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眼内レンズセミナー:フック付灌流ハンドピースによる虹彩操作

2026年10月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/佐々木洋・永田万由美473.フック付灌流ハンドピースによる浅野泰彦昭和医科大学医学部眼科学講座虹彩操作水晶体再建術やその際の破.処理時,ならびに水晶体・IOL亜脱臼手術時において,散瞳不良例では皮質吸引や前部硝子体切除の難度が高い.筆者らが開発したフック付灌流ハンドピースを用いることにより,灌流と同時に先端フックによる虹彩拡張などを行うことが可能となり,効率的な皮質吸引や前部硝子体切除が可能となる.●はじめに水晶体再建術,術中の後.破損処理,水晶体あるいは眼内レンズ(intraocularlens:IOL)亜脱臼に対する手術の際に,散瞳不良例では水晶体皮質吸引や前部硝子体切除の操作がむずかしくなる.灌流ハンドピースと吸引ハンドピースあるいは硝子体カッターを用いたバイマニュアル操作は有用であるが,瞳孔径が不十分な場合には虹彩下の視認が困難となり,皮質の取り残しや操作の不確実性が生じることがある.このような場合は虹彩拡張デバイスの使用や前房メインテナーの設置が有用である.しかし,器具設置の手間や術中脱落の可能性など,手技上の煩雑さが問題となる.そこで筆者らは,灌流ハンドピースの先端にフックを付加し,灌流を維持しながら虹彩操作などを行うことを目的としたフック付灌流ハンドピース(以下,Irriga-tionHook)を開発した.本稿では本器具の構造と基本的な使用方法について紹介する.●構造IrrigationHookは,外径0.65mm,内径0.50mmのチタン製灌流ハンドピースの先端に,0.3×0.5mmの球状フックを備えた構造を有する(図1).灌流口は器具先端に位置しており,眼内灌流を維持した状態で虹彩の牽ab引や圧排などのフック操作を行うことが可能である.●使用方法白内障または硝子体手術装置の灌流チューブをIrri-gationHook後端に接続して,使用する.チストトーム針を挿入するのと同様の要領で,フック部を先端として角膜サイドポートから挿入することで,20Gの切開創から使用可能である.眼内灌流を維持しながら対側ポートより吸引ハンドピースまたは硝子体カッターを挿入し,バイマニュアル操作を行う.先端フックで虹彩を牽引あるいは圧排することで瞳孔径を拡大でき,虹彩下の皮質を直接視認しながら吸引することが可能となる(図2).通常の同軸I/Aハンドピースでは操作が困難な主創口直下の皮質吸引も,虹彩を圧排して視認することにより容易に行うことができる(図3).さらに応用として,前部硝子体切除時の硝子体ワイパリングにも利用できる.前房メインテナーを設置し,フックを用いてワイパリングを行う方法もあるが,Irri-gationHookでは灌流を維持しながらフックを硝子体に掛けることができ,前房メインテナーを設置せずとも効率的なワイパリング操作が可能となる(図4).図1IrrigationHookの構造製品名:浅野氏フック付灌流ハンドピース23G(販売:MEテクニカ).外径0.65mm,内径0.50mmのチタン製灌流ハンドピースである(a).先端には0.3×0.5mmの球状フックを備える(b).(87)あたらしい眼科Vol.43,No.10,202612610910-1810/26/\100/頁/JCOPY図2虹彩牽引による瞳孔拡張を用いた皮質吸引手技フック部で虹彩を牽引して瞳孔拡張を行う().灌流口が器具先端にあるため眼内灌流は維持され,虹彩下の皮質を直接視認して吸引することが可能となる.図4硝子体ワイパリング手技前部硝子体切除を行う際は,フック部を硝子体に掛けることにより,創口に陥頓した硝子体ストランド()を効率よくワイパリングすることが可能である.●使用上の注意点IrrigationHookは肉薄構造とすることで比較的大きな内径を確保しており,同程度の外径を有する従来の灌流ハンドピースと比較すると灌流量は多い.しかし,通図3虹彩圧排による瞳孔拡張を用いた皮質吸引手技フック部で虹彩を圧排して瞳孔拡張を行い,虹彩下の皮質を確認する.通常の同軸I/Aハンドピースでは吸引困難な主創口直下の皮質()も容易に吸引可能となる.常のI/Aハンドピースと比べると灌流量はやはり少ないため,前房安定性に配慮した設定と操作が必要である.皮質吸引時にI/Aモードで使用する際には,通常時よりも灌流圧をやや高めに設定し,吸引圧を過度に上げないことに留意する.具体的には通常時より20mmHg程度灌流圧を高く設定し,フットペダルの踏み込みをゆっくり少しずつ行う.皮質を捕捉したあとは吸引ハンドピースの動きで.から.離するように操作すると,前房を安定させた状態で効率的に皮質吸引を行うことができる.●おわりにIrrigationHookは,灌流とフック操作を同時に行うことを可能にし,散瞳不良例においても効率的な皮質吸引および前部硝子体切除を実現するデバイスである.従来のバイマニュアルI/Aと同様に前房安定性の保持には注意が必要であるが,操作に慣れれば違和感なく使用できる.今後,臨床での使用経験の蓄積により,本器具の有用性がさらに明らかになることが期待される.

写真セミナー:プリザーフロマイクロシャント挿入術後の交感性眼炎

2026年10月31日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史509.プリザーフロマイクロシャント挿入術後の福澤憲司町田病院交感性眼炎図2図1のシェーマ①漿液性網膜.離②脈絡膜.離図1術後3日目の眼底所見漿液性網膜.離と脈絡膜.離を認める.(文献C1より改変)図3術後3日目の前眼部写真図4ステロイド治療後の眼底所見明らかな前眼部炎症は認めなかった.漿液性網膜.離および脈絡膜皺襞は改善した.(文献C1より改変)(文献C1より改変)C(85)あたらしい眼科Vol.43,No.10,2026C12590910-1810/26/\100/頁/JCOPY交感性眼炎(sympatheticophthalmia:SO)は,穿孔性眼外傷や眼内手術後に発症する両眼性肉芽腫性ぶどう膜炎であり,眼内抗原に対する自己免疫反応が発症に関与すると考えられている1,2).白内障手術,硝子体手術,緑内障手術など,さまざまな眼内手術が原因となることが知られているが,比較的まれな疾患である.症例はC42歳,女性.難治性緑内障に対し左眼にCPre-serFlo(プリザーフロ)マイクロシャント挿入術を施行した.既往として左眼に網膜.離および眼内レンズ脱臼に対する硝子体手術歴があり,右眼は長期の全網膜.離により光覚なしであった.最大量の抗緑内障点眼薬による治療およびマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術を施行したが,左眼の眼圧コントロールは不良であったため,左眼プリザーフロマイクロシャント挿入術を施行した.術後C3日目に左眼視力は手動弁まで低下し,眼圧は6CmmHgと低下した.眼底検査では脈絡膜皺襞と漿液性網膜.離を認め(図1,2),光干渉断層計で網膜色素上皮の波状変化および漿液性網膜.離が確認された.その一方で細隙灯顕微鏡検査では角膜後面沈着物や前房炎症など明らかな前眼部炎症所見は認めなかった(図3).術後低眼圧を背景とする低眼圧黄斑症を疑い,術後C6日目に前房内空気注入を施行したが,眼圧が上昇したにもかかわらず眼底所見の改善は得られなかった.このため交感性眼炎を疑い,術後C10日目より全身ステロイドパルス療法を開始したところ,漿液性網膜.離および脈絡膜皺襞は速やかに改善した.その後経口プレドニゾロンに切り替え,漸減していった.術後C2年時点で左眼視力0.2,眼圧C10CmmHgで眼底所見も改善を得たまま安定している(図4).HLA検査ではCHLA-DR4陽性であった.本症例の特徴は,プリザーフロマイクロシャント挿入後わずかC3日というきわめて早期に発症した点,および前眼部炎症を伴わず後部病変が主体であった点である.交感性眼炎は通常,術後数週間から数カ月以内に発症するとされるが1),本症例では過去の複数回の眼内手術により免疫学的感作が進行しており,今回の手術が最終的な誘因となった可能性が考えられる.また,本症例は後眼部病変が優勢で発症時に前眼部病変が最小限もしくは認められない,いわゆる後部型CSOと考えられ3),術後低眼圧に伴う低眼圧性黄斑症との鑑別が困難であった.プリザーフロマイクロシャントは低侵襲緑内障手術として近年広く普及しているが,術後低眼圧が比較的高頻度に認められることが知られている.本症例のように術後早期に脈絡膜皺襞や漿液性網膜.離を認めた場合は,低眼圧性黄斑症のみでは説明できない可能性があり,交感性眼炎の可能性も念頭に置く必要がある.とくに後部型CSOでは前眼部炎症が乏しい場合があり,術後低眼圧に伴う後極部所見との鑑別が困難となることがある.術後経過が非典型的な場合には本疾患を考慮し,早期診断と適切なステロイド治療を行うことが視機能予後の改善に重要と考える.文献1)FukuzawaK,MienoH,NagataKetal:AtypicalposteriorsympatheticCophthalmiaCshortlyCafterCPRESERFLOC.CMicroShuntimplantationmasqueradingashypotonymac-ulopathy:acasereport.CureusC17:e97220,C20252)BondokMS,HeB,Ka-LokTaoBetal:Incidenceofsym-patheticCophthalmiaCafterCintraocularsurgery:aCsystem-aticCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC131:836-844,C20243)ChangCGC,CYoungLH:SympatheticCophthalmia.CSeminCOphthalmolC26:316-320,C20114)McPhersonSDJr,DaltonHT:Posteriorformsympatheticophthalmia.TransAmOphthalmolSocC73:251-263,C1975

不定愁訴に潜む神経眼科疾患

2026年10月31日 土曜日

不定愁訴に潜む神経眼科疾患SymptomsSuggestiveofNeuro-OphthalmologicalDisorders植木智志*はじめに不定愁訴とは何だろうか.「広辞苑」第7版では不定愁訴は「明白な器質的疾患がみられないのに,さまざまな自覚症状を訴える状態」とある.Wikipediaによると,不定愁訴は「患者からの「頭が重い」「イライラする」「疲労感がとれない」「よく眠れない」などの「なんとなく体調が悪い」という強く主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの,検査をしても客観的所見に乏しく,原因となる病気がみつからない状態をさす」とある.「強く主観的な」と「客観的所見に乏しく」という箇所が重要だろう.患者は患者本人にしかわかりえない症状を訴え,医療従事者はそれを客観的に評価できないという場面では患者と医療従事者の対立が生じることもしばしばある.しかし,神経眼科領域においては特定の疾患を想起しやすい愁訴(他の所見と組み合わせる必要もある)が存在する.本稿ではこれらを踏まえて不定愁訴に潜む神経眼科疾患について解説する.Iその愁訴,神経眼科疾患かもしれない!1.視神経炎眼痛を訴える患者は多い.細隙灯顕微鏡による診察で明らかな異常がみられなければ,不定愁訴なのかもという思いが医療従事者の頭にはよぎるであろう.しかし,眼痛も他の所見と結びつけることができれば診断につながることがある.視神経炎では眼痛,とくに眼球運動痛を訴える患者が多い.割合としては,日本では56%とされている.1).視神経炎の視機能障害の経過は急性ではなく数日~2週程度で徐々に進行する亜急性といえるようなものである.視神経炎の発症からまもなくで視力低下が軽度でも,眼球運動痛の訴えが強ければ視神経炎を疑うきっかけとしてよい.その際は,片側性であれば相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)の有無を評価し,陽性であればさらに視神経炎の可能性が高くなる.2.甲状腺眼症甲状腺眼症の症状および所見は多彩で,医療従事者が誤って不定愁訴ととらえてしまいそうなものには眼痛,結膜充血・浮腫,複視などがある.眼痛,結膜充血・浮腫は甲状腺眼症の活動性評価の指標であるclinicalactivityscore(CAS)にも含まれている項目である.甲状腺眼症では正面視で複視がなく特定の方向のみの複視の訴えのことがある.甲状腺眼症では眼瞼所見に注目するとよい.眼瞼腫脹・発赤はCASに含まれている項目である.甲状腺眼症ではとくに上眼瞼後退(Dalrymple徴候)に注目すべきで,上眼瞼後退は甲状腺眼症の38%にみられるとする報告がある.2).上眼瞼後退では角膜輪部と上眼瞼縁の間に結膜がみられるが,甲状腺眼症ではとくに耳側の上眼瞼後退が目立つ患者がいる..*SatoshiUeki:新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8520新潟市中央区旭町通一番町754新潟大学医歯学総合病院眼科(1)(77)12510910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1斜位近視症例におけるスポットビジョンスクリーナーによる屈折検査の結果片眼遮閉時の結果(中段・下段)に比べて両眼開放時の結果(上段)は球面値の絶対値が大きい.a(ー)dptr70↑瞳孔反応1D{調節反応010→t図2調節微動解析装置による近見反応けいれんの診断a:ステップ制御の測定波形では基準位置に呈示されていた視標(C―)がC5秒後に眼前C10Ccmまでステップ状(瞬間的)に移動し,短い時間(潜伏時間)を経て,屈折値がマイナス側へ移行している.10Dの調節負荷に対して調節微動()がみられ,実際の調節反応(―)は少なく,調節ラグ(.)が大きくなっており,瞳孔面積(C―)は縮小している.Cb:近見反応けいれん症例における調節微動解析装置の検査結果.高周波成分()がみられるC.(aは文献C12より引用)遠視.近見も遠見もC30PD程度の内斜視.眼球運動制限なし.試しがけで自覚症状が改善したため膜プリズム貼付眼鏡装用としたが,大型弱視鏡で同時視なし.その後に斜視手術を行ったが斜視角の変動があり,調節微動解析装置による検査を行ったところ,高周波成分が多くみられ近見反応けいれんと診断した.経過中,左耳が痛いせいで思考力が低下したとの主訴で当院精神科を初診し,自閉スペクトラム障害と診断された.その後は調節微動解析装置の結果に改善がみられ,眼に関する愁訴(斜視のせいだと思われるめまい)も改善したとのことだったが,顔が押される感じがするという愁訴を聴取するようになった.調節微動解析装置による検査の結果を図2bに示す.CIII白内障術後不適応症候群若倉が提唱してきた疾患概念で,白内障手術に対して患者が成果を実感できない,あるいはかえって手術をきっかけに症状が悪化したと感じ,手術という行為に対して負の評価を与え,受け入れられない不適応状態が生じることとされている.8).石川は,以下の五つが白内障術後不適応症候群の誘因となりうると述べている.8).①初診で手術を決定,手術決定までの通院歴が短い②受診時の主訴が異物感,眼痛,充血,ショボショボなど白内障と無関係③眼科医の強い勧めにより手術を決定④周術時の医療従事者による不用意な言動,対応⑤医師の説明不足また,石川は白内障術後不適応症候群の愁訴は以下の六つに分類されると述べている.8).①期待はずれの術後屈折値,視力(もっとも頻度が高い)②既存の視覚異常の顕性化(もともとあった眼底疾患の症状の顕性化など)③眼表面の問題(ドライアイなど)④眼瞼けいれん⑤斜視・眼球運動制限などによる複視,不同視や不等像視(不同視や不等像視については強度近視や遠視患者の片眼手術で術後に不用意に屈折値を大きく変化させた場合や,もともと不同視で問題なく生活していた患者に対して術後に不同視を解消してしまった場合など)⑥心療的問題いかがだろうか.なるほどと思わせるものがあるのではないだろうか.私見を述べると,白内障術後不適応症候群は患者と医療従事者がそれぞれ思い描く白内障手術後のゴールの不一致がもたらすものであるといえるだろう.術前の問診と説明が重要なのはいうまでもなく,これらは白内障手術に限ったことでもない.続いて,白内障術後不適応症候群とも深く関連する眼瞼けいれんと非器質性視覚障害について解説する.CIV眼瞼けいれん眼瞼けいれん診療ガイドラインによると,眼瞼けいれんは眼瞼周囲の筋(主として眼輪筋)の間欠性あるいは持続性の過度の収縮により不随意的な閉瞼が生じる疾患であり,他の神経学的,眼科学的異常が原因となっていないものとされている.9).眼瞼けいれんは多彩な症状を呈するため,患者の主訴も多彩である.自覚症状には,瞬目増多,羞明感,眼瞼下垂,眼の乾燥感,眼の不快感・異物感,眼痛,流涙,頭痛などがあり,まれに耳鳴り,肩こり,抑うつ,焦燥感などがあるとされている.9).自覚症状はドライアイにおける自覚症状と似ており,実際に多くの眼瞼けいれん症例でドライアイを合併しているが,ドライアイの治療のみでは患者の自覚症状は改善しないことが多い.「眼をつぶっているほうが楽」,「眼を開けているのがつらい」という主訴は眼瞼けいれんを疑うきっかけとなる.眼瞼けいれんの診断は眼瞼けいれんジストニア調査票(表1)を用いた問診と瞬目テスト(表2)により行う.9).CV非器質性視覚障害非器質性視覚障害は機能性視覚障害ともよばれ,Bruceらは純粋な非器質性視覚障害は,検査によって正常な視機能が証明された場合にのみ診断でき,除外診断によっては診断できないとしている.10).Bruceらは,非器質性視覚障害を,①身体表現性障害,②虚偽性障害,③詐病に分類している.10).身体表現性障害は,現在では1254あたらしい眼科Vol.C43,No.C10,2026(80)表1眼瞼ジストニア調査票1~2個の該当は眼瞼けいれんの疑い,3個以上は眼瞼けいれん・まばたきが多い・外にでると,または屋内でもまぶしい・眼を開いていられない(眼をつぶっていたい)・眼が乾く,しょぼしょぼする,痛いなどいつも眼のことが気になる・人ごみや人やものにぶつかる,またはぶつかりそうになる・電柱や立木,停車中の車などにぶつかったことがある・戸外の太陽や風,階段の昇降は苦手で外出を控えている・危険を感じるので車や自転車の運転をしなくなった・手を使って眼を開けなければならないときがある・片目をつぶってしまう表2瞬目テスト0点は正常,1~2点は軽症,3~5点は中等症,6~8点は重症C.・軽瞬眉毛を動かさないで歯切れのよいまばたきをゆっくりしてみる0点できた1点眉毛が動く,強いまばたきしかできない2点ゆっくりしたまばたきができず細かく早くなってしまう3点まばたきそのものができず,眼をつぶってしまう・速瞬できるだけ速く軽いまばたきをC10秒間してみる0点できた1点途中でつかえたりしてC30回はできないが,大体できた2点リズムが乱れたり,強いまばたきが混入した3点速く軽いまばたきそのものができない・強瞬強く眼を閉じ,素早く眼を開ける動作をC10回してみる0点できた1点すばやく開けられないことが1~2回あった2点開ける動作がゆっくりしかできなかった,またはできたが後ですぐ閉瞼してしまった3点開けること自体が著しく困難であるか,10回連続でできなかった図3非器質性視覚障害症例における視野検査の結果a:Humphrey視野検査.Cb:imovifa両眼ランダム.Humphrey視野検査(Ca)では左眼の感度低下があるが,imoCvifaによる視野検査を,右眼の視野検査を行うという患者へのインストラクションのもと両眼ランダムで行うと,Humphrey視野検査の結果と乖離がみられている(Cb).’C-

心因性視覚障害とその鑑別疾患

2026年10月31日 土曜日

心因性視覚障害とその鑑別疾患PsychogenicVisionLossDifferentialDiagnosisandClinicalTreatment鈴木幸久*清澤源弘**はじめに心因性視覚障害とは,実際に視力低下や視野欠損など視機能障害がみられるにもかかわらず,それを説明できる器質的または機能的病変が認められない状態であり,詐病とは区別される.本稿では,心因性視覚障害との鑑別が問題になるような疾患の具体例を提示し,心因性視覚障害の診療方法について解説する.I心因性視覚障害の概要心因性視覚障害は7~12歳の女児に多く,男女比は1:2である.心理的ストレスによる精神的葛藤,欲求不満などが原因となることがあり,就学児においては,親兄弟との関係など家庭環境や,友人や教師との関係など学校生活などが誘因となることが多い.普段精神的負担となっているストレスや不満をうまく表現できないため,眼科的検査にそれらが描出されることがある.また,眼鏡装用したいという思いが原因となることもある.成人においては,うつ病,不安障害,心的外傷後ストレス障害(post-traumaticstressdisorder:PTSD),適応障害,解離性障害などとの関連が知られている.症状は視力低下がもっとも多く,両眼性が多いが,検査を繰り返したり,日を改めたりすると結果が変動することが多い.視力検査で低下がみられても,日常生活では支障がないようにみえることが多い.視野異常においては,求心性視野狭窄,管状視野,らせん状視野,まだら状視野欠損などを示すことが多い.その他,色覚異常,複視,羞明,霧視などを訴えることもある.II診断と検査心因性視覚障害では,眼科的に器質的疾患の有無を調べることになり,除外診断になることが多い.逆に,心因性として特徴的な所見を示す場合には,心因性視覚障害と積極的に診断できる場合もある.検査には下記があげられる.1.視力検査プラスレンズとマイナスレンズを組み合わせて一度付加したレンズの効果を打ち消すレンズトリック法を用いる.心因性視覚障害では,両者のレンズを付加して未矯正と同様の状態を作っても視力が向上することがある.2.視野検査以下のような視野変化がみられた場合には,心因性視覚障害が疑われる.らせん状視野:動的視野検査において,測定中に視野が徐々に狭窄してくるため,測定点が求心性のらせん状を呈する(図1a).1).心因性視覚障害以外でこのような視野を呈する疾患はないため,この視野結果がみられた場合には心因性視覚障害である可能性が高い.管状視野:距離を変化させて視野測定しても,視野の面積が変化しない(図1b).通常は,距離が近いほうが視野の面積が広くなる.1)..*YukihisaSuzuki:JCHO三島総合病院眼科,東京都健康長寿医療センター研究所神経画像.**MotohiroKiyosawa:自由が丘清澤眼科医院,横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木幸久:〒411-0801静岡県三島市谷田字藤久保2276JCHO三島総合病院眼科(1)(67)12410910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1心因性視覚障害でみられる視野所見a:らせん状視野.動的視野検査において,測定中に視野が徐々に狭窄してくるため,測定点が求心性のらせん状を呈する.b:管状視野.測定距離が50cm(b1)の場合と1m(b2)の場合で視野の面積が変化しない.c:まだら状視野.静的視野検査において,不規則なまだら状の暗点が多数みられる.図2症例1のカラー眼底写真および蛍光眼底写真検眼鏡的には両眼とも明らかな異常はみられない(上段)が,蛍光造影検査(下段)では,造影初期から後期にわたってリポフスチンの脈絡膜背景蛍光の遮閉効果によるdarkchoroidがみられた(Stargardt病).図3症例1のOCT所見両眼黄斑部の網膜神経節細胞複合体(GCC)の菲薄化がみられる.錐体機能の低下を反映していると考えられる(Stargardt病).右眼左眼図4症例2のOCT所見上段:両眼黄斑部を中心に網膜神経節細胞複合体(GCC)の菲薄化がみられる.下段:網膜神経節細胞の喪失に伴い,網膜神経線維層や視神経の障害が起こる(Leber視神経症)C.C右眼左眼図5症例3のOCT所見両眼黄斑部の網膜神経節細胞複合体(GCC)の若干の菲薄化がみられるようだが,網膜全層の厚みは正常であった(弱視).図6症例3の網膜電図錐体刺激(Ca),Flicker刺激(錐体機能)(b)ともに正常の反応である.フラッシュ刺激(Cc)においても錐体機能,杆体機能ともに正常の反応を示した(弱視).右眼左眼図7症例4のOCT所見両眼黄斑部の網膜神経節細胞複合体(GCC)の若干の菲薄化がみられる.後頭葉の傷害を反映して,発症から数カ月後以降にCGCCに経シナプス変性が起こる(皮質盲).図8症例4の頭部MRIT1強調画像(Ca)において,後頭葉の明らかな梗塞,出血などはみられない.FLAIR画像(Cb)において,後頭葉の皮質が部分的に高信号となっており,灰白質における特定の神経層が壊死を起こした層状壊死と考えられる(皮質盲).C図9症例5のGoldmann視野正常の視野であり,視野狭窄に対応した視野変化はみられない(脳震盪後遺症).abc図10症例5の頭部MRIおよびポジトロン断層画像MRI(Ca)では後頭葉を含め,明らかな異常はみられない.ポジトロン断層画像(Cb)は,健常例(Cc)と比較して,前部一次視覚野の脳糖代謝低下がみられる.前部一次視覚野は周辺視野に対応するため,視野狭窄の自覚症状を反映した結果である可能性がある(脳震盪後後遺症).

左右で見え方が違う─視力差だけでは 説明できない訴え

2026年10月31日 土曜日

左右で見え方が違う─視力差だけでは説明できない訴えInterocularDi.erencesinVisualFunction:BeyondVisualAcuity杉浦好美*I視力だけではない視機能評価の意義日常診療において,「左右で見え方が違う」という患者の訴えは決して珍しくない.このような症状は,視力検査だけではとらえられない視機能障害を示唆する重要な手がかりであり,その背景にはコントラスト感度低下,変視症,不等像視などが潜んでいることがある.視力は最小分離閾を評価する検査であり,視機能の一側面を反映するに過ぎない.実際の視覚には,コントラスト感度,形態認識,両眼視機能など,多様な視覚情報処理が関与している.そのため,これらの機能が障害されても視力は良好に保たれることがあり,患者が自覚する見え方の異常と視力検査の結果が乖離することは少なくない.とくに黄斑疾患では,視力が良好であっても変視や不等像視を伴うことがあり,読書や運転などの日常生活に大きな支障をきたし,生活の質(qualityoflife:QOL)の著しい低下につながることが知られている1,2).また,視機能評価において見落とされがちな点として,日常生活が両眼視のもとで営まれているという事実がある.従来の視機能検査の多くは単眼で行われるが,単眼での評価だけでは患者が実際に感じる視機能障害を十分に反映できない場合がある.たとえば,片眼に変視や不等像視を有する場合,単眼での検査では異常が検出されても,両眼で見た際には健眼からの視覚情報が優位となり,症状が軽減されることがある.一方で,患眼が優位眼である場合には,両眼視下においても変視や不等像視が強く自覚される.このように,単眼評価の結果だけでは患者の実際の見え方を十分に説明できないことがあり,両眼視の視点を加えることが患者の訴えをより正確に理解するうえで重要である.本稿では,「左右で見え方が違う」という訴えを手がかりに,コントラスト感度低下・変視症・不等像視という三つの視機能障害をとりあげ,それぞれの病態,測定方法,代表的な原因疾患,および日常診療における実践的な対応について概説する.IIコントラスト感度コントラスト感度とは,明暗の差(コントラスト)をどの程度識別できるかを示す指標であり,視機能全体をより包括的に反映する検査である.通常の視力検査では高コントラスト(白背景に黒文字)の視標を用いるが,日常生活における視覚環境は道路標識や階段の段差など,低コントラストの対象物であふれている.このため,コントラスト感度は視力よりも患者の実際の見え方をより鋭敏に反映する検査と考えられている.コントラスト感度の測定にはさまざまな視標が用いられており,代表的なものとして縞視標コントラスト感度検査,低コントラスト視力検査,文字コントラスト感度検査などがある.ここではもっとも広く使用されている縞視標コントラスト感度検査について概説する(図1).視標は上下4段に分かれており,下の段になるほど空間周波数が高く(縞の間隔が密に)なる.また,各段にお*YoshimiSugiura:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕杉浦好美:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科(1)(57)12310910-1810/26/\100/頁/JCOPY左図の一部を拡大コントラスト(濃淡)図1縞視標コントラスト感度の視標CSV-1000E(VectorVision社/Good-Lite社).視標は上下4段に分かれており,下の段になるほど空間周波数が高く(縞の間隔が密に)なる.また,各段において右にいくほどコントラストが低く(視標が薄く)なるよう設定されている.縞がどちら側にあるかを被検者に答えてもらい,識別できなくなるところまでカウントすることで,各空間周波数におけるコントラスト感度を測定する.ab図2Amslerチャート(白背景)サイズ10cm×10cm(視野20°×20°)で白背景に5mm幅の格子状の黒線が描かれた視標(a)を検査距離30cm,完全矯正下で患者に中心を固視してもらい,線の歪みや波打ちを感じる部分を実際に記入してもらう(b).……….0o1.0o2.0o図3M-CHARTS視角0.2°.2.0°まで0.1°刻みに間隔を変えた19種類の点線から構成される視標である.検査距離30cm,完全矯正下で患者に中心を固視してもらい,間隔の細かい点線から徐々に間隔の広い点線を提示していく.患者が歪みを自覚しなくなったときの点線の視角をもって変視量とする.ab図4患眼が優位眼の症例および患眼が非優位眼の症例a:患眼である右眼が優位眼の症例.右眼矯正視力は(0.4),右眼(片眼)で測定した変視量は,垂直変視がC1.2°,水平変視が1.2°であった.両眼開放下で測定した両眼変視量は,垂直変視がC0.6°,水平変視がC0.6°であった.Cb:患眼である左眼が非優位眼の症例.左眼矯正視力は(0.6),左眼(片眼)で測定した変視量は,垂直変視がC0.8°,水平変視がC1.1°であった.両眼開放下で測定した両眼変視量は,垂直・水平ともにC0°であった.患眼が優位眼の症例では,両眼視時にも変視を自覚するが,患眼が非優位眼の場合は,両眼開放下では自覚していないことがわかる.図5Ectopicinnerfoveallayer(EIFL)EIFLの厚みが術後変視と関連することが報告されている.図6網膜静脈分枝閉塞症の症例右眼耳側上方の網膜静脈分枝閉塞症.治療前の右眼矯正視力は(0.15),垂直変視はC2.0°,水平変視はC0°であった.抗CVEGF注射で加療後C6カ月,右眼視力は(1.0)まで改善したが,垂直変視はC1.3°,水平変視はC1.1°と残存している.図7不等像視の定量的評価に用いられる視標NewCAniseikoniaTest(NAT)は赤緑分離法を用いた検査であり,患眼に赤フィルター,健眼に緑フィルターを装着することで両眼を分離し,左右眼にそれぞれ大きさの異なる半月図形を提示する.被検者は両眼で見たときに左右の半月図形の大きさが同じに見える組み合わせを選び,そのときの像の大きさの差から不等像視量をパーセンテージで算出する.図8網膜上膜の症例左網膜前膜の症例.左眼矯正視力はC(1.0),視野角C8°の条件で測定した近見の平均不等像視はC+4.5%であったが,視野角C1°の条件で測定した平均不等像視はC+10.5%と大きい値を呈した.–

飛蚊症が気になる─どう考え,どう対応する

2026年10月31日 土曜日

飛蚊症が気になる─どう考え,どう対応するConcernAboutEyeFloaters─Symptoms,Causes,andTreatments三﨑貴文*柳井亮二*はじめに飛蚊症はあらゆる眼科診療の場面においてよく耳にする症状の一つである.「視界に黒いゴミが見える」というのが典型的な患者の訴えであり,見え隠れしたり眼球運動によって揺れ動いたりすることが特徴である.ただし,よく聞いてみると「最初赤いスジのようなものが見えた」,「視界の一部の見え方がおかしい」など原因疾患の特定につながるような症状を聞き取れることや,そもそも飛蚊症ではなく暗点だったということもある.飛蚊症を主訴に受診した患者は経過観察でよい場合が多いが,なかには緊急に治療を要する疾患が原因である場合も隠れていることがある.本稿では,飛蚊症を主訴に来院した患者に対する対応について,飛蚊症の原因となる疾患の病態と鑑別のポイントについて解説する.CI後部硝子体.離硝子体は水と少量のコラーゲン線維やヒアルロン酸からなるゲル状の組織で構成され硝子体腔を満たしている1).加齢に伴って黄斑前方の硝子体腔から硝子体ゲルの液化が進み,70歳でC50%以上の硝子体ゲルが液化する2).硝子体ゲルの液化自体は若年からすでに始まっているが,それだけでは後部硝子体.離は起こらず,加齢に伴い,後部硝子体皮質と網膜との接着が脆弱化することにより後部硝子体.離が生じる(図1).後部硝子体.離はC50歳以降に多くみられ,近視眼や外傷,眼手術,炎症性疾患も発症因子となる2,3).後部硝子体.離は飛蚊症の原因としてもっとも多く,硝子体の網膜牽引による網膜刺激によって光視症を伴うこともある.眼底の診察を行うことで比較的容易に診断は可能であり,硝子体腔にCWeissringとよばれる輪状の浮遊物を視神経乳頭の前方に認める(図2).患者はCWeissringや硝子体のコラーゲン線維の凝集,もしくは後部硝子体.離時の網膜血管の断裂によって微小の硝子体出血を起こすことで飛蚊症を自覚する.また,飛蚊症患者を診た際には,後述するような鑑別疾患を除外することを忘れないように留意しなければならない.とくに,飛蚊症に光視症を伴う場合には,網膜裂孔や網膜.離の可能性を念頭におき,散瞳眼底検査を行うことが重要である.また,経過観察とした場合も飛蚊症の増悪やそのほかに気になるような眼症状があれば放置せずに眼科を受診するよう患者に説明しておくことは重要である.とくに,眼底診察時に網膜格子状変性を認めた場合は後部硝子体.離の進行に伴って網膜裂孔や網膜.離に進展するリスクがあるため,後部硝子体.離を起こしている途中である患者や,偶然,僚眼に格子状変性を認め後部硝子体.離をまだ起こしていないような患者に出会った場合には眼底の定期フォローを積極的に検討する.CII硝子体出血硝子体出血は網膜血管の破綻によって起こる硝子体腔への出血で,その原因は眼疾患や頭蓋内疾患などがある*TakafumiMisaki&RyojiYanai:徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕三﨑貴文:〒770-8503徳島県徳島市蔵本町C2-50-1徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野(1)(51)C12250910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1後部硝子体.離のOCT画像黄斑部の前方に後部硝子体膜が観察できる().視神経乳頭部は接着しており()後部硝子体.離を起こしかけている状態.表1硝子体出血の原因疾患例・網膜裂孔,網膜.離・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜静脈閉塞症・後部硝子体.離・外傷・悪性腫瘍・Terson症候群図2後部硝子体.離にみられるWeissring写真では後極部下方にあるように観察されるが(),実際には硝子体腔に浮遊している.図3硝子体出血のBモード超音波検査所見増殖糖尿病網膜症で経過観察中に硝子体出血を発症した.Bモード超音波検査で出血を示唆する硝子体腔内の高反射()を認める.ac図4外傷性硝子体出血a:初診時の眼底写真.少量の硝子体出血があり透見不良だが,明らかな網膜.離所見は認めず,保存的に経過を観察した.Cb:1週間後の眼底写真.硝子体出血は吸収され,耳側周辺網膜に硝子体出血の原因になったと思われる網膜出血を認めた().c:1カ月後のCOCT画像.眼底写真では出血が消退したようにみえたが飛蚊症は続いており,OCT画像で微細な浮遊物を確認できる().図5馬蹄形網膜裂孔と網膜.離網膜血管をまたぐように裂孔が形成されている().牽引によって血管断裂をきたすと硝子体出血を合併する.馬蹄形裂孔の近傍に円形の裂孔も多発している().図6ぶどう膜炎による硝子体混濁下方に多数の硝子体混濁を認める.表2飛蚊症に対するNd:YAGレーザー治療の満足度,合併症項目長所(Advantages)短所・リスク(Disadvantages)症状改善約半数の患者で症状が改善した残りの半数は変わらないかもしくは悪化したと回答,またプラセボ群でもC9%が改善したと回答視力視力低下の合併症なしプラセボ群と比較して改善なしCQOL(日常生活)CNEIVFQ-25スコアでプラセボ群と比較して見え方,周辺視野,制限,自立が有意に良好患者の期待が過大な場合は満足度が低下する可能性がある予後治療からC6カ月後の時点では有害事象は発生しなかった長期成績に関するエビデンスはまだ十分ではないQOL:qualityoflife,NEIVFQ-25:the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.C表3飛蚊症に対する硝子体手術の満足度,合併症項目長所(Advantages)短所・リスク(Disadvantages)症状改善90%以上の患者で症状が改善または満足と回答約C8.C10%では十分な改善が得られない,または不満足患者満足度多くの研究でC90.C96%が「満足」「非常に満足」と回答術後合併症を生じた患者では満足度が著しく低下する視力平均C0.08ClogMAR改善(約C1視力段改善)術前視力が良好な症例では改善幅は限定的コントラスト感度有意に改善し,見え方の質(QOV)が向上全症例で評価されているわけではないCQOL(日常生活)読書,パソコン作業,運転,精神的負担などが有意に改善患者の期待が過大な場合は満足度が低下する可能性がある白内障白内障手術で治療可能な合併症有水晶体眼では約C31.7%に白内障が発生(もっとも頻度が高い合併症)網膜裂孔発生率は低い約C2.9%硝子体出血多くは保存的に改善約C2.0%黄斑浮腫発生頻度は低い約C1.7%網膜.離現代の小切開CPPVでは比較的まれ約C1.5%と重篤な視機能障害につながる可能性がある緑内障発生率は低い約C1.0%眼内炎きわめてまれ約C0.18%だが失明につながる可能性がある重大合併症予後多くの患者で症状改善が持続長期成績に関するエビデンスはまだ十分ではないQOL:qualityoflife,QOV:qualityofvision,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy)C.C

眼鏡があわない─実用的な眼鏡処方の考え方

2026年10月31日 土曜日

眼鏡があわない─実用的な眼鏡処方の考え方WhyGlassesCanStillFeelWrong:PracticalSolutionsforSpectaclePrescribing長谷部聡*はじめに「眼鏡があわない」という訴えは,単に矯正視力が不良という意味ではない.検査室では1.0まで見えていても,近くを見ると疲れる,床や柱が傾いて見える,読書距離が少し変わるとぼやけるなど,訴えは多様である.眼鏡処方では,屈折異常を光学的に完全矯正することが必ずしも最良とは限らない一方で,装用感を優先するあまり必要な矯正を控えると,視機能を十分に引き出せない.重要なのは,患者の年齢,調節力,両眼視機能,感覚的順応,生活上必要な視距離を踏まえ,「見える度数」から「使える度数」へ調整することである.眼鏡があわない理由は,ライフステージによって異なる.小児では強い調節が屈折検査に入り込みやすく,近視の過矯正や遠視の過矯正を招く.成人では,球面・円柱レンズによる不等像視が問題となる.高齢者では調節力の低下により,近用加入度数と明視域の狭さのバランスが処方の成否を左右する.本稿では,日常診療で遭遇しやすい不定愁訴を,小児期,成人期,高齢期の順に整理し,実践的な対応策を解説する.I小児期―過矯正眼鏡が視力や眼位に及ぼす影響小児の眼鏡処方でもっとも注意すべき点は,10Dを超える強い調節力である(図1).オートレフラクトメータを覗いた際に器械内の視標へ調節が働けば,近視は実際より強く,遠視は実際より弱く測定される.したがって,自覚的検査やオートレフの数値だけで処方度数を決めず,必要に応じて調節麻痺下屈折検査を行う.調節緊張,弱視,不同視,調節性内斜視が疑われる場合には,1%シクロペントレートによる評価がとくに重要である.2).近視眼鏡は,原則として完全矯正をめざす.完全矯正は正視にもっとも近い光学的状態であり,遠見視力だけでなく,コントラストや立体視を含む視機能を最大限に発揮させる.かつては「児童・生徒の近視を完全矯正すると進行が速くなる」と考えられ,意図的な低矯正が行われた.しかし,無作為化比較試験では低矯正に近視進行を抑える効果は示されず,むしろ進行を促す可能性も報告されている.近視進行予防を意図して一律に低矯正とする根拠は乏しい4,5).ただし,「完全矯正」と「過矯正」は明確に区別しなければならない.近視を過矯正すれば,近業時にはその分だけ余計な調節が必要になる.調節ラグが増大し,近見時のボケや眼精疲労が生じる.処方候補レンズの上に+0.50Dを重ねても遠見視力が低下しない場合は近視過矯正を疑う.赤緑試験,検影法,調節麻痺下のオートレフ値などを比較して確認すべきであろう.3).また,完全矯正が常に装用可能とは限らない.調節性輻湊により近見に内斜偏位が生じ,霧視や眼精疲労が起こることがある.こうした高AC/A比の患者では,近視低矯正の単焦点眼鏡や近用加入を備えた累進屈折力レンズが選択肢となる.また,固視不良や眼振などで屈折.*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学眼科学2(1)(45)12190910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1円柱レンズ(凹レンズ)の軸角度によるイメージの変化白点は軸,矢印は圧縮作用の方向を示す.倍率効果は変わらないものの(Ca~d),軸が斜めになると垂直線が傾斜する(Cc,d).左眼C-3DAx90°右眼planeb左眼C-3DAx135°右眼C-3DAx45°図2経線不等像視による空間感覚の歪みー回転ドア感覚(a)とスラント感覚(b)を誘発するステレオグラム―●―)をレンズ裏面から眺めた―)は図形中心を通る垂直線(Ca)または水平線(%)200150100500正しい乱視軸を基準とする軸シフト量図3円柱レンズの軸シフト量と残余乱視の関係破線は本文中の経線不等像視の対策の第一,第二を併用した場合.残余乱視0153045607590(°)(cm)1009080706050403020100近見加入度数図4近用加入度数と明視域の関係(調節力0.5Dの場合)加入度数を増やすと,明視域(C■)は急速に狭まる.焦点深度(DOF)は考慮していない.視距離01234(D)acb図5Sturmコノイドパースペクティブ(Ca),側面図(Cb),正面図(Cc)を示す.入射光は前焦線(1),最小錯乱円(3),後焦線(5)の順に通過する.コノイドの範囲内(1.5)では,ボケ像の形状は異なるが,面積は大きく変化しない(Cc).’C–

ピントがあわない─調節異常と見え方の 不安定さ

2026年10月31日 土曜日

ピントがあわない─調節異常と見え方の不安定さBlurredVision.AccommodationDisordersandVisualInstability前田直之*Iピントがあわないとは何を意味するのか眼科外来で出会う不定愁訴のなかで,「ピントがあわない」という主訴は比較的多い.しかし,症状をよく問診すると,「近くを見るとき,ピントがあうのに時間がかかる」「近くを見たあと,遠くがぼやける」「遠くは見えるが近くが見にくい」,「眼鏡をかけてもピントがあわない」「パソコンしていると徐々にかすむ」など多彩である.そのため,何を見ているときにピントがあわないのか,明所で困るのか暗所で困るのかなど,具体的かつ詳細な問診が鑑別診断には必要である.また,眼鏡とコンタクトレンズ(contactlens:CL)の装用歴,どのような状況で何を装用しているか,laserinsitukeratomi-leusis(LASIK),有水晶体眼内レンズなど屈折矯正手術歴,職業,趣味を含めたライフスタイル,デジタルデバイスの使用状況,眼疾患・全身疾患の既往,服用中の薬剤,外傷の既往などが参考になる.CII屈折異常や調節異常以外の眼疾患はないかピントがあわないという主訴に対して,屈折異常と調節異常を念頭に考えるべきだが,多くの眼疾患との鑑別診断が重要である(表1).そのため,まず他覚的屈折検査,自覚的屈折検査,視力検査を行う.さらに,眼圧測定,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査などルーチンの眼科的検査を行って,眼位異常,前眼部疾患,白内障,緑内障,網膜疾患,神経眼科疾患などの有無を診断し,主訴表1ピントがあわない,見え方が不安定な際の主要な鑑別診断屈折異常・未矯正の屈折異常・眼鏡,コンタクトレンズ(CL),屈折矯正手術の過矯正,低矯正など・累進屈折力眼鏡,遠近両用CCL,老視矯正眼内レンズの不適応調節異常・亢進:調節緊張,調節けいれん・減弱:老視,調節麻痺高次収差・増加:円錐角膜,核白内障など・変動:ドライアイ,流涙症など複視,歪視,大視,小視,中心暗点,視野欠損,飛蚊症など・眼位異常,眼球運動障害など・黄斑疾患,緑内障,視神経疾患など・硝子体出血・混濁などに関連する眼疾患があれば治療する.矯正視力が良好で眼疾患がなければ,屈折異常と調節異常を疑い,以下の手順で対応する.ただし,矯正視力が良好かつ一般的な検査で異常がなくとも,見え方に不安定さをもたらす眼疾患が存在しうる.たとえば,角膜に染色がないドライアイや軽度の涙道疾患でも瞬目に伴って見え方が動的に変化し,軽度の円錐角膜や核白内障,水晶体のCretrodotsやCwatercleftsでは像が不鮮明となる.あるいは,軽度の黄斑疾患,緑内障,視神経疾患などでも,歪視や視野異常などでピントがあわないと訴える可能性がある.*NaoyukiMaeda:湖崎眼科〔別刷請求先〕前田直之:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町C1-51-10湖崎眼科(1)(39)C12130910-1810/26/\100/頁/JCOPYa小数33cmblogMAR40cmlogMAR70cmclogMAR40cmlogMAR60cmdef図1中間,近見視力の測定a:石原氏近点検査表(はんだや).b:ETDRS近見視力表(はんだや).c:ETDRS近見視力表(Good-Lite社).d:BinoptometerC4P(Oculus社).e:Chronos(トプコン).f:PHANTOM(ニデック)C.C表2遠見,中間,近見視力の新しい表記法裸眼遠見視力CUDVACuncorrecteddistancevisualacuity裸眼中間視力CUIVA*Cuncorrectedintermediatevisualacuity裸眼近見視力CUNVA*Cuncorrectednearvisualacuity両眼裸眼遠見視力CBinocularUDVACbinocularuncorrecteddistancevisualacuity両眼裸眼中間視力CBinocularUIVA*Cbinocularuncorrectedintermediatevisualacuity両眼裸眼近見視力CBinocularUNVA*Cbinocularuncorrectednearvisualacuity矯正遠見視力CCDVACcorrecteddistancevisualacuity矯正中間視力CCIVA*Ccorrectedintermediatevisualacuity遠見矯正中間視力DCIVA*Cdistance-correctedintermediatevisualacuity矯正近見視力CCNVA*Ccorrectednearvisualacuity遠見矯正近見視力CDCNVACdistance-correctednearvisualacuity両眼矯正遠見視力CBinocularCDVACbinocularcorrecteddistancevisualacuity両眼矯正中間視力CBinocularCIVA*Cbinocularcorrectedintermediatevisualacuity両眼遠見矯正中間視力CBinocularDCIVA*Cbinoculardistance-correctedintermediatevisualacuity両眼矯正近見視力BinocularCNVA*Cbinocularcorrectednearvisualacuity両眼遠見矯正近見視力CBinocularDCNVACbinoculardistance-correctednearvisualacuity*測定距離を付記する(文献C1より引用)=-変動する.調節麻痺後の遠視化が大きいことが特徴で,仮性近視を呈する.調節反応も変動が大きく,輻湊麻痺や縮瞳を伴うこともある.不安・心因性要因との関連も考えられている.治療は,調節麻痺剤点眼を主体として近業を減らし,必要があれば眼鏡に近用加入する.心理的要因があれば,その軽減をはかる.調節麻痺は,調節が著しく低下・消失した状態で,近見障害を訴える.片眼性と両眼性がある.原因として,視蓋前域やCEdinger-Westphal核,動眼神経,毛様体神経節,短毛様神経,毛様体筋が,脳の病変,動脈瘤,糖尿病,薬物,感染,炎症などで障害されて生じる.毛様体神経節以降の障害では内眼筋麻痺で散瞳し,動眼神経麻痺では散瞳に眼球運動障害と眼瞼下垂を伴う.急性発症の調節麻痺は至急原因を精査する.CV小児小児では,ピントがあわない,視力が不良などと訴えないことがある.そのため,3歳児健診,幼稚園・保育所・認定こども園健診,就学前健診,学校健診,外傷や眼疾患で受診時などの機会に屈折異常と調節異常を見逃さないことが大切である.小児の大きな屈折のトレンドを考えると,乳幼児期には遠視に始まり発達に伴って正視化し,児童・生徒期には,近業の増加に伴い近視化する子供が増加し,その後成人まで近視が増加する.そのため,屈折異常の変化に応じて適切な眼鏡処方が必要である6).小児は調節力が大きいため,屈折異常に加えて近業による調節と輻湊に注目し,調節麻痺下での屈折検査を励行し,調節緊張や調節けいれんを早期に発見・治療する必要がある.調節によって遠方が明視可能な潜伏遠視と調節で代償不可能な顕性遠視をあわせたものが全遠視であるが,小児では調節力が大きいために遠視が軽度なら潜伏遠視として裸眼視力が良好で発見されにくく,また,遠視が強ければ遠見時の強い調節と輻湊によって調節性内斜視となる.小児の屈折矯正に関しては,遠視や不同視による弱視の発見と治療が重要であるのはいうまでもないが,乱視が強い患者では経線弱視のリスクがあるので乱視矯正に注意が必要である.また,頻度は少ないが円錐角膜が弱視と間違われる可能性もあり,乱視の度数や軸に左右差がある場合には,角膜形状解析を施行する.近年では,小児に対する近視進行抑制治療が話題になっている.ここで注意すべきなのは仮性近視である.仮性近視は,調節異常によって生じる可逆的な近視化であり,眼軸長の延長はなくて治療可能である.そのため,近視が急に進んだ場合にいきなり近視進行抑制治療をするのではなく,調節緊張など調節異常を除外する必要がある.その意味でも,雲霧法による屈折検査,治療開始前の調節麻痺下での屈折検査,眼軸長の測定が必須である.CVIデジタルデバイス使用者デジタルデバイスが普及し始めた頃は,そのデバイスは主としてパソコンで,画面を長時間見続けることで眼や身体,心に不調が起こる疾患は,わが国ではCvisualCdisplayterminal(VDT)症候群として労働衛生の観点から捉えられ,欧米ではCcomputerCvisionsyndromeとよばれた.それが,スマートフォンやタブレット端末の登場,リモートワーク,SNSや動画サイトの普及に伴い,職場に限らずさまざまな場所で,さまざまなデジタルデバイス使用者に認められる眼精疲労などの眼症状が問題となり,わが国ではテクノストレス眼症あるいはIT眼症とよばれ,国際的にはデジタル眼精疲労(digitaleyestrain:DES)とよばれることが多い.CTearCFilmC&COcularCSurfaceSociety(TFOS)LifeC-styleCWorkshopでは,DESを「デジタル機器のスクリーンを見ることによって,眼症状が新たに生じる,または増悪する状態」と定義している7).症状は,眼精疲労,乾燥感,異物感,灼熱感,流涙,充血などの眼症状,ぼやけ,焦点があいにくい,遠近の切り替え困難,複視などの視機能の症状,頭痛,頸肩部痛などの全身症状に分けられる.DESの主因として,デジタルデバイスによる長時間の近業による調節と輻湊の負荷と,瞬目減少に伴うドライアイの悪化が考えられている.そこに,近業時の無理な姿勢,不適切な作業距離,不適切な眼鏡やCCL,部屋の明るさ,温度,湿度など環境の問題が悪化因子と考えられる.現時点では確立した診断基準1216あたらしい眼科Vol.43,No.10,2026(42)表3デジタル眼精疲労への対応評価項目問診・検査対応近業時間パソコン,スマートフォン,タブレットの使用時間近業時間の軽減,定期的休息の勧め作業距離パソコンC50.C70cm,スマートフォンC20.C40Ccmなど距離を離して調節,輻湊の負荷軽減使用環境照明,グレア,画面輝度,姿勢眼精疲労悪化因子の軽減症状眼精疲労,乾燥,ぼやけ,頭痛,複視重症度判定と老視,ドライアイ,眼位異常などの診断治療視力遠見,中間,近見作業距離での視機能評価と屈折矯正屈折過矯正,低矯正適正な矯正調節調節力,調節反応調節けいれん,調節緊張,老視,調節麻痺の診断治療眼位斜位・斜視,輻湊,融像,AC/A比眼位異常の診断治療眼表面BUT,BUP,染色,涙液量,MGDなどドライアイ,涙道疾患などの診断治療眼疾患角膜,水晶体,網膜,緑内障などほかの眼疾患の診断治療AC/A比:調節性輻湊/調節比(accommodativeconvergence/accommodation),BUT:涙液層破壊時間(break-uptime),BUP:涙液層破壊パターン(break-uppattern),MGD:マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction)

眼がゴロゴロする─異物感の原因を探る

2026年10月31日 土曜日

眼がゴロゴロする─異物感の原因を探るForeignBodySensation:SearchingfortheSpecificCause有田玲子*はじめに「眼がゴロゴロする」は,日常の眼科外来でもっとも多く聞く訴えの一つである.しかし,実際に異物が入っていることはまれで,大半は眼表面の恒常性が崩れた結果として生じている.視力に影響しないことが多いため軽く扱われがちだが,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)を大きく下げ,何カ所も医療機関をわたり歩く例も少なくない.原因は眼瞼縁から角膜まで広い範囲にわたる(表1).しかも複数の原因が重なっていることが多く,一つみつけて満足すると残りをとりこぼす.しかし裏を返せば,診察の順序さえ決めておけば,大半は外来で原因にたどり着ける.特別な検査機器はほとんど必要なく,細隙灯顕微鏡と染色液があれば足りる.本稿では,筆者が日ごろ行っている考え方と手順を,できるだけ具体的に述べる.教科書的な網羅ではなく,外来で実際に役立つ順序と着眼点に重点をおく.I異物感はどこで生じているのか角膜は三叉神経第Ⅰ枝の支配を受け,人体でもっとも知覚神経終末の密度が高い組織である.この神経終末は,機械的刺激,乾燥,浸透圧の上昇,炎症性物質のいずれによっても興奮する.ここで重要なのは,瞬目のたびに眼瞼縁と眼表面が擦れあっているという事実である.異物感の多くは「摩擦の増大」という一つの最終経路に収束すると考えられる.そして摩擦が増える場所は,つぎの三つである(図1).①擦る側─眼瞼縁,睫毛②潤滑─涙液層③擦られる側─角結膜上皮この三つの摩擦が起きる場所に分けて考えると,原因検索も治療の組み立ても整理しやすくなる.「ドライアイかどうか」から入るのではなく,「どこが壊れているか」から入るのが基本的な考え方である.この見方には実際上の利点がある.異物感を訴える患者に人工涙液を処方しても改善しないという経験は誰にでもあるだろう.それは潤滑だけに介入し,擦る側を放置しているためであることが多い.逆に,睫毛1本を抜くだけで訴えが消える患者もいる.どこが壊れているかを見きわめることが,治療の方針を決める.II問診で絞り込む診察前の数分の問診で,鑑別はかなり絞れる.必ず聞くべきなのはつぎの6点である.1.症状の時間帯起床時にもっとも強ければ,睡眠中の乾燥,再発性角膜びらん,兎眼,睡眠時無呼吸に伴う眼瞼弛緩を考える.夕方に増悪するならドライアイやvisualdisplayterminal(VDT)作業の影響を疑う.*ReikoArita:伊藤医院〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042埼玉県さいたま市見沼区南中野626-11伊藤医院(1)(31)12050910-1810/26/\100/頁/JCOPY表1異物感をきたすおもな疾患と鑑別のポイント疾患症状の特徴おもな所見初期治療睫毛乱生・内反片眼性,持続性角膜に接触する睫毛抜去,電気分解,手術Demodex眼瞼縁炎両眼性,掻痒感を伴う円柱状フケ眼瞼清拭(TeaTreeOil)マイボーム腺機能不全両眼性,起床時増悪開口部閉塞,マイバムの混濁温罨法,眼瞼清拭,点眼,IPL,TMAドライアイ両眼性,夕方以降増悪BUT短縮,SPK点眼,涙点プラグ結膜弛緩症高齢者,流涙を伴う下方の弛緩結膜点眼,結膜切除アレルギー性結膜疾患掻痒が主体乳頭増殖眼瞼清拭,抗アレルギー点眼,内服糸状角膜炎強い疼痛角膜上の糸状物除去,基礎疾患治療再発性角膜びらん起床時の激痛上皮の不整・剥離保護,軟膏瞼板下溝の異物突然発症,片眼性縦方向の線状SPK除去神経障害性眼痛所見に比し症状が強い特異的所見に乏しい点眼薬IPL:光治療(intensepulsedlight),TMA:thermo-mechanicalablation,BUT:涙液層破壊時間(break-uptime),SPK:点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy).異物感(ゴロゴロする)図1異物感を生む三つの理由①擦る側(眼瞼縁・睫毛),②潤滑(涙液層),③擦られる側(角結膜上皮)を模式的に示す.瞬目による摩擦がどの層の破綻で増大するかを考えると、原因検索と治療の組み立てが整理される.MGD:マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction),SPK:点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy).a図2Demodexa:Demodexに伴う円柱状フケ(cylindricaldandru.).b:Demodexの虫体.図3前部眼瞼縁炎図4後部眼瞼縁炎睫毛より皮膚側に炎症所見や感染の徴候がある.睫毛より眼球側(マイボーム腺開口部周囲)に炎症所見がある.Cab図5マイボーム腺機能不全(MGD)患者の眼瞼所見a:Plugging.b:混濁したマイバム(meibum)C.C図7光治療(IPL)図6非接触マイボグラフィーマイボーム腺機能不全(MGD)に対するデバイス治療.Ca:上眼瞼のマイボーム腺.白く反射している部分がマイボーム腺.細くて長い.Cb:下眼瞼のマイボーム腺.中央部の黒く抜けている部分がマイボーム腺が消失している部分.図8マイボーム腺圧出麻酔点眼を行ったあと,鑷子にてマイバム(meibum)を圧出する.図9上輪部角結膜炎図10Lidwiperepitheliopathy患者を下方視して上眼瞼結膜を観察する.フルオレセイン染色に瞬目の際に眼球と接する眼瞼の裏側の縁が染色される.て点状に染色される.睫毛脱落を伴う患者では生検を考慮する.瘢痕性結膜疾患:眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群では,円蓋部の短縮や瞼球癒着を確認する.感染症:単純ヘルペス角膜炎,CL装用者のアカントアメーバ角膜炎では,初期に症状に比して所見が乏しい時期がある.とくに後者は,強い疼痛が持続するにもかかわらず所見が軽微なことがあり,CL装用歴と水道水での洗浄習慣の聴取が診断の糸口となる.診断の遅れが視力予後を大きく左右するため,装用者の難治性の異物感・疼痛では常に鑑別に置く.CIV所見が乏しいとき一通り診ても異常が乏しく,それでも強い異物感を訴える患者がいる.ここで「異常ありません」とだけ伝えるのは,患者にとってもっともつらい対応である.このような患者では,神経障害性眼痛(neuropathicCocularpain:NOP,用語解説参照)を考える.屈折矯正手術後,長期の点眼使用後,慢性のドライアイの経過中などに生じ,末梢および中枢の感作が関与すると考えられている.こうした患者は,「原因がない」のではなく「痛みを感じる神経が過敏になっている状態」の可能性がある.多くの患者は,これまで「異常なし」と言われ続けて不安を募らせている.最近,眼の表面の知覚神経や免疫細胞に存在する一過性受容体電位チャネルCV1(transientCreceptorCpotentialCvanilloid1:TRPV1)を選択的に遮断するモツギバトレブ点眼薬が発売され,所見が少ないが症状の強い患者に処方され,改善が得られている.あわせて,防腐剤を含む点眼薬の多剤併用を見直すこと,そして所見が乏しくても摩擦を減らす治療(温罨法や眼瞼清拭)を試みることは有用である.実際,神経障害性の要素があると考えた患者でも,眼瞼縁を整えることで訴えが軽減する例をしばしば経験する.CV治療の組み立て原因が複数にまたがる場合,前述の三要素に沿って治療を組み立てている.①擦る側を整えるC─温罨法,眼瞼清拭,睫毛処置,Demodex対策②潤滑を増やす─点眼,涙点プラグ③擦られる側を守る─上皮保護と炎症の制御順序が大切である.①を飛ばして②だけを続けても改善しない患者が非常に多い.点眼を増やす前に,まず眼瞼縁を整えることが重要である.もう一つ重要なのは,効果判定の時期をあらかじめ患者と共有しておくことである.温罨法や眼瞼清拭は数日では効果が出ない.「1カ月続けてから判断しましょう」と最初に伝えておくと,中断が減り,つぎの受診での評価もしやすくなる.そして,原因が一つとは限らないことを最後にもう一度確認したい.MGDと結膜弛緩症が併存する高齢者,アレルギーとドライアイが重なる若年者は日常的に見かける.一つ治療して部分的にしか改善しないときは,ほかに併存疾患がないかを見なおすことが肝要である6).おわりに異物感は「たかがゴロゴロ」ではない.しかし系統的に診れば,その多くは原因にたどり着ける訴えでもある.最後にもう一度だけ強調したい.異物感の診察でもっとも見落とされているのは,眼瞼縁である.上眼瞼を翻転し,眼瞼を圧迫してマイバムをみる.この二つを習慣にするだけで,診断できる患者は確実に増える.C■用語解説■マイボーム腺機能不全(MGD):マイボーム腺の慢性びまん性の異常で,マイバムの供給や性状が変化した状態.涙液の蒸発亢進を招き,異物感や乾燥感の原因となる.涙液層破壊時間(BUT):開瞼後に涙液層が破壊されるまでの時間.日本のドライアイ診断基準ではC5秒以下を異常とする.円柱状フケ(cylindricaldandru.):睫毛根部を筒状に取り巻くフケ様物質.Demodex寄生に特徴的な所見とされる.マイボグラフィー:赤外線を用いてマイボーム腺の形態を非接触で観察する検査.腺の脱落や短縮,変形を評価できる.CLidwiperepitheliopathy(眼瞼縁上皮症):瞬目時に眼表面と接触する上眼瞼縁の眼球側粘膜に生じる上皮障害.フルオレセイン染色やリサミングリーン染色で帯(37)あたらしい眼科Vol.43,No.10,2026C1211

涙が出る─流涙を訴える患者への対応

2026年10月31日 土曜日

涙が出る─流涙を訴える患者への対応ManagementofPatientswithWateryEye:DifferentialDiagnosisandClinicalEvaluation白石敦*はじめに涙腺から分泌された涙液は,眼表面を潤したのち,涙道を通って鼻腔へ排出される.通常,涙液の分泌と排出のバランスは保たれているが,さまざまな要因によってこのバランスが崩れると,流涙症状が生じる.流涙症状というと涙道疾患を思い浮かべる読者も多いと思われるが,流涙症を訴えて受診した患者の半数以上は涙道以外に原因があったとの報告もある1,2).流涙を訴える患者では,涙道閉塞などによって導涙機能が低下する導涙性流涙(epiphora),刺激などによって涙液分泌が亢進する分泌性流涙(lacrimation),さらに両者が複合して生じる場合がある(表1).したがって,実臨床では,涙腺,眼瞼,眼表面,涙道,鼻腔のすべての部位について,流涙の原因となる病態を念頭において診察することが重要である.また,小児では,先天鼻涙管閉塞,鼻炎,睫毛内反など,成人とは異なる原因も多いため,これらの疾患を念頭において診察する必要がある.本稿では,流涙症の原因となる主要疾患を部位別に分類し,その発症病態について考察する.I鑑別診断1.眼表面疾患眼表面疾患による流涙の多くは,分泌性流涙である.眼表面に分布する三叉神経が刺激されると,その信号は毛様体神経節,三叉神経節を経て三叉神経核へ入力され表1流涙症の分類眼表面疾患結膜炎分泌性流涙角結膜上皮障害結膜結石・異物結膜弛緩分泌性流涙導涙性流涙ドライアイ(MGD)分泌性流涙睫毛乱生分泌性流涙眼瞼疾患眼瞼内反分泌性流涙導涙性流涙眼瞼外反兎眼涙道疾患涙道閉塞・狭窄導涙性流涙鼻腔疾患鼻炎・副鼻腔炎導涙性流涙る.さらに,上唾液核を介して,涙腺に分布する顔面神経の副交感神経線維が刺激され,反射性の涙液分泌が生じる.このreflexloopにより,眼表面疾患では反射性涙液分泌が亢進し,分泌性流涙が生じる3)(図1).ただし,角膜炎,角膜異物,角膜上皮.離,結膜異物などでは,強い反射性涙液分泌をきたすものの,外来受診時の主訴は疼痛や異物感などの刺激症状であることが多く,流涙は副次的な症状である場合が多い.また,結膜炎でも,眼脂や掻痒感など,原因疾患に特有の症状が主訴となることが多い.一方で,アレルギー性結膜炎や流行性角結膜炎では,流涙が主症状となる場合もあるため注意が必要である.*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻眼科学〔別刷請求先〕白石敦:〒791-0295愛媛県東温市志津川454愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻眼科学(1)(25)11990910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1分泌性流涙のメカニズム図2流涙症診察の流れ-acd図3涙管通水検査a:上涙小管閉塞.通過がなく,通水する涙点から生理食塩水の逆流を認め,対側涙点からの逆流がなければ通水側の涙小管閉塞である.Cb:通過がなく,対側涙点から生理食塩水の逆流を認める場合は,総涙小管閉塞である.Cc:通過がなく,対側涙点から粘液の逆流を認める場合,涙.または鼻涙管閉塞である.膿性逆流物を認める場合,涙.炎を併発している.Cd:血性の逆流が認められた場合には,涙道内に腫瘍性病変を疑う.涙小管炎や涙.炎でも炎症が強い場合には血性の逆流物を認めることがある.Ce:涙.結石の場合には膿性の逆流が認められることが多く,通過がある場合とない場合がある.前眼部異常なしなしありCT・MRIによる画像診断図4流涙症診断のフローチャート-