‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

近視眼緑内障の構造変化を科学する-近視性か緑内障性か

2020年10月31日 土曜日

近視眼緑内障の構造変化を科学する─近視性か緑内障性かOpticNerveHeadStructuralChangesinMyopicGlaucomatousEyes齋藤瞳*はじめに近視眼の視神経乳頭形態は多彩な特徴的変化を示すことが多く,その評価はしばしばむずかしい.日本およびにアジア諸国においては近視の頻度が欧米諸国に比べて高いことが知られており1),近視眼における緑内障のリスクも高いこともあり2,3),臨床的に近視眼の適切な評価と管理が重要となる.しかし,実際には生理的な近視性変化と緑内障性変化を完全に区別することは困難であり,診断に悩まされることも多い.近視性乳頭の分類に関しては現段階ではスタンダードとなるようなものはない.近視性乳頭の形態は非常に多様であり,簡便な方法でそれを分類することは非現実的であるとも考えられる.近視眼の視神経乳頭形状の特徴として乳頭面積が大きいこと,形態が正円ではなく楕円に近いことが多いこと,耳側に向かい傾斜していること,乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)を伴う頻度が高いこと,その他の先天奇形を合併することが多いことなどが今までに報告されている.また,近視が緑内障のリスクファクターであることなど,近視と緑内障の間には密接な関係があり,両者の鑑別や近視を合併した緑内障の評価は臨床的に非常に重要な課題の一つとなっている.本稿では近視性乳頭にみられる特徴や形態的変化,近視と緑内障の関係について述べる.I近視の疫学近視の有病率は人種によって大きく異なり,わが国を含む東アジア諸国では欧米人と比較して近視の有病率が高く,さらに若い世代になればなるほど近視の有病率が上がっていることが報告されている4).さらに2050年までには世界の人口の50%が近視を有し,10%がWHO基準の強度近視(-5D以上)を有するだろうと予測されており,近視への対応は全世界的な問題と化している5).II強度近視と病的近視の定義近視のなかでもとくに強い近視,強度近視が一番臨床現場で医療者を悩ませる.強度近視の国際的に共通した定義は存在しないが,疫学的な観点もしくは近視性の構造的変化が強くなる等価球面度数-6D,眼軸長26mmあたりが境として選択されることが多い.日本近視学会では,等価球面度数-0.5~-3.0D未満までを弱度近視,-3~-6D未満を中等度近視,-6D以下を強度近視と定義している.しかし,実際には等価球面度数が-6Dより近視でもさほど構造異常が認められない眼もあれば,-6D前後で著しく変形してしまっている眼もあり,特定の数値で二分するのは便宜上の定義にしかならず,実際には個々の眼に起きている変化を詳細に評価していく必要がある.強度近視眼のなかでも,「びまん性網脈絡膜異常の萎*HitomiSaito:東京大学医学部付属病院眼科・視覚矯正科〔別刷請求先〕齋藤瞳:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部付属病院眼科・視覚矯正科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)1179ab図1強度近視眼70歳,男性.Vs=(1.2×13.0D).眼軸長29.44mm.a:眼底写真.乳頭周囲の広範囲な網脈絡膜萎縮,黄斑部にかけてのびまん性網脈絡膜萎縮を認める.b:静的視野検査(HFASITA-standard30-2)では広範囲の感度低下を認める.c:OCT断層像では網膜分離を認める().る(図1).III近視眼の形態的特徴では,病的近視ではない近視眼は正視眼と比べてどのように構造が異なり,どんな特徴があるのだろうか.近視眼に特徴的といわれる構造変化には大乳頭,視神経乳頭の楕円化,傾斜やPPAなどがある.1.乳頭径と近視近視の程度と視神経乳頭面積に関連があることは以前より知られている6~8).全体としては近視が強くなればなるほど乳頭面積が拡大する傾向にある.すなわち,等価球面度数と乳頭面積の間には有意な相関が認められる.近視が1D強くなるごとに0.033.mm2乳頭面積が大きくなるとの報告もある9).しかし,実際には近視と乳頭面積の相関は直線的なものではなく,近視の程度により変化している.その相関は近視の度数が弱いときはそれほど顕著ではないが,-8Dより近視の強い強度近視眼においては曲線的に増加するとされている10).この現象を根拠に強度近視の定義を-8Dで区切る場合もある.正常眼の乳頭面積はおおよそ1.5~3.5mm2といわれているが,これより乳頭面積の大きい視神経乳頭を巨大乳頭(megalodisc)とよんでいる.Megalodiscと緑内障の関係も報告されており,乳頭面積>3.79mm2の眼は,それより乳頭が小さかった眼と比べて,緑内障を有する率が3.2倍高かったという研究もある11)(図2).ただし,乳頭径と陥凹径は比例するため12),megalodiscでは陥凹が大きい症例が多く,緑内障と誤診されやすくなることにも注意が必要である.陥凹径そのものに惑わされず,上下のリム(rim)の菲薄化に差があるかどうか,視野や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で対応する異常が認められるかどうかなどを総合的に判断していく(図3).反対に,近視の強い眼において乳頭面積の小さい乳頭をみることもあるが,乳頭面積2mm2以下の小さい乳頭の割合は,-8Dを境にした強度近視眼と,それより弱い近視眼で有意差が認められなかったとも報告されており13),必ずしも近視特有の変化ではない可能性がある.しかし,小乳頭は大乳頭と反対に,rim変化やcup-ping拡大の評価がしづらく,緑内障性変化が過小評価されてしまう傾向にあるため,気をつけなければならない(図4).2.乳頭形状と近視軽度近視眼はいわゆる教科書的な正常丸形乳頭を呈することが多いが,中等度以上の近視眼では乳頭径の縦横比が大きい縦楕円の乳頭が多くみられる7,8).強膜孔およびに視神経線維は,眼球軸に対して鼻側に傾斜する傾向にある.また,篩状板は傾斜せずに眼球軸と垂直に存在するが,眼球外側に向けて突出していることが多い.さらに,強膜孔の短縮と外反により篩状板が前方偏位していることも報告されており,結果として乳頭陥凹が浅めの形態をとる7,13,14).さらに,乳頭が楕円なだけではなく,近視眼では網膜血管の起始部が偏位している傾斜乳頭の割合が高い.先天的に視神経乳頭が下鼻側方向に傾斜しており,下方にPPAを伴うことが多い7,8).傾斜乳頭は近視眼のみに認められる形態ではないが,もっとも関連があるとされているのはやはり近視である.傾斜の程度にも差があり,30°くらいの軽度の傾斜から90°の傾斜を呈し,ほぼ視神経乳頭が横向きになっているように見えるものまである(図5).乳頭傾斜は緑内障のリスクファクターの一つともいわれているが,最近,乳頭傾斜があったほうが進行を認めにくかったとの報告もあり,両者の関係ははっきりとしない15,16).3.乳頭周囲網脈絡膜萎縮と近視PPAは眼底写真上でPPA-aとPPA-bに分けられる(図6a).PPA-aは不整な色素過剰や低色素からなる領域であり,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)のメラニン顆粒の不整分布に起因するものである.それに対してPPA-bはRPEが欠損している領域と定義されている.PPA-bはRPEの消失および視細胞の不完全な消失に相当する変化であり,強膜の可視化,Bruch膜の露出や脈絡膜大血管の透見がみられる領域である.PPA-aは単独で正常眼に認められることも多く,おそらく先天的もしくは成長過程に獲得された所見である.反面,PPA-bは後天的な変化と考えられている.(5)あたらしい眼科Vol.37,No.10,20201181図2巨大乳頭(megalodisc)症例10代,男性.Vd=(1.2C×7.0D(cyl-2.25DCAx5°).Td=21.mmHg.眼軸長C27.8.mm.DiscCareaC4.38Cmm2.a:眼底写真.巨大乳頭(megalodisc)上下のCrimの菲薄化あり.Cb:静的視野検査(HFACSITA-standardC10-2)で上方および下方の中心性緑内障性視野障害を認める.d図3緑内障ではない大乳頭(largedisc)症例60代,女性.Vd=(1.2C×5.0D(cyl-0.75DCAx50°).Td=16.mmHg.眼軸長C26.2.mm.DiscCareaC3.13Cmm2.a:眼底写真.大きめな乳頭とそれに伴って拡大している陥凹Crimの色はよく,上下の厚みに差はあまりない.Cb:静的視野検査.大きな異常はないが患者の信頼係数が低く,正常と断定するのはむずかしい.c:OCT.cpRNFLTは正常範囲内.Cd:OCT.黄斑部のCGCCTも正常範囲内.図4小乳頭症例80代,女性.Vd=(1.2×-6.5D(cyl-1.25DCAx100°).CDiscCareaC1.18.mm2.図5傾斜乳頭症例a:60代,女性.左眼.耳側へ軽度の傾斜.Cb:50代,男性.右眼.下耳側へC90°近く傾斜している.b図7強度近視眼のMariotte盲点拡大a:眼底写真.b:Mariotte盲点付近の感度低下を認める().C——’C

序説:緑内障:診断と治療の最新事情

2020年10月31日 土曜日

緑内障:診断と治療の最新情報NewDevelopmentsintheDiagnosisandTreatmentofGlaucoma新田耕治*山本哲也**医療は日進月歩でどんどんアップデートされる.緑内障領域も同様である.振り返ってみれば,緑内障は眼圧が上昇することで引き起こされる視神経症であり,眼圧が正常であれば緑内障ではないというところから,眼圧が低くても緑内障を発症しえることが判明し,当時は低眼圧緑内障とよばれていた.多治見スタディを期に日本人では正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が緑内障の半数以上を占めることがわかり,薬物治療により十分な眼圧下降を得られても進行する症例を多く経験することで,眼圧以外の進行因子に関する研究も盛んになり,NTGをいかに管理するべきか議論されるようになった.緑内障を管理するためのファイリングソフトや電子カルテが進歩し,長期的な経過を瞬時に判断できるようになり,高次元な診療を効率的に行うことが可能な環境が整ってきた.さらに緑内障診断機器も発展し,とくに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は緑内障診療に革命的な有用性をもたらすこととなった.はたして近未来にはどのような発展があり,緑内障診断と治療にどのような有益性をもたらすか楽しみである.今回は最先端医療と近未来医療を橋渡しすることをめざして,未来の緑内障医療では当たり前のことになっているかもしれない緑内障の診断や治療に関する情報を特集することとした.近視は緑内障発症の危険因子とされているが,近視性構造変化と緑内障性構造変化は類似している面があり,結局オーバーラップしていると思われる症例をわれわれはしばしば経験する.その際にどのような病態が生じているかを理解することは,そのような症例の管理の手助けになると思われる.緑内障における眼圧の日々変動を加味した治療も重要である.トリガーフィッシュ型眼内圧モニタリングシステムが夜間の眼圧推移に有用な情報をもたらすことが期待される.さらに眼圧を取り巻く環境の相違が緑内障の進行に影響することが徐々に理解されるようになってきた.とくに角膜ヒステレシスという眼球の可塑性を評価する指標が注目されている.日本人の多くが開放隅角緑内障であり,隅角検査がおろそかにされがちであるが,隅角全周撮影装置が開発され隅角の普遍的評価が可能になったと考えられる.どの症例の進行が速く,どの症例の進行が遅いかは,われわれは経験的に進行の危険因子を加味して診療するようになってきた.将来は人工知能(arti-.cialintelligence:AI)を利用して予測精度が向上することが期待できるが,現状での視野進行予測の精度には限界がある.緑内障画像解析は格段に進化*KojiNitta:福井県済生会病院眼科**TetsuyaYamamoto:海谷眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)1177

硝子体手術のワンポイントアドバイス 209.ネコの爪による穿孔性外傷後に発症した眼内炎(中級編)

2020年10月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載209209ネコの爪による穿孔性外傷後に発症した眼内炎(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに穿孔性眼外傷の原因として種々のものが報告されているが,動物の爪による外傷の報告はきわめてまれである.筆者らは以前にネコの爪による穿孔性眼外傷後に緑膿菌による眼内炎を発症し,硝子体手術を施行した1例を報告したことがある1).●症例提示23歳,女性.飼いネコに左眼をひっかかれ,同日,近医を受診.左上頬部の裂傷を縫合されたのち,眼科に紹介された.初診時矯正視力は右眼1.2,左眼0.08.左眼球結膜7時の位置に裂傷を認めた.前房内に細胞を認め,瞳孔はわずかに下方に偏位していた.水晶体は透明であった.眼内は硝子体出血と下方網膜に穿孔創を認めた.X線検査および超音波Bモード検査で眼内異物は認めなかった.即日入院のうえ手術を施行した.強膜穿孔創は角膜輪部から約7mmの部位にあり,輪部側を頂点とした小さなV字型を呈し,創縁は整で眼内組織の脱出はなかった(図1).強膜創を抗菌薬で十分洗浄したのち縫合を行い,穿孔創に冷凍凝固と強膜バックリングを行った.術後は,抗菌薬の点滴,内服,点眼を行った.しかし,受傷3日後に激しい眼痛を伴う急激な硝子体混濁をきたし,眼底透見不能となった.細菌性眼内炎と診断し緊急に硝子体手術を施行した.水晶体切除に引き続き,可能なかぎり周辺部まで硝子体を切除した.硝子体は濃厚に混濁し,網膜は灰白色を呈し網膜血管の白線化を認めた.下方網膜の穿孔部位には硝子体が高度に癒着していた.術中に採取した硝子体液の培養検査で緑膿菌が検出された.術後,眼内炎は消退したものの,術後14日目頃より網膜.離を発症したため,再度硝子体手術を施行した.術後網膜は復位したが,矯正視力は0.1にとどまった(図2).図1術中所見強膜穿孔創は角膜輪部から約7mmの部位にあり,輪部側を頂点とした小さなV字型を呈していた.(文献1より引用)図2硝子体再手術後の左眼眼底写真網膜は復位したが,眼内炎による網膜傷害もあり,矯正視力は0.1にとどまった.(文献1より引用)●ネコの爪による眼外傷動物の爪による外傷はきわめてまれであるが,近年のペットブームに伴い今後増加する可能性も考えられ,十分注意する必要がある.ネコによる眼咬傷・掻傷の報告は遠藤ら2)のものを含めて過去に8例が報告されており,すべてに感染が生じている.原因菌としてはPasteurel-lamultocidaが多いが,ブドウ球菌,レンサ球菌,口腔内の嫌気性菌も重要である.このほかに本提示例のような緑膿菌やBacilluscereusなど土壌や糞便中に存在するものも原因菌となりうる.緑膿菌はいったん眼内炎をきたすと,短時間で高度の組織傷害をきたすことが動物実験などで報告されており3),動物の爪による眼外傷後に眼内炎が疑われた時は,抗菌薬の硝子体注射あるいは硝子体手術を早急に施行する必要がある.文献1)DoiM,IkedaT,YasuharaTetal:Acaseofbacterialendophthalmitisfollowingperforatinginjurycausedbyacatclaw.OphthalmicSurgLasers30:315-316,19992)遠藤紳一郎,草野良明,青木眞ほか:猫による眼咬傷・掻傷.眼科43:665-670,20013)秦野寛,佐々木隆敏,田中直彦:緑膿菌性眼内炎の実験的研究.硝子体内接種による病像,眼内生菌数,ERG.日眼会誌92:1758-1764,1988(101)あたらしい眼科Vol.37,No.10,202012770910-1810/20/\100/頁/JCOPY

眼内レンズ:ヘッズアップ(heads-up)白内障手術

2020年10月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋市川一夫市川慶407.ヘッズアップ(heads-up)白内障手術中京眼科ヘッズアップ白内障手術は,以前の映像の遅れによる手術時の不満も解消され,むしろ映像の技術的処理により,顕微鏡下よりも低い照度で見やすく,老視の術者も高拡大で手術できるなど多くの利点のある手術となってきている.大きなモニターの設置場所など,不便な点もあるが,教育をする施設では今後必須となる機器と思われる.●はじめに3Dモニター上で映像を見ながら手術するヘッズアップ(heads-up)手術は,硝子体分野では多くの施設ですでに導入され,日頃の手術に使用されている1).教育的によい,低照度で手術でき患者にやさしい,顕微鏡の術者の姿勢が楽などのよい評価があったものの,白内障手術を行ううえでは,モニター上での反応が遅れることから手術のスピードを普段よりも落とさざるをえず,導入する施設は少なかった.筆者らも中京病院に硝子体手術用として採用したものの,白内障手術では試みに使用してみたが常時使うには至らなかった.2019年CarlZeiss社からARTEVO800が発売され,映像がきれいで白内障手術速度に追随できるとのことで,中京眼科に導入した.2020年に映像速度の改善されたAlcon社のNGENUITY3Dビジュアルシステムもほぼ同時に導入した.導入後,両機器(現在この2機種のみが市場に出回っている)を日頃の白内障手術に使用した結果,手術中に患者情報などをスタッフと共有でき,得られた映像を加工し見やすくできるなど,従来の顕微鏡手術にない多くの利点があることから,最近では当院で行うほとんどの手術をheads-upで行っている.今後はヘッズアップ硝子体手術(heads-upcataractsur-gery:HCS)を進めて行きたいと考えるに至ったので,その将来性と利点,現時点での欠点について紹介する.●HCSの利点・助手ばかりでなく手術室スタッフ全員が術者と同じ3D映像がみられるので,情報の共有ができ,教育にも有用である(図1a,b).・乱視軸や術中アベロメーターの情報,術中OCTの映像情報もモニター上で共有できる(図2).・鏡筒をのぞき込む姿勢でなく,まっすぐにモニターを見て手術を行えるため身体への負担が軽減される.とくに,術者と身長の異なる助手や指導者には福音である(図1c).図1HCSの実際(93)あたらしい眼科Vol.37,No.10,202012690910-1810/20/\100/頁/JCOPY図2術中アベロメーター使用時と術中OCT使用時のモニター画像図4モニター設置位置のマーキング例・モニターを見て手術をするので,鏡筒を覗いて行うより倍率を上げても術野が広く,手術をしやすい.筆者らの場合,鏡筒で8.6倍の倍率で手術を行っていたが,モニターでは20~25倍の倍率で手術を行うことが可能であった.・低照度で手術ができる.筆者らの場合,顕微鏡下で行う際の約1/3の光量に下げても同じように手術ができた.・モニター画像の加工ができ,薄い染色でも色を強調できたり,見たいエッジを強調できたりする(図3).・立体視を増幅できる.●HCSの欠点・耳側切開で手術を行う場合,左右が変わる際に大きなモニターを適切な場所に設置するための移動がスタッフにとって大きな負担となる.床面にマークをつけて,適切な位置をあらかじめ決めておくと便利である(図4).・モニター映像では,より鮮明なHCSのモニターでも図3A.I.M.E.による画像処理a:画像処理あり(StructureEnhancement:3,ColorEnhancement:2).b:画像処理なし.なんとなく鏡筒を覗くより見にくかったが,ソニーのA.I.M.E.(AdvancedImageMultipleEnhancer)で画像強調処理することで鏡筒に負けない映像になった(図3).しかし,自分にもっとも合った条件は,自分で試行して決定する必要がある.・他社の機器の情報をモニター上に出すことができない.●HCSの将来理論的にはすべてのスタッフが,映像や他の機器の情報を統合してモニター上で共有できる.遠隔地でも同じモニターがあれば,術者とまったく同じ映像を見ながら指導できるようになるなど,将来性は大きいと確信している.文献1)EckardtC,PauleEB:Anexperimentalandclinicalstudy.Retina36:137-147,20162)松本惣一,松本治恵:Dデジタル眼科手術利点・欠点とサージカルガイダンスシステムとの相性.IOL&RS34:21-29,2020

マイトマイシンC 点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例

2020年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科37(9):1166.1170,2020cマイトマイシンC点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例宇都宮寛高村浩公立置賜総合病院眼科CACaseofPrimaryAcquiredMelanosiswithAtypiaTreatedwithTopicalMitomycinCTherapyHiroshiUtsunomiyaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalCマイトマイシンCC(MMC)点眼治療で寛解が得られたと考えられたが,その後悪性黒色腫を発症した異型性を伴う原発性後天性メラノーシス(PAMwithatypia)のC1例を経験した.症例はC63歳,女性で,左眼球結膜の茶褐色の色素性病変を主訴に受診した.生検によりCPAMwithatypiaと診断し,MMC点眼による治療を施行したところ色素性病変の消退がみられた.治療終了からC2年C4カ月後に出血を伴う黒色の隆起性病変が出現した.病理診断にて悪性黒色腫と診断され,腫瘍切除術,冷凍凝固術,術後にCMMC点眼・インターフェロンCa-2b点眼治療を行った.治療後C1年C3カ月の時点で再発や転移は認められていない.CPurpose:Toreportacaseofprimaryacquiredmelanosis(PAM)withatypiatreatedwithtopicalmitomycinC(MMC)therapy.CCase:AC63-year-oldCfemaleCpresentedCwithCaCpigmentedClesionCinCtheCbulbarCconjunctivaCofCherlefteye.HistopathologicalexaminationrevealedPAMwithatypia,andshewastreatedwithtopicalMMCeye-droptherapy,whichdiminishedthelesion.However,at2yearsand4monthsposttreatment,aconjunctivalmalig-nantmelanomaappearedinthesameeye,andshewastreatedwithtumorresection,cryocoagulation,andtopicalMMCCandCinterferonCa-2bCtherapy.CConclusion:TreatmentCwithCtopicalCMMCCwasCe.ective,CwithCnoCrecurrenceCormetastasisobservedat1yearand3monthsposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(9):1166.1170,C2020〕Keywords:異型性を伴う原発性後天性メラノーシス,結膜悪性黒色腫,マイトマイシンCC点眼.primaryCac-quiredmelanosiswithatypia,conjunctivalmalignantmelanoma,topicalmitomycinC.Cはじめに結膜の原発性後天性メラノーシス(primaryacquiredmel-anosis:PAM)は後天性の扁平で無痛性の結膜の色素性病変で,通常は片眼性に生じる1).病変を構成するメラノサイトに異型性がみられないものをCPAMwithoutatypia,異型性を伴うものをCPAMwithatypiaと呼称する.PAMwithatypiaは悪性黒色腫に進展する可能性があるとされる2,3).CPAMCwithatypiaに対する治療法としてマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)4)やインターフェロン(interferon:IFN)点眼治療があり,その有効性が報告されている4).今回,筆者らはCMMC点眼治療で局所コントロールが得られたと考えられたが,その後に悪性黒色腫を発症したPAMwithatypiaの症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.初診:2013年C9月.既往歴:神経線維腫症,脳出血後.現病歴:2011年頃から,左眼の球結膜に黒色病変が出現し,徐々に増大してきたため,精査目的に公立置賜総合病院眼科(以下,当科)に紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2),左眼C0.3(1.0),眼圧〔別刷請求先〕宇都宮寛:〒992-0601山形県東置賜郡川西町大字西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:HiroshiUtsunomiya,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Kawanishi-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPAN(126)C11660910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼の前眼部所見球結膜の鼻側上方を除くC3象限に隆起を伴わない茶褐色の色素性病変がみられる.また,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられる.図2生検による病理組織学的所見結膜上皮内に色素を伴うメラノサイトの増生がみられる.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が認められる.上皮下のメラニン色素を伴う細胞はCmelanophageである(ヘマトキシリン-エオジン染色).は右眼C17,左眼C15CmmHgであった.左眼の球結膜の鼻側眼治療などを後療法として提示したが,患者が希望せず経過上方を除くC3象限に茶褐色の色素性病変が認められた.ま観察となった.た,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられた(図生検してC1年C7カ月後,病変が軽快しないと訴え再診したC1).両眼とも中間透光体から眼底にとくに異常所見はなかっので,MMC点眼治療を開始した.0.04%CMMC点眼治療はた.1週間1日4回投与,1週間休薬を1クールとし,約3カ月経過:生検はとくに色素が豊富な下方の病変に対して,1間にC7クール施行した.視診上,PAMはほぼ消失した.一%エピネフリン入りリドカインをCTenon.下に注入して,方,左眼の角膜に混濁がみられた(図3).病変を浮き上がらせた状態でC5Cmm大に剪刀で切除した.病MMC点眼治療終了後C2年C4カ月の時点で,左眼に出血を理組織学的に結膜基底層の上部に色素を伴うメラノサイトの伴う黒色の隆起性病変の出現がみられた(図4).病変は上瞼増生がみられた.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が結膜から有茎性に発症していた.生検は球結膜側に垂れ下が認められ,PAMwithatypiaと診断された(図2).MMC点っている部位をオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール)図3PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年後の左眼の前眼部所見a~c:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaは消失している.Cd:角膜には混濁がみられる.図4PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年4カ月後の左眼の前眼部所見a:耳側上方の眼瞼下に出血を伴う隆起性の黒色病変がみられる.Cb:腫瘍の根元の部位.病変は瞼結膜から有茎性に増殖している.点眼麻酔のうえ,剪刀で切断した.病理組織学的に,結膜上皮下にメラニン色素を有し,核の大小不同,mitosisを呈する異型細胞がシート状に増殖している像がみられた(図5).免疫組織化学的に,腫瘍細胞はCHMB-45,S-100蛋白,Vimentinに陽性を示し,悪性黒色腫と診断された.そこで,結膜腫瘍を切除し,術中に冷凍凝固およびCMMC浸漬を施行し,術後にCMMC点眼治療をC2クール,その後,IFN点眼治療を連日C3カ月間施行した.その結果,1年C3カ月後の時点で局所再発や頸部リンパ節,肝臓などへの遠隔転移はみられていない(図6).CII考按PAMは結膜良性腫瘍のなかではC4%程度のまれな疾患である5),.PAMwithoutatypiaは病理組織学的に結膜の基底層にメラニン色素が沈着しており,メラノサイトの異型性はみられない.それに対してCPAMwithatypiaは核が大きく,図5MMC点眼治療2年4カ月後の結膜腫瘍の病理組織学所見シート状に増殖した腫瘍細胞は,メラニン色素を有し,核の大小不同・異型がみられ,密に増殖している(ヘマトキシリン-エオジン染色).図6悪性黒色腫治療1年3カ月後の左眼の前眼部所見a:上瞼結膜の耳側にあった悪性黒色腫は消失している.Cb~d:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaの再発はみられない.角膜には混濁がみられる.核形やクロマチンパターンに多彩性(heterochromasia)や大きな核小体がみられ,細胞質に顆粒状のメラニンを含み,細胞質の退縮(retraction)のため核周囲が抜けてみえるなどのメラノサイトに異型がみられる.PAMCwithatypiaは前癌状態とされ,ShieldsらはそのC13%2)が,FolbergらはC46.4%3)が悪性黒色腫へ進展すると報告している.木村らは結膜悪性黒色腫の先行病変としてCPAMは最多と報告している6).PAMに対する治療としてはまず経過観察とし,病変が拡大・増殖が認められた場合に治療を始めるとされる.本症例は当初患者が治療を希望しなかったこともあり,生検からC1年C7カ月後から治療を開始した.PAMCwithatypiaに対してCMMC点眼治療が有効であるという報告4)に基づいて本症例に対してもC7クールのCMMC点眼治療を行った.その結果,球結膜のC3象限にわたるCPAMwithatypiaの病変はほぼ消退した.一方,角膜に混濁をきたした.MMC点眼治療の副作用として一時的な眼痛や結膜充血,眼瞼の発赤・腫脹から永続的な角膜混濁,角膜の結膜上皮化,輪部機能不全などがある.MMCの細胞障害作用により,正常細胞も障害されるためである.MMC点眼治療のほかには免疫賦活作用による腫瘍増殖抑制効果があるCIFN点眼治療があり7),副作用も少なくて有効である.一方,MMC点眼もCIFN点眼治療も保険適用外使用であるので,当科で投与した時点では当院の院内倫理委員会の承認を得て使用した.その後,MMCは自主回収され,IFN(イントロン)は製造・販売が終了したため,2019年C12月の時点では日本国内でも海外でも使用困難となっている.それらの代替としてC5-フルオロウラシル(5-FU)点眼治療の可能性も考えられるが,5-FUも保険適用外使用であり,使用する場合は倫理審査が必要である.本症例ではCPAMwithatypiaに対するCMMC点眼治療は有効であると考えられた.しかし,MMC点眼治療C2年C4カ月後に悪性黒色腫が発症した.結膜悪性黒色腫の治療としてもCMMC点眼治療は行われるが8),PAMCwithatypiaから悪性黒色腫への悪性転化の予防としてのCMMC点眼治療の効果は不十分なのか,MMC点眼治療から期間が経つと予防効果が減弱するのか,あるいはCPAMwithatypiaの悪性転化のCpotentialは非常に強いのかなどについて,今後,検討が必要と思われた.いずれにしても長期間の経過観察が必要であると考えられた.文献1)AlzahraniYA,KumarS,AzizHAetal:Primaryacquiredmelanosis:Clinical,ChistopathologicCandCopticalCcoherenceCtomographicCcorrelation.COculCOncolCPatholC2:123-127,20162)ShieldsCJA,CShieldsCCL,CMashayekhiCACetal:PrimaryCacquiredCmelanosisCofCtheconjunctiva:experienceCwithC311eyes.TransAmOphthalmolSocC105:61-72,C20073)FolbergR,McLeanIW,ZimmermanLE:Primaryacquiredmelanosisoftheconjunctiva.HumanPatholC16:129-135,C19854)DemirciCH,CMcCormickCSA,CFingerPT:TopicalCmitomy-cinCchemotherapyCforCconjunctivalCmalignantCmelanomaCandprimaryacquiredmelanosiswithatypia.Clinicalexpe-rienceCwithhistopathologicobservations.ArchOphthalmolC118:885-891,C20005)小幡博人:角結膜腫瘍総論A疫学的事項.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),p67-68,医学書院,C20156)木村圭介,臼井嘉彦,後藤浩:結膜悪性黒色腫C11例の臨床像と治療予後.日眼会誌116:503-509,C20127)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンCa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫のC2例.日眼会誌115:1043-1047,C20118)平松彩子,四倉次郎,山本修一:結膜悪性黒色腫のC1例.臨眼58:1295-1298,C2004***

En Face Swept-Source OCTを用いた急性帯状潜在性網膜外層症における視細胞内節エリプソイドの評価

2020年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科37(9):1161.1165,2020cEnFaceSwept-SourceOCTを用いた急性帯状潜在性網膜外層症における視細胞内節エリプソイドの評価馬場悠花里*1,2梅岡亮介*1青柳蘭子*2浦島容子*3敷島敬悟*2中野匡*2酒井勉*2,3*1東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科*2東京慈恵会医科大学附属病院眼科*3愛宕アイクリニックCEvaluationofPhotoreceptorEllipsoidZoneinAcuteZonalOccultOuterRetinopathywithEnFaceSwept-SourceOpticalCoherenceTomographyYukariBaba1,2)C,RyosukeUmeoka1),RankoAoyagi2),YokoUrashima3),KeigoShikishima2),TadashiNakano2)andTsutomuSakai2,3)1)DepartmentofOphthalmology,JikeiDaisanHospital,2)3)AtagoEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,目的:Swept-sourceOCT(SS-OCT)を用いて視細胞内節エリプソイド(EZ)のCenfaceview解析を行い,急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)における視細胞障害の評価に関して新たな知見を得たので報告する.症例:対象は,男性C3例,平均年齢はC36歳であった.全例に,急性の視力・視野障害がみられ,視野障害部位に一致して,SS-OCTではCEZの不明瞭化を,多局所網膜電図では応答密度の低下を認めたことからCAZOORと診断した.EZのCenCfaceview解析を行い,視野障害の程度と比較した.EZのCenCfaceview画像の異常低反射域は視野障害部位と一致していた.また,視野障害が改善した症例では,EZの異常低反射域も縮小した.結論:SS-OCTを用いたCEZのCenCfaceview解析は,AZOORにおける視細胞障害の範囲の同定と経過評価に有用であった.SS-OCTのCenfaceview解析によるCEZの評価は,AZOORの新しいCimagingbiomarkerとなる可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatethephotoreceptorellipsoidzone(EZ)ineyeswithacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)usingenfaceswept-sourceopticalcoherencetomography(SS-OCT)C.Caseseries:EnfaceOCTimageswereobtainedusingSS-OCTfrom3malepatients(3eyes)withAZOORandcomparedwithvisual.eld.ndings.Visual.eldexaminationswereperformedbyHumphrey30-2orGoldmannperimetry.Foralleyes,photoreceptordamageCwasCvisualizedCasCaChypore.ectiveCareaConCtheCEZ.CFurthermore,CtheCareaCwasCwellCcorrelatedCwithCtheCvisualC.eldC.ndings.CConclusion:EnCfaceCSS-OCTCmayCbeCusefulCforCvisualizingCtheCpresenceCofCAZOORCandCitsCdiseasefollow-up.TheareaofphotoreceptordamageexaminedonenfaceOCTimagesshowedawellcorrelationwithfunctionalvisual.elddefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(9):1161.1165,C2020〕Keywords:SS-OCT,enfaceview,急性帯状潜在性網膜外層症,視細胞内節エリプソイド,視野障害.SS-OCT,enfaceview,AZOOR,ellipsoidzone,visual.elddefect.Cはじめに急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterreti-nopathy:AZOOR)は急性の視力・視野障害を呈し,網膜外層の機能的・形態的障害がみられる原因不明の疾患である1).多くの症例で検眼的に網膜に異常所見は生じず,多局所網膜電図(multifocalelectroretinogram:mfERG)や光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で,視野異常部位に一致した網膜外層の機能・形態障害を証明することで診断される2).mfERGでは視野障害部位に一致した応答密度の低下がみられるとされており,OCTでは視野障害〔別刷請求先〕馬場悠花里:〒201-8601東京都狛江市和泉本町C4-11-1東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科Reprintrequests:YukariBaba,DepartmentofOphthalmology,JikeiDaisanHospital,4-11-1Izumihonchou,Komae,Tokyo201-8601,JAPANC部位の視細胞内節エリプソイド(ellipsoidzone:EZ)の不明瞭化がみられることが特徴的な所見である3).CEnface画像は連続して撮影した網脈絡膜の断層像(Bスキャン像)から構築された冠状断像であり,網膜面に対して水平の断面像(Cスキャン像)である.検眼鏡的所見と同じ面で捉えられるため,病変の大きさ,位置,形状,分布などの把握が可能である.また,近年,眼球壁の曲率による歪みを平坦化(.attening)させることで,描出したい層に応じたノイズが少ない画像が得られるようになった.今回,swept-sourceOCT(SS-OCT)のCenCfaceview解析を用いてCEZの評価を行い,AZOORにおける視細胞障害の評価に関して新たな知見を得たので報告する.CI症例症例のCSS-OCTのCenfaceview解析は,以下の手順で行われた.C①Bruch膜(Bruchmembrane:BM)を基軸とした.attening機能により,EZを抽出(Bスキャン像).C②マニュアルでCEZに基線を合わせ,高精細なCenface画像を取得(Cスキャン像).〔症例1〕22歳,男性.主訴:左眼視野障害,羞明.現病歴:4日前より左眼中心から外側にかけての視野異常・羞明が出現し,精査目的で東京慈恵会医科大学附属病院を受診した.初診時所見:視力は右眼C0.06(1.5C×.4.25D),左眼C0.06(0.2C×.4.00D),眼圧は右眼16mmHg,左眼C16mmHgであった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなく(左眼眼底:図1a),自発蛍光で,視神経乳頭から黄斑部にかけて過蛍光領域がみられた(図1b).Humphrey視野検査で,左眼Mariotte盲点の拡大と中心感度の低下を認め(図1c),OCTでは視野障害部位に一致してCEZの不明瞭化を(図1d),mfERGでは視野障害部位に一致した応答密度の低下がみられた(図1e).EZのCenCfaceview解析では,視野障害部位に一致した低反射域を認めた(図1f).AZOORと診断し,本人の希望によりステロイドパルス療法を施行した.治療後,左眼矯正視力はC0.2であったが,視野,OCTともに改善がみられ(図2a,b),enCfaceview画像では低反射域の縮小を認めた(図2c).〔症例2〕49歳,男性.主訴:右眼視野障害,羞明.現病歴:右眼中心から外側にかけての視野異常・羞明を主訴に他院を受診し,AZOORと診断された.自覚症状の増悪を認めたため,精査目的で東京慈恵会医科大学附属病院を受図1症例1の初診時の所見(22歳,男性:左眼)Ca:眼底写真.明らかな異常を認めない.Cb:自発蛍光.視神経乳頭から黄斑部にかけて過蛍光領域を認めた.Cc:Humphrey視野検査.Mariotte盲点の拡大と中心感度の低下を認めた.Cd:OCT.EZの不明瞭化(C.)を認めた.Ce:mfERG.視野障害部位に一致した応答密度の低下を認めた.f:EZのCenfaceview画像.視野障害部位に一致した低反射域を認めた.図2症例1のステロイドパルス療法施行後の所見a:Humphrey視野検査.感度低下の改善を認めた.Cb:OCT.EZの不明瞭化の改善を認めた.Cc:EZのCenfaceview画像.異常低反射域の縮小を認めた.図3症例2の初診時の所見(49歳,男性:右眼)Ca:Humphrey視野検査.Mariotte盲点から上下に感度低下を認めた.Cb:OCT.EZの不明瞭化を認めた.Cc:EZのCenCfaceview画像.視野障害部位に一致した低反射域を認めた.診した.初診時所見:視力は右眼C0.04(1.2C×.6.50D(cyl.0.25DAx50°),左眼C0.06(1.2C×.6.50D(cyl.0.50DAx150°),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C10CmmHgであった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなく,Humphrey視野検査で右眼Mariotte盲点から上下に感度低下がみられ(図3a),OCTでは視野障害部位に一致したCEZの欠損を認めた(図3b).自発蛍光では同部位で低蛍光を示し,enfaceview画像では視野障害部位に一致した低反射域がみられた(図3c).〔症例3〕37歳,男性.主訴:右眼視野障害,羞明.現病歴:数日前から右眼中心から外側にかけての視野異常・羞明が出現し,他院受診.視野検査にてCMariotte盲点の拡大を認め,精査目的で東京慈恵医大附属病院を受診した.初診時所見:視力は右眼C0.04(1.5C×.9.50D(cyl.1.25DAx15°),左眼C0.04(1.5C×.9.00D(cyl.1.00DAx160°),眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C11CmmHgであった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなく,Goldmann視野検査でCMari-otte盲点拡大がみられ(図4a),OCTでは視野障害部位に一致したCEZの不明瞭化を認めた(図4b).EnCfacevie画像では視野障害部位に一致した低反射域がみられた(図4c).AZOORと診断し,本人の希望によりステロイドパルス療法を施行した.治療後,視野,OCTともに改善がみられ(図5a,b),enCfaceview画像では低反射域の縮小を認めた(図5c).CII考按本研究は,AZOORの症例においてCEZのCenfaceOCT画像における異常低反射域が視野障害部位と一致すること,視野障害の改善と異常低反射域の改善に相関があることを明らかにした.このことは,SS-OCTを用いたEZのenCfaceview解析がCAZOORの病変範囲,経過観察の評価に有用であることを示し,AZOORの新たなCimagingbiomarkerとなる可能性を示唆した.既報では,多発消失性白点症候群(multipleCevanesentCwhiteCdotsyndrome:MEWDS),Stargardt病,ヒドロキシクロロキン網膜症においてCEZのCenCfaceOCT画像所見と視野障害や網膜機能障害との相関が指摘されており,本解析が病勢の把握に有用であるとされている4.6).しかし,それぞれの疾患は病態が異なることからその解釈には十分な注意を要する.MEWDSは主要な病態が網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の炎症であり,視細胞障害は二図4症例3の初診時所見(37歳,男性:右眼)Ca:Goldmann視野検査.Mariotte盲点拡大を認めた.Cb:OCT.EZの不明瞭化を認めた.Cc:EZのCenfaceview画像.視野障害部位に一致した低反射域を認めた.図5症例3のステロイドパルス療法施行後の所見a:Goldmann視野検査.Mariotte盲点拡大の改善を認めた.Cb:OCT.EZの不明瞭化の改善を認めた.Cc:EZのCenCfaceview画像.異常低反射域の縮小を認めた.次的な変化であることから,蛍光眼底造影検査や眼底自発蛍光などのCRPE障害をより正確に反映する画像機器が病勢把握には有用であると考えられる.Stargardt病は視細胞とRPEの両方に病変の主座があると考えられるが,RPE障害が視細胞障害に先行すると考えられており,EZのCenCfaceview解析は眼底自発蛍光の補助的な役割であると指摘されている.ヒドロキシクロロキン網膜症は,視細胞とCRPEの両方に障害が及ぶが,病変の評価にはCEZのCenCfaceCview解析が優れていることが示されている.Ahnらは,眼底自発蛍光では初期あるいは中期の網膜症の正確な評価が困難であることをあげ,正確かつ簡便な評価が可能なCEZのCenCfaveview解析に一日の長があると述べている6).本研究で対象となったCAZOORは,視細胞障害が本態であることから,EZのCenfaceview解析がとくに有用であると考えられる.さらに,本研究では広角画像を用いたことで,視細胞障害の存在や範囲を一つの画像で捉えることが可能となり,病変範囲の把握や視野との対比のうえで大きな利点であった.網膜変性疾患における視野検査は,視力障害を伴う場合には,その評価が困難である場合が多い.とくにCHumphrey視野計による明度識別視野検査は増分閾値を測定する検査であるため,錐体が中心に障害される疾患,錐体ジストロフィやCAZOORなどでは,信頼性の高いデータが得にくい.mfERGや局所CERGは有用性が高いが,手技が煩雑で,時間を要し,高い専門性が必要となる.新しいCOCTであるスペクトラルドメインCOCTやCSS-OCTはその高い解像度から網膜層別解析が可能であり,網膜変性疾患ではCERGなどの機能検査を行う前に,視細胞障害を高精度に検出できることが知られている.AZOORにおけるCEZの異常所見も,Bスキャンで明確かつ迅速に捉えられるが,本人の自覚症状に即した病変の拡がりを識ることには及ばない.AZOORにおけるCEZのCenCfaceview解析は,明確,迅速,かつ他覚的に病変の拡がりを検出することが可能であり,有用性が高いと考えられる.EZのCenfaceview解析がCAZOORのCimagingbiomarkerとして確立されるにあたっては,いくつかの問題点があげられる.SS-OCTにおけるC.attening機能を使用し,AZOORの病態と関連がないCBruch膜を基軸とすることで,より正確にCEZを抽出することができると考えるが,segmentation時のCEZの選択が手動となることから,主観的要素が介入する可能性は否定できない.EZはある程度の厚みがあることから検者間で抽出画像に違いがみられる可能性もある,また,広く実用化するにあたっては,解析の簡便化に加えて,定量的評価を可能にするソフトの開発も重要となる.以上の問題点が考慮されるが,病態に精通した複数の検者による本解析は,AZOORにおける視細胞障害の新たな指標となる可能性を示唆する.以上より,SS-OCTのCenfaceview解析による視細胞内節エリプソイドの評価は,視細胞障害の範囲と程度を簡便に他覚的に評価可能で,AZOORの新しいCimagingCbiomarkerとなりうると考えられた.文献1)GassJD:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CDondersCLecture:TheNetherlandsOphthalmologicalSociety,Maas-tricht,CHolland,CJuneC19,C1992.CJCClinCNeuroophthalmolC13:79-97,C19932)MrejenCS,CKhanCS,CGallego-PinazoCRCetal:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:aCclassi.cationCbasedConCmulti-modalimaging.JAMAOphthalmolC132:1089-1098,C20143)FujiwaraCT,CImamuraCY,CGiovinazzoCVJCetal:FundusCauto.uorescenceCandCopticalCcoherenceCtomographicC.nd-ingsCinCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CRetinaC30:C1206-1216,C20104)PichiCF.,CSrvivastavaCS,CChexalCSCetal:EnCfaceCopticalCcoherencetomographyandopticalcoherencetomographyangiographyCofCmultipleCevanescentCwhiteCdotCsyndrome.CRetinaC36:S178-S188,C20165)GreensteinCVC,CNunezCJ,CLeeCWCetal:ACcomparisonCofCenfaceopticalcoherencetomographyandfundusauto.u-orescenceinStargardtdisease.InvestOphthalmolVisSciC58:5227-5236,C20176)AhnSJ,JoungJ,LeeBR:Enfaceopticalcoherencetomog-raphyCimagingCofCthephotoreceptorClayersCinChydroxychlo-roquineretinopathy.AmJOphthalmolC199:71-81,C2019***

有水晶体眼の肺炎球菌性角膜炎が眼内に波及した1例

2020年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科37(9):1157.1160,2020c有水晶体眼の肺炎球菌性角膜炎が眼内に波及した1例福澤憲司*1,2吉川大和*1福岡秀記*1永田健児*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2町田病院CACaseofPhakicEyewithPneumococcalKeratitisinWhichEndophthalmitisDevelopedKenjiFukuzawa1,2)C,YamatoYoshikawa1),HidekiFukuoka1),KenjiNagata1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)MachidaHospitalC目的:有水晶体眼にもかかわらず肺炎球菌性角膜炎が眼内に波及したC1例を報告する.症例:77歳の男性.左角膜ヘルペスのため近医通院中であった.2017年C12月中旬に眼痛が出現.角膜病変部の突出を生じ,京都府立医科大学病院に紹介となった.初診時,左眼角膜中央部に角膜穿孔と虹彩嵌頓,穿孔周囲に膿瘍を認めた.細菌性角膜炎を疑いモキシフロキサシンのC1時間毎点眼を開始した.初診後C2日に高度の球結膜浮腫が出現,Bモードで硝子体混濁を認め眼内炎が疑われた.同日角膜移植術と水晶体摘出術を施行し眼内を観察すると,網膜下膿瘍を認め硝子体切除術を施行した.術前に採取した眼脂,術中に採取した硝子体からCStreptococcusCpneumoniaが検出され,初診後C4日よりセフメノキシムの点眼,7日よりアンピシリンの点滴を開始した.速やかに感染は鎮静化したが,視力は光覚弁となった.結論:有水晶体眼でも肺炎球菌性角膜炎が眼内に波及し,重篤な眼内炎へ進展することがあり注意を要する.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCaCphakicCeyeCwithCsevereCpneumococcalCkeratitisCinCwhichCendophthalmitisCdeveloped.Case:A77-year-oldmalewithahistoryofherpetickeratitisinhislefteyewasreferredtoourhospi-talCinCmid-DecemberC2017CafterCexperiencingCpainCandCaCprotrudedCcornealClesion.CUponCexamination,ChisCleftCeyeCshowedcornealperforationandirisprolapse.Wesuspectedbacterialkeratitis,andimmediatelystartedhourlytopi-calCinstillationCofCmoxi.oxacin.CTwo-daysClater,CbulbarCconjunctivalCedemaCdeveloped,CandCultrasoundCindicatedCinfectiousCendophthalmitisCwithCvitreousCopacity.CKeratoplastyCcombinedCwithCcataractCextractionCandCparsCplanaCvitrectomyCwereCperformed.CCulturesCofCaCpreoperativeCeye-dischargeCsampleCandCvitreousCbodyCobtainedCduringCsurgeryCrevealedCStreptococcusCpneumoniae.COnCDayC4,CtopicalCcefmenoximeCwasCstarted,CwithCsystemicCampicillinCaddedonDay7.Endophthalmitisresolved,yetthe.nalvisual-acuityoutcomewaslightperception.Conclusion:CAttentionshouldbepaidtobacterialkeratitis,asendophthalmitiscanrapidlydevelop,eveninphakiceyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(9):1157.1160,C2020〕Keywords:有水晶体眼,細菌性角膜炎,角膜穿孔,眼内炎,肺炎球菌.phakiceye,bacterialkeratitis,cornealperforation,endophthalmitis,Streptococcuspneumonia.Cはじめに感染性眼内炎を原因からみてみると術後眼内炎が多く1),角膜炎からの二次的な発症,さらには有水晶体眼における眼内への波及はまれである.今回,有水晶体眼にもかかわらず肺炎球菌性角膜炎が眼内炎に波及したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.主訴:視力低下,眼痛.現病歴:左眼壊死性角膜炎のため,2014年C2月に京都府立医科大学眼科(以下,当院)にて治療され,その後は近医にて経過観察されていた.左眼にヘルペス性角膜炎が何度か再発したがアシクロビル眼軟膏で改善した.その後はベタメタゾン点眼C2回/日,トロピカミド点眼C2回/日にて経過観察されていたが,2017年C12月CX日に左角膜潰瘍を生じ,角膜ヘルペスの再燃を疑われた.アシクロビル眼軟膏点入C5回/日を追加されるも改善せず,12月CX+2日に眼痛が出現し〔別刷請求先〕福澤憲司:〒780-0935高知市旭町C1-104町田病院Reprintrequests:KenjiFukuzawa,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kouchi780-0935,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(117)C1157図1初診時前眼部写真図3a初診後2日:前眼部写真図4術中所見虹彩裏面に膿瘍を認める.病変部の突出を認め眼脂も増加したため,同日当院に紹介となった.初診時所見:左眼視力は指数弁であった.細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部の穿孔を認めた.虹彩が嵌頓し,穿孔部周囲に膿瘍を認めた(図1).同日撮影された前眼部光断層計検査(CASIA)では穿孔部の角膜構造は破綻し,浅前房となっ図2初診時前眼部光断層計検査図3b初診後2日:超音波検査図5術後所見ていた(図2).初診後経過:前日まで使用されていたベタメタゾン点眼を中止した.角膜擦過物の検鏡でグラム陽性球菌を認め,眼脂培養を行った.細菌性角膜炎を疑いモキシフロキサシンのC1時間ごとの点眼を開始し,ヘルペスとの混合感染も考えられることからアシクロビル眼軟膏点入C5回/日を継続した.初1158あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(118)点眼モキシフロキサシンレボフロキサシンセフメノキシム点滴バンコマイシンセフタジジムアンピシリンStreptococcuspneumonia(術中硝子体)図6治療経過0C1C2C3C4C5C6C7C8C9101112131415C初診後日数診後C1日に感染巣の悪化を認めなかったため,眼脂培養の結果次第で角膜移植を施行する方針とした.しかし,初診後C2日の朝に高度の眼瞼浮腫,眼球結膜浮腫が出現し(図3a),超音波検査で硝子体混濁を認め眼内炎が疑われた(図3b).同日全層角膜移植術と水晶体摘出術,硝子体手術を施行した.手術ではまず角膜表面の病巣部を除去し,粘弾性物質で前房を形成.トレパンで角膜を打ち抜き,剪刀で切り取った.虹彩裏面が広範囲に水晶体前面と癒着し,フィブリンを含む多くの膿瘍を認めたため,これらを可能な限り吸引,除去し,水晶体を.外摘出した(図4).移植片を縫合し,その後硝子体手術に移行した.眼内に大量の膿瘍があり,それらを硝子体とともに切除,網膜の色調は白色であった.バンコマイシン,セフタジジムを灌流しながらの硝子体手術および,バンコマイシン,セフタジジムの硝子体内注射を行った.網膜.離を起こしている部位を認めたためレーザー照射を施行.シリコーンオイルを注入し手術を終了した.術後,レボフロキサシン点眼C6回/日,ベタメタゾン点眼4回/日,アシクロビル眼軟膏C1回/日で局所治療を開始し,バンコマイシン,セフタジジムの点滴を開始した.術前に採取した眼脂培養からCStreptococcusCpneumoniaが術後C2日に検出され,セフメノキシムC6回/日の点眼を追加した.また,術後C4日に,術中に採取した硝子体の培養からもCStreptococ-cuspneumoniaが検出され点滴をアンピシリンに変更した.術後C4日の段階で網膜電図にて左眼の反応はみられなかった.移植片に感染の再燃なく経過したが,眼内にフィブリンによる混濁が残存したため,初回手術後C10日に再び硝子体手術を施行した.その後フィブリンは消失し,感染,炎症の再燃なく経過したため,初診後C19日で退院となった(図5).2019年C7月,術後C5カ月時点で状態は安定しているが,視力は光覚弁となった.治療経過は図6のとおりである.CII考按感染性眼内炎は,原因によって外因性と内因性に分けられる.外因性眼内炎は白内障手術などの眼内手術,穿孔性眼外傷,感染性角膜炎などによって起炎菌が直達的に波及して生じる1).内因性眼内炎は遠隔臓器から起炎菌が血行性に移行して生じる2).内因性眼内炎のリスクファクターとしては,糖尿病,高齢者,臓器膿瘍があげられる.膿瘍では肝膿瘍,肺炎,中枢神経系感染,心内膜炎,腎尿路感染の順に頻度が多い3).本症例は,全身の感染精査も行ったが,明らかな感染巣はなく,内因性眼内炎は否定的であった.術前に採取した眼脂培養および術中に採取した硝子体からCStreptococcuspneumoniaが検出されたことから,感染性角膜炎から二次的に眼内炎に波及した外因性眼内炎であると考えられた.本症例では,角膜ヘルペスの治療としてベタメタゾン点眼が長期に使用されていた.ベタメタゾン点眼により易感染性となり,感染が成立しやすい環境であったと考えられる.また,角膜感染症におけるステロイド投与は感染所見をマスクして感染を悪化させる可能性がある4).原因菌はCStreptococcusCpneumoniaであった.Streptococ-cuspneumoniaは上気道などに存在するグラム陽性双球菌である.莢膜を有し,好中球による貪食に抵抗するため,StreptococcusCpneumoniaによる角膜炎は重篤になりやすく,深部まで進展して穿孔しやすいといわれている5).感染性角膜炎から眼内炎に波及する例は少ないが,角膜穿孔すると眼内炎発生のリスクとなりうる6).感染性角膜炎から穿孔に至った原因としては,StreptococcusCpneumoniaが重篤になりやすいという理由が主であると考える.早期発症の眼内炎では,急激な視力低下,眼痛などの自覚症状を伴う7)が,角膜(119)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1159ヘルペスによる視力低下がもともと存在したこと,角膜知覚低下も生じていたことなども診断が遅れた一因をなしていると推察された.有水晶体眼であったにもかかわらず眼内へ波及した経路としては,瞳孔を含む領域に角膜感染巣が存在していたことを考えると,角膜穿孔に至り虹彩嵌頓したため,角膜感染巣から直接虹彩上皮側を伝い硝子体側へ病原体が侵入した可能性がある.硝子体手術中に虹彩裏面に著明な膿瘍を認めたことからも,このことが推察される.また,Cloquet管を通る経路も考えられる.毛様体で産生された房水は,胎生期の一次硝子体遺残物と考えられるCClo-quet管を通り,黄斑前の硝子体ポケットに流入することが報告されており8),Cloquet管を通り黄斑前の硝子体ポケットに流入する房水の流れに乗って眼内へと波及した可能性がある.以上,筆者らは眼内炎に進展した肺炎球菌性角膜炎を経験した.有水晶体眼でも角膜穿孔から眼内炎に至る可能性があり注意を要する.文献1)DurandML:BacterialCandCfungalCendophthalmitis.CClinCMicrobiolRevC30:597-613,C20172)喜多美穂里:転移性眼内炎.あたらしい眼科C28:351-356,C20113)JacksonCTL,CEyKynCSJ,CGrahamCEMCetal:EndogenousCbacterialendophthalmitis:AC17-yearCprospectiveCseriesCandCreviewCofC267CreportedCcases.CSurvCOpthalmolC48:C403-423,C20034)外園千恵:角膜感染症の治療におけるステロイドの扱い.眼科グラフィック4:297-301,C20155)感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版作成委員会:感染性角膜炎の診断.感染性角膜炎のガイドライン(第C2版).日眼会誌117:472-483,C20136)HenryCR,FlynnHWJr,MillerDetal:Infectiouskerati-tisCprogressingCtoendophthalmitis:aC15-yearCstudyCofCmicrobiology,CassociatedCfactors,CandCclinicalCoutcomes.COphthalmologyC119:2443-2449,C20127)上野千佳子,五味文:硝子体注射後眼内炎.あたらしい眼科28:357-361,C20118)岸章治:黄斑と硝子体.日眼会誌C119:117-143,C2015***1160あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(120)

視路疾患の視野

2020年9月30日 水曜日

《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1153.1156,2020c視路疾患の視野中.村.誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CPatternofVisualFiledLossinVisualPathwayDisordersMakotoNakamuraCKobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryCはじめに網膜に投影された視覚情報は,視神経,視交叉,視索,外側膝状体,視放線を経由して後頭葉一次視覚野に送られる.このいずれの部位に障害が生じても,何らかの視野障害をきたす.そして,上記視覚経路内を神経線維は明確な規則性をもって走行するので,障害部位に応じて特有の視野欠損パターンを呈する.逆にいえば,視野欠損のパターンをみれば,どこに病変が局在するか推測できる(図1)1,2).MRIやCCTをオーダーする際は,その推定部位を検査員に知らせることで,効率的に病変を描出できる.したがって,視覚経路内の神経線維の走行ならびに各々の部位における視路障害が引き起こす視野欠損パターンを理解しておくことは,日常臨床上非常に重要である.CI視路の部位別障害における視野欠損パターン図12)に視路の部位別障害における視野欠損パターンのシェーマを示す.一側の視神経障害は片眼の視野障害を呈する.おもに病因により,中心暗点,弓状暗点,水平半盲などの特徴的変化をきたす(図2).眼内の神経線維は,中心窩を通る垂直経線を境に,耳側由来であれば同側の,鼻側由来であれば対側の外側膝状体に投射する.鼻側由来の線維は,上方象限由来のものは視交叉を比較的まっすぐ進んで対側の視索に進入するのに対し,下方象限由来であれば,視交叉に入ったのち,いったん対側の視神経に弯入してから視索へ向かうという独特の走行をとる.この弯入のことをCWilbrandの膝とよぶ(図1).視交叉近傍の,この特徴的な神経線維の走行のため,視神経が視交叉に移行する(接合する)部分に障害がみられた場合,障害側の視神経障害のため,同側の視野障害(おもに中心暗点)がみられるだけでなく,対側眼由来のCWilbrandの膝も巻き込まれ,対側眼のC1/4耳上側半盲を呈する(図3).この視野障害の組み合わせを接合部暗点ないし連合暗点とよぶ.視交叉ほぼ中央が障害を受ければ,両眼の交叉線維障害のため,両耳側半盲を呈することはよく知られている.視交叉中央を圧迫する疾患として下垂体腺腫が有名である.しかし下垂体と視交叉の位置関係には個人差があり,なかには下垂体が視交叉より前方に位置したり,後方に位置したりする個人もいる.前者の解剖関係をもった個人に下垂体腺腫が生じると,視交叉に接合する左右どちらかの視神経が圧迫されるため,上述の接合部暗点を呈する.逆に後者の解剖関係をもった個人に同疾患が生じると,左右どちらかの視索が圧迫されるため,以下に記載する視索症候群(病変と対側の同名半盲)を呈する(図4,5).視索は同側眼の耳側由来の神経線維と対側眼の鼻側由来の神経線維から構成される.そして,外側膝状体の手前であるため,中を走行する神経線維は長く伸びた網膜神経節細胞の軸索そのものである.この段階においては,視野を伝達する経路も対光反射の入力経路を構成する経路も共通している.こうした解剖学的特性のため,視索障害は同名半盲を呈するのみならず,つぎのような臨床的所見を示す.まず,病変が一定期間(おおむねC1カ月)以上持続した場合,逆行性軸索変性により,対応する網膜神経線維と網膜神経節細胞の脱落が生じる.具体的には同側眼の視神経乳頭の上下領域に流入する神経線維の菲薄化と,対側眼の耳鼻領域に流入する神経線維の菲薄化が生じる(図5).また,対光反射の入力線維は視交叉において交叉する線維のほうが非交叉線維よりも多いため,鼻側半盲を呈する同側眼に比べ,耳側半盲を呈する対側眼の直接反射が強く障害される.結果として,対側眼に相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)を呈する.〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017神戸市中央区楠町C7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野Reprintrequests:MakotoNakamura,M.D.,Ph.D.,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe650-0017,JAPANCWilbrandの膝●①①片眼視野障害Meyer’sloop⑥-a②④⑤③②③連合暗点・接合部暗点両耳側半盲④不調和性同名半盲⑥-b⑤水平性同名性楔状欠損⑦⑥-a上1/4同名半盲⑥-b下1/4同名半盲⑦調和性同名半盲図1視路と障害部位に対応した視野欠損パターンのシェーマ(文献2,p246の図より改変引用)Cab図3接合部暗点のGoldmann視野右眼の耳上側C1/4半盲,左眼の中心暗点を認める.図2左眼視神経炎急性期a:視神経乳頭拡大写真.乳頭腫脹を認める.b:Goldmann動的視野.大きな中心暗点を認める.Cc:眼窩部拡大脂肪抑制冠状断T1強調ガドリニウム造影CMRI,左球後視神経に強い造影効果を認める(.)図4視索障害による左同名半盲を示すGoldmann視野外側膝状体は特有の動脈灌流支配を受けるので,同部位の限局性の病変は,楔状の水平性同名半盲ないし,楔状の水平領域のみ残った同名半盲を生じる.視放線は,外側膝状体の神経細胞の軸索である.その病変は視索障害と同様,対側の同名半盲を呈するが,網膜神経節細胞の軸索ではなく,対光反射線維を含まないため,RAPDは生じない.上方視野に対応する視放線線維は側頭葉のやや前方に回ってから後方へ向かう.これをCMeyerloopとよぶ(図1).したがって,Meyerloopの障害は上側C1/4同名半盲を呈し,他の前部視放線障害では下側C1/4同名半盲を呈する.片側の一次視覚野障害でも同名半盲を呈するが,この際,黄斑部と周辺網膜に対応する,後頭視覚領域の配置に特徴があるため,独特の視野障害を呈することがある.この点は後述する.以下,症例ベースで各部位における視野障害パターンを提示する.CII症例でみる視路疾患の視野障害パターン図2に左眼視神経炎の急性期視神経乳頭写真,Goldmann視野,冠状断脂肪抑制CT1強調造影CMRI像を示す.先に述べたとおり,片眼性の視神経障害では患眼の視野欠損を示す.視神経炎では乳頭黄斑線維束障害が強いため,中心暗点をきたすことが多い.視神経乳頭は腫脹することもしないこともある.近年注目を集めている抗アクアポリンC4抗体による視神経脊髄炎では,中心暗点以外に水平半盲などさまざまな視野変化をきたすこと,視神経乳頭腫脹を伴わないことが多いことが知られている3).図6はエタンブトールによる中毒性視神経症の視野変化の推移である.もともと緑内障に関して前医で経過観察されていたが,ある時期急激に視野変化が進行したため,当科を紹介された.視神経障害は局所障害の場合は,片眼性であるが,中毒性や遺伝性の視神経症の場合は,両眼性となる.近年,非結核性抗酸菌,とくにCMycobacteriumCaviumCcom-plex(MAC)による肺CMAC症が急増しているため,エタンブトールの処方量が増えている.エタンブトールの亜鉛のキレート作用が視神経毒性を発揮するともいわれ,内服期間が長引くと中止後も回復に時間がかかったり,場合によっては改善しないことがあるので注意が必要である.図3は左眼中心暗点と右眼内部イソプターに耳上C1/4半盲を呈するCGoldmann視野である.先に述べたように,このパターンは左視神経が視交叉に接合するあたりの病変により右眼からの鼻下網膜由来の神経線維がCWilbrandの膝となって左視神経に弯入している部分の障害の存在を示すため,MRIならびにCMRangiographyを撮像したところ,図7に示すように巨大な内頸動脈の動脈瘤を認めた.図6は左同名半盲を示している.これだけでは,視索以降のどこに病変が存在しているかはわからない.しかし,このCa右眼左眼b冠状断矢状断図5図4の症例の光干渉断層計RNFLdeviationmap(a)と頭部MRI(b)a:右眼の上下優位の,左眼の耳鼻側優位の神経線維菲薄化を認める.Cb:冠状断(左),矢状断(右)MRIで右後方に屈曲して成長している下垂体腺腫を認める.右眼左眼図6エタンブトール視神経症のHumphrey静的視野の経時的変化図7図4の症例の頭部冠状断MRI(a)とMRangiography(b)a:不規則な造影効果をもつCmass病変が右視神経を鼻側から圧迫している.Cb:巨体動脈瘤を認める.図8右眼の耳側半月を残した右同名半盲のGoldmann視野症例の左眼にCRAPDを認め,図5aに示すような,光干渉断層計所見,すなわち右眼は上下線維有意な神経線維の菲薄化,左眼は耳鼻側有意な神経線維の菲薄化を呈している場合,右の視索障害が推定される.事実CMRIを撮像すると,巨大な下垂体腺腫が右後方に進展し,右視索を圧迫していることが明らかになった(図5b).図8は右同名半盲であるが,右眼の耳側再周辺部のイソプターが温存されている.一次視覚野は黄斑拡大とよばれるほど,後頭葉後極から前方に向かって広い範囲が中心窩周囲のごく狭いエリアに対応する.耳側視野で,両眼視ができる範囲は後頭葉においてその前方が占めており,最周辺耳側視野で単眼しか認知できないエリアは,後頭葉のもっとも前端に対応する.図8の右眼視野のように耳側最周辺部が維持されているということは,この後頭葉一次視覚野の前端が障害から免れていることを意味する(図9).この視野エリアを耳側半月とよび,その存否は病変の局在診断に画像所見よりも威力を発揮する4).図9図8の症例の頭部軸位断CT左後頭葉に低信号領域を認める.おわりに以上述べたように,両眼の視野欠損パターンは視路の神経線維走行にきれいに対応するため,障害の局在診断を行ううえで,画像検査に匹敵するか,それ以上の価値を有していることに留意し,ていねいに所見を読む訓練を行いたいものである.文献1)中村誠:神経眼科疾患の光干渉断層計像.日眼会誌C120:339-351,C20162)関谷義文:神経眼科.視路.眼科診療マニュアル(山本節,久保田伸枝編).南江堂,p246,19983)IshikawaH,KezukaT,ShikishimaKetal:EpidemiologicandclinicalcharacteristicsofopticneuritisinJapan.Oph-thalmologyC126:1385-1398,C20194)LeporeFE:Thepreservedtemporalcrescent:Theclini-calCimplicationsCofCan“endangered”.nding.CNeurologyC57:1918-1921,C2001

網膜疾患と変視

2020年9月30日 水曜日

《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1150.1152,2020c網膜疾患と変視岡本史樹筑波大学医学医療系眼科CMetamorphopsiainRetinalDisordersFumikiOkamotoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukubaはじめに網膜が障害される疾患は多数存在するが,そのなかでも発症頻度が高く手術や硝子体注射などで治療される代表的な疾患がある.黄斑前膜,黄斑円孔,網膜.離,網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫などがそれにあたる.これらはおもに黄斑部が障害される疾患で,視力低下の他に変視や不等像視,色覚異常などさまざまな視機能障害をきたす.その代表が変視=「ものが歪んで見える」である.日常診療では視力低下とともに多く聞かれる愁訴である.変視は片眼で軽度の場合は自覚もされないことが多いが,中等度以上になると日常生活に影響を及ぼす.本稿では変視の自覚や測定法とともに,変視を呈する代表的疾患の特徴,治療成績,網膜形態との関連について概説する.CI変視の自覚と検査法物体の形状が歪んで見えることを変視という.仮説ではあるが,黄斑部の視細胞の配列が乱れることにより変視が起こるとされている.網膜がなんらかの原因で収縮して視細胞配列が比較的均一に密になると,視中枢での空間的対応に乱れが生じ,対象が実際より大きく見える(大視症).逆に網膜が伸展することにより視細胞配列が比較的均一に疎になると小視症を呈する.変視は視細胞配列が密になったり疎になったりするところが混在するために起こるとされている.変視は片眼で,しかも軽度であれば自覚しないことが多い.片眼で中等度以上,あるいは両眼性で変視は自覚され,qualityoflife(QOL)が障害される.変視の測定には以前よりCAmslerchartが一般的に用いられている.Amslerchartは数種類の表で構成されるが,基本的なものはC5Cmm幅の格子状の線が書かれた一辺がC10Ccmの正方形である.そしてC30Ccmの距離で患者に中心を固視AmslerchartM-CHARTS図1AmslerchartとM.CHARTSの指標させ,線が歪んだり波打ったり見えない部分を実際に記入してもらう.この検査は変視の範囲や程度が視覚的にわかり,現在もっとも広く普及している検査法である.しかし,定量評価ができず,検査時間がかかる.定量評価するためにはM-CHARTSを用いる.M-CHARTSは視角C0.2o.2.0oまでC0.1o刻みに間隔を変えたC19種の点線から構成される.30Ccmの距離で患者に中心を固視させ,間隔の細かい点線から間隔の広い点線へ順次呈示し,歪みが自覚されなくなったときの点線の視角をもって変視量とする.縦方向と横方向でそれぞれ検査を行うことができる(図1).Amslerchartはある程度広い範囲の変視を検出することに優れており,逆にCM-CHARTSは固視点近傍の微細な変視を簡便に定量評価するのに優れているため,両検査を使い分けることが必要である.CII黄斑前膜と変視黄斑前膜はその約C8割が変視を訴え,変視の程度は種々の網膜疾患のなかでも強い疾患である.黄斑前膜患者のCQOLは健常者より低下しているが,その原因は視力ではなく変視に依存することがわかっている1)(図2).網膜の微細構造を検討すると,黄斑前膜患者では網膜内層(内顆粒層)の厚さ〔別刷請求先〕岡本史樹:〒305-8575茨城県つくば市天王台C1-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:FumikiOkamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukuba,1-1-1Tennodai,Tsukuba,Ibaraki305-8575,JAPANC(110)C11500910-1810/20/\100/頁/JCOPY術前術後VD=(0.8)変視=1.4QOL=71点VD=(0.9)変視=0.2QOL=88点図2黄斑前膜手術でQOLが改善した症例術前は視力C0.8,変視はCM-CHARTSでC1.4と重度の変視を認め,QOLのアンケートによる点数はC71点であった.術後,視力はC0.9とあまり変わらないが,変視はC0.2まで著明に改善し,QOLの点数もC88点と改善した.と変視量が関連することがわかり,内層障害によって変視が惹起される可能性が考えられている2).硝子体手術により前膜を除去することで視力,変視は改善するが,変視を完全に消失させることはむずかしい.前膜を.離除去しても視細胞を正常な解剖学的位置に戻すことは不可能であり,ある程度の変視が残存することは避けられない.多数例での検討では,術前変視がCM-CHARTSでC1.0から術後C1年でC0.3.0.4までは改善するが,0にはならない3).また,術前の網膜内層が厚いほど,術後の変視が強く残ることもわかってきた4)したがって手術の際には,視力は向上し,変視も改善するが,変視は完全に消失しないということを患者に説明することが重要である.CIII黄斑円孔と変視黄斑円孔での変視は見ようとする対象が中心に引き込まれるように歪んで見える,求心性の変視となる.黄斑円孔は中心窩網膜が遠心性に偏位した病態である.偏位した中心窩で像を捉えようとすると,円孔周囲の視細胞で受容された像は本来は中心にあるはずの視細胞であるため,視覚皮質では中心として認識されてしまう.そのために求心性の変視が起こるとされている.黄斑円孔も前膜患者と同じく手術により視力や変視を改善させることができるが,変視はC0にはならない.M-CHARTSで術前C0.8の変視が術後C6カ月で約半分の0.4まで改善することがわかっている.また,術前のC.uidcu.が大きいほど,術後の変視が強い5)(図3).CIV網膜.離と変視網膜.離術後の患者でも変視をきたす.術前に黄斑部.離M-CHARTSでFluidcu.の術後変視大0.9°小0.15°図3黄斑円孔と変視黄斑円孔患者では術前のC.uidcu.が大きいほど術後残存変視量が大きい.上の画像ではC.uidcu.が大きく,術後変視はC0.9であるが,下の画像では扁平な黄斑円孔であり,術後の変視も少ない.となっている患者に変視が出現することが多いが,術前黄斑未.離の患者でも術後の黄斑前膜や黄斑浮腫などで変視をきたすことがある.網膜.離術後の約C4割に変視を認める6).変視を呈していた症例の約C4割はCOCTにて何らかの黄斑部異常(黄斑浮腫,黄斑前膜,黄斑円孔,ellipsoidzoneの欠損)を認めたが,残りのC6割はCOCTにて網膜構造に異常がなかった(図4)1).また,術前黄斑未.離でも術中に黄斑部.離を生じると術後に変視を生じる.一度黄斑部網膜が.離すると変視は長期に残存するため,黄斑部未.離の裂孔原性網膜.離患者では黄斑部が.離する前に手術を行い,術中はなるだけ黄斑部.離を起こさないような手術を心がけることが必要である.(111)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1151図4網膜.離術後に変視を呈した患者のOCT形態での分類29例のうち,黄斑部に異常があったものがC12例,残りのC17例の網膜形態に異常はなかった.(文献C6より改変)図5網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)患者における抗VEGF薬治療と変視69歳,女性で罹病期間C4カ月のCBRVOを認め,術前視力はC0.15,変視はCM-CHARTSでC1.0であった.複数回の硝子体注射にて黄斑浮腫は改善し,視力もC1.0まで改善したが,変視はC1.2と以前より悪化している.CV網膜静脈分枝閉塞症と変視黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocculusion:BRVO)の患者はC9割以上が変視を呈し,垂直方向の変視が水平方向よりも大きい.これは,BRVOの病変が閉塞血管側の上下どちらかに偏在することが多いためと考えられる.また,変視の程度は中心窩網膜厚や網膜内層の.胞に影響を受けるといわれている7).現在,BRVOの治療の第一選択は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬であるが,治療を行い視力が改善しても,少なくともC6カ月は変視が改善しない8)(図5).BRVOで治療を行う患者には,視力は改善する可能性が高いが変視はなくならないことを説明したほうがよいと考えられる.おわりに変視の定義や検査法,そして代表的な網膜疾患と変視とのかかわりについて概説した.疾患によって変視の見え方や治療経過もさまざまであるし,変視に関連する網膜形態も異なる.これらのことを念頭において日常診療にあたれば,患者の変視に関する不定愁訴に対してしっかりとした説明することができ,患者の不安を取り除くことができると考える.文献1)OkamotoF,OkamotoY,HiraokaTetal:E.ectofvitrec-tomyCforCepiretinalCmembraneConCvisualCfunctionCandCvision-relatedqualityoflife.AmJOphthalmolC147:869-874,C20092)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:AssociationsCbetweenCmetamorphopsiaCandCfovealCmicrostructureCinCpatientswithepiretinalmembrane.InvestOphthalmolVisSciC53:6770-6775,C20123)KinoshitaT,ImaizumiH,OkushibaUetal:TimecourseofCchangesCinCmetamorphopsia,CvisualCacuity,CandCOCTCparametersaftersuccessfulepiretinalmembranesurgery.InvestOphthalmolVisSciC53:3592-3597,C20124)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:InnerCnuclearClayerthicknessasaprognosticfactorformetamorphopsiaafterCepiretinalCmembraneCsurgery.CRetinaC35:2107-2114,C20155)SugiuraCY,COkamotoCF,COkamotoCYCetal:RelationshipCbetweenCmetamorphopsiaCandCintraretinalCcystsCwithinCtheC.uidCcu.CafterCsurgeryCforCidiopathicCmacularChole.CRetinaC37:70-75,C20176)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:MetamorphopC-siaandopticalcoherencetomography.ndingsafterrheg-matogenousCretinalCdetachmentCsurgery.CAmCJCOphthal-molC157:214-220,C20147)MurakamiCT,COkamotoCF,CIidaCMCetal:RelationshipCbetweenCmetamorphopsiaCandCfovealCmicrostructureCinCpatientsCwithCbranchCretinalCveinCocclusionCandCcystoidCmacularedema.GraefesArchClinExpOphthalmolC254:C2191-2196,C20168)SugiuraY,OkamotoF,MorikawaSetal:TimecourseofchangesCinCmetamorphopsiaCfollowingCintravitrealCranibi-zumabCinjectionCforCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetinaC38:1581-1587,C2018(112)

自覚的応答困難な症例に対する視野測定

2020年9月30日 水曜日

《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1145.1149,2020c自覚的応答困難な症例に対する視野測定藤原篤之川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CVisualFieldMeasurementforCaseswithDi.cultofSubjectiveResponseAtsushiFujiwaraCDepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareCはじめに1960年代にCWieselらにより動物モデルを使用した視性刺激遮断の実験的研究1,2)が行われ,弱視の病態生理と,その発生に対する危険期間の解明がなされてきた.そしてヒトの弱視発生に対する危険期間,未熟視覚の可塑性,感受性期間が明らかになり,視覚発達期における早期視機能評価の重要性が唱えられるようになった.視機能を代表する視力は,数多くの著名な報告に基づき正常な視的環境下にあればC3歳頃にはC1.0に達することが明らかにされている3).視力で着目すべきことは,視運動性眼振(optokineticCnystagmus)4),視覚誘発電位(visualCevokedpotential)5),そしてCpreferen-tiallooking法6)を代表とする自覚的応答困難な乳幼児を対象とした測定法が確立をしており臨床普及に至っていることである.その一方で視野については,Goldmann視野計による動的視野計測法,そしてCHumphrey視野計やCOctopus視野計などによる静的視野計測法が臨床で広く普及をしているが,自覚的応答困難な症例を対象とした手法は確立されていないのが現状である.現在筆者は,自覚的応答が困難な症例,とくに乳幼児を対象とした視野測定に取り組んでいるので報告を行う.CI早期視野評価を行う目的一般的な視野計による早期視野測定の試みとして,動的視野計測ではC4歳からの報告があり7,8)5歳以上の健常小児では視野の年齢的発達はないこと,そして静的視野でもC4歳からの報告があり9)8歳以上の健常小児において成人同等の閾値と検査信頼性を示すことが報告されている.臨床においても,測定可能,不可能にかかわらずC4歳前後から視野検査を試行することが一般的と考える.以上より一般的な視野計での測定は,信頼性の問題は伴うがC4,5歳から可能と考えられる.そして,視野検査は自覚的応答が可能な年齢になってから施行するというのが一つの見解とされている.一般的な測定対象年齢の考え方と比較をして,より早期から視野評価を行う目的としては,山本10)がつぎのC2項目をあげている.1つめは,ヒトの視機能(視野)の正常発達を明らかにすること,2つめは,明らかにされた正常発達を基準に,乳幼児期に視野欠損を正確に評価可能になれば価値ある診断情報となるばかりではなく,患児の医学的,教育的な管理に資することになる.CIIこれまでに報告された乳幼児視野測定法過去には,各報告者が独自に開発を行った視野測定装置を用いて乳幼児を対象とした早期視野評価が試みられてきた.3つの代表的な報告を基に,装置の特徴と測定法を中心に解説を行う.1つめはCHarrisらによって報告11)された装置である.評価対象は生後C1.6日の健常乳児である.装置は半径C39Ccmの艶消し黒色をした半円筒の形状をしている.装置内部には移動可能な光刺激用の電球がC2個装着されている.2個の電球のうちC1個は乳児の中心固視を促すために装着されたものである.測定はまずC17°傾斜をさせた台に対象児を仰向けに寝かせる.その後,検者は眼前C19Ccmの距離に装置を保持する.装置の準備ができてから,検者は周辺部から求心性に電球を移動させ,周辺視標に対する固視移動を観察する.そして,検者は装置を手動で回転させて各方向での固視移動を目視で判定し定量化を行う.2つめはCSchwartzらによって報告12)された装置である.評価対象は生後C8週以下の健常新生児と乳児である.装置は2本の弓状アーム(半径C36Ccm,幅C3Ccm)からなり,double-arcperimeterと名づけられたものである.測定はまず対象〔別刷請求先〕藤原篤之:〒701-0193岡山県倉敷市松島C288川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科Reprintrequests:AtsushiFujiwara,C.O.,Ph.D.,DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,Kurashikicity,Okayama701-0193,JAPANC図1筆者が過去に製作をした乳幼児視野測定装置直径C100Ccmの透明半球ドームからなる.装置内部にはCLEDが装着されており,パーソナルコンピュータ制御により任意箇所のLEDを点滅可能である.児の眼前C36CcmにCdouble-arcperimeterの中心固視標が位置するよう対象児を抱き抱える.その後,検者は周辺部から白色視標を求心性に移動させて,周辺視標に対する反応を評価する.そして,検者はCdouble-arcperimeterのアームを手動で回転させて各方向での固視移動を目視で判定し定量化を行う.Schwartzらは,周辺視標に対する反応を,視野内に光刺激が呈示されると反射的にそちらの方向に体を向けたり視線を移動させたりする定位反射(orientingre.ex)13)であると述べている.Double-arcperimeterはのちに白色視標からCLED視標に高機能化(double-arcCLEDperimeter)されている14,15).そして,LED視標の大きさや点滅頻度を変化させた追加検討が行われている16,17).3つめは筆者が過去に報告18)した装置である.筆者らはSchwartzらの報告12)に基づき,定位反射を原理とした装置を報告した.評価対象は生後C5カ月からC5歳以下の乳幼児である.装置は直径C100Ccmの透明半球ドームからなる(図1).装置内部にはC8方向,計C72カ所にCLEDが装着されており,パーソナルコンピュータ制御により任意箇所のCLEDを点滅可能な仕様となっている(図1).検者は装置背後に設置されたデジタルビデオカメラと接続をされた観察用モニターにより対象児の様子を観察し,そして動画記録を行うことができる.測定はまず対象児の眼前C50Ccmに中央モニターが位置するよう対象児を抱き抱える.装置の準備ができたら,検者は中央モニターから音声付き動画を流し,装置中央に対象児の注意を促す.その後,周辺CLED視標を点滅させ,各箇所への定位反射を観察用モニターを通じて観察し,定量化を行う.以上の報告に共通していることは,見える範囲の広がりの評価を目的としていることであり,その測定原理は周辺視標に対する乳幼児の反応を観察し定量化を行うもので,一般的な「一点をみつめて見える範囲」という視野測定の原理とは異なる.CIII見える範囲の正常発達先述したように過去には,各報告者が独自に装置を開発し報告を行っている.現在までに臨床への普及に至っている装置はないものの,独自に開発した装置を用いて正常発達の検討がなされている.代表的な報告をもとに,新生児から幼児までの見える範囲の発達について解説を行う.C1.生後8週以下の新生児から乳児期における見える範囲の広がりSchwartzら12)は,独自の装置を用いて生後C8週以下を対象に両眼解放下における見える範囲の広がりを検討している.それによれば,生後C1日において水平垂直視野の非対象性が検出された.そして,見える範囲の広がりは,成人を100%として換算した結果,生後C1日でC42.2%,生後C4週で25.0%,そして生後C8週でC30.5%の広がりを示し,発育に伴う拡大は示さず,新生児よりも乳児で狭小化をしていた.この発育に反した狭小化の要因としては,装置中央に注意を促すための中心固視標の影響を指摘しており,注意(attention)の精度が生後C4週頃より向上することが根拠として示されている12,19).C2.3.5カ月,7カ月児における見える範囲の広がりMohanら15)は,独自の装置を用いてC3.5カ月,7カ月児を対象に単眼視下における見える範囲の広がりを検討している.それによれば,見える範囲の広がりは,成人をC100%として換算した結果,3.5カ月でC32.4%,7カ月でC70.3%の広がりを示し,7カ月で鼻側の広がりと比較をして耳側で有意に広い広がりを示した.また,成人では影響のない二つの移動速度で視標を呈示した結果,視標の移動速度が早いと有意に見える範囲の広がりは狭小化を示し,その傾向はC3.5カ月と比較をしてC7カ月で有意であった.C3.5カ月から5歳10カ月児における見える範囲の広がり筆者ら18)は定位反射を原理とする独自の装置を用いて,5カ月からC5歳C10カ月児を対象に両眼解放下における見える範囲の広がりを報告した.この報告18)では,過去の報告と比較して,同一条件下かつ同一装置にてもっとも幅広い年代を対象に評価を行っている.見える範囲の広がりは,他の報告者と比較して成長は緩徐であったが,3歳代で成人域に近づき,5歳代では安定した応答のもとで成人同等の広がりを示した.以上,過去の報告を参考に大まかにまとめると,見える範囲の発達は,出生直後で成人の約C50%の広がりを示し,その後,対象児の視標に対する応答精度が向上し,3歳で成人の広がりに近づくと考えられる.さらに,網膜は中心窩付近よりも先に周辺網膜の解剖学的,神経学的構造が成熟に達することが報告20)されており,視野は中心視力よりも早期に発達している可能性があると考える.CIV現在検討中の乳幼児視野測定法筆者ら18)の過去の検討では,対象児の注意をC1カ所に集中させ,その瞬間に周辺視標を呈示するという手法に限界があり,測定可能率が低下する一要因となっていた.そのため現在,一点を注視させる必要のない,周辺視標をランダムに呈示して視線移動量から広がりを評価する視線視野測定を試みている.乳幼児を対象とした視線視野測定のために用いている機器は,ヘッドマウント型視野計アイモCR(クリュートメディカルシステムズ)である.アイモは両眼解放下での測定が可能で,アイトラッキング機能が備わった視野計である21).視線視野測定のために,アイモのアイトラッキング機能を応用し,視線移動の定量化を行うための独自プログラムを構築し評価を行っている.C1.視線移動定量化のための測定プロトコル筆者が視線移動定量化のために用いている測定プロトコルの例を示す(図2).視標配置は中心C0°を基準にC7°外方の座標軸に位置するC5カ所とした.各視標はC2秒間呈示され,その後C0.1秒間隔でつぎの視標に移動をさせ,各視標への追従視線を記録する.測定は両眼解放下にて片眼ずつ測定を行い,約C30秒で測定が完了する.なお,視標の配置,呈示の順番,そして呈示法(大きさ,輝度,呈示時間,移行間隔時間)は任意に変更可能である.視標配置がC7°と限定的である理由は,アイモの光学的特性に基づくアイトラッキング精度の限界であることが要因である.現仕様で評価可能な最大角度は,水平垂直方向が約C14.0°,斜め方向が約C19.8°である.C2.アイモによる視線視野測定で得られる評価指標アイモによる視線視野測定ではC4つの評価指標を得ることができる(図3).1つめの評価指標は視線位置である(図3a).視線位置では周辺視標を追従しているかどうか,さらには視線が定まっているかどうかを定点群で確認することが可能である.2つめの評価視標は視線移動量である(図3b).視線移動量は視野の広がりに相当する,各方向への定量的情報を解析することが可能である.3つめの評価指標は時系列変化である(図3c).時系列変化では呈示視標に対して視線移動するまでの反応時間の定量的情報を解析することが可能である.そして,4つめの評価指標は画像記録である(図3d).画像記録では視線移動を静止画で記録し客観的判断材図2視線移動定量化のための視標呈示位置(イメージ)視標配置は中心C0°を基準にC7°外方の座標軸に位置するC5カ所である.各視標はC2秒間呈示され,その後C0.1秒間隔でつぎの視標に移動をさせ,各視標への追従視線を記録する.料とすることが可能である.アイモによる視線視野測定では,四つの評価指標を組み合わせて評価を行うことで,自覚的応答が困難な症例に対する評価結果の信頼性を高めることが可能と考えている.C3.乳幼児への視線視野測定の試み現在までに,19名を対象にアイモによる視線視野測定を試みており,測定可能率はC73.7%である(表1).図4は2歳C6カ月(健常男児)の視線視野測定結果(左眼)である.視線位置は安定感の欠如が確認されるが,各方向への視線追従を確認することができる(図4).また,視野の広がりに相当する視線移動量は,波形がもっとも顕著に突出した上鼻側は約C11°であった.このように,アイモによる視線視野測定は幼児において評価可能であった.C4.乳幼児への視線視野測定における今後の課題アイモを用いた視線視野測定は,定量的かつ客観的な評価指標に基づき,自覚的応答が困難な症例に対する評価結果の信頼性を高めることが可能と考えている.しかし,アイモはヘッドマウント型であり装置への恐怖や不安感に伴う強い抵抗が乳幼児の測定困難の一因となるという問題があった(図5).そのため,乳幼児への検査中ストレスを軽減させ,より日常に近い条件下での測定が必要である.今後はディスプレイ型の装置などを活用して乳幼児の視線視野測定に応用をしたいと考えている.おわりに早期視野評価の結果は価値ある診断情報となるばかりではなく,患児の医学的,教育的な管理上からも価値の高い臨床情報となる.今後,早期視野評価を行うための測定手技の確立,そして正確な正常値を明らかにし早期臨床普及に努めたいと考えている.abcd図3視線視野測定装置で得られる四つの評価指標7歳,健常女児の視線視野測定結果を示す.Ca:視線位置.視線位置と周辺視標への視線安定性の評価を行う.Cb:視線移動量.各方向への視線移動量の定量的評価を行う.Cc:時系列変化.視標への反応時間の評価を行う.Cd:画像記録.視線移動の様子を画像で記録する.図4乳幼児視線視野測定の1例2歳C6カ月,健常男児の視線視野測定結果(左眼)を示す.視線にばらつきがみられるが各方向への視標追従を確認できた.視線移動量の定量化が可能で,最大移動量は上鼻側C10.6°を示した.表1ヘッドマウント型視野計アイモによる視線視野測定可能率年代(歳代)年齢人数(名)測定可能率(%)C22歳5カ月.2歳11カ月C650.0(C3/6名)C33歳1カ月.3歳11カ月C771.4(C5/7名)C44歳2カ月.4歳9カ月C6100(C6/6名)全対象2歳5カ月.4歳9カ月C1973.7(C14/19名)図5測定不可能であった2歳5カ月(女児)の測定風景ヘッドマウント型装置への恐怖や不安感に伴う抵抗が測定困難の一因となることがある.乳幼児への検査中ストレスを軽減し日常に近い測定環境の構築が今後の課題と考える.文献1)WieselCTN,CHubelDH:E.ectsCofCvisualCdeprivationConCmorphologyCandCphysiologyCofCcellsCinCtheCcatsClateralCgeniculatebody.JNeurophysiolC26:978-993,C19632)HubelCDH,CWieselTN:ReceptiveC.eldsCofCcellsCinCstriateCcortexCofCveryCyoung,CvisuallyCinexperiencedCkittens.CJNeurophysiolC26:994-1002,C19633)粟屋忍:乳幼児の視力発達と弱視.眼臨C79:1821-1826,C19854)GormanCJJ,CCoganCDG,CGellisSS:AnCapparatusCforCgrad-ingthevisualacuityofinfantsonthebasisofopticokinet-icnystagmus.PediatricsC19:1088-1092,C19575)SokolS,DobsonV:Patternreversalvisuallyevokedpoten-tialsCininfants.InvestOphthalmolC15:58-62,C19766)FantzRL:Patternvisioninnewborninfants.ScienceC19:C296-297,C19637)QuinnCGE,CFeaCAM,CMinguiniN:VisualC.eldsCinC4-toC10-year-oldCchildrenCusingCGoldmannCandCdouble-arcCperimeters.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC28:314-319,C19918)友永正昭:小児の量的視野について.日眼会誌C28:482-491,C19749)AkarCY,CYilmazCA,CYucelI:AssessmentCofCanCe.ectiveCvisual.eldtestingstrategyforanormalpediatricpopula-tion.OphthalmologicaC222:329-333,C200810)山本節:小児の視野.眼科CMOOK38:166-171,C198911)HarrisP,MacFarlaneA:Thegrowthofthee.ectivevisu-alC.eldCfromCbirthCtoCsevenCweeks.CJCExpCChildCPsycholC18:340-348,C197412)SchwartzCTL,CDobsonCV,CSandstromCDJCetal:KineticCperimetryCassessmentCofCbinocularCvisualC.eldCshapeCandCsizeinyounginfants.VisionResC27:2163-2175,C198713)SokolovEN:HigherCnervousfunctions;theCorientingCre.ex.AnnuRevPhysiolC25:545-580,C196314)DobsonV,BrownAM,HarveyEMetal:VisualC.eldextentinchildren3.5-30monthsofagetestedwithadouble-arcLEDperimeter.VisionResC38:2743-2760,C199815)MohanCKM,CDobsonCV,CHarveyCEMCetal:DoesCrateCofCstimulusCpresentationCa.ectCmeasuredCvisualC.eldCextentCininfantsandtoddlers?OptomVisSciC76:234-240,C199916)DobsonCV,CBaldwinCMB,CMohanCKMCetal:TheCin.uenceCofstimulussizeonmeasuredvisual.eldextentininfants.OptomVisSciC80:698-702,C200317)DelaneyCSM,CDobsonCV,CMohanKM:MeasuredCvisualC.eldextentvarieswithperipheralstimulus.ickerrateinveryyoungchildren.OptomVisSciC82:800-806,C200618)藤原篤之,田淵昭雄:乳幼児視野測定装置の開発.神経眼科C26:145-154,C200919)DelaneyCSM,CDobsonCV,CMohanKM:MeasuredCvisualC.eldextentvarieswithperipheralstimulus.ickerrateinveryyoungchildren.OptomVisSciC82:800-806,C200520)HendricksonCA,CDruckerD:TheCdevelopmentCofCparafo-vealCandCmid-peripheralChumanCretina.CBehavCBrainCResC49:21-31,C199221)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C2016C***