●連載◯159監修=安川力五味文139抗VEGF薬硝子体内注射後の狩野久美子九州大学医学部眼科網膜色素上皮裂孔新生血管型加齢黄斑変性に対する抗CVEGF治療では,眼局所においてもいくつかの合併症が起こりうる.投与後の細菌感染症や外傷性白内障,薬剤によってはぶどう膜炎・網膜血管閉塞などもあげられるが,今回は網膜色素上皮裂孔を引き起こすリスクに関して述べる.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)に対する治療は,抗VEGF治療が第一選択となっている.2009年に発売されたラニビズマブを筆頭に,現在C6剤の使用が可能な状況である.その中でもブロルシズマブはぶどう膜炎や網膜血管閉塞を起こす可能性があることが報告されているが,現在ではステロイド投与によりその発症をある程度予防できることが知られている1,2).しかし,注射後の細菌性眼内炎や外傷性白内障,網膜色素上皮裂孔(reti-nalCpigmentCepitheliumtear:RPEtear)はどの薬剤でも発症する可能性のある合併症である.とくにCRPEtearは手術などの治療手段もなく,一度発症すると不可逆性で,視力低下の可能性も高い予後不良な合併症である.今回は抗CVEGF治療によるリスクの一つとして,CRPEtearについて述べる.症例患者はC62歳の男性.主訴は右眼歪視,右眼矯正視力は(1.0)であった.右眼に丈が比較的高い大きな網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)とそれを裏打ちする一部線維化した黄斑新生血管(macu-larneovascularization:MNV)を認めた.周囲には漿液性網膜.離を伴っていた.また,PEDの中に黒く抜ける間隙,いわゆるCcleftサインを認めた(図1).網膜色素上皮下の新生血管であるため,nAMD(typeCIMNV)の診断のもと,右眼にアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を施行した.注射施行後C4日目から急に暗くなったと投与後C1週間で再来.眼底には大きなCRPEtearを認めた(図2).その後,治療の継続を希望しなかったため経過をみているが,RPEtearは拡大して黄斑部に及び,視力低下をきたした.また,黄斑部にはMNVによる網膜下出血を認め,線維瘢痕化,.胞様黄斑浮腫に至り,最終受診時の右眼矯正視力は(0.06)と著明に低下している.CRPEtear発症リスク軽減のためにはRPEtearは発症を完全にコントロールできる合併症ではないため,投与前の検査でリスクの高い患者をみきわめることが重要になってくる.高リスク要因の一つ目は,大きな丈の高いCPEDがあることである.二つ目はPEDの形状で,裏に新生血管による裏打ちがあるものや,内部にCcleftサインがあるもの,また網膜色素上皮の一部欠損,いわゆるマイクロリップがあるとリスクは高い3,4).RPEtearの発症は,抗CVEGF薬投与によるMNVの収縮による牽引が原因の一因と考えられている.以前は,アフリベルセプト以降の抗CVEGF薬は,VEGF-A以外の因子にも作用するため,VEGF-Aのみを阻害するラニビズマブよりも強い力でCMNV収縮を引き起こし,RPEtearを起こすのではないかと議論されていたが,現在では薬剤による差はないとの報告もされている5).しかし,筆者の病院では,リスクの高い患者に関しては少しでもCMNVの急激な収縮を防ぐため,ラニビズマブCBSの投与から開始し,丈が小さくなる,もしくは導入期のC3回投与でCRPEtearを起こさなかった患者に関しては,他の抗CVEGF薬へスイッチしている.そして万が一CRPEtearが発生した場合には,薬剤投与を中止せずに抗CVEGF薬投与を継続している.その理由は,先に紹介した症例のように,抗CVEGF薬投与を中断することでCMNVの活動性が増悪し,滲出性変化および線維瘢痕化を引き起こし,さらなる視力低下を起こすことが危惧されるためである.(87)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511670910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2眼底写真と自発蛍光aは初診時,Cbは網膜色素上皮裂孔(RPEtear)を起こした直後の眼底写真と眼底自発蛍光所見.RPEtear部位はカラー眼底写真では暗くなり,眼底自発蛍光検査では低蛍光になっている.CRPEtearが黄斑部に及ぶか及ばないかで視力予後は大きく変わってくるが,そのリスクを治療前に完全に予測するのはむずかしい.しかし,RPEtearはCMNVが収縮することにより起こる病態と考えられるので,PEDとCMNVの位置からある程度予測を立てることは可能である.PEDとCMNVが黄斑部からはずれている場合はCRPEtearを起こしても黄斑部に影響はない場合が多いが,黄斑部をまたぐようにCPEDとCMNVが存在C1168あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025図1初診時OCT網膜色素上皮.離(PED)は,1型黄斑新生血管(MNV)が裏打ちする部分で波打ち(),cleftサイン(内部は輝度が不均一になり黒く抜けている※の部分)を伴っている.する場合は,RPEtearを起こした際に病変が黄斑部に及び視力低下をきたしやすい.だが仮に黄斑部に及んだとしても,病態の活動性が低い場合は,抗CVEGF薬継続により,増殖膜を形成することなくCBruch膜と網膜が直接接着し,ある程度の視力を維持できることもある.ただし病態の活動性が高いと,抗CVEGF薬を継続しても滲出性変化や線維瘢痕化による視力低下をきたす.いずれにしてもCRPEtearは治療前視力良好例にも発症しやすいことから,治療前に必ずリスクを説明しておくことが大事である.文献1)HolzFG,IidaT,MarukoIetal:Aconsensusonriskmit-igationforbrolucizumabinneovascularage-relatedmacu-lardegeneration:PatientCselection,Cevaluation,CandCtreat-ment.RetinaC42:1629-1637,C20222)KataokaK,HoriguchiE,KawanoKetal:Threecasesofbrolucizumab-associatedCretinalCvasculitisCtreatedCwithCsystemicandlocalsteroidtherapy.JpnJOphthalmolC65:C199-207,C20213)NagataJ,ShioseS,IshikawaKetal:Clinicalcharacteris-ticsCofCeyesCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegen-erationCandCretinalCpigmentCepitheliumCtears.CJCClin.CMedC12:5496,C20234)MitchellCP,CRodriguezCF.J,CJoussenCAMCetal:Manage-mentCofCretinalCpigmentCepitheliumCtearCduringCanti-vas-cularCendothelialCgrowthCfactorCtherapy.CRetinaC41:671-678,C20215)AhnJ,HwangDD,SohnJetal:Retinalpigmentepitheli-umCtearsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.COphthalmologicaC245:1-9,C2022(88)