《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1145.1149,2020c自覚的応答困難な症例に対する視野測定藤原篤之川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CVisualFieldMeasurementforCaseswithDi.cultofSubjectiveResponseAtsushiFujiwaraCDepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareCはじめに1960年代にCWieselらにより動物モデルを使用した視性刺激遮断の実験的研究1,2)が行われ,弱視の病態生理と,その発生に対する危険期間の解明がなされてきた.そしてヒトの弱視発生に対する危険期間,未熟視覚の可塑性,感受性期間が明らかになり,視覚発達期における早期視機能評価の重要性が唱えられるようになった.視機能を代表する視力は,数多くの著名な報告に基づき正常な視的環境下にあればC3歳頃にはC1.0に達することが明らかにされている3).視力で着目すべきことは,視運動性眼振(optokineticCnystagmus)4),視覚誘発電位(visualCevokedpotential)5),そしてCpreferen-tiallooking法6)を代表とする自覚的応答困難な乳幼児を対象とした測定法が確立をしており臨床普及に至っていることである.その一方で視野については,Goldmann視野計による動的視野計測法,そしてCHumphrey視野計やCOctopus視野計などによる静的視野計測法が臨床で広く普及をしているが,自覚的応答困難な症例を対象とした手法は確立されていないのが現状である.現在筆者は,自覚的応答が困難な症例,とくに乳幼児を対象とした視野測定に取り組んでいるので報告を行う.CI早期視野評価を行う目的一般的な視野計による早期視野測定の試みとして,動的視野計測ではC4歳からの報告があり7,8)5歳以上の健常小児では視野の年齢的発達はないこと,そして静的視野でもC4歳からの報告があり9)8歳以上の健常小児において成人同等の閾値と検査信頼性を示すことが報告されている.臨床においても,測定可能,不可能にかかわらずC4歳前後から視野検査を試行することが一般的と考える.以上より一般的な視野計での測定は,信頼性の問題は伴うがC4,5歳から可能と考えられる.そして,視野検査は自覚的応答が可能な年齢になってから施行するというのが一つの見解とされている.一般的な測定対象年齢の考え方と比較をして,より早期から視野評価を行う目的としては,山本10)がつぎのC2項目をあげている.1つめは,ヒトの視機能(視野)の正常発達を明らかにすること,2つめは,明らかにされた正常発達を基準に,乳幼児期に視野欠損を正確に評価可能になれば価値ある診断情報となるばかりではなく,患児の医学的,教育的な管理に資することになる.CIIこれまでに報告された乳幼児視野測定法過去には,各報告者が独自に開発を行った視野測定装置を用いて乳幼児を対象とした早期視野評価が試みられてきた.3つの代表的な報告を基に,装置の特徴と測定法を中心に解説を行う.1つめはCHarrisらによって報告11)された装置である.評価対象は生後C1.6日の健常乳児である.装置は半径C39Ccmの艶消し黒色をした半円筒の形状をしている.装置内部には移動可能な光刺激用の電球がC2個装着されている.2個の電球のうちC1個は乳児の中心固視を促すために装着されたものである.測定はまずC17°傾斜をさせた台に対象児を仰向けに寝かせる.その後,検者は眼前C19Ccmの距離に装置を保持する.装置の準備ができてから,検者は周辺部から求心性に電球を移動させ,周辺視標に対する固視移動を観察する.そして,検者は装置を手動で回転させて各方向での固視移動を目視で判定し定量化を行う.2つめはCSchwartzらによって報告12)された装置である.評価対象は生後C8週以下の健常新生児と乳児である.装置は2本の弓状アーム(半径C36Ccm,幅C3Ccm)からなり,double-arcperimeterと名づけられたものである.測定はまず対象〔別刷請求先〕藤原篤之:〒701-0193岡山県倉敷市松島C288川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科Reprintrequests:AtsushiFujiwara,C.O.,Ph.D.,DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,Kurashikicity,Okayama701-0193,JAPANC図1筆者が過去に製作をした乳幼児視野測定装置直径C100Ccmの透明半球ドームからなる.装置内部にはCLEDが装着されており,パーソナルコンピュータ制御により任意箇所のLEDを点滅可能である.児の眼前C36CcmにCdouble-arcperimeterの中心固視標が位置するよう対象児を抱き抱える.その後,検者は周辺部から白色視標を求心性に移動させて,周辺視標に対する反応を評価する.そして,検者はCdouble-arcperimeterのアームを手動で回転させて各方向での固視移動を目視で判定し定量化を行う.Schwartzらは,周辺視標に対する反応を,視野内に光刺激が呈示されると反射的にそちらの方向に体を向けたり視線を移動させたりする定位反射(orientingre.ex)13)であると述べている.Double-arcperimeterはのちに白色視標からCLED視標に高機能化(double-arcCLEDperimeter)されている14,15).そして,LED視標の大きさや点滅頻度を変化させた追加検討が行われている16,17).3つめは筆者が過去に報告18)した装置である.筆者らはSchwartzらの報告12)に基づき,定位反射を原理とした装置を報告した.評価対象は生後C5カ月からC5歳以下の乳幼児である.装置は直径C100Ccmの透明半球ドームからなる(図1).装置内部にはC8方向,計C72カ所にCLEDが装着されており,パーソナルコンピュータ制御により任意箇所のCLEDを点滅可能な仕様となっている(図1).検者は装置背後に設置されたデジタルビデオカメラと接続をされた観察用モニターにより対象児の様子を観察し,そして動画記録を行うことができる.測定はまず対象児の眼前C50Ccmに中央モニターが位置するよう対象児を抱き抱える.装置の準備ができたら,検者は中央モニターから音声付き動画を流し,装置中央に対象児の注意を促す.その後,周辺CLED視標を点滅させ,各箇所への定位反射を観察用モニターを通じて観察し,定量化を行う.以上の報告に共通していることは,見える範囲の広がりの評価を目的としていることであり,その測定原理は周辺視標に対する乳幼児の反応を観察し定量化を行うもので,一般的な「一点をみつめて見える範囲」という視野測定の原理とは異なる.CIII見える範囲の正常発達先述したように過去には,各報告者が独自に装置を開発し報告を行っている.現在までに臨床への普及に至っている装置はないものの,独自に開発した装置を用いて正常発達の検討がなされている.代表的な報告をもとに,新生児から幼児までの見える範囲の発達について解説を行う.C1.生後8週以下の新生児から乳児期における見える範囲の広がりSchwartzら12)は,独自の装置を用いて生後C8週以下を対象に両眼解放下における見える範囲の広がりを検討している.それによれば,生後C1日において水平垂直視野の非対象性が検出された.そして,見える範囲の広がりは,成人を100%として換算した結果,生後C1日でC42.2%,生後C4週で25.0%,そして生後C8週でC30.5%の広がりを示し,発育に伴う拡大は示さず,新生児よりも乳児で狭小化をしていた.この発育に反した狭小化の要因としては,装置中央に注意を促すための中心固視標の影響を指摘しており,注意(attention)の精度が生後C4週頃より向上することが根拠として示されている12,19).C2.3.5カ月,7カ月児における見える範囲の広がりMohanら15)は,独自の装置を用いてC3.5カ月,7カ月児を対象に単眼視下における見える範囲の広がりを検討している.それによれば,見える範囲の広がりは,成人をC100%として換算した結果,3.5カ月でC32.4%,7カ月でC70.3%の広がりを示し,7カ月で鼻側の広がりと比較をして耳側で有意に広い広がりを示した.また,成人では影響のない二つの移動速度で視標を呈示した結果,視標の移動速度が早いと有意に見える範囲の広がりは狭小化を示し,その傾向はC3.5カ月と比較をしてC7カ月で有意であった.C3.5カ月から5歳10カ月児における見える範囲の広がり筆者ら18)は定位反射を原理とする独自の装置を用いて,5カ月からC5歳C10カ月児を対象に両眼解放下における見える範囲の広がりを報告した.この報告18)では,過去の報告と比較して,同一条件下かつ同一装置にてもっとも幅広い年代を対象に評価を行っている.見える範囲の広がりは,他の報告者と比較して成長は緩徐であったが,3歳代で成人域に近づき,5歳代では安定した応答のもとで成人同等の広がりを示した.以上,過去の報告を参考に大まかにまとめると,見える範囲の発達は,出生直後で成人の約C50%の広がりを示し,その後,対象児の視標に対する応答精度が向上し,3歳で成人の広がりに近づくと考えられる.さらに,網膜は中心窩付近よりも先に周辺網膜の解剖学的,神経学的構造が成熟に達することが報告20)されており,視野は中心視力よりも早期に発達している可能性があると考える.CIV現在検討中の乳幼児視野測定法筆者ら18)の過去の検討では,対象児の注意をC1カ所に集中させ,その瞬間に周辺視標を呈示するという手法に限界があり,測定可能率が低下する一要因となっていた.そのため現在,一点を注視させる必要のない,周辺視標をランダムに呈示して視線移動量から広がりを評価する視線視野測定を試みている.乳幼児を対象とした視線視野測定のために用いている機器は,ヘッドマウント型視野計アイモCR(クリュートメディカルシステムズ)である.アイモは両眼解放下での測定が可能で,アイトラッキング機能が備わった視野計である21).視線視野測定のために,アイモのアイトラッキング機能を応用し,視線移動の定量化を行うための独自プログラムを構築し評価を行っている.C1.視線移動定量化のための測定プロトコル筆者が視線移動定量化のために用いている測定プロトコルの例を示す(図2).視標配置は中心C0°を基準にC7°外方の座標軸に位置するC5カ所とした.各視標はC2秒間呈示され,その後C0.1秒間隔でつぎの視標に移動をさせ,各視標への追従視線を記録する.測定は両眼解放下にて片眼ずつ測定を行い,約C30秒で測定が完了する.なお,視標の配置,呈示の順番,そして呈示法(大きさ,輝度,呈示時間,移行間隔時間)は任意に変更可能である.視標配置がC7°と限定的である理由は,アイモの光学的特性に基づくアイトラッキング精度の限界であることが要因である.現仕様で評価可能な最大角度は,水平垂直方向が約C14.0°,斜め方向が約C19.8°である.C2.アイモによる視線視野測定で得られる評価指標アイモによる視線視野測定ではC4つの評価指標を得ることができる(図3).1つめの評価指標は視線位置である(図3a).視線位置では周辺視標を追従しているかどうか,さらには視線が定まっているかどうかを定点群で確認することが可能である.2つめの評価視標は視線移動量である(図3b).視線移動量は視野の広がりに相当する,各方向への定量的情報を解析することが可能である.3つめの評価指標は時系列変化である(図3c).時系列変化では呈示視標に対して視線移動するまでの反応時間の定量的情報を解析することが可能である.そして,4つめの評価指標は画像記録である(図3d).画像記録では視線移動を静止画で記録し客観的判断材図2視線移動定量化のための視標呈示位置(イメージ)視標配置は中心C0°を基準にC7°外方の座標軸に位置するC5カ所である.各視標はC2秒間呈示され,その後C0.1秒間隔でつぎの視標に移動をさせ,各視標への追従視線を記録する.料とすることが可能である.アイモによる視線視野測定では,四つの評価指標を組み合わせて評価を行うことで,自覚的応答が困難な症例に対する評価結果の信頼性を高めることが可能と考えている.C3.乳幼児への視線視野測定の試み現在までに,19名を対象にアイモによる視線視野測定を試みており,測定可能率はC73.7%である(表1).図4は2歳C6カ月(健常男児)の視線視野測定結果(左眼)である.視線位置は安定感の欠如が確認されるが,各方向への視線追従を確認することができる(図4).また,視野の広がりに相当する視線移動量は,波形がもっとも顕著に突出した上鼻側は約C11°であった.このように,アイモによる視線視野測定は幼児において評価可能であった.C4.乳幼児への視線視野測定における今後の課題アイモを用いた視線視野測定は,定量的かつ客観的な評価指標に基づき,自覚的応答が困難な症例に対する評価結果の信頼性を高めることが可能と考えている.しかし,アイモはヘッドマウント型であり装置への恐怖や不安感に伴う強い抵抗が乳幼児の測定困難の一因となるという問題があった(図5).そのため,乳幼児への検査中ストレスを軽減させ,より日常に近い条件下での測定が必要である.今後はディスプレイ型の装置などを活用して乳幼児の視線視野測定に応用をしたいと考えている.おわりに早期視野評価の結果は価値ある診断情報となるばかりではなく,患児の医学的,教育的な管理上からも価値の高い臨床情報となる.今後,早期視野評価を行うための測定手技の確立,そして正確な正常値を明らかにし早期臨床普及に努めたいと考えている.abcd図3視線視野測定装置で得られる四つの評価指標7歳,健常女児の視線視野測定結果を示す.Ca:視線位置.視線位置と周辺視標への視線安定性の評価を行う.Cb:視線移動量.各方向への視線移動量の定量的評価を行う.Cc:時系列変化.視標への反応時間の評価を行う.Cd:画像記録.視線移動の様子を画像で記録する.図4乳幼児視線視野測定の1例2歳C6カ月,健常男児の視線視野測定結果(左眼)を示す.視線にばらつきがみられるが各方向への視標追従を確認できた.視線移動量の定量化が可能で,最大移動量は上鼻側C10.6°を示した.表1ヘッドマウント型視野計アイモによる視線視野測定可能率年代(歳代)年齢人数(名)測定可能率(%)C22歳5カ月.2歳11カ月C650.0(C3/6名)C33歳1カ月.3歳11カ月C771.4(C5/7名)C44歳2カ月.4歳9カ月C6100(C6/6名)全対象2歳5カ月.4歳9カ月C1973.7(C14/19名)図5測定不可能であった2歳5カ月(女児)の測定風景ヘッドマウント型装置への恐怖や不安感に伴う抵抗が測定困難の一因となることがある.乳幼児への検査中ストレスを軽減し日常に近い測定環境の構築が今後の課題と考える.文献1)WieselCTN,CHubelDH:E.ectsCofCvisualCdeprivationConCmorphologyCandCphysiologyCofCcellsCinCtheCcatsClateralCgeniculatebody.JNeurophysiolC26:978-993,C19632)HubelCDH,CWieselTN:ReceptiveC.eldsCofCcellsCinCstriateCcortexCofCveryCyoung,CvisuallyCinexperiencedCkittens.CJNeurophysiolC26:994-1002,C19633)粟屋忍:乳幼児の視力発達と弱視.眼臨C79:1821-1826,C19854)GormanCJJ,CCoganCDG,CGellisSS:AnCapparatusCforCgrad-ingthevisualacuityofinfantsonthebasisofopticokinet-icnystagmus.PediatricsC19:1088-1092,C19575)SokolS,DobsonV:Patternreversalvisuallyevokedpoten-tialsCininfants.InvestOphthalmolC15:58-62,C19766)FantzRL:Patternvisioninnewborninfants.ScienceC19:C296-297,C19637)QuinnCGE,CFeaCAM,CMinguiniN:VisualC.eldsCinC4-toC10-year-oldCchildrenCusingCGoldmannCandCdouble-arcCperimeters.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC28:314-319,C19918)友永正昭:小児の量的視野について.日眼会誌C28:482-491,C19749)AkarCY,CYilmazCA,CYucelI:AssessmentCofCanCe.ectiveCvisual.eldtestingstrategyforanormalpediatricpopula-tion.OphthalmologicaC222:329-333,C200810)山本節:小児の視野.眼科CMOOK38:166-171,C198911)HarrisP,MacFarlaneA:Thegrowthofthee.ectivevisu-alC.eldCfromCbirthCtoCsevenCweeks.CJCExpCChildCPsycholC18:340-348,C197412)SchwartzCTL,CDobsonCV,CSandstromCDJCetal:KineticCperimetryCassessmentCofCbinocularCvisualC.eldCshapeCandCsizeinyounginfants.VisionResC27:2163-2175,C198713)SokolovEN:HigherCnervousfunctions;theCorientingCre.ex.AnnuRevPhysiolC25:545-580,C196314)DobsonV,BrownAM,HarveyEMetal:VisualC.eldextentinchildren3.5-30monthsofagetestedwithadouble-arcLEDperimeter.VisionResC38:2743-2760,C199815)MohanCKM,CDobsonCV,CHarveyCEMCetal:DoesCrateCofCstimulusCpresentationCa.ectCmeasuredCvisualC.eldCextentCininfantsandtoddlers?OptomVisSciC76:234-240,C199916)DobsonCV,CBaldwinCMB,CMohanCKMCetal:TheCin.uenceCofstimulussizeonmeasuredvisual.eldextentininfants.OptomVisSciC80:698-702,C200317)DelaneyCSM,CDobsonCV,CMohanKM:MeasuredCvisualC.eldextentvarieswithperipheralstimulus.ickerrateinveryyoungchildren.OptomVisSciC82:800-806,C200618)藤原篤之,田淵昭雄:乳幼児視野測定装置の開発.神経眼科C26:145-154,C200919)DelaneyCSM,CDobsonCV,CMohanKM:MeasuredCvisualC.eldextentvarieswithperipheralstimulus.ickerrateinveryyoungchildren.OptomVisSciC82:800-806,C200520)HendricksonCA,CDruckerD:TheCdevelopmentCofCparafo-vealCandCmid-peripheralChumanCretina.CBehavCBrainCResC49:21-31,C199221)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C2016C***