コレステロールによる細胞老化と加齢黄斑変性寺尾亮加齢黄斑変性とマクロファージ老化加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の前駆病変として,脂質沈着物のドルーゼンが網膜色素上皮下に蓄積しますが,治療法は現在ありません.ゲノムワイド相関解析よりChepaticClipaseC,cholesterylCesterCtransferprotein,lipoproteinlipase,ATPbindingcassetteA1(Abca1)などの脂質代謝に関する遺伝子のCAMDへの関与が明らかになっていますが,細胞内コレステロール排出トランスポーターであるCAbca1とCAbcg1を骨髄系細胞に特異的にノックアウトしたマウスがCsubretinalCdrusenoidCdepos-it(SDD)をきたすという報告をC2018年に慶應義塾大学の伴紀充先生らのグループがしています1).筆者らのグループはそのモデルマウスにおけるCSDDの病態機序を探ったところ,免疫細胞の一つであるマクロファージがCSDD内に集積しており,それらのマクロファージは「細胞老化」をきたしていることがわかりました2).「細胞老化」とは加齢や酸化ストレスなどによる持続的なCDNA損傷応答によってみられる細胞周期の停止状態です.老化した細胞は,周囲の正常な細胞の老化を促進したり,senescence-associatedsecretoryCphenotype(SASP)とよばれる炎症性サイトカインや増殖因子の一群を分泌することで,加齢性疾患に関与しています3).マクロファージ老化とNAD+なぜ本モデルのマクロファージが細胞老化をきたしているかを探ったところ,酸化還元反応で非常に重要な役割を果たす補酵素であるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)がマクロファージで枯渇することが原因であるこ東京大学大学院医学系研究科眼科学教室とが判明しました.具体的には,マクロファージにコレステロールが蓄積することでCNAD+の分解酵素であるCCD38の発現が増加します.それによりマクロファージのCNAD+が消費分解され,細胞老化を引き起こします.その結果,老化したマクロファージの中にドルーゼンのおもな成分であるリポフスチンが蓄積し,SDDの原因となります.現に老化細胞除去治療が本モデルマウスのCSDD形成を抑えたことからも,老化したマクロファージが原因であることが裏づけられました.また同様に,NAD+の前駆体であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)の投与もCSDDを抑えることができました.これらの結果から,老化細胞除去治療やCNAD+補.療法がCAMDの前駆病変に対する治療として有効である可能性が明らかになりました(図1).今後の展望AMD前駆病変に対する治療は,AMDへの進展を抑えることで重篤な視力障害を予防できる可能性が示唆されました.今後治療として展開されることが期待されます.文献1)BanN,LeeTJ,SeneAetal:Impairedmonocytecholes-terolCclearanceCinitiatesCage-relatedCretinalCdegenerationCandvisionloss.JCIInsightC3:e120824,C20182)TeraoR,LeeTJ,ColasantiJetal:LXR/CD38activationdrivesCcholesterol-inducedCmacrophageCsenescenceCandCneurodegenerationCviaCNAD+depletion.CCellCRepC43:C114102,C20243)TeraoCR,CSohnCBS,CYamamotoCTCetal:CholesterolCaccu-mulationCpromotesCphotoreceptorCsenescenceCandCretinalCdegeneration.InvestOphthalmolVisSciC65:29,C2024網膜下ドルーゼノイド沈着AMD図1本研究の概要(101)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2350910-1810/25/\100/頁/JCOPY