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デジタルデバイスと急性内斜視

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスと急性内斜視AcuteAcquiredComitantEsotropiaRelatedtotheExcessiveUseofaDigitalDevice吉田朋世*仁科幸子*はじめに近年,デジタルデバイスはわれわれの生活と切り離せないほど身近なものになり,成人だけではなく小児の生活にも影響を及ぼしつつある.内閣府による青少年のインターネット利用環境実態調査1)では,種々のデジタルデバイスの使用率が年々増加しており,平成30年度には小学生高学年の40.7%,中学生の65.8%,高校生の94.3%がスマートフォン,小学生高学年の44.3%,中学生の32.9%,高校生の20.8%が携帯ゲーム機,小学生高学年の43.1%,中学生の34.3%,高校生の20.1%がタブレットを使用してインターネットを行っているという結果であった.こうした背景の中,デジタルデバイスの過剰使用を契機に起こる急性内斜視が専門医の間で指摘されるようになり2~7),報道機関でも取り上げられて注目を集めている.その因果関係について,まだ確証が得られていないが,眼科医の立場から現状を把握し,注意を喚起すべき問題と考える.本稿では,急性内斜視とデジタルデバイスの関係性について,筆者らの経験を踏まえながら解説する.I急性内斜視とは急性内斜視とは,生後6カ月以降に急性に発症する内斜視で,調節性要因の関与がない共同性の内斜視である.急性後天性共同性内斜視(acuteacquiredcomitantesotropia:AACE)には,いくつか分類法がある.もっとも有名なものはBurianらによる分類8)で,I型(Swantype)は片眼の遮閉や視力低下による融像の遮断によって起こるもの,II型(Burian-Franceschettitype)は明らかな原因はないが,心身のストレスや精神的ショックが誘因となって起こるもの,III型(Bielschowskytype)は近視の低矯正によって起こるものとされている.これら三つのタイプ以外に,頭蓋内病変によって急性共同性内斜視を発症した症例9)も報告されており,慎重な鑑別診断が必要な疾患である.BuchらはAACEと診断された1~15歳の小児48症例を七つのタイプに分類し,急性の調節性内斜視,decompensatedmono.xationsyndrome(代償不全),特発性のタイプが多く,ついで,頭蓋内病変によるものが3例(6%)にみられたと報告している10).実際にAACEを鑑別していくと,Burianの分類以外に,mono.xationsyndromeの代償不全と重なる病型や,他の病態も含まれており,急性内斜視の定義,病型,分類には依然として論議がある.症状としてもっとも特徴的なものは「突然生じる複視」であり,問診が診断材料になることが多いが,小児の場合は急性内斜視を生じてもすぐに抑制がかかり,または低年齢のため複視を訴えられず,保護者が眼位異常に気づいて受診することが多い.6歳未満で両眼視機能が確立していない不安定な状態では,治療せずに放置すると不可逆的な両眼視障害をきたすケースもある.診断には発症の状況,複視などの自覚症状,外傷や発*TomoyoYoshida&*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(39)877表1デジタルデバイス過剰使用を契機とする急性内斜視の症例報告報告症例年齢(歳)デジタルデバイスの使用状況治療Leeら(C2016)急性後天性共同性内斜視C12例7~1C61日C4時間以上4カ月以上使用デジタルデバイス使用制限および手術治療で改善吉田ら(C2018)急性後天性共同性内斜視C2例,内斜視増悪・再発C4例,間欠性外斜視増悪・複視C1例6~1C71日C3時間以上3カ月以上使用デジタルデバイス使用制限および近視矯正,プリズム眼鏡,手術治療で改善Mehtaら(C2018)急性後天性共同性内斜視C1例C161日C8時間以上1カ月使用近視非矯正デジタルデバイス使用制限および近視矯正で改善Kaurら(C2018)調節痙攣C3例(うち内斜視C2例)8~1C21日C4時間以上1週間以上使用デジタルデバイス使用制限およびシクロペントラート点眼で改善ab図1デジタルデバイス使用を契機とした急性内斜視(6歳男児)a:術前眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(-).b:術後眼位.正位,立体視C40秒.ab図2タブレット使用を契機とした急性内斜視(11歳女児)a:タブレット使用後の眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(+).b:タブレット使用制限後の眼位.正位,立体視C50秒.Cab図3図2の症例の手術経過a:術前眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(+).b:術後眼位.正位,立体視C50秒.tive-feedbackを起こすことで制御されている17).デジタルデバイスの使用は近距離で長時間にわたるため,調節-輻湊間の制御が崩れる可能性が高い.とくに小児では過剰な輻湊反応が誘発され眼位の内斜化を起こし,もともと不安定だった両眼視の維持が困難になり,内斜視を発症すると考えられる.一方,筆者らはデジタルデバイスの過剰使用による外斜視の増悪と複視の出現も経験した.Hirotaらは,間欠性外斜視の症例の視線解析を行い,一般書籍の読書時と比べスマートフォン読書時は眼位ずれが起こりやすく,視距離がC20Ccmと近くなるほど単眼視になりやすいことを報告している18).自験例は術後眼位が正位に安定し正常両眼視を維持していた症例であるが,デジタルデバイスの過剰使用によって近距離における眼位ずれを起こし続けた結果,日常でも融像を維持しにくくなり,眼位の悪化と複視を生じたと考えられた.さらに,スマートフォンによる視機能障害として,Alim-Marvastiらは,暗闇のなかでベッドに寝転がりながら数分間スマートフォンの画面を見た後に,一過性の片眼視力低下を繰り返したC2症例を報告している19).この機序として,臥位でスマートフォンを見ているときに単眼視になっており,片眼はスマートフォンの光を受けて明順応,もう片眼は枕に隠れて暗順応の状態にあり,体位を変えて両眼視に戻したときに,明順応した片眼に一時的な視力低下をきたしたのではないかと仮説を立てている.自験例の中に一時的な視力低下を生じた例はなかったが,夜間に同様の態勢でデジタルデバイスを使用すると,たとえ短時間でも本機序によって両眼視が困難となり,眼位異常が顕性化しやすくなる可能性があると思われる.もちろん,必ずしもデジタルデバイスを使用している若年者すべてに,これらの機序が働いて眼位異常を生じるわけではないことは,デジタルデバイスを過剰使用している母数人数が相当数に上ることをみても明らかである.平成C30年度の内閣府調査では,小学校高学年の85.6%,中学生のC95.1%,高校生のC99.0%は何らかのデジタルデバイスを用いてインターネットを使用しており,インターネットの平均的な利用時間はC2時間未満が34.4%,2時間以上C3時間未満がC21.4%,3時間以上C4時間未満がC15.6%,4時間以上C5時間未満がC10.2%,5時間以上がC14.4%であった1).これまでの報告ではC3~4時間以上の使用で急性内斜視が発症しているが,大多数の若年者は過剰使用にもかかわらず斜視を発症していない.したがって,もともと融像が崩れやすい素因をもつ若年者や小児において,デジタルデバイスの長時間使用,近距離の使用,あるいは夜間の使用や悪い態勢での使用などの要因が働いて両眼視が困難となり,急性内斜視の発症に至ると考えられる.さらに,Rechichiらはデジタルデバイスのなかでもとくにビデオゲームは小児の視機能に影響を及ぼしやすいことを指摘している.ビデオゲームを毎日C30分以上している健常の小児において,有意に眼位変化や複視の出現,立体視の低下がみられるが,ゲーム以外のデジタルデバイスC3時間以上の高使用群と低使用群の間では有意差がなかった.高速で反応する必要のあるビデオゲームでは,両眼視した状態よりも単眼視の状態のほうが脳が早く反応するため,優位眼で単眼視を続けた結果,両眼視機能を悪化や眼症状を生じたと推測している.昨今は若年者がインターネットゲームに過度に依存する問題が頻発し20),ゲーム障害(gamingdisorder)という疾患概念が,世界保健機構(WHO)によって国際疾患分類第11版(ICD-11)に加えられ,新たな依存症として広く認識されるようになった.幼少時からゲームを開始することが,その後のデジタルデバイス依存のリスクを高めることも示唆されており21),今後,デジタルデバイスの用途(ゲームや読書など)についても詳しく調査し,視機能への影響を検討する必要がある.おわりに長時間のデジタルデバイスの使用と急性内斜視の間に直接的な因果関係はまだ証明されていないが,両眼視機能を管理する眼科医として懸念材料は多い.とくに両眼視の確立していない,あるいは脆弱な小児では,デジタルデバイスの使用法に十分に留意すべきであると考える.日本弱視斜視学会では,専門医に対する全国調査(一次調査)を踏まえ,本年度に急性内斜視の発症例や発症条件について多施設で前向き調査を開始する予定である.今後の検討によって,内斜位斜視の素因や発症の(43)あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C881–

仮想現実環境が姿勢制御と両眼視機能に及ぼす影響-映像酔いと3D映像視覚疲労について-

2019年7月31日 水曜日

仮想現実環境が姿勢制御と両眼視機能に及ぼす影響─映像酔いと3D映像視覚疲労について─In.uenceofVirtualReality(VR)EnvironmentonAttitude-ControlandBinocularVisionFunction─3D-RelatedVisionFatigueandDisorder─原直人*折笠智美**はじめに映像による生体への影響の一つとして映像酔いがある.映画やテレビ,ビデオゲームなど動きをもつ映像を見ると,眼の疼痛や吐気,めまい,疲労,冷汗などの不快感を生じる場合がある.映像酔いのメカニズムは現在,感覚不一致説が有力である.人間のもって生まれた機能と,生後学習で得た機能(自己座標系)により周囲の環境に適応していく.人工映像により生じた「仮想的空間」に適応しない場合(con.ict),ストレス状態を生じて種々の酔い症状が出現する.映像により脳に伝えられた情報と,現実との固有感覚,平衡感覚が一致しないため,脳がなんとか修正しようとするストレスによりVR酔いが生じる.本稿では,映像酔いと両眼視機能との関係について解説する.I映像による生体への影響3D映像など立体映像技術は日常のさまざまな場所で用いられるようになり,その応用として眼鏡型ウェアラブル端末が広まり,より気軽に仮想現実(virtualreali-ty:VR)や拡張現実,複合現実など種々の映像環境も利用可能となった.これらの映像呈示により,医療,運輸,シミュレーション,製造・設計,計測,教育,ゲーム,テーマパーク・博物館など広い分野で利用されつつある.日常生活の利便性を増加させたが,立体映像に限らず映像自体は,視聴条件や体調,年齢,個人差などの要因によって,適応性と脆弱性をあわせもつ脳には好ましくない危険な影響を及ぼす場合がある.人類史上でも大きな環境変化の一つであるデジタル革命によりコンピューター,携帯電話・スマートフォンやビデオゲームは10歳代の若年者の学習や遊び,対人とのコミュニケーションに大きな影響を及ぼしている.その一つに動きの激しい映像や自然界とは大きく異なる映像による映像酔いがある.II仮想現実とは視覚や聴覚などの感覚器に働きかけ,コンピューターによって作り出された人工環境を実質的・本物・現実のように(virtually)知覚させる技術であり,仮想現実,人工現実感などと訳される.像が実際にあるわけではないが,レンズや脳の働きで実際に像があるのとまったく同等の効果を及ぼす虚像を感覚する仮想現実感である.この感覚をもたらす仮想環境のためには,視覚,聴覚,触覚などの多種感覚を介して臨場的に呈示して複数の感覚要素から成り立っている三次元空間を構成する技術が必要である(図1).感覚的には仮想環境が現実環境だと脳を騙す仮想幻視(virtualhallucination)である.*NaotoHara:国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科**SatomiOrikasa:横浜労災病院眼科〔別刷請求先〕原直人:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(29)867外的要因内的要因視覚・聴覚・触覚・過去の経験・学習嗅覚など五感記憶情報からの連想多感覚情報統合イメージ想起図1仮想現実感を作り出す三つの多種要素「外的要因による臨場感」は,視覚・聴覚・体性感覚(触覚)・嗅覚・味覚などの感覚器官で感知される外界の情報に基づく臨場感である.「内因的要因による臨場感」とは,過去の経験,学習により脳内に蓄積された感覚の記憶に基づき脳内で生成される臨場感である.過去の経験から想起される視覚イメージが臨場感を作り出している.「時間要素」は,動き変化,リアルタイム感覚くる時間経過を示す.表1仮想現実が及ぼす予想される健康リスク図2映像酔いとは映像視聴により,いわゆる乗り物酔いのような症状を発症した状態となる.図3映像酔い:Visually.InducedMotionSickness(VIMS)についてのミスマッチ仮説重力の加速度や自分の運動の加速度を検知するセンサーとして前庭器官がある.姿勢制御は,頭の位置が重力に対して決まり,次に頸の筋肉の反射が働いて,頭部に対して身体位置が決まる.そのあとで,身体や足にある抗重力筋が働いて床に垂直に立つことができる.われわれの空間認知の基本は「重力の方向」にある.このような空間認識を基本として,視覚刺激が前庭系に影響を与える制御には感覚からのフィードバックが不可欠である.視覚,体性感覚および前庭感覚からの情報を基に常に姿勢制御を行っている.また,各感覚からの情報の組み合わせについても常に適応・学習して変化させている.図4視覚・体性感覚および平衡機能の入・出力系の概要仮想現実感を与えて「臨場感」を作り出すには,人間の感覚である五感(視覚,聴覚,触覚,嗅覚,味覚)が必要である.出力系として,眼の動き,姿勢を正す脊髄反射,そし心拍呼吸,消化器系の自律神経系の活動として表現される.耳石器情報による神経回路として①耳石器動眼反射,②耳石器脊髄反射,③耳石器頸反射,④耳石器自律反射,⑤耳石器皮質投射系,⑥耳石器小脳投射系を示す.(和田佳郎:眼球運動から見た耳石器のはたらき─耳石器動眼反射研究の紹介─.EquilibriumRes69:152.160,2010より改変引用)⑤⑥②③④①図5単眼視でも得られる奥行き感奥行き知覚の手がかりは,片眼でも可能ある.映画『モダンタイムス』のラストシーンであるが,これだけでも奥行きの知覚はされている.①対象物間の隠蔽(光は,上から注ぎ物の下側が暗くなり地面に影を作る.②物体により背後にあるものは隠れる.③サイズ=大きさの恒常性(近いものは大きい).道路は遠方ほど狭く,近方ほど広い.vanishingpointともいわれる.網膜像は実際の大きさに比例し,距離に反比例するためである.④きめの密度(近いものほど粗い).⑤視野内の高さ(上にある方が遠方にある).⑥大気遠近法(遠くはぼんやりしている).⑦調節(遠近の物体に対して,ピントを合わせる).⑧運動視差(動きながらみると,近くのものほど動いて見える).-図6IPLの局在と生理学的機能IPL(Inferiorparietallobule)の大きな特徴は,網膜からの視覚入力だけではなく,眼球運動の信号や中心後回体性感覚野からの体性感覚入力,平衡感覚として前庭入力,さらに側頭葉から聴覚情報を受けている.それらを統合することによって,自己を中心とする三次元空間内の物の位置や運動の識別が可能となる.統合される高次感覚野領域これらの領域では対象の空間知覚,運動知覚にかかわる情報処理が行われている.また,体性感覚情報の統合による自己身体情報をもとに,自己の空間・運動知覚や対象物と自己との相互関係などの情報処理が行われる.VR視聴に関連した重要な領域とされる.ab左右図7視空間失認の一症例症例はC58歳,女性.主訴:右側が見えづらい.Ca:頭部CMRI検査により右)中大脳動脈/後大脳動脈境界領域と左)後頭葉内側の梗塞を認める.Cb:視野検査では,右同名半盲,左下C1/4半盲を認めた.Cc:左視空間失認者の時計作図.“分水界領域”梗塞であり,頭頂連合野C39野(角回)障害から左視空間失認を呈した.図8成人と小児の飛び出し量輻湊-調節の不一致は,眼-眼間隔(瞳孔間距離)が小さい小児では,成人が感じる飛び出し量よりも大きくなる.

デジタルデバイスと眼疲労評価

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスと眼疲労評価EvaluationofVisionFatigueRelatedtoDigitalDevices広田雅和*はじめにパーソナルコンピューター,スマートフォン,タブレット端末などのデジタルデバイスは世界的に普及している.デジタルデバイスは仕事の効率向上や,ソーシャルネットワーキングサービス(socialnetworkingser-vice:SNS)をはじめとした私生活におけるコミュニティの入り口としての役割をもち有用性が高い.近年ではスマートフォンアプリケーションのポケモンGO(Niantic社)に代表される拡張現実(augmentedreali-ty:AR),OculusRift(Oculus社)やPlayStationVR(ソニー)に代表される仮想現実(virtualreality:VR),MREAL(キャノン)やHoloLens(Microsoft社)に代表される複合現実(mixedreality:MR)などのXRと称される技術を用いたソフトウエア,ハードウエアが各社から発売され,普及しはじめている.一方で,デジタルデバイスの普及に伴い眼疲労症状を訴える患者が増加しており,国際的な健康問題となっている1).眼科臨床において,眼疲労は患者の自覚症状を基に診断・評価されている.眼疲労は輻湊と調節の負荷によって惹起されることが指摘されている.その裏付けとして,輻湊と調節の矛盾(vergence-accommodationcon.ict)が大きい三次元(3-dimension:3D)映像視聴時のほうが二次元(2-dimension:2D)映像視聴時よりも自覚的な眼疲労症状が大きいことが報告されている2)(図1).本稿では,今後も普及が進むと予想される2Dおよび図13D映像視聴時における輻湊と調節の矛盾3.8°の視差に対して,はじめは輻湊と調節が惹起される.しかし,徐々に調節反応が減弱し,ディスプレイに焦点を結ぶ.(神田ら,眼科臨床紀要,2012)*MasakazuHirota:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕広田雅和:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)8593D映像を扱うデジタルデバイスの眼疲労評価について解説する.CI眼疲労の評価指標1.輻湊近点輻湊近点は,遠方から接近(1Cor2Ccm/s)する調節視標を被験者が固視し続ける検査である.被験者の融像が壊れて一眼が偏位した時点,あるいは被験者が複視を自覚した時点における角膜頂点からの距離を求める.調節視標が鼻根部に接触するまで両眼視を維持できていた場合は,便宜上C0CcmもしくはC1Ccmとする3).C2.融像幅融像幅は,遠見C5.0Cmまたは近見C33Ccmの視距離において被験者に固視目標を注視させた状態でプリズムレンズを負荷する.プリズムレンズの加入度数を増やし,被験者の融像が壊れて一眼が偏位したとき,あるいは被験者が複視を自覚した時点におけるプリズム度数を,基底内方および外方において測定し加算する.C3.調節微動高周波成分調節微動高周波成分は,毛様体筋の動きを反映しているとされる.調節微動はオートレフラクトメータあるいは波面センサーで測定した屈折値におけるC2Cnの測定点をフーリエ変換しスペクトル解析する.高周波成分の帯域は研究によって異なるが,周波数C1.0.2.3CHzの帯域における積分値を高周波成分として扱うことが多い4).C4.中心フリッカー中心フリッカーは,被験者がちらつきを認識した周波数(出現),およびちらつきを認識しなくなった周波数(消失)を上下法によって測定する.眼疲労によって中心フリッカー値は低下することが報告されている5).C5.融像維持能力眼疲労の自覚症状は,複視や視界のぼけが上位にランクインしている.筆者らは,眼疲労になると融像を維持する能力が低下するのではないかと仮説を立て,融像維持能力を測定する方法を開発した6).融像は左右眼の入射光量に差をつけると破壊される.融像維持能力の測定はこの特性を利用し,液晶シャッターで非優位眼の入射光量を落とし,両眼波面センサー(トプコン)に搭載されたアイトラッカーで一眼が偏位した時間を同定する.融像維持能力は,同定した時間における左右眼の入射光量比から算出する(図2,3).CIIパーソナルコンピューター使用による眼疲労パーソナルコンピューターはオフィス作業において主流のデジタルデバイスである.パーソナルコンピューターの作業は長時間同じ姿勢,同じ視距離でディスプレイを注視し続けるため,8時間の業務終了後に輻湊近点が有意に延長したと報告されている7).眼疲労症状を訴える患者を対象に融像幅を測定したCSedaghatらの研究では,眼疲労症状を訴える患者は健常者と比較して近見の融像幅が有意に延長した8).国内においても,Kajitaらが眼疲労患者は調節微動高周波成分が健常者よりも有意に増加していたと報告している9).これらの先行研究は,長時間のパーソナルコンピューター作業によって輻湊と調節に負荷がかかった結果,眼疲労が惹起されたことを示唆している.中心フリッカーの出現値を測定した先行研究において,デジタルデバイスを使用するオフィスワーカーは,週明けよりも週末のほうが中心フリッカー出現値が有意に低下していることが報告されている5).したがって,眼疲労は日々のデジタルデバイス使用によって蓄積することが示唆される.CIIIスマートフォン使用による眼疲労わが国におけるC2016年度のデジタルデバイス普及率はパーソナルコンピューターが微減しスマートフォンが増加している.先行研究において,スマートフォンの視距離はC20Ccm以下であることや10),座位よりも側臥位のほうが視距離が短いことが報告されている11).スマートフォン使用時の視距離はパーソナルコンピューターよりも短いことから,輻湊と調節に過度な負荷がかかることが推測される.860あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(22)図2融像維持能力の測定方法融像維持能力の測定は,両眼波面センサーを用いて行う(Ca).被験者は両眼波面センサーの前眼部に取り付けた液晶シャッター(Cb)越しに視距離C33cmで視力換算1.52logMARの固視目標(Cc)をC50秒間注視する.測定中非優位眼の液晶透過率をC1.15%ずつ変化させる(Cd).非優位眼図3融像維持能力測定中の眼位被験者の非優位眼(右眼)の液晶透過率を徐々に減少(左下図)させると,ある程度両眼の入射光量に差がついた時点で融像が破壊され,非優位眼(右眼)が偏位する(左上図).両眼波面センサーで眼位を経時的に記録すると,液晶シャッターの透過率が最低値を取る22秒よりも早い段階(右図の黒線)で眼位が外方偏位している.~視覚負荷前視覚負荷後*********自覚的眼症状スコア43210Q1Q2Q3眼の疲れ視界のボケ眼の乾きや瞼の重さ図43D映像による視覚負荷前後の自覚的眼症状スコア眼の疲れ(Q1),視界のボケ(Q2),眼の乾きや瞼の重さ(Q3)のC3項目すべてがC30分間の視覚負荷後,有意に増加した.***:p<0.001,Wilcoxonsigned-ranktest.a視覚負荷前b視覚負荷後5014輻湊近点(cm)10200視覚負荷前視覚負荷後視覚負荷前視覚負荷後16401210融像幅(PD)30864200.8調節微動高周波成分)(D2/Hz×10-20.60.40.20.0視覚負荷前視覚負荷後視覚負荷前視覚負荷後図53D映像による視覚負荷前後の各検査結果30分間の視覚負荷後,輻湊近点(Ca),融像幅(Cb),調節微動高周波成分(Cc)は視覚負荷前と比較して有意差を認めなかった.融像維持能力は視覚負荷後有意に低下した(Cd).***:p<0.001,Wilcoxonsigned-ranktest.C0.1融像維持能力変化量0.0-0.1-0.2図6融像維持能力と自覚的眼症状スコアの関係赤実線は回帰直線(調整済みCRC2=0.752,Cp<0.001)を示す.融像維持能力変化量(視覚負荷後-視覚負荷前)は自覚的眼症状の総合スコア(Q1+Q2+Q3)変化量と有意な負の-0.3相関を認めた.-0.4-0.5-4-22604自覚的眼症状の総合スコア変化量図7VR.HMD(a)と2D液晶ディスプレイ(b)の視覚負荷前後の融像維持能力群内比較において,VR-HMDとC2D液晶ディスプレイともに視覚負荷後の融像維持能力は視覚負荷前よりも有意に低下していた.*:p<0.05図8VR.HMDと2D液晶ディスプレイにおける自覚的眼症状スコア変化量(a)と融像維持能力変化量(b)の群間比較自覚的眼症状スコア変化量,融像維持能力ともにCVR-HMDとC2D液晶ディスプレイの間に有意差は認めなかった.-

タブレット端末と学校保健

2019年7月31日 水曜日

タブレット端末と学校保健TheStateoftheUsageofTablet-TypeDigitalDevicesamongSchoolChildren柏井真理子*はじめに世の中のIT化に伴い,児童生徒などのスマートフォン(以下,スマホ)やタブレット端末を利用する機会や時間がかなり多くなってきている.一方このような情報社会では児童生徒が新たな時代を豊かに生きる力を育成するために,学校での学習に情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)環境を整備し,教育の情報化やICTを積極的に活用する教育の推進が謳われている.文部科学省(以下文科省)は,2011年4月に2020年に向けた「教育の情報化ビジョン」を発表し,総務省と連携し「学びイノベ-ション事業」を実施してきた.本稿では,現在の児童生徒のインターネット,スマホ,タブレットなどの利用状況,法整備がなされ2019年4月より導入されたデジタル教科書を始めとする学校でのICTの現状,そしてこれらIT機器と学校保健や眼の健康との関連について述べる.今回のデジタル教科書導入を契機に,児童生徒が「ICTをうまく活用する方法」をしっかりと学び,日常生活で実践していくことが望まれる.I児童生徒の視力やデジタル機器など使用の現状1.児童生徒の視力の状況(文科省調査より)文科省「平成30年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」1)によると,学校健診の児童生徒の視力検査における「裸眼視力1.0未満の者」は2018年度は統計を取りはじめた1980年より右肩上がりの傾向があり,幼稚園児では26.7%,小学生34.1%,中学生56.0%,高校生では67.2%と,幼稚園児以外では過去最高となっている(図1)1).1.0未満の多くは,近視によるものと考えられている.2.インターネット利用状況の現状(総務省調査より)総務省の「平成30年度青少年のインターネットの利用環境実態調査」2)では,小学生(85.6%),中学生(95.1%),高校生(99.9%),平均93.2%と多くの児童生徒がインターネットを利用している.また,高校生がインターネットを利用するときの機器はスマホが93.4%となっており,ほとんどの生徒がスマホを保持していることが把握できる.また,青少年のインターネットの1日あたりの利用時間は,2017年度より9分増加し平均169分,小学生は21分増加し118分,中学生が163.9分,高校生では217.2分であり,学校の授業で使用する時間に比べ日常生活での使用時間や頻度のほうが多いと想定される.目的ごとの利用時間は動画視聴をはじめとする趣味娯楽がもっとも多く約106分となっている.前述の学校健診から把握できる児童生徒の裸眼視力低下割合の増加には,このような環境要因が大きく作用していると思われる.*MarikoKashii:柏井眼科医院(日本眼科医会学校保健担当)〔別刷請求先〕柏井真理子:〒603-8162京都市北区小山東大野町50-2柏井眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(13)851%67.234.126.7男子(%)100500050女子(%)10046.353.154.825.627.928.2携帯電話・スマートフォンを利用する23.025.137.264.596.597.237.132.829.434.444.246.9タブレット・パソコンを利用する25.834.040.244.323.618.2全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図2インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より男子4°00’3°00’2°00’1°00’1°40’1°53’2°24’0°34’0°37’0°48’1°11’0°45’0°50’0°58’1°35’1°23’全体小学校1・2年生男子0°00’0°00’1°00’2°00’3°00’4°00’携帯電話・スマートフォンを利用するタブレット・パソコンを利用する1°50’0°31’0°35’0°42’1°53’2°38’1°03’0°43’0°43’0°54’1°24’1°13’小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図3インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用時間日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図4テレビ時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図5携帯電話・スマホ使用時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より(人/台)H30年3月1日現在45.65.966.86.66.66.56.56.46.27.37.07.27.78.18101214HHHHHHHHHHHHHH1718192021222324252627282930図7教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数学校における教育の情報化の実態に関する調査結果(文部科学省)表1学校種別学校におけるおもなICT環境の整備状況平成30年3月1日現在・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3全学校種小学校中学校義務教育学校高等学校中等教育学校特別支援学校学校数33,63819,5299,389463,570311,073児童生徒数11,857,3776,333,2883,063,47920,7502,280,61122,399136,850普通教室数462,995254,996109,01786968,98067628,457教育用コンピュータ台数2,100,950996,860552,1034,320491,1825,06551,420教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数5.6人/台6.4人/台5.5人/台4.8人/台4.6人/台4.4人/台2.7人/台普通教室の無線LAN整備率34.5%37.2%35.2%60.4%22.5%30.8%36.2%(参考)普通教室の校内LAN整備率90.2%89.3%88.4%88.3%94.7%94.7%93.9%超高速インターネット接続率(30Mbps以上)91.8%91.2%91.2%89.1%95.7%96.8%94.1%(参考)超高速インターネット接続率(100Mbps以上)63.2%61.3%61.1%65.2%75.8%80.6%74.6%普通教室の電子黒板整備率26.8%28.2%32.4%81.1%20.1%24.7%7.5%教員の校務用コンピュータ整備率119.9%117.2%117.4%125.5%133.7%132.9%110.0%統合型校務支援システム整備率52.5%50.6%51.1%65.2%67.0%54.8%49.2%(学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果文部科学省)置率(大型掲示装置)は26.8%となっている.学校別におけるおもなICT環境の整備状況を示す(表1)4).2.デジタル教科書2020年度から実施される文科省新学習指導要領の総則においては,「ICT環境を整備する必要性」が規定されるなど教育の情報化が一層増しており,これまでの紙によるものを前提としていた教科書についても「教科書へのICTの活用のあり方」という観点から学習用デジタル教科書について検討が行われ,2019年度から,学校教育法などの一部改正を経て,一定の基準の下で,必要に応じ紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できる制度が実施されることになった.2018年に文科省から発出された「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」5)(以下,デジタル教科書ガイドライン)には以下のような記述がある.「学習用デジタル教科書は,(中略)学習者用コンピューターにおいて児童生徒一人一人が使用するものである」もちろん現状では紙の教科書は今までどおりの位置づけで重要な役割を果たすのであり「教育課程の一部において,紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できることとなる」.ただし「特別な配慮を必要とする児童生徒等(視覚障害や発達障害等の障害,日本語に通じないこと,これらに準ずるものにより紙の教科書を使用することが困難な児童生徒)は文字の拡大や音声読み上げ等により,その学習上の困難の程度を低減させる必要がある場合には,教育課程の全部においても,紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書の使用をできることとなる」.たしかにデジタル教科書を使用することにはいろいろなメリットが考えられる.たとえば紙面を拡大して表示することはロービジョンの児童生徒には大変有益である.また,読字障害のある児童生徒にとっては紙面を機械音声で読み上げる機能は大変ありがたいサポートになるであろう.他に背景色・文字色の変更・反転,漢字にルビを振るなどの配慮も紙面が読みやすくなる方法である.また,一般の授業では,音読やネイティブ・スピーカーなどが話す音声を聴けることや,教科書の紙面にマーカーなどで書き込みを繰り返しできること,写真や地図やイラスト・グラフなど掲載内容を拡大することでさまざまな角度から調べることができる.内容を保存するなどデジタル教科書ならではの有益なさまざまな学習方法が期待されるところである.さらに大型掲示装置や教師のコンピューターに児童生徒の学習者用デジタル教科書の画面を表示し,教師や児童生徒間で共有することができる.個別学習場面やグループ学習の場面,一斉学習の場面など,いろいろな活用の仕方が今後も検討されていくと思われる.3.デジタル教科書の使用にあたり指導上で留意すべき点上記デジタル教科書ガイドライン5)には指導上の留意点として1)あくまでデジタル教科書の使用を段階的に進めるよう,「紙の教科書を主体として使用し,学習用デジタル教科書と適切に組合わせること」学習用デジタル教科書は各学年で「授業時数の2分の1未満であること.ただし特別の配慮を必要する児童生徒等については,この限りでないこと」.2)「常に紙の教科書は使用できるようにしておくこと」.3)「児童生徒一人一人がそれぞれの学習者用デジタル教科書を使用すること」.一人一台パソコンがない場合はクラス間で調整し,「当該授業において一人一台の学習者用コンピューターを用意すること」.その他,漢字や計算などの繰り返し学習にはノートの使用を基本とすること,デジタル教科書の効果や影響をみつつ指導方法や指導体制の改善に努めることなどが記載されており段階的導入や紙教科書との併用が強調されている.4.児童生徒の健康に関する留意点今回のデジタル教科書ガイドライン5)作成にあたっての検討会議や,それ以前の「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」6)(文科省,2014年)策定に際し日本眼科医会は眼の健康に留意するよう専門家としての助言や種々の意見・要望を文科省に提言856あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(18)目線は画面に直交する角度に近づける画面の角度背中を伸ばすを傾けるお尻を後ろにして床に両足深く腰掛けるをつける図8タブレットPCを利用する際のポイント(文部科学省「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」より転載)図9近視予防啓発ポスター(公益社団法人日本眼科医会)

デジタルデバイスの視距離と文字サイズ

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスの視距離と文字サイズDigitalDevice-RelatedViewingDistanceandFontSize野原尚美*丹沢慶一*はじめに近年,日本も情報通信技術(informationandcommu-nicationtechnology:ICT)環境となり,1995年頃よりパーソナルコンピューター(以下パソコン)通信やインターネット接続のために携帯電話が利用されるようになった.その後2007年に米国でスマートフォンが発売されると,日本ではとくに2010年以降,爆発的にスマートフォンが普及し,急速に携帯電話からスマートフォンへの移行が始まった.総務省によると,2017年における個人のスマートフォン保有率は60.9%である1).スマートフォンは,電話やメールはもちろん,ゲームやウェブサイトの閲覧がいつでもどこでもできるため,使用者は小さな画面を長時間見つづけることが常態化しやすく,しかもその視距離は非常に短いといわれている.また,教育の現場でもICT教育の取組みが本格化し,小・中学校の授業でタブレット端末(以下タブレット)を使用した授業が急速に進んでいる.文部科学省は2013年度よりタブレットを用いたデジタル教科書の標準化事業を始めており,2020年度から本格的に全国の小・中学校で導入される見通しが示され2),今後ますます初等教育にタブレットが取り入れられていくことになる.このような状況のなかで,視覚の発達途上にある子どもたちが一体どのようにタブレットを使用しているのか,とても気になるところである.本稿では,視距離が短いといわれているスマートフォンや,教育の場で取り入れられるタブレットを使用しているときの視距離に焦点を絞り,従来からの紙媒体を見ているときの視距離と比較検討しながら視機能への影響について考察し,今後の対策について述べる(図1).I成人におけるデジタルデバイスの使用1.携帯電話ならびにスマートフォン使用時と書籍の視距離筆者らは,67名の成人(平均年齢20.2歳)を対象として,書籍を読んでいるときとスマートフォンならびに携帯電話を使用しているときの視距離を比較検討し報告した3).表1には書籍,携帯電話ならびにスマートフォンの作業別の視距離と,文字サイズ(mm・ポイント数),視距離での視角(分),輻湊角(⊿)が示されている.スマートフォンや携帯電話使用時の視距離は,書籍を読んでいるときの視距離に比べ有意に短く,とくに文字が小さいウェブサイトを見ているときは19.3±5.0cmと非常に短い視距離であった(p<0.01)(図2).文字サイズが1~2mmの通常文字で見ているときは,全体の71%の者が書籍を読んでいるときよりも10cm以上視距離が短縮しており,3~5mmに拡大しても,31%の者は視距離が短いままであった.以上より,書籍を読むことが中心の時代に比べて,現代は小さな画面を,30cmよりも短い視距離で長時間見続ける時代へと変化しており,眼に対する影響としては,常時調節負荷がかかり,より近見反応を酷使しているといえる.現に,最近20代,30代の若者の間で「手*NaomiNoharaand*KeiichiTanzawa:平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(7)845教育現場に導入・拡大テレビ使用する際の対策図1本稿の概要表1成人における作業別の視距離・文字サイズ・視角・輻湊角(対象者年齢:20.2歳,n=67)①書籍②携帯電話メール③スマートフォンメール④スマートフォン通常文字⑤スマートフォン拡大文字⑥スマートフォンゲーム⑦スマートフォン歩き・メール視距離C±SD(cm)C33.7±5.7C27.8±5.0C27.7±4.8C19.3±5.0C25.2±5.4C26.2±5.7C26.5±5.0文字サイズ(mm)(相当するポイント数)C3(8)2~3(5C.67~8)2~3(5C.67~8)1~2(C2.83~C5.67)3~5(8~14)C─2~3(5C.67~8)視距離での視角(分)(文字サイズ/視距離)C3025~3C725~3C718~3C641~6C8C─26~3C9輻湊角(⊿)C18.0±3.0C21.0±4.0C22.0±4.0C31.0±7.0C23.0±5.0C23.0±5.0C22.0±4.0C444240-2.5383634323028262422201816視距離(cm)調節(D)-3.0-3.5-4.0-5.0-6.0-8.0①書籍②携帯電話③スマートフォン④スマートフォン⑤スマートフォン⑥スマートフォン⑦スマートフォンメールメール通常文字拡大文字ゲーム歩き・メール(*p<0.01)図2成人における書籍と携帯電話・スマートフォン使用時の作業別視距離454035302520151050小文字中文字大文字(*p<0.01)図4視距離の測定(赤い線は基準値,青い線は視距離を示す)図3成人におけるスマートフォンの文字サイズ別の視タブレットの一辺が写るように写真撮影し,その写真をパソコ距離(対象者平均年齢:19歳,n=15)ン上のCMapMeasure(地図上の道のりを測定する距離測定ソフト)で開く.まず,基準値となるタブレットの一辺をクリックし,実際の長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした一辺上をクリックすると自動で視距離が算出される.1010550教科書タブレット調べ学習(*p<0.01)0小学4年小学6年中学3年図5小・中学生における教科書とタブレットで調べ学習(n=25)(n=31)(n=29)時の視距離(n=85)図6学年別におけるタブレットで調べ学習時の視距離40403535*視距離(cm)30252015-

序説:弱視と斜視のカレントトピックス

2019年7月31日 水曜日

弱視と斜視のカレントトピックスCurrentTopicsofAmblyopiaandStrabismus仁科幸子*佐藤美保**弱視や斜視の病態や解析法は,多くの眼科医にとって難解な部分が多く,一般的な症例の診断や治療はできても,非定型的な場面に出くわすと途方に暮れることがある.また,最近の大きな変化として,先進の検査機器や検査方法が急速に小児眼科や斜視の分野でも用いられるようになっていることに着目したい.本特集では,診療に役立つ新しい情報を総括するために,過去2年間の弱視斜視の分野のトピックスの中から,専門外の医師や視能訓練士の方々にも知っておいていただきたい内容をピックアップしてみた.それらの背景や今後の発展を含めて,専門の先生方にわかりやすく解説していただくように企画した.弱視のトピックスとして,近年,3歳児健診における弱視の見逃しをなくすために屈折検査の必要性が強調されているが,ようやく導入する自治体が増えてきている.また,新たな手持ち自動判定機能付きフォトスクリーナー装置SpotTMVisionScreenerは小児科医にも急速に普及しているが,乳幼児の視覚スクリーニングにどのように利用していくか,また,眼科との連携をどうするかが大きな課題となっている.山形大学の林思音先生は,3歳児健診における本装置の有用性や精度について自治体と連携して研究を進めておられるので,乳幼児の屈折スクリーニングの現状と課題を示していただいた.第2のトピックスは,小児の弱視斜視診療に必須の精密屈折検査に用いる調節麻痺薬(アトロピン硫酸塩点眼,シクロペントラート点眼薬)の使用法と注意すべき副作用について日本弱視斜視学会が行った多施設研究である.その結果について,近畿大学の若山曉美先生に解説していただいた.第3のトピックスとして弱視と紛らわしい眼底疾患の鑑別を取りあげる.RETevalは皮膚電極で無散瞳,さらに暗順応なしでERGが記録できる装置である.さらにISCEVプロトコールに従ってさまざまな条件下での記録が可能である.そのため,小児にも簡便に外来で網膜電図(ERG)を記録・分析することが可能となった.その利用法について浜松医科大学の長谷岡宗先生と佐藤美保が解説した.いずれも明日からの診療に役立つ情報が満載であり,ぜひ目を通していただきたい.斜視のトピックスとしては,まず,斜視の原因に対する新たな知見である眼窩角と斜視の関連性について,眼科やがさき医院の矢ヶ﨑悌司先生に興味深いご研究の成果を解説していただいた.次に,近年,スマートフォンなどのデジタルデバイスの過剰使用との関連が指摘されている急性内斜視の話題である.デジタルデバイスの使用との因果*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)971

新しい涙点形成パンチの開発

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):830.832,2019c新しい涙点形成パンチの開発高木麻衣*1,2三村真士*1,2植木麻理*1,3佐藤文平*2池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪回生病院眼科*3高槻赤十字病院眼科CANewPunchforPunctoplastyMaiTakagi1,2),MasashiMimura1,2),MariUeki1,3),BunpeiSato2)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospitalC目的:現代の涙道治療のニーズに合った,安全かつ大きな涙点を形成するためのパンチを開発したので報告する.方法:八重式前.鑷子をベースとして,先端が鋭に設計されたストロークC0.7Cmmで直径C0.2Cmmのパンチを作製した.パンチで涙点の耳側および背側を数回切除し,目標の大きさまで涙点を形成する.涙道手術の際に開発したパンチを用いて涙点を形成し,使用時の患者の痛みや,術者の使用感,涙点の形状などを評価した.結果:大阪医科大学附属病院眼科外来に涙道閉塞で初診,涙道手術を施行した患者C12症例C18眼C31涙点に対し,涙点拡張目的に開発したパンチを使用した.全例でパンチによる涙点形成が可能であり,パンチ後の涙点の異常な形態変化は認めなかった.局所麻酔下での症例で疼痛の訴えはなく,パンチ使用後に誤道形成は認められず,大口径の器具の挿入も容易であった.1カ月後の診察ではC12症例C18眼C31涙点中C10症例C15眼C28涙点で開存を認め,開存していなかった症例はC2回目のパンチ後に良好な涙点開口状態となった.結論:今回開発したパンチは,誤道形成の心配なく安全に大きな涙点を形成できるため有用であると考える.CPurpose:ToCreportCaCnewCandCe.ectiveCpunchCforCcreatingCclinicallyCe.cientClacrimalCpunctaCthatCmeetCtheCdemandsCofClacrimalCexaminationCandCsurgicalCtreatmentCofClacrimalCpuncta.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC9patientsCwhoCpresentedCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,COsakaCMedicalCCollegeCHospital,CTakatsuki-City,CJapancomplainingoflacrimaldrainagesystemobstruction.In13eyes(23lacrimalpuncta),weperformedpuncto-plastyusingournewlydesignedpunchwithakeentip(0.2Cmmdiameter×0.7Cmmstroke;madefromYAEmul-tipurposeCscissors,CInamiC&CCo.,Ltd.)toCenlargeCtheCpunctumCasCtheC.rstCstepCofClacrimalCdrainageCsurgery.CInCtreatingCeachCpunctum,CweCincisedCitsCtemporalCandCconjunctivalCsidesCseveralCtimes,CuntilCitCwasCsu.cientlyCenlarged.Inallcases,wepostsurgicallyevaluatedthepatients’surgery-relatedpain,thesurgeon’soverallimpres-sionofthesurgicaltechnique,shapeofthelacrimalpunctaandotheraspects.Results:Punctoplastywassuccess-fullyperformedinallpatients,withnosigni.canthistologicalchangeofthepunctapostsurgery.Nopatientsreport-edCpainCunderCtopicalCanesthesia,CandCnoClacrimalCcanaliculusCmalpositioningCoccurred.CMoreover,CotherClacrimalCdevicesCofClargeCdiameterCcouldCbeCinsertedCeasily.CAtC1monthCpostoperatively,C28ofCtheCtreatedC31punctaCwereCfoundCtoCbeCwellCenlarged,CwhileCreobstructionCwasCobservedCinCtheCotherC3puncta,CwhichCthereforeCrequiredCreopeningviaasecondpunctoplasty.Conclusion:TheC.ndingsofthisstudyshowthatournewpunchsafelyande.ectivelyenlargespunctawithoutlacrimalcanaliculusmalpositioning.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):830.832,C2019〕Keywords:涙点形成,涙点形成パンチ,涙点閉塞,涙点狭窄,涙道治療.punctoplasty,punchpunctoplasty,punctalobstruction,punctalstenosis,treatmentforlacrimaldrainagesystem.Cはじめにこれまでわが国では報告されておらず,一般的ではない.現パンチを用いた涙点形成法(punchpunctoplasty:PP)は代の涙道治療では径C1.5Cmmの太い涙管チューブやC18CGサ1960年代より海外で報告されている涙点形成法であるが,ーフローのシースを装着した内視鏡(径C1.3Cmm)を挿入する〔別刷請求先〕高木麻衣:〒532-0003大阪市淀川区宮原C1-6-10大阪回生病院眼科Reprintrequests:MaiTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospital,1-6-10Miyahara,Yodogawa-ku,OsakaCity,Osaka532-0003,JAPANC830(126)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(126)C8300910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1パンチ(a)とその先端(b)図2パンチ前後の涙点の大きさの比較左よりパンチ前,パンチ施行時,パンチC5回後.出血は少量であり,パンチ前は膜性閉鎖していたが,パンチ後は良好に涙点形成されている.ことがあり,以前よりも涙点を大きく拡張する必要がある.しかし,涙点拡張針で大きな涙点を形成するためには涙小管垂直部を超えて水平部深くまで拡張針を挿入しなければならないが,その場合涙小管を損傷するリスクが高くなり,医原性の涙小管閉塞をきたす可能性が出てくる.今回筆者らは現代の涙道治療のニーズに合った大きな涙点を形成でき,かつ涙点形成時の涙小管損傷のリスクを解消するために,新しい涙点形成術用のパンチを開発したので報告する.CI方法1.開発したパンチの構造と涙点形成方法今回開発したパンチは八重式前.鑷子をベースとした柄に,ストロークC0.7Cmmで直径C0.2Cmmのギロチン式パンチで,先端が鋭な四角錐形状になっている(図1).パンチのストローク部分がC0.7Cmmであるため,平均C1.2Cmmある涙小管垂直部を越え涙小管水平部まで干渉することなく涙点形成が行える.八重式前.鑷子をベースとしているため,掌内で取り回しやすく,360°自由に回転させて切除できる.そのため上下涙点に使用しやすく,少ない力でパンチできる.また,先端を鋭としたことで,涙点狭窄または膜性の涙点閉塞症例にも拡張針を用いずにパンチの先端を挿入することができる.切除断端ができるだけ挫滅しにくいように設計しており,パンチ自体も鋭利に加工し,痛みや出血が少なくなるよう考慮した.4%キシロカイン点眼後,パンチで涙点の耳側壁および背側壁を数回切除することで,調整しながら目標の大きさまで涙点を形成する.また,従来の八重式前.鑷子と同様に滅菌可能である.C2.評.価.方.法大阪医科大学附属病院眼科を受診した涙道閉塞患者に対して涙道手術を行う際に,涙点拡張および涙点形成目的に今回開発したパンチを使用し,その後通常の涙道手術(涙管チューブ挿入術および涙.鼻腔吻合術)を施行した.使用時の患者の痛みや術者の使用感,形成後の涙点の状態を評価した.CII結果2017年C7月.2018年C8月に大阪医科大学附属病院を流涙症にて受診し,涙点狭窄もしくは閉塞を合併した涙道閉塞症と診断されたC12症例C18眼C31涙点に対して,PPを併用した涙道手術を施行した.そのうち涙道チューブ挿入術はC2症例C3眼C6涙点,鼻腔涙.吻合術(鼻内法)はC5症例C7眼C14涙点,涙点形成術のみはC5症例C8眼C11涙点であった.全例で涙点パンチを使用した.点眼麻酔下にて行った手術症例(4症例C6眼C9涙点)では涙点形成時に強い痛みを訴えた患者はいなかった.涙点拡張針による涙点形成を経験している患者のなかにはCPPのほうがより痛みが少ないと主張する者もいた.複数の術者から,涙点の大きさを自由に調整でき,涙小管損傷の危険性を気にすることなく確実に涙点形成できる点で高評価を得た.また,snippunctoplastyによる涙点形成と比較し,PP後の出血は同程度からやや少ないとの評価であった.PP後は涙管チューブや大口径のシース付き涙道内視鏡が容易に挿入できた.通常の径C1Cmmの涙管チューブ挿入(127)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019C831図3パンチで切除した涙点組織およびパンチ後1カ月の涙点組織に挫滅は認められず,パンチ後の涙点の形状はとくに問題を認めない.には3.5回程度,径C1.5Cmmの涙管チューブ挿入の場合はC5.7回程度のパンチが必要であった(図2).また,全症例で誤道(仮道)形成を認めなかった.涙点パンチを使用した涙点形成術後,涙点の異常な形態変化を認めなかった.もともと涙点に異常がない場合(7症例10眼C20涙点)は,1カ月後およびC6カ月後での涙点の再狭窄および再閉鎖を認めなかった.涙点閉塞を認め涙点形成のみを施行した場合(5症例C8眼C11涙点)は,1カ月後の診察時にC3症例C5眼8涙点で開存しており,残りC2症例3眼C3涙点は閉塞をきたしていた.閉塞したC3涙点に対し再度パンチによる涙点形成を施行したところ,2涙点でC1カ月後も開存したままであった.CIII考察今回開発したパンチは自由に涙点の大きさを調整でき,また,誤道を形成することなく安全に涙点形成できるため,涙道検査および涙道手術に有用であると考える.PPはC1967年にCHughesらが最初にCclipCprocedureとして報告しており1),約C84%(63例中C53例)でC1回目の施術で,残りC10例のうちC6例ではC2回目で寛解を得たと報告している.その後C1991年にCEldelstenらがCKellyCpunchを改良したCReisspunctualCpunchによる涙点形成を報告し2,3),95%(38例中C36例)で涙点開口,92%で症状が消失したとしている.また,涙点の再閉塞リスクが低く,漏斗状になることで涙液が流れやすくなると報告している.2017年にはWongらもCKellypunchを用いた涙点形成法を報告しており4),94%で涙点開口,92%で症状が消失したとしている.今回開発したパンチでは約C90%の症例(31涙点中C28涙点)がC1度目のCPPで涙点は開存し,2回目の成功例を含めると97%(31涙点中C30涙点)が開存,流涙などの症状も改善したこれまでの既報では涙点拡張針で涙点を拡張したのちにパンチを使用していたため,涙点拡張針での誤道形成の可能性は依然として残っていた.今回開発したパンチによる涙点形成では,涙点拡張針による誤道形成の可能性がないため,涙道手術初学者に対してはとくに有用であると考える.涙点拡張針を用いた涙点拡張時に涙点の鼻側壁が裂傷を起こす“チーズワイヤリング”が起こることもあるが,今回のパンチでは涙点耳側および背側を切除するため,涙点鼻側を温存でき,チーズワイヤリングを予防できると考えられた.また,PP時に切除した組織を精査すると断端は挫滅がなく,この新しいパンチによる操作は組織侵襲が低いと示唆された(図3).一度目の涙点形成後再閉塞をきたしたC3涙点では,初回涙点形成時はパンチの先端がかなり鋭なため閉塞部も容易に穿破でき,いずれもパンチ直後は良好な涙点拡張を得られた.しかし,術後C1カ月後には閉塞しており,パンチだけでは持続的な涙点拡張は得られなかった.そのため再度パンチを用いて涙点形成を施行したところ,3涙点中C2涙点ではC1カ月後でも涙点は開存したままで,患者本人の症状も消失しており,良好であった.2回目のCPPであったため成功率が上昇した可能性が考えられるが,難治性の涙点再閉塞症例にはパンチ後に何らかのスペイサーを挿入するか,またはパンチによる涙点切除部位を工夫する必要があると考えた.今後さらに難治性の涙点閉塞症例を収集し,どの方法が効果的に涙点開口を維持できるか検討していく.今回開発したパンチは,誤道形成の心配なく安全に大きな涙点を形成でき,涙点が閉鎖していても使用できるため有用であると考える.また,患者が感じる痛みも少なく,涙点拡張針と比較し遜色ないと考える.おわりに今回開発した涙点形成パンチは,誤道形成の心配なく安全に大きく涙点を形成でき,涙点が閉鎖していても有効であるため,あらゆる術者が涙道手術を行う場合に有用であると考える.この新しい涙点形成パンチを用いたCPPは,患者の痛みも少なく今後の涙道検査および手術の際に役に立つと考える.文献1)HughesCWL,CMarisCSG:ACclipCprocedureCforCstenosisCandCeversionCofCtheClacrimalCpunctum.CTransCAmCAcadCOphthalmolOtolaryngolC71:653-655,C19672)EdelsteinCJP,CReissG:IntroducingCtheCReissCpunctalCpunch.ArchOphthalmolC109:1310,C19913)EdelsteinCJ,CReissG:TheCwedgeCpunctoplastyCforCtreat-mentCofCpunctalCstenosis.COphthalmicCSurg,C23:818-821,C19924)WongCES,CLiCEY,CYuenHK:Long-termCoutcomesCofCpunchpunctoplastywithKellypunchandreviewoflitera-ture.EyeC31:560-565,C2017(128)

Hummelsheim変法により再建可能であった 外傷性内直筋断裂の1例

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):826.829,2019cHummelsheim変法により再建可能であった外傷性内直筋断裂の1例森澤伸小橋理栄古瀬尚長谷部聡川崎医科大学眼科学2CPatientwithTraumaticRuptureofMedialRectusMuscleWhoUnderwentModi.edHummelsheimProcedureShinMorisawa,RieKobashi,TakashiFuruseandSatoshiHasebeCKawasakiMedicalSchoolDepartmentofOphthalmology2C目的:新しく考案されたCHummelsheim変法により再建可能であった外傷性内直筋完全断裂の一症例を報告する.方法:症例はC1歳,女子.外傷による左眼内直筋断裂で,術前,遠見C60Δの外斜視とCGrade5の内転制限がみられた.上・下直筋の耳側C1/2を分離,付着部より切離したうえで,鼻側C1/2の下をくぐらせ,さらに反対側の内直筋付着部端に吊り下げ法にて通糸,移動した筋が水平経線上で互いに接する位置まで前転させ結紮した.結果:術後は著明な眼位改善が得られ,最終検査時(術後C4年)には,眼鏡による遠視矯正下で遠見眼位は正位,内転制限は完治した.遠近とも両眼単一視がみられた.結論:Hummelsheim変法は単独手術として,矯正効果が強く,張り合い筋の後転を併用することがむずかしい筋断裂を原因とする大角度の麻痺性斜視に有効な術式である.CPurpose:Toreporttheclinicalcourseofapatientwithcompletetraumaticruptureofthemedialrectusmus-clewhounderwentanewlydevelopedmodi.cationoftheHummelsheimprocedure.Method:Thepatient,aone-year-oldfemale,hadexotropiaof60prismdioptersandGrade5limitationofadductionofthelefteye.Theverticalmusclesweresplitandthetemporalhalfwasdisinsertedandcrossedbeneaththeremainingnasalhalf.Themus-clesCwereCanchoredCtoCtheCoppositeCendsCofCtheCmedialCrectusCinsertionCandCadvancedCsoCthatCtheCmuscleCendsCtouchedonthehorizontalmeridian.Results:Eyepositionandmovementssigni.cantlyimprovedpostoperatively.AtCtheC.nalvisit(4yearsCaftersurgery),theCdistanceCdeviationCwasCorthophoricCwithCspectacleCcorrectionCforChyperopia,andadductionlimitationhaddisappearedcompletely.Binocularsinglevisionwasobservedinbothnearanddistance.Conclusion:Themodi.edHummelsheimprocedureprovidesastrongcorrectivee.ectasanisolatedsurgeryandmaybeusefulforlargeangledeviationinducedbymusclerupture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):826.829,2019〕Keywords:内直筋,外傷,断裂,筋移動術.medialrectusmuscle,trauma,rapture,muscletranspositionsur-gery.Cはじめに内直筋断裂は一般的な外傷性に止まらず,耳鼻咽喉科的手術の合併症1,2)として,比較的頻度の高い斜視疾患である.断裂した内直筋の近位端を発見できれば,これを遠位端と縫合することで治療可能である.しかし,内直筋はまつわり距離が短く,近位端が眼窩内に引き込まれ,術中の発見が困難になることも少なくない.この場合,手術術式としては上下直筋の受動的張力を利用した筋移動術が選択される2,3).しかし,外斜偏位や内転制限が高度なことから,矯正が不完全となることが少なくない.治療効果を高めるため,張り合い筋である外直筋の弱化(後転術)を追加することも考えられるが,断裂した内直筋,筋移動術に必要な上・下直筋に加え,外直筋麻まで前毛様動脈を介する血液循環が失われると,術後,前眼部虚血をきたして失明するリスクが生じる4).〔別刷請求先〕森澤伸:〒700-8505岡山市北区中山下C2-6-1川崎医科大学総合医療センター眼科Reprintrequests:ShinMorisawa,M.D.,KawasakiMedicalSchoolDepartmentofOphthalmology,2-6-1Nakasange,Kita-ku,Okayama700-8505,JAPANC以上の問題を解決するため筆者らは,GuytonのCcrossedCadjustableCtransposition5)を改良したCHummelsheim変法を考案した.外傷性内直筋断裂の症例に適用したところ,良好な結果が得られたので報告する.CI症例症例はC1歳の女児.店舗内で転倒,商品陳列棚の金属フックが左眼を直撃した.フックは内眼角部にくい込み,はずれないため無理に引き離したところ,鼻側結膜が血腫様に膨隆した.近隣の総合病院救急外来に搬送され,翌日撮影した眼窩CCTより,左眼内直筋断裂と診断された(図1).全身麻酔下で眼球の精密検査と整復術が施行された.内直筋は付着部からC3Cmmの位置で完全断裂し,遠位の筋は翻転,結膜上に露出していた.中間透光体・眼底には幸い異常を認めなかったが,内直筋の近位断端が発見できないため,受傷C5病日に斜視手術の目的で当科紹介となった.図1頭部CT水平断内直筋の断裂(.)と内直筋後部筋腹の膨隆がみられた.b正面位(右眼固視)での遠見眼位はCHirschberg法でC60プリズムジオプトリ(CΔ)XT,近見眼位はC75CΔXT’,正中に達しない高度の内転制限(Grade5)を認めた(図2).受傷後C7病日に全身麻酔下で,斜視手術を実施した.C1.手.術.手.技左眼の鼻側C1象限(7時半.10時半)に結膜輪部切開を置き,断裂した内直筋の近位断端を捜索したが同定できなかった.このため,内直筋の遠位(約C3Cmm)を筋付着部から切除し,術式を筋移動術に変更した.GuytonフックCR(Katena)で上直筋を捕捉し,上直筋腱の耳側約C1/2を,付着部より約C15Cmm後方まで鈍的に分割,ポリエステル非吸収糸C6-0SurgidacC.(CovidienCMedtron-ic,CMinneapolis)でCdouble-armedClockingbiteを作製した.付着部から切離後,残された鼻側C1/2の下をくぐらせた(図3a).下直筋腱の耳側C1/2についても同様の操作を行った(図3b).切離した上直筋は内直筋付着部下端へ,下直筋は内直筋付着部上端に,クロスさせる形で,吊り下げ法の要領で強膜に通糸した.2本の縫合糸を均等に牽引しながら筋を前転させ,断端が水平経線上で触れ合う位置で縫合糸を結紮した(図3c).8-0シルク糸で結膜創を埋没縫合して手術を終了した.所要時間や手術操作の難易度は通常のCHummelsheim法と図2術前(7病日)の第一眼位(a)と健眼遮閉時の眼位(b)著明な内転制限を認め,左眼は正中に達しない(Grade5).Cc図3Hummelsheim変法の模式図上直筋(SR)を付着部より分割,耳側C50%を付着部から切離,上直筋鼻側C50%の下をくぐらせた(a).下直筋(IR)も同様(Cb).上直筋は内直筋(MR)付着部下端へ,下直筋は上端へ,吊り下げ法で強膜に通糸し,水平経線上で筋断端が触れ合う位置で結紮した(Cc).図4術後1年3カ月における9方向眼位図5術後1年9カ月における調節性内斜視の発症裸眼では右眼の内斜視がみられたが(Ca),遠視矯正下では正位となった(Cb).差はなかった.また,切離した上・下直筋を前転させる際,特別な抵抗はみられず,操作も容易であった.補強のための追加縫合は行わなかった.C2.術.後.経.過術後遠見でほぼ正位,近見でやや過矯正(14CΔBout)と思われたが,2歳(術後C1年C3カ月)の時点で交代プリズム遮閉試験では遠見正位,近見C2CΔE’であり,内転制限については,術前CGrade5からCGrade0(可動域のC100%まで達する)と,ほぼ完治していた(図4).3歳C8カ月(術後C1年C9カ月)頃から,内斜偏位が(遠見:C12ΔBout,遠:16CΔBout)がみられるようになったため,調節麻痺下の屈折検査を実施したところ,両眼とも中等度の遠視がみられた〔VD=(1.2×+6.25D(+cylC0.50DAx90°),CVS=(1.2×+4.75D+0.75DAx101°)〕.完全矯正眼鏡を処方したところ眼位はほぼ正位となり,調節性内斜視と診断した(図5).最終検査時(術後C3年C3カ月)での屈折矯正下の眼位は遠見正位,近見C6CΔE’であった.近業時のみC10.15°程度のCfaceturnがみられた.Bagolini線条レンズ試験では遠・近見とも両眼単一視がみられ,TNOステレオテスト(ジャパンフォーカス)で近見立体視はC240秒であった.CII考按正中を越えない強度の麻痺性斜視に対する斜視手術としては,一般的に筋移動術が選択される.十分な矯正効果を得るため,過去C100年以上にわたってさまざまな術式や変法が考案されてきた.しかし,筋移動術単独で十分な効果が期待できない症例では,しばしば張り合い筋の後転術が併用される.ところが筋断裂による斜視症例では,神経麻痺と異なり,すでにC4直筋のうちの一筋で,前毛様体動脈の血流が途絶していることに注意すべきである.もし大角度の眼位ずれに対応すべく,上・下直筋全幅を内直筋付着部近傍に移動させ,さらに張り合い筋である外直筋の後転術を加えれば,4直筋すべての前毛様体動脈の血流が失われることとなり,術後に前眼部虚血をきたす.前眼部虚血の眼所見としては,瞳孔偏位,虹彩毛様体炎,虹彩萎縮や併発白内障などに加え,重篤化した場合,角膜瘢痕化,低眼圧,眼球癆により失明する場合もある4).そこで筋断裂による斜視症例では,張り合い筋を無傷に残したまま,いかに筋移動術単独で強力な矯正効果を得るかが治療上のポイントといえる.筋移動術単独の矯正効果(遠見)は,麻痺筋と同側の上・下直筋を半筋腹を用いる古典的なCHummelsheim法でC42CΔ6),上・下直筋全筋を用いた筋移動術ではC26.39CΔ5),筋の切腱を要しない西田法ではC24.36CΔ7)と報告されている.いずれの術式を選択しようとも,本症例の眼位ずれ(60CΔ)を完全に矯正できない.また,移動した上・下直筋を後方で麻痺筋に縫着する方法(posteriorCintermuscularsutures)により,治療効果を増強しうることが報告されている5)が,内直筋が強膜上に残っていない本症例では,縫合を実施することは不可能である.近年,Phamonvaechavanらは新しい筋移動術としてcrossed-adjustabletranspositionを報告した5).この術式は,上・下直筋全幅を付着部から切離した後,通例では断端を麻痺筋付着部の近位端に縫着するのに対し,遠位端(上直筋は付着部下端,下直筋は付着部上端)に吊り下げ術の要領で縫着し,さらにアジャスタブル縫合を置くことで,術後に眼位の微調整を図ろうとするものである.報告では,遠見での平均矯正効果はC48.5CΔ(n=19)で,統計学的な有意差は得られなかったものの,古典的な上・下直筋の全幅を用いる筋移動術の効果C39.3CΔ(n=23)を大きく上回る成績を得た.この方式では,通常の縫着位置に比べ5.14Cmm筋を前転させることが可能となり,さらに筋の走行は麻痺筋の付着部より数mm後方へ偏位するため,posteriorCintermuscularCsuturesに似た効果も期待できる.今回報告した筋移動術は,Hummelsheim法を原型とし,Ccrossed-adjustableCtransposition5)のアイデアを取り入れたものである.麻痺筋と反対側の上・下直筋の半分を付着部から切離し,残された鼻側半分の下をくぐらせ,さらに対側の内直筋付着部に縫着することで,より大きな筋の前転が可能になる.術後C1週目の遠見眼位における矯正効果はC60CΔに達し,これまで報告された筋移動術単独の矯正効果としては,筆者らの知る限り最大であった.残された上・下直筋鼻側C50%は,上下直筋を通る前毛様体動脈の血流の半分を担保し,断裂した内直筋と合わせた血液循環の損失は,計算上は前後転術と同様,2筋に相当する.前眼部虚血の懸念から張り合い筋の後転がむずかしい筋断裂に対する麻痺性斜視の手術術式としてとくに有用であろう.最強度であった内転制限も,最終検査時にはほぼ完治が得られた.理由として,手術が外傷後C7病日で実施され,外直筋の拘縮が最小限であったことが考えられる.また,年少者であることから,術後残余の非共同性の眼位ずれに対して,輻湊眼位における運動性適応力(vergenceadaptation)が強力に作用したのもしれない.内視鏡下副鼻腔アプローチで断裂筋を縫合することで良好な治療成績が得られるとする報告があるが8),完治をめざすには断裂筋の縫合が唯一の選択肢であり筋移動術は避けるべきであるとする意見9)を支持することはできない.結論として,筆者らが報告したCHummelsheim変法は,単独手術であっても強力な矯正効果を期待できる.前眼部虚血の問題から張り合い筋の後転術の併置がむずかしい筋断裂を原因とする大角度の麻痺性斜視では有効な術式になると思われる.本症例の報告については親権者から文章による同意を得た.また川崎医科大学倫理委員会の承認を受けた.また利益相反に該当する事項はない.文献1)ReneC,RoseG,LenthallRetal:Majororbitalcomplica-tionsCofCendoscopicCsinusCsurgery.CBrCJCOphthalmolC85:C598-603,C20012)袴田桂,嘉鳥信忠:鼻内内視鏡手術における眼窩損傷の検討とその対応.耳鼻展望57:40-45,C20143)彦谷明子,西村香澄,堀田喜裕ほか:副鼻腔内視鏡手術中の内直筋損傷に対する斜視手術時期の検討.眼臨C101:C49-52,C20074)SaundersCRA,CBluesteinCEC,CWilsonCMECetal:AnteriorCsegmentischemiaafterstrabismussurgery.SurvOphthal-molC38:456-466,C19945)PhamonvaechavanCP,CAnwarCD,CGuytonDL:AdjustableCsutureCtechniqueCforCenhancedCtranspositionCsurgeryCforCextraocularmuscles.JAAPOSC14:399-405,C20106)NeugebauerCA,CFrickeCJ,CKirschCACetal:Modi.edCtrans-positionCprocedureCofCtheCverticalCrectiCinCsixthCnerveCpalsy.AmJOphthalmolC131:359-363,C20017)MurakiS,NishidaY,OhjiM:Surgicalresultsofamuscletranspositionprocedureforabducenspalsywithouttenot-omyCandCmuscleCsplitting.CAmCJCOphthalmolC156:819-824,C20138)AkiyamaCK,CKarakiCM,CHoshikawaCHCetal:RetrievalCofCrupturedCmedialCrectusCmuscleCwithCanCendoscopicCendo-nasalCorbitalCapproach.CACcaseCreportCandCindicationCforCsurgicaltechnique.AurisNasusLarynxC42:241-244,C20159)HuervaCV,CMateoCAJ,CEspinetR:IsolatedCmedialCrectusCmuscleCruptureCafterCaCtra.cCaccident.CStrabismusC16:C33-37,C2008C***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):821.825,2019c網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果小池直子*1尾辻剛*1前田敦史*1西村哲哉*1髙橋寛二*2*1関西医科大学総合医療センター眼科*2関西医科大学眼科学教室CComparativeE.cacyofIntravitrealRanibizumabandA.iberceptforCentralRetinalVeinOcclusionwithMacularEdemaNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),AtsushiMaeda1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityC網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)とアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)を施行し,12カ月以上経過を追えたC38例C39眼(IVR群C17眼,IVA群C21眼)について,その効果に差があるかを後ろ向きに検討した.12カ月後のClogMAR視力は,IVR群では投与前C0.99からC0.79に,IVA群でも0.69からC0.49と両群とも有意に改善し,両群間で視力変化率には有意差はなかった.12カ月後の中心窩網膜厚はCIVR群では投与前C670.5CμmからC334.5Cμmに有意に減少し,IVA群でもC830.7CμmからC389.0Cμmに有意に減少し,両群間で有意差はなかった.12カ月までの平均投与回数はCIVR群C3.7回に対しCIVA群C2.9回と有意差はなかった.12カ月後に浮腫が消失していたものはCIVR群でC7眼(58.8%),IVA群でC16眼(76.2%)と両群間で有意差はなかった.両群とも投与後C12カ月の時点で視力と浮腫が改善し,その効果において両群間に有意差はみられなかった.CWecomparedthee.cacyofintravitrealranibizumab(IVR)anda.ibercept(IVA)formacularedemasecond-arytocentralretinalveinocclusion(CRVO)C.Thisretrospectivestudyinvolved38eyesof39patientswithmacu-larCedemaCassociatedCwithCRVO;allCwereCfollowedCupCforCmoreCthanC12months.CSeventeenCeyesCreceivedCIVRCand21eyesreceivedIVA.LogMARbestcorrectedvisualacuiby(BCVA)improvedfrom0.99to0.79inpatientstreatedCwithCIVRCandCfromC0.69toC0.49inCpatientsCtreatedCwithCIVA.CCentralCretinalthickness(CRT)decreasedCfrom670.5Cμmto334.5CμminIVRgroupandfrom830.7Cμmto389.0CμminIVAgroup.Therewasnosigni.cantdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroupsCinCchangeCofCBCVACandCCRT.CTheCnumberCofCinjectionsCaveragedC3.7inCIVRCgroupand2.9inIVAgroup.At12months,therewere7eyes(58.8%)withoutmacularedemainIVRgroupand16eyes(76.2%)inIVAgroup.BothIVRandIVAweree.ectiveformacularedemasecondarytoCRVOupto12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(6):821.825,C2019〕Keywords:網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,VEGF,ラニビズマブ,アフリベルセプト.centralretinalveinoc-clusion,macularedema,vascularendotherialgrowthfactor,ranibizumab,a.ibercept.Cはじめに網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療としては,これまでに網膜光凝固,ステロイド投与,硝子体手術が行われてきた.CRVOに対する光凝固治療としては,CVOStudyGroupによって格子状光凝固が視力向上に関しては無効と報告された1).また,硝子体手術に関しては大規模臨床研究によって効果が証明されておらず,ステロイド注射に関してはある程度の視力改善が報告されたが,高頻度で発生した合併症が問題となった2).このようにCCRVOに伴う黄斑浮腫に対しては満足できる治療法が存在しなかったのが実情であったが,現在では抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthC〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8607大阪府守口市文園町C10-15関西医科大学総合医療センター眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8607,JAPANCfactor:VEGF)薬の硝子体内投与が治療の第一選択として広く行われるようになっている3).ラニビズマブは抗CVEGF抗体の一種で,ヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり,CRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果としては,大規模研究であるCCRUISEstudyによって,偽注射に対してラニビズマブ治療の優位性が証明された3,4).わが国でもC2013年に初めてCCRVOに対するラニビズマブによる抗CVEGF療法が承認され,広く使用されるようになった.その後アフリベルセプトがCCRVOに対して使用可能となった.アフリベルセプトは,ヒト免疫グロブリン(Ig)G1のCFcドメインにヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインを結合した遺伝子組み換え融合糖蛋白質であり,VEGF-Aと優れた親和性を有する5)だけでなく,その他のCVEGFファミリーであるCVEGF-B,胎盤成長因子(pla-centagrowthfactor:PlGF)とも結合することができるといった特徴がある.このアフリベルセプトもCCRVOに対する大規模臨床研究によりその有効性が示されている6,7).しかし,このラニビズマブとアフリベルセプトのCCRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果の直接比較を行った報告は少ない.今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブの硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR),あるいはアフリベルセプトの硝子体内投与(intravitreala.iber-cept:IVA)を施行し,その効果について検討した.本研究に関しては関西医科大学総合医療センター研究倫理審査委員会の承認のもと行った.CI対象および方法1.対象対象は,平成C26年C3月.平成C29年C3月に関西医科大学総合医療センター眼科にてCCRVOに伴う黄斑浮腫に対してIVRまたはCIVAを施行し,12カ月以上経過を追えたC38例39眼(IVR群18眼,IVA群21眼)である.他の抗VEGF薬の投与歴のあるものや経過中に他の治療を行ったものは除外した.治療前のCIVR群とCIVA群のそれぞれの患者の背景として,男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前の中心窩網膜厚(centralCretinalthickness:CRT),虚血型の割合,浮腫のタイプを調査した.虚血型の定義はフルオレセイン蛍光眼底造影のパノラマ撮影にて無灌流領域が10乳頭面積以上確認されたものとした.浮腫のタイプについては光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME),スポンジ状,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)に分類し,同一症例で所見が複数存在する場合はそれぞれのタイプに重複してC1例ずつカウントした.2.方法ラニビズマブ(0.5Cmg)硝子体内投与(IVR)もしくはアフリベルセプト(2Cmg)硝子体内投与(IVA)を行い,これらの症例の投与前と投与C3,C6,C9,12カ月後の視力,OCTで測定したの変化,12カ月までの投与回数,OCTでみたC12カ月後の浮腫の消失について後ろ向きに検討した.CRTはCRTVue-100R(Optovue社)を用いて測定した.薬剤の選択はC2013年C11月までは全例CIVRで,2013年C12月以降は全身状態に問題のない症例は原則としてCIVAを行った.投与方法はCIVRまたはCIVAの初回投与後のC2回目以降は必要時投与(prorenata:PRN)で行った.PRNの再投与基準は,OCTで黄斑浮腫を認めた場合としたが,残存浮腫があってもCCRTがC1/3以下に減少するなど明らかに浮腫の減少がみられる場合は次回診察までの経過観察とした.視力低下や出血の増加のみでは再投与の基準とはしなかった.また,虚血型の症例については網膜出血がある程度減少した時期に血管アーケード外に汎網膜光凝固を行った.統計学的解析にはCIBMCSPSSstatistics(IBM社)を使用した.治療前後の視力の比較はCWilcoxonの符号付順位和検定を,CRTの値は正規分布していたためその比較には対応のあるCt検定を,両群間の視力改善,CRTの減少率および投与回数の比較にはCMann-WhitneyのCU検定を,浮腫の消失の比較にはCc2検定を用い,p<0.05を統計学的に有意とした.視力に関する検討では,小数視力をClogMAR(logarith-micCminimumCangleCofresolution)視力に換算し,logMARでC0.3以上の変化を有意とした.CII結果男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前のCCRT,虚血型の割合,浮腫のタイプで両群間に有意差はみられなかった(表1).対象となった全例の平均ClogMAR視力は,投与前はC0.83,3カ月後はC0.66,6カ月後はC0.62,9カ月後はC0.63,12カ月後はC0.63であった.図1のグラフに示すようにCIVR群,IVA群の平均ClogMAR視力はそれぞれ投与前C0.99,0.69で,3カ月後はC0.88,0.49,6カ月後はC0.74,0.52,9カ月後は0.75,0.54,12カ月後はC0.79,0.49であった.投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,C6,C9,12カ月で有意に改善した(p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).IVR群でCIVA群に比べ投与前視力が悪かったが両群間で有意差はなかった(表1).また,投与前からC12カ月後における視力変化には両群間で有意差はなかった(p=0.59:Mann-WhitneyCUtest).12カ月後における視力変化は,IVR群では改善C6眼(35.3%),不変C10眼(58.8%),悪化C1眼(5.9%)であり,IVA群では改善C9眼(42.9%),不変C9眼(42.9%),悪化C3眼(14.3表1投与前の患者背景IVR群(18眼)IVA群(21眼)男:女6:1110:11Cp=0.33(Fisher’sexactprobabilitytest)平均年齢70.4(52.86)歳73.8(58.92)歳Cp=0.27(Student’sttest)発症から初回治療までの期間6.5カ月3.8カ月Cp=0.21(Mann-WhitneyUtest)虚血型5眼3眼p=0.23(Fisher’sexactprobabilitytest)治療前ClogMAR視力C0.99C0.69Cp=0.09(Mann-WhitneyUtest)中心窩網膜厚C648.5C670.6Cp=0.81(Student’sttest)CMEC15C20浮腫のタイプ(重複あり)スポンジ状C9C11Cp=0.98(chi-squareforindependencetest)CSRD8C11Cすべての項目において両群間に有意差なし.CME:.胞様黄斑浮腫,SRD:漿液性網膜.離.1.8表212カ月後における視力変化0.8IVR群とCIVA群の間に有意差なし(*p=0.93:Mann-Whitney1.6改善不変悪化1.4IVR6眼(35.3%)10眼(58.8%)C1.2IVA9眼(42.9%)9眼(42.9%)1眼(5.9%)3眼(14.3%)*n.s.ClogMAR視力1logMARでC0.3以上の変化を有意とした.Utest).0.60.40.21,0009000800-0.2700600500400CRT(μm)図1視力変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).12カ月での視力改善は両群間に有意差なし(p=0.52:Mann-WhitneyUtest).300200%)であった(表2).視力悪化したC4眼のうちC12カ月後のC100n.s.時点で浮腫が残存していたものはC2眼であった.CRTに関しては,投与前はC660.7Cμm,3カ月後はC331.1μm,6カ月後はC266.1Cμm,9カ月後はC343.2Cμm,12カ月後はC308.5Cμmで,IVR群,IVA群の平均CCRTはそれぞれ投与前C670.6μm,648.5μmで,3カ月後はC360.6μm,294.6μm,6カ月後はC260.3Cμm,273.3Cμm,9カ月後はC342.3Cμm,344.3Cμm,12カ月後はC327.3Cμm,285.2Cμmと両群ともC3,6,9,12カ月後のCCRTは有意に減少(p<0.01:pairedttest)したが,両群間に有意差はなかった(p=0.92:Mann-Whit-neyUTest)(図2).12カ月までの平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった(p=0.06:Mann-Whit-neyCUtest)(図3).12カ月後に浮腫が消失していたものは,IVR群ではC17眼中C10眼(58.8%),IVA群ではC21眼中C16眼(76.2%)と有意差はなかった(p=0.21:Fisher’sexactprob-abilitytest)(表3).浮腫のタイプ別での浮腫消失を図4に示す.IVR群ではすべての浮腫のタイプで有意差はなかっ0投与前図2中心窩網膜厚(CRT)の変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.01:pairedttest).12カ月でのCCRTの減少率は両群間に有意差なし(p=0.92:Mann-WhitneyUtest).た(p=0.58:chi-squareforindependencetest).IVA群においても浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest).すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(FisherC’sCexactprobabilitytest).CIII考按今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブとアフリベルセプトの効果について検討した.IVRおよびIVAはいずれもCCRVOの黄斑浮腫に対し,投与後C12カ月の時点で浮腫を軽減させる効果があった.浮腫消失率はCIVR表312カ月後における浮腫の消失消失残存8IVR10眼(58.8%)7眼(41.2%)*n.s.7IVA16眼(76.2%)5眼(23.8%)C65*p=0.21(Fisher’sexactprobabilitytest)C43p=0.28p=0.37p=0.142100眼数図312カ月までの投与回数IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差なし(p=0.06:Mann-WhitneyUtest).群ではC58.8%に対し,IVA群ではC76.2%と有意差はなく,平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった.また,視力変化やCCRTの変化には両群間で有意差はなかった.既報においても,LoteryらはCRVOにおいてC1年間の平均投与回数を比べると,IVRは4.4回,IVAはC4.7回で有意差はなかったと報告している8).また,ChatziralliらはCCRVOに対するCIVRとCIVA(導入期3回+必要時投与)ではC18カ月の時点で視力,CRTの変化ともに有意差はなく,浮腫消失率にも差はなかった(IVR群:50%,IVA群:42.9%)としている9).また,SaishinらはC6カ月の前向き検討でCCRVOに対するCIVRあるいはCIVAを隔月投与したところ,視力,CRTの変化ともに有意差はなく,前房水CVEGF濃度では投与開始C2カ月後で両群とも有意に減少したが,IVA群ではC11眼中C8眼が測定限界値以下まで減少したとしている10).今回のCCRVOの黄斑浮腫に対する後ろ向き検討のC1年間の結果において,既報と同様に視力変化やCCRTの変化,浮腫消失率,投与回数においてCIVA群とCIVR群の間に有意差はなかった.ただし,対象症例数が少なく検討項目のなかには統計学的処理においてCp値が小さいものがあるので,今後症例数が増加すれば再検討が必要であり,前向き検討も必要である.視力がClogMARでC0.3以上悪化したC4眼については,治療開始までの期間や虚血の有無など,治療前での共通した特徴はなく,治療前の予測は困難と思われた.また,このC4眼のうちC12カ月後の時点で浮腫が残存していたものはC2眼であり,一方でC10眼は浮腫が残存していても視力が維持改善できた.CRVOにおいては浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのかもしれない.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の投与方法については,筆者らの報告のように初回投与後のCPRNや,導入C3回投与後にCPRNといった方法が行われており,確立さ200CMEスポンジ状SRD図4浮腫のタイプ別消失率IVR群(p=0.58:chi-squareCforCindependencetest),IVA群(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest)ともに浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した.すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(Fisher’sexactprobabilitytest).れた治療プロトコールは存在しないが,できるだけ少ない治療回数で効果が得られるのであれば患者の経済的負担や全身的副作用の点からも望ましいと思われる.視力良好例では,滲出型加齢黄斑変性と同様に厳格な基準でのCPRNが重要であるが,投与前視力が不良のCCRVOでは浮腫の完全消失に持ち込むのは非常に困難な症例がある.一方,前述のようにCRVOにおいて浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのであれば,このような難症例において浮腫の完全消失にこだわらなくてよいのかもしれない.すなわち抗CVEGF薬を繰り返し投与しても浮腫が残存するような症例では,いったん視力改善が頭打ちになった後の維持期の投与は,視力低下を再投与条件とした必要時投与で十分なのかもしれない.この研究は過去の診療録を調べることによる実臨床での後ろ向き研究で症例数も限られており,今後長期にわたる観察とさらなる検討が必要である.文献1)TheCCentralCVeinCOcclusionCStudyGroup:EvaluationCofCgridCpatternCphotocoagulationCforCmacularCedemaCinCcen-tralCveinCocclusion.CMCreport.COphthalmologyC102:1425-1433,C19952)IpCMS,CScottCIU,CVanVeldhuisenCPCCetal:ACrandomizedCtrialCcomparingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCtri-amcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinocclusion:theStandardCarevsCoricosteroidforRetinal消失率(%)8060401回2回3回4回5回6回7回VeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C20093)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CAwhCCCCetal:SustainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCcentralCretinalCveinocclusion:twelve-monthCoutcomesCofCaphase3study.OphthalmologyC118:2041-2049,C20114)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizum-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseC3study.OphthalmologyC117:1124-1133,C20105)HolashCJ,CDavisCS,CPapadopoulosCNCetal:VEGF-trap:aCVEGFCblockerCwithCpotentCantitumorCe.ects.CProcCNatlCAcadSciUSAC99:11393-11398,C20026)HolzCFG,CRoiderCJ,COguraCYCetal:VEGFCTrap-EyeCforCmacularCoedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclu-sion:6-monthCresultsCofCtheCphaseCIIICGALILEOCstudy.CBrJOphthalmolC97:278-284,C20137)BoyerCD,CHeierCJ,CBrownCDMCetal:VascularCendothelialCgrowthfactorTrap-EyeformacularedemasecondarytocentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCtheCphaseC3COPERNICUSCstudy.COphthalmologyC119:1024-1032,C20128)LoteryAJ,RegnierS:Patternsofranibizumabanda.iber-cepttreatmentofcentralretinalveinocclusioninroutineclinicalpracticeintheUSA.EyeC29:380-387,C20159)ChatziralliI,TheodossiadisG,MoschosMMetal:Ranibi-zumabCversusCa.iberceptCforCmacularCedemaCdueCtoCcen-tralCretinalCveinocclusion:18-monthCresultsCinCreal-lifeCdata.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1093-1100,C201710)SaishinY,ItoY,FujikawaMetal:Comparisonbetweenranibizumabanda.iberceptformacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.JpnJOphthalmolC61:C67-73,C2017C***

連続縫合による全層角膜移植後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ併用下に術後早期抜糸を行い炎症の制御が良好であった2例

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):816.820,2019c連続縫合による全層角膜移植後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ併用下に術後早期抜糸を行い炎症の制御が良好であった2例上川床美紀*1,2福井正樹*1~3水野嘉信*1,4野田徹*1*1国立病院機構東京医療センター眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3南青山アイクリニック*4帝京大学医学部眼科学講座CRepeatedPartialRunningSutureRemovalandMedical-useContactLensWearforIn.ammationatEarlyStageafterPenetratingKeratoplastyMikiKamikawatoko1,2),MasakiFukui1.3),YoshinobuMizuno1,4)andToruNoda1)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)MinamiaoyamaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,TeikyoUniversitySchoolofMedicineC緒言:全層角膜移植(PKP)を連続縫合で行った際に早期に抜糸を行うことは創離開のリスクとなる.今回,PKP後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ(MUCL)装用を併用し,部分抜糸を繰り返すことで創離開を回避しつつ炎症の制御を得たC2症例を経験したので報告する.症例1:45歳,男性,PKP後に生じた感染性角膜炎後の角膜瘢痕に対しCPKPを行った.術後C8週に下耳側の角膜炎症と縫合糸の緩みを認めた.症例2:34歳,男性,円錐角膜の急性水腫後の瘢痕に対しCPKPを行った.術後C3週で下方角膜に血管侵入と拡張を認め,術後C12週に鼻側,耳側の縫合糸の緩みを認めた.両症例ともステロイドのCTenon.下注射・内服を追加し,MUCL装用を併用しつつ連続縫合糸の部分抜糸を繰り返したが,創離開なく炎症も制御された.結論:連続縫合によるCPKP後早期に抜糸が必要になった際にも,部分抜糸とCMUCLの装用を併用することで創離開や患者の疼痛を回避しつつ抜糸可能なことが示唆された.CSutureCremovalCatCanCearlyCstageCafterpenetratingCkeratoplasty(PKP)posesCriskCofCwoundCgap.CHereCweCreportCtwoCkeratitisCcasesCatCearlyCstageCafterCPKPCthatCwereCcontrolledCbyCrepeatedCpartialCsutureCremovalCandCwearingamedical-usecontactlens(MUCL).A45-year-oldmalewithcornealscarafterinfectionanda34-year-oldCmaleCwithCacuteChydropsCscarringCunderwentCPKP.CBothChadCcornealCin.ammationCandClooseCsutureCbyC3monthsafterPKP.Treatedwithsteroid,theyrepeatedlyunderwentpartialremovalofrunningsutureandworeaMUCL.CTheCin.ammationCwasCcontrolledCandCallCsuturesCwereCultimatelyCremovedCwithoutCcausingCaCwoundCgap.CThesecasessuggestthatrepeatedpartialsutureremoval,alongwithMUCLwear,ise.ectiveforcontrollingkera-titisatearlystageafterPKPwithoutcausingwoundgaps.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):816.820,C2019〕Keywords:全層角膜移植,術後早期抜糸,部分抜糸,医療用コンタクトレンズ.penetratingkeratoplasty,sutureremovalafterpenetratingkeratoplastyinanearlystage,partialsutureremoval,medicalusecontactlens.Cはじめに創部の縫合不全もしくは離開が起きる可能性が報告されてい角膜移植後の連続縫合糸を術後一定期間で抜糸するか留置る2).また,一般的に術後半年からC1年以内の抜糸は創離開するかは議論が分かれる1).全層角膜移植術(penetratingの高リスクと考えられているが,それ以降でも創離開のリスkeratoplasty:PKP)後の創傷治癒は緩徐であり,抜糸後はクがあるとの報告がある3).〔別刷請求先〕上川床美紀:〒152-8902東京都目黒区東が丘C2-5-1国立病院機構東京医療センター眼科Reprintrequests:MikiKamikawatoko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2-5-1Higashigaoka,Meguro-ku,Tokyo152-8902,JAPANC816(112)d図1症例1の前眼部写真および前眼部OCTによる角膜トポグラフィ(RealK)の変化a:角膜移植当日の前眼部写真.b:術後C8週.結膜充血,8.10時の角膜浮腫と縫合糸の緩み(.),同部位の角膜融解を認める.前房内炎症は認めない.c:術後C9週.結膜充血は消退している.7時の角膜に炎症を認め,縫合糸の緩み(.)は進行している.d:最終受診時(術後C1年C4カ月).移植片の接着は良好で透明性が保たれている.e:角膜移植後,炎症前(術後4週).KsC44.2DC@127°,Kf39.2DC@37°.f:角膜炎発症時(術後5週).KsC46.8DC@129°,Kf35.6DC@39°.g:連続縫合糸抜糸中(術後20週).KsC42.5DC@151°,Kf41.5DC@61°.h:最終受診時(術後1年4カ月).Ks45.2DC@105°,Kf40.4DC@15°.一方,縫合糸による合併症には縫合糸膿瘍や血管侵入,糸の緩みや炎症,さらに重篤な合併症として拒絶反応や眼内炎などが報告されている4.7).今回筆者らは,PKP後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ(medicalCuseCcontactlens:MUCL)装用を併用しながら連続縫合糸の部分抜糸を繰り返すことで,創離開を回避しつつ炎症の制御を得たC2症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕45歳,男性.主訴:右眼疼痛,霧視.現病歴:右眼疼痛,霧視を主訴にC2016年C3月に前医を受診した.感染性角膜炎の診断で同年C4月に東京医療センター眼科(以下,当院)紹介受診した.既往歴:右眼角膜ヘルペス,2004年右眼角膜混濁に対しPKPを実施されている.治療経過:右眼真菌性角膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その後,角膜上方の血管侵入や実質瘢痕化を認めるものの,浸潤巣・角膜潰瘍は徐々に縮小し上皮化が得られた(図1a).2017年C2月の右眼視力は(0.15×sph.1.75D(cyl.5.50CDAx70°)と低下していたため,2017年3月に右眼PKPを行った.術式は,前回ドナーグラフト(7.5Cmm径)を.離除去し,7.75Cmm径のCBarron式角膜パンチで新たに作製したドナーグラフトを連続C24針縫合した.術後点眼はC0.1%ベタメタゾン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼を各C1日C5回,0.1%タクロリムス点眼とC0.4%リスパジル点眼を各C1日C2回とした.術後C5週に耳側角膜に血管侵入,縫合糸付着物を認め,角膜炎を生じた.また,耳側縫合糸の緩みがあり縫合糸調整を行った.術後C8週には結膜充血と角膜下耳側に浮腫,縫合糸の緩みおよび同部位の角膜融解を認めた(図1b).前房内炎症は認めなかった.トリアムシノロンCTenon.下注射,0.1%ベタメタゾン頻回点眼,プレドニゾロンC30Cmgを内服とした.術後C9週には結膜充血は改善したものの,角膜下耳側に炎症を認め縫合糸はさらに緩んでいた.7-10時の縫合糸を抜糸し(図1c),MUCL装用とした.なお,MUCLはC1カ月交換連続装用ソフトコンタクトレンズであるClotra.lconAを使用し,受診のたびに医師がレンズの装脱と交換を行った.以降C1カ月ごとに来院.緩んだ縫合糸のみ抜糸を繰り返し,MUCL装用を続けた.2017年C10月(術後C7カ月)に全抜糸を行った.最終受診時(2018年C8月:術後C1年C4カ月)の右眼視力は(1.2×sph.1.50D(cyl.5.00DAx10°)であり,移植片の接着は良好で透明性が保たれていた(図1d).角膜形状の変化は,炎症時には炎症部および一致して緩んだ縫合糸のC8時の部位で平坦化を認めた(図1f).部分抜糸に伴い平坦化は消失し(図1g),全抜糸後(図1h)にはもとの乱視軸(図1e)と異なる乱視軸に落ち着いた.〔症例2〕34歳,男性.cd図2症例2の前眼部写真および前眼部OCTによる角膜トポグラフィ(RealK)の変化a:角膜移植当日の前眼部写真.Cb:術後C3週.8時の角膜に糸状物付着とC6時の角膜輪部に血管拡張(.)を認める.Cc:術後13週.5時・9時の縫合糸の断端の緩み(.)を認める.Cd:最終受診時(術後C1年C2カ月).移植片の接着は良好で透明性が保たれている.Ce:角膜移植後,PKAS鎮静後,炎症前(術後2週).Ks49.4D@102°,Kf41.6D@12°.Cf:炎症時(術後3週).Ks49.4DC@99°,Kf41.3DC@9°.Cg:連続縫合糸抜糸中(術後12週).KsC52.9DC@81°,KfC39.2C@171°.Ch:最終受診時(術後1年2カ月).KsC47.6DC@80°,Kf45.4D@170°.主訴:左眼霧視,疼痛,視力低下.現病歴:左眼霧視,疼痛を主訴にC2016年C4月に前医を受診し,急性水腫の診断で当院紹介受診した.既往:両眼円錐角膜,アトピー性皮膚炎.治療経過:急性水腫および細菌性角膜潰瘍と診断し点眼治療を開始した.浸潤巣,角膜潰瘍は徐々に縮小し,上皮化を得た.その後,0.1%ベタメタゾン点眼,0.1%タクロリムス点眼を各C1日C2回追加し,角膜中央の実質混濁と菲薄化,下方角膜の血管侵入を認めるものの,瘢痕化を得た(図2a).眼脂培養結果は表皮ブドウ球菌が陽性であった.2017年C5月の左眼視力は(0.06C×sph.2.00D)と低下していたため,同年C6月に左眼CPKPを行った.術式は,7.5Cmm径の真空トレパンおよびカッチン剪刀でレシピエント角膜を切除し,7.75Cmm径のCBarron式角膜パンチで打ち抜いたドナーグラフトを連続C24針縫合した.術後点眼は,0.1%ベタメタゾン点眼とC0.5%モキシフロキサシン点眼を各C1日C5回,タクロリムス点眼をC1日C2回とした.術後C1週より充血と下方角膜輪部からの角膜侵入血管の拡張を認め,角膜移植後アトピー性強角膜炎(postkeratoplastyatopicsclerokeratitis:PKAS)8)と判断し,プレドニゾロン30Cmgの内服を開始したところ,PKASは翌週には鎮静した.術後C3週には糸状物付着と再度下方角膜輪部に血管拡張を認め(図2b),トリアムシノロンCTenon.下注射を行い,血管拡張の改善を得た.術後C12週には鼻側,耳側の縫合糸の緩みを認め,部分抜糸を行いCMUCL装用とした.本症例においてもCMUCLは症例C1と同様Clotra.lconAを使用し,受診のたびに医師がレンズの装脱と交換を行った.以降,MUCL装用を継続し,緩んだ縫合糸を適宜部分抜糸した(図2c).2017年C12月(術後C6.5カ月)に全抜糸を行った.最終受診時(2018年C8月:術後C1年C2カ月)の左眼視力は(0.8CpC×sph.8.50D(cyl.1.75DAx10°)であり,移植片の接着は良好で透明性が保たれていた(図2d).角膜形状の変化は,炎症時には緩んだC3時・9時の縫合糸の部位に一致して角膜形状の平坦化を認めた(図2f).部分抜糸に伴い平坦化は消失し(図2g),全抜糸後(図2h)にはもとの乱視軸(図2e)と異なる乱視軸に落ち着いた.CII考按PKP後,術後早期に角膜炎が生じ連続縫合糸が緩んだ症例に対し,部分抜糸とCMUCL装用を行い,最終的に安全に全抜糸を行えたC2症例を経験した.連続縫合でCPKPを行った後,長期に縫合糸を抜糸せずに残すか,一定期間で抜糸を行うかは議論が分かれる.その理由として,1)Host-Graft間強度(縫合糸抜糸に伴う創離開のリスク),2)縫合糸トラブル(感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応の誘発),3)異物感(縫合糸の緩みや糸が切れた際の疼痛),4)角膜形状の変化(縫合糸抜糸に伴う予測不能な屈折変動)があげられる.今回筆者らがCMUCL装用を併用しながら連続縫合糸を部分図3角膜移植後の角膜炎に対する治療方針角膜移植後に角膜炎を認めた際には薬物治療と抜糸を検討する.本症例では薬物治療に加え,部分抜糸および医療用コンタクトレンズ(MUCL)を併用して炎症の制御を行った.★:今回行った治療.MUCL:medicalusecontactlens.抜糸し角膜炎を制御できたC2症例をこれら四つの観点から検討した.1)Host-Graft間強度(縫合糸抜糸に伴う創離開のリスク)縫合糸は,トレパンでの垂直切開によるCPKPの強度低下に対し,移植片の接着の維持に機能する.そのため,術後早期に抜糸を行うことは創離開のリスクとなる.具体的には,抜糸処置の際に角膜上皮損傷をきたすことで上皮面の接着が維持されなくなること,抜糸時の埋没したノットを除去する際のCHostもしくはCGraft角膜の牽引によりCHost-Graft間に段差が生じるリスク,抜糸により縫合糸による移植片の接着が維持されなくなることがあげられる.全抜糸では影響する創の範囲も広いことから,部分抜糸に比べ創離開のリスクが高いと考えられる.今回筆者らは抜糸に伴う上皮損傷後の創傷治癒促進および上皮側からの保護による強度強化目的にCMUCL装用を部分抜糸に併用した.2)縫合糸トラブル(感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応の誘発)緩んだ縫合糸は感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応を誘発する.炎症の発症時に全抜糸を行うと感染巣の除去や炎症の鎮静化を得られやすい.部分抜糸を行うと縫合糸の断端から再度緩みが生じ,その物理的擦過に伴い角膜炎を生ずることが経験されるが,MUCL装用を併用することで今回のC2症例はそれらを抑制する効果があったと考えられる.3)異物感(縫合糸の緩みや糸が切れた際の疼痛)縫合糸の緩みや断裂した断端は異物感・疼痛の原因となる.今回の症例では,MUCLを装用することにより部分抜糸で残った縫合糸による異物感や疼痛を回避することができたと考えられる.4)角膜形状の変化(抜糸に伴う予測不能な屈折変動)良好な術後視力を得るために不正乱視の軽減は重要な要素であり,その発生要素や対策に関しては数多くの報告がある9).連続縫合糸の調整により,術後不正乱視を含む乱視調整を行えることは連続縫合のメリットと考える.一方で,抜糸に伴う乱視の変化が予想不能であることは,抜糸のデメリットと考える.今回のC2症例でも,抜糸前に緩んだ糸の部位に一致して認めた角膜の平坦化が抜糸後改善し,乱視の度や軸が変化していた.本C2症例では幸い抜糸後,抜糸前に比べ乱視の増大はなかったが,どのように変化するかは予想できずに抜糸を行った(図1e~h,図2e~h).これらの観点からCPKP術後早期に抜糸を行うことは避けたいが,角膜炎が生じた際など抜糸が必要な際には,薬物治療に加え,部分抜糸とCMUCL装用併用により創離開を回避しながら炎症を制御できる可能性が示唆された(図3).文献1)ChristoCG,VanRooijJ,GeerardsAJetal:Suture-relat-edcomplicationsCfollowingCkeratoplasty:aC5-yearCretro-spectivestudy.CorneaC20:816-819,C20012)Abou-JaoudeES,BrooksM,KatzDGetal:Spontaneouswounddehiscenceafterremovalofsinglecontinuouspen-etratingCkeratoplastyCsuture.COphthalmologyC109:1291-1296,C20023)FujiiS,MatsumotoY,FukuiMetal:ClinicalbackgroundsofCpostoperativeCkeratoplastyCpatientsCwithCspontaneousCwoundCdehiscenceCorCgapsCafterCsutureCremoval.CCorneaC33:1320-1323,C20144)DasS,WhitingM,TaylorHR:Cornealwounddehiscenceafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC26:526-529,C20075)TsengSH,LingKC:Latemicrobialkeratitisaftercornealtransplantation.CorneaC14:591-594,C19956)TavakkoliCH,CSugarJ:MicrobialCkeratitisCfollowingCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmicSurgC25:356-360,C19947)DanaCMR,CGorenCMB,CGomesCJACetal:SutureCerosionCafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC14:243-248,C19958)TomitaM,ShimmuraS,TsubotaKetal:Postkeratoplas-tyCatopicCsclerokeratitisCinCkeratoconusCpatients.COphthal-mologyC115:851-856,C20089)FaresU,SarhanAR,DuaHS:Managementofpost-kera-toplastyCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC38:2029-2039,C2012C***