病的近視PathologicMyopia佐柳香織*はじめに強度近視は.6.0Dより強い近視と定義されている.近年,近視が増加傾向で,強度近視も増加傾向にあり,日本では40歳以上の成人の約5.0%を占める1).病的近視の定義は2015年にMETA-analysisofPathologicMyopia(META-PM)studygroupによって「びまん性萎縮以上の網脈絡膜萎縮を伴う,もしくは後部ぶどう腫を有する近視眼」と定義された2).病的近視は近視性黄斑部新生血管(myopicmacularneovascularization:近視性MNV),硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)などさまざまな病変を生じ,ときに重篤な視力低下をきたす.I近視性脈絡膜血管症(近視性MNV)近視性MNVは「病的近視眼に合併する脈絡膜血管新生(macularneovascularization:MNO)」である.発症頻度は強度近視の約10%で,30.40%は両眼にみられる3).網膜色素上皮上に存在する2型の小型MNV(通常1乳頭径以下)が多く,自然退縮すると黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て広範囲に網脈絡膜萎縮を生じ,高度の視力障害をきたす.10年後には96.3%が黄斑部脈絡膜萎縮を生じて視力が0.1以下になるとの報告もある4).一方,病的近視眼でない強度近視にもMNVは生じる.この場合,有意に男性に多く,眼軸が短く,ベースラインgreatestlineardimension(GLD)が大きく,ラッカークラックが少なく,ポリープ状脈絡膜血管症(pol-ypoidalchroidalvascuiopathy:PCV)やoccultが多く,対側眼のドルーゼンが多いという加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に似た特徴をもち,治療回数も近視性MNVより多い5).「病的近視かどうか」の判定に眼底写真だけでなく,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での脈絡膜厚(乳頭周囲びまん性萎縮は鼻側脈絡膜厚56.5μm以下,黄斑部びまん性萎縮は中心窩脈絡膜厚62μm以下)も参考にする6).1.近視性MNVの診断(図1)患者は急な視力低下や歪視を主訴に来院することが多い.網脈絡膜萎縮のために検眼鏡的にMNVや出血を確認できない場合でも,自覚症状がある場合はOCTや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)で確認する.a.OCT所見OCTでは少量の滲出性変化を伴うドーム状高輝度隆起性病変を網膜下に認める.出血やフィブリンを伴う患者ではMNV上に淡い高輝度塊(subretinalhyperre.ectivematerial:SHRM)が,また外境界膜の不鮮明化も観察される.近視性MNVは小型なため,中心窩スキャンで病変をみつけられない場合があり,中心窩周囲の画像も確認する.近視性網膜分離症などを合併し,MNVの活動性がわかりにくい場合は,造影検査でMNVからの漏*KaoriSayanagi:さやなぎ眼科〔別刷請求先〕佐柳香織:〒666-0017兵庫県川西市火打1-16-6オアシスタウンキセラ川西2階さやなぎ眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(67)303図1近視性MNV典型例70代,男性.眼軸長C29.06mm,RV=(1.5).歪視にて受診.a~f:治療前.a:眼底写真.黄斑部に黄白色塊.b:OCT.網膜下液を伴う網膜下高輝度隆起性病変.Cc:OCTA.ORCCslabで血管シグナル.Cd:フルオレセイン蛍光造影.TypeC2MNV.Ce:インドシアニングリーン蛍光造影(初期).中心窩にCMNV.Cf:インドシアニングリーン蛍光造影(後期).ラッカークラック.Cg~i:抗CVEGF療法C1カ月後.Cg:眼底写真.周辺に色素を伴うCMNV.Ch:OCT:網膜下液は消失.MNVはRPEで囲い込まれている.Ci:OCTA.血管シグナルは治療前より小さくなっている.図2単純出血の例70代,女性.眼軸長C26.57mm,LV=(0.9).a~f:初診時.a:眼底写真.黄斑部に出血.b:OCT.網膜下高輝度病変.RPEラインは保たれている.c:OCTA.CCslabで血管シグナルはみられない.Cd:フルオレセイン蛍光造影.出血によるブロックのみ.e,f:インドシアニングリーン蛍光造影(初期,後期).中心窩に小さなラッカークラック.g~i:半年後.g:眼底写真.出血は消退.h:OCT.高輝度病変は消失.i:OCTA.血管シグナルはみられない.図3近視性MNVの例80代,女性.LV=(0.6).a:OCT.中心窩下にCPREに囲われたCMNVを認める.網膜分離症を伴っている.Cb:OCT.MNVの境界が不明瞭となり,MNV上部にCSHRMを認める().図4近視性網膜分離症の分類(OCTによる)a:S0.明らかな網膜分離なし.Cb:S1.中心窩外網膜分離.Cc:S2.中心窩のみの網膜分離.Cd:S3.中心窩だが黄斑全体に及ばない網膜分離.e:S4.黄斑全体に及ぶ網膜分離.図5網膜分離症の進行80代,女性,眼軸長C28.75mm.Ca:眼底写真では黄斑部に萎縮を認める.b:外層CLMHを伴う網膜分離症.Cc:分離症の丈が高くなってきている.Cd:網膜分離症内にCRDを生じている.内層CLMHも認める.Ce:硝子体手術後.網膜分離,RDともに一部を残して復位している.e図6近視性MHの例a:外層LMH.網膜分離症を伴っている.硝子体や内境界膜による牽引もみられる.Cb:MH(.at型).c:MH(schisis型).Cd:MHRD..離丈が高いため画像が一部反転している.C–’C—