymphoidtissue:CALT)が存在しており,M細胞が点眼した抗原を取り込むことも報告されている11).今回眼表面洗浄液中に産生されたIgAは,これらのリンパ組織を介して分泌されたと考えられる.粘膜表面に分泌される分泌型CIgAは交差防御能が高く,ワクチン株と流行株の抗原性に差異が生じた場合も有効性が期待できる.遺伝子変異を起こしやすいインフルエンザウイルスについては,この交差防御能が期待できる経鼻ワクチンが注目されている.Adについてもこの交差防御能により,一度のワクチン投与で角結膜炎の原因となる複数の型に対して効果を発揮することが期待できるのではないかと考えられる.一方で,耳鼻咽喉科領域においては細菌やウイルスによる感染が慢性化して生じる慢性副鼻腔炎患者の鼻汁中にはIgA,IgGがともに正常者の鼻汁中よりも増加していることが報告されており12,13),鼻粘膜では眼表面における粘膜防御同様にCIgAだけでなくCIgGも重要な役割を果たしていることが考えられる.Seoらの報告11)では,インフルエンザウイルスCH1N1をマウスに点眼投与することで,同じ粘膜である呼吸器の感染が予防され,点眼ワクチンの肺におけるインフルエンザ発症を抑制する有効性が示されている.インフルエンザウイルスと同様に,Adにおいても点眼により眼局所の感染予防だけでなく,重症肺炎を引き起こすCAdの予防にも効果がある可能性があり,今後の研究が望まれる.また,誘導されたCIgA交差防御能の可能性についても,どの型のCAdが別のどの型のCAdを抑制しうるかに関しても検討していく必要がある.今回の実験で点眼による免疫誘導で角結膜でのC5型CAd遺伝子導入が防御できる可能性が示唆された.ワクチンの投与方法として,皮下注射と比較して点眼は投与方法が簡便であるという利点があり,小児患者の多いCAd角結膜炎対策としては適しているといえる.今後はC8,19,37型などヒトで角結膜炎の原因となる他の型のCAdについてもルシフェラーゼ発現遺伝子を組み込み,同様に防御能を評価していきたい.また,マウス以外の種に関しても検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GinsbergHS:TheClifeCandCtimesCofCadenoviruses.CAdVi-rusResC54:1-13,C19992)JavetsE,KimuraS,NicholasANetal:NewtypeofAPCvirusCfromCepidemicCkeratoconjunctivitis.CScienceC122:C1190-1191,C19553)JoglerCC,CHo.mannCD,CTheegartenCDCetal:ReplicationCpropertiesofhumanadenovirusinvivoCandinculturesofprimaryCcellsCfromCdi.erentCanimalCspecies.CJCVirolC80:C3549-3558,C20064)RamkeCM,CLamCE,CMeyerCMCetal:PorcineCcornealCcellCculturemodelsforstudyingepidemickeratoconjunctivitis.MolVisC19:614-622,C20135)ShojiCM,CYoshizakiCS,CMizuguchiCHCetal:ImmunogenicCcomparisonCofCchimericCadenovirusC5/35CvectorCcarryingCoptimizedChumanCimmunode.ciencyCvirusCcladeCCCgenesCandvariouspromoters.PLoSOneC7:e30302,C20126)AshishVC,RogerA,JamesC:AdenovirusType37Ker-atitisCinCtheCC57BL/6JCMouse.CInvestCOphthalmolCVisCSciC48:781-788,C20077)GordonCYJ,CRomanowskiCE,CAraullo-CruzT:AnCocularCmodelCofCadenovirusCtypeC5CinfectionCinCtheCNZCrabbit.CInvestOphthalmolVisSciC33:574-580,C19928)TsaiCJC,CGarlinghouseCG,CMcDonnellCPJCetal:AnCexperi-mentalCanimalCmodelCofCadenovirus-inducedCocularCdis-ease.CTheCcottonCrat.CArchCOphthalmolC110:1167-1170,C19929)清野宏,岡田和也:粘膜免疫システム─生体防御の最前線.日耳鼻C114:843-850,C201110)NagatakeCT,CFukuyamaCS,CKimCDYCetal:Id2-,CRORgt-,CandLTbR-independentinitiationoflymphoidorganogene-sisinocularimmunity.JExpMedC206:2351-2364,C200911)SeoKY,HanSJ,ChaHRetal:Eyemucosa:ane.cientvaccinedeliveryrouteforinducingprotectiveimmunity.JImmunolC185:3610-3619,C2010Cnasalsecretionsofpatientswithallergicrhinitisandchron-12)石川保之:慢性副鼻腔炎と鼻汁中分泌型CIgA,IgG.耳鼻臨CicCrhinosinusitis.CEurCArchCOtorhinolaryngolC265:539-床C83:885-889,C1990C542,C200813)HsinCCH,CShunCCT,CLiuCCMCetal:ImmunoglobulinsCinC***

基礎研究コラム:AIを用いた眼科研究

2021年3月31日 水曜日

AIを用いた眼科研究AIとは人工知能(arti.cialintelligence:AI)は研究者によって定義が異なりますが,なんらかの人工の知能をさします.2012年に実用化された深層学習によって画像識別などの能力がヒトを超えたため,おもに深層学習や,深層学習を含む機械学習が使われている知能をさします.なぜ深層学習というか.それは動物の神経ネットワークのような多層構造で学習するからです.2011年以前の機械学習では,技術的な問題および計算資源の問題から多層構造で学習できず,少ない層数で学習していたため,ヒトに匹敵する一般画像識別などはできませんでした.多層構造が実用化して大幅な性能向上が認められたことから,これを深層学習とよんで他と区別しました.実用化以後世界中の研究機関が集中して取り組んだことで,わずかC3年でヒトを超える一般画像識別能力を獲得しました1).眼の領域では眼科は画像診断の割合の高い科であり,AIによる診断力向上が大きく期待される科です.そのためCAIの一般画像識別能力・解析能力を生かし,診断支援や画像高解像化に用いられています.2015年頃はCAIを単に眼科画像に適用して,人に近い判定が報告されていました.最近は希少疾患などまでほとんど出尽くした感があり,治療の要否など少しずつ高度な判定をCAIにゆだねる研究結果が報告されています.今後は,単に適用した精度を測るだけでなく,専門家でも気づかなかった所見を発見するツールとして使われるのではないかと筆者は考えています.糖尿病網膜症病期分類をするAIを筆者のグループは開発しましたが,増殖糖尿病網膜症のカラー眼底写真において,AIは肥厚した内境界膜のてかりを注視していました(図1).今まで増殖糖尿病網膜症の診図1増殖糖尿病網膜症と推定した根拠を示すヒートマップ(自験例)aのカラー眼底写真は増殖糖尿病網膜症と判定されたが,CbのヒートマップのようにCAIは後極の肥厚した内境界膜のてかりを注視して判断した.髙橋秀徳自治医科大学眼科学講座断基準になったことはない所見がCAIの診断に使われたことがわかりました2).これによって,さまざまな疾患画像の新規診断根拠や治療の新規判断根拠を特定することも可能だと考えています.今後の展望Googleは「AIの民主化」,誰でもCAI技術を使えるようになること,を掲げており,ウェブブラウザからプログラミング不要で,練習段階では無償で始められるCGoogleCCloudCAutoMLプラットフォームを提供しています.実際にプログラミング素人の医師が使用して,カラー眼底写真やCOCT像を良好に分類できました3).さらに日本眼科学会において,日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代眼科医療を目指す,ICT/人工知能を活用した画像等データベースの基盤構築」が実施されています.全国数十カ所の医療機関から大量の眼科画像が自動で国立情報学研究所に集積されています.これによりCAIとその元になるビッグデータが容易に手に入るようになりますので,さまざまなアイデアを試して研究していかれるようになるでしょう.文献1)HeCK,CZhangCX,CRenCSCetal:DeepCresidualClearningCforCimagerecognition.arXivC1512.03385,C20152)TakahashiCH,CTampoCH,CAraiCYCetal:ApplyingCarti.cialCintelligenceCtoCdiseasestaging:DeepClearningCforCimprovedstagingofdiabeticretinopathy.PLoSOneC12:Ce0179790,C20173)FaesL,WagnerS,FuDetal:Automateddeeplearningdesignformedicalimageclassi.cationbyhealth-carepro-fessionalsCwithCnocodingCexperience:aCfeasibilityCstudy.CLancetDigitalHealthC1:e232-e242,C2019(95)あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020C3330910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜剥離(上級編)

2021年3月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載214214急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜.離(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)は,ヘルペスウイルスにより生じる感染性ぶどう膜炎であり,経過中に壊死性裂孔が形成され裂孔原性網膜.離(rheg-matogenousretinaldetachment:RRD)に至ることが多い.ARNに併発するRRDは通常急性期に生じるが,ARN発症後,長期間が経過してからRRDが発症したとする報告は比較的少ない.筆者らはARNの発症から15年後にRRDを生じた一例を経験し報告したことがある1).●症例提示27歳,男性.12歳時に左眼にARNを発病.アシクロビル点滴,ステロイド内服にて加療し,手術は行わずに治癒した.その後再発することはなく定期的に通院していたが,最近になって左眼の視野欠損を自覚した.黄斑部から耳側から下方にかけて2象限に及ぶ網膜.離を認めた(図1).眼底周辺部には色素沈着およびARNの瘢痕病巣と考えられる黄色調の線維膜を全周性に認めたが,滲出病巣はなく,ARNの炎症再燃ではないと判断した.また,肥厚した後部硝子体膜の辺縁が下耳側中間周辺部に認められた.入院のうえ,左眼の硝子体切除術を施行した.以前のARNの瘢痕萎縮病巣に原因裂孔があると推測されたが,術中に明確な網膜裂孔は確認できなかった.後部硝子体膜は中間周辺から網膜と面状に強固に癒着していた.2本の硝子体鑷子あるいは硝子体鑷子と硝子体カッターの双手法で赤道部まで人工的後部硝子体.離を作製したが,術中に医原性裂孔を複数個形成した.その後,気圧伸展網膜復位術,医原性裂孔周囲および瘢痕病巣周囲に広範な眼内光凝固術を施行し,輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデを行った.さらに4カ月後にシリコーンオイル抜去と眼内レンズ二次挿入術を施行した.術後RRDの再発はなく経過は良好である(図2).(93)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1当科初診時の左眼眼底写真黄斑部から耳側から下方にかけて2象限に及ぶ扁平なRRDと,中間周辺部には肥厚した後部硝子体膜の辺縁が認められた.(文献1より引用)図2術後の左眼眼底写真輪状締結術を併用し,復位を得た.(文献1より引用)●急性網膜壊死発症後晩期に生じる網膜.離の特徴本症例では菲薄化した瘢痕萎縮病巣に硝子体による牽引が働き,小裂孔が形成されRRDが生じたと考えられるが,瘢痕病巣のため裂孔確認が困難であった.また,ARN発症から長期間が経過しているため,肥厚した後部硝子体膜が網膜と面状に癒着しており,とくに瘢痕病巣では網膜が菲薄化しており容易に医原性裂孔を形成するため,人工的後部硝子体.離作成は赤道部までに留めて,あとは輪状締結術を併用する方針とした.今回のようにARNは薬物治療にて炎症が鎮静化しても,長期間が経過したのちにRRDになることがあり,継続的な経過観察が必要あると考えられた.文献1)小林崇俊,高井七重,庄田裕美ほか:発症後15年を経過した後に裂孔原性網膜.離を生じた急性網膜壊死の1例.臨眼74:677-681,2020あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021331

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の長期マネジメント

2021年3月31日 水曜日

●連載105監修=安川力髙橋寛二85.加齢黄斑変性の長期マネジメント中間崇仁塩瀬聡美九州大学大学院医学研究院眼科学分野抗CVEGF治療は滲出型CAMDに対する第一選択であるが,長期マネジメントにおいては患者負担や医療経済負担,治療抵抗例の存在などが問題となる.また,片眼発症症例では僚眼のマネジメントも必要となる.本稿では滲出型CAMD治療における長期マネジメントについて述べる.はじめに抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)治療が滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として日本で承認されC10年以上が経過し,現在では治療の第一選択肢となっている.これにより滲出型CAMD治療は新たな時代を迎えたが,その一方で長期的には頻回の再来・投与が必要な患者の存在や,高額な薬剤費による患者負担・医療経済負担が問題となってきている.また,既存薬に対する治療抵抗症例も存在し,今なお滲出型AMD治療においてCqualityCofvision(QOV)を改善し,それを維持するための長期マネジメントには課題が多くある.本稿では滲出型CAMD治療の長期マネジメントについて,九州大学病院(以下,当院)の方針を述べる.抗VEGF治療の投与方針滲出型CAMDに対する抗CVEGF治療長期マネジメントにおいて,3回導入期投与後の投与方針は大きな要素のひとつである.投与方針として,reactive治療であるCproCrenata(PRN),proactive治療である固定投与,Ctreatandextend(TAE)があげられるが,当院では基導入期TAE・・・4週4週6週8週10週drydrydrydry本的にはCTAEでの抗CVEGF治療としている.これは,治療により改善したCQOVを可能な限り維持し,かつ再来回数を減らすためである.PRNではCSEVEN-UPstudyで示されたように,QOV維持が困難な可能性があること1),固定投与では過多投与・治療不足となる可能性があることから,それぞれ第一選択の投与方針とはしていない.しかしながら長期マネジメントとして,僚眼が視力良好で患眼の抗CVEGF治療に対する疲れを感じている患者ではCPRN,僚眼が視力不良で患眼の視力維持のために積極的な治療が必要な患者では固定投与など,治療経過や僚眼の状況などによってはCTAE以外での抗CVEGF治療を選択することもあり,個別化医療をめざしている.当院におけるCTAEは,滲出がなくなった時点からC2週ごとに延長し,投与間隔を最大C16週まで延長する.16週の投与間隔でC1年間Cdrymaculaを維持できれば,いったん抗CVEGF治療を終了して経過観察の方針とし,治療回数の軽減をめざしている.治療中止してもC1年間再発がない患者は,近医での経過観察を依頼し,地域連携をしながら診ている(図1).しかし,長らく落ち着いていても突然再発する症例も存在し,今後も最適なマネジメントの検討が必要である.また,polypoidalchoroi-・投与間隔は最大16週まで延長・16週で1年drymacula維持→治療終了・治療終了後1年再発なし→近医にて経過観察図1当院でのTAEでの抗VEGF治療3回導入期投与後,滲出がなくなったらC2週ごとに投与間隔を延長する(最大C16週).16週の投与間隔でC1年間Cdrymaculaを維持できれば治療を終了する.中止後C1年間再発がなければ近医での経過観察を依頼する.(91)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3290910-1810/21/\100/頁/JCOPY切り替え前切り替え後図2アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替えた症例アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替え,PED・SRDの改善を認める.その一方で周辺部の網膜静脈閉塞を認める.Cdalvasculopathy(PCV)やCpachychoroidCneovasculop-athy(PNV)では,EVEREST2studyなどの結果を踏まえて,抗CVEGF治療回数軽減を目的とした光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)を併用することもある2).抗VEGF治療抵抗症例への対応これまで滲出型CAMDに対する抗CVEGF薬として,おもにペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトが用いられてきた.それぞれ効果や作用期間の点などで違いがあるものの,これら従来の薬による抗CVEGF治療に抵抗を示す症例をC10~20%程度に認める.とくに網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)は,従来の薬での抗CVEGF治療では完全に消退しないことも多い.PEDの完全消退がCQOVにどこまで寄与するかについては議論の余地があるため,滲出型AMD治療の長期マネジメントにおいてCPEDをどの程度まで積極的に治療をするかは悩ましい.とくに大きなPEDでは,抗CVEGF治療をきっかけに網膜色素上皮裂孔(retinalCpigmentCepithelialtear:RPEtear)が発生し,不可逆的なCQOV低下を招く可能性もあるため,慎重な判断が必要と考える.当院では従来の薬での抗VEGF治療で完全消退しないCPEDに対して,追加加療としてCPDTの併用を行ったり,日本でC2020年C3月に新たに承認されたブロルシズマブへの切り替えを検討したりしている.ただし,ブロルシズマブは投与後の血管炎発症の報告もあり,RPEtear発生と同様に不可逆的なCQOV低下を招く可能性もあることから,視力,治療経過,僚眼の状態などを含めて慎重に対象を選択している(図2).また,type1脈絡膜新生血管では,浅い漿液性網膜C330あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021.離が遷延する症例にも遭遇する.このような患者は視力がよいことが多く,漿液性網膜.離の完全消退をめざして投与を行っていても再発を繰り返す.各種Cstudyでフルイドの残存は視力低下の原因となることが知られてはいるが,このような患者に厳密に毎月投与を行うと通院や治療の自己中断につながるため,明らかな視力低下や患者の自覚悪化がある場合を除いて,患者と相談しながら投与間隔を決め,やや寛容な固定投与を行うことにしている.僚眼のマネジメント片眼発症の滲出型CAMD症例では,僚眼発症の可能性があり,両眼性になるとCQOVが著明に落ちるため,滲出型CAMD治療の長期マネジメントにおいて僚眼のマネジメントも重要と考える.当院では,滲出型CAMD患者の喫煙歴を必ず確認し,再来時に喫煙に対する注意喚起をするようにしている.また,食生活やサプリメント摂取に関してもアンケートを用いて積極的に聴取し,とくに片眼発症の滲出型AMD患者には,AREDS・AREDS2試験の結果を踏まえて,ビタミンCC,ビタミンCE,亜鉛,ルテイン,ゼアキサンチンなどを含むサプリメントを推奨している3,4).これにより僚眼発症リスクを軽減し,長期のCQOV維持をめざしている.AMD発症に関しては未だに病態が不明な部分があり,遺伝子の違いによる発症リスクの変化に関しても研究が進んできているため,今後も僚眼を含めた長期マネジメント方法の更新が必要であると考える.文献1)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandHORIZON:aCmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,C20132)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C20173)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20014)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013(92)

緑内障:原発閉塞隅角病:最近の話題

2021年3月31日 水曜日

●連載249監修=山本哲也福地健郎249.原発閉塞隅角病:最近の話題力石洋平琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座近年,原発閉塞隅角緑内障の概念が大きく変容し,病期によって細分化され,原発閉塞隅角病(primaryCangleclosuredisease:PACD)と総称されるようになってきている.隅角閉塞の機序によっては,以前主流であったレーザー虹彩切開術では無効な例もある.最近ではCPACDの治療として水晶体摘出術(透明水晶体を含む)が第一選択となりつつある.●はじめにPACと聞いてC1980年に発売されたアーケードゲームのキャラクターが頭をよぎるのは筆者だけだろうか.今回のPACは原発閉塞隅角症(primaryCangleCclo-sure:PAC)の話である.この数十年で原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の概念が大きく変化してきた.隅角所見においてC270°以上線維柱帯が観察されず(180°という考えもある),機能的隅角閉塞による眼圧上昇や,器質的隅角閉塞である周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)を伴わないものを原発閉塞隅角症疑い(primaryCangleCclo-suresuspect:PACS),PACSに機能的閉塞による眼圧上昇(>21CmmHg),もしくはCPASを伴うが緑内障視神経症(glacomatousCopticCneuropathy:GON)がないものをCPAC,そしてCPACにCGONを伴うものがCPACGと定義され,近年CPACG,PAC,PACSを含めた包括的呼称として原発閉塞隅角病(primaryCangleCclosuredisease:PACD)が提唱されるようになっている(表1).治療としてはレーザー周辺虹彩切除術(laserperipheraliridotomy:LPI)やレーザー隅角形成術(laserCgonio-plasty:LGP)などがかつて行われてきたが,近年水晶体摘出術の有効性も示されてきている.では,どの時期にどの治療が適切なのかC?本稿ではCPACDに対する治療について最近の知見も交えて述べる.C●PACDの治療すべての緑内障の病型において,治療の根幹は眼圧を下げることである.ただし,眼圧上昇の原因が治療可能な病態であるなら,眼圧下降治療と並行して原因に対する治療が必要である.これが原発開放隅角緑内障(pri-maryCopenangleCglaucoma:POAG)とCPACDでは異なる.つまり,PACDでは隅角閉塞が眼圧上昇の原因であるため,閉塞を解除することが原因に対する治療ということになる.早期段階で閉塞が解除されればPACDは治癒するのである.PACDの隅角閉塞の機序として相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,水晶体後方因子があり,単一因子ではなく複数の因子が絡んでいることが多い.どの因子が隅角閉塞の主体であるかによって適切な治療法を選択する必要がある.PACDに対する従来の治療としてはCLPIが第一選択であった.TannerらはCPACSに対するCLPIはハイリスク症例にのみ行うべきとしている.ハイリスク症例とはCacutePAC(APAC)僚眼,診断や治療で散瞳が必要な場合,抗コリン作用のある抗うつ薬の使用,緑内障の家族歴,離島に在住などですぐに対応できない場合など,としている1).LPIで問題になることもある角膜内皮障害に関しては,PACSに対するCYAGレーザーを用いたLPIで,72カ月の経過期間で有意な障害はなかったと報告された2).しかし,LPIが効果あるのは瞳孔ブロックが隅角閉塞の主体である場合のみであり,そのほかの機序が主原因である隅角閉塞症例には無効である.さらにCLPI後に追加治療が必要な症例の割合はCPACSでC0~8%,PACでC42~67%,PACGでC83~100%という報告や,PACS,PAC,PACGすべてにおいてCLPIに表1原発閉塞隅角病(PACD)の分類GON(緑内障性視神経症)隅角閉塞原発閉塞隅角症疑い(PACS)なし機能的隅角閉塞原発閉塞隅角症(PAC)なし器質的隅角閉塞(PAS),または眼圧上昇原発閉塞隅角緑内障(PACG)あり同上(89)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3270910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1水晶体摘出術前後の前眼部の変化PACS(70歳,女性)の前眼部光干渉断層計像.Ca:術前.b:術後.隅角は開大し,前房も深くなったのがわかる.より隅角は開大するものの,水晶体の加齢性変化により次第に浅くなっていくことも報告されている3).近年,LPIに替わってCPACDに対する治療の第一選択になりつつあるのが水晶体摘出術である.2016年には多施設ランダム化比較試験の結果が報告され,透明水晶体に対する水晶体摘出術はCLPIと比べて眼圧コントロールは良好であり,費用対効果も高いことが示された4)(図1).さらに最近の報告では,水晶体摘出術はCPACS,PAC,PACGすべてで眼圧下降があり,PAC,PACGでは抗緑内障点眼薬数が減少したとされる.この報告の中でPACGは術後に緑内障が進行したとされ,PACGに進行する前にCPACS,PACでは水晶体摘出術をすべきと結論づけている5).術前にCPASの存在が疑われる症例では隅角癒着解離術の追加も考慮する.しかし,PACDに対する水晶体摘出術に関しては通常の水晶体摘出術よりも合併症のリスクが高いことが報告されている6,7).通常の水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術の合併症の頻度はC2.2%であるのに対し6),PACD眼は短眼軸,浅前房,眼圧上昇などによる影響を受けC12.7%と高くなる7).また,以前筆者らは術前検査にて明らかな毛様小帯脆弱のないCPACD眼に対する水晶体摘出術を施行したC184眼のうち,10眼(5.4%)で毛様小帯脆弱があったと報告した8).PACDに対する水晶体摘出術では,これらの合併症に対応できる手術技量が必要である.また,水晶体を摘出するメリット,デメリットをきちんと理解してもらうことが重要である.とくに透明水晶体の場合や若年者の場合は視力低下がなく調節力もあるため,術後にCqualityofvisionが低下する可能性も説明しておくべきである.C●おわりにPACGの場合,隅角の閉塞機序にかかわらず第一選択として水晶体摘出術が必要である.これは透明水晶体の場合でも同様である.水晶体摘出術が不可能な症例にC328あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021おいて瞳孔ブロック形状が隅角閉塞の主体である場合は,LPIもしくは観血的周辺虹彩切除術を行い,プラトー虹彩形状が隅角閉塞の主体である場合はCLGPなどを考慮する.PAC,PACSに対しては,機能的閉塞がC3象限またはC2象限であっても,上述のようなCAPAC発症のハイリスク症例に関しては水晶体摘出術が第一選択と考えられる.機能的閉塞が軽度である症例に対しては定期的な隅角形状の経過観察が必要である.文献1)TannerCL,CGazzardCG,CNolanCWPCetal:HasCtheCEAGLEClandedfortheuseofclearlensextractioninangle-closureglaucoma?CAndChowCshouldCprimaryCangle-closureCsus-pectsbetreated?EyeC34:40-50,C20202)LiaoC,ZhangJ,JiangYetal:Long-terme.ectofYAGlaserCiridotomyConCcornealCendotheliumCinCprimaryCangleCclosuresuspects:aC72-monthCrandomisedCcontrolledCstudy.CBrCJCOphthalmolC2020,doi:10.1136/bjophthalmol-2020-315811.Onlineaheadofprint3)RadhakrishnanS,ChenPP,JunkAKetal:Laserperiph-eraliridotomyinprimaryangleclosure:AreportbytheAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC125:1110-1120,C20184)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20165)SongCMK,CSungCKR,CShinCJWCetal:GlaucomatousCpro-gressionafterlensextractioninprimaryangleclosuredis-easespectrum.JGlaucomaC29:711-717,C20206)PoweCNR,CScheinCOD,CGieserCSCCetal:SynthesisCofCtheCliteratureonvisualacuityandcomplicationsfollowingcat-aractCextractionCwithCintraocularClensCimplantation.CCata-ractCPatientCOutcomeCResearchCTeam.CArchCOphthalmolC112:239-252,C19947)ShamsPN,FosterPJ:Clinicaloutcomesafterlensextrac-tionCforCvisuallyCsigni.cantCcataractCinCeyesCwithCprimaryCangleclosure.JGlaucomaC21:545-550,C20128)酒井寛,與那原理子,新垣淑邦ほか:原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症.あたらしい眼科34:292-295,C2017(90)

屈折矯正手術:年齢別角膜屈折矯正手術後の近視化

2021年3月31日 水曜日

監修=木下茂●連載250大橋裕一坪田一男250.年齢別角膜屈折矯正手術後の近視化小島美帆京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学近視は多くは学童期にもっとも進行し,学齢とともに進行速度が低下し,10代で進行がほぼ停止する.しかし,20代以降も近視が進行する例が少なからず存在する.本稿では筆者らが行った検討をもとに,年代別にみた角膜屈折矯正手術後の近視化について,眼軸長と屈折度数の観点から紹介する.●はじめに多治見スタディにおけるC40歳以上の近視の頻度は41.8%で,-5ジオプトリ(D)を超える強度近視がC8.2%を占める.世界的には近視の人口はC2050年までにC50億人に達すると予測されている.C●成人の近視進行近視の多くは学童期にもっとも進行するが,20代以降も近視の進行がみられる.単純近視(-1.0~-6.0D)の成人を対象にC10年間の変化を調べると,20代では-0.6D,30代では-0.39D,40代では-0.29D近視化していた1).また,近視(平均-3.0D)のコンタクトレンズ装用者を対象にC5年間の等価球面度数の変化を調べると,21.3%は-1.0以上の近視化がみられ,その割合を年齢別に見るとC20~25歳ではC34.9%,25~30歳では19.6%,30~35歳ではC13.6%,35~40歳ではC10.0%であった2).このようにC20代以降も近視の進行はみられ,20代とC30代を比較するとC20代のほうが近視の進行の程度が大きいことがわかる.C●屈折矯正手術後の眼軸長および等価球面度数の変化屈折矯正手術後の等価球面度数の変化については,Alioらによると術前-10.0D以下の症例(平均C33.2歳)においてCLaserinsitukeratomileusis(LASIK)術後の変化は平均-0.12±0.16D/年であった3).中村らはLASIKとCtrans-epithelialphotorefractivekeratectomy(tPRK)の術後C7年の等価球面度数変化について検討し,術後C6カ月からC7年の変化量は,LASIKでは-0.18±0.33D,tPRKでは-0.36±0.47Dであり,有意差は認めないがCtPRKでやや大きかったことを報告している4).一方,屈折矯正手術後の眼軸長変化については,屈折度数と比較すると既報は少なく,KamiyaらはCimplant-ablecollamerlens(ICL)を挿入した症例(平均C38.4歳,(87)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY術前屈折度数-10.64±2.61D,術前眼軸長C27.60C±1.18mm)の検討で,サブグループ解析として術前から術後6年の間の眼軸長変化を測定し,0.29C±0.43Cmm延長したとしている5).このほか,-6.0D未満,-6.0D以上でCLASIKを施行した群とCICLを施行したC3群に分けて術前後の眼軸長を測定した検討において,術後C5年の変化量はそれぞれC0.04C±0.07Cmm,0.04C±0.08Cmm,0.13C±0.12Cmmであったことが報告されている6).C●年齢別の角膜屈折矯正手術後の近視進行屈折矯正手術後の近視進行について,眼軸長の変化を調べた報告は少なく,また年齢別にみた報告はさらに少ない.筆者らは,LASIKまたはCepipolis-LASIK(epi-LASIK)を施行した症例C140例C280眼(平均年齢C30.6C±4.9歳)を対象に,20代とC30代の年齢別に術後眼軸長および等価球面度数の変化を検討した.術前の眼軸長および等価球面度数はC20代とC30代では有意差はなく,LASIKを施行した群(n=216)において,術後C1年から術後C5年のC4年間の眼軸長変化の平均値は,20代ではC0.059C±0.134mm,30代ではC0.027C±0.133Cmm(p=0.08),等価球面度数変化の平均値はC20代では+0.054C±0.256D,30代では+0.052±0.327D(p=0.93)であり,いずれもC20代とC30代の症例間に有意差を認めなかった(図1).一方,epi-LASIKを施行した群(n=64)においては,術後C1年から術後C5年のC4年間の眼軸長変化の平均値はC20代ではC0.124C±0.141Cmm,30代ではC0.094C±0.166Cmm(p=0.46),等価球面度数変化の平均値はC20代では-0.438±0.207D,30代では-0.259±0.454D(p=0.41)であり,LASIK群と同様にC20代と30代の症例間に有意差を認めなかった(図2).一般的にC20代とC30代を比較すると,20代のほうが近視の進行が大きいことを考えると,LASIKやCepi-LASIKに近視進行抑制効果がある可能性が示唆される結果であった.近視進行メカニズムは未だ明らかではなく議論のあるあたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C325GroupAGroupBGroupAGroupBan=84n=132a28n=28n=362827.527.5眼軸長(mm)27眼軸長(mm)26.52625.52524.5242423.523.51234512345(n=216)(n=206)(n=204)(n=208)(n=216)(n=64)(n=62)(n=64)(n=62)(n=64)術後経過観察期間(年)術後経過観察期間(年)bGroupAGroupBbGroupAGroupB0.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8等価球面度数(D)-0.2-0.4-0.6-0.8-112345(n=80)(n=80)(n=72)(n=78)(n=78)術後経過観察期間(年)図1LASIK術後4年間の眼軸長と屈折値(等価球面度数)の変化a:GroupA(20代)とCGroupB(30代)で眼軸長の変化に有意差は認めなかった.b:GroupAとCGroupBで等価球面度数の変化に有意差は認めなかった.ところであるが,調節ラグ,軸外収差による遠視性デフォーカスが一因とされている.今回の検討においては,屈折矯正手術後に周辺網膜の遠視性軸外屈折が改善したことで近視進行が抑制された可能性がある.ただ,本検討では同年代で屈折矯正手術を行っていないコントロール群を設けておらず,さらなる前向き研究が必要である.この点に関しては,Sellaらが片眼のみ屈折矯正手術(PRKまたはCLASIK)を施行し,僚眼との等価球面度数の変化を比較したC3例について報告している7).このC3例においては術眼のほうが近視進行の程度が小さいという結果であった.現在,筆者らの関連施設でも屈折矯正手術が近視の進行に及ぼす影響を調べるため,まず片眼のみCLASIKを施行し,2年間各眼の近視進行を経過観察し,その後僚眼にもCLASIKを施行する臨床研究が進行している.今後,屈折矯正手術と近視進行の関連について新たな知見が得られることが期待される.326あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021-112345(n=64)(n=34)(n=30)(n=34)(n=18)術後経過観察期間(年)図2epi.LASIK術後4年間の眼軸長と屈折値(等価球面度数)の変化a:GroupA(20代)とCGroupB(30代)で眼軸長の変化に有意差は認めなかった.b:GroupAとCGroupBで等価球面度数の変化に有意差は認めなかった.文献1)EllingsenCKI,CNizamCA,CEllingsenCBACetal:Age-relatedCrefractiveshiftsinsimplemyopia.JRefractSurgC13:223-228,C19972)BullimoreMA,JonesLA,MoeschbergerMLetal:Aret-rospectiveCstudyCofCmyopiaCprogressionCinCadultCcontactClensCwearers.CInvestCOphthalmolCVisCSci43:2110-2113,C20023)AlioJL,MuftuogluO,OrtizDetal:Ten-YearFollow-upofCLaserCInCSituCKeratomileusisCforCMyopiaCofCupCtoC-10CDiopters.AmJOphthalmolC143:46-54,C20084)中村葉,稗田牧,山村陽ほか:LaserCinCsituCKer-atomileusisとCtrans-epithelialphotorefractivekeratectomyの術後C7年の経過比較.日眼会誌120:487-493,C20165)KamiyaCK,CShimizuCK,CIgarashiCACetal:FactorsCin.uencingClong-termCregressionCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCforCmoderateCtoChighCmyopia.CAmJOphthalmolC158:179-184,C20146)山村陽,稗田牧,脇舛耕一ほか:屈折矯正手術後C5年の眼軸長変化.眼科手術28:417-421,C20157)SellaCS,CDurdevan-StrierCN,CKaisermanI:UnilateralCrefractivesurgeryandmyopiaprogression.JPediatrOph-thalmolStrabismusC56:78-82,C2019(88)

眼内レンズ:水晶体内異物

2021年3月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋松島博之412.水晶体内異物獨協医科大学眼科学教室水晶体内異物は難症例である.前.染色を行い,水晶体.破損形状を確認し前.切開を行う.異物除去にはビスコエキストラクション法を活用する.眼内レンズ(IOL)挿入時は偏位を考慮してIOLを選択し,前.の亀裂を避けて支持部を固定することが重要である..内固定できない場合は強膜内固定になることも念頭に置き,準備をする.●はじめに水晶体内異物に遭遇する機会は少なくなったと思う.外傷の原因としてハンマーでの作業や電動草刈機の使用などが多いが,以前より作業中にゴーグルを着用するようになったからであろう.症例は少ないが,いざ遭遇すると最初から水晶体.が破損していて,水晶体内の異物摘出も必要であり,難症例である1,2).本稿では水晶体内異物の1症例をとりあげる.●症例患者は61歳の男性.3週間前,芝刈り中に左眼を受傷した.角膜の創口はきれいで閉じている.虹彩上に穿孔創があり,白内障が進行している(図1).視力は右眼が矯正1.2に対し,左眼は0.02.頭部CTにて左眼水晶体付近に高輝度の陰影を認めた(図2).水晶体内異物の診断で,入院手術となった.手術時間が長くなる可能性があるので,Tenon.下麻酔を施行し,異物摘出も考慮して強角膜切開を作製した(図3).水晶体への穿孔創が確認できないので,トリパンブルーを使って前.染色を行ったところ,8時の方向に前.の破損が確認できたので,この部位を避けて前.切開を行った.前.切開を進めていくと,穿孔部でフラップが穿孔創と重なり切れてしまったので,反対側のサイドポートから前.剪刀で切れ目を入れて前.切開を完成させた.超音波乳化吸引と皮質吸引に関しては,前.切開に亀裂が入っているため後.側まで亀裂が回るのを懸念し,ボトル高を40cmまで下げて,低灌流低吸引設定で超音波乳化吸引および皮質吸引を行った.超音波乳化吸引を進めると,水晶体内に異物が確認できたので,前房中に持ちあげ,ビスコエキストラクション法で切開創から摘出した.前.切開の亀裂は拡大しなかったので,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)NX-70(参天)を.内に固定した.IOL挿入時に前房が虚脱し後.に負荷がかかると,後.に亀裂が入る可能性があるので,丁寧な操作が必要である.IOL固定位置は,支持部が亀裂方向を向くと亀裂方向にIOL偏位を生じる可能図1左眼前眼部写真9時方向の虹彩上に穿孔創があり,白内障が進行している.図2頭部CT左眼水晶体付近に高輝度の陰影を認めた.(85)あたらしい眼科Vol.38,No.3,20213230910-1810/21/\100/頁/JCOPY図3水晶体内異物の摘出a:異物摘出のための創口拡大を考慮して強角膜切開を作製した.b:前.切開中に前.穿孔部で亀裂が生じたので,反対側のサイドポートから前.剪刀で修正し,前.切開を完成させた.c:異物は切開創を拡大してビスコエキストラクション法で摘出し,超音波水晶体乳化吸引と皮質吸引を行った.d:IOLは亀裂を避けて5時-11時付近に支持部が来るように固定した.性があるので,亀裂方向を避けることもポイントである.本症例は左眼視力1.0×IOL(1.2×IOL=-0.25D)まで改善した.●外傷性白内障のポイント通常の白内障手術と異なり,最初から水晶体.を破損していることが多い.術前の診察および詳細な検査によって水晶体.のどの部位が破損しているか確認し,戦略を立てておくことが重要である.後.破損を生じる可能性が高いが,さらに前.切開にも亀裂が生じることが多いため,IOL光学部キャプチャーは使いにくい.IOL強膜内固定になる可能性も考え,硝子体カッターなどもすぐに使用できるように準備をしておく.水晶体内に異物がある場合は,固く吸引不可能なことが多いので,本症例のようにビスコエキストラクション法を用いて切開創から摘出することを考え,強角膜切開を選択するとよい.外傷性白内障は遭遇する機会は少ないが,対処方法を整理しておく必要がある症例である.本症例は拙稿「外傷性水晶体疾患」(眼科グラフィック9:84-88,2020)より抜粋し,追記した.文献1)白石さや香,上山杏那,岡崎光彦ほか:20年間無症状で経過した水晶体内鉄片異物の1例.日眼会誌112:882-886,20082)高山圭,佐藤智人,桜井裕ほか:明らかな前眼部炎症を生じずに水晶体内に留まった眼内ステンレス片の1例.あたらしい眼科29:131-134,2012

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 遠近両用ハードコンタクトレンズの処方

2021年3月31日 水曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院10.遠近両用ハードコンタクトレンズの処方■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)ユーザーが中高年期になり近見障害を訴えた場合は,遠近両用HCLの適応となる.初期老視の場合は+0.5ジオプトリー(D)の超低加入度数の遠近両用CLでも対応可能である.ある程度老視が進んでいる場合は,老視の進行度やユーザーの見たい距離に応じて+1.0D,+1.5D,+2.0D,+2.5D,+3.0Dと加入度数を強くする.すべての遠近両用HCLは交代視型であり,遠近それぞれの光学的機能は高い.また,遠用近用の移行部はなだらかに研磨されており,この部位に累進屈折力をもたせたCLもあり,その範囲はレンズの種類により異なる(図1).どのような遠近両用HCLを選択するかは,ユーザーの生活様式に大きく依存する.セグメントタイプの遠近両用HCLは一時姿を消していたが,最近になってシード社から発売された(図2,シード・バイエキスパート).このレンズの最大の特徴は,自動車の運転時に違和感が少ないこと,といわれている1).HCLユーザーの老視化に対しては遠近両用HCLが適応となるが,まれにソフトコンタクトレンズ(SCL)を試してみたいというユーザーがいる.乱視が少なくて,遠近両用SCLに特有なコントラスト感度の低下が気に近用ゾーン遠用ゾーン図1同心円型遠近両用HCL中央部に遠用,周辺部に近用の度数が配置されている.その境界部はなだらかに研磨されており,その部位に累進屈折力を持たせたものが多いが,その範囲は各レンズによって異なっている.ならないユーザーには処方する場合もある.また,トーリックSCLを使用しているユーザーが遠近両用CLを希望する場合がある.メニコンから遠近両用トーリックSCLが発売されているので,ある程度の乱視眼には対応できるが,強い乱視や斜乱視がある場合は遠近両用HCLを処方することもある.白内障術後で単焦点眼内レンズを埋め込んでいる場合に,HCL装用経験者には遠近両用HCLを処方すると喜ばれることが多い.■遠近両用HCLの処方最近の遠近両用HCLの加入は外面にほどこされており,内面は球面であるものが大半である.このようなレンズは,これまでに装用していたHCLのデータが参考になる.しかし,加入度数が両面にほどこされており,内面が非球面のレンズでは,これまでに装用していた内面球面のレンズのデータは参考にならない.■処方例1.両面非球面遠近両用HCL(レインボーオプティカル研究所製:レインボークレール)50歳,女性.ガス透過性HCL使用中.近見障害.RV=(1.2×750/-2.75/8.8)NRV=0.3LV=(1.2×755/-3.00/8.8)NLV=0.3処方レンズ(図3)図2セグメントタイプ遠近両用HCL上方に遠用,下方に近用度数が配置されている.その境界部はなだらかに研磨されている.また,回転を防ぐためにプリズムバラスト構造になっている.レンズ周辺部はスラブオフカーブにより,全周の厚みを一定にして装用感をよくしている.(83)あたらしい眼科Vol.38,No.3,20213210910-1810/21/\100/頁/JCOPY図3両面非球面遠近両用HCLのフルオレセインパターン図4外面非球面・内面球面遠近両用HCLの全体としてはフラットなパターンではあるが,アピカル・クリアランスのよフルオレセインパターンうにもみえる.サイズとBCの変更はあるが,従来の良好なフルオレセインパターンを示す.RV=(1.2×730/-5.50/+3.0/9.0)NRV=0.6LV=(1.0×730/-6.00/+3.0/9.0)NLV=0.5このレンズのように両面非球面遠近両用HCLでは,これまで装用していたレンズのベースカーブ(BC)や度数は参考にならない.図2のように,かなりフラットめに処方しても,BCはかなり異なり,それにともない度数もかなり異なってくる.2.外面非球面・内面球面遠近両用HCL(メニコン製:メニフォーカルZ)47歳,女性.ガス透過性HCL使用中.近見障害.RV=(1.2×760/-4.75/9.0)NRV=0.4LV=(1.2×770/-5.00/9.0)NLV=0.4処方レンズ(図4)RV=(1.2×770/-4.25/+2.0/9.6)NRV=0.7LV=(1.2×780/-4.50/+2.0/9.6)NLV=0.8外面非球面・内面球面遠近両用HCLでは,これまでに装用していたレンズのデータが参考になる.これまでのレンズよりもサイズが少し大きくなるので,BCはフラットになり,その分の涙液レンズの影響を考慮してパワーは弱くなっている.図3のフルオレセインパターンは良好である.3.左眼白内障術後・ガス透過性HCL装用経験あり(サンコンタクトレンズ製:サンコンマイルドII・バイフォーカルタイプ)55歳,女性.右眼:HCL使用中.左眼:単焦点IOL挿入眼.近見障害.RV=(1.2×775/-6.50/8.8)NRV=0.4LV=(0.7×IOL)(1.2×IOL(S-1.25D)NLV=0.3処方レンズRV=(1.2×775/-6.50/+1.5/8.8)NRV=0.7LV=(1.2×765/-1.00/+2.5/8.8)NLV=0.7右眼には加入度数の低い遠近両用HCLを,左眼には加入度数の高い遠近両用HCLを処方して,遠近ともに良好な視力が得られた.4.外面非球面・内面球面遠近両用HCL(シード製:シードマルチフォーカルO2ノア)32歳,女性.ガス透過性HCL使用中.眼精疲労.RV=(1.2×820/-7.00/8.8)NRV=0.6LV=(1.2×810/-6.50/8.8)NLV=0.6処方レンズRV=(1.2×830/-6.50/+1.0/9.2)NRV=0.8LV=(1.2×820/-6.00/+1.0/9.2)NLV=0.8まだ近見障害はないが,眼精疲労を訴えている.事務職で近見作業が多いとのこと.そこで低加入度数の遠近両用HCLを処方し,眼精疲労は解消した.文献1)梶田雅義:遠近両用ハードコンタクトレンズ―同心円タイプかセグメントタイプか.あたらしい眼科37:1335-1342,2020

写真:頭頸部癌陽子線治療後の偽膜性結膜炎

2021年3月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦442.頭頸部癌陽子線治療後の福井歩美京都府立医科大学大学院視機能再生外科学偽膜性結膜炎京都府立医科大学附属北部医療センター眼科福岡秀記京都府立医科大学大学院視機能再生外科学図2図1のシェーマ①下眼瞼に広範囲に広がる偽膜図1前眼部写真下眼瞼結膜鼻側優位の広範囲な偽膜形成を認める.図3フルオレセイン染色偽膜に一致した結膜上皮欠損と涙液貯留増大を認める.図4陽子線治療前の頭部CT画像篩骨洞から右眼窩内部に伸展する腫瘤性病変を認める.(81)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3190910-1810/21/\100/頁/JCOPY陽子線治療は,放射線治療の一種であり,水素の原子核(陽子)を粒子加速器を用いて加速し,病変部位に照射する.従来の放射線治療では病変部位以外の周辺正常組織にも放射線照射が及び,障害を防ぐことが困難であった.しかし,陽子線はある深さに最大の放射線エネルギー量を設定し,その深さ以降の部位には放射線の影響を及ぼさないブラッグピーク(Braggpeak)をもつという特性があるため,病変部より手前および奥の正常組織の吸収線量を減らすことができる.そのような理由から,脳幹や視神経などの臓器が隣接するような頭頸部癌には陽子線治療はよい適応とされ,2018年に局所限局性前立腺癌,骨軟部腫瘍とともに保険収載された1).陽子線治療は現段階において限られた施設でしか受けることはできないが,適応疾患が広がってきており,今後診療を続けていくうえで,出会う機会が増加すると予想される.症例はC45歳,男性.右眼の突出,眼痛,鼻閉を訴え前医を受診した.篩骨洞から右眼窩内に進展する腫瘍性病変が認められ(図4),生検により篩骨洞扁平上皮癌(cT4aN0M0)と診断され,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)耳鼻咽喉科に紹介となった.化学療法と陽子線治療(総吸収線量C70CGy,35分割照射)を行い,眼球突出は改善したが,陽子線治療中に右眼の異物感,掻痒感,流涙を認め当院眼科に照会となった.初診時所見は,右眼のびまん性結膜充血,鼻上側の眼瞼結膜と下方から鼻側にかけての眼瞼結膜の偽膜形成,涙液貯留の増大であった(図1~3).ガチフロキサシン,0.1%フルオロメトロン点眼右眼1日C4回で治療を開始した.結膜.の細菌培養検査でメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が検出されたため,バンコマイシン眼軟膏右眼C1日C5回を追加し除菌後,フラジオマイシン含有ベタメタゾン眼軟膏右眼C1日C4回も追加した.その後,消炎により偽膜と結膜上皮欠損部は徐々に改善を認め,自覚症状も改善し経過は良好である.涙液貯留量の増大は涙道粘膜の障害からきているものと推察された.放射線治療による有害事象は急性期と晩期に分類される.急性期有害事象とは治療開始後C6カ月以内(おもに3カ月以内)に発生することが多く,細胞分裂が盛んな部位で起こり,線量増加とともに障害の程度も重症化するが,時間経過とともに回復し,一過性であることが多い.眼科領域では眼瞼炎,結膜炎,角膜炎などがこれにあたる.晩期有害事象は治療からC6カ月以降に確率的に発症するため,全例に認められるわけではないが,発症すると難治性となることが多い.眼科領域では網膜症,白内障,視神経障害などがあてはまる2,3).本症例は陽子線治療時に生じた偽膜性結膜炎であり,急性期有害事象と考えられる.今後,晩期有害事象が生じる可能性も含めて,眼科でも定期的な診察が必要である.陽子線治療を含めた放射線治療のさらなる普及により,眼科領域においても放射線治療後の有害事象をきたした患者を診察する機会が増えると考えられる.放射線治療における副作用と治療について理解を深めておくことが重要である.文献1)秋元哲夫:陽子線治療-頭頸部癌治療における陽子線治療の現状と可能性について.日本耳鼻咽喉科学会会報C122:C947-953,C20192)BarabinoCS,CRaghavanCA,CLoe.erCJCetal:Radiotherapy-inducedocularsurfacedisease.CorneaC24:909-914,C20053)HempelCM,CHinkelbeinW:EyeCsequelaeCfollowingCexter-nalCirradiation.CRecentCResultsCCancerCResC130:231-236,C1993C

糖尿病網膜症診療ガイドラインで世界をリードするために

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症診療ガイドラインで世界をリードするためにLeadingGlobalOphthalmologywithGuidelinesonDiabeticRetinopathyClinicalPractice村田敏規*はじめに『日本眼科学会雑誌』の2020年124巻12号に,「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」が特集として掲載された1).役に立つと自負している.ぜひ,一読をお願いしたい.糖尿病網膜症は患者数が多く,ほとんどすべての眼科医が日常的にその診療に携わるので,極論すれば眼科医の数だけ,それぞれのガイドラインがある.しかし,だからこそ診断治療のコンセンサスとしてのガイドラインをまとめることが大切である.その内容は多岐にわたるので,今回は糖尿病網膜症の分類に話を絞る.今後,日本の眼科医が国際会議でのdiscussionに登壇できるよう,日本の糖尿病網膜症の分類を統一し,かつ世界との共通性をもたせることが大切だと考えている.Iわが国の糖尿病網膜症分類は世界的に孤立している海外の学会で発表を経験された先生方,英語で糖尿病網膜症関連の論文を執筆された先生は,足元が崩れるようなとまどいを感じた経験があると思う.米国でもヨーロッパでも,そしてアジアでも,世界中の学会で単純糖尿病網膜症(simplediabeticretinopathy:simpleDR),あるいは増殖前糖尿病網膜症(pre-proliferativediabet-icretinopathy:PPDR)という言葉が通じない.現在,世界標準は「糖尿病網膜症国際重症度分類」であり,ここにはPPDRという分類が存在しないからである2).一方,わが国では全国的にDavis分類,すなわち単純糖尿病網膜症,増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病に分ける分類が,圧倒的に多くの眼科医に使われている.同時に,糖尿病眼学会が推奨してきた福田分類も,関東エリアを中心に愛用されている.にわかには信じがたいことと思われるが,要約すると,糖尿病網膜症の分類という観点では,日本の眼科は世界で完全に孤立している.今後,日本の若い眼科医が世界で研究成果を発信するためには,世界と共通の分類を使わなければ話が通じない.まずは日本の眼科医がDavis分類から,そして福田分類から,国際重症度分類に移行しなければいけない.II国際重症度分類の母体となったDavis分類わが国の代表的な糖尿病網膜症分類となっているDavis分類は,米国の眼科医の名を冠しているので,海外でも標準的に広く使われていると信じられてきた.しかし,筆者は1996年ロサンゼルスのDohenyEyeInstitute(UCLA)に留学して,なんと1980年代後半からは,米国では実はほとんど使われていないことを知った.米国の眼科医が,蛍光眼底造影検査を必要とするDavis分類を使うのをやめ,眼底所見のみに基づいて糖尿病網膜症を分類するETDRS分類へ,さらには国際重症度分類に移行したからである.これにすぐヨーロッパが追随した.さらには近年発展めざましいアジア諸国も,現代の米国の眼科学をダイレクトに導入した.この結果,アジアの眼科医はDavis分類をまったく知らな*ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕村田敏規:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(77)315表1国際重症度分類とDavis分類の類似性国際重症度分類Davis分類網膜症なし(noapparentretinopathy)─軽症非増殖糖尿病網膜症(mildNPDR)毛細血管瘤のみ中等症非増殖糖尿病網膜症(moderateNPDR)軽症と重症の間単純糖尿病網膜症下記のいずれかを認める毛細血管瘤点状・斑状出血硬性白斑重症非増殖糖尿病網膜症(severeNPDR)下記のいずれかを認める4象限で20個以上の網膜出血2象限以上で静脈数珠状拡張1象限以上で網膜内細小血管異常増殖前糖尿病網膜症下記のいずれかを認める軟性白斑網膜無灌流領域(蛍光眼底造影で検出)増殖糖尿病網膜症(PDR)網膜新生血管を認める増殖糖尿病網膜症網膜新生血管を認める-図1重症非増殖糖尿病網膜症a:眼底写真.軟性白斑が多発し,intraretinalmicrovascularabnormality(IRMA)がみられる(.).b:IRMAの拡大写真(.).c:蛍光眼底造影.4象限に無灌流領域と漏出がみられる.d:OCTAngiography(OCTA)の基となる,Bscanwith.owsingals.OCTのBスキャンに赤い点で赤血球の動きがある部位を示している.bの白線の断面である.内境界膜上には赤血球の動きがないので,この異常血管網は新生血管ではなく,IRMAであることが確認される.e:OCTA3象限以上に広がる無灌流領域を明瞭に描出する.汎網膜光凝固の適応である.同じ概念と考えて問題がない.IV国際重症度分類の最大の欠点これまで述べてきたように,分類方法においてはDavis分類も国際重症度分類も大差がないようにみえる.しかし,国際重症度分類にはDavis分類での増殖前期に,無灌流領域のレーザー照射で増殖期への進行を予防するという大切な概念が欠けている.国際重症度分類は,蛍光眼底造影を不要とする目的で作成されたこともあり,無灌流領域で定義される増殖前期という概念がない.一方,わが国では増殖前期に無灌流領域をみつけて,汎網膜光凝固を開始して,増殖期への進行を抑え,失明を予防するという考え方が広く普及して成果をあげている.日本で糖尿病網膜症を失明原因の第1位から第3位に下げることに成功したのは,この予防的な汎網膜光凝固の功績であるといっても過言ではない.近年,わが国でもアレルギー反応のリスクがある蛍光眼底造影を施行してまで,予防的汎網膜光凝固を施行する眼科医が減少傾向にある.そんな状況下で救世主となるのが,近年普及がめざましいOCTAである(図1e).赤血球の動きをトレースして毛細血管レベルまで網膜血管を描出可能で,リスクのある蛍光眼底造影を行わずに無灌流領域を明瞭に描出できる.Vより治療効果が高い4.3.2.1ルールを提唱する前節でも述べたように国際重症度分類は非常に簡便で有用な分類である.個々の患者に即したきめ細かな進行予防的な治療で,患者の良好な視力を維持してきた,わが国の眼科医にとってやや物足りない.たとえば,視力予後の分岐点となりうるsevereNPDRで「汎網膜光凝固を施行してもよい」とされているが,具体的な指針がない.また,わが国では無灌流領域の有無が汎網膜光凝固の治療開始の目安としているが,この無灌流領域を示唆する眼底所見である軟性白斑が国際重症度分類の定義には登場しない.しかし,実臨床では図1aのように軟性白斑が眼底に観察されれば,蛍光眼底造影かOCTAを施行して,無灌流領域の有無を確認し,予防的な汎網318あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021膜光凝固を施行することが,その患者を失明から救うカギとなる.なぜなら,糖尿病網膜症は一生続く病態であり,患者の経過観察からの脱落率がきわめて高い.長期間の観察中断後,ハイリスクなPDRに進行してから再診して,治療が手遅れとなることが多いからである.幸いなことにわが国には厚生(労働)省班会議の報告があり,これに従い3象限に無灌流領域があれば汎網膜光凝固を完成することが,患者の失明のリスクを著しく下げることにつながる.つまり,欧米の4-2-1ルールに,治療のタイミングを加味した4-3-2-1ルール,すなわち,1)眼底4象限で20個以上の網膜出血,2)2象限以上で静脈数珠状拡張,3)1象限以上の明確な網膜内細小血管異常があれば,severeNPDRと診断し,侵襲の低さからOCTAを第一選択,蛍光眼底造影を第二選択として施行し,無灌流領域が3象限に確認されたら,汎網膜光凝固を施行することを提唱する(糖尿病網膜症診療ガイドラインの第2版に向けた試案).VIまとめ「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」は,糖尿病網膜症を網羅的に解説している.今後編集を始める第2版では,上記の4-3-2-1ルールを含めて,より日常診療に役立つ具体的なガイドラインへと改良していきたい.わが国固有の福田分類,長年使用してきたDavis分類への思いはあるが,糖尿病網膜症治療を担う次世代の若い眼科医たちが,今後世界での日本の眼科のプレゼンスを高めてくれることを何よりも願っている.まずは分類を国際重症度分類に統一していくことを,日本糖尿病眼学会理事長,そしてガイドライン委員会委員長として,第2版のひとつの使命としたいと考えている.文献1)糖尿病網膜症診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン.日眼会誌124:955-981,20202)WilkinsonCP,FerrisFL3rd,KleinREetal;Globaldia-beticRetinopathyProjectGroup:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1677-1682,2003(80)