三歳児眼科健診の視覚スクリーニングにスポットビジョンスクリーナーは有用かSpotVisionScreenerforVisionScreeningin3-year-oldChildreninJapan─IstheSpotVisionScreenerUsefulforVisionScreening?林思音*はじめにWelchAllyn社のスポットビジョンスクリーナー(SpotVisionScreener,以下SVS)は,おもに屈折検査と眼位検査を行う機器である.SVSが国内で発売されて5年が経過した.小児眼科を専門としない先生方も,一度は使用したり検査後の精査依頼を受けたことがあるのではないだろうか.発売当初は,小児科から精査依頼の紹介を受けた眼科医がとまどうなど,眼科―小児科間でのトラブルを多数耳にした.しかし,日本弱視斜視学会および日本小児眼科学会が発行した『小児科医向けSpotVisionScreener運用マニュアル』1)や,日本小児科医会の会員専用サイトに乳幼児の精密検査受入可能な眼科医療機関を掲載するなどの働きかけで,以前に比べると連携がスムーズに行われるようになったと聞いている.では,スクニーニング効果についてはどうか?三歳児健康診査視覚検査(以下,三歳児眼科健診)は,乳幼児眼科健診のなかでも大規模に行われている健診である.日本眼科医会の調査によると,その実施率は全市町村の95.8%に達する2).これからの三歳児眼科健診にSVSは取り入れられていくのだろうか.本稿では,まず三歳児眼科健診の現状と課題について触れ,次にSVSの特徴を紹介し三歳児眼科健診に有用かどうかについて述べる.I三歳児眼科健診1.三歳児眼科健診の目的は弱視の発見三歳児眼科健診で見つけるべき疾患のなかで,一番重要と考えられているのは弱視である.弱視は,視力が年齢相応に発達していない状態であり,その原因は屈折異常,斜視,器質的疾患である.片眼性のことが多く,なかでも屈折の左右差から生じる不同視弱視が,弱視全体の半数以上を占めるといわれている3).弱視の原因が斜視や形態異常であれば周囲の大人や小児科医が気づくことが可能だが,屈折異常,とくに不同視弱視は外見上はまったくわからないため,スクリーニング検査が発見に重要な役割を果たす.弱視は早期発見ができれば眼鏡装用と弱視訓練により治療可能であるが,発見が遅れた場合は生涯にわたり視力障害を負うことになる.このように三歳児眼科健診は弱視検出に重要な機会であるのだが,残念ながら健診をすり抜けて就学時健康診断や学校健診で弱視を指摘される例が多く報告されている.2.三歳児眼科健診の精度を上げるために屈折検査が重要三歳児眼科健診の精度を上げるため,追加すべき検査が屈折検査であることがこれまで多数報告されてきた.*ShionHayashi:山形大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕林思音:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)1063図1スポットビジョンスクリーナー(SVS)図2SVSの検査風景検査は被検者からC1Cm離して行う.a異常判定を示すメッセージ正常範囲内だった場合は,「スクリーニング完了」と表示されるb等価球面度数異常判定項目眼位球面度数円柱度数図3SVSの異常判定基準により得られた結果票a:異常判定であった場合の結果票.SVSをワイヤレスネットワークでプリンターに接続すると,結果票をCA4サイズの用紙に印刷できる.Cb:aの点線部分.等価球面度数,球面度数,円柱度数,乱視軸,眼位などの実測値および異常判定項目が表示される.また,異常値は赤字で表記される.表1米国小児眼科学会(AAPOS)が定める弱視リスクファクターリスクとなる屈折異常値年齢(月齢)乱視遠視近視不同視12.3031.48>48>2.0D>2.0D>1.5D>4.5D>4.0D>3.5D>.3.5D>.3.0D>.1.5D>2.5D>2.0D>1.5D屈折値以外のリスクファクター全年齢恒常性斜視8Δ以上中間透光体の混濁(文献C9より引用)Proportionadequatelyscreened100%92%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%3YearsOld4YearsOld5YearsOld図4Instrument.basedscreening(SVS使用)とchart.basedscreening(視力検査,立体視機能検査)の検査可能率の比較SVSは,どの年齢においても検査成功率が高い.とくにC3歳においては,検査可能率の差が大きく,3歳児においてSVSが視力検査などを補完するものであることを示唆している.(文献C11より引用)訳をみると,SVS陰性で従来の方法で陽性だった者の中に眼鏡を要する屈折異常者がいたことから,従来の方法に置き換わるものではなく,追加するのが妥当であると考える.C3.群馬県三歳児眼科健診の報告13,14)群馬県では,2018年度から全県下で三歳児眼科健診に屈折検査(おもにCSVS)を導入している.群馬県眼科医会ホームページにも掲載されている群馬県の健診フローチャート(図5)14)を見ると,健診対象者全例に屈折検査および家庭での問診と視力検査を実施している.ただし,屈折検査で異常の場合は,問診と視力検査の結果いかんにかかわらず,精密検査依頼票を発行し,屈折検査異常の見逃し防止に努めている.また,導入にあたっては,機器の導入はもちろんだが,現場の理解と協力も不可欠である.検査を導入するとなると,1)人員の確保(検査員C1名,誘導員C1名),2)検査場所の確保(個室の必要はないが,厚手カーテンなどで薄暗い環境を確保する),3)検査の流れの見直しが必要となる.そこで群馬県では,講習会を設置し屈折検査の必要性を担当保健師に説明し,県眼科医会・県医師会がガイドラインの作成をするなど,連携体制の構築の働きかけを行っている.おわりに―これからの課題三歳児眼科健診にCSVSが有用であることは,多方面からみて明らかである.しかしながら,導入した自治体が限られているため,その有効性や費用対効果を示すエビデンスがまだまだ少ない.異常判定基準についても,日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会は推奨する基準を設置しており,今後は現場での評価が必要である.また,屈折検査の有用性を示すことは,行政への働きかけの材料となるので,SVSを導入した地域の眼科医は,ぜひその結果を報告していただきたい.他方,各地域の活動には限りがあることから,日本眼科医会は今年度より三歳児健診のあり方検討委員会を設置し,専門学会とともに,屈折検査の項目を盛り込んだマニュアルの作成を進めている.C1068あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020三歳児眼科健診におけるCSVSの有用性は明らかになり始めたばかりであり,課題解決に向けた各領域の取り組みに期待したい.文献1)日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会:小児科医向けCSpotCVisionScreener運用マニュアルVer1.http://www.japo-web.jp/_pdf/svs.pdf(2019/5/17)2)日本眼科医会公衆衛生部:三歳児眼科健康診査調査報告(VI)─平成C28年度.日本の眼科89:171-176,C20183)XiaoCO,CMorganCIG,CEllweinCLBCetal:PrevalenceCofCamblyopiaCinCschool-agedCchildrenCandCvariationsCbyCage,Cgender,CandCethnicityCinCaCmulti-countryCrefractiveCerrorCstudy.OphthalmologyC122:1924-1931,C20154)板倉麻理子,高橋美和子,小島由加利ほか:3歳児健診で見過ごされた弱視の症例.眼臨紀10:153-156,C20175)林思音,仁科幸子,森隆史ほか:三歳児眼科健診における屈折検査の有用性:システマティックレビュー.眼臨紀C12:373-377,C20196)MatsuoCT,CMatsuoCC,CKioCKCetal:IsCrefractionCwithCaChand-heldCautorefractometerCusefulCinCadditionCtoCvisualCacuityCtestingCandCquestionnairesCinCpreschoolCvisionCscreeningat3.5yearsinJapan?ActaMedOkayamaC63:C195-202,C20097)PeterseimCMM,CPapaCCE,CWilsonCMECetal:TheCe.ectivenessCofCtheCSpotCVisionCScreenerCinCdetectingCamblyopiariskfactors,JAAPOSC18:539-542,C20148)林思音,枝松瞳,沼倉周彦ほか:小児屈折スクリーニングにおけるCSpotVisionScreenerの有用性.眼臨紀10:C399-404,C20179)DonahueCSP,CArthurCB,CNeelyCDECetal:GuidelinesCforCautomatedCpreschoolCvisionscreening:AC10-year,Cevi-dence-basedupdate.JAAPOSC17:4-8,C201310)DonahueSP,NixonCetal:Visualsystemassessmentininfants,Cchildren,CandCyoungCadultsCbyCpediatricians.CPedi-atrics137:28-30,C201611)ModestJR,MajzoubKM,MooreBetal:ImplementationofCinstrument-basedCvisionCscreeningCforCpreschool-ageCchildreninprimarycare.PediatricsC140:e20163745,C201712)鈴木美加,比金真菜,佐藤千尋ほか:3歳児健康診査でのCSpotCVisionScreenerの使用経験.日視会誌C46:147-153,C201713)板倉麻理子,板倉宏高:群馬県乳幼児健診における視覚発達の啓発と屈折検査導入への取り組み.臨眼C72:1313-1317,C201814)3歳児健康診査における眼科検査の手引き.弱視の早期発見のために.第C2版.群馬県医師会ホームページ.http://Cwww.gunma.med.or.jp/PDF/3-year-olds_ophthalmic_med-ical_examination.pdf(28)