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ドライアイと全身薬の関係は

2020年6月30日 火曜日

ドライアイと全身薬の関係はTheRelationshipBetweenDryEyeandSystemicDrugs福井正樹*はじめに2016年に改訂されたドライアイの定義にも含まれるように,ドライアイの発症要因は多岐にわたる.その中には全身疾患や全身疾患の治療によって誘発されるドライアイがあると考えられる.『ドライアイ診療ガイドライン』(2019年)のCQ20,21はこれらに対する解説を行っている1).Iガイドラインのサマリー筆者らが担当したガイドラインの「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」とは介入に関するクリニカルクエスチョン(CQ)ではないため推奨文は示さず,横断研究をメタアナリシスすることで得た結果として,全身疾患とドライアイの罹患の関係は免疫が関連する疾患(膠原病)がドライアイの罹患リスクを上げることと,生活習慣病とドライアイとの関連はないことを示した.また,全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガ3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることを示した.II日常生活・全身疾患との関連(CQ20)CQ20では,「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」について解説を行った.なお,この項は介入に関するCQではないため推奨文は示さず,次の文章を掲載するにとどめた.『ドライアイはさまざまな要因で発症する.その中には全身疾患と関連するものが報告されている.今回我々はCQとして「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」を挙げ,分析疫学的研究の一つ,横断研究を主としてさまざまな全身疾患によるドライアイのオッズ比を統合分析した.詳細は解説に譲るが,傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイに罹患するリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった.また,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎ではドライアイのリスクを上げる結果となった.ただし,今回は疫学調査の文献を中心に検索・解析を進めたため,対象論文数が少ないこと,それによる被験者の背景が異なることが問題であり,今後背景を調整した結果が期待される.また,性別や年齢ごとの各疾患のドライアイの関連の解析が臨床現場での活用につながると考えられる.』1.解析の手法無作為化比較試験はエビデンスレベルの高い研究デザインと考えられるが,本CQに該当する研究はなく,分析疫学的研究の一つである横断研究をメタアナリシスすることで解析する手法を用いた.*MasakiFukui:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕福井正樹:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(49)693具体的にはPubMed,医中誌Web,CochraneLibrary(CDSRCCTR)で検索された2002.2015年に発行された文献を対象とした.「dryeye(ドライアイ,乾性角結膜炎)」「diabete(糖尿病)」「depression(うつ病)」「facialparalysis(顔面麻痺)」「hepatitisC(C型肝炎)」「rheumatoidarthritis(関節リウマチ)」「thyroiddisease(甲状腺疾患)」などのキーワードをもとに一次スクリーニングを行ったところ,336編が対象となった.そのうち,タイトル・要約から「①ヒューマンスタディではない,②トピックと無関係,③クオリティーが悪い」をふるい落す二次スクリーニングを行ったところ86編が対象となった.そのうち,横断研究である疫学調査を行った9編2.10)を対象とした.統計解析にはオープンソースのフリーソフトウェア「R」を用い,そのパッケージソフト「metafor」でメタアナリシスを行った.メタアナリシスとは多数の研究結果を統計学的に統合し,よりエビデンスの高い解析結果を求めるものである.なぜならば個別の結果では有意ではない統計結果にも統合して解析を行うと有意な差を認めることがあったり,その逆に個別の結果では有意な統計結果も統合して解析を行うと有意な差を認めないことがあったりするからである.対象数の多くなるメタアナリシスのほうがエビデンスが高いと考えられる.もちろん,主観的にあるいは恣意的に論文選択を行うとバイアスが生じるため,採択される論文は原則設定期間内の全論文を採択し,さらに採択される個々の論文もエビデンスの高いものである前提が必要となる.また,論文が公表されるに当たって出版バイアス(否定的な結果が論文としては公表されにくい)を考えると,今回採択した疫学調査を基に採択した論文は比較的バイアスが入りにくいと考えられる.2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表1の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表2である.実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(for-estplot)を作成し,その結果を数値化で表示したのが表2である.フォレストプロットの例をいくつかみてみる.図1に関節炎(関節リウマチ)と糖尿病のドライアイのオッズ比のフォレストプロットを示した.関節炎(図1a)について,Tanらの文献3)では95%信頼区間が1を挟んでおり,関節炎がドライアイのリスクになると言いきれないが,そのほかの文献を含めたメタアナリシスの結果は95%信頼区間を含めて1を超えており,リスクとなる結果となっている.同様に糖尿病(図1b)についてもみてみる.フォレストプロットをみると,文献によりオッズ比が信頼区間を含み1未満のもの,1をまたぐもの,1を超えるものといろいろである.メタアナリシスを行った結果,95%信頼区間を含めてオッズ比は1を超えているが,Galor(2012)6)の対象数が多く,この文献の結果にメタアナリシスの結果が大きな影響を受けている.ガイドライン本文に詳細は説明しなかったが,Galor(2012)のデータを除いたメタアナリシスではオッズ比の95%信頼区間は1を挟んでおり,一つの文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられ,エビデンスとしては弱いと考えた.ガイドライン本文には各項目のフォレストプロットを示しているので参考にされたい.この結果をもとに本CQ20のサマリーを「傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイのリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった」と示した.3.その他本文には解析結果のほか,疫学研究ではないが,全身疾患の項目ごとに検討された論文についても紹介した.たとえば,本解析結果でも触れたが,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎はドライアイのリスクを上げる結果となっており,これは今回対象となった論文以外にもC型肝炎とドライアイやSogren症候群との関連を示唆する論文がみられることに一致する.その他,ビタミンA欠乏症,HTLV1との関連を示す論文がみられたこと,国内からドライアイ診断基準(2006年版)で判定を行うと眼瞼けいれん患者がドライアイと判定されてしまうことへの注意を喚起する報告があった694あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(50)表1「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CTanLL2015CUchinoM2013(MEN)CUchinoM2013(WOMEN)CZhangY2012CGalorA2012CGalorA2011CUchinoM2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICAlcoholdependenceC2.752.341.542.320.802.231.300.262.121.661.271.39C1.961.421.191.550.491.191.050.191.171.291.140.840.96C3.883.861.993.451.314.181.610.342.073.482.421.932.03C1.760.44C0.980.10C3.161.85C0.991.341.221.291.62C0.570.940.620.870.91C1.701.902.361.912.87C0.950.852.390.731.48C0.580.641.460.510.89C1.571.113.901.032.48C1.41C0.89C2.48C1.002.482.192.041.441.141.001.681.002.281.891.841.681.661.442.682.241.991.92C0.982.442.162.011.421.120.981.650.912.231.851.821.651.631.422.602.191.961.86C1.022.522.232.071.461.161.021.721.102.341.931.871.721.681.462.752.302.031.97C1.272.352.041.541.840.681.101.301.381.341.341.101.192.081.901.932.021.101.96C0.851.811.531.171.420.510.830.820.700.970.990.830.771.591.421.081.550.831.21C1.913.062.702.012.390.911.452.072.761.841.831.471.852.722.543.462.641.473.16C0.75C0.34C1.65C1.315.701.191.54C1.054.370.841.17C1.647.511.702.03C2.021.351.401.431.951.58C1.671.021.131.061.341.24C2.431.791.721.922.832.03AllergyArthritisAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionDiabetesmellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutHBVHCVHIVHypertension(HT)CHypercholesterolemiaMyocardialinfarctionoranginaCObesityOsteoporosisProstatecancerPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)C1.56CRosaceaSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeThyroiddiseaseCOR:オッズ比,CI:信頼区間.表2全身疾患とドライアイのオッズ比全身疾患CMeta-analysisCOR95%CCICAlcoholdependenceCAllergyCArthritisCAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionCDiabetes.mellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutCHBVCHCVCHIVCHypertension(HT)CHypercholesterolemiaCMyocardial.infarctionoranginaCObesityCOsteoporosisCProstatecancerCPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)CRosaceaCSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeCThyroiddiseaseC1.00C1.31C2.48C2.19C2.04C1.44C1.14C1.00C1.40C1.68C0.80C2.23C1.01C2.25C1.89C1.84C0.51C1.95C1.68C1.66C1.44C2.67C2.24C1.41C1.99C1.90C0.98C1.05C2.44C2.16C2.01C1.42C1.12C0.98C1.13C1.65C0.49C1.19C0.92C2.19C1.85C1.82C0.42C1.34C1.65C1.64C1.42C2.59C2.18C1.10C1.96C1.85C1.02C1.64C2.52C2.232.07C1.46C1.16C1.02C1.72C1.72C1.31C4.18C1.102.30C1.92C1.87C0.62C2.83C1.72C1.68C1.46C2.75C2.30C1.80C2.02C1.95OR:オッズ比,CI:信頼区間.CWan-JuYangLiLiTanMikiUchino(MEN)ScotE.MossMikiUchino(WOMEN)StudyReferenceStudyReferenceScotE.MossScotE.MossScotE.MossAnatGalorAnatGalorAnatGalorAnatGalorSummarySummary1.001.582.513.986.310.630.791.001.261.582.00OddsRatioOddsRatioa関節リウマチのドライアイへのオッズ比の例b糖尿病のドライアイへのオッズ比の例図1Forestplotの例表3「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CGalorA2012CGalorA2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICACEinhibitorsCAngiotensinreceptorantagonistsCAntianxietydrugsCAnti-benignprostatichyperplasia(BPH)CAntidepressantsCAntihistaminesCAspirinusageCBetablockersCCalciumchannelblockersCChemotherapyCCholesterolloweringmedicationsCDiureticsCHeadandneckradiotherapyCHematopoieticstemcelltransplantationCOmega-3fattyacidsCPostmenopausalestrogentherapyCSteroidCVitaminsupplementsC1.79C2.07C2.66C1.80C16.34C4.06C0.47C1.72C0.70C1.21C1.53C1.55C1.38C3.74C1.52C0.32C1.10C0.54C2.64C2.81C4.58C2.35C71.27C10.86C0.70C2.70C0.90C1.69C1.77C1.94C2.31C1.79C2.25C1.89C1.84C1.83C2.00C2.09C1.67C1.74C1.91C2.28C1.76C2.22C1.86C1.82C1.75C1.96C2.06C1.72C1.80C1.97C2.35C1.82C2.28C1.92C1.87C1.91C2.04C2.12C1.00C1.30C1.65C1.53C1.84C2.54C1.10C1.31C1.09C1.30C0.77C0.89C1.28C1.18C1.42C1.97C0.84C1.00C0.83C0.95C1.31C1.91C2.13C1.99C2.38C3.27C1.43C1.71C1.43C1.78C0.91C1.62C1.64C1.34C1.07C1.24C1.60C1.39C0.66C1.15C1.06C0.97C0.76C0.97C1.05C1.09C1.24C2.292.53C1.85C1.51C1.58C2.46C1.77C1.56C1.22C0.84C1.06C1.50C1.09C0.99C0.61C0.77C1.19C2.23C1.50C1.17C1.44C1.89OR:オッズ比,CI:信頼区間.表4全身疾患治療とドライアイのオッズ比OR:オッズ比,CI:信頼区間.リシスを行った.C2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表3の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表4である.CQ20同様に実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(forestplot)を作成し,その結果を数値化で表示したものが表4になる.フォレストプロットはCCQ20同様ドライアイガイドラインに示しているので参考にされたい.CQ21でも,Galor(2012)6)のデータは対象数が多く,この文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられたため,エビデンスとしては弱いと考えた.これを考慮し.本CCQ21のサマリーを「全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガC3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることが示唆された」とした.CIV問題点と課題CQ20,21の共通の問題点としては①文献数が少ないこと,②年齢,基準,性別,人種が揃っていないこと,③該当文献の中に検討症例数の多い文献があり,結果がその文献の影響を受けてしまったことをあげた.①に関してはCCQ20の「解析の手法」でも解説したように,文献を個別ごとに検討するよりも統合解析したほうがエビデンスが高くなり,その文献数が多いほどエビデンスが高くなる.今後疫学調査が進み,その文献数が増えてくればさらに全身疾患や治療法とドライアイの関係が明らかになる可能性が高いと考える.②に関しては解析の目的に合せて,年齢・基準・性別・人種などの対象の背景を合せる必要が出てくる.たとえば日本人のドライアイを検討するのであれば日本人を対象にした文献をメタアナリシスすることになり,男性のドライアイを検討するのであれば男性のみでメタアナリシスを行うことになる.ただし,対象を絞れば絞るほど対象文献や対象数が減り,解析結果のエビデンスが低くなるのが問題である.今回の検討も対象文献数が少ないことから背景を揃えることなくメタアナリシスを行ったが,今後文献数が増えれば背景を絞った解析が可能になると考える.③に関しては本検討においてはCGalor(2012)6)の調査件数が多く,その結果にメタアナリシスの結果が影響を強く受けている.そのため,対象文献のメタアナリシスの結果とCGalor(2012)の文献を除いて行ったメタアナリシスの結果が一致する結果をエビデンスがより高いと判断して採用した.また,全身疾患に伴うドライアイは全身疾患そのものがドライアイの危険因子なのか,治療薬・治療法が危険因子なのかの検討不十分と考えられる.たとえばうつ病はCCQ20でオッズ比が高いが,抗うつ薬内服もCCQ21でオッズ比が高い.うつ病の中には抗うつ薬を内服していない対象者も,すでに抗うつ薬を内服している対象者も含まれていると考えられ,うつ病がドライアイ発症のリスクを上げるのか,抗うつ薬がドライアイ発症のリスクを上げるのかは本検討からだけではわからない.これを検討するには全身疾患の病態生理がドライアイ発症に関連するかどうか,治療薬・治療法の薬剤動態・治療機序がドライアイ発症に関連するかどうか,そして,対照群をおいて,治療開始前後でドライアイ発症がどう変化するかを検討し,統合的に検討すると疾患がドライアイに関連するのか,治療薬・治療がドライアイに関連するのか,両者がドライアイと関連するのか検討していく必要があると考える.おわりにCQ20,21ともに疾患・治療とドライアイとの関連性が注目されている段階であり,エビデンスの強い結論が出ていない状態と考える.そのために実際の臨床現場ではドライアイと関連性のありそうな疾患・治療に対してドライアイの検査を行い,自覚症状や涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の短縮,角結膜障害を診ながらドライアイ治療を行うのが現状と考える.今後,報告数が増えるとともにドライアイと関連の強い疾患・治療法が判明してきた際に個々の疾患に対するドライアイへの検査の頻度や重要性,治療のアプローチ698あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(54)

Sjögren症候群のドライアイの管理

2020年6月30日 火曜日

Sjogren症候群のドライアイの管理TheManagementofDryEyeinSjogren’sSyndrome高村悦子*はじめに筆者は『ドライアイ診療ガイドライン』(2019)でCQ17「Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?」を担当した.Sjogren症候群(Sjogren’ssyndrome:SS)のドライアイについては,すでに,『シェーグレン症候群診療ガイドライン2017』(自己免疫調査研究班編集)が発刊されており,そこでもドライアイの治療の推奨作成を行っており,これも参考にクリニカルクエスチョン(CQ)を考えた.ここでは,SSのドライアイに対し,日常診療で行っている治療法について,ガイドラインで推奨する治療とあわせ紹介する.IガイドラインのサマリーSS患者のドライアイの自覚症状,涙液安定性,上皮障害の改善と有害事象をアウトカムとして,Minds診療ガイドライ作成マニュアルの方法に従い,論文のエビデンスの強さを考慮した方法でシステマティックレビューを行った.治療法としては現在,日本でドライアイの治療法として行われているレバミピド点眼,ジクアホソルナトリウム点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,涙点プラグ,またドライマウスの治療薬として保険適用であるセビメリン内服,ピロカルピン内服とした.推奨の強さは,表1に示すとおりである.SSに伴うドライアイの治療として「実施することを推奨する」としたのはジクアホソルナトリウム点眼と涙点プラグであり,レバミピド点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,セビメリン内服,ピロカルピン内服は「実施することを提案する」となった.ジクアホソルナトリウム点眼,涙点プラグはSSのドライアイに対し,有効性の指標となる涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状のいずれにも有意な改善がみられた.有害事象として,涙点プラグには,自然脱落,涙点の肉芽形成があげられるが,これはSS以外のドライアイと同程度であり,重大な報告はみられていないと判断し,治療の選択肢として推奨することとした.しかし涙点プラグは外科的治療であり,設備やある程度の習熟を伴うため,施行できない施設があるといった問題が残る.一方,レバミピド点眼,ヒアレイン点眼は,検討された項目については改善を認めてはいるが,SSのドライアイに対する治療の有効性について,目的とするアウトカムに合致した検討が十分されておらず,エビデンスが乏しかったため,提案に留めた.ステロイド点眼は短期間での症状の改善を経験する一方,眼圧上昇,感染症といったドライアイ以外の副作用のモニターが必要であり,通院回数などの患者の負担を考え提案とした.セビメリン内服,ピロカルピン内服は唾液分泌同様,涙液分泌の可能性もあるものの,ドライアイに対しては,保険適用とはなっていない.適応,禁忌の見きわめ,全身的な副作用を生じる可能性があることを考え,提案とした.*EtsukoTakamura:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(41)685表1Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?(ガイドラインのサマリー)推奨提示(1)レバミピド点眼は,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(2)ジクアホソル点眼は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(3)ヒアルロン酸点眼は角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(4)ステロイド点眼は,角結膜上皮障害,涙液安定性,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(5)涙点プラグは,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(6)セビメリン内服,ピロカルピン内服は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.表2Sjogren症候群診断基準(厚生省改訂診断基準,1999年)1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)口唇腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上B)涙腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)唾液腺造影でCStageI(直径C1Cmm未満の小点状陰影)以上の異常所見B)唾液分泌量低下(ガム試験にてC10分間でC10Cml以下またはCSaxonテストにてC2分間でC2Cg以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつローズベンガル試験(vanBijsterveldscore)でC3以上B)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつ蛍光色素試験で陽性4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)抗CRo/SS-A抗体陽性B)抗CLa/SS-B抗体陽性<診断基準>上のC4項目のうち,いずれかC2項目以上を満たせばCSjogren症候群と診断する眼科検査の項目は,Schirmer試験と染色試験の組み合わせで判定する.(文献C1より引用)表3ACR分類基準(2012年)1.血清抗CSS-A抗体Cand/or抗CSS-B抗体あるいはリウマチ因子陽性かつ抗核抗体C320倍以上2.口唇唾液腺生検でCfocusscore1以上3.眼染色スコア(OSS12点満点中)≧3陽性:3項目中C2項目以上を満たせばCSSと分類除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患ドライアイの評価にCSchirmer試験は含まれていない.結膜染色にはフルオレセイン,結膜染色にはリサミングリーンを用いる.評価は眼染色スコア(ocularstainingscore:OSS)で行う.(文献C3より引用)表5眼染色の評価項目の比較厚生省基準vanBijsterveldscore≧3(ローズベンガル)or蛍光色素試験陽性(角膜)AECG基準vanBijsterveldscore≧4(ローズベンガル)ACR基準ocularstainingscore≧3ACR/EULAR基準vanBijsterveldscore≧4orocularstainingscore≧5各診断基準におけるドライアイの評価の違い.表4ACR.EULARの一次性SS分類基準(2016年)Weight/Score・口唇唾液腺の巣状リンパ球性唾液腺炎でCfocusscore≧1C3・抗CSS-A(Ro)抗体陽性C3・少なくとも一方の目でCOSS≧5(あるいはCvanBijsterveldscore≧4)C1・少なくとも一方の目でCSchirmerテスト5Cmm/5分以下C1・無刺激唾液分泌量C0.1Cml/5分以下C1合計C4点以上で一次性CSSと分類適用基準:眼あるいは口腔乾燥症状のある患者,あるいはESSDAIでCSS疑いの患者除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患染色法は,ACR基準と同様.眼染色の評価には,ocularstain-ingscore(OSS)またはCvanBijsterveldscoreで行う.(文献C4より引用)図1TFOTから考えるSjogren症候群のドライアイの治療Sjogren症候群のドライアイでは,まず液層,とくに水分の強化が必要().液層のムチン,粘膜上皮の改善も症状改善に役立つ().(ドライアイ研究会ホームページChttp://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlより)-善が報告されている9).角膜上皮障害の程度が強い場合には点眼時の刺激感の訴えがあるが,点眼を継続し,涙液安定性が改善してくると,この刺激感も緩和され継続可能となることを経験する.ムチンの分泌の程度によっては,透明な分泌物を自覚することはあるが,これは分泌型ムチンの増加,つまり効果と考えられ,そのために使用を中断することはあまりない.2010年にジクアホソルナトリウム点眼が処方可能となったあとも,点眼後のつけ心地の点でヒアルロン酸点眼を好むCSSのドライアイ患者は少なくなかった.最近では,つけ心地がよいことが点眼薬本来の効果ではないことや,点眼継続により刺激感が軽減する可能性について処方時に説明しておけば,点眼中止に至ることは避けられる.いずれのドライアイの治療も,涙点プラグ以外は即効性は期待できないが,継続していくうちに症状の改善が得られる.ヒアルロン酸点眼の継続で症状の改善がみられないドライアイ患者に対しては,まず,ジクアホソルナトリウム点眼を併用してみる.その後症状の改善傾向がみられ,点眼の刺激感がなくなってくれば,ジクアホソルナトリウム点眼のみに変更し継続することで,患者もジクアホソルナトリウム点眼の効果を実感しやすい.C2.涙点プラグ重症なCSSであっても涙腺がすべて破壊されているわけではない.ごく少量の涙液分泌は行われていることが多い.涙点プラグで上下の涙点を塞ぐことで,涙液の貯留が期待できる.現在点眼薬として処方できるもので,成分として涙液に勝るものではない.今回のシステマティックレビューの結果,SSのドライアイに対する涙点プラグ挿入により,Schirmer試験CI法,BUTは有意な改善を認め,角結膜上皮障害の改善も示され,また涙点プラグ群が人工涙液群に比べより改善したことが示されていた10).一方,有害事象として,肉芽形成,感染症が生じる可能性があるが,SSのドライアイの場合に頻度が高いということではなかった.涙点プラグ施行後は定期的な経過観察により,肉芽形成や感染症の悪化は防ぐことが可能と思われる.3.ヒアルロン酸点眼ヒアルロン酸点眼は,高分子であり涙液を眼表面に保持する働きが期待できる.今回の検討では,SSのドライアイに対し角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性があるものの,涙液安定性の改善は不明であった11).BUTパターン12)がCareabreakを示す重症な涙液減少型ドライアイでは,眼表面の残り少ない涙液をヒアルロン酸が取り込んでしまうことで,むしろ涙液の安定性を悪化させる可能性が考えられる.したがって,SSの典型的なドライアイに対しては,患者の要望がよほど強い場合を除き,ヒアルロン酸点眼の選択は行っていない.ジクアホソルナトリウム点眼はヒアルロン酸点眼に比べ,ドライアイの角膜所見の改善に有効性が認められており13),重症ドライアイに対しては,まずジクアホソルナトリウム点眼を選択している.C4.レバミピド点眼レバミピド点眼は膜型ムチンの発現増加,分泌型ムチンの分泌亢進,杯細胞の増加に働く.その結果,涙液安定性を高める.とくに摩擦による角結膜上皮障害の改善が早期に得られ,自覚症状の改善が期待できる14).SSのドライアイに対し,角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性はあるが,レバミピド点眼単独ではSchirmer試験,BUTなどの涙液安定性を短期間に改善させる可能性は少ない15).ただし,涙点プラグやジクアホソルナトリウム点眼を開始しても,とくに眼瞼との摩擦を生じる部位に角結膜上皮障害が継続し,自覚症状の改善が得られない場合には,レバミピド点眼を追加,または切り替えることで症状が改善することを経験する.C5.ステロイド点眼SSの角膜障害は涙液の量的,質的変化を反映していると考えている.一方,結膜上皮障害は,それに加え,SSや重症ドライアイの病態に関連した結膜上皮自体の炎症を反映しているのかもしれない.1995年にヒアルロン酸点眼薬が処方可能となる以前には,SSのドライアイに対し,防腐剤無添加人工涙液の継続とステロイド点眼の併用による治療を行っていた.結膜局所の炎症は,涙液安定性の低下の悪循環を形成することが考えら(45)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C689れる.ステロイド点眼はこの悪循環を改善する可能性がある.0.1%フルオロメトロン点眼は,シクロスポリン点眼との比較16),プラセボとの比較17)で,自覚症状,角結膜上皮障害の改善とともに,BUTの有意な延長が認められることが報告されている.しかし,日常診療においては,ステロイド点眼による眼圧上昇や眼感染症の悪化に注意を払う必要がある.C6.セビメリン内服,ピロカルピン内服涙腺は,唾液腺と同様,副交感神経から分泌されるアセチルコリンが涙腺のCM3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体と結合することで,涙液分泌が起こる.セビメリン,ピロカルピンはこの受容体に対しアゴニストとして働き,涙液の分泌を促すことが確認されている.SSのドライアイに対しセビメリン内服は自覚症状,涙液安定性,角結膜上皮障害の改善効果が示されている18).ピロカルピン内服もほぼ同様な効果が期待できる19).副交感神経作動薬の全身投与であるため,嘔気などの消化器症状,発汗,頻尿などを生じることがある.虹彩炎患者では縮瞳が症状を悪化させることがあるため,添付文章では禁忌と記載されている.日本では,いずれの内服もドライアイに対しては保険適用にはなっていない.CVガイドラインで触れられていないCQとその答え「ステロイド,免疫抑制薬,生物学的製剤はCSSのドライアイに有用か?」SSは全身の自己免疫機序による疾患であり,その発症にかかわるサイトカインや免疫細胞,免疫分子を標的とした生物学的製剤などの治療戦略も展開されはじめている.これらの全身治療薬は,SSの腺病変における免疫学的異常に作用し,涙液分泌を改善することが期待されている.しかし,ステロイド,免疫抑制薬(シクロスポリン20),アザチオプリン),ヒドロキシクロロキン21),生物学的製剤(リツキシマブ22),アバタセプト)による涙液分泌量,乾燥症状の有意な改善はいずれも認められていない.今後,病態に即した,根本的な治療法の開発が待たれるところである.おわりにSSのドライアイの管理としては,現在保険適用となっている治療薬,涙点プラグを組み合わせ,経過観察を続けることで,ドライアイ症状の改善は得られるようになってきた.一方,SSは全国指定難病にも認定されているように,腺外症状を含めた全身の管理が重要である.膠原病を専門とする内科医,ドライマウスの管理ができる歯科,耳鼻咽喉科医との連携により,SS患者にとって満足が得られる管理ができるのではないだろうか.文献1)FujibayashiCT,CSugaiCS,CMiyasakaCNCetal:RevisedCJapa-neseCcriteriaCforCSjogren’ssyndrome(1999):availabilityCandvalidity.ModRheumatolC14:425-434,C20042)VitaliC,BombardieriSJonssonRetal:Classi.cationcri-teriaCforCSjogren’ssyndrome:aCrevisedCversionCofCtheCEuropeanCcriteriaCproposedCbyCtheCAmerican-EuropeanCconsensusgroup.AnnRheumDisC61:554-558,C20023)ShiboskiCSC,CShiboskiCCH,CCriswellCLACetal:AmericanCcollegeofrheumatologyclassi.cationcriteriaforSjogren’ssyndrome:aCdata-driven,CexpertCconsensusCapproachCinCtheCSjogren’sCinternationalCcollaborativeCclinicalCallianceCcohort.ArthritisCareResC64:475-487,C20124)ShiboskiCCH,CShiboskiCSC,CSerorCRCetal:2016CAmericanCcollegeCofCrheumatologyC/EuropeanCleagueCagainstCrheu-matismCclassi.cationCcriteriaCforCprimaryCSjogren’sCsyn-drome.AnnCRheumDis76:9-16,C20175)WhitcherJP,ShiboskiCH,ShiboskiSCetal:Asimpli.edquantitativeCmethodCforCassessingCkeratoconjunctivitisCsiccaCfromCtheCSjogren’sCsyndromeCinternationalCregistry.CAmJOphthalmolC149:405-415,C20106)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20177)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.EyeC29:204-212,C20158)HyunCSJ,CJoonYH:TheCe.cacyCofCdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnon-SjogrenCandCSjogrenCsyndromeCdryCeyeCpatientsunresponsivetoarti.cialtears.JOculPharmacolTher32:463-468,C20169)KohCS,CMaedaCN,CIkedaCCCetal:E.ectCofCdiquafosolCoph-690あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(46)’C’C-’C’C’C

涙点プラグはどう使う

2020年6月30日 火曜日

涙点プラグはどう使うHowtoUsePunctalPlugsforDryEyes小室青*Iガイドラインの解説涙点閉鎖の方法は涙点プラグ,コラーゲンプラグ,外科的涙点閉鎖術などさまざまあるが,介入試験の文献が少ないため,CQ16(表1)では涙点プラグとなっているが,実際にはすべての涙点閉鎖の方法をまとめてシステマティックレビュー(systematicreview:SR)を行っている1~6)(表2).CQ16の対象は,基本的にはC2006年版の日本のドライアイ診断基準を満たすと考えられる点眼治療で効果不十分なドライアイ患者であるが,laserCinCsitukeratomileusis(LASIK)後のドライアイ患者を対象としたものC2編,トラコーマによる瘢痕を伴うドライアイ患者を対象としたものC1編を含んでいる.また,プラグの挿入法も,プラグの種類,挿入部位(下涙点のみ挿入してるものがC3編あり)もさまざまであった.ドライアイでは,自覚症状の改善がもっともも重要なアウトカムと考えられるが,自覚症状を評価したC5編すべてで自覚症状の有意な改善を認めており,涙点プラグは自覚症状の改善に有効な治療であると判断されている.涙液安定性のアウトカムとしては,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)とCSchirmer値を用いているが,BUTは4編中3編で,Schirmer値は5編中3編で改善を認めており,涙点プラグは涙液安定性の改善に有効な治療であると考えられた.BUTとCSchrimer値が改善しなかったものは,LASIK後のドライアイを対象としており,角膜知覚の低下やプラグが下涙点のみであった表1ガイドラインのサマリー(CQ16とCQ17)ことが影響している可能性があると考えられた.有害事象としては,流涙が,一つの無作為化比較試験(ran-domizedCcontrolledtrial:RCT)でC30例中C1例認められ1),軽度の流涙が一つの比較試験でC3例(14%)1),もう一つのCRCTではプラグの不快感をC10例中C1例に認めたと報告されており3),いずれも発生頻度は高くなかった.また,CQ17「Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?」でも涙点プラグを取り上げており,4編の論文のCSRを行っている7~10).涙点プラグ治療(すべて上下涙点へのプラグ挿入)は,角結膜上皮障害C4編中4編,BUT2編中2編,Schirmer値C4編中3編,自覚症状C2編中2編で改善しており,有効な治療であると考えられ,治療の選択肢として推奨することとなっている(表1).CQ19「コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう*AoiKomuro:四条烏丸眼科小室クリニック,京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕小室青:〒604-8152京都市中京区烏丸通蛸薬師下る手洗水町C652四条烏丸眼科小室クリニックC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(33)C677表2SRのまとめ文献対象CStudydesign涙点閉鎖の方法閉鎖涙点自覚症状SchirmerI法CBUT上皮障害合併症CCQ16自覚症状,フルオスコアコラーゲン,シリコーンRCT上下改善改善流涙1例C1以上,結膜炎C(Herrick)コラーゲンプラグ効果あ比較試験シリコーン(Herrick)上下改善C↑C↑改善流涙C3例(14%)Cったトラコーマシクロスポリン併自覚症状,RBスコアC2RCTシリコーン(パラソル)下C↑用で改善.単独で不快感C1例C以上Cは改善なし関節リウマチに伴うドラ比較臨床試験Chypromellose下改善(VS)C↑C↑改善CイアイLASIK後,Schirmerシリコーン(punctal比較臨床弛緩下改善(OSDI)有意差なし有意差なし有意差なし<1C0orBUT<1C0除外plug)LASIK後(点眼効果なし)比較臨床試験シリコーン(eagleplug)上下改善有意差なしC↑改善C123456CQ17SSSchirmer<5,BUTthermosensitiveacrylic肉芽形成C1例RCTC上下改善(OSDI)C↑C↑改善<5,自覚症状Cmaterial(SmartPlug)涙点感染症C2例CSSSchirmer<5,BUTシリコーン(Eagleplug,流涙C4例(2C1.1%)観察研究上下改善なし改善<5,上皮障害punctalplug)肉芽1例3涙点Cシリコーン(punctalSS観察研究上下改善C↑改善Cplug)SSSchirmer<5,BUT観察研究焼灼上下C↑C↑改善C<10,上皮障害78910CQ19吸収性プラグ(EXTENDCコントロール群CLDEQによる自己診断CRCT下AbsorbableSyntheticと有意差なしCL不耐,MST<Cシリコーン(Herrick1カ月後改善1カ月後改善RCT下有意差なし10Cmm/5CminCplug)3カ月後なし3カ月後意差なし1112VS:visualscalequestionnaire,OSDI:OcularSurfaceDiseaseIndexquestionnaire,CLDEQ:ContactLensDryEyeQuestionnaire,MST:modifiedSchirmertest.C図1涙点プラグ挿入の適応となるbreakuppatterna:areabreak.開瞼後フルオレセインの上方移動をまったく認めない.b:spotbreak.開瞼直後に類円形のフルオレセインの破壊を認める.図2糸状角膜炎を伴う涙液減少型ドライアイa:プラグ挿入前.Linebreakの症例.多数の糸状物を認める.Cb:プラグ挿入後.角膜上皮障害,糸状物は消失している.表3涙点プラグの適応涙点サイズパンクタルパンクタルフレックススーパーフレックスーパーイーグルイーグルCOne(mm)プラグ(PP)プラグCF(PPF)プラグ(FP)スプラグ(SFP)プラグ(SEP)プラグ(SEP)0.4CSSC0.4/0.5C0.4/0.5C0.5CSSC0.6C0.6CSC0.6CSSC0.7C0.7CMC0.7CSSC0.8C0.8CMC0.8MC0.9C0.9CLC0.9MC11LC1.1CM/LC1.1C1.1CLC1.2/1.3C図3現在保険による利用が可能なシリコーン製の涙点プラグ表4各涙点プラグの合併症の比較(既報19~21)から引用)図4涙点ゲージ(EagleVision社製)図5涙点プラグ挿入後の合併症a:肉芽形成,b:白色塊,c:流涙.迷入50%のプラグが残存している日数(日)涙点拡大(mm)肉芽形成(%)白色塊形成(%)CFPSFPPPCSEPCPPFC++…66C211C287C120C234C0.11C0.12C0.04C0.14C0.17C0C1.7C19C12.6C4.3C0C0C0.9C0C0第一選択:SEP第一選択:PPF脱落肉芽形成(-)肉芽形成(+)SEPSFP(涙点サイズ>.1.0)図6涙点プラグの選択法肉芽形成がある場合に長いPPLプラグを挿入することにより迷入を防げる肉芽を越えて挿入しているため,抜けにくい図7PPLのメリット–’-1.7mm2.0mm

コンタクトレンズ関連のドライアイはどう治療する

2020年6月30日 火曜日

コンタクトレンズ関連のドライアイはどう治療するHowtoTreatContactLensAssociatedDryEye高静花*Iガイドラインの解説本稿のテーマは,『ドライアイ診療ガイドライン』(2019年)における,クリニカルクエスチョン(CQ)19「コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう治療すべきか?」に対応するものである.ガイドラインでは以下のように書かれている1).「コンタクトレンズ装用者のドライアイには人工涙液の使用を提案する.また,患者の好みに応じレンズ素材・レンズケア材の変更,内服を治療の選択肢として提案する.ただし,推奨のレベル,エビデンスの強さは弱い.」その内容を以下にまとめる.コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用によるドライアイに対する治療の選択肢とその効果の観点から,13編の無作為化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)において自覚症状,涙液安定性を検討した.自覚症状の改善を認めたものが点眼治療(人工涙液,アジスロマイシン,シクロスポリン)4編,内服(オメガC3脂肪酸,オメガC6脂肪酸)2編,レンズ素材の変更C2編,レンズケア材の変更C1編,涙点プラグ使用C1編であり,点眼C2編,涙点プラグ使用C1編では改善を認めなかった.涙液の安定性の改善については涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)を評価したものはC6編あったが,BUTの改善を認めたものはオメガC3脂肪酸内服のC1編のみであった.CL装用によるドライアイ治療には,人工涙液点眼治療,レンズ素材・レンズケア材の変更を治療の選択肢として推奨することとした.いずれも種類が豊富であり患者の選択肢は確保できると思われることが理由である.オメガC3脂肪酸内服はサプリメントとしての選択肢となる.ただし,その効果がある可能性もあるが,今後の検討を要する.CIIその背景を紐解くと2013年にCIOVSから特集号“TFOSCinternationalCworkshopConCcontactClensCdiscomfort”(CLDreport)が発表され,その重要性がより広まった.Contactlensdiscomfort(CLD)は,「CLと眼の環境の適合性の低下により生じるCCL装用に関係する,視機能異常の異常は問わず,一過性あるいは持続性の眼の感覚異常であり,装用時間の減少あるいはCCL装用の中止を余儀なくされうるもの」と定義される(図1)2,3).日本国内において,SCL装用者のC82.6%が乾燥感を訴えることがC10年以上前に報告されており4),また最近の報告においてもCSCL装用者のC75.7%が不快感,88.3%が乾燥感を訴えることが知られている5).なお,CLDreportには,contactClensCdryeyeやCcontactClens-relatedCdryeyeなど,日本語でいうところのCCL関連ドライアイは,「もともとドライアイがあるCCL装用者に対して使う用語であり,CLDと混同してはいけない」と明記されている.ガイドライン中の*ShizukaKoh:大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学〔別刷請求先〕高静花:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学講座C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C671ContactLensDiscomfort(CLD):Aconditioncharacterizedbyepisodicorpersistentadverseocularsensationsrelatedtolenswear,eitherwithorwithoutvisualdisturbance,resultingfromreducedcompatibilitybetweenthecontactlensandtheocularenvironment,whichcanleadtodecreasedwearingtimeanddiscontinuationofcontactlenswear.図1Contactlensdiscomfort(CLD)の定義(文献C2より引用)図2ContactLensDiscomfortReportが推奨するCLD治療アルゴリズム(文献C6より引用)(29)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C673SCL装用-

ドライアイにおける抗炎症治療の功罪

2020年6月30日 火曜日

ドライアイにおける抗炎症治療の功罪TheAnti-InflammationTherapyforDryEye堀裕一*はじめにドライアイは炎症性疾患であると以前からいわれており,ドライアイに対する抗炎症治療は以前から行われている.たとえば,海外では免疫抑制薬であるシクロスポリン点眼がドライアイ治療薬として承認されており,広く使われている(わが国では未承認).本稿では,わが国のドライアイ診療ガイドラインにおける抗炎症治療の位置づけと,日々のドライアイ診療で抗炎症治療をどのように使っていくかを解説する.CIドライアイ診療ガイドラインにおける抗炎症治療の位置づけまずは,2019年日本眼科学会雑誌に掲載されたドライアイ診療ガイドライン1)でのクリニカルクエスチョン(CQ)における抗炎症治療に関連する記載のサマリーを紹介し,それぞれに解説を加える.C1.副腎皮質ステロイド点眼の有効性は?(CQ9)サマリー「副腎皮質ステロイド点眼は,自覚症状,涙液の安定性を改善し,治療の選択肢として提案するが,有害事象として頻度は少ないものの眼圧上昇には留意が必要である」1).解説:ステロイド点眼,とくにフルオロメトロンなどの低力価のステロイド点眼をC1日C2回C1カ月程度続けると,ドライアイ患者の自覚症状が劇的に改善する症例がある.これまでの無作為化比較試験(randomizedCcon-trolledtrial:RCT)の報告においても,ステロイド点眼はドライアイ患者の自覚症状および上皮障害の改善に有効であると報告されている2,3).ただし,ステロイド点眼液は,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)延長やSchirmer値改善などの涙液安定性の改善には有効ではないため1),ステロイド点眼のみでのドライアイ治療はむずかしいと考える.また,ステロイドの長期投与は眼圧上昇や角膜感染症のリスクがあるため,実際の臨床で使用する場合は適正な使用が求められる.しかしながら,ドライアイ診療で使用されるステロイド点眼は低力価のものがほとんどであり,前述のCRCTにおいても眼圧上昇の報告はなく,注意して使用することで安全に管理できるのではないかと考える.よってガイドラインでの推奨の強さは,「弱い:実施することを提案する」となっている1).C2.非ステロイド性抗炎症薬点眼の有効性は?(CQ10)サマリー「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)点眼は,自覚症状,涙液の安定性,上皮障害の改善に対し有効と判断する根拠はなく,治療の選択肢として行わないことを提案する」1).解説:上記のように,ステロイド点眼がドライアイ患者に有効であるならば,眼圧上昇の心配のないCNSAID点眼はどうなのか?という疑問は自然と生じると思われる.これまでもドライアイに対する非ステロイド性抗*YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕堀裕一:〒143-8541東京都大田区大森西C7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)C667炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrug:NSAID)点眼の有効性をみるCRCTは報告されている4,5).これらのCRCTでは,わが国でも使われているCNSAID点眼(ジクロフェナック,プラノプロフェン)が用いられた.NSAIDはドライアイに対する痛みに効果があるのではないかと予想されたが,自覚症状,涙液安定性,上皮障害の改善に対しては有効ではないということで,推奨の強さも,「弱い:実施しないことを提案する」となっている1).C3.シクロスポリン点眼の有効性は?(CQ11)サマリー「抗炎症点眼療法としてシクロスポリン(CsA)点眼は,自覚症状と上皮障害を改善する.しかしながら,わが国では保険適用外であることを考慮して,治療の選択肢としては実施しないことを提案する」1).解説:世界的には,ドライアイ治療薬としてシクロスポリン点眼が有効であることは広く認めらており,RCTも長年にわたってさまざまな施設で行われており,論文の報告も非常に多い6.8).ガイドラインにおいても,自覚症状と上皮障害については,シクロスポリン点眼は有効であると位置づけている.しかしながら,わが国では承認されていないため,推奨は,弱い:「実施しない」ことを提案する,となった1).現在,わが国においては,シクロスポリン点眼は,春季カタルにのみ適用がとれており,ドライアイ治療薬としての適用はない.一方,米国では,0.05%シクロスポリン点眼(Restasis,CAller-gan)がドライアイ治療薬としてC2003年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)に承認され,ヨーロッパではC0.1%シクロスポリン点眼(Iker-vis,Santen)がC2015年に欧州医薬品庁(EuropeanCMedicinesAgency:EMA)にドライアイ治療薬として承認されており,アジアを含め,現在では多くの国々でシクロスポリン点眼はドライアイ患者に対して投与されている.今後は,わが国でも使用できるようになることを期待する.4.Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?(CQ17)Sjogren症候群に伴うドライアイの治療薬は多くの点眼薬が列記されており,抗炎症治療に関係のある部分のみ抜粋する.サマリー「副腎皮質ステロイド点眼は,角膜上皮障害,涙液安定性,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する」1).解説:Sjogren症候群のような,涙液分泌が大きく減少し,眼表面の炎症が強いと予想される中等度から重症のドライアイに対しては,抗炎症治療は大変有効であると考える.過去にCRCTでも報告されており,Linらの報告によると,Sjogren症候群のドライアイに対するステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン)とシクロスポリン点眼(0.5%シクロスポリン)のCRCTにおいて,自覚症状においては両群とも有意な改善がみられたと報告されている9).さらに興味深いことに,ステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン)のほうが,シクロスポリン点眼(0.5%シクロスポリン)に比べて治療C2週間後から有意な改善がみられたとの報告がある9).さらに自覚症状の改善だけでなく,角膜上皮障害の改善においても同様の傾向(ステロイドのほうがシクロスポリンよりもC2週後に有意な改善)が得られている9).しかしながら,ステロイド点眼では,涙液分泌量の検討(Schirmer試験)においては,有意な改善はみられておらず9),やはりもともと涙液分泌量が減少しているCSjogren症候群患者のドライアイに対しては,涙液を補充する治療と抗炎症治療(ステロイド点眼など)を併用するべきだと考える.CII新しい抗炎症治療現在,世界を見わたすと,ドライアイに対する抗炎症治療について多くの研究が行われている.ここでは,ステロイド,NSAID,シクロスポリン以外のドライアイに対する抗炎症治療を紹介する.C1.Liftegrast:LFA.1(lymphocytefunction.associatedantigen1)アンタゴニスト免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する細胞間接着分子であるCICAM-1(intercellularCadhesionCmole-668あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(24)–

ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果的な使い方と使い分け

2020年6月30日 火曜日

ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果的な使い方と使い分けTheProperE.ectiveUseofDiquafosolSodiumandRebamipideEyeDrops横井則彦*はじめに2010年にジクアホソルナトリウム点眼液(以下,ジクアホソル点眼液)が,2011年にレバミピド点眼液がドライアイ治療に利用できるようになったことで,ドライアイのコア・メカニズムである涙液層の安定性低下を眼表面の層別に治療するという新しいドライアイ治療の考え方が生まれ,眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)と名づけられた1~3).そして,TFOTのための眼表面の層別診断(tearfilmorienteddiagno-sis:TFOD)の考え方や日常臨床で活用できるbreakuppattern分類に基づくTFODが登場し1~3),ドライアイ診療にパラダイムシフトが生まれてきている(図1).Todaらは,涙液層の安定性低下だけを異常所見とする涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプをBUT(breakuptime)短縮型ドライアイとして世界に先駆けて報告した4)が,のちにこのタイプのドライアイの重要性が理解されるようになり5),ドライアイの定義や診断基準の改定を促す契機となり,日本を含むアジア諸国で統一したドライアイの定義,診断基準6~8)が完成し,現在に至っている.そして,最新の日本のドライアイの定義,診断基準(2016年版)8)は,わが国発,世界初のドライアイ診療の新しい方向であるTFOD/TFOTの考え方に合致したものとなっている.本稿では,2019年に発表された日本のドライアイ診療ガイドライン9)にまとめられているエビデンスに基づくジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の効果,TFOD/TFOTに即した使い方,およびその使い分けについて述べる.Iドライアイ診療ガイドラインにおけるジクアホソル点眼液の効果9)「ジクアホソルナトリウム点眼は効果があるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)がCQ12に提示されている.ガイドラインサマリーによれば,6編の無作為化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)を対象にシステマティックレビュー(systematicreview:SR)が行われ,ジクアホソル点眼液は日本および周辺アジア諸国でのみ保険適用とされ,欧米での報告がないため,効果に人種差がある可能性があるが,①自覚症状の改善は従来治療に比べて有効,②BUTの改善は従来治療に比べて有効とはいえない,③Schirmer値の改善は判断不能(バイアスリスクの可能性),④上皮障害の改善は従来治療に比べて有効,⑤軽症の副作用(眼刺激感の頻度が高い:2.8~12.5%)があるとのまとめがなされている.結論としてジクアホソル点眼液は従来の点眼治療(人工涙液・ヒアルロン酸)に比べて自覚症状,上皮障害を有意に改善させ,治療の選択肢として強く,中(強,中,弱,非常に弱の4段階)のエビデンスレベルをもって,実施することを強く推奨するとした.*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(13)657治療対象眼局所治療温罨法,眼瞼清拭少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*水分人口涙液,涙点プラグヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム分泌型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド膜型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド上皮細胞(杯細胞)自己血清(レパミピド)自己血清眼表面炎症レパミピド***ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある図1眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)と眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD)の考え方TFOTとは,涙液層と上皮層からなる眼表面に対して,その不足成分を層別に補充することで涙液層の破壊を抑制し,ドライアイ症状を改善するドライアイ治療の新しい考え方であり,眼表面の不足成分を層別に看破する方法がTFODに相当する.(http://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlを改変引用)図2涙液減少型ドライアイに対する人工涙液点眼からジクアホソル点眼ナトリウムへの切り替え効果a:人工涙液1日6回点眼時.b:aの時点で人工涙液をジクアホソル点眼液1日6回点眼に切り替えて1カ月後.涙液層の安定性が改善し,角膜下方の点状表層角膜症に著明な改善が得られているのがわかる.a(秒)3BUT変化量210-102481216202428323640444852(週)(363)(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)観察期間b(秒)1.50BUT変化量1.251.000.750.500.250.00024122028364452(週)(154)(149)(139)(139)(135)(131)(129)(127)観察期間図3BUTの改善に関するジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液の多施設共同オープン試験結果ジクアホソル点眼液(Ca),レバミピド点眼液(Cb)のそれぞれにおいて,点眼開始C52週間の長期にわたってCBUTの改善は維持されており,最初のC4週で急峻な改善を示したあとも,ゆるやかに改善していく傾向にあり,それぞれCBUTは,約C2秒,約C1.25秒改善している.(文献C13,14より改変引用)図4BUT短縮型ドライアイ(水濡れ性低下型ドライアイ)に対してジクアホソル点眼液だけの治療からジクアホソル点眼液にレバミピド点眼液を加えた治療への切り替え効果a:ジクアホソル点眼液C1日C4回使用時.Cb:aの時点でジクアホソル点眼液C1日C4回にレバミピド点眼液C1日4回を使用したC2カ月後.Spotbreakが消失し,涙液層の安定性が改善していることがわかる.図5瞬目摩擦を亢進させる要因としての上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)とlid.wiperepitheliopathy(LWE)本症例では,涙液減少型ドライアイに合併しやすいCSLKおよびCLWEが涙液減少型ドライアイを伴うことなく生じている.すなわち,SLKがみられ(Ca,b),LWEは上眼瞼縁のみにみられて(Ca,b,d),角膜上方の上皮障害の原因となっていると考えられる(Cc).れ性低下によってもたらされる1~3).水分減少は,三叉神経-副交感神経-涙腺からなる涙液分泌システム(re.exCloop-涙腺システム)の異常によって引き起こされ3),水分の蒸発亢進には涙液油層や分泌型ムチンの異常が推定され,就眠中の閉瞼不全が大きなリスクとなる3).また,角膜上皮の水濡れ性低下には,膜型ムチン(MUC1,4,16)のなかでももっとも長いCMUC16の障害が関係すると考えられる3,22).BUT短縮型ドライアイは,涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプであり,蒸発亢進型ドライアイと水濡れ性低下型ドライアイに分けられる1~3.7).ここで,涙液の安定性低下をもたらす眼表面の構成成分をその補充の観点から考えると,蒸発亢進型ドライアイには,マイボーム腺機能不全があればその治療を行い,分泌型ムチンの不足があればジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液に効果が期待できると考えられる.一方,水濡れ性低下型ドライアイには,MUC16を補充する治療が求められる22)が,ジクアホソル,レバミピドともにCMUC16の発現亢進が示されており22~25),実臨床でも,ジクアホソル点眼液のCBUT短縮型ドライアイに対する人工涙液に対する優位な効果26)や,ジクアホソル点眼液の効果18,22)が示されている.現在までのところ,ジクアホソルナトリウムおよびレバミピドのCMUC16に対する発現促進メカニズムが明らかにされていないため,両者のメカニズムが異なる可能性は大いに考えられ,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の単独使用で効果がなければ,その併用も考慮してよいのではないかと考えられる.実際,両者の併用の有効性も経験している(図4).C2.CQ2「摩擦関連眼表面疾患へのジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の使い分けは?」ドライアイは,開瞼維持時の涙液層の安定性低下を病態のコア・メカニズムとするが,瞬目時の摩擦亢進がドライアイに関連して,あるいはドライアイと独立して,自覚症状ならびに眼表面の他覚所見を大きく修飾することが知られている3).そして,そのもっとも大きな要因として,結膜弛緩症があげられる27,28).結膜弛緩症は,なんらかの症状で眼科を訪れる患者のC60歳以上のC98%以上に合併するとされ28),ドライアイの増悪因子となっている例をよく経験する.すなわち,角膜に隣接して結膜弛緩症があると,ドライアイによる涙液層の安定性の低下を促進する要因となり,その一方で潤滑作用をもつ涙液が減少している涙液減少型ドライアイにおいては,瞬目摩擦を亢進させたり,異物感,眼痛などの症状の要因となる.加えて,上輪部角結膜炎(superiorClimbickeratoconjunctivitis:SLK)29),lid-wiperCepitheliopa-thy(LWE)30,31),糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)32~34)は,涙液減少型ドライアイに合併しやすく,瞬目摩擦亢進の要因となる(図5).レバミピド点眼液は,ドライアイにおいて瞬目摩擦を亢進させるCLWE,FK,SLKへの効果がすでに報告されており31,33~35),涙液減少型ドライアイを対象に行われた第CIII相臨床試験19)においては,角結膜上皮障害(とくに結膜上皮障害)や自覚症状(とくに瞬目摩擦と関連する異物感,眼痛)の改善におけるヒアルロン酸に対する優位性が示されている.結膜が瞬目摩擦の生じやすい部位である36)ことを考慮すると,レバミピド点眼液は,瞬目摩擦の軽減に役立つ点眼液といえるだろう.したがって,涙液減少型ドライアイにおいて,涙液減少で生じやすい角膜下方の上皮障害に対してはジクアホソル点眼液が効果的に作用し,結膜上皮障害や瞬目摩擦関連疾患の合併に対してレバミピド点眼液が効果的に作用する19,31,33~35)ことを考えると,ドライアイ治療における両者の併用は,大いにありえると考えられる34).一方,ジクアホソル点眼液は,水分と分泌型ムチンを一気に分泌させ,水分に比べて高分子である分泌型ムチンのほうが眼表面におけるクリアランスが悪いことを考慮すると,点眼後,眼表面に分泌型ムチンがより高濃度で滞留し,結果として涙液の粘度が増加し,粘性抵抗の増加に基づいて,瞬目摩擦の亢進が生じる可能性がある3).実際,ジクアホソル点眼液の使用中に瞬目摩擦との関連が推定される糸状角膜炎が生じたり34),結膜下出血が生じる例を経験することがある.こうした例に対して,レバミピドへの点眼変更(図6)やレバミピド点眼液の併用が奏効する例がある.ただし,涙液減少型ドライアイでは,角膜表面のCBUTの改善,および涙液層の破壊に基づく上皮障害の改善にジクアホソル点眼液が奏効することは,ガイドラインでも示されており9,20),そ662あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(18)図6ジクアホソル点眼液を使用していたSjogren症候群患者に対し,糸状角膜炎が生じたために,レバミピド点眼液(1日4回点眼)に変更した例a,b:変更前.Cc,d:変更C3カ月後.レバミピド点眼液への変更により,点状表層角膜症は軽度増加しているが,糸状角膜炎や結膜上皮障害が著明に改善しているのがわかる.図7重症涙液減少型ドライアイを示す移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)の患者に対する上・下涙点プラグ挿入術(人工涙液点眼も併用)の効果a:プラグ挿入前.Cb:プラグ挿入C1カ月後.GVHDのような重症涙液減少型ドライアイには,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の併用をもってしても治療効果に限界があり,上・下涙点への涙点プラグ挿入が推奨される.涙液減少による涙液層の安定性低下と瞬目摩擦の軽減の両方が同時に得られることが,その大きな奏効機序と考えられる.のために,ジクアホソルナトリウム点眼を維持したまま,レバミピド点眼を追加するというやり方がより効果的ではないかと思われる34).おわりにTFOD/TFOTに基づくドライアイの診断,治療の考え方が診療の現場に導入され,涙液層の動態や破壊パターンを評価しながら,眼表面の不足成分を看破し,ジクアホソル点眼液やレバミピド点眼液で不足成分を補充することで,涙液層の安定性ならびに自覚症状の改善を得るというドライアイ診療の新しいやり方が日常診療に普及してきている.加えて,瞬目摩擦の亢進という,ドライアイを修飾する眼表面の異常が,的確に看破できるようになり,それがレバミピド点眼液で治療できるようになってきた.もちろん涙液層の安定性の低下の重症例(とくに重症の涙液減少)には上・下涙点への涙点プラグ挿入(図7)が必要であり,瞬目摩擦の亢進の重症例には結膜に対する外科治療が必要であるが,わが国はジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の両方を持ち合わせ,その効果的な使い分けが行えるという点において,ドライアイの先進国であることは間違いない.そして,その使い分けにより,その登場以前には,想像できなかったほどにドライアイの病態の考え方が進歩し,重症例も含めて,的確に対応できるようになったことは,画期的といえるだろう.文献1)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCandCtherapyCforCdryCeye.CInCDryCeyesyndrome:BasicCandclinicalperspectives(YokoiN.ed)C,p96-108,FutureMedi-cineLtd,London,20132)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCforCdryeye.JpnJOphthalmol63:127-136,C20193)横井則彦:TFODCandCTFOTCExpertCLectureドライアイ診療のパラダイムシフト.p5-41,メディカルレビュー社,C20204)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCdecreasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicCconjunctivitis.COphthalmologyC102:302-309,C19955)YokoiCN,CUchinoCM,CUchinoCYCetal:ImportanceCofCtearC.lmCinstabilityCinCdryCeyeCdiseaseCinCo.ceCworkersCusingCvisualdisplayterminals:theOsakastudy.AmJOphthal-mol159:748-754,C20156)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACConsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C20177)TsubotaCK,CYokoiCN,CWatanabeCHCetal:ACnewCperspec-tiveConCdryCeyeclassi.cation:proposalCbyCtheCAsiaCDryCEyeSociety.EyeContactLensC46:S2-S13,C20208)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20179)ドライアイ診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C201910)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCby3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalChumaneyes.AmJOphthalmolC157:85-92,C201411)ShigeyasuC,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetraso-diumincreasestheconcentrationofmucin-likesubstancesinCtearsCofChealthyChumanCsubjects.CCurrCEyeCResC40:C878-883,C201512)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:TheCincreaseCofCaqueousCtearCvolumeCbyCdiquafosolCsodiumCinCdry-eyeCpatientsCwithCSjogren’ssyndrome:apilotCstudy.CEye(Lond)C30:C857-864,C201613)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,C201214)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal;RebamipideOphthalmicCSuspensionCLong-termCStudyCGroup:ACmul-ticenter,Copen-label,C52-weekCstudyCof2%Crebamipide(OPC-12759)ophthalmicCsuspensionCinCpatientsCwithCdryCeye.AmJOphthalmolC157:576-583,C201415)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal;DiquafosolOphthalmicSolutionPhase3StudyGroup:Arandomised,double-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyeCpatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315,C201216)ParkCDH,CChungCJK,CSeoCDRCetal:ClinicalCe.ectsCandCsafetyCof3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCforCpatientsCwithCdryCeyeCafterCcataractsurgery:aCrandomizedCcon-trolledtrial.AmJOphthalmolC63:122-131,C201617)内野裕一,坪田一男:VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果.あたらしい眼科30:871-874,C201318)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.Eye(Lond)C29:1204-1212,C201519)KinoshitaCS,COshidenCK,CAwamuraCSCetal;RebamipideCOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandom-ized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C201320)シェーグレン症候群診療ガイドラインC2017年版.https://664あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(20)-

人工涙液とヒアルロン酸点眼液の位置づけ

2020年6月30日 火曜日

人工涙液とヒアルロン酸点眼液の位置づけTheRoleofArti.cialTearsandHyaluronicAcidintheTreatmentofDryEyeDisease山田昌和*はじめに2016年に改訂されたドライアイの定義と診断基準(ドライアイ研究会)では,「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」とドライアイを定義している1).これに続くようにC2019年にドライアイの診療ガイドラインが発表された2).このガイドラインはCMindsに準拠したCevidence-basedのものであり,ドライアイの基本的な概念から,疫学,診断,治療に至るまでドライアイの現況を俯瞰するガイドブックとなっている.ドライアイの基本病態として,日本やアジアでは涙液層の不安定性と瞬目時の摩擦亢進の二つがあげられており,欧米では炎症の関与が重視されている2,3).したがって,治療の方向性としては,臨床的には涙液層を安定させる治療と抗炎症療法が症例に応じて使い分けまたは併用されることになる.ガイドラインはおもな治療法に関してクリニカルクエスチョン(CQ)が立てられ,その問いに答える形で,治療法の評価と推奨が記載されている.しかしながら,AとCBの治療薬のどちらが優れているのか,使い分けはどうするのかといった臨床家が知りたいポイントには答えられていない.本稿では,ドライアイの代表的な治療薬である人工涙液とヒアルロン酸点眼液を取り上げ,その位置づけ,役割について今後の展望とともに私見を述べる.Iガイドラインでの評価は人工涙液,ヒアルロン酸はガイドラインではどのように評価されているだろうか.ガイドラインでは治療法に関して統一されたフォーマットを用いており,自覚症状の改善,涙液安定性の改善,上皮障害の改善,有害事象のC4項目でおのおの評価を行い,最終的に総合評価としてエビデンスレベルをCA(強),B(中),C(弱),D(非常に弱い)のC4段階,推奨の強さをC4段階(強い:実施することを推奨する,弱い:実施することを提案する,弱い:実施しないことを提案する,強い:実施しないことを推奨する)で記している.各種のドライアイ治療法のガイドラインでの評価を表1にまとめて示す2).人工涙液,ヒアルロン酸のエビデンスレベルはどちらも「B(中)」,推奨の強さは人工涙液については,「弱い:実施することを提案する」,ヒアルロン酸は「強い:実施することを推奨する」,になっている.ガイドラインでほかに強い推奨と評価されたのはジクアホソルとレバミピド,涙点プラグであり,弱い推奨はステロイドである.こうしてみるとヒアルロン酸も人工涙液もドライアイ治療のなかで未だ重要な位置づけにあることがわかる.ただし,ガイドラインの推奨でヒアルロン酸とジクアホソル,レバミピドが同じ評価になっているからといって,効果が同じというわけではない.ガイドラインの評価基準は医学的な確からしさは反映されているが,その*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(7)C651表1ガイドラインにおけるドライアイ治療法の評価推奨の強さエビデンスレベル自覚症状改善効果涙液改善効果上皮改善効果人工涙液2CBC○△.○C○ヒアルロン酸1CBC○△.○C○ステロイド2CBC○C△○ジクアホソル1CBC○C△○レバミピド1CBC○△.○C○涙点プラグ1CBC○C○○C推奨の強さ:1=「強い:実施することを推奨する」,2=「弱い:実施することを提案する」.エビデンスレベル:B=4段階のうち「B(中)」,改善効果:〇=「有効」,△=「有効と判断できない」.(文献C2より著者が作成)1008073.7■Mizuno,2012■Kawashima,201765.96040.14033.922.718.616.92015.612.712.79.36.73.10.20使用割合(%)図1ドライアイの治療法の使用割合ジクアホソルとレバミピドが上市された前後を通して,もっとも頻用されているのはヒアルロン酸である.(文献6,7より作図)ジクアホソル0%20%40%60%80%100%■単独■+ヒアルロン酸レバミピド■+ステロイド■+人口涙液■その他ヒアルロン酸図2ドライアイ治療薬の併用パターンジクアホソルとレバミピド使用者でも多くの症例でヒアルロン酸が併用されている.(文献C7より作図)表2ヒアルロン酸が頻用される理由角膜上皮に対する作用:角膜上皮の修復,創傷治癒の促進涙液に対する作用:粘性による滞留性の増加涙液層安定化効果眼表面の摩擦軽減効果高い安全性・忍容性:目立った副作用がない刺激感がなく忍容性が高いまることがわかっている14).ヒアルロン酸は眼表面ムチンとなんらかの形で結合して眼表面に留まり,ムチンを補助する形で涙液層安定化効果を発揮するものと推測される.さらに最近,ヒアルロン酸はリン脂質と協働して摩擦を軽減することが報告されている15).ドライアイの基本病態は涙液層の不安定性と瞬目時の摩擦亢進であり,ヒアルロン酸はこの両方に作用する可能性があり,新しい側面として注目される.三つめは安全性と忍容性が高いことである.20年以上臨床で広く用いられている最大の理由は目立った副作用がなく,点眼時の刺激や不快感も少ないことかも知れない.繰り返しになるが,ヒアルロン酸の角膜上皮の創傷治癒促進作用と涙液層の安定化作用は他のドライアイ治療薬にはない独特なものであり,ドライアイの治療におけるヒアルロン酸の位置は確立されたものということができる.CVヒアルロン酸の今後ヒアルロン酸の今後について考えてみよう.まず日本においては,最近,要指導医薬品としてヒアルロン酸がスイッチCOTC薬化されることが決定された.効能・効果は,「眼の次の症状の緩和:乾き,異物感(コロコロ,チクチクする感じ),疲れ,かすみ,ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感」となる見込みである.OTC医薬品の点眼薬の市場は医家向けの角膜疾患治療薬とほぼ同等であり,決して小さくない.ヒアルロン酸がCOTC薬化されることで,ドライアイの注目度や治療のスキームに変化が生じる可能性があり,注目される.海外に目を向けると新しいヒアルロン酸製剤がいくつか開発されている.クロスリンキングで架橋構造を変えたヒアルロン酸製剤,トレハロースやカルボキシメチルセルロースなどとヒアルロン酸との合剤などがあげられる16.18).また,シクロスポリンやステロイドとの合剤の報告もあり,これらはヒアルロン酸としての効果とともに,粘性を利用して薬剤の滞留性を高めることが期待されている19,20).さらに,ヒアルロン酸の内服がドライアイの治療効果を示すという眉唾物の報告もみられる21).これらの製剤の臨床的評価は定まっておらず,将来的に日本で使えるようになるかはわからないが,ヒアルロン酸にはまだまだ展開の余地があるようだ.おわりにドライアイの治療は近年長足の進歩を遂げており,点眼薬の種類も増え,点眼治療以外の治療もさまざまになってきている.しかし現在でも,人工涙液とヒアルロン酸はドライアイ治療のなかで一定の役割を果たしている.ヒアルロン酸に関してはスイッチCOTC薬化による今後の変化が注目される.文献1)島崎潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20172)ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C20193)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACconsensusCreportCbytheAsiadryeyesociety.OculSurfC15:65-76,C20174)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal:ACran-domised,Cdouble-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyepatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315,C20125)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterCphaseC3CstudyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20136)MizunoCY,CYamadaCM,CShigeyasuCCCetal:AnnualCdirectCcostCofCdryCeyeCinCJapan.CClinCOphthalmolC6:755-760,C20127)KawashimaCM,CYamadaCM,CSuwakiCKCetal:ACclinic-basedCsurveyCofCclinicalCcharacteristicsCandCpracticeCpat-ternofdryeyeinJapan.AdvTherC34:732-743,C20178)AngCBCH,CSngCJJ,CWangCPXHCetal:SodiumChyaluronateCinCtheCtreatmentCofCdryCeyesyndrome:ACsystematicCreviewandmeta-analysis.SciRepC7:9013,C20179)渡辺たまき,川島素子,河合正孝ほか:メニスカスフォトによるヒアルロン酸点眼液の滞留性の評価.眼紀C55:369-373,C200410)ShigeyasuCC,CHiranoCS,CAkuneCYCetal:EvaluationCofCtheCfrequencyCofCophthalmicCsolutionapplication:washoutCe.ectsCofCtopicalCsalineCapplicationConCtearCcomponents.CCurrEyeCResC38:722-728,C201311)MengherCLS,CPandherCKS,CBronCAJCetal:TheCe.ectCofCsodiumhyaluronate(0.1%)onCbreak-uptime(NIBUT)inCpatientsCwithCdryCeyes.CBrCJCOphthalmolC70:442-447,C1986C(11)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C655-

ドライアイガイドラインを越えて

2020年6月30日 火曜日

ドライアイガイドラインを越えてDryEyeDisease:BeyondtheClinicalGuideline島﨑潤*Iガイドライン作成の経緯このC10年余りのドライアイ研究の進歩はめざましく,ジクアホソル(ジクアス点眼液C3%,以下ジクアス)やレバミピド(ムコスタ点眼液CUD2%,以下ムコスタ)などの新しい治療薬の登場も相まって診療面も大きく変わった.ドライアイ研究会は約C30年にわたる活動を通じて,これまでC3回,ドライアイの定義と診断基準を発表してきた.その活動の中で,「一度現状をまとめるような指針がほしい」という意見が出され,今回のガイドラインの策定につながった(日眼会誌123:489-592,2019).これまで眼科領域で発表されている診療ガイドラインの多くは,専門家によるディスカッションを通じてできた指針にもとづいているが,今回は,「エビデンスに基づいたガイドライン」をめざすこととし,Minds形式に沿ったスタイルでの作成を行った.MINDS(MedicalInformationCNetworkCDistributionService)とは,「質の高い医療の実現をめざして,患者と医療者の双方を支援するために,診療ガイドラインと関連情報を提供すること」を目的として,厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である(https://minds.jcqhc.or.jp/s/about_us_overview).その特徴の一つは,診療上の重要課題(クリニカルクエスチョン:CQ)を決めて,それに対する推奨を提示する形式をとっていることであり,今回はこの形式に沿うことをめざした.ただ,ガイドラインの解説のみでは発表されたものを読めばすむので,本企画では「ガイドラインを越えて」と題し,ガイドラインで示された内容とその背景の解説とともに,ガイドラインでは答えきれていないCCQについても解説していただいた.具体的なガイドラインの内容とその解説については,次項以降をご覧いただくとして,ここではガイドラインの概要を紹介するとともに,現在のドライアイの病態の考え方について解説する.CIIガイドラインの目的と限界「現状をまとめる」というところから出発したこのガイドラインは,使う側からすると,最新の知識を得るという目的にはあまり即しておらず,この点が学会や講演会,雑誌の特集とは異なる.また,ガイドラインの性質上,より詳細なCCQには対応していない部分もある.たとえば,「Aという薬とCBという薬はどちらが良くて,どう使い分けるべきなのか?」,あるいは「Aという薬とCBという薬を併用することは効果的か?」などは重要な臨床課題であるが,これに対応するエビデンスのある報告はほとんどなく,ガイドラインに含めることができなかった.ガイドラインは一義的には診療に携わる医師や患者が利用すべきものであるが,現実には治験などを介して医薬品の開発や,医療訴訟などにも利用される可能性があることにも留意すべきである.*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513千葉県市川市菅野C5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)C647表1ドライアイ診療ガイドラインで取り上げられたクリニカルクエスチョン(CQ)CQ1ドライアイの診断基準,分類にはどのようなものがあるか?CCQ2ドライアイの有病率はどのくらいか?CCQ3ドライアイ発症に及ぼす外的因子は?CCQ4ドライアイ発症に及ぼすライフスタイルの影響は?CCQ5自覚症状の聴取法は?CCQ6各種診断法の感度・特異度は?CCQ7ドライアイの視機能への影響を調べるうえで有用なものはどれか?CCQ8人工涙液点眼は効果があるのか?ヒアルロン酸点眼は効果があるのか?CCQ9副腎皮質ステロイド点眼の有効性は?CQ10非ステロイド系抗炎症薬点眼の有効性は?CQ11シクロスポリン点眼の有効性は?CQ12ジクアホソルナトリウム点眼は効果があるか?CQ13レバミピド点眼は効果があるか?CQ14血清点眼の有効性は?CQ15オメガC3脂肪酸内服治療の有効性は?CQ16涙点プラグは有効か?CQ17Sogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?CQ18ドライアイの治療では,塩化ベンザルコニウム無添加の点眼を用いるべきか?CQ19コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう治療すべきか?CQ20ドライアイと全身疾患との関係は?CQ21全身疾患治療とドライアイとの関係は?CQ22眼科手術のドライアイに及ぼす影響は?CQ23ドライアイに対する屈折矯正手術の有用性と安全性は?表22016年版ドライアイの定義と診断基準定義ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある診断基準1.眼不快感,視機能異常などの自覚症状2.涙液層破壊時間(BUT)5秒以下1およびC2を有するものをドライアイとする図2現在のドライアイの病態生理の考え方ドライアイでは,上流のさまざまなリスクファクターによって,開瞼維持時の「涙液層の安定性低下」という悪循環(メカニズム①)と瞬目時の「摩擦亢進」という悪循環(メカニズム②)が生じるとする考え方.あらゆる涙液異常涙液層の安定性低下涙液層悪循環上皮の水濡れ性低下炎症角結膜上皮角結膜上皮障害図12006年におけるドライアイのコア・メカニズム上流のさまざまなリスクファクターによって涙液層の安定性が低下すると,乾燥ストレスによる角結膜の上皮障害を生じ,その結果,上皮表面にあるムチンが障害されて水濡れ性が低下することで,さらに涙液層の安定性が低下するという悪循環(コア・メカニズム)が生じる.さらにこの悪循環が結果として,炎症を引き起こし,上皮障害を助長する.

序説:ドライアイ診療:ガイドラインを越えて

2020年6月30日 火曜日

ドライアイ診療:ガイドラインを越えてDryEyeDisease:BeyondtheClinicalGuideline島﨑潤*坪田一男**2019年にドライアイ診療ガイドラインが発表された.近年目覚ましく変わってきているドライアイ診療に関して,一度まとめてみよう,ということでドライアイ研究会が中心となって始まったプロジェクトであるが,完成までに3年近くを要した.ガイドラインの作成に当たっては,「エビデンスに基づいた診療ガイドライン」をめざすこととして,Minds(MedicalInformationNetworkDistributionService)スタイルを採用した.その特徴は,クリニカルクエスチョン(CQ:臨床上の疑問)に対して徹底した文献検索を行い,それを基に推奨を提示することにある.このスタイルに基づく診療ガイドラインはきわめて信頼性が高いとされ,Mindsのホームページ上で閲覧することができる(2020年5月末現在272件).しかしその高い信頼性の一方で,エビデンスレベルの高い論文のみを基に作成するため,日々の診療で遭遇する幅広い臨床的な疑問に応えることができないという面もある.そこで本特集では,「ガイドラインを越えて」というタイトルで,ガイドラインの作成にご尽力いただいた先生方を中心に,ドライアイ診療ガイドラインとその周辺について解説していただいた.具体的な内容としては,まず該当するCQについてのガイドラインのサマリーを示していただき,次いでその解説,さらにガイドラインで触れられていないCQを提示し,それに対して文献的裏づけを基に解説するスタイルをとった.ガイドラインを通読するよりも効率よく内容を把握することができるとともに,治療薬の適応や使い分けなども含めた,より臨床に即した疑問に答えることができる内容となっていると思われる.取り上げたトピックスは,その内容によって大きく三つに分けることができる.まず点眼治療については,山田昌和先生(人工涙液,ヒアルロン酸点眼液),横井則彦先生(ジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液),堀裕一先生(抗炎症薬)に解説いただいた.それぞれの薬剤の特性に合わせた治療選択に役立つことと思う.二つめのパートは,点眼以外の治療選択についてであり,ここは高静花先生(コンタクトレンズ関連)と小室青先生(涙点プラグ)に解説いただいた.日常迷うことの多い臨床課題について,わかりやすく述べていただいている.最後のパートは,全身疾患や眼科手術とドライアイの関連についてである.高村悦子先生(Sjogren症候群),福井正樹先生(全身薬との関連),戸田郁子先生(眼科手術後ドライアイ)にまとめていただいた.この特集を一読いただくことで,ドライアイ診療の一層のブラッシュアップに役立つことを,執筆者一同願っています.*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)645

CTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):636.639,2020cCTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例大石典子*1,2武田彩佳*1,3堀純子*1,3*1日本医科大学眼科学教室*2日本医科大学千葉北総病院眼科*3日本医科大学多摩永山病院眼科CTwoCasesofScleritisInducedasaParadoxicalReactiontoCTLA4IgNorikoOishi1,2),AyakaTakeda1,3)andJunkoHori1,3)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChiba-HokusoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolTama-NagayamaHospitalC背景:近年,生物学的製剤の投与によるパラドキシカルリアクションが報告されている.今回,関節リウマチ(RA)に対してCCTLA4Igを導入され,パラドキシカルリアクションとして強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したので報告する.症例:症例C1はC64歳,女性.RAに対しアバタセプト(ABT)を導入したC3カ月後に左眼周辺部角膜浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し,眼瞼炎,続発緑内障を合併した.ABTは投与継続とし,ステロイド眼局所治療で強膜炎は消炎した.症例C2はC76歳,女性.RAに対しCABT投与歴があり,右眼びまん性強膜炎を発症し遷延化したため,内科から重症感染症のリスクが低いCABTが再度選択された.ABT導入後C1週間で強膜炎は増悪し黄斑浮腫も併発しC10週後も改善せず,ゴリムマブへ変更後C1カ月で速やかに鎮静化した.考察:RA患者に対するCCTLA4Ig投与はパラドキシカルリアクションとして強膜炎を発症することがあり,強膜炎の鎮静化にはステロイド治療の追加やCTNF-a阻害薬への変更が有用であった.CPurpose:Multipleparadoxicalreactionstobiologicalagentshavebeenidenti.ed,includingincasesofoculardisease.CHereCweCreportC2CcasesCofCscleritisCinducedCbyCCTLA4Ig.CCasereport:CaseC1CinvolvedCaC64-year-oldCfemalepatienthadbeenreceivingabataceptforrheumatoidarthritis.After3months,shedevelopeddi.usescleri-tisCwithCperipheralCcornealCin.ltration,Cblepharitis,CandCsecondaryCglaucoma.CTopicalCsteroidsCwereCadministered,CandCtheCsymptomsCresolved.CSheCcurrentlyCcontinuesCtoCreceiveCabatacept.CCaseC2CinvolvedCaC76-year-oldCfemaleCpatientCwhoCdevelopedCpneumocystisCpneumoniaCassociatedCwithCabatacept.CAbataceptCwasCsuspended,CandCsheCdevelopedCdi.useCscleritis.CAbataceptCwasCre-administered,CbutCtheCscleritisCworsenedCandCwasCaccompaniedCbyCmacularCedema.CAfterCswitchingCfromCabataceptCtoCgolimumab,CherCscleritisCandCmacularCedemaCcompletelyCresolved.Conclusion:Scleritis,asaparadoxicalreaction,canbeinducedbyCTLA4Ig.Scleritisresolvedfollowingadministrationofsteroidtherapyorswitchingthebiologictreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(5):636.639,C2020〕Keywords:強膜炎,パラドキシカルリアクション,生物学的製剤,アバタセプト,CTLA4Ig,関節リウマチ.scleritis,paradoxicalreaction,biologicalproducts,abatacept,CTLA4Ig,rheumatoidarthritis(RA).Cはじめに近年,炎症性疾患の治療薬としての生物学的製剤の開発はめざましく,多様な炎症性サイトカインや細胞表面分子の機能調節をする製剤が臨床応用されている.しかし一方で,生物学的製剤が炎症を誘発するパラドキシカルリアクション(paradoxicalreaction:逆説的反応)とよばれる現象が,副反応として報告されるようになった1).生物学的製剤を投与された患者に,パラドキシカルリアクションによる眼炎症が誘発された報告も散見される2).関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は強膜炎に随伴する疾患としてもっとも頻度が高いが,今回,眼炎症疾患の既往のないCRA患者にCTLAIg製剤であるアバタセプト(ABT)がCRA治療目的で〔別刷請求先〕大石典子:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:NorikoOishi,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusoHospital,1715Kamagari,Inzai,Chiba270-1694,JAPANC636(134)abcd図1症例1の左眼前眼部所見と眼窩MRI像関節リウマチに対するアバタセプト導入C3カ月後に角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し(Ca),眼窩CMRI(T2脂肪抑制CSTIR)で左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(Cb.).強膜炎はステロイド点眼薬と免疫抑制薬点眼およびセレコキシブ内服では消退せず(Cc),トリアムシノロンアセトニド結膜下注射により消炎した(Cd).導入され,パラドキシカルリアクションによる強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したため報告する.CI症例〔症例1〕64歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛,左眼瞼腫脹.既往歴:RA.現病歴:59歳でCRAと診断され,近医内科でメソトレキサート(MTX)内服下でCRAはC4年間寛解状態であった.その後CRAの全身症状が再燃したため,プレドニゾロン(PSL)5Cmg,タクロリムス(Tac)1Cmgを投与されたが軽快せず,当院リウマチ内科に紹介されCABTを導入された.ABT導入のC3カ月後に左眼の充血と疼痛,眼瞼腫脹を自覚し近医眼科を受診し,左眼の強膜ぶどう膜炎,眼瞼炎,続発緑内障の診断でC201X年C1月C23日に日本医科大学眼炎症外来(以下,当科)に紹介された.なお,今回まで眼炎症疾患の既往はなかった.初診時所見:矯正視力は右眼C0.6(0.9C×sph.1.75D(cylC.1.75DAx80°),左眼C0.4(0.6C×sph+2.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C21mmHg,左眼C26mmHgであった.左眼瞼腫脹と,左眼の角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎(図1a),前房内炎症細胞(セル)1+を認めた.右眼の前眼部には異常所見は認めなかった.両眼ともCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底図2症例2の右眼前眼部所見関節リウマチに対するアバタセプト(ABT)投与歴がありプレドニゾロンとタクロリムス内服中に強膜炎を発症した(Ca).ステロイド点眼と免疫抑制薬点眼,セレコキシブ内服,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射のC6カ月後も強膜炎症は遷延した(Cb).ABT再投与のC1週間後に強膜炎は増悪し(Cc),10週間後にCABTをゴリムマブに変更したところC1カ月で消炎した(Cd).A.Dのそれぞれ上段は右眼上方,下段は右眼鼻側.に異常を認めなかった.初診時の眼窩CMRI(T2脂肪抑制STIR)像で,左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(図1b).経過:リウマチ内科からのCABTは継続したままで,ベタメタゾンC0.1%点眼左眼C6回,免疫抑制薬点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服,眼圧下降薬点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩)を追加したところ,1週後には眼瞼腫脹は消退し,眼圧は正常値(16/20CmmHg)になったが,強膜炎は消炎しなかった(図1c).そのため,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射を施行したところ,そのC1カ月後には消炎した(図1d).2カ月後には左眼矯正視力は(1.2C×sph+2.00D(cyl.2.75DAx90°)まで改善を認めた.〔症例2〕76歳,女性.主訴:右眼の充血と疼痛.既往歴:RA,2型糖尿病(HbA1c7.5%,リナグリプチン5Cmg1日C1回内服にて加療中).現病歴:67歳でCRAと診断され,近医内科でCPSLとCMTXの内服併用で加療されていた.一時関節炎のコントロール不良時にCABT導入されたがニューモシスチス肺炎を発症したため中止し,当院リウマチ内科に紹介されCPSL4CmgとCTac2Cmg内服中に右眼の充血と疼痛を自覚し,201X年C3月C22日に当科に紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(0.8C×sph+0.50D(cyl.1.50CDAx70°),左眼(0.9C×sph+1.75D(cyl.1.75DAx100°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C12CmmHgであった.両眼に強膜血管の拡張と怒張,強い充血を認め,びまん性強膜炎の所見を呈した(図2a).角膜浸潤や前房内炎症は認めなかった.両眼にCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底に異常を認めなかった.経過:ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C4回とCTac0.1%点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服により,8週後には左眼の強膜炎は消退したが,右眼は消炎せず,トリアムシノロンアセトニドC0.1Cml結膜下注射施行後も約C6カ月強膜炎は遷延化した(図2b).そのためリウマチ内科にCTNFCa阻害薬の導入を依頼したが,肺炎の既往があり重症感染症リスクがCTNFa阻害薬よりも低い薬剤選択が望ましいという理由でABTが投与された.ところが,ABT導入後C1週で右眼の強膜炎は増悪し(図2c)黄斑浮腫も併発した.その後も改善を認めず,ABT導入C10週後にリウマチ内科でCABTをゴリムマブ(GLM)に変更したところC1カ月で強膜炎は速やかに消炎した(図2d).CII考按RAは,早期に集中した治療を行うことが寛解や炎症活動性の低下に結びつくとして,従来の抗リウマチ薬(disease-modifyingCantirheumaticdrugs:DMARDs)無効例に対し,生物学的製剤(biologicaldrugs)の導入が推奨されている.現在わが国では,ABTを含むC7種類の生物学的製剤が承認され臨床的に使用されている3).ABTは,CTLA4CIg4)すなわち,CTLA4分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のCFc領域からなる可溶性融合蛋白である.CTLA4は免疫チェックポイント分子の一つであり,CTLA4IgはCD80/86に結合することで,CD80/86のCT細胞表面レセプターであるCCD28を介したCT細胞の活性化を阻害する4).わが国でも欧米に続き,関節リウマチ治療薬として承認され,有効性および安全性が報告されている5).生物学的製剤は,単一のサイトカインや細胞表面分子を阻害して抗炎症効果を発揮するが,逆に炎症を誘発する現象が起きることがあり,これをパラドキシカルリアクションとよぶ1).代表的なものとして,TNFCa阻害薬による乾癬の発生がよく知られるが,パラドキシカルリアクションの臨床症状は多彩であり,皮膚症状,炎症性腸疾患,ぶどう膜炎や強膜炎,サルコイドーシス,血管炎,その他の自己免疫性疾患などの発生が報告されている1).眼科領域では,TNFCa阻害薬のエタネルセプトがパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎を誘発することが広く知られているが2),眼炎症疾患に対する高い治療効果が知られるインフリキシマブとアダリムマブによるパラドキシカルリアクションとして眼炎症疾患の発症や増悪が起きた報告もまれではあるが存在する6).パラドキシカルリアクションを生じる生物学的製剤は,TNFCa阻害薬の他にも,IL-12/23p40抗体であるウステキヌマブ,CD20抗体であるリツキシマブ,IL-6抗体であるトシリズマブ,ABTなど多種が報告されている1).ABTによるパラドキシカルリアクションは乾癬様皮疹の発生の報告が多く,その機序として,T細胞サブセットのCTh1細胞の活性化を抑制するCCTLA-4Igは,むしろCTh17を活性化させ,Th17細胞が炎症病態の中心的役割をもつ乾癬が誘発されると考えられている7).わが国では,眼科領域の疾患に対して,ABTの保険適応はなく,欧米でも眼炎症疾患に対するその治療効果については明らかではない8).また,ABTによるパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎が発症した報告も筆者らが検索した範囲ではなく,本論文が最初の症例報告である.実験的ぶどう膜炎においてはCCTLA4Igは網膜炎の抑制効果をもつことが示されている9).しかし,その一方で,ぶどう膜炎と強膜炎の病態にCTh17が関与することは報告されており10),前述したCCTLA4Igによる乾癬発症の機序7)から推察すれば,CTLA4IgによりCTh1の炎症は抑制されても,一方でCTh17が誘導され,Th17による強膜炎が誘発された可能性がある.今回経験したCCTLA4Ig投与後に発症した強膜炎のC2症例のうち,症例C1は眼局所ステロイド治療で強膜炎および眼瞼炎症は改善した.しかし,症例C2は眼局所ステロイド治療後も強膜炎が遷延化したため,生物学的製剤をCABTからCTNFa阻害薬であるCGLMに切り替えたところ,強膜炎は速やかに消退した.眼炎症疾患の原因として薬剤のパラドキシカルリアクションが疑われた場合は,薬剤の切り替えが有用である.とくにCGLMは眼炎症を誘発した報告はなく,他剤のパラドキシカルリアクションを疑う場合に,切り替え候補薬として念頭に置く必要がある.また,今回のC2症例においては皮膚症状や炎症性腸疾患などの眼科領域以外のパラドキシカルリアクションの症状は認めなかった.最後に,生物学的製剤の開発と臨床応用の進歩はめざましいものがあり,RAや炎症性腸疾患をはじめとする難治性炎症疾患の治療予後が向上しているのは間違いない.しかし,その一方で,生物学的製剤のパラドキシカルリアクションの原因薬剤と臨床症状は多様化し増加しているので注意を要する.眼炎症疾患の患者の診療においては,背景となる全身疾患を把握するとともに,他科での薬剤投与歴を正確に把握し,パラドキシカルリアクションを疑ったら他科と連携して薬剤変更を検討することが必要である.文献1)PuigL:Paradoxicalreactions:Anti-tumorCnecrosisCfac-torCalphaCagents,Custekinumab,Csecukinumab,Cixekizumab,Candothers.CurrProblDermatolC53:49-63,C20182)SassaY,KawanoY,YamanaTetal:Achangeintreat-mentCfromCetanerceptCtoCin.iximabCwasCe.ectiveCtoCcon-trolCscleritisCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritis.CActaCOphthalmologicaC90:e161-e162,C20123)SmolenCJS,CLandeweCR,CBijlsmaCJCetal:EULARCrecom-mendationsCforCtheCmanagementCofCrheumatoidCarthritisCwithCsyntheticCandCbiologicalCdisease-modifyingCantirheu-maticCdrugs.C2016Cupdate.CAnnCRheumCDisC76:960-977,C20174)GreeneJL,LeytzeGM,EmswilerJetal:Covalentdimer-izationCofCCD28/CTLA-4CandColigomerizationCofCCD80/CCD86CregulateCTCcellCcostimulatoryCinteractions.CJCBiolCChemC271:26762-26771,C19965)KremerCJM,CDougadosCM,CEmeryCPCetal:TreatmentCofCrheumatoidarthritiswiththeselectivecostimulationmod-ulatorabatacept:twelve-monthCresultsCofCaCphaseCiib,Cdouble-blind,Crandomized,Cplacebo-controlledCtrial.CArthri-tisRheumC52:2263-2271,C20056)ToussirutE,AibinF:ParadoxicalreactionsunderTNF-ablockingCagentsCandCotherCbiologicalCagentsCgivenCforCchronicCimmune-medicateddiseases:anCanalyticalCandCcomprehensiveoverview.RMDOpenC2:e000239,C20167)AndersonCDE,CBieganowskaCKD,CBar-OrCACetal:Para-doxicalinhibitionofT-cellfunctioninresponsetoCTLA-4blockade;heterogeneitywithinthehumanT-cellpopu-lation.NatMed6:211-214,C20008)ChristophT,ElisabettaM,BahramBetal:Abataceptinthetreatmentofsevere,longstanding,andrefractoryuve-itisassociatedwithjuvenileidiopathicarthritis.JRheuma-tolC42:706-711,C20159)IwahashiC,FujimotoM,NomuraSetal:CTLA4-Igsup-pressesCdevelopmentCofCexperimentalCautoimmuneCuveitisCinCtheCinductionCandCe.ectorphases:ComparisonCwithCblockadeofinterleukin-6.ExpEyeResC140:53-64,C201510)Amadi-ObiA,YuCR,LiuXetal:TH17cellscontributetoCuveitisCandCscleritisCandCareCexpandedCbyCIL-2CandCinhibitedbyIL-27/STAT1.NatMedC13:711-718,C2007