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近視進行予防の近未来治療薬

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の近未来治療薬PresentandFuturePharmacologicalTherapiesforMyopiaControl謝詩琪*KritchaiVutipongsatorn**大野京子*はじめに近視は世界人口の約5分の1を占め,2050年までには47億を超えると推測されている1).近視の有病率は人種や地域により大きな差がある2).たとえば,学童の近視率は,モンゴルの田舎では5.8%であり,台湾の都市部では80%を超えている3,4).近視により世界的に大きな経済負担がかかるにもかかわらず,現時点では米国食品医薬品局から承認された近視治療薬は一つもない.本稿では,近視に対する近未来治療薬を紹介し,前臨床段階の近視治療薬が臨床試験に進むに際して直面している課題を紹介する(図1).I臨床試験中の薬物キーワード「近視」を使用し,ClinicalTrials.govというウェブサイトで検索した結果,近視進行に対する治験は20件あった(表1)5).そのうち,16件がアトロピンに関する研究である.1.アトロピンアトロピンに関する治験のなかで最初の大規模スタディは,アトロピンの近視治療研究(ATOM1スタディ)である6).ATOMスタディ1は,6~12歳までの子供400人を対象に1%アトロピン点眼を2年間行い,治療終了後さらに1年間経過観察した.その結果,アトロピン群の2年後の近視度数はプラセボ群より有意に低かった(-0.40D対-0.86D,p<0.001).点眼中止後には近視進行のリバウンドがみられたものの,3年間のスタディ終了時にアトロピン点眼治療群では近視進行が有意に抑制された(-1.35Dvs-1.55D,p=0.028).ATOM1スタディの結果に基づき,より低濃度のアトロピンの長期効果を調べるATOM2(n=400)スタディが実施された7).アトロピンを三つの濃度(0.5%,0.1%,0.01%)に分け,ATOM1と同様に2年間の点眼治療と1年間の経過観察をした.ただし,3年目の近視進行が-0.5Dを超える小児に対しては,2年間の0.01%アトロピン治療を再開した.その結果,予想通り最初の24カ月間に近視の進行は濃度依存的に減少したが,休薬期間中に高濃度のアトロピン群の近視進行がより早く,3年後にもっとも近視抑制効果があったのは0.01%アトロピンであった.スタディ終了時の5年後では,0.01%アトロピン群の近視進行がもっとも低い結果であった.ATOM2により,0.01%のアトロピンは高濃度ほど近視進行を抑制しないものの,休薬後のリバウンド効果が小さく,長期的により良い結果が得られることが明らかとなった.これを受けて,筆者らは,年間0.5D以上の進行を伴う小児に2年間の0.01%アトロピン治療を推奨し,良好な反応が得られるまで(たとえば進行が0.25D/年未満),リバウンドが低くなった高い年齢まで継続することを勧めている.また,休薬後に近視進行が発生した場合には治療を再開することを推奨している.近視の進行は年齢とともに減少する傾向がある一方,とくに高等教*ShiqiXie&*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野**KrithaiVutipongsatorn:インペリアルカレッジ〔別刷請求先〕謝詩琪:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(37)539=表1近視進行抑制に対する臨床試験一覧NCT耳つぼ刺激とアトロピン点眼薬併用のC1完了0.25%とC0.5%アトロピン並行群間比較試験C60台湾C00457717近視抑制効果0.25%アトロピンと鍼灸の併用単盲検法(6~15)CNCT並行群間比較試験C90C00263471近視進行とC7-メチルキサンチンの効果C2完了C7-メチルキサンチン二重盲検法(8~13)デンマークATOM:近視子供両眼に対するC0.5%,CNCT0.1%~0.01%アトロピンの治療の安全C2/3完了0.01%,0.1%とC0.5%アトロピン並行群間比較試験C400シンガポールC00371124性と有効性の評価二重盲検法(6~12)CNCT近視学童に対する低濃度アトロピンのCNA完了0.01%とC0.05%アトロピン並行群間比較試験C60台湾C02130167治療三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(6~12)CNCT近視コントロールに対する低濃度アト0.125%アトロピン並行群間比較試験C73C02055378ロピンと耳ツボ刺激併用療法CNA完了0.125%アトロピンと耳ツボ刺激の併用単盲検法(保護者)(6~12)台湾CNCTAPPLE:軽中度近視に対するCDE-127進行中DE-127(アトロピン参天製)低,中,並行群間比較試験C100C03329638点眼薬の有効性と安全性の研究C2(募集完了)高濃度二重盲検法(参加者,研究者)(6~11)シンガポールCNCTBAM:双焦点ソフトコンタクトレンズ進行中+2.50D双焦点ソフトコンタクトレンズ単群試験C49C03312257とアトロピンの併用で近視抑制CNA(募集完了)とC0.01%アトロピンの併用非盲検(7~11)米国BHVI2点眼薬,0.02%アトロピン,まBHVI2(実験薬物)CNCTたはCBHVI2とC0.02%アトロピン点眼C1進行中0.02%アトロピン並行群間比較試験C60CNAC03690414薬の併用の短期治療の評価(未募集)BHVI2とC0.02%アトロピンの併用四重盲検法(6~13)CNCTイギリス学童の近視に対する低濃度ア進行中並行群間比較試験C289C03690089トロピン点眼薬の治療C2(未募集)0.01%アトロピン四重盲検法(6~12)イギリスCNCT0.01%アトロピン点眼薬の近視治療研進行中並行群間比較試験C150C03508817究C1(募集中)0.01%アトロピン非盲検(6~15)オマーンCNCTビタミンCB2と屋外日光暴露併用下の進行中単群試験C100C03552016学童近視進行の評価C2(募集中)経口リボフラビンC200とC400Cmg三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(6~12)米国CNCTCHAMP:近視学童に対するCNVK-3進行中NVK-002(アトロピン)濃度C1と濃度C2クロスオーバー試験C483米国C03350620002治療(募集中)二重盲検法(参加者,研究者)(3~17)CNCTMTS1:近視に対する低濃度アトロピC3進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C186米国C03334253ン治療(募集中)単盲検法(治療成績評価者)(5~12)CNCTATOM3:近視予防とコントロールにC3進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C570シンガポールC03140358おける0.01%アトロピンの使用(募集中)四重盲検法(5~9)0.01%とC0.05%アトロピンCNCT近視学童に対する点眼薬研究CNA進行中0.25%ケトロラックトロメタミン並行群間比較試験C150台湾C03402100(募集中)0.25%ケトロラックトロメタミンとC0.01%四重盲検法(6~12)またはC0.05%アトロピンの併用CNCT近視進行率別の近視眼に対する低濃度進行中並行群間比較試験C80C03374306(0.01%)アトロピンの局所応用CNA(募集中)0.01%アトロピン二重盲検法(参加者,研究者)(7~10)中国香港CNCT少年近視に対する梅針治療vsトロピ進行中梅針鍼灸クロスオーバー試験C98C03097198カミド点眼薬治療の比較CNA(募集中)0.5%トロピカミド二重盲検法(研究者,治療成績評価者)(8~20)中国CNCT子供の近視コントロールに対するアト進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C60ロピンとオルソケラトロジーの併用治CNA0.01%アトロピンとオルソケラトロジーの中国香港02955927療─ランダム化比較試験(募集中)併用単盲検法(治療成績評価者)(6~11)CNCT学童近視予防に対する低濃度アトロピ不明─C2008年0.25%アトロピン並行群間比較試験C60C00541177ン治療C4完了予定0.5%トロピカミド単盲検法(治療成績評価者)(7~12)台湾CNCT近視進行予防に対するCEchothiophate不明─C2015年単群試験C33C02544529iodide治療C4完了予定0.03%CEchothiophateiodide三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(9~15)米国ATOM,atropineintheTreatmentOfMyopia;CHAMP,studyofNVK-002inChildrenWithMyopia;NA,該当なし(文献C5から引用)分け,グループC1はC2年間C7-メチルキサンチンC400Cmgを毎日C1回服用し,グループC2はC1年目がプラセボ,2年目からC7-メチルキサンチンを服用した.両グループとも治療停止後C1年間フォローアップされた.1年目の結果,7-メチルキサンチンを摂取した子供は眼軸延長率と近視度数の増加が大幅に低下した.2年目のC7-メチルキサンチンの治療により,両グループともにC1年目と比べて近視進行が抑制されたが,休薬の観察期間には,眼軸延長と近視度数の進行がまた早まった.アデノシン(adenosine)受容体拮抗薬であるC7-メチルキサンチンは,経口摂取できるカフェインの代謝物である.アデノシンは,網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)のアデノシンCAC2受容体を活性化し,活動電位を高める19).子供の屈折異常は網膜の電気生理学的異常を示す傾向があり,7-メチルキサンチンの投与はこれを緩和する可能性がある20).さらに,ウサギの研究では,7-メチルキサンチンが後部強膜のコラーゲン原線維の厚さ,コラーゲン密度,および直径を増加させることが示されている21).経口C7-メチルキサンチンは副作用の報告がなく,近視の子供にとって安全で効果的な治療法であり,今後のさらなる研究が期待される.C4.ケトロラックトロメタミン(ketorolactromethamine)ケトロラックトロメタミンは非ステロイド性抗炎症薬の一種であり,アレルギー性結膜炎のかゆみを緩和できる.あるコホート研究22)では,アレルギー性結膜炎のある子供は,ない子供と比較し,近視の発症するリスクが高いことが示唆された.ケトロラクトロメタミンは近視ヒヨコの眼軸延長を減少し,近視の進行を抑制させる報告もあった23).C5.リボフラビン(ribo.avin)近視のもう一つの仮説は,異常な眼軸伸長が強膜欠損に続発するものである24).強膜を強化する一つの方法は,リボフラビンを点眼しながら,370Cnmの長波長紫外線(ultravioletA:UVA)を角膜に照射し,コラーゲン線維間の架橋を増加する25).Liら26)の近視モルモットでの研究により,リボフラビンの経口摂取と全身UVA照射との併用が強膜の厚さを増加させ,近視進行,眼軸延長,強膜マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(matrixmetalloproteinase-2:MMP-2)を有意に抑制させる.経口リボフラビンに関する現在進行中のランダム化比較試験では,参加者に紫外線の曝露を増やすために毎日C30分間の屋外活動が推奨されている.C6.眼圧下降薬イスラエルのC40歳以上の成人を対象とした横断研究27)は,眼圧がC20CmmHgを超える集団に多くの近視者が存在することを示唆した.これは,米国の子供に対する別の研究によって裏付けられた28).しかし,中国の前向きコホート研究29)では,7~9歳の子供を対象とし,年にC1度検査を受けさせた結果,近視と非近視の子供の眼圧は近視発症前に差がなく,近視発症後に眼圧が上昇することを示し,眼圧の上昇は原因ではなく近視の結果であることを示唆した.また,マレイン酸チモロール(timololmaleate)を用いて,159人の近視の子供を対象とした試験30)では,眼圧をC3CmmHg減少させたにもかかわらず,2年後の近視の進行に影響がないことが示されていた.CII前臨床レベルの薬物1.近視を誘発する方法前臨床段階での薬物治療をよりよく理解するには,近視の動物モデルの背景知識が重要である.実験近視には,視性刺激遮断近視(formdeprivedCmyopia:FDM)と凹レンズ誘発性近視(lensCinducedmyopia:LIM)の2種類の方法が広く使用されている.FDMは,上下眼瞼縫合されたマカクザルが眼軸延長を伴う近視を発症したことを報告したCWieselらの研究31)に基づいている.後の研究により,この特徴が暗闇で飼育されたサルに発現されなかったため,半透明の眼瞼を通した空間的なコントラストが近視に必要と考えられている32).また,これらの近視動物の後部強膜が薄くなり,人間の近視眼に類似すると思われる.FDMは瞼々縫合のみならず,半透明ディフューザーを装着することによっても実現できる.この技術は,モルモッ542あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(40)ト33),ウサギ34),ヒヨコ35),ツパイ36),マウス37),ラット38)などの動物に適用されている.LIMは,ぼけ像が網膜に結ばれると眼球のサイズが変化して補償するという発見39)により開発された.凹レンズを装着すると焦点が網膜の後方に移動し,ぼけを引き起こし,眼の成長率を高め,結果として眼軸延長と近視が起こる.ヒヨコのほか,LIMはツパイ40),モルモット41),アカゲザル42)でも同様に実現できる.LIMは遠視性ぼけ像を完全に補正するという明確なエンドポイントをもつため,閉ループとみなされる一方,FDMは開ループとみなされる.この二つの方法は同様に近視を誘発するが,照明状態,種類,強度に対する反応の違いからみると,近視の発生機序が異なると考えられている43,44).一方,ドーパミンやCZENKなどはFDMとCLIMに共通して変化するとの報告から,両方とも一部の共同通路を介していると考えられる45).CIII動物における薬物実験Embaseというデータベースで検索すると,2008~2018年に近視抑制に対する動物実験がC30件あり,6カテゴリーに分類された(表2)5).C1.ドーパミン作動薬ドーパミン受容体がC5種類(D1~D5)あり,D3受容体を除き,すべてのドーパミン受容体サブタイプは網膜で発現している46).網膜のドーパミン貯蔵がCFDMサル11)およびヒヨコ12)で大幅に減少することが示され,このプロセスを逆にすることにより近視の進行を抑制する可能性があると考えられている.これはモルモット,ツパイ,ヒヨコに対する研究で実証された(表2).しかし,ドーパミンの影響が複雑でCDC2,D3,D4受容体の作動薬は,ツパイ47)およびヒヨコ48)の近視を軽減するが,モルモット49)の近視を促進する.ドーパミンのメカニズムは種により異なると考えられる.C2.抗炎症薬抗炎症治療は,近視が慢性炎症状態でより多く発見されたということに基づく15).研究により,瞼々縫合のハムスターにおもな炎症マーカーが上昇し,炎症性刺激物質の存在下でそれらのマーカーがさらに上昇した.逆に,免疫抑制薬の投与はそのレベルを低下させた.アトロピンで観察された同様の抗炎症効果も,その近視抑制作用の原因の一つと考えられる.C3.抗ムスカリン薬近視を抑制する非選択的ムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンの有効性により,ムスカリン受容体サブタイプに対する選択性が高い他の抗ムスカリン薬が研究されている.選択的CM1/4拮抗薬であるピレンゼピン(pirenzepine)は,LIMヒヨコの近視を抑制し,後部強膜でのグリコサミノグリカン合成を増加させると報告された50).これはアトロピンより副作用が少ないが,臨床試験の結果では眼科軟膏としてC2回/日の使用頻度が不便である51,52).C4.眼圧下降薬チモロールマレイン酸塩はヒトに対する試験では近視の軽減に効果がないことが示されたが,モルモットの研究では,ブリモニジン(brimonidine:Ca-アドレナリン作動薬)とラタノプロスト(latanoprost:prostaglandin類似体)が近視の進行を抑制できると報告された53~55).一つの説明は,眼内圧の上昇が調節近視の一部であるとするものである.継続的な近距離作業により一過性近視56)と進行性近視眼で調節により眼内圧の上昇57)するとの報告があり,眼圧下降薬は屈折性近視を抑制できるかもしれない.他の動物実験では,近視眼で上昇または下降する特定の分子を標的としている〔たとえばインスリン様成長因子-2(IGF-2)58)や,アポリポ蛋白質CA159)〕.これらの分子が近視化に関与することが示唆されたが,どのように寄与するかは明確ではない.ただし,これらの薬剤は注射で投与されるため(アスタキサンチンを除く),臨床試験へ進むのはむずかしい.C5.漢方薬と天然エキスビルベリー抽出物であるディフラレルと,六つのハーブ抽出物であるCBuJingYiShiは,強膜のCECMの分解を低下させることにより,FDMモルモットの近視を抑(41)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C543表22008~2018年に動物実験で近視抑制に有効と報告された薬物ドーパミン系SKF38393D1R作動薬FDMモルモットの近視抑制C49CQuinpiroleD2R作動薬FDMツパイの近視抑制,FDMヒヨコの脈絡膜の厚さの増加に伴う近視抑制,FDMモC47,C48,C49ルモットの近視促進CSulpirideD2R拮抗薬FDMモルモットの近視抑制C49CSpiperoneD2R拮抗薬FDMツパイの近視抑制C47CPD168077選択的CD4R作動薬FDMツパイの近視抑制C47CLevodopaドーパミンの前駆物質FDMモルモットの近視抑制C─CCiticoline*ドーパミンを増加させるFDMモルモットの近視抑制C─CApomorphine非選択的ドーパミン受容体作動薬FDMモルモットの近視抑制,LIMモルモットでは抑制効果なし,FDMヒヨコの近視抑制C48抗炎症系CyclosporineA†免疫抑制薬FDMハムスターの近視抑制,c-Fos,NF-kappaB,IL-6とCTNF-alphaを減少させるC15CLipopolysaccharideandpeptidoglycan起炎物質FDMハムスターの近視促進,c-Fos,NF-kappaB,IL-6とCTNF-alphaを増加させるC15CKetorolactromethamine†非ステロイド性抗炎症薬FDMヒヨコの近視抑制C23抗ムスカリン系Atropine†非選択的ムスカリン受容体拮抗薬いくつかの動物でのCFDMとCLIMの抑制C9,C10,C15Muscarinictoxin3(MT3)選択的CM4拮抗薬FDMヒヨコの近視抑制,LIMヒヨコでは抑制効果なし,FDMツパイの近視抑制C─Muscarinictoxin7(MT7)選択的CM1拮抗薬FDMとCLIMツパイの近視抑制C─CPirenzepine選択的CM1/4拮抗薬FDMヒヨコの近視抑制C50眼圧下降系Brimonidine†Alpha-adrenergic作動薬LIMモルモットの近視抑制C54CLatanoprost†Prostaglandin類似体FDMモルモットの近視抑制C53,C55そのほかBevacizumab抗CVEGF抗体FDMヒヨコの近視抑制,近視回復段階で脈絡膜が厚くなるのを抑制するC─CCyclopamineSonichedgehog中和抗体,MMP-2の活性の抑制FDMモルモットの近視抑制C─CAmphiregulinantibodyamphiregulinに対する抗体,表皮成長因子家族LIMモルモットの近視抑制C─Insulin-likegrowthfactor-2(IGF-2)CantisenseoligonucleotidesIGF-2を減少させるFDMモルモットの近視抑制C58CDL-alpha-aminoadipicacid網膜CMuller細胞を選択的に破壊するFDMモルモットの近視抑制,網膜CTGFCb2のレベルを低下させるC─C7-MethylxanthineAdenosine受容体拮抗薬FDMモルモットの近視抑制,強膜コラーゲン線維が細くなるのを抑制する,LIMアカゲC─ザルの近視抑制CCGP46381GABAB受容体拮抗薬FDMモルモットの近視抑制C─CAstaxanthin*Ketocarotenoid(抗酸化ストレス)LIMモルモットの近視抑制コラーゲンの断裂と構造の強さを補足するC─C8-Br-cAMP網膜アポリポ蛋白質CA1(ApoA1)を減少させるFDMヒヨコの脈絡膜肥厚化をはじめとする近視抑制C59共役細胞結合ペプチドと酵素分解性架橋剤を用いてCHydrogelアクリル化ヒアルロン酸から合成されたヒドロゲルFDMモルモットの近視抑制,副作用なしC─漢方薬と天然エキスDifrarel*ビルベリーエキスFDMモルモットの近視抑制,強膜におけるCMMP-2のアップレギュレーションとコラーゲC60ンCIの分解を減少させるCBuJingYiShi*漢方薬FDMモルモットの近視抑制,強膜線維芽細胞と細胞外マトリックスのリモデリングを調C61節するCTGFCb1を増加させるブラックカラントエキス*とアントシアニンFDMヒヨコの近視抑制C62C経口服用.†点眼薬,ほかのすべての薬物が眼内注射(硝子体内,結膜下,眼球周囲,Tenon.下).FDM:視性刺激遮断近視(formdeprivedmyopia);GABA,g-アミノ酪酸;IL-6,イ*ンターロイキン6;IOP,眼内圧;LIM,凹レンズ誘発性近視(lens-inducedmyopia);MMP-2,マトリックスメタロプロテイナーゼ-2;NF,核因子;TNF,腫瘍壊死因子;VEGF,血管内皮成長因子.(文献C5より引用)制すると報告した60,61).ほかに,ブラックカラント抽出物は,LIMヒヨコの近視と眼軸延長を用量依存的に低減させるとの報告もあった62).臨床試験は医薬品開発の不可欠な部分だが,高額な支出のプロセスでもある.これらの薬物は動物モデルで近視を有効に抑制することが示されたが,臨床試験段階に進む前に慎重に検討する必要がある.また,動物で試験された物質は注射が必要なものが多く,年少患者に使用することはむずかしい.点眼薬(抗生物質や眼圧下降薬)や経口錠剤(例:シチコリン,アスタキサンチン,および天然抽出物)などに対する忍容性が高いが,毎日の投与によるコンプライアンスにも注意しなければならない.最後に,緑内障や加齢黄斑変性とは異なり,近視はおもに子供に発症するため,新しい治療法は,治療中および治療後の長期的な安全性と有効性を評価して,正常な発達に対するリスクが最小限またはまったくないことを確認する必要がある.CIV結論近視治療を目的とする治療法は,現在,アトロピン,ピレンゼピンおよびC7-メチルキサンチンのみがヒトに対する試験で近視進行を抑制できると報告された.ケトロラクトロメタミン,経口リボフラビン,実験薬物などの薬物はまだ臨床試験段階である.過去C10年間で,動物モデルで近視をうまく抑制する有望な薬剤が発見されたが,それらはおもに注射が必要で臨床試験への進行はむずかしい.それにもかかわらず,これらの結果は近視に関する知識をさらに追加し,医薬品開発に対して不可欠である.また,低用量アトロピンの併用治療の優越性が証明された一方,低用量アトロピン単剤の有効性を裏付ける証拠がすでにあるため,配合錠を開発している間に高有病率の発展途上国でのアトロピンの治療も考えられる.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.COphthalmology123:1036-1042,C20162)BourneRR,StevensGA,WhiteRAetal:CausesofvisionlossCworldwide,1990-2010:aCsystematicCanalysis.CLancetCGlobHealthC1:e339-e349,C20133)LinLL,ShihYF,HsiaoCKetal:PrevalenceofmyopiainTaiwaneseschoolchildren:1983CtoC2000.CAnnCAcadCMedCSingaporeC33:27-33,C20044)MorganCA,CYoungCR,CNarankhandCBCetal:PrevalenceCrateofmyopiainschoolchildreninruralMongolia.OptomVisSci83:53-56,C20065)VutipongsatornK,YokoiT,Ohno-MatsuiK:CurrentandemergingCpharmaceuticalCinterventionsCforCmyopia.CBrJOphthalmolC103:1539-1548,C20196)KumaranA,HtoonHM,TanDetal:Analysisofchangesinrefractionandbiometryofatropine-andplacebo-treat-edeyes.InvestOphthalmolVisSci56:5650-5655,C20157)ChiaA,LuQS,TanD:Five-yearclinicaltrialonatropineforthetreatmentofmyopia2:myopiacontrolwithatro-pine0.01%Ceyedrops.Ophthalmology123:391-399,C20168)WilliamsCKM,CBertelsenCG,CCumberlandCPCetal:Increas-ingCprevalenceCofCmyopiaCinCeuropeCandCtheCimpactCofCeducation.Ophthalmology122:1489-1497,C20159)SchmidCKL,CWildsoetCF:InhibitoryCe.ectsCofCapomor-phineCandCatropineCandCtheirCcombinationConCmyopiaCinCchicks.OptomVisSci81:137-147,C200410)McBrienCNA,CMoghaddamCHO,CReederAP:AtropineCreducesCexperimentalCmyopiaCandCeyeCenlargementCviaCaCnonaccommodativemechanism.InvestOphthalmolVisCSci34:205-215,C199311)IuvonePM,TiggesM,FernandesAetal:Dopaminesyn-thesisandmetabolisminrhesusmonkeyretina:develop-ment,Caging,CandCtheCe.ectsCofCmonocularCvisualCdepriva-tion.VisNeurosci2:465-471,C198912)StoneRA,LinT,LatiesAMetal:Retinaldopamineandform-deprivationCmyopia.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC86:C704-706,C198913)RadaJA,ThoftRA,HassellJR:Increasedaggrecan(carti-lageCproteoglycan)productionCinCtheCscleraCofCmyopicCchicks.CDevBiolC147:303-312,C199114)LindGJ,ChewSJ,MarzaniDetal:Muscarinicacetylcho-lineCreceptorCantagonistsCinhibitCchickCscleralCchondro-cytes.InvestOphthalmolVisSci39:2217-2231,C199815)LinCHJ,CWeiCCC,CChangCCYCetal:RoleCofCchronicin.ammationinmyopiaprogression:clinicalevidenceandexperimentalvalidation.CEBioMedicineC10:269-281,C201616)LuftWA,MingY,StellWK:Variablee.ectsofprevious-lyCuntestedCmuscarinicCreceptorCantagonistsConCexperi-mentalmyopia.InvestOphthalmolVisSci44:1330-1338,C200317)FischerAJ,MiethkeP,MorganIGetal:Cholinergicama-crineCcellsCareCnotCrequiredCforCtheCprogressionCandCatro-pine-mediatedCsuppressionCofCform-deprivationCmyopia.CBrainRes794:48-60,C199818)TrierCK,CMunkCRibel-MadsenCS,CCuiCDCetal:SystemicC7-methylxanthineinretardingaxialeyegrowthandmyo-(43)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C545piaCprogression:aC36-monthCpilotCstudy.CJCOculCBiolCDisCInforC1:85-93,C200819)GallemoreCRP,CHughesCBA,CMillerSS:Light-inducedCresponsesCofCtheCretinalCpigmentCepithelium.CInCTheCretinalpigmentCepithelium(editedCbyCMarmorMF)C,Cp175-198,COxfordUniversityPress.NewYork,199820)FlitcroftCDI,CAdamsCGG,CRobsonCAGCetal:RetinalCdys-functionCandCrefractiveerrors:anCelectrophysiologicalCstudyofchildren.BrJOphthalmolC89:484-488,C200521)TrierCK,COlsenCEB,CKobayashiCTCetal:BiochemicalCandCultrastructuralCchangesCinCrabbitCscleraCafterCtreatmentCwithC7-methylxanthine,Ctheobromine,Cacetazolamide,CorCL-ornithine.BrJOphthalmol83:1370-1375,C199922)WeiCC,KungYJ,ChenCSetal:Allergicconjunctivitis-inducedCretinalCin.ammationCpromotesCmyopiaCprogres-sion.EBioMedicineC28:274-286,C201823)LuuCCD,CFooCH,CCrewtherCSGCetal:E.ectsCofCaCnon-ste-roidal(ketorolactromethamine)andasteroidal(dexameth-asone)anti-in.ammatoryCdrugConCrefractiveCstateCandCoculargrowth.CClinExpOphthalmolC29:175-178,C200124)McBrienNA,GentleA:Roleofthesclerainthedevelop-mentandpathologicalcomplicationsofmyopia.CProgRetinEyeResC22:307-338,C200325)WollensakCG,CIomdinaE:Long-termCbiomechanicalCprop-ertiesCofCrabbitCscleraCafterCcollagenCcrosslinkingCusingCribo.avinandultravioletA(UVA)C.ActaOphthalmolC87:C193-198,C200926)LiCX,CWuCM,CZhangCLCetal:Ribo.avinCandCultravioletCaCirradiationCforCtheCpreventionCofCprogressiveCmyopiaCinCaCguineapigmodel.ExpEyeResC165:1-6,C201727)DavidCR,CZangwillCLM,CTesslerCZCetal:TheCcorrelationCbetweenCintraocularCpressureCandCrefractiveCstatus.CArchCOphthalmol103:1812-1815,C198528)QuinnCGE,CBerlinCJA,CYoungCTLCetal:AssociationCofCintraocularpressureandmyopiainchildren.Ophthalmolo-gy102:180-185,C199529)EdwardsCMH,CBrownB:IOPCinCmyopicchildren:theCrelationshipCbetweenCincreasesCinCIOPCandCtheCdevelop-mentofmyopia.COphthalmicandPhysiologicalOpticsC16:C243-246,C199630)JensenH:MyopiaCprogressionCinCyoungCschoolCchildren.CAprospectivestudyofmyopiaprogressionandthee.ectofCaCtrialCwithCbifocalClensesCandCbetaCblockerCeyeCdrops,CActaOphthalmol(Suppl200):1-79,199131)WieselTN,RaviolaE:Myopiaandeyeenlargementafterneonatallidfusioninmonkeys.Nature266:66-68,C197732)RaviolaCE,CWieselTN:E.ectCofCdark-rearingConCexperi-mentalCmyopiaCinCmonkeys.CInvestCOphthalmolCVisCSciC17:485-488,C197833)HowlettMH,McFaddenSA:Form-deprivationmyopiaintheguineapig(Caviaporcellus)C.VisionResC46:267-283,C200634)VerolinoCM,CNastriCG,CSellittiCLCetal:AxialClengthCincreaseinlid-suturedrabbits.SurvOphthalmol44(Suppl1):S103-S108,C199935)TroiloCD,CGottliebCMD,CWallmanJ:VisualCdeprivationCcausesCmyopiaCinCchicksCwithCopticCnerveCsection.CCurrCEyeCResC6:993-999,C198736)ShermanSM,NortonTT,CasagrandeVA:Myopiainthelid-suturedtreeshrew(Tupaiaglis)C.BrainRes124:154-157,C197737)Schae.elCF,CBurkhardtCE,CHowlandCHCCetal:Measure-mentCofCrefractiveCstateCandCdeprivationCmyopiaCinCtwoCstrainsofmice.OptomVisSciC81:99-110,C200438)ShinoharaCK,CYoshidaCT,CLiuCHCetal:EstablishmentCofCnovelCtherapyCtoCreduceCprogressionCofCmyopiaCinCratsCwithexperimentalmyopiaby.broblasttransplantationonsclera.CJTissueCEngRegenMedC12:e451-e461,C201839)Schae.elCF,CGlasserCA,CHowlandHC:Accommodation,CrefractiveCerrorCandCeyeCgrowthCinCchickens.CVisionCResC28:639-657,C198840)ShaikhCAW,CSiegwartCJTCJr,CNortonTT:E.ectCofCinter-ruptedlenswearoncompensationforaminuslensintreeCshrews.OptomVisSciC76:308-315,C199941)LiW,LanW,YangSetal:Thee.ectofspectralproper-tyandintensityoflightonnaturalrefractivedevelopmentandcompensationtonegativelensesinguineapigs.InvestOphthalmolVisSciC55:6324-6332,C201442)SmithCELC3rd,CHungCLF,CArumugamCBCetal:NegativeClens-inducedCmyopiaCinCinfantmonkeys:e.ectsCofChighCambientClighting.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:2959-2969,C201343)KeeCCS,CMarzaniCD,CWallmanJ:Di.erencesCinCtimeCcourseCandCvisualCrequirementsCofCocularCresponsesCtoClensesCandCdi.users.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:575-583,C200144)BartmannCM,CSchae.elCF,CHagelCGCetal:ConstantClightCa.ectsCretinalCdopamineClevelsCandCblocksCdeprivationCmyopiabutnotlens-inducedrefractiveerrorsinchickens.VisNeurosciC11:199-208,C199445)FischerCAJ,CMcGuireCJJ,CSchae.elCFCetal:Light-andCfocus-dependentCexpressionCofCtheCtranscriptionCfactorCZENKinthechickretina.NatNeurosciC2:706-712,C199946)IuvonePM:NeurotransmittersCandreceptors:dopamineCA2.CInCEncyclopediaCofCtheeye(editedCbyCDarttDA)C,Cp130-135,Oxford/AcademicPress,Cambridge,MA,195347)WardCAH,CSiegwartCJT,CFrostCMRCetal:Intravitreally-administeredCdopamineD2-like(andD4),CbutCnotCD1-like,CreceptorCagonistsCreduceCform-deprivationCmyo-piaintreeshrews.VisNeurosci34:E003,C201748)NicklaDL,TotonellyK,DhillonB:DopaminergicagoniststhatresultinoculargrowthinhibitionalsoelicittransientincreasesCinCchoroidalCthicknessCinCchicks.CExpCEyeCResC91:715-720,C201049)ZhangCS,CYangCJ,CReinachCPSCetal:DopamineCreceptorCsubtypesCmediateCopposingCe.ectsConCformCdeprivationC546あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(44)-

近視進行予防の治療 3. 多焦点眼鏡,多焦点コンタクトレンズ,DIMSレンズ

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療3.多焦点眼鏡,多焦点コンタクトレンズ,DIMSレンズMultifocalSpectacle,MultifocalSoftContactandDefocusIncorporatedMultipleSegments(DIMS)Lenses長谷部聡*はじめに小児に対する予防的治療を考えるとき,その要件として一般的に,1)重篤な副作用がないこと,2)経済的であること,3)治療が煩雑でないことがあげられる.多焦点眼鏡や多焦点コンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MSCL)は繰り返し試験されてきた方法論であり,安全性については豊富なエビデンスがある.また,屈折矯正自体が予防的治療を兼ねていることから,2)と3)の要件も満たされる.十分な抑制効果が得られるならば,患児にとってはもっとも理想的な予防的治療といえよう.I眼軸長の視覚制御ノーベル生理学賞受賞者のWieselらの形態覚遮断近視1)やヒューストン大学のSmithらのレンズ誘発近視2)など,動物モデルによる数多くの近視化実験によって,眼軸長の視覚制御(visualregulationofaxiallength)の詳細が明らかになりつつある.一言でいえば,発達途上にある眼球には,与えられた視覚的環境に合わせて眼球の形状(眼軸長)を調整する一種のホメオスタシス機能が備わっている.ここでは“鮮明な網膜像”が眼軸伸展の停止信号,網膜後方へのデフォーカスが眼軸の伸展を加速させる引き金(トリガー)の役割を果たすものと考えられている.網膜後方へのデフォーカスが与えられたとき,強膜細胞外マトリックスの再構築と結合組織のスライディングが起きて眼軸長が過伸展する仕組みについても,神経生化学的な基礎研究が多数報告されている3).一方,近業に伴う毛様体筋の過緊張により,赤道方向への眼球の発育が阻害され,本来であれば眼軸の成長と伴に起こるべき水晶体屈折力の低下が生じないとする機械的張力説(mechanicaltensiontheory)の関与を主張する研究者もある4).しかし,動物実験モデルによる裏付けが得られておらず,仮説に止まっている.II治療機転眼軸長の視覚制御が働いているとしても,ここで眼軸過伸展の引き金となる網膜後方へのデフォーカスはなぜ起こるのだろう.最初の仮説は調節ラグ説であった5).調節は,視距離の変化という外乱に対して,網膜像を鮮明に保つためのフィードバック制御といえる.ところが実際に調節反応を測定すると,生物学的な制御であるがために,特徴的な誤差がみられる.調節安静位(遠点に対して0.5~1.5D近方に)を起点として,視距離が短くなるにつれて調節反応が鈍り,調節ラグつまり網膜後方へのデフォーカスが増大する.調節ラグを眼軸過伸展の引き金であると考えれば,過剰な近業がなぜ眼軸を過伸展させるかをうまく説明できる.次に登場した仮説は,周辺網膜での後方デフォーカス説である.Dietherら6)やSmithら7)は,実験動物の視野の一部にそれぞれ凹レンズや半透明カバーを装着させたところ,対応する網膜のみに眼軸の過伸展が観察されることを報告した.この実験結果は,眼軸長の視覚制御*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学眼科学20910-1810/20/\100/頁/JCOPY(29)531の仕組みは中心窩に限られたものではなく,網膜全体に及び,局所的に作用することを示している.正視眼であっても眼球形状には個人差があり,前後に長く網膜の曲率半径が小さいプロレートな形状では,中心窩で焦点を結ぶとき,周辺網膜では網膜曲面と焦点曲面(imageshell)との食い違いから後方へのデフォーカスが発生しやすい.また,眼鏡レンズでは,周辺視野から来る光線はレンズ表面を斜めに通過するため,非点収差とともにマイナス度数が増大し,周辺網膜では後方デフォーカスが起こりやすい.多焦点眼鏡やCMSCLを用いた近視予防研究は当初,眼軸過伸展の引き金と考えられる網膜後方へのデフォーカスを軽減することに主眼が置かれていた.CIII多焦点眼鏡1.累進屈折力眼鏡累進屈折力眼鏡(progressiveadditionlens:PAL)を装用させると,近見加入度数だけ調節必要量が減る.たとえば視距離C33Ccmの近業では,調節必要量(+3D)は調節安静位を上回り,調節ラグが発生する.ところが+1.5~+2.0Dの近用加入をもつCPALを装用させると,調節必要量は調節安静位(+1.0~+1.5D)にほぼ一致することになり,調節ラグは理論上発生しない.そこでPALを装用することで,近視進行を抑制できるのではないかと期待された8~15).PALを用いたCRCTは,被検者を限定したターゲット研究14,15)も含めて,合計C7回実施された.しかし,屈折度における平均抑制効果はC11~33%に止まっている(表1).RCTの結果を統合するシステマティック・レビュー16)によれば,PALによる抑制効果は,統計学的には有意であるものの,効果自体が小さいことから,臨床的な治療法としては推奨できないと結論づけられている.C2.Radialrefractivegradientデザインレンズ周辺網膜における後方デフォーカスへの対策として設計されたのがCradialCrefractivegradient(RRG)レンズである17).PALが中心から下方へプラス度数が加入されているのに対し,RRGレンズではほぼ同心円状に,中心から離れるにしたがって徐々に,プラス度数が加入されている.これを装用することによって,少なくとも正面を見ている間は,周辺視野から来る光線はプラス度数加入領域を通るため,焦点が前方に移動し,周辺網膜における後方デフォーカスを軽減できる.この効果により,近視進行を抑制できるのではないかと期待された.最初の比較対照試験で用いられたC3種類のCRRGレンズのうち,のちにCMyoVision(CarlCZeissVision)として市販されるレンズは,平均C30%の近視進行抑制効果を示した17).しかしこの値は,近視の家族歴がある学童に限定した,後付けのサブグループ分析から得られたものであった.追試として国内では,家族歴のある学童に対象を限定してC7大学共同でCRCTが実施された18).ところが期待に反して,屈折度,眼軸長いずれにおいても抑制効果はみられなかった(表1).C3.Positively.aspherizedPAL(PA.PAL)MyoVisionとは別に,筆者らはCPALとCRRGレンズのハイブリッドであるCpositively-aspherizedPAL(PA-PAL)(図1)によるCRCTを実施した19).非点収差の少ない下方近用部で近業時の網膜後方デフォーカス(調節ラグ)を,遠用部周囲のプラス度数加入領域で周辺網膜における後方デフォーカスを軽減しようという二重効果を狙った設計であった.しかし,得られたC2年間の近視進行抑制効果は平均C20%に止まり,PALの抑制効果と大差はなかった(表1).RRGレンズやCPA-PALなど周辺網膜における後方デフォーカスの軽減を狙う眼鏡レンズが十分な成果をあげられなかった理由として,Flitcroftらは網膜周辺部におけるデフォーカスはレンズ設計だけで決まるわけではなく,網膜の形状,空間の三次元的配置,注視方向,注視距離によってダイナミックに変動していることを指摘している20).さらにレンズの非球面化に伴い周辺部では非点収差が増大するため,眼軸伸展の停止信号となる鮮明な網膜像を得にくいという問題もある19).CIV多焦点ソフトコンタクトレンズMSCLを用いた比較対照試験の成績は,2010年頃から報告されるようになった21~28).ここで使用されたのは中央遠用のCMSCLで,治療機転としてはCRRGレンズ532あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(30)表1累進屈折力眼鏡(No.1~8)と特殊非球面レンズ眼鏡(No.9~11)による比較対照試験の成績8~15,17~19)No.報告者報告年使用レンズ研究デザインCn近視進行*抑制(%)眼軸伸展*抑制(%)1C2C3C4C5C6C7C8C9C10C11CLeung8)CShih9)CEdwards10)CCOMET11)CHasebe12)CYang13)CCOMET-214)CBerntsen15)CSankaridurg17)CHasebe19)CKanda18)C1999C2001C2002C2003C2008C2009C2011C2012C2010C2014C2018CPALPALPALPALPALPALPALPALRRGPA-PALRRG2年CCTC2年CRCTC1.5年CRCTC3年CRCTC3年CRCTC2年CRCTC3年CT-RCTC1年CT-RCTC1年CCTC3年CRCTC2年CT-RCTC46C188C298C469C92C178C118C85C100C169C207C46C15p<C0.001C11CN.S.C14p<C0.001C15p<C0.001C21Cp=0.01C24p<C0.05C33Cp=0.01C30p<C0.05C20p<C0.02CN.S.C50C2C3CN.S.C15p<C0.001C─C16Cp=0.04C─C─C─C12CN.S.CN.S.CPAL=累進屈折力眼鏡,RRG=radialCrefractiveCgradientCdesignlens,PA-PAL=positivelyaspherizedPAL,DIMS=defocusincorporatedmultisegmentslens,RCT=無作為化比較対照試験,CT=比較対照試験,T-RCT=治療対象を限定した試験.*無効は0%.Ca平均屈折力マップb非点収差マップ(D)2.01.51.00.50.0非点収差の小さいレンズ下方の近用部のプラス加入で調節ラグを,周辺部に設けたプラス加入での周辺網膜での後方デフォーカスを軽減する.レンズ径はC60mm.(文献C19より改変引用)表2ソフトコンタクトレンズによる比較対照試験の成績21~28,33,34)報告者報告年Cn治療対照デザイン近視進行抑制(%)眼軸伸展抑制(%)ドロップアウト(%)CAnstice21)CSankaridurg22)CWalline23)CFujikado24)CLam25)CPaune26)CAller27)CCheng28)CRuiz-Pomeda33)CChamberlain34)C2011C2011C2013C2014C2014C2015C2016C2016C2018C2019C70C82C54C24C128C40C79C109C89C109CMSCLMSCLMSCLMSCLDISCMSCLMSCLMSCLDISCDISC単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL10カ月CCTC1年間CCTC2年間CHCTC2年間CRCTC2年間CRCTC2年間CCTC1年間CRCTC1~2年間CRCTC2年間CRCTC3年間CRCTC36C36C50C26C25C43C77C20C39C59C50C39C29C25C32C27C79C39C36C52C13C18C19C0C25C43C8C14C17C24CMSCL=多焦点ソフトコンタクトレンズ,DISC=defocusCincorporatedCsoftCcontactlens,SCL=単焦点ソフトコンタクトレンズ,CT=比較対照試験,RCT=無作為化試験.Ca+3.5D図2DIMS眼鏡と仕組みa:レンズ表面に微小(マルチプル)レンズが約C400個配置されている.Cb:微小レンズを通る光線は,網膜面の焦点(F1)とは別に,約C3.5D前方に第二の焦点(F2)を作る.(https://www.hoyavision.com/en-hk/discover-products/for-spectacle-wearers/special-lenses/myosmart/)=近視進行(D)図3DIMS眼鏡による無作為化比較対照試験の成績(文献C32より改変引用)aMSCLbDISCレンズ矯正ゾーン矯正ゾーン加入ゾーン(+2D)加入ゾーン(+1.5~2.5D)8.5~9mm6mm図4中央遠用のMSCLとDISCレンズの模式図2.5D図5DISCレンズの仕組み加入ゾーンを通る光線は,網膜上のフォーカス(F1)とは別に,約C2.5D前方に第二のフォーカス(F2)を作る.C—-

近視進行予防の治療 2. オルソケラトロジー

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療2.オルソケラトロジーOrthokeratology平岡孝浩*はじめにハードコンタクトレンズを角膜前面カーブよりもフラットに処方すると角膜中央が扁平化し,その結果として近視が軽減することは1960年代から確認されており,これを意図的に行う手法がオルソケラトロジー(ortho-keratology:OK)とよばれるようになった.1980年代に入るとリバースジオメトリーデザインが考案され,精度が飛躍的に向上した.さらに高酸素透過性のレンズ素材の開発や角膜トポグラフィーの登場とともにOKの手法も洗練され,1990年代後半には就寝時装用OKが本格的に普及するようになった.そして,未成年や学童にも処方されるようになったが,本治療を継続していると近視が進みにくくなることが広く経験されるようになった.そして,2004年に初めて学術論文としてケースレポートが掲載され,片眼のみOKを行っていた11歳男児の2年間の眼軸長伸長が僚眼の半分以下(治療眼0.13mmvs僚眼0.34mm)に抑えられていたことが紹介された1).以降,非常に多くの臨床研究が行われているが,本稿では代表的な研究を取り上げ,OKによる近視進行予防について解説する.Iオルソケラトロジーによる近視進行抑制初めてパイロットスタディを行ったのは香港のChoら2)のグループである.2年間の研究期間において,OK治療群の眼軸長伸長は眼鏡装用対照群と比較して46%抑制されていたと報告した.また,米国のWallineら3)の研究では,ソフトコンタクトレンズ装用対照群と比較して2年間で56%の眼軸長伸長抑制効果が確認された.しかし,これらの研究では適切な対照群が設定されておらず,他の報告からの引用データ(historicaldata)を用いて比較しているため,エビデンスレベルは低いといわざるを得なかった.その後,日本やスペインで単焦点眼鏡装用を対照とした非ランダム化比較試験が施行され,Kakitaら4)の報告では日本人において2年間で36%,またSantodomin-go-Rubidoら5)の白人を対象とした研究では2年間で32%の有意な眼軸長伸長抑制効果が認められた.さらに2012年にはChoら6)のグループによりROMIOスタディという初めてのランダム化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)が行われ,OK群は単焦点眼鏡群と比較して2年間で43%の眼軸長伸長抑制が達成されていることが確認された.II適応の拡大強度近視眼や高度乱視眼に対する処方も試みられている.2013年に報告されたHighmyopia-partialreduc-tionOKという研究では,強度近視眼に対してOKを用いて4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるという手法が用いられ,2年間の眼軸長変化が検討されている.その結果,OK治療群では眼鏡対照群と比較してきわめて強い眼軸長伸長抑制効果(63%)が確認された7).また,TO-SEEと命*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)525Choetal.文献2)Wallineetal.文献3)Kakitaetal.文献4)Santodomingoetal.文献5)Choetal.文献6)Charmetal.文献7)Chenetal.文献8)010203040506070対照群に対する眼軸長伸長抑制効果(%)図1オルソケラトロジー眼軸長伸長抑制効果に関する既報の比較グラフに提示したものはすべてC2年間の臨床研究であり,対照群(単焦点眼鏡もしくはソフトコンタクトレンズ)に対する眼軸長伸長抑制効果をパーセンテージ表記している.つまり数値が大きい(棒グラフが長い)ほど抑制効果が強いことを示している.いずれの研究においてもオルソケラトロジー群は対照群よりも眼軸長伸長が有意に抑制されており,その抑制効果はC32.63%と報告されている.図2眼鏡(凹レンズ)による網膜結像面と周辺部遠視性デフォーカスの発生近視を眼鏡で矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じやすく,これが眼軸長を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.角膜周辺部がスティープ化図3オルソケラトロジー後の網膜結像面と周辺部遠視性デフォーカスの改善オルソケラトロジー後は角膜中央がフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚,スティープ化するため周辺での屈折力が増し,その結果,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.それゆえ眼軸長伸長が抑制され近視が進行しにくくなると考えられている.Changeinaxiallength(mm)21.5r=-0.584p<0.000110.5000.20.40.6-0.5Cornealtotalhigher-orderaberration(mm)図4近視学童における高次収差と眼軸長の相関縦軸にC2年間の眼軸長変化量,横軸にベースラインの角膜高次収差をとった散布図が示されている.両パラメータに有意な負の相関が認められており,つまり角膜高次収差が大きい症例ほど眼軸長変化が小さい(近視が進みにくい)という関連が読み取れる.本データは近視学童の自然経過で確認された相関であるが,オルソケラトロジー患者でも類似の関連が確認されている.(文献C18より引用)C0.40.35Combinationgroup*Changeinaxiallength(mm)0.30.250.20.150.10.050-0.05-0.1StudyentryPre-studyOver6monthsOver1year(atbaseline)(atenrollment)Durationofstudy図5オルソケラトロジー単独治療群とアトロピン点眼併用群の眼軸長経時変化縦軸に眼軸長変化量,横軸に観察期間の折れ線グラフで両群の推移が比較されている.オルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼併用群(combinationgroup)ではオルソケラトロジー単独治療群(monotherapygroup)と比較して眼軸長変化量が明らかに小さく,治療開始後C6カ月およびC1年時点で有意差が認められている.1年間の眼軸長変化量はそれぞれC0.09C±0.12Cmm,0.19C±0.15Cmmであり,併用療法の単独療法に対する抑制効果はC53%と算出される.(文献C23より引用)Increaseinaxiallengthover1year(mm)Combinationgroupp<0.001*Monotherapygroup0.4*Unpairedt-test0.3p<0.900*0.20.10.0Sphericalequivalentrefractiveerroratenrollment(D)図6オルソケラトロジー単独治療群とアトロピン点眼併用群の眼軸長変化(ベースラインの屈折度数でサブグループ解析)3Dを超える近視眼では眼軸長変化量に群間差はないが,3D以下の症例でサブグループ解析するとオルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼併用群(combinationgroup)はオルソケラトロジー単独治療群(monotherapygroup)と比較して有意に眼軸長変化量が小さい.つまり,アトロピン点眼併用療法はベースラインの近視が軽度の症例に有効であることを示している.(文献C23より引用)–

近視進行予防の治療 1. 低濃度アトロピン

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療1.低濃度アトロピンLow-ConcentrationAtropineEyeDrops稗田牧*Iアトロピンの基礎知識アトロピンはムスカリン受容体阻害薬である.神経の末端から放出される神経伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine:ACh)で刺激される受容体は,ニコチン受容体とムスカリン受容体に大別される.ムスカリン受容体は副交感神経の神経終末に存在し,副交感神経の活動を制御する.アトロピンはこのムスカリン受容体を競合的に阻害することにより拮抗薬として働き,散瞳,調節麻痺,心拍数の増大などを起こす.アトロピンは,ナス科のベラドンナ植物由来有機化合物である.ベラドンナとはイタリア語で美しい女性を意味し,女性が瞳孔を拡張させるために使用したことが語源の由来である.眼に対する影響として,散瞳効果は30~40分で最大となりC12日間程度継続する.調節麻痺効果はC2~3時間で最大効果を示しC2週間継続するとされている.効果が強い薬剤であるが,効果発現に時間がかかり,かつ長く持続する特徴がある.また,虹彩色素が多い眼では効果の発現がさらに遅く,効果の消失にも時間がかかる1).CIIアトロピン点眼による子供の近視治療アトロピンの近視進行予防効果を明らかにする研究がなされている.シンガポールのCAtropineCforCtheCtreat-mentCofCchildhoodmyopia-1(ATOM-1)研究である.この研究によりC1%アトロピン点眼による近視進行抑制効果のエビデンスが確立された2).400人の6~12歳の片眼にC1日C1回C1%アトロピンもしくは偽薬をC2年間点眼して効果を比較した.2年経過後でアトロピン点眼をしていた眼は,平均でC0.28Dほど近視化したものの,点眼していなかった眼ではC1D以上の近視化が観察された.アトロピン点眼群において眼軸長は開始時とほぼ同じだが,点眼していなかった眼では平均C0.38Cmmの延長が認められた(図1)2).1%アトロピンの点眼は近視の進行および眼軸延長を抑制する効果があることが確認された.その後,1%アトロピン点眼を中止した状態でC1年間経過を観察した.2年間C1%アトロピン点眼を行い,その後中止した眼は急激に近視が進行し,眼軸長が延長した.1%アトロピン点眼中止後のリバウンド現象が起こったのである3).ただし,研究開始からC3年経過後の時点でもコントロール群と比較するとC1%アトロピン点眼を行っていた眼の近視進行は抑制されていた.高濃度アトロピンのリバウンド現象への対策として,より低濃度でも点眼の効果を確かめる研究が行われた.ATOM-2研究ではアトロピンをC0.5%,0.1%,0.01%に希釈しC400人のC6~12歳の両眼にC1日C1回C2年間点眼して濃度ごとの近視進行を比較した4).その結果,濃度依存性に近視進行が抑制されていたが,ATOM-1の偽薬群に比較すると,0.01%であっても近視進行は抑制されていた.アレルギー性結膜炎や接触性皮膚炎はC0.01%点眼では認められなかった.さらに点眼を中止したあ*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(17)C51925.425.325.225.125.024.924.824.724.6AtropineTreatedEyeAtropineUntreatedp<0.0001EyePlaceboTreatedEyePlaceboUntreatedBaseline1Year2YearsEyeTimeSphericalEquivalent(Dioptres)近視度数AxialLengthChange(mm)眼の大きさ図11%アトロピン点眼の効果AtropineCforCtheCtreatmentofCchildhoodCmyopia(ATOM)-1の結果.1%アトロピン点眼によりC2年間の平均で近視はわずかに進行し,眼軸は不変だった.(文献C2より引用).4.20-.2-.4-.6-.8-1-1.2-1.4SphericalEquivalent(D)MonthPlacebo(ATOM1)A0.01%A0.1%A0.5%A1.0%(ATOM1)図20.01%アトロピン点眼にリバウンドなしATOM-2,第C2期の結果.0.01%アトロピンで点眼中止後にリバウンドがないので,3年の経過ではより高濃度点眼より近視進行が抑制されている.(文献C5より引用)Cessationof-.2-.4-.6-.8-1-1.2-1.4-1.6-1.8-2Placebo(ATOM1)A0.01%A0.1%A0.5%A1.0%(ATOM1)図3ATOM.2の第三期の結果点眼中止中に近視進行している症例に,0.01%アトロピン点眼が再開された.0.01%点眼で治療開始するとC5年間で偽薬のC2.5年分の近視進行にとどまる.(文献C6より引用)Changeinaxiallengths(mm)ChangeinSphericalEquivalent(D)0.00-0.10-0.20-0.30-0.40-0.50-0.60-0.70-0.80-0.90baseline4m8m12mAtropine0.05%Atropine0.025%Atropine0.01%Placebo図4LAMPの1年目までの結果低濃度アトロピンはC3群とも偽薬より近視進行が抑制されている.(文献C10より引用)0.700.600.500.400.300.200.100.00Baseline4months8months12months16months20months24monthsAtropine0.05%Atropine0.025%Atropine0.01%Switch-overgroup図5LAMPフェーズ2の結果偽薬群はC2年目にC0.05%へスイッチして,そのほかの群はC2年間同じ点眼を行った.スイッチ群とC0.01%アトロピン群はほぼ同じ眼軸長変化となった.(文献C11より引用)-’C

近視発症の疫学と環境因子

2020年5月31日 日曜日

近視発症の疫学と環境因子EpidemiologyofMyopiaandEnvironmental-RelatedFactors上田瑛美*安田美穂*はじめに近視有病率の急激な増加傾向は全世界的に公衆衛生上の問題となっている.わが国においても,筆者らの久山町研究ではここC10年でC40歳以上の日本人のうち等価球面度数が-0.5D以下の近視が有意に増加していることがわかった1).さらに,東アジア系人種のC18歳の小児ではC80%以上に近視がいることが報告されている2).今後もますます近視が増加することが予想される.そのため,近視発症の特性を把握することが可能な疫学的アプローチはきわめて重要である.最近数十年での世界的な近視人口急増の原因は,遺伝因子の変化というよりも,むしろ環境要因の変化によることが多いことが指摘されている.また,古くから社会環境要因および生活環境要因が近視に関連することが報告されており,それらの環境因子が複合的に重なり合って,近視化に影響するといわれている.近視に関連した環境要因は近視の病態解明,さらには予防・管理につながる可能性があるため,それらを検討することは意義がある.本稿では,近視発症の疫学と環境因子について解説する.CI近視発症の疫学横断研究による近視の有病率の報告は古くC1980年代からさまざまな国で行われ,その人種差,地域差が明らかになっている.一方,縦断研究に基づいた近視の発症率の報告がされるようになったのはC2005年ごろと比較的新しく,まだその報告数は少ない.近視の発症率に関する各国の疫学調査結果を図1にまとめた.屈折度数は年齢,研究時期で大きく異なるため,結果を比較,解釈する際には年齢,研究時期を統一する必要がある.研究時期をC2005年以降,対象年齢をC6.7歳に統一してみると,米国の白人を対象としたCOrindastudy3)ではC2.8%,イギリスの白人を対象としたCNorthernCIrelandCChildhoodCErrorsCofRefraction(NICER)study4)では2.2%である.一方,中国都市部の東アジア系人種を対象にした研究5)ではC19.1%,シンガポールの東南アジア系人種を対象としたCSingaporeCCohortCStudyCofCtheCRiskFactorsforMyopia(SCORM)6)ではC15.9%と明らかにその発症率は高かった.とくに同地域で近視発症の人種差を調べたオーストラリアのSydneyCMyopiaCstudy7)では,近視の発症が白人種C1.3%と比較して東アジア系人種でC6.9%と東アジア系人種が白人種に対して5倍高いと報告している.これらの結果から,アジア系人種ではその他の人種,地域に比べて発症率が高いことがわかる.次に,わが国と同じ東アジア系人種を対象としたWangらの研究5)における年齢別の近視および強度近視の発症率の結果を図2に示した.どの年齢においてどのくらいの割合で近視を発症しているかを知ることで,臨床上の近視の発症に注意すべき時期を知ることができる.等価球面度数-0.5D以下の近視の発症率は小学校時から中学就学時までおよそC20.30%と高い割合を維*EimiUeda&*MihoYasuda:九州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕上田瑛美:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)C513NICERstudyヨーロッパ系白人種2.2%Wangetal東アジア系人種19.1%Orindastudy白人種2.8%SCORMstudy東南アジア系人種15.9%SydneyMyopiastudy白人種1.3%東アジア系人種6.9%図1Population.basedstudyによる各人種における近視の発症率アジア系人種は白人種に比べて近視の発症率が高いことがわかる.研究時期C2005年以降,対象年齢6.7歳,1年発症率に統一.近視は等価球面度数-0.5D以上で定義.NICER:NorthernIrelandchildhooderrorsofrefraction.SCORM:Singaporecohortstudyoftheriskfactorsformyopia.発症率(%)小学校中学校3530.228.829.13025.724.823.72519.120近視(.-0.5D)15強度近視(.-6.0D)1050.10.20.50.91.61.92.301~22~33~44~55~66~77~8学年(年)図2年齢別にみた近視および強度近視の発症率わが国と同じ東アジア系人種を対象とした研究によると,等価球面度数-0.5D以下の近視の発症率は小学校時から中学就学時までおよそC20.30%と高い割合を維持する.小学校入学時から徐々に上昇し,小学C5年時でピークを迎え,その後中学校でやや低下する.(文献C5より改変引用)持する.グラフのカーブをみると,小学校入学時から徐々に上昇し,小学C5年時でピークを迎え,その後中学校でやや低下する.これは,小学校から中学校の間は全般的に近視の発症予防を心がけ,小学C5年時でもっとも発症予防に注意が必要であることを示唆する.加えて,小学入学時で近視の発症率はC19.2%とすでに高いこともわかる.近年,早期発症の近視(early-onsetmyopia)の頻度の増加に伴い強度近視へ進行するものが増えていることも指摘されている8).強度近視は軽度近視と比較して網膜.離,近視性黄斑症,緑内障のリスクが高いため,近視の視力予後を考えるうえで重要である.小学校入学以前から近視発症を予防することで,強度近視による合併症に罹患する者をより少なくすることができるかもしれない.以上,近視発症の疫学の最新の知見を述べた.まだまだ縦断研究による近視の発症の研究は人種・地域が限られており,歴史も浅く,今後世界中で経時的なエビデンスの蓄積が期待される.514あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(12)有病率(%)普通教育限定的現代的な現代的ななし普通教育西洋教育東アジア教育100806040200図3教育システムにおける各地域と近視の有病率との関係イヌイット,ネパールなどの普通教育の普及していない民族や地域では近視の有病率はC5%未満に過ぎないのに対して,シドニー,ポーランドなどの現代的な西洋教育が普及している地域ではC20.30%に上昇し,さらにはソウル,台湾,シンガポールなどの現代的な高等教育が普及している地域においてはC80.90%と圧倒的に高くなっている.(文献C12より引用改変)ソウルシンガポール台湾山東省北京市広東省北京順義区ポーランド北アイルランドシドニーチリダーバンインド都市部インド農村部ネパールイヌイットガボン表1屋外活動が近視発症・進行に与える影響をみた介入試験の既報研究研究国対象者(介入/コントロール)近視の定義観察期間介入内容結果CWuetalC2013台湾Cn=333/2387.C11歳C≦-0.5D1年1日80分間の屋外活動発症率は介入群C8.41%C/対照群C17.65%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-0.25D/対照群-0.38Dで有意に介入群で抑制CHeetalC2015中国Cn=919/9296.C7歳C≦-0.5D3年1日40分間の屋外活動発症率は介入群C30.4%C/対照群C39.5%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-1.42D/対照群-1.59Dで有意に介入群で抑制CJinetalC2015中国Cn=1,735/1,3166.C14歳C≦-0.5D1年一日C40分間の屋外活動発症率は介入群C3.7%C/対照群C8.5%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-0.10D/対照群-0.27Dで有意に介入群で抑制図4屋外活動の増加が近視化を抑制する要因屋外活動の近視抑制効果は,光環境,近業時間の減少,運動などの環境要因が独立して影響しているのではなく,複合的に作用しているといわれている.1日C80分間以上を屋外で過ごすプログラムを介入群に導入したところ,近視の発症率は介入群がC8.41%,対照群がC17.65%で介入群が有意に低率であった24).また,1年後の近視の進行は介入群において-0.25D,対照群では-0.38Dと有意に抑制することができたとしている.中国広州の前向きランダム化試験では平日にC1日40分の屋外活動を追加で設けた介入群を導入し,3年後に近視の発症率と近視の進行を評価した.その結果,近視の発症率は介入群がC30.4%,対照群がC39.5%で介入群が有意に低率であった25).また,近視の進行も屋外活動をすることで有意に抑制することができたと報告している.同様の研究が中国の農村地域でも行われており,1日C20分間の屋外活動をC1日にC2回行うプログラムを介入群に割りつけ,近視の発症,進行ともに介入群が対照群と比較して有意に抑制できたとしている26).屋外活動と近視が関連するメカニズムには諸説あり,近業時間の減少,光環境27),運動28)などが基礎実験や臨床試験でわかっている.これらが近視抑制に独立して影響しているのではなく,複合的に作用しているといわれている(図4).したがって,近視抑制に取り組むためには単独ではなく,複数の因子を考慮する必要がある.おわりに近視発症の疫学に加え,近視に関連する環境因子について最近の研究を紹介した.現時点では近視発症を予防できる環境因子としてエビデンスレベルがもっとも高いものは屋外活動時間の増加である.われわれの視覚環境は今後も大きく変化していくことが予想され,近視化に与える影響を確立することは重要なことである.長年積み重ねてきた研究により,近視を予防できる可能性が出てきており,複雑に絡み合った環境因子の近視への影響が徐々にひもとかれていっていることは間違いなく,今後の研究の進展が期待される.文献1)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Trendsintheprev-alenceCofCmyopiaCandCmyopicCmaculopathyCinCaCJapanesepopulation:theCHisayamaCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC60:2781-2786,C20192)RudnickaAR,KapetanakisVV,WathernAKetal:Globalvariationsandtimetrendsintheprevalenceofchildhoodmyopia,asystematicreviewandquantitativemeta-analy-sis:implicationsCforCaetiologyCandCearlyCprevention.CBrJOphthalmolC100:882-890,C20163)JonesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,CsportsCandCoutdoorCactivities,CandCfutureCmyopia.CInvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,C20074)McCulloughCSJ,CO’DonoghueCL,CSaundersKJ:SixCyearCrefractiveCchangeCamongCwhiteCchildrenCandCyoungadults:evidenceforsigni.cantincreaseinmyopiaamongWhiteUKChildren.PLoSOne16:e0146332,C20165)WangCSK,CGuoCY,CLiaoCCCetal:IncidenceCofCandCfactorsCassociatedCwithCmyopiaCandChighCmyopiaCinCChineseCChil-dren,basedonrefractionwithoutcycloplegia.JAMAOph-thalmolC136:1017-1024,C20186)SawSM,TongL,ChuaWHetal:Incidenceandprogres-sionofmyopiainSingaporeanschoolchildren.InvestOph-thalmolVisSci46:51-57,C20057)FrenchCAN,CMorganCIG,CBurlutskyCGCetal:PrevalenceCand5-to6-yearincidenceandprogressionofmyopiaandhyperopiaCinCAustralianCschoolchildren.COphthalmologyC120:1482-1491,C20138)ChuaCSY,CSabanayagamCC,CCheungCYBCetal:AgeCofConsetCofCmyopiaCpredictsCriskCofChighCmyopiaCinClaterCchildhoodCinCmyopicCSingaporeCchildren.COphthalmicCPhysiolOptC36:388-394,C20169)CohnH:TheHygieneoftheeyeinschools.Simkin,Mar-shallandCompany,London,188310)BarCDayanCY,CLevinCA,CMoradCYCetal:TheCchangingprevalenceofmyopiainyoungadults:a13-yearseriesofpopulation-basedCprevalenceCsurveys.CInvestCOphthalmolCVisSci46:2760-2765,C200511)MirshahiCA,CPontoCKA,CHoehnCRCetal:MyopiaCandClevelCofeducation:resultsCfromCtheCGutenbergCHealthCStudy.COphthalmologyC121:2047-2052,C201412)MorganCIG,CFrenchCAN,CAshbyCRSCetal:TheCepidemicsCofmyopia:Aetiologyandprevention.ProgRetinEyeResC62:134-149,C201813)WongCTY,CFosterCPJ,CJohnsonCGJCetal:Education,Csocio-economicCstatus,CandCocularCdimensionsCinCChineseadults:theTanjongPagarSurvey.BrJOphthalmolC86:C963-968,C200214)WilliamsCKM,CBertelsenCG,CCumberlandCPCetal:Increas-ingCprevalenceCofCmyopiaCinCeuropeCandCtheCimpactCofCeducation.COphthalmologyC122:1489-1497,C201515)SawCSM,CShankarCA,CTanCSBCetal:ACcohortCstudyCofCincidentCmyopiaCinCSingaporeanCchildren.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1839-1844,C200616)IpCJM,CSawCSM,CRoseCKACetal:RoleCofCnearCworkCinmyopia:.ndingsCinCaCsampleCofCAustralianCschoolCchil-dren.CInvestOphthalmolVisSciC49:2903-2910,C200817)GwiazdaJ,ThornF,BauerJetal:Myopicchildrenshowinsu.cientCaccommodativeCresponseCtoCblur.CInvestCOph-(15)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C517

総説:近視進行を抑制するための総合アプローチ

2020年5月31日 日曜日

総説:近視進行を抑制するための総合アプローチReview:AComprehensiveApproachfortheControlofMyopiaProgression五十嵐多恵*大野京子*はじめに子供たちを取りまく視環境の変化に伴い,世界的に近視人口が急増している1).2016年にHoldenらは,これまでどおりの増加が続くと,2050年には近視人口が全世界人口の半数に,強度近視人口も全世界人口の約1割に増加すると推定した2).さらに,このような近視の増加と重症化によって高齢期の視覚障害者が急増することを懸念し,近視の増加は国際的な公衆衛生上の問題であるとして警鐘を鳴らした.2015年に日本を含む世界の著名な近視研究者らはこの課題に取り組むために集結し,TheInternationalMyopiaInstitute(IMI)が設立された.2019年からはIMIのホームページにおいて,眼科医療従事者・近視研究者のみならず,政府関係者,政策立案者,教育者,一般市民が国際的エビデンスがある正しい知識を習得できるよう近視関連白書(定義・分類,新規治療,臨床試験,近視ビジネスと倫理指針,ガイドライン,実験近視,医療遺伝学に関する白書:それぞれ2年に一度の更新を目標)が公開されるようになった(https://www.myopiainstitute.org/imi-white-papers.html).近視人口の増加が著しいシンガポールや中国,台湾などのアジア先進諸国では,国家規模での近視の一次予防が行われ,一定の成果を上げるようになった(近視の一次予防とは,近視発症前の小児に対して,近視発症の原因と考えられるものの除去や忌避に努め,近視発生を防ぐ予防措置をとることをいう.図1).日本でも2017年に日本近視学会が設立され,日本眼科学会,日本眼科医会,日本近視学会,日本視能訓練士協会の協力のもと,文部科学省の主導で公益法人日本学校保健会によって小児の近視の実態調査が2020年度から行われることとなった(新型コロナウイルス感染症対策による影響で調査は現在延期中).一次予防の第一歩が本格的に踏み出されるにあたり,今後は地域医療を支える眼科医が中心的役割を担い,啓発活動,調査協力,治療を行うことが不可欠となる.同時に,発症した近視の進行に対する二次予防,病的近視の眼合併症に対する三次予防の知識をアップデートしていく必要もある(図1).本稿では,近視の発症と進行を抑制するための総合的アプローチを一次予防,二次予防,三次予防に分けて概説する.I一次予防対策1.近視の危険因子近視の一次予防策を講じるには,日本の小児の近視の有病率を明確にし,追跡調査を行う体制を確立する必要がある.また,具体策を講じるために,介入可能な近視の危険因子を同定し,費用対効果の高い戦略を練る必要がある.これまでに明らかとなっている近視の危険因子はさまざまあるが,これらのなかで屋外活動と近業に対する対策が介入可能な最優先課題である.*TaeIgarashi-Yokoi&*KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)505早期発症(10歳以下)予防進行予防病的近視の管理介入可能な危険因子を同定進行リクスの高い小児を病的近視の対費用効果の高い戦略を練る同定,臨床的治療を行う眼合併症に対する集学的管理図1近視の発症と進行を抑制するための総合アプローチ一次予防,二次予防,三次予防に分けて体制を確立する必要がある.近視の一次予防とは,近視発症前の小児に対して,近視発症の原因と思われるものの除去や忌避に努め,近視発生を防ぐ予防措置をとることをいう.国家政策として,眼科医療従事者を中心に,地域・学校ベースでの体制作りが必要である.二次予防は,近視になった小児をできるだけ早期に発見し,早期治療を行うことで近視の進行を抑え,近視が強度に至らないように努めることをいう.三次予防は,近視が強度に至ったあとのさまざまな眼合併症に対する治療や進行・再発防止,残存視機能の回復・維持,視覚リハビリテーション,社会復帰などの対策を立て,実行することをいう.専門施設での長期的な集学的管理が必要と考えられる.照度計のついたマネキン20,00018,00016,000サングラスの影響14,000広場12,00010,000サングラス(広場)8,000温白色蛍光灯下で大きな6,000窓のある屋内4,000白色LED下で窓のない屋内2,00009am12noon2pm4pmEnvironmentalConditions/Timeoftheday20,00018,000帽子の影響16,00014,000広場12,000帽子(広場)10,0008,000サングラスと帽子(広場)6,000温白色蛍光灯下で大きな窓のある屋内4,000白色LED下で窓のない屋内2,00009am12noon2pm4pmEnvironmentalConditions/Timeoftheday図2屋外サングラスや帽子をつけて紫外線対策を行ったときの照度への影響と屋内・屋外の照度との比較サングラスはSolarClass2Classicタイプを使用.帽子とサングラスを併用した場合の照度は低下するが,それでも屋内に比較すれば十分な照度が得られている.(文献7より改変引用)==LightLevel(Lux)atEyeLevelLightLevel(Lux)atEyeLevel表1近視に関する質問票の変遷と利点・欠点1.レーザー測距モジュール:距離と間隔のモニタリング計測範囲:0~120cm精度:+/ー12.照度監視モジュール:光環境と日光暴露のモニタリング計測範囲:0~60,000lux精度:+/ー10%3.三軸センサー:角度のモニタリング計測範囲:360°精度:+/ー1°図3クラウクリップによる環境因子の可視化眼鏡に装着することで,近見焦点距離,時間,照度,頭部の傾きなどのさまざまな情報を負担なく収集できるよう設計されている.図4低濃度アトロピン点眼を主軸とした近視進行抑制治療のフローチャート(文献C17より改変引用)表2現在進行中の低濃度アトロピン点眼の治験研究名ATOM3studyCHAMPstudyAPPLEstudyLAMPstudyDE-127点眼液(地域)C(シンガポール)C(イギリス)C(シンガポール)C(香港)(日本)研究デザイン四重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCTプラセボCプラセボアトロピン濃度プラセボ0.01%プラセボ0.01%Low-doseCMedium-doseC0.01%0.025%プラセボ濃度非公開High-dose0.05%人数570人289人100人438人288人対象5.9歳-1.50.+1.00D6.C12歳-10.00.-0.5D6.C11歳-6.00.-1.00D4.C12歳-1.0D以下5.C15歳-6.00.-1.00D治療期間24.C30カ月24カ月12カ月36カ月非公開ATOM3では近視発症前の小児も対象であり,CHAMPスタディでは-10Dまでの強度近視も対象となっている.CRCT=無作為化比較試験.図5近視性黄斑症の長期経過における進行形式とOCTによる診断基準乳頭周囲のびまん性萎縮病変は,中心窩からC3,000Cμm鼻側の脈絡膜厚がC56.5Cμm以下であること,また黄斑に及ぶびまん性萎縮は中心窩脈絡膜厚がC62.0Cμm以下であることによって定義される.また,びまん性萎縮から限局生萎縮への進行,もしくは黄斑部萎縮への進行や独立病変の形成は,Bruch膜の孔が新たに形成されることにより新たに定義される.(文献C20より改変引用)低リスクの近視通常の治療:経過観察もしくは短期間の低濃度アトロピン高リスクの近視188個のSNPのGWAS遺伝子パネル(CREAM/23andME)などを使用して,遺伝要因を特定厳格な管理:長期的な低濃度アトロピンによる治療/多焦点ソフトコンタクトレンズ/オルソケラトロジーなど図6PrecisionMedicineClinicforMyopiaの構想-

序説:近視進行予防の国際スタンダード

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の国際スタンダードInternationalStandardsforthePreventionofMyopia大野京子*生野恭司**全世界的な近視の急増がとまらない.Holdenらの推計によると,2050年には全世界の人口の約半数である40億人が近視になり,世界人口の約1割にあたる9億人が強度の近視に至ると見積もられている.また,多くの疫学研究において,たとえ軽度であっても,近視は緑内障,網膜.離などの合併症の発症リスクを上昇させることが報告されている.スマートフォンやタブレットの頻用など,子供をとりまく生活環境が劇的に変化するなかで,いかに小児の近視の発症と進行を最小限に抑えるかは,喫緊の課題である.わが国における小児の近視の進行抑制を謳う治療法には,明確なエビデンスやコンセンサスが得られていないものも多い.眼鏡処方においても,日本では低矯正が多く行われてきたが,実験近視研究などから,完全矯正を原則とするように勧められている.近視はとくに東アジア諸国に多くみられるが,台湾,シンガポール,中国といった他の諸国では,すでに学童近視を抑制すべく国家的戦略がとられている.台湾では政府の支援により,学校のカリキュラムが改訂され,1日2時間約1,000lux(木陰や建物の陰に相当)が徹底された結果,世界で初めて小児の近視の頻度を減少させることに成功した.こういった各国の近視進行抑制の取り組みは,2019年9月に東京で開催された第17回国際近視学会で紹介され,大きな反響をよんだ.一方,日本では学校保健の現場において屈折度検査,眼軸長測定がなされてきておらず,そのため視力不良の小児の頻度は報告されてきたが,小児の近視の頻度は不明であった.このような背景のもと,文部科学省と日本眼科学会,日本眼科医会,日本近視学会,日本視能訓練士協会の協調のもと,全国複数地域の小学生・中学生を対象に,屈折度・眼軸長測定の調査が行われようとしており,その結果が期待される.小児の近視の急増の原因として,スマートフォンなどの環境因子の変化が重要と考えられる.従来,環境因子を客観的・定量的に測定することは困難であったが,近年,眼鏡に装着するタイプやペンダント型,腕時計型などのITを駆使したさまざまなデバイスが開発されており,環境因子を正確に定量し,改善のためのフィードバックをしようとする試みがなされており注目されている.近視進行抑制治療にも大きな進歩があった.「近視は治療すべき疾患である」ことを示したのは,シンガポールでなされたATOM試験,ATOM2試験であり,0.01%の低濃度アトロピンが近視進行抑制に有効であることを明らかにし注目されることとな*KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野**YasushiIkuno:いくの眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)503

線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):493?496,2020?線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例相原佑亮陳進輝木嶋理紀大口剛司新明康弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室ThreeCasesthatRequiredSurgicalBlebRevisiontoResolveaLeakingBlebafterTrabeculectomyYusukeAihara,ShinkiChin,RikiKijima,TakeshiOhguchi,YasuhiroShinmeiandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityはじめにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)後早期の房水漏出は,低眼圧のみならず,感染症や脈絡膜?離,低眼圧黄斑症,角膜内皮障害などさまざまな合併症の原因となるため,積極的な処置が必要となる.対処法として,自己血清点眼などの保存的療法のほか,結膜縫合などさまざまな観血的治療法が報告されている.術後早期の房水漏出に関しては,術直後で漏出量がごくわずかな自然治癒が期待される症例を除き,結膜縫合による観血的処置を行うことが基本である1).〔別刷請求先〕陳進輝:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShinkiChin,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,N-14,W-5,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8648,JAPAN図1濾過胞再建術と結膜縫合の併用法症例1に行ったシューレース縫合であるが,症例2と症例3にはブロック縫合を行った.針を用いて行った場合には,①の部位の結膜を穿刺して2%キシロカインを結膜下注射しながら?離していったが,癒着が強く?離できなかった場合には以下のように行った.まず輪部から離れた結膜部を小さく切開し(①),癒着した濾過胞部周囲を円蓋部側までスプリング剪刀で?離した(②),最後は輪部の結膜を10-0ナイロン丸針で結膜縫合を行った(③).しかしながら,術後早期に限局性の濾過胞となって房水漏出がみられる場合,房水を十分に吸収できる機能的な濾過胞とならないためか,単純な結膜縫合のみでは改善せずに治療に苦慮することがある.今回筆者らは,円蓋部基底切開によるLEC術後早期に生じた限局性濾過胞の輪部付近から房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで漏出を止めることに成功した3例4眼を経験したので報告する.I症例〔症例1〕37歳,男性.4年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行ったが視野障害が進行してきたため,手術目的に北海道大学病院眼科(以下,当院)に紹介となった.入院時視力は右眼0.01(0.5×sph?10.50D(cyl?1.00DAx165°),左眼0.01(0.1×sph?10.25D(cyl?1.75DAx180°),眼圧は右眼21mmHg,左眼19mmHg.視野はHumphrey30-2SITA-standard(Humphrey30-2)にて,右眼が重度視野欠損(MD値?17.16dB),左眼も重度視野欠損(MD値?18.35dB)であった.眼圧日内変動検査にて,右眼19?25mmHg,左眼19?26mmHgと両眼の眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後6日目より濾過胞が限局化し,輪部側に虚血性の濾過胞が出現した.術後8日目に輪部から房水漏出がみられたため,同日輪部の結膜を縫合し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1日6回点眼を開始.術後12日目に0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を自己血清点眼に変更したが,房水漏出は消失しなかった.術後14日目にはabcd図2限局性濾過胞と輪部からの房水漏出の経過aは症例1の左眼.LEC術後19日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.bは症例1の右眼.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.cは症例2.LEC術後18日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.dは症例3.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,その後は房水漏出の再発はなかった(術後4日目のoozingによる房水漏出は,輪部から離れたブレブの中央部分であり,図から省いた).図3症例1の右眼の濾過胞再建術併用結膜縫合術前の濾過胞(a)と術後1日目の濾過胞(b)濾過胞再建術併用結膜縫合術前には,虚血部を伴う限局性の濾過胞を認め,周囲の結膜は充血し,輪部結膜からの房水漏出を認めた.術後はびまん性の濾過胞が形成され房水漏出は消失した.輪部に縫合を追加したが房水漏出は改善しなかった.術後19日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部の結膜縫合を行ったところ(図1),びまん性の濾過胞が形成され,房水漏出は停止した(図2a).右眼は左眼と同様な経過をたどり,LEC後7日目より,輪部に接する部分に虚血部を伴う限局性の濾過胞となった.術後13日目には輪部結膜から房水漏出が出現したため自己血清点眼1日6回を開始した(図3).しかしながら,術後14日目になっても房水漏出に改善がみられず,眼圧も18mmHgに上昇したため,スプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成して虚血部位は消失し,房水漏出は消失した(図2b,3).〔症例2〕63歳,男性.6年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断されて点眼治療が行われていたが,右眼の視野進行を認めたため,手術目的にて紹介となった.入院時視力は,右眼0.04(0.5×sph?6.50D(cyl?1.00DAx155°),左眼0.09(0.3×sph?1.50D(cyl?3.00DAx90°),眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg.視野はHumphrey30-2にて右眼は重度視野欠損(MD値?13.73),左眼は早期視野欠損(MD値?5.88)がみられた.眼圧日内変動検査にて,右眼17?20mmHg,左眼17?19mmHgであったが,右眼は重度視野欠損であり,かつ視野進行が認められたため,LECを行った.LEC後12日目に輪部に接した部分が虚血性となって濾過胞が限局化し,輪部側からの房水漏出がみられた.房水漏出は軽微であったため,0.1%ベタメタゾン点眼を中止して0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を1日6回開始した.術後13日目になっても房水漏出に改善がないため,自己血清点眼1日6回に変更した.術後15日目も房水漏出が続いていたため,輪部結膜に縫合を行い,0.1%ベタメタゾン点眼右眼1日6回を再開,自己血清点眼を終了した.しかし,術後17日目になって,輪部結膜からの房水漏出が再発したため,術後18日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞が形成され,虚血部位が消失して房水漏出もなくなった(図2c).〔症例3〕78歳,女性.両眼の原発開放隅角緑内障の診断で約20年前から点眼治療が開始され,7年前に右眼のLECが施行されていた.今回は右眼視野が進行したため,手術目的にて当院紹介となった.視力は右眼0.2(0.2×sph+0.25D(cyl?1.00DAx110°),左眼0.01(0.02×sph+2.00D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.Goldmann動的視野検査にて,右眼は湖崎分類III-b,左眼は湖崎分類V-bであった.眼圧日内変動検査にて右眼15?22mmHg,左眼16?27mmHgと両眼とも眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後とくに問題なく経過した.右眼のLECは,前回行われた上耳側を避けて上鼻側に行った.LEC術後4日目に角膜輪部から離れたブレブ中央の菲薄部分からoozingが出現したため,1日4回点眼していた0.1%ベタメタゾンを中止し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを1日6回開始したところ,翌日には房水漏出は停止した.術後6日目には0.1%ベタメタゾン点眼を1日4回で再開した.術後12日目に限局性となった濾過胞の輪部側から房水漏出が出現したため,結膜縫合を行った.翌日には房水漏出は停止し0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を中止としたが,術後14日目に再び輪部より房水漏出が出現したため,25G鋭針を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成し,房水漏出は停止した.(図2d).II考按一般に,円蓋部基底結膜切開によるLECの早期合併症の一つとして輪部付近からの房水漏出があり2),輪部結膜切開創に対するさまざまな縫合法が考案されてきた1,3).LEC術後,濾過胞周囲に癒着が生じるのに伴い,局所的な濾過胞となって濾過機能を失い,眼圧上昇を伴う場合がある4).このような濾過胞に対し行う濾過胞再建術として,鋭針やナイフなどを用いて結膜?強膜間の瘢痕癒着を解除し,結膜下腔への房水の流れを回復させる手法があり4),さらなる緑内障手術を回避するために有効な手段とされる5).LEC術後早期の段階で限局性の濾過胞となってしまい,輪部結膜からの房水漏出が生じた際に,通常の結膜縫合だけでは改善せず,房水漏出を繰り返す症例をしばしば経験する.このような症例では,濾過胞が限局化したことにより,濾過胞内の前房水による圧力負荷が高くなっているものと推察される.その結果として結膜が伸展され,圧力の低い結膜の細血管や毛細血管が虚脱2),虚血性の濾過胞様の所見になっているのではないかと考えられる6).今回筆者らは,結膜縫合のみでは房水漏出を止められなかった症例に対して,濾過胞再建術を併用することで房水漏出を止めることに成功した.癒着が強く,針では解除できない症例に対しては,先端の細いスプリング剪刀を用いて行った.房水漏出直前の平均眼圧は7.0±2.5mmHg(4?11mmHg)であり,眼圧が上昇しはじめた頃に漏出が起こっている(図2).漏出が起こったのは術後平均11.3±1.6日目(8?13日)であり,いずれも濾過胞の限局化が生じてから1週間以内に発生していた.このことから,創傷治癒に伴う限局化によって起こる濾過胞機能低下と濾過胞内圧の上昇が,漏出に関与している可能性が示唆された.また,漏出が止まったときの平均眼圧は10.0±3.5mmHg(3?16mmHg)であり,症例2を除き,縫合前より上昇した症例はみられなかった.これは結膜縫合に併用した濾過胞再建による機能性濾過効果と考えられる.さらに,この眼圧下降に加え,濾過胞周囲の癒着を?離したことにより,限局化して輪部方向へ集中していた水圧が減圧され,その結果,水圧によって生じていた縫合不全が起こらず,創部は上皮化され房水漏出の停止に至ったと考えられた.症例2で濾過胞再建術併用後の眼圧下降が小さかったのは(図2c),外見上びまん性の機能性濾過胞様にみえても,内部の瘢痕化や肉芽形成などにより機能性濾過胞効果が低下7)していた可能性がある.また,濾過胞再建術併用後に濾過胞の虚血部位が消失した理由としては,前述のような濾過胞内圧の上昇によって一過性に虚脱した結膜の細血管や毛細血管が,濾過胞再建によってびまん性の濾過胞となり,局所性にかかる圧力が低下したことによって結膜血管が復元した結果と推測された.今回,術後早期の限局化した濾過胞の輪部からの房水漏出に対して濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行った結果,房水漏出を止めることができた.一方,症例1の右眼に関しては,房水漏出を繰り返した左眼と同様の経過をたどり房水漏出に至ったため,結膜縫合を単独で行うことなく初めから濾過胞再建術を併用し,良好な結果を得た.術後早期の限局化した濾過胞からの房水漏出で,濾過胞内の圧力負荷がその一因と疑われる症例では,結膜縫合を縫合する際に,初めから濾過胞内圧を下げる濾過胞再建術を併用した結膜縫合をすべきであると考えられた.文献1)陳進輝:トラベクレクトミー術後の房水漏出について.FrontiersinGlaucoma54:172-176,20172)相原一:線維柱帯切除術における切開部位と創傷治癒の検討.FrontiersinGlaucoma7:226-232,20063)庄司信行:結膜切開方法による違いは?緑内障(根木昭,相原一編),眼手術学6,97-99,文光堂,20124)LinS,BylesD,SmithM:Long-termoutcomeofmitomy-cinC-augmentedneedlerevisionoftrabeculectomyblebsforlatetrabeculectomyfailure.Eye(Lond)32:1893-1899,20185)AminiH,EsmailiA,ZareiRetal:O?ce-basedslit-lampneedlerevisionwithadjunctivemitomycin-Cforlatefailedorencapsulated?lteringblebs.MiddleEastAfrJOphthal-mol19:216-221,20126)HirookaK,MizoteM,BabaTetal:Riskfactorsfordevel-opingavascular?lteringblebafterfornix-basedtrabecu-lectomywithmitomycinC.JGlaucoma18:301-304,20097)金本尚志:濾過胞維持─増殖・瘢痕抑制のための試み.眼科手術21:179-184,2008◆**

原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):490.492,2020c原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響窪倉真樹子中元兼二白鳥宙髙野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室CLong-TermE.ectofLaserIridotomyonCornealEndothelialCellDensityinCasesofPrimaryAngle-ClosureGlaucomaMakikoKubokura,KenjiNakamoto,NakaShiratori,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC日本医科大学付属病院緑内障外来を受診した患者のうち,原発閉塞隅角症(PAC)および原発閉塞隅角緑内障(PACG)患者を対象に,レーザー虹彩切開術(LI)による角膜内皮細胞密度(CD)への影響を調べた.CD減少率を目的変数,LI施行日から最終CCD検査日までの期間(観察期間)を説明変数として回帰分析を行った.PAC(G)患者は15例26眼(男性3例5眼,女性12例21眼),年齢64±12歳,LI施行日からの観察期間はC34.5±15.7月であった.CDはCLI:治療前C2,810±173個/mm2,治療後C2,682±197個/mm2で有意に減少していた(p=0.02).CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=.0.4+0.1×観察期間(月),p=0.046,r2=0.16).PAC(G)に対する予防的CLIでは,CDは年間C1.6%減少し,約C40年間で半減すると予測された.CWeevaluatedthee.ectoflaseriridotomy(LI)oncornealendothelialcelldensity(ECD)inprimaryangle-clo-sureandprimaryangle-closureglaucomapatients.Thesubjectswere26eyesof15cases(male:3cases,5eyes;female:12Ccases,C21eyes).CTheCmeanCpatientCageCwasC64±12Cyears,CandCtheCmeanCfollow-upCperiodCwasC34.5±15.7months.ThemeancornealECDsigni.cantlydecreasedfrom2,810±173Ccells/mm2CpreLIto2,682±197Ccells/Cmm2CpostLI(p=0.02).Asigni.cantcorrelationwasfoundbetweentherateofcornealECDreductionandlengthofthepostoperativeobservationperiod(p=0.046).CornealECDwasestimatedtodecrease1.6%peryearpostLI,withanestimatedlossof50-percentat40-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):490.492,C2020〕Keywords:原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,レーザー虹彩切開術,角膜内皮細胞,長期的影響.primaryCangleclosure,primaryangleclosureglaucoma,laseriridotomy,cornealendothelialcell,long-terme.ect.Cはじめに緑内障はわが国の中途失明原因の第一位であるが1),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)は原発開放隅角緑内障に比し数倍失明率が高く2),臨床上注意を要する緑内障病型である.また,原発閉塞隅角症(pri-maryangleclosure:PAC)は無治療で経過観察すると,5年以内にC22%がCPACGに移行することが報告されており3),PACG発症予防のため外科的治療が必要である.わが国における緑内障の治療指針を示した緑内障診療ガイドライン第4版では,瞳孔ブロックによるCPACおよびCPACGに対しては,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または水晶体再建術が標準治療となっている4).LIは外来で簡便に瞳孔ブロックを解除できるので有用な治療法であるが,術後長期を経て発症する水疱性角膜症の合併はいまだ皆無ではない5.7).今回,筆者らは日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における急性緑内障発作の既往のないCPACおよびCPACGに対するCLIが角膜内皮細胞に及ぼす影響を後ろ向きに検討し,角膜内皮障害への長期的影響が予測できたので報告する.〔別刷請求先〕窪倉真樹子:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:MakikoKubokura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC490(114)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(114)C4900910-1810/20/\100/頁/JCOPY3,5003,000LI後細胞密度(個/mm2)LI後眼圧(mmHg)151052,500005101520LI前眼圧(mmHg)図1LI前後の眼圧変化眼圧はCLI前後で有意差はなかった(p=0.60).C1510500102030405060702,0002,0002,5003,0003,50025LI前細胞密度(個/mm2)図2LI前後の角膜内皮細胞密度の変化角膜内皮細胞密度はCLI施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02).しているものとした.LIの術式は全例アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法であった.アルゴンレーザー(グリーン)で穿孔予定部位周囲を照射し虹彩を伸展菲薄化後,Nd:YAGレーザーで穿孔した.それぞれのレーザー設定と照射数は,アルゴンレーザーにて第一段階としてC200Cμm,0.2秒,200CmWでC4発,第二段階としてC50Cμm,0.02秒,1,000CmWでC10.20発したのち,Nd:YAGレーザーにてC1.5CmJで1.2発照射とし,全例この範囲で施行した.CD減少率(%)-5観察期間(月)図3CD減少率と観察期間との関係CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),rC2=0.16,Cp=0.046).CI対象および方法2016年C6月.2016年C11月に当科を受診した患者のうち,緑内障専門医(K.N.)が施行した予防的CLI後のCPACおよびPACG患者を対象とした.内訳は,年齢(平均値C±標準偏差)C64±12歳(39.78歳),男性C3例(5眼),女性C12例(21眼)のC15例C26眼であった.病型の内訳は,PACがC11例C19眼,PACGがC4例C7眼であった.選択基準は,LI前後に角膜内皮細胞測定が行われているものとした.除外基準は,内眼手術の既往,滴状角膜,Fuchs角膜内皮ジストロフィなど,緑内障以外の眼疾患を有するものとした.PACおよびCPACGの診断は,LI術前のカルテ所見より行った.緑内障診療ガイドライン4)に準じて,PACは,原発隅角閉塞によって眼圧上昇(少なくともC20CmmHgをC1回でも超える)をきたしている,もしくは周辺虹彩前癒着があるが緑内障性視神経症がないものとした.PACGはCPACに緑内障性視神経症を有角膜内皮細胞はスペキュラマイクロスコープCSP-2000P(トプコン)を用いて測定し,角膜中央部のデータを解析に用いた.視力,眼圧,角膜内皮細胞密度(celldensity:CD)(個/Cmm2)をCLI前後で比較した(WilcoxonCsigned-ranktest).また,CD減少率を[(LI前CCD-最終観察時CCD)/LI前CCD]C×100(%)として算出し,目的変数をCCD減少率,説明変数をCLI施行日から最終角膜内皮細胞検査日までの期間(観察期間)として,直線回帰分析を行った.統計解析は,JMP8(SASInstitute社)を用いて,有意水準p<0.05(両側検定)で検定した.CII結果1.視力(logMAR)および眼圧の変化視力については,LI前後で視力測定が行われていたC15例24眼で検討した.LI前(平均値C±標準誤差):.0.06±0.04(.0.08.0),LI後:0.02C±0.20(C.0.08.0.7)(p=0.03)であり,白内障進行により有意に低下した.また,眼圧の検討では,LI前:13.8C±3.8CmmHg(7.5.21CmmHg),LI後:C13.5±3.7CmmHg(8.21CmmHg)であり,LI前後に有意差はなかった(p=0.60,図1).C2.CDの変化およびCD減少率と観察期間との関係観察期間はC34.5C±15.7月であった.角膜内皮細胞数はCLI前:2,810C±173/mm2,LI後:2,682C±197mm2であり,LI(115)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C491施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02,図2).また,目的変数をCCD減少率(%),説明変数を観察期間(月)として直線回帰分析を行ったところ,両者に有意な正の関係があった〔CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),Cr2=0.16,Cp=0.046,図3〕.CIII考按今回,アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法によるLIが施行されたCPACおよびCPACG患者を対象に,LIの角膜内皮細胞への影響について後ろ向きに検討したところ,LI後のCCD減少率はC1.6%/年であり,加齢によるCCD減少率は0.3.0.7%/年8)に比し早かった.また,これは同様の検討をした宇高らの報告9)におけるCCD減少率C1%/年より早かった.本検討の結果から算出すると,CDはCLI施行後約C40年間で半減することがわかった.ただし,回帰式の決定係数はCr2=0.16と低く,回帰式の精度の問題がある.PACGにおけるCLI後では,通常,眼圧は有意に下降することが多いが10),今回の検討では有意な眼圧下降はなかった.この原因として,対象にCPACGの割合が少ないこと,治療前に眼圧下降薬が使用されている症例が含まれていることなどが考えられる.本検討の問題点および限界としては,①CCDがCLI前後で1回ずつしか測定されていないため,測定値の精度が低い可能性があること,②大学病院での後ろ向き研究のため,通院困難などの理由で近医に転院した症例が多く,結果として症例数が少ないこと,③今回対象から除外された症例のなかには,LIではなく水晶体再建術が施行されたものも多く,とくに隅角閉塞機序に水晶体因子の影響が強い症例などは除外されている可能性が高いこと,などがあげられる.最近,白内障のないCPACおよびCPACGを対象としたCLIと水晶体再建術の前向き比較試験(EAGLEstudy)10)の結果が報告され,水晶体再建術のほうが,LIより生活の質,経済面および眼圧コントロールにおいて優れていることが高いエビデンス・レベルで実証された.そのため,最近ではPACおよびCPACGにおける第一選択は水晶体再建術となりつつある11).しかし,PACおよびCPACGに対する水晶体再建術は通常の手術に比し手術難易度が高いため,術中合併症のリスクがより高くなることが知られている4).元来,水晶体再建術でもCCDは減少し,ときに水疱性角膜症もきたしうるという問題もある5).ただし,角膜内皮細胞の再生医療の進歩は目覚ましく12),将来は,LIによるものも含めて水疱性角膜症が現在ほど重篤な合併症の扱いではなくなる可能性がある.今回の結果からCPACおよびCPACGに対するCLIによって,CD減少率は年間C1.6%/年減少し,CDはCLI後約C40年間で半減すると予測された.LIは簡便で瞳孔ブロック解除に有用な治療法であるが,現時点では年齢およびCLI前のCCDを考慮して慎重に適応を決める必要がある.文献1)白神史雄:厚生労働科学研究研究費補助金,難治性疾患克服研究事業2)QuigleyCHA,CBromanAT:TheCnumberCofCpeopleCwithCglaucomaCworldwideCinC2010CandC2020.CBrCJCOphthalmolC90:262-267,C20063)ThomasCR,CParikhCR,CMuliyilCJCetal:Five-yearCriskCofCprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:ACpopulation-basedCstudy.CActaCOphthal-molScandC81:480-485,C20034)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20185)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveryonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)SchwartzAL,MartinNF,WeberPAetal:Cornealdecom-pensationCafterCargonClaserCiridectomy.CArchCOphthalmolC106:1572-1574,C19887)LimLS,HoCL,AngLPetal:Inferiorcornealdecompen-sationfollowinglaserperipheraliridotomyinthesuperioriris.AmJOphthalmolC142:166-168,C20068)天野史郎:正常者の角膜内皮細胞.あたらしい眼科C26:C147-152,C20099)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科C28:553-557,C201110)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C201611)KimCYY,CJungHR:ComparisonCofC2007-2012CKoreanCtrendsinlaserperipheraliridotomyandcataractsurgeryrates.JpnJOphthalmolC58:40-46,C201412)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglJMedC378:995-1003,C2018***(116)

感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018

2020年4月30日 木曜日

感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018加茂純子*1村松志保*2赤澤博美*2阿部水穂*2*1甲府共立病院眼科*2甲府共立病院細菌検査室CRecommendationofAntibioticsfortheEyebyAgeGroupin2018BasedonMicroorganismSensitivityJunkoKamo1),ShihoMuramatsu2),HiromiAkazawa2)andMizuhoAbe2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)DepartmentofBacterialLaboratory,KofuKyoritsuHospitalC目的:今回筆者らは既存抗菌点眼と比べ,わが国で新しく発売予定の強粘性により薬剤の滞留性を高めたマクロライド系の抗菌点眼薬アジスロマイシン(AZM)が結膜炎の眼脂培養で得られた細菌への感受性を年代別に調べた.方法:当院で採用している抗菌薬のセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)に加え,AZMのディスクを用い感受性を調べた.対象:2016年C12月C1日.2018年C6月C30日に甲府共立病院,甲府共立診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男C131,女115)から採取されたC630の菌,平均年齢はC53歳±38.歳(0.99歳).結果:1位CCorynebacterium,2位CCNS,3位CNS-MRS,4位Ca-Hemolytic-streptococcus,5位CStaphylococcusaureus.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMに対する感受性がC80%以上なのはCS.aureus,Haemophilusin.uenzae,MoraxellaCsp.のみであった.AZMはCNS-MRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.CMXに対する感受性はCMRSA,Pseudo-monasaeruginosa以外の上位C14種の細菌は感受性C80%以上であった.MRSAに有効なのはCCPとCVCMであった.結論:AZMはCS.aureus,H.in.uenzae,MoraxellaCsp.にはC80%以上の有効性を示すが,既存の抗菌薬と比べてとくに高いわけではない.あくまでもCinvitroの結果であり,invivoでは粘弾性で結果は変わる可能性はある.CMXはMRSA,P.aeruginosa以外は感受性よく,結膜炎のファーストチョイスといえる.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCsensitivityCofazithromycin(AZM)macrolideCantimicrobialCeyeCdrops,CwhichChaveanenhanceddrugretentionduetostrongviscosity,tobacteriaobtainedineyedischargeculturesofconjunc-tivitiscomparedwithexistingantimicrobialeyedrops.Methods:Thisstudyinvolved630bacteriasamplescollect-edfrom246patients[meanage:53years(range:0-99years)]whopresentedwithconjunctivitisandkeratitisattheDepartmentofOphthalmologyOutpatientClinicatKofuKyoritsufromDecember1,2016toJune30,2018.InadditiontotheantimicrobialagentsCMX,DKB,CP,VCM,OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,andMFLX,whichhadbeenadoptedforuseinourhospital,thesensitivitywasexaminedwithadiskofAZM.Results:Themostcom-monlyCfoundCbacteriumCwasCCorynebacterium,CwithCtheCsecondCbeingCCNSCandCtheCthirdCbeingCNS-MRS;CMX,CCP,andVCMwerestrongagainstthefrequentlyoccurringbacteria.AZMwasstrongagainstStaphylococcusCaure-us,CHaemophilusCin.uenzae,andMoraxellaCsp.CForCCNS-MRS,CAZMCwasCstrongerCthanCquinolones,CbutCinferiorCtoCCMX,CP,andVCM.AZMwasweakagainstCPseudomonasaeruginosa.CConclusions:Althoughtheviscoelasticprop-ertiesofAZMmayhavealteredtheresults,CMXremainedthe.rst-choiceantimicrobialagentforconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):484.489,C2020〕Keywords:結膜炎,角膜炎,抗菌薬点眼,感受性率.conjunctivitis,keratitis,antibioticeyedrops,susceptibility.〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034山梨県甲府市宝C1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu,Yamanashi400-0034,JAPANC484(108)2019年に承認されたアジスロマイシン点眼1,2)はマクロライド系の抗菌点眼薬で,DuraSite,DuraSite21)による強粘性により薬剤の滞留性を高め,点眼回数の減少をはかっている.筆者らは,結膜炎の眼脂培養から出た菌について,薬剤感受性からみた眼科領域の抗菌薬選択をC2006年3),患者の年齢別にはC2007年4),2009年5)にも検討し,抗菌薬の感受性率の変化はC2014年6)にも検討している.今回筆者らはアジスロマイシンと既存のキノロン系,セフメノキシム,アミノグリコシド,クロラムフェニコールやバンコマイシンと比べて細菌への有効性を調べた.また,既報と患者の年齢別の検出菌,感受性率も比較も検討した.CI対象および方法前向きに結膜炎,角膜炎における起炎菌につき,下記C10種の薬剤についてディスクで感受性を調べ,年齢別に検討した.本研究は甲府共立病院倫理委員会から承認を得ている.市場に流通しているセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),キノロン系C5種類〔オフロキサン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシ(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)〕,そしてアジスロマイシン(AZM)である.表1に略号と商品名,ジェネリックを示した.2016年C12月C1日.2018年6月C30日に甲府共立病院および診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男131,女C115),平均年齢はC52.9C±38.1歳(0.99歳)から採取されたC630株の菌種を対象とした.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地でC48時間培養し,その後同定および薬剤感受性試験を行った.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地,ガム寒天培地,チョコレート寒天培地でC48時間培養し,その後同定およびCKBディスク(栄研化学)を用い薬剤感受性試験を行った.感受性はCS/(SC+I+R)×100%で計算した.S:Sensitive,I:Intermediate,R:Resistanceである.2006年とC2008年4,5)に行った研究と同様,全体とC1歳未満,1.15歳,16.64歳,65歳以上に分けて感受性率を検討した.CII結果表2に検出菌の割合を示す.全体の検出菌で一番多いのがC1.CorynebacteriumCsp.146株(23.2%)で,以下,2.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaphylococ-cus:CNS)でC111株(17.6%),3.CNS-MRS(methicillin-resistanceStaphylococcus)59株(9.4%),4.a-Hemolytic-Streptococcus(以下Ca-Hem-Streptococcus)59株(9.4%),5.Staphylococcusaureus(以下CS.aureus)43株(6.8%),6.CMethicillin-resistanceStaphylococcusaureus(MRSA)28株(4.4%),7.Haemophilusin.uenzae(以下CH.in.uenzae)30株(4.8%),8.Moraxellacatarrhalis(以下CM.catarrhalis)13株(2.1%),9.未同定グラム陽性球菌C12株(1.9%),10.CNeisseriaCsp.10株(1.6%),11.嫌気性グラム陰性菌C10株(1.6%),12.CMoraxellaCsp.8株(1.3%),13.B群Ca型CStrep-表1検討した薬剤の略号と一般名および代表的な薬品名とジェネリック(2019.7月現在)一般名おもな商品名ジェネリックCCMXセフメノキシム塩酸塩ベストロン点眼用C0.5%なしCCPクロラムフェニコールクロラムフェニコール点眼用C0.5%オフサロン点眼コリナコール点眼CVCMバンコマイシンバンコマイシン眼軟膏なしCDKB硫酸ジベカシンパニマイシン点なしCAZMアジスロマイシンアジマイマイシン点眼(2C019.6承認)COFLXオフロキサシンタリビッド点・軟膏点眼後発品:1C3種眼軟膏後発品:1種CLVFXレボフロキサシン水和物クラビッド点眼点眼C0.5%後発品:1C9種点眼C1.5%後発品:2C0種CTFLXトスフロキサシントスフロ点眼液C0.3%オゼックス点眼液CGFLXガチフロキサシン水和物ガチフロ点眼なしCMFLX塩酸モキシフロキサシンベガモックス点眼なし順位.菌種株数%C1.CorynebacteriumCspecies(sp.)C146C23.2C2.CoaglaseNegativeStaphylococci(CNS)C111C17.6C3.CNSmethicillinresistanceStaphylococci(MRS)C59C9.4C4.a-Hemolytic-Streptococcus(Ca-Hem-streptococcus)C59C9.4C5.Staphylococcusaureus(S.aureus)C43C6.8C6.S.CaureusCmethicillinCresistanceCStaphylococcusAureus(MRSA)C28C4.4C7.Haemophilusin.uenzae(H.in.uenzae)C30C4.8C8.Moraxellacatarrhalis(M.catarrhalis)C13C2.1C9.未同定グラム陽性球菌C12C1.910.CNeisseriaCspecies(sp.)C10C1.6C11.嫌気性グラム陽性球菌C10C1.6C12.CMoraxellaCsp.C8C1.313.CB群Cb型CStreptococcusC8C1.314.CPseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)C7C1.115.CHaemophilusparain.uenzae(H.parain.uenzae)C6C1.016.CG群Cb型CStreptococcusC5C0.8C17.ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌C6C1.0C順位.菌種株数%18.CStreptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)C5C0.8C19.CPropiunibacteriumacnes(P.acnes)C5C0.8C20.グラム陽性球菌(微好気)C5C0.8C21.CYeastCsp.C5C0.8C22.CEnterococcusCsp.C3C0.5C23.CHemophilusparahaemolyticus(H.Cparahaemo-3C0.5lyticus)C24.Cnon-hemolyticstreptococcusC3C0.525.CStenotrophomonasmaltophilia(S.maltophilia)C3C0.526.CA群Cb型CStreptococcusC2C0.327.CCitrobacterkoseri(C.koseri)C2C0.328.CKlebsiellapneumoniae(K.pneumoniae)C2C0.329.CClostridiumperfringens(C.perfringens)C2C0.330.CStreptococcusmilleriCgroup(S.millerigrp)C2C0.3その他C27C4.3合計C630Ctococcus8株(1.3%),14.PseudomonasaeruginosaC7株(1.1%)と続く.表3は全年齢における上位菌種の感受性がC80%以上のものをグレー背景にした.以前からわかっていたようにMRSAにはCCPとCVCMのみが強く,CMXは多くの菌に感受性がある一方で第C4世代も含めてキノロン系は1,2,3位の菌に弱くなってきている.AZMはCS.Caureus,CH.Cin.uen-zae,未同定グラム陽性菌には強いものの,キノロンには劣る.以下年齢別に検出割合の高い菌を取りあげ,それらに有効な抗菌薬をみてみる.C1.0歳の細菌と感受性率(表4)全C126株のうちもっとも多く検出された細菌は上位からCNS36株,ついでCa溶血性連鎖球菌C26株,H.Cin.uenzae13株,Corynebacterium属12株,S.aureus7株,MRSA4株,NeisseriaCsp.4株,グラム陽性球菌(微好気)4株,M.catarrhalis3株,S.Cpneumoniae3株である.80%の感受性を示すものを有効と定義すれば,上位の菌に有効なのはCMXのみであった.VCM,CPはCMRSAがあるときのみ使う.C2.1~15歳の細菌と感受性率(表5)全C75株のうちもっとも多く検出された細菌はCH.Cin.uenzae16株,ついでCa溶血性連鎖球菌C12株,CNS10株,Coryne-bacterium6株,M.Ccatarrhalis6株,Neisseriasp.6株,CMoraxella5株,CNSMRS3株,S.aureus3株,MRS2株である.上位C5種類に関していえばCCMX,TFLX,GFLX,MLFXが有効である.VCMはCH.in.uenzaeに無効である.3.16~64歳の細菌と感受性率(表6)全C57株のうちもっとも多く検出された細菌はCCNS14株,ついでCCorynebacterium6株C,CNSMRS6株,嫌気性グラム陽性球菌C4株,EnterococcusCsp.2株であった.上位C5菌種にはCCMX,CP,VCMが有効である.キノロン系は残念ながらC80%未満となっている.C4.65歳以上の細菌と感受性率(表7)全C368株のうちもっとも多く検出された細菌はCCoryne-bacterium30.7株,CNS19.6株,CNS-MRS7.6株,S.aureus6.5株,MRSA6.3株.Ca溶血連鎖球菌C5.2%,B群Ca型CStreptococcus8株,嫌気性グラム陽性球菌C6株であった.1位のCCorynebacteriumに有効なのはCVCMのみであるが,軟膏はオーファンドラッグであり,MRSA存在下のみにしか使えない.4位まではCCMXが有効であるが,CPはC8位の嫌気性菌まで有効である.C5.結果まとめ高齢者では検出数でCCorynebacteriumがC1位となった.2008年の筆者らの施設にはなかったCCNS-MRSが台頭してきている.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMが強いのは小児に多いCH.in.uenzae,S.aureus,未同定グラム陽性球菌,MoraxellaCsp.でCCNSMRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.AZMはCP.aeruginosaには弱い.キノロン系薬のなかでは第C4世代のキノロンであるCGFLXとCMFLXの有効性が落ちて他の世代とほとんど変わりなくなってきている4,5).CMXはCCory-nebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.CMXCCPCVCMCDKBCAZMCOFLXCLVFXCTFLXCGFLXCMFLXC薬剤菌種(株数)C1.Corynebacterium(146)C2.CNS(111)C3.CNSMRS(59)C4.a-Hem-streptococcus(59)C5.S.aureus(43)C6.MRSA(30)C7.H.in.uenzae(28)C8.M.catarrhalis(13)C9.未同定グラム陽性球菌(12)10.CNeisseriasp.(10)C11.嫌気性グラム陽性球菌(10)12.CMoraxellasp.(8)13.CB群Cb型CStreptococcus(8)14.CP.aeruginosa(7)グレイ背景はC80%以上の感受性.CNS:coagulaseCnegativeCStaphylococci,MRS:methicillinCresistanceStaphylococcusCspecies,MRSA:methicillinCresis-tanceStaphylococcusaureus,P.aeruginosa:Pseudomonasaeruginosa.表40歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表51~15歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表765歳以上における上位検出菌に対する感受性率(%)III考察アジスロマイシン点眼は小児も含め結膜炎の治療薬としてはファーストチョイスとはなりえない.しかし,上記研究はあくまでもCinvitroの結果であり,DuraSiteによる眼表面での滞留がよければ,薬剤感受性試験でCI,Rと判定された菌に対しても,効果があることもあるかもしれない.アジスロマイシン点眼の細菌に関する感受性の論文を調べると,Daveらによれば,フルオロキノロン系薬またはアジスロマイシンに繰り返しさらされる結膜性表皮ブドウ球菌は,急速に耐性を発現する.他の抗生物質に対する共耐性も観察したと報告している.Kimら10)によれば硝子体注射前にフルオロキノロン系薬に繰り返し曝露された眼から培養されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は,旧世代(p=.002)および新世代(p<.01)のフルオロキノロン系薬に対する耐性率の有意な増加を示した.対照的に,アジスロマイシンに曝露された眼から分離されたCCNSは,マクロライド系薬に対する抵抗性の有意な増加(95%;p<.001)と,旧世代(p=.03)および新世代(p<.001)フルオロキノロン系薬に対する抵抗性の低下を示した.治療を受けた眼から分離されたCCNSの多剤耐性に有意な増加があり,分離株のC81.8%およびC67.5%がそれぞれ少なくともC3種(p=.01)および少なくともC5種(p=.009)の抗菌薬に耐性であったと述べている.筆者らの施設では抗菌薬を漫然と使うことはなく,結膜炎でもC1週間以上しても治らない場合には,細菌培養に従って,感受性のある点眼に変えている.硝子体注射後の抗菌薬はC1週間,白内障術後の抗菌薬点眼もC1カ月以内に終了しているにもかかわらず,2008年当時にはCCNSがトップだったものが,Corynebacterium種が一位となり,CNS-MRSが出てきている.これは世間の細菌全体が変化していることを示唆している.2008年の筆者らの論文5)と各年代の傾向を考察する.1歳未満について:上位C5菌種であるCCNS,Ca-Hem-streptococcus,H.in.uenzae,Corynebacterium,S.CaureusとC2008年当時と出てくる菌もそれほど変わらず,CMXがどの菌でも感受性がよい.MRSAがC2008年はC1例であったのに対して今回はC4例と若干多い.DKBとCAZMはC2位のCa-Hem-streptococcusに弱い.1位のCCNSはC2008年当時はどのキノロン系薬にもC70%の感受性を示していたが,軒並みC39%に落ちている.これは,抗菌薬に曝露されていない可能性の高いC0歳に起こるということは世間のフローラが変(112)わっているということになる.1.15歳について:H.in.uenzae,Ca-Hem-streptococcus,CNS,Corynebacterium,M.catarrhalisはC2008年から上位菌種であった.当時もCCMXはどの菌でも感受性がよかった.当時はCCNSMRSがなかったが,今回は出てきた.CMXや他のキノロン系薬はC67%,CP,VCM,DKBがC100%有効であるのに対しCAZMはC33%である.S.aureusに対してはAZMのC0%に対して,他の抗菌薬はC100%である.MRSAにはCP,VCM,DKBがC100%なのに対し,他の抗菌薬はC0%である.16.64歳について:2008年当時なかったCCNS-MRSがC3位である.これに有効なのはCCMX,CP,VCMである.この年代のCS.aureusにはCCMX,CP,VCM,DKBに加えてAZMも有効である.2008年当時キノロン系薬はC100%であったが,今回は軒並みC67%と下がっている.65歳以上:この年齢層はC2008年当時からCCorynebacteri-umがC1位であり,有効なのはCCMX,VCMであった.現在80%以上の感受性を示すのはCVCMだけである.続いてCP,CMXが有効であるが,キノロン系薬は総じてC3%と低い感受性となっている.2位のCCNSにはC2008年当時,CMX,VCM,CP,GFLX,MFLXがC80%超えていた.現在C80%超えるのはCCMX,CP,VCMにCDKBである.AZMがC75%と次点につくが,キノロン系薬は第C4世代も含めてC68.69%と感受性が落ちている.S.aureusに関してはCAZM以外C80%を保っている.MRSAに関しては以前と同様にCCPとCVCMのみが有効である.P.aergionosaに関してはCAZMとDKB,すべてのキノロンがC80%以上の感受性を保っている.総じていえば,CMXはCCorynebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.これにキノロン系薬かCDKBを加えればCMRSA以外のほぼすべての菌を網羅できる.漫然と一種類の抗菌薬を使い続けることなく,難治の場合には感受性を調べて適切な処方をすることが,抗菌薬の寿命を保つことになると考えられる.マイボーム腺の治療として,抗菌薬(とくにマクロライド系やテトラサイクリン系)の効果が期待できるとして,報告がある13).マクロライド系であるアジスロマイシンが直接,マイボーム腺の上皮細胞に作用し,脂の分泌を促進することもある11).また,眼瞼炎の治療薬として有効とのレビューもある12).むしろこの方面での効果を期待したい.文献1)OpitzCDL,CHarthanJS:ReviewCofCazithromycinCophthal-mic1%solution(AzaSiteCR)forCtheCtreatmentCofCocularCinfections.OphthalmolEyeDisC4:1-14,C20122)FriedlaenderMHandProtzkoE:Clinicaldevelopmentof1%azithromycininDuraSiteCR,atopicalazalideanti-infec-tiveforocularsurfacetherapy.ClinOphthalmolC1:3-10,C20073)加茂純子,山本ひろ子,松村志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001.2005年.あたらしい眼科C23:219-224,C20064)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌剤選択C2006.臨眼C61:331-336,C20075)加茂純子,村松志保,赤澤博美らほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択C2008.臨眼C63:1635-1640,C20096)加茂純子,荘子万可,村松志保ほか:細菌性結膜炎の眼脂培養によるC2008年からC2011年の抗菌薬の感受性率の変化.あたらしい眼科31:1037-1042,C20147)OlsonRJ:EncounteringCresistanceCinCtheCbattleCagainstCbacteria.ReviewofOphthalmology,p76-78,20078)DeramoCVA,CLaiCJC,CFasteningCDMCetal:AcuteCendo-phthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgati.oxa-cinCandCmoxi.oxacin.CAmCJCOphthalmolC142:721-725,C20069)DaveCSB,CTomaCHS,CKimSJ:OphthalmicCantibioticCuseCandmultidrug-resistantCstaphylococcusCepidermidis:aCcontrolled,ClongitudinalCstudy.COphthalmologyC118:2035-2040,C201110)KimCSJ,CTomaHS:AntimicrobialCresistanceCandCophthal-micantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyCofCpatientsCundergoingCintravitrealCinjections.CArchCOphthalmolC129:1180-1188,C201111)LiuCY,CKamCWR,CDingCJCetal:E.ectCofCazithromycinConClipidCaccumulationCinCimmortalizedChumanCmeibomianCglandCepithelialCcells.CJAMACOphthalmolC132:226-228,C201412)KagkelarisCKA,CMakriCOE,CGeorgakopoulosCCDCetal:AnCeyeCforazithromycin:reviewCofCtheCliterature.CTherCAdvCOphthalmol10,C2018C2515841418783622.CPublishedConline2018CJulC30.Cdoi:10.1177/251584141878362213)https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2C_CJPP_an_2014190105.htmlC***