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眼内レンズ:水晶体内異物

2021年3月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋松島博之412.水晶体内異物獨協医科大学眼科学教室水晶体内異物は難症例である.前.染色を行い,水晶体.破損形状を確認し前.切開を行う.異物除去にはビスコエキストラクション法を活用する.眼内レンズ(IOL)挿入時は偏位を考慮してIOLを選択し,前.の亀裂を避けて支持部を固定することが重要である..内固定できない場合は強膜内固定になることも念頭に置き,準備をする.●はじめに水晶体内異物に遭遇する機会は少なくなったと思う.外傷の原因としてハンマーでの作業や電動草刈機の使用などが多いが,以前より作業中にゴーグルを着用するようになったからであろう.症例は少ないが,いざ遭遇すると最初から水晶体.が破損していて,水晶体内の異物摘出も必要であり,難症例である1,2).本稿では水晶体内異物の1症例をとりあげる.●症例患者は61歳の男性.3週間前,芝刈り中に左眼を受傷した.角膜の創口はきれいで閉じている.虹彩上に穿孔創があり,白内障が進行している(図1).視力は右眼が矯正1.2に対し,左眼は0.02.頭部CTにて左眼水晶体付近に高輝度の陰影を認めた(図2).水晶体内異物の診断で,入院手術となった.手術時間が長くなる可能性があるので,Tenon.下麻酔を施行し,異物摘出も考慮して強角膜切開を作製した(図3).水晶体への穿孔創が確認できないので,トリパンブルーを使って前.染色を行ったところ,8時の方向に前.の破損が確認できたので,この部位を避けて前.切開を行った.前.切開を進めていくと,穿孔部でフラップが穿孔創と重なり切れてしまったので,反対側のサイドポートから前.剪刀で切れ目を入れて前.切開を完成させた.超音波乳化吸引と皮質吸引に関しては,前.切開に亀裂が入っているため後.側まで亀裂が回るのを懸念し,ボトル高を40cmまで下げて,低灌流低吸引設定で超音波乳化吸引および皮質吸引を行った.超音波乳化吸引を進めると,水晶体内に異物が確認できたので,前房中に持ちあげ,ビスコエキストラクション法で切開創から摘出した.前.切開の亀裂は拡大しなかったので,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)NX-70(参天)を.内に固定した.IOL挿入時に前房が虚脱し後.に負荷がかかると,後.に亀裂が入る可能性があるので,丁寧な操作が必要である.IOL固定位置は,支持部が亀裂方向を向くと亀裂方向にIOL偏位を生じる可能図1左眼前眼部写真9時方向の虹彩上に穿孔創があり,白内障が進行している.図2頭部CT左眼水晶体付近に高輝度の陰影を認めた.(85)あたらしい眼科Vol.38,No.3,20213230910-1810/21/\100/頁/JCOPY図3水晶体内異物の摘出a:異物摘出のための創口拡大を考慮して強角膜切開を作製した.b:前.切開中に前.穿孔部で亀裂が生じたので,反対側のサイドポートから前.剪刀で修正し,前.切開を完成させた.c:異物は切開創を拡大してビスコエキストラクション法で摘出し,超音波水晶体乳化吸引と皮質吸引を行った.d:IOLは亀裂を避けて5時-11時付近に支持部が来るように固定した.性があるので,亀裂方向を避けることもポイントである.本症例は左眼視力1.0×IOL(1.2×IOL=-0.25D)まで改善した.●外傷性白内障のポイント通常の白内障手術と異なり,最初から水晶体.を破損していることが多い.術前の診察および詳細な検査によって水晶体.のどの部位が破損しているか確認し,戦略を立てておくことが重要である.後.破損を生じる可能性が高いが,さらに前.切開にも亀裂が生じることが多いため,IOL光学部キャプチャーは使いにくい.IOL強膜内固定になる可能性も考え,硝子体カッターなどもすぐに使用できるように準備をしておく.水晶体内に異物がある場合は,固く吸引不可能なことが多いので,本症例のようにビスコエキストラクション法を用いて切開創から摘出することを考え,強角膜切開を選択するとよい.外傷性白内障は遭遇する機会は少ないが,対処方法を整理しておく必要がある症例である.本症例は拙稿「外傷性水晶体疾患」(眼科グラフィック9:84-88,2020)より抜粋し,追記した.文献1)白石さや香,上山杏那,岡崎光彦ほか:20年間無症状で経過した水晶体内鉄片異物の1例.日眼会誌112:882-886,20082)高山圭,佐藤智人,桜井裕ほか:明らかな前眼部炎症を生じずに水晶体内に留まった眼内ステンレス片の1例.あたらしい眼科29:131-134,2012

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 遠近両用ハードコンタクトレンズの処方

2021年3月31日 水曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院10.遠近両用ハードコンタクトレンズの処方■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)ユーザーが中高年期になり近見障害を訴えた場合は,遠近両用HCLの適応となる.初期老視の場合は+0.5ジオプトリー(D)の超低加入度数の遠近両用CLでも対応可能である.ある程度老視が進んでいる場合は,老視の進行度やユーザーの見たい距離に応じて+1.0D,+1.5D,+2.0D,+2.5D,+3.0Dと加入度数を強くする.すべての遠近両用HCLは交代視型であり,遠近それぞれの光学的機能は高い.また,遠用近用の移行部はなだらかに研磨されており,この部位に累進屈折力をもたせたCLもあり,その範囲はレンズの種類により異なる(図1).どのような遠近両用HCLを選択するかは,ユーザーの生活様式に大きく依存する.セグメントタイプの遠近両用HCLは一時姿を消していたが,最近になってシード社から発売された(図2,シード・バイエキスパート).このレンズの最大の特徴は,自動車の運転時に違和感が少ないこと,といわれている1).HCLユーザーの老視化に対しては遠近両用HCLが適応となるが,まれにソフトコンタクトレンズ(SCL)を試してみたいというユーザーがいる.乱視が少なくて,遠近両用SCLに特有なコントラスト感度の低下が気に近用ゾーン遠用ゾーン図1同心円型遠近両用HCL中央部に遠用,周辺部に近用の度数が配置されている.その境界部はなだらかに研磨されており,その部位に累進屈折力を持たせたものが多いが,その範囲は各レンズによって異なっている.ならないユーザーには処方する場合もある.また,トーリックSCLを使用しているユーザーが遠近両用CLを希望する場合がある.メニコンから遠近両用トーリックSCLが発売されているので,ある程度の乱視眼には対応できるが,強い乱視や斜乱視がある場合は遠近両用HCLを処方することもある.白内障術後で単焦点眼内レンズを埋め込んでいる場合に,HCL装用経験者には遠近両用HCLを処方すると喜ばれることが多い.■遠近両用HCLの処方最近の遠近両用HCLの加入は外面にほどこされており,内面は球面であるものが大半である.このようなレンズは,これまでに装用していたHCLのデータが参考になる.しかし,加入度数が両面にほどこされており,内面が非球面のレンズでは,これまでに装用していた内面球面のレンズのデータは参考にならない.■処方例1.両面非球面遠近両用HCL(レインボーオプティカル研究所製:レインボークレール)50歳,女性.ガス透過性HCL使用中.近見障害.RV=(1.2×750/-2.75/8.8)NRV=0.3LV=(1.2×755/-3.00/8.8)NLV=0.3処方レンズ(図3)図2セグメントタイプ遠近両用HCL上方に遠用,下方に近用度数が配置されている.その境界部はなだらかに研磨されている.また,回転を防ぐためにプリズムバラスト構造になっている.レンズ周辺部はスラブオフカーブにより,全周の厚みを一定にして装用感をよくしている.(83)あたらしい眼科Vol.38,No.3,20213210910-1810/21/\100/頁/JCOPY図3両面非球面遠近両用HCLのフルオレセインパターン図4外面非球面・内面球面遠近両用HCLの全体としてはフラットなパターンではあるが,アピカル・クリアランスのよフルオレセインパターンうにもみえる.サイズとBCの変更はあるが,従来の良好なフルオレセインパターンを示す.RV=(1.2×730/-5.50/+3.0/9.0)NRV=0.6LV=(1.0×730/-6.00/+3.0/9.0)NLV=0.5このレンズのように両面非球面遠近両用HCLでは,これまで装用していたレンズのベースカーブ(BC)や度数は参考にならない.図2のように,かなりフラットめに処方しても,BCはかなり異なり,それにともない度数もかなり異なってくる.2.外面非球面・内面球面遠近両用HCL(メニコン製:メニフォーカルZ)47歳,女性.ガス透過性HCL使用中.近見障害.RV=(1.2×760/-4.75/9.0)NRV=0.4LV=(1.2×770/-5.00/9.0)NLV=0.4処方レンズ(図4)RV=(1.2×770/-4.25/+2.0/9.6)NRV=0.7LV=(1.2×780/-4.50/+2.0/9.6)NLV=0.8外面非球面・内面球面遠近両用HCLでは,これまでに装用していたレンズのデータが参考になる.これまでのレンズよりもサイズが少し大きくなるので,BCはフラットになり,その分の涙液レンズの影響を考慮してパワーは弱くなっている.図3のフルオレセインパターンは良好である.3.左眼白内障術後・ガス透過性HCL装用経験あり(サンコンタクトレンズ製:サンコンマイルドII・バイフォーカルタイプ)55歳,女性.右眼:HCL使用中.左眼:単焦点IOL挿入眼.近見障害.RV=(1.2×775/-6.50/8.8)NRV=0.4LV=(0.7×IOL)(1.2×IOL(S-1.25D)NLV=0.3処方レンズRV=(1.2×775/-6.50/+1.5/8.8)NRV=0.7LV=(1.2×765/-1.00/+2.5/8.8)NLV=0.7右眼には加入度数の低い遠近両用HCLを,左眼には加入度数の高い遠近両用HCLを処方して,遠近ともに良好な視力が得られた.4.外面非球面・内面球面遠近両用HCL(シード製:シードマルチフォーカルO2ノア)32歳,女性.ガス透過性HCL使用中.眼精疲労.RV=(1.2×820/-7.00/8.8)NRV=0.6LV=(1.2×810/-6.50/8.8)NLV=0.6処方レンズRV=(1.2×830/-6.50/+1.0/9.2)NRV=0.8LV=(1.2×820/-6.00/+1.0/9.2)NLV=0.8まだ近見障害はないが,眼精疲労を訴えている.事務職で近見作業が多いとのこと.そこで低加入度数の遠近両用HCLを処方し,眼精疲労は解消した.文献1)梶田雅義:遠近両用ハードコンタクトレンズ―同心円タイプかセグメントタイプか.あたらしい眼科37:1335-1342,2020

写真:頭頸部癌陽子線治療後の偽膜性結膜炎

2021年3月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦442.頭頸部癌陽子線治療後の福井歩美京都府立医科大学大学院視機能再生外科学偽膜性結膜炎京都府立医科大学附属北部医療センター眼科福岡秀記京都府立医科大学大学院視機能再生外科学図2図1のシェーマ①下眼瞼に広範囲に広がる偽膜図1前眼部写真下眼瞼結膜鼻側優位の広範囲な偽膜形成を認める.図3フルオレセイン染色偽膜に一致した結膜上皮欠損と涙液貯留増大を認める.図4陽子線治療前の頭部CT画像篩骨洞から右眼窩内部に伸展する腫瘤性病変を認める.(81)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C3190910-1810/21/\100/頁/JCOPY陽子線治療は,放射線治療の一種であり,水素の原子核(陽子)を粒子加速器を用いて加速し,病変部位に照射する.従来の放射線治療では病変部位以外の周辺正常組織にも放射線照射が及び,障害を防ぐことが困難であった.しかし,陽子線はある深さに最大の放射線エネルギー量を設定し,その深さ以降の部位には放射線の影響を及ぼさないブラッグピーク(Braggpeak)をもつという特性があるため,病変部より手前および奥の正常組織の吸収線量を減らすことができる.そのような理由から,脳幹や視神経などの臓器が隣接するような頭頸部癌には陽子線治療はよい適応とされ,2018年に局所限局性前立腺癌,骨軟部腫瘍とともに保険収載された1).陽子線治療は現段階において限られた施設でしか受けることはできないが,適応疾患が広がってきており,今後診療を続けていくうえで,出会う機会が増加すると予想される.症例はC45歳,男性.右眼の突出,眼痛,鼻閉を訴え前医を受診した.篩骨洞から右眼窩内に進展する腫瘍性病変が認められ(図4),生検により篩骨洞扁平上皮癌(cT4aN0M0)と診断され,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)耳鼻咽喉科に紹介となった.化学療法と陽子線治療(総吸収線量C70CGy,35分割照射)を行い,眼球突出は改善したが,陽子線治療中に右眼の異物感,掻痒感,流涙を認め当院眼科に照会となった.初診時所見は,右眼のびまん性結膜充血,鼻上側の眼瞼結膜と下方から鼻側にかけての眼瞼結膜の偽膜形成,涙液貯留の増大であった(図1~3).ガチフロキサシン,0.1%フルオロメトロン点眼右眼1日C4回で治療を開始した.結膜.の細菌培養検査でメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が検出されたため,バンコマイシン眼軟膏右眼C1日C5回を追加し除菌後,フラジオマイシン含有ベタメタゾン眼軟膏右眼C1日C4回も追加した.その後,消炎により偽膜と結膜上皮欠損部は徐々に改善を認め,自覚症状も改善し経過は良好である.涙液貯留量の増大は涙道粘膜の障害からきているものと推察された.放射線治療による有害事象は急性期と晩期に分類される.急性期有害事象とは治療開始後C6カ月以内(おもに3カ月以内)に発生することが多く,細胞分裂が盛んな部位で起こり,線量増加とともに障害の程度も重症化するが,時間経過とともに回復し,一過性であることが多い.眼科領域では眼瞼炎,結膜炎,角膜炎などがこれにあたる.晩期有害事象は治療からC6カ月以降に確率的に発症するため,全例に認められるわけではないが,発症すると難治性となることが多い.眼科領域では網膜症,白内障,視神経障害などがあてはまる2,3).本症例は陽子線治療時に生じた偽膜性結膜炎であり,急性期有害事象と考えられる.今後,晩期有害事象が生じる可能性も含めて,眼科でも定期的な診察が必要である.陽子線治療を含めた放射線治療のさらなる普及により,眼科領域においても放射線治療後の有害事象をきたした患者を診察する機会が増えると考えられる.放射線治療における副作用と治療について理解を深めておくことが重要である.文献1)秋元哲夫:陽子線治療-頭頸部癌治療における陽子線治療の現状と可能性について.日本耳鼻咽喉科学会会報C122:C947-953,C20192)BarabinoCS,CRaghavanCA,CLoe.erCJCetal:Radiotherapy-inducedocularsurfacedisease.CorneaC24:909-914,C20053)HempelCM,CHinkelbeinW:EyeCsequelaeCfollowingCexter-nalCirradiation.CRecentCResultsCCancerCResC130:231-236,C1993C

糖尿病網膜症診療ガイドラインで世界をリードするために

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症診療ガイドラインで世界をリードするためにLeadingGlobalOphthalmologywithGuidelinesonDiabeticRetinopathyClinicalPractice村田敏規*はじめに『日本眼科学会雑誌』の2020年124巻12号に,「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」が特集として掲載された1).役に立つと自負している.ぜひ,一読をお願いしたい.糖尿病網膜症は患者数が多く,ほとんどすべての眼科医が日常的にその診療に携わるので,極論すれば眼科医の数だけ,それぞれのガイドラインがある.しかし,だからこそ診断治療のコンセンサスとしてのガイドラインをまとめることが大切である.その内容は多岐にわたるので,今回は糖尿病網膜症の分類に話を絞る.今後,日本の眼科医が国際会議でのdiscussionに登壇できるよう,日本の糖尿病網膜症の分類を統一し,かつ世界との共通性をもたせることが大切だと考えている.Iわが国の糖尿病網膜症分類は世界的に孤立している海外の学会で発表を経験された先生方,英語で糖尿病網膜症関連の論文を執筆された先生は,足元が崩れるようなとまどいを感じた経験があると思う.米国でもヨーロッパでも,そしてアジアでも,世界中の学会で単純糖尿病網膜症(simplediabeticretinopathy:simpleDR),あるいは増殖前糖尿病網膜症(pre-proliferativediabet-icretinopathy:PPDR)という言葉が通じない.現在,世界標準は「糖尿病網膜症国際重症度分類」であり,ここにはPPDRという分類が存在しないからである2).一方,わが国では全国的にDavis分類,すなわち単純糖尿病網膜症,増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病に分ける分類が,圧倒的に多くの眼科医に使われている.同時に,糖尿病眼学会が推奨してきた福田分類も,関東エリアを中心に愛用されている.にわかには信じがたいことと思われるが,要約すると,糖尿病網膜症の分類という観点では,日本の眼科は世界で完全に孤立している.今後,日本の若い眼科医が世界で研究成果を発信するためには,世界と共通の分類を使わなければ話が通じない.まずは日本の眼科医がDavis分類から,そして福田分類から,国際重症度分類に移行しなければいけない.II国際重症度分類の母体となったDavis分類わが国の代表的な糖尿病網膜症分類となっているDavis分類は,米国の眼科医の名を冠しているので,海外でも標準的に広く使われていると信じられてきた.しかし,筆者は1996年ロサンゼルスのDohenyEyeInstitute(UCLA)に留学して,なんと1980年代後半からは,米国では実はほとんど使われていないことを知った.米国の眼科医が,蛍光眼底造影検査を必要とするDavis分類を使うのをやめ,眼底所見のみに基づいて糖尿病網膜症を分類するETDRS分類へ,さらには国際重症度分類に移行したからである.これにすぐヨーロッパが追随した.さらには近年発展めざましいアジア諸国も,現代の米国の眼科学をダイレクトに導入した.この結果,アジアの眼科医はDavis分類をまったく知らな*ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕村田敏規:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(77)315表1国際重症度分類とDavis分類の類似性国際重症度分類Davis分類網膜症なし(noapparentretinopathy)─軽症非増殖糖尿病網膜症(mildNPDR)毛細血管瘤のみ中等症非増殖糖尿病網膜症(moderateNPDR)軽症と重症の間単純糖尿病網膜症下記のいずれかを認める毛細血管瘤点状・斑状出血硬性白斑重症非増殖糖尿病網膜症(severeNPDR)下記のいずれかを認める4象限で20個以上の網膜出血2象限以上で静脈数珠状拡張1象限以上で網膜内細小血管異常増殖前糖尿病網膜症下記のいずれかを認める軟性白斑網膜無灌流領域(蛍光眼底造影で検出)増殖糖尿病網膜症(PDR)網膜新生血管を認める増殖糖尿病網膜症網膜新生血管を認める-図1重症非増殖糖尿病網膜症a:眼底写真.軟性白斑が多発し,intraretinalmicrovascularabnormality(IRMA)がみられる(.).b:IRMAの拡大写真(.).c:蛍光眼底造影.4象限に無灌流領域と漏出がみられる.d:OCTAngiography(OCTA)の基となる,Bscanwith.owsingals.OCTのBスキャンに赤い点で赤血球の動きがある部位を示している.bの白線の断面である.内境界膜上には赤血球の動きがないので,この異常血管網は新生血管ではなく,IRMAであることが確認される.e:OCTA3象限以上に広がる無灌流領域を明瞭に描出する.汎網膜光凝固の適応である.同じ概念と考えて問題がない.IV国際重症度分類の最大の欠点これまで述べてきたように,分類方法においてはDavis分類も国際重症度分類も大差がないようにみえる.しかし,国際重症度分類にはDavis分類での増殖前期に,無灌流領域のレーザー照射で増殖期への進行を予防するという大切な概念が欠けている.国際重症度分類は,蛍光眼底造影を不要とする目的で作成されたこともあり,無灌流領域で定義される増殖前期という概念がない.一方,わが国では増殖前期に無灌流領域をみつけて,汎網膜光凝固を開始して,増殖期への進行を抑え,失明を予防するという考え方が広く普及して成果をあげている.日本で糖尿病網膜症を失明原因の第1位から第3位に下げることに成功したのは,この予防的な汎網膜光凝固の功績であるといっても過言ではない.近年,わが国でもアレルギー反応のリスクがある蛍光眼底造影を施行してまで,予防的汎網膜光凝固を施行する眼科医が減少傾向にある.そんな状況下で救世主となるのが,近年普及がめざましいOCTAである(図1e).赤血球の動きをトレースして毛細血管レベルまで網膜血管を描出可能で,リスクのある蛍光眼底造影を行わずに無灌流領域を明瞭に描出できる.Vより治療効果が高い4.3.2.1ルールを提唱する前節でも述べたように国際重症度分類は非常に簡便で有用な分類である.個々の患者に即したきめ細かな進行予防的な治療で,患者の良好な視力を維持してきた,わが国の眼科医にとってやや物足りない.たとえば,視力予後の分岐点となりうるsevereNPDRで「汎網膜光凝固を施行してもよい」とされているが,具体的な指針がない.また,わが国では無灌流領域の有無が汎網膜光凝固の治療開始の目安としているが,この無灌流領域を示唆する眼底所見である軟性白斑が国際重症度分類の定義には登場しない.しかし,実臨床では図1aのように軟性白斑が眼底に観察されれば,蛍光眼底造影かOCTAを施行して,無灌流領域の有無を確認し,予防的な汎網318あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021膜光凝固を施行することが,その患者を失明から救うカギとなる.なぜなら,糖尿病網膜症は一生続く病態であり,患者の経過観察からの脱落率がきわめて高い.長期間の観察中断後,ハイリスクなPDRに進行してから再診して,治療が手遅れとなることが多いからである.幸いなことにわが国には厚生(労働)省班会議の報告があり,これに従い3象限に無灌流領域があれば汎網膜光凝固を完成することが,患者の失明のリスクを著しく下げることにつながる.つまり,欧米の4-2-1ルールに,治療のタイミングを加味した4-3-2-1ルール,すなわち,1)眼底4象限で20個以上の網膜出血,2)2象限以上で静脈数珠状拡張,3)1象限以上の明確な網膜内細小血管異常があれば,severeNPDRと診断し,侵襲の低さからOCTAを第一選択,蛍光眼底造影を第二選択として施行し,無灌流領域が3象限に確認されたら,汎網膜光凝固を施行することを提唱する(糖尿病網膜症診療ガイドラインの第2版に向けた試案).VIまとめ「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」は,糖尿病網膜症を網羅的に解説している.今後編集を始める第2版では,上記の4-3-2-1ルールを含めて,より日常診療に役立つ具体的なガイドラインへと改良していきたい.わが国固有の福田分類,長年使用してきたDavis分類への思いはあるが,糖尿病網膜症治療を担う次世代の若い眼科医たちが,今後世界での日本の眼科のプレゼンスを高めてくれることを何よりも願っている.まずは分類を国際重症度分類に統一していくことを,日本糖尿病眼学会理事長,そしてガイドライン委員会委員長として,第2版のひとつの使命としたいと考えている.文献1)糖尿病網膜症診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン.日眼会誌124:955-981,20202)WilkinsonCP,FerrisFL3rd,KleinREetal;Globaldia-beticRetinopathyProjectGroup:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1677-1682,2003(80)

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する疾患レジストリー研究

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する疾患レジストリー研究ObservationalStudybyRegistryofPatientswithDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema志村雅彦*はじめに近年,レジストリー研究という言葉を耳にする機会が増えたように思う.そもそも医学において患者を対象にする臨床研究には介入試験と観察研究の2種類があり1),前者はおもに介入治療の効果を客観的に評価することを目的とするため,あらかじめ定められた介入治療以外を行うことはできず,しばしば臨床試験などともよばれる.介入試験では実験的要素を伴うため,対象患者に対する有益性が不確定であり,したがって介入試験開始前に試験の妥当性・安全性について熟慮する必要から,特定臨床研究法の対象となり,認定倫理委員会での審議・許諾を必要とする.後者である観察研究は文字通り経過を観察するのみの研究であり,意図的・実験的な要素は存在せず,疫学研究などともよばれる.観察研究のなかで,対象患者を登録する研究をレジストリー研究とよんでいる.レジストリー研究は,横断研究(cross-sectionalstudy)と縦断研究(longitudinalstudy)に分けられ,後者は後ろ向きの症例対照研究(retrospectivestudy)と前向きのコホート研究(cohortstudy)に分けられる.なお,コホート研究では前向きに収集されたデータを使って後ろ向き研究を行うことができるため,これを後ろ向きコホート研究(retrospectivecohortstudy)として,前向きコホート研究(prospectivecohortstudy)と分けて考えることもある.Iレジストリー研究の適応と限界レジストリー研究は対象症例を登録するのみであり,症例に対して意図的な介入が行われないため倫理的な問題が起こりにくく,疾患の有病率を調査したり,実臨床における臨床成績を調べるといったことを容易に行うことが可能である.研究を行うことを開示(オプトアウト)することで症例ごとの承諾が不要となるため,多くの症例を集めやすい.有病率や検査精度などを調べるためにはcross-sectionalstudyが適しており,因果関係や危険因子,発症率や治療効果,予後などを調べるためにはlongitudinalstudyが適している.反面,登録された症例の患者背景や臨床経過に統一性がないため,介入治療の有効性を評価するような比較対照を行うことはむずかしい.詳細は疫学研究の専門家にゆだねるが,観察研究による比較対照を目的にしばしば行われる傾向スコアによるマッチングでは,登録された症例のなかで患者背景や治療プロトコールなどが似通った症例ペアをみつけていくため,十分な症例ペアが得られない可能性もある.したがって,治療効果や予後などの傾向を調べるためにはかなりの症例数を集める必要があり,一般的にレジストリー研究では1,000例以上,理想的には10,000例以上の症例登録を行う必要がある.以下,実際に行われた糖尿病網膜症のレジストリー研究を紹介する.*MasahikoShimura:東京医科大学八王子医療センター眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(71)309II糖尿病網膜症の有病率糖尿病網膜症の有病率はレジストリー研究のなかでもCcross-sectionalstudyとしてもっとも調査しやすい項目であり,わが国においてもC1998年に久山町スタディにおいて報告されている.これによると,糖尿病患者における網膜症の有病率はC16.9%であり,その内訳は単純型C9.6%,前増殖型C6.3%,増殖型C1.0%と報告されている2).久山町スタディとは人口の年齢分布や職業構成および生活様式や栄養摂取状況が日本の平均レベルで推移していた福岡県久山町でC1961年からC40歳以上の住民のC8割以上を検診し,50年にわたる追跡調査を行った世界でも類もみない精度の高い疫学研究である.糖尿病網膜症の有病率の変化についてはC2007年およびC2012年にも同様の調査報告がなされ,2007年の網膜症の有病率はC15.0%(単純型C10.3%,前増殖型C3.0%,増殖型0.5%),2012年の網膜症の有病率はC10.3%と,有病率は低下傾向にあり,網膜症の発症が抑制されていることが判明した3).このように,同一地区の集団を年代ごとに有病率を算出するという手法はレジストリー研究のもっとも得意とする分野であり,網膜症の有病率の低下から,糖尿病患者の眼合併症に対する意識の向上と糖尿病専門医の血糖管理の厳格化,網膜症専門医の網膜光凝固術や硝子体手術の積極的導入などが有効であったとする傍証になった.一方で,久山町での有病率が他の地域においても当てはまるのかという疑問が生じる.実際,山形県舟形町でC2000.2002年にC35歳以上の全住民を対象にした糖尿病網膜症の有病率調査では糖尿病患者の23.0%と報告4)されており,地域差は無視できない.このような場合,すでに報告されたさまざまな地域や年代での研究結果を統合し,統計処理を行って結論を導くデータ統合型メタ研究という手法がある.実際に世界C35研究・登録症例数C23,000人をもとに,2010年の世界人口の年齢分布に標準化した糖尿病網膜症の有病率が計算され,これによれば糖尿病網膜症の有病率はC35.4%であり,増殖糖尿病網膜症がC7.2%,黄斑浮腫がC7.4%と報告され,両者を合わせた「視力を脅かす危険のある網膜症」の有病率はC11.7%であると報告されている5).III糖尿病網膜症の発症率・進展率糖尿病網膜症の危険因子を調査するというような臨床研究では前向きのコホート研究が威力を発揮する.CJapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS)がC45.70歳の日本人C2型糖尿病患者(男性C1,087名,女性C946)を対象にした多施設無作為臨床試験としてC8年間の前向きコホート研究を行っており6),これによると,網膜症のC8年累積発症率はC26.6%,38.3/1,000人年で,その危険因子としてヘモグロビンCA1c濃度が高い,糖尿病の罹病期間が長い,bodyCmassindex(BMI)値が大きい,収縮期血圧が高いことが報告されている.また,網膜症の累積進展率はC15.9%,21.1/1,000人年で,その危険因子はヘモグロビンCA1c濃度が高いことであった.なお,UnitedCKingdomCProspectiveCDiabetesCStudy(UKPDS)では,厳格な血糖管理で網膜症の進展(網膜光凝固の施行)が約C25%抑制できると報告されている7).また,高血圧の厳格管理も同様の抑制効果があり,血糖の厳格管理と独立しているとの報告もある8).一方,レジストリー研究で縦断研究を行うためには,多数の登録症例数を要するだけでなく,長期の研究期間が必要となる.そこで,やはり年代別の研究結果をまとめて統計解析を行うデータ統合型メタ研究を用いることもできる.世界C28研究・登録症例数C27,120人を対象にしたメタ研究では,1975.1985年に比べC1986.2008年では増殖網膜症の発症率がC19.5%からC2.6%へと大幅に減少し,糖尿病網膜症に伴う重篤な視力障害もC9.7%からC3.2%に減少したと報告されている9).以上のように,糖尿病網膜症の発症率・有病率は大きく減少傾向にあることがさまざまなレジストリー研究によって明らかになっている一方で,糖尿病黄斑浮腫を含む糖尿病黄斑症の患者数は未だ増加傾向にあるとされる.糖尿病黄斑浮腫の診断には光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が必須といえるが,検診などに対応するまで普及しておらず,有病率や発症率などの研究はこれからの課題とされている.CIV糖尿病黄斑浮腫への臨床研究さて,糖尿病黄斑浮腫に対する臨床研究は,そのほと310あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021(72)んどが抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の有効性・安全性を明らかにする目的で行われており,前向き介入治療として行われている.抗CVEGF薬の有効性については,多くの大規模多施設前向き臨床研究結果が報告されており,ラニビズマブを導入期C3回毎月連続投与後,維持期には必要時(proCrenata:PRN)投与を行ったCRESTORECstudy10)では,介入前視力が小数視力C0.125.0.625の症例にC2年間で平均C14.5.15.2回投与され,2年後にはC6.7.7.9文字の改善がみられており,一方アフリベルセプトを導入期にC5回毎月連続投与,維持期にはC2カ月ごとの定期投与を行ったCVIVID/VISTACstudy11)では,介入前視力が小数視力C0.06.0.5の症例にC2年間で平均C13.5.13.6回投与され,2年後にはC9.4-11.1文字の改善がみられている.一方でラニビズマブ,トリアムシノロン,レーザー治療で比較した臨床研究12)では,ラニビズマブはC2年間でC7.9文字の改善に対し.黄斑部への光凝固で治療した場合はC2年間でC3文字の改善にとどまっており,抗炎症ステロイドの硝子体内注射で治療した場合,半年ではラニビズマブと同等の改善が認められたものの,投与後の白内障進行によってC2年間ではC2文字の改善にとどまってしまうことも報告されている.このような前向き臨床研究では治療の効果を評価することが目的であるため,基本的に介入前視力は小数視力でC0.06.0.6という条件で,単一治療・単一プロトコールで行われており,効果に応じて治療選択を変更することはないので実臨床での治療とはかなり異なっている.実臨床における糖尿病黄斑浮腫治療については,抗VEGF薬で治療を開始した症例に対するC1年の研究結果があり,7.5.7.9回の投与でC4.0.5.5文字の改善が得られたとの報告13)や,5.7回の投与でC5文字の改善といった報告14)があり,いずれも前向き研究とは投与回数も平均改善文字数も及ばないことがわかっているが,これらの報告でさえも,抗CVEGF薬を使用した症例のみを対象としており,本来の実臨床の結果とはいいがたい.実臨床における糖尿病黄斑浮腫への治療では,抗VEGF薬以外にステロイドの局所投与や黄斑部への光凝固,硝子体手術も行われているからである.実際の臨床現場では糖尿病黄斑浮腫に対してどんな治療が行われ,どんな予後が得られているのか,といった情報はレジストリー研究の得意とするところである.最近,わが国における網膜硝子体専門医が糖尿病黄斑浮腫に対してどのような治療を行い,どのような視力予後が得られたかについて,大規模多施設後ろ向き研究(STREAT-DMEstudy)が行われたので紹介する15,16).CV糖尿病黄斑浮腫治療についてのレジストリー研究STREAT-DMEstudyは,筆者のグループがわが国の網膜硝子体専門医C41名(27施設)の協力の下で行ったレジストリー研究である.未治療の糖尿病黄斑浮腫で,2010年C1月.2015年C12月に初めて介入治療が開始され,2年間の経過を終えたC1,552症例C2,049眼について,治療開始時およびC2年後の視力と黄斑部網膜厚,さらに介入治療の種類(抗CVEGF薬,ステロイド局所投与,黄斑部光凝固,硝子体手術)と回数,抗CVEGF薬は薬物別(ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト),ステロイド局所投与は投与経路別(硝子体内投与,Tenon.下投与)に調査し,作成されたデータベースを作成した.この臨床研究によると,糖尿病黄斑浮腫になんらかの介入治療が開始されたときの平均視力は0.44ClogMAR(小数視力換算でC0.363)であり,2年後の平均視力はC0.40ClogMAR(小数視力換算でC0.398だった.したがって視力改善度は-0.04ClogMAR,つまりC2文字の有意な改善であった.なお,介入治療開始前の小数視力はC0.01.1.2であり,実臨床では視力にかかわらず治療が行われていることがわかっている.このデータベースから抗CVEGF薬治療の有無によって分類15),あるいは治療開始年度ごとに分類16)して,視機能予後や投与パターンを比較検討した.糖尿病黄斑浮腫C2,049眼のうち,2年間に抗CVEGF薬の投与が行われたものはC1,234眼(60.2%)であり,まったく抗CVEGF薬を投与されなかったものはC815眼(39.8%)であった.なお,前者をC2年間に抗CVEGF薬のみで治療されたC427眼(20.8%)と抗CVEGF薬とその他の治療が併用されたC807眼(39.4%)に分類し,3群に分類して比較対照を行った(表1).その結果,介入前視力が良好な症例では抗CVEGF薬を使用せずに治療さ(73)あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021C311表1抗VEGF薬使用の有無による2年間の糖尿病黄斑浮腫治療結果全体抗CVEGF薬のみで治療抗CVEGF薬併用治療抗CVEGF薬以外で治療3群間の有意差(p値)適応眼数2,049(C100%)427(C20.8%)807(C39.4%)815(C39.8%)<C0.001介入前視力(logMAR)C0.44C±0.37C0.45C±0.35C0.48C±0.3C0.40C±0.38<C0.001介入C2年後視力(logMAR)C0.40C±0.42C0.37C±0.42C0.46C±0.40C0.35C±0.44<C0.001視力改善度(logMAR)-0.04±0.40-0.09±0.39-0.02±0.40-0.05±0.39C0.0122文字改善4.5文字改善1文字改善2.5文字改善介入前後の有意差(p値)<C0.001<C0.001C0.225<C0.001介入前中心窩網膜厚(mm)C443.8C±154.8C446.4C±144.1C472.8C±160.1C413.7C±149.2<C0.001介入前中心窩網膜厚(mm)C335.6C±139.6C329.0C±126.5C348.6C±151.1C326.2C±133.5C0.003浮腫改善度(mm)-108.2±186.8-117.4±174.1-124.2±197.2-87.5±180.8<C0.001介入前後の有意差(p値)<C0.001<C0.001<C0.001<C0.001投与症例数抗CVEGF薬1,234(C60.2%)427(C100%)807(C100%)0(0%)抗炎症ステロイド1,077(C52.6%)0(0%)524(C64.9%)553(C67.9%)黄斑部光凝固746(C36.4%)0(0%)361(C44.7%)385(C47.2%)硝子体手術597(C29.1%)0(0%)295(C36.6%)302(C37.1%)投与回数抗CVEGF薬(回)C3.8±3.3C4.3±3.6C4.3±3.6C─抗炎症ステロイド(回)C2.0±1.3C─C2.1±1.4C1.9±1.2黄斑部光凝固(回)C1.9±1.4C─C1.8±1.4C1.9±1.3硝子体手術(回)C1.1±0.3C─C1.1±0.3C1.0±0.2(文献C15より改変)b(%)1.0a1000.8800.6600.4400.2200-0.202010-22011-32012-42013-52014-62015-72010-22011-32012-42013-52014-62015-7(n=136)(n=285)(n=365)(n=551)(n=468)(n=244)(n=136)(n=285)(n=365)(n=551)(n=468)(n=244)観察期間観察期間c(%)1008060402002010-22011-32012-42013-52014-62015-7観察期間図1実臨床における糖尿病黄斑浮腫に対する2年間の治療成績:介入年度ごとの変化a:介入前および最終(2年後)視力の推移.Cb:最終視力C0.5以上の症例割合の推移.Cc:介入治療割合の推移.(文献C16より改変引用)視力(logMAR)—-

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対するイメージングの進歩

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対するイメージングの進歩AdvancesinRetinalImagingforDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema福田洋輔*中尾新太郎*はじめにわれわれ眼科医にとって糖尿病網膜症診療の目的は糖尿病患者の視機能維持,改善である.長年わが国の糖尿病患者数は増加の一途をたどり,糖尿病網膜症は失明原因の第一位であった1).しかし,「国民健康・栄養調査」の概要によれば,2016年での「糖尿病の可能性を否定できない者」の数は2012年よりも減少している(平成28年国民健康・栄養調査の概要:厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chou-sa.html).眼科手術などの進歩により,糖尿病網膜症による失明も減少傾向にある1).また,糖尿病患者の寿命は全体の平均寿命より短いことが知られているが,日本人糖尿病患者の平均死亡時年齢も10年前と比べ延長し,平均寿命との差は過去最少となった2).そのため糖尿病患者にとっても,視機能の維持は,人生100年時代の生活の質(qualityoflife:QOL)に直結する問題となる.今後の網膜症診療は失明予防からより良いqualityofvision(QOV)達成が求められる.健常人同等の視機能維持実現には糖尿病網膜症の個別化診療が重要となり,眼底イメージングの活用が不可欠となる.本稿では,糖尿病網膜症のイメージングのアップデートについて解説する.I糖尿病網膜症のイメージング糖尿病網膜症診療において最近10年でもっとも進歩した分野の一つがイメージングである.近年のイメージング機器は糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫の治療プロトコール決定と予後予測に重要な役割を担っている.デジタル化されたカラー眼底写真は再現性が高く,保存が可能であり網膜症のフォローアップに役立つが,広角眼底観察機器がその有用性をさらに高めている.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は糖尿病黄斑浮腫の診断・治療決定・治療効果判定に不可欠である.また,糖尿病網膜症診療に有用であるフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)も光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangi-ography:OCTA)の登場によりその検査頻度が減少するかもしれない.II眼底写真糖尿病網膜症診療で基本となるのが眼底検査である.増殖糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症による視力低下原因であるがそのスクリーニングと進行のモニタリングに有用である病期分類のためには眼底検査が不可欠であるからである.眼底写真は現在ではデジタル化され,再現性高く記録保存可能となっており,症例のフォローアップや他施設への紹介時に有用となる.近年はさまざまなタイプの超広角眼底撮影装置が開発され,広範囲での眼底撮像が可能となった(表1).糖尿病網膜症は周辺部に病変を認める症例も少なくなく,約1割の症例で通常の眼底写真よりも病期がより重症と判定されることが報告されている3)(図1).糖尿病網膜症におけ*YosukeFukuda&*ShintaroNakao:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕中尾新太郎:〒810-8563福岡市中央区地行浜1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(63)301表1わが国で発売された超広角眼底撮影装置(2021年1月現在)製品名CCaliforniaCDaytonaCCLARUSCMiranteCEidon機種名(モデル)CICGCFACRGCplusC700C500CSLO/OCTCSLOCFaCAfメーカー名Optos(ニコンソリューションズ)Optos(ニコンソリューションズ)カールツァイスメディテックニデックCKYCentervue認証日2015年C8月2012年C2月2019年C3月2017年C11月2019年C4月2017年C11月撮影方式走査型走査型走査型走査型走査型撮影光源レーザーレーザーCLEDレーザーCLEDカラー〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇CFA〇〇C─C─C─〇C─〇*〇C─C─CIA〇C─C─C─C─*C─〇*C─C─C─CFAF〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇C─1ショットC200°C200°C133°89°(標準)C/163°(広角アダプタ)C88.8°モザイクC225°C─C225°2画像:2C00°最大C6画像:2C67°(約C220°)オート:1C63°マニュアル:2C14°構築枚数2.5画像C─2.5画像2.6画像2.4画像2.9画像*:オプションにて可能FA:.uoresceinangiography,IA:indocyaninegreenangiography,FAF:fundusauto.uorescence.図1糖尿病網膜症の眼底写真とフルオレセイン蛍光眼底造影(36歳,男性,左眼)カラー眼底写真(Ca)では比較的所見に乏しく見えるが,広角走査レーザー検眼鏡(Cb)では網膜前出血,硝子体出血が観察できる.フルオレセイン蛍光眼底造影(Cc)では視神経乳頭上の網膜血管新生とともに周辺に網膜新生血管が多発し,無灌流領域も観察できる.C-図2糖尿病黄斑浮腫のOCT所見a:健常眼の黄斑部COCT.網膜層構造が観察される().Cb:80歳,女性,右眼,糖尿病黄斑浮腫軽快後,中心窩網膜厚253Cμmであるが視力(0.15)と不良.視力不良の原因として中心窩のCELM,IS/OSlineの障害(),黄斑部のCDRIL()が考えられる.Cc:59歳,男性,右眼,中心窩網膜厚C418Cμmの中心窩にCcyst()を伴う黄斑浮腫.CystがCELMに達しておらず視力は(1.0)と良好である.図3糖尿病網膜症のOCTA所見a:OCTAのパノラマ写真.いくつかのCOCT機器にはパノラマ機能が内蔵しており,赤道部付近までの撮像が可能である.Cb:黄斑部に多くの毛細血管瘤を認める().OCTAはすべての毛細血管瘤を描出しない.Cc:OCTAはフルオレセイン蛍光眼底造影と異なり蛍光漏出がないため,無灌流領域の検出に有用である.Cd:OCTAは蛍光漏出がないため,網膜新生血管の描出にも有用である().網膜内異常血管との鑑別はCBスキャン画像が有用である.初診時3M9M15MFD=39.1FD=34.1FD=33.7FD=30.3図4OCTAによる糖尿病網膜症のフォローアップ重症非増殖網膜症患者(41歳,男性)の黄斑部COCTAにおける灌流密度(.owdensity:FD).初診時CFDはC39.1%であったが,3,9カ月目でそれぞれCFD34.1%,33.7%とCFDの低下を認めた.15カ月目でCFD30.3%となり増殖網膜症に進展した.(文献C21より改変引用)–

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する低侵襲硝子体手術の進歩

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する低侵襲硝子体手術の進歩AdvancesinMinimallyInvasiveVitrectomyforDiabeticRetinopathyandMacularEdema木村修平*森實祐基*はじめに糖尿病が原因で発症する網膜疾患のうち,硝子体手術の対象疾患としては,増殖糖尿病網膜症と黄斑浮腫があげられる.本稿では,まず両疾患に共通して関係する近年の硝子体手術システムの進歩を述べ,その後,各疾患の術式を解説する.I近年の硝子体手術システムの進歩近年の硝子体手術システムの進歩によって,増殖糖尿病網膜症や黄斑浮腫に対する手術の低侵襲化や手術効率,安全性の向上が進んでいる.これらの硝子体手術システムの進歩は,1)硝子体カッターの進歩,2)広角観察システムと照明系の進歩によるところが大きい.1.硝子体カッターの進歩第一の進歩として,硝子体カッターの口径が細くなり,従来20G(0.9mm)であった口径が,現在では27G(0.4mm)まで細くなっている(図1).この進歩によって無縫合で手術を終了することが可能となったため,手術侵襲が小さくなり,手術時間が短縮した.一方で,硝子体カッターの口径が細くなると吸引効率が低下するという問題が生じる.しかし,近年の硝子体カッターにはtwin-dutycycleが導入されたため,吸引量が向上し,現在では27Gでも25Gに近い効率で硝子体を切除できる.また,口径が細くなることで硝子体カッターや眼内鑷子などの器具の剛性が低下するという問題が生じる.これに対しては,器具のシャフトの根元を補強することによって手術に耐えうる剛性が得られている.硝子体カッターの口径が細くなること以外の進歩として,硝子体カッターの高速化と先端形状の改良があげられる.硝子体カッターの高速化については,2000年代のカットスピードは2,500/cpmであったが,2019年には20,000/cpmまで増加している.硝子体カッターが高速化することで,より安全に硝子体および増殖膜の処理が可能となった.硝子体カッターの先端形状については,開口部が従来よりも硝子体カッターの先端に近づいた.さらに,ベベルチップが採用され,従来よりも網膜に近いところで硝子体や増殖膜を処理することが可能になった(図2).さらに硝子体カッターを挿入する部分にトロッカーカニューラを設置することにより,手術創への障害や,術中および術後に硝子体が嵌頓することが少なくなり,医原性裂孔の発生の低下につながっている.2.広角観察システムと照明系の進歩広角観察システムの進歩は,MiniQuadレンズ(Volk社)などに代表される接触レンズに始まり,現在では非接触レンズを用いたシステムが主流となっている.このシステムにより,従来に比べて広い視野で眼底を観察しながら手術操作を行うことが可能となり,医原性裂孔の早期発見,最小限の圧迫での周辺硝子体の郭清が可能となっている(図3).この広角観察に欠かせないのが,照*ShuheiKimura&*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野〔別刷請求先〕木村修平:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(55)293図1硝子体カッターの太さの比較27.Gカッター(0.4.mm)では20.Gカッター(0.9.mm)に比べて外径が半分以下になり,カッターの開口部とカッターの先端との距離が短くなっている.(日本アルコン提供)図2従来の硝子体カッターとベベルカッターの先端形状の比較ベベルカッター(B)の開口部から網膜面までの距離(b)は従来の硝子体カッター(A)の開口部から網膜面までの距離(a)よりも短い.そのため,ベベルカッターでは,従来の硝子体カッターよりも網膜面の近くで操作を行うことが可能である.図3広角観察システムによる硝子体手術a:非接触型広角観察システム.黄色のレンズが弱拡大用,緑色のレンズが強拡大用のレンズである.b:広角観察システムを用いた術中写真.増殖組織()の局在を把握しやすい.abc図4増殖膜の分割と切除の方法a:術前の眼底の模式図.網膜面上に増殖膜()を認める.Cb:硝子体カッターもしくは垂直剪刀を増殖膜と網膜の間のスペースに入れて矢印の方向に増殖膜を分割し,その後切除する.Cc:手術終了時の眼底の模式図.増殖膜は一部島状に残存するが(),増殖膜による網膜への牽引は解除されている.図5増殖糖尿病網膜症に硝子体手術を施行した1例52歳,男性.術前視力(0.08).a,c:増殖膜()による網膜牽引を伴う黄斑浮腫(*)を認めた.Cb,d:硝子体手術を施行し増殖膜を切除した結果,術後C3カ月で浮腫が消失し(),視力は(0.1)に改善した.図6黄斑上膜を合併した糖尿病黄斑浮腫に硝子体手術を施行した1例72歳,男性.術前視力(0.1).a,c:黄斑上膜()を伴う黄斑浮腫を認めた.Cb,d:硝子体切除,黄斑上膜および内境界膜の.離を行った結果,黄斑浮腫が消失し(),視力は(0.4)に改善した.図7糖尿病黄斑浮腫に対して.胞様腔内のフィブリノーゲン塊の摘出を施行した1例70歳,男性.視力(0.3).a,b:これまでに硝子体切除と内境界膜.離を施行したが黄斑浮腫が残存し(),術後に抗VEGF薬およびステロイドの硝子体注射を行ったが無効であった.Cc:そこで,中心窩の.胞様腔内に存在したフィブリノーゲン塊(*)を摘出した.Cd,e:術後C1週間の時点で黄斑浮腫の改善()を認め,術後C2カ月で視力は(0.7)に改善した.図8糖尿病黄斑浮腫に対して計画的黄斑.離術を施行した1例47歳,男性.視力(0.7).a:抗CVEGF薬治療が無効で,漿液性網膜.離(*)を伴うびまん性の黄斑浮腫()を認めた.Cb:計画的黄斑.離術を行ったところ,術後C6時間で黄斑浮腫の改善を認めた.Cc:術後C1カ月の時点で浮腫が消失し(),視力が(1.2)まで改善した.

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する光凝固治療の進歩

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する光凝固治療の進歩AdvancesinPhotocoagulationTreatmentsforDiabeticRetinopathyandMacularEdema高村佳弘*はじめに糖尿病網膜症に対する網膜光凝固の目的は,おもに二つである.一つは虚血網膜に対する治療,もう一つは糖尿病黄斑浮腫に対する治療である.I虚血に対するレーザー治療糖尿病網膜症の進行過程においては,単純網膜症,前増殖網膜症において無灌流領域が拡大し,新生血管の発生をもって増殖期に入ったと判断される.1978年に増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固(panretinalpho-tocoagulation:PRP)の有効性が報告された.虚血性変化が高度になった眼内においては,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)のレベルが高く,PRPが奏効した眼においては低い1).VEGFは血管透過性や血管新生を促進するが,光凝固が虚血で誘導されるVEGFの上昇を抑制することが,有色家兎における網膜虚血モデルを用いた解析で示されている2).よって,網膜光凝固は糖尿病網膜症の活動性を抑えるうえで,重要な治療ツールである.しかし,網膜に侵襲を与え,破壊することが基本であり,凝固斑が経年的に拡大することで,むしろ網膜が萎縮傾向を示すといった問題点があった.IIパターンスキャンレーザーこうした問題を解決するために,高出力だが短時間でレーザー照射するパターンスキャンレーザーが開発された.1ショット当たりの出力は高くなるが,照射時間を短くすることでトータルのエネルギー総量は抑えられる.例として,出力が4倍になっても照射時間が1/10になれば,エネルギー総量は0.4倍に縮小される.従来の光凝固と比較し,網膜および色素上皮下の組織への傷害がパターンスキャンレーザーにより小さくなり,低侵襲なレーザー治療が可能となる.PRP後の神経線維層の減少もパターンスキャンレーザーのほうが従来法よりも有意に少なく,患者が自覚する疼痛の程度や凝固斑の拡大も小さいことが報告されている3)(図1).さらに単発ではなく,一度に複数のショットをほぼ同時に照射できることから,治療時間を大幅に短縮することができる.これは患者の治療に対するストレス軽減に寄与する.一方で,パターンスキャンレーザーは従来法と同じショット数では十分な治療効果が得られないことも知られている4).より多くのショット数を要する点では,パターンスキャンレーザーが低侵襲といってよいか疑問が生じるが,有色家兎を用いた解析では,倍の数のショットを行っても,レーザー後に誘導される炎症系サイトカインの量が従来法と比較して少ないことが明らかとなっている(図2a)5).レーザーによる炎症系サイトカイン量の増加は,光凝固後の糖尿病黄斑浮腫の発生ないし悪化を誘導するが,これらの合併症の程度はパターンスキャンレーザーを用いた場合,有意に抑制される(図2b)5).さらにステロイドであるトリアムシノロンアセトニドのTenon.下投与を併用することでさらに浮腫*YoshihiroTakamura:福井大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕高村佳弘:〒910-1193福井県吉田郡松岡町下合月23-3福井大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(47)285図1パターンスキャンレーザーによる低侵襲レーザー治療a:照射中のエイミングパターン.b:光凝固後の眼底写真.従来法レーザーは凝固斑が拡大して癒合しているが(赤枠内),パターンスキャンレーザー(黄枠内)では凝固斑が小さい.aVEGFIL-6*804007035030060250硝子体内サイトカイン濃度(pg/ml)*■Nolaser*200401503010020501001714(日)01714(日)b550500450中心網膜厚4003503002502000246101830(週)図2パターンスキャンレーザーと従来法レーザーとの比較a:有色家兎に対する光凝固後の硝子体内サイトカイン濃度の変動.VEGF,インターロイキン(IL)-6において,パターンスキャンレーザー(PSL)は倍のショット数でも従来法よりも誘導されるサイトカイン量は少なかった.*群間で有意差あり.p>0.05.b:光凝固後の中心網膜厚の変化.4回に分けた光凝固後(.),黄斑浮腫の悪化を示唆する中心網膜厚の増加は,従来法と比較してPSLでは小さかった.*群間で有意差あり.#経時的に有意差あり.p>0.05.aマイクロパルスエンドポイントパワー(mW)パワー(mW)時間(msec)時間(msec)b図3低侵襲な閾値下レーザーa:マイクロパルスとエンドポイントのレーザー出力のイメージ.エンドポイントでは,閾値のマーキングに囲まれた領域に閾値下の凝固を照射する.b:閾値下凝固の例.6カ月後に浮腫が改善.閾値のマーカー()に囲まれた領域に凝固斑はほとんど確認できない.a抗VEGF薬注射後b***残存群1.81.61.41.21.00.80.60.40.20非残存群abcd残存群非残存群MAdensity(/%)注射前1カ月後図4抗VEGF薬注射後の残存浮腫における毛細血管瘤の密度a:OCTマップと蛍光眼底造影像の合成図において毛細血管瘤をマーキング.Cb:抗CVEGF治療後に残存した群としなかった群とでの毛細血管瘤密度の比較.残存した領域(エリアCb)には,注射前において毛細血管瘤は高密度に存在していた.(文献C9より引用)図5抗VEGF治療後に傍中心窩に局所浮腫が残存したびまん性浮腫の症例残存した浮腫領域には毛細血管瘤が高密度に存在している.図6画像の重ね合わせ眼底写真にCOCTマップ,蛍光眼底像を順次重ね合わせ,浮腫内部の毛細血管瘤を同定できる.トプコン社製のCSweptCSourceCOCTCwithCMultimodalCFundusImagingでは自動で重ね合わせが可能.Ca:DRIOCTTriton,Cb:3DOCT-1TypeMaestro2.図7ヘッドアップディスプレイの例トプコン社製のCHUD-1を組み込むことで,覗き込んだ視野に取り込んだ画像を投影することができる.図8画像の重ね合わせを利用した汎網膜光凝固a:OCTアンギオグラフィーをモンタージュした広角撮影像.赤線は無灌流領域との境界を示す.Cb:広角眼底写真と合成.c:合成写真を参考に足りない領域に凝固を追加した.–

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する薬物治療の進歩

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫に対する薬物治療の進歩NewAspectsintheTreatmentofDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema杉本昌彦*はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は先進国において依然,壮年期の失明原因の一つである.また,DRのなかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は視力低下の一因となることが知られている.DMEの有病率は加齢とともに増加し,20年以上の罹病で1/3にDMEを生じるとする報告もある.DRやDMEに対しては,網膜光凝固をはじめ種々の治療が以前から行われているが,とくにDMEについては抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬などの薬物を中心とした治療ストラテジーが確立されてきている1).そして抗VEGF薬とステロイド製剤であるトリアムシノロンアセトニド(tri-amcinoloneacetonide:TA)以外にも種々の新規薬剤が開発中である.第I/II相試験で有効性が確認されず開発が終了した薬剤も多いが,第III相試験が進められている薬剤もいくつかある.これらの薬剤は既存の薬剤より強い効果(視力・網膜厚改善)をめざすと同時に,投与回数を減らしうるという点にも期待が寄せられている.本稿ではDRとDMEに対する薬物治療について,認可されている薬剤ならびに開発中の薬剤に分けて解説する.I国内外で認可されている薬剤1.抗VEGF薬元来,血管新生は組織を虚血から保護するために備わった生理的に重要な機能である.VEGFはその鍵となる分子であるが眼内でも虚血網膜を保護するために眼内血管新生を誘導する.しかし,新生血管はその脆弱性から容易に傷害され,硝子体出血を生じる.また,VEGFは網膜血管の透過性を亢進し,眼内増殖膜やDMEの形成を促進するという,いわば負の側面をもつ.この眼内VEGFを阻害することが眼血管新生の治療に結びつくことが報告され,現在の抗VEGF薬開発に結びついた.現在DMEに対して国内で使用可能な抗VEGF薬としては,認可されているラニビズマブ(ルセンティス,Genentech)とアフリベルセプト(アイリーア,Regen-eronPharmaceuticals)の2剤,そして適用外のベバシズマブ(アバスチン,Genentech)がある.アフリベルセプトは血管新生緑内障に対しても認可されており,血管新生緑内障に用いられている.ラニビズマブに対するRIDE&RISEstudy,アフリベルセプトに対するVISTA&VIVIDstudyに代表される種々の多施設臨床研究の結果が示すように,いずれの薬剤も投与スケジュールにかかわらずベースラインからの良好な視力改善が得られたことから,抗VEGF薬はDME治療の第一選択肢となっている2).いずれも単回投与ではなく,複数回の導入期投与に続く維持投与による有効性が報告されている(図1).また,近年とくに視力良好例に対する抗VEGF薬の有効性を評価したDRCR.netprotocolVが報告されている.視力20/25以上の症例を1)アフルベルセプト投与群,2)レーザー*MasahikoSugimoto:三重大学大学院臨床医学外科系講座眼科学〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院臨床医学外科系講座眼科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(41)279ETDRS文字数■Ranibizumab■A.ibercept121086420Clinicaltrial名と投与条件図12種の抗VEGF薬によるDMEClinicaltrialの平均視力改善(24カ月)(文献C2より許可を得て改変)図2抗VEGF薬による糖尿病黄斑浮腫治療の過程で認めた網膜症の改善右眼はCDMEに対し,アフリベルセプトのCtreatandextendスケジュールによる投与を行い,左眼はCDMEを認めないため,薬物投与なしで経過観察していた.右眼への抗CVEGF薬維持投与開始後C2年でのフルオレセイン蛍光眼底造影写真を示す.Ca:右眼蛍光眼底造影写真.強い血管漏出を認めず,網膜症の鎮静化を認める.Cb:左眼蛍光眼底造影写真.視神経乳頭を含む後極に強い傾向漏出を認め,網膜症の活動性が高いことが示唆される.表1各種ステロイド製剤の一覧一般名CFluocinoloneCacetonideCDexamethasoneCintravitrealimplantCTriamcinoloneCacetonide製品名CRetisert/IluvienCOzurdexマキュエイドケナコルト剤型プレート/チューブチューブ懸濁粒子懸濁液国内承認C××〇C×眼圧上昇,無菌性眼内炎などの多彩な合併症を生じることが課題であり,実臨床では第一選択薬とはなっていない.抗CVEGF薬はすべてのCDME症例に対して有効ではなく,使用困難な症例もある.TA製剤はこのような症例に対するレスキュー治療として用いられ,その有効性が知られている.また,硝子体手術後の残存浮腫に対する補助療法としての有効性も報告されている6).抗CVEGF薬は頻回投与を要し,これに伴う患者負担の増大は大きな問題である.STTAと抗CVEGF薬を併用することで抗CVEGF薬の投与回数を減らすことが報告され,併用療法としても期待されている7).C3.徐放型ステロイド製剤DMEに対する薬物治療の問題点の一つは,頻回注射を要することである.そのため,一度の処置で長期間にわたり薬剤の眼内での至適濃度を達成可能な徐放型製剤の研究が盛んである.とくにステロイド製剤に関しては複数の徐放型製剤が市販されている.わが国では未認可だが,海外では徐放型ステロイド製剤も認可されている.これらは異なった徐放様式とともに,国内で認可されているCTAと異なる挙動を示すことが特徴である.Ca.フルオロシノロンアセトニド製剤(Fluocinoloneacetonide:FA):Retisert,IluvienRetisert(BauschC&Lomb)は眼球内腔に固定されたデバイスからC0.59Cμg/日のCFAを前部硝子体中に徐放する製剤である.当初は非感染性ぶどう膜炎に用いられていたが,DMEにおいても著明な浮腫軽減効果が報告されている.しかし,2年間の経過観察ではC80.90%で白内障が,そしてC20%で手術を要する眼圧上昇を認めたとされている.Iluvien(AlimeraSciences)はCRetisertと異なり,特殊なデバイスの留置なしに眼内でCFAを放出するチューブ型インプラント(全長C3.5C×径C0.37mm)である.本剤はC25G針を用いて硝子体腔にCFAを含有するチューブを留置する.0.2Cμg/日の低量徐放とC0.5Cμg/日の高量徐放のC2種でのCDMEに対する効果を観察した比較研究(FAMEstudy)では,24カ月でのC15文字以上の視力改善(ETDRS文字数)は低量徐放でC28.7%,高量徐放でC28.6%とCSham群に比し有意に良好であった.白内障は低量徐放群でC74.9%,高量徐放群でC84.9%に発症し,手術を要する緑内障の発症は低量徐放群でC3.7%,高量徐放群でC7.6%に認めた8).Cb.Dexamethasoneintravitrealimplant(DEXimplant)DEXimplant(Ozurdex,Allergan社)は硝子体腔に留置され,6カ月以上,薬剤を徐放する.DMEに対する第CIII相試験としてC0.35Cmgの低量製剤とC0.7Cmgの高量製剤のC3年の経過では,15文字以上の視力改善(ETDRS文字数)は低量群でC18.4%,高量群でC22.2%とCSham群に比し有意に良好であった.白内障は低量群でC64.1%,高量群でC67.9%に発症し,手術を要する眼圧上昇は低量群でC0.3%,高量群でC0.6%に認めた.ステロイド製剤に伴う副作用という問題があるものの,欧米では抗CVEGF薬を含む前治療に対して反応不良であった患者に対するレスキュー治療として用いられている9).CII国内未認可・開発中の新規薬剤(表2)C1.Angiopoietin関連薬a.FaricimabAngiopoietin-2(Ang-2)はCtyrosinekinase受容体に対するアンタゴニストであり,内皮細胞障害と周皮細胞脱落を誘発することで血管透過性亢進に寄与することが知られている.FaricimabはCAng-2とCVEGF-Aの二つの分子に対する抗体製剤である(図3).229名の患者を対象とした第II相試験であるCBOULEVARDCclinicaltrialでは,過去に治療歴のないCDMEに対しC6.0Cmgfaricimab(高用量群),1.5Cmgfaricimab(低用量群),0.3Cmgラニビズマブ(コントロール群)を投与し,比較した.24週で,それぞれC13.9,11.7,10.3文字の視力改善が得られ,二つのCfaricimab群では網膜厚・網膜症ステージ・再投与間隔の延長も認めた.加えて新規ないしは予想外の合併症を認めなかったとされている10).このような有効性と安全性を基に,現在は第CIII相試験であるCRHINEStudy(ClinicalTrials.govCidenti.er,CNCT03622593,Chttps://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03622593)とCYOSEMITEStudy(ClinicalTrials282あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021(44)表2新規製剤の一覧一般名CFaricimabCConberceptCBrolucizumabCZiv-a.ibercept市販名未発売CLumitinベオビュCZaltrapターゲットCAng-2/VEGF-ACVEGFfamilyCVEGF-ACVEGFfamily分子量(kDa)C130C143C26C115適応症未認可未認可CAMD転移性大腸がんAMD:age-relatedCmaculardegeneration,CAng-2:angiopoietin-2,VEGF:vascularCendothelialgrowthfactor.抗Ang-2抗VEGF-AFabFab改変型FcFaricimabはCAng-2とCVEGF-Aに対するCFabをもつ抗体製剤である.(文献C9より許可を得て改変)-

糖尿病の内科的治療の進歩

2021年3月31日 水曜日

糖尿病の内科的治療の進歩RecentProgressintheTreatmentofDiabetes税所芳史*島田朗**はじめに現在,わが国における糖尿病患者は約1,000万人,「境界型」である耐糖能異常の患者も約1,000万人と推定されており,成人の4人に1人がなんらかの糖代謝異常を有することになる1).近年,糖尿病の病態の理解が進み,それに伴い新たな治療薬も次々と開発され,糖尿病の治療は大きく進歩した.しかし,過食による過剰なエネルギー摂取や身体活動量の低下による肥満の増加,また社会の高齢化などにより糖尿病患者の増加は続いており,未だに糖尿病網膜症は視覚障害の主要な原因となっている2).また,高齢糖尿病患者の増加は現在大きな課題となっており,高齢者特有の併存症や病態を考慮した糖尿病治療が求められている.本稿では,眼科医と内科医が協同して網膜症の発症・進展予防にかかわるために,現在の糖尿病の内科的治療について概説する.I糖尿病治療の目標糖尿病治療の目標は,血糖,血圧,脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重の維持,および禁煙の遵守を行うことにより,糖尿病の合併症の発症,進展を予防し,健康な人と変わらない生活の質(qualityoflife:QOL)の維持,寿命を確保することである(図1)3).糖尿病の合併症には,いわゆる三大合併症とよばれる網膜症,腎症,神経障害からなる細小血管合併症,および心筋梗塞,脳梗塞などの動脈硬化性心血管疾患があるが,近年,わが国の高齢化と糖尿病患者の寿命の延伸に伴い高齢糖尿病患者におけるサルコペニア(用語解説参照),フレイル(用語解説参照),認知症,悪性腫瘍などの併存症の増加も大きな問題となっている.糖尿病患者ではこれらの併存症の発症リスクが増加することから,糖尿病患者が健康な人と変わらない人生をめざすためには,こうした併存症の予防や管理も重要となっている.また,近年,スティグマ(stigma)(用語解説参照)という言葉が世界的に注目されている.スティグマとは「負の烙印」という意味をもち,糖尿病に関する誤った知識や情報により糖尿病患者が社会的な差別や不利益を受けることをさす.スティグマの解消も健康な人と変わらない人生をめざすうえで重要な側面であり,学会,患者団体,行政が中心となりアドボカシー(用語解説参照)活動を行っている.II血糖コントロール目標2013年,日本糖尿病学会は新たな血糖コントロール目標を発表し,合併症予防のための目標としてHbA1c7.0%未満を提唱した(図2)3).ただし治療目標は,年齢,罹病期間,臓器障害,低血糖リスク,サポート体制などを考慮して個別に設定する「個別化HbA1c目標値」が推奨されている.さらに高齢糖尿病患者の増加に伴い,2016年,日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同で高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表した(図3)3).高齢者では重*YoshifumiSaisho:慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科**AkiraShimada:埼玉医科大学内分泌糖尿病内科〔別刷請求先〕税所芳史:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(31)269コントロール目標値注4)図2血糖コントロール目標(文献3より引用)-重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤,SU薬,グリニド薬など)の使用なし注2)7.0%未満7.0%未満8.0%未満あり注3)65歳以上75歳未満7.5%未満(下限6.5%)75歳以上8.0%未満(下限7.0%)8.0%未満(下限7.0%)8.5%未満(下限7.5%)【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては,日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること.薬剤使用時には多剤併用を避け,副作用の出現に十分に注意する.図3高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(文献3より引用)NGTPDMT2DMインスリングルカゴン図4糖尿病と膵b細胞量.日本人剖検膵組織のインスリンおよびグルカゴン染色インスリン陽性面積(b細胞量)は正常耐糖能者(NGT)に比べ,耐糖能異常者(PDM),2型糖尿病患者(T2DM)と糖代謝異常の進展に伴い減少している.(文献6より引用)正常耐糖能2型糖尿病~IGT100%0%β細胞機能回復・β細胞保護図52型糖尿病の病態の新しい考え方2型糖尿病はインスリン抵抗性とインスリン分泌不全を特徴とするが,2型糖尿病におけるb細胞障害の重要性が近年明らかとなっており,2型糖尿病は図の右半分に位置すると考えられる.一方,インスリン抵抗性が主体の病態は2型糖尿病発症前の正常耐糖能肥満.耐糖能異常(impairedglucosetolerance:IGT)の状態と考えられる.したがって2型糖尿病では,障害されたb細胞機能の回復や残存するb細胞の保護が重要な治療戦略となる.(文献8より改変引用)<目標体重(kg)の目安>総死亡が最も低いCBMIは年齢によって異なり,一定の幅があることを考慮し,以下の式から算出する.65歳未満:[身長(m)]C2×2265歳からC74歳:[身長(m)]C2×22.2575歳以上:[身長(m)]C2×22.25C※C※:75歳以上の後期高齢者では現体重に基づき,フレイル,(基本的)ADL低下,併発症,体組成,身長の短縮,摂取状況や代謝状態の評価を踏まえ,適宜判断する.<身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)>①軽い労作(大部分が座位の静的活動):25.30②普通の労作(座位中心だが通勤・家事,軽い運動を含む):30.35③重い労作(力仕事,活発な運動習慣がある):35.高齢者のフレイル予防では,身体活動レベルより大きい係数を設定できる.また,肥満で減量をはかる場合には,身体活動レベルより小さい係数を設定できる.いずれにおいても目標体重と現体重との間に大きな乖離がある場合は,上記①.③を参考に柔軟に係数を設定する.<総エネルギー摂取量の目安>総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)C※※×エネルギー係数(kcal/kg)C※※:原則として年齢を考慮に入れた目標体重を用いる.図61日エネルギー摂取量の算出(文献C9より引用)●有酸素運動とレジスタンス運動は,ともに血糖コントロールに有効であり,併用によりさらに効果がある.高齢者糖尿病においては,バランス能力(静止姿勢または動的動作中の姿勢を任意の状態に保つ,また不安定な姿勢から速やかに回復させる能力)を向上させるバランス運動は生活機能の維持・向上に有用である.図7運動療法の種類(文献C3より引用)ビグアナイド薬胃腸障害,乳酸ア肥満2型糖尿病者に対する肝臓での糖新生抑制低なしシドーシス,ビタ大血管症抑制効果があるミンB12低下HDL-Cを上昇させ,TGを浮腫,心不全低下させる効果がある胃腸障害,放屁,肝障害性器・尿路感染症,①心・腎の保護効果がある脱水,皮疹,②心不全の抑制効果があるケトーシスSU薬との併用で低血糖増強,胃腸障害,皮膚障害,類天疱瘡胃腸障害,注射部位反応(発赤,皮心・腎の保護効果がある疹など)肝障害注射部位反応(発赤,皮疹,浮腫,皮下結節など)図82型糖尿病の血糖降下薬の種類と特徴(文献C3より改変引用)*心不全高リスクは,BNP100pg/ml以上もしくはNT-proBNP400pg/ml以上,心筋梗塞の既往,eGFR30ml/min/1.73m2以上の慢性腎臓病など図9糖尿病における心不全予防(文献C11より引用)図1024時間持続血糖モニタリング(CGM)のレポート例(フリースタイルリブレ)上段には血糖指標の統計量や目標範囲内の時間(timeinrange:TIR)(用語解説参照)が,中段にはC1日血糖プロファイル(ambulatoryglucosepro.le:AGP)が,下段にはC1日ごとの血糖プロファイルが提示されている.(アボットジャパンより許可を得て転載)図11SAP療法(ミニメド640Gシステム)CGMで測定したグルコース値とそのトレンドがリアルタイムでインスリンポンプ本体に表示される.(メドトロニックより許可を得て転載)■用語解説■糖尿病にかかわるスティグマとアドボカシー:スティグマ(stigma)とは,特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」という意味で,誤った知識や情報が拡散することにより,対象となった者が精神的・物理的に困難な状況に陥ることをさす.糖尿病患者ということで必要なサービスを受けられない,就職や昇進に影響するなどの不利益を被るケースも報告されており,その結果,患者が糖尿病であることを周囲に隠すことで適切な治療の機会を失い,糖尿病や合併症の重症化につながる恐れがある.現在,日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は,糖尿病患者を取り巻くスティグマの重大な悪影響を改めて認識し,それを取り除くことで糖尿病であることを隠さずにいられる社会を作ることをめざしている.このように特定の集団や取り組みを支援する活動をアドボカシー(advoca-cy)活動という.サルコペニアとフレイル:サルコペニアは,加齢に伴う筋量と筋力の低下によって身体活動能力が減弱した状態と定義される.サルコペニアの発症には,栄養不足や身体活動低下に加え,内分泌変化や神経系の機能低下など,加齢に伴うさまざまな要因が関与すると考えられている.フレイルは「健常と要介護の中間」の状態をいい,筋力低下,活動量の低下,歩行速度の低下,易疲労,体重減少などが臨床的診断の基準となる.サルコペニアや軽度認知機能障害,うつ,社会的孤立,独居,経済的困窮など要介護に陥りやすい状態がフレイルの背景にあるが,適切な介入により健常な状態に復することが可能な状態である.サルコペニア予防を踏まえた糖尿病治療では,栄養バランスへの配慮とともに,エネルギー摂取量を制限し過ぎないことも重要である.CTimeinrange(TIR):TIRとは,血糖値(グルコース値)が目標範囲内に入っていた時間の割合である.通常,血糖値C70Cmg/dl以上C180Cmg/dl以下が目標血糖範囲とされる.また,それを下回る血糖値の時間の割合をCtimebelowrange(TBR),それを上回る血糖値の時間の割合をCtimeaboverange(TAR)とよぶ.現在,国際的なコンセンサスとして,CGMで得られる血糖コントロール指標としてCTIRを用いることが推奨され,1型,2型糖尿病患者の血糖コントロール目標としてCTIRC70%以上が推奨されている.糖尿病治療薬と眼科疾患:GLP-1受容体作動薬は血糖依存性のインスリン分泌促進および食欲抑制・胃運動抑制などを介した体重減少効果により血糖降下作用を発揮する.週C1回投与のCGLP-1受容体作動薬であるセマグルチドを用いた第CIII相臨床試験(SUSTAIN-6)において,糖尿病網膜症の発症・進展リスクが上昇したことが報告された.しかし,これはその後の追加解析にて,網膜症の悪化を認めた患者では大部分が試験開始時にすでに網膜症を有していたこと,血糖コントロールが悪かったこと,インスリン使用者が多かったこと,網膜症の悪化は投与初期に多かったことなどから,セマグルチドが直接網膜症を悪化させるのではなく,セマグルチドの強力な血糖降下作用による急激な血糖コントロールが網膜症悪化の原因だったのではないかと考えられている.SGLT2阻害薬は腎臓からの尿糖排泄促進により高血糖を改善するが,同時に浸透圧利尿が起こる.近年,糖尿病黄斑浮腫がCSGLT2阻害薬投与により改善する可能性が指摘されている.また,2019年C9月に腎性貧血の新規治療薬であるCHIF-PHD阻害薬が製造販売承認された.HIF-PHD阻害薬はプロリン水酸化酵素(PHD)を阻害し,低酸素誘導因子(HIF)を安定化することで貧血を改善する.現在透析患者および保存期慢性腎臓病に対して保険適用があるが,HIFは血管新生に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)を誘導するため,糖尿病網膜症を増悪させる可能性が懸念されている.—