‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

抗VEGF治療:私の糖尿病黄斑浮腫の治療方針

2019年7月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二66.私の糖尿病黄斑浮腫の治療方針喜田照代大阪医科大学眼科学教室VEGF阻害薬の登場により,糖尿病黄斑浮腫患者のCQOLが飛躍的に向上し,硝子体内注射の施行件数が増加した.一方でトリアムシノロンアセトニド(マキュエイドCR)も承認され,また,レーザー光凝固や硝子体手術も治療選択肢の一つである.本稿では筆者の見解を述べる.はじめにVEGF阻害薬の登場により,黄斑疾患における視力予後をはじめ,患者の視覚の質(qualityCofvision:QOL)が飛躍的に向上した.わが国ではラニビズマブ(ルセンティスCR)とアフリベルセプト(アイリーアCR)の2剤が糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に承認されており,その恩恵を受けている.VEGF阻害薬は,反復投与の必要性や合併症の危険があること,高価な薬剤であること,薬剤耐性,抗菌薬点眼による結膜.常在細菌叢の変化などの問題もあり,これらを認識し十分なインフォームド・コンセントのうえで治療を行うことが重要である.一方で,VEGF阻害薬ではないが,副腎皮質ステロイドであるトリアムシノロンアセトニド(マキュエイドCR)もCDMEに承認されており,今なおCDME治療の重要な選択肢の一つである1).投与間隔はラニビズマブとアフリベルセプトがC1カ月であるが,トリアムシノロンアセトニドはC3カ月以上あけること,と他剤に比べ長くなっている.また,これらの注射薬登場の前より,DMEに対してはレーザー光凝固や硝子体手術が施行されてきた.症例実際の症例を示す.図1はレーザー光凝固と抗VEGF療法を組み合わせて治療した視力良好な一例で,図2は最初に抗CVEGF療法を繰り返し施行したのち白図1単純型糖尿病網膜症におけるDMEの一例(69歳,女性)治療前視力は(0.9)であった.FAで黄斑耳側に毛細血管瘤があり,FA後期で蛍光漏出がみられる(Ca:FA初期C30秒,Cb:FA後期C11分).抗CVEGF療法および毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行したところ,DMEは軽快した(Cc:治療前,d:治療C1カ月後のCOCT黄斑マップ).視力はC0.9~1.0を維持している.(75)あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C9130910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2白内障および眼底後極部に著明な硬性白斑を伴うDMEの一例(63歳,女性)a:治療前の眼底写真.治療前視力は(0.3)であった.Cb:治療前のOCT.黄斑上膜を伴う.Cc:抗CVEGF療法後の眼底写真.硬性白斑は減少したが黄斑浮腫は残存.視力(0.2).d:手術施行C3カ月後のCOCT黄斑マップ.Ce:12カ月後のCOCT黄斑マップ.f:術後C2年半後の黄斑部OCT.術後視力は(0.7)に改善した.内障手術併用硝子体手術を施行し,後極部の硬性白斑が減少した例である.図2のような眼底で白内障がない症例では,筆者は抗CVEGF療法でなくトリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射をまず施行することもある.抗CVEGF療法単独で患者のCQOVが向上しない場合は組み合わせて治療するのも一案かと思われる.また,糖尿病網膜症が進行期で,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)を施行して新生血管や中間周辺部の無灌流域が広範囲にみられるCDME症例では,無灌流域のレーザー光凝固を施行することにより,しばらくするとCDMEの改善がみられることがある.周辺網膜の虚血はCDMEに関与する2).いずれの眼科治療にせよ,生涯できるだけ良好なQOVを維持するためには,血糖や血圧,腎機能維持などの内科的なサポートは必要不可欠であると思う.おわりに遷延性黄斑浮腫に対しては治療に難渋することが多いが,DRCR.netのサブ解析の結果では辛抱強く抗CVEGF療法を続けるのも一法として報告されている3).DMEにかぎらず,どのような疾患であれ,治療に際し,なぜこのような状態が生じて患者が日常不自由な思いをされているのか,発症のメカニズムや病態を考慮することはC914あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019臨床上不可欠である.まずは患者との信頼関係を築くことが重要であり,とくに通院加療期間が長いCDMEでは,治療を継続するにつれ病態も変化していくので,患者自身が今一番困っていること,通院が辛くなっていないかどうか,注射治療を受けた感想などをできるだけ聞き出すように努めている.検査面では,光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)画像に頼りすぎず,検眼鏡的眼底所見の確認や必要性に応じてCFAの施行を怠らないことが大切である.FAはCDMEにおける血管漏出や透過性亢進の程度を把握することができるので今なお有用であるが,侵襲的な検査であるので,非侵襲的なCOCTangiographyの進展に期待している.文献1)vanCderCWijkCAE,CCanningCP,CvanCHeijningenCRPCetal:CGlucocorticoidsCexertCdi.erentialCe.ectsConCtheCendotheli-uminaninvitromodeloftheblood-retinalbarrier.ActaOphthalmol97:214-224,C20192)WesselCMM,CNairCN,CAakerCGDCetal:PeripheralCretinalCischaemia,CasCevaluatedCbyCultra-wide.eldC.uoresceinCangiography,CisCassociatedCwithCdiabeticCmacularCoedema.CBrJOphthalmolC96:694-698,C20123)BresslerCSB,CAyalaCAR,CBresslerCNMCetal:PersistentCmacularCthickeningCafterCranibizumabCtreatmentCforCdia-beticmacularedemawithvisionimpairment.JAMAOph-thalmol134:278-285,C2016(76)

緑内障:若年性黄色肉芽腫による小児緑内障

2019年7月31日 水曜日

●連載229監修=山本哲也福地健郎229.若年性黄色肉芽腫による小澤憲司岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野美濃市立美濃病院小児緑内障若年性黄色肉芽腫は眼科領域では非常にまれな疾患である.虹彩・毛様体に発生することが多く,続発小児緑内障の原因となる.小児の自然発生した前房出血をみたときは鑑別する必要がある.ステロイド投与にて改善することが多いが,治療が遅れると失明の原因となりうるため,本疾患概念を知っておくことは必要である.●はじめに若年性黄色肉芽腫(juvenileCxanthogranuloma)は乳幼児の頭蓋,顔面,体幹の皮膚に好発し,5歳頃までに自然消退する良性腫瘍として皮膚科領域でよく知られており,non-Xhistiocytosisに属する疾患である.眼科領域では,1949年にCBlankらにより前部ぶどう膜炎を併発することが初めて報告された1).眼合併症頻度は全若年性黄色肉芽腫患者のC0.2~0.4%とされる2,3).白色人種に多く,欧米での症例報告は多数されているが,アジア人における発症はまれである4).眼科領域における好発部位は虹彩・毛様体であり,他に結膜,強膜,眼瞼,眼窩にも発生することがある.皮膚病変は眼病変に対して先行して認められることもあれば,8~10カ月遅れて出現することもある2)(図1).臨床所見の特図1体幹に認めた若年性黄色肉芽腫の皮疹所見背部に暗赤色で境界明瞭な丘疹を認める.(文献C4より引用)徴としては①虹彩腫瘤,②片眼性緑内障,③自発的前房出血,④ぶどう膜炎による充血,⑤虹彩異色症の五つが主とされており5),これらの症状のなかでは結膜充血がもっとも頻度が高くC40%,ついで虹彩腫瘤がC13%,前房出血がC13%,虹彩異色症はC7%,緑内障合併はC13%であったとの報告がある.とくに,小児に自然発生した前房出血が本疾患の特徴的所見とされている6)(図2).小児の前房出血をきたす疾患の鑑別診断には外傷,網膜芽細胞腫などの腫瘍性病変,髄芽腫,未熟児網膜症,白血病などの血液疾患があげられる.C●診断皮膚病変があれば生検にて診断確定に至るが,皮膚病図2若年性黄色肉芽腫による続発小児緑内障の前眼部写真高眼圧に伴う角膜混濁浮腫と前房内出血(→)を認める.(文献C4より引用)(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C911図3背部に認めた丘疹の病理組織像(HE染色)腫瘍細胞のびまん性の浸潤と,Touton型巨細胞様の所見(→)を認める.(文献C4より引用)変を認めない場合は,診断のため前房を穿刺し吸引細胞診が行われることがある7).組織学的にはCTouton型巨細胞がみられる(図3).また,CD1a染色陰性を確認することで肉眼的所見が類似するCLangerhans細胞組織球症を否定することも必要である.最近は,早期診断に超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)による評価が有用とされている.UBMは非侵襲的に腫瘍病変の部位・広がりを把握することができ,エコーパターンから他の虹彩腫瘍との鑑別にも有用とされる8).検鏡にて明らかな腫瘍性病変を確認できるときは,UBMにて内部が均一なエコー像がみられる.一方,境界不明瞭なびまん性腫瘍浸潤の場合は,UBMにて虹彩表面に不整な凹凸がみられると報告されている9).C●治療現在のところステロイドの点眼あるいは結膜下注射による局所投与が第一選択であり,効果不十分の場合はステロイドの経口全身投与を行う場合がある10).海外の報告ではステロイド治療無効例に,ビンブラスチン全身投与11),あるいはベバシズマブの眼内投与(前房内/硝子体内)を施行し改善が得られたと報告されている12).本疾患は眼科領域において非常にまれな疾患であるため,皮膚に黄色肉芽腫が認められたとしても,すべての患者に眼科的スクリーニングを行うことはメリットが乏しいとされる3).ただし,適切な治療介入が遅れると重度の視力障害をきたすため,軽視することはできない疾患であり,小児の前房出血を認めた際は鑑別疾患として早期に考慮することが必要である.文献1)BlankCH,CEglickCPG,CBeermanH:Nevoxantho-endothelio-mawithocularinvolvement.CPediatrics4:349-354,C19492)ChangCMW,CFriedenCIJ,CGoodW:TheCriskCintraocularjuvenileCxanthogranuloma:surveyCofCcurrentCpracticesCandCassessmentCofCrisk.CJCAmCAcadCDermatolC34:445-449,C19963)SamuelovL,KinoriM,ChamlinSLetal:RiskofintraocuC-larandotherextracutaneousinvolvementinpatientswithcutaneousCjuvenileCxanthogranuloma.CPediatrCDermatolC35:329-335,C20184)小澤憲司,澤田明,川瀬和秀ほか:角膜浮腫のため診断に難渋した若年性黄色肉芽腫による小児続発緑内障のC1例.臨眼71:681-686,C20175)SmithCME,CSandersCTE,CBresnickGH:JuvenileCxantho-granulomaCofCtheCciliaryCbodyCinCanCadult.CArchCOphthal-mol81:813-814,C19696)SamaraCWA,CKhooCCT,CSayCEACetal:JuvenileCxantho-granulomaCinvolvingCtheCeyeCandCocularadnexa:TumorCcontrol,visualoutcomes,andglobesalvagein30patients.COphthalmologyC122:2130-2138,C20157)VendalCZ,CWaltonCD,CChenT:GlaucomaCinCjuvenileCxan-thogranuloma.SeminOphthalmol21:191-194,C20068)LichterCH,CYassurCY,CBarashCDCetal:UltrasoundCbiomi-croscopyCinCjuvenileCxanthogranulomaCofCtheCiris.CBrJOphthalmol83:375-376,C19999)SyedCZA,CChenTC:NewCultrasoundCbiomicroscopyCirisC.ndingsCinCjuvenileCxanthogranuloma.CJCGlaucomaC25:Ce759-e760,C201610)TreacyCKW,CLetsonCRD,CSummersCG:SubconjunctivalCsteroidinthemanagementofuvealjuvenilexanthogranu-loma:aCcaseCreport.CJPediatrCOphthalmolCStrabismusC27:126-128,C199011)PollonoCD,CGalanCM,CCuruchetCACetal:JuvenileCxantho-granulomaCwithCbilaterallCocularinvolvement:completeCresponseCafterCtreatmentCwithvinblastine:caseCreport.CEurJOphthalmol19:1069-1072,C200912)AshkenazyCN,CHenryCCR,CAbbeyCAMCetal:SuccessfulCtreatmentCofCjuvenileCxanthogranulomaCusingCbevacizum-ab.JAAPOSC18:295-297,C2014912あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(74)

屈折矯正手術:LASIK(レーシック)術後の視機能

2019年7月31日 水曜日

監修=木下茂●連載230大橋裕一坪田一男230.LASIK(レーシック)術後の視機能山村陽バプテスト眼科クリニック中等度の近視に対する最新のテクノロジーを用いたCLASIK術後の視機能をみると,高次収差は解析径C6Cmmでは球面(様)収差がわずかに増加するが,解析径C4Cmmでは増加せず,コントラスト感度も低下しないレベルに達している.「LASIKをすると高次収差の増加によってコントラスト感度が低下する」という従来の認識が見直されてもいいのではないかと考える.C●はじめに日本白内障屈折矯正手術学会による多施設研究では,2015年に国内で施行された屈折矯正手術C15,011眼のうち約C80%がレーシック(laserinCsitukeratomileusis:LASIK)となっており,術後成績については裸眼視力1.0以上がC94%,矯正精度C±0.5D以内がC87%,C±1.0D以内がC96%と良好であったと報告1)されている.視覚の質(qualityCofvision:QOV)や生活の質(qualityCoflife:QOL)を向上させる屈折矯正手術として現在でも主流に施行されているCLASIKだが,ここ数年は国内における景気低迷の影響やC2013年に発表された消費者庁の注意喚起の影響などにより,施行件数はピーク時の1/10程度にまで減少したとされている.C●コントラスト感度検査要求されるCQOVが高まっている現在,視力検査による視機能評価だけでは対応が困難となっている.日常生活では明所,暗所,薄暮下などの照度が異なる条件のもと,必ずしもコントラストがはっきりしたものばかりを見ているわけではない.したがって微細な自覚的視機能を評価するには,視力検査よりもコントラスト感度検査のほうが有用である.コントラスト感度検査が昨年保険収載された(算定条件あり)ことからも,実臨床におけるニーズは増えていると思われる.たとえば,LASIK術後の裸眼視力がC1.0以上であっても高次収差などの増加によって「何となくかすむ・ぼやける・すっきり見えない」「薄暗いと見づらい」などの訴えを日常診療でときに経験する.このような場合にコントラスト感度検査は有用と考えられる.C●高次収差・wavefront.guidedLASIK近視矯正CLASIKでは,角膜中央部の切除によりCpro-lateからCoblateへの角膜形状変化や中央部と周辺部との(71)照射効率の違いなどから球面(様)収差が増加する.また,照射部位のずれによりコマ(様)収差が増加することも知られている2).約C20年前当時のコンベンショナル照射で行うCLASIKは,矯正量に依存して高次収差が増加し,コントラスト感度の低下は避けられなかった3).しかしその後,エキシマレーザー機器のレジストレーションやアイトラッキング機能の向上,カスタム照射の導入,フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製,高解像度波面センサーによる生体計測などといったLASIKに関する技術革新が進んだ4).カスタム照射のひとつであるCwavefront-guidedCLASIK5)は,術前に眼球全体の高次収差を測定し,誘発される高次収差の抑制や術前から存在する高次収差の軽減をコンセプトとしており,コントラスト感度の低下を起きにくくする効果が期待できる.C●LASIK術後の視機能当院において2016年4月~2018年3月にwave-front-guidedLASIKを施行し,術後C6カ月以上経過観察可能であったC13例C26眼の術後視機能について紹介する.患者背景は,年齢C35.0C±7.1歳(24~48歳),屈折度数-4.34±1.47D(-2.00~-7.25D),術前裸眼視力はC0.07,矯正視力はC1.39である.角膜フラップをパルスレートC150kHzのフェムトセカンドレーザーCIntra-laseiFS(Johnson&Johnsonvision)にて作製し,エキシマレーザー照射はCVisxStarS4IR(Johnson&John-sonvision)を用いた.眼球の高次収差はCOPD-Scan(NIDEK)を用いて,散瞳下に解析径C4CmmとC6Cmmで測定した.球面収差のほか,3+5次収差をコマ様収差,C4+6次収差を球面様収差,3~6次収差を全高次収差として扱った.コントラスト感度はCCSV-1000E(VectorVision)を用いて,明所において無散瞳下と散瞳下で測定した.結果,術後C6カ月の裸眼視力はC1.39,1.0以上の割合あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C9090910-1810/19/\100/頁/JCOPY0.60.60.50.50.4****0.100-0.1**:p<0.01-0.1高次収差(mm)高次収差(mm)0.30.20.1球面収差コマ様収差球面様収差全高次収差pre0.140.30.180.376M0.220.320.270.43球面収差コマ様収差球面様収差全高次収差pre0.0020.120.050.136M-0.010.110.060.13図1高次収差(解析径4mm)図2高次収差(解析径6mm)術前後で球面収差,コマ様収差,球面様収差,全高次収差のい術前後で球面収差と球面様収差はわずかに増加していたが,コマ様収差と全高次収差は増加していなかった.ずれも増加していなかった.C2.52.5対数コントラスト感度21.510.50図3コントラスト感度(無散瞳下)術前後ですべての空間周波数でコントラスト感度の低下はなかった.はC96%,矯正視力はC1.60であり,屈折度数は-0.09±0.43D(-0.88~1.00D),矯正精度C±0.5D以内はC88%,C±1.0D以内はC100%であった.矯正視力C2段階以上の悪化はなかった.術前後の高次収差を図1,2に示す.解析径C4Cmmにおいては,球面収差,コマ様収差,球面様収差,全高次収差のいずれも増加していなかった.解析径C6Cmmにおいては,球面収差と球面様収差はわずかに増加していたが,コマ様収差と全高次収差は増加していなかった.術前後のコントラスト感度検査を図3,4に示す.無散瞳下と散瞳下のいずれの条件においても,すべての空間周波数でコントラスト感度の低下はなかった.C●おわりにLASIK術後の視機能については,「高次収差の増加によってコントラスト感度が低下する」と現在でも多くの眼科医が考えているかもしれない.しかし,少なくとも中等度の近視に対して最新のテクノロジーを用いてLASIKを施行すれば,「高次収差はほとんど増加せず,C910あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019361218空間周波数(cycles/degree)対数コントラスト感度21.510.50図4コントラスト感度(散瞳下)術前後ですべての空間周波数でコントラスト感度の低下はなかった.コントラスト感度は低下しない」レベルに達している屈折矯正手術であることを認識していただけたら幸いである.文献1)KamiyaCK,CIgarashiCA,CHayashiCKCetal:ACmulticenterCprospectiveCcohortCstudyConCrefractiveCsurgeryCinC15011Ceyes.AmJOphthalmol175:159-168,C20172)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Highorderwave-frontCabberationsCofCcorneaCandCmagnitudeCofCrefractiveCcorrectionCinClaserCinCsituCkeratomileusis.COphthalmologyC109:1154-1158,C20023)YamaneCN,CMiyataCK,CSamejimaCTCetal:OcularChigher-orderaberrationsandwavefrontaberrationscontrastsen-sitivityCafterCconventionalClaserCinCsituCkeratomileusis.CInvestOphthalmolVisSciC45:3986-3990,C20044)SandovalCHP,CDonnen.eldCED,CKohnenCTCetal:ModernClaserCinCsituCkeratomileusisCoutcomes.CJCCataractCRefractCSurgC42:1224-1234,C20165)MrochenCM,CKaemmererCM,CSeilerT:Wavefront-guidedClaserinsitukeratomileusis:Earlyresultsinthreeeyes.CJRefractSurg16:116-121,C2000(72)361218空間周波数(cycles/degree)

眼内レンズ:低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」の基礎

2019年7月31日 水曜日

392.低加入度数分節眼内レンズ大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科「レンティスコンフォート」の基礎レンティスコンフォートは+1.5Dの加入度数を有する屈折型の2焦点眼内レンズで,遠方から中間距離まで焦点が合うよう設計されている.その設計上の特徴から,ハロー/グレアといった不快な光学現象が生じにくく,またコントラスト感度の低下もほとんどみられない.広い明視域をもちながら不具合が少なく,保険診療の枠内で単焦点眼内レンズと同じ感覚で使用できる新しいタイプの眼内レンズであり,大きな注目を集めている.遠用ゾーン後面中間用ゾーン(+1.5D)前面図2光学デザイン遠用ゾーンと中間用ゾーンが非対称・扇形に配置されている.図3エッジデザイン360oスクエアエッジとなっている.●はじめに近年,遠近二つの焦点をもつ従来の多焦点眼内レンズとは異なったコンセプトの眼内レンズが,市場に登場してきている.低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」(参天製薬)もその一つで,+1.5Dの差がある二つの光学部をasymmetricな扇状に配した独自の形状を有するレンズである(図1).先進医療の枠組みではなく,保険診療で使用できる.●デザインの特徴二つの異なる度数の単焦点レンズを繋ぎ合わせたような光学デザイン(dualmonofocaldesign)となっている(図2).このことから分節型(segmented)とよばれている.従来の多焦点眼内レンズが同心円状のデザインであったのに対して,非対称の配置となっているところが特徴的である.瞳孔径によって遠用/中間用ゾーンの面積比率が大きく変わらないため,遠中の見え方のバランスは瞳孔径に影響されにくい.後発白内障を抑制するために,周辺部は360oスクエアエッジ(シャープエッジ)となっている(図3).図1低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」●光学的特徴+1.5Dの加入であり,遠方と中間距離に焦点が合うというのがコンセプトである.焦点深度曲線をみると,遠方を中心になだらかな曲線を描いており,明視域が広いことがよくわかる(図4)1).裸眼視力0.8で区切ると,眼前67cmまでその視力が得られることになる(図5).裸眼視力0.5ならば,眼前45cmまでその視力が得られる(図6).光学部の形状は非球面設計で,球面収差は0μlとなっている(aberrationneutral).光学部素材のAbbe数は57と高く,色収差の低減が図られている.●光学的不具合の少なさ従来の同心円状の屈折型や回折型の多焦点眼内レンズと異なり,二つの度数の移行部分が1本のラインとなり最少面積である.しかも移行部の境目が確認しにくいほど滑らかであることから(図7),光エネルギーのロスが抑制されている.また,空間周波数特性(modulationtransferfunction:MTF)曲線をみると,二つの焦点の山の間隔が狭く,その間の谷が浅いことも特徴である(図8).これらが相まって,ハロー/グレアがきわめて少なく,コントラスト感度の低下も起こしにくいレンズとなっている.ハロー/グレアは従来の多焦点眼内レン(69)あたらしい眼科Vol.36,No.7,20199070910-1810/19/\100/頁/JCOPY-0.4-0.2-0.200.20.40.4VisualAcuity(logMAR)0.60.811.21.40.60.811.21.4+2+1.5+1+0.50-0.5-1-1.5-2-2.5-3-3.5-4-4.5-5+2+1.5+1+0.50-0.5-1-1.5-2-2.5-3-3.5-4-4.5-5Defocus(diopters)Defocus(diopters)図4焦点深度曲線図5裸眼視力0.8が得られる範囲(文献1より引用)眼前67cmまで0.8の裸眼視力が得られている.+2+1.5+1+0.50-0.5-1-1.5-2-2.5-3-3.5-4-4.5-5Defocus(diopters)図6裸眼視力0.5が得られる範囲眼前45cmまで0.5の裸眼視力が得られている.図7挿入眼の前眼部写真二つの度数の移行部が見てわからないほど滑らかである.ズよりはるかに少なく,単焦点眼内レンズと同程度である1).コントラスト感度は,年齢をマッチさせた正常有水晶体眼と差のない値である1).●おわりに独自のテクノロジーによって低加入度数を分節させた従来の遠近眼内レンズレンティスコンフォート解像力解像力遠方中間近方遠方中間近方図8MTF曲線従来の遠近2焦点眼内レンズに比べて,二つの焦点の山の間隔が狭く,谷が浅い.レンティスコンフォートは,遠方から中間距離まで連続的な明視域を提供する一方で,光学的不快現象が従来の多焦点眼内レンズよりはるかに少なく,単焦点眼内レンズと同程度といった特徴を有する.明視域の拡大と光学的不快現象は,これまでトレードオフと考えられていたが,本レンズはそのジレンマを払拭した新しいカテゴリーの眼内レンズとして,臨床への貢献が大いに期待される.文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep,inpress

コンタクトレンズ:光(波長)と眼

2019年7月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一57.光(波長)と眼●はじめに太陽から発せられる電磁波のうち,人間の眼に見える光のスペクトル(可視光線)を捉えることで,われわれの視覚は外界を捉えている.可視光線はおよそC380~780Cnmであり,この領域の光は角膜や水晶体を通過・屈折して網膜に到達することができる.コンタクトレンズは光という波動をコントロールし,網膜(中心窩)に焦点を結ばせる光学技術である.われわれがモノを見るということは,“光を捉えている”ということにほかならない.日常生活において光を捉えるためには,太陽光だけでなく,蛍光灯・LED照明器具や,タブレットなどの電子デバイスからの光など,生活シーンに応じてさまざまな光を捉えることが求められる.コンタクトレンズ処方に,光をマネージメントする視点を加えることで,患者にとってより質と満足度の高い屈折矯正につながると考える.C●光と眼の保護光から眼を保護するために,可視光線だけでなく,隣接して短い波長側にある紫外線(UV-A,UV-B)への対策が必要である.太陽放射の電磁波である光は,波長が短くなるほどエネルギーは大きくなる.可視光より波長の短い紫外線に対しては眼を保護する観点で対策が必要である.屋外で作業する際に,適切な着衣(帽子を含む)と日焼け止めが皮膚の損傷を減らす効果があるのと同様に,紫外線(UV-A,UV-B)をカットするコンタクトレンズには眼の損傷を防ぐ効果が期待できる.近年,可視光線のなかで波長がもっとも短いブルーライト(380~500Cnm)による視機能への影響も懸念されており,コンピューターやスマートフォンなどを長時間直視する際には,ブルーライトカット眼鏡の装用,液晶画面へのブルーライトカットフィルムの貼付などが有効である.しかしながら,ブルーライトは朝など覚醒時に浴びることで体内リズムを整える重要な役割もあり,夜間にタブレットやスマートフォンなどCICT(informationCandCcommunicationtechnology)機器を操作する場合(夜間はCVDT作業を行わないことが理想)など,生活シーンに応じて対策をとることが望ましい.(67)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学光源(分光分布)物体(分光反射率)図1物(色)を見るための光源,物体,観察者の眼の関係●波長制御によるQOVの向上われわれが日常,眼で物体を見る際には,光源から放射された光が物体を照らし,照らされた物体から反射光が観察者の眼に入射し,物体の色・形を認識することになる.したがって,視覚の質(qualityofvision:QOV)を考える際には,「光源」と「物体」「眼」の三者の特性を考慮する必要がある(図1).「光源」と「物体」の特性を考えるうえで,照明による波長制御を考える必要がある.近年,照明光源は従来の白熱電球や蛍光灯からCLED照明へ変化し,さまざまな波長特性を持ったCLED照明が開発されている.加齢に伴う水晶体の黄変1)により,色覚(色弁別)の低下を起こし,短波長の少ない室内での見えにくさ,コントラスト低下など日常生活に支障をきたす場合が想定される.これを補完する技術として,LED照明の波長制御とレンズによる波長制御が実用可能である.加齢による色覚の低下の場合,青色光など短波長が知覚しにくくなるが,通常の昼白色照明の色温度C5,000CK(ケルビン)から,色温度C6,200CKの照明光に変えることでコントラストが向上して,物がよく見えるようになることが報告されている2)(図2).照明光は物体固有の分光反射率で反射され,物体表面からの反射光は照明光の条件によって変化するため,QOVを考えるうえで光源(照明)による波長制御は注目していく必要がある.従来,「眼」の特性からの対応として,遮光眼鏡がグあたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C905図2波長制御によるコントラスト向上効果色温度の異なるデスクライト(LD521-S,パナソニック)にて照明された新聞紙面の見え方を示す.左右のデスクライトの照度はともにC500Clxである.左図の照明の色温度はC5,000CK(ケルビン),右図の照明の色温度はC6,200CKである.レアの軽減,コントラストの改善,暗順応の補助を目的としてロービジョン患者を中心に使用されている3).遮光眼鏡は短波長領域の青色光をカットする機能を有し,羞明の軽減を主目的として装用されている.一方,羞明を軽減させるだけでなく,紙面の文字コントラスト向上,鮮明な色知覚を得ることを目的としたC580Cnmの選択的波長カットレンズ(NeoContrast,三井化学)も市販され,とくに高齢者は,羞明感を感じやすいC550~610nm付近の黄色光をカットすることで,明らかなCQOVの向上を自覚できる可能性が考えられる.今後,生活シーンに応じたレンズによる波長制御によりCQOVの影響について検討していく必要がある.C●おわりにわれわれ人間の視覚システムは照明光の変化に左右されず,同一物体を同じ色として知覚することができる.この現象は色の恒常性として知られた現象であり,この現象ゆえに加齢に伴う色覚変化を自覚しにくい現状がある.しかしながら,「光源」「物体」「眼」の三者の特性に図3選択的波長カットレンズ580Cnmの波長を選択的にカットしたレンズ(NeoContrast,三井化学)による見え方のイメージを示す.レンズを通してみることでコントラスト(とくに白と黒のコントラスト)および色の鮮明さが向上して知覚される.より,色の見え方,文字の見え方,羞明など,見え方の質は変化する.今後,コンタクトレンズ矯正においても,生活シーンに応じて眩しさから眼を守る調光機能,明るさとコントラストを向上させる波長制御機能など,“光を捉え,光のノイズを和らげる視点”を有するコンタクトレンズの開発が望まれる.文献1)TanitoCM,COkunoCT,CIshibaCYCetal:TransmissionCspec-trumCandCretinalCblue-lightCirradianceCvaluesCofuntintedCandCyellow-tintedCintraocularClenses,CJCCataractCRefractCSurg36:299-307,C20102)MatsubayashiY,MukaiK,HandaT:E.ectsoflightcolorofCilluminationCandCilluminanceConCvisualCperformanceCwhenusingmattePaperandInk.IESNA2013conferenceproceedings,20133)清水朋美:遮光眼鏡.新しいロービジョンケア(山本修一,加藤聡,新井三樹監修),p50-55,メジカルビュー社,C2018CPAS119

写真:キョウチクトウ科の植物による角膜浮腫

2019年7月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦422.キョウチクトウ科の植物による角膜浮腫上松聖典長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野図2図1のシェーマ①球結膜充血②角膜全体の浮腫およびCDescemet膜皺襞③角膜びらん図1受傷翌日の散瞳後前眼部写真球結膜充血を伴う角膜全体の浮腫とCDescemet膜皺襞,耳下側には角膜びらんを認める.図3前眼部光干渉断層計(OCT)写真角膜浮腫により角膜厚が増大している.図4受傷9日後の前眼部写真(a),スペキュラマイクロスコープ(b)および前眼部OCT写真(c)角膜浮腫は改善し,明らかな角膜内皮細胞密度の低下はない.(65)あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C9030910-1810/19/\100/頁/JCOPY図5キョウチクトウ科の植物a:アスクレアピス(トウワタ).b:フウセントウワタ.茎と実の断面からは白色の乳液が出ている.キョウチクトウ科の植物は園芸用として広く栽培されているが,その乳液はカルデノライドを含み,毒性を示す.カルデノライドはNa/Kポンプのa-サブユニットに結合し,その機能を阻害する.角膜内皮細胞ではCNa/Kポンプが細胞内から前房へCNa+を能動的に移行させており,角膜実質から前房へ水の能動的な移行が起こる.カルデノライドによりCNa+/K+ポンプの機能が抑制されると,角膜浮腫が生じる.キョウチクトウ科のCStrophanthusgratusから得られるウワバインはCNa+/CK+ポンプの機能を可逆的に阻害するため1),角膜内皮細胞機能を評価する実験で用いられる.本症例(図1~3)はC68歳の女性で,アスクレピアス(キョウチクトウ科)の剪定中に乳液が左眼に飛入し,近医で角膜耳下側に上皮欠損を認めた.ステロイド点眼と抗菌薬点眼C1日C4回を処方されたが,徐々に霧視を自覚し翌日再診.上皮障害は改善したが,Descemet膜皺襞および角膜浮腫を認め当科紹介となった.当科初診時視力は右眼C0.2(1.2),左眼C0.06(0.09)で,点眼継続にて所見は改善し,9日後には角膜びらんおよび浮腫は軽快し(図4),視力は左眼C0.1(1.2)に回復した.角膜内皮細胞数の明らかな減少は認められなかった.キョウチクトウ科の植物(図5)による角膜浮腫はこれまでも報告されている2,3).角膜浮腫は一過性で,角膜内皮細胞数の減少はない場合が多いが,不可逆的な角膜内皮細胞数減少を生じる症例もあり4),注意を要する.文献1)TrenberthCSM,CMishimaS:TheCe.ectCofCouabainConCtheCrabbitCcornealCendothelium.CInvestCOphthalmolC7:44-52,C19682)多田憲太郎,角環,福島敦樹:トウワタの茎汁により一過性角膜内皮機能不全に至ったC1症例.あたらしい眼科C25:1712-1714,C20083)松尾藍子,吉澤豊久,大橋あゆみほか:風船唐綿による角膜障害の一例.眼臨紀7:477,C20144)Al-MezaineHS,Al-AmryMA,Al-AssiriAetal:Cornealendothelialcytotoxicityofthecalotropisprocera(Ushaar)Cplant.CorneaC27:504-506,C2008

デジタルデバイスとドライアイ

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスとドライアイDryEyeinVisualDisplayTerminalUsers坂根由梨*白石敦*はじめに近年,情報技術化の発展に伴い,パソコンやスマートフォン,タブレット端末などのデジタルデバイスが急速に普及し,若年者から高齢者まで幅広い年齢層で利用されている.もはやCVDT(visualCdisplayterminal)作業は現代の仕事や日常生活に欠かせないものになっており,職場でも家庭でもディスプレイを見つめる時間が増加したことで,眼精疲労やドライアイを発症する人も急増している.本稿ではCVDT作業による眼症状のうちドライアイについて,そのメカニズムや疫学調査,対策法などを述べる.CIVDT作業とドライアイ2008年に行われた厚生労働省の調査報告によると,VDT作業に従事する労働者の割合は増加傾向であり,4時間以上CVDT作業に従事する労働者の割合が全労働者の約半数近くに及んでいる.VDT作業による健康影響は,眼に関するもの,筋骨格系に関するもの,精神・心理的なものに大別できる.これらの症状はCVDT作業者全体の約C70%にあり,そのうち約C90%が眼精疲労やドライアイなど眼に関する症状であるとされている.調査からC10年以上経過した現在では,さらにCVDT作業従事者の割合は増加していると考えられ,作業の長時間化や複雑化により,眼症状を有している人も増加していることが推測できる.VDT作業によるドライアイでは,とくに涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮型ドライアイが多くみられ,乾燥感や痛みなどドライアイに特徴的な症状だけでなく,視機能低下や眼精疲労の原因にもつながっていると考えられ,日常生活の大きなストレスになっていると思われる.VDT作業によるドライアイの発症には,まず一番に瞬目回数の減少が関与していることが指摘されている.1993年,坪田らの報告1)では,VDT作業は読書などに比べて瞬目回数が減少していること,ディスプレイ画面が読書などに比べ上方に位置するため視線の関係で開瞼幅が広くなり,単位面積あたりの涙液蒸発量が増え,ドライアイが発症することが指摘されている.また,最近の研究では,VDT作業者では涙腺上皮細胞に分泌顆粒が過剰に貯留していることが報告2)されており,瞬目低下が涙液分泌を減少,つまり涙腺の機能不全を惹起する可能性が示されている.結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンCMUC5ACが,VDT作業が長いほど減少していることも報告3)されており,涙液安定性もCVDT作業者では低下していることが推測される.これらの報告から,VDT作業によるドライアイには,瞬目回数の低下による蒸発亢進,涙腺の機能不全による涙液分泌減少,分泌型ムチンの減少による涙液安定性の低下など,いくつかの要因が関与していると考えられる(図1).CIIVDT作業者に対するドライアイ疫学調査2011年にオフィスワーカーにおけるドライアイの実*YuriSakane&*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕坂根由梨:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(63)C901瞬目回数の減少表1ドライアイを防ぐ作業環境涙液の蒸発↑涙腺機能不全涙液分泌量↓ムチン分泌低下涙液安定性↓図1VDT作業によるドライアイ画面位置視線が下向きになるようディスプレイ画面を設置する.調整しやすいよう適度な高さの机と高さを調整できる椅子を使用する.画面サイズ眼を凝らさないでも見やすいサイズのものを選択する.室内の明るさディスプレイ画面が見やすいよう調整する.直射日光直射日光が当たらないようブラインドやカーテンなどで調整する.能動的休息連続作業時間がC1時間を超えないようC10分程度の能動的休息を取る.室内の空調直接当たらないようエアコンの風向きを調節し,空気が乾燥しているときは加湿器を使用する.

デジタルデバイスとブルーライト

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスとブルーライトOcularandNeuropsychiatricE.ectsofBlueLightEmittedfromaDigitalDisplay綾木雅彦*坪田一男**Iサーカディアンリズムとメラトニンの発見から現代のデジタルデバイスまでデジタルデバイスは人類史上初めての光環境で,サーカディアンリズム(用語解説参照)に影響を与えている.サーカディアンリズムは太陽光を絶対的環境基準としてできあがったもっとも基本的な生理機能である.25億年前に葉緑素をもつ原生動物シアノバクテリアが光合成を始め,サーカディアンリズムが形成された.その研究はオジキソウがC24時間周期で動き続けることをC18世紀にフランスの科学者が報告してから始まったとされている.サーカディアンリズムと密接に同期して分泌されるメラトニン(用語解説参照)が発見されたのは約C60年前で1),オタマジャクシの皮膚を黒くする物質として松果体から分離された.明るいと眠気が減るのは光によるメラトニンの分泌抑制の効果であると知られてきたのは,そのC20年後のC1980年代になってからである2).さらに,21世紀になって,短波長であるブルーライト(用語解説参照)を内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyphotosensitiveCretinalCganglioncell:ipRGC)が受容して体内時計の中枢である視交叉上核に信号を送り,そこから全身の臓器と松果体にリズムの指令が出されることが発見された3,4).一方,ブルーライトを含む照明光の普及が近年めざましい.人類誕生以来夜の照明は月光か燈火しかなかった時代が何万年も続いたのち,1870年代にエジソンが白熱電灯を発明し,夜も明るくなった.その後,蛍光灯,そしてC2014年に日本人がノーベル賞を受賞した青色発光ダイオード(lightCemittingdiode:LED)の発明後,光環境は大きく変化し,LEDを使用したデジタルデバイスという光源が急速に普及した.CII網膜神経節細胞がサーカディアンリズムの発振を担うサーカディアンリズムを調整する最大の同調因子は光であり,ブルーライトの波長のみに反応するCipRGCが体内時計の中枢に信号を出すことによって,全身の細胞の時計遺伝子にそれが伝わり,サーカディアンリズムが維持される.ipRGCにはブルーライトを受容する機能はあっても視覚情報を処理する機能は少なく,他の視細胞である錐体細胞と杆体細胞とは大きく異なる.網膜神経節細胞が障害される緑内障においてもCipRGCが障害されていることが示されていて5),緑内障患者では睡眠障害が多いことの一因と考えられる6).健常者でも習慣的に夜間ブルーライトが眼内に入り続けると,サーカディアンリズム障害が起こり,睡眠障害として顕性化する7,8).CIIIブルーライトの眼への影響ブルーライトは普段降り注ぐ太陽光に含まれている光環境の一部であり,角膜と水晶体を透過して眼底に達す*MasahikoAyaki:おおたけ眼科つきみ野医院**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕綾木雅彦:〒242-0001神奈川県大和市下鶴間C521-8おおたけ眼科つきみ野医院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(57)C895ブルーライトUVB/UVA400780[nm]紫外線可視光線赤外線図1可視光線の波長とブルーライト領域電磁波を波長別に並べると,放射線,紫外線,可視光線,赤外線の順になる.ブルーライトは可視光線なので環境光に普通に含まれているが,紫外線の隣なのでエネルギーが大きい.(ブルーライト研究会HP:http://blue-light.biz/about_bluelight/より許可をえて引用)ブルーライトALLスマートフォンゲームPC液晶テレビブラウン管テレビ300400500600700800波長(nm)図2画面による背景光の波長特性同じ白色透明な可視光線でも機器ごとに特性があり,ブラウン管テレビは波長が広く均一に分布している.一方,スマートフォン,ゲーム,PC,液晶テレビは波長C460nm付近のブルーライト成分が突出して多い.図3ブルーライトの散乱乳白色のプラスチック板に赤色(左)と青色(右)のレーザー光をあてると,赤色光はあまり減衰せずに透過するが,ブルーライトは反射と散乱が多い.表1ブルーライトによる健康障害12108642022時23時24時時刻図4暗い部屋でのデジタルデバイス使用時のメラトニン値夜間に携帯端末を使用すると,メラトニン分泌が強く抑制される.ブルーライトカット眼鏡を使用すると正常に分泌される.唾液メラトニン量(pg/ml)■用語解説■サーカディアンリズム:生体が地球の自転にあわせて約24時間周期で生理機能を営むリズム.概日リズム.メラトニン:睡眠ホルモンともよばれ,松果体から分泌されて眠りに導く作用がある.ブルーライト:可視光線の一部で,波長がC380.500nm(ナノメートル)の青色光領域.–

学童の近視化増加に対する対応

2019年7月31日 水曜日

学童の近視化増加に対する対応MedicalTreatmentsforIncreasedMyopiainSchoolChildren稗田牧*はじめにスマートフォンやタブレット端末などのデジタルデバイスが普及するにつれ,小学生になる前から近視になる子供が増えている.退屈した子供にデジタルデバイスを与えると,魔法にかかったかのようにおとなしくなる.子供のお楽しみ用具として,その効果は絶大である.しかし,そのために近視が増えているとしたら問題である.デジタルデバイスで情報にアクセスすることが便利になるだけでなく,近くを見ることの頻度が増えているのは間違いない.しかも,スマートフォンなどは見る距離がかなり近く,人類の経験したことのない近業負荷のかかかった時代にわれわれは生きている.本稿では,デジタルデバイスと近視の考えられる関連について推測する.I学童の近視増加の現状近視の低年齢化が進行している.また,一時止まったかにみえた高校生の近視割合がさらに増加している.文部科学省の統計によると,平成30年度(2018)の「裸眼視力1.0未満の者」の割合は,幼稚園26.68%,小学校34.10%,中学校56.04%,高等学校67.23%となっている.小学校および高等学校では過去最高を更新した.中学校でも過去最高となった昨年度と同様の高い割合であった.図1の経年変化をみると,2010年代前半のデジタルデバイスの普及とともに割合が高くなっていることがわかる.これは近業の増加の結果,近視が増加していると考えられる.高校生の近視が増えていることも注目すべきである.高校生の1.0未満の割合は2000年代に入り一時減少していた.それが2010年代に再び増加傾向に転じたことと,スマートフォンが中学生・高校生に普及したことには何らかの関係がありそうである.とくに裸眼視力0.3未満の中等度以上の近視の割合が高校生で39.34%(矯正なし6.8%,矯正あり32.54%)と過去最高となっていることからは,スマートフォンが近視の発生を増やすだけでなく,進行を促進していることが推測される(表1).II学童の近視増加,強度近視増加の意味近視の学童が増えて,かつ進行することの問題点は,そこから強度近視が増加し,さらに進行して病的近視の頻度が増えることである.生まれてきたときは,多くが遠視であるが,小学校に入学する6歳前後に±0.5D以内の正視になる.そのまま正視を保つものが大半であるが,一部近視になるものがあり,いったん近視になると正視に戻ることはなく進行しつづける1).この正視である状態を保つ,もしくは積極的に正視になるメカニズムは「正視化メカニズム(emmetropization)」とよばれている.近視は近業の増加により,この正視化メカニズムが破綻した状態と考えられる.いったん近視になると近視は進行しつづけるので,早*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(51)889区分視力非矯正者の裸眼視力視力矯正者の裸眼視力計(%)1.0以上1.0未満0.7以上0.7未満0.3以上0.3未満1.0以上1.0未満0.7以上0.7未満0.3以上0.3未満高等学校平成C25年度C32.68C10.30C12.24C6.98C35.45C9.72C9.93C7.01C35.55C9.56C10.38C6.90C33.43C11.06C12.03C7.77C36.07C10.07C11.69C7.08C32.53C10.43C11.09C6.80C1.48C2.93C6.98C26.42C1.66C1.81C5.60C28.82C0.67C1.09C6.58C29.26C0.57C0.77C4.56C29.81C1.63C1.75C4.89C26.82C0.24C0.88C5.48C32.54C100.00100.00100.00100.00100.00100.00平成C26年度C平成C27年度C平成C28年度C平成C29年度C平成C30年度C(文部科学省統計資料から)表2学童における近視進行抑制治療の現状治療法エビデンスレベル効果副作用日本で薬事承認(近視治療としての承認)1%アトロピン高高+++有(無)0.01%アトロピン中中+無(無)オルソケラトロジー高中+有(無)多焦点コンタクトレンズ中中+有(無)多焦点眼鏡中小+有(無)低矯正眼鏡無無++有(無)図3オルソケラトロジーレンズレンズを装用した状態のフルオレセインパターン.中央部がおさえつけられている.図4LAMP研究における近視進行図プラセボに比較すると三つの濃度いずれも近視進行は抑制されているが,0.05%がもっとも効果がある.(文献C5より引用)図5同心円型二重焦点多焦点コンタクトレンズ紫の部分にC2D程度の近用度数が入っている.図6周辺部度数付加累進多焦点コンタクトレンズ周辺部に近用度数が加入され,中央に向けて累進屈折多焦点レンズになっている.表3近視性後天性内斜視の鑑別疾患名近視性後天性内斜視高度近視性内斜視開散麻痺輻輳けいれん急性内斜視発症潜行性潜行性急性急性急性眼球運動障害なしありなしあり(両眼)なし眼球脱臼なしありなしなしなし調節障害なしなしなしありなし潜行性:insidious.負荷調節図7近視性後天性内斜視の調節機能調節機能は正常で,両眼視機能も良好であることが多い.C’C-

近業と近視化

2019年7月31日 水曜日

近業と近視化AssociationbetweenNearWorkandMyopia四倉絵里沙*鳥井秀成*はじめに近年,近視人口は世界的に増加傾向にある.かつて近視人口が少ないと思われていた米国でも,1972年にC25%だった成人の近視有病率がC2004年にはC44%になったことが報告1,2)され,近視人口が多いと考えられているアジアでは学童の近視有病率がC80%を超えたことが明らかになっている3,4).さらにC2050年には近視人口が,世界の人口の約半分であるC50億人弱になると予測している既報5)もある.このように増加している近視人口だが,特筆すべきはこのわずか数十年で近視人口が急増6)していることである.近視は遺伝因子と環境因子により発症,進行すると考えられているが,この短期間での近視人口急増の原因は,遺伝因子の変化というよりも何らかの環境因子の変化による影響とみるのが妥当であると思われる.近視と関連する環境因子は多岐にわたり,これまで代表的なCstudyであるCOrindaCStudy7,8),Singa-poreCohortStudyoftheRiskFactorsforMyopia9,10),CSydneyCMyopiaCStudy11,12)で報告されている近視進行の要因としては,都市部に住むこと,勉強などの近業時間が長いこと,屋外活動時間が短いこと,学歴やCIQが高いことなどがあげられる.そのうちコンセンサスが得られている環境因子には,近業(近くを見る作業)と屋外活動があげられ7,8,10,11),それぞれ,近業時間が長いほど近視化し,屋外活動時間が長いほど近視が抑制されるといわれている.本稿では環境因子のなかでも,とくに近業と近視との関連性について取り上げる.CI近業時間の増加われわれを取り巻く環境因子の中でも,最近数十年間で明らかに変化したと思われるものには,テレビ,パソコン,携帯電話やスマートフォン,携帯用/家庭用ゲーム機などのデジタル機器の登場と普及がある.それらによる近業時間の増加や屋外活動時間の減少など,われわれを取り巻くライフスタイルのさまざまな変化が,近視人口の増加に関係している可能性がある.近業時間は近年増加傾向にあり,Buckschら13)はC11歳,13歳,15歳におけるテレビを見る時間とパソコンを行う時間の合計近業時間を,2002年,2006年,2010年で経時的に比較検討した.その結果,11歳男児では平日の平均近業時間がC2002年ではC3.93時間/日であったのが,2010年ではC5.33時間/日に増加し,それは他の年齢でも同様の傾向が認められ,女児においても近業時間が増加傾向であったことが報告された.近業時間の内訳として,10年前はテレビが多かったが,最近では子供たちにもスマートフォンやパソコンなどのデジタル機器が普及してきているため,それを反映した結果も報告されている14)(図1).パソコンに焦点を絞った研究においても,米国の高校生を対象に,平日C3時間以上/日パソコンを使用している高校生の割合を調べたところ,2003年はC22.1%だったが,2011年はC31.1%と増加傾向にあることがわかった14)(図2).これらの*ErisaYotsukura&*HidemasaTorii:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕四倉絵里沙:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(45)C8831日あたりの総メディア使用時間(時間)543210199920042009年図1若年者のメディア総使用時間の推移とその内訳1999年,2004年,2009年の米国のC8.18歳の若年者におけるC1日あたりのメディア総使用時間を示した.2009年はそれまでと比べメディア総使用時間が増加し,テレビを見る時間が減少したかわりに,録画番組の視聴時間(time-shiftedTV)や,パソコン,スマートフォン,タブレット端末の使用時間が増えたことがわかる.(文献C14より引用)==.19315.18図3近視有病率と近業時間との関係近視有病率と近業時間との関係について報告した横断研究をメタアナリシスした結果である.近業時間が長いほど近視有病率は高くなる(オッズ比=1.14)ことがわかる.(文献C20より引用)Mutti20021.02(1.01,1.03)65.45Lu20091.27(0.75,2.14)0.02Deng20101.02(0.94,1.10)1.02Yingyong20101.02(1.01,1.03)33.39Guo20131.38(1.09,1.75)0.11Overall(I-squared=42.8%,p=0.136)1.102(1.01,1.03)100.00.46812.14図4近視有病率と1週間の読書時間との関係読書時間が増えると近視有病率は上昇する可能性がある.(文献C20より引用)近視発症のオッズ比30252015105=0図5読書距離・両親の近視の有無と近視発症との関係両親が近視であり読書距離がC20Ccm未満の場合,両親が近視でなく読書距離がC20Ccm以上の場合と比較し,26.3倍も近視を発症しやすい.(文献C16より引用)==眼軸長の伸長量(mm/年)0.290.270.250.230.210.190.170.15ⅣⅢⅡベースラインにおける図61年間の眼軸長伸長量とenvironmentalriskfactors(環境危険因子)の関係1日の屋外活動時間,テレビ視聴時間,パソコン使用時間,スポーツ習慣の有無,読書量,9歳時における読書時間と連続読書時間,読書距離を,environmentalCriskfactorsとしてスコア化し,1年間の眼軸長伸長量を,ベースラインのCAL/CR(axiallength/cornealradius)とCenvironmentalriskfactorsの程度別に解析した.その結果,眼軸長伸長量はCenvironmentalriskfactorsと有意(p<0.001)に相関し,1週間にC1冊以上の読書をすること,読書時間が長いこと,スポーツをしないこと,屋外活動時間が短いこと,という環境条件下では眼軸長伸長量が大きくなることが示された.(文献C24より引用)’C–