バイオマーカーによる眼アレルギー検査Biomarkers-BasedOcularAllergyTest庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患における眼アレルギー検査は,診断,重症度判定および治療効果判定を補助する眼科臨床検査である.現在,眼アレルギー検査として用いられている検査は,涙液総IgE検査と結膜擦過塗抹標本による好酸球検査である.涙液総IgE検査は高い感度と特異度によりアレルギー性結膜疾患の準確定診断に,好酸球検査は感度がやや低いものの特異度に優れ,アレルギー性結膜疾患の確定診断に用いられている1).しかし,両検査では重症度判定や治療効果判定を行うことは困難であるという眼アレルギー検査の限界が示されている.一方,バイオマーカーは,疾患特異性が高く,その測定値が疾患の重症度や治療を反映して増減する物質である2).したがって,バイオマーカーを用いた眼アレルギー検査が確立されれば,アレルギー性結膜疾患の診断と治療とを大きく発展させる眼科検査になるであろうと考えられる.しかし,バイオマーカーとして同定した物質を眼アレルギー検査として実用化するためには,検体は何を使うか,検査に要する時間と費用は妥当かなど,乗り越えなくてはならないハードルがいくつか存在する.本稿では,バイオマーカー探索の道のりと,バイオマーカーを用いた眼アレルギー検査の実際と今後について述べる.Iアレルギー性結膜疾患の病態とバイオマーカーの探索1.獲得型アレルギーCoombsとGell分類のI型アレルギー(即時型アレルギー)反応は,獲得型アレルギーとよばれるようになった.即時型アレルギー反応は,抗原侵入から20~30分後に発症する即時相と抗原侵入後6~12時間以降に発症する遅発相とからなる二相性反応と考えられている(図1).即時相は,マスト細胞の表面に発現されている高親和性IgE受容体(FceRI)を介して結合した抗原特異的IgE抗体が,外来からの抗原と反応することでマスト細胞が脱顆粒を起こし,ヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが放出される反応である.獲得型アレルギーの即時相を狙ったバイオマーカーとしてはヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが検討されているが,眼アレルギー検査として有望なケミカルメディエーターの確立には至っていない.遅発相は,好酸球や2型ヘルパーT細胞(Th2)を主体とした細胞浸潤によりアレルギー炎症を生じる反応である.遅発相を狙ったバイオマーカーとしては,炎症細胞浸潤に関連するケモカイン,好酸球が放出する物質,Th2が産生するサイトカイン,その他のアレルギー炎症関連物質などが眼アレルギー検査のバイオマーカーとして検討されている(表1).*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(19)395獲得型アレルギー030min6hr48hr即時相遅発相IgEMastcellEosinophils,lymphocytesEpithelialcellAlarmin(TSLP,IL-33)IL-5IL-13Innatelymphocytetype2(ILC2)図1アレルギー炎症マスト細胞の脱顆粒に関しては,獲得型アレルギーによるIgE抗体依存性反応と自然型アレルギーによるIgE抗体非依存性反応とがある.好酸球炎症に関しては,獲得型アレルギー反応の遅発相で生じるほか,自然型アレルギー反応の2型自然リンパ球(ILC2)が放出するサイトカインによっても生じる.IL:interleukin,TSLP:thymicstromallymphopoietin.表1アレルギー炎症に関連する代表的サイトカイン.ケモカインサイトカイン・ケモカイン受容体作用2型炎症関連サイトカイン(Th2・ILC2)IL-4IL-5IL-13IL-4RIL-5RIL-4R・IL-13R1IgE産生亢進好酸球分化・好酸球浸潤好酸球炎症・粘膜異形成Th2関連ケモカインMDC/CCL22TARC/CCL17CCR4CCR4Th2遊走Th2遊走自然免疫関連サイトカイン(アラーミン)TSLPIL-25IL-33IL-7Ra・TSLPRIL-17RBIL-33Ra・IL-1RAcPTh2誘導ILC2による2型炎症関連サイトカイン産生亢進ILC2による2型炎症関連サイトカイン産生亢進好酸球関連ケモカインEotaxin-1/CCL11Eotaxin-2/CCL24Eotaxin-3/CCL26MCP-4CCR3CCR3CCR3CCR3好酸球遊走好酸球遊走好酸球遊走好酸球遊走Th2,helperTcelltype2;ILC2,innatelymphocytetype2;:interleukin;:macrophage-derivedchemokineTARC,thymusandactivation-regulatedchemokine;TSLP,thymicstromallymphopoietin;MCP,monocyteche-motacticprotein=涙液検査眼表面検査採取方法(濾紙法)Schirmer試験Impressioncytology保存方法-80℃①濾紙のまま保存②溶出後保存-4℃(RNAlater中で保存)測定方法・ビーズアッセイ法・抗体アレイ法・IC,ELISA蛋白・PCRarray・Real.timePCRmRNAIC:immunochromatography,ELISA:enzyme.linkedimmunosorbentassay,PCR:polymerasechainreaction.図2眼アレルギー検査と検体採取法Schirmer試験に準じて採取した涙液は,涙液中に含まれるサイトカインやケモカインなどの蛋白測定が可能である.Impressioncytologyで採取した眼表面被覆液と表層の上皮細胞からはmRNAを抽出してmRNAの発現量が測定可能である.100101平均値(ng/ml)7.430.0147.0172.84687.6診断率30.1%78.6%53.8%100%涙液ECP値(ng/ml)100,00010,0001,000SteelDwasstest*:p<0.05**:p<0.01**NS:notsigni.cant対照SACPACAKCVKCSAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitisAKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis図3アレルギー性結膜疾患における病型別涙液ECP値涙液Ceosinophilcationicprotein(ECP)値が健常域(<20Cng/ml)を超えた検体を陽性として診断率を算出した.涙液CECP値の測定値は重症度判定に役立つ.涙液中eotaxin-2値(ng/ml)a**b1,000**1,000涙液中eotaxin-2値(ng/ml)100101001010.10.011CACAKCVKC0.010.1110100涙液中ECP値(μg/ml)図4涙液中eotaxin.2値a:アトピー性角結膜炎(atopicCkeratoconjunctivitis:AKC)群および春季カタル(vernalCkerato-conjunctivitis:VKC)群の涙液中Ceotaxin-2値は,アレルギー性結膜炎(allergicconjunctivitis:AC)群と比較して有意に高値を示した(*:p<0.01).b:アレルギー性角結膜炎全体では,涙液中Ceotaxin-2値は,涙液中CeosinophilCcationicprotein(ECP)値と有意な相関を示した(p=0.68,p<0.005).涙液検査・眼表面検査における好酸球炎症関連バイオマーカーBiomarkerCorrelationmarkerCorrelationcoe.cientP-value文献Eotaxin-2(protein)Eotaxin-2(mRNA)H4R(mRNA)ECP(protein)臨床スコアEotaxin-2(mRNA)r=0.68r=0.80r=0.83p<0.005p<0.01p<0.01文献6)文献9)文献8)H4R:histaminH4receptor,ECP:eosinophilcationicprotein.蛍光抗体法(眼脂塗抹標本)図5好酸球炎症のバイオマーカー涙液検査と眼表面検査とにより,ECP,eotaxin-2,H4Rと臨床スコアとの間には相関関係があることが示されている.好酸球の特異顆粒中に含有されるCmajorCbasicprotein(MBP)とCeosinophilCcationicprotein(ECP)は二重染色により検討され,結膜擦過物中の好酸球にCH4RとCeotaxin-2とが陽性であることが示された.初診時(涙液ECP値2,140ng/ml)治療後4週(涙液ECP値121ng/ml)図6タクロリムス点眼治療を行い涙液ECP値でモニタリングした春季カタルの症例症例は春季カタルと診断されたC14歳,男子.タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬とによる二者併用療法で治療した.治療開始時には涙液CECP値がC2,140Cng/mlであったが,治療開始後C4週間では,他覚所見の軽に伴い涙液CECP値はC121Cng/mlに低下した.SteelDwasstest*:p<0.01NS:notsigni.cant*IL-8(pg/ml)NS*7,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000対照CL装用者GPC図7涙液IL.8値涙液CIL-8値は,コントロール(対象)症例と眼合併症がみられないコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者との間に差はみられない.また,涙液CIL-8値は,コントロールおよびCCL装用者と比較して巨大乳頭結膜炎(giantCpapillaryCconjunctivitis:GPC)症例では,有意に増加している.mRNA発現が増加するような巨大乳頭結膜炎や重症春季カタルでは,獲得型アレルギー反応に加えて,Th17関連炎症や酸化ストレス関連炎症の関与が疑われるため,春季カタルの難治化予防を考慮して,さらに詳細な病態解明が急がれている.Cc.ペリオスチンペリオスチンは,分泌型の細胞接着蛋白質で,細胞外マトリックス蛋白質の一種である.フィブロネクチンやネイシンCCなどの細胞外マトリックス構成蛋白質と接着し,組織構築や線維化に関与する機能のほかに,細胞表面のインテグリン分子を介して細胞機能を調節するマトリセルラー蛋白質としての作用も有する20).アレルギー疾患では,IL-13により誘導されるアレルギー炎症により組織中の発現が増加することが知られており,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,好酸球性食道炎などでは病変部にペリオスチンが高発現していることが報告されている.また,気管支喘息では,血中ペリオスチン値がCTh2型喘息や小児喘息のよい指標になることが示され21),抗CIgE抗体療法や抗CIL-13抗体療法のバイオマーカーであることが報告されていることから,ペリオスチンは,気管支喘息診断におけるバイオマーカーとして有用なだけでなく,2型炎症,リモデリング,ステロイド抵抗性などのバイオマーカーとしても活用できる可能性が示されている22).アレルギー性結膜疾患では,Fujishimaらにより,涙液中ペリオスチン値がアレルギー性結膜疾患の診断と春季カタルやアトピー性角結膜炎治療のよいバイオマーカーになることが示された23).現在,涙液検査における有望なバイオマーカーとして期待され,眼アレルギー検査への応用の検討が続けられている.おわりにアレルギー性結膜疾患と総称される疾患の中には,季節性アレルギー性結膜炎と春季カタルのように,明らかに病態が異なる疾患が含まれている.これらの疾患に共通するバイオマーカーの発見と臨床応用が理想ではあるが,現在の所まだ見つかっていない.しかし,複数のバイオマーカーを組み合わせて使用することで,徐々に眼表面の炎症病態がみえてくるようになっている.血液検査の代わりに眼科医が行う眼アレルギー検査により,より適切な治療薬選択が行われ,アレルギー性結膜疾患の難治化が予防できるようになることを願っている.文献1)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20122)庄司純:アレルギー性結膜疾患のバイオマーカー.アレルギー62:641-651,C20133)KoyasuS,MoroK:Type2innateimmuneresponsesandthenaturalhelpercell.Immunology132:475-481,C20114)ShojiCM,CShojiCJ,CInadaN:ClinicalCseverityCandCtearCbio-markers,eosinophilcationicproteinandCCL23,inchronicallergicCconjunctivalCdisease.CSemiCOphthamolC33:325-330,C20165)室本圭子,庄司純,稲田紀子ほか:季節性アレルギー結膜炎における涙液中CeosinophilCcationicproteinの測定.日眼会誌110:13-18,C20066)ShojiCJ,CInadaCN,CSawaM:EvaluationCofCeotaxin-1,C-2,CandC-3CproteinCproductionCandCmessengerCRNACexpres-sionCinCpatientsCwithCvernalCkeratoconjunctivitis.CJpnJOphthalmolC53:92-99,C20097)FukagawaCK,COkadaCN,CFujishimaCHCetal:CornealCandCconjunctivalC.broblastsCareCmajorCsourcesCofCeosinophil-recruitingchemokine.AllergolInt58:499-508,C20098)InadaCN,CShojiCJ,CShirakiCYCetal:HistamineCH1CandCH4CreceptorCexpressionConCocularCsurfaceCofCpatientsCwithCchronicCallergicCconjunctivalCdiseases.CAllergolCIntC66:C586-593,C20179)ShirakiY,ShojiJ,InadaN:Clinicalusefulnessofmonitor-ingCexpressionClevelsCofCCL24(eotaxin-2)mRNAConCtheCocularsurfaceinpatientswithvernalkeratoconjunctivitisandCatopicCkeratoconjunctivitis.CJCOphthalmolC2016:C3573142,C201610)原田奈月子,稲田紀子,石森秋子ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼治療の臨床経過の報告.日眼会誌C118:378-384,C201411)藤澤隆夫,長尾みづほ,野間雪子ほか:小児アトピー性皮膚炎の病勢評価マーカーとしての血清CTARC/CCL17の臨床的有用性.日本小児アレルギー学会誌C19:744-757,C200512)玉置邦彦,佐伯秀久,門野岳史ほか:アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清CTARC/CCL17値についての臨床的検討.日皮会誌116:27-39,C200613)堀眞輔,庄司純,稲田紀子ほか:タクロリムス点眼液0.1%で治療した春季カタル症例の涙液中アレルギー関連因子の検討.日眼会誌115:1079-1085,C201114)FodorCM,CFacskoCA,CRajnavolgyiCECetal:EnhancedCreleaseCofCIL-6CandCIL-8CintoCtearsCinCvariousCanteriorCsegmenteyediseases.OphthalmicRes38:182-188,C2006402あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(26)-