‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼内レンズセミナー:Posterior optic captureによる偏位IOLの再固定術

2024年10月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋449.Posterioropticcaptureによる浅野泰彦昭和大学医学部眼科学講座偏位IOLの再固定術3ピース眼内レンズ(IOL)単独偏位例は,水晶体.が残存していれば偏位したCIOLを.外固定しなおすことで再固定できる場合がある.偏位CIOLの支持部を.外固定し,さらに硝子体カッターで後.を開窓して光学部をキャプチャーすることで,より強固な再固定が可能となる.●はじめに近年,脱臼・亜脱臼といった眼内レンズ(intraocularlens:IOL)偏位例に遭遇する機会が増加している.IOL偏位例は.・IOL複合体が一体化して偏位する例とIOLが単独で偏位する例に分類される.単独偏位例では,偏位したCIOLがC3ピースレンズであれば,IOLを摘出することなく偏位CIOLを縫着・強膜内固定することにより確実な再固定が得られるが,その手術難度は高い.水晶体.が残存していれば支持部を.外固定することによって再固定できることがあるが,支持部間全長と毛様溝間距離の不一致やCZinn小帯断裂が原因で再偏位をきたす場合もある.GimbelらはCopticCcaptureによるCIOL固定法を報告した1).これは小児白内障手術における固定法として報告されたが,IOL偏位例に対しても応用可能である.本稿では偏位したC3ピースCIOLの支持部を.外固定し,さらに後.を開窓して光学部をキャプチャーして固定するCposteriorCopticCcapture(POC)による再固定術を紹介する.C●3ピースIOL単独偏位例の分類3ピースCIOLが単独で偏位する原因は,.外固定されていたCIOLがCZinn小帯断裂部にずり落ちて偏位する場合(以下,.外偏位例.図1a)と,片側支持部が.内固定,片側.外固定であったことにより.収縮に伴って偏位する場合(以下,.内・.外偏位例.図1b)がある.C●POCによる偏位IOLの再固定法.外偏位例においては,まずCIOLを拾い上げ,再度.外固定とする.この際,Zinn小帯断裂部と支持部固定部位が重ならないようにする..内・.外偏位例の場合は眼粘弾剤で.とCIOLを分離して.内の片側支持部をゆっくり抜き出し,両方の支持部を.外固定とする.前房メインテナーを設置し,フックで光学部を持ち上(75)げ,光学部と後.の間に角膜サイドポートから挿入した硝子体カッターを潜り込ませる.硝子体カッターにて後.を切開し,前部硝子体切除を行いながら少しずつ切開窓を拡大し,直径C4.5Cmmの後.切開窓を作製する.眼粘弾剤を前房内に満たし,フックを用いて光学部を後.切開窓に嵌め込む.図2に.内・.外偏位例に対する連続手術写真を示す.この方法より偏位したCIOLの支持部を.外固定し,さらに光学部を後.切開窓にキャプチャーして固定することができる(図3).C●POCの利点POCの利点は,①偏位したCIOL支持部を.外固定し,さらに光学部を後.切開窓で固定するため強固な固定となること,②必要な切開創がC3カ所の角膜サイドポートのみであり低侵襲であること,③硝子体カッター使用により硝子体脱出を防ぎつつ,適切な大きさの後.切開窓作製が可能であることである.さらに後発白内障切開による視力改善も期待できる.C●POCの適応と限界POCの適応は,①C3ピースCIOL単独偏位例であること,②光学部をキャプチャーできる範囲の水晶体.が残存していること,③CZinn小帯断裂範囲がC120°以下であることである.シングルピースアクリルレンズ偏位例は,.外固定によりCpigmentdispersionsyndromeによる虹彩炎や眼圧上昇を誘発するため禁忌である.また,広範囲のCZinn小帯断裂例は再偏位リスクがあるため適応外と考えるべきである.C●おわりにPOCによる偏位CIOL再固定術は,適応例は限定されるものの低侵襲かつ簡便な手技で施行可能であり有用性は高い.手術選択肢の一つとして記憶に留めていただければ幸いである.あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12230910-1810/24/\100/頁/JCOPY図13ピースIOL単独偏位例の分類a:.外固定されていたCIOLがZinn小帯断裂部()にずり落ちて偏位した症例(.外偏位例).Cb:片側支持部が.内固定,片側が.外固定であったことにより,.収縮に伴って偏位した症例(.内・.外偏位例).図2.内・.外偏位例に対するPOCの手順(図1bと同一症例)a:眼粘弾剤で.とCIOLを分離する.Cb:.内の支持部をフックで抜き出す.Cc:両方の支持部を.外固定とする.Cd:角膜サイドポートから挿入した硝子体カッターで直径C4.5mmの後.切開窓を作製する.Ce:フックで光学部を押し込んで後.切開窓に嵌め込む.Cf:支持部は.外固定,光学部は後.にキャプチャーして固定した.図3POCによる再固定術後2年(図1b,図2と同一症例)a:前眼部写真.Cb:前眼部OCT.光学部の後.キャプチャーは維持され,IOLは正位を保っている.文献riccataractsurgery.JCataractRefractSurgC20:658-664,1)GimbelCHV,CDeBro.BM:PosteriorCcapsulorhexisCwithC1994opticcapture:Maintainingaclearvisualaxisafterpediat-

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く オルソケラトロジー(3)

2024年10月31日 木曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く10.オルソケラトロジー(3)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーについてである.今回はその第C3回目で,近視コントロール関連が中心である.近視の定義,進行のメカニズム,管理,および治療の有効性に関する研究結果などがとりあげられている.近視と近視進行本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.C1.近視の程度と評価法近視の定義は,一般的にも国際的にもC.0.50D以下としている報告が多い.近視の進行は,近視の程度や年齢,家族歴,民族的背景などの要因によって影響を受ける.とくにアジア系の子どもにおいては,若年層での近視進行が早く,6.8歳の中国系の子どもでは,年間C1D以上の進行が一般的とされる.①近視進行の評価法:近視進行の程度は,屈折値(D)や眼軸長(mm)で評価される.ortho-K装用による近視の真の進行を評価するためには,装用を中断し角膜が治療前の状態に戻るのを待つ必要がある.②近視抑制効果の定量化:近視抑制の効果は,治療群と対照群の平均変化量の差として報告されることが多いが,眼軸伸長や近視度数の絶対値も重要である.とくにortho-K治療の初期段階では進行の抑制が顕著にみられることが多いが,治療が長期化するとその効果が減少する傾向がある.C2.近視抑制の管理近年,近視の子どもをどのように管理し,治療を選択するかが重要視されている.ortho-Kは適切なガイドラインに基づいて実施されるべきであり,標準的な治療アプローチから個別化された治療へと移行することが推奨される.具体的には,年齢,屈折状態,近視の進行歴,親の近視の家族歴,個々のニーズやライフスタイルなどを考慮して,治療を個別化することが重要とされる.C①ortho-Kの開始:近視の進行を抑制するための段階的な戦略として,まずはC10歳未満の子どもには環境要因をコントロールとして,屋外活動を増やすことが推奨されている.ハイリスクの子ども,とくに病的な近視(.5.00D以上または眼軸長C26Cmm以上)の場合は,臨(73)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY床的介入が推奨されている.C②ortho-Kの中止:治療中に近視進行抑制効果が不十分な場合や,眼科的な問題が発生した場合には,他の治療法への切り替えを検討する必要がある.とくにortho-Kの治療中止後にも近視の進行が再発する可能性があるため,治療終了後も継続的な監視が推奨される.C3.近視進行抑制効果の有効性の評価ortho-Kによる近視進行抑制効果はC2005年にCLongi-tudinalCOrthokeratologyCResearchCinCChildren(LORIC)2)で初めて報告された.その後,RetardationCofCMyopiaCinOrthokeratology(ROMIO)スタディ3)や他の臨床試験でも同様の結果が報告されている.ortho-Kを装用した子どもは,単視眼鏡を使用した対照群と比較して眼軸の伸長が有意に抑制されたとされる.トーリックCortho-Kは,角膜乱視が中程度から高度の子どもにおいて近視進行抑制効果が報告されている.それによれば,単視眼鏡を使用した対照群と比較して,眼軸の伸長がC52%抑制されたとある.C4.近視抑制に関連する要因①開始年齢:ortho-Kによる効果は,治療を開始する年齢と強く関連している.とくに若いうちに治療開始することで,眼軸の伸長がより抑制されることが示されている.②屈折値:もともと近視の程度が強い子どもでは,ortho-K治療中の眼軸伸長が少ないことが報告されている.しかし一部の研究では,基礎屈折度と眼軸伸長の間に統計的に有意な関連がないとする報告もある.③角膜の屈折力とその変化:ortho-Kによる角膜形状の変化は,近視進行抑制の有効性に影響を与える可能性がある.とくに角膜の中間周辺部の屈折力変化が大きい場合は,眼軸の伸長が遅くなることが報告されている.あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C1221オルソケラトロジーによる近視進行抑制のメカニズムortho-kによる近視抑制効果の正確なメカニズムは完全には解明されていないが,本章では考えられる光学的な影響を説明している.①周辺部デフォーカス:視覚体験は眼の成長に影響を与えることが知られており,ortho-Kが引き起こす相対的な周辺部遠視性デフォーカスが,近視進行抑制効果に寄与していると考えられている.複数の研究において,中心部からC35°の範囲で相対的な周辺部遠視デフォーカスが報告されている.②高次収差:ortho-K治療後,角膜形状が変化することで,高次収差が増加する.とくに,主要な球面収差やコマ収差の増加が観察され,これが近視進行の抑制に関連している可能性がある.③調節:近業作業と調節が近視の発症と関連しているため,ortho-Kが調節機能に与える影響も調査されている.ortho-K装用により調節の遅延が減少し,これが近視抑制効果に寄与している可能性があるとする報告がある.④瞳孔径:瞳孔径は周辺部屈折,高次収差,調節反応に影響を与える可能性があるが,暗所での瞳孔径拡大がortho-K治療中の眼軸伸長の抑制に関連していることが示唆されている.⑤治療ゾーンサイズ:ortho-Kレンズの治療ゾーンサイズは治療効果に影響を与える可能性がある.たとえば治療ゾーンサイズがより小さい場合は,相対的な周辺部角膜急峻化と正の球面収差を引き起こし,近視進行の抑制に寄与する可能性がある.⑥ジェッセンファクター:ジェッセンファクター4)または圧縮係数とは,望ましい視力を維持するために目標矯正度数に追加される屈折バッファーで,C.0.75Dであることが多い.ジェッセンファクターの増加がCortho-K治療中の眼軸伸長を抑制する効果に関連していることが報告されている.⑦脈絡膜:脈絡膜は,眼球の成長に関与する信号の伝達に重要な役割を果たしている.ortho-K治療後に脈絡膜の厚みが増加することが観察されており,この変化が眼軸伸長の抑制と関連している可能性がある.オルソケラトロジーの未来ortho-kの技術は近年大きく進化し,将来的にはさらに発展が期待されており,その展望と課題について議論されている.C1.未来のortho-KレンズデザインOrtho-Kレンズデザインの目標は近視進行抑制効果を高めることであり,とくに軽度近視や角膜乱視をもつ患者への治療効果を向上させることが求められる.また,各患者の瞳孔径や角膜プロファイルに基づいたカスタマイズされたレンズデザインが,より一般的になることが予想されている.C2.組み合わせ治療最近の研究では,ortho-KとC0.01%アトロピンとを組み合わせた治療が近視進行抑制に有効であることが示されている.組み合わせ治療により,単独治療よりも効果的に眼軸伸長が抑制されることが報告されているが,費用やリスクを考慮する必要がある.まとめortho-kは近視の一時的な矯正や進行抑制に効果的な方法であるが,その効果を最大限に引き出すためには適切な管理と個別化が必要である.今後の技術の進歩と研究により,ortho-Kはさらに多くの患者に恩恵をもたらす可能性がある.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEye44:240-269,C20212)ChoCP,CCheungCSW,CEdwardsMH:TheClongitudinalCorthokeratologyCresearchCinchildren(LORIC)inCHongKong:aCpilotCstudyConCrefractiveCchangesCandCmyopicCcontrol.CurrEyeResC30:71-80,C20053)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.CInvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,C20124)ChanCB,CChoCP,CMountfordJ:TheCvalidityCofCtheCJessenCformulaCinovernightCorthokeratology:aCretrospectiveCstudy.OphthalmicPhysiolOptC28:265-268,C2008

写真セミナー:格子状角膜ジストロフィIV型

2024年10月31日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史堤剛己福岡秀記485.格子状角膜ジストロフィIV型京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①翼状片②角膜実質深層の混濁図1LCD4の前眼部所見鼻側に翼状片,角膜中央の実質深層に混濁を認める.図4LCD4の前眼部OCT所見角膜中央に限局した実質深層の沈着を認める.角膜内皮面が前房側に突出している所見を認める.図3LCD4の前眼部所見(フルオレセイン染色)再発性角膜びらんなど,角膜上皮の接着異常を認めない.(71)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12190910-1810/24/\100/頁/JCOPY両眼白内障,両眼翼状片,両眼角膜混濁の所見を有し,角膜専門医の精査加療のため当院紹介となった79歳,女性の症例を図1~3に示す.両眼の翼状片に対しては両眼とも手術(翼状片切除術+マイトマイシンCC術中塗布)を行い,抗菌薬およびステロイド点眼で経過をみた.その後,翼状片の再発は認めなかったが,角膜混濁は残存していた.角膜ジストロフィを疑い遺伝子検査を行ったところ,トランスフォーミング増殖因子Cb誘導型遺伝子(transformingCgrowthCfactorCb1:TGFBI)の変異(p.Leu527Arg)を認め,格子状角膜ジストロフィ(latticecornealdystrophy:LCD)IV型と確定診断された.CLCDCIV型はその名のとおり,おもに格子状の混濁が角膜実質に観察され,混濁の深さから実質性角膜ジストロフィに分類され,病理学的にはアミロイドの沈着を認める1).LCDI型はもっとも一般的な型で,TGFBIのR124C変異によって引き起こされる.若年期から発症し,角膜実質にアミロイドが沈着して視力低下を引き起こし,最終的に角膜移植が必要になる場合がある.今回のCLCDIV型はほかのCLCDとは異なり,角膜の深部間質層にアミロイド沈着を伴う(図4)遅発性の角膜ジストロフィである.このCLCDバリアントはTGFBIの変異(p.Leu527Arg)によって引き起こされており,この変異が何世代にもわたって遺伝する可能性があるとされている1).LCDI型は世界的に報告がある2)が,LCDIV型はおもに日本人に報告されている3).そのためCLCDIV型は,日本人に発生した創始者変異によって引き起こされたと推測されている.LCDCIV型患者のゲノムCDNAを抽出し,ハプロタイプ解析を行った結果,疾患保有対立遺伝子はすべて同一のハプロタイプ(TからG;c.1580T>G)4)を共有しており,ロイシンからアルギニンに移行していた(p.Leu527Arg)ことが報告されている.また,LCDの患者は日本のC6県にまたがった地域に居住しており,これはCLCD4が単一の日本人の祖先に発生したCTGFBIの創始者変異によって引き起こされたことを強く示していた5).TGFBI関連角膜ジストロフィの顕著な特徴として,対立遺伝子の均一性があげられる6).これは,突然変異のホットスポットの存在と創始者変異の二つの異なるメカニズムによってうまく説明される.文献1)FukuokaH,KawasakiS,KinoshitaKetal:Latticecorne-aldystrophytypeIV(p.Leu527Arg)iscausedbyafound-erCmutationCofCtheCTGFB1CgeneCinCaCsingleCJapaneseCancestor.InvestOphthalmolC51:4523-4530,C20102)MunierCFL,CKorvatskaCE,CDjemaiCACetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.NatGenet15:247-251,C19973)FujikiCK,CNakayasuCK,CKanaiA:CornealCdystrophiesCinCJapan.JHumGenet46:431-435,C20014)CooperCDN,CYoussou.anH:TheCCpGCdinucleotideCandChumangeneticdisease.HumGenet78:151-155,C19885)MashimaCY,CYamamotoCS,CInoueCYCetal:AssociationCofCautosomalCdominantlyCinheritedCcornealCdystrophiesCwithCBIGH3CgeneCmutationsCinCJapan.CAmCJCOphthalmolC130:C516-517,C20006)TsujikawaCK,CTsujikawaCM,CWatanabeCHCetal:AllelicChomogeneityCinCAvellinoCcornealCdystrophyCdueCtoCaCfoundere.ect.JHumGenetC52:92-97,C2007

顔面神経麻痺における麻痺性兎眼に対する静的再建術

2024年10月31日 木曜日

顔面神経麻痺における麻痺性兎眼に対する静的再建術StaticReconstructionforParalyticLagophthalmos林礼人*はじめに顔面神経麻痺で生じる麻痺性兎眼は,乾燥性角結膜炎に伴って結膜充血や疼痛といった症状を呈し,適切な治療が行われず慢性化すると,角膜の損傷や潰瘍を惹起して重篤な視力障害を生じる(図1a,b).そのため,麻痺性兎眼は顔面神経麻痺の発症後急性期にもっとも注意が必要な症状と考えられ1),症状の重症度や回復見込みなどを考慮し,保存的または外科的治療を急性期から積極的に検討していく1,2).麻痺性兎眼に対する外科的治療には,静止時の形態改善を目的とする静的再建術がおもに用いられ,麻痺により生じた眼瞼の変形に対する整容的再建に加え,眼球保護という機能的再建の側面も重要になる.眼瞼の閉瞼には,85%は上眼瞼,15%は下眼瞼が関与するともいわれ3),麻痺性兎眼の治療には,上眼瞼へのlidloadingがゴールドプレートを中心に広く行われてきた4.6).しかし,わが国では移植材料としての保険適用がないために使用しづらい側面があり,長期的にはプレート露出や偏位といった合併症を高率に生じる4,7,8)(図1c).そこで,瞼板と挙筋腱膜の間に筋膜や耳介軟骨を挿入し眼瞼挙筋全体を延長するlevatorlengthening法(LL法)が注目を集め,筆者らは報告を行ってきた9.11).一方,下眼瞼は眼輪筋麻痺に伴う下眼瞼の弛緩に重力の影響が加わり,眼瞼縁の下垂ならびに外反を生じる12).とくに皮膚や筋肉の張りが弱くなる中高齢者では症状が顕著となり,乾燥性角結膜炎の大きな要因になる.そのため,症状が長期遷延する場合には外科的治療を積極的に検討する12).本稿では,麻痺性兎眼で生じる閉瞼不全に対する治療アルゴリズムを紹介するとともに,部位別に適応する術式について筆者の経験も踏まえ解説する.I閉瞼不全に対する術式選択(治療アルゴリズム)麻痺性兎眼に対する再建は,麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎に対する急性期治療と重力や加齢などに伴う経時的な変化に対する慢性期治療の二つの側面を持ち合わせている14,15).そのため,術式選択を考えるとき,自然回復の可能性を残す患者に対する一時的治療として行うのか,慢性的な麻痺や長期的な経過を見こしての恒久的治療として行うのかが一つの大きなポイントになる13)(表1).急性期.亜急性期の治療アルゴリズムを検討してみる(図2).まず麻痺の自然回復の可能性があるかないかを考える13).自然回復の可能性がある場合には,まずは点眼薬や眼軟膏による湿潤環境の保持や夜間のテーピングまたはパッチといった保存的加療を行い,一時的な瞼板縫合を行うこともある.適切なテーピングによる加療は急性期におけるQOL保持に役立つが,その手法は簡易的な静的再建術ともいえる(図3).それでも乾燥性角結膜炎の増悪を認め症状が強い場合や,3カ月以上麻痺性兎眼が継続する可能性のある場合,さらに三叉神経麻痺*AyatoHayashi:横浜市立大学医学部形成外科学講座〔別刷請求先〕林礼人:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部形成外科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(61)1209図1顔面神経麻痺による眼瞼の閉瞼不全とゴールドプレート露出例a:麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎と角膜潰瘍.結膜充血や疼痛,流涙といった症状を呈し,角膜中央の混濁を認める.b:完全麻痺例における麻痺性兎眼の閉瞼時.下眼瞼縁の下垂を認め,兎眼が顕著となっている.c:ゴールドプレート長期埋入例におけるプレート露出(埋入後12年の状態).表1眼瞼部静的再建術の術式選択…急性期治療⇒麻痺後急性期に生じる麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎*自然回復の可能性を残す症例にも一時的な治療・機能的側面を重視(閉瞼機能)…・侵襲や負担の少ない手法慢性期治療⇒重力や加齢などに伴う経時的な変化*長期的な経過(経時的な変形や弛緩)を見越したうえでの恒久的治療・整容的側面を重視・重力や加齢にも耐えうる,よりしっかりとした手法乾燥性角結膜炎麻痺の自然回復の可能性ありなし非手術的療法症状改善症状増悪(テーピング,点眼薬)保存的治療の早急な外科的治療動的再建と同時に外科的治療継続(低侵襲手術)(陳旧例と同様なしっかりした再建)手術療法下眼瞼の静的再建術(低侵襲な術式)[低侵襲な術式(KS法,LTS法)]上眼瞼の静的再建術[以前はゴールドプレートを利用したlidloading,現在はlevatorl法]*眉毛挙上は急性期には基本的には行わない(閉瞼機能を第一に考える)図2急性期~亜急性期における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム機能的側面を重視し,侵襲や負担の少ない手法を選択する.KS法:Kuhnt-Szymanowski法.LTS法:lateraltarsalstrip法.LevatorL法:levatorlengthening法.(文献13より作成)図3Ramsy-Hunt症候群に伴う左顔面神経完全麻痺例に対するテーピング施行例76歳,男性.a:閉瞼時.眉毛下垂と上眼瞼皮膚弛緩に伴い,閉瞼可能なように見える.b:用手的な眉毛挙上時の閉瞼.下眼瞼下垂と外反を認め,兎眼が顕著.乾燥性角結膜炎に伴う結膜充血も認める.c:3Mテープによる吊り上げ施行後,静止時.下眼瞼の吊り上げで下垂が改善され,眉毛部の吊り上げで視野が確保されている.d:3Mテープによる吊り上げ施行後,閉瞼時.兎眼の大幅な改善を認める.麻痺性兎眼・大腿筋膜(二~四つ折りの架橋型)軽症重症・耳介軟骨下眼瞼の静的再建術低侵襲な術式の施行移植材料と伴う(架橋型/衝立型)(KS法,LTS法)術式の施行・骨膜・側頭筋・筋膜症状改善症状の残存症状改善症状の残存(下眼瞼:Anderson手術)ありなし下眼瞼下垂の残存保存的治療移植材料を伴う保存的治療下眼瞼の再建術眉毛部・上眼瞼部に対する静的再建術図4陳旧例における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム(下眼瞼部)整容面と機能面の双方を考えた治療を検討する.KS法:Kuhnt-Szymanowski法,LTS法:lateraltarsalstrip法.(文献13より作成)眉毛の用手的な持ち上げで眉毛下垂に伴う皮膚弛緩を評価ありなし(眉毛挙上術の施行)皮膚弛緩によるありなしありなし眼瞼下垂眉毛挙上術眉毛挙上術のみ上眼瞼再建のみ下眼瞼再建のみ+(LevatorL法)上眼瞼再建上眼瞼を下げる(LevatorL法)必要性図5陳旧例における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム(眉毛部・上眼瞼部)下眼瞼部の再建後に眉毛や上眼瞼への手術が必要かを用手的に眼瞼部を持ち上げて評価する.眉毛下垂による上眼瞼の皮膚弛緩の程度や弛緩皮膚の裏に隠れた上眼瞼縁の位置に特に留意する.LevatorL法:levatorLengthening法.(文献13より作成)図6右前頭筋麻痺に伴う眉毛下垂例67歳,男性.Ca:術前所見.b:手術時デザイン.下垂の程度に応じ,7.10Cmmの眉毛上の皮膚切除を施行する.Cc:術中所見.下垂の再発予防を踏まえ,前頭筋のCtuckingを行うこともある().眼輪筋上縁の吊り上げは弛緩した上眼瞼皮膚の矯正に有効で,ほぼ全例に施行している().d:手術終了時所見.e:術後C9カ月.瘢痕も目立たず良好な形態・位置が保たれている.図7Anchoringsutureによる眉毛挙上術17歳,女性.左完全麻痺例.Ca:術前所見.b:手術時デザイン.眉毛下と前頭部生え際に小切開をデザインする.c:手術終了時所見(はCanchoringsutureでの牽引部).3Mテープによる吊り上げ施行後,静止時.下眼瞼の吊り上げで下垂が改善され,眉毛部の吊り上げで視野が確保されている.Cd:術後C10カ月.瘢痕も目立たず良好な形態となっている.Ce:眉毛上の小切開による修正例.固定部のCdimple形成を認める().(一部文献C13より作成)bc挙筋腱膜瞼板AB図8Levatorlengthening法の手術方法a:挙筋腱膜およびCMuller筋をその全幅にわたって切断し,頭側に.離挙上.Cb:麻痺側と同側の耳甲介腔から軟骨(5.7CmmC×20mm)を採取.Cc:手術シェーマ(正面).瞼板上縁と切断した挙筋腱膜およびCMuller筋の間に筋膜または耳介軟骨()を移植する.Cd:筋膜を使用する原法では,移植筋膜の縦幅を術前の瞳孔上縁と上眼瞼縁との距離の左右差のC2倍として延長を行った10).e:手術シェーマ(縦断面).耳介軟骨()を使用した場合には,瞼板上端縁に移植軟骨端を合わせて縫着し,瞼板を押し下げる()ようにする場合もある.(文献C10,11より作成)d図9下眼瞼に対する代表的な静的再建術と移植材料a:KS法の術式シェーマ.瞼縁のくさび状切除による水平方向の短縮と下眼瞼皮膚の吊り上げ固定を行う(は瞼板,は骨膜固定)26).Cb:LTS法の術中所見(はCstrip部).c,d:移植材料として頻用する四つ折として大腿筋膜とCL型に採取した耳介軟骨27).e:U字型筋膜移植による下眼瞼修正.眉毛部骨膜に固定を行う.KS法:Kuhnt-Szymanowski法.LTS法:lateraltarsalstrip法.(文献C26,27より作成)図10陳旧性左完全麻痺例に対する眼瞼周囲再建例(眉毛上皮膚切除による眉毛挙上術+下眼瞼部へのKS法,U字型筋膜移植術)69歳,男性.Ca,b:術前所見.Ca:静止時.Cb:閉瞼時.眉毛下垂に伴う視野障害と乾燥性角結膜炎による疼痛を認める.Cc,d:術後1年2カ月.Cc:静止時.Cd:閉瞼時.視野障害は改善し,整容面でも高い満足度を得ている.閉瞼時に結膜の露出を認めるが,点眼薬の併用にて乾燥性角結膜炎症状は軽快している.移植材料を用いた吊り上げ術を検討し,内眼角靱帯と外眼角部頭側の眼窩骨膜の間に筋膜または軟骨を架橋して移植する手法(吊り橋型)が一般的に広く用いられている.筋膜による吊り上げのほうが簡便で行いやすいが,筋膜が伸張して経時的な緩みを生じるため12),二.四つ折りとして移植するようにしている(図9c~e)29).内側部にも下垂を認める場合には,内側の固定位置を眉毛下とより頭側に求め,U字状に筋膜を移植することで,下眼瞼全体によりしっかりとした吊り上げ効果が得られている(図9e).閉瞼時に結膜露出が残存する状況に留まる場合もしばしば経験するが,下垂と外反の矯正がしっかりと行えている場合には,点眼薬や眼軟膏などの併用で乾燥性角結膜炎のコントロールを長期にわたって行える場合も多い(図10).耳介軟骨はより強い矯正力を有するが,吊り橋型では長期経過でその形態が顕著になったり触知したりする傾向にある.そのため,重度例については下眼窩縁と瞼板の間に耳介軟骨を立てて移植する衝立型の軟骨移植を取り入れており12),筋膜移植との併用で軟骨形態の顕在化を予防することも行っている(図9c,d).また,Ander-sonの側頭筋膜弁移植は眼瞼部に対する動的再建術にはなるものの14),下眼瞼への効果についてはCviabletissueの移行であることや上外側からの吊り上げが可能といった特性から,非常に有用な静的再建術ということもできると考えている.まとめ顔面神経麻痺によって生じる麻痺性兎眼に対する静的再建術についてまとめ,報告を行った.発症時期や形態,重症度,自然回復など,個々の患者の状態をしっかり評価することがまず重要で,さまざまな要素を加味しながら適切な術式選択を行っていく.また,それぞれの術式には特性があり,施行法によりその効果も異なってくるため,全体的なバランスも踏まえた系統的な手術治療を検討していく必要があると考えられた.文献1)BaheerathanN,EthunandanM,IlankovanV:GoldweightimplantsCinCtheCmanagementCofCparalyticClagophthalmos.CIntJOralMaxillofacSurg38:632-636,C20092)HarrisbergCBP,CSinghCRP,CCroxsonCGRCetal:Long-termCoutcomeCofCgoldCeyelidCweightsCinCpatientsCwithCfacialCnervepalsy.Otolneurotol22:397-400,C20013)KeenMS,BurgoyneJD,KaySL:SurgicalmanagementoftheCparalyzedCeyelid.CEarCNoseCThroatCJC72:692,C659-701,C19934)KelleyCSA,CSharpeDT:GoldCeyelidCweightsCinCpatientsCwithCfacialpalsy:aCpatientCreview.CPlastCReconstrCSurgC89:436-440,C19925)SmellieGD:RestorationCofCtheCblinkingCre.exCinCfacialCpalsybyasimplelid-loadoperation.BrJPlastSurgC19:C279-283,C19666)HenstromCDK,CLindsayCRW,CCheneyCMLCetal:SurgicalCtreatmentCofCtheCperiocularCcomplexCandCimprovementCofCqualityoflifeinpatientswithfacialparalysis.ArchfacialPlastSurgC13:125-128,C20117)SonmezA,OzturkN,Durmu.Netal:Patients’perspec-tivesontheocularsymptomsoffacialparalysisaftergoldweightCimplantation.CJCplastCReconstrCAesthetCSurgC61:C1065-1068,C20088)RofaghaS,Sei.SR:Long-termresultsfortheuseofgoldeyelidloadweightsinthemanagementoffacialparalysis.PlastReconstrSurgC125:142-149,C20109)林礼人,小室裕造,宮本英子ほか:Levatorlengthening法による顔面神経麻痺性兎眼の治療.FacialNervRes30:C100-102,C201010)Guillou-JamardCMR,CLabbeCD,CBardotCJCetal:PaulCTessi-er’stechniqueinthetreatmentofparalyticlagophthalmosbyClengtheningCofCtheClevatormuscle:evaluationCofC29Ccases.AnnPlastSurgC67:S31-S35,C201111)林礼人,名取悠平,吉澤秀和ほか:麻痺性兎眼に対する軟骨移植によるClevatorlengthening法.形成外科57:489-496,C201412)阪場貴夫,上田和毅,梶川明義ほか:麻痺性下眼瞼変形の治療.FacialNervResC30:111-113,C201013)林礼人,吉澤秀和:顔面神経麻痺に対する静的再建術の治療アルゴリズム.日頭顎顔会誌34:1-8,C201814)多久嶋亮彦,波利井清紀:顔面神経麻痺における眼瞼再建.CPEPARSC43:57-63,C201015)林礼人,名取悠平,吉澤秀和ほか:麻痺性兎眼に対する軟骨移植によるClevatorlengthening法.形成外科57:489-496,C201416)松田健:麻痺性兎眼に対するClateralCorbitalCperiosteal.ap法.形成外科57:481-487,C201417)上田和毅:顔面神経麻痺・痙攣C1前頭部(眉毛下垂)→[眉毛挙上].形成外科58:S76-S82,C201518)田中一郎:顔面神経麻痺による眉毛下垂に対する整容的改善治療.FacialNervResC30:1-3,C201019)UedaCK,CHariiCK,CYamadaCACetal:ACcomparisonCofCtem-poralCmuscleCtransferCandClidCloadingCinCtheCtreatmentCofCparalyticClagophthalmos.CScandCJCPlastCReconstrCSurgC(69)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C1217

下眼瞼外反の3術式

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼外反の3術式LowerEyelidEctropion─ThreeSurgicalTechniques小久保健一*大井皓介*藤原文麗*はじめに下眼瞼外反症は瞼板が外側に向いてしまう眼瞼の位置異常である.眼瞼が眼表面から離れてしまうことで,眼表面および眼瞼結膜が露出し,炎症,疼痛,羞明,異物感,流涙,視力低下などをきたす.外反症は先天性,機械性,瘢痕性,退行性,麻痺性に分類され,なかでも退行性,麻痺性は比較的多く,外来でみられる疾患である.退行性外反症は水平方向と垂直方向の緩みによって起こると考えられており,通常,手術による治療が基本となる.筆者は外側方向に下眼瞼を牽引し(lateraldistractiontest),下眼瞼が眼球に密着すればlateraltarsalstrip(LTS)1)やpentagonalexcision法(瞼板五角形全層切除),Kuhnt-SzymanowskiSmith変法などを考慮する.LTSと瞼板五角形全層切除は通常どちらを使用してもよいと考えるが,内眼角靱帯や外眼角靱帯が緩い場合には,瞼板五角形全層切除を用いると瞼裂横径が小さくなるため,LTSを用いる.Kuhnt-SzymanowskiSmith変法は皮弁を挙上する必要があるため,余剰皮膚が顕著な場合に用いる.外側に牽引しても下眼瞼内側の外反が残存する場合には眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LER)の瞼板裏固定2)やLazy-T3)を考慮する.外側に牽引しても下眼瞼全体が外反している場合には,耳介軟骨移植や筋膜移植を考慮する.本稿では,LTSとpentagonalexcision法およびLER瞼板裏固定術について解説する.ILateraltarsalstrip(LTS)LTSは最初に覚えておきたい術式であり,退行性でも麻痺性でも使用可能である.水平方向の弛緩に対して用いられ,下眼瞼外反はもちろん,下眼瞼内反や眼瞼腫瘍切除に使用できる汎用性の高い術式である.1.デザイン右下眼瞼外側1/3の睫毛下に皮膚切開のデザインを置く.そして外側の瞼板を露出させるために取り除く皮膚の範囲もデザインしておく(図1a).2.Tarsalstripの作製局所麻酔2.5ccを注入後に外眼角で瞼板の下脚を切離し,外側から7mm程度皮膚と結膜・瞼縁を除去する.さらに下脚からLERもはずす(図1b).3.骨膜固定作製したstripを眼窩内側の骨膜に5-0ナイロン糸を用いて縫合する(図1c).4.皮膚縫合6-0ナイロン糸を用いて皮膚を縫合する.外眼角の上脚の瞼縁を切除し6-0バイクリル糸を用いて下脚と縫合することで新たな外眼角を形成しておく(図1d).*KenichiKokubo,KousukeOi&BunreiFujiwara:横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科〔別刷請求先〕小久保健一:〒神奈川県横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(57)1205図1Lateraltarsalstripa:デザイン.b:Tarsalstripの作製.c:Tarsalstripを骨膜に固定.d:術直後.e:術前.外側のみ外反.f:術後6カ月.図2Pentagonalexcisiona:デザイン.b:全層切除.c:全層切除後.d:縫合直後.e:術前.f:術後6カ月.図3LER瞼板裏固定術a:デザイン.b:結膜側切除デザイン.c:結膜紡錘状切除.d:結膜と瞼板の間を剥離.e:LERを瞼板の裏に固定.f:五角形全層切除.g:皮膚縫合.h:術前.i:術後6カ月.

下眼瞼睫毛内反症の手術

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼睫毛内反症の手術OptimalTreatmentsforEpiblepharon尾山徳秀*はじめに本稿では若年者に多い下眼瞼の睫毛内反症に対する手術方法を説明する.顔は千差万別であり,中顔面の作りや眼周囲の形も異なる.つまり,同じような睫毛内反症にみえても患者によって内反症の状態は必ず異なるはずである.そのような状態であるのに画一的な方法で手術に臨めば再発することは容易に想像できる.今回は,以前から若年者に多い睫毛内反症に対しては皮膚切開法(いわゆるHotz変法)が行われているが1.4),それ以外の方法および再発しやすい症例を提示し,そのような患者に対しての手術アプローチを解説する.I術前検査のポイント下眼瞼睫毛内反症の病因は,下直筋から連続する眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層の皮膚穿通枝が未発達もしくは欠損しているため睫毛が外反しないことである(図1).さらに,皮膚および眼輪筋(眼瞼前葉)が上方へ乗り上げることで睫毛を圧排し病態を悪化させる.この病因を理解すれば,通常の睫毛内反は一般的に行われているいわゆるHotz変法で治癒すると思われる.診察時は正面視で軽度の睫毛内反であっても,人間は1日で数千回の視線移動があるため,正面視だけでなく,とくに下方視での睫毛と角膜の接触具合を診る必要がある.下方視で睫毛接触を高度に認める場合は手術適応を検討する(図2).また,内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した患者(図3)や下眼瞼後退がある患者(図4)にHotz変法のみで対処すると再発率が高くなるので注意が必要である.内眼角贅皮の発達した患者は,用手的な上眼瞼挙上により下眼瞼の動きを診察する(rolluptest).上眼瞼とともに下眼瞼がつられて挙上し,睫毛が眼瞼前葉の皮膚や眼輪筋に押され,睫毛内反が高度に悪化すれば陽性である(図5).このような患者は,日常生活時に大きく開瞼する,上目遣いをするなどで頭側に下眼瞼前葉が挙上されるため,Hotz変法のみでは再発しやすくなる.このテストを施行することで,上眼瞼と下眼瞼の皮膚および皮下の連絡を見きわめ,再発を少なくするための内眥形成術が必要かどうかを判断する参考になる.下眼瞼後退のある患者では,眼瞼後葉が過剰に後退していることにより,眼瞼前葉の乗り上げがさらに過剰になり睫毛内反の程度が高度になる.この場合もHotz変法だけで処理すると,内反症の低矯正もしくは再発の原因となる.また,術後6カ月程度では再発しないことも多く,治癒したと思っても2年程度経過をみないと再発することがあり注意が必要である.II基本の手術通糸法と切開法(Hotz変法のみ)の術後再発率は,通糸法は約30%,切開法は約9%と切開法が少ない.最近のランダム化比較試験でも切開法(Hotz変法と後述の追加手術を併用)は有意に再発率が低い1.4).ここでは,基本の手術として再発率の少ない切開法(Hotz変*TokuhideOyama:うおぬま眼科,長岡赤十字病院眼科,新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕尾山徳秀:〒946-0001新潟県魚沼市日渡新田字ヒワタリ84-1うおぬま眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(47)1195ab眼瞼下制筋群の後層瞼板Lookwood靭帯睫毛眼瞼下制筋群の前層下斜筋下直筋眼輪筋図1下眼瞼の解剖と下眼瞼睫毛内反症の病態模式図a:下眼瞼の解剖模式図.眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層が瞼板前方を走行し,皮膚穿通枝により睫毛を外反させている(文献11より引用).b:下眼瞼睫毛内反症の病態模式図.LERsの前層から連続する皮膚穿通枝が,正常と比較すると未発達もしくは欠損している.また,余剰皮膚の存在や瞼板前眼輪筋の乗り上げも,下眼瞼睫毛内反症を悪化させる要因と考えられている().図2睫毛内反症の症例a:正面視の状態.軽度の睫毛内反症と診断されていたが,角膜障害が高度であった.b:下方視の状態.睫毛が高度に角膜に接触している.これが原因であった.図3内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した症例内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉が睫毛を眼球に押し付けているように見える.図4下眼瞼後退が顕著な症例a:下眼瞼後退も併発し,下方結膜が露出している.b:下眼瞼前葉は用手的に上方に持ち上がり,瘢痕によるものではないことを確認する.図5上下眼瞼の動きとrolluptesta:内眼角贅皮が発達した睫毛内反症の通常時.b:上眼瞼を引き上げると,下眼瞼前葉がつられて挙上する(:rolluptest陽性).c:この上下の連絡()を絶つような手術手技を選択する.図6基本的なHotz変法a:睫毛列から2mm程度のところに睫毛下切開ラインを引く.b:睫毛下切開から眼輪筋間を切開し,瞼板下縁に到達する.c:瞼板下縁と睫毛側眼瞼皮下を7-0モノフィラメント糸で縫合する.d:余剰した眼瞼前葉組織を切除する.e:皮膚を7-0モノフィラメント糸で縫合して終了である.(文献11より引用)図7他院術後のlowereyelidcrease(下眼瞼しわ)の発生術後1年経過しているが,両下眼瞼のlowereyelidcreaseが目立つ.図8Lidmarginsplitting法a:Hotz変法を行っても内反矯正が不十分な患者は,graylineを11番メスなど先が鋭利なもので切開する.b:瞼縁は切離した状態のまま皮膚縫合して終了である.瞼縁の切開部は数週間で目立たなくなる.(文献11より引用)~図9LERsの瞼板および結膜からの切離LERsを瞼板下縁および結膜から7.8mm程度.離する.鼻側および耳側のLERsを垂直方向にも切開を加えるとLERsの牽引が弱くなる.図10Turn-overseptum.ap法によるLERs延長術を加えたHotz変法a:睫毛下切開から眼輪筋を.離し,瞼板と眼窩隔膜表面を露出する.Cb:LERsを瞼板下縁および結膜から.離する.c:LERsの伸展したい量より多めに眼窩隔膜の切離幅(眼瞼後退量のC2倍+2Cmm程度)を決める.Cd:横方向に眼窩隔膜を切開すると眼窩脂肪が見える.Ce:翻転した眼窩隔膜を鑷子で把持している.Cf:翻転した眼窩隔膜と瞼板下縁および睫毛側皮下をC7-0モノフィラメント糸で埋没縫合する.Cg:縫合終了した状態.これをC4針程度行う.(文献C11より引用)図11結膜自体の伸展が悪い症例LERsを瞼板下縁および結膜から切離したのちに,結膜横切開を加えてさらに減張している.(文献C11より引用)図12Z形成術のデザインa:内眼角贅皮を正中に引っ張り,涙丘鼻側にあたる位置にマーカーを置く.Cb:皮膚を戻し固定しておいたマーカーで付けた内眼角贅皮表側の点をCA点とする.Cc:A点から,上眼瞼の重瞼ラインもしくは開瞼した際の瞼縁に沿ってラインを延ばしてCB点とする.Cd:内眼角贅皮の最尾側下端をCC点として,緩やかなカーブをつけてCA点とつなぐ(点線).e:B点から内眼角贅皮裏側の点をCD点とする.f:睫毛下の皮膚切除も同時に行う場合は,切除幅が含まれるようにデザインする.g:A-C-Dで形成された皮弁の頂点CCをCB点に移動させる.Hotz変法と組み合わせることで睫毛内反と内眼角贅皮が解消される.(文献C11より引用)図13内眼角贅皮の上下の連絡を絶つ重要な操作内眼角贅皮下のCsubcutaneousC.brousband()を切離し,さらに眼輪筋を内眥腱直上まで.離し,必要に応じて眼輪筋も切離する.(文献C11より引用)図14Redraping法を加えたHotz変法を施行した症例a:術前.内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉により睫毛が眼球に押されている.b:術後.内眼角贅皮による圧排は解除され,眼瞼前葉の乗り上げはなく,術前と比較し顔貌の変化は少ない.abAcd図15Redraping法を加えたHotz変法の模式図a:作成する内眼角(涙丘鼻側にあたる位置)をCA点とする.内眼角贅皮に水平に伸ばした辺縁をCB点とする.Cb:皮膚を伸ばして,涙湖の鼻側C2mmの位置をCC点とする.Cc:A-B-Cを結んだ線とCHotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開線をつなげて,皮膚切開する.不要な前葉切除(黄緑部)を行う.赤い点線部の皮下と眼輪筋を.離し,subcutaneousC.brousCbandの切離および眼輪筋の処理を行う.d:Hotz変法を行い,デザインのCA点とCC点を埋没縫合し,最後に睫毛下切開部も縫合して終了である.内眼角贅皮は解除されている.図16Redraping法を加えたHotz変法a:A-B-Cを結んだ点(図C15参照)を皮膚切開し,Hotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開を行う.Cb:皮下および眼輪筋を.離し,subcutaneous.brousbandの切離や眼輪筋の処理を行う.Cc:Hotz変法を行い,不要な前葉切除を行う.Cd:デザインのCA点とCC点を埋没縫合する.Ce:下眼瞼皮膚切開部も縫合して終了である.(文献C11より引用)図17Hotz変法に代わる睫毛内反症手術法a:皮膚切開後,瞼板下縁および結膜からCLERsを切離する(:瞼板,:LERs,:結膜)Cb:切離したCLERsの先端部を睫毛側眼輪筋に縫合する(:縫合部).c:両下眼瞼の睫毛内反症術前の顔貌.d:術後半年の顔貌.■用語解説■dogear:皮膚縫合部で生じる余剰皮膚が盛り上がった状態をさし,その形状が犬の耳に似ていることから名付けられた.原因は①皮膚の切除や縫合の際の形状とサイズの不均衡,②皮膚の弾力性や張力の違いにより,縫合部に不均一な張力が生じることである.–

退行性下眼瞼内反症

2024年10月31日 木曜日

退行性下眼瞼内反症InvolutionalLowerEyelidEntropion高橋靖弘*はじめに退行性下眼瞼内反症は,退行性変化により下眼瞼縁が後方に回転することで睫毛が眼表面に接触する疾患である(図1a)1).通常は睫毛の向きは正常である.退行性下眼瞼内反症は退行性変化を呈する高齢者に多く,60歳以上の患者のC2.1%にみられる1).睫毛の眼表面への接触により眼異物感,充血,眼脂,流涙などの症状を引き起こすが,下眼瞼睫毛内反症と比較すると眼表面の傷害は軽微であり,重度の角膜障害を引き起こすような患者はほとんどいない2).退行性下眼瞼内反症の原因として,下眼瞼垂直方向の弛緩〔下眼瞼下制筋群(lowerCeyelidretractors:LER)の弛緩〕,下眼瞼水平方向の弛緩(内・外眥支持組織および瞼板の弛緩),上眼瞼圧,隔膜前部眼輪筋の瞼板前部眼輪筋への乗り上げ,眼球陥凹,短眼軸,および眼窩下方の脂肪の前方突出が考えられている1).このうちLERの弛緩が主たる発症原因であり,これに加え水平方向の弛緩および隔膜前部眼輪筋の乗り上げが手術矯正の対象となる1).CI術前評価術前には,下眼瞼垂直・水平方向の弛緩の有無を確認する.垂直方向に関しては,下眼瞼を眼窩下縁のレベルまで下方に牽引し,下眼瞼結膜.に脂肪突出が確認できれば下眼瞼垂直方向の弛緩があると判断できる1).また,下方視時から上方視時にかけての下眼瞼の移動域(lowerCeyelidexcursion)は正常では5mm程度であるが,LERが弛緩すると2.3Cmm程度にまで低下する1).水平方向の弛緩の有無はCpinchCtest,ClateralCdistrac-tiontestおよびCmedialCdistractiontestを用いて確認できる1).Pinchtestにおいては下眼瞼を前方に牽引し,瞼縁が眼球からC8Cmm以上離れた場合に下眼瞼水平方向に弛緩があると判定する1).Distractiontestにおいては,下眼瞼を外側(lateral)または内側(medial)に牽引し,涙点が半月ひだと角膜内側輪部の中点を通る垂線,または涙丘の中点を通る垂線を越えて外側または内側にシフトした場合に,それぞれ内眥または外眥に弛緩があると判定される1).退行性下眼瞼内反症は,下眼瞼を下方に牽引するとつぎの瞬目まで一過性に改善する.つぎの瞬目を待たずに内反状態に戻る場合は,下眼瞼に瘢痕性変化が混在している可能性があり,内反症の矯正に瘢痕の修正も必要となる場合がある.CII退行性下眼瞼内反症に対する手術前述のとおり,退行性下眼瞼内反症の主たる原因はLERの弛緩である.LERは前層と後層のC2層構造を有し,後層に含まれる平滑筋線維が下眼瞼を後下方に牽引する動力源である1).したがって,退行性下眼瞼内反症治療の主眼はCLER後層を前転し緊張を与えることである.これに加え,下眼瞼水平方向の弛緩の矯正と隔膜前*YasuhiroTakahashi:愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科〔別刷請求先〕高橋靖弘:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1189図1退行性下眼瞼内反症と下眼瞼下制筋群(LER)前転術a:顔写真.右下眼瞼退行性内反症を認める.Cb:マーキング.Cc:眼輪筋を分けて.離後に眼窩隔膜,LER,瞼板を露出.Cd:LERを結膜から.離.Ce:眼窩隔膜を切開しCLER前層を露出.Cf:LERに通糸する際に後層に通糸されていることを確認.g:LER,瞼板下縁,眼輪筋,皮下に通糸.図2Transcanthalcanthopexya:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当する.b:外側眼瞼交連の穴から通糸.Cc:骨膜にも通糸.d:閉創.-図3Lateralwedgeresection法a:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当.b:Lateralcantholysis後,下眼瞼の外眥部が自由に動くことを確認.Cc:外眥部を外側に牽引し下眼瞼の余剰分を測定:破線は切開予定部.Cd:下眼瞼の全層切開後.e:瞼板の断端を眼窩外側縁に固定.f:閉創.’–

上眼瞼皮膚弛緩の治療

2024年10月31日 木曜日

上眼瞼皮膚弛緩の治療OptimalTreatmentforDermatochalasis奥村仁*はじめに上眼瞼皮膚弛緩の治療は,瞼縁より垂れ下がった皮膚の切除により視野を改善し,開瞼時の重たさを取り除く目的で行われるが,形態変化を伴うために整容面にも留意する必要がある.上眼瞼皮膚弛緩で受診する中高年の患者では,眼瞼下垂を合併したり,眉毛位置が前頭筋の作用で挙上していたり,逆に皺眉筋や眼輪筋の作用で下降していたりとさまざまな症状を呈する.そのため,上眼瞼だけでなく,上顔面(上眼瞼.眉毛.額)を診察し,必要な術式を選択し,ときには複数の術式を組み合わせて治療を行う.本稿では,上眼瞼皮膚弛緩に対する筆者の術式選択方法と,手術の詳細について紹介する.I術式選択手順フローチャートに沿って術式選択を行う(図1).瞼縁が瞳孔を隠す中等症以上の眼瞼下垂合併患者では,挙筋腱膜や挙筋群の前転術を先に行う.眼瞼下垂手術時に重瞼部皮膚切除を同時に行うこともできるが,上瞼縁角膜反射間距離(marginre.exdistance-1:MRD-1)の低下だけでなく挙筋能も悪い患者では目標位置まで下垂が改善しない可能性もあるため,術前に皮膚切除量を正確に決められない.筆者は軽症例を除き二期的に手術術式を検討する方針としている.眉毛下縁位置が眼窩上縁よりも低い患者では,眉毛上皮膚切除や前額部リフトを行い眉毛.上眼瞼を挙上する.術後,眉毛位置が正常に改善してから上眼瞼皮膚弛緩の程度を診察し,治療方針を検討する.上眼瞼皮膚弛緩の術式選択には,ブジーを用いたシミュレーションを行う.正面視の瞳孔の垂線周辺にブジーを当てて開瞼位にし,鏡で患者に確認してもらいながら重瞼をシミュレーションする.①重瞼の形(末広型・平行型など),②見かけの二重幅(pretarsalshow),③重瞼の厚み,④眉毛位置の変化などに注意して確認を行う.シミュレーションの重瞼が気に入った患者で,ブジーの位置が瞼板の高さよりも低い場合は皮膚切除しない重瞼術を行う.ブジーの位置が瞼板の高さよりも高い場合は重瞼部皮膚切除を併用した重瞼術を行う.シミュレーションをした重瞼が気に入らない患者で「一重を二重にしたくない」「昔の二重のままでいたい」など重瞼形成が不要な場合は眉毛下皮膚切除を行う.「一重を二重にしたい」「睫毛内反」「重瞼に左右差がある」など重瞼形成を要する患者では,不自然にならない比較的低位置での重瞼形成と眉毛下皮膚切除を段階的に行う.II重瞼部皮膚切除1.手術適応上眼瞼の皮膚・皮下脂肪は睫毛付近では薄く,眉毛に近づくにつれて徐々に厚くなる.皮膚切除量が多いと厚い皮膚・皮下脂肪や深層の隔膜前脂肪,眼窩内脂肪によ*HitoshiOkumura:銀座ファインケアクリニック,井上眼科病院〔別刷請求先〕奥村仁:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)1181図1上眼瞼皮膚弛緩の術式選択のフローチャート⑦⑥⑤④①②③図3実際の重瞼部皮膚切除デザイン図2重瞼部皮膚切除デザイン①内嘴と瞳孔中心の中点.②瞳孔中心.③瞳孔中心と外嘴の中点.④外嘴.⑤内嘴付近.この部位の高さは重瞼の形(末広型や平行型)に影響する.⑥皮膚弛緩最外側位置.C⑦×は理想の重瞼幅の折れ返る位置.図4重瞼形成断面図①:瞼板-挙筋腱膜後層-眼輪筋-眼輪筋上筋膜縫合.②:挙筋腱膜-眼窩脂肪縫合.③:皮膚-眼窩隔膜(挙筋腱膜浅層)-皮膚縫合.図5重瞼部皮膚切除症例(70代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.BBBB⑥⑤⑦③④①②図6眉毛下皮膚切除デザイン図7実際の眉毛下皮膚切除のデザイン①CA:眉毛直下.②CA:眉毛内にC1.2Cmm入った位置.③CA,④CA:②CAの高さ+0.3Cmm(眉毛内に入る).①B.④B:座位閉瞼時の基準線から①A.④CAの計測距離と同じ高さの点を座位眉毛挙上閉瞼時に尾側切開位置としてプロットした点.⑤眉頭近辺.⑥皮膚弛緩最外側位置.⑦基準線(瞼縁.外嘴から水平方向に伸びる皺).図8眉毛下皮膚・皮下組織切除後皮膚・皮下脂肪切除後,眼輪筋・ROOFの切除,皺眉筋の部分切除・離断をした後の状態.③④①②図9眉毛下皮膚切除時の皺眉筋切断やROOF切除①眼輪筋.②CROOF隔膜前部から眉尻近くの眼窩上外側の切除症例が多い.③皺眉筋浅層のCobliquehead.④皺眉筋深層のCtranseversehead.C図10眉毛下皮膚切除症例(60代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.

眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術の適応と術式のバリエーション

2024年10月31日 木曜日

眼瞼下垂に対する前頭筋吊り上げ術の適応と術式のバリエーションFrontalisSuspensionforBlepharoptosis:ProcedureVariationsAccordingtoDi.erentialSurgicalIndications権太浩一*舘一史*はじめに眼瞼下垂に対する術式の適応決定にあたっては,眼瞼挙筋の筋力が温存されているか低下しているかがもっとも重要である.挙筋筋力が温存されている場合には,腱膜性要因→眼瞼挙筋前転術,上眼瞼皮膚弛緩性要因→除皺術,けいれん性要因→ボトックス注射や眼輪筋部分切除など,下垂の要因に応じた術式を選択すればよい.一方,筋性要因あるいは神経原性要因などによって挙筋筋力が低下している場合には,前頭筋吊り上げ術を選択すべきである(当然ながら,腱膜性・皮膚弛緩性など他の要因が併存している場合はそれに対応する術式も併施する).挙筋筋力が低下している患者に眼瞼挙筋前転術を適用すると低矯正となりやすいし,挙筋筋力低下にもかかわらず瞼裂高を確保しようとして挙筋の前転量あるいは短縮量を増やしていくと,今度は兎眼を生じるリスクが高まる.挙筋の過前転・短縮量過多によって兎眼となった患者に対して行うべき修正術の術式は,標準的には挙筋腱膜の停止部離断と(必要に応じた)適切な吊り上げ材料による前頭筋吊り上げ術への切り替えである.ただし,眼瞼手術の一般的法則として上眼瞼の形成手術を二度以上繰り返した場合には,おもに眼瞼組織の瘢痕化に伴う伸縮性の低下によって,初回から適切な術式を実施して一度で手術を終わらせた場合と比較して臨床結果はほぼ確実に劣る.つまり,とりわけ上眼瞼に対する手術では適切な術式を最初から選択して一度でよい結果を得る必要があり,とくに眼瞼下垂で挙筋筋力が低下しているような患者に対しては,初回手術で前頭筋吊り上げ術を選択すべきである.とりあえず挙筋前転術を施行してみて,低矯正だったら再手術として前頭筋吊り上げ術を考慮すればよい,というような戦略は一見合理的に見えるが,他医手術例や自験例に対してそのような再手術を多く手がけてきた筆者の経験では,再手術で前頭筋吊り上げ術に切り替えた患者の術後結果は必ずしもよいものではない.眼瞼下垂に対しては術前に挙筋筋力を検討し,挙筋前転術と前頭筋吊り上げ術という2術式の適応の切り分けを行ったうえで適切なほうを選ぶべきであり,挙筋前転術の一辺倒は不適切である.ただし,挙筋筋力が温存されているか否かを判断するのは現状ではまだむずかしい面もあり,100%の確度で挙筋筋力の低下を術前に検知できるものではない.重症の眼瞼下垂は,挙筋筋力低下以外にも,重度の腱膜性要因,外傷などによる瘢痕形成やプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinassociatedperiorbitopa-thy:PAP)を含むさまざまな病態による眼窩脂肪の線維化の結果として起こる開瞼抵抗の増大,視力低下などによる廃用性要因など,さまざまな要因で生じる.そのため,挙筋筋力低下(いい換えると筋性あるいは神経原性下垂要因)というのはこれらさまざまな筋性・神経原性以外の下垂要因をすべて除外したあとに初めて診断できるということであり,ある意味で除外診断でしか診断し得ないのである.なお,通常行われる挙筋機能の測定*KoichiGonda&KazufumiTachi:東北医科薬科大学医学部形成外科学〔別刷請求先〕権太浩一:〒983-8536宮城県仙台市宮城野区福室1-15-1東北医科薬科大学医学部形成外科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(25)1173法(眉毛の挙上を用手的に抑えて下方視から上方視した際の上眼瞼縁の滑走距離を測定する)は開瞼抵抗の修飾を受けていたり,上方視時には上直筋の筋力も加わったりするため,眼瞼挙筋筋力を必ずしも正確には反映しない.挙筋前転術と各種吊り上げ材料による前頭筋吊り上げ術の適応の決定法については後述するが,挙筋筋力低下の診断精度が十分ではない現状では,つぎのような選択をすべきである.少なくとも挙筋筋力低下による筋性下垂の診断はつかないけれどもその可能性が否定できないような患者に対しては,最初から前頭筋吊り上げ術を選択するか,あるいは,まず挙筋前転術を実施するにしても,術中に挙筋前転後に挙上不足をうかがわせる所見がみられたら,即座に前頭筋吊り上げ術に切り替える準備をして手術に臨むという方針である.I大腿筋膜による吊り上げ術1.移植筋膜の特性前頭筋吊り上げ術における吊り上げ材料としてもっとも標準的なものは大腿筋膜だと思われるが,大腿筋膜に限らず吊り上げ材料としての筋膜の特性として認識しておくべきことは,以下の2点である1).①術後2.4週間で縫合固定点だけでなく,その全長において周囲組織と癒着して固定される.②移植筋膜は術後3カ月.1年をかけて,平均14%収縮する(収縮率は0.30%の範囲で個人差や左右差があり,術前に予測は不可能).特性①により,移植される筋膜の幅が広いほど筋膜と癒着して固定される周囲組織の面積が大きくなるため,移植筋膜による牽引力がそれだけ強くなる.そのため,幅5mmを超えるような幅広い筋膜を移植してしまうと,特性②によってとくに筋膜片の収縮率が大きくなった場合に,移植筋膜による牽引力が強くなりすぎて兎眼を生じるリスクがきわめて高くなる.上眼瞼に対して下垂の矯正目的で筋膜片を移植する場合には,基本的にそれほど強い牽引力は必要ないため,移植する筋膜片の幅は2.4mm程度の細い幅とすべきである.また,特性②により術後に移植筋膜は収縮する場合が多いため,術中の筋膜片固定時に牽引の強さを決める段階で,兎眼を生じるほどの牽引度で固定すべきではない.2.筋膜片の形態・サイズと本数移植筋膜片の形態および本数に関しては,筆者は上眼瞼に対する筋膜吊り上げ術を自ら執刀しはじめた当初から現在に至るまで,少なくとも初回の筋膜移植術時にはI型を縦に2本(まれに1本)移植することにしており,それ以外の筋膜片の形態や移植本数についての知見はもたない.移植筋膜の幅は,上述のように3mmないしは4mmとしている.以前は2mm幅の筋膜を移植していた時期もあったが,自験例で筋膜吊り上げ術の低矯正例に対する再手術を行った際に,移植筋膜が萎縮して非常に細くなっていた患者を数例経験し,それ以降は少なくとも3mm以上の幅で移植するように方針転換した2).3.筋膜片の移植レイヤー移植筋膜を通す層に関しては,筆者はほとんどの場合に眼窩脂肪腔内で眼窩隔膜の裏面を通している.このほか,眼輪筋下・眼窩隔膜前面の層を通すという選択肢もある.眼窩脂肪腔内・眼窩隔膜裏面を通す場合は,移植筋膜の周囲に形成される瘢痕組織量がやや多くなり,筋膜片そのものの短縮効果に瘢痕拘縮の効果が加わるため,眼輪筋下・眼窩隔膜前面を通す場合と比較して筋膜片による牽引力が強めになる傾向がある.移植筋膜片を眼輪筋下・眼窩隔膜前面に通した場合には筋膜片周囲の瘢痕形成が少なめになるのだが,その原因は不明である(可動性のある眼窩脂肪と接しないためか?).そのため,重症のドライアイを合併しているなど,絶対に兎眼を生じさせたくない患者では,あえて移植筋膜を通す層を眼輪筋下・眼窩隔膜前面としてもよいのだが,その場合はとくに(後述するように)shortgraft法による筋膜吊り上げを行うと今度は低矯正となる確率が高まる.4.筋膜片の固定点I型移植筋膜片の固定点であるが,上端は眉毛上切開から前頭筋に,また下端は重瞼線部切開から瞼板前面の上縁近くに縫合固定するというのが標準的な術式である.ただし,これらの標準術式には問題点が多いと筆者は考えている.1174あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(26)abc筋膜下端を眼窩脂肪腔眼窩隔膜前葉の裏側に固定眼窩隔膜の翻転部で挙筋腱膜を瞼板に縫合固定図1大腿筋膜による前頭筋吊り上げ術:従来法とshortgraft法a:術前の状態.b:従来法.c:Shortgraft法.abc筋膜を移植強いsuspension効果図2Shortgraft法における移植筋膜下端の固定位置の上げ下げによる牽引力の調節a:重症下垂例に対するshortgraft法.b:軽症下垂例に対するshortgraft法.c:左右で移植筋膜の下端の高さを変えた症例.bcd図3眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術(donorlessfrontalsuspension)a:開瞼時.b:閉瞼時.c:採取した眼輪筋片.d:眼輪筋片の移植イメージ.==おける眼輪筋片上端の固定のために必要な切開は,眼輪筋片1本あたり3mmのstabincisionであり,これによる瘢痕は術後にほとんど識別不能となる.また,筋膜shortgraft法の場合と同様に,本法でも挙筋腱膜の前転・瞼板への再固定操作は必ず併施すべきだが,本法では兎眼リスクがほぼ0であることから,移植眼輪筋片の下端部は瞼板前面の上縁近くに直接縫合固定するようにする.移植眼輪筋片と上眼瞼皮膚の直接癒着による高位余剰重瞼線の発生を防ぐために,眼窩隔膜の開窓部は修復して閉鎖しておくべきである.4.眼輪筋片の移植手技筋膜吊り上げ術の場合には,技術的には吊り上げ材料を通すトンネルをモスキート鉗子で作製したあと,その同じモスキートで吊り上げ材料の筋膜の端を直接つかんでトンネル内を通せばよいが,眼輪筋片を用いる場合は眼輪筋片が柔らかくて脆弱であるため,筋膜移植の場合と同じ手技はとりにくい.まずは眼輪筋片の下端部(二つ折りの場合は,二つに折った場合の中点)を瞼板前面に縫合固定しておき,ついで眼輪筋片上端にトンネル内牽引用の4-0または5-0絹糸を通しておいてから,別の絹糸をループとしてあらかじめトンネルに眉毛下→重瞼線部切開の方向に通しておいて,それをガイドとして眼輪筋片の上端の牽引糸を眉毛下切開に引き出すといった工夫が必要となる.III眼瞼挙筋前転術および眼輪筋片や大腿筋膜による前頭筋吊り上げ術の適応の切り分け眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術の適応については,眼瞼挙筋前転術単独実施の適応との切り分け(下位適応境界),およびより効果の高いと考えられる大腿筋膜による吊り上げ術の適応との切り分け(上位適応境界)が問題となる.1.眼輪筋片吊り上げ術の上位適応境界ある程度の筋性要因が疑われる下垂患者に対して,眼輪筋片による吊り上げ術ではなく筋膜吊り上げ術を実施すべき基準(眼輪筋片吊り上げ術の上位適応境界の判定基準)は経験的に以下の五つがあげられる.①先天性眼瞼下垂②後天性眼瞼下垂だが,明らかに中等度以上の筋性要因による眼瞼下垂③何らかの原因による眉毛下垂が併存している.④眼輪筋過緊張・拘縮といった顔面神経麻痺後遺症がある.⑤外傷や手術などによる上眼瞼の瘢痕形成がある.これらの基準のうち②だけは定量的な基準のため,何らかの方法で術前に挙筋筋力を見積もる必要があるが,現時点では筋性の下垂要因は本質的に,ほかの腱膜性などの要因を否定したうえでの除外診断でしか特定できないため,術式適用の判定基準とするには困難さを伴う.一方,先天性眼瞼下垂は基本的に純粋な筋性下垂と考えられるので,経験的にはきわめて軽症の先天性下垂を除けば眼輪筋片による吊り上げ術では効果不足で,初回手術時から筋膜吊り上げ術を選択すべきである.2.眼輪筋片吊り上げ術の下位適応境界筋性要因が存在するかどうか微妙であったり軽症の筋性要因にとどまったりなどと予想されるような下垂患者に対して,眼瞼挙筋前転術に加え眼輪筋片吊り上げ術を併施するかどうかを判断する基準(眼輪筋片吊り上げ術の下位適応境界の判定基準)は,現時点でいまだ明確なものは見いだせていない.ただし,少なくとも下記の三つの病態を伴う加齢性下垂患者に対しては,眼瞼挙筋前転術に加え眼輪筋片による前頭筋吊り上げ術を併施すべきだと思われる.①PAP②光老化・花粉症長期罹患・コンタクトレンズ長期装用など挙筋腱膜の高度損傷が疑われる例.③アトピー性皮膚炎・向精神薬服用・コンタクトレンズ長期装用など眼窩脂肪の高度線維化.これら三つの病態以外にも,ある程度軽症の筋性下垂であっても眼輪筋片吊り上げ術を併施すべき例が存在すると思われ,上位適応境界だけでなく下位適応境界を決める際にも挙筋筋力の術前見積もりは必要と考えられる.今後のさらなる臨床研究が必要である.自験例では,これらの判定基準にしたがって眼輪筋片1178あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(30)ab筋膜下端筋膜下端周囲をを下方移動筋膜下端.離を切除図4大腿筋膜吊り上げ術後の低矯正や過矯正(兎眼)に対する修正法a:低矯正例.移植筋膜下端部を剥離して下方移動.b:過矯正(兎眼)例.移植筋膜下端部を切除して短縮.■用語解説■lidlag:眼球の下転と同期して上眼瞼縁が下降することなく高い位置にとどまり「目を.いて」しまう現象.

眼瞼下垂手術(Müller筋タッキング)

2024年10月31日 木曜日

眼瞼下垂手術(Muller筋タッキング)PtosisRepair:Muller’sMuscleTucking林憲吾*はじめに眼瞼挙筋は挙筋腱膜とCMuller筋に分かれ,瞼板に付着する.挙筋の収縮が瞼板に伝わり,眼瞼が挙上される(図1).眼瞼下垂は挙筋群(挙筋腱膜とCMuller筋)の菲薄化や後退により挙筋の収縮が瞼板に伝わらない,あるいは挙筋群の変性や欠損によりその収縮性が低下していることが原因である.そのため,なんらかの方法で挙筋群を前転する手術,あるいは挙筋機能がない重度の場合には前頭筋吊り上げ術が必要となる.海外の総説では下垂の程度と挙筋機能から,軽度にはMuller筋短縮術(Muller’sCmuscleCconjunctivalCresec-tion:MMCR),軽度から中等度には挙筋腱膜前転法,中等度から重度には挙筋短縮術,挙筋機能のない重度には前頭筋吊り上げ術が適応とされている(図2)1).国内では経結膜アプローチのCMMCRなどより,経皮アプローチの術式が一般的に行われている.経皮アプローチの挙筋を前転するおもな術式として,挙筋腱膜前転法,Muller筋タッキング,挙筋短縮術がある(図3).本稿では,Muller筋タッキングを中心に解説する.CIMuller筋タッキングMuller筋タッキング(Muller’sCmuscletucking)は,挙筋腱膜とCMuller筋の間を.離し,Muller筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式である(図3b)2).Muller筋タッキングの際は,瞼板を尾側へ牽引した状態で瞼板上縁から軽度でC8Cmm,中等度でC10mm,重度図1眼瞼挙筋群の模式図および二つのアプローチ上眼瞼挙筋挙筋腱膜経皮アプローチMuller筋経結膜アプローチ瞼板でC12mm程度をタッキング量の目安とする(図4).Muller筋は柔らかく進展性がある組織のため,瞼縁が自然なカーブになりやすく,前転量と固定位置の調整は挙筋腱膜前転より容易である.また,中等度以上の眼瞼下垂では,タッキング幅が瞼板上縁からC10.12Cmmとなることが多いが,閉瞼不全は生じにくく,術後の点状表層角膜症(super.cialpunctateCkeratopathy:SPK)も少ないのが特徴である.筆者らは中等度以上の眼瞼下垂で挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングとの術後CSPKを比較し,術後早期のCSPKおよびドライアイの自覚症状は挙筋腱膜前転法のほうが有意に多いことを報告した(図5)3).ただし,Muller筋タッキングの問題点として再発率の高さがあげられる.小久保らは経過観察期間約C1年*KengoHayashi:横浜桜木町眼科〔別刷請求先〕林憲吾:〒231-0066神奈川県横浜市中区日ノ出町C1-200日ノ出サクアスC205横浜桜木町眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(19)C1167151413121110987654321軽度中等度重度開瞼状態(MRD)から下垂程度a挙筋機能(mm)図2挙筋機能と下垂の程度による各術式の適応範囲下垂の程度は上眼瞼縁角膜反射間距離(marginCre.exdistance:MRD)で判断する.MRDは瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離で,軽度がCMRD=2.3.mm,中等度がCMRD=0.1.5.mm,重度がMRD<0.mmとされる.これと挙筋機能(下方視から上方視の瞼縁の移動距離)から適応術式を選択する.(文献C1より引用)腱膜のみ前転図3代表的な眼瞼下垂の三つの術式a:挙筋腱膜前転法.Cb:Muller筋タッキング.Cc:挙筋短縮術.いずれの術式においても,筆者はすべてC6-0ナイロン糸を使用している.図4Muller筋のタッキング量の測定瞼板上縁からタッキングするCMuller筋の距離を測定する.この患者は軽度の眼瞼下垂のため,8.9Cmm程度を目安としている.Kaplan-Meier10.80.60.40.200612観察期間(月)図6挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングの術後再発に対する生存曲線Muller筋タッキングのほうが挙筋腱膜前転法より有意に再発が多い.(文献C4より引用)(点)10.80.6Apo(n=235)0.4Muller(n=208)0.2p=0.0040フルオレセイン染色スコア術前術後術後術後1週間1カ月3カ月観察期間*:Mann-WhitneyUtest#:repeatedmeasureANOVA図5挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングのSPKの定量推移(フルオレセイン染色スコア)青線:Apo(挙筋腱膜前転法).赤線:Muller(Muller筋タッキング).術後C1週間,術後C1カ月,術後C3カ月ともに有意差があり,とくにC1週間の時点でのCSPKの差が著明である.(文献C3より引用)図7Muller筋の菲薄化が著明な例a:Muller筋が菲薄化しており,瞼結膜が透見される.Cb:瞼板上縁から測定.c:瞼板上縁からC12.mmをマーキング.d:菲薄化したCMuller筋を瞼板へタッキング.図8Muller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併施術の模式図と術中写真a:Muller筋タッキングの模式図(青線が挙筋腱膜,赤線がCMuller筋).b:Muller筋タッキングの術中写真.Muller筋をC2点タッキング固定.c:挙筋腱膜前転法の術中写真.挙筋腱膜の後面へC1針通糸.Cd:挙筋腱膜前転法を併施した模式図.e:挙筋腱膜前転法の術中写真.Muller筋を固定したC2点間の瞼板へ通糸.Cf:挙筋腱膜前転法の術中写真.挙筋腱膜をC1点前転固定.(文献C5より引用)C-