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序説:眼科レーザーをマスターしてAI時代を生き抜こう

2020年2月29日 土曜日

眼科レーザーをマスターしてAI時代を生き抜こうMastertheOphthalmicLaserandSurvivetheAIEra村田敏規*山下英俊**本誌では2017年2月号で「眼科におけるレーザー治療」と題する特集を組んだ.それからまだわずかな時間しか過ぎていないが,レーザーの治療技術の進歩のスピードは目ざましく,早くも内容をブラッシュアップする必要が出てきた.すでに当時から,人工知能(arti?cialintelli-gence:AI)の登場で人間のする仕事がなくなるのではないかということが議論になっていた.AIに奪われる仕事の特徴として,1)人間よりもAIのほうが正確にできる,作業効率が上がる2)AIだけですべてをこなせるの二つがあげられていた.医学においても,診断学,治療のプランニングなどはAIに医者が勝てない時代が来るのではないかとささやかれている.しかし眼科医が眼科に関しては診断,そして治療のプランニングでAIに負けることはあり得ないと反論したくなる.その一方で,AIの可能性を信じる若手医師によると,たとえば糖尿病網膜症患者の糖尿病のコントロールのための薬の調節は,わざわざ内科医に患者を紹介して指示を仰ぐのではなく,AIが患者自身のデータから,最適かつ全身合併症を考慮した安全な投薬プランを提案してくれる時代が来るというのである.たしかにわれわれ眼科医は,眼科を一歩離れるとAIに医学的な知識や診断力で勝てるとは,とても胸を張っては言えないのが現状だと思う.2017年の特集を組んだときに,指導する立場にあるわれわれが感じた医学部学生,そして若い初期研修医たちの意識の変化は,「医師免許を取るだけでは足りない.特別な技術を身につけよう,つまりAIに負けない医師になろうという気概の萌芽」であった.AIには任せられない特殊な技術を身につけるという意味では,眼科ではレーザー治療と手術が大きな分野になると考えられる.ところで,一言で眼科のレーザーと表現するが,レーザーの企画を語り合ったときに,眼科医ひとりひとりが思い浮かべるレーザーはその専門により大きく異なることに驚かされた.多くのレーザーが形容詞をつけずに,ただレーザーとよばれているが,前眼部の専門家はLASIKに始まる屈折矯正手術を念頭にレーザーを語り始め,角膜移植も白内障手術もフェムトセカンドレーザーが最先端の話題である.緑内障の専門家は隅角形成術をレーザーという言葉で語る.そして,大半の眼科医は,レーザーという言葉から汎網膜光凝固を頭に浮かべてしまい,お互いの会話が少しすれ違ってしまう.全員がレーザーという言葉で違うレーザーを語っていること◆ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学教室を,お互いに気づくまでにしばらく時間がかかった.今回はおもな眼科のレーザー治療を網羅し,しかも最新の情報を各分野の第一人者の先生方にご執筆いただけた.このことは,本特集の価値をきわめて高いものとしてくれた.それぞれの内容をマスターすれば,その“腕”の重要性がAIに劣る時代は永遠に来ないのではないかと感じている.本特集が,患者に良好な視力を提供するうえで必要不可欠な眼科のレーザー治療を,先生方にもう一度見直していただくうえでの一助となれば,これ以上幸いなことはない.

エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):104?108,2020?エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測鄭暁東*1,2古川雅世*2五藤智子*2山田寛子*1鎌尾知行*1白石敦*1*1愛媛大学医学部眼科学教室*2はなみずき眼科PredictionofVisualFieldImprovementFollowingBlepharoptosisSurgerybyBinocularEstermanVisualFieldExaminationXiaodongZheng1,2),MasayoFurukawa2),TomokoGoto2),HirokoYamada1),TomoyukiKamao1)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)HanamizukiEyeClinic目的:通常,眼瞼下垂の術前視野評価にはGoldmann視野計が用いられている.しかし,時間がかかることや定量性が低いことなどが問題点である.筆者らは,Humphrey自動視野計に内蔵されているエスターマン両眼開放視野検査によって術後の視野改善を予測できるかどうかを検討した.対象および方法:両側,退行性眼瞼下垂の症例44例,平均年齢76.5±7.8歳,男性25例,女性19例を検討した.全例に挙筋短縮術を施行した.術前の自然開瞼,シミュレーションのためのテーピング開瞼および術後1カ月の計3回エスターマン両眼開放視野検査(Humphrey,Zeiss)を行い,各時点におけるエスターマンスコアを比較検討した.また,スコアに影響する因子について検討した.結果:全症例で,術中および術後の合併症はなかった.術前MRD1の平均は1.36±1.38mm,術後は3.02±1.31mmで術後は有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).術前の自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコアは,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8および92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼と術後1カ月のスコア間には有意差はなかった(p=0.212).さらに,術前エスターマンスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe?cient),術前MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,術後スコアの改善率は術前スコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.結論:エスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.Purpose:DrawbacksofusingGoldmannperimetryforvisual?eldevaluationinblepharoptosiscasesisthatitistime-consumingandlacksquantitation.Inthisstudy,weinvestigatedthee?ectivenessofusingthebinocularHumphreyEstermanvisual?eldtest(EVFT),abuilt-inprogramintheHumphreyvisual?eldanalyzer(Hum?phreyInstruments)forthepredictionofvisual?eldimprovementpostblepharoptosissurgery.Methods:Thisstudyinvolved44patients(25malesand19females,meanage:76.5±7.8years)diagnosedwithinvolutionalblepharoptosiswhounderwentlevatorresection.Inallpatients,abinocularEVFTwasperformedbeforesurgerywiththeuppereyelidtapedandnottaped,andonceagainat1-monthpostoperative.TheEVFTscoreswerethencompared,andfactorsrelatedtovisual?eldimprovementpostsurgerywereanalyzedusingmultivariatecorrela?tionanalyses.Results:Inallcases,therewerenointraoperativeorpostoperativecomplications.ThemeanMRD1was1.36±1.38mmbeforesurgeryand3.02±1.31at1-monthpostoperative,andtheincreasewasstatisticallysigni?cant(p=0.001,pairedt-test).ThemeanbilateralEVFTscoreoftheeyesbeforesurgerywithouttaping,withtapping,andat1-monthpostoperativewas85.3±12.1,90.5±9.8,and92.5±8.4,respectively.TheEVFTscoreoftheeyeswithtapingbeforesurgeryandat1-monthpostoperativewassigni?cantlyhigherthanthatoftheeyesexaminedpriortosurgerywithouttaping(p=0.032,p=0.001).Therewasnodi?erenceinbilateral〔別刷請求先〕鄭曉東:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:XiaodongZheng,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN104(104)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはじめに退行性眼瞼下垂に対しての挙筋短縮術は,容貌の改善はもちろん,視機能の向上も期待できる1,2).眼瞼下垂が及ぼす視機能への影響のなかで,視野はもっとも重要な項目であるといえる.下がった眼瞼は視軸を塞ぎ,上方の視野欠損を生じ,中等度以上の場合には下方の視野,とくに読書や近見作業のときに影響を及ぼすと報告されている1).このため,術前の視野評価は非常に重要で,2011年の米国での眼形成外科医に対するアンケート調査の結果,9割近くの医師が術前に視野検査を行うことが明らかとなっている3).しかし,わが国の現状では,臨床研究を除いて眼瞼下垂術前に視野検査を行う施設は少ない.その理由として,海外の医療保険制度との違いや,通常のGoldmann視野検査では時間がかかり,また定量性が低いなどの問題点があげられる.今回,筆者らは,初めてHumphrey自動視野計のエスターマン両眼開放視野検査プログラムを用いて,退行性眼瞼下垂症例の術前後のエスターマン視野の変化およびテーピング開瞼による術後視野改善の予測の可能性について検討した.I対象および方法1.対象2018年12月?2019年4月に,はなみずき眼科および愛媛大学眼科で退行性眼瞼下垂と診断され,両眼の挙筋短縮術自然開瞼テーピング開瞼図1エスターマン両眼開放視野検査の風景Humphrey自動視野計に内蔵されたエスターマン両眼開放視野検査プログラムにて検査を行った.坐位,頭部は顎台の中央に乗せ,必要に応じて近見の視力矯正を行った(上段).術前に自然開瞼およびテーピングによるシミュレーション開瞼で検査を行った(下段).10095908580757065605550*p=0.032*p=0.001pairedt-test術前術前自然開瞼テーピング開瞼術後1M図3エスターマンスコアの比較眼瞼下垂の術前自然開瞼,シミュレーションのテーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコア.術前より,テーピング開瞼および術後は有意に改善した.図2エスターマン両眼開放視野検査の結果左下にエスターマンスコアが自動に表記される.120個視標を全部見ることができたら,エスターマンスコアは100点となる.この例では,120個視標のなかに100個(83%)見えた,スコアは83である.を行った44例,男性25例,女性19例,年齢は76.5±7.8(45?88歳)を対象とした.両眼MRD1(marginre?exdis?tance1)差>1mmの症例,退行性下垂以外の先天性,神経原性,筋原性および外傷性下垂は除外した.術前,MRD1および眼瞼挙筋機能(levatorfunction:LF)を計測し,また,術後1カ月後にもMRD1を計測した.全例にインフォームド・コンセントによる同意を得た.また,本研究は愛媛大学病院倫理委員会により承認された.2.術式全例において眼瞼挙筋短縮術を施行した.必要に応じて皮膚切除を併用した.挙筋短縮,皮膚縫合には6-0As?ex糸を使用した.術後1週間ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏を眼瞼塗布し,0.1%フルオロメトロン点眼よび0.1%ガチフロキサシン点眼を処方した.抜糸は術後10日頃行った.3.エスターマン両眼開放視野検査Humphrey自動視野計(HumphreyFieldAnalyzerIIi-series,Zeiss社)を用いて,内蔵プログラム,エスターマン両眼開放視野検査を行った.術前には,自然開瞼およびテーピング開瞼の2回,術後は1カ月後に,計3回検査を行った(図1).エスターマン視野には120個視標が提示され,全部“見えた”場合,エスターマンスコアは100点となる(図2).4.統計解析MRD1検討には両眼のMRD1の平均値を用いた.術前後のエスターマン両眼開放視野検査の時間およびエスターマンスコアについて,群間比較にはANOVA検定,2群間比較にはpairedt-test検定を使用した.術前エスターマンスコアおよび術後のスコア改善率〔(術後スコア―術前スコア)/術前スコア×100%〕に相関する因子の検討には,多変量解析(Spearmancorrelationanalysis)を用いた.有意確率はp<0.05とした.II結果全例において,術中および術後に合併症はなく経過良好であった.MRD1は術前1.36±1.38mmから術後3.02±1.31mmと有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).エスターマン両眼開放視野検査時間は,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月は,それぞれ298±32.6秒,276±27.1秒および265.4±22.8秒で,テーピング開瞼は自然開瞼より有意に短かった(p<0.001).また,術後1カ月の検査時間はさらに,テーピング開瞼より有意に短かった(p=0.022).エスターマンスコアは,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月では,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8,92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼スコアの平均は術後1カ月との有意差はなかった(p=0.212,図3)が,テーピング開瞼による術後の視野スコアの予測の精度について,44例中18例(40.9%)は結果一致,21例(47.7%)は過少,5例(11.4%)は過大評価となった(図4).多変量相関解析より,術前のスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe??cient),MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,また術後スコアの改善率は術前のスコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.11.47%47.7%40.9%■結果一致■過小評価■過大評価III考按眼瞼下垂の術前視機能評価に,視野検査が重要であることはいうまでもない.しかしながら実際には,術前にルーチンに視野検査を行う施設は少ない.その理由として以下のものが考えられる.1)医療保険請求では認められておらず,日本では,眼瞼下垂手術の適応の判断は医師の裁量のみで,海外の保険会社のように,医療費請求にあたって顔写真と視野検査を必須項目とすることはない.実際,2011年米国眼形成外科学会(ASOPRS)のメンバーを対象とした電子メールによるアンケート調査では87.4%が術前視野検査を施行しているとの回答であった3).2)一般的に行われるGoldmann視野検査は視能訓練士による実施が必要で,定量性も低く,時間もかかる.また,施設によっては,Goldmann視野計自体を保有していない.上記の理由1)に関しては,高度眼瞼下垂の症例には手術の適応判断は容易であるが,軽症例の場合は,実際,術後視野が改善できるかを事前に予測できれば術前説明の重要な補助データとなり,術者にとっても自信をもって手術を勧めることができると考える.また,上記理由の2)から,Goldmann視野検査より短時間で,簡便で定量性のよい検査法が求められる.Humphrey自動視野計は,自動で,簡便で,短時間に定量できる方法であり,とくに一般眼科においては,緑内障の視野検査に利用され,なじみのある検査である.Humphrey自動視野計には数多く検査プログラムが内蔵され,そのなかのエスターマン両眼開放視野検査プログラムは,両眼の視機能の評価に使用されている.従来,緑内障および糖尿病網膜症の視野障害による運転の適応性検査4?6)や,糖尿病網膜症への光凝固後の視野検査7),脳外科の術後の視機能評価8),さらに,多焦点眼内レンズ挿入眼の視野検討など多岐にわたって海外の文献より報告されている9).日本では,2018年7月より身体障害者認定にGoldmann視野検査の代用法として,エスターマン両眼開放視野検査が認められている.筆者の調べる限り,これまでにエスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂の術前後の評価について報告はない.今回,筆者らは,眼瞼下垂の術前に自然開瞼の状態にてエスターマン両眼視野視野検査を行い,その後上眼瞼にテーピングをして術後の視野をシミュレーションした.術前エスタ図4術後視野改善の予測精度テーピング開瞼による術後のシミュレーションを行い,視野改善の予測精度(結果一致,過小,過大評価)の割合を示す.シミュレーションは術後実際のスコアより低い傾向であった.ーマンスコアの平均85.3±12.1に対して術後は92.5±8.4まで有意に改善した.また,シミュレーションのスコアは術後のスコアとの有意差は認めなかった.これにより,エスターマン両眼開放視野検査およびテーピング開瞼方法は,定量的に術後の視野の予測ができるといえる.また,検査時間について,術前テーピング開瞼および術後は術前の自然開瞼より有意に短縮したことで,眼瞼位置の挙上により,視標の視認が向上したものと考える.また,エスターマン両眼開放視野検査の平均検査時間は5分以内と短く,被験者に負担の少ない検査と考える.術前のエスターマンスコアは年齢と負の相関,MRD1と正の相関を示した.これは,加齢のためMRD1が低下し,結果として,上方の視野感度の沈下によるものと考える.実際,術後にMRD1が改善され,スコアの向上はおもに上方の視標が視認できるようになったことでエスターマンスコアの改善は眼瞼位置の変化によるものと考える.エスターマンスコアの改善率は,術前のスコアと挙筋機能のそれぞれと有意な負の相関を認めた.術前下垂が重度なほどMRD1は当然低く,また挙筋機能が弱いほど開瞼困難のため,術後有意な視野改善が期待できると考えられる.エスターマン両眼開放視野検査は,術前後視機能評価にも,手術の適応の判断にも有用性を認めた.さらに,今回の検討のテーピング開瞼によるシミュレーションは,術後の結果と40.9%は一致した一方で,47.7%は低評価となった.その理由として,テーピング開瞼は実際術後の開瞼より不安定であり,開瞼不十分である可能性が考えられる.また,テーピングによって瞬目は不能もしくは不完全となり,眼表面の乾燥などによる視機能への影響の可能性も考えられる.しかし,術後,実際のスコアはシミュレーションよりさらに高いことより,視機能の改善面から考えると,術前テーピング開瞼にてエスターマンスコアの改善を認めた症例には積極的に手術を勧めることができると考える.本検討は,両眼MRD1の差は1mm以下の下垂症例について検討した.今後,片眼性下垂や両眼差のある眼瞼下垂の症例,さらに,病型の違いや術式の違いなどの検討も必要と思われる.IVまとめエスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.文献1)CahillKV,BradleyEA,MeyerDRetal:Functionalindi?cationsforuppereyelidptosisandblepharoplastysur?gery:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmol?ogy.Ophthalmology118:2510-2517,20112)鄭暁東,五藤智子,鎌尾知之ほか:眼瞼下垂術後における角膜形状,自覚および他覚視機能の変化.臨眼72:245-251,20183)AakaluVK,SetabutrP:Currentptosismanagement:anationalsurveyofASOPRSmembers.OphthalmicPlastReconstrSurg27:270-276,20114)OrtaA?,?zt?rkerZK,ErkulS?etal:Thecorrelationbetweenglaucomatousvisual?eldlossandvision-relatedqualityoflife.JGlaucoma24:121-127,20155)KulkarniKM,MayerJR,LorenzanaLLetal:Visual?eldstagingsystemsinglaucomaandtheactivitiesofdailyliving.AmJOphthalmol154:445-451,20126)PearsonAR,KeightleySJ,CasswellAG:Howgoodareweatassessingdrivingvisual?eldsindiabetics?Eye(Lond)12:938-942,19987)SubashM,ComynO,SamyAetal:Thee?ectofmul?tispotlaserpanretinalphotocoagulationonretinalsensitiv?ityanddrivingeligibilityinpatientswithdiabeticretinop?athy.JAMAOphthalmol134:666-672,20168)RayA,Pathak-RayV,WaltersRetal:Drivingafterepi?lepsysurgery:e?ectsofvisual?elddefectsandepilepsycontrol.BrJNeurosurg16:456-460,20029)StanojcicN,WilkinsM,BunceCetal:Visual?eldsinpatientswithmultifocalintraocularlensimplantsandmonovision:anexploratorystudy.Eye(Lond)24:1645-1651,2010◆**

緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):100?103,2020?緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告中道晶子*1高橋嘉子*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科QuestionnaireSurveyontheEaseofUseofEyeDropContainersinGlaucomaPatientsAkikoNakamichi1),YoshikoTakahashi1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterはじめに緑内障患者の多くは長期にわたり点眼治療を受けている.点眼容器は形状や硬さなどにより使用感が異なり,継続には患者への負担が少ない使用感の良い容器が求められる.さらに高齢者では筋肉や靭帯の柔軟性の低下,また筋肉の減少などにより運動能力が低下している1).そのため,若年者と比べて点眼の一連の動作が困難となり,点眼容器の使用感がアドヒアランスに影響する可能性があると考えられる.2007年に緑内障患者を対象に実施された点眼容器のアンケート調査報告2)では,もっとも使いやすい容器は参天製薬のデタントール?点眼液であった.この点眼薬には,使用感を追求して同社が開発した「ディンプルボトル?」(以下,DB)という名称の容器が用いられている.その後他社も開発を進め新しい点眼容器が次々に登場した.今回はそれらを含めた現状での点眼容器を評価するために調査を実施した.I対象および方法2017年10月?2018年2月に井上眼科病院に入院した患〔別刷請求先〕中道晶子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkikoNakamichi,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN100(100)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY者で,DBとそれ以外の点眼容器を含む3種類以上の点眼薬を使用している緑内障患者を対象にした(明らかな手指の障害を有する患者は含まず).使用中の点眼薬すべてについてアンケート調査を行った.調査項目は「持ちやすさ」「押しやすさ」「キャップ開閉のしやすさ」「液の出かた」「残量の見やすさ」の5項目で,0?5のスコアで回答を求めた.また,点眼容器に関する意見・要望を記載してもらった.得られた回答を点眼容器の形状で集計し,各項目のスコアを比較(Kruskal-Wallis検定)した.また,全症例より75歳以上を抽出し,同様に各項目のスコアを比較した.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.なお,本調査は井上眼科病院倫理委員会の承認を受け,患者に本調査の主旨を説明し,同意を得たうえで施行した.II結果対象は44名(男性18名,女性26名,49?88歳,平均年齢68.8±9.5歳)で,75歳以上は12名であった.使用中の点眼薬は延べ237剤で,薬剤の種類は46剤で,点眼容器の形状を分類したところ15種類となった.1人の患者が同じ形状の点眼容器を使用していた場合は緑内障点眼薬の回答を優先し,10名以上の回答があった7種類の点眼容器(図1)で比較した.スコアの平均を表1に示す.全体では「持ちやすさ」(p<0.001)で参天製薬(DB)と千寿製薬(平型容器)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に高かった.「押しやすさ」(p<0.001),「液の出かた」(p<0.05),「残量の見やすさ」(p<0.05)でノバルティスファーマ[旧アルコンファーマ](ラウンド型)と参天製薬(DB以外)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に低かった(図2).75歳以上では「持ちやすさ」(p<0.05),「押しやすさ」(p<0.05),「キャップ開閉のしやすさ」(p<0.05)で参天製薬(DB)と千寿製薬(平型容器)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に高かった(図3).点眼容器に関する患者からの意見・要望を表2に示す.図1比較検討した容器の形状表1スコアの平均n持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさ液の出かた残量の見やすさ44参天製薬(ディンプルボトル?)444.4±0.8**4.1±1.13.8±0.93.6±1.13.4±1.2アルコンファーマ(ラウンド型)393.1±1.32.7±1.3**3.6±0.92.8±1.3*2.4±1.6*千寿製薬(平型容器)384.3±0.8**3.8±1.24.1±0.93.6±1.22.7±1.6日本点眼薬研究所(テーパー容器)223.6±1.23.8±1.03.6±1.03.5±0.93.2±1.3参天製薬(ディンプルボトル?以外)143.4±0.92.8±1.3**3.6±1.32.4±1.1*2.2±1.5*興和創薬(眼圧降下薬の容器)123.4±1.43.5±1.03.5±1.03.5±1.02.8±1.3ファイザー(ソフトボトル)123.8±0.93.6±1.03.3±1.13.3±0.93.2±1.17512参天製薬(ディンプルボトル?)124.1±0.9*4.2±1.0*3.9±1.1*3.9±1.14.1±1.0アルコンファーマ(ラウンド型)112.6±1.12.3±1.23.4±0.82.6±1.12.2±1.8千寿製薬(平型容器)104.6±0.7*3.8±1.2*4.2±0.9*3.6±1.12.7±2.3参天製薬(ディンプルボトル?以外)73.1±0.72.3±1.12.9±1.52.6±1.31.8±1.3日本点眼薬研究所(テーパー容器)43.3±0.52.5±0.62.8±0.52.8±0.52.7±0.6興和創薬(眼圧降下薬の容器)33.0±03.0±02.7±0.63.0±03.5±2.1ファイザー(ソフトボトル)33.3±0.63.0±03.3±0.63.0±03.5±0.7(**p<0.001,*p<0.05,Kruskal-Wallis検定)持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)**日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)**ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345012345012345液の出かた残量の見やすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)◆ファイザー(ソフトボトル)*興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345図2全体(**p<0.001,*p<0.05)012345持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345液の出かた残量の見やすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345012345図375歳以上(*p<0.05)表2点眼容器に関する患者からの意見・要望・点眼容器の形が色々あって区別しやすいが製薬会社が同じ点眼容器は区別できない・キャップにはかどがついていて欲しい・薬液がどろどろしていると出にくい・キャップ,本体とも小さいと持ちづらい・薬液がどろどろしていると残量が見づらい・開封時のフィルムがわかりづらい・薬液に色がついていると残量がわかりやすい・開封時,フィルムがむきにくい・薬液と点眼容器の色が同じだと残量がわからないIII考按DBは患者の使いやすさを検証して開発された点眼容器である3).側面のくぼみと柔らかさにより,持ちやすく,弱い力でも容易に点眼できるのが特徴である.全体,75歳以上ともに5項目すべてにおいて良好な結果が得られた.また,参天製薬のDBと旧型容器の比較でも,全体と75歳以上ともに5項目すべてDBのスコアが高かった.点眼容器改良により使用感が向上していた.DBと並びスコアが高かったのが千寿製薬の平型容器であった.この容器も使用性の向上を目的として開発された容器であり,把持部面積の大きい扁平型をしている.点眼容器の改良が患者の使用感向上に寄与したとの過去の報告4)があり,今回の調査でも良好な評価が得られた.両点眼容器は「持ちやすさ」で全体と75歳以上のどちらのスコアも有意に高かったが,「押しやすさ」「キャップ開閉のしやすさ」では全体に差がなかった.この結果の差異は年齢による把持力の差が要因と考えた.患者からの意見に,薬液がどろどろしていると出にくく残量が見づらいとあった.また,薬液に色がついているものは残量がわかりやすいとある一方で,色がついていても薬液と点眼容器の色が同じだとわからないとあった.「液の出かた」では薬液の粘度,「残量の見やすさ」では薬液や点眼容器の色調が評価に影響する可能性があり,この2項目は点眼容器ではなく個々の薬剤でも比較検討すべきであった.本調査参加44名中9名で形状の違いが薬剤を識別する手段の一つとなっていた.各製薬会社で使用感を追究し開発したことによりさまざまな形状の点眼容器があるが,同じ製薬会社の点眼容器は形状が同じものが多い.キャップの色で識別している患者もいるが,誤認のリスクがある5).また,色覚が低下した患者では識別が困難となる.識別手段の工夫は,個々の患者への対応となるため,医療者の配慮が必要となる.結論として,DBと平型容器は使いやすい点眼容器であり,改良によって使用感が向上していた.文献1)小長谷百絵,林みつる,いとうたけひこほか:高齢者にとっての点眼容器の使いやすさに関する研究.人間工学51:441-448,20152)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20073)東良之:医療過誤防止と情報色情報による識別性の向上?参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合?.医薬品情報学6:227-230,20054)鎌尾知行,溝上志朗,浪口孝治ほか:点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響.あたらしい眼科35:258-262,20185)高橋嘉子,井上結美子,柴田久子ほか:緑内障点眼薬識別法とリスク要因.あたらしい眼科29:988-992,2012◆**

涙丘・半月襞の耳側偏位に対する涙丘・半月襞切除の術後成績

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):94?99,2020?涙丘・半月襞の耳側偏位に対する涙丘・半月襞切除の術後成績”憲吾横浜桜木町眼科E?ectivenessofLacrimalCaruncleandSemilunarFoldofConjunctivaResectioninTreatingEpiphoraCausedbyaLateralShiftoftheLacrimalCaruncleandtheSemilunarFoldKengoHayashiYokohamaSakuragichoEyeClinic目的:涙丘・半月襞の耳側偏位により涙点への導涙が障害されると,涙液メニスカスが高くなり,流涙症状を呈することがある.涙道の通水は良好で,かつ球結膜の弛緩が軽度で,涙丘・半月襞の耳側偏位が流涙の原因と考えられる症例がある.涙丘・半月襞切除を施行した術後成績を調査した.対象および方法:2018年10月?2019年3月に涙丘・半月襞切除のみを施行した症例を診療録から後ろ向きに調査した.術前と術後1カ月に前眼部OCTを用いたTMHとMunkスケールを用いた流涙の自覚症状の記録がある20名28眼を対象とした.流涙をきたす涙道疾患や眼瞼疾患がある症例は除外した.TMHは前眼部OCTを用いて瞳孔中央部で3回測定した中央値を採用した.流涙の自覚症状はMunkスケール(Grade0?5)の6段階で定量化した.結果:TMHは,術前451±184?m(201?952?m)から術後1カ月で241±62?m(156?432?m)と有意に減少した(p<0.001).Munkスケールは,3.1±0.8(2?5)から術後1カ月で1.2±0.9(0?3)へ有意に減少した(p<0.001).自覚症状の変化の内訳は,改善25眼(89%),不変3眼(11%),悪化0眼(0%)であった.術後の合併症はみられなかった.結論:球結膜の弛緩が軽度で涙丘・半月襞の耳側偏位が著明な場合,涙丘・半月襞切除で自覚症状,他覚所見ともに有意な改善が認められた.Purpose:Alateralshiftofthelacrimalcaruncleandthesemilunarfoldoftheconjunctivacanbothleadtoanobstructionofthelacrimalpathwaytothelacrimalpunctumthatcancauseaheightenedtearmeniscus,thusresultinginepiphora.However,evenincasesofmildconjunctivochalasisinwhichthelacrimaltractisunobstruct-ed,alateralshiftofthelacrimalcaruncleandthesemilunarfoldoftheconjunctivamayresultinepiphora.Hereweinvestigatedthepostoperativeoutcomesofpatientswhounderwentlacrimalcaruncleandsemilunarfoldresec-tionforthetreatmentofepiphora.PatientsandMethods:WeretrospectivelyreviewedmedicalrecordsofpatientswhounderwentlacrimalcaruncleandsemilunarfoldresectionfromOctober2018toMarch2019forthetreatmentofepiphorasymptoms.Wecollecteddataon28eyesof20patientswitharecordedtearmeniscusheight(TMH)andsymptomsofepiphora.TMHwasdeterminedusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography,andthemedianofthreemeasurementsfromthecentralpartofthepupilwasusedastheTMHscore.Symptomsofepiph-oraweredeterminedusingthe6-stepMunkscale(graded0to5)beforesurgeryandat1-monthpostoperative.Casesofepiphoraduetolacrimalductoreyeliddiseasewereexcluded.Results:ThemeanTMHsigni?cantlydecreasedfrom451±184?m(range:201-952?m)beforesurgeryto241±62?m(range:156-432?m)at1-monthpostoperative(p<0.001).ThemeanMunkscalescoresigni?cantlyreducedfromgrade3.1±0.8(range:grade2to5)beforesurgerytograde1.2±0.9(range:grade0to3)at1-monthpostoperative(p<0.001).Postsurgery,patientsreportedthatsymptomsimprovedin25eyes(89%),remainedunchangedin3eyes(11%),andworsenedin0eyes(0%).Therewerenopostoperativecomplications.Conclusions:Incasesofmildconjunctivitiswithsigni?cantlateralshiftofthelacrimalcaruncleandthesemilunarfoldoftheconjunctiva,lacrimalcaruncle〔別刷請求先〕林憲吾:〒231-0066神奈川県横浜市中区日ノ出町1-200日ノ出サクアス205横浜桜木町眼科Reprintrequests:KengoHayashi,YokohamaSakuragichoEyeClinic,Hinodesakuasu205,Hinodecho1-200,Nakaku,Yokohamacity,Kanagawa231-0066,JAPAN94(94)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはじめに流涙症のおもな原因として,涙道閉塞や狭窄がまず疑われるが,涙道以外に,眼瞼の内反や外反,結膜弛緩症が原因となることもある1).涙道疾患や眼瞼疾患がなく,結膜弛緩症が導涙障害となっている場合は,結膜弛緩症に対して治療を検討する2).結膜弛緩症は加齢性の皺襞状変化であり,結膜上皮下の線維組織を構成する膠原線維が疎となり,弾性線維が断片化することが原因である3).今後の高齢化に伴い,結膜弛緩の症例は増加することが予想される4).結膜弛緩症に対するおもな治療法としては,切除法5,6),縫着法7,8),焼灼法9,10)などがある.結膜弛緩症は結膜の弛緩のみが目立つ一般的な単純性結膜弛緩症と,capsulopalpebralfascia(CPF)の弛緩による結膜円蓋部の挙上を伴う円蓋部挙上型結膜弛緩症の2病型に分かれる11).一方,涙丘・半月襞が涙点を越えて耳側に偏位していることにより,涙液メニスカスの導涙障害となっている症例もある.この涙丘・半月襞の耳側偏位は円蓋部挙上型結膜弛緩症にしばしば合併し,その治療には,球結膜の弛緩に対する切除法と合わせて,涙丘・半月襞の切除を併用することが報告されている11?13).当院では,球結膜の弛緩と涙丘・半月襞の耳側偏位のそれぞれの程度から,①焼灼法,②涙丘・半月襞切除,③焼灼法+涙丘・半月襞切除の術式を選択している.涙丘・半月襞切除のみ施行する割合は30%程度である.涙液メニスカスを他覚的に定量化する方法としてメニスコメトリー14)が報告されているが,市販されていないため特定の施設以外では入手困難である.近年,後眼部用の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)に前眼部観察用のアタッチメントを装着し,下方涙液メニスカスの断面の高さ(tearmeniscusheight:TMH)を簡便に調べることが可能となった.TMHの正常値は200?400?mで,ドライアイや流涙の指標として有用であることが報告されている15,16).また,前眼部OCTを用いた計測により,結膜弛緩症の術後の結膜の断面積が有意に減少することが報告されている17).自験例でも,焼灼法後の結膜弛緩が減少したことを前眼部OCTで確認することは可能であった(図1).ただし,既報15)と同様に,球結膜の弛緩が著明な場合,被験者の瞬目のたびに結膜弛緩の状態と結膜上のTMHが大きく変化するため,TMHが測定不能となったり測定誤差が大きくなることがあり,術前後の客観的なデータとして信用性が低いと考えられた.そこで今回,球結膜の弛緩が少なく,涙丘・半月襞の耳側偏位がおもな導涙障害となっていると考えられる症例で,涙丘・半月襞切除のみを施行した術後成績として,自覚症状とTMHの変化を調査した.I対象および方法対象は,当院で同一術者(筆者)によって2018年10月?2019年3月の6カ月間で涙丘・半月襞切除のみを施行した症例を診療録から後ろ向きに調査した.術前と術後1カ月に前眼部OCTを用いたTMHと流涙の自覚症状としてMunkスケール18()Grade0?5,0:流涙の自覚なし,1:1日1回涙を拭う,2:1日2?4回拭う,3:1日5?10回拭う,4:1日10回以上拭う,5:常に涙が出て拭う)の6段階で定量化した記録がある20名28眼を対象とした.流涙をきたす涙道疾患や眼瞼疾患がある症例は除外した.TMHはOptovue社のOCT(iVue-100)を用いて,瞳孔中央部で3回測定し,その中央値を採用した.OCTに付属の画像解析ソフトウェアでTMHを測定する際,涙液メニスカスが角膜・眼瞼に接する2点間の距離を単純に計測するのではなく,測定面に平行な面に涙液メニスカスを投影した際の高さを計測した16).手術方法(涙丘・半月襞切除を図2に示す.エピネフリン添加2%リドカインを半月襞と涙丘下に合計約0.5ml注射した.耳側へ偏位した半月襞を2?3mm幅切除した.突出した涙丘を平坦になるように涙丘表面と涙丘下の線維組織(medialrectuscapsulopalpebralfascia)を部分切除した12).この際,眼窩脂肪が脱出しないように切除した.切除部はバイポーラ凝固で止血し,表面を縫合せず,ステロイド眼軟膏を塗布して終了とした.術後,ステイロイド点眼と抗菌薬点眼およびステロイド眼軟膏を使用した.II結果対象の20名28眼の平均年齢は,75.7±5.5歳(65?85歳)であった.代表症例(図3,4)と前眼部OCTのTMHの変化例を示す(図5).TMHは測定不能な例はなく,術前451±184?m(201?952?m)から術後1カ月241±62?m(156?432?m)と有意図1結膜弛緩症の術前後の前眼部OCTa:手術前.球結膜の弛緩の断層面と高い涙液メニスカスが確認できる.ただし,結膜弛緩の状態と涙液メニスカスは瞬目とともに容易に変化する.b:手術後.球結膜の弛緩が消失し,涙液メニスカスも低下している.図2涙丘・半月襞切除の術中写真a:術前.涙丘と半月襞の耳側偏位を認める.b:局所麻酔後,半月襞を2?3mm幅切除する.c:涙丘および涙丘下の線維組織を切除する.切除部位は凝固止血する.d:術直後.突出していた涙丘部が平坦化している.に減少した(p<0.001,pairedt-test)(図6).Munkスケールは,3.1±0.8(2?5)から術後1カ月1.2±0.9(0?3)へ有意に減少した(p<0.001,pairedt-test)(図7).自覚症状の変化の内訳は,改善25眼(89%),不変3眼(11%),悪化0眼(0%)であった.術後の感染,創部閉鎖不全,内直筋の損傷,複視の自覚,眼窩脂肪の脱出などの合併症はみられなかった.III考按結膜弛緩症に対するおもな治療法として,切除法は単純型でも円蓋部挙上型でも対応ができ,もっとも理想的な術式である5,6).涙丘・半月襞の耳側偏位は円蓋部挙上型結膜弛緩症にしばしば合併し,その治療には,円蓋部を再建する切除法に涙丘,半月襞の切除を併用してトータルの涙液メニスカスを再建する術式が報告されている12).当院では手術時間と簡便さから,球結膜の弛緩に対しては焼灼法をおもに施行しているが,球結膜の弛緩と涙丘半月襞の耳側偏位の両者とも著明な場合は焼灼法と涙丘・半月襞切除を併用しており,結膜弛緩症の手術の約半数はこの併施例である.涙丘・半月襞切除は治療のオプション12,13)として紹介されているが,涙丘・半月襞切除のみでの自覚的,他覚的所見の変化についての報告はない.耳側へ偏位した涙丘・半月襞を切除することで涙液メニスカスの流路のブロックを解除でき,また涙湖を占拠していた涙丘の容積を減少させることで涙湖の涙液貯留量も確保できるため,結果的に涙液メニスカスが低下し,流涙の自覚症状図3代表症例①(68歳,男性):手術前後の前眼部写真a:術前.涙点を越える涙丘・半月襞の耳側偏位を認める(黄色点線).b:術前のフルオレセイン染色.涙液メニスカスの流路がブロックされている.c:術後.涙丘・半月襞が小さくなっている(黄色点線).d:術後のフルオレセイン染色.涙液メニスカスの流路のブロックが解除されている.図4代表症例②(77歳,男性):手術前後の前眼部写真a:術前.涙丘の耳側偏位が著明で,涙湖を占拠している(黄色点線).b:術前のフルオレセイン染色.涙液メニスカスが非常に高い.c:術後.涙丘が著明に小さくなっている(黄色点線).d:術後のフルオレセイン染色.涙液メニスカスが低下し,正常化している.が軽減したものと考えられる12).切開した創部は,凝固止血のみで縫合は行わなかったが,術後感染や創部の閉鎖不全もなく,1カ月後には結膜上皮が再生していた.今回,症例を球結膜の弛緩が少ない例に限定したため,TMHが正確に測定可能で,TMHは術前451±184?mから術後1カ月241±62?mへと有意に減少することが確認でき図5涙丘・半月襞切除前後の前眼部OCTでのTMHa:術前.球結膜の弛緩は軽度な症例のため,正確にTMHを測定可能である.TMHを測定する際,測定面に平行な面に涙液メニスカスを投影した際の高さを計測する.TMH=522?mと高い状態である.b:術後.TMH=318?mと正常化した.700600500400300200100054321術前術後*:pairedt-test0図6術前後のTMH術前術後*:pairedt-testTMHは,術前451±184?m(201?952?m)から術後1カ月241±62?m(156?432?m)と有意に減少した(p<0.001,pairedt-test).図7術前後のMunkスケールMunkスケールは,3.1±0.8(2?5)から術後1カ月1.2±0.9(0?3)へ有意に減少した(p<0.001,pairedt-test).た.また,流涙の自覚症状についても89%の症例で改善を自覚し,Munkスケールを用いて,3.1±0.8から術後1カ月1.2±0.9へ有意に減少することが確認できた.今回の20名中,8名(40%)が両眼施行し,12名(60%)が片眼施行した.過半数が両眼施行したものと予想したが,片眼例が多かった理由として,流涙の自覚症状に左右差があり,自覚症状の強いほうに本術式を施行し,自覚症状が少ない他眼には手術を希望されなかった症例や,片眼は本術式のみで他眼は焼灼法を併施した症例があったためと考えられる.今回の28眼では,術後の感染,創部閉鎖不全,内直筋の損傷,複視の自覚,眼窩脂肪の脱出などの合併症はみられなかった.自覚症状が悪化した症例もみられなかった.症例数が少ないが,本術式は比較的簡便で安全に施行できる術式であると思われる.なお,円蓋部挙上型結膜弛緩症に合併した涙丘・半月襞の耳側偏位に対しては,焼灼法と涙丘・半月襞切除を施行しているが,焼灼法では円蓋部挙上型結膜弛緩症の効果に限界があるため,横井らの報告による円蓋部を再建する切除法11)を今後検討する必要があると考えている.球結膜の弛緩が軽度な場合,前眼部OCTを用いてTMHは,容易に測定可能であった.球結膜の弛緩が軽度で涙丘・半月襞の耳側偏位が著明な場合,涙丘・半月襞切除は,単独でも自覚症状,他覚所見ともに改善させる有用な術式であると考えられる.文献1)鈴木亨:流涙症の原因と包括的アプローチ.眼科手術22:143-147,20092)横井則彦,渡辺彰英,荒木美治:眼表面から見た流涙症.眼科手術22:149-154,20093)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,20044)MimuraT,YamagamiS,UsuiTetal:Changesofcon-junctivochalasiswithageinahospital-basedstudy.AmJOphthalmol147:171-177,20095)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newsurgicaltreatmentforsuperiorlimbickeratoconjuctivitisanditsassociationwithconjunctivochalasis.AmJOphthalmol135:303-308,20036)横井則彦:単純性結膜弛緩症に対する手術?完全版?.眼科手術20:68-70,20077)OtakaI,KyuN:Anewsurgicaltechniqueformanage-mentofconjunctivochalasis.AmJOphthalmol129:385-387,20008)永井正子,羽藤晋,大野建治ほか:結膜弛緩症に対する結膜縫着術.あたらしい眼科25:1557-1560,20089)鹿嶋友敬,三浦文英,秋山英雄ほか:バイポーラ凝固鑷子による熱凝固の短縮効果を利用した簡便な結膜弛緩症手術.あたらしい眼科27:229-233,201010)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Improvedsubjec-tivesymptomsofconjunctivochalasisusingbipolardia-thermymethodforconjunctivalshrinkage.ClinOphthal-mol5:1391-1396,201111)横井則彦:結膜弛緩症.角結膜の手術と処置.眼科プラクティス19,外眼部手術と処置(大鹿哲郎編),p256-266,文光堂,200812)横井則彦:流涙症治療のための涙丘切除術.眼科手術22:214-216,200913)横井則彦:結膜弛緩症と流涙症の関係について教えてください.あたらしい眼科30(臨増):52-54,201314)YokoiN,BronAJ,Ti?anyJMetal:Re?activemeniscom-etry:anon-invasivemethodtomeasuretearmeniscuscurvature.BrJOphthalmol83:92-99,199915)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,201316)鳥山浩二:OCTを用いた涙液メニスカス高の測定について教えてください.あたらしい眼科30(臨増):148-150,201317)GumusK,CrockettCH,P?ugfelderSCetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomography:adiagnosticinstru-mentforconjunctivochalasis.AmJOphthalmol150:798-806,201018)MunkPL,LinDT,MorrisDC:Epiphora:Treatmentbymeansofdacryocystoplastywithballoondilationofnaso-lacrimaldrainageapparatus.Radiology177:687-690,1990◆**

残存水晶体囊が再発性硝子体出血の原因と思われた1例

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):89?93,2020?残存水晶体?が再発性硝子体出血の原因と思われた1例西野智之山本学河野剛也本田茂大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学RecurrentVitreousHemorrhageduetoaContractionofResidualLensCapsuleTomoyukiNishino,ManabuYamamoto,TakeyaKohnoandShigeruHondaDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine再発性硝子体出血(VH)の一因が白内障手術後に残存した水晶体?の収縮と思われた増殖糖尿病網膜症(PDR)の1例を報告する.症例は57歳,男性.他院で右眼外傷性白内障のため15歳時に水晶体?外摘出術,34歳時に眼内レンズ(IOL)縫着術,また両眼ともPDRに対し汎網膜光凝固術の既往がある.右眼の再発性VHのため大阪市立大学附属病院眼科を受診.初診時右眼視力は(0.15),IOLの耳下側偏位と水晶体?の残存がみられた.経過中にVHの再発を繰り返したため,初診時より3カ月後に右眼硝子体手術を施行した.初回手術後もVHは再発・消退を繰り返し,初回手術より1年後に前房出血を伴い視力は手動弁に低下,眼圧も58mmHgと上昇したため,硝子体手術を再施行し,残存水晶体?の切除を行った.術後右眼視力は(0.2)と改善,眼圧も10mmHgと低下し,VHの再発はなく,IOL偏位も不変であった.今回の症例では,残存水晶体?が初回手術を契機に線維化・収縮を生じ,再発性VHの増悪を引き起こしたと考えた.Wereportacaseofproliferativediabeticretinopathy(PDR)withrecurrentvitreoushemorrhage(VH)likelyduetoacontractionoftheresiduallenscapsuleaftercataractsurgery.A57-year-oldmalepresentedwiththepri-marycomplaintofrecurrentVHinhisrighteye.Hehadpreviouslyundergoneanextracapsularcataractextrac-tionfortraumaticcataractinhisrighteyeatage15,followedbytranssclerallysuturedintraocularlensimplanta-tionatage34andsubsequentpanretinalphotocoagulationforbilateralPDR.SincetheVHrecurredfrequently,weperformedvitrectomyonhisrighteyeat3-monthsaftertheinitialexamination.Postsurgery,theVHrelapsedandoccasionallydisappeared,yetat1-yearpostoperative,severehyphemaoccurredandintraocularpressure(IOP)increasedto58mmHg.Thus,weonce-againperformedvitrectomyandremovedaresiduallenscapsule.Afterthesecondoperation,theIOPinthepatient’srighteyedecreasedto10mmHgandnorecurrenceofVHwasobserved.Inthispresentcase,wetheorizethatthecontractionoftheresiduallenscapsuleresultedintheexacer-bationoftherecurrentVH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):89?93,2020〕Keywords:糖尿病網膜症,硝子体手術,水晶体?収縮,前部硝子体線維血管増殖.diabeticretinopathy,vitrecto-my,capsularcontractionsyndrome,anteriorhyaloidal?brovascularproliferation.はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)は,糖尿病の晩期眼合併症であり,世界的にも重篤な視力低下の原因の一つとされる1,2).その増殖期の特徴としては,硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)や牽引性網膜?離(tractionalretinaldetachment:TRD),虹彩血管新生を引き起こし,進行すると神経網膜を障害し失明に至る.進行したPDRに対する唯一の治療法は硝子体手術であるが,再手術を必要とする割合は低くない.再手術の原因としてはVH,TRD,血管新生緑内障,前部硝子体線維血管増殖(ante-riorhyaloidal?brovascularproliferation:AHFVP)によるとされる3,4).また,近年の白内障手術後の合併症として,水晶体?が原因で引き起こされる水晶体?収縮(capsularcontractionsyn-drome:CCS)がある5?11).CCSに伴う合併症として,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位や毛様体?離の報告〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANも見受けられる.今回は,再発・遷延性VHの原因が過去のIOL縫着術時に残した水晶体?の収縮によるものであったPDRの症例を報告する.I症例患者:52歳,男性.既往歴:糖尿病罹病期間20年,腎不全により透析導入,脳梗塞.眼科既往歴:16歳時に右眼外傷性白内障に対して水晶体?外摘出術,34歳時に右眼IOL縫着術を施行.この頃より両眼糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)を認め,右眼VHのため前医で汎網膜光凝固術の治療歴あり.家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:前医で両眼のDR,右眼のVHに対し治療が行われていたが,2016年よりVHは再発・消退を繰り返すようになったため,精査加療目的に2017年3月に大阪市立大学附属病院眼科を紹介受診となった.図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼ともに汎網膜光凝固瘢痕を密に認めた.図2初回手術時の術中所見と術後翌日の前眼部写真手術中,眼底に増殖膜や網膜新生血管は認めなかった(a).内境界膜?離を施行し(b),眼内レーザーを追加施行し終了した(c).残存水晶体?はIOLの固定の悪化を招く可能性を考え温存した(d).初診時所見:右眼視力=0.15(矯正不能),左眼視力=0.6(0.8×sph?2.25D(cyl?0.50DAx100°),右眼眼圧=17mmHg,左眼眼圧=19mmHgであった.右眼前眼部はIOLの耳下側偏位と残存水晶体?を認め,左眼は異常を認めなかった.当科初診時には右眼VHは認めなかった.眼底は両眼とも全周に光凝固瘢痕を認めた(図1).経過:初診時より2週間後に右眼はVHを再発し,視力低下を自覚したが,その1週間後には消退し,視力はVD=(0.15×sph?0.5D)と回復していた.さらに2カ月後に右眼VHが再発し,視力は10cm/指数弁(矯正不能)まで低下していた.このため,初診より3カ月後に硝子体手術を施行した.手術は27Gコンステレーション?ビジョンシステム(アルコン社)を使用した.術中,眼底に増殖膜や明らかな網膜新生血管は認めなかった.残存水晶体?はIOL縫着の偏位もあり,固定の悪化を招く可能性を考え温存した(図2).術後,右眼VHの再発なく,右眼視力も0.1(矯正不能)まで改善した.しかし,術後19日目に右眼VHが再発し,右眼眼圧30mmHgと上昇を認めた.ドルゾラミド塩酸塩およびチモロールマレイン酸塩液を処方し経過をみたところ,術後26日目に眼圧は正常化し,術後2カ月でVHは吸収された.術後4カ月で右眼VHは再発し,右眼視力1m/手動弁(矯正不能),右眼眼圧32mmHgと視力低下および眼圧上昇がみられた.ビマトプロスト点眼液,リパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加処方した.術後5カ月でVHは吸収され,眼圧も15mmHgと低下した.この数カ月の間に,残存水晶体?縁は直線化し瞳孔の中央部への移動を認めていた(図3).術後10カ月で右眼の前房出血を伴うVHの再発がみられ,眼圧は58mmHgに上昇した.このため,前房洗浄術と硝子体手術を施行した.術中,収縮した残存水晶体?の付着部を中心に血塊を認めたため,水晶体?を硝子体カッターで切除・除去した.IOLの偏位は不変であった(図4).眼底には明らかな増殖性変化は認めなかった.2回目の硝子体手術以降,VHはみられず,IOLの偏位の悪化もみられなかった.a図3初診時と初回手術5カ月後の前眼部写真初診時(a)にみられた残存水晶体?縁は瞳孔縁に沿って弯曲していたが,初回手術5カ月後(b)には直線化し,瞳孔中央へ偏位している.下(a'およびb')はその模式図を表す.bcd図4再手術直前の前眼部写真と再手術時の術中所見術前,前房内に多量の出血を認める(a).硝子体手術にて残存水晶体?を切除・除去した(b).残存水晶体?の付着部位には多量の出血塊を認めた(c).眼内レーザーを追加施行し手術終了とした.図5再手術1カ月後(初回手術11カ月後)のフルオレセイン蛍光眼底造影a:右眼,b:左眼.両眼とも無血管野や網膜血管新生はみられず,汎網膜光凝固瘢痕も密に認めた.再手術より1カ月後(初回手術より11カ月後)の右眼視力は(0.15)と改善した.また,確認のために行ったフルオレセイン蛍光眼底造影では両眼ともに無血管野や網膜新生血管を認めなかった(図5).II考按PDRが進行しVHを発症する機序としては,おもに網膜血管の虚血により網膜や虹彩毛様体に血管新生が生じることによる1).血管新生の予防にはレーザー光凝固や,最近では抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)が有効とされる.しかしながら,VHを発症した場合,遷延することが多く,その治療には硝子体手術が有効とされる.硝子体手術後に再発を繰り返すVHの原因としては,残存増殖膜の存在,TRD,隅角新生血管が主であるが,AHFVPを形成しているものもある3,4).また,今回の症例では残存水晶体?はIOLの前面にあり,水晶体?が膨隆したことによって,虹彩との物理的接触が起こり,出血を増悪させた可能性も否定はできない.一方,白内障手術後に水晶体?が原因で引き起こされるCCSは,従来連続前?切開を施行した白内障手術後に起こるとされ,そのリスク因子として,加齢,強度近視,落屑症候群,ぶどう膜炎,網膜色素変性,硝子体手術の既往,糖尿病の関連がいわれている6?11).組織学的検討では,水晶体上皮細胞の変性により起こるとされる.今回の症例でも,水晶体上皮細胞は水晶体?に残存しており,CCSと同様の機序で線維化を伴う変性が起こり?収縮を引き起こしていたと思われる.糖尿病の既往があり,硝子体手術を施行していることも,CCSを発症する高リスクであった可能性がある.今回の症例を総合すると,初回および再手術時に,増殖膜やTRD,隅角新生血管は認めなかったこと,初回手術後に残存水晶体?の収縮がみられ,その後高眼圧を伴うVHを再発したこと,残存水晶体?を切除することでVHの再発がみられなくなったことより,以下の考察を行った.つまり,20年近く以前のIOL縫着術の際に残した残存水晶体?が徐々に収縮し,(手術顕微鏡では検出困難であった毛様体新生血管が牽引されて)再発性VHが生じた.初回の硝子体手術をきっかけとして?収縮や膨隆が誘発され,さらに高眼圧を伴うVHを引き起こし,再手術における水晶体?の除去によって牽引が解除され,状態が治まったものと考えた.本症例はPDRの管理において,白内障手術後の水晶体?の収縮にも注意を払う必要性を示唆するものと思われる.文献1)CheungN,MitchellP,WongTY:Diabeticretinopathy.Lancet376:124-136,20102)SivaprasadS,GuptaB,Crosby-NwaobiRetal:Preva-lenceofdiabeticretinopathyinvariousethnicgroups:aworldwideperspective.SurvOphthalmol57:347-370,20123)YorstonD,WickhamL,BensonSetal:Predictiveclinicalfeaturesandoutcomesofvitrectomyforproliferativedia-beticretinopathy.BrJOphthalmol92:365-368,20084)LewisH,AbramsGW,WiliamsGA:Anteriorhyaloidal?brovascularproliferationafterdiabeticretinoathy.AmJOphthalmol104:607-615,19875)AssiaEI,AppleDJ,BardenAetal:Anexperimentalstudycomparingvariousanteriorcapsulectomytechniques.ArchOphthalmol109:642-647,19916)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19987)DavisonJA:Capsulecontractionsyndrome.JCataractRefractSurg19:582-589,19938)SudhirRR,RaoSK:Capsulorhexisphimosisinretinitispigmentosadespitecapsulartensionringimplantation.JCataractRefractSurg27:1691-1694,20019)MatsudaH,KatoS,HayashiYetal:Anteriorcapsularcontractionaftercataractsurgeryinvitrectomizedeyes.AmJOphthalmol132:108-109,200110)KatoS,OshikaT,NumagaJetal:Anteriorcapsularcon-tractionaftercataractsurgeryineyesofdiabeticpatients.BrJOphthalmol85:21-23,200111)HayashiY,KatoS,FukushimaHetal:Relationshipbetweenanteriorcapsulecontractionandposteriorcap-suleopaci?cationaftercataractsurgeryinpatientswithdiabetesmellitus.JCataractRefractSurg30:1517-1520,2004◆**

パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):84?88,2020?パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症竹内怜子*1鈴木克也*1渋谷文枝*1野崎実穂*1蒔田潤*2小椋祐一郎*1*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2福井赤十字病院ACaseofaPregnantWomanwithProliferationDiabeticRetinopathyEvaluatedbyPanoramicOpticalCoherenceTomographyAngiographyRyokoTakeuchi1),KatsuyaSuzuki1),FumieShibuya1),MihoNozaki1),JunMakita2)andYuichiroOgura1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)FukuiRedCrossHospital症例:27歳,女性.1型糖尿病があり,増殖糖尿病網膜症(PDR),糖尿病黄斑浮腫に対し福井赤十字病院眼科で両眼汎網膜光凝固術および両眼アフリベルセプト硝子体注射を受けていたが,2017年5月に妊娠が判明.妊娠継続を強く希望したため,トリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(STTA)への治療変更と網膜光凝固が追加された.糖尿病黄斑浮腫治療に対するセカンドオピニオンのため2017年7月(妊娠15週)に名古屋市立大学病院眼科を受診した.初診時,パノラマ光干渉断層血管撮影(OCTA)で視神経乳頭および網膜に新生血管を認めた.出産まではSTTAを行い,出産後硝子体手術を受けることを勧めた.2018年1月に出産し,前医で両眼硝子体手術施行した.2018年6月当院再診時,パノラマOCTAで両眼の新生血管の退縮が確認された.考察:パノラマOCTAは非侵襲的に実施でき,妊婦・授乳婦のPDRの経過観察に有用と考えられた.Purpose:Toreportthecaseofapregnantwomanwithproliferationdiabeticretinopathy(PDR)evaluatedbypanoramicopticalcoherencetomographyangiography.CaseReport:Thisstudyinvolveda27-year-oldpregnantwomanwithtype1diabetesmellituswhowasreferredtotheNagoyaCityUniversityHospitalforasecondopin?ionregardingtheappropriatetreatmentforPDRanddiabeticmacularedema.Shehadpreviouslyundergonepan?retinalphotocoagulationandvitreousinjectionsofa?iberceptinbotheyesatanotherhospital.InMay2017,shebecamepregnant,andunderwentsubtenon’striamcinoloneacetonide(STTA)injectioninadditiontoretinalphoto?coagulation,andsubsequentlyvisitedourhospitalinJuly2017.Atherinitialvisit,panoramicopticalcoherencetomographyangiography(OCTA)showedneovascularizationintheopticdiscandretina.Weadvisedhertocon?tinuetheSTTAinjectionsandundergovitrectomyaftershehadgivenbirth.InJanuary2018,shegavebirthandsubsequentlyunderwentvitrectomyinbotheyes.InJune2018,OCTAshowedregressionoftheneovasculariza?tion.Conclusions:SinceOCTAisabletoevaluatetheretinalvasculaturenon-invasively,panoramicOCTAisuse?fulforfollow-upofPDRinpregnantorlactatingwomen.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):84?88,2020〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫,妊婦,パノラマ光干渉断層血管撮影,新生血管.proliferativediabeticretinopathy(PDR),diabeticmacularedema(DME),pregnant,panoramicopticalcoherenttomographyan?giography(OCTA),neovascularization.はじめに糖尿病網膜症の診断,評価にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(?uoresceinangiography:FA)が用いられてきたが1),造影剤に対するアレルギーなど検査が実施困難な症例も存在する2).また,妊娠中のFAに関しては安全性が確立されておらず,施行は避けるべきであるとされている3).今回,パノラマ光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomog?raphyangiography:OCTA)が経過観察に有用であった妊〔別刷請求先〕竹内怜子:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RyokoTakeuchi,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPAN84(84)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時超広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,軟性白斑,汎網膜光凝固瘢痕を認める.娠中の増殖糖尿病網膜症の1例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,女性.主訴:両眼視力低下.現病歴:8歳時に1型糖尿病を指摘されインスリン導入されている.2010年から福井赤十字病院眼科にて眼底検査を定期的に受けており,2012年に初めて左眼軟性白斑を含む糖尿病網膜症を指摘された.2015年5月にFAを施行し無灌流領域は認めなかったが,2016年12月に両眼網膜出血,黄斑浮腫の悪化を認めたためFAを再度施行のうえ2017年2月に両眼汎網膜光凝固を施行した.2017年3月に再度両眼黄斑浮腫が悪化し,妊娠していないことを確認のうえ両眼アフリベルセプト硝子体内注射を行った.しかし2017年5月に妊娠が判明し,その後黄斑浮腫の再発を認めた.挙児希望は強く,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬の妊婦に対する安全性は確立されていないため,治療をトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(sub-tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)へ変更し,網膜光凝固を追加のうえ妊娠継続とした.その後も黄斑浮腫が遷延し,セカンドオピニオン目的で2017年7月に名古屋市立大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:妊娠15週,ヘモグロビンA1c8.0%.視力は右眼0.1(0.2×?2.00D),左眼0.1(0.5×?1.50D(cyl?0.50DAx165°).眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHg.両眼前眼部および中間透光体に特記する異常はなかった.両眼眼底には網膜出血,軟性白斑,黄斑浮腫,網膜光凝固瘢痕,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めた(図1,2).TritonDRIOCT(トプコン)を用いて9mm×9mmの網膜全層のOCTA画像7枚を撮影し,付属ソフトウェア(IMA?GEnet6,トプコン)を用いて手動合成することでパノラマ図2初診時OCT(CirrusOCT,CarlZeiss)網膜下液を伴った黄斑浮腫を認める.OCTA画像を作成した(図3).パノラマOCTAでは,両眼無灌流領域,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めるとともに,一部の新生血管は高い活動性を示唆する微小血管の密な増殖がみられた.経過:当院初診時も妊娠継続を希望していたため,糖尿病黄斑浮腫に対してSTTAを継続し,出産後にVEGF阻害薬の硝子体内投与もしくは硝子体手術を提案した.2017年10月の当院再診時には両眼硝子体出血と左眼硝子体網膜牽引の悪化を認めた.2018年1月に出産,同月前医にて両眼硝子体手術を施行し,後部硝子体?離の作製と内境界膜?離を行った.2018年4月に右眼硝子体出血が生じたため,2018年5月に再度硝子体手術が施行された.2018年6月に当院を再診した.図3初診時パノラマOCTA(9mm×9mm7枚)上段:無灌流領域(?)と視神経乳頭,網膜新生血管(?)を認める.下段:乳頭部の拡大(a)および同部のBスキャン画像(b)でも硝子体腔内に伸展する乳頭部新生血管が確認できる.図4再診時広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,新生血管の改善を認める.2018年6月再診時所見:視力は右眼0.1(0.15×?2.00D),左眼0.1(0.7×?1.00D(?0.75DAx170°).眼圧は右眼13mmHg,左眼10mmHg.両眼とも黄斑浮腫が消失し,網膜出血の減少と新生血管の退縮を認めた(図4).12mm×12mmの網膜全層のOCTA画像6枚から作成したパノラマOCTAでも両眼視神経乳頭新生血管,網膜新生血管の退縮が確認でき,一部ループ状血管の残存を認めるが新生血管の血管密度は低下していた(図5).II考按妊娠中の増殖糖尿病網膜症患者に対し,パノラマOCTAを用いて経過観察を行った1例を経験した.OCTAは非侵襲的に網膜血管状態を評価可能であり,FAの実施が困難な患者に実施可能である.近年はOCTAを用いることにより,図5再診時パノラマOCTA(12mm×12mm,6枚)右眼に無灌流領域(?)を認めるが,新生血管の退縮,活動性の低下(?)を認める.乳頭部の拡大(a)と同部のBスキャン画像(b)でも乳頭部新生血管の消失を認める.糖尿病網膜症の悪化が早期に発見できる可能性も報告されている4,5).従来のOCTAは画角が6mm程度と狭いというデメリットがあったが,最近開発された複数枚のOCTA画像からパノラマ画像を作成する手法では,解像度を落とすことなく周辺網膜まで観察できるというメリットがある6).星山らは,妊娠9週の1型糖尿病合併妊婦に対し,パノラマOCTAを用いて無灌流領域を評価し汎網膜光凝固を実施し,その有用性を報告している7).本症例においても,治療前後のパノラマOCTA画像を撮影することで,治療効果の判定を非侵襲的に行うことができた.しかしながらOCTAを用いた糖尿病網膜症の評価は,従来のFAと異なる点もある.OCTAでは汎網膜光凝固の瘢痕が描出されないため,光凝固の有効性の評価は無灌流領域に対する光凝固の程度ではなく,新生血管や網膜内細小血管異常の退縮を用いて評価する必要がある.また,OCTAでは蛍光漏出を観察できないため,新生血管の形態や活動性の評価においても,enface画像だけでなくBスキャン画像を組み合わせて評価を行い,新生血管の三次元的な伸展を評価すべきである8).石羽澤らは,PDRにおけるFAとOCTAを比較し,網膜新生血管の密な微小血管増殖がFAでの蛍光漏出と相関し,新生血管の活動性を反映しており,活動性の低下した新生血管では微小血管は減少し成熟した血管構造が残ることを報告している9).このようにOCTAと従来のFAとの差を理解し評価を行う必要があるものの,パノラマOCTAはOCTA画像5?6枚で作成可能であり,非侵襲的に網膜周辺部の血管状態を評価することができる.パノラマOCTAは本症例を含め妊婦,授乳婦やアレルギーのためFAが施行できない症例における糖尿病網膜症の治療方針決定や治療前後の効果判定に有用であると考えられた.文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Classi?cationofdiabeticretinopathyfrom?uores?ceinangiograms:ETDRSreportnumber11.Ophthalmol-ogy98:807-822,19912)XuK,TzankovaV,LiCetal:Intravenous?uoresceinangi?ography-associatedadversereactions.CanJOphthalmol51:321-325,20163)湯澤美都子,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか;眼底血管造影実施基準委員会:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌115:67-75,20114)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopti?calcoherencetomographyangiography.Retina35:2377-2383,20155)SuzukiK,NozakiM,TakaseNetal:Associationoffovealavascularzoneenlargementanddiabeticretinopathypro?gressionusingopticalcoherencetomographyangiography.JVitreoRetinDis2:343-350,20186)ZhangQ,LeeCS,ChaoJetal:Wide-?eldopticalcoher?encetomographybasedmicroangiographyforretinalimag?ing.SciRep6:22017,20167)星山健,平野隆雄,若林真澄ほか:パノラマOCTangi?ographyが治療方針決定に有用であった増殖糖尿病網膜症の2例.眼科59:67-74,20178)PanJ,ChenD,YangXetal:Characteristicsofneovascu?larizationinearlystagesofproliferativediabeticretinopa?thybyopticalcoherencetomographyangiography.AmJOphthalmol192:146-156,20189)IshibazawaA,NagaokaT,YokotaHetal:Characteristicsofretinalneovascularizationinproliferativediabeticreti?nopathyimagedbyopticalcoherencetomographyangiog?raphy.InvestOphthalmolVisSci57:6247-6255,2016◆**

SGLT2阻害薬内服後にドライアイの悪化が観察された2型糖尿病の1例

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):79?83,2020?SGLT2阻害薬内服後にドライアイの悪化が観察された2型糖尿病の1例今井孝俊田中久美子平野資晴横浜市立市民病院糖尿病リウマチ内科ACaseofType2DiabeteswithExacerbationofDryEyeSyndromeaftertheInitiationofanSGLT2InhibitorTakatoshiImai,KumikoTanakaandMotoharuHiranoDepartmentofDiabetesandRheumatology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital症例は73歳,男性.56歳時に糖尿病を指摘され外来加療を継続していたが,73歳時にHbA1c高値持続のため血糖コントロール目的で当院に入院した.入院半年前の眼科診察時にはドライアイを指摘され点眼薬処方を受けていた.入院後,強化インスリン療法とダパグリフロジン(Dapa)5mg内服を開始した.第11病日(Dapa開始8日目)に眼科を定期受診した際に,自覚症状はなかったがドライアイの悪化を指摘された.軽度脱水傾向も認めたが,経過観察の形で第14病日に経口血糖降下薬のみで退院した.なお,入院中に行った神経伝導検査で重度障害の所見を認めた.退院3日後(Dapa開始14日目),羞明を主訴に早期受診した際,血清クレアチニンが1.51mg/dlまで上昇しており,Dapaは中止された.Dapa中止6日後に眼科を再受診した時点では自覚症状は軽快し,ドライアイ所見の改善を認め,Dapa中止1カ月後の採血では腎機能は正常化した.ドライアイ所見の悪化にsodium-glucosecotransporter2(SGLT2)阻害薬開始後の全身性の脱水傾向が関与した可能性が示唆された.Purpose:Toreportacaseoftype2diabeteswithexacerbationofdryeyesyndrome(DES)afterinitiationofsodium-glucosecotransporter-2(SGLT2)inhibitor.Casereport:A73-year-oldmalewitha17-yearhistoryoftype2diabetesmellituswhowasdiagnosedwithDES6-monthspreviouswashospitalizedforthetreatmentofhyperglycemia.Hewastreatedwithinsulinanddapagli?ozin(5mg/day),yetanophthalmicexaminationper?formed8-dayspostdapagli?ozininitiationrevealedadecreasedtear?lmbreak-uptime(BUT)andanexacerba?tionofDES.Threedaysafterdischarge(i.e.,14daysaftertheinitiationofdapagli?ozin),heexperiencedphotopho?biaandhisserumcreatininelevelwaselevated(Cr1.51mg/dl),sodapagli?ozinwasdiscontinued.Sixdayslater,ophthalmicexaminationrevealedthathistear?lmBUTandDESsymptomshadimproved,and1-monthlater,hisserumcreatininelevelwasfoundtobenormal.Conclusions:Incasesoftype2diabeteswithahistoryofDES,dehydrationafterinitiationofSGLT2inhibitorforthetreatmentofhyperglycemiamightpossiblyleadtoexacerba?tionofDES.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):79?83,2020〕Keywords:糖尿病,ドライアイ,SGLT2阻害薬,脱水,糖尿病神経障害.diabetesmellitus,dryeyesyndrome,sodium-glucosecotransporter2(SGLT2)inhibitor,dehydration,diabeticneuropathy.はじめにドライアイはvisualdisplayterminals(VDT)作業従事者やコンタクトレンズ装用者以外に高齢者でも多くみられる疾患であるが,糖尿病もリスクファクターとして知られている1).一方,糖尿病の薬物治療において,2014年よりわが国でもNa+/グルコース共輸送担体(sodium-glucosecotrans?porter:SGLT)2阻害薬が使用されるようになっている.SGLTには6種類のアイソフォームがあることが知られ,SGLT1はおもに小腸と腎尿細管上皮細胞,SGLT2はおもに〔別刷請求先〕今井孝俊:〒240-8555神奈川県横浜市保土ヶ谷区岡沢町56横浜市立市民病院糖尿病リウマチ内科Reprintrequests:TakatoshiImai,M.D.,DepartmentofDiabetesandRheumatology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital,56Okazawa-cho,Hodogaya-ku,Yokohama,Kanagawa240-8555,JAPAN尿細管上皮細胞に発現している.ともに細胞内外の濃度勾配に逆らってグルコースを能動輸送し,腎糸球体で濾過されたブドウ糖の約90%がSGLT2で,残りの約10%がSGLT1で再吸収される.SGLT2阻害薬は近位尿細管のSGLT2を選択的に阻害することで尿糖排泄を促し,インスリン非依存経路で血糖改善作用をもたらす薬剤である.近年の大規模臨床試験の結果から,とくに動脈硬化性心血管疾患や心不全,慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者における有用性が注目されている2)が,日本糖尿病学会からのRecommendationにおいて,浸透圧利尿に伴う脱水への注意喚起もなされている.今回,高齢2型糖尿病患者において,SGLT2阻害薬開始後にドライアイの悪化が観察された症例を経験したので報告する.I症例患者:73歳,男性.既往歴:高血圧,脂質異常症,高尿酸血症,慢性咳嗽,足爪白癬,50代胆?摘出術,58歳ラクナ梗塞,59歳・64歳胃潰瘍,64歳総胆管結石,72歳大腸腺腫内視鏡的粘膜切除術.家族歴:糖尿病の家族歴なし,他に特記事項なし.生活歴:喫煙歴:現在なし,63歳まで20本/日.飲酒歴:焼酎1?2杯/日(40歳まで5合/日).体重歴:過去最高体重98kg.入院前使用薬剤:グリメピリド1mg,アログリプチン25mg/ピオグリタゾン15mg配合錠,メトホルミン1,000mg,シルニジピン20mg,リシノプリル20mg,フェノフィブラート160mg,バイアスピリン100mg/ランソプラゾール15mg配合錠,アロプリノール100mg,ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬0.1%(症状に応じて適宜),ナジフロキサシンローション,フルオシノニド軟膏現病歴:56歳時に糖尿病が判明し,60歳からスルホニル尿素薬で薬物療法が開始されたが,2年前からHbA1cが8?10%台で持続し,適宜経口血糖降下薬の調整を受けるも改善がみられないため血糖コントロール目的に当院に入院した.また,当院眼科にも定期的に通院しており,入院半年前の診察時にドライアイを指摘され,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)両側2秒,角膜下方に点状表層角膜症(super??cialpunctatekeratopathy:SPK)を認め,ジクアホソルナトリウム点眼(両眼1日6回)を処方された.入院2カ月前の眼科診察ではBUT両側10秒以上,角膜下方に少々SPKありとドライアイは改善傾向の所見で,ヒアルロン酸ナトリウム点眼屯用のみで経過観察となっていた.入院時に眼科的な自覚症状はなかった.入院時現症:身長181.0cm,体重90.5kg,BMI27.6kg/m2,腹囲105.4cmと肥満を認めた.血圧140/62mmHg,脈拍84bpm整,体温36.3℃.眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄疸なし,甲状腺腫なし,頸動脈雑音なし,胸腹部に異常所見なし,両側下腿浮腫なし.足皮膚に白癬あり.アキレス腱反射は正常だが,下肢振動覚の低下を認め(C128音叉で右5秒,左6秒),足底部タッチテストでは右足は3.61を触知,左足は4.31を触知した.Schellong試験は陰性だった.入院時検査所見(表1):軽度貧血を認めることと,糖尿病のコントロールがHbA1c9.5%と不良で,脂質異常症を合併する以外は尿検査,血算,生化学に明らかな異常を認めなかった.糖尿病関連の検査では,内因性インスリン分泌は十分に保たれており,glutamicaciddecarboxylase(GAD)抗体は陰性であった.細小血管症に関しては,網膜症なく,腎症1期であったが,神経伝導検査の結果では,脛骨神経誘発筋電位低下(<5mV),腓腹神経の導出不良を認め,神経伝導検査による重症度分類3)で重度の判定となる所見であった(表2).臨床経過:入院後,すべての経口血糖降下薬を中止し,1,800kcal/日の食事療法で血糖推移を確認したうえで第3病日から強化インスリン療法を開始.第4病日からダパグリフロジン5mgも追加し糖毒性解除を図った.第8病日の定時採血で血清クレアチニン(Cr)1.16mg/dlと上昇を認め,第11病日に再検したところ,血清Cr1.26mg/dlとさらに上昇していた.入院後もとくに自覚症状はなく経過していたが,本人が入院中の眼科受診を希望したことから第11病日に眼科を受診したところ,BUT右眼5?6秒・左眼3?4秒,角膜下方に少々SPKありとの所見でドライアイの悪化を指摘された.ジクアホソルナトリウム点眼の適応と診断されたが,院内採用薬にないことからヒアルロン酸ナトリウム点眼(両眼1日4回)で対応となった.第12病日からインスリン注射を終了し,第14病日にダパグリフロジン5mgおよびアログリプチン25mg/ピオグリタゾン15mg配合錠の内服で血糖の安定化が得られ退院した.退院後3日目(ダパグリフロジン開始14日目)に,夕方や日差しが強いときに眩しく感じることを主訴に当科予約外受診した.その際の採血では血清Cr1.51mg/dlまで悪化していることからダパグリフロジンを中止し,速やかな眼科受診を指示したが,退院9日目(ダパグリフロジン中止6日目)に眼科を受診.この時点では眼科的な自覚症状は軽快し,診察上BUT右眼8?10秒・左眼8?10秒でSPKは認めず,ヒアルロン酸ナトリウム点眼(両眼1日4回)の継続で経過観察となった.退院1カ月後の当科再診時の採血では血清Cr0.80mg/dlと正常化しており(図1),退院3カ月後の眼科診察ではヒアルロン酸ナトリウム点眼屯用でのフォローとなった.表1入院時検査所見(1)尿検査比重1.013(1.006?1.020)クレアチニン尿酸0.91mg/dl(0.52?1.1)5.1mg/dl(2.5?7.0)pH7.5(4.5?7.5)ナトリウム143mEq/l(135?147)蛋白(-)カリウム4.2mEq/l(3.6?5.0)ケトン(-)クロール108mEq/l(101?111)潜血(-)カルシウム9.3mg/dl(8.2?10.2)末梢血リン3.5mg/dl(2.5?4.6)白血球赤血球ヘモグロビンヘマトクリット血小板5,430/?l(3,500?9,000)4.32×106/?l(4.3?5.6)12.4g/dl(12.9?17.0)39.8%(40?51)209×103/?l(130?370)総コレステロール中性脂肪HDL-CLDL-C空腹時血糖205mg/dl(120?220)265mg/dl(55?150)29.4mg/dl(40.0?62.2)121mg/dl(<140)135mg/dl(70?109)生化学総蛋白6.7g/dl(6.7?8.3)HbA1cグリコアルブミン9.5%(4.6?6.2)22.5%(11.0?16.0)アルブミン4.2g/dl(3.8?5.3)CRP0.1mg/dl(<0.50)総ビリルビンAST0.9mg/dl(0.2?0.9)25IU/l(8?38)免疫GAD抗体<5.0U/ml(0.0?4.9)ALT26IU/l(4?44)内分泌ALPgGTPLDHCPK尿素窒素88IU/l(104?338)21IU/l(0?60)146IU/l(106?211)125IU/l(40?220)13.8mg/dl(8.0?21.0)freeT3freeT4TSHレニン活性アルドステロン2.5pg/ml(1.7?3.7)1.1ng/dl(0.7?1.5)1.42?IU/ml(0.35?4.9)3.1ng/ml/hr(座位0.2?3.9)107.5pg/ml(36.0?240.0)AST:アスパラギン酸・アミノ基転移酵素,ALT:アラニン・アミノ基転移酵素,ALP:アルカリ性リン酸分解酵素,gGTP:gグルタミル・トランスペプチターゼ,LDH:乳酸脱水酵素,CPK:クレアチン・リン酸分解酵素,HDL-C:高比重リポ蛋白コレステロール,LDL-C:低比重リポ蛋白コレステロール,HbA1c:ヘモグロビンA1c,CRP:C反応性蛋白,GAD:グルタミン酸脱炭酸酵素,TSH:甲状腺刺激ホルモン.II考察食事負荷:表2入院時検査所見(2)ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがあると定義され,1.眼不快感,視機能異常などの自覚症状,2.BUTが5秒以下,の両者を有することがわが国の診断基準とされている4).一般にドライアイはVDT作業従事者やコンタクトレンズ装用者以外に高齢者でも多くみられる疾患であるが,糖尿病もリスクファクターとして知られている.また,ドライアイの原因として薬剤の関与も知られており,利尿薬,bブロッカー,抗ヒスタミン薬,抗精神病薬,抗Parkinson薬,抗痙攣薬,アスピリン,抗アンドロゲン薬などがあげられている1,5).一方,SGLT2阻害薬は近位尿細管のSGLT2を選択的に阻害することで尿糖排泄を促し,インスリン非依存経路による血糖改善作用をもたらす経口血糖降下薬であり,とくに動脈硬化性心血管疾患や心不全,慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者における有用性が注目されている2).わが国においても処方数が増加しているが,副作用として浸透圧利尿による脱水や,尿糖排泄に伴う尿路感染症,性器感染症が知られ空腹時血糖135mg/dl,血清C-ペプチド3.09ng/ml食後2時間血糖261mg/dl,血清C-ペプチド4.92ng/ml24時間蓄尿:クレアチニンクリアランス96.3ml/min,微量アルブミン14.4mg/day,尿中C-ペプチド245.8?g/day眼底所見:網膜症なし安静時心電図RR間隔変動係数(CVR-R):1.881%神経伝導検査:脛骨神経F波潜時延長あり(59.9ms)脛骨神経誘発筋電位低下(<5mV)腓腹神経導出不良脈波伝導速度(PWV):右1,674cm/s,左1,590cm/s足関節上腕血圧比(ABI):右1.08,左1.05ている.今回,高齢2型糖尿病患者に対してSGLT2阻害薬を開始後,ドライアイの悪化が観察された症例を経験した.今までにSGLT2阻害薬とドライアイの関連を示す明らかな報告はないが,ダパグリフロジンのインタビューフォームにおける副作用報告として眼乾燥が少数ながらあげられている.本症例は血糖コントロール不良の高齢2型糖尿病であり,かつ神10.09.08.07.02.01.51.00.530.020.010.0入院期間ンlozin5図1臨床経過血漿浸透圧=2×血清Na+BUN/2.8+血糖/18で算出.SU:スルホニル尿素薬,DPP4i:DPP4阻害薬,TZD:チアゾリジン薬,BG:ビグアナイド薬,BUT:涙液層破壊時間.経伝導検査において重度に分類される神経障害を有していた.血糖コントロール不良や糖尿病神経障害の存在,さらにはその重症度により,ドライアイが悪化するという報告があり6?10),加えて本症例ではアスピリン5)やACE阻害薬11)といったドライアイに関連しうる薬剤も使用していた.また,欧米においては,炎症や涙液浸透圧の上昇がドライアイの原因として重視されているが4),涙液浸透圧と全身性脱水が関連するとの報告12,13)や,ドライアイ患者で血漿浸透圧が高いという報告14)から,全身性脱水がドライアイの病態に関与してくる可能性も考えられる.本症例においては経過中,眼症状の自覚がもっとも強いときに眼科診察を受けておらず,ドライアイ以外の眼病変の存在も否定はできないが,元々のドライアイ既往に,重度神経障害を合併したコントロール不良の2型糖尿病,ドライアイに影響する薬剤使用といった背景に,入院中の減塩食徹底によるレニン・アンギオテンシン系阻害薬の効果増強や入院環境下での自由飲水不足に加え,SGLT2阻害薬開始後の浸透圧利尿が全身性脱水を引き起こし,ドライアイを悪化させる要因になったと考えられた.ドライアイの悪化が観察された際には,一般的な眼科診察においても患者の服用薬剤の確認や,全身状態の把握に努めることも重要と考える.謝辞:本論文作成にあたりご助言をいただきました当院眼科スタッフの皆様に深謝いたします.文献1)ClaytonJA:Dryeye.NEnglJMed378:2212-2123,20182)DaviesMJ,D’AlessioDA,FradkinJetal:Managementofhyperglycaemiaintype2diabetes,2018.Aconsensus?reportbytheAmericanDiabetesAssociation(ADA)andtheEuropeanAssociationfortheStudyofDiabetes(EASD).Diabetologia61:2461-2498,20183)馬場正之:神経伝導検査による糖尿病性神経障害の重症度診断.臨床神経生理学41:143-150,20134)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科34:3-8,20175)FraunfelderFT,SciubbaJJ,MathersWD:Theroleofmedicationsincausingdryeye.JOphthalmol2012:doi:10.1155/2012/2858516)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Dryeyeindia?beticpatient.AmJOphthalmol139:498-503,20057)ZouX,LuL,XuYetal:Prevalenceandclinicalcharac?teristicsofdryeyediseaseincommunity-basedtype2diabeticpatients:theBeixinjingeyestudy.BMCOphthal-mol18:articleno117,20188)DogruM,KatakamiC,InoueM:Tearfunctionandocu?larsurfacechangesinnoninsulin-dependentdiabetesmel?litus.Ophthalmology108:586-592,20019)AchtsidisV,EleftheriadouI,KozanidouEetal:Dryeyesyndromeinsubjectswithdiabetesandassociationwithneuropathy.DiabetesCare37:e210-e211,201410)MisraSL,PatelDV,McGheeCNJetal:Peripheralneu?ropathyandtear?lmdysfunctionintype1diabetesmelli?tus.JDiabetesRes2014:848659,201411)KalkanAkcayE,AkcayM,CanGDetal:Thee?ectofantihypertensivetherapyondryeyedisease.CutanOculToxicol34:117-123,201512)FortesMB,DimentBC,DiFeliceUetal:Tear?uidosmo?larityasapotentialmarkerofhydrationstatus.MedSciSportsExerc43:1590-1597,201113)WillshireC,BronAJ,Ga?neyEAetal:BasalTearOsmo?larityasametrictoestimatebodyhydrationanddryeyeseverity.ProgRetinEyeRes64:56-64,201814)WalshNP,FortesMB,Raymond-BarkerPetal:Iswhole-bodyhydrationanimportantconsiderationindryeye?InvestOphthalmolVisSci53:6622-6627,2012◆**

ニュープロダクツ 株式会社ライト製作所 Retinomax Screeen/Retinomax K+Screeen/Retinomax 5/Retinomax K-plus 5

2020年1月31日 金曜日

ニュープロダクツ●株式会社ライト製作所RetinomaxScreeenRetinomaxK+ScreeenRetinomax5RetinomaxK-plus5新Retinomaxシリーズは,軽かった前モデルと比較して,全ての新モデルがさらに軽く,持ちやすく,加えて長時間駆動実現により使いやすくなりました.機動力と操作性に拘り新機能を搭載したハンドヘルドレフです.新Retinomaxシリーズは新たに3つの機能が搭載されました.Retinomax本体と被検者の距離をアイコンの色でお知らせする新機能「フォーカスアシスト」.小児の興味を引き続ける色が変化する固視標と測定中終始流れ続けるメロディ,装置への恐怖心を取り除く4色外部発光LED,により小児測定をサポートする「チャイルドモード」.Retinomax本体の傾きを感知し,画面に表示するだけでなく,その傾きの角度に応じて乱視軸度を自動補正する「AX自動補正」.従来より,ハンドヘルドレフは,様々な場所や用途でご使用いただいております.病棟での検査,手術室での術前術後の検査,検診や屋外での被災地への出張検診など,多様な要求にお応えします.新Retinomaxでは,使いやすさを求め,チルト式3.5インチカラーLCDを搭載した「RetinomaxScreeenシリーズ」とビューファインダーカラーVGAを搭載した「Retinomax5シリーズ」をラインナップしております.固視標チャートもチューリップチャート,クマチャート,花火チャートと3種類から選択することができ,用途や使用感に合わせた選択が可能です.<製造販売元>株式会社ライト製作所本社・営業〒174-8633東京都板橋区前野町1丁目47番3号TEL(03)3960-2275FAX(03)3960-228RetinomaxScreeenRetinomaxK+ScreeenRetinomax5RetinomaxK-plus5ホームページ:http://www.righton-oph.comEメール:eigyousitsu@rightmfg.co.jp<販売特約店>株式会社JFCセールスプラン本社・営業〒113-0033東京都文京区本郷4丁目3番4号明治安田生命本郷ビルTEL(03)5684-8531FAX(03)5684-8840ホームページhttp://www.jfcsp.co.jp/index.html72あたらしい眼科Vol.37,No.1,2020(72)

ニュープロダクツ ジャパンフォーカス株式会社 他覚的視機能検査装置<アイナック>

2020年1月31日 金曜日

ニュープロダクツ●ジャパンフォーカス株式会社他覚的視機能検査装置<アイナック>アイナックは,赤外線カメラによる視線検出技術を搭載した,自覚応答を必要としない他覚的視機能検査装置です.ソフトウェアは①HESS検査,②定量的眼位検査,③瞳孔径検査,④動画撮影,⑤立体視検査の中から,必要なアプリケーションを任意に選択することができます.短時間で再現性の高い検査結果を取得することができ,被検者の負担を減らします.暗室に限らず検査を行うことが可能で,コンパクト形状であるため設置場所を選びません.【HESS検査】HESSチャート,9方向写真,座標情報を取得【定量的眼位検査】度,またはプリズムで表示【瞳孔径検査】明所,薄暮,暗所条件等,明るさの設定が可能【動画撮影】眼の動きを動画で保存【立体視検査】5,000?400秒の同側性,交差性視差の設定が可能<総販売元・資料請求先>ジャパンフォーカス株式会社東京都文京区本郷4丁目37番18号TEL:03-3815-2611https://www.japanfocus.co.jp/(71)あたらしい眼科Vol.37,No.1,202071

基礎研究コラム 32.網膜血管の透過性制御

2020年1月31日 金曜日

基礎研究コラム?監修北澤耕司・村上祐介・中川卓網膜血管の透過性制御血液網膜関門と透過性制御網膜血管にはバリアー機能があり,物質の透過を制御することで神経組織に至適な微小環境を維持します.血液網膜関門(BRB)とは,網膜血管内腔と網膜間の物質移動を制御するために血管に備わった機能・構造のことです.図1左のように,移動経路には血管内皮細胞内を通過する細胞内経路と,血管内皮細胞間を通過する細胞間経路があります.いわゆる「血管透過性」とは両経路を介した物質移動の総和に規定されますが,BRBではとくに細胞間経路が厳密に制御されています1).細胞間経路の詳細を図1右に示しますが,網膜では他臓器に比して血管内皮細胞間の接着構造〔occludin,claudin-5などのtightjunction(TJ)構成分子〕が発達しており,ほぼ隙間のない状態に保たれています.Occuldin,claudin-5はともに月田承一郎先生の研究室でクローニングされた分子であり,TJ研究は日本人がリードしてきた研究領域でもあります2).眼の領域ではどうでしょうか血管バリアーの研究には130年を越える歴史がありますが,まだまだ謎の多い領域です.眼疾患においても,これだけ黄斑浮腫治療が盛んに行われているにもかかわらず,TJ破綻に直接的に関わる分子を標的とした治療法は未だありません.TJは複合体を形成しており分子の単離がむずかしいこと,複数の分子が直接絡み合って存在するため相互作用を特定しづらいこと,がこれまで研究が進みにくかったおもな理由ではないかと思います.TJ構成蛋白のうち,claudin-5は他のTJ蛋白質で補?されないことが知られています2).有馬充九州大学大学院医学研究院眼科学分野つまりclaudin-5の消失はバリアー破綻に直結しますので,筆者らはclaudin-5に焦点を絞り,ROCKがVEGFとは異なる経路でclaudin-5の発現を制御し,抗VEGF治療抵抗性の糖尿病黄斑浮腫(DME)形成に関与することを突きとめました(図2,投稿中).今後の展望近年シングルセル解析を用いた研究が盛んに行われており,TJ制御機構の解明も加速度的に進むことが期待されます.抗VEGF抵抗性DMEに対する新規標的分子の候補も今後いくつか出てくるでしょう.また,血管バリアー機能があるがために血中から網膜への薬剤移行率が低下することから,あえて治療のためにバリアーを壊すような研究も行われています3).眼科でもこのようなアプローチが腫瘍や変性疾患治療に応用される日が来るかもしれません.文献1)KlaassenI,VanNoordenCJ,SchlingemannRO:Molecu-larbasisoftheinnerblood-retinalbarrieranditsbreak-downindiabeticmacularedemaandotherpathologicalconditions.ProgRetinEyeRes34:19-48,20132)NittaT,HataM,GotohSetal:Size-selectivelooseningoftheblood-brainbarrierinclaudin-5-de?cientmice.JCellBiol161:653-660,20033)CampbellM,NguyenAT,KiangASetal:Anexperimen-talplatformforsystemicdrugdeliverytotheretina.ProcNatlAcadSciUSA106:17817-17822,2009炎症性刺激TNFa,IL-6,IL-8,MCP-1など)足突起血管内腔側細胞間隙細胞膜Claudin-53.Claudin-5を支える構造が崩壊し,膜から消失細胞内輸送経路血管内皮細胞水・イオンの細胞内ZO-12.Claudin-5と基底膜血管内腔ZO-1透過を防ぐOccludinClaudin-5炎症性刺激によりROCKが活性化アクチン線維ZO-1の結合がはずれ…アストロサイト血管内皮細胞細胞間輸送経路アクチン線維基底膜網膜側ROCKによりアクチン線維が重合1.アクチン線維の収縮により…図2抗VEGF治療抵抗性DMEにおけるclaudin?5の発現制御図1網膜血管の構造網膜血管ではとくに“細胞間輸送経路”が厳密に制御されている(左).この制御機構は,細胞間に存在するtightjunction(occludinやclaudin-5)によって支えられている.炎症性刺激により活性化されたROCKはアクチン重合を促進する.アクチンの収縮によりZO-1が引き込まれ,claudin-5とZO-1の結合がはずれる.Claudin-5の発現を支えていた骨格構造が崩壊することで,claudin-5の膜からの消失が促される.(67)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.1,202067