考える手術⑦監修松井良諭・奥村直毅角膜移植術のこだわり(DMEK,DALK)親川格ハートライフ病院眼科林孝彦日本大学医学部視覚科学系眼科学分野角膜移植の対象疾患に対する標準的な治療法は全層角膜移植(PKP)であったが,拒絶反応や続発緑内障,縫合糸関連合併症(感染症,惹起不正乱視),外傷性創離開,移植片機能不全,また思ったほど矯正視力が得られないといった多くの術後合併症のリスクがあった.そこで合併症を低減するために,現在ではパーツ移植の概念が浸透し,角膜内皮機能不全に対してはDescemet膜.離角膜内皮移植(DSAEK)やDescemet膜角膜内皮移植(DMEK),角膜実質混濁や角膜屈折異常に対しては層状角膜移植(LKP)や深部層状角膜移植(DALK)が,DMEKでは,日本人は欧米人と比較して前房スペースが狭く,硝子体圧が高いことが多い.また,進行した角膜浮腫や濃い虹彩色調が移植片の視認性を下げてしまうことから,移植片に対する術中操作がむずかしくなりやすい.これらの問題点を克服する工夫について述べる.無硝子体眼に対しては移植片を眼内で広げる操作が長時間となり,移植片ダメージが生じやすい.この解決法として独自に考案し良好な結果を得ている方法を紹介する.DALKでは,空気を用いたbigbubble法による角膜実質層とDescemet膜層の分離を高い確率で再現性をもって可能にするためのポイントを手順を追って説明する.DALKでは慎重かつ大胆に角膜実質の分離を行うことが重要だが,同時に,bigbubbleによる実質分離を行ったあとは,前房圧をしっかり下げてDescemet膜に亀裂を生じさせないための細心の注意も必要である.聞き手:Descemet膜角膜内皮移植(Descemetmem-房へ挿入された移植片が硝子体圧の影響で眼外へ押し出braneendothelialkeratoplasty:DMEK)を行う際に,されやすい傾向にあります.脱出すると角膜内皮細胞に当初学んだ欧米の術式に多くの工夫を加えているとのこ大きなダメージが生じるため,必ず回避すべき合併症でとですが,具体的にはどのようにしているのですか?す.対処法として,眼粘弾性物質(オペガン)を使用し親川:とくに移植片の挿入時,展開時に工夫を加えていた挿入法を行っています.具体的には,移植片挿入器具ます.日本人眼では高い硝子体圧を伴うことが多く,前として代用している眼内レンズ挿入器具に,眼灌流液浸(89)あたらしい眼科Vol.39,No.7,20229430910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術水下で眼内レンズ挿入部に移植片を装填し,後方部に粘弾性物質を少量加え,プランジャーを押すことで粘弾性物質を介して移植片を射出し,前房内へ挿入します.この方法により移植片が脱出する合併症はなくなりました.また,日本は進行した角膜内皮機能不全眼が移植対象となることが多く,角膜視認性が悪い状態であり,さらに濃い虹彩色素が移植片のコントラストを低下させるため,展開時に移植片の表裏を特定することが重要となります.表裏を特定できずに長時間操作による内皮損傷が生じることや,表裏が逆となって移植片機能不全となる合併症も経験しました.対策として,1.5mmおよび1.0mmの大小の半円形状をした非対称性マーキングを移植片辺縁に2対置く方法を考案しました.これにより術中に表裏を確実に認識できるため,上記のような合併症は皆無となりました.林:DMEKでは少しでも雑な操作をすると命取りとなります.繊細な移植片操作が最低限必要であり,起こりうる合併症を予想し,対処できる力を備えることも必要です.挿入する際に,欧米の多くの術者はガラス製の移植片挿入器具を使用しますが,浅い前房スペースと高い硝子体圧をもつ日本人眼においては,工夫が必要不可欠です.粘弾性物質を使ったプラスチック製挿入器具を用いる工夫のほか,麻酔法として全身麻酔や球後麻酔および瞬目麻酔を用いることや,挿入時に開瞼器を緩めることで硝子体圧を極力下げておくことも工夫の一つです.聞き手:欧米でも無硝子体眼へのDMEKは展開操作がむずかしく,チャレンジング症例とされていますが,どのような工夫をしていますか?林:無硝子体眼に対して一般的な方法でDMEKを行うと,有硝子体眼と比較して展開時間が有意に長いことを指摘した論文を以前発表しました.無硝子体眼では前房水を抜いても硝子体腔が虚脱するのみで前房を浅くすることができず,前房スペースが広いままのため,移植片を広げることができないことが大きな原因となります.解決法として,doublebubbletechniqueを考案しました.これは移植片の展開時に,移植片直上にまずsmallbubbleを入れてある程度移植片を広げ,その状態で移植片の下方からbubbleを少しずつ加えて移植片の周辺部から徐々に角膜後面へ接着させていき,さらにbubbleを下方から追加注入していくことで最終的に完全な角膜後面への展開固定を獲得する方法です.この方法は短時間で再現性高く行うことができるため,これまでDMEKを回避する傾向にあった無硝子体眼でも,ストレスなく執刀することが可能となりました.親川:Doublebubbletechniqueのコツとして,制御糸944あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022をうまく使うことも必要です.私は5時の強膜部に7-0シルク糸を使用しています.移植片の上部にsmallbubbleを入れたあと,移植片の下方にbubbleを追加注入していくタイミングで,制御糸でやや上転させながらbubbleを追加注入します.そうすることで移植片が大きく偏位して固定されることを防ぎ,可能なかぎり中心部付近で固定することができます.聞き手:深部層状角膜移植(deepanteriorlamellarker-atoplasty:DALK)を行ううえでこだわっていること,工夫されていることはどのような点ですか?林:DALKは角膜深層の実質組織とDescemet膜組織の層で分離して移植を行っていくため,その手技に特徴があります.おもに行っている方法は,空気を用いて分離するbigbubble法です.角膜中心部において角膜トレパンを用いて予定切開円を角膜実質内中層まで作製後,上方角膜輪部からスリットナイフで実質組織に刺入し,角膜深層の実質組織内までナイフを進めます.次に作製した切開創から角膜中心部方向に平行に鈍針や30ゲージ鋭針を進めていき,実質深層のDescemet膜直上あたりで空気を注入し,角膜実質の分離操作を行います.以前はサイドポートを開けて,角膜中央の実質組織をある程度除去したあとに,この操作を行っていましたが,現在はサイドポート作製や実質組織除去を先に行わずにこの操作をすることで,よい成績を得られています.注入した空気による圧を逃がすことなく,組織を分離する力の方向へ確実に加える点が大きなポイントと考えています.その後の角膜実質組織の除去操作では,サイドポートを開けて前房圧を常に下げて処理を行っていく点がDescemet膜亀裂を生じさせないためのポイントとなります.このbigbubble法で実質組織の分離を確実に行い,7割程度でDALKを完遂できています.ただし,bigbubble法が成功せずに実質組織が残存した場合には,layer-by-layer法により実質組織を少しずつ分離してDescemet膜組織を露出することになります.その際,私が使用しているのは前田式DLKスパーテルと林式DALKフッカーであり,Descemet膜に亀裂を生じることなく実質組織を確実に分離していきます.また,軽度のDescemet膜亀裂であればリカバリーすることでなんとかDALKを完遂できることも多いです.DALKを完遂できれば10.20年以上の術後長期間の角膜透明治癒が期待できるます.しかし,大きな亀裂となった場合は全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)へコンバートすることもあります.そのときには気持ちを切り替え,きれいな縫合を意識して惹起乱視の少ないPKPに全力を注ぐようにしています.(90)