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抗VEGF治療セミナー:網膜静脈閉塞症に対するトリアムシノロン併用抗VEGF治療

2026年8月31日 月曜日

●連載◯監修=安川力五味文170150網膜静脈閉塞症に対するトリアムシノロン新井悠介新井眼科クリニック併用抗VEGF治療網膜静脈閉塞症(RVO)は急性期に黄斑浮腫を合併し,視力低下を引き起こす.抗CVEGF治療は有効性が確立されているが,治療無効例が存在する.本稿では,慢性化したCRVOに対するトリアムシノロン後部CTenon.下注射併用抗CVEGF治療の効果とメカニズムについて解説する.はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)では,網膜静脈のうっ滞や閉塞により網膜循環障害を生じ,網膜出血や黄斑浮腫(macularedema:ME)が発症する.MEの発症は視力低下を招き,治療介入が必要となる.大規模臨床試験によって抗CVEGF薬の有効性・安全性は確立され,標準CRVO治療となっているが,RETAINstudyの長期成績では,約半数の症例で長期にわたる抗VEGF薬投与が必要とされている1).最近では第C2世代とよばれる新しい抗CVEGF薬も登場したが,全例が軽快できるわけではない.現在のCRVO治療では,MEの再燃により抗CVEGF治療から離脱できないことが大きな課題になっている.今回はそのような患者に対して,筆者らの行っているトリアムシノロンを併用した追加治療を紹介する.慢性化したRVOへの治療アプローチRVOが慢性化すると年間複数回の抗CVEGF薬投与が継続的に必要となる.ProCrenata(PRN)法で投与を行うと患者の通院負担が増加する.こうした背景から,慢性化したCRVOに対し患者負担軽減を目的とした個別化療法の重要性が高まっている.筆者らは,RVOに対する個別化治療としてCmodi.edtreat-and-extend(TAE)法の有効性を報告した2).必要最低限の通院回数で視力改善と維持が可能だが,ある程度経過すると,投与期間の延長が困難になる患者が出てくる.このような患者に対し,抗CVEGF治療以外の治療オプションの検討が求められている.トリアムシノロン併用抗VEGF治療慢性化したCRVOに伴うCMEには炎症性サイトカインの関与が示唆されており,ステロイド治療の有効性が期待される3,4).そこで筆者らは,トリアムシノロン併用抗CVEGF治療を行い,後ろ向き研究で検証した5).(145)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYTAE法による治療後,トリアムシノロン後部CTenon.下注射と抗CVEGF薬を同時に投与し,抗CVEGF薬単独治療から再燃期間がどのくらい延長できるかを調べた.併用療法前の抗CVEGF薬の平均投与回数はC14回であった.結果はC42眼中C26眼(62%)で投与間隔がC2週間以上延長できた.そのうちC2眼は投与後C1年間再燃が認められなかった(図1).単独療法時の平均投与間隔はC11.9週で,再燃がなかったC2眼を除いた平均延長期間はC9.7(±6.7)週であった.副作用としてC4眼で白内障の進行を認め白内障手術が施行されたが,眼圧上昇は認められなかった.急性期におけるステロイド併用療法は効果が乏しいとされている6).急性期のCME再燃ではCVEGFが主要因であり,ステロイドの効果は得られにくい.一方,慢性期ではさまざまな炎症性サイトカインが関係するため,逆に,VEGF単独を抑制する治療では再燃を防ぎきれない.そのため,慢性期においてはステロイドの効果が発揮される患者が存在するものと考えられる.本研究では,併用療法で投与間隔が延長した症例と,延長しなかった症例で,炎症性サイトカインの比較検討をした.その結果,IL-1αが大きいほど,またCIL-5,IL-6,Galectin-1が小さいほど,再燃までの期間が延長する可能性が示唆された.慢性期RVO治療における一つの選択肢筆者のCRVOに伴うCMEに対する治療方針は以下の通りである.急性期にはCmodi.ed-TAE法で抗CVEGF薬治療を行い,投与間隔がC16週まで延長できた患者は治療を中止し,経過観察する.投与間隔の延長が困難で再燃を繰り返す患者には,抗CVEGF薬を変更する前に,トリアムシノロン併用抗CVEGF治療を試みる.有効例には,再燃時に再び同治療を繰り返す.ただしトリアムシノロン併用でも再燃する患者は存在するため,抗VEGF治療からの離脱を可能とする新規治療法の開発あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026995図1トリアムシノロン併用抗VEGF治療が奏効した症例患者はC78歳,女性.網膜中心静脈閉塞症に対しアフリベルセプトC7回と汎網膜光凝固が行われていた.発症からC365日でトリアムシノロン併用抗CVEGF治療を施行.TAE期の最大投与間隔はC6週間.併用療法後,再燃なく経過し軽快.Ca:初診時眼底写真.耳側網膜血管の脱落が目立つ.Cb:併用療法前眼底写真.汎網膜光凝固が行われ,後極血管の白線化が目立つ.Cc:併用療法直前の光干渉断層計(OCT)像.中心窩網膜厚はC579Cμm.Cd:併用療法C1年後のCOCT像.黄斑浮腫の再燃を認めず,軽快状態を維持.が望まれる.文献1)CampochiaroCPA,CSophieCR,CPearlmanCJCetal:Long-termCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithranibizumab:theCRETAINCstudy.COphthalmologyC121:209-219,C20142)AraiCY,CTakahashiCH,CInodaCSCetal:E.cacyCofCmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCmacularCedemaCfromCbranchCretinalCveinocclusion:2-yearCpro-spectivestudyoutcomes.JClinMedC10:3162,C20213)NomaCH,CYasudaCK,CShimuraM:CytokinesCandCtheCpathogenesisCofCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinC996あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026occlusion.JOphthalmol2019:5185128,C20194)NomaH,YasudaK,ShimuraM:Cytokinesandpathogen-esisCofCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCClinCMedC9:3457,C20205)AraiCY,CTakahashiCH,CInodaCSCetal:E.ectivenessCand.cytokinepro.leof.combinedantivascularendothelialgrowthfactorand.corticosteroidtherapyfor.chronicreti-nalCveinCocclusion.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC263:1427-1434,C20256)OsakaCR,CMuraokaCY,CNakanoCYCetal:OneyearCresultsCofCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCcom-binedCwithCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CJpnCJCOph-thalmolC64:605-612,C2020(146)

緑内障セミナー:緑内障診療における患者支援のための多職種連携 

2026年8月31日 月曜日

●連載◯310監修=福地健郎中野匡310.緑内障診療における患者支援のための渡辺芽里自治医科大学眼科学講座多職種連携緑内障患者は長期の経過のなかで,視機能のみならず生活環境や社会的背景も変化する.眼科医が把握しておくべき支援のための知識として,メディカルソーシャルワーカー,「スマートサイト」,移動支援にかかわる同行援護および歩行訓練士があげられる.多忙な日常診療においてこそ,多職種連携の視点が重要である.●はじめに緑内障はわが国における失明原因の第1位であり,新たに視覚障害の身体障害者手帳(以下,障害者手帳)を取得した者の約40%を占める疾患である1).進行性かつ不可逆性の疾患であり,治療期間が10年,20年と長期に及ぶなかで,福祉的介入が必要となる患者も少なくない.眼科医が診断書を作成して申請できる制度としては,障害者手帳(福祉支援)および障害年金(経済的支援)があげられる.障害者手帳の認定基準に,患者の視力や視野が該当するか否かの医学的判断は本来担当医の責務であるが,緑内障患者の視力は末期まで保たれることも多く,通常診療では中心10-2検査や両眼開放Esterman検査が必ずしもルーティンで施行されておらず,診断基準を満たしていても申請ニーズを診察時に把握することは容易ではない.こうした背景から,院内・院外における多職種連携が有用であり,担当医だけでなく,視能訓練士,看護師,受付スタッフなどの院内スタッフが患者の生活上の変化や困難に気づき,院外の福祉関係者へつなぐことが重要である.●医療と福祉のキーパーソン:メディカルソーシャルワーカーメディカルソーシャルワーカー(medicalsocialwork-er:MSW)は医療機関に所属する福祉職であり2),在宅サービスの導入・調整,各種福祉制度の紹介や申請支援,就労支援,地域資源との連携など,患者の社会的背景にかかわる支援を担っている.総合病院では「医療福祉連携室」「患者相談室」などに所属することが多く,日本医療ソーシャルワーカー協会のウェブサイトからMSWが所属する医療機関を検索することが可能である3).視覚障害に特化した支援に当初から精通しているMSWは必ずしも多くないが,眼科医療スタッフとMSWが連携し,支援内容や経過を共有することで,視覚障害者支援に関する連携体制が徐々に形成されていく.また,MSWが常駐していない医療機関においても,患者が他科で通院している総合病院やMSWと連携可能なロービジョン外来を有する眼科医療機関へ,福祉的介入を目的として紹介することは可能である.図1院内・院外における多職種連携の一例メディカルソーシャルワーカーは医療と福祉をつなぐ役割を担う.(143)あたらしい眼科Vol.43,No.8,20269930910-1810/26/\100/頁/JCOPY図2「スマートサイト」の例日本眼科医会ホームページの「スマートサイト関連情報」から各都道府県のパンフレットがダウンロードできる(栃木県版).障害者手帳の該当可否は眼科医が医学的に判断する一方,MSWは患者の生活背景や支援ニーズを踏まえ,申請手続きや申請後のサービス利用調整に関与する重要な役割を担っている(図1).●障害者手帳と同行援護緑内障患者は,障害者手帳の認定基準に該当する視覚障害を有していても(とくに視野障害のみの患者は)自立した生活を送っている例が少なくなく,手帳申請を勧めるべきか判断に迷う場面も多い.そのなかで,眼科医が把握しておくべき,視覚障害を対象とする障害者手帳関連支援の一つが同行援護である.同行援護は,視覚障害者の外出時における移動支援を目的としたサービスであり,移動時の介助に加え,外出先での代読・代筆などの視覚情報支援を含む3).障害者手帳を取得し白杖を使用すれば自由に外出できると誤解されることもあるが,白杖歩行には歩行訓練士による訓練が必要であり,白杖のみで安全かつ自由な移動が可能となるわけではない.同行援護は,通院や買い物といった日常生活上必要不可欠な外出に限らず,余暇活動などを含む社会参加を目的とした外出にも利用可能な制度である4).●「スマートサイト」と歩行訓練士,地域連携眼科医が担当医療圏における視覚障害関連の福祉・行政サービスや支援団体を把握し,患者に説明するためのツールとして,47都道府県ごとに「スマートサイト」(ロービジョンケア紹介リーフレット)が整備されている.日本眼科医会のウェブサイトから全国の「スマートサイト」をダウンロードすることが可能である(図2)5).多くの都道府県において「スマートサイト」には歩行訓練士をはじめとする地域の視覚障害支援にかかわる専門職および関係機関の連携先が明示されている.歩行訓練士は前述の通り視覚障害者が白杖などを用いて安全に移動できるよう歩行訓練を行う専門職であり,歩行訓練以外にも日常生活動作やコミュニケーション手段に関する訓練・支援を担う視覚障害生活訓練等指導者に該当する.視機能が同程度であっても,患者の年齢や生活背景により支援ニーズは大きく異なり,「スマートサイト」を契機として紹介された専門機関から,さらに別の専門機関へと支援が展開されるケースも少なくない.実際に「スマートサイト」を中心としたロービジョン支援ネットワークが構築されている都道府県も多く,ロービジョンケアの専門家でなくても,眼科医が診察室で「スマートサイト」を患者に手渡すことが,地域資源との連携に向けた重要な入口となっている.文献1)MatobaR,MorimotoN,KawasakiRetal:Anationwidesurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividualsinJapanforthe.scalyear2019:impactoftherevisionofcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation.JpnJOphthal-mol67:346-352,20232)丸山昌子:総論医療ソーシャルワーカーの役割.小児科診療87:919-922,20243)公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会https://www.jaswhs.or.jp/4)萬代由希子:目の不自由な方に関する施策やサービス.理学療法ジャーナル58:757-762,20245)日本眼科医会:スマートサイト関連情報https://www.gankaikai.or.jp/info/detail/SmartSight.html994あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(144)

屈折矯正手術セミナー:46 歳以上の患者におけるICL挿入術の臨床的特徴と術後成績

2026年8月31日 月曜日

●連載◯315監修=稗田牧神谷和孝315.46歳以上の患者におけるICL挿入術の大内雅之大内雅之アイクリニック臨床的特徴と術後成績46歳以上でICL手術を受ける患者は,術前は低矯正で過ごしていて,手術においては完全矯正を希望するケースが多い.術後は近用眼鏡装用率が上がるものの,高い満足度を得られるため,屈折矯正手術を希望する中年層に対するひとつの術式選択になりえると考える.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(implantablecontactlens:ICL)or(implantablecollamerlens:ICL)手術をはじめとした屈折矯正手術のガイドラインでは,適応年齢を20~45歳としているが,その上限年齢は主として老視の影響を考慮してのものと考えられる.しかし,ライフスタイルや患者ニーズの変化,ICL手術の一般への周知,さらに近年では災害への備えなど,ICL手術の希望者の年齢が広がっている.筆者のクリニックでは2020年1月~2023年9月に,トーリックモデルを含むICL(EVO+,StaarSurgical社)の挿入手術を490例971眼に施行し,このうち手術時年齢46歳以上は31例(男性11例,女性20例)60眼であった.これらの症例の特徴1)から,46歳以上の患者への本手術について考察する.表1術前および術後の視力と屈折値術前裸眼視力(logMAR)0.04(1.44±0.26)(範囲0.02~0.2)矯正視力(logMAR)自覚等価球面屈折値1.24(.0.09±0.09)(範囲0.6~1.5).7.94±3.00D(範囲.16.13~.2.25D)自覚球面屈折値.0.19±0.28D(.0.75~0D)自覚円柱屈折値.0.14±0.27D(.1.0~0D)等価球面屈折値.0.25±0.33D(.1.25~0D)術後裸眼遠方視力(logMAR)1.19(.0.07±0.17)矯正遠方視力(logMAR)1.35(.0.13±0.08)裸眼近方視力(logMAR)0.68(0.16±0.28)●術前屈折値と患者背景術前の自覚等価球面屈折値は.16.13D~.2.25(平均.8.0±2.9D)で(表1),13%の医療職を含む61%がデスクワーク中心の職業についていた.全眼の術前自覚等価球面屈折値の分布を図1に示す.術前のおもな矯正方法は,眼鏡12例,ソフトコンタクトレンズ14例,ハードコンタクトレンズ5例で,これらの矯正下で近用眼鏡を使用していた例はなかった.これら主たる矯正方法下では,31例60眼中8例14眼は1D以上の低矯正であり,近方視力は平均0.61で,少なくとも片眼が0.7以上だった症例は16例(52%)であった.一方,11例(35%)は,両眼とも0.5以下であった.ここから,日常視では低矯正で近方視力をある程度確保している症例が比較的多いことがうかがえる.(眼)109876543210-16/-14/-12/-10/-8/-14/-6/-2/-16-14-12-10-16-8-4術前等価球面屈折値(未満/以上D)図1術前等価球面屈折値(141)あたらしい眼科Vol.43,No.8,20269910910-1810/26/\100/頁/JCOPY達成矯正度数(D)2015105005101520目標矯正度数(D)図2目標矯正度数と達成矯正度数の散布図(等価球面値)●術後目標屈折値しかし,術後希望屈折値はこれと異なり,カリキュレーター入力に使った矯正における残存屈折値の平均は.0.31±0.32D(平均.1.75~0D),53眼は正視から.0.5Dを希望し,両眼手術症例29例中24例(82.7%)は,両眼の完全遠方矯正を希望した.一方で0.75D以上の低矯正を希望したものは5例7眼のみであった.また,正視を希望する症例においても過矯正は確実に回避することを重視したレンズ選択をすることで,結果として,術後の自覚屈折値が若干でも遠視になる症例は一例もなく,正視を希望した症例の平均も.0.25Dであった.●予測裸眼近方視力上述の希望術後屈折(換算コンタクトレンズ装用シミュレーション)における予測裸眼近方視力は0.2~1.2,平均0.71(logMAR0.14±0.14)で,11例は少なくとも片眼が0.5以下の近方視力を認容し,術後屈折は遠方重視の傾向であることがわかった.●術後視力,屈折,予測性術後3カ月目の屈折,視力情報を表1に示す.裸眼遠方視力は平均1.19(logMAR.0.07±0.17)と良好で,裸眼近方視力は平均0.68(logMAR0.16±0.28)であった.また1眼を除き,目標矯正度数からのずれは±0.5D992あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026以内であった(図2).●有害事象眼圧は術前平均13.8±2.4mmHg,術後平均13.1±2.6mmHgと術前後で有意差はなく(p=0.27,pairedttest),4mmHgを超える眼圧上昇は術翌日から観察期間中,どの症例にもみられなかった.角膜内皮細胞密度は術前平均2,756.2/mm2,術後平均2,737.3/mm2で有意差はなく(p=0.32),減少率は平均.1.1%であった.術後の平均vaultは382.0±213.4m(111~1,051μm)であった.31例中19例(61.3%)が術後早期にグレアまたはハローを自覚したが,症状は軽度であり,二次的な介入は必要なかった.白内障の発症,著しい眼圧上昇,瞳孔ブロックは認められなかった.●眼鏡装用,患者アンケート術後の眼鏡装用は,遠用眼鏡はなく,近用眼鏡は31例中,要時装用7例,常時装用4例であった.常用すると答えた症例はいずれも50歳以上であった.患者満足度は,大変満足,満足,やや満足,やや不満,不満の5段階の選択肢で,30例が大満足と満足を選択し,やや不満と不満を選択した症例はなかった.これは注目すべき点であり,46歳以上で屈折矯正手術を希望する患者は,30年以上にわたって眼鏡もしくはコンタクトレンズが必須の生活を強いられており,手術によって平時の矯正が不要になれば,近用眼鏡の要時装用は充分認容できるケースが多いことを表している.●まとめライフスタイルや眼鏡の認容度にはバリエーションがあり,中高年層の近視に対する屈折矯正に関して,近用眼鏡装用が障壁になるという画一的な考え方があてはまらないことは,重要な知見といえる.上記の特徴をよく理解したうえで,ICL手術は屈折矯正を希望する中年層に対しても,ひとつの術式選択になりえると考える.文献1)大内雅之:46歳以上の後房型有水晶体眼内レンズ挿入症例の臨床的特徴と術後成績.IOL&RS38:273-279,2024(142)

眼科AI時代のデータ基盤Japan Ocular Imaging Registry―体制構築から活用,そして未来へ

2026年8月31日 月曜日

眼科AI時代のデータ基盤JapanOcularImagingRegistry─体制構築から活用,そして未来へTheJapanOcularImagingRegistry:EstablishingaNationwideDataPlatformforOphthalmologyintheAIEra-UtilizationandFutureProspects秋山雅人*はじめに近年,人工知能(arti.cialintelligence:AI)をはじめとするデジタル技術の発展により,医療は大きな変革期を迎えている.学術集会においてもCAIに関する講演や研究発表を目にする機会は急速に増加しており,その活用は研究領域のみならず日常診療にも広がりつつある.さらに,ゲノム情報,各種オミクスデータ,ウェアラブルデバイスなどから取得される膨大なデータを統合・解析することで,個々の患者に最適化された精密医療(precisionmedicine)の実現が期待されている.しかし,その実現には大規模かつ高品質なデータ基盤の整備と,AIをはじめとする高度な解析技術が不可欠である.眼科領域においても,欧米や中国を中心に大規模データを活用したCAI開発が急速に進展している.このような背景のもと,日本眼科学会は全国規模の眼科リアルワールドデータ基盤であるCJapanCOcularCImagingCRegistry(JOIR)を構築し,眼科CAI研究およびその社会実装を推進してきた.本稿では,JOIRの構築経緯と現状を概説するとともに,公開データや公開CAIモデルを活用した研究成果,さらに今後の展望について紹介する.なお,JOIRについては,2021年に大鹿らが本誌において構想と意義を解説1)しており,2022年にはCMiyakeらによるCJapaneseCJournalCofOphthalmologyの総説2)が報告されている.本稿ではその後の進展も含め日本のデータベースが世界へどのように影響を与えるかという視点を交えて概説する.IJOIRJOIRは,日本眼科学会が日本医療研究開発機構(JapanCAgencyCforCMedicalCResearchCandCDevelop-ment:AMED)の「臨床研究等CICT基盤構築・人工知能実用化研究事業」の支援を受けて構築した全国規模の眼科リアルワールドデータ基盤である.2017~2019年に眼科診療で日常的に取得されるデータを効率的に収集・活用するための基盤整備が進められ,その後,収集されたデータの管理,ネットワークの拡充,データ収集の継続,および利活用の推進を目的として,2019年より一般社団法人として運営されている.JOIRの活動は,眼科関連施設を結ぶネットワークの構築を基盤として,データ流通の促進,AI開発および臨床研究の推進,さらに社会実装の支援にまで及ぶ(図1).また,日本眼科CAI学会の設立・運営を通じて学術活動や人材育成にも貢献している.これらの取り組みは,日本における眼科研究基盤の強化のみならず,国際的な研究競争力の向上にも寄与することが期待されている.すなわち,JOIRは単なるデータベースではなく,眼科領域における研究開発と社会実装を支える基盤として機能している.JOIRの大きな特徴の一つは,診療データを自動的に収集できる点にある.大学病院をはじめとする大規模施設ではデータ登録作業が大きな負担となるが,JOIRでは電子カルテや検査機器から取得されたデータに個人情*MasatoAkiyama:九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座C,一般社団法人JapanOcularImagingRegistry〔別刷請求先〕秋山雅人:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座(1)(43)C893図1JapanOcularImagingRegistry(JOIR)と関連組織との関係JOIRは参加施設のデータ収集・管理を行い,専門領域学会,情報科学研究者と連携し研究開発を進め,G-Dataを介した社会実装を進めている.賛助会員,専門領域学会への取得されたデータ提供に加えて,開発したモデルAIモデルの一般公開の研究目的での一般公開も行われている.表1JapanOcularImagingRegistry(JOIR)から公開されているデータ眼科画像データ対応する眼科情報1,000枚の眼底写真静的視野検査結果3,000枚の眼底写真10,000枚の眼底写真正常とC11種類の疾患情報(ラベル)健康診断で取得される全身情報JOIRでは賛助会員に向けて収集されたデータの制限公開を行っている.現時点では三つのデータセットからなり,1,000枚以上の眼底写真とそれに対応する疾患情報や検査値がセットで公開されている.報保護のための処理を施したうえで,自動的にサーバーへ転送する仕組みを構築している.また,多施設から収集されたデータを統合・解析するためにはデータの標準化が不可欠である.この点については,日本眼科医療機器協会(JapanCOphthalmicCInstrumentsAssociation:JOIA)が策定したCJOIAstandardが重要な役割を果たしており,標準化された眼科データベースの構築を支えている.さらに,JOIRは国立情報学研究所と連携してAI開発を進めている.現在,JOIRには国内C26施設が参加意思を表明しており,そのうちC20施設でデータ転送体制が構築されている.データ収集状況はCJOIRホームページ上で公開されており,本稿執筆時点(2026年C5月)でC150万枚を超える眼底写真,60万件を超えるOCTデータ,1万枚以上の前眼部写真,170万件を超える視力・眼圧データ,さらにC25万件以上の静的視野検査結果が蓄積されている.加えて,学会主導研究で取得されたデータの保管・管理も担っており,日本における眼科リアルワールドデータ基盤として継続的に発展している.CIIJOIRから公開されているデータリソースJOIRでは,収集したデータの研究利用を促進するため,会員に対するデータ公開にも取り組んでいる.賛助会員を対象として,現在約C14,000枚の眼底写真を含むデータセットを公開している(表1).データセットは三つ存在し,それぞれ疾患や視野検査,検診情報とセット情報科学研究者AIモデルの開発G-Data社会実装賛助会員研究開発になっており研究目的の利用が可能である.また,日本眼科CAI学会では学術集会にあわせてCAIコンペティションを開催しており,その際には解析用データセットが研究者に提供される.たとえば,第C5回日本眼科CAI学会総会では,眼底写真からメタボリックシンドロームを予測するCAIモデルの開発をテーマとしたコンペティションが実施され,参加者に対してC5,000枚の眼底画像と関連する臨床情報が提供された.こうした取り組みは,研究者による利用や新規解析手法の開発を促進することを目的としたものであり,今後もデータ公開の拡充を予定している.さらにCJOIRの特徴的な取り組みとして,収集した眼底画像を用いて構築した学習済み深層学習モデルを公開している点があげられる.最初に公開されたのはC2023年の眼底年齢推定モデルであり,眼底写真から年齢を推定することが可能である.このモデルは実年齢との平均誤差がC2.39歳と高い精度を示しており,その後の加齢研究や疾患研究にも活用されている.続いてC2023年C12月には性別推定モデルが公開され,さらにC2025年C5月には血圧,血糖値,腹囲,BMIといったメタボリックシンドローム関連指標を予測するモデルが公開された.これらのモデルは高性能な計算環境を必要とせず利用できるため,研究者が独自に深層学習モデルを構築することなく解析に活用できる利点を有する.今後は,加齢研究や環境因子と疾患発症との関連解析をはじめ,眼底画像を活用したさまざまな研究への応用が期待される.なお,各モデルの性能や学習データの詳細についてはJOIRホームページで公開されている.CIIIサマリーページを用いた診療と診療録の標準化戦略JOIRでは,診療情報の標準化にも取り組んでいる.眼科診療では,診察所見,各種検査結果,治療内容に加え,既往歴や全身疾患,内服薬など多岐にわたる情報をもとに診療が行われている.本来であれば,これらの情報をできるだけ網羅的に収集することが理想である.しかし,自由記載形式の診療録から必要な情報を自動的に抽出することは現時点では容易ではなく,多施設データを統合するためには記載方法や診療情報の標準化が不可欠である.そのため,JOIRでは各分野の専門家と協力しながら,臨床的に重要な情報を効率的かつ統一的に収集する仕組みの構築を進めている.この取り組みの一環として,JOIRではサブスペシャリティ学会と共同で「サマリーページ」の開発を進めている.サマリーページは電子カルテ上で利用することを想定した電子カルテのアプリケーションであり,診療に必要な情報を統一された形式で記録できるよう設計されている.現在までに,日本角膜学会,日本緑内障学会,日本網膜硝子体学会,日本眼炎症学会との共同開発が進められており,各領域の専門家とCJOIR担当者が協議を重ねながら項目の選定を行ってきた.その結果,全診療領域に共通する項目を集約した共通サマリーページと,各専門領域に特化したサマリーページから構成される設計が採用されている.また,本システムは国内主要電子カルテメーカーC4社と共同開発されており,JOIAstan-dardに準拠した検査データについては電子カルテから自動的に反映することが可能である.サマリーページは研究データ収集のために設計されたものではなく,まず日常診療を支援するツールとして開発されている.診療に必要な情報を効率的かつ漏れなく記録できる環境を提供することで,診療の質の向上や施設間での情報共有の円滑化をめざしている.たとえば,眼瞼悪性腫瘍における睫毛禿の有無のように,専門家が診断上重要と考える項目を定型化することで,診療現場における所見の見落とし防止にもつながる可能性がある.その基本理念は,「研究のために診療情報を入力する」のではなく,「診療の過程で自然に蓄積された情報を研究に活用する」ことにある.診療支援ツールとして価値を提供しながら,その結果として得られた標準化データを研究基盤として利用できる点が本システムの大きな特徴である.さらに,入力された情報は統一された形式で出力することが可能であり,多施設間でのデータ統合や疾患レジストリ研究への活用も期待される.一方で,日常診療への導入にあたっては入力負担を最小限に抑えることが重要であり,開発段階では必要項目の絞り込みが行われている.筆者の試用経験では,1患者あたりの入力時間はおおむねC2分以内であり,外来診療のなかでも十分運用可能な範囲と考えられる.現在,共通サマリーページはすでに開発を完了しており,専門領域ごとのサマリーページについても実装準備が進められている.今後はさらに多くの学会と連携し,希少疾患を含む幅広い疾患領域への展開が期待される.CIVJOIRが支援を行うAI開発JOIRはデータ基盤の提供だけでなく,臨床研究者,情報科学研究者,関連学会を結びつける役割も担っている.また,データを収集・管理するだけでなく,関連学会,アカデミア,情報科学研究者を結びつけることで新たなCAI開発を支援している.ここでは,その代表例として前眼部CAIと眼底CAI診断支援プログラムを紹介する.JOIRは関連学会や国立情報学研究所の研究者との協力のもと,さまざまな眼科CAIの開発に取り組んでおり,その成果について研究開発と社会実装の二つの側面から述べる.研究開発については,日本角膜学会,筑波大学,国際医療福祉大学(旧東京歯科大学),国立情報学研究所らの研究グループにより前眼部CAIの開発が精力的に進められている.2024年に上野らは,前眼部写真からC36疾患を対象としたC9分類モデルを報告した3).すべての分類項目においてROC曲線下面積(areaCunderCthecurve:AUC)がC0.9を超える高い性能を示しただけでなく,スマートフォン端末上でも高い判定性能が維持されることが示されている.さらに同グループは,本モデルが一般眼科医や専修医の診断支援にも有用であることを報告している4).加えてC2026年には眼表面腫瘍の鑑別を目的としたCAIモデルも開発されている5).これらの研究において,JOIRはデータ収集基盤を提供するだけでなく,眼科医,関連学会,情報科学研究者を結びつける役割を果たしている.今後も同様の枠組みを通じて,より幅広い分野で国産CAIの開発が進むことが期待される.社会実装という観点では,2025年C10月に眼科医療機器協会の合同会社であるCG-Dataが,JOIRと国立情報学研究所が開発した眼底画像CAI診断支援プログラムの医療機器製造販売承認を取得している.本プログラムは正常眼に加え,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性などの主要な眼底・視神経疾患を対象として所見の有無を判定するものである.近年,世界各国で眼科CAI医療機器の開発が進められているが,本承認は日本における眼科CAIの社会実装を象徴する重要な成果といえる.JOIRはデータ基盤の整備のみならず,AI研究成果を実際の医療現場へ還元する役割も担っており,今後海外展開も含めてさらなる医療機器開発への展開が期待される.CV公開AIモデルを用いた日本からの研究成果先に述べたように,JOIRでは収集した眼底写真を用いて構築した学習済みCAIモデルを公開している.なかでも眼底年齢推定モデルは,多くの国内研究者によって活用されており,その成果は国際誌にも報告されている.本稿執筆時点で公表されているおもな研究を表2に示した.現在までに報告されている研究の多くは眼底年齢推定モデルを利用したものであり,網膜疾患との関連評価6)にとどまらず,実年齢と眼底写真から推定された年齢の誤差であるCretinalagegap(RAG)を用いた全身疾患との関連解析7),ゲノムワイド関連解析(GWAS)8),さらに白内障術後満足度との関連評価9)など,多様な研究へと発展している.これらの成果は,公開モデルが単なるCAI技術の提供にとどまらず,新たな研究仮説を創出する研究基盤として機能していることを示している.最近では,JOIRのホームページに公開モデルを利用した研究者のインタビューも掲載しており,ぜひご覧いただきたい.特筆すべきは,JOIRが公開した眼底年齢推定モデルが国内のみならず海外でも利用されている点である.中国の大規模老化研究プロジェクトでは,本モデルがCreti-nalclockとして採用されている10).Cell誌に報告された同研究では,MRI,プロテオーム,メタボロームなど複数の生体情報から構築したCmultimodalCagingCclockの一要素としてCretinalclockが組み込まれており,眼底画像が全身老化を反映するバイオマーカーとして国際的に注目されていることを示している.このことは,JOIRから生まれた研究成果が日本国内にとどまらず,国際的な老化研究にも貢献していることを示す好例といえる.眼底年齢推定モデルはCJOIRが最初に公開したモデルであり,現時点ではその活用例がもっとも多い.一方で,近年公開された性別推定モデルやメタボリックシ表2JapanOcularImagingRegistry(JOIR)公開モデルを用いた研究成果著者報告年報告誌モデル研究概要CPMIDKameiら7)C2025CJpnJOphthalmol眼底年齢RAGと高血圧・糖尿病・脂質異常症との関連を報告C40304887ItohらC2025CPloSOneメタボ関連メタボリックシンドローム予測モデルの報告C40839585Komatsuら9)C2026CAmJOphthalmol眼底年齢白内障術後満足度にCRAGが影響することを報告C41241358Nonakaら6)C2026CBMJOpenOphthalmol眼底年齢BRVOとCRAGの関連を報告C41500614Komatsuら8)C2026COphthalmologySci眼底年齢RAGのゲノムワイド関連解析.日本人で既報CSNPの関連を再現C41958711Liら10)C2026CCell眼底年齢JOIRモデルをCretinalclockとして採用しCmultimodalCagingclockを構築C42105758UtsunomiyaらC2026CSciRep眼底年齢RAGに影響する眼の状態について報告C42230934JOIRにより公開された眼底写真真相学習モデルを用いた研究成果についてまとめた.RAG:retinalagegap,BRVO:branchretinalveinocclusion,SNP:singlenucleotidepolymorphism.

眼内レンズセミナー:シングルピース眼内レンズの連結強膜内固定法

2026年8月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋471.シングルピース眼内レンズの連結強膜内繪野亜矢子張國中固定法えの眼科クリニック多焦点や焦点深度拡張機能,または乱視矯正機能を付加したシングルピース眼内レンズが偏位・脱臼した場合,そのレンズをポリプロピレン糸と連結することで,山根法に準じた強膜内固定法を実現し,高い視機能を再び獲得させることができる.この術式はすべてのシングルピース眼内レンズに応用でき,汎用性が高い.●はじめに近年,屈折矯正白内障手術にて,より高い視機能獲得を希望する患者が増えている.多焦点や焦点深度拡張機能,または乱視矯正機能をもつ眼内レンズによって,術後に眼鏡依存が低減あるいは眼鏡を必要としない日常を得たとしよう.術後経過において,その眼内レンズが偏位・脱臼した場合,これまではその眼内レンズを摘出し,新たな単焦点レンズを挿入して強膜内固定するという治療法を提供してきた術者が多いだろう1).しかし,その治療法では,一部の視機能は回復しても,偏位・脱臼する前に獲得していた視機能すべてを復活させることはできない.そこで,筆者らは偏位・脱臼した付加価値付き眼内レンズを救済,再利用することで,高い視機能を復活させうる方法を発案,実施し,安定した結果を得たので紹介する.●連結強膜内固定法の手技前部硝子体切除または汎硝子体切除を施行したのち,偏位・脱臼したシングルピース眼内レンズを前眼部に移動させ,作製した角膜サイドポートから一方のハプティクスを眼外に引き出す.6-0ポリプロピレン糸とハプティクスを先端3mmの位置から10-0ポリプロピレン糸にて3カ所結紮縫合して連結させる(図1).次に連結糸ごと眼内に戻し,山根法に準じて角膜輪部から1.5~2mmの位置から刺入した30ゲージ(G)針の内筒に連結糸を挿入し(図2),眼外に引き出しておく.対側のハプティクスに対しても同様の要領で連図1ハプティクスとポリプロピレン糸の連結a:2時のサイドポートから引き出したハプティクスとポリプロピレン糸を連結させる.b:連結部のシェーマ.図2山根法に準じた強膜内固定ダブルニードル法a:30G針内筒に連結糸を挿入する.b:シェーマ.(139)あたらしい眼科Vol.43,No.8,20269890910-1810/26/\100/頁/JCOPYabc図3連結強膜内固定術a:両側の連結糸を調整してセンタリングする.b:フランジ加工した連結糸を強膜内に埋め込む.c:シェーマ.ab図4トーリックレンズの固定法トーリックレンズは固定軸から反時計回り約80°の位置に30G針を刺入して固定する.a:トーリックマークが90°および270°に見える.b:シェーマ.結糸を眼外に引き出し,両側の連結糸を引っ張りながらセンタリングを調整し,やや引き出したところでパクレンにてフランジ加工し,強膜内に埋め込む(図3).これを連結強膜内固定法という.この過程で水晶体拡張リングを含め,Soem-meringリングなどの付属物はすべて取り除くのが望ましい.トーリックレンズの場合は,Alcon社やAMO社のトーリックレンズであれば挿入軸から反時計回り70~80°の位置にハプティクス先端が固定されるようにすれば乱視軽減効果が得られる(図4).●本術式の利点本術式では偏位・脱臼した眼内レンズを救済し,再利用することでいったん獲得した高い視機能を再び獲得させることが可能である.また,患者が付加価値付き眼内レンズを希望したにもかかわらず,Zinn小帯損傷合併や術中破.によって.内固定不能な場合にも,本術式を応用して希望された予定レンズを連結強膜内固定できるため,多くの患者や術者を救うことができる.偏位・脱臼した眼内レンズを再利用することで,眼内レンズの出し入れを必要としないため,角膜内皮への負担軽減が図られるほか,惹起乱視を生じないことは患者の利益にさらに貢献し2),新たな眼内レンズを消費しない点において環境に優しいともいえる.文献1)YamaneS,SatoS,InoueMetal:Flangedintrascleralintraocularlens.xationwithdouble-needletechnique.Ophthalmology124:1136-1142,20172)EumSJ,KimMJ,KimHK:Acomparisonofclinicalout-comesofdislocatedintraocularlens.xationbetweeninsiture.xationandconventionalexchangetechniquecom-binedwithvitrectomy.JOphthalmol2016:5942687,2016

写真セミナー:マイボーム腺炎関連角結膜上皮症(非フリクテン型) 

2026年8月31日 月曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史507.マイボーム腺炎関連角結膜上皮症前原紘基東京歯科大学市川総合病院眼科(非フリクテン型)図1初診時所見(右眼)角膜血管侵入,眼瞼結膜の充血を認める.図2図1のシェーマ①角膜血管侵入②眼瞼結膜の充血図3初診時のフルオレセイン染色所見(右眼)フルオレセインで染色すると,角膜にびまん性上皮障害を認める.abab図4初診3カ月後図5マイボーム腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)温罨法の指導,アジスロマイシン点眼,ミノサイクリン塩酸塩のCa:角膜への血管侵入と結節型病変をもつ.Cb:結節型病変に一致内服で矯正視力は右眼(0.8)まで上昇した.Ca:角膜輪部の血管侵してフルオレセインで染色される.入,眼瞼結膜の充血ともに改善している.Cb:角膜上皮障害は消失している.(137)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C9870910-1810/26/\100/頁/JCOPY原因不明で改善の乏しい両眼角膜血管侵入を認める患者(19歳,男性)が,秋田県から東京歯科大学市川総合病院眼科(以下,当科)を受診した.12カ月前から両眼の流涙があり,11カ月前に地元の眼科クリニックを受診し,角膜輪部に血管侵入が認められたため,フルオロメトロン点眼液C0.1%両眼C4回,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液両眼C6回,エピナスチン塩酸塩クリーム両眼C1回で加療してきたが,改善がみられないため,当科紹介受診となった.初診時の患者の訴えは羞明と視力低下であった.矯正視力は右眼(0.5),左眼(0.8)であり,角膜への血管侵入,眼瞼結膜の充血,びまん性角膜上皮障害を認めた(図1~3).マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)であり,びまん性角膜上皮障害があるため非フリクテン型と診断した.温罨法と眼瞼清拭を指導しつつ,アジスロマイシン点眼液(初日とC2日目は両眼C1日C2回,以降C14日まで両眼1日C1回)のみで治療を開始した.遠方から通院することを考慮し,アジスロマイシン処方からC1カ月後の再診とした.再診時,自覚症状は大幅に改善したが,所見や矯正視力に大きな変化がなかったため,温罨法と眼瞼清拭を継続しつつ,1カ月後の受診を推奨した.しかし,遠方からの受診であるため患者家族と相談した結果,抗炎症治療であるフルオロメトロンC0.1%点眼液両眼C3回と抗菌薬のミノサイクリン塩酸塩錠C50Cmg2錠C2回を処方し,2カ月後の再診とした.当科で治療開始してからC3カ月後の所見が図4である.自覚症状はなくなったが,角膜輪部血管侵入を軽度認め,矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.8)であった.今後は時間をかけて矯正視力や所見を改善していく見通しであることを説明し,近医にて治療を継続することとした.MRKCは眼瞼に常在する菌体抗原に対する遅延型アレルギー反応であり,角膜潰瘍を伴う結節病変があるフリクテン型(図5)と,びまん性角膜障害を伴う非フリクテン型に分けられる1).フリクテン型はアジスロマイシンに反応しやすいが,非フリクテン型はアジスロマイシンに反応しにくいという特徴をもつ2,3).そのため,非フリクテン型は治療に時間がかかりやすいことを患者に説明し,抗菌薬の内服も検討する.筆者は腸内フローラへの影響を憂慮し,抗菌薬の内服は点眼と眼瞼ケアで改善が得られなかった患者のみに処方している.MRKCはクリニックで正しく診断されず,長期治療をしても治らないため大学病院に紹介される患者が多い.診断と治療開始がむずかしいという声をよく聞くので,なかなか改善しない角膜への血管侵入を認める結膜炎や眼瞼炎を診た場合は,角膜専門家のいる施設への早期紹介を検討するとよいだろう.文献1)SuzukiCT,CTeramuraCS,CKinoshitaS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COculCSurfC13:133-149,C20152)NejimaR,EguchiH,TodokoroDetal:Analysisoftreat-mentprotocolsusingazithromycineyedropsforbacterialblepharitis:secondCreport.bacteriologicalCinvestigation.CJpnJOphthalmol66:579-589,C20223)ShimizuCY,CShinjiCK,CMitomaCKCetal:E.cacyCofCazithro-mycinhydrateophthalmicsolutionfortreatmentofinter-nalhordeolumandmeibomitiswithorwithoutphlyctenu-larkeratitis.JpnJOphthalmolC67:565-569,C2023

総説:自分史からみた緑内障研究―これまでとこれから

2026年8月31日 月曜日

あたらしい眼科43(8):959.985,2026c第36回日本緑内障学会須田記念講演自分史からみた緑内障研究―これまでとこれからAdvancingGlaucomaResearchThroughPersonalExperience:Past,Present,andFuture柏木賢治*はじめに筆者が眼科医となり緑内障診療に携わって約C40年が経過した.この間,緑内障診療は大きく進歩し,多くの患者の視機能維持に寄与してきた(図1).1970年代以前は,緑内障治療は手術が主体であり,薬物療法は従的な位置づけであった.筆者が眼科医となったC1980年代以降,Cβ遮断薬の臨床使用が大きく拡大し,続いてプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬(現在ではプロスタノイド受容体関連薬と呼称)が登場し,治療に大きなインパクトをもたらした.その後も多くの薬剤が導入され,薬物療法は隆盛期を迎えた.しかし近年では,薬物療法に内在するさまざまな課題が明らかとなってきている.一方で,長らく大きな変化がみられなかった手術治療は,2010年頃に入ってから急速に進歩し,現在では低侵襲緑内障手術(MinimallyCInvasiveCGlau-comaSurgery:MIGS)が緑内障診療において重要な地位を占めるようになっている.レーザー治療についても選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性に関する新たな知見(LiGTHstudy)1)が蓄積され,とくに早期治療における重要性が高まりつつある.これらの緑内障診療の進歩には,基礎研究,それに基づくトランスレーショナル研究,さらに臨床研究による有用性の検証,そして得られた臨床データを基にした新たな研究の推進という一連のサイクルを継続的に機能させることがきわめて重要である.この観点からみても,筆者が眼科医として過ごしてきた約C40年間は,緑内障の研究と診療が急速に変革してきた時代であったといえる.今後は,革新的な基礎研究の進展やデジタル化に伴う人工知能(arti.cialintelligence:AI)の活用により,この潮流がさらに加速することが期待される.本稿では,筆者がこれまでに携わってきた臨床および研究の経験を踏まえ,緑内障研究の進歩と課題について,自身の取り組みを一つの指標として振り返る.CI緑内障視神経障害の解明1.緑内障神経障害とは緑内障は,視神経乳頭部における軸索流障害を主因として,特徴的な視神経乳頭変化とそれに伴う視野障害を呈する疾患であると,緑内障診療ガイドラインにおいて定義されている2).緑内障では,視神経乳頭篩状板部における軸索流障害により,網膜神経節細胞(retinalgan-glioncell:RGC)が主としてアポトーシスを介して細胞死に至ると考えられている.軸索輸送には順行性および逆行性のC2種類が存在し,ミトコンドリアや神経栄養因子などの細胞内小器官が,微小管上をダイニンやキネシンといったモーター蛋白を介して輸送されている(図2).微小管はCαおよびCβチュブリンからなるヘテロ二量体が直線状に重合したプロトフィラメントがC13本集合することで形成される.ヒトの視神経乳頭篩板は約C10層から構成され,篩板孔の大きさや梁構造は部位によって異なることが知られている.図3には,ヒトと類似した構造を有するサルの視神経乳頭部の鋳型標本を示す.視神経軸索は視神経乳頭部で大きく屈曲しながら篩板内を通過するが,乳頭部*KenjiKashiwagi:山梨大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕柏木賢治:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学教室C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(109)C959C課題出現期ラタノプロストセトン手術/MIGSβ遮断薬MMCレクトミーLiGTHstudySLTALT197019801990200020102020(年)図1近年の緑内障治療の経過Multi-vesicularbodies.ミトコンドリアや神経栄養因子などの顆粒が微小管上をmotorproteinにより移動.ニューロフィラメントは軸索骨格の支持と軸索流の維持に関与高速順行性高速逆行性低速逆行性速度200~400mm/日50~100mm/日0.1~6mm/日MitochondriaReuseproteinNeuro.lamentSubstrateSynapticvesicleGrowthfactorsSynapticvesicleGrowthfactorsActinCalmodulineEnzymeetal.Toxinetal.図2軸索流の模式図960あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(110)は強膜と比較して構造的に疎であり,外圧による変形を受けやすい.このため,篩板部において軸索流が障害され,結果としてCRGCの変性・脱落が生じる.視神経乳頭における軸索流障害については,Quigleyらの研究により詳細に検討されている3,4).篩板部に加わる機械的ストレスが軸索流障害の主因と考えられているが,微小循環障害や炎症反応の関与も指摘されている.いずれの機序においても,視神経乳頭部で軸索輸送障害が生じる点は共通しており,この部位における分子生物学的および構造学的変化の解明が重要である.C2.サル高眼圧モデルにおける軸索骨格蛋白(ニューロフィラメント)の変化軸索の主要な構造蛋白であるニューロフィラメント(neuro.lament:NF)は,中間径フィラメントに属し,分子量の異なるCNF-L,NF-M,NF-Hの三つのサブユニットから構成される.これらは軸索の構造的安定性の維持および機能調節に重要な役割を担っている5).また,その機能はリン酸化状態によって制御されることが知られている6).しかし,緑内障におけるニューロフィラメントのリン酸化状態の変化については十分に解明されていなかった.そこで本研究では,慢性的な眼圧上昇により視神経障害を誘導したサルの実験的緑内障モデルを用い,RGC軸索における機能調節に重要なCNF-Hのリン酸化状態を検討した7).緑内障モデルを作製したうえで,網膜から視神経乳頭,さらに視交叉に至る視覚伝導路全体にわたり解析を行った.その結果,正常眼ではすべての観察部位においてCNF-Hはほぼ完全にリン酸化されていたのに対し,緑内障眼では著明な脱リン酸化が認められた.この変化は網膜,視神経乳頭,さらに視交叉においても一貫して観察された.さらに,脱リン酸化の程度は均一ではなく,視神経乳頭の耳側や上下方向など,形態学的に障害が強い部位でより顕著であった.視交叉においても,視神経乳頭の障害部位に対応する線維群で強い脱リン酸化が認められ,軸索障害が視覚伝導路全体へ連続的に波及していることが示された(図4).これらの結果は,慢性高眼圧により誘導されるCNF-Hの脱リン酸化が軸索輸送障害を引き起こし,その結果としてCRGCの機能低下および変性に関与している可能性図3サル視神経乳頭部の鋳型標本を強く示唆するものである.NF-H脱リン酸化が軸索障害の原因であるのか,あるいは結果として生じる現象であるのかについては今後の検討が必要であるが,形態学的変化が軽度な段階でもすでに脱リン酸化が認められた点は,この分子変化が病態の比較的早期に出現することを示唆している.従来,緑内障の病態は眼圧上昇,血流障害,アポトーシスといった観点からおもに議論されてきたが,本研究により軸索細胞骨格の分子レベルでの変化が明らかとなった.この知見は緑内障の進行機序の理解を深化させるとともに,NF-Hのリン酸化制御を標的とした新たな神経保護戦略の開発につながる可能性を示している8.11).CII緑内障モデルの開発1.Invitroモデル緑内障の発症および進展機序の解明や新規治療法の開発には,適切な研究モデルの構築が不可欠である.研究モデルは大きくCinvivoとCinvitroに分類される.Invivoモデルはヒトの病態に近い変化を再現できるという利点がある.一方で,眼圧上昇の再現性が不安定,炎症などヒト緑内障とは異なる要因が関与する可能性,げっ歯類では視神経乳頭構造がヒトと大きく異なる,多数例での実験が困難,コストが高いことなどの課題がある.これに対し,invitroモデルは操作性および再現性に優れ,分子・細胞レベルの機序解明に適しており,コストも比較的安価である.緑内障における主たる障害細胞はCRGCであり,その障害機序を詳細に解析するためには高純度のCRGC単離培養系が有用である.筆者らは,コントロール眼実験緑内障眼aコントロール眼実験緑内障眼bコントロール眼実験緑内障眼cd外側内側内側外側緑内障側コントロール側図4高眼圧負荷によるニューロフィラメント重鎖のリン酸化状態の変化各部位におけるニューロフィラメント重鎖(NF-H)のリン酸化状態を示す.黄色の部分はリン酸化CNF-Hを赤色の部分は脱リン酸化CNF-Hを示す.耳側網膜においては実験緑内障眼において視神経線維の脱リン酸化が高度に認められているのに対して,コントロール眼ではリン酸化状態を示している(Ca).鼻側網膜ではコントロール眼においてはリン酸化部位がほとんどであるが,実験緑内障眼では一部に脱リン酸化が認められる(Cb).篩板部においては実験緑内障眼では脱リン酸化部分が多くみられるのに対してコントロール眼ではほとんどがリン酸化状態である(Cc).視交叉部においては,緑内障眼由来の耳側視神経に対応する線維の脱リン酸化が顕著であるのに対してコントロール側由来の視神経線維の脱リン酸化は目立たない.コントロール側では緑内障側由来の内側は脱リン酸化が中程度に認められるが,外側はほとんどがリン酸化状態である(Cd).(文献C7より許可を得て改変)asmallRGClargeRGC(%)*1009080706050403020100*16mmHg28mmHgcontrol16mmHg28mmHg換算加圧値Survivalrate図5過重負荷による網膜神経節細胞への影響大型のCRGC,小型のCRGCともに過重負荷によって生存率が低下する(Ca).荷重によってCRGCの形態は大きくことなり,加重されたRGCではコントロール(Cb)に比べ数珠状の神経突起が観察される(Cc).(文献C16より許可を得て改変)Barresらが開発した免疫学的手法12)を改変し,two-steppanning法により幼弱ラット網膜からCRGCを単離・培養するCinvitroモデルを構築した.この系を用いた検討では,RGCは脳由来神経栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF)投与により濃度依存的に生存率が有意に改善するが,NT-4の効果は限定的であり,その背景として網膜内における発現量の差やトロポミオシン関連チロシンキナーゼCB(trkB)受容体サブタイプの発現差が関与する可能性が示唆された13).さらに,RGCの生存に重要な役割を果たす網膜グリア細胞(おもにCMuller細胞)を単離培養し,RGCとの共培養系を構築して相互作用を解析した.その結果,成熟した網膜グリア細胞はCRGCに対して保護的に作用する一方,増殖期の網膜グリア細胞はCRGC生存率を低下させることが明らかとなり,網膜グリア細胞の機能が状態依存的に二面性を有することが示された.また,RGC死の主要因としてグルタミン酸および一酸化窒素の関与が確認された14,15).一方,緑内障の本質である眼圧による障害を再現するためには,力学的ストレスを付加したCinvitroモデルが必要である.そこで遠心力負荷を用いた培養モデルを構築した.このモデルでは,負荷強度に依存してCRGC生存率が有意に低下し,神経突起の減少やCdendriticbeadingとよばれる異常構造の出現が増加した(図5)16).これらの形態変化はヒト緑内障眼でも報告されており,圧負荷がCRGCに対して機能的・構造的障害を引き起こすことが示されている17).興味深いことに,網膜グリア細胞単独では遠心力負荷による生存率の低下は認められず,比較的高い耐性を示した.一方,RGCとの共培養条件下では,遠心力負荷に対するCRGC生存率が有意に改善し,グリア細胞が神経保護的に作用することが明らかとなった16).分子レベルの解析として,マイクロアレイおよびリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(real-timeCpolymeraseCchainreaction:real-timePCR)による遺伝子発現解析を行った結果,RGCでは顕著な発現変化は認められなかったのに対し,グリア細胞では代謝関連,サイトカイン関連,アポトーシス関連遺伝子を中心に多数の発現変動が認められた.この結果は,外的ストレスに対する応答がCRGC自体よりもむしろグリア細胞において顕著であることを示し,グリア細胞が分泌因子や代謝調節を介して神経細胞の生存を制御している可能性を示唆する14,16).以上より,RGCと網膜グリア細胞の相互作用は緑内障病態においてきわめて重要であり,とくに網膜グリア細胞は神経保護の有力な治療標的となり得る.実際に,網膜グリア細胞を標的とした新規治療戦略の研究が進展しており今後の成果が期待される18.23).C2.Invivoモデルa.Srcチロシンキナーゼ制御を用いた正常眼圧緑内障モデルわが国を含むアジア地域では,正常眼圧緑内障(nor-mal-tensionglaucoma:NTG)の頻度が高い24).従来の緑内障モデルの多くは眼圧上昇によりCRGC障害を誘導するものであり,眼圧が正常範囲内で進行するCNTGの病態を十分に再現できないという課題がある.これに対しHaradaらはグルタミン酸トランスポーターの遺伝子改変モデルがCNTGモデルとして有用であることを報告している25).本研究では,これとは異なる機序に基づくCNTGモデルの構築を目的として,Srcチロシンキナーゼのリン酸化制御に着目した26).Srcは細胞膜近傍に局在する非受容体型チロシンキナーゼであり,細胞増殖,分化,移動,生存など多様な生命現象に関与する.多数の分子と相互作用し,細胞内シグナル伝達のハブとして機能する27,28).また,複数のリン酸化部位により活性が厳密に制御されている.とくに重要な調節部位であるCSer75のリン酸化に着目し,恒常的リン酸化状態を模倣した変異(S75D:SD)およびリン酸化不能変異(S75A:SA)を導入した遺伝子改変マウスを作製し,加齢に伴うCRGCの変化を検討した.その結果,SDマウスでは加齢に伴いCRGC数が有意に減少したのに対し,野生型(WT)およびCSAマウスでは有意な減少は認められなかった.RGCの減少はとくに網膜周辺部で顕著(約C25%減)であり,後極部では有意差を認めなかった.RGC障害の機序を解析したところ,SDマウスでは加齢に伴いCRho-associatedkinase(ROCK)活性が有意に上昇し,その活性はCRGC数と逆相関を示した.この結果から,SrcのCSer75リン酸化はCCdk1/Cdk5依存的にSrcの安定性および分解制御に関与し,その異常がRhoA/ROCKシグナル経路の調節破綻を介して神経変性を促進する可能性が示唆された.本モデルでは眼圧の上昇は認められず,組織学的にも炎症などの明らかな異常は確認されなかった.眼圧非依存的にCRGC変性が進行する点が特徴であり,本モデルはCNTGの病態を反映する有用な実験モデルとなり得ると考えられる(図6).現在CSrcと緑内障に関する研究が進められており今後の応用が期待される29.32).Cb.プリン受容体を介した眼圧,緑内障モデル眼圧上昇モデルの作製にはさまざまな方法があるが前述したように課題も多い,このため自然発症型の眼圧上昇モデルであるマウスモデルの有用性が報告されている(DBA/2J)33,34).筆者らはプリン受容体に注目してCinvivo緑内障モデルの構築を行ってきた.プリン作動性(purinergic)受容体は,アデノシン三リン酸(adenos-inetriphosphate:ATP)やウリジン二リン酸(uridinediphosphate:UDP)などの細胞外ヌクレオチドを介して神経・血管,免疫,炎症などの幅広い領域の制御に関与する重要なシグナル系であり,房水動態にも関与するため,近年,緑内障の病態理解と治療標的として注目されている.そこで二つの眼圧上昇型緑内障モデルマウスの研究を行った.C1)P2Y6受容体遺伝子改変モデルP2Y6受容体欠損マウス(P2Y6Cknockout:P2Y6KO)を作製し,眼圧,房水動態,視神経およびCRGC障害,視機能を包括的に解析した35).P2Y6受容体の内因性アゴニストであるCUDPを点眼すると,野生型マウスでは濃度依存的に眼圧が低下し,最大で約C10%の下降が認められた.一方,P2Y6受容体拮抗薬CMRS2578は眼圧を上昇させ,UDPによる眼圧低下作用はCP2Y6KOマウスでは消失した.これらの結果から,P2Y6受容体が生理的な眼圧低下機構に関与していることが示された(図7a).発現解析により,P2Y6受容体は毛様体の無色素上皮細胞に局在し眼圧を下降させる方向に作用することが明らかとなった.P2Y6KOマウスはC18カ月齢まで持続的な眼圧上昇を示し,中年齢以降には視神経軸索の腫脹や軸索内小器官の蓄積,網膜内層の菲薄化,RGC数の減少が認められた(図7b,c).さらに,多局所網膜電位図(multifocalaWT/WTSD/SDbSDSAワイルドワイルド(個/画像)ヘテロ(個/画像)ヘテロ100**ホモ80ホモ9050506040403030202010100070806070RGC数後極周辺(N=8-10)後極周辺(N=6-8)(bar=SD,*repeatedANOVAp<0.05)c(mmHg)SASD1414121210108866442200図6SRC遺伝子配列図IntraocularpressureWT/WTWT/WTSDまたはCSAヘテロ接合体由来の同腹仔の遺伝子型配列図.SD/SDおよびCSA/SA変異マウスにおけるSer75コドンのCTCC→GACおよびCTCC→GCG変異の存在を示すクロマトグラム(Ca).11カ月齢マウスの網膜切片標本CSD/SD(SD)およびCSA/SA(SA)変異マウスにおけるCRGC数の測定結果(Cb).眼圧測定結果(c).(文献C26より許可を得て改変)abc図7P2Y6遺伝子改変型高眼圧型緑内障モデルP2Y6欠損(P2Y6KO)マウスに対してC4カ月間,ラタノプロストを毎日点眼投与したところ,基礎眼圧(IOP)は野生型(WT)マウスと同程度まで低下(Ca).6カ月齢CP2Y6KOマウスにおいてCOCTで観察された神経節細胞層および内網状層(GCL/IPL)の菲薄化は,ラタノプロストの毎日投与により改善された(Cb).ラタノプロストは,6カ月齢P2Y6KOマウスにおける網膜神経節細胞(RGC)数の減少を抑制した(Cc,d).(文献C36より引用)abIOPchanges(%ofcontroleye)100-10-20-30-40000-MRS2179-MRS2365-MRS2179図8P2Y1遺伝子改変型高眼圧型緑内障モデルの眼圧への影響3カ月齢の野生型(WT)マウスにおける選択的CP2Y1受容体作動薬CMRS2365の点眼は濃度依存的に眼圧を低下させた(Ca).WTマウスにおいてCMRS2365点眼は速やかに眼圧を低下させ,1.5時間で最大効果を示した(Cb).選択的CP2Y1受容体拮抗薬であるMRS2179点眼はCWTマウスの眼圧を有意に上昇させた(Cc).3カ月齢のCP2Y1KOマウスでは,MRS2365の効果は消失した(Cd).MRS2179点眼はCP2Y1KOマウスでは効果を示さなかった(Ce).(文献C36より引用)electroretinogram:mfERG)ではC13カ月齢のCP2Y6KOP2Y1受容体作動薬(MRS2365)の点眼により,野生型マウスにおいて反応低下が確認され,形態学的異常に加マウスでは眼圧低下が認められ,この効果はCP2Y1欠えて機能的障害も伴う高眼圧緑内障様表現型が示され損マウス(P2Y1KO)では消失した(図8).P2Y1受容た.体は毛様体,線維柱帯,Schlemm管に発現し,その活これらの病的変化は,PGF2Cα誘導体であるラタノプ性化は房水産生を抑制するとともに流出を促進し,そのロストの長期投与による眼圧低下によって改善したこと機序にはアクアポリンC4(aquaporin4:AQP4)およびから(図7d),本モデルにおけるCRGC障害は眼圧依存内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelialCnitricCoxide的であることが示唆された.以上より,P2Y6受容体欠synthase:eNOS)が関与していた.P2Y1KOマウスで損マウスは,房水産生異常を基盤とした新規の高眼圧緑は年齢に依存した持続的な眼圧上昇が認められ,RGC内障モデルとして有用である可能性が示された.の減少や視機能低下など緑内障様変化を呈した.この変C2)P2Y1受容体遺伝子改変モデル化はラタノプロスト点眼による眼圧低下により改善され同様にCP2Y1受容体の眼圧に関する検討を行った36).た(図8,9).以上より,P2Y1受容体は房水動態を制b図9P2Y1遺伝子改変型高眼圧型緑内障モデルフルオロフォトメトリー法CA(Fph-A).腹腔内投与(i.p.)されたフルオレセインは前房内に集積した(Ca).前房内における蛍光変化の経時的推移.UDP(Cb)およびチモロール(Cc)はフルオレセイン流入速度を低下させたが,ラタノプロストは影響を示さなかった(Cd).30分時点における蛍光強度の定量データ(Ce),P2Y6ノックアウト(P2Y6KO)マウスではフルオレセイン流入が増加し(f),UDPの効果は認めなかった(Cg,h).御する重要な分子であり,その機能低下が緑内障発症に関与することが示唆された.今回,眼圧上昇型遺伝子改変モデルマウスをC2種開発した.これらのマウスは眼圧下降治療の有用性の検討や緑内障発症機序の解明に有用であると考えられる.緑内障の分子生物学的,遺伝学的手法を用いた解析は非常なスピードで進んでおり,新知見も多く報告されている.とくに有用なCinvitro,invivoの構築はより正確で詳細な緑内障の発症,増悪機序の解明,治療法の探求に必須であり,今後のさらなる進歩が期待される.(文献C36より転載)CIIIラタノプロストによる緑内障診療の衝撃緑内障の薬物治療の歴史についてはCPG関連点眼薬の出現は非常にエポックメイキングな出来事であった37).その先駆者であるラタノプロストにはそれまでの緑内障点眼薬にはない大きな特徴があった38).すなわち現在の緑内障治療薬の中でももっとも優れた眼圧下降能を有す薬剤の一つであり,かつC1日C1回点眼であること,また夜間も含めC24時間にわたり眼圧下降が得られること,さらに全身副作用がないことである.同時によくに薬理学的に注目されたことはそれまで眼房水の排出路としてacontrolblankPGF2α17phenyltriorPGF2α11-deoxy-PGE1PhXA85分子量(kDa)95-68-62-bc0.80.80.60.6Activity(Units±SE)0.40.40.200.20VehiciePGP2α11doPGE1PhXA85VehiciePGP2α11doPGE1PhXA85ゼラチン分解活性カゼイン分解活性図10PG関連剤によるSubstratezymographyとMMP活性変化ヒト毛様体平滑筋細胞の培養上清を用いたゼラチンザイモグラム.基材コントロール,200nMCPGF2α,17-フェニルトリノールCPGF2α,11-デオキシCPGEC2,またはCPhXA85によりC62kDa,68kDa,およびC95kDaの位置に強いバンドが認められた(Ca).62kDa,とC68kDaのバンドを定量するとCPG処理培養上清を含むレーンでは,コントロールに対してゼラチン分解活性(Cb)やカゼイン分解活性(Cc)を示すバンドの強度の増加が添加後C12時間,24時間,72時間と経時的に認められた.PhXA85はラタノプロストの活性体.はあまり注目されていなかったぶどう膜強膜路を介して眼圧を強力に下降させることであった.ラタノプロストは上市後すぐに第一選択薬となったが,作用機序は十分に解明されていなかった.筆者はまだ日本でラタノプロストが発売される前に米国に留学し,指導教授から薬物作用機序についての解明を課題とされたため,自身にも思い入れがある薬物となっている.(文献C42より許可を得て掲載)C1.PG関連剤の眼圧下降機序研究筆者が研究を始めた当時,PGF2Cαがプロトオンコジーンとして注目されていたCc-Fosによる転写に影響を与えることが報告されていた39,40).c-Fosは転写因子としてCactivatorprotein1(AP-1)を形成し,細胞増殖,分化関連遺伝子,細胞周期を制御すると報告されていたため,ラタノプロストが細胞増殖や細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)の代謝に関係する可能性が考えられた.そこで筆者はラタノプロストの活性体がヒト毛様体平滑筋細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrixmetalloprotease:MMP)の産生・分泌やCMMP活性に与える影響を検討し,緑内障治療における眼圧下降機序との関連を明らかにする研究を行った.PGF2α,11-deoxy-PGE1,およびラタノプロスト活性体(PhXA85)を添加して,MMP活性をザイモグラフィーおよびCWesternblotにより解析した.その結果,これらの細胞はCMMP-1,MMP-2,MMP-3,MMP-9を分泌し,とくに細胞間質のCECMの分解に関与するCMMPサブタイプの活性を増加させることを確認した.さらにCFP受容体のみならずCEP受容体を介するシグナルも関与しており,複数のシグナル経路がCMMP発現制御に関与することが示唆された.その結果毛様体の主要な細胞間のCECMであるコラーゲンC1型の分解を促進していた41.43)(図10).その他の研究成果と合わせて,PGによる眼圧下降作用の機序としてCPG刺激により誘導されたCMMPがコラーゲンやフィブロネクチンなどのCECMを分解し,ぶどう膜強膜流出路の通過性を高め眼圧低下を生じるという可能性が考えられた44.46)(図11).しかし,点眼後の迅速な眼圧下降がCECMの分解では十分に説明できないため,他の機序の存在もあると思われ,さらなる作用機序の解明が必要と考えられる.2.PG関連剤による内因性PGの誘導と臨床的意義イオンチャネル開口薬であるウノプロストンとラタノプロストの作用機序の違いを,とくに内因性プロスタグランジンCE2(PGE2)産生およびプロスタグランジントランスポーター(PGT)との関係から解析した47).その結果,ラタノプロストの活性体(acidoflatanoprost)およびCPGF2α誘導体は,有意にCPGE2産生を増加させたのに対し,ウノプロストンおよびその代謝産物(M1,M2)はCPGE2産生作用が弱い,あるいは非有意であった(図12).さらに,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxy-genase:COX)阻害薬であるインドメタシンにより,ラタノプロスト誘導のCPGE2産生は完全に抑制されたが,ウノプロストンでは完全には抑制されなかった.この結果は,ラタノプロストがCCOX経路依存的にCPGE2産生を介して作用するのに対し,ウノプロストンは異なる経路を介する可能性を示唆する.PGTに対する親和性の検討では,ラタノプロスト活性体は比較的高い親和性を示したが,ウノプロストンおよびその代謝産物は低親和性であった.これらの結果はC2種の細胞内取り込みや作用発現機序の違いに関与すると可能性を示している.このようなCPG薬の内因性のCPGE2の誘導が臨床的にもつ意義についてヒトにラタノプロストを点眼した際に非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalCanti-in.ammatoryCdrug:NSAID)点眼を併用使用するとラPGErelease(ng/tissuemg)28.07.06.05.04.03.02.01.00.00.1mM1mM0.1mM1mM0.1mM1mMPGF2aコントロールM1M2ラタノプロスト図12PG関連剤による内因性PGE2産生誘導高濃度のイソプロピルウノプロストンの眼内主要代謝物,ラタノプロストならびにCPGF2Cαはコントロールに対して内因性CPGE2を有意に誘導した.M1,M2:イソプロピルウノプロストン眼内主要代謝物.コントロールに対して*p,C0.01,C†p<0.05と有意なCPGE2の産生増加を示した.(文献C47より許可を得て掲載)CmmHg眼圧28262422201816141210G前P0W2W4W6W8W10W12W中止中止中止2W4W6W図13ラタノプロストによる眼圧下降に対するNSAIDの影響緑内障患者に対してラタノプロストとCNSAIDの併用を行うと,ラタノプロストによる眼圧下降作用をCNSAID群は有意に抑制した.*p<0.05,bar=SD.(文献C49より許可を得て掲載)タノプロスト点眼による眼圧下降効果の阻害作用が健常人48)でも緑内障患者49)でも確認されたことから(図IV緑内障診療における課題と対策13),PG関連薬による眼圧下降にはある程度内因性C1.閉塞隅角緑内障の課題PGE2が作用することが考えられた.この研究からC10閉塞隅角緑内障はわが国においては,有病率では開放数年経過してCPGE関連点眼薬が上市されたことは非常隅角に比べ少ないが24,50),失明率が開放隅角より高いこに興味深い.と,適切な治療により発症を予防することができるなど12111098765432(深い前房)SPACグレード(浅前房)140120100806040200眼数図145年間の前房深度の前向き調査2005年とC2010年のC5年間の中央市住民の前房深度の変化を示す.2005年の平均前房深度グレード(青いバー)はC7.9C±2.1であったのに対し,2010年(赤いバー)はC6.4C±2.0と有意な減少(=浅前房化)を示した.*Wilcoxonranked-signtest:p<0.0001.疾患の特徴を有する.狭隅角が発症の大きなリスクになるが,発症前は視神経障害を示さず,眼圧上昇も示さないケースも多いため見逃されやすい.隅角鏡による隅角評価が診断には必須であるが侵襲的検査,主観的な検査のため,正確な診断がむずかしい場合もある.また,有病率の高さなどから診療の中心が開放隅角型になっているため,研究開発についてもやや開放型に比べて遅れている状況があった.Ca.簡易式周辺前房深度評価系の開発と仕様前房深度は閉塞隅角眼の評価には重要だが,おもに瞳孔中心部において評価され,周辺はCvanHerickに代表される主観的評価法が主である.このため定量性が低く,しばしば閉塞隅角眼を見逃すことがあった.近年では超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicroscope:UBM)やCScheimp.ug検査機,前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)などが臨床で活用されるようになっていたが,それぞれ侵襲性,操作性,再現性,コストなどの課題があった.これらの課題の解決のため,周辺前房深度(peripheralCanteriorCchamberdepth)を非接触かつ定量的に測定可能な新規装置CscanningCperipheralCanteriorCchamberdepthanalyzer(SPAC)を開発し,その精度・再現性を検証した51,52).SPACは角膜中心から周辺までを約C0.5秒でスキャンし,0.4Cmm間隔でC21枚の画像を取得す(文献C56から許可を得て掲載)る.これらの画像から角膜および虹彩境界を自動検出し,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),角膜厚,角膜曲率半径を計測することが可能である.また,患者データを活用して前房深度のC12分類と閉塞隅角眼の危険性に関する評価結果を示す.注意点としては細隙灯光を用いるため隅角の直接評価は不可能であることと耳側に限定した評価であることである.Cb.SPACを用いた閉塞隅角眼のスクリーニングSPACの閉塞隅角緑内障眼のスクリーニングにおける有用性について三つの非接触検査機器(PAC,IOLMasC-ter,AS-OCT)を用いてシンガポールのC50歳以上の無症候住民C2,052名を対象に検討を行った.隅角鏡で後部線維柱帯がC180°以上観察不能な場合を閉塞隅角と定義した.その結果,SPACおよびCIOLMasterはいずれもCAUC0.83と比較的良好な識別能を示し,AS-OCTはCAUC0.76とやや劣っていた.感度はCSPACでC90.0%,IOLMasterでC87.7%,AS-OCTでC88.4%といずれも高値であったが,特異度はそれぞれC76.6%,77.7%,62.9%と中等度にとどまった.これらの機器の陽性的中率は低く,陰性的中率が高いことから,閉塞隅角眼のスクリーニングとして有用な可能性が示された53,54).しかし,単体ではスクリーニング機器として十分なCAUCを示さなかったので,SPACと他の検査機器を段階的に用いることにより,より高い診断精度が得られた55).c.ACDの経時的評価と閉塞隅角眼の発症頻度閉塞隅角緑内障の発症パターンについては,閉塞隅角眼疑いから閉塞隅角眼,閉塞隅角緑内障と進行するが,時には閉塞隅角眼疑いから閉塞隅角緑内障発作を起こす症例も存在する.このためCACDの定量的評価による閉塞隅角緑内障の発症リスクを予見することは重要である.一般的に加齢で前房隅角は浅くなり閉塞隅角眼を発症する危険性が高くなる.山梨県中央市の地域住民を対象にC5年間の前向き研究を行った56).ACDは加齢に伴いとくに周辺部で有意に浅くなり,浅前房化を示すSPACのグレード判定は低下した(図14).本研究における隅角閉塞の発症率はC5.4%であった.隅角閉塞発症眼では,初回検査時の前房がより浅く,その後の前房浅化の進行も大きかった.一方,年齢や性別は有意な関連を示さなかった56).これらから定量的な前房隅角の評価が重要であることがわかった.Cd.開放隅角眼における前房深度の有用性前房隅角の評価はおもに閉塞隅角眼が対象となっているが,開放隅角眼においても重要である.たとえば予後が悪く眼圧の変動が大きいことで知られる.性緑内障の場合,しばしばCACDが浅くなり眼圧コントロールが悪化する.また,原田病57.59)や再発性多軟骨炎60)などの疾患では疾患の活動性とCACDが相関することも報告されている.低侵襲性で短時間の定量的なCACDの評価が可能な機器の有用性は高いと思われる.Ce.新しい閉塞隅角眼のバイオマーカーリスク要因閉塞隅角眼に関連する要因としては,浅前房,短眼軸,厚い虹彩,lensvaultなどが既に報告されている61).今回,黄斑部脈絡膜/眼軸比が閉塞隅角緑内障発作と関連の深いバイオマーカーの一つであることを明らかにした62).脈絡膜/眼軸比は急性緑内障発作眼や閉塞隅角疑い眼のほうがコントロールより有意に大きかった.今後比較的簡易な閉塞隅角眼の評価法として活用が可能となる可能性がある.C2.緑内障治療点眼薬の課題臨床的に使用可能な緑内障治療点眼薬は,1970年代にチモロールを代表とするCβ遮断薬が上市されて以降急速に拡大してきた.今日臨床的に使用可能な点眼薬を大別するとCβ遮断薬,PG関連薬(PGE受容体作動薬を含む),α2作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬,ROCK阻害薬,コリン作動薬があり,さらに近年は各種配合剤が上市さ図15点眼支援器を用いた点眼の様子緑内障点眼薬を装填し,支援器の脚部と頬部と眉毛部に固定,軽い応力で握ることが可能なウイングをつまむとC1滴のみが滴下される.点眼の際に患者は点眼瓶挿入部のオレンジ色の部分を見つめる.れている.このように最近C50年間の間に緑内障点眼治療は急速に発展してきた.筆者らの調査では患者は平均2種の緑内障点眼を使用しており,治療開始後使用数は増加していた63).点眼治療の選択肢が増えると同時に多くの課題が明らかになった.Ca.点眼副作用緑内障治療点眼薬には主成分そのものによる副作用と含有物による副作用が認められている.たとえば第一選択薬であるCPG関連薬に関しては,全身副作用は少ないものの,睫毛伸長や上眼瞼深溝化(deepeningofuppereyelidsulcus:DEUS)などのプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinCassociatedCperiorbitopa-thy:PAP)などの副作用が知られている64).とくに筆者は虹彩色素沈着の発症機序65.68)やその不可逆性,ラタノプロスト点眼と黄斑浮腫の関連性などについて検討してきた69).β遮断薬は喘息症状や心不全症状の悪化など全身副作用が報告され禁忌とされているが,大規模データを用いた解析ではいまだ使用例が少なくないことが明らかになった70,71).現状多数種の緑内障点眼が多く使用されているが63,72),これにより角膜びらんや結膜充血などの眼表面への障害をきたし,時に視機能も悪化していることが明らかになった73).Cb.不適切点眼と対策1)緑内障点眼の成功と関連因子多くの緑内障患者において治療は点眼薬を主体として行われているが,実臨床では点眼手技の失敗が高頻度に認められることが報告されている74).そこで筆者らは,緑内障患者における点眼手技の失敗頻度と,それに関連(mmHg)2520151050control0.25μg/cm2LBNS2.5μg/cm2LBNS25μg/cm2LBNS貼布前1日2日4日7日9日図16ラタノプロスト担持バイオナノシート(LBNS)の眼圧下降効果ラタノプロストをC0.25,2.5,25Cμg/cmC2担持したC3種のCLBNSは貼付C1時間後にC3濃度とも同程度の最大眼圧下降能を示すが,3種の濃度間では眼圧下降維持時間が異なり,2.5とC25Cμg/cmC2のCLBNSはC7日間有効な眼圧下降を示した.する視機能および身体機能因子について検討した75).対象はC6カ月以上自己点眼を継続しているC103例とし,点眼液が結膜.に入らない場合,睫毛や眼表面へのボトルの接触,1回の点眼で複数滴が滴下される場合を点眼失敗と定義した.その結果,全体のC61.2%が少なくとも片眼で点眼失敗を認めた.もっとも多い失敗は結膜.外への滴下(76.2%)であり,次いでボトル先端の眼表面などへの接触(22.2%),複数滴滴下(11.1%)であった.点眼失敗の関連因子として,加齢に加え,頭部後屈角度の低下,ピンチ力低下,上肢機能障害,運動失調,視力低下および視野障害が有意に関連した.多変量解析では,運動失調,上肢機能障害,視力および視野障害が独立した関連因子として抽出された.以前から視機能低下や頭部後屈不足の関与が指摘されてきたが,本研究では臨床的に明らかでない軽度の運動失調も点眼失敗に関連することが示された点が重要である.さらに,点眼失敗を認める患者ではCNEI-VFQ-25における視覚関連QOLが低い傾向にあった.点眼手技の失敗は薬剤の有効性を著しく低下させるため,その改善が重要である.対策として,頭部後屈の指導や仰臥位での点眼に加え,点眼補助具の使用が有効と考えられた.そこで,汎用性の高い点眼補助器を開発した(図15).従来の補助具は(文献C79より許可を得て掲載)特定の点眼薬に限定されていたが,本装置は多くの緑内障点眼薬に対応可能である.本補助具の有用性を緑内障患者で検討したところ,通常の座位での点眼成功率は71.6%であったのに対し,補助具使用により約C97%まで有意に改善した.さらに仰臥位での使用により成功率は一層向上した76).また,小型で操作が困難なシングルユース点眼薬に対応した補助具も開発し,その有用性を検討した.通常の座位での点眼成功率は約C70%であり加齢とともに低下したが,補助具使用により約C90%まで有意に改善した.仰臥位では成功率はさらに高く,補助具使用によりC100%に達した77).緑内障患者の調査の結果,点眼手技の失敗は高頻度に存在し,適切な支援が必要であることが明らかとなった.点眼補助具の活用は,点眼成功率の向上および治療効果の最大化に寄与する有効な手段の一つとなる可能性が示唆された78).C3.緑内障治療点眼薬の発展点眼治療は患者の手技やアドヒアランスに依存するため,さまざまな工夫を行っても治療精度には課題が残るのが実情である.さらに,点眼薬の有効持続時間は最長でもC1日であり,患者は少なくともC1日C1回の点眼を継(%)治療継続率100806040200010203040506070(月)期間図17新規治療開始緑内障患者の治療継続率治療開始後の緑内障患者の治療継続率は早期から低下しC1年で約C40%が脱落していた.続する必要がある.このことが適切な治療継続の障害となっている.そのため,より長期間作用する新規ドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)の開発が求められている.筆者らは,ラタノプロストを担持した生分解性ナノシート(latanoprost-loadedCbio-degradablenanosheet:LBNS)を開発し,その有効性および安全性を検討した79).本研究ではキトサンとアルギン酸ナトリウムからなる多層構造の極薄(約C40Cnm)ナノシートにラタノプロストを担持させ,角膜上に貼付することで持続的な薬物放出をめざした.異なる濃度(0.25,2.5,25Cμg/cmC2)のCLBNSを作製し,ラット角膜に適用して眼圧下降効果を経時的に評価した.その結果,2.5およびC25Cμg/cmC2のCLBNSは単回貼付で約C1週間にわたり有意な眼圧下降を示し,とくにC2.5Cμg/cmC2ではC1.7日目にかけて安定した効果が持続した(図16).一方,従来のC0.005%ラタノプロスト点眼は単回投与ではC1日のみ効果を示し,連日投与でも効果の持続は限定的であった.LBNSでは房水中にラタノプロスト代謝物が最大C6日間にわたり検出され,持続的な薬物供給が示唆された.安全性に関しては一過性の結膜充血が認められたものの,組織学的にも炎症や構造異常は確認されなかった.さらに実験動物の刺激反応の増加は認め(文献C88より許可を得て掲載)られず,高い生体適合性が示された.今回用いた超薄ナノシートはややハンドリングに課題はあるもののさまざまな物質を担持することができ,応用が期待された.今後新しいさまざまなタイプのCDDSの開発が緑内障分野でもさらに加速すると思われ,今後の臨床応用が期待される80,81).C4.診療脱落とアドヒアランス緑内障は自覚症状が少なく,点眼効果が自覚しにくいため,治療上の大きな課題の一つが不良なアドヒアランスと診療からの脱落である82,83).海外ではアドヒアランスが不良な症例が多いとされているが84,85),筆者が参加した全国規模の調査ではアドヒアランス不良例が多いことが確認された86).緑内障治療においてアドヒアランスの低下は非常に重要な問題であり,アドヒアランスの低下と障害の進行に関連性があることがわかってきた87).アドヒアランスと並んで重要な診療脱落についてはこれまでわが国のデータがほとんどなかったため,緑内障治療開始した患者のうちどの程度が診療を中断するかについて診療報酬データベースを用いて検討した88).その結果,治療継続率は時間経過とともに低下し,3カ月,6カ月,12カ月,3年後の継続率はそれぞれC73.2%,68.1ab図18インターネット活用型緑内障診療情報閲覧システムの表示代表例中央に眼圧と視野検査のCMD値の経時変化を示すグラフ,下方に投薬内容と主要検査処置内容や実施日情報などが提示される(Ca).静的視野検査については別ウインドウに検査結果が提示される.単回の結果に加え複数回の結果がある場合はそれらの比較も可能となる(Cb).0102030405060708090100(%)図19自己閲覧群と非自己閲覧群の緑内障治療点眼数の変化自己閲覧群は非自己閲覧群に比べ点眼数の増加や減少がみられ,2群間で点眼数の期間中の変化は有意に異なった(p=0.001,分割表分析).(文献C89より許可を得て掲載)%,60.9%,52.5%であった(図17).とくに治療開始するほど低下をすることもあきらかになった70).緑内障後C3カ月以内に多くの患者が中断しており,初期段階では生涯にわたり治療を要する慢性疾患であり,視機能維の対応の重要性が示された.診療継続率は点眼種が増加持のためには良好なアドヒアランスを保つことと,治療a(mmHg)経過月数(月)1.000.00-1.00-2.00-3.00-4.00b(mmHg)眼圧1086420-24-18-12-66121824図20インターネット活用型緑内障診療情報閲覧システムを用いた経過中の眼圧変化18161412同一治療薬でC4年間前向きに眼圧を調査した症例における眼圧変化を示す.閲覧群では前半のC2年間において眼圧は徐々に上昇傾向を示したが,GSSの情報を自己チェック可能となった後半のC2年間において眼圧は下降を示した(Ca).全経過中診察時のみ閲覧可能であった非自己閲覧群では期間中眼圧の変動はみられなかった(Cb).Bar=SD.(文献C89より許可を得て掲載)継続がきわめて重要であり,その対策は非常に重要であ要因の一つとしては,緑内障に対する理解不足である.る.このため患者やその保護者に患者の診療の状況を提供Ca.アドヒアランス改善,治療継続のための患者し,病態を把握してもらうこと,医師との良好なコミュリテラシーの向上ニケーションを図ることによってアドヒアランスや治療緑内障患者のアドヒアランスの不良,治療脱落が多いの脱落を防止するためにインターネット活用型緑内障診図21緑内障手術実施状況の地域差人口C10万人あたりの手術数を多いほうを暖色系,少ないほうを寒色系で示す.ジニ係数はC0.27と地域格差が強い.(文献C93より許可を得て修正掲載)療情報閲覧システム(glaucomaCcareCsupportsystem:GSS)を構築,これを運用して,患者が自身の治療状況を把握することが緑内障診療にどのように影響を与えるかについて前向き比較ランダム化試験を行った89).GSSでは患者も理解しやすいように眼圧や視野のCMD値の推移,治療薬などの状況が提示されるようになっている(図18).対象は山梨大学附属病院で治療を受けている緑内障患者で,GSSに登録後,インターネット上で自由閲覧が可能な群(IA群)と,診察時のみ閲覧可能な非自己閲覧群(NIA群)に無作為に割り付けられた.両群とも最初のC2年は診察時のみ閲覧可能とし,3年目からのC2年間についてはCIA群においては,自宅などから眼圧,視野,処方内容などの医療情報を随時確認できるのに対し,NIA群では医師同席時のみ閲覧可能とした.10050主要評価項目は点眼薬使用数の変化,眼圧,投薬状況の変化である.NIA群では期間中の点眼薬増加はC17.8%であったに対し,IA群はC8.6%,点眼薬減少はCNIA群がC3.3%であったの対しCIA群C13.6%であり,2群間には有意差を認めた(p=0.001,分割表分析)(図19).さらに期間前半に薬剤変更のない患者に限定した解析の結果,IA群ではインターネット閲覧開始前は眼圧が上昇傾向であったのに対し,閲覧開始後は低下傾向へと転じた(ANCOVA,Cp=0.002)(図20a).一方,NIA群では明確な変化は認められなかった(図20b).想定される点眼薬必要量に対する実際の処方量の比を示し,服薬アドヒアランスの指標となるCmedicationCpossessionCrate(MPR)は85)IA群で有意に改善(82.3%→C91.1%C,Cp=0.03)したが,NIA群では変化がなかった.これらの結1614121086420図22緑内障初診から手術施行までの期間分布初診C1年以内に手術加療を受けた患者は全体のC31.9%で受診患者のC1.1%を占めている.2年目以降は減少傾向,手術施行時期の中央値は初診後C3年目であった.(文献C94より許可を得て修正掲載)手術人数1年目2年目3年目4年目5年目6年目7年目8年目9年目眼科医側眼科医側:タブレット操作端末遠隔操作ロボットの濾過胞評価=対面評価Pwith一般医/NsAI-トリアージExpert:Pwith一般医/NsAI-トリアージ多サイト同時処理・・・・AI-トリアージ診療時間制限なし・・・・図23これからのオンライン眼科診療システム遠隔地からオンラインで患者の状況を眼科医が直接診察,もしくは画像を自動取得しCAIがトリアージを行う.その結果を参考に専門医が判断を下す.これによりC1名の眼科医が同時に複数の患者の診療が可能.(文献C95,96より許可を得て掲載)果は,患者が自身のデータを継続的に確認することで疾患理解(healthliteracy)が向上し,治療への積極的関CVこれからの緑内障研究・診療の方向与が促進された可能性を示唆すると考えられる.アドヒC1.人口統計学的にみた緑内障の課題アランスは緑内障診療において非常に重要であり,モニ筆者らの診療報酬データベースを用いた検討では高齢ター機器などを用いた研究やその他のさまざまな取り組社会においてC2020年代後半までは緑内障患者の絶対数みがこれまでなされてきたが,正確に捉えることが困難は増加するが,その後人口の減少に伴って絶対数は減少である90,91).今後患者や支援者のリテラシーの向上ととする,しかし,この場合でも患者に占める高齢者比率はもに技術的な革新,さらに患者に依存しない治療法の開今まで以上に上昇する63).世界的には患者数は今後増加発などさらなる発展が必要である.していくとされる92).したがって,今後の緑内障診療を撮影画像表1緑内障領域におけるAIの活用方法カテゴリー目的未発見・脱落患者スクリーニング診療支援診療データ整理・評価,検査法・治療法提案,希少疾患診断,手術支援,進行判定,予後判定予防医療,先制医療,個別化医療:遺伝子解析+個別ビッグデータ解析患者対策患者教育,点眼支援,リテラシー改善,受診勧奨,アドヒアランス向上,診療脱落防止社会貢献社会ニーズの把握,医療経済解析,社会的診断・治療法の意義評価研究臨床:研究計画,データ管理・整理・解析,未標準化データ収集,関連情報収集・整理基礎:研究計画,ビッグデータ解析,関連情報収集・整理Powertodetectslope=-0.5dB/yearPowervsDuration(3-monthintervals,α=0.05two-sided)1.00.80.60.40.2図24OCTを用いた予測視野の導入による視野障害の悪化検出シミュレーション測定再現性が良好になるほど視野進行判定は大幅に短縮する.考えるときこれらの社会的変化を念頭に置いた診療体制を構築することが求められる.近年,MIGSの普及により緑内障手術数は増加している.しかし,NDBオープンデータベースを用いた検討では,日本国内における緑内障手術数の分布は分散の程度を示すジニ係数がC0.257と地域格差が強いことが判明している.このことは手術を受けられる施設が偏在しており地域間格差が強いことを示している(図21)93).また,診療報酬データベースを用いて緑内障初回手術施行時期を検討すると,手術施行例全体のC31.9%は治療開始初年度に手術を施行されていた(図22).このことは緑内障の診療を始めて受けた際にはすでに手術が必要なほど障害が強くなっていることを示している可能性がある94).2.新しい緑内障診療体制のあり方現在の緑内障診療の課題に対応するためには,診療体制の大幅な変更が必要である.眼科診療は,優れた画像情報があれば,遠隔地からでもオンラインで診察が可能である.筆者らが開発した遠隔操作型眼科診療ロボットは線維柱帯切除術の濾過胞評価について検討したところ対面と同程度であることが判明した95,96).遠隔診療システムはデジタル画像を介して診療を行うため,多数の患者に対して同時に診察を行うこと,時差を越えて診療を行うことが可能である.また,AIを用いたトリアージやスクリーニングも可能となる可能性があり今後の普及が期待される(図23).Ca.AIを活用した新しい緑内障診療現在CAIの医学での利活用は急速に進んでいる.表1に示すように,緑内障においては診療支援,患者対策,図25これからの緑内障のあり方社会貢献,研究とあらゆる場面でのCAIの利活用が想定されている.すでに眼底写真から緑内障かどうかの診断については高いレベルで可能であることが筆者らの研究を含め報告されている97.99).最近の研究では緑内障による視野障害について三次元COCTを用いることで正確に評価できることが報告されている100).視野検査は緑内障診療においては非常に重要であるものの,自覚的検査であるため信頼性が高い結果が得られない場合がある.とくに高齢患者が増加すると進行判定などにおいて正確な視野検査ができない場合は治療方針の決定に悪影響を及ぼす可能性があり,AIを用いた推定視野は有効な可能性がある.新しい緑内障の治療薬の有効性を判断するために視野検査が重要であるがCOCTデータから視野が推定できることは,より高い精度と再現性をもって進行判定が可能となる可能性がある.図24に進行予測判定のシミュレーション結果を示す.検出力をC0.8とし,MDスロープが-0.5dB/年となった場合を進行とすると,3カ月ごとに視野を判定した際の進行判定に必要な期間を計算した.その結果,MD値の再現誤差がC0.2,1.0,2.0dBと不良になるほど進行判定には長期間が必要となる.OCT検査は患者への負担が少ないためより高頻度で施行が可能である.このためCOCTを用いた視野予測は大幅に進行の判定期間が短縮することが可能と思われる.このような事例を含め今後は緑内障診療の裏方としてCAIはすべての緑内障関連領域で利活用される時代が来ると考えられる.Cb.収集データを活用した新しい研究成果とその臨床還元デジタル化の推進により,緑内障診療に関する画像,検査,診療データ,さらにオンライン情報,遺伝子データなどの多くのデータの収集体制を進めることが可能となったが,データ収集をできるだけ負担なくかつ正確に収集,編集管理ができるためのシステム作りが今後重要になってくると思われる.日本眼科学会ではCJapanOcularImagingRegistry(JOIR)を介して包括的なデータ収集体制を構築している101).日本緑内障学会は日本眼科学会との協働を行いながら,他学会や自治体組織などを研究フィールドとしてCAIビッグデータ研究を推進することが重要である.収集されたデータやその成果を基に,生物,工学,製薬,コンピュータサイエンスの専門家と研究を進め,得られた成果をトランスレーショナル研究へと展開し,さらに臨床へ導出し,有用性等の評価を行うサイクルを繰り返し動かすことで,日本における緑内障研究を世界に通用するものへと発展させることが重要である(図25).おわりに緑内障はもっとも古い眼疾患の一つであり,近代眼科学が確立されたのはC19世紀中頃,現代眼科学が始まったのはC20世紀前半である.この約C200年の間に,緑内障の理解と治療は大きく進歩してきたが,筆者が眼科医として過ごしてきたこのC40年間における進歩は,科学的観点および臨床の両面において,きわめて顕著なものであったと実感している.このような時代に眼科医として携われたことは大きな幸運である.一方で,今後も科学の進歩はさらに加速すると考えられ,緑内障に対する眼科医の向き合い方も,従来の単に視機能を維持するという枠組みを超えたものへと変化していくであろう.筆者を含め,各々の眼科医が日々の診療および研究の中で,いかに緑内障と向き合うべきかをしっかりと考えることが重要であると感じている.謝辞:今回須田記念講演という名誉ある機会を与えていただいた第C36回日本緑内障学会会長の栗本康夫先生,日本緑内障学会理事長.庄司信行先生,日本緑内障学会の先生方に深謝いたします.今回の発表はもちろんその他の研究にもご指導,ご協力をいただいた多くの皆様に深謝いたします.卒業より今日までご指導,ご支援をいただいた山梨大学眼科学教室,山梨大学眼科学教室同窓会ならびに山梨県眼科医会の先生方にも深く感謝いたします.留学中にご指導いただいたカリフォルニア大学サンディエゴ校のCRNWeinreb教授にも深謝いたします.筆者を緑内障の世界に導き多くのご指導をいただき,残念ながら他界された故塚原重雄先生には心より深謝いたします.最後に日頃から筆者の研究活動を支えてくれた家族に感謝いたします.文献1)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20192)木内良明,井上俊,庄司信行ほか:緑内障診療ガイドライン(第C5版),解説/特集.日眼会誌126:85-177,C20223)PeaseCME,CMcKinnonCSJ,CQuigleyCHACetal:ObstructedCaxonaltransportofBDNFanditsreceptorTrkBinexper-imentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC41:764-774,C20004)MartinCKR,CQuigleyCHA,CValentaCDCetal:OpticCnerveCdyneinCmotorCproteinCdistributionCchangesCwithCintraocu-larpressureelevationinaratmodelofglaucoma.ExpEyeResC83:255-262,C20065)LeeMK,ClevelandDW:Neuronalintermediate.laments.AnnRevNeurosciC19:187-217,C19966)KushkuleyJ,ChanWK,LeeSetal:Neuro.lamentcross-bridgingCcompetesCwithCkinesin-dependentCassociationCofCneuro.lamentsCwithCmicrotubules.CJCCellCSciC122:3579-3586,C20097)KashiwagiCK,COuCB,CNakamuraCSCetal:IncreaseCinCdephosphorylationCofCtheCheavyCneuro.lamentCsubunitCinCtheCmonkeyCchronicCglaucomaCmodel.CInvestCOphthalmolCVisSciC44:154-159,C20038)GuptaN,AngLC,NoeldeTillyLetal:Humanglaucomaandneuraldegenerationinintracranialopticnerve,lateralgeniculateCnucleus,CandCvisualCcortex.CBrCJCOphthalmolC90:674-678,C20069)BalaratnasingamCC,CMorganCWH,CBassCLCetal:Time-dependente.ectsofelevatedintraocularpressureonopticCnerveCheadCaxonalCtransportCandCcytoskeletonCproteins.CInvestOphthalmolVisSciC49:986-999,C200810)CrishCSD,CCalkinsDJ:NeurodegenerationCinglaucoma:CprogressionCandCcalcium-dependentCintracellularCmecha-nisms.NeuroscienceC176:1-11,C201111)NuschkeAC,FarrellSR,LevesqueJMetal:Assessmentofretinalganglioncelldamageinglaucomatousopticneu-ropathy:axonCtransport,CinjuryCandCsomaCloss.CExpCEyeCRes141:111-124,C201512)BarresCBA,CSilversteinCBE,CCoreyCDPCetal:Immunologi-cal,Cmorphological,CandCelectrophysiologicalCvariationCamongCretinalCganglionCcellsCpuri.edCbyCpanning.CNeuronC1:791-803,C198813)KashiwagiCF,CKashiwagiCK,CIizukaCYCetal:E.ectsCofCbrain-derivedCneurotrophicCfactorCandCneurotrophin-4Conisolatedculturedretinalganglioncells:evaluationby.owcytometry.CInvestCOphthalmolCVisCSciC41:2373-2377,C200014)KashiwagiCK,CIizukaCY,CAraieCMCetal:E.ectsCofCretinalCglialcellsonisolatedratretinalganglioncells.InvestOph-thalmolVisSci42:2686-2694,C200115)KashiwagiCK,CIizukaCY,CMochizukiCSCetal:Di.erencesCinCnitricCoxideproduction:CaCcomparisonCofCretinalCganglionCcellsCandCretinalCglialCcellsCculturedCunderChypoxicCcondi-tions.BrainResMolBrainResC112:126-134,C200316)KashiwagiCK,CIizukaCY,CTanakaCYCetal:MolecularCandCcellularCreactionsCofCretinalCganglionCcellsCandCretinalCglialCcellsCunderCcentrifugalCforceCloading.CInvestCOphthalmolCVisSciC45:3778-3786,C200417)PavlidisCM,CStuppCT,CNaskarCRCetal:RetinalCganglionCcellsCresistantCtoCadvancedglaucoma:CaCpostmortemCstudyCofChumanCretinasCwithCtheCcarbocyanineCdyeCDiI.CInvestOphthalmolVisSci44:5196-5205,C200318)NeufeldAH:MicrogliaCinCtheCopticCnerveCheadCandCtheCregionCofCparapapillaryCchorioretinalCatrophyCinCglaucoma.CArchOphthalmol117:1050-1056,C199919)NeufeldCAH,CLiuB:GlaucomatousopticCneuropathy:Cwhengliamisbehave.Neuroscientist9:485-495,C200320)LeeEJ,HanJC,ParkDYetal:Aneuroglia-basedinter-pretationofglaucomatousneuroretinalrimthinningintheopticnervehead.ProgRetinEyeResC77:100840,C202021)BoalCAM,CRisnerCML,CCooperCMLCetal:AstrocyteCnet-worksastherapeutictargetsinglaucomatousneurodegen-eration.Cells10:1368,C202122)ZhaoCX,CSunCR,CLuoCXCetal:TheCinteractionCbetweenCmicrogliaandmacrogliainglaucoma.FrontNeurosci15:C610788,C202123)ShinozakiCY,CNamekataCK,CGuoCXCetal:GlialCcellsCasCaCpromisingCtherapeuticCtargetCofglaucoma:CbeyondCtheIOP.FrontOphthalmol(Lausanne)C3:1310226,C202324)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:TheCTajimiCStudy.Ophthalmology111:1641-1648,C200425)HaradaT,HaradaC,WatanabeMetal:FunctionsofthetwoCglutamateCtransportersCGLASTCandCGLT-1CinCtheCretina.ProcNatlAcadSciUSAC95:4663-4666,C199826)KashiwagiK,ItoS,MaedaSetal:Aser75-to-aspphos-pho-mimickingmutationinSrcacceleratesageing-relatedlossCofCretinalCganglionCcellsCinCmice.CSciCRepC7:16779,C201727)SalterCMW,CKaliaLV:Srckinases:CaChubCforCNMDACreceptorregulation.NatRevNeurosci5:317-328,C200428)KatoG,MaedaS:Neuron-speci.cCdk5kinaseisrespon-sibleCforCmitosis-independentCphosphorylationCofCc-srcCatCser75inhumanY79retinoblastomacells.JBiochemC126:C957-961,C199929)BourkeCL,CO’BrienC:FibrosisCandCsrcCsignallingCinglaucoma:CfromCmolecularCpathwaysCtoCtherapeuticCpros-pects.IntJMolSci26:1009,C202530)XuLJ,GaoF,ChengSetal:ActivatedephrinA3/EphA4forwardsignalinginducesretinalganglioncellapoptosisinexperimentalCglaucoma.CNeuropharmacologyC178:108228,C202031)TsukamotoCT,CKajiwaraCK,CNadaCSCetal:SrcCmediatesCTGF-β-inducedCintraocularCpressureCelevationCinCglauco-ma.CJCellPhysiol234:1730-1744,C201932)ChitranshiN,DheerY,MirzaeiMetal:Lossofshp2res-cuesCBDNF/TrkBCsignalingCandCcontributesCtoCimprovedCretinalCganglionCcellCneuroprotection.CMolCtherC27:424-441,C201933)ChangCB,CSmithCRS,CHawesCNLCetal:InteractingClociCcauseCsevereCirisCatrophyCandCglaucomaCinCDBA/2JCmice.CNatGenetC21:405-409,C199934)AndersonCMG,CSmithCRS,CHawesCNLCetal:MutationsCinCgenesCencodingCmelanosomalCproteinsCcauseCpigmentaryCglaucomainDBA/2Jmice.NatGenetC30:81-85,C200235)ShinozakiCY,CKashiwagiCK,CNamekataCKCetal:PurinergicCdysregulationCcausesChypertensiveCglaucoma-likeCopticCneuropathy.CJCIInsightC2:93456,C201736)HamadaCK,CShinozakiCY,CNamekataCKCetal:LossCofCP2Y(1)receptorsCtriggersCglaucoma-likeCpathologyCinCmice.CBrJPharmacolC178:4552-4571,C202137)BitoLZ:Prostaglandins:CaCnewCapproachCtoCglaucomaCmanagementCwithCaCnew,CintriguingCsideCe.ect.CSurveyCofCOphthalmologyC41(Suppl2):S1-S14,199738)CamrasCB:ComparisonCofClatanoprostCandCtimololCinCpatientsCwithCocularChypertensionCandglaucoma:CaCsix-monthmasked,multicentertrialintheUnitedStates.TheUnitedCStatesCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC103:138-147,C199639)LindseyCJD,CToCHD,CWeinrebRN:InductionCofCc-fosCbyCprostaglandinCF2CalphaCinChumanCciliaryCsmoothCmuscleCcells.InvestOphthalmolVisSciC35:242-250,C199440)LindseyCJD,CJonesCHL,CHewittCEGCetal:InductionCofCtyrosinasegenetranscriptioninhumanirisorganculturesexposedCtoClatanoprost.CArchCOphthalmolC119:853-860,C200141)LindseyCJD,CKashiwagiCK,CBoyleCDCetal:ProstaglandinsCincreaseCproMMP-1CandCproMMP-3CsecretionCbyChumanCciliaryCsmoothCmuscleCcells.CCurrCEyeCResC15:869-875,C199642)WeinrebRN,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglan-dinsCincreaseCmatrixCmetalloproteinaseCreleaseCfromChumanciliarysmoothmusclecells.InvestOphthalmolVisSci38:2772-2780,C199743)WeinrebCRN,CLindseyJD:MetalloproteinaseCgeneCtran-scriptionCinChumanCciliaryCmuscleCcellsCwithClatanoprost.CInvestOphthalmolVisSciC43:716-722,C200244)WeinrebRN,TorisCB,GabeltBTetal:E.ectsofprosta-glandinsConCtheCaqueousChumorCout.owCpathways.CSurvCOphthalmol47(Suppl1):S53-S64,200245)LindseyCJD,CKashiwagiCK,CKashiwagiCFCetal:Prostaglan-dinCactionConCciliaryCsmoothCmuscleCextracellularCmatrixmetabolism:CimplicationsCforCuveoscleralCout.ow.CSurvCOphthalmol41(Suppl2):S53-S59,199746)LindseyCJD,CKashiwagiCK,CKashiwagiCFCetal:Prostaglan-dinsCalterCextracellularCmatrixCadjacentCtoChumanCciliaryCmusclecellsinvitro.InvestOphthalmolVisSciC38:2214-2223,C199747)KashiwagiCK,CKanaiCN,CTsuchidaCTCetal:ComparisonCbetweenisopropylunoprostoneandlatanoprostbyprosta-glandinE2induction,a.nitytoprostaglandintransporter,andCintra-ocularCmetabolism.CExperimentalCEyeCResearchC74:41-49,C200248)KashiwagiCK,CTsukaharaS:E.ectCofCnon-steroidalCanti-in.ammatoryCophthalmicCsolutionConCintraocularCpressureCreductionCbyClatanoprost.CBrCJCOphthalmolC87:297-301,C200349)ChibaT,KashiwagiK,ChibaNetal:E.ectofnon-steroiC-dalCanti-in.ammatoryCophthalmicCsolutionConCintraocularCpressurereductionbylatanoprostinpatientswithprima-ryopenangleglaucomaorocularhypertension.BrJOph-thalmol90:314-317,C200650)SawaguchiCS,CSakaiCH,CIwaseCACetal:PrevalenceCofCpri-maryCangleCclosureCandCprimaryCangle-closureCglaucomaCinasouthwesternruralpopulationofJapan:TheKumeji-mastudy.Ophthalmology119:1134-1142,C201251)KashiwagiK,KashiwagiF,TodaYetal:Anewlydevel-opedperipheralanteriorchamberdepthanalysissystem-principle,Caccuracy,CandCreproducibility.CBrCJCOphthalmolC88:1029-1034,C200452)KashiwagiCK,CAbeCK,CTsukaharaS:QuantitativeCevalua-tionofchangesinanteriorsegmentbiometrybyperipher-allaseriridotomyusingnewlydevelopedscanningperiph-eralCanteriorCchamberCdepthCanalyzer.CBrCJCOphthalmolC88:1035-1040,C200453)LavanyaCR,CTeoCL,CFriedmanCDSCetal:ComparisonCofCanteriorchamberdepthmeasurementsusingtheIOLMas-ter,scanningperipheralanteriorchamberdepthanalyser,andanteriorsegmentopticalcoherencetomography.BrJOphthalmolC91:1023-1026,C200754)LavanyaCR,CFosterCPJ,CSakataCLMCetal:ScreeningCforCnarrowCanglesCinCthesingaporeCpopulation:CevaluationCofCnewCnoncontactCscreeningCmethods.COphthalmologyC115:C1720-1727,C200855)ChangCDS,CSakataCLM,CAungCTCetal:SingleCversusCsequentialtestingwithscanningperipheralanteriorcham-berdepthanalyser,IOLMasterandanteriorsegmentopti-calCcoherenceCtomographyCforCtheCdetectionCofCnarrowCangles.BrJOphthalmol95:1410-1414,C201156)KashiwagiCK,CChibaCT,CMabuchiCFCetal:Five-yearCinci-denceCofCangleCclosureCamongCglaucomaChealthCexamina-tionparticipants.GraefesArchClinExpOphthalmolC251:C1219-1228,C201357)AhnJK:MorphologicchangesintheanteriorsegmentinpatientsCwithCinitial-onsetCorCrecurrentCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.COculCImmunolCIn.ammC18:314-318,C201058)OtsukiT,ShimizuK,IgarashiAetal:Usefulnessofante-riorCchamberCdepthCmeasurementCforCe.cacyCassessmentCofCsteroidCpulseCtherapyCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthalmol54:396-400,C201059)MutoT,MachidaS:Chronologicalchangesoftheanteriorchamberstructure,axiallength,andrefractioninpatientswithCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CEurCJCOphthalmolC31:491-496,C202160)KashiwagiK,FuruyaT,KashiwagiF:Changesinperiph-eralCanteriorCchamberCdepthCofCaCcaseCofCrelapsingCpoly-chondritiswithrecurrentsecondaryangleclosureglauco-masectionsign.OpenOphthalmolJC2:1-4,C200861)SngCC,FooLL,ChengCYetal:Determinantsofanteri-orCchamberdepth:theCSingaporeCChineseCEyeCStudy.COphthalmologyC119:1143-1150,C201262)SudaCM,CTsuruCDV,CKashiwagiK:TheCpotentialCroleCofCtheCchoroidalCthickness-to-axialClengthCratioCinCprimaryCangle-closureCdisease.CJpnCJCOphthalmolCAprC222026;doi:10.1007/s10384-026-01353-063)SakamotoM,KitamuraK,KashiwagiK:Changesinglau-comaCmedicationCduringCtheCpastCeightCyearsCandCfutureCdirectionsCinCJapanCbasedConCanCinsuranceCmedicalCclaimCdatabase.JOphthalmolC2017:7642049,C201764)IshidaA,MikiT,NaitoTetal:Surgicalresultsoftrabec-ulectomyamonggroupsstrati.edbyprostaglandin-associ-atedCperiorbitopathyCseverity.COphthalmologyC130:297-303,C202365)ChibaT,KashiwagiK,ChibaNetal:Comparisonofiridi-alCpigmentationCbetweenClatanoprostCandCisopropylunoprostone:alongtermprospectivecomparativestudy.BrJOphthalmol87:956-959,C200366)ChibaCT,CKashiwagiCK,CIshijimaCKCetal:ACprospectiveCstudyCofCiridialCpigmentationCandCeyelashCchangesCdueCtoCophthalmicCtreatmentCwithClatanoprost.CJpnCJCOphthalmolC48:141-147,C200467)ChibaCT,CKashiwagiCK,CKogureCSCetal:IridialCpigmenta-tionCinducedCbyClatanoprostCophthalmicCsolutionCinCJapa-neseglaucomapatients.CJGlaucomaC10:406-410,C200168)KashiwagiK,TsukamotoK,SuzukiM,etal.E.ectsofiso-propylCunoprostoneCandClatanoprostConCmelanogenesisCinCmouseCepidermalCmelanocytes.CJCGlaucomaC11:57-64,C200269)FuruichiCM,CChibaCT,CAbeCKCetal:CystoidCmacularCedemaassociatedwithtopicallatanoprostinglaucomatouseyesCwithCnormallyCfunctioningCblood-ocularCbarrier.CJGlaucoma10:233-236,C200170)KashiwagiK,ChonoE,KoestersSetal:Persistenceandtreatmentpatternsof.xedcombinationdrugsforglauco-ma:aretrospectiveclaimsdatabasestudyinJapan.BMCOphthalmolC20:223,C202071)KashiwagiCK,COuchiCK,CShibasakiCYCetal:PersistenceCofCtheCcarteololChydrochloride/latanoprostC.xed-combinationCophthalmicsolution,comparedwiththeotherβC-blocker/CprostanoidFPreceptoragonist.xed-combinationophthal-micsolutions.JpnJOphthalmolC67:658-667,C202372)FujitaCA,CHashimotoCY,COkadaCACetal:PracticeCpatternsCandCcostsCofCglaucomaCtreatmentCinCJapan.CJpnCJCOphthal-mol67:590-601,C202373)KashiwagiK,MatsubaraM:Reductioninocularhypoten-siveCeyedropsCbyCabCinternoCtrabeculotomyCimprovesCnotConlyCocularCsurfaceCconditionCbutCalsoCqualityCofCvision.CJOphthalmolC2018:8165476,C201874)NaitoCT,CNamiguchiCK,CYoshikawaCKCetal:FactorsCa.ectingCeyeCdropCinstillationCinCglaucomaCpatientsCwithCvisual.elddefect.PLoSOneC12:e0185874,C201775)KashiwagiCK,CMatsudaCY,CItoCYCetal:InvestigationCofCvisualCandCphysicalCfactorsCassociatedCwithCinadequateCinstillationCofCeyedropsCamongCpatientsCwithCglaucoma.CPLoSOneC16:e0251699,C202176)KasaiY,SakamotoM,MatsudaYetal:DevelopmentofanovelCeyeCdropCaidCandCevaluationCofCitsCe.cacy.CPLoSCOneC20:e0332533,C202577)TakahashiA,KasaiY,SakamotoMetal:E.ectivenessofanewlydevelopedinstillationaidforunit-doseophthalmicsolutions.JClinMedC14:4155243,C202578)DaviesCI,CWilliamsCAM,CMuirKW:AidsCforCeyeCdropCadministration.SurvOphthalmolC62:332-345,C201779)KashiwagiCK,CItoCK,CHaniudaCHCetal:DevelopmentCofClatanoprost-loadedCbiodegradableCnanosheetCasCaCnewCdrugdeliverysystemforglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:5629-5637,C201380)KompellaCUB,CHartmanCRR,CPatilMA:Extraocular,Cperi-ocular,CandCintraocularCroutesCforCsustainedCdrugCdeliveryCforglaucoma.ProgRetinEyeResC82:100901,C202181)RahiC.O,TucakA,Omerovi.Netal:NoveldrugdeliverysystemsC.ghtingCglaucoma:formulationCobstaclesCandCsolutions.PharmaceuticsC13:28,C202082)QuarantaCL,CNovellaCA,CTettamantiCMCetal:AdherenceCandpersistencetomedicaltherapyinglaucoma:anover-view.OphthalmolTher12:2227-2240,C202383)BaudouinCC,CMyersCJS,CVanCTasselCSHCetal:AdherenceCandpersistenceonprostaglandinanaloguesforglaucoma:asystematicreviewandmeta-analysis.AmJOphthalmolC275:99-113,C202584)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCECetal:PersisC-tenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmolC140:598-606,C200585)FriedmanDS,QuigleyHA,GelbLetal:Usingpharmacyclaimsdatatostudyadherencetoglaucomamedications:Cmethodologyand.ndingsoftheglaucomaadherenceandpersistencyCstudy(GAPS)C.CInvestCOphthalmolCVisCSciC48:5052-5057,C200786)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCY,CetCal.CACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmolC39:375-383,C201987)Newman-CaseyCPA,CNiziolCLM,CGillespieCBWCetal:TheCassociationbetweenmedicationadherenceandvisual.eldprogressioninthecollaborativeinitialglaucomatreatmentstudy.OphthalmologyC127:477-483,C202088)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C201489)KashiwagiCK,CTsukaharaS:ImpactCofCpatientCaccessCtoCInternethealthrecordsonglaucomamedication:random-izedcontrolledtrial.JMedInternetC16:e15,C201490)AbaidooCB,CMashigeCKP,CGovender-PoonsamyCPCetal:CGlaucomaCdisease-speci.cCadherenceCmeasurementCtoolsCvalidatedCforCmeasuringCadherenceCtoCglaucomaCmedica-tions:aCsystematicCreview.CHealthCSciCRepC8:e70427,C202591)WatermanH,EvansJR,GrayTAetal:InterventionsforimprovingCadherenceCtoCocularChypotensiveCtherapy.CCochraneDatabaseSystRevC2013:Cd006132,C201392)ThamCYC,CLiCX,CWongCTYCetal:GlobalCprevalenceCofCglaucomaCandCprojectionsCofCglaucomaCburdenCthroughC2040:CaCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthal-mologyC121:2081-2090,C201493)ShigaT,TanakaA,FukudaYetal:Disparityofophthal-micsurgeriesinJapan.PLoSOneC21:e0347587,C202694)FukudaCY,CKumeCA,CKashiwagiK:MedicalCcostsCofCandCchangesCinCglaucomaCtreatmentCamongCpatientsCnewlyCstartingCglaucomaCcare.CCurrCEyeCResC46:1695-1702,C202195)KashiwagiCK,CTanabeCN,CGoCKCetal:ComparisonCofCaCremoteoperatingslit-lampmicroscopesystemwithacon-ventionalCslit-lampCmicroscopeCsystemCforCexaminationCofCtrabeculectomyeyes.JGlaucomaC22:278-283,C201396)TanabeCN,CGoCK,CSakuradaCYCetal:ACremoteCoperatingCslitClampCmicroscopeCsystem.CDevelopmentCandCitsCutilityCinCophthalmologicCexaminations.CMethodsCInfCMedC50:C427-434,C201197)PhanS,SatohSi,YodaY,etal.Evaluationofdeepconvo-lutionalCneuralCnetworksCforCglaucomaCdetection.CJpnJOphthalmol63:276-283,C201998)LiZ,HeY,KeelSetal:E.cacyofadeeplearningsys-temCforCdetectingCglaucomatousCopticCneuropathyCbasedConCcolorCfundusCphotographs.COphthalmologyC125:1199-1206,C201899)ZeppieriM,GardiniL,CuliersiCetal:NovelapproachesforCtheCearlyCdetectionCofCglaucomaCusingCarti.cialCintelli-gence.Life(Basel)C14:1386,C2024100)KoyamaCM,CUenoCY,CItoCYCetal:AutomatedClearningCofCglaucomatousvisual.eldsfromOCTimagesusingacom-prehensive,Csegmentation-freeC3DCconvolutionalCneuralCnetworkmodel.SciRepC15:13395,C2025101)MiyakeCM,CAkiyamaCM,CKashiwagiCKCetal:JapanCocularlmagingCregistry:CaCnationalCophthalmologyCreal-worldCdatabase.JpnJOphthalmolC66:499-503,C2022

世界の眼科における日本のリーダーシップ

2026年8月31日 月曜日

世界の眼科における日本のリーダーシップJapan’sLeadershipinGlobalOphthalmology大鹿哲郎*はじめに医学領域にとどまらず,近代の国際的な学術組織の多くは,米国および西欧諸国の主導のもとに設立され,発展してきた.組織運営の共通言語も英語やフランス語が中心であり,設立当初から今日に至るまで,要職や指導的立場の多くを欧米出身者が占めてきた.眼科学の世界もこの流れの例外ではない.そのような状況にあっても,日本の眼科学は着実に独自の学術的・臨床的基盤を築いてきた.その発展と歩調をあわせるように,わが国の先達たちも国際舞台において次第に確固たる存在感を示すようになった.とりわけ,海外留学での研鑽や人的交流が重要な契機となり,言語・文化の壁を乗り越えて,国際眼科の場においても重要な地位を担うに至ったのである.本稿では,主要な国際眼科組織における日本人眼科医の貢献と活躍を過去から現代まで振り返り,世界の眼科医療における日本のリーダーシップのあり方を考察する.I国際眼科学会1.歴史国際眼科学会評議会(InternationalCouncilofOph-thalmology:ICO)は,世界の眼科学会を束ねる国際組織である.ICOの起源は古く,1857年にベルギーのブリュッセルで開催された「第1回国際眼科学会」にさかのぼる.これは,あらゆる医学専門分野の中でもっとも歴史が古い国際学会とされる.19世紀半ばは,眼科学が内科や一般外科から独立した専門分野として確立しはじめた時期であった.急激な発展を遂げる眼科学において,国境を越えて眼科医が集い,最新の科学的発見や手術手技,治療法に関する知識を共有し議論するための「国際的なプラットフォーム」が求められたことが,設立の最大の理由である.2.日本人眼科医の参加国際眼科学会に出席した最初の日本人眼科医は,宮下俊吉(東京慈恵会医科大学)とされる.宮下は1888年にハイデルベルクで開催された第7回学会に出席し,その詳細な報告を日本の医学雑誌に寄稿した.その後,1899年の第9回学会(ユトレヒト)に朝山郁治郎(京都大学)が,1909年の第11回学会(ナポリ)に水尾源太郎(大阪大学),石原忍(東京大学)らが出席したとの記録が残っている.1).第一次および第二次世界大戦によって,国際眼科学会は数度の中断を余儀なくされた.第二次世界大戦後の再開は,1950年の第16回学会(ロンドン)であったが,敗戦国である日本からの参加は叶わなかった.その後,1954年にモントリオールおよびニューヨークで開催された第17回学会において,日本は正式にICOへの復帰を果たし,植村操(慶應義塾大学)をはじめとする8名の日本人眼科医が参加した.以降,日本か*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系〔別刷請求先〕大鹿哲郎:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系(1)(101)9510910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1第23回国際眼科学会(京都,1978年)図2皇太子殿下(現在の上皇陛下)の御臨席中島章会長による開会挨拶.図3岡本太郎氏によるロゴ(左,中)と記念切手(右)-表11978年国際眼科学会にあわせて開催されたサテライト・シンポジウム第3回国際視野学会シンポジウム第7回国際労働学会シンポジウム国際眼光学シンポジウム第2回国際眼免疫・免疫病理学シンポジウム第4回国際医学コンタクトレンズ・シンポジウム国際網膜芽細胞腫シンポジウム国際斜視学会第3回代謝異常眼疾患・第1回小児眼科国際合戸シンポジウム第2回国際近視学会第5回国際眼内レンズ学会網膜研究会第3回国際眼研究学会第1回国際角膜学会第16回国際臨床視覚電気生理シンポジウム国際緑内障シンポジウム国際眼圧計規正委員会会議第3回国際涙器シンポジウム遺伝性眼疾患シンポジウム図4中島章ICOPresident(1990.1998年),APAOPresident(1972.1976年),AOIPresident(1988.1990年).表2国際眼科学会の開催地1857年ブリュッセル1933年マドリード1994年トロント1862年パリ1937年カイロ1998年アムステルダム1867年パリ1950年ロンドン2002年シドニー1872年ロンドン1954年モントリオール・ニューヨーク2006年サンパウロ1876年ニューヨーク1958年ブリュッセル2008年香港1880年ミラノ1962年ニューデリー2010年ベルリン1888年ハイデルベルグ1966年ミュンヘン2012年アブダビ1894年エディンバラ1970年メキシコ2014年東京1899年ユトレヒト1974年パリ2016年グアダラハラ1904年ルツェルン1978年京都2018年バルセロナ1909年ナポリ1982年サンフランシスコ2020/2022年(virtual)1922年ワシントンDC1986年ローマ2024年バンクーバー1929年アムステルダム・ハーグ1990年シンガポール2026年プラハ図5WOC2014開会式(東京)大鹿哲郎会長による挨拶.左奥に皇太子殿下(現在の天皇陛下).図6東京国際フォーラムの中庭に設置された満開の桜オープニングセレモニーの日に満開を迎えるよう特殊な技術で準備が行われた.図7ジャパンナイトでの乾杯約3,000人が参加する壮大な懇親会となり,各国の参加者が大いに交流を深めた.図8田野保雄図9大鹿哲郎図10三島濟一図11新家眞APAOPresident(2005.2009年).APAOPresident(2025年.).APAO1991年(京都)会長.APAO2014年(東京)会長.表3APAOの開催地1960年マニラ1997年カトマンズ2016年台北1964年メルボルン1999年マニラ2017年シンガポール1968年シンガポール2001年台北2018年香港1972年オークランド2003年バンコク2019年バンコク1974年コロンボ2005年クアラルンプール2020年キャンセル1976年バリ2006年シンガポール2021年Virtual1979年カラチ2007年ラホール2022年Virtual1981年バンコク2008年香港2023年クアラルンプール1983年香港2009年バリ2024年バリ1985年ニューデリー2010年北京2025年ニューデリー1987年クアラルンプール2011年シドニー2026年香港1989年ソウル2012年釜山2027年シンガポール1991年京都2013年ハイデラバード2028年マニラ1993年ダッカ2014年東京2029年京都1995年香港2015年広州2030年シドニー図12清水弘一AOIPresident(2002.2006年).

先天白内障手術の長期成績からわかったこと

2026年8月31日 月曜日

先天白内障手術の長期成績からわかったことLong-TermOutcomesofCongenitalCataractSurgery:ImportantLessonsLearned大鹿哲郎*はじめに成人の白内障手術と比べて,小児白内障手術には固有のむずかしさがある.第一に,手技の難易度が高く,術後合併症の発生率も高い.第二に,続発緑内障などの合併症がいったん発症すると難治性である.第三に,眼球の成長に伴う予測困難な変化が長期にわたり生じる.こうした理由から,幼少期の白内障に対する眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入については従来否定的な見解が支配的で,とくに小児眼科を専門とする医師の間では,IOLを禁忌とみなす意見も根強く存在した.一方で,成人における白内障手術は過去30年間でめざましい進歩を遂げた.その技術革新と安全性の圧倒的な向上に鑑みるとき,小児白内障手術のみが旧来のパラダイムにとどまり続けることに,筆者は長年強い疑問を抱いていた.実際に,自験例では小児(先天)白内障に対するIOL挿入術は,きわめて良好な成績を得ていた.小児白内障の術後成績を評価するうえで,成人と同様に術後数カ月という短期間で判断することはまったく意味をなさない.真の予後を論じるためには,長期にわたる綿密な経過観察が不可欠である.日本の眼科には,緻密なデータの積み重ねと丁寧な記録という世界に誇るべき財産がある.筆者らは多施設共同研究を通じ,日本の眼科臨床が長年にわたり丹念に蓄積してきた記録を体系的に解析することで,小児白内障の術後成績について,いくつかのエビデンスを提示してきた1~6).本稿では,これらの長期成績から得られた知見を概説し,小児(とくに先天)白内障手術におけるIOLの位置づけと展望について述べたい.I先天白内障と発達白内障1.定義小児白内障(pediatriccataract)は,出生時から存在する先天白内障(congenitalcataract)と,生後に発症する発達白内障(developmentalcataract)に分けられるが,この二つを厳密に区別することは困難である.生後早期に全例に対して眼科的スクリーニングを行う英国のようなシステムがあれば7,8),先天白内障を確実に捉えることが可能であるが,日本を含む多くの国ではそのような体制は敷かれていない.患児自身が視力障害を訴えることはないため,正確な発症時期の特定はほとんどの場合において不可能である.実際に,白内障の発生から治療(手術)介入までにタイムラグが生じるケースが多く,発症時期を特定することはむずかしい.したがって,臨床の現場や研究においては,以下のような基準による分類・定義が一般的に用いられている.・狭義の先天白内障(strictlyde.nedcongenitalcata-ract):生後6カ月以内に発見され,手術が行われるもの.固視不良や眼振などの異常な眼球運動がみられることが多い.・発達白内障(developmentalcataract):生後6カ月の時点では,保護者からみて瞳孔領の混濁がなく,追視*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系〔別刷請求先〕大鹿哲郎:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系(1)(93)9430910-1810/26/\100/頁/JCOPYや物をつかむなどの行動を通して良好な視力が保たれていると推測された児に,その後発症するもの.ただし,先天白内障と発達白内障の間に明確な境界線を引くことは容易ではなく,臨床的にはいずれとも断定しがたい境界領域の症例も多数存在する.2.手術成績(術後予後)の違い白内障の起源が先天性であるか発達性であるかは,術後予後に多大な影響を及ぼす.・手術の難易度:眼球が解剖学的に小さいほど,手術の難易度は飛躍的に増大する.小児特有の前.や強膜の高弾性により,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の作製はむずかしく,強膜創や角膜創も自然閉鎖しない.さらに,先天白内障のほうが,成熟白内障へと進行している割合が高い.・視力および立体視の予後:発達白内障と比較して,先天白内障は最終的な視力および立体視(stereoacuity)の予後が不良であることが示されている.これは,視覚機能が発達するうえできわめて早期の重要な感受性期(criticalperiod)に形態覚遮断が生じることに加え,全身的あるいは眼科的な併発疾患を伴う頻度が高いことにも起因している.・術後の屈折変化とばらつき:術後に生じる眼軸長の伸長に伴う近視化(myopicshift)は,先天白内障のほうが大きい.また屈折のばらつきも大きく,予測が困難である.このように,狭義の先天白内障は発達白内障と比較して,視覚機能の発達や屈折変化の予測・管理が格段にむずかしいため,術後にはより慎重かつ長期的なフォローアップが不可欠となる.II先天白内障の手術上記の定義に従い,狭義の先天白内障症例,すなわち生後6カ月以内に手術が行われた症例について解説する.1.臨界期視力や深視力(立体視)の正常な発達には,生後早期の視覚経験がきわめて重要な役割を果たす(視覚発達の臨界期理論).視覚系がまだ成熟していない時期は,おもに皮質下経路(subcorticalpathways)に依存しているため,この期間内であれば形態覚遮断(formdeprivation)による視力喪失は生じにくいとされている.そのため,視覚遮断による永続的な悪影響を最小限に抑えるには,この臨界期(潜伏期)内に手術介入を行うことが理想的である.9).先天白内障において視覚遮断の影響を最小限にするための理想的な手術時期(臨界期)は,片眼性の場合は生後6週以内,両眼性の場合は生後8.12週以内と定義されている.2.手術時期発見時に水晶体混濁が高度であり,視性刺激遮断弱視(stimulusdeprivationamblyopia)の発症が強く懸念される場合には,速やかな手術介入が必要となる.ただし,新生児期の手術は手技上の難易度がきわめて高いため,眼球の解剖学的な成長を考慮しつつ,臨界期の限界を見きわめて施行するのが現実的である.とくに片眼性先天白内障の場合は,臨界期を逸脱すると術後の視力予後は著しく不良となり,最終視力が0.1未満にとどまることが多い.したがって,早期発見,早期手術,そして術後の厳密な弱視訓練の遂行がきわめて重要となる.両眼性症例においても,混濁が強く眼底の透見が困難な場合には早期手術の適応となる.しかし,両眼同程度の胎生核混濁(図1)の症例については,必ずしもその限りではない.明らかな左右差がなく,眼底が十分に透見でき,眼振などの症状を伴わない場合には,急いで手術を行う必要はない.このような症例では,児童・生徒期や思春期,あるいはそれ以降まで経過観察が可能な場合も多い.早期手術による「視覚発達の確保」というメリットと,「調節力の喪失」および「術後の大きな屈折変化(近視化」というデメリットのバランスを常に考慮し,個々の症例に応じた最適な手術時期を判断する必要がある.3.手術方法無水晶体眼とするか偽水晶体眼(IOL挿入)とするか944あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(94)図1胎生核の混濁両眼同程度の胎生核混濁で,眼底が十分に透見でき,眼振などの症状を伴わない場合は手術を急ぐ必要はない.C-図2IOLを使用する場合強角膜切開,連続円形切.(CCC)を正確に行い,後.切開(PCCC),前部硝子体切除を施行したうえで,IOLを確実に.内に固定する.創口は自己閉鎖しないため,しっかりと縫合する.(logMAR)00.20.40.60.811.21.41.61.8両眼片眼図3矯正視力術後C10年以上観察した症例の矯正視力は,両眼性症例が片眼性症例よりよく,偽水晶体眼が無水晶体眼より良好であった(Kruskal-WallistestwithBonferroniadjustment).表1最終視力にかかわる因子:重回帰分析(ステップワイズ)(%)最終矯正視力標準化係数βp値両眼C>片眼C.0.273C<0.001全身合併症C0.272C<0.001眼合併症C0.213C<0.001偽水晶体眼C>無水晶体C0.143C0.023続発緑内障C0.146C0.02425201510除外された変数:手術時年齢(p=0.063),視軸混濁(p=0.232),網膜.離(p=0.624),前部硝子体切除C5(p=0.318),施設(p=0.503.0.988).C0両眼片眼図4続発緑内障発症率無水晶体眼では約C20%に続発緑内障が発症したが,偽水晶体眼ではみられなかった(Fisher’sexacttest).表2視軸混濁発生頻度両眼性片眼性無水晶体眼偽水晶体眼p値無水晶体眼偽水晶体眼p値C7.2%C33.3%C<0.001C0%C16.7%C0.231C屈折変化量(D)0-2-4-6-8-10-12-140123456789術後経過図5術直後を基点とした屈折変化量両群とも術後に指数関数パターンの近視化を呈し,長期経過においても継続した偽水晶体眼の変化は,無水晶体眼より大きかった(Mann.WhitneyUtest).図6視軸混濁発症の機序後.切開(PCCC)と前部硝子体切除が行われているが,小児では水晶体上皮細胞の増殖・移動能が高いため,IOLの後面に沿った細胞増殖が発生する.-

近視進行抑制のサイエンス

2026年8月31日 月曜日

近視進行抑制のサイエンスTheScienceofControllingtheProgressionofMyopia平岡孝浩*はじめに近視は単なる屈折異常ではなく,眼軸長の過伸展を本態とする進行性疾患として捉えるべき時代に入った.近視が軽度から中等度にとどまる場合には眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)で視力矯正が可能であるが,眼軸長が過度に伸長すると,近視性黄斑症,網膜.離,緑内障,白内障などの発症リスクが上昇し,生涯にわたる視機能障害の原因となる.Holdenらは,2050年には世界人口の約半数が近視となり,約10%が強度近視に達すると予測しており,近視はすでに個人の視力問題を超えた公衆衛生上の課題となっている1).このような背景から,小児期に近視進行を抑制し,最終的な近視度数および眼軸長を少しでも低く抑えることの重要性が強調されている.BullimoreとBrennanは,近視を1D抑制するだけでも将来的な近視関連合併症リスクを有意に低減できる可能性を示し,「1Dの価値」を明確に提示した2).したがって,近視進行抑制の目的は単に眼鏡度数の進行を遅らせることではなく,将来の病的近視を予防し,生涯にわたる視覚の質(qualityofvision:QOV)と生活の質(qualityoflife:QOL)を守ることにある.近年,小児近視に対しては,屋外活動,近視管理用眼鏡,多焦点ソフトCL(softCL:SCL),オルソケラトロジー(orthokeratology:OK),低濃度アトロピン点眼,反復低強度赤色光照射(repeatedlow-levelred-lighttherapy:RLRL)など,多くの介入法が提案され,臨床応用されている.これらは一見するとまったく異なる治療法にみえるが,その多くは「網膜が受け取る視覚情報を変える」「網膜から脈絡膜・強膜へ伝わる成長シグナルを修飾する」「強膜リモデリングを抑制する」という共通の生物学的枠組みのなかで理解できる.本稿では,近視進行抑制の基礎メカニズムから各治療法の臨床的意義までを概説し,最後に実地医家が明日からの診療に活用できる臨床医向けメッセージを述べる.I近視進行の基本概念:眼軸長の視覚制御機構近視進行の本態は,多くの場合,眼軸長の過剰な伸長である.小児の眼球は成長過程にあり,出生後,角膜,水晶体,眼軸長が互いに調和しながら正視化へ向かう.この過程をemmetropizationとよぶ.正視化は単なる遺伝的プログラムではなく,網膜に投影される像の質に依存して調節される視覚依存性の成長制御機構である.この概念を確立したのが,形態覚遮断近視(formdeprivationmyopia)およびレンズ誘発近視(lens-inducedmyopia)の動物実験である.若年動物に半透明ゴーグルや眼瞼縫合を行って網膜像をぼかすと,眼軸長が伸長して近視化する.また,マイナスレンズを装用させて焦点を網膜後方に移動させると,眼球はその遠視性デフォーカスを補正するように伸長する.逆にプラスレンズにより近視性デフォーカスを負荷すると,眼軸長伸長は抑制される.すなわち,眼球は網膜像のぼけの「量」だけでなく,「符号」すなわち焦点が網膜前方にあるの*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科(1)(81)9310910-1810/26/\100/頁/JCOPY凹レンズ負荷遠視性眼軸伸長デフォーカス変化なし負荷なし(眼軸維持)凸レンズ負荷眼軸短縮近視性デフォーカス図1レンズ誘発近視(lens-inducedmyopia)の模式図凹レンズによる遠視性デフォーカスは眼軸長伸長を促進し,凸レンズによる近視性デフォーカスは眼軸長伸長を抑制する.か後方にあるのかを認識し,成長方向を変化させる能力を有している(図1).この事実は,近視進行抑制の根本的なサイエンスである.現在使用されている多くの光学的介入は,この「遠視性デフォーカスは眼軸長伸長を促進し,近視性デフォーカスは眼軸長伸長を抑制する」という考え方に基づいて設計されている.II周辺網膜デフォーカス(軸外収差)理論従来,眼球成長を制御する視覚入力は中心窩を中心とした中心視に由来すると考えられてきた.しかし,Smithらのサルを用いた一連の研究により,中心窩のみならず周辺網膜が眼球成長制御に重要な役割を果たすことが示された3).中心窩を含む黄斑部の視覚入力が障害されても,周辺網膜に適切な視覚情報が入力されていれば正視化が生じることから,眼球成長は中心窩依存性ではなく,網膜局所あるいは広範囲の網膜入力によって制御されると考えられるようになった.近視眼は一般に前後方向に長いprolate形状を呈するため,通常の単焦点眼鏡やCLで中心窩を矯正しても,周辺網膜では相対的な遠視性デフォーカスが残存しやすい.この周辺部遠視性デフォーカスが眼軸長伸長を促すシグナルとして働く可能性があり,これが周辺網膜デフォーカス理論である(軸外収差理論ともよばれる)(図2).ただし,近年の研究では,この理論だけですべての近視進行抑制効果を説明できるわけではないことも明らかになりつつある.たとえば,後述するdi.usionopticstechnology(DOT)レンズのように,明確な近視性デフォーカスではなく,網膜像のコントラストを変調することで眼軸長伸長を抑制するデザインも登場している4).したがって現在では,近視進行抑制の光学的メカニズムは「近視性デフォーカス」だけでなく,「網膜像質」「コントラスト」「空間周波数」「高次収差」などを含むより広い概念として理解すべきである.III網膜―脈絡膜―強膜シグナル伝達系眼軸長伸長は最終的には強膜の構造変化として現れる932あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(82)通常の眼鏡(凹レンズ)矯正結像面周辺部遠視性デフォーカス図2周辺網膜デフォーカス理論近視眼では周辺網膜に遠視性デフォーカスが生じやすく,これが眼軸長伸長の刺激となると考えられている.内境界膜神経線維層.網膜神経節細胞層内網状層・ドパミン・像質認識ドパミン内顆粒層・視覚刺激により外網状層ドパミンなどの神経伝達物質を放出外顆粒層視細胞層(近視抑制シグナルの開始)網膜色素上皮層網膜色素上皮層.脈絡膜Bruch膜・肥厚・血流変化脈絡膜毛細血管・脈絡膜が応答し肥厚・血流が変化脈絡膜血管・網膜から脈絡膜へのシグナルを中継(中小血管)脈絡膜血管(大血管).強膜・低酸素・ECMリモデリング・強膜の低酸素シグナルやECM代謝が変化強膜線維芽細胞・眼球の伸展性が調節されるコラーゲン線維.眼軸長・伸長抑制眼軸長の伸長眼軸長の伸長抑制図3網膜―脈絡膜―強膜シグナル伝達系網膜で受容された視覚情報は脈絡膜および強膜へ伝達され,眼軸長伸長を制御する.非球面性が高いレンズほど効果が高いことから,単なる加入度数ではなく,網膜前方に形成される光学的ボリュームが重要である可能性が示唆される.Cc.DOTレンズとコントラスト理論DOTレンズは,従来の近視性デフォーカス理論とは異なり,網膜像のコントラストを変調することで近視進行を抑制するという新しい概念に基づいている4).周辺部に微小な光散乱要素を配置し,網膜のコントラストシグナルを変化させることで,ON/OFF経路や空間周波数処理に影響を与える可能性がある.この理論は,従来の「鮮明な像がよく,ぼけた像が悪い」という単純な構図では説明できない.むしろ,近業環境における高コントラスト刺激,人工照明,屋内環境特有の空間周波数分布が近視進行に関与する可能性を示すものである.DOTレンズは,近視進行抑制のサイエンスを「デフォーカス」から「網膜像質全体」へ拡張する重要な治療概念である.C3.多焦点SCLによる光学的介入多焦点CSCLは,日中装用により中心視の矯正と同時に周辺網膜へ近視性デフォーカスを付与する.代表的なものにMiSightC1day(クーパービジョン)がある.ChamberlainらのC3年間ランダム化比較試験では,MiSight群は単焦点CSCL群と比較して,屈折進行および眼軸長伸長をC50%以上抑制した14).さらに,6年間の長期試験でも効果の持続が確認されている15).装用中止後の研究でも,明らかなリバウンドは認められていない16).多焦点CSCLの利点は,OKと異なり夜間装用を必要とせず,1日使い捨てタイプであればレンズケアの負担が少ない点である.一方,装用時間が治療効果に大きく影響する可能性があり,日中の装用コンプライアンスが不十分な患者では効果が低下する.スポーツや学校生活との相性,保護者の管理能力,装用・脱着の習熟度を考慮して適応を判断する必要がある.Cextendeddepth-of-focus(EDOF)タイプのCSCLも注目されている.Sankaridurgらは,EDOFデザインのCLにより,単焦点CSCLと比較して近視進行および眼軸長伸長が有意に抑制されることを示した17).EDOFでは,網膜前方から網膜上の像質を比較的維持しつつ,網膜後方の像質を低下させることで,遠視性デフォーカスに由来する眼軸伸長刺激を減弱させると考えられている.C4.OKによる光学的介入OKは,高酸素透過性ハードCCL(hardCL:HCL)を就寝時に装用し,角膜中央部を扁平化,周辺部を相対的に急峻化させることで,日中の裸眼視力を改善する治療である.近視進行抑制においては,角膜形状変化により周辺網膜の遠視性デフォーカスが軽減され,近視性デフォーカスが形成されることがおもな作用機序と考えられている.ChoらのCRetardationCofCMyopiaCinCOrthokeratology(ROMIO)studyでは,OK群で眼軸長伸長が単焦点眼鏡群と比較して有意に抑制された18).Hiraokaらは日本人におけるC5年間の長期観察研究において,OKによる眼軸長伸長抑制効果が長期間持続することを報告した19).OKはC30.50%程度の眼軸長伸長抑制効果を示すとされ,光学的介入のなかでもエビデンスが豊富な治療法である.一方で,OKでは夜間装用という特性上,感染性角膜炎のリスクを常に念頭におく必要がある.適切なレンズケア,定期検査,保護者の理解,装用中止基準の説明が不可欠である.とくに小児では自己管理能力に限界があるため,家族を含めた教育が治療の成否を左右する.また,OK単独で十分な効果が得られない患者,あるいは低年齢で進行が速い患者では,低濃度アトロピンとの併用が検討される.Kinoshitaらは,OKにC0.01%アトロピンを併用することで,OK単独より眼軸長伸長が有意に抑制されることを報告した20).作用機序としては,OKによる光学的デフォーカス制御と,アトロピンによる薬理学的な網膜・脈絡膜・強膜シグナル修飾が相加的に働くと考えられる.C5.低濃度アトロピン点眼による薬物介入アトロピンは,古くから近視進行抑制効果が知られている薬剤である.1%アトロピンは非常に強力な効果を示すが,散瞳,羞明,調節麻痺による近見障害などの副作用が強く,小児に長期使用するには実用上の問題が大936あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(86)きい.そこで低濃度アトロピンが注目されるようになった.CatropineCforCtheCtreatmentCofmyopia(ATOM)1ではC1%アトロピンの有効性が示され21),ATOM2では0.5%,0.1%,0.01%が比較され,低濃度でも近視進行抑制効果が認められた22).ただし,ATOM2ではC0.01%アトロピンの屈折進行抑制効果に比して眼軸長伸長抑制効果が限定的である点が後に議論された.その後,low-concentrationatropineformyopiapro-gression(LAMP)studyにより,0.05%,0.025%,0.01%アトロピンの効果がプラセボ対照で検討され,濃度依存的な効果が明確に示された23,24).1年目の結果では,0.05%がもっとも強い抑制効果を示し,0.025%,0.01%がこれに続いた.3年目の継続・中止比較では,治療継続群のほうが中止群より進行抑制効果が高く,リバウンドは濃度依存的に認められるものの,臨床的には管理可能な範囲とされた25).5年成績では,0.05%アトロピンを中心とした長期管理の有効性が示されている26).わが国ではCHiedaらによるCATOM-Jにおいて,0.01%アトロピンの有効性と安全性が確認された27).さらにCORANGEstudyでは,0.025%アトロピンを含む低濃度アトロピン点眼の有効性が日本人小児で検討され,0.025%群でより強い抑制効果が示された28).この結果に基づき,リジュセアミニC0.025%点眼液が厚生労働省の承認を受け市販化に至っている.アトロピンの作用機序は完全には解明されていない.従来は調節麻痺による近業負荷軽減が主作用と考えられていたが,ヒヨコなど調節機構が哺乳類と異なる動物でも効果を示すことから,単なる調節麻痺では説明できない.現在では,ムスカリン受容体遮断,網膜ドパミン経路,α2Aアドレナリン受容体,Cγ-アミノ酪酸(gammaCaminobutyricacid:GABA)系,炎症性サイトカイン,脈絡膜肥厚,強膜線維芽細胞への作用など,多因子作用が想定されている6,7).低濃度アトロピンは,導入しやすく,CLを希望しない低年齢児にも使用しやすい.一方で,濃度選択,治療期間,中止時期,リバウンドへの対応,長期安全性については,今後もエビデンスの蓄積が必要である.6.低出力赤色光反復療法と光生物学的介入低出力赤色光反復療法(repeatedClow-levelCred-lighttherapy:RLRL)は,近年注目されている新しい近視進行抑制法である.従来の光学的治療が網膜像を修飾する治療であり,アトロピンが薬理学的にシグナル伝達を修飾する治療であるのに対し,RLRLは光生物学的に網膜や脈絡膜の代謝を変化させる可能性がある.RLRLではC650Cnm前後の赤色光を反復照射する.作用機序としては,ミトコンドリアのシトクロームCcオキシダーゼ(cytochromecoxidase)活性化,アデノシン三リン酸(adenosinetriphosphate:ATP)産生増加,活性酸素種や一酸化窒素の調節,脈絡膜血流増加,脈絡膜肥厚,強膜低酸素改善,COL1A1発現変化などが想定されている29).この視点では,RLRLは網膜から強膜へ至る成長シグナルのうち,代謝・血流・低酸素にかかわる経路を標的とする治療と位置づけられる.Jiangらのランダム化比較試験では,RLRLが小児近視の屈折進行および眼軸長伸長を有意に抑制することが報告された30).一方で,RLRLについては,安全性,長期成績,中止後のリバウンド,網膜への光毒性リスク,適切な照射条件,対象年齢など未解決の課題が多い.とくに,治療効果が強い一方で,長期安全性に関する国際的コンセンサスは十分ではなく,慎重な臨床導入が求められる.各介入法の現在考えられている作用部位を図5にまとめて示す.CV有効性・安全性・長期成績の考え方小児近視の進行はほぼ眼軸長伸長により説明されるため,将来的な病的近視リスクを考えるうえで眼軸長はきわめて重要な指標である.屈折値は調節,測定条件,角膜や水晶体の変化に影響されるため,可能であれば光学式眼軸長測定を定期的に行うことが望ましい.有効性の概略として,DIMS,HAL,多焦点CSCL,OK,低濃度アトロピンC0.025%やC0.05%はいずれも中等度以上の抑制効果を有すると考えられる.一方で,0.01%アトロピンや従来型累進屈折力レンズは,患者によっては効果が限定的である.RLRLは強い効果が報告されているが,長期安全性と国際的な適用基準に課題が(87)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C937網膜脈絡膜強膜(後極部)(後極部)(後極部)屋外活動・高照度環境近視管理眼鏡多焦点SCLOK低濃度アトロピン点眼RLRL◎:おもな作用○:中等度の作用△:副次的な作用が期待される図5各近視進行抑制治療介入のおもな作用部位各治療介入が主として作用すると考えられている網膜,脈絡膜および強膜の部位を示す.SCL:ソフトコンタクトレンズ,OK:オルソケラトロジー,RLRL:低出力赤色光反復療法VII保険診療・選定療養・自由診療との関連近視進行抑制治療を実地診療に導入する際には,各治療法が保険診療,選定療養,自由診療のいずれに位置づけられるのかを正確に理解しておく必要がある.近年,わが国でも小児近視管理に関する医療制度上の整理が進みつつあり,治療法ごとに取り扱いが異なる点に注意が必要である.多焦点CSCLであるCMiSightはわが国において承認されており,保険診療として処方可能である.また,低濃度アトロピン点眼については,2026年C6月から選定療養として位置づけられた.ただし,年C2回,各C2項目まで保険査定が認められるという制限があり,診療時にはこの制度上の枠組みを踏まえた説明と運用が求められる.近視管理用眼鏡については,従来の眼鏡と同様に,通常の保険診療の範囲内で処方可能である.一方で,眼鏡レンズ自体の費用負担や製品選択については,患者・保護者に十分説明しておく必要がある.OKは,近視矯正用としてはわが国で承認されているが,近視進行抑制を目的とした適応については現在治験中であり,現時点では承認されていない.そのため,近視進行抑制を目的として行う場合には自由診療として扱われる.また,RLRLもわが国では未承認であり,自由診療の枠組みで慎重に取り扱う必要がある.このように,近視進行抑制治療は,保険診療,選定療養,自由診療が混在する領域となっている.したがって,実地医家は各治療法の医学的エビデンスだけでなく制度上の位置づけを理解したうえで,患者・保護者に対して治療目的,期待される効果,限界,副作用,費用負担,代替手段,中止基準を明確に説明する必要がある.とくに「近視が治る」「必ず止まる」といった表現は避け,「近視進行速度を抑える治療」「将来の強度近視リスクを低減するための管理」と説明するのが適切である.近視管理は単なる眼鏡やCCLの販売ではなく,眼軸長を含む医学的評価,リスク層別化,治療選択,安全管理,長期フォローアップを伴う医療行為である.制度上の枠組みを正しく理解し,保険診療・選定療養・自由診療を適切に区別しながら,エビデンスに基づいた近視管理を提供することが,今後の実地眼科診療において重要となる.CVIII臨床医へのメッセージ近視進行抑制は,もはや一部の専門施設だけが行う特殊診療ではない.小児近視が増加し,強度近視に伴う将来的な視覚障害が懸念される現在,一般眼科医にとっても近視管理は重要な日常診療の一部となりつつある.明日からの診療でまず行うべきことは,近視小児に対して単焦点眼鏡を処方して終わるのではなく,「この子は将来どの程度進行しそうか」を考えることである.そのためには,年齢,近視度数,進行速度,両親の近視歴,生活習慣,可能であれば眼軸長を確認する.つぎに,屋外活動や近業姿勢などの生活指導を行い,進行リスクが高い患者には,近視管理用眼鏡,低濃度アトロピン,多焦点SCL,OKなどを選択肢として提示する.治療法の優劣を単純に比較するのではなく,患者ごとに継続可能な方法を選ぶことが重要である.低年齢で安全性重視なら近視管理用眼鏡,日中裸眼希望が強ければOK,1日使い捨てCCLが可能なら多焦点CSCL,CLが困難なら低濃度アトロピン,進行が速ければ併用療法を検討する,というように,患者背景に合わせた個別化が求められる.近視進行抑制のゴールは,眼鏡度数を少し軽くすることではない.将来の病的近視を減らし,生涯にわたる視機能を守ることである.この視点を保護者と共有し,過度な期待を避けつつ,科学的根拠に基づいた現実的な近視管理を提供することが,これからの実地眼科医に求められる役割である.CIX日本から世界へ発信された近視進行抑制研究最後に,本特集のテーマである日本発の研究についてまとめる.わが国はこの領域の発展において重要な成果を世界に向けて継続的に発信してきた.眼鏡による近視進行抑制研究では,Hasebeらが日本人小児を対象に累進屈折力眼鏡の有効性を検証し31),また,Kandaらは周辺遠視性デフォーカスを軽減する眼鏡レンズの多施設無作為化比較試験を実施した32).これらの研究は大きな治療効果を示すには至らなかったものの,近視進行抑制の光学的機序を検証する重要な基盤と(89)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C939なった.さらに,現在世界中で広く使用されているDIMSレンズは,日本のCHOYA社によって開発された近視管理眼鏡であり,日本発の光学技術が国際的な近視管理の発展に大きく貢献している10,11).OK領域では,KakitaらによるC2年間の前向き研究33)に続き,HiraokaらがC5年19)およびC10年34)にわたる長期成績を報告し,眼軸長伸長抑制効果の持続性を示した.また,Hiraokaらは高次収差,とくにCcoma-likeaberrationが近視進行抑制効果に関与する可能性を報告し,作用機序の解明にも貢献した35).さらに,Kinoshi-taらはCOKとC0.01%アトロピン点眼の併用療法を世界に先駆けて報告し,現在広く実践されている併用療法の礎を築いた20).薬物療法の分野では,ATOM-J研究により日本人小児におけるC0.01%アトロピン点眼の有効性と安全性が検証され27),さらに治療中止後のリバウンドが明らかでないことも報告された36).その後,ORANGEstudyではC0.025%アトロピン点眼の有効性と安全性が示され28),これらの成果はわが国初の近視進行抑制点眼薬であるリジュセアミニ点眼液の承認へと結実した.さらに近年では,Tsubota,Kurihara,Toriiらによるバイオレットライト研究が注目を集めている.波長360.400Cnmのバイオレットライトが近視進行を抑制しうることが基礎研究および臨床研究から示され37),その後,バイオレットライト透過眼鏡を用いた小児ランダム化比較試験も報告された38).屋外活動による近視予防効果を波長特異的な光生物学の観点から説明しようとするこの研究は,日本発の独創的な概念として国際的な関心を集めている.このように,わが国の研究者は近視進行抑制の基礎研究,作用機序解明,臨床試験,新規治療法開発の各分野において重要な成果を発信してきた.近視人口のさらなる増加が予測されるなか,わが国から発信される新たなエビデンスや技術革新は,今後の近視管理の発展においても重要な役割を担うものと期待される.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.OphthalmologyC123:1036-1042,C20162)BullimoreCMA,CBrennanNA:Myopiacontrol:whyCeachCdioptermatters.OptomVisSciC96:463-465,C20193)SmithCELC3rd,CRamamirthamCR,CQiao-GriderCYCetal:CE.ectsCofCfovealCablationConCemmetropizationCandCform-deprivationCmyopia.CInvestCOphthalmolCVisCSciC48:3914-3922,C20074)Wol.sohnCJS,CGi.ordKL:OpticalCstrategyCutilizingCcon-trastCmodulationCtoCslowCmyopia.COphthalmolCSciC5:C100672,C20245)AshbyCR,CHarbCEN,COstrinCLACetal:IMI:theCroleCofClightCinCrefractiveCdevelopmentCandmyopia:evidenceCfromanimalandhumanstudies.InvestOphthalmolVisSciC66:5-5,C20256)UpadhyayCA,CBeuermanRW:BiologicalCmechanismsCofCatropineCcontrolCofCmyopia.CEyeCContactCLensC46:129-135,C20207)HornCD,CSalzanoCAD,CJeneweinCECCetal:Topicalreview:potentialmechanismsofatropineformyopiacon-trol.OptomVisSci102:260-270,C20258)YinCX,CGeJ:TheCroleCofCscleralCchangesCinCtheCprogres-sionofmyopia:areviewandfuturedirections.ClinOph-thalmolC19:1699-1707,C20259)HeCM,CXiangCF,CZengCYCetal:E.ectCofCtimeCspentCout-doorsatschoolonthedevelopmentofmyopiaamongchil-drenCinChina:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAC314:C1142-1148,C201510)LamCSY,TangWC,TseDYetal:DefocusincorporatedmultipleCsegments(DIMS)spectacleClensesCslowCmyopiaprogression:a2-yearrandomisedclinicaltrial.BrJOph-thalmolC104:363-368,C202011)LamCSY,TangWC,ZhangHYetal:Long-termmyopiacontrole.ectandsafetyinchildrenwearingDIMSspecta-clelensesfor6years.SciRepC13:5475,C202312)BaoJ,YangA,HuangYetal:One-yearmyopiacontrole.cacyCofCspectacleClensesCwithCasphericalClenslets.CBrJOphthalmolC106:1171-1176,C202213)BaoJ,HuangY,LiXetal:Spectaclelenseswithaspheri-calClensletsCforCmyopiaCcontrolCvsCsingle-visionCspectaclelenses:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC140:472-478,C202214)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMiSightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C201915)ChamberlainCP,CBradleyCA,CArumugamCBCetal:Long-termCe.ectCofCdual-focusCcontactClensesConCmyopiaCpro-gressionCinchildren:aC6-yearCmulticenterCclinicalCtrial.COptomVisSciC99:204-212,C202216)ChamberlainCP,CHammondCDS,CBradleyCACetal:EyeCgrowthCandCmyopiaCprogressionCfollowingCcessationCofCmyopiaCcontrolCtherapyCwithCaCdual-focusCsoftCcontactClens.OptomVisSciC102:353-358,C2025940あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(90)—