リソソームの機能とオートファジーオートファジーとはオートファジー(autophagy)は,ギリシャ語のCauto(自己)とCphagy(食べる)を合わせた「細胞の自食」を表す言葉です.細胞自身の成分を内包するオートファゴソームとよばれる二重膜構造がリソソームと融合し,加水分解酵素で消化される過程をいいます.不要になった蛋白だけでなく,細胞内小器官も消化できる大規模な分解システムで,細胞のリサイクルに欠かせない生命現象といえます.オートファジーは,大隅良典先生がC2016年にノーベル賞を受賞したことでも注目を集めました.大隅先生は酵母を用いた解析により,オートファジーに必須なCATG遺伝子を発見し,隔離膜が伸長し,細胞質やオルガネラの一部を包み込んでオートファゴソームを形成されるメカニズムを明らかにしました.その後,哺乳類の細胞でも同様の分解機構があることがわかり,現在では,細菌感染防御,抗原提示,細胞死,老化,腫瘍など幅広い生命現象に深くかかわっていると考えられています.たとえば,Alzheimer病にも関与するタウなどの凝集蛋白や損傷を受けたミトコンドリア,あるいは細胞内に侵入した細菌などの病原体もCp62/sqstm1といったアダプター蛋白を介して選択的にオートファゴソーム内に取り込まれ,分解されます.ファゴサイトーシスとオートファジーの関係細胞内の分解・リサイクル機構であるオートファジーと,細胞外の異物や病原体を貪食して分解するファゴサイトーシスとの密接な関係もわかってきました.ファゴサイトーシスの過程でオートファジー蛋白のCLC3が貪食胞に誘導され,分解に関与していることが報告されました1).LC3もCATGファミリーの一つで,オートファゴソームに特異的に発現し,リソソームとの融合が起こるとCLC3自身も分解されるため,オートファジーのマーカーとして使われます.このLC3がファゴサイトーシスに関与する現象はCLC3-associat-edphagocytosis(LAP)と名づけられました1).さらに眼科医にとっても興味深いことに,網膜色素上皮細胞(retinalCpigmentepithelium:RPE)における視細胞外節の貪食分解にも,このCLAPが重要であることが明らかになりました2).網膜におけるオートファジーの役割RPEにおける外節のリソソーム分解は網膜の恒常性維持に欠かせないものであり,網膜におけるオートファジーの役割は重要な研究分野です.そこで筆者らは,加齢黄斑変性納富昭司九州大学大学院医学研究院眼科学分野野生型LAMP2欠損マウス図112カ月齢の野生型マウスとLAMP2欠損マウスの電子顕微鏡写真野生型マウスではCRPEの正常な基底陥入構造がみられるが,LAMP2欠損マウスではCRPE基底膜側にbasalClaminardepositとよばれる沈着物がみられる(.).また,リポフスチン様の細胞内顆粒も認める(*).リソソーム機能の障害により,初期CAMDに類似した変化が生じていることが示されている.(文献C3より改変)(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)のリソソームの役割に着目して,ヒト眼組織標本を用いた免疫染色の解析を行いました.その結果,AMDのCRPEでは健常眼に比べてリソソーム膜蛋白CLAMP2の発現が減少していることがわかりました3).さらにこのCLAMP2を欠損したマウスの表現型を調べたところ,ドルーゼンに類似した細胞外老廃物がRPE下に蓄積していることがわかりました(図1).この沈着物は電子顕微鏡的にはCbasallaminardepositとよばれるもので,リポ蛋白やコレステロールの沈着も伴っていました.これらの結果より,リソソーム機能の異常が網膜の老化とCAMDの病態に関与している可能性が示されました.今後はリソソーム機能の調節が,AMDの前駆病変に対する新しい治療標的となる可能性があると考えられます.文献1)MartinezJ,AlmendingerJ,OberstAetal:Microtubule-associatedprotein1lightchain3alpha(LC3)-associatedphagocytosisisrequiredforthee.cientclearanceofdeadcells.ProcNatlAcadSciUSAC108:17396-17401,C20112)KimJY,ZhaoH,MartinezJetal:Noncanonicalautopha-gypromotesthevisualcycle.CellC154:365-376,C20133)NotomiCS,CIshiharaCK,CEfstathiouCNECetal:GeneticCLAMP2Cde.ciencyCacceleratesCtheCage-associatedCforma-tionCofCbasalClaminarCdepositsCinCtheCretina.CProcCNatlCAcadSciUSAC116:23724-23734,C2019(99)あたらしい眼科Vol.37,No.11,202014310910-1810/20/\100/頁/JCOPY