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眼内レンズ:水晶体嚢拡張リング(CTR)併用眼での急性隅角閉塞

2020年7月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋404.水晶体.拡張リング(CTR)川路隆博医療法人樹尚会佐藤眼科・内科併用眼での急性隅角閉塞水晶体.拡張リング併用眼内レンズ(CTR-IOL)が挿入された落屑緑内障眼において,Zinn小帯脆弱とCCTR-IOLが要因となり,急性隅角閉塞を生じたC1例を報告する.前眼部COCTで,虹彩周辺部が全周にわたり前方に強く圧迫されて生じた隅角閉塞と,虹彩中央部が平坦になっている特徴的な形状がみられた.●はじめに落屑症候群を伴う白内障手術においてはCZinn小帯脆弱が合併する場合があり,手術時には水晶体.内に眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が固定されたとしても,手術後の経過中にCIOLが.ごと脱臼することがある.術中の状況によっては,そのリスクの軽減を目的として水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)が挿入されることがある.今回,水晶体.拡張リング併用眼内レンズ(CTR-IOL)が挿入された落屑緑内障眼において,Zinn小帯脆弱とCCTR-IOLが要因となり,非典型的な急性隅角閉塞を生じたC1例を報告する.C●症例74歳,男性.既往歴はアレルギー性気管支炎.右眼の白内障と落屑緑内障に対しC2013年に超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+360°Csuturetrabeculotomyの同時手術を施行されており,このときにCCTRも併用されていた.その後,2018年C3月頃までは眼圧はC14~18mmHgで推移していたが,その頃より眼圧上昇が進行し,緑内障点眼薬C5剤使用下でC23~27CmmHgとなり,追加治療が検討された.視力は術後より(0.6)~(0.7)で推移していた.眼圧下降のため,2018年C9月C18日にマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(CYCLOG6)を施行し,とくに問題ない術後経過だった(図1a).ところが術後C9日目に,前日から見えなくなったとの訴えで受診した.視力はC30Ccm/手動弁(n.c.)に低下,眼圧はC41CmmHgであり,前房出血を認め,前房深度は正常であった(図1b).数日経過観察したが改善なく,10月C1日に前房洗浄を施行した.手術は問題なく終了し,終了時の前房形成も良好であったが,翌日診察したところ,前房出血は軽快していたが,著明な浅前房と高眼圧(46CmmHg)を認めた(図2a,b).前眼部光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)の所見では,虹彩周辺部が全周にわたり前方に強く圧迫された結果,急性隅角閉塞を呈しており,かつ虹彩中央部は平坦であった(図2c).これらの所見より,CTR-IOL自体の前方移動による圧迫と思われる非典型的な急性隅角閉塞と考えた.治療法としては,瞳孔ブロックを生じていない浅前房で高眼圧の病態として,aqueousmisdirectionの関与が疑われるため,まずは硝子体カッターを用いた前部硝子体切除+Zinn小帯切除+虹彩切除を考えるが,本症例では多量の硝子体出血を認め,急性隅角閉塞を生じる前から眼圧下降が必要な状態であったため,硝子体切除術+アーメド緑内障バルブ(チューブは硝子体腔へ挿入)+虹彩切除を選択した.術後経過は翌日より良好であり(図2d,e),術後C18カ月の時点で,視力は(0.6),眼圧図1マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の術後経過a:マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(CYCOLG6)翌日の前眼部COCT画像.Cb:術後9日目のスリット写真.前房出血を認めた.(69)あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020C8430910-1810/20/\100/頁/JCOPY図2前房洗浄施行後の急性隅角閉塞の経過a,b:前房洗浄翌日のスリット写真,c:同日の前眼部COCT画像,Cd:硝子体手術+アーメド緑内障バルブ+虹彩切除術翌日のスリット写真,e:同日の前眼部COCT画像.はC2剤使用下でC17CmmHg,前房深度も術後を通して深く維持されている.C●考案本症例では,潜在的なCZinn小帯脆弱眼に対する前房洗浄という介入が契機となったのか,CTR-IOLの前方移動+aqueousmisdirectionC→隅角閉塞の急速な進行,という機序により浅前房や高眼圧を生じたと思われた.前眼部COCT画像では,虹彩周辺部が全周にわたり前方に強く圧迫されて生じた隅角閉塞と,虹彩中央部が平坦になっている形状が特徴的であった.Bochmannらは,落屑症候群において,同様の機序による浅前房,近視化,特徴的な超音波生体顕微鏡所見を示す隅角閉塞,断続的~慢性的な眼圧上昇を呈したCCTR-IOLのC7例を報告している1).この報告では,このような症例の機序は瞳孔ブロックによるものではなく,CTR-IOLが周辺部まで広範囲に圧迫しているためであり,レーザー虹彩切開術は無効であると述べており,CTR-IOL摘出を勧めている.また,前房洗浄の理由となったマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術施行後C1週目での急な前房・硝子体出血の原因として,本症例はCsuturetrabeculotomy後でSchlemm管が広く開放しており,眼圧下降に伴うCSchC-lemm管からの逆血の可能性があるが,そこまでの眼圧下降も考えにくく,明らかではない.既報でも述べられたように,Zinn小帯が脆弱なCTR-IOLにおいては,断続的~慢性的な眼圧上昇の可能性があり,本症例でも今後も注意深い経過観察が必要と思われる.文献1)BochmannCF,CSturmerJ:ChronicCandCintermittentCangleCclosureCcausedCbyCin-the-bagCcapsularCtensionCringCandCintraocularlensdislocationinpatientswithpseudoexfolia-tionsyndrome.JGlaucomaC26:1051-1055,C2017

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 角膜形状の把握(2)

2020年7月31日 金曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司2.角膜形状の把握(2)■はじめに前回のセミナーでは角膜周辺部の扁平化の存在意義について解説した.今回は角膜乱視眼において,乱視が角膜のどの部位にまで及んでいるのかについて解説する.■角膜形状の把握優れた乱視用ソフトコンタクトレンズ(トーリックSCL)が市販されているが,その乱視度数は最大で-2.75D(軸は90°と180°のみ)までであり,強度乱視眼の矯正にはハードコンタクトレンズ(HCL)が不可欠である.角膜乱視眼にHCLを処方するとして,通常のHCLを用いるのか,ラージサイズのHCLを用いるのか,あるいは内面トーリックHCLやベベルトーリックHCLを用いるのかを判断するには,角膜乱視が角膜上のどの範囲まで及んでいるのかを把握しなければならない.■角膜乱視は角膜中央部のみ?あるいは周辺部にも?角膜乱視眼をカラーコードマップを用いて分析した結果,直乱視では乱視が角膜周辺部まで及んでいる周辺部型,中央部に局在している中央部型,それらが混在する混合型の3タイプに分類することができた(図1).これは倒乱視にもあてはめることができる.軽度乱視眼までの角膜においては,レンズサイズ,ベースカーブ(base小玉眼科医院curve:BC),ベベル形状を適切に合わせることによって処方は比較的簡単に行うことができる.しかし,中程度以上の乱視眼においては,レンズのBC部分,あるいはベベル・エッジ部分と角膜の機械的接触によって装用感が著しく悪化する.倒乱視眼ではレンズの動きや静止位置をコントロールすることがむずかしい.■タイプ別のHCL処方法中央部型では,周辺部の乱視のない部分にベベル部分が存在するようなラージサイズのHCLを処方するとレンズの動きもよく,装用感もよくなる(図2).しかし,乱視が周辺部にまで及んでいる2タイプは,ラージサイズHCLでは対処できない.筆者がよく使用するのはサンコンタクトレンズ製ツインベベルのベベル部分がトーリックデザインになっているツインベルベベルトーリックHCL(図3,4)である.このレンズを使用すると,角膜周辺部において,ベベル幅が全周均一となり,乱視眼で角膜周辺部とベベル・エッジ部位との機械的刺激が少なくなり,球面HCLに比較すると装用感が大幅に改善する(図5).ツインベルベベルトーリックHCLで満足のいく装用感が得られない場合は,後面トーリックHCLを試してみる(図6).周辺部型角膜乱視が角膜周辺部にまで及んでいる.中央部型角膜乱視は角膜中央部に局在している.混合型周辺部型と中央部型が混在している.図1角膜乱視の3タイプ(67)あたらしい眼科Vol.37,No.7,20208410910-1810/20/\100/頁/JCOPY図3ツインベルベベルトーリックHCLのイメージ図サンコンマイルドIIツインベベルタイプのレンズのダブルベベル部位がトーリック差を付けてデザインされている.図5周辺部型へのツインベルベベルトーリックHCL処方ツインベルベベルトーリックHCLのフルオレセインパターンは,球面HCLに比べてかなり特異な様相を呈する.■ツインベルベベルトーリックHCL処方の実際症例:18歳,女性.良好な視力を希望.左眼視力:0.3p(1.2p×sph-4.00D(cyl-2.50DAx180°)左眼角膜曲率:8.08mm(41.80D)178°,7.18mm(47.00D)88°左眼角膜乱視タイプ:周辺部型最終処方レンズ:8.25/-4.50/9.0,トーリック差0.3この症例ではラージサイズHCLでは装用感が強く,後面トーリックHCLで装用感は改善したものの,ベベルトーリックHCLで初めて装用可能になった(図7).IC2IC2図4ツインベルベベルトーリックHCL断面のイメージ図たとえばBC8.0mmでトーリック差を0.4にすると,垂直方向はツインベルタイプのBCより0.4mm小さい7.60mmのBCのときのゲタの高さ(赤色部分)になる.図6混合型への後面トーリックHCL処方L)7.45/8.45/±0.00/9.0.少しフラット目に処方し,固着を予防する.図2中央部型へのラージサイズHCL処方周辺部の乱視のない部分までレンズサイズを大きくして処方する.図7周辺部型へのツインベルIIベベルトーリックHCL処方L)8.25/-4.50/9.0.水平面のベベル幅が少し狭くなっており,もう少しトーリック差をつけて処方してもよい症例である.

写真:ステロイド内服治療が奏功した壊死性角膜炎

2020年7月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦434.ステロイド内服治療が奏効した柴田学横井則彦京都府立医科大学眼科学教室壊死性角膜炎図1初診時前眼部所見高度の結膜充血,角膜への血管侵入,繰り返す上皮型角膜ヘルペスの既往によると考えられる瘢痕性角膜混濁に加えて,今回の再発によると考えられる浸潤性角膜混濁を認めた.図3初診時前眼部のフルオレセイン染色所見図4初診1カ月後の前眼部所見初診時に認めた結膜充血,角膜の浸潤性混濁は改善し,角膜に侵入した血管の拡張所見も軽減した.樹枝状病変を伴わず,浸潤性角膜混濁の部位を中心に角膜上皮浮腫所見を認める.(65)あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020C8390910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例は79歳,男性.前医で再発する左眼の上皮型角膜ヘルペスに対して治療がなされていたが,次第に角膜に白色の混濁が生じ,矯正視力は0.5程度で推移していた.その後,角膜浮腫と角膜後面沈着物を認め,アシクロビル眼軟膏点入,0.1%ベタメタゾン点眼,モキシフロキサシン点眼を開始するも改善が得られず,当院を紹介されて受診した.受診時の左眼には高度の結膜充血および血管侵入を伴う角膜実質混濁を認め(図1~3),視力はC30Ccm指数弁(矯正不能),眼圧は左眼C36CmmHg,右眼C12CmmHgと左眼に高値を認めた.上皮型角膜ヘルペスの既往,血管侵入を伴う角膜実質混濁,および炎症所見から実質型角膜ヘルペス(壊死性角膜炎)と診断し,0.1%ベタメタゾン(4回/日)をC0.1%フルオロメトロン(4回/日)に変更し,アシクロビル眼軟膏(2回/日),ガチフロキサシン点眼(2回/日),バラシクロビル内服(1,000Cmg/日),ベタメタゾン内服(1g/日)で治療を開始した.1週後,矯正視力はC0.01に改善,眼圧はC23CmmHgに下降した.充血は改善し,経過良好であったため,0.1%フルオロメトロンの点眼回数をC6回/日とした.当科初診からC2週後,矯正視力はC0.15まで改善,眼圧はC12mmHgに下降し,角膜の混濁所見は著明に改善したため,ベタメタゾン内服をC1g/隔日,バラシクロビル内服をC1,000Cmg/隔日とし,2週間で中止とした.初診から1カ月後,矯正視力C0.2,眼圧C9CmmHgとさらなる改善を認め,角膜の混濁所見や炎症所見はさらに減少した(図4).自覚症状も改善し,0.1%フルオロメトロンを減量(4回/日),ガチフロキサシン点眼(2回/日),アシクロビル眼軟膏(2回/日)として紹介医に戻った.ヘルペス性角膜炎は,三叉神経節に潜伏感染したCI型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の再活性化によって生じるとされる1).上皮型角膜ヘルペスは,ウイルスが上皮細胞内で複製され,細胞を破壊することで引き起こされ,小胞状の上皮病変に始まるが,急速に癒合して樹枝状・地図状の病変となる2).実質型角膜ヘルペスは,円板状角膜炎と壊死性角膜炎に分類される.円板状角膜炎は角膜実質に沈着したヘルペスウイルス関連抗原に対する免疫反応(Ⅳ型アレルギー反応)による炎症で,必ずしも活発なウイルスの複製は関与しないとされる.臨床所見としては,角膜実質浮腫に加えて,病巣部の境界に免疫輪とよばれる特徴的な円盤状の炎症細胞浸潤を認める.壊死性角膜炎はⅢ型アレルギー反応であり3),一般には,円板状角膜炎を繰り返すことで生じるとされる.臨床所見としては,角膜中央部から中間部にかけて血管侵入がみられ,炎症細胞の浸潤による円形あるいは楕円形の角膜混濁が認められる.角膜融解ひいては角膜穿孔をきたすことがあり,その予防のために積極的な治療と管理が必要である.治療としては,実質型角膜ヘルペスでは炎症の根底に免疫反応があるため,上皮型の治療であるアシクロビルなどの抗ウイルス薬に加えて,0.1%フルオロメトロンなどのステロイド点眼を用いる.壊死性角膜炎では,アシクロビル眼軟膏およびステロイド点眼を中止すると再発することがあり,改善しても治療を継続する(たとえば眼前C1回投与)ほうが良い場合がある.本症例では,ベタメタゾン点眼治療では改善が乏しく,それによると考えられる眼圧上昇を認めた.そこで,局所治療による眼圧上昇を回避し,薬剤を血行性に病巣に届けるべく,ステロイド点眼治療をフルオロメトロンに弱めつつベタメタゾンの内服を開始し,抗ウイルス薬の内服を追加することで,改善を得た.文献1)ShimeldC,HillTJ,BlythWAetal:PassiveimmunizationprotectsthemouseeyefromdamageafterherpessimplexvirusCinfectionCbyClimitingCspreadCofCvirusCinCtheCnervousCsystem.JGenVirolC71:681-687,C19902)DarougarS,WishartMS,ViswalingamND:EpidemiologiC-calCandCclinicalCfeaturesCofCprimaryCherpesCsimplexCvirusCocularinfection.BrJOphthalmolC69:2-6,C19853)HollandEJ,SchwartzGS:Classi.cationofherpessimplexviruskeratitis.CorneaC18:144-154,C1999

総説:広島から見た緑内障の危険因子

2020年7月31日 金曜日

あたらしい眼科37(7):827~837,2020c第30回日本緑内障学会須田記念講演広島から見た緑内障の危険因子ViewofGlaucomaRiskFactorsfromHiroshima木内良明*はじめに緑内障が多因子疾患であることはよく知られている.開放隅角緑内障発症の危険因子を明らかにするために世界各地でpopulationbasedstudyが行われている.2000~2002年に行われたTajimiStudy1)では開放隅角緑内障発症の危険因子として眼圧,近視,加齢が報告された2).KumejimaStudy3)では加齢,男性,高眼圧,薄い中心角膜厚,長い眼軸長が,韓国で行われた同様の疫学研究であるNamilStudy4)では眼圧,高齢,甲状腺疾患(自己免疫)があげられている.多くの疫学研究の結果をまとめると,眼局所因子として眼圧上昇,薄い中心角膜厚,近視,全身因子としては高齢のほか,血圧の異常(収縮期血圧の上昇,拡張期血圧の低下など),糖尿病,bodymassindex(BMI)の低下が危険因子として取りあげられこともある5).いずれにせよ高眼圧が最大の危険因子であることは間違いない.広島と長崎にある放射線影響研究所は原爆被爆者の健康調査を継続的に行っている6).筆者らは2006~2008年にかけて広島,長崎の原爆被爆者を対象として眼科診察を行い,放射線被曝と緑内障の関係について調査した.明治時代からハワイと米国西海岸には広島から多くの人が移民として渡った歴史がある.2000年の国勢調査によると日系人はカリフォルニア州にもっとも多く,ついでハワイ州となっている.2015年にロサンゼルス在住の日系米国人を対象に栄養調査を行い,緑内障と栄養摂取の関係を検討した.広島と関連が深いこれらの調査結果を報告する.I放射線の人体に対する影響7)人に対する放射線の影響は,症状発現の時期の違いによって急性期の反応と晩発性の反応に分けられる.急性期の反応は「急性放射線症」(acuteradiationsyn-drome)とよばれる.高線量の放射線(約1~2Gyから10Gy)によるDNAの損傷を原因として,被曝後数時間から数週間の間に出てくる症状である.腸の粘膜上皮細胞が障害されると下痢を生じる.造血幹細胞がダメージを受けると出血と血液細胞数が減少する.毛根細胞が障害を受けると毛髪が細くなり折れるために毛髪が失われる.分裂が盛んな細胞ほど放射線の影響を受けやすい.晩発性の反応は急性反応から回復したあと,あるいは低線量被曝者に出現する.被曝後,障害を受けたDNAが修復される過程で正しく修復されないことが原因である.II原爆被爆者を対象とした放射線障害の調査研究放射線影響研究所は1945年8月に広島と長崎に投下された原子爆弾による放射線の人体に対する影響を調べることを目的として設立された.放射線影響研究所では原爆被爆者を登録するだけでなく,被爆時の状況も細かく調査している.爆心地からどのくらいの距離にいたか,そこの地形,建物の中か外か,建物は木造か鉄筋か,どのような姿勢をとっていたかを把握している.そこから各臓器の被曝線量を推測することができる8,9).*YoshiakiKiuchi:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕木内良明:〒734-8553広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(53)827現在も数多くの研究プログラムが進行中である.12万人を対象とする「寿命調査」(死因調査),2万3,000人を対象とする成人健康調査(AdultHealthStudy:AHS)のほかに体内被爆者調査,被爆二世の調査などが行われている.III放射線による眼障害の研究放射線影響研究所のAHSはとくにnon-cancerdis-easeに焦点を当てた研究である.眼科に関係する代表的な研究としては「CataractStudyinAtomicBombSurvivors」がある10).放射線が水晶体の後.下混濁をきたすことは従来から知られていた.この研究は水晶体核や皮質の混濁と被曝線量の関係を明らかにする目的で行われた.その結果,後.下混濁と皮質混濁は被曝線量に比例して増加すること,核混濁は関係ないという結果になった.同時に糖尿病網膜症,動脈硬化が被曝線量に応じて増加することも明らかになった.2004年に同じく放射線影響研究所のYamadaら6)は被曝線量とnon-cancerdiseaseの発生状況を報告している.そのなかで甲状腺疾患,慢性肝疾患,子宮筋腫,白内障,高血圧は被曝線量に応じて発症リスクが増える.逆に緑内障は被曝線量に比例して発症率が低下するという結果になった.2005年に米国メイン州バーハーバーにあるJack-sonLaboratoryから興味深い研究が報告された.DBA/2Jmouseは多くの批判があるものの高眼圧の自然発症緑内障モデルとみなされている.生後12カ月になるとDBA/2Jmouseでは神経節細胞の軸索がほとんど消失する.生後5~8週の時期に10Gyの放射線を照射すると,神経節細胞死が抑制されるというものである11).10Gyの放射線は造血幹細胞が障害されて致死的であるため,この研究では骨髄移植を併用している.2012年には同じグループから,より低線量の3.6Gyでも神経節細胞に対する保護効果があることが報告されている12).比較的低線量であるため,このときは骨髄移植も行っていない.はたして低線量放射線被曝は緑内障性神経障害を抑制するのかという点を明らかにするために,筆者らは「GlaucomaStudyinAtomicBombSurvivors」13)を企画した.IV放射線被曝と緑内障AHSを受ける2,699人を対象に2006年10月~2008年9月に緑内障のスクリーニング調査と精密検査を行った.最終的に1,589人(平均年齢は74.3歳)を解析対象とした.広島,長崎の放射線影響研究所で,無散瞳眼底カメラによる眼底写真,frequencydoublingtechnologyによる視野検査,非接触型の空気眼圧計による眼圧測定を行った.緑内障を含めてなんらかの眼疾患の存在が疑われたときは,精密検査のために広島大学病院あるいは長崎大学病院に紹介した.細隙灯顕微鏡検査,Goldmann圧平式眼圧計による眼圧測定,隅角検査,HumphreyFieldAnalyzer30-2SITAstandardprogramによる視野検査,眼底カメラによる立体眼底撮影を行った.視神経乳頭陥凹および視神経乳頭辺縁部の評価にはCDsketch14)を使って垂直陥凹乳頭径比(C/D比),リム乳頭径比(R/D比)を求めた.緑内障の診断基準はTajimiStudyと同様のものを用いた1).すなわち,視神経乳頭所見,Humphrey視野検査結果,網膜神経線維欠損から緑内障を判定する.カテゴリー1:信頼できる視野検査があるものは垂直C/D比が0.7以上あるいは耳上側,耳下側のR/D比が0.1以下,神経線維束欠損がある.そして眼底の異常と視野障害の場所が一致する.あるいはC/D比の左右差が0.2以上ある.カテゴリー2:信頼できる視野検査を行えない場合は垂直C/D比が0.9以上あるいは耳上側,耳下側のR/D比が0.05以下,C/D比の左右差が0.3以上ある場合を緑内障と診断した.隅角検査で開放隅角と閉塞隅角に分類し,開放隅角緑内障で検査時の眼圧が21mmHg以下の場合を正常眼圧緑内障とした.緑内障と診断された患者の平均年齢は74.3歳で,患者を年齢別に70歳未満,70~79歳,80歳以上の3群に分けると緑内障の患者比率は年齢とともに増えた.正常眼圧緑内障を含めた開放隅角緑内障はTajimiStudyの70歳代の結果1,15)と比較すると頻度が多いようにみえた.しかし,続発緑内障と閉塞隅角緑内障の発生頻度はほぼ同じであった(図1).緑内障と診断された患者のうち86%の人は緑内障と診断された既往がなかった.開放隅角緑内障は男性に多く,閉塞隅角緑内障は女性に多かった(図2).問診によって明らかにされた診断名と被曝放射線の量の関係をみると,白内障,網膜出血,糖尿病は被曝すると増える,逆に緑内障は被曝すると減少するという結果になった(表1).年齢,性別,都市(広島か長崎か),白内障手術既往,糖尿病の有無で調整し(%)(%)1210864201412108642■■MaleFemale0POAGPACGSecondary図2緑内障病型における男女差図1病型別有病率のTajimiStudyとの比較表1問診によって診断された疾患に及ぼす被曝線量の影響(oddsratioat1Gy)Ophthalmologicdiseasesundertreatment*Oddsratio95%Con.denceintervalCataract(n=1,762)1.180.701.311.03~1.360.49~0.981.04~1.66Glaucoma,typesunspeci.ed(n=112)Retinalbleeding(n=91)420OddsratioOddsratio024EyeDose(Gy)OcularHypertension642864200DS02EyeDose(Gy)EyeDose(Gy)図3被曝線量と開放隅角緑内障,閉塞隅角緑内障,高眼圧症0240246420DS02EyeDose(Gy)図4被曝線量と正常眼圧緑内障(KiuchiY,etal:Glaucomainatomicbombsur-vivors.RadiatRes.180:422-430,2013から引用)た結果,調査時に眼圧が21mmHgを超える開放隅角緑内障は被曝線量が増えるとともに発症リスクが下がる傾向があったが有意な関係ではない(p=0.28).基本的に眼圧依存性の病態である閉塞隅角緑内障と高眼圧症の発症リスクは被曝線量ともに下がった(それぞれp=0.057,0.099)が有意なレベルに到達しなかった(図3).これらの結果は,JacksonLaboratoryから出されたDBA/2Jmouseに対する放射線の研究,放射線が容量依存性に神経節細胞死を抑制するという研究結果11,12)と同じ傾向があるようにみえた.一方,正常眼圧緑内障は被曝線量が増えるにしたがい,緑内障の発症リスクが有意に増えたp=0.001)(図4).正常眼圧緑内障に対するリスク因子を回帰分析で求めたところ,放射線量(p=0.001)と検査時の年齢が高いこと(p=0.001),高血圧(p=0.01),低体重(p=0.01)が選択された.被曝放射線の影響は眼圧が高い緑内障病型と眼圧が低い緑内障病型で異なった.つまり,眼圧が低い開放隅角緑内障は眼圧が高い緑内障病型とその視神経障害機序が異なることが示唆された.V眼循環と正常眼圧緑内障ここでいくつかの疑問が生じた.放射線被曝が眼圧の高い緑内障病型の発症リスクを減少させる傾向があるがそれは本当か?またその理由は何か?また眼圧が低い正常眼圧緑内障の発症リスクが増加する機序は何か?である.かつて緑内障性視神経障害の発症機序として機械障害Oddsratio024説と循環障害説が唱えられていた16~18).機械障害説というのは,眼圧による負荷のために篩状板が変形して,軸索が直接圧迫される.軸索輸送障害が生じて神経節細胞死につながるというものである.一方,正常眼圧緑内障では乳頭出血の頻度が高く,しかもこの乳頭出血は神経線維層欠損部位と一致して生じる.正常眼圧緑内障では片頭痛など血管の攣縮性疾患を伴いやすく,眼灌流圧が低いこと,視神経障害と視神経乳頭部や球後の眼血流の低下が相関することなどから,循環障害が緑内障性視神経障害とかかわっていると考えられるようになった.実際は眼圧による篩状板部での機械的圧迫と個人のもつ循環因子が絡み合って神経節細胞の軸索障害が進行するのであろうと考えられている.その一方で,0.5Gy以上の放射線は心血管疾患のリスクと関連することが報告されている.さらに被曝者では被曝線量が増えるほど,脳卒中や虚血性心疾患で死亡する症例が増えるという報告があり,放射線被曝が循環状態に影響を及ぼすことが明らかにされている19~22).VI網膜血管径の評価眼底の血流状態を評価する方法として,眼科外来,研究室では蛍光眼底撮影,colordopplerimaging,laserdopplervelocimetry,laserspeckle.owmetryなどの手技が報告されている.しかし,疫学研究では短時間に多数の対象者の検査を行う必要があり,これらの特殊な装置を要する検討はできない.現在,疫学研究での網膜循環の評価には眼底写真から網膜血管径を測定する方法が一般的になっている23).網膜血管径に関与する因子は数多くある.炎症は網膜動脈も静脈も拡張させる.喫煙,肥満,糖尿病や血流の増加は網膜静脈血管系を拡張する.一方,網膜動脈径を細くする因子として血流の減少,高血圧,動脈硬化があり,静脈を細くする因子として加齢と血流の減少が知られている24).2004年と2005年に報告されたBeaverDamEyeStudy25)とRotterdamStudy26)では緑内障と網膜血管径に有意な関係がないとされた.しかし,それ以降のBlueMountainsEyeStudy27),BeijingEyeStudy28),SingaporeMalayStudy29)を含めて緑内障患者では網膜血管径が細いという結果が得られている.これら横断的な報告のほかに,Kawasakiら30)はBlueMountainsEyeStudyの対象者のうち2,417人を10年間追跡調査し,82人104眼で新たに緑内障が発症し,緑内障発症の危険因子としてbaseline網膜血管径が細いことを報告している.横断的研究だけでなく縦断的研究でも緑内障と網膜血管径の関係が明らかにされた.今回の筆者らの研究31)では「GlaucomaStudyinAtomicBombSurvivors」のスクリーニング検査に用いた無散瞳眼底カメラ(TRC-NW200,トプコン)で得られた画像を利用した.前述の研究と同じくセミオートマチックの画像解析プログラム(RetinalAnalysis-IVAN,UniversityofWisconsin)を用いた32,33).網膜動脈と静脈の直径を視神経乳頭から0.5~1乳頭離れたエリアで計測した.太い順に6本の動静脈の径を測定し,そこから網膜中心動脈径推計値(centralretinalarteryequivalents:CRAE)と網膜中心静径推計値(centralretinalveinequivalents:CRVE)を計算した34).計測はトレーニングを受けた測定員一人が行った.今回は1,640人が解析対象となり,開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,閉塞隅角緑内障の3群に分けて解析した.多項ロジックモデルで緑内障病型と網膜血管径(CRAE,CRVE),被曝線量,その他の因子の関係を調べた.年齢ともに各病型の発症リスクは増える傾向があった(図5).正常眼圧緑内障群では他のグループと比べてCRAEもCRVEも有意に小さかった(p<0.01,図6).網膜動脈径に注目すると,眼圧依存性の病型と考えられる閉塞隅角緑内障は緑内障をもたない対象者とほぼinmm=0.97,95%信頼区間(CI):0.95~0.98,p<0.01)とCRVE(oddsratioperunitincreaseinmm=0.98,95%CI:0.97~0.99,p<0.01)が減少するにつれてそのリスクは有意に高くなった(図7).被曝線量が増えるほどNTGになりやすいことが示された(oddsratioperunitincreaseinGy=1.39,95%CI:1.15~1.69,p<0.01).しかし,他の病型と網膜血管径や被曝線量の関係は明らかではなかった(図8).VII網膜血管径に影響する因子線形回帰分析を用いて正常眼圧緑内障のCRAEとCRVEに影響する因子を検討した.CRAEとCRVEはともに年齢が上がるに従って細くなる(図9).正常眼圧緑内障の病期をAndersonPatellaの進行期分類にしたがってmild(-6dB>),moderate(-6~12dB),severe(-12dB<)に分類して網膜血管径との関係を調べた.CRAE(右眼p=0.01,左眼p=0.05)もCRVE(両眼ともp<0.01)病期の進行ともに細くなった(図10).被曝4.50p=0.01p=0.04p=0.074.003.50Oddsratio3.002.502.001.501.00同じ径があった.眼圧だけでなく循環障害もその発症に0.50関与していると思われる開放隅角緑内障は,閉塞隅角緑0.00NTGPOAGPACG内障と正常眼圧緑内障の中間に収まっている.正常眼圧■<=70■71~80■81+緑内障の発生率はCRAE(oddsratioperunitincrease図5年齢と緑内障病型(mm)CRAE(mm)CRVE136.0134.0132.0130.0128.0126.0124.0122.0120.0118.0202.0200.0198.0196.0194.0192.0190.0188.0186.0図6緑内障病型と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)(57)あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020831CRAECRVE3.001.601.402.501.202.00OddsratioOddsratio1.000.800.601.501.000.400.500.200.00<125125~<135135+<190190~<205205+0.00*p-value<0.01ANOVAF-test図7網膜中心動脈径推計値(CRAE)と網膜中心静脈径推計値(CRVE)の正常眼圧緑内障の発症リスク3.002.001.002.500.00Oddsratio2.001.501.000.500.00図8被曝線量による各緑内障病型の発症リスク線量はCCRAEに対して有意な影響はなかったが(p=0.49),CRVEは被曝線量が増えるにしたがって細くなっていた(p=0.03)(図11).正常眼圧緑内障の患者うち現在喫煙中の対象者は有意にCCRVEが大きくなっていた.BlueMountainStudy35)でもCRotterdamCStudy36)でも喫煙すると網膜静脈径が太くなると報告されている.喫煙と網膜血管径の関係は別途詳細に調べた34).1日の喫煙本数は年齢とともに少なくなり,喫煙本数が増えると白血球数や中性脂肪は多くなり,CRVEは太くなる(testCforCtrendCp=0.002)(図12).CRAEも同様の変化をきたしたが,有意なレベルではなかった(testfortrendp=0.06).CRVEの変化は女性のほうが顕著であった.禁煙するとCCRAEもCCRVEも減少した.禁煙期間がC10年を超えると喫煙中の者と比べて有意にCCRVEが細くなることがわかった(p=0.003)(図13).喫煙はCC-reactiveprotein,IL-6,白血球など炎症を示唆するマーカーを増加させNTGPOAGPACG■<0.005■0.005~0.2■0.2~1■1+81+<=7071~80Oddsratio-1.00-2.00-3.00-4.00-5.00-6.00■CRAE■CRVE図9年齢と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)ると考えられている.CRVEの増加は喫煙がもたらした炎症の結果かもしれないが,その詳細な機序は不明である.CBodymassindex(BMI)を各緑内障病型で比較すると,網膜血管径と同じように正常眼圧緑内障がもっとも小さく,閉塞隅角緑内障が緑内障をもたない対象と同程度で開放隅角緑内障は正常眼圧緑内障と閉塞隅角緑内障の間に位置した(図14).BMIは各種疾患による死亡のリスク因子の一つであることは良く知られている.標準よりも大きくても小さくても死亡率は上昇する.男女差は関係ないが,若い人ほどCBMIの影響を受けやすい37).そこでCBMIを高,中,低のC3群に分けて緑内障各病型の関係を調べた.正常眼圧緑内障群では有意にCBMIが低い群のリスクが高く(p=0.04),閉塞隅角緑内障では標準的な体型の人のリスクが低く,BMIが高くても低くてもそのリスクは増えた(図15).正常眼圧緑内障患者では脳脊髄液圧が低いことはよく知られている38).まCRAEleftCRAEright網膜動脈径の変化(mm)100150200250801201601001502002508012016001230123CRVEleftCRVEright網膜静脈径の変化(mm)01230123O:withoutglaucoma,1:mild,2:moderate,3:severe図10正常眼圧緑内障の病期と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)CRAECRVE1.501.501.000.005~0.20.2~11+0.005~0.21+0.2~1Testfortrendp=0.49Testfortrendp=0.031.000.500.500.00-0.500.00-1.00-1.50-2.00-0.50-1.00-2.50-1.50-3.00図11被曝線量と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)た,BMI,拡張期血圧と年齢から脳脊髄液圧を推測するい.このことが低いCBMIをもつ人は正常眼圧緑内障に次の予測式が報告されている39).なりやすい理由の一つとして考えられるかもしれない.CSFP[mmHg]=0.44×BMI[kg/mC2]+0.16×Dia-BMIと緑内障の関係を調べた報告は多くあり,そのCstolicCBloodCPressure[mmHg]-0.18×Age[Years]-結果は必ずしも一致していない.BMIと多くの疾患はC1.91.必ずしもリニアな関係にないことが結果の不一致に影響この予測式によるとCBMIが低いほど脳脊髄液圧は低している可能性がある40).(mm)CRAE(mm)CRVE135134133132131130129128127208206204202200198196194192190nonsmoker>0to<10>10to<20>20nonsmoker>0to<10>10to<20>20図12喫煙本数と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)(mm)CRAE(mm)CRVE130.5130129.5129202201200199198197128.5196128195194127.5193127192never>10years<10yearscurrentnever>10years<10yearscurrentcessationcessationcessationcessation図13禁煙期間と網膜中心動脈径推計値(CRAE)および網膜中心静脈径推計値(CRVE)Bodymassindex(kg/m2)23.13.002.5023.0Oddratio0.0022.6NTGPOAGPACG22.5■<18.5■18.5~<25■25+22.422.3noglaucomaNTGPOAGPACG図15Bodymassindexと緑内障病型のリスク図14緑内障病型とBodymassindexらハワイに渡った移民は広島県出身者がもっとも多く,ついで山口県,熊本県と続く.1898年にハワイが米国CVIII栄養摂取と緑内障に併合されると日系移民はハワイから米国西海岸に移住2.0022.91.501.000.5022.822.71800年代の後半,ハワイにおいては白人の入植者が増え,白人の投資家たちの手によってハワイ各地にサトウキビ農場が設立された結果,労働力が不足していた.カメハメハ王国からの要請を受けて日本政府とカメハメハ王国の間で移民に関する協定がC1885年に結ばれた.日本政府の後押しを受けて多くの日本人がハワイに渡った.正確な理由は不明であるがC1885~1994年に日本かすることが容易になった.日本と米国では生活習慣,とくに食事内容が異なると考えられる.広島大学の糖尿病代謝内科は,同じような遺伝背景をもつ日系移民と日本人の生活環境,食事習慣が糖代謝に及ぼす影響を明らかにするためにC1970年から定期的にハワイとロサンゼルス在住の米国日系移民の健康調査を行っている41,42).1993年の報告では日系移民と広島在住の日本人の摂取カロリーがほとんど変わらないこと,日系米国人は炭水化物よりも脂肪からカロリーを得る量が多いことが報告されている43).2015年C8月にロサンゼルスにおいて第C23回目の日系米国人の健康調査が行われた44).視能訓練士と栄養士も参加した.無散瞳眼底カメラ(AFC-300,ニデック)で画角C45°の眼底写真を撮影した.緑内障の診断は眼底写真を用いた垂直CC/D比,耳上側,耳下側のCR/D比と垂直CC/D比の左右差から判定した1).診断は右眼の眼底写真を基に行い,右眼が利用不能であるときは左眼の写真を用いた.食事内容の情報はCfoodCfrequencymethodで得た.食品をC80の食品群に分けて,それぞれの調理方法と摂取量を栄養士が聞き取り調査を行った.栄養管理ソフト“Chatty”(TotalCSoftwareCorp.)に入力して摂取された栄養素の量と摂取総カロリーを計算した45,46).581人が解析対象になった.そのうち緑内障と診断された人はC61人(平均年齢C63.8C±1.6歳),緑内障がないと診断された人はC520人(平均年齢C61.8C±0.6歳)であった.眼底写真だけから緑内障の診断を行ったために,緑内障病型や眼圧レベルは不明である.緑内障と診断された対象者をCBMIレベル別にC3群に分けると,BMIが低い人ほど緑内障の頻度が高い傾向にあったが,有意差はなかった(p=0.31).単変量解析でCp値がC0.2以上の因子を除外し重回帰分析を行ったところ,鉄分の摂取が多いほど(p=0.004),ビタミンCAの摂取が少ないほど(p=0.02),vegetableClipidが少ないほど(p=0.004)緑内障と関係が深いことがわかった.鉄分は酸化物質であり,ビタミンCAとCvegetablelipidは抗酸化物質である.酸化物質は網膜神経節細胞とその軸索に存在するミトコンドリアの機能を低下させ,緑内障の引き金になると報告されている47).また,線維柱帯にも作用して眼圧上昇をきたす48~50).ビタミンCA,B,C,E,カロチノイドなどは抗酸化作用がある.Tanitoら51)は緑内障の病期が進行するほど体内の抗酸化力が少なくなると報告している.男性緑内障患者はエネルギー摂取量が増えると増加するという報告もあるが52),今回の検討ではエネルギー摂取量と緑内障の関係は明らかでなかった(p=0.303).肉類,卵の消費を控えめにして,オリーブオイル,果物,野菜,穀物,魚を多く摂取して,赤ワインを適度に飲む食事は地中海食とよばれている.ユネスコの無形文化遺産に登録されている.食事内容に多価不飽和脂肪酸が含まれており,心血管疾患,癌死亡率を減らす効果があると報告されている53).一方で,脂肪の摂取量を減らし野菜や果物を多く取る食事を指導してC8.1年間観察した研究では,心血管疾患は減らなかったと報告されている54).疾患の発症に食事内容が及ぼす影響が必ずしも大きくない可能性はある.しかし,食事内容に介入する研究は生活習慣に逆らう研究手法である.個別の栄養素や食品の摂取を制限あるいは推奨するよりも,無理なく継続できる健康的な食習慣を続けることが大切なのかもしれない55).まとめ眼圧が低い開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障)は他の病型と異なり,被曝線量が増えると増加する.このことからにCNTGおける網膜神経節細胞障害の機序は他の病型と異なると考えられる.正常眼圧緑内障における網膜血管径が他の病型よりも細いことから,正常眼圧緑内障の網膜循環状態が他の病型と異なり,ひいては神経節細胞のダメージに循環障害が関与している可能性を示した.正常眼圧緑内障ではCBMIが低い人ほどそのリスクが高いことが確認できた.酸化物質の摂取が多く,抗酸化作用のある食物の摂取が少ないことが緑内障の発症に関与するが,摂取カロリーと緑内障発症には因果関係がないという結果になった.緑内障研究とは別に喫煙は網膜の血管に影響を及ぼすこと,喫煙の網膜血管に対する影響はC10年の禁煙でなくなることも明らかにできた34).緑内障とは関係がないが,同じ眼底写真セットを用いて加齢黄斑変性の発症は被曝線量と関連がないことも報告できた56).1945年C8月に広島と長崎に落とされた原子爆弾の生存者と在米日系移民の健康調査を通して行った緑内障研究の結果を紹介した.原子爆弾も米国への移民も広島と関連が深い.そのため「広島から見た緑内障の危険因子」というタイトルで第C30回日本緑内障学会須田記念講演を行った.本稿はそのときの講演内容に基づいて執筆した.本研究にご指導,ご協力いただいた多くの方々に感謝いたします.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleCglaucomaCinCaJapaneseCpopulation:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC113:1613-1617,C20063)IwaseCA,CSawaguchiCS,CTanakaCKCetal:RelationshipCbetweenCocularCriskCfactorsCforCglaucomaCandCopticCdiscCriminnormaleyes.BrJOphthalmol.doi:10.1136/bjoph-thalmol-2019-314696.4)KimM,KimTW,ParkKHetal:Riskfactorsforprimaryopen-angleCglaucomaCinCSouthKorea:theCNamilCstudy.CJpnJOphthalmolC56:324-329,C20125)藤原康太:疫学調査における緑内障の非眼圧的要素.眼科C59:611-618,C20176)YamadaCM,CWongCFL,CFujiwaraCSCetal:NoncancerCdis-easeCincidenceCinCatomicCbombCsurvivors,C1958-1998.CRadiatResC161:622-632,C20047)https://www.rerf.or.jp/programs/roadmap/health_e.ects/8)CullingsCHM,CPierceCDA,CKellererAM:AccountingCforCneutronexposureintheJapaneseatomicbombsurvivors.RadiatResC182:587-598,C20149)CullingsHM,FujitaS,FunamotoSetal:Doseestimationforatomicbombsurvivorstudies:itsevolutionandpres-entstatus.RadiatResC166:219-254,C200610)MinamotoA,TaniguchiH,YoshitaniNetal:CataractinatomicCbombCsurvivors.CIntCJCRadiatCBiol80:339-345,C200411)AndersonMG,LibbyRT,GouldDBetal:High-doseradi-ationwithbonemarrowtransferpreventsneurodegenera-tionCinCanCinheritedCglaucoma.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC102:4566-4571,C200512)HowellCGR,CSotoCI,CZhuCXCetal:RadiationCtreatmentCinhibitsCmonocyteCentryCintoCtheCopticCnerveCheadCandCpreventsneuronaldamageinamousemodelofglaucoma.JClinInvestC22:1246-1261,C201213)KiuchiY,YokoyamaT,TakamatsuMetal:Glaucomainatomicbombsurvivors.RadiatResC180:422-430,C201314)TanitoCM,CSagaraCT,CTakamatsuCMCetal:IntraobserverCandinterobserveragreementofcomputersoftware-assist-edCopticCnerveCheadCphotoplanimetry.CJpnCJCOphthalmolC58:56-61,C201415)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation.COphthalmologyC112:1661-1669,C200516)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:Theimpactofocularblood.owinglaucoma.ProgRetinEyeResC21:359-393,C200217)MorrisonCJC,CJohnsonCEC,CCepurnaCWCetal:Understand-ingmechanismsofpressure-inducedopticnervedamage.ProgRetinEyeResC24:217-240,C200518)YanagiM,KawasakiR,WangJJetal:Vascularriskfac-torsCinglaucoma:aCreview.CClinCExpCOphthalmolC39:C252-258,C201119)Shimizu,Y,KodamaK,NishiNetal:RadiationexposureandCcirculatoryCdiseaserisk:HiroshimaCandCNagasakiCatomicCbombCsurvivorCdata,C1950.2003.CBMJC340,Cb5349,C2010C20)LittleCMP,CAzizovaCTV,CBazykaCDCetal:SystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCcirculatoryCdiseaseCfromCexposureCtoClow-levelCionizingCradiationCandCestimat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healthandnutritionexaminationsurvey.NutrientsC10:387,C201853)EstruchR,RosE,Salas-SalvadoJetal:Primarypreven-tionCofCcardiovascularCdiseaseCwithCaCMediterraneanCdiet.CNEnglJMedC368:1279-1290,C201354)HowardCBV,CVanCHornCL,CHsiaCJCetal:Low-fatCdietaryCpatternCandCriskCofCcardiovasculardisease:theCwomen’sChealthCinitiativeCrandomizedCcontrolledCdietaryCmodi.cationtrial.JAMAC295:655-666,C200655)村木功,磯博康:生活習慣から循環器疾患を予防し健康寿命を延伸する.食事・栄養と循環器疾患.心臓C47:C17-23,C201556)ItakuraCK,CTakahashiCI,CNakashimaCECetal:ExposureCtoCatomicbombradiationandage-relatedmaculardegenera-tionCinClaterlife:TheCHiroshima-NagasakiCAtomicCBombCSurvivorCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:5401-5406,C2015C☆☆☆

最新の網膜硝子体手術機器

2020年7月31日 金曜日

最新の網膜硝子体手術機器LatestDevicesUsedforRetinalVitrectomy中野裕貴*鈴間潔*はじめに網膜硝子体手術は,毛様体扁平部に3カ所強膜創を作製し,灌流装置と照明・操作器具を硝子体内に挿入して行う手術である.その進歩の多くは,手術機器の改善によって支えられている.硝子体手術が普及した1980年代と2010年代とを比べると,創口の縮小,結膜切開からの脱却,トロカールシステムの採用,広角観察系の採用がおもな進歩したところである.最近はさらなる少侵襲化が進み,2000年後半に普及した25ゲージ(0.5mm)から,27ゲージ(0.4mm)に移行しつつある.スモールゲージによってシャフト径が細くなり,剛性や硝子体切除速度,照明の性能は低下するが,それでもある程度の手術に耐えうるクオリティを維持できるのは,やはり器械の技術の進歩である.27ゲージシステムを中心に,キーワードであるtwodimentionalcutting(TDC)カッター,照明システム,広角観察系などを交えながら,最新の硝子体手術機器でできる硝子体手術の世界を紹介する.なお,筆者は27ゲージは普段ConstellationHyper-vit(dualblade)を使用し,EVAとStellarisPCも使用経験があるということを書きそえておく.I硝子体手術装置と27ゲージシステム現在日本で入手可能な経毛様体扁平部用の硝子体手術装置は,Constellation(Alcon),EVA(DORC),Stel-larisPC(Bausch&Lomb),FortasAP(ニデック)がある.普及率はConstellationがトップで,高効率カッターであるTDCカッター(次項で説明する)が早くから存在したEVAが2番手である.27ゲージは4機種ともに純正品で対応しているが,StellarisPCはまだ日本の薬事承認が通っておらず,執筆時点ではDORCのシステムを使用する.Constellationはインフュージョン・トロッカーシステムのほかに,照明とカッターを含むオールインパックの形で提供されている.バネ駆動でないのでカッターの振動が少ないことが優秀だが,標準かつ唯一のストレートファイバーでは,周辺術野の視認性に不満が残る.EVAは照明が優秀で,ワイドアングルはシールドタイプで眩しくなく,広角観察系との相性が良い.Constellationを導入されている術者で標準のストレートファイバーに不満のある場合は,照明を外づけで他社のシステムを組み合わせることが良いだろう.DORCとSynergeticsがある.表1に各社の27ゲージの対応状況を記載する.27ゲージの硝子体手術システム自体は2014年頃より発売されているが,硝子体切除に時間がかかる,剛性が低い,照明が暗く狭いという弱点があり,普及の速度は緩やかであった.このあたりの経緯は20ゲージから25ゲージへの変遷の際にも見受けられたことと同様である.トップシェアのConstellationでは,いままで実用的な速度で27ゲージの手術を行うにはDORCのUltra-SppedTransformerを介したTDCカッターを用いる必要があったが,2020年より純正でTDCカッターに対応したことで敷居は下がり,これから27ゲージの普及*YukiNakano&*KiyoshiSuzuma:香川大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕中野裕貴:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(45)819表1各社の27ゲージ・硝子体手術装置の特徴27G対応カッター照明その他Constellation(Alcon)◎純正対応◎TDC対応◎完全空気駆動で振動が少ない純正の広角照明とシャンデリアがない◎超音波装置はトーショナル対応DORCのUSTを併用してTDCカッターを利用する方法もあったEVA(DORC)◎純正対応◎TDC対応◎LED光源,明るい◎シャンデリアと広角照明ありStellarisPC(Bausch&Lomb)現状は他社製(DORC)で対応他社製でTDC対応(MiDLABS製)他社製で対応2020年中に純正品の国内承認取得予定FortasAP(ニデック)◎純正対応◎TDC対応他社製で対応硝子体灌流は加圧でないペリスタルティックポンプ(非ベンチュリー)◎:長所abCut1Cut1Cut2No2ndcut25GTDC25GstandardTDCカッター従来カッター27GTDC27Gstandard図1TDCカッターと従来カッターの比較a:TDCカッターと従来カッターの構造の違い.TDCカッターは常に開口し,1往復でC2回切断する.Cb:EVAにおける最大吸引圧に設定したときのC25GとC27GのCTDCと従来カッターそれぞれにおける回転数と吸引流量の比較.TDCカッターは回転数が増えても吸引流量の低下が起きていない(bは筆者が文献C2をもとに作成).⑤図2ライトガイドの先端の形の例①ストレート型,②ワイド型,③シールド型(金属筒斜め型),④シールド型(ファイバー斜め型),⑤シャンデリア型.①.④はCKatalyst社,⑤はCSynergetics社のカタログより抜粋.表2代表的なメーカーの27ゲージ対応の照明メーカー①ストレート型②ワイド型③シールド型(金属斜め型)④シールド型(ファイバー斜め型)⑤シャンデリア型備考CAlcon〇CDORC〇〇〇〇(ガイダンスニードル経由で経結膜で直差し)CSynergetics〇6C5°〇9C0°〇(トロッカー経由,2C9ゲージもある)CKatalyst〇〇〇〇日本導入未定C表3非接触広角観察系における角膜保護の方法角膜保護の方法長所短所BSSもしくは生理食塩水の塗布角膜乱視が少ない,簡単すぐ乾燥するOVDの塗布・関節注射用(アルツなど)安い,平滑に乗せるのが容易適応外使用,請求不可,1C0分くらいで乾くOVDの塗布・凝集型(オペガンハイなど)白内障同時手術だと余りがある請求不可,平滑に乗せるのがむずかしいOVDの塗布・分散型(ビスコートなど)白内障同時手術だと余りがある請求不可,平滑に乗せるのがやや,むずかしい(あとでCBSSをふりかけると平滑になる)硝子体手術用直像接触レンズ(HHV)解像度が高い,再滅菌可能なものがあるレンズ台が必要(スカート・VSLバンド・縫着)硝子体手術用ハードコンタクトレンズ(HHV-Zd)専用開発,滅菌済み,単回使用でもっとも解像度が高い単回使用で値段が高い通常の酸素透過性ハードコンタクトレンズ解像度が高いEOG滅菌,直径が小さい通常のソフトコンタクトレンズ滅菌してある,安い見えにくいので使用に適さない角膜保護の方法とそれぞれの長所と短所を,私見と参考文献3)をもとにまとめた.表427ゲージの不得意分野とその対処法27ゲージのデメリット具体的内容対策器具の剛性が低い眼を傾けるのがむずかしい麻酔を深くする眼を傾けなくてすむ方法(強膜圧迫,CIOL後挿入による視野確保)の導入25ゲージのみ対応するデバイスの存在VFC(CConstellation)が未対応縫合するのでC27ゲージのメリットは少ない長眼軸眼の黄斑操作先端まで長いぶん剛性が弱い,手技自体がむずかしい25ゲージはセッシの種類が多いので27ゲージでむずかしいときは切りかえる,最初からC25ゲージで行う吸引口が小さい落下水晶体への対処時間をかければ処理は可能,CTDCカッターだと弾かないし早い図3Sti.DEXシャフトの根本にあるC19ゲージのスリーブが縮む構造になっている.

術中OCTの有用性

2020年7月31日 金曜日

術中OCTの有用性TheUsefulnessofIntraoperativeOCT井上真*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は光の干渉現象を用いて光学的な断層像を得られる装置であり,後眼部疾患だけではなく前眼部疾患においても眼科診療には必須となっている.術中OCTは手術顕微鏡に内蔵したOCT装置であり,手術顕微鏡を通した立体像にOCTでの断層像を投影できる(図1).鏡筒の代わりにビデオカメラを鏡体にのせて手術画像を3Dモニターで観察するheads-upsurgeryとの組み合わせでは,55インチの大きなモニターにOCT画像が投影されるため,より詳細なOCT画像が観察できる1~3).術中OCTが硝子体手術に有用である理由は,手術顕微鏡による観察が前方からの観察のみであることによる.広角観察システムでは広角に観察できる代わりに立体感は犠牲になっている.眼内照明は多少斜めに光を当てることで網膜血管の影などから網膜の厚みなどを観察できるが,日常眼科診療で用いている細隙灯顕微鏡のような光学的な切片で手術画像を観察することができない.その欠点を補うことができるのが術中OCTである.術中OCTの情報を組み合わせることで前方からの情報だけでなく立体的なイメージングができる.筆者の施設で使用しているZeiss社のOCT手術顕微鏡Rescan700について述べる.IRescan700の改良点術中OCTはバージョンアップされて,垂直方向のスキャン深度は2.9mmと5.8mmを選択できるようになab図1Resan700での術中OCT画像(CarlZeiss社HPから)a:手術顕微鏡の右眼のアイピースに術中OCT画像が投影される.b:Heads-upsurgeryでは術中OCT画像は55インチ3Dモニターに映し出される.*MakotoInoue:杏林アイセンター〔別刷請求先〕井上真:〒181-8655東京都三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)813図2NGENUITYでの術中OCT画像黄斑円孔網膜.離の症例である.黄斑円孔周囲の断面を術中COCT画像で確認している.水平断では黄斑円孔()を捉えているが垂直断では黄斑円孔を捉えていない.術中OCTは動画での観察になるため,患者の呼吸などで観察したい断面を捉えにくいこともある.a:左は手術画像で,黄斑前膜の反射がみられる.OCTの水平,垂直断面の位置を示すガイドが表示されている.右の黄斑前膜.離前のCOCT画像では黄斑前膜()がみられる.Cb:左は内境界膜.離後の手術画像である.周囲のブリリアントブルーCGで染色された部分との境界が,.離された内境界膜の部分である.右のCOCT画像では黄斑前膜が.離されている().網膜内の.胞や網膜内の裂隙()がやや拡大しているが網膜外層は影響が少ない.1Cmmのスケールが表示されている.ab図4黄斑円孔網膜.離の症例a:手術画像ではブリリアントブルーCGで染色された内境界膜()を黄斑円孔に向けて翻転している.Cb:左の液-空気置換下の手術画像では黄斑円孔にガイドを合わせている.OCT断面では液-空気置換の液面の境界面()と翻転した内境界膜()が観察できる.図5眼内レンズ(IOL)落下の症例a:硝子体中に落下したCIOLを前房中に誘導して鑷子で把持し,半割して摘出した.Cb:IOLを挿入後,ループ()を眼外へ誘導して強膜内固定した.Cc:硝子体切除後に黄斑前膜などがないか,黄斑部を術中COCTで観察した.Resight128Dの広角眼底観察でC6Cmmの幅でCOCTを設定している.Cd:ループを固定位置に合わせて術中COCTを前眼部モードで起動してCIOLの高さに合わせる.強膜内固定されたCIOLの前面()は瞳孔縁を結ぶ線と並行していて,IOLの傾斜が少ないことがわかる.OCTの深度はC5.8Cmmでスキャン幅は12Cmmに設定している.IOLの前面のほかに後面も描出されている.-

Heads-Up Surgeryを用いた硝子体手術

2020年7月31日 金曜日

Heads-UpSurgeryを用いた硝子体手術Heads-upVitreoretinalSurgery石田雄一郎*瓶井資弘*はじめにHeads-upsurgery(HUS)とは,顕微鏡の鏡筒を覗く代わりに,3Dモニターに表示された映像を見ながら行う手術である1)(図1).HUSでの映像は,デジタルカメラで撮影したデジタル信号であるため,画質調整だけでなく,映像の補完や変換など,さまざまな修正をリアルタイムで加えることができる.そのため,将来的には顕微鏡を通した人の眼による認知の限界を超える映像を作り出せる可能性があるシステムだと筆者らは考えているが,現時点では,従来の顕微鏡手術よりも劣っている点もある.さらに,HUSを使いこなすためには,カメラやモニターなどさまざまな知識も必要となる.本稿では,HUSのシステム・機材について説明し,愛知医科大学病院(以下,当院)での臨床使用経験をもとに,現時点でのHUSによる手術が顕微鏡手術と比較して優っている点,劣っている点,当院でのHUS使用方法,注意点について説明する.IHUSの機材HUSを使用するうえで,カメラやモニターについての理解は重要であるため,まずはその仕組みや特徴について説明する.1.HUSのカメラHUSでは,顕微鏡の左右の光軸にそれぞれ1台ずつ計2台のカメラを設置する.現在のところHUSで用い図1愛知医科大学眼科手術室のheads-upsurgeryられるカメラの解像度は1,920×1,080ピクセルのFullHD(2K)が主流である.解像度が3,840×2,160ピクセルである4Kなどの超高解像度のカメラも存在するが,解像度が上がると映像が暗くなること(撮像素子の数が4倍になる分小さくなるので信号は小さくなる)や,被写界深度(depthof.eld:DOF)が浅くなり,頻繁に顕微鏡のピント調節が必要となるなどマイナス面も出てくる.さらに,高解像度の動画は容量が飛躍的に大きくなり,録画装置が普及していないため,現在のHUSではfullHD(2K)カメラが使用されている.立体視を得るには,左右のカメラのセンタリングや,明るさ・色合いのなどの画像パラメータが一致している必要がある.*YuichiroIshida&*MotohiroKamei:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕石田雄一郎:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(33)8072.3Dモニターヒトは立体視を得るために,左右の網膜に視差のある像を投影し,その像を脳で立体像として再構築している.現在のCHUSで用いられているC3Dモニターは,この両眼視差を利用したC2眼式の表示方式である.2眼式の表示を実現するC3Dディスプレイの方式は複数あり,3D映像の利用環境に合わせて選定される.HUSでは,手術室での利用であることから,視距離はC1.2Cm程度である.また,執刀医を主たる観察者とした数名での利用となるため,スクリーンを用いた投射型ではなく,テレビモニターを利用するのが適している.高輝度で高精細な映像表示が可能であることも,HUSに適しているといえる.さらに,右眼の映像を術者の右眼に,左眼の映像を術者の左眼に表示するためには,裸眼式とC3Dメガネを用いる方法がある.裸眼式C3Dディスプレイ(レンティキュラーを用いる=お菓子のおまけの立体写真)は眼鏡をかける必要がないので簡便であるが,限定された適切な位置から観察しないと二重像を観察してしまうといった課題があるため,現状ではC3Dメガネを用いる方法のほうが優れている.3Dメガネには,光の波長によって左右眼に分割するインフィテック方式や,液晶シャッターの開閉により映像を左右眼に分離するアクティブシャッター方式などさまざまな方式が提案されている.アクティブシャッター方式は解像度が半減しないメリットがあるものの,眼鏡自体が重く,電池切れが生じると機能不全になるなどの欠点があるので,あまり普及していない.現在のCHUSでおもに採用されているのは,偏光フィルムによって左右眼に映像を分離する方式(パッシブC3D方式)である.CIIHUSの利点当院ではC2017年C3月にCHUSを導入した.約C3年臨床使用してきた中でわかってきたCHUSの利点について述べる.C1.眼内照明の光量を下げて手術することができる眼科手術では照明を強くすると,照明による熱や網膜への光障害が起こるという問題があり,こまめな遮光やできるだけ光量を下げて手術を行うのが良いとされてきたが,既存の顕微鏡手術では限界があった.一方,HUSではカメラやモニター側で明るさを上げることができるため,手術に使用する照明を顕微鏡手術のC1/10程度に下げても,手術に必要な明るさを確保できるようになった.当院では,網膜色素変性など,光障害によるリスクが高いと考えられる症例では,室内照明のみで白内障手術をすることもあるが,それでも問題なく手術が行える.C2.より判別しやすい色合いにすることができるHUSでは術中に画像パラメータ(色相など)を変化させることで,硝子体やブリリアントブルーCG,インドシアニングリーンなどの可視化剤の染色を際立たせることができる.今後技術が進歩すれば,現在使用している可視化剤を使用しなくても黄斑上膜や内境界膜を可視できるようになるかもしれない.C3.画像鮮明化ができる角膜や中間透光体の混濁で眼底観察がやや不鮮明になった場合,highdynamicrange(HDR)やコントラストの調整で,ある程度見やすくすることができる.防犯カメラに用いられている技術などを応用すれば,さらに進化すると思われる.C4.術中OCTや眼内内視鏡を併用したハイブリッド手術が容易に行える近年,術中COCTや眼内内視鏡を併用した硝子体手術が行われてきている.術中COCTや眼内内視鏡の画像は通常,モニターに映し出されるため,従来の顕微鏡手術の際には鏡筒から眼をはずして術中COCTや眼内内視鏡の画像を確認しなければならず,三つを同時に確認することは不可能であった.しかし,HUSは術中COCTや眼内内視鏡と同様にモニターを見ながらの手技であり,3つを同じモニター内に映すことで,同時に確認することが容易である.今後,このようなハイブリッド眼底観察手術が主流になっていく可能性がある.808あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020(34)図2愛知医科大学での手術指導法指導医がモニターの横に立ち,モニター画面上で器具の操作を指示することで,指導がしやすく,また指導を受ける側も理解がしやすい.図3NGENUITY3Dビジュアルシステム図4当院での顕微鏡手術セッティングNGENUITYICMカメラ(C○).1.4倍変倍アダプター(boostlens,).ab図5Proveo8(LeicaMicrosystems)図63Dメガネa:3Dアイシールドとシールドフレーム(ソニー).Cb:3Dメガネセット(池上通信機).-

黄斑手術における内境界膜剥離の有用性と課題

2020年7月31日 金曜日

黄斑手術における内境界膜.離の有用性と課題TheUsefulnessandChallengesofILMPeelinginMacularSurgery的場亮*森實祐基*はじめに内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)は網膜の最表層に存在するIV型コラーゲンを主体とした均質な膜で,Muller細胞の基底膜である1,2).網膜硝子体手術,とくに黄斑手術においてILMに対してなんらかの処理を行うようになったのは,1995年の黄斑円孔手術におけるILM.離が最初である3).その後,ILM.離が黄斑円孔以外の黄斑疾患,すなわち網膜上膜(epireti-nalmembrane:ERM)や一部の黄斑浮腫に対しても有用であることが明らかになり,現在もその適応は拡大している(表1).さらに最近では,ILMを単純に.離除去するのではなく,.離して黄斑を被覆する,黄斑外のILMを.離して黄斑に移植するなど,.離したILMを積極的に治療に活用するという新しい手術概念が生まれ,黄斑手術におけるILM.離の重要性は増している.一方で,ILM.離が普及するとともに,ILM.離が網膜機能に及ぼす負の影響が近年報告されている.ILMが本来網膜を構成する組織であり,ILMを.離することは網膜に侵襲を加えることにほかならないことを考えると,この指摘は当然であるといえる.ILM.離の治療効果や適応についてどのように考えるべきか,現時点で答えを得ることはむずかしい.しかし,ILM.離の適応が拡大し,ILMを対象とした術式の多様性が増した現在,最近の知見を整理しておくことは意義があると考える.そこで本稿では,ILM.離の対象疾患のうち,黄斑円孔とその類縁疾患,そしてERMを取り上げ,ILM.離の有用性と課題について解説する.I黄斑円孔1.有用性1995年にBrooksらによって黄斑円孔周囲のILMを.離除去すると黄斑円孔の閉鎖率が向上することが報告され3),それ以降,ILM.離は黄斑円孔手術の標準術式となった.しかし,黄斑円孔に対するILM.離が定着するとともに,ILM.離を行っても円孔が閉鎖しない症例が存在することが明らかになった.このような黄斑円孔は一般に難治性の黄斑円孔とよばれ,巨大黄斑円孔(円孔径>400.μm),陳旧性黄斑円孔,近視性黄斑円孔,外傷性黄斑円孔,増殖性網膜病変・ぶどう膜炎・網膜色素変性症に合併する黄斑円孔,黄斑分離症に対する硝子体手術後の黄斑円孔などが該当する(表2).難治性の黄斑円孔に対してILM.離を行った場合,黄斑円孔内の網膜色素上皮細胞が露出した状態,いわゆる“.at-open”の形態になることが多く,視力の改善は期待できない.そこで2010年にMichalewskaらによってILM翻転法が考案された.Michalewskaらの原法では,黄斑円孔の縁までILMを.離して作製したILM弁を翻転し,黄斑円孔内に詰め込む.この方法によって,巨大黄斑円孔の術後に.at-openの形態になる確率が約1/10に減少した4).近年のメタアナリシスにおいてもILM翻転法はILM.離と比較して巨大黄斑円孔*RyoMatoba&*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座〔別刷請求先〕的場亮:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)797表1内境界膜手術の適応疾患および目的表2難治性黄斑円孔黄斑円孔.離除去翻転・自家移植牽引解除円孔閉鎖促進1.巨大黄斑円孔(円孔径>400.μm)2.陳旧性黄斑円孔黄斑上膜黄斑浮腫.離除去.離除去黄斑上膜の完全除去牽引解除再発予防牽引解除(酵素分圧改善)3.近視性黄斑円孔4.外傷性黄斑円孔5.増殖性網膜病変に合併6.ぶどう膜炎,網膜色素変性症に合併7.黄斑分離症に対する硝子体手術後網膜分離症.離除去(中心窩温存)牽引解除黄斑円孔形成予防内境界膜下出血.離除去内境界膜下出血の除去網膜下出血.離除去網膜下注入時の抵抗軽減abcdef図1内境界膜弁翻転法の手術手順の一例a,b:黄斑円孔径の約2.5倍の半径の面積で黄斑を中心に内境界膜を.離する.c:下方の内境界膜をトリミングする.d,e:上方の内境界膜を下方へ翻転する.f:眼粘弾性物質で内境界膜を固定した後,液-空気置換を行う.abcde図2内境界膜弁自家移植法の手術手順a~c:内境界膜残存部()から内境界膜遊離弁を採取し,黄斑円孔()内に埋め込む.d,e:眼粘弾性物質()で円孔内に移植した内境界膜遊離弁()を固定した後,液-空気置換を行う.図3翻転した内境界膜弁に沿ったグリア細胞の集簇(サル眼)サル眼に黄斑円孔を作製し,内境界膜弁翻転法を施行した.a:術前の光干渉断層計写真.Cb:術後C10日目の光干渉断層計写真.は翻転した内境界膜弁を示す.Cc:黄斑のヘマトキシリンエオジン染色.は翻転した内境界膜弁を示す.Cd:術後C10日目の免疫染色像.翻転した内境界膜弁(ラミニン=緑,)に接してグリア細胞(glialC.brillaryCacidicCpro-tein=赤)が集簇していることがわかる(点線は集簇の範囲を示す).図5Lamellar.holeassociatedepiretinalproliferation(LHEP)embeddingの手術手順a:内境界膜鑷子を用いてCLHEPのみを把持し,黄斑に向かって求心性に.離する.b:.離したCLHEPを分層円孔内に埋め込む.C-図6裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術後に生じた続発性黄斑上膜中心窩を通る水平断および垂直断の光干渉断層計CBスキャン画像では,網膜表層の高輝度な線状所見として厚い黄斑上膜()が観察され,網膜の肥厚,中心窩陥凹の消失,網膜層構造の乱れ,網膜外層の.胞様変化(*)を認める.光干渉断層計Cenface画像(内境界膜レベル)を用いることで,高輝度な膜様所見(*)として黄斑上膜の局在が確認でき,黄斑上膜に伴って生じた網膜皺襞()も観察できる.図7光干渉断層計enface画像により観察される黄斑上膜に対する手術前後の網膜皺襞a:術前.内境界膜レベル.黄斑上膜を認める.b:術前.内境界膜レベルのC20.μm深層.低輝度線状の所見として網膜皺襞を認める().c:術後C1カ月.内境界膜レベル.傍中心窩領域の黄斑上膜および内境界膜が.離されている.Cd:術後C1カ月.内境界膜レベルの20.μm深層.内境界膜の.離範囲()の内側には網膜皺襞は認めず,外側にのみ網膜皺襞が残存している().暗点が多かったと報告している34).しかし,近年報告されたメタ分析の結果では,ERM.離単独群とCILM.離併用群の術後視力の比較において,ILM.離併用群のほうが術後視力が不良であった報告35),両群の術後視力に有意差がみられなかった報告36),ILM.離併用群のほうが術後視力が良かった報告37)がそれぞれ存在し,一定の結論には至っていない.今後視力以外の視機能,すなわち歪視や網膜感度についても検討を行うことが必要である.ILM.離によるCMuller細胞や網膜神経線維層の障害については,ILM.離の面積を必要最小限に抑えることが一つの解決策になると考える.筆者らはCenface画像を用いてCILMの.離面積が術後の視機能に及ぼす影響を検討した.その結果,少なくとも傍中心窩領域(中心窩を中心とした直径C3Cmmの円の領域)のCILMを.離すれば,それ以上の範囲のCILMを.離した場合と同等の視機能が得られた(図7)27).おわりに黄斑手術におけるCILM.離の有用性と課題について近年の研究結果をもとに概説した.術後視機能のさらなる改善をめざして,侵襲の低い術式や手術器具の考案,手術適応基準の個別化が今後必要である.そのためには,OCTをはじめとする網膜画像の多面的な検討や分子生物学的研究による黄斑疾患の病態解明が重要である.文献1)FineBS:LimitingCmembranesCofCtheCsensoryCretinaCandCpigmentCepithelium.CAnCelectronCmicroscopicCstudy.CArchCOphthalmolC66:847-860,C19612)RussellCSR,CShepherdCJD,CHagemanGS:DistributionCofCglycoconjugatesCinCtheChumanCretinalCinternalClimitingCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC32:1986-1995,C19913)BrooksL:ILMCpeelingCinCfullCthicknessCmacularCholeCsur-gery.CVitreoretinalSurgTechnolC7:1-6,C19954)MichalewskaCZ,CMichalewskiCJ,CAdelmanCRACetal:Invert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforClargeCmacularCholes.COphthalmologyC117:2018-2025,C20105)ShenCY,CLinCX,CZhangCLCetal:ComparativeCe.cacyCevaluC-ationCofCinvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtech-niqueCandCinternalClimitingCmembraneCpeelingCinClargeCmacularholes:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CBMCOphthalmolC20:14-10,C20206)HiranoCM,CMorizaneCY,CKawataCTCetal:Casereport:suc-cessfulCclosureCofCaClargeCmacularCholeCsecondaryCtoCuve-itisCusingCtheCinvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechnique.CBMCOphthalmolC51:83-85,C20157)MichalewskaCZ,CMichalewskaCJ,CDulczewska-CicheckaCKCetal:TemporalCinvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCversusCclassicCinvertedCinternalClimitingCmem-braneC.aptechnique:aCcomparativeCstudy.CRetinaC35:C1844-1850,C20158)CasiniCG,CMuraCM,CFigusCMCetal:InvertedCinternalClimit-ingCmembraneC.apCtechniqueCforCmacularCholeCsurgeryCwithoutCextraCmanipulationCofCtheC.ap.CRetinaC37:2138-2144,C20179)MorizaneCY,CShiragaCF,CKimuraCSCetal:AutologousCtrans-plantationCofCtheCinternalClimitingCmembraneCforCrefractoryCmacularCholes.CAmCJCOphthalmolC157:861-869,Ce861,C201410)ShiodeCY,CMorizaneCY,CMatobaCRCetal:TheCroleCofCinvert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCinCmacularCholeCclo-sure.CInvestOphthalmolVisSciC58:4847-4855,C201711)HisatomiCT,CEnaidaCH,CMatsumotoCHCetal:StainingCabilityCandCbiocompatibilityCofCbrilliantCblueG:preclinicalCstudyCofCbrilliantCblueCGCasCanCadjunctCforCcapsularCstaining.CArchOphthalmolC124:514-519,C200612)ZhangCL,CLiCX,CShenCYCetal:Transdi.erentiationCe.ectsCandCrelatedCmechanismsCofCnerveCgrowthCfactorCandCinter-nalClimitingCmembraneConCMullerCcells.CExpEyeResC180:C146-154,C201913)TadayoniCR,CPaquesCM,CMassinCPCetal:DissociatedCopticCnerveC.berClayerCappearanceCofCtheCfundusCafterCidiopathicCepiretinalCmembraneCremoval.COphthalmologyC108:2279-2283,C200114)EnaidaCH,CHisatomiCT,CGotoCYCetal:PreclinicalCinvestiga-tionCofCinternalClimitingCmembraneCstainingCandCpeelingCusingCintravitrealCbrilliantCblueCG.CRetinaC26:623-630,C200615)IshidaCM,CIchikawaCY,CHigashidaCRCetal:RetinalCdisplace-mentCtowardCopticCdiscCafterCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCidiopathicCmacularChole.CAmCJCOphthalmolC157:971-977,C201416)ShionoCA,CKogoCJ,CSasakiCHCetal:Hemi-temporalCinternalClimitingCmembraneCpeelingCisCasCe.ectiveCandCsafeCasCcon-ventionalCfullCpeelingCforCmacularCholeCsurgery.CRetinaC39:1779-1785,C201917)TsuchiyaCS,CHigashideCT,CSugiyamaK:VisualC.eldCchang-esCafterCvitrectomyCwithCinternalClimitingCmembraneCpeel-ingCforCepiretinalCmembraneCorCmacularCholeCinCglaucoma-tousCeyes.CPLoSONEC12:e0177526,C201718)MatsumaeCH,CMorizaneCY,CYamaneCSCetal:InvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCversusCinternalClimitingC(31)あたらしい眼科Vol.C37,No.7,2020C805’C’C

網膜疾患の遺伝子治療

2020年7月31日 金曜日

網膜疾患の遺伝子治療GeneTherapyforIntractableRetinalDiseases池田康博*はじめに網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)を代表とする遺伝性網膜変性疾患は,これまで有効な治療法がなく,患者は失明の恐怖に悩まされている.近年,欧米からは遺伝子治療の臨床応用の結果が数多く報告されており,その安全性と治療効果が確認されつつある.2017年C12月には,レーバー先天盲(LeberC’sCcongenitalamaurosis:LCA)に対する遺伝子治療薬が米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)で認可された.国内でも,九州大学病院でCRPに対する視細胞保護遺伝子治療の医師主導治験がスタートしており,遺伝子治療が遺伝性網膜変性疾患をはじめとした網膜の難治性疾患に対する標準治療となる時代が確実に近づいている.CI欧米で着々と進められている遺伝子治療の現状欧米では,LCAだけでなく,コロイデレミアやCRPなどに対する臨床応用が進められている(表1).それぞれの現状を紹介する.C1.Leber先天盲に対する遺伝子治療LCAは,1869年CLeberによって報告されたCRPの類縁疾患で,生後早期(多くは生後C6カ月以内)より高度に視力が障害される1).また,視力のみならず,暗所での行動にも大きな制限が生じる.これまでにC20種類以上の病因遺伝子が同定されており,ほとんどが常染色体劣性遺伝の形式をとる.病因遺伝子のなかで,RPE65(LCA2)遺伝子異常を対象とした遺伝子治療研究がこれまで盛んに行われている.Aclandらは,このCLCA2に対する遺伝子治療法として,アデノ随伴ウイルス(adeno-associatedvirus:AAV)ベクターを用いたCRPEへの正常CRPE65遺伝子導入という方法を試み,RPE65遺伝子異常を有する自然発症のイヌに対して著明な治療効果を示した2).2007年C2月より英国のグループによって,またC2007年C9月より米国ペンシルバニア大学のグループによって,ヒトLCA2患者に対する臨床応用が開始された3,4).一連の臨床応用では,AAVベクターの網膜下投与において,眼局所ならびに全身の重篤な副作用がないこと,視力や視野の改善といった臨床的な治療効果が一定の被験者で確認できたと報告された5,6).さらに,LCA2患者を対象とした第CIII相臨床試験(NCT00999609)が米国において実施され,本治療の有効性が示された7).この結果を受け,治験で使用された治験薬(voretigeneCneparv-ovec:商品名CLuxturna)は眼科領域で初めての遺伝子治療薬としてCFDAに認可された.LCA2以外にも,CEP290(LCA10)遺伝子異常を対象としたアンチセンスオリゴヌクレオチド(QR-110)を用いた遺伝子治療8)が米国を中心に臨床応用されており,2019年C4月より第CIIC/III相臨床試験が開始されている(NCT03913143).*YasuhiroIkeda:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕池田康博:〒889-1692宮崎市清武町木原C5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(15)C789表1欧米における眼科領域の遺伝子治療臨床試験一覧臨床試験登録CNo.対象疾患フェーズ治験薬投与方法被験者数スポンサーCNCT00999609NCT02781480NCT00749957NCT03913143NCT03496012NCT02341807NCT03116113NCT03316560NCT03252847NCT03328130NCT02556736NCT03326336CNCT02652767NCT02652780NCT03293524NCT01494805NCT01024998NCT03066258NCT03748784NCT03278873NCT02599922NCT02317887NCT02416622Leber先天盲(LCA2)Leber先天盲(LCA2)Leber先天盲(LCA2)Leber先天盲(LCAC10)コロイデレミアコロイデレミアRP(RPGR)RP(RPGR)RP(RPGR)RP(PEDC6B)末期CRPRPLeber遺伝性視神経症Leber遺伝性視神経症Leber遺伝性視神経症滲出性加齢黄斑変性滲出性加齢黄斑変性滲出性加齢黄斑変性滲出性加齢黄斑変性全色盲全色盲X連鎖性若年性網膜分離症X連鎖性若年性網膜分離症第CIII相C第CI/II相C第CI/II相C第CII/III相第CIII相C第CI/II相C第CI/II/III相C第CI/II相C第CI/II相C第CI/II相C第CI/II相第CI/II相第CIII相第CIII相第CIII相第CI/II相C第I相第CI/II相第I相第CI/II相C第CI/II相C第CI/II相C第CI/II相CAAV2-hRPE65v2AAV-RPE65AAV2-CB-hRPE65QR-110(RNAantisenseoligonucleotide)AAV2-REP1AAV2-hCHMAAV8-RPGRAAV2tYF-GRK1-RPGRAAV2/5-RPGRAAV2/5-hPDE6BRST-001(AAVC2-ChR)GS-030(AAVC2.7m8-CAG-ChrimsonR-tdTomato)硝子体内GS-010(AAVC2-ND4)GS-010(AAVC2-ND4)GS-010(AAVC2-ND4)AAV.sFlt-1AAV2-sFLT01RGX-314(AAV-anti-VEGFfab)ADVM-022(AAV.C7m8-a.ibercept)AAV-CNGB3orAAV-CNGA3AAV2tYF-PR1.7-hCNGB3AAV8-RS1AAV2tYF-CB-hRS1網膜下網膜下網膜下硝子体内網膜下網膜下網膜下網膜下網膜下網膜下硝子体内硝子体内硝子体内硝子体内網膜下硝子体内網膜下硝子体内網膜下網膜下硝子体内硝子体内31名C15名C12名C30名C169名C15名C63名C30名C46名C15名C14名18名C39名C37名C90名C40名C19名C42名C30名C72名C24名C24名27名CSparkTherapeuticsMeiraGTxUKIILtdAppliedGeneticTechnologiesCorpProQRTherapeuticsNightstaRxLtd/BiogenCompanySparkTherapeuticsNightstaRxLtd/BiogenCompanyAppliedGeneticTechnologiesCorpMeiraGTxUKIILtdHoramaS.A.CAllergan(RetroSenseTherapeutics)CGenSightBiologicsGenSightBiologicsGenSightBiologicsGenSightBiologicsLionsEyeInstituteGenzyme/Sano.CompanyCRegenxbioInc.AdverumBiotechnologies,Inc.MeiraGTxUKIILtdAppliedGeneticTechnologiesCorpNationalEyeInstitute(NEI)CAppliedGeneticTechnologiesCorpC図1RPGR遺伝子変異による網膜色素変性に対する臨床試験の結果6段階中C3番目の濃度が投与されたC3症例(C3.1.C3.3)において,治験薬投与眼で網膜感度が上昇していた(マイクロペリメトリー検査).(文献C15より抜粋)国オックスフォード大学が中心となっている研究グループが報告した第CIC/CII相臨床試験の結果を簡単に紹介する15).対象は,RPGR遺伝子異常を有するC18歳以上の男性被験者C18名.RPGR遺伝子を搭載したCAAV8型ベクターを網膜下に投与し,6カ月間経過観察した(ベクター濃度はC6段階で各濃度C3名).高濃度になると眼内での炎症が観察されたが,ステロイド投与で制御可能であり,その他の重篤な副作用もなかったとされている.一方で,6名の被験者で治療眼の視野が改善したという結果が得られており(図1),引き続き第CIIC/III相臨床試験が実施されているようである(NCT03116113).同様に,正常遺伝子を補充するという方法で,常染色体劣性遺伝形式のCRPであるCPDE6B遺伝子異常に対するCAAVベクターを用いた第CIC/CII相臨床試験がフランスにおいて実施されている(NCT03328130).C4.Leber遺伝性視神経症に対する遺伝子治療網膜疾患ではないが,Leber遺伝性視神経症に対する遺伝子治療も精力的に臨床応用が進められているのでここで紹介する.Leber遺伝性視神経症は,ミトコンドリアCDNAの点変異が生じて網膜神経節細胞内にあるミトコンドリアの機能異常により発症する疾患で,母系遺伝する.点変異が検出される部位のうち,MT-ND4遺伝子のCG11778A変異がアジアならびに欧米で頻度が高いことが知られている.MT-ND4遺伝子のCG11778A変異の患者を対象として,MT-ND4遺伝子を搭載したAAVベクターを硝子体内投与する遺伝子治療が実施されている.2014年から米国で第CI相臨床試験が実施され(NCT02161380),重篤な副作用はなく一部の被験者において視力が改善したことが報告されている16).また,フランスでも別の研究グループにより第CIC/CII相臨床試験(NCT02064569)が実施され,眼内での免疫反応(炎症)と眼圧上昇が認められたものの,安全性が示されとされている17).現在は複数の第CIII相臨床試験(NCT02652767,NCT02652780,NCT03293524)が米国を中心とした複数の国で実施されている.遺伝子治療後C1年で,治療群とコントロール群との視力変化に有意な差が得られなかったようであるが,最長C5年間経過観察しながら最終的な治療効果を検討するようである.5.滲出性加齢黄斑変性に対する遺伝子治療遺伝性疾患ではないが,滲出性加齢黄斑変性に対する遺伝子治療も多くの臨床試験が実施されているのでここで紹介する.現状の標準的な治療として,抗CVEGF製剤を硝子体内に投与することが定着しているが,その投与回数が多くなることが臨床的に大きな問題となっている.遺伝子治療では,1回の投与で長期間の遺伝子発現が可能となるため,VEGFの生理活性を低下させる蛋白質を発現させることにより,抗CVEGF製剤の投与回数を減らせる可能性が期待されている.初期の研究から進められていた方法は,可溶型VEGF受容体-1(soluble.t-1)をCAAVベクターに搭載し眼内へ投与する方法である.豪州で実施された第IC/CII相臨床試験(NCT01494805)では,安全性は示されたものの明確な治療効果が示されなかったと結論づけられている18).また,米国で実施された第CI相臨床試験(NCT01024998)では安全性が示され19),さらなる検討が予定されているようである.そのほかに,抗CVEGF抗体の断片を発現する遺伝子を搭載したCAAVベクター(RGX-314)を網膜下に投与する第CIC/CII相臨床試験(NCT03066258)では,安全性と治療効果が確認され,本年度から第CII相臨床試験を実施する予定とのことである(https://www.regenxbio.com/rgx-314/).また,アフリベルセプトを発現するAAVベクター(ADVM-022)を硝子体内投与する第CI相臨床試験(NCT03748784)も現在実施中のようである.C6.その他の疾患全色盲(achromatopsia,CNGA3遺伝子異常ならびにCCNGB3遺伝子異常)19),X連鎖性若年性網膜分離症(RS1遺伝子異常)20)などに対する遺伝子治療も欧米ではすでに臨床応用が進められている.CII国内の遺伝子治療の現状1.独自技術による変異置換ゲノム編集遺伝子治療ゲノム編集(genomeediting)とは,デザインした部位特異的な短いCguideRNAとCDNAを加水分解する酵素であるヌクレアーゼを利用して,標的部位のゲノム配792あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020(18)-MMEJの応用単一ベクター化小型Cas9の使用プロモーターの小型化編集効率大幅up!図2変異置換ゲノム編集遺伝子治療に用いるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターマイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology-mediatedCendjoining:MMEJ)の応用などの工夫により,AAVベクターの単一化に成功した.これにより,生体内におけるゲノム編集効率が大幅に上昇した.ab4030P1latency(ms)遺伝盲ラット2010050mV遺伝子導入後30ms図3オプトジェネティクス遺伝子治療の治療効果a:未治療のCRCSラット(RPモデル動物)では電位がほぼ消失しているが,チャネルロドプシン-2遺伝子導入により電位が再び測定できた.Cb:正常ラットの半分ぐらいの電位が得られた.(文献C27より改変引用)C-図4医師主導治験における治験薬投与ExtendablePolyTipCannula25Cg/38Cgを用いた治験薬の網膜下投与により,blebが形成された.–

自家網膜移植術

2020年7月31日 金曜日

自家網膜移植術AutologousRetinalTransplantation門之園一明*はじめに網膜の移植の歴史は浅く,ここ数年で実用化された手術である.その理由として,神経系の移植であるため治療効果が未知数であること,手技が煩雑であること,倫理上の問題があげられる.しかし,難治性黄斑円孔はこれらの三つの課題を克服する最良の移植術の対象疾患であり,自家網膜移植が治療方法の一つとして開発され,急速に進歩してきた.最初の自家網膜移植が行われたのは,Mahmoundらによる近視性の黄斑円孔の非閉鎖例である1).その後,多数例の難治性黄斑円孔に対する自家網膜移植術が多施設研究として行われ,良好な結果が報告された2).さらに,黄斑円孔の初回手術として本術式が用いられるようになり,筆者らは最小円孔径がC600μmを超える黄斑円孔に対する良好な治療成績を報告している3).本稿では,自家網膜移植術の難治性黄斑円孔に対する現状の治療成績を解説し,問題点と今後の課題を報告する.CI難治性黄斑円孔とは黄斑円孔には,特発性黄斑円孔および続発性黄斑円孔がある.すべての黄斑円孔は外科的手術の適応であり,内境界膜.離が標準的な術式である.しかし,初回手術で閉鎖が得られない黄斑円孔が存在する.強度近視の黄斑円孔や円孔のサイズの大きな黄斑円孔がこれに該当する.このような黄斑円孔に対しては,これまで内境界膜の自家移植4)や水晶体前.の移植が行われてきたが,十分な治療成績は得られていない.難治性黄斑円孔は多く存在する疾患ではないが,治療の開発が望まれていた.CII難治性黄斑円孔の機能と形態を改善する治療法はないかこれまでの難治性黄斑円孔の治療のゴールは,解剖学的な成功であった.内境界膜移植や前.の移植は,Csca.oldformation(組織増殖の足場)とよばれる円孔に線維化増殖を用いて蓋をするといったイメージの形態学的修復を目的とした手術であった.しかし,単に難治性黄斑円孔の形態的整復を試みるだけではなく,視機能を向上できないかという思いを筆者はずっと抱いていた.仮に,患者自身の感覚網膜の一部を利用することができれば,孔をパッチすることで円孔を閉鎖することは可能であり,かつ視細胞が存在するので光刺激により神経節細胞へ光情報を伝達する可能性を秘めている.また,自家移植なので拒絶反応もなく,移植自体に関していえば倫理的な問題はない,と考えた.そして,今からC5年前にCDuke大学と難治性黄斑円孔の自家網膜移植術の有効性と安全性の共同研究を開始した.CIII自家網膜移植術の対象・手技特発性黄斑円孔の閉鎖率はC90%以上である.しかし,強度近視によくみられる大きな黄斑円孔の閉鎖率は十分に満足の行くものではない5).InvertedCILMC.ap法を用いると確かに円孔の閉鎖率は向上するが,非閉鎖例も*KazuakiKadonosono:横浜市立大学大学院医学研究科視覚再性外科〔別刷請求先〕門之園一明:〒232-0024横浜市南区浦舟町C4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)C785図1近視性黄斑円孔の非閉鎖円孔に対する自家網膜移植術a:強度近視の黄斑円孔網膜.離術後の大型の黄斑円孔のCOCT.シリコーンオイル下で網膜は復位し,円孔は開存している(2,019Cμm).視力は(0.04)であった.Cb:自家網膜移植術後C2週のCOCT画像.円孔は良好に閉鎖して,シリコーンオイルは除去されている.視力は(0.2)に向上した.Cc:移植後C1カ月のCOCT画像.円孔は閉鎖し,移植片とレシピエント網膜の外網状層および内顆粒層には緩やかな連続性がみられる.Cd:術後C1カ月の微小視野検査.移植片内に刺激反応はみられないが,円孔周囲に比較的良好な反応がみられる.図2自家網膜移植術の術式a:強度近視の硝子体術後の黄斑円孔(図C1の症例)に対する自家網膜移植手術中の写真.グラフトの採取のために事前にマーキングを行う.b:剪刀にて正確にグラフト採取を行う.c:巨大な黄斑円孔を確認し,パーフルオロカーボンを用いグラフトを円孔底へ移動する.d:黄斑円孔底をグラフト網膜で覆い,かつ埋没する.存在する6).そこで,近視性黄斑円孔の非閉鎖円孔に対する治療として,自家網膜移植術を行った2)(図1).筆者らの施設(横浜市立大学市民総合医療センター眼科)での対象患者の条件は,①硝子体手術後の非閉鎖症例であること,②最小円孔径(minimumClinierCdiameter/CinnerCopeningCholediameter)がC600Cμm以上,③重篤な眼合併症のないこと,④十分な同意が取れること,であった.実際にこの臨床試験の条件に該当した患者は,8名C8眼であった.平均年齢はC63.2歳,女性C5名,男性3名,平均術前視力はC0.04,平均黄斑円孔径はC1,112/1,981Cμmであった.平均眼軸は,29.21Cmmであった.自家網膜移植術の術式は,特殊な三つのパーツからできている.1)移植片(グラフト)の採取,2)グラフトの円孔への移植,3)タンポナーデであり,どれも難易度の高い手技になる(図2).1)の移植片は,鼻側下方から採取する,周辺部から採取する,のいずれかが主流である.耳側からの採取の報告があるが,術後の視野障害を考えると適切でない.網膜.離を作製したあとに,ジアテルミーでマーキングしたうえで,垂直剪刀を用いてグラフトを作製する.グラフトのサイズは,黄斑円孔よりやや大きめが適している.インドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)など染色剤を使用して裏表を明瞭にしておくと,逆さま移植を防止できるので便利である.2)のグラフトの円孔への移植も重要なプロセスである.液体パーフルオロカーボンを用いてグラフトを円孔まで鑷子で移動し円孔を覆う,もしくは円孔内に埋める.円孔内に埋める場合は,特殊な手技が必要とされる.この過程で重要なことは,視細胞を傷つけないことと,円孔を正確に塞ぐことである.3)のタンポナーデは,現在,膨張性ガスを用いる方法,シリコーンオイルを用いる方法,液体パーフルオロカーボンを用いる方法のC3種類がある.いずれのタンポナーデが有効であるとの報告はないが,組織修復を速やかに行うためには膨張性ガスが適している.CIV自家網膜移植術の結果41眼を対象とした筆者らの多施設研究の結果では,円孔の閉鎖率はC87.7%であり,0.3ClogMAR以上の視力改善を得ることができた症例はC36.6%であった.また,症例のなかで増殖硝子体網膜症に進展した症例はみられず,網膜.離がC12眼,硝子体出血がC1眼みられるのみであった.通常,大型の黄斑円孔の閉鎖率は低い.650μm以上の大きな円孔の初回硝子体手術の閉鎖率を調べた報告では,76%(49/64)の閉鎖率であった4).この症例との直接比較はできないが,筆者らの報告した自家網膜移植術での難治性黄斑円孔の解剖学的閉鎖率C87%は良好な治療成績といえるであろう.さらに,最近筆者らが報告したC7眼の平均円孔径(最小C643Cμm,最大C1,214μm)の未治療の巨大な黄斑円孔に対する自家網膜移植手術では,100%の円孔の閉鎖と有意な術後視力の改善を得ている3).CV自家網膜移植術の期待と課題強度近視の硝子体手術は今後も増加するであろう.その際に生じうる,強度近視の硝子体術後の円孔再開あるいは円孔の発症は,視機能の悪化をもたらす重篤な合併症である.現在,この難治性黄斑円孔を解決できる有効な手段は自家網膜移植だけである.さらに長期的に視機能を向上させる可能性もある.本術式は,初回の巨大な黄斑円孔への応用も可能であり,視機能を向上させる可能性がある.興味深いことに,筆者らの臨床例では,移植片内での視機能の存在が確認された症例がある.移植片での光受容器からのシグナルがどのようなメカニズムで双極細胞へ伝達され,神経節細胞を刺激するのか,神経科学的に興味のある課題である.万代らの研究では7),この疑問に一定の答えを導きだしており,はたしてヒトの網膜移植が生着し,かつ機能するのかが,今後の大きな課題である.自家網膜移植術は,さまざまな問題を提起している.文献1)GrewalDS,MahmoudTH:Autologousneurosensoryreti-nalCfreeC.apCforCclosureCofCrefractoryCmyopicCmacularCholes.CJAMAOphthalmolC134:229-230,C20162)GrewalDS,CharlesS,ParoliniBetal:AutologousretinaltransplantCforCrefractoryCmacularholes:MulticenterCInternationalCCollaborativeCStudyCGroup.COphthalmologyC126:1399-1408,C20193)TanakaCS,CInoueCM,CInoueCTCetal:AutologousCretinalCtransplantationCasCaCprimaryCtreatmentCforClargeCchronicC(13)あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020C787’C-