抗VEGF製剤以外の薬剤開発NewNon-AntiVEGFDrugsforNeovascularAge-RelatedMacularDegeneration野崎実穂*はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)に対する薬物治療として,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は,視力を改善できる治療として確固たる地位をすでに築いている.しかし,複数回の注射が必要な点,医療経済面,non-responderの存在,といった問題があり,新たな薬物開発が現在も進んでいる.本稿では現在I/II相臨床試験中のVEGFをターゲットとしない新規開発中の薬物について触れるが,plateletderivedgrowthfactor(PDGF)阻害薬(Fovista)が第III相臨床試験まで進みながら,最後の段階で主要目標に達しなかったために実用化に至らなかったことが記憶に新しいように,有望視されながら消えていった薬剤も多い.本稿ではClinicalTrials.gov(https://clinicaltrials.cov/)を参考に,論文化されていない薬剤も多くとりあげた.ClinicalTri-als.govIdenti?er(番号)を記載したので,参照していただければ幸いである.Iチロシンキナーゼ阻害薬細胞膜にある受容体のチロシンキナーゼが活性化し,細胞内にシグナルが伝達するのを防ぐチロシンキナーゼ阻害薬は,VEGFのみならずPDGFも阻害できる.厳密には抗VEGF作用があるので,本稿のテーマである“抗VEGF薬製剤以外の薬剤”には入らないが,PDGF阻害作用ももつことから,本稿に含めた.臨床では,抗VEGF薬に反応を示さないAMD症例が存在することが明らかとなっており,血管周皮細胞(pericyte)が原因のひとつではないかと考えられている.PDGF受容体は周皮細胞に存在し,PDGF-PDGF受容体は周皮細胞の維持を担っており,PDGF阻害により周皮細胞を脱落させると,抗VEGF薬の内皮細胞への浸透性の改善が期待でき,さらに網膜下の線維化抑制もできると考えられている1).スニチニブリンゴ酸塩(sunitinibmalate)はチロシンキナーゼ阻害薬で,経口薬スーテント(ファイザー)は,イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍,根治切除不能または転移性の腎細胞癌,膵神経内分泌腫瘍に対して,わが国でも認可されている.米国では,GraybugVision社がsunitinibmalate(GB-102)を用いて,AMDを対象とした第II相臨床試験を行っている.GB-102はsuni-tinibmalateをデポ剤化した持効性薬剤になっており,AMD患者に単回硝子体投与を行ったADAGIOstudyでは,88%が1回のGP-102の投与で3カ月間視力を維持,68%が半年間視力を維持していた2).現在は,AMDを対象とした第II相臨床試験(ALTISSIMOStudy)を2019年秋から開始している.GB-102は6カ月ごとに硝子体内投与,対照はアフリベルセプトを2カ月ごとに硝子体注射というプロトコールになっている(NCT03953079).本試験は2021年3月に終了予定である.その他,DE-120(硝子体注射)(NCT02401945),X-82(内服)(NCT02348359)もチロシンキナーゼ阻害薬◆MihoNozaki:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(19)267でAMDに対する第II相臨床試験が終了している.X-82内服の24週の経過をみた第I相臨床試験では,35例中10例がおもに副作用のため脱落した.おもな副作用は下痢(6例),悪心(5例),全身倦怠感(5例),GOT,GPTといった肝臓のトランスアミナーゼ上昇(4例)で,X-82の内服中止で改善していた3).15例(60%)で追加の抗VEGF阻害薬注射を必要としなかった3).また,X-82の最新の第II相臨床試験(APEXstudy)では,X-82内服群で下痢,悪心・嘔吐,全身倦怠感といった副作用がみられており,全例が52週の試験終了を待たずに,中間解析で主要評価項目の解析に至ったという理由で中止されている.52週まで追えたX-82200mg内服+抗VEGF薬prorenata(PRN)投与群(17例)では,1.7±5.58文字の改善,対照のプラセボ内服+抗VEGF薬PRN投与群(22例)では,-0.3±10.63文字の改善という結果であった1).X-82は現在中国でも第II相臨床試験が行われている(NCT03710863).チロシンキナーゼ阻害薬は点眼製剤としても各社が開発していたが,GlaxoSmithKline社の開発していたPazopanibは,ラニビズマブを上回る有効性が認められず4),Bayer社が開発していたRegorafenibも同じ理由で第II相臨床試験後,これ以上の臨床試験が行われないことに決まった5).PanOptcia社のチロシンキナーゼ阻害点眼薬PAN-90806は,米国で第I相臨床試験,第II相臨床試験が終了しているが結果はまだ公表されていない(NCT03479372).また,臨床試験前の段階であるが,硝子体に留置する徐放システムDurasert(EyePoint社)を用いたチロシンキナーゼ阻害薬を製剤化する動きがあり,AMDに対する臨床試験が計画されているようである.Durasertを使用したテクノロジーは,Iluvienというフルオロシノロンアセトニドを徐放する薬剤として海外ではすでに承認されている.OTX-TKI(OcularTherapeutics社)も徐放性のチロシンキナーゼ阻害薬で,第I相臨床試験がオーストラリアで行われている(NCT03630315).II組織因子阻害薬組織因子(tissuefactor)は,膜貫通型の糖蛋白質からなる凝固第VII因子に対する受容体で,AMDや癌で発現が上昇しており,血管新生に関与すると考えられていることから,AMDの治療標的として研究されてきた.IconicTherapeutics社が開発した組織因子阻害薬hI-con1は,組織因子に高い親和性を示す活性化した凝固第VII因子(VIIa)をFabとしヒトIgG1のFc部分を有し,脈絡膜新生血管に存在する過剰な組織因子に結合しその作用を阻害する.5回のhI-con1毎月硝子体内投与後にPRN投与する群と,5回のhI-con1とラニビズマブの毎月硝子体内投与後にPRN投与する群を比較した第II相臨床試験(EMERGEstudy)(NCT02358889)が終わっているが,結果はまだ公表されていない.hI-con1は,現在はICON-1という名称に変わっており,AMD患者における単回硝子体投与の全身および局所の安全性を確認した第I相臨床試験では,1回のICON-1の硝子体投与後2週の時点で,平均8文字の改善がみられている6).現在はラニビズマブではなく,アフリベルセプトと同時投与あるいはアフリベルセプト投与後ICON-1単独投与群を比較する別の第II相臨床試験(DECOstudy)が行われている(NCT03452527).IIIAngiopoietin?Tie2経路Angiopoietinアンギオポエチン/Tie2経路は,血管内皮細胞に存在し,血管のリモデリング,成熟,構造の安定化などに関与している.Vascularendothelial-proteintyrosinephosphatase(VE-PTP)は血管内皮細胞に特異的に発現しており,Tie2の活性を負に制御しているが,虚血状態ではVE-PTPの発現が亢進しており,VE-PTPを阻害すると,Ti2が活性化し,新生血管が抑制されていた7).ARP-1536(Aerpio社)はVE-PTPの細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体で,AMDに対する硝子体投与薬として抗VEGF薬と併用する臨床試験が予定されている.IVCCR3CCR3は,おもに好酸球のケモカイン受容体として知られ,元々アレルギー疾患に関連した治療ターゲットとして研究されていたが,脈絡膜新生血管にも発現し,268あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(20)CCR3とそのリガンドであるeotaxinが,脈絡膜新生血管の形成に関与していることが明らかとなり8,9),AMDの治療薬としても,開発が進んでいる.ALK4290(Alkahest社)は,CCR3を阻害する内服薬で,ハンガリーで第II相臨床試験が行われた(NCT03558061).2019年3月に米国で開催された第2回RetinaWorldCongressでその結果が発表されており,6週間のALK4290800mg(400mgを1日2回)内服で,治療歴のないAMD29例中83%の症例が視力の維持あるいは改善を,21%でETDRS視力15文字以上の視力改善が得られ,全体では平均7文字の改善がみられていた10).抗VEGF薬に抵抗する難治性AMD症例に対するALK4290内服の有効性をみる第II相臨床試験もハンガリーで平行して行われたが,結果はまだ公表されていない(NCT03558074).V補体系AMDの病態に補体の関与が報告されており11?13),AMDに対する補体系薬剤も開発されている.APL-2(ApellisPharamaceutical社)は,補体C3を阻害するペプチドである.以前はPOT-4という名前でAMDに対して臨床試験が行われたが,半減期の短いPOT-4をポリエチレングリコール(polyethylenegly-col:PEG)化し半減期を長くしたものがAPL-2である.APL-2は第I相臨床試験(ASAPIIstudy)が終了しているが(NCT02461771),結果は公表されておらず,第I/II相臨床試験が現在行われている(NCT03465709).APL-2は,萎縮型AMDに対しては,現在第III相臨床試験(NCT03525600,NCT03525613)まで進んでおり,2022年に試験が終了する予定である.Zimura(avacincaptadpegol)(Optotech社)は補体C5に対するアプタマーで,ラニビズマブと併用する第II相臨床試験(NCT03362190)が終了しているが結果は公表されていない.Zimuraも,萎縮型AMD(NCT02686658),Stargardt病(NCT03364153)に対して第II相臨床試験が行われている14).VIその他インターロイキン(interleukin:IL)-1bとIL18の発現を抑制するAS10115)は1%溶液(内服)のAMDに対する第I/II相臨床試験がイスラエルで行われている(NCT03216538).AS101は,網膜色素上皮におけるIL-1bを介した炎症性サイトカイン(IL-6,IL-8やVEGF)の発現を抑制しており16),AMDの病的な慢性炎症に対して効果があるのではないかと考えられている.一方,AMDに対する抗VEGF薬治療の問題点として,subretinalhyperre?ectivematerial(SHRM)による視力障害がある.VEGFを阻害することにより,新生血管抑制や血管透過性更新の抑制は可能であるが,線維化はコントロールできない.エンドグリンは,血管内皮細胞や活性化した単球,組織マクロファージに存在し,transforminggrowthfactor(TGF)-bと結合し,血管新生や線維化に関与しており,マウスを用いた実験ではエンドグリンに対する抗体治療は,VEGF阻害単独よりも網膜下の線維化を抑制していた17).DE-122(carotuximab)(参天製薬)はエンドグリンに対する抗体で,現在,ラニビズマブと併用した第II相臨床試験(NCT03211234)が米国で進んでいる.RetinoStat(OxfordBiomedica社)はエンドスタチンとアンギオスタチンを産生するレンチウィルスベクターで網膜下に注入する薬剤である.進行したAMD21例がエントリーした第I相臨床試験(NCT01301443)では,1例が黄斑円孔を発症したが,それ以外には網膜下注入手技による合併症はみられなかった.眼内炎症といった副作用はなく,眼内のエンドスタチン,アンギオスタチン発現が最低48週間確認されている18).現在,その後の経過を追う第I相臨床試験が行われている(NCT01678872).おわりに滲出型AMDの治療ターゲットは脈絡膜新生血管であり,新規の薬剤の効果を確かめるために,動物実験ではBruch膜をレーザーで傷害し脈絡膜新生血管を誘発するモデルが一般的によく用いられている.しかし,実際の(21)あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020269AMDの病態は,加齢,慢性炎症といったさまざまな因子が絡み合っており,動物実験の結果がそのままAMD患者に有効とは限らない場合も多い.また,現在の抗VEGF薬の治療効果もかなり高いため,抗VEGF薬を上回る効果を示すには,臨床試験デザイン,患者の選択なども十分考慮する必要があると思われる.本稿で述べた薬剤のうち,実際にわれわれが日常臨床で使用することができるものが将来登場するかどうかはわからないが,点眼,内服,徐放システムといった新たな投与経路の薬剤も開発されており,今後,本稿で述べたVEGF阻害以外の作用をもつ新規薬剤が有効性を発揮する可能性は大いにあり,福音となることを願う.文献1)Al-KhersanH,HussainRM,CiullaTAetal:Innovativetherapiesforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.ExpertOpinPharmacother20:1879-1891,20192)DugelPU;ClinicalTrialDownload:Discussingnewsafe-tydataonGB-102.Earlyresultsforapotential6-monthwetAMDtreatment.RetinalPhysician16:16,20193)JacksonTL,BoyerD,BrownDMetal:Oraltyrosinekinaseinhibitorforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Aphase1dose-escalationstudy.JAMAOphthalmol135:761-767,20174)CsakyKG,DugelPU,PierceAJetal:Clinicalevaluationofpazopanibeyedropsversusranibizumabintravitrealinjectionsinsubjectswithneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.Ophthalmology122:579-588,20155)JoussenAM,WolfS,KaiserPKeta:Thedevelopingregorafenibeyedropsforneovascularage-relatedmacu-lardegeneration(DREAM)study:anopen-labelphaseIItrial.BrJClinPharmacol85:347-355,20196)WellsJA,GonzalesCR,BergerBBetal:Aphase1,open-label,dose-escalationtrialtoinvestigatesafetyandtolerabilityofsingleintravitreousinjectionsofICON-1targetingtissuefactorinwetAMD.OphthalmicSurgLasersImagingRetina49:336-345,20187)ShenJ,FryeM,LeeBLetal:TargetingVE-PTPacti-vatesTIE2andstabilizestheocularvasculature.JClinInvest124:4564-4576,20148)TakedaA,Ba?JZ,KleinmanMEetal:Ccr3isatargetforage-relatedmaculardegenerationdiagnosisandthera-py.Nature460:225-230,20099)MizutaniT,AshikariM,TokoroMetal:Suppressionoflaser-inducedchoroidalneovascularizationbyaccr3antagonist.InvestOphthalmolVisSci54:1564-1572,201310)http://brief.euretina.org/marketnovel-tech/alkahests-oral-small-molecule-drug-aims-to-report-on-a-phase-iia-study-for-age-related-macular-degeneration11)MullinsRF,RussellSR,AndersonDHetal:Drusenasso-ciatedwithagingandage-relatedmaculardegenerationcontainproteinscommontoextracellulardepositsassoci-atedwithatherosclerosis,elastosis,amyloidosis,anddensedepositdisease.FASEBJ14:835-846,200012)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.Sci-ence308:385-389,200513)NozakiM,RaislerBJ,SakuraiEetal:Drusencomple-mentcomponentsC3aandC5apromotechoroidalneovas-cularization.ProcNatlAcadSciUSA103:2328-2333,200614)KassaE,CiullaTA,HussainRMetal:Complementinhi-bitionasatherapeuticstrategyinretinaldisorders.ExpertOpinBiolTher19:335-342,201915)BrodskyM,YosefS,GalitRetal:Thesynthetictelluri-umcompound,AS101,isanovelinhibitorofIL-1betaconvertingenzyme.JInterferonCytokineRes27:453-462,200716)LingD,LiuB,JawadSetal:Thetelluriumredoximmu-nomodulatingcompoundAS101inhibitsIL-1b-activatedin?ammationinthehumanretinalpigmentepithelium.BrJOphthalmol97:934-938,201317)ShenW,LeeSR,YamMetal:AcombinationtherapytargetingendoglinandVEGF-Apreventssubretinal?bro-neovascularizationcausedbyinducedM?llercelldisruption.InvestOphthalmolVisSci59:6075-6088,201818)CampochiaroPA,LauerAK,SohnEHetal:Lentiviralvectorgenetransferofendostatin/angiostatinformaculardegeneration(GEM)study.HumGeneTher28:99-111,2017270あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(22)