●連載243監修=山本哲也福地健郎243.流出路手術井上俊洋熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座流出路手術は生理的な房水流出を促進する手術であり,濾過手術と比較して重篤な合併症のリスクが低い.加えて,近年の新しい術式群は,短時間,小侵襲であることも利点である.一方で,対象が限られること,効果がやや劣ることが欠点である.新しい術式間の成績比較は十分ではなく,さらなるエビデンスの蓄積が望まれる.●はじめに流出路手術は生理的な房水流出を促進することで眼圧下降を図る手術であり,レーザー手術と観血的手術に大きく分けられる.ここでは誌面の都合から,後者のみを取りあげる.観血的手術は,生理的な房水流出路に見切りをつけて新たな人工的流出路を作製する濾過手術と比較して,重篤な合併症のリスクが低いことが大きな利点である.これに加えて,近年のCMIGS(minimallyinva-siveCglaucomasurgery)とよばれる術式群では,短時間で終了し,結膜への影響が最小限であることも利点として数えられる.一方で,対象の病型が限られること,眼圧下降効果が濾過手術と比較して劣ることが欠点である.各術式の詳細は成書を参照していただくとして,本稿では各術式の特徴と使い分けに焦点を合わせて検討した.C●古典的流出路手術古典的な流出路手術として,線維柱帯切開術眼外法,隅角癒着解離術,隅角切開術があげられる.線維柱帯切開術眼外法は角膜の透明性にかかわらず実施できることが利点で,とくに原発先天緑内障に対しては著効し,第一選択となる場合が多い術式である.一方,結膜・強膜に大きな瘢痕を残すため,事後の濾過手術には障害となりうることが欠点である(図1).また,術中のCSchC-lemm管同定にはある程度の経験を要する.近年,同等の効果を有する眼内法が普及したことで,隅角の視認性が良好な症例に対して行う機会は激減した.ほとんどの流出路手術が開放隅角緑内障に対して線維柱帯とCSchlemm管内皮の流出抵抗を減じることを奏効機序としているのに対し,隅角癒着解離術は虹彩前癒着を解除することで線維柱帯以前の流出抵抗を減じることを目的とし,閉塞隅角緑内障を対象とする点が異なっている.隅角鏡を用いて行うことが一般的だが,内視鏡を用いた方法も報告されている1).この方法の利点は,角(83)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1線維柱帯切開術眼外法金属製のトラベクロトームをCSchlemm管に挿入し,回転させることで切開する.膜混濁が障害とならないうえに,隅角鏡を用いるより広い範囲の癒着を解除できることである.隅角切開術はもともとわが国での件数は少なかったが,上位互換の線維柱帯切開術眼内法の普及によってほぼ行われる機会がなくなったと思われる.C●新しい流出路手術新しい流出路手術は白内障手術併用眼内ドレーンと,線維柱帯切開術眼内法に大別できる.Canaloplastyやスーチャートラベクロトミー眼外法など,これらに属しない術式もあるが,わが国における近年の件数は多くないと推測されるため割愛する.眼内ドレーンはCiStentとよばれる全長C1Cmmのチタン製インプラントによって前房とCSchlemm管を交通させる術式である(図2).使用基準がC2020年に改定され,適応が広がった2).また,新しい形状のCiStentinjectが2019年C10月に承認されており(実際に導入されるのはCiStentCinjectWの予定.図3),今後術式選択が変化すあたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C1123図2白内障手術併用眼内ドレーン挿入術中空のCiStentをCSchlemm管に刺入し,房水流出抵抗を減弱させる.図4KahookDualBladeによる線維柱帯切開術眼内法る可能性がある.線維柱帯切開術眼内法は,トラベクトーム,ナイロン糸,KahookDualBlade(KDB,図4),マイクロフックなどを用いる方法があり,いずれも角膜サイドポートから施行でき,侵襲が少ない一方で,隅角鏡における視認性が必要である.このなかでナイロン糸を用いる方法は技術的にややむずかしいが,360°切開可能な点が他の方法と異なる.C●流出路手術の使い分け古典的流出路手術のなかでの使い分けや,古典的か新しい流出路手術かの使い分けは,前述の特徴によってむずかしくない.一方で,多くの選択肢がある新しい流出路手術のなかでの使い分けは,厳密にはむずかしい.iStentは線維柱帯・Schlemm管内皮の抵抗を減弱できる範囲が狭い一方で安全性は高いので,最新の使用基準に従う症例には良い適応であろう.これに当てはまらなC1124あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020図3新しいインプラントiStentinjectWの外観2個挿入が基本となる.(Glaukos社より許可を得て転載)い症例でどの手技を適用するかは,効果の面から判断するにはエビデンスがとぼしい.シングルユースのCKDBやトラベクトーム(販売中止)はナイロン糸より格段に高価であるし,再滅菌して使用可能なマイクロフックと比較すると高くつくので,選ぶ場合は面状に線維柱帯を除去できることに利点を見出すかどうかであろう.切開範囲と眼圧下降効果の関係はヒト摘出眼を用いた実験で検証されており,25CmmHgで灌流したときの房水流出抵抗変化は,360°切開に比してC30°切開でC41%,120°切開でC79%と見積もられている3).理論上,広範囲に切開することによって,より多くの集合管を開放したほうが眼圧下降効果は高くなるが,実臨床上の差については報告によって異なり,エビデンスレベルの高いデータはまだない.C●おわりに流出路手術の新しい術式は広く普及している.従来の術式と比較して利点は多くあるが,客観的にデータを確認すると,術式間の比較が十分ではないことがわかる.適応を正しく判断するために,さらなるエビデンスの蓄積が望まれる.文献1)MaedaCM,CWatanabeCM,CIchikawaK:GoniosynechialysisCusingCanCophthalmicCendoscopeCandCcataractCsurgeryCforCprimaryCangle-closureCglaucoma.CJCGlaucomaC23:174-178,C20142)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌C124:441-443,C20203)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Out.owresis-tanceofenucleatedhumaneyesattwodi.erentperfusionpressuresCandCdi.erentCextentsCofCtrabeculotomy.CCurrCEyeResC8:1233-1240(84)