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ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):833.836,2024cブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果藤嶋さくら*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CPrescriptionPatternofBrimonidine/RipasudilFixedCombinationEyeDropsSakuraFujishima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(以下,BRFC)の処方パターンを調査し,変更症例では短期的な眼圧下降効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:BRFCが新規に投与されたC176例を対象とした.処方パターンを追加症例,変更症例,変更追加症例に分けた.変更症例では変更前の点眼薬を調査し,変更前点眼薬別に変更前後の眼圧を比較し,副作用,中止例を検討した.結果:変更症例はC151例,変更追加症例はC15例,追加症例はC10例だった.変更症例の変更前点眼薬はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例,ブリモニジン点眼薬C35例などだった.眼圧は両点眼薬症例ともに変更前後に変化はなかった.副作用はC3.3%,中止例はC2.6%で出現した.結論:BRFCは多剤併用の原発開放隅角緑内障症例で同成分同士からの変更として使用されることが多かった.変更症例の変更後の眼圧下降と安全性は良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheCpatternsCofCprescribingCbrimonidine/ripasudilC.xedCcombination(BRFC)eyedropsandshort-termintraocularpressure(IOP)-loweringsafetyande.cacyinglaucomaandocularhypertensioncases.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved176patientsinwhomBRFCwasnewlyadminis-tered.WecategorizedthepatternsofprescribingascasesinwhichBRFCwasaddedtopreviousmedications,cas-esCthatCswitchedCtoBRFC(changed)C,CandCchanged/added.CIOPCbeforeCandCafterCtheCchangeCforCeachCeyeCdropCchangedCwasCcompared,CandCtheCsideCe.ectsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:ThereCwereC151CcasesCofCchanges,C15CcasesCofCchanged/added,CandC10CcasesCofCadded.CInCtheCchangedCcases,CthereCwereCbrimonidineCplusCripasudilCinC113,CbrimonidineCinC35,CandCothers.CNoCdi.erenceCinCIOPCwasCobservedCbetweenCbeforeCandCafterCtheCchange.Sidee.ectsoccurredin3.3%ofthecases,and2.6%ofthecasesdroppedout.Conclusions:Our.ndingsrevealedthatBRFCwasusedwithhighfrequencyinPOAGpatientstakingmultiplemedicationsasamodi.cationofthesameingredients,andthatthesafetyande.cacyofIOPloweringwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):833.836,C2024〕Keywords:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,処方パターン,眼圧,副作用.brimonidine/ripasudile.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,adversereaction.Cはじめに緑内障薬物治療において多剤併用になるとアドヒアランスは低下しやすい1).そこでアドヒアランス向上のために配合点眼薬が開発された.従来から日本で使用可能だった配合点眼薬はすべてCb遮断薬を含有していたが,Cb遮断点眼薬を含有しないブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬がC2020年C6月より使用可能になり,呼吸器系疾患や循環器系疾患を有する症例でも配合点眼薬を使用できるようになった.そして今回Cb遮断薬を含有しないC2種類目の配合点眼薬がC2022年C12月より使用可能となった.このブリモニジン/リパスジル配合点眼薬はブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬を含有している.日本で行われた治験や健常人における検討で〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(87)C833ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,臨床現場でどのような症例にブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例についてその処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2022年C12月.2023年C2月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(グラアルファC1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者176例C176眼(男性C100例,女性C76例)を対象とした.平均年齢はC66.9C±12.5歳(平均C±標準偏差)(32.91歳)(範囲)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C127例,続発緑内障C27例(落屑緑内障C11例,ぶどう膜炎C10例,血管新生緑内障C3例,糖尿病網膜症C2例,ステロイド緑内障C1例),正常眼圧緑内障C17例,原発閉塞隅角緑内障C3例,小児緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.投与前眼圧は投与前C2回の平均眼圧,投与後眼圧は投与後はじめての来院時の眼圧として解析した.投与前眼圧はC17.4C±6.9CmmHg(10.0.54.5mmHg)であった.投与前の使用薬剤数はC4.5C±1.2剤(0.8剤)だった.投与後眼圧は投与C2.3C±0.9カ月後(1.4カ月後)に測定された.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.追加群,変更追加群では投薬前後の眼圧を比較し,副作用と中止症例を調査した.変更群では変更した点眼薬を調査し,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬から変更した症例についてはそれぞれ変更前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果全症例のうち追加群はC10例(5.7%),変更群はC151例(85.8%),変更追加群はC15例(8.5%)であった.追加群は原発開放隅角緑内障C5例,続発緑内障C4例(落屑緑内障C2例,ぶどう膜炎C2例),正常眼圧緑内障C1例であった.追加前眼圧はC21.2C±9.1CmmHg(15.0.46.0CmmHg),追加後眼圧はC17.8C±6.1CmmHg(10.0.32.0CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.06).追加前の使用薬剤数はC2.9C±0.9剤(1.4剤)であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C10例,続発緑内障C3例,原発閉塞隅角緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.変更追加前眼圧はC24.8C±8.1CmmHg(11.0.42.0CmmHg),変更追加後眼圧はC22.0C±13.5CmmHg(10.0.56.0CmmHg)で,眼圧は変更追加後に有意に下降した(p<0.05).変更追加前の使用薬剤数はC2.9C±1.9剤(0.5剤)であった.変更追加後の副作用はC2例(眼瞼炎,眼瞼腫脹+結膜充血)で出現した.中止症例はC4例で,眼圧下降不十分C2例,副作用C2例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例(74.8%)(以下CA群),ブリモニジン点眼薬C35例(23.2%)(以下CB群),リパスジル点眼薬C3例(2.0%)(以下,C群)であった(表1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群5.1C±0.7剤,B群C3.8C±0.5剤,C群C3.0C±1.0剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C4.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本,変更後CA群C3.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C7.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回,変更後CA群C5.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回であった.変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.眼圧はCA群では変更前C16.2C±6.3mmHg,変更後C15.4C±4.0mmHgで,変更前後で同等だった(p=0.19).B群では変更前C16.6C±3.5CmmHg,変更後C16.2C±4.6CmmHgで,変更前後で同等だった(p=0.51)(図1).C群は症例数が少ないため眼圧の解析はできなかった.投与後に副作用は全体ではC5例(3.3%)で出現した.その内訳はCA群では結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例,B群では眼瞼腫脹2例,C群ではなかった.中止症例はC4例(2.6%)であった.その内訳は変更CA群では結膜充血C1例,B群では眼瞼腫脹C2例,C群では眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬4)やブリモニジン/チモロール配合点眼薬5)の処方パターンの報告では,変更群が各々C87.7%,93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬では,ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド配合点眼薬からの変更51.2%,ブリンゾラミド点眼薬からの変更C24.0%,ブリモニ834あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(88)表1変更症例の患者背景A群:ブリモニジン+リパスジル点眼薬B群:ブリモニジン点眼薬C群:リパスジル点眼薬症例113例35例3例性別男性C62例,女性C51例男性C19例,女性C16例男性C3例,女性C0例平均年齢C66.4±12.1歳(C39.C88歳)C66.6±13.0歳(C32.C87歳)C71.3±10.6歳(C60.C81歳)病型POAG8C7例NTG1C3例続発緑内障1C1例PACG1例小児緑内障1例POAG2C4例続発緑内障7例NTG3例PACG1例続発緑内障2例POAG1例前投薬数C5.1±0.7剤(3.C8剤)C3.8±0.5剤(2.C4剤)C3.0±1.0剤(2.C4剤)変更別使用薬剤CFP+CAI/b+a2+ROCK6C0例CFP+経口CCAI+CAI/b+a2+ROCK1C5例点眼CCAI+FP/b+a2+ROCK1C4例CFP+点眼CCAI+a2+ROCK8例CFP+a1+CAI/b+a2+ROCK5例CFP/b+a2+ROCK3例その他8例CFP+CAI/b+a22C1例点眼CCAI+FP/b+a26例CFP/b+a22例その他6例CFP/b+ROCK1例CFP+CAI/b+ROCK1例CFP+ROCK1例投与前眼圧C16.2±6.3CmmHg(1C0.C54.5mmHg)C16.6±3.5CmmHg(1C2.C27.5mmHg)C15.5±2.5CmmHg(1C4.C23mmHg)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.FP:FP作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,Ca2:a2作動薬,ROCK:ROCK阻害薬.A群B群202018181616眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1414121216.6±3.5101016.2±4.615.4±4.0886416.2±6.36420変更前p=0.1924変更後20変更前変更後p=0.5109図1変更症例の眼圧変化ジン点眼薬からの変更C11.6%だった4).一方,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬では,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬C18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった5).同成分同士の変更がブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬C51.2%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(74.8%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.A群では変更後に使用点眼薬数はC1本,1日の点眼回数はC2回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更群と,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬への変更群の比較を行った結果,変更C4,8週間後の眼圧下降幅は点眼C2時間後,7時間後ともに同等だった2)と報告されている.ブリモニジン/リパスジル点眼薬とブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬の眼圧下降効果は同等と考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更では眼圧は変更C8週間にわたり有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅(89)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C835はC3.4CmmHg,眼圧下降率はC16.5%であった2).一方,今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更前後で同等で,眼圧下降幅はC0.3C±2.5mmHg,眼圧下降率はC2.0C±13.1%であった.眼圧下降幅別に検討すると眼圧が変更後にC2.0CmmHg以上上昇C1例(2.9%),2.0CmmHg以内C30例(85.7%),2.0mmHg以上下降C4例(11.4%)だった.眼圧下降が不良だったのは,変更前薬剤数が治験2)ではC1剤だったが,今回はC3.8±0.5剤と多剤併用だったことが原因と考えた.また,健常人を対象とした,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬のクロスオーバー投与試験によると3),ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の眼圧下降の差は投与C1日目の点眼C1時間後C2.0C±0.3CmmHg,点眼C2時間後C1.4C±0.4CmmHg,点眼6時間後1.2C±0.5CmmHg,投与C8日目の点眼C1時間後C1.6C±0.5CmmHg,点眼C2時間後C1.2C±0.6CmmHgだった.今回の調査では日本で行われた治験2)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がCB群はC3.8C±0.5剤と多剤併用であったためと考えられる.今回変更群では変更後に副作用が5例(3.3%)で出現した.その内訳は眼瞼腫脹C2例,結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例だった.副作用に関しては今回の調査と治験2)の結果を比較すると治験では結膜充血が多かったが,それ以外はほぼ同等であった.中止症例は今回はC2.6%で,治験2)では有害事象による中止症例はブリモニジン点眼薬からの変更ではC2.7%,リパスジル点眼薬からの変更では2.9%でほぼ同等だった.今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に処方された症例の特徴を調査した.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更,ブリモニジン点眼薬からの変更では変更後に眼圧に変化はなかった.副作用は変更群ではC3.3%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20092)TaniharaH,YamamotoT,AiharaMetal:Ripasudil-bri-monidineC.xed-doseCcombinationCvsCripasudilCorCbrimoni-dine:twoCphaseC3CrandomizedCclinicalCtrials.CAmCJCOph-thalmolC248:35-44,C20233)TaniharaCH,CYamamotoCT,CAiharaCMCetal:CrossoverCrandomizedCstudyCofCpharmacologicCe.ectsCofCripasudil-brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCripasudilCorCbrimonidine.AdvTherC40:3559-3573,C20234)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C2021C***836あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(90)

基礎研究コラム:16.眼内悪性リンパ腫への挑戦

2024年7月31日 水曜日

眼内悪性リンパ腫への挑戦眼内悪性リンパ腫への挑戦眼内悪性リンパ腫は,ぶどう膜炎と類似した所見を呈する眼内に発生するまれな中枢性悪性リンパ腫の一亜型です.経過中にC35~90%の患者で中枢神経系に浸潤します1).したがって眼原発であっても,中枢に進展すると命にかかわる状況となります.かつては希少疾患がゆえに標準治療というものが確立していませんでした.また,大学病院であっても患者はC1年にC1~2人程度であり,専門にする医師もいませんでした.そこで,「だれかこの病気に取り組む人はいないか」といわれたときに,筆者は「なんとか取り組んでみよう」と手をあげました.そして血液内科では筆者が,眼科では現自治医科大学附属さいたま医療センター教授の蕪城俊克先生が,この病気に取り組むことになりました.標準治療確立に向けた取り組み初めに,どのような治療が最適かを検討しました.これまでは眼内リンパ腫に対して局所治療として局所放射線治療やメトトレキサート(MTX)眼内注射が行われていたのですが,中枢への再発率が高いことが問題でした.筆者は,すでに中枢に微小浸潤している,もしくは残存病変が中枢に進展すると考え,眼内病変であっても中枢の治療が必要だと考えました.そこで局所治療だけでなく,MTX硝子体内注射+R-MPV(リツキシマブ+MTX+プロカルバジン+ビンクリスチン投与)5コース+全脳放射線予防照射(23.4CGy)+HD-AraC(大量シタラビン投与)2コースを行いました.病変がないところに予防的に化学療法や放射線治療を行うといったプロトコールであったため,その当時は理解が得られないこともありました.しかし,結果としては眼内悪性リンパ腫のC4年無病再発生存率がC72.7%,中枢再発がC10%と大きく改善しました(図1)2,3).一方で,高齢者が多い疾患であり,治療強度の強い化学療法ができない,放射線治療の影響で認知機能が低下するといった重要な臨床上の問題点があることがわかってきました.筆者らは眼内悪性リンパ腫の遺伝子研究を行い,MYD88やCCD79Bが疾患特異的な遺伝子であることを解明しました.これらの遺伝子は,Bruton型チロシンキナーゼ(Bruton’styrosineCkinase:BTK)カスケードを活性化させることが知られており,田岡和城東京大学医学部附属病院希少難病疾患治療開発実践講座放射線治療全身化学療法硝子体内注射眼内悪性リンパ腫図1眼内リンパ腫に対する集学的治療MTX硝子体内注射+R-MPV化学療法+全脳放射線予防照射で予後を改善させる.BTK阻害薬が中枢のリンパ腫に効果があることも報告されていました.これらの知見から,BTK阻害薬を中枢再発予防薬としても活用できるのではないかと考え,中枢再発の予防を目的として眼内リンパ腫にCBTK阻害薬を用いる多施設共同医師主導試験を開始しました.製薬会社の企業治験と異なり,医師が自ら行うため,医学的な面だけでなく,数多くのハードルを乗り越えなくてはなりません.未だ道半ばですが,多くの先生方,協力してくださる人々に支えられながら進めています.この治験薬が一刻も早く患者さんに届くよう今後も尽力していきたいと考えています.文献1)GrimmCS,CMcCannelCC,COmuroCACetal:PrimaryCCNSClymphomaCwithCintraocularinvolvement:internationalCPCNSLCcollaborativeCgroupCreport.CNeurologyC71:1355-1360,C20082)TaokaCK,CYamamotoCG,CKaburakiCTCetal:TreatmentCofCprimaryCintraocularClymphomaCwithCrituximab,ChighCdoseCmethotrexate,procarbazine,andvincristinechemotherapy,Creducedwhole-brainradiotherapy,andlocalocularthera-py.BrJHaematolC157:252-254,C20123)KaburakiCT,CTaokaCK,CMatsudaCJCetal:CombinedCintra-vitrealCmethotrexateCandCimmunochemotherapyCfollowedCbyCreduced-doseCwhole-brainCradiotherapyCforCnewlyCdiagnosedCB-cellCprimaryCintraocularClymphoma.CBrJHaematolC179:246-255,C2017(81)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8270910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:254.未熟児網膜症に続発した黄斑上膜に対する硝子体手術(中級編)

2024年7月31日 水曜日

254未熟児網膜症に続発した黄斑上膜に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに瘢痕期未熟児網膜症(retinopathyCofprematurity:ROP)の眼合併症には,牽引乳頭,斜視,白内障,緑内障,網膜.離,硝子体出血などがあるが,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)をきたしたとする報告も散見される1).C●症例46歳,女性.両眼ともCROPの既往があり,出生後に両眼にレーザー光凝固を受けたが,左眼は牽引性網膜.離のため失明した.右眼は強度近視眼で牽引乳頭(図1a),核白内障に加えて光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)でCERMと網膜分離を認めた(図1b).手術は超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術後に硝子体を切除した.黄斑部には肥厚したERMが広範囲に癒着しており,硝子体鑷子で.離した(図2).その後,人工的後部硝子体.離を作製したが,中間周辺部からは面状で強固な網膜硝子体癒着を認めたため,無理はしなかった.術後,OCT所見は改善し(図3),矯正視力はC0.8に向上した.C●瘢痕期ROPに続発したERMに対する硝子体手術時の注意点ThanosらはCROPの既往眼C112例C186眼をCOCTで検討し,黄斑上膜様所見をC69%,網膜硝子体界面の異常所見をC33%と高率に認めたと報告しており1),瘢痕期ROPにCERMを伴うことはまれではない.また,中心窩網膜分離は視力不良因子であるとしている.ROPと病態が同じ家族性滲出性硝子体網膜症でも黄斑上膜を伴うことがあるが,今回の症例のように中間周辺部からは網膜硝子体が面状に強固に癒着していることが多く2),強引な人工的後部硝子体.離作製は医原性裂孔形成のリスクを増加させると考えられる.伊藤らも同様の症例を報告しており3),ERMを.離したあとの人工的後部硝子体.離作製は必要最小限に留めるべきと考えられる.(79)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYab図1右眼の術前眼底写真(a)とOCT所見(b)著明な牽引乳頭をきたしている.OCTでは肥厚した黄斑上膜と網膜分離を広範囲に認める.図2術中所見肥厚した黄斑上膜が網膜と強固に癒着していた.図3右眼の術後OCT所見網膜分離は軽快し,中心窩陥凹は回復した.文献1)ThanosCA,CYonekawaCY,CTodorichCBCetal:Spectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCinColderCpatientsCwithChistoryCofCretinopathyCofCprematurity.COphthalmicCSurgLasersImagingRetina47:1086-1094,C20162)IkedaT,FujikadoT,TanoYetal:Vitrectomyforrheg-matogenousCorCtractionalCretinalCdetachmentCwithCfamilialCexudativeCvitreoretinopathy.COphthalmologyC106:1081-1085,C19993)伊藤浩子,大田聡,倉知豪ほか:瘢痕期未熟児網膜症に発症した網膜上膜のC1例.眼臨100:672-674,C2006あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024825

考える手術:31.濾過手術

2024年7月31日 水曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅濾過手術前田征宏まえだ眼科現在の線維柱帯切除術は1968年にCairnsによって始まり,改良が重ねられてきたもので,ほかにもさまざまな緑内障手術が考案されているが,いまだにもっとも眼圧下降効果が高く緑内障手術のゴールドスタンダードである.手術により房水を結膜下に流しても,その後の瘢痕形成をいかにコントロールするかが重要であり,手術成績は手術半分,術後管理半分といわれる.同じように手術を行っても術後管理が異なれば結果が異なるの施設・術者によってさまざまな手術手技・術後管理の違いがある.本稿では誌面の都合上一部となるが,筆者の手術・術後管理のポイントを紹介する.聞き手:濾過手術のむずかしい点を教えてください.因が絡み合い,長期経過後にようやく結果が出るので,前田:原理は房水を結膜下に流すというシンプルなもの手術が問題なく終了したからといって長期成績がよいとですが,房水が術後長期に渡り「適度に」流出を続けなは限りません.自身の手術を記録し,のちに振り返ってければ良好な眼圧を維持できません.流出量が多すぎれ何がよかったのか悪かったのかを考える必要がありまば低眼圧に伴う合併症が生じ,少なければ濾過胞を維持す.白内障手術と異なり,自分の手術の結果がすぐにはできず,やがて癒着し眼圧上昇してしまいます.術後創出ないことがむずかしい点であり,同時にやりがいのあ傷治癒反応は炎症期・増殖期・リモデリング期と推移しる点でもあります.ますが,増殖期がいつまで続くのかを外来で正確に予測することは困難で,ステロイドの中止が早いと癒着して聞き手:濾過手術における工夫を教えてください.しまいます.眼瞼圧・結膜・Tenon.組織・強膜の厚前田:以前は入院手術が主でしたが,現在は日帰りもしみや術後の創傷治癒反応などの患者要因,結膜とくは1泊入院で行っています.そのため,術中・術後のTenon.の切開.離方法・強膜弁の作り方・縫合など痛みをできるだけ少なくし,頻回の術後診察をしなくての手術要因,そして術後管理方法といったさまざまな要もよいようにしています.手術開始時,術野を確保した(77)あたらしい眼科Vol.41,No.7,20248230910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術あとにマイトマイシンC(以下,MMC)を術野円蓋部のTenon.内にリドカインと混合して注射しています.現在は0.04%MMC・デキサメタゾン・リドカインの混合液を常に一定量(手術によりMMCとして40~60μg)投与しています.リドカインはエピネフリンが入っているとpHが下がりMMCの効果が低下するため,エピネフリンが入っていないものを使用します.これによりTenon.が十分に膨らみ,MMCを均一に作用させ,縫合時に結膜の裏にTenon.を裏打ちすることができます.結膜の血管を参考に切開位置を決めます.Tenon.を強膜から.離する際,輪部近くは直視下で.離できますが,後方はブラインド操作になります.剪刀を出し入れすると.離する層が変わり,強膜にTenon.が残る可能性がありますので,できるだけ器具を出し入れせずに鈍的に.離し,MQAで後方まで.離されていることを確認し,MMCを奥まで作用させています(動画①).強膜弁を作製する手術では,強膜弁とその後の濾過胞は適度な瘢痕形成にとどめて癒着しないように,しかし結膜切開創からは漏出しないように早々に癒着させるという,相反する事柄を達成しなければなりません.日帰りで行うにあたり,それらを同時に達成するのではなく,強膜弁をある程度しっかり縫合し結膜の癒着を優先させ,結膜切開創からの漏れがないことを確認した術後数日~1週間程度で濾過胞の膨らみ具合をみながらレーザー切糸を開始し,2週間目で10mmHg未満になるように強膜弁を解放し調整しています.そうすることで術後早期の低眼圧に伴う追加処置の頻度を減らしています.結膜縫合は膨らんだTenon.が結膜を裏打ちするように輪部に縫合しています.結膜抜糸を行わなくてよいように9-0吸収糸の丸針(CROWNJUN:VSORBZTPB22-039)を用いて縫合しています.また,日帰り手術なので,術後の異物感ができるだけ少なく,切開創からの漏れが生じないように,Condonsutureをやや改良した方法で縫合糸が表に出ないように輪部結膜を縫合しています(動画②).縫合に多少余分に時間がかかりますが,メリットは大きいと感じています.最後にデキサメタゾンを濾過胞に直接注射し,漏れが生じていないか確認します.聞き手:術後管理で気をつけていることを教えてください.前田:感染・漏出の有無,濾過胞の状態,前房の深さ,脈絡膜.離と低眼圧黄斑症の有無に注意して診察をしています.CASIA2,Optos,OCTがある施設ではそれらを以前と比較できて便利です.わずかな漏れを見逃さないために,毎回フルオレセイン試験紙を濡らして直接切開創と濾過胞に当てて確認します.濾過胞の評価には,おもに前眼部スリット写真を撮影しています.漫然と濾過胞を見るのではなく,濾過胞の広がり,血管の太さ,蛇行具合を以前の状態と比較し,ステロイドの減量が可能かを評価しています(図1).聞き手:先生にとって理想の緑内障手術とは何ですか?前田:有病率の高い高齢者や近視人口の増加,診断の早期化・受診率の増加などにより,今後ますます緑内障患者は増えると予想され,すべてに緑内障専門医が対処することは不可能だと思います.現在の濾過手術は術者としてはやりがいがあります.しかし,一部の専門医しかできない手術ではなく,ある程度のトレーニングを受けた医師であれば,誰が手術しても痛みなく,安全に,永続的に10mmHg未満の眼圧が得られ,術後管理も簡便あるいは不要で,早い段階で手術に踏み切ることができること.そして忙しい働き盛りの人も高齢者も通いやすい自宅近くの開業医院にて日帰りで治療が受けられること,これが理想の緑内障手術だと思います.図1濾過胞の拡大写真各写真の右上は術後経過期間,右下はデキサメタゾンの点眼回数.3カ月目に2回に減量したところ濾過胞血管の充血と蛇行が強くなり増量した.その後血管の蛇行具合をみながらゆっくり減量し1年半ほどで中止した.824あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(78)

抗VEGF治療セミナー:アフリベルセプトの利点

2024年7月31日 水曜日

●連載◯145監修=安川力五味文125アフリベルセプトの利点太田光名古屋大学医学部附属病院眼科アフリベルセプトはわが国でもっとも多くの適応疾患があり,使用頻度が高い抗CVEGF薬である.今回は,アフリベルセプトの薬剤特性,作用機序を詳述し,本薬剤を使用する利点について述べる.はじめにアフリベルセプト(商品名:アイリーア)はC2012年にわが国で承認,上市された.本薬剤は,抗CVEGF薬の中でもっとも多岐にわたる適応疾患を有している.日本国内におけるC2014年C4月~2021年C3月までの抗CVEGF薬の使用状況を医療大規模データベースに基づいて分析した結果,アフリベルセプトの使用頻度は非常に高く,総注射数の約C77%を占めていた.疾患別では滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmacu-lardegeneration:nAMD)への使用がC60%占めた1).新規抗CVEGF薬が市場に登場するなか,アフリベルセプトの重要性は変わらず,網膜疾患治療においてその役割と特性を理解することが不可欠である.本稿では,アフリベルセプトの特徴を他の薬剤と比較しつつ,とくにnAMD治療における臨床成績について述べる.作用機序アフリベルセプトは,ヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインをヒトCIgG1のCFcドメインに結合した組換え可溶性融合糖蛋白質であり,可溶性のデコイ受容体として,網膜疾患にみられる病的な血管新生および血管漏出に関与するCVEGF-A,およびCVEGF-B,胎盤増殖因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)に結合し,それらの作用を阻害する.ラニビズマブはCVEGF-Aを単独で標的とするが,アフリベルセプトはCVEGF-Aに加えてCPlGFおよびVEGF-Bをもターゲットとすることが特徴であり,とくにCVEGF-Aへの結合能力が高いことが知られている1,2).一方で,ブロルシズマブは分子量が小さいため,モル換算でラニビズマブの約C22倍の高濃度での投与が可能であること,ファリシマブはヒト化されたバイスペシフィック抗体であり,VEGF-Aに加えてCangiopoi-etin-2を標的とすることがそれぞれの特徴である2,3)(表1).副作用抗CVEGF薬の眼合併症としてブロルシズマブ投与後の眼内炎症(intraocularin.ammation:IOI)が注目されている.ブロルシズマブ投与後のCIOIは日本人において発症頻度が高いと報告されており,実臨床の報告でも,その発症率はC15%程度と報告されている5).アフリ表1抗VEGF薬の特徴ラニビズマブアフリベルセプトブロルシズマブファリシマブ構造ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体Fab断片遺伝子組換え融合糖蛋白質ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体一本鎖CFv断片抗VEGF/抗CAng-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体ターゲットCVEGF-ACVEGF-ACPlGFCVEGF-BCVEGF-ACVEGF-ACAng-2用量C0.5CmgC2.0CmgC6.0CmgC6.0Cmg分子量約C48,000約C115,00約C26,000約C149,000(75)あたらしい眼科Vol.41,No.7,20248210910-1810/24/\100/頁/JCOPYベルセプトの使用時にCIOIの発症を経験することはほとんどなく,ラストアイに発症したCnAMDや,注射の合併症に対して不安の強い患者には,治療薬として選択しやすいと考える.CnAMDにおけるアフリベルセプトの治療効果(他剤との比較)nAMDの治療は抗VEGF薬のtreatCandCextend(TAE)法に基づいた投与が中心となっている.TAE法を用いたアフリベルセプトとラニビズマブの効果を比較したシステマティックレビューでは,2年間の治療期間を通じて,両群間で視力変化量に有意な差は認められなかった.しかし,必要とされた注射回数はアフリベルセプト群で有意に少なかったことが報告されている8).ファリシマブは発売後期間が短く,アフリベルセプトとの直接比較は現段階ではむずかしいが,臨床成績が報告されはじめている.松本らは日本人を対象とし,未治療CAMDに対するファリシマブのCTAE法C1年間の成績を報告しており,平均注射回数がC6.6回,平均注射間隔12.7週であった7).これは同様に日本人を対象としたALTAIRstudyでアフリベルセプト群(4週間隔投与群)がC1年後の平均注射回数C6.9回,平均注射間隔C11.8週であったことから,ファリシマブがやや長い注射間隔を維持できている可能性を示唆している.しかし,松本らの研究では効果不十分なC5例がブロルシズマブに変更されており,これらは脱落症例とされていることを考慮する必要がある.今後,ファリシマブとアフリベルセプトの実臨床における前向きで直接的な比較研究が必要である.長期成績日本でアフリベルセプトが発売されてからC10年以上が経過した.アフリベルセプトは長期使用における安全性と治療効果のエビデンスが確立されている.筆者らは以前,nAMD患者に対するアフリベルセプトのCTAE法によるC5年間の成績を報告した.2014年C1月~2016年C12月に名古屋大学附属病院に受診し,未治療のCnAMD患者C111例C112眼を後ろ向きに検討した.このうち,アフリベルセプトCTAE法をC5年以上継続した症例はC66眼,脱落した症例はC46眼であった.脱落群はC5年継続群と比較して有意に高齢であり初診時の視力が不良であった(p<0.05)が,nAMDの病型には有意差がなかった.最高矯正視力は,脱落を含む全症例およびC5年CTAE法継続群で初診からC1年後には有意に改善し,5年目まで維持された.ただし,3年目とC4年目で有意差が消失していた.これはC20眼の患者が白内障C822あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024の進行に伴い治療開始から平均C36.6カ月後に白内障手術を受けたことに起因すると考えられる.網膜厚は初診時からC1年目に有意に減少し,5年目まで維持された.注射回数はC1年目が約C7回,2~5年目までは約C5回であった8).nAMD症例に対してCTAE法でアフリベルセプト投与を継続することで,比較的少ない治療負担で良好な視力成績が得られることを示した.おわりにアフリベルセプトは適応疾患の多様性,高い安全性,そして長期使用における治療効果のエビデンスが確立されている点が,その主要な利点であるといえる.抗VEGF薬の種類は年々増加し,近い将来に高容量アフリベルセプトの発売も予定されている.今後も最新の知識を取り入れ,適応症例に対して最適な薬剤の選択を追求する必要がある.文献1)HashimotoY,OkadaA,MatsuiHetal:Recenttrendsinanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCintravitrealCinjec-tions:alargeclaimsdatabasestudyinJapan.CJpnJOph-thalmolC67:109-118,C20232)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)RegulaCJT,CvonCLeithnerCPL,CFoxtonCRCetal:TargetingCkeyCangiogenicCpathwaysCwithCaCbispeci.cCCrossMAbCoptimizedCforCneovascularCeyeCdiseases.CEmboCMolCMedC8:1265-1288,C20164)HolzCFG,CDugelCPU,CWeissgerberCGCetal:Single-chainCantibodyfragmentVEGFinhibitorRTH258forneovascu-larCage-relatedCmacularCdegeneration.CACrandomizedCcon-trolledstudy.OphthalmologyC123:1080-1089,C20165)OtaCH,CTakeuchiCJ,CNakanoCYCetal:SwitchingCfromCa.ibercepttobrolucizumabforthetreatmentofrefractoryCneovascularage-relatedmaculardegeneration.JpnJOph-thalmolC66:278-284,C20226)OhjiCM,CLanzettaCP,CKorobelnikCJ-FCetal:E.cacyCandCtreatmentCburdenCofCintravitrealCa.iberceptCversusCintra-vitrealCranibizumabCtreat-and-extendCregimensCatC2years:NetworkCmeta-analysisCincorporatingCindividualCpatientdatameta-regressionandmatching-adjustedindi-rectcomparison.AdvTherC37:2184-2198,C20207)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:One-yearCresultsCofCtreat-and-extendCregimenCwithCintravitrealCfar-icimabfortreatment-naiveneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.CJpnJOphthalmolC68:83-90,C20248)OtaH,KataokaK,TakeuchiJetal:Five-yearoutcomesoftreatandextendregimenusingintravitreala.iberceptinjectionCforCtreatment-naiveCage-relatedCmacularCdegen-eration.CGraefesCArch.CClinCExpCOphthalmolCpublishedConline2024(76)

緑内障セミナー:早期緑内障における網膜神経節細胞の変化

2024年7月31日 水曜日

●連載◯289監修=福地健郎中野匡289.早期緑内障における志賀由己浩UniversityofMontrealHospitalResearchCentre(CRCHUM)網膜神経節細胞の変化網膜神経節細胞(RGC)における軸索変性とシナプス消失を伴う樹状突起の退縮は,緑内障早期に観察される.主要な危険因子である高眼圧を誘導した緑内障の動物モデルにおいて,軸索内ミトコンドリア輸送に異常が生じることや,インスリンシグナルの樹状突起・シナプス維持への関与が明らかとなっている.●はじめに緑内障は網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)の変性を特徴とする.主要な危険因子である眼圧上昇に加え,加齢などの他の危険因子も疾患発症や進行に重要な役割を果たすことが知られている.世界の緑内障患者数は増加の一途をたどり,高齢化が進むC2040年にはC1億人を超えると推定されている.したがって,タイムリーな治療介入達成のために緑内障と疾患の進行を早期に発見すること,病初期における分子基盤を解明しアンメット・メディカル・ニーズに対して有効な治療を開発することは,緑内障による失明を防ぐうえできわめて重要な戦略である.本稿では,早期緑内障に観察されるCRGCのコンパートメントである軸索と樹状突起・シナプスの変化に焦点を絞って考察する.C●緑内障におけるRGC軸索の消失RGC軸索が集合して視神経を形成する部分である視神経乳頭の変化は,緑内障における視野欠損の発症に先行する.RGCの無髄軸索は,網膜の最内層である網膜神経線維層を放射状に走行して視神経乳頭に収束し,強膜管を通って眼球外に出て,視神経となる1).RGC軸索はグリア細胞(Mullerグリア,アストロサイト,ミクログリア)によって支えられている(図1)2).強膜部分では,束ねられたCRGC軸索は,篩状板とよばれる細胞外マトリックスや毛細血管を含む結合組織の三次元ネットワークを通過する.視神経乳頭は生体力学的負荷や血流の変動に常にさらされており,篩状板は緑内障においてこのようなストレスによる軸索や結合組織の損傷のきわめて重要な部位であると考えられている.したがって,緑内障に特徴的な緑内障性視神経乳頭陥凹拡大は,RGC軸索の進行性喪失と,篩状板部結合組織のリモデリングと損傷を反映している.その後,RGC軸索束はオリゴデンドロサイトによって有髄化され,視交叉と脳中枢へ向かう.RGC軸索は,ミトコンドリアなどの細(73)胞小器官,分子,小胞を両方向に輸送し,神経細胞の機能を維持している.緑内障早期に起こるCRGC軸索内の分子機構の例として,筆者らは,高眼圧を誘導した緑内障の動物モデルにおいて,RGC細胞体の有意な減少に先立って,RGC軸索内ミトコンドリア輸送が低下しており,局所的なアデノシン三リン酸(ATP)産生が枯渇することで,最終的に異常な神経機能と細胞死につながることを明らかとした3)(図2).これらの結果は,とくに活動電位の発生により多くのエネルギーを必要とする網膜および視神経乳頭内のCRGC軸索の無髄部分において,ミトコンドリア欠損や機能障害に伴う代謝ストレスやエネルギー欠乏が緑内障のCRGC脆弱性に関与することを示唆している.C●緑内障におけるRGC樹状突起退縮とシナプス消失シナプス消失を伴うCRGC樹状突起の退縮も,緑内障早期の進行に重大な役割を果たす.RGC樹状突起がある網膜内網状層では,双極細胞やアマクリン細胞から興奮性および抑制性のシナプス入力を受けている(図3)2).RGCでは細胞体の変性に先立ち,加齢に伴う樹状突起の萎縮が起きる.とくに,網膜内網状層の最外層のサブラミナ層は,実験的緑内障モデルで組織学的変化が最初に起こる部位として知られている.また,RGCにおける樹状突起萎縮とシナプス消失は,緑内障の動物モデルやヒトの死後網膜で観察される共通の構造的特徴である.このように,RGC樹状突起の萎縮と網膜内網状層内のシナプス消失は,視神経の変性と並んで,緑内障病態の初期指標となることを示唆する証拠が蓄積されている.インスリン受容体は成体CRGCに発現しており,インスリンシグナルの欠損はこれらのニューロンの神経突起伸長を障害する.筆者らは,インスリン投与が,細胞内のエネルギーセンサーであるCmTOR経路の活性化を介して,高眼圧ストレス後のCRGC樹状突起とシナプス再生を促進し,RGC機能の回復につながることを明らあたらしい眼科Vol.41,No.7,20248190910-1810/24/\100/頁/JCOPYミクログリア図1視神経乳頭部の細胞要素無髄CRGC軸索はオリゴデンドロサイトによって有髄化される.アストロサイトなどのグリア細胞はCRGC軸索と血管系を裏打ちしている.(文献C2より改変引用)樹状突起Muller細胞ペリサイトRGCミクログリアアストロサイト内腔網膜内軸索血管内皮細胞図3網膜内の細胞要素シナプス消失を伴うCRGC樹状突起の退縮は緑内障の初期指標となる.(文献C2より改変引用)かとした4)(図4).これらの結果は,蛋白質合成,代謝,成長に重要なシグナル伝達メディエーターの活性化が,RGC樹状突起とシナプスを緑内障性障害から保護する治療戦略となることを示唆している.C●おわりに緑内障におけるCRGCの初期変化として,RGC軸索消失や樹状突起退縮・シナプス消失が生じること,ミトコンドリア輸送障害など緑内障早期の神経変性に関与するRGC細胞内での分子基盤について解説した.それに加えて,近年,RGCをサポートするグリア細胞や血管系が緑内障におけるCRGCの生存や変性において重要な役割を担うことが示されている2,5).このような複数の細胞タイプ間の複雑なシグナル伝達の理解は,緑内障のさらなる病態解明や治療開発に役立つことが期待される.C820あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024ミトコンドリア輸送低下RGC軸索高眼圧図2RGC軸索における緑内障性ミトコンドリア輸送障害高眼圧はCRGC軸索内のミトコンドリア輸送障害を引き起こす.健常RGC障害性RGC高眼圧回復インスリン図4インスリン投与による高眼圧ストレス後のRGC樹状突起とシナプス再生インスリンは高眼圧ストレス後のCRGC樹状突起退縮とシナプス消失の再生を促進し,RGC機能の回復につながる.文献1)ShigaCY,CNishidaCT,CJeoungCJWCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCandCopticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phy:EssentialCtoolsCforCdetectingCglaucomaCandCdiseaseCprogression.FrontOphthalmolC3:1217125,C20232)Alarcon-MartinezL,ShigaY,Villafranca-BaughmanDetal:NeurovascularCdysfunctionCinCglaucoma.CProgCRetinCEyeResC97:101217,C20233)QuinteroCH,CShigaCY,CBelforteCNCetal:RestorationCofCmitochondriaCaxonalCtransportCbyCadaptorCDisc1Csupple-mentationpreventsneurodegenerationandrescuesvisualfunction.CellRepC40:111324,C20224)ElHajji,ShigaY,BelforteNetal:InsulinrestoresretinalganglionCcellCfunctionalCconnectivityCandCpromotesCvisualCrecoveryinglaucoma.ScienceAdvancesCinpress,20245)ShinozakiCY,CNamekataCK,CGuoCXCetal:GlialCcellsCasCaCpromisingCtherapeuticCtargetCofglaucoma:beyondCtheCIOP.FrontOphthalmolC3,C2023C(74)

屈折矯正手術セミナー:ICL手術の術前検査の注意点

2024年7月31日 水曜日

●連載◯290監修=稗田牧神谷和孝290.ICL手術の術前検査の注意点磯谷尚輝名古屋アイクリニックCImplantablecollamerlens(ICL)手術を施行する際の術前検査は,術後の見え方に関連する度数を決める検査と,術後の合併症に大きく関連するレンズサイズを決める検査が重要である.度数を決める検査では屈折検査を基本に,患者の希望や術前の状態,惹起乱視など種々の情報を統合して度数を決めなければいけない.レンズサイズを決める検査では測定機器の値の妥当性についての理解が必要である.●はじめに屈折矯正手術であるCimplantableCcollamerlens(ICL)手術は健常眼に対して行う手術であり,患者は術後の良好な視環境を希望し,起こりえる合併症の可能性を限りなくゼロにすることを望む.ICL手術では術後の見え方を決めるレンズ度数と,合併症のリスクに影響するレンズサイズを適切に選択することが不可欠であり,その検査の精度も高くなければならない.本稿ではCICLの術前検査の中でもレンズ度数決定とレンズサイズ決定における注意点について述べる.C●レンズ度数決定検査の注意点1.コンタクトレンズ中止期間角膜形状への影響を残したままレンズ度数を決めてしまうと,思わぬ術後の屈折誤差を生じる可能性がある.筆者の施設(以下,当院)ではソフトコンタクトレンズ(contactlens:CL)の場合はC1週間,乱視ソフトCCLの場合はC2週間,ハードCCLの場合はC3週間中止した後に屈折検査を行っている.C2.屈折検査屈折検査ではオートレフケラトメータ,角膜形状解析装置や前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-taphy:OCT),波面収差解析装置などで他覚的屈折検査を行い,その値を参考にして自覚的屈折検査を行う.雲霧法を用い,過矯正を避けるべく矯正を行う.当院では調節麻痺下屈折検査の結果を参考にし,適切な雲霧量からスタートすることで検査時間の短縮をしている.調節麻痺剤はC1%シクロペントラート塩酸塩を用いる.術後の過矯正を防ぐため,適切な調節麻痺効果を得るためには必須と考える1).Toric-ICLの乱視度数についても,球面度数同様に自覚的屈折検査の結果で決定する.レンズ交換法にて得られた完全矯正値の確認のためにクロスシリンダーや乱視表を用い,乱視軸の逆転が生じていな(71)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYいかの確認を行う.C3.患者の把握患者の年齢,術前の矯正方法,屈折値を把握することが大切である.とくに老視年齢の患者や術前に低矯正で生活している患者に完全矯正のレンズ度数を選択してしまうと,術後の近方視障害や頭痛,眼精疲労などの不定愁訴を訴える可能性があるため,十分な説明が必要になる.場合によってはCCLでのシミュレーションを行い,術後の見え方をイメージしてもらうことでギャップをなくすことが大切である.また,完全矯正であっても眼鏡のみで矯正している場合には,見かけの調節力が影響するため注意が必要である.C4.ICL度数計算目標とする屈折度数を決めたら専用の計算フォームOCOSにその結果を入力するのだが,ICL度数は球面・乱視ともにC0.5D刻みであることにも注意が必要である.術後の希望に近いレンズを選択する際に,場合によってはC0.2~0.1D程度プラスかマイナスかに分かれる場合があるため,患者との度数決めの際には念頭に置いておく必要がある.またCICLは角膜切開にて手術を行うのだが,切開による惹起乱視も考慮に入れなければならない.レンズの固定は基本的に水平固定で行われる.そのため耳側切開ではC0.2~0.3D程度の直乱視を惹起することを加味してCICLの乱視度数を決定する.また,この惹起乱視を利用し,直乱視に対して角膜上方切開にて手術を行うことで,乱視矯正効果を加味したレンズ度数決定を行う施設も多くなっている.ただし角膜縦径は横径よりも短いため,切開が角膜中心に近くなる上方切開は,耳側切開よりも惹起乱視の影響が強くなる可能性があることに留意しなければいけない2).C5.その他の検査優位眼検査はモノビジョン法やマイクロモノビジョン法を選択する際に重要な検査であるが,前述したCICLの度数計算の際にC0.2D~0.1D程度プラスかマイナスかあたらしい眼科Vol.41,No.7,2024817図1CASIA2に搭載されている2種のICLサイズ計算式の結果隅角底(anglerecess:AR)の自動トレースに誤りがあるため手動でトレースの修正が必要となった症例である.に分かれる場合のレンズ度数決定の際に参考になる.また,眼軸長検査は屈折度数の妥当性や左右差の確認など,自覚的屈折検査やレンズ度数決定の際の参考になるため測定しておくことが望ましい.C●レンズサイズ決定検査の注意点レンズサイズの計算には角膜水平径Cwhite-to-white(WTW)と角膜後面から水晶体前面までの前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が必要である.しかし,レンズサイズを決めるためのCOCOSは,すでに製造されていないCOrbscanで測定されたパラメータを採用しており,他の機器で測定した同一パラメータとの互換性は確認されていない.両パラメータは前眼部COCTや前眼部画像解析装置,眼軸長測定装置などでも測定が可能ではあるが,その測定値については最適化が必要になるため注意が必要である.最近では前眼部COCTのCASIA2(トーメーコーポレーション)にCICLレンズサイズ測定モードが搭載されており,2種の計算式(NK式,KS式)にてレンズサイズ選択が可能になった.これらC2式は,日本人の計測データから回帰式を用いて構築されている3,4).各式で用いるパラメータは異なるが,それらは自動で検出されるため簡便に測定が可能である.注意点としては,検出された測定点が誤っていることもあるため,画像の確認や測定の再現性を確認するこC818あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024とが重要である(図1).また,術後の角膜後面とCICL前面までの距離を予測したCpostACD,隅角角度(tra-becular-irisangle:TIA)を予測したCpostTIAもサイズ選択の指標となる.C●おわりに本稿ではレンズ度数決定とレンズサイズ決定のための検査について注意点を述べた.ICL手術は自費診療であるがゆえに,患者の求める満足度は高い.そのためC1回の検査結果のみで決めるのではなく,日を改め複数回の検査を行い,再現性や妥当性を確認し,患者の希望などを十分把握したうえでレンズ決定を行うことが大切である.文献1)安里崇徳:成人におけるC1%塩酸シクロペントレート点眼を用いた調節麻痺屈折検査の評価.IOL&RSC26:197-201,C20122)KamiyaCK,CAndoCW,CTkahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.CAmJOphthalmolC187:99-107,C20184)五十嵐章史:前眼部COCTを用いたCICLサイズ決定.あたらしい眼科36:1043-1044,C2019(72)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの光学設計(後編)

2024年7月31日 水曜日

■オフテクス提供■7.コンタクトレンズの光学設計(後編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C5章は,コンタクトレンズの光学設計について解説している.今回はその後半であるレンズの視機能評価や光学設計の評価について紹介する.測定装置オンアイの精度はコンタクトレンズ(CL)が正しく製造されていることが前提であるが,正確に製造されたレンズを確認するための眼外測定にはいくつかの方法がある.簡単な方法としては,光学焦点距離計やナイフエッジ法がある.これらの方法は低次光学系の限られた側面しか測定できず,感度が比較的低いという問題がある.一方で,レンズの度数を定量化するために新しいタイコグラフィック技術も使用されている.隣接する点から一連の回折パターンが記録され,そこからレンズの厚さのプロファイルが再構築され,度数を決定することができる.この技術では,解像度が非常に高く,急激な度数変化を測定することが可能である.また,半オープンセルを備えたCShack-Hartmann収差測定法は,高解像度で良好な再現性が報告されている.特定の地域でCCLの販売承認を受けるには,レンズが国際標準化機構(ISO),米国規格協会(ANSI),またはその他の規格に準拠している必要がある.これらの規格はレンズの度数やパラメータなど必要最小限を規定しており,メーカーが提供するレンズの一貫性を保っている.一方で,CLの設計や製造方法が高度化するにつれ,さらなるレンズ測定技術の進歩も求められる.光学設計効率の臨床評価1.視力視力はCCLの臨床評価としてもっとも再現性が高く標準化された方法であり,logMAR値が研究現場で使用されることが多い.近視視力はC40またはC33Ccm,中間視力はC100,80,またはC66Ccmで,老眼患者のCCLの視機能評価として検査が行われる.C2.コントラスト感度コントラスト感度は視力だけでなく視覚性能をより包括的に評価できる可能性があるものの,検査時間が長いため,再現性が低くなる場合がある.3.スルーフォーカスカーブスルーフォーカスまたは焦点深度曲線は,異なる表示距離でC1点またはC2~3点の距離で視力を測定するよりも,老眼矯正などの多焦点CCLにおけるさまざまな視距離でのレンズの有効性に関する情報を包括的に評価することができる.光学モデルを用いることで,実臨床での評価のように現実的ではないものの,調節力などの人的要因によって引き起こされる変動が少ないため,レンズ設計や眼のパラメータ(瞳孔サイズ,眼の収差)の比較が可能になる.C4.読書パフォーマンス日常生活の多くの活動は文字を読むこと(読書)に依存しているため,読書の困難さが視覚における生活の質に大きく関係する.読書パフォーマンスを評価するために利用されるおもなパラメータには,読書視力,平均読書速度,最大読書速度,最適読書速度,臨界文字サイズがある.これらの測定基準は,単に視覚解像度を測定するだけでなく,認知機能などの非視覚プロセスが影響していることに注意が必要である.C5.周辺屈折オープンビューレフラクトメーターでは,被験者が周辺を固視するための追加のターゲットを置き,瞳孔内の同じ点を測定することで軸外の屈折値を取得することが可能である.また,この装置は同心リングを含むさまざまなプロファイルのレンズを正確に測定できる.一方で,周辺の収差計は軸外の眼の高次収差に関する情報も含まれるため,取得したデータを正しく解釈するには注意が必要である.C6.視力の質に関する患者報告アウトカム適切な患者報告アウトカムの選択は,CL装用者の認識を理解するために重要である.CLを装用した際の視力の質に関しては,客観的な尺度では患者の満足度を予測できない場合があるため,視力の質はとくに重要な要素である.CL装用者の心理測定ツールとしては,CL生活の質への影響(CLIQ),視力の質(QOV),および(69)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8150910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1マルチフォーカルレンズの光学デザイン近距離活動視覚アンケート(NAVQ)が適したツールであることが示唆された.CLIQツールはC20ある質問のうちC4項目だけが視覚に関連し(まぶしさ,薄暗い照明,見え方の変動,焦点),老眼前の成人への使用を目的としている.QOVは妥当性と再現性が良好であり,スコアが視力の客観的評価(視力,収差,コントラスト感度)とよく相関している.NAVQは,老視の近方視力を評価するC10項目があり,そのスコアは近用視力および臨界文字サイズと中程度の相関がある.マルチゾーンと高度な光学設計老眼用の光学設計は,低下していく眼の調節力を補うために,近用度数が追加される.逆に近視用の光学設計は,網膜のデフォーカスを導入し,眼軸の伸展を抑制することを目的としている.これらは度数勾配または異なる度数のゾーンの光学設計により達成される(図1).C1.環状または同心円状設計環状または同心円状リングデザインのレンズは,遠方,中間,近方のいずれかの度数が同心円状または交互にリング状に配置されている.これらの設計は一部の老視矯正多焦点レンズおよび近視進行抑制目的のレンズで採用されている.この光学系は瞳孔に大きく依存するため,偏心と瞳孔径が重要なポイントになる.C2.非球面設計非球面設計には,遠方または近方のいずれかの矯正を目的としたセンターゾーンが存在し,レンズの中心から周辺にかけて勾配のある度数変化があるため,負の球面収差が存在する.非球面設計は一部の老視矯正多焦点レンズや近視進行抑制目的のレンズの光学設計に共通するが,その目的に関係なく,瞳孔サイズ内で必要な度数シフトがあるため,レンズの偏心によりコマ収差を誘発する可能性がある.C3.焦点深度拡張(extendeddepthoffocus:EDOF)EDOFは,非単調,非球面,非周期的に度数のプロファイルが設計されている.これらの設計は非球面レンズと似た部分もあり,球面収差の変化を利用して多焦点性を生み出し,さらに他の複数の高次球面収差を意図的に含めている.おわりに今回はCCLEARの第C5章の後半を要約し解説した.CLの目的は単に視力補正を行うだけでなく,眼の光学的な特性を補い,網膜像を最適化することであるが,近年はさまざまな付加価値があることも明らかとなっている.しかし,眼の自然な光学能力をより忠実に模倣でするなど,さらなる発展の余地が残っている.これらの新しい技術は,従来の光学設計では説明できない可能性があり,新しい計測方法と有効な評価方法も開発する必要がある.文献1)RichdaleK,CoxI,KollbaimPetal:CLEAR-Contactlensoptix.ContLensAnteriorEye44:220-239,C2021

写真セミナー:深層層状角膜移植術(DALK)後の実質型拒絶反応

2024年7月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史482.深層層状角膜移植術(DALK)後の笠松広嗣東京歯科大学市川総合病院眼科実質型拒絶反応図1DALK後の拒絶反応の前眼部所見1カ月前からの霧視を主訴に受診し,細隙灯顕微鏡検査で結膜毛様充血と角膜浮腫に伴う混濁を認めた.図3フルオレセイン染色所見角膜上皮のCmicrocystを認め,上皮浮腫が示唆された.角膜上皮の欠損は認めなかった.図4前眼部OCT(CASIA)によるトポグラフィマップ角膜厚マップ(Pachymetrymap)でびまん性の角膜浮腫を認める.(67)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C8130910-1810/24/\100/頁/JCOPY深層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkerato-plasty:DALK)後に実質型拒絶反応を示し,全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PK)を施行したを症例を提示する.患者は66歳,男性.2年前に円錐角膜に対してCDALKを施行,術後はC0.1%フルオロメトロン点眼を使用し,漸減して術後C1年で終了した.術後の角膜内皮細胞密度は測定不能であったが,角膜の厚みと透明性は保たれていた.2カ月後,1カ月前からの右眼の霧視を主訴に来院した.DALK後の矯正視力は右眼(0.6)であったが,診察時は(0.02)に低下していた.右眼眼圧はC25CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査(図1,2)および前眼部光干渉断層計で毛様充血,角膜浮腫を認めた.フルオレセイン染色(図3)では角膜上皮の浮腫を認めたが,欠損は認めず,角膜の感染は否定的であったため,実質型の拒絶反応と診断し,ベタメタゾン頻回点眼による治療を開始した.治療に伴い所見は改善し,右眼の矯正視力も一時的に(0.1)まで改善したが,最終的に移植片機能不全に伴う水疱性角膜症となり,DALKからC1年後にCPKを施行した.DALKは角膜パーツ移植の一つで,患者のCDescemet膜を温存し,ドナー角膜の実質(と上皮)のみを患者に移植する術式である.したがって,適応は角膜内皮が正常な角膜実質に異常のある患者に限られるが,拒絶反応に関してはCPKと比較するといくつかの利点がある.角膜拒絶反応は上皮型,実質型,内皮型に分類され,内皮型がもっとも重篤で不可逆的なことが多いが,DALKではCDescemet膜は患者由来のものなので,理論上は角膜内皮型の拒絶反応は生じず,角膜上皮型,実質型の拒絶反応のみが生じうる.そのためCPKに比べて拒絶反応の頻度が少ない.報告により発生頻度はかなり差があるが,0~22.2%1~4)とされている.筆者らの研究では,わが国におけるCDALK後の拒絶反応の頻度はC5.2%である5).また,角膜内皮型の拒絶反応を回避できることで,症状は実質に限局し,比較的軽度なことが多く,ステロイド治療の反応性もよく,可逆的なことが多い5).ただし,治療までの期間が長い場合や,もともとの角膜内皮細胞密度が少ない場合は,二次的な炎症により角膜内皮が損傷し,水疱性角膜症を伴う移植片機能不全に陥ることもある5)ので,早期診断・治療が重要である.拒絶反応のリスクファクターとしては若年,ドライアイ,人種,角膜血管新生が知られている.また,拒絶反応はステロイドの減量・中止や,抜糸後に生じることが多い5).臨床所見としては,視力低下と角膜実質の浮腫を伴う充血,角膜裏面沈着物や前房内Ccellsを認めることが多い.なかにはCDescemet膜と角膜実質の.離を認めることもあり臨床所見はバリエーションに富むが,角膜実質の浮腫と結膜充血はどの患者にも共通して出現する5).リスクの高い患者の処置後の診察では,これらの所見にとくに注意することと,異常があればすぐに受診をするように患者を教育することが必要である.治療はステロイドの局所,全身投与である.ほとんどの患者はステロイドの頻回点眼で数週間~数カ月で改善するが,重篤な場合はステロイドの全身投与も検討する.文献1)SugitaCJ,CKondoJ:DeepClamellarCkeratoplastyCwithCcom-pleteCremovalCofCpathologicalCstromaCforCvisionCimprove-ment.BrJOphthalmolC81:184-188,C19972)MellesCGR,CLanderCF,CRietveldCFJCetal:ACnewCsurgicalCtechniquefordeepstromal,anteriorlamellarkeratoplasty.BrJOphthalmol83:327-333,C19993)AnwarCM,CTeichmannKD:DeepClamellarkeratoplasty:CsurgicaltechniquesforanteriorlamellarkeratoplastywithandwithoutbaringofDescemet’smembrane.Cornea21:C374-383,C20024)LyallDA,TarafdarS,GilhoolyMJetal:Longtermvisualoutcomes,graftsurvivalandcomplicationsofdeepanteri-orClamellarCkeratoplastyCinCpatientsCwithCherpesCsimplexCrelatedcornealscarring.BrJOphthalmolC96:1200-1203,C20125)KasamatsuCH,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetal:Inci-denceCandCclinicalCfeatuesCofCimmunologicCrejectionCafterCdeepanteriorlamellarkeratoplasty.CorneaC2023Nov301doi:10.1097/IC0.0000000000003444.CEpubCaheadCofCprint.PMID:38049155.

家族性滲出性硝子体網膜症

2024年7月31日 水曜日

家族性滲出性硝子体網膜症FamilialExudativeVitreoretinopathy近藤寛之*はじめに家族性滲出性硝子体網膜症(familialCexudativeCvit-reoretinopathy:FEVR)は多彩な網膜.離によって視力の喪失を起こす遺伝性疾患である.眼底所見が未熟児網膜症に似ている特徴がある.典型的な症例は常染色体顕性遺伝の家族例であるが,遺伝性や重症度が多様であることから家族例としては見逃されやすい.FEVRは眼に限局した疾患と思われてきたが,近年全身所見を呈するCFEVR様の疾患が知られ,疾患概念が変わりつつある.日本人のCFEVRは年間でC100人程度の新規発症と推定されているが,重症度が多様であるために診断されていない患者が多い.クリニックでも注意して診察を行うことで,FEVRの診断がつく患者に遭遇すると考えられる.適切な診断は網膜.離の予防,家族例の重症度の予測や遺伝カウンセリングにつながる.本稿ではFEVRの見つけ方や鑑別疾患,フォローに関するポイントを述べる.CI病態生理と基本事項1.病態生理FEVRの基本的な病態は網膜周辺部の無血管と走行異常である.網膜血管の異常は二次的な網膜新生血管や線維血管増殖を生じ,出生前や乳児早期に牽引性網膜.離を発症する.また,網膜新生血管による漏出性変化のために網膜滲出や滲出性網膜.離を起こす.さらに就学前~10歳代では周辺部無血管領域に網膜の菲薄化のた表1FEVRのStage分類Stage1周辺部網膜無血管CStage2網膜新生血管2A:滲出なし,2B:ありCStage3黄斑外網膜.離3A:滲出なし,3B:ありCStage4黄斑に及ぶ網膜.離4A:滲出なし,4B:ありCStage5網膜全.離(文献C1より引用)めに裂孔が生じ,裂孔原性網膜.離をきたす.若年者の裂孔原性網膜.離はアジア人に多い特徴があると考えられている.C2.Stage分類と眼底所見FEVRには複数の分類があるが,手術予後との関連性からCPendergastとCTreseの分類が用いられることが多い(表1,図1)1,2).Stage1では周辺部の網膜に無血管がみられる(図1a).耳側血管終末部でのCV字湾入や多分岐,網膜血管の過多,直線化などの所見を併発する.Stage2では新生血管を認める(図1b).Stage3~5は網膜.離の併発例であり,周辺部から水晶体後面に増殖組織が形成される.Stage3は黄斑外の網膜.離であり黄斑牽引を伴う所見がみられることが多い(図1c).Stage4は黄斑を含む部分的な網膜.離であり,鎌状網膜ひだが含まれる(図1d).Stage5は白色瞳孔*HiroyukiKondo:産業医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕近藤寛之:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(61)C807図1Stage分類と網膜所見a:Stage1.周辺部の網膜血管の形成異常や無血管(*),血管終末部での多分岐がみられる.b:Stage2.新生血管は眼底写真では滲出斑として認められることが多い.c:Stage3.周辺部の牽引性網膜.離のために黄斑部が耳側に牽引され,上下耳側の血管アーケードのなす角度が狭小化している.d:Stage4.黄斑部を含む網膜.離,鎌状網膜ひだを示すことが多い.e:Stage5.白色瞳孔を伴う網膜全.離を示す.(画像Ca,d,eは文献C2より引用)図2若年者の裂孔原性網膜.離a:超広角眼底写真では耳側に網膜.離と円孔を認める.b:超広角蛍光眼底造影造影所見では周辺部の無血管領域と血管の走行異常が明瞭である.図3軽症FEVRの後極部眼底所見とOCT所見a,b:視神経乳頭の形成不全(.)を示す症例.上下の耳側血管アーケードのなす角度の狭小化がみられる.b:OCTでは網膜分離を認める(b).c,d:左眼外方回旋がみられる症例.眼底所見では黄斑が下方に偏位している.耳側に横楕円形の網膜変性(.)がみられる.OCTでは網膜内層の萎縮像がみられる.e,f:黄斑低形成を合併した症例.眼底所見でははっきりしないが,OCTでは黄斑部の中心陥凹が減弱し,網膜内層構造の遺残がみられる(.).黄斑耳側に横楕円形の網膜変性(.)がみられる.(画像Caは文献C2より引用)図4小頭症を伴うKIF11遺伝子異常陽性FEVRの特徴a:発端者の左眼眼底所見.周辺部に網膜ひだと黄斑牽引を認める.b:発端者の祖母の眼底所見.網膜全域に色素変性所見を認める.-