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基礎研究コラム 39.網膜内脂質代謝と加齢黄斑変性

2020年8月31日 月曜日

網膜内脂質代謝と加齢黄斑変性加齢黄斑変性と脂質加齢黄斑変性の前駆病態の象徴であるドルーゼンは,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)下に蓄積する黄色/白色の物質で,その構成成分は脂質,補体,アミロイド,クリスタリンなどです.これまで血中脂質と加齢黄斑変性の関連について多くの研究が行われましたが,現在では血中脂質異常と加齢黄斑変性の関連はないか,あっても非常に少ないと考えられています.でも,ドルーゼンは脂質で構成されているのに,本当に脂質代謝と加齢黄斑変性は無関係なのでしょうか?もちろんそんなことはありません.近年,加齢黄斑変性の病態には,血中脂質よりも網膜組織における脂質代謝が重要だということが明らかになってきています1~3).主役はRPE,脇役に視細胞とマクロファージ網膜組織内の脂質代謝を考えるとき,その中心(主役)がRPEであることは加齢黄斑変性の病態を考えれば異論はないでしょう.また,RPEの機能の一つが視細胞外節の貪食であり,視細胞が重要な脇役であることも予想されます.そして,最後の脇役はマクロファージ(マイクログリア)です.これは少し意外かもしれませんが,厳密には網膜組織の一部ではないマクロファージ/マイクログリアも,網膜内の脂質代謝の恒常性維持に重要な役割を担っているのです(図1).実験動物を用いて組織特異的に遺伝子操作を行い,脂質(コレステロール)代謝を阻害すると,加齢黄斑変性様の表伴紀充慶應義塾大学医学部眼科学教室現型が得られますが1~3),RPEに遺伝子操作を行った変化がRPEに出るのは当然として3),視細胞1)およびマクロファージ2)に同様の遺伝子操作を行った場合も,その変化がCRPEとその周辺におきます.まさに,加齢黄斑変性はCRPEを主役に,脇役であるその周辺組織との相互作用により発症するのです.今後の展望網膜内組織の脂質代謝をターゲットにした治療が実現すれば,加齢黄斑変性の超早期から治療的介入が可能になるでしょう.また,パキコロイド関連疾患の概念の登場とともに注目を集めている脈絡膜にも,新たな脇役としての可能性を感じます.RPEと隣接する脈絡膜と加齢黄斑変性の関連にも今後大注目です.文献1)BanCN,CLeeCTJ,CApteCRSCetal:DisruptedCcholesterolCmetabolismCpromotesCage-relatedCphotoreceptorCneurode-generation.JLipidResC59:1414-1423,C20182)BanN,LeeTJ,ApteRSetal:Impairedmonocytecholes-terolCclearanceCinitiatesCage-relatedCretinalCdegenerationCandvisionloss.JCIInsightC3:e120824,C20183)StortiCF,CKleeCK,CGrimmCCCetal:ImpairedCABCA1/CABCG1-mediatedClipidCe.uxCinCtheCmouseCretinalCpig-mentepithelium(RPE)leadstoretinaldegeneration.ElifeC8:e45100,C2019図1網膜内脂質代謝と加齢黄斑変性コレステロール代謝関連遺伝子をマクロファージ特異的にノックアウトすると,マクロファージにコレステロールが蓄積(Ca:)するだけでなく,加齢とともに網膜に加齢黄斑変性様の変化が出現する(Cb).(67)あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C9670910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 207.自然閉鎖と再発を繰り返す黄斑円孔(初級編)

2020年8月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載207207自然閉鎖と再発を繰り返す黄斑円孔(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに黄斑円孔の自然閉鎖および自然閉鎖後の再発の報告は散見されるが,多くは硝子体手術後眼あるいは強度近視眼である1~3).筆者らは以前に,手術既往のない正視眼に自然閉鎖と再発を複数回繰り返したCstage2黄斑円孔のC1例を経験し報告したことがある4).C●症例提示76歳,男性.右眼視力低下を主訴に受診.初診時,視力は右眼(0.4),屈折は正視,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でCstage2の黄斑円孔を認めた(図1).1週間後に診察したところ,後部硝子体.離が生じており,黄斑円孔は閉鎖傾向を認め,2カ月後には完全に閉鎖し,視力は(0.9)に改善した(図2).そのC6カ月後,再度右眼視力低下を自覚.右眼視力(0.4)と低下し,stage2の黄斑円孔が再発していた.OCTでは明らかな硝子体牽引は認められなかった(図3).1カ月後に再度,自然閉鎖を認め,視力は(0.8)に回復した(図4).C●黄斑円孔が自然閉鎖と再発を繰り返す機序本症例では,初診時には中心窩への牽引を認めたが,1週間後には牽引が解除され,自然閉鎖に至ったと考えられる.自然閉鎖した黄斑円孔は,特発性でも外傷性でも再発する可能性は低いと考えられるが,過去に自然閉鎖と再発を繰り返したとする報告がいくつかみられ,その多くは硝子体手術後の症例であり,再発には術後に生じた黄斑上膜の牽引が関与するというものが多い1~3).また,原疾患に黄斑部を含む裂孔原性網膜.離や糖尿病黄斑浮腫などが含まれており,黄斑部の脆弱性が関与すると推測している報告もある.手術既往のない症例の報告としてはCGolanらのC1編のみであり,彼らは手術既往のない強度近視眼にC3度にわたって黄斑円孔の自然閉鎖(65)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時の右眼OCTStage2の黄斑円孔を認めた.(文献C4より引用)図22カ月後の右眼OCT1週間後に後部硝子体.離が生じ,2カ月後には黄斑円孔は完全に閉鎖した.(文献C4より引用)図36カ月後の右眼OCTStage2の黄斑円孔が再発していたが,明らかな硝子体牽引は認められなかった.(文献C4より引用)図47カ月後の右眼OCT再度,自然閉鎖を認めC,視力は(0.8)に回復した.(文献C4より引用)と再発を繰り返した症例を報告している5).また,その機序としてグリア細胞の増殖の関与を指摘している.今回の筆者らの症例と共通点は多いが,異なる点として本症例は正視眼であることがあげられる.本症例のCOCT所見を見ても初回と再発時の黄斑円孔の所見は明らかに異なっており,黄斑円孔発症に異なった機序が関与している可能性が考えられるが詳細は不明である.文献1)SridharJ,TownsendJH,RachitskayaAV:RapidmacularholeCformation,CspontaneousCclosure,CandCreopeningCafterCparsCplanaCvitrectomyCforCmacula-sparingCretinalCdetach-ment.CRetinCasesBriefRepC11:163-165,C20172)KimCJY,CParkSP:MacularCholeCformationCandCspontane-ousCclosureCafterCvitrectomyCforCrhegmatogenousCretinalCdetachmentCdocumentedCbyCspectral-domainCopticalCcoherencetomography:CaseCreportCandCliteratureCreview.IndianJOphthalmolC63:791-793,C20153)MoriCT,CKitamuraCS,CSakaguchiCHCetal:TwoCcasesCofCrepeatingCrecurrencesCandCspontaneousCclosuresCofCmacu-larholesinvitrectomizedeyes.JpnJOphthalmolC62:467-472,C20184)MiyamotoM,ShimizuK,SatoYetal:Spontaneousdisap-pearanceCandCrecurrenceCofCimpendingCmacularhole:aCcasereport.JMedCaseRepC13:335,C20195)GolanCS,CBarakA:ThirdCtimeCspontaneousCclosureCofCmyopicCmacularChole.CRetinCCasesCBriefCRepC9:13-14,2015あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C965

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の長期マネジメント

2020年8月31日 月曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二湧田真紀子1)能美なな実2)木村和博1)78.加齢黄斑変性の長期1)山口大学大学院医学系研究科眼科,2)下関医療センター眼科マネジメント加齢黄斑変性診療における長期マネジメントでは,個々の患者の再発傾向に即した抗CVEGF薬の投与法を選択することで,視機能を維持するとともに投与回数を削減することができる.また,長期間治療が継続できるよう,十分な説明や対話による心理サポートや地域連携を利用した遠距離通院の低減も含め,多面的な患者ケアを心がける.長期マネジメントにおける二つのポイント滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)の診療において,視機能を改善・維持するために抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法は不可欠である.一方で,患者にとって維持期の抗CVEGF療法は効果を実感しづらく,繰り返し眼に注射されるという心理的苦痛や費用面での負担感が大きいため,途中で挫折してしまうケースもみられる.つまり,AMD診療の長期マネジメントでは,可能な限り長期に視機能を維持できる治療方針を選択し,かつその治療が継続できるように患者のトータルケアに努めること,このC2点を両立させることが必要となる.抗VEGF薬の投与法:三者療法AMDに対する抗CVEGF療法の大規模研究では,導入期治療によって改善した視力はほぼプラトーに達し,以降は投与を継続しても大きな改善はみられない1,2).つまり,AMD診療における長期目標とは,導入期治療で改善した視力をいかに長期に維持するかということになる.しかし,実際に抗CVEGF療法を行っていると,数回の投与で長期に再発を認めない患者もいれば,頻回の投与が必要となる患者もいる.現状ではこのような違いを治療開始前に予測することはむずかしいため,病状に応じた個別化治療が求められる.維持期の抗CVEGF薬投与法には,1)定期的に投与を行う固定投与(FIX),2)再発など必要時にCreactiveに投与を行うCproCrenata(PRN),そしてC3)黄斑ドライを維持できるよう投与間隔を調整し,proactiveに投与を行うCtreatandextend(TAE)のC3種類がある.それぞれの方法には一長一短があるため,筆者らは個々の患者の病状に即してこのC3法を使い分ける三者療法(図1)を考案した.(63)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY導入期後1カ月目2カ月目3カ月目まず導入期治療として抗CVEGF薬をC3カ月連続投与し,その後さらにC3カ月経過観察を行う.この間に光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で滲出病変の再発がない反応良好例にはC3カ月ごと通院のPRNを選択し,3カ月以内に再発があればCTAEで治療する.TAEでは開始時の投与間隔でC2回連続ドライならC2週延長(最大C12週),再発時にはC2週短縮する.2回目の再発時には延長・短縮をC1週間隔で調整したのち,再発のない最大投与間隔で固定(FIX)して継続する.導入期治療で滲出が残る抵抗例では光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用を検討する.また,いずれの投与法でもC2段階以上の視力低下や黄斑出あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C963例:TAE/8週間隔図2当院でのTreatandExtend(TAE)法再投与はCOCT所見で決定し,開始時投与間隔でC2回連続滲出がなければC2週間延長,再発時にはC2週間短縮する(最大C12週).2回目の再発時には延長・短縮幅をC1週間隔で調整し,再発のない最大投与間隔で固定する.logMAR値0.70.60.50.40.30.2(カ月)PRNTAE/8週間隔TAE/4週間隔平均図3三者療法の視力経過平均値およびCPRN群ではC3カ月目以降,8週間隔CTAE群ではC24カ月目で有意に視力が改善しており,4週間隔CTAE群でも視力は維持された.血を生じる重症な再発時には導入期治療に戻る.この三者療法を用いて未治療のCAMDをアフリベルセプト単独で加療したC31眼のC2年経過では,導入期治療後の治療法はCPRN,8週間隔CTAE,4週間隔CTAEがそれぞれC15眼,12眼,4眼だった.視力経過(図3)ではCPRNおよびC8週間隔CTAEの症例全例でC24カ月目のC964あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020視力は有意に改善し,再発傾向の強いC4週間隔CTAEの症例でも視力は維持されていた.31眼中C11眼(35.5%)でClogMAR0.3以上の視力改善がみられ,0.3以上悪化した症例はC2眼(6.5%)のみだった.2年間の投与回数は,導入期治療C3回を含めて全例でC9.7回,PRN例で5.3回,8週間隔CTAE例でC13.1回,4週間隔CTAE例で15.8回であり,視力を維持しつつも集中治療が必要な症例と,少ない回数で維持できる症例を選別した治療が可能であった.患者のトータルケアAMDの長期管理には多面的な患者ケアも必須である.眼科医がベストと考えて選択した治療を患者に納得して継続してもらうために,当院ではCOCTなどの画像を見せて十分な説明と対話を心がけている.また,通院負担を軽減するために地域のかかりつけ医と治療方針を共有し,分担して治療や経過観察を行う地域連携システムの構築も進めている.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20062)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC119:2537-2548,C2012(64)

緑内障:臨床および基礎研究からみたブリモニジンの効果

2020年8月31日 月曜日

●連載242監修=山本哲也福地健郎242.臨床および基礎研究からみた横山悠東北大学病院眼科ブリモニジンの効果ブリモニジン点眼液はアドレナリンCa2受容体作動薬であり,房水産生抑制,房水排出促進という二つの作用をもつ薬剤である.その高い眼圧下降効果はいくつかの研究で実証されており,薬理作用的にも他の緑内障,高眼圧治療薬と組み合わせやすい.現在,その眼圧下降作用以外にも網膜神経節細胞になんらかの影響を及ぼし,神経保護の観点からも有益ではないかという期待から広く用いられている.●緑内障治療薬としてのブリモニジン米国に緑内障・高眼圧症治療薬としてのC0.2%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン点眼液)が登場したのはC1996年である.それに対し,日本では2012年に,濃度の低いC0.1%ブリモニジン点眼液が承認されている(図1).ブリモニジン点眼液はアドレナリンCa2受容体作動薬であり,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進するという機序により眼圧下降作用を有すると考えられている.原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした研究において,0.2%ブリモニジン点眼液の眼圧下降率は点眼C2時間値でC23.6~24.8%,トラフではC12~14.8%と高いものであった1~3).しかし,0.2%ブリモニジン点眼液には結膜炎などの眼局所の副作用の発現頻度が高いという問題があった(図2).この点において,現在普及するC0.1%の製剤は,防腐剤を塩化ベンザルコニウムから亜塩素酸ナトリウムに変更しpHを調整したことで,高い眼圧下降作用を維持しつつ,副作用発現頻度を減少させたものとなっている.C●ブリモニジンに関する臨床研究Low-PressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)は,視野保持能に関してC0.2%ブリモニジン点眼液とC0.5%チモロール点眼液を比較した多施設共同無作為化二重盲検試験である4).正常眼圧緑内障C178例を対象としており,最大C48カ月経過を観察した.この研究における主要評価項目はCprogressorsoftwareによる視野障害進行であり,進行の定義を,三つかそれ以上の検査点で有意な負のスロープ(innerC.1.0CdB/Y,edgeC.2.0CdB/Y,p<5%)を示し,その後C2回の検査で確認した場合としている.この研究において,眼圧下降作用は両群間で有意な差は認めなかったが,Kaplan-Meier法を用いた生存分析ではC0.2%ブリモニジン点眼液群のほうが有意に(61)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY視野障害に至った症例が少なかった.追加解析では,加齢,高血圧治療薬の使用,平均眼灌流圧の低下などが危険因子であったことが報告された5).筆者らの施設でも,日本で市販されるC0.1%ブリモニジン点眼液を用いて,0.5%チモロール点眼液を比較した研究を行っている6).ブリモニジン点眼液の濃度以外にもCLoGTSと方法が異なっており,少なくともプロスタグランジン関連薬を含む抗緑内障点眼液C1剤以上を使用しても進行傾向にある広義原発開放隅角緑内障を対象とし,主要評価項目をCMD(meandeviation)スロープの変化と定めている.この研究ではCMDスロープは両治療群とも改善を示したが,群間差を認めなかった.しかし,視野障害進行の定義をCHumphrey視野計に搭載されるCGuidedProgressionCAnalysisで「進行の可能性あり」と判定される検査点がC3点以上とした場合,生存分析では生存曲線に有意差を認め,ブリモニジン群の生存率が高かった(図3)6).これらの研究成果では眼圧下降作用以外にも視野保持図10.1%ブリモニジン酒石酸塩液わが国で市販されるアイファガン点眼液C0.1%.図2ブリモニジン点眼液により生じた濾胞性結膜炎著明な球結膜充血と瞼結膜に濾胞性変化を認める.ブリモニジン点眼液で多い眼局所の副作用の一つである.あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C961ab14MeanIOP(mmHg)1312111098760M4M8M12M16M20M24M04812162024MonthMonthNumberatrisk(Events)Brimonidine21(0)21(0)21(1)20(0)20(0)20(0)20(0)Timolol20(0)20(0)20(0)20(1)19(1)18(4)14(1)図3当施設で行われた0.1%ブリモニジン点眼液と0.5%チモロール点眼液の比較a:眼圧の推移.0.1%ブリモニジン点眼液のほうが全体的に眼圧が若干低いが,薬剤としての効果に有意差はみられなかった.Cb:生存時間分析.主要評価項目であるCMDスロープは両群間で有意差を認めなかったが,Kaplan-Meier生存分析では有意差を認めた(ログランクテスト:p=0.0198).(文献C6より引用)になんらかの影響を及ぼしていたことが示唆されており,ブリモニジン点眼液が緑内障臨床医から期待される理由となっている.C●ブリモニジンに関する基礎研究ブリモニジンには虚血再灌流モデル,軸索挫滅モデルなどで実験的に障害された網膜神経節細胞(retinalgan-glioncell:RGC)に対してなんらかの影響を及ぼすことがいくつかの基礎研究で報告されている.Sembaらは興奮毒性により神経変性を引き起こすCEAAC1ノックアウトマウスを用いた研究において,ブリモニジンはN-methyl-D-aspartatereceptor2B(NR2B)subunitのリン酸化を抑制して神経変性を抑えたことを報告した7).また,彼らは培養CMuller細胞においてブリモニジン投与により脳由来神経栄養因子(brainCderivedCneurotrophicfactor:BDNF)などの神経栄養因子の発現量が上昇したことも確認もしており,グリア-ニューロン相互作用を含むさまざまな経路を介して緑内障性網膜変性を抑えたのではないかと考察している.当施設でもラットの軸索切断によるCRGC障害モデルにおいて,ブリモニジン硝子体注射によりCRGCが多く残存し,また電気生理学的検査でその活動を確認している8).C●おわりに現在,緑内障治療において十分なエビデンスに基づいているものは眼圧下降療法のみである.しかし,実臨床では眼圧下降療法を十分行っても進行する難症例にしばしば遭遇する.さまざまな研究から,ブリモニジン点眼液は緑内障治療において期待される薬剤ではあるが,そC962あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020の薬理作用にはまだまだ不明な点が多い.今後さらなる緑内障研究が求められている.文献1)SerleJB:ACcomparisonCofCtheCsafetyCandCe.cacyCofCtwiceCdailyCbrimonidine0.2%CversusCbetaxolol0.25%CinCsubjectswithelevatedintraocularpressure.TheBrimoni-dineCStudyCGroupCIII.CSurvCOphthalmolC41:S39-S47,C19962)WhitsonJT,HenryC,HughesBetal:Comparisonofthesafetyande.cacyofdorzolamide2%andbrimonidine0.2%CinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CJGlaucomaC13:168-173,C20043)CantorLB,HoopJ,KatzLJetal:Comparisonoftheclini-calsuccessandquality-of-lifeimpactofbrimonidine0.2%andCbetaxolol0.25%CsuspensionCinCpatientsCwithCelevatedCintraocularpressure.ClinTherC23:1032-1039,C20014)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C20115)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C20126)YokoyamaCY,CKawasakiCR,CTakahashiCHCetal:E.ectsCofCbrimonidineCandCtimololConCtheCprogressionCofCvisualC.eldCdefectsinopen-angleglaucoma:Asingle-centerrandom-izedtrial.JGlaucomaC28:575-583,C20197)SembaK,NamekataK,KimuraAetal:Brimonidinepre-ventsneurodegenerationinamousemodelofnormalten-sionglaucoma.CellDeathDisC5:e1341,C20148)YukitaCM,COmodakaCK,CMachidaCSCetal:BrimonidineCenhancesCtheCelectrophysiologicalCresponseCofCretinalCgan-glionCcellsCthroughCtheCTrk-MAPK/ERKCandCPI3KCpath-waysCinCaxotomizedCeyes.CCurrCEyeCResC42:125-133,C2017(62)

屈折矯正手術:iDesign Refractive Studio

2020年8月31日 月曜日

監修=木下茂●連載243大橋裕一坪田一男243.iDesignRefractiveStudio荒井宏幸みなとみらいアイクリニック新しいwavefrontanalyzerであるiDesignRefractiveStudio(Johnson&Johnson)は,測定された収差情報をレーザー照射プログラムに変換する際に,トポグラフィーのデータを元に余弦効果を最適化することで,より理想的なwavefrontguidedLASIKを可能とした.●より精緻なWavefrontGuidedLASIKのためにかねてよりwavefrontguidedLASIKを提唱してきたJohnson&Johnson社が,新たなwavefrontanalyz-erを開発した.初代のWaveScan,2代目のiDesignに続く3世代目として登場したのがiDesignRefractiveStudioである.外観は2代目のiDesignを踏襲しているが,測定部・CPU・ソフトウェアなどの心臓部は一新されている(図1).それに伴い,測定・解析可能な項目も増加している(表1).また,データを受け取るVISXStarS4IRエキシマレーザーシステムのソフトウェアも変更され,測定精度の向上に見合った精緻なレーザー照射を行えるよう,システム全体に改良が施された.図1iDesignRefractiveStudioの外観従来のiDesignと大きな変更はない.付属のテーブルが小型になったので,設置は容易になった.LAN端子を備え,ネットワークにも対応している.●トポグラフィーを活用したWavefrontGuidedLASIKが可能に従来のiDesignは,1,257ポイントのHartman-Shack像による精緻なwavefront解析が行えるアナライザーである.同一撮影にてトポグラフィーも取得しており,角膜形状マップも表示されていたが,エキシマレーザーの照射プログラムにはトポグラフィーの結果は反映されていなかった.新たに開発されたiDesignRefractiveStudioでは,測定されたトポグラフィーの結果を照射プログラムに反映させ,余弦効果の補正を正確に行えるようになった.余弦効果とは,角膜周辺部の斜面状の部分にレーザーが当たった場合にスポット面積が広くなり,レーザーによる照射効率が変化することである.VISXStarS4IRでは従来より余弦効果に対する補正を行ってレーザー照射をしてきたのであるが,補正の基礎情報としてはK値のみを使用していた.したがって,角膜周辺部の微細なK値変化には対応することができなかった.iDesignRefractiveStudioでは,トポグラ表1新旧iDesignの性能の違いiDesigniDesignrefractiveStudioaxialpower●●irregularity○○elevation●●meancurvature○●tangentialcurvature○●cornealwavefront○●keratometry●●internalaberrations○●di.erencemaps●●WF/auto-refraction●●○計測不可●限定つき計測可能●計測可能iDesignRefractiveStudioでは形状解析および収差解析における解析可能な項目が増えている.(59)あたらしい眼科Vol.37,No.8,20209590910-1810/20/\100/頁/JCOPY表2エキシマレーザー照射プログラムの違い変換のプロセスiDesigniDesignrefractiveStudio変換の基礎情報WavefrontmapWavefrontmap1Wevefront情報の角膜上への変換角膜形状はK値より数学的に推定値が計算される角膜形状はトポグラフィーの数値より実際に算出される2レーザーと角膜の相互作用(余弦効果)余弦効果はK値より数学的に解析され,レーザーエネルギーに反映される余弦効果はレーザー照射面のすべてにおいて,トポグラフィーのデータに基づいて算出される新しいプログラムでは,トポグラフィーの結果を用いて,エキシマレーザーのプロファイルを余弦効果が最適になるように補正している.フィーを補正の基礎情報として使用するため,照射面全体で正確な余弦効果の補正が行えるようになった(表2).●Wavefront波面を角膜上に反映させる多くの波面収差計が臨床使用されており,計測の精度も向上している.観察や解析のみであれば,計測精度だけの追求で問題はないが,角膜上で収差を補正する場合には,角膜が球状の形態であることが大きな障壁となる.波面収差計で得られた収差マップをLASIK,pho-torefractivekeratectomy(PRK)の照射プログラムに反映しようとする場合には,レーザーの1ショット当たりのエネルギー効率が同一であることが望ましい.そのためには先述した余弦効果をいかに効率的に補正できるかがポイントとなる.iDesignRefractiveStudioでは,iDesignで得られたwavefront情報を正確にエキシマレーザー照射プログラムに反映させることができるようになった.●WavefrontGuidedLASIKの有意性LASIKによる感染症多発事件を発端とした消費者庁の注意喚起情報が発信されて以来,国内におけるLASIK症例数は激減している.おそらくは以前のような症例数に戻ることはないであろう.しかし,LASIKに代わる技術が未だに存在せず,白内障術後のtouchupなどのような軽微な屈折異常を治療できるのはLASIK以外にはない.1991年にPallicalisによって考案されたLASIKは,すでに30年の歴史を持つ手術となった.当初のLASIKは単純に球面度数と円柱度数を矯正するものであったが,グレア軽減のために移行帯(トランジッションゾーン)の設定,球面収差補正,topographyguidedなどへ発展し,最終的なカスタマイズとしてwavefrontguidedが登場した.Topographyguidedも個々の症例に対するカスタマイズであるが,wavefrontguidedは角膜形状による屈折変化を包含した全収差解析であるため,原理的にはtopographyguidedよりも上位に位置する.真の意味でのカスタマイズLASIKはwavefrontguidedだけであるといってもよいであろう.世界的には現在でも多くのLASIKが行われており,今回紹介したiDesignRefractiveStudioのような精度向上への進化が続いていることは,屈折矯正手術を専門とする筆者としては嬉しいかぎりである.今後もこの分野のさらなる発展を願っている.☆☆☆960あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020(60)

眼内レンズ:カートリッジと鑷子による眼内レンズ摘出法

2020年8月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋福岡佐知子405.カートリッジと鑷子による眼内レンズ摘出法多根記念眼科病院低侵襲な眼内レンズ(IOL)摘出法“cartridgepull-throughtechnique”を考案したので報告する.D1カートリッジ(HOYA)内腔に福岡氏CIOL摘出鑷子(はんだや)を通す.鑷子を前房内に挿入,IOL光学部を把持,カートリッジ内にCIOLを引き込み摘出する.前房内操作が少なく,角膜や虹彩の保護が可能で,低侵襲にCIOLを摘出できる有効な術式であると考える.●はじめに近年,白内障手術の低年齢化やアトピー性疾患の増加,長寿命などによる眼内レンズ(intraocularlens:IOL)脱臼,偏位症例の増加,白内障手術後の度数ずれやプレミアムレンズの不満症例などへの対応として,IOLを摘出する機会が増えている.現在は,IOLを鑷子で半分に折り曲げたり,剪刀で分割して摘出している.前房という狭いスペースで行うため,角膜や虹彩に侵襲を与えてしまうことがある.そこで,カートリッジと鑷子を使い,低侵襲にCIOLを摘出する“cartridgeCpull-throughtechnique”1)を考案したので紹介する.C●Cartridgepull.throughtechniqueの標準術式D1カートリッジ(HOYA)と福岡氏CIOL摘出鑷子(はんだや)を使用する(図1).3.2Cmm以上の強角膜切開創を作製する.IOLに硝子体が絡んでいる場合は粘弾性物質や硝子体カッターで硝子体を郭清しておく.カートリッジ内腔に粘弾性物質を充.したあとに,鑷子を通し,鑷子先端がカートリッジ先端から出るようにセットする.右手で持った鑷子を前房内に挿入しCIOL光学部を把持する(図2a).次に左手でカートリッジ先端を創口から前房にゆっくり押し込んだら,そのままの位置で固定する.右手の鑷子はCIOLを把持したまま手前に引いて,IOLをカートリッジ内に引き込む(図2b).IOL全体がカートリッジに引き込まれてから摘出するのが理想的だが,光学部の半分くらいがカートリッジに引き込まれて筒状になった時点で,カートリッジと鑷子を一緒に引き抜けば,IOLが摘出できる.IOLの入れ替えや,IOL偏位で虹彩付近にCIOLがある場合は上記方法で行う.IOLが網膜表面に落下している場合は,硝子体切除後,IOLを硝子体鑷子で虹彩後方鑷子先端の拡大図図1D1カートリッジ(右下)と福岡氏IOL摘出鑷子図2Cartridgepull.throughtechniqueの手順a:右手で持った鑷子を前房内に挿入しCIOL光学部を把持する.光学部の把持部位は手前ループ付け根の少し右側.Cb:左手でカートリッジ先端を創口から前房にゆっくり押し込んだら,そのままの位置で固定する.右手の鑷子はCIOLを把持したまま手前に引いて,IOLをカートリッジ内に引き込む.(57)あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C9570910-1810/20/\100/頁/JCOPYまで持ち上げる.IOLを虹彩上に引き上げてもよいが,硝子体腔から直接摘出することもできる.いずれの場合も,眼球が虚脱する可能性があるときはCinfusionCportを作製し,眼内灌流をしながら行う.C●より摘出しやすくするための工夫使用しているCD1カートリッジは光学部径がC6.5CmmのCIOL挿入用で,推奨切開創は角膜C3.2mm,強角膜C3.0mmである.カートリッジの中を光学径がC6.0mmのフォーダブルCIOLだけが通過するのであれば摘出可能と感じるが,実際は光学部を把持した鑷子とループが同時に通過するためタイトである.ゆえに切開幅は強角膜切開であればC3.2Cmm以上がよい.さらに摘出CIOLが厚いと予測される場合は,カートリッジを使用前に保温庫で温めて伸展しやすくしたり,カートリッジ先端に切り込みを入れて口径の拡大を試みてもよい.現在CD1カートリッジは入手困難なため,6.0CmmIOL挿入用のCC1カートリッジ(HOYA)でも同手技が可能である.粘弾性物質の種類は問わないが,低温の粘弾性物質を使用するとCIOLが硬くなり,摘出しにくくなるので,常温に戻しておく.また,カートリッジをそのまま前房に挿入すると虹彩が陥頓するため,カートリッジ内に粘図3IOL光学部の把持部位によるループの挙動a:ループ付け根のやや右側の光学部を把持すると,対側のループはまっすぐ伸びるので摘出しやすい.Cb:両ループの中間の光学部を把持すると,ループが硝子体側や角膜内皮側に立ち上がり,虹彩や角膜(IOL入れ替えの場合は後.)を損傷する可能性があるので注意が必要である.弾性物質を充.しておく.これは潤滑剤にもなる.C●注意点本術式は,PMMAなど折りたためない硬い材質のIOLは摘出できない.またCIOLを摘出する際,IOLに絡んだ硝子体を一緒に引っ張ると,網膜.離を起こす可能性があるので,粘弾性物質や硝子体カッターで硝子体を郭清してから摘出する必要がある.そしてCIOL光学部の把持部位にも注意が必要である(図3).ループ付け根のやや右側の光学部を把持すると,対側のループがまっすぐ伸びるので摘出しやすいが(図3a),両ループの中間の光学部を把持すると,ループが硝子体側や角膜内皮側に立ち上がり,虹彩や角膜内皮細胞(IOL入れ替えの場合は後.)を損傷する可能性があるので注意が必要である(図3b).今回考案したCcartridgeCpull-throughCtechniqueは,すべてのCIOLが摘出できるわけではないが,低侵襲で簡便に行うことができる有効な術式であると考える.文献1)福岡佐知子,木下太賀,森田真一他:カートリッジと鑷子による低侵襲CIOL摘出法(CartridgeCpull-throughCtech-nique).IOL&RS,投稿中

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 ベベル・エッジデザイン

2020年8月31日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司3.ベベル・エッジデザイン■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)のベベル・エッジデザインは各メーカーによってかなり異なっている.ベベル・エッジデザインはレンズの動き・静止位置などのフィッティングに大きくかかわってくる.また,装用感やレンズ下の涙液交換にも影響を与える.このセミナーの初回において,簡単にベベル・エッジデザインについて紹介したが,ここではさらに詳しく解説する.■HCLの内面は二つか三つの曲面から形成されている中央部の内面はベースカーブ(basecurve:BC)とよばれている.BCの曲率半径とフロントカーブの曲率半径の差とレンズ材質の屈折率によって,そのレンズのパワー(度数)が決定する.BCの外側はさらにフラットな曲率で切削され,intermediatecurve(IC)を形成する.内面が二つの曲面のみから形成されるHCLでは,この曲面がperipheralcurve(PC)となる.三つの曲面から形成されるHCLではICの外側はさらにフラットな曲率で切削され,これがこの場合のPCになる.図1は三つの曲面から形成されるHCLのデザインを示す.この図でエッジを結ぶ平面とBC中心までの距離をサジタルデプス(sagitaldepth)という.また,図における内面非球面ベベルがデザイン上のベベル幅であり,エッジリフトはデザイン上のエッジリフト(エッジの浮き上がり)ということになる.■ベベル・エッジのチェック法実際にHCLを装用した状況のチェック法はフルオレ図2フルオレセインパターンにおけるベベル幅小玉眼科医院セイン染色で行う.ここでわかるのはベベル幅である(図2)が,デザイン上のベベル幅と若干異なっている.サイズ8.8mmのレンズでは0.6mmくらいのベベル幅が適当とされている(図3).エッジリフトは,スリット光を0.1mm程度に絞って45°の角度から照射し,レンズ下端における光束のズレを観察する(図4).直乱視では下端のエッジリフトは大きくなる.レンズ自体のベベル・エッジデザインのチェックは,直管蛍光灯の反射光をルーペで観察する方法が一般的である(図5)が,以前にサンコンタクトレンズが製作したベベルビュアーなどを用いると,より簡単にチェックできる(図6).ベベル・エッジ形状を模式図で表わす(図7).■その他の部位(ブレンドとキャリアカーブ)HCLの内面は二つか三つのカーブから形成されると記したが,それぞれのカーブ間の継ぎ目は尖っており,そのままでは異物感が強くなるので,なだらかになるよ図1ベベル・エッジデザイン三つの曲面から形成されるHCLでの形状を示す.図3適度なベベル幅サイズが8.8mmのレンズでは0.6mm程度のベベル幅が最適となる.a:ベベル幅が狭すぎてレンズの動きが少なく涙液交換も不足する.b:ベベル幅が広すぎてレンズの動きが大きく不安定になる.(55)あたらしい眼科Vol.37,No.8,20209550910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4エッジリフトのチェック図5ルーペを用いたベベル・エッジのチェック法スリットランプの光束を0.1mm程度に絞ってレンズ下端指にレンズを載せて,直管蛍光灯のベベル・エッジ部分にに照射し,レンズ下端における光束のズレをチェックすおける反射光をルーペにて観察する(撮影はタオルに置いる.光束1本くらいのズレが適量である.て行った).ab図6ベベルビュアーによるベベルエッジの観察cda:ベベルビュアー.b:ベベルビュアーで観察されるベベル・エッジ形状.ab図8キャリアカーブ(レンチクラール部)a:強度近視用HCLにおけるマイナスキャリア.b:強度遠視用(無水晶体用)HCLにおけるプラスキャリア.うに研磨されており,この作業の工程が「ブレンドをかける」とよばれている.BCとICの継ぎ目を研磨することをICブレンド,ICとPCの継ぎ目を研磨することをPCブレンドという.近年のコンタクトレンズ製作機図7ベベル・エッジ形状の模式図a:エッジリフトが小さい.b:ブレンド不良.c:ブレンド過剰.d:理想像.械は優れており,ICブレンドやPCブレンドが不足していることはほとんどないが,HCL装用の際に強く異物感を訴える場合はこれらの部位をチェックすることも必要になってくる.強度近視や強度遠視用のHCLにおいては,レンズのベベル部分が,それぞれ厚すぎたり薄すぎたりしてレンズの動きが不安定になったり,異物感が発生したりするので,キャリアカーブを設けている.厚すぎる場合はマイナスキャリア,薄すぎる場合はプラスキャリアを設ける(図8).

写真:顆粒状角膜ジストロフィ2型の治療的レーザー角膜切開術(PTK)後再発

2020年8月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦435.顆粒状角膜ジストロフィ2型の治療的稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科レーザー角膜切除術(PTK)後再発視覚機能再生外科学図1症例1の前眼部写真55歳,女性.顆粒状角膜ジストロフィC2型所見.13年前にCPTKを受けた.視力低下を自覚して来院.図3症例1の前眼部細隙灯顕微鏡写真角膜混濁は角膜中央部の上皮直下の浅い層に限局している.図4症例2の前眼部写真68歳,男性.顆粒状角膜ジストロフィC2型所見.13年前にPTKを受けた.(53)あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C9530910-1810/20/\100/頁/JCOPY症例1(図1~3)は55歳の女性で,13年前に両眼の顆粒状角膜ジストロフィと診断され,遺伝子検査の結果は,TGFBI遺伝子R124H変異(顆粒状角膜ジストロフィ2型:granularcornealdystrophytype2:GCD2)ヘテロ接合体であった.右眼については矯正視力がC0.4まで低下していたため,エキシマレーザーによる治療的レーザー角膜切除術(phototherapeuticCkera-tectomy:PTK)が施行され,矯正視力はC1.2まで改善した.術後C3年ごろから少しずつ視力が低下していたが,術後C5年以降通院はとだえていた.今回の受診時の矯正視力はC0.3まで低下していた.再度CPTKを行い,術後C0.9まで矯正視力は改善した.症例2(図4)はC78歳の男性で,13年前に両眼の顆粒状角膜ジストロフィと診断され,遺伝子検査でCGCD2であった.初回のCPTK後C13年間,ほとんど矯正視力の変化はなかった.GCD2は日本や韓国で多い角膜ジストロフィである1).当初はイタリアのCAvellino地方に限られた遺伝性角膜ジストロフィと考えられたためCAvellino角膜ジストロフィと命名されたが2),そのほかの地域でも症例が報告され,現在では顆粒状角膜ジストロフィC2型が正式名称である.マッソントリクローム染色で赤色に染まるヒアリン様物質と,コンゴレッド染色で偏光顕微鏡下に複屈折を呈するアミロイドの両方が沈着しており,granu-lar-latticedystrophyとよばれることもある.ヘテロ接合体であればC50歳以降に視力が徐々に低下してくる.ホモ接合体は幼少期より強い混濁を起こす.日本でもっとも多くみられるCGCD2はCPTKのよい適応である.混濁が上皮直下で集簇して面状に瞳孔領を覆うと,矯正視力の低下をきたすので,その時点でCPTKを行うと矯正視力が改善する.レーザー機種によっても異なるが,1.5~3Dの遠視化が起こるので,術後の老視症状についても注意する.高齢者に大きな上皮欠損をつくるので,術後の感染対策も重要である.PTK後GCD2は数年で再発をきたす3)が,瞳孔領を覆うまでには時間がかかり,矯正視力がC2段階低下するには平均で10年程度かかる4).症例C1はC13年でかなり矯正視力が低下しているが,症例C2はC13年経過しても瞳孔領はまだ透明な部分が多い.GCD2のCPTK後再発はゆっくりと起こり,かつそのスピードは症例によってバリエーションが大きいことを示す写真である.文献1)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies–editionC2.CCorneaC34:117-159,C20152)HollandCEJ,CDayaCSM,CStoneCEMCetal:AvellinoCcornealCdystrophy.CClinicalCmanifestationsCandCnaturalChistory.COphthalmologyC99:1564-1568,C19923)DinhCR,CRapuanoCCJ,CCohenCEJCetal:RecurrenceCofCcor-nealdystrophyafterexcimerlaserphototherapeutickera-tectomy.Ophthalmology106:1490-1497,C19994)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.Medicine(Baltimore)C98:e16216,C2019

斜視のボツリヌス治療

2020年8月31日 月曜日

斜視のボツリヌス治療BotulinumToxinfortheTreatmentofStrabismus宇井牧子*はじめに斜視に対するボツリヌス治療が2015年6月に保険適用となって5年が経過した.外眼筋にA型ボツリヌス毒素(botulinumtoxintypeA:BTX-A)を注射することで筋の収縮力を弱め,斜視手術における筋の弱化・後転術に似た効果を得ることができる.2020年4月,注射の手技料「外眼筋注射(ボツリヌス毒素によるもの)1500点」が認可された.斜視での施注には,筋電計やディスポーザブルの皮膚電極,電極兼注入針を必要とするにもかかわらず,これまで薬価と「筋電図(針電極にあっては1筋につき)320点」しか算定できず,本療法が限られた施設でしか行われない原因のひとつとなっていた.今回の注射手技料の認可は,斜視のボツリヌス治療がより多くの眼科医に採用される大きな一歩と考えられる.Iボツリヌス毒素の作用と効果BTX-Aは運動神経末端でアセチルコリン放出を阻害し,神経筋伝達を阻害する.それによって筋の麻痺が起こり,弱化効果が得られる.効果は数日後から明らかになり3~4カ月間持続するが,その後神経末端より別の発芽が生じて収縮力は回復する.しかし,筋線維の細い外眼筋では注射によって同部位の萎縮や線維化が生じるという報告もあり1),投与を繰り返すと眼位に残存効果が認められるようになる.II適応疾患ボツリヌス毒素の医療製剤としての開発は,1987年米国の眼科医AlanScott博士による斜視への臨床応用から始まり,海外ではボツリヌス毒素による斜視治療が盛んに行われていた.わが国では2015年に斜視に対して適応拡大が認められ,12歳以上のすべての斜視に保険適用となった.海外でもっとも良い適応とされる乳児内斜視に対しては,小児での使用が認められていないため行えない.わが国での良い適応として,①後天内斜視,②甲状腺眼症,③麻痺性斜視の急性期,④手術のシミュレーション,⑤大角度の斜視に対する後転術との併用があげられる.BTX-Aの効果の持続期間は3~4カ月であるが,一部にBTX-Aの薬理作用の持続期間をはるかに超えて治療効果の持続する症例が存在する.後天内斜視や甲状腺眼症では,注射のみで長期にわたり緩解や治癒の得られる例が多い.一方で,間欠性外斜視に対しては元に戻ってしまうことから本療法は適さない.1.後天内斜視若年者の後天内斜視が増えているが,内直筋へのBTX-A注射が治療に有効である2).デジタルデバイスの過剰使用が発症誘因として疑わしい場合には,BTX-A療法に加え,適切な屈折矯正とデジタルデバイスの使用制限が緩解の維持に重要であると筆者は考えている.*MakikoUi:CS眼科クリニック,東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕宇井牧子:〒113-0033東京都文京区本郷3-15-1美工本郷ビル8FCS眼科クリニック0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)947表1斜視のボツリヌス治療の利点と欠点図2症例1後天内斜視a:初診時.複視と30Δ内斜視を認めた.眼球運動制限はなかった.b:右内直筋BTX-A5.0単位注射後,14Δ内斜位となり複視は消失した.図1外来での注射の手技a:筋電図MEM-8301ニューロパックn1.経結膜的に電極兼注入針を刺入する.波形と音とで筋内に入ったことを確認でき,そのまま注入可能である.b:左内直筋にBTX-Aを注射している様子.ab図3症例2外転神経麻痺の急性期a:初診時.複視と80Δ内斜視,左外転制限を認め,左外転神経麻痺と診断した.b:初診時Hess赤緑試験.左外転制限を認めた.c:注射後.左内直筋BTX-A2.5単位注射後,正位となり複視は消失した.d:注射後Hess赤緑試験.外転制限は改善した.図4症例3手術のシミュレーションa:初診時.遠見40Δ,近見30Δ内斜視を認めたが,20Δ以上を基底外方に入れると複視を自覚した.網膜異常対応が疑われた.b:注射後.右内直筋BTX-A2.5単位注射後,遠見18Δ,近見15Δ内斜位斜視となったが,両眼開放正位の状態で複視を自覚しなかった.c:両内直筋後転術後.遠見正位,近見4Δ外斜位で複視はなく,外見的にも満足が得られた.

難治性複視の非観血的治療

2020年8月31日 月曜日

難治性複視の非観血的治療ChallengingNon-SurgicalMethodsfortheTreatmentsofDiplopia杉谷邦子*鈴木利根*はじめに複視は原疾患の治療後や斜視手術,プリズム治療後でもなお残存することがある.とくに末梢神経障害など非共同性の麻痺では,正面位は改善できても視方向により複視が残ることが多い.周辺の複視や回旋性複視による傾きを避けようとするため,患者が片目つむりによる顔面の疲労や代償頭位による肩,首の凝りを訴えるのをよく経験する.折角手術された眼を,自ら完全遮閉している残念な例にも出会う.甲状腺眼症や重症筋無力症などの複視は,症状の変動があり経過も長くなりがちである.さらに複視に悩まされているが手術の適応でない全身合併症の患者や,手術を希望しない高齢者もいる.そのような場合,完全遮閉が選択されがちであるが,それにより身体の平衡が保てず歩行に支障をきたしていることが多い.本稿ではこのような難治の複視に対し,苦痛を最小限にする治療として筆者らが実践しているS-Smethod(複視の非観血的治療の院内手順)1,2)について紹介する.プリズム矯正と部分遮閉とを組み合わせた本法は,原因疾患の種類や斜視角の大小,病期を問わず,変化にも柔軟に対処できる長所がある.IS.Smethodの目標と手順1.目標三つの治療目標を設定している.・両眼開放:歩行の安定のために片眼の完全遮閉は極力行わない.・日常9方向での複視消失:片目つむりや代償頭位による不自由と疲労を軽減させる.・周辺視野の確保:完全遮閉や部分(完全)遮閉による視野欠損を起こさせない.2.手順目標に向けたstep1~3の手順を図1に示した.Step1:まずプリズム治療で正面位の単一視をめざす.12Δ位までは眼鏡に直接プリズムレンズを組み込み,不足分は膜プリズムで補う.変動期には膜プリズムを単独で用い,角度の変化に随時対応していく.Step2:step1で周辺に複視が残った場合にstep2へ進み,BangerterOcclusionFoilsの0.1遮閉膜を用いて部分遮閉を試す.はじめから正面位に複視がないか,すでに治療されている場合はstep1を省略し,step2から始める.Step3:step2まで試しても満足できなかった場合はstep3へ進み,0.1遮閉膜を用いspotpatchを試す.II各Stepの方法1.Step1の方法プリズム治療については過去の報告3,4)や本特集の稲垣の項に委ね省略するが,一点筆者らが留意していることを述べる.第一眼位で複視消失が可能となるプリズム度数は,患者の融像域により一定の幅がある.そのなか*KunikoSugitani&*ToneSuzuki:獨協医科大学埼玉医療センター眼科〔別刷請求先〕杉谷邦子:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学埼玉医療センター眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)939Step1プリズム()ΔStep20.1遮閉膜Step3図1S.Smethod(複視の非観血的治療の院内手順)Step1:正面位を組み込みプリズム(各眼に6Δ程度)で矯正し,不足分は膜プリズムを追加.変動期は膜プリズムを単独で使用する.Step2:step1後に複視が周辺に残った場合に部分遮閉を追加する.正面位に複視がなく周辺だけであれば遮閉膜を単独で部分遮閉する.Step3:step2まで試し処方に至らなかった場合,遮閉膜でspotpatchする.表1眼球運動障害の方向と遮閉方法上転障害遮閉不要上眼瞼が代用下転障害患眼レンズ下方少ない代償頭位で下方視野を補足内転・内下転障害患眼レンズ鼻側例:滑車神経麻痺外転・外下転障害健眼レンズ鼻側例:外転神経麻痺aちぎりやすいテープ大きめの視標プラスチックフィルムタイプb図2Step2遮閉範囲の決定と遮閉膜を貼る手技a:正面位で複視のないことを確認し,視標をゆっくり9方向に追従させ複視の有無を訊いていく.b:複視が出るたびにテープを貼り足し消していき,複視がなくなれば遮閉範囲を決定する.c:レンズ上に貼られたテープに合わせて型紙を作成し,型紙に合わせて切り取った遮閉膜をレンズの裏側から貼る.a右眼滑車神経麻痺b右眼外転神経麻痺LRLR図3両眼単一視野と遮閉位置との関係上部の○は患者側から眼鏡を通してみた両眼単一視野.a:右レンズ下鼻側に遮閉膜が貼られることで,両眼視で視野の斜線部が選択的に単眼視となる.b:左レンズ鼻側に遮閉膜が貼られることで,aと同様に両眼視で視野の斜線部が単眼視となる.abc図4Step3Spotpatchの範囲の決定a:両眼視下で麻痺眼レンズ上の瞳孔付近に約1cm角のテープを貼る.b:複視が消えたことを確認し,中心から9方向に視標を追従させ,複視がなくなるまで小刻みにテープを貼り足す.c:テープに合わせ,型紙をとり裏から遮閉膜を貼る.図5遮閉範囲と両眼単一視野との関係両眼単一視野で複視領域は広いが,それをメガネレンズ上に引き寄せると範囲は狭い.その範囲にspotpatchを貼るので9方向で複視は現れない.n=213処方総数194人(91.1%)プリ159ズム処方人(74.6%)遮閉59人(膜処方27.7%)St16ep135人3.4%Step244人20.7%Step315人7.0%FAIL19人8.9%プリズム+遮閉膜遮閉膜:単独:2024人人0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%図6処方の内訳194人(91.1%)が処方に至り,step1,step2,step3の順に多かった.プリズム処方はstep1とstep2を合わせ159人(74.6%),遮閉膜処方はstep2とstep3を合わせ59名(27.7%)であった.表2治療できた臨床上重要な6疾患表3斜視角疾患人%処方人水平平均(SD)Δ垂直平均(SD)Δ外転神経麻痺4130.8Step113510.5(±9.87)4.6(±5.82)滑車神経麻痺3123.3Step24410.5(±13.25)**6.0(±8.59)動眼神経麻痺1914.3Step31525.9(±14.6)7.4(±9.52)斜偏位1813.5FAIL1916.6(±12.89)7.7(±8.12)甲状腺眼症139.8重症筋無力症118.3n=213Sche.e;p<0.05n=133ab図7部分遮閉の症例a:正面位に複視はないが,右方視の際身体全体を回すので疲労感を訴えていcた.左レンズ鼻側に遮閉膜を貼って改善した.b:正面位の改善後に両側に複視が残っていたが,両レンズ鼻側に遮閉膜を貼り消失した.この貼り方は両MLF症候群の内転障害にも応用できる.c:正面位でET4Δ,L/R10Δ,回旋5°の偏位があり,片目を閉じがちで転倒が多くなっていた.手術は希望せずプリズム治療は無効であった.瞳孔まで及ぶ単独の部分遮閉を選択し,十分な開瞼と歩行の改善が得られた.d:正面位は複視がないが,左右どちらを見ても複視が出現.右眼の内転障害に対して右レンズ鼻側を,右眼外転障害に対しては左レンズ鼻側をそれぞれ遮閉.両耳側視野と健眼の眼球運動が確保できた.右眼の片目つむりと頭位を一定に保つ疲労が解消した.de:右眼の視力不良による廃用性外斜視となっており,複視に悩んでいた.大角度だが手術は希望せず,プリズムも不快感があった.Spotpatchは目立たないうえ開放感があり満足した.f:後部ぶどう腫により両眼0.1以下で求心性視野障害を伴っていた.右眼外転障害があeり,動揺視と,異なるものが重なる混乱視を訴えていた.Spotpatchにより見え方が安定し,混乱視も改善した.f45歳右眼外転神経麻痺75歳両眼外転神経麻痺73歳右眼滑車神経麻痺右眼内下転障害60歳右眼甲状腺眼症右眼上転・内転・外転障害右眼強度近視・黄斑変性・廃用性外斜視両眼強度近視・後部ぶどう腫・白内障術後右眼外転障害