●連載◯139監修=安川力五味文119加齢黄斑変性における安藤智子岐阜大学医学部眼科学教室長期治療継続のコツ滲出型加齢黄斑変性(AMD)は治療が長期にわたる症例が多く,視力低下を抑えCQOLを保持するためには,しばしば厳密な治療継続が求められる.そのためには患者自身の病状や治療方針への理解が必要である.本稿では滲出型CAMDにおける長期治療継続のコツについて述べる.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は中途失明の主要疾患であり,身体障害者視覚障害の原因疾患の第C4位となっている1).滲出型CAMDの治療の第一選択は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)療法となっているが,その継続においては頻回通院や経済的負担など,抱える問題も大きい.根治がむずかしい疾患であるがゆえに長期通院が必至となり,治療を中断するケースも少なくない.本稿では患者のCQOL保持の観点から,より少ない負担で長期治療を継続させるポイントについて考える.治療方針治療の中心を担うのは抗CVEGF療法であり,滲出型AMDにおいて使用可能な薬剤は現在C5種類ある.導入期後の治療方針としては,reactive治療であるCproCrenata(PRN),proactive治療であるCtreatCandCextend(TAE),固定投与に分けられ,それぞれを選択していくことになる.PRNでは投与回数が最小限になる代わりに再燃後の投与となるため治療は後手にまわる傾向や,頻回通院が必要になる可能性がある.TAEや固定投与は視力の維持を優先する一方で過多投与となる可能性がある.厳密なCproactive治療が視力維持にはよいが,僚眼の視力も関連した治療への意欲,経済状況,通院の負担など,患者個人によってコンプライアンスに関連する背景は大きく異なり,実臨床では約C3割の患者は厳密な治療継続が困難となってくる.さらには緩い治療でも視力が低下しにくい患者もいる.そこで,視力維持ではなく,僚眼の視力も考慮したCqualityofCvision(QOV),ひいてはCQOLの保持という観点に立って,使用薬剤と治療方針に関してメリット・デメリットを提示し,患者とともに治療方針を選択していくことが重要と思われる.また,診断が確定した際には長い付き合いの必要な疾患であることをあらかじめ伝え(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYることも重要であり,目先の視力維持でなく,いかに長期に視力維持,それが無理でも僚眼も含めてCQOVを保持するかを目標として治療計画を立てることが望ましい.治療方針決定に関しては,患者と医療者がともに参加する共同意思決定(shareddecisionmaking:SDM)(図1)が,双方の考え方のギャップを埋めるコミュニケーションの一つになる.従来のインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)は,治療行為の内容や選択肢について十分な説明を受けたうえで同意することであるが,治療方針決定までのプロセスを共有することを重要視するCSDMは,それと異なる新しい考え方であり,近年注目されている3).情報の共有が双方向のやりとりであること,医療情報に限らない,個々の希望や生活環境までを含めた個別情報も共有しながら,患者に寄り添った治療のあり方を重要視する点が特徴である.とくに投与間隔や薬剤の変更を検討する際など,臨床的結果に確実性がない状況において大きな意義をもつものと思われる.長期にわたる治療のなかでは,病状だけではなく,患者を取り巻く環境が大きく変わることは十分に起こりうる.そのときどきでの最善の治療選択をサポートするために,われわれ医療者側にはCSDMに基づいた十分なコミュニケーションが求められる.治療方針への理解,納得が得られることは,信頼関係を構築するうえでも重要な観点であり,長期治療継続を可能にする重要なポイントの一つである.積極的な病診連携地域の事情もあるが,抗CVEGF療法を継続している患者の中には,投与可能な施設に遠方から通院している場合もある.中核病院や大学病院は待ち時間の長さから嫌厭されることも多く,患者・家族の負担も大きい.抗VEGF薬の投与頻度や病状に応じて,投与間の検査や診察をかかりつけ医へ依頼するなど,治療以外の通院の負担を極力減らす工夫も必要である.当院では硝子体内あたらしい眼科Vol.41,No.1,202461ICは医療行為への同意SDMは意思決定プロセスをたどり合意を形成すること【説明─同意モデル】【情報共有─合意モデル】患者についての一般的判断説明説明医療者患者医療チームbiological価値観・人生医師晨臨師・患者・家族専門的知識計画・選好MSWbiographical同意説明価値観・人生計画・選好の理由裁量権自己決定権インフォームド・コンセント最善についての個別化した判断合意インフォームド・コンセント図1ICとSDMの考え方ICは十分な説明を受けた患者が医療行為について理解をしたうえで同意をすること.SDMは患者・家族側と医療者側で双方ともにコミュニケーションをとりながら意思決定のプロセスをたどる.これにより合意が形成されるとCICになる.病診連携図2当院でのTAE治療の一例導入療法後,間隔を延長しながら治療継続した.注射翌日の診察はかかりつけ医に依頼した.16週まで延長可能となったところで治療終了とし,無治療経過観察とした.現在,最終投与よりC1年が経過したが再発はなく,今後はかかりつけ医に再発の有無の経過観察を依頼する.注射の翌日は術後診察を推奨しているが,導入期から紹介元や開業医などと連携を図り,かかりつけ医への受診を基本としている.術後診察を含む定期的な通院で治療早期からかかりつけ医にも治療に参加してもらうことで,治療が落ち着いたあとにかかりつけ医への逆紹介を勧める際にも,患者自身のハードルも下がり,理解が得られやすい.長期にわたる治療においては病診連携を勧め,通院の負担を減らすことも重要と考える(図2).予防のすすめ必要な疾患である.とくに治療開始初期には,頻回の通院や経済的負担に驚く患者もおり,すべての患者に同様の基準で治療計画をたてることは困難と思われる.最低限の負担で,いかに個々のCQOVを長期的に維持できるかというところに焦点を当てた診療が求められる.そのためには長期継続が必至であり,病状や治療計画に対して十分な理解が得られること,患者とその家族に寄り添うかかわりが重要なポイントになる.QOL保持の観点で,片眼発症の場合は僚眼の発症予防についても指導する必要がある.両眼の治療が必要になれば身体障害のリスクが高まり,また,通院や治療費の負担も増え,高度の視力低下を伴うと通院困難,通院中断に至ることも少なくない.大規模に行われたCAge-ReratedCEyeCDiseaseStudy(AREDS),AREDS23)の結果をもとに日本の治療指針においてもサプリメントの摂取が推奨されている4).禁煙指導はもちろんのこと,サプリメントの導入においても積極的に情報提供を行い,“自宅でできる継続可能な予防”を勧めていく.おわりにAMDは慢性疾患であり,ときには一生の付き合いがC62あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOpthal-molC67:346-352,C20232)会田薫子:今日から実践!SDMおたすけノート.中外製薬CWebサイト(PLUSCHUGAI)3)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C20134)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C2012(62)