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緑内障:Posner-Schlossman症候群とウイルス感染

2020年6月30日 火曜日

●連載240監修=山本哲也福地健郎240.Posner-Schlossman症候群と村田一弘岐阜大学医学系研究科眼科学ウイルス感染眼圧コントロールが不良で視機能障害をきたしたCPosner-Schlossman症候群(PSS)では緑内障手術を要し,前房内からサイトメガロウイルス(CMV)DNAが検出されることが多い.よってCPSSでは早期からCCMV感染を疑い,状況に応じて前房水を用いたウイルスCDNAの検索ならび治療を考慮すべきである.●はじめにPosner-Schlossman症候群(Posner-SchlossmanCsyn-drome:PSS)は,軽度の虹彩毛様体炎を伴う眼圧上昇発作を繰り返す疾患で(図1),治療は副腎皮質ステロイドの局所投与による消炎と,抗緑内障点眼薬による眼圧下降が主体となる.従来,本疾患は視神経乳頭の変化や視野障害はきたさない良性の疾患と考えられてきたが,遷延化すると視神経萎縮が進行し,眼圧が十分に下降しない症例では緑内障手術が必要となることがある1).高度な眼圧上昇は線維柱帯の炎症によって生じると考えられている.病因として,ウイルス感染,自己免疫,アレルギーなどの要因が提唱されているが,いずれも未確定である2).近年では,PSSの前房水より高率にサイトメガロウイルス(CMV)DNAが検出されることが報告されている3,4).●前房水検索と臨床的特徴岐阜大学附属病院でC2010~2018年の間に臨床的にPSSと診断されたC21例C21眼の前房水を検索したところ,最初のCPSS発作から前房水採取までの平均期間は約C9.5年で,13眼(61.9%)でCCMV-DNAが陽性であった(単純ヘルペス,水痘帯状疱疹ウイルス各CDNAは陰性).平均年齢はC51.9C±15.0歳で,男性にやや多い傾向にあった.患眼と健眼の比較では,初診時平均眼圧は患眼C28.0C±11.5CmmHgで,健眼C13.9C±4.0CmmHgに比し有意に高値であった.また,初診時最高矯正視力(bestCcorrectedCvisualacuity:BCVA),Humphrey視野計C30-2プログラムのCMD値および中心角膜内皮細胞密度(cornealCendothelialCcelldensity:CEC)は,すべて患眼で有意に低い結果であった.21眼中C14眼(66.7%)で経過観察中に緑内障手術が必要となった.また,図1PSSの前眼部写真前房に軽度の炎症細胞が認められる.角膜中央から下方にかけて,数個の色素沈着を伴わない小型~中型の円形の角膜後面沈着物が認められる.図2PSS症例におけるマイトマイシンC併用トラベクレクトミー後(71)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7150910-1810/20/\100/頁/JCOPY緑内障手術を要したC14眼のうちC11眼(84.6%)から前房内よりCCMV-DNAが検出され,CMV陽性群で初診時すでに眼圧が有意に高値であり,緑内障手術(図2)がより多く必要となる傾向(CMV陰性群ではC37.5%)にあった5).C●考察近年の研究ではCPSSのCCMV陽性率はC52~54%と報告されている4,6).当院のCPSS症例では約C6割で前房水よりCCMV-DNAが検出された.CMVは角膜内皮や線維柱帯細胞に親和性を有し,潜在的なCCMV再活性はCEC低下と線維柱帯炎に伴う眼圧上昇を誘発することが指摘されている.そこでCCMV陽性のCPSS症例では,眼圧上昇に伴う視機能の障害ならびに遷延化が危惧される.また,患眼では健眼に比し有意にCBCVA,MD値およびCCECが低下していたので,線維柱帯細胞と角膜内皮細胞の機能を維持し,視機能を保つためには,迅速な診断と適切な治療の選択が重要と考える.さらに当院ではC7割近くが緑内障手術を要したが,PSSの遷延化と前房内CCMV感染が関与している可能性が示唆された.PSSの病因はまだ解明されていないが,CMVによる線維柱帯炎がCPSSにおける主要な眼圧上昇機序と推測されるため,今後抗CCMV薬の局所ならびに全身投与に関して期待される.文献1)JapCA,CSivakumarCM,CCheeSP:IsCPosnerCSchlossmanCsyndromebenign?OphthalmologyC108:913-928,C20012)JiangCJH,CZhangCSD,CDaiCMLCetal:Posner-SchlossmanCsyndromeCinCWenzhou,China:aCretrospectiveCreviewCstudy.BrJOphthalmol101:1638-1642,C20173)CaoG,TanC,ZhangYetal:DigitaldropletpolymerasechainreactionanalysisofcommonvirusesintheaqueoushumourCofCpatientsCwithCPosner-SchlossmanCsyndromeCinCChineseCpopulation.CClinCExpCOphthalmolC47:513-520,C20194)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirusCpositiveCPosner-SchlossmanCsyndromeCpatientsCtreatedCwithCtopicalCganciclovirCtherapy.CAmJOphthalmolC158:1024-1031,C20145)MurataCK,CIshidaCK,CMochizukiCKCetal:TheCcharacteris-ticsCofCPosner-Schlossmansyndrome:ACcomparisonCinCtheCsurgicalCoutcomeCbetweenCcytomegalovirus-positiveCandCcytomegalovirus-negativeCpatients.Medicine(Balti-more)98:e18123,C20196)MaruyamaCK,CMaruyamaCY,CSugitaCSCetal:Characteris-ticsCofCcasesCneedingCadvancedCtreatmentCforCintractableCPosner-SchlossmanCsyndrome.CBMCCOphthalmolC17:45,2017C☆☆☆716あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(72)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキング後の屈折変化

2020年6月30日 火曜日

監修=木下茂●連載241大橋裕一坪田一男241.角膜クロスリンキング後の屈折変化加藤直子南青山アイクリニック角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を止める手術である.角膜クロスリンキングの直後には角膜が若干急峻化するが,1年後には術前とほぼ同じかやや平坦になることが多い.長期予後についても,近年C10年の成績が報告されており,角膜屈折力や矯正視力はわずかに改善した状態で安定し,円錐角膜の進行停止効果が維持されることが知られている.C●はじめに円錐角膜眼の進行を停止させる角膜クロスリンキング(cornealCcrosslinking:CXL)が登場して,すでにC17年が経過した.角膜クロスリンキングによる円錐角膜の進行停止率はC90%以上であり,重篤な合併症は少ない.CXLは,進行期の円錐角膜に対しては第一選択の治療と位置づけられる.本稿では,CXL後の屈折と角膜形状の変化について,長期的な変化も踏まえて述べる.C●CXLの長期成績ヒトの進行性円錐角膜眼に対するCCXLの成績が最初に報告されたのはC2003年のことである1).それからC17年の歳月が経ち,昨今ではCCXLの長期成績が報告されはじめている.2015年にCCXLが開発されたドレスデン大学から,RaiskupらによってC10年の術後成績が報告された.24例C34眼の進行性円錐角膜眼に対して施術を行った結果である.彼らが当初報告したのは,角膜上皮を掻爬してからリボフラビンを点眼し,その後長波長紫外線をC3.0CmW/cm2でC30分間照射する方法であり,この術式はCCXLの標準法(ドレスデン法)とされている.Raisk-upらによれば,10年間で角膜形状には有意な平坦化が得られ,また矯正視力も改善し,角膜内皮細胞減少もなかったとされている2).ついでC2018年にCMazzottaらイタリアのグループが,標準法を施行したC18歳以下のC47例C62眼の円錐角膜眼についてのC10年後の成績を報告している.彼らの報告でも,術後C10年で裸眼視力,矯正視力には術前に比べて有意な改善がみられ,約C80%の症例では角膜形状も安定していた.一方,術後C1D以上の進行がみられたの(69)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはC13眼(21%)であった.2例は再手術が必要だった.彼らは,とくにC15歳以下の早期発症例では術後C7年以上経ってから再手術が必要になる可能性を念頭におくべきであると述べている.しかし,内皮細胞障害や重篤な角膜混濁などの合併症はみられなかった3).このように,CXL後は角膜形状や屈折度数が若干改善した状態で安定するという共通見解が得られている.C●日本人円錐角膜眼へのCXLの成績筆者らは,日本人の円錐角膜C95例C108眼にCCXLを行い,後ろ向きにC1年間の経過観察をした成績をC2018年に報告した.108眼のうちC23眼は標準法で施術し,残りのC85眼は紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法で施術を行った.いずれの方法でも,全例で上皮掻爬を行った.その結果,標準法,高速照射法のいずれも,視力,等価球面度数,乱視度数には有意な変化はみられなかったが,強主経線上角膜屈折力は両グループともC1年後には有意差をもって減少していた.1年後に進行停止が得られた症例は全体のC92%であり,海外からの報告とほぼ一致する結果であった4).ここで注意すべきポイントは,この解析では有意差は出なかったが,多くの症例においてCCXLの直後は若干角膜が急峻化する時期があることである.とくに,術後1カ月時点での角膜屈折力は術前よりもやや急峻化することが多い.しかし,そのまま経過観察を続けると,ほとんどの症例ではC3~6カ月目には角膜形状はほぼ術前の状態に戻り,その後は変化しないか若干平坦化する(図1).したがって,術直後に多少乱視が増強し視力が低下しても,あわてずに経過観察を続けるのがよい.さらに,筆者らは,術後C5年間の経過観察を行った症例C23眼についても後ろ向きに解析を行った.23例中あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C713abcd図1CXL後の角膜形状の変化(典型的な症例)a:術前.典型的な円錐角膜のパターンで,Kmax(最大角膜屈折力)はC50.6Dである.Cb:術後C1カ月.KmaxはC51.5Dとわずかに増加,突出している部分の面積(赤からオレンジで表される部分)も若干の拡大がみられる.Cc:術後C3カ月.KmaxはC49.9Dとなり,突出部分の面積も小さくなってくる.Cd:術後C6カ月.KmaxはC49.6Dとさらに減少し角膜形状の術後経過観察期間図2CXL後1年間の強主経線上角膜屈折力の変化変化も小さくなってくる.C-CXL(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに,術後C1年目で若干強主経線上角膜屈折力が減少している.(文献C5より改変)考えている4).C●おわりにCXLは,その誕生からすでにC17年が経過しており,円錐角膜眼の進行停止という目的において有効性と安全性はほぼ立証されたといってよい.一方で,CXLの一番のウィークポイントは,すでに進行してしまった円錐角膜眼の角膜形状を改善できないことである.屈折矯正図3CXL後5年間の強主経線上角膜屈折力の変化量強主経線上角膜屈折力は,術後C1年ごろまではCC-CXL手術との組み合わせや,角膜形状に合わせたカスタマイ(標準法のCCXL),A-CXL(高速照射法のCCXL)ともに安定しているが,1年を過ぎる頃からCC-CXLで持続性の平坦化がみられた.*:p>0.05(文献C5より改変)11例C12眼は標準法で,10例C10眼は高速照射法で施術した.結果は術後C1年未満までは,両グループとも同じように円錐角膜の進行は抑えられていたが,1年以降では標準法で行ったグループに持続性の平坦化がみられた(図2)5).近年,CXL後の持続性平坦化ということが指摘されている.つまり,術後数年の期間を過ぎても平坦化が続いていく症例が散見されるというものである.円錐角膜眼のほとんどは強い近視性乱視があるので,平坦化によって屈折度数が減少することはよいことのように考えられているが,この平坦化がいつまで,どこまで続くのかについては,明らかにされていない.一方,紫外線をC18.0CmW/cmC2でC5分間照射する高速照射法では持続性平坦化はほとんどみられない.また,術後C1年以内の角膜混濁についても,高速照射法より標準法で強いことが明らかになった(図3).これらの結果より,筆者らは長期的な安定性と角膜混濁の危険性の両面から,標準法よりも高速照射法のほうが優れているとC714あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020ズされた紫外線照射を行うことにより角膜形状の補正を行う新しい角膜クロスリンキングが登場している.しかし,上記のように従来のCCXL後の角膜形状は長期にわたり変化することが知られているため,新しい術式についても長期にわたる注意深い検討が必要であろう.文献1)Wollensak.G,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmolC135:620-627,C20032)RaiskupCF,CTheuringCA,CPillunatCLECetal:CornealCcolla-gencrosslinkingwithribo.avinandultraviolet-Alightinprogressivekeratoconus:ten-yearCresults.CJCCataractCRefractCSurgC41:41-46,C20153)MazzottaC,TraversiC,BaiocchiSetal:Cornealcollagencross-linkingCwithCribo.avinCandCultravioletCAClightCforpediatrickeratoconus:Ten-yearresults.Cornea37:560-566,C20184)KatoCN,CKonomiCK,CShinzawaCMCetal:CornealCcrosslink-ingCforCkeratoconusCinJapaneseCpopulations:oneCyearCoutcomesCandCaCcomparisonCbetweenCconventionalCandCacceleratedCprocedures.CJpnCJCOphthalmolC62:560-567,C20185)KatoCN,CNegishiCK,CSakaiCCCetal:Five-yearCoutcomesCofCcornealCcross-linkingCforkeratoconus:ComparisonCbetweenconventionalandacceleratedprocedures.Cornea39:e1,C2020(70)

眼内レンズ:Long Anterior Lens Zonules

2020年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋保坂文雄403.LongAnteriorLensZonules岩見沢市立総合病院眼科Longanteriorlenszonules(LAZ)は水晶体前.上で通常よりも中心側まで伸長するCZinn小帯を特徴とする.LAZにはしばしば虹彩色素粒子が付着し,色素散布性緑内障あるいは閉塞隅角緑内障と関連があるとされる.また,白内障手術時連続円形切開.の妨げとなりうるので注意を要する.●LAZとはLongCanteriorClenszonules(LAZ)は水晶体前.上で通常よりも中心側まで伸長するCZinn帯を特徴とする.LAZの一部はCC1QTNF5遺伝子の異常によりClate-onsetretinalandmaculardegeneration(L-ORMD)とともにC30歳代以降に発症する1).しかし,多くのCLAZは原因不明で,50歳代以降の女性,遠視,短眼軸に多く,有病率はC2%とまれなものではない2).LAZは緑内障との関連が指摘されており2~4),白内障手術時にCLAZ線維が連続円形切.(continuousCcurvilinearCcapsulor-rhexis:CCC)を妨げて裂け目を生じることがあるので注意を要するとされる4).今回,同一術者(FH)が白内障手術を行った連続する542例C824眼について,手術顕微鏡の徹照観察によりLAZの有無を確認した.LAZはC5例C5眼,出現頻度0.61%でみられた(表1).女性が多く(4例C4眼),遠視(平均C±標準偏差:+1.55±1.76D),短眼軸(22.44C±0.90Cmm),浅前房(2.40C±0.23Cmm)の傾向があった.LAZに合併する病態として,急性閉塞隅角症,慢性開放隅角緑内障,瞳孔不同・対光反応鈍を,それぞれC1眼で認めた.5眼とも術中のCZinn小帯強度に問題はなかった.うちC2症例の要約を記す.C●症例184歳,女性,両眼霧視と左眼羞明を自覚.視力は右眼C0.5(矯正不能),左眼C0.4(0.6C×cyl-1.0D,Ax110°).明所での瞳孔径は右眼C2.8Cmm,左眼C3.5Cmmと瞳孔不同があり,直接対光反応は右眼正常,左眼やや鈍.両眼白内障手術時に左眼のみCLAZを確認した(図1a).CCC作製時,LAZによって水晶体前.の切開線が捩れてCCCCが小さくなりがちであったため,前.鑷子を用いて.を引き裂く方向に留意した(図1b).C●症例268歳,女性.急な両眼霧視を自覚,前医で急性閉塞隅症の診断にて薬物治療し奏効.翌日初診,両眼とも遠視(右眼Csph+2.5D,左眼Csph+3.0D),短眼軸(右眼C21.75mm,左眼C21.69mm),浅前房(右眼C2.17mm,左眼C2.16mm)であった.両眼の白内障手術を施行したが,左眼で虹彩色素付着したCLAZを認めた(図2).C●考按LAZは散瞳下で水晶体前面の微細な放射状線維として観察される.今回,白内障手術時にCLAZが発見された頻度はC0.61%で,アフリカ系米国人を対象とした既報の頻度よりも少なかった2).LAZが問題となるのは,①CL-ORMDとの合併,②緑内障との関連,③白内障手術との関連である.①L-ORMDは遺伝子異常によるまれな疾患であり,今回の症例には含まれなかった.②緑内障について,LAZは開放隅角および閉塞隅角,それぞれのタイプの緑内障表1Longanteriorlenszonules症例の概要症例番号年齢(歳)性別等価球面屈折(D)眼軸長(mm)前房深度(mm)合併眼疾患C1C84女+1.13C22.05C2.32瞳孔不同,対光反射鈍C2C81女+3.75C21.69C2.35C3C69男-0.25C23.14C2.79C4C68女+3.00C21.69C2.16急性閉塞隅角症C5C84女+0.13C23.65C2.36慢性開放隅角緑内障平均C77.20+1.55C22.44C2.40標準偏差C8.041.76C0.90C0.23C(67)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C7110910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1LAZ(症例1)a:Zinn小帯の前方付着部が中心側に伸長している.Cb:LAZによってCCCC切開線が捩れている.との関連が指摘されている2~4).詳細は不明であるが,LAZによる虹彩の擦過で色素散布が起きることが潜在的に慢性開放隅角緑内障の一因となると推察されている3).一方,閉塞隅角緑内障とかかわる要因としては,LAZ症例が高齢,遠視,短眼軸で多いこと2)に加えて,LAZの毛様体突起への牽引によってプラトー虹彩形状を呈する場合があるとされる4).今回C1眼で瞳孔不同・対光反応鈍であったが,LAZ眼での既報はなく関連は不明である.また,LAZは③白内障手術時のリスクとされており,安全な手術のためにCCCC施行前の前.染色やチストトームでCLAZをC360°切断しておく方法が紹介されている5).水晶体前面のCZinn小帯はおもに調節を担っているので,LAZを切断してもCZinn小帯全体による水晶体支持力は損なわれないと考えられている5).今回は前.鑷子により切開方向を慎重にコントロールす図2虹彩色素粒子が付着したLAZ(症例2)ることで,通常の手術法により十分な大きさのCCCCを完成できた.診療で見逃されているCLAZ症例は少なからずあるとみられるが,緑内障診療や白内障手術の際には留意することが望まれる.文献1)AyyagariCR,CMandalCMN,CKaroukisCAJCetal:Late-onsetCmacularCdegenerationCandClongCanteriorClensCzonulesCresultCfromCaCCTRP5CgeneCmutation.CInvestCOphthalmolCVisSciC46:3363-3371,C20052)RobertsDK,AyyagariR,McCarthyBetal:InvestigatingocularCdimensionsCinCAfricanCAmericansCwithClongCanteri-orzonules.JGlaucomaC22:393-397,C20133)MoroiSE,LarkKK,SievingPAetal:Longanteriorzon-ulesandpigmentdispersion.AmJOphthalmolC136:1176-1178,C20034)RobertsCDK,CAyyagariCR,CMoroiSE:PossibleCassociationCbetweenClongCanteriorClensCzonulesCandCplateauCirisCcon.guration.JGlaucomaC17:393-396,C20085)KhuranaCM,CShahCDD,CGeorgeCRJCetal:Phacoemulsi.ca-tionineyeswithlonganteriorzonules.CJCataractRefractSurgC46:209-214,C2020

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 1.角膜形状の把握(1)

2020年6月30日 火曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司1.角膜形状の把握(1)■はじめに1984年6月の創刊号以来,コンタクトレンズセミナーは継続してきた.少し中断はあったものの,本号よりシード,メニコン,サンコンタクトレンズの3社の協賛を得て,ハードコンタクトレンズ(HCL)に的を絞ったセミナーを再開する.最近の若い先生方がHCLを処方する機会は,1日使い捨てタイプあるいは2週間交換タイプソフトコンタクトレンズの台頭により激減している.しかし,HCLの光学的あるいは経済的メリットは大きく,しかもHCLでしか良好な視力を得られない患者も多く存在する.創刊号に筆者は「このセミナーは,今までコンタクトレンズにあまり関心をもっておられなかった眼科医を対象とする」と記している.これからのセミナーは,HCL処方経験は少ないが,HCL処方に興味をもっておられる眼科医を対象にしたい.■角膜形状の把握HCLを処方するには角膜形状,角膜径,瞳孔径,眼瞼形状などを把握しておく必要がある.トライアルレンズのベースカーブ(basecurve:BC)は,ケラトメーターによって角膜中央部の曲率を計測して決定するのが一般的である.しかし,ケラトメーターによって知ることができるのは,角膜中央部のわずか3mm程度の範囲にしかすぎない.しかし,フォトケラトメーターやビデオケ図1角膜周辺部扁平化が小さい症例角膜周辺部の色彩変化が小さい.図2角膜周辺部扁平化が大きい症例角膜周辺部の色彩変化が大きい.小玉眼科医院ラトメーターが開発されるに従い,角膜周辺部の形状には個体差が大きいことが明らかになってきた(図1,2).■角膜形状は球面?あるいはトーリック面?角膜の光学部はトーリック面とみなすことができる(図3).このことは光学部においてのみいえることであり,角膜周辺部は前述したように次第に扁平化していく.この扁平化していくことと,扁平化していく程度に個体差があることが,HCL処方をむずかしくしている.しかし,この角膜周辺部の扁平化は,HCLの動きや静止位置を左右するのみならず,HCL下の涙液交換にはなくてはならないファクターである.よく知られているように,HCL下の涙液交換は瞬目によるレンズの上下運動に支配されている.レンズが角膜が扁平化している部分へ引き上げられるときに,レンズ下の間隙が拡大し,ベベル部位の涙液がレンズ下に吸引される.眼瞼の影響を離れてレンズが下方へ移動するときは,レンズ下の間隙が縮小し,レンズ下の涙液は排出される.これが涙液交換のメカニズムであるが,もし角膜周辺部の扁平化がなければ,レンズは単に上下運動をするだけで,レンズ下の涙液交換は行われないということになる.もしも,角膜周辺部の扁平化がなければ,ガス透過性を有しないガラス製あるいはPMMA(ポリメチルメタクリレート)製HCLは誕生しなかったかもしれない.少なr1の曲率半径r2の曲率半径図3トーリック面r1の円を軸を中心としてr2の半径で回転したときにできる曲面.r1=r2の場合は球面となる.(65)あたらしい眼科Vol.37,No.6,20207090910-1810/20/\100/頁/JCOPY図5角膜周辺部扁平化とHCLフィッティング平均的な周辺部の扁平化であればベストフィッティング(パラレル)となるが,周辺部の扁平化が平均より大きくなるとスティープ(アピカルクリアランス)に,平均より小さくなるとフラット(アピカルタッチ)になる.くともそれらのHCLでは,十分な装用時間が得られなかったと推察できる.■角膜周辺部扁平化の表現角膜周辺部扁平化の程度を表わす数値として離心率(e値)やコニコイド曲線のQ値が知られている.e2=|Q|の関係がある.コニコイド曲線とはX2+(1+Q)Y2.2RY=0で表わされる(図4).Q=0のときに円となり,Q=.1,.2となるにしたがって放物線が開いていき,周辺部の扁平化が大きくなることを意味している.■角膜周辺部の扁平化とHCLフィッティング同じデザインのHCLを周辺部の扁平化が異なる角膜に装用させた場合,周辺部の扁平化が平均的な角膜ではベストフィッティングが得られても,周辺部扁平化が小さい角膜ではフラット(アピカルタッチ)になり,周辺部扁平化が大きな角膜ではスティープ(アピカルクリアランス)になる(図5).図6HCLデザインIntermediatecurveとperi-pheralcurveからなるベベルを有したHCLデザインを示す.F図72枚の濡れたガラス板の陰圧陰圧F=(表面張力T)÷界面の曲率半径R.エッジのリフトが小さくなるほど陰圧は大きくなる.■HCLデザインHCLの外面はフロントカーブ,フロントベベルからなり,内面はBC,ベベルとなり,両者はエッジで繋がっている(図6).ベベルデザインは各社で異なっているが,ここではintermediatecurveとperipheralcurveからなるデザインのものを示している.BCの延長とエッジまでの間隔をデザイン上のエッジリフト(エッジの浮き上がり)という.実際のエッジリフトはエッジから角膜までの間隔である.このエッジリフト下の涙液による表面張力の大きさがHCLの動きを制御している.濡れた2枚のガラス板間の陰圧は界面の曲率半径が小さくなるほど,つまり2枚のガラス板の間隔が狭くなるほど大きくなる(図7).この陰圧によってHCLの動きが安定し静止位置にとどまる.エッジリフトが小さすぎる場合はHCLの動きは少なくなりタイト症状を示す.逆にエッジリフトが大きすぎる場合はHCLの動きは大きく,また不安定となり,ルーズ症状を示す.

写真:重症涙液減少型ドライアイに合併した上皮型角膜ヘルペスの治療

2020年6月30日 火曜日

術後ドライアイの原因とその対処法TheCausesandTherapeuticManagementofPostoperativeDryEye戸田郁子*Iガイドラインのサマリー筆者らは,眼科手術とドライアイの関連を明らかにするため,1)眼科手術のドライアイに及ぼす影響,2)ドライアイ患者に対する屈折矯正手術の有用性と安全性の2点をクリニカルクエスチョン(CQ)として設定し,そのエビデンスを検証した.1)眼科手術のドライアイに及ぼす影響については,角膜上皮障害(フルオレセイン染色)と涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の低下は,眼内外の前眼部手術全般によって誘発される可能性が高いことが示唆された.涙液分泌量(Schirmer値)は角膜切開または切除を行う手術〔白内障,laserinsituCkeratomileusis(LASIK)〕で低下することが示唆された.2)については,ドライアイ患者に対するCLASIKは,その有用性と安全性に関して非ドライアイ患者に対するものと同等と考えられる.術前にドライアイの患者はLASIK後も非ドライアイ患者に比較してドライアイの程度が強いことが示唆された.LASIK以外の屈折矯正術については文献が存在しなかったため,今回の調査には含まれていない.今回の調査では,各種眼科手術と術後ドライアイについて検討したエビデンスの高い研究はほとんどないことがわかった.したがって,今後のこのテーマについては,さらなる臨床研究が必須である.IIガイドラインの解説CQのうち,2)については情報が非常に少ないため,今回は1)についておもに説明する.①斜視1)(1編),②白内障2)(1編),③眼瞼下垂3)(1編),④CLASIK4~6)(3編)⑤CphotorefractiveCkeratecto-my(PRK)7)(1編)のC5種の手術に関する計C7編を選択した.いずれも手術前後比較の症例対象研究であった.BUT,Schirmer値,フルオレセイン染色,自覚症状のいずれかの検査を施行している文献を選択した.①ではBUT,フルオレセイン染色,自覚症状が術後C3カ月まで悪化した.②ではCBUT,Schirmer値,フルオレセイン染色が術後C1カ月まで悪化,Schirmer値は有意差がなかった.③ではCSchirmer値は有意差がなく,BUT,フルオレセイン染色は未施行,自覚症状は早期(2週間)でC28%が悪化,長期(6カ月以上)でC16%が悪化,13%が改善した.④ではCBUTはC3カ月まで悪化(2/3編),Schirmer値はC1カ月まで(1/3編),3カ月まで(1/3編),1年まで(1/3)悪化した.フルオレセイン染色はC1週まで(1/3),3カ月まで(1/3編)悪化,未施行(1/3編)であった.症状はC16カ月まで(1/3),3カ月まで(1/3)悪化,未施行(1/3編)であった.⑤ではCBUTは6カ月でC47.8%が悪化,Schirmer値は有意差なく,フルオレセイン染色,自覚症状は未施行であった.今回文献検索において,「ドライアイと眼科手術」のキーワードに関するものの大半の眼科手術は「LASIK」*IkukoToda:南青山アイクリニック東京〔別刷請求先〕戸田郁子:〒107-0061東京都港区北青山C3-3-11ルネ青山ビルC4階南青山アイクリニック東京C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(57)C701角膜周囲輪状神経叢基底細胞神経叢Bowman膜図1角膜内神経分布LASIKによるフラップ作製でもっとも影響を受けるのは上皮下神経叢である.図2LASIK後ドライアイのメカニズム表1LASIKとSMILE後のドライアイを比較したメタアナリシスの結果アウトカムメタアナリシス症状(OSDI)CBUTSchirmer試験涙液浸透圧角膜知覚角膜内神経密度ShenZ(2C016)CN=6S>LC1M,3M,6MS>LC1M,3M,6MCS=LCS=LCN/ACN/ACaiWT(2C017)CN=8S>LC1M,6MS>LC1M,3MCS=LCN/AS>LC1M,3MCN/AKobashiH(2C017)CN=5S>LC6MS>LC6MCS=LCS=LS>LC1M,6MS>LC1MS:SMILE,L:LASIK,M:month,N/A:検証なし,S>L:SがCLよりも優位.表2メタアナリシスに使用された参考文献メタアナリシスCAuthor最終論文数/選択論文数C①CShenC②CCaiC③CKobashiCAuthorCYearCLocationCDesignCFollow-up(mo)CInterventionCEyes(n)CMeanage(a)CPreoperativeSE(D)C6/101C8/153C5/168CLiMCDemirokACXuYCDenoyerACWangBCXiaLCLiMC2013C2013C2014C2014C2015C2016C2013CChinaCTurkeyCChinaCFranceCChinaCChinaCChinaCNRCRCTCNRCNRCNRCNRCNRC6C6C6C6C12C6C6CSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKC38C33C28C28C81C97C30C30C47C43C69C59C32C42C28.21±7.04C27.33±6.58C26.2±4.4C26.2±4.4C24.1±6.03C23.96±5.14C31.1±4.7C32.2±7.5C25.21±6.51C24.72±6.53C25.15±4.42C23.65±3.87C27.1±4.0C28.3±5.5C.6.68±1.34C.7.96±2.61C.3.9±1.5C.4.0±1.4C.5.7±1.71C.5.8±2.01C.4.65±2.38C.4.42±1.78C.7.46±1.11C.7.44±1.13C.5.04±2.32C.5.13±1.36C.6.56±1.28C.8.46±2.15C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○CWeiSC2013CChinaCNRC3CSMILECFS-LASIKC61C54C27.44±6.52C25.44±7.15C.5.11±1.25C.5.50±1.54○CSMILELASIK表3LASIKとSMILE後の角膜内神経密度の比較角膜中央C3Cmm,μm/mm2図3LASIKとSMILEの角膜内神経への影響術前C1WC1MC3MC6MCSMILELASIK有意差100%100%なし30.6%0.7%あり30.0%4.1%あり36.3%12.2%あり45.4%C37.6%なしを過度に控えてしまっていることが多い.術後C1カ月経過したら,むしろ眼瞼洗浄などのリッドハイジーンを徹底したほうが,MGD悪化防止のためにも有効と思われる.また,屈折矯正手術のうちCLASIKは一時的にせよ,術後ドライアイを惹起する可能性がある.このため,術前よりドライアイがある患者では,SMILEや有水晶体眼内レンズといったドライアイを起こしにくい治療を選択する配慮が必要である.まとめ以上より,眼に何らかの侵襲が加わると(手術),ドライアイが発症する可能性がある.したがって,眼科手術の前後において常にドライアイを念頭におき,涙腺機能やCMGDなどに留意することは,眼科手術の満足度や患者のCQOLの向上のために大切なポイントと考えられる.文献1)JeonCS,CParkCSH,CChoiCJSCetal:OcularCsurfaceCchangesCafterClateralCrectusCmuscleCrecession.COphthalmicCSurgLasersImagingC42:428-433,C20112)LiXM,HuL,HuJetal:InvestigationofdryeyediseaseandCanalysisCofCtheCpathogenicCfactorsCinCpatientsCafterCcataractsurgery.CorneaC26(Suppl1):S16-S20,20073)DaileyCRA,CSaulnyCSM,CSullivanSA:MullerCmuscle-con-junctivalresection:e.ectConCtearCproduction.COphthalCPlastReconstrSurgC18:421-425,C20024)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Laser-assist-edCinCsituCkeratomileusisCforCpatientsCwithCdryCeye.CArchCOphthalmolC120:1024-1028,C20025)BattatL,MacriA,DursunDetal:E.ectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocu-larsurface.OphthalmologyC108:1230-1235,C20016)ShresthaCGS,CWaghCS,CDarakA:EvaluationCofCtearC.lmCstabilityCbeforeCandCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CNepalJOphthalmolC3:140-145,C20117)HongCJW,CKimHM:TheCchangesCofCtearCbreakCupCtimeCafterCmyopicCexcimerClaserCphotorefractiveCkeratectomy.CKoreanJOphthalmolC11:89-93,C19978)BattatL,MacriA,DursunDetal:E.ectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocu-larsurface.OphthalmologyC108:1230-1235,C20019)TodaCI,CAsano-KatoCN,CHori-KomaiCYCetal:DryCeyeCfol-lowingClaserCinCsituCkeratomileusis.CAmCJCOphthalmolC132:1-7,C200110)WilsonS:Laserinsitukeratomileusis-induced(presumed)CneurotrophicCepitheliopathy.COphthalmologyC108:1082-1087,C200111)MullerCLJ,CMarfurtCCF,CKruseCFCetal:Cornealnerves:Cstructure,CcontentsCandCfunction.CExpCEyeCResC76:521-442,2003Review.Erratumin.ExpEyeResC77:253,C200312)LeeCB,CMclarenCJ,CEricCJCetal:ReinnervationCinCtheCcor-neaCafterCLASIK.CInvestCOphthalmolCVisSci43:3660-3664,C200213)SongXJ,LiDQ,FarleyWetal:Neurturin-de.cientmicedevelopCdryCeyeCandCkeratoconjunctivitisCsicca.CInvestCOphthalmolVisSciC44:4223-4229,C200314)TodaCI,CAsano-KatoCN,CHori-KomaiCYCetal:DryCeyeCenhancementby.ap-liftinginlaserinsitukeratomileusis.CJRefractSurgC22:358-362,C200615)CalvilloCMP,CMclarenCJW,CHodgeCDOCetal:CornealCrein-nervationCafterLASIK:prospectiveC3-yearClongitudinalCstudy.InvestOphthalmolVisSciC45:3991-3996,C200416)KonomiK,ChenLL,TarkoRSetal:Preoperativecharac-teristicsCandCaCpotentialCmechanismCofCchronicCdryCeyeCafterCLASIK.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:168-174,C200817)SzczesnaCDH,CKulasCZ,CKasprzakCHTCetal:ExaminationCoftear.lmsmoothnessoncorneaeafterrefractivesurger-iesCusingCaCnoninvasiveCinterferometricCmethod.CJCBiomedCOpt14:064029,C200918)LevittCAE,CGalorCA,CWeissCJSCetal:ChronicCdryCeyeCsymptomsCafterLASIK:parallelsCandClessonsCtoCbeClearnedCfromCotherCpersistentCpost-operativeCpainCdisor-ders.MolPainC11:21,C201519)LiXM,HuL,HuJetal:InvestigationofdryeyediseaseandCanalysisCofCtheCpathogenicCfactorsCinCpatientsCafterCcataractsurgery.CorneaC26:S16-S20,C200720)JungCJW,CHanCSJ,CNamCSMCetal:MeibomianCglandCdys-functionandtearcytokinesaftercataractsurgeryaccord-ingCtoCpreoperativeCmeibomianCglandCstatus.CClinCExpCOphthalmolC44:555-562,C201621)ShenZ,ZhuY,SongXetal:Dryeyeaftersmallincisionlenticuleextraction(SMILE)versusCfemtosecondClaser-assistedCinCsitukeratomileusis(FS-LASIK)formyopia:aCmeta-analysis.CPLoSOneC11:e0168081,C201622)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondlaser-assistedinsitukeratomileusis:aMeta-anal-ysis.IntJOphthalmol10:632-638,C201723)KobashiCH,CKamiyaCK,CShimizuK:DryCeyeCafterCsmallCincisionClenticuleCextractionCandCfemtosecondClaser-assist-edLASIK:meta-analysis.CorneaC36:85-91,C201724)LiCM,CNiuCL,CQinCBCetal:ConfocalCcomparisonCofCcornealCreinnervationCafterCsmallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)andCfemtosecondClaserCinCsituCkeratomileusis(FS-LASIK).PLoSOneC8:e81435,C2013706あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(62)

術後ドライアイの原因とその対処法

2020年6月30日 火曜日

術後ドライアイの原因とその対処法TheCausesandTherapeuticManagementofPostoperativeDryEye戸田郁子*Iガイドラインのサマリー筆者らは,眼科手術とドライアイの関連を明らかにするため,1)眼科手術のドライアイに及ぼす影響,2)ドライアイ患者に対する屈折矯正手術の有用性と安全性の2点をクリニカルクエスチョン(CQ)として設定し,そのエビデンスを検証した.1)眼科手術のドライアイに及ぼす影響については,角膜上皮障害(フルオレセイン染色)と涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の低下は,眼内外の前眼部手術全般によって誘発される可能性が高いことが示唆された.涙液分泌量(Schirmer値)は角膜切開または切除を行う手術〔白内障,laserinsituCkeratomileusis(LASIK)〕で低下することが示唆された.2)については,ドライアイ患者に対するCLASIKは,その有用性と安全性に関して非ドライアイ患者に対するものと同等と考えられる.術前にドライアイの患者はLASIK後も非ドライアイ患者に比較してドライアイの程度が強いことが示唆された.LASIK以外の屈折矯正術については文献が存在しなかったため,今回の調査には含まれていない.今回の調査では,各種眼科手術と術後ドライアイについて検討したエビデンスの高い研究はほとんどないことがわかった.したがって,今後のこのテーマについては,さらなる臨床研究が必須である.IIガイドラインの解説CQのうち,2)については情報が非常に少ないため,今回は1)についておもに説明する.①斜視1)(1編),②白内障2)(1編),③眼瞼下垂3)(1編),④CLASIK4~6)(3編)⑤CphotorefractiveCkeratecto-my(PRK)7)(1編)のC5種の手術に関する計C7編を選択した.いずれも手術前後比較の症例対象研究であった.BUT,Schirmer値,フルオレセイン染色,自覚症状のいずれかの検査を施行している文献を選択した.①ではBUT,フルオレセイン染色,自覚症状が術後C3カ月まで悪化した.②ではCBUT,Schirmer値,フルオレセイン染色が術後C1カ月まで悪化,Schirmer値は有意差がなかった.③ではCSchirmer値は有意差がなく,BUT,フルオレセイン染色は未施行,自覚症状は早期(2週間)でC28%が悪化,長期(6カ月以上)でC16%が悪化,13%が改善した.④ではCBUTはC3カ月まで悪化(2/3編),Schirmer値はC1カ月まで(1/3編),3カ月まで(1/3編),1年まで(1/3)悪化した.フルオレセイン染色はC1週まで(1/3),3カ月まで(1/3編)悪化,未施行(1/3編)であった.症状はC16カ月まで(1/3),3カ月まで(1/3)悪化,未施行(1/3編)であった.⑤ではCBUTは6カ月でC47.8%が悪化,Schirmer値は有意差なく,フルオレセイン染色,自覚症状は未施行であった.今回文献検索において,「ドライアイと眼科手術」のキーワードに関するものの大半の眼科手術は「LASIK」*IkukoToda:南青山アイクリニック東京〔別刷請求先〕戸田郁子:〒107-0061東京都港区北青山C3-3-11ルネ青山ビルC4階南青山アイクリニック東京C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(57)C701角膜周囲輪状神経叢基底細胞神経叢Bowman膜図1角膜内神経分布LASIKによるフラップ作製でもっとも影響を受けるのは上皮下神経叢である.図2LASIK後ドライアイのメカニズム表1LASIKとSMILE後のドライアイを比較したメタアナリシスの結果アウトカムメタアナリシス症状(OSDI)CBUTSchirmer試験涙液浸透圧角膜知覚角膜内神経密度ShenZ(2C016)CN=6S>LC1M,3M,6MS>LC1M,3M,6MCS=LCS=LCN/ACN/ACaiWT(2C017)CN=8S>LC1M,6MS>LC1M,3MCS=LCN/AS>LC1M,3MCN/AKobashiH(2C017)CN=5S>LC6MS>LC6MCS=LCS=LS>LC1M,6MS>LC1MS:SMILE,L:LASIK,M:month,N/A:検証なし,S>L:SがCLよりも優位.表2メタアナリシスに使用された参考文献メタアナリシスCAuthor最終論文数/選択論文数C①CShenC②CCaiC③CKobashiCAuthorCYearCLocationCDesignCFollow-up(mo)CInterventionCEyes(n)CMeanage(a)CPreoperativeSE(D)C6/101C8/153C5/168CLiMCDemirokACXuYCDenoyerACWangBCXiaLCLiMC2013C2013C2014C2014C2015C2016C2013CChinaCTurkeyCChinaCFranceCChinaCChinaCChinaCNRCRCTCNRCNRCNRCNRCNRC6C6C6C6C12C6C6CSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKCSMILECFS-LASIKC38C33C28C28C81C97C30C30C47C43C69C59C32C42C28.21±7.04C27.33±6.58C26.2±4.4C26.2±4.4C24.1±6.03C23.96±5.14C31.1±4.7C32.2±7.5C25.21±6.51C24.72±6.53C25.15±4.42C23.65±3.87C27.1±4.0C28.3±5.5C.6.68±1.34C.7.96±2.61C.3.9±1.5C.4.0±1.4C.5.7±1.71C.5.8±2.01C.4.65±2.38C.4.42±1.78C.7.46±1.11C.7.44±1.13C.5.04±2.32C.5.13±1.36C.6.56±1.28C.8.46±2.15C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○C○CWeiSC2013CChinaCNRC3CSMILECFS-LASIKC61C54C27.44±6.52C25.44±7.15C.5.11±1.25C.5.50±1.54○CSMILELASIK表3LASIKとSMILE後の角膜内神経密度の比較角膜中央C3Cmm,μm/mm2図3LASIKとSMILEの角膜内神経への影響術前C1WC1MC3MC6MCSMILELASIK有意差100%100%なし30.6%0.7%あり30.0%4.1%あり36.3%12.2%あり45.4%C37.6%なしを過度に控えてしまっていることが多い.術後C1カ月経過したら,むしろ眼瞼洗浄などのリッドハイジーンを徹底したほうが,MGD悪化防止のためにも有効と思われる.また,屈折矯正手術のうちCLASIKは一時的にせよ,術後ドライアイを惹起する可能性がある.このため,術前よりドライアイがある患者では,SMILEや有水晶体眼内レンズといったドライアイを起こしにくい治療を選択する配慮が必要である.まとめ以上より,眼に何らかの侵襲が加わると(手術),ドライアイが発症する可能性がある.したがって,眼科手術の前後において常にドライアイを念頭におき,涙腺機能やCMGDなどに留意することは,眼科手術の満足度や患者のCQOLの向上のために大切なポイントと考えられる.文献1)JeonCS,CParkCSH,CChoiCJSCetal:OcularCsurfaceCchangesCafterClateralCrectusCmuscleCrecession.COphthalmicCSurgLasersImagingC42:428-433,C20112)LiXM,HuL,HuJetal:InvestigationofdryeyediseaseandCanalysisCofCtheCpathogenicCfactorsCinCpatientsCafterCcataractsurgery.CorneaC26(Suppl1):S16-S20,20073)DaileyCRA,CSaulnyCSM,CSullivanSA:MullerCmuscle-con-junctivalresection:e.ectConCtearCproduction.COphthalCPlastReconstrSurgC18:421-425,C20024)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Laser-assist-edCinCsituCkeratomileusisCforCpatientsCwithCdryCeye.CArchCOphthalmolC120:1024-1028,C20025)BattatL,MacriA,DursunDetal:E.ectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocu-larsurface.OphthalmologyC108:1230-1235,C20016)ShresthaCGS,CWaghCS,CDarakA:EvaluationCofCtearC.lmCstabilityCbeforeCandCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CNepalJOphthalmolC3:140-145,C20117)HongCJW,CKimHM:TheCchangesCofCtearCbreakCupCtimeCafterCmyopicCexcimerClaserCphotorefractiveCkeratectomy.CKoreanJOphthalmolC11:89-93,C19978)BattatL,MacriA,DursunDetal:E.ectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocu-larsurface.OphthalmologyC108:1230-1235,C20019)TodaCI,CAsano-KatoCN,CHori-KomaiCYCetal:DryCeyeCfol-lowingClaserCinCsituCkeratomileusis.CAmCJCOphthalmolC132:1-7,C200110)WilsonS:Laserinsitukeratomileusis-induced(presumed)CneurotrophicCepitheliopathy.COphthalmologyC108:1082-1087,C200111)MullerCLJ,CMarfurtCCF,CKruseCFCetal:Cornealnerves:Cstructure,CcontentsCandCfunction.CExpCEyeCResC76:521-442,2003Review.Erratumin.ExpEyeResC77:253,C200312)LeeCB,CMclarenCJ,CEricCJCetal:ReinnervationCinCtheCcor-neaCafterCLASIK.CInvestCOphthalmolCVisSci43:3660-3664,C200213)SongXJ,LiDQ,FarleyWetal:Neurturin-de.cientmicedevelopCdryCeyeCandCkeratoconjunctivitisCsicca.CInvestCOphthalmolVisSciC44:4223-4229,C200314)TodaCI,CAsano-KatoCN,CHori-KomaiCYCetal:DryCeyeCenhancementby.ap-liftinginlaserinsitukeratomileusis.CJRefractSurgC22:358-362,C200615)CalvilloCMP,CMclarenCJW,CHodgeCDOCetal:CornealCrein-nervationCafterLASIK:prospectiveC3-yearClongitudinalCstudy.InvestOphthalmolVisSciC45:3991-3996,C200416)KonomiK,ChenLL,TarkoRSetal:Preoperativecharac-teristicsCandCaCpotentialCmechanismCofCchronicCdryCeyeCafterCLASIK.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:168-174,C200817)SzczesnaCDH,CKulasCZ,CKasprzakCHTCetal:ExaminationCoftear.lmsmoothnessoncorneaeafterrefractivesurger-iesCusingCaCnoninvasiveCinterferometricCmethod.CJCBiomedCOpt14:064029,C200918)LevittCAE,CGalorCA,CWeissCJSCetal:ChronicCdryCeyeCsymptomsCafterLASIK:parallelsCandClessonsCtoCbeClearnedCfromCotherCpersistentCpost-operativeCpainCdisor-ders.MolPainC11:21,C201519)LiXM,HuL,HuJetal:InvestigationofdryeyediseaseandCanalysisCofCtheCpathogenicCfactorsCinCpatientsCafterCcataractsurgery.CorneaC26:S16-S20,C200720)JungCJW,CHanCSJ,CNamCSMCetal:MeibomianCglandCdys-functionandtearcytokinesaftercataractsurgeryaccord-ingCtoCpreoperativeCmeibomianCglandCstatus.CClinCExpCOphthalmolC44:555-562,C201621)ShenZ,ZhuY,SongXetal:Dryeyeaftersmallincisionlenticuleextraction(SMILE)versusCfemtosecondClaser-assistedCinCsitukeratomileusis(FS-LASIK)formyopia:aCmeta-analysis.CPLoSOneC11:e0168081,C201622)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondlaser-assistedinsitukeratomileusis:aMeta-anal-ysis.IntJOphthalmol10:632-638,C201723)KobashiCH,CKamiyaCK,CShimizuK:DryCeyeCafterCsmallCincisionClenticuleCextractionCandCfemtosecondClaser-assist-edLASIK:meta-analysis.CorneaC36:85-91,C201724)LiCM,CNiuCL,CQinCBCetal:ConfocalCcomparisonCofCcornealCreinnervationCafterCsmallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)andCfemtosecondClaserCinCsituCkeratomileusis(FS-LASIK).PLoSOneC8:e81435,C2013706あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(62)

ドライアイと全身薬の関係は

2020年6月30日 火曜日

ドライアイと全身薬の関係はTheRelationshipBetweenDryEyeandSystemicDrugs福井正樹*はじめに2016年に改訂されたドライアイの定義にも含まれるように,ドライアイの発症要因は多岐にわたる.その中には全身疾患や全身疾患の治療によって誘発されるドライアイがあると考えられる.『ドライアイ診療ガイドライン』(2019年)のCQ20,21はこれらに対する解説を行っている1).Iガイドラインのサマリー筆者らが担当したガイドラインの「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」とは介入に関するクリニカルクエスチョン(CQ)ではないため推奨文は示さず,横断研究をメタアナリシスすることで得た結果として,全身疾患とドライアイの罹患の関係は免疫が関連する疾患(膠原病)がドライアイの罹患リスクを上げることと,生活習慣病とドライアイとの関連はないことを示した.また,全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガ3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることを示した.II日常生活・全身疾患との関連(CQ20)CQ20では,「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」について解説を行った.なお,この項は介入に関するCQではないため推奨文は示さず,次の文章を掲載するにとどめた.『ドライアイはさまざまな要因で発症する.その中には全身疾患と関連するものが報告されている.今回我々はCQとして「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」を挙げ,分析疫学的研究の一つ,横断研究を主としてさまざまな全身疾患によるドライアイのオッズ比を統合分析した.詳細は解説に譲るが,傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイに罹患するリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった.また,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎ではドライアイのリスクを上げる結果となった.ただし,今回は疫学調査の文献を中心に検索・解析を進めたため,対象論文数が少ないこと,それによる被験者の背景が異なることが問題であり,今後背景を調整した結果が期待される.また,性別や年齢ごとの各疾患のドライアイの関連の解析が臨床現場での活用につながると考えられる.』1.解析の手法無作為化比較試験はエビデンスレベルの高い研究デザインと考えられるが,本CQに該当する研究はなく,分析疫学的研究の一つである横断研究をメタアナリシスすることで解析する手法を用いた.*MasakiFukui:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕福井正樹:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(49)693具体的にはPubMed,医中誌Web,CochraneLibrary(CDSRCCTR)で検索された2002.2015年に発行された文献を対象とした.「dryeye(ドライアイ,乾性角結膜炎)」「diabete(糖尿病)」「depression(うつ病)」「facialparalysis(顔面麻痺)」「hepatitisC(C型肝炎)」「rheumatoidarthritis(関節リウマチ)」「thyroiddisease(甲状腺疾患)」などのキーワードをもとに一次スクリーニングを行ったところ,336編が対象となった.そのうち,タイトル・要約から「①ヒューマンスタディではない,②トピックと無関係,③クオリティーが悪い」をふるい落す二次スクリーニングを行ったところ86編が対象となった.そのうち,横断研究である疫学調査を行った9編2.10)を対象とした.統計解析にはオープンソースのフリーソフトウェア「R」を用い,そのパッケージソフト「metafor」でメタアナリシスを行った.メタアナリシスとは多数の研究結果を統計学的に統合し,よりエビデンスの高い解析結果を求めるものである.なぜならば個別の結果では有意ではない統計結果にも統合して解析を行うと有意な差を認めることがあったり,その逆に個別の結果では有意な統計結果も統合して解析を行うと有意な差を認めないことがあったりするからである.対象数の多くなるメタアナリシスのほうがエビデンスが高いと考えられる.もちろん,主観的にあるいは恣意的に論文選択を行うとバイアスが生じるため,採択される論文は原則設定期間内の全論文を採択し,さらに採択される個々の論文もエビデンスの高いものである前提が必要となる.また,論文が公表されるに当たって出版バイアス(否定的な結果が論文としては公表されにくい)を考えると,今回採択した疫学調査を基に採択した論文は比較的バイアスが入りにくいと考えられる.2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表1の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表2である.実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(for-estplot)を作成し,その結果を数値化で表示したのが表2である.フォレストプロットの例をいくつかみてみる.図1に関節炎(関節リウマチ)と糖尿病のドライアイのオッズ比のフォレストプロットを示した.関節炎(図1a)について,Tanらの文献3)では95%信頼区間が1を挟んでおり,関節炎がドライアイのリスクになると言いきれないが,そのほかの文献を含めたメタアナリシスの結果は95%信頼区間を含めて1を超えており,リスクとなる結果となっている.同様に糖尿病(図1b)についてもみてみる.フォレストプロットをみると,文献によりオッズ比が信頼区間を含み1未満のもの,1をまたぐもの,1を超えるものといろいろである.メタアナリシスを行った結果,95%信頼区間を含めてオッズ比は1を超えているが,Galor(2012)6)の対象数が多く,この文献の結果にメタアナリシスの結果が大きな影響を受けている.ガイドライン本文に詳細は説明しなかったが,Galor(2012)のデータを除いたメタアナリシスではオッズ比の95%信頼区間は1を挟んでおり,一つの文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられ,エビデンスとしては弱いと考えた.ガイドライン本文には各項目のフォレストプロットを示しているので参考にされたい.この結果をもとに本CQ20のサマリーを「傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイのリスクを上げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる成人病とドライアイの関連は明らかでなかった」と示した.3.その他本文には解析結果のほか,疫学研究ではないが,全身疾患の項目ごとに検討された論文についても紹介した.たとえば,本解析結果でも触れたが,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎はドライアイのリスクを上げる結果となっており,これは今回対象となった論文以外にもC型肝炎とドライアイやSogren症候群との関連を示唆する論文がみられることに一致する.その他,ビタミンA欠乏症,HTLV1との関連を示す論文がみられたこと,国内からドライアイ診断基準(2006年版)で判定を行うと眼瞼けいれん患者がドライアイと判定されてしまうことへの注意を喚起する報告があった694あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(50)表1「CQ20:ドライアイと全身疾患との関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CTanLL2015CUchinoM2013(MEN)CUchinoM2013(WOMEN)CZhangY2012CGalorA2012CGalorA2011CUchinoM2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICAlcoholdependenceC2.752.341.542.320.802.231.300.262.121.661.271.39C1.961.421.191.550.491.191.050.191.171.291.140.840.96C3.883.861.993.451.314.181.610.342.073.482.421.932.03C1.760.44C0.980.10C3.161.85C0.991.341.221.291.62C0.570.940.620.870.91C1.701.902.361.912.87C0.950.852.390.731.48C0.580.641.460.510.89C1.571.113.901.032.48C1.41C0.89C2.48C1.002.482.192.041.441.141.001.681.002.281.891.841.681.661.442.682.241.991.92C0.982.442.162.011.421.120.981.650.912.231.851.821.651.631.422.602.191.961.86C1.022.522.232.071.461.161.021.721.102.341.931.871.721.681.462.752.302.031.97C1.272.352.041.541.840.681.101.301.381.341.341.101.192.081.901.932.021.101.96C0.851.811.531.171.420.510.830.820.700.970.990.830.771.591.421.081.550.831.21C1.913.062.702.012.390.911.452.072.761.841.831.471.852.722.543.462.641.473.16C0.75C0.34C1.65C1.315.701.191.54C1.054.370.841.17C1.647.511.702.03C2.021.351.401.431.951.58C1.671.021.131.061.341.24C2.431.791.721.922.832.03AllergyArthritisAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionDiabetesmellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutHBVHCVHIVHypertension(HT)CHypercholesterolemiaMyocardialinfarctionoranginaCObesityOsteoporosisProstatecancerPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)C1.56CRosaceaSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeThyroiddiseaseCOR:オッズ比,CI:信頼区間.表2全身疾患とドライアイのオッズ比全身疾患CMeta-analysisCOR95%CCICAlcoholdependenceCAllergyCArthritisCAutoimmunediseaseCBenignprostatichypertrophy(BPH)CDepressionCDiabetes.mellitus(DM)CDrugdependenceCFracturehistoryCGoutCHBVCHCVCHIVCHypertension(HT)CHypercholesterolemiaCMyocardial.infarctionoranginaCObesityCOsteoporosisCProstatecancerCPsychiatricillnessCPosttraumaticstressdisorder(PTSD)CRosaceaCSleepapneaCSleeppoorlyCStrokeCThyroiddiseaseC1.00C1.31C2.48C2.19C2.04C1.44C1.14C1.00C1.40C1.68C0.80C2.23C1.01C2.25C1.89C1.84C0.51C1.95C1.68C1.66C1.44C2.67C2.24C1.41C1.99C1.90C0.98C1.05C2.44C2.16C2.01C1.42C1.12C0.98C1.13C1.65C0.49C1.19C0.92C2.19C1.85C1.82C0.42C1.34C1.65C1.64C1.42C2.59C2.18C1.10C1.96C1.85C1.02C1.64C2.52C2.232.07C1.46C1.16C1.02C1.72C1.72C1.31C4.18C1.102.30C1.92C1.87C0.62C2.83C1.72C1.68C1.46C2.75C2.30C1.80C2.02C1.95OR:オッズ比,CI:信頼区間.CWan-JuYangLiLiTanMikiUchino(MEN)ScotE.MossMikiUchino(WOMEN)StudyReferenceStudyReferenceScotE.MossScotE.MossScotE.MossAnatGalorAnatGalorAnatGalorAnatGalorSummarySummary1.001.582.513.986.310.630.791.001.261.582.00OddsRatioOddsRatioa関節リウマチのドライアイへのオッズ比の例b糖尿病のドライアイへのオッズ比の例図1Forestplotの例表3「CQ21:全身疾患治療とドライアイとの関係は?」でメタアナリシスに用いた文献と調査されたデータYangWJ2015CGalorA2012CGalorA2011CMossSE2008CMossSE2000COR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICOR95%CCICACEinhibitorsCAngiotensinreceptorantagonistsCAntianxietydrugsCAnti-benignprostatichyperplasia(BPH)CAntidepressantsCAntihistaminesCAspirinusageCBetablockersCCalciumchannelblockersCChemotherapyCCholesterolloweringmedicationsCDiureticsCHeadandneckradiotherapyCHematopoieticstemcelltransplantationCOmega-3fattyacidsCPostmenopausalestrogentherapyCSteroidCVitaminsupplementsC1.79C2.07C2.66C1.80C16.34C4.06C0.47C1.72C0.70C1.21C1.53C1.55C1.38C3.74C1.52C0.32C1.10C0.54C2.64C2.81C4.58C2.35C71.27C10.86C0.70C2.70C0.90C1.69C1.77C1.94C2.31C1.79C2.25C1.89C1.84C1.83C2.00C2.09C1.67C1.74C1.91C2.28C1.76C2.22C1.86C1.82C1.75C1.96C2.06C1.72C1.80C1.97C2.35C1.82C2.28C1.92C1.87C1.91C2.04C2.12C1.00C1.30C1.65C1.53C1.84C2.54C1.10C1.31C1.09C1.30C0.77C0.89C1.28C1.18C1.42C1.97C0.84C1.00C0.83C0.95C1.31C1.91C2.13C1.99C2.38C3.27C1.43C1.71C1.43C1.78C0.91C1.62C1.64C1.34C1.07C1.24C1.60C1.39C0.66C1.15C1.06C0.97C0.76C0.97C1.05C1.09C1.24C2.292.53C1.85C1.51C1.58C2.46C1.77C1.56C1.22C0.84C1.06C1.50C1.09C0.99C0.61C0.77C1.19C2.23C1.50C1.17C1.44C1.89OR:オッズ比,CI:信頼区間.表4全身疾患治療とドライアイのオッズ比OR:オッズ比,CI:信頼区間.リシスを行った.C2.解析結果今回採択した各文献と,それに含まれる項目,各文献でのオッズ比,95%信頼区間は表3の通りである.この各項目のデータを用い,メタアナリシスを行った結果が表4である.CQ20同様に実際にはメタアナリシスのフォレストプロット(forestplot)を作成し,その結果を数値化で表示したものが表4になる.フォレストプロットはCCQ20同様ドライアイガイドラインに示しているので参考にされたい.CQ21でも,Galor(2012)6)のデータは対象数が多く,この文献の結果がメタアナリシスの結果に影響を強く与えすぎていると考えられたため,エビデンスとしては弱いと考えた.これを考慮し.本CCQ21のサマリーを「全身疾患の治療とドライアイの罹患の関係においては,頭頸部放射線治療,骨髄移植がドライアイの罹患リスクを上げており,オメガC3脂肪酸はドライアイ罹患抑制効果があることが示唆された」とした.CIV問題点と課題CQ20,21の共通の問題点としては①文献数が少ないこと,②年齢,基準,性別,人種が揃っていないこと,③該当文献の中に検討症例数の多い文献があり,結果がその文献の影響を受けてしまったことをあげた.①に関してはCCQ20の「解析の手法」でも解説したように,文献を個別ごとに検討するよりも統合解析したほうがエビデンスが高くなり,その文献数が多いほどエビデンスが高くなる.今後疫学調査が進み,その文献数が増えてくればさらに全身疾患や治療法とドライアイの関係が明らかになる可能性が高いと考える.②に関しては解析の目的に合せて,年齢・基準・性別・人種などの対象の背景を合せる必要が出てくる.たとえば日本人のドライアイを検討するのであれば日本人を対象にした文献をメタアナリシスすることになり,男性のドライアイを検討するのであれば男性のみでメタアナリシスを行うことになる.ただし,対象を絞れば絞るほど対象文献や対象数が減り,解析結果のエビデンスが低くなるのが問題である.今回の検討も対象文献数が少ないことから背景を揃えることなくメタアナリシスを行ったが,今後文献数が増えれば背景を絞った解析が可能になると考える.③に関しては本検討においてはCGalor(2012)6)の調査件数が多く,その結果にメタアナリシスの結果が影響を強く受けている.そのため,対象文献のメタアナリシスの結果とCGalor(2012)の文献を除いて行ったメタアナリシスの結果が一致する結果をエビデンスがより高いと判断して採用した.また,全身疾患に伴うドライアイは全身疾患そのものがドライアイの危険因子なのか,治療薬・治療法が危険因子なのかの検討不十分と考えられる.たとえばうつ病はCCQ20でオッズ比が高いが,抗うつ薬内服もCCQ21でオッズ比が高い.うつ病の中には抗うつ薬を内服していない対象者も,すでに抗うつ薬を内服している対象者も含まれていると考えられ,うつ病がドライアイ発症のリスクを上げるのか,抗うつ薬がドライアイ発症のリスクを上げるのかは本検討からだけではわからない.これを検討するには全身疾患の病態生理がドライアイ発症に関連するかどうか,治療薬・治療法の薬剤動態・治療機序がドライアイ発症に関連するかどうか,そして,対照群をおいて,治療開始前後でドライアイ発症がどう変化するかを検討し,統合的に検討すると疾患がドライアイに関連するのか,治療薬・治療がドライアイに関連するのか,両者がドライアイと関連するのか検討していく必要があると考える.おわりにCQ20,21ともに疾患・治療とドライアイとの関連性が注目されている段階であり,エビデンスの強い結論が出ていない状態と考える.そのために実際の臨床現場ではドライアイと関連性のありそうな疾患・治療に対してドライアイの検査を行い,自覚症状や涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の短縮,角結膜障害を診ながらドライアイ治療を行うのが現状と考える.今後,報告数が増えるとともにドライアイと関連の強い疾患・治療法が判明してきた際に個々の疾患に対するドライアイへの検査の頻度や重要性,治療のアプローチ698あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(54)

Sjögren症候群のドライアイの管理

2020年6月30日 火曜日

Sjogren症候群のドライアイの管理TheManagementofDryEyeinSjogren’sSyndrome高村悦子*はじめに筆者は『ドライアイ診療ガイドライン』(2019)でCQ17「Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?」を担当した.Sjogren症候群(Sjogren’ssyndrome:SS)のドライアイについては,すでに,『シェーグレン症候群診療ガイドライン2017』(自己免疫調査研究班編集)が発刊されており,そこでもドライアイの治療の推奨作成を行っており,これも参考にクリニカルクエスチョン(CQ)を考えた.ここでは,SSのドライアイに対し,日常診療で行っている治療法について,ガイドラインで推奨する治療とあわせ紹介する.IガイドラインのサマリーSS患者のドライアイの自覚症状,涙液安定性,上皮障害の改善と有害事象をアウトカムとして,Minds診療ガイドライ作成マニュアルの方法に従い,論文のエビデンスの強さを考慮した方法でシステマティックレビューを行った.治療法としては現在,日本でドライアイの治療法として行われているレバミピド点眼,ジクアホソルナトリウム点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,涙点プラグ,またドライマウスの治療薬として保険適用であるセビメリン内服,ピロカルピン内服とした.推奨の強さは,表1に示すとおりである.SSに伴うドライアイの治療として「実施することを推奨する」としたのはジクアホソルナトリウム点眼と涙点プラグであり,レバミピド点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,セビメリン内服,ピロカルピン内服は「実施することを提案する」となった.ジクアホソルナトリウム点眼,涙点プラグはSSのドライアイに対し,有効性の指標となる涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状のいずれにも有意な改善がみられた.有害事象として,涙点プラグには,自然脱落,涙点の肉芽形成があげられるが,これはSS以外のドライアイと同程度であり,重大な報告はみられていないと判断し,治療の選択肢として推奨することとした.しかし涙点プラグは外科的治療であり,設備やある程度の習熟を伴うため,施行できない施設があるといった問題が残る.一方,レバミピド点眼,ヒアレイン点眼は,検討された項目については改善を認めてはいるが,SSのドライアイに対する治療の有効性について,目的とするアウトカムに合致した検討が十分されておらず,エビデンスが乏しかったため,提案に留めた.ステロイド点眼は短期間での症状の改善を経験する一方,眼圧上昇,感染症といったドライアイ以外の副作用のモニターが必要であり,通院回数などの患者の負担を考え提案とした.セビメリン内服,ピロカルピン内服は唾液分泌同様,涙液分泌の可能性もあるものの,ドライアイに対しては,保険適用とはなっていない.適応,禁忌の見きわめ,全身的な副作用を生じる可能性があることを考え,提案とした.*EtsukoTakamura:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(41)685表1Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?(ガイドラインのサマリー)推奨提示(1)レバミピド点眼は,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(2)ジクアホソル点眼は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(3)ヒアルロン酸点眼は角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(4)ステロイド点眼は,角結膜上皮障害,涙液安定性,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(5)涙点プラグは,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(6)セビメリン内服,ピロカルピン内服は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.表2Sjogren症候群診断基準(厚生省改訂診断基準,1999年)1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)口唇腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上B)涙腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)唾液腺造影でCStageI(直径C1Cmm未満の小点状陰影)以上の異常所見B)唾液分泌量低下(ガム試験にてC10分間でC10Cml以下またはCSaxonテストにてC2分間でC2Cg以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつローズベンガル試験(vanBijsterveldscore)でC3以上B)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつ蛍光色素試験で陽性4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)抗CRo/SS-A抗体陽性B)抗CLa/SS-B抗体陽性<診断基準>上のC4項目のうち,いずれかC2項目以上を満たせばCSjogren症候群と診断する眼科検査の項目は,Schirmer試験と染色試験の組み合わせで判定する.(文献C1より引用)表3ACR分類基準(2012年)1.血清抗CSS-A抗体Cand/or抗CSS-B抗体あるいはリウマチ因子陽性かつ抗核抗体C320倍以上2.口唇唾液腺生検でCfocusscore1以上3.眼染色スコア(OSS12点満点中)≧3陽性:3項目中C2項目以上を満たせばCSSと分類除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患ドライアイの評価にCSchirmer試験は含まれていない.結膜染色にはフルオレセイン,結膜染色にはリサミングリーンを用いる.評価は眼染色スコア(ocularstainingscore:OSS)で行う.(文献C3より引用)表5眼染色の評価項目の比較厚生省基準vanBijsterveldscore≧3(ローズベンガル)or蛍光色素試験陽性(角膜)AECG基準vanBijsterveldscore≧4(ローズベンガル)ACR基準ocularstainingscore≧3ACR/EULAR基準vanBijsterveldscore≧4orocularstainingscore≧5各診断基準におけるドライアイの評価の違い.表4ACR.EULARの一次性SS分類基準(2016年)Weight/Score・口唇唾液腺の巣状リンパ球性唾液腺炎でCfocusscore≧1C3・抗CSS-A(Ro)抗体陽性C3・少なくとも一方の目でCOSS≧5(あるいはCvanBijsterveldscore≧4)C1・少なくとも一方の目でCSchirmerテスト5Cmm/5分以下C1・無刺激唾液分泌量C0.1Cml/5分以下C1合計C4点以上で一次性CSSと分類適用基準:眼あるいは口腔乾燥症状のある患者,あるいはESSDAIでCSS疑いの患者除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患染色法は,ACR基準と同様.眼染色の評価には,ocularstain-ingscore(OSS)またはCvanBijsterveldscoreで行う.(文献C4より引用)図1TFOTから考えるSjogren症候群のドライアイの治療Sjogren症候群のドライアイでは,まず液層,とくに水分の強化が必要().液層のムチン,粘膜上皮の改善も症状改善に役立つ().(ドライアイ研究会ホームページChttp://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlより)-善が報告されている9).角膜上皮障害の程度が強い場合には点眼時の刺激感の訴えがあるが,点眼を継続し,涙液安定性が改善してくると,この刺激感も緩和され継続可能となることを経験する.ムチンの分泌の程度によっては,透明な分泌物を自覚することはあるが,これは分泌型ムチンの増加,つまり効果と考えられ,そのために使用を中断することはあまりない.2010年にジクアホソルナトリウム点眼が処方可能となったあとも,点眼後のつけ心地の点でヒアルロン酸点眼を好むCSSのドライアイ患者は少なくなかった.最近では,つけ心地がよいことが点眼薬本来の効果ではないことや,点眼継続により刺激感が軽減する可能性について処方時に説明しておけば,点眼中止に至ることは避けられる.いずれのドライアイの治療も,涙点プラグ以外は即効性は期待できないが,継続していくうちに症状の改善が得られる.ヒアルロン酸点眼の継続で症状の改善がみられないドライアイ患者に対しては,まず,ジクアホソルナトリウム点眼を併用してみる.その後症状の改善傾向がみられ,点眼の刺激感がなくなってくれば,ジクアホソルナトリウム点眼のみに変更し継続することで,患者もジクアホソルナトリウム点眼の効果を実感しやすい.C2.涙点プラグ重症なCSSであっても涙腺がすべて破壊されているわけではない.ごく少量の涙液分泌は行われていることが多い.涙点プラグで上下の涙点を塞ぐことで,涙液の貯留が期待できる.現在点眼薬として処方できるもので,成分として涙液に勝るものではない.今回のシステマティックレビューの結果,SSのドライアイに対する涙点プラグ挿入により,Schirmer試験CI法,BUTは有意な改善を認め,角結膜上皮障害の改善も示され,また涙点プラグ群が人工涙液群に比べより改善したことが示されていた10).一方,有害事象として,肉芽形成,感染症が生じる可能性があるが,SSのドライアイの場合に頻度が高いということではなかった.涙点プラグ施行後は定期的な経過観察により,肉芽形成や感染症の悪化は防ぐことが可能と思われる.3.ヒアルロン酸点眼ヒアルロン酸点眼は,高分子であり涙液を眼表面に保持する働きが期待できる.今回の検討では,SSのドライアイに対し角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性があるものの,涙液安定性の改善は不明であった11).BUTパターン12)がCareabreakを示す重症な涙液減少型ドライアイでは,眼表面の残り少ない涙液をヒアルロン酸が取り込んでしまうことで,むしろ涙液の安定性を悪化させる可能性が考えられる.したがって,SSの典型的なドライアイに対しては,患者の要望がよほど強い場合を除き,ヒアルロン酸点眼の選択は行っていない.ジクアホソルナトリウム点眼はヒアルロン酸点眼に比べ,ドライアイの角膜所見の改善に有効性が認められており13),重症ドライアイに対しては,まずジクアホソルナトリウム点眼を選択している.C4.レバミピド点眼レバミピド点眼は膜型ムチンの発現増加,分泌型ムチンの分泌亢進,杯細胞の増加に働く.その結果,涙液安定性を高める.とくに摩擦による角結膜上皮障害の改善が早期に得られ,自覚症状の改善が期待できる14).SSのドライアイに対し,角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性はあるが,レバミピド点眼単独ではSchirmer試験,BUTなどの涙液安定性を短期間に改善させる可能性は少ない15).ただし,涙点プラグやジクアホソルナトリウム点眼を開始しても,とくに眼瞼との摩擦を生じる部位に角結膜上皮障害が継続し,自覚症状の改善が得られない場合には,レバミピド点眼を追加,または切り替えることで症状が改善することを経験する.C5.ステロイド点眼SSの角膜障害は涙液の量的,質的変化を反映していると考えている.一方,結膜上皮障害は,それに加え,SSや重症ドライアイの病態に関連した結膜上皮自体の炎症を反映しているのかもしれない.1995年にヒアルロン酸点眼薬が処方可能となる以前には,SSのドライアイに対し,防腐剤無添加人工涙液の継続とステロイド点眼の併用による治療を行っていた.結膜局所の炎症は,涙液安定性の低下の悪循環を形成することが考えら(45)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C689れる.ステロイド点眼はこの悪循環を改善する可能性がある.0.1%フルオロメトロン点眼は,シクロスポリン点眼との比較16),プラセボとの比較17)で,自覚症状,角結膜上皮障害の改善とともに,BUTの有意な延長が認められることが報告されている.しかし,日常診療においては,ステロイド点眼による眼圧上昇や眼感染症の悪化に注意を払う必要がある.C6.セビメリン内服,ピロカルピン内服涙腺は,唾液腺と同様,副交感神経から分泌されるアセチルコリンが涙腺のCM3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体と結合することで,涙液分泌が起こる.セビメリン,ピロカルピンはこの受容体に対しアゴニストとして働き,涙液の分泌を促すことが確認されている.SSのドライアイに対しセビメリン内服は自覚症状,涙液安定性,角結膜上皮障害の改善効果が示されている18).ピロカルピン内服もほぼ同様な効果が期待できる19).副交感神経作動薬の全身投与であるため,嘔気などの消化器症状,発汗,頻尿などを生じることがある.虹彩炎患者では縮瞳が症状を悪化させることがあるため,添付文章では禁忌と記載されている.日本では,いずれの内服もドライアイに対しては保険適用にはなっていない.CVガイドラインで触れられていないCQとその答え「ステロイド,免疫抑制薬,生物学的製剤はCSSのドライアイに有用か?」SSは全身の自己免疫機序による疾患であり,その発症にかかわるサイトカインや免疫細胞,免疫分子を標的とした生物学的製剤などの治療戦略も展開されはじめている.これらの全身治療薬は,SSの腺病変における免疫学的異常に作用し,涙液分泌を改善することが期待されている.しかし,ステロイド,免疫抑制薬(シクロスポリン20),アザチオプリン),ヒドロキシクロロキン21),生物学的製剤(リツキシマブ22),アバタセプト)による涙液分泌量,乾燥症状の有意な改善はいずれも認められていない.今後,病態に即した,根本的な治療法の開発が待たれるところである.おわりにSSのドライアイの管理としては,現在保険適用となっている治療薬,涙点プラグを組み合わせ,経過観察を続けることで,ドライアイ症状の改善は得られるようになってきた.一方,SSは全国指定難病にも認定されているように,腺外症状を含めた全身の管理が重要である.膠原病を専門とする内科医,ドライマウスの管理ができる歯科,耳鼻咽喉科医との連携により,SS患者にとって満足が得られる管理ができるのではないだろうか.文献1)FujibayashiCT,CSugaiCS,CMiyasakaCNCetal:RevisedCJapa-neseCcriteriaCforCSjogren’ssyndrome(1999):availabilityCandvalidity.ModRheumatolC14:425-434,C20042)VitaliC,BombardieriSJonssonRetal:Classi.cationcri-teriaCforCSjogren’ssyndrome:aCrevisedCversionCofCtheCEuropeanCcriteriaCproposedCbyCtheCAmerican-EuropeanCconsensusgroup.AnnRheumDisC61:554-558,C20023)ShiboskiCSC,CShiboskiCCH,CCriswellCLACetal:AmericanCcollegeofrheumatologyclassi.cationcriteriaforSjogren’ssyndrome:aCdata-driven,CexpertCconsensusCapproachCinCtheCSjogren’sCinternationalCcollaborativeCclinicalCallianceCcohort.ArthritisCareResC64:475-487,C20124)ShiboskiCCH,CShiboskiCSC,CSerorCRCetal:2016CAmericanCcollegeCofCrheumatologyC/EuropeanCleagueCagainstCrheu-matismCclassi.cationCcriteriaCforCprimaryCSjogren’sCsyn-drome.AnnCRheumDis76:9-16,C20175)WhitcherJP,ShiboskiCH,ShiboskiSCetal:Asimpli.edquantitativeCmethodCforCassessingCkeratoconjunctivitisCsiccaCfromCtheCSjogren’sCsyndromeCinternationalCregistry.CAmJOphthalmolC149:405-415,C20106)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20177)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.EyeC29:204-212,C20158)HyunCSJ,CJoonYH:TheCe.cacyCofCdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnon-SjogrenCandCSjogrenCsyndromeCdryCeyeCpatientsunresponsivetoarti.cialtears.JOculPharmacolTher32:463-468,C20169)KohCS,CMaedaCN,CIkedaCCCetal:E.ectCofCdiquafosolCoph-690あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(46)’C’C-’C’C’C

涙点プラグはどう使う

2020年6月30日 火曜日

涙点プラグはどう使うHowtoUsePunctalPlugsforDryEyes小室青*Iガイドラインの解説涙点閉鎖の方法は涙点プラグ,コラーゲンプラグ,外科的涙点閉鎖術などさまざまあるが,介入試験の文献が少ないため,CQ16(表1)では涙点プラグとなっているが,実際にはすべての涙点閉鎖の方法をまとめてシステマティックレビュー(systematicreview:SR)を行っている1~6)(表2).CQ16の対象は,基本的にはC2006年版の日本のドライアイ診断基準を満たすと考えられる点眼治療で効果不十分なドライアイ患者であるが,laserCinCsitukeratomileusis(LASIK)後のドライアイ患者を対象としたものC2編,トラコーマによる瘢痕を伴うドライアイ患者を対象としたものC1編を含んでいる.また,プラグの挿入法も,プラグの種類,挿入部位(下涙点のみ挿入してるものがC3編あり)もさまざまであった.ドライアイでは,自覚症状の改善がもっともも重要なアウトカムと考えられるが,自覚症状を評価したC5編すべてで自覚症状の有意な改善を認めており,涙点プラグは自覚症状の改善に有効な治療であると判断されている.涙液安定性のアウトカムとしては,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)とCSchirmer値を用いているが,BUTは4編中3編で,Schirmer値は5編中3編で改善を認めており,涙点プラグは涙液安定性の改善に有効な治療であると考えられた.BUTとCSchrimer値が改善しなかったものは,LASIK後のドライアイを対象としており,角膜知覚の低下やプラグが下涙点のみであった表1ガイドラインのサマリー(CQ16とCQ17)ことが影響している可能性があると考えられた.有害事象としては,流涙が,一つの無作為化比較試験(ran-domizedCcontrolledtrial:RCT)でC30例中C1例認められ1),軽度の流涙が一つの比較試験でC3例(14%)1),もう一つのCRCTではプラグの不快感をC10例中C1例に認めたと報告されており3),いずれも発生頻度は高くなかった.また,CQ17「Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?」でも涙点プラグを取り上げており,4編の論文のCSRを行っている7~10).涙点プラグ治療(すべて上下涙点へのプラグ挿入)は,角結膜上皮障害C4編中4編,BUT2編中2編,Schirmer値C4編中3編,自覚症状C2編中2編で改善しており,有効な治療であると考えられ,治療の選択肢として推奨することとなっている(表1).CQ19「コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう*AoiKomuro:四条烏丸眼科小室クリニック,京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕小室青:〒604-8152京都市中京区烏丸通蛸薬師下る手洗水町C652四条烏丸眼科小室クリニックC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(33)C677表2SRのまとめ文献対象CStudydesign涙点閉鎖の方法閉鎖涙点自覚症状SchirmerI法CBUT上皮障害合併症CCQ16自覚症状,フルオスコアコラーゲン,シリコーンRCT上下改善改善流涙1例C1以上,結膜炎C(Herrick)コラーゲンプラグ効果あ比較試験シリコーン(Herrick)上下改善C↑C↑改善流涙C3例(14%)Cったトラコーマシクロスポリン併自覚症状,RBスコアC2RCTシリコーン(パラソル)下C↑用で改善.単独で不快感C1例C以上Cは改善なし関節リウマチに伴うドラ比較臨床試験Chypromellose下改善(VS)C↑C↑改善CイアイLASIK後,Schirmerシリコーン(punctal比較臨床弛緩下改善(OSDI)有意差なし有意差なし有意差なし<1C0orBUT<1C0除外plug)LASIK後(点眼効果なし)比較臨床試験シリコーン(eagleplug)上下改善有意差なしC↑改善C123456CQ17SSSchirmer<5,BUTthermosensitiveacrylic肉芽形成C1例RCTC上下改善(OSDI)C↑C↑改善<5,自覚症状Cmaterial(SmartPlug)涙点感染症C2例CSSSchirmer<5,BUTシリコーン(Eagleplug,流涙C4例(2C1.1%)観察研究上下改善なし改善<5,上皮障害punctalplug)肉芽1例3涙点Cシリコーン(punctalSS観察研究上下改善C↑改善Cplug)SSSchirmer<5,BUT観察研究焼灼上下C↑C↑改善C<10,上皮障害78910CQ19吸収性プラグ(EXTENDCコントロール群CLDEQによる自己診断CRCT下AbsorbableSyntheticと有意差なしCL不耐,MST<Cシリコーン(Herrick1カ月後改善1カ月後改善RCT下有意差なし10Cmm/5CminCplug)3カ月後なし3カ月後意差なし1112VS:visualscalequestionnaire,OSDI:OcularSurfaceDiseaseIndexquestionnaire,CLDEQ:ContactLensDryEyeQuestionnaire,MST:modifiedSchirmertest.C図1涙点プラグ挿入の適応となるbreakuppatterna:areabreak.開瞼後フルオレセインの上方移動をまったく認めない.b:spotbreak.開瞼直後に類円形のフルオレセインの破壊を認める.図2糸状角膜炎を伴う涙液減少型ドライアイa:プラグ挿入前.Linebreakの症例.多数の糸状物を認める.Cb:プラグ挿入後.角膜上皮障害,糸状物は消失している.表3涙点プラグの適応涙点サイズパンクタルパンクタルフレックススーパーフレックスーパーイーグルイーグルCOne(mm)プラグ(PP)プラグCF(PPF)プラグ(FP)スプラグ(SFP)プラグ(SEP)プラグ(SEP)0.4CSSC0.4/0.5C0.4/0.5C0.5CSSC0.6C0.6CSC0.6CSSC0.7C0.7CMC0.7CSSC0.8C0.8CMC0.8MC0.9C0.9CLC0.9MC11LC1.1CM/LC1.1C1.1CLC1.2/1.3C図3現在保険による利用が可能なシリコーン製の涙点プラグ表4各涙点プラグの合併症の比較(既報19~21)から引用)図4涙点ゲージ(EagleVision社製)図5涙点プラグ挿入後の合併症a:肉芽形成,b:白色塊,c:流涙.迷入50%のプラグが残存している日数(日)涙点拡大(mm)肉芽形成(%)白色塊形成(%)CFPSFPPPCSEPCPPFC++…66C211C287C120C234C0.11C0.12C0.04C0.14C0.17C0C1.7C19C12.6C4.3C0C0C0.9C0C0第一選択:SEP第一選択:PPF脱落肉芽形成(-)肉芽形成(+)SEPSFP(涙点サイズ>.1.0)図6涙点プラグの選択法肉芽形成がある場合に長いPPLプラグを挿入することにより迷入を防げる肉芽を越えて挿入しているため,抜けにくい図7PPLのメリット–’-1.7mm2.0mm

コンタクトレンズ関連のドライアイはどう治療する

2020年6月30日 火曜日

コンタクトレンズ関連のドライアイはどう治療するHowtoTreatContactLensAssociatedDryEye高静花*Iガイドラインの解説本稿のテーマは,『ドライアイ診療ガイドライン』(2019年)における,クリニカルクエスチョン(CQ)19「コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう治療すべきか?」に対応するものである.ガイドラインでは以下のように書かれている1).「コンタクトレンズ装用者のドライアイには人工涙液の使用を提案する.また,患者の好みに応じレンズ素材・レンズケア材の変更,内服を治療の選択肢として提案する.ただし,推奨のレベル,エビデンスの強さは弱い.」その内容を以下にまとめる.コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用によるドライアイに対する治療の選択肢とその効果の観点から,13編の無作為化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)において自覚症状,涙液安定性を検討した.自覚症状の改善を認めたものが点眼治療(人工涙液,アジスロマイシン,シクロスポリン)4編,内服(オメガC3脂肪酸,オメガC6脂肪酸)2編,レンズ素材の変更C2編,レンズケア材の変更C1編,涙点プラグ使用C1編であり,点眼C2編,涙点プラグ使用C1編では改善を認めなかった.涙液の安定性の改善については涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)を評価したものはC6編あったが,BUTの改善を認めたものはオメガC3脂肪酸内服のC1編のみであった.CL装用によるドライアイ治療には,人工涙液点眼治療,レンズ素材・レンズケア材の変更を治療の選択肢として推奨することとした.いずれも種類が豊富であり患者の選択肢は確保できると思われることが理由である.オメガC3脂肪酸内服はサプリメントとしての選択肢となる.ただし,その効果がある可能性もあるが,今後の検討を要する.CIIその背景を紐解くと2013年にCIOVSから特集号“TFOSCinternationalCworkshopConCcontactClensCdiscomfort”(CLDreport)が発表され,その重要性がより広まった.Contactlensdiscomfort(CLD)は,「CLと眼の環境の適合性の低下により生じるCCL装用に関係する,視機能異常の異常は問わず,一過性あるいは持続性の眼の感覚異常であり,装用時間の減少あるいはCCL装用の中止を余儀なくされうるもの」と定義される(図1)2,3).日本国内において,SCL装用者のC82.6%が乾燥感を訴えることがC10年以上前に報告されており4),また最近の報告においてもCSCL装用者のC75.7%が不快感,88.3%が乾燥感を訴えることが知られている5).なお,CLDreportには,contactClensCdryeyeやCcontactClens-relatedCdryeyeなど,日本語でいうところのCCL関連ドライアイは,「もともとドライアイがあるCCL装用者に対して使う用語であり,CLDと混同してはいけない」と明記されている.ガイドライン中の*ShizukaKoh:大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学〔別刷請求先〕高静花:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学講座C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C671ContactLensDiscomfort(CLD):Aconditioncharacterizedbyepisodicorpersistentadverseocularsensationsrelatedtolenswear,eitherwithorwithoutvisualdisturbance,resultingfromreducedcompatibilitybetweenthecontactlensandtheocularenvironment,whichcanleadtodecreasedwearingtimeanddiscontinuationofcontactlenswear.図1Contactlensdiscomfort(CLD)の定義(文献C2より引用)図2ContactLensDiscomfortReportが推奨するCLD治療アルゴリズム(文献C6より引用)(29)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C673SCL装用-