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眼内レンズセミナー:マイクロ波手術器を用いた白内障ウェットラボ

2025年1月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋冨田晃生452.マイクロ波手術器を用いた白内障ウェットラボ川崎医科大学眼科学C1教室豚の眼球を用いたウェットラボは,白内障手術適齢期のヒト眼とは水晶体の状態が異なるため,実際とは異なった質感の解消が課題である.今回,外科領域で用いられてきた医療機器を利用して豚の眼球の水晶体核を効率よく熱変性させることにより,ヒト白内障の実感に近づけたウェットラボの創意工夫を紹介する.●はじめに眼科手術を学習するために豚の眼球(以下,豚眼)を利用したウェットラボや1),模型を使用したドライラボ2),シミュレーションを用いた各種の方法が存在する3).そのなかでも,豚眼を用いたウェットラボは眼科医であれば誰しもが経験したことがあるだろう.しかし,白内障手術の適応となる患者の眼球と豚眼とでは水晶体の状態が大きく異なるため,実際の手術とは少々異なった質感・操作感になりやすい.そのため,ウェットラボを実際の手術にいかにして近づけるか,さまざまな試みが存在する4).わが国からC2011年とC2016年に,バイポーラを用いて水晶体核を熱変性させることで成熟白内障モデル眼を作製するウェットラボ方法が発表された5,6).これは熱変性した水晶体核は白く混濁するため,実臨床に近い状態の成熟白内障モデル眼を作製できる.この水晶体は視認性が著しく不良であるため前.切開の練習が可能であり,熱変性した水晶体核は核硬度が上昇するため,ハン図1マイクロ波手術器のマイクロターゼ電子レンジと同様な原理で,水分子の摩擦熱で組織自体が発熱する.(写真はアルフレッサファーマのホームページより転載)ドピースを用いた超音波操作の練習を実現することができる.同手法を参考にして,より効率的に,かつ水晶体核を満遍なく熱変性させる方法を考案した.C●作製方法水晶体は核の中心がもっとも硬いため,これを実現するには水晶体核の中心から熱変性を実現する必要がある.今回,マイクロ波手術器であるマイクロターゼ(アルフレッサファーマ製)を使用した(図1).マイクロ波手術器は外科領域で一般的に用いられる止血・凝固装置である.同製品にはさまざまな電極が存在するが,そのなかでボール型電極を用いる.豚眼の角膜輪部C4Cmmを目安にスリットナイフを水晶体核方向へ穿刺し(2.4mmスリットナイフで穿刺し,やや創部を拡大させる),同部位からボール型電極を挿入して出力をC50CmWに設定し通電を開始する(図2a).すると,電極を中心に水晶体が熱変性していく.このとき,電極を中心に置いたままにせず,ややゆっくり上下左右に振りながら通電を行うと,満遍なく水晶体核を熱変性させることが可能である(図2b).通電時間を最低30秒は確保すると,核硬度がCnuclearsclerosis1~2程度の質感を再現できる.C●前.切開と超音波操作マイクロ波で作製した成熟白内障モデル眼も既報と同図2マイクロ波による成熟白内障の作製a:ボール型電極を水晶体核に向けて挿入する.Cb:通電を開始するとボール型電極を中心にして同心円状に水晶体核が変性していく.(81)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C810910-1810/25/\100/頁/JCOPY図3分割や超音波操作の練習a:凝集した状態で核硬度が増すため,フェイコチョップ動作を再現できる.Cb:核硬度が増しているため,フットペダル操作に合わせた核処理が可能である.様に,徹照不良状態を作製するためトリパンブルーで前.染色を行うと,実際の成熟白内障のような緊張感をもって前.切開の練習が行える.その後,ハンドピースを挿入してからの超音波操作では,水晶体核が凝集した状態で核硬度が上昇しているため,フェイコチョップ動作を再現することができる(図3a).分割した核も核硬度を維持しているため,フットペダル操作も実際の白内障手術と酷似した操作感を学習することができる(図3b).通電時間をC2分間程度に延長すると,色調は大きく変化しないが,超音波処理が行いにくくなるCnuclearsclerosis4~5に近い核硬度を達成することができる.ニードル型電極を使用すると,水晶体.前面のみを熱変性させることが可能であり,皮質混濁が高度な白内障を作製できる.通常,豚眼の水晶体.は張力に富んでいるため,前.切開が流れやすいが,熱変性した水晶体前.は張力が大きく減少するため,60~70歳台の患者と同程度の質感で,前.切開を再現することができる(図4).C●おわりに今回の手法は,既報のコンセプトを継承しつつ,短時間で核白内障の量産が可能となるように工夫した.マイクロ波手術器は効率よく水晶体核を熱変性させて核硬度図4前.切開の練習水晶体.前面のみを熱変性させると水晶体の張力が減少し,実臨床に近い前.切開を練習できる.を上昇させるが,高価であるため,本手法が広まるにはコスト面も含めたさまざまな課題が存在する.マイクロ波手術器を用いたウェットラボは,実際の眼科手術により近似した環境を創出できるため,眼科手術教育に広く寄与できると考える.文献1)ChigusaCH,CKurosakaCD,CUetsukiY:TeachingCcontinuousCcurvilinearCcapsulorhexisCusingCaCpostmortemCpigCeyeCwithCsimulatedcataract:JCCataractC&CRefractCSurgC27:C814-816,C20012)飽浦淳介:白内障手術教育の新しいツール机太郎.眼臨紀2:571,C20093)OseniCJ,CAdebayoCA,CRavalCNCetal:NationalCaccessCtoCEyeSisimulation:aCcomparativeCstudyCamongCUSCOph-thalmologyCResidencyCPrograms.CJCAcadCOphthalmolC15:Ce112-e118,C20234)德田芳浩:豚眼実習における模擬核の作り方カートンCNCRによる核の作製.眼科手術20:85-87,C20075)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,C20116)上甲覚:成熟白内障モデル眼の試作.あたらしい眼科C33:1801-1803,C2016

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 医療用コンタクトレンズ(1)

2025年1月31日 金曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く13.医療用コンタクトレンズ(1)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C1回として,フィッティングの評価方法や強膜レンズの課題,今後の展望に関する部分を解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は,医療用CCLの種類や対応疾患について1)紐解いていく.医療用コンタクトレンズの定義医療用CCLとは,基礎疾患または複雑な屈折状態の治療をおもな目的として装着するCCLである.眼鏡の必要性をなくすという美容目的以外の理由で処方されており,屈折異常を矯正する場合と矯正しない場合とがある.用途に応じて以下のように分類されている.・医療用またはCbandageソフトコンタクトレンズ(BSCL):眼不快感の治療,手術後または基礎疾患の治療中に角膜の創傷治癒を促すため,または眼瞼や睫毛などの機械的刺激から角膜を保護するために使用される.・リハビリテーション用CCL:強い屈折異常や角膜不正乱視などにより,眼鏡で十分な視力が得られない患者に処方される.外傷後や手術後などに視機能や外観を改善させるためのCCLもこのカテゴリーに含まれる.医療用コンタクトレンズの素材1880年代後半に屈折異常を矯正する最初のCCLが開発され,同じころ,円錐角膜患者の視力改善を目的としたCCLが医療用として用いられた.しかし,このCCLはガラス製の強膜レンズで,酸素を通さないため角膜浮腫と眼痛が問題となった.1950年代後半にはポリメチルメタクリレート(polymethyl-methacrylate:PMMA)製のレンズが治療用として使用されていたが,PMMAも酸素を通さない素材であったため,現在ではガス透過性素材に取って代わられた.(79)ソフトコンタクトレンズ(SCL)市場は,1970年代初頭にハイドロゲルCCLが導入されたが,連続装用に必要な酸素を角膜に供給することができなかったため,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲル(siliconehydro-gel:SiHy)製CSCLが開発され,現在,医療用CSCLまたはCBSCLとして使用が認められているCSCLはおもにSiHy素材である.医療用コンタクトレンズの種類ハードコンタクトレンズ(HCL):レンズの動きや小さなレンズ径,それに伴う涙液の不安定性により,眼表面疾患の治療用CCLとしては適さないが,角膜不正乱視を矯正できるため,視覚リハビリテーション用として使用されている.屈折異常や無水晶体眼の患者では,必要な度数を補うためにレンズが厚くなるので,レンズの酸素透過量が制限される.しかし,HCLはレンズが眼表面で動くことにより涙液交換が促進されるため,角膜全体を覆うCSCLよりも,大気中の酸素をより多く角膜に取り入れることができる.近年,強膜レンズのほうが装用感が良好であることから,角膜疾患に対するCHCL処方は,以前より減少傾向である.しかし,強膜レンズよりもCHCL装用の継続を希望する割合も一定数あり,疾患管理の選択肢の一つとしてCHCLが必要であることがうかがえる.強膜レンズはC2025年C1月現在,日本未認可である.ハイブリッドレンズ:中央にあるCHCLの部分で鮮明な視力を提供し,周辺部にレンズの安定性と快適性を高めるための柔らかいレンズスカートが融合している.初期のハイブリッドレンズは酸素透過率が低いため,角膜血管新生やレンズスカート接合部の破損が多かったが,近年では円錐角膜などの不正乱視や,角膜移植などの外科的治療後の患者に対する治療に有用であることが示唆あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C790910-1810/25/\100/頁/JCOPYされている.ハイブリッドレンズはC2025年C1月現在,日本未認可である.ピギーバックレンズ:手術や外傷などにより不正乱視や高度の屈折異常となった場合やCHCL不耐症などの場合に,医療目的でCSCLの上にCHCLを装着するシステムである.2枚のレンズ装用するため,レンズの選択時に十分に酸素供給の問題を考慮することが重要である.レンズや素材の技術革新に伴い,快適性,視力,生理機能の向上を目的とした多くのパラメータを操作することが可能となっている.強膜レンズ:強膜レンズは初めて開発されたCCLであり,治療目的で使用された初めてのCCLでもある.強膜レンズは,眼表面とCCLの間に防腐剤無添加の滅菌生理食塩水が満たされているため,角膜前面の収差が中和され,眼表面が潤い,眼瞼や睫毛などの機械的刺激から眼を保護することができる.そのため,角膜上皮疾患や円錐角膜などの不正乱視の視覚リハビリテーションや快適性のため,眼表面疾患に対する治療用など医療上重要な役割を担うことができる.急性期におけるBSCL角膜屈折矯正術後に使用されるCBSCLは,角膜表面切除術後の痛みを軽減し,瞬きによって生じる剪断応力から再生上皮を保護することで再上皮化を促進する.SiHyレンズは,ハイドロゲルレンズと比較して角膜の再上皮化が速く,患者の不快感が軽減するが,急性期におけるCBSCLの使用の欠点として,他のCCLの使用と同様に感染の可能性があり,管理には注意が必要である.また,LASIK術後はフラップの浮腫が生じるために,BSCL装用の継続が困難なこともある.角膜クロスリンキングで角膜上皮.離(epi-o.)を行った際に,BSCLを角膜上皮治癒の促進と術後疼痛の軽減のために使用する.角膜クロスリンキング後のCBSCLによる感染リスクはC0.0017~0.71%と非常に低いが,photorefractiveCkeratectomy(PRK)と比較し感染リスクが高い.このことは,円錐角膜にアトピー性皮膚炎の合併例が多いことが一因であると考えられている.遷延性角膜上皮欠損(persistentCepithelialdefect:PED)は,角膜上皮欠損がC2週間経過後も治療に反応しない場合をさす.PEDは医原性,手術合併症,神経麻痺性角膜症,眼表面疾患,感染症,外傷などさまざまな原因で生じる.BSCLは眼瞼からの機械的な刺激を減らし,角膜上皮の創傷治癒を促進するが,欠点としてレンズの位置ずれや微生物性角膜炎のリスクがあげられる.PEDに対するCBSCLとしてCSCLが使用されているが,長期の管理が必要な場合には強膜レンズを選択することが支持されている.角膜上皮.離および再発性角膜上皮びらん症候群(cornealepithelialerosionsyndrome:RCES)の患者に対して,損傷した角膜上皮を保護し再上皮化を促進するために酸素透過性の高いCBSCLがよく使用される.RCSE患者にとってCBSCL使用のおもなリスクは感染であり,炎症を抑えるためにステロイドを使用すると感染リスクが高くなるため,注意が必要である.角膜穿孔および角膜裂傷の患者にはフィブリンやシアノアクリレート組織接着剤が使用されることがある.接着剤の表面は粗く,圧迫や瞬きなどにより脱落する可能性があるため,BSCLを併用することで外科的な介入を回避できる場合がある.おわりに今回はCCLEARレポートの第C8章の前半を要約し解説した.医療用CCLはさまざまな疾患の治療や視力矯正だけでなく,手術後の疼痛軽減やの創傷治癒に必要なアイテムであり,医療用CCLの進歩を再確認する必要がある.文献1)YacobsCDS,CCarrasquilloCKG,CCottrellCPDCetal:CLEAR-MedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEye44:289-329,C2021

写真セミナー:基底細胞癌

2025年1月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史488.基底細胞癌奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①出血を伴う潰瘍形成②黒色の隆起病変図1初診時所見下眼瞼中央に黒色の潰瘍を伴った腫瘍が瞼縁まで広がっている.図3術中所見下眼瞼の腫瘍切除後,単純縫縮が困難であったため,Tenzel.apにて下眼瞼を延長し,切除断端を縫合した.図4術後前眼部写真腫瘍の再発なく,下眼瞼を再建できている.(77)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C770910-1810/25/\100/頁/JCOPY眼瞼悪性腫瘍は脂腺癌,基底細胞癌,扁平上皮癌が大半を占める.わが国の報告では,基底細胞癌は眼瞼悪性腫瘍の35.9%を占めるされており,発症頻度としては眼瞼脂腺癌と並ぶ1).基底細胞癌は皮膚に発症する腫瘍であり,眼では眼瞼縁,睫毛部付近に発症しやすい.肉眼的所見としては黒色の潰瘍,出血を伴う病変が典型である.リスク因子は日光,加齢,女性の喫煙歴などがあり,とくに日光が当たりやすい下眼瞼に発症しやすい.近年のオゾン層の破壊により,発症頻度は今後徐々に増加するとされている2).鑑別疾患は母斑,脂漏性角化症があり,腫瘍が小さい場合は診断がむずかしいこともある.基底細胞癌は一般的に局所浸潤が少なく,ゆっくり成長する悪性腫瘍である.眼窩内浸潤の発症率は少なく,1.6~2.5%程度とされているが,内眼角に発症した基底細胞癌は眼窩内浸潤の頻度が高いとされている3).治療は外科的切除が第一選択である.瞼縁にまで広がる場合は瞼板を含めた眼瞼全層切除が必要なため,欠損した眼瞼にはさまざまな再建方法(単純縫縮,遊離瞼板移植,Hughes.apなど)を駆使した前葉および後葉の再建が必要である.一方,瞼縁から離れた腫瘍の場合は,眼輪筋を含めた前葉の切除のみで可能であることが多い.腫瘍が眼窩内に浸潤している場合は眼窩内容除去を選択する.放射線療法が奏効する場合も多く,手術ができない場合や残存腫瘍に対し選択される.しかし,放射線療法の合併症としてドライアイや白内障,新生血管緑内障,放射線網膜症があり,重大な眼障害や失明を引き起こすことがある.症例はC79歳,女性.3年前より左下眼瞼に腫瘤を自覚していた.徐々に腫瘍が増大してきたため京都府立医科大学附属病院受診した.下眼瞼皮膚にC12Cmm大の潰瘍を伴う黒色の腫瘤を認めた(図1,2).肉眼所見より基底細胞癌と診断し,外科的手術を行った.SafetymarginとしてC1Cmmを含めた腫瘍切除を行い,切除断端同士を縫合する単純縫縮を試みたが,縫合不可能であったため,Tenzel.apを用いて再建した(図3).現在,術後C1年であるが,局所再発を認めることなく経過している(図4).基底細胞癌の予後は悪性腫瘍の中では比較的よい.全身転移はほとんどなく,0.03%程度と報告されている4).一方,局所再発はしばしば認められるが,切除断端陰性の場合の局所再発率はC1%未満である.断端陽性の場合は再発率が上がる.腫瘍が小さければ単純縫縮で手術は可能であり,術後合併症も少ない.しかし,放置すれば徐々に局所で拡大し,切除範囲も広がり,広範囲の再建が必要となる.本症例は腫瘍発症からC3年間経過して基底細胞癌の確定診断となった.小さい腫瘍では母斑などの良性腫瘍との鑑別が困難であるが,拡大傾向であれば病理学的検査を施行し,なるべく早期に診断をすることが重要である.文献1)GotoCH,CYamakawaCN,CKomatsuCHCetal:EpidemiologicalCcharacteristicsCofCmalignantCeyelidCtumorsCatCaCreferralChospitalinJapan.CJpnJOphthalmolC66:343-349,C20222)LinCHY,CChengCCY,CHsuCWMCetal:IncidenceCofCeyelidCcancersCinTaiwan:aC21-yearCreview.COphthalmologyC113:2101-2107,C20063)MadgeCSN,CKhineCAA,CThallerCVTCetal:Globe-sparingCsurgeryformedialcanthalBasalcellcarcinomawithante-riorCorbitalCinvasion.COphthalmologyC117:2222-2228,C20104)YinVT,MerrittHA,SniegowskiMetal:Eyelidandocu-larCsurfacecarcinoma:diagnosisCandCmanagement.CClinCDermatol33:159-169,C2015

加齢黄斑変性の予防

2025年1月31日 金曜日

加齢黄斑変性の予防PreventionofAge-RelatedMadcularDegeneration安川力*はじめに21世紀に入って光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,2008年以降には抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射(抗VEGF治療)が国内で承認され,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の視力予後は大きく改善した.その後,OCTの解像度が改善され,広角眼底カメラや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)も登場して画像診断の精度が向上した.そしてパキコロイド疾患という概念が登場し,病態理解も進んでいる.抗VEGF薬の種類も増え,最適な薬剤の使い分けや維持期の治療方法に関するエビデンスも蓄積してきた.そのような背景で2008年の「加齢黄斑変性の分類と診断基準」1)と2012年の「加齢黄斑変性の治療指針」2)を刷新して2024年9月の日眼会誌に「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」が報告された3).おもな改訂点として,①滲出型AMDを新生血管型AMDとよぶこととするなど用語体系の変更,②パキコロイド疾患の追加,③パキコロイド疾患なども考慮して診断基準の「50歳以上」の文言を削除,④前駆病変,滲出型,萎縮型としていたが時系列的な変化を意識できるよう早期,中期,後期,末期という病期分類を導入,などである.2012年のガイドラインでは,前駆病変や治療法のない萎縮型には「ライフスタイルと生活の改善やAge-ReratedEyeDiseaseStudy(AREDS)に基づくサプリメント摂取」が推奨される一方,滲出型AMDを発症した眼の僚眼の発症予防についての記載がなかったため2),医師が患者への予防の重要性の説明を怠ってしまう問題があった.そこで,新ガイドラインにおいては,病期分類を設定して,初期から末期に至るなかで僚眼の発症予防を徹底することの重要性が示されている2).企業主催の講演会や学会でさえ,治療眼に関する治療方針や治療後数年の治療効果に関する発表がほとんどであるが,依然としてAMDは視覚障害の原因疾患の第4位にあり4),超高齢社会においてAMDによる視覚障害から高齢者を守るために,予防医学にもっと目を向ける必要がある.I抗VEGF治療の限界現在では抗VEGF治療により,新生血管型AMDの多くの患者において,長期間の視力改善・維持が可能となった.一方で,抗VEGF治療の課題も浮き彫りとなってきている.まず,漿液性,出血性,線維血管性の網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を随伴する症例など治療に抵抗する患者が存在する.また,約半数の患者は易再発性で治療が長期におよぶ.このような患者では,黄斑萎縮か線維性瘢痕の形成により徐々に視力低下に至ることも多い5).その他,実臨床において高齢者疾患であるために,脳梗塞の既往で抗VEGF治療を控えたい患者,全身疾患の治療や入院により眼科への通院・加療の継続が困難な症例,抗VEGF治療の高額医療費に関連して治療を拒む患者な*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(71)71図2RPEの生理機能とAMDの病態仮説RPEは光線曝露環境下で視細胞外節が変性していくため,①古い外節先端部を定常的に貪食し,外節は内節側から新生する.②貪食した外節が含有するレチノイド(ビタミンCA)はリサイクルされる.③細胞膜由来の脂質はリポタンパク質として脈絡膜側へ放出される.④同時にCVEGFが分泌され,脈絡膜毛細血管を構築・保持する.しかし加齢変化として,生直後よりCRPE内に変性した物質がリポフスチンとして蓄積し,30代からCRPE下にリポ蛋白質や老廃物が沈着する.Bruch膜のCVEGFの透過率低下でCVEGFの発現が亢進し,沈着脂質は過酸化脂質となりフリーラジカルを生じる.沈着物排除のための補体活性化やマクロファージの影響によりCRPEの傷害とCVEGFの動態変化が関与して,その組み合わせでCAMDの病型が決定すると考えられる.(文献C10から改変引用)化)10).リポフスチンが生後まもなく頭頂部側から蓄積しはじめ,基底部側まで細胞質を占拠するC30歳頃から前述のリポ蛋白質の放出機構に支障が生じ,RPE直下と裏打ちするCBruch膜の間に沈着しはじめる(第二の加齢変化)(図2)10).沈着した脂質が疎水性の壁となって水溶性のCVEGFのCBruch膜の透過率を低下させ,脈絡膜毛細血管の脱落が生じてくる10).おそらく,代償性にRPEからのCVEGFの発現が亢進し,パキコロイドや黄斑新生血管誘導に関与していると考えられる.また,RPEは内部のリポフスチンおよび直下の過酸化脂質由来の酸化ストレスにさらされることとなる.また,RPE直下の脂質を主とする老廃物の排除やCBruch膜のメンテナンスのための慢性炎症として,補体の活性化やマクロファージや肥満細胞が関与していると考えられるが,諸刃の剣としてCRPE障害の要因となる.このように光線曝露を起点とする眼内の加齢変化により,酸化ストレス下でCRPEが障害を受ける要素と,発現亢進したVEGFの血管透過性亢進や血管新生を誘導する要素のバランスでCAMDのフェノタイプ(病型)が決まってくると考えられる(図2)10).CIVAMDの予防前項のようにCAMDの病態を考えた場合,「光線曝露」「酸化ストレス」がキーワードである.疫学研究から,「加齢」に続くCAMDの危険因子として「喫煙」が重要である11.13).喫煙はニコチンなどによる酸化産物の産生が関与していると考えられる.これらから導き出せる予防手段として,「遮光」「禁煙」「抗酸化サプリメント」などが考えられる.C1.禁煙喫煙は国内外の疫学研究で,AMDの危険因子であることがわかっている(国内のオッズ比:3.4)11.14).喫煙指数(1日の喫煙本数C×喫煙年数)が大きいほどリスクが高く,既喫煙者より現喫煙者のリスクが高く,禁煙後期間が長いほどリスクが低いことから,若年発症者などはできるだけ早期の禁煙が望まれる11,15).わが国のAMDが男性に多いことは,喫煙歴の男女差が交絡因子となっていることが疫学調査でわかっている14).また,喫煙とドルーゼンの有無に関連はなかったが,RPEの色素異常と関連を認めた.中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)も喫煙歴が関連している14).このように,喫煙は酸化ストレスを助長し,RPE障害を誘導することでCAMDの病態に関与していそうである.C2.抗酸化サプリメント米国で実施された前向き多施設無作為化比較試験であるCAREDSとCAREDS2で,抗酸化サプリメントの配合の最適な組み合わせや摂取量について調査された8,16).AREDSの結果,カテゴリーC2ではC1,063人中C5年以上の観察でCAMDを発症したのはC15人(1.3%)のみで,サプリメントを推奨するエビデンスは得られなかった.しかし,カテゴリーC3とC4を合わせたCAMDのC5年発症率はプラセボ群C28%,抗酸化物質(ビタミンCC・E/Cb-カロテン)摂取群C23%,亜鉛摂取群C22%,抗酸化物質+亜鉛摂取群C20%となり,プラセボ群と比べて抗酸化物質+亜鉛摂取群がもっともCAMD発症予防効果が高かった8).サプリメントの有害事象として,本試験で用いられた高容量の亜鉛(80Cmg)摂取による地図状萎縮の発生,男性の泌尿器系異常と貧血との関連が示唆された.また,b-カロテンは黄斑色素(ルテイン・ゼアキサンチン)と同類の脂溶性カロテノイドであり,脂質ミセルとともに小腸上皮のCSR-B1レセプターを介して体内に取り込まれると考えられ,Cb-カロテン摂取はルテイン・ゼアキサンチンの取り込みを競合阻害すると考えられた17).さらに,喫煙者のCb-カロテン摂取と肺癌のリスクの関連を示唆する報告があり問題提起されていた18,19).そこで,亜鉛を減量することが可能か,Cb-カロテンをルテイン・ゼアキサンチンに置き換えるとさらに有効かの検証が必要とされ,AREDS2が実施された.AREDS2ではカテゴリーC3とC4を対象に調査された16).本研究では,AREDSの配合内容に関して,亜鉛の減量とCb-カロテンの削除の影響を調査することと,ルテイン・ゼアキサンチンの追加効果のほかに,魚などに多く含まれるC~-3多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の追加74あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(74)効果についても調査された.AMDのC5年発症率は,ルテイン・ゼアキサンチンの追加摂取やCDHA・EPA追加摂取の有効性は示されなかった.ただし,サブ解析において,Cb-カロテン摂取あり群とCb-カロテン削除+ルテイン・ゼアキサンチン追加摂取群の比較ではハザード比C0.82となり,Cb-カロテンをルテイン・ゼアキサンチンに置き換えることの有効性が示された16).また,亜鉛のC25Cmgへの減量もCAMD発症率に影響しなかった.わが国ではサプリメントに含有できる亜鉛の上限の規制が厳しいので朗報である.結果として,現時点においてビタミンCC・E,ルテイン・ゼアキサンチン,亜鉛(低容量)の組み合わせのサプリメントが推奨される.一方でCDHA・EPAの追加意義が示されていない.AREDS2の結果に準じた国内販売のサプリメントとしては,オプティエイドCMLCMACU-LAR(わかもと製薬),サンテルタックスC20V(参天製薬),オキュバイトプリザービジョンC2(ボシュロム・ジャパン)などがあげられる.C3.わが国におけるサプリメント摂取の有用性2012年発表のわが国の治療指針では,サプリメント摂取は前駆病変と萎縮型CAMDに対してのみの記載であったため,多くの医師がカテゴリーC4に相当する後期AMDが発症した患者に対するサプリメント摂取や禁煙の推奨を怠る事態が問題であった2).2024年C9月に改訂された新ガイドラインにおいて,この問題は是正され,後期CAMDにおいても僚眼の予防のために禁煙とサプリメント摂取の推奨が明示された3).片眼が後期CAMD発症している患者においては,なおさら予防を徹底して生涯において僚眼発症を予防することは,QOL保持の観点では発症眼の治療と同等以上に大切である.アジアではアジア型CAMDともいえるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を含むパキコロイド疾患が多く,ドルーゼンを特徴とする欧米型CAMDとは疾患背景が異なることから,AREDS,AREDS2の結果をそのまま日本人に適応することはできないというのが予防指導を怠っていた医師の言い分である.しかし,病態を考えた場合,やはり疫学上,わが国においても喫煙がリスクであることはわかっているし12.14),CSCの患者でも喫煙歴のプロファイルはAMDと類似している20).また,前述のようにCJFAMstudyにおいて片眼が後期CAMDの僚眼に異常眼底自発蛍光を認める症例のC5年後期CAMD発症率がC30.4%であったが,発症リスク因子に関する多変量解析の結果,「サプリメント非摂取」がリスク(オッズ比C9.5)であることがわかった9).また,JFAMstudyグループで,半年以上網膜下液が遷延する慢性型CCSCに対してAREDS2に準じたサプリメントの摂取の有効性を調査した前向き無作為化多施設比較試験を実施したところ,サプリメント摂取群で摂取後C3カ月,6カ月の自然治癒率はそれぞれC20.0%,32.4%で,非摂取群のC9.5%,28.6%より良好であったが有意差は得られなかった.しかし,中心窩網膜厚と矯正視力はサプリメント摂取群で有意に改善した20).沢らは,片眼後期CAMD患者C39人にCAREDS2に準じたサプリメント(ルテインはC20Cmg配合)を半年摂取させて血漿中ルテイン濃度と黄斑色素量の経時変化を測定したところ,いずれかが交絡因子の可能性があるが,男性,現喫煙者,緑黄色野菜摂取が週1回以下の患者ほど血漿中ルテイン濃度は低い傾向にあり,サプリメント摂取で血漿中ルテイン濃度,黄斑色素量ともに上昇したと報告している21).このように,国内においてもサプリメントの有用性を示すエビデンスが存在する.疫学情報も加味して,新ガイドラインに沿って禁煙とサプリメント摂取はぜひ推奨してもらいたい.たとえエビデンスが不十分だと考えるとしても,有効であった場合には将来の発症率に影響を及ぼす,いわば「予防は未来に向けた治療である」ので,少なくとも,リスク・ベネフィットを考えて患者に情報提供を行うべきである.おわりにサプリメントは健康補助食品であり,「機能性表示食品」であっても消費者庁への届け出のみで販売可能である.販売者が示す安全性と有効性のエビデンスレベルは必ずしも高いものではないので注意が必要である.一方で,AMDで推奨されるサプリメントは治験に匹敵する大規模CstudyのCAREDS,AREDS2に基づくもので,診療ガイドラインにも盛り込まれているので,医師は医(75)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C75–

抗VEGF時代におけるPDTの位置づけ

2025年1月31日 金曜日

抗VEGF時代におけるPDTの位置づけCurrentStatusofPDTintheAnti-VEGFEra松本英孝*星野順紀*I光線力学的療法(PDT)とは光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は,中心窩下に新生血管を有する新生血管型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)の治療法として2004年から保険収載されている.光感受性物質であるベルテポルフィン6mg/m2(体表面積)を10分間かけて静脈内投与し,薬剤投与開始から15分後に非発熱性ダイオードレーザー〔波長689±3(平均値±標準偏差)nm,光照射エネルギー量50J/(照射出力600mW/cm2で83秒間)〕を眼底治療部位に照射する1).静脈内投与されたベルテポルフィンは血中のlow-densitylipoprotein(LDL)に結合する.新生血管の内皮細胞にはLDL受容体が豊富に存在するため,これを介してベルテポルフィンが内皮細胞に取り込まれる.この段階でレーザーを照射すると,ベルテポルフィンが活性化して活性酸素の一つである一重項酸素を放出し,血管内皮細胞を傷害することで血栓形成を促して新生血管を閉塞させる(図1).このため,正常網膜への影響を抑えながら新生血管のみに作用する治療とされている.IInAMDに対するPDTの有効性(海外と日本の臨床試験結果)predominantlyclassicCNV(用語解説参照)を有するnAMDを対象として欧米で行われたTreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynam-icTherapy(TAP)試験において,PDT群402例とプラセボ群207例の治療成績の比較が行われた2).その結果,両群とも視力低下がみられたものの,プラセボ群と比較してPDT群では1年後,2年後ともに視力低下の程度が有意に少ないということが明らかとなった.また,occultCNV(用語解説参照)を有するnAMDを対象として欧米で行われたVertepor.ninPhotodynamicTherapy(VIP)試験において,PDT群225例とプラセボ群114例の治療成績の比較が行われた3).この試験でも,両群とも視力低下がみられたものの,プラセボ群と比較してPDT群では2年後の視力低下の程度が有意に少ないという結果が得られた.これらの結果を踏まえて日本でJapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)試験が行われ,日本人のnAMDに対するPDTの1年間の治療成績が評価された4).結果,そのTAP試験やVIP試験とは対照的に平均視力の軽度改善がみられた.日本人のnAMDに多く含まれるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)が,PDTに対して良好な反応を示したことが原因と考えられている.その後,nAMDに対する抗血管内皮増殖因子(vascu-larendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療の有効性が報告されるようになった.欧米で行われたラニビズマブの第III相臨床試験であるMARINA試験とANCHOR試験で,nAMDに対するラニビズマブの毎月投与は視力の改善・維持に有効であることが示された5,6).とく*HidetakaMatsumoto&JunkiHoshino:群馬大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕松本英孝:〒371-8511前橋市昭和町3-39-5群馬大学医学部附属病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(63)63ビスダインを静脈内に持続投与ベルテポルフィンがLDLに結合LDLに結合したベルテポルフィンが新生血管に集積非発熱性レーザーを黄斑部病変に照射ベルテポルフィンが活性化し新生血管の内皮細胞が障害され閉塞一重項酸素を放出図1光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の作用機序(ビスダイン総合製品情報概要より改変引用)図2ポリープ状脈絡膜血管症に対するラニビズマブ併用光線力学的療法74歳,男性,左眼.ポリープ状脈絡膜血管症.a~d:治療前,視力(0.5).a:眼底写真:黄斑に網膜色素上皮の色素むらがみられる.b:光干渉断層計(bモード像).中心窩から鼻側にかけての扁平な網膜色素上皮.離と,その耳側に網膜色素上皮の急峻な隆起がみられ,網膜下液を伴っている.中心窩下脈絡膜厚は133μmである.c:フルオレセイン蛍光造影.網膜色素上皮萎縮に伴うwindowdefectと,軽度の蛍光漏出がみられる.d:インドシアニングリーン蛍光造影.中心窩から鼻側にかけての異常血管網と,その耳側にポリープ状病巣()がみられる.抗VEGF薬硝子体内注射の回数を減らしたいという患者希望があり,ラニビズマブ併用光線力学的療法を施行した.e~h:治療後3カ月,視力(0.6).e:眼底写真.治療前と著変ない.f:光干渉断層計.扁平な網膜色素上皮.離と網膜色素上皮の急峻な隆起の丈は低くなり,網膜下液は消退している.中心窩下脈絡膜厚は115μmに減少している.g:フルオレセイン蛍光造影.蛍光漏出は減少している.h:インドシアニングリーン蛍光造影.ポリープ状病巣は消失している.図3ブロルシズマブ抵抗例に対するアフリベルセプト併用光線力学的療法83歳,男性,左眼.ポリープ状脈絡膜血管症.Ca~d:治療開始C5カ月後(ブロルシズマブ計C4回投与後).視力(0.2).a:眼底写真.一部器質化した広範な網膜下出血がみられる.Cb:光干渉断層計(Bモード像).網膜下出血を反映した網膜下の中.高反射と,急峻な網膜色素上皮の隆起がみられる.中心窩下脈絡膜厚はC190Cμmである.Cc:フルオレセイン蛍光造影.網膜下出血による蛍光ブロックと黄斑に蛍光漏出がみられる.Cd:黄斑に活動性の高いポリープ状病巣がみられる.ポリープ状病巣を標的としたアフリベルセプト併用光線力学的療法を施行した.Ce~h:治療後C3カ月.視力(0.2).e:眼底写真.網膜下出血は減少し,黄斑上方から耳側にかけて網膜色素上皮裂孔がみられる.Cf:光干渉断層計.網膜下出血は減少し,網膜色素上皮の隆起の丈は低くなっている.中心窩下脈絡膜厚はC176Cμmである.Cg:フルオレセイン蛍光造影.網膜色素上皮裂孔に一致したCwindowdefectがみられる.黄斑の蛍光漏出は減少している.h:インドシアニングリーン蛍光造影.ポリープ状病巣は消失している.e図4中心性漿液性脈絡網膜症に対する照射エネルギー半量光線力学的療法66歳,男性,左眼.中心性漿液性脈絡網膜症.Ca:広角脈絡膜厚マップ(治療前).後極と下耳側の脈絡膜が肥厚している.b:広角脈絡膜厚マップ(照射エネルギー半量光線力学的療法後C3カ月).脈絡膜肥厚が減少している.Cc:広角脈絡膜厚差分マップ:治療後に後極と下耳側の脈絡膜厚が減少したことがわかる.Cd:広角光干渉断層計(治療前CBモード像).脈絡膜外層血管の拡張がみられ,黄斑に網膜下液を伴っている.中心窩下脈絡膜厚はC316Cμmである.Ce:広角光干渉断層計(治療C3カ月後CBモード像).網膜下液は消退している.中心窩下脈絡膜厚はC221Cμmに減少している.Cf:広角光干渉断層計(治療前Cenface像).黄斑の静脈血をドレナージする下耳側の渦静脈が拡張している.Cg:cとCfの重ね合わせ画像.治療後に黄斑と下耳側渦静脈の領域で脈絡膜厚が減少したことがわかる.(文献C21より改変引用)図5パキコロイド新生血管症に対するアフリベルセプト併用照射エネルギー半量光線力学的療法62歳,男性,左眼.パキコロイド新生血管症.Ca~c:治療前,視力(1.2).a:眼底写真:黄斑に漿液性網膜.離を伴う網膜色素上皮萎縮がみられる.Cb:光干渉断層計(Bモード像).脈絡膜外層血管の拡張を伴う脈絡膜肥厚(パキコロイド)がみられ,中心窩下脈絡膜厚はC330Cμmである.中心窩から鼻側にかけて扁平な網膜色素上皮.離がみられ,網膜下液を伴っている.Cc:光干渉断層血管撮影:扁平な網膜色素上皮.離の下に黄斑新生血管網が描出される.パキコロイド新生血管症の診断のもと,アフリベルセプト併用照射エネルギー半量光線力学的療法を施行した.Cd~f:治療後C3カ月,視力(1.2).e:光干渉断層計:網膜色素上皮.離の丈は低くなり,網膜下液も消退している.中心窩下脈絡膜厚はC274Cμmに減少している.Cf:光干渉断層血管撮影:黄斑新生血管は存続している.Cg~i:治療後C12カ月,視力(1.2).h:光干渉断層計:網膜下液の再発はない.中心窩下脈絡膜厚はC246Cμmで脈絡膜厚の再増加もない.i:光干渉断層血管撮影:黄斑新生血管は存続している.(文献C23より改変引用)■用語解説■ClassicCNV:フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)の用語で,早期は境界明瞭,後期にかけて旺盛な蛍光漏出を示す脈絡膜新生血管をさす.COccultCNV:FAの用語で,早期は境界不明瞭で,後期にかけて軽度の蛍光漏出を示す脈絡膜新生血管をさす.CTreatandextend:抗CVEGF薬治療における維持期の投与間隔調節方法の一つ.疾患活動性に応じて投与間隔の延長や短縮を行い,計画的に治療していく方法.-

抗VEGF療法の実際(2)

2025年1月31日 金曜日

抗VEGF療法の実際(2)CurrentAnti-VEGFTreatmentStrategiesforAMD井上麻衣子*はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)に対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が認可されて15年以上が経過した.その間にさまざまな抗VEGF薬が認可され,現在は抗VEGF薬の戦国時代といっても過言ではない.われわれ眼科医はそれぞれの抗VEGF薬の特徴や用法を理解し,もっとも患者に適した薬剤を選択して,長期的にnAMD患者の視力を保つ必要がある.本稿ではnAMDの病型,最適な抗VEGF薬,治療にあたってのコツ,治療抵抗例の対応などについて解説する.IAMDの病型nAMDは脈絡膜新生血管(choroidalneovasculariza-tion:CNV)が生じることで出血や滲出性変化が生じ不可逆的に視力が低下すると定義されていたが,2020年にSpaideらが,網膜由来の新生血管もあるため齟齬が生じるということで,CNVではなく黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)に用語を変更した1).わが国でも2024年にAMDの診療ガイドラインが改訂されたが,今まで使用されていたCNVという用語を使わず,MNVを使用している点が大きな変更点である.MNVは1~3型に分類され,光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を用いて診断する.網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)より下にMNVがあると1型,RPEより上にMNVがあると2型,網膜内の新生血管が網膜・RPE下に進展していくタイプが3型と分類できるが,1型と2型の混在した1型+2型もみられる(図1).検査機器を用いてMNVのタイプを分類することは薬剤選択,視力予後の予測などにかかわるため非常に重要である.II病変の活動性を見きわめるいずれのMNVタイプにおいても早期発見・早期治療が長期視力維持のためには重要であるため,治療のタイミングを見きわめることは大事である.治療を開始するタイミングは病変の活動性があるか否かであり,MNVを有していても活動性がない場合もあるので,OCTや検眼鏡所見で活動性の有無を判断することが大事である.筆者が活動性の目安として注目する所見はおもに・Fluid〔網膜内液(intraretinal.uid:IRF),網膜下液(subretinal.uid:SRF),RPE下液(sub-RPE.uid)〕・出血・網膜下高輝度物質(subretinalhyprere.ectivemate-rial:SHRM)・Lipidである(図2).これらの所見を確認し,活動性があると判断できた場合は治療を開始する.MNVのみが存在し,その他の所見はなく活動性がない場合(quiescentMNV)であっても,今後悪化する場合もあるので定期*MaikoInoue:横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科〔別刷請求先〕井上麻衣子:〒232-0024神奈川県横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(55)55FA:フルオレセイン蛍光造影,IA:インドシニアグリーン蛍光造影図1各病型・病変タイプの眼底写真,蛍光造影,OCTa:1型MNV.b:2型MNV.c:1型+2型MNV.d:3型MNV.e:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV).IRF:網膜内液,SRF:網膜下液,SHRM:網膜下高輝度物質図2病変の活動性を表すOCT所見と眼底写真2例表1nAMDに使用可能な各製剤の特徴製品名(一般名)ルセンティス(ラニビズマブ)アフリベルセプトC2Cmg(アイリーア)ブロルシズマブ(ベオビュ)ファリシマブ(バビースモ)ラニビズマブCBSアフリベルセプト(8mg)販売開始年2009年2012年2020年2022年2021年2024年適応疾患加齢黄斑変性網膜静脈閉塞症近視性CCNV糖尿病黄斑浮腫未熟児網膜症加齢黄斑変性網膜静脈閉塞症近視性CCNV糖尿病黄斑浮腫血管新生緑内障未熟児網膜症加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症加齢黄斑変性近視性CCNV糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫用法(AMD)導入期:1カ月ごとに3回維持期:適宜調節導入期:1カ月ごとに3回維持期:2カ月ごとだが適宜調節導入期:1カ月ごとに3回維持期:3カ月ごと導入期:1カ月ごとに3回~4回維持期:4カ月ごと導入期:1カ月ごとに3回維持期:適宜調節導入期:1カ月ごとに3回維持期:4カ月ごと阻害する因子CVEGF-AVEGF-A,VEGF-B,PlGFCVEGF-AVEGF-A,Ang-2CVEGF-AVEGF-A,VEGF-B,PlGFキット製剤有有有無有無薬価¥C103,229¥C137,292¥C130,951¥C163,894¥C74,282¥C181,763(各薬剤添付文書より抜粋.2C024年C10月現在)1型MNVPCV,PNVブロルシズマブ抗VEGF薬併用PDTも考慮2型MNV3型MNVラニビズマブ(ラニビズマブBS)スイッチングファリシマブスイッチングスイッチングアフリベルセプト(8mg)アフリベルセプト(2mg)ブロルシズマブファリシマブアフリベルセプト(8mg)Treatandextendで行い,16週間隔が2~3回続いたら中止を提案してみる.図3薬剤の使い分け(筆者の私見)CNV:脈絡膜新生血管,PCVポリープ状脈絡膜血管症,PNV:パキコロイド新生血管症.Baseline右眼視力=(1.2)①抗VEGF薬A4W右眼視力=(1.0)②抗VEGF薬A10W右眼視力=(0.7)③抗VEGF薬A14W右眼視力=(0.7)①抗VEGF薬B19W右眼視力=(1.0)図4薬剤の反応が悪くスイッチングした症例抗CVEGF薬を導入期治療でC3回施行したが,形態学的に変化がなかったため,他の抗CVEGF薬に切り替えたところ滲出性変化が改善し,その後も再発なく経過した.(59)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C59図5陳旧例のAMDのOCT所見と眼底写真視力(0.1)であり,治療のメリットはないと判断した.-

抗VEGF療法の実際(1)

2025年1月31日 金曜日

抗VEGF療法の実際(1)Real-WorldApplicationsofAnti-VEGFTherapy片岡恵子*はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCageCrelatedCmaculardegeneration:nAMD)の現在の標準的治療は抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)薬の硝子体内投与である.抗CVEGF薬により滲出性変化を抑制することで,視力改善と長期にわたり改善した視力を維持できる時代となった.一方,実臨床では不十分な治療で視力が低下してしまう例もまだある.本稿では,長期にわたり良好な視力を維持することを目標として,実際どのように治療しているかを私見を交えて解説する.CI抗VEGF薬の選択現在,抗CVEGF薬はバイオシミラーを含めてC6種類が発売されているが,未治療のCnAMDにまずどの薬剤を使用するかは議論の分かれるところである.私見ではあるが,ラニビズマブ(ルセンティスもしくはラニビズマブCBS)は,日本人に多いポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)においてポリープ状病巣の閉塞率がC35%程度とやや低いことや1),ブロルシズマブに関連する眼内炎症が高率であることなどを総合して2),第一選択薬としてはアフリベルセプト2Cmg(アイリーア)もしくはファリシマブ(バビースモ)を使用している.全身の抗CVEGF薬の全身暴露量を配慮し,Fc受容体をもたないラニビズマブ,もしくはCFc受容体を改変してあるファリシマブを脳梗塞など基礎疾患のある患者や高齢者に使用するようにしている3).ただし,抗CVEGF薬の全身暴露量と安全性に関しては未だ結論は出ていない.高濃度のアフリベルセプトC8Cmgを第一選択とするかどうかは,今後の臨床データ次第である.病型による薬剤の使い分けは行っていない.CII治療レジメン導入期とは,1カ月ごとにC1回,通常連続C3回(薬剤によってはC4回)の投与を行うことで視力の改善を図る時期とされる4).維持期とは改善した視力の安定化,維持を行う期間である.nAMDは完治しない疾患であることからも,維持期は生涯にわたり続くことを患者と共有しておく必要がある.現在,長期的に視力を維持できる方法として推奨されるのはCtreatCandextend投与法である.すでにシステマティックレビューおよびメタ解析の結果から必要時投与法(proCrenata:PRN)では視力成績が劣ると示されていることは知っておきたい5).実際の筆者の施設でのCtreat-and-extend投与法の例を図1に示す.眼底検査と黄斑全体もしくは病変全体をスキャンした光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)にて,網膜下液,網膜内液,網膜色素上皮下液の各C.uid,フィブリンや出血などの網膜下高輝度物質(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)の有無により活動性を評価し,滲出性変化が消失したら延長を開始する.そのため,3回連続投与後も滲出が残る場合は引き続き毎月投与が必要になる症例もある.ま*KeikoKataoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(49)C49図1Treatandextend投与の実際図2滲出性変化の有無a:網膜下液や硬性白斑,急峻に突出する網膜色素上皮.離がみられる.網膜色素上皮.離の内部には網膜色素上皮下液とともにリング状の構造がみられる.Cb:抗CVEGF薬を毎月連続C4回投与後C1カ月のCOCT.網膜下液は減少し,網膜色素上皮.離の丈は低くなったが,網膜色素上皮下液はまだ残存している.5回目の抗CVEGF薬を投与した.Cc:bのC1カ月後のCOCTである.網膜下液も網膜色素上皮下液も消失した.図3網膜色素上皮下液の増大は出血の前兆と考えられる症例a:抗CVEGF薬C3回目注射時.滲出性変化はみられない.Cb:aのC4週後に網膜色素上皮下液がわずかに増加した.この時点でC4回目の抗CVEGF薬を投与した.Cc:bからC8週後に網膜下および網膜色素上皮下出血が出現した.Cd:眼底写真でC1乳頭径程度の黄斑下出血がみられる.24回目投与26回目投与7週7~8週36回目投与1回目投与4~6週間隔(3年4カ月時点)8週間隔(3年8カ月時点)間隔間隔(5年時点)9週間隔図4Treatandextendにて治療をした症例a:治療開始時に網膜下高輝度物質(SHRM),網膜下液,網膜色素上皮下液がみられた.b,c:4.6週間隔で投与を継続してC24回目の投与時に滲出性変化は消失している(Cb).その後C8週間に投与間隔を延長したところ,26回目の投与時(Cc)に網膜色素上皮下液が再出現したため,いったんC7週へ短縮した.Cd:しばらくC7.8週間隔で投与を継続し,5年の時点で視力は(1.2)となり,OCTでもCellipsoidzoneが一部回復している.図5薬剤の切り替えが奏効した症例a,b:左眼,視力(0.8).a:6週ごとにアフリベルセプトC2.mgを投与しても網膜下液が残存した.この時点でブロルシズマブへ切り替えた.b:aのC6週後に網膜下液が消失し,網膜色素上皮.離の丈も減少した.図6疾患活動性がコントロールされず増悪が続いた症例10年間でアフリベルセプトC2Cmg81回,ファリシマブ4回,ブロルシズマブC3回,アフリベルセプトC8Cmgを3回施行したものの,すでに疾患活動性のコントロールがつかない状況まで悪化した.もっともよい視力は(1.2)まで上昇したが,滲出と出血を繰り返し,(0.1)まで悪化した.Ca:脂質を多く含む滲出性変化と網膜出血も少量みられる.Cb:が示す部位のCOCT画像では,網膜内液と中心窩から下方にかけて多峰性の網膜色素上皮.離が広範囲に広がっていることがわかる.-

抗VEGF薬の種類と特徴

2025年1月31日 金曜日

抗VEGF薬の種類と特徴TypesandCharacteristicsofAnti-VEGFDrugs政岡未紗*山城健児*はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)は,高齢者における主要な失明原因の一つであり,新生血管の異常な増殖が関与する進行性の病態である.新生血管が脆弱なため,滲出液や出血がみられると視力低下や中心暗点が生じ,放置すれば不可逆的な視力喪失を招くため,早期の治療が不可欠である.その治療の中心として,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の働きを抑制する抗VEGF薬が用いられている.抗VEGF薬は,VEGFの過剰な作用を抑えることで新生血管の発生を防ぎ,漏出や炎症を抑える効果ももつ.2024年10月現在,わが国の臨床で使用可能な抗VEGF薬にはラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブ,ファリシマブがあり,それぞれ標的とするサイトカインや分子量,構造が異なるために,作用の持続期間や副作用のリスクなどにも異なる特徴がある.このようなさまざまな抗VEGF薬が登場してきたことで,導入期治療による視力改善だけではなく,その後の長期的な視力維持をめざすことができる時代となった.本稿では,わが国で現在使用可能な抗VEGF薬の種類と特徴を概説し,とくにnAMDの病態においてそれぞれの薬剤が果たす臨床的意義について解説する.I抗VEGF薬の種類わが国で使用可能な抗VEGF薬を表1に示す.以降では各薬剤の概要および分子構造,作用機序,留意点などについて述べる.1.ラニビズマブ(商品名:ルセンティス,ラニビズマブBS)2009年にルセンティス硝子体内注射液10mg/mlが発売され,2014年にルセンティス硝子体内注射用キット10.mg/mlが発売されている.ラニビズマブBSはルセンティスのバイオシミラー(バイオ後続品)であり,ラニビズマブBS硝子体内注射用キット10mg/mlが2021年に発売された.後発医薬品(ジェネリック医薬品)は有効成分の分子量が小さく構造が単純なため,先発医薬品と同一の有効成分を製造できるのに対して,バイオシミラーの有効成分は分子量が大きく構造が複雑なため,先行バイオ医薬品と比較した臨床試験で品質,安全性,有効性が同等性または同質性が証明されたあとに発売される.ラニビズマブは,VEGFの活動を阻害することで血管新生を抑制し,漏出や炎症を抑える抗体フラグメントである.以下に,その分子構造と作用機序を詳しく述べる.a.分子構造と作用機序(図1,2)ラニビズマブは,ヒト免疫グロブリン1(IgG1)抗体のfragmentantigenbinding(Fab)フラグメント(抗原結合部位)のみを含み,fragmentcrystallizable(Fc)領域が欠損している.このため,ベバシズマブなどのフルサイズ抗体と比較し,分子サイズが小さい(約48kDa)*MisaMasaoka&KenjiYamashiro:高知大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕政岡未紗:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(41)41表1国内で使用可能な抗VEGF薬一般名RnibizumabラニビズマブA.iberceptアフリベルセプトBrolucizumabブロルシズマブFaricimabファリシマブRanibizumabラニビズマブA.iberceptアフリベルセプト製品名ルセンティスアイリーア2.mgベオビュバビースモラニビズマブBSアイリーア8.mg国内販売開始2009年2012年2020年2022年2023年2024年薬剤の分類Fab遺伝子組み換え蛋白製剤scFv二重特異性抗体Fab遺伝子組み換え蛋白製剤阻害する因子VEGF-AVEGF-APlGFVEGF-BVEGF-AVEGF-AAngiopoietin-2VEGF-AVEGF-APlGFVEGF-B分子量48.kDa97-115kDa26.kDa149.kDa48.kDa97-115kDa分子構造VLVHCLCH1CH2CH2CH3CH3VLVHVHVHVLVLCLCH1CH1CLCH2CH2CH3CH3VLVHCLCH1CH2CH2CH3CH3モル数の比11.723411.7用量0.5.mg2.0.mg6.0.mg6.0.mg0.5.mg8.0.mg価格¥103,229(キット)¥131,539(バイアル)¥137,292(キット)¥145,935(バイアル)¥130,951(キット)¥163,894(バイアル)¥74,282(キット)¥181,763(バイアル)製造会社ノバルティスファーマバイエルノバルティスファーマ中外製剤千寿製薬バイエルマウス抗VEGF-Aモノクローナル抗体Fab領域Fc領域VEGF:血管内増殖因子,Fab:fragmentantigenbinding,Fc:fragmentcrystallizable.図1ラニビズマブの分子構造遺伝子状の操作で,ヒトFabのフレームワークにマウス抗VEGF-A配列を挿入することでヒト化し,それの親和性を140倍に増強させた.VEGF-AVEGF-BPIGFAngVEGFR-1VEGFR-2Tie2ラニビズマブ脈絡膜血管内皮細胞図2ラニビズマブの作用機序ラニビズマブは,VEGFR-1とCVEGFR-2に結合するCVEGF-Aと結合してCVEGFの作用を阻害するため,CNVの形成および血管透過性が抑制される.VEGFR-1VEGFR-2VEGFR-1抗VEGF抗体(ヒトIgG1)アフリベルセプト2Fab領域456Fc領域VEGF:血管内増殖因子,VEGFR-1:VEGF受容体-1,VEGFR-2:VEGF受容体-2.図3アフリベルセプトの分子構造VEGFR-1およびCVEGFR-2は,細胞外の七つのCIgドメインと細胞内のチロシンキナーゼドメイン受容体である.アフリベルセプトは,VEGFR-1の第C2Igドメイン,VEGF-2の第C3IgドメインおよびヒトCIgG1のCFcをもつ遺伝子組換え融合糖蛋白質である.VEGF-AVEGF-BPIGFAngVEGFR-1VEGFR-2拡大Tie2アフリベルセプト脈絡膜血管内皮細胞図4アフリベルセプトの作用機序アフリベルセプトは,VEGFR-1とCVEGFR-2に結合するCVEGF-AおよびCVEGFR-1に結合するVEGF-B,PlGFに結合し,血管新生や血管透過性の亢進を抑制する.VEGF-Aに特異的かつヒト化抗ヒトVEGF-A高親和性を示すウサギでモノクローナル抗体ブロルシズマブ作製した抗体を選択V領域Fab領域(可変領域)相補性決定領域C領域リンカーペプチド(定常領域)一本鎖抗体フラグメントFc領域(scFv)VEGF:血管内増殖因子,Fab:fragmentantigenbinding,Fc:fragmentcrystallizable,V領域:Variableregion,C領域:Constantregion.図5ブロルシズマブの分子構造ブロルシズマブはヒト化抗ヒトCVEGF-Aモノクローナル抗体から作られた一本鎖抗体フラグメント(scFv)である.VHとCVLがリンカーペプチドで結合されている.VEGF-AVEGF-BPIGFAngVEGFR-1拡大VEGFR-2Tie2ブロルシズマブ脈絡膜血管内皮細胞図6ブロルシズマブの作用機序ブロルシズマブは,VEGFR-1とCVEGFR-2に結合するCVEGF-Aと結合してCVEGFの作用を阻害するため,CNVの形成および血管透過性が抑制される.抗VEGF-A抗体抗アンジオテンシン抗体V領域(可変領域)CrossMab技術でファリシマブ重鎖と軽鎖のV領域を交換VEGF:血管内増殖因子,Ang:アンジオテンシン,Fab:fragmentantigenbinding),Fc:fragmentcrystallizable,V領域:Variableregion.図7ファリシマブの分子構造ファリシマブは,CrossMAb技術を用いて創製されたヒト化二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)で,VEGF-Aと結合する抗CVEGF-AFabとCAng-2と結合する抗CAng-2Fabが同一分子内に存在する.さらに,IgG1分子のCFc領域は改変されている.VEGF-AVEGF-BPIGFAngVEGFR-1拡大VEGFR-2Tie2ブロルシズマブ脈絡膜血管内皮細胞図8ファリシマブの作用機序ファリシマブは,VEGFR-1とCVEGFR-2に結合するCVEGF-AおよびCVEGFの感受性を高めるCAng-2と結合してCVEGFの作用を阻害するため,CNVの形成および血管透過性が抑制される.

新生血管型加齢黄斑変性の診断

2025年1月31日 金曜日

新生血管型加齢黄斑変性の診断DiagnosisofNeovascularAge-RelatedMacularDegeneration森隆三郎*はじめに2024年の日眼会誌に「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」1)(以下,新ガイドラインと表記)が掲載された.これまでわが国では2008年の「加齢黄斑変性の分類と診断基準」2)および2012年の「加齢黄斑変性の治療指針」3)(以下,旧ガイドラインと表記)に基づいて加齢黄斑変性(age.relatedmaculardegeneration:AMD)の診断と治療が行われてきたが,今後は新ガイドラインを基に診療を行うことになる.新ガイドラインは日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループにより作成され,画像も豊富で細かな解説もなされているので,PDFをダウンロードして一読することを推奨する.本稿ではカラー眼底写真,光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA)を中心に,新生血管型加齢黄斑変性(neo-vascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)の診断について新ガイドラインに則って解説する.I新ガイドラインで押さえるべきポイント1.AMD分類の改訂旧ガイドラインでは,AMDを萎縮型AMDと滲出型AMDに分類していたが,新生血管があるが滲出性変化がない状態のAMDが存在することから,新ガイドラインでは萎縮型(atrophic)AMDと新生血管型(neovascu-lar)AMDに分類している.表1新ガイドラインのMNVの分類分類,病型などMNVの位置(深さ)1型MNV網膜色素上皮下PCVポリープ状病巣あり2型MNV網膜色素上皮上から網膜下1+2型MNV網膜色素上皮上下に混在3型MNV(RAP)網膜血管から生じる2.「脈絡膜新生血管」を「黄斑新生血管」に従来は新生血管型AMDにみられる黄斑部の新生血管を脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)としていたが,黄斑部の網膜血管由来の新生血管も含まれることから,国際的にも黄斑新生血管(macu-larneovascularization:MNV)とすることが多くなっており4),新ガイドラインではCNVではなくMNVとしている.3.MNVの分類旧ガイドラインでは,滲出型AMDをポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)を特殊型,それ以外を典型AMDと分類し,治療については,その病型別に抗血管内皮増殖因子(vascu-larendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT),および両者の併用療法が推奨治療として組み込まれてい*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(31)31dc図11型MNVの所見(MNVはOCTで,網膜色素上皮の不整な隆起部位はOCTAで確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に灰白色病巣()と網膜色素上皮.離(PED)を認める.().b:OCT.網膜色素上皮の不整な隆起と網膜色素上皮下にMNVを示唆する高反射病巣を伴う.brovascularPED()と漿液性網膜.離(SRF)を認める.c:OCTA.脈絡毛細血管板レベルのセグメンテーションの範囲にMNVを認め(),Bスキャンで網膜色素上皮下にMNVの血流が確認できる().d:フルオレセイン蛍光造影(FA)後期..brovascularPEDの蛍光漏出を認めるが,MNVの範囲は不明である.e:インドシアニングリーン蛍光造影(IA)後期.PED内にMNVを示唆する面状の過蛍光を認める().c図22型MNVの所見(subretinalhyperre.ectivematerial(SHRM)内のMNVをOCTAのBスキャンで確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認める().b:OCT.中心窩下に漿液性網膜.離(SRF,),網膜色素上皮上にMNVとフィブリンを示唆する高反射病巣(SHRM)を認める(,).c:OCTA.網膜外層レベルのセグメンテーションの範囲にMNVの血管を認め(),BスキャンでSHRM内のMNVの血流を確認でき,SHRM内のフィブリンとMNVは分離して捉えることができる().d,e:FA.早期(d)からMNVの血管網を鮮明に認め,後期(e)に旺盛な蛍光色素漏出に伴う過蛍光を呈するClassicCNV.図33型MNVの所見(軟性ドルーゼン上の網膜内浮腫をOCTで,網膜内MNVをOCTAで確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に多発する軟性ドルーゼンを認めるが滲出の有無は不明.b:OCT.軟性ドルーゼンは隆起した網膜色素上皮内に高反射病巣として認め(),中心窩に網膜内浮腫(IRF,),網膜内に新生血管を示唆する高反射病巣()を認める.c:OCTA.網膜外層レベルのセグメンテーションの範囲にMNVを認め(),Bスキャンで網膜色素上皮上にMNVの血流が確認できる().d,e:FA(d)およびIA(e)で超早期に網膜血管と吻合するType3MNVを認める().c図43型MNVの所見(網膜浅層出血を伴う網膜色素上皮.離(PED)をOCTで,網膜内~下MNVをOCTAで確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に網膜浅層出血を伴うCPEDを認める().b:OCT.上段に網膜内浮腫(IRF,),網膜内に新生血管を示唆する高反射病巣()を認める.下段に大型のCPED()を認める.Cc:OCTA.脈絡毛細血管板レベルのセグメンテーションの範囲にCMNV()を認め,Bスキャンで網膜色素上皮上にCMNVの血流が確認できる().図5PCVの所見(ポリープ状病巣をOCTとOCTAのマニュアル解析で確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に出血を伴う橙赤色病巣を認める().b:OCT.中心窩下に漿液性網膜.離(SRF,),網膜色素上皮上の急峻な立ち上がりを示すポリープ状病巣を認める().c:OCTA.セグメンテーションのラインを網膜色素上皮下から網膜下に設定し(),異常血管網()とポリープ状病巣()の両方が検出できる.Bスキャンで異常血管網()とポリープ状病巣()の血流を確認ができる.Cd:IA.異常血管網()とポリープ状病巣()を鮮明に認める.図6PCVの所見(網膜色素上皮裂孔を眼底自発蛍光とOCTで確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部耳側に出血()と灰白色病巣伴う橙赤色病巣()を認める.Cb:FAF.RPE欠損部位は低蛍光として認める().c:OCT.中心窩下に漿液性網膜.離(SRF,),網膜色素上皮上の急峻な立ち上がりを示すポリープ状病巣()異常血管網を示唆するダブルレイヤーサインを認める().網膜色素上皮欠損部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認める().Cd:FA.網膜色素上皮欠損部位は早期から過蛍光を示す().e:IA.網膜色素上皮欠損部位は境界鮮明な過蛍光を示し(),ポリープ状病巣()は鮮明に検出される.図7大型の網膜色素上皮.離(PED)の所見(OCTでPED辺縁のノッチの有無でMNVの有無を確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部にCPEDを認める().b:OCT.黄斑部に大型のCPEDを認めるが,PED内にCMNVを示唆する高反射病巣()とCPED辺縁にノッチを認めず(),MNVの存在は否定できる.Cc:FA後期.PED内は色素貯留(pooling)による過蛍光を認めるがCMNVの存在は不明.Cd:IA後期.PED内にCMNVを示唆する所見は認めず,PED内は下液に伴う蛍光遮断(block)による低蛍光を示す.dec図8PNV(type1MNV)(PNVと中心性漿液性脈絡網膜症との鑑別は,OCTAでMNVを確認する)a:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離(SRF)を認める().b:OCT;SRF()を伴う網膜色素上皮の扁平隆起()および脈絡膜中大血管の拡張を伴う脈絡膜肥厚を認める().c:OCTA.脈絡毛細血管板レベルのセグメンテーションの範囲にCMNVを認め(),Bスキャンで網膜色素上皮下にCMNVの血流が確認できる().d:FA後期.びまん性の蛍光漏出を認める.Ce:IA後期.MNVを示唆する面状の過蛍光を認める.-部の範囲となっている.OuterRetina層は,正常眼では網膜血管が存在しないため,血管が描出されればRPEから網膜側に隆起したCMNVの存在が示唆されるが,下縁がCBruch膜上部までの範囲で,RPEより上にMNVが存在するC2型CMNV(図2)だけでなく,RPEより下にCMNVが存在するC1型CMNVも描出される.つまり,自動層別解析のCOuterRetina層の画像は,MNVの有無を確認するためにある.ChoroidCapillary層は,Bruch膜上部から下部の範囲となっているが,RPEよりやや深い部分に存在するC1型CMNV(図1)やCPCVの異常血管網が検出される.MNVの存在の有無については,自動層別解析で得られる画像で簡便に確認できるが,MNVの正確な大きさや位置の深さについては,マニュアル解析で詳細に確認する必要がある.OCTAのマニュアル解析は,得られた画像を読影する際に,血流を示す赤色部位を表示したCBスキャンの画像を確認しながらセグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらし解析する手段でCMNVがCRPEより上の網膜下にあるのかCRPEの下にあるのかを証明できるとする報告が以前よりある13).さらにCprojectionアーチファクトによる偽血管の有無を確認できる(projectionアーチファクトは,網膜内層血管がそれより深層に影となって映り込む現象で,実際にはその層には存在しない血管を描出してしまうので読影を困難にさせるアーチファクトの一つである14)).セグメンテーションの幅を任意に設定する(たとえばスキャン幅を大きくする)ことにより,部位により深さが異なるCMNVでも全体像を描出できる.カラー眼底で黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認め,OCTで高反射病巣(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)の所見を認めた場合にCSHRM内のフィブリンとCMNVは一塊となり所見の分離はできないため,OCTAマニュアル解析をする.BモードでSHRM内の深部にCMNVの血流を確認し,フィブリンと分離して捉えることができる(図2).PCVのポリープ状病巣(図5)や3型MNV(図3,4)についてもCOCTABスキャンによる高度の検出が可能との報告もあり15,16),これが,MNVの存在を確認するのにすべての患者にCFAとCIAが必須とならない理由になる.おわりにPNVはCOCTAによる診断が容易となり,抗CVEGF薬注射やCPDTを施行する機会も多くなってきているが,PNVのCAMDとしての位置づけがわが国では明白でなかった.しかし,新ガイドラインには,アジア人のMNVは欧米とは異なる病態も多いことを考慮し,新生血管型CAMDにCPNVを含めたとする記載があり,躊躇なくCAMDとしての保険治療が可能となった.新ガイドラインにはCPNV以外にも多くの新しい情報が記載されている.これからは網膜疾患専門医でなくても,新生血管型CAMDを病型に分類し正しく診断する必要があるが,新ガイドラインには新生血管型CAMDに伴う所見の検出方法についても,多くの画像と検査機器ごとの所見の解説がわかりやすく提示されている.新ガイドラインを参照し,新生血管型CAMDの診断を確実なものとしたい.文献1)飯田知弘,五味文,安川力ほか;日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌128:680-698,C20242)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,C20083)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌C116:1150-1155,C20124)SpaideRF,Ja.eGJ,SarrafDetal:Consensusnomencla-tureforreportingneovascularage-relatedmaculardegen-erationdata:consensusonneovascularage-relatedmacu-larCdegenerationCnomenclatureCstudyCgroup.COphthalmologyC127:616-636,C20205)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,C20056)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.Retina33:1659-1672,C20137)PangCE,FreundKB.Pachychoroidneovasculopathy.Ret-inaC35:1.9,C20158)CheungCCMG,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:Pachychoroiddisease.Eye(Lond)C33:14-33,C20199)YanagiY:Pachychoroiddisease:aCnewCperspectiveConCexudativemaculopathy.JpnJOphthalmolC64,C202010)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeatures38あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(38)-

萎縮型加齢黄斑変性の診断と治療

2025年1月31日 金曜日

萎縮型加齢黄斑変性の診断と治療DiagnosisandTreatmentOptionsforGeographicAtrophyAssociatedwithAge-RelatedMacularDegeneration上田奈央子*はじめにわが国を含めアジアでは,萎縮型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は新生血管型AMDと比較すると頻度が低く,これまで有効な治療法がなかったこともあり,臨床の現場においては欧米ほど重要視されていないのが現状である.また,疾患頻度が低いことからまとまった症例数を対象とした研究がむずかしく,アジア人における本疾患の知見は限られていた.しかし,人口増加と高齢化が進行しているアジアにおいて,今やAMD患者数は欧米をしのいで世界一であり,今後さらに増加することが見込まれている.新生血管型AMDは抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の出現により予後が大きく改善した一方,萎縮型AMDに特徴的な所見である地図状萎縮(geographicatrophy:GA)の病態は不明な点も多く,長く治療薬の開発が困難であった.しかし昨今,二つの薬剤でGAの拡大を抑制する効果が示され,ようやく待望の治療薬が登場した.アジアにおいて,今後GAの治療戦略をどう考えていくかは喫緊の課題である.I疾患概念萎縮型AMDは,典型的には加齢に伴い黄斑部にドルーゼンが蓄積し,視細胞,網膜色素上皮(retinalpig-mentepitheliopathy:RPE),脈絡膜毛細血管板が変性・萎縮してGAに至る疾患である(図1).GAはいったん発症すると経時的に拡大し,中心窩に及ぶと重篤な視力障害を引き起こす.欧米では新生血管型AMDと同頻度でみられ,成人の失明原因として重要な疾患と認識されている.GAはもともと眼底所見の用語であるが,近年では後期AMDにみられる黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)を伴わない萎縮(わが国でいうところの萎縮型AMD)に限定して用いることが提唱されている1).新生血管型AMDにおいてもしばしば黄斑部に萎縮を認めるが,このような萎縮はGAとは区別される2).日本人の萎縮型AMDにおいて,ドルーゼンに関連して生じると考えられる従来のGAとは特徴が異なるサブタイプがあることが報告されている.パキコロイドの特徴をもつことから“パキコロイドGA”とよばれ,従来のGAとは臨床的特徴だけでなく遺伝的背景も異なることが示唆されている3).日本人のGAの約2割がこのタイプである4).II診断わが国の萎縮型AMDの診断基準を表1に示す2).1.眼底所見GAは,典型的には黄斑部に境界明瞭な単発性あるいは多発性の病変としてみられ,ドルーゼンを伴う(図1).脈絡膜が薄く豹紋状眼底となる症例が多い.しばしばreticularpseudodrusen(subretinaldrusenoiddepos-its)を伴い(図2),石灰化ドルーゼンやクリスタリン様*NaokoUeda:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕上田奈央子:〒606-8507京都市左京区聖護院河原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(23)23図1網膜色素上皮.離(PED)から発症したGAa~c:大きなドルーゼン様PED.a:眼底カラー写真で色素異常()を伴うドルーゼン様PEDを認める.b:眼底自発蛍光で上方にreticularpseudodrusenが低蛍光に描出されている.c:スペクトラル・ドメイン(SD)-OCTではPED内部は均一な中等度反射を示し,網膜内にはhyperre.ectivefoci()とよばれる大小多数の高反射像を認める.d~f:4年後.ドルーゼン様PEDは消失しGAが生じている.d:眼底カラー写真ではGA()の境界がややわかりづらい.e:眼底自発蛍光では境界明瞭な低蛍光領域として描出される(内).f:SD-OCTでは網膜外層と網膜色素上皮の萎縮を認める.表1日本の萎縮型加齢黄斑変性診断基準視力規定なし年齢50歳以上の症例において,中心窩を中心とする直径6,000μm以内の領域に以下の特徴を満たす地図状萎縮を認める眼底所見<必須所見>以下のすべてを満たすものを地図状萎縮とする①直径250μm以上②円形,卵円形,房状または地図状の形態③境界明瞭④網膜色素上皮の低色素または脱色素変化⑤脈絡膜中大血管が明瞭に透見可能<参考所見>以下の所見が診断の参考になる①中心窩との位置関係は問わない②同一眼に複数の萎縮を認めることがある③両眼性のことがある④軟性ドルーゼン,reticularpseudodrusen,色素沈着を伴うことがある⑤漿液性網膜色素上皮.離,ドルーゼン様網膜色素上皮.離から生ずるものがある画像所見1)光干渉断層計所見①網膜色素上皮ラインの菲薄化②Ellipsoidzone,interdigitaionzone,外顆粒層の消失③外境界膜ラインの途絶④脈絡膜信号の増強2)眼底自発蛍光所見①萎縮部の境界鮮明な低蛍光②萎縮部周囲の不規則な過蛍光除外規定先天性/遺伝性疾患,強度近視眼における網脈絡膜萎縮,慢性中心性漿液性脈絡網膜症,外傷性網膜・脈絡膜打撲壊死の陳旧期,網膜色素上皮裂孔,光凝固瘢痕,加齢黄斑変性の他病型重症度分類1)重症:中心窩を含む地図状萎縮を認めるもの2)中等症:中心窩を含まないもので,①.⑤の因子を一つ以上認めるもの3)軽症:中心窩を含まないもので,①.⑤の因子を一つも認めないもの①多発性地図状萎縮,②両眼性地図状萎縮,③1乳頭径以上の地図状萎縮,④僚眼に黄斑新生血管をもつもの,⑤大型のドルーゼン(直径125μm以上)またはreticularpseudodrusenまたは色素沈着を認めるもの(文献2を参考に作成)図2Reticularpseudodrusen(subretinaldrusenoiddeposits)の各種画像所見a:眼底カラー写真.黄白色の網膜下沈着物として見られ,中心窩に近いものは点状(dot),周辺部では網状(ribbon)となる.Cb:眼底自発蛍光では低蛍光.Cc:Redfree画像では高反射.Cd:フルオレセイン蛍光造影(FA)では造影されない.Ce:インドシアニングリーン蛍光造影(IA)の後期像で,過蛍光の背景に低蛍光領域として描出される.Cf:IR(infrared)画像では低反射である.Cg:OCTではRPE上の高反射所見として描出される().左図は右図の内拡大図.図3GAに伴うさまざまな所見a:カラー眼底写真では,石灰化ドルーゼン()やクリスタリン様沈着()は光沢を伴う輝度の高い黄白色網膜下病変としてみられる.Cb:IR画像でクリスタリン様沈着()は強い高反射となる.Cc:aの部分のSD-OCT画像.石灰化ドルーゼン内部に点状の高反射像を認める().d:bの部分のCSD-OCT画像.クリスタリン様沈着は,Bruch膜レベルに線状の高反射所見としてみられる().e:SD-OCT画像.網膜外層にCouterretinaltubulationとよばれる環状構造を認める().EZ:視細胞内接外節接合部,ELM:外境界膜,RPE:網膜色素上皮.図4AMDに見られる黄斑部萎縮のOCT所見による分類以下の所見をすべて満たすものはCcompleteRPEandouterretinalatrophy(cRORA)と定義される.①C250Cμm以上のChypertransmission(後方の脈絡膜信号の増強)領域.②C250Cμm以上のCRPEラインの菲薄化や消失.③視細胞変性所見(IZ/EZ/ELMラインの消失,外顆粒層の菲薄化).④CRPE裂孔の所見がない.IZ:interdizaitationzone,EZ:ellipsoidzone,ELM:externallimitingmembrane.Cb図5Di.usetricklingtypeGAa:超広角カラー眼底写真.黄斑部を越える大きなCGAを認め,特徴的な多房性の形状を示す.広範囲にCreticularpseudodrusenを認める.Cb:SD-OCTではCBruch膜とCRPEの乖離所見(内)およびCreticularCpseudodrusen()を認める.Cc,d:眼底自発蛍光(Ccは超広角)では,周辺部にびまん性に過蛍光を認め,GAと正常との境界部分に強い過蛍光がみられる.図6パキコロイドGAに特徴的な所見a:眼底カラー写真によるパキコロイドCGA(の中央)の所見.小さく単発性で円形のものが多い.ドルーゼンに乏しく,脈絡膜が厚いためCGAでない部分は後方の脈絡膜血管の透見性が不良である.Cb:眼底自発蛍光では境界明瞭な低蛍光.Cc:IA後期像で脈絡膜血管透過性亢進()を認める.Cd:深部強調(enhanced-depthCimaging:EDI)OCT画像.はCOCTスキャン範囲を示す.脈絡膜大血管の拡張(pachyvessel)を認める().-