眼で見つかる神経疾患RetinalImaginginNeuropsychiatricDisorders上田瑛美*はじめに眼の網膜は脳と共通点が多く,視神経を介して直接つながっている(図1a).精神神経疾患患者の剖検脳を用いた病理学的研究において,脳の神経変性の初期に網膜の神経節細胞の壊死や異常蛋白の沈着が確認されている1.5)(図1b).さらに,近年の脳画像研究では,網膜の神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の厚みと,海馬などの認知機能関連領域の萎縮との関連も報告されている.Alzheimer病やParkinson病などの精神神経疾患の形態学的評価には脳MRI検査や髄液検査が用いられるが,費用や侵襲性,定量性,撮像時間などの問題から,より簡便な手法の必要性が指摘されている.一方で,網膜イメージング技術は近年急速に進歩している.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では造影剤を用いずに網膜の構造や血管を詳細に描出可能であり,さらに光学フィルター付き眼底カメラを用いた特定波長での反射測定も実用化されている.これらは非侵襲的かつ簡便であり,眼科診療を超えて精神神経疾患領域での臨床応用が期待されている.本稿では,精神神経疾患のなかでもAlzheimer病とParkinson病に焦点をあて,各疾患における網膜の病理学的および臨床学的特徴を概説する.さらに,従来の眼底画像診断に加えて新たに登場したハイパースペクトル網膜イメージング(hyperspectralretinalimaging:HSRI)を紹介し,精神神経疾患における網膜イメージングの臨床的有用性について考察する.I精神神経疾患における網膜の病理学的特徴Alzheimer病やParkinson病といった代表的な精神神経疾患において,神経変性異常蛋白の沈着は脳病理の中心的所見である.一方で,網膜においても同様の変化が生じるかについて病理学的検討が重ねられてきた.これらの知見は,網膜が単なる観察しやすい組織にとどまらず,脳内病理を映し出す窓として機能し得ることを示唆する.本節では,Alzheimer病におけるアミロイドb(amyloidb:Ab)やリン酸化タウ(phosphorylatedTau:p-Tau)の沈着との関係性,ならびにParkinson病におけるaシヌクレイン(a-synuclein:aSYN)関連病変との報告を整理する.1.Alzheimer病との関連Alzheimer病患者の剖検脳を用いた病理学的研究では,GCL近傍にAbの沈着が認められることや,神経変性の初期過程で網膜に神経節細胞壊死および樹状突起構造の変化が起こることがすでに明らかとなっている1.5).APPswe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスでは,網膜の内外網状層にAbプラークが形成され,ミクログリア活性の亢進や網膜電図の振幅の低下といった機能障害が認められた3).denHaanらの研究ではAlzheimer病患者6例と対照6例の剖検網膜を比較し,Abは網膜にも存在するが脳内とは異なる形態で特異的ではない一*EmiUeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕上田瑛美:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野(1)(31)2590910-1810/26/\100/頁/JCOPYb網膜と共通した病態●網膜神経節細胞の壊死●網膜神経節細胞近傍に異常蛋白が沈着●網膜血管の病変が存在図1網膜.脳ネットワークa:眼の網膜は発生学的,解剖学的,および生理学的に脳と多くの共通点をもち,脳と視神経を介して連結している.b:老年期精神疾患の病態が脳と網膜の両方に認められることが明らかになっている.病理学的研究において,脳の神経変性の初期過程で網膜の神経節細胞が壊死することや,近傍に異常蛋白の沈着が認められることなどが示されている.精神神経疾患の診断・予測に向けた網膜イメージングの多様性HSRI:ハイパースペクトル網膜イメージング(hyperspectralretinalimaging)図2精神神経疾患の診断・予測に向けた網膜イメージングの多様性多様な網膜イメージング手法(眼底カラー画像,OCT,OCTA,HSRI)は,精神神経疾患に関連する網膜症,神経変性,微細循環障害,異常蛋白沈着を反映する可能性がある.表1Alzheimer病に関連する網膜変化網膜変化網膜イメージング代表的な研究の知見網膜症の出現(毛細血管瘤,点状・斑状出血,硬性・軟性白斑などの異常所見)眼底カラー画像久山町研究による追跡調査では,網膜症はCAlzheimer病の発症リスクが上昇した11).オランダのCRotterdamstudy12)と米国のCARICstudy13)では,網膜症とCAlzheimer病発症に有意な関連はなかった.視神経乳頭周囲の網膜神経線維層および黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の菲薄化光干渉断層計(OCT)Thomsonらのメタ解析ではCAlzheimer病患者において網膜神経線維層が菲薄化し,網膜神経節細胞層や網膜神経節細胞複合体も菲薄化していた14).Chanらの軽度認知機能障害患者を対象とした報告では,網膜神経線維層および網膜神経節細胞層の菲薄化が確認され,AClzheimer病の発症前から網膜変化が出現することが示唆された15).久山町研究では網膜神経節細胞層の菲薄化がCAlzheimer病と有意に関連した16).網膜毛細血管密度の低下,中心窩無血管域(FAZ)の拡大OCT血管造影画像(OCTA)CdenHaanらのメタ解析では,網膜浅層毛細血管叢の血管密度はCAlzheimer病で有意に低下し17),軽度認知障害患者や早期のCAlzheimer病患者でも認められた18).FAZの拡大や網膜深層毛細血管叢の変化は一貫した結果が得られていない.短波長域の網膜反射スペクトル変化,アミロイドCb沈着の反映ハイパースペクトル網膜イメージング(HSRI)Hadouxらの報告では,脳内のアミロイドCb沈着陽性群では短波長域で網膜に特徴的スペクトル変化が検出され,脳CPET検査におけるアミロイドCb負荷と有意に相関した19).LemmensらはCOCTでの網膜神経線維層厚とCHSRIデータを統合した結果,Alzheimer病患者と対照群をCAUC0.74で識別できた20).表2Parkinson病に関連する網膜変化網膜変化網膜イメージング代表的な研究の知見視神経乳頭周囲の網膜神経線維層および黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の菲薄化光干渉断層計(OCT)Zhouらによるメタ解析では,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚がCParkinson病群で有意に減少していた.黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の厚みも有意に減少していた21).網膜毛細血管密度の低下,中心窩無血管域(FAZ)の拡大OCT血管造影画像(OCTA)CAndreasKatsimprisらのメタ解析では,PCarkinson病患者の網膜浅層毛細血管叢の血管密度が健常者より低下していた.CFAZ面積や網膜深層毛細血管叢については研究間で結果が不一致だった22).短波長域の網膜反射スペクトルの変化ハイパースペクトル網膜イメージング(HSRI)Parkinson病患者の短波長域(上鼻側<C490Cnm,下鼻側<C510Cnm)において,網膜反射スペクトルの低下が確認された.線形判別分析とCleave-one-outクロスバリデーションによる機械学習解析では,AUC0.60と中等度の水準であった23).us:DCP)の血管密度は全体として有意差を認めず,FAZについては拡大が認められたが,効果量や統計的有意性は一貫しなかった.さらにCBiscettiらの解析では,軽度認知障害患者や早期のCAlzheimer病患者において,SCP・DCPの灌流密度低下が検出され,血管分岐の複雑性を示すフラクタル次元の上昇も認められた18).これはCAlzheimer病の初期に,毛細血管密度の低下と並行して代償的な血管再構築が進む可能性を示唆している.OCTAを用いたメタ解析の結果,Alzheimer病ではSCPの血管密度の低下が一貫して認められ,重要な指標となることが示唆された.Cd.網膜スペクトル画像を用いた神経変性異常蛋白の検出HSRIによる網膜スペクトル画像は,ACbなどの神経変性異常蛋白の沈着に伴う網膜の構造的・光学的変化を非侵襲的に検出する手法として開発されている.Hadouxらが,脳のCpositronCemissionCtomography(PET)検査によるCACbの陽性群C15例と陰性群C20例を対象に解析を行い,眼内メラニンや水晶体混濁の影響を補正する独自アルゴリズムを適用した結果,565Cnm以下の短波長域で陽性群と陰性群の間に有意な反射スペクトル差が認められた19).補正後のスコアは陽性群で有意に高値を示し,とくに上方網膜や黄斑中心窩で顕著であった.ROC解析では,陽性群・陰性群を識別するCAUC(曲線下面積)が主解析コホートでC0.82,検証コホートでC0.87と良好な診断能を示し,スコアは脳CPET検査で定量されたCACb負荷と有意に相関した.これにより網膜スペクトル変化が脳内のCACb沈着を反映する可能性が示唆された.一方で,多波長のスペクトル情報と形態学的パラメータを機械学習で統合し,診断精度を向上させる試みも報告されている.LemmensらはCOCTでの視神経乳頭周囲のCRNFL厚とCHSRIデータを統合した結果,Alzheimer病患者と対照群をCAUC0.74で識別でき,とくに下象限CRNFLの菲薄化が有意な特徴量として抽出された20).C2.Parkinson病との関連a.OCT画像を用いた網膜層の菲薄化近年では,Parkinson病でもCOCTによる網膜構造解析が進み,客観的評価指標として注目されている.Zhouらのメタ解析によると,Parkinson病患者では視神経乳頭周囲のCRNFLの平均厚が有意に低下していた21).また,黄斑部のCGCLおよびCGCCの厚みも有意に低下しており,網膜全体にわたる変性を反映する所見と考えられる.これらの変化は,網膜内に存在するドーパミン作動性アマクリン細胞の減少や神経節細胞の変性に起因し,色覚異常やコントラスト感度の低下など臨床的な視覚症状と関連する可能性がある.Cb.OCTA画像を用いた網膜血管密度の低下Parkinson病は,網膜のCSCPの血管密度の低下との関連も示唆されている.Katsimprisらのメタ解析によると,Parkinson病のCSCPの血管密度は健常者と比較して低下していたと報告されている22).しかし,FAZや浅層血管叢(shallowCvascularplexus:SVP)の血管密度には統計的な差異は認めなかった.したがって,OCTAによるCSVPの血管密度はCParkinson病における視覚系変化や神経変性の非侵襲的マーカーとなりうる可能性がある.今後CParkinson病においてCOCTA所見を臨床応用するには,縦断的研究や多施設共同研究を通じて,パラメータの再現性や疾患進行との関連性を検証することが重要である.Cc.網膜スペクトル画像を用いた神経変性異常蛋白の検出Parkinson病患者にもCHSRIの網膜スペクトル画像によって,網膜反射スペクトルの特徴を検討した臨床報告がある23).対象はCParkinson病患者C20例と,年齢・性別をマッチさせた対照群C20例で,眼疾患の既往を有する者は除外された.黄斑部のC4領域を設定し反射スペクトルを解析したところ,Parkinson病ではとくに短波長域(上鼻側<490Cnm,下鼻側<510Cnm)で反射強度が有意に低下していた.線形判別分析とCleave-one-outクロスバリデーションによる機械学習解析では,識別能はCAUC0.60,感度C60%,特異度C50%と,中等度の水準にとどまった.HSRIによる網膜スペクトル画像がCPar-kinson病の病態やCaSYNの蓄積を反映し得る可能性を示したが,今後大規模研究やCOCT・OCTAなど他の網膜画像との統合的解析研究への進展が期待される.(35)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C263脳網膜●画像データOCT,OCTA,HSRI…図3深層学習による網膜画像からの精神神経疾患推定近年では,深層学習を応用した網膜イメージングによる精神神経疾患の識別研究が急速に進展している.網膜画像から精神神経疾患に関する有用な情報を抽出し,疾患の有無を識別(診断)するとともに,進行度や重症度を推定することが期待される.’C’C’C’C-’C’C’C’C