●連載◯145監修=安川力五味文125アフリベルセプトの利点太田光名古屋大学医学部附属病院眼科アフリベルセプトはわが国でもっとも多くの適応疾患があり,使用頻度が高い抗CVEGF薬である.今回は,アフリベルセプトの薬剤特性,作用機序を詳述し,本薬剤を使用する利点について述べる.はじめにアフリベルセプト(商品名:アイリーア)はC2012年にわが国で承認,上市された.本薬剤は,抗CVEGF薬の中でもっとも多岐にわたる適応疾患を有している.日本国内におけるC2014年C4月~2021年C3月までの抗CVEGF薬の使用状況を医療大規模データベースに基づいて分析した結果,アフリベルセプトの使用頻度は非常に高く,総注射数の約C77%を占めていた.疾患別では滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmacu-lardegeneration:nAMD)への使用がC60%占めた1).新規抗CVEGF薬が市場に登場するなか,アフリベルセプトの重要性は変わらず,網膜疾患治療においてその役割と特性を理解することが不可欠である.本稿では,アフリベルセプトの特徴を他の薬剤と比較しつつ,とくにnAMD治療における臨床成績について述べる.作用機序アフリベルセプトは,ヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインをヒトCIgG1のCFcドメインに結合した組換え可溶性融合糖蛋白質であり,可溶性のデコイ受容体として,網膜疾患にみられる病的な血管新生および血管漏出に関与するCVEGF-A,およびCVEGF-B,胎盤増殖因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)に結合し,それらの作用を阻害する.ラニビズマブはCVEGF-Aを単独で標的とするが,アフリベルセプトはCVEGF-Aに加えてCPlGFおよびVEGF-Bをもターゲットとすることが特徴であり,とくにCVEGF-Aへの結合能力が高いことが知られている1,2).一方で,ブロルシズマブは分子量が小さいため,モル換算でラニビズマブの約C22倍の高濃度での投与が可能であること,ファリシマブはヒト化されたバイスペシフィック抗体であり,VEGF-Aに加えてCangiopoi-etin-2を標的とすることがそれぞれの特徴である2,3)(表1).副作用抗CVEGF薬の眼合併症としてブロルシズマブ投与後の眼内炎症(intraocularin.ammation:IOI)が注目されている.ブロルシズマブ投与後のCIOIは日本人において発症頻度が高いと報告されており,実臨床の報告でも,その発症率はC15%程度と報告されている5).アフリ表1抗VEGF薬の特徴ラニビズマブアフリベルセプトブロルシズマブファリシマブ構造ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体Fab断片遺伝子組換え融合糖蛋白質ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体一本鎖CFv断片抗VEGF/抗CAng-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体ターゲットCVEGF-ACVEGF-ACPlGFCVEGF-BCVEGF-ACVEGF-ACAng-2用量C0.5CmgC2.0CmgC6.0CmgC6.0Cmg分子量約C48,000約C115,00約C26,000約C149,000(75)あたらしい眼科Vol.41,No.7,20248210910-1810/24/\100/頁/JCOPYベルセプトの使用時にCIOIの発症を経験することはほとんどなく,ラストアイに発症したCnAMDや,注射の合併症に対して不安の強い患者には,治療薬として選択しやすいと考える.CnAMDにおけるアフリベルセプトの治療効果(他剤との比較)nAMDの治療は抗VEGF薬のtreatCandCextend(TAE)法に基づいた投与が中心となっている.TAE法を用いたアフリベルセプトとラニビズマブの効果を比較したシステマティックレビューでは,2年間の治療期間を通じて,両群間で視力変化量に有意な差は認められなかった.しかし,必要とされた注射回数はアフリベルセプト群で有意に少なかったことが報告されている8).ファリシマブは発売後期間が短く,アフリベルセプトとの直接比較は現段階ではむずかしいが,臨床成績が報告されはじめている.松本らは日本人を対象とし,未治療CAMDに対するファリシマブのCTAE法C1年間の成績を報告しており,平均注射回数がC6.6回,平均注射間隔12.7週であった7).これは同様に日本人を対象としたALTAIRstudyでアフリベルセプト群(4週間隔投与群)がC1年後の平均注射回数C6.9回,平均注射間隔C11.8週であったことから,ファリシマブがやや長い注射間隔を維持できている可能性を示唆している.しかし,松本らの研究では効果不十分なC5例がブロルシズマブに変更されており,これらは脱落症例とされていることを考慮する必要がある.今後,ファリシマブとアフリベルセプトの実臨床における前向きで直接的な比較研究が必要である.長期成績日本でアフリベルセプトが発売されてからC10年以上が経過した.アフリベルセプトは長期使用における安全性と治療効果のエビデンスが確立されている.筆者らは以前,nAMD患者に対するアフリベルセプトのCTAE法によるC5年間の成績を報告した.2014年C1月~2016年C12月に名古屋大学附属病院に受診し,未治療のCnAMD患者C111例C112眼を後ろ向きに検討した.このうち,アフリベルセプトCTAE法をC5年以上継続した症例はC66眼,脱落した症例はC46眼であった.脱落群はC5年継続群と比較して有意に高齢であり初診時の視力が不良であった(p<0.05)が,nAMDの病型には有意差がなかった.最高矯正視力は,脱落を含む全症例およびC5年CTAE法継続群で初診からC1年後には有意に改善し,5年目まで維持された.ただし,3年目とC4年目で有意差が消失していた.これはC20眼の患者が白内障C822あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024の進行に伴い治療開始から平均C36.6カ月後に白内障手術を受けたことに起因すると考えられる.網膜厚は初診時からC1年目に有意に減少し,5年目まで維持された.注射回数はC1年目が約C7回,2~5年目までは約C5回であった8).nAMD症例に対してCTAE法でアフリベルセプト投与を継続することで,比較的少ない治療負担で良好な視力成績が得られることを示した.おわりにアフリベルセプトは適応疾患の多様性,高い安全性,そして長期使用における治療効果のエビデンスが確立されている点が,その主要な利点であるといえる.抗VEGF薬の種類は年々増加し,近い将来に高容量アフリベルセプトの発売も予定されている.今後も最新の知識を取り入れ,適応症例に対して最適な薬剤の選択を追求する必要がある.文献1)HashimotoY,OkadaA,MatsuiHetal:Recenttrendsinanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCintravitrealCinjec-tions:alargeclaimsdatabasestudyinJapan.CJpnJOph-thalmolC67:109-118,C20232)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)RegulaCJT,CvonCLeithnerCPL,CFoxtonCRCetal:TargetingCkeyCangiogenicCpathwaysCwithCaCbispeci.cCCrossMAbCoptimizedCforCneovascularCeyeCdiseases.CEmboCMolCMedC8:1265-1288,C20164)HolzCFG,CDugelCPU,CWeissgerberCGCetal:Single-chainCantibodyfragmentVEGFinhibitorRTH258forneovascu-larCage-relatedCmacularCdegeneration.CACrandomizedCcon-trolledstudy.OphthalmologyC123:1080-1089,C20165)OtaCH,CTakeuchiCJ,CNakanoCYCetal:SwitchingCfromCa.ibercepttobrolucizumabforthetreatmentofrefractoryCneovascularage-relatedmaculardegeneration.JpnJOph-thalmolC66:278-284,C20226)OhjiCM,CLanzettaCP,CKorobelnikCJ-FCetal:E.cacyCandCtreatmentCburdenCofCintravitrealCa.iberceptCversusCintra-vitrealCranibizumabCtreat-and-extendCregimensCatC2years:NetworkCmeta-analysisCincorporatingCindividualCpatientdatameta-regressionandmatching-adjustedindi-rectcomparison.AdvTherC37:2184-2198,C20207)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:One-yearCresultsCofCtreat-and-extendCregimenCwithCintravitrealCfar-icimabfortreatment-naiveneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.CJpnJOphthalmolC68:83-90,C20248)OtaH,KataokaK,TakeuchiJetal:Five-yearoutcomesoftreatandextendregimenusingintravitreala.iberceptinjectionCforCtreatment-naiveCage-relatedCmacularCdegen-eration.CGraefesCArch.CClinCExpCOphthalmolCpublishedConline2024(76)