(23)関与させると強い結膜好酸球浸潤が誘導された3).このことから,春季カタルの病像形成には,Th2細胞が重要な役割を果たしていることが判明した.III重症アレルギー性結膜疾患の治療1.重症に対する薬物治療の基本軽症・重症にかかわらずアレルギー性結膜疾患の発症にはI型アレルギーが関与するため,春季カタルにおいても,I型アレルギーを抑制する抗アレルギー点眼薬を基盤点眼薬として使用する.重症型ではTh2細胞が病態形成の中心的役割を果たすが,抗アレルギー点眼薬にはT細胞抑制能はない.したがって,T細胞の機能を制御する免疫抑制点眼薬やステロイド点眼薬が必要となる.2.免疫抑制点眼薬免疫抑制薬はおもにT細胞を抑制する.免疫抑制点眼薬は自家調整薬あるいは治験薬として使用された結果,重症アレルギー性結膜疾患にすぐれた効果をもつことが明らかとなった.2006年にシクロスポリン点眼薬が発売され,市販後調査が行われ,その結果から,自覚症状,他覚所見とも点眼開始後1カ月目より有意な改善を認め,ステロイド点眼薬の減量または中止が可能となった症例が多数みられている4,5).また,2008年5月よりタクロリムス点眼薬も発売され,市販後全例調査結果から非常に優れたT細胞抑制効果が確認された6,7).I重症アレルギー性結膜疾患とはアレルギー性結膜疾患の分類のカギになる所見は巨大乳頭や輪部増殖などの結膜増殖性変化であり,増殖性変化が顕著である春季カタルなどは重症に分類される1).アトピー性角結膜炎は増殖性変化を認める場合と認めない場合があるが,角膜病変を伴うことが多く,重症に分類される.II重症アレルギー性結膜疾患の発症機序アレルギー性結膜疾患に共通する発症機序はI型アレルギーである.しかし,結膜増殖性変化はI型アレルギーのみでは説明がつかない.巨大乳頭の病理組織像では好酸球浸潤,線維芽細胞の増生,細胞外マトリックスの沈着に加えて,数多くのT細胞の浸潤もみられる.すなわち,巨大乳頭の形成にはI型アレルギー反応のみならず,T細胞も関与している.重症化の指標である角膜障害に関しては,涙液中好酸球数との関連性が報告されている2).アレルギー性結膜疾患は抗原特異的な疾患であるが,好酸球には抗原認識能はなく,好酸球浸潤には抗原特異性認識能をもつT細胞あるいは抗体の関与が考えられる.T細胞あるいは抗体のいずれが結膜好酸球浸潤に関与するのかを動物モデルを用いて検討したところ,I型アレルギーを単独で関与させた場合は,結膜好酸球浸潤は誘導できないのに対し,T細胞とくにヘルパー2型T細胞(Th2細胞)を(3)379*AtsukiFukushima:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福島敦樹:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座特集●眼アレルギー診療の新時代に向けてあたらしい眼科37(4):379?382,2020春季カタルに対する免疫抑制点眼薬の現状と課題PresentStateandFutureDirectionsofImmunosuppressiveEyeDropsforVernalKeratoconjunctivitis福島敦樹*0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)379380あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(4)り,角膜上皮障害もタクロリムス点眼薬単独で制御できる可能性が出てきた.宮崎らは,角膜上皮障害について,市販後調査結果を用いてタクロリムス点眼単独治療群とタクロリムス点眼にステロイド点眼もしくはステロイド内服を追加投与されている群を比較した9).その結果,シールド潰瘍を含め角膜上皮障害の改善度はタクロリムス単独群とステロイド追加群で差は認められなかった.この結果から,ステロイドの副作用を考えると,重症例で認められる角膜上皮障害はタクロリムス点眼薬単独で効果を評価し,改善しない場合にはステロイド点眼薬を追加するべきかもしれない.2.アトピー性皮膚炎の有無が治療効果に及ぼす影響アトピー性皮膚炎の合併は,アレルギー炎症自体の悪化に加え,感染症の合併など,経過や予後に影響を与える.庄司らは,アトピー性皮膚炎合併の有無で2群に分けて,タクロリムス点眼薬による眼瞼結膜,輪部,角膜の所見の改善度を比較した10).点眼開始後6カ月の時点で両群とも8割以上の割合で寛解状態に至った.このように,アトピー性皮膚炎合併の有無にかかわらず,タクロリムス点眼薬は重症アレルギー性結膜疾患の抑制に効これら二つの免疫抑制点眼薬をどのように使い分けるかに関して,市販後全例調査結果を評価してきた春季カタル治療薬研究会が中心となり,治療指針を提案した8)(図1).ポイントは治療薬の使用方法をパターン1~4に分類し,春季カタルの重症度に対応するパターンを選択して治療を行う点である.その際のポイントは,タクロリムス点眼薬のほうがシクロスポリン点眼薬と比較し免疫抑制効果がより強い点である.本指針を用いることにより,薬剤の変更,追加,中止など,診療における重要なターニングポイントを把握しやすくなったと考えられる.免疫抑制点眼薬に関しては,現時点までの重篤な副作用は報告されていないが,今後長期間の観察により,感染症を含め安全性の面でのエビデンスを蓄積していく必要がある.IV市販後調査から明らかになったタクロリムス点眼薬の新知見1.角膜上皮病変における効果上記のパターン治療8)にも記載されているように,重症例ではステロイド点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用することが多い.しかし,タクロリムス点眼薬の登場によパターン4パターン3パターン2aパターン2bパターン1抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)ステロイド(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)抗アレルギー薬(点眼)免疫抑制薬(点眼)ステロイド(点眼)ステロイド(点眼)ステロイド(内服)(瞼結膜下注射)重症軽症※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルート※1※2図1春季カタルのパターン治療のための免疫抑制点眼薬の使い方ステロイド点眼薬と併用するか,ステロイド点眼薬から変更するかに関して,シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬の使い分けがポイントとなる.(文献8より引用)(5)あたらしい眼科Vol.37,No.4,202038130眼を対象とした.平均年齢は17.3歳で,平均観察期間は64.6カ月間であった.病型は20眼が眼瞼型,10眼が混合型であった.9例にアトピー性皮膚炎,8例に気管支喘息,3例にアレルギー性鼻炎の合併を認めた.他覚所見は「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」(第2版)1)の臨床評価基準に基づき,治療開始時と1カ月後,1年後を比較した.春季カタルの他覚所見は治療開始1年後に全項目で改善した(図2~5).タクロリムス点眼薬での治療開始時,12例でステロイド点眼薬を併用していたが,ステロイド点眼薬は1年後には全例で終了できた.タクロリムス点眼薬開始時に角膜障害を果的であることが証明された.Vタクロリムス点眼薬の長期成績上記のように,6カ月までの経過観察ではタクロリムス点眼薬は著効を示すことが確認されている.長期経過観察の報告は数少ないが,北海道大学からの報告では短期経過観察結果と同様に効果的であったとされている11).筆者の施設でも,春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼薬の長期使用成績を評価した.0.1%タクロリムス点眼薬で治療した春季カタル患者のうち,1年以上追跡が可能であった15例(男性13例,女性2例)乳頭充血腫脹巨大乳頭3濾胞2.521.510.50開始時1カ月後1年後Dunnett法(投与開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01***************図2眼瞼結膜スコアの推移32.521.510.50開始時1カ月後1年後*******Dunnett法(投与開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01充血浮腫図3眼球結膜スコアの推移32.521.510.50開始時1カ月後1年後Dunnett法(投与開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01****上皮障害図5角膜上皮障害スコアの推移32.521.510.50開始時1カ月後1年後Dunnett法(投与開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01********腫脹トランタス斑図4角膜輪部スコアの推移382あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(6)3)FukushimaA,OzakiA,FukataKetal:Ag-specificrecognition,activation,andeffectorfunctionofTcellsintheconjunctivawithexperimentalimmune-mediatedblepharoconjunctivitis.InvestOphthalmolVisSci44:4366-4374,20034)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:Alargeprospectiveobservationalstudyofnovelcyclosporine0.1%aqueousophthalmicsolutioninthetreatmentofsevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher25:365-372,20095)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌115:508-515,20116)OhashiY,EbiharaN,FujishimaHetal:Arandomized,placebo-controlledclinicaltrialoftacrolimusophthalmicsuspension0.1%insevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher26:165-174,20107)FukushimaA,OhashiY,EbiharaNetal:Therapeuticeffectsof0.1%tacrolimuseyedropsforrefractoryallergicoculardiseaseswithproliferativelesionorcornealinvolvement.BrJOphthalmol98:1023-1027,20148)大橋裕一,内尾英一,海老原伸行ほか:免疫抑制点眼薬の使用指針-春季カタル治療薬の市販後前例調査からの提言-.あたらしい眼科30:487-498,20139)MiyazakiD,FukushimaA,OhashiYetal:Steroid-sparingeffectof0.1%tacrolimuseyedropfortreatmentofshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryallergicoculardiseases.Ophthalmology124:287-294,201710)ShojiJ,OhashiY,FukushimaAetal:Topicaltacrolimusforchronicallergicconjunctivaldiseasewithandwithoutatopicdermatitis.CurrEyeRes44:796-805,201911)品川真有子,南場研一,北市伸義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼71:343-348,201712)FukudaK,EbiharaN,KishimotoTetal:Ameliorationofconjunctivalgiantpapillaebydupilumabinpatientswithatopickeratoconjunctivitis.JAllergyClinImmunolPract8:1152-1155,201913)藤島浩:重症アレルギー性結膜疾患の治療選択.臨眼73:48-56,201912例で認めたが,1例を除いて改善を認めた.1例でタクロリムス点眼薬の使用開始4カ月後にヘルペス性眼瞼炎を発症した.14例に一過性の増悪を認めた.以上の結果から,春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼薬の長期使用は,有効で安全な治療であると考えられたが,経過観察中に再燃を認める症例が存在することも明らかとなった.VIタクロリムス点眼薬の問題点と展望治療に抵抗する症例が一定割合存在すること,またタクロリムス点眼薬を用いても一定の割合で再燃することがわかってきた.タクロリムスはT細胞の機能を選択性高く抑制することが知られている.したがって,タクロリムス抵抗性の症例ではT細胞以外の細胞群の関与も考えられる.最近,続々と登場してきている生物学的製剤が結膜増殖性変化の抑制に効果を発揮する可能性もあり12),今後の検討が待たれる.再燃に関しては,タクロリムスの投与法・漸減法を検討する必要があると考える.皮膚科領域で推奨されているプロアクティブ療法が点眼でも試みられており13),エビデンスの蓄積を待ちたい.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌114:831-870,20102)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearsofpatientswithatopickeratoconjunctivitiswithseverecornealdamage.JAllergyClinImmunol103:1220-1221,1999