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慢性移植片対宿主病による重症ドライアイが軽快した1例

2020年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(6):752.757,2020c慢性移植片対宿主病による重症ドライアイが軽快した1例箱崎瑠衣子*1,2矢津啓之*1,3清水映輔*1明田直彦*1内野美樹*1鴨居瑞加*1西條裕美子*1立松由佳子*1山根みお*1加藤淳*4森毅彦*4岡本真一郎*4坪田一男*1小川葉子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2横浜市立市民病院眼科*3鶴見大学歯学部附属病院眼科*4慶應義塾大学医学部血液内科CTreatmentOutcomeinaCaseofChronicGVHD-RelatedSevereDryEyeRuikoHakozaki1,2),HiroyukiYazu1,3),EisukeShimizu1),NaohikoAketa1),MikiUchino1),MizukaKamoi1),YumikoSaijo1),YukakoTatematsu1),MioYamane1),JunKato4),TakehikoMori4),ShinichiroOkamoto4),KazuoTsubota1)andYokoOgawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversitySchoolofDentalMedicine,4)DivisionofHematology,DepartmentofMedicine,KeioUniversitySchoolofMedicineC緒言:慢性移植片対宿主病(cGVHD)重症ドライアイが体外循環式光化学療法(ECP)と眼局所治療後に軽快した1例を報告する.症例:46歳,女性.急性リンパ性白血病に対して非血縁者間骨髄移植を施行.移植C1年C5カ月後に眼,口腔,皮膚,肺に重症CcGVHDを発症した.近医眼科にて重症ドライアイに対し涙点プラグ挿入を施行するも症状は改善しなかった.移植C2年C3カ月後,ステロイド治療抵抗性重症CcGVHDに対するCECPの治験に参加するため慶應義塾大学病院に入院.眼科初診時所見として,著明なびまん性角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(BUT)短縮,涙液分泌低下を認めた.プレドニゾロン内服治療,ヒアルロン酸点眼とレバミピド点眼治療を行ったが改善なく,ECPが開始された.ECP中は眼所見は改善したが,ECP治療終了後は悪化し,ジクアホソル点眼,レバミピド点眼,涙点プラグを追加,その後,涙点プラグは一部脱落したが,眼表面障害とCBUTは改善した.結論:局所療法に加え,ECP療法によりCcGVHD重症ドライアイが改善した本症例は,今後の治療に資するものと考えられる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCchronicCgraft-versus-hostdisease(cGVHD)-relatedCsevereCdryeye(DE)thatshowedrecoveryafterextracorporealphotopheresis(ECP)andtopicaltherapy.Case:A46-year-oldfemaledevel-opedCcGVHD-relatedCDECaccompaniedCbyCoralCcavity,Cskin,CandClungCinvolvementsCatC1yearCandC5monthsCafterCundergoingCboneCmarrowtransplantation(BMT)forCanCacuteClymphoblasticCleukemia.CAlthoughCpunctal-plugCimplantationwaspreviouslyperformedatanotherclinic,shewasdiagnosedatinitialpresentationwithsevereDEsymptomswithdi.usesuper.cialpunctatekeratitis,shorttear-.lmbreakuptime,andalowSchirmer’stestvalue.TheCpatientCwasCtreatedCviaCtheCsystemicCadministrationCofCtacrolimusCandCprednisolone,CandCtopicalCrebamipideCandhyaluronicacid,yetherconditiondidnotimprove.SheunderwentECPforthesteroid-refractorycGVHDasaparticipantinaclinicaltrial,andthecGVHD-relatedDEimproved.However,theDEworsenedaftercessationoftheCECP,CsoCtreatmentCwithCtopicalCdiquafosolCandCpunctal-plugCimplantationCwasCadded.CFiveCyearsClater,CanCimprovementCofCtheCocularCsurfaceCandCtearCdynamicsCwasCobserved,CalthoughCtheCadditionalCpunctalCplugsCwereCextruded.Conclusion:TheclinicalcourseofourcaseshowedanimprovementofcGVHD-relatedDEbyECPandtopicaltherapy,thussuggestingtheimportanceofevaluatingtheclinicalfeaturesforthefuturetreatmentofthisintractabledisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):752.757,C2020〕〔別刷請求先〕箱崎瑠衣子:〒240-8555横浜市保土ケ谷区岡沢町C56横浜市立市民病院眼科Reprintrequests:RuikoHakozaki,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital,56Okazawamachi,Hodogaya-ku,YokohamaCity,Kanagawa240-8555,JAPAN矢津啓之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室CHiroyukiYazu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35CShinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC752(108)Keywords:同種造血幹細胞移植,炎症,慢性移植片対宿主病,重症ドライアイ,治療,慢性眼移植片対宿主病.Callogeneichematopoieticstemcelltransplantation,in.ammation,chronicgraft-versus-hostdisease,severedyeeye,treatment,chronicocularGVHD.Cはじめに同種造血幹細胞移植後は白血病などの造血器腫瘍に対する根治療法として確立されている.しかし,同種造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)はときに致死的となり,眼科領域では重症ドライアイとして角膜穿孔に至ることもあり,対策が求められている1,2).造血幹細胞移植の件数は全世界で増加しており,2030年には約C50万人の造血幹細胞移植後の長期生存者が存在すると報告されている3).同種造血幹細胞移植症例の視力予後および生活の質や視覚の質の改善のためには,眼CGVHDの病態解明が重要となる一方で,症例ごとの臨床経過と治療内容を詳細に検討することが,治療の時期,治療方法の決定に必要と思われる.造血幹細胞移植後の慢性CGVHDによるドライアイは主要な合併症の一つである1,4).移植後約C50.60%に発症し,その後急速に進行していく症例が多い5).重症ドライアイは瞼球癒着や涙点自然閉鎖,角膜輪部機能不全,角膜の結膜化などをきたし,難治であることが多い.病態にはCT細胞と抗原提示細胞の相互作用により角結膜,涙腺,マイボーム腺の上皮障害および間質の高度な病的線維化が関与している2).重症慢性CGVHDに多いCGVHDによるドライアイは,現在のところ根治療法がなく,既存の点眼治療薬を症状に応じて使用していかざるをえないため,新しい有効な治療法を検討することは喫緊の課題である.今回筆者らは,全身体外循環式光化学療法(extracorpore-alphotopheresis:ECP)により難治性CGVHDによるドライアイの眼所見が軽快し,ECP治療終了後の眼局所治療がさらに眼所見の改善に寄与したと考えられるC1例を経験したので報告する.ECPは患者の白血球を体外へ無菌的に取り出しメトキサレン溶液を注入のうえ,紫外線照射処理後に体内へ戻すことにより,活性化CTリンパ球などを制御し病的な免疫過剰状態を調整する治療法である.本症例は,造血幹細胞移植後に高度な重症ドライアイを発症し,治療に抵抗性であったが,その後,ステロイド抵抗性慢性CGVHDと診断され内科でのCECPを開始した.CI症例患者:46歳,女性.急性リンパ性白血病に対して,他院にて非血縁者間骨髄移植を施行した.移植前の眼科検診ではドライアイは認めなかった.移植C12日後に急性CGVHD(皮膚,肝臓,腸管)を発症した.移植C1年C5カ月後に口腔,肺,眼に慢性CGVHDを発症したため,近医眼科にてドライアイに対して精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインミニ点眼C0.3%,参天製薬)1日C6回とレバミピド(ムコスタ点眼CUD0.2%,大塚製薬)1日C4回の点眼治療を行った.右眼下方の涙点プラグを施行したが,自他覚所見とも改善しなかった.移植C2年C3カ月後,ステロイド抵抗性の重症CGVHDに対するCECPの治験に参加するために慶應義塾大学病院(以下,当院)血液内科に受診した.ECP治験前に,タクロリムス水和物C0.2Cmg/日(プログラフ,アステラス製薬)とミコフェノール酸モフェチルC1,000Cmg/日(ミコフェノール酸モフェチルカプセル,マイラン製薬)プレドニゾロン(プレドニン錠,5Cmg武田薬品,1Cmg旭化成ファーマ)12.5Cmg/日の内服治療が行われた.ECPの治験は,わが国のステロイド治療抵抗性の難治性慢性CGVHD患者を対象として,ECPの安全性と有効性の検証のため多施設オープンラベル試験として行われた.ECPの治療スケジュールは最初のC1週目はC1.3日目の連続C3日間,2.12週目はC1日目C2日目の連続C2日間,その後C16週目,20週目とC24週目の各週はC1日目C2日目の連続C2日間,それぞれC1日C1回行われた.本症例の全身の評価項目を総合した効果は良好であり,全身ステロイド治療の量が軽減でき,有効と判断された.治験開始直前の当院眼科受診時所見は,矯正視力が右眼0.04(0.7C×sph.7.00D(cyl.0.75DCAx140°),左眼C0.04(0.8C×sph.7.50D(cyl.0.75DAx120°)であった.2006年ドライアイ診断基準の角結膜上皮障害と涙液動態の評価を行い6),GVHDによるドライアイの眼CGVHD角膜フルオレセインスコア評価方法に基づき評価した7).前医での右下涙点プラグ挿入後であったが,フルオレセイン染色C6/6(右/左)点(9点中),ローズベンガル染色C5/5(右/左)点(9点中),涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)2/2(右/左)秒,島崎分類によりマイボーム腺機能不全スコアC3/3(右/左)点(3点中)8),国際眼CGVHD診断基準による充血スコア2/2(右/左)点(2点中)1,9)と重症ドライアイを認めた(図1).精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,1日C6回とレバミピド1日C4回の点眼治療を行った.ECP治療開始後C6カ月の眼所見はフルオレセイン染色4/3(右/左)点,ローズベンガル染色C2/1(右/左)点,BUT3/3秒,マイボーム腺機能不全スコアはC2/2(右/左)点,充図1本症例のGVHDによるドライアイ重症時の細隙灯顕微鏡所見a,b:フルオレセイン角結膜染色所見(Ca:右眼,Cb:左眼).c,d:ローズベンガル角結膜染色所見(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼ともに高度の角結膜上皮障害を認め,左眼は糸状角膜炎を認める.血はC0/0(右/左)点と改善した.また,ECP開始C5カ月にCD(cyl.1.00DAx15°),左眼(0.9C×sph.7.50D(cyl.1.00は眼表面状態は軽快していた.ECPは7カ月間継続され,CDAx60°),フルオレセイン染色0/0(右/左)点,リサミンその間,眼表面状態は軽快したが,ECP治験終了後C7カ月グリーン染色C2/0(右/左)点,BUT7/10(右/左)秒,マイ時に,フルオレセイン染色C8/8(右/左)点,リサミングリーボーム腺機能不全スコアC1/1(右/左)点(3点中),充血C0/0ン染色C8/7(右/左)点(9点中),BUT3/3(右/左)秒,マイ(右/左)点(2点中)と改善した(図2,3).現在,当科初診ボーム腺機能不全スコアC2/3(右/左)点,糸状角膜炎あり,時と同様右下のみ涙点プラグが入っている状態である.充血C2/2(右/左)点と眼所見は悪化した.その後,局所療法CII考按としてジクアホソル点眼(ジクアス点眼3%,参天製薬)1日6回,レバミピド点眼C1日C4回の併用療法に加え10),精製ヒ本症例は,同種骨髄移植後,高度な重症ドライアイを発症アルロン酸ナトリウム点眼C0.3%C1日C5回,人工涙液点眼(ソし,眼科局所治療に抵抗性であった.しかし,ECP併用中フトサンティア点眼,参天製薬)1日頻回点眼を加え治療をに重症ドライアイが軽快し,その後眼科的には防腐剤無添加行った.点眼治療のみでは効果不十分であったため,残存し人工涙液点眼とC0.3%ヒアルロン酸に加えジクアホソルとレている右下の涙点以外のC3涙点に両眼涙点プラグ(スーパーバミピド,さらには涙点プラグを施行し,長期局所治療を継イーグルプラグCM,EagleVision社製)を追加した.涙点プ続することで重症ドライアイの角結膜上皮障害とCBUTが軽ラグ追加後,重症ドライアイは軽快,やや悪化を繰り返した快した貴重なC1例であった.が,涙点プラグ追加後C10カ月後には右上,左下が脱落し,本症例の重症ドライアイの改善理由は,眼局所治療に加以後初診時と同様に右下の涙点プラグのみ残存したが眼所見え,従来行われている全身的な免疫抑制薬治療,そしてとくは軽快した状態を保っていた.に本症例に特異的な治療であったCECP11)が相互に協調してECP終了C3年C7カ月後,矯正視力は右眼(1.2C×sph.7.00奏効したことによると考えられる.図2軽快時の細隙灯顕微鏡眼表面所見a,b:フルオレセイン角結膜染色所見.(a:右眼,Cb:左眼).c,d:リサミングリーン角結膜染色所見(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼ともに角結膜上皮障害および結膜充血は著明に軽快し,ドライアイがほぼ正常化するまで軽快している.ヒアルロン酸点眼レバミピド点眼重症GVHDジクアホソル点眼ドライアイ発症,前医にて涙点プラグ他院当科骨髄移植初診涙点プラグ涙点プラグ涙点プラグのECP(7カ月間)追加脱落再挿入なしECP直前ECP開始後6カ月ECP終了後涙点プラグ追加涙点プラグ脱落ECP後3年7カ月フルオレセイン染色6/64/38/80/02/00/0ローズベンガル染色5/52/1──リサミングリーン染色──8/70/01/02/0BUT(秒)2/23/33/310/106/107/10MGD3/32/22/31/1充血2/20/02/20/0図3治療経過とドライアイ所見(スコア)の変化ECP治療開始前,重症CGVHDによるドライアイを認め,ECP開始後,ECP加療中はドライアイが改善した.ECP治療終了後に悪化した.ECPおよび眼局所のジクアホソルとレバミピドの長期併用療法と涙点プラグの加療による経過.現時点でステロイド抵抗性慢性CGVHDに対しては,高用量ステロイド,わが国では未承認であるCECP,ソラレン紫外線療法(PUVA),サリドマイド,リツキシマブなどが試みられるが,その治療法は確立していない.本症例において,ECP併用中は眼所見は改善していたが,中止後に悪化を認め,レバミピドおよびジクアホソルの併用局所療法と涙点プラグを行ったことにより改善が認められた.これらの経過から,ステロイドおよびタクロリムスの全身投与,ECP,そして局所療法の併用があらゆる治療に抵抗性で難治性の慢性CGVHDによるドライアイを改善に導いたと考えられる.ジクアホソルとレバミピドは同じムチン分泌促進薬であるが,作用機序が異なる.ジクアホソルは結膜上皮および結膜杯細胞膜上にあるCP2YC2受容体の作動薬で,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させ,水分およびムチン分泌促進作用を有することで,涙液を質的および量的の両側面から改善する.GVHDによるドライアイのように涙腺障害が高度であっても結膜からの水分を分泌させる効力がある12,13).レバミピドは,角膜上皮細胞のムチン遺伝子発現を亢進させ,細胞内のムチン量を増加させる.また,角膜上皮細胞の増殖を促進し,結膜ゴブレット細胞数を増加させることが報告されている14,15).またドライマウスに対しての抗炎症効果も報告されている16).ジクアホソルとレバミピドは軽症から中等症のGVHDによるドライアイに対し長期併用効果が報告されている10).本症例は全身治療の併用により重症ドライアイが中等症まで軽快した時点で,ジクアホソルとレバミピド併用療法および涙点プラグを行ったことがより効果的であった可能性がある.ジクアホソルおよびレバミピドの併用療法および局所涙点プラグのみでは,治療抵抗性のCGVHDによる重症ドライアイが本症例のような状態まで軽快することはむずかしいと考えられる.従来行われるプレドニゾロンおよびタクロリムスの全身治療17)に加え,今回とくに行ったCECPより涙腺,マイボーム腺,角結膜上皮の障害が軽減されていたことが考えられる.GVHDに関連したドライアイは難治性で重症に至ることが多く,治療に難渋することが多い.本症例はCECPの全身療法中ドライアイが軽快し,ECP治療終了後悪化したことから,ECP治療がCGVHDドライアイに有効であることが示唆された.その後,ECP治療をもとに局所治療も奏効し,難治性重症CGVHDによるドライアイの角結膜上皮障害,BUTが改善するに至ったと考えられた.軽快することがまれな難治性CGVHDドライアイに対する治療法がないなか,今後の治療方法に資する貴重な症例と考える.利益相反:坪田一男:ジェイアエヌ【F】,参天製薬【F】,興和【F】,大塚製薬【F】,ロート【F】,富士ゼロックス【F】,アールテック・ウエノ【F】,坪田ラボ【F】,オフテスクス【F】,わかさ生活【F】,ファイザー【F】,日本アルコン【F】,QDレーザ【F】,坪田ラボ【R】,花王【R】,Thea,Thea社【R】,【P】岡本真一郎:ノバルティス【F】,アステラス【F】.中外製薬【F】森毅彦:ノバルティス【F】,アステラス【F】,中外製薬【F】小川葉子:参天製薬【F】,キッセイ薬品【F】,【P】,日本アルコン内野美樹:参天製薬【F】ノバルティス【F】,千寿【F】,アルコン【F】矢津啓之:OuiInc【P】清水映輔:OuiInc【P】,大正製薬【F】.JSR【F】,近藤記念医学財団【F】明田直彦:OuiInc【P】文献1)OgawaCY,CKimCSK,CDanaCRCetal:InternationalCChronicCOcularGraft-vs-Host-Disease(GVHD)ConsensusGroup:CProposedCdiagnosticCcriteriaCforCchronicGVHD(PartI)C.ScirepC3:3419,C20132)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20133)稲本賢:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌C6:84-97,20174)InamotoY,Valdes-SanzN,OgawaYetal:Oculargraft-versus-hostCdiseaseCafterChematopoieticCcellCtransplanta-tion:ExpertreviewfromtheLateE.ectsandQualityofLifeCWorkingCCommitteeCofCtheCCIBMTRCandCTransplantCComplicationsWorkingPartyoftheEBMT.BoneMarrowTransplantC54:662-673,C20195)UchinoM,OgawaY,UchinoYetal:ComparisonofstemcellCsourcesCinCtheCseverityCofCdryCeyeCafterCallogeneicChaematopoieticstemcelltransplantation.BrJOphthalmolC96:34-37,C20126)島崎潤,坪田一男,木下茂ほか:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科C24:181-184,C20077)WangCY,COgawaCY,CDogruCMCetal:BaselineCpro.lesCofCocularsurfaceandteardynamicsafterallogeneichemato-poieticCstemCcellCtransplantationCinCpatientsCwithCorCwith-outCchronicCGVHD-relatedCdryCeye.CBoneCMarrowCTrans-plantC45:1077-1083,C20108)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19989)EfronN:GradingCscalesCforCcontactClensCcomplications.COphthalmicPhysiolOptC18:182-186,C199810)YamaneM,OgawaY,FukuiMetal:Long-termrebamip-ideCandCdiquafosolCinCtwoCcasesCofCimmune-mediatedCdryCeye.OptomVisSci92(Suppl1):S25-S32,201511)OkamotoCS,CTeshimaCT,CKosugi-KanayaCMCetal:Extra-corporealCphotopheresisCwithCTC-VCinCJapaneseC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男性Sjögren症候群の3症例にみられたドライアイの特徴の検討

2020年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(6):747.751,2020c男性Sjogren症候群の3症例にみられたドライアイの特徴の検討林俊介*1,2清水映輔*1内野美樹*1鴨居瑞加*1西條裕美子*1立松由佳子*1矢津啓之*1,3鈴木勝也*4竹内勤*4坪田一男*1小川葉子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国立埼玉病院眼科*3鶴見大学歯学部附属病院眼科*4慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科学教室CClinicalCharacteristicsin3CasesofMaleSjogrenSyndrome-RelatedDryEyeShunsukeHayashi1,2)C,EisukeShimizu1),MikiUchino1),MizukaKamoi1),YumikoSaijo1),YukakoTatematsu1),HiroyukiYazu1,3)C,KatsuyaSuzuki4),TsutomuTakeuchi4),KazuoTsubota1)andYokoOgawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,CNationalSaitamaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversitySchoolofDentalMedicine,4)DivisionofRheumatology,DepartmentofInternalMedicine,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:Sjogren症候群(SS)は女性に圧倒的に多いとされ,男性CSS患者のドライアイの報告はまれである.今回,3例の男性CSSによるドライアイの特徴について報告する.症例:症例C1:63歳,男性.関節リウマチに伴う続発性SS.ドライアイは軽症でCSchirmer値(S)9/8Cmm(右眼/左眼),フルオレセインスコア(F)1/1点,ローズベンガルスコア(R)1/1点,涙液層破壊時間(BUT)はC5/4秒と経過中悪化所見はなく軽症ドライアイを保っている.症例C2:68歳,男性.関節リウマチに伴う二次性CSS.悪性リンパ腫を併発.ドライマウス,S9/9Cmm,F0/0点,リサミングリーンスコア(L)1/1点,BUTはC6/5秒と軽症ドライアイを認めた.症例3:60歳,男性.原発性CSS.ドライマウスを認め,S2/1Cmm,F1/1点,L1/1点,BUTはC7/7秒と軽症ドライアイを認めた.結論:男性CSSのC3例に共通な点は全経過を通じてドライアイが軽症であった.今後さらに症例数を増やして詳細に検討する必要がある.CPurpose:SjogrenCsyndrome(SS)isCaClong-termCautoimmuneCdiseaseCwhichCpredominantlyCa.ectsCfemales,CandCfewCstudiesConCtheCclinicalCcharacteristicsCSS-relatedCdryeye(DE)inCmalesChaveCbeenCreported.CHereCweCreportC3casesCofCmaleCSS-relatedDE.Cases:Case1involveda63-year-oldmalewhopresentedwithSSsecondarytorheumatoidarthritis.Inhisrighteyeandlefteye,respectively,hehadmildDEwithaSchirmertest(S)of9/8Cmm,aC.uoresceinscore(F)of1/1point,arosebengalscore(R)of1/1point,andatear-.lmbreakuptime(BUT)of5/4seconds.Case2involveda68-year-oldmalewhoCpresentedCwithCSSCsecondaryCtoCrheumatoidCarthritisCandCmalignantClymphoma.CHeCsu.eredCfromCdryCmouthCandCmildDE[S:9/9Cmm,F:0/0point,CLissamineCgreenscore(L):1/1point,BUT:6/5seconds]C.CaseC3involvedCaC60-year-oldCmalewhopresentedwithprimarySSwithdrymouthandmildDE(S:2/1Cmm,F:1/1point,L:1/1point,BUT:7/7sec-onds).Conclusion:All3casesofmaleSSpresentedwithmildDEateachexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):747.751,C2020〕Keywords:シェーグレン症候群,ドライアイ,男性.Sjogrensyndrome,dryeye,male.はじめにSjogren症候群(SjogrenCsyndrome:SS)は,涙腺,唾液腺に,リンパ球浸潤が生じることにより腺組織が障害され,ドライアイやドライマウスが引き起こされる自己免疫疾患である1).他の膠原病の合併がない原発性CSSと他の膠原病が合併する二次性CSSに分類される.わが国における原発性CSSの推定人口は約C68,000人とされており,罹患率は総人口の約C0.05%とされている.男女比はわが国2)では1:17,海外3)ではC1:9と圧倒的に女性に多く発症する疾患であり2),中高年の女性に好発するとされている2).〔別刷請求先〕清水映輔:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EisukeShimizu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC男性のCSSによるドライアイ症例は散見されるが,男性症例のドライアイの特徴についてはこれまで報告がない.今回,慶應ドライアイ外来での男性CSS症候群のC3例のドライアイの特徴についてレトロスペクティブに検討したので報告する.CI症例〔症例1〕63歳,男性.1973年C7月他院にて,関節リウマチおよびCSSの診断を受けた.1990年当科を受診.1992年ドライアイ外来を受診した.羞明感,眼異物感,充血,眼乾燥感,眼脂,口腔乾燥症の自覚症状あり,全身的に骨粗鬆症,糖尿病の合併を認めた.リウマチ因子C25CIU/mlと高値であり,抗核抗体C40倍以下で抗CRo60/SjogrenCSyndromeCtypeCAantigen(SS-A)抗体C0.8CU/ml,抗CLa/SjogrenCSyndromeCtypeCBCantigen(SS-B)抗体C4.9CU/mlと陰性であった.ガリウムシンチグラムで顎下腺の排出能低下を認めた.日本ドライアイ研究会ドライアイ診断基準C2006年により評価し4),Schirmer値右眼/左眼=7/11Cmm,フルオレセインスコアは右眼/左眼=0/0点(9点満点),ローズベンガルスコアは右眼/左眼=2/2点(9点満点),涙液層破壊時間(tear-.lmbreakuptime:BUT)は右眼/左眼=2/2秒と軽症ドライアイを認めた.経過観察中のC2007年C4月所見はフルオレセインスコア右眼/左眼=2/2点,ローズベンガルスコア右眼/左眼=4/4点,BUT右眼/左眼=3/3秒(正常値C6秒以上)であった.米国・欧州改訂分類基準(2002年)より,I.眼症状:3カ月以上毎日ドライアイに悩まされていること.II.口腔症状:口の渇きがC3カ月以上毎日続いていること,III.眼所見:ローズベンガル試験(VanBijsterveldスコアC4以上).V.唾液腺所見:唾液腺シンチグラフィーにての分泌能低下の所見をもってCSSの診断が確定した.2019年C11月現在CSchirmer値8/8Cmm,フルオレセインスコアC1/1点,ローズベンガルスコアC1/1点,BUT5/4秒と軽症ドライアイの経過を保っている.結膜線維化や糸状角膜炎などの重症ドライアイの所見は認められなかった.他の眼所見としては結膜弛緩症と高眼圧症を認めた.現在の眼局所治療は精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%C4回/日,高眼圧症に対しチモロールマレイン酸塩点眼液C2回/日,全身治療は関節リウマチの治療としてメトトレキサートC10Cmg/日,ブシラシンC100Cmg/日,メチルプレドニゾロンC4mg/日を使用し治療中である.〔症例2〕68歳,男性.2014年C7月当科初診.当院内科では関節リウマチで受診.腹腔内鼠経リンパ節腫大を認め,リンパ増殖性疾患を疑い精査目的で入院した.既往歴として,血小板減少,糖尿病を認めた.口腔乾燥症,眼乾燥感,眼異物感,眼痛,眼精疲労の症状を認め涙腺,唾液腺のガリウムシンチグラフィーを行ったところ両側耳下腺,左顎下腺,両側涙腺に集積を認めた.リンパ節生検の所見でリンパ腫腫瘍細胞マーカーであるCD30とCCD15陽性の細胞を散在性に認めCHodgkinリンパ腫と診断された.SS診断目的の検査では,ガム試験はC2.7ml/10分と陽性,口唇生検所見では口唇腺組織C4CmmC2当たりC1Cfocus以上の導管周囲のリンパ球浸潤を認め,炎症細胞浸潤は小葉内に及んでおりCGreenspan分類でCGrade4であった(図1).SSに特徴的であり,リウマチ因子C213CIU/mlマトリックスメタロプロテナーゼC317.7Cng/mlにて関節リウマチを伴う二次性CSSを診断された.眼乾燥感,眼異物感,眼痛,眼精疲労あり,口腔乾燥症,Schirmer値C8/5Cmm,CBUT3/3秒,フルオレセインスコアC2/2点,ローズベンガルスコアC2/4点,と軽症ドライアイを認めた.SSの厚生省改訂診断基準(1999年)により,ガム試験C2.7Cml/10分の陽性所見,Schirmer値C8/5Cmm,フルオレセインスコアC2/2点,ローズベンガルスコアC2/4点と口唇生検組織CGreens-pan分類CGrade4所見より確定診断に至った.2019年C10月Schirmer値C9/9Cmm,BUT6/5秒,フルオレセインスコア0/0点,リサミングリーンスコアC1/1点であった(図2).眼局所治療は精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液C0.1%C4回/日のみで経過良好である.全身治療は関節リウマチに対して抗Cinterleukin-6(IL-6)阻害薬,次に他のサブクラスCIL-6阻害薬,さらにその後CJAK(januskinase)阻害薬で治療した.Hodgkin病に対して抗CCD30抗体による治療を行っている.経過中にドライアイの悪化は認められなかった.〔症例3〕60歳,男性.2014年C10月当院眼科初診.原発性CSSによる眼乾燥感,眼異物感,口腔乾燥症の症状を認めた.ガム試験ではC13.68ml/minと正常範囲であったが,血液検査では抗CSS-A抗体534CIU/ml,リウマチ因子C28CIU/mlと陽性であり,抗核抗体C40倍であった.Schirmer値C2/1Cmm,BUT3/3秒,フルオレセイン染色スコアC1/1点,ローズベンガル染色スコアC2/3点のドライアイを認めた.本症例はCSSの厚生省改訂診断基準(1999年)により抗CSS-A抗体陽性と眼所見より確定診断に至った.2019年C1月CBUTはC7/7秒,フルオレセイン染色スコアC1/1点,リサミングリーン染色スコアC1/1点と軽快し経過中に悪化は認めなかった.他の眼所見では,両眼角膜周辺部に高度の老人環を認め,左眼に黄斑変性症を認めた.本症例においても結膜線維化,糸状角膜炎は認められなかった.眼局所治療は,レバミピド点眼C4回/日および精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液C0.1%4回/日にて治療経過良好である.CII考按SSによるドライアイは一般的に基礎的涙液分泌および反射性涙液分泌ともに低下し重症化する場合が多い5).高度な角結膜点状表層角膜上皮症と涙液分泌減少症,および涙液層破綻のパターンを示すCAreabreakおよびCLinebreakのような涙液の不安定性を認め重症化する6).それに対し,今回のC3症例は基礎的涙液分泌がC5Cmm以上の症例がC2例に認められ経過中に悪化は認められなかった.またCSchirmerテストがC1mmと低値を示したC3例目の症例は最終診察時のBUTがC7秒と正常範囲であった.今回の症例のドライアイの指標の値は,両眼中悪い値のほうを示している.また,本症例はCSchirmer値の再現性が悪いことを示している可能性があり,Schirmer値の一番良いときの値はC6.0Cmmであった.SSの角結膜上皮障害の典型的な特徴は,びまん性にフルオレセイン染色スコア,リサミングリーン染色スコアともに高値であり重症度が高度であることである7).しかし,今回の男性CSSにみられたドライアイは,軽度の眼表面障害を示すのみであり,長期診療後においてもドライアイが重症化す図1唾液腺所見(症例2,68歳,男性)導管周囲にC50個以上の単核球浸潤を認めCGreenspan分類CGrade4であり,唾液腺組織所見はCSjogren症候群に典型的.図2症例2(68歳,男性)関節リウマチに伴う二次性CSjogren症候群.悪性リンパ腫合併.Ca,b:リサミングリーン染色所見.右眼(Ca),左眼(Cb).Cc,d:フルオレセイン染色所見,右眼(Cc),左眼(Cd).眼科局所治療中.涙液メニスカスは右眼に高く,涙液層は安定している.フルオレセイン染色所見なし.軽度のドライアイを認める.る経過は認められなかった.SSによるドライアイは眼精疲労,疼痛,羞明,異物感,霧視,眼脂,眼不快感,眼乾燥感のような複雑多岐にわたるドライアイ特有の自覚症状を高度に複数併せもつ7).中高年の女性に多く,更年期や老眼の時期ともオーバーラップする.二次性CSSでは,他の膠原病を併発するため,SS患者の苦痛は計り知れない8).しかし,今回の男性CSSによるドライアイのC3症例の自覚症状は軽度のドライアイ症状のみでSSによるドライアイとしては非典型的であった.眼局所の他の合併症として,症例C1は結膜弛緩症,高眼圧症,症例C2は悪性リンパ腫,症例C3は老人環,加齢黄斑変性とC3例ともに加齢性疾患や加齢性変化を伴っていた.ドライアイは軽度であるが,このように加齢性眼疾患を伴うということが共通していた.今回の男性CSS患者のドライアイ症例がなぜ軽症であったかは不明であるが,これまでの報告でマウスモデルではストレインや臓器にもよるが,MLpマウスでは涙腺および,唾液腺の炎症は圧倒的に雌のほうに多いことが報告されていて性ホルモンの関連性が示唆される9).全身的にはC3症例のうちC2症例は関節リウマチに続発した続発性CSSであった.関節リウマチには約C20%にCSSが発症するといわれる.他のC1例には悪性リンパ腫の合併があった.SSにおける悪性リンパ腫の発症は一般人口より高率であるとされる.20年の長期経過観察中に約C5%のCSS例が存在するとされている10).今回の症例は男性CSSのドライアイに合併した悪性リンパ腫症例であり,きわめてまれな症例であると考えられる.外来にてCSS症例のドライアイについて長期診察を行っている場合,常に悪性リンパ腫の発症または合併を念頭において診療を行うことが必要であることを示唆している.また,男性CSSのドライアイが軽度の場合も悪性リンパ腫の合併には注意が必要である.本症例は関節リウマチに対して,IL-6阻害薬,JAK阻害薬が使用されてきた.悪性リンパ腫に対し抗CCD30抗体による治療がなされている.本症例においては,このような生物学的製剤の全身投与がドライアイが軽症を保っている要因の一つとも考えられる.SSの病因は遺伝的要因,ウイルスなどの環境要因,免疫異常,さらに女性ホルモンの要因が考えられていて,これらが複雑に関連しあって発症するものと考えられる11).このなかで性別はドライアイ発症のリスクファクターの一つとなっている.エストロゲン,アンドロゲン,プロゲンスチンなどの性ホルモンのバランスがドライアイに関与していると報告されている12).アンドロゲンは自己免疫疾患に対し保護的で,エストロゲンは促進的に働くとされる13).今回の男性CSS患者C3例においてドライアイが軽症であったことは,これらのホルモンのバランスに何らかの関連があると考えられる.しかし,現在のところ,細胞や分子レベルでの多くの研究が進行中であるが,性差によるドライアイへの影響は明らかにされていない14).今後,症例数を増やして検討する必要があると考えられる.また,男性CSS患者のドライアイが軽症であること,治療に反応しやすい点などを踏まえ,男性ホルモンとドライアイの重症度の関連性や,今後の治療法の開発のヒントが得られる可能性も期待できる.利益相反:坪田一男:ジェイアエヌ【F】,参天製薬【F】,興和【F】,大塚製薬【F】,ロート【F】,富士ゼロックス【F】,アールテック・ウエノ【F】,坪田ラボ【F】,オフテスクス【F】,わかさ生活【F】,ファイザー【F】,日本アルコン【F】,QDレーザ【F】,坪田ラボ【R】,花王【R】,Thea,Thea社【R】,【P】小川葉子:キッセイ薬品【P】【F】,中外製薬【F】内野美樹:参天製薬【F】,ノバルティス【F】,千寿製薬【F】,アルコン【F】矢津啓之:OuiInc【P】清水映輔:OuiInc【P】,大正製薬【F】,2019期CJKiC学術開発プロジェクト【F】文献1)SumidaT,AzumaN,MoriyamaMetal:ClinicalpracticeguidelineCforCSjogren’sCsyndromeC2017.CModCRheumatolC28:383-408,C20182)TsuboiCH,CAsashimaCH,CTakaiCCCetal:PrimaryCandCsec-ondarysurveysonepidemiologyofSjogren’ssyndromeinJapan.ModRheumatolC24:464-470,C20143)MavraganiCCP,CMoutsopoulosHM:TheCgeoepidemiologyCofSjogren’ssyndrome.AutoimmunrevC9:A305-310,C20104)島崎潤:ドライアイの新しい考え方2006年度の診断基準の示すもの.日本の眼科C78:705-709,C20075)TsubotaCK,CXuCKP,CFujiharaCTCetal:DecreasedCre.exCtearingisassociatedwithlymphocyticin.ltrationinlacri-malglands.JRheumatolC23:313-320,C19966)YokoiN,GeorgievGA,KatoHetal:Classi.cationof.uo-resceinbreakupCpatterns:ACnovelCmethodCofCdi.erentialCdiagnosisfordryeye.AmJOphthalmolC180:72-85,C20177)KuklinskiCE,CAsbellPA:SjogrenC’sCsyndromeCfromCtheCperspectiveCofCophthalmology.CClinCImmunolC182:55-61,C20178)小川葉:シェーグレン症候群によるドライアイの臨床像と免疫異常による病態.日本医師会雑誌C148:889-892,C20199)SullivanCDA,CWickhamCLA,CRochaCEMCetal:AndrogensCanddryeyeinSjogren’ssyndrome.AnnNYAcaSciC876:C312-324,C199910)MasakiCY,CSugaiS:LymphoproliferativeCdisordersCinCSjogren’ssyndrome.AutoimmunRevC3:175-182,C200411)StapletonCF,CAlvesCM,CBunyaCVYCetal:TFOSCDEWSCIICEpidemiologyreport.OcularSurfC15:334-365,C201712)SullivanCDA,CRochaCEM,CAragonaCPCetal:TFOSCDEWSCIICSex,Cgender,CandChormonesCreport.COculCSurfC15:284-sex-biasedCautoimmuneCdiseases.CNatCImmunolC18:152-333,C2017C160,C201713)LiangY,TsoiLC,XingXetal:Agenenetworkregulat-14)ClaytonJA,CollinsFS:Policy:NIHtobalancesexincellCedCbyCtheCtranscriptionCfactorCVGLL3asCaCpromoterCofCandanimalstudies.Nature509:282-283,C2014***

同一患者における360° Suture Trabeculotomy Ab InternoとMetal Trabeculotomyの術後3年成績の比較

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):742.746,2020c同一患者における360°SutureTrabeculotomyAbInternoとMetalTrabeculotomyの術後3年成績の比較柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CComparisonofthe3-YearOutcomesbetween360-DegreeSutureTrabeculotomyAbInternoandMetalTrabeculotomyMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:同一患者におけるC360°CsutureCtrabeculotomyCabinterno白内障同時手術(S-LOT)と,sinusotomy(SIN)およびCdeepCsclerectomy(DS)併用Cmetaltrabeculotomy(LOT)白内障同時手術(LSD)の術後C3年成績の比較.対象および方法:永田眼科においてC2014年C10月以降,緑内障手術既往歴のない患者の片眼にCS-LOT,僚眼にCLSDを施行した連続症例C14例を対象とした.診療録から後ろ向きに術後眼圧と術後合併症について比較検討した.結果:病型内訳は開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例であった.S-LOT群とCLSD群の術前眼圧はそれぞれC17.2±2.8CmmHg,17.6±3.2CmmHgであり,有意差を認めなかった.両群とも術後すべての観察期間で術前と比較し有意な眼圧下降を認めたが,術後眼圧経過に両群間で有意差を認めなかった.術後C3年生存率は目標眼圧15CmmHg以下でそれぞれC50%とC43%,18CmmHg以下でC100%とC86%であり,両群の生存率に有意差を認めなかった.術後C30CmmHg以上の一過性高眼圧をCS-LOT群でC5眼,LSD群でC1眼に認めた.結論:S-LOT白内障同時手術は術後C3年の眼圧下降効果においてCSINおよびCDS併用CLOT白内障同時手術と差がなかった.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCofC360-degreeCsuturetrabeculotomy(S-LOT)asCcomparedCwithCmetaltrabeculotomy(LOT)withCsinusotomyCandCdeepsclerectomy(LSD).CSubjectsandMethods:WeCretrospec-tivelyreviewedthemedicalrecordsof14glaucomapatients(n=28eyes)whounderwentconsecutiveS-LOTwithcataractsurgeryononeeyeandLSDwithcataractsurgeryonthefelloweyeatNagataEyeClinicafterOctober2014.Weinvestigatedintraocularpressure(IOP),glaucomamediations,surgicalsuccess,andpostoperativecompli-cations.CSurgicalCsuccessCwasCde.nedCasCanCIOPCofC≦15CmmHgCandC18CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomaCmedica-tions.Results:The14patientsincluded9withopenangleglaucoma,4withnormaltensionglaucoma,and1withexfoliationCglaucoma.CPreoperativeCIOPsCwereC17.2±2.8CmmHgCinCtheCS-LOTCgroupCandC17.6±3.2CmmHgCinCtheCLSDgroup.ThemeanpostoperativeIOPandthenumberofanti-glaucomamedicationsweresigni.cantlyreducedinCbothCgroups,CandCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroups.CInCtheCS-LOTCandCLSDCgroups,Cthesurgicalsuccessratesat3-yearspostoperativewere50%and43%(IOP≦15mmHg)and100%and86%(IOP≦18mmHg),respectively,withnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.IOPspikesof>30CmmHgwereseenin5eyespostS-LOTand1eyepostLSD.Conclusion:Nosigni.cantdi.erencewasfoundinIOPreductionbetweenS-LOTwithcataractsurgeryandLSDwithcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):742.746,C2020〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,深層強膜弁切除.C360-degreesuturetrabeculotomy,abinterno,metaltrabeculotomy,sinusotomy,deepsclerectomy.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒C631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC742(98)はじめに線維柱帯切開術(metaltrabeculotomy:metalLOT)は,房水流出抵抗が高いとされている傍CSchlemm管内皮組織を金属プローブでC120°切開し,房水の流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的流出路再建術である.これまで白内障との同時手術も含め多数の長期成績と安全性が示されてきた1.6).安全性は高いものの,濾過手術と比較して眼圧下降効果が劣ることから,将来の追加濾過手術に備えて上方の結膜温存目的に下半周でCmetalLOTを施行し5,6),LOTの問題点であった術後一過性高眼圧の減少やさらなる眼圧下降効果増強を目的としたサイヌソトミー(sinusotomy:SIN),深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)を併用することが可能4.6)である.一方,同じ流出路再建術の一つであるC360°Csuturetrabec-ulotomyCabinterno(360S-LOTCabinterno)は,ナイロン糸をCSchlemm管に通して傍CSchlemm管内皮組織を360°切開する術式7)である.Chinら8)が報告したC360°CsutureCtra-beculotomy変法は眼外法であるが,360S-LOTCabCinternoは角膜切開で前房側からCSchlemm管にアプローチする術式である.metalLOTに比べてより広範囲にCSchlemm管を切開でき,また結膜切開を必要としないため将来の濾過手術に備えて結膜と強膜を全周温存できるという利点がある.集合管の分布には偏りがあるため9,10),切開範囲の広いC360S-LOT後の眼圧がCmetalLOTに比較して有意に術後眼圧が低かったとする報告8,11,12)がある一方で,切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13)がある.切開範囲と術式による眼圧下降効果の差を検討することは,今後術式を選択する際の判断基準の一つになると考えられる.今回,患者背景による個体差の影響を排除するため同一患者で片眼にC360S-LOTCabCinterno+白内障手術(phaco-emulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:PEA+IOL),僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した症例の術後眼圧下降効果と合併症について検討した.CI対象および方法2014年C10月以降,永田眼科において緑内障手術既往歴のない患者の片眼にC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL,僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した連続症例C14例C28眼を対象とした.当施設では流出路再建術・白内障同時手術施行対象を,白内障のある開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,落屑緑内障患者としている.閉塞隅角緑内障,炎症既往のある続発緑内障,血管新生緑内障患者は本研究には含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,術後追加手術介入の有無と合併症を調査し,術後眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧(15mmHg,18CmmHg)におけるC3年生存率,合併症の頻度を両術式間で比較検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.耳側角膜サイドポートから前房内に粘弾性物質を満たし,隅角鏡下に鼻側線維柱帯を確認した.隅角鏡下に鼻側線維柱帯内壁をCMVRナイフで切開し糸の挿入開始点を作製した.熱加工して先端を丸くしたC5-0ナイロン糸を耳側角膜サイドポートから前房内へ挿入し,隅角鏡下に内壁切開部位からCSch-lemm管内へナイロン糸を挿入し360°通糸した.対側CSch-lemm管から出た糸を把持し,眼外へ引き出して線維柱帯を全周切開した.その後白内障手術を上方角膜切開で施行し,術中の前房出血を洗浄し終了した.CmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.円蓋部基底で下方結膜を切開,左右眼ともC8時方向にC4C×4Cmmの外層強膜弁,3.5C×3.5Cmmの深層強膜弁とした二重強膜弁を作製しCSchlemm管を露出した.その後上方角膜切開で白内障手術を施行した.白内障手術終了後,トラベクロトームを強膜弁両側からCSchlemm管にそれぞれ挿入回転させ,線維柱帯内壁を切開した.Schlemm管露出部の内皮網を除去し,二重強膜弁の深層強膜弁を切除,外層強膜弁を縫合し,ケリーCDescemet膜パンチでC1カ所CSINを施行,結膜を縫合した.最後に術中の前房出血を洗浄し,終了した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧(15CmmHg,18CmmHg)ごとのC3年生存率,術後合併症を術式間で比較検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術式間の術前眼圧,術前平均Cmeandevi-ation(MD)値の比較にはCt検定,術前点眼スコアの比較にはCMann-Whitney検定,術眼の左右差,術後合併症頻度の比較にはCc2検定もしくはCFisherの直接確率計算法を用い,術後眼圧の推移にはone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較,点眼スコアの推移にはCKruskal-WallisとCDunnettの多重比較,術式間の眼圧・点眼数推移の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作製し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.II結果表1に連続症例C14例の患者背景を示した.男性C7例,女性C7例,平均年齢(平均C±標準偏差)75.7C±4.2(70.86)歳,緑内障病型内訳は,原発開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例,全症例で両眼同じ病型であった.360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群で術眼の左右に差はなく,術前平均眼圧,術前平均点眼スコア,術前平均CMD値に有意差を認めなかった.図1に術式別の眼圧経過を示した.360S-LOTabinterno+PEA+IOL群は術前C17.2C±2.8mmHgから術C3年後にC14.1±2.4mmHg,metalLOT+SIN+DS群は術前C17.6C±3.2mmHgから術C3年後にC14.3C±2.0CmmHgと有意な眼圧下降を認めた.両術式とも術前と比較して術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).図2に術式別の点眼スコアの推移を示した.360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC0.6±0.3,metalCLOT+SIN+DS群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC1.0C±0.4と有意な減少を認めた.両術式とも術後すべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(p<0.05,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で点眼スコア経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(15,18CmmHg)ごとの生存曲線を術式別に示した.成功基準を15CmmHgとした場合,術C3年後の生存率はC360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.65,CLog-ranktest)(図3a).成功基準をC18CmmHgとした場合,術C3表1患者背景症例数平均年齢男:女POAG:NTG:EXG術眼右:左術前平均眼圧術前平均点眼スコア術前平均CMD値14例(各14眼)75.7±4.2(7C0.C86)歳7:79:4:1C360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCp6:88:6C0.22*17.2±2.8(1C4.C24)CmmHgC17.6±3.2(1C3.C26)CmmHgC0.17†2.6±0.8(C1.0.C4.0)C2.6±0.8(C1.0.C4.0)C0.31※.9.8±7.9(C.28.1.C.0.5)CdBC.14.7±8.5(C.30.3.C.2.1)CdBC0.31†(mean±SD)(range)すべて白内障同時手術症例,緑内障手術既往なし.点眼スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG:落屑緑内障.MD:meandeviation,*Cc2test,†t-test,C※Mann-Whitneytest.C3.53201510眼圧(mmHg)2.521.5点眼スコア10.500術前1M3M6M9M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)図1術式別眼圧経過術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(*p<0.05,**p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).観察期間(mean±SD)図2術式別点眼スコアの推移術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(+p<0.05,*p<0.01,**p<0.001,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).年後の生存率はそれぞれC100%,86%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest)(図3b).表2に術後合併症の内訳と眼数を示した.3Cmm以上の前房出血を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC3眼(21%)だったが,metalLOT+SIN+DS群には認めなかった.C360S-LOTCabinterno後の前房出血に対し前房洗浄を必要としたものはC1眼,inthebaghyphemaとなったためヤグレーザー後.切開術を必要としたものはC1眼であった.術後30CmmHg以上の一過性高眼圧を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC5眼(36%),metalCLOT+SIN+DS群で1眼(7%)だった.360S-LOTCabinterno後の一過性高眼圧症例のうちC1例は,僚眼のCmetalLOT+SIN+DS後にも一過性高眼圧を認めていた.前房出血と一過性高眼圧の頻度に両術式間で有意差を認めなかった.れたためと考えられる.metalLOT単独手術の術C5年後の平均眼圧はC18CmmHgとされる1,2)が,SINとCDSを併用した場合の術C5年後の平均眼圧は既報4.6)においてC13.15CmmHgである.今回の研究でもCSINとCDS併用によりCmetalCLOT単独手術より眼圧下降が得られ,metalCLOT+SIN+DSはSchlemm管C120°切開ではあるがC360°切開と同様の眼圧下降効果が得られたと考えられる.術後合併症として,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群にC3Cmm以上の前房出血をC3眼(21%),30CmmHg以上の術後一過性高眼圧をC5眼(36%)に認めた.これら合併症の頻度は既報8,11.13)と同様であった.一方,metalCLOT+SINCa1009080III考按360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLは,術後C3年経過において有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報14,15)と同様の結果であった.目標眼圧を生存率(%)生存率(%)70605040302015CmmHgとした場合のC3年生存率はC50%であり,この点にC10おいても既報14)と同様の結果であった.metalLOT+SIN+0DSの術後C3年経過においても,有意な眼圧下降効果と緑内生存期間(M)010203040障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報4,6)と同様の結果Cb100であった.S-LOTとCmetalLOTの術後成績を比較した既C90報8,12)では,S-LOT眼外法ではあるが,S-LOTのほうがC8070metalLOTよりも術後眼圧が低く,生存率が高いという結果であった.その理由として,集合管は不規則に存在するため全周のCSchlemm管を切開するほうが集合管への流出が効60504030果的であるため9,10)としている.しかし一方で,Schlemm管C20の切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13),C10S-LOT眼外法とCmetalLOTが同等の眼圧下降効果であったC0症例についての報告11)があり,切開範囲と眼圧下降効果の生存期間(M)相関関係はまだ明らかではない.今回の研究で,360S-LOT図3術式別生存曲線abCinterno+PEA+IOLとCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+a:目標眼圧C15CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabIOLの術後C3年における眼圧下降効果と生存率に統計的な有interno群とCmetalLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,有意差を認めなかった(p=0.65,Log-ranktest).意差を認めなかった.この理由として,既報8)ではCmetalCb:目標眼圧C18CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabLOTが単独手術で施行されたことに対し,筆者らはCmetalinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC100%,86LOTにCSINとCDSを併用し,さらなる眼圧下降効果が得ら%であり,有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest).表2術後合併症010203040360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCpC3Cmm以上の前房出血3眼(21%)0眼C0.11*前房洗浄1眼Cinthebaghyphema1眼一過性高眼圧≧3C0CmmHg5眼(36%)1眼(7%)C0.09**Fisher’sexacttest.C+DS群にはこれらの合併症がそれぞれC0眼,1眼であったこと,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の前房出血症例には前房洗浄症例やCinthebaghyphema症例を認めたことから,統計的有意差はないもののC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLでは切開範囲拡張に起因すると考えられる前房出血の多さと,それによる合併症が多い傾向にあると考えられる.これらのことから,両術式間で手術方法を選択する場合,術後期待眼圧は同等と考えられるため,結膜と強膜を温存するという点でC360S-LOTabinternoを選択する,もしくはC360S-LOTCabinternoの術後前房出血の多さや一過性高眼圧の頻度の多さを避けて,metalCLOT+SIN+DSを選択することが考えられる.metalCLOT+SIN+DSは下方からアプローチすると将来の濾過手術に備えて上方結膜の温存が可能である.さらに,metalLOTは初回手術後の眼圧経過が長期に良好のものは再眼圧上昇時に対側下方からの再手術で同様の効果が期待できる16)ため,再手術として濾過手術を避けたい場合に有用であると考えられる.術式選択において手術時間も考慮される点の一つと考えられるが,今回の研究でC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の平均手術時間はC41.7±13.0分,metalCLOT+SIN+DS+PEA+IOL群の平均手術時間はC34.6C±6.0分であり,統計的有意差はないが,C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術式の煩雑さから手術時間が長い傾向にあった.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.つまり左右眼と術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加観血的手術介入の適応と時期は,病型と病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定が事前に統一されていない.また対象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であり,本研究の結果の解釈には限界があると考える.今回の研究で,360S-LOTabinterno+PEA+IOL,metalLOT+SIN+DS+PEA+IOLは両術式とも術後C3年において有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降効果,術C3年後の生存率において両術式間で差がなかった.術後前房出血,一過性高眼圧といった合併症の頻度に両術式間で統計的有意差がなかった.今後さらに長期の経過について検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼C50:1727-1733,C19963)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19964)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科C32:583-586,C20157)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncompara-tive,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCabCinternoCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CClinCOphthalmolC9:63-68,C20158)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20129)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dementionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.CExpEyeResC92:104-111,C201110)HannCR,FautschMP:Preferential.uid.owinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOph-thalmolVisSciC50:1692-1697,C200911)木嶋理紀,陳進輝,新明康弘ほか:360°Csuturetrabecu-lotomy変法とCtrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科C33:1779-1783,C201612)SatoCT,CHirataCA,CMizoguchiT:OutcomeCofC360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCwithCdeepCsclerectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCcoexistingCcataract.CClinCOphthalmolC8:1301-1310,C201413)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentCofCtheCincisionCinCtheCSchlemmCcanalConCtheCsurgi-caloutcomesofsuturetrabeculotomyforopen-angleglau-coma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C201714)SatoT,KawajiT,HirataAetal:360-degreesuturetra-beculotomyCabCinternoCtoCtreatCopen-angleglaucoma:C2-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:915-923,C201815)ShinmeiY,KijimaR,NittaTetal:Modi.ed360-degreesutureCtrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCintraocularClensCimplantationCforCglaucomaCandCcoex-istingCcataract.CJCCataractCRe.actCSurgC42:1634-1641,C201616)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C2009C***

ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):738.741,2020cぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響水井理恵子丸山勝彦内海卓也禰津直也小竹修後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectofPhacoemulsi.cationandIntraocularLensImplantationonIntraocularPressureFollowingTrabeculectomyinEyeswithSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitisRiekoMizui,KatsuhikoMaruyama,TakuyaUtsumi,NaoyaNezu,OsamuKotakeandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC目的:ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術の眼圧調整に及ぼす影響を,原発開放隅角緑内障の二期的白内障手術後の場合と比較すること.対象および方法:線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行ったぶどう膜炎続発緑内障(UG群)15例C15眼と,同様に線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行った原発開放隅角緑内障(POAG群)23例C23眼を対象とした.平均経過観察期間はCUG群がC48カ月(13.121カ月),POAG群がC37カ月(12.128カ月)で,眼圧調整の定義は,①術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なしの二つとし,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.また,両群における眼圧調整良好例の術後C1年の時点での眼圧を対応のないCt-検定で比較し,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの正確検定で比較した.結果:術後C1年目の眼圧調整成績は,定義①ではCUG群C27%,POAG群C35%,定義②ではそれぞれC80%,70%で,両群間に差はなかった.また,術後C1年での眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群6.5±1.3CmmHg,POAG群ではC7.3±3.5CmmHg,定義②ではそれぞれC8.5±2.3CmmHg,8.7±3.3CmmHgとなり,両群間に差はなかった.さらに,術中,術後合併症の頻度も両群間に差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.結論:炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定してよいと考えられる.CPurpose:Tocomparethee.ectofphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)onintra-ocularpressure(IOP)followingtrabeculectomybetweenuveiticglaucoma(UG)eyesandprimaryopen-angleglau-coma(POAG)eyes.Methods:Weenrolled15eyesof15patientswithUG(UGgroup)and23eyesof23patientswithPOAG(POAGgroup,control)whounderwentPEA+IOLaftertrabeculectomy.TheprobabilityofsuccessfulIOPCcontrolCandCtheCincidenceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TheprobabilityofasuccessfulIOPcontrolofunder12CmmHgwithoutadditionalsurgerywas80%intheUGgroupand70%inthePOAGgroup(log-ranktest,p=0.82).Therewerenostatisticaldi.erencesintheinci-denceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCbetweenCtwoCgroups.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCstudyCsug-gestthattheindicationofcataractsurgeryaftertrabeculectomyinUGeyesissimilartothatinPOAGeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):738.741,C2020〕Keywords:ぶどう膜炎,続発緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障,線維柱帯切除術,白内障.uveitis,secondaryglau-coma,uveitisglaucoma,trabeculectomy,cataract.Cはじめに障(uveiticglaucoma:UG)を含めたすべての緑内障病型に線維柱帯切除術は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-適応される標準術式であるが1),術後合併症として白内障のCangleglaucoma:POAG)のみならず,ぶどう膜炎続発緑内発生が知られている2).その白内障の進行によって視機能が〔別刷請求先〕水井理恵子:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:RiekoMizui,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC738(94)表1対象の背景UG群POAG群p値眼数C1523C.年齢C55.1±10.5(35.73)歳C59.9±6.6(45.70)歳C0.11*男:女9:615:8C1.00†線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間C29.5±26.6(18.43)カ月C32.5±20.7(18.32)カ月C0.70*術前眼圧C7.8±2.3(4.12)mmHgC8.5±2.4(5.12)mmHgC0.45*角膜内皮細胞密度C2,527.9±446.8(1,370.3,155)/mmC2C2,517.7±269.7(2,141.3,378)/mmC2C0.89*経過観察期間C47.9±29.6(13.121)月C37.3±29.0(12.128)月C0.30*平均C±標準偏差(レンジ).UG:uveiticglaucomaぶどう膜炎続発緑内障,POAG:primaryopen-angleglaucoma原発開放隅角緑内障.*:対応のないCt-検定,C†:Fisherの正確検定.低下した場合には水晶体再建術が行われるが,線維柱帯切除Ca100眼圧調整成績(%)80604020術後に二期的白内障手術を行うと,POAG3,4),UG5,6)のいずれの場合であっても,その後の眼圧調整が悪化することが知られている.このような二期的白内障手術後の眼圧上昇は,白内障手術後に前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇し7),それらの影響によって濾過胞内の創傷治癒が促進され,濾過機能が減弱して生じる8)と考えられている.したがって,潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,二期的白内障手術の成績はPOAGと異なる可能性も考えられるが,これまで両者の比較は行われていない.01020304050607080生存数期間(月)15UG群:4422223POAG群:86311b100本研究の目的は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的眼圧調整成績(%)80604020白内障手術の成績をCPOAGと比較することである.I対象および方法線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行い,1年以上経過観察したCUG(UG群)15例C15眼とCPOAG(POAG群)23例C23眼を対象に,診療録を基にしたCcase-controlstudyを行った.対象の背景に両群間の差はなかった(表1).UG群のぶどう膜炎の内訳は,Behcet病,サルコイドーシス,急性前部ぶどう膜炎,サイトメガロウイルス虹彩炎が各C1眼で,他は同定不能であったが,二期的白内障術前に炎症反応を認めた症例はなかった.なお,両群とも全例が濾過胞所見によってC0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C1.2回使用していたが,眼圧下降薬を使用していた症例はなかった.なお,白内障手術時にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用した症例は対象から除外した.検討項目は以下のとおりである.まず,白内障術後の両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.眼圧調整の定義は,①術後の眼圧値が術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②術後の眼圧値がC12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし,の二つとし,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合は,1回目の時点で眼圧調01020304050607080生存数期間(月)UG群:151210740POAG群:231610652図1両群の眼圧調整成績の比較実線:UG群,点線:POAG群.Ca:定義①(術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C27%,POAG群C35%(術後C1年目),p=0.70.Cb:定義②(眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C80%,POAG群C70%(術後C1年目),p=0.82.整不良と判定した.なお,白内障術後の眼圧下降薬の使用やニードリング,眼球マッサージなどの処置追加の有無は眼圧調整の定義に含めなかった.また,両群の眼圧調整良好例について,術後C1年における眼圧を対応のないCt-検定で比較した.さらに,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの表2術中,術後合併症の頻度UG群POAG群(n=15)(n=23)p値‡C術中合併症後.破損0%0%C1.00結膜損傷0%0%C1.00術後合併症房水漏出0%0%C1.00低眼圧*27%9%C0.19後発白内障*0%9%C0.51角膜内皮細胞密度減少†7%0%C0.39濾過不全*20%44%C0.18緑内障再手術0%4%*:処置を要したもの,C†:術後C1年で減少率C10%以上のもの,C‡:Fisherの正確検定.正確検定で比較した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果白内障術後の眼圧調整成績を図1に示す.定義①,②の場合ともに両群間に有意差はなかった.術後C1年における眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群C6.5C±1.3CmmHg(5.8mmHg),POAG群ではC7.3C±3.5mmHg(3.12mmHg),定義②ではそれぞれC8.5C±2.3CmmHg(5.12CmmHg),8.7C±3.3CmmHg(3.12CmmHg)で,両群間に有意差はなかった(定義①Cp=0.728,定義②Cp=0.709).術中,術後合併症の頻度を表2に示す.両群間に有意差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.CIII考按本研究は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績をCPOAGと比較した初めての報告である.少数例ではあるが,今回の筆者らの検討では,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績はCPOAGと同等で,眼圧調整良好の術後眼圧や術中術後合併症の頻度も同等という結果になった.線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績に関しては,Almobarakら5)が,27眼(術前眼圧:14mmHg,線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間:平均C28カ月)を対象とした後ろ向き研究の結果,眼圧下降薬の併用なしで眼圧をC6.21CmmHgの間に調整できたのは術後C1年目でC84%であったと報告している.本報告では白内障術後の眼圧調整のカットオフ値の上限をC12CmmHgに設定したところ,術後C1年目ではC80%と良好な成績であったが,これは今回,筆者らが対象とした症例の術前眼圧が比較的低かったことを反映した結果と考えられる.有濾過胞眼に対して二期的白内障手術を行う際には,それまで良好にコントロールされていた眼圧が上昇する可能性を考慮し,眼圧値や濾過胞形態から症例に応じて白内障手術にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用することもある.本研究の対象は,それらの操作を併用する必要がないと判断された症例のみであり,術前眼圧は平均C7.8CmmHg,最高でもC12CmmHgとかなり低い値に調整されており,これらの背景が好成績につながった可能性も考えられる.線維柱帯切除術既往眼に対する二期的白内障手術の成績に影響する因子として,線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が知られている.すなわち,線維柱帯切除術後C1年以内に白内障手術を施行した場合の眼圧調整成績は,POAG,UGのいずれも不良であることが報告されている4,6).本研究では線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が平均C2年以上と長期間であったことも良好な成績につながった理由の一つと考えられる.今回の結果では,術後合併症のなかで,処置を要する低眼圧の頻度がCPOAG群よりCUG群で高い傾向があった.経結膜的強膜弁縫合などの処置を行ったあとで,両群とも全例が改善したことから,低眼圧の主原因は過剰濾過であったと考えられる.それに加えてCUG群では房水産生の低下も低眼圧発生に関与していた可能性があるが,正確に同定することは困難である.有濾過胞眼に対する二期的白内障手術後の濾過胞不全や眼圧上昇は,白内障手術により炎症性サイトカインの一つであるCmonocyteCchemoattractantprotein-1の前房内濃度が上昇し7),その影響により結膜下の線維化や濾過胞の瘢痕化が促進され,濾過機能が減弱することが推測されている8).潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,POAGと比較して二期的白内障手術後の眼圧調整成績は不良となる可能性は十分に考えられるが,今回の筆者らの検討では同等の成績となった.むろん,本研究は単一施設における少数例を対象とした後ろ向き研究であり,症例の選択バイアスの影響は否定できないが,炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定して良いことが示唆された.今後はさらに症例数を重ね,長期経過やぶどう膜炎の原因別に成績を検討していくことが必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FellmanCRL,CGroverD:Trabeculectomy.In:Glaucoma,SurgicalManagement(EdbyShaarawyTMetal)p749-780,Amsterdam,Elsevier,20152)BronAM,LabbeA,AptelF:Cataractfollowingtrabecu-lectomy.In:Glaucoma,CSurgicalCManagement(EdCbyCShaarawyTMetal)p882-999,Amsterdam,Elsevier,20153)RebolledaCG,CMunoz-NegreteFJ:Phacoemulsi.cationCineyeswithfunctioning.lteringblebs:aprospectivestudy.OphthalmologyC109:2248-2255,C20024)Awai-KasaokaCN,CInoueCT,CTakiharaCYCetal:ImpactCofCphacoemulsi.cationConCfailureCofCtrabeculectomyCwithCmitomycin-C.JCataractRefractSurgC38:419-424,C20125)AlmobarakCFA,CAlharbiCAH,CMoralesCJCetal:TheCin.u-enceCofCphacoemulsi.cationConCintraocularCpressureCcon-trolCandCtrabeculectomyCsurvivalCinCuveiticCglaucoma.CJGlaucomaC26:444-449,C20176)NishizawaCA,CInoueCT,COhiraCSCetal:TheCin.uenceCofCphacoemulsi.cationConCsurgicalCoutcomesCofCtrabeculecto-myCwithCmitomycin-CCforCuveiticCglaucoma.CPLoSCOneC11:e0151947,C20167)KawaiCM,CInoueCT,CInataniCMCetal:ElevatedClevelsCofCmonocytechemoattractantprotein-1intheaqueoushumorafterCphacoemulsi.cation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C7951-7960,C20128)TakiharaY,InataniM,Ogata-IwaoMetal:Trabeculec-tomyforopen-angleglaucomainphakiceyesvsinpseu-dophakicCeyesCafterphacoemulsi.cation:aCprospectiveCclinicalcohortstudy.JAMAOphthalmolC132:69-76,C2014***

濾過胞形成不全に対するニードリングの成績

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):735.737,2020c濾過胞形成不全に対するニードリングの成績嵜野祐二田村弘一郎横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座CResultsofNeedlingforBlebFailureYujiSakino,KouichiroTamura,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)後の濾過胞形成不全に対するニードリングの成績について検討した.対象および方法:ニードリングを施行したC20例C20眼が対象.ニードリング施行前後の眼圧,ニードリング施行回数につき検討した.結果:ニードリングのみ施行はC13眼,ニードリングが奏効せず追加観血的手術を要したのはC7眼であった.初回ニードリングからの観察期間は平均C10.2C±14.6カ月.ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.眼圧はC27.0C±5.9CmmHg(12.35CmmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36mmHg)と優位に下降した(p=0.0009).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離がC2例ずつみられたが自然軽快した.結論:ニードリングは重篤な合併症が少なく,およそ半数の症例で奏効する可能性があり,積極的に施行してよいと考える.CPurpose:ToCevaluateCtheCresultsCofCneedlingCrevisionCforCblebCfailurefollowingCtrabeculectomy(TLE)withmitomycinC(MMC)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved20eyesof20patientswhounderwentneedlingrevision.Inallpatients,intraocularpressure(IOP)andthenumberofneedlingrevisionsrequiredduringtheobser-vationCperiodCwasCexamined.CResults:ThirteenCeyesCunderwentCneedlingCrevisionCalone,CwhileC7CeyesCrequiredCadditionalCsurgeryCdueCtoCtheCneedlingCrevisionCbeingCunsuccessful.CTheCmeanCobservationCperiodCfollowingC.rstCneedlingrevisionwas10.2±14.6months.Themeannumberofneedlingrevisionswas2.3±1.7times(range:1-6times).MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom27.0±5.9CmmHg(range:12-35mmHg)to17.5±7.5CmmHg(range:9-36CmmHg)(p=0.0009)C.CComplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC2CcasesCandCchoroidalCdetachmentCinC2Ccases,CyetCtheyCwereCspontaneouslyCrelieved.CConclusions:NeedlingCrevisionChadCfewCseriousCcomplications,CandCwase.ectivein50%ofthepatientswithfailingblebsfollowingtrabeculectomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):735.737,C2020〕Keywords:線維柱帯切除術,ニードリング,濾過胞形成不全.trabeculectomy,needling,blebfailure.はじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は緑内障に対するもっとも標準的な外科手術で,眼圧下降効果が高い1).2012年にCglau-comaCdrainagedevice(GDD)を用いた緑内障手術が,2018年には水晶体再建術併用眼内ドレナージ挿入術が保険適用となり,治療の選択肢が広がったが,依然として緑内障手術の中でもっとも施行件数が多いのはCTLEである2).しかしながら,術後の濾過胞形成不全による房水流出障害,眼圧上昇が生じ,ニードリングを要することがある3.5).ニードリング施行後の合併症には過剰濾過,低眼圧,脈絡膜.離,硝子体出血などがあるが,外来で簡便に施行でき,良好な濾過胞形成や眼圧下降が得られるため,濾過胞再建の第一選択として施行されることが多い.本研究では,当院におけるCMMC併用CTLE後の濾過胞形成不全に対し,ニードリングを施行した症例について検討した.CI対象および方法対象は2013年1月.2019年5月末にMMC併用TLEを施行したC465例C465眼中,濾過胞形成不全でニードリング〔別刷請求先〕嵜野祐二:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YujiSakino,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama,Yufu-city,Oita879-5593,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C735表1対象症例の詳細症例年齢性別病型既往手術歴TLEから初回ニードリングまでの期間(週)ニードリング回数()はその内MMC使用回数追加手術観察期間*(月)眼圧(mmHg)合併症前後C1C69男性CPOAGCTLOTLEC172(0)なしC6C28C16なしC2C64男性CPOAGCTLOTLEC201(0)なしC16C20C18なしC3C57男性CPOAGCTLOC41(0)なしC7C12C9なしC4C81男性CPOAGC381(0)なしC5C21C15なしC5C84男性CPOAGCPEA+IOLC51(0)なしC4C26C16CCDC6C83男性CPOAGCPEA+IOLC81(0)なしC8C19C15なしC7C64男性CEXGC133(0)なしC9C29C10なしC8C69男性CEXGC41(0)なしC64C25C14なしC9C86男性CEXGC51(0)なしC5C30C9なしC10C81男性CEXGC51(0)なしC6C25C15なしC11C68男性CNVGC91(0)なしC3C33C12なしC12C51男性CNVGC352(1)なしC6C31C15CVHC13C80男性CSGC41(0)なしC16C35C10CCDC14C61男性CPOAGCPPVtripleC43(1)CTLEC28C24C18なしC15C85男性CEXGCTLOC54(0)CTLEC12C29C24なしC16C78男性CEXGCTLOTLEC94(1)CTLEC12C32C22なしC17C37女性CNVGCPPVtripleC36(2)再建,TLE,BGIC7C32C36なしC18C46女性CNVGCPPVtripleC93(2)再建C6C23C16CVHC19C22男性CSGCTLOC71(0)再建,BGIC3C30C32なしC20C71男性CCGCTLOtripleC86(2)再建,TLE,BGIC4C35C29なしPOAG:原発開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,NVG:血管新生緑内障,SG:続発緑内障,CG:小児緑内障,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,PEA+IOL:水晶体再建術+眼内レンズ挿入術,PPV:硝子体切除術,再建:観血的濾過胞再建術,BGI:バルベルト緑内障インプラント,CD:脈絡膜.離,VH:硝子体出血.*観察期間は,ニードリングのみ施行した症例は最終受診時まで,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前まで.を施行したC20例C20眼(男性C18眼,女性C2眼)である.診療録を後ろ向きに調査した.年齢はC66.7C±16.9歳(22.86歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)7眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)6眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)4眼,EXG以外の続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)2眼,小児緑内障(childhoodglaucoma:CG)1眼であった.MMC併用CTLEは全例で円蓋部基底結膜切開であった.手術既往のあるものはC12眼.TLEから初回ニードリングまでの期間はC10.6C±9.9週(3.38週)であった(表1).初回ニードリングは円蓋部結膜下にC0.2%キシロカインを注射後,濾過胞から十分離れた上方球結膜よりC25CG針を刺入し,濾過胞周囲結膜下の癒着を.離した.濾過胞形成が不十分の際は,針を強膜弁下に刺入して弁を浮かせ,良好な濾過胞が形成されるのを確認した.MMC結膜下注射を併用する場合は,0.04%CMMCとC0.2%キシロカインを1:1で混合したものを結膜下注射した後に施行した.術後に抗菌薬およびステロイド点眼を使用した.術後成績の評価にはCStudentのCt検定,Kaplan-Meier法を用いた.CII結果結果を表1に示す.単回あるいは複数回のニードリングを施行したのがC13眼,ニードリングが奏効せず追加手術を要したのがC7眼であった.追加観血的手術はCMMC併用CTLEがC5眼,観血的濾過胞再建術がC4眼.バルベルト緑内障インプラントがC3眼(重複あり)であった.ニードリング施行前および施行後(ニードリングのみ施行した症例は最終受診時,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前)の眼圧は,C27.0±5.9mmHg(12.35mmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36CmmHg)と有意に下降した(p=0.0009).初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義し,最終736あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(92)観察時までに死亡したのはC11眼であった(最終生存率C45%)(図1).ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.MMC結膜下注射を併用したニードリングはC6眼(計C9回)であった.MMC結膜下注射を併用したのはC2回目以降の施行であり,6眼のうちC5眼は追加観血的手術を要した.さらにこれらのC5眼には全例で内眼手術の既往があった(表1).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然経過した.CIII考按ニードリングで使用する注射針としては一般的にC25CG,27CG,30CGが多い.23CGを用いた報告もあるが5),径が太いと結膜縫合が必要となることがある.当院では初回施行時にはすべてC25CGを使用した.2回目以降は,結膜下組織が固いため注射針での.離が不十分な症例もあった.その際にブレブナイフ6)を使用したものがC2眼あったが,結膜縫合を要した症例はなかった.結膜下癒着の.離のみで十分な眼圧下降が得られない場合には,強膜弁下の増殖組織を解除する必要があるが7,8),その際にもC25CGは径や強度がほどよく有用性が高いと考える.初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義したところ,最終観察時での生存率がC45%であった.死亡したC11眼のうちC9眼で内眼手術の既往があり,手術既往のある眼は線維芽細胞の活動性が高くなることにより濾過胞の瘢痕化が生じやすく,ニードリングの効果が持続しづらくなるものと考える5).2回目以降のニードリングや追加手術を要さなかったものはC6眼(30%)で,既報とほぼ同様であった5).2回目以降を施行した症例のうち,MMC結膜下注射併用ニードリングを施行したのはC6眼(計C9回)であった.そのうちC5眼で内眼手術の既往があった.POAGではC7眼中C6眼で内眼手術の既往があったものの,単回のニードリングのみで最終的にC4眼が生存し,追加観血的手術を必要としたのはC1眼のみで,他の病型と比べニードリングが奏効した.追加観血的手術の内訳は濾過胞再建術C4眼,MMC併用CTLE5眼,バルベルト緑内障インプラントC3眼(重複あり)であった.最終的にはC3.18mmHg(9.4C±5.4CmmHg)と十分な眼圧下降が得られた.手術既往のある眼は,複数回のニードリングあるいは追加手術が必要となる症例が多く,線維芽細胞の活性化と濾過胞の瘢痕化が繰り返し生じて眼圧上昇すると考えられる.合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然軽快しており,眼内炎や水疱性角膜症などの重篤な合併症はなかった.本研究の限界は,対象がC20眼と少ない点であり,今後さ生存率(%)100806045%402000123456図1生存曲線初回ニードリング後,15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となったもの,あるいは追加観血的手術を施行したものを死亡と定義.4カ月を過ぎて以降,新たな死亡症例なし.らに症例を増やして検討を重ねる必要がある.ニードリングは手技が簡便で重篤な合併症が少なく,本研究ではC20眼のうちC9眼で奏効しており,濾過胞形成不全に対する第一選択として積極的に施行してよいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ErricoCD,CScrimieriCF,CRiccardiCRCetal:TrabeculectomyCwithCdoubleClowCdoseCofCmitomycinCCC-twoCyearsCofCfol-low-up.ClinOphthalmolC5:1679-1686,C20112)橋本洋平,道端伸明,松井宏樹ほか:本邦における近年の緑内障手術の傾向:大規模データベースを用いた記述研究.日眼会誌C123:815-823,C20193)TsaiCAS,CBoeyCPY,CHtoonCHMCetal:BlebCneedlingCout-comesCforCfailedCtrabeculectomyCblebsCinCAsianeyes:aC2-yearfollowup.IntJOphthalmolC8:748-753,C20154)LaspasP,CulmannPD,GrusFHetal:Revisionofencap-sulatedCblebsCaftertrabeculectomy:Long-termCcompari-sonCofCstandardCblebCneedlingCandCmodi.edCneedlingCpro-cedurecombinedwithtransconjunctivalscleral.apsutures.PLoSOneC12:e0178099,C20155)狩野廉,桑山泰明:注射針による濾過胞再建術(Needling)の術後成績.眼科手術C20:267-273,C20076)相良健:濾過胞再建用極細クレッセントナイフ「ブレブナイフ」.眼科手術23:71-74,C20107)相原一:線維柱帯切除術後の再発─同一創濾過胞再建術の実際─.MBOCULISTAC42:1-9,C20168)野村英一,安村玲子,石戸岳仁ほか:ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め.あたらしい眼科C34:1178-1181,C2017***(93)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C737

寄稿 私の視点 術前,術後抗菌薬点眼不要説

2020年6月30日 火曜日

寄稿私の視点術前,術後抗菌薬点眼不要説はじめに世界的な抗菌薬の乱用による耐性菌の爆発的な増加が懸念され,2015年の世界保健機関(WorldCHealthOrganization:WHO)総会で薬剤耐性(antimicrobialresistance:AMR)に対するアクションプランが採択された.翌年にはわが国でもアクションプランが採択され,今後は明確なエビデンスをもたない予防的抗菌薬投与には厳しい目が向けられるようになるだろう.これからの白内障術者は予防的抗菌薬を減量したうえで感染リスクを減少させることを求められる.それでもまだ“術前C3日前からC1日C3~4回の抗菌薬術前点眼を行い,術後も同様の点眼をC2週間~1カ月使用する”ことを延々と述べる総説を読みたいと思われるだろうか?本稿では,ご批判があるのを覚悟のうえで,術前,術後抗菌薬点眼が不要であるとする立場からその理をお示しする.C1.周術期感染予防の現状―日本での常識は世界の非常識か筆者らがC2016年に行った調査では,術前抗菌薬点眼(100%),ヨード製剤による術前の皮膚消毒(97%),術後抗菌薬点眼(98%),前房内抗菌薬投与(7%)であった(表1)1).ヨード製剤の使用法,抗菌薬の結膜下注射や抗菌薬入り灌流液の使用,術後抗菌薬点眼の開始のタイミングや使用期間などは,地域ごとの特徴はあるが千差万別であった.わが国では抗菌薬の術前点眼が術野の汚染度を有意に減少させるとする研究がよく知られており,白内障術前の抗菌薬点眼は多くの術者に採用されている2).松浦一貴*表1周術期の抗菌薬使用法日本CASCRS2016(544)C2017,CUSA術前点眼術直後点眼術後点眼灌流液内投与前房内投与結膜下注射硝子体注入C眼軟膏100%C35%C98%19%7%24%─78%C──64%↓13%42%↑8%7%↑─C2014年のヨーロッパの報告では,ヨード製剤による消毒は各国とも共通して広く行われていたが,抗菌薬点眼の使用法,前房内投与の普及度はさまざまであった(表2)3).前房内投与はスウェーデンC90%,イギリスC61%であったが,フランス,ドイツ,オランダ,イタリアはC50%未満であった.ドイツ,オランダ,イタリアでは術前および術後点眼が一般的であるが,イギリス,フランスでは術後点眼が主で,術前点眼はあまり行われていない.スウェーデンでは術前点眼のみでなく術後点眼すら行われていない3).2017年のヨーロッパ以外の地域の報告において,ヨード製剤による消毒は共通して行われていたが,抗菌薬前房内投与はオセアニアではC78%であったのに対し抗菌薬前房内投与は,米国,カナダ,南アフリカ共和国ではC20~40%程度であった(表3)4).中国,日本では一般的とはいえない.中国やアルゼンチン,米国では日本と同様に術前および術後点眼が広く用いられているが,カ*KazukiMatsuura:野島病院眼科〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863島根県倉吉市瀬崎町C2714-1野島病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(83)C727表2世界との比較1(欧州)スウェーデンフランスイギリスドイツオランダイタリア症例数C91,000C630,000C330,000C700,000C140,000C350,000眼内炎率0.02%0.03~C0.06%0.03~C0.20%0.06~C0.07%0.03%0.05~C0.35%ガイドラインCSwedishOphthalmolSocietyCNationalAgencyforHealthProductsSafetyCRoyalcollegeofOphthalmolCESCRSCDutchOphthalmolSocietyCESCRS前房内投与98%40%61%20%以下27%20%点眼推奨されず術前C28%術後C95%術前9%術後C90%術前C100%術後C100%術前C100%術後C100%術前C76%術後C100%国際的には術前点眼は当然の処置ではない.スウェーデンでは術後点眼も行われていない.(文献C3より引用)表3世界との比較2日本米国カナダオセアニア南アフリカアルゼンチン症例数C1,000,000C3,500,000C250,000C240,000不明C170,000眼内炎率0.05%0.06~C0.20%0.03~C0.15%0.06%不明不明ガイドラインなしCAAOCCanadianOphthalmicSocietyなしなしなし前房内投与7%42%30.0%78.3%30.0%20.2%点眼術前C99%術後C100%術前C88%術後C98%術前C53.8%術後C100%術前C33.2%術後C98.5%術後のみ汎用される術前C99%術後C99%国際的には術前点眼は当然の処置ではない.ナダ,オセアニア,南アフリカでは術前点眼は一般的ではない.C●Droplesssurgery近年,点眼をほとんど用いないCdroplesssurgeryの概念が北米で提唱されはじめている5).術前および術後点眼を用いずに,トリアムシノロンとモキシフロキサシン(MFLX)の合剤(TORI-MOXI)を硝子体内に注入して手術を終える.サイドポートから鈍針の先端を虹彩下に挿入し,Zinn小帯経由で硝子体内に薬液を注入する.2017年の米国白内障・屈折矯正手術学会(AmericanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgery:ASCRS)の調査ではC7%の術者が手術終了時に抗菌薬を硝子体投与すると回答した(表1).ハイリスク症例ではない,すべての症例に行う処置としてはいささかやり過ぎの感がある.患者が点眼しなくてよいメリットは,患者のコンプライアンスに頼らない,コストの低減,点眼指導にかけるスタッフの負担軽減である.(文献C4より引用)C2.そもそも何のための点眼なのかを考えてみるまず,術前点眼は術中の術野の菌を減らすための点眼である.眼内炎の多くが術野に存在する菌によって引き起こされるといわれている.そのため術前の減菌によって,術野の起因菌の量を減らすことが良いとされてきた.しかし,術中にヨード消毒を行いながら手術をする概念が提唱されて事情が変わった.島田らによる術中ヨードの報告によると,0.25%ヨードをかけ続けて手術をすれば手術終了時の前房内に菌は存在しないという6).すなわち,術中ヨードを有効に活用すれば,術前および術後点眼が必須ではなくなる可能性がある.●術前点眼の必要性を検証する研究島田らの方法は,術前点眼を併用している.また,20秒おきに頻回にヨードを使用するために角膜上皮障害の懸念がある.そこで,筆者らは手術開始時と眼内レンズ挿入時のC2回にヨード使用を限定した方法を用いている(ヨードC2回法:timelyintraoperativeiodine)7).筆者らは,白内障術中にヨード製剤を使用すれば抗菌表4術前に検出された菌種と株数total470株204眼中C192眼からC470株の菌が検出された.主要な眼内炎起因菌C5種C192株(赤字)のうち,抗菌薬に対する感受性試験が施行できたのはC190株.薬術前点眼が不要であるという仮定を検証した.術前点眼を用いるが術中ヨードを用いない術前点眼群(102眼)と,術中ヨードを用いるが術前点眼を用いない術中ヨード群(102眼)のC2群において,術前,術中,および術後早期の術野の細菌汚染度を調査した(表4).手術C1週間前,開瞼器装着後,手術C2時間後の培養陽性率は,術前点眼群でC98%,6%,63%.術中ヨード群でC95%,8%,61%であり,有意差はなかった.1眼あたりの検出菌数にも有意な差を認めなかった.ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)を用いた術中汚染度の評価ではヨード群のほうが清潔度は高かった.抗菌薬には感受性のない菌も存在するが,ヨードは非特異的に作用する.以上の結果より,筆者らはポリビニルアルコールヨウ素(PA・ヨード)は術中の清潔度を確保する現実的な選択肢であり,術中ヨードを用いれば術前抗菌薬点眼は必須ではないと考えるようになった.ヨードの強力な消毒効果が,点眼の抗菌効果を凌駕しているためと思われる.ヨード製剤には基本的に耐性菌が存在せず,30秒でほぼすべての眼内炎起因菌に効果がある.一方,抗菌薬点眼を頻用すれば耐性菌が選択される可能性がある.抗菌薬点眼は患者のコンプライアンスに左右されるが,術中ヨードは医療従事者により全症例の術中に確実に施行される.C3.何のための点眼なのかというもう一つの答え術後点眼は,術中に眼内に持ち込まれた菌を減らすための点眼である.この目的には有効濃度の薬液が眼内に浸透する必要がある.筆者らは先の研究において,術前表5術前に検出された主要眼内炎起因菌190株の薬剤感受性MIC抗菌薬C(Cμg/ml)LVFXCMFLXCGFLX1<2<4<8<32<92/190(C48.4%)33/190(C22.6%)48/190(C25.3%)41/190(C26.8%)18/190(9C.5%)42/190(C22.1%)43/190(C22.6%)12/190(6C.3%)15/190(7C.9%)18/190(9C.5%)8/190(4C.2%)7/190(3C.7%)6/190(3C.2%)5/190(2C.6%)6/190(3C.2%)主要な眼内炎起因菌(n=190):S.epidermidisを含むCCNS,S.aureus,E.faecalis,StreptococcusCsp.表6術前に検出されたS.epidermidisの薬剤感受性MIC抗菌薬C(Cμg/ml)LVFXCMFLXCGFLX1<37/82(4C5.1%)33/82(4C0.2%)37/82(4C5.1%)2<37/82(4C5.1%)10/82(1C2.2%)33/82(4C0.2%)4<32/82(3C9.0%)6/82(7C.3%)8/82(9C.8%)8<11/82(1C3.4%)5/82(6C.1%)5/82(6C.1%)32<4/82(4C.9%)3/82(3C.7%)4/82(4C.9%)(n=82)に検出された菌のうち,眼内炎の主要起因菌として知られるC5菌種C190株の最小発育阻止濃度(minimuminhib-itoryconcentration:MIC)を調査した.わが国において,周術期にもっとも頻用される点眼はレボフロキサシン(LVFX)であるが,LVFXをC10分おきにC4回点眼しても前房内濃度はC1Cμg/ml程度である.主要起因菌(190株)のうちC48.4%,表皮ブドウ球菌(82株)のうちC45.1%はMICが1Cμg/mlを超えている(表5,6).MFLX,ガチフロキサシン(GFLX)の頻回点眼後の前房内濃度はそれぞれC2Cμg/ml,1Cμg/ml程度である.LVFXよりは感受性菌の割合が高い濃度にはなるが,それでも十分とはいいがたい.MICがC32Cμg/mlを超える高度耐性菌も数%存在している.これに対して,抗菌薬を直接眼内に注入する前房内投与であれば,任意の濃度が得られる利点がある.10倍希釈CMFLXを用いた前房内投与であるフラッシュ法では,高度耐性菌のCMICを凌駕する約500Cμg/mlの前房内濃度が確実に得られる9).術後点眼には創口の閉鎖が不十分である術後早期に眼内に菌が持ち込まれることを防ぐ効果も期待できるという考え方もある.すなわち,術後感染を予防するための術後の結膜.の減菌化を期待した術後点眼である.先に述べた筆者らの研究における術後C2時間の培養結果およびCLVFX感受性を表7,8に示す.術後わずかC2時間で表7術後2時間の起因菌検出数表8S.epidermidisのLVFX感受性術中ヨード術前点眼計(1C02眼)(1C02眼)(2C04眼)CS.epidermidis17眼21眼38眼その他の起因菌18眼13眼31眼合計35眼34眼69眼34%に培養陽性となっている(表7).すなわち,術後の減菌化効果を期待するならば,手術終了C2時間以内から開始し,2時間以内の間隔の頻回点眼が必須ということになる.さらに検出された表皮ブドウ球菌C38株において,22/38株のMICが2μg/ml以上(57.9%)で,20/38(57.9%)のCMICがC4Cμg/ml以上(52.6%)であることから(表8),このタイミングで菌が眼内に持ち込まれたときの術後点眼の効果は限定的といわざるを得ない.フラッシュ法による前房内投与ならば,約C500Cμg/mlの前房内濃度が確実に得られる.薬液の前房内での半減期をC1時間強とした場合10)に,術後C5~8時間は頻回点眼で得られる濃度よりも多い薬液が眼内にとどまる.フラッシュ法は術中に持ち込んだ菌だけでなく,術直後,術後早期(当日)の術後感染の対策としても有効である.以上より,筆者らの研究の結果は,①術中ヨードを使用する限り術前点眼は必須ではない,②術後点眼の効果は不十分かつ限定的である,ということである.C4.筆者らの実際に行っていることとその理術前点眼は不要と考えており使用していない.全例にヨードC2回法による術中ヨード消毒を行い,フラッシュ法によるC10倍希釈CMFLX前房内投与を施行する.具体的な手技や理論については他稿に詳述した11).術後点眼もほぼ不要と考えているが,不必要であると言いきるだけのエビデンスをもたないため,最小限としてC1~2週間のみ使用している.そもそも論であるが,術後感染予防というクリティカルな問題を,術者自身で行わずに高齢者が多い患者本人にゆだねているのが現状であり,患者は必ずしも指示されたように点眼をしていない12,13).また,術後点眼が長くなると表皮ブドウ球菌が耐性化する14).C5.硝子体内注射についても考えてみる白内障手術と硝子体内注射の対象者の年齢は近いことMIC(Cμg/ml)術前C1週間術後C2時間C0.25C42C16C0.5C3C1C2C2C15C2C4C12C13C8C3C4C16C1C32C64C3C128C1C3合計82株38株耐性菌が多い,耐性誘導されているわけでなく,皮膚眼瞼から速やかな再汚染が起こっている.から,先ほどの術前の眼内炎起因菌のCMICを硝子体内注射に応用して考えることが可能である.硝子体内注射については,約C12万例の後ろ向き研究では,術後点眼グループでむしろ感染多いことも示されている.繰り返し施行される硝子体内注射においては,周術期点眼による耐性誘導の問題が顕著である15).米国眼科学会(AmericanCAcademyCofOphthalmology:AAO)のガイドラインでは,術前の抗菌薬を用いずに開瞼器をかけたあとにヨード消毒を行うことが記載されている.白内障手術は術中に眼内に器具を挿入する機会が多いが,硝子体内注射は針が侵入するタイミングのみに厳密な減菌ができれば十分である.筆者らは注射の直前に刺入部の十分なヨード消毒を行えば術前点眼は必須でないと考えている.硝子体内注射薬の添付文書には硝子体内薬液注入に際して,広域抗菌薬の術前C3日間の点眼を施行する旨が書かれている.しかし,2016年の日本網膜硝子体学会の「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」では,術前の抗菌薬点眼の必要性について“施設または施設者が個々に判断すべきである”と明記されており16),各医師の裁量として術前点眼の必要性を各自が判断してもよいと解釈される.また,もっとも眼内移行のよいとされるCMFLXの頻回点眼で得られる硝子体濃度は約C0.2Cμg/mlであることから,注射後の点眼の効果は期待できない17).抗菌薬に対する耐性の誘導というデメリットを犯してまで眼内移行が乏しい抗菌薬点眼を処方する意義は乏しい.6.全身投与についても考えてみる点滴静注としてはセフェムが用いられる場合が多いが,セフタジジム(モダシン)の点滴静注による全身投与で想定される硝子体濃度はわずかC0.1~0.2Cμg/mlであり表皮ブドウ球菌のCMICにまったく及ばない18).セフタジジムの表皮ブドウ球菌に対するCMICはC4Cμg/ml以上でC95.1%であったが,セフタジジムと同じ第三世代のセフェムであるセフォペラゾンの点滴後の前房内濃度はC2Cμg/ml程度にとどまる19).また,イミペネムを点滴静注する場合もありうる.イミペネムのCMICは比較的低値であり20),効果的にみえるが,培養で良好なCMICの場合ですら効果不十分な場合が少なくないというのが内科的に定評となっている.これは容易に耐性化が起こるためとされている.眼内炎の急性期に点滴治療で用いれば,効果が得られるケースがないとはいえないが,広く予防的に用いることはイミペネムの耐性菌を市中に放出する行為といえる.白内障術前にこれらの抗菌薬の予防的な全身投与を行うことは効果に乏しいのみでなく,AMRの概念からして行うべきものではないと考えている.一方で,キノロンの内服を数日行っている施設もあるようである.LVFXの内服で前房内,硝子体内濃度が約C2Cμg/mlになる21).十分な濃度とはいえないまでも,それなりの濃度ではある.周術期にC3日程度内服をしている施設の感染予防に多少なり寄与している可能性はある.おわりに日清食品の創始者である安藤百福は“明日になれば,今日の非常識は常識になっている”といっている.ドラッカーの金言にも同様の言葉があるし,有名な宇宙物理学者であるホーキング博士も同じ言葉を残している.歴史に名を残すような優秀な経営者になるには常識をぶち壊す必要があるが,常識を守れない社員は存在価値すら危うい.また,常識は,卓越した研究者にとっては常に疑うべきものである.我々は反抗期の中高生ではないので常識にむやみに反抗する必要はない.しかし,一昔前の常識の中には,もはや順守すべき価値のないもの,守ってはいけないものも含まれている.時代が変わっても残すべきものは当然あるが変わるべきものもある.本稿が読者の中で従うべきものが何なのかを考えるきっかけとなれば幸いである.文献1)松浦一貴,宮本武,田中茂登ほか:臨床研究日本国内での白内障周術期の消毒法および抗菌薬投与法の現況調査.日眼会誌121:521-528,C20172)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnCJOphthalmolC52:151-161,C20083)BehndigCA,CCochenerCB,CGuellCJLCetal:EndophthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCinC9CEuropeanCcountries.CJCCataractCRefractSurgC39:1421-1431,C20134)GrzybowskiCA,CSchwartzCSG,CMatsuuraCKCetal:Endo-phthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCaroundCtheCworld.CCurrCPharmCDes23:565-573,C20175)LindstromCRL,CGallowayCMS,CGrzybowskiCACetal:Drop-lesscataractsurgery:anoverview.CurrPharmDesC23:C558-564,C20176)ShimadaCH,CAraiCS,CNakashizukaCHCetal:ReductionCofCanteriorCchamberCcontaminationCrateCafterCcataractCsur-gerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povi-done-iodine.CAmJOphthalmol151:11-17,Ce11,C20117)MatsuuraK,MiyazakiD,SasakiSIetal:E.ectivenessoftimelyintraoperativeiodineirrigationduringcataractsur-gery.JpnJOphthalmolC60:433-438,C20168)MatsuuraCK,CMiyazakiCD,CSasakiCSCetal:E.ectivenessCofCintraoperativeCiodineCinCcataractsurgery:cleanlinessCofCtheCsurgicalC.eldCwithoutCpreoperativeCtopicalCantibiotics.CJpnJOphthalmolC64:37-44,C20209)MatsuuraCK,CSutoCC,CAkuraCJCetal:BagCandCchamber.ushing:aCnewCmethodCofCusingCintracameralCmoxi.oxa-cinCtoCirrigateCtheCanteriorCchamberCandCtheCareaCbehindCtheCintraocularClens.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:81-87,C201310)MatsuuraK,SutoC,AkuraJetal:ComparisonbetweenintracameralCmoxi.oxacinCadministrationCmethodsCbyCassessingCintraocularCconcentrationsCandCdrugCkinetics.CGraefesArchClinExpOphthalmolC251:1955-1959,C201311)松浦一貴:白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策.あたらしい眼科35:1631-1639,C201812)AnJA,KasnerO,SamekDAetal:EvaluationofeyedropadministrationCbyCinexperiencedCpatientsCafterCcataractCsurgery.JCataractRefractSurgC40:1857-1861,C201413)大松寛,松浦一貴,井上幸次:白内障術前点眼薬の施行率と点眼方法の観察.IOL&RSC32:644-647,C201814)NejimaR,ShimizuK,OnoTetal:E.ectoftheadminis-trationperiodofperioperativetopicallevo.oxacinonnor-malCconjunctivalCbacterialC.ora.CJCCataractCRefractCSurgC43:42-48,C201715)StoreyCP,CDollinCM,CPitcherCJCetal:TheCroleCofCtopicalCantibioticCprophylaxisCtoCpreventCendophthalmitisCafterCintravitrealinjection.OphthalmologyC121:283-289,C201416)小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C201617)HariprasadCSM,CBlinderCKJ,CShahCGKCetal:PenetrationCpharmacokineticsCofCtopicallyCadministered0.5%Cmoxi.oxacinCophthalmicCsolutionCinChumanCaqueousCandCvitreous.ArchOphthalmol123:39-44,C200518)MochizukiCK,CYamashitaCY,CTorisakiCMCetal:IntraocularCkineticsCofceftazidime(Modacin)C.COphthalmicCResC24:C150-154,C199219)AxelrodJL,KochmanRS:CefoperazoneconcentrationsinhumanCaqueousChumorCafterCintravenousCadministration.CAmJOphthalmolC94:103-105,C198220)AxelrodCJL,CNewtonCJC,CKleinCRMCetal:PenetrationCofCimipenemintohumanaqueousandvitreoushumor.AmJOphthalmolC104:649-653,C198721)GeorgeCJM,CFiscellaCR,CBlairCMCetal:AqueousCandCvitre-ousCpenetrationCofClinezolidCandClevo.oxacinCafterCoralCadministration.JOculPharmacolTherC26:579-586,C2010

基礎研究コラム 37.細胞死と細胞競合

2020年6月30日 火曜日

細胞死と細胞競合細胞競合(cellcompetition)とはわれわれの身体には,さまざまな原因でCDNA障害を受けた細胞は不要な細胞として細胞死を誘導することで排除し,臓器や器官の恒常性を維持するメカニズムが備わっています.このような細胞死にはアポトーシス,オートファジー細胞死,ネクローシスがありますが,それ以外にもネクロプトーシスなどさまざまなメカニズムが報告されています.この排除システムの一つとして,近年,細胞競合が注目されています.細胞競合とは,状態の異なるC2種類の細胞が近接した状況において,細胞間の相互作用によって勝者細胞および敗者細胞が決定され,境界の付近で敗者細胞が排除される現象として定義づけられます.この現象は,1975年,ショウジョウバエのリボソーム蛋白質遺伝子の変異体を用いた実験で初めて観察されました1).また,癌細胞のような細胞極性を失った細胞(scrib変異細胞)を用いた研究によると,これらの細胞は正常な細胞に囲まれると細胞競合によって上皮組織から排除されることが示されており2),新たな癌の制御システムとして注目されています.さらに最近,老化細胞における細胞競合も注目されています.細胞培養モデルではありますが,老化細胞が隣接する正常細胞を貪食し消化していることが報告されました3).貪食メカニズムの一つである,リソソームを介した細胞死であるエントシース4)は確認されず,老化細胞そのものが貪食(ファゴサイトーイシス)している可能性が示唆されました.眼科領域において加齢変化に伴い,臓器や器官を構成するさまざまな細胞がアポトーシスなどによる細胞死を引き起こし,細胞数が減少図1細胞競合による細胞排除の概念状態の異なるC2種類の細胞が近接した状況において,勝者細胞が敗者細胞を排除する.北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学CBuckInstituteforResearchonAgingすることで臓器および器官の萎縮を招いています.眼科領域でも,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症,緑内障,白内障,ドライアイなど,さまざまな加齢変化に伴う眼疾患が存在します.しかしこういった病態における細胞死のメカニズムは完全に解明されておらず,少なからず細胞競合のような変化が起こっている可能性が想定されます.今後の展望ショウジョウバエの発生を中心として発展してきた細胞競合の研究は,現在哺乳類モデルにおいても観察されるようになり,生物における細胞間コミュニケーションの一つと考えられるようになりました.また,細胞競合が癌の制御だけでなく,細胞老化とも関連することが報告されてきています.もし,生体内で細胞競合によって老化細胞が正常細胞を排除していたとしたら,老化細胞を排除する仕組みが組織変性の抑制に直接関与する可能性があると考えられます.文献1)MorataCG,CRipollP:Minutes:MutantsCofCdrosophilaCautonomouslyCa.ectingCcellCdivisionCrate.CDevCBiolC42:C211-221,C19752)YamamotoCM,COhsawaCS,CKunimasaCKCetal:TheCligandCSasCandCitsCreceptorCPTP10DCdriveCtumour-suppressiveCcellcompetition.NatureC542:246-250,C20173)Tonnessen-MurrayCA,FreyWD,RaoSGetal:Chemo-therapy-inducedCsenescentCcancerCcellsCengulfCotherCcellsCtoCenhanceCtheirCsurvival.CJCCellCBiolC218:3827-3844,C20194)OverholtzerM,MailleuxAA,MouneimneGetal:Anon-apoptoticCcellCdeathCprocess,Centosis,CthatCoccursCbyCcell-in-cellinvasion.CellC131:966-979,C2007勝者敗者(79)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7230910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 205.ヤグレーザーによる瞳孔領繊維増殖膜の除去(初級編)

2020年6月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載205205ヤグレーザーによる瞳孔領線維増殖膜の除去(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●眼内レンズ表面に生じる線維増殖膜硝子体手術や緑内障手術などの侵襲の大きな手術では,術後炎症の遷延により,前房内にフィブリン析出をきたし,それが基盤となって瞳孔領に線維増殖膜を形成することがある.とくに複数回の硝子体手術を施行された眼球では,眼内のバリアが高度に破綻しており,再手術後にこのような炎症反応が生じやすい.フィブリン膜が著明な急性期には,まずはステロイドの点眼や結膜下注射などを施行することが多い.経過中にフィブリン膜を基盤とした線維増殖膜が生じ,時間の経過とともにそれが厚くなり,瞳孔領を覆うと,眼底の視認性が低下する.C●症例提示44歳,女性.左眼の裂孔原性網膜.離に対して,他院でC2回硝子体手術が施行されたが,その後再増殖,再.離をきたし当科紹介となった.眼底は増殖性硝子体網膜症の状態となっており,増殖膜および残存硝子体処理後に気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,14%CCC3F8によるガスタンポナーデを施行した.術後,網膜は復位したが炎症が遷延し,瞳孔領にフィブリン膜を基盤とする線維増殖膜が形成され(図1),眼底の視認性が低下した.炎症が鎮静化した時点でヤグレーザーによる線維増殖膜切開を行い,瞳孔領を確保した(図2).出力はC0.7~0.9CmJで合計C160発を要した.術後眼底の視認性は改善した.C●眼内レンズ表面に生じる線維増殖膜に対するヤグレーザー治療炎症がある程度鎮静化した時点で,このような線維増殖膜に対してヤグレーザーを用いて治療を行ったとする報告は海外では多数みられるが,わが国での報告は意外に少ない.Gandhamらは,トラベクレクトミーや硝子体手術後の眼内レンズ表面の線維増殖膜をきたしたC7眼(77)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1ヤグレーザー施行前の細隙灯顕微鏡写真瞳孔領は線維増殖膜で覆われている.図2ヤグレーザー施行後の細隙灯顕微鏡写真瞳孔領が確保できている.に対してヤグレーザーを施行し,6眼で視力の改善を得たとしている.また,副作用としては眼圧上昇がC1眼にみられたとしている1).Virdiらはトラベクレクトミーや角膜移植後の線維増殖膜C8眼に対してヤグレーザーを施行し,6眼で視力の改善を得たと報告している2).そのほかの報告でも多くは術後の眼底視認性の向上が得られ,また虹彩縁と眼内レンズの癒着をヤグレーザーで解離することにより,良好な散瞳が得られるようになったとする報告もみられる.本術式の注意点としては,眼内レンズ表面にCcrackが生じないようにすることであるが,通常は線維増殖膜の厚みが結構あるので,そのリスクはさほど高くない.ただし,通常の後発白内障に対する後.切開術よりは高出力と多くの照射数を必要とすることが多い.また,症例によっては線維増殖膜の中に虹彩から血管が侵入している例もあるので,レーザー施行時に出血を生じることがある.本術式は,前.収縮に対してヤグレーザー治療を施行した経験のある術者であれば,容易に施行できる.文献1)GandhamCSB,CBrownCRH,CKatzCLJCetal:Neodymium:CYAGmembranectomyforpupillarymembranesonposte-riorCchamberCintraocularClenses.COphthalmologyC102:C1846-1852,C19952)VirdiM,BeiroutyZA,SabaSN:Neodymium:YAGlaserdiscissionofpostoperativepupillarymembrane:peripher-alCphotodisruption.CJCataractCRefractCSurgC23:166-168,C1997あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C721

眼瞼・結膜:涙腺導管嚢胞の病態と治療

2020年6月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人藤原美幸63.涙腺導管.胞の病態と治療岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座涙腺導管.胞は,外傷,感染,炎症などのなんらかの原因により涙腺導管が閉塞し,導管内に涙液が貯留することにより形成される.外眼角付近の球結膜下に半透明の内容物を含む弾性軟の腫瘤として観察され,細隙灯顕微鏡検査で主涙腺の導管部に.胞を確認することで診断できる.疼痛や圧迫感などの症状を伴う場合には手術適応であり,.胞の摘出がもっとも再発率が低い.●病態生理・病因外眼角(主涙腺の導管部)に生じる.胞である.なんらかの原因により涙腺導管の開口部が閉塞し,導管内に涙液が貯留する結果,.胞が形成されると考えられている1).外傷,感染,結膜の炎症,涙腺導管の先天異常,分泌産物の組成変化などが病因となりうる2).C●臨床所見外眼角付近の球結膜下に,半透明の内容物を含んだ弾性軟の腫瘤として観察される3)(図1,2).大きさはさまざまである.通常片側性であるが,まれに両側性にも発生することがある4,5).症状として鈍痛,異物感,眼球の圧迫感が生じることもあるが,とくに自覚症状はないことが多い1).眼窩部に.胞を作った場合は,眼瞼下垂,眼球突出,眼球偏位が合併する場合もある6).C●診断細隙灯顕微鏡検査で外眼角円蓋部(主涙腺の導管部)に.胞を確認することで診断可能である1).撮影可能な施設であれば,MRIで深達度などを確認する.通常,周囲との癒着はなく,水分の貯留が確認できる(図3)●鑑別診断鑑別診断として,皮様.胞,表皮様.胞,皮膚脂肪腫,異物肉芽腫,結膜.胞などがあげられるが1,7),細隙灯顕微鏡で結膜円蓋部の涙腺導管開口部を観察できれば鑑別は容易である.涙腺の腫大がある場合は涙腺腫瘍との鑑別が必要であり,涙腺腺様.胞癌などのように.胞を作る悪性腫瘍もあるため,実質性の涙腺腫瘍が少しでも疑われる場合には眼腫瘍専門医への速やかな相談が望ましい.C●病理所見涙腺の導管上皮に覆われた拡張した.胞性病変が観察される..胞の内宮には血液がみられることもある3)..胞周囲に炎症細胞の浸潤を伴うことが多い7)(図4,5).C●治療無症状であれば経過観察でよいが,疼痛や圧迫感などの症状や外観上の愁訴が問題となる場合には手術適応となる1,2).穿刺・吸引では,外科的切除よりも再発の可能性は高い8).手術では.胞の全摘出がもっとも再発率は少なく,ほかに切開・切除術,造袋術などがある.術後の癒着および感染には注意が必要である.図1前眼部外眼角付近に壁が薄く透明な.胞を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)図2前眼部外眼角付近にやや大きめの.胞を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)(75)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7190910-1810/20/\100/頁/JCOPY図4病理組織像.胞の内側は上皮に裏打ちされており,一部で破綻し異物反応を認める..胞の外側は,厚めの線維性結合組織で覆われており,.胞壁に涙腺や涙腺導管を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)●予後長期予後を報告した文献はない.穿刺のみではすぐに再発するが,それ以外では再発は少ないといわれている.文献1)江口功一:涙腺導管.胞.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p262-264,医学書院,20152)OzgonulCC,CUysalCY,CAyyildizCOCetal:ClinicalCfeaturesCandmanagementofdacryops.OrbitC37:262-265,C20183)ShieldsCCL,CShieldsCJA,CEagleCRCCetal:ClinicopathologicCreviewof142casesoflacrimalglandlesions.Ophthalmol-図3MRI両眼性の涙腺導管.胞.液体の貯留を認める.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)図5病理組織像円注上皮は二層性で,内層の細胞は表面に突起を有している.杯細胞が含まれている.(岡山医療センター・大島浩一先生のご厚意による)ogyC96:431-435,C19894)BullockCJD,CFleishmanCJA,CRossetJS:LacrimalCductalCcysts.OphthalmologyC93:1355-1360,C19865)後藤浩:涙腺導管.胞(涙腺.胞).眼瞼・結膜腫瘍アトラス,p109-111,医学書院,20176)TsiourisAJ,DeshmukhM,SanelliPCetal:Bilateraldac-ryops:correlationofclinical,radiologic,andhistopatholog-icfeatures.AmJRoentgenolC184:321-323,C20057)TsaiCFF,CMukhopadhyayCC,CZengCJCetal:BilateralCmarkedCdacryopsCfollowingCtrauma.COrbitC31:435-437,C20128)SalamA,BarrettAW,MalhotraRetal:Marsupializationforlacrimalductularcysts(dacryops):acaseseries.Oph-thalmicPlastReconstrSurgC28:57-62,C2012720あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(76)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の光干渉断層血管撮影による評価

2020年6月30日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二76.加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の小野江元森隆三郎日本大学医学部視覚科学系眼科学分野光干渉断層血管撮影による評価光干渉断層血管撮影(OCTA)は非侵襲的に眼底の血流を確認できる検査として,臨床で活用されるようになってきた.わが国ではC2018年C4月から保険収載され,ますます一般臨床でも活用されることが予想される.本稿では,滲出型加齢黄斑変性に対する抗CVEGF療法のCOCTAによる評価の現状について概説する.OCTAによるCNVの疾患活動性の評価日常診療では,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegenetation:AMD)の疾患活動性は眼底観察による出血の有無,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)などの滲出性所見を観察することにより確認ができるため,蛍光眼底造影による脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などの病巣からの蛍光漏出を確認する必要性は低いが,抗VEGF療法によるCCNVの縮小,投与中止による拡大などの評価はこれまで蛍光眼底造影で行われてきた.しかし,Huangらは光干渉断層血管撮影(OCTCangiogra-phy:OCTA)でCCNVに対するアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealinjectionofa.ibercept:IVA)前後のCOCTAを評価し,OCTAが抗CVEGF薬硝子体内注射の投与間隔の判断となる可能性を示唆し1),近年,造影剤を使用しない非侵襲的な検査であるCOCTAでAMDに対する抗CVEGF療法の治療効果を評価することが試みられている.OCTAは血流を描出しているため,蛍光眼底造影検査と異なり蛍光漏出の所見を確認することはできないが,その形態的所見をもとに活動性を判断することができるという報告がある.CoscasらはCOCTAのCenCface画像における疾患活動性の指標として,病巣において,①形状が糸状ではなく,レース状の車輪形か扇形であること,②枝分かれがわずかな太い成熟血管に分枝するのではなく,多くの細かい毛細血管に分枝すること,③吻合やループがあること,④血管の末端の形態が枯れ木状ではなく,アーケード状であること,⑤病巣周囲の低信号のChaloがあること,以上五つの指標をあげ,このうち少なくとも三つを満たした場合,CNVの活動性があ(73)るとしている2).高田らはこの指標を用いた抗CVEGF療法の検討で,この指標を三つ未満しか満たさない場合は再発しにくい傾向があったとしている3).しかし,Al-Sheikhらは活動性のあるCCNVは小血管の枝分かれと病巣周辺の弧状の血管を認める割合が有意に多かったが,病巣面積と血管密度は抗CVEGF療法後,もしくは活動性のないCCNVと比較して有意差はなかったとしている4).わが国からの報告として,Takeuchiらは未治療AMDへのCIVAの治療導入期にCOCTA画像からCCNVの血管面積,血管分枝密度を評価し,1回目のCIVAによりCCNVの血管面積,血管分枝密度は減少したが,2回目,3回目ではどちらも増大し,同時に末端の血管のループ形成を認めることもあったとしている5).症例提示当院での症例を提示する.症例はC70歳の男性で,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCvasculopa-thy:PCV)の診断(図1)でCIVAのC2日後に光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)を施行した.治療後C1カ月で異常血管網(branchedCchoroidalvascularnetwork:BVN)の縮小を認め,OCTではCSRDの吸収も認めた.その後の経過でCBVNは拡大を認め,治療後2カ月で血管の分枝を認め,治療後C4カ月では吻合血管やループ状血管を認めたが,SRDを認めたのは治療後6カ月であった(図2).この症例のように,抗CVEGF療法とCPDTの併用療法を行っても,CNVやCPCVのBVNの病巣は残存していることがわかる.現時点ではOCTAのみでCAMDの抗CVEGF療法の投与判断をすることは困難であるが,今後COCTAの病巣の変化と滲出性変化の関係を評価することにより,滲出性変化が予期できるようになれば,個々の患者に合った投与間隔での加療ができるようになる可能性があり,期待される.あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7170910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1PCV症例のOCTAのouterretina層(左上)とchoriocapirallis層(中上)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)(右上)とOCT所見(下)IAでポリープ状病巣とCBVNを認め,OCTAでもそれら病巣が確認できる.OCTでは急峻な網膜色素上皮.離を認め,その辺縁にSRDを認める.治療前治療後1カ月治療後2カ月治療後3カ月治療後4カ月治療後5カ月治療後6カ月文献1)HuangD,JiaY,RispoliMetal:Opticalcoherencetomog-raphyCangiographyCofCtimeCcourseCofCchoroidalCneovascu-larizationinresponsetoanti-angiogenictreatment.Retina35:2260-2264,C20152)CoscasCGJ,CLupidiCM,CCoscasCFCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCversusCtraditionalCimagingCinCassessingCtheCactivityCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationanewdiagnositcchallenge.CRetinaC35:2219-2228,C20153)高田雄太,中村友子,三原美晴ほか:再発する滲出型加齢C718あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020図2OCTAによるchoriocapillaris層によるBVNの経時的変化の観察抗CVEGF療法+PDT後,いったん縮小したCBVNが徐々に拡大し,血管吻合,ループ形成を認めるようになる.黄斑変性の光干渉断層血管撮影所見.臨眼C73:637-642,C20194)Al-SheikhCM,CIafeCNA,CPhasukkijwatanaCNCetal:Bio-markersCofCneovascularCactivityCinCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangiog-raphy.Retina38:220-230,C20185)TakeuchiJ,KataokaK,TakayamaKetal:Opticalcoher-enceCtomographyCangiographyCtoCquantifyCchoroidalCneo-vascularizationinresponsetoa.ibercept.OphthalmologicaC240:90-98,C2018(74)