考える手術.監修松井良諭・奥村直毅グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固術谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座内視鏡的毛様体光凝固(ECP)は,房水産生抑制による眼圧下降効果を図る緑内障術式である.経強膜的毛様体凝固術は,組織透過性が高い810nmダイオードレーザーを用いた場合でも,眼外から照射されたレーザーエネルギーが虹彩実質や血管などの中間組織に吸収されるため,組織破壊が大きく,効果の予測性にも劣るため,有効な視機能が残る患者に施行することは困難であった.ECP専用カテーテル装置が開発され,2022年から臨床使用できるようになった.光源として波長の短い532nmグリーンレーザーを用いているため,海外は角膜サイドポートからのアプローチで行うため,結膜瘢痕や強膜菲薄化がある症例でも問題なく施行できる.一方で有水晶体眼では施行できないため,眼内レンズ挿入眼,無水晶体眼のみが適応となる点に注意が必要である.聞き手:はじめに,毛様体ひだ部の構造を教えてくださどのような患者でしょうか.い.谷戸:房水産生能が旺盛と考えられる若年の原発開放隅谷戸:毛様体ひだ部には,全周で70~80個の大突起と,角緑内障や小児緑内障がよい適応と考えられ,濾過手術大突起の間に0~2個ずつ配置される小突起があります.やチューブシャント手術が効果不十分であった患者でも各突起は,中央の毛細血管網,実質,および強膜側の色効果が期待できます1).一方で,血管新生緑内障,ぶど素上皮層と後房側の無色素上皮層からなります.高齢者う膜炎,高齢者の緑内障などは,術前の眼圧レベルにかではしばしば虹彩突起の萎縮がみられ,配列が疎となりかわらず房水産生能が低下しているため,まずは,従来ます.落屑緑内障で,毛様体突起の表面に白色物質の沈手術による眼圧下降をめざすべきです.また,有水晶体着がみられる場合は,適切な凝固を行うために凝固パ眼には施行できません.ワーを上げる必要があります.聞き手:使用する機器は?聞き手:グリーンレーザー内視鏡的毛様体光凝固(endo-谷戸:ECP専用カテーテル(MTレーザーファイバカscopiccyclophotocoagulation:ECP)の対象となるのは,テーテル,ファイバーテック社)は挿入部サイズ20G(79)あたらしい眼科Vol.42,No.6,20257210910-1810/25/\100/頁/JCOPY液晶カラーモニタMTレーザーファイバレンズ(イメージファイバー)カテーテル図1MTレーザーファイバカテーテル断面の模式図画像記録装置レーザー装置専用光源装置専用画像装置図2グリーンレーザーECPを行うための機器構成(ファイバーテック社提供)考える手術で,カーブ形状になっています.カテーテル内にレーザーファイバーと眼内観察用の内視鏡ファイバー(イメージファイバー,ライトガイド)が配置されており,解像度は1万画素です(図1).カテーテルを,眼内内視鏡の光源・画像装置とレーザー凝固装置に接続して使用します(図2).聞き手:具体的な手術手技を教えてください.谷戸:まず術前散瞳し,Tenon.麻酔を行います.耳側と鼻側に角膜サイドポートを作製し,コヒーシブタイプの粘弾性物質(ヒーロン,プロビスクなど)で毛様溝を拡大します.カテーテル先端を前房に挿入し,モニター観察下に毛様体ひだ部を凝固します.片方のサイドポートから2/3周の凝固を行い(動画1),もう片方のサイドポートから残りの1/3週を凝固します(動画2).レーザー装置は連続発振となるよう凝固時間を最長(3~4秒)に設定します.凝固の強さは,毛様体上皮の表面が白く変色する程度(通常200~300mW)で,塗り絵を塗るように,なるべく隙間がないように凝固を行います.単発のレーザースポットを作る網膜凝固とは凝固方法が異なる点に注意が必要です.凝固によるポップ(気泡)が出る場合はパワーが強すぎるかプローブが近すぎます.全周凝固が基本ですが,毛様体突起間や突起後端を凝固することは困難なため,全周凝固を行っても毛様体上皮の表面積の半分程度の凝固となります.粘弾性物質を吸引除去し,サイドポートを角膜層間浮腫で閉鎖します.私は,最後にトリアムシノロンのTenon.注射をしています.術後は抗菌薬とステロイドの点眼を1日4回,2週間程度使用しています.眼圧下降薬はいったん中止し,術後の経過をみながら房水産生抑制薬(b遮レーザーファイバー断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の合剤)から再開しています.術中・術後とも患者は強い痛みは訴えません.術後は,前眼部炎症,黄斑浮腫,角膜内皮細胞密度についてモニタリングするとよいでしょう.聞き手:再手術のタイミングは?谷戸:1回目の治療を行って十分な眼圧下降が得られない場合は,数カ月待ったのちに2回目の凝固を考慮します.理論上は,房水排出がゼロのケースではECPが奏効することはありません.あるいは,効果が出たときは極端な低眼圧になります.ECPを行う前に,チューブシャント手術などで最低限の房水排出が確保されている必要があります.聞き手:グリーンレーザーECPは低侵襲緑内障手術(MIGS)ですか?谷戸:30年以上前からECPが行われている米国ではMIGSと捉えて,しばしば白内障同時手術が行われています.しかし,房水産生を低下させることは,「眼の加齢性変化」を促すことでもあるため,私は,幅広い患者にECPを行うことには慎重であるべきだと考えています.今後,わが国でも,グリーンレーザーECPの適応について再考する時期が来るかもしれませんが,当面は術式の普及と限定された患者での経験の蓄積が重要です.文献1)TanitoM,ManabeSI,HamanakaTetal:Acaseseriesofendoscopiccyclophotocoagulationwith532-nmlaserinJapanesepatientswithrefractoryglaucoma.Eye(Lond)34:507-514,2020722あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025(80)