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ドライアイにおける抗炎症治療の功罪

2020年6月30日 火曜日

ドライアイにおける抗炎症治療の功罪TheAnti-InflammationTherapyforDryEye堀裕一*はじめにドライアイは炎症性疾患であると以前からいわれており,ドライアイに対する抗炎症治療は以前から行われている.たとえば,海外では免疫抑制薬であるシクロスポリン点眼がドライアイ治療薬として承認されており,広く使われている(わが国では未承認).本稿では,わが国のドライアイ診療ガイドラインにおける抗炎症治療の位置づけと,日々のドライアイ診療で抗炎症治療をどのように使っていくかを解説する.CIドライアイ診療ガイドラインにおける抗炎症治療の位置づけまずは,2019年日本眼科学会雑誌に掲載されたドライアイ診療ガイドライン1)でのクリニカルクエスチョン(CQ)における抗炎症治療に関連する記載のサマリーを紹介し,それぞれに解説を加える.C1.副腎皮質ステロイド点眼の有効性は?(CQ9)サマリー「副腎皮質ステロイド点眼は,自覚症状,涙液の安定性を改善し,治療の選択肢として提案するが,有害事象として頻度は少ないものの眼圧上昇には留意が必要である」1).解説:ステロイド点眼,とくにフルオロメトロンなどの低力価のステロイド点眼をC1日C2回C1カ月程度続けると,ドライアイ患者の自覚症状が劇的に改善する症例がある.これまでの無作為化比較試験(randomizedCcon-trolledtrial:RCT)の報告においても,ステロイド点眼はドライアイ患者の自覚症状および上皮障害の改善に有効であると報告されている2,3).ただし,ステロイド点眼液は,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)延長やSchirmer値改善などの涙液安定性の改善には有効ではないため1),ステロイド点眼のみでのドライアイ治療はむずかしいと考える.また,ステロイドの長期投与は眼圧上昇や角膜感染症のリスクがあるため,実際の臨床で使用する場合は適正な使用が求められる.しかしながら,ドライアイ診療で使用されるステロイド点眼は低力価のものがほとんどであり,前述のCRCTにおいても眼圧上昇の報告はなく,注意して使用することで安全に管理できるのではないかと考える.よってガイドラインでの推奨の強さは,「弱い:実施することを提案する」となっている1).C2.非ステロイド性抗炎症薬点眼の有効性は?(CQ10)サマリー「非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)点眼は,自覚症状,涙液の安定性,上皮障害の改善に対し有効と判断する根拠はなく,治療の選択肢として行わないことを提案する」1).解説:上記のように,ステロイド点眼がドライアイ患者に有効であるならば,眼圧上昇の心配のないCNSAID点眼はどうなのか?という疑問は自然と生じると思われる.これまでもドライアイに対する非ステロイド性抗*YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕堀裕一:〒143-8541東京都大田区大森西C7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)C667炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrug:NSAID)点眼の有効性をみるCRCTは報告されている4,5).これらのCRCTでは,わが国でも使われているCNSAID点眼(ジクロフェナック,プラノプロフェン)が用いられた.NSAIDはドライアイに対する痛みに効果があるのではないかと予想されたが,自覚症状,涙液安定性,上皮障害の改善に対しては有効ではないということで,推奨の強さも,「弱い:実施しないことを提案する」となっている1).C3.シクロスポリン点眼の有効性は?(CQ11)サマリー「抗炎症点眼療法としてシクロスポリン(CsA)点眼は,自覚症状と上皮障害を改善する.しかしながら,わが国では保険適用外であることを考慮して,治療の選択肢としては実施しないことを提案する」1).解説:世界的には,ドライアイ治療薬としてシクロスポリン点眼が有効であることは広く認めらており,RCTも長年にわたってさまざまな施設で行われており,論文の報告も非常に多い6.8).ガイドラインにおいても,自覚症状と上皮障害については,シクロスポリン点眼は有効であると位置づけている.しかしながら,わが国では承認されていないため,推奨は,弱い:「実施しない」ことを提案する,となった1).現在,わが国においては,シクロスポリン点眼は,春季カタルにのみ適用がとれており,ドライアイ治療薬としての適用はない.一方,米国では,0.05%シクロスポリン点眼(Restasis,CAller-gan)がドライアイ治療薬としてC2003年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)に承認され,ヨーロッパではC0.1%シクロスポリン点眼(Iker-vis,Santen)がC2015年に欧州医薬品庁(EuropeanCMedicinesAgency:EMA)にドライアイ治療薬として承認されており,アジアを含め,現在では多くの国々でシクロスポリン点眼はドライアイ患者に対して投与されている.今後は,わが国でも使用できるようになることを期待する.4.Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?(CQ17)Sjogren症候群に伴うドライアイの治療薬は多くの点眼薬が列記されており,抗炎症治療に関係のある部分のみ抜粋する.サマリー「副腎皮質ステロイド点眼は,角膜上皮障害,涙液安定性,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する」1).解説:Sjogren症候群のような,涙液分泌が大きく減少し,眼表面の炎症が強いと予想される中等度から重症のドライアイに対しては,抗炎症治療は大変有効であると考える.過去にCRCTでも報告されており,Linらの報告によると,Sjogren症候群のドライアイに対するステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン)とシクロスポリン点眼(0.5%シクロスポリン)のCRCTにおいて,自覚症状においては両群とも有意な改善がみられたと報告されている9).さらに興味深いことに,ステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン)のほうが,シクロスポリン点眼(0.5%シクロスポリン)に比べて治療C2週間後から有意な改善がみられたとの報告がある9).さらに自覚症状の改善だけでなく,角膜上皮障害の改善においても同様の傾向(ステロイドのほうがシクロスポリンよりもC2週後に有意な改善)が得られている9).しかしながら,ステロイド点眼では,涙液分泌量の検討(Schirmer試験)においては,有意な改善はみられておらず9),やはりもともと涙液分泌量が減少しているCSjogren症候群患者のドライアイに対しては,涙液を補充する治療と抗炎症治療(ステロイド点眼など)を併用するべきだと考える.CII新しい抗炎症治療現在,世界を見わたすと,ドライアイに対する抗炎症治療について多くの研究が行われている.ここでは,ステロイド,NSAID,シクロスポリン以外のドライアイに対する抗炎症治療を紹介する.C1.Liftegrast:LFA.1(lymphocytefunction.associatedantigen1)アンタゴニスト免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する細胞間接着分子であるCICAM-1(intercellularCadhesionCmole-668あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(24)–

ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果的な使い方と使い分け

2020年6月30日 火曜日

ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液の効果的な使い方と使い分けTheProperE.ectiveUseofDiquafosolSodiumandRebamipideEyeDrops横井則彦*はじめに2010年にジクアホソルナトリウム点眼液(以下,ジクアホソル点眼液)が,2011年にレバミピド点眼液がドライアイ治療に利用できるようになったことで,ドライアイのコア・メカニズムである涙液層の安定性低下を眼表面の層別に治療するという新しいドライアイ治療の考え方が生まれ,眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)と名づけられた1~3).そして,TFOTのための眼表面の層別診断(tearfilmorienteddiagno-sis:TFOD)の考え方や日常臨床で活用できるbreakuppattern分類に基づくTFODが登場し1~3),ドライアイ診療にパラダイムシフトが生まれてきている(図1).Todaらは,涙液層の安定性低下だけを異常所見とする涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプをBUT(breakuptime)短縮型ドライアイとして世界に先駆けて報告した4)が,のちにこのタイプのドライアイの重要性が理解されるようになり5),ドライアイの定義や診断基準の改定を促す契機となり,日本を含むアジア諸国で統一したドライアイの定義,診断基準6~8)が完成し,現在に至っている.そして,最新の日本のドライアイの定義,診断基準(2016年版)8)は,わが国発,世界初のドライアイ診療の新しい方向であるTFOD/TFOTの考え方に合致したものとなっている.本稿では,2019年に発表された日本のドライアイ診療ガイドライン9)にまとめられているエビデンスに基づくジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の効果,TFOD/TFOTに即した使い方,およびその使い分けについて述べる.Iドライアイ診療ガイドラインにおけるジクアホソル点眼液の効果9)「ジクアホソルナトリウム点眼は効果があるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)がCQ12に提示されている.ガイドラインサマリーによれば,6編の無作為化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)を対象にシステマティックレビュー(systematicreview:SR)が行われ,ジクアホソル点眼液は日本および周辺アジア諸国でのみ保険適用とされ,欧米での報告がないため,効果に人種差がある可能性があるが,①自覚症状の改善は従来治療に比べて有効,②BUTの改善は従来治療に比べて有効とはいえない,③Schirmer値の改善は判断不能(バイアスリスクの可能性),④上皮障害の改善は従来治療に比べて有効,⑤軽症の副作用(眼刺激感の頻度が高い:2.8~12.5%)があるとのまとめがなされている.結論としてジクアホソル点眼液は従来の点眼治療(人工涙液・ヒアルロン酸)に比べて自覚症状,上皮障害を有意に改善させ,治療の選択肢として強く,中(強,中,弱,非常に弱の4段階)のエビデンスレベルをもって,実施することを強く推奨するとした.*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(13)657治療対象眼局所治療温罨法,眼瞼清拭少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*水分人口涙液,涙点プラグヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム分泌型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド膜型ムチンジクアホソルナトリウムレパミピド上皮細胞(杯細胞)自己血清(レパミピド)自己血清眼表面炎症レパミピド***ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある図1眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)と眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiagnosis:TFOD)の考え方TFOTとは,涙液層と上皮層からなる眼表面に対して,その不足成分を層別に補充することで涙液層の破壊を抑制し,ドライアイ症状を改善するドライアイ治療の新しい考え方であり,眼表面の不足成分を層別に看破する方法がTFODに相当する.(http://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlを改変引用)図2涙液減少型ドライアイに対する人工涙液点眼からジクアホソル点眼ナトリウムへの切り替え効果a:人工涙液1日6回点眼時.b:aの時点で人工涙液をジクアホソル点眼液1日6回点眼に切り替えて1カ月後.涙液層の安定性が改善し,角膜下方の点状表層角膜症に著明な改善が得られているのがわかる.a(秒)3BUT変化量210-102481216202428323640444852(週)(363)(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)観察期間b(秒)1.50BUT変化量1.251.000.750.500.250.00024122028364452(週)(154)(149)(139)(139)(135)(131)(129)(127)観察期間図3BUTの改善に関するジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液の多施設共同オープン試験結果ジクアホソル点眼液(Ca),レバミピド点眼液(Cb)のそれぞれにおいて,点眼開始C52週間の長期にわたってCBUTの改善は維持されており,最初のC4週で急峻な改善を示したあとも,ゆるやかに改善していく傾向にあり,それぞれCBUTは,約C2秒,約C1.25秒改善している.(文献C13,14より改変引用)図4BUT短縮型ドライアイ(水濡れ性低下型ドライアイ)に対してジクアホソル点眼液だけの治療からジクアホソル点眼液にレバミピド点眼液を加えた治療への切り替え効果a:ジクアホソル点眼液C1日C4回使用時.Cb:aの時点でジクアホソル点眼液C1日C4回にレバミピド点眼液C1日4回を使用したC2カ月後.Spotbreakが消失し,涙液層の安定性が改善していることがわかる.図5瞬目摩擦を亢進させる要因としての上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)とlid.wiperepitheliopathy(LWE)本症例では,涙液減少型ドライアイに合併しやすいCSLKおよびCLWEが涙液減少型ドライアイを伴うことなく生じている.すなわち,SLKがみられ(Ca,b),LWEは上眼瞼縁のみにみられて(Ca,b,d),角膜上方の上皮障害の原因となっていると考えられる(Cc).れ性低下によってもたらされる1~3).水分減少は,三叉神経-副交感神経-涙腺からなる涙液分泌システム(re.exCloop-涙腺システム)の異常によって引き起こされ3),水分の蒸発亢進には涙液油層や分泌型ムチンの異常が推定され,就眠中の閉瞼不全が大きなリスクとなる3).また,角膜上皮の水濡れ性低下には,膜型ムチン(MUC1,4,16)のなかでももっとも長いCMUC16の障害が関係すると考えられる3,22).BUT短縮型ドライアイは,涙液減少型ドライアイと対をなすドライアイのサブタイプであり,蒸発亢進型ドライアイと水濡れ性低下型ドライアイに分けられる1~3.7).ここで,涙液の安定性低下をもたらす眼表面の構成成分をその補充の観点から考えると,蒸発亢進型ドライアイには,マイボーム腺機能不全があればその治療を行い,分泌型ムチンの不足があればジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液に効果が期待できると考えられる.一方,水濡れ性低下型ドライアイには,MUC16を補充する治療が求められる22)が,ジクアホソル,レバミピドともにCMUC16の発現亢進が示されており22~25),実臨床でも,ジクアホソル点眼液のCBUT短縮型ドライアイに対する人工涙液に対する優位な効果26)や,ジクアホソル点眼液の効果18,22)が示されている.現在までのところ,ジクアホソルナトリウムおよびレバミピドのCMUC16に対する発現促進メカニズムが明らかにされていないため,両者のメカニズムが異なる可能性は大いに考えられ,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の単独使用で効果がなければ,その併用も考慮してよいのではないかと考えられる.実際,両者の併用の有効性も経験している(図4).C2.CQ2「摩擦関連眼表面疾患へのジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の使い分けは?」ドライアイは,開瞼維持時の涙液層の安定性低下を病態のコア・メカニズムとするが,瞬目時の摩擦亢進がドライアイに関連して,あるいはドライアイと独立して,自覚症状ならびに眼表面の他覚所見を大きく修飾することが知られている3).そして,そのもっとも大きな要因として,結膜弛緩症があげられる27,28).結膜弛緩症は,なんらかの症状で眼科を訪れる患者のC60歳以上のC98%以上に合併するとされ28),ドライアイの増悪因子となっている例をよく経験する.すなわち,角膜に隣接して結膜弛緩症があると,ドライアイによる涙液層の安定性の低下を促進する要因となり,その一方で潤滑作用をもつ涙液が減少している涙液減少型ドライアイにおいては,瞬目摩擦を亢進させたり,異物感,眼痛などの症状の要因となる.加えて,上輪部角結膜炎(superiorClimbickeratoconjunctivitis:SLK)29),lid-wiperCepitheliopa-thy(LWE)30,31),糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)32~34)は,涙液減少型ドライアイに合併しやすく,瞬目摩擦亢進の要因となる(図5).レバミピド点眼液は,ドライアイにおいて瞬目摩擦を亢進させるCLWE,FK,SLKへの効果がすでに報告されており31,33~35),涙液減少型ドライアイを対象に行われた第CIII相臨床試験19)においては,角結膜上皮障害(とくに結膜上皮障害)や自覚症状(とくに瞬目摩擦と関連する異物感,眼痛)の改善におけるヒアルロン酸に対する優位性が示されている.結膜が瞬目摩擦の生じやすい部位である36)ことを考慮すると,レバミピド点眼液は,瞬目摩擦の軽減に役立つ点眼液といえるだろう.したがって,涙液減少型ドライアイにおいて,涙液減少で生じやすい角膜下方の上皮障害に対してはジクアホソル点眼液が効果的に作用し,結膜上皮障害や瞬目摩擦関連疾患の合併に対してレバミピド点眼液が効果的に作用する19,31,33~35)ことを考えると,ドライアイ治療における両者の併用は,大いにありえると考えられる34).一方,ジクアホソル点眼液は,水分と分泌型ムチンを一気に分泌させ,水分に比べて高分子である分泌型ムチンのほうが眼表面におけるクリアランスが悪いことを考慮すると,点眼後,眼表面に分泌型ムチンがより高濃度で滞留し,結果として涙液の粘度が増加し,粘性抵抗の増加に基づいて,瞬目摩擦の亢進が生じる可能性がある3).実際,ジクアホソル点眼液の使用中に瞬目摩擦との関連が推定される糸状角膜炎が生じたり34),結膜下出血が生じる例を経験することがある.こうした例に対して,レバミピドへの点眼変更(図6)やレバミピド点眼液の併用が奏効する例がある.ただし,涙液減少型ドライアイでは,角膜表面のCBUTの改善,および涙液層の破壊に基づく上皮障害の改善にジクアホソル点眼液が奏効することは,ガイドラインでも示されており9,20),そ662あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(18)図6ジクアホソル点眼液を使用していたSjogren症候群患者に対し,糸状角膜炎が生じたために,レバミピド点眼液(1日4回点眼)に変更した例a,b:変更前.Cc,d:変更C3カ月後.レバミピド点眼液への変更により,点状表層角膜症は軽度増加しているが,糸状角膜炎や結膜上皮障害が著明に改善しているのがわかる.図7重症涙液減少型ドライアイを示す移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)の患者に対する上・下涙点プラグ挿入術(人工涙液点眼も併用)の効果a:プラグ挿入前.Cb:プラグ挿入C1カ月後.GVHDのような重症涙液減少型ドライアイには,ジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の併用をもってしても治療効果に限界があり,上・下涙点への涙点プラグ挿入が推奨される.涙液減少による涙液層の安定性低下と瞬目摩擦の軽減の両方が同時に得られることが,その大きな奏効機序と考えられる.のために,ジクアホソルナトリウム点眼を維持したまま,レバミピド点眼を追加するというやり方がより効果的ではないかと思われる34).おわりにTFOD/TFOTに基づくドライアイの診断,治療の考え方が診療の現場に導入され,涙液層の動態や破壊パターンを評価しながら,眼表面の不足成分を看破し,ジクアホソル点眼液やレバミピド点眼液で不足成分を補充することで,涙液層の安定性ならびに自覚症状の改善を得るというドライアイ診療の新しいやり方が日常診療に普及してきている.加えて,瞬目摩擦の亢進という,ドライアイを修飾する眼表面の異常が,的確に看破できるようになり,それがレバミピド点眼液で治療できるようになってきた.もちろん涙液層の安定性の低下の重症例(とくに重症の涙液減少)には上・下涙点への涙点プラグ挿入(図7)が必要であり,瞬目摩擦の亢進の重症例には結膜に対する外科治療が必要であるが,わが国はジクアホソル点眼液とレバミピド点眼液の両方を持ち合わせ,その効果的な使い分けが行えるという点において,ドライアイの先進国であることは間違いない.そして,その使い分けにより,その登場以前には,想像できなかったほどにドライアイの病態の考え方が進歩し,重症例も含めて,的確に対応できるようになったことは,画期的といえるだろう.文献1)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCandCtherapyCforCdryCeye.CInCDryCeyesyndrome:BasicCandclinicalperspectives(YokoiN.ed)C,p96-108,FutureMedi-cineLtd,London,20132)YokoiCN,CGeorgievGA:Tear-.lm-orientedCdiagnosisCforCdryeye.JpnJOphthalmol63:127-136,C20193)横井則彦:TFODCandCTFOTCExpertCLectureドライアイ診療のパラダイムシフト.p5-41,メディカルレビュー社,C20204)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCdecreasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicCconjunctivitis.COphthalmologyC102:302-309,C19955)YokoiCN,CUchinoCM,CUchinoCYCetal:ImportanceCofCtearC.lmCinstabilityCinCdryCeyeCdiseaseCinCo.ceCworkersCusingCvisualdisplayterminals:theOsakastudy.AmJOphthal-mol159:748-754,C20156)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACConsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C20177)TsubotaCK,CYokoiCN,CWatanabeCHCetal:ACnewCperspec-tiveConCdryCeyeclassi.cation:proposalCbyCtheCAsiaCDryCEyeSociety.EyeContactLensC46:S2-S13,C20208)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20179)ドライアイ診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C201910)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCby3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalChumaneyes.AmJOphthalmolC157:85-92,C201411)ShigeyasuC,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetraso-diumincreasestheconcentrationofmucin-likesubstancesinCtearsCofChealthyChumanCsubjects.CCurrCEyeCResC40:C878-883,C201512)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:TheCincreaseCofCaqueousCtearCvolumeCbyCdiquafosolCsodiumCinCdry-eyeCpatientsCwithCSjogren’ssyndrome:apilotCstudy.CEye(Lond)C30:C857-864,C201613)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,C201214)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal;RebamipideOphthalmicCSuspensionCLong-termCStudyCGroup:ACmul-ticenter,Copen-label,C52-weekCstudyCof2%Crebamipide(OPC-12759)ophthalmicCsuspensionCinCpatientsCwithCdryCeye.AmJOphthalmolC157:576-583,C201415)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal;DiquafosolOphthalmicSolutionPhase3StudyGroup:Arandomised,double-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyeCpatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315,C201216)ParkCDH,CChungCJK,CSeoCDRCetal:ClinicalCe.ectsCandCsafetyCof3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCforCpatientsCwithCdryCeyeCafterCcataractsurgery:aCrandomizedCcon-trolledtrial.AmJOphthalmolC63:122-131,C201617)内野裕一,坪田一男:VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液への切り替え効果.あたらしい眼科30:871-874,C201318)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.Eye(Lond)C29:1204-1212,C201519)KinoshitaCS,COshidenCK,CAwamuraCSCetal;RebamipideCOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandom-ized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C201320)シェーグレン症候群診療ガイドラインC2017年版.https://664あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(20)-

人工涙液とヒアルロン酸点眼液の位置づけ

2020年6月30日 火曜日

人工涙液とヒアルロン酸点眼液の位置づけTheRoleofArti.cialTearsandHyaluronicAcidintheTreatmentofDryEyeDisease山田昌和*はじめに2016年に改訂されたドライアイの定義と診断基準(ドライアイ研究会)では,「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」とドライアイを定義している1).これに続くようにC2019年にドライアイの診療ガイドラインが発表された2).このガイドラインはCMindsに準拠したCevidence-basedのものであり,ドライアイの基本的な概念から,疫学,診断,治療に至るまでドライアイの現況を俯瞰するガイドブックとなっている.ドライアイの基本病態として,日本やアジアでは涙液層の不安定性と瞬目時の摩擦亢進の二つがあげられており,欧米では炎症の関与が重視されている2,3).したがって,治療の方向性としては,臨床的には涙液層を安定させる治療と抗炎症療法が症例に応じて使い分けまたは併用されることになる.ガイドラインはおもな治療法に関してクリニカルクエスチョン(CQ)が立てられ,その問いに答える形で,治療法の評価と推奨が記載されている.しかしながら,AとCBの治療薬のどちらが優れているのか,使い分けはどうするのかといった臨床家が知りたいポイントには答えられていない.本稿では,ドライアイの代表的な治療薬である人工涙液とヒアルロン酸点眼液を取り上げ,その位置づけ,役割について今後の展望とともに私見を述べる.Iガイドラインでの評価は人工涙液,ヒアルロン酸はガイドラインではどのように評価されているだろうか.ガイドラインでは治療法に関して統一されたフォーマットを用いており,自覚症状の改善,涙液安定性の改善,上皮障害の改善,有害事象のC4項目でおのおの評価を行い,最終的に総合評価としてエビデンスレベルをCA(強),B(中),C(弱),D(非常に弱い)のC4段階,推奨の強さをC4段階(強い:実施することを推奨する,弱い:実施することを提案する,弱い:実施しないことを提案する,強い:実施しないことを推奨する)で記している.各種のドライアイ治療法のガイドラインでの評価を表1にまとめて示す2).人工涙液,ヒアルロン酸のエビデンスレベルはどちらも「B(中)」,推奨の強さは人工涙液については,「弱い:実施することを提案する」,ヒアルロン酸は「強い:実施することを推奨する」,になっている.ガイドラインでほかに強い推奨と評価されたのはジクアホソルとレバミピド,涙点プラグであり,弱い推奨はステロイドである.こうしてみるとヒアルロン酸も人工涙液もドライアイ治療のなかで未だ重要な位置づけにあることがわかる.ただし,ガイドラインの推奨でヒアルロン酸とジクアホソル,レバミピドが同じ評価になっているからといって,効果が同じというわけではない.ガイドラインの評価基準は医学的な確からしさは反映されているが,その*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(7)C651表1ガイドラインにおけるドライアイ治療法の評価推奨の強さエビデンスレベル自覚症状改善効果涙液改善効果上皮改善効果人工涙液2CBC○△.○C○ヒアルロン酸1CBC○△.○C○ステロイド2CBC○C△○ジクアホソル1CBC○C△○レバミピド1CBC○△.○C○涙点プラグ1CBC○C○○C推奨の強さ:1=「強い:実施することを推奨する」,2=「弱い:実施することを提案する」.エビデンスレベル:B=4段階のうち「B(中)」,改善効果:〇=「有効」,△=「有効と判断できない」.(文献C2より著者が作成)1008073.7■Mizuno,2012■Kawashima,201765.96040.14033.922.718.616.92015.612.712.79.36.73.10.20使用割合(%)図1ドライアイの治療法の使用割合ジクアホソルとレバミピドが上市された前後を通して,もっとも頻用されているのはヒアルロン酸である.(文献6,7より作図)ジクアホソル0%20%40%60%80%100%■単独■+ヒアルロン酸レバミピド■+ステロイド■+人口涙液■その他ヒアルロン酸図2ドライアイ治療薬の併用パターンジクアホソルとレバミピド使用者でも多くの症例でヒアルロン酸が併用されている.(文献C7より作図)表2ヒアルロン酸が頻用される理由角膜上皮に対する作用:角膜上皮の修復,創傷治癒の促進涙液に対する作用:粘性による滞留性の増加涙液層安定化効果眼表面の摩擦軽減効果高い安全性・忍容性:目立った副作用がない刺激感がなく忍容性が高いまることがわかっている14).ヒアルロン酸は眼表面ムチンとなんらかの形で結合して眼表面に留まり,ムチンを補助する形で涙液層安定化効果を発揮するものと推測される.さらに最近,ヒアルロン酸はリン脂質と協働して摩擦を軽減することが報告されている15).ドライアイの基本病態は涙液層の不安定性と瞬目時の摩擦亢進であり,ヒアルロン酸はこの両方に作用する可能性があり,新しい側面として注目される.三つめは安全性と忍容性が高いことである.20年以上臨床で広く用いられている最大の理由は目立った副作用がなく,点眼時の刺激や不快感も少ないことかも知れない.繰り返しになるが,ヒアルロン酸の角膜上皮の創傷治癒促進作用と涙液層の安定化作用は他のドライアイ治療薬にはない独特なものであり,ドライアイの治療におけるヒアルロン酸の位置は確立されたものということができる.CVヒアルロン酸の今後ヒアルロン酸の今後について考えてみよう.まず日本においては,最近,要指導医薬品としてヒアルロン酸がスイッチCOTC薬化されることが決定された.効能・効果は,「眼の次の症状の緩和:乾き,異物感(コロコロ,チクチクする感じ),疲れ,かすみ,ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感」となる見込みである.OTC医薬品の点眼薬の市場は医家向けの角膜疾患治療薬とほぼ同等であり,決して小さくない.ヒアルロン酸がCOTC薬化されることで,ドライアイの注目度や治療のスキームに変化が生じる可能性があり,注目される.海外に目を向けると新しいヒアルロン酸製剤がいくつか開発されている.クロスリンキングで架橋構造を変えたヒアルロン酸製剤,トレハロースやカルボキシメチルセルロースなどとヒアルロン酸との合剤などがあげられる16.18).また,シクロスポリンやステロイドとの合剤の報告もあり,これらはヒアルロン酸としての効果とともに,粘性を利用して薬剤の滞留性を高めることが期待されている19,20).さらに,ヒアルロン酸の内服がドライアイの治療効果を示すという眉唾物の報告もみられる21).これらの製剤の臨床的評価は定まっておらず,将来的に日本で使えるようになるかはわからないが,ヒアルロン酸にはまだまだ展開の余地があるようだ.おわりにドライアイの治療は近年長足の進歩を遂げており,点眼薬の種類も増え,点眼治療以外の治療もさまざまになってきている.しかし現在でも,人工涙液とヒアルロン酸はドライアイ治療のなかで一定の役割を果たしている.ヒアルロン酸に関してはスイッチCOTC薬化による今後の変化が注目される.文献1)島崎潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20172)ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C20193)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:ACconsensusCreportCbytheAsiadryeyesociety.OculSurfC15:65-76,C20174)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal:ACran-domised,Cdouble-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyepatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315,C20125)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterCphaseC3CstudyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20136)MizunoCY,CYamadaCM,CShigeyasuCCCetal:AnnualCdirectCcostCofCdryCeyeCinCJapan.CClinCOphthalmolC6:755-760,C20127)KawashimaCM,CYamadaCM,CSuwakiCKCetal:ACclinic-basedCsurveyCofCclinicalCcharacteristicsCandCpracticeCpat-ternofdryeyeinJapan.AdvTherC34:732-743,C20178)AngCBCH,CSngCJJ,CWangCPXHCetal:SodiumChyaluronateCinCtheCtreatmentCofCdryCeyesyndrome:ACsystematicCreviewandmeta-analysis.SciRepC7:9013,C20179)渡辺たまき,川島素子,河合正孝ほか:メニスカスフォトによるヒアルロン酸点眼液の滞留性の評価.眼紀C55:369-373,C200410)ShigeyasuCC,CHiranoCS,CAkuneCYCetal:EvaluationCofCtheCfrequencyCofCophthalmicCsolutionapplication:washoutCe.ectsCofCtopicalCsalineCapplicationConCtearCcomponents.CCurrEyeCResC38:722-728,C201311)MengherCLS,CPandherCKS,CBronCAJCetal:TheCe.ectCofCsodiumhyaluronate(0.1%)onCbreak-uptime(NIBUT)inCpatientsCwithCdryCeyes.CBrCJCOphthalmolC70:442-447,C1986C(11)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C655-

ドライアイガイドラインを越えて

2020年6月30日 火曜日

ドライアイガイドラインを越えてDryEyeDisease:BeyondtheClinicalGuideline島﨑潤*Iガイドライン作成の経緯このC10年余りのドライアイ研究の進歩はめざましく,ジクアホソル(ジクアス点眼液C3%,以下ジクアス)やレバミピド(ムコスタ点眼液CUD2%,以下ムコスタ)などの新しい治療薬の登場も相まって診療面も大きく変わった.ドライアイ研究会は約C30年にわたる活動を通じて,これまでC3回,ドライアイの定義と診断基準を発表してきた.その活動の中で,「一度現状をまとめるような指針がほしい」という意見が出され,今回のガイドラインの策定につながった(日眼会誌123:489-592,2019).これまで眼科領域で発表されている診療ガイドラインの多くは,専門家によるディスカッションを通じてできた指針にもとづいているが,今回は,「エビデンスに基づいたガイドライン」をめざすこととし,Minds形式に沿ったスタイルでの作成を行った.MINDS(MedicalInformationCNetworkCDistributionService)とは,「質の高い医療の実現をめざして,患者と医療者の双方を支援するために,診療ガイドラインと関連情報を提供すること」を目的として,厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である(https://minds.jcqhc.or.jp/s/about_us_overview).その特徴の一つは,診療上の重要課題(クリニカルクエスチョン:CQ)を決めて,それに対する推奨を提示する形式をとっていることであり,今回はこの形式に沿うことをめざした.ただ,ガイドラインの解説のみでは発表されたものを読めばすむので,本企画では「ガイドラインを越えて」と題し,ガイドラインで示された内容とその背景の解説とともに,ガイドラインでは答えきれていないCCQについても解説していただいた.具体的なガイドラインの内容とその解説については,次項以降をご覧いただくとして,ここではガイドラインの概要を紹介するとともに,現在のドライアイの病態の考え方について解説する.CIIガイドラインの目的と限界「現状をまとめる」というところから出発したこのガイドラインは,使う側からすると,最新の知識を得るという目的にはあまり即しておらず,この点が学会や講演会,雑誌の特集とは異なる.また,ガイドラインの性質上,より詳細なCCQには対応していない部分もある.たとえば,「Aという薬とCBという薬はどちらが良くて,どう使い分けるべきなのか?」,あるいは「Aという薬とCBという薬を併用することは効果的か?」などは重要な臨床課題であるが,これに対応するエビデンスのある報告はほとんどなく,ガイドラインに含めることができなかった.ガイドラインは一義的には診療に携わる医師や患者が利用すべきものであるが,現実には治験などを介して医薬品の開発や,医療訴訟などにも利用される可能性があることにも留意すべきである.*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島﨑潤:〒272-8513千葉県市川市菅野C5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)C647表1ドライアイ診療ガイドラインで取り上げられたクリニカルクエスチョン(CQ)CQ1ドライアイの診断基準,分類にはどのようなものがあるか?CCQ2ドライアイの有病率はどのくらいか?CCQ3ドライアイ発症に及ぼす外的因子は?CCQ4ドライアイ発症に及ぼすライフスタイルの影響は?CCQ5自覚症状の聴取法は?CCQ6各種診断法の感度・特異度は?CCQ7ドライアイの視機能への影響を調べるうえで有用なものはどれか?CCQ8人工涙液点眼は効果があるのか?ヒアルロン酸点眼は効果があるのか?CCQ9副腎皮質ステロイド点眼の有効性は?CQ10非ステロイド系抗炎症薬点眼の有効性は?CQ11シクロスポリン点眼の有効性は?CQ12ジクアホソルナトリウム点眼は効果があるか?CQ13レバミピド点眼は効果があるか?CQ14血清点眼の有効性は?CQ15オメガC3脂肪酸内服治療の有効性は?CQ16涙点プラグは有効か?CQ17Sogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?CQ18ドライアイの治療では,塩化ベンザルコニウム無添加の点眼を用いるべきか?CQ19コンタクトレンズ装用者のドライアイはどう治療すべきか?CQ20ドライアイと全身疾患との関係は?CQ21全身疾患治療とドライアイとの関係は?CQ22眼科手術のドライアイに及ぼす影響は?CQ23ドライアイに対する屈折矯正手術の有用性と安全性は?表22016年版ドライアイの定義と診断基準定義ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある診断基準1.眼不快感,視機能異常などの自覚症状2.涙液層破壊時間(BUT)5秒以下1およびC2を有するものをドライアイとする図2現在のドライアイの病態生理の考え方ドライアイでは,上流のさまざまなリスクファクターによって,開瞼維持時の「涙液層の安定性低下」という悪循環(メカニズム①)と瞬目時の「摩擦亢進」という悪循環(メカニズム②)が生じるとする考え方.あらゆる涙液異常涙液層の安定性低下涙液層悪循環上皮の水濡れ性低下炎症角結膜上皮角結膜上皮障害図12006年におけるドライアイのコア・メカニズム上流のさまざまなリスクファクターによって涙液層の安定性が低下すると,乾燥ストレスによる角結膜の上皮障害を生じ,その結果,上皮表面にあるムチンが障害されて水濡れ性が低下することで,さらに涙液層の安定性が低下するという悪循環(コア・メカニズム)が生じる.さらにこの悪循環が結果として,炎症を引き起こし,上皮障害を助長する.

序説:ドライアイ診療:ガイドラインを越えて

2020年6月30日 火曜日

ドライアイ診療:ガイドラインを越えてDryEyeDisease:BeyondtheClinicalGuideline島﨑潤*坪田一男**2019年にドライアイ診療ガイドラインが発表された.近年目覚ましく変わってきているドライアイ診療に関して,一度まとめてみよう,ということでドライアイ研究会が中心となって始まったプロジェクトであるが,完成までに3年近くを要した.ガイドラインの作成に当たっては,「エビデンスに基づいた診療ガイドライン」をめざすこととして,Minds(MedicalInformationNetworkDistributionService)スタイルを採用した.その特徴は,クリニカルクエスチョン(CQ:臨床上の疑問)に対して徹底した文献検索を行い,それを基に推奨を提示することにある.このスタイルに基づく診療ガイドラインはきわめて信頼性が高いとされ,Mindsのホームページ上で閲覧することができる(2020年5月末現在272件).しかしその高い信頼性の一方で,エビデンスレベルの高い論文のみを基に作成するため,日々の診療で遭遇する幅広い臨床的な疑問に応えることができないという面もある.そこで本特集では,「ガイドラインを越えて」というタイトルで,ガイドラインの作成にご尽力いただいた先生方を中心に,ドライアイ診療ガイドラインとその周辺について解説していただいた.具体的な内容としては,まず該当するCQについてのガイドラインのサマリーを示していただき,次いでその解説,さらにガイドラインで触れられていないCQを提示し,それに対して文献的裏づけを基に解説するスタイルをとった.ガイドラインを通読するよりも効率よく内容を把握することができるとともに,治療薬の適応や使い分けなども含めた,より臨床に即した疑問に答えることができる内容となっていると思われる.取り上げたトピックスは,その内容によって大きく三つに分けることができる.まず点眼治療については,山田昌和先生(人工涙液,ヒアルロン酸点眼液),横井則彦先生(ジクアホソル点眼液,レバミピド点眼液),堀裕一先生(抗炎症薬)に解説いただいた.それぞれの薬剤の特性に合わせた治療選択に役立つことと思う.二つめのパートは,点眼以外の治療選択についてであり,ここは高静花先生(コンタクトレンズ関連)と小室青先生(涙点プラグ)に解説いただいた.日常迷うことの多い臨床課題について,わかりやすく述べていただいている.最後のパートは,全身疾患や眼科手術とドライアイの関連についてである.高村悦子先生(Sjogren症候群),福井正樹先生(全身薬との関連),戸田郁子先生(眼科手術後ドライアイ)にまとめていただいた.この特集を一読いただくことで,ドライアイ診療の一層のブラッシュアップに役立つことを,執筆者一同願っています.*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)645

CTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):636.639,2020cCTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例大石典子*1,2武田彩佳*1,3堀純子*1,3*1日本医科大学眼科学教室*2日本医科大学千葉北総病院眼科*3日本医科大学多摩永山病院眼科CTwoCasesofScleritisInducedasaParadoxicalReactiontoCTLA4IgNorikoOishi1,2),AyakaTakeda1,3)andJunkoHori1,3)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChiba-HokusoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolTama-NagayamaHospitalC背景:近年,生物学的製剤の投与によるパラドキシカルリアクションが報告されている.今回,関節リウマチ(RA)に対してCCTLA4Igを導入され,パラドキシカルリアクションとして強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したので報告する.症例:症例C1はC64歳,女性.RAに対しアバタセプト(ABT)を導入したC3カ月後に左眼周辺部角膜浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し,眼瞼炎,続発緑内障を合併した.ABTは投与継続とし,ステロイド眼局所治療で強膜炎は消炎した.症例C2はC76歳,女性.RAに対しCABT投与歴があり,右眼びまん性強膜炎を発症し遷延化したため,内科から重症感染症のリスクが低いCABTが再度選択された.ABT導入後C1週間で強膜炎は増悪し黄斑浮腫も併発しC10週後も改善せず,ゴリムマブへ変更後C1カ月で速やかに鎮静化した.考察:RA患者に対するCCTLA4Ig投与はパラドキシカルリアクションとして強膜炎を発症することがあり,強膜炎の鎮静化にはステロイド治療の追加やCTNF-a阻害薬への変更が有用であった.CPurpose:Multipleparadoxicalreactionstobiologicalagentshavebeenidenti.ed,includingincasesofoculardisease.CHereCweCreportC2CcasesCofCscleritisCinducedCbyCCTLA4Ig.CCasereport:CaseC1CinvolvedCaC64-year-oldCfemalepatienthadbeenreceivingabataceptforrheumatoidarthritis.After3months,shedevelopeddi.usescleri-tisCwithCperipheralCcornealCin.ltration,Cblepharitis,CandCsecondaryCglaucoma.CTopicalCsteroidsCwereCadministered,CandCtheCsymptomsCresolved.CSheCcurrentlyCcontinuesCtoCreceiveCabatacept.CCaseC2CinvolvedCaC76-year-oldCfemaleCpatientCwhoCdevelopedCpneumocystisCpneumoniaCassociatedCwithCabatacept.CAbataceptCwasCsuspended,CandCsheCdevelopedCdi.useCscleritis.CAbataceptCwasCre-administered,CbutCtheCscleritisCworsenedCandCwasCaccompaniedCbyCmacularCedema.CAfterCswitchingCfromCabataceptCtoCgolimumab,CherCscleritisCandCmacularCedemaCcompletelyCresolved.Conclusion:Scleritis,asaparadoxicalreaction,canbeinducedbyCTLA4Ig.Scleritisresolvedfollowingadministrationofsteroidtherapyorswitchingthebiologictreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(5):636.639,C2020〕Keywords:強膜炎,パラドキシカルリアクション,生物学的製剤,アバタセプト,CTLA4Ig,関節リウマチ.scleritis,paradoxicalreaction,biologicalproducts,abatacept,CTLA4Ig,rheumatoidarthritis(RA).Cはじめに近年,炎症性疾患の治療薬としての生物学的製剤の開発はめざましく,多様な炎症性サイトカインや細胞表面分子の機能調節をする製剤が臨床応用されている.しかし一方で,生物学的製剤が炎症を誘発するパラドキシカルリアクション(paradoxicalreaction:逆説的反応)とよばれる現象が,副反応として報告されるようになった1).生物学的製剤を投与された患者に,パラドキシカルリアクションによる眼炎症が誘発された報告も散見される2).関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は強膜炎に随伴する疾患としてもっとも頻度が高いが,今回,眼炎症疾患の既往のないCRA患者にCTLAIg製剤であるアバタセプト(ABT)がCRA治療目的で〔別刷請求先〕大石典子:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:NorikoOishi,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusoHospital,1715Kamagari,Inzai,Chiba270-1694,JAPANC636(134)abcd図1症例1の左眼前眼部所見と眼窩MRI像関節リウマチに対するアバタセプト導入C3カ月後に角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し(Ca),眼窩CMRI(T2脂肪抑制CSTIR)で左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(Cb.).強膜炎はステロイド点眼薬と免疫抑制薬点眼およびセレコキシブ内服では消退せず(Cc),トリアムシノロンアセトニド結膜下注射により消炎した(Cd).導入され,パラドキシカルリアクションによる強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したため報告する.CI症例〔症例1〕64歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛,左眼瞼腫脹.既往歴:RA.現病歴:59歳でCRAと診断され,近医内科でメソトレキサート(MTX)内服下でCRAはC4年間寛解状態であった.その後CRAの全身症状が再燃したため,プレドニゾロン(PSL)5Cmg,タクロリムス(Tac)1Cmgを投与されたが軽快せず,当院リウマチ内科に紹介されCABTを導入された.ABT導入のC3カ月後に左眼の充血と疼痛,眼瞼腫脹を自覚し近医眼科を受診し,左眼の強膜ぶどう膜炎,眼瞼炎,続発緑内障の診断でC201X年C1月C23日に日本医科大学眼炎症外来(以下,当科)に紹介された.なお,今回まで眼炎症疾患の既往はなかった.初診時所見:矯正視力は右眼C0.6(0.9C×sph.1.75D(cylC.1.75DAx80°),左眼C0.4(0.6C×sph+2.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C21mmHg,左眼C26mmHgであった.左眼瞼腫脹と,左眼の角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎(図1a),前房内炎症細胞(セル)1+を認めた.右眼の前眼部には異常所見は認めなかった.両眼ともCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底図2症例2の右眼前眼部所見関節リウマチに対するアバタセプト(ABT)投与歴がありプレドニゾロンとタクロリムス内服中に強膜炎を発症した(Ca).ステロイド点眼と免疫抑制薬点眼,セレコキシブ内服,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射のC6カ月後も強膜炎症は遷延した(Cb).ABT再投与のC1週間後に強膜炎は増悪し(Cc),10週間後にCABTをゴリムマブに変更したところC1カ月で消炎した(Cd).A.Dのそれぞれ上段は右眼上方,下段は右眼鼻側.に異常を認めなかった.初診時の眼窩CMRI(T2脂肪抑制STIR)像で,左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(図1b).経過:リウマチ内科からのCABTは継続したままで,ベタメタゾンC0.1%点眼左眼C6回,免疫抑制薬点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服,眼圧下降薬点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩)を追加したところ,1週後には眼瞼腫脹は消退し,眼圧は正常値(16/20CmmHg)になったが,強膜炎は消炎しなかった(図1c).そのため,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射を施行したところ,そのC1カ月後には消炎した(図1d).2カ月後には左眼矯正視力は(1.2C×sph+2.00D(cyl.2.75DAx90°)まで改善を認めた.〔症例2〕76歳,女性.主訴:右眼の充血と疼痛.既往歴:RA,2型糖尿病(HbA1c7.5%,リナグリプチン5Cmg1日C1回内服にて加療中).現病歴:67歳でCRAと診断され,近医内科でCPSLとCMTXの内服併用で加療されていた.一時関節炎のコントロール不良時にCABT導入されたがニューモシスチス肺炎を発症したため中止し,当院リウマチ内科に紹介されCPSL4CmgとCTac2Cmg内服中に右眼の充血と疼痛を自覚し,201X年C3月C22日に当科に紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(0.8C×sph+0.50D(cyl.1.50CDAx70°),左眼(0.9C×sph+1.75D(cyl.1.75DAx100°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C12CmmHgであった.両眼に強膜血管の拡張と怒張,強い充血を認め,びまん性強膜炎の所見を呈した(図2a).角膜浸潤や前房内炎症は認めなかった.両眼にCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底に異常を認めなかった.経過:ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C4回とCTac0.1%点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服により,8週後には左眼の強膜炎は消退したが,右眼は消炎せず,トリアムシノロンアセトニドC0.1Cml結膜下注射施行後も約C6カ月強膜炎は遷延化した(図2b).そのためリウマチ内科にCTNFCa阻害薬の導入を依頼したが,肺炎の既往があり重症感染症リスクがCTNFa阻害薬よりも低い薬剤選択が望ましいという理由でABTが投与された.ところが,ABT導入後C1週で右眼の強膜炎は増悪し(図2c)黄斑浮腫も併発した.その後も改善を認めず,ABT導入C10週後にリウマチ内科でCABTをゴリムマブ(GLM)に変更したところC1カ月で強膜炎は速やかに消炎した(図2d).CII考按RAは,早期に集中した治療を行うことが寛解や炎症活動性の低下に結びつくとして,従来の抗リウマチ薬(disease-modifyingCantirheumaticdrugs:DMARDs)無効例に対し,生物学的製剤(biologicaldrugs)の導入が推奨されている.現在わが国では,ABTを含むC7種類の生物学的製剤が承認され臨床的に使用されている3).ABTは,CTLA4CIg4)すなわち,CTLA4分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のCFc領域からなる可溶性融合蛋白である.CTLA4は免疫チェックポイント分子の一つであり,CTLA4IgはCD80/86に結合することで,CD80/86のCT細胞表面レセプターであるCCD28を介したCT細胞の活性化を阻害する4).わが国でも欧米に続き,関節リウマチ治療薬として承認され,有効性および安全性が報告されている5).生物学的製剤は,単一のサイトカインや細胞表面分子を阻害して抗炎症効果を発揮するが,逆に炎症を誘発する現象が起きることがあり,これをパラドキシカルリアクションとよぶ1).代表的なものとして,TNFCa阻害薬による乾癬の発生がよく知られるが,パラドキシカルリアクションの臨床症状は多彩であり,皮膚症状,炎症性腸疾患,ぶどう膜炎や強膜炎,サルコイドーシス,血管炎,その他の自己免疫性疾患などの発生が報告されている1).眼科領域では,TNFCa阻害薬のエタネルセプトがパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎を誘発することが広く知られているが2),眼炎症疾患に対する高い治療効果が知られるインフリキシマブとアダリムマブによるパラドキシカルリアクションとして眼炎症疾患の発症や増悪が起きた報告もまれではあるが存在する6).パラドキシカルリアクションを生じる生物学的製剤は,TNFCa阻害薬の他にも,IL-12/23p40抗体であるウステキヌマブ,CD20抗体であるリツキシマブ,IL-6抗体であるトシリズマブ,ABTなど多種が報告されている1).ABTによるパラドキシカルリアクションは乾癬様皮疹の発生の報告が多く,その機序として,T細胞サブセットのCTh1細胞の活性化を抑制するCCTLA-4Igは,むしろCTh17を活性化させ,Th17細胞が炎症病態の中心的役割をもつ乾癬が誘発されると考えられている7).わが国では,眼科領域の疾患に対して,ABTの保険適応はなく,欧米でも眼炎症疾患に対するその治療効果については明らかではない8).また,ABTによるパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎が発症した報告も筆者らが検索した範囲ではなく,本論文が最初の症例報告である.実験的ぶどう膜炎においてはCCTLA4Igは網膜炎の抑制効果をもつことが示されている9).しかし,その一方で,ぶどう膜炎と強膜炎の病態にCTh17が関与することは報告されており10),前述したCCTLA4Igによる乾癬発症の機序7)から推察すれば,CTLA4IgによりCTh1の炎症は抑制されても,一方でCTh17が誘導され,Th17による強膜炎が誘発された可能性がある.今回経験したCCTLA4Ig投与後に発症した強膜炎のC2症例のうち,症例C1は眼局所ステロイド治療で強膜炎および眼瞼炎症は改善した.しかし,症例C2は眼局所ステロイド治療後も強膜炎が遷延化したため,生物学的製剤をCABTからCTNFa阻害薬であるCGLMに切り替えたところ,強膜炎は速やかに消退した.眼炎症疾患の原因として薬剤のパラドキシカルリアクションが疑われた場合は,薬剤の切り替えが有用である.とくにCGLMは眼炎症を誘発した報告はなく,他剤のパラドキシカルリアクションを疑う場合に,切り替え候補薬として念頭に置く必要がある.また,今回のC2症例においては皮膚症状や炎症性腸疾患などの眼科領域以外のパラドキシカルリアクションの症状は認めなかった.最後に,生物学的製剤の開発と臨床応用の進歩はめざましいものがあり,RAや炎症性腸疾患をはじめとする難治性炎症疾患の治療予後が向上しているのは間違いない.しかし,その一方で,生物学的製剤のパラドキシカルリアクションの原因薬剤と臨床症状は多様化し増加しているので注意を要する.眼炎症疾患の患者の診療においては,背景となる全身疾患を把握するとともに,他科での薬剤投与歴を正確に把握し,パラドキシカルリアクションを疑ったら他科と連携して薬剤変更を検討することが必要である.文献1)PuigL:Paradoxicalreactions:Anti-tumorCnecrosisCfac-torCalphaCagents,Custekinumab,Csecukinumab,Cixekizumab,Candothers.CurrProblDermatolC53:49-63,C20182)SassaY,KawanoY,YamanaTetal:Achangeintreat-mentCfromCetanerceptCtoCin.iximabCwasCe.ectiveCtoCcon-trolCscleritisCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritis.CActaCOphthalmologicaC90:e161-e162,C20123)SmolenCJS,CLandeweCR,CBijlsmaCJCetal:EULARCrecom-mendationsCforCtheCmanagementCofCrheumatoidCarthritisCwithCsyntheticCandCbiologicalCdisease-modifyingCantirheu-maticCdrugs.C2016Cupdate.CAnnCRheumCDisC76:960-977,C20174)GreeneJL,LeytzeGM,EmswilerJetal:Covalentdimer-izationCofCCD28/CTLA-4CandColigomerizationCofCCD80/CCD86CregulateCTCcellCcostimulatoryCinteractions.CJCBiolCChemC271:26762-26771,C19965)KremerCJM,CDougadosCM,CEmeryCPCetal:TreatmentCofCrheumatoidarthritiswiththeselectivecostimulationmod-ulatorabatacept:twelve-monthCresultsCofCaCphaseCiib,Cdouble-blind,Crandomized,Cplacebo-controlledCtrial.CArthri-tisRheumC52:2263-2271,C20056)ToussirutE,AibinF:ParadoxicalreactionsunderTNF-ablockingCagentsCandCotherCbiologicalCagentsCgivenCforCchronicCimmune-medicateddiseases:anCanalyticalCandCcomprehensiveoverview.RMDOpenC2:e000239,C20167)AndersonCDE,CBieganowskaCKD,CBar-OrCACetal:Para-doxicalinhibitionofT-cellfunctioninresponsetoCTLA-4blockade;heterogeneitywithinthehumanT-cellpopu-lation.NatMed6:211-214,C20008)ChristophT,ElisabettaM,BahramBetal:Abataceptinthetreatmentofsevere,longstanding,andrefractoryuve-itisassociatedwithjuvenileidiopathicarthritis.JRheuma-tolC42:706-711,C20159)IwahashiC,FujimotoM,NomuraSetal:CTLA4-Igsup-pressesCdevelopmentCofCexperimentalCautoimmuneCuveitisCinCtheCinductionCandCe.ectorphases:ComparisonCwithCblockadeofinterleukin-6.ExpEyeResC140:53-64,C201510)Amadi-ObiA,YuCR,LiuXetal:TH17cellscontributetoCuveitisCandCscleritisCandCareCexpandedCbyCIL-2CandCinhibitedbyIL-27/STAT1.NatMedC13:711-718,C2007

ロングチューブシャント術後眼へのDescemet Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後経過

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):631.635,2020cロングチューブシャント術後眼へのDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後経過丸山会里*1,2田尻健介*1吉川大和*1在田稔章*1,3奥村峻大*1,4植木麻理*1,4清水一弘*1,2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2高槻病院*3八尾徳洲会総合病院*4高槻赤十字病院PostoperativeCourseofDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)forBullousKeratopathyfollowingLongTubeShuntSurgeryEriMaruyama1,2)C,KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1),ToshiakiArita1,3)C,TakahiroOkumura1,4)C,MariUeki1,4)C,KazuhiroShimizu1,2)CandTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)TakatsukiGeneralHospital,3)4)TakatsukiRedCrossHospitalCYaoTokushukaiGeneralHospital,目的:ロングチューブシャント手術後の水疱性角膜症に対して角膜内皮移植術(DSAEK)を施行した症例の術後成績を調べる.方法:ロングチューブシャント手術後(Tube群,5眼)およびCFuchs角膜内皮ジストロフィ(FBK群,9眼),線維柱帯切除術後(TLE群,6眼)について検討した.結果:術前視力および術後最高視力(logMAR)の平均はCTube群C1.55C±0.36およびC0.71C±0.36,FBK群C0.79C±0.18およびC0.18C±0.19,TLE群C0.76C±0.29およびC0.67C±0.54であり,いずれの群も改善した.生存率はCFBK群やCTLE群が術後C36カ月でC100%と良好であったが,Tube群は術後C1カ月C80.0%,6カ月C80.0%,12カ月C40.0%,36カ月C20.0%であった.結論:ロングチューブシャント手術後のDSAEKでは視力改善が得られるものの,生存率が比較的不良な可能性がある.CPurpose:ToCinvestigateCtheCpostoperativeCoutcomesCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty(DSAEK)forCbullouskeratopathy(BK)followingCglaucomaClongCtubeCshuntCimplantation.CMethods:ThisCstudyinvolvedcaseswithBKfollowingglaucomalongtubeshuntimplantation(TubeGroup,5eyes)C,Fuchscorne-alCendothelialdystrophy(FBKCGroup,C9eyes)C,CandTrabeculectomy(TLECGroup,C8eyes)C.CResults:InCtheCTubeCGroup,CFBKCGroup,CandCTLECGroup,CtheCpreoperative/postoperativeCmeanCvisualacuity(logMAR)wasC1.55±0.36/0.71±0.36,C0.79±0.18/0.18±0.19,CandC0.76±0.29/0.67±0.54,Crespectively.CTheCgraftCsurvivalCrateCinCtheCFBKGroupandtheTLEGroupwas100%at36-monthspostoperative,yetintheTubeGroup,thegraftsurvivalrateat1-,6-,12-,and36-monthspostoperativewas80.0%,80.0%,40.0%,and20.0%,respectively.Conclusions:CDSAEKCisCindicatedCforCBKCfollowingCglaucomaClongCtubeCshuntCimplantation,Chowever,CweCfoundCthatCtheCgraftCsurvivalrateisrelativelypoorcomparedwiththatinnormalDSAEKcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):631.635,C2020〕Keywords:角膜内皮移植術,角膜移植,チューブシャント手術,緑内障,GDD,成績.DSAEK,keratoplasty,tubeshuntsurgery,glaucoma,glaucomadrainagedevice,outcome.Cはじめに水疱性角膜症に対する外科的治療法の一つである角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty:DSAEK)は,その安全性と視力改善への有用性から同疾患の標準的な術式となりつつある.またチューブシャント手術はC2012年に厚生労働省の認可を受けた緑内障手術である.チューブシャント手術にはCEX-PRESSCglaucomaC.ltrationdeviceに代表されるショートチューブシャントと,BaerveldtglaucomaCimplantやAhmedglaucomaimplantに代表されるロングチューブシャ〔別刷請求先〕丸山会里:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EriMaruyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANCントがある.複数回の手術既往や,さまざまな理由で線維柱帯切除術の施行が困難な症例,通常の線維柱帯切除術では奏効が期待できない症例や,従来の線維柱帯切除術では重篤な合併症が起きかねない難治性緑内障が適応となる.ロングチューブシャントの作用機序としては,前房,毛様溝もしくは硝子体にチューブ先端を挿入し,房水を眼外に流出させてプレートを覆う被膜から周囲の組織へ放散吸収させ,眼圧下降へ導く形式をとる.ロングチューブシャント手術の術後晩期合併症の検討ではもっとも多い合併症として難治性の角膜浮腫があげられており,線維柱帯切除術後のC9眼/105眼(8.6%)に比較してロングチューブシャント手術後ではC17眼/107眼(15.9%)と報告されている1,2).わが国でもロングチューブシャント手術後の水疱性角膜症が問題となりつつあるが,DSAEK手術による治療成績の報告は少ない3).今回筆者らは,ロングチューブシャント手術後に発症した水疱性角膜症に対するCDSAEKの術後経過および,術前術後視力の比較,合併症,生存率を検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2011年C4月.2017年C9月に大阪医科大学附属病院眼科で施行されたCDSAEK症例のうち,ロングチューブシャント手術後(Tube群)の症例C5例C5眼である.性別は男性C4例,女性C1例であった.平均年齢は67.8C±17.7歳,角膜移植前の平均内眼手術既往はC3.2C±1.5回であった.また,同時期にCDSAEKを施行されたCFuchs角膜ジストロフィ(FBK群)8例9眼(男性3例3眼,女性5例6眼,平均年齢C78.9C±8.1,平均内眼手術既往C0.8C±0.4回),線維柱帯切除術後(TLE群)6例6眼(男性5例5眼,女性1例1眼,平均年齢C76.7C±8.1歳,平均内眼手術既往C2.5C±0.5回)をコントロール群とした.経過観察期間はC36カ月とした(表1).Tube群C5眼におけるチューブタイプは,Ahmed型C2眼,Baerveldt型C3眼で,そのチューブの挿入部位は,前房C2眼,毛様溝C2眼,硝子体C1眼であった.DSAEK術式であるが,Sightlifeより斡旋を受けた強角膜片からマイクロケラトームを用いて径C8.0CmmのCgraftを作製.5.1mmの強角膜創からBUSINglideを用いたpullthrough法でCgraftを前房内に挿入後,前房内を空気で全置換しC10分以上Cgraftを圧着させた.Tube群で前房挿入の症例ではCgraft挿入前に前房内のチューブをC2Cmm以内に切短した.Graftの位置はチューブと接触しないように適宜調整した.術後経過について,合併症,生存率,術前視力ならびに術後最高視力についてそれぞれC3群で検討した.合併症では,graft接着不良,空気再注入率,拒絶反応発症率のそれぞれについて検討した.生存率は,角膜内皮細胞密度の減少に伴いCgraft上に角膜上皮浮腫が出現した時点を死亡と定義した4).視力検査は少数視力で測定したものをClogMAR換算した.少数視力C0.01未満の視力については,指数弁C1.85,手動弁C2.30,光覚弁C2.80とした5,6).CII結果術中合併症はC3群すべての症例でとくに認めなかった.術後合併症に関して,graft接着不良をきたした症例はCFBK群で9眼中2眼(22.2%),TLE群で6眼中2眼(33.3%),Tube群ではC5眼中C2眼(40.0%)であった.空気再注入を要したのはFBK群で1眼(11.1%),TLE群で1眼(16.7%),Tube群ではC5眼中C1眼(20%)であった.拒絶反応をきたしたものは,FBK群でC1眼(11.1%),TLE群でC0眼,Tube群ではC1眼(20%)であった(表2).生存率をCKaplan-Meier生存曲線で示す.FBK群やCTLE群がC36カ月の時点でC100%と良好な生存率を呈しているのに対し,Tube群は術後C1カ月C80.0%,6カ月C80.0%,12カ月C40.0%,24カ月C40.0%,36カ月C20.0%であり,Tube群の生存率はCFBK群やCTLE群と比較して明らかに不良であった(図1).チューブ挿入部位別では前房挿入(2眼)ではC1カ月およびC12カ月であり,毛様溝挿入(2眼)ではC10カ月とC36カ月,硝子体挿入のC1眼はC27カ月であった.視力は,logMAR値でCFBK群では術前視力がC0.79C±0.18,術後最高視力がC0.18C±0.19,TLE群ではそれぞれC1.75C±0.44に対してC0.50C±0.33であった.Tube群をみると術前視力は表1各群間の比較Tube群FBK群TLE群症例5例5眼8例9眼6例6眼性別男性4眼,女性1眼男性3眼,女性6眼男性5眼,女性1眼年齢C67.8±17.7(37.82)歳C78.9±8.1(73.88)歳C76.7±8.1(63.86)歳術前視力(logMAR)C1.55±0.36C0.79±0.18C1.75±0.44内眼手術既往C3.2±1.5回C0.8±0.4回C2.5±0.5回Donar角膜内皮細胞密度C2,730±512/mm2C2,496±280/mm2C2,676±341/mm2CFBK群:Fuchs角膜ジストロフィ,TLE群:線維柱帯切除術後,Tube群:ロングチューブシャント術後.C632あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(130)表2Tube群,FBK群,TLE群の合併症対比および術後最高視力Tube群FBK群TLE群graft接着不良2眼/5眼2眼/9眼2眼/6眼空気再注入0眼/5眼1眼/9眼1眼/6眼拒絶反応1眼/5眼1眼/9眼0眼/6眼術後最高視力(logMAR)C0.71±0.36*(p=0.016)C0.18±0.19*(p<0.01)C0.50±0.33*(p<0.01)*視力はいずれの群も術前に比較して有意に改善した(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).生存率(%)100FBK群80TLE群604020Tube群005101520253035観察期間(月)図1生存率(Kaplan.Meier生存曲線)FBK:Fuchs角膜ジストロフィ,TLE:線維柱帯切除術後,Tube:チューブシャント術後.C1.55±0.36,術後最高視力はC0.71C±0.36であり,Tube群をはじめ,いずれの群においても術前と比較して,術後最高視力は有意に改善していた(Mann-WhitneyU-test,p<0.05).以下にCTube群C5症例の詳細を述べる.〔症例1〕82歳,男性.偽落屑症候群のある開放隅角緑内障でC1回の白内障手術,2回の線維柱帯切除術を経て水疱性角膜症となった.眼圧コントロール不良でありCAhmed型を硝子体挿入された.7カ月後にCDSAEKを施行され視力改善がみられた.術後C15カ月に拒絶反応を生じたが治療で改善した.術後C25カ月に網膜出血,低眼圧,脈絡膜.離を伴うサイトメガロウイルス網膜炎(硝子体液のCPCR検査でサイトメガロウイルスCDNA陽性)を発症しC27カ月で光覚を消失し角膜も移植片不全となった.その後僚眼も水疱性角膜症になりCDSAEKが施行された.DSAEK術前視力C1.52,術後最高視力C0.70.湖崎分類CII.〔症例2〕71歳,男性.開放隅角緑内障でC1回の白内障手術併用線維柱帯切除術ののちにCBaerveldt型を前房挿入された.10カ月後に水疱性角膜症となったため挿入部位を毛様溝に差し直した.DSAEKが施行されたが術後C10カ月で移植片不全となった.さらに図2症例3の前眼部写真DSAEK術後C3カ月.毛様溝に挿入されたチューブの先端が確認できる.視力(0.7)logMAR.11カ月後に再度CDSAEKを施行されたが術後C8カ月に移植片不全となった.DSAEK術前視力C1.70,術後最高視力C0.52.湖崎分類CIIIb.〔症例3〕73歳,男性.開放隅角緑内障でC1回の白内障手術,2回の線維柱帯切除術を経て水疱性角膜症となった.眼圧コントロール不良のためCBaerveldt型を毛様溝に挿入した.6カ月後にCDSAEKを施行した(図2).DSAEK術後C8カ月後に結膜が溶解してチューブが露出し前房内炎症を生じたため抗生物質で治療した.DSAEK術後C12カ月にCBaerveldt型を抜去しCAhmed型を毛様溝に挿入している.DSAEK術後C36カ月で角膜厚はやや増大しているが上皮浮腫は認めず生存している.DSAEK術前視力C1.52,術後最高視力C0.70.湖崎分類CIIIa.〔症例4〕76歳,女性.サルコイドーシス疑いのぶどう膜炎に続発した緑内障.僚眼は網膜血管炎および虚血性視神経症で失明している.1回の白内障手術(.外摘出術)を施行されている.Ahmed型を前房内挿入されたがC3年後に水疱性角膜症となりCDSAEKを施行された.graft周辺にC1Cmmの接着不良があったが経過観察で接着した.視力改善を認めたが術後C12カ月で移植片不全となった.再度CDSAEKが施行されたが,術後C2カ図3症例5の前眼部写真DSAEK術後C3週間.7時にC2Cmm程度Cgraft接着不良がある.視力(1.4)logMARで術前より改善している.眼圧C27CmmHg(Gold-mann圧平式眼圧計).月で虹彩炎が出現し移植片不全となった.2カ月間消炎治療をしてC3回目のCDSAEKを施行したが虚血性視神経症疑いで入院中に光覚を消失した.術後C2カ月で角膜も移植片不全となった.DSAEK術前視力C1.00,術後最高視力C0.35.湖崎分類CIIIa.〔症例5〕37歳,男性.重度アトピー性皮膚炎あり.続発性の緑内障でC1回の白内障手術およびC1回の線維柱帯切開術を経てCBaerveldt型を前房内挿入された.術後C3年で水疱性角膜症になりCDSAEKを施行され,同時にチューブのプレート周囲の被膜切除も行った.術後Cgraft下方周辺部にC2Cmmほどの接着不良を認めたが,角膜浮腫は改善しており経過観察された(図3).術後1カ月に極端な低眼圧と角膜浮腫の増悪を生じ移植片不全となった(図4).13カ月後に再度CDSAEKを施行され,目こすり予防に保護眼鏡など徹底したが術後C1カ月で移植片不全となった.さらにC15カ月後にチューブの硝子体への差し直しの際に全層角膜移植を施行したが術後C1カ月で移植片不全となった.DSAEK術前視力C2.00,術後最高視力C1.30.湖崎分類CII.CIII考按緑内障チューブシャント手術は,もともと難治性緑内障が手術対象であるうえ,デバイスを使用する術式であり,通常の緑内障濾過手術ではみられない術後合併症も危惧される.CTheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyにおける術後晩期合併症の線維柱帯切除術との比較では,難治性角膜浮腫すなわち水疱性角膜症が,チューブシャント手術では107眼中C17眼(15.9%),線維柱帯切除術ではC105眼中C9眼図4症例5の前眼部写真DSAEK術後C5週間.移植片不全となり視力は眼前手動弁(矯正不能)に低下.低眼圧のため眼圧測定不能.拒絶反応のような角膜後面沈着物は認めない.graft接着不良の範囲は変化ないようである.(8.6%)とチューブシャント手術に多い傾向がみられている1).また,Ahmed型とCBaerveldt型の術後C5年間にわたる長期の比較でも,角膜浮腫が両者ともにC20%発生している2).これらの原因として,チューブの前房挿入による影響だけではなく,低眼圧やロングチューブシャント手術前に行われた白内障手術なども関与しているのではないかと考察されている.本報告の生存率について検討すると,Tube群はCFBK群,TLE群に比較して生存率が不良であった.海外でもCglauco-madrainagedevice手術後ではCDSAEK術後のCgraft生存率が低いと報告があるが,1年生存率はC80%,3年生存率も50%程度であり7),今回の結果はさらに不良であった.ロングチューブインプラント手術については血管新生緑内障に対する硝子体挿入型のCBaerveldt型インプラント手術では角膜内皮細胞障害はC17%にとどまっていたという報告や8),同じく血管新生緑内障に対する硝子体挿入型のCBaerveldt型インプラント手術では明らかな角膜内皮細胞障害は認められなかったというわが国における報告3)がある.今回のC5眼ではチューブの挿入部位が前房内あるいは毛様構の症例が比較的多かった.全層角膜移植(PKP)後早期に角膜内皮細胞密度が減少した群では前房水でCIL-10,MCP-1,IFN-gが上昇していたという報告があり9),今回のような難治性緑内障では前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇していることが予後不良につながった可能性が考えられる.今回のC5症例はアトピー性皮膚炎の合併やぶどう膜炎続発緑内障など線維柱帯切除術の成績が不良とされる症例や,結膜の瘢痕化が高度であったり,線維柱帯切除術を施行されたが濾過胞の線維化を生じてしまった難治性の緑内障症例であることからロングチューブインプラント手術が選択された.また,挿入部位については角膜浮腫による眼内視認性の不良や緑内障病期が進行しており硝子体手術による視神経障害が懸念されるような症例,唯一眼で硝子体手術による合併症が懸念される症例で,前房もしくは毛様溝挿入が選択された.緑内障やCDSAEKそのものに限らず,原疾患のぶどう膜炎や,眼内炎などの併発疾患,アトピー性皮膚炎による眼を擦る行為が影響した可能性も否定できない.今後症例を増やしてさらなる検討が必要と思われる.一般にCDSAEK術後のCgraftの接着不良はC14.5%(0.82%),拒絶反応発症率はC10%前後との報告がある10,11).今回のCTube群では術後Cgraftの接着不良がC40%にみられ,FBK群(22.2%),TLE群(33.3%)との間に有意差はみられなかったが,やや高い傾向があった.Tube群では空気の再注入がC20%に,またC20%に拒絶反応がみられた.graft接着不良の原因として,Tube群やCTLE群では術中および術後の持続的な低眼圧の影響が考えられる.チューブが挿入されていることや濾過胞の存在に起因する接着に必要な前房内圧不足や術後早期の脱気により,今回空気の再注入を必要としたものが多かった可能性が考えられる.Baerveldt型はプレートに圧力調節弁をもたずCAhmed型に比較して術後に低眼圧をきたすことが多いとされている12).一方で,術後最高視力は,Tube群,FBK群,TLE群のいずれにおいても,術前と比較して有意に改善した.ロングチューブシャント手術の適応となりうる難治性緑内障であっても,ロングチューブシャント手術後に合併しうる水疱性角膜症に対し,DSAEKは有用な治療手段の一つと考えられる.今回,緑内障のロングチューブシャント手術後でもDSEAKで良好な視力改善が得られることがわかった.その一方で,graftの生存率は比較的不良である可能性があり,その原因検索と対応策について引き続き検討する必要がある.文献1)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20122)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC163:75-82,C20163)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌C121:138-145,C20174)PedersenCIB,CIvarsenCA,CHjortdalJ:GraftCrejectionCandCfailureCfollowingCendothelialkeratoplasty(DSAEK)andCpenetratingkeratoplastyforsecondaryendothelialfailure.ActaOphthalmolC93:172-177,C20155)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handmotion”and“counting.ngers”canbequanti-.edCwithCtheCfreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20066)GroverS,FishmanGA,AndersonRJetal:Visualacuityimpairmentinpatientswithretinitispigmentosaatage45yearsorolder.OphthalmologyC106:1780-1785,C19997)AnshuA,PriceMO,PriceFW:De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難治なカルシウム沈着をきたしたStevens-Johnson症候群の1例

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):627.630,2020c難治なカルシウム沈着をきたしたStevens-Johnson症候群の1例水野暢人*1,2福岡秀記*1草田夏樹*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都中部総合医療センター眼科*3済生会滋賀県病院眼科CACaseofStevens-JohnsonSyndromewithIntractableCalciumDepositionNobuhitoMizuno1,2)C,HidekiFukuoka1),NatsukiKusada1,3)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOpthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,3)DepartmentofOpthalmology,SakiseikaiShigaHospitalC目的:角膜表層のカルシウム(Ca)沈着はリン酸塩添加物と関連し,眼表面疾患患者ではリスクが高いことが報告されている.今回CStevens-Johnson症候群(SJS)に難治なCCa沈着をきたしたC1例を経験したので報告する.症例:症例はC48歳,女性(SJS患者),両眼の遷延性上皮欠損を認め発症からC2カ月で入院治療を開始した.眼脂培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出したためバンコマイシン(VCM)眼軟膏を開始したところ上皮欠損部位に一致した高度のCCa沈着を生じた.左眼に培養口腔粘膜上皮シート移植,右眼に角膜上皮形成術を施行し,両眼ともCCa沈着除去+羊膜移植を併用した.左眼は順調に経過したが,右眼に再びCCa沈着が発生したためベタメタゾン点眼を中止し,Ca沈着除去+羊膜移植を追加した.その後CCa沈着を再発せず上皮化を得た.考按:高度の涙液減少,遷延性上皮欠損を伴う疾患においてベタメタゾン点眼,VCM投与がCCa沈着の契機になりうる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCStevens-Johnsonsyndrome(SJS)inCwhichCintractablecalcium(Ca)depositionCoccurred.CaseReport:A48-year-oldfemalewithSJSpresentedwithbilateralpersistentepithelialdefect(PED)Cat2monthsfromdiseaseonset.Methicillin-resistantStaphylococcusaureusCwasdetectedinhereyedischarge,sovancomycin(VCM)eye-ointmenttreatmentwasinitiated.However,ahighCadepositionoccurred.Thus,wetreat-edCherCleftCeyeCwithCcultivatedCoralCmucosalCepithelialCsheetCtransplantationCplusCamnioticCmembraneCtransplanta-tion(AMT)C,CandCherCrightCeyeCwithCkeratoepithelioplastyCplusCAMT,CwithCtheCCaCdepositCbeingCremovedCduringCsurgery.Postoperatively,anewCadepositoccurredinherrighteye,sothebetamethasoneinstillationwasdiscon-tinuedandsheunderwentCa-depositremovalcombinedwithasecondAMT,resultinginbilateralepithelializationwithoutCadeposition.Conclusion:WefoundthatbetamethasoneinstillationandVCMcantriggerCadepositionincasesofocularsurfacediseasewithseveredryeyeandPED.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):627.630,C2020〕Keywords:スティーブンス・ジョンソン症候群,遷延性上皮欠損,ドライアイ,カルシウム角膜沈着.Stevens-Johnsonsyndrome,persistentepithelialdefect,dryeye,calciumdeposition.Cはじめに眼科領域の薬物療法の中心は点眼薬である.点眼薬は,主成分となる薬物と水溶液のみでは製剤としての成立がむずかしく,少なからず添加剤が加えられている.その添加剤には,防腐剤,等張化剤,緩衝剤,界面活性剤,安定化剤や粘稠化剤などさまざまなものがあり,薬物を溶解し安定するために用いられる1).しかし,添加剤が眼障害を引き起こすことがあり,よく知られるものとして防腐剤である塩化ベンザルコニウム(BAC)による角膜障害がある2).また,安定化剤としてのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)は濃度によってはCBACと同様の角膜創傷治癒遅延を引き起こす3).点眼薬の約C1/3にCpH緩衝の添加剤として用いられているリン酸塩は,ごくまれに角膜のカルシウム(Ca)沈着を誘発する4,5).今回CStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:〔別刷請求先〕水野暢人:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上る梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:NobuhitoMizuno,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kyoto602-8566,JAPANCSJS)患者の治療経過中に急速で難治なCCa沈着をきたした遷延性上皮欠損(persistentCepithelialdefect:PED)のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:48歳,女性.主訴は視力障害である.既往歴に抑うつがある.2016年C1月に総合感冒薬を服用後,4日目にC38℃以上の発熱,結膜充血および口腔粘膜と皮膚にびらんを生じて総合病院に緊急入院し,SJSと診断された.全身および眼局所の治療を受けたが両眼のCPEDをきたし,改善が見込まれないことからC2016年C2月に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.初診時眼科所見:視力は右眼指数弁(矯正不能),左眼C0.04(矯正不能),眼圧は両眼ともに測定不能であった.涙液減少によるドライアイ症状が強く(Schirmerテスト右眼C2Cmm,左眼C1Cmm),両眼に広範囲の角結膜上皮欠損,瞼球癒着,眼脂を認め,手術加療も含めた治療が必要と判断した.入院後経過:初診C7日後に入院し,感染予防,消炎およびドライアイ治療目的に点眼薬と免疫抑制薬(シクロスポリンC50Cmg2錠分2)内服を開始し.同時に強い抑うつ症状のため精神科医の併診,口腔ケアおよび疼痛緩和の治療も開始した.点眼,内服治療により両眼ともに周辺部に残存する結膜上皮は少しずつ伸展するも上皮欠損は遷延した.両眼ともに眼脂培養からメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulaseCnegativeCStaphylococci:MRCNS)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-2%レバミピドUD点眼4回resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)を検出したため,入院C2カ月後にC1%バンコマイシン塩酸塩(VCM)眼軟膏を開始したところ急速にC2.3日で両眼に高度のCCa沈着をPED部位に生じた.ただちにCVCM眼軟膏を中止とし,左眼に培養口腔粘膜上皮シート移植+羊膜移植,翌月は右眼に角膜上皮形成術+羊膜移植を施行し,両眼ともに手術時にCa沈着物を除去した.術後は両眼ともに治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,抗菌薬点眼と消炎目的でC0.1%ベタメタゾン点眼を行った.左眼は順調に経過したが,右眼は手術後に再びCCa沈着を生じた.リン酸塩によるCCa沈着を疑いC0.1%ベタメタゾン点眼を中止し,右眼に再度CCa除去+羊膜移植を行った.その後CCa沈着は再発せず上皮化を得ることができた.CII考按角膜表層のCCa沈着の機序については,詳しく明らかになっていない.角膜へのCCa沈着には数日で急速に沈着するものや,帯状角膜変性症のように数カ月から数年で形成されるものがある.涙液中の有機リンとCCa濃度のバランスの異常,涙液異常(ドライアイ,局所的なCpHの上昇)や房水代謝異常(緑内障,慢性炎症)などがCCa沈着をきたしやすい原因として考えられている6).急速なCCa沈着は,点眼薬に含まれるリン酸塩添加物が強く関連し7),とくに眼表面疾患患者のようなCPEDがある患者ではリスクが高いことが報告されている.Ca沈着は,通常表層のみに沈着をきたしていることが多く,その際には,速やかにリン酸塩を含む点眼薬の中止および変更を行うことが望ましい.治療としてはCCa沈着2回0.3%ガチフロキサシン点眼0.5%ベガモックス点眼2-4回2回3回1%ソルメドロール点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%ベタメタゾン点眼2回2回2回回44回4回4回4回4回4回0.3%タリビッド眼軟膏1%バンコマイシン眼軟膏4回回44回回44回1回1回ジフルカン点眼0.05%デキサメタゾン眼軟膏4回2回両眼の角膜表層石灰化右眼の角膜表層石灰化*※☆入院初日入院1カ月入院2カ月入院3カ月入院4カ月入院5カ月両眼点眼右眼点眼左眼点眼*左眼培養口腔粘膜上皮シート移植+Ca除去+羊膜移植※右眼角膜上皮形成術+Ca除去+羊膜移植☆右眼Ca除去+羊膜移植図1治療経過と角膜上皮石灰化のイメージabcde図2バンコマイシン投与前後の前眼部写真バンコマイシン眼軟膏投与後に両眼の角膜上皮欠損に一致して急速にカルシウムが沈着した.(a:右眼初診時,Cb:右眼投与前,Cc:右眼投与後C2日,Cd:左眼初診時,e:左眼投与前,f:左眼投与後C2日)Cabc図3カルシウム再沈着および再除去後の右眼前眼部写真右眼はカルシウム(Ca)沈着物を除去後,羊膜移植併用角膜上皮移植術を行ったがC1カ月後に角膜上皮欠損に一致して急速にCCaが沈着した.再度CCa沈着物を除去後,羊膜移植を行い再発はしていない.(a:1回目手術後,Cb:Ca沈着時,Cc:2回目手術後.)Cab図4カルシウム除去後の左眼前眼部写真左眼はカルシウム沈着物を除去後に培養口腔粘膜移植を施行し上皮化を得ている.(a:手術直後,Cb:退院前.)物をC0.1%塩酸やCEDTAなど薬剤で除去を行うか,ゴルフ刀や治療的レーザー角膜切除術(phototherapeuticCkeratec-tomy:PTK)などで機械的に除去する方法がある8).今回のCSJS症例は,重症なドライアイに加え,ステロイドや抗菌薬などさまざまな点眼が処方されており,入院経過中にC2度の角膜への白色物沈着を生じた.沈着物を高速液体クロマトグラフィーや原子吸光分析などを用いて成分分析を行っていないが,臨床経過と手術時の所見からCCa沈着と考えた.1回目はCMRCNS,MRSAに対するC1%CVCM眼軟膏の投与開始後に角膜上皮欠損に一致して沈着が引き起こされた.その際にCCa沈着の要因としてよく知られるC0.1%ベタメタゾン点眼は使用していなかった.VCMはさまざまな薬剤との混和により白濁や沈殿などにより配合変化を起こすことから,薬剤の組み合わせにより沈着を生じた可能性がある9).2回目は左眼角膜上皮形成と結膜欠損領域への羊膜移植後眼の角膜上皮欠損部に一致して急速なCCa沈着をきたした.一方他眼は,ほぼ同様の点眼治療を行ったが,培養口腔粘膜上皮シート移植後に上皮欠損がなく安定していたため,Ca沈着が引き起こされなかった.以上の経過より重症なドライアイと角膜上皮欠損がCCa沈着の誘引となっていた可能性が高い.また,右眼がC2回目の手術で羊膜移植後にドナーの角膜上皮から速やかに上皮伸展があったことから,移植後羊膜の存在が沈着を防いだ可能性が推察された.全身疾患から帯状角膜変性のようにCCaが角膜に沈着をきたすものとしては,腎不全,透析によるCCa代謝異常,副甲状腺機能亢進やぶどう膜炎などが報告されている7).本症例は血中CCa値は正常であり,上記のいずれにも該当せず,全身疾患が影響している可能性は低いと考えられた.点眼薬の角膜沈着としては,ノルフロキサシン10.13),シプロフロキサシン14),トスフロキサシン15)などが知られているが,今回は既知の成分を含む点眼薬は用いていない.VCM自体がさまざまな薬剤などの混和により配合変化に注意すべき薬剤であることを考えると,1回目の角膜沈着はCaか何らかの薬剤の沈着によるものでC2回目がベタメタゾン点眼のリン酸塩によるCCa沈着の可能性もあると考えられた.本症例のように,重症ドライアイやCPEDをきたすことの多いCSJS症例においては,点眼,眼軟膏の影響により角膜沈着を引き起こすことがあり,注意深く経過観察する必要があると考えられる.文献1)長井紀章,伊藤吉將:添加物による眼組織への影響(解説/特集).薬局65:1731-1737,C20142)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAFetal:E.ectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSciC40:619-630,C19993)長井紀章,村尾卓俊,伊藤吉將ほか:点眼薬含有添加剤であるポリソルベートC80およびCEDTA点眼が角膜上皮傷害治癒へ与える影響.あたらしい眼科27:1299-1302,C20104)SchrageCNF,CSchlossmacherCB,CAschenbernnerCWCetal:Cbu.erCinCalkaliCeyeCburnsCasCanCinducerCofCexperimentalCcornealcalci.cation.BurnC7:459-464,C20015)PopielaCMZ,CHawksworthN:CornealCcalci.cationCandphosphates:doCyouCneedCtoCprescribeCphosphateCfree?CJOculPharmacolTher30:800-802,C20146)BerlyneGM:Microcrystallineconjunctivalcalci.cationinrenalfailure.LancetC2:366-370,C19687)PrasadCRaoCG,CO’BrienCC,CHicky-DwyerCMCetal:RapidConsetCbilateralCcalci.cCbandCkeratopathyCassociatedCwithCphosphate-containingCsteroidCeyeCdrops.CEurCJCImplantCRefractSurgC7:251-252,C19958)Al-HityCA,CRamaeshCK,CLockingtonD:EDTACchelationCforCsymptomaticCbandkeratopathy:resultsCandCrecur-rence.Eye(Lond)C32:26-31,C20189)添付文書情報日本薬局方注射用バンコマイシン塩酸塩.シオノギ製薬C2019年C3月改訂10)落合万理,山上聡,大川多永子ほか:角膜移植後,移植片中央部に白色物質沈着を繰り返したC1症例.眼紀C49:C906-908,C199811)秦野寛,大野重昭,北野周作:トスフロキサシン点眼液による眼科周術期の無菌化療法.眼科手術C23:314-320,C201012)KonishiM,YamadaM,MashimaY:Cornealulcerassoci-atedwithdepositsofnor.oxacin.AmJOphthalmolC125:C258-260,C199813)関山有紀,外園千恵,稲富勉ほか:ノルフロキサシンがソフトコンタクトレンズに沈着した遷延性上皮欠損のC2症例.あたらしい眼科22:379-382,C200514)CastilloCA,CBenitezCdelCCastilloCJM,CToledanoCNCetal:CDepositsoftopicalnor.oxacininthetreatmentofbacteri-alkeratitis.CorneaC16:420-423,C199715)EssepianCJP,CRajpalCR,CO’BrienTP:TandemCscanningCconfocalCmicroscopicCanalysisCofCcipro.oxacinCcornealCdepositsinvivo.CorneaC14:402-407,C1995***

口蓋粘膜移植を用いた上眼瞼再建術後に生じた角膜炎の1 例

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):624.626,2020c口蓋粘膜移植を用いた上眼瞼再建術後に生じた角膜炎の1例中尾功江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CACaseofSevereKeratitisafterUpperEyelidReconstructionusingHardPalatalMucosalGraftsIsaoNakaoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,SagaUniversityC目的:自己口蓋粘膜移植による上眼瞼再建後に生じた角膜炎のC1例を経験したので報告する.症例:80歳,男性.左上眼瞼基底細胞癌に対し,形成外科にて自己口蓋粘膜移植を用いた上眼瞼再建術が施行され,再建術後C1カ月の眼科受診時に著明な前房蓄膿を伴う角膜潰瘍を認めた.角膜擦過物の培養より口腔内常在菌であるCStreptococcusCanginosusが検出され,肺膿瘍の治療に準じて加療することで感染は鎮静化した.口蓋粘膜から持ち込まれた口腔内常在菌により生じた角膜炎と推測された.結論:自己口蓋粘膜移植による眼瞼再建術後は角膜障害が生じうる.また,口腔内常在菌による術後角膜感染症に注意する必要がある.CPurpose:Toreportacaseofseverekeratitisthatoccurredafterreconstructionoftheuppereyelidbyautolo-gousCpalatalCmucosalCtransplantation.CCase:AnC80-year-oldCmaleCpatientCunderwentCeyelidCreconstructionCusingCautologouspalatalmucosaltransplantationforupperlefteyelidbasalcellcarcinomabyplasticsurgery.At1-monthpostreconstruction,keratitiswithmarkedanteriorchamberabscesswasobserved.Streptococcusanginosus,anoralbacteria,wasdetectedfromthecultureofcornealscrapings.Despitetheadministrationofgati.oxacineyedrops,cefmenoximeCeyeCdrops,CtobramycinCeyeCdrops,CandCintravenousCampicillin/sulbactamCtheCocularC.ndingsCfailedCtoCimprove.CHowever,CkeratitisCimprovedCbyCinitiationCofCintravenousCceftriaxoneCandCclindamycinCaccordingCtoCtheCtreatmentCofCpulmonaryCabscess.CWeCpresumedCthatCtheCkeratitisCwasCcausedCbyCoralCbacteriaCbroughtCfromCtheCpalatalCmucosa.CConclusion:AfterCeyelidCreconstructionCbyCautologousCpalatalCmucosalCtransplantation,CattentionCshouldbepaidtocornealinfectionscausedbyoralbacteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(5):624.626,C2020〕Keywords:眼瞼基底細胞癌,口蓋粘膜移植,角膜炎,口腔内細菌,日和見感染.eyelidbasalcellcarcinoma,hardpalatalmucosalgraft,keratitis,oralbacteria,opportunisticinfection.Cはじめに眼瞼悪性腫瘍が進行し,切除術により大きな組織欠損を生じる場合には再建術の併用が必要となる.一般に,眼瞼前葉は眼瞼,側頭,前額などからの皮弁で再建し,眼瞼後葉は自己口蓋粘膜や鼻中隔軟骨粘膜で再建される1.6).術後の眼瞼腫脹が強い場合は眼球の診察が困難となる.今回,自己口蓋粘膜移植による上眼瞼再建術後に,口蓋粘膜から持ち込まれた口腔内常在菌によると思われる重篤な角膜炎を生じたC1例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,男性.主訴:左眼瞼腫脹.既往歴,家族歴:特記事項なし.現病歴:2004年頃から左眼瞼腫脹を自覚.徐々に増大傾向だったためC2009年C8月,近医眼科を受診した.左上眼瞼〔別刷請求先〕中尾功:〒849-8501佐賀県佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IsaoNakao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,SagaUniversity,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC624(122)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(122)C6240910-1810/20/\100/頁/JCOPY腫瘍が疑われ,2009年C10月C23日当科へ紹介され初診となった.初診時所見:左上眼瞼瞼縁に内眼角から外眼角に至るC20C×9Cmmの腫瘍を認めた.睫毛はすべて脱落し,瞼縁には易出血性の潰瘍があり,一部黒色調の部分もみられた(図1).所見より上眼瞼基底細胞癌が疑われた.腫瘍切除により上眼瞼全体が全層欠損となり広範囲な眼瞼再建術が必要になると考えたため,当院形成外科へ紹介した.経過:2009年C12月C7日,左上眼瞼腫瘍切除,眼瞼再建術が施行された.上眼瞼全体と内眼角部の皮膚びらんを含め上眼瞼を全層で切除し,眼窩外側からの皮弁で眼瞼前葉を再建し,眼瞼後葉には硬口蓋からC2C×3Ccmの粘膜骨膜弁を採取し移植した.摘出腫瘍の病理検査より基底細胞癌と診断された.2010年C1月C29日,腫瘍切除後の眼科的評価のため当科再診となった.眼痛の訴えはなく,左上眼瞼は腫脹し自己開瞼はできなかった(図2).手指にて開瞼させると左眼角膜中央部に円形の潰瘍を認め,著明な前房蓄膿を伴っていた(図3).角膜潰瘍擦過物の鏡検で多数のグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌がみられ,グラム陽性球菌は白血球による貪食像を認めた.グラム陽性球菌が主要な起炎菌と考え,アンピシリン/スルバクタム点滴静注C1.5Cg,1日C1回,ガチフロキサシン点眼C1時間ごと,セフメノキシム点眼C1時間ごとを開始した.改善がみられないためアンピシリン/スルバクタム点滴静注をC1.5Cg,1日C2回に増量し,トブラマイシン点眼C1時間ごとを追加したが角膜潰瘍は変わらず,前房蓄膿はさらに悪化し前房内C2/3を占めるほどに増加した.真菌感染も疑いジフルカン点眼,ボリコナゾール点滴を追加するも改善は認められなかった.その後,培養の結果,口腔内常在菌であるCStreptococcusCanginosusのコロニーが多数検出された.また,Corynebacterium属,Peptostreptococcusmicros,CFusobacteriumnucleatumの少数のコロニーを認めた.これらはすべて口腔内常在菌であった.StreptococcusCanginosus図1初診時左眼前眼部写真左上眼瞼瞼縁全体に腫瘍を認める.睫毛はすべて脱落し,瞼縁に易出血性の潰瘍を認める.黒色調に変化した部分がある.図2眼瞼腫瘍切除,眼瞼再建術後1カ月眼瞼は腫脹し自己開瞼不可.図3眼瞼再建術後1カ月の左眼前眼部写真角膜中央に円形の角膜潰瘍,著明な前房蓄膿を認める.図4眼瞼再建術後3カ月の左眼前眼部写真角膜潰瘍,前房蓄膿は治癒した.(123)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C625は口腔内常在菌ではあるが肺膿瘍など病勢の強い化膿性病変の原因になるため,肺膿瘍の治療に準じて,点滴加療をセフトリアキソンC1Cg,1日C2回,クリンダマイシンC600Cmg,1日C2回に変更した.その後,角膜潰瘍と前房蓄膿はともに徐々に改善し,点滴変更後約C1カ月で消失した(図4).CII考按広範囲に浸潤した眼瞼悪性腫瘍の治療には,眼瞼全層切除が必要となる.眼瞼全層切除後の眼瞼再建術は眼瞼の前葉再建と後葉再建に分けて考える必要がある.眼瞼前葉の再建には局所皮弁や植皮が行われ,後葉の再建には瞼結膜と支持組織である瞼板の再建が必要となるため,口腔粘膜を含めた硬口蓋移植,耳介軟骨移植,鼻中隔軟骨粘膜移植,瞼板遊離弁移植などが行われる1.7).口蓋粘膜移植は,粘膜を結膜の代用,骨膜を瞼板の代用として用い,それらを同時に比較的容易に採取できる有用な手技とされる.眼科的な術後合併症としては眼瞼拘縮や兎眼,眼異物感,流涙,粘液分泌が報告されている7.9).このほかにも,口蓋粘膜移植後には粘膜上皮の角化が生じるとされ,眼表面を傷つける可能性がある.とくに上眼瞼再建においては眼表面が移植片から影響を受けやすく,口蓋粘膜移植では術後角膜障害がC13.3%にみられ,瞼板遊離弁移植では角膜障害がみられなかったという報告がある7).術後角膜障害の予防のため,眼瞼後葉の再建には眼表面に接触する部分の平滑さが求められる.その点からは口蓋粘膜移植は眼瞼後葉再建に不向きであり,瞼板遊離弁移植が推奨される.口蓋粘膜移植後に生じた角膜感染症の報告はみられなかったが,今回の症例は潰瘍部の擦過鏡検で複数の菌が多数存在し,好中球によるグラム陽性球菌の貪食がみられたこと,培養で多くの口腔内常在菌がみられたことから,口蓋粘膜移植により持ち込まれた口腔内細菌により生じた角膜潰瘍であったと考える.常在菌による日和見感染は,宿主と常在菌叢のバランスが崩れることで生じる.免疫力の低下などでもともとの場所で増殖して病原性を発揮する場合と,本来とは違う場所に移ることで異常に増殖し病原性を発するタイプに分けられる.今回のケースは後者に当てはまる.また,このような感染では病原性の弱い菌が複数増殖して混合感染の形をとることが多い.今回の症例での角膜擦過物の鏡検,培養で多数種の菌がみられたこともこれを裏付ける.検出されたCStreptococcusanginosusは口腔内常在菌ではあるが,皮膚粘膜,腹腔,頭蓋内,呼吸器系,泌尿生殖器などさまざまな部位で病勢の強い難治性化膿性病変の原因になることが知られている10,11).今回の症例も一般的なグラム陽性菌起因性角膜炎に対する治療では改善がみられず,膿胸の治療に準じて抗菌薬を長期間使用することで改善が得られた.形成外科の執刀医に確認したところ,口腔粘膜は赤黒く,通常より汚い印象だったので,念のためポビドンヨード液で拭いてから移植に使用したとのことだった.また,術後は生理食塩水点眼のみが使用されていた.患者が眼痛など眼科的異常を訴えなかったため術後の眼科受診が遅れ,受診時にはすでに重篤な角膜炎となっていた.口蓋粘膜移植により再建された眼瞼結膜面が不整である場合や,粘膜上皮に角化が生じれば角膜上皮障害が起こりうる.そこに多量の口腔内細菌が持ち込まれた結果,角膜炎に進展したと考えられる.口蓋粘膜移植を用いた上眼瞼再建術後は角膜障害に注意が必要であり,術後早期に眼科的精査を行う必要がある.また,口腔内常在菌が原因となる角膜炎の場合,通常の加療は奏効しないことがあり,適切な抗菌薬の選択が重要となる.文献1)兼森良和:眼瞼再建の実際.あたらしい眼科C20:1635-1640,C20032)柳澤大輔,岩澤幹直,加藤浩康ほか:口蓋粘膜移植を用いた眼瞼再建.日形会誌C33:402-409,C20133)土井秀明,小川豊:眼瞼再建への硬口蓋粘膜の使用.CSkinCanserC12:429-433,C19974)伊野法秋,奈良林定,土田幸英:耳介軟骨による下眼瞼再建.SkinCanserC6:431-434,C19915)石原剛,松下茂人,加口敦士ほか:巨大悪性腫瘍切除後の眼瞼再建法.SkinCanser20:19-22,C20056)MiyamotoJ,NakajimaT,NagasaoTetal:Full-thicknessreconstructionCofCtheCeyelidCwithCrotationC.apCbasedConCorbicularisCoculiCmuscleCandCpalatalCmucosalgraft;long-termCresultsCinC12Ccases.CJCPlastCReconstrCAesthetCSurgC62:1389-1394,C20097)LeibovitchCI,CMalhotraCR,CSelvaD:HardCpalateCandCfreeCtarsalCgraftsCasCposteriorClamellaCsubstitutesCinCupperClidCsurgery.OphthalmologyC113:489-496,C20068)KimCJW,CKikkawaCDO,CLemkeBN:DonorCsiteCcomplica-tionsofhardpalatemucosalgrafting.OphthalPlastRecon-strSurgC13:36-39,C19979)PelletierCR,JordanDR,BrownsteinSetal:Anunusualcomplicationassociatedwithhardpalatemucosalgrafts:CpresumedCminorCsalivaryCgrandCsecretion.COphthalCPlastCReconstrSurgC14:256-260,C199810)SinghCKP,CMorrisCA,CLangCSDCetal:ClinicallyCsigni.cantStreptococcusCanginosus(Streptococcusmilleri)infections:Careviewof186cases.NZMedJC101:813-816,C198811)FaziliCT,CRiddellCS,CKiskaCDCetal:StreptococcusCangino-susCgroupCbacterialCinfections.CAMCJCMedCSciC354:257-261,C2017C***(124)

ディスク法で多剤耐性を示したコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症の5症例の検討

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):619.623,2020cディスク法で多剤耐性を示したコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症の5症例の検討萩原健太*1,2北川和子*2神山幸浩*2谷村直紀*2飯沼由嗣*3佐々木洋*2*1公立宇出津総合病院眼科*2金沢医科大学眼科学講座*3金沢医科大学臨床感染症学CFiveCaseswithOcularSurfaceInfectionsinwhichMultidrugResistantCoryneformBacteriawasDetectedbytheDiskDi.usionMethodCKentaHagihara1,2)C,KazukoKitagawa2),YukihiroKoyama2),NaokiTanimura2),YoshitsuguIinuma3)andHiroshiSasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,3)DepartmentofInfectiousDisease,KanazawaMedicalUniversityC眼表面から分離されるコリネバクテリウム属菌のキノロン耐性率はC50%を超えているが,多剤耐性株についての報告は少ない.2008.2017年に多剤耐性コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が検出された前眼部感染症C5例(男性1例,女性C4例)について調査した.男性例はCStevens-Johnson症候群で,両眼の充血・眼脂を主徴とする結膜炎であった.女性C4例はドライアイ治療目的で挿入した涙点プラグ汚染による感染症であり,プラグ挿入部を中心とする充血と眼脂を主徴とし,いずれも片眼発症であった.うちC3例でCSjogren症候群の合併がみられた.分離菌の薬剤感受性試験では,キノロン以外に,ペニシリン,セフェム,カルバペネムなどの多種の系統の抗菌薬に耐性がみられた.治療としてはプラグ抜去と点眼治療で全例とも改善した.Stevens-Johnson症候群などの眼表面疾患,涙点プラグ挿入,自己免疫疾患の存在などが多剤耐性コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌感染の誘因と思われた.CThequinoloneresistancerateofCorynebacteriumCspp.isolatedfromtheocularsurfaceisover50%,yettherehavebeenfewreportsonstrainsofCorynebacteriumCspp.resistanttomultipleantibiotics.Weexamined5patients(1maleCandC4females)seenCbetweenC2008andC2017withCCoryneformCbacteriaCresistantCtoCmultipleCantibiotics.CThemalepatienthadeyemucusandhyperemiainbotheyes.The4femalepatientshadinfectionoftheanteriorocularCsegmentCbyCcontaminatedCpunctalCplugsCinsertedCforCdry-eyeCtherapy,CwithCeyeCmucusCandChyperemiaCaroundCtheCplugs.CThreeCofCthoseCcasesCwereCcomplicatedCwithCSjogren’sCsyndrome.CTheCcasesCwereCresistantCtoCquinolones,Cpenicillin,Ccephems,CandCcarbapenem.CTheCpatientsCwereCe.ectivelyCtreatedCwithCtopicalCeye-dropCadministrationCandCremovalCofCtheCinsertedCpunctalCplugs.COcularCsurfaceCdiseasesCsuchCasCStevens-JohnsonCsyn-drome,infectionofinsertedpunctalplugs,andthepresenceofautoimmunediseasesappeartobetriggersformul-tidrug-resistantCoryneformCbacteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):619.623,C2020〕Keywords:コリネバクテリウム,コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌,Coryneformbacteria,多剤耐性,前眼部感染症,乾性角結膜炎,涙点プラグ,シェーグレン症候群,スティーブンス・ジョンソン症候群.Corynebacteriumsp.,CCoryneformCbacteria,multidrugresistant,ocularsurfaceinfection,keratoconjunctivitissicca,punctualplugs,CSjogren’ssyndrome,Stevens-Johnsonsyndrome.Cはじめにまた,薬剤感受性としてはキノロンに対する耐性率が高いコリネバクテリウムは結膜.常在菌であるが,前眼部感染ことが知られており,筆者らの検討でも,術前に分離された症の起炎菌としても注目されている1).850株のうちキノロン耐性株は半数程度に観察されてい〔別刷請求先〕萩原健太:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座Reprintrequests:KentaHagihara,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPANC表15症例におけるコリネバクテリウムの薬剤感受性の比較症例C1症例C2症例C3症例C4症例C5涙点プラグなしありありありありCABPCCRCRCRCRCRCABPC/SBTCRCRCRCRCAMPC/CVACRCCCLCRCRCSCRCRCCTXCRCRCSCRCSCCTRXCRCRCSCRCSCMEPMCSCRCRCRCSCGMCRCRCSCSCRCEMCRCRCRCICRCTCCRCRCSCSCSCVCMCSCCPCRCRCRCRCLVFXCRCSCRCRCRCSTCRCSCRCSCR感受性(S),中間感受性(I),耐性(R)にて判定.セフェム系にC3例,メロペネムにC3例,ペニシリンで全例に耐性を認めた.VCMについてはC1例のみの測定であるが,感受性であった.る2,3).しかし,セフェム系・ペネム系抗菌薬に対する耐性株はみられず,これらの抗菌薬がキノロン耐性コリネバクテリウムにおける治療の特効薬と考えられた.キノロン以外の多剤に耐性を有するコリネバクテリウム(多剤耐性コリネバクテリウム)は他科領域では報告がみられているが4.6),眼科領域では,筆者らの検索した範囲ではC1例のみ7)であった.今回Cbラクタム系を含む多剤に対して耐性であるコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症C5例を経験したので報告する.CI細菌学的検査方法細菌学的検査法は以下のとおりである.5例中C4例が涙点プラグ感染症と思われたため,眼脂あるいは摘出プラグを検体とした.プラグを検体とした場合には液体培地で増菌培養しているため菌量は不明である.コリネバクテリウム属菌の同定は,増菌培養後のグラム陽性桿菌の形態確認とカタラーゼ試験陽性の有無で判定した.なお,今回の検討では分離菌の同定精度が問題となるため,検出された菌名をコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌(Coryneformbacteria)と記載することとした8).薬剤感受性はディスク法で検査し,施設基準に基づく阻止円直径値に照らして感受性(susceptible,17Cmm以上),中間感受性(intermediate,14.16Cmm),耐性(resistant,13Cmm以下)の判定をした.検査部で採用されている検討薬剤は以下のとおりであるが,検査時期により若干種類が異なる.アンピシリン(ABPC),アンピシリン/スルバクタム(ABPCC620あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020/SBT),アモキシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA),セファクロル(CCL),セフォタキシム(CTX),セフトリアキソン(CTRX),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),エリスロマイシン(EM),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),ST合剤(ST).CII症例〔症例1〕60歳,男性.既往歴:市販の風邪薬を服用後,Stevens-Johnson症候群(以下,SJS)発症.現病歴:SJSに伴う眼表面障害のため視力は両眼ともC0.02(n.c.)であり,フルオロメトロン点眼(0.1%),生理食塩水点眼による外来治療を受けていた.2012年に両眼の充血と眼脂を認め受診した.眼脂培養でCCoryneformbacteriaがC2+検出された.薬剤感受性では,MEPMにのみ感受性を示し,その他の薬剤には耐性を示した(表1).有効な抗菌点眼薬がなく,種々の抗菌薬点眼に対する過敏反応の既往があったことより,生理食塩水による洗浄を追加したところ約C1カ月で結膜炎は改善したが,8カ月後にも多剤耐性傾向を示すCCoryneformbacteriaが分離された.その株は,以前に分離された株同様CABPC耐性を示した.その後現在(2018年)まで多剤耐性CCoryneformbacteriaの分離はみられていない.〔症例2〕25歳,女性.既往歴:近視のため頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用中以外,とくになし.現病歴:2008年,ドライアイのためC4涙点に涙点プラグ(パンクタルプラグ)を挿入した.4カ月後,右眼の充血・眼脂を認め受診.右眼下涙点のプラグを中心とする眼瞼・結膜の発赤を認めた(図1)ことから,涙点プラグの汚染による感染症を疑い,プラグを抜去した.眼脂の塗沫検査にて好中球1+,培養でCCoryneformbacteriaがC1+検出された.薬剤感受性の結果,LVFX,STに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).感受性のあったオフロキサシン眼軟膏にて右眼結膜炎は治癒し,翌月に施行した右眼の培養結果は陰性であった.消炎後にプラグを再挿入したが結膜炎の再発は現在までみられていない.〔症例3〕63歳,女性.既往歴:Sjogren症候群(以下,SS).SSに対して,内科で副腎皮質ステロイド内服をC4年間,9カ月前まで受けていた.現病歴:2012年,左眼の痛みと充血を訴え受診.14カ月前に重症ドライアイのため,左上涙点にパンクタルプラグを挿入されている.左上涙点プラグを中心とする充血を認めたため涙点プラグ感染症を疑い,プラグを抜去した(図2).他(118)図1症例2の前眼部写真右眼結膜と下涙点周囲が充血(矢印はプラグ).左眼は感染徴候なし.のC3涙点はすでに焼灼により閉鎖されていたが,感染徴候は認めなかった.抜去したプラグを培養したところCCoryneformbacteriaが検出された.薬剤感受性の結果,CCL,CMX,CTRX,GM,TCに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).感受性のあったセフメノキシム点眼にて,2週間後には結膜炎は消退した.1カ月後の結膜.培養は陰性であった.その後ドライアイの悪化があり左上涙点を焼灼した.現在まで結膜炎の再発はない.〔症例4〕79歳,女性.既往歴:原発性胆汁性肝硬変,SS.内科的にはウルソデオキシコール酸内服による治療が行われていた.現病歴:2015年に左眼の眼脂を自覚し受診.原発性胆汁性肝硬変とCSSに合併した重症ドライアイがあり,3涙点の焼灼閉鎖と左下涙点はC20カ月前にパンクタルプラグが挿入されている.今回,そのプラグに粘液膿性の眼脂が付着し,その部を中心とする左眼結膜の充血を認めたため,プラグ感染症を疑い,涙点プラグを抜去した.プラグに付着した眼脂の鏡検にてグラム陽性球菌C1+,グラム陽性桿菌C1+,培養にてCCoryneformbacteriaがC20コロニー検出された.薬剤感受性の結果,GM,TC,VCM,STに感受性を示し,EMに中間耐性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).また,StaphylococcusCschleiferi20コロニー(薬剤耐性なし)とCStreptococcusoralis少数(ミノサイクリンとマクロライドにのみ耐性)が同時に分離されている.プラグ抜去およびセフメノキシム点眼,人工涙液による洗浄にて,眼脂は改善し,培養も陰性化した.その後,左下涙点は自然閉鎖し,現在まで結膜炎再発は認めていない.〔症例5〕66歳,女性.図2症例3の前眼部写真プラグ抜去後の所見.涙点周囲の発赤がみられる.右眼は感染徴候なし.既往歴:Sjogren症候群1年前からミゾリビン内服中.現病歴:2013年,左眼の充血,眼脂があり受診.SSに伴う重症ドライアイがあり,4年前にC4涙点にイーグルプラグが挿入されていた.今回,左下涙点プラグの汚染とそれを中心とする結膜充血を認めたことより,プラグ関連感染症を疑い,プラグを抜去した.抜去した涙点プラグの培養によりCCoryneformbacteriaが検出された.CMX,CTRX,MEPM,TCに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).セフメノキシム点眼を行い,充血と眼脂は改善し,次月に施行した左眼の培養結果は陰性となっていた.涙点の自然閉鎖がみられ,その後現在まで感染症の再発はない.CIII考按コリネバクテリウム属菌(Corynebacteriumsp.)はグラム陽性桿菌であり,皮膚,粘膜上の常在細菌叢を構成する主要な菌群であるが,近年CC.jeikeium,C.striatum,C.Cresistensなどで多種の抗菌薬に耐性を示す菌種が報告されており9,10),感染症としては,敗血症や気道感染症,心内膜炎,人工弁感染などが報告されている.これまでの報告では,多剤耐性コリネバクテリウムはグリコペプチド系(バンコマイシン,テイコプラニン)に感受性があり,治療薬としてバンコマイシンが選択されることが多い.CCorynebacteriumCsp.の薬剤感受性試験は微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryCconcentra-tion:MIC)値が判定基準として用いられているが,自動機器での判定が困難であり,わが国の多くの検査室ではディスク法がおもに用いられている.しかしながらディスク法の判定基準は確定されておらず,ディスク法では実際のCMICより感受性に判定されるとされているとの報告もある10)ことより,今回の耐性であったことへの判定には影響がないと考える.また,筆者らの施設から術前に分離されたコリネバクテリウム(Coryneformbacteria)850株の検討ではCbラクタム系抗菌薬に耐性を示す株がみられなかった2)ことより,今回のC5株はきわめてまれな多剤耐性菌であると判断した.眼科領域については,わが国において多剤耐性CCoryne-bacteriumCsp.が検出された角膜潰瘍のC1例が報告7)されており,薬剤感受性検査で,ペニシリン,セフェム,テトラサイクリン,グリコペプチド,クロラムフェニコール系に感受性があり,ニューキノロン,アミノグリコシド,マクロライド,リンコマイシン,ホスホマイシン系に耐性を示していた.同定法,薬剤感受性検査法についての記載がないため,正確な比較検討は困難であるが,筆者らの症例ではペニシリン,セフェム,カルバペネムにも耐性を認める株が検出されており,より高度に耐性化していると考えられた.今回のC5例の内訳は男性C1例,女性C4例であり,年齢は25.79歳(平均C59C±18歳)であった.男性のC1例はCSJS罹患,女性のC4例はいずれもドライアイ,SSによる乾性角結膜炎に対して挿入された涙点プラグによる感染症であった.SJS患者では両眼の結膜炎であるのに対して,プラグ関連結膜炎は片眼であり,起炎プラグ周囲を中心とする発赤を特徴としていた.プラグ関連結膜炎ではプラグ抜去と抗菌薬点眼で速やかに改善し,多剤耐性CCoryneformbacteriaがその後分離されることはなかったが,SJSではその後C8カ月間にわたり多剤耐性CCoryneformbacteriaが分離された.SJSでは眼表面のバリア機能の低下,ステロイド点眼の長期使用,抗菌薬過敏があり抗菌薬が使用できなかったことなどにより,結膜炎改善後も長期にわたり多剤耐性CCoryneformbacteriaが検出され続けたと考えられた.涙点プラグは,とくに涙液減少型のドライアイの治療として有効である.一定期間挿入された涙点プラグには高率に細菌が付着しており,菌のなかでもコリネバクテリウムが最多であったとされている11).涙点プラグは生体材料の一種であり,長く留置することによりその表面に種々の微生物がバイオフィルムにより定着するリスクがある12).涙点プラグ挿入後の定期的な経過観察は重要であり,眼脂の増加や涙点プラグの汚染状態によっては涙点プラグの交換を考慮すべきと考えられる11).SJSではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の感染例も多く13),今回もそのような素因のもとに多剤耐性CCoryneformbacteriaが感染を起こし,かつ結膜.に長期存在したものと考えられた.症例C3.5においてはCSSや原発性胆汁性肝硬変に対するステロイドや免疫抑制剤内服治療を受けていたことが本来弱毒菌と考えられるコリネバクテリウム定着の誘引と考えられたが,症例C2については既往歴もなく誘引は不明であった.多剤耐性コリネバクテリウムが検出された角膜潰瘍の既報7)においてもコントロール不良の糖尿病,ステロイドの長期点眼,水疱性角膜症による局所のバリア機能低下が感染の誘引となったと推定されている.コリネバクテリウムの多剤耐性化のメカニズムに関しては,現在のところ不明である.キノロン耐性メカニズムとしてCDNAジャイレースのアミノ酸変異が指摘されている14).その他の可能性としてはCgyrA遺伝子の変異による耐性獲得なども考えられ,今後の検討が待たれる.治療については涙点プラグ関連感染症において,バイオマテリアル除去を最初のステップとし,そのうえで感受性の高い抗菌薬治療が有効であると考えられた.今回の症例も涙点プラグ抜去と点眼治療で改善している.症例C4においては耐性のあるセフメノキシム点眼を使用し改善しているが,これは細菌の供給源となるプラグを抜去したこと,人工涙液による洗浄が有効であった可能性がある.SSに伴う重度のドライアイにおいては,涙点プラグの脱落やプラグ汚染による前眼部感染のリスクがあり,流涙のリスクがなければ涙点焼灼による永続的な閉鎖は有効な手段と考えられた.また,多剤耐性コリネバクテリウムによる全身感染症にはグリコペプチド系抗菌薬が有効薬とされているが,今回の結果ではバンコマイシン感受性検査を行ったのがC1例のみであるが感受性を示しており(症例4),本菌による重症感染症にバンコマイシンは有効と推測された.コリネバクテリウムではキノロン耐性率が高いことより,キノロンにのみ注目が集まっている現状があるが,SJSのようなCcompromisedhostや,SS患者にプラグを挿入する場合には,多剤耐性コリネバクテリウムによる感染の可能性を念頭におく必要がある.この論文の要旨はC2018年第C55回日本眼感染症学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上幸次,大橋裕一,秦野寛,ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定─日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報)─.日眼会誌C115:801-813,C20112)神山幸浩,北川和子,萩原健太ほか:術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005.2016年).あたらしい眼科35:1536-1539,C20183)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,C20054)高橋洋,庄司淳,藤村茂ほか:多剤耐性コリネバクテリウムによる下気道感染症例の増加傾向について.感染症学雑誌C83:181,C20095)大塚喜人,吉部貴子,室谷真紀子ほか:血液培養より検出されたコリネフォルム菌の起炎判定基準に関する検討.医学検査C51:24,C20046)水野史人,三上直宣,清澤旬ほか:コリネバクテリウム属による劇症CDICを合併した感染性心内膜炎のC1例.北陸外科学会雑誌28:35,C20097)岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性のCCorynebac-teriumspeciesが検出された角膜潰瘍のC1例.臨眼C58:C1341-1344,C20048)藤原里紗,大塚喜人,芝直哉ほか:血液内科とその他の科における血液培養分離菌の比較検討.医学検査C68:150-155,C20199)IshiwadaCN,CWatanabeCM,CMurataCSCetal:ClinicalCandCbacteriologicalCanalysesCofCbacteremiaCdueCtoCCorynebac-teriumstriatum.JInfectChemotherC22:790-793,C201610)大塚喜人:注目のCCorynebacterium属菌.臨床と微生物C40:515-521,C201311)柴田元子,服部貴明,森秀樹ほか:涙点プラグ付着物からの細菌検出.あたらしい眼科C33:1493-1496,C201612)YokoiCN,COkadaCK,CSugitaCJCetal:AcuteCconjunctivitisCassociatedwithbio.lmformationonapunctalplug.JpnJOphthalmolC44:559-560,C200013)外園千恵:MRSA角膜炎との戦い.臨眼70:8-12,C201614)長谷川麻理子,江口洋:コリネバクテリウム感染症「キノロン耐性との関係」.医学と薬学C71:2243-2247,C2014***