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当院でのCOVID-19 陽性裂孔原性網膜剝離に対する手術経験 ─ COVID-19 陽性患者手術時の留意点について─

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):580.585,2024c当院でのCOVID-19陽性裂孔原性網膜.離に対する手術経験─COVID-19陽性患者手術時の留意点について─水谷凜一郎*1杉本昌彦*1,2原田純直*1佐々木拓*1中条慎一郎*1天満有美帆*1松井良諭*1松原央*1近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2山形大学医学部眼科学教室CSurgeryforRhegmatogenousRetinalDetachmentinaPatientInfectedwithCOVID-19:TipsforSurgicalManagementofCOVID-19-PositiveCasesRinichiroMizutani1),MasahikoSugimoto1,2),SumineHarada1),TakuSasaki1),ShinichiroChujo1),YumihoTenma1),YoshitsuguMatsui1),HisashiMatsubara1)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,YamagataUniversityC目的:COVID-19陽性の網膜.離(RRD)症例の経験から新興感染症陽性患者に対する周術期管理について検討する.症例:53歳,男性.右眼CRRDに対する手術を計画したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.各部署と連携し,導線を確保しての入院・手術を計画した.感染対策に配慮し,手術は陰圧室にて助手は設けず,完全防護衣で清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で実施された.単独術者による手術であるための軽微なトラブルや,ゴーグルの曇りが問題となったが,安全な手術が遂行され,術後経過も良好であった.結論:COVID-19陽性患者のCRRDに対する手術にはさまざまな課題が残るが,スタッフとの徹底した連携の元,感染管理に注意して行うことで安全に手術が実施可能である.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCCOVID-19-positiveCpatientCwithCrhegmatogenousCretinaldetachment(RRD)Cwhowassurgicallytreatedandpresenttipsforsafemanagementinsuchcases.Case:A53-year-oldmalepatientwasscheduledforsurgicaltreatmentofRRDinhisrighteye,however,hetestedpositivefortheCOVID-19anti-genpriortoadmission.Thus,andfromtheaspectofinfectioncontrol,wecollaboratedwithotherdepartmentsandscheduledCtheCsurgeryCtoCbeCperformedCinCaCnegativeCpressureCroomCviaConeCprimaryCsurgeonCinCfullCprotectiveCclothing,withoutanassistant,andonenurseoutsidetheroom.AlthoughminorproblemsdidoccurduetoasinglesurgeonCandCfoggingCofCtheCgoggles,CtheCoperationCwasCperformedCsafelyCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCgood.CConclusion:AlthoughvariousissuescanoccurinthesurgeryofRRDinCOVID-19-positivepatients,theopera-tioncanbeperformedsafelyunderawell-coordinatedcollaborationwithmedicalsta..〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):580.585,C2024〕Keywords:COVID-19,網膜.離,単独術者.COVID-19,rhegmatogenousretinaldetachment,solosurgeon.Cはじめにコロナウイルス感染症C2019(COVID-19)は迅速かつ広範囲に拡大したため,世界保健機関はCCOVID-19をパンデミックとして宣言した1).世界情勢は激変し,医療も大きな打撃を受けた.COVID-19感染症の流行下において医療従事者の集団感染を予防し医療体制を維持することは重要な課題であった.受診抑制や病床ひっ迫などによる受診遅延が問題となり,多くの疾患の治療成績に影響した.感染力の強さから海外の複数の国ではロックダウンも行われていた.眼科診療ではパンデミック時であっても密接な接触が危惧される近接距離での検査・診療が要求されるため,感染症曝露のリスクが高いとされ,この影響を大きく受けた.とくに網膜硝子体疾患の予後に多大な影響が出たことが多数報告されている2.5).〔別刷請求先〕水谷凜一郎:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:RinichiroMizutani,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,514-8507,JAPANC580(108)徐々に海外では制限が緩和されたが,わが国でもC2023年5月にCCOVID-19感染症はC5類となり,ようやく入院・手術加療の制限が緩和された.眼科診療もコロナ前の状態に戻りつつあるがCCOVID-19は消失してはおらず,COVID-19感染患者への周術期対応は依然重要である.今回,COVID-19陽性の網膜.離(rhegmatogenousCretinaldetachment:RRD)症例を経験した.そのなかで,今後のCCOVID-19など新興感染症陽性の手術患者に対する周術期管理についてさまざまな課題が浮き彫りとなったので報告する.CI症例患者:53歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:202x年C8月初旬より右視力障害を自覚した.8月C22日,近医受診し,右眼CRRDを指摘された.同日,手術目的に当科紹介初診となった.既往歴:とくになし.当院初診時に発熱や咳嗽・咽頭痛はなかったが,1週間ほど前に同僚がCCOVID-19陽性を指摘されていた.所見:右眼視力C0.7(矯正).前眼部・中間透光体には明らかな異常なし.後眼部には下方裂孔による,増殖性変化を伴う網膜.離を認めた(図1).経過:即日入院のうえ,局所麻酔による手術を予定したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.当時はコロナ感染の第C7波到来時期であり,当院手術部・感染制御部と協議し,即日入院は中止となった.入院時・手術時の導線を確保できる翌日午後の予定入院ならびに準夜帯での予定手術を計画した.手術所見:感染制御の観点から,手術は他科定期手術が終Cab了した準夜帯に予定を組み,陰圧室で実施された.手術室汚染防止の観点から,使い捨てカバーを装着するなどの感染対策を行い,必要な最低限の器機のみを室内に搬入した(図2a).眼内レンズなどの随時必要となる物品は室外のグリーンゾーンから別のスタッフが安全に配慮しながら室内のレッドゾーンへ適宜手渡しをした.医療スタッフの感染を危惧し,陰圧室への入室者は最低限として,手術助手は設けず,清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で手術を実施した(図2b).術者・看護師は通常の術衣に加えてN-95マスクと眼鏡ないしはフェイスシールドを着用した.術者は眼鏡を装用したが,術中の曇りが問題となった.白内障手術を行い,眼内レンズを挿入した.その後,4-portでのC25ゲージ硝子体手術を開始した.眼内を観察し図1初診時所見初診時の眼底写真を示す.下方裂孔(C.)と増殖性変化を伴う網膜.離を認める.図2周術期の室内周術期の室内を示す.陰圧室で使い捨てカバーを装着し,必要最低限の器機のみ搬入されている(Ca).完全防護具で清潔となった執刀医C1名が執刀している(Cb,.).図3術中所見術中所見を示す.液ガス置換中,空気泡による視認性低下を認めた(Ca).手術継続したが,角膜浮腫も出現したため視認性が著しく低下した(Cb).角膜上皮.離を行い,視認性を確保し(Cc),ガス置換を完遂した(Cd).たところ,下方網膜格子状変性に生じた原因裂孔からの広範な網膜.離と増殖性変化を認めた.硝子体切除し,後部硝子体膜.離を作製後,圧迫しながら裂孔周囲の硝子体処理と増殖膜処理を実施した..離範囲が広汎であることからアーケード上方に意図的裂孔を作製し,液空気置換を行って網膜下液の排液を行った.液空気置換時,術者一人であったため機器パネル操作による設定変更を行った際に術野を離れざるをえない場面があった.再度術野を確認したところ,空気泡による視認性の低下を認めた(図3a,b).また,角膜浮腫も出現し,角膜上皮.離を行って視認性を確保した(図3c).視認性が改善したため,ガス置換を完遂し(図3d),原因裂孔と意図的裂孔などへの眼内網膜光凝固を実施し,シリコーンオイルに置換して手術を終了した.術後経過:手術終了術,術者自身が個人用防護具着用のままで眼科病棟の隔離個室まで搬送した.手術翌日,往診にて診察したところ経過良好であったため,当日に当院退院となった.無症候患者であるため,ホテル待機療養となった.療養中,電話で患者に連絡し,経過確認を行ったが,大きな自覚変化はなかった.術後C5日(待機期間C7日目)で療養施設からの退所となり,以後当科外来通院となっている.術C2週間後の受診時には網膜復位が得られ,右眼視力はC0.3(矯正)であった(図4).術後C4カ月でシリコーンオイル抜去を実施し,手術後C5カ月で右眼視力はC0.7(矯正)である.CII考按コロナ禍当初,ビジョンアカデミーでは,COVID-19パンデミック時の硝子体内抗CVEGF注射に関する具体的なガイダンスを提示した6).このなかでコロナ禍においても網膜疾患を管理するための戦略として①患者と医療スタッフの双方がCCOVID-19の曝露リスクを最小限にすること,②不可逆的な視力喪失のリスクが高い患者に対する治療を優先すること,③抗血管内皮増殖因子阻害薬治療レジメンを簡略化することに重点を置くべきであると結論づけている.また,各国の眼科学会が,パンデミック時の患者管理に関する眼科医向けの一般的ガイダンスを発表したが,とくに米国眼科学会ではさまざまな具体的な対策を推奨していた.外用ポビドンヨードはコロナウイルスに有効であり手術前処置に重要であること,手術用マスクとフェイスシールドなどの保護具の着用,そして必要時のCN-95マスク使用が推奨されていた[https://Cwww.aao.org/headline/alert-important-coronavirus-context.(Accessed:Oct21,2023)].硝子体手術では理論的にはエアロゾルが発生し,術者に感染が波及する可能性がある.しかし,最近の小切開手術ではバルブ付きトロッカーカニューレを使用するため,発生するエアロゾルは眼内に限定される.このため,感染リスクは低いと思われ,標準的な手術用防護衣で感染対策は十分であると考えられる.また,近年広まりつつある三次元ヘッドアップディスプレイシステムなどの新しいデジタル技術を使用することで,医師と患者との間の距離をとることも可能となり,予防の可能性が増す7).このようにCCOVID-19パンデミック当初には厳重な管理が行われてきたが,その知見が集積したことやC5類への移行などからC2023年現在,手術のハードルは下がってきている.今回,施設内の感染拡大を防止する目的から本手術は術者一人で実施した.現在の硝子体手術はシステマティックであり,単純なものであれば一人でも十分実施可能である.しかし,本症例の執刀中の問題点として,保護眼鏡の曇りがあったこと,液空気置換やレーザー実施などのモード変更に時間を要したこと,そしてそのために術中角膜障害などが生じ,術中手順が煩雑化したことなどがあげられる.院内感染の観点からでの選択ではあったが,手術安全性という点からは術者の技量・術眼の状態など,症例ごとに熟考が必要である.パンデミック当初は受診と手術時期の遅延が重要な課題であった.COVID-19流行当初に英国ではロックダウンが行われた.すべての病院に対し,当局から医療抑制の指示があり,眼科では眼外傷やCRRDなどの重篤な疾患に対する手術のみが行われ手術を必要とするCRRD症例が減少したものの増殖硝子体網膜症や黄斑.離を伴うCRRDは増加したとされている8).COVID-19に感染することを恐れての受診抑制などがこの理由として考えられた.加えて,家庭医のいるプライマリー施設もほぼ閉鎖されたため,眼科専門医へのコンサルトが遅れたことも一因とされている.黄斑部を脅かすCRRDは緊急性の高い眼疾患であり,重大な視力低下をもたらす.視力予後は黄斑の状態に左右され,黄斑部網膜.離の発見や手術が遅れることで術後視力などの治療成績は悪化する9.12).RRDの手術時期がC7日遅れると視力予後が悪くなることが報告されているが,最近の研究では,3日でも視力予後は不良となることも示唆されている13).このように受診や手術時期の遅延はCRRDの治療成績に明らかに影響し,非復位への懸念があるため早期手術が望ましい.米国でも,当初は学会図4加療後所見術後C2週間の眼底写真を示す.シリコーンオイル下に網膜復位が得られている.からCCOVID-19陽性患者の予定手術はC6週間延期すべきと推奨されていたが,パンデミック期間中にCRRDを発症した患者では,治療が遅れ,術後視力の悪化や増殖性網膜症が悪化する可能性が高かった14).また,加齢黄斑変性の治療が大幅に遅れ,短期転帰が悪化したことも報告されている2).日本眼科学会が示す「新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方」ではCRRDは要緊急対応疾患に分類される[https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/069.pdf(Accessed:Oct21,2023)].ロックダウンやパンデミック時に黄斑.離を伴うCRRDが増加した事実から考えても,やはり早期手術が望ましい.本症例加療当時の待機期間は有症状者でC10日間,無症状者でC7日間であった.無症状CCOVID-19陽性であったため,本来はC7日間待機したのちに手術入院となるが,要緊急対応疾患に分類されるため院内各部署と協議したうえで,翌日入院となった.本症例では初診時,黄斑.離はなく,数日の待機は不可能ではなかったかもしれない.今回,筆者らは比較的早期に手術を実施することができたが,それでも入院時間や手術開始時間の変更,搬送などスタッフに与えた影響は無視できないものであった.この点から,今後新たに生じる可能性のある新興感染症流行下においても手術時期の決定は病勢や医療情勢・スタッフへの負担増加などを踏まえての判断が必要となる.今回,スタッフへの感染拡大を恐れ,単独術者で執刀したが,これに伴い手技が煩雑となった.現在はC5類となり待機期間や隔離が形骸化されたが,入院取り扱いをどうするか,施設ごとに指針があり完全に統一はされていない.すべての入院患者に対する抗原検査を行う施設はほぼなくなり,発熱の確認程度で入院してくる従来の形になった現在では,発熱や風邪症状ではじめて抗原検査を行うことがほとんどである.このため,院内発生症例に対してどのように取り扱うか表1新興感染を伴う網膜.離患者の治療に関する留意点・症例によっては隔離期間での手術待機も考慮する.・黄斑部.離に至ったものには早期の手術が望ましい.・院内各部署と連携し,搬送時や病棟での感染拡大防止に努める.・手術は陰圧室で実施し,術者やスタッフへの感染に留意する.・手術は完全防護衣着用に準じた防護で行う.・フェイスシールドなどで飛沫に留意するが,曇りに留意が必要である.・器具の受け渡しにはグリーンゾーンとレッドゾーンの区別に留意する.・単独術者により実施も可能だが,難易度・技量により計画する.が現実的な課題である.今後,COVID-19に類似した新興感染症が流行する危険性も懸念されており,また入院中にCOVID-19陽性が判明したCRRDや外傷など準緊急・緊急手術が必要な症例もあるかもしれない.今回のコロナ禍で筆者らが得た知見を基に,秩序だった入院・手術を計画できるよう,配慮することが重要である.国内でのCCOVID-19患者に対するCRRD手術の報告は他にもあり15),今回の経験も含めた治療留意点を示す(表1).RRDの手術時期延期は術後視力不良に直結し,早期対応と手術が必要である.進行を想定し,適切なタイミングの治療介入が重要であり,スタッフとの徹底した連携の元,単独術者で硝子体手術を実施することが可能であった.5類となった現在,COVID-19陽性患者の入院・手術を計画する場面が依然あるが,実際にCCOVID-19陽性患者に対する手術を行うなかでさまざまな課題を考えていく必要がある.〈利益相反〉水谷凜一郎,原田純直,天満有美帆,佐々木拓:なし杉本昌彦:経済的支援)ノバルティスファーマ,中外製薬株式会社,アルコンファーマ,バイエル薬品報酬)ノバルティスファーマ,アルコンファーマ,参天,興和創薬,千寿製薬,バイエル薬品,わかもと製薬中条慎一郎:報酬)参天製薬,ノバルティスファーマ,参天製薬,中外製薬,バイエル薬品松井良諭:経済的支援)バイエル薬品,中外製薬報酬)AMO,参天製薬,ノバルティスファーマ,日本アルコン,バイエル薬品松原央:経済的支援)中外製薬報酬)参天製薬,千寿製薬,ノバルティスファーマ,バイエル薬品近藤峰生:経済的支援)ノバルティスファーマ,日本アルコン,参天,大塚製薬,千寿製薬,HOYA,ファイザー,AMO,興和,バイエル薬品コンサルタント)千寿製薬,小野薬品,第一三共報酬)ノバルティスファーマ,アルコン,参天,サノフィ,興和,大塚製薬,千寿製薬,バイエル薬品,アッビィ,AMO,ファイザー,第一三共文献1)CucinottaD,VanelliM:WHOdeclaresCOVID-19apan-demic.ActaBiomedC91:157-160,C20202)BorrelliCE,CGrossoCD,CVellaCGCetal:Short-termCoutcomesCofCpatientsCwithCneovascularCexudativeAMD:theCe.ectCofCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC258:2621-2628,C20203)dell’OmoR,FilippelliM,SemeraroFetal:E.ectsofthe.rstmonthoflockdownforCOVID-19inItaly:aprelimi-naryCanalysisConCtheCeyecareCsystemCfromCsixCcenters.CEurJOphthalmolC31:2252-2258,C20214)YangCKB,CFengCH,CZhangH:E.ectsCofCtheCCOVID-19CpandemicConCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtreatmentCinCChina.CFrontMed(Lausanne)C7:576275,C20205)AbdullatifAM,MakledHS,HamzaMMetal:ChangeinophthalmologyCpracticeCduringCCOVID-19pandemic:CEgyptianperspective.OphthalmologicaC244:76-82,C20216)KorobelnikCJF,CLoewensteinCA,CEldemCBCetal:GuidanceCforCanti-VEGFCintravitrealCinjectionsCduringCtheCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC258:C1149-1156,C20207)IovinoCC,CCaporossiCT,CPeirettiE:VitreoretinalCsurgeryCtipandtricksintheeraofCOVID-19.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:2869-2870,C20208)JasaniKM,IvanovaT,SabatinoFetal:ChangingclinicalpatternsCofCrhegmatogeneousCretinalCdetachmentsCduringCtheCCOVID19CpandemicClockdownCinCtheCNorthCWestCofCtheUK.EurJOphthalmolC31:2876-2880,C20219)TaniCP,CRobertsonCDM,CLangworthyA:PrognosisCforCcentralCvisionCandCanatomicCreattachmentCinCrhegmatoge-nousCretinalCdetachmentCwithCmaculaCdetached.CAmCJOphthalmolC92:611-620,C198110)RehmanSiddiquiMA,AbdelkaderE,HammamTetal:CSocioeconomicCstatusCandCdelayedCpresentationCinCrheg-matogenousCretinalCdetachment.CActaCOphthalmolC88:C352-353,C201011)MitryCD,CAwanCMA,CBorooahCSCetal:Long-termCvisualCacuityCandCtheCdurationCofCmaculardetachment:.ndingsCfromaprospectivepopulation-basedstudy.BrJOphthal-molC97:149-152,C201312)RyanCEH,CRyanCCM,CForbesCNJCetal:PrimaryCRetinalCdetachmentoutcomesstudyreportnumber2:phakicret-inalCdetachmentCoutcomes.COphthalmologyC127:1077-1085,C2020C13)RossWH:VisualCrecoveryCafterCmacula-o.CretinalC128:686-692,C2021detachment.Eye(Lond)C16:440-446,C200215)熊崎茜,星山健,富原竜次ほか:COVID-19陽性の裂14)PatelLG,PeckT,StarrMRetal:Clinicalpresentationof孔原性網膜.離C3例に対する手術経験.臨眼C77:1134-rhegmatogenousCretinalCdetachmentCduringCtheCCOVID-1141,C2023C19pandemic:aChistoricalCcohortCstudy.COphthalmologyC***

生体接着剤を用いた無縫合翼状片手術の有効性の検討

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):574.579,2024c生体接着剤を用いた無縫合翼状片手術の有効性の検討髙..重文*1小野喬*1,2長井信幸*1向坂俊裕*1森洋斉*1子島良平*1岩崎琢也*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室CInvestigationoftheE.ectivenessofSuturelessPterygiumSurgeryUsingaBioadhesiveShigefumiTakahashi1),TakashiOno1,2),NobuyukiNagai1),ToshihiroSakisaka1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),TakuyaIwasaki1)andKazunoriMiyata1)1)DepartmentofOphthalmology,MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicineC目的:生体接着剤を用いた無縫合の翼状片手術法の有効性を検討すること.対象および方法:両眼の翼状片に対して片眼を縫合による結膜弁移植術(縫合群),僚眼を生体接着剤(ベリプラストCP)による結膜弁移植術(FG群)を行った症例の翼状片のグレード,手術時間,術後C1年における再発,術後疼痛の強さと頻度,合併症を後ろ向きに検討した.結果:32眼C16例(年齢C70.2±8.6歳)において翼状片のグレード,手術時間は両群で差はなく,両群とも再発はなかった.術後疼痛の強さは縫合群がC4.4±3.1,FG群がC2.3±2.1,術後疼痛の頻度は縫合群がC4.4±3.1,FG群がC2.3±1.7であり,FG群が有意に低かった(各Cp=0.0053,p=0.0047).合併症は両群とも認められなかった.結論:生体接着剤を用いた翼状片手術法は術後疼痛が少なく有効な術式と考えられた.CPurpose:ToCexamineCtheCe.cacyCofCsuturelessCpterygiumCsurgeryCusingCaCbioadhesive.CPatientsandmeth-ods:Thisstudyinvolved32eyesof16patients(meanage:70.2±8.6years)whounderwentpterygiumsurgeryviaCsuturingCofCtheCconjunctivalC.apCinConeeye(Suturegroup)andCsuturelessCfree-.apCsurgeryCusingCaCbioadhe-sive(BeriplastPFibrinSealant;CSLBehring)inthefelloweye(FSgroup).Gradeofpterygium,operationtime,recurrenceCafterC1Cyear,CsurgicalCcomplications,CandCintesityCandCfrequencyCofCpostoperativeCpainCwereCretrospec-tivelyexamined.Results:Nodi.erencewasobservedbetweenthetwogroupsinthepterygiumgradeandopera-tionCtime,CandCinCbothCgroupsCnoCrecurrenceCorCcomplicationsCwereCobserved.CInCtheCSutureCgroupCandCFSCgroup,CtheCmeanCintensityCofCpostoperativeCpainCwasC4.4±3.1CandC2.3±2.1,Crespectively,CandCtheCfrequencyCofCpostopera-tiveCpainCwasC4.4±3.1CandC2.3±1.7,Crespectively,CthusCdemonstratingCaCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCtwogroups(p=0.0053CandCp=0.0047,respectively).CConclusions:OurC.ndingsCshowCthatCsuturelessCpterygiumCsur-geryusingabioadhesiveise.ective,withlessfrequentandlessseverepostoperativepain.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):574.579,C2024〕Keywords:翼状片,術後炎症,術後疼痛,フィブリン,充血度.pterygium,postoperativein.ammation,postop-erativepain,.brin,degreeofhyperemia.Cはじめに翼状片は結膜の増殖性疾患であり,角膜乱視を引き起こすことで視機能を障害する1).初発翼状片に対する手術として,Cbaresclera法,単純縫合法,遊離・有茎結膜弁移植法などが広く行われている2).結膜弁移植法の再発率は低く,高い有効性が示されているが2,3),縫合糸は術後の疼痛や炎症を惹起し感染のリスクとなる4).近年,縫合糸を用いずにフィブリン糊などの生体接着剤による術式が報告されている5,6).生体接着剤(ベリプラストCP)は,世界的に広く用いられている血漿分画製剤であり7),本剤に含まれるフィブリノーゲンはトロンビンの作用によりフィブリンと変化し,Ca2+存在下でトロンビンにより活性化された血液凝固第CXIII因子により物理的強度を増して,安定なフィブリンとして組織を接着させる.白内障手術,眼窩手術,緑内障術後のCblebの〔別刷請求先〕髙..重文:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:ShigefumiTakahashi,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kuraharacho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC574(102)補強などにも用いられている4,7).しかし,翼状片手術に対する生体接着剤のわが国における臨床効果はまだ十分に評価されていない.今回,筆者らは日本における生体接着剤を用いた翼状片手術の有効性を検討し,充血の程度や術後疼痛の強さ・頻度について定量的評価を行った.CI対象および方法本研究は後ろ向き観察研究であり,宮田眼科病院の倫理委員会で承認(CS-371-020)を受け,患者の同意を得たうえで行った.ヘルシンキ宣言に則って本研究は施行した.対象はC2018年C2月.2021年C1月にかけて両眼の初発翼状片に対して切除術を行った患者のうち,片眼について生体接着剤(ベリプラストCP)を用いて遊離結膜弁移植を行い,僚眼について吸収糸を用いて有茎結膜弁移植を行った症例で,同一術者が行った症例を対象とした.翼状片手術は,利益および起こりうる合併症について十分な説明を行い,患者の書面による同意を得たうえで行った.術後C1年間以上経過観察ができなかった症例や,翼状片以外の角結膜疾患を有する症例は除外した.翼状片手術において縫合糸を用いた眼を「縫合群」,生体接着剤を用いた眼を「FG群」として,診療録を元に翼状片のグレード,手術時間,術後の疼痛の強さと頻度,術後C1カ月における充血の程度,術後合併症,1年時における再発の有無,裸眼・矯正視力,等価球面度数,眼圧について比較した.翼状片のグレードは宮田らによる分類を用いた8).術後の疼痛の強さと頻度は,術直後から術翌日までの症状について,既報と同様にCNumericalCRatingScaleによる評価を行った9).頻度については痛みなしをC0点,常時痛みがある場合をC10点として評価した.結膜の充血の重症度は,日本眼科アレルギー学会における結膜充血の分類に則ってC0.3点のC4段階で評価を行った10).また,翼状片の先端が角膜輪部より内側に侵入した場合を再発と定義した.生体接着剤を用いた翼状片手術の概略を以下に示す.手術20分程度前に冷蔵庫からベリプラストCPを出し,添付文書のとおり薬液の調整を行った.4%リドカイン液で点眼麻酔後,結膜下にC2%リドカイン液にて浸潤麻酔を行った.翼状片頭部を.離して切除した後,露出した強膜を焼灼止血し,周辺結膜下の増殖組織を綿抜き法にて十分に切除した.0.04%マイトマイシンCCをマイクロスポンジに浸し,露出強膜および周辺結膜下にC1分間留置した後に除去し,200.300mlの生理食塩水で洗浄した.遊離結膜移植片を上方の球結膜より作製し(図1a),半分を翻転した後に,水分を除去して移植片の裏面にフィブリノーゲン液,露出強膜にトロンビン液を塗布し(図1b),同様に反対半分の移植片を翻転して接着させた(図1c).また,周辺結膜も同様にフィブリノーゲン液,トロンビン液を塗布して接着させた(図1d).手術終了時にリン酸デキサメタゾンC0.3Cmlを結膜下に注射した.吸収糸を用いた翼状片手術は,上述と同様に翼状片切除後に上方より有茎結膜弁を作製し,その後に吸収糸(10-0CVic-ryl,ETHICON)を用いて露出強膜にC6針またはC7針で縫合した.抜糸は行わなかった.両群とも,全例で術後にソフトコンタクトレンズを翌日まで装用した.術後の点眼はC0.1%ベタメタゾン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C4回を術後C1週間まで,0.1%フルオロメトロン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C4回を術後C3カ月まで,0.1%フルオロメトロン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C2回を術後6カ月まで,0.5%トラニラスト点眼C1日C4回を術後C1年まで行った.コストに関しては,どちらも保険診療の翼状片手術として請求した.統計学的検討として,C|2検定,Mann-Whitney検定を行った.群間の経時的な比較においては,混合効果モデルおよびCTukeyの多重比較検定を行った.解析にはCGraphPadPrism(GraphPadSoftware)を使用し,p<0.05を統計学的に有意として扱った.また,本文における値はすべて平均値C±標準偏差として表記した.CII結果32眼16人(男性8人,女性8人,平均年齢70.2C±8.6歳)が対象となり,縫合群とCFG群それぞれC16眼について解析を行った.年齢,翼状片のグレード,術前の裸眼視力,矯正視力,等価球面度数,眼圧などの患者背景に群間差は認めなかった(表1).縫合群とCFG群において,手術時間に群間差はなかった(表2).一方で,FG群における術後疼痛の強さ(平均C2.3C±2.1)(図2a)と頻度(平均C2.3C±1.7)(図2b)は,縫合群(平均C4.4C±3.1および平均C4.4C±3.1)よりも有意に低値であった(p=0.0053およびC0.0047).充血の重症度スコアも,FG群(平均C0.24C±0.42)では縫合群(平均C1.2C±0.76)よりも有意に低値であった(図2c,p=0.0022).両群とも術後C1年において再発は認めず,再発率に群間差はなかった(表2).また,それぞれの手術方法について術中および術後の合併症は両群ともに認めず,群間に差はなかった(表2).裸眼視力と矯正視力に関しては,術後C1カ月およびC1年後において群間に差はなく,経時的な変化もなかった(図3a,b).等価球面度数に関しても,術後C1カ月およびC1年後において群間に差はなく,経時的な変化もなかった(図3c).眼圧は,術後C1カ月の時点でCFG群において術前よりも有意な眼圧上昇が認められたが(p=0.0006),術後C1年では術前と同程度に戻った(図3d).どの観察時点においても,縫合群とCFG群の間に有意差はなかった.以下に,代表症例を示す.61歳,男性.翼状片のグレードは両眼ともグレードC2で図1生体接着剤を用いた翼状片手術の術中写真a:遊離結膜移植片を上方の球結膜より作製した.Cb:半分を翻転した後に,水分を除去して移植片の裏面にフィブリノーゲン液,露出強膜にトロンビン液を塗布した.Cc:同様に反対半分の移植片を翻転して接着させた.d:周辺結膜も同様にフィブリノーゲン液,トロンビン液を塗布して接着させた.表1患者背景縫合群FG群p値左:右8:88:8C1.0年齢(歳)C70.2±8.6C70.2±8.6C1.0翼状片グレードC2.1±0.48C2.2±0.39C0.56術前の裸眼視力(logMAR)C0.43±0.42C0.36±0.39C0.64術前の矯正視力(logMAR)C0.044±0.23C0.039±0.21C0.95術前の等価球面度数(D)C0.69±2.2C0.51±2.0C0.81術前の眼圧(mmHg)C13.7±3.4C13.1±4.0C0.71表2縫合群とFG群における手術結果の比較縫合群FG群p値手術時間C18’48”±1’55”C18’13”±2’52”C0.441年後の再発率(%)C0C0C1.0合併症出現率(%)C0C0C1.0Cあった(図4a,b).右眼に対して生体接着剤を用いた翼状片を行い(FG群),左眼は縫合糸を用いて(縫合群)手術を行った.両眼とも術後の合併症はなく,術後C1年時点での再発は認めなかった.術直後は図のようであった(図4c,d).術後C1カ月時点では,FG群は結膜血管の拡張がなく充血スコアはC0である一方で(図4e),縫合群では数本の血管拡張がありスコアC1と考えられた(図4f).両眼とも術後C1年時点で再発は生じず,術後合併症は認めなかった.CIII考按翼状片に対する生体接着剤を用いた結膜遊離弁移植法では,術後C1年における再発は認めず,縫合群と統計学的有意差はなかった.本術式は再発率が低く,AlamdariらはC120眼の検討で術後C1年の再発率はC0%11),Ratnalingamらはabc2.0881.566*0.0縫合群FG群縫合群FG群縫合群FG群00図2翼状片手術後の術後疼痛と充血度の比較a:FG群と縫合群における術後疼痛の強さ.FG群では有意に術後疼痛の程度が低値であった(p=0.0053).b:FG群と縫合群における術後疼痛の頻度.FG群では有意に術後疼痛の頻度が低値であった(p=0.0047).c:FG群と縫合群における術後C1カ月の充血の重症度スコア.FG群では充血の重症度スコアが有意に低値であった(p=0.0022).Ca縫合群b縫合群FG群FG群1.00.4疼痛の強さ(Numericalratingscale)疼痛の頻度(Numericalratingscale)充血度のスコア1.0440.522裸眼視力(logMAR)矯正視力(logMAR)0.20.0-0.20.50.0-0.5-0.4術前術後カ月1年術前術後カ月1年時間時間c縫合群d縫合群425等価球面度数(D)3210201510眼圧(mmHg)50-2時間時間図3縫合群とFG群における視力・等価球面度数・眼圧の経時的な比較a:裸眼視力の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cb:矯正視力の翼状片手術前後の推移.縫合群およびFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cc:等価球面度数の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cd:眼圧の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなかった.FG群において,術前と比較して術後C1カ月の値は有意に増加していた(p=0.0006).図4両眼の翼状片手術を行った代表症例(61歳,男性)a,b:術前の前眼部写真.右眼(Ca)と左眼(Cb)においてグレードC2相当の翼状片を認める.Cc:生体接着剤を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1週間における前眼部写真.結膜下出血が認められるものの,結膜弁は強膜に接着している.Cd:縫合糸を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1週間における前眼部写真.結膜弁は縫合糸により強膜に接着しており,断端が観察される.Ce:生体接着剤を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1カ月における前眼部写真.翼状片切除領域の血管拡張は認められない.Cf:縫合糸を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1カ月における前眼部写真.結膜弁を移植した領域の周囲および内部に血管拡張が観察される.137眼の検討でC4.4%と報告している12).また,再発と術後創傷治癒が早く進行する14).今回の検討では,FG群におい合併症が少ないことが,メタアナリシスによっても示されてて術後の眼表面の充血の程度が有意に低下しており,生体接いる5).本検討も再発率が低い点で既報に一致していた.翼着剤を使用した翼状片手術では縫合糸を使用する場合よりも状片手術に対する自己結膜弁移植は,安全かつ低い再発率を組織修復の経過が早く,術後の炎症が少なかったと推察され示すことから広く普及している13).しかし,縫合糸による不た.今回の検討では術後疼痛および充血の評価を術後の一時快感や疼痛が生じることがある.生体接着剤を併用すること点のみで行ったが,経時的な炎症の詳細な推移について,観により,術後の疼痛が減少することが明らかとなり,今後日察地点を増やした検討が今後必要と考えられた.本においても本術式が普及する可能性があると考えられた.今回の検討において,矯正視力・裸眼視力・等価球面度数縫合糸による炎症が遷延することは翼状片再発リスクと考の変化に関して差は認めなかった.一方で,FG群においてえられるが,生体接着剤使用による翼状片術後早期において術後C1カ月で術前に比較して眼圧上昇が認められた.しかはさまざまな増殖因子や炎症性サイトカインの発現が高く,し,術後C1年において術前と同程度まで低下し,また経過を通じて縫合群の眼圧値と同程度で,正常範囲内であった.過去の研究でも眼圧上昇は生じないことが報告されており15),長期的な眼圧上昇は生じないことが推察された.また,翼状片に対する自己結膜弁移植術において生体接着剤を併用することにより,手術時間が短縮することが報告されている15)が,本検討では差がなかった.これは本術式への慣れが必要であることが理由として考えられる.症例数を増やすことで,手技が向上して手術時間が短縮する可能性がある.本製剤は血液を原料としており殺菌処理が施されているが,ヒトパルボウイルス感染,プリオン感染が生じる可能性はある.本検討の対象で合併症は認められなかったが,術後の長期経過観察が必要である.本研究にはいくつかの限界が考えられる.まず,観察研究であるため症例数が少ない点である.今回は,当院における翼状片の術式変更を検討した時期に,片眼は縫合による切除,片眼は生体接着剤を使用した症例のみを解析した.一方,同一症例について両眼に対して異なった術式を採用している症例のみを選択することで,症例背景によるバイアスは軽減した.第二は,有茎結膜弁移植を行った症例を対照群として設定した点である.より正確には縫合糸を用い遊離結膜弁を行った症例を対照とすべきであり,より適切な症例をつぎの研究では設定していきたい.結論として,生体接着剤を用いた翼状片に対する遊離結膜弁移植術は,縫合糸による術式と比較して術後疼痛の強さと頻度,充血がいずれも有意に軽度であり,有効であると考えられた.「利益相反」宮田和典:CFビーバービジテックインターナショナルジャパン株式会社CIV日本アルコン株式会社IVCPトーメイコーポレーション文献1)MinamiCK,CTokunagaCT,COkamotoCKCetal:In.uenceCofCpterygiumCsizeConCcornealChigher-orderCaberrationCevalu-atedCusingCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomogra-phy.BMCOphthalmolC18:166,C20182)Clear.eldCE,CMuthappanCV,CWangCXCetal:ConjunctivalCautograftCforCpterygium.CCochraneCDatabaseCSystCRevC2:CCD011349,C20163)AlpayA,UgurbasSH,ErdoganB:Comparingtechniquesforpterygiumsurgery.ClinOphthalmolC3:69-74,C20094)PandaCA,CKumarCS,CKumarCACetal:FibrinCglueCinCoph-thalmology.IndianJOphthalmolC57:371-379,C20095)RomanoV,CrucianiM,ContiLetal:FibringlueversussuturesCforCconjunctivalCautograftingCinCprimaryCpterygi-umCsurgery.CCochraneCDatabaseCSystCRevC12:CD011308,C20166)MaitiR,MukherjeeS,HotaD:Recurrencerateandgraftstabilitywith.bringluecomparedwithsutureandautol-ogousCbloodCcoagulumCforCconjunctivalCautograftCadher-enceinpterygiumsurgery:ameta-analysis.CorneaC36:C1285-1294,C20177)YukselCB,CUnsalCSK,COnatS:ComparisonCofC.brinCglueCandCsutureCtechniqueCinCpterygiumCsurgeryCperformedCwithlimbalautograft.IntJOphthalmolC3:316-320,C20108)宮田和典,子島良平,森洋斉ほか:翼状片の進展率に基づく重症度分類の検討.日眼会誌122:586-591,C20189)OnoCT,CMoriCY,CNejimaCRCetal:SustainabilityCofCpainCreliefaftercornealcollagencross-linkingineyeswithbul-lousCkeratopathy.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)C7:291-295,C201810)Takamura,CE,CUchioCE,CEbiharaCNCetal:JapaneseCguide-linesCforCallergicCconjunctivalCdiseasesC2017.CAllergolCIntC66:220-229,C201711)AlamdariCDH,CSedaghatCMR,CAlizadehCRCetal:Compari-sonCofCautologousC.brinCglueCversusCnylonCsuturesCforCsecuringCconjunctivalCautograftingCinCpterygiumCsurgery.CIntOphthalmolC38:1219-1224,C201812)RatnalingamCV,CEuCAL,CNgCGLCetal:FibrinCadhesiveCisCbetterCthanCsuturesCinCpterygiumCsurgery.CCorneaC29:C485-489,C201013)SatiA,ShankarS,JhaAetal:Comparisonofe.cacyofthreeCsurgicalCmethodsCofCconjunctivalCautograftC.xationCinthetreatmentofpterygium.IntOphthalmolC34:1233-1239,C201414)WangCX,CZhangCY,CZhouCLCetal:ComparisonCofC.brinCglueCandCVicrylCsuturesCinCconjunctivalCautograftingCforCpterygiumsurgery.MolVisC23:275-285,C201715)BaharI,WeinbergerD,GatonDDetal:Fibringluever-susvicrylsuturesforprimaryconjunctivalclosureinpte-rygiumsurgery:long-termCresults.CCurrCEyeCResC32:C399-405,C2007C***

白内障手術における患者因子および術中,術後合併症が 術後屈折誤差に与える影響

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):569.573,2024c白内障手術における患者因子および術中,術後合併症が術後屈折誤差に与える影響野々村美保*1稗田牧*1岡田陽*1小室青*2山崎俊秀*3加藤雄人*4木下茂*5外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2四条烏丸小室クリニック*3バプテスト眼科クリック*4京都府立医科大学附属北部医療センター*5京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.ectofPatient-RelatedFactorsandComplicationsonRefractiveErrorafterCataractSurgeryMihoNonomura1),OsamuHieda1),YoOkada1),AoiKomuro2),ToshihideYamasaki3),YutoKato4),ShigeruKinoshita5)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)Shijo-KarasumaKomuroEyeClinic,3)BaptistEyeInstitute,4)NorthernMedicalCenterKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofSensoryOrgansandFutureMedicineKyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:白内障手術におけるさまざまな患者背景および術中術後合併症のうち術後屈折誤差に影響を与える要因を明らかにすること.対象および方法:京都府立医科大学附属病院とC3つの関連施設において,白内障単独手術のC820眼のデータを後ろ向きに収集した.対象は男性C354眼,女性C466眼,年齢はC74.5C±8.9歳(平均C±標準偏差)である.術後の屈折誤差(SRK-T式による予測屈折度と手術C1カ月後の自覚的屈折度との差の絶対値)を目的変数とし,性別,年齢,眼軸長,角膜屈折力,眼既往症・併存症,眼手術歴,術中・術後の合併症を説明変数として多変量解析を行った.緑内障は病型の判断がむずかしいため,今回の検討には含めていない.結果:術後の屈折誤差は長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,および術中の破.のC4要因が術後屈折誤差の増加に影響を与えた.結論:これらの要因に該当する患者は屈折誤差が生じやすく,SRK-T式以外の計算式も検討すべきである.CPurpose:ToCinvestigateCvariousCpatient-relatedCfactorsCandCintraoperative/postoperativeCcomplicationsCthatCin.uencerefractiveerror(RE)aftercataractsurgery.Methods:Inthisretrospectivestudy,themedicalrecordsof820eyes(354CmaleCeyes,C466Cfemaleeyes;meanCpatientage:74.5C±8.9years)thatCunderwentCcataractCsurgeryCatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCHospitalCandCthreeCassociatedCfacilitiesCwereCreviewed.CPostoperativeRE(absoluteCdi.erenceCbetweenCrefractionCpredictedCbyCtheCSRK/TCformulaCandCRECatC1-monthpostoperative)Cservedasthedependentvariable.Multivariateanalysisincludedpatientbackground,ocularhistory/comorbidities,surgeryhistory,andintraoperative/postoperativecomplications.GlaucomatouseyeswereexcludedfromthestudydueCtoCaCdi.cultyCinCdeterminingCtheCspeci.cCtypeCofCglaucoma.CResults:PostoperativeCRECwasCsigni.cantlyCin.uencedCbyCtheCfollowingC4factors:1)axialClength,2)cornealCrefractiveCpower,3)cornealCdeformation,Cand4)CposteriorCcapsuleCrupture.CConclusion:OurC.ndingsCshowCthatCpatientsCwithCtheCabove-statedCfactorsCareCmoreClikelytoexperiencepostoperativeRE,yetalternativecalculationformulasbeyondtheSRK/Tformulashouldalsobeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(5):569.573,C2024〕Keywords:術後屈折誤差,白内障手術,SRK/T式.post-operativerefractiveerror,cataractsurgery,SRK/Tformula.C〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuHieda,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCはじめに現在の日本ではC65歳以上の人口がC28.4%となり1),高齢者の増加が指摘されている.これに伴い白内障患者も増加し,手術を希望する患者の背景も多様化している.白内障手術は患者が術前に希望する屈折度に近いほど術後満足度が高いため2),白内障術後の屈折誤差を小さくする必要がある.白内障術後屈折誤差の減少には適切なパワーの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入する必要があり,IOLパワーの決定にはCIOL計算式を用いる.現在多くのCIOL計算式が存在し,SRK-T式はそのうちの一つである.既報ではSRK-T式を用いた場合,術後屈折誤差がC±0.5ジオプター(D)以内の割合は約C74%と報じられている3).一方で,術後屈折誤差には眼軸長4,5),角膜屈折力6)などの患者背景や眼既往症または併存症として円錐角膜7,8),屈折矯正手術後9,10),緑内障11),網膜前膜12),手術中の破.13)が影響するといわれている.近年,日常の臨床から収集される実際のデータを使用したリアルワールド研究が行われるようになり,海外では全症例を登録してデータを収集するレジストリーが活用されている.わが国では,多施設連続症例における白内障術前検査の測定値や術後屈折誤差を比較した研究はあるが14),多施設連続症例における患者背景や術中,術後合併症といった複数の要因が術後屈折誤差に与える影響についての研究は筆者らが知る限り報告されていない.今回,4施設のリアルワールドデータを用いて,術後屈折誤差に患者背景および術中,術後合併症が与える影響を検討した.CI対象および方法本研究は京都府立医科大学附属病院(大学),京都府立医科大学附属北部医療センター,バプテスト眼科クリニック,四条烏丸小室クリニックのC4施設において,白内障単独手術を行った連続症例を対象とした多施設後ろ向き研究である.この研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得て実施された(番号:ERB-C-1235-2).術前に光学式眼軸長測定装置による眼軸長および角膜屈折力測定装置による角膜屈折力を測定し,かつ,手術C1カ月後時点で視力測定を行い,矯正視力がC0.5以上の症例を解析の対象とした.2018年C4月より開始し,男性C354眼,女性466眼であり,右眼はC424眼,左眼はC396眼の計C820眼であった.平均年齢C±標準偏差はC74.5C±8.87歳(20歳からC94歳)であった.また,患者背景として眼軸長および角膜屈折力,術後矯正視力と屈折値を表1にまとめた.本研究における対象患者の術前の眼既往症や併存症,眼手術歴,術中合併症の内訳は図1に示した.使用した光学式眼軸長測定装置と角膜屈折力測定装置について,大学ではCIOLマスターC700(カール・ツァイス社)とCTONOREFRKT-7700(ニデック社),京都府立医科大学附属北部医療センターではCIOLマスターC500(カール・ツァイス社)とCTONOREFIII(ニデック社),バプテスト眼科クリニックではCIOLマスターC700とCTONOREFIIおよびCIII(ニデック社),四条烏丸小室クリニックではOA-1000(トーメーコーポレーション社)とCTONOREFCRIIを使用した.手術で使用したCIOLはCSZ-1(ニデック社),XY1-SP(HOYA社),ZCB00V(エイエムオー・ジャパン社)を中心に多種類を使用し,A定数はメーカー推奨値(光学式測定機器用)とした.主要評価項目は術後屈折誤差である.術後屈折誤差はSRK-T式による予測屈折度と手術C1カ月後の自覚的屈折度との差の絶対値と定義した.調査項目は患者CID番号および術後屈折誤差に影響を与えうる要因として,患者背景,術前の眼既往症または併存症,眼手術歴,術中合併症,術後合併症とした.患者背景として性別,年齢,眼軸長,角膜屈折力(強主経線と弱主経線の平均)を調査した.術前の眼既往症または併存症として角膜疾患は変形,混濁,疾患なしのC3分類で調査した.網膜前膜はあり,なしのC2分類で調査した.既報では緑内障も術後屈折誤差に影響を与えると報告されているが,本調査は後ろ向き研究であり,カルテデータでは正確な緑内障病型判断が困難であったため,今回は調査項目には含めていない.術前の眼手術歴として角膜移植,屈折矯正手術,緑内障手術,硝子体手術の有無について調査した.術中および術後の合併症として破.,Zinn小帯断裂,核落下,眼内炎の有無を調査し,計C15項目となった.各疾患の有無については,カルテに「病名」の記載がある,またはカルテ上の所見や検査データから判断し,すべてのデータはC2名の調査医師で確認を行った.調査項目は,過去の研究や既報4.13)を参考に複数名で検討し決定した.研究に必要な症例数は戸ケ里の論文15)を参考に,1つの調査項目ごとにC10眼以上のデータを収集することにした.そのためC150眼以上が必要となり,施設ごとにC200眼,全体でC800眼を目標とした.データ収集は複数の眼科医で行い,バイアスの軽減をめざした.収集したデータをもとに,術後屈折誤差が絶対値C0.5D以内の割合を算出した.本研究では片眼手術の患者と両眼手術の患者がデータ内で混在するため,個人内の相関の影響に対して,患者CID番号を変量効果として解析に組み込むことで調整した.また,術後屈折誤差に影響を与える要因を把握するため,目的変数を術後屈折誤差の絶対値,説明変数を調査項目として変数減少法を用いて重回帰分析を施行した.最初にすべての説明変数を用いて重回帰分析を施行し,p値が最大となる項目をC1つ除外し,それ以外の全項目で再度重回帰分析を施行した.この操作を繰り返し,全説明変数のCp値がC0.05以下になるまで行った.表1患者背景n=820C手術前平均値±標準偏差範囲眼軸長(mm)C24.0±1.8420.5.C34.39角膜屈折力(D)C44.25±1.7034.25.C53.35手術C1カ月後矯正視力(logMAR)C.0.02±0.120C.0.176.C0.301球面度数(D)C.0.62±1.45C.8.00.+4.00円柱度数(D)C.0.86±0.65C.5.5.C0角膜疾患(眼)網膜前膜(眼)混濁(12)1.46%屈折矯正手術(5)手術歴(眼)0.61%術中,術後合併症(眼)破.(6)0.73%Zinn小帯断裂(1)0.12%硝子体手術(12)1.46%図1眼既往症・併存症,手術歴,術中術後合併症の内訳対象であるC820眼のうち,各疾患,手術歴,術中,術後合併症例数を円グラフまとめた.II結果全症例C820眼における術後屈折誤差の平均値はC0.53C±0.64D(0.6.23D)であり,このなかで絶対値C0.5D以内となったのはC537眼で全体のC65.5%であった.術後屈折誤差の絶対値に影響を与える要因を重回帰分析すると,眼軸長,角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,破.のC4項目が術後屈折誤差の増加に影響することが明らかになった(表2).偏回帰係数が眼軸長,角膜屈折力ともに正の数値であることから,眼軸長および角膜屈折力の数値が大きいほど,すなわち長眼軸長や急峻な角膜屈折力であるほど術後屈折誤差が増加した.偏回帰係数が正の値であったことから変形を伴う角膜疾患,破.は術後屈折誤差を増加させ,偏回帰係数が負の値であることから混濁を伴う角膜疾患がある場合は術後屈折誤差を減少させた.表2術後屈折誤差に影響する説明変数の回帰分析結果説明変数偏回帰係数p値眼軸長角膜屈折力変形を伴う角膜疾患混濁を伴う角膜疾患C破.ありC0.05C0.08C0.71.0.29CC0.31C<C0.0001<C0.0001<C0.00010.0270.002p<0.05とした.CIII考按本研究では,多施設連続症例に対して患者背景や術前の眼既往症および併存症,眼手術歴,術中,術後合併症といった複数の項目を用いて術後屈折誤差に影響を与える要因を調査した.その結果,長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形伴う角膜疾患,破.が術後屈折誤差の増加に有意に影響を及ぼしていた.既報どおり眼軸長4,5)や角膜屈折力6)は術後屈折誤差に影響を与えた.変形を伴う角膜疾患について,代表疾患として円錐角膜8)や角膜屈折矯正術後眼10)があり,術後屈折誤差の増大が指摘されている.これらの疾患で術後屈折誤差が増加する原因として,角膜前後面比率の変化のため角膜屈折力の測定に系統誤差が生じている.一方,混濁を伴う角膜疾患について既報13)とは異なり,本研究では術後屈折誤差が減少するという結果になった.本研究では変形と混濁をともに認める症例については,変形のほうが術後屈折誤差に影響すると考え,変形に分類した.混濁により散乱が生じ,レンズ矯正が困難なため屈折誤差が減少した可能性がある.近年,長眼軸や急峻な角膜屈折力に対してCSRK-Tを含む多くの計算式で誤差が生じやすいことが指摘されており16)CBarrettCUniversalII式17,18)が開発され,IOLパワーの測定が正確にできるようになった.さらに変形を伴う角膜疾患は,前後面の角膜形状の測定やCKANECformula19)を用いた場合,SRK-Tと比較して術後屈折誤差が改善する可能性がある.今回,可能な限り除外項目を設けず,臨床に即したデータを用いて,白内障術後屈折誤差の増加に影響を与える患者背景および術中術後合併症を検討した.長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,破.のC4要因に該当する患者は術後屈折誤差が生じやすく,SRK-T式以外の計算式も参考に眼内レンズ度数を決定することが望ましい.また,術前に誤差が生じやすい患者に個別に説明することで患者への適切な情報提供がおこなえる.このような術後屈折誤差への配慮を行うことで,手術への患者満足度の向上が期待できると思われる.謝辞:本調査のデータ抽出に協力した専攻医(調査当時)の,足立瑛美,岡本真子,鍵谷悠,片岡佑人,喜多遼太,小林嶺央奈,小山達夫,柴田学,高橋実花,千森瑛子,堤亮太,三木岳,山下耀平,伊部友洋,大久保寛,岡田陽,北野ひかる,長野広実,中村藍,細田明良,渡邉聖奈,弓削皓斗(敬称略),に感謝申し上げます.利益相反野々村美保なし稗田牧なし岡田陽なし小室青なし山崎俊秀なし加藤雄人:なし木下茂【P】あり,【F】AurionBiotechnologies,千寿製薬株式会社,興和株式会社,参天製薬株式会社外園千恵:【P】あり,【F】参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGen,文献1)内閣府ホーム:令和C2年板高齢社会白書.厚生労働省.2018-7-20.Chttps://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/Czenbun/s1_1_1.html.(参照C2021-5-28)2)菊池理香,須藤史子,島村恵美子ほか:眼軸長別にみた術後の患者希望屈折度と術前屈折値との関連.日本視能訓練士協会誌33:91-96,C20043)RBMelles,JTHolladay,WJChang:Accuracyofintraocu-larClensCcalculationCformulas.COphthalmologyC125:169-178,C20184)ZhuCX,CHeCW,CSunCXCetal:FixationCstabilityCandCrefrac-tiveCerrorCafterCcataractCsurgeryCinChighlyCmyopicCeyes.CAmJOphthalmolC169:89-94,C20165)GavinCEA,CHammondCJ:IntraocularClensCpowerCcalcula-tioninshorteyes.Eye(Lond)C22:935-938,C20086)EomCY,CKangCSY,CSongCJSCetal:UseCofCcornealCpower-speci.cconstantstoimprovetheaccuracyoftheSRK/Tformula.OphthalmologyC120:477-481,C20137)WatsonCMP,CAnandCS,CBhogalCMCetal:CataractCsurgeryCoutcomeCinCeyesCwithCkeratoconus.CBrCJCOphthalmolC29:C361-364,C20148)GhiasianCL,CAbolfathzadehCN,CMana.CNCetal:IntraocularClenspowercalculationinkeratoconus;Areviewoflitera-ture.JCurrOphthalmolC31:127-134,C20199)StakheevAA,BalashevichLJ:Cornealpowerdetermina-tionafterpreviouscornealrefractivesurgeryforintraocu-larlenscalculation.CorneaC3:214-220,C200310)CheanCCS,CYongCBKA,CComelyCSCetal:RefractiveCout-comesCfollowingCcataractCsurgeryCinCpatientsCwhoChaveChadmyopiclaservisioncorrection.BMJOpenOphthalmolC4:e000242,C201911)ManoharanCN,CPatnaikCJL,CBonnellCLNCetal:RefractiveCoutcomesCofCphacoemulsi.cationCcataractCsurgeryCinCglau-comapatients.JCataractRefractSurg44:348-354,C201812)KimCM,CKimCHE,CLeeCDHCetal:IntraocularClensCpowerCestimationCinCcombinedCphacoemulsi.cationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCepiretinalmembranes:aCcase-controlstudy.YonseiMedJC56:805-811,C201513)LundstromCM,CDickmanCM,CHenryCYCetal:RiskCfactorsCforCrefractiveCerrorCafterCcataractsurgery:AnalysisCofC282C811CcataractCextractionsCreportedCtoCtheCEuropeanCregistryCofCqualityCoutcomesCforCcataractCandCrefractiveCsurgery.JCataractRefractSurgC44:447-452,C201814)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:NationwidemultiC-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C202215)戸ヶ里泰典:サンプルサイズ緒論.順天堂大学医療看護学部医療看護研究23:1-8,C201916)ReitblatCO,CLevyCA,CKleinmannCGCetal:A.liationsCexpandCIntraocularClensCpowerCcalculationCforCeyesCwithChighandlowaveragekeratometryreadings:ComparisonbetweenCvariousCformulas.CJCCataractCRefractCSurgC9:C1149-1156,C201717)ZhouCD,CSunCZ,CDengG:AccuracyCofCtheCrefractiveCpre-dictionCdeterminedCbyCintraocularClensCpowerCcalculationCcornealCcurvature11:https://doi.org/10.1371/journal.CformulasCinChighCmyopia.CIndianCJCOphthalmolC67:484-pone.0241630,C2020C489,C201919)JackCXK,CBenjaminCC,CHarryCYCetal:AccuracyCofCintra-18)ZhangCC,CDaiCG,CPazoCEECetal:AccuracyCofCintraocularCocularlenspowerformulasmodi.edforpatientswithker-lensCcalculationCformulasCinCcataractCpatientsCwithCsteepCatoconus.OphthalmologyC127:1037-1042,C2020***

当院におけるSmall Incision Lenticule Extraction (SMILE)手術1,164 眼の合併症の検討

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):565.568,2024c当院におけるSmallIncisionLenticuleExtraction(SMILE)手術1,164眼の合併症の検討西田知也片岡嵩博磯谷尚輝小島隆司吉田陽子中村友昭医療法人REC名古屋アイクリニックCComplicationsofSmallIncisionLenticuleExtractionSurgeryin1,164EyesTomoyaNishida,TakahiroKataoka,NaokiIsogai,TakashiKojima,YokoYoshidaandTomoakiNakamuraCNagoyaEyeClinicC目的:名古屋アイクリニックにおけるCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)手術の術中および術後の合併症と追加矯正について検討した.対象および方法:2018年.2022年に名古屋アイクリニックにてCSMILE手術を施行した連続症例(588名C1,164眼,平均年齢C31.0C±7.2歳,平均等価球面度数C.3.99±1.50D)を対象に,術中および術後合併症の発生率と術後の追加矯正率を後ろ向きに検討した.結果:術中合併症はサクションロスがC8眼(0.7%)あり,そのうちC5眼がそのままCSMILEを続行した.Lenticule残存はC3眼(0.3%)であった.術後合併症は,層間角膜炎が54眼(4.6%)に認められ,46眼がCstage1であった.追加矯正率はC2.5%(29眼)であった.結論:SMILE手術は重篤な合併症および追加矯正の発生率は低く,安全な手術であることが示唆された.CPurpose:Toexaminetheintraoperative/postoperativecomplicationsandrefractiveenhancementineyesthatunderwentsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)surgery.Methods:Thisretrospectivestudyinvolved1,164eyesof588consecutivepatients(meanage:31.0C±7.2years,meansphericalequivalentpower-3.99±1.50D)whounderwentSMILEsurgeryatNagoyaEyeClinicfrom2018to2022.Theincidenceofintraoperative/postoperativecomplicationsCandCrefractiveCenhancementCwereCretrospectivelyCexamined.CResults:IntraoperativeCcomplicationsCincludedsuctionlossin8eyes(0.7%)C,ofwhichin5eyesSMILEsurgerywascontinued,andlenticuleresidualsin3eyes(0.3%)C.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCdi.useClamellarCkeratitisCinC54eyes(4.6%)C,CofCwhichC46CeyesCwereCstageC1,CandCrefractiveCenhancementCinC29eyes(2.5%)C.CConclusion:SMILECsurgeryCwasCfoundCtoChaveCaClowincidenceofvision-threateningcomplicationsandrefractiveenhancement,thussuggestingthatitisasafepro-cedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(5):565.568,C2024〕Keywords:smallincisionlenticuleextraction,合併症,追加矯正.smallincisionlenticuleextraction,complica-tions,enhancement.Cはじめに角膜屈折矯正手術は,エキシマレーザーのみを用いて屈折矯正を行うphotorefractivekeratectomy(PRK)が開発され,その後第二世代の術式としてフェムトセカンドレーザーを用いてフラップを作製し,エキシマレーザーの照射を行うlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が開発された.さらに,第三世代の術式としてフラップ作製を行わずフェムトセカンドレーザーのみで屈折矯正を行うCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)が開発された.SMILE手術に対する安全性および有効性は多数報告されているが1),わが国における術中および術後合併症に関する多数例の報告は限られている2).今回,名古屋アイクリニックにおけるCSMILE手術C5年間の術中および術後の合併症と追加矯正について検討した.CI対象および方法対象はC2018年C1月.2022年C12月までのC5年間に名古屋アイクリニックにてCSMILE手術を施行した全症例C588名〔別刷請求先〕西田知也:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14COLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックReprintrequests:TomoyaNishida,CO,NagoyaEyeClinic,COLLECTMARKKanayama2F,24-14Namiyose-cho,Atsuta-ku,Nagoya,Aichi456-0003,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(93)C565図1SMILE手術で作製される切開の名称とその位置1:Lenticulecut(lenticuleの裏面),2:Lenticulesidecut,3:CCapcut(lenticuleの表面),4:Capopeningincision.1,164眼を後方視的に検討した.平均観察期間はC10.9C±10.1カ月であった.検討項目は,術中および術後合併症の発生率とその後の経過,術後追加矯正率と追加矯正の術式を検討した.また,SMILE手術前の自覚的球面度数および自覚的乱視度数を,追加矯正を施行した群(追加矯正群)と追加矯正を施行していない群(非追加矯正群)のC2群間で比較した.追加矯正手術は患者の術後屈折誤差および術後の近視の戻りによる自覚的な見え方の不満に対して,医師が追加矯正手術を施行すれば改善すると判断し,追加矯正手術に対する十分な説明のうえ,患者の同意を得られた場合に施行した.SMILE手術の適応基準は「屈折矯正手術のガイドライン」(第C7版)に準じて決定した.SMILE手術はフェムトセカンドレーザーCVisuMax(CarlZeissMeditec社)を使用した.レーザーエネルギーはC140nJ,capCopeningincisionは2.0mmまたは2.5mm,spotdistanceはC4.5Cμmと設定した.図1にCSMILE手術で作製される切開の名称とその位置を提示する.Opticalzone(OZ)は屈折矯正量に応じて算出されたClenticule厚と術前の角膜厚をもとに,6.0Cmm,6.5Cmm,7.0CmmのC3種類の大きさから決定した.全症例右眼から手術を開始した.C1.統計解析追加矯正群と非追加矯正群の比較には,Mann-WhitneyCUtestを行った.統計解析にはCSPSS(ver.29,IBMJapan)を使用し,統計学的有意水準を5%未満とした.本研究は院内倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に従って実施された(2023-60).後ろ向き研究であるため,同意書取得の代わりにオプトアウト法が倫理委員会によって認められた.表1本検討の患者背景パラメータ平均±標準偏差(範囲)男女比男性C344名女性C244名年齢(歳)C31.0±7.2(17to55)術前自覚等価球面度数(D)C.3.99±1.50(C.1.00to.8.88)術前自覚乱視度数(D)C.0.7±0.6(0.0to.4.0)Lenticule厚(μm)C89.0±17.8(40Cto141)COpticalzone(mm)C6.6±0.3(6.0,6.5,7.0)D:diopter.CII結果本検討の患者背景を表1に示す.術後C1年目まで経過を追えたC584眼の術後C1年目の平均裸眼視力(logMAR)および矯正視力(logMAR)はそれぞれC.0.18±0.10(小数視力C1.51),.0.23±0.07(小数視力C1.70)であり,術後平均自覚球面度数はC.0.01D±0.29であった.術前矯正視力に対して術後矯正視力の変化は,1段階低下が23眼(4%),変化なしがC284眼(49%),1段階向上がC265眼(45%),2段階以上向上がC12眼(2%)であった.有効係数および安全係数はそれぞれC1.05,1.16であった.C1.術中合併症サクションロス(レーザー照射中に眼球を固定している吸引が外れること)はC8眼あり,発生率はC0.7%であった.8眼の内訳は男性C4眼,女性C4眼,右眼C1眼,左眼C7眼であった.サクションロスしたC8眼中C5眼はClenticulecutがC10%未満であったため,SMILEを続行した.1眼はClenticulecutがC10%以上作製されていた状態でサクションロスしたため,LASIKへ変更していた.2眼はClenticuleCsidecut作製中にサクションロスしたため,lasersubepithelialkeratomileusis(LASEK)へ変更していた.全症例当日手術を施行した.Lenticule.離不全,残存はC3眼あり,発生率はC0.3%であり,すべての症例において術前等価球面度数はC.3.0以下の軽度近視症例であった.1例は角膜中心部にClenticuleが残り裸眼視力がC0.4と不良であったため,術後C1カ月でCIRCLE(lenticuleを抜き取った層をつなげてフラップを作製する方法)にてフラップを起こし,残ったClenticuleの除去を行い,その後裸眼視力C1.5であった.2例は角膜周辺部にClenticuleが残り裸眼視力C1.0およびC1.5と視力に影響を与えていなかったため,そのまま経過観察中であった.C2.術後合併症層間角膜炎(di.useClamellarkeratitis:DLK)はC54眼に認められ,発生率はC4.6%であった.54眼中C46眼がCstage1(角膜周辺部の炎症で,中心部には影響が及んでいない段階)であり(85%),8眼がCstage2(角膜周辺から中心部に炎症が波及するが,視力にはそれほど影響が出ていない段階)で566あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024(94)表2術中合併症に関する過去の報告と本検討の結果の比較サクションロスLenticule.離不全,残存著者報告年眼数(%)(%)WangYetal3)C2017C3,004C0.93C0.27CKamiyaetal2)C2019C252C1.2C─本検討C2023C1,164C0.7C0.3C術中合併症の発生率は本検討と既報で同等の結果であった.表3術後合併症に関する過去の報告と本検討の結果の比較DLK感染上皮迷入ケラトエクタジア著者報告年眼数(%)(%)(%)(%)WangYetal6)C2019C6,373C2.17C0C0.02C─CKamiyaetal2)C2019C252C0.8C0C0C0本検討C2023C1,164C4.6C0C0C0CDLKの発生率は既報よりも本検討で多かった.あった(15%).Stage2のC8眼中C3眼は術後C2日目に洗浄の処置を行っていた.ステロイドの内服および点眼,軟膏の処方により全症例C1カ月以内に炎症は消失しており,DLKが原因による視力不良症例はなかった.その他の合併症として,ドライアイに対してC7眼が涙点プラグを挿入していた.感染や上皮迷入,ケラトエクタジアの発生は認められなかった.C3.追加矯正追加矯正はC29眼に施行しており,追加矯正率はC2.5%であった.追加矯正に至るまでの期間は平均C13.0C±10.4カ月(3カ月.3年)であり,ほとんどの症例が術後近視化に伴う追加矯正であった.非追加矯正群の術前平均自覚球面度数はC.3.64±1.42D(+0.25D.C.8.0D),追加矯正群の術前平均自覚球面度数は.4.42±1.89D(C.1.25D.C.8.25D)であり,術前平均自覚球面度数は非追加矯正群よりも追加矯正群のほうが有意に高かった(p=0.023).非追加矯正群の術前平均自覚乱視度数はC.0.65D±0.60(0.0D.C.4.0D),追加矯正群の術前平均自覚乱視度数はC.0.72D±0.54(0.0D.C.1.75D)であり,有意な差は認められなかった(p=0.301).追加矯正の術式はPRKが14眼,CIRCLEが8眼,LASEKがC5眼,limbalCrelaxingCincisions(LRI)がC2眼であった.LASEKを施行したC1眼が術後+1.25Dと遠視化したため,LASEK術後C1年C6カ月目で遠視矯正CPRKを施行した.CIII考按今回筆者らは,過去C5年間におけるCSMILE手術の合併症および追加矯正について検討した.術中合併症に関する過去の報告と本検討の結果を表2に示す.サクションロスおよびlenticule.離不全,残存の発生率は既報と同等であった.本検討でClenticule.離不全,残存を認めたC3眼はすべて.3.0D以下の軽度近視症例であった.過去に軽度近視の場合は,中等度近視よりも作製されるClenticuleが薄くなり術中にClenticuleが裂けたり実質内に残ってしまう可能性が高くなると報告されている4).そのため本検討においても,軽度近視のため作製されたlenticuleが薄いことによりClenticule.離不全,残存が生じたと考えられる.現在当院ではC.3.0D以下の軽度近視症例に対しては,OZを大きくしCminimumClenticuleCthickness5)の設定により,lenticuleを厚くして手術を施行している.術後合併症に関する過去の報告と本検討の結果を表3に示す.DLKの発生率は既報よりも高かった.しかし,本検討のCDLK発症症例のうちのC85%がCstage1であり,全症例術後C1カ月以内に炎症は消失し経過良好であった.そのため,本検討でのCDLKは視機能に影響を与えなかったと考える.その他,感染,上皮迷入,ケラトエクタジアは既報と同等であったが,発生率が低いため今後多数例でさらなる検討が必要であると思われる.追加矯正に関する過去の報告と本検討の結果を表4に示す.追加矯正割合は既報とほぼ同等であった.また,過去に術前の近視度数が高値なほど追加矯正の割合が増えると報告されている8).本検討においても既報と同様に追加矯正群のほうが非追加矯正群よりも術前近視度数が高値であった.追加矯正の術式はCPRKがもっとも多く,ついでCCIRCLEであった.過去にCSMILE後の追加矯正の精度はCPRKなどのCsurfaceablationとCCIRCLEとの間に差は認められなかったが,視力の回復速度はCCIRCLEのほうが早かったと報告されている9).しかし,CIRCLEはフラップを作製して追加矯正を行うため,LASIKと同様に術後ドライアイを惹起する可能性やフラップ作製による合併症を生じる可能性がある.当院では患者にCPRKとCCIRCLEのメリット,デメリッ(95)あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024C567表4追加矯正に関する過去の報告と本検討の結果の比較著者報告年眼数術前等価球面度数(D)追加矯正割合(%)CSiedleckietal7)C2017C1,963C.6.35±1.31C2.2CLiuetal8)C2017C524非追加矯正群.5.66±1.90追加矯正群.7.38±1.89C2.7本検討C2023C1,164C.3.99±1.50C2.5D:diopter.追加矯正の割合は既報とほぼ同等であった.トを十分説明し,患者自身に術式を選択してもらうようにしている.また,残存ベッドが十分な厚みでない場合は,安全面を考慮しCPRKのみの選択となる場合もある.SMILEはフラップを作製しないためCLASIKよりも角膜知覚神経への影響が少なく,LASIKと比べて術後ドライアイになりづらいと報告されている10).また,フラップを作製しないことにより,SMILEはCLASIKよりも角膜生体力学特性を維持できると報告されている11).過去にCLASIKの長期的な安全性に関する報告がされており12),合併症の発生率はサクションロスがC0.06.4.4%,DLKがC0.13.18.9%,上皮迷入がC0%.3.9%,感染がC0.005.0.034%,ケラトエクタジアがC0.033.0.6%と報告されている13).また,メタ解析によるとCLASIKとCSMILEは同等の安全性および有効性であると報告されている14).近年ではCSMILE術後C10年の長期的な安全性および有効性が報告されており15),今後LASIKとCSMILEで長期的な安全性および有効性の比較検討をする必要があると考える.本研究の限界点として,後ろ向き研究のため術後経過観察中のドロップアウト症例があり,長期経過を追えていない症例がある点である.また,SMILE術後のドライアイの統一した評価ができていないため,SMILEによってどの程度ドライアイが発生したかが不明であった.結論として,SMILE手術は海外における既報と同様に重篤な合併症の発生率は低く,安全な手術であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MoshirfarM,McCaugheyMV,ReinsteinDZetal:Small-incisionClenticuleCextraction.CJCCataractCRefractCSurgC41:C652-665,C20152)KamiyaCK,CTakahashiCM,CNakamuraCTCetal:ACmulti-centerstudyonearlyoutcomesofsmall-incisionlenticuleextractionformyopia.SciRepC9:4067,C20193)WangY,MaJ,ZhangJetal:Incidenceandmanagement568あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024ofintraoperativecomplicationsduringsmall-incisionlenti-culeextractionin3004cases.JCataractRefractSurg43:C796-802,C20174)JacobCS,CAgarwalCA,CMazzottaCCCetal:SequentialCseg-mentalterminallenticularside-cutdissectionforsafeande.ectiveCsmall-incisionClenticuleCextractionCinCthinClenti-cules.JCataractRefractSurgC43:443-448,C20175)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKeidelCLCetal:VariationCofClenticuleCthicknessCforCSMILECinClowCmyopia.CJCRefractCSurgC34:C453-459,C20186)WangY,MaJ,ZhangLetal:Postoperativecornealcom-plicationsinsmallincisionlenticuleextraction:long-termstudy.JRefractSurgC35:146-152,C20197)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:EnhancementCafterCmyopicCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)usingCsurfaceablation.JRefractSurgC33:513-518,C20178)LiuYC,RosmanM,MehtaJS:Enhancementaftersmall-incisionClenticuleextraction:incidence,CriskCfactors,CandCoutcomes.OphthalmologyC124:813-821,C20179)SiedleckiCJ,CSiedleckiCM,CLuftCNCetal:SurfaceCablationCversusCIRCLEformyopicenhancementafterSMILE:amatchedCcomparativeCstudy.CJCRefractCSurgC35:294-300,C201910)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondlaser-assistedinsitukeratomileusis:ameta-anal-ysis.IntJOphthalmolC10:632-638,C201711)GuoH,Hosseini-MoghaddamSM,HodgeW:Cornealbio-mechanicalpropertiesafterSMILEversusFLEX,LASIK,LASEK,orPRK:asystematicreviewandmeta-analysis.BMCOphthalmolC19:167,C201912)AlioJL,SoriaF,AbboudaAetal:Laserinsitukeratomi-leusisCforC.6.00CtoC.18.00CdioptersCofCmyopiaCandCupCtoC.5.00dioptersofastigmatism:15-yearfollow-up.JCata-ractRefractSurgC41:33-40,C201513)SahayCP,CBafnaCRK,CReddyCJCCetal:ComplicationsCofClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis.CIndianCJCOphthalmolC69:1658-1669,C202114)ZhangY,ShenQ,JiaYetal:ClinicaloutcomesofSMILEandCFS-LASIKCusedCtoCtreatmyopia:aCmeta-analysis.CJRefractSurgC32:256-265,C201615)BlumM,LauerAS,KunertKSetal:10-YearResultsofSmallCIncisionCLenticuleCExtraction.CJCRefractCSurgC35:C618-623,C2019(96)

硝子体手術のワンポイントアドバイス:252.糖尿病黄斑浮腫の成因(研究編)

2024年5月31日 金曜日

252糖尿病黄斑浮腫の成因(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)をはじめとする網膜浮腫は,黄斑部に好発する.網膜浮腫は一般に血管透過性亢進によって生じるが,なぜ無血管である中心窩に浮腫が生じやすいのであろうか.筆者らはサル眼を用いた研究で,中心窩には神経幹細胞様の未分化な細胞群が存在する可能性を報告した1).C●DMEとヒアルロン酸DMEの成因として,ヒアルロン酸という分子に着目した.幼若な組織にはヒアルロン酸が多く,組織幹細胞や癌幹細胞はヒアルロン酸を産生することが報告されている2).また,ヒアルロンは,親水性で保水作用があることが知られている.そこで筆者らは,培養CMuller細胞を用いてヒアルロン酸結合蛋白の発現を調べた.bFGFおよびインスリンで培養CMuller細胞を脱分化させると,ヒアルロン酸結合蛋白の一つであるCCD44の発現が増加した(図1)3).増殖糖尿病網膜症の硝子体中にはCbFGFやインスリンと受容体を共有するCIGF-1などのサイトカイン濃度が上昇することが知られているが,これらのサイトカインが中心窩に存在する神経幹細胞様の細胞群をより未分化な状態にし,CD44の発現を高めることで中心窩にヒアルロン酸が蓄積する.その結果としてヒアルロン酸が周囲から水を引き寄せ,黄斑浮腫が生じる可能性が考えられる(図2a,b)4).ヒアルロン酸は保水作用に加えて,脂質の特徴である疎水領域も有し,脂質と複合体を形成することが知られている5).硬性白斑の主成分はリポ蛋白なので,中心窩で産生が増加したヒアルロン酸が脂質と複合体を形成し,これが中心窩に集積するために硬性白斑の中心窩集積が生じるのではないかと考えられる(図2c).DMEの新治療として,ヒアルロン酸合成酵素阻害薬などヒアルロン酸をターゲットとした治療法の可能性が考えられる.(85)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1Muller細胞におけるヒアルロン酸結合蛋白(CD44)の発現bFGFとインスリンを培養上清中に添加することで,培養CMuller細胞を脱分化させるとCD44の発現が増加した.(文献C3より引用)図2DMEと中心窩硬性白斑集積の発症機序中心窩におけるヒアルロン酸結合蛋白の発現に増加により,ヒアルロン酸が増加し周囲から水が引き寄せられてDMEが生じる(a,b).またヒアルロン酸の疎水部分と脂質が複合体を形成することで,中心窩に硬性白斑が集積する(c).(文献C4より引用)文献1)IkedaCT,CNakamuraCK,COkuCHCetal:ImmunohistologicalCstudyofmonkeyfovealretina.SciRepC9:5258,C20192)KosakiR,WatanabeK,YamaguchiY:OverproductionofhyaluronanCbyCexpressionCofCtheChyaluronanCsynthaseCHas2CenhancesCanchorage-independentCgrowthCandCtumorigenicity.CancerResC59:1141-1145,C19993)HosokiA,OkuH,HorieTetal:Changesinexpressionofnestin,CD44,vascularendothelialgrowthfactor,andglu-tamineCsynthetaseCbyCmatureCMullerCcellsCafterCdedi.erentiation.CJCOculCPharmacolCTherC31:476-481,C20154)池田恒彦,奥英弘,杉山哲也ほか:糖尿病網膜症の病態と治療臨床と基礎研究の接点.あたらしい眼科C36:757-770,C20195)VijayagopalCP,CSrinivasanCSR,CRadhakrishnamurthyCBCetal:Lipoprotein-proteoglycanCcomplexesCfromCatheroscle-roticClesionsCpromoteCcholesterylCesterCaccumulationCinChumanCmonocytes/macrophages.CArteriosclerCThrombC12:237-249,C1992あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024557

考える手術:29.脈絡膜下血腫へのドレナージ法

2024年5月31日 金曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅脈絡膜下血腫へのドレナージ法岩瀬剛秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座脈絡膜下血腫はまれで,おもに眼内手術中や術後に発生するほか,外傷によっても発生する.周術期の低眼圧脈絡膜下血腫の包括的な要因は低眼圧であり,低眼圧により長・短後毛様体動脈が破綻し,脈絡膜と強膜の間の空間に出血が起こる.術中に脈絡膜下血腫が生じた場合には,さらなる出血とその後の眼内内容物の排出を防ぐために,すべての切開部の閉鎖を行うなどして眼圧の上昇・維持することが必要である.術後の場合も含めて眼圧を維持して脈絡膜下血腫のドレナージを行う.脈絡膜下血腫のドレナージ法としては,強膜切開を3~4mmは抜き,角膜輪部から4.0mm程度の位置を選択し,ベベルアップで強膜に対して接線方向に挿入する.脈絡膜血腫は受動的に排液され,その際にシリンジ内に血液が流入するのが観察できる.また,術後の駆出性出血に対しても有効な場合がある.血腫のドレナージを終えたら,針を抜去するのみで縫合の必要はない.この手法は結膜や強膜の切開を行うこともなく簡便にできるので,いずれの時期においてもまず試みてもよい方法と考えられる.聞き手:脈絡膜下血腫はどのような場合に起きるので圧です.低眼圧により,長・短後毛様体動脈が破綻し,しょうか?脈絡膜と強膜の間の空間に出血が起こります.ただし直岩瀬:脈絡膜下血腫は比較的まれではありますが,大き接の原因として,毛様動脈に既存の損傷がありストレスく分けると眼内手術中あるいは術後に発生する場合と,時に破綻しやすくなるのか,あるいは低眼圧により脈絡外傷により発生する場合があります.眼球破裂などで生膜液貯留が著しくなり動脈が引き伸ばされて破綻するのじる外傷性の脈絡膜下血腫では,脈絡膜そのものが損傷かということについては議論の余地があります.していることから血腫の性状が周術期のものとは異なりますので,別個の疾患と考えるべきです.今回は周術期聞き手:脈絡膜下血腫が生じた場合の対処法について教に発生する脈絡膜下血腫のドレナージについて述べます.えてください.岩瀬:術中に脈絡膜下血腫が生じた場合の最初の対応と聞き手:周術期の脈絡膜下血腫の発症機序はどのようなしては,さらなる出血とその後の眼内内容物の排出を防ものですか?ぐために,眼圧の上昇・維持することが必要です.すな岩瀬:いくつかの説がありますが,包括的な要因は低眼わち,直接圧迫による即時タンポナーデ,あるいはすべ(83)あたらしい眼科Vol.41,No.5,20245550910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術ての切開部の閉鎖をまず行います.その後に脈絡膜下血腫の排液について考えます.閉創し眼圧が上昇した段階で,脈絡膜下血腫が軽度で周辺部に限局している場合には経過観察とし,術後に再手術などを考慮してもよいと考えます.聞き手:脈絡膜下血腫のドレナージ法にはどのようなものがありますか?岩瀬:以前から行われてきた方法は,強膜切開を行い,血腫を排出するものです.脈絡膜下血腫の丈の高い象限で,角膜輪部から約8mm後方で3~4mm幅に子午線方向に強膜切開を行う方法です.血腫の排出を促進させるために,強膜切開の断端で軽く圧迫してもいいでしょう.1カ所のみの強膜切開で十分に血腫を排出できない場合には,血腫が残存している別の象限からの排出を試みてもよいです.切開創が大きいので,血腫が多少凝血している場合にも直視下で排出できるので,侵襲は大きいですが血腫を排出できる確率は他の手技よりも高いと考えられます.他の方法で排出ができない場合には最後に試みてもよいと考えます.聞き手:現在は別の方法が用いられるのですね?岩瀬:他の方法としては,経結膜的硝子体トロッカールによるドレナージがあります.Closurebulb付きトロッカールでは,鉗子でバルブを開き,排液します.とくにトロッカール刺入時に,トロッカールの刃先が網膜色素上皮や網膜に接触したり刺入したりしないように注意する必要があります.そのような合併症を避けるために,血腫の丈が十分に高い象限でかなり斜めに刺入することが望ましいです.もっとも簡便な方法は,1ccのツベルクリン注射器と27ゲージ針を用いた方法です(図1).この手技はとくに術中に生じた,あるいは既存の脈絡膜.離に対して有用な方法です.脈絡膜下血腫が溶血している場合にも有用です.具体的には,1ccの注射器に27ゲージ針を装着し内筒は抜きます.前房メンテナーなどを用いて一定以上に眼圧を上昇・維持しておきます.眼圧排液部位として,脈絡膜.離のある象限で角膜輪部から4.0mm程度の位置を選択します.27ゲージ針をベベルアップで強膜に対して接線方向に挿入していくと,脈絡膜血腫を受動的に排液することができます.術者は排液の際にシリンジ内に血液が入ってくるのを観察できます.術後の駆出性出血に対しても行うことができます.血腫のドレナージを終えたら,針を抜去するのみで縫合は必要ありません.聞き手:ドレナージを行ううえで注意すべき点は何でしょうか?岩瀬:いずれのドレナージ方法においても,前房メンテナーなどを用いて眼圧を適切に維持しながらドレナージを行うことが重要です.発症機序自体に低眼圧が関与していますので,ドレナージを行っている間も低眼圧にならないようにすることが重要です.また硝子体内に灌流針を挿入すると,その先端の観察が困難であり,場合により毛様体あるいは脈絡膜下に灌流液が迷入する可能性があるので,前房内に挿入したほうが,トラブルが少ないです.聞き手:ドレナージの時期はいつがよいのでしょうか?岩瀬:まだ議論の余地がありますが,最初の36時間以内にドレナージを行うと血腫が再貯留することなく排出に成功するという報告がある一方で,7~14日後に行うと溶血が起こり血腫の排液がより完全になるとの報告もあります.今回紹介した27ゲージ針を用いた手技は,結膜や強膜の切開を行うことなく,外来でも行うことができるものですので,いずれの時期においても,まず試みてもよい方法と考えます.図127ゲージ針によるドレナージ法a:1ccツベルクリン注射器.内筒は抜いて,27ゲージ針を装着する.b:脈絡膜.離のある症例で,脈絡膜.離のある象限に27ゲージ針を刺入している.c:脈絡膜血腫を受動的に排液している.556あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024(84)

抗VEGF治療セミナー:糖尿病黄斑浮腫治療におけるファリシマブの利点

2024年5月31日 金曜日

●連載◯143監修=安川力五味文123糖尿病黄斑浮腫治療における齊藤千真群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学ファリシマブの利点ファリシマブはアンジオポエチン-2およびCVEGFの両方を阻害することで,糖尿病黄斑浮腫に対して高い浮腫抑止効果を示し,投与間隔の延長を期待できる薬剤である.また,血中への移行が少ない抗体設計のため,全身への影響が少なく,全身合併症を伴うことの多い糖尿病患者でも比較的安全な薬剤である.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は糖尿病患者において,視力障害をもたらす重篤な疾患である.中心窩を含むCDMEに対する治療としては,現在,抗CVEGF薬硝子体内注射が第一選択となっている.日本ではCDMEに対する抗CVEGF薬としてC2014年にラニビズマブおよびアフリベルセプトが使用可能となった.そして,2022年に新たな抗CVEGF薬としてファリシマブおよびブロルシズマブが使用可能となり,今後はそれぞれの薬剤特性を生かした使い分けが重要である.ファリシマブの作用機序ファリシマブはCVEGF-Aおよびアンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2に対するヒト化二重特異性モノクローナルCIgG抗体であり,眼科初のバイスペシフィック抗体である.正常な血管ではCAng-1とCtyrosineCkinaseCwithCimmunoglobulinCandCepidermalCgrowthCfactorChomologydomains(Tie)2受容体が結合することで,血管安定性と恒常性が保たれている.しかし,糖尿病患者ではCAng-2が眼内で上昇し,Ang-2がCAng-1とTie-2受容体の結合を阻害し,血管を不安定化することで漏出や血管新生が生じる.ファリシマブはCVEGFとともにCAng-2の作用を抑制することで,Ang-1がTie2受容体と結合することが可能となり,血管の安定化をもたらし,高い浮腫抑制作用をもたらすと考えられている.CDMEに対するファリシマブの有効性DMEに対するファリシマブの有効性は,国際共同第III相試験であるCYOSEMITE試験およびCRHINE試験1)で示されている.ファリシマブC8週ごと投与群(ファリ(81)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYシマブCQ8W群)と個別化治療群(ファリシマブCT&E群)はアフリベルセプトC8週ごと投与群(アフリベルセプトCQ8W群)と比較して,1年目およびC2年目において視力改善量は非劣性であることが示された.YOSEM-ITE試験とCRHINE試験を合わせた解析では,2年目の平均中心領域網膜厚(centralsub.eldthickness:CST)減少量はファリシマブCQ8W群とファリシマブCT&E群は,アフリベルセプトCQ8W群と比較して大きかった.2年目において,ファリシマブCT&E群はCYOSEMITE試験,RHINE試験ともにC78%の患者がC12週以上の投与間隔を達成し,16週間隔投与を達成した患者はそれぞれC60%,64%であった.2年時点での網膜内浮腫の消失比率は,ファリシマブCQ8W群がC57~63%,ファリシマブCT&E群がC44~48%に対し,アフリベルセプトCQ8W群はC36~41%であり,アフリベルセプト投与群に比べて,ファリシマブ投与群の方が多かった.以上より,ファリシマブは浮腫抑制効果が高く,視力を維持したまま投与間隔の延長が期待できる薬剤である可能性が示唆された.ファリシマブの安全性DMEでは抗CVEGF薬による全身合併症のリスクに注意が必要である.アフリベルセプトやブロルシズマブでは投与後C28日でも血中CVEGF-A濃度は低下しており,全身の抗CVEGF抑制作用による心血管イベントのリスクが懸念される.メタ解析では,DME患者では抗VEGF薬注射回数がC5回を超えると死亡率が増加することが報告されている2).ファリシマブはCFc領域の改変により,血液中への抗体移行の抑制による全身暴露量の低下や,抗体依存性細胞障害/貪食による炎症誘発の抑制がもたらされており,安全性の高い設計がなされている.全身への副作用の観点からすると,脳卒中や心疾あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024553図1DMEに対するファリシマブ導入期治療例59歳,男性.近医にて両眼CDMEに対してグリッドレーザー治療後も浮腫改善なく,当科紹介受診.治療前:右眼視力(0.6).増殖性糖尿病網膜症に対して汎網膜光凝固術歴あり.中心窩を含む網膜内浮腫と漿液性網膜.離がみられる.治療後:右眼視力(0.7).ファリシマブ硝子体内注射をC4週ごと連続C3回の導入期治療を行い,網膜内浮腫と漿液性網膜.離は消失している.光干渉断層計のCMAP画像でも,網膜肥厚範囲が縮小している.患の既往が多い糖尿病患者に対するファリシマブの使用は,他の抗CVEGF薬と比較し利点がある.毛細血管瘤への効果毛細血管瘤(microaneurysm:MA)はCDMEに対する抗CVEGF療法不応例の危険因子である.ファリシマブはCAng-2阻害による血管安定化作用があるため,DMEではCMAの減少効果が期待されている.高村らは,DMEに対するファリシマブ導入期治療後のCMA減少率をC59.3C±18.3%と報告している3).アフリベルセプトの既報ではC50.4C±21.2%であるので,ファリシマブは他の抗CVEGF薬と比較して高いCMA減少効果が得られる可能性がある.MAを有するCDMEに対して,ファリシマブは他の抗CVEGF薬よりも有効であることが期待され,さらなる検証が必要である.文献1)WongTY,HaskovaZ,AsikKetal:Faricimabtreat-and-extendCforCdiabeticCmacularedema:2-yearCresultsCfromCtheCrandomizedCphaseC3CYOSEMITECandCRHINECtrials.COphthalmologyC2023.doi:10.1016/j.ophtha.2023.12.026.COnlineaheadofprint2)ReibaldiCM,CFallicoCM,CAvitabileCTCetal:FrequencyCofCintravitrealCanti-VEGFCinjectionsCandCriskCofdeath:ACsystematicCreviewCwithCmeta-analysis.COphthalmolCRetinaC6:369-376,C20223)TakamuraCY,CYamadaCY,CMoriokaCMCetal:TurnoverCofCmicroaneurysmsCafterCintravitrealCinjectionsCofCfaricimabCfordiabeticmacularedema.InvestOpthalmolVisSciC64:C31,C2023C554あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024(82)

緑内障セミナー:緑内障患者の両側視野測定

2024年5月31日 金曜日

RV=(1.2)症例1MD-26.15dBRV=(1.2)MD-26.79dB症例2●連載◯287監修=福地健郎中野匡287.緑内障患者の両側視野測定庄司拓平埼玉医科大学医学部眼科学教室Humphrey視野計を代表とする自動静的視野計で行うC6°間隔の視野検査は,現在の緑内障診療における視野感度検査のゴールドスタンダードである.この検査では,片眼ずつの眼を評価するために非検査眼を遮蔽する必要があった.近年,両眼開放下でも視野検査ができる機器が登場した.両眼開放の条件はより日常環境に近い.両眼開放下と片眼遮蔽下では,視野検査結果に相違があることが判明してきたので,本稿で紹介する.●はじめにHumphrey視野計を代表とする自動静的視野計は,視野機能を定量的に評価する検査として,1990年代より約C30年にわたり緑内障性視野障害の診断・管理を行うゴールドスタンダードして君臨してきた.現在では緑内障の診断および進行評価には欠かせない検査となっている.しかし,視野機能評価の標準となっている自動視野計ではあるが,いくつか改善すべき点も指摘されている.たとえば,一般的な検査方法であるC6°間隔の指標では固視点近傍の早期緑内障性視野障害を見逃しやすいことや,片眼遮蔽下での測定方法では,日常生活での見え方を正しく反映していない可能性がある.普段の日常生活環境下では,両眼開放で生活している.片眼遮蔽条件下で行う視野検査の結果を合成したCintegratedCvisual.eldという評価方法も存在するが,片眼ずつの視野検査結果の合成が,両眼開放視野検査と同一の結果が得られるかについては議論の余地がある.筆者らは,非検査眼の背景光の条件が検査眼の結果に影響を及ぼすことを報告した1).C●片眼測定結果だけでは患者の訴えを理解できないことがある図1はあるC2名の患者の視野検査結果を示している.両症例とも末期緑内障患者であるが,矯正視力(1.2)と良好であった.症例C1のほうは見づらさを強く訴える一方で,症例C2のほうは何の不自由も訴えていなかった.実際には,このC2人の患者の僚眼の視野はまったく異なっていた.片眼の視野測定結果だけでは,2人の患者の訴えの乖離を説明するのは困難である.視機能を評価す(79)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYMD-29.79dBMD-21.42dB左眼HFA24-2右眼HFA24-2右眼HFA10-2図1右眼は似たような経過を示した緑内障患者2症例の視野検査結果る際には医療者も僚眼の状態にも配慮する必要がある.C●両眼開放下で行える視野計の登場近年,国内で開発された新しい視野計であるCimoは,両眼開放下での視野計測が可能である2).imoはさらに据え置き型に特化した次世代機であるCimovifa(海外ではCtempoという名称で市販)が発表されている(図2).筆者らは両眼に視野異常をもつ緑内障患者に対して,視野障害が軽度の眼をCbettereye,重症な眼をCworseeyeとして,片眼遮蔽してそれぞれの視野感度を測定した場合と,両眼開放下で視野感度を測定した場合の相違についてCimoを用いて比較した3).この研究ではC51名の開放隅角緑内障の患者を対象に,従来の視野検査と同様に片眼遮蔽下で行った視野検査と両眼開放下で行った視野検査結果を比較した.結果として,両眼開放下で行った視野感度は,bettereyeではより感度が高く計測された半面,worseeyeでは,逆に感あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024551図2imo(a)とimovifa(b)の外観imoはヘッドマウント型の視野計として開発された.imovifaは省スペースの据え置き型モデルとして販売されている.眼底写真Humphrey視野計ImoR視野計24-210-2僚眼遮蔽両眼開放14252830視野良好眼2030矯正視力(1.2)25283030MD,-3.08dBMD,-3.2dBMS,24.4dBMS,29.6dB視野不良眼0000矯正視力(0.5)2418160160MD,-24.5dBMD,-28.3dBMS,17.6dBMS,13.2dB図3両眼開放と僚眼遮蔽で異なる視野感度を示した1例視野良好眼では両眼開放時のほうが中心視野感度は良好であった(29.6dB)が,視野不良眼では両眼開放時のほうが中心視野感度は不良であった(13.2dB).度が低く計測された(図3).このことは,片眼遮蔽時とは異なり,両眼開放時にはよりCbettereyeに依存して活動しており,bettereyeはより感度が高くなる一方で,worseeyeでは感度が低く計測されるようである.このことは日常臨床においても,worseeyeの視力や中心視野感度が保たれているにもかかわらず,患者が「こちらの眼はほとんど見えない」と訴える場面に遭遇することに合致する.C●日常視に近い環境下で視野検査を行うことは重要である日常生活では,片眼を遮蔽する機会は少なく,片眼ごとの視機能を評価し,それぞれの眼の状態を評価することが重要であることは論をまたない.一方で,日常視に近い環境で視機能を評価し,患者の視覚の質(qualityC552あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024(文献C3より一部改変)Cofvision)や見え方を計測することもまた重要である.両眼開放下での視野検査を加えることによって,現在の標準的な視野検査よりも,今後はより患者の日常生活に即した視機能を評価することが可能になるかもしれない.文献1)MineCI,CShojiCT,CKumagaiCTCetal:VisualC.eldCsensitivityCwithandwithoutbackgroundlightgiventothenontestedfelloweyeinglaucomapatients.JGlaucomaC30:537-544,C20212)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20163)KumagaiCT,CShojiCT,CYoshikawaCYCetal:ComparisonCofCcentralCvisualCsensitivityCbetweenCmonocularCandCbinocu-larCtestingCinCadvancedCglaucomaCpatientsCusingCimoCperimetry.BrJOphthalmoll104:1258-1534,C2020(80)

屈折矯正手術セミナー:SMILEの現状と課題

2024年5月31日 金曜日

●連載◯288監修=稗田牧神谷和孝288.SMILEの現状と課題中村友昭名古屋アイクリニックSMILEはフェムトセカンドレーザーで角膜実質を光切断して切片を作製し,2Cmmの創口からこれを抜き取って屈折矯正をする最新の技術である.わが国ではC2023年に認可されたが,世界ではC2008年に開始されてからすでにC800万眼以上の実績がある.ドライアイになりにくく,生体力学特性も保たれる.まだ課題はあるものの,後継となる新機種のフェムトセカンドレーザーにより改善が期待できる.●はじめに屈折矯正手術はCradialkeratotomy(RK)で幕を開け,その後エキシマレーザーの開発によりCphotorefractivekeratectomy(PRK),そしてClaserCinCsituCkeratomileu-sis(LASIK)へと発展してきた.そしてさらなる進化としてCsmallCincisionCfemtosecondClenticuleCextraction(SMILE)が登場した.SMILEはフェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser:FS)を使用して角膜内を光切断し,角膜実質を一体(レンチクル)として抜き取り屈折矯正を行う技術である(図1,2).米国に続きC2023年C3月にわが国でもSMILEが認可されたが,世界に目を向けるとC80カ国でSMILEが行われ,現在までにC800万眼の手術がなされたといわれている.2022年には全屈折矯正手術のC46%がCSMILEとなり,laserCvisioncorrection(LVC)においてはCLASIKの施行数を大幅に上回った.今後もその比率は高まってくると思われる.C●SMILEの成績SMILEに関してはこれまでC800編以上の報告があり,長期成績も報告されるようになった.Blumらによる報告では,10年間で近視への戻りも平均.0.35Dと少なく,裸眼視力C0.8以上が約C80%で,長期合併症もとくになかったとされている1).筆者の施設でのC5年経過したC44名C66眼の成績を示す.平均等価球面度数は.0.06Dとほぼ正視を保ち,全例屈折誤差は±1.0D未満であった.裸眼視力C1.45,矯正視力C1.64であった.2段階以上矯正視力が低下したものはなく,安全係数,有効係数はそれぞれC1.09±0.16,C0.99±0.22とC5年経っても非常に良好であった(図3,4).また,長期合併症も認めなかった.SMILEの利点として,LASIKのようにフラップを作らないため,角膜強度が保たれることがあげられる.角膜の生体力学特性に関して,ocularCresponseanalyzerやCorvisを使用して検討したメタ解析の結果,SMILEはLASIKに比べ有意に強度が強いことが報告されている2).さらなる利点として,角膜知覚神経へのダメージが少ないことによりドライアイになりにくいことがあげられるが,LASIKと比較し,症状,BUT,角膜知覚,角膜神経密度に関してCSMILEが有意に優れているというメタ解析の結果が報告されている3).さて,有水晶体眼内レンズであるCimplantablecollam-erlens(ICL)との比較は数多く報告されているが,Chenらによると,中等度から高度の近視に対して図1SMILE最小C2Cmmの創口からフェムトセカンドレーザーで光切断した角膜実質を抜き取って屈折矯正を行う.図2VisuMax(CarlZeissMeditec社製)LASIKのフラップ作製用としてすでに認可されていたが,2023年C3月にCSMILE手術に対しての承認がなされた.(77)あたらしい眼科Vol.41,No.5,20245490910-1810/24/\100/頁/JCOPY*50-0.440logMAR(少数視力)10症例数2011.202段階低下1段階低下不変1段階向上2段階向上■術後1年■術後5年図4矯正視力の変化術前術後1年術後5年図3裸眼視力の推移若干の低下はみられるものの,5年経過時も平均裸眼視力はC1.45と良好であった.図5VisuMax800後継機種であるCVisuMax800は,照射スピードがC2CMHzと従来機種のC4倍速くなり,レーザー照射時間も約C10秒で完了,サイクロトーションとともに照射中心補正も可能となるため,視機能とともに乱視矯正の精度が向上すると思われる.SMILEとCICLはともに安全かつ有効であったが,最強度の近視に対しては,術後早期においてはCICLのほうが視機能的に優位であったと報告されている4).C●SMILEの課題これまでCSMILEの利点について述べてきたが,SMILEはすべてにおいてCLASIKより優れているかというとそうではなく,まだ発展途上の技術と考えている.LASIKとの比較は多くなされているが,ChiangらによるとCLASIKはCSMILEと比較し視力の回復が早く,低コントラストでの視力も良好であったと報告されている5).また,乱視矯正効果も現時点ではCLASIKに軍配が上がる.Zhouらによると,2.0D以上の強い乱視に対して,サイクロトーションを補正したCFS-LASIKはCSMILEC550あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024不変かC1段階向上するものがほとんどで,2段階以上矯正視力が低下するものはなかった.と比較して良好な矯正効果を示したと報告している6).新しいCFSであるCVisuMax800は照射スピードがC4倍速くなり,サイクロトーションとともに照射中心補正も可能となるため,今後はさらなる精度向上が期待できるであろう(図5).C●おわりに屈折矯正手術はCICLやCSMILEなど低侵襲のものが主流になってきており,これは眼科における他分野の手術と同様である.今後もCICLを代表とするCphakicIOLと,LVCではCSMILEを中心に屈折矯正手術が行われていくと思われる.文献1)BlumCM,CLauerCAS,CSekundoCWCetal:10-yearCresultsCofCsmallincisionlenticuleextraction.JRefractSurgC35:618-623,C20192)GuoH,Hosseini-MoghaddamSM,HodgeW:Cornealbio-mechanicalpropertiesafterSMILEversusFLEX,LASIK,LASEK,orPRK:asystematicreviewandmeta-analysis.BMCOphthalmolC19:167,C20193)KobashiCH,CKamiyaCK,CShimizuCKCetal:EyeCafterCsmallCincisionClenticuleCextractionCandCfemtosecondClaser.assist-edLASIK:Meta-analysis.Cornea36:85-91,C20174)ChenD,ZhaoX,ChouYetal:Comparisonofvisualout-comesCandCopticalCqualityCofCfemtosecondClaserCassistedCSMILECandCVisianCimplantableCcollamerlens(ICLV4c)Cimplantationformoderatetohighmyopia:Ameta-analy-sis.JRefractSurg38:332-338,C20225)ChiangCB,CValerioCGS,CMancheEE:Prospective,Crandom-izedCcontralateralCeyeCcomparisonCofCwavefront-guidedClaserCinCsituCkeratomileusisCandCsmallCincisionClenticuleCextractionCrefractiveCsurgeries.CAmCJCOphthalmolC237:C211-220,C20226)ZhouJ,GuW,GaoYetal:Vectoranalysisofhighastig-matism(C.2.0diopters)correctionaftersmall-incisionlen-ticuleextractionwithstringentheadpositioningandfem-tosecondClaser-assistedClaserCinCsituCkeratomileusisCwithCcompensationCofCcyclotorsion.CBMCCOphthalmologyC22:C157,C2022(78)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの素材やデザインによる眼の解剖学的・生理学的影響

2024年5月31日 金曜日

■オフテクス提供■5.コンタクトレンズの素材やデザインによる土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子眼の解剖学的・生理学的影響聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactLensEvidence-BasedAcademicReports(CLEAR)”の第4章は,コンタクトレンズ(CL)の素材やデザインによる眼への生理学的・解剖学的な影響について解説されている.眼瞼と付属器瞬目には,無意識で自発的なものと,外部刺激による反射性のものと,意識的なものがある.このうち,自発的な瞬目はCL装用により頻度が増加することがある.不完全な瞬目はドライアイや涙液安定性に影響を及ぼす可能性がある.CL装用者の眼瞼下垂は,とくにハードCL(HCL)装用者ではレンズ着脱時の過度な眼瞼の物理的操作によってリスクが増加する.CLの種類変更で対処可能なことが多いが,解消されない場合は手術を要する場合がある.CL装用によるマイボーム腺の構造や機能への影響は機械的ダメージや慢性刺激などが原因である可能性が指摘されているが,レンズの種類や装用期間による影響は明らかでない.結膜結膜充血の原因にレンズによる機械的刺激,レンズ表面の沈着物,低酸素状態,涙液変化,ケア剤,眼の衛生状態悪化などがあげられ,いずれも眼表面の炎症を惹起する可能性がある.レンズ装用歴や充血に関する問診が重要で,レンズの種類やスペック変更,装用スケジュールやレンズケアの見直し,環境改善,レンズケア剤の変更,衛生状態の改善などを行う.フルオレセイン,リサミングリーン,ローズベンガルによる結膜の染色は,レンズ辺縁部のデザインやレンズの硬度が重要な要因であり,通常,無症状で充血を伴わない場合が多い.ローズベンガルは点眼時の刺激が強い.1995年に初めてその概念が登場したlid-parallelcon-junctivalfolds(LIPCOF)は眼瞼と平行に眼球結膜表面に発生する小さな折り目で,とくに下眼瞼の縁と角膜の周辺にみられるが,結膜弛緩症や結膜フラップとは異なる.LIPCOFは涙膜の不足による摩擦増加と瞬目時にかかる力が原因とされ,とくにドライアイ症状やCL装用者の不快感と関連しており,治療には,レンズの水濡れ性改善や人工涙液などが有効とされている.(75)Sub-clinicalin.ammatoryresponse(ここでは無症候性炎症反応と訳す)は,臨床的に顕著な症状がみられないが,生物学的な指標や検査によって炎症の存在が示唆される反応や状態をいい,患者が自覚症状をもたないか,または非常に軽微な症状しかもたないにもかかわらず,炎症反応が体内で起きている状態をいう.CL装用関連では,レンズと眼表面の相互作用,低酸素状態,涙膜の変化などに起因し,結膜充血として観察される.CL装用により,免疫反応に関与する樹状細胞がとくに角膜辺縁部で高密度となる.眼瞼結膜への影響として結膜乳頭増殖,摩擦や不十分な潤滑が原因のlidwiperepitheliopathy,CL装用時不快感と,眼瞼縁の樹状細胞数の増加などとの関連が指摘されている.CL装用に伴う眼瞼や結膜の知覚変化についての研究は少なく,HCLや低酸素透過率のソフトCL(SCL)の装用者では感度が低下するが,SCL装用者では有症状患者で感度が増加するとの報告もある.角膜上皮・実質CL装用者の角膜上皮染色像は54%で認めた.また,レンズエッジと角膜表面との機械的相互作用により,さまざまな程度の角膜染色が生じることがある.SCL装用による角膜知覚低下と,有症状のレンズ装用者で知覚過敏が報告されている.HCL・SCL両方の装用者で見られるもっとも一般的な角膜染色は乾燥によるもので,涙液層がもっとも薄いか不安定な場所で発生し,SCLでは下眼瞼に平行なスマイルマーク型の染色がみられる.乾燥による染色は瞬目不全が一般的で,瞬目の最下部に出現する.低~中程度の乾燥による角膜染色は,瞬目改善,点眼による湿潤,装用時間短縮や,保水性の素材への変更によって軽減される.HCLの3時-9時ステイニングは同部角膜の上の涙液不安定性が要因で,レンズデザイン変更などにより軽減される.角膜上皮擦過傷は通常,1時間あたり1mm2以上の速度で治癒する.SCLの多目的用剤(multipurposesolution:MPS)のあたらしい眼科Vol.41,No.5,20245470910-1810/24/\100/頁/JCOPY副作用として,溶液誘発性角膜染色があり,通常低グレードであるが,重症の場合はCL装用時快適性低下や浸潤発生が生じることがある.その重症度はSCLとMPSの組み合わせによって異なり,レンズ装用後2時間で最大に達したのち,減少する.低酸素状態は角膜上皮の代謝率の低下,基底細胞の分裂減少,細胞の肥大化と寿命の延長,角膜上皮の菲薄化,乳酸蓄積,酸化および細菌付着増加を引き起こし,結果としてマイクロシスト,角膜新生血管,角膜知覚低下などを生じうる.角膜上皮浮腫は通常,外傷や低張環境にさらされた場合に生じる.Cornealwrinklingは薄いハイドロゲルレンズによるまれだが顕著な合併症である.使い捨てSCLの連続装用での出現率は1.7%と推定されている.上眼瞼圧によるレンズ中央部への機械的要因で蛍光色素貯留や角膜形状変化や視力低下を生じる.Cornealwarpageは,とくにHCL,PMMA,カラーCL,乱視用,就寝時装用で指摘され,角膜不正乱視,角膜形状の対称性の喪失,角膜非球面形状などの形で出現する.SCLのオーバーナイト装用が回復にもっとも時間を要し,低Dkレンズのほうが出現の可能性が高い.無症候性炎症反応は一般的で,とくに装用開始時によくみられる.SCL装用者の中心角膜での可逆的な角膜上皮樹状細胞密度上昇が指摘されている.CL装用による角膜知覚低下は,とくにHCLの場合に顕著である.PMMAやHCL装用は,装用期間に応じて角膜知覚を著しく低下させる.オルソケラトロジーレンズも同様に知覚を約50%減少させ,神経線維密度の減少や分布の変化を引き起こすが,装用を中止すると回復する.SCLでは著明な知覚低下は報告されていない.知覚低下の原因としては,レンズ下角膜の低低酸素分圧と機械的圧力や摩擦などが考えられている.CL装用による角膜の透明性低下や新生血管による視力への影響は深刻な問題である.周辺角膜の酸素不足は輪部血管拡張を引き起こし,これが新生血管形成につながる可能性が示唆されている.また,角膜実質の腫脹,ストリアしわ,ヘイズも低酸素状態に関連している.角膜実質は角膜厚の約90%を占め,透明性の維持に重要な役割を果たしている.低酸素状態では,角膜上皮細胞の嫌気的代謝による乳酸の蓄積が増え,実質浮腫を引き起こし,視力に影響を与えることがある.これらは低DkのCL装用後と閉眼時に顕著である.角膜の菲薄化もSCLの長期間の装用に関連している可能性がある.角膜内皮角膜内皮は単層の上皮細胞で形成され,角膜実質の適切な水分含有量を維持し透明性を保っている.加齢とともに細胞密度は減少し,ポリメゲチズム(細胞のサイズの一貫性が失われる現象)とプレオモルフィズム(細胞形状の変化)が増加する低酸素環境は角膜内皮にストレスを与え,細胞死を促進し,細胞密度の減少,ポリメゲチズム,プレオモルフィズムの増加を生じる可能性がある.CL装用によるベデューイング(角膜内皮に水滴や白血球が付着する現象)は,低酸素透過率レンズ着用に関連する可能性があるが,非装用者でもみられる現象である.前房内炎症性細胞の存在は,より深刻な炎症の可能性を示唆する.エンドセリアルブレブ(角膜内皮の正常なモザイクに見られる穴のような現象)は,低酸素透過率レンズの着用に関連している可能性があるが,閉瞼状態でのCL装用や,シリコーンハイドロゲルレンズでもみられることがある.CL装用による眼軸長抑制効果近視人口の増加が世界的に懸念され,2050年までに世界人口のほぼ半分が近視になると予想されている.近視の進行を1D減らすだけで近視性黄斑症のリスクが40%減少するため,小児の近視進行を遅らせることに科学的な関心が高まっている.オルソケラトロジーと多焦点SCLに軸長伸長抑制効果が示され,その機序は不明ながらも,網膜の周辺と中心網膜の光刺激の屈折差が近視進行と相関するとされている.