ホームモニタリングHomeMonitoringofPatientsWithAge-RelatedMacularDegeneration藤田京子*はじめに昨今の高齢化に伴い加齢黄斑変性(age-relatedmacu-lardegeneration:AMD)患者も増加の一途をたどっている.脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が発生し,出血や滲出が生じる滲出型AMDは抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)療法で視力維持が可能になってきたものの,治療前よりも良好な視力を得ることは未だむずかしいのが現状である.抗VEGF療法後の視力は治療開始時における視力値と関連することが報告されており1),網膜に深刻なダメージが生じる前に異常を発見し,早めに治療を開始できれば良好な視機能を維持できる可能性がある.しかしながら患者は軽微な悪化のサインに気づくことは少なく,ある程度病状が進行してから初めて病状に気がつくことがほとんどである.網膜の障害が軽度な段階で治療を開始できれば視機能を保つことができることを考えると,いかに患者自身が症状の変化に気がつくかがポイントになる.欧米では数年前から患者自身による症状の早期発見の重要性が指摘され,さまざまな方法が試みられている.自宅で検査されたデータがホームモニタリングを統括するセンターに送られ,異常があれば早く治療を受けることができるように眼科受診がアレンジされるシステムもある.われわれも日常診療で患者に「ゆがみ」や「中心視野の見えづらさ,暗さ」の変化に気をつけてもらい,Amslerチャートを用いたチェックを薦めているが,早期発見のためにはさらに精度の高い検査が求められる.ここではAMDに対するホームモニタリングについて最近の知見をまとめてみる.I加齢黄斑変性の初期症状AMD患者が最初に気づく症状は変視症と暗点である2).Amslerは検眼鏡的に認められる形態変化よりも先に視機能の変化が現れることを報告し,患者自身の症状のモニタリングが重要であると述べている3).IIモニタリングの方法1.Amslerチャート変視症検出の一般的な方法にAmslerチャートがある(図1).視距離30cmの近見矯正下で片眼ずつ中央の白い点を固視しながら線のゆがみや格子が完全に見えるか,などをチェックする.Amslerチャートは誰もが簡便に行えるが,一方で固視の維持の困難さ,多数の線による“混みあい現象”の影響で精度が低いことが指摘されている4).2.Hyperacuityを利用Hyperacuityはvernieracuityともよばれ副尺視力と訳される.副尺視力とは線分のずれを識別する閾値であり,識別閾は視角2~10秒とされる5).Hyperacuityを利用したホームモニタリング装置にはmVTapp(Vital◆KyokoFujita:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕藤田京子:〒480-1195愛知県長久手町岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学教室(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)295図1Amslerチャート中心視野20°以内に1°間隔で碁盤の目状に線が描かれている.ArtandScience),ForeseeHomemonitoring(NotalVision,Israel)(図2a)などがあり,いずれもFDA(米国食品医薬品局)の認可を受けている.ForeseeHomemonitoringはモニター画面に一部線を小さく歪ませた点線が160ミリ秒提示される(図2b)6).患者は提示された点線上でもっとも強くゆがみを自覚した部をコンピューターマウスで指し示し,ついで中央に提示されたポイントにマウスを戻すように指示される.提示される点線は中心視野14°以内にランダムに提示され,所要時間は約3分である.新たな病巣がみられない場合には患者は点線上で元々ゆがんでいる部を指し示すが,病巣に活動性が生じその部のゆがみが元々のゆがみよりも大きく感じられた場合,患者はより大きなゆがみの部を指し示すため,その応答は異常と判定される.米国ではAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)に参加した全米44カ所の網膜のクリニックを中心にForeseeHomemoniteringの有用性を検証するランダム化比較試験が行われた7).対象は視力が20/60以上で両眼に滲出型AMDに発展する危険性が高い大きなドルーゼン(125?m以上)がみられる症例,もしくは片眼に大きなドルーゼンを有し僚眼は進行したAMDの症例で,ドルーゼンのみ有する眼が対象眼になる.対象症例はAmslerチャートなどを用いて自身で症状をチェック図2ForeseeHomemonitoring(a)(NotalVision,Ltd)とモニター上に提示される刺激(b)点線には人工的なゆがみが含まれている.患者はaでみられるモニター上に提示される点線上のゆがみをコンピューターマウスでさし,ついで中央のポイントにマウスを戻す.刺激は160ミリ秒間提示される.する標準ケア群とForeseeHomemoniteringを用いるモニタリング群とにランダムに割り付けられた.Foresee-Homemoniteringの結果はセルラーモデムを系由してモニタリングセンターに送られ,登録時と比較し明らかな変化が検出されれば担当医師に連絡が行く.HOMEstudyreportNo1ではモニタリング群763例と標準ケア群757例でベースラインの視力とCNV検出時の視力との差が評価された.CNVはモニタリング群で51例,標準ケア群で31例発生したが,モニタリング群で有意にベースラインとCNV検出時の視力差が少なく,標準ケア群よりも良好な視力でCNVが検出された.この結果から,モニタリング群のほうが抗VEGF療法後によ296あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(48)図3iPadで網膜感度をモニター(PsyPad)中心2°以内に12カ所刺激点が配置されている.(http://psypad.net.au/server/)図4HomeOCTsystem(NortalVision社)自宅で行えるOCTで,網膜下液の変化は解析装置によって自動分析される.い視力が期待できると報告している7).また,費用対効果も検討され,モニタリング群の費用対効果は高く,医療費の削減が期待できると報告されている8).3.網膜感度を利用自身のiPadで網膜感度をチェックし病状をモニターする方法も報告されている9~11).アプリケーション(PsyPad)は中心2°以内に配置された12カ所の刺激点からなり(図3),患者は50cmの視距離で通常の静的量的視野検査と同様の方法で行う.検査結果は中央のサーバーにアップロードされ網膜感度が分析される.Adamsらは50歳以上で両眼に125?m以上のドルーゼンを有し,矯正視力が20/60以上,iPadユーザーでインターネットに接続できる環境が整っている患者21例に対し,PsyPadとクリニックで行われたマイクロペリメトリの結果を比較した.その結果,両者に有意な差はみられず,PsyPadでも同様の結果が得られたと報告している11).4.OCTいまやOCTはAMDの診療に欠かせない検査であるが,ホームモニタリングにOCTが加わる日もそう遠くなさそうである.米国NotalVision社が開発したHomeOCTsystemは自宅でOCTを行い(図4),網膜下液の変化をNotalICTanalyzerが自動分析する12).網膜下液が検出された場合にはその結果が担当医師に伝えられるという遠隔管理システムであり,すでにFDAの承認が下りている.ほかにもMalocaらは頭の動きによるアーチファクトを減らすために頭位を固定しやすいように工夫されたOCTを用いて,通常のスペクトラルドメインOCT(spectraldomainOCT:SD-OCT)で測定した中心窩網膜厚を比較し,両者の平均中心窩網膜厚に有意差はみられなかった(p=0.091)と報告している13).おわりにAMDに対するホームモニタリングについて述べた.データの信頼性など課題は多いが,ホームモニタリングと遠隔システムの普及はわが国で現在行われているクリニックベースの医療の仕組みに大きな変革を迫ることになるだろう.増え続けるAMDに対する患者および医師の双方にかかる負担や医療経済への圧迫を欧米と同様に見直す時期が来ているのかもしれない.(49)あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020297文献1)YingGS,HuangJ,MaguireMGetal:Baselinepredictorsforone-yearvisualoutcomeswithranibizumaborbevaci-zumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:122-129,20132)FineAM,ElmanMJ,EbertJEetal:Earliestsymptomscausedbyneovascularmembranesinthemacula.ArchOphthalmol104:513-514,19863)AmslerM:Earliestsymptomsofdiseasesofthemacula.BrJOphthalmol37:521-537,19534)LoewensteinA,MalachR,GoldsteinMetal:ReplacingtheAmslergrid:anewmethodformonitoringpatientswithage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology110:966-970,20035)所敬:視力検査の現状と問題点.日本視能訓練士協会誌26:63-66,19986)LoewensteinA:Useofhomedeviceforearlydetectionofneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicRes48(Suppl1):11-15,20127)AREDS2-HOMEStudyResearchGroup;ChewEY,ClemonsTEetal:Randomizedtrialofahomemonitor-ingsystemforearlydetectionofchoroidalneovasculariza-tionhomemonitoringoftheEye(HOME)study.Ophthal-mology121:535-544,20148)WittenbornJS,ClemonsT,RegilloCetal:Economicevaluationofahome-basedage-relatedmaculardegener-ationmonitoringsystem,JAMAOphthalmol135:452-459,20179)TurpinA,LawsonDJ,McKendrickAM;PsyPad:aplat-formforvisualpsychophysicsontheiPad.JVis14:16,201410)WuZ,GuymerRH,JungCJetal:Measurementofretinalsensitivityontabletdevicesinage-relatedmaculardegeneration.TransVisSciTechnol4:13,201511)AdamsM,HoCYD,BaglinEetal:Homemonitoringofretinalsensitivityonatabletdeviceinintermediateage-relatedmacul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