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前眼部色素性病変-結膜母斑,虹彩嚢胞,転移性虹彩腫瘍

2020年1月31日 金曜日

前眼部色素性病変─結膜母斑,虹彩?胞,転移性虹彩腫瘍AnteriorSegmentPigmentedLesions加瀬諭*はじめに結膜や虹彩にはさまざまな腫瘍性病変が発生する.組織学的には,結膜は杯細胞,メラノサイトを混じる重層円柱上皮と血管,炎症細胞などを伴う固有層よりなる.虹彩は前面が前境界層といわれる色素を伴った結合織が前房と接しており,虹彩間質と色素を豊富に含んだ上皮細胞よりなる.前眼部の色素性腫瘤は主として,結膜では色素産生細胞であるメラノサイト,虹彩では間質内のメラノサイトや色素上皮より発生する.結膜の色素性腫瘍は母斑,原発性後天性色素沈着症,原発性・転移性悪性黒色腫が含まれ,虹彩の色素性腫瘍は母斑,黒色細胞腫,悪性黒色腫が代表的である.加えて,転移性虹彩腫瘍や虹彩?胞も,臨床的に色素性腫瘤を呈する可能性があり,診断に苦慮することがある.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は当初,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)や糖尿病網膜症などの後眼部の診療に必須となった検査機器で,簡便に非侵襲的に画像診断が可能であるため,日常診療になくてはならない機器となった.前眼部の画像診断としては近年,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentOCT:AS-OCT)が盛んに用いられている.AS-OCTは角膜や結膜,前房,虹彩に加え毛様体ひだ部までの観察が可能になり,これまでの50MHzを用いた超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomi-croscope:UBM)と同等の形態学的評価を行うことが可能となっている1).実際,AS-OCTはUBMよりも緑内障濾過手術後の濾過胞や前房深度の評価に優れるという報告もあり2),結膜の評価においても再現性の高い検査であることが証明されている.加えて欧米からの報告では,AS-OCTは結膜・虹彩・毛様体腫瘍の形態学的評価においても有用であることが報告されている1,3).本稿では,筆者の経験した結膜母斑,虹彩上皮性?胞,転移性虹彩腫瘍についての病理学的所見とAS-OCT所見との関連について概説する.I結膜母斑結膜母斑はおもに小児期に発生するメラノサイト系の良性腫瘤である.発生部位は眼球結膜が多く,円蓋部や眼瞼結膜の発生はやや頻度が低下する.腫瘤は就学時頃から自覚し,中学や高校生になるころに増大する傾向を示すことがある.図1~3に代表的な結膜母斑の細隙灯顕微鏡所見を示す.腫瘤は扁平からドーム状を呈して,色素沈着が豊富で黒褐色調であるものや(図1a),色素が乏しく淡い褐色調(図2a),あるいはほぼ無色素性の(図3a)腫瘤までさまざまである.典型的な結膜母斑の病理組織学的所見は,類円形核を有する異型性のない母斑細胞が,結膜上皮下にびまん性に,あるいは胞巣を形成して増生する(図1b).増生した母斑細胞の細胞質には散在性にメラニン色素が充満する.腫瘤内に大小の固有?胞が形成されるのが特徴的な病理学的所見である(図1b).?胞壁は数層の扁平上皮系細胞にて裏打ちされ,?胞壁内に母斑細胞の浸潤や杯細胞が混在する.?◆SatoruKase:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕加瀬諭:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(15)15図110代男児の結膜母斑細隙灯顕微鏡所見では眼球結膜に黒色調の腫瘤がみられる(a).同症例の病理組織額的所見を示す(b).結膜上皮下に広範な母斑細胞の増生があり,内部に大小の?胞形成を伴う(*).図210代女児の結膜母斑眼球結膜にやや淡い褐色調の結膜母斑がみられ,血管侵入を伴っている(a).同部の前眼部光干渉断層計(AS-OCT)所見を示す.腫瘤内部に低輝度な円形病巣が検出される(b).図310代男児の結膜母斑眼球結膜に肌色調の結膜母斑がみられる(a).AS-OCT所見では腫瘤の内部に円形の低輝度病巣が検出される(b).腫瘤の深部でより大型の円形病巣が形成されている.胞は腫瘤の深部に向かうにつれ,大型化する傾向がある.母斑細胞は基本的にはメラノサイト系マーカーであるS100蛋白に陽性を示し,HMB45もところどころで陽性になる.細胞増殖マーカーであるKi67で増殖細胞を標識すると,上皮下の細胞で増殖細胞が検出されるが,Tenon?に近づくにつれ,より深部に向かうと増殖細胞がみられなくなる.形態学的にも母斑細胞は深部で小型化する傾向があり,この増殖マーカーの分布の変化は母斑細胞の成熟像に相当する.これらの病理組織学的所見を念頭に細隙灯顕微鏡で観察してみると,症例によってはスリット光で腫瘤内部に透光性を有する?胞性病変が示唆されるが,色素の多い症例や,病理学的に上皮表層の?胞の?胞径が,上皮から?胞上縁までの距離よりも小さければ,観察されない傾向がある4).したがって,細隙灯顕微鏡所見だけでは母斑の診断が困難な症例が存在する.次にAS-OCT所見を確認すると,代表例2例でいずれも腫瘤内に低輝度な管腔様病巣が数個観察される.ここでOCT所見と病理学的所見との関連を一つ紹介する.スペクトラルドメインOCTにおける深部強調画像(enhanceddepthimagingOCT:EDI-OCT)では,網膜だけでなく脈絡膜の構造解析も可能になることはよく知られている.既報では,AMD患者におけるEDI-OCT所見と剖検眼の臨床病理学的所見との相関を検討し,OCTで低輝度な管腔所見は,脈絡膜中・大血管に相当することが明らかになっている5).結膜母斑におけるAS-OCT所見の低輝度な管腔様病変は,病理組織学的には拡張した血管はみられず,他方特徴的所見である?胞性病変と一致する所見と考えられ,非常に興味深い所見である.実際,Shieldsらは22例の結膜母斑においてAS-OCTを施行し,腫瘤内の固有?胞の探知に有用であることを報告している6).しかし,最近ではAS-OCTにて?胞を検出できる症例は61%に留まるという報告もある7).結膜母斑には細隙灯顕微鏡所見だけでは診断が困難な症例が混在することを前述したが,問題となるのが悪性黒色腫との鑑別である.実際,結膜悪性黒色腫は致死的な疾患であり,かつ結膜母斑もその発生母地の一つである.悪性黒色腫は病理組織学的には異型性を有するメラノサイトが広範に上皮下へ浸潤するが,母斑と異なり?胞形成がみられない.したがって,細隙灯顕微鏡所見やAS-OCTで?胞形成が明らかではない場合には,速やかな腫瘤の試験切除を検討すべきである.II虹彩?胞虹彩?胞には上皮性?胞と間質?胞が存在する.上皮性?胞は虹彩後面に存在する上皮細胞層から発生すると考えられる.虹彩上皮性?胞は細隙灯顕微鏡所見上,日本人では表面は平滑な均一な茶褐色の腫瘤性病変を示し,弾性軟である.腫瘤は弾性軟であるため,他に水晶体などへの器質的な病変を伴わないことが多い.腫瘤が小型のうちは未散瞳では発見されず,眼底検査の際に,虹彩裏面?水晶体前面に腫瘤形成がみられる(図4,5a).臨床的にはしばしば,虹彩・毛様体の悪性黒色腫と混同される.?胞壁の病理組織学的所見は,著明な色素を含んでいるため,通常のヘマトキシリン・エオジン染色では採取されている細胞の形態学的評価は不能であるため(図6a),過酸化水素によるメラニン漂白が必須となる(図6b).メラニン漂白標本により,採取されている細胞は異型性のない円形核を有しており,豊富なメラニン色素を伴う細胞質を有することが判明する(図6b).しかし,これだけでは虹彩母斑や黒色細胞腫の鑑別は困難である.さらに,上皮性マーカーであるAE1/AE3で免疫組織化学的検討を行い,ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidinetetrahydrochloride:DAB)にて発色する.光量を上げて光学顕微鏡で観察すると,増生している細胞の細胞質に茶褐色に陽性になることが判明し,上皮細胞であることがわかる(図6c,矢印).このような病理組織像を念頭にAS-OCT所見を確認すると,いずれの代表症例においても,虹彩の前境界層や間質には異常はなく,上皮層に低輝度な?胞性病変が確認される(図4b,5b).?胞内部は完全な空洞状の病変で,蛋白濃度の低い液体成分の貯留が示唆される.これまでの結果より,AS-OCTは虹彩上皮性?胞の診断に有用な検査であることが明らかである.実際,虹彩母斑と上皮性?胞が合併する症例に対しても,両者の診断,病変の広がりの把握にAS-OCTが有用であることが示されて図450代女性の虹彩上皮性?胞細隙灯顕微鏡上,散瞳すると虹彩裏面に表面平滑な茶褐色の腫瘤がみられる(a).AS-OCTでは同部では?胞性病変が検出され,内部は完全な空洞状の低輝度な液体が充満している(b).図5切除を希望された40代男性の虹彩上皮性?胞下方の虹彩裏面に表面平滑な茶褐色の腫瘤性病変がみられる(a).AS-OCTでは同部は内部空虚な?胞性病変がみられる(b).図6図5の?胞壁の病理組織学的所見ヘマトキシリン・エオジン染色では採取されている細胞の形態学的評価が不能であるため(a),過酸化水素によるメラニン漂白を施行した(b).メラニン漂白標本により,採取されている細胞は異型性のない円形核を有しており,豊富なメラニン色素を伴う細胞質を伴っていることが判明する(b).上皮性マーカーであるAE1AE3で免疫組織化学的検討を行い,ジアミノベンジジン(DAB)にて発色する(c).光量を上げて光学顕微鏡で観察すると,増生している細胞の細胞質に茶褐色に陽性になることが判明し,上皮細胞であることがわかる(c).いる1).UBMとの比較研究では,AS-OCTはUBMとほぼ同等の情報を得られると考えられる3).本研究では,後者の症例は腫瘤の部分切除を施行した(図7).AS-OCTは術後の?胞壁の増大の有無を評価するのに有用であり,併せて虹彩裏面の評価も可能になるため,経過観察の際には必須の検査である.III転移性虹彩腫瘍虹彩に腫瘤が形成される疾患として,母斑,黒色細胞腫,悪性黒色腫などのさまざまな虹彩腫瘍のみならず肉芽腫性ぶどう膜炎による虹彩結節も含まれる.転移性虹彩腫瘍は原発腫瘍の状態により,細隙灯顕微鏡所見も異なる可能性がある.実際,肺がんや消化器がんの虹彩転移では,虹彩色素に混ざった白色調腫瘤が検出されることがあり,腎がんの虹彩転移では赤色調を呈する.転移性虹彩腫瘍の診断は組織生検や穿刺吸引細胞診によるが,十分な組織量や細胞量を採取できないと診断が不能になる危険がある.加えて,治療後の局所の経過観察は細隙灯顕微鏡所見が主体となり,虹彩全体の病変の変化を捉えることは困難であった.他方,CTやMRIといった画像検査は,虹彩腫瘍のサイズの問題でその評価には不適切であることがほとんどである.AS-OCTは前述の虹彩腫瘍の形態学的変化の評価に有用であり,実際,腎がんの虹彩転移でもUBMに劣るものの一定の腫瘤の評価に貢献することが示されている1).ここでは筆者が経験した肺がんの虹彩転移について報告する(図8~10).症例は50代女性で右眼の充血,痛みで受診した.既往歴に肺がんの治療歴があった.視力や眼圧に問題はなかったが,細隙灯顕微鏡所見では右眼に毛様充血,前房炎症,虹彩後癒着に加え,下方の虹彩に隆起性病変がみられた(図8a).AS-OCTでは同部に著明な隆起がみられ,間質を主体とする充実性腫瘤が検出された(図8b).27ゲージ(G)針で虹彩間質の腫瘤内部を直接穿刺し,穿刺吸引細胞診を施行したところ,異型核を有する細胞集塊(図9a)と核小体明瞭な異型細胞が確認された(図9b).肺がんの虹彩転移と診断し,20Gyによる定位放射線照射が施行された.照射後,細隙灯顕微鏡所見では腫瘤表面は萎縮し(図10a),AS-OCTでは腫瘤のサイズは縮小した(図10b).以上図7図5の術後のAS?OCT所見虹彩根部の裏面の?胞性病変が残存している.より,AS-OCTは転移性虹彩腫瘍の腫瘍全体の大きさの把握に有用であり,併せて治療後の評価,経過観察にも必須な検査と考えられる.IV前眼部病変におけるAS?OCTの限界AS-OCTは結膜病変に対しては高い再現性のある有用な検査であることが示されてきたが8),使用上の限界もある.一つには撮像の際に固視や開瞼が良好でないと病巣の断面像をきれいに得ることができない.また,撮影者に正しく病変の存在する部位を伝えないと,腫瘍の断面をはずしてしまう可能性がある.きれいな断面像が得られない症例では,本検査は役に立たない.二つ目には,AS-OCTはあくまで補助診断的な側面があり,この結果のみで確定的な良悪性の判断をすることは危険である.たとえば,高齢者の結膜母斑などは,AS-OCTで?胞性病変が示唆されたとしても,可能な限り腫瘍を摘出して病理検査を行うべきである.虹彩毛様体腫瘍においても,AS-OCTだけでなく,他のあらゆる眼科的検査を駆使して臨床診断を行い,その結果とAS-OCT所見を比較検討すべきである.Vまとめ本稿では前眼部の色素性病変として結膜母斑,虹彩上皮性?胞と転移性虹彩腫瘍を取りあげ,最近の画像診断で用いられるAS-OCT所見を述べた.AS-OCTは前眼部の色素性腫瘤の病理像を反映する検査であり,その所見は臨床診断に大きく貢献する.加えてAS-OCTは無図8転移性虹彩腫瘍の1例細隙灯顕微鏡上,虹彩下方に腫瘤性病変があり,色素性組織の深部にやや白色を示す腫瘤が観察される(a).AS-OCT所見では,下方の虹彩腫瘤は虹彩間質に病変の主体があり,不整な輝度を呈して充実性の腫瘤であることが判明する(b).図9図8の症例の穿刺吸引細胞診(パパニコロウ染色)一部には異型細胞の集塊があり(a),他の部では核小体が明瞭な腫瘍細胞が検出される(b).図10図8の症例の治療後細隙灯顕微鏡所見では,虹彩腫瘍の表面は萎縮した(a).AS-OCTでは腫瘍部は平坦化した(b).侵襲で繰り返し撮像が可能なため,病変の治療効果判定や経過観察に有用である.AS-OCTは後眼部疾患におけるOCTと同様,今や前眼部の腫瘤性病変の診療になくてはならない検査機器の一つである.文献1)BianciottoC,ShieldsCL,GuzmanJMetal:Assessmentofanteriorsegmenttumorswithultrasoundbiomicrosco-pyversusanteriorsegmentopticalcoherencetomographyin200cases.Ophthalmology118:1297-1302,20112)MansouriK,SommerhalderJ,ShaarawyT:Prospectivecomparisonofultrasoundbiomicroscopyandanteriorseg-mentopticalcoherencetomographyforevaluationofante-riorchamberdimensionsinEuropeaneyeswithprimaryangleclosure.Ey(eLond)24:233-239,20103)HauSC,PapastefanouV,ShahSetal:EvaluationofirisandiridociliarybodylesionswithanteriorsegmentopticalcoherencetomographyversusultrasoundB-scan.BrJOphthalmol99:81-86,20154)石嶋漢,加瀬諭:角結膜腫瘍,母斑.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p275-278,医学書院,20155)BranchiniLA,AdhiM,RegatieriCVetal:Analysisofchoroidalmorphologicfeaturesandvasculatureinhealthyeyesusingspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology120:1901-1908,20136)ShieldsCL,BelinskyI,Romanelli-GobbiMetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyofconjunctivalnevus.Ophthalmology118:915-919,20117)VizvariE,SkribekA,PolgarNetal:Conjunctivalmela-nocyticnaevus:Diagnosticvalueofanteriorsegmentopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicros-copy.PLoSOne13:e0192908,20188)NanjiAA,SayyadFE,GalorAetal:High-resolutionopticalcoherencetomographyasanadjunctivetoolinthediagnosisofcornealandconjunctivalpathology.OculSurf13:226-235,2015

前眼部非色素性腫瘍性病変-眼表面扁平上皮新生物,結膜悪性リンパ腫,副涙腺嚢胞

2020年1月31日 金曜日

前眼部非色素性腫瘍性病変─眼表面扁平上皮新生物,結膜悪性リンパ腫,副涙腺?胞AmelanoticTumorsoftheConjunctiva田邉美香*はじめに結膜は薄く透明であるため,結膜腫瘍においては腫瘍が露出しているか,結膜下に透見できることが多く,触診も可能である.それゆえ,細隙灯顕微鏡での観察,部位,触診などで鑑別可能なことが多い.しかしながら,扁平上皮癌の前段階である上皮内癌は,いまだに眼腫瘍専門医以外では認知度が低く,診断の遅れた症例にしばしば遭遇する.近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)を用いた検査は,黄斑部網脈絡膜疾患,緑内障の診療に不可欠なものであり,その適応範囲は広がりつつある.前眼部に特化した前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentOCT:AS-OCT)が進歩し,角膜移植や屈折矯正手術にも応用されている.結膜に対するAS-OCTの応用は,緑内障に対する線維柱帯切除術後の濾過胞の評価に始まった1)が,結膜腫瘍においても,その形態学的評価に有用であることが報告されている2).結膜腫瘍は,色素性と非色素性に分類される.欧米人を対象とした既報では,色素性が53%,非色素性が47%であったとされている3).そのうち,光を通す非色素性病変はOCT解析の恰好の対象になりうる.本稿においては,非色素性の結膜悪性腫瘍性病変のうち,頻度の高い扁平上皮癌と悪性リンパ腫について,また日常生活で遭遇する良性疾患である副涙腺?胞について,画像診断を交えながら解説する.I眼表面扁平上皮新生物眼表面扁平上皮新生物(ocularsurfacesquamousneoplasia:OSSN)は角結膜上皮内腫瘍(conjunctivalintraepithelialneoplasia:CIN)と扁平上皮癌(squamouscellcarcinoma:SCC)の総称で,Leeらが1995年に提唱したものである(表1).CINは異型細胞が上皮細胞層にとどまるものをいい,SCCは基底膜を越えて浸潤したものをいう.1.臨床所見細隙灯顕微鏡検査では,上下眼瞼結膜,球結膜から発生する乳頭状の腫瘤性病変として観察される.乳頭状の腫瘍表面を観察し,フルオレセイン染色にて腫瘍の範囲を確認する.腫瘍表面が異常角化すると白色のプラーク(leukoplakia)を呈する(図1).腫瘍内には打ち上げ花火状といわれる微細な蛇行血管が放射状に配列している角結膜上皮内新生物(CIN)扁平上皮癌(SCC)異形成(dysplasia)上皮内癌(CIS)表1OSSNの概念角結膜上皮内腫瘍(conjunctivalintraepithelialneoplasia:CIN)と扁平上皮癌(squamouscellcarcinoma:SCC)を総称して眼表面扁平上皮新生物(ocularsurfacesquamousneopla-sia:OSSN)とよぶ.◆MikaTanabe:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕田邉美香:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)3図1結膜SCCの細隙灯顕微鏡写真腫瘍表面が異常角化すると白色のプラーク(leukoplakia)を呈する.図2結膜SCCの細隙灯顕微鏡写真腫瘍内には打ち上げ花火状といわれる微細な蛇行血管が放射状に配列している所見がみられることが多い.図3症例1:結膜CIN(81歳,男性,左眼)a:治療前の細隙灯顕微鏡写真.視力(0.02).正常角膜が全周,腫瘍により覆われている.b:治療前AS-OCT所見.高信号で示される腫瘍病変が角膜上皮のラインを越えていないようにみえる.c:0.04%MMC点眼3クール+冷凍凝固術後の細隙灯顕微鏡写真.視力(0.4).d:0.04%MMC点眼3クール+冷凍凝固術後のAS-OCT所見.角膜正常上皮と腫瘍の境界が鮮明になっているのがわかる.所見がみられることが多い.また,腫瘍に流入するやや太い栄養血管が特徴的である(図2).乳頭腫が有茎性であるの対し,広基性であることも鑑別ポイントの一つであるため,硝子棒などでの触診も重要となる.乳頭腫や肉芽腫,霰粒腫はSCCと比較し,柔らかい.結膜扁平上皮癌の患者の平均年齢は70歳代とCINの図4症例2:結膜SCC(79歳,女性,左眼)a:治療前の細隙灯顕微鏡写真.半月ひだ部を中心に球結膜,上下眼瞼結膜,涙丘部に及ぶ腫瘍性病変を認める.b:治療前AS-OCT所見.腫瘍と強膜の間に境界線が確認でき,強膜浸潤はないことが推測される.OSSNの特徴である結膜扁平上皮癌から正常結膜への急峻な変化(abrupttransition)がみられる.c:術中写真.病変部に安全域3mmをつけて切除した.d:SCC病理所見.核の濃染像など有糸分裂活性が高いことを示す所見を伴い,角質産生能をもつ分化度の高い異型上皮細胞で構成されている.e:術後2週間の細隙灯顕微鏡写真.腫瘍部が移植した口唇粘膜に置き換わっている.f:術後AS-OCT所見.移植した口唇粘膜と強膜が隙間なく合わさっていることがわかる.60歳代よりもやや高齢で,CINが進行して結膜扁平上皮癌が発症すると考えられていることと矛盾しない.部位としては,CINはおもに角膜輪部付近より生じることが多いが,SCCは角膜輪部のみならず瞼結膜にも生じる.CINと同様に紫外線への暴露やヒトパピローマウイルス(humanpapillomavirus:HPV)感染,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunode?ciencysyndrome:AIDS),免疫抑制薬投与などに由来した免疫抑制状態などが危険因子とされている.2.AS?OCT(CASIA2)所見筆者が経験したOSSNのAS-OCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)の画像を示す.CASIAは1,310nmの長波長光源を使用し,前眼部専用の撮影に特化した機種であり,CASIA2(SS-2000)は2015年12月に発売された後継機種である.CASIA2はフーリエドメイン方式であり,タイムドメイン方式に比べて撮影時間を大幅に短縮できる.さらにフーリエドメインのなかでもsweptsource方式を採用しているため,眼球の動きの影響を受けにくくなっている.図3にOSSNの症例(症例1:81歳,男性)とそのCASIA2の所見を示す.図3a,bが治療前,図3c,dが0.04%MMC(マイトマイシンC)点眼3クールと冷凍凝固術後である.肥厚した高反射上皮が腫瘍である.治療前(図3b)は腫瘍の厚みのために,異常上皮と正常上皮の同定がわかりにくいが,高信号で示される腫瘍病変が角膜上皮のラインを越えていないようにみえる.治療後は,角膜正常上皮と腫瘍の境界が鮮明になっているのがわかる.これまでOSSNが浸潤癌であるSCCなのか,上皮内に留まるCINなのかということは,生検しなければわからなかった.また生検をしても,表層の生検だけでは判断がむずかしかったが,今後はAS-OCTで推測することができ,非常に有用と考える.図4にSCCの症例(症例2:79歳,女性)とそのCASIA2の所見を示す.治療前,腫瘍と強膜の間に境界線が確認でき,強膜浸潤はないことが推測される.結膜扁平上皮癌から正常結膜への急峻な変化(abrupttransition)がOSSNの特徴4)という報告がある.翼状片ではこのような急峻な変化はみられない.手術では強膜半層切開などは行わず,安全域を3mm設けて結膜とTenon?膜を切除した(図4c).切除後,病理検査でも,深部断端は陽性であった.術後のCASIA2では,強膜と移植した口唇粘膜の境界が明瞭である(図4e,5f).臨床的に翼状片とCINの鑑別に苦慮することがあるだろう.過去に翼状片のAS-OCTを調べた報告4)では,翼状片は正常な薄い結膜上皮を有し,その下に皮下の高反射組織がある構造となっている.病理組織学的にも,翼状片では結膜上皮は正常で薄く,上皮下粘膜層が肥厚しており,AS-OCT所見とよく相関している.一方,CINでは,翼状片にみられるような正常結膜の低反射の構造物はみられない.図5にCINの症例を示す.病変は1時半部から6時部にみられる(図5a).フルオレセイン染色を行うと範囲がわかりやすい(図5b).さらにCASIA2で360°スキャンすることで病変の範囲が推測でき,手術計画を立てるうえで有用である.CASIA2では周辺部領域の撮影に特化したangle-HDやblebタイプのスキャンモードがあるため,検査時に眼位を指示することで,比較的周辺の病変も8mm径ではあるが,撮影可能である(図5d).3.病理組織学的検査正常結膜は,上皮と間質で構成されている.結膜上皮は重層扁平上皮と円柱上皮とで構成されており,外界と接する角膜輪部では厚くなり重層扁平上皮となって眼球を守っており,円蓋部ではその必要はないため2?3層の円柱上皮となっている.OSSNの病理組織においては,核の大小不同や異型を伴った上皮細胞が基底膜を越えて増殖しているか否かを確認する.通常,結膜扁平上皮癌の組織中は,核の濃染像など有糸分裂活性が高いことを示す所見を伴い,角質産生能をもつ分化度の高い異型上皮細胞で構成されている.腫瘍細胞の細胞質は好酸性で細胞間の細胞突起を示す細胞間橋を伴う(図4d).こうした腫瘍細胞が密に敷石状に配列して存在する.腫瘍の周囲にはしばしば炎症細胞の浸潤を伴うことも多い.SCCの亜型である局所浸潤傾向が強い粘表皮癌ではHE染色で白く抜けた粘液杯細胞が散在している.粘表皮癌が疑わしいときは,PAS(periodicacid-schi?)染色で粘液産生細胞を探すのがよい.4.治療方針安全域を設けた完全切除が基本(図5e)であり,眼球6あたらしい眼科Vol.37,No.1,2020(6)図5症例3:結膜CIN(61歳,男性,右眼)a:治療前の細隙灯顕微鏡.角膜輪部から角膜に進入する白色病変が1時半部から6時部にみられる.b:治療前の細隙灯顕微鏡(フルオレセイン染色).フルオレセイン染色で観察すると正常と腫瘍部がよくわかる.c:治療前のCASIA2所見.360°スキャンすることで病変の位置が確認可能である.d:治療前のCASIA2所見.右眼の鼻側の病変であるため,右方視で撮影すると病変部がとらえやすい.e:術中所見(surgeon’sview).2mmの安全域を設けて切除した.点線は切除範囲.f:切除後.g:病理所見(HE染色).上皮内に異型を伴う腫瘍細胞を認める.内および眼窩内へ浸潤した症例に対しては,眼球摘出術や眼窩内容除去が必要になる.症例によっては冷凍凝固を併用する.術後の再発予防に対して,MMCや5-フルオウラシル(5-FU),インターフェロンa2bの点眼が用いられる.何らかの理由で手術が困難な場合や,術後のアジュバントとして放射線治療は有効である.II結膜悪性リンパ腫結膜は節外性悪性リンパ腫の発生の重要な部位であり,眼付属器悪性リンパ腫の25%を占めると報告されている9,10).結膜にみられるリンパ系腫瘍の大部分は低悪性度B細胞リンパ腫であるMALT(mucosa-associat-edlymphoidtissue)リンパ腫である.濾胞性リンパ腫,図6症例4:結膜MALTリンパ腫の前眼部写真(24歳,女性,両眼)両下眼瞼円蓋部にサーモンピンク色の充実性腫瘤を認める.図7症例5:結膜MALTリンパ腫の細隙灯顕微鏡写真とMRI画像(66歳,女性,左眼)MRIのT1WIで等信号,T2WIで軽度高信号,ガドリニウム造影で均一に増強される.図8症例6:結膜MALTリンパ腫の細隙灯顕微鏡写真とPET?CT画像(78歳,女性,左眼)上円蓋部より発生している結膜MALTリンパ腫にPET-CTで集積がみられる.びまん性大細胞リンパ腫はまれである.1.臨床所見MALTリンパ腫は低悪性度であり,比較的ゆっくりと年単位に増大する.円蓋部,球結膜部が好発部位であり,ときに涙丘にもみられる.上眼瞼円蓋部にも発生するため,必ず上眼瞼を翻転して観察する必要がある.両眼性は10?15%という報告がある11)が,当科のデータでは結膜MALTリンパ腫のうち38%が両眼性であった.表面が平滑でサーモンピンク色の腫瘤がみられる(図6).2.画像所見MRI(magneticresonanceimaging)にて,T1WI(T1強調画像)で等信号,T2WI(T2強調画像)で軽度高信号,ガドリニウム造影で均一に増強される(図7).ADC(apparentdi?usioncoe?cient)は一般に低くなる.PET-CT(positronemissiontomography:陽電子放出断層撮影)では病変部に集積を認める(図8).HR-OCTで結膜悪性リンパ腫を観察した報告では,リンパ腫病変は低反射腫瘤を示し,均一な低反射の点で構成されているようにみえると報告されている12).3.病理組織学的検査粘膜固有層に軽度の異型を伴う小型から中型のリンパ球の集簇を認める(図9).これらのリンパ球は抗CD20抗体陽性のB細胞性リンパ球である.結膜悪性リンパ腫と診断するためには,生検と病理診断が必須である.生検時には病理検査とともに,フローサイトメトリーとIgH遺伝子再構成検査(図10)が重要である.これは,他のリンパ増殖性疾患との鑑別のため,および悪性リンパ腫の病型分類のために重要である.4.治療方針治療は原発部位や病期(限局期,進行期)によって異図9結膜MALTリンパ腫の病理所見(HE染色)粘膜固有層に軽度の異型を伴う小型から中型のリンパ球の集簇を認める.図10結膜MALTリンパ腫のIgH遺伝子再構成検査低悪性度のリンパ腫では,病理検査での判断がむずかしいことがあり,IgH遺伝子再構成の有無が診断に重要である.なる.結膜に限局する症例では,放射線治療によって病変は消失する.小病変の場合は,局所切除や冷凍凝固も有効である.III副涙腺?胞副涙腺であるWolfring腺9),またはKrause腺から発生した?胞を副涙腺?胞という.図11に眼瞼結膜周囲の腺組織の解剖図を示す.Wolfring腺は瞼板上縁付近にみられることがわかる.外傷,感染,結膜炎の後に慢性的に発症する13).解剖学的にWolfring腺?胞が大部分であるが,1980年頃まではKrause腺由来と考えられていた.Jacobiecら13)やWeatherheadら14)の報告によりWolfring腺?胞が認知され,Wolfringdacryopsともよばれるようになった.つまり,円蓋部の2層上皮からなる結膜下?胞の多くはWolfring腺由来の副涙腺マイボーム腺Zeis腺Moll腺涙腺Wolfring腺杯細胞Krause腺上結膜円蓋Henle係蹄杯細胞眼瞼結膜マイボーム腺下結膜円蓋Krause腺?胞と考えてよい.1.臨床所見副涙腺?胞は結膜円蓋部にみられる薄いピンク色?白色の腫瘤として認められる(図12a).厳密にいうと,Wolfring腺?胞は瞼板縁に癒着している?胞である.23例をまとめた報告では14),平均年齢39歳,上眼瞼発図11眼部の腺組織の位置関係副涙腺であるKrause腺とWolfring腺は,上下の円蓋部に存在する.図12症例7:Wolfring?胞(57歳,女性,左眼)a:前眼部写真.下眼瞼瞼板上縁から円蓋部に及ぶ?胞を認める.b:細隙灯顕微鏡写真.細いスリット光をあてると内容物が液体ということがわかる.c:AS-OCT所見(中央).結膜下に?胞壁を認め,内容物は低反射を呈している.充実性腫瘍ではないことが一目瞭然である.d:AS-OCT所見(鼻側).鼻側では一部多房性になっている.図13症例8:Wolfring?胞(40歳,女性,左眼)a:前眼部写真:症例7と比較しやや白色調にみえる.b:AS-OCT所見(横断面):結膜下にTenon?膜を認め,その下に?胞壁が確認できる.生が73.9%と,下眼瞼より上眼瞼に多かった.また,瞼板の中央?鼻側に好発するといわれている.通常,痛みなどは伴わず,無症状に増大した腫瘤として受診することが多い.2.AS?OCT所見細隙灯顕微鏡検査でもスリット光細くして観察すれば(図12b)内容物が液体であることがわかるが,CASIA2を用いると,結膜下に?胞壁を認め,内容物は低反射を呈している.充実性腫瘍ではないことが一目瞭然である図14Wolfring?胞の病理所見病理組織学的に2?3層の円柱上皮細胞からなり,杯細胞を認める.図15Wolfring?胞の病理所見多房性のものもある.図16下眼瞼Wolfring?胞の術中所見下眼瞼瞼板上縁に癒着していることがわかる.図17上眼瞼Wolfring?胞の術中所見上眼瞼瞼板上縁に癒着していることがわかる.(図12c).鼻側では一部多房性になっていることがわかり(図12d),外傷,感染,結膜炎のあとに慢性的に発症するといわれていることから,炎症により結膜が癒着し,複数のWolfring腺が閉塞したと考えられる.3.病理組織学的検査Wolfring腺は2層の繊毛のない円柱上皮細胞からなり,結膜の開口部に近づくと多層化する.ときに上皮内に杯細胞を認める.Wolfring腺?胞も同様の所見を有しており,病理組織学的に2?3層の円柱上皮細胞からなり,杯細胞を認める(図14).4.治療方針穿刺して内容物を排出するだけでは再発する.手術による?胞の切除が基本である.術中所見では?胞が瞼板縁に付着しており,円蓋部では結膜上皮と?胞壁が容易に分離できる(図16,17).おわりに本稿では前眼部の無色素性病変としてOSSN(SSC,CIN),結膜悪性リンパ腫,副涙腺?胞を取り上げ,AS-OCT所見を含む画像診断を中心に臨床所見を述べた.AS-OCTは無侵襲で短時間で撮影可能であり,患者の負担も少なく可能なため,治療前の病変の部位の評価や,治療効果判定や経過観察に有用である.しかしながら,後眼部疾患のOCTほど知見が得られていないのは事実であり,今後,前眼部の腫瘤性病変に対するAS-OCTの使用経験を集積し解析を行っていく必要がある.文献1)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrab-eculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoher-encetomography.Ophthalmology114:47-53,20072)BianciottoC,ShieldsCL,GuzmanJMetal:Assessmentofanteriorsegmenttumorswithultrasoundbiomicrosco-pyversusanteriorsegmentopticalcoherencetomographyin200cases.Ophthalmology118:1297-1302,20113)ShieldsCL,DemirciH,KaratzaEetal:Clinicalsurveyof1643melanocyticandnonmelanocyticconjunctivaltumors.Ophthalmology111:1747-1754,20044)KievalJZ,KarpCL,AbouShoushaMetal:Ultra-highresolutionopticalcoherencetomographyfordi?erentiationofocularsurfacesquamousneoplasiaandpterygia.Oph-thalmology119:481-486,20125)LeeGA,HirstLW:Ocularsurfacesquamousneoplasia.SurvOphthalmol39:429-449,19956)ShieldsCL,KalikiS:Interferonforocularsurfacesqua-mousneoplasiain81cases:outcomesbasedontheAmericanJointCommitteeonCancerclassi?cation.Cor-nea32:248-256,20137)KirkegaardMM,CouplandSE,PrauseJUetal:Malig-nantlymphomaoftheconjunctiva.SurvOphthalmol60:444-458,20158)DalvinLA,Salom?oDR,PatelSV:Population-basedinci-denceofconjunctivaltumoursinOlmstedCounty,Minne-sota.BrJOphthalmol102:1728-1734,20189)FerreriAJ,DolcettiR,DuMQetal:OcularadnexalMALTlymphoma:anintriguingmodelforantigen-driv-enlymphomagenesisandmicrobial-targetedtherapy.AnnOncol19:835-846,200810)TanenbaumRE,GalorA,DubovySRetal:Classi?cation,diagnosis,andmanagementofconjunctivallymphoma.EyeVis(Lond)6:22,201911)EifrigCW,ChaudhryNA,TseDTetal:Lacrimalglandductalcystabscess.OphthalPlastReconstrSurg17:131-133,200112)Galindo-FerreiroA,AlkatanHM,Muinos-DiazYetal:Accessorylacrimalglandductcyst:23yearsofexperi-enceintheSaudipopulation.AnnSaudiMed35:394-399,201513)JakobiecFA,BonannoPA,SigelmanJ:Conjunctivaladnexalcystsanddermoids.ArchOphthalmol96:1404-1409,197814)WeatherheadRG:Wolfringdacryops.Ophthalmology99:1575-1581,1992

序説:眼腫瘍における最新画像診断活用アトラス

2020年1月31日 金曜日

眼腫瘍における最新画像診断活用アトラスAtlasofDiagnosticImaginginOcularTumors田邉美香*古田実**石橋達朗***近年,眼科検査機器の進歩はめざましく,なかでも光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は急激な変化を遂げ,眼科医療の発展に大きく寄与している.OCTに代表される画像検査は糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの網脈絡膜疾患や緑内障の診療に不可欠のものとなりつつある.前眼部に対しても,徐々にその適応は広がっており,前眼部に特化した前眼部OCT(anteriorsegmentOCT:AS-OCT)は,角膜,結膜,虹彩などの微細構造を描出することが可能であり,緑内障や角膜疾患の診療に重要なものとなっている.眼部の腫瘍性病変は,日常生活で遭遇する疾患ではあるが,頻度が高くないため,その診断や評価に迷うことがあると思われる.腫瘍は,単一の細胞や組織が異常に増殖した病変である.どこに,どのような性質の病変があり,周囲組織はどのように反応しているかを分析的にみることは,すべての腫瘍性病変の診療の基本であり,良性,悪性の線引きにもつながる.そして,そのためにもっとも威力を発揮するのが各種の画像検査である.眼腫瘍においても,脈絡膜悪性黒色腫と脈絡膜母斑の大きさや周囲組織の反応をみたり,結膜病変では深さや内部構造が充実性か?胞性かなどを判断するのに,OCTをはじめとした画像検査が大いに役立つ.本特集では,眼部腫瘍を,前眼部と後眼部,非色素性と色素性に分類した.前眼部非色素性病変の代表疾患である扁平上皮癌,上皮内癌,結膜悪性リンパ腫,および腫瘍ではないが日常遭遇する副涙腺?胞について,AS-OCT所見を含めて,田邉美香(九州大学)が解説した.また,前眼部の色素性病変として結膜母斑,虹彩?胞と転移性虹彩腫瘍を取りあげ,加瀬諭先生(北海道大学)にAS-OCT所見を解説いただいた.AS-OCTは前眼部腫瘤の病理像を反映する検査であり,その所見は臨床診断,治療方針決定に大きく貢献すると考えられる.後眼部非色素性網膜病変として網膜硝子体リンパ腫,網膜血管増殖性腫瘍,網膜星状膠細胞過誤腫を取りあげ,石田友香先生(杏林大学),相馬亮子先生,高瀬博先生(東京医科歯科大学)に解説いただいた.後眼部非色素性脈絡膜病変は限局性脈絡膜血管腫,脈絡膜骨腫,転移性脈絡膜腫瘍,また腫瘍ではないが重要な疾患であるVogt-小柳-原田病について,後藤浩先生(東京医科大学)に解説いただいた.最後に,後眼部色素性病変として,脈絡膜母斑,脈絡膜メラノーマ,視神経乳頭黒色細胞腫について古田実(福島医科大学)が解説した.◆MikaTanabe:九州大学大学院医学研究院眼科学分野**MinoruFuruta:福島県立医科大学医学部眼科学講座***TatsuroIshibashi:九州大学後眼部病変に関しては,蛍光眼底造影やOCT,OCTA,眼底自発蛍光など,前眼部病変に関してはAS-OCTなどのmultimodalimagingを活用し,その結果を総合的に解釈して,病態を正確に把握することが求められる.本特集が適確に診断から治療へとつながる診療を実践する一助となれば幸いである.

小中学生におけるタブレット端末使用授業時の視距離の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1604.1607,2019c小中学生におけるタブレット端末使用授業時の視距離の検討野原尚美*1池谷尚剛*2*1平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻*2岐阜大学大学院教育学研究科心理発達支援専攻特別支援教育コースCTheViewingDistanceDuringLeaningActivitiesinSchoolchildrenUsingTabletComputersNaomiNohara1)andNaotakeIketani2)1)DivisionofOrthoptics,DepartmentofRehabilitation,Heisei-iryouCollegeofMedicalSciences,2)DivisionofSpecialNeedsEducation,GraduateSchoolofEducation,GifuUniversityC小中学校という初等教育の現場で,タブレット端末を使用した授業が急速に進んでいる.タブレット端末を授業で使用すれば,教科書のみの授業より近い距離で見ることが習慣になることが考えられ,視覚発達途上にある児童生徒の眼に何らかの影響を及ぼすことが懸念される.そこで,小学C4年生C25名,6年生C31名,中学C3年生C29名,計C85名を対象に,授業でタブレット端末を使用して調べ学習や画像撮影をしているときの様子を写真撮影し,距離測定ソフト(MapMeasure)によって写真から視距離を求め,通常の教科書を読んでいるときの視距離と比較した.iPadを使用して調べ学習をしているときの視距離は,小学C4年生がC23.5±6.9Ccm,小学C6年生がC24.6±8.1Ccm,中学C3年生がC24.5±5.8Ccmであった.どの学年においても,教科書を読むときの視距離よりも近かった(p<0.01).InformationCandCcom-municationtechnology(ICT)教育でCiPadを導入する際には,教科書のみの時代よりも近い視距離で見る時間が増えるということを念頭に置く必要がある.CTabletCcomputersChaveCnowCbecomeCpopularCtechnologicalCdevicesCforCeducationCinCprimaryCandCsecondaryCschools.Althoughgenerallyconsideredexcellentdevicesfortheimprovementofacademiclearningactivities,thereisaconcernastowhetherornottheya.ectthevisualdevelopmentinschoolchildren.Inthisstudy,weinvestigat-edCtheCviewingCdistanceCinC85schoolchildrenCwhenCviewingCtheCsurfaceCofCtabletCcomputerCdisplaysCandCnormalCtextbooks.CPhotographicCanalysesCshowedCthatCinC4th-gradeelementary(n=25),6th-gradeelementary(n=31),andC3rd-gradeCjunior-highstudents(n=29),theCmeanCdistanceCbetweenCtheCeyeCandCtheCreadingCsurfaceCwhenCviewingCtheiPAD(Apple,Inc.)wasC23.5±6.9Ccm,C24.6±8.1Ccm,CandC24.5±5.8Ccm,Crespectively,CandCthatCirrespec-tiveofage,theviewingdistancefortabletcomputerswassigni.cantlycloserthanthatwhenreadingprintedtext-books(p<0.01).OurC.ndingsCsuggestCthatCinCschoolchildren,CtheCuseCofCaCtabletCdeviceCduringClearningCactivitiesCcanpossiblyleadtoaccommodativestress,thuscausingapotentialriskofmyopicshiftinchildhood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1604.1607,C2019〕Keywords:iPad,タブレット端末,小中学生,視距離,ICT.iPad,tabletdevice,schoolchildren,viewingdistance,informationandcommunicationtechnology(ICT).Cはじめに近年は,教育の現場でもCinformationtechnology(IT)活用の取組みが本格化している.小中学校という初等教育の授業においてもデジタルテレビ,personalCcomputer(PC),タブレット端末(以下,タブレット)などが導入され,学力向上が期待される一方で,視覚発達期の子供がCIT機器の画面を見る時間が増えることによる眼への健康が心配される.過去においてCPCの普及期には,端末表示装置(visualCdis-playterminal:VDT)症候群が問題視され,使用時間や視距離など適切な使用方法が検討された1,2).しかし,スマートフォンやタブレットの使用状態は,PCを想定したCVDT作業環境とは異なるにもかかわらず,視機能の問題にしぼっ〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野C180平成医療短期大学Reprintrequests:NaomiNohara,Heisei-iryouCollegeofMedicalSciences,180Kurono,Gifu501-1131,JAPANC1604(128)た研究は,きわめて乏しいといえる.そのため筆者らは,まず先行研究でスマートフォンの視距離について書籍と比較し,書籍はC33Ccmの視距離に対し,スマートフォンはどんな作業でも視距離が近く,とくに,小さな文字で見ているときには約C20Ccmであることを明らかにした3).現在は,infor-mationCandcommunicationtechnology(ICT)教育の一環として,タブレットを使用した授業が,小中学校で急速に進んでいる.この場合もスマートフォン同様に,教科書を見ているときよりも,視距離が近くなっている可能性もあり,子供たちがC1日のうちでCIT機器を使用する時間が増えているうえに,もし近い視距離で見ているとなれば,やはり近視の進行や調節の問題など,眼への負担が大変懸念される.そこで,今回,タブレットを使用した授業の眼への影響について,授業中に視機能を検査することは不可能なため,タブレット使用時の視距離に焦点を絞って,タブレットを使用した授業と,従来どおりの教科書を使用した授業の際の児童生徒の写真を撮影し,それぞれの視距離を測定し,比較検討した.CI対象および方法対象は,岐阜市内A小学校のC4年生C25名と,6年生31名,および岐阜市内CB中学校C3年生C29名,合計C85名の児童生徒である.方法は,授業中の自然な状態で,授業を妨げず,児童生徒に負担のかからないように測定するために,授業中の写真を撮影し,その写真を地図上の道のりを測定する距離測定ソフト(MapMeasure)を用いて視距離を解析することとした.予備実験として,MapMeasureの測定値とメジャーで計測した値とがほぼ一致するか否かをC12名の成人被検者(平均年齢C21歳,男性C1名,女性C11名)で検討した.まず,タブレットを使用させ,そのときの視距離を実際にメジャーで計測した.その状態を保持するよう指示し,真横から,高さも合わせて写真撮影した.MapMeasureを用いて視距離を測定するには基準値の入力が必要であるのでタブレットの長辺の長さを基準値とすることとし,カメラ寄りの一辺を基準値とした場合と,奥の一辺を基準値とした場合のMapMeasureの視距離の測定値を,メジャーで計測した値と比較した.その結果,基準値を奥の一辺で取ったときのほうが,メジャーで計測した値に近かった.このことから,図1のように対象者を真横から高さを合わせ,タブレットの奥一辺が写るよう撮影した.その写真をCPC上のCMapMeasureで開き,基準値となるタブレットの奥一辺をクリックし,実際の長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした奥一辺のほぼ中央をクリックすると,自動で視距離が計算される.授業で使用していたタブレットはCiPadAir(以下,iPad)で,長辺(高さ)はC240mm,短辺(幅)はC169.5mmであった.授業形態は,調べ学習と写真や動画撮影であった.小学C4年生は,図工の授業でCiPadを使用し,飼育しているウサギの写真を撮影し,その後,ウサギについて調べ学習を行っていた.小学C6年生は,国語の授業で終始CiPadを使用して調べ学習を行っていた.中学C3年生は,社会の授業で終始CiPadを使用して調べ学習を行っており,さらに英語の授業では,英会話で発表をしている場面の動画撮影を行っていた.iPad使用時の視距離の撮影は,授業開始から終わるまでの間で,使い始め,中頃,授業最終時で,可能な限りC1人の生徒につきC3枚の写真を撮影した.調べ学習時のCiPadの文字サイズは,確認ができた生徒の多くは,ほぼ拡大することなくC2.3Cmmであった.また,iPadの視距離を撮影した同じクラスで,教科書(高さC255Cmm,幅C180Cmm)を使用する授業に入り,教科書を読んでいるときの写真も授業開始時,中頃,最終時のC3枚の写真を撮影した.教科書の文字サイズは,小学C4年生は漢字C5mm,平仮名C4Cmm,小学C6年生は漢字と平仮名ともにC4Cmm,中学C3年生は漢字と平仮名ともにC3Cmmであった.視距離の検討は,①教科書を見ているときより近いか,②学年によって違うか,③時間の経過とともに近づくかについて行った.統計学的検討は,対応のないCt検定を用い,有意水準5%未満として行った.CII結果1.教科書とiPad使用時の視距離の比較小学C4年生,6年生,中学C3年生における,教科書とCiPad使用時の視距離を図2,3,4に示す.縦軸に視距離,横軸に条件をとり,●は視距離の平均値C±標準偏差である.小学C4年生では,教科書を見ているときの視距離はC31.0C±9.7cmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC23.5C±6.9Ccm,写真撮影をしているときの視距離はC22.9C±4.7cmであり,いずれも教科書を見ているときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.01).6年生では,教科書を見ているときの視距離はC30.7C±7.4Ccmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC24.6C±8.1Ccmで,iPad使用時の視距離は,教科書を見ているときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.05).中学C3年生では,教科書を見ているときの視距離C32.9C±7.4Ccmに対して,iPadを使用して調べ学習をしているときはC24.5C±5.8Ccm,動画撮影しているときはC20.7C±6.4Ccmであり,iPad使用時の視距離は,教科書を読んでいるときの視距離と比べ有意に近かった(p<0.01).C2.学年別での視距離の比較iPadを使用して調べ学習をしているときの視距離を,学年ごとに比較した結果,3学年の間に有意な差は認められず,学年による視距離の差は認められなかった.C3.時間の経過に伴う視距離の変化iPadを使い始めた頃と,中頃,終わり頃のC3回の写真か視距離(cm)45403530252015*10*50教科書iPad写真撮影iPad調べ学習図1視距離の測定(調べ学習時:破線は基準値,実線は視距離を示す)対象者を真横に高さを合わせ,タブレットの奥一辺が写るように写真を撮影する.その写真をパソコン上のCMapMeasure(地図上の道のりを測定する距離測定ソフト)で開く.まず,基準値となるタブレットの一辺をクリックし,実際のタブレットの長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした奥一辺のほぼ中央をクリックすると自動で視距離が計算される.C454035視距離(cm)3025201510105500図2小学4年生における教科書とiPadでの視距離の比較(*p<C0.01)C454035視距離(cm)30252015教科書iPad調べ学習iPad動画撮影教科書iPad調べ学習図3小学6年生における教科書とiPadでの視距図4中学3年生における教科書とiPadでの視距離の比較(**p<C0.05)離の比較(*p<C0.01)表1各学年における時間の経過に伴う視距離の変化(調べ学習時)学年対象者数(名)調べ学習時の視距離(cm)±標準偏差開始中盤最終小学C4年生C12C23.1±7.9C22.9±6.7C21.0±5.1小学C6年生C10C23.3±7.8C26.2±7.3C24.1±9.0中学C3年生C10C20.1±6.3C17.4±4.5C21.2±5.4ら視距離を解析した結果を表1に示す.4年生C25名中,3回解析できたのはC12名であった.6年生,中学C3年生はともにC10名であった.どの学年も,3回の視距離に有意な差は認められず,iPadを使用して調べ学習をしているときは,時間の経過とともに視距離が近づく傾向はなかった.III考按今回用いた方法は,授業中の自然な状態で,しかも授業を妨げず児童生徒に負担をかないで測定することを重要視して採択した.予備実験を重ね,実測値に近い値が測定できるところまで確認できたが,精度の高い方法で正確な視距離を測定できたとはいえない.しかし,今まで,見る距離が近い,姿勢が悪くて眼が近いといわれてきたような漠然とした感覚ではなく,どの程度の視距離であるか数値化できたこと,どのような傾向になっているのかを把握することができた点では有用な方法であったと考えられた.iPadを使用するときは,どんな用途でも,教科書を読んでいるときの視距離に比べると有意に近くなっていた.教科書の文字を読むという行為に対し,iPadは常に画面をさわる手指の運動が入る.多くの児童生徒の書くときの姿勢が非常に前屈みになっていたことから,iPadの画面を指で操作することが,書くことと同じ効果となり,視距離が教科書を読むときより近づいたのではないかと考えられた.また,iPadでは多くの児童生徒が文字を拡大しないで,小さな状態のまま見ていたことも視距離が近くなった要因と考えられた.そして,iPadを使い始めてから終わりまで,ほぼ一定の視距離であったことに関しては,iPadは画面が大きいため,両手で持ち,机の上や大腿部の上で支えながら使用する児童生徒が多いうえ,カバーを書見台のようにして使用している児童生徒もおり,使っているうちに近づいていくような近接化は起こりにくいと考えられた.以前から,近い視距離は,子供の視力低下の要因となる4,5),近視の発症と相関する6,7)など多くの報告がなされている.また近視進行の時期も小学C4.5年生で著しい8)ともいわれている.まさに今回,調査の対象となった学年であり,近い視距離に加え,近視進行の時期が重なることに,より一層注意が必要であると考えられた.文部科学省はC2013年度よりCiPadを用いたデジタル教科書の標準化事業を始めており,2020年度から本格的に全国の小中高校で導入される見通しが示され9),IT機器は今後ますます初等教育に取り入れられていくであろう.ICT教育でCiPadを導入することは,教科書のみの時代より,近い視距離で見る時間が増えるということを念頭に置く必要があり,今後は,今まで以上に近視の低年齢化,眼精疲労などの眼科的問題の発生が懸念されると考えられた.長谷部は,生活習慣について適切な指導を与えることにより,一定範囲で近視の進行速度をコントロールできる10)と示しており,これからCICT教育でCIT機器を使用する場合,近視進行の恐れがあることを念頭に置き,使用前に視距離がC30Ccm程度になるよう正しい姿勢の指導を行い,使用するなかで,近い視距離になる児童生徒には,教員が視距離を離すよう注意を促しながら,正しく活用させていくことも大切であると考えられた.文献1)山田覚,師岡孝次:VDT作業における視距離の評価.東海大学紀要工学部C26:209-216,C19862)厚生労働省:新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の策定について.平成C14年C4月C5日Chttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.html3)野原尚美,説田雅典,松井康樹ほか:携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討.あたらしい眼科32:163-166,C20154)椛勇三郎,西田和子:横断的調査による「女子中学生の視力低下」の要因分析.日本公衆衛生雑誌54:98-106,C20075)丸本達也,外山みどり,マリア・ビアトリツ・ビラヌエバほか:学童や生徒の視力と学習時の姿勢についての相関分析.日眼会誌101:393-399,C19976)IpJM,SawSM,RoseKAetal:Roleofnearworkinmyo-pia:.ndingsCinCaCsampleCofCAustralianCschoolCchildren.CInvestOphthalmolVisSciC49:2903-2910,C20087)RoseKA,MorganIG,IpJetal:Outdooractivityreducestheprevalenceofmyopiainchildren.OphthalmologyC115:C1279-1285,C20088)山下牧子,三浦真由美,藤井恵子ほか:近視の進行と眼鏡.眼紀42:1554-1559,C19919)文部科学省:第C5章学習者用デジタル教科書・教材の開発.文部科学省学びのイノベーション事業実証研究報告書:C157-184,C201310)長谷部聡:小児の近視予防.あたらしい眼科C27:757-761,C2010C***

エタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1600.1603,2019cエタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例杉澤孝彰石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CSuccessfulControlofAnkylosingSpondylitis-relatedUveitisafterSwitchingAnti-tumorNecrosisFactorInhibitorsTakaakiSugisawa,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC強直性脊椎炎(AS)は,原則片眼性の再発を繰り返すぶどう膜炎を併発する.今回,TNFa阻害薬であるエタネルセプト投与中のCASに合併した難治性ぶどう膜炎に対し,TNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブを変更導入し眼炎症が軽快した症例を経験したので報告する.32歳,男性.ASに伴うコントロール不良の脊椎炎に対しエタネルセプトが投与された.半年後,左眼霧視のため当科受診,矯正視力は右眼C1.5,左眼C0.5.右眼に虹彩後癒着,左眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房蓄膿を認めた.左眼は硝子体混濁と網膜血管の蛇行拡張も認め,光干渉断層計で脈絡膜肥厚を認めた.ステロイド点眼にて治療開始するも後眼部炎症の改善が乏しいため,プレドニゾロン全身投与を開始した.軽快し漸減するも再発を繰り返すため初回治療からC11カ月後にエタネルセプトをアダリムマブへ変更した.その結果,1カ月で眼炎症さらには脊椎炎も軽快した.エタネルセプトは血清CTNFと結合し濃度を減らすが,アダリムマブはCTNFを放出する細胞そのものを阻害する.その機序の違いにより,異なる抗炎症効果をもたらすことが示唆された.CPurpose:AnkylosingCspondylitis(AS)isCaCformCofCarthritisCthatCisCchronicCandCmostCoftenCa.ectsCtheCspine.CAbout25%ofASpatientsalsoexperienceuveitis.Wereportacaseinwhichswitchinganti-tumornecrosisfactor(TNF)inhibitorsmayhavebeene.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis.Subjectandmethods:A35-year-oldmaleundergoingtreatmentwithanti-TNFagentEtanerceptforASatalocalclinicdevelopedCuveitisCinChisCleftCeyeC6CmonthsCafterCtheCinitiationCofCtreatment,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourChospitalduetoocularin.ammationthatcouldnotbecontrolled.Westartedtreatmentwithoralsystemiccortico-steroids,andswitchedfromEtanercepttotheanti-TNFagentadalimumab.Results:SwitchingfrometanercepttoadalimumabCultimatelyCcontrolledCtheCocularCin.ammation,CpossiblyCdueCtoCtheCfactCthatCunlikeCetanercept,CwhichCbindstoserumTNFandreducesconcentrations,adalimumabinducedanapoptosisofTNFproductioncells.Con-clusions:Switchinganti-TNFinhibitorsmaybee.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis,CthusCillustratingCtheCimportanceCofCkeepingCinCmindCtheCspeci.cCcharacteristicsCofCtheCanti-TNFCinhibitorCbeingusedfortreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1600.1603,C2019〕Keywords:再発性ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,TNFa阻害薬,アダリムマブ,エタネルセプト.relapseduveitis,ankylosingspondylitis,anti-tumornecrosisfactorinhibitor,adalimumab,etanercept.Cはじめに過をとるリウマチ性の疾患で,若年男性に多く発症すること強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,脊椎や四が知られている.ASでは,急性前部ぶどう膜炎を約C25%に肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴とした慢性進行性の経合併する1)といわれており,ステロイド治療に抵抗性がみら〔別刷請求先〕杉澤孝彰:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakaakiSugisawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC1600(124)れる場合もあったが,近年は抗Ctumornecrosisfactor(TNF)療法が視力予後を改善することが示されてきている2).今回筆者らは,ASに併発した難治性ぶどう膜炎に対し,TNFCa阻害薬をエタネルセプトからアダリムマブへ変更したことにより,炎症寛解に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例35歳,男性.主訴は左眼霧視と充血.近医眼科で抗菌薬点眼・ステロイド点眼・散瞳薬点眼にて加療されていたが軽快しないため当院紹介受診となった.10年来のCASに対するステロイド内服やインフリキシマブ投与の既往があり,直近C5年はエタネルセプトが投与され,全身状態は寛解状態であった.当院初診時の矯正視力は右眼(1.5),左眼(0.5),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHg.右眼に虹彩後癒着と前房細胞(+),左眼に急性前部ぶどう膜炎様の前房蓄膿,網膜表層の不整,硝子体混濁を認め,OCTにて中心窩脈絡膜肥厚(右眼C280Cμm,左眼C470Cμm)を認めた(図1).ASの経過観察のため当院整形外科,膠原病内科通院中であり全身状態は良好,齲歯などもなく,採血にて炎症反応検出感度以下であり,B型肝炎・C型肝炎・梅毒・結核・ヒトCT細胞白血病ウイルス(HTLV)などの感染症検査はすべて陰性,また胸部CX線写真にても特記すべき異常を認めなかったため,臨床的に感染性ぶどう膜炎の可能性は低く,前房水採取などは施行しなかった.前房水CPCRなどを施行していないので,完全には感染性ぶどう膜炎を否定できないが,AS併発ぶどう膜炎を第一に考え,前医からの局所点眼加療に加えて左眼にはトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行った.局所治療のみでは消炎不十分と判断し,1週後にはステロイド内服(プレドニゾロン)30Cmgを開始した.プレドニゾロン内服開始後,両眼とも前房細胞や角膜後面沈着物,硝子体混濁などの炎症所見は改善した.経過中に明らかな前眼部,後眼部の炎症所見の再燃はみられずプレドニゾロンを漸減したが,再診日ごとに脈絡膜厚を測定し,脈絡膜厚の増大を認めた際はCsubclinicalな再発と捉え,STTA投与を行った.プレドニゾロン内服開始C10カ月後,1Cmgの内服中であったが,右眼に前房細胞(+++)と色素性角膜後面沈着物を伴う前眼部炎症を認め,左眼には硝子体混濁と脈絡膜厚の再肥厚がみられた(図2左).再発性ぶどう膜炎であり,すでにエタネルセプト投与中でもあったため,TNFCa阻害薬の変更を内科に打診し,アダリムマブへと変更した.変更後C1カ月で両眼とも前房細胞は消失,4カ月で後眼部硝子体細胞や脈絡膜厚などの両眼炎症所見は改善(図2右)し,プレドニゾロン内服中断となった.その後C1年以上再発なく経過している.臨床経過を図3に示した.II考按ASは,脊椎や四肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴として慢性進行性の経過をとるリウマチ性疾患である.治療法として,非ステロイド性抗炎症薬,ステロイドの局所注射,サラゾスルファピリジンなどが用いられてきたが,近年は生物学的製剤であるCTNFCa阻害薬が使われる機会が増えてきている.AS加療に認められている生物学的製剤はエタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブがある.エタネルセプトはTNFの可溶性受容体抗体であり,インフリキシマブとアダリムマブはモノクローナル抗体である3).エタネルセプトの作用機序はCTNFa/bの中和であり,インフリキシマブやアダリムマブなどのモノクローナル抗体の作用機序はCTNFCaの中和とCTNF産生細胞そのものの障害である.ASの眼科的併発症状として急性前部ぶどう膜炎があげられ,その発症率は約C25%程度であるといわれている1).前部ぶどう膜炎は,ステロイドや散瞳薬で治療されることが多いが,遷延することもある.TNFCa阻害薬の一つであるアダリムマブは,これまで関節リウマチ,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,関節症性乾癬,尋常性乾癬,潰瘍性大腸炎,Crohn病,Behcet病などの疾患に対し保険適用のある生物学的製剤であったが,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった.すなわちCAS患者においては,ASに対してCTNFCa阻害薬が投与されている場合と,眼科医が難治性のぶどう膜炎に対してCTNFa阻害薬を処方する場合が生じうる.本症例は,ASに対してエタネルセプト治療下で両眼ぶどう膜炎を発症し,最初はステロイドに反応したが,エタネルセプトとステロイドの継続治療下で両眼のぶどう膜炎が再発した.ぶどう膜炎のコントロール不良の原因として,①現行の治療での抗炎症効果不十分,②エタネルセプトそのものによる副作用としてのぶどう膜炎惹起,の二つの可能性が考えられた.とくに②の可能性について,海外ではエタネルセプトによるぶどう膜炎の惹起の報告があり4,5),エタネルセプトはその作用機序から,マクロファージなどのCTNF産生細胞は傷害しないため,TNF以外の炎症性サイトカインの産生が続いた結果,炎症を惹起するという機序が考察されている.また,エタネルセプト使用中のCAS患者において,Crohn病などの炎症性腸疾患が発症しやすいという報告もある6).いずれもアダリムマブへの変更でCASと腸疾患の良好なコントロールが得られたと記されている.このメカニズムについては明らかにされておらず,サイトカインの不均衡が原因の一つではないかと示唆されている7).本症例においては,結果的にエタネルセプトをアダリムマブに変更したことにより,速やかな眼炎症・ぶどう膜炎の寛図1初診時所見(左眼)図2再発時と寛解後の比較左:治療開始後C10カ月,炎症再燃.右:アダリムマブ導入後C3カ月,炎症寛解.C58035プレドニゾロン投与量(mg)560540520500480460440420中心窩脈絡膜厚(μm)3025201510504444442424411カ月時週週週週週週週週週週図3臨床経過週解を得た.今回後部ぶどう膜炎の経過をみるにあたって,EDI-OCTによる中心窩脈絡膜厚の変化を参考にしている.これはCBehcet病やCVogt・小柳・原田病などのぶどう膜炎にて活動期では休止期と比べ中心窩脈絡膜厚が有意に厚いという報告をもとにしているが,AS併発ぶどう膜炎について述べた文献はないため後眼部炎症の程度を即座に把握するための参考程度としている8,9).本症例の経過から,同じCTNFCa阻害薬でもその効果に違いがあることが確認された.TNFCa阻害薬は眼科領域でも今後使用される機会が増えてくると考えられるが,それぞれの薬剤の機序や副作用は異なっており,製剤変更により病状の改善が得られる可能性があることを知っておかねばならない.ぶどう膜炎はリウマチなどの全身性疾患に関連して生じることも多く,すでに他科から生物学的製剤が投与されていることもあると考えられることから,現在患者が使用している薬剤についての把握は重要である.文献1)井上久:我が国の強直性脊椎炎(AS)患者の実態.第C3回患者アンケート調査より..日本脊椎関節学会誌III:29-34,C20112)FabianiCC,CVitaleCA,CLopalcoCGCetal:Di.erentCrolesCofCTNFCinhibitorsCinCacuteCanteriorCuveitisCassociatedCwithCankylosingCspondylitis:stateCofCtheCart.CClinCRheumatolC35:2631-2638,C20163)天野宏一:TNF阻害薬.日内会誌100:2966-2971,C20114)WendlingCD,CJoshiCA,CReillyCPCetal:ComparingCtheCriskCofCdevelopingCuveitisCinCpatientsCinitiatingCanti-tumorCnecrosisCfactorCtherapyCforankylosingCspondylitis:anCanalysisofalargeUSclaimsdatabase.CurMedResOpinC30:2515-2521,C20145)LieE,LindstromU,Zverkova-SandstromTetal:Tumornecrosisfactorinhibitortreatmentandoccurrenceofante-riorCuveitisCinankylosingCspondylitis:resultsCfromCtheCSwedishCbiologicsCregister.CAnnCRheumCDisC76:1515-1521,C20176)ToluS,RezvaniA,HindiogluNetal:Etanercept-inducedCrohn’sCdiseaseCinankylosingCspondylitis:aCcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CRheumatolCIntC38:2157-2162,C20187)JethwaCH,CMannS:CrohnC’sCdiseaseCunmaskedCfollowingCetanercepttreatmentforankylosingspondylitis.BMJCaseRep,C20138)KimCM,CKimCH,CKwonCHJCetal:ChoroidalCthicknessCinCBehcet’suveitis:anCenhancedCdepthCimaging-opticalCcoher-enceCtomographyCandCitsCassociationCwithCangiographicCchanges.InvestOphthalmolVisSciC54:6033-6039,C20139)MarukoCI,CIidaCT,CSuganoCYCetal:SubfovealCchoroidalCthicknessCafterCtreatmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-ease.RetinaC31:510-517,C2011***

片眼の網膜疾患患者の利き目の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1596.1599,2019c片眼の網膜疾患患者の利き目の検討加藤舞松井孝子安田節子磯島結菜佐藤幸子田中敦子齋藤昌晃吉冨健志秋田大学医学部眼科学講座CDominantEyeSwitchinginPatientswithUnilateralRetinalDiseaseMaiKato,TakakoMatsui,SetsukoYasuda,YunaIsoshima,SachikoSato,AtsukoTanaka,MasaakiSaitoandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicineC対象および方法:片眼の網膜疾患患者のうち患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名を対象に完全矯正視力,日常視力を測定した.利き目の判定にはCholeCincard法を用いた.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および視力差について検討した.結果:Holeincard法で判定した利き目で,健眼が利き目であった群は,165名で患眼が利き目であった群はC69名であった.健眼,患眼の視力差は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36であった.結論:片眼の網膜疾患患者では健眼が利き目の人が多いことがわかった.健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差がClogMAR0.42であったことから,健眼を完全矯正して視力差をつけ,健眼と患眼の視力差をClogMAR0.4以上にすることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件の一つになる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCdominantCeyeCswitchingCinCpatientsCwithCunilateralCretinalCdisease.CSubjectsandMethods:Inthisstudy,best-correctedvisualacuity(BCVA)anddailyvisualacuity(VA)weremeasuredin234patientswithunilateralretinaldiseaseandaVAof.1.0(LogMAR).Inallpatients,the‘holeincard’methodwasusedtodetectthedominanteye.Thepatientswerethendividedintothefollowingtwogroups:1)GroupA(thedominanteyewasthenormalhealthyeye)and2)GroupB(thedominanteyewasthea.ectedeye).Results:Ofthe234patients,therewere165inGroupAand69inGroupB.InGroupAandGroupB,themeandi.erenceofVA(LogMAR)betweenthehealthyeyeandthea.ectedeyewas0.27±0.29CandC0.17±0.21,respectively,andthemeandi.erenceofdailyVA(LogMAR)was0.42±0.36CandC0.21±0.36,respectively.Conclusions:Oftheunilater-alretinaldiseasepatientsinthisstudy,mostwereinGroupA.SincethemeandailyVAdi.erencebetweeneacheyeinGroupAwas0.42(LogMAR),itsuggeststhataVAofLogMAR0.4orhighermaybeoneoftheconditionsthatcausesthedominanteyetoswitchfromthea.ectedeyetothehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1596.1599,C2019〕Keywords:利き目,holeincard法,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜.離.dominanteye,holeincardtest,age-relatedmaculardegeneration,centralserousretinopathy,retinaldetachment.Cはじめに視力検査はさまざまな疾患の患者で行われる検査の一つである.片眼の網膜疾患患者の視力検査で,健眼を遮閉し患眼の視力を測定する際に,暗点や歪みなど,患眼での見えにくさを自覚し,訴える患者が多く存在している.しかし,網膜疾患などで片眼の視力が低下しても,日常視では両眼で見ているため,その患者が患眼の視力検査時に訴える見えにくさを日常生活の不自由さとして訴えることは少ないと思われる.赤座らは黄斑疾患患者の利き目の移動について検討し,術前に疾患眼が利き目であったC11例中C5例で,術後に利き目が健常眼に移動していた,と報告している1).高見らの報告では健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉〔別刷請求先〕加藤舞:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MaiKato,DepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPANC1596(120)図1Holeincard法1左:被験者がCholeincardを持つ.右:検者が遮閉し利き目を判定する.図2Holeincard法2左:検者がCholeincardを持つ.右:被験者が覗き込む様子から利き目を判定する.膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定したものがある2).不自由さを感じない理由は両眼で見ていることに加え,片眼の網膜疾患の発症により健眼と患眼に視力差が生じ,利き目が健眼に切り替わったことで,患眼があまり使われなくなった可能性を考え,今回筆者らは,健眼と患眼の利き目の割合と視力差について検討した.CI対象および方法対象は,2018年C5.10月に当院の網膜硝子体外来を受診した片眼の網膜疾患患者のうち,患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名(男性C153名,女性C81名),平均年齢はC67.8C±13.6歳(男性C67.8歳女性C67.7歳)で,疾患名は加齢黄斑変性(117名),中心性漿液性脈絡網膜症(29名),網膜.離(36名),黄斑前膜(11名),黄斑円孔(7名)などであった.方法は,他覚的屈折検査を行い,完全矯正視力,日常視力,利き目を測定した.今回用いた日常視力とは,普段使用している眼鏡やコンタクトレンズの視力,使用していない人は裸眼視力とした.利き目の判定は,完全矯正レンズを装用し,視力に応じたCLandolt環を視標にCholeincard法で行った.CHoleincard法C1は被験者本人に,holeincardを持った腕を伸ばし,holeincardの穴の中央に視標を合わせるよう指示した.その後,検者が片眼ずつ遮閉をして,視標が消えたかどうかを聞き,利き目を判定した(図1).HoleCincard法2は検者がCholeCincardを被験者の眼前に掲げ,被験者にCholeincardを覗き込んで視標を見るよう指示し,どちらの眼で覗いたかを観察して,利き目を判定した(図2).HoleCincard法1を2回,holeincard法2を1回,合計3回holeincard法を施行し,3回すべて同じ結果が得られた眼を利き目とした.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および健眼と患眼の視力差について検討した.1.001.000.52±0.370.900.800.700.27±0.290.600.500.400.300.200.100.00-0.10II結果対象の片眼の網膜疾患患者C234名の利き目の割合は,健眼利き目群C165名(70.5%),患眼利き目群C69名(29.5%)で健眼が利き目の割合が多かった.疾患眼の左右の割合は右眼113名(48.3%)で左眼C121眼(51.7%)で左右差はみられなかった.利き目群の健眼および患眼の完全矯正視力は,健眼Clog-MAR.0.01±0.09,患眼ClogMARC0.27±0.29であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の完全矯正視は,健眼ClogMAR.0.02±0.08,患眼ClogMARC0.15±0.23であった(図3).健眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼ClogMARC0.15±0.23,患眼ClogMARC0.52±0.37であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼Clog-MAR0.10±0.18,患眼ClogMAR0.36C±0.34であった(図4).完全矯正視力と日常視力の健眼,患眼の視力差を健眼利き目群と患眼利き目群で調べた結果は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27C±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17C±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42C±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36で対応のないCt検定で有意差を認めた(表1).CIII考按今回の検討で,片眼の網膜疾患患者では,健眼利き目群165名,患眼利き目群C69名で健眼が利き目の人が多いことがわかった.健常眼の利き目は右眼がC70%で左眼がC30%で,網膜疾患患者では,初診時に右眼が利き目であったものがC51%で左眼がC49%という赤座らの報告がある.今回も,疾患眼の左右の割合に差がなかったのにもかかわらず,健眼が利き目の割合が多かったことから,網膜疾患の発症により利き目が移動した可能性が考えられた.このことから,片眼の網膜疾患患者では利き目である健眼を使用する0.900.800.700.600.500.400.300.200.100.00-0.10図4日常視力の比較表1健眼・患眼の視力差健眼利き目群(n=165)患眼利き目群(n=69)C*p対応のないCtCtest*完全矯正C0.27±0.29C0.17±0.21Cp=0.3584日常視C0.42±0.36C0.21±0.36p<C0.0001機会が多いことにより,日常生活で不自由さを訴える人が少ないと考えた.各眼の矯正視力(1.2)以上の健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定した高見らの報告がある2).覗き孔法行ったときの利き目の切り替わる視力値は,利き目の優位性が強い群(覗き孔法,利き眼側指差し法,非利き眼側指差し法のC3種類の利き目検査の結果がすべて左右どちらかに一致している群)でClogMAR0.75,弱い群(3つの検査結果が一致せず左右ばらつきがみられた群)でClogMAR0.54まで,利き目の視力を下げたときに利き目が切り替わったという報告だった2).今回は,健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差が平均ClogMAR0.42であったことから,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上あることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件となる可能性が考えられた.患眼が利き目の人も,利き目が切り替われば日常生活の不自由さが軽減すると考えられる.普段,患眼の視力にばかり注意が向きがちだが,利き目が切り替わる視力差がClogMAR0.4以上である可能性が示されたことから,健眼の視力にも注目し,健眼を完全矯正して健眼と患眼の視力差をつけることが,日常生活の見え方の質を上げる一つの方法ではないかと考えた.しかし,患眼利き目群にも,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上の人も存在したため,利き目が切り替わる因子は視力のみの影響ではないと考えられる.今後視力以外の因子についても検討が必要であると考えた.文献き目の移動.日眼会誌111:322-326,C20172)高見有紀子,赤池麻子,岡井佳恵ほか:利き眼の程度の定1)赤座英里子,藤田京子,島田宏之ほか:黄斑疾患患者の利量化について.眼紀52:951-955,C2001***

角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であった2例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1591.1595,2019c角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であった2例永田有司子島良平木下雄人小野喬森洋斉宮田和典宮田眼科病院CTwoCasesUsingCyanoacrylateforTreatingCornealPerforationYujiNagata,RyoheiNejima,KatsuhitoKinoshita,TakashiOno,YosaiMoriandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC生体接着剤は組織や切断された臓器を接着・被膜する用途でさまざまな領域で使用されている.今回,生体接着剤であるシアノアクリレートを角膜穿孔の治療に使用したC2例を報告する.症例C1はC31歳,女性,右眼の流涙・眼脂を主訴に受診した.矯正視力は手動弁,角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍があり前房蓄膿を認めた.培養検査ではCMoraxellasp.が同定され,細菌性角膜潰瘍と診断した.抗菌点眼薬・軟膏により膿瘍は改善したが,潰瘍部の菲薄化が徐々に進行し第C19病日に穿孔,前房が消失した.第C25病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行い,ソフトコンタクトレンズを装用したところ,術翌日には前房が形成された.術後C1年目には矯正視力(0.8)まで改善し,角膜厚はC167Cμmとなった.症例C2はC19歳,男性,角膜ヘルペスと睫毛内反の既往があり,幼少時から角膜上皮障害を繰り返していた.右眼の疼痛・視力低下を主訴に受診し,矯正視力は(0.1),右眼角膜傍中心部に穿孔を認めた.ソフトコンタクトレンズ装用下で抗菌点眼薬により加療し前房は形成されたが,穿孔創は閉鎖しなかったため,第C5病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行った.術翌日には前房が深くなり術後C1年目には矯正視力(0.5)まで改善,角膜厚はC418Cμmとなった.2例ともシアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔部は上皮化していた.両症例とも穿孔創の大きさは約C1Cmm程度であり,経過観察中に血管侵入や結膜充血などの合併症はなかった.シアノアクリレートは小さい穿孔創に対して有効であると考えられる.CBioadhesivesareattractingattentioninvarious.eldsforbondingandcoatingtissuesandcutorgans.HerewereportCtwoCcasesCinCwhichCcyanoacrylate,CaCbioadhesive,CwasCusedCtoCtreatCcornealCperforation.CCaseC1CinvolvedCaC31-year-oldwomanwhopresentedwiththeprimarycomplaintoftearsanddischargewithvisualdisturbanceintherighteye.Uponexamination,anulcerwasfoundinthecenterofthecorneainherrighteyeandMoraxellaCsp.wasCisolatedCfromCtheClesion.CTopicalCantibioticsCtreatmentCunderCtheCdiagnosisCofCbacterialCkeratitisCwasCstarted,Cbuttheulcerbecameperforated,i.e.,1.2×0.9Cmminsize,withdisappearanceoftheanteriorchamberat19-daysafterCinitiatingCtreatment.CSixCdaysClater,CcyanoacrylateCwasCappliedConCtheCcornealC.stula,CwithCtheCpatientCbeingCinstructedtowearasoftcontactlensthereafter.Theanteriorchamberwasformedonthenextday.At12-monthspostoperative,thecorrectedvisualacuity(VA)hadimprovedto(0.8)C,withacornealthicknessof167Cμm.Case2involvedCaC19-year-oldCmaleCwithCaCpreviousChistoryCofCcornealCherpes,Cepiblepharon,CandCfrequentCcornealCulcer-ationCwhoCpresentedCwithCtheCcomplaintCofCpainCandClossCofCvisionCinCtheCrightCeyeCwithCdecreasedCcorrectedCVA(0.1)C.CUponCexamination,CaC0.5×0.5CmmCcornealCperforationCwasCobservedCinChisCrightCeye.CTheCanteriorCchamberCwasnotreformedviathewearingofasoftcontactlens,soweperformedcorneal.stulaclosurewithcyanoacrylateat5dayspostinitialpresentation.Theanteriorchamberdeepenedthenextday.At12-monthspostoperative,hisright-eyeVAimprovedto(0.5)C,withacornealthickness418Cμm.Inbothcases,thesurgicallyappliedcyanoacry-lateCdroppedCo.Cspontaneously,CandCtheCperforatedClesionsCbecameCepithelialized.CInCtheCpresentCcases,CtheCsizeCofCcornealperforationwassmallenoughtobeclosedaftercyanoacrylateapplicationandtoepithelializewithoutvas-cularinvasion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(12):1591.1595,C2019〕Keywords:角膜穿孔,生体接着剤,シアノアクリレート,細菌性角膜炎,前眼部OCT.cornealperforation,tis-sueadhesive,cyanoacrylate,bacterialkeratitis,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.C〔別刷請求先〕永田有司:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YujiNagata,MD.,Ph.D.,MiyataEyeHospital,Kurahara6-3,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(115)C1591はじめに角膜穿孔は失明や重篤な視力障害をきたす疾患であり,その原因として外傷や感染症,自己免疫性疾患などがあげられる1.3).角膜穿孔に対する治療法として,ソフトコンタクトレンズの装用や房水産生阻害薬などの内服といった保存的治療や4,5),角膜縫合・角膜移植・羊膜移植などの手術が行われている6.8).病態により穿孔創の大きさや部位,創周辺の組織の状態が異なり,保存的加療で治癒しない場合は手術が必要となる.液状の生体接着剤であるシアノアクリレートは,他科領域では皮膚の接着や消化管,血管の吻合に使用されている9.11)シアノアクリレートの主成分は,アクリル酸エステルとシアノ基からなるエチルC2-シアノアクリレートであり,シアノアクリレート単量体が空気中または被着体表面の水分と反応し重合することで硬化する.シアノアクリレートの治療成績について,眼科領域では海外において角膜穿孔に対する検討は行われているが12.14),国内での臨床使用についての報告は少ない15,16).今回,保存的加療で角膜穿孔が治癒しなかった症例に対し,シアノアクリレートを用いて角膜瘻孔閉鎖術を行い,奏効したC2例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕31歳,女性.主訴:右眼の流涙,眼脂.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C2月に右眼の流涙・眼脂を主訴に前医を受診した.抗菌点眼薬を処方されたが症状は改善せず,同年3月に宮田眼科病院を受診した.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼はC0.7(1.0×+0.5Dcyl.1.0D×180°)であった.前眼部所見では右眼に結膜充血,角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍および前房蓄膿を認め(図1a),前眼部光干渉断層撮影検査(anterioropticalcoher-encetomography:前眼部COCT)では角膜実質中層までの浸潤巣を認めた.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,塗抹擦過標本の検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陰性桿菌を認めたため,細菌性角膜炎と診断しガチフロキサシン点眼C2時間ごと,トブラマイシン点眼C6回,1%アトロピン硫酸塩水和物・トロピカミドフェニレフリン点眼C1回による治療を開始した.培養検査ではCMoraxellasp.が分離され,点眼を継続した.その後,角膜炎は改善したが潰瘍部が徐々に菲薄化し,第19病日に穿孔し前房が消失した(図1b).前眼部COCT検査で穿孔創の大きさはC1.2CmmC×0.9Cmmであった(図2a).穿孔創閉鎖目的で第C22病日より多血小板血漿点眼液C8回を追加し,第C24病日よりアセタゾラミドをC2日間内服したが創は閉鎖しなかった.このため第C25病日にシアノアクリレート(アロンアルファCACR,三共,1965年に生体組織への適応が承認)を用いた角膜瘻孔閉鎖術を行った.シアノアクリレートの使用方法として,穿孔創周囲に水分があると,接着剤が硬化してしまい操作が困難になるため,まずは創周囲の水分をスポンジで十分に吸収させた.穿孔創を覆うようにシアノアクリレートを塗布し,接着剤が流れない程度に適宜水分を追加した.シアノアクリレートの硬化を確認し,術後にソフトコンタクトレンズ(アキュビューオアシスCR,ジョンソンエンドジョンソン)を装用したところ,術翌日には前房が形成された.術後C7日目の時点では穿孔部にシアノアクリレートが付着していたが(図1c),その後自然に脱落し,術後35日目には穿孔部は上皮化(図1d),穿孔部の角膜厚はC77μm(図2b),矯正視力はC0.3となった.術後C1年目には角膜厚はC167Cμmまで増加し,矯正視力はC0.8まで改善した.結膜充血や角膜への血管侵入といったシアノアクリレートによると考えられる副作用はなかった.〔症例2〕19歳,男性.主訴:右眼痛.既往歴:両眼角膜ヘルペス.10歳時に外斜視に対し,また両眼瞼内反症に対してC10歳時とC16歳時に手術を行った.現病歴:2018年C1月に右眼の痛みと視力低下を自覚し宮田眼科病院を受診した.再診時所見:視力は右眼C0.1矯正不能,左眼C0.8(0.9C×cylC.2.0D×10°)であった.右眼には角膜傍中心部に穿孔を認め(図3a),前眼部COCT検査では前房が消失しており,穿孔創の大きさはC0.5CmmC×0.5Cmmであった(図4a).経過:塗抹擦過標本の検鏡と培養検査では細菌・真菌ともに陰性であり,眼瞼内反による遷延性角膜上皮欠損から角膜穿孔に至ったと診断した.入院したうえで,ソフトコンタクトレンズ装用下でガチフロキサシン点眼C4回,多血小板血漿点眼液C8回を開始したところ,前房は徐々に形成されたが穿孔創は閉鎖しなかった.このため,第C5病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行い,術後にソフトコンタクトレンズを装用した(図3b).術翌日には前房は深くなり,術後C7日目の時点では穿孔部にシアノアクリレートが付着していた(図3c).その後シアノアクリレートは自然に脱落し,術後C32日目には穿孔部は上皮化(図3d),穿孔部の角膜厚はC121Cμm(図4b),矯正視力はC0.6であった.術後C1年目には角膜厚はC418Cμmまで増加し,矯正視力はC0.5と術前より改善した.経過観察期間を通じ結膜充血や角膜への血管侵入を認めなかった.多血小板血漿点眼液の使用に関しては,宮田眼科病院での倫理委員会での承認を得たうえで,2例とも患者から文章による同意を取得した.d図1症例1の前眼部所見a:受診時の細隙灯顕微鏡所見.角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍を認める.Cb:第C19病日の前眼部写真.角膜中央が穿孔している.Cc:術後C7日目の細隙灯顕微鏡所見.穿孔部にシアノアクリレートが付着している.Cd:術後C35日目の細隙灯顕微鏡所見.シアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔創の上皮化を認める.図2症例1の前眼部OCT像a:穿孔時.前房は消失している.穿孔創の大きさはC1.2CmmC×0.9Cmmであった.Cb:術後C35日目.前房は形成され,穿孔部の角膜厚が術前より増加している.CII考按リレートを使用したC2例である.2例ともシアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔部は上皮化した.術前より穿孔部の角膜穿孔の保存的加療として,感染症以外ではソフトコン角膜厚は増加し,矯正視力は改善した.タクトレンズの装用が行われている4).また,前房水が穿孔角膜穿孔に対するシアノアクリレートの有効性に関して,創から持続的に漏出していると創が閉鎖しにくいため,アセSharmaらは穿孔創がC3Cmm以内のC22眼について検討してタゾラミドの内服により前房水の産生を抑制し,上皮化を促いる.穿孔創がC2Cmm以内のC19例では創部の閉鎖を認めたすことも有用と報告されている5).しかしこれらの治療で穿が,創部の大きさがC2.3CmmのC3例のうちC2例で再手術を孔創が閉鎖せず前房の確保が困難である場合は,外科的治療要したとしている17).また,Loya-GarciaらはC3Cmm以内のが必要となる.穿孔創に対してシアノアクリレートを使用した場合は有効で本検討は,角膜穿孔に対して生体接着剤であるシアノアクあったが,4Cmm以上の症例の一部では穿孔創が閉鎖せず,図3症例2の前眼部所見a:受診時の細隙灯顕微鏡所見.角膜傍中心部に穿孔創を認める.Cb:第C5病日の術中の前眼部写真.Cc:術後C7日目の細隙灯顕微鏡所見.穿孔部にシアノアクリレートが付着している.Cd:術後C32日目の細隙灯顕微鏡所見.シアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔創の上皮化を認める.Cab図4症例2の前眼部OCT像a:受診時.前房は消失している.穿孔創の大きさはC0.5CmmC×0.5Cmmであった.Cb:術後C32日目.前房は形成され,穿孔部の角膜厚が術前より増加している.シアノアクリレートの再使用や全層角膜移植による追加手術糊の組織学的な検討を行った結果,シアノアクリレートではを要したと報告している18).本検討では両症例とも穿孔創のゼラチン糊と比較したところ角膜混濁や血管侵入などの合併大きさは約C1Cmm程度であり,シアノアクリレートは小さい症が少なかったと,シアノアクリレートの有効性を指摘して穿孔創に対して有効である可能性がある.いる19).本症例では血管侵入・結膜充血などのシアノアクリ生体接着剤を使用した際の眼組織への合併症として,角膜レートによると考えられる副作用がなく,ヒト生体に対する混濁・角膜血管侵入・結膜充血などがある19).Sharmaらはシアノアクリレートによる角膜組織への障害性は少ない可能シアノアクリレートとフィブリン糊の角膜毒性を比較した結性がある.しかしながら,本検討はあくまで一施設における果,フィブリン糊でより角膜血管侵入・巨大乳頭結膜炎など2症例での検討であり,シアノアクリレートの角膜穿孔に対の合併症が少なかったと報告している17).一方,大沼らは家する有効性や毒性に関して,今後さらなる症例の蓄積が望ま兎の角膜穿孔モデルにおいてシアノアクリレートとゼラチンれる.III結語今回,保存的加療で穿孔が治癒しなかった角膜穿孔に対して,シアノアクリレートを用いて角膜瘻孔閉鎖術を行ったC2例を経験した.小さな角膜穿孔創に対するシアノアクリレートを用いた瘻孔閉鎖術は角膜穿孔創の治療に有効であると考えられる.文献1)HussinCHM,CBiswasCS,CMajidCMCetal:ACnovelCtechniqueCtoCtreatCtraumaticCcornealCperforationCinCaCcaseCofCpre-sumedbrittlecorneasyndrome.BrJOphthalmolC91:399,C20072)TiCSE,CScottCJA,CJanardhananCPCetal:TherapeuticCkera-toplastyCforCadvancedCsuppurativeCkeratitis.CAmCJCOph-thalmolC143:755-762,C20073)奥村峻大,福岡秀記,高原彩加ほか:分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔のC1例.あたらしい眼科C36:282-285,C20194)Borucho.SA,DonshikPC:Medicalandsurgicalmanage-mentCofCcornealCthinningsCandCperforations.CIntCOphthal-molClinC15:111-123,C19755)JhanjiV,YoungAL,MehtaJSetal:Managementofcor-nealperforations.SurvOphthalmolC56:522-538,C20116)YokogawaCH,CKobayashiCA,CYamazakiCNCetal:SurgicalCtherapiesCforCcornealCperforations.C10CyearsCofCcasesCinCaCtertiaryCreferralChospital.CClinCOphthalmolC8:2165-2170,C20147)川村裕子,吉田絢子,白川理香ほか:周辺部角膜穿孔に対する治療的表層角膜移植術の術後経過.日眼会誌C123:143-149,C20198)SavinoCG,CColucciCD,CGiannicoCMICetal:AmnioticCmem-branetransplantationassociatedwithacornealpatchinapaediatricCcornealCperforation.CActaCOphthalmolC88:15-16,C20109)佐藤俊,森公一:当院における人工関節置換術創閉鎖の縫合とダーマボンドの比較と評価.中部日本整形外科災害外科学会雑誌C60:869-870,C201710)野口達矢,白井保之,木下善博ほか:胃静脈瘤内視鏡的治療後のCNBCA(n-butyl-2-cianoacrylate)排出時期の検討.日本門脈圧亢進症学会雑誌C24:57-61,C201811)杉盛夏樹,宮山士朗,山城正司ほか:著名なCAVシャントを伴った腎血管筋脂肪種に対してCNBCAおよびエタノールで塞栓術を施行したC1例.InterventionalCRadiologyC33:322,C201812)GuhanCS,CPengCSL,CJanbatianCHCetal:SurgicalCadhesivesCinophthalmology:historyCandCcurrentCtrends.CBrCJCOph-thalmolC102:1328-1335,C201813)VoteBJ,ElderMJ.:Cyanoacrylateglueforcornealperfo-rations:adescriptionofasurgicaltechniqueandareviewoftheliterature.ClinExpOphthalmolC28:437-443,C200014)LaiI,ShivanagariSB,AliMHetal:E.cacyofconjuncti-valCresectionCwithCcyanoacrylateCglueCapplicationCinCpre-ventingCrecurrencesCofCMooren’sCulcer.CBrCJCOphthalmolC100:971-975,C201615)柚木達也,早坂征次,長木康典ほか:N-butyl-cianoacry-lateと保存強膜を用いて角膜移植を行った角膜穿孔のC1例.眼臨97:319,C200316)三戸岡克哉,佐野雄太,北原健二:Terrien周辺角膜変性の穿孔部閉鎖にシアノアクリレートが有効であったC1例.眼科41:1707-1710,C200317)SharmaCA,CKaurCR,CKumarCSCetal:FibrinCglueCversusCN-butyl-2-cyanoacrylateincornealperforations.Ophthal-mologyC110:291-298,C200318)Loya-GarciaCD,CSerna-OjedaCJC,CPedro-AguilarCLCetal:CNon-traumaticCcornealperforations:aetiology,CtreatmentCandoutcomes.BrJOphthalmolC101:634-639,C201719)大沼恵理,向井公一郎,寺田理ほか:各種生体接着剤の角膜裂傷への応用.日眼会誌C116:467-475,C2012***

LASIK術後12年7日後に外傷を契機に発症した遅発性Diffuse Lamellar Keratitisの1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1584.1590,2019cLASIK術後12年7日後に外傷を契機に発症した遅発性Di.useLamellarKeratitisの1例都筑賢太郎*1輿水純子*1大越貴志子*1山口達夫*2,1,3*1聖路加国際病院眼科*2新橋眼科*3石田眼科CACaseofLate-onsetDi.useLamellarKeratitisCausedbyTrauma12YearsafterLASIKKentaroTsuzuki1),JunkoKoshimizu1),KishikoOhkoshi1)andTatsuoYamaguchi2,1,3)1)DepartmentofOphthalmology,StLuke’sInternationalHospital,2)ShinbashiEyeClinic,3)IshidaEyeClinicC目的:今回筆者らは,laserinCsitukeratomileusis(LASIK)を施行されてC12年C7日後に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機にCdi.uselamellarkeratitis(DLK)を発症した症例を経験したので報告する.症例:32歳,男性.2001年C10月C29日当院にて左眼にCLASIKを施行した.2013年C11月C5日,着替えの際に左手が左眼にぶつかった.霧視と違和感を自覚し近医を受診し,症状が改善しないためC2013年C11月C11日に当院紹介となった.前医の治療の結果,角膜上皮欠損はすでに治癒していたが,左眼中央部の角膜上皮下の混濁のほかに,創間(フラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.DLKと診断し,治療を開始した.治療開始後,約C1週間後に層間の浸潤は消失したが,角膜上皮下の浸潤の消失にはC6週間を要した.混濁の発症は認められなかった.結論:今回,LASIK施行後C12年C7日目に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機に遅発性のCDLKを発症したC1例を経験した.DLKの過去の報告を検索すると,現在までのところ術後最長の期間での発症例である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofClate-onsetCdi.useClamellarkeratitis(DLK)thatCdevelopedCdueCtoCtraumaCthatCoccurredC12CyearsCandC7CdaysCafterClaser-assistedCinCsitukeratomileusis(LASIK).CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC32-year-oldmalewhohadpreviouslyundergoneLASIKsurgeryatourhospitalonOctober29,2001.OnNovem-ber5,2013,hevisitedalocalclinicafterbecomingawareofhazinessanddiscomfortinhislefteyeduetoitbeinghitwithhislefthandwhilechangingclothes.OnNovember11,2013,hewasreferredtoourhospitalbecausethesymptomshadnotimproved.Asaresultofthetreatmentbythepreviousdoctor,anepithelialdefecthadalreadybeencured,yetinadditiontotheopaci.cationofthesubepithelialregioninthecentralpartofthelefteye,di.usein.ltrationwasobservedinawideareacenteredontheinterlayer(.apandbedboundary).Thepatientwasdiag-nosedCwithCDLK,CandCweCstartedCtreatmentCwithCsteroidCeyeCdropsCandCoralCantibioticCadministration.CAtCappoxi-mately1weekpostinitiationoftreatment,thein.ltratesbetweenthewoundsdisappeared,visualacuityrecovered,andtherewasnoscarring,yetittook6weeksfortheeliminationofthesubepithelialinvasion.Conclusions:Weexperiencedacaseofepithelialdefectcausedbytrauma12yearsand7daysafterLASIKthatresultedindelayedDLK,andtothebestofourknowledge,theDLKinthiscaseoccurredatthelongestreportedperiodpostLASIKtodate,thusillustratingthatlong-termfollow-upisbene.cial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1584.1590,C2019〕Keywords:LASIK,DLK,遅発性,角膜上皮欠損,術後合併症.laserinsitukeratomileusis(LASIK),di.usela-mellarkeratitis(DLK),late-onset,cornealepithelialdefect,postoperativecomplication.Cはじめに製したあとにエキシマレーザーを照射し,術後の痛みがほとCLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)はC1990年にCPal-んどなく視力の回復が得られる屈折矯正手術である.likarisによって開発された術式で,角膜表層にフラップを作当初はマイクロケラトームで角膜の表層切除を行っていた〔別刷請求先〕都筑賢太郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:KentaroTsuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StLuke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC1584(108)表1既報におけるLASIKからDLKの発症までの期間報告者報告年DLK発症までの期間原因本症例C201712年Epdefect(外傷)CKamiyaetal3)C201212年CUnclearCIovienoetal4)C20118年CUnclearCCoxetal5)C20085年Pseudomonas(感染)CJinetal6)C20053年CUnclearCSymesetal7)C20073年Gonococcus(感染)CDiaz-Valleetal8)C20093年CAnkylosingspondylitisCGrisetal9)C20042年Viralinfection(感染)CMoilanenetal10)C200419カ月Epdefect(自然発生)CJengetal11)C200416カ月CRecurrenterosionCAldaveetal12)C200214カ月フラップ偏位(外傷)CKymionisetal13)C20071年CUnclearCHawetal14)C20001年CEpdefectCKocaketal15)C200611カ月テッポウウリの種の汁CKeszeietal16)C200110カ月CUnclearCProbstetal17)C20017カ月CUnclearCWeisenthal18)C20006カ月Epdefect(外傷)CChungetal19)C20026カ月CUnclearCBeldaetal20)C20036カ月CUnclearCHarrisonetal21)C20013カ月CRecurrenterosionCChang-Godinichetal22)C20013カ月CUnclearCAmanoetal23)C20033カ月CUnclearCRanaetal24)C20153カ月CUnclearCWilsonetal25)C20023カ月Epdefect(?)CYeohetal26)C20012.5カ月Epdefect(?)CYavitz27)C20012カ月Epdefect(外傷)CLeuetal28)C20022カ月CUnclearCSachdevetal29)C20021.5カ月Epdefect(?)CBuxey30)C200425日CEnhancementCSchwartzetal31)C200021日フラップ偏位(外傷)が,2002年にフェムトセカンドレーザーが開発され,より正確で安全なフラップの作製が可能となり良い結果が得られている.しかしながら術後の合併症も報告されており1),フラップ下の異物,フラップの皺,di.uselamellarkeratitis(DLK),フラップ下上皮細胞増殖,角膜エクタジア,屈折効果の戻りなどがある.DLKはCLASIK術後の合併症の一つであり,通常は術翌日よりC1週間以内に起こることが多く,種々の原因による炎症性の反応と位置づけされている(表1).今回筆者らは,LASIKを施行されてC12年C7日後に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機にCDLKを発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:32歳,男性.主訴:左眼の視力低下.現病歴:2001年C10月C29日,聖路加国際病院(以下,当院)にて左眼CLASIKを施行した.ニデック製マイクロケラトーム(MK-2000)でフラップを作ったあと,VISX社製エ図1初診時左眼角膜中央部に上皮下の混濁(太い矢印)と創間(フラップとベッドの境界)を中心に(細い矢印)広い部位にびまん性の浸潤を認めた.下段細隙灯の所見を模式図で示す.キシマレーザー装置(VISXCSTARS2)でレーザー照射をし,フラップを戻したあとジョンソン・エンド・ジョンソンのC1週間連続装用タイプのソフトコンタクトレンズを装用させた.術後C0.1%フルオロメソロンとC0.5%レボフロキサシン点眼C1日C5回をC1週間処方した.ソフトコンタクトレンズは術後C3日間装用させた.2001年C11月C26日,右眼にCLASIKを左眼と同様に施行し,その後C2003年C9月C16日まで定期的に両眼の経過観察を行っていたがCDLKは認められなかった.2013年C11月C5日,着替えの際に左手が左眼にぶつかり,その後,霧視と違和感を自覚した.近医を受診し,角膜上皮欠損と診断されヒアルロン酸ナトリウムとレボフロキサシン点眼を処方され,6日間経過観察を受けたが,症状が改善しないためC2013年C11月C11日当院紹介となった.所見:視力は,右眼C1.0(1.2C×sph.0.5),左眼C0.2(0.7C×sph.2.75Ccyl.1.00Ax180°).左眼中央部に角膜上皮下の混濁とは別に層間(フラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.角膜上皮に欠損は認められなかった(図1).経過:感染症の可能性は低いこと,また角膜上皮下の浸潤とは別に層間に浸潤を認めたことよりCDLKと診断し,レボフロキサシン点眼とベタメタゾン酸エステルナトリウム点眼をC1日C5回とプレドニゾロンC10Cmgの内服を開始した.2013年C11月C18日,層間の浸潤はほぼ消失し,角膜上皮下の浸潤も減少を認めたが,点眼と内服を継続した(図2).2013年C12月C2日,視力は,左眼C0.7(0.8C×sph.0.25CcylC.1.00Ax180°).徐々に角膜上皮下の浸潤の減少を認めたため,治療開始C3週間後より点眼薬は継続したままプレドニゾロンをC5Cmgへ減量した(図3).2013年C12月C9日,角膜上皮下の浸潤は徐々に減少したためプレドニン内服を中止した.2013年C12月C26日,角膜上皮下の浸潤は完全に消失しており,混濁の発症は認められなかった(図4).裸眼視力,矯正視力ともに回復し,左眼視力は,1.0(1.0C×sph.0.25)となり点眼も中止とした.その後,患者が来院していないため再発の有無は不明である.CII考按LASIKは屈折矯正手術の一つとして広く施行されているが,さまざまな術後合併症も報告されている.今回筆者らは,LASIK術後C12年C7日後に外傷を契機に発症したと思われる遅発性のCDLKの症例を経験した.DLKはCLASIK後の合併症の一つであり,フラップの深部に細胞浸潤による淡い混濁を認める.通常は術翌日よりC1週間以内に起こることが多いが,遅発性に発症した症例も報図2治療開始1週間後角膜上皮下(太い矢印)の浸潤は減少し,創間(細い矢印)の浸潤は消失した.図3治療開始3週間後角膜中央部(太い矢印)の浸潤はさらに減少し,創間(細い矢印)の浸潤は認められない.告されている.発症頻度はC0.2.0.5%である2).本症例は術後C12年C7日後に発症しており既報と比較し,最長の期間であった(表1).Kamiyaら3)はC12年後の発症報告をしているが期間や原因の詳細は不明である.DLKの原因として,以下のように報告されている.マイクロケラトームのCdebrisやオイル,surgicalCspongeやCgloveのCtalc,眼の消毒薬のポビドンヨード,マーカーペン,手術器具の汚染や洗剤,術中のCdryingによる角膜上皮欠損,エキシマレーザーによる熱障害,フラップ下の血液など,術中の出来事が原因であるとの報告もある.その他,眼瞼の炎症,マイボーム腺機能不全,アトピーや強直性脊椎炎などの全身疾患をもつ患者,細菌の毒素,ウイルス感染,外傷を含めた角膜上皮欠損,などが報告されている.原因としていろいろなものがあげられているが,症例によってはこれらの原因が複合して発症したものもあると考えられる(表2).既報告では発症の原因が不明の症例も多いが,原因が判明している症例のなかでは角膜上皮欠損はおもな原因の一つである.今回,本症例をCDLKと診断した根拠としては,①初診時にフラップ中央部の実質前層の浸潤とは別に,層間(フ図4治療開始6週間後角膜中央部の上皮下の浸潤も消失した.ラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.②ステロイドを用いた治療の結果,層間の浸潤は早期に消失し混濁の発症は認められなかった.③角膜上皮欠損が原因となったCDLKの報告はまれではない,があげられる.角膜上皮欠損を伴うCDLKに関し,現在までにC16編の報告があり,角膜上皮欠損の原因に関しては外傷も含めると種々報告されているが,LASIK術後からCDLKの発症までの期間は術翌日からC8年と症例により幅がある(表3).表2既報におけるDLKの原因眼の消毒薬(ポビドンヨード)マーカーペンMicrokeratome(debris,oil)手術器具の汚染手術器具の洗剤CSurgicalspongeSurgicalgloveのCtalc術中点眼薬レーザーによる熱傷障害上皮欠損(術中,再発上皮欠損,ドライアイ,外傷)マイボーム腺分泌物フラップ下の血液眼瞼(慢性炎症,広眼瞼裂)マイボーム腺機能不全アトピーCAnkylosingspondylitis角膜内皮細胞の少ない症例CCogansyndrome細菌のCendotoxin(緑膿菌,淋菌)ウイルス感染植物の種の汁(テッポウウリ)上記原因の複合角膜上皮細胞の欠損が起因となってCDLKがどのように発症するかの機序は不明であるが,Wilsonら25)は,角膜上皮細胞の損傷と炎症のメカニズムに関し図5のように報告している.LASIK後においても外傷を契機に角膜上皮細胞の損傷が起こり,その後サイトカインが分泌され,それにより角膜実質前層のCkeratocyteのアポトーシスが誘導され,創傷治癒のCcascadeの活性化が起こり,炎症の発症,増悪が起きDLKが発症すると考えられる.今回の症例もこのような機序で炎症が生じたものと思われる.ステロイドを投与し層間の浸潤は約C1週間で消失したが,フラップ中央部の角膜上皮下の炎症が長期に続いた理由は不明である.角膜上皮細胞の損傷.サイトカインの分泌.実質前層のkeratocyteのアポトーシスを誘導.創傷治癒のcascadeの活性化.炎症の発症,増悪図5角膜上皮細胞の損傷による炎症の発症の機序表3既報における角膜上皮欠損を伴うDLK(LASIKからDLKの発症までの期間と上皮欠損の原因)著者報告年症例数DLK発症までの期間上皮欠損の原因CShahetal32)C2000C9C?CrecurrenterosionCHawetal14)C2000C62.1C2カ月trauma:1recurrenterosionCWeisenthal18)C2000C16カ月CtraumaCYawitz27)C2001C12カ月CtraumaCHarrisonetal21)C2001C13カ月CrecurrenterosionCYeohetal26)C2001C23日C/2.5カ月Cope/unclearCSachdevetal29)C2002C16週CopeCWilsonetal25)C2002C121日.3カ月Cope/unclearCTekwanietal33)C2002C24CnotmentionedCnotmentionedCMulhernetal34)C2002C?3カ月<CunclearCAsano-Katoetal35)C2003C68C?CopeCJengetal11)C2004C32.5.C10.5カ月CrecurrenterosionCMoilanen10)C2004C519カ月Cope/unclearCSymes7)C2007C13年CgonococcalinfectionCCox5)C2008C15年CpseudomonasinfectionCIovienoetal4)C2011C18年Cunclear治療に関しては,感染症が除外されればステロイド点眼で治療し,効果が不十分であればステロイドの内服を用いたほうがよいと考える.いずれにしても,LASIK術後C12年以上経ってもCDLKが起こる可能性があることを念頭に,患者への啓発が必要と考える.CIII結論今回,LASIK施行後C12年C7日目に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機に遅発性CDLKを発症したC1例を経験した.ステロイド点眼では層間の浸潤は約C1週間で消失したが,角膜上皮下の浸潤は完治せず,ステロイドの内服を中心とした加療で角膜上皮下の浸潤は徐々に減少し,治癒にC6週間を要した.混濁は残さず視力は回復した.今回の症例も含め,術後長期にわたってCDLKが出現することより長期の経過観察と患者への啓発が必要であると考える.本症例は第C41回角膜カンファランス(2017年)で報告した.文献1)水流忠彦,増田寛次郎:THECLASIK最新屈折矯正手術の実際.ライフ・サイエンス,20092)Gil-CazorlaCR,CTeusCMA,CdeCBenito-LlopisCLCetal:Inci-denceCofCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCker-atomileusisCassociatedCwithCtheCIntraLaseC15CkHzCfemto-secondClaserCandCMoriaCM2Cmicrokeratome.CJCCataractCRefractSurgC34:28-31,C20083)KamiyaK,IkedaT,AizawaDetal:Acaseoflate-onsetdi.useClamellarCkeratitisC12CyearsCafterClaserCinCsituCker-atomileusis.JpnJOphthalmolC54:163-164,C20104)IovienoA,AmiranMD,LegareMEetal:Di.uselamellarkeratitis8yearsafterLASIKcausedbycornealepithelialdefect.JCataractRefractSurgC37:418-419,C20115)CoxCSG,CStoneDU:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithpseudomonasaeruginosainfection.JCataractRefractSurgC34:337,C20086)JinCGJ,CLyleCWA,CMerkleyKH:Late-onsetCidiopathicCdif-fuseClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCataractRefractSurgC31:435-437,C20057)SymesCRJ,CCattCCJ,CMalesJJ:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCgonococcalCkeratoconjunctivitisC3CyearsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC33:323-325,C20078)Diaz-ValleCD,CArriola-VillalobosCP,CSanchezCJMCetal:CLate-onsetCsevereCdi.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCuveitisCafterCLASIKCinCaCpatientCwithCankylosingCspondylitis.JRefractSurgC25:623-625,C20099)GrisCO,CGuellCJL,CWolley-DodCCCetal:Di.useClamellarCkeratitisCandCcornealCedemaCassociatedCwithCviralCkerato-conjunctivitisC2CyearsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCataractRefractSurgC30:1366-1370,C200410)MoilanenJA,HolopainenJM,HelintoMetal:KeratocyteactivationCandCin.ammationCinCdi.useClamellarCkeratitisCafterCformationCofCanCepithelialCdefect.CJCCataractCRefractCSurgC30:341-349,C200411)JengBH,StewartJM,McLeodSDetal:Relapsingdi.uselamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusisCassoci-atedCwithCrecurrentCerosionCsyndrome.CArchCOphthalmolC122:396-398,C200412)AldaveCAJ,CHollanderCDA,CAbbottRL:Late-onsetCtrau-maticC.apCdislocationCandCdi.useClamellarCin.ammationCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CCorneaC21:604-607,C200213)KymionisGD,DiakonisVF,BouzoukisDIetal:IdiopathicrecurrenceCofCdi.useClamellarCkeratitisCafterCLASIK.CJRefractSurgC23:720-721,C200714)HawWW,MancheEE:Lateonsetdi.uselamellarkerati-tisassociatedwithanepithelialdefectinsixeyes.JRefractSurgC16:744-748,C200015)KocakI,KarabelaY,KaramanMetal:Lateonsetdi.uselamellarkeratitisasaresultofthetoxice.ectofEcballi-umelateriumherb.JRefractSurgC22:826-827,C200616)KeszeiVA:Di.uselamellarkeratitisassociatedwithiritis10CmonthsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractSurgC27:1126-1127,C200117)ProbstCLE,CFoleyL:Late-onsetCinterfaceCkeratitisCafterCuneventfulClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC27:1124-1125,C200118)WeisenthalRW:Di.useClamellarCkeratitisCinducedCbyCtrauma6monthsafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurgC16:749-751,C200019)ChungMS,PeposeJS,El-AghaMSetal:ConfocalmicroC-scopic.ndingsinacaseofdelayed-onsetbilateraldi.uselamellarkeratitisafterlaserinsitukeratomileusis.JCata-ractRefractSurgC28:1467-1470,C200220)BeldaCJI,CArtolaCA,CAlioJ:Di.useClamellarCkeratitisC6CmonthsCafterCuneventfulClaserCinCsituCkeratomileusis.CJRefractSurgC19:70-71,C200321)HarrisonDA,PerimanLM:Di.uselamellarkeratitisasso-ciatedCwithCrecurrentCcornealCerosionsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.JRefractSurgC17:463-465,C200122)Chang-GodinichA,SteinertRF,WuHK:Lateoccurrenceofdi.uselamellarkeratitisafterlaserinsitukeratomileu-sis.ArchOphthalmolC119:1074-1076,C200123)AmanoCR,COhnoCK,CShimizuCKCetal:Late-onsetCdi.useClamellarkeratitis.JpnJOphthalmolC47:463-468,C200324)RanaM,AdhanaP,IlangoB:Di.uselamellarkeratitis:CConfocalCmicroscopyCfeaturesCofCdelayed-onsetCdisease.CEyeContactLensC41:20-23,C201525)WilsonSE,AmbrosioRJr:Sporadicdi.uselamellarkera-titis(DLK)afterLASIK.CorneaC21:560-563,C200226)YeohCJ,CMoshegovCN:DelayedCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CClinCExpCOphthalmolC29:435-437,C200127)YavitzEQ:Di.useClamellarCkeratitisCcausedCbyCmechani-caldisruptionofepithelium60daysafterLASIK.JRefractSurgC17:621,C200128)LeuCG,CHershPS:PhototherapeuticCkeratectomyCforCtheCtreatmentCofCdi.useClamellarCkeratitis.CJCCataractCRefractCSurgC28:1471-1474,C200229)SachdevN,McGheeCN,CraigJPetal:Epithelialdefect,di.uselamellarkeratitis,andepithelialingrowthfollowingpost-LASIKCepithelialCtoxicity.CJCCataractCRefractCSurgC28:1463-1466,C200230)BuxeyK:DelayedConsetCdi.useClamellarCkeratitisCfollow-ingCenhancementCLASIKCsurgery.CClinCExpCOptomC87:C102-106,C200431)SchwartzCGS,CParkCDH,CSchlo.CSCetal:TraumaticC.apCdisplacementCandCsubsequentCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC27:781-783,C200132)ShahCMN,CMisraCM,CWihelmusCKRCetal:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCepithelialCdefectsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC26:1312-1318,C200033)TekwaniCNH,CHuangD:RiskCfactorsCforCintraoperativeCepithelialdefectinlaserin-situkeratomileusis.AmJOph-thalmolC134:311-316,C200234)MulhernMG,NaorJ,RootmanDS:TheroleofepithelialdefectsCinCintralamellarCin.ammationCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CanJOphthalmolC37:409-415,C200235)Asano-KatoN,TodaI,TsuruyaTetal:Di.uselamellarkeratitisCandC.apCmarginCepithelialChealingCafterClaserCinCsitukeratomileusis.RefractSurgC19:30-33,C2003***

白内障術後に遅発性Descemet膜剝離を生じたSchnyder角膜ジストロフィの1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1579.1583,2019c白内障術後に遅発性Descemet膜.離を生じたSchnyder角膜ジストロフィの1例勝部志郎*1,2安田明弘*1舟木俊成*3大越貴志子*1門之園一明*2*1聖路加国際病院眼科*2横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科*3順天堂大学医学部附属病院眼科CSpontaneousDetachmentoftheDescemetMembraneafterPhototherapeuticKeratectomyandCataractSurgeryinanElderlyPatientwithSchnyderCrystallineCornealDystrophyShiroKatsube1,2)C,AkihiroYasuda1),ToshinariFunaki3),KishikoOhkoshi1)andKazuakiKadonosono2)1)DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,3)DepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityHospitalCレーザー治療的角膜切除術(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)と白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じステロイド点眼で治癒したCSchnyder角膜ジストロフィのC1例を報告する.症例はC80歳,男性.前医にて両眼角膜混濁と白内障の診断で,白内障手術前処置としてのCPTK目的に聖路加国際病院(以下,当院)を紹介受診.両眼CPTKを施行後C3カ月に前医にて右眼白内障手術を施行されたが,1カ月を経ても角膜実質浮腫が改善せず,ステロイド点眼で術後C3カ月に浮腫は消失した.その後当院にて左眼白内障手術を施行し順調な経過だったが,3週後に突如CDes-cemet膜.離を伴う角膜実質浮腫を生じた.前房空気タンポナーデは効果なく,ステロイド点眼で発症C12日後にCDes-cemet膜は接着し,角膜浮腫が消失した.遺伝子検査でCUBIAD1遺伝子CP128L変異を認めた.臨床経過より,Schny-der角膜ジストロフィはCDescemet膜と内皮細胞にも脂肪が沈着しており,Descemet膜の接着が脆弱なため術後炎症による内皮機能低下からCDescemet膜.離を生じる病態があるのではないかと考按した.CAn80-year-oldmalewithbilateraldensecornealopacitiesatthestromalsurfacewasclinicallydiagnosedasSchnydercrystallinecornealdystrophy(SCCD)C,andsubsequentlyunderwentphototherapeutickeratectomy(PTK)ConCbothCeyes,CfollowedCbyCcataractCsurgeries.CAfterCcataractCsurgery,CcornealCstromalCedemaCwasCobservedCinCtheCpatient’sCrightCeye,CyetCdisappearedCbyC3-monthsCpostoperativeCviaCtreatmentCwithCtopicalCdexamethasone.CThreeCweeksaftercataractsurgeryonhislefteye,spontaneousdetachmentoftheDescemetmembrane(DM)andcorne-alstromaledemaoccurred.AnteriorsegmentopticalcoherencetomographydetectedahigherdensityC.uidundertheCDM.CAirCtamponadeCinCtheCanteriorCchamberCwasCine.ective,Chowever,CtopicalCdexamethasoneCadministrationCledCtoCtheCcorneaCbeingCcompletelyCcured.CGenotypicCanalysisCdetectedCaCmutationCofCtheCUBIAD1gene(P128L)C,andthepatientwasgeneticallydiagnosedasSCCD.Inthisrareclinicalcourse,SCCDcausedspontaneousdetach-mentoftheDMafterPTKandcataractsurgery.Inthispresentcase,wetheorizethatpathologiesofthecorneaandpostoperativein.ammationcausedadysfunctionofthecornealendotheliumthatledtotheDMbeingsponta-neouslydetached.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(12):1579.1583,C2019〕Keywords:Schnyder角膜ジストロフィ,角膜変性症,治療的角膜切除術,Descemet膜.離,白内障手術.Schny-derCcornealdystrophy,cornealendothelium,phototherapeutickeratectomy,Descemetmembrane,cataractsurgery.Cはじめに幼少時に発症し緩徐に進行するとされ,壮年になり両眼の角Schnyder角膜ジストロフィは常染色体優性遺伝で両眼の膜中央部に円盤状またはリング状の混濁を呈し,進行すると角膜実質に脂質沈着による混濁を生じるまれな疾患である1,2).角膜全体が混濁する.混濁部に針状結晶を生じ,角膜周辺部〔別刷請求先〕勝部志郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:ShiroKatsube,DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC右眼右眼右眼左眼図1初診時所見上段:細隙灯顕微鏡所見では,両眼ともにCBowman層.角膜実質浅層にびまん性混濁と微小びらんの既往を疑う上皮下瘢痕,老人環様の周辺部混濁を認めた.虹彩異常なし.白内障(Emery-Littele分類C2度)を認める.下段:前眼部COCTでは実質全層に淡く高輝度であり,とくにCBowman層に強い高輝度層を認めた.に老人環様の混濁を認めることがある.全身合併症として高脂血症,脊椎・手指奇形,外反膝などが知られている.遺伝子検査ではCUBIAD1遺伝子の変異が報告されている4,5).今回,治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutickera-tectomy:PTK)と白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じ,ステロイド点眼により治癒したCSchnyder角膜ジストロフィのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,男性.初診時主訴(2014年C8月):まぶしい,見えにくい.現病歴:60歳頃より家族が角膜混濁に気づいていたが,5年前から通院していた近医より,白内障手術目的に前医を紹介されたところ角膜混濁を指摘され,白内障手術の前処置としてのCPTK目的に聖路加国際病院(以下,当院)を紹介受診となった.既往歴:74歳糖尿病(HbA1c7.4%),75歳胆.手術後の腸閉塞,脂質異常症なし.家族歴:父が徴兵検査で視力不良で不合格.同胞,子は異常なし.初診時所見:遠方視力:VD=0.1(0.3C×sph+2.00(cyl.4.00DAx70°)VS=0.3(0.8C×sph+0.75(cyl.2.00DAx90°)眼圧:右眼C11CmmHg,左眼C11CmmHg.細隙灯顕微鏡所見:角膜CBowman層.実質浅層全体にCcombpatternの密な混濁のため実質深層の混濁の状態は視認が困難だった.角膜上皮の微小びらんの既往を疑う瘢痕と老人環様の周辺部混濁を認めた.前房と虹彩に異常なし.水晶体は白内障CEmery-Little分類C2度(図1)を認め,眼底は透見困難だった.II治.療.経.過1.PTKSchnyder角膜ジストロフィまたはCReis-Bucklers角膜ジストロフィを疑い,当院にてC2014年C8月に右眼CPTK(切除深度C109Cμm/含上皮),2014年C10月に左眼CPTK(切除深度68Cμm/含上皮)を施行した.PTKによりCBowman層.実質浅層の混濁は除去され視力は改善し,実質深層に至る淡い実質混濁が確認された(図2).その後,白内障手術までのCPTK術後最高視力は,VD=0.3(0.4C×S+0.75C.5.00Ax95°),VS=0.6(0.9C×S+3.50CC.2.00Ax80°)に改善した.C2.右眼白内障手術と右眼の経過PTK術後C3カ月で,前医にて右眼白内障手術が施行された.術後C1カ月を経ても角膜実質浮腫が遷延しているとのことで,精査加療目的に再び当院を紹介受診となった.受診時視力はCVD=0.02(n.c.)で,術後炎症による角膜内皮機能不全による角膜実質浮腫を考え,デキサメタゾン点眼C1日C4回を開始,治療開始C4週後には角膜浮腫は消失し,デキサメタゾン点眼を中止した(図3).視力はCFRV=0.09(0.3C×S.2.00)に回復し,さらにC6カ月後にはCVD=0.2(0.7C×S+0.50C.2.0Ax85°)に改善した.C3.左眼黄斑牽引症候群PTK術後C1年C5カ月(2016年C5月)に左眼黄斑牽引症候群を発症し視力はCVS=0.1(0.4pC×S+2.50C.2.50Ax90°)に低下したが,1カ月後には後部硝子体.離により自然治癒した(図4).しかしながら視力はCVS=0.2(0.4C×S+2.0C.2.50Ax90°)に低下したままだった.C4.左眼白内障手術PTK術後C1年C9カ月(2016年C7月)に,当院にて左眼白右眼左眼図2PTK術後所見PTKによりCBowman層.実質浅層の混濁は除去され視力は改善したが,実質全体の淡い混濁も確認された.発症時白内障術後1カ月白内障術後2カ月図3右眼白内障術後前医での術後C1カ月を経ても実質浮腫が遷延していたため,再び当院を紹介受診.デキサメタゾン点眼C1日C4回を開始し,術後C2カ月で実質浮腫は消失した.自然治癒時図4左眼黄斑牽引症候群の経過左:PTK術後C1年C5カ月で左眼に黄斑牽引症候群を発症した.発症時に,中心窩が後部硝子体膜により牽引され,中心窩.離と.胞様所見を認めた.右:1カ月後の時点では中心窩の牽引がとれ,黄斑形態が改善していた.内障手術が施行された.術前の角膜内皮細胞密度はC2,681個C/mm2で,術式は点眼麻酔下耳側角膜切開にて超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術で,合併症なく終了した.術後経過も順調で,術後C11日目の視力はCVS=0.1(0.3C×S.3.00CC.2.00Ax90°)であったが,術後C3週目に突然CDescemet膜.離と角膜実質浮腫を認め(図5),前眼部光干渉断層計(OCT)(CASIA,トーメーコーポレーション)で耳側角膜切開の創口に連続しないCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下の貯留液は高輝度を呈していた.左眼視力はC0.03(n.c.)に低下していた.30ゲージ針で角膜上皮側から穿刺し,Descemet膜下貯留液の排液を試みたが微量しか排液できなかった.なお,Descemet膜下貯留液の内容については詳細な検査を行っていない.前房内に空気を注入し空気タンポナーデ(仰臥位)を施行したが著効なく,翌日以降もCDes-cemet膜.離は残存していた.ベタメタゾン点眼C1日C4回で経過をみていたところ,12日後にCDescemet膜は接着し角膜浮腫は消失した(図6).最終診察時(2018年C8月),両眼ともに角膜浮腫を認めず,視力はCVD=0.4(0.6pC×S+1.50C.2.50Ax83°),VS=0.3(0.6C×S.1.25C.2.50Ax85°)で,自覚的にも安定している.C5.遺伝子検査まれな経過であったため,順天堂大学医学部眼科に遺伝子検査を依頼した結果,UBIAD1遺伝子CP128L変異を認め,図5Descemet膜.離と角膜浮腫出現時の細隙灯顕微鏡所見左白内障術後C3週目に突然CDescemet膜.離と角膜実質浮腫を認めた.Schnyder角膜ジストロフィの確定診断を得た.CIII考按Schnyder角膜ジストロフィは角膜の脂質沈着による角膜実質混濁を生じる比較的まれな疾患である.1924年にCvanWentとCWibautら1)が,続いてC1929年にCSchnyder2)が臨床所見を詳細に報告した.角膜混濁のタイプは円盤状.びまん性,結晶の沈着の有無などバリエーションが多い.本症例には結晶の沈着はなく,Bowman層に強い混濁を認めたことから当初CReis-Bucklers角膜ジストロフィも鑑別にCPTKを施行したが,PTK術後の臨床像がCSchnyder角膜ジストロフィに一致していたことや,遺伝子検査からCSchnyder角abcd図6前眼部OCTでの左眼Descemet膜.離と角膜浮腫の治療経過a:発症時,耳側角膜切開の創口に連続しないCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下の貯留液は高輝度を呈していた.Descemet膜.離部に角膜実質浮腫を認めた.Cb:発症C5日目,Descemet膜.離は認めるが,貯留液の輝度は低下してきた.Cc:発症C12日目,Descemet膜は接着し,角膜実質浮腫もほぼ消失した.Cd:発症C7週目,Descemet膜.離の再発はなく,角膜実質浮腫は完全に消失している.膜ジストロフィの確定診断に至った.Schnyder角膜ジストロフィは第C1染色体短腕に存在するUBIAD1蛋白の構造異常3)により,apoEを介したコレステロールの細胞内濃度の安定化や細胞内からの除去に異常をきたし,コレステロールなどの脂質が沈着する可能性が示唆されている4).遺伝子変異では複数の変異が報告されている5).本症例でのCP128L変異には既報がなく,Bowman層から実質浅層に密な混濁が特徴のまれな変異である可能性がある.Schnyder角膜ジストロフィでは角膜混濁部位にリン脂質が沈着しており,角膜局所での脂質代謝異常による脂質沈着から角膜混濁に至る病態と考えられている.Schnyder角膜ジストロフィは角膜実質内の脂質沈着が本態であり,Des-cemet膜や内皮細胞は影響を受けないとされてきたが,Freddoら6)はCSchnyder角膜ジストロフィの角膜切片を電子顕微鏡で調べた結果,実質とCDescemet膜の間にも脂質沈着を疑う多数の空間が存在することや,角膜内皮細胞の変性を確認している.山本ら7)はCSchnyder角膜ジストロフィに全層角膜移植を施行後に病理組織学的検討を行った結果,角膜実質のコラーゲン線維間に多数の空胞があり,その中に脂質と思われる電子密度の高い物質が沈着していること,また,実質細胞内と内皮細胞内に微細な空胞を電子顕微鏡で確認している.Arnold-Wornerら8)は,角膜実質と内皮細胞に脂質沈着を確認している.白内障術後に遅発性CDescemet膜.離が生じた報告を調べたところ,Schnyder角膜ジストロフィやCFuchs角膜ジストロフィを有する症例の白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じた報告は確認できなかった.一方,梅毒性角膜白斑合併白内障症例で術中および術後C3週間後にCDescemet膜.離を生じた報告9)では,Descemet膜と角膜実質間の接着異常が原因と考按されている.また,顆粒状角膜ジストロフィに対するCPTK後の白内障術後に生じた合併症について検討した報告10)には,術後合併症にCDescemet膜.離はなかった.これらの既報をまとめると,PTK施行の有無にかかわらず,白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じることはきわめてまれであると考えられた.本症例のCDescemet膜.離時に前眼部COCTで確認されたDescemet膜下の貯留液は高輝度を呈しており,前房水とは交通していない脂質を含む貯留液であった可能性を考えた.すなわち,通常の白内障手術時に器械的に生じうる創口と連続したCDescemet膜.離ではなく,何らかの機序により遅発性にCDescemet膜下に貯留液を生じていたと考える.なお,前医で行われた右眼白内障術後に遷延した実質浮腫に対しては前眼部COCTでの確認を行っていなかったが,左眼と同様の臨床像を呈していた可能性も疑われた.Descemet膜.離は自然治癒した可能性もあるが,ステロイド点眼による抗炎症治療が奏効した可能性もあると思われた.以上の経過やデキサメタゾン点眼での抗炎症治療後に治癒した経過から考え,本症例で白内障術後にCDescemet膜.離が生じた背景として①CDescemet膜に脂肪が沈着しており角膜実質とCDes-cemet膜の接着が脆弱であったこと,②術後内眼炎症により角膜内皮細胞の機能が低下していたことのC2点を考えた.CIV結語PTK後の白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じたSchnyder角膜ジストロフィのC1例を経験した.Schnyder角膜ジストロフィの白内障手術後に遅発性CDescemet膜.離の合併に留意する必要がある.このCDescemet膜.離に空気タンポナーデは著効ないが,自然経過あるいはステロイド点眼により治癒する視力予後良好な病態と考えた.文献1)VanWentJM,WibautF:EenzyeldzameerfelijkeHornv-liesaandoening.CNedCTydschrCGeneesksC68:2996-2997,C19242)Schnyder,WF:MitteilungCuberCeinenCneuenCTypusCvonCfamiliarerCHornhauterkrankung.CScweizCMedCWochenschrC59:559-571,C19293)WeissCJS,CKruthCHS,CKuivaniemiH:MutationsCinCtheCUBIAD1geneConCchromosomeCshortCarmC1,CregionC36,CcauseSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOph-thalmolVisSciC48:5007-5012,C20074)WeissJS,KruthHS,KuivaniemiHetal:Geneticanalysisof14familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophyrevealscluestoUBIAD1proteinfunction.AmJMedGenetA146A(3):271-283,C20085)小林顕:シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子UBIAD1(解説).あたらしい眼科C27:337-339,C20106)FreddoCTF,CPolackCFM,CLeibowitzHM:UltrastructuralCchangesintheposteriorlayersofthecorneainSchnyder’scrystallinedystrophy.CorneaC8:170-177,C19897)山本純子,日比野剛,福田昌彦ほか:全層角膜移植術を行ったシュナイダー角膜ジストロフィのC1例.眼紀C51:C643-647,C20008)Arnold-WornerCN,CGoldblumCD,CMiserezCARCetal:Clini-calCandCpathologicalCfeaturesCofCaCnon-crystallineCformCofCSchnydercornealdystrophy.GraefesArchClinExpOph-thalmolC250:1241-1243,C20129)西村栄一,谷口重雄,石田千晶:両眼性デスメ膜.離を繰り返した梅毒性角膜白斑合併白内障症例.IOLC&RS24:C100-106,C201010)沼慎一郎:角膜ジストロフィのレーザー角膜切除術(PTK)と白内障手術の視力向上への有効性の検討.山口医学C61:C23-29,C2012C***

基礎研究コラム 31.Muller細胞 TRPV4

2019年12月31日 火曜日

Muller細胞TRPV4.離網膜における視細胞死とMuller細胞TRPV4の関係網膜.離は裂孔原性網膜.離のほか,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などさまざまな疾患に合併します.治療によって網膜が復位しても,.離期間中に起こる視細胞死により恒久的な視力障害をきたします.このため,.離網膜における視細胞死のメカニズムを解明し,それを抑制することは,原疾患の治療と同様に重要といえます.炎症は.離網膜における視細胞死の原因の一つと考えられています.これまでの研究で,.離網膜下には多くのマクロファージが遊走してきて.離網膜における視細胞死に関与すること,マクロファージが遊走してくる原因はCMuller細胞から放出されるCMCP-1(monocyteCchemoattractantCpro-tein-1)であることがわかっていました1).しかし,どのようなメカニズムで.離網膜のCMuller細胞からCMCP-1が放出されるかは不明でした.TRP(“トリップ”と読む)は非選択性陽イオンチャネルです.1989年にショウジョウバエの光受容応答変異株の原因遺伝子としてCtrp遺伝子は発見されました.trp変異株では,光刺激に対して受容器電位(receptorpotential)の変化が一過性(transient)であることからCTRP(transientCrecep-torpotential)と命名されました2).TRPイオンチャネルスーパーファミリーはC7個のサブファミリーに分類され,その一つがCTRPV(vanilloid)で,TRPVはさらに1~6に分類されます.TRPV4はさまざまな種類の細胞に存在し,機械的刺激,低浸透圧刺激,熱刺激,アラキドン酸とその代謝産物などにより活性化されます.TRPV4が活性化した細胞は,炎症性サイトカインやCATPを放出することが報告されています.網膜の細胞では,Muller細胞と一部の神経節細胞にTRPV4が発現しています.筆者らはこのCMuller細胞のTRPV4に着目し,Muller細胞がCMCP-1を放出するメカニズムをマウス網膜.離モデルを用いて解明しました3)..離網膜ではCMuller細胞が膨化します.膨化したCMuller細胞では細胞膜の伸展刺激(機械的刺激)によってCTRPV4が異常活性化し,CaC2+が細胞内に流入することによってCMCP-1が放出されます.MCP-1はマクロファージの遊走や活性化をうながすサイトカインであり,活性化したマクロファージが.離網膜下に遊走してきて視細胞に傷害を与えると考えられます(図1).(99)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY松本英孝群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学今後の展望TRPV4阻害薬の硝子体内注射や硝子体手術時の還流液にCTRPV4阻害薬を加えるなどの方法で,.離網膜における視細胞死を抑制できるようになる可能性があります.また,Muller細胞の膨化を伴う網膜疾患である糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症においても,網膜浮腫と眼内のCMCP1濃度は相関していることが報告されています.これらのことから,網膜.離におけるCMuller細胞CTRPV4の役割を理解することによって,他の網膜疾患の病態解明にもつながる可能性があります.文献1)NakazawaCT,CHisatomiCT,CNakazawaCCCetal:MonocyteCchemoattractantCproteinC1CmediatesCretinalCdetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSAC104:2425-2430,C20072)MontellCC,CRubinGM:MolecularCcharacterizationCofCtheCDrosophilaCtrplocus:CaCputativeCintegralCmembraneCpro-teinCrequiredCforCphototransduction.CNeuronC2:1313-1323,C19893)MatsumotoCH,CSugioCS,CSeghersCFCetal:RetinalCdetach-ment-inducedCMullerCglialCcellCswellingCactivatesCTRPV4CionCchannelsCandCtriggersCphotoreceptorCdeathCatCbodyCtemperature.JNeurosci38:8745-8758,C2018あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1575