眼瞼形成手術のための外眼部のチェックポイントEyelidCheckpointsforBlepharoplasty村上正洋*はじめに眼瞼下垂の診療において,術前に外眼部の状態を評価することや術後に生じる変化を推測することは重要である.一般的に,眼瞼下垂の術後には瞼縁が上がるとともに眉毛が下がるため重瞼幅が狭くなる.さらに,眼瞼下垂と表裏の関係にある皮膚弛緩症が潜在的にあると,挙筋前転後にそれが顕在化し,機能的のみならず整容的にも問題を生じることがある.これらは,外眼部のチェックポイントを知り,測定結果を客観的に評価することである程度は解決できる.本稿では,眼瞼形成手術の大半を占める上眼瞼疾患において筆者が行っている外眼部の測定項目,測定方法,評価方法,活用方法について詳記する.I上眼瞼(眼瞼下垂,皮膚弛緩症)の計測上眼瞼縁瞳孔反射間距離は眼瞼下垂の診断とその程度に,眼瞼挙筋機能は下垂の原因の推測および術式の決定に利用されるが,患者の満足度を上げるには整容的改善も得なければならない.上記2項目はおもに機能評価であるため,整容面を含めた術後の外眼部の変化を十分には予想できない.以上より,筆者は独自に考案した項目も含めた7項目をチャート化して上眼瞼疾患の診療に利用してきた.II筆者が行ってきた測定項目と測定方法筆者は,一般的な測定項目である上眼瞼縁角膜反射間距離(Marginre.exdistance-1:MRD-1.以下,MRD),眼瞼挙筋機能(Levatorfunction:LF)の2項目のほかに,瞼裂高(Palpebralaperture:PA),開瞼時重瞼幅(Pretarsalshow:PTS),眉毛高(Browheight:BH),眼瞼長(Lidlength:LL),重瞼線高(Lidcrease:LC)の5項目を加えた計7項目を測定している(村上式チャート,図1~3).III7項目の関係性眼瞼下垂ではPAは小さくなるが,下眼瞼の弛緩(下眼瞼後退)があると大きくなる.PTSは大きくなり,BHやLLとも連動する.MRDは当然ながら小さくなる.LFは筆者の経験によると13mm程度が普通であり,腱膜性眼瞼下垂の多くはその前後の値を示す.ただし,腱膜が高度に変性した重症例ではみかけ上の値が低下していることもあるため,LFの低下のみで先天性や筋・神経原性の眼瞼下垂と診断できるわけではなく,前頭筋吊り上げ術の適応を意味するものではない.BHは多くの場合で大きくなる.筆者の経験では,眼瞼下垂のない若年者の値はおおよそ18mm程度である.LLは一般的には加齢現象により大きくなる.同様に,筆者の経験では若年者で25.28mm程度を示すことが多い.LCは頭側に偏位することが多く,二重瞼での一般的な位置とされる6.8mmより大きくなる.また,中年以降に生じる重瞼様の皺は13mm前後に生じることが多い.これは真の重瞼線ではないため,手術時にはその位置に*MasahiroMurakami:まぶたとヒフのクリニック千駄木プラザ形成外科,日本医科大学形成外科・眼科〔別刷請求先〕村上正洋:〒113-0022東京都文京区千駄木2-13-1ルネ千駄木プラザ2F21号まぶたとヒフのクリニック千駄木プラザ形成外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)1157RL①PA②PTS③MRD④LF⑤BH⑥LL⑦LCPA:palpebralaperture(瞼裂高)PTS:pretarsalshow(開瞼時重瞼幅)MRD:marginre.exdistance(上眼瞼縁角膜反射間距離)LF:levatorfunction(眼瞼挙筋機能)BH:browheight(眉毛高)LL:lidlength(眼瞼長)LC:lidcrease(重瞼線高)図1上眼瞼疾患で使用するチャート(村上式チャート)※筆者独自の定義であり造語も含まれる.正面視閉瞼図2測定方法①瞼裂高:正面視での上下眼瞼縁間の距離.②開瞼時重瞼幅:開瞼時の二重の幅.③上眼瞼縁角膜反射間距離:上眼瞼縁と角膜反射(瞳孔中心)の距離.④眼瞼挙筋機能:眉毛を固定した状態で上下方視したときの上眼瞼縁の移動距離.⑤眉毛高:角膜反射(瞳孔中心)と眉毛下縁の距離.⑥眼瞼長:閉瞼した状態で軽く指で眉毛を引き上げ皮膚の弛緩を取り除いた状態での上眼瞼縁と眉毛下縁の距離.⑦重瞼線高:⑥と同様の状態での上眼瞼縁と重瞼線の距離.※測定はすべての項目において角膜反射(瞳孔中心)の位置で行う(斜視がある場合は瞼裂横径の中央).RLPA5*16(7)PTS2.50↓*2MRD1.5*31(2)LF1310BH2126LL3237,36*4LC8*59,(13)*16(7):見かけ上のPAは6mmであるが,余剰皮膚をピンチすると実際のPAは7mmである状態.*20↓:二重瞼であるにもかかわらず,下垂した余剰皮膚が真の上眼瞼縁を超えている状態.一重瞼の場合はーと記載する.*31(2):見かけ上のMRDは1mmであるが,余剰皮膚をピンチすると実際のMRDは2mmである状態.*437,36:皮膚弛緩症の場合は,角膜反射(瞳孔中心)/外眼角部の2カ所を測定する.*59,(13):カッコは本来の重瞼線ではなく,加齢やハードコンタクトレンズの長期装用などで生じた皺を意味する.上眼瞼縁から13mmのところに皺がある状態.図3村上式チャートの記載方法PreOPRL①PA66.5②PTS23③MRD10.5④LF1111⑤BH2123⑥LL3535⑦LC66,(13)PreOPRLPA6.57PTS3,73,7MRD00LF1214BH2728LL41,4241,42LC6,(14)6,(13)図4チャートの評価方法の例図5チャートの活用方法の例PreOPRLPA56PTS..MRD0.51.5LF911BH2524LL3939LC..Bell++PreOPRLPA88PTS22.5MRD33LF1213BH2423LL3636LC77Bell++図6患者への数値を加えた説明の例(術前)「緑内障点眼薬による眼瞼下垂です.瞳の中心から上まぶたまでの距離が不足しています.左右差が1mmありますが,ともに中等度の下垂です.まぶたを上げる筋肉は,とくに右目でわずかに機能低下を示す値となっていますが,筋肉の動きを伝える腱膜の変性によると考えるほうが普通です.黒目の表面に傷はありませんが,涙の安定性が悪く,刺激のある目薬を使用していることもあるので,挙上の目標は控え目に右で2mm,左で1mm程度を考えています.それでも十分に見やすくなりますし,そのほうが安全です.一方,眉毛は昔より6.7mm高い位置にあり,まぶたの皮膚も10mm以上伸びています.そのため,術後に眉毛が下がると余った皮膚が睫毛を越えて垂れ下がり不自由を感じることがあります.場合によっては,別日に眉毛の下で余った皮膚を切除することになるかもしれません」図7患者への数値を加えた説明の例(術後)「術後半年が経ちましたので現状を説明します.瞳が完全に露出しており,視野は十分に確保されていると思います.当初の予定より多少大きくなりましたが,黒目の表面には傷はなく良好な状態です.また,目の大きさの左右差は解消されていますが,二重幅に若干の差があります.ただし,気になるほどではないと思います.いかがでしょうか?まぶたの動きは緩んでいた腱膜をしっかりと縫い付けられたので,ほぼ正常となりました.やはり腱膜に問題があったようです.一方,術後に眉毛が下がると予想していましたが,わずかに留まっています.そのため,余った皮膚は睫毛を越えて垂れ下がっておらず,別日に追加手術を行う必要性は少なそうです.その点は良し悪しですので,もうしばらく経過をみていきましょう」RLPA10.511.5PTS52MRD24LF1416BH2621LL3732LC(11)7若手医師指導医術式は挙筋前転でよいと思うけど,BHが26mmだから,術後に眉毛が下がると,LLが37mmなので皮膚弛緩症が生じるよね?そうなると,皮膚をたくさん切除したくなるけど,左右のLL,LCから考えると瞼縁より7mmの高さで皮膚切除は最大で5mmになるね.それと,PAの差が1mmなのにMRDの差は2mmなのは,きっと右に下三白眼があるということだよね!外眥靭帯が緩んでいると挙上の調整に苦労するかもね?ところでLLの左右差が5mmというのは不自然だと思わなかった?若手医師指導医図8チャートを使った若手医師の指導(会話)の例図9チャートから推測して描いた外眼部のシェーマと実際の臨床写真実際の臨床写真と近似したシェーマになっている.ただし,チャートからは上眼瞼溝の深化,眼球突出,眼位異常,眼瞼腫脹,皮膚の硬さなどがわからないため,チャートの下に備考として記載している.(文献1より改変引用)~図10出張手術の事前打ち合わせの際に送られてきた実際のメール診察していない患者であるが,臨床写真にチャートが加わると,手術のイメージがより明瞭になり,医師間共通のツールとしても利用できる.なお,このメールのPFHはPA,LHはLLをさし,LCは記載されていない.