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手洗いチェッカー直視による光傷害の1 例

2026年2月28日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(2):205.209,2026c手洗いチェッカー直視による光傷害の1例岡本紀夫*1坂口裕和*2*1おかもと眼科*2広島大学大学院医学系科学研究科視覚病態学CACaseofLightDamageCausedbyDirectViewingofaHandwashingCheckerNorioOkamoto1)andHirokazuSakaguchi2)1)Okamotoeyeclinic,2)GraduateSchoolofBiomedicalSciencesDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityC目的:手洗いチェッカー直視による光傷害の長期経過を報告する.症例:患者はC38歳,女性.コンタクトレンズ処方希望でおかもと眼科を受診した.現病歴はC20歳のときに食品会社に勤務中,興味本位で手洗いチェッカーを直視したあとから視力低下を自覚した.視力は右眼(1.2),左眼(0.4Cp)で左眼の視力が低下していた.眼底検査で,右眼は正常,左眼は網膜下白斑がみられ,黄斑部の反射は不明瞭であった.光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮(RPE)ラインの菲薄化がみられた.フルオレセイン蛍光造影とインドシアニングリーン蛍光造影で脈絡膜新生血管はみられなかったが,眼底自発蛍光は低蛍光であった.X+5年C7月,半年前よりもやもやしたものが見えることで再診した.左眼(0.2)と低下していた.左眼の眼底所見で黄斑部の網膜変性が進行していた.OCTで初診時と比較して脈絡膜信号の増強がみられた.X+10年の左眼視力は(0.2)で,眼底所見は地図状萎縮を呈していた.OCTで,萎縮型加齢黄斑変性(AMD)でみられる外顆粒層の消失,外境界膜の途絶,脈絡膜信号の増強,RPEラインの菲薄化があった.結論:手洗いチェッカーを直視した場合は,長期間にわたって注意深く経過観察をする必要がある.CPurpose:ToCreportCtheClong-termCclinicalCcourseCinCaCcaseCofClight-relatedCocularCdamageCcausedCbyCdirectCviewingofahandwashingchecker.CaseReport:A38-year-oldfemalevisitedOkamotoEyeClinicforacontactlensCprescription.CWhenCsheCwasC20CyearsCold,CsheCwasCworkingCatCaCfoodCcompanyCwhenCsheCbecameCawareCofCvisionlossafterlookingdirectlyatahandwashingcheckeroutofcuriosity.Visualacuity(VA)was1.2intherighteyeand0.4inthelefteye,withdecreasedvisioninthelefteye.Fundusexaminationrevealednormal.ndingsintherighteyeandsubretinalwhitedotsinthelefteyewithabnormalmacularre.ection.Opticalcoherencetomog-raphy(OCT)showedCthinningCofCtheCretinalCpigmentCepithelium.CFluoresceinCandCindocyanineCgreenC.uorescenceCfundusexaminationrevealednochoroidalneovascularization,yetfundusauto.uorescencewashypo.uorescent.InJuly2015,thepatientwasseenagainduetoahazyappearancefrom6-monthsearlier,andVAinthelefteyehaddecreasedto0.2.Fundusexaminationofthelefteyerevealedprogressiveretinaldegenerationinthemaculararea,andOCTshowedenhancedchoroidalsignalcomparedtotheinitialexamination.Atafollow-upvisit10-yearslat-er,VAwas0.2inthelefteye,andfundus.ndingsshowedatrophyofthefundus.OCTshowedlossoftheoutergranularlayer,disruptionoftheouterlimitingmembrane,enhancedchoroidalsignal,andretinalpigmentepitheli-umCthinning.CConclusion:InCpatientsCwithClight-relatedCocularCdamageCdueCtoCdirectCobservationCofCaChandwashCchecker,carefullong-termfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(2):205.209,C2026〕Keywords:手洗いチェッカー,ブラックライト,光傷害,黄斑萎縮,長期経過.handwashingchecker,blacklight,lightinjury,macularatrophy,long-termfollowup.Cはじめにーザー誤照射などの報告が散見される1).今回,コンタクト光が眼球に及ぼす作用は,熱作用,光化学作用,物理的作レンズ処方を希望にて筆者の施設(おかもと眼科)を受診し,用などがあげられる.レーザーポインターやCNd:YAGレ眼底所見で黄斑部に異常所見がみられたので,問診でC18年〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312,Izumi-ChoSuita,Osaka564-0041,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(87)C205図1初診時および初診10年後の眼底写真a:初診時カラー眼底写真.黄斑部の反射は不明瞭で網膜下白斑がみられた(.).b:初診C10年後の眼底写真.地図状の萎縮がみられた.図2初診時IR画像網膜下白斑は強い高反射となっている(.).前に食品会社勤務中に手洗いチェッカーを直視したあとより視力低下を自覚したことから,手洗いチェッカーの使用されているブラックライトが原因で視力低下をきたしたと考えられたC1例を経験したので報告する.CI症例初診日:(X年C9月).患者:38歳,女性.主訴:コンタクトレンズ(contactlens:CL)処方を希望.既往歴:なし.現病歴:20歳のときに食品会社に勤務中,興味本位で手洗いチェッカーを,下から左に頸を傾け,左眼で約C10Ccmの距離より約C1分程度覗いた後から左眼の視力低下を自覚した.初診時所見:視力は右眼C0.03(1.2C×sph.7.25D),左眼0.05(0.4CpC×sph.6.00D).眼圧は正常で,前眼部,中間透光体に異常をみられなかった.眼底は,右眼は正常,左眼は網膜下白斑がみられ,中心窩の反射は不明瞭であった(図1a).赤外線画像(infraredimage:IR)では,網膜下白斑は高反射を示した(図2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で左眼の網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)ラインの菲薄化,網膜下線維性瘢痕(高さC145Cμm)がみられた(図3a).大学病院に精査目的にて紹介した.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)とインドシアニングリーン蛍光造影(indocy-aninegreenangiography:IA)では脈絡膜新生血管(choroi-dalneovascularization:CNV)がみられなかったが,眼底自発蛍光は低蛍光であった.経過:半年前よりもやもやしたものが見えることでCX+5年C7月に再診した.視力は右眼C0.04(1.0C×sph.9.25D),左眼C0.01(0.2C×.7.5D)であった.変視はなかった.左眼の眼底所見で黄斑部の網膜変性が進行していた.OCTで,右眼は脈絡膜陥凹を認め,左眼は網膜下線維性瘢痕(145Cμm)に変化がなく,初診時と比較して脈絡膜信号の増強がみられ206あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026(88)ab図3初診時および5年後の眼底写真とOCTa:初診時カラー眼底写真とOCT.網膜色素上皮(RPE)ラインの菲薄化がみられ(),網膜下線維性瘢痕(高さC145Cμm)がある(.).b:5年後の眼底写真とCOCT.眼底写真は,初診時と比較して萎縮が進行している(.).OCTで網膜下線維性瘢痕に変化がないが,脈絡膜信号の増強がある(.).図4初診10年後の黄斑萎縮のOCT(水平断)CompleteRPEandouterretinalatrophy(cRORA)のCOCT所見と類似している.た(図3b).で認められる外顆粒層の消失,外境界膜の途絶,脈絡膜信号CX+10年C3月に精査希望で再診した.視力は右眼C0.04(1.0の増強,RPEラインの菲薄化がみられた.網膜下線維性瘢痕に変化はなかった(図4).プロジェクション画像で脈絡膜眼底所見は地図状萎縮を呈していた(図1b).OCTで,萎縮中大血管が明瞭にみられ,光干渉断層血管撮影(OCTCangi-型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)ography:OCTA)でも脈絡膜中大血管が明瞭にみられるが,5D)であった.左眼のC.7×.,左眼0.01(0.29.25D).sph×(89)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026207図5初診10年後のプロジェクション画像(a)とOCTangiography(OCTA)(b)脈絡膜中大血管が明瞭にみられる.脈絡膜新生血管(CNV)はみられない.CNVはみられなかった(図5).X+10年C6月軽度の白内障がみられた.CII考按食品を扱う会社では,衛生管理のため紫外線を使用した機器が設置されている.殺菌灯,害虫灯,手洗いチェッカーがあり,それぞれ紫外線の波長が異なっている.ブラックライトとは,おもに紫外線を放射するライトで,蛍光物質を光らせる性質を利用したものである.紫外線は可視域外であるが,蛍光物質に当たると可視光線として反射して見えるため,さまざまな用途で使用されている.手洗いの際に洗い残しをチェックするために使われるブラックライトは,特殊な蛍光ローション(汚れに見立てた蛍光物質)を手に塗ったあと,手洗いをし,ブラックライトで照射することで洗い残しが光って見えるようにする機器である.これにより,手洗いの正確さを確認し,より衛生的な手洗いを実践するのに役立つ.食品を取り扱う人の手洗いをチェックし,食品衛生管理の向上に貢献している.本症例の眼底所見は,尾花の光傷害の報告のうち,410nmのブラックライトの照射をC2日間受けた症例の眼底所見とCOCTが類似している2).受傷C2カ月後のCOCTでは網膜の菲薄化と脈絡膜反射の亢進がみられたと報告している2).本症例は,30年近く前のことであるのでブラックライトの正確な数値は不明である.手洗いチェッカーに市販されているブラックライトの波長はC365.405Cnmであり,本症例は手洗いチェッカーに使用されているブラックライトを直視したことが原因で網脈絡膜症を発症した可能性がある.尾花の報告例2)と異なり,受傷後C18年経過してからの所見であC208あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026るが,尾花らのCOCT所見と一致していた.本症例はC10年間経過観察し,黄斑部の網膜変性が進行し地図状萎縮を呈した.光化学作用による傷害程度は網膜上の照射強度と照射時間の積で決まる3).波長はC380.550Cnmの青色光が物質励起をきたす.本症例はブラックライトを短距離で直視したため光化学作用を起こしたと考えた.本症例は初診時C38歳であり,経過観察中に軟性ドルーゼンがみられなかったのでCAMDは否定的である.近視性黄斑症にみられる,牽引黄斑症,CNV,網膜分離症を,経過観察中のCOCTでみられなかったので否定的である.トキソプラズマ網脈絡膜炎については,血液検査を行っていないが,眼底に両眼性で,特徴的な限局性黒色色素沈着病巣と灰白色のグリア増殖からなる境界明瞭な陳旧性瘢痕病巣が黄斑部に観察される.本症例ではみられなかったので否定的である.黄斑ジストロフィについては,ガイドラインの眼底所見で両眼の黄斑部に対称性の萎縮性病変,黄斑分離,あるいは沈着物などがみられると記載されている.本症例は片眼なので否定的である4).萎縮型CAMDは,加齢によるCRPE,視細胞,脈絡膜毛細血管の萎縮性変化を特徴とする疾患である.Bruch膜の肥厚・変性に伴い視機能が低下する.進行は緩やかで,通常10.20年ほどかけて徐々に進行する4).本症例のCX+10年のCOCTの水平断の所見は,萎縮型CAMDに類似している.近年,OCTに基づいた黄斑部萎縮の新しい定義が提唱され6,7),AMDにみられる黄斑萎縮はC4分類された.そのなかでCcompleteCRPECandCouterCretinalatrophy(cRORA)は,C①C250Cμm以上の後方の脈絡膜信号の増強領域,②C250Cμm以上のCRPEラインの菲薄化,消失,③視細胞変性所見(90)(ellipsoidzone,interdigitationzone,externalClimitedmembrane,外顆粒層の消失),④CRPEに裂孔所見がない,以上のすべてを満たすものである.本症例は,日本の萎縮型AMDの新定義の眼底所見の必須所見と画像所見(cRORAの①.④,自発蛍光所見)が一致していることから7),除外規定の一つに加えられるべきと考えた.本症例はブラックライトを直視したことにより,数十年後には萎縮型CAMD様の所見になった.尾花1)は白熱球から蛍光灯,LEDへと変わるにつれ,光障害をきたしやすい青色光の曝露量は増加することから,一生に受ける青色光曝露量が確実に増加することを示唆している.近年,温暖化によりさらに青色光の曝露量も増加し,AMDの増加につながる可能性がある.Kimら8)は,夜間の屋外人工灯が滲出性CAMDの危険因子である可能性を示唆している.柳9)は,萎縮型AMDを漫然と眼底検査のみを行い経過観察することだけは禁物であり,少なくともCOCTを使ってフォローアップし,必要に応じてCOCTAを行うことと記載している.Teoら10)は,萎縮型CAMDについて,日本人,ハワイ在住日系人,ハワイ在住白人,のC3群で比較を行い,日本とハワイの比較で紫外線曝露量の違いがあげられている.本症例は一度に大量の紫外線を曝露したことにより萎縮型CAMD様の病変を発症したと考えた.本症例は,18年前に手洗いチェッカーのブラックライトを直視したため黄斑萎縮をきたし,筆者の施設受診C10年間で萎縮型CAMD様に進行していることから,今後もさらに進行する可能性が高いので注意深く経過観察をする必要がある.近年,ブラックライトは,電車の台車の点検,ネイルサロンのジェルネイルの硬化などにも使用されているので,直視しないよう啓発する必要がある.文献1)尾花明:光による眼の障害.照明学会誌C97:621-626,C20132)ObanaCA,CBrinkmannCR,CGotoCYCetal:ACcaseCofCretinalCinjuryCbyCaCvioletClightCemittingCdiode.CRetinCCasesCBriefCRepC5:223-226,C20113)尾花明:光が眼に与える影響.日レ医誌C32:438-443,C20124)近藤峰生,寺崎浩子,辻川明孝ほか:黄斑ジストロフィの診断ガイドライン.日眼会誌123:424-442,C20195)高橋寛二,白神史雄,石田晋ほか:萎縮型加齢黄斑変性の診断基準.日眼会誌119:671-677,C20156)SaddaSR,GuymerR,HolzFGetal:Consensusde.nitionforatrophyassociatedwithage-relatedmaculardegener-ationonOCT:classi.cationofatrophyreport3.Ophthal-mologyC125:537-548,C20187)上田奈央子:萎縮型加齢黄斑変性の診断と治療.あたらしい眼科42:23-30,C20258)KimCSH,CKimCYK,CShinCYICetal:NighttimeCoutdoorCarti.cialClightCandCriskCofCage-relatedCmacularCdegenera-tion.JAMANetwOpenC7:e2351650,C20249)柳靖雄:高齢者の網膜色素上皮隆起.診断力がアップする!OCT・OCTAパーフェクト読影法,p104-113,羊土社,202310)TeoCKYC,CFujimotoCS,CSaddaCSRCetal:GeographicCatro-phyCphenotypesCinCsubjectsCofCdi.erentethnicity:Asia-Paci.cCOcularCImagingCSocietyCWorkCGroupCReportC3.COphthalmolRetinaC7:593C604,C2023***(91)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C209

Microsporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例

2026年2月28日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(2):201.204,2026cMicrosporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例上松聖典*1井上大輔*1モハメド・タラアト・モハメド*1唐迪雅*1草野真央*1ヤッセル・ヘルミー・モハメド*1八木田健司*2大石明生*1*1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野*2国立感染症研究所寄生動物部CACaseofRepeatedMicrosporidialKeratoconjunctivitisMasafumiUematsu1),DaisukeInoue1),MohamedTalaatMohamed1),DiyaTang1),MaoKusano1),YasserHelmyMohamed1),KenjiYagita2)andAkioOishi1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,2)DepartmentofParasitology,TheNationalInstituteofInfectiousDiseasesC目的:Microsporidia角結膜炎は,土や水への曝露により発症し,とくに東南アジアやインドでの報告が多いが,日本でも発症例が増加している.本報告では,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験した.症例:27歳,男性で屋外スポーツ選手であり,グラウンドの土や水が目に飛入する機会が多かった.初発時,左眼に結膜充血,眼瞼腫脹を認め,紹介受診となった.左眼矯正視力はC0.2,角膜上皮内に散在する混濁とフルオレセイン染色陽性所見を認めた.点眼治療によりC11日めで軽快し,視力はC1.2に改善した.2年後に左眼,3年後に右眼が再発し,PCR法で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出された.発症後,多発性角膜上皮下混濁が持続した.練習後の洗眼やヨード製剤点眼の指導し,4年後は発症しなかった.結論:土や水の曝露を繰り返す環境では再発のリスクがあるため,注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofrepeatedmicrosporidialkeratoconjunctivitis,anemerginginfectioninJapanthatisCtypicallyClinkedCtoCsoilCandCwaterCexposure.CCase:ThisCreportCinvolvedCaC27-year-oldCmaleCoutdoorCballplayerCwhoCdevelopedCmicrosporidialCkeratoconjunctivitisC3CtimesCoverCaC5-yearCperiod.CInitially,CheCpresentedCwithCcon-junctivalhyperemiaandeyelidswellinginhislefteye,withdi.usecornealepithelialopacities.Treatmentwitheyedropsledtoresolutionin11days,improvingthevisualacuityinthateyefrom0.2to1.2.Twoyearslater,hislefteyeCrelapsed,CfollowedCbyCtheCrightCeyeC1CyearClater,Cwithmicrosporidia(Vittaformacorneae)identi.edCinCcornealCscrapingsandpractice.eldsoil.Histeammatesalsodevelopedsimilarinfections.Postinfection,multiplesubepithe-lialcornealopacitiespersisted.Preventivemeasures,includingeyewashandiodine-basedeyedropsaftersoilandwaterexposure,ledtonoreoccurrencesinthe4thyear.Conclusion:RepeatedsoilexposureincreasestheriskofmicrosporidialCkeratoconjunctivitisCrecurrence,ChighlightingCtheCneedCforCspecialCattentionCinChigh-riskCenviron-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(2):201.204,C2026〕Keywords:微胞子虫,角結膜炎,再発,屋外スポーツ.Microsporidia,Vittaformacorneae,keratoconjunctivitis,reoccurrence,outdoorsports.Cはじめに微胞子虫(Microsporidia)は,真菌に近い特徴をもつ単細胞真核生物であり,ヒトを含む多様な宿主に感染し,おもに免疫不全者においては多臓器における感染症を引き起こす1).近年では,免疫正常者においても角結膜炎の原因病原体として報告されており,とくに東南アジアやインドでは多くの症例が報告されている2.4).Microsporidia角結膜炎は,特徴的な角膜上皮内の顆粒状浸潤を呈するが,非特異的な角膜炎と鑑別が困難な場合が多い.診断には塗抹標本による好酸性染色やポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査が有用である5).治療に関しては未だ治療法は確立されていないのが現〔別刷請求先〕上松聖典:〒852-8501長崎県長崎市坂本C1-7-1長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学分野Reprintrequests:MasafumiUematsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-1Sakamoto,Nagasaki-city,Nagasaki852-8501,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(83)C201状である.自然軽快することもあるが,抗菌薬,抗真菌薬,殺菌消毒用点眼薬の点眼,アルベンダゾールの内服や角膜擦過による治療が有効とされている6).Microsporidiaはおもに汚染された土や水を介して伝播すると考えられており,農業従事者や屋外スポーツ選手に多く発症がみられる5).今回,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験したため,その臨床経過について報告する.CI症例患者:27歳,男性.主訴:左眼充血,羞明.既往歴:なし.眼科受診歴:なし.経過中も含めコンタクトレンズ使用歴なし.職業:屋外スポーツ選手.現病歴:患者は,屋外スポーツ活動中にグラウンドの土が頻繁に眼に飛入していた.X年C10月に左眼の結膜充血と眼瞼腫脹を認め,近医眼科を受診した.流行性角結膜炎が疑われ,1.5%レボフロキサシンおよびC0.1%フルオロメトロン点眼による治療を受けたが,症状は改善しなかった.数日後には他院眼科を受診し,左眼に毛様充血,点状角膜混濁,樹枝状潰瘍様の所見を認めた.ステロイド点眼は中止され,セフメノキシム点眼およびアシクロビル眼軟膏で治療が行われたが改善しなかった.アデノチェック検査は陰性であった.精査加療目的に長崎大学病院(以下,当院)へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正C1.5),左眼C0.2(矯正不能)であった.眼圧は両眼ともC16CmmHgであった.眼瞼結膜の所見として,右眼に異常は認めなかったが,左眼には充血と乳頭形成を認めた.眼球結膜に関しても,右眼は異常なく,左眼に充血を認めた.角膜所見では,右眼は清明であったが(図1a,b),左眼では上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(図1c,d).前房は両眼とも正常深度であり,炎症細胞は認められなかった.水晶体および眼底所見にも異常はなかった.ウイルス感染の鑑別として実施したチェックメイトヘルペスアイ検査は陰性であった.経過:左眼星状角膜炎およびアレルギー性結膜炎を疑い0.1%ベタメタゾンおよびエピナスチン点眼を開始したところ,11日後に症状は軽快し(図1e,f),終診となった.後日に,特徴的な所見と経過からCMicrosporidia角結膜炎が疑われた.X+1年には発症はなかった.CX+2年夏には同じスポーツチームに属する同僚C5名が本症例と同様の所見を示す角結膜炎を発症し,うちC4例の角膜上皮擦過物とグラウンドの土からCPCR検査で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出され,Microsporidia角結膜炎の集団発生と判断された7).X+3年夏にも同僚C9名も同様の症状を呈した.そのうち,本症例を含めたC2例の角膜上皮擦過物と,グラウンドの土から,PCR検査でCMicrosporidia(V.corneae)が検出された.本症例においてもCX+2年夏に左眼に同様の所見を示す角結膜炎を発症したが,当院は受診せずに近医で加療を受けた.X+3年春には左眼羞明を訴えたため当院を受診した.左眼多発性角膜上皮内混濁を認め,0.1%フルオロメトロン点眼を処方し,症状は軽減した.同年夏には右眼に同様の角結膜炎(図2a,b)を発症したため当院を受診し,Microspo-ridia角結膜炎と診断した.ボリコナゾール点眼液,ピマリシン眼軟膏,ガチフロキサシン点眼液,殺菌消毒用点眼薬(サンヨード),および多発性角膜上皮内混濁の予防のため0.1%フルオロメトロン点眼液を処方した.その後に受診はなかったが,症状は改善したとの報告を受けた.チームに予防のため点眼型洗眼薬(ウェルウォッシュアイ)および殺菌消毒用点眼薬(サンヨード)の使用を勧めた.X+4年夏には,同僚で感染者が生じたものの,本症例におけるCMicro-sporidia角結膜炎の発症は認められなかった.CII考按Microsporidiaによる眼感染症には,大きく分けてC2タイプがある.一つは,おもに免疫不全の症例で重度の感染を引き起こす角膜実質炎型,もう一つは健常者でも角結膜上皮に感染を生じる角結膜炎型である8).Microsporidia角膜実質炎に関しては,2016年に友岡らが,ステロイド点眼投与中に真菌感染を伴うCMicrosporidia角膜実質炎を発症した症例を日本で初めて報告した9).さらに,2019年にはCUenoらが,角膜内皮移植後にステロイド点眼を投与中の患者で,真菌感染を併発したCMicrosporidia角膜実質炎を報告している10).一方で,Microsporidia角結膜炎については,2020年に鈴木らが,シンガポールで感染し,日本に一時帰国中にMicrosporidia角膜炎を発症した症例を報告した11).さらに2023年には,筆者らがCMicrosporidia角結膜炎の集団発生を報告した7).本症例は,この集団発生のC2年前に発症しており,日本国内で感染したCMicrosporidia角結膜炎の初めての症例報告と考えられる.本症例はCX年に初発した際,Microsporidia角結膜炎とは診断されなかった.しかし,その後の特徴的な所見と経過を検討した結果,Microsporidia角結膜炎の可能性が疑われた.2年後,本症例と同様の所見を示すC5名の同僚が発症し,角結膜擦過物およびグラウンドの土からCMicrosporidia(V.Ccor-neae)が検出されたことから,集団発症と判断した.同時期に本症例も同様の角結膜炎を発症し,近医で加療した.さらに翌年には,本症例を含む同僚C9名が右眼にCMicrosporidia角結膜炎を発症し,近隣の別のチームの選手C1名にも罹患が認202あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026(84)b右眼cdef図1初診時および11日後の前眼部写真右眼は清明であったが(Ca,b),左眼では角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(Cc,d).11日後には角膜は清明となり,フルオレセイン染色も陰性となった(Ce,f).められた.また,当院で確認されたCMicrosporidia角結膜炎の症例はすべて同一の屋外競技(サッカー)に関連しており,この競技の特性が発症に関与している可能性が示唆された.この競技では,ボールと頭が接触する機会があり,ボールに付着した水や土が眼に飛入する可能性がある.また,特定のプレーヤーは手でボールを扱うことができるが,捕球の際にグラウンドに寝そべることがあるため,その際にグラウンドの水や土が眼に入るリスクがある.本症例の所属チームは,養育された芝の上で競技を行っており,芝の上に寝そべる動作やボールを眼の前で扱う機会が多い.芝の養育には肥料が使用されるため,夏季の高温多湿の環境と相まってMicrosporidiaの増殖が促進された可能性も考えられる.最近では,関東地方の同じ競技のクラブチームでも集団発生が確認された(角膜カンファランスC2025,97,2025).他の競技では,ラグビー3)やゴルフ12)においてCMicrosporidia角結膜炎の発症が報告されている.また,Microsporidia角結膜炎の発症は夏季の高温多湿の環境下で多く,とくに降雨後の発症が多いとされており12),本症例の発症時期も同様の気候であった.感染の条件や経路の特定のため,今後さらなる調査が求められる.(85)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C203図2X+3年後の右眼前眼部写真右眼角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ(Ca),フルオレセイン染色で陽性を示した(Cb).本症例の初発時にはCMicrosporidia角結膜炎の診断に至らず,ステロイド点眼および抗アレルギー点眼で治療が行われた.抗真菌薬や消毒薬の点眼や,アルベンダゾールの内服,角膜上皮擦過は実施されなかったが,11日後には角膜は清明となった.免疫不全のない本症例では,免疫反応によって病原体が排除され,自然軽快した可能性が考えられる.ステロイド点眼は感染の遷延や,重症なCMicrosporidia角膜実質炎の発症を引き起こす可能性があるため9,10),慎重に使用すべきである.本症例では,必要に応じて点眼型洗眼薬および殺菌消毒用点眼薬を推奨したところ,4年後は新たな発症は認められなかった.競技後の洗眼や異物飛入時の殺菌消毒用点眼薬の使用がCMicrosporidia角結膜炎の予防に有効であるかについては,今後さらなる検討が必要である.また,本症例はコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者ではなかったが,X+2年の集団発生ではC5例中C3例がCCL装用者であり7),CL装用との関連の検討も望まれる.Microsporidia角結膜炎は繰り返し発症する可能性があるため,リスクの高い環境にいる人々への予防策の啓発が重要である.本症例では,スポーツ活動中の土や水の曝露がおもな感染経路と考えられ,同僚にも集団発生が認められた.今後は,日本においてもCMicrosporidia角結膜炎の発症が増加する可能性があり,注意が必要である.利益相反上松聖典【N】,井上大輔【N】,モハメドタラアトモハメド【N】,唐迪雅【N】,草野真央【N】,ヤッセルヘルミーモハメド【N】,八木田健司【N】,大石明生【N】文献1)DidierCES,CWeissCLM.Microsporidiosis:currentCstatus.C204あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026CurrOpinInfectDis19:485-492,C20062)FanNW,WuCC,ChenTLetal:MicrosporidialkeratitisinCpatientsCwithChotCspringsCexposure.CJCClinCMicrobiolC50:414-418,C20123)KwokCAK,CTongCJM,CTangCBSCetal:OutbreakCofCmicro-sporidialkeratoconjunctivitiswithrugbysportduetosoilexposure.Eye(Lond)C27:747-754,C20134)MalikCS,CIshaqCM,CNayyarCSCetal:MicrosporidialCkerati-tis-FirstCcaseCseriesCofCaCrareCpathogenCinCtheCwakeCofC.ooddisastersof2022inPakistan.JCollPhysiciansSurgPakC32:SS165-SS167,C20225)SharmaCS,CDasCS,CJosephCJCetal:MicrosporidialCkerati-tis:needCforCincreasedCawareness.CSurvCOphthalmolC56:C1-22,C20116)SabhapanditCS,CMurthyCSI,CGargCPCetal:MicrosporidialCstromalkeratitis:clinicalCfeatures,CuniqueCdiagnosticCcri-teria,andtreatmentoutcomesinalargecaseseries.Cor-neaC35:1569-1574,C20167)UematsuM,MohamedYH,KusanoMetal:Microsporid-ialCkeratoconjunctivitis-FirstCoutbreakCinCJapan.CBMCCInfectDisC23:752,C20238)MoshirfarM,SomaniSN,ShmunesKMetal:Anarrativereviewofmicrosporidialinfectionsofthecornea.Ophthal-molTherC9:265-278,C20209)友岡真美,鈴木崇,鳥山浩二ほか:真菌感染を併発したMicrosporidiaによる角膜炎のC1例.あたらしい眼科C31:C737-741,C201410)UenoCS,CEguchiCH,CHottaCFCetal:MicrosporidialCkeratitisCretrospectivelyCdiagnosedCbyCultrastructuralCstudyCofCformalin-.xedCpara.n-embeddedCcornealtissue:aCcaseCreport.AnnClinMicrobiolAntimicrobC18:17,C201911)鈴木崇,岡野喜一朗,鈴木厚ほか:シンガポールから日本に一時帰国中に認められたCMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科C37:332-335,C202012)LohCRS,CChanCCM,CTiCSECetal:EmergingCprevalenceCofCmicrosporidialCkeratitisCinSingapore:epidemiology,Cclini-calfeatures,andmanagement.OphthalmologyC116:2348-2353,C2009(86)

基礎研究コラム:iPS細胞から視細胞を作製する

2026年2月28日 土曜日

iPS細胞から視細胞を作製する視細胞の分化誘導iPS細胞(inducedpluripotentstemcell;人工多能性幹細胞)は,ヒトの皮膚や血液などの体細胞に特定の遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4,c-Myc)を導入し培養することによって作製されます.山中伸弥先生らのグループはC2007年C11月に初めてヒトCiPS細胞の作製に成功したと発表しました.iPS細胞はほぼ無限に増殖する能力(増殖能)と全身のさまざまな組織や臓器を構成する細胞へと分化する能力(分化能)という特徴をもっています.ヒト幹細胞から網膜オルガノイドを分化誘導する方法はC2012年に初めて報告され,それ以降多様なプロトコルが考案されてきました.オルガノイド(organoid)とは試験管内で幹細胞から作製されるミニチュアの臓器のことで,三次元構造をもつため生体組織に近い状態を再現できるメリットがあります.筆者のグループでは,2019年に神戸理化学研究所のチームにより考案された分化誘導方法1)を用いて網膜オルガノイドを作製し,網膜色素変性の疾患解析を行いました2).この方法では,iPS細胞を三つのステップを介してC180日間培養することで,内節,結合線毛(connectingcilium),外節といった微細構造をもつ視細胞を作製することができます(図1).しかし,網膜オルガノイドの作製には長期間の培養や複数のステップを要するという課題があります.そこで筆者のグループでは,より短期間かつ少ないステップで視細胞を作製することを目標とし,直接誘導法という技術に注目しました.この方法は,細胞の系統決定に重要な遺伝子を強制発現Ca網膜オルガノイドb視細胞の微細構造視細胞神経網膜双極細胞神経節細胞図1網膜オルガノイドと視細胞の微細構造a:180日間培養した網膜オルガノイドの明視野画像.神経網膜が表層部分に層状に形成されている.スケールバーは200Cμm.Cb:180日目の網膜オルガノイドを電子顕微鏡で観察した視細胞の微細構造.内節,結合線毛,外節が発達している.外節内には円板膜がみられるが,生体のようにきれいな多重構造にはなっていない.スケールバーはC1Cμm.大塚悠生兵庫県立尼崎総合医療センター眼科させることで,目的とする細胞へ転換させる技術です.具体的には,視細胞の発生過程に重要とされるCCRXとCNEU-ROD1という二つの転写因子をヒトCiPS細胞へ導入し培養することで,28日間という短期間で視細胞に特異的な遺伝子を発現する誘導型視細胞様細胞を作製できました(図2)3).今後の展望誘導型視細胞様細胞とオルガノイドはそれぞれメリット,デメリットが存在し,研究の目的によって両者を使い分けていく必要があります.直接誘導法は上述の通り短期間で視細胞マーカーを発現する誘導細胞を作製できますが,本来視細胞がもつ微細構造を形成することはできません.よって細胞内での詳細な分子の局在等を評価したい場合は,オルガノイドによる評価が必須となります.一方で,網膜オルガノイドにおいても視細胞外節は生体と同じ多重膜構造を再現することはむずかしいのが現状です.培養期間を延長してもこういった多重構造が形成されない原因ははっきりわかっていませんが,特定の成熟因子が不足している可能性,網膜色素上皮細胞が視細胞外節に隣接していない点などが考えられます.オルガノイドを網膜色素上皮細胞と共培養を行うなどして,より正確な構造の外節をもつ視細胞が作製できれば,今後疾患モデルとしての幅が大きく広がると予想されます.文献1)KuwaharaA,YamasakiS,MandaiMetal:Precondition-ingtheinitialstateoffeeder-freehumanpluripotentstemcellsCpromotesCself-formationCofCthree-dimensionalCretinalCtissue.SciRepC9:18936,C20192)OtsukaY,ImamuraK,OishiAetal:Phototoxicityavoid-anceisapotentialtherapeuticapproachforretinaldystro-phyCcausedCbyCEYSCdysfunction.CJCICInsightC9:e174179,C20243)OtsukaY,ImamuraK,OishiAetal:One-stepinductionofCphotoreceptor-likeCcellsCfromChumanCiPSCsCbyCdeliver-ingtranscriptionfactors.iScienceC25:103987,C2022iPS細胞視細胞マーカー細胞核CRX+NEUROD128日間図2直接誘導法による視細胞様細胞の作製iPS細胞にC2種類の転写因子(CRXとCNEUROD1)を導入し培養することで,視細胞マーカー(Recoverin)を発現した細胞を誘導できる.スケールバーはC50Cμm.(75)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C1930910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:273.Uveitis-glaucoma-hyphema(UGH)症候群(初級編)

2026年2月28日 土曜日

273Uveitis-glaucoma-hyphema(UGH)症候群(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにUveitis-glaucoma-hyphema(UGH)症候群は,眼内レンズ開発期の隅角支持型前房レンズや虹彩支持型前房レンズなどにみられた合併症で,ハプテックスによる隅角への刺激などにより,ぶどう膜炎,再発性前房出血および緑内障を引き起こすものである1).後房レンズが主流となってからはほとんど見られなくなったが,硝子体手術関連では,眼内レンズ毛様溝縫着術後や眼内レンズ強膜内固定術後にCUGH症候群が発症したとする報告が近年散見される2).C●症例提示63歳,男性.アトピ-性白内障に対してC30歳時に両眼白内障手術を受けている.左眼の眼内レンズが下方に偏位した(図1)ため,眼内レンズ摘出+硝子体手術+眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.その後,再発性虹彩捕獲が誘因と考えられる前房出血,虹彩炎,眼圧上昇(38CmmHg)をきたした(図2)ため,角膜輪部からC30G針を前房内に刺入し,眼内レンズを後方に圧排して虹彩捕獲を整復した.そのC1カ月後に再発したため,同様の処置を施行した.その後は眼圧も下降し,前房出血も吸収して矯正視力はC1.2に改善している(図3).眼内レンズ毛様溝縫着術後のCUGH症候群と診断し,予防的周辺虹彩切除術を念頭に置きながら引き続き経過観察することにした.C●眼内レンズが関連するUGH症候群の特徴眼内レンズが関連するCUGH症候群には,Zinn小帯脆弱例,眼内レンズ偏位例,.外固定などで眼内レンズの光学部やハプティクスが虹彩や毛様体に接触している例,capsulartensionring使用例,虹彩.腫や毛様体.腫が眼内レンズと接触している例,などの報告がある.本提示例のように眼内レンズ毛様溝縫着術あるいは強膜内固定術後にCUGH症候群をきたしたとする報告も近年増加傾向にある.眼内レンズ毛様溝縫着術後はしばしば再発性虹彩捕獲をきたし,それが原因でCUGH症候群を(73)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼細隙灯顕微鏡所見左眼の眼内レンズが脱臼していたため,眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.図2UGH症候群発症時の左眼細隙灯顕微鏡所見再発性虹彩捕獲が誘因と考えられる前房出血,虹彩炎,眼圧上昇をきたしていた.図3虹彩捕獲整復後の左眼細隙灯顕微鏡所見眼圧は下降し,前房出血も消退した.きたすことも多い.C●UGH症候群の治療眼内レンズ振盪や脱臼が原因の場合には,眼内レンズ摘出に加えて眼内レンズ毛様溝縫着術あるいは眼内レンズ強膜内固定術を行うが,それ自体がまたCUGH症候群の原因になることもあるので,注意深く経過観察する.治療のオプションとしては,再発性虹彩捕獲の誘因であるCreverseCpupillaryblockを解除するためのレーザー周辺虹彩切除術などがある3).文献1)DurrCGM,CAhmedIIK:IntraocularClenscomplications:Cdecentration,Cuveitis-glaucoma-hyphemaCsyndrome,Copaci.cation,CandCrefractiveCsurprises.COphthalmologyC128:e186-e194,C20202)KansalCV,COnasanyaCO,CColleauxCKCetal:OutcomesCofCusingsutureless,scleral.xatedposteriorchamberintraoc-ularlenses.CSeminOphthalmol34:488-496,C20193)SinghCH,CModabberCM,CSafranCSGCetal:LaserCiridotomyCtoCtreatCuveitis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCsecondaryCtoCreverseCpupillaryCblockCinCsulcus-placedCintraocularlenses:CaseCseries.CJCCataractCRefractCSurgC41:2215-2223,C2015あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026191

考える手術:裂孔原性網膜剝離に対する強膜バックリング手術

2026年2月28日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅裂孔原性網膜.離に対する強膜バックリング手術石田友香杏林大学医学部附属杉並病院眼科強膜バックリング手術(SB)は,硝子体手術に比べ白内障進行や増殖硝子体網膜症(PVR)の発症が少なく,術後体位制限を必要としない点が特徴である.一方で,術中・術後の疼痛が強いことや,複視,近視化・乱視増強などにより術後早期の視機能が不安定になりやすい点は欠点であり,術前の眼底検査や術中操作には高い経験が要求される.SBの適応は,とくに後部硝子体.離が未完成の若年者の裂孔原性網膜.離において重要性である.若年者で術前診察では,.離の形と広がり,裂孔位置,硝子体牽引,周辺部血管異常を丁寧に評価することが重要である.強膜圧迫を用いた鋸状縁までの観察とチャート作成,それを基に立てた手術計画が手術成否を左右する.術中は,出血を最小限に抑え,冷凍凝固を過剰に行わず確実に裂孔を押さえ,適切な位置にバックルを縫着することが重要である.術後は疼痛管理と慎重な経過観察を要し,微細な変化は広角光干渉断層計のマップ画像で比較するとわかりやすい.網膜.離は100%の復位が容易ではない疾患である.患者の不安に向きあい,「失ったもの」だけでなく「残せた視機能」を大切に使いながら社会復帰することもサージャンの重要な役割である.聞き手:裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinal細な眼底検査が必要で,手術時間が長く,術中術後の疼detachment:RRD)に対する強膜バックリング手術(scler-痛が強いこと,眼球運動障害や近視化・乱視増強で一時albuckling:SB)のメリット・デメリットを教えてください.的に見えにくくなることがデメリットです.また,術者石田:SBは硝子体手術に比べて白内障や増殖硝子体網の経験により成績が左右されるため,十分な教育体制が膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)の発症が重要です.少なく,術後のうつ伏せが不要で,術中駆逐性出血や術後眼内炎も起こりにくい点が利点です.一方,術前の詳聞き手:SBの適応はどのように考えていますか.(71)あたらしい眼科Vol.43,No.2,20261890910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術石田:後部硝子体.離が未完成の若年者RRDではSBが推奨されます.中高年でも,小裂孔による古い.離や網膜下索が主体の軽度PVRはSBで治しやすいです.安易に硝子体手術で網膜下索を取りに行くのは危険です.また,術後の体位制限がむずかしい患者では,早期離床を目的になるべくSBを選択しています.聞き手:術前診察でとくに注意している点はありますか.石田:輪状締結の要否の判断のために,外傷歴,アトピー,スポーツ歴,家族歴は詳しく問診します.また,どこから視野が欠けてきたのか,中心視野に歪みが出て何日経過しているかを聞きます.眼底検査では①.離の範囲と形,②裂孔の位置と牽引,③周辺部血管異常を重点的にみます.下方の.離で胞状の場合は,実は上方小裂孔から下液が流れ込んでいる場合が多く,孔の位置に注意が必要です.どの症例も多発裂孔,鋸状縁断裂,毛様体裂孔などを見逃さないように,仰向けに寝てもらい,強膜圧迫子,20Dレンズと双眼倒像鏡を用いて診察しますが,小さな弁状裂孔は,後ろから前に圧迫子を動かすと硝子体側への小さな立ち上がりとして発見できます.裂孔不明例では,そのような硝子体立ち上がり部位をすべてSBに乗せることで治ることが多いです.術前日に仰向け圧迫診察をして,患者の体のどの位置から診察し,どの程度の深さの圧迫でみえる孔なのかを,自分の体に覚えさせることで,バックリング手術の際のマーキングや冷凍凝固がスムーズに行えます.聞き手:術前計画はどのように立てていますか.石田:アトピー・外傷・家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)では輪状締結を選択します.古い下方.離では長期下液残存を考慮しバンドを用いて輪状締結を行うことが多いです.それ以外では侵襲を最小にしつつ,裂孔の深さや段差に応じてバックルの幅や配置を決定します.輪状締結は脈絡膜循環を悪化させる可能性があるため,高齢者ではとくに慎重に行います.聞き手:術中の手順で工夫している点を教えてください.石田:結膜とTenon.を一塊で切開し,ラジアル切開の断端はバイクリル糸で結膜とTenon.を縫合し,分離しないようにします.筋周囲のTenon.を筋の血管から出血しないように鈍的に丁寧に除去し,筋に制御糸をかけたのち,結膜と筋の間のTenon.を切除します.マーキング後に冷凍凝固を行います.古く浅い下液があるとプローベ先端が網膜に届きにくいですが,裂孔直下で軽く動かして待っていると下液がどいてくれます.凝190あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026固が重ならないように横滑りしながら打っていきます.前のほうの孔は助手にその付近の制御糸を軽く持ってもらうと眼球が動かずにプローベを当てることができます.裂孔はバックル頂点より前方に来るようマットレス縫合し,針は強膜を薄く,なるべく長く通します.脈絡膜貫通していないか,糸はそっと引いて色素がついていないかを観察します.排液は強膜を広く開け,脈絡膜が少し盛り上がってからレーザーで孔を開けます.網膜陥頓に備え,私はバックルのある部位で頂点よりやや前に排液孔を作製するようにしています.術中の眼圧上昇に対してはサイドポートから排液して対処します.その際は,虹彩が陥頓しないように注意が必要です.また,高眼圧で眼底の血管が拍動していないかを確認しながら手術を施行しています.バックルを縫着したのち,糸の結び目は後方に移動させます.前にあると糸の露出の原因になることがあります.結膜-Tenon.,Tenon.-結膜の順に針をかけ,結膜の間にTenon.が挟まらないように丁寧に縫合します(動画①).近年は,シャンデリア照明を用いた眼底観察が広まっています(動画②).この場合は,感染,ポートが抜けて硝子体陥頓による医原性裂孔,水晶体接触に注意が必要であり,20Dと双眼倒像鏡を組み合わせで使用し,シャンデリア照明は最小限に使用し,早めに縫合するほうがよいと思います.聞き手:術後管理で心がけていることはありますか.石田:術後は疼痛が出る前にフルルビプロフェンアキセチルとアセトアミノフェンの点滴を帰室時から開始し,睡眠薬を併用して夜間の疼痛対策をしています.これにより夜間疼痛の訴えは少なく,朝には糸による異物感の訴えだけになる場合が多くなりました.術後は下液の吸収に時間がかかる場合も多く,広角光干渉断層計のマップ画像を使用して下液の引きを評価しています.聞き手:最後にSBを行ううえで大切にしていることを教えてください.石田:網膜.離で100%の復位はむずかしく,SBでも硝子体手術でも患者には辛い治療です.「SBが苦手だから硝子体手術を選ぶ」のではなく,その患者にとってベターと思われる手術方法を選択する必要があり,常に謙虚な態度で手術技術を磨く必要があると思っています.さらに,技術の提供だけでなく,網膜.離という重大な病気に急になってしまった患者の不安や辛い気持ちに寄り添うことも重要です.とくに黄斑部の.離例で後遺症が残る場合は,「失ったもの」より「残せた視機能」に目を向けてもらい,社会復帰まで支援することがサージャンの使命だと考えています.(72)

抗VEGF治療セミナー:近視性黄斑部新生血管と脈絡膜

2026年2月28日 土曜日

●連載◯164監修=安川力五味文144近視性黄斑部新生血管と脈絡膜渡辺研人松村沙衣子東邦大学医学部眼科学講座強度近視に伴う近視性黄斑部新生血管(mMNV)では,脈絡膜厚や血流など脈絡膜の状態が再発や治療予後と密接に関与することが明らかとなってきた.本稿では,脈絡膜厚・萎縮,血流,perforatingscleralvesselの観点から,mMNVの病態と再発予測における意義を概説する.cd近視性黄斑部新生血管の病態と脈絡膜強度近視の増加に伴い,近視性黄斑部新生血管(myo-picCmacularneovascularization:mMNV)は臨床的に重要な合併症として注目されている(図1).mMNVの発症機序として,眼軸長延長に伴うCBruch膜の断裂(lacquercracks),脈絡膜菲薄化,後部ぶどう腫による組織伸展があげられる.近年,脈絡膜循環の低下や脈絡膜構造の脆弱化が病態に関与するとの報告が増えており,脈絡膜の形態・血流はCmMNVの発症・再発と密接に関連すると考えられている.抗CVEGF治療は短期成績に優れるが,長期的にはC23~62%の症例で再発が報告され,治療回数や視力予後には個体差が大きい1,2).そのため,再発リスクの予測因子の同定がCmMNV管理の重要な課題となっている.脈絡膜厚・萎縮と治療予後脈絡膜厚はCmMNVの活動性や治療反応性を反映するCa図1近視性黄斑部新生血管a:眼底写真.豹紋状眼底,中心窩に網膜出血を認める.b:OCT.網膜色素上皮を貫くCPSVと出血(..)を認める.c:蛍光眼底造影.MNVからの蛍光漏出を認める.d:OCTA.同部位にCMNVを認める.指標として注目されている.BorrelliらのC3年追跡研究では,治療前の中心窩脈絡膜厚(subfovealCchoroidalthickness:SFCT)が厚い眼ほど視力改善が良好であり,再発率も低いことが示された2).脈絡膜がより保たれている眼では,虚血や構造脆弱性が軽度である可能性があり,治療後の瘢痕化や萎縮の進行も抑えられると推察される.Ahnらも,健眼と比較してCmMNV眼ではCSFCTが有意に薄く,再発例では再発前にCSFCTが増加することを報告している(図2).これは再発前に脈絡膜血流が一時的に亢進する,あるいは脈絡膜内の炎症・血管透過性亢進が起こる可能性を示唆している3).一方,治療後の脈絡膜萎縮は視力予後を悪化させる大きな要因であり,長期経過でC70%以上に萎縮が進行すると報告されている.萎縮の拡大は治療前のCMNVサイズや治療回数と関連する可能性があるが,確立した予測因子はない.いずれにせよ,脈絡膜厚および萎縮の程度はCmMNVの長期予後に影響する重要な要素といえる.(69)あたらしい眼科Vol.43,No.2,20261870910-1810/26/\100/頁/JCOPYPerforatingscleralvessel(PSV)の関与光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyangiography:OCTA)の普及により,脈絡膜レベルの微細な血管構造を非侵襲的に観察できるようになった.近年,mMNVの発症部位周囲にしばしばCperforatingCscleralvessel(PSV)が認められることが報告されている.PSVは強膜を貫通して脈絡膜へ進入する血管で,病的近視眼では脈絡膜の菲薄化により突出して観察されることがある.Sheらは,PSV周囲に新生血管の血流シグナルを伴う症例では,1年以内の再発率が有意に高く,再発までの期間も短いことを報告した4).さらに,SFCTがC50Cμm以下であることも再発リスク因子として同定されている.このことから,PSVの存在はmMNVの病態そのものに関与し,再発予測の有力なマーカーとなる可能性がある.脈絡膜血流と再発のメカニズム脈絡膜の血流異常もCmMNVの再発や活動性に影響を及ぼすと考えられている.Dimitrovaらは,mMNV眼では脈絡膜血流の低下やCposteriorciliaryarteryの抵抗の上昇を報告しており,虚血環境がCMNV形成を促す可能性が示唆される.再発直前に脈絡膜厚が増加する報告や,OCTA上でCMNVの血管構造が微細に変化する所見が先行するケースもあり,脈絡膜血流変化はCmMNVの再燃の早期徴候となりえる5).臨床応用と今後の管理戦略抗CVEGF治療は短期的には良好な成績を示すものの,再発時期には大きな個体差があり,治療開始が早いほど良好な視力予後が得られる.Moonらは発症から治療まC188あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026図2mMNVと中心窩脈絡膜厚の変化a:再発C2カ月前.156Cμm.Cb:再発C1カ月前.173Cμm.Cc:再発時.238Cμm.中心窩脈絡膜厚()が再発時に厚くなっている.での期間が短い症例ほど再発率が低いことを示しており,早期介入の重要性が再認識されている6).OCTAを含むマルチモーダルイメージングを活用することで,脈絡膜厚の変化,PSV近傍の血流増加,MNV血管網の微細な変化など,従来のCOCTや蛍光眼底造影では捉えにくい早期の再燃サインを検出できる可能性がある.SFCTが薄い眼やCPSV関連所見を有する眼などの再発リスクが高い患者では,より短い間隔で長期フォローアップを行い,必要に応じて早期の追加治療を検討する必要がある.文献1)VictorAA,AndayaniG,DjatikusumoACetal:RecurrenceriskCofCmyopicCchoroidalneovascularisation:aCsystematicCreviewCofCcurrentCstudy.CBMJCOpenCOphthalmolC8:Ce001396,C20232)BorrelliCE,CBattistaCM,CVellaCGCetal:Three-yearCOCTCpredictiveCfactorsCofCdiseaseCrecurrenceCinCeyesCwithCsuc-cessfullytreatedmyopicchoroidalneovascularisation.BrJOphthalmol106:1132-1138,C20223)AhnSJ,ParkKH,WooSJ:SubfovealchoroidalthicknesschangesCfollowingCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCmyopicCchoroidalCneovascularization.CInvestCOphthalmolVisSciC56:5794-5800,C20154)SheCX,CYaoCW,CHuangCGCetal:MyopicCchoroidalCneovas-cularizationCwithCneovascularCsignalCaroundCperforatingCscleralCvesselCproneCtoCrecurCafterCanti-VEGFCtherapy.EyeVis(Lond)C11:6,C20245)DimitrovaG,TamakiY,KatoSCetal:Retrobulbarcircula-tionCinCmyopicCpatientsCwithCorCwithoutCmyopicCchoroidalCneovascularisation.BrJOphthalmolC86:771-773,C20026)MoonBG,ChoAR,LeeJCetal:Improvedvisualoutcomeandlowrecurrencewithearlytreatmentwithintravitrealanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinCmyopicCchoroi-dalCneovascularization.COphthalmologicaC237:128-138,C2017(70)

屈折矯正手術セミナー:近視LASIK後の眼内レンズ度数計算

2026年2月28日 土曜日

●連載◯309監修=稗田牧神谷和孝309.近視LASIK後の眼内レンズ度数計算西恭代慶應義塾大学医学部眼科学教室LASIK後眼では眼内レンズ度数計算の予測性が低くなることが知られているが,従来から用いられているCBarrettTrue-K式やCHaigis-L式に加え,角膜後面を考慮したCTK(TotalKeratometry)/PK(PosteriorCKera-tometry)導入式や人工知能を活用した計算式が登場し,予測精度が向上している.●はじめに従来の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算式はClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)後眼で不正確になることが知られているが,近年,角膜屈折矯正手術後に特化した補正式,角膜後面を考慮した手法,さらに人工知能(arti.cialintelligence:AI)を応用した新世代の計算式が登場している.本稿では,近視CLASIK後眼におけるCIOL度数計算の現状を概説する.C●2025JSCRSClinicalSurvey2025年の日本白内障屈折矯正手術学会(JapaneseCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgery:JSCRS)によるCClinicalSurveyによると1),過去C1年間でもっとも近視CLASIK後のCIOL度数計算に使用された計算式はCBarrettTrue-K式であり,米国白内障屈折矯正手術学会(AmericanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveCSur-gery:ASCRS)のCPostCRefractiveCIOLCalculator,Haigis-L式と続いており,術前データが不要なものが主流となっている.C●角膜屈折矯正手術後補正式近視CLASIK後のCIOL度数計算式として,術前データを用いない「nohistory式」としてCHaigis-L式やCBar-rettTrue-K式が広く用いられてきたが,光学式眼軸長測定装置CIOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)によるCsweptCsourceCopticalCcoherenceCtomography(SSOCT)の情報から角膜後面を算出した値を加味した角膜全屈折力(totalkeratometry:TK)や,その他の機器による後面角膜屈折力(posteriorCkeratometry:PK)を測定できるようになり,さまざまな計算式においてCTKあるいはCPKを導入した改良式の報告が増えて(67)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYきている.C●Hiagis-L式/HaigisTK式Haigis-L式は術後角膜屈折力,眼軸長,術前前房深度から術後前房深度を予測する角膜屈折矯正手術後眼に対する専用式であり,IOLMaster700に搭載されている.Lanzaらは,近視屈折矯正手術後のCIOL度数計算において,BarrettTrue-K式,Haigis-L式,ASCRSCPostCRefractiveCIOLCalculatorの平均値等の予測精度を比較し,眼軸長C30Cmm以上およびケラトメータ値(以下CK値)がC35D以下の群では,どの式においても遠視にずれる傾向があり,またCK値がC35D以下ではCBar-rettTrue-K式よりCHaigis-L式の精度が高いことを報告している2).HaigisTK式はCHaigis-L式にCTKを導入した改良版であり,従来式を上回る精度が報告されている3).C●BarrettTrue-K式/BarrettTrue-KTK式現在国内でもっとも頻用されているCBarrettTrue-K式は,BarrettCUniversalII式を基盤とした理論式で,多くの光学的眼軸長測定装置に搭載されている.Bar-rettCTrue-KTK式はCBarrettK値としてCTKを組み込むことで,従来のCBarrettTrue-Kを上回る精度が報告されている3).C●EmmetropiaVerifyingOpticalFormula(EVO式)/EVOPK式2016年には新しいCIOL度数計算式として,正視化理論に基づいて開発されたCEmmetropiaVerifyingOpticalFormula(EVO式)が発表された.Web上で利用可能であり,2025年C10月現在はCver.2.0が公開されている.近視CLASIK術後眼に対してはCPostCLASIK/PRK/RKあたらしい眼科Vol.43,No.2,2026185表1各計算式の特徴と予測精度(自験例,n=56)計算式特徴C±0.25D以内(C%)C±0.50D以内(C%)C±1.00D以内(C%)CBarrettTrue-KBarrettTrue-KTKHaigis-LHaigis-TKEVOEVOPKPearl-DGSHo.erQSTHo.erQSTPKBarrettUniversalII基盤角膜屈折矯正手術後補正式C上記にCTKを導入C角膜屈折矯正手術後補正式上記にCTKを導入C固有のCEmmetropia係数を導出C上記にCPKを導入厚肉レンズ理論,AIベースCHo.erQ式を発展,AIベースC上記にCPKを導入C48.2C33.9CC*C26.848.2C32.1CC*C58.939.3C35.7C46.4C82.1C71.4C57.1C73.2C66.1C80.4C66.1C57.1C66.1C92.9C92.9C85.7C92.9C87.5C94.6C91.1C78.6C89.3Cp=0.0001EVOPK式がもっとも高精度であり,BarrettTrue-KTK式やCHaigisTK式も良好な成績を示した.(文献C3より改変引用)の項目を選択し,従来のCK値を用いた計算に加え,PK値を使った計算も可能である.C●ASCRSPostRefractiveIOLCalculatorASCRSのウェブサイトでは,角膜屈折矯正手術後眼に対するCIOL度数計算ツールであるCPostCRefractiveCIOLCalculatorを利用可能である.現在はCver.4.9が公開されている.C●AIを応用した計算式近年はCAIを活用したCIOL度数計算式が登場してきている.以下は角膜屈折矯正手術後眼に対応している計算式であり,いずれもCWeb上で利用可能である.CPearl-DGS式:厚肉レンズの理論に基づき,機械学習モデルを使用し,角膜後面の曲率半径と角膜後面からIOL前面間の距離であるCtheoreticalCinternalClensCposi-tion(TILP)を予測する4).CHo.erQST式:1993年に発表されたCHo.erQ式の発展版であり,AIを活用して術後前房深度を予測する.C●術中波面収差解析そのほか,近視角膜屈折矯正手術後眼において術中波面収差解析がCBarrettTrue-K式と同等あるいは高い精度をもつとする報告がある5).C●臨床応用の実際筆者の施設を含む多施設共同研究3)では,近視LASIK後のC56眼においてC9種類の計算式を比較した.その結果,EVOPK式が最小の中央絶対誤差(0.20D)と最高の予測値から±0.25D以内の割合(58.9%)を示C186あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026し,もっとも高精度であった.BarrettTrue-KTK式やCHaigisTK式も良好な成績を示した一方で,Haigis-L式は誤差が大きく,現状では第一選択にはなりにくいことが示された(表1).現時点での近視CLASIK後のCIOL度数計算の臨床応用の実際としては,PK/TK値を測定可能である場合はCBarrettTrue-KTK式またはCEVOPK式,補助手段としてCHaigisTK式を併用することが推奨される.角膜後面屈折値を使用しない場合は,BarrettTrue-K式を主体に,ASCRSCPostCRefractiveCIOLCalculator,Hai-gis-L式を併用し,その際,眼軸長やCK値に基づき,各計算式の誤差傾向を参照してCIOL度数を選択することが望ましい.いずれの場合も,複数の計算式を横断的に確認することが,大きな度数ずれを予防するために有用であると考えられる.文献1)三好政輝,田淵仁志,田邉真生ほか:2025JSCRSClinicalSurvey(総説).IOL&RSC39:348.365,C20252)LanzaCM,CRuggieroCA,CHaCJCetal:AccuracyCofCformulasCforintraocularlenspowercalculationaftermyopicrefrac-tivesurgery.JRefractSurgC38:443.449,C20223)GettingerK,MasuiS,OmotoMetal:Accuracyofrecentintraocularlenspowercalculationmethodsinpost-myopicLASIKeyes.SciRepC14:26560,C20244)DebellemaniereCG,CDuboisCM,CGauvinCMCetal:TheCPEARL-DGSformula:theCdevelopmentCofCanCopen-sourceCmachineClearning-basedCthickCIOLCcalculationCfor-mula.AmJOphthalmolC232:58.69,C20215)FramCNR,CDavidsonCJ,CGuCXCetal:RefractiveCpredictionCaccuracyusingintraoperativeaberrometryversusBarrettTrue-Kformulafollowingcornealrefractivesurgery.ClinOphthalmolC18:3871.3879,C2024(68)

眼内レンズセミナー:新しい術野洗浄デバイス「Fornix Washer」

2026年2月28日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋野口三太朗465.新しい術野洗浄デバイス「FornixWasher」ツカザキ病院眼科従来の術野洗浄では到達困難な眼瞼円蓋部の除菌不良が術後眼内炎の一因となっている.筆者らが開発したCFornixWasherは,独特な傘状構造により円蓋部深部まで効率的に洗浄・除菌を行う革新的デバイスである.白内障手術における検討では,従来法と比較して細菌培養陽性率をC5.4%からC0.3%に大幅減少させ,術直後の角膜上皮障害スコアも有意に軽減した(8.26C→C6.00).本デバイスは眼科手術の安全性向上に大きく貢献する可能性がある.●はじめにポビドンヨード消毒は,眼科手術における標準的な術野洗浄法としてC30年以上使用されてきた1,2).その有効性は確立されているものの,注射器を用いた従来の洗浄法は完璧とは言いがたい3).術中に油膜の拡散や異物の出現により術野が再汚染される現象は,従来法の限界を示している.結膜は円蓋部で深く折り込まれており,下眼瞼で平均C10.0±2.1Cmm,上眼瞼ではC14.1C±2.5Cmmの深さを有する.従来の洗浄法では,これらの深部領域への到達が不十分であり,細菌の温床となっている可能性が高い.C●FornixWasherの開発コンセプトと設計この問題を解決するため,筆者らは新しい術野洗浄デバイス「FornixWasher」(フォルニックスウォッシャー)を開発した(図1).本デバイスはステンレス鋼製で,高さC13.2Cmm,直径C22Cmmの半円形傘状構造を特徴とする.傘の縁部からポビドンヨードが旋回流として噴出され,消毒液が円蓋部深部まで確実に到達する.傘の曲率は角膜曲率より急峻に設計されており,角膜との直接接触を防止する1).●泡状洗浄液による洗浄力向上のメカニズムFornixWasherの特徴の一つは,希釈イソジンを事前にミキシングすることで泡状の洗浄液を射出できることである4)(図2).この泡状洗浄液は以下のメカニズムにより洗浄力向上を実現する5).①表面張力効果の最大化:泡の気泡は液体と気体の界面を大幅に増加させ,細菌バイオフィルムや粘液層への浸透力が向上し,付着物が効率的に.離される.②掻き上げ効果(catch-upe.ect):気泡の破裂時に発生する微細な流動により,円蓋部の複雑な襞構造内の汚れや細菌が物理的に掻き上げられる.③滞留時間の延長:泡状洗浄液は粘性が高く,円蓋部での滞留時間が延長され,ポビドンヨードの殺菌作用時間が確保される.④接触面積の拡大:泡の三次元構造により,微細な隙間や襞の奥まで洗浄液が浸透する.使用時は,FornixWasherを眼瞼裏に挿入して軽い圧力を加えながら泡状溶液を噴出させ,円蓋部を直接洗浄する.C●従来法との効果比較1.術後眼内炎の予防眼瞼円蓋部の内視鏡検査では,複数の睫毛が円蓋部に迷入しているケースが観察される.FornixWasherに図1FornixWasherの形状と射出の様子図2フォーム洗浄の様子(65)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C1830910-1810/26/\100/頁/JCOPY図3フォルニックスウォッシャーにて取り除かれた円蓋部異物の拡大図よる洗浄中にC30本以上の睫毛や異物が塊となって除去された症例も存在する.これらは薄いプラスチックテープ様の合成物質と眼脂が絡み合った塊であり(図3),自覚症状はなく術前検査でも見落とされていた.白内障手術におけるヨード洗浄直後の細菌培養検査では,従来法でC5.4%の陽性率を示した.FornixCWasher使用によりC0.3%まで有意に減少し,眼内炎リスクの軽減効果が実証された.C2.眼脂の除去従来洗浄群では糸状眼脂の摘出率がわずかC2%(50眼中C1眼)であったが,FornixWasher群ではC36%(50眼中C18眼)と有意に高い除去効率を示した(p<0.05).C3.角膜への薬剤毒性従来の洗浄法では角膜表面が直接的に強いヨード流に曝露される.FornixWasherの傘状デザインは角膜を保護し,上皮障害を軽減する.術直後の角膜上皮障害スコア(0~10点)は従来群C8.26C±1.68に対し,FornixWasher群C6.00C±1.84と有意に改善した(p<0.05).疼痛スコア(0~100点)も従来群C36.3C±32.8からCFornixWasher群C14.3C±21.7へと有意に軽減した(p<0.05).白内障手術直後の距離矯正視力は従来群C0.16に対し,FornixWasher群C0.09と有意に良好であった.C●臨床応用における検証結果上眼瞼をフルオレセインで染色し従来法で洗浄した場合,洗浄直後に残存染色液の漏出と円蓋部に捕捉された粘液が観察された.一方,FornixWasher使用時は染色液の漏出や可視的汚れは認められなかった.C●安全性と実用性FornixWasherは既存の手術手技に容易に組み込むことができ,特別な技術習得を必要としない.ステンレス鋼製で再利用可能であり,コスト効率も良好である.泡状洗浄液の調製も簡便で,術中の追加時間も最小限に抑えられる.C●今後の展望FornixWasherは従来の術野洗浄法の限界を克服する画期的なデバイスである.円蓋部と眼瞼内側の効果的な洗浄・除菌により,術中の細菌汚染を大幅に減少させ,術後眼内炎の発症率低下が期待される.また,角膜上皮障害の軽減により術直後の視機能改善も期待できる.今後は多施設での大規模臨床試験により,長期的な安全性と有効性の検証が必要である.本デバイスは眼科手術消毒の新たな標準となることが期待される.文献1)NoguchiS:WholeCnewCwayCtoCcleanCsurgicalCsight.CASCRS20252)SpeakerMG,Meniko.JA:ProphylaxisofendophthalmitiswithCtopicalCpovidone-iodine.COphthalmologyC98:1769-1775,C19913)CiullaTA,StarrMB,MasketS:BacterialendophthalmitisprophylaxisCforCcataractsurgery:anCevidence-basedCupdate.COphthalmology109:13-24,C20024)FergusonCAW,CScottCJA,CMcGaviganCJCetal:ComparisonCofC5%Cpovidone-iodineCsolutionCagainstC1%Cpovidone-iodineCsolutionCinCpreoperativeCcataractCsurgeryCantisep-sis:aCprospectiveCrandomisedCdoubleCblindCstudy.CBrJOphthalmolC87:163-167,C20035)RosenCRC,CDaunM:Antisepticfoams:PhysicalCproper-tiesandantimicrobiale.cacy.JHospInfectC14:201-210,C1989C

写真セミナー:リウマチ性角膜潰瘍

2026年2月28日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史宇都宮嗣了501.リウマチ性角膜潰瘍旭川医科大学眼科学講座図1初診時前眼部所見a:右眼.角膜中央の角膜浸潤,周辺部角膜実質の高度菲薄化,周辺部からの血管侵入を伴う結膜上皮侵入がみられる.b:左眼.周辺部角膜実質が高度菲薄化している.図2図1のシェーマ①角膜実質菲薄化図3初診時のフルオレセイン染色写真a:右眼.角膜中央から周辺部にかけての角膜上皮欠損.b:左眼.角膜周辺部全周の角膜上皮欠損.(63)あたらしい眼科Vol.43,No.2,20261810910-1810/26/\100/頁/JCOPY自己免疫疾患に起因すると考えられる角膜潰瘍症例を提示する.患者は76歳の男性.不整脈,高血圧,脂質異常症,肺気腫,腎機能低下の既往あり.アレルギーなし.1カ月半前より眼のかすみを自覚,2週間前より眼脂も出てくるようになったとのことで近医総合病院眼科を受診した.両眼ともに結膜充血・前房炎症・周辺部角膜潰瘍を認め,自己免疫疾患による病態が疑われたため,同院内科で精査となった.2週間後,点眼加療による改善がないとのことで旭川医科大学(以下,当院)眼科を紹介受診した.紹介時の加療はレボフロキサシン点眼両眼6回,セフメノキシム点眼両眼6回,オフロキサシン眼軟膏両眼寝る前1回で,ステロイド点眼は処方されていなかった.当院初診時の視力は右眼手動弁,左眼0.04(矯正不能).眼圧は右眼5mmHg,左眼8mmHg(非接触眼圧計による測定).右眼は角膜中央から周辺にかけて角膜上皮欠損,周辺部角膜実質は高度菲薄化,周辺部から血管侵入を伴う結膜上皮侵入,高度の結膜充血,多量の眼脂,高度の虹彩後癒着がみられた.左眼は角膜周辺部全周に角膜上皮欠損,周辺部角膜実質は高度菲薄化,高度の結膜充血,多量の眼脂がみられた.加療はレボフロキサシン点眼両眼を6回から4回に変更,セフメノキシム点眼両眼6回を中止,オフロキサシン眼軟膏寝る前両眼1回をベタメタゾン眼軟膏寝る前両眼1回に変更,ベタメタゾン0.1%点眼両眼6回追加,トロピカミドフェニレフリン点眼両眼3回を追加し,治療用ソフトコンタクトレンズ装用も行った.前医総合病院内科から当院膠原病内科へ紹介となり,入院精査した結果,新規に関節リウマチの診断に至り,プレドニゾロン内服1日30mgが開始された.炎症は徐々に落ち着いたが,角膜実質は高度に菲薄化しており,1週間後に右眼角膜穿孔,1カ月後に左眼角膜穿孔となり,周辺部の角膜層状移植や中心部の全層角膜移植を要した.術後に矯正視力は両眼とも0.6まで回復したが,角膜不正乱視を残した.その後も真菌感染や角膜移植片不全による再移植などの経過をたどっており,発症早期にステロイド加療が行われず角膜移植が必要になったことが悔やまれる症例であった.リウマチ性角膜潰瘍は周辺部角膜潰瘍であり,Ⅲ型アレルギーによる血管炎が基本の病態である.免疫複合体が角膜輪部や結膜に沈着して炎症による組織障害を生じると考えられており,血管に近い周辺部から角膜が障害されることが多い.本症例の右眼は,炎症により角膜実質が進行性に融解した結果,角膜潰瘍が中央まで至り,輪部機能不全を伴う異常な創傷治癒過程をたどったと考えられる.左眼のような状態のまま適切な加療が行われないと右眼のような状態に至ると考えられ,リウマチ性角膜潰瘍の病態の経時的変化を同一症例の左眼から右眼に観察することができる興味深い症例であった.周辺部角膜潰瘍では自己免疫疾患を精査すると同時に,早期から適切な治療介入をする必要がある.自己免疫疾患があれば原疾患の治療を,なければMooren潰瘍として治療していく.保存的治療に限らず外科治療になっても関節リウマチの全身管理が必要になる.局所のステロイド治療が重要であり,治療用ソフトコンタクトレンズの連続装用も有効である.角膜穿孔や角膜菲薄化を生じて外科的治療が必要にならないよう,早期からの適切な治療介入が重要である.文献1)眞鍋禮三,木下茂,大橋裕一ほか:角膜クリニック.第3版,医学書院,20212)木下茂(編):角膜疾患外来でこう診てこう治せ.改訂第2版,メジカルビュー社,2015

黄斑浮腫とまぎらわしい網膜分離症

2026年2月28日 土曜日

黄斑浮腫とまぎらわしい網膜分離症ClinicalManagementofMacularRetinoschisisAssociatedwithMyopiaandOpticDiscAbnormalities高橋洋如*はじめに網膜分離とは,神経網膜の特定の層または層間が伸展,もしくは裂開することであり,形成された空隙には液貯留が生じてschisiscavityと呼称される1).病理学的には多くの場合,retinoschisis(網膜分離症)は網膜神経線維層(retinalneuro.berlayar:RNFL)から内網状層(innerplexiformlayer:IPL),外網状層(outerplexiformlayer:OPL),外顆粒層(outernuclearlayer:ONL)から視細胞層に発生し,OPLについては若年性網膜分離症で生じやすく,その他の部位は,網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM)など硝子体網膜界面の異常,加齢に伴う周辺網膜の退行性分離,強度近視に伴う網膜分離などで発生しやすい.検眼鏡による眼科診察では網膜分離はしばしば見落とされてしまうため,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での断層画像による診断が不可欠である.本稿では,さまざまな原因により生じる網膜分離症をまとめたうえで,治療や予後における違いについて概説する.I先天網膜分離症(X染色体性若年網膜分離症)X染色体性若年網膜分離症(X-linkedjuvenilereti-noschisis:XLRS)は5,000.25,000人に1人の確率で発症するまれな遺伝性硝子体網膜変性疾患で,男児および若年男性の黄斑変性の主たる原因の一つである.網膜の双極細胞,錐体細胞,および桿体細胞から分泌されるretinoschisinを発現するRS1遺伝子の異常が原因であることがわかっており,遺伝形式は性染色体劣性遺伝である.患者は学童期に視力不良を指摘されて眼科を受診する場合が多く,視力障害の程度には幅があるものの,若年者では通常0.2以上であることが多い.XLRSの屈折値は遠視であることが多く,不十分な眼底検査により屈折性弱視と診断されていることも少なくない.XLRSの臨床像は多様性に富むものの,50.70%の患者で車軸状の皺襞を伴う中心窩網膜分離と周辺部網膜分離がみられる(図1).周辺部網膜分離は耳側に好発し,癒合して大きな.胞腔となったうえで,破綻すると内層円孔となる.患者は幼少時からの視力低下と,若年の原因不明の黄斑浮腫として紹介受診されることもあり,注意を要する.画像診断においては,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)にて血管からの蛍光漏出がみられないこと,OCTにて中心窩のOPLに癒合する不均一な.胞を呈し,傍中心窩のIPLに別の.胞を生じることが特徴である.現在も有効な治療法はなく,希望者には遺伝子検査とカウンセリングを提供する..胞様の分離については,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼が暗点の軽減などのために使用されることもあるが,効果は限定的である.加齢に伴い黄斑部の萎縮は不可逆的に進行するため,障害者手帳の申請や,ロービジョンケアも検討する.黄斑円孔や黄斑部網膜.離を伴う患者では硝子体手術が行われること*HiroyukiTakahashi:東京科学大学眼科学教室〔別刷請求先〕高橋洋如:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京科学大学眼科学教室(1)(55)1730910-1810/26/\100/頁/JCOPYb図1X染色体遺伝性網膜分離症(XLRS)と診断された眼底画像と視野30歳,男性.a,b:中学生の頃より視力低下があったが,原因不明とされていた.進行あり精査希望のために紹介された.右眼(a)と左眼(b)の視力はそれぞれ(0.3×+0.25D)と(0.4×.0.50D)であった.眼底写真では黄斑部の拡大画像で不整な色調を呈する.c,d:右眼(c)と左眼(d)の水平断OCT画像では内網状層(IPL)に分離があり,中心窩の網膜外層は萎縮している().e,f:Goldmann視野計で,右眼(e)と左眼(f)ともに中心暗点があった.網膜電図にてb波陰性化があり,XLRSと診断された.図2乳頭ピット黄斑症の眼底画像50歳,男性,左眼.Ca:コンタクトレンズ作製のための検診時に眼底の異常を指摘されて紹介受診した.左眼の視神経乳頭内部の耳下側に視神経乳頭ピットがみられる.矯正視力は(1.5C×.6.00D)と保たれている.Cb:左眼の蛍光造影検査の後期相.視神経乳頭ピットは後期相で過蛍光を呈している.Cc:左眼の広角COCT水平断画像.後部硝子体は網膜表面と接着しており,Cloque管や硝子体皮質前ポケットの前壁が確認できる().乳頭ピットの付近でも後部硝子体が網膜表面に接着しているのは確認できる().d:視神経乳頭のCvolumeスキャンデータ内の断層像.視神経乳頭ピットと網膜外層が裂隙()を通じて連絡しているのがわかる.d図3強度近視による網膜分離症の眼底画像57歳,男性,左眼.Ca:カラー眼底写真では豹紋状眼底を呈し,視神経乳頭耳側には乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)がある.PPAの耳下部位に接して,円形の網脈絡膜萎縮病変()があり,その中心部には毛様網膜動脈の異所性走行がある().矯正視力は(1.2C×.11.0D)と保たれていて,眼軸はC29.70Cmmである.Cb:水平断のCOCT画像では視神経乳頭脇から中心窩への広がる網膜.離がある.Cc:視神経乳頭を中心とした鉛直断OCT画像.視神経乳頭上方にも網膜.離()が広がっており,乳頭下方には網膜.離に加え,脈絡膜内部の空隙がある().d:視神経乳頭を中心とした水平断COCT画像.乳頭の鼻側には強度近視眼にしばしばみられるCprelaminarschisisがみられる().耳側の視神経乳頭傍の空隙は黄斑部の網膜.離と交通している().図4Nonopticpitretinoschisis(NOPIR)の眼底画像と視野78歳,女性,左眼.Ca:視神経乳頭の下方リムが不明瞭となっており,中心窩の反射は不整である.矯正視力は(0.4),眼軸はC22.3Cmm.眼圧はC15CmmHgである.Cb:蛍光造影検査では乳頭ピットはないことが確認できる.中心窩にわずかなCpoolingがみられる.Cc:OCTの水平断画像.視神経乳頭脇から中心窩まで広がる網膜分離に加えて,中心窩に網膜.離がある().d:視神経乳頭を中心とした水平断のCOCT画像.耳側には網膜神経線維層の分離があり,本症に特徴的である().e:視野検査では全般的な低下に加え,上方有意の感度低下があった.図5図4と同一症例の硝子体手術後の眼底画像と視野a:硝子体手術および内境界膜(ILM).離後C1カ月のCOCT水平断画像.膜.離時の牽引によって中心窩網膜.離は丈が増して増悪している.Cb:手術後C2カ月でのCOCT水平断画像.全層黄斑円孔を発症している.矯正視力は(0.2)に低下した.Cc:再手術後に円孔は閉鎖した.矯正視力は(0.6)程度に回復した.Cd:左眼のカラー眼底写真.脈絡膜血管が明瞭にみられ,網膜の菲薄化の影響が考えられる.Ce:視野検査では上方有意の感度低下の進行があり,眼圧下降点眼を開始された.–