硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載215215網膜格子状変性の成因(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに網膜格子状変性(latticeCdegenerationCofCtheretina)は眼底赤道部付近に観察される網膜の萎縮性病変と,それに隣接した硝子体の液化を伴う網膜硝子体変性の一つである1).裂孔原性網膜.離の約C30%は網膜格子状変性が原因で起こるとされており,臨床上きわめて重要である.C●網膜格子状変性の病理変性部の網膜は菲薄化しており,視細胞は消失し,網膜全層はグリア細胞で置き換えられているとする報告が多い2).しばしば色素沈着を伴い,変性部に一致した網膜色素上皮の厚さが不均一で一部消失していることがあり,メラニン色素をもったマクロファージの遊走がみられるが,脈絡膜には通常変化はみられない.これらの所見は網膜格子状変性の成因に網膜色素上皮細胞が関与している可能性を示している.C●網膜格子状変性に網膜色素上皮の遊走が関与筆者らは硝子体手術時に採取した網膜格子状変性の組織片を使用し,網膜色素上皮のマーカーであるCRPE65とサイトケラチンの抗体を用いて免疫染色を行った.その結果,RPE65は変性のやや周辺部に,サイトケラチンは全体的に染色性がみられた.コントロールとしてサル眼を用いたが,神経網膜にはCRPE65,サイトケラチンの染色性はみられなかった(図1).このことは変性部位に網膜色素上皮が遊走増殖して補.している可能性を示唆している3).C●網膜格子状変性辺縁の網膜硝子体癒着変性部位直上の硝子体は高度に変性して液化腔を形成Case1Case2NormalRPE65Pan-CK図1網膜格子状変性の免疫染色Case1,2とも網膜色素上皮のマーカーであるCRPE65とCpanサイトケラチンに明瞭に染色された.正常の神経網膜ではこれらのマーカーの発現はみられない.(文献C3より引用)し,膜状の硝子体が変性巣周囲で強固に癒着している.なぜ硝子体がこのような特異な構造を呈するのかについては不明な点が多いが,一つの仮説として,遊走してきた網膜色素上皮細胞が,未熟なコラーゲンを産生する可能性が考えられる4).一般に網膜色素上皮のような間葉系の性格をもつ細胞は未熟なコラーゲンを産生し,未熟なコラーゲンはCcross-linkせずに直線的に伸長する性質がある5).硝子体基底部ではコラーゲン線維が毛様体上皮と網膜に対して垂直に密集して走行し,毛様体の基底膜と網膜内境界膜に入り込んでいるため癒着が強固となっているが,網膜格子状変性部位の硝子体の走行も網膜面と垂直であり,硝子体基底部と類似の解剖学的特徴を有している.これは遊走してきた網膜色素上皮細胞が変性部位で未熟な硝子体線維を産生するためではないかと考えられる.文献1)StraatsmaBR,ZeegenPD,FoosRYetal:Latticedegen-erationoftheretina.XXXEdwardJacksonMemorialLec-ture.AmJOphthalmol77:619-649,C19742)ByerNE:LatticeCdegenerationCofCtheCretina.CSurvCOph-thalmolC23:213-248,C19793)MizunoCH,CFukumotoCM,CSatoCTCetal:InvolvementoCofCtheretinalpigmentepitheliuminthedevelopmentofreti-nallatticedegeneration.IntJMolSci21:7347,C20204)UlbrichCS,CFriedrichsCJ,CValtinkCMCetal:RetinalCpigmentCepitheliumCcellCalignmentConCnanostructuredCcollagenCmatrices.CellsTissuesOrgans194:443-456,C20115)MathieuM,VigierS,LabourMNetal:Inductionofmes-enchymalstemcelldi.erentiationandcartilageformationbyCcross-linker-freeCcollagenCmicrospheres.CEurCCellCMaterC28:82-96,C2014(73)あたらしい眼科Vol.38,No.4,2021C4350910-1810/21/\100/頁/JCOPY