●連載242監修=山本哲也福地健郎242.臨床および基礎研究からみた横山悠東北大学病院眼科ブリモニジンの効果ブリモニジン点眼液はアドレナリンCa2受容体作動薬であり,房水産生抑制,房水排出促進という二つの作用をもつ薬剤である.その高い眼圧下降効果はいくつかの研究で実証されており,薬理作用的にも他の緑内障,高眼圧治療薬と組み合わせやすい.現在,その眼圧下降作用以外にも網膜神経節細胞になんらかの影響を及ぼし,神経保護の観点からも有益ではないかという期待から広く用いられている.●緑内障治療薬としてのブリモニジン米国に緑内障・高眼圧症治療薬としてのC0.2%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン点眼液)が登場したのはC1996年である.それに対し,日本では2012年に,濃度の低いC0.1%ブリモニジン点眼液が承認されている(図1).ブリモニジン点眼液はアドレナリンCa2受容体作動薬であり,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進するという機序により眼圧下降作用を有すると考えられている.原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした研究において,0.2%ブリモニジン点眼液の眼圧下降率は点眼C2時間値でC23.6~24.8%,トラフではC12~14.8%と高いものであった1~3).しかし,0.2%ブリモニジン点眼液には結膜炎などの眼局所の副作用の発現頻度が高いという問題があった(図2).この点において,現在普及するC0.1%の製剤は,防腐剤を塩化ベンザルコニウムから亜塩素酸ナトリウムに変更しpHを調整したことで,高い眼圧下降作用を維持しつつ,副作用発現頻度を減少させたものとなっている.C●ブリモニジンに関する臨床研究Low-PressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)は,視野保持能に関してC0.2%ブリモニジン点眼液とC0.5%チモロール点眼液を比較した多施設共同無作為化二重盲検試験である4).正常眼圧緑内障C178例を対象としており,最大C48カ月経過を観察した.この研究における主要評価項目はCprogressorsoftwareによる視野障害進行であり,進行の定義を,三つかそれ以上の検査点で有意な負のスロープ(innerC.1.0CdB/Y,edgeC.2.0CdB/Y,p<5%)を示し,その後C2回の検査で確認した場合としている.この研究において,眼圧下降作用は両群間で有意な差は認めなかったが,Kaplan-Meier法を用いた生存分析ではC0.2%ブリモニジン点眼液群のほうが有意に(61)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY視野障害に至った症例が少なかった.追加解析では,加齢,高血圧治療薬の使用,平均眼灌流圧の低下などが危険因子であったことが報告された5).筆者らの施設でも,日本で市販されるC0.1%ブリモニジン点眼液を用いて,0.5%チモロール点眼液を比較した研究を行っている6).ブリモニジン点眼液の濃度以外にもCLoGTSと方法が異なっており,少なくともプロスタグランジン関連薬を含む抗緑内障点眼液C1剤以上を使用しても進行傾向にある広義原発開放隅角緑内障を対象とし,主要評価項目をCMD(meandeviation)スロープの変化と定めている.この研究ではCMDスロープは両治療群とも改善を示したが,群間差を認めなかった.しかし,視野障害進行の定義をCHumphrey視野計に搭載されるCGuidedProgressionCAnalysisで「進行の可能性あり」と判定される検査点がC3点以上とした場合,生存分析では生存曲線に有意差を認め,ブリモニジン群の生存率が高かった(図3)6).これらの研究成果では眼圧下降作用以外にも視野保持図10.1%ブリモニジン酒石酸塩液わが国で市販されるアイファガン点眼液C0.1%.図2ブリモニジン点眼液により生じた濾胞性結膜炎著明な球結膜充血と瞼結膜に濾胞性変化を認める.ブリモニジン点眼液で多い眼局所の副作用の一つである.あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C961ab14MeanIOP(mmHg)1312111098760M4M8M12M16M20M24M04812162024MonthMonthNumberatrisk(Events)Brimonidine21(0)21(0)21(1)20(0)20(0)20(0)20(0)Timolol20(0)20(0)20(0)20(1)19(1)18(4)14(1)図3当施設で行われた0.1%ブリモニジン点眼液と0.5%チモロール点眼液の比較a:眼圧の推移.0.1%ブリモニジン点眼液のほうが全体的に眼圧が若干低いが,薬剤としての効果に有意差はみられなかった.Cb:生存時間分析.主要評価項目であるCMDスロープは両群間で有意差を認めなかったが,Kaplan-Meier生存分析では有意差を認めた(ログランクテスト:p=0.0198).(文献C6より引用)になんらかの影響を及ぼしていたことが示唆されており,ブリモニジン点眼液が緑内障臨床医から期待される理由となっている.C●ブリモニジンに関する基礎研究ブリモニジンには虚血再灌流モデル,軸索挫滅モデルなどで実験的に障害された網膜神経節細胞(retinalgan-glioncell:RGC)に対してなんらかの影響を及ぼすことがいくつかの基礎研究で報告されている.Sembaらは興奮毒性により神経変性を引き起こすCEAAC1ノックアウトマウスを用いた研究において,ブリモニジンはN-methyl-D-aspartatereceptor2B(NR2B)subunitのリン酸化を抑制して神経変性を抑えたことを報告した7).また,彼らは培養CMuller細胞においてブリモニジン投与により脳由来神経栄養因子(brainCderivedCneurotrophicfactor:BDNF)などの神経栄養因子の発現量が上昇したことも確認もしており,グリア-ニューロン相互作用を含むさまざまな経路を介して緑内障性網膜変性を抑えたのではないかと考察している.当施設でもラットの軸索切断によるCRGC障害モデルにおいて,ブリモニジン硝子体注射によりCRGCが多く残存し,また電気生理学的検査でその活動を確認している8).C●おわりに現在,緑内障治療において十分なエビデンスに基づいているものは眼圧下降療法のみである.しかし,実臨床では眼圧下降療法を十分行っても進行する難症例にしばしば遭遇する.さまざまな研究から,ブリモニジン点眼液は緑内障治療において期待される薬剤ではあるが,そC962あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020の薬理作用にはまだまだ不明な点が多い.今後さらなる緑内障研究が求められている.文献1)SerleJB:ACcomparisonCofCtheCsafetyCandCe.cacyCofCtwiceCdailyCbrimonidine0.2%CversusCbetaxolol0.25%CinCsubjectswithelevatedintraocularpressure.TheBrimoni-dineCStudyCGroupCIII.CSurvCOphthalmolC41:S39-S47,C19962)WhitsonJT,HenryC,HughesBetal:Comparisonofthesafetyande.cacyofdorzolamide2%andbrimonidine0.2%CinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CJGlaucomaC13:168-173,C20043)CantorLB,HoopJ,KatzLJetal:Comparisonoftheclini-calsuccessandquality-of-lifeimpactofbrimonidine0.2%andCbetaxolol0.25%CsuspensionCinCpatientsCwithCelevatedCintraocularpressure.ClinTherC23:1032-1039,C20014)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C20115)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C20126)YokoyamaCY,CKawasakiCR,CTakahashiCHCetal:E.ectsCofCbrimonidineCandCtimololConCtheCprogressionCofCvisualC.eldCdefectsinopen-angleglaucoma:Asingle-centerrandom-izedtrial.JGlaucomaC28:575-583,C20197)SembaK,NamekataK,KimuraAetal:Brimonidinepre-ventsneurodegenerationinamousemodelofnormalten-sionglaucoma.CellDeathDisC5:e1341,C20148)YukitaCM,COmodakaCK,CMachidaCSCetal:BrimonidineCenhancesCtheCelectrophysiologicalCresponseCofCretinalCgan-glionCcellsCthroughCtheCTrk-MAPK/ERKCandCPI3KCpath-waysCinCaxotomizedCeyes.CCurrCEyeCResC42:125-133,C2017(62)