記憶型病原性Th2細胞とアレルギー─好酸球浸潤から線維化反応までMemory-TypePathogenicTh2CellsandAllergy平原潔*中山俊憲*はじめに眼瞼結膜をはじめとする粘膜組織は,外界からの異物進入に対して物理的なバリアとして働く.近年,粘膜上皮から産生される各種の“上皮サイトカイン”がアレルギーの発症に深く関与していることが明らかになった.IL-33は,その受容体のST2を発現した細胞に作用し,さまざまな生体反応を誘導する.本稿では,近年,筆者らのグループが同定した新規IL-33のターゲット細胞である記憶型病原性Th2細胞について,慢性アレルギー性炎症疾患の病態形成における役割を紹介する.筆者らは,IL-33の刺激によって炎症性サイトカインの一種であるIL-5を多量に産生する記憶型病原性Th2細胞の誘導と同時に,組織修復因子であるamphiregulinを産生する異なる記憶型病原性Th2細胞集団が誘導されることを見いだしており,記憶型病原性Th2細胞の多様性が病態形成において重要であることが示唆される.さらに,記憶型病原性Th2細胞の組織常在性と異所性リンパ組織の役割を紹介する.I粘膜臓器の2面性―バリア機能とアレルギー性疾患の病態形成における2型免疫応答の誘導全身に存在する粘膜臓器は,外界からの異物進入に対して物理的なバリアとして働くことが知られている.たとえば,眼表面においては,表層の結膜上皮細胞は微絨毛を有し,微絨毛には上皮間の杯細胞から分泌されるグリコカリックスおよびムチンが付着している.上皮細胞間をつなぐタイトジャンクションおよびこれら細胞表面の分泌物は,免疫調節特性を有する強力な物理的障壁として役立つ.さらに,気道上皮を構成する線毛細胞は繊毛を有し,繊毛運動が喉頭方向へ向かうことで物理的に異物を体外へ出す.また,気道上皮を構成する別の細胞集団である杯細胞やClara細胞は,さまざまな蛋白質を分泌し,上皮を保護する役割を担っている.このように,粘膜組織の上皮は,それぞれが有する特化した物理的な作用によって異物の侵入から宿主を防御している.これらに加えて,粘膜の上皮細胞は,上皮サイトカインとよばれる一連のサイトカインを放出することで粘膜局所に炎症反応を誘導し,異物を排除する.異物が進入し,気道上皮が障害されると,IL-25,IL-33などの上皮サイトカインが上皮細胞から放出される.上皮サイトカインは,粘膜組織の炎症局所において,その受容体を発現した多様な免疫細胞に直接・間接的に作用し,宿主防御や組織修復に重要な2型免疫応答を惹起する.上皮サイトカインによって誘導された2型免疫応答は,寄生虫などの排除に重要な役割を果たす一方,アレルギー性疾患の発症および病態形成にも重要な役割を担っていることが近年の研究から明らかになってきた.たとえば,CD4T細胞,B細胞,2型自然リンパ球(type2innatelymphoidcells:ILC2s),好酸球などさまざまな免疫担当細胞が病態形成に深く関与する気管支喘息では,IL-25やIL-33といった上皮サイトカインで活性化され*KiyoshiHirahara&*ToshinoriNakayama:千葉大学大学院医学研究院免疫発生学〔別刷請求先〕平原潔:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院免疫発生学0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(59)435た記憶型Th2細胞をはじめとする免疫担当細胞が慢性の病態形成において中心的役割を果たしている.II上皮サイトカインのアレルギー疾患病態形成における役割上皮サイトカインの一種であるIL-33は,IL-1サイトカインファミリーに属する上皮サイトカインであり,その受容体であるST2とIL-1RAcPの複合体に結合し作用する.ST2(IL1RL1)は,1989年に同定された後,長年にわたってオーファン受容体であったが,2005年にIL-33がリガンドとして同定された1,2).IL-33は,他のIL-1サイトカインファミリーであるIL-1aと同様に,定常状態では細胞の核内に局在する3).粘膜の上皮バリアが壊され,バリアの構成細胞が破壊されると,核内のIL-33が受動的に細胞外へ放出されると同時に,クロマチン結合ドメインが切断され活性化する.炎症局所で活性化した好中球や肥満細胞由来の酵素がIL-33を切断する作用があるほかに,真菌,ゴキブリ,花粉由来のアレルゲンも量依存的に直接IL-33を切断し活性化する作用を有する4,5).つまり,アレルギー性角結膜炎の発症に重要であると考えられている各種アレルゲンが,侵入した粘膜局所において直接IL-33を活性化し炎症反応を誘導する.近年,オーストラリアやイギリス,イタリアなどの各国で,激しい雷雨後に発症する重症喘息発作がサンダーストーム喘息とよばれるようになり,話題となっている6).サンダーストーム喘息は,激しい雷雨に伴う多量の花粉や真菌などのアレルゲンの飛散が発症の原因として指摘されている.多量に飛散したアレルゲンを吸入した場合,肺内でIL-33が著明に活性化され重症喘息発作を引き起こしている可能性が考えられる7).実際,肺組織中のIL-33の発現上昇が,重症の気管支喘息患者で報告されている8).各種genome-wideassociationstudy(GWAS)においても,IL33とIL1RL1の気管支喘息発症の関連が繰り返し報告されている9.12).別の上皮サイトカインであるIL-25(IL-17E)は,IL-17サイトカインファミリーに属する.IL-25は,Th2細胞,好酸球,肥満細胞など2型免疫応答の誘導に関与する免疫担当細胞や一部の粘膜上皮細胞が産生する.また,肺や腸管の粘膜では,タフト細胞とよばれる特殊な上皮細胞の一群がIL-25を産生する13,14).肺ではタフト細胞が産生するIL-25は,寄生虫感染の際に感染防御に深く関与する13).一方,腸管においては,ノロウイルスがタフト細胞上に発現するCD300lfを介して感染する15).また,腸管には,IL-25を産生する1型タフト細胞とTSLPとIL-25の両方を産生する2型タフト細胞の少なくとも2種類の異なるタフト細胞が存在する14).以上,上皮サイトカインは,全身の粘膜臓器において各種免疫担当細胞を活性化し,2型免疫応答を誘導することでアレルギー炎症の発症に関与する.IIIヘルパーT細胞の多様性と可塑性獲得免疫反応の中心的役割を果たす細胞集団であるCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)は,抗原特異的な免疫応答を誘導することで,微生物病原体の侵入から宿主を守る.しかし,ヘルパーT細胞の質的・量的異常は,自己免疫疾患や気管支喘息などのアレルギー疾患の原因となる.眼におけるアレルギー疾患は,軽度で急性の季節性アレルギー性結膜炎(seasonalallergiccon-junctivitis:SAC)および通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC)から重度で慢性の疾患であるアトピー性角結膜炎(atopickeratocon-junctivitis:AKC)および春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC)に及ぶ.これらの疾患において,その発症にはいずれもCD4陽性ヘルパーT細胞が関与しており,なかでもヘルパーT(Th)2細胞が,病態形成の中心的な役割を果たす16).1980年代の発見当初には,おもにIFN-gを産生するTh1細胞とIL-4を産生するTh2細胞に分類されたヘルパーT細胞は,近年の精力的な研究の結果によって,実にさまざまな亜集団(サブセット)から構成されていることが明らかになった.具体的には,Th1細胞やTh2細胞のほかに,IL-17を産生し真菌感染症から生体を防御するTh17細胞,IL-22を産生するTh2細胞,IL-9を産生するTh9細胞,生体の免疫応答を抑制する制御性T細胞,B細胞からの抗体産生を制御する濾胞ヘルパーT細胞などの多様な亜集団が報告されている〔多様性(diversity)〕436あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(60)胸腺IL-6,IL-21TfhBcl6CD4+CD8-B細胞からの抗体産生制御SLEIL-4Th2GATA3IL-4,IL-5,IL-13,Amphiregulin寄生虫排除アレルギー疾患ナイーブCD4+TIL-12Th1T-betIFNg細胞内感染病原体排除IL-6,IL-23自己免疫性甲状腺炎TGF-bTh17RORgtIL-17細胞内感染病原体排除IL-2乾癬,多発性硬化症pTregTGF-bFoxp3TGFb免疫寛容tTregFoxp3免疫寛容IPEX症候群図1さまざまなヘルパーT細胞の亜集団とその生体内での役割る.興味深いことに,この好酸球性気道炎症は,ステロイド投与に治療抵抗性を示すと同時に,IL-33によって活性化された記憶型CTpath2細胞は,ステロイド投与後もCIL-5の産生低下は認めない21).IL-33で誘導される2型自然リンパ球(ILC2s)依存性の気道炎症においてもステロイド抵抗性が報告されている22).以上,IL-33はステロイド抵抗性の粘膜炎症の病態形成に関与している可能性が示唆されることから,ステロイド治療抵抗性の粘膜炎症に対して,IL-33が新たな治療ターゲットとなりうる.米国の複数の研究グループが好酸球性胃腸障害およびアトピー性皮膚炎の患者やスギ花粉やピーナツに対するアレルギー患者において,筆者らが同定したCTpath2細胞と同様にCIL-5を多量に産生するCCRTH2陽性,CD161陽性のCTpath2細胞が末梢血中に増加していることを報告しており,さまざまなアレルギー性疾患におけるCTpath2細胞の関与が示唆される23,24).筆者らは,ヒト好酸球性副鼻腔炎のポリープ中に浸潤している記憶型CCD4T細胞の一部がCST2を高発現し,IL-33刺激に反応して多量のCIL-5を産生することを明らかにしている20,25).つまり,マウスのみならずヒトにおいてもTpath2細胞が,抗原特異的なアレルギー炎症疾患の病態形成に深く関与している.CV記憶型Tpath2細胞と組織線維化慢性アレルギー性疾患をはじめとするさまざまな長期にわたる炎症は,組織の線維化の原因になる.組織の線維化は肺や肝臓,心臓,腎臓,皮膚などのあらゆる臓器で認められ,臓器不全を引き起こし,死に至る重篤な病態である.しかし,これまで慢性炎症の結果,生じる組織の線維化について詳細な機序は不明であった.そこで筆者らは,臨床上重要なアレルゲンの一種であるハウスダストを抗原とした慢性気道アレルギー炎症のマウスモデルを新たに作製し,同モデルを用いて気道周囲の線維化が誘導される分子メカニズムを解析した.筆者らは,IL-33刺激によってCIL-5を産生する病原性記憶型CTh2細胞とは別に組織修復因子のCamphiregulinを産生する記憶型病原性CTh2細胞が増加することを発見した.Amphiregulin欠損マウスおよびCamphiregulin欠損記憶型CTh2細胞を移入したマウスでは,気道周囲の線維化は著明に減弱しており,amphiregulinを産生する記憶型CTh2細胞が線維化を誘導することが明らかになった.Amphiregulinは,上皮成長因子受容体(epidermalCgrowthfactorreceptor:EGFR)を発現する好酸球に作用して炎症性好酸球へリプログラミングし,同好酸球からの細胞外マトリックスの一種のオステオポンチン産生を亢進する.以上のような機序で,組織の線維化を誘導するCamphiregulin産生記憶型CTh2細胞を筆者らは,「線維化誘導C-病原性CTh2細胞」と定義した26).この線維化誘導C-病原性CTh2細胞は,既報のCIL-5を大量に産生する病原性CTh2細胞とは異なるが,病原性を有するこれらの細胞がネットワークを形成して相互作用することで慢性好酸球性気道炎症は増悪し,難治化に至ることが推察される(図2)26).一方で,IL-33刺激によって,ST2を高発現する記憶型病原性CTh2細胞からどのようにCIL-5を産生する記憶型CTpath2細胞とCamphiregulinを産生する記憶型CTpath2細胞がそれぞれ誘導されるかについては,いまだに詳細は不明である.今後,さらなる研究が望まれる.CVI粘膜局所におけるTpath2細胞の維持これまで述べてきた通り,記憶型CTpath2細胞は局所の慢性炎症の病態形成に深く関与している.一方で,粘膜局所における記憶型CTpath2細胞がどのように維持されるかについては不明な点が多い.全身のさまざまな粘膜臓器において,慢性炎症によってリンパ節に構造がよく似た異所性リンパ組織とよばれる三次リンパ組織が誘導される.たとえば眼瞼結膜では,重症のアレルギー性結膜炎患者において,conjunctiva-associatedClymphoidtissue(CALT)とよばれる三次リンパ組織が形成される27).また,肺では感染症や喫煙,膠原病などさまざまな原因による慢性炎症で誘導性気管支関連リンパ組織(inducibleCbronchus-associatedClymphoidtissue:iBALT)が形成される28).筆者らは,マウス慢性アレルギー性気道炎症モデルを用いて,慢性炎症によって肺内にCiBLATが誘導されることを見いだした.大変興味深いことに,記憶型CTpath2細胞は炎症局所において誘導されるCiBALT内で生存・維持されていた(図3)25).こ438あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(62)図2Tpath2細胞の線維化における役割上皮サイトカインと免疫担当細胞と積極的にクロストークすることで粘膜臓器における炎症応答に深く関与することを示唆している.IL-33レセプター(ST2)を高発現しCIL-33が作用したCTpath2細胞はCIL-5を多量に産生し好酸球性の炎症を誘導する.このCTpath2細胞は,慢性炎症巣に形成される誘導である.図3好酸球性炎症における気道周囲の線維化誘導機構抗原侵入により気道上皮細胞から分泌されたCIL-33がその受容体であるCST2を発現する記憶型Th2細胞に作用し,amphiregulin産生を誘導する.このCamphiregulinが上皮成長因子受容体(EGFR)を介して組織中の好酸球に作用し,炎症性好酸球へとリプログラムする.炎症性好酸球はオステオポンチンを産生することで直接的に組織線維化を誘導する.肺(慢性気道炎症時)Lyve-1CD3eIL-7Lyve-1CD3eIL-7図4Tpath2細胞による慢性好酸球性気道炎症の誘導機構OVAの経鼻投与によって誘導されたCiBALT内に,IL-7(緑色)産生リンパ管内皮(Lyve-1陽性,青色)が多数認められ,同細胞周囲に多くのヘルパーCT細胞(赤色)が存在する.(文献C25より引用)図5病原性Th細胞疾患誘導モデル病原性CTh細胞疾患誘導モデルでは,ヘルパーCT細胞のサブセット間のバランスには関係なく,病原性の高いCT細胞亜集団が記憶型CTh細胞集団中に生まれ,病態の形成に深く関与しているという考え方で,これまでのCTh1/Th2パラダイムとは根本的に異なる考え方である.(文献C19より改変引用)C–