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コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 総括

2025年12月31日 水曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く24.総括土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科2024年C1月からC2年間にわたり連載してきた「英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く」このセミナーも今回で最終回である.本稿ではこれまでの総括として“ContactLensEvidence-BasedAcademicReports(CLEAR)”の意義をふり返るとともに,日本のコンタクトレンズ診療ガイドラインとの相違点を踏まえたうえでの両者の効果的な活用法を提案する.総覧としてのCLEAR英国コンタクトレンズ協会がC2021年に発表したCCLEAR1)を一言で表すならば,コンタクトレンズ(CL)に関するサイエンスを基盤とした「総覧」といえるだろう.CL研究はこれまで材料工学から臨床応用,感染症対策に至るまで多様な領域で発展してきたが,それらを体系的に統合し,分野全体のエビデンスを一望できる形で整理した試みはほとんど存在しなかった.「CLそのもの」に焦点を当て,素材・デザイン・ケア・臨床応用・装用感・ドライアイ・感染症・小児・近視・教育・将来技術などを横断的に俯瞰した「総合レビュー」は画期的であり,おそらく初めての試みである.このエビデンス・ベースドの統合プロジェクトのメンバーは,100名を超える世界各国の研究者・臨床医・教育者ら専門家で構成されている.その中には日本コンタクトレンズ学会常任理事の高静花先生も参加されており,今回は特別にCCLEARそのものの意義や本セミナーの活用法などについてコメントをお寄せいただいた(次頁の掲載).CCLEARの目的と意義CLEARの目的は,「CLに関するサイエンスのあらゆる分野を俯瞰し,現時点におけるエビデンスを再定義する」ことといえる.その最大の特徴は,既存の知見を単に羅列するのではなく,研究水準やエビデンスレベルを明示したうえで,臨床応用への橋渡しを試みている点にある.たとえば,レンズ素材の章では酸素透過性,表面エネルギー,湿潤性といった物理的・化学的性質が実際の装用感や涙液安定性とどのように関連するかを解説している.また,感染症の章では,微生物学的リスクに関する疫学研究と臨床報告を総合し,ケアシステムやユー(59)ザー行動との因果関係をエビデンスに基づいて再構築している.近視抑制や小児のCCL装用に関する章では,オルソケラトロジーや多焦点ソフトCCLの長期成績を解析し,エビデンスの質を評価したうえで臨床指針を提案している.このようにCCLEARは,CLに関する学術的知見を実臨床へと結びつける「国際的共通言語」としての役割を果たしている.日本のガイドラインとの関係・位置づけわが国では,日本コンタクトレンズ学会が策定した「コンタクトレンズ診療ガイドライン」(以下,ガイドライン)が臨床現場における実践指針として広く活用されている2).その内容は,適応・禁忌・処方・フィッティング・ケア・合併症管理などを中心に,国内の医療制度や医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律,販売管理制度との整合を図った実務的な指針である.これに対しCCLEARは,臨床の枠を超えて科学的根拠を国際的に体系化した「知のプラットフォーム」であり,両者は性格を異にしながらも相補的な関係にあるといえる.臨床医や教育者が現場で安全性と遵法性を確保するためにはガイドラインが不可欠であるが,その背後にある物理化学的・生理学的エビデンスを理解し,科学的根拠に基づいて判断を行うには,CLEARの知見がきわめて有用である.いいかえれば,ガイドラインが「どう行うか」を定めた手引きであるのに対し,CLEARは「なぜそれが必要なのか」を示す科学的根拠集である.ただし,CLEARの多くは欧州を中心とした製品や環境を前提としており,わが国のレンズ流通や法規,保険制度とは一部条件が異なる.そのため,国内臨床で応用する際には,日本のガイドラインの枠組み内で,CLEARの記載内容における国内外の差異あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15370910-1810/25/\100/頁/JCOPYを認識しつつ活用するのが,現時点でのベストと思われる.今後は,CLEARが提示する最新の科学的知見をどのようにわが国の臨床実践に反映させるかが課題となるであろう.2年間にわたる本セミナーが,その「国際エビデンスを日本の現場へ橋渡しする」一助となったのであれば,望外の喜びである.おわりに本連載を終えるにあたって,CLEARのメンバーの一人であった高静花先生から,本セミナーを総括するにふさわしいコメントをお寄せいただいたので,ここに掲載する.文献1)Wol.sohnCJS,CMorganCPM,CBarnettCMCetal:CLEARC-Contactlenstechnologiesofthefuture.ContLensAnteri-orEyeC44:129-131,C20212)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-591,C2014CLEARに学ぶ:国際的エビデンスと日本の実践のあいだで高静花大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学寄附講座CLEARプロジェクトは,コンタクトレンズに関する科学的知見を国際的に体系化した初の試みであり,研究と臨床を結ぶ新たな視座を提示した点で画期的であった.私自身,執筆に参加した際には,海外の考え方や用語の違いにとまどいながらも,多くを学んだことを鮮明に覚えている.欧州を中心にまとめられたCCLEARの内容は,日本のレンズ流通や法規・保険制度とは一部前提が異なるが,その違いを理解し,日本のガイドラインの枠組みのなかで活かすことが重要だと感じている.本連載を通じてCCLEARの理念を丁寧に紹介し続けてくださったことに深く感謝申しあげたい.今後,コンタクトレンズの世界はさらに発展をとげ,新しい常識が生まれていくだろう.常にアンテナを張り,研究者と企業が協力しながら,エビデンスに基づいた柔軟な視点を持ち続けて進んでいくことを心から願っている.

瞳 孔異常 ─瞳孔不同,対光反射,対光近見反応解離

2025年12月31日 水曜日

瞳孔異常─瞳孔不同,対光反射,対光近見反応解離PupilAbnormalities前久保知行*はじめに瞳孔は虹彩前面に放射状に走行する瞳孔散大筋と,瞳孔縁で輪状に走行する瞳孔括約筋の,筋緊張のバランスに伴い変動する.瞳孔散大筋は交感神経支配であり,瞳孔括約筋は副交感神経(動眼神経の分枝)による支配を受ける.瞳孔は多くの情報をわれわれに与えてくれる一方で,注目して観察をしないと見逃してしまう変化も多い.瞳孔の異常は,瞳孔の大きさの違い(瞳孔不同)と対光反射の異常の二つに大きく分けられる.瞳孔不同,形状の異常では眼交感神経路,副交感神経の異常であるのか,瞳孔散大筋もしくは瞳孔括約筋の異常であるのか,もしくは中枢性の異常であるのか,順序立てて検査を行うことで診断へつなげることができる.また,CswingingC.ashlighttestにより評価される相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)は視神経疾患を見つけ出す重要な所見となる.本稿ではまず瞳孔所見のとり方,観察時の注意点について触れ,Horner症候群,動眼神経麻痺,瞳孔緊張症,light-neardissociationの鑑別をまとめた.CI瞳孔検査のポイント(図1)1.5)瞳孔径の評価は暗室,明室のC2環境下での瞳孔径を評価することが重要である.それはある一環境下だけの観察ではどちらの眼の異常であるかの判断ができないためである.測定はできる限り室内の遠方の指示指標を見てもらい,検者は近見反応が入らないように被検者の視線図1正常眼(赤外線撮影)(20代,女性)を遮らず横から観察を行い,0.5Cmm単位での瞳孔径を記録する.対光反射では片眼に光を照射し,その眼の縮瞳が迅速(prompt)であるか遅鈍(sluggish)か,縮瞳量は完全(十分)か不完全(不十分)か評価する.対光反射は光刺激によって生じる反射性の縮瞳を意味する.網膜視細胞から双極細胞,網膜神経節細胞を経て,その求心線維は視神経,視交叉,視索に達し,外側膝状体の前で視路と分岐して中脳背側部の視蓋前域に入り,その後両側のEdinger-Westphal核(EW核)に投射される.その後,遠心路として動眼神経の一部として走行し,眼窩内で動眼神経下枝から毛様体神経節に至り,シナプスを替え,節後神経線維である短毛様体神経として眼球内に入り虹彩の瞳孔括約筋に終わる6).そのため,片側の光入力に対して,両側同量の出力(縮瞳)を生じる変化が起こり,直接対光反射=間接対光反射となる.SwingingC.ashlighttestは光を左右眼に対して素早く2.3秒ごとに交互に照射し,その入力系の差(RAPD)を検出するものである.縮瞳量の差から縮瞳状態から散大する動き*TomoyukiMaekubo:眼科三宅病院〔別刷請求先〕前久保知行:〒462-0825名古屋市北区大曽根C3-14-20眼科三宅病院(1)(51)C15290910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2Horner症候群(頸椎症術後)(40代,男性)右眼の縮瞳と軽度の眼瞼下垂を認める.C–図3動眼神経麻痺(70代,男性)a:顔写真.b:赤外線撮影.左内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤による左動眼神経麻痺.左瞳孔散大,眼瞼下垂,外斜視を認める.図4瞳孔緊張症(30代,男性)a:暗所.b:左眼への光照射.c:近見反応.暗所では左瞳孔は散大し,左眼に光刺激を行っても縮瞳はみられないが近見反応では縮瞳を認める(light-neardissociation).要ない.症状が強い場合や改善傾向が認められない場合に治療を検討する.点眼治療として低濃度ピロカルピン点眼をC1日C3.4回点眼する.羞明症状が強い際にはサングラスや着色コンタクトレンズなどを用い,近方視力障害の症状が強い際には近見への屈折矯正を行う.CV対光近見反応解離対光近見反応解離(light-neardissociation)18)は対光反射が減弱ないしは消失しているのに対して,近見反応は保存されている状態をさす.中枢性と末梢性に分け,中枢性では中脳背側症候群(dorsalCmidbrainCsyn-drome,ほぼ同義でParinaudsyndrome)とArgyllRobertson瞳孔を考え,末梢性では瞳孔緊張症を考える.対光反射は前述のように視交叉後に視索から中脳背側の視蓋前域,後交連に入りCEdinger-Westphal(EW核)へ投射する.中枢性対光近見反応解離はおもに視蓋前域の部分が障害されることにより対光反射の異常が生じるのに対して,近見反応は視覚入力が外側膝状体より第一次視覚中枢を経由し別経路でCEW核に入ることから保たれるため,この解離が生じるものと考えられている.中脳背側症候群では松果体腫瘍などによる中脳背側への圧排や出血,梗塞,炎症,脱髄などで生じる.ArgyllRobertson瞳孔はもともと神経梅毒の特殊な瞳孔異常としてとらえられおり,両眼の縮瞳に対光近見反応解離を伴うものをいう.しかし,近年は重症梅毒患者の減少に伴い,梗塞,多発性硬化症などを背景とした報告のみであり症例は減っている.瞳孔緊張症は,急性期では対光反応・近見反応のいずれも障害されるが,亜急性から慢性期にかけて末梢性対光近見反応解離を認めるようになる.末梢性対光近見反応解離は,中枢性の場合とは機序が異なると考えられており,その発現機序については諸説がある.その一つとして,異所再生(aberrantregeneration)の関与が考えられている.瞳孔括約筋への神経線維は動眼神経下枝内を走行し,毛様体神経節でシナプスを形成する.節後線維は短毛様体神経とよばれ,およそC95%が毛様体へ,残りが瞳孔括約筋へ分布するとされる.障害後の再生過程で,本来毛様体へ向かうべき神経線維が瞳孔括約筋へ迷入する異所再生が生じると,対光反射が消失または不良な状態であっても,近見反応が保持されるようになるとされる19).また,瞳孔括約筋における脱神経過敏による機序も考えられており,近見反応時に毛様体筋から大量のアセチルコリン(acetylcholine:ACh)が放出され,房水を介して過敏化した瞳孔括約筋に作用することで,近見反応時に縮瞳が生じるのではないかとする説である20).近見反応による縮瞳は急速ではなく,緩徐に縮瞳し,遠見に戻した際の瞳孔の拡大もゆるやかとなる点が末梢性の特徴とされる.一方,中枢性の対光近見反応解離では,瞳孔が比較的速やかに戻るため,両者の鑑別に有用である.おわりに瞳孔所見から診断に至る症例も少なくなく,多くの情報を得ることができる.瞳孔不同は致死的な疾患が背後にあることもあり,決して見逃してはいけない変化である.また,対光反射やCRAPDを適切に評価することで視神経症の早期発見・診断につなげることができる.今回は瞳孔所見のとり方から各疾患の診断のポイントをまとめた.本稿が日常診療の一助となれば幸いである.文献1)前久保知行:神経眼科診療における所見の取り方(診察室・入門編).神経眼科C42:138-145,C20252)中馬秀樹:神経眼科診療の基本.フローチャートでみる神経眼科診断(中馬秀樹編).中山書店,p2-21,C20213)三村治:神経眼科診察法.神経眼科学を学ぶ人のために(三村治編),第C2版.医学書院,p19-31,C20174)MillerCNR,CNewmanCNJ,CRiousseCVCetal:WalshCandCHoyt’CsCclinicalneuro-ophthalmology:TheCessentialsC2ndCed,CLippincott,Cp299-306,C20085)LiuCGT,CVolpeCNJ,CGalettaS:Neuro-ophthalmology:CDiagnosisCandCmanagement-2ndCed,CPupillaryCdisorders.Cp428-441,C20106)前田史篤:対光反射の新しい考え方.神経眼科C36:372-377,C20197)MoralesCJ,CBrownCSM,CAbdul-RahimCASCetal:OcularCe.ectsCofCapraclonidineCinCHornerCsyndrome.CArchCOph-thalmolC118:951-954,C20008)前久保知行:Horner症候群のアイオピジン点眼試験について教えてください.あたらしい眼科C27(臨増):260-263,C20109)SabbaghCMA,CDeCLottCLB,CTrobeJD:CausesCofCHornersyndrome:aCstudyCofC318Cpatients.CJCNeuro-ophthalmolC40:362-369,C2020(55)あたらしい眼科Vol.C42,No.C12,2025C1533-

中 枢性眼球運動障害 ─病的眼振,核間麻痺,垂直水平注視麻痺

2025年12月31日 水曜日

中枢性眼球運動障害─病的眼振,核間麻痺,垂直水平注視麻痺CentralOcularMotorDisorders─PathologicalNystagmus,InternuclearOphthalmoplegiaandVertical/HorizontalGazePalsies吉田正樹*はじめに日常の眼科診療で中枢性眼球運動障害に接した際に,病因となる中枢病変をわれわれ眼科医が直接治療することはない.必要なことは,病因の最終診断や治療を担当する脳神経内科ないしは脳神経外科へ,適切かつ迅速に情報提供を行うことであろう.一方,先天眼振に代表される先天性の眼球運動障害では,眼科による管理が必要とされることもある.本稿ではおもに脳幹レベルでの眼球運動の中枢制御の基本事項を提示したのちに,中枢性眼球運動障害の眼科臨床的な側面につき解説する.I眼球運動の中枢制御:衝動性眼球運動と眼位維持のしくみヒト左右眼には3対計6本の外眼筋が付属し,左右の動眼・滑車・外転神経の支配を受けている.これらの脳神経は上位中枢から適切な制御を受け,左右眼の中心窩で視対象をとらえ,維持させることができる.最初に左右眼が共同して動くしくみについて述べる.1.三半規管と前庭眼反射による眼位維持1)左右の内耳には,前半規官(anteriorsemicircularcanal:AC),後半規官(posteriorsemicircularcanal:PC),外側半規官(lateralsemicircularcanal:LC)が互いに90°をなして位置し,頭部の回旋を三次元的に感知している.眼球も頭部回旋に対してそれぞれの半規官に対応した回旋角に対して逆位相の回旋運動を行うことで眼位の維持を可能にしている(図1a).具体的には右ACは右上直筋と左下斜筋を駆動させ,右PCは右上斜筋と左下直筋を,右LCは右内直筋と左外直筋を駆動させる(図1b).図中には記載していないが,左ACは左上直筋と左下斜筋を,左PCは左上斜筋と右下直筋を,左LCは左内直筋と右外直筋を駆動させる.頭部回転角に対する眼位補正を行っている.内耳の半規官で得られた頭部回旋情報は,矯・延髄移行部に位置する同側の前庭神経核への投射が行われたのちに,眼球運動神経核を介して外眼筋を逆位相に回旋させ視対象を網膜上に安定させる.この仕組みを前庭眼反射とよぶ.図2に右への顔回しに対する前底眼反射の経路をシェーマで示す.右への顔回しでは右水平半規官が水平回旋情報を右前庭神経核のおもに内側核へ伝える.右前庭神経核から対側の左外転神経核へ交差して投射され,左眼の外直筋を収縮させ左眼は左方向へ回転する.また,左外転神経核から交差線維が右内側縦束(mediallongitu-dinalfasciculus:MLF)を中脳レベルまで上行して右動眼神経核へ投射,右内直筋を収縮させ右眼も左方向へ回転する.結果として,右への顔回しに対して左右眼が左方向へ回転することで視対象を網膜上に保持させることができる.図3に右斜め下・右斜め上への頭部回旋に対する前庭眼反射の経路をシェーマで示す.右斜め下への頭部回旋が生じた(図3:赤線)とき,右前半規官が回旋情報を*MasakiYoshida:堀内眼科〔別刷請求先〕吉田正樹:〒400-0306山梨県南アルプス市小笠原386堀内眼科(1)(41)15190910-1810/25/\100/頁/JCOPYbPC:後半規管図1a3半規管による回旋角の感知と眼球回旋図1b右側各半規管による眼球回旋支配図2右への顔回しに対応する左向き水平前庭眼反射上向き系下向き系図3右斜め下・右斜め上への顔回しに対応する前庭眼反射上丘を背側上方からみたシェーマ左側吻側右側尾側図4上丘におけるサッケード指令の二次元地図図5左向き水平サッケード経路上向き系下向き系図6垂直サッケード経路(prepositusChypoglossinucleus),垂直サッケードではカハール間質核(interstitialCnucleusCofCajal)が重要な役割をもっているものの,これらが単独で機能するものではなく,前庭神経核や小脳を含めた脳幹に分布する複数の組織間の神経回路から成り立っているCII病的眼振のしくみ:病的な滑動性眼球運動の混入5)眼位維持の中枢機能として前庭眼反射と神経積分機構について前項で述べた.これらが正しく機能しないと眼球は視対象を黄斑部に維持しておくことができず,視線が視対象からゆっくりとはずれていく病的な滑動性の眼球運動が起こる.はずれた視線を反射性のサッケードで一度戻すものの,病的な滑動性眼球運動で再びそれてしまうという繰り返しが発生する.このサッケードの成分(急速相)と滑動性眼球運動の成分(緩徐相)が交互に繰り返される現象を眼振とよぶ.病的な滑動性の眼球運動によって眼位維持が損なわれることで,病的眼振が発生する.C1.前庭眼反射系の異常による病的眼振図2,3で示したように,前庭神経核は左右の神経核が互いに抑制制御を行うことで眼球運動への出力均衡を常に保っている.また,小脳からも前庭神経核は出力利得の調整を受けることで,前半規管が後半規管に比べ優位であるために起こりうる上向き眼球回旋を抑制したり,眼鏡装用前後で網膜像の大きさに変化が生じることで起こる過大ないしは過少な眼球回旋の補正を行ったりしている.脳幹部病変により前庭神経核の左右均衡が崩れ(toneimbalance,調律不均衡)たり,小脳病変による出力調整が不十分になることにより,不適切な前庭眼反射出力が起こり病的な滑動性の眼球運動を生じさせる.C2.神経積分機構の異常による病的眼振(低利得:後天性障害)サッケード後における適切な視線維持のための外眼筋出力を制御する神経積分機構は,前述の舌下神経前位核,Cajal間質核,小脳などに障害が起きると,出力が低利得となる.サッケード後の眼位維持に必要な外眼筋出力が低下するため,第一眼位へ戻ろうとする病的な滑動性の眼球運動が起こる.この結果起こる病的眼振は注視眼振(gazeevokednystagmus)とよばれる.C3.神経積分機構の異常による病的眼振(高利得:先天性障害)神経積分機構が先天的に異常亢進をきたす病態(先天眼振,idiopathicCcongenitalnystagmus,以下,idio-pathicCN)も存在する.idiopathicCNでは眼位を維持するための外眼筋への出力が過剰となり,眼位維持に必要な外眼筋出力が過大となるために,第一眼位からさらに偏心へ向かう病的な滑動性の眼球運動が起こる.Idio-pathicCNは,垂直・回旋成分を伴わず水平性であることが特徴である.臨床的な特徴はCIV-2項で後述する.CIII注視麻痺と核間麻痺1.注視麻痺I-2項で,垂直・水平サッケードの経路について解説した.水平サッケード(図5)では橋下部におけるPPRFから外転神経核に至る構造に障害が発生した場合,障害側への水平サッケードは発動されず水平注視麻痺をきたす.同様に垂直サッケード(図6)では,中脳背側においてCriMLFに一致した障害が発生した場合,垂直注視麻痺をきたす.水平・垂直注視麻痺を観察した場合,急性発症における病因としては,同部位の脳梗塞があげられる.慢性進行性の場合では,中脳レベルでの萎縮が観察される進行性核上麻痺で垂直注視麻痺(とくに下方注視麻痺)をきたす.同様に松果体部腫瘍においてもCriMLFの破壊により垂直注視麻痺をきたす.図7に脳梗塞後の恒常的な複視を主訴に来院したC46歳,男性症例を示す.右顔面神経麻痺を合併していたため橋下部脳幹梗塞を考え,脳梗塞入院時CMRI照会で同部位の病巣が確認された.左眼の内転は保たれており注視麻痺はきたしていないものの,顔面神経を含む外転神経核部分障害ないしは髄内外転神経線維障害と考えられた.右内直筋拘縮解除目的に内直筋CA型ボツリヌス毒素注射を行ったところ,右外転制限は残存するものの正面から左方視で融像が可能となり,定期的な追加注射で融像を維持している.1524あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(46)右橋下部梗塞右眼の外転制限左眼の内転は保たれている右内直筋A型ボツリヌス毒素注射後図7脳幹梗塞による右外転神経麻痺a急性期拡散強調画像b水平断冠状断図8脳幹梗塞による右核間麻痺

写真セミナー:放射線角膜上皮障害による角膜穿孔

2025年12月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史葛西梢499.放射線角膜上皮障害による角膜穿孔東京慈恵会医科大学附属病院眼科図2図1のシェーマ①角膜穿孔・虹彩嵌頓②瞼球癒着図1放射線角膜上皮障害による角膜穿孔の前眼部所見(74歳,女性)放射線治療開始からC3年C7カ月後(2025年C7月)の所見.角膜下方に角膜穿孔・虹彩嵌頓・瞼球癒着を認める.図3初診時前眼部所見放射線治療開始からC1年後(2022年C12月)の所見.表層角膜の角化,血管の侵入を認める.疼痛のため開眼が困難.図4図3のフルオレセイン所見角膜下方に上皮欠損とびまん性の角膜上皮障害を認める.(57)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C15350910-1810/25/\100/頁/JCOPY頭頸部癌の多くが扁平上皮癌であり,放射線感受性が高いことから放射線治療を行うことが多い.一方で放射線による重篤な有害事象の発生も多い1).症例は74歳,女性.左上顎洞癌cT4aN0に対して2021年12月からC2022年C2月まで動注化学療法併用放射線治療をC70CGy/35fx施行された.病変は左眼窩内にも進展しており,角膜や網膜の耐容線量を超えて照射された.照射開始から約C1年後のC2022年C12月に左眼の眼痛を訴え開眼困難となったため,当院を紹介受診した(図3,4).初診時,水晶体や網膜に異常所見は認めないものの,左眼の角膜上皮障害,Descemet膜皺襞,瞼球癒着,血管侵入を認め,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.09と左眼の矯正視力低下を認めた.ジクアホソルナトリウム点眼と治療用ソフトコンタクトレンズの使用による治療を開始し,徐々に角膜上皮障害は改善した.その後は点眼・受診ともに自己中断していたが,2023年C10月,左眼疼痛を訴えて来院した.左眼の角膜上皮障害・輪部機能不全を認め,ヒアルロン酸ナトリウム点眼を開始したが,改善乏しく,涙点プラグを追加した.その後角膜上皮障害は改善したものの,瞼球癒着が強く,羊膜移植手術を勧めたが,手術への恐怖心が強く手術を希望しなかったため,疼痛コントロール目的でフォローしていた.2024年C6月,角膜上皮欠損が再度出現し,点眼治療を強化(レバミピドを追加)し改善した.同年C9月,急な眼痛で来院し,左眼前房内出血,左眼周囲の皮下出血,鼻出血を認め,急激な白内障の進行も認めた.左眼周囲の皮下出血,鼻出血については耳鼻咽喉科で精査したが原因不明であった.2025年C3月,角膜上皮欠損に細菌感染を合併し,抗菌薬点眼(レボフラキサシン水和物とセフメノキシム塩酸塩)で感染・上皮欠損は改善したが,5月から点眼・診察ともに自己中断した.7月,久しぶりに来院した際に角膜穿孔,虹彩嵌頓を認めた(図1,2).抗菌薬点眼を再開し,角膜穿孔部分は感染治癒ともに被覆化した.角膜上皮障害・感染を繰り返すリスクが高いことから眼球内容除去術を勧めているが,本人の手術に対する恐怖心が強く,同意が得られないため保存的に経過観察中である.放射線療法後の角膜潰瘍は瞼裂に沿って起こるとされているが,この患者でも病変は角膜下方に存在し,典型的な症例となっている.上顎癌は,切除可能な場合は手術が第一選択であるが,近傍に重要臓器が多いため全摘はむずかしく,手術不能例に対して術後照射として根治的(化学)放射線療法が行われる2~4).わが国では扁平上皮癌に対し縮小手術,(動注)化学療法,放射線治療の三者併用療法が行われてきた歴史がある.上顎癌の治療は,近年その治癒成績の向上に伴って機能・形態を保存する傾向にある.しかし,上顎癌に対する放射線照射は,周囲に放射線感受性の高い臓器(角結膜,網膜,視神経,視交叉,水晶体,涙腺)が多く,照射後に生じる眼障害は少なくない1).眼科領域では急性期有害事象として結膜炎,晩期有害事象として白内障,緑内障,網膜症,角結膜障害,ドライアイ,視神経障害がある5).動注化学療法併用放射線治療でC5年局所制御率C58%,5年生存率C68%の報告があり,有害事象に対しての治療が重要となってくる6).上顎癌の治療向上に伴い,放射線による眼障害は増加傾向にあるため,術後,定期的なフォローやドライアイに対する治療を積極的に行うことが重要である.文献1)平野実,三橋重信,市川昭則ほか:上顎癌における放射線照射と眼障害.日耳鼻76:456-463,C19732)伊藤照生:認定・専門技師が語る最新!放射線治療のテクニック頭頸部がんの放射線治療.映像情報CmedicalC47:298-303,C20153)HoppeBS,StegmanLD,ZelefskyMJetal:TreatmentofnasalCcavityCandCparanasalCsinusCcancerCwithCmodernCradiotherapytechniquesinthepostoperativesetting–theMSKCCCexperience.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC67:C691-702,C20074)DulguerovCP,CJacobsenCMS,CAllalCASCetal:NasalCandCparanasalCsinuscarcinoma:AreCweCmakingCprogress?CACseriesCofC220CpatientsCandCaCsystematicCreview.CCancerC92:3012-3029,C20015)日本頭頸部癌学会:頭頸部癌診療ガイドライン.2009年版,金原出版,20096)HommaCA,CSakashitaCT,CYoshidaCDCetal:SuperselectiveCintra-areterialCcisplatinCinfusionCandCconcomitantCradio-therapyCforCmaxillaryCsinusCcancer.CBrCJCCancerC109:C2980-2986,C2013C

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)

2025年12月31日 水曜日

末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)Third,FourthandSixthPeripheralNerveParesisandMillerFisherSyndrome中馬秀樹*I外転神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の外転制限のみがみられる(図1).軽症例では眼位で判断する.麻痺側で内斜視角度が増大する非共同性の内斜視となる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患甲状腺眼症:牽引試験(forcedductiontest:FDT)で抵抗がある.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項を参照のこと)Duane症候群:先天性の外転神経麻痺で外転制限に内転時のウインク(眼球陥凹による)が特徴である.先天的な外転神経核の大細胞群の欠損または形成不全が原因とされる.筆者は,成人では内転時のウインクがわかりにくくなる印象をもっている.根治療法はなく,斜視,faceturnがあれば斜視手術の適応になる.内斜視(共同性・非麻痺性):両眼開放で側方視させると,右方視では左眼,左方視では右眼でみるため,右方視では右眼の,左方視では左眼の外転制限のようにみえる.しかし,片眼遮蔽すれば,それぞれ最後まで外転する.また,眼位ずれが共同性である.近見けいれん:近見反射とは,輻湊,縮瞳,調節からなる.したがって,近見けいれんでは必ず縮瞳を合併する.片眼遮蔽すると縮瞳状態から次第に改善し,散瞳してくる.両眼での眼球運動では外転制限を示すが,片眼での眼球運動では外転できる.調節緊張はわかりにくいが,レチノスコープを用いるとわかりやすい.若い女性に多く,ヒステリーが原因のことが多い.一方,器質性疾患が原因のこともあるので,頭蓋内病変検索も必要である.治療は調節麻痺薬点眼で,経過観察となる.眼窩腫瘍,眼窩吹き抜け骨折:FDTで抵抗があり,CT,MRIで明らかになる.3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:外転神経麻痺眼の瞳孔が対側に比べて小さく,対光反射は正常である.アプラクロニジン点眼30分後に対側に比べて大きくなる.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.中耳炎の合併:Gradenigo症候群.耳鼻咽喉科で加療する.両眼性の乳頭腫脹を合併:頭蓋内圧亢進を疑う.起床時に強い頭痛や吐き気など,ほかの症状の合併に注意し,とくに頭蓋内圧の亢進では,頭痛より強い肩こりと表現されることもある.頭部MRIをとり,加えて静脈洞血栓症が原因のことがあるので,磁気共鳴血管撮影(MRA),磁気共鳴静脈造影(MRV)も同時にとる.異常があれば脳外科へ紹介する.仮に画像診断が異常なくても,髄液圧の測定,性状の検索をすべきである.画像診断に異常なく,髄液圧が亢進しており,性状に異常なければ,特発性頭蓋内圧亢進*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(31)15090910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1典型的な右眼外転神経麻痺の眼球運動右眼の外転制限のみがみられる.なし.・瞭眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)なし眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・6カ月以内に改善する.6.非虚血性単独外転神経麻痺で行うべき検査(必要に応じて選択)・頭部MRI:外転神経の走行に沿って・血液検査:すべての患者に基本的な検査:血算,電解質,肝機能,血糖,赤沈,CRP抗核抗体ACE(angiotensinconvertingenzyme)自己抗体:ANCA抗体,リウマチ因子,抗GQ1b抗体ビタミンB1胸部単純,CT脳脊髄液検査(MRIで異常ないことを確認後)これが以下の異常を検出する唯一の方法頭蓋内圧亢進非典型的な髄膜炎(白血病,リンパ腫,癌性髄膜炎,真菌感染,サルコイドーシス,結核)検査項目髄液圧(openingpressure)生化(蛋白,グルコース,オリゴクローナルバンド,myelinbasicprotein,)微生物および細胞診(鏡検,細胞数,培養)7.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.小児の非外傷性の単独外転神経麻痺は神経眼科医へ即刻紹介する.8.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.II動眼神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の眼瞼下垂,上転,下転,内転制限がみられる(図2).病側の瞳孔は散瞳し,対光反射が弱化,あるいは消失する.軽症例では眼位で判断する.たとえば右動眼神経麻痺では,右上斜視が上方視では増強し,下方視では左上斜視になる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項参照のこと)3.よくみられる混合麻痺外転神経麻痺の合併;海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.滑車神経麻痺の合併:下転時の内方回旋がみられないことから判断する.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経麻痺の合併:海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経第一枝が障害されていれば海綿静脈洞の前部または上眼窩裂の病変,三叉神経第一枝,第二枝が障害されていれば海綿静脈洞の中部から後部の病変を考える.海綿静脈洞後部の病変では三叉神経が三枝とも障害され,視交叉,視索の障害が加わることもある.上記の海綿静脈洞の炎症性疾患は,Tolosa-Hunt症候群が有名であるが,あくまでも他の疾患が除外されて初めて診断できる.RAPDを合併:視神経が障害されていることを示し,眼窩先端部の病変を考え,画像検査を行う.(33)あたらしい眼科Vol.42,No.12,20251511図2典型的な動眼神経麻痺の症例右眼瞳孔散大,対光反射不良,眼瞼下垂,内転,上転,下転制限がみられる.30R/L0R/LΔΔ図3典型的な滑車神経麻痺の症例眼位検査で右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する.右眼左眼上直筋:SR下斜筋:IO下斜筋:IO上直筋:SR下直筋:IR上斜筋:SO上斜筋:SO下直筋:IR図4眼球運動の作用方向の図図5右滑車神経麻痺の作用方向の図を用いた診断方法つの筋のうち,数字の大きいほうの斜頸方向(額と顎を結ぶライン,図5赤線)に一致したC1つに丸を付ける(図5赤丸).・最後の一つか麻痺筋である.・Maddoxrodを用いる方法もある.・この方法は,斜視角が小さい,成人の滑車神経麻痺に有用である.・右眼の前にCrodを縦におき,ペンライトを固視させる.・右眼には水平の赤い直線,左眼にはペンライトの光が見える.・赤い線が光より上にあるか,真ん中か,下にあるかを問う.・たとえば,赤い線が光より下に見えれば,右上斜視を意味する.・右眼の前にバープリズムをベースを下にしておく.・光と赤い線の距離が次第に小さくなり,動かなくなるまでプリズムの度数を強める.・真ん中になった度数が正面視での斜視角度で,格子の真ん中に記載する.・以後は同様に左右方視時,左右斜頸時に測定,記録し,同様に麻痺筋を同定する.*両眼性滑車神経麻痺正面視での上下斜視角はほとんどみられず,眼球運動も一見正常にみえる.外方回旋角度がC10°を超えれば両眼性を考える.眼底写真が診断に有用なこともある.右方視では左上斜視,左方視では右上斜視になることがある.右斜頸では右上斜視,左斜頸では左上斜視になることがある.外傷性が多いが,非外傷性であれば画像診断で中脳背側病変を検索する.C2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患Skewdeviation:耳石器の異常により生じる上下斜視と斜頸である.滑車神経とCskewdeviationは鑑別が困難なことがあり,滑車神経麻痺型のCskewdeviationもあるのでややこしい.両者の鑑別には,滑動性追従運動,pursuitの障害の有無,眼振の有無,回旋変位の有無が有用である.SkewdeviationではCpursuitの障害があり,眼振があり,回旋変位がない.回旋変位はCdouC-bleMaddoxrodtestなどで判定する.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.詳細は重症筋無力症の項(1501頁)を参照する.C3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:中脳病変を考え,MRIをとる.RAPDを合併:中脳病変を考えCMRIをとる.中脳背側には滑車神経核,神経線維束があり,近くを交感神経線維,対光反射求心路が走行する.滑車神経は中脳背側の核をでたあと,膝部で左右交差して反対側へ走行する.滑車神経線維束と交感神経線維が障害されると滑車神経麻痺にCHorner症候群が合併する.滑車神経線維束と対光反射求心路が障害されると滑車神経麻痺に対側または同側のCRAPDが陽性となる.C4.単独滑車神経麻痺の原因成人小児外傷性C40.50%先天性C80%虚血性C20.30%外傷性C10%非代償性炎症性頭蓋内圧亢進*知っておくべきことは,成人では非代償性滑車神経麻痺として,複視を自覚して来院する.生まれつき代償性に首が傾いていることが多く,写真で確認することが有用である.上下の融像域が広いことが特徴で顔面の非対称がみられることもある.C5.虚血性の滑車神経麻痺の特徴以下のすべてをみたす.・40歳以上.・一つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙).・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし.・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく.・複視の型,程度にC1日のうちで変化なし.・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし.・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし.(37)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1515・全身神経症状なし.側頭動脈炎の症状なし・正面視で垂直偏位がみられる.・正面視で上斜視眼が,内転時に増加,上斜視側への斜頚で増加する.・正面視で上斜視眼が,以下の眼球運動の特徴を合併する.下斜筋過動症上斜筋のCunderaction・僚眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.・視力・対座法視野検査・瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)・眼瞼(下垂なし)・外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)・角膜,顔面知覚・眼輪筋力,顔面筋力・眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・複視がC3カ月以内に軽減しはじめる.C6.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.成人の単独滑車神経麻痺は以下のように管理,治療する.外傷性は最低でもC6カ月は経過観察する.外傷性の経過観察期間や虚血性の回復までの期間,手術加療を希望しない例,斜視角が小さな複視には,Fresnelプリズム膜や眼鏡組み込みプリズムで矯正する.成人では上下複視の改善を目的として,反対側(僚眼)の下直筋後転を行う.両眼性では回旋複視の改善を目的として,下直筋の外方移動術,または原田-伊藤法を行う.小児では病眼の下斜筋後転を基本とする.小児での正面視時の上下斜視については,下斜筋後転と同時に行うよりもC2段階に分けて行うほうが過矯正を防ぐことができる.7.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.CIVFisher症候群1.決め手になる症状・所見単相性多発神経症で,失調,腱反射消失,外眼筋麻痺を三徴候とする(図6).外眼筋麻痺はさまざまで,上記のような眼球運動神経麻痺,または複合麻痺を呈する.時折球麻痺を生じるが四肢麻痺は生じない.初期の症状は複視で,続いて失調性歩行になり,数日後に腱反射が消失する.感覚低下がC50%に起こり,近位筋力の低下がC30%にみられる.30%で筋力低下に至り,これらはFisher症候群とCGuillain-Barre症候群のオーバーラップを示唆する.一方で,外眼筋麻痺は,末梢性眼球運動障害なのか,中枢性(脳幹部)眼球運動障害なのか鑑別が困難な場合があり,議論されるところである.中枢性眼球運動障害を支持する意見としては,眼球運動障害が画一的で,上方視が最初に障害され,その後,水平眼球運動,最後に下方視が障害されるというものである.回復は逆の順序で起こり,下方視から改善してくることから,これらの変化がちょうど吻側から尾側へと眼球運動神経核の配列に沿っており,中枢性の機序も考えられるというものである.また,51%に核間麻痺を合併することもその根拠としている.筆者も実際,脳幹部障害を示唆する眼振を合併する症例にしばしば遭遇する.頭部CMRIはしばしば正常であるが,なかには脳幹部が造影される例も報告されている.原因はほとんどの例で胃腸炎などの前駆感染徴候をもつ.この感染は,CampylobacterCjejuniによるものが大多数を占める.ほかには,マイコプラズマやCHIV-1,サイトメガロウイルス,EBウイルス,悪性リンパ腫や,風疹混合ワクチン接種後に起こることもある.C2.疑うときに行うべき検査神経ガングリオシドに特異的な自己抗体,とくにGQ1b抗体がC90%の症例で陽性となる.GQ1b抗体は,脳神経II,III,IV,VIに高濃度でみられ,臨床所見とよく相関している.GQ1b抗体は,CIII,IV,VI脳神経1516あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(38)図6Fisher症候群の眼球運動の歩行時の様子軽度の左眼の外転制限がみられ,失調性歩行のため,継ぎ足歩行ができない.’C-

重症筋無力症

2025年12月31日 水曜日

重症筋無力症MyastheniaGravis松本直*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は神経筋接合部での伝達障害により筋力低下や疲労現象を認める自己免疫疾患である.図1に正常とMGにおける神経筋接合部の模式図を示す.MGでは伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine:ACh)とシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholinereceptor:AChR)との結合がAChR抗体により阻害され,伝達障害をきたし,筋力低下をきたす.胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常が合併することがあるが,臨床症状との関連性は十分には解明されていない.I決め手になる症状・所見初発症状として眼瞼下垂(71.9%)や眼球運動障害,複視(47.3%)などを認める眼筋型と,症状が眼筋のみではなく頸部や四肢筋力低下(23.1%),軟口蓋・咽喉頭筋・舌筋の障害による構音障害や嚥下障害,咀嚼障害などの球症状(14.9%),顔面筋力低下(5.3%),重症例での呼吸障害(2.3%)を伴う全身型がある.症状の日内変動(夕方に症状悪化)や易疲労性(反復運動による症状悪化と休養後の改善)を認める1).重症筋無力症(myastheniagravis:MG)に伴う眼球運動障害は複数筋に及び,神経支配と一致しない障害を認めることがある.有病率は10万人あたり2005年では11.8人,2017年では23.1人と推定され増加してきている2).眼筋型MGの割合は0.4歳発症で80.7%,5.9歳で61.5%,10.49歳で26.2%,50歳以上で37.7%となっている1).全身型に移行する場合でも,初発症状は眼科所見が多く,患者は眼科を受診することが多い.MGは眼科所見,自己抗体の採血,神経筋接合部障害の検査から診断2)される(表1).とくに眼瞼下垂と複視の主訴には注意が必要であり,問診が重要となる.たとえば「眼瞼下垂は片眼性なのか,両眼性なのか」「自覚症状はいつからか,急に気がついたか」「朝と夕方で症状は変化するか」「両眼で見たときに二つに見えないか」などをなるべく具体的に聴取する必要がある.眼瞼下垂については形成外科にて手術をされており下垂の判別がむずかしい場合や,手術効果不十分で受診することもあり,眼瞼手術の既往を確認することも重要となる.また,MG患者は発症起点を明確に覚えていることが多く,発症が「徐々に」なのか「急に」なのかを聴取することも重要である.日内変動においてもMGでは「朝症状が軽いが,夜症状が重くなる」が,甲状腺機能亢進症では逆に「起床時にもっとも症状が重く,日中に軽くなる」と違いがある.しかし,この二つの疾患は合併することもあり注意が必要である.その他に単一の眼運動神経麻痺として説明のつかない外眼筋麻痺を認める場合にMGを疑い精査を進める必要がある.II疑うときに行うべき検査診断において抗体検査の結果は重要であるが,結果判明まで時間を要するうえに眼筋型MGの約半数は*TadashiMatsumoto:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕松本直:〒143-8541東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科(1)(23)15010910-1810/25/\100/頁/JCOPY運動神経終末シナプス小胞シナプス後膜AChRMuSKLrp4AChChE重症筋無力症AChR抗体図1重症筋無力症のメカニズム正常であれば運動神経終末のシナプス小胞より放出されたアセチルコリン(ACh)が後シナプス膜に存在するアセチルコリン受容体(AChR)に結合し筋収縮が起こり,信号の終了とともにコリンエステラーゼ(ChE)の作用でAchが分解し,筋収縮が終了する.重症筋無力症においては形質細胞から産生されたAChR抗体により,神経筋接合部でのAChの結合が阻害され,伝達障害をきたす.表1重症筋無力症診断基準2022A症状(1)眼瞼下垂(2)眼球運動障害(3)顔面筋力低下(4)構音障害(5)嚥下障害(6)咀嚼障害(7)頸部筋力低下(8)四肢筋力低下(9)呼吸障害<補足>上記症状は易疲労性や日内変動を呈するB病原性自己抗体(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性(2)抗菌特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性C神経金接合部障害(1)眼瞼の易疲労性試験陽性(2)アイスパック試験陽性(3)エドロホニウム(テンシロン)試験養成(4)反復刺激試験養成(5)単線維筋電図でジッターの増大D支持的診断所見血漿浄化療法によって改善を示した病歴があるE判定Definite:以下のいずれかの場合,重症筋無力症と診断する(1)Aの1つ以上,Bのいずれかが認められる(2)Aの1つ以上,Cのいずれかが認められ,他の疾患が鑑別できるProbable:Aの1つ以上,Dを認め,血液浄化療法が有効な他の疾患を除外できる(文献2より転載)ab図2眼瞼縁角膜反射距離(marginre.exdistance:MRD)の測定方法a:患者の眼前からペンライトを当て,角膜反射と上眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-1,下眼瞼縁までの距離(mm)をCMRD-2として測定する.Cb:写真で記録しておくと判定が容易となる.~図3上方注視負荷試験a:上方視をC1分程度継続させ,眼瞼の状態,複視の悪化を確認する.Cb:試験前.両眼CMRD-1:2mm,MRD-2:5Cmmと軽度の眼瞼下垂を認める.Cc:上方視開始.d:試験開始C30秒後眼瞼下垂が悪化(右>左)している.表2重症筋無力症眼科領域判定表正常C0軽度C1中等度C2重度C3QMGスコア側方視時の複視出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)61以上11.6C01.1C0常時CTheMyastheniaGravis側方視時の複視出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:3常時:4CompositeScale上方視時の眼瞼下垂出現までの時間(秒)45以上:011.45:11.10:2常時:3(文献C2より転載)a抗コリンエステラーゼ薬ナファゾリン点眼プレドニゾロン少量(胸腺主腫あれば胸腺摘除)bIVMP反復免疫抑制薬図5眼筋型重症筋無力症の治療アルゴリズムIVMP:メチルプレドニゾロン静脈内注射.C図6メスチノン試験内服a:内服前.b:内服開始C1週間後.左眼瞼下垂の改善が認められる.

甲状腺

2025年12月31日 水曜日

甲状腺眼症ThyroidEyeDisease川口俊輔*神前あい*I概要甲状腺眼症(thyroideyedisease:TED)とは,おもにBasedow病(Graves’diseaseともよばれる)に伴って発症する自己免疫性の炎症性眼窩疾患であり,眼球突出,複視,視力障害などを生じることで患者の生活の質(qualityofLife:QOL)を著しく低下させる.疾患の本質は,外眼筋や眼窩脂肪,結合組織への自己免疫反応による炎症であり,進行すると急激な視機能低下に至ることもあるため,早期診断と適切な治療介入がきわめて重要である.これまで日本におけるTEDの発症率や有病率は不明であったが,2023年レセプトビッグデータを用いた解析結果が報告された.JapanMedicalDateCenter(JMDC)の1,300万人のデータベースを用いたこの解析では,TEDの発症率は人口10万人年あたり7.3人(男性3.6人,女性13.0人),日本におけるTEDの年齢調整有病者数は34,913人(有病率0.034%)と算出された.平均年齢は44.6歳,女性が76%,基礎疾患としてはBasedow病70.8%,慢性甲状腺炎9.4%であった1).本疾患では,重症度と活動性の評価が診断と治療方針の決定に直結する.臨床的には眼科的所見とともに臨床活動性スコア(clinicalactivityscore:CAS)(表1)によって活動性を評価し,MRI,とくに脂肪抑制T2強調画像(STIR法など)による眼窩組織の浮腫・炎症の可視化が有用である.これにより,治療の時期や方法を選表1ClinicalActivityScore(CAS)□眼球や球後の痛み・圧迫感や違和感□眼球運動時痛(上方視,下方視,側方視)□眼瞼の発赤□眼瞼の腫脹□結膜の充血□結膜の浮腫□涙丘の腫脹───────────────□1.3カ月間に2mm以上の眼球突出の進行□1.3カ月間に8度以上の眼球運動障害□1.3カ月間に視力低下注:炎症の典型的な特徴に基づく活動性評価である.択する.治療の中心にはステロイドパルス療法があり,活動性の高い場合には射線療法の併用も検討される.非活動期には,眼窩減圧術や斜視手術,眼瞼手術などの外科的介入が後遺症の改善を目的として行われる.また,2024年11月にはIGF-1受容体阻害薬であるテプロツムマブが日本でも活動性甲状腺眼症への適用が承認され,治療の選択肢が広がった.TEDは,単なる「目の病気」にとどまらず,内分泌疾患と眼科疾患が交差する代表的な病態であり,早期発見と包括的なマネジメントによって患者のQOLと視機能を守ることができる疾患である.II決め手になる症状・所見本疾患の初期には,患者が「目が出てきた」「目がゴ*ShunsukeKawaguchi&AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕川口俊輔:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院(1)(15)14930910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1Hertel眼球突出度計による測定両眼の外眼角部に.の突出部をあて,正面方向から二つの赤矢印を重ね,角膜頂点部の数字(.)が突出度である.測定誤差が出ないように眼窩外側縁間距離も記載し,毎回同じ距離で計測する.図2外眼筋の活動性炎症a:T1強調画像の冠状断.両眼C4直筋の腫大がみられる.b:脂肪抑制CT2強調画像の冠状断.腫大した外眼筋が高吸収域を示しており炎症所見を認める.とくに左上,内,下直筋の炎症が強くみられる.STTA前STTA後図3右下直筋炎症性腫大に対するSTTA施行例STTA前にはCMRIで右眼の下直筋と内直筋の炎症性腫大がみられる.STTAを下直筋周囲に施行は,治療前にみられた高吸収域がなくなっており,炎症が改善していることがわかる(.).図4下直筋の拘縮による上転障害例の9方向眼位正面視にて右が下斜視となっており,上方視にて右眼上転が制限されている(.).4.眼窩蜂窩織炎眼の急性化膿性炎症で,副鼻腔炎やう歯から炎症が波及する場合が多く,発熱・悪寒などの全身症状を伴い,眼瞼の強い発赤腫脹や眼窩の圧痛が特徴的である.画像検査で炎症所見を確認し,白血球増多やCC反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)上昇などの炎症反応で診断する.C5.内頸動脈海綿静脈洞瘻内頸動脈から海綿静脈洞への動脈血短絡であり,拍動性眼球突出,結膜の静脈怒張,血管雑音,眼球運動制限などを呈する.眼圧脈圧が高いことも特徴的で,MRアンギオグラフィにより短絡血流や上眼静脈拡張を確認できる.外傷後に急性に発症する例と,血管奇形により硬膜枝から短絡する軽症型がある.加えて,重症筋無力症,動眼神経麻痺,上眼瞼挙筋ミオパチー,サルコイドーシス,血管炎(Wegener肉芽腫症)など全身疾患に伴う眼症状も鑑別に含めるべきである.とくに片側性,急速な進行,全身症状を伴う例では,甲状腺眼症と決めつけず,広い視野で診断アプローチをとることが重要である.CV治療あるいは紹介のタイミング甲状腺眼症の治療や専門医紹介のタイミングは,重症度と活動性の評価に基づいて決定される.活動期の患者,とくに視神経障害や急速な進行を認める場合は,早急に専門医紹介が必要である.甲状腺眼症の治療の第一歩は甲状腺機能の是正であり,内分泌専門医への紹介も必要であり,内科治療と並行して眼科治療を行う.活動期には,メチルプレドニゾロンの静注ステロイドパルス療法が標準治療であり,複数筋の腫大,もしくは単筋腫大でCTSAbが高値である場合が治療の適応である.反応不良例には眼窩放射線療法やテプロツムマブ導入も検討される.テプロツムマブはCIGF-1受容体を標的とした分子標的薬であり,活動期のCTEDに対して眼球突出の著明な改善が期待できる.一方で,複視に対する改善効果は部分的であり,線維化が進行した非活動期では効果が限定的である.治療効果の発現が早く,患者のCQOLの改善も顕著で,3週間ごとの点滴投与で通院負担が少ない利点もあるが,難聴,高血糖,倦怠感,無月経などの有害事象が報告されており,治療継続には注意を要する.また,治療費の負担も課題である.圧迫性視神経症状が顕著な場合は,眼窩減圧術の適応を速やかに検討する必要がある.点滴治療以外にも局所の炎症にはステロイド局所注射も行われている.トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)皮下注射やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-TenonCTAinjection:STTA)が実施される.MRIで上眼瞼挙筋の炎症性腫大がみられ,上眼瞼後退や眼瞼腫脹のみられる患者にはCTA皮下注射がよい適応である.眼瞼皮下にCTA12.20Cmg/0.5Cmlを注射する.また,単筋腫大例やステロイドパルス療法後に残存する外眼筋炎症に対してはCSTTAが適応となる(図3).腫大筋周囲にC20Cmg/0.5Cmlを注射する.STTA後に外眼筋の炎症は改善するが,複視が残存する患者もみられる.とくに下直筋では筋拘縮が進んで投与後に複視が悪化する患者があるため,施行には注意を要する.複視に対しては,活動期,非活動期を問わず,A型ボツリヌス毒素注射の併用も可能であり,複視改善を狙うことができる.非活動期には,後遺症に対する外科的介入が段階的に行われる.眼窩減圧術,斜視手術,眼瞼形成術の順で行うのが一般的であり,炎症の安定をC6カ月以上確認したうえで計画される.軽症例では生活指導や保存的治療が中心となり,禁煙,ビタミンCD・セレンの補充,人工涙液の使用が推奨される.総じて,紹介や治療開始のタイミングを逸すると,視機能や外見の後遺障害が固定されるため,初期診療を担う医師が適切に対応もしくは眼症専門医へ早期に紹介することがきわめて重要である.CVIその他の予後に影響すること甲状腺眼症は自己免疫疾患であるので,自然寛解もみられる.活動期さえ過ぎれば徐々に改善していく疾患であるので,重症化させない治療が予後に影響する.原疾患であるCBasedow病の管理,甲状腺眼症発症時の重症(19)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1497度,喫煙,合併症の有無など多くの因子に左右される.発症年齢が高い患者では重症化しやすく,男性や喫煙者で重症化しやすいが,近年は喫煙率の低下に伴い性差は縮小している.人種差も存在し,白人で高頻度,アジア人で低頻度とされる.環境因子の中では喫煙がとくに重要である.喫煙はTEDの発症,進展,治療抵抗性といったあらゆる段階において有意な影響を与えることが複数の疫学研究で示されている.Haggらの初報や,Vestergaardらによるメタ解析では,喫煙者は非喫煙者と比較してCTED発症のオッズ比(oddsratio:OR)がC4.40(95%信頼区間:2.88.6.73)と有意に高く,Basedow病自体の発症リスク(OR3.30,95%信頼区間:2.09.5.22)を上回った2,3).さらに,Basedow病患者においても喫煙は非喫煙に比しCTED発症のCOR2.18(95%信頼区間:1.51.3.14)であった.治療抵抗性についても,放射線外照射や糖質コルチコイド療法との併用成績において喫煙者は改善率が低下しており,中等度CTED症例においても治療効果の有意な減弱が報告されている.この背景には,タバコ煙成分によるサイトカイン産生促進,慢性的低酸素刺激による外眼筋線維化,線維芽細胞でのプロテオグリカン産生亢進や脂肪細胞分化促進といった病態機序が想定される4.6).これらの知見をふまえ,米国甲状腺学会,欧州ガイドライン,日本甲状腺学会のいずれの診療指針においても,すべてのCBasedow病患者に対して禁煙を強く推奨し,TED治療戦略の一環として禁煙外来や薬物療法による支援を明記している.甲状腺機能異常自体も予後に直結し,甲状腺中毒症の程度と持続期間はCTEDの重症化と相関し,治療に伴う甲状腺機能低下症への移行も新規発症や増悪の契機となる.TRAb高値例では活動性と重症度が高く,予後不良であることも知られている.加えて,遺伝的素因として免疫調節因子の遺伝子多型が関与し,これはCBasedow病の発症機序とほぼ共通である7).精神的ストレスも重要な修飾因子であり,眼症の有無にかかわらずCBasedow病発症を誘発しうる.眼症患者は一般集団に比べCQOLが有意に低下しており,その程度は複視や眼窩部痛,重大なストレスイベントの経験と相関する.生活リズムの乱れは精神的不安定を助長し,甲状腺機能異常や眼症症状の悪化につながるため,規則的な生活と十分な睡眠,精神的支援が予後改善に寄与する可能性がある.さらに,身体的ストレスや局所組織障害も眼症の増悪因子となりうる.眼窩減圧術,斜視手術,白内障手術,インターフェロン治療,動脈塞栓術などが増悪の契機となった報告があり,局所感染や組織崩壊は自己免疫反応の活性化や炎症の増強を介して病態を悪化させる8.12).活動期には不要不急の外科処置や抜歯,過激な運動は避けることが望ましい.総じて,TEDの予後改善には禁煙の徹底,甲状腺機能の厳密な管理,精神的ストレス対策と生活リズムの安定化,活動期における組織侵襲の回避が不可欠である.これらの因子のうち,喫煙は患者自身が直接是正できる唯一の要素であり,TED治療戦略における中心的介入対象と位置づけられる.また,喫煙は発症リスクだけでなく,治療抵抗性や重症化の独立した危険因子であることが知られており,診断時の禁煙指導は必須である.加えて,外見の変化による精神的負担や社会的ストレスも無視できず,患者の心理的支援と生活環境への配慮も,治療の継続とCQOLの向上において欠かせない要素であることも忘れてはならない.文献1)渡邊奈津子,神前あい,井上浩輔ほか:日本における甲状腺眼症の有病率と発症率.日内分泌会誌99:324,C20232)HaggE,AsplundK:Isendocrineophthalmopathyrelatedtosmoking.BrMedJC295:634-635,C19873)VestergaardP:SmokingandthyroiddisordersC─Cameta-analysis.EurJEndocrinolC146:153-161,C20024)MetcalfeCRA,CWeetmanAP:StimulationCofCextraocularCmuscleC.broblastsCbyCcytokinesCandhypoxia:possibleCroleinthy-roid-associatedophthalmopathy.ClinEndocri-nolC40:67-72,C19945)ChngCL,LaiOF,ChewCSetal:Hypoxiaincreasesadi-po-genesisanda.ectsadipocytokineproductioninorbital.bro-blasts-aCpossibleCexplanationCofCtheClinkCbetweenCsmokingCandCGraves’Cophthalmopathy.CIntCJCOphthalmolC7:403-407,C20146)RegensburgCNI,CWiersingaCWM,CBerendschotCTTCetal:CE.ectCofCsmokingConCorbitalCfatCandCmuscleCvolumeCinCGraves’orbi-topathy.ThyroidC21:177-181,C20117)KhalilzadehCO,CNoshadCS,CRashidiCACetal:GravesC’Coph-thalmopathy:aCreviewCofCimmunogenetics.CCurrCGenom-1498あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(20)’C’C

虚血性視神経症:動脈炎性と非動脈炎性

2025年12月31日 水曜日

虚血性視神経症:動脈炎性と非動脈炎性IschemicOpticNeuropathy:ArteriticandNon-ArteriticType澤村裕正*はじめに日常診療で神経眼科疾患に遭遇する頻度は決して多くはない.しかし,視神経疾患は急性に発症し,かつ重度の視機能障害を呈する場合もあるため,日常診療においても注意が必要である.本稿では虚血性視神経症に焦点を絞り,動脈炎性および非動脈炎性について概説する.虚血性視神経症の診断と治療のポイントを表1にまとめた.I虚血性視神経症虚血性視神経症1)は視神経への血液供給が不十分なために生じる疾患である.中高年者に多く認められ,片眼性に生じることが多い.自覚症状としては急激な視力低下,視野障害として出現することが多い.障害部位により,視神経乳頭に異常を認める前部虚血性視神経症(9割以上とされる)と,検鏡的に視神経乳頭に異常を認めない後部虚血性視神経症(1割以下とされる)とに分類される.後部虚血性視神経症では罹患眼の相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が陽性になるが,急性期には他の他覚的所見に乏しい場合が多い.球後視神経炎やその他の視神経症など,ほかに視力低下を説明できる疾患がない場合に到達する診断とされる.そのため,最初から後部虚血性視神経症の診断をつけるのではなく,頭部のMRI検査,採血検査などを行い,十分にほかの疾患を鑑別する必要がある.表1虚血性視神経症診断と治療のポイント虚血性視神経症の原因には9割以上を占める非動脈炎性と,まれではあるが動脈炎性とがある.動脈炎性と非動脈炎性虚血性視神経症では治療が異なるため,鑑別が必須である.非動脈炎性虚血性視神経症の背景には未治療の高血圧,糖尿病が隠れていることがあるため,問診に加えて血圧測定,採血検査を行う.動脈炎性の虚血性視神経症では僚眼の再発を防ぐため,ステロイドの全身投与が必須である.動脈炎性の後部虚血性視神経症は診断がきわめてむずかしいが,まずは疑うこと,採血検査を行うことが重要である.また,虚血性視神経症はその原因から,血管炎によって生じる動脈炎性虚血性視神経症(日本人にはまれ)と,血管炎を伴わない非動脈炎性虚血性視神経症とに大別される.そのほかにまれではあるが脊椎手術後などの周術期に生じることも報告されている.動脈炎性虚血性視神経症の原因疾患は巨細胞性動脈炎が多い.動脈炎性と非動脈炎性虚血性視神経症では治療方針が異なるため,これらの鑑別がきわめて重要になる.II非動脈炎性前部虚血性視神経症1.決め手になる症状・所見日常診療で遭遇する機会の多い虚血性視神経症である.通常,片眼性に突然の痛みを伴わない視力低下で発症する.まれに両眼性に生じる場合もある.視力低下が*HiromasaSawamura:帝京大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤村裕正:173-8606東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学教室(1)(9)14870910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1非動脈炎性虚血性視神経症(左眼)の例60代の男性で高血圧の既往があった.a:後極写真.視神経乳頭に腫脹を認め,線条出血も認める.b:蛍光造影検査の早期像.視神経乳頭部への充盈遅延,乳頭周囲脈絡膜への充盈遅延が認められる.c:蛍光造影検査の後期像.視神経乳頭部の過蛍光を認める.図2動脈炎性前部虚血性視神経症(右眼)の例後極写真.視神経乳頭の腫脹,蒼白化を認める.図3動脈炎性後部虚血性視神経症の例80代,男性.a:頭部造影MRI画像(水平断).頭蓋内主幹動脈に増強造影効果と壁肥厚を認める().b:側頭動脈の病理所見.ヘマトキシリン・エオジン染色.動脈壁内膜の線維性肥厚および内腔の狭小化,炎症細胞の浸潤,多核巨細胞や類上皮細胞を混じた肉芽腫様の反応を認めた.(文献3より引用)

視神経炎 

2025年12月31日 水曜日

視神経炎TheEssentialsofDiagnosingandTreatingOpticNeuritis植木智志*はじめに本稿では視神経炎の診断と治療の基本中の基本についてできる限りわかりやすく解説する.さらに典型的視神経炎と非典型的視神経炎およびかつて米国と日本で行われた治療トライアル1.3)について詳しく解説する.本稿ではToosyらによる視神経炎の分類に基づき,視神経炎を典型的視神経炎と非典型的視神経炎に分類して解説する4).視神経炎の最新の分類はPetzoldらによるものであるが5),これはToosyらによる分類をさらに発展させたものである.典型的視神経炎はかつて米国で行われた治療トライアルであるOpticNeuritisTreatmentTrial(ONTT)1)で明らかにされた臨床的特徴を呈する視神経炎である.多発性硬化症に関連した視神経炎,日本における呼称としての特発性視神経炎,特発性視神経炎の再発が含まれる.筆者はかつて日本で行われた治療トライアルであるOpticNeuritisTreatmentTrialMul-ticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG)2)で明らかにされた臨床的特徴も考慮すべきと考えている.非典型的視神経炎の代表的なものはアクアポリン4(aqua-porin-4:AQP4)抗体陽性視神経炎およびミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelinoligodendrocytegly-coprotein:MOG)抗体陽性視神経炎である.表1に視表1視神経炎の分類およびそれぞれのサブタイプの臨床的特徴および治療分類臨床的特徴急性期治療慢性期治療多発性硬化症に関連した視神経炎1.典型的視神経炎では眼球運動痛を含む眼痛・眼窩痛がみられることがある.米国ではおよそ90%,日本ではおよそ60%.多発性硬化症に対する再発予防の治療典型的視神経炎特発性視神経炎2.典型的視神経炎では乳頭腫脹がみられることがある.米国ではおよそ40%,日本ではおよそ50%.ステロイドパルス療法なし特発性視神経炎の再発3.典型的視神経炎の視力低下は数日.2週程度で徐々に進行する,その後,無治療でも発症から3週以内に80%の症例で改善が始まる.なし非典型的視神経炎AQP4抗体陽性視神経炎視機能予後不良再発が多いステロイドパルス療法血漿交換療法免疫グロブリン大量静注生物学的製剤ステロイド内服免疫抑制薬MOG抗体陽性視神経炎再発が多い乳頭腫脹が多い眼痛がみられることが多いステロイドパルス療法ステロイド内服免疫抑制薬*SatoshiUeki:新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8520新潟市中央区旭町通一番町754新潟大学医歯学総合病院眼科(1)(3)14810910-1810/25/\100/頁/JCOPY表2視神経炎の鑑別疾患片側性に乳頭腫脹をきたす疾患乳頭腫脹はないが,片側性に視力低下・中心暗点をきたす疾患1.視神経炎(視神経乳頭炎型)2.前部虚血性視神経症3.糖尿病乳頭症4.白血病5.視神経鞘髄膜腫6.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症1.視神経炎(球後視神経炎型)2.圧迫性視神経症3.網膜疾患(急性帯状潜在性網膜外層症など)4.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症bacd図1典型的視神経炎症例(32歳,女性)の検査結果12日前から右眼眼球運動痛あり,その後に右眼視機能障害を自覚.RV=(0.4),LV=(1.2).a:Goldmann視野検査で右眼中心暗点あり.Cb:RAPDxによる検査結果.右眼CRAPD陽性.Cc:乳頭COCTによる結果.右眼視神経乳頭腫脹あり.Cd:冠状断脂肪抑制造影CT1強調画像.造影CMRIで右視神経に造影効果あり.脳病巣なし.ステロイドパルス療法後視力視野は改善.アクアポリンC4抗体陰性.その後に再発なし.発症からC7カ月後のCMRIで新たな脳病巣なし.III治療あるいは紹介のタイミング1.典型的視神経炎の治療典型的視神経炎は無治療でもC80%の症例に改善がみられるとされているが,ステロイドパルス療法で改善までの期間を短縮することができる.視機能予後が不良なAQP4抗体陽性視神経炎を鑑別するためのCAQP4抗体の測定結果が判明するまでにC1週間程度要することを考慮すると,視神経炎と診断したら速やかにステロイドパルス療法を行い,AQP4抗体の測定結果を待つという対応が望ましいと筆者は考える.視神経炎診断時にすでに視機能が改善傾向である患者はそのかぎりではない.C2.AQP4抗体陽性視神経炎の治療a.急性期まずステロイドパルス療法を行い,治療に対する反応性の有無により血漿交換療法を行うかを考えるのがよい.あるメタアナリシスは血漿交換療法を行うタイミングは視神経炎発症から8.23日以内がよいとしている8).眼科医単独で血漿交換療法を行うのは困難であり,腎膠原病内科や脳神経内科と連携する必要がある.もう一つの急性期治療の選択肢として免疫グロブリン大量静注がある.最近の報告ではCAQP4抗体陽性視神経炎症例においてステロイドパルス療法後の免疫グロブリン大量静注により視力改善がみられることが示されている9).Cb.慢性期AQP4抗体陽性視神経炎では再発が多くみられ,再発のたびに視機能は増悪するため,慢性期の再発予防のための維持療法が重要である.かつてはプレドニゾロン内服やアザチオプリン内服,それらの併用などが行われてきたが,現在は五つの生物学的製剤が維持療法の選択肢となっている.抗補体CC5抗体であるエクリズマブおよびラブリズマブ,IL-6レセプターリサイクリング抗体であるサトラリズマブ,抗CCD19抗体であるイネビリズマブ,抗CCD20抗体であるリツキシマブである.C3.MOG抗体陽性視神経炎の治療MOG抗体陽性視神経炎は乳頭腫脹,眼球運動痛がみられる割合が高く,視機能予後は良好だが再発が多くみられる.Ca.急性期ステロイドパルス療法を行う.Cb.慢性期Kezukaらはステロイドパルス療法終了後からプレドニゾロンをC0.5Cmg/kg/日で内服開始し,5.7日おきに5Cmgずつ漸減,20Cmg/日となった時点でアザチオプリンC50.100mg/日内服を追加することを推奨している10).C4.どの時点で神経眼科の専門家に相談するのか問診による症状の聴取・視力・視野所見・RAPDの評価などから視神経炎が疑われたら神経眼科の専門家に相談するのがよい.C5.どの時点で脳神経内科に相談するのかこれについては定まった見解はなく施設間で差があると思われるが,筆者は視神経炎発症時のCMRIで大脳に多発性硬化症を疑わせる脳病巣がみられたら,また視神経炎発症時のCAQP4抗体測定の結果が陽性であったら,脳神経内科に相談するのがよいと考えている.CIV鑑別しておきたい疾患視神経炎の鑑別疾患を表2に示す.視神経炎は両側性に発症することもあるが,片側性に発症することがほとんどである.「I決め手となる症状・所見」の項で述べたように,視神経炎は乳頭腫脹を呈することがある.片側性に乳頭腫脹をきたす疾患の鑑別診断には,おもに下記の六つがある.1.視神経炎(視神経乳頭炎型)2.前部虚血性視神経症(anteriorischemicopticneu-ropathy:AION)3.糖尿病乳頭症4.白血病5.視神経鞘髄膜腫6.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症乳頭腫脹がなければ,片側性に視力低下・中心暗点をきたす疾患が視神経炎の鑑別疾患となり,おもに以下の四つがある.1484あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(6)1.視神経炎(球後視神経炎型)2.圧迫性視神経症3.網膜疾患(急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)など4.肥厚性硬膜炎に伴う視神経症本稿では,乳頭腫脹を呈する視神経炎の鑑別診断として重要な前部虚血性視神経症,乳頭腫脹のない視神経炎の鑑別診断として重要なCAZOOR,両者に共通する肥厚性硬膜炎に伴う視神経症について解説する.C1.前部虚血性視神経症(AION)AIONの病態は短後毛様動脈系の局所の還流低下である.動脈炎性と非動脈炎性に分類され,非動脈炎性が圧倒的に多い.急性発症の視機能障害と乳頭腫脹を呈する.以下にCAIONと視神経炎の鑑別点について解説する.視機能障害の経過:AIONの視機能障害は急性発症で非進行性だが,視神経炎の視機能障害は亜急性に進行する.乳頭腫脹:AIONでは視神経乳頭の蒼白浮腫が特徴的であるが軽度乳頭腫脹の場合もある.AIONでは乳頭出血がみられることが多いが視神経炎では少ない.視野障害:AIONでは水平性下半盲がみられることが多いが,視神経炎でも水平性下半盲はみられることがある.年齢:AIONは高齢者に比較的多いが,年齢でCAIONと視神経炎を区別することはできない.眼痛:日本では視神経炎のおよそC60%にみられるが,AIONは通常は無痛性である.蛍光眼底造影:AIONでは視神経乳頭の充盈遅延が特徴的である.視神経炎では漏出がみられる.男性,高血圧,高脂血症,糖尿病,心疾患の既往,睡眠時無呼吸,第CV因子のCLeiden突然変異のヘテロ接合,心血管系の薬剤の服用歴などが非動脈炎性CAIONの危険因子であるため11),問診でこれらの因子を聴取することが重要である.また,近年ではCGLP-1受容体作動薬内服により非動脈炎性CAIONの発症率が上がることが報告されている12).動脈炎性は側頭動脈炎が原因であることが多く,食事をしていると顎がダルくなる(顎跛行),C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)および血沈高値などが側頭動脈炎を疑う症状および所見である.C2.急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)AZOORは,急性発症の視力低下や視野欠損を呈するものの眼底に異常がみられないことから,乳頭腫脹のない視神経炎としばしば鑑別が必要となる.若年女性に多い.日本にはCAZOORの診断ガイドラインが存在するため参考になる13).診断基準の主要項目のエッセンスは以下のとおりである.片眼性が多いが,両眼性もありうる.眼底検査および蛍光眼底造影では異常はみられない.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常(ellipsoidzoneの欠損あるいは不明瞭化とCinterdigita-tionzoneの消失)がみられる.ただし,軽症例や回復期ではCinterdigitationzoneのみ異常がみられることもある.全視野網膜電図(electroretinogram:ERG)で振幅低下,もしくは多局所CERGで視野欠損部位に一致した振幅低下がみられる.副次項目には,1)発症前の風邪様の症状,2)光視症,3)硝子体細胞浮遊,4)眼底自発蛍光での異常所見,があげられているが,筆者はこのなかでもとくに光視症の有無の聴取がCAZOORを疑うために重要であると考える.C3.肥厚性硬膜炎肥厚性硬膜炎は,脳および脊髄の硬膜が部分的またはびまん性に肥厚し,肥厚部位によりさまざまな脳神経症状を呈する疾患である.視神経周囲の硬膜の肥厚により視神経症を呈しうるが,乳頭腫脹は伴うことも伴わないこともある.眼窩先端の硬膜の肥厚であれば視機能障害の他に眼運動神経麻痺を伴う.診断には造影CMRIが重要で硬膜の造影を伴う肥厚が所見となる.肥厚性硬膜炎では初発症状として頭痛を伴うことがもっとも多いため,頭痛の有無を聴取することは重要である.原因は特発性と続発性に分類され,続発性ではANCA関連血管炎,サルコイドーシス,細菌・真菌・結核などの感染症などが原因となる.IgG4関連疾患に伴うこともある.(7)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1485-

序説:神経眼科疾患:診療の基本中の基本

2025年12月31日 水曜日

神経眼科疾患:診療の基本中の基本Neuro-Ophthalmology:TheMostBasicofBasicsforDiagnosisandTreatment敷島敬悟*「あたらしい眼科」では定期的に神経眼科の特集が組まれている.筆者も2022年に担当させていただき,「神経眼科疾患とまぎらわしい疾患─鑑別のポイント」と題し,頻度が少ない神経眼科疾患を診る機会が少ない一般眼科医向けの特集を企画した.その序説では「神経眼科疾患の診断はむずかしいというイメージをもち,敬遠される方も多いと思われるが,通常は,典型的な神経眼科疾患であれば診断は決してむずかしくはない」と記載した.今回の特集は,さらに基本に戻って,レジデントや専門外の先生にも神経眼科の理解を深めていただきたく,神経眼科診療の基本中の基本をテーマに,神経眼科を専門とする臨床経験豊富な先生方にわかりやすく解説していただいた.この趣旨に沿うように,通常の定義,疫学,自覚症状,検査所見,治療を列挙するという一般的な項目ではなく,①決め手になる症状・所見,②疑うときに行うべき検査,③鑑別しておきたい疾患,④治療あるいは紹介のタイミング,⑤その他の予後に影響すること,を小見出しに設定した.また,とりあげた疾患もすべてを網羅するのではなく,神経眼科疾患のうち比較的頻度が高いものを選択した.まず,視神経疾患で頻度が高い視神経炎について,植木智志先生にご執筆いただいた.従来からの典型的視神経炎,予後不良のAQP4陽性視神経炎,最近のトピックスのMOG関連疾患は,それぞれ臨床的特徴,急性期と慢性期の治療方針が異なる.各サブタイプの特徴をわかりやすくまとめていただき,加えて,鑑別すべき疾患についても詳しく記載されている.続いて,もうひとつの高頻度疾患である虚血性視神経症を澤村裕正先生に概説していただいた.非動脈炎性虚血性視神経症と動脈炎性虚血性視神経症は治療方針が異なるので,その鑑別が必要である.両者の症状,所見,治療法の相違が記載されており,重篤な視機能障害をきたす動脈炎性虚血性視神経症の診断,治療の重要性を強調されている.複視をきたすときは核下性眼球運動障害を考える.外眼筋疾患,神経筋接合部障害,末梢性神経麻痺によって生じる.外眼筋疾患では高頻度の甲状腺眼症をこの疾患の臨床経験が豊富な川口俊輔先生と神前あい先生に解説していただいた.はじめに,ビッグデータによる発症率と有病率,ならびに臨床活動性スコア(CAS)について提示されている.続いて,臨床像の特徴,検査所見,鑑別疾患について具体的に記載され,治療法では最近保険収載されたテプロツムマブについても触れられている.神経筋接合部障害である重症筋無力症もよく遭遇*KeigoShikishima:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)1479