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写真:Acute Lacrimal Gland Ductulitis

2020年9月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦436.AcuteLacrimalGlandDuctulitis柏井瑛美福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①:耳側結膜の充血→:迷入した睫毛図1初診時の左眼前眼部写真と外眼角部写真耳側結膜に強い充血を認める.外眼角部の涙腺開口部に睫毛の迷入を認める(→).図3睫毛の抜去マイクロ鑷子を用いて迷入した睫毛を抜去した.除去後,同部位から膿性の分泌物を認めた.図4処置1週間後の左眼前眼部写真と外眼角部写真結膜充血は改善し,症状も消失している.(75)あたらしい眼科Vol.37,No.9,202011150910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例は75歳の女性.3日前からの左眼の疼痛と充血を主訴に前医を受診し,左眼の外眼角部の異物を認め当院へ紹介となった.当院初診時,左眼外眼角部の涙腺導管開口部と考えられる部位への脱落した睫毛の迷入と,耳側に強い結膜充血を認めた.涙腺導管開口部のフルオレセイン染色では,迷入した睫毛の隙間から涙液の産生流出を認めており,開口部は不完全閉塞の状態と判断した.マイクロ鑷子を用いて涙腺導管開口部に嵌頓した睫毛を抜去したところ,開口部から多量の膿性の分泌物が排出された.可能なかぎり鑷子を用いて排膿後処置を終了した.レボフロキサシン1.5%点眼4回を処方した.その後症状は改善し,炎症が落ち着いた時点で点眼を休薬し,6カ月後も再発を認めていない.2019年にLeeらは,lacrimalglandductulitisの24症例に涙腺導管切開掻把術を施行し,その長期成績を報告した.24例中10例で涙腺導管内の睫毛の迷入を複数認めており,切開掻把後1年を経過しても23例では再発なく軽快した1).既報のような睫毛の迷入による慢性経過でのlacrimalglandductulitisや肉芽形成は報告があり,しばしば遭遇していると考えられる1.3).本症例では涙腺の開口部から睫毛が迷入しており,涙液の分泌流出が著しく妨げられ停滞したことで,涙腺導管の急性細菌感染を生じたと考えられる.筆者らはほかにも数例,涙腺の導管に睫毛が迷入し炎症をきたしている症例を経験しているが,いずれも外眼角部の開口部に睫毛が迷入しているケースであった.涙腺組織内の神経線維が,分泌物の産生を行う腺房細胞や腺房をとり囲む筋上皮細胞を興奮させ収縮することで,涙液分泌を促進することが知られている.外眼角部への導管内に何らかの原因により陰圧が生じたことで,睫毛が迷入したのではないかと考えられる.涙腺の開口部付近の発赤や疼痛を伴う疾患としては,涙腺炎や涙腺.腫,麦粒腫,化膿性霰粒腫などが考えられるが,本症例では眼瞼の腫脹などは伴っておらず,いずれも否定的だったため,MRI検査などは施行していない.慢性結膜炎と診断され点眼加療でも改善しないものの一部に,lacrimalglandductulitisが原因となるものがある.こういった症例では,切開掻把し肉芽や結石を除去することで早期の改善を期待することができる.慢性経過や再発する涙腺導管炎の症例においては,積極的に手術加療を計画するべきであると考えられる.本症例のように急性感染を認めた場合には,観血的手術ではなく,迷入した睫毛の抜去および排膿のみで,再発なく軽快する症例も存在する.文献1)AnJ,LeeK:Long-termoutcomeofincisionandcuret-tagetreatmentinpatientswithlacrimalglandductulitis.KoreanJOphthalmol33:487-492,20192)Hay-SmithG,RoseGE:LacrimalglandductulitiscausedbyprobableActinomycesinfection.Ophthalmology119:193-196,20123)藤井揚子,高比良雅之,山田芳博ほか:睫毛の迷入を伴った涙腺炎の2症例.あたらしい眼科35:1144-1147,2018

視覚障害児の支援

2020年9月30日 水曜日

視覚障害児の支援SupportforChildrenwithVisualImpairments堀寛爾*I「弱視」という言葉眼科医,とくに小児眼科の領域で弱視といえば,当然amblyopiaのことであるが,福祉や教育の現場,また患者会などで弱視といえばlowvisionのことになる.医療側にも福祉・教育側にも徐々にロービジョンという言葉が浸透してきてはいるが,それでも完全に置き換えられるとは考えにくい.どちらが正しいという話でもなく,それぞれの歴史に裏づけられた背景があり,医療者以外と「弱視」について情報交換をするときには,この点をまず理解する必要がある.II乳幼児期の支援乳幼児のロービジョン者の特徴としては,視覚経験や刺激が少なく,保護者の庇護下にあるため,視覚を利用せずに育ってしまうことがあげられる.ロービジョンをきたす疾患には屈折異常を伴うものもあり,基礎疾患に加え屈折異常弱視を併発させてしまっては,本来使えたはずの視機能すら獲得できない可能性がある.なるべく早期に視機能評価と屈折矯正を行い,保護者に地域の視覚特別支援学校(盲学校)での養育相談や療育指導などの情報提供を行うことが重要になる.乳幼児期の視機能検査としては,視反応や追視の有無,行動観察などである程度の評価は可能である.屈折異常が確認できた場合には,適切な眼鏡装用と随時調整を行い,適切に視反応を引き出すために,視覚障害児の使用する玩具などは色や明暗のコントラスト,輪郭などが明確なものを用いるとよい.III就学前から学童期の支援就学前となると,視機能評価もある程度できるようになり,文字や図形の認識も増えていくので,屈折矯正がより重要になる.視覚補助具の紹介,選定,使い方の練習,そして就学相談などもこの時期には欠かせない.就学にあたっては,どうすれば文字が読めるか,という点が非常に重要である.文字を拡大すれば読める,眼を近づければ読める,コントラストをくっきりさせれば読めるなど,個々人の特性に合わせたケアが必要になる.文字を拡大するにしても,拡大教科書などのように文字自体を大きくする,拡大鏡を使い光学的に大きくする,拡大読書器やタブレット端末を使い電子的に大きくする,顔を近づけて相対的に大きくする,などの方法がある(図1,表1).網膜の感度や解像度と屈折異常の程度などの視機能や個人の能力に応じて読みやすい文字の大きさがあるため,実際に使用予定の教科書などを参考に,最適な手段を検討するとよい(図2).拡大教科書は文字や図そのものが大きく書かれており,またコントラストなども標準の教科書よりも高めて読みやすく作られている.他の視覚補助具と併用することも可能で,視覚障害児の学習にとって有効な方法のひとつである.拡大教科書の標準的な規格1)は,小学3年生までは文字サイズとして26ポイント程度,それ以降*KanjiHori:国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部〔別刷請求先〕堀寛爾:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(67)1107abdcebd図1文字サイズと拡大鏡などの使い方a:電子的拡大は白黒反転もできるため,ロービジョン者にとって幅広く有用.b:スタンプルーペは採光性も高いが,大きいものは重いので持ち運びには不便.c:行を追って文章を読む場合にはバールーペが便利.d:置き型の拡大鏡は周辺の歪みも大きく,倍率の高いものでは有効な視野が意外と狭い.e:手持ちの拡大鏡は近すぎると拡大せず,離しすぎると文字が反転し,また片手が塞がるのも勉強にはデメリットとなる.表1拡大の方法,補助具とそのときの見かけの像の位置相対的距離による拡大:文字を近づけるハイパワープラスレンズ近づく相対的な大きさの拡大:大きい文字で印刷拡大教科書,拡大コピーそのまま電子的拡大:画面に大きく表示拡大読書器,ICT機器そのまま視角の拡大:レンズで大きく拡大鏡遠ざかる拡大の方法の名称は『ロービジョン・マニュアル』(JacksonAJ,WolfsohnJS著,小田浩一総監訳,2010年,エルゼビア・ジャパン)に従った.図2学習用の環境整備の例教科書の拡大文字の大きさに合わせ黒い紙を切り抜き,タイポスコープとして用いる.罫線の太いルーズリーフに太めの水性ペンでノートをとる.黒板は単眼鏡を使って見ることもできるし,さらに拡大を要する場合は拡大読書器のカメラを黒板に向ければ,ディスプレーに表示することもできる.図3日本地図の触地図(西田朋美:あたらしい眼科30:457.463,2013年より引用転載)表2大学入試センター試験での受験上の配慮事項より抜粋・再編対象となる者解答方法試験時間試験室その他の配慮点字学習者点字解答1.5倍別室・試験室入り口までの付添者の同伴・試験場への乗用車での入構上記に加え・拡大文字問題冊子(14pt/22pt)・拡大鏡など持参使用・窓側の明るい座席を指定・照明器具の持参使用または試験場側での準備視力0.15以下強度視野狭窄※文字解答1.3倍上記以外でマーク困難延長なし上記以外で要配慮※強度視野狭窄とは身体障害者手帳の視野3級に相当する程度である.(大学入試センター「令和2年度大学入学者選抜大学入試センター試験受験上の配慮案内」より作成)設計がなされているのであろう.しかし,視覚障害者は一般に自覚の有無は別にして羞明があることが多く,窓際では文字が読みにくくなることもしばしば経験される.申請書の選択肢にはないが,診断書の現症の欄と申請書のその他の希望配慮事項の欄にその旨を記載することは可能である.V進学と職業適性色覚の話で似たような話題はよくあるが,おもに運転や操縦などの免許を要する職業については,ロービジョン者の就職は困難である.ただ,その仕事ができないという理由で,そのための勉強ができないわけではない.時に本人の視機能と希望進路に乖離がみられることもあるが,一方的にすべてを否定するのではなく,本人や保護者の希望をよく確認しながら話を進め,納得できる進学先が決まればベストである.専門学校に入学はできても,その先の資格試験の欠格事由に該当する可能性も含め,おもに進路指導の先生が配慮すべき問題ではあるが,眼科医としても助言を求められることがある.なお眼科医としてはあくまで助言であり,視覚障害児やその保護者に明確な進学先や就職先を提示しないことが重要である.VI身体障害者手帳申請乳幼児期から視覚障害のある小児にとって,視力検査や視野検査は健常児と比べてむずかしいことがある.無眼球症など病態が明らかであれば,年齢や検査実施の有無を問わずに身体障害者手帳(以下,手帳)を申請することができる.もっとも悩ましいのは,発達そのほかの遅れに伴い,検査自体が成立しない場合である.「身体障害認定基準等の取扱いに関する疑義について」3)には,「片眼摘出,僚眼健常の2歳児について,健側を幼児の一般的な正常視力(0.5.0.6)と見做して6級に認定することは適当ではなく,障害の程度を判定することが可能となる年齢(概ね満3歳)になってから認定を行うことが適当と考えられる」という事例が記載されている.Landolt環による万国式試視力表の評価が困難であっても,たとえば絵視標や縞視力など複数の検査法を複数回試し,ある程度整合性のある結果が得られるなら,その旨を記載して申請を検討することができる.成長とともにより正確な検査ができる場合もあるため,「軽度化による将来再認定」の欄にその旨を記載し,再認定の時期を1年後などと明記することで,認定される可能性がある.一般にGoldmann視野計がある程度の精度で成立するのは,8歳頃とされている.成長しても眼振がある場合などはイソプタが引けない場合もある.平成30年7月の改正から,視野障害の意見書には視野結果の添付が求められるようになったが,それ以外の情報も必要時には添付することができる.眼底写真やOCT画像などを添付し,明らかにアーケードの内側まで変性が進行しているため,I/4視標の視野は最大でも10°以内であることが推察される,などと記載すると,判定の助けとなる.小児の手帳の有無は,公的サービスを受けられるかどうか,という点だけでなく,特別児童扶養手当の受給可否や所得税,住民税の障害者控除など,家計に直接的に影響することもある.障害を過大評価して手当や控除を不当に受けることがあってはならないが,ただ検査ができないからという理由で受けられるはずのものが受けられないことも同様にあってはならない.なお,このように経済的な問題も含むため,将来再認定の際に実際に軽度化していた場合,保護者から強い疑義申し立てを受ける場合がある.再認定の欄を「要」で意見書を記載した際には,とくに保護者に対してその旨を十分に説明し理解を得ておくと,トラブルを回避しやすい.手帳が認定された場合には,原則,補装具費支給制度を活用して眼鏡処方をすることができる.眼鏡に度数を加入する場合には,視力障害が必須で視野障害のみでは不可とする市区町村が多いので留意を要する.Lowvisionであっても適切な屈折矯正がなければamblyopiaをきたしうるため,9歳未満の場合には小児弱視などの治療用眼鏡などにかかる療養費の制度活用が検討できる可能性もある.視力および視野から等級の計算を行う際には,国立障害者リハビリテーションセンターのWebサイトに計算機があるので活用されたい.「視覚障害者等級計算機」で検索すると表示される.(71)あたらしい眼科Vol.37,No.9,20201111ab図4筆記具と見え方のシミュレーションa:通常のルーズリーフと太罫のルーズリーフに,鉛筆,水性ペン,マジックで書いたものと,黒い紙に白いポスカで書いたもの,およびサインガイドの一例.b:aの写真にぼかし処理を加えたもので,普通のルーズリーフの罫線や鉛筆の文字がほとんど見えなくなっていることがわかる.る.黒い紙は切り抜いた窓の部分が触ってわかるようにある程度厚口で,また表面の光沢の少ない画用紙のような紙質のものを選ぶとよい.一般的なノートやルーズリーフなどは,罫線がきわめて薄く細く引いてあり,ロービジョン者にとっては使いにくい.罫線が太く濃く書かれているノートやルーズリーフを使うことで,今まで字をまっすぐ書けないと思われていた児童がマス目通りに字を書き,家族が驚く場面もしばしば見受けられる(図4).その他,ゲームやおもちゃでも視覚障害者用のものがある.点字付きのトランプやUNOのカード,石の表面に突起のあるオセロや囲碁,6面すべて白いが触感の違うルービックキューブなど,一般で使われているものをベースに視覚障害者も楽しめるような工夫が加えられている.これらを使うことで,家族や視覚に障害がないほかの児童とも同じゲームやおもちゃをユニバーサルで楽しむこともできる.これらの補助具は,日本点字図書館の用具の販売のページ4)から見ることができる.VIII情報収集の手段情報社会といわれる現代であっても,視覚障害に関する情報は一般的にはほとんど浸透していない.そのため,ロービジョンであることがわかったばかりの視覚障害児とその家族は孤立しがちである.眼科で簡便に情報提供できるツールのひとつとして,「スマートサイト」の活用があげられる.スマートサイトにはロービジョンの関連連絡先が書いてあるので,まずはそこに相談することをお勧めするのも一案である.スマートサイトは各都道府県眼科医会が中心となって全国的に整備が進んでいる.ちなみに,日本眼科医会のWebサイト5)の会員ページ内にアクセスすると,全国のスマートサイトがPDFなどでダウンロードできる.各都道府県に少なくとも1校はある視覚特別支援学校に相談することも有効である.視覚特別支援学校に通うつもりはないから相談できないと考えている保護者も多いが,相談したら視覚特別支援学校に通わないといけないわけではない.状況によっては普通校の弱視学級などと連携して視覚障害児の支援を行っている.さまざまな補助具の紹介や制度の相談などもできるので,まずは相談してみるとよい.乳幼児期からの相談も可能なので,早い段階から地元の視覚特別支援学校にコンタクトをとって関連情報を得られれば保護者の安心にもつながる可能性がある.近隣に患者会などの活動があれば,それを紹介するのも有効である.あるいは病院またはクリニックに同じような年代,疾患,視機能の患者がいる場合,相互に同意を得たうえで引き合わせるのも有効である.経験上,当事者同士の会話によって解決する問題は意外と多い.就学や就職に関しての情報収集は,視覚障害者ライフサポート機構“viwa”6)などを紹介することも有効である.viwaは視覚障害者やその家族のため「情報発信」「情報やノウハウの蓄積」「人や情報をつなぐ」ことを目的に活動している.ブログやメルマガの形式でさまざまな情報発信を展開しており,セミナーの案内や個別の相談も受け付けている.IXスポーツ「障害のない人はスポーツをしたほうがよいが,障害のある人はスポーツをしなければならない」とはスイスの車椅子陸上競技選手のハインツ・フライの言葉だが,受障時期を問わず視覚障害者ももちろんスポーツをしなければならない.視覚特別支援学校には体育教諭が在籍し,体育の授業もあるので,定期的にスポーツをする時間が作られているが,普通校の弱視級の場合には体育は見学になってしまうことも多い.ルール自体を視覚障害の特性に配慮したものに改変している競技は多く,その場合はユニバーサルに楽しめる.体力作りだけでなく,パラリンピックのようにさらに上をめざすなら,パラスポーツの各競技団体は選手の発掘に難渋しているので,経験の有無を問わず大歓迎だと思われる.日本眼科学会と日本眼科医会の「アイするスポーツプロジェクト」のWebサイト7)には,おもな視覚障害者スポーツ競技団体の連絡先一覧があるので,参照されたい.X困ったときはロービジョンケアには地域特性があるのは否めない.補装具,日常生活用具に関する見解も市区町村で異なる(73)あたらしい眼科Vol.37,No.9,20201113

乳幼児,小児の虐待を疑う眼疾患への対応

2020年9月30日 水曜日

乳幼児,小児の虐待を疑う眼疾患への対応OcularManifestationsofChildAbuse中山百合*はじめに児童相談所への虐待相談の件数は,増加の一途をたどっており,平成C30年度(2018年)は約C16万件と前年度よりC19.5%も増していた(図1).法改正や度重なる行政通達などで関係機関は体制強化を計ってきたものの,虐待死はほとんどの年でC50人を超え,とくにC2018年東京都目黒区の幼児死亡事例やC2019年千葉県野田市の児童死亡事例では,そのあまりに悲惨で痛ましい虐待の内容に社会全体が強い衝撃を受けた.今年は新型コロナ感染症対応における学校休業や外出自粛に伴って子どもや家庭の生活環境が大きく変化しており,厚生労働省は虐待リスクの高まりへの懸念から,「子どもの見守り強化アクションプラン」を公表して地域の見守り体制の強化を進めている現状である.本稿では子ども虐待の全体について述べたあと,小児眼科における虐待を疑う所見の代表的なものを提示し,それらに眼科医として遭遇した際に取るべき行動についてまとめる.CI子どもの虐待とは厚生労働省のホームページでは,児童虐待を身体的虐待,性的虐待,ネグレクト,心理的虐待のC4種類に分類して,具体的な事例をあげつつ呈示している(表1).平成C17年度の児童虐待防止法改正で,身体的虐待の項目に「児童の身体に外傷が生じたもの」のみではなく,「生じるおそれがある暴行」が追加されていることをしっかりと記憶に留めなくてはいけない.しつけと称して叩くのも現在では虐待とみなされており,程度によっては通告する義務がある.冬の寒い日にベランダや外に出す行為も身体的虐待に含まれている.ネグレクトは,きちんとしたご飯を食べさせなかったり,不衛生なままほったらかしにしたり,歯磨きを教えない,予防接種をまったく受けさせない,小さな子どもだけで留守番させるなどがあり,子育てに必要なあたりまえの親としての役割を無視して拒否する行為をさしている.性的虐待は,本人の心を傷つけ根源的な人格形成を脅かす深刻な虐待で,不適切で不健全な性行為を強要することはもちろん,ポルノや性的行為を子どもに見せることも含まれている.近年件数が増加しているのが心理的虐待で,褒めない,優しくしない,子どもに恐怖を与える言葉を用いるなどがあるが,「同居する配偶者に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス:DV)」「きょうだい間での明らかな差別的扱い」なども明記されるようになった.このように,子どもへの虐待は多岐にわたっている.たとえ小さな子どもとはいえ,この社会を構成している一人である.虐待とは,相手の人間としての尊厳を踏みにじる行為であり,子ども虐待とは「社会の中で健康に生きる」という子どもの権利が侵害されることをさしている.CII子ども虐待の実態日本全国の児童相談所に虐待の疑いがあると通報(通告)されたのは,平成C30年度では身体的虐待は全体の*YuriNakayama:砧ゆり眼科医院〔別刷請求先〕中山百合:〒157-0073東京都世田谷区砧C4-17-10砧ゆり眼科医院C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(61)C1101100,00090,00080,00070,00060,00050,00040,00030,00020,00010,0000H3H4H5H6H7H8H9H10H11H12H13H14H15H16H17H18H19H20H21H22H23H24H25H26図1児童虐待相談の対応件数の推移(厚生労働省ホームページより)表1児童虐待とは身体的虐待殴る,蹴る,叩く,投げ落とす,激しく揺さぶる,やけどを負わせる,溺れさせる,首を絞める,縄などにより一室に拘束するなど性的虐待子どもへの性的行為,性的行為を見せる,性器を触るまたは触らせる,ポルノグラフィの被写体にするなどネグレクト家に閉じ込める,食事を与えない,ひどく不潔にする,自動車の中に放置する,重い病気になっても病院に連れて行かないなど心理的虐待言葉による脅し,無視,きょうだい間での差別的扱い,子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:CDV),きょうだいに虐待行為を行うなど(厚生労働省ホームページより)注)2009年にアメリカ小児科学会は,SBSではその言葉が内包する受傷機序が限定的で,ゆさぶってから叩きつける行為や鈍的打撲などが含まれておらず,虐待と明確にさせるためにも,医療者はCAHTに用語を統一することを提唱している6).図2AHTの眼底写真とが多い.普段の診療以上に,こうした患児への対応は克明に記録をとるよう努めねばならない.C2.眼窩打撲や顔面の殴打に伴う外傷殴打や蹴る,物で叩くなどの行為で眼とその周囲に打撲傷が生じる.受傷直後では眼瞼裂傷や皮下出血を呈し,眼球への外力が大きい場合には,外傷性前房出血や隅角後退,水晶体偏位が生じることもある.受傷からしばらく経過して外傷性白内障や,網膜周辺部に多発性の萎縮円孔や大きな裂孔をもつ巨大な網膜.離をきたすことがあり注意が必要である.ビニールバットで子どもの顔面を保護者が滅多打ちにした自験例では,両眼とも広範囲な網膜振盪症を呈した.幸いなことに数日後に自然吸収されて完治したが,網膜振盪症のように可逆性がある障害程度だったとしても,前述したように大きな障害が生じるおそれがある打撲だった時点で,医療者は児童相談所へ通告する義務がある.外力が前頭部,とくに眉毛部を強打したときに,必ずしも視神経管骨折がなくても視神経損傷を起こし,受傷後から数週間後に視野狭窄や重篤な場合,失明に至ることがある.自験例でC4歳の子が両眼を父親に殴られ保護されたときに「目が痛い」と児童相談所の職員に訴えていたが,数週間後に「暗くなった,何も見えない」と話したときは両眼の視神経はすでに蒼白で失明に至っていたというあまりにむごい症例があった.小学生以上になると眼窩底骨折は虐待でなくともしばしば臨床で遭遇する.自験例で「家の中で走り回って柱にぶつかった」と子ども親が説明した事例があった.柱にぶつかったにしては額や顎には何の傷もなく,集合住宅の限られた面積でそれほどの速度を出して激突できるのか不思議になった.CT撮影する際に親子を離し,看護師とケースワーカーが患児を安心させてから話を丁寧に聞いてみると,母親の内縁の夫に拳で殴られたと話した.たとえ子ども本人が診察室で話したとしても,受傷機転におかしな点がある場合には,口実を設けてでも一時的に親子を離して,もう一度問診を丁寧に取り直す必要を痛感した症例だった.3.熱傷や穿孔性外傷など「顔面に熱湯がかかった」という事例が多くみられる.瞬間湯沸かし器をカウンターなどに置いてその電気コードを子どもが引っ張って子どもの頭上に熱湯ごと落下するなどが多い.「テーブルに熱い飲み物を置いて目を離したらつかまり立ちする子どもが頭からかぶってしまった」という自験例も複数あった.虐待というより養育過誤や注意不足から生じている.同様に,ボールペンやハサミなどの鋭利なものによる外傷や,コンセントのプラグによる事故など,身近なものでも家庭内の穿孔性外傷は生じる.つかまり立ちや伝い歩きをする年齢では家庭内の事故が増えることを保護者によく説明する.一度受傷しても子どもに再発の危険がありえる場合は,保護者の同意を得たうえで市区町村の担当窓口に連絡することができる.同意しない場合には通告すべきである.C4.医療ネグレクト医療ネグレクトとは,保護者が子どもに必要な医療を受けさせないという虐待であり,子どもに適切なケアが施されない結果,心身の障害をきたす可能性があるものをさす.眼科の領域では先天緑内障や網膜.離などの手術加療に対する保護者の拒否などが代表的である.その治療法が十分確立されて広く受け入れられており,成功の可能性が高く治療を受けないデメリットが大きいことを主治医が丁寧に十分説明しても,保護者が頑強に受け入れない場合には通告の対象となる.「眼鏡かけるなんてかわいそう」「せっかくのかわいい顔が台なし」と弱視治療などのための矯正眼鏡を常用するのを偏った考えから拒否する保護者がいる.筆者の印象ではC10年前よりかなり減ったように思うが,アイパッチなど家庭で行う訓練に非協力的な場面は今でもたびたび遭遇する.子どもの限られた時期にしかできない治療であることを丁寧に説明し,保護者と子どもをできるだけ温かく励まして治療につなげる努力が医療者側に必要とされる.十分な説明をしてもかたくなに拒絶を続ける場合には,医療ネグレクトとして児童相談所に通告する.「点眼は面倒なので内服薬で直してほしい」「点眼は泣いてしまって可哀そうだからできない」という保護者は1104あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(64)–

遺伝性網膜疾患のカウンセリング-最先端を行く神戸アイセンター病院の取り組み

2020年9月30日 水曜日

遺伝性網膜疾患のカウンセリング─最先端を行く神戸アイセンター病院の取り組みGeneticCounselingforInheritedRetinalDystrophies吉田晶子*前田亜希子*高橋政代*はじめに小児期発症の遺伝性網膜疾患は患者の生活,就学に多大な影響を及ぼすことがあり,慎重な対応と包括的アプローチが必要となる.また,疾患原因となる遺伝子変異が同定されている家系には発症前検査を勧めることにより,重篤な合併症を防ぐことが可能な場合もある.本稿では小児にみられる遺伝性網膜疾患について解説する.また,神戸アイセンター病院での取り組みについて,とくに遺伝カウンセリングを中心に紹介する.I小児にみられる遺伝性網膜疾患小児期発症の遺伝性網膜疾患として網膜色素変性症,Leber先天黒内症,Stargardt病などがあげられる.本稿では代表的な小児期発症網膜変性疾患について解説する.1.網膜色素変性症(retinitispigmentosa:RP)視覚に関与する重要な蛋白質をコードする遺伝子変異により,視細胞変性が進行する疾患である.一般的には,夜盲に始まり,視野障害,色覚異常,視力低下へと進行することが知られている.疾患原因遺伝子としては60超の遺伝子が報告(RetNet:https://sph.uth.edu/retnet/)されている.10~20代で発症することが多いことから,小児期に診断される場合もある.また,低年齢発症RPは重症化することが多く,適切なサポートが必要となる.小児期に診断されるRPの原因遺伝子としてはX連鎖性のRPGR,RP2や常染色体劣性遺伝形式を示すPDE6Bなどがある(図1).2.Leber先天黒内症(Lebercongenitalamauro-sis:LCA)とearlyonsetRP(EORP)乳児期(1歳まで)に発症するLCAは幼児期発症(5歳まで)のEORPとともにRPの亜型として分類されている.しかしながら遺伝子解析の進歩により,LCA,EORP,RPはそれぞれ独立した疾患ではなく,関連性の強い疾患群と理解されるようになってきている.とくに5歳までに発症する進行性網膜変性症を合わせてLCAと分類するようになってきている(図2).LCAの原因遺伝子は現在までに14遺伝子が知られており(Ret-Net),2017年には原因遺伝子の一つであるRPE65変異によるLCAに対する遺伝子治療が米国で標準治療として承認されている.3.Stargardt病常染色体劣性遺伝形式をとるABCA4遺伝子変異により発症するものが多く,欧米では90%以上がABCA4遺伝子変異であることが知られている.他の原因遺伝子としては常染色体優性遺伝形式を示すPROM1,ELOVL4などが知られている.黄斑変性が特徴的であるが,ABCA4は錐体視細胞だけでなく,桿体視細胞にも発現しており,経過とともに周辺網膜にも変性が進行しRP様となることがある.発症年齢が10*AkikoYoshida,*AkikoMaeda&*MasayoTakahashi:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕前田亜希子:〒650-0047神戸市中央区港島南町2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(51)1091図1網膜色素変性症例症例は19歳の女性で矯正視力は右眼(0.7),左眼(1.2),網膜電図は消失型を示す.右眼には黄斑浮腫を認める.小学校入学前より夜盲があり,小学校高学年で網膜色素変性症(retinitispigmentosa:RP)を指摘される.4歳年上の姉もRPの診断を12歳で受けている.姉妹にはPDE6B遺伝子にc.1604T>A;p.Ile535Asn,c.1712C>T;p.Thr571Met変異が検出されている.眼底には広範な無色素性の網膜変性を認め(a),自家蛍光眼底像撮影では黄斑部に過蛍光リングを認める(b).図2LCA症例症例は7歳の男児で矯正視力は両眼(0.03).乳児期に追視をしないことに両親が気づいていた.遺伝子解析は実施されていない.変性網膜には動脈血管に沿って正常網膜色素上皮が維持されるpreservationofthepara-arte-riolarretinalpigmentepithelium(PPRPE)所見が認められることからCRB1遺伝子変異が疑われる11).図3Stargardt症例左は12歳の男児,右は9歳の男児で兄弟である.矯正視力は兄が右眼(0.1),左眼(0.15),弟は両眼(1.0),視野検査では兄弟ともに中心暗点を認める.兄弟にはABCA4遺伝子にc.5318C>T;p.Ala1773Val,c.1760+2T>G変異が検出されている.自家蛍光眼底像撮影(上段)では兄弟ともに後極の過蛍光と黄斑部萎縮を認める.兄においては視神経乳頭の上側から鼻側に.ecksを認める(上図,左).網膜断層像撮影(下段)では兄弟ともにONL厚の減少と,兄には強い黄斑萎縮を認める.図4繊毛病(ciliopathies)症例症例は25歳の男性で矯正視力は右眼(0.02),左眼(手動弁)で求心性視野狭窄を認める.5歳で網膜色素変性症(retinitispigmentosa:RP)の診断を受けている.軽度知的障害があり,18歳で腎機能障害を指摘されている.BBS1遺伝子にc.1285C>T;p.Arg429*,ex10-11del変異が検出されBardet-Biedlsyndromeと診断できた.眼底には骨小体沈着を伴う広範な網膜変性を認め(a),自家蛍光眼底像撮影では広範な萎縮とともに黄斑部萎縮を認める(b).図5眼底白点症(fundusalbipunctatus)症例症例は11歳の女児で矯正視力は両眼(1.5).幼少期より夜盲がある.RDH5遺伝子にc.928delCinsGAAG;p.Leu310delinsGluVal,c.791T>G;Val264Gly変異が検出されている.眼底網膜には小白点が散在して認められる.表1遺伝性網膜疾患の遺伝カウンセリングの内容遺伝性網膜疾患の遺伝について,これまでの知識,誤解がないかの確認遺伝についての心配や不安,具体的な懸念事項家族歴の聴取遺伝性網膜疾患およびその原因原因遺伝子数が多いこと,症状の個人差との関連遺伝性網膜疾患の遺伝形式と,家族歴から予測される遺伝形式遺伝形式ごとのCatriskな家系員および再発率遺伝子解析についての情報提供(希望があれば研究参加を案内)親子間のコミュニケーションや関係性について自責や罪悪感の傾聴遺伝子解析の本人および家族にとっての意義について家族との情報共有,子どもへいつ,どのように遺伝について伝えるかの相談必要に応じて,心理カウンセリングについて情報提供生活や学校,および就労に対しての心配の傾聴,課題の抽出ロービジョンケアや患者会,相談窓口の紹介*すべてを一度に行わずに継続した相談になることもある.家系図例1家系図例2家系図例312112ⅠⅠⅠ1231232ⅡⅡⅡ男性1212女性ⅢⅢ男性罹患者女性罹患者図6遺伝性疾患にみられる家系図例家系図例C1は男女のきょうだいが患者(II-1,2)の場合,家系図例C2は,男児が患者であり(III-1),母方祖父(I-1)も同疾患の場合,家系図例C3は,男児C2名(III-1,III-2)が患者の場合を代表家系図例として提示する.に応じた理解ができることが多く,また保護者と情報を共有することで,親子の信頼関係が深まり,コミュニケーションが促されたケースも経験している.また,保護者からは,atriskのきょうだいやCX連鎖性の保因者女性の可能性のある娘にいつのタイミングで遺伝の情報を伝えるべきか,相談を受けることがある.両親が遺伝カウンセリングに来院した場合は,子の性格や状況,両親それぞれの思いを傾聴し,ポイントを整理しながら,適切なタイミングを検討していくこととなる.伝える場面も,保護者から伝えるという選択肢のほかに,遺伝カウンセリングの場を利用することも一つの方法として示している.小児の遺伝子検査をいつ行うかという点も,同様にむずかしいポイントの一つである.疾患の原因を特定することは,医療にとって重要であり,ときに症状の予測や就学,就労での参考,またロービジョンケアに役立つ情報となる.先天性停止性夜盲との診断がなされる場合などは,電気生理学的検査に加え,遺伝子検査が有用である.また,ciliopathiesなどの症候群性CRPが遺伝子検査で確定された場合には,合併症のフォローアップにつなげることができる.当院では,耳鼻咽喉科や小児科と連携し,合併症への適切な対応が可能となる体制を整えている.一方で,現状では,原因遺伝子の情報により,すぐに医療介入することはむずかしく,遺伝の情報はあくまでも将来的な治療への情報,および遺伝形式の同定にとどまる可能性がある.遺伝子検査で遺伝形式が明らかとなれば,前述のように,atriskの家系員やCX連鎖性の女性保因者についての情報が得らえる可能性がある.ただし,小児期に行った遺伝子検査の結果や遺伝形式について,とくに本人にすぐに伝えることができない年齢であった場合,いつそれを伝えるのか,保護者が悩む状況も予測される.遺伝についての情報は一生涯変わることなく,さらに患者本人の進路や結婚,挙児に影響する可能性もある.家族構成や病態によっては,本人の理解が進む年齢において,改めて遺伝子検査について検討することも一つの選択肢となりうるだろう.なお,当院では,患者に遺伝子変異が同定された場合も,小児を含め網膜症の発症前診断や保因者診断は行っていない.しかしながら,今後,治療法の開発が進むことで,より小児期の診断や保因者診断が求められるようになる可能性があり,そのような場合には,新たな課題が表出すると考えられる.C6.遺伝カウンセリングにおける心理社会的支援遺伝カウンセリングにおいては,疾患や遺伝形式の説明のほか,心理社会的支援が役割の一つとしてあげられている.小児での遺伝性網膜疾患診断の場合,患者本人だけでなく,保護者にとっても,有効な治療法がなく,進行性であり,遺伝性疾患であり,患者のきょうだいや血縁者,さらに将来の孫の世代まで影響するかもしれないという状況は,非常に心理的負担が大きいことは想像に難くない.遺伝カウンセリングでは“遺伝について”という視点で話し合いが始まるが,お互いに時間をかけて説明と相談を繰り返すなかで,患者家族が抱えてきた心配や不安,苦しさを吐露する場にもなる.また,視機能低下の防止や安全確保のために,行動を制限したり,保護者が過度な介入をするなど,病気を意識するあまり親子関係がスムーズでない場合もある.ときにそれは遺伝や病気についての誤解が影響していることがあるため,丁寧に状況を聞き,情報提供することで,合理的に考えられるようになったり,前向きに考えを変えていくことができる場合がある.両親においては,常染色体劣性遺伝の保因者,もしくはCX連鎖性遺伝の女性保因者の可能性があるということに自責や罪悪感を抱くこともある.両親自身がつらい思いをしていることに加えて,患者または血縁者に対し,遺伝について伝えていく“伝える役割”を負うことの悩みやストレスを抱えることもある.遺伝カウンセリングでは,そのような悩みに対し,傾聴を軸に,ポイントを絞り話し合いを重ね,解決策もしくは納得できる方針を模索している.しかしながら,心理支援の介入が必要と考えられる場合は,心理カウンセリングへ紹介することもある.当院では,月に一度,視覚障害およびロービジョンケアに精通した公認心理師による心理カウンセリングが実施されている.当院での遺伝カウンセリングは通常,1時間程度の話(57)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1097.遺伝性網膜疾患患者の診療.疾患・経過など,病状説明.ロービジョンケア,障害者手帳などの紹介.遺伝形式やリスクのある血縁者について.視覚障害に起因する心理的問題について情報提供心理介入および助言・情報提供.遺伝に関する心配に対し心理的支援.必要に応じて視覚障害者情報提供施設・.生活や就労などにおける課題の傾聴および支援窓口の紹介.希望者に対し,研究として遺伝子解析をロービジョン外来/ビジョンパーク実施.補助具,白杖,羞明対策(遮光眼鏡).原因遺伝子の同定および遺伝形式の決定.公的支援制度の紹介.生活,就学,就労サポート.デバイス,アプリ,生活上の工夫の紹介や体験.患者会・支援団体の紹介や直接相談図7神戸アイセンター病院での取り組み遺伝性網膜疾患患者に対する神戸アイセンターでの包括的な支援体制について示す.診療・病状説明を行う網膜変性外来を中心に,遺伝カウンセリング,心理カウンセリング,ロービジョンケア,また希望者に対する遺伝子解析が,それぞれの専門家によって担当されている.各外来は密接連携しており,患者・家族はそれぞれの支援をスムーズに受けることができる.神戸アイセンターはこのように多岐にわたる支援を「ワンストップ」で提供することをめざして設立された.■用語解説■遺伝カウンセリング:遺伝カウンセリングは,遺伝性疾患を幅広く対象とし,疾患や遺伝形式,遺伝子検査についての情報提供および,疾患や遺伝に伴う心配や不安に寄り添う心理的支援を通じ,患者と患者家族が疾患へ適応できるようサポートする場であるとされる.遺伝カウンセリングに携わる専門職として臨床遺伝専門医および認定遺伝カウンセラーが学会認定されている.

小児におけるオルソケラトロジー

2020年9月30日 水曜日

小児におけるオルソケラトロジーOrthokeratologyinChildrenwithMyopia中村葉*はじめにオルソケラトロジーは,酸素透過性ハードコンタクトレンズを夜間就寝時に装用することによって角膜を平坦化させ,近視矯正を行う方法である.昼間裸眼で過ごすことができるため,スポーツをする人には向いている方法であるが,睡眠時間がC7時間程度必要であること,暗所時にハローやグレアの自覚の出る場合があることなどの理由で成人では適応が限られてくる.また,度数の適応としては,C.4.0D以内の近視,1.5D以内の直乱視,0.75D以内の倒乱視が適応であり,中等度までの近視でないと適応とならない.さらに,近年認められてきた近視進行抑制効果のため,現在は学童期への処方が多くなってきている.CI世界の動向世界における処方率を比較したのが図1である1).この報告ではC2004~2017年に処方されたC500種類以上のコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方C29万C5千例のなかでのオルソケラトロジーレンズの処方率を示している.処方率の高い国としてヨーロッパ圏,香港・台湾など東アジア圏の多いことがわかる.この統計でもっとも処方率の高いオランダはあるオルソケラトロジーレンズ関連企業の本拠地であることが関係している可能性は否定できないが,周辺のベルギー,イタリア,スイスなどでの処方率も比較的高い.このグラフからわかるように日本での処方率は約C0.2%と少ない.また同じ報告によれば,図2に示すように,通常のレンズとは違い,オルソケラトロジーレンズの処方年齢はC6~17歳がC40%を占めている.日本における年齢分布は図3に示すようにC20歳未満がC66%であり,世界の平均よりもさらに20歳未満での処方が多いことがわかる2).日本においては,CL全体のなかでの処方率はかなり少ないのが現状であるが,20歳未満の未成年者に多く処方されている.CII近視進行抑制効果の検証20歳未満の未成年の処方が多い理由は,近視進行抑制効果を期待してのことと考えられる.近視進行はC15歳前後で落ち着くという報告3)もあるが,人種により違いがあることや,近視度数が強いと落ち着くのが遅くなることも報告されているため,日本人の場合はもう少しあとの可能性もある.いずれにしてもC10代後半までに眼軸の伸長に伴い近視は進行するため,10代までの期間が大切である.オルソケラトロジーの近視進行抑制効果については,これまで多くの報告が出されている.2年の経過でオルソケラトロジーによる近視進行抑制効果について述べた報告が多く,東アジア,ヨーロッパ,オセアニアなどからの報告が多くを占めている4~10).京都府立医科大学でもC2003年以降,学童(7~12歳)を対象としてC4種類のオルソケラトロジーレンズについての検討を継続的に行ってきた11,12).すべてを同時期に行ったものではないが,エントリー時屈折度数は同様であるオルソケラトロジー群C114例,通常眼鏡群C30例で*YoNakamura:四条烏丸眼科小室クリニック〔別刷請求先〕中村葉:〒604-8152京都市中京区手洗水町C652四条烏丸眼科小室クリニックC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(45)C1085Proportionofcontactlens.ts(%)876543210NLHKITBETWATESAUCHDEMXFRMYNZPTCNBGILSECANOROHUZAPRUSUKDKSGARRUKRPHGRJPSIJOCZLTAEBREGIDIRNP処方率の高い国オランダ,香港,イタリア,ベルギー,台湾,オーストリア,スペイン,スイスなど図1国別オルソケラトロジーレンズ処方率2004~2017年に処方されたC500種類以上のコンタクトレンズの処方(29万C5千例)のなかでのオルソケラトロジーレンズ処方率.日本は約C0.2%の処方率である.(文献C1より改変引用)Proportionoflens.ts(%)就学前児童■6~12歳■13~17歳0~5歳(mm)1.210.80.60.40.20レンズAレンズBレンズCレンズD通常眼鏡図4オルソケラトロジーレンズ装用と通常眼鏡装用における2年間の眼軸伸長の比較4種類のオルソケラトロジーレンズ装用群(レンズCA~D)114例と通常眼鏡装用群C30例におけるC2年間の眼軸長伸長.いずれも年齢C7~12歳,開始時屈折度数C.1.5~C.4.0Dの症例.通常眼鏡装用群に対してオルソケラトロジーレンズ装用群では眼軸長の伸長が抑制されていた.表1オルソケラトロジーによる眼軸長抑制効果(7論文のメタ解析結果)論文コントロール群眼軸伸長抑制効果ウェイトChoら(2C005)眼鏡群0.25Cmm/2年14.3%Wallineら(2C009)SCL群0.32Cmm/2年18.8%Kakitaら(2C011)眼鏡群0.22Cmm/2年20.6%Choら(2C012)眼鏡群0.27Cmm/2年18.6%Santodomingo-Rubidoら(2C012)眼鏡群0.22Cmm/2年12.3%Charmら(2C013)眼鏡群0.32Cmm/2年5.9%Chenら(2C013)眼鏡群0.33Cmm/2年9.5%平均0.27Cmm/2年100%オルソケラトロジーによるC2年間の眼軸伸長抑制効果は平均C0.27mm,近視進行抑Cells/mm2制効果は平均C45%であった.オルソケラトロジー群(Dk/L:67)眼鏡群3,8003,4003,0002,6002,200図5角膜内皮細胞密度の比較全49例98眼,年齢9.4C±1.6歳の症例.オルソケラトロジー群と眼鏡群のC2年間の角膜内皮細胞減少率はいずれもC2%であり,有意差を認めなかった.(文献C21より引用)0.460.420.380.340.30(文献C13より改変引用)オルソケラトロジー群(Dk/L:67)眼鏡群装用前6カ月1年1.5年2年図6角膜内皮細胞の変動係数(CV)の変化比較全49例98眼,年齢9.4C±1.6歳の症例.オルソケラトロジー群と眼鏡群のC2年間の角膜内皮細胞のCCV(coe.cientCofvariation)値には有意差を認めなかった.オルソケラトロジー群:1.7%増加,眼鏡群:2.5%減少.(文献C21より引用)図713歳症例の右眼角膜内皮細胞密度の経過装用前の角膜内皮細胞密度がC2,857Ccells/mmC2であった症例.装用開始C1.5年後の検査時にC2,521Ccells/Cmm2と減少していたため,説明のうえ,継続を中止することとなった.中止C1.5年後の検査ではC3年前とほぼ同様のC2,817Ccells/mmC2になっていた.中止後のCCV値(角膜内皮細胞形状の変化の度合いを示す係数)もC3年前の値に戻っていた.(文献C23より引用)–

デジタルデバイスと急性後天共同性内斜視

2020年9月30日 水曜日

デジタルデバイスと急性後天共同性内斜視AcuteAcquiredComitantEsotropiaandDigitalDevices佐藤美保*はじめにコンピューターゲーム,テレビゲーム,ビデオゲーム,家庭用ゲーム,携帯ゲームなど,時代によって,あるいはプログラミング形式,ディスプレイ機器によって呼び方は変わっているが,これらはどれも子どもたちにとって大変魅力的である.1983年に発売された任天堂のファミリーコンピューターは多くの家庭にゲームで遊ぶ楽しさをもたらし,当時ゲームで遊んだ小学生たちはデジタルネイティブとよばれ,いまや子育て世代である.そしてインターネットと携帯型端末の普及により,いつでも,どこにいても,あらゆる情報に容易にアクセスできる時代となっている.1980年代にはオフィスのオートメーション化に伴い,テクノストレス眼症やVDT(visualdisplayterminal)眼精疲労が大きな問題になった.当時コンピューターによる眼障害は主として大人たちのもので,子どもたちがコンピューターに接する機会は限られていた.現代の子どもたちは,生まれながらにタブレット端末やスマートフォンが手の届く環境にあり,言葉の十分に話せない2歳児でも,自分の好みの動画を指1本で選んで好きなだけ視聴することができる.中高校生のほとんどがスマートフォンを持ち,家族や友人とのコミュニケーションにそれらの機器を用いている.それだけではなく,学校の授業にもICT(informationandcommunicationtechno-logy)機器が使われるようになっている1).このようなICT機器を用いた学習は,新型コロナウィルスという新たな脅威のなかで,人と接触しない手段としてさらに推進されていくことであろう.このように,今の子どもたちは,20年前とはまったく異なる視環境のなかで日々の生活を送っている.そして,今後10年20年という長いスパンで考えた場合,今の子どもたちが何を見,何を考え,どのような大人になっていくのかは,われわれの想像をはるかに超えている.そのような時代のなかで子どもたちの眼にはどのような影響が現れているだろうか,そして今の子どもたちが成長したときの眼の状態はどのようなものになるのだろうか.Iデジタルデバイスと斜視の関連デジタルデバイスの使用と関連する斜視は,水平斜視の悪化が多く,そのなかでもとくに注目されているのが後天内斜視である.後天内斜視は,生後6カ月以降で発症する内斜視をさすが,そのなかでも急性発症であること,そして眼球運動制限(外転制限)のないものを急性後天共同性内斜視(acuteacquiredcomitantesotro-pia:AACE)とよんでいる.急に内斜視が発症するため,突然複視を訴えたり,片目つむりをしたり,歩行や行動が不安定になったりなどで周囲が気づく.一方,小児は抑制が早期にかかるようになり,発症後わずか数日で複視を訴えなくなることもあるため保護者が発症日をはっきり認識していない場合や,斜視に気づかずにいて,発症の時期を確定するのが困難な場合もある.その*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕佐藤美保:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(37)1077輻湊と調節のアンバランスが起きる距離右眼で見る画像左眼で見る画像図13D映像における,輻湊と調節のアンバランス図2ゲーム後に悪化した斜視症例-表1成人における作業別の視距離・文字サイズ・視角・輻湊角書籍スマートフォンメールスマートフォン通常文字視距離±SDC33.7±5.7CcmC27.7±4.8CcmC19.3±5.0Ccm文字サイズC3Cmm2.C3Cmm1.C2Cmm輻湊角C18.0±3.0ΔC22.0±4.0ΔC31.0±7.0Δ(文献C14より一部抜粋)-周囲の気づきと適切な対応適切な屈折矯正1歳未満1~2歳3~4歳身体活動:30分身体活動:180分身体活動:180分スクリーンタイム:0スクリーンタイム:スクリーンタイム:60分以下睡眠時間:14~17時間1歳児0/2歳児:60分以下睡眠時間:10~13時間睡眠時間:11~14時間図4WHOによる5歳未満の子どもの生活習慣の勧め(文献C16より引用)C-

近視進行抑制治療における保護者対応

2020年9月30日 水曜日

近視進行抑制治療における保護者対応ParentSupportfortheControlofMyopiaProgression山田裕華*生野恭司*はじめに近年の近視人口の増加の勢いはめざましい.近視が進行し強度近視になると,眼軸長の伸展によって網膜.離や近視性の黄斑疾患,緑内障などの合併症のリスクも増加することがよく知られている.加えて強度近視による失明は中途失明原因の上位であることからも,近視が矯正のみならず治療や予防の必要性が高い疾患であることを示している.昨今の近視発症の低年齢化でますます近視が原因の疾患の増加が懸念されている.このような深刻な状況下でシンガポールから発表されたATOMスタディ1)ならびに続報のATOM2スタディ2)は,今まで困難であった近視進行の抑制が低濃度アトロピンの点眼で学童期に簡便かつ低リスクでできるとの報告であり,近視人口の急増に歯止めがかけられると期待された.とくに近視が多い東アジア諸国では,学童期の近視予防が急務であるとの認識から,課外授業の義務化など国家規模の対策がとられている.しかし,東アジアであるわが国は学校検診にて屈折検査および眼軸長検査が必須項目になっておらず実際の近視の人口も不明であることから,国をあげて近視の十分な予防対策をとっているとは言いがたい状況である.よって近視がもっとも進む時期とされる学童期に,予防的に近視抑制する方法が必要と考えられている.近視進行抑制法には大きく分けて,薬物による方法と屈折矯正による方法がある.予防治療で大事なことは,1)重篤な副作用がない,2)経済的である,3)煩雑でない,の3点である.これらの要素に加え屈折異常の度合い,患者本人や保護者の希望,来院可能な頻度など考慮し,最善の治療方針を決定する必要がある.I近視の分類近視の度数による分類には明確な基準が定まっていない.日本近視学会は診断のガイドラインとして度数に関して以下のように定義している.①弱度近視:0.5D以上.3.0D未満の近視②中等度近視:3.0D以上.6.0D未満の近視③強度近視:6.0D以上の近視ここで重要なのは,学童期の近視をみた際に,成長期が過ぎてもこのまま単純近視でとどまるのか,黄斑疾患を合併する可能性のある病的近視になるのか,という点である.現在,病的近視になる遺伝子の解明に向け基礎研究が進んでいる.II近視進行の原因近視の進行は遺伝因子と環境因子の相互作用であるとされている.なかでも現代のライフスタイルの変化の影響は大きく,最近ではスマートフォンやゲームなどの普及による視影響の変化によるといわれることが多い.近視化のトリガーには2種類の仮説がある.一つは網膜面における遠視性の焦点誤差(以下,遠視性デフォーカス)理論である(図1).この遠視性デフォーカスはさらに,*YukaYamada&*YasushiIkuno:いくの眼科〔別刷請求先〕山田裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東2-9-10十三駅前医療ビル3階いくの眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(29)1069結像面図1遠視性デフォーカス説の仕組み近視眼では周辺部(軸外)において網膜よりも後方に結像されやすい.このとき通常の眼鏡やコンタクトレンズで矯正を行うと,眼軸長の伸長(軸性近視の進行)が促進される.表1近視進行抑制法のメリット・デメリットメリットデメリット低濃度アトロピン点眼液・低年齢でもできる・簡単である・副作用(羞明や近見障害)の可能性がある・裸眼で視力が改善しないので効果を感じにくい多焦点眼鏡・手軽にかけはずしできる・安全性が高い・激しい運動に向かない・眼鏡をかける位置や目線の使い方によっては効果が得られにくい多焦点コンタクトレンズ・強い度数にも対応できる・見た目が変わらない・装脱やケアを正しく理解する必要があるオルソケラトロジー・裸眼で過ごせる・中止すれば2週間程でほとんど元の眼の形に戻る・見た目が変わらない・高額である・強い度数は対応できない・度数変動があるので予備の眼鏡が作製しづらい・装脱やケアを正しく理解する必要がある図2ムスカリン受容体(アトロピン点眼)によるブロックのイメージ強膜の合成阻害説とよばれる.神経伝達物質のアセチルコリンがムスカリン受容体に結合する前に,アトロピン点眼で遮断し,眼軸長の伸展を防ぐとする説である.周辺はスティープ図3オルソケラトロジーによる遠視性デフォーカスの改善角膜周辺部の角膜形状が急峻化するため,遠視性デフォーカスが改善する.網膜前方での近視性デフォーカス図4DIMSレンズ装用で起きる近視性デフォーカスの仕組みプラスパワー加入ゾーンを通る光は,網膜状の第一フォーカスとは別に,約C3.5D前方に第二フォーカスを作る.<副ふく作さ用ようチェックシート>お名な前まえ目めぐすりをしているなかで、あてはまる数すう字じに丸まるをつけてください。1.近ちかくの文も字じが見みえにくくなりましたか?普ふ段だんと変かわらず見みえる多おおくの文も字じが見みえづらい12342.太たい陽ようや光ひかりがまぶしくなりましたか?普ふ段だんと変わらずまぶしくない目めがあけられないほどまぶしい1234ご協きょう力りょくありがとうございました。受うけ付つけ・検けん査さの人ひとにお渡わたしください。図5当院の外来で使用している副作用チェックシート羞明および近見障害をC4段階でアンケート調査している.保護者ではなく,本人に記入してもらうようお願いしている.にて冷暗で保存および配布する.本剤を冷暗所保管のうえ,1日C1回眠前に両眼点眼するよう指導する.毎回診察前に羞明や近見障害に関するチェックシートを渡し,副作用の有無を確認する(図5).当院で行ったC0.01%アトロピン点眼のC1年間の研究では,点眼下で屈折度数は平均C0.63D近視化し,眼軸長は平均C0.39Cmm伸展した.また,初診時の裸眼視力値が高いかもしくは近視度数が少ないほど,近視度数・眼軸長ともにより大きく進行もしくは伸展した.C2.オルソケラトロジー初診時とは別日に装脱練習で来院してもらい,CLの取り扱い方を伝えながら十分装脱練習に時間をとって行う.角膜感染症になる危険もあることを説明しレンズケアを怠らないように指導する.C3.EDOFレンズオルソケラトロジーと同様に,初診時とは別日に装脱練習で来院してもらい,CLの取り扱い方を伝えながら,装脱練習に十分な時間をとっている.C.12Dまでの度数に対応しており,おもに強度近視の学童に勧めることが多い.過去のCRCT14)にてもっとも抑制効果の高かった加入度数+1.75Dのレンズを採用している.C4.検査項目当院の検査内容は治療内容にかかわらず以下の通り行う.1.オートレフケラトメータによる非調節麻痺下での他覚的屈折値2.非接触眼圧計による眼圧測定3.スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞測定4.ウェーブフロントアナライザーによる高次収差測定5.光学式眼軸長測定装置による眼軸長測定6.光干渉断層計による角膜および網膜形状検査7.準標準視力検査装置での遠見の裸眼および矯正視力測定調節麻痺薬を毎回使用して検査するのではなく,何度かの来院時データに基づく近視進行の評価を行うことで,学童本人ならびに保護者への負担を少なくし近視治療のため頻繁に通ってもらうことが可能となっている.治療開始からC1.3カ月ごとに来院してもらい眼局所の副作用チェックを行う.以降はC6カ月間隔で上記C1.7にあげた前後眼部の一連の検査を行うことで,近視進行の評価を行っている.近視抑制治療は学童および保護者のアドヒアランスが重要である.近視抑制治療を望む保護者はとくに近視に対しては非常に不安が強く敏感であることが多い.初診来院時に近視抑制法の一覧のパンフレットを渡し,事前理解を深めてもらう.診察にて現状の説明,学童や保護者が抱える問題点の解決,治療への十分な説明と同意を得る.このような問診から診察での一連の流れが,近視治療の効果が最大限に発揮するかどうかの鍵となると考えている.保護者向けのQ&A当院における典型的な質問と回答をここに載せる.Q.近視は治りますか?A.自然に治ることはありません.成長期に身長が急に伸びる時期がありますが,眼球も前後に伸びることで近視が進みます.この時期がもっとも近視が進みやすいとされています.Q.裸眼視力がどんどん下がっているので不安です.A.近視が進行して裸眼視力が下がるのは自然なことです.大事なことは,眼鏡をかけた矯正視力が落ちないようにすることです.適宜視力検査をする必要があります.近視の度数の進行が早ければ,抑制法を考えていく必要があります.Q.近視が進む原因は?A明らかになっていません.よくある質問の例として以下のようなものがありますが,医学的に証明されたものはほとんどありません.「遺伝ですか?」「睡眠時間が少ないからですか?」「眼鏡を常にかける/かけ外しするからですか?」「部屋や画面が暗い/明るいからですか?」「電灯がCLED/電球だか(35)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1075–

三歳児眼科検診の視覚スクリーニングにスポットビジョンスクリーナーは有用か

2020年9月30日 水曜日

三歳児眼科健診の視覚スクリーニングにスポットビジョンスクリーナーは有用かSpotVisionScreenerforVisionScreeningin3-year-oldChildreninJapan─IstheSpotVisionScreenerUsefulforVisionScreening?林思音*はじめにWelchAllyn社のスポットビジョンスクリーナー(SpotVisionScreener,以下SVS)は,おもに屈折検査と眼位検査を行う機器である.SVSが国内で発売されて5年が経過した.小児眼科を専門としない先生方も,一度は使用したり検査後の精査依頼を受けたことがあるのではないだろうか.発売当初は,小児科から精査依頼の紹介を受けた眼科医がとまどうなど,眼科―小児科間でのトラブルを多数耳にした.しかし,日本弱視斜視学会および日本小児眼科学会が発行した『小児科医向けSpotVisionScreener運用マニュアル』1)や,日本小児科医会の会員専用サイトに乳幼児の精密検査受入可能な眼科医療機関を掲載するなどの働きかけで,以前に比べると連携がスムーズに行われるようになったと聞いている.では,スクニーニング効果についてはどうか?三歳児健康診査視覚検査(以下,三歳児眼科健診)は,乳幼児眼科健診のなかでも大規模に行われている健診である.日本眼科医会の調査によると,その実施率は全市町村の95.8%に達する2).これからの三歳児眼科健診にSVSは取り入れられていくのだろうか.本稿では,まず三歳児眼科健診の現状と課題について触れ,次にSVSの特徴を紹介し三歳児眼科健診に有用かどうかについて述べる.I三歳児眼科健診1.三歳児眼科健診の目的は弱視の発見三歳児眼科健診で見つけるべき疾患のなかで,一番重要と考えられているのは弱視である.弱視は,視力が年齢相応に発達していない状態であり,その原因は屈折異常,斜視,器質的疾患である.片眼性のことが多く,なかでも屈折の左右差から生じる不同視弱視が,弱視全体の半数以上を占めるといわれている3).弱視の原因が斜視や形態異常であれば周囲の大人や小児科医が気づくことが可能だが,屈折異常,とくに不同視弱視は外見上はまったくわからないため,スクリーニング検査が発見に重要な役割を果たす.弱視は早期発見ができれば眼鏡装用と弱視訓練により治療可能であるが,発見が遅れた場合は生涯にわたり視力障害を負うことになる.このように三歳児眼科健診は弱視検出に重要な機会であるのだが,残念ながら健診をすり抜けて就学時健康診断や学校健診で弱視を指摘される例が多く報告されている.2.三歳児眼科健診の精度を上げるために屈折検査が重要三歳児眼科健診の精度を上げるため,追加すべき検査が屈折検査であることがこれまで多数報告されてきた.*ShionHayashi:山形大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕林思音:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)1063図1スポットビジョンスクリーナー(SVS)図2SVSの検査風景検査は被検者からC1Cm離して行う.a異常判定を示すメッセージ正常範囲内だった場合は,「スクリーニング完了」と表示されるb等価球面度数異常判定項目眼位球面度数円柱度数図3SVSの異常判定基準により得られた結果票a:異常判定であった場合の結果票.SVSをワイヤレスネットワークでプリンターに接続すると,結果票をCA4サイズの用紙に印刷できる.Cb:aの点線部分.等価球面度数,球面度数,円柱度数,乱視軸,眼位などの実測値および異常判定項目が表示される.また,異常値は赤字で表記される.表1米国小児眼科学会(AAPOS)が定める弱視リスクファクターリスクとなる屈折異常値年齢(月齢)乱視遠視近視不同視12.3031.48>48>2.0D>2.0D>1.5D>4.5D>4.0D>3.5D>.3.5D>.3.0D>.1.5D>2.5D>2.0D>1.5D屈折値以外のリスクファクター全年齢恒常性斜視8Δ以上中間透光体の混濁(文献C9より引用)Proportionadequatelyscreened100%92%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%3YearsOld4YearsOld5YearsOld図4Instrument.basedscreening(SVS使用)とchart.basedscreening(視力検査,立体視機能検査)の検査可能率の比較SVSは,どの年齢においても検査成功率が高い.とくにC3歳においては,検査可能率の差が大きく,3歳児においてSVSが視力検査などを補完するものであることを示唆している.(文献C11より引用)訳をみると,SVS陰性で従来の方法で陽性だった者の中に眼鏡を要する屈折異常者がいたことから,従来の方法に置き換わるものではなく,追加するのが妥当であると考える.C3.群馬県三歳児眼科健診の報告13,14)群馬県では,2018年度から全県下で三歳児眼科健診に屈折検査(おもにCSVS)を導入している.群馬県眼科医会ホームページにも掲載されている群馬県の健診フローチャート(図5)14)を見ると,健診対象者全例に屈折検査および家庭での問診と視力検査を実施している.ただし,屈折検査で異常の場合は,問診と視力検査の結果いかんにかかわらず,精密検査依頼票を発行し,屈折検査異常の見逃し防止に努めている.また,導入にあたっては,機器の導入はもちろんだが,現場の理解と協力も不可欠である.検査を導入するとなると,1)人員の確保(検査員C1名,誘導員C1名),2)検査場所の確保(個室の必要はないが,厚手カーテンなどで薄暗い環境を確保する),3)検査の流れの見直しが必要となる.そこで群馬県では,講習会を設置し屈折検査の必要性を担当保健師に説明し,県眼科医会・県医師会がガイドラインの作成をするなど,連携体制の構築の働きかけを行っている.おわりに―これからの課題三歳児眼科健診にCSVSが有用であることは,多方面からみて明らかである.しかしながら,導入した自治体が限られているため,その有効性や費用対効果を示すエビデンスがまだまだ少ない.異常判定基準についても,日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会は推奨する基準を設置しており,今後は現場での評価が必要である.また,屈折検査の有用性を示すことは,行政への働きかけの材料となるので,SVSを導入した地域の眼科医は,ぜひその結果を報告していただきたい.他方,各地域の活動には限りがあることから,日本眼科医会は今年度より三歳児健診のあり方検討委員会を設置し,専門学会とともに,屈折検査の項目を盛り込んだマニュアルの作成を進めている.C1068あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020三歳児眼科健診におけるCSVSの有用性は明らかになり始めたばかりであり,課題解決に向けた各領域の取り組みに期待したい.文献1)日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会:小児科医向けCSpotCVisionScreener運用マニュアルVer1.http://www.japo-web.jp/_pdf/svs.pdf(2019/5/17)2)日本眼科医会公衆衛生部:三歳児眼科健康診査調査報告(VI)─平成C28年度.日本の眼科89:171-176,C20183)XiaoCO,CMorganCIG,CEllweinCLBCetal:PrevalenceCofCamblyopiaCinCschool-agedCchildrenCandCvariationsCbyCage,Cgender,CandCethnicityCinCaCmulti-countryCrefractiveCerrorCstudy.OphthalmologyC122:1924-1931,C20154)板倉麻理子,高橋美和子,小島由加利ほか:3歳児健診で見過ごされた弱視の症例.眼臨紀10:153-156,C20175)林思音,仁科幸子,森隆史ほか:三歳児眼科健診における屈折検査の有用性:システマティックレビュー.眼臨紀C12:373-377,C20196)MatsuoCT,CMatsuoCC,CKioCKCetal:IsCrefractionCwithCaChand-heldCautorefractometerCusefulCinCadditionCtoCvisualCacuityCtestingCandCquestionnairesCinCpreschoolCvisionCscreeningat3.5yearsinJapan?ActaMedOkayamaC63:C195-202,C20097)PeterseimCMM,CPapaCCE,CWilsonCMECetal:TheCe.ectivenessCofCtheCSpotCVisionCScreenerCinCdetectingCamblyopiariskfactors,JAAPOSC18:539-542,C20148)林思音,枝松瞳,沼倉周彦ほか:小児屈折スクリーニングにおけるCSpotVisionScreenerの有用性.眼臨紀10:C399-404,C20179)DonahueCSP,CArthurCB,CNeelyCDECetal:GuidelinesCforCautomatedCpreschoolCvisionscreening:AC10-year,Cevi-dence-basedupdate.JAAPOSC17:4-8,C201310)DonahueSP,NixonCetal:Visualsystemassessmentininfants,Cchildren,CandCyoungCadultsCbyCpediatricians.CPedi-atrics137:28-30,C201611)ModestJR,MajzoubKM,MooreBetal:ImplementationofCinstrument-basedCvisionCscreeningCforCpreschool-ageCchildreninprimarycare.PediatricsC140:e20163745,C201712)鈴木美加,比金真菜,佐藤千尋ほか:3歳児健康診査でのCSpotCVisionScreenerの使用経験.日視会誌C46:147-153,C201713)板倉麻理子,板倉宏高:群馬県乳幼児健診における視覚発達の啓発と屈折検査導入への取り組み.臨眼C72:1313-1317,C201814)3歳児健康診査における眼科検査の手引き.弱視の早期発見のために.第C2版.群馬県医師会ホームページ.http://Cwww.gunma.med.or.jp/PDF/3-year-olds_ophthalmic_med-ical_examination.pdf(28)

色覚異常の診断に必要な検査と対応方法

2020年9月30日 水曜日

色覚異常の診断に必要な検査と対応方法TheMethodofDiagnosisforCongenitalColorVisionDe.ciency岩佐真紀*村木早苗**はじめに先天赤緑色覚異常は日本人男性の5%,女性の0.2%に存在する,眼科診療で一般的な疾患である.通常ヒトの網膜には明るさを感知する杆体と色を感知する3種類の錐体が存在する.3種類の錐体は感じやすい波長が異なり,それぞれ長波長感受性錐体(L-錐体),中波長感受性錐体(M-錐体),短波長感受性錐体(S-錐体)とよばれている.それぞれの錐体に含まれる視物質(オプシン)に対応する遺伝子はL-錐体・M-錐体はX染色体上に,S-錐体は常染色体上に存在する1).先天色覚異常ではこの3種類の錐体のうちどれかが欠損している,あるいはあっても不完全な機能しかもたない場合に起こる.通常ヒトはL-錐体とM-錐体の反応の差から赤と緑の感覚を生じるが,赤緑色覚異常者では赤と緑の感覚差が生じにくくなっている.赤緑色覚異常は,L-錐体が生まれつき存在していない(1型2色覚)もしくはM-錐体が生まれつき存在していない(2型2色覚),M-錐体と不完全なM’-錐体が存在している(1型3色覚)もしくはL-錐体と不完全なL’-錐体が存在する(2型3色覚)の4種に分類され(表1),2色覚は多くの例で程度が強く,3色覚は正常色覚に近いものから2色覚と区別できないものまでさまざまな程度がある.先天色覚異常の人は色のない世界で生きているわけではない.しかし,赤味や緑味が入ると正常色覚者とかなり異なった感じ方になると考えられている.よって赤いピーマンと緑のピーマンは色だけでは強度の色覚異常者表1赤緑色覚異常の分類M’-錐体=本来のM-錐体と異なる吸収波長をもつ不完全なM-錐体.L’-錐体=本来のL-錐体と異なる吸収波長をもつ不完全なL-錐体.には区別がつかない(図1).ミニトマトの収穫で熟れた赤いミニトマトを選べず,緑のミニトマトを収穫してしまう,といった間違いも起こりえる.そのため,先天色覚異常の患児は幼少期から色以外の情報をフルに活用して物事を判断する訓練を自然と行っている.多くの場面で正常色覚者と同じ行動ができるため,軽度の色覚異常者は周りに色覚異常と気づかれることなく生活している.軽度の色覚異常者の保護者の多くが子どもの色覚異常に気がついていないのはこのためである.先天色覚異常への対応は患児の将来に影響を及ぼす.色覚異常と診断するための色覚検査とその判定法,患児,保護者への対応について解説する.色覚検査は検査中の患児の様子からわかることがたくさんある(どれくらい判読に時間がかかったか,集中してできていたかなど).できれば眼科医みずからで検査*MakiIwasa:滋賀医科大学医学部眼科学講座**SanaeMuraki:むらき眼科〔別刷請求先〕岩佐真紀:〒520-2192滋賀県大津市瀬田月輪町滋賀医科大学医学部眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(15)1055正常色覚1型色覚2型色覚図1正常色覚と先天色覚異常の見え方「色のシミュレータ」を使用し撮影したもの.強度の色覚異常では写真のように赤・緑の区別がつきにくくなる.検出表分類表正常色覚者と色覚異常者で読み方が異なる表正常色覚者のみが読める表色覚異常者のみが読める表1型色覚6/2型色覚2正常8/異常3正常97/異常なし正常なし/異常5図2石原色覚検査表検査表と分類表読んでもらい,左右どちらの数字を読むことが多いかで型判定を行う.正常色覚者では左右両方とも読むことができ,1型では右側の,2型では左側の数字を読むことができる.曲線表ではどちらの曲線をなぞるかで判定する.石原色覚検査表の検出表で型判定の確定はできない.型判定はアノマロスコープ(anomaloscope)で行う.石原色覚検査表の結果は参考程度にとどめておく.2.SPP標準色覚検査表第1部の使い方a.検査の方法照明条件や検査距離など検査の条件は石原色覚検査表と同様である.SPP1は最初にデモンストレーション表が4表あり,その次に検出表が10表,最後に分類表が5表ある.正常色覚者・色覚異常者ともに読解できる第1表を間違えれば,検査が理解できていないか,詐病,心因性などを疑う.第5表から第19表には2桁の数字が書かれている.正常色覚者は多くの場合2桁の数字が読める.そして正常色覚者に読みやすいといわれる数字のほうがはっきりとみえる.一方,色覚異常者では異常者に読みやすいといわれる数字のみが見えることが多い.やり方としてはまず2桁の数字表を読んでもらう.片方のみを回答すればその数字を記載する.2桁のうち両方とも読めた場合はどちらのほうがよりはっきりと見えるかを聞き,はっきりしているほうを回答とし,両方の数字に差がない場合は正答と考える.b.結果の判定判定は,検出表で8表以上正読していれば正常とする.分類表はどちらの数字が読めるかで1型と2型の型判定を行う.この検査表は型判定が非常に優れていて,95%はアノマロスコープと結果が一致するといわれている.SPP1は軽度の色覚異常では判定が正常となることもある.正常であっても,わずかな誤読が色覚異常者に特有の読み方であれば軽度の色覚異常を疑う.よってSPP1のみでスクリーニングは行わず,かならず他の検査と組み合わせて診断を行う.SPP1は石原色覚検査表よりも色覚異常者にも読める表が多く,精神的な負担がかかりにくい検査である.注意してほしい点は,色覚検査の型判定はアノマロスコープでのみ確定できるという点である.仮性同色表では型判定や程度判定の確定はできない.検査表には型判定の表が付属しているが,確定診断の唯一の方法であるアノマロスコープとの型一致率は100%にはならない.SPP1の型判定は石原色覚検査表よりもアノマロスコープの型判定と一致率が高いといわれているが,参考程度にする.就職先などに正確な診断書が必要な場合,諸所の事情で本人や家族が型判定まで希望されるときはアノマロスコープのある施設へ紹介する.しかしながら,一般的には色覚異常の型や程度の確定ができなくとも十分な対応ができると考える.III色相配列検査色相配列検査には15個の色票からなる“TheFarn-sworthpanelD-15Test”(パネルD-15テスト)や,より細かな色の識別評価を行う“Farnsworth-Munsell100HueTest”などがある.パネルD-15テストは強度の色覚異常か中等度以下の色覚異常の程度判定ができる.この検査で程度が判明すると患児や親への説明が比較的スムーズにできるため,ぜひ行ってほしい検査である.1.パネルD.15テストの使い方a.検査の方法検査時は直接色票に素手で触れないように,検査者は手袋を,患児には筆などをもってもらう.色票は16個あり,一つだけ木箱に固定されている(基準色票).色票の裏には数字が書いてある.まず色票を数字が見えないように出し,順番がばらばらになるように患児の前に置く.次に基準色票に一番近い色票を15個の色票の中から一つ選んでもらい,選ばれた色票を「検査者」が木箱の基準色票のとなりに並べる.次に先ほど選んだ色票に一番近い色票を残りの14票から選んでもらい,木箱に順に並べていく.これを最後まで繰り返し,15票を並べていく.b.結果判定木箱に並んだ色票のうらの数字を,順番に表にかき線で結ぶ.正常であれば数字順にならび円形になるが,離れた番号の色票が隣にくると,線が横断し円形にならない.典型的な検査結果を図3に示す.横断線が2本以上1058あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(18)PassFail1型色覚Fail2型色覚444262626111353535基準色票基準色票基準色票777888151413121011915141312101191514131211109Passoneerror横断線が1本Passminorerrors線が横断しないわずかな誤り123456123456基準色票7基準色票78899151510101414131312111211図3パネルD.15テスト典型的な検査結果正常1型色覚2型色覚図5色相環

重症アレルギー性結膜疾患の治療戦略-免疫抑制点眼液をどう使うか

2020年9月30日 水曜日

重症アレルギー性結膜疾患の治療戦略─免疫抑制点眼薬をどう使うかTreatmentStrategyforSevereAllergicConjunctivalDiseases─HowtoUseProperlyImmunosuppressiveEyeDrops福島敦樹*I重症アレルギー性結膜疾患1.分類と定義アレルギー性結膜疾患(allergicCconjunctivalCdiseas-es:ACD)はアレルギー性結膜炎(allergicCconjunctivi-tis:AC),アトピー性角結膜炎(atopicCkeratoconjunctivi-tis:AKC),春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC),手術用縫合糸やソフトコンタクトレンズなどの異物が関与する巨大乳頭結膜炎(giantCpapillaryCcon-junctivitis:GPC)の四つのタイプに分類される1).分類のカギになる所見は巨大乳頭や輪部増殖に代表される結膜増殖性変化であり,増殖性変化が顕著であるCVKCなどは重症に分類される1).AKCは増殖性変化を認める場合と認めない場合があるが,角膜病変を伴うことが多く,重症に分類される.すなわち,重症CACDとはAKCとCVKCをさす.C2.疫学日本におけるCACDの有病率や地域分布の全国規模の調査は,20年前の日本眼科医会の調査報告2)以降,行われていない.ACDの疫学的データのアップデートおよび新規取得することを目的に,日本眼科アレルギー学会で調査を行った.具体的には,日本の全眼科医ならびにその家族を対象としたインターネットCWebアンケートを用い,ACDおよび背景因子の実態を調査した3).回答率はC10.8%,平均年齢はC33.3歳,男女比はほぼC1:1であった.ACD全体の有病率はC48.7%であり,重症型であるCAKCの有病率はC5.3%,VKCの有病率はC1.2%であった.AKCの特徴として,北海道,首都圏,中部,近畿の特定地域に多く分布していたこと,年齢分布がC5~9歳およびC20歳代に山を認める二峰性を示すことが明らかとなった(図1).一方,VKCは地域分布に偏りを認め,年齢分布に関しては,20歳代に多いという結果であった(図2).本報告は有病率を調査した結果であることから,AKC,VKCとも小児期より発症している可能性が高いと考えられる.C3.AKC,VKCが重症である理由前述のようにCAKCとCVKCでは角膜傷害を認めるために重症に分類される.ではなぜ,角膜傷害をきたすのか?ACDに共通する発症機序はCI型アレルギーであるが,重症に認める結膜増殖性変化は,I型アレルギーのみでは説明がつかない.結膜増殖性変化の代表所見である巨大乳頭の病理組織像をみると,好酸球浸潤,線維芽細胞の増生,細胞外マトリックスの沈着に加えて,数多くのCT細胞の浸潤もみられる.そのほか,一連の研究結果から,重症化の鍵を握る細胞はCT細胞であることが明らかとなった(図3).CII重症ACDの治療1.なぜ免疫抑制点眼薬が必要か軽症・重症にかかわらずCACDの発症にはCI型アレル*AtsukiFukushima:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福島敦樹:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(9)C1049abAdjustedpredictionswith95%CIs0VeryhighHighMediumLow線形予測.05.1.150~4歳5~9歳10~19歳20~29歳30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳(8.08748,23.98121]年齢(2.09518,8.08748](1.39e-15,2.09518][-1.25e-14,1.39e-15]図1AKCの地域差と年齢分布AKCは北海道,首都圏,中部,近畿の特定地域に多く分布していた(Ca).AKCの年齢分布は,5~9歳およびC20歳代の二峰性を示した(Cb).(第C122回日本眼科学会総会一般口演CO1-086の発表スライドを改変)CAdjustedpredictionswith95%CIsab.1VeryhighHighMediumLow線形予測.0500~4歳5~9歳10~19歳20~29歳30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳年齢(.72498,6.00768](2.60e-16,.72498](-2.60e-16,2.60e-16][-1.65e-15,-2.60e-16]図2VKCの地域差と年齢分布VKCは地域分布に偏りを認めた(Ca).年齢分布に関しては,20歳代にピークを認めた(Cb).(第C122回日本眼科学会総会一般口演CO1-086の発表スライドを改変)ギーが関与するため,重症においても,I型アレルギーを抑制する抗アレルギー点眼薬が基盤点眼薬として用いられる.しかし,抗アレルギー点眼薬には免疫抑制能はない.重症ではCT細胞が非常に重要な役割を果たすため,T細胞の機能を制御する免疫抑制点眼薬やステロイド点眼薬が必要となる.免疫抑制薬の抑制能はCT細胞への選択性が高いことが知られており,重症CACDに対する治療として適切と考えられる.2.免疫抑制点眼薬のこれまで免疫抑制点眼薬は自家調整薬あるいは治験薬として使用された結果,重症CACDに非常に効果的であることが明らかとなった.2006年にシクロスポリン点眼薬が,2008年にはタクロリムス点眼薬も発売された.両点眼薬とも治験ならびに市販後全例調査が行われた.その結果をみると,両点眼薬の投与により自覚症状,他覚所見とも有意な改善を認め,ステロイド点眼薬の減量または1050あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(10)MBPEPOECP組織障害角膜図3重症化の免疫学的機序結膜に浸潤したCT細胞はCIL-4を分泌し,線維芽細胞のケモカイン分泌を促進し,好酸球を遊走させる.T細胞から分泌されたCIL-5は好酸球を活性化する.その結果,好酸球から組織傷害性蛋白(MBP,ECP,EPO)が放出され,角膜傷害に至る.(眼アレルギーフォーラムC21より作成)※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルートパターン2bパターン1図4春季カタルのパターン治療のための免疫抑制点眼薬の使い方ステロイド点眼薬と併用するか,ステロイド点眼薬から変更するかに関して,シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬の使い分けがポイントとなる.(文献C8より引用)表1高知大学眼科における春季カタル患者のタクロリムス点眼回数とステロイド点眼割合の長期経過タクロリムス平均点眼回数C2.47C2.47C2.20(使用者患者数/全患者数)(15/15)(15/15)(15/15)ステロイド点眼使用頻度80%40%0%(使用者患者数/全患者数)(12/15)(6/15)(0/15)症例内訳:男女比=13:2,初診時平均年齢C17.3歳(6~46歳).病型は輪部型:66.6%,眼瞼輪部混合型:33.3%.平均観察期間64.6カ月(18~108カ月).