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写真セミナー:角膜上皮接着障害に感染を併発した再発性角膜びらんの症例

2025年11月30日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史498.角膜上皮接着障害に感染を併発した松本卓也北澤耕司京都府立医科大学眼科学教室再発性角膜びらんの症例図1初診時前眼部所見角膜中心から傍中心部の上皮下に多発する角膜浸潤を認めた.図3図1のフルオレセイン所見浸潤部位に一致した角膜上皮接着障害を認める.図4受傷から3週間後の前眼部所見炎症は残存しているが上皮下浸潤は瘢痕治癒した.(65)あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025C14290910-1810/25/\100/頁/JCOPY再発性角膜びらんに感染症を合併した症例を提示する.患者は52歳,女性.1年前から再発性角膜びらんで前医をたびたび受診していた.1週間ほど前から角膜びらんが再発し,前医で角膜掻爬,治療用ソフトコンタクトの装用にて治療していたが,3日前に右眼痛と流涙が出現し,角膜感染の診断で京都府立医科大学附属病院(以下,当院)に紹介となった.当院受診時,角膜中央部に角膜上皮の接着障害を多数認め,その辺縁に小円形の多発する角膜浸潤,前房蓄膿を認めた(図1~3).矯正視力は右眼C0.1であった.前眼部光干渉断層計検査では角膜上皮下に混濁を認め,前房内にフィブリンが析出していた.前医からはモキシフロキサシン塩酸塩点眼液C2時間ごと,セフメノキシム塩酸塩点眼液C2時間ごとを処方されており,当院受診日よりオフロキサシン眼軟膏眠前C1回を追加した.当院で施行した角膜擦過物の塗沫鏡検および培養検査の結果は陰性であった.2週間後には前房内炎症は改善し,抗菌薬点眼をC1日C4回へ減量した.3週間後には矯正視力は右眼C0.5まで改善し,多発していた角膜浸潤は瘢痕化したが,角膜上皮の接着障害は残存しており,オフロキサシン眼軟膏をC1日C4回へ増量し経過観察中である(図4).再発性角膜びらんは,繰り返す角膜上皮の接着障害により眼痛・羞明・流涙などの症状をきたす.正常な角膜上皮は,基底膜,ヘミデスモソーム,アンカリングフィブリルから構成される複合体により角膜実質に付着している.再発性角膜びらんの患者では,ヘミデスモソームの減少や基底膜細胞の腫大,異常増殖などの異常がみられ,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9の過剰発現を認める1,2).そこに睡眠時の上皮浮腫や眼瞼との摩擦が関与し,起床時の瞬目によりびらんが生じると考えられている.再発性角膜びらんを生じる原因の多くは外傷や特発性であるが,マイボーム腺機能不全を高率に合併するとの報告もある3).一般的な角膜の細菌感染では,感染巣は角膜の中心から傍中心部からに単発することが多い4)が,本症例ではびらんの辺縁部に多発する感染巣を認めた.個々の感染巣の形状は類円形で,浸潤は各感染巣の周囲に限局しており,浸潤は多発しているものの,グラム陽性球菌の感染所見として矛盾しないものであった.再発性角膜びらんに限らず,糖尿病や神経栄養性角膜症などでも上皮の接着障害が起こりうる.角膜の接着障害を認める場合,角膜上皮が接着と脱落を繰り返す過程で,細菌が上皮下にトラップされることで,このような上皮下浸潤をきたすのではないかと筆者らは推察している.再発性角膜びらんに細菌感染を合併することはまれである.既報では英国で救急外来を受診したおよそC5,800人の再発性角膜びらんの患者のうち,細菌感染を合併したのはわずかC11例であった5).まれではあるが,合併すれば上記のような特徴的な所見が観察される可能性は高い.また,このような角膜上皮の接着障害に伴う細菌感染では,びらん辺縁に感染巣が多発するため,細菌感染後の瘢痕治癒により角膜混濁が広範囲に及ぶことがある.また,瘢痕治癒に伴う不整乱視が残ることも多く,治療開始前に視力予後について十分な説明が必要である.文献1)RodriguesCMM,CFineCBS,CLaibsonCPRCetal:DisordersCofCtheCcornealCepithelium.CACclinicopathologicCstudyCofCdot,Cgeographic,CandC.ngerprintCpatterns.CArchCOphthalmolC92:475-482,C19742)GoldmanCJN,CDohlmanCCH,CKravittBA:TheCbasementCmembraneCofCtheChumanCcorneaCinCrecurrentCepithelialCerosionCsyndrome.CTransCAmCAcadCOphthalmolCOtolaryn-golC73:471-481,C19693)Hope-RossMW,ChellPB,KervickGNetal:Oraltetra-cyclineinthetreatmentofrecurrentcornealerosions.EyeC8:373-377,C19944)薄井紀夫,後藤浩:眼感染症診療マニュアル.眼科臨床エキスパート,p178-187,医学書院,20165)LonidesCACW,CTuftCSJ,CFergusonCVMGCetal:CornealCin.ltrationCafterCrecurrentCcornealCepithelialCerosion.CBrJOphthalmolC81:537-540,C1997

生物製薬の点眼開発

2025年11月30日 日曜日

生物製剤の点眼開発TheDevelopmentofBiologicalEyeDropTherapies鴨居功樹*はじめに生物製剤は抗体,ペプチド・蛋白質,遺伝子治療,核酸医薬,細胞製剤などを含み,全身領域では多くの疾患で画期的な治療効果をもたらしてきた.眼科領域でも近年,生物製剤を点眼薬として応用する試みが進展している.従来は,ドライアイや眼炎症などに対する人工涙液や免疫調節薬・低分子薬の点眼,眼感染症に対する抗菌薬/抗ウイルス薬の点眼,加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体/融合蛋白質の硝子体内注射が標準であった.しかし,患者負担の軽減と非侵襲的治療へのニーズの高まりを受け,「点眼で投与可能な生物製剤」の開発が国内外で注目されている.点眼は前眼部病変に有効である一方,後眼部疾患に対しては生体利用率の低さや角膜/結膜/強膜バリアなど薬物動態上の制約が大きく,臨床実装の障壁となっている.本稿では,生物製剤を上記の広義概念として用い,点眼治療の現状と将来展望を概説し,克服戦略と安全性について論じる.CI生物製剤の種類と作用機序生物製剤は分子種(抗体,ペプチド・蛋白質,核酸医薬,遺伝子治療,細胞製剤)により作用機序が異なる.以下では,それぞれの概要と眼科疾患への応用を整理して概説する.抗体医薬(モノクローナル抗体,抗体フラグメントなど)は,標的となるサイトカインや成長因子を高い特異性で中和する.眼科では炎症性サイトカイン〔たとえば腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactoralpha:TNF-a)〕や血管新生因子(VEGF)を抑制することで炎症・新生血管を制御する.抗CTNF-a抗体フラグメントのリカミニリマブは,前部ぶどう膜炎に対して点眼で有効性を示したとの報告がある1).従来の全長抗体(分子量約150CkDa)は角膜を通過しにくいが,低分子量の単鎖抗体(single-chainvariable.fragment:scFv)などにすることで角膜透過性を高める工夫がなされている.ペプチド・蛋白質医薬は,生理活性ペプチドや成長因子,サイトカインなどを利用した製剤である.神経成長因子(nervegrowthfactor:NGF)やサイトカインを補充・刺激することで組織修復や神経再生を促す.眼科では角膜上皮や神経の再生を促す目的で応用され,代表例としてセネゲルミン(オクサーベート)があげられる.これはヒト遺伝子組み換えCNGF製剤であり,角膜知覚神経の障害による難治性角膜潰瘍(神経栄養性角膜症)を治癒に導く.オクサーベートは眼科領域で初めて承認された局所生物製剤であり,8週間の点眼療法で角膜上皮欠損の完全治癒をもたらし得る画期的治療薬である2).ほかにも創傷治癒ペプチドであるチモシンCb4を含む点眼薬(RGN-259)がドライアイや神経障害性角膜症で臨床試験中である3).核酸医薬(アンチセンス,siRNA,DNA/RNAアプタマーなど)は遺伝子発現を操作したり,標的蛋白質に*KojuKamoi:東京科学大学眼科学教室〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京科学大学眼科学教室(1)(57)C14210910-1810/25/\100/頁/JCOPY結合して働きを阻害する核酸分子である.たとえばRNAアプタマー(PEG化したCRNAオリゴヌクレオチド)はCVEGFに結合して失活させる作用をもち,すでにペガプタニブ(マクジェン)としてCAMDに導入された.眼科領域では,角膜や結膜における炎症性サイトカインの発現抑制や病的遺伝子変異のサイレンシングを狙ったCsiRNAやアンチセンスの点眼投与が研究されているが,核酸医薬は細胞膜透過性が低いため,ドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)の助けなしに点眼のみで効果を発揮するのはむずかしく,現在はおもに注射投与が中心である.ただし,一部では核酸を封入したナノ粒子点眼や細胞膜透過ペプチド(cellpenetratingCpeptide:CPP)との複合体による送達技術が模索されている.遺伝子治療は,ウイルスベクターや遺伝子導入プラスミドを用いて標的細胞に新たな遺伝子を送り込み,治療効果を得るアプローチである.眼科では網膜ジストロフィに対するアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療(たとえばルクスターナ注の網膜下注射)が実用化されているが,これは侵襲的手技である.点眼による遺伝子治療は技術的ハードルが高いものの,最近点眼型の遺伝子治療薬が難治性角膜疾患で劇的効果を示したケースも報告されている.米国ではCBeremageneCgeper-pavec(Vyjuvek)が単純ヘルペスウイルス(herpessim-plexvirus:HSV)-1ベクターを用いた皮膚用遺伝子治療薬として栄養障害型表皮水疱症(dystrophicCepider-molysisbullosa:DEB)に承認されており,DEBに起因する重度の眼表面瘢痕に対して術後に点眼投与した症例がCNewCEnglandCJournalCofMedicine(NEJM)で報告され,角膜上皮の治癒および視力改善が示された4).細胞治療は培養細胞や誘導細胞そのもの,あるいはそれらが産生するエクソソーム・サイトカインを利用する治療法である.眼科では角膜上皮幹細胞移植や培養角膜上皮シートなど移植医療が実践されているが,点眼への応用としては細胞培養上清や幹細胞由来エクソソームの点眼療法が注目されている.たとえば間葉系幹細胞(mesenchymalstemcell:MSC)のコンディショニング培地(細胞が放出した成長因子やサイトカインを含む上清)を点眼投与することで,ドライアイモデルで角膜バリア機能が改善し上皮障害が軽快することが報告された.この効果はトランスフォーミング増殖因子(transC-formingCgrowthfactor:TGF)C-bおよびCJAK-STAT経路の関与が示唆される5).また,幹細胞由来エクソソームの点眼は,ドライアイに対する小規模ランダム化試験で安全性と有効性が確認されている6).以上のように,生物製剤はそれぞれ異なるメカニズムで眼科疾患にアプローチする.抗体は病的因子の中和,ペプチドは組織修復促進,核酸は遺伝子発現制御,遺伝子治療は根本原因への介入,細胞治療は多面的な再生促進といった特徴がある(表1).CII点眼用生物製剤の疾患別の開発状況現在,点眼投与可能な生物製剤の研究開発は眼表から眼底まで幅広い疾患を対象に世界中で進められている.以下,おもな疾患領域ごとに開発状況を概観する.C1.眼表疾患ドライアイや角膜上皮障害では,組織修復や涙液補充を目的とした生物製剤が開発されている.代表的なのが前述のセネゲルミン(NGF製剤)であり,欧米では神経栄養性角膜症の治療薬として実用化されている2)ドライアイに対してはチモシンCb4点眼薬(RGN-259)の第CIII相試験が進行中であり,速やかな角膜上皮治癒や症状改善が示唆されている3)が,一部試験では主要評価項目未達も報告されている.角膜上皮障害(難治性角膜潰瘍,遷延性上皮欠損など)に対しては,生物製剤の活躍が顕著である.既述のCNGF製剤,チモシンCb4製剤に加え,dHGF(oremeperminalfa)点眼CCSB-001が神経栄養性角膜症(stage2.3)に対して開発中である.アレルギー性結膜炎領域では,点眼型の生物学的製剤はまだ限られるが,抗体断片の点眼による抗原中和などの局所免疫調節が動物で実証されている(例:スギ花粉アレルゲンCCryCj1特異的CFabの点眼で炎症抑制).一方で,免疫グロブリンCE(immunoglobulinE:IgE)や胸腺間質性リンホポエチン(thymicstromallymphopoi-etin:TSLP),インターロイキン(interleukin:IL)-5,IL-4/IL-13などのサイトカイン軸は病態の中心であり,1422あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(58)表1点眼用生物製剤製剤分類標的/作用おもな対象CLicaminlimab抗体医薬(抗CTNFCa抗体断片)抗炎症急性前部ぶどう膜炎細胞侵入ペプチド(CPP)結合抗CVEGF点眼抗体医薬(抗体×CPP)後眼部送達/抗脈絡膜新生血管加齢黄斑変性CCenegerminペプチド・蛋白質(神経成長因子)神経栄養・上皮治癒促進神経栄養性角膜症(NK)CThymosinb4ペプチド・蛋白質(ペプチド)上皮治癒・抗炎症ドライアイ/NK多機能ペプチドペプチド・蛋白質(メラニン結合+CPP)メラニン組織デポ化/持続化視神経保護などCBeremagenegeperpavec遺伝子治療(HSV-1ベクター)COL7A1遺伝子導入→CVII型コラーゲン発現/上皮治癒促進栄養障害型表皮水疱症関連眼表障害間葉系幹細胞(MSC)コンディショニング培地細胞治療(生体由来上清)多因子(TGF-b/JAK-STAT関与)ドライアイ間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソーム細胞治療(細胞外小胞)多因子ドライアイ抗体医薬ペプチド/蛋白質遺伝子治療細胞治療細胞侵入ペプチド-抗VEGF多能ペプチド(HR97)HSV(Ber間葉系幹細胞コンディショニング培地TNF-a単鎖抗体(Licaminlimab)-1ベクターemagenegeperpavec)間葉系幹細胞由来エクソソーム神経成長因子(Thymosinb)神経成長因子(Cenegermin)前臨床第Ⅰ/Ⅱ相第Ⅲ相承認図1点眼用生物製剤の開発状況表2後眼部送達と持続化のおもな戦略戦略作用概念長所おもな課題CPP結合抗体角膜バリア通過→網膜到達,抗新生血管活性非侵襲・分子拡張性安全域・用量域の確立反復投与時免疫反応メラニン結合ペプチド/低分子毛様体やCRPEのメラニンへドラッグデポ→作用持続用量頻度低減,持続化個体差(メラニン量)長期安全性イオントフォレーシス微弱電流で角膜/強膜通過促進手技で透過制御網膜到達は限定的装置依存コンタクトレンズ型/留置デバイス眼表に留置し長時間放出患者操作で持続化装用快適性アドヒアランスinsituゲル/カチオン性エマルション滞留延長・放出制御製剤で簡便に持続化後眼部到達は限定的VI将来の展望と新技術生物製剤の点眼開発における将来展望として,近年のキーワードはCDDS技術の進化とCAI活用である.C1.DDS技術の進化ナノテクノロジーの進歩により,これまで到達がむずかしかった眼内へ薬剤を非侵襲的に届ける試みが加速している.リポソーム,ナノ粒子,ナノゲル,エマルション等の各種ナノキャリアは,滞留時間の延長・角膜透過性の改善・持続放出化に有用であり,眼科応用に関する報告が相次いでいる.前述のCCPPやメラニン結合ペプチドもCDDSの一種である.さらに,持続性デリバリーの観点では,埋め込み型デバイスを用いる代わりに点眼薬自体で持続効果を生む工夫(点眼薬中でのドラッグデポ形成など)が研究されており,メラニン結合性ペプチドや低分子を利用して毛様体やCRPEのメラニンへ薬剤をデポし作用持続を得るアプローチが報告されている18).将来的には「貼る点眼薬」のようなデバイス,すなわちコンタクトレンズ型のドラッグデリバリーや眼表留置デバイスも登場し,患者自身が貼付・点眼することで半減期の短い生物製剤を長時間作用させるプラットフォームとして有望視される.C2.AI活用創薬の分野ではCAIが活躍し始めているが,眼科における生物製剤でも例外ではない.AIは標的分子の探索から分子デザイン,最適製剤処方に至るまで幅広く応用可能である.実際に,前述の多機能ペプチドCHR97は機械学習アルゴリズムで設計され,細胞侵入能・メラニン結合性・低毒性を兼ね備える配列が同定された18).このような「創薬C×AI」の成功例は今後増えていくと予想され,より安定で浸透性の高い抗体断片や分解酵素に強い改変蛋白質の設計にCAIが活用されるであろう.また,インシリコシミュレーションも強力なツールであり,眼球内の薬物動態を計算モデルで予測し,最適な点眼間隔や濃度を導出する試みも報告されている29).これにより,臨床試験前に有望な処方や投与レジメンを合理的に絞り込むことが可能となる.おわりに生物製剤の点眼開発は,多様なカテゴリーのバイオ医薬品を眼科領域へと誘導する最先端の試みである.すでに実装されたCNGF点眼薬に続き,複数の候補が開発の後期段階にある.薬物動態・安定性・免疫学的課題など困難も多いものの,DDS技術やCAIの力を借りてその壁は着実に破られつつある.国内外の協調と競争のもと,今後ますます革新的な点眼治療が生まれるであろう.眼科領域における生物製剤点眼療法の発展に,今後も注目したい.文献1)PasqualiCTA,CToyosCMM,CAbramsCDBCetal:TopicalCocu-larCanti-tnfalphaCagentClicaminlimabCinCtheCtreatmentCofCacuteCanterioruveitis:aCrandomizedCphaseCiiCpilotCstudy.CTranslVisSciTechnolC11:14,C20222)BakrM,EleiwaTK,SaeedHNetal:TopicalcenegerminforpediatricCneurotrophicCkeratopathy:aCreviewCofCtheCliteratureCandCsystematicCreview.CCornea2025:doi:C10.1097/ICO.0000000000003960Onlineaheadofprint3)SosneCG,CKleinmanCHK,CSpringsCCCetal:0.1%CRGN-259(Thymosinss4)ophthalmicsolutionpromoteshealingandimprovescomfortinneurotrophickeratopathypatientsinarandomized,placebo-controlled,double-maskedphaseiiiclinicaltrial.IntJMolSciC24:554,C20224)TovarCVetencourtCA,CSayed-AhmedCI,CGomezCJCetal:COcularCgeneCtherapyCinCaCpatientCwithCdystrophicCepider-molysisbullosa.NEnglJMedC390:530-535,C20245)ImaizumiCT,CHayashiCR,CKudoCYCetal:OcularCinstillationCofCconditionedCmediumCfromCmesenchymalCstemCcellsCisCe.ectivefordryeyesyndromebyimprovingcornealbar-rierfunction.SciRep13:13100,C20236)HabibiA,KhosraviA,SoleimaniMetal:E.cacyoftopi-calCmesenchymalCstemCcellCexosomeCinCSjogren’sCsyn-drome-relatedCdryeye:aCrandomizedCclinicalCtrial.CBMCCOphthalmolC25:299,C20257)MizutaniN,NabeT,YoshinoS:TopicaloculartreatmentwithCmonoclonalCantibodyCFabCfragmentsCtargetingCJapa-neseCcedarCpollenCCryCjC1CinhibitsCJapaneseCcedarCpollen-inducedCallergicCconjunctivitisCinCmice.CEurCJCPharmacolC798:105-112,C20178)LambiaseCA,CAloeCL,CCentofantiCMCetal:ExperimentalCandCclinicalCevidenceCofCneuroprotectionCbyCnerveCgrowthCfactorCeyedrops:ImplicationsCforCglaucoma.CProcCNatlCAcadSciUSAC106:13469-13474.C20099)KimCHM,CWooSJ:OcularCdrugCdeliveryCtoCtheretina:CcurrentCinnovationsCandCfutureCperspectives.CPharmaceu-tics13:108,C20211426あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(62)–

小児への点眼処方の注意点

2025年11月30日 日曜日

小児への点眼処方の注意点PrecautionswhenPrescribingEyeDropstoChildren野々部典枝*はじめに小児は成人と比べて解剖学的・生理学的な違いが多く,薬剤の吸収・分布・代謝・排泄において特異な薬物動態を示す.小児を対象とした臨床試験を経て小児への適用を明示している点眼薬はごく一部であり,処方の際には必要性,有効性を十分に検討し,基礎疾患の有無を必ず確認して副作用についても慎重に経過観察することが重要である.本稿では,小児への点眼処方についての注意点を解説する.I小児の薬物動態と眼科治療の特異性低年齢であるほど消化管からの吸収が遅く,体水分量が多く,とくに新生児・乳児では肝代謝酵素や腎排泄機能が未熟であり,薬物の半減期が延長して体内に蓄積されやすい.このため,小児への薬物の全身投与では年齢や体重,体表面積に基づいて用量・用法が算出されているが,日常診療における点眼投与は小児用の調整方法が確立されていない.小児用の点眼容器などもないため,成人と同じ1滴(約30.50.μl)が滴下される点眼容器を用いて検査や治療にあたらなければならない.Micro-drops(5.10μl,論文により異なる)での効果をレビューし,有効性を論じている報告1)もみられるが,極少量を点眼できるようにするには容器の改良など課題も多い.また,点眼薬の薬物動態に影響を与える結膜.の容量や瞬目回数,涙液分泌量,瞼裂幅,鼻涙管閉塞の有無などは年齢によって大きく異なる.協力が得られない児への点眼では,児が泣いてしまい,点眼が涙液で希釈されて効果が不安定になりやすい.点眼薬は局所治療であるが,涙.および鼻粘膜から全身循環へ移行する可能性があること,さまざまな要因で効果が不安定になることを念頭において,点眼を行う保護者や医療スタッフへ点眼手技,適切な使用方法を指導し,処方後の効果と副作用についても慎重に経過観察して用法の調整を行うことが重要である.II小児への点眼方法点眼治療において重要なのは,眼局所での有効な薬物濃度を得つつ,全身循環への移行を最小限にして副作用を生じさせないことである.小児では自己による点眼や保管管理が適切に行いにくく,家庭で点眼治療を行う場合には保護者の介助が不可欠である.処方時には家族への説明を徹底し,適切な投与回数・手技・副作用の徴候について理解してもらうことが治療成功の鍵となる.とくに初診の児では,これまでに点眼薬を使用したことがあるか,その際の反応はどうだったか(嫌がって暴れてしまった,まったく眼をあけてくれなかったなど)を聴取し,後述する点眼の方法やタイミングを丁寧に説明する.わずかでも結膜に入ればよいこと,できなくても少し時間をおいて再度トライすることなど,点眼を行う保護者を励ますことも大切である.乳幼児では,図1のようにタオルなどで体幹をくるみ(肩をしっかり巻くことがポイント),足で頭部を挟むように固定して下眼瞼を*NorieNonobe:いとう眼科,浜松医科大学〔別刷請求先〕野々部典枝:〒491-0113一宮市浅井町西浅井郷中25-1いとう眼科(1)(51)14150910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1大人が一人で乳幼児に点眼する場合の一例タオルなどで体をくるみ,児の手足がばたつかないようにする.足で頭部を固定して点眼する.眼を開けてくれない場合は下眼瞼を下方に引くようにして目頭に向けて点眼する.閉瞼した状態で目頭に一滴おとし,瞬目で結膜に入るようにしてもよい.していると抗菌薬点眼を希望される保護者は多いが,漫然と抗菌薬点眼を処方するのではなく,保護者にも納得してもらえるようガイドラインに従って適切な指導を行うようにする.b.新生児結膜炎おもに産道感染による母子感染で生じるため,産科,小児科との連携が不可欠な感染症である.現在は全新生児に対して出生1時間以内に両眼に眼軟膏を塗布することが推奨されている.しかし,現在使用可能なエコリシン眼軟膏は淋菌に対しては耐性の可能性があること,クラミジアに対しては予防効果が否定的であることから,母体のスクリーニングに重点をおき,母体治療を行うことで新生児結膜炎を予防するなど,施設により対策が行われている.淋菌は現在ニューキノロン系薬に対して80%前後の耐性率を示すため,キノロン点眼は無効と考え,セフメノキシム塩酸塩点眼(ベストロン点眼液0.5%)点眼に加え,セフトリアキソンまたはセフォタキシムの点滴投与を行う.クラミジア結膜炎は生後5.12日に起こり,鼻咽頭感染の併発も多いため,局所的なトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液やオフロキサシン眼軟膏に加え,エリスロマイシンもしくはアジスロマイシンの全身投与を行う必要がある.c.乳幼児期以降の感染性結膜炎日常臨床ではスペクトラムの広い薬剤を第一選択とすることが多いが,小児に対して治験を行い,適用を明示している点眼薬はトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液(オゼックス点眼液0.3%)のみである.治験においてトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液は正期産新生児,乳幼児,2.11歳の児童において有効率が98.1%と確認されており,副作用の発現はみられていない.ほかにはガチフロキサシン点眼液(ガチフロ点眼液0.3%)では1歳以上の小児において国内第III相臨床試験を行っており,副作用は認められなかった.モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液0.5%)は,国内第III相臨床試験において41日齢以上12歳未満に使用しており,また,新生児・乳幼児に対する特定使用成績調査においては低出生体重児および新生児(出生後28日未満)と乳幼児(出生後28日以上15歳未満)の症例が含まれており,副作用は認められなかった.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液1.5%)は8歳未満に投与した臨床試験は実施されていない.2.抗炎症薬点眼抗炎症薬点眼(副腎皮質ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症点眼薬)は,アレルギー性結膜炎,ぶどう膜炎,術後炎症の抑制などに用いる.a.副腎皮質ステロイド点眼長期使用は眼圧上昇や白内障形成などのリスクがある.とくに10歳未満の小児はステロイド感受性が高く,0.1%デキサメタゾン点眼による眼圧上昇の頻度が高い3)ため,眼圧のモニタリングが必須である.力価の高いステロイドの点眼は病勢をみて短期間の使用にとどめ,その後は可能なら中止,ステロイド中止が困難ならばフルオロメトロン点眼への変更もしくは非ステロイド性抗炎症点眼薬への変更を考慮する.アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)4)によると,春季カタルでは抗アレルギー点眼薬で効果不十分な中等症以上の症例に対して免疫抑制点眼薬を追加投与し,それでも改善がみられない重症例にステロイド点眼の追加という順序で治療を強化していく.ステロイドの瞼結膜下注射は,10歳未満の小児への使用は避けることが望ましい.b.副腎皮質ステロイド全身投与眼疾患以外においても,ステロイドは小児の造血器腫瘍やネフローゼ症候群などの腎疾患,自己免疫疾患などで長期に大量に全身投与されることも多く,プレドニン換算20.mg/日以上,0.5.mg/kg/日以上で眼圧上昇リスクが高い.そのほかにも緑内障の家族歴や春季カタル,ぶどう膜炎などでステロイドへ反応しやすい5).小児科との連携が重要で,眼圧のモニタリングを定期的に行うこと,高眼圧となり治療を要した症例に対してその後の治療プロトコールや再発などに対し再びステロイドを使用しなければならない場合にはあらかじめ緑内障点眼を開始し,点眼薬のみでは眼圧コントロール不能になった場合の外科的治療の時期(全身麻酔手術に耐えうる全身状態にしなくてはならない)についても認識を共有しておく.小児では眼圧上昇時の症状をうまく訴えられないことも多く,入院中の病棟でいつもより食欲がなく吐いているなどから眼圧上昇が判明する場合もある.小児科(53)あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251417のスタッフにもステロイド全身投与時に眼圧上昇が起きうること,その際に考え得る身体症状を啓発し,早期に眼科との連携がとれる体制を構築しておきたい.小児では眼圧測定を嫌がり,無理に測定すると高く計測されることもあり,そもそも眼圧測定させてくれない場合も多い.状況によっては鎮静して眼圧測定を行い,治療方針について小児科と相談する必要がある.c.非ステロイド性抗炎症薬白内障術後によく使用されるジクロフェナクNa点眼液0.1%では,小児などを対象とした臨床試験は実施されていないため,小児に使用する機会はあまりない.ブロムフェナクNa点眼液0.1%では,低出生体重児または新生児を対象とした臨床試験は実施されていないが,幼児以降の児では,眼炎症があるもののステロイド点眼を避けたい場合には角膜上皮障害に注意しつつ処方することがある.3.抗アレルギー薬季節性・通年性アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタルなどのアレルギー性結膜疾患治療の基盤として使用する.近年有病率は増加しており,アレルギー性結膜炎は10歳代に年齢分布のピークがある.小児ではかゆみの訴えが曖昧な場合もあり,眼をこするなどの掻爬行動から疾患を推測する必要がある.防御対策や治療継続に関して保護者の協力と理解が重要であり,児には眼をこすらないよう指導する.無症状時でも予防的に使用し,季節前からの定期投与が効果的であるが,かゆい時にしか点眼しないなど点眼薬の効果が十分に発揮されない使用方法をしている場合も多く,効果不十分の場合にすぐにステロイド点眼を追加するのではなく,防御対策や適切な点眼使用方法について処方時の説明が重要である.近年は後発品を処方する場合も多いが,先発品と異なる防腐剤(一例として塩化ベンザルコニウム)が使用されていたりすると刺激症状には注意する.また,改善したから中止するのではなく維持療法が必要な場合があり,自己判断でやめてしまうと改善しては増悪をくりかえすことになる.定期投与が必要な場合は無症状でも継続する大切さを説明する.頻回点眼を面倒がる児,コンタクトレンズを使用しており点眼のタイミングがむずかしい児などに対しては,エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム(アレジオン眼瞼クリーム)が2024年5月に発売され,有用である.ただし,12歳未満の小児などを対象とした臨床試験は実施されておらず慎重に使用する.4.緑内障治療薬(とくに先天緑内障・小児緑内障)原発先天緑内障では治療の第一選択は手術治療であり,薬物治療は周術期の補助手段として行う.4歳以降に発症する若年開放隅角緑内障では原則原発開放隅角緑内障の治療に準ずるが,その際には体重・体表面積あたりの投与量が相対的に多いことを意識して低濃度で全身副作用の少ない薬剤を選択する.緑内障点眼薬はいずれも幼児,小児における安全性および効果についてのデータが確立していないことを忘れずに最小限の薬剤投与量にとどめる.とくにb遮断薬使用時は全身副作用(徐脈・低血圧・気管支けいれんなど)が重篤になるため注意が必要であり,新生児・乳児には基本的に避けたほうがよい.やむを得ず使用する場合は,涙.部圧迫による全身吸収の抑制を徹底する.FP受容体作動薬は小児での効果は成人に比較して弱い.a2刺激薬は中枢神経抑制作用があり,乳幼児では傾眠,昏睡,呼吸抑制をきたすため2歳未満には禁忌である6).炭酸脱水酵素阻害薬は点眼としても内服薬としても使用する.全身副作用は比較的少ないが,味覚異常や胃腸障害に注意が必要である.5.散瞳・調節麻痺薬屈折検査,調節麻痺,眼底検査,炎症抑制のため使用する.シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン)やトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼(ミドリンP)は外来での使用頻度が高く,使用方法・効果の持続時間・副作用についてとくに眼科スタッフに周知が必要である.散瞳や調節麻痺目的で使用するときには5.10分おきに2.3回点眼する.外来で点眼する際には家族にも協力してもらい,図2のような態勢で行うとやりやすい.副作用としては頻脈,血圧上昇,顔面紅潮,結膜充血,口渇などがみられる.シクロペントラートではさらに中枢作用を有し,とくに乳幼児では傾眠・発熱・幻1418あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(54)図2診察前に家族に協力してもらいながら乳幼児に点眼する場合の一例a:母と向かいあうように児を抱っこしてもらい,そこから点眼者の膝に仰向けに倒れて頭を預けてもらう.b:下眼瞼をそっと引き,上方を見るように指示して下眼瞼に点眼を落とす.図30.025%低濃度アトロピン点眼を1カ月継続使用している9歳男児の左眼前日21時に点眼し,12時間後の瞳孔の状態.細隙灯顕微鏡の光をあてても弱い縮瞳のみで,瞳孔径は5.8mm程度と中等度散瞳している.

ドライアイ点眼薬の進化

2025年11月30日 日曜日

ドライアイ点眼薬の進化AdvancementsinEyeDropMedicationsforDryEyeDisease鄭有人*はじめにドライアイ研究会によると,「ドライアイはさまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定義され,その診断基準は「フルオレセイン染色によるCBUT5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」とされる1).ドライアイの有病率は日本でのC40歳以上の住民を対象とした大規模疫学調査(KoumiStudy)によると,男性C12.5%,女性C21.6%であった2).また,ほかの日本の疫学調査をまとめると,女性のほうがC1.73.2.34倍多いとされる.難治性ドライアイのなかには,neuropathicCocularpainやCcornealCneuropathicpainとよばれる神経障害性疼痛や痛覚変調性疼痛がかかわる病態の存在も指摘されている3).visu-alCdisplayterminal(VDT)作業が多くなり,超高齢社会となった現代日本においては,ドライアイ患者数も増加しており,生活の質(qualityoflife:QOL)に関与するドライアイの治療的意義も重要になった.また,マイボーム腺機能不全(meibomianglandCdysfunction:MGD)との連関を指摘され,より複合的な治療も求められている.わが国においてドライアイはおもに点眼治療によりなされてきた.その「ドライアイ点眼薬の進化」について解説し,現時点でのもっとも望ましいドライアイ点眼薬の使用方法を考え,将来的な点眼治療についても紹介する.Iわが国におけるドライアイ点眼薬の開発史わが国においてドライアイは涙液動態の改善を重要視して開発された.わが国におけるドライアイ点眼治療薬の年表を,発売年を基に示す(表1).まずは,ドライアイが「乾性角結膜炎」と呼称されていた時代においては涙液減少が原因と考えられ,涙液補充を成す「人工涙液」による治療が開始された.そののち,角膜保護の観点からコンドロイチン硫酸ナトリウム点眼薬が発売された.そして,保水力により治療が可能となるヒアルロン酸ナトリウム点眼薬が発売され,ドライアイ治療の転機となった.そして,ジクアホソルナトリウム点眼薬,レバミピド点眼薬が続けざまに発売され,病態メカニズムに基づく,いわゆる涙の量や質に対するアプローチが可能となり,ドライアイ治療の変革点となった.また,塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAK)など防腐剤による点眼毒性にも配慮した製剤について開発が進み,防腐剤無添加点眼薬として使い切りのCunitdose(UD)製剤やフィルターが付いているCpreservativefree(PF)製剤が開発された.このような開発歴史を経て,日本は世界に先んじて,先進的なドライアイ治療が可能となっている.CIIドライアイ点眼薬ドライアイ点眼は生理食塩水と同程度の浸透圧(約300CmOsm)かつ中性付近(pH6.8)に調整されている.*YutoTei:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕鄭有人:〒143-8541東京都大田区東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科(1)(41)C14050910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1わが国の代表的なドライアイ点眼薬の発売年1965年1970年人工涙液(人工涙液マイティア)コンドロイチン硫酸ナトリウム点眼(アイドロイチン点眼)1978年1995年OTC薬・防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア)ヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼(ヒアレイン点眼液C0.1%)防腐剤フリーのCUD製剤(ヒアレインミニC0.1%)2010年ジクアホソルナトリウム点眼液3%(ジクアス点眼)ヒアルロン酸ナトリウムC0.3%点眼2011年2012年2020年ヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼防腐剤無添加CPF製剤レバミピド点眼(ムコスタ点眼液)OTC薬・ヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼(ヒアレインS)2022年2023年ジクアホソルナトリウム点眼液3%(ジクアスCLX点眼)レバミピド点眼(レバミピド点眼液ディンプルボトル)表2TFODおよびTFOTに基づいて使用されるドライアイ点眼治療薬点眼種類診療ガイドラインの実施推奨治療メカニズムよい適応注意点人工涙液点眼「する」ことを提案ヒトの涙液の塩に近い,水分補充ウォッシュアウト目的頻回点眼に注意,防腐剤無添加の使用推奨ヒアルロン酸点眼「する」ことを推奨保水性,上皮障害改善CRandombreak涙液中の有害物質の滞留や盗涙現象に注意ジクアホソルナトリウム点眼「する」ことを推奨水分分泌,ムチン発現増加CAreabreak以外のすべてのCTFODしみる・眼脂の副作用,点眼回数に注意レバミピド点眼「する」ことを推奨ムチン発現増加,抗炎症,抗摩擦Spot/dimplebreak,炎症性白い・苦いの副作用,涙道閉塞に注意***表3TFODBreakupパターン分類CAreaCLineCSpotCDimpleLine(L)CorRandom(R)CwithRapidExpansion(RE)CRandomフルオレセイン染色で認められるCbreakupパターン病態涙液減少(重症)涙液減少(軽症.中等症)角膜表面の水濡れ性低下角膜表面の水濡れ性低下LwithRE:角膜表面の水濡れ低下RwithRE:涙液蒸発亢進+角膜表面の水濡れ低下涙液蒸発亢進ドライアイサブタイプ涙液減少型ドライアイ水濡れ性低下型ドライアイLwithRE:水濡れ性低下型ドライアイRwithRE:蒸発亢進型+水濡れ性低下型ドライアイ蒸発亢進型ドライアイTFODに基づく治療(TFOT)上・下類天プラグ(+人工涙液)ジクアホソルナトリウムジクアホソルナトリウムand/Corレバミピドジクアホソルナトリウムand/Corレバミピドジクアホソルナトリウムand/Corレバミピドヒアルロン酸Na,人工涙液,ジクアホソルナトリウム,レバミピド,眼軟膏(兎眼),マイボーム腺機能不全治療(YokoiCN,CGeorgievGA:InvestCOpthalmolCVisCSci59:DES13-DES22,C2018CYokoiCN,CGeorgievGA:JpnCJCOpthalmol63:127-136,2019改変渡辺仁,横井則彦作成.を改変引用)薬についてフォローするのは現実的ではないものの,治療歴や内服の有無は確認すべきである.また,UD製剤(ヒアレインミニ)は「シェーグレン症候群またはスティーブン・ジョンソン症候群にともなう角結膜上皮障害の患者に使用した場合に限り算定する」と記載されており,処方する際には病名に注意が必要である.そのため,ヒアルロン酸点眼を防腐剤無添加で処方したい場合はCPF製剤を処方する.ただし,点眼が出るまでに数秒かかるため,高齢者やリウマチ患者など,指が悪い人には配慮が必要である.なお,2020年に「要指導医薬品」として薬剤師のカウンセリングのもと,いわゆるCOTC医薬品として薬局で直接入手可能となった.ドライアイ診療ガイドラインではヒアルロン酸点眼の推奨は「強い」であり,「実施する」ことを推奨する」とされる.以上のことをまとめると,ヒアルロン酸点眼はCrandombreakの症例では第一選択となりうるが,それ以外では第二選択として使用することが望ましい.Cc.ジクアホソルナトリウム点眼薬ジクアホソルナトリウム点眼薬には,ジクアス点眼液3%などがある.ジヌクレオチド誘導体であるジクアホソルナトリウムが,ヌクレオチド受容体の一つであるP2Y受容体のアゴニストとして作用する.簡単に分子メカニズムをあげると,P2Y2受容体⇒CG蛋白⇒ホスホリパーゼ⇒イノシトールC3リン酸⇒小胞体CCa2+動員C⇒CCa2+増加がおきる.結果,杯細胞ではCMUC5AC(分泌型ムチン)の発現を増加させる9).角膜上皮においてはCMUC16(膜型ムチン)の発現を増加させるため10),水濡れ性低下型ドライアイのよい適応となる.また,結膜上皮細胞ではCCl2.やH2Oが分泌され,30分以上眼表面の水分を増加させる.その作用は涙腺非依存性であるため,Sjogren症候群においても治療効果が期待できる11).TFOD/TFOTを考えると,ジクアホソルナトリウム点眼はほとんどのドライアイ症例において第一選択となりうる.第CII相臨床試験,第III相臨床試験において,有用性を示し12),発売されてから現在C15年近くが経過した.2019年のランダム化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)メタアナリシスでは,Schirmer値の増加,フルオレセイン染色スコアの改善,BUTの延長を示した13).また,10年と長い経過についても,7症例のコホート研究で有用性と安全性に問題ないとされている14).2020年に実施された大規模CWEB調査研究において,ジクアホソルナトリウム点眼液のC6回点眼の順守率はC8.3%と極端に低かった15).しかし,2022年に基材としてポリビニルピロリドン(poly-vinylpyrrol-idone:PVP)を含み,1日C3回点眼を可能としたジクアホソルナトリウム点眼薬(ジクアスCLX点眼液)が利用できるようになった.副作用については,12カ月投与の臨床研究では約C11%で認め,「しみる」「目やにが増える」の頻度が多かった16).「しみる」は特徴的な感覚であり,数日から数週間感じることがあるので,あらかじめ伝えるのがアドヒアランス向上に大切である.また,ムチンの増加を伴うため,ムチン性眼脂の副作用が出現する.べたべたする,白く伸びる目やにが出るなどを訴えることが多い.防腐剤無添加の人工涙液でウォッシュアウトさせる,もしくはクロルヘキシジンが含んだ目の周りの拭き綿(眼瞼清拭でも使用するもの)の案内をするとよい.2019年のドライアイ診療ガイドラインには,それまでに発表されたC6編のCRCTを対象にシステマティックレビューが実施され,ジクアホソルナトリウム点眼は従来の人工涙液・ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬に比べて自覚症状,上皮障害を優位に改善させ,治療の選択枝として推奨するとまとめられた.推奨の強さは「強い」であり,「実施する」ことを推奨するとされる.また白内障術後ドライアイ,laserinsituCkeratomi-leusis(LASIK)術後ドライアイ,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用関連ドライアイCcontactClensdiscomfort(CLD)などにも有用とされる17).以上のことをまとめると,基本的にどのタイプのドライアイに対してもジクアホソルナトリウム点眼は第一選択となる.涙液量を増加させる非常に有益な点眼であり,CL装用患者への処方にも効果的である.Cd.レバミピド点眼薬レバミピド点眼薬には,ムコスタ点眼液C2%などがある.胃潰瘍・胃炎の内服治療薬としてC1990年に発売された.粘膜保護や抗炎症のメカニズムに着目し,ムチンを発現する粘膜をもつ眼表面のドライアイにも有効であるとの仮説に基づき開発された.培養細胞,ラットやウサギでの基礎実験,そして臨床研究を経て,ドライアイ(45)あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251409点眼治療薬としてドラッグリポジショニングにて創薬された.結膜における杯細胞の増加によりCMUC5AC(分泌型ムチン)の産生を促進し18),角膜上皮細胞におけるMUC1,4,16(膜型ムチン)発現を促すため19),水濡れ性低下型ドライアイのよい適応となる.このほかに,微絨毛の回復や上皮細胞間のタイトジャンクションの早期回復効果やインターロイキン(interleukin:IL)C-6,CIL-8,腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactoralpha:TNF-a)などの炎症性サイトカインの抑制の基礎研究報告がある.実際にCStevens-Johnson症候群(SJS)や眼類天疱瘡のステロイド点眼離脱の際の使用において有効性が報告されている20).これはレバミピドが眼表面の炎症性疾患に保護的に働くことを示唆している.また,ジクアホソルナトリウムの分泌促進作用とはメカニズムが異なるため,同時に使用した場合の相乗効果も期待される.大規模な臨床研究として二つのCRCTと長期投与試験があり,角結膜のフルオレセイン染色スコアの改善が報告されている.また,1年間の長期投与試験においても角結膜のフルオレセイン染色スコアの改善およびCBUTの延長が維持を認めた21).レバミピド点眼は水分分泌を介さずにムチン発現を増加させることにより,摩擦軽減効果や自覚症状の改善に効果的であることを示す.筆者は,流涙症になりそうな結膜弛緩症などのドライアイ合併例に対して涙液量を増やさないで加療できるため重宝している.また,併存疾患として上輪部角結膜炎,リッドワイパー上皮症,糸状角膜炎に対してとくに有効であることが報告されている22).副作用としては,懸濁液であるために一時的に見えにくくなる以外に,苦味がある(約10%).症例報告レベルでは涙道閉塞に注意が必要とされ,添付文書にも記載された.診療ガイドラインではレバミピド点眼の推奨は「強い」であり,「実施する」ことを推奨するとされる.TFOD/TFOTを考えると,レバミピド点眼はCspotbreakそしてCdimplebreakなどにおいて第一選択となる.C2.ドライアイ診療ガイドラインに掲載されているその他の点眼治療薬(表4)欧米のドライアイ病態の考え方に基づき,海外では炎症性疾患として免疫抑制薬点眼などが使用されてきた.日本においても炎症が病態にかかわっていること自体はコンセンサスを得ているものの,保険適用の治療までには至っていない.TFOD/TFOT以外にもドライアイ治療として使用される点眼薬について紹介する.Ca.副腎皮質ステロイド点眼薬/非ステロイド性抗炎症薬点眼薬低力価の副腎皮質ステロイド(0.1%フルオロメトロン点眼)1日C2回点眼は,抗炎症や自覚症状の増悪時に使用すると効果があると報告されている.ただし,長期間のステロイド点眼は易感染性や眼圧上昇など副作用に注意が必要であるため,使用は消炎されるまでのC2週間.1カ月程度の短期間がよいとされる.ドライアイ診療ガイドラインでは,使用推奨は「弱い」であり,「実施する」ことを提案するに分類されている.一方,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)点眼薬はドライアイに対して有効であるエビデンスはなく,角膜知覚低下による瞬目回数や涙液量の減少を起こしうるため,ドライアイ診療ガイドラインでは使用しないことが弱く提案されている.Cb.シクロスポリン製剤IL-6,IL-12,IL-17などの炎症性サイトカインやCmatrixmetalloproteinase(MMP)-9の低下などの抗炎症効果が報告されている23).2003年にC0.05%シクロスポリン点眼が米国食品医薬品局(FoodCandCDrugCAdmin-istration:FDA)で承認され,海外で処方されている点眼である.システマティックレビューでは,自覚症状・上皮障害の改善には有効とされている.わが国ではドライアイに対して未承認薬であり,ドライアイ診療ガイドラインでは使用しないことが弱く提案されている.Cc.血清点眼自由診療として,血清点眼や多血小板血漿(platelet-richplasma:PRP)点眼が使用されることがある.角膜知覚神経が障害されるような病態には有効性が期待されている.血清点眼は具体的に,上皮成長因子(epidermalgrowthfactor:EGF),ビタミンA,トランスフォーミング増殖因子(transformingCgrowthfactor:TGF)C-b,フィブロネクチン,神経成長因子(nerveCgrowthCfac-tor:NGF)などにより有効性を発揮すると考えられている.自覚症状の改善が報告されていることに加え,基1410あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(46)表4ドライアイ診療ガイドラインに掲載されているその他の点眼治療薬点眼種類診療ガイドラインの実施推奨治療メカニズムよい適応注意点副腎皮質ステロイド点眼「する」ことを提案抗炎症炎症,自覚症状増悪時に一時的使用易感染性,眼圧上昇に注意非ステロイド性抗炎症薬点眼「しない」ことを提案抗炎症ドライアイには適応なし瞬目・涙液量減少に注意シクロスポリン点眼「しない」ことを提案抗炎症炎症,自覚症状や上皮障害改善?日本で保険適応外血清点眼「しない」ことを推奨上皮障害を改善させうる各種因子SJSなどの炎症を伴う重症ドライアイ自由診療,点眼汚染に注意合には,ドライアイの診断に必須であるフルオレセイン染色を必ず行う必要がある.TFOD/TFOTでは,ほとんどの症例で第一選択がジクアホソルナトリウム点眼薬,次にレバミピド点眼薬の適応であることがわかる.もちろん,必要時にヒアルロン酸ナトリウム点眼薬を追加で処方検討することも大切である.CIVドライアイ点眼薬のアドヒアランスドライアイ点眼の点眼順守率がC10.2%と,実はとても低いことが報告された15).また,用法どおりの点眼回数を医師または薬剤師から指示されていた患者はC18.3%と,こちらも低値である.ドライアイ患者が用法どおりに点眼できていないおもな理由は,「症状があるときに点眼している」「外出時に点眼薬を持ち歩くのを忘れた」「面倒だから」であった.処方する医師側と患者の認識にかなり差があることが改めて示された結果であり,アドヒアランスの向上も重要な治療ファクターとなる.また,点眼瓶は使用開始したらC1カ月しかもたない,複数点眼するときの順番や,点眼間隔をC5分あけることなどの基本情報も適宜伝えるのが大切である.そして,指が悪い患者はCUD製剤やCPF製剤が使用しにくい場合があるため,本人が使用しやすい点眼瓶のメーカーで処方する配慮もアドヒアランス向上には重要である.また,そもそも点眼経験が少ないと点眼がうまくいかないことが多いため,こぶし法などの点眼指導も重要である.おわりに本稿ではドライアイ点眼の進化についてその歴史や各種点眼薬について紹介した.わが国においては,ドライアイを訴える患者には原則フルオレセイン染色を実施し,TFOD,TFOTに基づいて治療する.現時点でのドライアイ第一選択はジクアホソルナトリウム点眼薬やレバミピド点眼薬となる.そして,症例や病態を踏まえて,人工涙液,ヒアルロン酸点眼薬,副腎皮質ステロイド点眼薬などを併用するのが望ましい.現在では,他覚的所見(フルオレセイン染色など)の改善に関する治療は成熟しつつある.ただし,ドライアイの診断基準に自覚症状が含まれるように,今後は自覚症状へのアプローチも重要となってくる.現在はCdryeye-relatedqualityofClifescore(DEQS)やCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)などの質問表での定量評価が試みられている.ドライアイ点眼治療においても,今後は個別化治療・精密医療の導入が重要となるはずである.免疫学的・神経学的なアプローチからも創薬された点眼が,さらなる症状の改善に寄与し,患者のCQOL向上につながることに期待したい.文献1)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改定(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20172)UchinoCM,CNishiwakiCY,CMichikawaCTCetal:PrevalenceCandCriskCfactorsCofCdryCeyeCdiseaseCinJapan:KoumiCstudy.OphthalmologyC118:2361-2367,C20113)WatsonCSL,CLeDT:CornealneuropathicCpain:aCreviewCtoinformclinicalpractice.EyeC38:2350-2358,C20244)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:FacilitationCofCtearC.uidCsecretionCbyC3%CdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnormalChumaneyes.AmJOphthalmolC157:85-92,C20145)大竹雄一郎,山田昌和,佐藤直樹ほか:点眼薬中の防腐剤による角膜上皮障害について.あたらしい眼科C8:1599-1603,C19916)YokoiCN,CKomuroCA,CNishidaCKCetal:E.ectivenessCofChyaluronanConCcornealCepithelialCbarrierCfunctionCinCdryCeye.BrJOphthalmolC81:533-536,C19977)MurakamiJ,NishidaT,OtoriT:CoordinatedappearanceofCbetaC1CintegrinsCandC.bronectinCduringCcornealCwoundChealing.JLabClinMedC120:86-93,C19928)横井則彦:ドライアイ診療のフローチャート.日本の眼科C68:729-734,C19979)ShigeyasuC,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetraso-diumincreasestheconcentrationofmucin-likesubstancesinCtearsCofChealthyChumanCsubjects.CCurrCEyeCResC40:C878-883,C201510)GeorgievGA,EftimovP,YokoiN:ContributionofmucinstowardsCtheCphysicalCpropertiesCofCtheCtear.lm:aCmod-ernupdate.IntJMolSciC20:6132,C201911)YokoiCN,CKatoCH,CKinoshitaS:TheCincreaseCofCaqueousCtearCvolumeCbyCdiquafosolCsodiumCinCdry-eyeCpatientsCwithCSjogren’ssyndrome:apilotCstudy.CEye(Lond)C30:C857-864,C201612)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal:ACran-domised,Cdouble-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCversusCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyepatients.BrJOphthalmolC96:1310-1315;201213)NamK,KimHJ,YooA:E.cacyandsafetyoftopical3%diquafosolCophthalmicCsolutionCforCtheCtreatmentCofCmulti-factorialCdryCeyedisease:meta-analysisCofCrandomizedCclinicaltrials.OphthalmicResC61:188-198,C20191412あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(48)

開放隅角緑内障治療における「点眼薬ファースト」への挑戦

2025年11月30日 日曜日

開放隅角緑内障治療における「点眼薬ファースト」への挑戦Challengesofthe“EyeDrops-First”ApproachintheTreatmentofPrimaryOpen-AngleGlaucoma生島徹*森和彦*はじめに原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglauco-ma:POAG)は緑内障の代表的な病型である.治療法には薬物療法,レーザー療法,観血的療法があるが,第一選択は,わが国においては薬物療法とされている1).主たる薬物療法は点眼療法である.点眼療法を第一選択とする最大の優位性はその低侵襲性にあると思われる.しかし,低侵襲性の観血的療法である低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)の開発,濾過手術のMIGSであるプリザーフロマイクロシャント(preser.oMicroShunt:PMS)の導入などにより,観血的療法の低侵襲化が進み点眼療法の優位性が減少しつつある.また,比較的低侵襲性と考えられるレーザー療法に関しては,近年,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の早期治療介入における有効性についてのエビデンスが得られ,欧米においては薬物療法と同様に第一選択治療とされている.レーザーおよび観血的療法の技術革新の時代といえる昨今である.一般論として,薬物療法はローリスク・ローリターン,レーザーおよび観血的療法はハイリスク・ハイリターンとされているが,それは果たして正しいのか,「第一選択は薬物療法」は揺るぎない原則なのか,その点からPOAGに対する薬物療法の現状の立ち位置について論じる.いわば「点眼薬ファースト」に対するチャレンジである2).I点眼療法の課題:アドヒアランス点眼療法は短期的には「ローリスク」であり,選択の心理的なハードルが低い治療方法ともいえる.しかし,点眼療法は「患者が自ら点眼する」ことにより目的が達成され,さらには「一生涯継続」する必要から,患者の高齢化に伴って困難な療法になる可能性がある.つまり,点眼療法は「見えざるリスク」が内包されていると考えざるを得ない.医師の治療方針を患者が理解して実行できるか否か,この概念はコンプライアスもしくはアドヒアランスとよばれている.点眼のアドヒアランスが不良であるほど視野進行が速くなるとの報告があり(図1)3),緑内障薬物療法においてアドヒアランスは最重要案件といっても差し支えない.Tsumuraらは患者の自己申告による「直近1週間の点眼忘れがない症例」をアドヒアランス良好とした場合,その結果は約72.4%であった4).しかし,Kassらの報告5)にあるように,自己申告による調査は過大評価されがちであることを考慮すべきである.コンプライアンス良好を点眼手技も含めて定義した筆者らの報告においては,その結果は38.0%であり6),実際に点眼治療の有効性にとって必要な点眼手技を含めるとコンプライアンスは低下する傾向にあるといえる.患者の高齢化は点眼手技を悪化させる可能性が高く,今後の大きな課題である.Kashiwagiらは,新規緑内障患者の薬剤継続率を算*ToruIkushima&KazuhikoMori:バプテスト眼科長岡京クリニック〔別刷請求先〕生島徹:〒617-0826京都府長岡京市開田2-12-15nobless2-3階バプテスト眼科長岡京クリニック(1)(33)13970910-1810/25/\100/頁/JCOPYEstimatedMD(dB)-5-6-7Dosesmissed0missed1/3missed1/2missed2/3missed-8012345678Follow-up(years)図1点眼アドヒアランスと視野障害進行の関連性(文献3より引用)ab図2眼表面疾患(OSD)およびプロスタグランジン関連眼窩周囲症(PAP)の症例緑内障点眼薬により誘発されたCOSD(Ca:濾胞性結膜炎.Cb:点状表層角膜症)およびプロスタグランジン関連薬により誘発されたCPAP(Cc).しみる面倒であるよくなった気がしない持ち運びにくい種類が多すぎる充血する27262121423001020304050選択された数図3点眼薬の苦痛な点(上位5項目)の結果(文献C6より改変引用)図4低侵襲緑内障手術で使用される代表的なデバイスa:谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック.Cb:カフークデュアルブレード.c:iStentinjectW.Cd:Hydrusマイクロステント.meanmedication43210図5SLT,Trabectome,iStentの術後成績比較(文献C10より引用)図6プリザーフロマイクロシャント(PMS)の外観およびPMS使用の術中写真a:外観.Cb:PMSを使用した濾過手術の術中写真.デバイス内へ留置糸(10-0ナイロン糸)を挿入中である.—

抗炎症点眼薬の選び方

2025年11月30日 日曜日

抗炎症点眼薬の選び方HowtoChooseAnti-In.ammatoryEyeDrops冨田大輔*はじめに眼科領域における抗炎症点眼薬には,副腎皮質ステロイド点眼薬(以下,ステロイド点眼薬),非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)の点眼薬(以下,NSAIDs点眼薬と表記),免疫抑制薬がある.これらは眼表面疾患,眼内炎症,手術周術期管理において不可欠であり,疾患特性や病態,患者背景を踏まえて適切に選択される必要がある.本稿ではとくに臨床現場で頻用されるステロイド点眼薬とNSAIDs点眼薬を中心に,ガイドラインに基づく推奨や実臨床でのエビデンスを交えて詳述する.Iステロイド点眼薬1.作用機序ステロイドは抗炎症性蛋白質リポコルチン-1の産生を誘導し,ホスホリパーゼA2の活性を抑制する.これによりアラキドン酸の遊離が阻止され,プロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症メディエーターの生成が抑えられる.また,インターロイキン(interleu-kin:IL)-1をはじめとするサイトカイン産生抑制作用も有し,免疫抑制・血管収縮・細胞増殖抑制といった効果を発揮する.とくに,臨床的には即効性のある強力な抗炎症作用を示す.2.メリット・強力な抗炎症・免疫抑制作用:アレルギー性結膜炎,非感染性の炎症性疾患,手術後の炎症など適応が広い,即効性が高い.・組織への選択的作用:点眼の場合は全身副作用がほぼなく,全身合併症を心配する必要はない.3.デメリット・眼圧上昇(ステロイド緑内障):高力価,長期投与でリスク上昇,とくに小児・若年者は注意が必要である.・ステロイド白内障:長期使用で水晶体混濁が生じうる.・易感染性:細菌・ウイルス・真菌などの病原体に罹患しやすくなる.・創傷治癒の遷延:細胞増殖やコラーゲン産生が抑制され,角膜上皮の修復が遷延する.4.ステロイド点眼の使い分けステロイド点眼薬の一覧を表1に示す.大別すると,ベタメタゾンやデキサメタゾンのような強い作用を示すものと,フルオロメトロンのようにやや作用が弱いものがある.さらに同じ薬剤であっても,濃度や回数が変わると,効果や合併症の発現リスクが変わるため,実臨床においては,症状や所見をもとに調整していく必要がある.この際の判断基準は症例・疾患によって異なるが,他覚所見(充血,浸潤,角膜後面沈着物,前房内炎症,角膜厚,眼圧など)と,疼痛などの自覚症状があげられ*DaisukeTomida:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕冨田大輔:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科(1)(27)13910910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1副腎皮質ステロイド点眼薬一覧品名一般名会社名眼内移行性力価リンデロン点眼・点耳・点鼻液0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム塩野義製薬高い強いリンデロン点眼液0.01%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム塩野義製薬低め中等度リンデロンAベタメタゾンリン酸エステルナトリウムフラジオマイシン硫酸塩0.35%配合塩野義製薬高い強いオルガドロンデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムサンドファーマ高い強いサンテゾーン0.1%デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム参天製薬高い強いサンテゾーン0.02%デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム参天製薬低め中等度フルメトロン点眼液0.1%フルオロメトロン参天製薬低め中等度フルメトロン点眼液0.02%フルオロメトロン参天製薬かなり低い弱い図1点眼薬の濃度の違いと効果a:フルオロメトロン0.02%.b:フルオロメトロン0.1%.表2非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼薬一覧品名一般名会社名特徴・適応ニフランプラノプロフェン千寿製薬外眼部・前眼部の炎症性疾患の対症療法ジクロードジクロフェナクナトリウムわかもと製薬白内障手術後の炎症症状,術中・術後合併症予防ブロナックブロムフェナクナトリウム千寿製薬外眼部・前眼部の炎症性疾患の対症療法ネバナックネパフェナクノバルティス内眼手術後の術後炎症図2ブロムフェナクの術後長期使用による穿孔表3抗炎症点眼薬にかかわるガイドライン概略疾患おもなガイドライン発行年ガイドライン局所治療概略アレルギー性結膜炎抗アレルギー点眼薬が基本.症状に応じて免疫抑制点眼薬(シクロスポリン,タクロリムス)やステロイド点眼薬を追加する春季カタルアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)2021年8月抗アレルギー点眼薬から始め,免疫抑制点眼薬(シクロスポリン・タクロリムス)へ移行する.不十分ならステロイド点眼薬を併用する通年アレルギー結膜炎に準じた治療が必要.基本は抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬(春季カタルと同様)で,場合によりステロイド点眼アトピー性結膜炎マイボーム腺機能不全,MRKCマイボーム腺機能不全診療ガイドライン2023年2月副腎皮質ステロイド点眼は眼瞼清拭や温罨法との併用ヘルペス角膜炎感染性角膜炎診療ガイド2023年10月実質型においては,重症度にあわせてステロイド点眼の強さを変えて使用サイトメガロウイルス内皮炎ライン(第3版)自家調製ガンシクロビル点眼液(0.5.2%)と低濃度ステロイド(0.1%フルオロメトロン点眼)の局所投与を行うドライアイドライアイ診療ガイドライン2023年5月抗炎症点眼療法として,ステロイド点眼は自覚症状,涙液の安定性を改善するため,治療の選択肢として提案するが,NSAIDs点眼は自覚症状,涙液の安定性,上皮障害の改善に対し有効と判断する根拠はなく,治療の選択肢としないことを提案するウイルス性結膜炎ウイルス性結膜炎ガイドライン2003年1月ステロイド点眼は,重症度にあわせた使用が求められる.一方で,NSAIDs点眼については明確な報告がない.-の場合(虹彩内皮炎や壊死性角膜炎など)には,ステロイド内服を使用することもある.7.サイトメガロウイルス内皮炎治療にはガンシクロビルやバルガンシクロビル塩酸塩など抗ウイルス薬の有用性が報告されているが,いずれも保険適用外であり,標準治療は確立されていない.患者への十分なインフォームドコンセントを行ったうえで,各施設で定められた手続きを経て使用する必要がある.初期治療として,自家調製ガンシクロビル点眼液(0.5.2%)と低濃度ステロイド(0.1%フルオロメトロン点眼)の局所投与を行い,症例によってはガンシクロビルの全身投与を併用する.慢性的に0.1%ベタメタゾン点眼を使用することで,サイトメガロウイルスの再燃を起こすこともあり,漫然とした高力価のステロイド点眼薬の使用は注意が必要である.NSAIDs点眼の効果に関しての報告はない.8.周辺部角膜潰瘍周辺部角膜潰瘍には,リウマチ性周辺部角膜潰瘍やMooren潰瘍があげられる.急性期には0.1%ベタメタゾン点眼だけでなく,ステロイドの全身投与や外科的な手術などの抗炎症治療が必要になるが,原疾患による個別の治療が必要となってくる.潰瘍の形状や充血,自覚症状で病勢を確認し,徐々に全身・局所のステロイド点眼を減らしていく.重症例には,ステロイドの全身抑制薬の投与,再発を繰り返す場合には,免疫抑制薬の内服なども検討する.9.ドライアイドライアイに関して,0.1%フルオロメトロン点眼薬が効果を奏する症例もあるが,0.1%ベタメタゾン点眼まで使用することはない.ステロイド点眼薬は,自覚症状,涙液の安定性を改善し,治療の選択肢となりうるが,有害事象として眼圧上昇や角膜感染には注意が必要である.また,NSAIDs点眼薬はドライアイに対しての有効性は認められておらず,またそれ自体に薬剤毒性がある.重症例では角膜穿孔をきたす可能性もあり,ドライアイ症例には避けるべきである.10.強膜炎強膜炎の治療の基本は,原疾患に準じた治療となる.その際の治療の主軸はステロイド経口投与となる.眼局所の治療としては,ステロイド点眼が使用される.局所に関しては,NSAIDs点眼薬は疼痛緩和には使用されることもあるが,強膜融解の合併症もあり,使用には注意が必要である.11.ぶどう膜炎(おもに前部ぶどう膜炎)2)ぶどう膜炎の治療の基本は原疾患に準じた治療となる.とくに非感染性ぶどう膜炎では,原疾患にあわせた治療を行う.眼局所に関しては,前房中に炎症細胞がみられる場合(SUNWorkingGroupclassi.cationで1+cell以上),0.1%ベタメタゾンを4.6回/日で開始し,同時に瞳孔管理のため散瞳薬も併用する.前房炎症の程度が強く,線維素の析出や前房蓄膿がみられる場合には0.1%ベタメタゾン,散瞳薬の点眼回数を増加する.治療開始後は炎症所見の改善を確認しながら,徐々に点眼回数や薬剤濃度,低力価なものへと漸減していく.NSAIDs点眼の明確なエビデンスはない.重症例では局所・全身ステロイド,免疫抑制薬,生物学的製剤の投与が推奨される.12.緑内障術後ガイドラインによると,原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の術後には,ステロイド点眼などの抗炎症治療を行うことが,眼圧コントロール改善のため推奨される.そして,NSAIDs点眼がステロイド点眼に変わりうるかということに関しては,推奨に足る十分なエビデンスがなく,今後の検討が必要である.13.白内障術後さまざまな報告において,白内障術後数週間はステロイド点眼とNSAIDs点眼の併用が術後の.胞様黄斑浮腫などの合併症の危険性を減らせるという結果である.とくに糖尿病患者やぶどう膜炎症例,合併症例はハイリスク群であり,長期での投与を検討する必要がある.(31)あたらしい眼科Vol.42,No.11,20251395

コンタクトレンズ装用者における点眼薬使用上の注意

2025年11月30日 日曜日

コンタクトレンズ装用者における点眼薬使用上の注意ClinicalConsiderationsontheAdministrationofEyeDropMedicationsinContactLensWearers山口昌大*はじめにコンタクトレンズ(contactlens:CL)は現代における屈折矯正の主要な手段の一つとして広く普及し,その装用人口は世界的に増加の一途をたどり,とくにソフトCL(softCL:SCL)は快適性や取り扱いの容易さからもっとも一般的に使用される.眼科臨床においては近視・遠視・乱視矯正のみならず,ドライアイや円錐角膜に対する特殊レンズ,さらにはオルソケラトロジーやバンデージレンズといった治療的応用まで広がりをみせている.その一方で,CL装用者に点眼薬を処方する場面においては,レンズ素材と薬剤の相互作用,保存剤による角膜障害,薬物動態の変化といった特有の注意点が存在することが知られており,これを軽視することは治療効果の減弱や有害事象の誘発につながりうる1).したがって,眼科医は点眼薬の薬理作用や製剤特性に加え,レンズ素材の特性を理解したうえで,適切な指導と処方を行う必要がある.CICLの種類1.HCLハードCCL(hardCL:HCL)は非ガス透過性CHCL〔ポリメチルメタクリル酸塩(polymethylmethacrylate:PMMA)CL〕とガス透過性CHCL(rigidCgasCpermeableCL:RGPCL)に大別される.日本ではCRGPCL,とくに高酸素透過性がもっとも普及している.1946年にポリメチルメタクリル酸塩CPMMAを用いたCHCLが最初に表1ソフトコンタクトレンズ(SCL)の分類(FDA分類)グループ名含水材料定義CⅠ低含水非イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1Cmol%以下CⅡ中.高含水非イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1Cmol%以下CⅢ低含水イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1Cmol%超CⅣ中.高含水イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1Cmol%超作成されたが,酸素非透過性であるために角膜内皮障害をはじめとするリスクが指摘され,1970年代に酸素透過係数(Dk値)の高いCRGPCLが開発され,普及することとなった.一般的にCHCLは平均C2.3年が寿命とされる.HCLは通常の屈折異常眼のみならず,円錐角膜,近視矯正後,角膜移植後などの角膜形状異常疾患に対する視力矯正などがよい適応である.C2.SCLSCLはレンズの素材やレンズ内に含まれる水分量によって,米国食品医薬品局(FoodandDrugCAdministra-tion:FDA)の分類で低含水性(含水率C50%未満)・高含水性(含水率C50%以上)とイオン性・非イオン性で区別した四つのグループに分けられる(表1).また,素材はハイドロゲルレンズとシリコーンハイドロゲルレンズ(siliconehydrogelcontactlens:SHCL)の二つがある.*MasahiroYamaguchi:順天堂大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山口昌大:〒113-8421東京都文京区本郷C2-1-1順天堂大学医学部眼科学教室(1)(21)C13850910-1810/25/\100/頁/JCOPY表2ハイドロゲルレンズとシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)の特徴利点欠点ハイドロゲルレンズレンズが軟らかく装用感がよい脂質汚れがつきにくい酸素透過性がCSHCLより低いSHCLより乾燥感が強いシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)酸素透過性が高い乾燥感が少ない蛋白汚れがつきにくい脂質汚れ,化粧品汚れがつきやすい巨大乳頭結膜炎,SEALsMPSとの相性があるMPS:multi-purposesolvent(多目的溶剤)表3眼科用添加剤の一覧用途使用目的添加剤名可溶化材水に溶けにくい有効成分を溶けやすくするために用いるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油ステアリン酸ポリオキシルC40ポビドンポリソルベートC80など安定化剤水溶液中では分解するなど不安定な有効成分を安定化させるエデト酸ナトリウム水和物ポビドンポリソルベートC80など等張化剤涙に近い浸透圧にする塩化カリウム塩化ナトリウム濃グリセリンブドウ糖D-マントニールなど緩衝材点眼剤のCpHの変動を防ぐpHの変動によって有効成分などの安定性や眼組織への移行性が変わることがあるクエン酸ナトリウム水和物酢酸ナトリウム水和物炭酸水素ナトリウムトロメタモールホウ酸ホウ砂リン酸水素ナトリウム水和物リン酸二水素ナトリウム水和物などpH調節剤点眼剤のCpHを最適な状態に調節するpHによって有効成分の安定性や眼組織への移行性が変化したり,点眼時のさし心地が変わったりする希塩酸水酸化ナトリウムなど防腐剤(保存剤)使用中における点眼剤の微生物汚染を防止するベンザルコニウム塩化物パラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピルクロロブタノールクロルヘキシジングルコン酸塩ソルビン酸など粘稠化剤(粘稠剤)点眼剤の粘性を高める粘性が高まると,有効成分の結膜.内滞留性が向上し,眼組織への移行および薬効の持続性が高まるカルボキシビニルポリマーポビドンポリビニルアルコール(部分けん化物)ヒドロキシエチルセルロースヒプロメロースメチルセルロースなど(日本眼科用剤協会作成の表を改変引用)表4眼科用防腐剤の特徴防腐剤名おもな特徴角膜・結膜への毒性CLへの影響臨床的留意点ベンザルコニウム塩化物第四級アンモニウム塩もっとも広く使用上皮毒性,涙液膜不安定化SCLに強く吸着長時間曝露による障害増強CL装用者では原則避ける保存剤関連副作用の最多原因クロロブタノールアルコール系防腐剤BAKより弱いが毒性あり吸着性は中等度長期使用には不適短期使用向きソルビン酸カリウム弱酸性環境で防腐作用BAKより毒性少ないレンズ変性は軽度SCL装用者に比較的安全長期使用では注意エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムキレート作用により抗菌補助単独毒性は弱いが上皮バリアを破壊しやすい他保存剤と併用で吸着増強単独使用は少ないがCBAKと併用されやすいポリクアッド高分子第四アンモニウム塩分子量大上皮透過性低く毒性少ないSCL吸着は少ないCL装用者に使用可能な保存剤として広く用いられるオキシクロール複合体光分解性で無害物質に変化毒性は低いCLへの影響軽度無保存剤に準じる安全性とされるソビトール酸エステル/ホウ酸緩衝系緩衝系と組み合わせて抗菌作用毒性は低い吸着性少ない一部人工涙液で使用図1薬剤毒性による点状表層角膜炎,Epithelialcrackline

眼科診療における点眼アドヒアランスの現状と課題

2025年11月30日 日曜日

眼科診療における点眼アドヒアランスの現状と課題:教育・行動支援・デジタル技術を統合した多面的戦略AdherencetoOphthalmicEyeDropsinClinicalPractice:CurrentStatus,Challenges,andtheMultimodalStrategyofIntegratingEducation,BehavioralSupport,andDigitalTechnology猪俣武範*はじめに点眼薬は眼科診療においてもっとも頻用される治療手段の一つであり,緑内障,ドライアイ,白内障をはじめとした術後管理,アレルギー性結膜炎など,多岐にわたる疾患に適応されている1.4).その有効性は多くの臨床試験や長期観察研究により裏づけられており,眼科薬物治療の基盤をなしてきた.しかし,点眼薬がもつ本来の効果を最大限に引き出すためには,患者が処方どおりに継続的かつ正確に使用することが必須である5).点眼薬には経口薬と比較して特有の困難が存在する.第一に「使用忘れに気づきにくい」こと6),第二に「滴下操作の難易度が高い」こと7),第三に「生活リズムや環境との結びつきが強い」こと8)である.このため,点眼アドヒアランス(遵守度)が治療効果に及ぼす影響はきわめて大きい9).さらに,点眼は可視的な行為でありながら家庭や職場での支援を得にくく,患者個人の努力に依存しやすい9).こうした特徴は,点眼薬による治療が他の薬物療法と比較してアドヒアランスの確保を困難にする要因となっている.従来用いられてきたコンプライアンスは医師の指示を患者が受動的に守るという意味合いが強かった10)(図1).一方,アドヒアランスは患者が主体的に治療に参加し,医師と協働して継続する姿勢を強調する概念であり,より双方向的で能動的な意味を含む.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)はアドヒアランスを「患者の行動が医師の推奨と一致している程度」と図1コンプライアンスとアドヒアランスの概念的差異コンプライアンスは医師の指示を患者が受動的に遵守することを強調するのに対し,アドヒアランスは患者主体の治療参加と医師との協働を前提とする.定義し,薬剤使用のみならず食事・運動療法や生活習慣改善など広範な行動を含むものとしている11).眼科領域においても点眼アドヒアランスは臨床アウトカムに直結する12).緑内障では点眼アドヒアランスが視野障害進行の抑制に,ドライアイでは角膜上皮障害や自覚症状の改善に直結する1,2).白内障術後では感染や炎症予防に不可欠であり,アレルギー性結膜炎では症状の再燃防止に重要である3,4).しかし現実には,緑内障点眼薬のアドヒアランスは処方1年以内に40.60%が中断し12),ドライアイ患者においても人工涙液を定期的に使用できているのは半数に満たない13).したがって,眼科疾患における点眼アドヒアランスは臨床的有効性を左右する鍵であり,その改善は失明予防や生活の質(quali-tyoflife:QOL)向上に直結する重要課題である.本稿では,まず眼疾患ごとに点眼アドヒアランスの現状と課題を概観する.そのうえで,教育的介入,行動変容支援,薬剤処方の工夫,デジタル技術やデバイスの活*TakenoriInomata:順天堂大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕猪俣武範:〒113-8421東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学医学部眼科学講座(1)(11)1375用について検討する.さらに規制・制度上の課題や将来展望を提示し,点眼アドヒアランス改善のための多面的戦略を論じる.I点眼アドヒアランスの現状と課題緑内障は世界の失明原因の第2位を占める慢性進行性疾患14)であり,点眼薬による眼圧下降が治療の第一選択である15).しかし,その点眼アドヒアランスは一貫して不十分であり,処方1年以内に40.60%が治療を中断している12).自己申告調査では点眼アドヒアランスが70.80%と高めに報告される一方,電子モニタリングによる客観的評価では50%前後にとどまることが明らかになっており,両者の間には大きな乖離が存在する1,16).さらに,薬剤特性による差も大きく,プロスタグランジン関連薬は1日1回投与ですむため,比較的点眼アドヒアランスは高いが,b遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬のように複数回投与を要する薬剤では点眼アドヒアランスの低下が顕著である17,18).加えて,緑内障は無症候性であることから「薬を中止しても変化がない」と患者が誤認しやすく,米国の大規模コホート研究では3年後の継続率が30.40%にすぎず12),日本や欧州でも同様の傾向が確認されている19).近年のメタアナリシスでは点眼アドヒアランスが80%以上の群において進行リスクが有意に低下することが示されており20),点眼アドヒアランスが視野障害進行の抑制に直結することが明確となった.日本の長期観察研究でも点眼アドヒアランスの高い患者群は低い群に比べて失明率が有意に低く,社会生活維持におけるQOLも良好であることが報告されている12,21,22).ドライアイは,世界的な有病率が約5.50%と非常にばらつきがあるものの,視覚障害やQOL低下をもたらすもっとも頻度の高い眼疾患の一つである23).治療の中心は人工涙液や抗炎症点眼であるが,「症状のあるときだけ使用する」という傾向が強く,点眼の継続使用率は低い8).Eguchiらのドライアイ研究用スマホアプリ「ドライアイリズム」を用いたデジタルコホート研究では症状性ドライアイ患者の半数以上が点眼を使用しておらず,スクリーン時間,睡眠不足,肥満などの生活習慣が点眼アドヒアランスの低下に寄与していることが明らかとなった24).さらに,TearFilmandOcularSurfaceSocietyDryEyeWorkshopII(TFOSDEWSII)では,点眼アドヒアランス低下が治療効果減弱や症状改善遅延に直結することを指摘している2).日本のコホート研究においても点眼アドヒアランスの高い群では角膜上皮障害スコアや自覚症状スコアの改善が有意に大きいことが報告されており25),デジタルリマインダーを用いた介入によって眼表面疾患指数(ocularsurfacediseaseindex:OSDI)スコアが改善する事例も示されている26).これらは,行動支援やテクノロジー活用がドライアイ治療の持続性を高め得ることを示唆している27).白内障手術は世界でもっとも施行される外科手術の一つであり28),術後の抗菌薬・抗炎症薬点眼は感染予防と炎症抑制に不可欠でとされている29).しかし,高齢者を中心に複数点眼の管理は容易ではなく,日本の多施設研究では抗菌薬点眼の完遂率が70%以下であることが示され,術後説明不足や教育の不十分さがその一因とされる30).米国の臨床研究では,退院時の構造化教育や電話/ショートメール(shortmessageservice:SMS)によるフォローなどの介入が,白内障術後の点眼レジメンに対する理解・実施を改善しうることが示唆されており,患者のリテラシー不足が点眼アドヒアランス低下の主要因となることも報告されている31).欧州でも,遠隔モニタリングやSMSを組み合わせた術後フォローの前向き試験が進み,患者体験や安全性・費用対効果の観点から術後管理の強化が検討されている32).このように,白内障術後においては高齢者特有の操作困難や認知機能低下に加え,教育不足が大きな課題となっている.アレルギー性結膜炎では抗ヒスタミン薬や肥満細胞安定化薬点眼が広く用いられているが33),その症状が軽快すると中断する患者が多いことが知られている4).さらに,タクロリムス点眼は刺激感が強いために長期継続が困難で点眼アドヒアランスが低い34).また,小児では保護者の協力が不可欠であり,家庭の支援体制が乏しい場合には点眼アドヒアランスが著しく低下することが報告されている35).そのため医療機関に加えて教育現場や地域社会との連携が点眼アドヒアランス向上に寄与する可能性がある.以上のように,緑内障,ドライアイ,白内障術後管表1疾患別にみた点眼アドヒアランスとおもな課題点眼アドヒアランスおもな課題改善介入方法緑内障1年後のC40.C60%中断無症候性,複数回投与教育,配合材,デジタルリマインダードライアイ半数未満が不定期使用症状依存,生活習慣デジタルリマインダー,生活指導白内障術後抗菌薬完遂率<7C0%高齢者操作困難,教育不足家族介入,反復教育アレルギー性結膜疾患改善後中断例多数症状軽快時の中断,小児における保護者依存保護者指導,学校支援緑内障では「無症候性による中断」,ドライアイでは「症状依存的な使用」,白内障術後では「高齢者による操作困難」,アレルギー性結膜炎では「症状軽快後の中断」が主要因となっている.疾患ごとに特異的要因がある一方,共通課題として操作の煩雑さと支援不足が浮き彫りになる.表2点眼アドヒアランス評価法の比較評価法強み弱み自己申告簡便・低コスト過大評価・想起バイアス残薬調査(点眼本数カウント)客観的・容易過大評価・改ざん可,点眼タイミング不明電子モニタリング正確・点眼タイミング取得可高コスト・負担スマートデバイス患者・市民の生活圏における自動取得デバイスの普及前提AI(人工知能)予測モデル個別予測・フィードバック可開発段階,妥当性や信頼性の検証が必要が得られにくいことが知られている.近年では,スマートデバイスやウェアラブル機器を活用した客観的な測定手法が導入され,従来の主観的評価を補完しうる有用なデータが蓄積されつつある39.42).さらに人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた解析により,患者属性や生活習慣から点眼アドヒアランス低下リスクを予測するモデルの開発が進展しており43),将来的には個別化された介入戦略の設計に寄与することが期待される.表2は代表的なアドヒアランス評価法の強みと弱みの比較である.CIIIアドヒアランス改善の工夫1.教育と説明教育的介入は点眼アドヒアランス向上にもっとも基本的かつ効果的な戦略の一つであり,多くの研究で遵守率をC10.20%改善することが示されている44,45).とくに,正しい点眼手技の指導は不可欠であり,複数滴の同時投与回避,容器先端の眼瞼や睫毛との接触防止,滴下後の過剰瞬目の抑制といった基本操作の徹底が重要である46.48).図解資料や動画教材を用いた説明は患者の理解を促進し,自己効力感を高めることにつながる49).さらに,薬剤師や看護師による繰り返しの指導も有効であり,薬剤師が点眼教育を体系的に行うことで点眼アドヒアランスが改善した事例が報告されている45).教育は単発的な指導にとどまらず,継続的な再教育の枠組みとして組み込むことが望ましい.C2.行動変容支援行動変容を促す介入も重要である.リマインダー通知やCSMS配信は短期的な点眼アドヒアランス改善効果を示すものの,長期的な改善には患者個々の生活習慣に合わせた個別化が求められる50,51).近年は行動経済学のナッジ理論を応用52)し,点眼実施に応じてポイントを付与する仕組みや,診療時に遵守度を可視化する方法が試みられており,達成感やモチベーション向上につながるとされる53,54).また,AIを活用し,患者の生活リズムに応じた最適なタイミングでリマインダーを提示することで,従来より遵守率をC20%以上改善したとの報告もある55).さらに,国際比較研究では,文化的背景や医療制度の違いによって点眼アドヒアランス介入効果に差が生じることが示されており,地域特性を考慮した行動支援が必要である6,56).C3.薬剤処方の工夫薬剤設計や処方の工夫も点眼アドヒアランス改善に直結する.投与回数が少ない薬剤ほど遵守率は高く,1日1回の点眼薬や配合剤は継続率を有意に改善する57).さらに,防腐剤フリー製剤は副作用リスクを軽減し,長期使用の持続性を高める58).とくに,抗炎症点眼の徐放インプラントは「毎日の点眼」から「数カ月に一度の処置」へのパラダイムシフトを可能にし,点眼アドヒアランスが改善したと報告されている59).加えて,費用対効果分析においても,徐放製剤の導入は長期的な医療費削減につながることが示されており60),臨床効果だけではなく,医療経済的観点からも有効な戦略と考えられる.以上のように,教育・説明による知識と手技の習得,行動変容支援による日常生活への組み込み,そして薬剤処方の工夫による使用負担の軽減は,いずれも点眼アドヒアランス改善に寄与する重要な要素である.これらは互いに補完的であり,単独の介入では不十分であることが多いため,包括的かつ多層的に組み合わせた戦略として実施する(図2)ことが,臨床現場における持続的な改善につながると考えられる.CIVデジタルヘルスと点眼デバイスの進化1.デジタルヘルス近年では,点眼アドヒアランス向上を目的としたアプリケーションの開発が進んでいる61).代表例として筆者らの開発したドライアイ研究用アプリ「ドライアイリズム」や花粉症研究用アプリ「アレルサーチ」といったスマートフォンアプリケーション(スマホアプリ)は症状と点眼行動を同時に記録でき,患者自身のセルフマネジメント支援と研究データ収集の双方に有用であることが報告されている24,39.42,62).こうした取り組みに加えて,CSoftwareasaMedicalDevice(SaMD)は医療機器としての承認を受けることで,医療提供体制や保険診療体系の中に正式に組み込まれ,診療上の標準的なプロセスとして利用可能となる点で重要である.米国食品医薬品局図2アドヒアランス改善介入の多層構造モデル患者を中心に据えた多層的介入モデル.第C1層は「教育と説明」による基盤形成,第C2層は「行動変容支援」による習慣化促進,第C3層は「薬剤・デバイスの工夫」による負担軽減を表す.外周には「制度整備・社会的支援」が位置づけられ,全体を補完する.calsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)が審査体制の整備を進めているものの,実用化にはさらなる環境整備が求められている.加えて,点眼アドヒアランスデータは医療情報としてCEUの一般データ保護規則(gen-eralCdataprotectionCregulation:GDPR)や日本の個人情報保護法の規制対象となり,暗号化・匿名化・利用者同意の確実な取得が必須である.とくに高齢者の利用を想定した場合,セキュリティに加え,ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス設計において音声ガイド,大きな文字表示,ワンタッチ操作といった配慮が強く求められる.さらに,制度的観点では保険償還制度が普及の大きな障壁となっている.米国では一部のCSaMDが公的保険や民間保険の対象として認められており,保険償還の仕組みが段階的に整備されつつある.わが国においてもSaMDは保険診療に導入されつつあるが,適用範囲はより限定的であり,この償還制度の進展度の差が両国における普及速度の違いに直結している.とくに緑内障患者において,失明を防ぐことによる医療費削減につながる効果はC20年間で累積C1,100億円規模に及ぶとの試算もあり76),費用対効果を考慮した制度設計は喫緊の課題といえる.デジタルヘルスと点眼デバイスの臨床的有用性を裏づけるエビデンスを積み上げるとともに,政策的支援や保険償還の整備を進めることが,実臨床での普及と持続可能な導入に不可欠である.CVI将来展望AIを用いた解析によるリスク予測と個別化介入は,今後の点眼アドヒアランス管理において中核的役割を果たすと考えられる.米国で行われた臨床試験では,AIアルゴリズムを活用したリマインダー介入により遵守率がC20%以上改善したと報告されており55),従来の一律的アプローチに比べて高い効果が期待される.さらに,スマートウォッチや眼鏡型デバイスとの連携により,点眼行動や視機能関連パラメータをリアルタイムで記録・解析することが可能となり,眼圧や涙液分泌を評価するセンサーとの統合によって閉ループ型治療管理(図3)の実現が視野に入っている77).このようなシステムは,点眼行動を単なる遵守指標から疾患制御の一部として動的に位置づけし直す契機となる.また,アプリやデバイスを通じて得られるリアルワールドデータ(realworlddata:RWD)は,疾患傾向や治療効果の評価を精緻化するのみならず,医療政策立案や費用対効果分析に資する基盤情報としての価値を有している24,41).とりわけ高齢化社会における医療資源の効率的配分において,RWDの活用はきわめて重要である78.80).一方で,低・中所得国においては薬剤アクセス自体が主要な制約因子であり,先進国型の高度デジタル介入をそのまま導入することは困難である81).WHOはモバイルヘルス技術の活用による低コストかつ広範囲な支援の有効性を指摘しており82),シンプルかつ持続可能な介入の設計が求められる.今後は国際的なデータ共有や標準化が進むことで,先進国と途上国の双方に適応可能な包括的戦略の構築が期待され,世界規模での点眼アドヒアランス改善につながると考えられる.将来展望として,AIやスマートデバイスの進化は点眼アドヒアランス管理の質を飛躍的に高め,閉ループ型の治療体系を現実のものとしうる(図3)77).また,RWDの活用は医療政策や費用対効果分析に資する新たな基盤を提供する.一方で,グローバルな視点では低コスト・高効率の介入が求められ,国際的な協調と標準化が不可欠である.したがって,今後は技術革新と制度整備を両輪とし,先進国・途上国を問わず持続可能な点眼アドヒアランス改善戦略を構築することが重要である.おわりに点眼アドヒアランスは,眼科治療の成否を左右するもっとも重要な要素の一つである.その概念は単なる「指示の遵守」にとどまらず,患者が主体的に治療へ参加し,医師や医療スタッフと協働して継続的に治療を遂行するという広義の意味を含んでいる.近年の研究により,教育的介入や行動変容支援,薬剤設計の工夫が点眼アドヒアランス向上に寄与することが実証されており,さらにアプリやCSaMD,スマートデバイスといった技術革新が新たな解決策として現れつつある.これらは従来の課題を補完し,患者個々の背景に即した点眼アドヒアランス改善を可能にする.図3将来展望:AIとデジタル技術による閉ループ型管理モデル閉ループ型治療管理(closed-looptherapymanagement)とは,患者の状態を継続的にモニタリングし,そのデータをリアルタイムで解析して,治療の調整を自動的または半自動的に行う仕組み.「測定C→判断C→投与」をひとつのループとして閉じることで人の介入を最小化し,より精密で個別化された管理・治療を実現する.whenCdiscussingCtheCneedCforCadditionalCoralCmedicationCwithCtypeC2Cdiabetespatients:InsightsCfromCtheCcross-nationalCIntroDiaRCstudy.CDiabetesCResCClinCPractC148:C179-188,C201911)WorldCHealthOrganization:WorldCHealthCReportC2003,CGeneva,200312)QuarantaCL,CNovellaCA,CTettamantiM:AdherenceCandCpersistencetomedicaltherapyinglaucoma:anoverview.OphthalmolTherC12:2227-2240,C202313)WuCWL,CChangSW:CharacterizationCofCindividualsCwithChigh-frequencyCarti.cialCtearCsupplementCuse.CJCClinCMedC14:202514)KingmanS:GlaucomaCisCsecondCleadingCcauseCofCblind-nessCglobally.CBullCWorldCHealthCOrganC82:887-888,C200415)WangCT,CCaoL,CJiangCQ:TopicalCmedicationCtherapyCforCglaucomaCandCocularChypertension.CFrontCPharmacolC12:C749858,C202116)CateCH,CBhattacharyaCD,CClarkA:PatternsCofCadherenceCbehaviourCforCpatientsCwithglaucoma.CEye(Lond)C27:C545-553,C201317)BaudouinCC,CMyersCJS,CVanCTasselSH:AdherenceCandCpersistenceConCprostaglandinCanaloguesCforglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CAmCJCOphthalmolC275:99-113,C202518)BolandMV,ChangDS,Frazier,T:Electronicmonitoringtoassessadherencewithonce-dailyglaucomamedicationsandCriskCfactorsCfornonadherence:theCautomatedCdosingCreminderstudy.JAMAOphthalmolC132:838-844,C201419)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C201420)ShuCYH,CWuCJ,CLuongT:TopicalCmedicationCadherenceCandCvisualC.eldCprogressionCinopen-angleCglaucoma:CanalysisCofCaClargeCUSChealthCcareCsystem.CJCGlaucomaC30:1047-1055,C202121)SleathCB,CBlalockCS,CCovertD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C201122)ThompsonCAC,CWoolsonCS,COlsenMK:RelationshipCbetweenCelectronicallyCmeasuredCmedicationCadherenceCandCvision-relatedCqualityCofClifeCinCaCcohortCofCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CBMJCOpenCOphthalmolC3:Ce000114,C201823)StapletonF,AlvesM,BunyaVY:TFOSDEWSIIepide-miologyreport.OculSurfC15:334-365,C201724)EguchiA,InomataT,NakamuraM:HeterogeneityofeyedropCuseCamongCsymptomaticCdryCeyeCindivid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点眼薬のDDS開発

2025年11月30日 日曜日

点眼薬のDDS開発TheDevelopmentofOcularDDS(DrugDeliverySystem)Technology鈴木寛貴*鹿村悠子*森泰裕*礒脇明治*はじめに点眼薬は,有効成分を眼表面に直接投与可能な製剤である.その非侵襲的かつ簡便な投与方法から,点眼薬は眼科疾患の症状の緩和や治療の第一選択となっている.しかし,眼は異物の侵入に対するバリア機能を数多く有しており,点眼後の有効成分もまた異物として速やかに排泄される.そのため,疾患部位,または疾患部位近傍に直接投与可能な点眼薬でさえ,その眼内移行率(bio-availability:BA,用語解説参照)は驚くほど低く,点眼後の薬物が房水へ到達する量は点眼液中の薬物濃度の約0.01.0.1%といわれている1).このBAの低さが,1日に複数回の点眼投与を必要とする要因の一つである.点眼回数は点眼アドヒアランスと密接に関係しており2),点眼回数を減らすことが点眼アドヒアランスの向上に貢献し,ひいては期待される治療効果を得ることにつながる.そのため点眼薬の開発において,より少ない点眼回数で目的の治療濃度を維持することがきわめて重要であり,眼表面での滞留性やBAの向上が解決すべき課題の一つとなる.これらの課題解決のための技術として,ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)が注目されている.DDSとは,薬物を体内の必要な場所に必要な量,必要な時間で送達するための技術の総称である.DDS製剤の開発は点眼薬のみならず,さまざまな剤形で進んでいる3).図1に示すように,DDS技術は,その特徴に応じて「標的指向型DDS」「放出制御型DDS」「吸収制御型DDS」の三つに分類され,有効性の向上,副作用の軽減,投与回数の減少などが期待できる.このような利点により,DDS技術は患者の治療結果を改善し,治療の質を向上させるポテンシャルを有する製剤技術である.眼科製剤の剤形は点眼薬をはじめ,硝子体内注射剤,眼瞼投与製剤や,デバイス製剤など多岐にわたる.本稿では,点眼薬のDDS技術(とくに吸収制御型DDS)に焦点をあてて解説し,眼科医療におけるDDS製剤の可能性に言及する.IDDS技術によるBA改善アプローチ前項で述べたように,眼は異物に対する高い防御機能を有しており,点眼後の有効成分は異物と同様に速やかに排出される.その防御機構としては,涙液による希釈と排出,角膜によるバリア機能および房水の流れによる排出があげられる1).これらの生理学的要因により,点眼薬のBAは低いものとなる.一方で,点眼薬の粘度や懸濁剤の粒子径などの製剤学的要因もまたBAに影響することが明らかとなっている.そのため,さまざまな性質を有する添加剤と有効成分をうまく組み合わせることで,画期的なDDS製剤の開発を行っている.実用化されているDDS技術や,今後実用化が期待されるDDS技術について実例をあげて解説する.*HirokiSuzuki,YukoShikamura,YasuhiroMori&AkiharuIsowaki:千寿製薬株式会社研究開発本部総合研究所〔別刷請求先〕鈴木寛貴:〒650-0047神戸市中央区港島南町6-4-3神戸イノベティブセンター千寿製薬株式会社研究開発本部総合研究所(1)(3)13670910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ドラッグデリバリーシステム(DDS)の概要および眼科製剤での適用例点眼液中涙液中COO-COO-アルギン酸架橋反応COO-COO-比較的滑らかな水溶液Ca2+とイオン架橋を形成してゲル化し,眼表面での滞留性向上および薬物の徐放化図2アルギン酸を用いたイオン応答性ゲルのゲル化メカニズム表1PCP含有1%アジスロマイシン点眼液またはPCP非含有1%アジスロマイシン点眼液を単回点眼投与したときのウサギ眼組織中のアジスロマイシン濃度Cmax(Cμg/g)(平均値±標準誤差)CAUC0-144h(Cμg・h/g)(平均値±標準誤差)CTmax(h)CT1/2(h)PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有結膜C9.55±5.12C108±35.1C79.2±16.2C737±93.2C0.083C0.083C48C63角膜C8.78±1.61C40.4±8.73C196±20.8C837±81C0.083C0.083C91C67涙液*C893±215C10539±1494C155±28.4C3016±397C0.083C0.083C37C15房水*C0.003±0.0004C0.076±0.029C0.250±0.017C0.689±0.077C24C0.083C61C80CCmax:最高薬物濃度,AUC:薬物濃度-時間曲線下面積,Tmax:最高濃度到達時間,T1/2:消失半減期.*涙液と房水のCCmaxおよびCAUCC0-144hの単位はそれぞれCμg/mlおよびCμg・h/ml.薬物曝露量の指標である各眼組織中アジスロマイシンのCCCmaxおよびCAUCC0-144hにおいて,PCP含有製剤はCPCP非含有製剤よりも顕著に高い値を示した.すなわち,PCPによるアジスロマイシンの眼組織移行性の向上が認められた.aチモロールチモロール+ソルビン酸良好な分配b1412108642001234Time(hr)図3イオンペア法による眼内移行性の向上a:イオンペア法による眼内移行性改善メカニズム.Cb:イオンペア処方またはチモプトールC0.5%をウサギに単回点眼投与したときの房水内薬物濃度プロファイル.ab3,0002,0001,0000Time(h)50403020ConcentrationofDFBConcentrationofDFB10(ng/ml)(ng/g)0Time(h)Mean±S.D.(n=3-4).*p<0.05(Student’st-test)DFB:ジフルプレドナードの活性代謝物.図4エマルション製剤による眼内移行性の向上a:Oil-in-Water型エマルション製剤の基本的構成(分散相と連続相の概略図).b:ジフルプレドナードのエマルション製剤または懸濁剤をウサギに単回点眼投与したときの角膜および房水内CDFB濃度プロファイル.012345012345寿製薬)がある.これは,ブリモニジン酒石酸塩を有効成分とするアイファガン点眼液C0.1%とブリンゾラミドを有効成分とするブリンゾラミド懸濁性点眼液C1%の両単剤を配合した点眼薬である.一般的に,配合点眼剤は各単剤に近い有効性・安全性プロファイルを示すことが期待されるため,薬物間相互作用がもたらす眼内薬物動態への影響を評価しなければならない.ブリンゾラミド懸濁性点眼液は粘性を有する点眼薬であり,製剤粘度は薬物のCBAを高める働きがある.したがって,ブリンゾラミドのCBAを維持するために,アイラミド配合懸濁性点眼液にも同様の粘性をもたせる必要がある.その際の懸念として,高粘度化によるブリモニジンのCBA向上があげられる.そこで,ブリモニジンのCpKCaがC7.8であることに着目し,製剤中のCpHを適切に制御することで本薬物のイオン型比率が高まり,眼内移行性が抑制できると考えた.アイファガン点眼液はCpHの規格がC6.7.7.5であるのに対し,アイラミドのCpHはC6.3.6.8と,より低いCpHにて製剤設計を行ったところ,粘性により増加する眼内移行性を相殺し,アイファガンと同程度の眼内移行性を達成した.このように,配合点眼剤の開発においても,さまざまな製剤学的工夫によって製品化されている.C6.OPTIREACHOPTIREACHはシクロデキストリン(cyclodextrin:CD)を用いたCDDS技術である.CDは環状構造を有し,その孔内に薬物を包接することで,難水溶性薬物を可溶化することができる.そのため,難水溶性薬物のCBA向上を目的に使用されることが多い.本技術は従来のCCDを用いた技術とは少し異なっており,薬物を内包したCD同士が凝集した形態であることを特徴とする10).本技術を適用した点眼薬として,OCS-01(Oculis社)が開発中である.OCS-01は,デキサメタゾンとCc-CDからなる複合微粒子を含んだ懸濁性点眼薬として製剤設計されている.点眼投与された複合微粒子は涙液中薬物濃度を持続的に高めることで,デキサメタゾンの生体膜透過性が促進され,網膜移行量が増大する.よって,本点眼薬はステロイドの眼内注射に代わる点眼剤として期待されており,現在,米国で第CIII相試験を実施している.おわりに本稿では,BAの改善や点眼回数の減少を目的としたDDS技術を中心に紹介した.今回取り上げたCDDS技術はほんの一部にすぎず,眼科CDDS技術はめざましい発展を遂げている.しかし,DDS技術を用いることで製剤処方の複雑化や薬物動態予測の煩雑化なども生じており,医薬品開発にかかる労力やコストが膨らんでいるのも実情である.これらの課題を解決するために,近年では人工知能(arti.cialintelligence:AI)を活用することで,製剤処方の最適化やCADMET(用語解説参照)予測の精度向上などの試みが活発に行われている11).DDS技術はすでに数多くの眼科製剤に応用されているものの,その技術はいまだに発展途上にあり,さらなる革新的なCDDS技術の創出が望まれている.点眼薬開発に携わる研究者の使命は,医薬品の三大要件である有効性,安全性,品質を満たすことはもちろんのこと,点眼薬特有のさし心地(使用感)を意識し,さらには,点眼回数や患者さんの負担を減らしたユーザーフレンドリーな点眼薬を開発することにあると考えている.これらを実現するためにはCDDS技術が不可欠であり,今後もCDDS技術の開発に注力することで点眼アドヒアランスの向上に大いに貢献し,眼科医療の質向上,そして患者の生活の質(qualityoflife:QOL)向上につながることを期待している.C■用語解説■眼内移行率(BA):点眼投与された薬物のうち眼内に到達した割合.ゾル(sol):液体中にポリマーが分散した流動性のある状態,対義語はゲル(gel).CpKa:酸の強さを定量的に表した指標であり,pKCaが小さい程酸性が強く水素イオンを解離しやすい.薬物濃度-時間曲線下面積(AUC):眼組織中薬物濃度曲線と横軸(時間)に囲まれた面積のことであり,薬物曝露量の指標となる.CADMET:absorption(吸収),distribution(分布),metabolism(代謝),excretion(排泄),toxicity(毒性)の頭文字をとった略語.1372あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(8)

点眼薬ABC

2025年11月30日 日曜日

点眼薬ABCThe‘A,B,Cs’ofEyeDropTherapy榛村重人*山上聡**眼科領域において,点眼薬は依然としてもっとも一般的で第一選択となる薬物投与手段である.その利便性と局所投与による全身副作用の回避といった利点から,診療のあらゆる場面で日常的に使用される.その一方で,点眼という投与形式はドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)の制限,患者のアドヒアランスへの依存,疾患や患者背景に応じた最適な薬剤選択のむずかしさなど,さまざまな課題も内包している.本特集「点眼薬ABC」では,眼科診療に携わるすべての医師に向けて,点眼治療の最新知見と実臨床に即した活用法を総合的に解説することを目的とした.点眼薬のDDSの進歩や,アドヒアランスを高めるためのデバイスや工夫の進化は,従来の「患者任せ」から脱却する可能性を秘めている.また,CL装用者における点眼の注意点や,小児患者への処方といった,これまで十分に語られてこなかったトピックにも光を当てた.さらに,炎症性疾患に対するステロイド・非ステロイド系点眼薬の使い分け,緑内障治療における多剤併用の戦略,慢性疾患としてのドライアイに対する新たな薬剤の台頭など,疾患ごとに求められる点眼治療の「精緻化」にも焦点を当てている.そして,近年注目されている生物製剤の点眼開発については,今後の眼科薬物治療のパラダイムシフトを見据えた展望を提示している.医療技術や薬剤開発が日進月歩で進むなか,点眼薬の「基礎」と「応用」の両面を見直すことは,患者の生活の質(qualitioflife:QOL)を高め,治療成果を最大化するうえできわめて重要である.本特集が,日常診療に役立つ知識の整理と,明日からの臨床に直結する実践的なヒントの提供につながることを願ってやまない.*ShigetoShinmura:藤田医科大学東京先端医療研究センター臨床再生医学講座**SatoruYamagami:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)1365