‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

下眼瞼外反の3術式

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼外反の3術式LowerEyelidEctropion─ThreeSurgicalTechniques小久保健一*大井皓介*藤原文麗*はじめに下眼瞼外反症は瞼板が外側に向いてしまう眼瞼の位置異常である.眼瞼が眼表面から離れてしまうことで,眼表面および眼瞼結膜が露出し,炎症,疼痛,羞明,異物感,流涙,視力低下などをきたす.外反症は先天性,機械性,瘢痕性,退行性,麻痺性に分類され,なかでも退行性,麻痺性は比較的多く,外来でみられる疾患である.退行性外反症は水平方向と垂直方向の緩みによって起こると考えられており,通常,手術による治療が基本となる.筆者は外側方向に下眼瞼を牽引し(lateraldistractiontest),下眼瞼が眼球に密着すればlateraltarsalstrip(LTS)1)やpentagonalexcision法(瞼板五角形全層切除),Kuhnt-SzymanowskiSmith変法などを考慮する.LTSと瞼板五角形全層切除は通常どちらを使用してもよいと考えるが,内眼角靱帯や外眼角靱帯が緩い場合には,瞼板五角形全層切除を用いると瞼裂横径が小さくなるため,LTSを用いる.Kuhnt-SzymanowskiSmith変法は皮弁を挙上する必要があるため,余剰皮膚が顕著な場合に用いる.外側に牽引しても下眼瞼内側の外反が残存する場合には眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LER)の瞼板裏固定2)やLazy-T3)を考慮する.外側に牽引しても下眼瞼全体が外反している場合には,耳介軟骨移植や筋膜移植を考慮する.本稿では,LTSとpentagonalexcision法およびLER瞼板裏固定術について解説する.ILateraltarsalstrip(LTS)LTSは最初に覚えておきたい術式であり,退行性でも麻痺性でも使用可能である.水平方向の弛緩に対して用いられ,下眼瞼外反はもちろん,下眼瞼内反や眼瞼腫瘍切除に使用できる汎用性の高い術式である.1.デザイン右下眼瞼外側1/3の睫毛下に皮膚切開のデザインを置く.そして外側の瞼板を露出させるために取り除く皮膚の範囲もデザインしておく(図1a).2.Tarsalstripの作製局所麻酔2.5ccを注入後に外眼角で瞼板の下脚を切離し,外側から7mm程度皮膚と結膜・瞼縁を除去する.さらに下脚からLERもはずす(図1b).3.骨膜固定作製したstripを眼窩内側の骨膜に5-0ナイロン糸を用いて縫合する(図1c).4.皮膚縫合6-0ナイロン糸を用いて皮膚を縫合する.外眼角の上脚の瞼縁を切除し6-0バイクリル糸を用いて下脚と縫合することで新たな外眼角を形成しておく(図1d).*KenichiKokubo,KousukeOi&BunreiFujiwara:横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科〔別刷請求先〕小久保健一:〒神奈川県横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(57)1205図1Lateraltarsalstripa:デザイン.b:Tarsalstripの作製.c:Tarsalstripを骨膜に固定.d:術直後.e:術前.外側のみ外反.f:術後6カ月.図2Pentagonalexcisiona:デザイン.b:全層切除.c:全層切除後.d:縫合直後.e:術前.f:術後6カ月.図3LER瞼板裏固定術a:デザイン.b:結膜側切除デザイン.c:結膜紡錘状切除.d:結膜と瞼板の間を剥離.e:LERを瞼板の裏に固定.f:五角形全層切除.g:皮膚縫合.h:術前.i:術後6カ月.

下眼瞼睫毛内反症の手術

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼睫毛内反症の手術OptimalTreatmentsforEpiblepharon尾山徳秀*はじめに本稿では若年者に多い下眼瞼の睫毛内反症に対する手術方法を説明する.顔は千差万別であり,中顔面の作りや眼周囲の形も異なる.つまり,同じような睫毛内反症にみえても患者によって内反症の状態は必ず異なるはずである.そのような状態であるのに画一的な方法で手術に臨めば再発することは容易に想像できる.今回は,以前から若年者に多い睫毛内反症に対しては皮膚切開法(いわゆるHotz変法)が行われているが1.4),それ以外の方法および再発しやすい症例を提示し,そのような患者に対しての手術アプローチを解説する.I術前検査のポイント下眼瞼睫毛内反症の病因は,下直筋から連続する眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層の皮膚穿通枝が未発達もしくは欠損しているため睫毛が外反しないことである(図1).さらに,皮膚および眼輪筋(眼瞼前葉)が上方へ乗り上げることで睫毛を圧排し病態を悪化させる.この病因を理解すれば,通常の睫毛内反は一般的に行われているいわゆるHotz変法で治癒すると思われる.診察時は正面視で軽度の睫毛内反であっても,人間は1日で数千回の視線移動があるため,正面視だけでなく,とくに下方視での睫毛と角膜の接触具合を診る必要がある.下方視で睫毛接触を高度に認める場合は手術適応を検討する(図2).また,内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した患者(図3)や下眼瞼後退がある患者(図4)にHotz変法のみで対処すると再発率が高くなるので注意が必要である.内眼角贅皮の発達した患者は,用手的な上眼瞼挙上により下眼瞼の動きを診察する(rolluptest).上眼瞼とともに下眼瞼がつられて挙上し,睫毛が眼瞼前葉の皮膚や眼輪筋に押され,睫毛内反が高度に悪化すれば陽性である(図5).このような患者は,日常生活時に大きく開瞼する,上目遣いをするなどで頭側に下眼瞼前葉が挙上されるため,Hotz変法のみでは再発しやすくなる.このテストを施行することで,上眼瞼と下眼瞼の皮膚および皮下の連絡を見きわめ,再発を少なくするための内眥形成術が必要かどうかを判断する参考になる.下眼瞼後退のある患者では,眼瞼後葉が過剰に後退していることにより,眼瞼前葉の乗り上げがさらに過剰になり睫毛内反の程度が高度になる.この場合もHotz変法だけで処理すると,内反症の低矯正もしくは再発の原因となる.また,術後6カ月程度では再発しないことも多く,治癒したと思っても2年程度経過をみないと再発することがあり注意が必要である.II基本の手術通糸法と切開法(Hotz変法のみ)の術後再発率は,通糸法は約30%,切開法は約9%と切開法が少ない.最近のランダム化比較試験でも切開法(Hotz変法と後述の追加手術を併用)は有意に再発率が低い1.4).ここでは,基本の手術として再発率の少ない切開法(Hotz変*TokuhideOyama:うおぬま眼科,長岡赤十字病院眼科,新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕尾山徳秀:〒946-0001新潟県魚沼市日渡新田字ヒワタリ84-1うおぬま眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(47)1195ab眼瞼下制筋群の後層瞼板Lookwood靭帯睫毛眼瞼下制筋群の前層下斜筋下直筋眼輪筋図1下眼瞼の解剖と下眼瞼睫毛内反症の病態模式図a:下眼瞼の解剖模式図.眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層が瞼板前方を走行し,皮膚穿通枝により睫毛を外反させている(文献11より引用).b:下眼瞼睫毛内反症の病態模式図.LERsの前層から連続する皮膚穿通枝が,正常と比較すると未発達もしくは欠損している.また,余剰皮膚の存在や瞼板前眼輪筋の乗り上げも,下眼瞼睫毛内反症を悪化させる要因と考えられている().図2睫毛内反症の症例a:正面視の状態.軽度の睫毛内反症と診断されていたが,角膜障害が高度であった.b:下方視の状態.睫毛が高度に角膜に接触している.これが原因であった.図3内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した症例内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉が睫毛を眼球に押し付けているように見える.図4下眼瞼後退が顕著な症例a:下眼瞼後退も併発し,下方結膜が露出している.b:下眼瞼前葉は用手的に上方に持ち上がり,瘢痕によるものではないことを確認する.図5上下眼瞼の動きとrolluptesta:内眼角贅皮が発達した睫毛内反症の通常時.b:上眼瞼を引き上げると,下眼瞼前葉がつられて挙上する(:rolluptest陽性).c:この上下の連絡()を絶つような手術手技を選択する.図6基本的なHotz変法a:睫毛列から2mm程度のところに睫毛下切開ラインを引く.b:睫毛下切開から眼輪筋間を切開し,瞼板下縁に到達する.c:瞼板下縁と睫毛側眼瞼皮下を7-0モノフィラメント糸で縫合する.d:余剰した眼瞼前葉組織を切除する.e:皮膚を7-0モノフィラメント糸で縫合して終了である.(文献11より引用)図7他院術後のlowereyelidcrease(下眼瞼しわ)の発生術後1年経過しているが,両下眼瞼のlowereyelidcreaseが目立つ.図8Lidmarginsplitting法a:Hotz変法を行っても内反矯正が不十分な患者は,graylineを11番メスなど先が鋭利なもので切開する.b:瞼縁は切離した状態のまま皮膚縫合して終了である.瞼縁の切開部は数週間で目立たなくなる.(文献11より引用)~図9LERsの瞼板および結膜からの切離LERsを瞼板下縁および結膜から7.8mm程度.離する.鼻側および耳側のLERsを垂直方向にも切開を加えるとLERsの牽引が弱くなる.図10Turn-overseptum.ap法によるLERs延長術を加えたHotz変法a:睫毛下切開から眼輪筋を.離し,瞼板と眼窩隔膜表面を露出する.Cb:LERsを瞼板下縁および結膜から.離する.c:LERsの伸展したい量より多めに眼窩隔膜の切離幅(眼瞼後退量のC2倍+2Cmm程度)を決める.Cd:横方向に眼窩隔膜を切開すると眼窩脂肪が見える.Ce:翻転した眼窩隔膜を鑷子で把持している.Cf:翻転した眼窩隔膜と瞼板下縁および睫毛側皮下をC7-0モノフィラメント糸で埋没縫合する.Cg:縫合終了した状態.これをC4針程度行う.(文献C11より引用)図11結膜自体の伸展が悪い症例LERsを瞼板下縁および結膜から切離したのちに,結膜横切開を加えてさらに減張している.(文献C11より引用)図12Z形成術のデザインa:内眼角贅皮を正中に引っ張り,涙丘鼻側にあたる位置にマーカーを置く.Cb:皮膚を戻し固定しておいたマーカーで付けた内眼角贅皮表側の点をCA点とする.Cc:A点から,上眼瞼の重瞼ラインもしくは開瞼した際の瞼縁に沿ってラインを延ばしてCB点とする.Cd:内眼角贅皮の最尾側下端をCC点として,緩やかなカーブをつけてCA点とつなぐ(点線).e:B点から内眼角贅皮裏側の点をCD点とする.f:睫毛下の皮膚切除も同時に行う場合は,切除幅が含まれるようにデザインする.g:A-C-Dで形成された皮弁の頂点CCをCB点に移動させる.Hotz変法と組み合わせることで睫毛内反と内眼角贅皮が解消される.(文献C11より引用)図13内眼角贅皮の上下の連絡を絶つ重要な操作内眼角贅皮下のCsubcutaneousC.brousband()を切離し,さらに眼輪筋を内眥腱直上まで.離し,必要に応じて眼輪筋も切離する.(文献C11より引用)図14Redraping法を加えたHotz変法を施行した症例a:術前.内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉により睫毛が眼球に押されている.b:術後.内眼角贅皮による圧排は解除され,眼瞼前葉の乗り上げはなく,術前と比較し顔貌の変化は少ない.abAcd図15Redraping法を加えたHotz変法の模式図a:作成する内眼角(涙丘鼻側にあたる位置)をCA点とする.内眼角贅皮に水平に伸ばした辺縁をCB点とする.Cb:皮膚を伸ばして,涙湖の鼻側C2mmの位置をCC点とする.Cc:A-B-Cを結んだ線とCHotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開線をつなげて,皮膚切開する.不要な前葉切除(黄緑部)を行う.赤い点線部の皮下と眼輪筋を.離し,subcutaneousC.brousCbandの切離および眼輪筋の処理を行う.d:Hotz変法を行い,デザインのCA点とCC点を埋没縫合し,最後に睫毛下切開部も縫合して終了である.内眼角贅皮は解除されている.図16Redraping法を加えたHotz変法a:A-B-Cを結んだ点(図C15参照)を皮膚切開し,Hotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開を行う.Cb:皮下および眼輪筋を.離し,subcutaneous.brousbandの切離や眼輪筋の処理を行う.Cc:Hotz変法を行い,不要な前葉切除を行う.Cd:デザインのCA点とCC点を埋没縫合する.Ce:下眼瞼皮膚切開部も縫合して終了である.(文献C11より引用)図17Hotz変法に代わる睫毛内反症手術法a:皮膚切開後,瞼板下縁および結膜からCLERsを切離する(:瞼板,:LERs,:結膜)Cb:切離したCLERsの先端部を睫毛側眼輪筋に縫合する(:縫合部).c:両下眼瞼の睫毛内反症術前の顔貌.d:術後半年の顔貌.■用語解説■dogear:皮膚縫合部で生じる余剰皮膚が盛り上がった状態をさし,その形状が犬の耳に似ていることから名付けられた.原因は①皮膚の切除や縫合の際の形状とサイズの不均衡,②皮膚の弾力性や張力の違いにより,縫合部に不均一な張力が生じることである.–

退行性下眼瞼内反症

2024年10月31日 木曜日

退行性下眼瞼内反症InvolutionalLowerEyelidEntropion高橋靖弘*はじめに退行性下眼瞼内反症は,退行性変化により下眼瞼縁が後方に回転することで睫毛が眼表面に接触する疾患である(図1a)1).通常は睫毛の向きは正常である.退行性下眼瞼内反症は退行性変化を呈する高齢者に多く,60歳以上の患者のC2.1%にみられる1).睫毛の眼表面への接触により眼異物感,充血,眼脂,流涙などの症状を引き起こすが,下眼瞼睫毛内反症と比較すると眼表面の傷害は軽微であり,重度の角膜障害を引き起こすような患者はほとんどいない2).退行性下眼瞼内反症の原因として,下眼瞼垂直方向の弛緩〔下眼瞼下制筋群(lowerCeyelidretractors:LER)の弛緩〕,下眼瞼水平方向の弛緩(内・外眥支持組織および瞼板の弛緩),上眼瞼圧,隔膜前部眼輪筋の瞼板前部眼輪筋への乗り上げ,眼球陥凹,短眼軸,および眼窩下方の脂肪の前方突出が考えられている1).このうちLERの弛緩が主たる発症原因であり,これに加え水平方向の弛緩および隔膜前部眼輪筋の乗り上げが手術矯正の対象となる1).CI術前評価術前には,下眼瞼垂直・水平方向の弛緩の有無を確認する.垂直方向に関しては,下眼瞼を眼窩下縁のレベルまで下方に牽引し,下眼瞼結膜.に脂肪突出が確認できれば下眼瞼垂直方向の弛緩があると判断できる1).また,下方視時から上方視時にかけての下眼瞼の移動域(lowerCeyelidexcursion)は正常では5mm程度であるが,LERが弛緩すると2.3Cmm程度にまで低下する1).水平方向の弛緩の有無はCpinchCtest,ClateralCdistrac-tiontestおよびCmedialCdistractiontestを用いて確認できる1).Pinchtestにおいては下眼瞼を前方に牽引し,瞼縁が眼球からC8Cmm以上離れた場合に下眼瞼水平方向に弛緩があると判定する1).Distractiontestにおいては,下眼瞼を外側(lateral)または内側(medial)に牽引し,涙点が半月ひだと角膜内側輪部の中点を通る垂線,または涙丘の中点を通る垂線を越えて外側または内側にシフトした場合に,それぞれ内眥または外眥に弛緩があると判定される1).退行性下眼瞼内反症は,下眼瞼を下方に牽引するとつぎの瞬目まで一過性に改善する.つぎの瞬目を待たずに内反状態に戻る場合は,下眼瞼に瘢痕性変化が混在している可能性があり,内反症の矯正に瘢痕の修正も必要となる場合がある.CII退行性下眼瞼内反症に対する手術前述のとおり,退行性下眼瞼内反症の主たる原因はLERの弛緩である.LERは前層と後層のC2層構造を有し,後層に含まれる平滑筋線維が下眼瞼を後下方に牽引する動力源である1).したがって,退行性下眼瞼内反症治療の主眼はCLER後層を前転し緊張を与えることである.これに加え,下眼瞼水平方向の弛緩の矯正と隔膜前*YasuhiroTakahashi:愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科〔別刷請求先〕高橋靖弘:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1189図1退行性下眼瞼内反症と下眼瞼下制筋群(LER)前転術a:顔写真.右下眼瞼退行性内反症を認める.Cb:マーキング.Cc:眼輪筋を分けて.離後に眼窩隔膜,LER,瞼板を露出.Cd:LERを結膜から.離.Ce:眼窩隔膜を切開しCLER前層を露出.Cf:LERに通糸する際に後層に通糸されていることを確認.g:LER,瞼板下縁,眼輪筋,皮下に通糸.図2Transcanthalcanthopexya:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当する.b:外側眼瞼交連の穴から通糸.Cc:骨膜にも通糸.d:閉創.-図3Lateralwedgeresection法a:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当.b:Lateralcantholysis後,下眼瞼の外眥部が自由に動くことを確認.Cc:外眥部を外側に牽引し下眼瞼の余剰分を測定:破線は切開予定部.Cd:下眼瞼の全層切開後.e:瞼板の断端を眼窩外側縁に固定.f:閉創.’–

上眼瞼皮膚弛緩の治療

2024年10月31日 木曜日

上眼瞼皮膚弛緩の治療OptimalTreatmentforDermatochalasis奥村仁*はじめに上眼瞼皮膚弛緩の治療は,瞼縁より垂れ下がった皮膚の切除により視野を改善し,開瞼時の重たさを取り除く目的で行われるが,形態変化を伴うために整容面にも留意する必要がある.上眼瞼皮膚弛緩で受診する中高年の患者では,眼瞼下垂を合併したり,眉毛位置が前頭筋の作用で挙上していたり,逆に皺眉筋や眼輪筋の作用で下降していたりとさまざまな症状を呈する.そのため,上眼瞼だけでなく,上顔面(上眼瞼.眉毛.額)を診察し,必要な術式を選択し,ときには複数の術式を組み合わせて治療を行う.本稿では,上眼瞼皮膚弛緩に対する筆者の術式選択方法と,手術の詳細について紹介する.I術式選択手順フローチャートに沿って術式選択を行う(図1).瞼縁が瞳孔を隠す中等症以上の眼瞼下垂合併患者では,挙筋腱膜や挙筋群の前転術を先に行う.眼瞼下垂手術時に重瞼部皮膚切除を同時に行うこともできるが,上瞼縁角膜反射間距離(marginre.exdistance-1:MRD-1)の低下だけでなく挙筋能も悪い患者では目標位置まで下垂が改善しない可能性もあるため,術前に皮膚切除量を正確に決められない.筆者は軽症例を除き二期的に手術術式を検討する方針としている.眉毛下縁位置が眼窩上縁よりも低い患者では,眉毛上皮膚切除や前額部リフトを行い眉毛.上眼瞼を挙上する.術後,眉毛位置が正常に改善してから上眼瞼皮膚弛緩の程度を診察し,治療方針を検討する.上眼瞼皮膚弛緩の術式選択には,ブジーを用いたシミュレーションを行う.正面視の瞳孔の垂線周辺にブジーを当てて開瞼位にし,鏡で患者に確認してもらいながら重瞼をシミュレーションする.①重瞼の形(末広型・平行型など),②見かけの二重幅(pretarsalshow),③重瞼の厚み,④眉毛位置の変化などに注意して確認を行う.シミュレーションの重瞼が気に入った患者で,ブジーの位置が瞼板の高さよりも低い場合は皮膚切除しない重瞼術を行う.ブジーの位置が瞼板の高さよりも高い場合は重瞼部皮膚切除を併用した重瞼術を行う.シミュレーションをした重瞼が気に入らない患者で「一重を二重にしたくない」「昔の二重のままでいたい」など重瞼形成が不要な場合は眉毛下皮膚切除を行う.「一重を二重にしたい」「睫毛内反」「重瞼に左右差がある」など重瞼形成を要する患者では,不自然にならない比較的低位置での重瞼形成と眉毛下皮膚切除を段階的に行う.II重瞼部皮膚切除1.手術適応上眼瞼の皮膚・皮下脂肪は睫毛付近では薄く,眉毛に近づくにつれて徐々に厚くなる.皮膚切除量が多いと厚い皮膚・皮下脂肪や深層の隔膜前脂肪,眼窩内脂肪によ*HitoshiOkumura:銀座ファインケアクリニック,井上眼科病院〔別刷請求先〕奥村仁:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)1181図1上眼瞼皮膚弛緩の術式選択のフローチャート⑦⑥⑤④①②③図3実際の重瞼部皮膚切除デザイン図2重瞼部皮膚切除デザイン①内嘴と瞳孔中心の中点.②瞳孔中心.③瞳孔中心と外嘴の中点.④外嘴.⑤内嘴付近.この部位の高さは重瞼の形(末広型や平行型)に影響する.⑥皮膚弛緩最外側位置.C⑦×は理想の重瞼幅の折れ返る位置.図4重瞼形成断面図①:瞼板-挙筋腱膜後層-眼輪筋-眼輪筋上筋膜縫合.②:挙筋腱膜-眼窩脂肪縫合.③:皮膚-眼窩隔膜(挙筋腱膜浅層)-皮膚縫合.図5重瞼部皮膚切除症例(70代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.BBBB⑥⑤⑦③④①②図6眉毛下皮膚切除デザイン図7実際の眉毛下皮膚切除のデザイン①CA:眉毛直下.②CA:眉毛内にC1.2Cmm入った位置.③CA,④CA:②CAの高さ+0.3Cmm(眉毛内に入る).①B.④B:座位閉瞼時の基準線から①A.④CAの計測距離と同じ高さの点を座位眉毛挙上閉瞼時に尾側切開位置としてプロットした点.⑤眉頭近辺.⑥皮膚弛緩最外側位置.⑦基準線(瞼縁.外嘴から水平方向に伸びる皺).図8眉毛下皮膚・皮下組織切除後皮膚・皮下脂肪切除後,眼輪筋・ROOFの切除,皺眉筋の部分切除・離断をした後の状態.③④①②図9眉毛下皮膚切除時の皺眉筋切断やROOF切除①眼輪筋.②CROOF隔膜前部から眉尻近くの眼窩上外側の切除症例が多い.③皺眉筋浅層のCobliquehead.④皺眉筋深層のCtranseversehead.C図10眉毛下皮膚切除症例(60代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.

眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術の適応と術式のバリエーション

2024年10月31日 木曜日

眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術の適応と術式のバリエーションFrontalisSuspensionforBlepharoptosis:ProcedureVariationsAccordingtoDi.erentialSurgicalIndications権太浩一*舘一史*はじめに眼瞼下垂に対する術式の適応決定にあたっては,眼瞼挙筋の筋力が温存されているか低下しているかがもっとも重要である.挙筋筋力が温存されている場合には,腱膜性要因→眼瞼挙筋前転術,上眼瞼皮膚弛緩性要因→除皺術,けいれん性要因→ボトックス注射や眼輪筋部分切除など,下垂の要因に応じた術式を選択すればよい.一方,筋性要因あるいは神経原性要因などによって挙筋筋力が低下している場合には,前頭筋吊り上げ術を選択すべきである(当然ながら,腱膜性・皮膚弛緩性など他の要因が併存している場合はそれに対応する術式も併施する).挙筋筋力が低下している患者に眼瞼挙筋前転術を適用すると低矯正となりやすいし,挙筋筋力低下にもかかわらず瞼裂高を確保しようとして挙筋の前転量あるいは短縮量を増やしていくと,今度は兎眼を生じるリスクが高まる.挙筋の過前転・短縮量過多によって兎眼となった患者に対して行うべき修正術の術式は,標準的には挙筋腱膜の停止部離断と(必要に応じた)適切な吊り上げ材料による前頭筋吊り上げ術への切り替えである.ただし,眼瞼手術の一般的法則として上眼瞼の形成手術を二度以上繰り返した場合には,おもに眼瞼組織の瘢痕化に伴う伸縮性の低下によって,初回から適切な術式を実施して一度で手術を終わらせた場合と比較して臨床結果はほぼ確実に劣る.つまり,とりわけ上眼瞼に対する手術では適切な術式を最初から選択して一度でよい結果を得る必要があり,とくに眼瞼下垂で挙筋筋力が低下しているような患者に対しては,初回手術で前頭筋吊り上げ術を選択すべきである.とりあえず挙筋前転術を施行してみて,低矯正だったら再手術として前頭筋吊り上げ術を考慮すればよい,というような戦略は一見合理的に見えるが,他医手術例や自験例に対してそのような再手術を多く手がけてきた筆者の経験では,再手術で前頭筋吊り上げ術に切り替えた患者の術後結果は必ずしもよいものではない.眼瞼下垂に対しては術前に挙筋筋力を検討し,挙筋前転術と前頭筋吊り上げ術という2術式の適応の切り分けを行ったうえで適切なほうを選ぶべきであり,挙筋前転術の一辺倒は不適切である.ただし,挙筋筋力が温存されているか否かを判断するのは現状ではまだむずかしい面もあり,100%の確度で挙筋筋力の低下を術前に検知できるものではない.重症の眼瞼下垂は,挙筋筋力低下以外にも,重度の腱膜性要因,外傷などによる瘢痕形成やプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinassociatedperiorbitopa-thy:PAP)を含むさまざまな病態による眼窩脂肪の線維化の結果として起こる開瞼抵抗の増大,視力低下などによる廃用性要因など,さまざまな要因で生じる.そのため,挙筋筋力低下(いい換えると筋性あるいは神経原性下垂要因)というのはこれらさまざまな筋性・神経原性以外の下垂要因をすべて除外したあとに初めて診断できるということであり,ある意味で除外診断でしか診断し得ないのである.なお,通常行われる挙筋機能の測定*KoichiGonda&KazufumiTachi:東北医科薬科大学医学部形成外科学〔別刷請求先〕権太浩一:〒983-8536宮城県仙台市宮城野区福室1-15-1東北医科薬科大学医学部形成外科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(25)1173法(眉毛の挙上を用手的に抑えて下方視から上方視した際の上眼瞼縁の滑走距離を測定する)は開瞼抵抗の修飾を受けていたり,上方視時には上直筋の筋力も加わったりするため,眼瞼挙筋筋力を必ずしも正確には反映しない.挙筋前転術と各種吊り上げ材料による前頭筋吊り上げ術の適応の決定法については後述するが,挙筋筋力低下の診断精度が十分ではない現状では,つぎのような選択をすべきである.少なくとも挙筋筋力低下による筋性下垂の診断はつかないけれどもその可能性が否定できないような患者に対しては,最初から前頭筋吊り上げ術を選択するか,あるいは,まず挙筋前転術を実施するにしても,術中に挙筋前転後に挙上不足をうかがわせる所見がみられたら,即座に前頭筋吊り上げ術に切り替える準備をして手術に臨むという方針である.I大腿筋膜による吊り上げ術1.移植筋膜の特性前頭筋吊り上げ術における吊り上げ材料としてもっとも標準的なものは大腿筋膜だと思われるが,大腿筋膜に限らず吊り上げ材料としての筋膜の特性として認識しておくべきことは,以下の2点である1).①術後2.4週間で縫合固定点だけでなく,その全長において周囲組織と癒着して固定される.②移植筋膜は術後3カ月.1年をかけて,平均14%収縮する(収縮率は0.30%の範囲で個人差や左右差があり,術前に予測は不可能).特性①により,移植される筋膜の幅が広いほど筋膜と癒着して固定される周囲組織の面積が大きくなるため,移植筋膜による牽引力がそれだけ強くなる.そのため,幅5mmを超えるような幅広い筋膜を移植してしまうと,特性②によってとくに筋膜片の収縮率が大きくなった場合に,移植筋膜による牽引力が強くなりすぎて兎眼を生じるリスクがきわめて高くなる.上眼瞼に対して下垂の矯正目的で筋膜片を移植する場合には,基本的にそれほど強い牽引力は必要ないため,移植する筋膜片の幅は2.4mm程度の細い幅とすべきである.また,特性②により術後に移植筋膜は収縮する場合が多いため,術中の筋膜片固定時に牽引の強さを決める段階で,兎眼を生じるほどの牽引度で固定すべきではない.2.筋膜片の形態・サイズと本数移植筋膜片の形態および本数に関しては,筆者は上眼瞼に対する筋膜吊り上げ術を自ら執刀しはじめた当初から現在に至るまで,少なくとも初回の筋膜移植術時にはI型を縦に2本(まれに1本)移植することにしており,それ以外の筋膜片の形態や移植本数についての知見はもたない.移植筋膜の幅は,上述のように3mmないしは4mmとしている.以前は2mm幅の筋膜を移植していた時期もあったが,自験例で筋膜吊り上げ術の低矯正例に対する再手術を行った際に,移植筋膜が萎縮して非常に細くなっていた患者を数例経験し,それ以降は少なくとも3mm以上の幅で移植するように方針転換した2).3.筋膜片の移植レイヤー移植筋膜を通す層に関しては,筆者はほとんどの場合に眼窩脂肪腔内で眼窩隔膜の裏面を通している.このほか,眼輪筋下・眼窩隔膜前面の層を通すという選択肢もある.眼窩脂肪腔内・眼窩隔膜裏面を通す場合は,移植筋膜の周囲に形成される瘢痕組織量がやや多くなり,筋膜片そのものの短縮効果に瘢痕拘縮の効果が加わるため,眼輪筋下・眼窩隔膜前面を通す場合と比較して筋膜片による牽引力が強めになる傾向がある.移植筋膜片を眼輪筋下・眼窩隔膜前面に通した場合には筋膜片周囲の瘢痕形成が少なめになるのだが,その原因は不明である(可動性のある眼窩脂肪と接しないためか?).そのため,重症のドライアイを合併しているなど,絶対に兎眼を生じさせたくない患者では,あえて移植筋膜を通す層を眼輪筋下・眼窩隔膜前面としてもよいのだが,その場合はとくに(後述するように)shortgraft法による筋膜吊り上げを行うと今度は低矯正となる確率が高まる.4.筋膜片の固定点I型移植筋膜片の固定点であるが,上端は眉毛上切開から前頭筋に,また下端は重瞼線部切開から瞼板前面の上縁近くに縫合固定するというのが標準的な術式である.ただし,これらの標準術式には問題点が多いと筆者は考えている.1174あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(26)abc筋膜下端を眼窩脂肪腔眼窩隔膜前葉の裏側に固定眼窩隔膜の翻転部で挙筋腱膜を瞼板に縫合固定図1大腿筋膜による前頭筋吊り上げ術:従来法とshortgraft法a:術前の状態.b:従来法.c:Shortgraft法.abc筋膜を移植強いsuspension効果図2Shortgraft法における移植筋膜下端の固定位置の上げ下げによる牽引力の調節a:重症下垂例に対するshortgraft法.b:軽症下垂例に対するshortgraft法.c:左右で移植筋膜の下端の高さを変えた症例.bcd図3眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術(donorlessfrontalsuspension)a:開瞼時.b:閉瞼時.c:採取した眼輪筋片.d:眼輪筋片の移植イメージ.==おける眼輪筋片上端の固定のために必要な切開は,眼輪筋片1本あたり3mmのstabincisionであり,これによる瘢痕は術後にほとんど識別不能となる.また,筋膜shortgraft法の場合と同様に,本法でも挙筋腱膜の前転・瞼板への再固定操作は必ず併施すべきだが,本法では兎眼リスクがほぼ0であることから,移植眼輪筋片の下端部は瞼板前面の上縁近くに直接縫合固定するようにする.移植眼輪筋片と上眼瞼皮膚の直接癒着による高位余剰重瞼線の発生を防ぐために,眼窩隔膜の開窓部は修復して閉鎖しておくべきである.4.眼輪筋片の移植手技筋膜吊り上げ術の場合には,技術的には吊り上げ材料を通すトンネルをモスキート鉗子で作製したあと,その同じモスキートで吊り上げ材料の筋膜の端を直接つかんでトンネル内を通せばよいが,眼輪筋片を用いる場合は眼輪筋片が柔らかくて脆弱であるため,筋膜移植の場合と同じ手技はとりにくい.まずは眼輪筋片の下端部(二つ折りの場合は,二つに折った場合の中点)を瞼板前面に縫合固定しておき,ついで眼輪筋片上端にトンネル内牽引用の4-0または5-0絹糸を通しておいてから,別の絹糸をループとしてあらかじめトンネルに眉毛下→重瞼線部切開の方向に通しておいて,それをガイドとして眼輪筋片の上端の牽引糸を眉毛下切開に引き出すといった工夫が必要となる.III眼瞼挙筋前転術および眼輪筋片や大腿筋膜による前頭筋吊り上げ術の適応の切り分け眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術の適応については,眼瞼挙筋前転術単独実施の適応との切り分け(下位適応境界),およびより効果の高いと考えられる大腿筋膜による吊り上げ術の適応との切り分け(上位適応境界)が問題となる.1.眼輪筋片吊り上げ術の上位適応境界ある程度の筋性要因が疑われる下垂患者に対して,眼輪筋片による吊り上げ術ではなく筋膜吊り上げ術を実施すべき基準(眼輪筋片吊り上げ術の上位適応境界の判定基準)は経験的に以下の五つがあげられる.①先天性眼瞼下垂②後天性眼瞼下垂だが,明らかに中等度以上の筋性要因による眼瞼下垂③何らかの原因による眉毛下垂が併存している.④眼輪筋過緊張・拘縮といった顔面神経麻痺後遺症がある.⑤外傷や手術などによる上眼瞼の瘢痕形成がある.これらの基準のうち②だけは定量的な基準のため,何らかの方法で術前に挙筋筋力を見積もる必要があるが,現時点では筋性の下垂要因は本質的に,ほかの腱膜性などの要因を否定したうえでの除外診断でしか特定できないため,術式適用の判定基準とするには困難さを伴う.一方,先天性眼瞼下垂は基本的に純粋な筋性下垂と考えられるので,経験的にはきわめて軽症の先天性下垂を除けば眼輪筋片による吊り上げ術では効果不足で,初回手術時から筋膜吊り上げ術を選択すべきである.2.眼輪筋片吊り上げ術の下位適応境界筋性要因が存在するかどうか微妙であったり軽症の筋性要因にとどまったりなどと予想されるような下垂患者に対して,眼瞼挙筋前転術に加え眼輪筋片吊り上げ術を併施するかどうかを判断する基準(眼輪筋片吊り上げ術の下位適応境界の判定基準)は,現時点でいまだ明確なものは見いだせていない.ただし,少なくとも下記の三つの病態を伴う加齢性下垂患者に対しては,眼瞼挙筋前転術に加え眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術を併施すべきだと思われる.①PAP②光老化・花粉症長期罹患・コンタクトレンズ長期装用など挙筋腱膜の高度損傷が疑われる例.③アトピー性皮膚炎・向精神薬服用・コンタクトレンズ長期装用など眼窩脂肪の高度線維化.これら三つの病態以外にも,ある程度軽症の筋性下垂であっても眼輪筋片吊り上げ術を併施すべき例が存在すると思われ,上位適応境界だけでなく下位適応境界を決める際にも挙筋筋力の術前見積もりは必要と考えられる.今後のさらなる臨床研究が必要である.自験例では,これらの判定基準にしたがって眼輪筋片1178あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(30)ab筋膜下端筋膜下端周囲をを下方移動筋膜下端.離を切除図4大腿筋膜吊り上げ術後の低矯正や過矯正(兎眼)に対する修正法a:低矯正例.移植筋膜下端部を剥離して下方移動.b:過矯正(兎眼)例.移植筋膜下端部を切除して短縮.■用語解説■lidlag:眼球の下転と同期して上眼瞼縁が下降することなく高い位置にとどまり「目を.いて」しまう現象.

眼瞼下垂手術(Müller筋タッキング)

2024年10月31日 木曜日

眼瞼下垂手術(Muller筋タッキング)PtosisRepair:Muller’sMuscleTucking林憲吾*はじめに眼瞼挙筋は挙筋腱膜とCMuller筋に分かれ,瞼板に付着する.挙筋の収縮が瞼板に伝わり,眼瞼が挙上される(図1).眼瞼下垂は挙筋群(挙筋腱膜とCMuller筋)の菲薄化や後退により挙筋の収縮が瞼板に伝わらない,あるいは挙筋群の変性や欠損によりその収縮性が低下していることが原因である.そのため,なんらかの方法で挙筋群を前転する手術,あるいは挙筋機能がない重度の場合には前頭筋吊り上げ術が必要となる.海外の総説では下垂の程度と挙筋機能から,軽度にはMuller筋短縮術(Muller’sCmuscleCconjunctivalCresec-tion:MMCR),軽度から中等度には挙筋腱膜前転法,中等度から重度には挙筋短縮術,挙筋機能のない重度には前頭筋吊り上げ術が適応とされている(図2)1).国内では経結膜アプローチのCMMCRなどより,経皮アプローチの術式が一般的に行われている.経皮アプローチの挙筋を前転するおもな術式として,挙筋腱膜前転法,Muller筋タッキング,挙筋短縮術がある(図3).本稿では,Muller筋タッキングを中心に解説する.CIMuller筋タッキングMuller筋タッキング(Muller’sCmuscletucking)は,挙筋腱膜とCMuller筋の間を.離し,Muller筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式である(図3b)2).Muller筋タッキングの際は,瞼板を尾側へ牽引した状態で瞼板上縁から軽度でC8Cmm,中等度でC10mm,重度図1眼瞼挙筋群の模式図および二つのアプローチ上眼瞼挙筋挙筋腱膜経皮アプローチMuller筋経結膜アプローチ瞼板でC12mm程度をタッキング量の目安とする(図4).Muller筋は柔らかく進展性がある組織のため,瞼縁が自然なカーブになりやすく,前転量と固定位置の調整は挙筋腱膜前転より容易である.また,中等度以上の眼瞼下垂では,タッキング幅が瞼板上縁からC10.12Cmmとなることが多いが,閉瞼不全は生じにくく,術後の点状表層角膜症(super.cialpunctateCkeratopathy:SPK)も少ないのが特徴である.筆者らは中等度以上の眼瞼下垂で挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングとの術後CSPKを比較し,術後早期のCSPKおよびドライアイの自覚症状は挙筋腱膜前転法のほうが有意に多いことを報告した(図5)3).ただし,Muller筋タッキングの問題点として再発率の高さがあげられる.小久保らは経過観察期間約C1年*KengoHayashi:横浜桜木町眼科〔別刷請求先〕林憲吾:〒231-0066神奈川県横浜市中区日ノ出町C1-200日ノ出サクアスC205横浜桜木町眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(19)C1167151413121110987654321軽度中等度重度開瞼状態(MRD)から下垂程度a挙筋機能(mm)図2挙筋機能と下垂の程度による各術式の適応範囲下垂の程度は上眼瞼縁角膜反射間距離(marginCre.exdistance:MRD)で判断する.MRDは瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離で,軽度がCMRD=2.3.mm,中等度がCMRD=0.1.5.mm,重度がMRD<0.mmとされる.これと挙筋機能(下方視から上方視の瞼縁の移動距離)から適応術式を選択する.(文献C1より引用)腱膜のみ前転図3代表的な眼瞼下垂の三つの術式a:挙筋腱膜前転法.Cb:Muller筋タッキング.Cc:挙筋短縮術.いずれの術式においても,筆者はすべてC6-0ナイロン糸を使用している.図4Muller筋のタッキング量の測定瞼板上縁からタッキングするCMuller筋の距離を測定する.この患者は軽度の眼瞼下垂のため,8.9Cmm程度を目安としている.Kaplan-Meier10.80.60.40.200612観察期間(月)図6挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングの術後再発に対する生存曲線Muller筋タッキングのほうが挙筋腱膜前転法より有意に再発が多い.(文献C4より引用)(点)10.80.6Apo(n=235)0.4Muller(n=208)0.2p=0.0040フルオレセイン染色スコア術前術後術後術後1週間1カ月3カ月観察期間*:Mann-WhitneyUtest#:repeatedmeasureANOVA図5挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングのSPKの定量推移(フルオレセイン染色スコア)青線:Apo(挙筋腱膜前転法).赤線:Muller(Muller筋タッキング).術後C1週間,術後C1カ月,術後C3カ月ともに有意差があり,とくにC1週間の時点でのCSPKの差が著明である.(文献C3より引用)図7Muller筋の菲薄化が著明な例a:Muller筋が菲薄化しており,瞼結膜が透見される.Cb:瞼板上縁から測定.c:瞼板上縁からC12.mmをマーキング.d:菲薄化したCMuller筋を瞼板へタッキング.図8Muller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併施術の模式図と術中写真a:Muller筋タッキングの模式図(青線が挙筋腱膜,赤線がCMuller筋).b:Muller筋タッキングの術中写真.Muller筋をC2点タッキング固定.c:挙筋腱膜前転法の術中写真.挙筋腱膜の後面へC1針通糸.Cd:挙筋腱膜前転法を併施した模式図.e:挙筋腱膜前転法の術中写真.Muller筋を固定したC2点間の瞼板へ通糸.Cf:挙筋腱膜前転法の術中写真.挙筋腱膜をC1点前転固定.(文献C5より引用)C-

眼瞼下垂手術(挙筋前転法)

2024年10月31日 木曜日

眼瞼下垂手術(挙筋前転法)Blepharoptosis:LevatorAdvancement渡邉輝*朝村真一*はじめに加齢に伴う眼瞼下垂はC60歳以上で約C20%,70歳以上ではC3人にC1人の割合で発症し,眼科医や形成外科医が日常的に取り扱う疾患となった.その手術は皮膚切開から挙筋腱膜を瞼板に固定する挙筋腱膜前転法1)が一般的で,手技の複雑さはなく,各施設において安定した治療効果が得られているのはいうまでもない.その反面,瞼裂高や上眼瞼のカーブ,重瞼幅に左右差が生じないようにするのは至難の業で,眼瞼下垂手術の永遠のテーマでもある.本稿では,整容面において左右差を最小限にするための工夫や留意点を中心に解説する.CIデザイン切開線は瞼縁よりC6Cmmとし,外側ではカラスの足跡に沿って切開を延長するデザインを設定する.諸家により皮膚切除幅の決定はさまざまであるが,皮膚をつまみ(pinchtechnique),最大切除可能な量の半分を目安に,外側が膨らんだような台形のデザインが一般的である(図1).★ひとこと皮膚切除量が多くなると,頭側の厚い皮膚が瞼縁側に被ってくるため,術後に目が腫れぼったいという整容面の不満を訴えられることがある.そこで,最大皮膚切除量がC1Ccmほどの切除量が必要と判断した場合には,まず眉毛下切開による皮膚切除を行い,3カ月後に挙筋前転法を行っている.CII皮膚と眼輪筋の切除眼輪筋の切除量に関しても,基本的には皮膚切除量の半分を目安とし,頭側の眼輪筋を残すことを推奨する.実際には手術で瞼板上縁を露出する際に,瞼板部の眼輪筋を帯状に切除するので,結果的に数Cmm幅の眼輪筋を切除したことになる.頭側の眼輪筋が残存すると,後述する皮膚縫合の際に自然な重瞼形成につながる.CIII挙筋腱膜の同定眼窩脂肪直上の眼窩隔膜を水平方向に切開し,眼窩脂肪を頭側に引き上げる.すると眼瞼挙筋および白い膜様組織である挙筋腱膜が確認できる(図2a).次に眼輪筋や瞼板部前組織を切除して瞼板を露出させ,腱膜とMuller筋の間を.離する(図2b)★ひとこと挙筋腱膜の露出に関して当初はむずかしいと感じるかもしれないが,眼瞼・眼窩部の詳細な解剖2)が報告されているので,眼瞼の三次元的な解剖学的構造と実際に行った手術症例を照らし合わせる作業を行うと,すぐに挙筋腱膜の同定が可能になると思われる.*HikaruCWatanabeC&CShinichiAsamura:和歌山県立医科大学形成外科学講座〔別刷請求先〕渡邉輝:〒641-8510和歌山市紀三井寺C811-1和歌山県立医科大学形成外科学講座C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)C1163a図1術前デザインa:閉瞼時.b:開瞼時.Ca図2挙筋腱膜の同定a:眼窩隔膜を切離し挙筋腱膜前面の露出.b:瞼板,挙筋腱膜後面の露出.~図3挙筋腱膜の前転量の調整a:挙筋腱膜を前進させ,固定位置をイメージする.b:挙筋腱膜を瞼板上縁にC3箇所固定.図4上眼瞼カーブの確認a:挙筋腱膜の固定後,皮膚縫合前(仰臥位).b:挙筋腱膜の固定後,皮膚縫合前(座位).図5手術前後の眼瞼(仰臥位)a:手術開始前の開瞼時.b:術直後の開瞼時.c:術直後の閉瞼時.図8ドライアイと診断された眼瞼下垂症患者図6重瞼作成時のシェーマ図7術後1カ月a:開瞼時,b:閉瞼時.

眼瞼形成手術のための外眼部のチェックポイント

2024年10月31日 木曜日

眼瞼形成手術のための外眼部のチェックポイントEyelidCheckpointsforBlepharoplasty村上正洋*はじめに眼瞼下垂の診療において,術前に外眼部の状態を評価することや術後に生じる変化を推測することは重要である.一般的に,眼瞼下垂の術後には瞼縁が上がるとともに眉毛が下がるため重瞼幅が狭くなる.さらに,眼瞼下垂と表裏の関係にある皮膚弛緩症が潜在的にあると,挙筋前転後にそれが顕在化し,機能的のみならず整容的にも問題を生じることがある.これらは,外眼部のチェックポイントを知り,測定結果を客観的に評価することである程度は解決できる.本稿では,眼瞼形成手術の大半を占める上眼瞼疾患において筆者が行っている外眼部の測定項目,測定方法,評価方法,活用方法について詳記する.I上眼瞼(眼瞼下垂,皮膚弛緩症)の計測上眼瞼縁瞳孔反射間距離は眼瞼下垂の診断とその程度に,眼瞼挙筋機能は下垂の原因の推測および術式の決定に利用されるが,患者の満足度を上げるには整容的改善も得なければならない.上記2項目はおもに機能評価であるため,整容面を含めた術後の外眼部の変化を十分には予想できない.以上より,筆者は独自に考案した項目も含めた7項目をチャート化して上眼瞼疾患の診療に利用してきた.II筆者が行ってきた測定項目と測定方法筆者は,一般的な測定項目である上眼瞼縁角膜反射間距離(Marginre.exdistance-1:MRD-1.以下,MRD),眼瞼挙筋機能(Levatorfunction:LF)の2項目のほかに,瞼裂高(Palpebralaperture:PA),開瞼時重瞼幅(Pretarsalshow:PTS),眉毛高(Browheight:BH),眼瞼長(Lidlength:LL),重瞼線高(Lidcrease:LC)の5項目を加えた計7項目を測定している(村上式チャート,図1~3).III7項目の関係性眼瞼下垂ではPAは小さくなるが,下眼瞼の弛緩(下眼瞼後退)があると大きくなる.PTSは大きくなり,BHやLLとも連動する.MRDは当然ながら小さくなる.LFは筆者の経験によると13mm程度が普通であり,腱膜性眼瞼下垂の多くはその前後の値を示す.ただし,腱膜が高度に変性した重症例ではみかけ上の値が低下していることもあるため,LFの低下のみで先天性や筋・神経原性の眼瞼下垂と診断できるわけではなく,前頭筋吊り上げ術の適応を意味するものではない.BHは多くの場合で大きくなる.筆者の経験では,眼瞼下垂のない若年者の値はおおよそ18mm程度である.LLは一般的には加齢現象により大きくなる.同様に,筆者の経験では若年者で25.28mm程度を示すことが多い.LCは頭側に偏位することが多く,二重瞼での一般的な位置とされる6.8mmより大きくなる.また,中年以降に生じる重瞼様の皺は13mm前後に生じることが多い.これは真の重瞼線ではないため,手術時にはその位置に*MasahiroMurakami:まぶたとヒフのクリニック千駄木プラザ形成外科,日本医科大学形成外科・眼科〔別刷請求先〕村上正洋:〒113-0022東京都文京区千駄木2-13-1ルネ千駄木プラザ2F21号まぶたとヒフのクリニック千駄木プラザ形成外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)1157RL①PA②PTS③MRD④LF⑤BH⑥LL⑦LCPA:palpebralaperture(瞼裂高)PTS:pretarsalshow(開瞼時重瞼幅)MRD:marginre.exdistance(上眼瞼縁角膜反射間距離)LF:levatorfunction(眼瞼挙筋機能)BH:browheight(眉毛高)LL:lidlength(眼瞼長)LC:lidcrease(重瞼線高)図1上眼瞼疾患で使用するチャート(村上式チャート)※筆者独自の定義であり造語も含まれる.正面視閉瞼図2測定方法①瞼裂高:正面視での上下眼瞼縁間の距離.②開瞼時重瞼幅:開瞼時の二重の幅.③上眼瞼縁角膜反射間距離:上眼瞼縁と角膜反射(瞳孔中心)の距離.④眼瞼挙筋機能:眉毛を固定した状態で上下方視したときの上眼瞼縁の移動距離.⑤眉毛高:角膜反射(瞳孔中心)と眉毛下縁の距離.⑥眼瞼長:閉瞼した状態で軽く指で眉毛を引き上げ皮膚の弛緩を取り除いた状態での上眼瞼縁と眉毛下縁の距離.⑦重瞼線高:⑥と同様の状態での上眼瞼縁と重瞼線の距離.※測定はすべての項目において角膜反射(瞳孔中心)の位置で行う(斜視がある場合は瞼裂横径の中央).RLPA5*16(7)PTS2.50↓*2MRD1.5*31(2)LF1310BH2126LL3237,36*4LC8*59,(13)*16(7):見かけ上のPAは6mmであるが,余剰皮膚をピンチすると実際のPAは7mmである状態.*20↓:二重瞼であるにもかかわらず,下垂した余剰皮膚が真の上眼瞼縁を超えている状態.一重瞼の場合はーと記載する.*31(2):見かけ上のMRDは1mmであるが,余剰皮膚をピンチすると実際のMRDは2mmである状態.*437,36:皮膚弛緩症の場合は,角膜反射(瞳孔中心)/外眼角部の2カ所を測定する.*59,(13):カッコは本来の重瞼線ではなく,加齢やハードコンタクトレンズの長期装用などで生じた皺を意味する.上眼瞼縁から13mmのところに皺がある状態.図3村上式チャートの記載方法PreOPRL①PA66.5②PTS23③MRD10.5④LF1111⑤BH2123⑥LL3535⑦LC66,(13)PreOPRLPA6.57PTS3,73,7MRD00LF1214BH2728LL41,4241,42LC6,(14)6,(13)図4チャートの評価方法の例図5チャートの活用方法の例PreOPRLPA56PTS..MRD0.51.5LF911BH2524LL3939LC..Bell++PreOPRLPA88PTS22.5MRD33LF1213BH2423LL3636LC77Bell++図6患者への数値を加えた説明の例(術前)「緑内障点眼薬による眼瞼下垂です.瞳の中心から上まぶたまでの距離が不足しています.左右差が1mmありますが,ともに中等度の下垂です.まぶたを上げる筋肉は,とくに右目でわずかに機能低下を示す値となっていますが,筋肉の動きを伝える腱膜の変性によると考えるほうが普通です.黒目の表面に傷はありませんが,涙の安定性が悪く,刺激のある目薬を使用していることもあるので,挙上の目標は控え目に右で2mm,左で1mm程度を考えています.それでも十分に見やすくなりますし,そのほうが安全です.一方,眉毛は昔より6.7mm高い位置にあり,まぶたの皮膚も10mm以上伸びています.そのため,術後に眉毛が下がると余った皮膚が睫毛を越えて垂れ下がり不自由を感じることがあります.場合によっては,別日に眉毛の下で余った皮膚を切除することになるかもしれません」図7患者への数値を加えた説明の例(術後)「術後半年が経ちましたので現状を説明します.瞳が完全に露出しており,視野は十分に確保されていると思います.当初の予定より多少大きくなりましたが,黒目の表面には傷はなく良好な状態です.また,目の大きさの左右差は解消されていますが,二重幅に若干の差があります.ただし,気になるほどではないと思います.いかがでしょうか?まぶたの動きは緩んでいた腱膜をしっかりと縫い付けられたので,ほぼ正常となりました.やはり腱膜に問題があったようです.一方,術後に眉毛が下がると予想していましたが,わずかに留まっています.そのため,余った皮膚は睫毛を越えて垂れ下がっておらず,別日に追加手術を行う必要性は少なそうです.その点は良し悪しですので,もうしばらく経過をみていきましょう」RLPA10.511.5PTS52MRD24LF1416BH2621LL3732LC(11)7若手医師指導医術式は挙筋前転でよいと思うけど,BHが26mmだから,術後に眉毛が下がると,LLが37mmなので皮膚弛緩症が生じるよね?そうなると,皮膚をたくさん切除したくなるけど,左右のLL,LCから考えると瞼縁より7mmの高さで皮膚切除は最大で5mmになるね.それと,PAの差が1mmなのにMRDの差は2mmなのは,きっと右に下三白眼があるということだよね!外眥靭帯が緩んでいると挙上の調整に苦労するかもね?ところでLLの左右差が5mmというのは不自然だと思わなかった?若手医師指導医図8チャートを使った若手医師の指導(会話)の例図9チャートから推測して描いた外眼部のシェーマと実際の臨床写真実際の臨床写真と近似したシェーマになっている.ただし,チャートからは上眼瞼溝の深化,眼球突出,眼位異常,眼瞼腫脹,皮膚の硬さなどがわからないため,チャートの下に備考として記載している.(文献1より改変引用)~図10出張手術の事前打ち合わせの際に送られてきた実際のメール診察していない患者であるが,臨床写真にチャートが加わると,手術のイメージがより明瞭になり,医師間共通のツールとしても利用できる.なお,このメールのPFHはPA,LHはLLをさし,LCは記載されていない.

眼瞼形成手術のための臨床解剖

2024年10月31日 木曜日

眼瞼形成手術のための臨床解剖ClinicalAnatomyforBlepharoplasty根本裕次*はじめに――眼瞼形成手術のための臨床解剖眼瞼の形成手術には,眼瞼だけでなく周囲組織の上部顔面や眼窩,筋,脂肪,神経,血管などの立体的知識が欠かせない(図1).この部位は基本的に層状構造をとるため,深部から浅部にかけて述べる.本稿では,単なる解剖学用語の解説だけでなく,その働きや手術時における意義も解説する.I三叉神経と眼窩内の動脈眼瞼およびその周囲組織の知覚を支配するのは三叉神経第一枝,第二枝である(図2).上眼窩裂から眼窩壁に沿って前進する.眼瞼皮膚などに分布する終末枝は5本ある.滑車上神経は眼窩骨縁の鼻上角を越える.眼窩上神経は眼窩上切痕/孔を経て,前頭骨前面を1.1.5cm上行して前頭筋を貫き,内側枝と外側枝に分かれて皮下に到達する(図1a).涙腺神経は,眼窩骨上縁耳側を数本に分かれて越える.滑車下神経は眼窩内側縁と内眼角靱帯の起始部上縁を越える.眼窩下神経は鼻翼の脇の眼窩下孔を通過して眼瞼から上口唇までの皮下に分布する.手術時における意義眼形成手術の際に広範囲の麻酔が必要,あるいは再手術で組織浸潤が困難な際に,神経ブロックとして利用することがある.とくに,眼窩上切痕/孔と眼窩下孔は,皮膚上から触知できる重要な指標である(図1a*).眉毛部手術の際は前頭筋に深い侵襲を加えると術後前額部知覚鈍麻を生じる危険性がある.眼窩内の動脈は,内頸動脈系の眼動脈由来で(図3),視神経管を通過したのちは,三叉神経に伴走して前進し,結膜,眼窩脂肪などを後方から栄養する.三叉神経終末枝とともに皮下に出て,外頸動脈系血管と連絡する.手術時における意義眼窩脂肪を切除する際は,出血は深部から生じて止血困難になりやすい.あらかじめ脂肪後方をモスキートペアンなどで把持し,切除後に断端を止血する.II眼瞼の「骨格」と支える筋群1.内眼角靱帯-瞼板-外眼角靱帯内眼角靱帯-瞼板-外眼角靱帯はsling(つり革)とよばれ,眼瞼の「骨格」として機能する(図4).内眼角靱帯(内眥靱帯)は,眼窩内側壁の前涙.稜から前脚が,後涙.稜から後脚が起始し,涙.を挟んで外側に走行したのちに合流し,上下の瞼板に移行する.外眼角靱帯(外眥靱帯)は眼窩外側壁から起始し,上下の瞼板に移行する.上眼瞼の瞼板は横幅約25.mm,厚さは約1.mm,幅は上眼瞼で約10.mm,下眼瞼で約5.mm,内部にMeibom腺(瞼板(脂)腺)を内蔵し,その数は上眼瞼では約25本,下眼瞼では約20本である.*YujiNemoto:日本医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕根本裕次:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)1151a前額部眉毛b眉毛眼輪筋前頭筋眼窩隔膜Whitnall靭帯挙筋腱膜前眼窩脂肪*上眼瞼重瞼線重瞼線穿通枝眼瞼挙筋腱膜MUller筋whiteline睫毛内眼角外眼角靭帯内眼角下眼瞼外眼角眼瞼結膜眼窩隔膜瞼板*.部眼窩縁眼輪筋眼窩脂肪眼瞼下制筋(LER)図1眼瞼,上部顔面,眼窩の構造a:表面.点線および図中の*は三叉神経ブロックの指標である.b:深部の階段状断面.眼瞼は層状構造となっている.眼窩上神経滑車上神経眼窩上切痕/孔涙腺神経前頭神経滑車下神経鼻毛様体神経上顎神経眼窩下孔眼窩下神経.骨顔面神経図2三叉神経枝三叉神経のうち,眼瞼皮膚などに分布する終末枝は5本ある.骨縁や孔周囲では神経の偏位が少なく,ブロックが効きやすい.2.眼瞼挙筋群眼瞼挙筋は上直筋と平行して走る大きな筋肉で,動眼神経上枝支配である.遠位端で筋は腱膜となる(図1b).筋から腱膜に移行する部分でWhitnall靱帯(上横走靱帯)と交差する.腱膜は走行の深さにより3種類に分けられ,それぞれ到達部位が異なる.浅部は眼窩隔膜に連続し,この移行部をwhitelineとよぶ.中間部は穿通枝となって,眼輪筋や皮下に到達し,重瞼線を形成す眼窩上動脈涙腺動脈鼻背動脈眼動脈眼窩下動脈図3眼窩内の動脈前進して三叉神経終末枝とともに皮下に出る.る.深部は扇状に広がり,瞼板前面の上1/3に停止する.内側と外側の停止端は内角(medialhorn),外角(lateralhorn)とよばれる(図4).Muller筋(瞼板筋)は,交感神経支配である.Whit-nall靱帯と交差する付近で眼瞼挙筋後面から起始し,眼瞼結膜の前面を前進し,瞼板上縁に停止する.3.眼瞼下制筋眼瞼下制筋(下眼瞼牽引筋膜,lowereyelidretrac-1152あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(4)図4眼瞼の「骨格」と支える筋群図5眼瞼形成手術の組織移動方向内眼角靭帯-瞼板-外眼角靭帯はslingとして水平方向に,眼瞼前転,切除短縮術は組織の緊張を高める作用があり,後転,組挙筋腱膜・Muller筋および眼瞼下制筋は垂直方向に眼瞼を伸織延長術は組織の緊張を弱める作用がある.展しバランスを保つ.挙筋腱膜前眼窩脂肪眼瞼挙筋穿通枝下直筋眼瞼下制筋(LER)図6眼瞼の運動とMRI像眼球運動時には,筋の収縮と連動して眼瞼形態や睫毛の方向が変化する.これらは非常に合目的な構造である.図7眼瞼・顔面の動脈眼瞼浅層の動脈弓は横走する.眼瞼深層の動脈が前進するのとは対照的である.図8脂肪と主涙腺3種類の脂肪と主涙腺は,眼窩隔膜との位置関係,房の状態,色調,硬さなどで鑑別できる.図9表情筋と顔面神経a:眼輪筋を外した状態,b:眼輪筋を正常な位置に置いた場合.もっとも浅いのは眼輪筋,ついでほかの表情筋,顔面神経はもっとも深い部位を走行する.図10顔面上部表情筋の作用a:開瞼時.b:上方視時.前頭筋収縮により眉毛が挙上する.c:強閉瞼時.眼輪筋の収縮による閉瞼だけでなく,皺眉筋や鼻根筋の収縮により眉毛頭部が下がり,鼻根部に皺ができる.d:上唇鼻翼挙筋や.骨筋群の収縮により上口唇や口角が挙上し,鼻唇溝が明瞭になる.’

序説:眼瞼形成手術の“Agree to Disagree”からその先へ

2024年10月31日 木曜日

眼瞼形成手術の“AgreetoDisagree”からその先へ“AgreetoDisagree”inBlepharoplastyandFutureApproachesinJapan村上正洋*外眼部は,臓器としては眼科の領域であるが,体表面のあらゆる部位を診療対象とする形成外科の領域でもある.したがって,眼形成外科が診療科として独立していないわが国では,おもに眼科と形成外科の双方で眼瞼形成手術を担っている.眼球を中心に診察する眼科医は,眼瞼を視機能を正常な状態に保つためのパーツとして捉える傾向がある.一方で,顔面の外傷,腫瘍,先天異常などの治療を行う形成外科医は,眼瞼を眉毛,外鼻,口唇,耳介などと同様に顔面の一つのパーツとして捉えている.大学病院の形成外科に28年間,眼科に4年間在籍した筆者は,同じ眼瞼疾患を扱っているにもかかわらず,両科の間に存在する視点の差を知った.眼瞼形成手術を独学で行ってきた筆者であるが,ある時期から両科の若手医師を指導する立場となった.その際に感じたことは,質問される内容の違いである.形成外科医は皮膚の切開と縫合を毎日のように行う.これは眼科医が細隙灯顕微鏡を使うごとくである.眼科医が細隙灯顕微鏡を自然と巧みに扱えるようになるのと同じく,形成外科医は皮膚の切開や縫合を知らぬ間に習得し,意識しなくとも手が動くようになる.そのため,形成外科医から基本的手術手技に関する質問をされることはない.一方で,眉毛下皮膚切除術を見学に来る眼科医からは,真皮縫合が終了する時点で決まったように「創縁が合っているのに,さらに表層縫合する必要があるのですか?」と質問される.縫合の最低限の目標は傷が治ることであるため,その点では表層縫合は不要であるが,scarlesswoundhealingを究極の目標とする形成外科医は,表層縫合によって創縁をさらに正確に合わせることでminimalscarringをめざしている.よって,この差異は両科の間にあるめざすゴールの違いから来るものと思われる.他方,形成外科医から「細隙灯顕微鏡って何が見えるのですか?」などという質問をされて驚く.よくよく考えれば,細隙灯顕微鏡に触れたのは学生時代以来であることも多く,眼科医が細隙灯顕微鏡から驚くほどさまざまな情報を得ていることを知らない.筆者の形成外科時代には,外科(消化器外科,胸部外科,呼吸器外科,乳腺外科など),整形外科,耳鼻咽喉科・頭頸部外科,脳神経外科,女性診療科,皮膚科などと一緒に同じ術野で同じ外科基本手技を使い,近い感覚をもって合同手術をやってきた.もちろん眼科とも手術をしたことはあるが,それは眼科医が手術しているときは手を下ろし出番まで休憩するというバトンタッチの形式であって,眼科医と一緒に同じ術野で手術するものではなかっ*MasahiroMurakami:まぶたとヒフのクリニック千駄木プラザ形成外科,日本医科大学形成外科/眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)1149