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コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 ベベル・エッジデザイン

2020年8月31日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司3.ベベル・エッジデザイン■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)のベベル・エッジデザインは各メーカーによってかなり異なっている.ベベル・エッジデザインはレンズの動き・静止位置などのフィッティングに大きくかかわってくる.また,装用感やレンズ下の涙液交換にも影響を与える.このセミナーの初回において,簡単にベベル・エッジデザインについて紹介したが,ここではさらに詳しく解説する.■HCLの内面は二つか三つの曲面から形成されている中央部の内面はベースカーブ(basecurve:BC)とよばれている.BCの曲率半径とフロントカーブの曲率半径の差とレンズ材質の屈折率によって,そのレンズのパワー(度数)が決定する.BCの外側はさらにフラットな曲率で切削され,intermediatecurve(IC)を形成する.内面が二つの曲面のみから形成されるHCLでは,この曲面がperipheralcurve(PC)となる.三つの曲面から形成されるHCLではICの外側はさらにフラットな曲率で切削され,これがこの場合のPCになる.図1は三つの曲面から形成されるHCLのデザインを示す.この図でエッジを結ぶ平面とBC中心までの距離をサジタルデプス(sagitaldepth)という.また,図における内面非球面ベベルがデザイン上のベベル幅であり,エッジリフトはデザイン上のエッジリフト(エッジの浮き上がり)ということになる.■ベベル・エッジのチェック法実際にHCLを装用した状況のチェック法はフルオレ図2フルオレセインパターンにおけるベベル幅小玉眼科医院セイン染色で行う.ここでわかるのはベベル幅である(図2)が,デザイン上のベベル幅と若干異なっている.サイズ8.8mmのレンズでは0.6mmくらいのベベル幅が適当とされている(図3).エッジリフトは,スリット光を0.1mm程度に絞って45°の角度から照射し,レンズ下端における光束のズレを観察する(図4).直乱視では下端のエッジリフトは大きくなる.レンズ自体のベベル・エッジデザインのチェックは,直管蛍光灯の反射光をルーペで観察する方法が一般的である(図5)が,以前にサンコンタクトレンズが製作したベベルビュアーなどを用いると,より簡単にチェックできる(図6).ベベル・エッジ形状を模式図で表わす(図7).■その他の部位(ブレンドとキャリアカーブ)HCLの内面は二つか三つのカーブから形成されると記したが,それぞれのカーブ間の継ぎ目は尖っており,そのままでは異物感が強くなるので,なだらかになるよ図1ベベル・エッジデザイン三つの曲面から形成されるHCLでの形状を示す.図3適度なベベル幅サイズが8.8mmのレンズでは0.6mm程度のベベル幅が最適となる.a:ベベル幅が狭すぎてレンズの動きが少なく涙液交換も不足する.b:ベベル幅が広すぎてレンズの動きが大きく不安定になる.(55)あたらしい眼科Vol.37,No.8,20209550910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4エッジリフトのチェック図5ルーペを用いたベベル・エッジのチェック法スリットランプの光束を0.1mm程度に絞ってレンズ下端指にレンズを載せて,直管蛍光灯のベベル・エッジ部分にに照射し,レンズ下端における光束のズレをチェックすおける反射光をルーペにて観察する(撮影はタオルに置いる.光束1本くらいのズレが適量である.て行った).ab図6ベベルビュアーによるベベルエッジの観察cda:ベベルビュアー.b:ベベルビュアーで観察されるベベル・エッジ形状.ab図8キャリアカーブ(レンチクラール部)a:強度近視用HCLにおけるマイナスキャリア.b:強度遠視用(無水晶体用)HCLにおけるプラスキャリア.うに研磨されており,この作業の工程が「ブレンドをかける」とよばれている.BCとICの継ぎ目を研磨することをICブレンド,ICとPCの継ぎ目を研磨することをPCブレンドという.近年のコンタクトレンズ製作機図7ベベル・エッジ形状の模式図a:エッジリフトが小さい.b:ブレンド不良.c:ブレンド過剰.d:理想像.械は優れており,ICブレンドやPCブレンドが不足していることはほとんどないが,HCL装用の際に強く異物感を訴える場合はこれらの部位をチェックすることも必要になってくる.強度近視や強度遠視用のHCLにおいては,レンズのベベル部分が,それぞれ厚すぎたり薄すぎたりしてレンズの動きが不安定になったり,異物感が発生したりするので,キャリアカーブを設けている.厚すぎる場合はマイナスキャリア,薄すぎる場合はプラスキャリアを設ける(図8).

写真:顆粒状角膜ジストロフィ2型の治療的レーザー角膜切開術(PTK)後再発

2020年8月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦435.顆粒状角膜ジストロフィ2型の治療的稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科レーザー角膜切除術(PTK)後再発視覚機能再生外科学図1症例1の前眼部写真55歳,女性.顆粒状角膜ジストロフィC2型所見.13年前にCPTKを受けた.視力低下を自覚して来院.図3症例1の前眼部細隙灯顕微鏡写真角膜混濁は角膜中央部の上皮直下の浅い層に限局している.図4症例2の前眼部写真68歳,男性.顆粒状角膜ジストロフィC2型所見.13年前にPTKを受けた.(53)あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C9530910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例1(図1~3)は55歳の女性で,13年前に両眼の顆粒状角膜ジストロフィと診断され,遺伝子検査の結果は,TGFBI遺伝子R124H変異(顆粒状角膜ジストロフィ2型:granularcornealdystrophytype2:GCD2)ヘテロ接合体であった.右眼については矯正視力がC0.4まで低下していたため,エキシマレーザーによる治療的レーザー角膜切除術(phototherapeuticCkera-tectomy:PTK)が施行され,矯正視力はC1.2まで改善した.術後C3年ごろから少しずつ視力が低下していたが,術後C5年以降通院はとだえていた.今回の受診時の矯正視力はC0.3まで低下していた.再度CPTKを行い,術後C0.9まで矯正視力は改善した.症例2(図4)はC78歳の男性で,13年前に両眼の顆粒状角膜ジストロフィと診断され,遺伝子検査でCGCD2であった.初回のCPTK後C13年間,ほとんど矯正視力の変化はなかった.GCD2は日本や韓国で多い角膜ジストロフィである1).当初はイタリアのCAvellino地方に限られた遺伝性角膜ジストロフィと考えられたためCAvellino角膜ジストロフィと命名されたが2),そのほかの地域でも症例が報告され,現在では顆粒状角膜ジストロフィC2型が正式名称である.マッソントリクローム染色で赤色に染まるヒアリン様物質と,コンゴレッド染色で偏光顕微鏡下に複屈折を呈するアミロイドの両方が沈着しており,granu-lar-latticedystrophyとよばれることもある.ヘテロ接合体であればC50歳以降に視力が徐々に低下してくる.ホモ接合体は幼少期より強い混濁を起こす.日本でもっとも多くみられるCGCD2はCPTKのよい適応である.混濁が上皮直下で集簇して面状に瞳孔領を覆うと,矯正視力の低下をきたすので,その時点でCPTKを行うと矯正視力が改善する.レーザー機種によっても異なるが,1.5~3Dの遠視化が起こるので,術後の老視症状についても注意する.高齢者に大きな上皮欠損をつくるので,術後の感染対策も重要である.PTK後GCD2は数年で再発をきたす3)が,瞳孔領を覆うまでには時間がかかり,矯正視力がC2段階低下するには平均で10年程度かかる4).症例C1はC13年でかなり矯正視力が低下しているが,症例C2はC13年経過しても瞳孔領はまだ透明な部分が多い.GCD2のCPTK後再発はゆっくりと起こり,かつそのスピードは症例によってバリエーションが大きいことを示す写真である.文献1)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies–editionC2.CCorneaC34:117-159,C20152)HollandCEJ,CDayaCSM,CStoneCEMCetal:AvellinoCcornealCdystrophy.CClinicalCmanifestationsCandCnaturalChistory.COphthalmologyC99:1564-1568,C19923)DinhCR,CRapuanoCCJ,CCohenCEJCetal:RecurrenceCofCcor-nealdystrophyafterexcimerlaserphototherapeutickera-tectomy.Ophthalmology106:1490-1497,C19994)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.Medicine(Baltimore)C98:e16216,C2019

斜視のボツリヌス治療

2020年8月31日 月曜日

斜視のボツリヌス治療BotulinumToxinfortheTreatmentofStrabismus宇井牧子*はじめに斜視に対するボツリヌス治療が2015年6月に保険適用となって5年が経過した.外眼筋にA型ボツリヌス毒素(botulinumtoxintypeA:BTX-A)を注射することで筋の収縮力を弱め,斜視手術における筋の弱化・後転術に似た効果を得ることができる.2020年4月,注射の手技料「外眼筋注射(ボツリヌス毒素によるもの)1500点」が認可された.斜視での施注には,筋電計やディスポーザブルの皮膚電極,電極兼注入針を必要とするにもかかわらず,これまで薬価と「筋電図(針電極にあっては1筋につき)320点」しか算定できず,本療法が限られた施設でしか行われない原因のひとつとなっていた.今回の注射手技料の認可は,斜視のボツリヌス治療がより多くの眼科医に採用される大きな一歩と考えられる.Iボツリヌス毒素の作用と効果BTX-Aは運動神経末端でアセチルコリン放出を阻害し,神経筋伝達を阻害する.それによって筋の麻痺が起こり,弱化効果が得られる.効果は数日後から明らかになり3~4カ月間持続するが,その後神経末端より別の発芽が生じて収縮力は回復する.しかし,筋線維の細い外眼筋では注射によって同部位の萎縮や線維化が生じるという報告もあり1),投与を繰り返すと眼位に残存効果が認められるようになる.II適応疾患ボツリヌス毒素の医療製剤としての開発は,1987年米国の眼科医AlanScott博士による斜視への臨床応用から始まり,海外ではボツリヌス毒素による斜視治療が盛んに行われていた.わが国では2015年に斜視に対して適応拡大が認められ,12歳以上のすべての斜視に保険適用となった.海外でもっとも良い適応とされる乳児内斜視に対しては,小児での使用が認められていないため行えない.わが国での良い適応として,①後天内斜視,②甲状腺眼症,③麻痺性斜視の急性期,④手術のシミュレーション,⑤大角度の斜視に対する後転術との併用があげられる.BTX-Aの効果の持続期間は3~4カ月であるが,一部にBTX-Aの薬理作用の持続期間をはるかに超えて治療効果の持続する症例が存在する.後天内斜視や甲状腺眼症では,注射のみで長期にわたり緩解や治癒の得られる例が多い.一方で,間欠性外斜視に対しては元に戻ってしまうことから本療法は適さない.1.後天内斜視若年者の後天内斜視が増えているが,内直筋へのBTX-A注射が治療に有効である2).デジタルデバイスの過剰使用が発症誘因として疑わしい場合には,BTX-A療法に加え,適切な屈折矯正とデジタルデバイスの使用制限が緩解の維持に重要であると筆者は考えている.*MakikoUi:CS眼科クリニック,東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕宇井牧子:〒113-0033東京都文京区本郷3-15-1美工本郷ビル8FCS眼科クリニック0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)947表1斜視のボツリヌス治療の利点と欠点図2症例1後天内斜視a:初診時.複視と30Δ内斜視を認めた.眼球運動制限はなかった.b:右内直筋BTX-A5.0単位注射後,14Δ内斜位となり複視は消失した.図1外来での注射の手技a:筋電図MEM-8301ニューロパックn1.経結膜的に電極兼注入針を刺入する.波形と音とで筋内に入ったことを確認でき,そのまま注入可能である.b:左内直筋にBTX-Aを注射している様子.ab図3症例2外転神経麻痺の急性期a:初診時.複視と80Δ内斜視,左外転制限を認め,左外転神経麻痺と診断した.b:初診時Hess赤緑試験.左外転制限を認めた.c:注射後.左内直筋BTX-A2.5単位注射後,正位となり複視は消失した.d:注射後Hess赤緑試験.外転制限は改善した.図4症例3手術のシミュレーションa:初診時.遠見40Δ,近見30Δ内斜視を認めたが,20Δ以上を基底外方に入れると複視を自覚した.網膜異常対応が疑われた.b:注射後.右内直筋BTX-A2.5単位注射後,遠見18Δ,近見15Δ内斜位斜視となったが,両眼開放正位の状態で複視を自覚しなかった.c:両内直筋後転術後.遠見正位,近見4Δ外斜位で複視はなく,外見的にも満足が得られた.

難治性複視の非観血的治療

2020年8月31日 月曜日

難治性複視の非観血的治療ChallengingNon-SurgicalMethodsfortheTreatmentsofDiplopia杉谷邦子*鈴木利根*はじめに複視は原疾患の治療後や斜視手術,プリズム治療後でもなお残存することがある.とくに末梢神経障害など非共同性の麻痺では,正面位は改善できても視方向により複視が残ることが多い.周辺の複視や回旋性複視による傾きを避けようとするため,患者が片目つむりによる顔面の疲労や代償頭位による肩,首の凝りを訴えるのをよく経験する.折角手術された眼を,自ら完全遮閉している残念な例にも出会う.甲状腺眼症や重症筋無力症などの複視は,症状の変動があり経過も長くなりがちである.さらに複視に悩まされているが手術の適応でない全身合併症の患者や,手術を希望しない高齢者もいる.そのような場合,完全遮閉が選択されがちであるが,それにより身体の平衡が保てず歩行に支障をきたしていることが多い.本稿ではこのような難治の複視に対し,苦痛を最小限にする治療として筆者らが実践しているS-Smethod(複視の非観血的治療の院内手順)1,2)について紹介する.プリズム矯正と部分遮閉とを組み合わせた本法は,原因疾患の種類や斜視角の大小,病期を問わず,変化にも柔軟に対処できる長所がある.IS.Smethodの目標と手順1.目標三つの治療目標を設定している.・両眼開放:歩行の安定のために片眼の完全遮閉は極力行わない.・日常9方向での複視消失:片目つむりや代償頭位による不自由と疲労を軽減させる.・周辺視野の確保:完全遮閉や部分(完全)遮閉による視野欠損を起こさせない.2.手順目標に向けたstep1~3の手順を図1に示した.Step1:まずプリズム治療で正面位の単一視をめざす.12Δ位までは眼鏡に直接プリズムレンズを組み込み,不足分は膜プリズムで補う.変動期には膜プリズムを単独で用い,角度の変化に随時対応していく.Step2:step1で周辺に複視が残った場合にstep2へ進み,BangerterOcclusionFoilsの0.1遮閉膜を用いて部分遮閉を試す.はじめから正面位に複視がないか,すでに治療されている場合はstep1を省略し,step2から始める.Step3:step2まで試しても満足できなかった場合はstep3へ進み,0.1遮閉膜を用いspotpatchを試す.II各Stepの方法1.Step1の方法プリズム治療については過去の報告3,4)や本特集の稲垣の項に委ね省略するが,一点筆者らが留意していることを述べる.第一眼位で複視消失が可能となるプリズム度数は,患者の融像域により一定の幅がある.そのなか*KunikoSugitani&*ToneSuzuki:獨協医科大学埼玉医療センター眼科〔別刷請求先〕杉谷邦子:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学埼玉医療センター眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)939Step1プリズム()ΔStep20.1遮閉膜Step3図1S.Smethod(複視の非観血的治療の院内手順)Step1:正面位を組み込みプリズム(各眼に6Δ程度)で矯正し,不足分は膜プリズムを追加.変動期は膜プリズムを単独で使用する.Step2:step1後に複視が周辺に残った場合に部分遮閉を追加する.正面位に複視がなく周辺だけであれば遮閉膜を単独で部分遮閉する.Step3:step2まで試し処方に至らなかった場合,遮閉膜でspotpatchする.表1眼球運動障害の方向と遮閉方法上転障害遮閉不要上眼瞼が代用下転障害患眼レンズ下方少ない代償頭位で下方視野を補足内転・内下転障害患眼レンズ鼻側例:滑車神経麻痺外転・外下転障害健眼レンズ鼻側例:外転神経麻痺aちぎりやすいテープ大きめの視標プラスチックフィルムタイプb図2Step2遮閉範囲の決定と遮閉膜を貼る手技a:正面位で複視のないことを確認し,視標をゆっくり9方向に追従させ複視の有無を訊いていく.b:複視が出るたびにテープを貼り足し消していき,複視がなくなれば遮閉範囲を決定する.c:レンズ上に貼られたテープに合わせて型紙を作成し,型紙に合わせて切り取った遮閉膜をレンズの裏側から貼る.a右眼滑車神経麻痺b右眼外転神経麻痺LRLR図3両眼単一視野と遮閉位置との関係上部の○は患者側から眼鏡を通してみた両眼単一視野.a:右レンズ下鼻側に遮閉膜が貼られることで,両眼視で視野の斜線部が選択的に単眼視となる.b:左レンズ鼻側に遮閉膜が貼られることで,aと同様に両眼視で視野の斜線部が単眼視となる.abc図4Step3Spotpatchの範囲の決定a:両眼視下で麻痺眼レンズ上の瞳孔付近に約1cm角のテープを貼る.b:複視が消えたことを確認し,中心から9方向に視標を追従させ,複視がなくなるまで小刻みにテープを貼り足す.c:テープに合わせ,型紙をとり裏から遮閉膜を貼る.図5遮閉範囲と両眼単一視野との関係両眼単一視野で複視領域は広いが,それをメガネレンズ上に引き寄せると範囲は狭い.その範囲にspotpatchを貼るので9方向で複視は現れない.n=213処方総数194人(91.1%)プリ159ズム処方人(74.6%)遮閉59人(膜処方27.7%)St16ep135人3.4%Step244人20.7%Step315人7.0%FAIL19人8.9%プリズム+遮閉膜遮閉膜:単独:2024人人0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%図6処方の内訳194人(91.1%)が処方に至り,step1,step2,step3の順に多かった.プリズム処方はstep1とstep2を合わせ159人(74.6%),遮閉膜処方はstep2とstep3を合わせ59名(27.7%)であった.表2治療できた臨床上重要な6疾患表3斜視角疾患人%処方人水平平均(SD)Δ垂直平均(SD)Δ外転神経麻痺4130.8Step113510.5(±9.87)4.6(±5.82)滑車神経麻痺3123.3Step24410.5(±13.25)**6.0(±8.59)動眼神経麻痺1914.3Step31525.9(±14.6)7.4(±9.52)斜偏位1813.5FAIL1916.6(±12.89)7.7(±8.12)甲状腺眼症139.8重症筋無力症118.3n=213Sche.e;p<0.05n=133ab図7部分遮閉の症例a:正面位に複視はないが,右方視の際身体全体を回すので疲労感を訴えていcた.左レンズ鼻側に遮閉膜を貼って改善した.b:正面位の改善後に両側に複視が残っていたが,両レンズ鼻側に遮閉膜を貼り消失した.この貼り方は両MLF症候群の内転障害にも応用できる.c:正面位でET4Δ,L/R10Δ,回旋5°の偏位があり,片目を閉じがちで転倒が多くなっていた.手術は希望せずプリズム治療は無効であった.瞳孔まで及ぶ単独の部分遮閉を選択し,十分な開瞼と歩行の改善が得られた.d:正面位は複視がないが,左右どちらを見ても複視が出現.右眼の内転障害に対して右レンズ鼻側を,右眼外転障害に対しては左レンズ鼻側をそれぞれ遮閉.両耳側視野と健眼の眼球運動が確保できた.右眼の片目つむりと頭位を一定に保つ疲労が解消した.de:右眼の視力不良による廃用性外斜視となっており,複視に悩んでいた.大角度だが手術は希望せず,プリズムも不快感があった.Spotpatchは目立たないうえ開放感があり満足した.f:後部ぶどう腫により両眼0.1以下で求心性視野障害を伴っていた.右眼外転障害があeり,動揺視と,異なるものが重なる混乱視を訴えていた.Spotpatchにより見え方が安定し,混乱視も改善した.f45歳右眼外転神経麻痺75歳両眼外転神経麻痺73歳右眼滑車神経麻痺右眼内下転障害60歳右眼甲状腺眼症右眼上転・内転・外転障害右眼強度近視・黄斑変性・廃用性外斜視両眼強度近視・後部ぶどう腫・白内障術後右眼外転障害

甲状腺眼症の非観血的治療

2020年8月31日 月曜日

甲状腺眼症の非観血的治療Non-InvasiveTherapyofThyroidEyeDiseases神前あい*はじめに甲状腺眼症では複視の自覚症状は約30%にみられる.甲状腺眼症の複視は,肥大した外眼筋が伸展障害をきたすことにより起こる.外眼筋に炎症のみられる活動期にはステロイドパルス治療(以下,パルス治療),放射線療法,トリアムシノロンTenon.下注射による消炎治療が必要であり,消炎後に残存する複視に対しては斜視手術を行う.自験例では,複視の訴えで初診し,消炎治療を施行した甲状腺眼症1,345例のうち,最終的に斜視手術を要した症例は222例(16.5%)であった.とくに,治療前から正面視で複視のみられる症例においては30.3%で斜視手術を要した.消炎治療後に球後病変が鎮静化し斜視手術に至るまでは早くても半年,遅ければ数年かかる.その間は複視の症状により患者のQOLやQOVが低下するため,日常生活に不便な複視に対してはFresnel膜プリズム(以下,膜プリズム)および弱視治療用眼鏡箔(以下,眼鏡箔)により対応が可能である1).2015年よりA型ボツリヌス毒素(botulinumtoxintypeA:BTX-A)注射が斜視に対して保険適用拡大となり,甲状腺眼症に対しても,活動期,不活動期を問わずに治療が可能となった.海外では以前よりBTX-A注射が行われていた.Scottは1984年に甲状腺眼症の斜視5例に対してBTX-A注射を施行し,早期で斜視角が25プリズム以下の症例に有効であったと報告2)している.その後,Lyonsらは38例のうち6例では斜視手術が不要となり,12例では注射効果はみられたものの最終的には斜視手術を施行したと報告し,活動期の投与が有効であると述べている3).また,斜視角が20プリズム以下であれば3割が斜視手術を回避でき,3割が斜視手術の量を軽減できたとの報告4)もある.当院でも,斜視手術までの期間の複視の改善や,手術の回避,または手術を希望しない症例のプリズム眼鏡装用以外の治療法としてBTX-A注射を行い,有効な結果が得られている.本稿では甲状腺眼症に対するプリズム処方と眼鏡箔による遮蔽,BTX-A注射について解説する.I甲状腺眼症の複視に対するプリズム処方と眼鏡箔による遮蔽甲状腺眼症における複視は,肥大筋の伸展障害により起こる.片眼例,両眼例ともに下直筋>内直筋>上直筋>外直筋の順に障害される頻度が高い.つまり下直筋肥大による上転障害のため上方の複視,内直筋肥大による外転障害のため側方複視の症例とその両者が組み合わさった症例が多くみられる(図1).1.膜プリズムの処方膜プリズムは光学的に視線の位置を調整することで複視を解消する.膜プリズムの処方は複視の程度を確認し,膜プリズムの基底と度数を決定し,基本的には非優位眼に全面貼付する.自験例で,膜プリズムを処方した41例の内訳をみると,垂直22例,水平10例,垂直+*AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕神前あい:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(31)931片眼229例229眼両眼405例810眼100%100%50%50%0%0%下直筋内直筋上直筋外直筋下直筋内直筋上直筋外直筋acb図1外眼筋肥大の頻度と代表例甲状腺眼症では,片眼例,両眼例ともに下直筋の肥大がもっとも多くみられ,内直筋,上直筋,外直筋の順に障害される頻度は高い.左右の眼球運動障害の差により複視が出現するため,片眼例のほうが複視の訴えが強くみられる.a:右眼の下直筋肥大による上転障害の症例である.正面視にて右眼は下転位にあり複視がみられる.b:左眼の内直筋肥大による外転障害の症例である.正面視にて左眼は内転位にあり複視がみられる.c:両眼の内直筋,下直筋肥大による上外転障害の症例である.両眼ともに眼球運動障害があり,左右差が少ないために複視の訴えは周辺視のみである.膜プリズム処方例使用可能使用困難垂直16例図2膜プリズムの処方膜プリズムを処方した41例のうち32例では継続使用が可能であった.写真のような垂直+水平の処方例では全例で継続使用が可能であった.眼鏡箔処方a.眼鏡箔0.1:7例b.眼鏡箔<0.1:13例c.眼鏡箔LP:20例d40○:4例,×:2例○使用可能.使用困難○:6例,×:2例○:1例,×:2例全例○:0例,×:1例○:0例,×:1例○:1例,×:1例図3弱視治療用眼鏡箔の処方パターンa:透明度C0.1の眼鏡箔ではややかすみがかかるが,かなり透過性がある.7例に処方した.Cb:透明度<0.1の眼鏡箔ではかなり遮蔽効果がみられる.下方視で単一視がある症例では下方には貼らずに両眼視ができるようにする.13例に処方した.Cc:透明度CLP(光覚)の眼鏡箔ではほとんど光を透過しないので,複視の範囲の遮蔽効果は強い.20例に処方した.Cd:処方パターンとしてはC40例に処方したうち,全面遮蔽がC19例,部分遮蔽のうち,半分遮蔽がC18例(上C8例,下C3例,内側C6例,外側C1例),3/4遮蔽C1例,中央のみC2例という結果であった.40例中C29例では継続使用が可能であった.30base225°Δ図4膜プリズムと眼鏡箔の併用処方例48歳,女性.活動期の症例であったが,全方向の複視に対して右眼に膜プリズムC30CΔbaseC225°で貼付したところ,正面の複視は改善した.膜プリズムでの見え方は良好であったが,右方視において複視の残存の訴えがあり,左眼の鼻側に眼鏡箔(LP)1Ccm幅で貼付し,改善した.パルス後注射前BTX-A注射3週後図5活動期の上下斜視右眼の下直筋肥大による上下斜視の症例である.パルス治療後にも眼位異常が残り,右下直筋にC5CUのBTX-Aを投与した.投与後に眼位は改善しているが,右眼の上転障害に加え,下転障害が起こるため単一視領域はあまり増えない.球後病変が鎮静化するまでにC3回の継続投与を行い,最終的には斜視手術となった.(文献C5より引用)放射線治療後注射前BTX-A注射1カ月後図6活動期の上下斜視右下直筋肥大による上転障害と左上下直筋肥大(上>下)による下転障害による上下斜視の症例である.右下直筋にC5.0CUの投与で正面から下方にかけての単一視が可能となった.図C5の症例と比較すると,この症例では両眼障害であるのでCBTX-A注射により右眼の下転障害が発生しても,もともと下転障害のあった左眼との差がなくなるために,両眼視の範囲は拡がり患者の満足度は高い.パルス治療後注射前BTX-A注射1カ月後図7活動期の内斜視パルス治療後に残存する両眼内直筋肥大による内斜視の症例である.両眼の内直筋にC2.5CUの投与で複視は改善し,徐々に減量してC4回の投与で改善中止となっている.注射前BTX-A注射1カ月後BTX-A注射9カ月後図8不活動期の内斜視パルス治療後,2年間はプリズム眼鏡による矯正を行っていたが,運転時が見えにくいとの訴えがあった.10プリズムの内斜視が残存していたため,両眼の内直筋にC1.25CUずつCBTX-Aを投与した.投与後にBTX-Aの効果が強すぎたため,内転障害がみられた.その後に効果が消失し,1プリズムの内斜視の残存となり,プリズム眼鏡装用なしで日常生活が可能となった.-

小児重症筋無力症の治療

2020年8月31日 月曜日

小児重症筋無力症の治療TreatmentforJuvenileMyastheniaGravis神部友香*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis)は,神経筋接合部のシナプス後膜に存在する標的蛋白質に対する自己抗体により,神経筋接合部の刺激伝達が障害され筋力低下を生じる自己免疫性疾患である.眼瞼下垂,斜視,眼球運動障害を初発症状とするため,まず眼科を受診することが多い.重症筋無力症の臨床所見は,易疲労性,日内変動を伴うという特徴がある.臨床症状によって眼症状に限定される眼筋型,嚥下や呼吸障害,歩行障害など眼筋以外にも多様な症状を生じる全身型に分けられる.重症筋無力症はすべての年代で発症するが,本稿では小児重症筋無力症の治療の特徴について述べる.CI小児重症筋無力症の特徴一般的にC15歳以下発症を小児重症筋無力症としている(表1).発症機序は成人と変わらないが,Myasthe-niaCGravisCFoundationCofAmerica(MGFA)分類Iである眼筋型が多い.2006年の全国調査ではCMGFAIは5歳未満発症例のC80.6%,5歳以上C10歳未満発症例61.5%であった1).またアジア人では重症筋無力症に占める小児発症例は欧米よりも高い.小児重症筋無力症の臨床型には,眼筋型,全身型に加えて「潜在性全身型」というわが国独自の病型がある.潜在性全身型とは,臨床症状は眼筋型であるが,反復筋電図で四肢筋に減衰現象を認めるもので,将来全身型へ移行しやすいことから,眼筋型とは別に治療を考える必表1小児重症筋無力症の特徴要がある.小児眼筋型における潜在型の占める割合は高く,とくにC5歳以下発症例の半数が潜在型である.初発症状のC85~90%が眼症状である.眼瞼下垂,斜視,眼球運動障害,複視が出現し,これらの症状は,朝方には目立たず,疲労時や午後にかけて悪化し,休息,冷却で改善するという特徴がある.幼児では複視を訴えることができないが,見た目の変化から家族が発見しやすく,60%以上は初回に眼科を受診する.病歴から重症筋無力症を疑うことがポイントとなる.診断基準のなかで,眼科外来でも安全簡便に行える検査として,上方をC1分間注視させ眼瞼下垂の悪化を陽性とする上方注視試験や,冷凍した保冷剤を上眼瞼に当て下垂改善を陽性とするアイスパック試験があるが,小児では偽陰性を示すことがある.次に,抗体検査,テンシロン試験を行う.アセチルコリン受容体(acetylchorinereceptor:AChR)抗体陽性率は,成人C89.2%に対して,小児例ではC50%程度である.さらに筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscleCspeci.cCtyrosinekinase:MuSK)抗体陽性は非常にまれである.*TomokaKambe:埼玉県立小児医療センター眼科〔別刷請求先〕神部友香:〒330-8777埼玉県さいたま市中央区新都心C1-2埼玉県立小児医療センター眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C927表2小児重症筋無力症に対する治療のポイント図1外斜視で発症した全身型重症筋無力症MGFAIIaの一例a:2歳C0カ月.初発症状は外斜視,さらにC2週後より両眼瞼下垂が出現した.診断後,抗コリンエステラーゼ薬は無効で,ステロイド少量内服を開始したところ,嚥下機能低下を新たに認めた.b:4歳6カ月.治療後.ステロイドパルス療法,免疫グロブリン大量静注療法,ステロイド内服,タクロリムス内服にて症状は消失した.2歳C4カ月~2歳C11カ月まで右眼遮閉を行った.ad図2眼筋型重症筋無力症MGFAI初診時,眼瞼下垂を認めない一例.a:4歳C1カ月.眼科初診時(左図).左方頭位異常を伴う右上斜視.右方頭位で右上斜視があきらかになる(右図).右下転制限を認めたが,4歳C8カ月時に自然に症状消失した.Cb:6歳C6カ月.上気道感染を契機に日内変動を伴う両眼瞼下垂が出現した.この時点で重症筋無力症の診断に至った.抗コリンエステラーゼ薬にて治療を行った.Cc:8歳C0カ月.眼症状の改善がみられ,8歳C8カ月時で内服を終了した.d:13歳C1カ月.12歳C4カ月時に再発し,左眼瞼下垂,右外転制限を認めた.

複視のプリズム処方

2020年8月31日 月曜日

複視のプリズム処方PrismPrescriptionforDiplopia稲垣理佐子*はじめに後天的な斜視では,多くの場合,複視や遠近感の喪失といった機能面,あるいは整容面の問題のために,日常生活でさまざまな困難を伴う.斜視角が大きいことで外見上問題となったり,日常生活の不自由さから患者が希望すれば手術による根治術を行う.一方,斜視角が小さいなど何らかの理由で手術を希望しない場合や,発症から間もないため自然軽快を期待してすぐに手術を行わない場合もある.プリズム眼鏡は患者に侵襲を与えないこと,発症からの期間を選ばないこと,外来受診時に手軽に試すことができることから,経過観察期間中でも複視の改善に有効な対症療法である.Iプリズムの不適応複視には単眼複視と両眼複視がある.プリズムの適応になるのは,眼位異常からくる両眼複視のみである.眼位検査では,患者が見ようとする距離に合わせた屈折矯正を行い,見え方が改善するのか,また片眼で見たときと両眼で見たときで,見え方が変化するのかを尋ねる.黄斑部の病変では不等像視や変視症を生じる.不等像視や変視症からくる見えづらさを「二つに見える」や「ぶれて見える」と表現することがある.網膜疾患があると黄斑上膜では像が大きく見える大視症となり,黄斑浮腫や網膜.離では小視症が発生する.その場合はAniseikoniaTestやM-CHARTS,Amslerチャートで不等像視や変視の有無をチェックしたうえで,黄斑病変の確認が必要である.不等像視や変視症からくる複視はプリズムでは改善しない.1.プリズムの種類と特徴プリズムには組み込みプリズムとFresnel膜プリズム(膜プリズム)がある.それぞれに特徴があり(表1),斜視角や患者の用途,要望,状況にあわせて選択する.眼鏡の瞳孔間距離を偏位させることでプリズム効果を生むPrentice法もある.偏位させた距離(hmm)×屈折度(D)/10で計算する.球面レンズが凹レンズでは眼鏡の瞳孔間距離を実際の瞳孔間距離より広くとれば,basein効果となるが,屈折度が小さいと効果は少ない.また,大きく偏位させることで球面収差も発生する.本稿では割愛する.回旋複視に対するプリズムの適応については後半で記載する.2.組み込みプリズム組み込み式の角度の範囲は片眼5Δまで,両眼では10Δまで対応ができる.特別注文で7~8Δくらいまでプリズムの制作ができるが,屈折度との兼ね合いもあるため,作製の可否や値段について,処方の前に眼鏡店に確認するとよい.組み込みプリズムは,透明のため外見的にプリズムが入っていることはわからない.症状が固定し斜視角が10Δ以内であれば,組み込み式の提案をする.*RisakoInagaki:浜松医科大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕稲垣理佐子:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部附属病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(21)921表1プリズムの特徴と適応特徴適応3~5Δまで(特注は7~8CΔまで)C小角度の斜視角組み込み式プリズム10Δ以上の大角度では対応が困難症状が固定している変更が容易でない外見が気になる場合1~4C0CΔ膜プリズム着脱が容易外見的に線が目立つC12Δ以上では視力が低下する大角度の斜視角症状の経過観察中経年劣化する平滑面光線図1膜プリズムの装用位置眼鏡の内側に凹凸面が眼球側に位置するように貼りつける.図2プリズムの収納方法プリズムを一つの箱にまとめて収納する.5Δ5cm(V)垂直偏位3cm3BupΔ4cm水平偏位(H)4BoutΔ図3水平・垂直プリズム度数の作図による求め方図4赤ガラステスト片眼に赤ガラスを装用し複視の位置を確認する.図5Cyclophorometer回旋変位の測定.==回旋偏位を測定する.当院ではCCyclophorometer(図5)で検査を行っている.Cyclophorometerの検査は患者に光視標を固視させ,赤の水平線と緑の水平線が平行になるようにダイヤルを回してもらう.光視標をできる範囲で上方,下方に示せば上方視,下方視の回旋偏位も測定が可能である.1°単位で計測でき,視力検査時や往診時に病棟でも容易に検査ができる.詳細な回旋偏位の測定には大型弱視鏡でC9方向眼位を測定する.眼球運動検査に加え,Hess赤緑試験も行う.視標は内側のC15°と外側のC30°があり,外側のC30°まで計測するとずれの程度や麻痺筋がわかりやすい.また,両眼で一つに見える範囲を計測する両眼単一視野を測定する.どの方向で複視があるのかがわかり,経過を把握しやすい.C3.プリズムの処方プリズム度数の調整は,患者の生活様式や用途によって使用距離や場所などが異なるが,基本は正面から下方での複視の改善を目標とする.プリズムの装用は原則的には麻痺眼に装用するほうが少ないプリズム度数で対応できる.麻痺眼が固視眼でプリズムを入れることで視力が低下する場合などは,患者に見え方を尋ねながら装用感のよいほうにプリズムを入れる.眼位検査ではCAPCTで全斜視角を顕出したが,プリズムの処方では複視が消失するできるだけ小さい角度を求める.目的とする距離に視標をおき,プリズムを少ない角度から装用していき,複視のなくなる度数までプリズムを増加していく.2006年に筆者らは「複視に対するプリズムの適応の検討」で,上下偏位が大きいとプリズムには適応しにくいことを報告した2).上下ずれの矯正がプリズム適応のポイントと考える.水平と上下の複視があれば垂直プリズムから矯正し3~5),それでも水平ずれの訴えがあれば,水平のプリズムを重ねていく.そして複視の改善した水平,垂直の角度を前述した計算式や,表でプリズムの度数と角度を求める.それを目安にして検眼枠にプリズムを装用し,自覚を尋ねながら微調整を行う.水平プリズムと垂直プリズムを左右に分けてもよい.度数と角度が決まれば,しばらく院内で装用テストを行うか,希望があれば次回受診までの貸出となる.その後プリズム眼鏡の調子がよければ処方となるが,経過観察中に偏位量に変化があれば,プリズムの度数を変更して再び貸し出しを行う.CIII複視を発症する疾患複視をきたす疾患は後天性滑車神経麻痺,外転神経麻痺,skewdeviation,甲状腺眼症,眼窩吹き抜け骨折,動眼神経麻痺,saggingeye症候群などがあげられる.その中で頻度の高い後天性滑車神経麻痺と外転神経麻痺の特徴について述べる.C1.後天性滑車神経麻痺後天性滑車神経麻痺は特発性,中枢性,交通事故や頭部打撲などの外傷性がある.2018年に当院で後天性滑車神経麻痺と診断されたC78名を治療別に調べた結果では,手術C67.9%(プリズムを試したものの,最終的に手術となったものを含む),プリズム処方C23.1%,経過観察C6.4%,遮閉療法C2.4%だった5).TamhankarらはC92%がプリズムに満足したと報告しているが6),当院はおもに手術目的の紹介が多いためか,最終的にプリズムの適応となったのはC23.1%であった.中村らも滑車神経麻痺ではC32.7%が適応であったと報告している7).施設によっても異なるが,プリズムに適応するのはC3割前後ではないだろうか.また,当院での後天性滑車神経麻痺症例を外傷と中枢性と特発性のC3群に分け治療内容を検討したところ,外傷性ではほとんどが手術となっていた5).しかし,麻痺性斜視は発症後C6カ月は保存療法となる.その間の複視に対してはプリズムによる対症療法が有効と考える.特発性や中枢性の疾患では斜視角はわずかだが,上下複視が主訴となることが多い.とくに下方視で複視が出現する.日常生活では歩行時や読書時など下方を向くことが多いため不自由を感じる.上下方向の融像幅は水平や回旋の融像幅よりも狭く8),少しの上下ずれでも複視を自覚しやすいが,APCTだけでは見逃すことがある.眼位検査時は上下の眼の動きに伴い眼瞼も動くため,眼瞼の状態も注意深く観察をするとよい.924あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020(24)■プリズム:18名■手術:53名25.0*****20.015.010.05.00.0遠見・上下(Δ)近見・上下(Δ)回旋(°)図6手術群とプリズム群の上下・回旋偏位の比較(文献C6より引用)=--=--表2症例2の経過眼位貸出プリズム感想初診時F)3C0CΔETN)1C0CΔE(T)C’C30Δbaseout遠見の複視は改善近見は気にならない初診時より6カ月後(s.c)F)2C0CΔETN)1C2CΔE(T)C’(プリズム装用)F)4CΔXPN)1C4CΔXP’C20Δbaseout斜視角が軽減したため,貸出膜プリズムを変更初診時より1年3カ月後手術施行貸出プリズム返却プリズムで複視は改善できるが,症状が固定したため,手術となり,その後プリズムは不要となった=--=--

間欠性外斜視の眼鏡処方

2020年8月31日 月曜日

間欠性外斜視の眼鏡処方PrescriptionEyeglassesfortheTreatmentofIntermittentExotropia森本壮*はじめに間欠性外斜視は,運動系の異常(眼位異常,輻湊不全)と感覚系の異常(両眼視機能の異常)を伴う.斜視の顕在化による整容面の問題と両眼視機能の低下による複視やぼやけ,眼精疲労などが生じた場合1)に治療が必要となる.大角度の外斜視や外方偏位の頻度が高い外斜視に対しては,手術療法が選択されるが,斜視が顕在化していない症例や小角度の外斜視で,複視やぼやけ,眼精疲労を生じる症例では眼鏡処方の適応となる.眼鏡処方を行う場合,感覚系の異常と運動系の異常の両者を考慮する必要があり,単にプリズム眼鏡を処方して眼位矯正すれば解決するものではなく,また成長期の小児と成人では処方の戦略が異なる.本稿では,間欠性外斜視に対する眼鏡処方について,小児と成人に分けてそれぞれの眼鏡処方について述べる.CIプリズム眼鏡療法プリズムは光学的に視線の方向をずらすことにより,斜視角を補正する働きがある(図1).1プリズムジオプター(Δ)はC1Cm離れた物体をC1Ccm偏位させる効果があり,外斜視の場合,プリズム基底を内側(鼻側)に置くと輻湊努力が必要なくなり,眼位が本来の位置に戻る(図2).組み込みプリズム眼鏡は製作可能な範囲は狭く,一般的にはC5Δ程度が限界であるため,10Δを超える斜視に対しては,Fresnel膜プリズムが必要になる.対象対象図1プリズムレンズの原理プリズムレンズは光を基底のほうに曲げる性質があるため,外斜視の場合は基底を内側に置く.Fresnel膜プリズムは,Fresnelレンズの原理を応用して,レンズの厚さを薄くした膜プリズムでアクリル樹脂素材の薄いシート状になっている(図3).度数はC1~C40Δまであり,大角度の外斜視にも対応でき,レンズにシートを貼って使うため,角度の変化によってレンズを取り替えることは容易である.一方,膜プリズムはのこぎり状の断面をもち,それがスジ状になっており,プリズム度数が上がるとより細かいスジとなるため,視力低下や色収差が出て外見上目立つようになる.また,コントラスト感度もプリズム度数の増加に従って低下する.そのため通常C30Δ程度が限界となる.*TakeshiMorimoto:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学〔別刷請求先〕森本壮:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(17)C917図2プリズム前後の眼位変化プリズムを眼前に置く前の右眼の眼位(Ca)と比べ,プリズムを眼前に置くと,より外方に偏位する(Cb).図3Fresnel膜プリズムの原理と使用法a:Fresnel膜プリズムの原理.Fresnelレンズの原理を応用して,レンズの厚さを薄くしている.Cb:実際の膜プリズム.シート状になっており,プリズム数と基底(Base)が印されている.Cc:膜プリズムを眼鏡のレンズに張り付けて使用する..プリズム眼鏡(+矯正レンズ).プリズム眼鏡+中,近距離での矯正レンズ.プリズム眼鏡(+矯正レンズ)図5間欠性外斜視の眼鏡処方の指針

調節性内斜視の眼鏡処方

2020年8月31日 月曜日

調節性内斜視の眼鏡処方PrescribingEyeglassesforAccommodativeEsotropia四宮加容*はじめに調節性内斜視は小児期の内斜視のなかでもっとも頻度が高く,遭遇する機会の多い疾患である.診断には調節麻痺下の屈折検査が重要で,治療のメインは眼鏡装用である.また,診療を進めるうえで保護者の協力は不可欠であり,信頼関係の構築がスムーズな治療につながる.本稿では眼鏡処方の方法とそのコツを中心に,調節性内斜視の分類,診断,診療上よくある質問についても述べる.I調節性内斜視の診断1.調節性内斜視とは調節性内斜視は,遠視があるために起こる内斜視である.すなわち遠視を打ち消すために調節を働かせ,それによる調節性輻湊が起こるため内斜視になる.初発症状は間欠性の内斜視で,近くを見るときや疲れたときに起こりやすい.物をしっかり見はじめる1.5~4歳に発症することが多いが,生後1年未満で発症する乳児調節性内斜視も存在する.調節性内斜視は後天性の共同性内斜視であり,同じく共同性内斜視である乳児内斜視との鑑別が重要となる.小児内斜視の原因の53%が調節性内斜視とされ,乳児内斜視(5.2%)の10倍の頻度である1).小児期の共同性内斜視では調節性内斜視を疑い,必ず調節麻痺下の屈折検査を行う.小児では調節力が大きいため,調節麻痺薬を使わずに行った屈折検査で遠視がなかったからといって調節性内斜視は否定できない.+2D以上の遠視がある場合は眼鏡処方を行うべきである.他の鑑別すべき斜視としては外転神経麻痺,Duane症候群,感覚性内斜視などがあげられる.視力,眼球運動,細隙灯顕微鏡,眼底検査を行い鑑別する.最終の両眼視機能は乳児内斜視と比較すると良好であることが多い.その理由としては,斜視が発症するまでに視覚中枢での両眼視機能が完成されており,いったん眼位が改善すると両眼視機能が復活するからとされている2).眼鏡による治療で眼位が改善するが,1/3の症例では手術が必要となる3).調節性内斜視は,眼位によって以下の三つに分類される.遠視の完全矯正により遠見も近見も眼位が10Δ(prismdiopter)未満に矯正される屈折性調節性内斜視(図1),遠視の完全矯正で斜視角が減少しても10Δ以上の内斜視が残る部分調節性内斜視,遠視がないかあっても軽度であるにもかかわらずAC/A比が高いため近見時に内斜視になる非屈折性調節性内斜視である(図2).2.AC.A比とはAC/A比(調節性輻湊対調節比)とはaccommodativeconvergence(調節性輻湊)とaccommodation(調節)の比のことである.つまり1D調節することで引き起こされる輻湊量(Δ)を示す.正常値は4±2(Δ/D)である.年齢によって減少する.*KayoShinomiya:徳島大学大学院医歯薬研究部眼科学分野〔別刷請求先〕四宮加容:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院医歯薬研究部眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)911図1屈折性調節性内斜視上段:遠見眼位,下段:近見眼位.内斜視が完全矯正眼鏡により遠見,近見眼位とも正位となっている.屈折性調節性内斜視と診断した.遠見,近見とも正位(10以内)Δ完全矯正眼鏡続行二重焦点眼鏡手術やプリズム眼鏡図4瞳孔間距離測定素早く測定するため,瞳孔中心の距離でなく,角膜縁の距離を測定し代用する.まず,左眼を遮閉して右角膜の外方縁の距離をC0に合わせる.次に,物差しの位置は変えずに右眼を遮閉し左角膜の内方縁の位置を読み取る.検者は,患者の右眼は左眼で読み取り,患者の左眼は右眼で読み取る.図3アトロピン点眼の説明書の一例図5レンズの外径指定図6二重焦点眼鏡+6Dのレンズを眼鏡枠に入れたところ.写真の左側が通常レ上方の遠用部分と下方の近用部分に境目がある.ンズで右側が外形指定レンズである.外径指定のレンズは通常(文献C6より引用)のレンズより薄くて軽い仕上がりとなる.(文献C6より引用)る.村木12)は屈折性調節性内斜視に比べ,発症年齢が早く(平均C1.7歳Cvs2.4歳),初診時年齢も早く(平均2.8歳Cvs3.3歳),また眼鏡装用前の初診時斜視角は部分調節性内斜視のほうが大きい(35.6CΔCvsC24.9Δ)と報告している.通常,調節性の要素は,眼鏡の装用を開始してから6~8週間後に解消するといわれている.C2.治療と予後完全矯正眼鏡を装用後の残余斜視角が大きければ手術を検討する.また,フレネル膜によるプリズム療法も有用である.プリズムを装用することにより内斜視が漸減する可能性がある13).具体的には,完全矯正眼鏡下の顕性斜視角を単眼プリズム遮閉試験(singleCprismCcovertest)で測定する.この値を参考に斜視角を中和するプリズム度数を調べる.プリズム順応試験(prismadapta-tiontest:PAT)を行い,正位か内斜位で眼位が安定していればプリズムを処方する.PAT中に再び内斜視になる(eatup現象)なら適応外である.フレネル膜プリズムは左右均等に貼るが,片眼弱視の場合は健眼のプリズム度数を強めにして弱視治療効果をもたせる.数カ月の経過観察後,プリズム度数をC5~10CΔ減らして眼位保持可能か装用テストし,可能ならプリズムを減らしていく14).弱視の合併がある場合は健眼遮閉で治療する.Kocらは,弱視を伴う部分調節性内斜視で,弱視治療により斜視角がC27CΔからC11CΔと減少し,斜視手術適応となる患者はC81%からC38%に減少したと報告している15).弱視治療は非調節成分の解消をサポートし,手術の必要性を減らす可能性があるため,手術より先に弱視治療を行う.ただし,健眼遮閉は両眼視機能や融像を妨げ,斜視角を悪化させる可能性もあり,注意深い観察とともに行う.部分調節性内斜視から徐々に外斜視に変化する症例がある.弱視や内直筋後転術既往がある症例は要注意である.CVI乳児調節性内斜視乳児調節性内斜視1歳未満に発症する調節性内斜視を乳児調節性内斜視(infantileCaccommodativeCesotro-pia)という.+2D以上の遠視があり,発症時に斜視角が変動することが特徴である.乳児内斜視との鑑別が重要である.+2D以上の遠視がある場合は,調節性内斜視を疑い完全矯正眼鏡を処方する.3カ月間は眼位の改善がないかを観察する.ただし通常+4D未満の遠視で起こることはまれである.CVIIよくある質問・眼鏡はすぐ装用できるのでしょうか?永山らはC3歳未満児に処方された眼鏡が装用できるようになるまでの期間を調査し,調節性内斜視ではC53.3%がC1カ月以内であったと報告している16).当院では初回の眼鏡処方時は,1カ月後に再来してもらい,眼鏡が指示通りに作製されているか,装用できているか,できない理由は何かを確認している.・眼鏡をかけるとすぐ眼位が改善しますか?眼鏡を装用してから眼位が改善するまでの期間はC6~8週間程度といわれる.中川は,1カ月以内がC46%,2~3カ月がC40%,3カ月以上がC14%と報告しており17),調節性内斜視かどうか診断を下すまでにはC3カ月程度は経過観察する必要がある.・眼鏡の度数は変化しますか?調節性内斜視の遠視度数はC7歳までは同程度か増加し,それ以降減少するといわれる18).適切な眼鏡を使用させるため,少なくとも年C1回は調節麻痺下の屈折検査を行う.・眼鏡はいつかはずせますか?調節性内斜視のC10年以上の長期観察で,遠視度数,斜視角ともに減少し眼鏡がはずせたものはC20%以下である.調節性内斜視は成人になっても眼鏡が必要なことが多い.・手術はしないのですか?眼鏡装用下での眼位が良好なら手術は行わない.残余斜視角が大きな部分調節性内斜視は手術適応である.また,非屈折性調節性内斜視のうち,二重焦点眼鏡を使いこなせず近見眼位が不良な小児や,青年期になってもAC/A比の正常化がみられず二重焦点眼鏡が中止できない症例は手術を検討する.(15)あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C915

乳児内斜視の非観血的治療

2020年8月31日 月曜日

乳児内斜視の非観血的治療Non-SurgicalManagementofInfantileEsotropia牧野伸二*はじめに乳児内斜視はさまざまな先天素因を基盤として生後早期に発症し,両眼視機能の発達に障害をきたす.斜視診療のなかでもとくに乳児先天内斜視の治療に関しては,患児が幼いために検査や斜視角の定量が困難であること,患者の中には自然治癒傾向がみられるものがあることなど,いくつかの問題点が指摘されている1).さらに,立体視獲得の観点から超早期手術が推奨され,その情報をもって受診する患児・家族は増加している.超早期手術ができないことが悪いことのように思われるようになったとしたら,超早期手術が実施できない施設では大きな問題となることも推測される1).乳児内斜視に対しては眼位未矯正期間あるいは顕性斜視期間を短縮することが,両眼視機能獲得のために重要であることが明らかになっている2,3).これは超早期手術を含めた観血的治療のみならず非観血的治療にも当てはまる.自治医科大学附属病院眼科弱視斜視外来では,原則として観血的治療が必要である乳児内斜視に対して,手術までの間,完全屈折矯正を行ったうえで,眼位を中和するプリズム眼鏡を受診後早期から装用させ,両眼視機能獲得の機会を与えてから手術を行い,術後の残余斜視に対しても眼位を中和するプリズム眼鏡を装用させている.乳児内斜視に対して,原則として観血的治療が必要であること,非観血的治療のみで治療しているわけではないことを断ったうえで,本稿ではこれまでの当科の乳児内斜視に対する非観血的治療としてのプリズム療法の成績を総括する.Iプリズム処方の実際4,5)プリズム療法の目的は光学的に眼位を矯正し,両眼の中心窩を刺激することで,日常の両眼視の可能性を引き出すことにある.装用プリズム度数の決定に際し,屈折異常の矯正を前提とすること,早期発症の調節性内斜視を除外することから,全例にアトロピン硫酸塩による調節麻痺下屈折検査を行い,視力測定が可能な症例には雲霧法を併用して遠視を完全矯正する.装用プリズム度数は斜視角を中和する度数とし,条件によって斜視角に変動のある場合は斜視角の小さい状態に合わせる.また,プリズムは視力差のない場合は両眼均等に分けて処方し,視力差のある場合は視力の良好な眼に,より多い度数を処方し,弱視訓練の性格をもたせる.プリズム度数の定量は,乳児の場合は角膜反射が瞳孔中心にくるプリズムを眼前に保持し,正位を保っていれば,単眼プリズム遮閉試験を行って確認したうえで処方する.上下偏位を伴っている場合は,水平偏位を矯正するプリズムを装用し,それで上下偏位が潜在化する場合はそのまま水平偏位を中和する度数で処方する.一方,上下偏位が顕性に残存する場合は,水平矯正の度数より強いプリズムを斜めに入れて回転させながら,眼位検査を行い,中和できる度数を処方する.*ShinjiMakino:自治医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕牧野伸二:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)903再診ごとの眼位検査で,装用プリズム眼鏡下で正位であれば,5Δ弱められるかどうか,5Δを基底内方において確認し,弱めても正位であれば,プリズム度数を減らし,弱めると顕性の内斜視になる場合は現用のプリズム眼鏡を装用させ経過観察する.装用プリズム眼鏡下で,外斜視になっている場合は度数を減らし,内斜視が増加している場合は度数を増やし,過不足を調整する.プリズムには眼鏡内に組み込めるプリズムと膜プリズムがあるが,組み込みプリズムでは通常の場合,両眼で10.14Δまで,膜プリズムは一般に片眼30Δまでは使用可能で,前述のとおり,視力,固視の状況で左右眼に振り分けて処方する.また,強度のプリズムを常用していることで二次的に外転不全が生じる可能性があるため,患者によっては弱視予防も兼ねて1日1時間程度の遮閉を行い,その際に外転練習も行っている.II当科におけるプリズム療法の成績1974.2000年に当科弱視斜視外来を受診した初診時年齢3歳以下で,少なくとも6歳まで経過観察ができた乳児内斜視163例を対象にしたプリズム療法の成績を報告する5.9).対象の初診時月齢は2.45カ月(平均13.6±9.6カ月)で,6カ月以内の受診が41例(25.2%),12カ月までが100例(61.4%)である.初診時斜視角は25.90Δ(平均49.3±13.6Δ),初回調節麻痺下の屈折値は等価球面換算で,-0.6.+6.8D(平均+2.7±1.4D)であった.経過観察期間は58.352カ月(平均160.3±50.5カ月)であった.手術は115例(70.6%)に施行し,手術時月齢は10.152カ月(平均33.7±39.7カ月)であった.1.プリズム眼鏡の装用状況5)プリズム眼鏡を装用させた症例は163例中155例(95.1%)で,装用開始月齢は3.5.49.7カ月(平均17.7±10.4カ月)で,装用開始が6カ月以内のものが15例(9.7%),6.12カ月以内が43例(27.7%),12.24カ月以内が58例(37.4%),24カ月以降が39例(25.2%)であった.原則として手術を前提にプリズム眼鏡を装用させているが,装用が困難で,処方から1年以内に手術を行った症例は18例(11.0%)あった.また,プリズム眼鏡装用のみで手術を施行していない症例は48例(29.4%)であった.2.プリズム装用後の斜視角変化5)プリズム眼鏡を装用させた155例の斜視角変化は,78Δの減少から30Δの増加(平均16.8±19.9Δの減少)で,20Δ以上の減少は57例(36.8%)にみられた(図1).内訳は,手術を施行していない48例は最終受診時までに20Δ以上の減少が38例(79.2%)あり,そのため,手術を行っていない症例が多くなっている.手術を施行した115例のうち,斜視角が大角度であったものと,家族の希望で術前にプリズム眼鏡を装用せずに手術を先行した8例を除いた107例では,手術までの間(33.3±29.8カ月)に10Δ以上減少した症例は42例(39.3%)と少なかった.3.斜視角変化と手術時期の決定5,6)プリズム装用開始から3年を経過すると手術を行っている患者が増加するため,プリズム眼鏡の装用で3年間経過観察している91例で,装用開始から3年目までの斜視角変化をみると,1年目で7.7±9.8Δ,2年目で8.3±9.7Δ,3年目で4.3±7.3Δの減少がみられ,プリズム眼鏡装用から2年間は平均で8Δ前後の減少がみられた.この結果から,乳児内斜視に対して手術を計画する場合,術前に最低1年間はプリズム眼鏡装用を勧め,斜視角が減少しない症例では安定した斜視角をもとに手術を行い,斜視角に減少がみられる症例では,徐々にプリズム度数を減らして,膜プリズムをはずすことを考えて,遅くても小学校入学前の手術を計画している.また,組み込みプリズム眼鏡に10Δ程度までの膜プリズムを装用している場合は,小学校高学年以降,局所麻酔下での手術が可能になるまで手術時期を考慮している症例も存在する.家族がプリズム眼鏡装用を希望しない場合やどうしても装用が困難な場合は,この限りではなく,手術を先行している.4.最終眼位5)最終眼位は図2に示すように,正位が80例(49.1%),25例(15.3%)が10Δ未満の残余内斜視で,正位を含め904あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020(4)(n=155)1.936.820.041.3Δ■10以内の増減■10以上の増加(%)■20以上の減少■10~20の減少ΔΔΔ図1プリズム装用による斜視角変化56.8%で10Δ以上の斜視角の減少がみられた.(n=163)6.749.115.318.410.4■15~残余内斜視■外斜視(%)■正位■~10残余内斜視■10~15残余内斜視ΔΔΔ図2最終眼位正位と10Δまでの残余内斜視を合わせて64.4%が良好な眼位を得ている.表1プリズム装用開始月齢別の対象プリズム装用開始月齢症例数(例)初診時月齢(カ月)初診時斜視角(Δ)初回屈折値(D)手術症例数(例)手術時期(カ月)経過観察期間(カ月)6カ月以内2.635.900.0.+6.015(3.7±1.0)(56.7±12.3)(+2.6±1.6)1210.152(33.7±39.7)88.257(176.5±50.3)6.12カ月2.1030.80+0.5.+5.843(6.7±1.9)(50.2±12.5)(+2.7±1.4)2713.152(40.8±37.7)72.287(173.8±49.6)12カ月.4.3825.85-0.6.+6.897(17.8±9.1)(47.0±13.1)(+2.7±1.4)6813.136(58.3±26.8)58.291(150.0±46.2)表2プリズム装用開始月齢別の両眼視機能プリズム装用開始月齢症例数(例)正常対応の同時視Bagolini線状レンズ検査Worth4灯器検査立体視(3,000”以上)6カ月以内1515例中15例(100%)4343例中43例(100%)9797例中95例(98.0%)14例中12例(85.7%)38例中32例(84.2%)87例中69例(79.3%)14例中11例(78.6%)38例中24例(63.2%)87例中59例(67.8%)5例中4例12例中3例28例中12例6.12カ月12カ月以降6カ月以内(n=15)6~12カ月(n=43)12カ月以降(n=97)6.1■15~残余内斜視■外斜視(%)■正位■~10残余内斜視■10~15残余内斜視ΔΔΔ図3プリズム装用開始月齢別の最終眼位正位の割合は装用開始が早期のもので多い傾向があった.表3斜視角変化に及ぼす要因症例数(例)斜視角減少(Δ)初診時斜視角40Δ以上40Δ未満7426.3±20.6p<0.0012311.5±14.0初回屈折値+3D以上+3D未満4719.4±15.8p=0.105026.0±23.2交代性上斜位ありなし7624.6±20.6p=0.082116.1±17.5プリズム装用開始月齢6カ月以内6.12カ月12カ月以降927.8±29.52928.3±21.95919.3±17.0表4プリズム眼鏡の装用状況(装用困難症例と装用良好症例の装用良好(n=145)装用困難装用良好p値症例数(例)188.9±4.658.6±18.112.1±6.2+2.1±1.414514.1±9.948.1±12.618.4±10.7+2.8±1.4p=0.06p<0.01p<0.01p=0.07初診時月齢(カ月)初診時斜視角(Δ)装用開始月齢(カ月)初回屈折値(D)比較)47.615.219.311.06.9装用困難(n=18)5.65.661.116.611.1(%)■15~残余内斜視■外斜視■正位■~10残余内斜視■10~15残余内斜視ΔΔΔ図4プリズム眼鏡の装用状況別の最終眼位装用状況で最終眼位に大きな差はなかった.表5プリズム眼鏡の装用状況と両眼視機能プリズム装用状況症例数(例)正常対応の同時視Bagolini線状レンズ検査Worth4灯器検査立体視(3,000”以上)装用困難1818例中18例(100%)16例中14例(87.5%)16例中11例(68.8%)145145例中143例(98.7%)145例中118例(81.4%)145例中99例(68.5%)8例中3例50例中23例装用良好(n=163)1.81.24.384.08.6(%)■1.2以上■1.0■0.8,0.90.5~0.70.4以下図5最終受診時の視力両眼とも1.0以上は92.6%に得られた.■用語解説■新生児の眼位と乳児内斜視:新生児の約70%は外斜位または外斜視で出生してくる.生後2.3カ月頃から眼位は良化し,生後6カ月にはほぼ正位となる.乳児内斜視も出生時に内斜視となっていることはなく,生後6カ月までに発症してくる.出生時に内斜視は発症していなくても,先天素因を基盤として発症するとの考えもあるため,先天内斜視ともよばれるが,現在では乳児内斜視とよばれることがほとんどである.vonNoordenが1歳以内に発症した内斜視を検討し,生後6カ月未満発症の内斜視を一つの疾患単位にまとめ,本態性乳児内斜視(essentialinfantileesotropia)と命名し,その特徴を報告したため,乳児内斜視は本態性乳児内斜視と同意語として使用されている.–