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濾過胞形成不全に対するニードリングの成績

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):735.737,2020c濾過胞形成不全に対するニードリングの成績嵜野祐二田村弘一郎横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座CResultsofNeedlingforBlebFailureYujiSakino,KouichiroTamura,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)後の濾過胞形成不全に対するニードリングの成績について検討した.対象および方法:ニードリングを施行したC20例C20眼が対象.ニードリング施行前後の眼圧,ニードリング施行回数につき検討した.結果:ニードリングのみ施行はC13眼,ニードリングが奏効せず追加観血的手術を要したのはC7眼であった.初回ニードリングからの観察期間は平均C10.2C±14.6カ月.ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.眼圧はC27.0C±5.9CmmHg(12.35CmmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36mmHg)と優位に下降した(p=0.0009).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離がC2例ずつみられたが自然軽快した.結論:ニードリングは重篤な合併症が少なく,およそ半数の症例で奏効する可能性があり,積極的に施行してよいと考える.CPurpose:ToCevaluateCtheCresultsCofCneedlingCrevisionCforCblebCfailurefollowingCtrabeculectomy(TLE)withmitomycinC(MMC)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved20eyesof20patientswhounderwentneedlingrevision.Inallpatients,intraocularpressure(IOP)andthenumberofneedlingrevisionsrequiredduringtheobser-vationCperiodCwasCexamined.CResults:ThirteenCeyesCunderwentCneedlingCrevisionCalone,CwhileC7CeyesCrequiredCadditionalCsurgeryCdueCtoCtheCneedlingCrevisionCbeingCunsuccessful.CTheCmeanCobservationCperiodCfollowingC.rstCneedlingrevisionwas10.2±14.6months.Themeannumberofneedlingrevisionswas2.3±1.7times(range:1-6times).MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom27.0±5.9CmmHg(range:12-35mmHg)to17.5±7.5CmmHg(range:9-36CmmHg)(p=0.0009)C.CComplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC2CcasesCandCchoroidalCdetachmentCinC2Ccases,CyetCtheyCwereCspontaneouslyCrelieved.CConclusions:NeedlingCrevisionChadCfewCseriousCcomplications,CandCwase.ectivein50%ofthepatientswithfailingblebsfollowingtrabeculectomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):735.737,C2020〕Keywords:線維柱帯切除術,ニードリング,濾過胞形成不全.trabeculectomy,needling,blebfailure.はじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は緑内障に対するもっとも標準的な外科手術で,眼圧下降効果が高い1).2012年にCglau-comaCdrainagedevice(GDD)を用いた緑内障手術が,2018年には水晶体再建術併用眼内ドレナージ挿入術が保険適用となり,治療の選択肢が広がったが,依然として緑内障手術の中でもっとも施行件数が多いのはCTLEである2).しかしながら,術後の濾過胞形成不全による房水流出障害,眼圧上昇が生じ,ニードリングを要することがある3.5).ニードリング施行後の合併症には過剰濾過,低眼圧,脈絡膜.離,硝子体出血などがあるが,外来で簡便に施行でき,良好な濾過胞形成や眼圧下降が得られるため,濾過胞再建の第一選択として施行されることが多い.本研究では,当院におけるCMMC併用CTLE後の濾過胞形成不全に対し,ニードリングを施行した症例について検討した.CI対象および方法対象は2013年1月.2019年5月末にMMC併用TLEを施行したC465例C465眼中,濾過胞形成不全でニードリング〔別刷請求先〕嵜野祐二:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YujiSakino,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama,Yufu-city,Oita879-5593,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C735表1対象症例の詳細症例年齢性別病型既往手術歴TLEから初回ニードリングまでの期間(週)ニードリング回数()はその内MMC使用回数追加手術観察期間*(月)眼圧(mmHg)合併症前後C1C69男性CPOAGCTLOTLEC172(0)なしC6C28C16なしC2C64男性CPOAGCTLOTLEC201(0)なしC16C20C18なしC3C57男性CPOAGCTLOC41(0)なしC7C12C9なしC4C81男性CPOAGC381(0)なしC5C21C15なしC5C84男性CPOAGCPEA+IOLC51(0)なしC4C26C16CCDC6C83男性CPOAGCPEA+IOLC81(0)なしC8C19C15なしC7C64男性CEXGC133(0)なしC9C29C10なしC8C69男性CEXGC41(0)なしC64C25C14なしC9C86男性CEXGC51(0)なしC5C30C9なしC10C81男性CEXGC51(0)なしC6C25C15なしC11C68男性CNVGC91(0)なしC3C33C12なしC12C51男性CNVGC352(1)なしC6C31C15CVHC13C80男性CSGC41(0)なしC16C35C10CCDC14C61男性CPOAGCPPVtripleC43(1)CTLEC28C24C18なしC15C85男性CEXGCTLOC54(0)CTLEC12C29C24なしC16C78男性CEXGCTLOTLEC94(1)CTLEC12C32C22なしC17C37女性CNVGCPPVtripleC36(2)再建,TLE,BGIC7C32C36なしC18C46女性CNVGCPPVtripleC93(2)再建C6C23C16CVHC19C22男性CSGCTLOC71(0)再建,BGIC3C30C32なしC20C71男性CCGCTLOtripleC86(2)再建,TLE,BGIC4C35C29なしPOAG:原発開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,NVG:血管新生緑内障,SG:続発緑内障,CG:小児緑内障,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,PEA+IOL:水晶体再建術+眼内レンズ挿入術,PPV:硝子体切除術,再建:観血的濾過胞再建術,BGI:バルベルト緑内障インプラント,CD:脈絡膜.離,VH:硝子体出血.*観察期間は,ニードリングのみ施行した症例は最終受診時まで,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前まで.を施行したC20例C20眼(男性C18眼,女性C2眼)である.診療録を後ろ向きに調査した.年齢はC66.7C±16.9歳(22.86歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)7眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)6眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)4眼,EXG以外の続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)2眼,小児緑内障(childhoodglaucoma:CG)1眼であった.MMC併用CTLEは全例で円蓋部基底結膜切開であった.手術既往のあるものはC12眼.TLEから初回ニードリングまでの期間はC10.6C±9.9週(3.38週)であった(表1).初回ニードリングは円蓋部結膜下にC0.2%キシロカインを注射後,濾過胞から十分離れた上方球結膜よりC25CG針を刺入し,濾過胞周囲結膜下の癒着を.離した.濾過胞形成が不十分の際は,針を強膜弁下に刺入して弁を浮かせ,良好な濾過胞が形成されるのを確認した.MMC結膜下注射を併用する場合は,0.04%CMMCとC0.2%キシロカインを1:1で混合したものを結膜下注射した後に施行した.術後に抗菌薬およびステロイド点眼を使用した.術後成績の評価にはCStudentのCt検定,Kaplan-Meier法を用いた.CII結果結果を表1に示す.単回あるいは複数回のニードリングを施行したのがC13眼,ニードリングが奏効せず追加手術を要したのがC7眼であった.追加観血的手術はCMMC併用CTLEがC5眼,観血的濾過胞再建術がC4眼.バルベルト緑内障インプラントがC3眼(重複あり)であった.ニードリング施行前および施行後(ニードリングのみ施行した症例は最終受診時,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前)の眼圧は,C27.0±5.9mmHg(12.35mmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36CmmHg)と有意に下降した(p=0.0009).初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義し,最終736あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(92)観察時までに死亡したのはC11眼であった(最終生存率C45%)(図1).ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.MMC結膜下注射を併用したニードリングはC6眼(計C9回)であった.MMC結膜下注射を併用したのはC2回目以降の施行であり,6眼のうちC5眼は追加観血的手術を要した.さらにこれらのC5眼には全例で内眼手術の既往があった(表1).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然経過した.CIII考按ニードリングで使用する注射針としては一般的にC25CG,27CG,30CGが多い.23CGを用いた報告もあるが5),径が太いと結膜縫合が必要となることがある.当院では初回施行時にはすべてC25CGを使用した.2回目以降は,結膜下組織が固いため注射針での.離が不十分な症例もあった.その際にブレブナイフ6)を使用したものがC2眼あったが,結膜縫合を要した症例はなかった.結膜下癒着の.離のみで十分な眼圧下降が得られない場合には,強膜弁下の増殖組織を解除する必要があるが7,8),その際にもC25CGは径や強度がほどよく有用性が高いと考える.初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義したところ,最終観察時での生存率がC45%であった.死亡したC11眼のうちC9眼で内眼手術の既往があり,手術既往のある眼は線維芽細胞の活動性が高くなることにより濾過胞の瘢痕化が生じやすく,ニードリングの効果が持続しづらくなるものと考える5).2回目以降のニードリングや追加手術を要さなかったものはC6眼(30%)で,既報とほぼ同様であった5).2回目以降を施行した症例のうち,MMC結膜下注射併用ニードリングを施行したのはC6眼(計C9回)であった.そのうちC5眼で内眼手術の既往があった.POAGではC7眼中C6眼で内眼手術の既往があったものの,単回のニードリングのみで最終的にC4眼が生存し,追加観血的手術を必要としたのはC1眼のみで,他の病型と比べニードリングが奏効した.追加観血的手術の内訳は濾過胞再建術C4眼,MMC併用CTLE5眼,バルベルト緑内障インプラントC3眼(重複あり)であった.最終的にはC3.18mmHg(9.4C±5.4CmmHg)と十分な眼圧下降が得られた.手術既往のある眼は,複数回のニードリングあるいは追加手術が必要となる症例が多く,線維芽細胞の活性化と濾過胞の瘢痕化が繰り返し生じて眼圧上昇すると考えられる.合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然軽快しており,眼内炎や水疱性角膜症などの重篤な合併症はなかった.本研究の限界は,対象がC20眼と少ない点であり,今後さ生存率(%)100806045%402000123456図1生存曲線初回ニードリング後,15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となったもの,あるいは追加観血的手術を施行したものを死亡と定義.4カ月を過ぎて以降,新たな死亡症例なし.らに症例を増やして検討を重ねる必要がある.ニードリングは手技が簡便で重篤な合併症が少なく,本研究ではC20眼のうちC9眼で奏効しており,濾過胞形成不全に対する第一選択として積極的に施行してよいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ErricoCD,CScrimieriCF,CRiccardiCRCetal:TrabeculectomyCwithCdoubleClowCdoseCofCmitomycinCCC-twoCyearsCofCfol-low-up.ClinOphthalmolC5:1679-1686,C20112)橋本洋平,道端伸明,松井宏樹ほか:本邦における近年の緑内障手術の傾向:大規模データベースを用いた記述研究.日眼会誌C123:815-823,C20193)TsaiCAS,CBoeyCPY,CHtoonCHMCetal:BlebCneedlingCout-comesCforCfailedCtrabeculectomyCblebsCinCAsianeyes:aC2-yearfollowup.IntJOphthalmolC8:748-753,C20154)LaspasP,CulmannPD,GrusFHetal:Revisionofencap-sulatedCblebsCaftertrabeculectomy:Long-termCcompari-sonCofCstandardCblebCneedlingCandCmodi.edCneedlingCpro-cedurecombinedwithtransconjunctivalscleral.apsutures.PLoSOneC12:e0178099,C20155)狩野廉,桑山泰明:注射針による濾過胞再建術(Needling)の術後成績.眼科手術C20:267-273,C20076)相良健:濾過胞再建用極細クレッセントナイフ「ブレブナイフ」.眼科手術23:71-74,C20107)相原一:線維柱帯切除術後の再発─同一創濾過胞再建術の実際─.MBOCULISTAC42:1-9,C20168)野村英一,安村玲子,石戸岳仁ほか:ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め.あたらしい眼科C34:1178-1181,C2017***(93)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C737

寄稿 私の視点 術前,術後抗菌薬点眼不要説

2020年6月30日 火曜日

寄稿私の視点術前,術後抗菌薬点眼不要説はじめに世界的な抗菌薬の乱用による耐性菌の爆発的な増加が懸念され,2015年の世界保健機関(WorldCHealthOrganization:WHO)総会で薬剤耐性(antimicrobialresistance:AMR)に対するアクションプランが採択された.翌年にはわが国でもアクションプランが採択され,今後は明確なエビデンスをもたない予防的抗菌薬投与には厳しい目が向けられるようになるだろう.これからの白内障術者は予防的抗菌薬を減量したうえで感染リスクを減少させることを求められる.それでもまだ“術前C3日前からC1日C3~4回の抗菌薬術前点眼を行い,術後も同様の点眼をC2週間~1カ月使用する”ことを延々と述べる総説を読みたいと思われるだろうか?本稿では,ご批判があるのを覚悟のうえで,術前,術後抗菌薬点眼が不要であるとする立場からその理をお示しする.C1.周術期感染予防の現状―日本での常識は世界の非常識か筆者らがC2016年に行った調査では,術前抗菌薬点眼(100%),ヨード製剤による術前の皮膚消毒(97%),術後抗菌薬点眼(98%),前房内抗菌薬投与(7%)であった(表1)1).ヨード製剤の使用法,抗菌薬の結膜下注射や抗菌薬入り灌流液の使用,術後抗菌薬点眼の開始のタイミングや使用期間などは,地域ごとの特徴はあるが千差万別であった.わが国では抗菌薬の術前点眼が術野の汚染度を有意に減少させるとする研究がよく知られており,白内障術前の抗菌薬点眼は多くの術者に採用されている2).松浦一貴*表1周術期の抗菌薬使用法日本CASCRS2016(544)C2017,CUSA術前点眼術直後点眼術後点眼灌流液内投与前房内投与結膜下注射硝子体注入C眼軟膏100%C35%C98%19%7%24%─78%C──64%↓13%42%↑8%7%↑─C2014年のヨーロッパの報告では,ヨード製剤による消毒は各国とも共通して広く行われていたが,抗菌薬点眼の使用法,前房内投与の普及度はさまざまであった(表2)3).前房内投与はスウェーデンC90%,イギリスC61%であったが,フランス,ドイツ,オランダ,イタリアはC50%未満であった.ドイツ,オランダ,イタリアでは術前および術後点眼が一般的であるが,イギリス,フランスでは術後点眼が主で,術前点眼はあまり行われていない.スウェーデンでは術前点眼のみでなく術後点眼すら行われていない3).2017年のヨーロッパ以外の地域の報告において,ヨード製剤による消毒は共通して行われていたが,抗菌薬前房内投与はオセアニアではC78%であったのに対し抗菌薬前房内投与は,米国,カナダ,南アフリカ共和国ではC20~40%程度であった(表3)4).中国,日本では一般的とはいえない.中国やアルゼンチン,米国では日本と同様に術前および術後点眼が広く用いられているが,カ*KazukiMatsuura:野島病院眼科〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863島根県倉吉市瀬崎町C2714-1野島病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(83)C727表2世界との比較1(欧州)スウェーデンフランスイギリスドイツオランダイタリア症例数C91,000C630,000C330,000C700,000C140,000C350,000眼内炎率0.02%0.03~C0.06%0.03~C0.20%0.06~C0.07%0.03%0.05~C0.35%ガイドラインCSwedishOphthalmolSocietyCNationalAgencyforHealthProductsSafetyCRoyalcollegeofOphthalmolCESCRSCDutchOphthalmolSocietyCESCRS前房内投与98%40%61%20%以下27%20%点眼推奨されず術前C28%術後C95%術前9%術後C90%術前C100%術後C100%術前C100%術後C100%術前C76%術後C100%国際的には術前点眼は当然の処置ではない.スウェーデンでは術後点眼も行われていない.(文献C3より引用)表3世界との比較2日本米国カナダオセアニア南アフリカアルゼンチン症例数C1,000,000C3,500,000C250,000C240,000不明C170,000眼内炎率0.05%0.06~C0.20%0.03~C0.15%0.06%不明不明ガイドラインなしCAAOCCanadianOphthalmicSocietyなしなしなし前房内投与7%42%30.0%78.3%30.0%20.2%点眼術前C99%術後C100%術前C88%術後C98%術前C53.8%術後C100%術前C33.2%術後C98.5%術後のみ汎用される術前C99%術後C99%国際的には術前点眼は当然の処置ではない.ナダ,オセアニア,南アフリカでは術前点眼は一般的ではない.C●Droplesssurgery近年,点眼をほとんど用いないCdroplesssurgeryの概念が北米で提唱されはじめている5).術前および術後点眼を用いずに,トリアムシノロンとモキシフロキサシン(MFLX)の合剤(TORI-MOXI)を硝子体内に注入して手術を終える.サイドポートから鈍針の先端を虹彩下に挿入し,Zinn小帯経由で硝子体内に薬液を注入する.2017年の米国白内障・屈折矯正手術学会(AmericanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgery:ASCRS)の調査ではC7%の術者が手術終了時に抗菌薬を硝子体投与すると回答した(表1).ハイリスク症例ではない,すべての症例に行う処置としてはいささかやり過ぎの感がある.患者が点眼しなくてよいメリットは,患者のコンプライアンスに頼らない,コストの低減,点眼指導にかけるスタッフの負担軽減である.(文献C4より引用)C2.そもそも何のための点眼なのかを考えてみるまず,術前点眼は術中の術野の菌を減らすための点眼である.眼内炎の多くが術野に存在する菌によって引き起こされるといわれている.そのため術前の減菌によって,術野の起因菌の量を減らすことが良いとされてきた.しかし,術中にヨード消毒を行いながら手術をする概念が提唱されて事情が変わった.島田らによる術中ヨードの報告によると,0.25%ヨードをかけ続けて手術をすれば手術終了時の前房内に菌は存在しないという6).すなわち,術中ヨードを有効に活用すれば,術前および術後点眼が必須ではなくなる可能性がある.●術前点眼の必要性を検証する研究島田らの方法は,術前点眼を併用している.また,20秒おきに頻回にヨードを使用するために角膜上皮障害の懸念がある.そこで,筆者らは手術開始時と眼内レンズ挿入時のC2回にヨード使用を限定した方法を用いている(ヨードC2回法:timelyintraoperativeiodine)7).筆者らは,白内障術中にヨード製剤を使用すれば抗菌表4術前に検出された菌種と株数total470株204眼中C192眼からC470株の菌が検出された.主要な眼内炎起因菌C5種C192株(赤字)のうち,抗菌薬に対する感受性試験が施行できたのはC190株.薬術前点眼が不要であるという仮定を検証した.術前点眼を用いるが術中ヨードを用いない術前点眼群(102眼)と,術中ヨードを用いるが術前点眼を用いない術中ヨード群(102眼)のC2群において,術前,術中,および術後早期の術野の細菌汚染度を調査した(表4).手術C1週間前,開瞼器装着後,手術C2時間後の培養陽性率は,術前点眼群でC98%,6%,63%.術中ヨード群でC95%,8%,61%であり,有意差はなかった.1眼あたりの検出菌数にも有意な差を認めなかった.ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)を用いた術中汚染度の評価ではヨード群のほうが清潔度は高かった.抗菌薬には感受性のない菌も存在するが,ヨードは非特異的に作用する.以上の結果より,筆者らはポリビニルアルコールヨウ素(PA・ヨード)は術中の清潔度を確保する現実的な選択肢であり,術中ヨードを用いれば術前抗菌薬点眼は必須ではないと考えるようになった.ヨードの強力な消毒効果が,点眼の抗菌効果を凌駕しているためと思われる.ヨード製剤には基本的に耐性菌が存在せず,30秒でほぼすべての眼内炎起因菌に効果がある.一方,抗菌薬点眼を頻用すれば耐性菌が選択される可能性がある.抗菌薬点眼は患者のコンプライアンスに左右されるが,術中ヨードは医療従事者により全症例の術中に確実に施行される.C3.何のための点眼なのかというもう一つの答え術後点眼は,術中に眼内に持ち込まれた菌を減らすための点眼である.この目的には有効濃度の薬液が眼内に浸透する必要がある.筆者らは先の研究において,術前表5術前に検出された主要眼内炎起因菌190株の薬剤感受性MIC抗菌薬C(Cμg/ml)LVFXCMFLXCGFLX1<2<4<8<32<92/190(C48.4%)33/190(C22.6%)48/190(C25.3%)41/190(C26.8%)18/190(9C.5%)42/190(C22.1%)43/190(C22.6%)12/190(6C.3%)15/190(7C.9%)18/190(9C.5%)8/190(4C.2%)7/190(3C.7%)6/190(3C.2%)5/190(2C.6%)6/190(3C.2%)主要な眼内炎起因菌(n=190):S.epidermidisを含むCCNS,S.aureus,E.faecalis,StreptococcusCsp.表6術前に検出されたS.epidermidisの薬剤感受性MIC抗菌薬C(Cμg/ml)LVFXCMFLXCGFLX1<37/82(4C5.1%)33/82(4C0.2%)37/82(4C5.1%)2<37/82(4C5.1%)10/82(1C2.2%)33/82(4C0.2%)4<32/82(3C9.0%)6/82(7C.3%)8/82(9C.8%)8<11/82(1C3.4%)5/82(6C.1%)5/82(6C.1%)32<4/82(4C.9%)3/82(3C.7%)4/82(4C.9%)(n=82)に検出された菌のうち,眼内炎の主要起因菌として知られるC5菌種C190株の最小発育阻止濃度(minimuminhib-itoryconcentration:MIC)を調査した.わが国において,周術期にもっとも頻用される点眼はレボフロキサシン(LVFX)であるが,LVFXをC10分おきにC4回点眼しても前房内濃度はC1Cμg/ml程度である.主要起因菌(190株)のうちC48.4%,表皮ブドウ球菌(82株)のうちC45.1%はMICが1Cμg/mlを超えている(表5,6).MFLX,ガチフロキサシン(GFLX)の頻回点眼後の前房内濃度はそれぞれC2Cμg/ml,1Cμg/ml程度である.LVFXよりは感受性菌の割合が高い濃度にはなるが,それでも十分とはいいがたい.MICがC32Cμg/mlを超える高度耐性菌も数%存在している.これに対して,抗菌薬を直接眼内に注入する前房内投与であれば,任意の濃度が得られる利点がある.10倍希釈CMFLXを用いた前房内投与であるフラッシュ法では,高度耐性菌のCMICを凌駕する約500Cμg/mlの前房内濃度が確実に得られる9).術後点眼には創口の閉鎖が不十分である術後早期に眼内に菌が持ち込まれることを防ぐ効果も期待できるという考え方もある.すなわち,術後感染を予防するための術後の結膜.の減菌化を期待した術後点眼である.先に述べた筆者らの研究における術後C2時間の培養結果およびCLVFX感受性を表7,8に示す.術後わずかC2時間で表7術後2時間の起因菌検出数表8S.epidermidisのLVFX感受性術中ヨード術前点眼計(1C02眼)(1C02眼)(2C04眼)CS.epidermidis17眼21眼38眼その他の起因菌18眼13眼31眼合計35眼34眼69眼34%に培養陽性となっている(表7).すなわち,術後の減菌化効果を期待するならば,手術終了C2時間以内から開始し,2時間以内の間隔の頻回点眼が必須ということになる.さらに検出された表皮ブドウ球菌C38株において,22/38株のMICが2μg/ml以上(57.9%)で,20/38(57.9%)のCMICがC4Cμg/ml以上(52.6%)であることから(表8),このタイミングで菌が眼内に持ち込まれたときの術後点眼の効果は限定的といわざるを得ない.フラッシュ法による前房内投与ならば,約C500Cμg/mlの前房内濃度が確実に得られる.薬液の前房内での半減期をC1時間強とした場合10)に,術後C5~8時間は頻回点眼で得られる濃度よりも多い薬液が眼内にとどまる.フラッシュ法は術中に持ち込んだ菌だけでなく,術直後,術後早期(当日)の術後感染の対策としても有効である.以上より,筆者らの研究の結果は,①術中ヨードを使用する限り術前点眼は必須ではない,②術後点眼の効果は不十分かつ限定的である,ということである.C4.筆者らの実際に行っていることとその理術前点眼は不要と考えており使用していない.全例にヨードC2回法による術中ヨード消毒を行い,フラッシュ法によるC10倍希釈CMFLX前房内投与を施行する.具体的な手技や理論については他稿に詳述した11).術後点眼もほぼ不要と考えているが,不必要であると言いきるだけのエビデンスをもたないため,最小限としてC1~2週間のみ使用している.そもそも論であるが,術後感染予防というクリティカルな問題を,術者自身で行わずに高齢者が多い患者本人にゆだねているのが現状であり,患者は必ずしも指示されたように点眼をしていない12,13).また,術後点眼が長くなると表皮ブドウ球菌が耐性化する14).C5.硝子体内注射についても考えてみる白内障手術と硝子体内注射の対象者の年齢は近いことMIC(Cμg/ml)術前C1週間術後C2時間C0.25C42C16C0.5C3C1C2C2C15C2C4C12C13C8C3C4C16C1C32C64C3C128C1C3合計82株38株耐性菌が多い,耐性誘導されているわけでなく,皮膚眼瞼から速やかな再汚染が起こっている.から,先ほどの術前の眼内炎起因菌のCMICを硝子体内注射に応用して考えることが可能である.硝子体内注射については,約C12万例の後ろ向き研究では,術後点眼グループでむしろ感染多いことも示されている.繰り返し施行される硝子体内注射においては,周術期点眼による耐性誘導の問題が顕著である15).米国眼科学会(AmericanCAcademyCofOphthalmology:AAO)のガイドラインでは,術前の抗菌薬を用いずに開瞼器をかけたあとにヨード消毒を行うことが記載されている.白内障手術は術中に眼内に器具を挿入する機会が多いが,硝子体内注射は針が侵入するタイミングのみに厳密な減菌ができれば十分である.筆者らは注射の直前に刺入部の十分なヨード消毒を行えば術前点眼は必須でないと考えている.硝子体内注射薬の添付文書には硝子体内薬液注入に際して,広域抗菌薬の術前C3日間の点眼を施行する旨が書かれている.しかし,2016年の日本網膜硝子体学会の「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」では,術前の抗菌薬点眼の必要性について“施設または施設者が個々に判断すべきである”と明記されており16),各医師の裁量として術前点眼の必要性を各自が判断してもよいと解釈される.また,もっとも眼内移行のよいとされるCMFLXの頻回点眼で得られる硝子体濃度は約C0.2Cμg/mlであることから,注射後の点眼の効果は期待できない17).抗菌薬に対する耐性の誘導というデメリットを犯してまで眼内移行が乏しい抗菌薬点眼を処方する意義は乏しい.6.全身投与についても考えてみる点滴静注としてはセフェムが用いられる場合が多いが,セフタジジム(モダシン)の点滴静注による全身投与で想定される硝子体濃度はわずかC0.1~0.2Cμg/mlであり表皮ブドウ球菌のCMICにまったく及ばない18).セフタジジムの表皮ブドウ球菌に対するCMICはC4Cμg/ml以上でC95.1%であったが,セフタジジムと同じ第三世代のセフェムであるセフォペラゾンの点滴後の前房内濃度はC2Cμg/ml程度にとどまる19).また,イミペネムを点滴静注する場合もありうる.イミペネムのCMICは比較的低値であり20),効果的にみえるが,培養で良好なCMICの場合ですら効果不十分な場合が少なくないというのが内科的に定評となっている.これは容易に耐性化が起こるためとされている.眼内炎の急性期に点滴治療で用いれば,効果が得られるケースがないとはいえないが,広く予防的に用いることはイミペネムの耐性菌を市中に放出する行為といえる.白内障術前にこれらの抗菌薬の予防的な全身投与を行うことは効果に乏しいのみでなく,AMRの概念からして行うべきものではないと考えている.一方で,キノロンの内服を数日行っている施設もあるようである.LVFXの内服で前房内,硝子体内濃度が約C2Cμg/mlになる21).十分な濃度とはいえないまでも,それなりの濃度ではある.周術期にC3日程度内服をしている施設の感染予防に多少なり寄与している可能性はある.おわりに日清食品の創始者である安藤百福は“明日になれば,今日の非常識は常識になっている”といっている.ドラッカーの金言にも同様の言葉があるし,有名な宇宙物理学者であるホーキング博士も同じ言葉を残している.歴史に名を残すような優秀な経営者になるには常識をぶち壊す必要があるが,常識を守れない社員は存在価値すら危うい.また,常識は,卓越した研究者にとっては常に疑うべきものである.我々は反抗期の中高生ではないので常識にむやみに反抗する必要はない.しかし,一昔前の常識の中には,もはや順守すべき価値のないもの,守ってはいけないものも含まれている.時代が変わっても残すべきものは当然あるが変わるべきものもある.本稿が読者の中で従うべきものが何なのかを考えるきっかけとなれば幸いである.文献1)松浦一貴,宮本武,田中茂登ほか:臨床研究日本国内での白内障周術期の消毒法および抗菌薬投与法の現況調査.日眼会誌121:521-528,C20172)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnCJOphthalmolC52:151-161,C20083)BehndigCA,CCochenerCB,CGuellCJLCetal:EndophthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCinC9CEuropeanCcountries.CJCCataractCRefractSurgC39:1421-1431,C20134)GrzybowskiCA,CSchwartzCSG,CMatsuuraCKCetal:Endo-phthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCaroundCtheCworld.CCurrCPharmCDes23:565-573,C20175)LindstromCRL,CGallowayCMS,CGrzybowskiCACetal:Drop-lesscataractsurgery:anoverview.CurrPharmDesC23:C558-564,C20176)ShimadaCH,CAraiCS,CNakashizukaCHCetal:ReductionCofCanteriorCchamberCcontaminationCrateCafterCcataractCsur-gerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povi-done-iodine.CAmJOphthalmol151:11-17,Ce11,C20117)MatsuuraK,MiyazakiD,SasakiSIetal:E.ectivenessoftimelyintraoperativeiodineirrigationduringcataractsur-gery.JpnJOphthalmolC60:433-438,C20168)MatsuuraCK,CMiyazakiCD,CSasakiCSCetal:E.ectivenessCofCintraoperativeCiodineCinCcataractsurgery:cleanlinessCofCtheCsurgicalC.eldCwithoutCpreoperativeCtopicalCantibiotics.CJpnJOphthalmolC64:37-44,C20209)MatsuuraCK,CSutoCC,CAkuraCJCetal:BagCandCchamber.ushing:aCnewCmethodCofCusingCintracameralCmoxi.oxa-cinCtoCirrigateCtheCanteriorCchamberCandCtheCareaCbehindCtheCintraocularClens.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:81-87,C201310)MatsuuraK,SutoC,AkuraJetal:ComparisonbetweenintracameralCmoxi.oxacinCadministrationCmethodsCbyCassessingCintraocularCconcentrationsCandCdrugCkinetics.CGraefesArchClinExpOphthalmolC251:1955-1959,C201311)松浦一貴:白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策.あたらしい眼科35:1631-1639,C201812)AnJA,KasnerO,SamekDAetal:EvaluationofeyedropadministrationCbyCinexperiencedCpatientsCafterCcataractCsurgery.JCataractRefractSurgC40:1857-1861,C201413)大松寛,松浦一貴,井上幸次:白内障術前点眼薬の施行率と点眼方法の観察.IOL&RSC32:644-647,C201814)NejimaR,ShimizuK,OnoTetal:E.ectoftheadminis-trationperiodofperioperativetopicallevo.oxacinonnor-malCconjunctivalCbacterialC.ora.CJCCataractCRefractCSurgC43:42-48,C201715)StoreyCP,CDollinCM,CPitcherCJCetal:TheCroleCofCtopicalCantibioticCprophylaxisCtoCpreventCendophthalmitisCafterCintravitrealinjection.OphthalmologyC121:283-289,C201416)小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C201617)HariprasadCSM,CBlinderCKJ,CShahCGKCetal:PenetrationCpharmacokineticsCofCtopicallyCadministered0.5%Cmoxi.oxacinCophthalmicCsolutionCinChumanCaqueousCandCvitreous.ArchOphthalmol123:39-44,C200518)MochizukiCK,CYamashitaCY,CTorisakiCMCetal:IntraocularCkineticsCofceftazidime(Modacin)C.COphthalmicCResC24:C150-154,C199219)AxelrodJL,KochmanRS:CefoperazoneconcentrationsinhumanCaqueousChumorCafterCintravenousCadministration.CAmJOphthalmolC94:103-105,C198220)AxelrodCJL,CNewtonCJC,CKleinCRMCetal:PenetrationCofCimipenemintohumanaqueousandvitreoushumor.AmJOphthalmolC104:649-653,C198721)GeorgeCJM,CFiscellaCR,CBlairCMCetal:AqueousCandCvitre-ousCpenetrationCofClinezolidCandClevo.oxacinCafterCoralCadministration.JOculPharmacolTherC26:579-586,C2010

基礎研究コラム 37.細胞死と細胞競合

2020年6月30日 火曜日

細胞死と細胞競合細胞競合(cellcompetition)とはわれわれの身体には,さまざまな原因でCDNA障害を受けた細胞は不要な細胞として細胞死を誘導することで排除し,臓器や器官の恒常性を維持するメカニズムが備わっています.このような細胞死にはアポトーシス,オートファジー細胞死,ネクローシスがありますが,それ以外にもネクロプトーシスなどさまざまなメカニズムが報告されています.この排除システムの一つとして,近年,細胞競合が注目されています.細胞競合とは,状態の異なるC2種類の細胞が近接した状況において,細胞間の相互作用によって勝者細胞および敗者細胞が決定され,境界の付近で敗者細胞が排除される現象として定義づけられます.この現象は,1975年,ショウジョウバエのリボソーム蛋白質遺伝子の変異体を用いた実験で初めて観察されました1).また,癌細胞のような細胞極性を失った細胞(scrib変異細胞)を用いた研究によると,これらの細胞は正常な細胞に囲まれると細胞競合によって上皮組織から排除されることが示されており2),新たな癌の制御システムとして注目されています.さらに最近,老化細胞における細胞競合も注目されています.細胞培養モデルではありますが,老化細胞が隣接する正常細胞を貪食し消化していることが報告されました3).貪食メカニズムの一つである,リソソームを介した細胞死であるエントシース4)は確認されず,老化細胞そのものが貪食(ファゴサイトーイシス)している可能性が示唆されました.眼科領域において加齢変化に伴い,臓器や器官を構成するさまざまな細胞がアポトーシスなどによる細胞死を引き起こし,細胞数が減少図1細胞競合による細胞排除の概念状態の異なるC2種類の細胞が近接した状況において,勝者細胞が敗者細胞を排除する.北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学CBuckInstituteforResearchonAgingすることで臓器および器官の萎縮を招いています.眼科領域でも,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症,緑内障,白内障,ドライアイなど,さまざまな加齢変化に伴う眼疾患が存在します.しかしこういった病態における細胞死のメカニズムは完全に解明されておらず,少なからず細胞競合のような変化が起こっている可能性が想定されます.今後の展望ショウジョウバエの発生を中心として発展してきた細胞競合の研究は,現在哺乳類モデルにおいても観察されるようになり,生物における細胞間コミュニケーションの一つと考えられるようになりました.また,細胞競合が癌の制御だけでなく,細胞老化とも関連することが報告されてきています.もし,生体内で細胞競合によって老化細胞が正常細胞を排除していたとしたら,老化細胞を排除する仕組みが組織変性の抑制に直接関与する可能性があると考えられます.文献1)MorataCG,CRipollP:Minutes:MutantsCofCdrosophilaCautonomouslyCa.ectingCcellCdivisionCrate.CDevCBiolC42:C211-221,C19752)YamamotoCM,COhsawaCS,CKunimasaCKCetal:TheCligandCSasCandCitsCreceptorCPTP10DCdriveCtumour-suppressiveCcellcompetition.NatureC542:246-250,C20173)Tonnessen-MurrayCA,FreyWD,RaoSGetal:Chemo-therapy-inducedCsenescentCcancerCcellsCengulfCotherCcellsCtoCenhanceCtheirCsurvival.CJCCellCBiolC218:3827-3844,C20194)OverholtzerM,MailleuxAA,MouneimneGetal:Anon-apoptoticCcellCdeathCprocess,Centosis,CthatCoccursCbyCcell-in-cellinvasion.CellC131:966-979,C2007勝者敗者(79)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7230910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 205.ヤグレーザーによる瞳孔領繊維増殖膜の除去(初級編)

2020年6月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載205205ヤグレーザーによる瞳孔領線維増殖膜の除去(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●眼内レンズ表面に生じる線維増殖膜硝子体手術や緑内障手術などの侵襲の大きな手術では,術後炎症の遷延により,前房内にフィブリン析出をきたし,それが基盤となって瞳孔領に線維増殖膜を形成することがある.とくに複数回の硝子体手術を施行された眼球では,眼内のバリアが高度に破綻しており,再手術後にこのような炎症反応が生じやすい.フィブリン膜が著明な急性期には,まずはステロイドの点眼や結膜下注射などを施行することが多い.経過中にフィブリン膜を基盤とした線維増殖膜が生じ,時間の経過とともにそれが厚くなり,瞳孔領を覆うと,眼底の視認性が低下する.C●症例提示44歳,女性.左眼の裂孔原性網膜.離に対して,他院でC2回硝子体手術が施行されたが,その後再増殖,再.離をきたし当科紹介となった.眼底は増殖性硝子体網膜症の状態となっており,増殖膜および残存硝子体処理後に気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,14%CCC3F8によるガスタンポナーデを施行した.術後,網膜は復位したが炎症が遷延し,瞳孔領にフィブリン膜を基盤とする線維増殖膜が形成され(図1),眼底の視認性が低下した.炎症が鎮静化した時点でヤグレーザーによる線維増殖膜切開を行い,瞳孔領を確保した(図2).出力はC0.7~0.9CmJで合計C160発を要した.術後眼底の視認性は改善した.C●眼内レンズ表面に生じる線維増殖膜に対するヤグレーザー治療炎症がある程度鎮静化した時点で,このような線維増殖膜に対してヤグレーザーを用いて治療を行ったとする報告は海外では多数みられるが,わが国での報告は意外に少ない.Gandhamらは,トラベクレクトミーや硝子体手術後の眼内レンズ表面の線維増殖膜をきたしたC7眼(77)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1ヤグレーザー施行前の細隙灯顕微鏡写真瞳孔領は線維増殖膜で覆われている.図2ヤグレーザー施行後の細隙灯顕微鏡写真瞳孔領が確保できている.に対してヤグレーザーを施行し,6眼で視力の改善を得たとしている.また,副作用としては眼圧上昇がC1眼にみられたとしている1).Virdiらはトラベクレクトミーや角膜移植後の線維増殖膜C8眼に対してヤグレーザーを施行し,6眼で視力の改善を得たと報告している2).そのほかの報告でも多くは術後の眼底視認性の向上が得られ,また虹彩縁と眼内レンズの癒着をヤグレーザーで解離することにより,良好な散瞳が得られるようになったとする報告もみられる.本術式の注意点としては,眼内レンズ表面にCcrackが生じないようにすることであるが,通常は線維増殖膜の厚みが結構あるので,そのリスクはさほど高くない.ただし,通常の後発白内障に対する後.切開術よりは高出力と多くの照射数を必要とすることが多い.また,症例によっては線維増殖膜の中に虹彩から血管が侵入している例もあるので,レーザー施行時に出血を生じることがある.本術式は,前.収縮に対してヤグレーザー治療を施行した経験のある術者であれば,容易に施行できる.文献1)GandhamCSB,CBrownCRH,CKatzCLJCetal:Neodymium:CYAGmembranectomyforpupillarymembranesonposte-riorCchamberCintraocularClenses.COphthalmologyC102:C1846-1852,C19952)VirdiM,BeiroutyZA,SabaSN:Neodymium:YAGlaserdiscissionofpostoperativepupillarymembrane:peripher-alCphotodisruption.CJCataractCRefractCSurgC23:166-168,C1997あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C721

眼瞼・結膜:涙腺導管嚢胞の病態と治療

2020年6月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人藤原美幸63.涙腺導管.胞の病態と治療岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座涙腺導管.胞は,外傷,感染,炎症などのなんらかの原因により涙腺導管が閉塞し,導管内に涙液が貯留することにより形成される.外眼角付近の球結膜下に半透明の内容物を含む弾性軟の腫瘤として観察され,細隙灯顕微鏡検査で主涙腺の導管部に.胞を確認することで診断できる.疼痛や圧迫感などの症状を伴う場合には手術適応であり,.胞の摘出がもっとも再発率が低い.●病態生理・病因外眼角(主涙腺の導管部)に生じる.胞である.なんらかの原因により涙腺導管の開口部が閉塞し,導管内に涙液が貯留する結果,.胞が形成されると考えられている1).外傷,感染,結膜の炎症,涙腺導管の先天異常,分泌産物の組成変化などが病因となりうる2).C●臨床所見外眼角付近の球結膜下に,半透明の内容物を含んだ弾性軟の腫瘤として観察される3)(図1,2).大きさはさまざまである.通常片側性であるが,まれに両側性にも発生することがある4,5).症状として鈍痛,異物感,眼球の圧迫感が生じることもあるが,とくに自覚症状はないことが多い1).眼窩部に.胞を作った場合は,眼瞼下垂,眼球突出,眼球偏位が合併する場合もある6).C●診断細隙灯顕微鏡検査で外眼角円蓋部(主涙腺の導管部)に.胞を確認することで診断可能である1).撮影可能な施設であれば,MRIで深達度などを確認する.通常,周囲との癒着はなく,水分の貯留が確認できる(図3)●鑑別診断鑑別診断として,皮様.胞,表皮様.胞,皮膚脂肪腫,異物肉芽腫,結膜.胞などがあげられるが1,7),細隙灯顕微鏡で結膜円蓋部の涙腺導管開口部を観察できれば鑑別は容易である.涙腺の腫大がある場合は涙腺腫瘍との鑑別が必要であり,涙腺腺様.胞癌などのように.胞を作る悪性腫瘍もあるため,実質性の涙腺腫瘍が少しでも疑われる場合には眼腫瘍専門医への速やかな相談が望ましい.C●病理所見涙腺の導管上皮に覆われた拡張した.胞性病変が観察される..胞の内宮には血液がみられることもある3)..胞周囲に炎症細胞の浸潤を伴うことが多い7)(図4,5).C●治療無症状であれば経過観察でよいが,疼痛や圧迫感などの症状や外観上の愁訴が問題となる場合には手術適応となる1,2).穿刺・吸引では,外科的切除よりも再発の可能性は高い8).手術では.胞の全摘出がもっとも再発率は少なく,ほかに切開・切除術,造袋術などがある.術後の癒着および感染には注意が必要である.図1前眼部外眼角付近に壁が薄く透明な.胞を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)図2前眼部外眼角付近にやや大きめの.胞を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)(75)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7190910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4病理組織像.胞の内側は上皮に裏打ちされており,一部で破綻し異物反応を認める..胞の外側は,厚めの線維性結合組織で覆われており,.胞壁に涙腺や涙腺導管を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)●予後長期予後を報告した文献はない.穿刺のみではすぐに再発するが,それ以外では再発は少ないといわれている.文献1)江口功一:涙腺導管.胞.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p262-264,医学書院,20152)OzgonulCC,CUysalCY,CAyyildizCOCetal:ClinicalCfeaturesCandmanagementofdacryops.OrbitC37:262-265,C20183)ShieldsCCL,CShieldsCJA,CEagleCRCCetal:ClinicopathologicCreviewof142casesoflacrimalglandlesions.Ophthalmol-図3MRI両眼性の涙腺導管.胞.液体の貯留を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)図5病理組織像円注上皮は二層性で,内層の細胞は表面に突起を有している.杯細胞が含まれている.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)ogyC96:431-435,C19894)BullockCJD,CFleishmanCJA,CRossetJS:LacrimalCductalCcysts.OphthalmologyC93:1355-1360,C19865)後藤浩:涙腺導管.胞(涙腺.胞).眼瞼・結膜腫瘍アトラス,p109-111,医学書院,20176)TsiourisAJ,DeshmukhM,SanelliPCetal:Bilateraldac-ryops:correlationofclinical,radiologic,andhistopatholog-icfeatures.AmJRoentgenolC184:321-323,C20057)TsaiCFF,CMukhopadhyayCC,CZengCJCetal:BilateralCmarkedCdacryopsCfollowingCtrauma.COrbitC31:435-437,C20128)SalamA,BarrettAW,MalhotraRetal:Marsupializationforlacrimalductularcysts(dacryops):acaseseries.Oph-thalmicPlastReconstrSurgC28:57-62,C2012720あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(76)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の光干渉断層血管撮影による評価

2020年6月30日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二76.加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の小野江元森隆三郎日本大学医学部視覚科学系眼科学分野光干渉断層血管撮影による評価光干渉断層血管撮影(OCTA)は非侵襲的に眼底の血流を確認できる検査として,臨床で活用されるようになってきた.わが国ではC2018年C4月から保険収載され,ますます一般臨床でも活用されることが予想される.本稿では,滲出型加齢黄斑変性に対する抗CVEGF療法のCOCTAによる評価の現状について概説する.OCTAによるCNVの疾患活動性の評価日常診療では,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegenetation:AMD)の疾患活動性は眼底観察による出血の有無,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)などの滲出性所見を観察することにより確認ができるため,蛍光眼底造影による脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などの病巣からの蛍光漏出を確認する必要性は低いが,抗VEGF療法によるCCNVの縮小,投与中止による拡大などの評価はこれまで蛍光眼底造影で行われてきた.しかし,Huangらは光干渉断層血管撮影(OCTCangiogra-phy:OCTA)でCCNVに対するアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealinjectionofa.ibercept:IVA)前後のCOCTAを評価し,OCTAが抗CVEGF薬硝子体内注射の投与間隔の判断となる可能性を示唆し1),近年,造影剤を使用しない非侵襲的な検査であるCOCTAでAMDに対する抗CVEGF療法の治療効果を評価することが試みられている.OCTAは血流を描出しているため,蛍光眼底造影検査と異なり蛍光漏出の所見を確認することはできないが,その形態的所見をもとに活動性を判断することができるという報告がある.CoscasらはCOCTAのCenCface画像における疾患活動性の指標として,病巣において,①形状が糸状ではなく,レース状の車輪形か扇形であること,②枝分かれがわずかな太い成熟血管に分枝するのではなく,多くの細かい毛細血管に分枝すること,③吻合やループがあること,④血管の末端の形態が枯れ木状ではなく,アーケード状であること,⑤病巣周囲の低信号のChaloがあること,以上五つの指標をあげ,このうち少なくとも三つを満たした場合,CNVの活動性があ(73)るとしている2).高田らはこの指標を用いた抗CVEGF療法の検討で,この指標を三つ未満しか満たさない場合は再発しにくい傾向があったとしている3).しかし,Al-Sheikhらは活動性のあるCCNVは小血管の枝分かれと病巣周辺の弧状の血管を認める割合が有意に多かったが,病巣面積と血管密度は抗CVEGF療法後,もしくは活動性のないCCNVと比較して有意差はなかったとしている4).わが国からの報告として,Takeuchiらは未治療AMDへのCIVAの治療導入期にCOCTA画像からCCNVの血管面積,血管分枝密度を評価し,1回目のCIVAによりCCNVの血管面積,血管分枝密度は減少したが,2回目,3回目ではどちらも増大し,同時に末端の血管のループ形成を認めることもあったとしている5).症例提示当院での症例を提示する.症例はC70歳の男性で,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCvasculopa-thy:PCV)の診断(図1)でCIVAのC2日後に光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)を施行した.治療後C1カ月で異常血管網(branchedCchoroidalvascularnetwork:BVN)の縮小を認め,OCTではCSRDの吸収も認めた.その後の経過でCBVNは拡大を認め,治療後2カ月で血管の分枝を認め,治療後C4カ月では吻合血管やループ状血管を認めたが,SRDを認めたのは治療後6カ月であった(図2).この症例のように,抗CVEGF療法とCPDTの併用療法を行っても,CNVやCPCVのBVNの病巣は残存していることがわかる.現時点ではOCTAのみでCAMDの抗CVEGF療法の投与判断をすることは困難であるが,今後COCTAの病巣の変化と滲出性変化の関係を評価することにより,滲出性変化が予期できるようになれば,個々の患者に合った投与間隔での加療ができるようになる可能性があり,期待される.あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7170910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1PCV症例のOCTAのouterretina層(左上)とchoriocapirallis層(中上)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)(右上)とOCT所見(下)IAでポリープ状病巣とCBVNを認め,OCTAでもそれら病巣が確認できる.OCTでは急峻な網膜色素上皮.離を認め,その辺縁にSRDを認める.治療前治療後1カ月治療後2カ月治療後3カ月治療後4カ月治療後5カ月治療後6カ月文献1)HuangD,JiaY,RispoliMetal:Opticalcoherencetomog-raphyCangiographyCofCtimeCcourseCofCchoroidalCneovascu-larizationinresponsetoanti-angiogenictreatment.Retina35:2260-2264,C20152)CoscasCGJ,CLupidiCM,CCoscasCFCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCversusCtraditionalCimagingCinCassessingCtheCactivityCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationanewdiagnositcchallenge.CRetinaC35:2219-2228,C20153)高田雄太,中村友子,三原美晴ほか:再発する滲出型加齢C718あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020図2OCTAによるchoriocapillaris層によるBVNの経時的変化の観察抗CVEGF療法+PDT後,いったん縮小したCBVNが徐々に拡大し,血管吻合,ループ形成を認めるようになる.黄斑変性の光干渉断層血管撮影所見.臨眼C73:637-642,C20194)Al-SheikhCM,CIafeCNA,CPhasukkijwatanaCNCetal:Bio-markersCofCneovascularCactivityCinCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangiog-raphy.Retina38:220-230,C20185)TakeuchiJ,KataokaK,TakayamaKetal:Opticalcoher-enceCtomographyCangiographyCtoCquantifyCchoroidalCneo-vascularizationinresponsetoa.ibercept.OphthalmologicaC240:90-98,C2018(74)

緑内障:Posner-Schlossman症候群とウイルス感染

2020年6月30日 火曜日

●連載240監修=山本哲也福地健郎240.Posner-Schlossman症候群と村田一弘岐阜大学医学系研究科眼科学ウイルス感染眼圧コントロールが不良で視機能障害をきたしたCPosner-Schlossman症候群(PSS)では緑内障手術を要し,前房内からサイトメガロウイルス(CMV)DNAが検出されることが多い.よってCPSSでは早期からCCMV感染を疑い,状況に応じて前房水を用いたウイルスCDNAの検索ならび治療を考慮すべきである.●はじめにPosner-Schlossman症候群(Posner-SchlossmanCsyn-drome:PSS)は,軽度の虹彩毛様体炎を伴う眼圧上昇発作を繰り返す疾患で(図1),治療は副腎皮質ステロイドの局所投与による消炎と,抗緑内障点眼薬による眼圧下降が主体となる.従来,本疾患は視神経乳頭の変化や視野障害はきたさない良性の疾患と考えられてきたが,遷延化すると視神経萎縮が進行し,眼圧が十分に下降しない症例では緑内障手術が必要となることがある1).高度な眼圧上昇は線維柱帯の炎症によって生じると考えられている.病因として,ウイルス感染,自己免疫,アレルギーなどの要因が提唱されているが,いずれも未確定である2).近年では,PSSの前房水より高率にサイトメガロウイルス(CMV)DNAが検出されることが報告されている3,4).●前房水検索と臨床的特徴岐阜大学附属病院でC2010~2018年の間に臨床的にPSSと診断されたC21例C21眼の前房水を検索したところ,最初のCPSS発作から前房水採取までの平均期間は約C9.5年で,13眼(61.9%)でCCMV-DNAが陽性であった(単純ヘルペス,水痘帯状疱疹ウイルス各CDNAは陰性).平均年齢はC51.9C±15.0歳で,男性にやや多い傾向にあった.患眼と健眼の比較では,初診時平均眼圧は患眼C28.0C±11.5CmmHgで,健眼C13.9C±4.0CmmHgに比し有意に高値であった.また,初診時最高矯正視力(bestCcorrectedCvisualacuity:BCVA),Humphrey視野計C30-2プログラムのCMD値および中心角膜内皮細胞密度(cornealCendothelialCcelldensity:CEC)は,すべて患眼で有意に低い結果であった.21眼中C14眼(66.7%)で経過観察中に緑内障手術が必要となった.また,図1PSSの前眼部写真前房に軽度の炎症細胞が認められる.角膜中央から下方にかけて,数個の色素沈着を伴わない小型~中型の円形の角膜後面沈着物が認められる.図2PSS症例におけるマイトマイシンC併用トラベクレクトミー後(71)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7150910-1810/20/\100/頁/JCOPY緑内障手術を要したC14眼のうちC11眼(84.6%)から前房内よりCCMV-DNAが検出され,CMV陽性群で初診時すでに眼圧が有意に高値であり,緑内障手術(図2)がより多く必要となる傾向(CMV陰性群ではC37.5%)にあった5).C●考察近年の研究ではCPSSのCCMV陽性率はC52~54%と報告されている4,6).当院のCPSS症例では約C6割で前房水よりCCMV-DNAが検出された.CMVは角膜内皮や線維柱帯細胞に親和性を有し,潜在的なCCMV再活性はCEC低下と線維柱帯炎に伴う眼圧上昇を誘発することが指摘されている.そこでCCMV陽性のCPSS症例では,眼圧上昇に伴う視機能の障害ならびに遷延化が危惧される.また,患眼では健眼に比し有意にCBCVA,MD値およびCCECが低下していたので,線維柱帯細胞と角膜内皮細胞の機能を維持し,視機能を保つためには,迅速な診断と適切な治療の選択が重要と考える.さらに当院ではC7割近くが緑内障手術を要したが,PSSの遷延化と前房内CCMV感染が関与している可能性が示唆された.PSSの病因はまだ解明されていないが,CMVによる線維柱帯炎がCPSSにおける主要な眼圧上昇機序と推測されるため,今後抗CCMV薬の局所ならびに全身投与に関して期待される.文献1)JapCA,CSivakumarCM,CCheeSP:IsCPosnerCSchlossmanCsyndromebenign?OphthalmologyC108:913-928,C20012)JiangCJH,CZhangCSD,CDaiCMLCetal:Posner-SchlossmanCsyndromeCinCWenzhou,China:aCretrospectiveCreviewCstudy.BrJOphthalmol101:1638-1642,C20173)CaoG,TanC,ZhangYetal:DigitaldropletpolymerasechainreactionanalysisofcommonvirusesintheaqueoushumourCofCpatientsCwithCPosner-SchlossmanCsyndromeCinCChineseCpopulation.CClinCExpCOphthalmolC47:513-520,C20194)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirusCpositiveCPosner-SchlossmanCsyndromeCpatientsCtreatedCwithCtopicalCganciclovirCtherapy.CAmJOphthalmolC158:1024-1031,C20145)MurataCK,CIshidaCK,CMochizukiCKCetal:TheCcharacteris-ticsCofCPosner-Schlossmansyndrome:ACcomparisonCinCtheCsurgicalCoutcomeCbetweenCcytomegalovirus-positiveCandCcytomegalovirus-negativeCpatients.Medicine(Balti-more)98:e18123,C20196)MaruyamaCK,CMaruyamaCY,CSugitaCSCetal:Characteris-ticsCofCcasesCneedingCadvancedCtreatmentCforCintractableCPosner-SchlossmanCsyndrome.CBMCCOphthalmolC17:45,2017C☆☆☆716あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(72)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキング後の屈折変化

2020年6月30日 火曜日

監修=木下茂●連載241大橋裕一坪田一男241.角膜クロスリンキング後の屈折変化加藤直子南青山アイクリニック角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を止める手術である.角膜クロスリンキングの直後には角膜が若干急峻化するが,1年後には術前とほぼ同じかやや平坦になることが多い.長期予後についても,近年C10年の成績が報告されており,角膜屈折力や矯正視力はわずかに改善した状態で安定し,円錐角膜の進行停止効果が維持されることが知られている.C●はじめに円錐角膜眼の進行を停止させる角膜クロスリンキング(cornealCcrosslinking:CXL)が登場して,すでにC17年が経過した.角膜クロスリンキングによる円錐角膜の進行停止率はC90%以上であり,重篤な合併症は少ない.CXLは,進行期の円錐角膜に対しては第一選択の治療と位置づけられる.本稿では,CXL後の屈折と角膜形状の変化について,長期的な変化も踏まえて述べる.C●CXLの長期成績ヒトの進行性円錐角膜眼に対するCCXLの成績が最初に報告されたのはC2003年のことである1).それからC17年の歳月が経ち,昨今ではCCXLの長期成績が報告されはじめている.2015年にCCXLが開発されたドレスデン大学から,RaiskupらによってC10年の術後成績が報告された.24例C34眼の進行性円錐角膜眼に対して施術を行った結果である.彼らが当初報告したのは,角膜上皮を掻爬してからリボフラビンを点眼し,その後長波長紫外線をC3.0CmW/cm2でC30分間照射する方法であり,この術式はCCXLの標準法(ドレスデン法)とされている.Raisk-upらによれば,10年間で角膜形状には有意な平坦化が得られ,また矯正視力も改善し,角膜内皮細胞減少もなかったとされている2).ついでC2018年にCMazzottaらイタリアのグループが,標準法を施行したC18歳以下のC47例C62眼の円錐角膜眼についてのC10年後の成績を報告している.彼らの報告でも,術後C10年で裸眼視力,矯正視力には術前に比べて有意な改善がみられ,約C80%の症例では角膜形状も安定していた.一方,術後C1D以上の進行がみられたの(69)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはC13眼(21%)であった.2例は再手術が必要だった.彼らは,とくにC15歳以下の早期発症例では術後C7年以上経ってから再手術が必要になる可能性を念頭におくべきであると述べている.しかし,内皮細胞障害や重篤な角膜混濁などの合併症はみられなかった3).このように,CXL後は角膜形状や屈折度数が若干改善した状態で安定するという共通見解が得られている.C●日本人円錐角膜眼へのCXLの成績筆者らは,日本人の円錐角膜C95例C108眼にCCXLを行い,後ろ向きにC1年間の経過観察をした成績をC2018年に報告した.108眼のうちC23眼は標準法で施術し,残りのC85眼は紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法で施術を行った.いずれの方法でも,全例で上皮掻爬を行った.その結果,標準法,高速照射法のいずれも,視力,等価球面度数,乱視度数には有意な変化はみられなかったが,強主経線上角膜屈折力は両グループともC1年後には有意差をもって減少していた.1年後に進行停止が得られた症例は全体のC92%であり,海外からの報告とほぼ一致する結果であった4).ここで注意すべきポイントは,この解析では有意差は出なかったが,多くの症例においてCCXLの直後は若干角膜が急峻化する時期があることである.とくに,術後1カ月時点での角膜屈折力は術前よりもやや急峻化することが多い.しかし,そのまま経過観察を続けると,ほとんどの症例ではC3~6カ月目には角膜形状はほぼ術前の状態に戻り,その後は変化しないか若干平坦化する(図1).したがって,術直後に多少乱視が増強し視力が低下しても,あわてずに経過観察を続けるのがよい.さらに,筆者らは,術後C5年間の経過観察を行った症例C23眼についても後ろ向きに解析を行った.23例中あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C713abcd図1CXL後の角膜形状の変化(典型的な症例)a:術前.典型的な円錐角膜のパターンで,Kmax(最大角膜屈折力)はC50.6Dである.Cb:術後C1カ月.KmaxはC51.5Dとわずかに増加,突出している部分の面積(赤からオレンジで表される部分)も若干の拡大がみられる.Cc:術後C3カ月.KmaxはC49.9Dとなり,突出部分の面積も小さくなってくる.Cd:術後C6カ月.KmaxはC49.6Dとさらに減少し角膜形状の術後経過観察期間図2CXL後1年間の強主経線上角膜屈折力の変化変化も小さくなってくる.C-CXL(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに,術後C1年目で若干強主経線上角膜屈折力が減少している.(文献C5より改変)考えている4).C●おわりにCXLは,その誕生からすでにC17年が経過しており,円錐角膜眼の進行停止という目的において有効性と安全性はほぼ立証されたといってよい.一方で,CXLの一番のウィークポイントは,すでに進行してしまった円錐角膜眼の角膜形状を改善できないことである.屈折矯正図3CXL後5年間の強主経線上角膜屈折力の変化量強主経線上角膜屈折力は,術後C1年ごろまではCC-CXL手術との組み合わせや,角膜形状に合わせたカスタマイ(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに安定しているが,1年を過ぎる頃からCC-CXLで持続性の平坦化がみられた.*:p>0.05(文献C5より改変)11例C12眼は標準法で,10例C10眼は高速照射法で施術した.結果は術後C1年未満までは,両グループとも同じように円錐角膜の進行は抑えられていたが,1年以降では標準法で行ったグループに持続性の平坦化がみられた(図2)5).近年,CXL後の持続性平坦化ということが指摘されている.つまり,術後数年の期間を過ぎても平坦化が続いていく症例が散見されるというものである.円錐角膜眼のほとんどは強い近視性乱視があるので,平坦化によって屈折度数が減少することはよいことのように考えられているが,この平坦化がいつまで,どこまで続くのかについては,明らかにされていない.一方,紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法では持続性平坦化はほとんどみられない.また,術後C1年以内の角膜混濁についても,高速照射法より標準法で強いことが明らかになった(図3).これらの結果より,筆者らは長期的な安定性と角膜混濁の危険性の両面から,標準法よりも高速照射法のほうが優れているとC714あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020ズされた紫外線照射を行うことにより角膜形状の補正を行う新しい角膜クロスリンキングが登場している.しかし,上記のように従来のCCXL後の角膜形状は長期にわたり変化することが知られているため,新しい術式についても長期にわたる注意深い検討が必要であろう.文献1)Wollensak.G,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmolC135:620-627,C20032)RaiskupCF,CTheuringCA,CPillunatCLECetal:CornealCcolla-gencrosslinkingwithribo.avinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearCresults.CJCCataractCRefractCSurgC41:41-46,C20153)MazzottaC,TraversiC,BaiocchiSetal:Cornealcollagencross-linkingCwithCribo.avinCandCultravioletCAClightCforpediatrickeratoconus:Ten-yearresults.Cornea37:560-566,C20184)KatoCN,CKonomiCK,CShinzawaCMCetal:CornealCcrosslink-ingCforCkeratoconusCinJapaneseCpopulations:oneCyearCoutcomesCandCaCcomparisonCbetweenCconventionalCandCacceleratedCprocedures.CJpnCJCOphthalmolC62:560-567,C20185)KatoCN,CNegishiCK,CSakaiCCCetal:Five-yearCoutcomesCofCcornealCcross-linkingCforkeratoconus:ComparisonCbetweenconventionalandacceleratedprocedures.Cornea39:e1,C2020(70)

眼内レンズ:Long Anterior Lens Zonules

2020年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋保坂文雄403.LongAnteriorLensZonules岩見沢市立総合病院眼科Longanteriorlenszonules(LAZ)は水晶体前.上で通常よりも中心側まで伸長するCZinn小帯を特徴とする.LAZにはしばしば虹彩色素粒子が付着し,色素散布性緑内障あるいは閉塞隅角緑内障と関連があるとされる.また,白内障手術時連続円形切開.の妨げとなりうるので注意を要する.●LAZとはLongCanteriorClenszonules(LAZ)は水晶体前.上で通常よりも中心側まで伸長するCZinn帯を特徴とする.LAZの一部はCC1QTNF5遺伝子の異常によりClate-onsetretinalandmaculardegeneration(L-ORMD)とともにC30歳代以降に発症する1).しかし,多くのCLAZは原因不明で,50歳代以降の女性,遠視,短眼軸に多く,有病率はC2%とまれなものではない2).LAZは緑内障との関連が指摘されており2~4),白内障手術時にCLAZ線維が連続円形切.(continuousCcurvilinearCcapsulor-rhexis:CCC)を妨げて裂け目を生じることがあるので注意を要するとされる4).今回,同一術者(FH)が白内障手術を行った連続する542例C824眼について,手術顕微鏡の徹照観察によりLAZの有無を確認した.LAZはC5例C5眼,出現頻度0.61%でみられた(表1).女性が多く(4例C4眼),遠視(平均C±標準偏差:+1.55±1.76D),短眼軸(22.44C±0.90Cmm),浅前房(2.40C±0.23Cmm)の傾向があった.LAZに合併する病態として,急性閉塞隅角症,慢性開放隅角緑内障,瞳孔不同・対光反応鈍を,それぞれC1眼で認めた.5眼とも術中のCZinn小帯強度に問題はなかった.うちC2症例の要約を記す.C●症例184歳,女性,両眼霧視と左眼羞明を自覚.視力は右眼C0.5(矯正不能),左眼C0.4(0.6C×cyl-1.0D,Ax110°).明所での瞳孔径は右眼C2.8Cmm,左眼C3.5Cmmと瞳孔不同があり,直接対光反応は右眼正常,左眼やや鈍.両眼白内障手術時に左眼のみCLAZを確認した(図1a).CCC作製時,LAZによって水晶体前.の切開線が捩れてCCCCが小さくなりがちであったため,前.鑷子を用いて.を引き裂く方向に留意した(図1b).C●症例268歳,女性.急な両眼霧視を自覚,前医で急性閉塞隅症の診断にて薬物治療し奏効.翌日初診,両眼とも遠視(右眼Csph+2.5D,左眼Csph+3.0D),短眼軸(右眼C21.75mm,左眼C21.69mm),浅前房(右眼C2.17mm,左眼C2.16mm)であった.両眼の白内障手術を施行したが,左眼で虹彩色素付着したCLAZを認めた(図2).C●考按LAZは散瞳下で水晶体前面の微細な放射状線維として観察される.今回,白内障手術時にCLAZが発見された頻度はC0.61%で,アフリカ系米国人を対象とした既報の頻度よりも少なかった2).LAZが問題となるのは,①CL-ORMDとの合併,②緑内障との関連,③白内障手術との関連である.①L-ORMDは遺伝子異常によるまれな疾患であり,今回の症例には含まれなかった.②緑内障について,LAZは開放隅角および閉塞隅角,それぞれのタイプの緑内障表1Longanteriorlenszonules症例の概要症例番号年齢(歳)性別等価球面屈折(D)眼軸長(mm)前房深度(mm)合併眼疾患C1C84女+1.13C22.05C2.32瞳孔不同,対光反射鈍C2C81女+3.75C21.69C2.35C3C69男-0.25C23.14C2.79C4C68女+3.00C21.69C2.16急性閉塞隅角症C5C84女+0.13C23.65C2.36慢性開放隅角緑内障平均C77.20+1.55C22.44C2.40標準偏差C8.041.76C0.90C0.23C(67)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7110910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1LAZ(症例1)a:Zinn小帯の前方付着部が中心側に伸長している.Cb:LAZによってCCCC切開線が捩れている.との関連が指摘されている2~4).詳細は不明であるが,LAZによる虹彩の擦過で色素散布が起きることが潜在的に慢性開放隅角緑内障の一因となると推察されている3).一方,閉塞隅角緑内障とかかわる要因としては,LAZ症例が高齢,遠視,短眼軸で多いこと2)に加えて,LAZの毛様体突起への牽引によってプラトー虹彩形状を呈する場合があるとされる4).今回C1眼で瞳孔不同・対光反応鈍であったが,LAZ眼での既報はなく関連は不明である.また,LAZは③白内障手術時のリスクとされており,安全な手術のためにCCCC施行前の前.染色やチストトームでCLAZをC360°切断しておく方法が紹介されている5).水晶体前面のCZinn小帯はおもに調節を担っているので,LAZを切断してもCZinn小帯全体による水晶体支持力は損なわれないと考えられている5).今回は前.鑷子により切開方向を慎重にコントロールす図2虹彩色素粒子が付着したLAZ(症例2)ることで,通常の手術法により十分な大きさのCCCCを完成できた.診療で見逃されているCLAZ症例は少なからずあるとみられるが,緑内障診療や白内障手術の際には留意することが望まれる.文献1)AyyagariCR,CMandalCMN,CKaroukisCAJCetal:Late-onsetCmacularCdegenerationCandClongCanteriorClensCzonulesCresultCfromCaCCTRP5CgeneCmutation.CInvestCOphthalmolCVisSciC46:3363-3371,C20052)RobertsDK,AyyagariR,McCarthyBetal:InvestigatingocularCdimensionsCinCAfricanCAmericansCwithClongCanteri-orzonules.JGlaucomaC22:393-397,C20133)MoroiSE,LarkKK,SievingPAetal:Longanteriorzon-ulesandpigmentdispersion.AmJOphthalmolC136:1176-1178,C20034)RobertsCDK,CAyyagariCR,CMoroiSE:PossibleCassociationCbetweenClongCanteriorClensCzonulesCandCplateauCirisCcon.guration.JGlaucomaC17:393-396,C20085)KhuranaCM,CShahCDD,CGeorgeCRJCetal:Phacoemulsi.ca-tionineyeswithlonganteriorzonules.CJCataractRefractSurgC46:209-214,C2020

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 1.角膜形状の把握(1)

2020年6月30日 火曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司1.角膜形状の把握(1)■はじめに1984年6月の創刊号以来,コンタクトレンズセミナーは継続してきた.少し中断はあったものの,本号よりシード,メニコン,サンコンタクトレンズの3社の協賛を得て,ハードコンタクトレンズ(HCL)に的を絞ったセミナーを再開する.最近の若い先生方がHCLを処方する機会は,1日使い捨てタイプあるいは2週間交換タイプソフトコンタクトレンズの台頭により激減している.しかし,HCLの光学的あるいは経済的メリットは大きく,しかもHCLでしか良好な視力を得られない患者も多く存在する.創刊号に筆者は「このセミナーは,今までコンタクトレンズにあまり関心をもっておられなかった眼科医を対象とする」と記している.これからのセミナーは,HCL処方経験は少ないが,HCL処方に興味をもっておられる眼科医を対象にしたい.■角膜形状の把握HCLを処方するには角膜形状,角膜径,瞳孔径,眼瞼形状などを把握しておく必要がある.トライアルレンズのベースカーブ(basecurve:BC)は,ケラトメーターによって角膜中央部の曲率を計測して決定するのが一般的である.しかし,ケラトメーターによって知ることができるのは,角膜中央部のわずか3mm程度の範囲にしかすぎない.しかし,フォトケラトメーターやビデオケ図1角膜周辺部扁平化が小さい症例角膜周辺部の色彩変化が小さい.図2角膜周辺部扁平化が大きい症例角膜周辺部の色彩変化が大きい.小玉眼科医院ラトメーターが開発されるに従い,角膜周辺部の形状には個体差が大きいことが明らかになってきた(図1,2).■角膜形状は球面?あるいはトーリック面?角膜の光学部はトーリック面とみなすことができる(図3).このことは光学部においてのみいえることであり,角膜周辺部は前述したように次第に扁平化していく.この扁平化していくことと,扁平化していく程度に個体差があることが,HCL処方をむずかしくしている.しかし,この角膜周辺部の扁平化は,HCLの動きや静止位置を左右するのみならず,HCL下の涙液交換にはなくてはならないファクターである.よく知られているように,HCL下の涙液交換は瞬目によるレンズの上下運動に支配されている.レンズが角膜が扁平化している部分へ引き上げられるときに,レンズ下の間隙が拡大し,ベベル部位の涙液がレンズ下に吸引される.眼瞼の影響を離れてレンズが下方へ移動するときは,レンズ下の間隙が縮小し,レンズ下の涙液は排出される.これが涙液交換のメカニズムであるが,もし角膜周辺部の扁平化がなければ,レンズは単に上下運動をするだけで,レンズ下の涙液交換は行われないということになる.もしも,角膜周辺部の扁平化がなければ,ガス透過性を有しないガラス製あるいはPMMA(ポリメチルメタクリレート)製HCLは誕生しなかったかもしれない.少なr1の曲率半径r2の曲率半径図3トーリック面r1の円を軸を中心としてr2の半径で回転したときにできる曲面.r1=r2の場合は球面となる.(65)あたらしい眼科Vol.37,No.6,20207090910-1810/20/\100/頁/JCOPY図5角膜周辺部扁平化とHCLフィッティング平均的な周辺部の扁平化であればベストフィッティング(パラレル)となるが,周辺部の扁平化が平均より大きくなるとスティープ(アピカルクリアランス)に,平均より小さくなるとフラット(アピカルタッチ)になる.くともそれらのHCLでは,十分な装用時間が得られなかったと推察できる.■角膜周辺部扁平化の表現角膜周辺部扁平化の程度を表わす数値として離心率(e値)やコニコイド曲線のQ値が知られている.e2=|Q|の関係がある.コニコイド曲線とはX2+(1+Q)Y2.2RY=0で表わされる(図4).Q=0のときに円となり,Q=.1,.2となるにしたがって放物線が開いていき,周辺部の扁平化が大きくなることを意味している.■角膜周辺部の扁平化とHCLフィッティング同じデザインのHCLを周辺部の扁平化が異なる角膜に装用させた場合,周辺部の扁平化が平均的な角膜ではベストフィッティングが得られても,周辺部扁平化が小さい角膜ではフラット(アピカルタッチ)になり,周辺部扁平化が大きな角膜ではスティープ(アピカルクリアランス)になる(図5).図6HCLデザインIntermediatecurveとperi-pheralcurveからなるベベルを有したHCLデザインを示す.F図72枚の濡れたガラス板の陰圧陰圧F=(表面張力T)÷界面の曲率半径R.エッジのリフトが小さくなるほど陰圧は大きくなる.■HCLデザインHCLの外面はフロントカーブ,フロントベベルからなり,内面はBC,ベベルとなり,両者はエッジで繋がっている(図6).ベベルデザインは各社で異なっているが,ここではintermediatecurveとperipheralcurveからなるデザインのものを示している.BCの延長とエッジまでの間隔をデザイン上のエッジリフト(エッジの浮き上がり)という.実際のエッジリフトはエッジから角膜までの間隔である.このエッジリフト下の涙液による表面張力の大きさがHCLの動きを制御している.濡れた2枚のガラス板間の陰圧は界面の曲率半径が小さくなるほど,つまり2枚のガラス板の間隔が狭くなるほど大きくなる(図7).この陰圧によってHCLの動きが安定し静止位置にとどまる.エッジリフトが小さすぎる場合はHCLの動きは少なくなりタイト症状を示す.逆にエッジリフトが大きすぎる場合はHCLの動きは大きく,また不安定となり,ルーズ症状を示す.