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抗VEGF治療:加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり

2019年3月31日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二62.加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり松宮亘神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科学分野現在の加齢黄斑変性診療において,抗CVEGF薬は必要不可欠となっている.しかし,今なお対応に苦慮する難症例や治療抵抗例は多く存在する.本稿では網膜色素上皮.離に着目したポリープ状脈絡膜血管症の治療選択について述べる.背景ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)を含めた滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療は,抗VEGF薬硝子体内注射がおもに選択されている.また近年,PCVに対する抗CVEGF薬硝子体内注射と光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用療法の有効性も注目されている.一方で,漿液性網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)の存在や線維血管性CPEDなどは,抗CVEGF薬に対する治療反応不良因子として報告されている1).本稿ではCPEDの変化に着目したCPCVへの治療選択を取りあげ,治療抵抗例や難症例への対応について述べる.PCVに伴うPEDPEDはCBruch膜から網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)が.離して形成され,その空隙に含む性状により漿液性,出血性,線維血管性,drusenoidに分類される.PCVでは約半数に漿液性CPEDもしくは出血性CPED認め,実臨床でも経験することが多い.またとくに丈の高い漿液性CPEDや出血性CPEDは,その背景に疾患活動性の高いCPCV病変を有している可能性が示唆される.抗VEGF治療現在,抗CVEGF薬硝子体内注射は加齢黄斑変性治療における第一選択とされている.一方で,抗CVEGF薬を用いてもCPEDの完全消退を達成することは困難なこ上段:(左から)治療前のCOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)12カ月後(IVA7回)のOCT,FA(1分),IA(1分).下段:18カ月後(IVA+PDT追加後C6カ月)のOCT.図1アフリベルセプト治療抵抗性PCVに対するIVA+PDT併用療法の奏効例治療前には明らかなポリープ状病変は認めず,典型加齢黄斑変性としてCIVAにて治療を行った.治療C6カ月頃からCPEDは増大し,IVAへの抵抗性を認めた.巨大なCPEDを伴うCPCVを認め,12カ月時にCIVA+PDT併用療法を行い,下液の消失とCPEDの縮小を認めた.(73)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3750910-1810/19/\100/頁/JCOPY上段:(左から)治療前のOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)15カ月後(IVA+PDT1回)のCOCT,FA(1分),IA(1分).下段:(左から)48カ月後(IVA+PDT3回,IVA11回)のOCT,FA(1分),IA(1分).図2巨大なPEDを伴ったPCVの難治例巨大なCPEDを伴ったCPCVに対し,初回治療としてCIVA+PDT併用療法を施行した.1年以上追加治療なく経過観察を行っていたが,15カ月時に巨大な出血性CPEDを認めた.IAにてCPCV病変の増悪を認めた.その後もCIVA単独およびCPDT併用療法を繰り返し,視力は維持されたものの新たなCPEDの出現や新生血管の進展を認め,病勢の管理は困難である.とが多い.PEDに対する効果について議論の余地を残しているが,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)に反応しない症例でもアフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)が奏効する例は少なくないため,実臨床では初回C3回連続投与を行ってもCIVRに反応しない場合は,IVAに切り替えるべきと考えられる.抗VEGF薬+PDT併用療法IVRやCIVAにもかかわらず漿液性.離が残存しCPEDが増悪するような治療抵抗例においても,抗CVEGF薬+PDT併用療法を追加することで解剖学的な改善が得られることが多い(図1).ただし再発を繰り返すなど長期にわたって治療継続している症例では,潜在的な黄斑萎縮や網膜外層障害をきたしていることが多く,PDT治療により,かえって視力低下を顕在化させるおそれもある.それゆえ,治療実施の際には蛍光眼底造影やOCT検査を施行して慎重に病態評価を行う必要がある.最近はCEVEREST2studyをはじめ,PCVに対する初回CPDT併用療法の良好な治療成績が報告されている2,3).確実なポリープの退縮や治療回数の軽減などを目標とする場合は初回からCPDT併用療法を考慮する.難症例への対応PEDの平坦化をめざした積極的な治療を行えばCRPEC376あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019tear形成の可能性やCRPE萎縮をきたす可能性も憂慮され,常に治療効果とそのリスクを天秤にかける必要性がある.一方,巨大な漿液性CPEDを有する症例では,治療継続にもかかわらずCPEDが増大し,出血性CPEDや巨大な網膜下出血をきたすことがある(図2).このような場合は,患者に十分な説明を行って理解を得たうえで,積極的な抗CVEGF治療(.xeddosingまたはCtreatCandextend)やCPDT併用療法を行い,解剖学的な改善の維持に努め,視力維持を図るべきと思われる.文献1)NagaiCN,CSuzukiCM,CUchidaCACetal:Non-responsivenessCtoCintravitrealCa.iberceptCtreatmentCinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:implicationsCofCserousCpig-mentepithelialdetachment.SciRepC6:29619,C20162)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmol135:1206-1213,C20173)MatsumiyaCW,CHondaCS,COtsukaCKCetal:One-yearCout-comeCofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:541-548,C2017(74)

緑内障:自動静的視野検査の測定点配置

2019年3月31日 日曜日

●連載225監修=山本哲也225.自動静的視野検査の測定点配置野本裕貴近畿大学医学部眼科学教室緑内障診断および経過診察に際し,多くの施設では自動静的視野検査にて視野評価を行っていると思われる.本稿では自動静的視野検査における従来の測定点配置と,新たな測定点配置による検査の試みについて紹介する.●従来の検査測定点配置現在,自動静的視野検査にて緑内障性視野障害の評価を行う際は,測定点間隔が視角C6°のC24-2もしくは30-2測定点配置での検査,そして進行症例では中心視野(中心C10°内)を評価するために視角C2°間隔のC10-2測定点配置での検査が行われている(図1).その測定点数は片眼でC24-2:54点,30-2:76点,10-2:68点となっている.このようにC10-2では検査範囲内を密に測定している一方,24-2およびC30-2は比較的粗な測定点で検査していることになる.24-2,30-2検査では病初期での視野異常を測定点密度の粗さのために検出できていない可能性があり,このことがCOCT,眼底検査にて緑内障性構造変化を認めるにもかかわらず,視野検査では異常を認めない前視野緑内障(preperimetricglau-coma:PPG)が存在する一因と考えられる.24-2:54点●PPGおよび早期緑内障の視野異常検出PPGは自動静的視野検査ではCPPGによる異常を検出することが不可能なのか?そうではなく,あくまでも6°間隔測定点のC24-2,30-2での検査では異常を検出しないのであって,10-2で検査を行う1),あるいは測定点配置を変更(24-2測定点C10°内に測定点追加)する2)ことで異常が検出でき,また早期視野異常の検出力も向上すると報告されている.つまり,測定点を追加することで異常検出能力が上がることになる.一方で問題としては,どこに,いくつの測定点を追加するかということと,測定点追加することで検査時間が長くなることがあげられ,視野測定アルゴリズムの改良を含め,さらなる検討が必要だと思われる.30°10-2:68点30°30°30-2:76点30°30°30°図224plusの測定点配置(右眼)図124.2,30.2,10.2の測定点配置および測定点数測定点数はC78点となっている.(71)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3730910-1810/19/\100/頁/JCOPY図364歳,NTG(右眼)のOCTと24.2,24plus視野検査結果24-2では中心C4点の測定点に異常を認めないが,24plusではC○内の測定点で異常を検出しており,固視点近傍まで障害が生じていることを示している.●中心視野の重要性と24plus測定点配置中心視野の重要性は改めて述べるまでもないが,近年多くの論文にて中心視野と日常生活の見え方の質(visionCrelatedQOL:VRQOL)との関連性が報告されており,とくに中心下方視野がCVRQOLの低下に大きく影響するとされている3).このことは進行症例ではもちろんのこと,初期から中期症例においても中心視野の重要性を示している.これらのことを踏まえ,ヘッドマウント視野計アイモ4)では,24plus(図2)とよばれる測定点での検査が行えるようになっている.24plusの測定点数はC78点で,通常のC30-2とほぼ同じ点数である.これは,従来の24-2の測定点のC10°内に測定点を追加し,早期の異常検出と進行期での残存中心視野の評価を行うことを目的とした配置となっている.24plusでは,図3のように24-2検査では検出できていない中心領域の異常を検出できている.緑内障の経過診察を行っていくうえで,初期から中期症例でもこのような測定点配置の検査にて中心視野評価を行うことは,VRQOLの観点からも大切だと考える.文献1)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visual.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglauco-maCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C20162)EhrlichCAC,CRazaCAS,CRitchCRCetal:ModifyingCtheCcon-ventionalvisual.eldtestpatterntoimprovethedetectionofCearlyCglaucomatousCdefectsCinCtheCcentralC10°C.CTranslCVisSciTechnolC3:6-8,C20143)AbeCRY,CDiniz-FilhoCA,CCostaCVPCetal:TheCimpactCofClocationCofCprogressiveCvisualC.eldClossConClongitudinalCchangesCinCqualityCofClifeCofCpatientsCwithCglaucoma.COph-thalmology123:552-557,C20164)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingwithhead-mountedperimeter‘imo’.PLoSCONEC11:Ce0161974,C2016C374あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(72)

屈折矯正手術:SMILE後の追加矯正手術

2019年3月31日 日曜日

監修=木下茂●連載226大橋裕一坪田一男226.SMILE後の追加矯正手術中村友昭名古屋アイクリニックフェムトセカンドレーザーのみで屈折矯正を行うCSMILEは,術後の近視への戻りが少なく,LASIKに比べ追加矯正を必要とする頻度は低いが,追加矯正が困難なことがデメリットでもある.さまざまな追加矯正法がなされているが,それぞれ得失があり,新たな方法も開発中である.●はじめにSMILE(smallCincisionCfemtosecondClenticuleCextrac-tion)はCCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)がC2010年に開発した,フェムトセカンドレーザー(以下,FSレーザー)VisuMaxのみで屈折矯正手術を行う新技術である.角膜を光切断し,最小C2Cmmの切開創からレンチクルを抜去して屈折矯正を行う1)(図1).SMILEにはドライアイになりにくい,外力に対して強いなどのメリットがあげられるが,さらに屈折が長期に渡って安定していることもそのひとつである.そのためCSMILEは術後の近視への戻りが少なく,屈折誤差への許容度があるためか,ほとんど追加矯正する必要がない.海外での報告でも追加になった症例はC1.3%と一般にC5.10%といわれるレーシックに比べて少ない.ただし,追加矯正が困難であることがCSMILEのデメリットになっている.今回,さまざまな追加矯正法について述べる.C●SMILE後の追加矯正施行された順に,以下のものがあげられる.それぞれ得失があり(表1),どれを選択するかは術者の考えでよいと思われる(表2).①CPRK:もっとも簡便で安全であるものはCPRKやClaser-assistedsub-epithelialCkeratectomy(LASEK)などのCsurfaceablationであろう.SMILEのCcap内で矯正することができ,いわゆるフラップを作らないという意味からも,ドライアイになりにくく外力に強いなどのCSMILEのメリットが維持される.ただし,視力回復の遅さや,術後の痛みなどのCPRKの従来の課題点は残される2).②CLASIK:Capの深さを基にフラップの厚みを設定し,FSレーザーにてフラップを作製して,エキシマレーザーを照射する.SMILEの切断面とフラップの断端が干渉しないよう,フラップの厚み,サイズとヒンジの位置を決める必要がある.Capのなかで薄いフラップを作製しレーザーを行うCthin-.apLASIKや,capの厚みに合わせたフラップを作るCthick-.apCLASIKが提案されている.その設定はやや難易度が高く,若干のリスクを伴うことが報告されている.これによりLASIKの術後と同様となり,SMILEの本来の利点がなくなる.③CCircle:最近ではCCIRCLEというプログラムで,ドーナッツ状に周辺を切開し,LASIK様のフラップを作製することにより簡便に追加矯正を行うことができるようになった(図2,3).Capとフラップの厚みに気を払う必要がないので,より安全にCLASIKにコンバートできる方法といえる.ヒンジの位置は通常,SMILEのサイドカットと干渉しないよう,やや時計方向へ振った上方に作製する.結果的にはCLASIKに表1追加矯正法の比較PRK/LASEK低侵襲の維持回復に時間を要す高いFs-LASIK回復時間が短い低侵襲でなくなる中等度低侵襲乱視だけCLRIレーザーが不要予測性に乏しい低い図1SMILEの模式図フェムトセカンドレーザーにより光切断した角膜実質(レンチクル)を最小C2Cmmの切開創から抜き取る.CIRCLE回復時間が短い低侵襲でなくなる高いSubCap-LE低侵襲の維持難易度が高い高いLRI:limbalrelaxingincision.(69)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3710910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2過去の報告著者方法例数観察期間術前CSE術後CSE術後裸眼2段階低下安全係数有効係数CSiedlecki2)CPRKC433カ月-0.86±0.43C0.03±0.57C0.08±0.15C0C1.06C0.90CReinsteinCLASIKC1003カ月-0.04±0.99C0.19±0.4695%1.0以上C0CNRCNRCSiedlecki3)CCIRCLEC223カ月-0.51±1.08C0.18±0.31C0.03±0.07C0C1.03C0.97CDonate4)CSubCap-LEC13カ月-1.5C0.125C20/16C0C─C─CCIRCLEの切断端SMILEの切断端3=Capを拡大1=SMILEcap~3カ月4=Flapサイドカット2=SMILEサイドカット5=Flapヒンジ5図2CIRCLEの模式図なってしまうが,より安全に行え,PRKと違い痛みが少なく視力の回復が早いので,今後もっとも普及する方法と思われる3).C④CSubCap-LE:SMILEのメリットを最大に活かした追加矯正は,やはりCcap下に追加分だけ再度レンチクルを作製し,それを元の小切開創から抜き取ることであろう.ただし,通常,追加矯正の度数は小さく,そのためレンチクルは薄くなり,正確にその度数で作製できるかなど,難易度の高い技術といえる.限られた施設での臨床治験が始まっている4).C●自院でのデータ名古屋アイクリニックにてCSMILEを施行した症例のうち,追加矯正手術となったのはC10名C16眼で,全症例C1,046眼中C1.5%と海外での報告と同様であった.追加症例の術前平均等価球面度数は-6.70±1.87Dと全症例の平均等価球面度数-4.5Dより高く,過去の報告5)にあるようにやや高度の近視症例に追加が必要となった.追加矯正前の平均等価球面度数は-0.73±0.96D(-1.5.+1.5D)で,その内訳は近視C13眼(うちC2眼は軽度近視狙いで術後正視希望),遠視C3眼であった.追加矯正の方法はLASEK4眼,PRK8眼,Circle3眼,CLASIK1眼であった.追加後C3カ月で平均等価球面度数は-0.07±0.87Dへとほぼ正視となり,平均裸眼視力も術前C0.56からC1.19へと改善した.術中,術後合併症はなく,矯正視力はC2段階以上低下するものはなかっC372あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019ヒンジの長さ[mm]ヒンジ位置[°]た.PRKの症例で矯正が不足し,再々矯正となったものがC1例C2眼で,最終的には両眼裸眼視力C1.2に改善した.安全係数はC0.95C±0.22,有効係数はC0.73C±0.30と良好であった.C●おわりにSMILEは多くのメリットのある優れた技術である.デメリットである追加矯正のむずかしさも,今後さらに改善していくものと思われる.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlen-ticuleextraction:all-in-oneCfemtosecondClaserCrefractiveCsurgery.JCCatractRefractSurgC37:127-137,C20112)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:EnhancementCafterCmyopicCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)usingCsurfaceablation.JRefractSurgC33:513-518,C20173)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:CIRCLECenhancementCaftermyopicSMILE.JRefractSurgC34:304-309,C20184)DonateD,ThaeronR:PreliminaryevidenceofsuccessfulenhancementCafterCaCprimaryCSMILECprocedureCwithCtheCsub-cap-lenticule-extractionCtechnique.CJCRefractCSurgC31:708-710,C20155)LiuYC,RosmanM,MehtaJS:Enhancementaftersmall-incisionClenticuleextraction:incidence,CriskCfactors,CandCoutcomes.OphthalmologyC124:813-821,C2017(70)

眼内レンズ:フェムトセカンドレーザー白内障手術におけるガス形成誘発Capsular block syndrome

2019年3月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋388.フェムトセカンドレーザー白内障手術における増田洋一郎東京慈恵会医科大学ガス形成誘発Capsularblocksyndrome葛飾医療センター眼科フェムトセカンドレーザー白内障手術は,レーザー照射中にガスを発生させるため,水晶体.内圧を上昇させる.豚眼においてレーザー照射中に水晶体を後方から観察すると,発生ガスは時間とともに癒合し,大きなバブルとなって後方へ膨張し,後.を拡張させる挙動を呈した.これはCcapsularblocksyndromeの要因となるため,注意を要する.●FLACS時の後.破損とレーザー照射誘発ガスの関係フェムトセカンドレーザー白内障手術(femtosecondClaser-assistedcataractsurgery:FLACS)は,レーザー照射によってCZinn小帯脆弱や前房の浅さとは無関係に,確実に水晶体前.切開を行うことができ,また事前に水晶体核断片化をしておくことで,超音波乳化吸引時の使用エネルギーを減少させることができる.そのため確実で低侵襲な白内障手術に貢献するといわれている.しかし,FLACSは従来のマニュアルによる超音波白内障手術(manualcataractsurgery:MCS)では認めなかった特徴を有しているため,留意すべきポイントがある.Popovicらは,FLACSとCMCSとを比較したC14,567眼におけるメタ解析で,FLACSのほうがCMCSより後.破損の発生率が高いと報告している1).この要因の一つとして,FLACSのユニークな特徴である水晶体内に発生するレーザー照射誘発ガスに起因するものが考えられる.Robertsらは,このレーザー照射誘発ガスにより水晶体.内圧が上昇した状態でのハイドロダイセクションが,.内圧を上昇させてCcapsularCblockCsyndrome(CBS)による後.破損をきたす危険性を指摘し,ハイドロダイセクションの際に十分な留意が必要であると報告している2).そのため,このレーザー照射誘発ガスの特性を知っておくことは,CBS回避のために重要である.C●豚眼を用いたレーザー照射中の水晶体後面の観察そこで今回,発生ガスの挙動を知ることを目的に,豚眼水晶体にフェムトセカンドレーザーを照射中に,硝子体手術用内視鏡を用いて水晶体後方を観察した(図1).図1硝子体内視鏡を用いた豚眼水晶体後面像a:フェムトセカンドレーザー照射前.Cb:フェムトセカンドレーザー照射初期.レーザー照射により白色に反射するガスが発生している.Cc:フェムトセカンドレーザー照射後期.発生ガスが癒合し大きなバブルとなり後.を拡張させている.黄線:レーザー照射開始部位,白線:レーザー照射前の後.位置,△:移動した後.位置.(67)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3690910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2フェムトセカンドレーザー照射後摘出水晶体(豚眼)摘出水晶体を後.側から観察したもの.後.側に優位に膨張したレーザー照射誘発ガスのバブルを認めた.レーザーは水晶体後部から順次階層的に前方へ照射されてゆく.レーザーを照射された水晶体は白色に反射するガスを発生させ,レーザー照射の経過とともに発生ガスは癒合し大きく膨張したバブルとなり,当初の照射部位を越えて後方へ拡張した.レーザー照射後の後.位置は,レーザー照射前の後.位置と比較して,膨張したガスによる.内圧上昇によって後方へ拡張することが観察された(図1c白矢頭).さらにレーザー照射エネルギーを増加させると誘発ガスも増加していき,耐圧を超えた水晶体.が破裂することも観察された(レーザー照射中CBS).C●照射エネルギー量による水晶体径の変化レーザー照射後に摘出した水晶体を観察すると,内視鏡で観察されたものと同様,癒合し膨張したガスのバブ30.9J19.4J8.1JControl図3フェムトセカンドレーザー照射後摘出水晶体(豚眼)レーザー照射エネルギー量が増加するにつれ,水晶体径が増加していることが観察される.左からコントロール,8.1CJ照射,19.4CJ照射,30.9CJ照射.ルが水晶体後面に優位に分布していた(図2).また,照射エネルギー量を変更してレーザー照射された水晶体を並べると,エネルギー量に依存して誘発ガスが増加し,水晶体径が増加していた(図3).C●おわりにこの実験によって判明した興味深い点は,癒合し膨張したレーザー照射誘発ガスが,後方へ拡張し分布していくため,発生ガスが水晶体内にトラップされやすくCBSの要因になりやすい点であった.以上より,FLACSにおけるCCBSを回避するためには,レーザー照射条件とレーザー照射後のハイドロダイセクションなどの加圧手技に十分留意する必要性があることが示唆された.文献1)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSchlenkerCMBCetal:CE.cacyandsafetyoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryCcomparedCwithCmanualCcataractsurgery:ACmeta-analysisCofC14567CEyes.COphthalmologyC123:2113-2126,C20162)RobertsTV,SuttonG,LawlessMAetal:Capsularblocksyndromeassociatedwithfemtosecondlaser-assistedcata-ractCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC37:2068-2070,C2011C

コンタクトレンズ:遠近両用ソフトコンタクトレンズのシンプル処方

2019年3月31日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一53.遠近両用ソフトコンタクトレンズの東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック京都府立医科大学眼科シンプル処方●はじめに日本の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)処方比率は近年少しずつ上昇しているものの,まだC6%と諸外国に比較して低いのが現状である.その背景として,日本では従来より近業に従事する装用者に対し,球面度数を弱めに処方することが多かったためと推察されている1).また,遠近両用CSCL処方の経験が少ないと,「処方が面倒」とか「むずかしいのでは?」と先入観を抱きやすいが,近年の遠近両用CSCLの性能は飛躍的に向上している.今回は遠近両用CSCLのシンプル処方について解説する.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類と特徴遠近両用CSCLの光学デザインはすべて累進屈折力で,レンズの中心が遠用で周辺が近用タイプと,中心が近用で周辺が遠用タイプに大別される(図1).中心から周辺にかけて度数が連続的に変化するため,遠方から中間,近方まで境目のない自然な見え方が得られるが,遠方と近方の像が網膜に同時に結像する(同時視)ためにコントラスト感度は低下しやすい2).また,加入度数が高くなるほど遠方の見え方は落ちやすい.しかし,片眼ではそのような傾向があっても,両眼視であれば遠方・近方ともに視力は良好で,年齢を問わず低加入度数を選択することが推奨されている3).単焦点CSCLと同様に,素材は含水性ハイドロゲルとシリコーンハイドロゲルレンズが,用途ではC1日使い捨てタイプとC2週間頻回交換タイプがある.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と処方時の注意点処方の成否は適応を見きわめることである.①多焦点コンタクトレンズの装用に意欲的で,②老視症状の自覚や近業時の疲労感があり,③全乱視は-1.0D以下の条件がよい適応である.逆に,遠近ともに過度に視力を追及する人や,長時間の車の運転(とくに夜間)が必要な人では満足できない場合がある.同時視ゆえに慣れるまで時間を要すること,単焦点CSCLより遠方の見え方が若干劣ることなど,処方前に患者にメリット,デメリットを詳しく説明することが大切である.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの検査(図2)最初のトライアルレンズ度数は自覚的屈折値に+0.5~+1.0D加えた球面度数で低加入を選択する.弱めの度数を選べば過矯正が予防できるうえ,最初に「手元がよく見える!」と患者に強い印象を与えられ,モチベーション向上につながる.検査は,まず両眼開放で手元を図1いろいろある多焦点ソフトコンタクトレンズ用途と光学デザインから遠近両用SCLを分類した.黒字表記は含水性ハイドロゲル素材,青字がシリコーンハイドロゲル素材である(イメージ図はすべて各メーカーからの提供).(65)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3670910-1810/19/\100/頁/JCOPY見てもらい,そのあとに遠方の見え方を確認する.その際,生活のなかでよく目にするもの(近方なら新聞やスマホ,遠方ならカレンダーや壁掛け時計など)を見せて患者が満足できる度数を探す3,4).見え方の確認は必ず両眼開放で行うが,その際に視力検査表を使わないこと,数字の視力にこだわらないことが重要である.もし遠方の見えにくさを訴える場合には,両眼同時に球面度数を-0.25Dずつ同時に上げるか,モノビジョンを応用して優位眼の度数を変更する.逆に手元の見え方に不満があれば,非優位眼の度数を変更するか加入度数を変更する.モノビジョンを行うときには優位眼を遠方に,非優位眼で近方に合わせるのが基本で,左右の度数の違いはC0.75Dを目安に+0.25Dずつ慎重に追加する.C●検査時の注意点遠近両用CSCL装用に意欲的になった患者は,ときに過度な期待を抱く.たとえば,遠近両用CSCLを装用すれば若い頃のようにすべての距離が見えると期待してしまい,検査の段階からさまざまな距離を片眼ずつ遮蔽して見え方を確認してしまうのである.先にも述べた通り,片眼ではコントラスト感度は低下するため,必ず両眼で慣れるように指導し,「これぐらいで大丈夫」という見え方を探すよう声かけする.また,モノビジョンを行う場合,事前に左右で見え方が異なることを説明しておく.処方する側は各製品の特性を熟知し,ライフスタイル図2遠近両用SCLの検査の流れ(文献C3を参考に作成)に合わせてレンズを選択する.一般に,遠近両用CSCLでは表示された加入度数と実際の有効加入度数が乖離していることも知っておく必要がある4).初回の検査ですぐに処方せず,できれば数枚のトライアルレンズを渡して同時視を体験させ,満足できる見え方が得られるまで度数調整するとよい.ディスポーザブルCSCLなら処方後に再診するため,見え方に不具合を生じた場合や加齢による調節力の変化にも球面度数や加入度数の変更で対応できる.C●おわりに高齢化社会に伴い,遠近両用CSCLの需要が高まっている.最初の患者説明には一手間かかるが,うまく適応を見きわめ,検査手順に慣れれば,遠近両用CSCL処方は決してむずかしくない.遠近両用CSCLを上手く処方できると患者の高い満足度が得られるので積極的な処方をお勧めしたい.文献1)ItoiM,ItoiM,EfronNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,C20023)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,C20134)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,C2011PAS115

写真:悪性転化した結膜MALTリンパ腫

2019年3月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦418.悪性転化した結膜MALTリンパ腫北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①サーモンピンク色の隆起性腫瘍図1上方結膜円蓋部に帯状に広がるサーモンピンク色の隆起性病変図3初診時前眼部所見生検の結果,反応性リンパ過形成の診断となる.図4再発時の悪性リンパ腫の病理像異型を伴った小型で円形の細胞が密に増殖している.(63)あたらしい眼科Vol.36,No.3,20193650910-1810/19/\100/頁/JCOPY結膜の悪性リンパ腫は,“サーモンピンク様”といわれるピンク色の隆起性腫瘍が特徴的である.片眼あるいは両眼の眼瞼結膜円蓋部から発生し,堤防状に盛り上がっていることが多いが,病変は球結膜,涙丘など,いずれの部位からも発生する.眼科における悪性リンパ腫は,眼─中枢神経系リンパ腫などの眼内に発生するリンパ腫が多く,そのほとんどがびまん性大細胞型リンパ腫(di.uselargeBcelllymphoma)に相当し,予後が不良であることが多い1).一方で,結膜に生じる悪性リンパ腫はmucosaassociatedlymphoidtissue(MALT)型が多く,悪性リンパ腫のなかでも発症頻度が低く,粘膜に関連したリンパ組織からリンパ球の中のB細胞が腫瘍化する非ホジキンリンパ腫で,比較的予後良好である.年単位でゆっくりとした経過をたどり,低悪性度に分類されている2).眼以外では,胃,大腸,肺,甲状腺,唾液腺,乳腺などでも発生することがあり,とくに胃は好発部位で,胃の悪性リンパ腫の約40%を占めており,全身における腫瘍の有無については精査が必要である.鑑別として反応性リンパ過形成や結膜アミロイドーシスがあるが,所見が類似しているため外見から鑑別することはきわめて困難で,腫瘍を切除して病理検査を行うことで確定診断できる.本症例は70歳,男性.2008年5月に右眼違和感を主訴に近医を受診.右眼サーモンピンク様隆起を認め,当院紹介受診となった.2008年7月に結膜腫瘍生検を施行し,病理診断では反応性リンパ過形成であったため経過観察となった.2012年9月頃より結膜腫瘍の拡大を認め,2013年3月に再度生検を施行したところ,病理診断でMALTリンパ腫の診断となった.2013年4月に施行したPETで肺門部リンパ節に集積を認めたため,血液内科紹介のうえ,リツキシマブ開始となった.このように反応性リンパ過形成と診断されていても悪性転化することもあり,再発してきた場合は組織生検が再度必要となる.治療には生検後の再発を予防するため,放射線治療および化学療法があるが,放射線療法後にはドライアイ,角膜上皮幹細胞疲弊,白内障,眼窩周囲の脂肪組織の減少などが報告されている.一方でMALTリンパ腫は低悪性度であるため,自然消退しやすく,必ずしも生検後再発するわけではない.自然経過による再発を調べた研究によると,8例中7例が自然消退したと報告されている3).したがって,慎重な経過観察も一つの治療オプションなのかもしれない.文献1)HunyorAP,HarperCA,O’DayJetal:Ocular-centralnervoussystemlymphomamimickingposteriorscleritiswithexudativeretinaldetachment.Ophthalmology107:1955-1959,20002)WotherspoonAC,DissTC,PanLXetal:Primarylow-gradeB-celllymphomaoftheconjunctiva:amucosa-associatedlymphoidtissuetypelymphoma.Histopathology23:417-424,19933)MatsuoT,YoshinoT:Long-termfollow-upresultsofobservationorradiationforconjunctivalmalignantlym-phoma.Ophthalmology111:1233-1237,2004

時の人 本田 茂 先生

2019年3月31日 日曜日

大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学教授本ほん田だ茂しげる先生大阪市立大学の視覚病態学教室のホームページを開いてみていただきたい.スタッフ紹介のページに全員の専門分野や研究業績が記載されているのはごく普通だが,それらと並んでなぜか「モットー・趣味など」欄がしっかり存在する.見ると多種多彩な趣味が満載で,スタッフのみなさんの「リア充」ぶりが伝わってくる.そこで本田教授の欄は,と見ると「とにかく多趣味」とある.これだけ多趣味な人々の中にあって,さらに上を行く多趣味人ということか?本田教授に伺ってみよう.***昨年4月に大阪市立大学視覚病態学教室の第六代教授に就任した本田茂先生は,香川県坂出生まれの京都育ち.小学生の頃はプラモデルと工作,絵描きに没頭.私立洛星中学・高校時代は,硬式テニス部に所属しつつ,ギター演奏,エアチェック(懐かしい言葉!ご存じないかたはネットで検索を),漫画・イラスト描きなど,当時から多趣味だったそうだ.ただし,高校最後の1年間はそれらのすべてを封印して受験勉強.そして1985年に神戸大学医学部に入学した.大学でも硬式テニス部に所属し,幹部学年時には西医体で優勝したそうだ.テニスは今でも機会があれば楽しんでいるとのことである.ただし,先生の「多趣味」は一通りやってみる的なものとは本質的に違う.先生のモットーは「何事にも興味を持って挑戦してみること」だが,その精神がスポーツにも絵にも音楽にも発揮されたとみるべきだろう.同じことが眼科医としての先生の姿勢にも現れている.先生のご専門は神戸大学入局以来一貫して網膜硝子体疾患だが,臨床で必要とされれば小児眼科,神経眼科領域の勉強を徹底してやり,手術手技も(角膜移植を除く)ほとんどの手術を手がけ,自分のものとしてきた.基本的に勉強家であり,研究熱心なタイプなのである.神戸大学眼科でキャリアの第一歩を踏み出した頃は,当時最新の手技を学びながら網膜の神経伝達に関する研究,近視の分子メカニズム解明に向けた研究プロジェクトを独力で立ち上げ,連日深夜まで研究を行う日々だったそうだ.研究室の機器を独り占めできる週末は「至福の時だった」と先生は当時を振り返る.カリフォルニア大学留学中には,網膜色素上皮細胞の老化に関する研究で3年間に7本もの原著論文を発表した.その後,市中病院などを経て神戸大学に帰学後は,黄斑外来と網膜外来,および未熟児網膜症診療を中心となって担い,昨年の大阪市立大学赴任まで,精力的に臨床と研究のキャリアを築いてきた.***さて,大阪市立大学眼科は長年にわたって網膜疾患の臨床と研究の実績を積み重ねてきた伝統があり,とくに加齢黄斑変性や中心性漿液性脈絡網膜症などの黄斑疾患に強みをもつ.これは先生の専門領域と完全に一致するものであり,先生にも教室にとっても幸せなカップリングだったと言えるだろう.先生は加齢黄斑変性の病態解明,糖尿病網膜症や未熟児網膜症の治療法の研究などを主宰する一方,他大学や他領域の研究機関とも共同して新たな研究にも乗り出している.また,手術の安全性と効果をより高めるためのデバイスの開発,臨床応用に向けた研究も行っている.このような多方面にわたる活動の中で,先生が常日頃から心がけ,後進にも行動をもって示していることがある.それは,自分(たち)だけで分からないことは,その道の専門家にどんどん聞きに行くことである.また,各人の価値観や仕事の多様性を認め,そのうえで絶えずコミュニケーションを図ることである.その中から新しい発見も生まれ,組織も健全に発展してゆくと先生は考えている.「自分と違う外の世界に興味を抱くこと」を先生は子どもの時から大切にしていた.今もその気持ちが「基本,家でじっとしていることは病気の時以外はない」というぐらい活動的な先生の原動力となっているに違いない.(61)あたらしい眼科Vol.36,No.3,20193630910-1810/19/\100/頁/JCOPY

上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術

2019年3月31日 日曜日

上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術VitreoretinalSurgeryfromSuprachoroidalApproach小嶋健太郎*はじめに裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)は治療介入なしには失明に至る重篤な疾患である.手術による網膜の復位が唯一の治療法であるが,治療のための手術方法は複数存在する.本稿では新たなCRRDに対する低侵襲な治療法として近年注目されている,上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術であるCsuprachoroidalbucklingについて解説する.CIRRDの現在の治療法RRDの現在の治療法としては,おもに経毛様体扁平部硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)と強膜バックリング手術(scleralbuckling:SB)があり,網膜.離の病型や患者の年齢に応じて術者により選択される.他に米国では気体網膜復位術(pneumaticCretino-pexy)もあげられるが,裂孔の存在する位置や範囲に制限があり適応となる症例が限られるため,わが国ではおもにCPPVとCSBから選択される.1970年代に開発されたCPPVでは裂孔を牽引する硝子体を切除のうえで眼内に長期滞留ガス(難治例にはシリコーンオイル)を注入し,そのタンポナーデ効果により網膜を復位させる.PPVは好発年齢がC50~60歳台の,後部硝子体.離に伴い網膜が硝子体に牽引されて生じる病型の網膜.離に対してとくに有効である.2000年代より低侵襲な小切開硝子体手術が開発・普及したことにより現在もっとも多く選択される術式となっているが,ガスタンポナーデによる術後の体位制限による身体的負担に加え,白内障の進行という問題点がある.もう一つのおもな術式であるC1950年代に確立されたCSBはシリコーン性素材を強膜に縫着し網膜裂孔部位に合わせて内陥させることにより裂孔を閉鎖し網膜復位を得る手術であり,眼内の硝子体を切除しないこと,白内障進行の心配がないことなどが利点としてあげられる.そのためPPVが多くなった今日においても,とくにC30歳台以下の若年者に多い,萎縮性裂孔に伴う硝子体牽引の関与が少ないCRRDに対して第一選択の術式である.その一方でC1950年代から近年まで低侵襲化が進んでいない強膜バックリング手術では,大きな結膜切開,外眼筋操作による術中・術後の疼痛,恒久的に残るバックル素材といった手術侵襲ならびに術後の乱視惹起や眼球運動障害などの合併症が欠点である(図1).CII上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術とはSuprachoroidalCbucklingは上脈絡膜腔にカテーテルもしくはカニューラを用いて充.物質(ヒアルロン酸製剤)を注入し,裂孔部位に合わせて一過性に脈絡膜と網膜のみを内陥させることによりCRRDを治療する術式で,1986年にすでにCPooleとCSudarskyによりこのコンセプトは考案されている.彼らは強膜の内陥は裂孔の閉鎖を成功させるための前提条件ではないと仮定し,上脈絡膜腔にヒアルロン酸製剤を注入することにより脈絡膜の*KentaroKojima:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕小嶋健太郎:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(55)C357a隆起シリコーンスポンジ縫合糸外眼筋図1裂孔原性網膜.離(RRD)の治療a:強膜バックリング手術.硝子体牽引の少ない萎縮性円孔など,とくに若年者のCRRDに有効である.大きな結膜切開,外眼筋操作による疼痛,恒久的に残るバックル素材,術後の乱視惹起,眼球運動障害などの合併症が欠点である.Cb:経毛様体扁平部硝子体手術.近年は小切開手術の進歩により低侵襲化している.後部硝子体.離に伴う硝子体牽引の強いCRRDにとくに有効である.術後の体位制限,白内障の進行という問題がある.外眼筋図2上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術上脈絡膜腔バックリング.一過性の充.物質を用いる.外眼筋の操作なし.小さな結膜切開ですむ.図3実際の手術手順28歳,男性.裂孔原性網膜.離に対する手術目的で紹介となった.右眼の上方に複数の萎縮性円孔を認める..離は黄斑に及ぶが術前矯正視力は(1.0)であった.Ca:上方の原因裂孔の位置に合わせて結膜をC9-1時方向で切開し,25ゲージシャンデリア照明を対側に設置する.Cb:広角観察系下で冷凍凝固を施行する.Cc:角膜輪部よりC4~5mmの位置で輪部に平行に強膜を切開し,脈絡膜を露出する.Cd:強膜と脈絡膜の間の隙間にヒアルロン酸製剤を注入し,強膜創付近の上脈絡膜腔を確保したうえで,カテーテルを上脈絡膜腔内に沿わせて慎重に挿入する.Ce:広角観察系で位置と隆起の高さを確認しながら,ヒアルロン酸製剤を上脈絡膜腔に注入し,脈絡膜を隆起させる.Cf:強膜創と結膜を縫合して手術を終了する.この症例では網膜下液の排液は施行していないが,裂孔閉鎖後に下液は徐々に吸収され術後C3カ月で矯正視力は(1.2)になった.り,外眼筋を露出し制御糸で眼位を大きく変えて強膜にマットレス縫合を行うCSBに比べ,手術手技が大幅に簡便となった.実際の手術手順を図3に示す.まず原因裂孔に一致する象限で結膜を切開し強膜を露出し,対側にシャンデリア照明を設置する(図3a).広角観察系下で網膜裂孔の冷凍凝固を施行する(図3b).原因裂孔との位置関係を考慮して強膜を切開し,脈絡膜を露出する(図3c).強膜創より上脈絡膜腔内にカテーテルを挿入する(図3d).広角観察系下で裂孔の下にカテーテル先端を誘導し,長期滞留型ヒアルロン酸を注入して脈絡膜を隆起させる(図3e).強膜創と結膜を縫合して手術を終了する(図3f).SBに比べ結膜切開が少なく,外眼筋を露出し制御糸をかけたうえで眼球を大きく傾ける操作も必要としない.SBでの手技に比べて手順が少なく,supracho-roidalbucklingは広角観察系との相性がよいことがわかる.CIII臨床成績SuprachoroidalCbucklingの手術成績については近年複数の報告があり5~7),いずれも初回網膜復位率はC90%以上の良好な結果であった.ただし海外では下方裂孔の際にCSBと同様に補助的に硝子体手術と併施することも行われているため,報告されている成績は硝子体手術併用を含むという点に注意が必要である.筆者らのグループも医学倫理審査委員会による承認を経て臨床研究(UMIN-CTR#24096)を行い,海外のグループと共同でその結果を報告している7).その報告では,全体のC62例中C57例(92%)で初回復位が得られ,そのうちsuprachoroidalCbuckling単独で治療したC47例においても,初回復位率はC91.5%(43例)であり,単独手術でも良好な成績が得られた.最終的に全例で網膜復位が得られており,平均ClogMAR視力も術前のC0.82からC0.22(小数視力換算でC0.15からC0.6)に有意に回復していた.合併症としては既存のC3報を検証すると,全C124例中C3例で軽度の脈絡膜出血を認めているが,いずれも局所的な出血で自然吸収が得られており視機能への影響は認められなかった.その他の有害事象もとくに認められなかった.上脈絡膜腔への充.物質としては美容形成領域で使用される長期滞留型のヒアルロン酸製剤や眼科領域で使用されているヒアルロン酸製剤が用いられているが,その種類によって隆起効果の持続する時間が異なる5~7).また,ElRayesによる病的近視に伴う近視性牽引性黄斑症に対するこの手技の臨床成績8)や,米国ではぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症に対して上脈絡膜腔へのステロイドの投与についての臨床試験も進行中で,他の網膜硝子体疾患に対する上脈絡膜腔アプローチの今後の応用も期待される.CIV上脈絡膜腔上脈絡膜腔(suprachoroidalspace)は脈絡膜と強膜の間に存在する潜在的な間隙である.通常の状態では脈絡膜と強膜は互いに密接しているが,組織学的には脈絡膜と強膜の境界は両者を相互に接続する疎な結合組織が層状に存在する移行帯であり9),低眼圧による静水圧のバランス破綻や炎症による脈絡膜血管の透過性亢進による脈絡膜.離,あるいは脈絡膜血管からの出血による脈絡膜出血の際に脈絡膜と強膜の間に液体が貯留し,上脈絡膜腔が顕在化する.この腔は前方は強膜岬から後方は視神経乳頭まで及ぶ.眼球赤道部より後方では,強膜を貫いて腔を横切り脈絡膜に至る血管と神経が多数存在するため,脈絡膜と強膜の癒着がより強く,脈絡膜.離などは赤道部より前方に生じやすい9).脈絡膜から流出する渦静脈が赤道部のやや後ろC2.5~3.5Cmm(輪部からC14~15Cmm),水平よりも垂直経線に近い位置で強膜を貫通し,二つの長後毛様動脈は長毛様体神経とともに視神経から約C3~4Cmmの距離をおいて水平方向で強膜を貫通し,上脈絡膜腔内を水平子午線に沿って眼球前方の鋸状縁あたりにまで走って分岐する.さらにC5~10本の短後毛様動脈が短毛様体神経とともに視神経周囲で強膜を貫通し脈絡膜に入る前に上脈絡膜腔を短い距離で横切る(図4,5).上脈絡膜腔はまた,ぶどう膜強膜流出路の一部として房水循環も担う.実験的に上脈絡膜腔と前房との間にC3~4CmmHgの負の圧力勾配が存在し,房水の流出させる働きがあることが示されている10).おわりに上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術は360あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(58)図4上脈絡膜腔(suprachoroidalspace)(VaughanandAsbury’sGeneralOphthalmologyより改変)上斜筋渦静脈渦静脈短後毛様動脈および強膜短毛様体神経長後毛様動脈および長毛様体神経視神経下斜筋渦静脈渦静脈-’C-図5眼球後方からの図(VaughanandAsbury’sGeneralOphthalmologyより改変)

近視性牽引黄斑症への硝子体手術における内境界膜の可視化と利用

2019年3月31日 日曜日

近視性牽引黄斑症への硝子体手術における内境界膜の可視化と利用UtilizationofInternalLimitingMembraneinSurgicalTreatmentforMyopicTractionMaculopathy高橋洋如*I近視性牽引黄斑症への硝子体手術強度近視眼では,網膜硝子体界面において,硝子体と網膜の異常癒着が生じ,黄斑前膜を伴って接線方向へ網膜表面を牽引する.牽引による病変とそれに続発する網膜の萎縮変化とを合わせて,近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)とよぶ.MTMのなかでは網膜分離症がもっとも頻度が高く,ほかに網膜前膜,分層黄斑円孔,中心窩網膜.離などがみられる(図1).変性した硝子体による網膜牽引のほかに,後部ぶどう腫による後方への牽引,網脈絡膜萎縮病変などが原因となる.MTMへの硝子体手術の治療を決定するにあたっては,長い罹病期間であっても自覚症状が不明瞭であること,視神経症や網脈絡膜萎縮病変による非典型的な視野異常が潜在していることなどを念頭におく.CII黄斑円孔への硝子体手術1.内境界膜染色・.離強度近視眼の黄斑円孔(macularhole)は非強度近視眼と比較して閉鎖率が低いと報告されており,内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM)染色・.離の利用により治療成績が改善している1).染色には,トリアムシノロン,インドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG),ブリリアントブルーCG(brilliantCblueG:BBG)などの薬剤が使用可能である.黄斑部のCILM上に硝子体皮質膜が不均一に癒着している場合が多く,ILMを利用するためには硝子体皮質膜は先に除去しておいたほうがよい.ICGやCBBGでの染色では,硝子体皮質膜は染色されず,ILMのみ染色されるため,区別するのに有利である.C2.内境界膜翻転法Mickalewskaらが開発した内境界膜翻転法(invertedCILM.aptechnique)は,ILMを網膜表面から円孔縁まで.離したうえで黄斑円孔上に覆いかぶせるように翻転する方法であり,黄斑円孔の閉鎖率を向上させ,強度近視眼の黄斑円孔にも有用であると報告されている2).これ以外にも,黄斑外周のCILMを遊離弁として移植する内境界膜自家移植法(autologusCILMCtransplantation法)があり,再発症例や難治症例に有用である3).C3.内境界膜翻転法の適応と手技黄斑円孔への硝子体手術の目的は,円孔の閉鎖を得たうえでの視機能の回復である.すなわち,治療後の黄斑の網膜層構造がより適切に回復することを念頭に術式を選択する.円孔によって離開していた網膜層が閉鎖によって連続性を回復するためには従来のCILM.離がもっとも自然な方法であるため,軽症または中等度の黄斑円孔には通常のCILM.離で十分である.筆者は術前のOCT画像上で円孔径を測定し,直径C400Cμm以上の大きな円孔に対してのみCinvertedILM.ap法を使っている.円孔縁で留めながらCILMを1~2乳頭程度.離する*HiroyukiTakahashi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕高橋洋如:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)C351図1近視性牽引黄斑症のOCT像a:網膜分離症,Cb:全層黄斑円孔,Cc:黄斑前膜,Cd:網膜分離症(中心窩.離合併)など,病像は多様にわたる.図2黄斑円孔に対する内境界膜(ILM)翻転法の術中画像ILMは中心に向かって収縮している().図3黄斑円孔周辺の網膜前増殖組織a:網膜前増殖組織が黄斑円孔内の網膜裂開と連続していることがある.Cb:手術中に.離した組織は,黄色色素に富んでいる.無理に.離を試みると黄斑円孔が拡大したり,網膜内層の裂開が広がるため,円孔縁まで.離した上で小さくトリミングするに留める.Cb図4後部ぶどう腫がある眼での内境界膜(ILM).離a:強膜創に対して手前のぶどう腫内は鑷子でのアプローチが困難な場合がある.Cb:後部ぶどう腫(水色で示した範囲)のCILMを.離するにあたって鑷子での把持が角度的にむずかしい場合(C×印の方向)は,少し離れた部位からいったん外向きに.離して回り込む(○の方向).図5後極に網脈絡膜萎縮病変(CRA)がある網膜分離症a:黄斑から後極下方にかけて網膜分離症がある.下方の網膜血管周辺にCCRAがある.Cb:黄斑と乳頭を含むCOCT断層像.中心窩.離を合併している.Cc:術中画像.インドシアニングリーンで染色したうえで内境界膜(ILM).離を行っている.CRAとCILMの癒着が強い部分では強引に.離せず,島状に残した.Cab図6黄斑円孔網膜.離での内境界膜(ILM).離a:網膜.離を広げないように接線方向に引きながら膜.離をする.網膜が.離して前方に移動している分,鑷子でのアプローチはしやすい.Cb:パーフルオロカーボン液(PFCL)を後極に留置することにより,網膜の可動性は下がり,安定する.網膜は復位して強膜創から遠ざかる分,鑷子でのアプローチはしづらくなる.

3Dデジタル映像システムを用いたHeads-up Surgery

2019年3月31日 日曜日

3Dデジタル映像システムを用いたHeads-upSurgery3DDigitalImaging-AssistedHeads-upSurgery加藤悠*厚東隆志*はじめに近年,眼科領域でも3Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryが注目されている.これはデジタル化した術野の画像を3Dモニターに映し出し,術者,助手ともに顕微鏡の鏡筒をかがんで覗くことなくheads-upした状態で行う手術のことである(図1).術野をモニターに映し出すことや映像をデジタル化することで,本特集のテーマである近未来可視化手術を実現する可能性があり,普及しつつある.本稿では3Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryについて,その利点と課題,今後の展望について述べる.I背景とメカニズム医療の分野では他科,とくに元来モニター映像を見ながら診療を行う内視鏡や腹腔鏡を扱う分野で,より操作を行いやすくする目的でモニター映像の3D化が進んできた.一方,眼科領域では手術は顕微鏡下でもともと3Dで行われていたことから,リアルタイムの術野映像を3Dモニターに映し出すことに対する関心が高くはなかったといえる.これまでの3D映像はおもに学会発表などにおける手術ビデオの供覧に用いられ,教育や啓発のツールの一つとして,より臨場感をもった立体的な体験を提供する目的であることが多かった.しかし,2K(ハイビジョン)カメラの導入,高速3D表示技術の向上,4K大画面に代表されるモニター技術の向上などによりリアルタイムの3Dモニター映像が飛躍的に改善し図1Heads-upsurgery術野映像を大画面3Dモニターに映し出すことで,術者と助手が鏡筒をかがんで覗くことなくHeads-upの状態で手術をしている.たため眼科手術領域への導入が試みられることとなった.また,術野の映像を3D化するために映像はリアルタイムでデジタル化される.それにより映像にリアルタイムに加工や補正を加えることが可能となり手術操作支援ツールの一つとしても注目されることとなった(図2).ヒトの眼では立体視を得るために左右の網膜に視差のある像が投影され,その像を脳内で立体像として再構築している.同様に3D映像を見るためには,視差のある像を得て,それをモニター上に左右の眼に入る情報として映し出す必要がある.顕微鏡手術であれば,顕微鏡の*YuKato&*TakashiKoto:杏林アイセンター〔別刷請求先〕加藤悠:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(41)343デジタル化術野映像3D化技術の向上4Kモニター技術の向上Heads-up・疲労の軽減3Dモニター映像映像の共有映像の加工や補正・チーム医療・光毒性の軽減・教育・特定波長(色)の強調・遠隔医療・倍率の変換デジタル化・pictureinpicture技術の向上・overlay・サージカルガイダンス2Kカメラの導入図23Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryの導入が眼科領域にも試みられることとなった背景2K(ハイビジョン)カメラの導入,デジタル化技術の向上,高速C3D表示技術の向上,4K大画面モニター技術の向上などによりC3Dデジタル映像システムを用いたCheads-upsurgeryの導入が眼科領域にも試みられることとなった.=左眼からの映像右眼からの映像異なる偏光をもたせて上下交互に並べる(ライン・バイ・ライン)モニター左右で異なる偏光をもつ眼鏡左眼から入力される映像右眼から入力される映像図3映像を3D化する方法(ライン・バイ・ライン方式)左右のカメラから得られた画像にそれぞれ異なる偏光をもたせ,1走査線ごとに上下方向に並べ(ライン・バイ・ライン),左右で異なる偏光をもつ眼鏡を通して見ることでC3D映像を得ることができる.厳密にはC2K映像の場合,モニターの縦の長さのC3.19倍離れると画面上のC1画素が視力C1.0の解像度と等しくなる.CIIHeads-upによる利点これまで述べてきたように,3Dデジタル映像システムを用いたCheads-upsurgeryには大きく三つの利点があると考えられる.一つ目は鏡筒を覗くことなく,かが1,920画素1,920画素LR1,080画素左眼の2K映像右眼の2K映像横を2倍に拡大3,840画素R1,080画素2,160画素L1,080画素4Kモニターライン・バイ・ライン方式で並べて左右が異なる偏光をもたせるRLRLRLRLRL4Kモニターに映る3D映像(実際は2K)図42Kカメラを使用し4Kモニターで3D映像を表示する方法左右それぞれC2Kカメラで得られた映像の横をC2倍に拡大し,4KモニターにC1走査線ごとに上下方向に並べることで(ライン・バイ・ライン),2Kカメラ映像の画素数を損なうことなくC3Dモニター映像化する.まずにheads-upの姿勢で手術を行うことができること,二つ目は映像をリアルタイムでデジタル化するために加工や補正が可能なこと,三つ目は映像の共有化によるチーム医療の向上や教育効果である.眼科医には頸部症状,上肢症状,腰部症状が多いという報告がある1).米国北東部の眼科医C2,529名に対して行ったアンケート調査で,頸部症状(頸部痛など)は32.6%,上肢症状(手のしびれなど)はC32.9%,腰部症(43)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C345図5黄色フィルターによる眩しさの軽減a:フィルターなし,Cb:フィルターあり.映像に黄色フィルターをかけることでその反対色である青色光シグナル(短波長域)をカットし,散乱光を抑制し眩しさを軽減させる.図6青色光シグナル増強による硝子体視認性の向上図7黄色光シグナル増強によるILM視認性の向上a:通常シグナル,Cb:青色シグナル増強.青色光のシグナルをCa:通常シグナル,Cb:黄色シグナル増強.黄色光のシグナルを増強させることで硝子体からの散乱光を強調させ,硝子体の視増強させることで,ブリリアントブルーCGで青色に染色され認性を向上させる.た内境界膜(ILM)の視認性を向上させる.7,680画素4,320画素図8解像度の比較SD(standarddefinition)からC2Kへは横方向C3倍,2KからC4Kへは横方向C2倍,8KへはC4倍だが,画素数にするとC4K,8Kへと変化するにつれて著明に高画質化していく.’C