監修=木下茂●連載240大橋裕一坪田一男240.ICLとLASIK術後の視機能比較小島隆司慶應義塾大学医学部眼科学教室,名古屋アイクリニックLASIKは角膜高次収差,とりわけ球面収差を惹起する.しかしCwavefront-guidedLASIKは,手術により生じる角膜高次収差を軽減することが可能で,通常のCLASIKより,高い視機能が獲得できる可能性がある.ICLは,組織を変化させず眼内レンズを挿入するという手術の特性上,高次収差の惹起が小さく,LASIKより術後コントラスト感度に優れる.どちらの手術も屈折矯正が行われる光学径に限界があるため,その領域をはずれると高次収差の増加により,夜間視におけるグレアやハローなどの問題が起こる可能性がある.LASIKは屈折矯正量が増えると術後視機能への影響が大きくなる一方,ICLではその影響は小さい.患者の状態に応じた術式の選択が必要である.C●はじめにImplantablecollamerlens(ICL)とClaserinsituker-atomileusis(LASIK)の術後視機能の比較が注目される要因として,この二つの手術が屈折矯正手術のなかで大きな位置を占め,またCICLの軽度~中等度近視に対する適応拡大によって,それぞれの適応範囲がオーバーラップしてきたことがあげられる.本稿では二つの屈折矯正手術について,有効性,安全性,屈折矯正精度やコントラスト感度などの視機能,屈折矯正手術ではときに問題となる夜間視の観点から比較し解説する.C●ICLとLASIK手術の視機能の比較2006年にCSandersらによって報告された米国でのICLとCLASIKの手術成績の多施設研究では,術後C6カ月での術後裸眼視力がC20/15(小数視力C1.33程度)以上であったものはCICL群C21.6%,LASIK群C7.8%で,20/20(小数視力C1.0)以上であったものはCICL群C67%,LASIK群C57%であり,これらの割合はCICL手術後眼で有意に高かった1).また,術後C1週で,矯正視力が術前よりもC2段階以上低下した割合はCLASIKで有意に高かったことを示している(ICL0.7%,LASIK6%).これには術後早期でのドライアイによる視力低下などが関係している可能性が示唆される.屈折矯正精度に関しては,術後C6カ月に狙いのC±0.5Dに入った割合がCICL群79%,LASIK群C70%,C±1Dに入った割合がCICL群C97%,LASIK群C88%と,有意にCICL群で精度が高いことが報告されている.ただし,この報告はC10年以上前のLASIKとの比較であるため,その後のエキシマレーザーの進歩やノモグラムの改善を受けた現在のCLASIKの成績を必ずしも反映しているとはいえない点に注意が必要(91)である.LASIKはエキシマレーザーで角膜を切除し,角膜曲率半径を大きくする(.atにする)ことにより近視を矯正する手術であるが,レーザーの切除効率などの要因によって,図1に示すように,LASIK術後は角膜中心が周辺部よりC.atなCoblate形状になり,正の球面収差が増加する.このような背景のなかで,眼球の高次収差を波面収差計で計測して,球面および正乱視成分の低次収差だけでなく高次収差も矯正するCwavefront-guidedLASIK(WFLAIK)が行われるようになってきた.Iga-rashiらはCICL手術とCWFLASIKの臨床成績を報告している2).-6D以上の高度近視を対象にした比較研究では,4Cmm径で比較するとCICLのほうがCWFLASIKに比較して,コマ収差,球面収差,全高次収差の増加量が小さいことを示した.またコントラスト視力は,コントラスト感度のグラフ下の面積(areaunderthelogcon-trastsensitivity:AULCSF)で比較して,ICL群では有意にCAULCSFが術前より向上したが,WFLASIK眼では術前より有意に低下した.一方,Kamiyaらは,-3D~-6Dまでの軽度から中等度近視を対象に同様の報告をしている3).この報告でも,4Cmm径およびC6Cmm径でCICL眼のほうが有意にコマ収差,球面収差,全高次収差の増加量が小さいことが示されている.また,AULCSFはCWFLASIK眼では術前後で変化がなかったが,ICL眼ではより良好になっていることが示された.このようにCWFLASIKでは収差の増加量を軽減できる効果はあっても,術前より減らしたり,ICLと同程度のレベルに維持することは困難と考えられている.ランダム化比較試験を解析したCCochraneCSystematicReviewでは,phakicIOL(虹彩支持型を含む)とLASIKでは術後C12カ月の裸眼視力には差はないが,中あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C5930910-1810/20/\100/頁/JCOPY等度から高度近視ではCICLで矯正視力の低下が少なくより安全であること,phakicIOLはCLASIKより中等度から高度近視でより高いコントラスト感度を得ることができることが示されている4).C●ICLとLASIK手術の夜間視直接比較した研究がほとんどなく,主観的な症状について,どちらが優れているかをエビデンスに基づいて論じるのはむずかしいが,一般的にCLASIK術後患者では上述した高次収差の増加によるグレアを訴えることが多い.LASIK術後でもハローの訴えはあるが,ICLは光学径を外れると急激に屈折力の変化が起こるために,はっきりとしたハローを訴えることが多い.ICL術後のハローの原因について多変量解析を用いて検討した研究では,ハローの程度は瞳孔径とCICL光学径の差に依存することが報告されている5).ただし,最新のモデルであるCICLのCV5は,従来のモデルよりも光学径が大きくなり,従来のモデルに比較して夜間視の問題が少ないことが報告されている6).C●おわりにICLとCLASIKはそれぞれ眼内レンズによる屈折矯正と,レーザー角膜屈折矯正手術の特性が,術後視機能に影響を与える.レーザー屈折矯正手術はレーザーによる切除効率が角膜に負荷される水分量,手術室の湿度,手術時間によって変化し,手術結果にも影響しうる.このため,術者や施設によって手術結果にばらつきも生じうる.また,レーザー角膜屈折矯正手術はレーザーの照射中心ずれの問題もあり,いくら優秀なアイトラッキングC594あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020図1LASIK術前後の角膜の変化LASIK術前は角膜中心部が周辺部よりCsteepなCprolate形状をしているが,術後は角膜中心部が周辺部より.atなCoblate形状となり,正の球面収差が増加する.装置が装備されていても,固視が悪く眼の向きが傾く場合には照射ずれが起きる可能性がある.一方,ICLは眼内レンズを埋植する手術であり,合併症を起こさず手術が終われば,術後視機能に影響を与える要素は少ない.手術の適応を判断する際には,術後視機能について患者に十分なインフォームド・コンセントを行い,またそれだけではなく,それぞれの手術で起こりうる特有の合併症についても十分な説明が必要である.文献1)SandersCDR,CSandersML:ComparisonCofCtheCtoricCimplantableCcollamerClensCandCcustomCablationCLASIKCforCmyopicastigmatism.JRefractSurg24:773-778,C20082)IgarashiCA,CKamiyaCK,CShimizuCKCetal:VisualCperfor-manceCafterCimplantableCcollamerClensCimplantationCandCwavefront-guidedClaserCinCsituCkeratomileusisCforChighCmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,C20093)KamiyaCK,CIgarashiCA,CShimizuCKCetal:VisualCperfor-manceCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomi-leusisCforClowCtoCmoderateCmyopia.CAmCJCOphthalmol153:1178-186,C20124)BarsamCA,CAllanBD:ExcimerClaserCrefractiveCsurgeryCversusphakicintraocularlensesforthecorrectionofmod-eratetohighmyopia.CochraneDatabaseSystRevC2014:CCD007679,C20145)LimCDH,CLyuCIJ,CChoiCSHCetal:RiskCfactorsCassociatedCwithCnightCvisionCdisturbancesCafterCphakicCintraocularClensimplantation.AmJOphthalmol157:135-141,C20146)KojimaCT,CKitazawaCY,CNakamuraCTCetal:ProspectiveCrandomizedCmulticenterCcomparisonCofCtheCclinicalCout-comesofV4candV5implantablecollamerlenses:Acon-tralateraleyestudy.JOphthalmolC5:7623829,C2018(92)