《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1150.1152,2020c網膜疾患と変視岡本史樹筑波大学医学医療系眼科CMetamorphopsiainRetinalDisordersFumikiOkamotoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukubaはじめに網膜が障害される疾患は多数存在するが,そのなかでも発症頻度が高く手術や硝子体注射などで治療される代表的な疾患がある.黄斑前膜,黄斑円孔,網膜.離,網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫などがそれにあたる.これらはおもに黄斑部が障害される疾患で,視力低下の他に変視や不等像視,色覚異常などさまざまな視機能障害をきたす.その代表が変視=「ものが歪んで見える」である.日常診療では視力低下とともに多く聞かれる愁訴である.変視は片眼で軽度の場合は自覚もされないことが多いが,中等度以上になると日常生活に影響を及ぼす.本稿では変視の自覚や測定法とともに,変視を呈する代表的疾患の特徴,治療成績,網膜形態との関連について概説する.CI変視の自覚と検査法物体の形状が歪んで見えることを変視という.仮説ではあるが,黄斑部の視細胞の配列が乱れることにより変視が起こるとされている.網膜がなんらかの原因で収縮して視細胞配列が比較的均一に密になると,視中枢での空間的対応に乱れが生じ,対象が実際より大きく見える(大視症).逆に網膜が伸展することにより視細胞配列が比較的均一に疎になると小視症を呈する.変視は視細胞配列が密になったり疎になったりするところが混在するために起こるとされている.変視は片眼で,しかも軽度であれば自覚しないことが多い.片眼で中等度以上,あるいは両眼性で変視は自覚され,qualityoflife(QOL)が障害される.変視の測定には以前よりCAmslerchartが一般的に用いられている.Amslerchartは数種類の表で構成されるが,基本的なものはC5Cmm幅の格子状の線が書かれた一辺がC10Ccmの正方形である.そしてC30Ccmの距離で患者に中心を固視AmslerchartM-CHARTS図1AmslerchartとM.CHARTSの指標させ,線が歪んだり波打ったり見えない部分を実際に記入してもらう.この検査は変視の範囲や程度が視覚的にわかり,現在もっとも広く普及している検査法である.しかし,定量評価ができず,検査時間がかかる.定量評価するためにはM-CHARTSを用いる.M-CHARTSは視角C0.2o.2.0oまでC0.1o刻みに間隔を変えたC19種の点線から構成される.30Ccmの距離で患者に中心を固視させ,間隔の細かい点線から間隔の広い点線へ順次呈示し,歪みが自覚されなくなったときの点線の視角をもって変視量とする.縦方向と横方向でそれぞれ検査を行うことができる(図1).Amslerchartはある程度広い範囲の変視を検出することに優れており,逆にCM-CHARTSは固視点近傍の微細な変視を簡便に定量評価するのに優れているため,両検査を使い分けることが必要である.CII黄斑前膜と変視黄斑前膜はその約C8割が変視を訴え,変視の程度は種々の網膜疾患のなかでも強い疾患である.黄斑前膜患者のCQOLは健常者より低下しているが,その原因は視力ではなく変視に依存することがわかっている1)(図2).網膜の微細構造を検討すると,黄斑前膜患者では網膜内層(内顆粒層)の厚さ〔別刷請求先〕岡本史樹:〒305-8575茨城県つくば市天王台C1-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:FumikiOkamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukuba,1-1-1Tennodai,Tsukuba,Ibaraki305-8575,JAPANC(110)C11500910-1810/20/\100/頁/JCOPY術前術後VD=(0.8)変視=1.4QOL=71点VD=(0.9)変視=0.2QOL=88点図2黄斑前膜手術でQOLが改善した症例術前は視力C0.8,変視はCM-CHARTSでC1.4と重度の変視を認め,QOLのアンケートによる点数はC71点であった.術後,視力はC0.9とあまり変わらないが,変視はC0.2まで著明に改善し,QOLの点数もC88点と改善した.と変視量が関連することがわかり,内層障害によって変視が惹起される可能性が考えられている2).硝子体手術により前膜を除去することで視力,変視は改善するが,変視を完全に消失させることはむずかしい.前膜を.離除去しても視細胞を正常な解剖学的位置に戻すことは不可能であり,ある程度の変視が残存することは避けられない.多数例での検討では,術前変視がCM-CHARTSでC1.0から術後C1年でC0.3.0.4までは改善するが,0にはならない3).また,術前の網膜内層が厚いほど,術後の変視が強く残ることもわかってきた4)したがって手術の際には,視力は向上し,変視も改善するが,変視は完全に消失しないということを患者に説明することが重要である.CIII黄斑円孔と変視黄斑円孔での変視は見ようとする対象が中心に引き込まれるように歪んで見える,求心性の変視となる.黄斑円孔は中心窩網膜が遠心性に偏位した病態である.偏位した中心窩で像を捉えようとすると,円孔周囲の視細胞で受容された像は本来は中心にあるはずの視細胞であるため,視覚皮質では中心として認識されてしまう.そのために求心性の変視が起こるとされている.黄斑円孔も前膜患者と同じく手術により視力や変視を改善させることができるが,変視はC0にはならない.M-CHARTSで術前C0.8の変視が術後C6カ月で約半分の0.4まで改善することがわかっている.また,術前のC.uidcu.が大きいほど,術後の変視が強い5)(図3).CIV網膜.離と変視網膜.離術後の患者でも変視をきたす.術前に黄斑部.離M-CHARTSでFluidcu.の術後変視大0.9°小0.15°図3黄斑円孔と変視黄斑円孔患者では術前のC.uidcu.が大きいほど術後残存変視量が大きい.上の画像ではC.uidcu.が大きく,術後変視はC0.9であるが,下の画像では扁平な黄斑円孔であり,術後の変視も少ない.となっている患者に変視が出現することが多いが,術前黄斑未.離の患者でも術後の黄斑前膜や黄斑浮腫などで変視をきたすことがある.網膜.離術後の約C4割に変視を認める6).変視を呈していた症例の約C4割はCOCTにて何らかの黄斑部異常(黄斑浮腫,黄斑前膜,黄斑円孔,ellipsoidzoneの欠損)を認めたが,残りのC6割はCOCTにて網膜構造に異常がなかった(図4)1).また,術前黄斑未.離でも術中に黄斑部.離を生じると術後に変視を生じる.一度黄斑部網膜が.離すると変視は長期に残存するため,黄斑部未.離の裂孔原性網膜.離患者では黄斑部が.離する前に手術を行い,術中はなるだけ黄斑部.離を起こさないような手術を心がけることが必要である.(111)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1151図4網膜.離術後に変視を呈した患者のOCT形態での分類29例のうち,黄斑部に異常があったものがC12例,残りのC17例の網膜形態に異常はなかった.(文献C6より改変)図5網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)患者における抗VEGF薬治療と変視69歳,女性で罹病期間C4カ月のCBRVOを認め,術前視力はC0.15,変視はCM-CHARTSでC1.0であった.複数回の硝子体注射にて黄斑浮腫は改善し,視力もC1.0まで改善したが,変視はC1.2と以前より悪化している.CV網膜静脈分枝閉塞症と変視黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocculusion:BRVO)の患者はC9割以上が変視を呈し,垂直方向の変視が水平方向よりも大きい.これは,BRVOの病変が閉塞血管側の上下どちらかに偏在することが多いためと考えられる.また,変視の程度は中心窩網膜厚や網膜内層の.胞に影響を受けるといわれている7).現在,BRVOの治療の第一選択は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬であるが,治療を行い視力が改善しても,少なくともC6カ月は変視が改善しない8)(図5).BRVOで治療を行う患者には,視力は改善する可能性が高いが変視はなくならないことを説明したほうがよいと考えられる.おわりに変視の定義や検査法,そして代表的な網膜疾患と変視とのかかわりについて概説した.疾患によって変視の見え方や治療経過もさまざまであるし,変視に関連する網膜形態も異なる.これらのことを念頭において日常診療にあたれば,患者の変視に関する不定愁訴に対してしっかりとした説明することができ,患者の不安を取り除くことができると考える.文献1)OkamotoF,OkamotoY,HiraokaTetal:E.ectofvitrec-tomyCforCepiretinalCmembraneConCvisualCfunctionCandCvision-relatedqualityoflife.AmJOphthalmolC147:869-874,C20092)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:AssociationsCbetweenCmetamorphopsiaCandCfovealCmicrostructureCinCpatientswithepiretinalmembrane.InvestOphthalmolVisSciC53:6770-6775,C20123)KinoshitaT,ImaizumiH,OkushibaUetal:TimecourseofCchangesCinCmetamorphopsia,CvisualCacuity,CandCOCTCparametersaftersuccessfulepiretinalmembranesurgery.InvestOphthalmolVisSciC53:3592-3597,C20124)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:InnerCnuclearClayerthicknessasaprognosticfactorformetamorphopsiaafterCepiretinalCmembraneCsurgery.CRetinaC35:2107-2114,C20155)SugiuraCY,COkamotoCF,COkamotoCYCetal:RelationshipCbetweenCmetamorphopsiaCandCintraretinalCcystsCwithinCtheC.uidCcu.CafterCsurgeryCforCidiopathicCmacularChole.CRetinaC37:70-75,C20176)OkamotoCF,CSugiuraCY,COkamotoCYCetal:MetamorphopC-siaandopticalcoherencetomography.ndingsafterrheg-matogenousCretinalCdetachmentCsurgery.CAmCJCOphthal-molC157:214-220,C20147)MurakamiCT,COkamotoCF,CIidaCMCetal:RelationshipCbetweenCmetamorphopsiaCandCfovealCmicrostructureCinCpatientsCwithCbranchCretinalCveinCocclusionCandCcystoidCmacularedema.GraefesArchClinExpOphthalmolC254:C2191-2196,C20168)SugiuraY,OkamotoF,MorikawaSetal:TimecourseofchangesCinCmetamorphopsiaCfollowingCintravitrealCranibi-zumabCinjectionCforCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetinaC38:1581-1587,C2018(112)