●連載◯285監修=稗田牧神谷和孝285.放射状角膜切開術後の角膜混濁小野喬東京大学医学部眼科学教室放射状角膜切開術(RK)は,1970~80年代を中心に行われた屈折矯正手術の一つである.現在,わが国で行われる機会は少ないが,他の角膜屈折矯正手術と同様に,RK後の白内障手術では術後の屈折誤差が大きくなりやすい.また,長期経過後の合併症の一つとして角膜混濁がある.本稿では,RK術後に角膜混濁が進行した眼において,深層層状角膜移植術,白内障手術,硝子体手術を行った症例を提示する.●はじめに放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)は,1970~80年代を中心に行われた屈折矯正手術の一つである.角膜に放射状に切開を入れることで角膜形状を変化させ,屈折矯正効果を得る1).現在,わが国で行われる機会は少ないが,代表的な合併症として,角膜穿孔,視力の日内変動,角膜感染症,近視の過矯正・低矯正や,切開による不正乱視などがあげられる2).他の角膜屈折矯正手術と同様に,RK後の白内障手術では術後の屈折誤差が大きくなりやすい.また,長期経過後の合併症の一つとして角膜混濁がある2).RK後には,切開部における線維芽細胞の増殖やコラーゲンの増加が長期間にわたり生じるため,角膜混濁が生じると考えられている.視軸に重なった混濁は視力を妨げるだけでなく,グレアの原因にもなる.今回は,RK術後に角膜混濁が進行した眼において,深層層状角膜移植術(deepCanteriorClamellarkeratoplasty:DALK)3),白内障手術,硝子体手術を行った症例を提示する.C●症例143歳,女性.27年前に海外で両眼のCRKを行い,両眼の視力低下を主訴に受診した.矯正視力は右眼がC0.05(n.c.),左眼は(0.1p×sph.3.0D)であった.両眼ともRK後の角膜切開部の瘢痕が大きく拡大し,角膜中央部を覆っていた(図1a,右眼).前眼部光干渉断層計では,角膜実質深層まで混濁が認められた(図1b).角膜上皮欠損はなく(図1c),角膜中心部が混濁していたため,角膜内皮細胞は接触型スペキュラマイクロスコピーを用いて評価したところ正常であった.DALKを行い,右(69)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY眼視力は(0.4)まで改善した(図1d).左眼も同様に角膜中央部に及ぶ実質深層までの混濁が観察され(図2a,b),角膜形状解析では強い不正性が明らかになった(図2c).しかし,強度近視に伴う黄斑変性を認め,患者が手術を希望しなかったため,外来で経過観察を行っている.C●症例265歳,男性.約C30年前に他院でCRKを行い,白内障手術目的に紹介となった.視力は右眼がC0.3(0.6p×sph+1.0D(cyl.4.5DCAx90°),左眼がC0.4(0.6×sph+3.0D(cyl.3.0DAx90°)であった.角膜中心部の混濁を両眼に認めた(図3a,d).前眼部光干渉断層計の断層像ではフラット化した角膜と混濁が確認され(図3b,e),角膜形状解析では角膜中央部が前後面ともフラット化していた(図3c,f).ASCRSのCIOLcalculatorのデータを参考にして.2D程度の近方狙いでCIOLを挿入したところ,術後視力は右眼C0.7(0.8×sph+3.0D(cyl.2.0DAx100°),左眼0.4(0.7p×cyl.3.0DAx85°)であり,目標屈折より遠視ずれを生じていた.角膜混濁および角膜不正乱視のため矯正視力が出づらいと考えられたが,患者はハードコンタクトレンズを希望せず,眼鏡装用として外来で経過観察している.C●症例360歳,男性.他院でのCRK後,右眼に耳上側の裂孔原性網膜.離を認めた.広角眼底撮影像ではCRK創部の陰影が拡大されて大きく映っていた(図4).RK後の眼底写真では撮影時の創部の陰影が観察対象と重ならないように注意する必要がある.本症例では角膜中央部の混濁は小さく,硝子体手術後の視力は(1.2)であった.あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024179図1RK後の角膜混濁に対してDALKを行った症例(症例1)a:術前の右眼前眼部写真.Cb:右眼の前眼部光干渉断層像.Cc:右眼のフルオレセイン染色像.Cd:右眼のCDALK術後の前眼部写真.(文献C3より許可を得て転載)be図3RK後の角膜中心部の混濁(症例2)a:右眼の前眼部写真.Cb:右眼の前眼部光干渉断層像.Cc:右眼の角膜形状解析結果.Cd:左眼の前眼部写真.Ce:左眼の前眼部光干渉断層像.f:左眼の角膜形状解析結果.C●おわりにRKを行った患者が,高齢化に伴って白内障手術を希望する機会は少なくない.RK後の患者は高い裸眼視力を求めることが多く,術前に角膜混濁の程度と範囲を十C180あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024b図2RK後の角膜切開部の瘢痕拡大と中央部の混濁(症例1)a:左眼の前眼部写真.Cb:左眼の前眼部光干渉断層像.Cc:左眼の角膜形状解析結果.図4RK後に裂孔原性網膜.離を生じた症例の広角眼底画像(症例3).:RK後の混濁により生じた陰影.(写真は宮田眼科病院・宮田和典先生のご厚意による)分に評価し,角膜混濁により視力が出づらくなる可能性や,場合によっては角膜移植を要することについて患者に説明することが必要である.文献1)WaringCGOC3rd,CLynnCMJ,CCulbertsonCWCetal:Three-yearresultsoftheProspectiveEvaluationofRadialKera-totomy(PERK)Study.COphthalmologyC94:1339-1354,C19872)RashidCER,CWaringCGO3rd:ComplicationsCofCradialCandCtransverseCkeratotomy.CSurvCOphthalmolC34:73-106,C19893)OnoCT,CNejimaCR,CMiyataK:CentralCcornealCopacityC27CyearsCafterCradialCkeratotomy.COphthalmologyC129:889,C2022(70)