学童近視の治療(オルソケラトロジー,その他の治療)TreatmentofMyopiainSchool-AgeChildrenOrthokeratologyandOtherMethods平岡孝浩*はじめに学童近視の進行抑制法としてさまざまな光学的手法が臨床応用されているが,オルソケラトロジー(以下,オルソK),多焦点ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL),特殊眼鏡を用いた3手法に大別できる.光学的アプローチのメリットは,一つの手段で近視矯正と近視進行抑制の両方の効果を兼ねることである.アトロピン点眼は確かに近視進行抑制効果を有するが,患児は眼鏡やコンタクトレンズなどの矯正用具を別途使用する必要がある.しかし,オルソK,多焦点SCL,特殊眼鏡を使用する場合は基本的に一つの手段を用いればよい.これは薬物治療に対して大きなアドバンテージとなる.本稿では光学的アプローチによる近視抑制に関して,手法別に情報をアップデートする.IオルソKによる近視進行抑制光学的アプローチによる近視進行抑制法としてオルソKは確固たる地位を確立しているといっても過言ではない.Kakitaら1)は日本人を対象とした2年間の非ランダム化臨床試験を行い,単焦点眼鏡群と比較して有意な眼軸長伸長抑制効果(36%)を確認した.この試験はその後5年間に延長され,最終的に30%の眼軸長伸長抑制効果が得られていることが報告された2).世界初のランダム化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)は香港で行われ,2年間で43%の眼軸長伸長抑制効果が確認された3).さらに2015~2016年にかけて,もっともエビデンスレベルが高いメタ解析(meta-analysis)の結果が立て続けに4報報告された4~7).いずれの報告においてもオルソKは対照(眼鏡やSCL装用)と比較して有意に眼軸長の伸長を抑制し,安全性も許容できると結論づけられている.また,中等度~強度近視のほうが弱度近視よりも抑制効果が強く現れ,白人よりも中国(アジア)人で抑制効果が強いと報告されている4).その他の報告も含め,既報に基づけば2年間で3~6割程度の抑制効果が期待できる.長期経過の報告も散見されるようになり,スペインで行われた7年間のフォローアップ研究8)や,わが国で行われた10年間のレトロスペクティブ研究9)でも,有効性と許容できる安全性が確認されている.光学的手法の中ではもっともエビデンスが豊富であるといえる.2019年には米国眼科学会(AmericanAcademyofOphthalmology:AAO)も公式のレポートを発表している10).本論文は,オルソK近視進行抑制効果に関連する162編の既報からエビデンスレベルの高い13論文を選出し,それらのレビューを行っているが,結論としてオルソKは眼軸長伸長を2年間で約50%抑制し,年齢が若く瞳孔径が大きい患者のほうが得られる抑制効果は強いと述べている.また,細菌性角膜炎の発症には注意すべきであると追記している.オルソKの近視進行抑制メカニズムに関しては諸説提唱されているが,軸外収差理論がもっとも支持されており,治療後の角膜形状がoblate形状になること,す*TakahiroHiraoka:筑波大学臨床医学系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学臨床医学系眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(25)873周辺角膜はスティープ化図1軸外収差理論に基づく近視進行・抑制メカニズム通常の眼鏡やコンタクトレンズで近視を矯正すると,網膜周辺部に遠視性デフォーカス(網膜後方の焦点ボケ)を生じやすい.後方の焦点は眼球を伸展させるシグナルとなり,眼軸長が必要以上に伸展してしまう(眼球の視覚制御機構).オルソCK後は角膜中央がフラット化するとともに周辺部角膜はスティープ化するため,周辺部での屈折力が増し遠視性デフォーカスが改善する.その結果,眼軸長伸長が抑制され近視進行が鈍化すると考えられている.12CさらにCAOKスタディにおいて高次収差や瞳孔径の影響を検討した研究も論文化されており14),AOK群の眼軸長変化量は明所瞳孔径の拡大やいくつかの高次収差成分と有意に相関したことから,併用群ではアトロピンによる瞳孔拡大効果により光学的な作用が増強され,近視進行抑制効果が増大した可能性が示唆されている.CIII多焦点SCLと近視進行抑制多焦点CSCLを用いた近視進行抑制法も広く試されている.これまでに複数のデザインが用いられているが,もっとも強い抑制効果が確認されたのは,MiSight(CooperVision社,図2)というコンセントリックデザイン(中心から周辺に向かって四つの同心円;中央とC3番目は遠用矯正度数,2番目とC4番目は+2Dの加入度数が組み込まれている)を有するC2焦点レンズである.4カ国でC144症例を対象としたC3年間のCRCTが行われ,MiSightは単焦点CSCLと比較して屈折度でC59%,眼軸長でC52%の抑制効果を示したことが報告された15).その後,MiSightはC2018年にCCEマークを取得し,2019年には米国食品医薬品局(FoodCandCDrugCAdminist-ration:FDA)でも認可され,諸外国では近視進行抑制SCLとして市販されている.さらにCextendedCdepthCoffocus(EDOF)デザインを有するCSCLも登場し,その近視進行抑制効果が検討されている.Sankaridurgら16)は近方加入度数や配置の異なるC4種類のデザインを用いてC2年間のCRCTを施行し,単焦点CSCLとの比較を行った.その結果,いずれのデザインでも単焦点CSCLより有意な近視進行抑制効果(屈折度でC24~32%,眼軸長でC22~32%の抑制効果)が認められたが,デザイン間に効果の差はみられなかったと報告している.この試験で用いられたレンズデザインの一部はすでに海外で近視進行抑制用として市販されている(MYLO:MarkC’ennovy社,図3).また,デザインは異なるがCNaturalVueMultifocal1Day(VisioneeringTechnologies社,図4)というCEDOFレンズに関しても近視進行抑制効果が報告されており17),CEマークを取得している.このレンズに関しては,メニコンがOEM(originalCequipmentmanufacturing)商品として取得し,BloomDay(図5)というブランド名で販売を開始している.多焦点CSCLによる近視進行抑制(眼軸長抑制)効果のメカニズムに関してもいくつかの理論が提唱されており,軸外収差理論による周辺部遠視性デフォーカスの改善効果は有力な仮説の一つであるが,軸外に限らず軸上においても近用部を通過した光線が近視性デフォーカス(網膜前方の焦点)を形成することが眼軸長の過伸展を抑える可能性や,機械的張力理論(mechanicaltensiontheory)といって角膜の多焦点や高次収差の増大が焦点深度を拡張し,毛様体筋の負荷を軽減(調節努力の軽減)するために眼軸長の伸展が抑制されるという機序も考えられている.しかし,単独の理論ですべての現象を説明することができず,真のメカニズムの解明に関しては今後さらなる研究が必要である.CIV特殊眼鏡と近視進行抑制古くからさまざまな特殊デザインを施した眼鏡が試されてきた.その代表は累進屈折力眼鏡(progressiveCadditionlens:PAL)であり,レンズの下部に+1.5~+2Dの近見加入度数を配置し,調節ラグを改善しようとするデザインである.これまでに多数の臨床研究が施行されたが,臨床的効果が不十分という結論に至り現在ではほとんど処方されていない.ついで注目されたのはCradialCrefractiveCgradient(RRG)レンズであり,同心円状に徐々にプラス度数が加入されており周辺に行くほどプラス度数が強くなるデザインを有する.周辺部遠視性デフォーカス(軸外収差)を改善することにより近視進行抑制効果を発揮することが期待されていた.この代表レンズはCMyoVision(CarlZeissVision)であるが,わが国で行われたCRCTでは有効性が確認されなかった18).近年登場したCdefocusincorporatedmultiplesegment(DIMS)レンズは,中心のクリアゾーン(直径C9Cmm)は通常の単焦点レンズであるが,その周囲に直径C1Cmm程度の微小セグメント(+3.5Dの加入)が約C400個埋め込まれている.つまり,微小セグメントを通過した光線は,網膜前方に焦点を結ぶため,常に近視性デフォーカスが形成される状態となる(図6).本眼鏡を用いたC2年間のCRCTの結果がすでに報告されており,対照群の単(27)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C875図3MYLOのパッケージMark’ennovy社が欧州を中心として展開しているCEDOFレンズ.1カ月定期交換型として販売されている.図2MiSight1dayのパッケージと光学デザイン中心から遠→近→遠→近と配置された二重焦点レンズである.近用部には+2.00Dが加入されている.近用部を通過した光線が網膜前方の焦点を形成する(近視性デフォーカス).(CooperVision社のプロモーション資料より引用)図5BloomDayのパッケージBloomはメニコン社が海外で展開している近視進行抑制用レンズのブランド名であり,夜間装用のオルソCKレンズ(BloomNight)と昼間装用のCSCL(BloomDay)がラインナップされている.BloomDayはCNaturalVueMultifocal1DayのCOEM商品である.図4NaturalVueMultifocal1DayのパッケージVisioneeringCTechnologies社から市販化されており,EDOFレンズとしてはもっとも早くCCEマークを取得している.大規模研究は行われていないが,さまざまな症例における近視進行抑制効果が報告されている17).レンズ中心の直径9mm領域は,通常の単焦点レンズで遠方矯正度数となる直径1.03mmのセグメントが+3.5Dの近視性デフォーカスを生じる直径33mmの領域内に約400個の微小セグメントが、中心のクリアゾーンを取り囲むように埋め込まれている図6DIMSレンズの光学デザインと近視性デフォーカスレンズ中心のC9Cmm領域はクリアゾーンであり,通常の単焦点レンズと同様である.その周囲に直径C1Cmm程度の微小セグメントが約C400個埋め込まれており,それぞれが+3.5DのCadd-powerを有する.つまり,微小セグメントを通過した光線は,網膜前方に焦点を結ぶため,常に近視性デフォーカスが形成される.(文献C19およびウェブサイトCwww.THEyeOptical.com.から引用)—