ドライアイと全身薬の関係はTheRelationshipBetweenDryEyeandSystemicDrugs福井正樹*はじめに2016年に改訂されたドライアイの定義にも含まれるように,ドライアイの発症要因は多岐にわたる.その中には全身疾患や全身疾患の治療によって誘発されるドライアイがあると考えられる.『ドライアイ診療ガイドライン』(2019年)のCQ20,21はこれらに対する解説を行っている1).Iガイドラインのサマリー筆者らが担当したガイドラインの「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」とは介入に関するクリニカルクエスチョン(CQ)ではないため推奨文は示さず,横断研究をメタアナリシスすることで得た結果として,全身疾患とドライアイの罹患の関係は免疫が関連する疾患(膠原病)がドライアイの罹患リスクを上げることと,生活習慣病とドライアイとの関連はないことを示した.また,全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガ3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることを示した.II日常生活・全身疾患との関連(CQ20)CQ20では,「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」について解説を行った.なお,この項は介入に関するCQではないため推奨文は示さず,次の文章を掲載するにとどめた.『ドライアイはさまざまな要因で発症する.その中には全身疾患と関連するものが報告されている.今回我々はCQとして「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」を挙げ,分析疫学的研究の一つ,横断研究を主としてさまざまな全身疾患によるドライアイのオッズ比を統合分析した.詳細は解説に譲るが,傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイに罹患するリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった.また,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎ではドライアイのリスクを上げる結果となった.ただし,今回は疫学調査の文献を中心に検索・解析を進めたため,対象論文数が少ないこと,それによる被験者の背景が異なることが問題であり,今後背景を調整した結果が期待される.また,性別や年齢ごとの各疾患のドライアイの関連の解析が臨床現場での活用につながると考えられる.』1.解析の手法無作為化比較試験はエビデンスレベルの高い研究デザインと考えられるが,本CQに該当する研究はなく,分析疫学的研究の一つである横断研究をメタアナリシスすることで解析する手法を用いた.*MasakiFukui:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕福井正樹:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(49)693具体的にはPubMed,医中誌Web,CochraneLibrary(CDSRCCTR)で検索された2002.2015年に発行された文献を対象とした.「dryeye(ドライアイ,乾性角結膜炎)」「diabete(糖尿病)」「depression(うつ病)」「facialparalysis(顔面麻痺)」「hepatitisC(C型肝炎)」「rheumatoidarthritis(関節リウマチ)」「thyroiddisease(甲状腺疾患)」などのキーワードをもとに一次スクリーニングを行ったところ,336編が対象となった.そのうち,タイトル・要約から「①ヒューマンスタディではない,②トピックと無関係,③クオリティーが悪い」をふるい落す二次スクリーニングを行ったところ86編が対象となった.そのうち,横断研究である疫学調査を行った9編2.10)を対象とした.統計解析にはオープンソースのフリーソフトウェア「R」を用い,そのパッケージソフト「metafor」でメタアナリシスを行った.メタアナリシスとは多数の研究結果を統計学的に統合し,よりエビデンスの高い解析結果を求めるものである.なぜならば個別の結果では有意ではない統計結果にも統合して解析を行うと有意な差を認めることがあったり,その逆に個別の結果では有意な統計結果も統合して解析を行うと有意な差を認めないことがあったりするからである.対象数の多くなるメタアナリシスのほうがエビデンスが高いと考えられる.もちろん,主観的にあるいは恣意的に論文選択を行うとバイアスが生じるため,採択される論文は原則設定期間内の全論文を採択し,さらに採択される個々の論文もエビデンスの高いものである前提が必要となる.また,論文が公表されるに当たって出版バイアス(否定的な結果が論文としては公表されにくい)を考えると,今回採択した疫学調査を基に採択した論文は比較的バイアスが入りにくいと考えられる.2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表1の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表2である.実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(for-estplot)を作成し,その結果を数値化で表示したのが表2である.フォレストプロットの例をいくつかみてみる.図1に関節炎(関節リウマチ)と糖尿病のドライアイのオッズ比のフォレストプロットを示した.関節炎(図1a)について,Tanらの文献3)では95%信頼区間が1を挟んでおり,関節炎がドライアイのリスクになると言いきれないが,そのほかの文献を含めたメタアナリシスの結果は95%信頼区間を含めて1を超えており,リスクとなる結果となっている.同様に糖尿病(図1b)についてもみてみる.フォレストプロットをみると,文献によりオッズ比が信頼区間を含み1未満のもの,1をまたぐもの,1を超えるものといろいろである.メタアナリシスを行った結果,95%信頼区間を含めてオッズ比は1を超えているが,Galor(2012)6)の対象数が多く,この文献の結果にメタアナリシスの結果が大きな影響を受けている.ガイドライン本文に詳細は説明しなかったが,Galor(2012)のデータを除いたメタアナリシスではオッズ比の95%信頼区間は1を挟んでおり,一つの文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられ,エビデンスとしては弱いと考えた.ガイドライン本文には各項目のフォレストプロットを示しているので参考にされたい.この結果をもとに本CQ20のサマリーを「傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイのリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった」と示した.3.その他本文には解析結果のほか,疫学研究ではないが,全身疾患の項目ごとに検討された論文についても紹介した.たとえば,本解析結果でも触れたが,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎はドライアイのリスクを上げる結果となっており,これは今回対象となった論文以外にもC型肝炎とドライアイやSogren症候群との関連を示唆する論文がみられることに一致する.その他,ビタミンA欠乏症,HTLV1との関連を示す論文がみられたこと,国内からドライアイ診断基準(2006年版)で判定を行うと眼瞼けいれん患者がドライアイと判定されてしまうことへの注意を喚起する報告があった694あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(50)表1「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CTanLL2015CUchinoM2013(MEN)CUchinoM2013(WOMEN)CZhangY2012CGalorA2012CGalorA2011CUchinoM2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICAlcoholdependenceC2.752.341.542.320.802.231.300.262.121.661.271.39C1.961.421.191.550.491.191.050.191.171.291.140.840.96C3.883.861.993.451.314.181.610.342.073.482.421.932.03C1.760.44C0.980.10C3.161.85C0.991.341.221.291.62C0.570.940.620.870.91C1.701.902.361.912.87C0.950.852.390.731.48C0.580.641.460.510.89C1.571.113.901.032.48C1.41C0.89C2.48C1.002.482.192.041.441.141.001.681.002.281.891.841.681.661.442.682.241.991.92C0.982.442.162.011.421.120.981.650.912.231.851.821.651.631.422.602.191.961.86C1.022.522.232.071.461.161.021.721.102.341.931.871.721.681.462.752.302.031.97C1.272.352.041.541.840.681.101.301.381.341.341.101.192.081.901.932.021.101.96C0.851.811.531.171.420.510.830.820.700.970.990.830.771.591.421.081.550.831.21C1.913.062.702.012.390.911.452.072.761.841.831.471.852.722.543.462.641.473.16C0.75C0.34C1.65C1.315.701.191.54C1.054.370.841.17C1.647.511.702.03C2.021.351.401.431.951.58C1.671.021.131.061.341.24C2.431.791.721.922.832.03AllergyArthritisAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionDiabetesmellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutHBVHCVHIVHypertension(HT)CHypercholesterolemiaMyocardialinfarctionoranginaCObesityOsteoporosisProstatecancerPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)C1.56CRosaceaSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeThyroiddiseaseCOR:オッズ比,CI:信頼区間.表2全身疾患とドライアイのオッズ比全身疾患CMeta-analysisCOR95%CCICAlcoholdependenceCAllergyCArthritisCAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionCDiabetes.mellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutCHBVCHCVCHIVCHypertension(HT)CHypercholesterolemiaCMyocardial.infarctionoranginaCObesityCOsteoporosisCProstatecancerCPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)CRosaceaCSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeCThyroiddiseaseC1.00C1.31C2.48C2.19C2.04C1.44C1.14C1.00C1.40C1.68C0.80C2.23C1.01C2.25C1.89C1.84C0.51C1.95C1.68C1.66C1.44C2.67C2.24C1.41C1.99C1.90C0.98C1.05C2.44C2.16C2.01C1.42C1.12C0.98C1.13C1.65C0.49C1.19C0.92C2.19C1.85C1.82C0.42C1.34C1.65C1.64C1.42C2.59C2.18C1.10C1.96C1.85C1.02C1.64C2.52C2.232.07C1.46C1.16C1.02C1.72C1.72C1.31C4.18C1.102.30C1.92C1.87C0.62C2.83C1.72C1.68C1.46C2.75C2.30C1.80C2.02C1.95OR:オッズ比,CI:信頼区間.CWan-JuYangLiLiTanMikiUchino(MEN)ScotE.MossMikiUchino(WOMEN)StudyReferenceStudyReferenceScotE.MossScotE.MossScotE.MossAnatGalorAnatGalorAnatGalorAnatGalorSummarySummary1.001.582.513.986.310.630.791.001.261.582.00OddsRatioOddsRatioa関節リウマチのドライアイへのオッズ比の例b糖尿病のドライアイへのオッズ比の例図1Forestplotの例表3「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CGalorA2012CGalorA2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICACEinhibitorsCAngiotensinreceptorantagonistsCAntianxietydrugsCAnti-benignprostatichyperplasia(BPH)CAntidepressantsCAntihistaminesCAspirinusageCBetablockersCCalciumchannelblockersCChemotherapyCCholesterolloweringmedicationsCDiureticsCHeadandneckradiotherapyCHematopoieticstemcelltransplantationCOmega-3fattyacidsCPostmenopausalestrogentherapyCSteroidCVitaminsupplementsC1.79C2.07C2.66C1.80C16.34C4.06C0.47C1.72C0.70C1.21C1.53C1.55C1.38C3.74C1.52C0.32C1.10C0.54C2.64C2.81C4.58C2.35C71.27C10.86C0.70C2.70C0.90C1.69C1.77C1.94C2.31C1.79C2.25C1.89C1.84C1.83C2.00C2.09C1.67C1.74C1.91C2.28C1.76C2.22C1.86C1.82C1.75C1.96C2.06C1.72C1.80C1.97C2.35C1.82C2.28C1.92C1.87C1.91C2.04C2.12C1.00C1.30C1.65C1.53C1.84C2.54C1.10C1.31C1.09C1.30C0.77C0.89C1.28C1.18C1.42C1.97C0.84C1.00C0.83C0.95C1.31C1.91C2.13C1.99C2.38C3.27C1.43C1.71C1.43C1.78C0.91C1.62C1.64C1.34C1.07C1.24C1.60C1.39C0.66C1.15C1.06C0.97C0.76C0.97C1.05C1.09C1.24C2.292.53C1.85C1.51C1.58C2.46C1.77C1.56C1.22C0.84C1.06C1.50C1.09C0.99C0.61C0.77C1.19C2.23C1.50C1.17C1.44C1.89OR:オッズ比,CI:信頼区間.表4全身疾患治療とドライアイのオッズ比OR:オッズ比,CI:信頼区間.リシスを行った.C2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表3の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表4である.CQ20同様に実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(forestplot)を作成し,その結果を数値化で表示したものが表4になる.フォレストプロットはCCQ20同様ドライアイガイドラインに示しているので参考にされたい.CQ21でも,Galor(2012)6)のデータは対象数が多く,この文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられたため,エビデンスとしては弱いと考えた.これを考慮し.本CCQ21のサマリーを「全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガC3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることが示唆された」とした.CIV問題点と課題CQ20,21の共通の問題点としては①文献数が少ないこと,②年齢,基準,性別,人種が揃っていないこと,③該当文献の中に検討症例数の多い文献があり,結果がその文献の影響を受けてしまったことをあげた.①に関してはCCQ20の「解析の手法」でも解説したように,文献を個別ごとに検討するよりも統合解析したほうがエビデンスが高くなり,その文献数が多いほどエビデンスが高くなる.今後疫学調査が進み,その文献数が増えてくればさらに全身疾患や治療法とドライアイの関係が明らかになる可能性が高いと考える.②に関しては解析の目的に合せて,年齢・基準・性別・人種などの対象の背景を合せる必要が出てくる.たとえば日本人のドライアイを検討するのであれば日本人を対象にした文献をメタアナリシスすることになり,男性のドライアイを検討するのであれば男性のみでメタアナリシスを行うことになる.ただし,対象を絞れば絞るほど対象文献や対象数が減り,解析結果のエビデンスが低くなるのが問題である.今回の検討も対象文献数が少ないことから背景を揃えることなくメタアナリシスを行ったが,今後文献数が増えれば背景を絞った解析が可能になると考える.③に関しては本検討においてはCGalor(2012)6)の調査件数が多く,その結果にメタアナリシスの結果が影響を強く受けている.そのため,対象文献のメタアナリシスの結果とCGalor(2012)の文献を除いて行ったメタアナリシスの結果が一致する結果をエビデンスがより高いと判断して採用した.また,全身疾患に伴うドライアイは全身疾患そのものがドライアイの危険因子なのか,治療薬・治療法が危険因子なのかの検討不十分と考えられる.たとえばうつ病はCCQ20でオッズ比が高いが,抗うつ薬内服もCCQ21でオッズ比が高い.うつ病の中には抗うつ薬を内服していない対象者も,すでに抗うつ薬を内服している対象者も含まれていると考えられ,うつ病がドライアイ発症のリスクを上げるのか,抗うつ薬がドライアイ発症のリスクを上げるのかは本検討からだけではわからない.これを検討するには全身疾患の病態生理がドライアイ発症に関連するかどうか,治療薬・治療法の薬剤動態・治療機序がドライアイ発症に関連するかどうか,そして,対照群をおいて,治療開始前後でドライアイ発症がどう変化するかを検討し,統合的に検討すると疾患がドライアイに関連するのか,治療薬・治療がドライアイに関連するのか,両者がドライアイと関連するのか検討していく必要があると考える.おわりにCQ20,21ともに疾患・治療とドライアイとの関連性が注目されている段階であり,エビデンスの強い結論が出ていない状態と考える.そのために実際の臨床現場ではドライアイと関連性のありそうな疾患・治療に対してドライアイの検査を行い,自覚症状や涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の短縮,角結膜障害を診ながらドライアイ治療を行うのが現状と考える.今後,報告数が増えるとともにドライアイと関連の強い疾患・治療法が判明してきた際に個々の疾患に対するドライアイへの検査の頻度や重要性,治療のアプローチ698あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(54)