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著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症患者の1例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):480.483,2020c著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症患者の1例清水翔太*1有田玲子*1,2,3井上佐智子*1,4伊藤耕三*2川島素子*1,3坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2伊藤医院*3CLidCandCMeibomianGlandCWorkingCGroup*4羽根木の森アイクリニックCACaseofBenignProstaticHyperplasiaPatientwithSevereMeibomianGlandDysfunctionShotaShimizu1),ReikoArita1,2,3),SachikoInoue1,4),KozoItoh2),MotokoKawashima1,3)CandKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)ItohClinic,3)LidandMeibomianGlandWorkingGroup,4)HaneginomoriEyeClinicCマイボーム腺機能不全(MGD)は加齢,環境,ホルモン障害などさまざまな因子の影響を受けている.非接触型マイボグラフィー(NCM)で,著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症(BPH)患者を経験したので報告する.症例は72歳,男性.BPHでCa1交感神経遮断薬をC7年間内服していた.眼科的自覚症状は軽度の眼精疲労と乾燥感であった.細隙灯顕微鏡では,眼瞼に軽度のCpluggingとCvascularityを認め,meibumスコアはC3であった.フルオレセイン染色では,角結膜上皮障害(SPK)スコアはC1で,涙液層破壊時間(BUT)1秒と短縮していた.NCMでは,上下眼瞼ともにマイボスコアはC3で,マイボーム腺は高度に脱落しており,DR-1aでは非侵襲的涙液層破壊時間(NIBUT)はC2秒で涙液の状態は非常に不安定だった.また,Schirmer値はC9Cmm,男性型脱毛症のCNorwood-Hamilton(N-H)分類はCVであった.BPHを含め,MGDの危険因子を有する患者のマイボーム腺を観察することは重要である.CThisCisCaCcaseCofCaC72-year-oldCmaleCpatient,CwhoChadCabenignCprostateChypertrophy(BPH)andCtookCa1blockerfor7years.Hisophthalmicsymptomsweremildeyestrainanddryeye.Ophthalmicexaminationshowedalittlepluggingandvascularityinhiseyelid.However,meibumscorewasgrade3.InC.uoresceinstaining,super.cialpunctatekeratopathy(SPK)scorewas1andbreakuptimeoftear.lm(BUT)was1second.Non-contactinfraredmeibography(NCM)revealedCextensiveClossCofCbothCupperCandClowerCmeibomianCglandsCandCnon-invasiveCbreakCuptime(NIBUT)wasC2secondsCbyCDR-1a.CAlso,CSchirmerCvalueCwasC9CmmCandandrogeneticCalopecia(AGA)CscoreCwasCgradeC5.CItCmayCbeCimportantCtoCobserveCtheCmeibomianCglandsCofCpatientsCwithCtheCriskCfactorsCforCMGD,includingBPH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):480.483,C2020〕Keywords:前立腺肥大症,マイボーム腺機能不全,ドライアイ,非接触型マイボグラフィー,DR-1a.benignprostatehypertrophy,meibomianglanddysfunction,dryeye,non-contactinfraredmeibography,DR-1a.Cはじめにマイボーム腺は,上下の眼瞼に存在する外分泌腺で,瞬目により開口部から脂質を分泌して眼球表面の水分の蒸発を防いでいる.このマイボーム腺の機能や形態は,加齢,環境,ホルモン障害などさまざまな因子によって影響を受けている.たとえば,マイボーム腺を構成する腺細胞は,加齢や炎症などにより萎縮を引き起こす1).また,腺細胞はアンドロゲンやエストロゲンなどの性ホルモンのレセプターを発現しており2),性ホルモンがマイボーム腺機能に影響を及ぼしていることが示されている3).したがって,前立腺肥大症(benignprostaticChyperplasia:BPH)や閉経などといった性に関連する体内の変化が,マイボーム腺の変化とそれに伴うドライアイ症状に相関していると推測される.これらのさまざまな要因によって異常をきたした状態をマイボーム腺機能不全(meibomiangrandCdysfunction:MGD)と称し,MGDを有する患者は眼不快感や乾燥感などの自覚症状をしばしば訴える.MGDの診断は,細隙灯顕微鏡での眼瞼・眼表面の詳細な観察がもっとも重要である.加えて,補助診断や重症度評価方法のために,マイボグラフィーやドライアイ観察装置CDR-1a(興和)などを用いることで病態〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042さいたま市見沼区南中野C626-11伊藤医院Reprintrequests:ReikoArita,M.D.,Ph.D.,ItoClinic,626-11Minaminakano,Minuma-ku,Saitama-shi,Saitama337-0042,CJAPANC480(104)が可視化され,より本質的な眼表面症状の原因究明が可能となる.今回,筆者らは,BPHで長期間内服治療中の患者を診察し,マイボーム腺の著明な脱落を認めたので報告する.CI症例患者:72歳,男性.主訴:軽度の眼精疲労,乾燥感.既往歴:BPH.治療のため,Ca1交感神経遮断薬をC7年間内服.初診時所見:2016年受診時,軽度の眼精疲労と乾燥感があった.進行した男性型脱毛症(androgeneticCalopecia:AGA)を認め,Norwood-Hamilton(N-H)分類はCV(I.VII)であった.細隙灯顕微鏡では,眼瞼スコアはC1(0.3)と軽度で,眼瞼縁に軽度のCpluggingや瞼縁の不整がみられ,一部Cvascularityがみられた.フルオレセイン染色で,角結膜上皮障害(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)のスコアはC1(0.9)であり,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreakCuptime:BUT)はC1秒と短縮していた.また,マイボーム腺圧迫検査によるCmeibumスコアはC3(0.3)で,meibumの質は悪化していた.非接触型マイボグラフィー(non-contactinfraredmeibography:NCM)によるマイボスコアは上下眼瞼ともにC3(0.3)であり,全体的にマイボーム腺の消失領域がかなり広範囲であった.DR-1Ca(興和)で涙液動態を確認したところ,非侵襲的涙液層破壊時間(non-invasiveCbreakuptime:NIBUT)はC2秒で涙液の状態は非常に不安定であり,油層の干渉縞がまったくみられなかった.しかし,SchirmerI法による涙液機能の評価では,Schirmer値9Cmmで,涙液量はある程度保たれていた.CII考按MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義されている4).ところが,軽度のマイボーム腺の変化では自覚症状を伴わないことも多く,症状をきたしていないものは臨床的定義から外そうということになっている.しかし,機能の異常があっても自覚症状が伴わない場合,眼科を受診する可能性は低く,予防や治療を介することなくMGDが重症化する可能性がある.今回,眼科的自覚症状の軽度な患者を診察したが,MGDのリスクファクターであるCBPH5)で治療中であった.細隙灯顕微鏡における眼瞼縁の形態学的評価では,本患者に眼瞼縁の慢性炎症所見やマイボーム腺開口部の閉塞を一部認めたが,いずれも比較的軽症なCMGD所見であった.しかし,フルオレセイン染色による涙液層の評価では,BUT1秒の蒸発亢進型ドライアイを認め,眼表面の安定性は悪かった(図1).このため,さらに詳細に眼瞼を観察することとし,NCMを用いて形態学的な評価を行ったところ,本症例は,上下眼瞼ともにマイボスコアC3であり,広範囲で高度にマイボーム腺が脱落,短縮している像が観察された(図1).これらのことから眼瞼縁の形態学的変化以上にマイボーム腺構造の破壊は重度であることが示唆された.つぎに,DR-1Caを使用して機能的な評価を行った.DR-1Caは,中央部を含む角膜全体の涙液動態の観察,油層の定性的観察が可能であり,健常者,水分減少型ドライアイ患者,およびCMGD患者によって干渉縞のパターンが異なる6).本患者の涙液は不安定であり,油層の干渉縞がまったくみられなかった(図2).これは,マイボーム腺からのCmeibumの量が絶対的に不足していることを意味しており,NCMで観察したマイボーム腺の形態学的な異常所見を裏付けしているものといえる.検査結果から,マイボーム腺の広範囲な形態異常が考えられ,それに伴いマイボーム腺からのCmeibumの絶対量が不足して眼表面の油層が減少し,蒸発亢進型のドライアイになっていることが考えられた.Schirmer値の明らかな減少は認めておらず,水分層の絶対量不足ではないことからも,油層の減少による水分の蒸発が原因であることが強く示唆される.眼瞼縁周囲の形態学的な異常所見は軽症であったため,マイボーム腺からのCmeibum排出口の閉塞には影響がなかったものと考えられる.NCMは,マイボーム腺内のCmeibumを可視化する.したがって,腺構造は破壊されずに保たれ,腺細胞のCmeibum分泌が抑制されている可能性も考えられる.マイボーム腺からのCmeibum分泌機構は不明の部分が多い.マイボーム腺には神経支配があり,交感神経,副交感神経,あるいはこれらに関連する神経伝達物質の受容体が存在することが組織学的に示されており,性ホルモンの受容体も存在している2,7).しかし,神経系やホルモンがどのようにマイボーム腺の分泌制御にかかわっているのかはよくわかっていない.本患者はBPHやCAGAを発症していたため,性ホルモンのバランスが崩れていた可能性があることや,Ca1交感神経遮断薬を内服していたため,薬剤の作用がマイボームの分泌制御に関与していた可能性がある.本症例は,眼表面の機能が悪化しているにもかかわらず,自覚症状が軽度であった.眼瞼縁の異常が軽症であることが要因と考えられたが,自覚症状と眼瞼縁の異常所見に関する相関はCStudyによってばらつきがあり,はっきりしたことは不明である8,9).ドライアイにおける眼痛や眼不快感の発生メカニズムとしては角膜神経による知覚が源流であり,角膜神経と性ホルモンやCa1交感神経遮断薬との関連性が予想される.今後,検討していきたい.今回,眼科的に自覚症状や眼瞼周囲所見の異常が明らかでないにもかかわらず,NCMやCDR-1Caなどの診断検査機器図1症例患者の前眼部所見a:plugging(.),vascularity(.).b:BUT(1秒),SPK(+).c:上眼瞼所見(マイボスコア3).d:下眼瞼所見(マイボスコア3).機能に影響を及ぼす疾患,あるいは薬剤使用の患者に対し,これらの機器を用いて前向きに検討することは,MGDの重症化予防に貢献するかもしれない.実際,BPHに有意にドライアイが多いことは大規模な疫学調査で報告があり10,11),閉経に伴うドライアイ症状の変化も報告されている12).また,国内のCBPHの患者数は高齢化や食の西洋化に伴い増加の一途であり13),経産婦女性人口の減少により14),以前と比べて女性の性ホルモンのバランスに変化が生じている可能性がある.このような変化は,将来的に,多人数のマイボーム腺機能に影響を与え,MGDの有病率が増加することが予測される.今後,日常診療で細隙灯顕微鏡に加え,NCMやCDR-1aなどの機器を合わせて使用することで,MGDのより本質的な症状の原因究明が可能となり,病態に合わせた適切な治療に結びつくことが期待される.文献1)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-を用いたことで,マイボーム腺の萎縮や眼表面の涙液層動態Cmianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:の異常を確認する結果となった.このことは,MGDの患者C911-915,C2008が報告数以上に潜伏していることを示唆するものと考えられ2)WickhamLA,OnoM,SullivanDAetal:Identi.cationofandrogen,estrogen,andprogesteronereceptormRNAsinる.したがって,性ホルモン関連疾患のようなマイボーム腺図2DR.1aによる眼表面涙液動態の観察NIBUT2秒.不安定な涙液で,まったく油層の干渉縞がみられない.theeye.ActaOphthalmolScandC78:146-153,C20003)SullivanDA,SullivanRM,DanaMRetal:Androgende.-ciency,meibomianglanddysfunction,andevaporativedryeye.AnnNYAcadSciC966:211-222,C20024)天野史郎,有田玲子,木下茂ほか;マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-31,C20105)SchaumbergDA,NicholsJJ,PapasEBetal:Theinterna-tionalCworkshopConCmeibomianglandCdysfunction:reportCofthesubcommitteeontheepidemiologyof,andassociat-edCriskCfactorsCfor,CMGD.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:C1994-2005,C20116)AritaR,FukuokaS,MorishigeN:FunctionalmorphologyofCtheClipidClayerCofCtheCtearC.lm.CCorneaC36(Suppl1):CS60-S66,C20177)LeDouxMS,ZhouQ,RyanPetal:Parasympatheticinner-vationCofthemeibomianglandsinrats.InvestOphthalmolVisSciC42:2434-2441,C20018)LekhanontCK,CRojanapornCD,CChuckCRSCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCinCBangkok,CThailand.CCorneaC10:1162-1167,C20069)JieY,XuL,WuYYetal:PrevalenceofdryeyeamongadultCChineseCinCtheBeijingCEyeCStudy.CEye(Lond)C23:C688-693,C200910)SchaumbergCDA,CDanaCR,CSullivanCDACetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCamongCUSmen:estimatesCfromCtheCPhysicians’CHealthCStudies.CArchCOphthalmolC127:763-768,C200911)AlghamdiCYA,CKarpCCL,CGalorCACetal:EpidemiologyCofCmeibomianCglandCdysfunctionCinCanCelderlyCpopulation.CCorneaC35:731-735,C201612)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201713)厚生統計協会:「患者調査」2002年14)厚生労働省:人口動態統計月報年計.2018年***

若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):476.479,2020c若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例三宅瞳宮崎大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学講座CACaseofRefractoryConjunctivalGranulomaduetoPseudomonasaeruginosaContheLateralCanthusinaYoungFemalePatientCHitomiMiyake,DaiMiyazakIandYoshitsuguInoueCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC目的:若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験した.症例:26歳,女性.左眼外眼角に眼痛・眼脂を伴う腫瘤性病変が出現し前医を受診した.培養にて緑膿菌が検出され,感受性のある抗菌薬が投与されるも改善せず,腫瘤切除を施行されたが症状の改善はなく,再発を認めたため鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介となった.当科にて再度腫瘤切除を行ったところ,涙石のような黄色い塊が多数認められた.病巣部を広く切開し十分郭清したことによって再発は認められなかった.結論:本症例は涙腺から結膜への排出管に先天異常などがあり,排出管の閉塞による石灰化をベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.本症例が難治性であった原因としては,病巣部が閉鎖空間となっていたため抗菌薬の移行が不良であったことが考えられた.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCrefractoryCconjunctivalCgranulomaCcausedCbyCPseudomonasCaeruginosaConCtheClateralCcanthusCofCaCyoungCwoman.CCase:AC26-year-oldCfemaleCvisitedCanotherCclinicCwithCtheCcomplaintCofCaCtumoronthelateralcanthusofherlefteyefollowedbypainanddischarge.PseudomonasaeruginosaCwasdetectedbyculture.However,shewasreferredtousaftertreatmentwithantibioticsandsurgicalexcisionwasunsuccess-ful.CSheConce-againCunderwentCsurgicalCexcision,CandCnumerousCyellowCmassesCresemblingClacrimalCstonesCwereCobserved.Therefore,weremovedallofthemasses,andleftthewoundwidelyopen,resultinginacompletecurewithnorecurrence.Conclusion:Thiscaseofrefractorytumorwasconsideredtobecausedbyasecondaryinfec-tiontocalci.cationduetoblockadeoftheductfromthelacrimalglandtotheconjunctivabyacongenitalanomaly.Moreover,weconsideredthattheclosedspaceoftheinfectiousfociinhibitedthepenetrationofantibiotics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):476.479,C2020〕Keywords:結膜肉芽腫,緑膿菌,涙腺排出管結石.conjunctivalgranuloma,Pseudomonasaeruginosa,lacrimalglandductulestones.Cはじめに結膜良性腫瘍は,乳頭腫や母斑,.胞が多いとされており,肉芽腫はまれである1).また,結膜肉芽腫は,霰粒腫や異物,外傷後,外眼部術後などによって起こる炎症性の肉芽腫で,感染による化膿性の症例の報告は少ない.今回筆者らは,若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:26歳,女性.主訴:左眼の眼脂・異物感.現病歴:平成C26年頃より左眼外眼角に腫瘤性病変が出現し,次第に眼痛,眼脂を認めるようになり近医眼科を受診した.抗菌薬点眼,内服加療を行われるも改善せず,平成C27年C9月末頃,左眼外眼角部に排膿を伴う腫瘤性病変が出現し〔別刷請求先〕三宅瞳:〒683-8504鳥取県米子市西町C36-1鳥取大学医学部視覚病態学分野Reprintrequests:HitomiMiyake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedeicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPANC476(100)図1初診時前眼部写真a:外眼角部に腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っている.b:外眼角腫瘤部を拡大したもの.図2術中写真腫瘤を切除すると奥に涙石のような黄色の塊を多数認めた.たため,前医に紹介された.培養検査にて緑膿菌が検出されたため,1.5%レボフロキサシン点眼,ゲンタマイシン点眼,およびレボフロキサシン内服,セフタジジム点滴が行われるも十分改善しなかった.平成C27年C12月,左眼結膜腫瘤切除・病巣開放を施行された.術後は抗菌薬点眼に加え,1.5%レボフロキサシン結膜下注射を週C1回で施行されたが,やや改善を認めるも効果は限定的であった.イソジン点眼も試みられたが,しみるとの訴えで継続できなかった.また,0.1%フルオロメトロン点眼も一時期投与されたが,眼脂が悪化したとの訴えがあり中止となった.その後腫瘤が再発し,眼脂改善も認めなかったため,平成C28年C4月鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)紹介初診となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:VD=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.1.50DAx180°),VS=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.2.00DCAx5°),図3創部の塗抹鏡検(グラム染色C40倍)グラム陰性桿菌を多数認めた.RT=11CmmHg,LT=12CmmHg.左眼外眼角部に肉芽腫性腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っていた.結膜充血は腫瘤周囲に軽度認められた(図1).角膜・前房・中間透光体・眼底には特記すべき所見はなかった.眼脂を培養に供したところ,やはり緑膿菌が検出された.薬剤感受性検査は前医でも当科初診時に行ったものでも,通常緑膿菌に効果のあるどの抗菌薬にも耐性は認めなかった.抗酸菌培養も行ったが検出されなかった.経過:入院のうえ,肉芽腫をきたす全身性の炎症性疾患の鑑別のため採血を施行したが,いずれも正常範囲内であった.入院C4日目,左結膜腫瘍摘出術を施行.結膜を広く切開し,まず肉芽腫を切除すると,奥のほうに涙小管炎でみられる涙石のような黄色い塊が出てきたため除去した(図2).黄色い塊は多数認められ,確認できたものはすべて取り除いた.最後にポビドンヨードで創部を消毒し,創部は開放した図4切除した腫瘤の病理組織化膿性肉芽腫に一致する所見で悪性所見なし.まま終了した.術中切除した組織は黄色い塊も含めて培養・Creal-timePCR・病理検査に提出した.その結果,創部の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌が多数確認された(図3).培養では緑膿菌は検出されなかった.Real-timePCRでは緑膿菌のCDNAが総量C37,000コピー認められた.病理検査では化膿性肉芽腫に一致する所見で,一部石灰化を示す滲出液様の物質を認め,陳旧化した涙腺分泌液などを思わせる所見だが菌は認められず,悪性所見なしとの結果だった(図4).術翌日よりC1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,ベタメタゾン点眼C4回/日,セフタジジム点滴C2Cg/日の投与を開始.術後経過良好にてC9日目に退院となった.その後外来にて経過をみていたが,術後C4カ月の時点で眼脂や肉芽腫の再発は認めず経過良好にて終診となった(図5).CII考按結膜に肉芽腫を生じた症例の報告は国内では数例散見されたが2.10),多くは異物反応によるものや術後に生じたもので,感染性の症例は結核によるものがC1例あるのみだった11).また,本症例のように涙腺部に涙石のような石灰化を認めた症例は,1972年に長嶋らが12),1981年に藤関らが13)報告しているが,最近の報告はない.一方海外では数件の文献が確認され14.20),緑膿菌感染を引き起こした症例もC1例認められた21).本症例は起因菌も検出されており,長期にわたりさまざまな種類の抗菌薬が投与され,一度は外科的処置が行われているにもかかわらず腫瘤が再発し,難治性だった.そのため,まず薬剤耐性菌である可能性が考えられたが,前医での検査も含め培養結果は毎回緑膿菌しか検出されておらず,薬剤感受性検査でも耐性は認められず,否定的だった.また,緑膿菌以外の菌,とくに肉芽腫を形成しやすい結核菌や非定型抗図5最終診察時写真腫瘍は切除され再発なく,眼脂も認められない.酸菌などに感染している可能性も考え,初診時に抗酸菌培養を行ったが検出されず否定的と考えた,また,そもそも感染性でない腫瘤の可能性も考えたが,とくに全身的な既往歴もなく,採血検査などで異常を認めないことなどからも否定的かと思われた.本症例は当科における手術で,深部に多数の結石を認め,外眼角付近の結膜円蓋部にある主涙腺と副涙腺の開口部までの管に先天異常やClacrimalglandductalepithelialcyst(dac-ryops)などの疾患があり,そこが詰まって石灰化を起こし,それをベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.また,病巣が深部にあり,抗菌薬が十分病巣まで移行していなかった可能性が考えられた.そのため今回の手術では結膜を広く切開し,できる限り奥まで術野を広げ,腫瘤をすべて切除し,確認できた黄色い涙石のような塊をすべて摘出した.これが菌石ではないかと思われたが,病理検査の結果からは否定的だった.また,創部を開放したことによって,術後抗菌薬の移行がよくなるよう図った.十分な外科的切除および郭清が奏効し,治癒することができた.若年の女性で,眼脂が慢性に出続けるというのはきわめてまれな事態であり,今回のようなまれな病態が隠れている可能性があり,外科的なアプローチを含め徹底した原因究明が必要であると考えられた.文献1)大島浩一,後藤浩:知っておきたい眼腫瘍診療.p67-68,医学書院,20152)武田憲夫,外岡わか,安倍弘晶:眼窩内木片異物による結膜・眼窩の異物性肉芽腫.眼紀34:1785-1788,C19833)綾木雅彦,藤村博美,大出尚郎:シリコンスポンジ縫着術のC20年後に結膜肉芽腫を発症したC1例.眼科手術C6:295-298,C19984)石田乾二,曽谷治之,絵野尚子ほか:長期間放置された結膜異物.あたらしい眼科15:433-435,C19985)上野一郎,吉川洋,向野利一郎ほか:両眼結膜の腫瘤で発見されたサルコイドーシスのC1例.眼紀C56:274-277,C20056)越前成旭,大越貴志子,山口達夫ほか:結膜下腫瘤の組織診により診断に至ったアレルギー性肉芽腫性血管炎のC1例.臨眼60:1605-1608,C20067)森山涼,中村敏,渡辺孝也ほか:治療が遅れた上眼瞼結膜下異物肉芽腫のC6例.臨眼61:1471-1474,C20078)石嶋漢,加瀬諭,野田実香ほか:角結膜上皮内新生物術後に急速に増大した化膿性肉芽腫のC1例.日眼会誌114:C1036-1039,C20109)福居萌,勝村浩三,服部昌子ほか:ハードコンタクトレンズがC3年間結膜.に残存したC1例.眼科C54:1667-1670,C201210)中沢陽子,植田次郎,横山佐知子ほか:睫毛を含む外眼筋周囲白色塊のために眼球運動障害をきたしたC1例.眼臨紀C6:320-323,C201311)齋藤和子,安積淳,塚原康友ほか:抗結核薬内服が奏効した肉芽腫性結膜腫瘍のC1症例.眼紀51:1035-1038,C200012)長嶋孝次:涙腺排出管結石症のC1例.臨眼C26:105-106,C197213)藤関能婦子,小泉屹:涙腺排出管結石のC2例.臨眼C35:1358-1361,C198114)NaitoH,OshidaK,KurokawaKetal:Atypicalintermit-tentCexophthalmosCdueCtoChyperplasiaCofClacrimalCglandCassociatedCwithCdacryolithiasis.CSurgCNeurolC1:84-86,C197315)BakerCRH,CBartleyGB:LacrimalCglandCductuleCstones.COphthalmologyC97:531-534,C199016)ZaferCA,CJordanCDR,CBrownsteinCSCetal:AsymptomaticClacrimalductuledacryolithiasiswithembeddedcilia.Oph-thalmicPlastReconstrSurgC20:83-85,C200417)HalborgCJ,CPrauseCJU,CToftCPBCeta:StonesCinCtheClacri-malgland:aCrareCcondition.CActaCOphthalmolC87:672-675,C200918)AltenF,DomeierE,HolzFGetal:Dacryolithsinthelac-rimalglandductule.ActaOphthalmolC90:155-156,C201219)KimCSC,CLeeCK,CLeeSU:LacrimalCglandCductstones:Cmisdiagnosedaschalazionin3cases.CanadianJournalofOphthalmologyC49:102-105,C201420)ZhaoJ,XuZ,HanAetal:Ahugelacrimalglandductuledacryolithwithahairynucleus:acasereport.BMCOph-thalmolC18:244-245,C201821)MawnLA,SanonA,ConlonMRetal:PseudomonasdacC-ryoadenitisCsecondaryCtoCaClacrimalCglandCductuleCstone.COphthalmicPlastReconstrSurgC13:135-138,C1997***

複数の点眼剤を使用中に発症した涙囊炎からの涙囊結石を分析した1例

2020年4月30日 木曜日

《第8回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科37(4):471.475,2020c複数の点眼剤を使用中に発症した涙.炎からの涙.結石を分析した1例久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CACaseofaDacryoliththatDevelopedduetotheUseofMultipleEyeDropsMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalC目的:複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症した患者に涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を施行し,摘出した涙.結石の成分分析と病理検査を行ったので報告する.症例:77歳,女性.30歳から関節リウマチがあり,10年前から近医にて低濃度ステロイド,ヒアルロン酸,レバミピド,オフロキサシンゲルの点眼で加療中に右涙.炎を発症,吹上眼科にてCDCRを施行した.手術時に涙.内より摘出した柔らかい白色結石について,病理検査と成分分析を行った.結果:赤外分光分析法(IR法)で,結石はレバミピドの成分・蛋白質と同様の吸収を認めた.顕微ラマン分析でレバミピド成分を確認し,液体クロマトグラフでレバミピド成分はC20.9%と判定した.原子吸光分析法でホウ酸は検出されず,病理検査で放線菌を認めた.考察:IR法などから,涙.内結石はレバミピド成分がC20.9%であると確認した.レバミピド点眼などの複数点眼を使用する際には,涙.結石に注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofadacryoliththatdevelopedduetotheuseofmultipleeyedrops.Casereport:CThisstudyinvolveda77-year-oldfemalewithdacryocystitisthatdevelopedafterundergoingtherapywithmulti-pleeyedrops,suchasrebamipideandlow-dosesteroids,ando.oxacingel-formingophthalmicsolutionfromthir-ty-yearsCold.CForCtreatment,CdacryocystorhinostomyCwasCperformedCunderClocalCanesthesia,CandCaCdacryolithCwasCobservedCandCremovedCfromCtheClacrimalCsac.CACsmallCportionCofCtheCdacryolithCwasCsentCoutCtoCaClaboratoryCforCpathologicalstudy,withtheremainingportionusedforchemicalanalysis.Results:Chemicalanalysisrevealedthattheprimarycomponentwasrebamipide,similartotheinfraredspectroscopy.ndings.Ourresultsshowedthat20.9%ofthedacryolithcompositionwasrebamipide.Conclusion:The.ndingsinthispresentcaseshowedthat20.9%CofCtheCdacryolithCwasCcomposedCofCtheCproteinCofCrebamipide,CandCrevealedCthatCtheCuseCofCmultipleCeyeCdropsCmaypresenttheriskofdacryolithformation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):471.475,C2020〕Keywords:レバミピド点眼,赤外分光光度計,涙.鼻腔吻合術,涙.結石.rebamipide,infraredspectroscopy(IF),dacryocystorhinostomy,dacryolisths.はじめにレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,その涙.炎の治療のため涙.鼻腔吻合術鼻外法(dac-ryocystorhinostomy:DCR)を行った際に,白色の涙.内結石を認めたとの報告がある1,2).しかし,その白色結石にレバミピドの成分を含んでいるかを調べた報告は少ない1,2).筆者らは,レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,手術目的で吹上眼科に紹介となった患者のDCR中に,涙.内結石を認め除去した.この涙.内結石の成分分析を試みたので,結果を報告する.I症例症例はC77歳,女性.30歳から関節リウマチなどの膠原病があり,10年前より近医で上強膜炎,角膜びらん,ドライアイに対し,低濃度ステロイド点眼,ヒアルロン酸点眼,レバミピド点眼,オフロキサシンゲル点眼で加療していた.右〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10-5Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(95)C471涙.炎を発症したため,手術目的で吹上眼科紹介となった.結膜培養を行い,涙.洗浄を行うと,涙.までは入れることができたが涙.以降の閉塞を認めた.CT(computedtomography:コンピュータ断層撮影)にて異常なく,局所麻酔にてCDCRを行った3).涙.切開時に白色のおから状の柔らかい結石(図1)を摘出した.摘出した結石の一部にて病理検査を行い,残りは大塚製薬に分析を依頼し約C3.1C×1.7Cmm白色の結石を取出し,風乾後は淡黄白色で大きさが約C1.1C×2.2Cmmとなったものを結石分析の試料とした.1.IR(infraredspectroscopy)赤外分光分析法による有効成分の比較,2.IRによる蛋白質の比較,図1摘出した白色の結石赤色の円内の結石を分析に用いた.3.顕微ラマン分析装置での分析,4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定,5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定を行った.CII結果結膜培養では,コアグラーゼ陰性CStaphylococcus(CNS)が認められ,放線菌は確認できなかった.DCR術後は涙.炎の再発もなく経過良好で,3カ月後に涙小管チューブを抜去した.抜去後も再閉塞などなく,経過良好で外来観察中である.C1.IRによる有効成分の比較(図2)ムコスタ点眼液の有効成分のレバミピドは,波数①C3,280CcmC-1,C②C1,730Ccm-1,C③C1,644Ccm-1,C④C1,602Ccm-1,⑤C1,540Ccm-1および⑥C760CcmC-1付近に特異吸収があり,今回の結石は①C3,280cmC-1,C②C1,730CcmC-1,C③C1,644CcmC-1,④C1,602Ccm-1,⑤C1,540CcmC-1および⑥C760CcmC-1付近の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.C2.本症例と蛋白質のIRチャート(図3)レバミピドの蛋白質は,波数①C3,270CcmC-1,②C1,640CcmC-1,C③C1,530Ccm-1に吸収があり,今回の結石は同様の位置に吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.C3.顕微ラマン分析装置での分析(図4)本症例では,1,300CcmC-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.図2赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較6カ所の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.図3赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較今回の結石は,3カ所で同様な吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.図4顕微ラマン分析による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較1,300Ccm-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.C4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定ていると考えられた.液体クロマトグラフ(highperformanceliquidchromatog-6.病理検査(図5)raphy:HPLC)でレバミピドの含量測定を行ったところ,グロコット染色で放線菌とみられる菌塊がみられた.中心レバミピドをC20.9%含んでいた.部に濃厚な染色があり,そこから表層部にわたってほぼ均一C5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定な放線菌感染を認めた結石を水C0.2Cmlで抽出し,原子吸光分析法によりホウ酸CIII考察含量の測定を行ったところ,ホウ酸は検出されなかった.よって結石にはレバミピド点眼の蛋白質成分がC20.9%含まれレバミピド点眼は,広くドライアイに用いられ,Sjogren図5グロコット染色バーはC500Cμm.症候群にも多用される点眼薬である1).近年レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,DCR時に白色の涙.結石を発見し,涙.結石中にレバミピドが確認される例や確認されない例が報告されている1,2).しかし,成分分析を具体的および詳細に報告はしている報告は少なく1,2)今回調査・報告した.発症時に,レバミピド点眼以外に,ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,オフロキサシンなどの点眼をしていたという症例の報告2)はあるが,オフロキサシンゲル点眼の報告は見つけることはできなかった.レバミピド点眼は滞留性がよく,レバミピドの粒子が涙.の壁に認められたとの報告がある4,5).オフロキサシンゲル点眼は,点眼後は眼表面の温度によりゲル化し,眼軟膏と同様に長時間結膜.内に滞留する6).涙.から鼻涙管に排出されるまでの滞留に関する報告は見当たらなかったが,粘性が高いことや結膜での滞留性が高いことを考慮すると,レバミピド点眼同様に涙.から鼻涙管で滞留することは予想される.また,年齢が高い患者や,Sjogren症候群による分泌低下がある場合は,さらにこれらの点眼の排出に時間がかかり,涙道閉塞および涙.炎の原因となりうると考えられた.今回の症例では,涙.炎および涙.結石の形成にオフロキサシンゲル点眼とレバミピド点眼が,それぞれ単独で関与したか,または相互作用により涙.結石が生じた可能性も考えられたが,以前の報告同様1,2)に明確な原因は不明だった.涙.内結石への細菌感染については,池田らの報告でもC2症例(100%)ともに放線菌感染を認め1),年齢とともに結石への細菌感染は高くなるとの報告7)もあり,今回も,放線菌感染を認め,以前の報告と同様だった.放線菌が確認された部位は,中心部に濃厚な染色が何個かあり,表層部にわたって均一な放線菌感染を認めた.初期の段階から持続的に感染を継続しつつ結石が増大した可能性と,ある程度大きくなった結石に放線菌感染が起こり中心部に拡大していった可能性が考えられた.病理の所見をみると,中心部に濃厚な放線菌感染があり表層に放線菌が薄いため,放線菌感染を濃厚に起こした小さい結石が集結し結石が大きくなり,大きくなった結石にさらに放線菌感染が起こったように思えた.しかし,調べた限りでは現在の結石の形成および感染の機序,順序などは不明だった.今回の症例は,涙.炎発症以前に,涙.内結石や鼻涙管閉塞があったかは不明であるが,推測される病態としては以下が考えられる1).Sjogren症候群および年齢的変化で涙液量が少なく,涙道内にある異物の排泄効率が低下しており,さらにレバミピドの粒子や,粘性の高いオフロキサシンゲル点眼が滞留して小さな涙.結石の核を形成し,一時的な鼻涙管閉塞症および放線菌による涙.炎および涙.結石のへの感染を起こした.放線菌に感染した小さい涙.内結石同士が融合し,機械的な鼻涙管閉塞症を起こす程度まで結石が成長し,大きくなってからも放線菌感染が起きた.初期段階から涙.内結石と涙.炎および放線菌感染が相互に複雑に作用した.今回の症例はC77歳と高齢だった.杉本らの報告2)をみると,涙.炎の発症はC10例中C9例(90%)がC70歳以上と高率だった.また,池田らの報告1)もC70歳以上のC2症例で,涙.炎患者における涙.内結石の発生率は年齢ともに上昇するとの報告7)もあり,高齢が涙.炎および涙.内結石を生じやすい素因と考えられた.今回は,結石中にレバミピド成分がC20.9%含まれていた.池田らの報告1)と杉本らの報告2)を合わせると,IR法でのレバミピド定性については,11例中C6例(54.5%)がありで,4例(36%)がなしだった.3例のレバミピド定量結果は,43.8%,14.4%,11.7%だった.今回の測定ではC20.9%であり,いままでの報告と比較し,定性では多数派であり定量結果では中間に位置した.これ以上については,症例が少ないため詳細不明だった.IR法は,結石の粉末資料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する8).今回の波形と以前の報告8)の波形を比較すると,相違をはっきりと認めた.一方,レバミピド点眼の成分をC20%程度含むことでレバミピド点眼成分の波形に似てくることがわかった.なお,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている9).また,レバミピド点眼が涙.内で固まらないようにするためにC2.3日間隔をおくことが推奨されている4).以上のことを考えると,通常C1日に数回の点眼回数で,レバミピド点眼以外に粘性の高い点眼をすることは避けるべきと考えられる.高齢患者にレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用する際には,経過観察中は涙道・涙.疾患に注意が必要と考えられた.レバミピド点眼以外には,粘性の点眼を併用することは避け,涙.炎を認めた際には速やかに専門医受診を薦める必要があると考える.文献1)池田毅,平岡美紀,稲富周一郎ほか:量側涙.部に涙石を生じたシェーグレン症候群のC2例.臨眼C71:593-598,C20172)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCR点眼液CUD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,C20153)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C20054)杉本学,野田佳宏:涙道内視鏡の基本─鼻涙管.眼科手術30:53-58,C20175)MimuraCM,CUekiCM,COkuCHCetal:E.ectCofCrebamipideCophthalmicCsuspensionConCtheCsuccessCofClacrimalCstentCintubation.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:385-389.C20166)岡本茂樹,加藤あずさ:オフロキサシンゲル化製剤について教えてください.あたらしい眼科26:197-199,C20097)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathologicalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinCJapanesepatietnts:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthtal-molC2013,C406153,C20138)久保勝文,櫻庭知己:涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析.あたらしい眼科35:529-532,C20189)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JINスペシャルC80:170-176,C2007C***

ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与

2020年4月30日 木曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(4):467.470,2020cラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与松村理世*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyandSafetyofSwitchingfromLatanoprostOphthalmicSolutiontoLatanoprost/CarteololFixedCombinationEyeDropsRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)の長期的効果と安全性を前向きに検討した.対象および方法:ラタノプロスト点眼薬(LAT)使用中の原発開放隅角緑内障(広義)25例C25眼を対象とした.LATを中止し,LCFCに変更した.変更前と変更1,3,6,12カ月後の眼圧,涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT),点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),充血,血圧,脈拍数を比較した.Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を変更前と変更6,12カ月後で比較した.副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更C12カ月後C14.0±1.8CmmHgで,変更前C15.9C±2.9CmmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001).BUT,SPK,MD値は変更前後で同等だった.血圧と脈拍数は変更後に有意に下降した.副作用はC2例(8.0%)出現し(圧迫感,霧視+流涙),投与中止となった.結論:LATからCLCFCへの変更により,12カ月間にわたり眼圧は下降し,視野を維持した.血圧と脈拍数の下降には注意が必要である.CPurpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-terme.cacyandsafetyofswitchingfromlatanoprost(LAT)Ctolatanoprost/carteolol.xedcombination(LCFC)eyedrops.Methods:Thisstudyinvolved25eyesof25patientswithCprimaryCopen-angleCglaucomaCincludingCnormal-tensionCglaucomaCwhoCwereCusingCLATCeyeCdropsCandCwhoCwereCswitchedCfromCLATCtoCLCFC.CIntraocularpressure(IOP)C,CtearC.lmCbreak-uptime(BUT)C,CcornealCepithelialdefects[super.cialCpunctatekeratitis(SPK)]C,CconjunctivalChyperemia,CbloodCpressure,CandCpulseCrateCwereCcom-paredbetweenatbaselineandat1-,3-,6-,and12-monthspostswitch.Themeandeviation(MD)valuewascom-paredCpreCandCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:IOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCatC12-monthsCpostswitch(14.0C±1.8CmmHg)inCcomparisonCwithCthatCatCbeforeswitching(15.9C±2.9mmHg)(p<0.0001)C.Nodi.erencesinBUT,SPK,andMDvaluewereobserved.However,bloodpressureandpulserateweresigni.cantlydecreased.Twopatients(8.0%)droppedoutduetoadversereactions.Conclusions:CAfterCswitchingCfromCLATCtoCLCFC,CIOPCwasCdecreasedCandCvisualC.eldCwasCmaintainedCforC12Cmonths.CStrictCattentionshouldbepaidtofallingbloodpressureandpulseratepostswitchingfromLATtoLCFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):467.470,C2020〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,変更.latanoprost/carteolol.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visual.elddefects,switching.Cはじめに用の少なさ,1日C1回点眼の利便性より第一選択薬である1).緑内障治療は通常点眼薬の単剤投与から始める1).プロス多施設での緑内障患者実態調査においても単剤使用患者タグランジン関連点眼薬は強力な眼圧下降作用,全身性副作(1,914例)ではプロスタグランジン関連点眼薬の使用がC73.9〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C467表1患者背景緑内障病型原発開放隅角緑内障(狭義):7例C7眼正常眼圧緑内障:1C8例C18眼男性:女性12例:1C3例年齢C69.1±10.3歳(C47.C84歳)眼圧C15.9±2.9CmmHg(1C1.C23mmHg)Humphrey視野CMD値C.5.63±4.68CdB(C.13.05.2.18CdB)%でもっとも多かった2).プロスタグランジン関連点眼薬単剤で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更,あるいは他の点眼薬を追加する1).アドヒアランスの観点からはC1日1回点眼のプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬への変更が最良である.プロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬は日本ではC2010年より使用可能となった.しかし,最近までプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬に含まれるCb遮断薬はチモロールのみであった.チモロールはカルテオロールよりも角膜上皮障害の出現頻度が高い3)ため,チモロールではなくカルテオロールを含有する配合点眼薬の開発が望まれていた.2017年にCb遮断薬としてカルテオロールを含有するラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった.しかし,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の効果と副作用については十分に検討が行われていない4.6).そこで筆者らは,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中の原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,続発緑内障患者を対象に,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の短期間(3カ月間)の眼圧下降効果と安全性を報告した4).今回対象を原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障患者に限定し,経過観察期間をC12カ月まで延長して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼圧下降効果,視野維持効果,安全性を前向きに検討した.I対象および方法2017年C2月.2018年C5月に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中で眼圧下降が不十分な原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障C25例C25眼を対象とし,前向きに研究を行った.患者背景を表1に示す.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬(1日C1回夜点眼,キサラタン,ファイザー)を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(1日C1回夜点眼,ミケルナ,大塚製薬)に変更した.変更前と変更C1,3,6,12カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にCGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定した.ベースライン眼圧も含めて眼圧は2回測定し,2回の眼圧値の平均値を解析に用いた.結膜充血,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT)を計測,評価した.血圧,脈拍数はデジタル自動血圧計(UDEXsuperTYPE,エルクエスト)で測定した.SPKはCNEI分類7)を,結膜充血はアレルギー性結膜疾患ガイドライン第C2版8)を用いて評価した.変更前と変更C6,12カ月後にCHum-phrey視野検査プログラムC30-2SITA-Standardを施行しCmeandeviation(MD)値を比較した.来院時ごとに副作用と中止症例を調査した.眼圧,BUT,血圧,脈拍数,MD値の比較にはCtwo-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定を,SPKの比較にはCFriedman検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.臨床試験登録システムCUMIN-CTRに登録し,UMIN試験CIDとしてCUMIN000026230を取得した.研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得たのちに検査などを行った.CII結果眼圧は変更前C15.9C±2.9CmmHg(平均C±標準偏差),変更C1カ月後C13.5C±2.3CmmHg,3カ月後C13.7C±1.9CmmHg,6カ月後C14.0C±1.8CmmHg,12カ月後C14.0C±1.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図1).視野のCMD値は変更前(C.5.63±4.68dB)と変更C6カ月後(C.4.81±4.26CdB),変更C12カ月後(C.5.34±4.63CdB)で同等だった(p=0.19).変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.SPK(図2)とCBUT(図3)は変更前後で同等だった(p=0.32,Cp=0.18).血圧は,収縮期,拡張期ともに変更前に比べて変更後に有意に下降した(p<0.001)(表2).脈拍数は変更前C72.4C±9.1拍/分,変更C1カ月後C71.2C±11.1拍/分,3カ月後C69.7C±12.1拍/分,6カ月後C66.0C±11.2拍/分,12カ月後C67.0C±11.7拍/分だった.変更C6カ月後,12カ月後では変更前に比べて,変更C6カ月後では変更C1カ月後に比べて有意に減少した(p<0.001).副作用はC2例(8.0%)に出現し,変更C1カ月後に圧迫感が1例,変更C1カ月後に霧視・流涙がC1例で,それぞれ投与中止となった.圧迫感の症例ではラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更したところ速やかに症状が消失した.霧視・流涙の症例ではラタノプロスト点眼薬へ戻したところ速やかに症状が消失した.経過観察中の投与中止例は上述した2例(8.0%)のみだった.CIII考按ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロー468あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(92)N.S.20********3.00.6p=0.3151±2.31816142.5眼圧(mmHg)12n=2510n=23n=23n=23SPK(点)2.0n=258641.51.020変更前変更変更変更変更0.51カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0.0変更変更変更図1ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の眼1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後圧(two-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定,**Cn=25n=25n=23n=23n=23p<0.0001)図2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のSPK(NEI分類)CN.S.p=0.17649.8表2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の血圧BUT(秒)14121086420収縮期(mmHg)p値拡張期(mmHg)p値変更前(n=25)C136.4±17.4C76.7±9.6変更C1カ月後(n=23)C120.4±16.7**C68.3±8.4*変更C3カ月後(n=23)C119.8±14.6**C68.4±9.9*変更C6カ月後(n=23)C121.9±16.2*C69.3±9.2*変更C12カ月後(n=23)C117.7±15.3**C66.4±7.7**<C0.0001<C0.001変更前変更変更変更変更1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後n=25n=25n=23n=23n=23図3ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のBUT(two-wayANOVA)(two-wayANOVAおよびBonferroni/Dunn検定,*p<0.001,**p<0.0001)ル配合点眼薬への変更は国内臨床第CIII相優越性検証試験で検討された5).眼圧下降幅は変更C4週間後C2.7C±0.2CmmHg,8週間後C2.9C±0.2CmmHgだった.また,プロスタグランジン関連点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更したC32例の報告では,眼圧は変更前(14.6C±2.4CmmHg)に比べて変更C3カ月後(13.3C±2.1CmmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.3CmmHgだった6).今回の症例での眼圧下降幅は変更C1カ月後C2.4C±1.4CmmHg,3カ月後C2.6±1.7CmmHg,6カ月後C2.3C±1.8CmmHg,12カ月後C2.3C±1.8CmmHgで,過去の報告5,6)とほぼ同等だった.国内臨床第III相優越性検証試験での副作用はC6.8%に出現し,内訳は睫毛乱生,霧視などだった5).今回の副作用出現率はC8.0%で,内訳は圧迫感と霧視・流涙が各C1例だった.これらのC2症例の副作用は重篤ではなく,点眼薬を変更したところ速やかに症状が消失した.点眼薬の副作用としてCSPKがあげられる.今回のラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更では基剤がC1剤からC2剤へ増加するためCSPKの悪化が予想された.一方,防腐剤としてラタノプロスト点眼薬では塩化ベンザルコニウム,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬ではエチレンジアミン四酢酸(ethylenedi-aminetetraaceticacid:EDTA)とホウ酸が含有されている.EDTAとホウ酸は塩化ベンザルコニウムと比較して細胞毒性が低いと報告9)されている.この両者の影響で,SPKやBUTが変更前後で変化なかったと考えられる.変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.これらの症例の結膜充血も重篤ではなく,自覚症状や訴えもなかった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼局所への安全性は良好と考えられる.今回,変更後に血圧は収縮期,拡張期ともに有意に下降した.脈拍数も変更C6,12カ月後には有意に減少した.Cb遮断薬であるカルテオロールが追加された影響が考えられる.しかし,ふらつきなどの自覚症状を訴える症例はなかった.Yamamoto(93)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C469らの報告ではラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更後に脈拍数は変更C4カ月後4.3拍/分,変更C8カ月後C6.1拍/分減少した5).同様に収縮期血圧は変更C4カ月後C3.0CmmHg,変更C8カ月後C4.2CmmHg,拡張期血圧は変更C4カ月後C1.4mmHg,変更C8カ月後C2.5CmmHg下降した.今回の症例の変更C12カ月後の下降幅は脈拍数C5.5拍/分,収縮期血圧C17.7CmmHg,拡張期血圧C10.3CmmHgで,Yamamotoらの報告5)と比べて脈拍数はほぼ同等,血圧は収縮期,拡張期ともに下降幅が大きかったが,その原因は不明である.ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更後には,とくに血圧下降に注意する必要がある.トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更しC24カ月間経過観察した報告がある10).眼圧下降幅は変更C24カ月後まででC2.0.2.9CmmHgで,今回の2.3.2.6CmmHgとほぼ同等だった.また,Humphrey視野検査のCMD値は,トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬への変更では,変更前と変更C6,12,18,24カ月後で有意な悪化はなく10),今回も変更前と変更C6,12カ月後で有意な悪化はなかった.しかし,視野障害は緩徐に進行するために今回の症例においても今後も長期的な経過観察が必要である.結論として開放隅角緑内障患者に対してラタノプロスト点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更することで,点眼回数を増やすことなくC12カ月間にわたり眼圧を下降させ,視野を維持することができた.安全性に関しては血圧や脈拍数の下降に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20173)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C20104)中牟田爽史,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼薬への変更.臨眼73:729-735,C20195)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteololC/ClatanoprostC.xesCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20166)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科36:1083-1086,C20197)LempMA:ReportCofCtheCnationalCeyeCinstitute/industryCworkshopConCclinicalCtrialsinCdryCeyes.CCLAOCJC21:221-232,C19958)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20109)UematsuCM,CKumagamiCT,CShimodaCKCetal:PolyoxyethC-yleneChydrogenatedCcastorCoilCmodulatesCbenzalkoniumCchloridetoxicity:ComparisonCofCacuteCcornealCbarrierCdysfunctionCinducedCbyCtravoprostCZCandCtravoprost.CJOculPharmacolTherC27:437-444,C201110)村木剛,井上賢治,石田恭子ほか:トラボプロストからトラボプロスト・チモロール配合剤へ変更した症例の長期効果.臨眼69:1493-1498,C2015***470あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(94)

基礎研究コラム 35.核酸医薬

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核酸医薬核酸医薬とは核酸医薬とは天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり,遺伝子発現を介さずに直接生体に作用し,化学合成により製造されることを特徴とする.代表的な核酸医薬にアンチセンスオリゴヌクレオチド,RNA干渉(si/sh/miRNA),アプタマー,デコイ,GcPオリゴなどがある.アンチセンスとCRNA干渉は,外から細胞内に導入されたCRNAによって配列特異的に標的CRNAが分解,もしくはスプライシングパターンが修飾され,標的遺伝子の発現が抑制されることで,治療効果を生み出す手法である.その他の三つは蛋白質を標的とする.これまで米国食品医薬品局に認可された核酸医薬に,Duchenne型筋ジストロフィに対するCeteplirsen1)や,家族性高コレステロール血症に対するCmipomersen2)(どちらもアンチセンス),遺伝性アミロイドーシスに対するCpatisiran(siRNA)3)などがある.治療効果はあるものの,副作用もよくみられるため,まだ長期の評価を要する.眼科領域での応用眼科領域で認可されている核酸医療は,サイトメガロウイルス性網膜炎に対するホミビルセンと,滲出性加齢黄斑変性症に対するペガプタニブがある.どちらも硝子体内投与であり,前眼部領域ではまだ核酸医薬が開発されていない.筆者らはそれらを角膜血管新生に応用する取り組みをしており,竹渓友佳子SchepensEyeResearchInstituteofMassEyeandEarCangiopoietin-likeCprotein2という炎症および血管新生に関与する分子をターゲットにしたCRNAiを脂質ナノ粒子に取り込み,点眼によりアルカリ外傷マウスモデルで血管新生抑制機能があることを示した4).今後の展望概念が提唱されて以来,さまざまなタイプの核酸医薬が承認されてきたが,免疫反応やドラッグデリバリーなど克服しなければならない課題は多い.しかしながら,標的特異性と化学合成可能という利便性があり,さらにCCRISPRといった新たなツールやこれまで機能が不明だったCnoncodingRNAなどをターゲットにすることで,将来さらなる発展をとげるのではないかと期待される.文献1)EteplirsenCbrie.ngCdocument.CNDAC206488.CSareptaCTherapeuticsInc,January22,20162)FogacciCF,CFerriCN,CTothCPCetal:E.cacyCandCsafetyCofmipomersen:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCrandomizedclinicaltrials.DrugsC79:751-766,C20193)AdamsD,Gonzalez-DuerteA,O’RiodranWetal:Patisir-an,CanCRNAiCtherapeutic,CforChereditaryCtransthyretinCamyloidosis.NEnglJMedC379:11-21,C20184)TaketaniCY,CUsuiCT,CToyonoCTCetal:TopicalCuseCofCangiopoietin-likeCproteinC2CRNAi-loadedClipidCnanoparti-clesCsuppressesCcornealCneovascularization.CMolCTherCNucleicAcidsC5:e292,C2016図1RNA干渉のメカニズムと脂質ナノ粒子包埋shRNA脂質ナノ粒子を用いることで,強固な角膜上皮バリアを通過しやすくなり,角膜実質への効果がより期待できる.MechanismofsiRNAsilencingdsRNAorshRNADicersiRNAduplexAgoFormationofRISCRISCRISCsiRNA/mRNA-complexslicedmRNA“SILENCING”http://www.uni-konstanz.de/FuF/chemie/jhartig/LipidnanoparticlewithshRNAepitheliumCornea(81)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4570910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 203.硝子体手術後の液状後発白内障(初級編)

2020年4月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載203203硝子体手術後の液状後発白内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●液状後発白内障とは液状後発白内障は.内固定された眼内レンズと後.の間隙に乳白色の液状物質が貯留するもので,通常白内障術後3カ月以上経過してから生じてくることが多い.本疾患は,.内に残留した水晶体上皮細胞が増殖,偽化生を繰り返すことにより,コラーゲンなどの細胞外基質やクリスタリンなどの水晶体蛋白を産生し,それが貯留することで発症すると考えられている1,2).●液状後発白内障による視力障害通常,液状後発白内障は見かけほど視力低下をきたさないので,自覚症状が軽度の場合には経過観察でよい.しかし,液状物の混濁が高度となったり,後.が後方に膨れ上がり,この中に貯留した液状物により凸レンズ効果を呈して視力が低下する場合には治療の対象となる.糖尿病網膜症を合併している患者では液状後発白内障が生じる頻度が高いとされているが,筆者の経験では硝子体と白内障の同時手術例も発生頻度が高い印象がある.これは通常の白内障手術よりも硝子体手術を併用することで術後炎症が遷延しやすいことが誘因と考えられる.また,硝子体手術後は硝子体ゲルがないため,後.が後方に膨隆するケースも多く,本疾患の発症に関係している可能性がある.●硝子体手術後の液状後発白内障の治療ヤグレーザーで後.を切開すれば,液状成分は硝子体腔に容易に拡散して良好な視力改善が得られる.しかし,乳白色の混濁が強い場合には後.の位置が確認しづらいので,通常のヤグレーザー後.切開術よりも手技的にむずかしい(図1).コツは比較的眼内レンズと後.の距離が短いと思われる周辺部から照射を開始し,後.の(79)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1ヤグレーザー後.切開術施行前のスリット写真眼内レンズの後方に乳白色の液状物質の貯留を認めた.図2ヤグレーザー後.切開術施行後のスリット写真後.の亀裂から乳白色の液状物質が硝子体腔側に一気に拡散し,瞬時に混濁は消失した.視認性が不良の場合には前方から後方に照射部位を移動させていく.後.が一部でも穿孔すると,乳白色の液状物質が硝子体腔に拡散し,その後は後.の確認が容易となる(図2)ので,通常の十字切開を行う.液状成分が多いと術後の炎症が通常の症例より強くなることがあるので,照射後にステロイドの点眼を処方しておく.また,照射後に眼圧上昇をきたしたとする報告3)もあるので,注意深く経過観察する.ヤグレーザーでどうしても後.切開ができない症例や白色塊が多量に認められる症例に対しては,硝子体カッターで観血的に混濁を除去することもある4,5).文献1)永田万由美,松島博之,泉雅子ほか:液状後発白内障の成分分析.眼紀52:1020-1023,20012)宮本武,三宅謙作,谷藤泰寛ほか:液状後発白内障の免疫組織化学的検討細胞外マトリックスと成長因子.IOL&RS14:293-297,20003)高原真理子,矢野啓子,栗原久美子ほか:液状後発白内障に対し,レーザー後発切開術を施行し,高眼圧をきたした1症例.眼科臨床医報99:42-44,20054)大熊康弘,林敏信,小川智一郎ほか:液状後発白内障に対し25G経結膜無縫合硝子体手術を施行した2症例.IOL&RS21:86-90,20075)三上尚子,桜庭知己,原信哉ほか:外科的除去を要した特異な後発白内障の2例.IOL&RS17:42-46,2003あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020455

眼瞼・結膜:淋菌性結膜炎の診断と治療

2020年4月30日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人61.淋菌性角結膜炎の診断と治療岡田尚樹国家公務員共済組合連合会吉島病院眼科,広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学近間泰一郎広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学淋菌性角結膜炎は性感染症のひとつである.成人では性行為による感染が多いが,保菌している母親から新生児に垂直感染を起こすこともある.多量の黄白色膿性眼脂,眼瞼腫脹,著明な結膜充血などを呈し,重症例では角膜穿孔をきたすこともある.そのため早期の診断と適切な治療が必要である.膿漏眼とも表現され,著明な結膜充血,多量の黄白色a膿性眼脂,眼瞼腫脹,眼痛,流涙を呈する(図1).適切な治療がされないと,短期間のうちに角膜潰瘍から急速に穿孔に至ることも多い.Cb図1淋菌性結膜炎(27歳,男性)左眼淋菌性結膜炎の発症から約C3日後に耳下側の角膜潰瘍を生じた.Ca:眼瞼腫脹ならびに多量の黄白色膿性眼脂を認める.Cb:治療が奏効し,角膜穿孔は免れたが,実質は菲薄化し結膜侵入を認める.図2眼脂のグラム染色像好中球に貪食された淋菌がみられる.淋菌はグラム陰性双球菌である.●はじめに淋菌感染症は,感染症法にて定点報告対象(5類感染症)となる性感染症である.原因となるのは淋菌(Neis-seriagonorrhoeae)であり,1879年にCNeisserによって発見された直径C0.6~1Cμm程度のグラム陰性双球菌のひとつである.淋菌は粘膜で生存できるが,高温や乾燥に弱いため,成人での感染経路はおおむね性的接触である1).また,保菌妊婦から産道感染をすると新生児結膜炎を引き起こす.男性では尿道炎,女性では子宮頸管炎,腟炎,尿道炎を引き起こす.口腔性交により口腔咽頭に感染していることもある.感染した女性のC1/3が無症状であり,保菌者となりやすく2),性感染症の原因のひとつであるクラミジアとの混合感染例も少なくない.感染経路は明確ではないが小児の家庭内感染と思われる事例も報告がある3).C●淋菌性角結膜炎の臨床像(77)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4530910-1810/20/\100/頁/JCOPY●淋菌性角結膜炎の診断特徴的な臨床像とともに,確定診断にはグラム染色による眼脂の塗抹検鏡が有用である.グラム染色では淋菌は好中球内に貪食されたソラマメ型のグラム陰性双球菌として認められる(図2).眼脂のCPCR法も有用である2).鑑別診断としては,眼窩蜂窩織炎やクラミジア結膜炎,ウイルス性結膜炎がある.治療する際はパートナーの治療も必要なため,性交渉歴などを慎重に問診することが重要である.C●淋菌性角結膜炎の治療治療は眼局所投与では不十分とされ,全身投与の併用が必要となる.淋菌の薬剤耐性化は顕著であり,多くの報告例があるペニシリン以外に,キノロンおよびテトラサイクリンにおいても約C7割が耐性化している4).治療ガイドラインでは,セフトリアキソンとスペクチノマイシンのC2剤が推奨される5).しかし,セフトリアキソン抵抗株出現の報告6)があり,感受性の確認と今後の動向に注意が必要である.眼局所においてはセフメノキシム点眼は有用である.また,同時に菌体や結膜壊死物質の除去のための生食による頻回の洗眼も有用とされる1).C●おわりに淋菌性結膜炎は特徴的な臨床像を呈するが,角膜炎に移行すると急速に角膜穿孔を起こし,治療的角膜移植を要することもある.角膜炎に進行させないために,結膜炎の段階での早期診断と適切な治療が必要となる.文献1)森重直行,西田輝夫:淋菌感染症.臨床眼科C58:1628-1630,C20042)井上昌幸,塩田洋:淋菌性結膜炎.眼感染症の謎を解く(大橋裕編),眼科プラクティスC28,文光堂,p98-99,C20093)中川尚,中川裕子:フルオロキノロン耐性株による淋菌性結膜炎の小児例.あたらしい眼科27:235-238,C20104)安田満:淋菌の薬剤耐性化.医学のあゆみC267:197-203,C20185)日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン2016.日本性感染症学会誌C27:Suppl.53-58,20166)OhnishiM,SaikaT,HoshinaSetal:CeftriaxoneresistantNeisseriaCgonorrhoeae,CJapan.CEmergCInfectCDisC17:148-149,C2011C☆☆☆454あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(78)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の薬理遺伝学研究

2020年4月30日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二75.加齢黄斑変性の薬理遺伝学研究秋山雅人九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座加齢黄斑変性(AMD)は,病気のなりやすさに遺伝的影響が強い.このことから,治療反応性にかかわる遺伝要因についても数多くの報告がこれまでになされているが,その結果は一貫性がなく,臨床で使えるマーカーは見つかっていない.AMD患者に最適な治療をもたらすために,さらなる薬理遺伝学研究が必要である.はじめに最近,precisionmedicineという言葉が医学研究において盛んに用いられるようになってきた.これは,オバマ前米国大統領がC2015年に提案した“Precisionmedi-cineinitiative”に由来しており,個人の違いを考慮した医療のことである.DNA二重らせん模型の横で演説したため,遺伝情報を活用する印象が強いが,環境やライフスタイルの違いについても述べられており,遺伝情報だけに注目しているわけではない.個人にあった疾患予防や治療法を開発し提供することをめざしているが,近年ではプロテオミクスやメタボロミクスのようにさまざまな情報を得ることができるため,個々の違いをさまざまな角度から特徴づけることが可能となってきており,個別化医療に役立つことが期待され,DNAはそのなかでも実際に癌の分野やいくつかの薬剤の選択の際に,臨床で用いられるようになってきている.本稿では,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegen-eration:AMD)の抗CVEGF薬治療に関して行われたこれまでの遺伝子研究の結果について概説する.薬理遺伝学研究個人の薬物への治療反応性は,病気の状態だけではなく,遺伝的要因も影響するものが知られている.薬物治療反応性や副作用に影響する遺伝要因を研究する分野は薬理遺伝学とよばれ,薬物反応性の個人差についてさまざまな知見が得られている.AMDではこれまでに,光線力学療法や抗CVEGF治療に対して薬理遺伝学研究が報告されている.薬理遺伝学研究を解釈するうえで重要なのは研究デザインを理解することであり,候補遺伝子アプローチと網羅的なゲノムスクリーニングであるゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:(75)GWAS)に大別される.候補遺伝子アプローチは,病態や薬物の作用機序を考慮し治療反応性に影響しそうな遺伝子を選出し,関連すると思われる遺伝的変異について測定し検証を行う.一方,GWASでは,ゲノム上の遺伝的変異を対象に網羅的に治療反応性との関連を検討する.GWASは仮説を置かないため,過去に想定されていないような知見が得られる可能性を秘めているが,網羅的なスクリーニングであることから,多重検定という問題が存在し,p<5.0C×10-8と厳格な統計学的有意水準が定められている.また,同定された結果について再現性の検証(replicationstudy)が必要であることから,得られた結果の再現性は高いと考えられている.CAMDにおける抗VEGF薬治療反応性の薬理遺伝学研究2007年頃からC50を超えるCAMDの薬理遺伝学研究の結果が報告されているが,これらのほとんどは候補遺伝子アプローチで行われたもので,GWASの報告はC4報に限られている.各研究の結果についてはよくまとまった総説1)があり,本稿では個々の説明は省略する.過去の研究の特色として,多くがC100人規模の検討であり,500人を超える規模での検討はC7報程度である.また,CATTstudyやCIVANstudyのような臨床研究のグループもゲノム解析を実施している.過去の候補遺伝子を対象とした研究では,AMDの発症にかかわる一塩基多型と治療反応性の関係を調べているものが多く,とくにAMD発症への影響が大きいCCFHとCARMS2/HTRA1に存在する一塩基多型の影響を評価したものが多い.しかし,過去の報告は一貫性がなく,現時点では臨床に用いるほどのエビデンスは得られていない.これまでに報告されたC4報のCGWASについて表1にまとめた.これまでのCGWASは,すべてが異なるアウあたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4510910-1810/20/\100/頁/JCOPY表1これまでに報告された抗VEGF治療反応性のGWASFrancisPJC2225348544/(─)治療開始からC6カ月後の視力変化量CRiazMetalC27892514C297/376治療開始からC6カ月後のCETDRS5文字以上の悪化C1)導入期後の滲出性変化の消失YamashiroKetalC28835685C256/2052)導入期後の治療開始からC1年以内の追加治療3)治療開始からC1年後の視力変化量CAkiyamaMetalC30054556C434/485治療開始からC3カ月後の視力の維持PMID:PubMedの論文CID抗CVEGF治療の反応性にかかわる遺伝要因を検索するために実施されたCGWASの対象サンプル数とアウトカムについてまとめた.トカムについて検討が行われている.また,2報は日本人を対象に行われ,1報は京都大学を中心とした多施設共同研究であり,もうC1報は筆者らの共同研究グループが報告したものである2,3).本稿執筆時点では,筆者らが行ったC919人を対象とした研究が最大規模であるが,それでもゲノムワイド有意水準を満たす領域は同定できなかった.筆者らの研究では,治療開始後C3カ月で視力が維持もしくは改善した群と悪化した群について検討を行っているが,統計学的な検出力について検討したところ,頻度がC15%以上ある一塩基多型について,オッズ比でC2.5以上の影響があればC92%以上の検出力があると推定している.このことから,治療反応性に強く影響するマーカーは存在する可能性が低いと予測される.これからの薬理遺伝学研究現時点では,臨床で利用可能な抗CVEGF治療反応性の遺伝マーカーは存在しない.しかし,1回の治療が高額であることを考えると,必要のない治療を避けることを可能にするマーカーが存在するのであれば,ゲノムを調べる有用性はあると思われる.最後に,分子標的薬の反応性を理解するうえで重要な報告があるので紹介する.発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療で用いられるエクリズマブ(商品名ソリリス)は日本人患者の約C3%において治療反応が不良であることが知られていた.Nishimuraらはエクリズマブの標的であるCC5の遺伝子翻訳領域について検討を行い,反応不良の患者では,薬剤が認識するエピトープの近傍にある885番目のアルギニンをヒスチジンに変化させる遺伝的変異を有することを報告している4).また,重要なことC452あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020に,この変異は人種特異的であると報告されている.萎縮型CAMDに対して補体をターゲットにした薬剤の開発が進められているが1),今後もさまざまな分子標的薬が臨床で用いられることを考えると,治療反応に個体差がある場合にはその原因が遺伝的な違いによるものである可能性を念頭におき,分子標的薬の認識部位に着目することで,薬剤反応性に影響する遺伝要因が効率的に同定されることが期待される.おわりに個人間の薬物に対する反応性を理解するために,患者負担の削減や最適な治療方法の選択に貢献する可能性があることから,今後も薬理遺伝学研究を推進していくことが望まれる.文献1)Lores-MottaL,deJongEK,denHollanderAI:Exploringtheuseofmolecularbiomarkersforprecisionmedicineinage-relatedCmacularCdegeneration.CMolCDiagnosisCTherC22:315.343,C20182)YamashiroK,MoriK,HondaSetal:Aprospectivemul-ticenterstudyongenomewideassociationstoranibizum-abCtreatmentCoutcomeCforCage-relatedCmacularCdegenera-tion.SciRepC7:9196,C20173)AkiyamaCM,CTakahashiCA,CMomozawaCYCetal:Genome-wideCassociationCstudyCsuggestsCfourCvariantsCin.uencingCoutcomesCwithCranibizumabCtherapyCinCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.CJCHumCGenetC63:1083.C1091,C20184)NishimuraJ,YamamotoM,HayashiSetal:Geneticvari-antsCinCC5CandCpoorCresponseCtoCeculizumab.CNEnglJMedC370:632.639,C2014(76)

緑内障:緑内障診療における前眼部OCTの活用

2020年4月30日 木曜日

●連載238監修=山本哲也福地健郎238.緑内障診療における前眼部OCTの活用中倉俊祐ツカザキ病院眼科緑内障診療における前眼部光干渉断層計(OCT)の利用は,閉塞隅角の診断のみならず,さまざまな緑内障手術前後の診断,経過観察に有用である.また,結膜からぶどう膜,強膜まで,今後新たな病態解明に利用できるツールである.●はじめに前眼部三次元画像解析装置(以下,前眼部COCT)は,後眼部COCTほど普及していないが,角膜疾患や緑内障診療においては非常に重要なツールである.「急性緑内障発作を疑う狭隅角眼又は角膜移植術後の患者」に対し保険点数が算定されているが(2020年C1月現在),それ以外にも円錐角膜などの患者に対する角膜形状解析や角膜曲率半径測定でも算定できる.そのため前眼部COCTを施設に導入しやすくなったが,実はそれ以外の目的での利用が実臨床では増えている.本稿では測定理論やメカニズムはさておき,緑内障診療での利用方法について述べる.C●閉塞隅角症の説明ツール前眼部COCTは閉塞隅角症のメカニズムを非常にわかりやすく患者に説明できるツールである.患者に「なぜ閉塞隅角(緑内障)に白内障手術が有効か」を言葉で理解させるのは意外とむずかしいが,前眼部COCTの画像を見せることで容易となった.水晶体が膨隆することにより虹彩は前方に移動し,隅角が閉塞する.白内障手術をすれば水晶体の厚み(約C4~5Cmm)が眼内レンズの厚み(約C1Cmm)となり,自動的に虹彩は下がり隅角は開大される(図1).ちなみに前眼部COCTで隅角閉塞に見えても実際に隅角検査で閉塞している確率は約C50%であり1),圧迫隅角検査は必要である.C●チューブシャント術後管理への活用とくにロングチューブを前房内に挿入した場合,その向きや位置の確認に有効である(図2a).角膜内皮に近いほど内皮障害は当然強い2).また,眼外のチューブ閉塞も見ることができる(図2b)3).今後日本でも導入さ(73)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1白内障手術による閉塞隅角眼の構造的変化眼内レンズを挿入すると,水晶体の厚みがなくなり,虹彩の位置は下がり,隅角は開大する.れそうな結膜下濾過系の低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)に用いられるデバイス(XEN,Preser.oなど)でも内腔閉塞は危惧すべきである4).C●角膜移植後の続発緑内障全層角膜移植後の眼圧上昇の場合,原因がステロイドかを見きわめる必要があるが,それ以外にも虹彩の位置を確認することで術式選択がしやすくなる(図3).C●新たなる病態の解明へ前眼部COCTのCCASIA(トーメーコーポレーション)にはキャリパーが内蔵されており,これを用いてさまざまな前眼部構造を測定できる.以前筆者らは,血管新生緑内障の虹彩厚が病期の進行につれて有意に薄くなることを報告した5).また,結膜や強膜の厚みも測定できることから,今後もさまざまな病態の解明や術後評価のツールとして発展していくことが期待できそうである.あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C449図2チューブシャント手術への前眼部OCTの利用a:無水晶体眼の続発緑内障に対しアーメド緑内障バルブを前房内挿入した症例.チューブは虹彩と平行だが接触している().b:硝子体腔に挿入したバルベルト緑内障インプラントの内腔閉塞().眼圧上昇をきたし,外科的な除去を要した.図3続発緑内障(全層角膜移植後)の2例どちらも正面からみると(Ca,c),ホスト角膜の混濁により虹彩の位置は不明である.左の症例(Ca,b)は瞳孔縁に落屑物がみられ,前眼部COCTで隅角は開放である.右の症例(Cc,d)は前眼部COCTで隅角はC360°完全閉塞であり(d),流出路再建術や濾過手術は困難と考えられ,虹彩下の空いたスペースにロングチューブを挿入した.文献1)SakataCLM,CLavanyaCR,CFriedmanCDSCetal:ComparisonCofCgonioscopyCandCanteriorCsegmentCocularCcoherenceCtomographyCinCdetectingCangleCclosureCinCdi.erentCquad-rantsoftheanteriorchamberangle.OphthalmologyC115:C769-774,C20082)KooCEB,CHouCJ,CHanCYCetal:E.ectCofCglaucomaCtubeCshuntCparametersConCcorneaCendothelialCcellsCinCpatientsCwithAhmedvalveimplants.Cornea34:37-41,C20153)NakakuraCS,CNoguchiCA,CNoguchiCSCetal:GlaucomaC450あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020implantCtubeClumenCobstructionCvisualizedCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCGlaucomaC27:Ce64-e67,C20184)RigoJ,CastanyM,BanderasSetal:PossibleintraluminalobstructionoftheXEN45GelStentobservedwithanteri-orCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJGlaucomaC28:1095-1101,C20195)NakakuraS,KobayashiY,MatsuyaKetal:IristhicknessandCseverityCofCneovascularCglaucomaCdeterminedCusingCswept-sourceCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomog-raphy.CJGlaucomaC27:415-420,C2018(74)

屈折矯正手術:Epi-off vs Epi-on角膜クロスリンキング

2020年4月30日 木曜日

監修=木下茂●連載239大橋裕一坪田一男239.Epi.o.vsEpi.on角膜クロスリンキング小橋英長慶應義塾大学医学部眼科学教室角膜クロスリンキング(CXL)が円錐角膜の進行抑制のための治療法として安全で有効であることは,多くの臨床研究で証明されている.ただし,わが国においては未承認の治療である.近年,標準的なドレスデン法(Epi-o.CXL)を改良した経上皮法(Epi-onCXL)が登場し,より低侵襲になったため,CXLの適応拡大が期待される.本稿では両術式を比較したメタアナリシスを解説し,今後の展望を考える.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcross-linking:CXL)は円錐角膜の進行を停止させる治療である.Wollensak,Seilerら1)によってヒト円錐角膜眼にCCXLが施されて,すでにC15年以上経つ.米国ではC2016年にCAvedro社製のリボフラビン点眼液CPhotrexaと長波長紫外線(UVA)照射器CKXLSystemが,CXLで用いられる医薬品と医療機器として米国食品医薬品局の承認を得ている.Avedro社の報告によるとCCXLはすでにC40万件以上施行されたとされているが,わが国では残念ながら厚生労働省の承認が得られていない.CXLの普及に伴って,角膜移植の原因疾患に占める円錐角膜の割合が半減しているとも報告されており,CXLが医療費の費用対効果を改善することも証明されている.しかしながら,従来のドレスデン法(Epi-o.CXL)は術後合併症として角膜上皮再生遅延,角膜感染症,角膜実質瘢痕などが報告されており,そのおもな原因は角膜上皮.離を伴うことによる.これらを解決するためにCLeccisottiらが2010年にCtransepithelialCXL(Epi-onCXL)を開発しCEpi-onCXLEpi-o.CXLStudyorSubgroupMeanSDTotalMeanSDTotalWeightた2).リボフラビンは分子量が大きいため,そのままの状態では角膜上皮細胞間のバリアを破壊できないため,CEpi-onCXLではCBAC(benzalkoniumchloride),HPMC(hydroxypropylCmethylcellulose),EDTA(eth-ylenediaminetetraaceticacid)などの防腐剤を添加したリボフラビンを使用する.今回は,筆者が行ったCEpi-o.CXLとCEpi-onCXLの無作為化比較試験に基づくメタアナリシスを解説する3).C●Epi.o.vsEpi.on:メタアナリシス筆者はCCXLに関する文献を網羅的に検索して,Epi-o.CXLとCEpi-onCXLの無作為化比較試験から得られた有効性と安全性を解析した.図1は,両術後C1年における角膜最大屈折力(Kmax)の変化量を比較したフォレスト分布である.Epi-o.CXLのほうがCEpi-onCXLに比べて平均C1.10D程有意に平坦化していた.図2は,CXLの本体である角膜実質内のコラーゲン線維間の架橋を,光干渉断層像によるデマルケーションライン深度を用いて比較した.Epi-o.CXLのほうが有意に深い位置でデマルケーションラインを認めた.一般的に,デマCMeanDi.erenceMeanDi.erenceIV,Fixed,95%ClIV,Fixed,95%ClBikbova2016-0.743.049476-1.893.023731.7%1.15[0.17,2.13]Lombardo2017-0.521.322-0.821.2122.2%0.30[-0.57,1.17]Rossi2015-1.06110-1.082.08100.8%0.02[-1.41,1.45]Rush2017-0.250.3975-1.370.385692.7%1.12[0.99,1.25]Soeters20150.31.833-1.52241.6%1.80[0.79,2.81]Stojanovic2014-0.11.1820-0.312.7201.0%0.21[-1.08,1.50]Total(95%CL)236195100.0%1.10[0.97,1.22]Heterogeneity:Chi2=9.21,df=5(p=0.10);l2=46%-2-1012Testforoveralle.ect:Z=16.77(p<0.00001)Favorsepi-onCXLFavorsepi-o.CXL図1Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1年の角膜最大屈折力(Kmax)の変化量の比較Epi-o.CXLのほうがCKmaxの増大を有意に抑制できるため,有効性の点で優れている.(文献C3より引用)(71)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4470910-1810/20/\100/頁/JCOPYEpi-onCXLEpi-o.CXLOddsRatioOddsRatioStudyorSubgroupEventsTotalEventsTotalWeightM-H,Random,95%ClM-H,Random,95%ClBikbova20163676707363.7%0.04[0.01,0.13]Soeters2015035222636.3%0.00[0.00,0.05]Total(95%Cl)11199100.0%0.01[0.00,0.18]Totalevents3692Heterogeneity:Tau2=2.10;Ch2=2.56,df=1(p=0.11);l2=61%Testforoveralle.ect:Z=3.33(p=0.0009)0.0010.1111,000Favorsepi-o.CXLFavorsepi-onCXL図2Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1カ月のデマルケーションライン深度の比較Epi-o.CXLのほうが角膜実質に認めるデマルケーションラインは有意に深い位置で確認された.(文献C3より引用)CEpi-onCXLEpi-o.CXLMeanDi.erenceMeanDi.erenceStudyorSubgroupMeanSDTotalMeanSDTotalWeightIV,Random,95%ClIV,Random,95%ClBikbova2016-0.070.452576-0.020.2793735.7%-0.05[-0.17,0.07]Lombardo2017-0.10.1222-0.030.061215.6%-0.07[-0.13,-0.01]Rossi2015-0.160.0510-0.090.031025.0%-0.07[-0.01,-0.03]Rush2017-0.140.0275-0.120.025636.8%-0.02[-0.03,-0.01]Soeters2015-0.140.2133-0.070.21246.6%-0.07[-0.18,0.04]Stojanovic2014-0.180.1620-0.110.12010.3%-0.07[-0.15,0.01]Total(95%CL)236195100.0%-0.05[-0.08,-0.02]Heterogeneity:Tau2=0.00;Chi2=11.66,df=5(p=0.04);l2=57%-0.2-0.100.1Testforoveralle.ect:Z=3.17(p=0.002)Favorsepi-onCXLFavorsepi-o.CXL図3Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1年の眼鏡矯正視力の変化量の比較Epi-onCXLのほうが眼鏡矯正視力は有意に改善する.(文献C3より引用)ルケーションラインが深いほうが病期進行に有効とされており,形態学的にはCEpi-o.CXLのほうが有効であったことを示唆している.一方で,両術後C1年における眼鏡矯正視力の変化量を比較したところ,Epi-onCCXLのほうが有意に矯正視力が改善した(図3).しかし,その差はC1段階以内であり,臨床的に意味のある差異ではない.安全性項目として,術後C1年以内の合併症を比較したところ,Epi-o.CXLでは,角膜感染症や角膜上皮再生遅延が散見された.C●新しいEpi.onCXL角膜実質内のリボフラビン濃度を上昇させるために,イオン導入法を用いたCCXLがある.イオン導入法は,生体組織に薬剤を効果的に移行させるためのドラッグデリバリーシステムの一つであり,歯科や皮膚科領域で臨床応用されている.近年トポガイドによるCUVA照射によって,屈折矯正を行うCphotorefractiveCintrastromalCcross-linking(PiXL)が登場した.Avedro社のCPiXLは,Epi-onでリボフラビン点眼液を投与したのち,酸素ゴーグルを装用して高酸素化でCUVA照射をすることで,効果的に角C448あたらしい眼科Vol.37,No.4,20200.2膜が平坦化する.円錐角膜以外にも,軽度近視を対象とした臨床試験が行われている.今後のCPiXLの長期成績と他術式との比較に注目したい.C●おわりにEpi-onCXLではCEpi-o.CXLと比較して角膜に対する効果が弱いが,術後合併症が少なく疼痛がないので,小児例や眼表面の状態が不良なアトピー性皮膚炎合併例に対して有用であると考えられる.Epi-onCXLはまだ歴史が浅く,長期的な検証が必要であるが,イオン導入法やCPiXLなど新しい技術によって,より低侵襲かつ効果的に治療ができる潮流になっている.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmCJOphthalmolC135:620-627,C20032)LeccisottiCA,CIslamT:TransepithelialCcornealCcollagenCcross-linkinginkeratoconus.JRefractSurg26:942-948,C20103)KobashiCH,CRongCSS,CCiolinoJB:TransepithelialCversusCepithelium-o.CcornealCcrosslinkingCforCcornealCectasia.CJCataractRefractSurg44:1507-1516,C2018(72)