基礎研究コラム近視研究の進歩VisualregulationofaxiallengthVisualregulationofaxiallengthとは,与えられた視覚環境に応じて,網膜上でデフォーカスを最小にするように眼軸長を伸展させるシグナル機構のことです(図1).Smithら1)は,実験近視モデルの周辺部網膜のみに後方へのデフォーカスを与えると,対応する局所に眼軸長の過伸展が生じることを明らかにしました.古くから実験近視モデルの研究により,アマクリン細胞が産生するドパミンが近視化を抑制することが示唆されていました.最近,Tekinら2)が,SLITRK6ノックアウトマウスにみられる視細胞や双極細胞との間のリボンシナプス形成遅延が眼軸長伸長と密接に関連することを報告しました.眼軸長伸長の機序の一つとして,周辺網膜におけるデフォーカスの役割が注目されており,アマクリン細胞,視細胞,双極細胞などによって周辺網膜に形成されるシグナル回路が関係すると考えられています.臨床的にも学童期の近視進行治療目的に,周辺部のデフォーカスを補正するための特殊な眼鏡やコンタクトレンズの研究が進められており,近視の本態である眼軸長伸長を予防できる日が来るかもしれません.グローバルスケールでの大規模スタディ近年の近視者の世界規模の増加により,世界各地で近視の疫学研究が進められています.近視は環境要因と遺伝要因が相互に働き,長期にわたって変化してゆく疾患であり,疫学研究の集積もまた近視診療の進歩に貢献しています.6~7歳を対象とした近視のC1年発症率の人種間の比較を図2にまとめましたが,近視発症には人種差があり,白人に比べてアジア人に多いことがわかります.世界有数の近視国であるわ周辺網膜でのデフォーカス監修北澤耕司・村上祐介・中川卓上田瑛美九州大学大学院医学研究院眼科学分野が国は先駆的に近視研究を発信することが重要です.筆者らの久山町研究3)では,40歳以上の地域住民を対象として過去C10年間の近視および長眼軸長(26.5mm以上)の頻度の変化について検討しました.その結果,近視,長眼軸長の頻度は過去C10年間においていずれも有意に増加していました.さらに,近視の重篤な合併症の一つである近視性黄斑症の発症率と危険因子を調査しました.近視性黄斑症のない久山町住民をC5年間追跡し,わが国の近視性黄斑症の発症率は他のアジア圏と比べ高率であること,また,その危険因子が加齢と眼軸長が長いことであることを明らかにしました.今後の展望近視診療は近年目覚ましく進歩してきました.しかし,今なお,近視の発症や進行および近視合併症の発症を完全に止めることはできていません.近視における基礎研究や疫学研究などの多角的なアプローチにより,眼軸長伸展のシグナル機構の解明,近視発症の実態把握,近視性黄斑症の発症要因の同定につながっています.これらの研究結果の蓄積により,近視発症や進行が抑制され,近年の近視および近視性黄斑症の増加に歯止めがかかることが期待されます.文献1)SmithEL3rd,HungLF,HuangJ:Relativeperipheralhyperopicdefocusalterscentralrefractivedevelopmentininfantmonkeys.VisionRes49:2386-2392,20092)TekinM,ChiozaBA,MatsumotoYetal:SLITRK6mutationscausemyopiaanddeafnessinhumansandmice.JClinInvest123:2094-2102,20133)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Five-yearinci-denceofmyopicmaculopathyinageneralJapanesepopu-lation:theHisayamastudy.JAMAOphthalmol138:887-893,2020CNICERstudyヨーロッパ系白人種2.2%Wangetal東アジア系人種19.1%Orindastudy白人種2.8%SCORMstudy東南アジア系人種15.9%SydneyMyopiastudy白人種1.3%東アジア系人種6.9%図2各人種における近視の発症率図1Visualregulationofaxiallengthグローバルスケールでの大規模スタディにより,アジア系人種は白人種に実験近視モデルを用いた研究により,眼軸長比べて近視の発症率が高いことがわかった.研究時期C2005年以降,対象の視覚制御の機能は黄斑部のみではなく,周年齢6~7歳,C1年発症率に統一.近視は等価球面度数-0.5D以上で定義.辺網膜のデフォーカスが関与していることがNICER:CNorthernIrelandchildhooderrorsofrefraction,SCORM:C報告されている.CSingaporecohortstudyoftheriskfactorsformyopia.C(77)あたらしい眼科Vol.38,No.11,2021C13150910-1810/21/\100/頁/JCOPY